ばらかもんの10年後を書いた妄想SSで、主に先生×なるのお話です。
方言は原作やネットなどで調べてみてますが、本州の人間なので変な所が度々あると思いますがご勘弁を。
なる視点の地の文は標準語にしています。
キャラ崩壊(とくになるの)が酷い為に、耐えられない方はそっ閉じお願いします。
では最後まで一気に投下していくので、よろしければお付き合い下さい。
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なる「せんせぇー、お帰り!」
半田「おお、久しぶりだな、なる」
なる「先生もようやく我が家に帰って来たねぇ」
半田「いや、お前なぁ、一応言っておくが、俺の実家はここじゃないぞ? 第一ここ借家だし」
なる「でも、わたしにとってはここが先生の家だよ」
半田「まあ、第二の我が家みたいなものではあるけどな……」
なる「へへへ、先生も随分ここの生活が気に入ったみたいだね」
半田「否定はしない。荷物開けるから一旦離れろ」
なる「むー、先生の匂いもっと感じてたいのに」
半田「そりゃ墨の香りだ。ほらちょっと離れてろ」
なる「せっかく先生が島に帰って来てからの第一村人なんだからもう少し優しくれてもいいと思うんだけど」
半田「いや、お前と会う前にすでに郷長にはあったけどな。あとヒロ」
なる「ええっ! そ、そんな……。先生の初めての人がよりにもよって郷長で、二番目の人がヒロシだなんて……」
半田「オイ、その受け取り方によっては凄まじく寒気のする言い方はやめろ……」
なる「冗談だよ冗談」
半田「あの二人の影響か? 全くお前らは……」
なる「……でも先生、久しぶりだね。会いたかったよ」
半田「……まあ、俺もお前らに会いたかったよ」
そう小さく呟いてから、戸棚に飾ってある写真に先生が手をやった。そこに映っているのは、白い布を頭に巻いて、甚兵衛に身を包む、やや仏頂面の先生。その前で不敵に腕を組み笑っているわたし。そして、その周りで思い思いにポーズを取っている島の人たち。
――先生と初めて会った時から、今日で十年目になります。
島に来てから色々行事や節目などに気を使うようになった先生は、五島に訪れてから十年目の日は、またこの島に戻って来ようと思ったとか。とはいえ、意外と先生、昔からジンクスは大事にしていたとか川藤さんは言ってたけど。
先生とわたしが初めて出会ったのは、こんな感じにちょっとした曇り空の日のこと。珍しく『外』から人が引っ越してくると聞いて、この秘密基地の戸棚にワクワクしながら隠れていたことは今でも覚えている。
その日は先生と話をしてすぐに怒らせてしまって、子供ながらに狼狽してしまったかな。けどその時のわたしは、『悪いことをしたら謝る』と言うことをじいちゃんからキツく言われていたから、ただひたすら先生に謝らなくちゃと考えていたと思う。
素直に謝った時、先生はすぐに許してくれて、ああ謝ってよかったなあと心の底から思った。その後、何故先生がわたしにも謝って来たのかは、その時は全然分からなかったけど。先生の言葉の意味が、本当の意味で分かって来たのは、それからずっとずっと後のこと。
思えば、先生はいつもわたしたちと同じ目線で話してくれていた。
……まあ、悪く言えば、子供だったんだな、先生も(今も時々そうだけど)。けど、そんな中でも時折見せる『大人』の部分に、わたしは憧れていたのかもしれない。先生は、どんなに年が離れていても、島で暮らすわたしたちを、変わらず一人の友人として接してくれていたから。そんな先生には、いつも輪が出来ていた。気付けば、何かの物事の中心には、先生が居るようになっていた。
先生は一人が好きだと言ってたけど、わたしが知る限りでは先生の傍にはいつも誰かいた。勿論一番多く隣に居たのはわたしだと思うけど。
そんな大好きな先生だったからこそ、本当に東京に帰ると聞いた時には、一晩中泣き明かした。子供だったから、繕う気持ちなんて一切無くて。親友のひなや、悪友のケン太たちと一緒に、わんわん泣いて先生の袖を引っ張っていた。あの時の、手に残る服の感覚は忘れられない。
最終的には、郷長や教頭、美和ネェやタマに言い聞かされて、唇を噛みながら先生を見送ることになっちゃったけど。
あの時かもしれない。本当に、先生のことが『好き』だと思ったのは。
出会ってからずっと、先生のことを大好きだと思ってたし、何度もそう言ってた。けれど、それは学校の先生を好きだと言うのと同じように、身近に居る『大人』への憧れでもあったから。勿論、先生に感じていた好きも、それと同じだと思ってた。
けれど、いつからかな。先生のことを、それとは違う『好き』で思っていたのは。
境目はよく分からない。気がついたら、かな。気がついたら、先生のことを、『好き』になってた。
でも、多分それはわたしだけじゃ無いと思う。多分、あの時わたしよりもずっと大人だった美和ネェも、タマも、それに、ヒナも、みんな先生のことを『好き』だったんだ思う。
多分、身近に居る大人の人の中で、誰よりも(好きなことには)まっすぐで、誰よりも(ネガティブな方向には)ひたすら子供で、そんな先生だからこそ、あそこまで愛されていたんだなぁと。
あれから十年かぁ……。
わたしは高校二年生。あの時のヒロシみたいに、この先の進路を学校の先生が定期的に聞かれるような年になっている。
けど、まだ自分が何をやりたいのか、わたしには全然分からない。勿論、この先の進路はじいちゃんの後を継いで、農作業に精を出す一日を過ごすと思うけど、じいちゃんは『オィはまだ元気だから、なるはなるで好いとることばしたらよか』と言う。
畑の仕事は嫌いじゃないし、むしろ好き。けれど、やりたいこと、と言われると、どうも頭の中がこんがらがってしまう。そして、いつもぐにゃぐにゃして黒くなった綿飴の最後に、先生の顔が浮かんで来る。
こいは一体なんねと思うけれども、やっぱり、自分の行く先は見えて来ないのが悩み所。
なる「先生はどうして書道家になったの?」
半田「どうしてって……そりゃあ書道家『半田清明』の息子として生まれた以上は、こうなることは決まってたみたいなもんだしな」
そう言いながら先生が荷物を開けて行く。
なる「でも、先生は他にやりたいことなかったの? プロ野球選手とか、パイロットとか」
半田「まあ、そう言うもんに憧れが無かったと言えば嘘になるんだろうけど……結局、俺は一番これが好きってだけだな」
そう言って、先生は荷物の中から厳重に布で包まれた、一本の筆を出した。見ると、心無しか頬が緩んでいるような気がする。こうして見る先生の横顔は、子供のようにきらきらした目をしていて、思わず笑ってしまいそうになる。ああ、先生は本当に書道が好きなんだな。
なる「好き……かあ」
半田「何でいきなりそんなこと……って言うかお前昔にもそんなこと聞いて来なかったか?」
なる「んー、あったかもしれない」
そう言ってぽすん、と先生に寄り掛かる。先生は先生で、わたしの体重を横に受けたまま、てきぱきとお仕事の道具を出して行く。こうして、仄かにする墨汁の香りと、先生の匂いに包まれる時間は幸福かもしれない。
昨日はあまり眠れなかったからか、途端にうつらうつらと舟を漕ぎそうになってしまい、頬をぺちんと叩く。
不思議だな。また先生と会えると聞いた時は、ドキドキして眠れなかったのに、こうして先生とピッタリくっ付いている時は、心臓がドキドキするのと同時に、心が安らぐんだから。
なんだか、変な気持ち。でも、それがとても心地よい。
なる「先生は変わらないね。折角島に来たのに、すぐにお仕事?」
こぽこぽと墨汁が注がれる音を聞きながら、わたしがそう言うと、
半田「次の展示も近いからな。ここに戻って来たのも、またいい刺激を受けるかもしれないと思ったからだし」
とにべもなく一言。けれど、そのすぐ後に、
なる「お前はずいぶん大人しくなったな」
不意打ちのように言われたその言葉。途端に、心臓がぎゅっとする。
半田「前はタックルかまして大人三人海に落としてくるような奴だったからなぁ。あの頃を思えば随分おしとやかになったもんだ」
なる「だって……」
だってそのままじゃ居られない。先生がいくら島に遊びに来ていても、先生が居る本当の場所は都会の中。都会の中では、身体中に切り傷作りながら泥だらけに遊ぶ女の子なんて居る筈がない。都会の女の子は、もっとおしとやかで、もっとお洒落で、もっと可愛いんだと思う。
――あんま方言使わなくなったな。
前に、そう言われた時、少し悲しくなった。
使えないよ。だって、都会の子は方言なんて分かりにくい言葉使わないでしょ? 何言っているか分からない言葉使う女の子、可愛くないよ。
わたしは可愛く無いし、お洒落も出来ない。だから、せめて少しくらいおしとやかになれればと思った。言葉くらい、都会の人に近づかないといけないと思ったから。
なる「……先生はさ、おしとやかな子の方が好き?」
そう自分で訊いて、次の瞬間顔が赤くなった。何を訊いてるの、わたし!
けれど、そんなわたしの爆弾発言も、
なる「んー、俺にはよく分からないな。」
そうあっさりと流された。……ああ、この人、本当に書道しか見えてないや。
なる「じゃ、じゃあさ、今まで一番関わった時間が長い女の人は?」
半田「ああ、それならすぐに分かる」
なる「えっ! そ、それって」
半田「母さんだな」
なる「…………あっそう」
半田「?」
この朴念仁! なんでそこで『母さん』が一番に出てくるんだろう。そういえば、持ってる宝物ってたしかどっかの歴史上の人物の絵だったような……。ああ、駄目だ、やっぱりこの人書道のことしか見えてないや。
……けど、それでも、先生の魅力に気がついている人はわたしだけじゃない。先生は、わたしなんかよりも、もっと、ずっと広い世界に生きている。だからこそ、いつ、他の誰かが、わたしの知らない所で先生を取ってしまうか分からない。
だから怖い。けど、それ以上に、先生はわたしのこと、どう思っているんだろう……。
なる「先生はさ――」
半田「ん?」
なる「……ううん、何でも無い」
訊きかけて、やめた。先生のことだから、きっと、『大切』って言うに決まってる。でも、それは『わたしだけ』じゃなくて、この島の全部を含めてのこと。
先生にとっては、ひなも美和ネェもタマもヒロシもケン太も、それにわたしも――全部大切なものの一つなのだろう。それは嬉しい。嬉しいよ。けど――……。
――あなたの中で、たった一つだけの『大切』には、なれませんか?
他の誰と同じではなく、他の誰よりも大切と言える、あなただけの人に。
……けど、先生はやっぱりわたしのこと、昔から変わらず、『子供』としか思っていないのかな。
ねえ、先生。
わたし、もう17歳だよ?
もう、色々な所は大人なんだよ?
結婚だって出来る年なんだよ?
けど、先生は何もしてくれない。わたしがこうして寄り掛かっても、何も言わずに過ごしている。照れもしないし、振り払うこともしない。ただ、そこに居ることが当たり前みたいに、自然に過ごしている。……わたしのこと、意識するまでも無いってことなのかな。
なる「そういえば、ヒロシは?」
半田「ああ、折角帰って来たんだからってメシ作ってくれるみたいだ。アイツも久々に帰って来たらしいから悪いって言ったんだけどな。まあ好意には甘えることにした」
なる「ちゃんぽんじゃないといいね」
半田「料亭にちゃんぽん出るのか……?」
なる「やれやれ、ヒロシも偉くなったもんだね。前はヤンキーもどきだったくせに」
半田「十年経ちゃ、色々変わるもんだろ」
なる「変わらないのは先生が書道バカってとこだけかな」
半田「バカとはなんだ。俺はこれで一生食って行くと決めたからな。日々筆を動かすのは当たり前だろ」
なる「全く、そんなんじゃ、彼女出来ないわけだね」
半田「…………」
なる「…………」
半田「…………」
なる「……え?」
半田「……ああ、まあ出来ないだろうな」
なる「ちょっと待って、先生、その間は何?」
ちょっと、ちょっと待ってよ先生。今の間はあきらかにおかしいよね? まさか、先生……居るの?
半田「……去年振られた」
なる「……あ、そう……なんだ」
嬉しい気持ちと、それと同じ位に悲しい気持ちが合わさって、何とも言えない気持ちになる。
と、言うかわたし、嬉しかったんだ……。気付いて、顔を覆った。好きな人が、振られたことを心から喜ぶなんて、なんて嫌な女だろう。それで、わたしと先生がどうなるわけでもないと言うのに。
なる「……ごめんね、先生」
半田「謝るな、十歳以上年下のガキに謝られたら余計惨めになるわ。川藤にはバカにされるし、神崎にはドヤ顔で慰められるし……母さんに至っては孫の顔はいつ見れるのかって凄くプレッシャーかけてくるんだぞ?」
なる「ま、孫って……先生」
半田「流石に三十超えたあたりからその攻撃が年ごとに激しくなって来てな……。島に来るのも避難を兼ねている」
なる「ああ……うん、先生、ドントマイケル」
半田「ドントマインドだよチクショウ……」
なんか、この人に恋愛事を気にするだけ……無駄なエネルギーを使っちゃうのかな。彼女が居たことには、正直ショックを隠せないけど、でも……。
なる「先生」
半田「ん?」
なる「た、例えばだよ? 先生はさ――」
一言ひとことを絞り出すたびに、心臓が破裂しそうになる。
なる「わたしのこと――」
その高鳴りが最高潮に達しそうになった時、
「先生ー! 帰って来たかち!」
なる「ぶっ!」
突然の来訪にわたしは思わず顔を座布団の上に打ってしまった。
ばあん、と庭の雨戸を開けて入って来たのは美和ネェ。今年で24歳、昔の先生と同じ位になったけど、今も昔と変わらず元気に村を走り回っている。勿論仕事でだけど。
雰囲気をぶち壊してくれた美和ネェを涙目で睨みつけるけれど、生憎わたしの視線には気付いていないようだ。
半田「うおっ! 美和か」
美和「久しぶりかね先生! 相も変わらず書道バカっぷりば発揮しとるみたいね」
半田「お前は相も変わらず騒がしい奴だな(そして玄関ではなくあくまで庭から入るんだな)」
美和「これがわたしのモットーだかんね。おお、なるも来とったか。……何でそがん怖い顔ばしとるの?」
なる「美和ネェのバカ……」
美和「あー……その、悪い」
半田「ったく、酒屋の娘は随分派手な格好だな」
美和「いやいや高校ん時と比べたら全然ましやって。あん時は方言も消してたし、髪も赤毛だったち」
半田「ああ……俺も見た時は誰かと思った。どこのギャルって感じだったな」
美和「まあ、結局黒髪に戻したけどね。都会に越した以上は少し位お洒落もしたかったけど、こっちで仕事始めるとそうもいかんよ」
半田「そういや特攻服着てた時もあったよな」
美和「……そりゃ若気の至りってやつだよ」
なる「…………むー」
そんな風に、わたしなんかよりもずっと話を弾ませている美和ネェたちに頬を膨らませると、美和ネェが慌てたようにわたしの頭を撫でた。相変わらず子供扱いだ。
美和「ああ、すまんすまん、別になるの邪魔しに来た訳じゃないち」
なる「……よかよ、みんな先生のこと好いとるは分かってるし」
小声でそっぽを向きながら返す。ああ、でもこういうところが子供なんだな、って自分でも嫌になるけど。
半田「そういやタマはどうした?」
美和「もうすぐこっち着くんじゃないかね? 先生が帰ってくる日に会わせて来る言うとったし」
半田「確か東京で物書きしてるんだよな?」
美和「うん、東京の方がすぐに原稿届けられるち言うとったよ。まあ二月に一度くらいの割合でこっちに避難してくるけどね」
半田「でもアイツ何書いているのかは教えてくれないんだよなー」
美和(先生とヒロ兄その他諸々をモデルに色々書いてんだからそりゃ本人には言えんわなぁ……)
なる「あ、ひなも来るって言ってたよ。生徒会の仕事で遅くなるって言ってたから先に来ちゃったけど」
半田「えっ! ひなって生徒会のメンバーなのか?」
なる「知らなかったの? しかも会長だよ。……まあ分校とは比べ物にならないとはいえ、生徒数は100人居ないけどね」
美和「聞いたかい先生。あの泣き虫だったひなが学校の長……。今や高校を締める総番長、成長したもんだね」
半田「いや……お前は生徒会長を何だと思っているんだ?」
美和「懐かしいね、高校時代……。私もあの頃は街のチンピラ始め、ヤーさんや熊、果ては宇宙人とまで戦ったけん」
半田「……都会で暮らした三年間のうちにお前に何があった?」
美和「細かいこと気にするとこも変わっちょらんねー先生は。そんなんだから結婚出来ないんだよ」
半田「やかましい! お前も言うか!」
美和「あはは冗談じょうだ……ん? 『も』……? ――ほうほう」
美和ネェが首を傾げて、それからははーんと言わんばかりにわたしを見てニヤリとした。ああ、なんだか凄く嫌な予感が……。
美和「先生さぁー、相変わらず彼女おらんの?」
なる「ちょっ、美和ネェ……」
半田「去年振られたよ! 何? 俺この島に帰って着てまだそんな時間経ってないのに、なんで失恋について短い間に二度も言わされてんの!?」
美和「ははー、じゃあ最初に聞いたのはなるってことね、って言うか先生が誰かと付き合ってた過去があるだけでも衝撃の事実すぎるけど」
半田「ぶちのめすぞ」
美和「怒るな怒るな、そんな出会いの少ない非モテ男の先生を、私が幸せにしたるけん」
半田「……お前、今サラっと酷いこと言わなかったか?」
美和「ここは私が先生の嫁候補に!」
なる「美和ネェ!?」
半田「はぁ!?」
美和「――……と、言いたい所だけど、ウチは代々由緒ある酒屋やけん。婿入りして貰うのが基本だから、『半田』の名前を継がせなきゃいけん先生にはちょっち無理な話だね」
半田「まあもとよりお前の親父さんを義父さんと呼べる気がしないがな……」
美和「そこで、次なる候補に、この琴石なるはどうか!」
なる「美和ネェェェェ――ッ!?」
美和「こん子はよか子だよ? 昔はガサツな悪ガキだったけど、今や私に負けずとも劣らぬ淑女やけん! いっぺん決めたらトコトン男に尽くすタイプやし、気遣いもよう出来るけんね。おまけに農家の娘だから我慢強い。自己中で性格ひん曲がってる先生にはピッタリのお相手やけん」
なる「み、みわっ、美和ネェ……それはっ……せんせ……」
酷く頭が混乱して、顔から火が出そうなくらい真っ赤になる。何? 何をいいおったちこん人は!
けど、わたしのそんな混乱は、
半田「お前なぁ」
溜息まじりの、先生の声に、すっと静かになって――、
半田「冗談でもそんなやめろって。なるだって迷惑だろ」
美和「は……? え……いや、先生、本気で言ってんの?」
半田「当たり前だろ。つか常識的に考えても、年の差ありすぎだろ。俺とお前ですら十近く離れてるんだぞ。33歳と17歳じゃほとんど犯罪だっつの。第一、なるだったら彼氏くらいいるだろう?」
カレシクライルダロウ?
――その言葉に、心臓がぎゅっと熱くなった。
なる「もうよか!」
半田「うおっ!」
美和「な、なる、あの、これはな――」
なる「別に! 先生のこと、そがんふうに思ったことなんていっぺんもないし! だけん、迷惑とかそもそもが間違っとるけんね!」
半田「え? なる、お前何言って――」
なる「うっさか! 知らん!」
半田「ちょ、なる――」
ピシャン!
美和「庭から出てくのがなるらしいわ……」
半田「お前も人のこと言えないけどな……。なんなんだ、あいつ、いきなり怒り出して」
美和「……はー、全く、大人ぶってるガキが一番手を焼くけんね。なるにはまだ早かったか」
半田「お前もさっきから何言ってんだ?」
美和「……まあ、いきなり言い出した私も悪かったけど、先生はもっと救いようがなかかね」
半田「はぁ?」
美和「……いつまでも子供でいられんし、その分急いで背伸びしたがるんよ、女っていうんはね」
「どもー」
「先生、材料買って来たぞー」
「冷蔵庫に入れとこうか?」
美和「お、タマ。一月振りやね。ヒロシとひなも一緒か」
浩志「ん、そこで会った」
陽菜「先生、久しぶり」
珠子「相変わらずすぐに仕事? 先生は本当に変わらないね」
半田「おお、ひなにタマか。ひなはまた随分髪伸びたな。あ、悪いヒロ、金は後で払うから取りあえず閉まっといてくれ」
浩志「ん、ああいいよ、今回は先生の帰還祝いだしな」
珠子「ていうかさ、今もの凄い勢いでなるが走ってったんだけど」
陽菜「な、なる大丈夫かな……」
美和「あー……、ここは親友であるひなに行ってもらいたいところだが……いや、やっぱりひなに行ってもらおう」
半田「何故一瞬俺を見た?」
美和「言っても多分先生には分からんけん。ひな、悪いけどなるを迎えに行ってくれるか?」
陽菜「う、うん、じゃあ先生、悪いけど荷物置かせてもらっていいかな?」
半田「あ、ああ、もちろん。……よろしく頼む」
陽菜「うん、それじゃあ行って来るね。……あの、先生?」
半田「ん、何だ?」
陽菜「なると何かあったの?」
半田「いや、俺にもよく分からないんだが……」
美和「やめちょけやめちょけ、聞くだけ無駄ち。こん男は全然乙女心をわかっちょらん」
半田「はぁ? 別に、なるに彼氏くらいいてもおかしくないだろって話ししただけじゃないか」
陽菜「……? 何でなるに彼氏?」
半田「何でって、そりゃあ――」
◆ ◆ ◆
なる「うぐっ……、えぐっ……~~ッ! 先生のバカァ―――――ッ!」
ああ、夕方の海。防波堤に当る波に向かって叫ぶ。バカァー! と叫んだわたしの声が、心無しかこだましているように聞こえた。それでも気持ちは収まらない。
なる「バカ! バカ! バカ――ッ!」
何度も、何度も、喉が痛くなっても叫び続けた。
なる「彼氏くらいいるだろって何さね! 彼氏なんて、そがんもん、いっぺんも考えたこともなかとに!」
ぼろぼろと涙が溢れて来る、別に泣きたい訳じゃないのに。
なる「先生以外の人なんて、考えたこともなか……。なのに……ぐすっ……」
変だよ、変だよ先生。あなたのせいだよ。
琴石なるはこんなことで泣くような子じゃなかった。こんなつまらないことでケンカするような子じゃなかった。
もっとまっすぐで、もっと正直な子だった筈なのに。
なる「うっく……、ひっく……っ、何で、何で涙が止まらなかと……?」
「なるは本当に先生が好きなんだね」
なる「~~っ!」
陽菜「みーつけた」
なる「ひ、ひなっ!?」
陽菜「なる、相変わらず足早いね。私はここまで来るのに息切れしちゃったよ」
なる「……普通の女の子はそうばいね」
親友の顔を見ることが、涙目の顔を見せることが出来ずに、背を向けて、膝を抱えてうずくまる。
陽菜「? どういうこと?」
なる「……先生にっ……相応しいとは、ヒナんごと優しゅうて、おしとやかでっ……、綺麗な子だよ」
ああ、駄目なのに。こんなこと言ったらいけないのに。
陽菜「なる……?」
なる「わたし、ちょっち自惚とった……。先生の一番近くに居る女の子はわたしやけん、いつかは、先生も、わたしのこと意識してくれるって」
先生、あなたのせいだよ。琴石なるはこんな子じゃなかった。親友に嫌な気持ちさせるような子じゃなかった。こんな愚痴を零すような子じゃなかったのに――あなたが変えたんだ!
陽菜「なる、あのね――」
なる「でも! 先生……さっきこう言ったとよ。『なるだったら彼氏くらいいるだろう?』……って」
ざざあん、と大きな波が防波堤に当たり、水しぶきが顔に飛んだ。涙目を誤魔化すにはちょうどいい。
なる「バカみたいだよね……。その言葉、全くわたしを意識しとらんってことじゃんっ……!」
少し、ほんの少しだけでもいい。先生が、ほんの少しでも、わたしを異性として、一人の女の子として見てくれたら――。そう思ってたのに、
なる「結局わたしは、今も昔も、先生の周りの子供の一人だったけんね……」
そう吐き捨てた時、ごつん、とわたしの頬でいい音が弾けた。突然の衝撃にくらくらする頭を抑えて振り向くと、くるくる回る星の中で、ひながにっこりと微笑んだ。
なる「え……ゲンコツのあとに、その笑顔はちょっと……ひなさん……?」
陽菜「全く、昔は私が泣いてたのをなるが慰めてくれてたのに、今はなるのほうが泣き虫だね」
なる「う、うっさか! 別に泣いとらんし!」
陽菜「さっきね、なると何があったのか、先生に聞いたんだよ? 何でなるに彼氏が居ると思ったかって。……なんて言ったと思う?」
なる「そげなこと、分からん!」
陽菜「……――って言ったの」
なる「!」
陽菜「ねえ、なる。先生がさ、現実にそんなこと言う子、他に居ると思う?」
なる「……先生は」
陽菜「わたしは、まっすぐななるが好きだった。ずっと、憧れてたんだ」
なる「ひな……」
陽菜「――なる、もう一度、まっすぐになろうよ」
「おーい!」
なる「――ッ!」
陽菜「……ほら、お迎えの時間はもうすぐだよ、なる」
◆ ◆ ◆
半田「おお、ひな! なるは居たか?」
陽菜「さっきまで居たよ? 先生が来たら逃げちゃった」
半田「ええっ! マジか……本格的に嫌われて来たか俺……」
陽菜「……先生はさ、わたしのこと、どう思う?」
半田「? 何だいきなり?」
陽菜「いいから」
半田「お、おう……いや、そりゃ『大切』だと思って……って改めて言わせんな恥ずかしいから!」
陽菜「そうじゃなくて、『私』のこと、どう思ってるの? その『大切』って言うのはさ、美和ネェも、タマも、ヒロシも、なるも――、この島の全部含めてでしょ? そうじゃなくて、先生は、私、久保田陽菜のことをどう思っているか聞きたいの?」
半田「うー……ん、そうだな、まあ、友達想いだし、今も昔も大人しくていい奴だしな。容姿も……髪もモデルみたいにさらさらしてるしかなり美人なんじゃないか」
陽菜「…………」
半田「えっ、何その反応!? 俺なんか変なこと言った!?」
陽菜「……そっか。うん、ありがと、先生」
半田「あ、ああ……?」
陽菜「なるなら、あっち行ったよ。最後は先生が迎えに行ってあげなよ。わたしは先に帰って晩ご飯の準備手伝って来るから」
半田「え、俺避けられてるならひなも居た方がいいんじゃないか?」
陽菜「はぁ……、先生、仲直りに16歳も年下の子供連れてくつもり?」
半田「うぐっ……なんかお前、最近タマに似て来てないか……?」
◆ ◆ ◆
陽菜「行っちゃった……」
珠子「ナイスアシスト、ひな」
美和「うむ、よくやったひな。今日はあんたのためにごちそう沢山用意しちゃる、ヒロ兄が」
珠子「先生をけしかけたかいはあったね」
美和「動いてくれるまでにちょっちかかったけどね」
陽菜「……美和ネェ、タマも……悪趣味だよ」
美和「そう言うなち。これでも数年越しに見守って来た恋路ぞ。少し位出歯亀しても、神様も許してくれるけん。……けどさ」
陽菜「……何?」
美和「ひなは、これでよかったの?」
陽菜「どうして?」
美和「ひなだって、好きだったんじゃないの? 先生のこと」
陽菜「それなら美和ネェだって同じでしょ?」
美和「……私ははなから諦めてたよ、あの子のほうが気持ちは断然上だと思ったしね。けど、ひな、あんたは――」
陽菜「――先生ってさ、酷いよね」
美和「……ひな?」
陽菜「わたしのこと、全然意識してないくせにさ、あんな台詞恥ずかしげも無く言えるんだもん」
美和「…………」
陽菜「でも、美人って言ってくれたし、友達想いのいい子って言ってくれた」
美和「…………」
陽菜「それだけでね……、嬉しかったんだ。私……先生のことも、なるのことも、両方っ……比べられないくらい大好きだからっ……!」
美和「……ひな、ほら、手え貸しな、こっちこい」
陽菜「でも、でも何でだろうなぁ、二人のこと、凄く好きで、嬉しいのに、何故か涙が出てくるの……! やっぱり、私、泣き虫だよ……」
珠子「……それでいいんだよ、ひな」
美和「よかよか、私らの胸でよかったらいくらでも貸す。今は一杯泣き。で、涙枯れるまで泣いたら――笑顔で、二人を迎えてやりな!」
陽菜「う……う……うわぁぁぁぁん! せんせぇぇぇぇぇ!」
美和「……辛いね、失恋って。心の中が、こん曇り空みたいになるよ」
珠子「それは……どっちの?」
美和「ははっ、そこはあまり追求でんでよ。――じゃ、ウチらは帰って、お姫様たちの帰りを待ちますかっ!」
◆ ◆ ◆
頭の中がぐるぐるする。ひなに言われた言葉と、先生の声が反射して。
ああ、結局逃げて来ちゃったけど、このままでいいのかな。先生がそんなこと言ってたって、でも、それってどっちの意味?
わたしのことを、どう思っているのかなんて分からないよ。
なる「……先生、わたし、どうすればいいの……?」
半田「字でも書けばいいんじゃないのか?」
なる「――ッ! せ、」
半田「やっと見つけたぞ、こら」
なる「先生っ! な、なしてここに!?」
半田「なんでもなにもあるか。壁に向かって一人でベソ書いてやがって。暗がりの中で泣いてるから最初妖怪かと思ったぞ」
なる「それは色々失礼すぎ!」
半田「……ごめんな」
なる「え?」
半田「悪かった。お前が何に対して怒ったのかはイマイチ分からないけど、怒ったのなら、それは俺のせいだ――ごめん」
なる「せ、先生は悪くなかよ……。わたしが子供だかんいけんだけよ……」
ふぅ、と先生が息を吐いて、それから防波堤の縄に手を掛けた。
なる「な、なにしちょるの先生?」
半田「夕日だよ」
ドクン、と心臓がなる。ふいに、十年前の記憶がフラッシュバックする。
なる「……夕日って、先生、これ登るの?」
半田「当たり前だ、見る為には登るしかないだろ」
なる「……無理よ、今日はもう、こがんに曇っととよ。海だって濁って見ゆっに気まっとる」
半田「知らん」
なる「はぁ!?」
半田「お前が教えてくれたんだ。忘れたのか? 登ってみないと分からない。見ようとしなければ見えないってな」
なる「!」
半田「だから……こうやって……っく! 登る……んだよ! ――うぉっ!」
なる「せ、先生、無理すんなち! 怪我でもしたらどうすっと!」
半田「舐めるな! ……ほら、到着だ」
なる「……先生」
防波堤の上に立った先生が、下で見上げるわたしに手を伸ばす。
半田「お前も何か、『壁』があるんだろ? だったら、登ってみろよ。――この壁を越えなきゃ、何も見えないんだろ?」
なる「『壁』……」
震える右手を、ぎゅっと握った。
◆ ◆ ◆
なる「わあっ……」
壁の上に立った時、ごわっと潮風が吹き上げて、わたしと先生の髪の毛を揺らした。
海を見ると、雲が掛かっていたけれど、それでも力強く輝く夕日がこの目で見えた。
なる「……綺麗だね」
半田「ああ、綺麗だ」
海に夕日の光が反射して、海がキラキラと輝いている。ふと、先生がわたしに言った。
半田「まだ答えを聞いてないぞ」
なる「えっ! な、何の?」
半田「謝っただろ。その答えを、俺はまだ聞いてない」
なる「……いいよ、わたしも悪かったち。……ごめんね、先生」
半田「じゃあ、許してくれるか?」
なる「……うん」
その時、ぱあっと視界の横が眩しくなった。雲の切れ間から、夕日が完全に姿を見せたのだと分かった。真っ赤な夕日が、空を、雲を、海を、わたしと先生を赤く染めて行く。
半田「……初めて俺がここに来た日も、こんな夕日を見たな。覚えてるか?」
なる「うん、覚えとるよ」
忘れる筈が無い。あれは、わたしが見て来た中でも、一番、眩しくて、綺麗だった夕日。幼い日の、大事な想い出。
わたしと先生が出会ってから、凄く、凄く色々なことがあった。ただでさえ、毎日がキラキラしていた子供の日に、先生が現れてからはもっと世界が広がった。楽しい想い出は、今もまだ心に染み込んで、消えない温もりになっていく。
半田「俺が初めてこの島で会った第一村人にな、教えてもらったんだ」
なる「?」
半田「海は荒んでる時にこそ見るもんだってな」
なる「……そうかもね」
半田「誰が言ったか分かるか?」
なる「え? 第一村人って……――あ!」
半田「ああ、おまえのじいさんだ」
なる「……あははっ、じいちゃんらしいや」
昔から変わらない、にかっとした笑顔で、得意げにグッドサインを出すじいちゃんの姿が目に浮かんだ。もしここにじいちゃんが居たら、きっと笑ってこう言うだろう。
『ほれ、じいちゃんの言う通りやったろ? なる」
なる「全く、じいちゃんにはかなわんね」
半田「そう言えば、お前、方言に戻ってるな」
不意打ちの先生の言葉に、防波堤からずり落ちそうになる。
半田「うわっ! 危ないなお前!」
倒れかけたわたしの手を先生が掴んで、そのことにまた頭がふっとうしそうになる。
おかしい、おかしいよわたし。いつもはべったりくっついていてもこんな気持ちにならないのに!
なる(と言うかいつまで手ば握っとっと!)
なる「はわっ! い、いや、こ、ここここれは、違くて、とっさに……」
半田「ああ、いいよいいよ、繕うな。そのままのお前でいろ。聞きづらいし分かりにくいけど、俺はお前の言葉が好きなんだから」
なる「――……!」
ぽろりと、枯れたと思った涙がまた滲んで来た。
ああ、先生、ほんと、バカだね。
わたしの努力と想いとか、そんなこと顧みずに一言で、全部、全部壊しちゃうような、素敵な台詞を吐いてくれるんだもん。
なる「……先生、わたしのこと、『可愛い』って?」
半田「うぉっ! 何だよいきなり!?」
なる「ひなから聞いたよ? なるくらい可愛かったら、彼氏くらいいるだろ? って」
茶化したように言うと、先生は少し顔をそらして、ばつが悪そうに頭をかいて言った。
半田「……お前ももう17歳なんだ。あと1年もすりゃ、四輪の免許も取れるし、三年たてば酒も飲める立派な大人なんだ。いつまでも俺に構ってないで、自分の人生を歩いて行け」
なる「…………」
半田「俺は書で生きて行くと、お前くらいの年にはとっくに決めてた。お前も、何で生きて行くか、決める年になって来たんだろ?」
思わず、ぷっと笑いが溢れた。
なる「……ははっ、やっぱり、先生何も分かっちょらんね」
半田「え!? 俺今結構いいこと言ったよな? 大人として、若者を進ませる言葉だと思ったんだけど! 何でお前笑ってんの!? 俺なんか変なこと言った?」
なる「あははは、それでこそ先生だよ!」
今も昔も、変わらず書道だけ見ていて、それが生き甲斐の、まっすぐな先生。
ああ、そうか、そうだよね。
こんなまっすぐな先生だからこそ、わたしは――。
だから、わたしももう一度、まっすぐになろうと思った。まっすぐに、自分の気持ちを伝えよう。
なる「――ひな、ありがとう」
大切な親友が、背中を押してくれたのだから。
なる「彼氏なんかおらんよ。だってわたし、初めて先生と会うたそん日から――」
すうっと息を吸い込んで、それから、先生に顔を近づける。
なる「――ずぅっと先生が好いとったもん。――もちろん、今もね」
唇と唇がほんの一瞬触れ合って、すぐに離れる。見ると、先生が夕日に照らされたものとは違う赤さで顔を染めて、ぽかんと口を開けていた。
半田「……な、なる、お前……今っ……!」
なる「あはは、なんて顔しちょるの先生。……大事にずっと取っておいた、わたしの初めてやけん」
半田「いや……急すぎて……ちょっと頭の整理がつかん……」
なる「よかよ、じっくり考えて、現役女子高生の初めてもらったことの重大さば噛み締めてね」
防波堤の上をくるくる回りながら、そう笑う。
分かったよ、じいちゃん。わたしのやりたいこと。ずっと分かってたけど、今、ようやく気付けたよ。
もし、もしも、それが許されるなら、
なる「先生、わたしの夢はね、――先生の隣で生きて行くことやけん。……こいからもずっと、ね」
そう言って防波堤を降りようとするとき、不意に、身体が後ろに引かれた。
数秒後に、先生に後ろから抱きしめられたと気付いて、茹で上がりそうなほど顔が熱くなる。
なる「せ、先生!?」
半田「……バカだな、お前も。俺なんか書道バカのどこがいいんだか」
耳元に掛かる、先生の声に、胸が熱くなる。ぎゅっと回された腕を抱きしめて、それから首を向ける。
なる「決まっとるじゃん。――そがん、バカな所だよ」
二回目は先生の方からだった。一回目よりも、ずっと、ずっと、長くて熱い、けれど、心の底から安心するキスだった。
◆ ◆ ◆
なる「ただいまー!」
半田「悪い、遅くなった」
珠子「お、お姫様のお帰りだね」
美和「こら、心配かけおって! きちんと仲直りは出来たち?」
なる「……うん」
陽菜「よかったね、なる」
なる「ひな……ありがとう」
陽菜「どういたしまして、――お帰り」
なる「うん、――ただいま」
浩志「おお、先生もなるも帰って来たか。よし、じゃあメシ並べるか」
半田「悪いなヒロ」
浩志「感謝してくれよ、先生たち帰ってくるまでメシメシ言うこいつら押さえつけてたんだから」
なる「う、ごめんヒロシ……」
半田「す、すまん」
浩志「ん、許す」
美和「じゃあ、集まったことだし――」
教頭「先生! 帰って来たなら一声かけろってのー!」
半田「教頭!?」
郷長「あはは、賑やかだね、先生」
半田「郷長!?」
浩志「オヤジ!?」
美和「うわっ何かいっぱいきよっと!」
二人が乱入して来て間もなく、外の方から大勢の楽しそうな話し声と足音が聞こえてきた。
耕作「まだまだおっぞ、先生が帰って来たち話聞いて、みんな遊びに来とるで」
なる「じいちゃん!」
美和「――よし!
と、そこで美和ネェがぱちんと軽快に手を叩いた。
美和「タマ、確か押し入れの中にデカい机あったち! そい持ってこい! と言うか、もの置けるならなんでもよか! とにかく出来るだけ持ってこい!」
珠子「OK! すぐ持って来るよ」
半田「お、おい美和、俺そろそろ展示が近いんだが――」
美和「今日は大宴会じゃけん! 朝まで楽しむっとよ! 時期酒屋当主の命令だー!」
「イエー!!」
半田「おぃぃぃぃ!」
浩志「諦めろ先生、人が集まる所にゃ酒が来るんだ。メシ多めに作っといて正解だったな」
半田「はあ……ここの住人は、十年前から全然変わってねぇ……」
なる「そいでよかとよ、先生。そいが、こん島のよさよ。けど」
半田「?」
なる「わたしと先生は、こいからはちょっち、変わるかもしれんね」
半田「……ッ! ……不意打ちでそう言う顔してくんなっての……」
そう言って先生がそっぽを向く。今は、その仕草さえも嬉しい。
これから、わたしと先生がどうなるかはまだ分からないけど、それでも、わたしは、確実に前に進めたんだ。
そう分かったから、今はこれで。
先生の周りに出来る、たくさんの人の『輪』に目を細めて、ふふっと笑う。
美和「ほれほれ、みんなコップ持ったかち!」
陽菜「はい、なる、先生」
半田「おお、サンキュー、ひな」
なる「ありがとう! あ、わたしはジュースか……」
陽菜「当たり前だよ。未成年なんだから」
なる「んー、まあ仕様がなか」
珠子「ん、みんなに渡ったね」
浩志「よし、じゃあ行くか」
ひなと顔を見合わせて、笑って頷く。そして、コップを二人で掲げた。
なる・陽菜「せーの!」
「――お帰り、先生!!」
おわり。
と言う訳でこれにておしまいです。ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。
十年経ってもこの島の人たちなら元気で居てくれるんじゃないかな。
アニメも始まったことだし、ばらかもんの作品も増えて行けばいいなーと思います。
GJ!
乙
乙ー
ほんと良かったです
乙
なる「んー、俺にはよく分からないな。」
で笑った
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