奈緒「今日も事務所で待ちぼうけ」 (20)

奈緒「心ぴょんぴょん待ち 考えるふりしてもうちょっと」ガチャ

奈緒「ん? 来てるのかな」

奈緒「おーっす」

桃華「あら、おはようございます。丁度お茶を淹れたところですの。
   いかか?」

奈緒「貰っとくわ。さんきゅ」

桃華「ちゃんとお茶菓子も用意してきましたの」

奈緒「また変なの買って来たのか?」

桃華「変ではありませんわ。ちゃんとコンビニで買ってきましたの。ほら」

奈緒「本当に普通のポテチだな。安心した」

桃華「全く。はい、どうぞ」

奈緒「ん。ローズヒップティーも最初はすっぱいだけだと思ってたが
   最近じゃたまに飲みたくなるようになったな」

桃華「バラには中毒性がありますので仕方ありませんわ」

奈緒「えっ」

桃華「冗談ですわ」

奈緒「……しかしなんだ。これにポテチはちょっと合わないんじゃないか?」

桃華「文句を言う人にはあげませんわ」

奈緒「ここにアニメのDVDがあるんだけど」

桃華「さぁどうぞ。食べてくださいまし」

奈緒「あの櫻井家のお嬢様が庶民とポテチ食いながらアニメ鑑賞なんて……。
   両親が聞いたら泣くんじゃないか?」

桃華「ちゃんとお稽古にも行ってますし勉強もしてますわ。趣味にまでとやかく
   言われたくありませんわ。それなのに父も母も……」

奈緒「最近来れなかったのはその辺のごたごたのせいか」

桃華「ええ……。わたくしは友人とアニメを鑑賞しているだけですの。
   別に悪い事なんてしてませんわ」

奈緒「まぁな。それでも親は子供が心配なんだろ。
   さてと、セットするかな。えーっとリモコンはどこだ」

桃華「はい、どうぞ。今日は何を見ますの?」

奈緒「クリスマスにホームレスが子供拾うやつ」

桃華「もう六月ですのにまた季節外れな……」

奈緒「アニメに季節なんて関係ないよ。ほら、ちょっと横にずれて」

桃華「むぎゅう。押し込まないでくださいまし」

奈緒「ここが特等席だから仕方ないだろ。それじゃあ始めるぞ」

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奈緒「……二期始まったから一期見直したけどやっぱりいいな。
   分割二クールはいいけどせめて落とさないで欲しかった」

ガチャ

奈緒「お、桃華かー。丁度いいや。面白いアニメあるぞー」

みく「桃華チャンだと思った!? 残念! みくにゃんだよ!」

奈緒「アニメの続き見るか」

みく「反応が寂しいにゃ……」

奈緒「どうみてもそういうフリだったろ……。でも珍しいな。どうしたんだ?」

みく「ちょっと近くを通ったから来ただけにゃ」

奈緒「近くねぇ……」

みく「むむっ! その『この事務所って本通りから外れてるし、そもそもみくの所属してる
   事務所からも家からも学校からも離れた場所にあるよな。それなのに近く通るなんてねぇ』
   みたいな反応しないでほしいにゃ! 仕事で近くを通ったかもしれないでしょ!」

奈緒「そうなの」

みく「いえ、全く」

奈緒「素直に来たかったって言えばいいのに。あー、炭酸飲めるよな。用意するから待ってろ」

みく「奈緒チャンだってPチャンにツンデレしてたクセに……」

奈緒「それはあいつが……まぁ色々な。ほら、どうぞ」

みく「ありがとにゃ」ゴクゴク

みく「」ブッシャー

みく「マッズ! なにこれマッズ!!」

奈緒「」ゲラゲラ

みく「笑ってる場合じゃないよ! え、なにこれ、市販されたやつ? マッズ!」

奈緒「昔限定販売された奴でな。桃華が目を輝かせながら持ってきたんだよ」

みく「で、本人は飲んだの?」

奈緒「一口飲んだ後『そもそもコーヒーに炭酸を入れる発想が狂気ですわ』と言って
   それ以後飲まなかった」

みく「ちゃんと処理してほしいにゃ……。いやー、口に含んだ瞬間思わず奈緒チャンを
   ぶん殴りたくなるほどまずかったにゃ」

奈緒「ちなみにボックスであるから持ってく?」

みく「いらないにゃ!!」

サァー

桃華「今日も雨、ですわね」

桃華「奈緒さんも来ないし」

桃華「退屈ですわ」ハァ

桃華「宿題もすぐに終わってしまいましたし」

桃華「奈緒さんの置いて行ったアニメでも見ましょうか」

桃華「テレビアニメは一クール見切れないですし……」

桃華「映画のほうが……あ、このアニメにしましょう」

桃華「表紙もなんだか夏っぽいしいいですわね」

桃華「タイトルからするとこの少女がタイムトラベルするのかしら」

桃華「……もしも時間が戻ったらわたくしはあの日に戻るのでしょうね」

桃華「」ブンブン

桃華「アニメを見る時はこういう気持ちはダメですわ! 作品に失礼ですの!」

桃華「今日は特等席のソファーも一人占めですわ」

桃華「……奈緒さん、いらっしゃらないかしら」

桃華「……いいアニメでしたわね」

奈緒「名作だな。原作と結構違うところ多いんだけどどっちもいいんだよな」

桃華「あら、そうですの?」

奈緒「例えば[ピザ]リ課が存在しなかったり」

桃華「……それもうかなり別物ですわね」

奈緒「今度漫画のほう持ってきてやるよ」

桃華「楽しみですわ。そういえば前々から気になってましたけど」

奈緒「どうした?」

桃華「こういったアニメのボックス? と言いますの。結構高いのでしょう?」

奈緒「そうだな。割りとするぞ」

桃華「大丈夫ですの? そんなにたくさん買って」

奈緒「アイドルやってたときは金はあったけど使う暇がなかったんだよ。
   今はその反動。Pさんのおかげで一応金はあるしな」

桃華「それならいいですけど」

奈緒「まぁいざとなったら桃華に買ってもらおう」

桃華「えっ」

奈緒「冗談だよ」

桃華「ちょっと」

奈緒「ん?」

桃華「救いはありませんの?」

奈緒「だから魔女はいなくなったじゃないか。一人犠牲が出たけど」

桃華「でもその後何かよくわからない敵が出てましたわ」

奈緒「仕方ないね」

桃華「そもそもあの白い獣だって説明不十分ですの。クーリングオフされますわ」

奈緒「桃華が契約したら……やっぱりピンクのドレスで……」

桃華「やめてくださいまし!」

奈緒「魔法少女櫻井桃華。いいんじゃないか、うん」

桃華「そういうこと言ってますとご自分にも災厄がかかりますわよ」

奈緒「……いや、アタシは少女って歳じゃないから」

桃華「今、考えましたわね? 自分が魔法少女の服を着てるところを」

奈緒「おい、やめろ」

桃華「でも可愛らしい服を着て、コスプレしたいと思ってますわね」

奈緒「アタシは別に」

桃華「メイド服であれだけ大はしゃぎでしたものね」

奈緒「だあああぁぁぁ! わかった! わかったよ! もう魔法少女櫻井桃華なんて言わないから!
   ほら、ここに続きの劇場版があるからこれを見よう」

桃華「あら、続きがありますの? きっと今度こそハッピーエンドですわね」

奈緒「ああ、うん……そうだな……」

みく「大変にゃ!」バーン

奈緒「なんだよ、うるさいな。

桃華「今いいとこですの」

みく「そんなパンツ丸出しで空飛んでるアニメなんて見てる場合じゃないにゃ!
   というかなにそれ! 頭おかしい!」

奈緒「パンツじゃなくてズボンだから」

みく「!?」

桃華「失せ物探しが出来ますの?」

芳乃「はいー。失せ物探しモノお任せをー」

桃華「なるほど。お茶をどうぞですの」

芳乃「ありがとうございますー」

みく「失せ物探しが出来る人見つけたにゃってもう和んでるし!」

桃華「Pちゃまの私物と言えばペンぐらいしかありませんわ」

芳乃「あぁー、これはもうご本人はこの世界にいないのでしてー」

みく「判定早いにゃ!」

奈緒「それはつまり……」

芳乃「お察しの通りかと思いましてー」

桃華「……まぁでも予想通りですわね。Pちゃまがあの日出てってから一度も連絡は
   ありませんし、行方もわからないままなのですから。わかってたことですわ」

芳乃「でも当人の意向によっては帰って来るかもしれませんのでー」

奈緒「そんなひょっこり帰って……くるかもな」

桃華「ですわね……」

芳乃「ずいぶんと大切な人でしてー」

奈緒「まぁな」

桃華「あら、あっさり」

みく「奈緒チャンのツンデレが解けたにゃ」

奈緒「……あ、みく。喉渇いてるだろ。ほら、ジュースだ」

みく「お、ありがとにゃ。なんでラベル取れてるにゃ?」

奈緒「この前ゴミの日に出したんだ」

みく「なるほど。頂くにゃ」

みく「」ブッシャー

芳乃「あらー、綺麗な虹でしてー」

奈緒「……」ペラ

桃華「……」

奈緒「……要約すると七月中に出て行けと」

桃華「タイムリミットですわね」

奈緒「事務所潰れてから三ヶ月ぐらい借りてたからな」

桃華「お金は払っていますし見逃してほしいですの」

奈緒「そういうわけにもいかないんだろ。私物とかも引き上げないとな」

桃華「……もう一緒にアニメ見る事もできませんの?」

奈緒「桃華の家……は難しいし、ウチに来るか?」

桃華「いいですの?」

奈緒「いいけど今までみたいに学校帰りに寄るってのは難しいだろうな」

桃華「休日だけでも十分ですわ」

奈緒「すっかりアニメ好きになって……」

桃華「奈緒さんのせいですの」

奈緒「暇だったからな。まさかこんなに長い間待つとは思わなかったし」

桃華「わたくしたちがここを出ていったら……Pちゃまはちゃんと帰って来れますの?」

奈緒「……さぁな」

桃華「心配ですわ」

奈緒「Pさんの心配もいいがこっちの心配もしよう」

桃華「と言いますと?」

奈緒「茶器はまぁいいとして冷蔵庫とかどうすんだ。残しといてもいいのかな」

桃華「どうでしょう。大家に聞いてみないとわかりませんわ」

奈緒「テレビも……いや、テレビは持って帰りたいなぁ。割りと大きいしいいテレビだし」

桃華「奈緒さんの部屋に持ち込みますの?」

奈緒「無理無理。こんなでかいテレビ入らないよ」

桃華「え?」

奈緒「……今、庶民と貴族の差というものがよくわかったよ」

桃華「ああ、そんなつもりはありませんでしたの。ごめんなさい」

奈緒「ポテチのコンソメが好きなくせに変なところはお嬢様なんだからなー」

桃華「その場合、変なところが庶民と言うべきですわ」

奈緒「あとあの炭酸飲料。どうにかしろよ」

桃華「ああ……」

みく「すっきりしてるにゃ」

奈緒「そりゃ今日が最後の日だからな」

桃華「なんだか事務所がなくなった日を思い出しますわ」

奈緒「Pさんがいなくなった翌日くらいか。突然ちひろさんが
  『Pさんがいなくなったので事務所を解体します』って言い始めたんだよな」

桃華「あの時は驚きましたわ。でも仕方ありませんものね」

みく「みんなアイドルを続けるために他の事務所に移ったにゃ。みくも……。
   最後までPさんを待つって言った強情っぱりも二人くらいいたけど」

奈緒「……なぁみく。喉渇かないか? ジュースがあるんだが」

みく「もう騙されないにゃ! そんなまずい炭酸お断りにゃ!」

奈緒「そっか。桃華いるか?」

桃華「ええ、頂きますわ」ゴクゴク

みく「!?」

桃華「たまには炭酸もいいですわね」

奈緒「そういえば桃華は炭酸あまり飲まなかったな」

桃華「ええ。ポテチは食べてもコーラはあまり飲みませんでしたわ」

みく「あれ、普通のコーラなの? じゃあみくにも頂戴!」

奈緒「ああ、桃華に上げたのしかなかったから」

みく「……ッ!!」ダンダン

奈緒「地団駄を踏むな。あ、でもまずい炭酸飲料ならまだあるんじゃないか?」

みく「いらないにゃ!!」

桃華「もうすっかり夏ですわね」

奈緒「そりゃ明日は八月だからな」

桃華「結局Pちゃまは行方知らず」

奈緒「やっぱり死んでるのかな」

桃華「……」

奈緒「……」

みく「……もー! しめっぽいにゃ!」

桃華「そうは言ってもしめっぽくはなりますの」

奈緒「なー」

みく「はい! 話題変えるにゃ! 奈緒チャンと桃華チャンはもうアイドルやらないの?」

奈緒「アタシはパス」

桃華「わたくしも結構ですわ」

みく「やっぱりあのPチャンにプロデュースしてほしいの?」

奈緒「そんなとこ」

桃華「中途半端かもしれませんけどもしも再開するならPちゃまとがいいですわ」

みく「ほんっとに二人ともPチャンにぞっこんにゃ」

奈緒「考えたんだけどさ。多分そういうのと違うんだよ」

みく「違う?」

奈緒「うん。近くにいるときはわからなかったから勘違いもしたりした。
   けどこうやって離れて、冷静に考えてみるとPさんに抱いていた感情ってのは
   恋愛とかそういうのじゃないんだ」

みく「じゃあ何?」

奈緒「信頼、だと思う。アタシは多分Pさんのことを白馬に乗った王子様とかカッコイイ
   年上の異性とかじゃなくて、もっと身近な一人の信頼できる友人だと思ってたんだ。
   それに気付くのになんだかずいぶんとかかっちゃったけど」

桃華「あら、そうですの? じゃあ帰ってきたらわたくしの物ですわね」

奈緒「お前なぁ……まぁいいか」

みく「友人……ね。なんとなくわかるよ」

奈緒「お前ならそう言うと思ったよ。だからさ、アタシからしてみれば
   ちょっとばっかし留守にしてる友人の帰りを待っているつもりだったんだけどさ」

桃華「どこまで出かけたのやら。わたくしたちも待ちくたびれましたわ」

みく「どこか違う世界で女の子でもスカウトしてるかもしれないにゃ」

奈緒「否定出来ないのが悲しいな」

桃華「そろそろ行きますの。鍵も返さないといけないですし」

奈緒「そうだな。この後どうすっかな」

みく「どっかでお茶でも飲む?」

ガチャ

みく「ん?」

P「おーっす。あれ、なんか随分すっきりしてるな」

みく「」

奈緒「」

桃華「」

P「何固まってんだよ。つーかなんか暑くね?」

奈緒「……今までどこ行ってたんだ」

P「ちょっと海で戦争を」

奈緒「後ろの子は?」

P「連れてきた」

「夕雲型駆逐艦、巻雲といいます!」

奈緒「そうかそうか。色々言いたい事はあるがとりあえず置いといて。。
   喉、渇いてるだろ? これ飲めよ」

以上
今日もアイドルがあなたを待ってます

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