ないた赤鬼(75)
むかしむかし、ある山奥に赤鬼がすんでいました。
この赤鬼は変わり者で、ずっと人間と仲良くなりたいと思っていたのでした。
そんなある日のこと、近くに住んでいる青鬼が赤鬼の家へやってきました。
青鬼「邪魔するよー」
赤鬼「あっ、青鬼・・・」
青鬼「なんだい、また本なんか読んでるのかい」
この2人は、小さい頃からこの山に住むいわば幼馴染のようなものでした。
赤鬼「うん・・・やっぱ人間ってすごいよ!こんなもん描けるんだもん!!」
青鬼「まったくアンタは・・・そんなことばっかしてるからモヤシみたいな身体してんだよ。たまには外に出て身体でも動かしなさいな」
赤鬼「うるさいなぁ。いいからほら、ここ読んでみてよ」
そういって赤鬼は青鬼に本を手渡します。
青鬼「『本当にうちの事忘れてもいいっちゃ!?』」
赤鬼「これだよ!!」
青鬼「何がよ」
赤鬼「今の鬼界に不足してるのって、こういうのだと思わない!?青鬼!」
青鬼「アンタいっぺん医者に頭診てもらったほうがいいんじゃないの?」
青鬼は、見かけによらず辛辣でした。
赤鬼「はぁ・・・もっと人間と仲良くなりたいなぁ」
青鬼「まーたそんなこと言って・・・人間と関わっても不幸になるのがオチよ」
赤鬼「そうかなぁ。いや絶対仲良くなれる気がするなぁ」
青鬼「・・・ていうか、アタイじゃ何か不満なの?」
赤鬼「えぇ?だって青鬼怖いんだもん。すぐ殴るし」
青鬼「暫烈拳!!」
赤鬼「あっ!あっ!あっ!!」ガシボカベキ
赤鬼の身体は宙を舞い、家の屋根には大きな穴ができてしまいました。
赤鬼「痛たた・・・ひどいよ青鬼」
青鬼「誰が怖いって?」ギロッ
赤鬼(君だよ)
青鬼「・・・そういう目をしたッ!」
赤鬼「ええッ!?」
青鬼「大体ね・・・この辺じゃもう鬼なんてアンタとアタイくらいしかいないんだから」
そうです。少子高齢化の進んだ鬼界において、今やこの山に生き残った鬼はこの2人だけなのでした。
赤鬼「分かってるよ・・・だからこそ人間と仲良くなりたいんじゃないか」
青鬼「・・・ダメだって。今まで通り二人でひっそり暮らしていくのが一番なんだよ」
青鬼はいつもそうやって赤鬼を諭すのでした。
赤鬼「・・・とりあえず、屋根を直すための木を集めて来るよ」
そう言って赤鬼は森の中へ入って行きました。
その後ろ姿を、青鬼は心配そうにみつめているのでした。
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赤鬼が森の中に入ってしばらくすると、何やら話し声のようなものが聞こえてきました。
「・・・おい、本当にこんなとこきて大丈夫なんか?」
「大丈夫だって・・・」
赤鬼(あ・・・麓の人間かな)
赤鬼は人間達を驚かせないよう、茂みの中に姿を隠します。
若者A「すげーな、この山にこんなとこがあったなんてよー」
若者B「だろ?俺の秘密の場所なんだ。秋になると椎茸なんかも採れるしよ」
若者A「椎茸!?そりゃすげえ」
赤鬼(ああ、それで去年何も採れなかったんだ・・・)
そこは、赤鬼が森の中で切り拓いた場所だったのです。
若者B「ほれ、お前も飲むべ」
若者A「お前これ、酒でねえか!?」
若者B「こないだ総代んとこの仕事手伝ってな、ちっとばかし貰ったんだよ」
若者A「いやぁ、なんか悪いなあ」ハハハ
若者B「何言ってんだ、俺とお前の仲でねえか」ハハハ
その様子を赤鬼は羨ましそうに見つめていました。
赤鬼(いいなぁ・・・俺もあんな風に仲良くできる友達が欲しいなぁ)
若者B「そういやよぉ、この山にゃ鬼が住んでるって噂だっけどもよ」
若者A「鬼ぃ?」
赤鬼(!!)
その言葉に赤鬼は息をのんで聞き耳をたてます。
若者B「おうよ・・・なぁ、もし今ここに鬼が出てきたらどうするよ?」
若者A「どうすってそりゃあ・・・とって食われたかねーし、逃げるべよ」
若者B「逃げきれっべか?鬼っちゅうたら、えらい力を持ってるそうでねえか。俺らなんか、あっちゅう間に捕まるんでねえか」
若者A「んだなぁ・・・したら、話あってみるしかねえべな」ハハハ
その言葉に、赤鬼は意を決して茂みの中から顔を出しました。
赤鬼「あ、あの・・・」ガサッ
若者A「」
若者B「」
二人の若者は、無言で顔を見合わせたかと思うと一目散にその場を駆け出しました。
人間、マジで驚いたときは意外に声が出ないものです。
若者A「ひっ・・・う、うわ・・・!」
逃げ出した若者のうちの一人が、道を外れて森の中を走っていきます。
赤鬼「あっ、そっちに行っちゃダメだ!!」
その先には大きな滝があるのでした。
若者A「はっ・・・はっ・・・!うわあっ!!」ガラッ
後ろを確認しながら走っていた若者は、そのまま崖から足を踏み外してしまいました。
眼下には大きな岩がゴロゴロと転がっている滝壺が見えます。落ちたらひとたまりもないでしょう。
その様子をみた赤鬼は、それを追いかけるように全力で崖から飛び出しました。
若者A「」
失神しながら落ちていく若者を、飛び出した赤鬼が空中で抱きかかえます。
その様子はまるでカリ○ストロの城の終盤で怪盗がお姫様を抱きかかえる姿そのものでした。
凄まじい音を辺りに響かせながら、赤鬼は大きな岩の上に着地しました。
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若者A「う・・・ううん」
若者は気が付いて驚きました。なんと自分のすぐそばに鬼が立っているではありませんか。
若者A「」
赤鬼「あ、気が付いたみたいだね・・・よかった、怪我はないかい?」
赤鬼はニッコリ笑って若者に尋ねます。若者はほんの少しだけ失禁しました。
若者A「ひっひいぃ・・・」ガクガク
赤鬼「あ・・・怖がらないで。別に君を食べたりしないから・・・」
そう言って敵意が無いことを示すのですが、若者がビビりすぎて話になりません。
赤鬼「困ったなぁ・・・そうだ!!」
そう言って赤鬼は懐(といってもパンツですが)の中からある本を取り出します。
赤鬼「ほら!これ、人間界の本でしょ!?俺、この本好きなんだー!」
若者A「え・・・アンタ、そりゃあ・・・」
その本を見た若者は少しだけ落ち着きを取り戻しました。
赤鬼「特にこの娘!一途でかわいいよねえ」
若者A「・・・鬼もそんなの読むんだべえな」
若者は意外な事実に驚いた様子でした。
それからしばらく二人は会話を続け、若者もどうやら赤鬼が心の優しい鬼であることを理解してくれたようでした。
若者A「悪かったな、逃げたりなんかして」
赤鬼「いやあ、仕方ないよ・・・それに、俺も君と話ができてすごく楽しかったよ」
若者A「にしても・・・これ、こんなとこ落ちちまって、どうやって村に戻るべえかな」
そういって若者は先ほど落ちてきた崖を見上げます。
赤鬼「ああ、これくらいなら俺が担いで登ってってあげるよ」
若者「えっ」
普段、青鬼からモヤシだの切干大根だの散々な言われようの赤鬼でしたが、人間に比べたら大変なフィジカルエリートなのでした。
その言葉通り、赤鬼は若者を担ぎ上げると苦も無く崖を登り切ってしまいました。
この程度であれば、まさに朝飯前といったところです。
赤鬼「はい、お疲れ様」ヨイショ
若者A「すっげーなぁ。そいだけの力があったら、村の仕事なんてすぐ終わるべえな」
赤鬼「ははは。でも、俺が行ったら村の人驚かせちゃうから・・・」
そういって赤鬼は寂しそうに笑うのでした。
若者A「・・・よっしゃ!俺が村の皆に、アンタのことを話してやるよ!」
赤鬼「ええ!?」
若者の思わぬ提案に赤鬼は驚きます。
若者A「アンタは良い鬼だ。ちゃんと話せば、きっと村の人間も分かってくれるべえよ」
若者のその言葉に、赤鬼は心底嬉しそうに何度もお礼を述べるのでした。
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数日後。
若者の言葉に居ても立ってもいられなくなった赤鬼は、青鬼の制止を振り切り人里へ様子を見に行くことにしました。
村の近くまで来ると、赤鬼は茂みの中に身を隠しました。
赤鬼「村の人を驚かせるといけないから、ちょっと様子を伺ってから出ていこう」
赤鬼は思慮深い性格なのでした。ですが、そんな彼の目に映ったのは予想だにしなかった光景でした。
若者A「や、やめてくれ!!」
村人「うるさい!あっちぃ行け、この鬼憑きが!!」
若者A「う、ううぅ・・・」
なんと、あの時の若者が他の村人から石を投げつけられているではありませんか。
若者は逃げるように、村のはずれにあるボロボロの小屋の中へ入っていくのでした。
日が落ちて辺りが暗くなってから、赤鬼はこっそりとその小屋へ近づきます。
赤鬼「・・・いるかい?」
若者A「ア、アンタは・・・」
若者は赤鬼の姿をみて少し驚いた様子でした。
赤鬼「昼間、君が石を投げられてるのを見たよ・・・」
若者A「ああ・・・あの後、村の連中にアンタの事を話したんだが。どうやら皆、俺の事を鬼に憑かれたと思ってるらしいんだ」
赤鬼「えっ・・・」
若者A「村人を騙して鬼に食わせようとしてるんだろ!・・・だってさ。ひどい話だよな」
若者は、鬼の仲間になったということで村八分にされているのでした。
村人A「あのとき一緒にいたアイツにまで、同じようなことを言われたのは堪えたよ・・・」
若者は小さく笑いながらそう呟きました。
赤鬼「そんな・・・あんなに仲がよさそうだったのに」
それを聞いた赤鬼は、とても悲しい気持ちになりました。
赤鬼「そうだ・・・これ、村の人たちにと思って持ってきたんだけど」
赤鬼は山から持ってきたたくさんの山菜や魚を若者に手渡しました。
若者A「これは・・・いいのか?」
赤鬼「うん・・・元はと言えば俺のせいだし。一人でここにいたんじゃ、色々大変だろうしね」
若者A「ありがとう。助かるよ・・・」
そうして赤鬼は寂しげに山に戻っていくのでした。
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青鬼「だから言ったことかい。人間と付き合ってもロクなことになりゃしないんだよ」
家に戻ってきた赤鬼に、青鬼が言います。
赤鬼「うん・・・」
青鬼「これに懲りたら、二度と人間とは関わり合いにならない方が良いよ」
青鬼のその言葉に、赤鬼は黙ったまま視線を落とすのでした。
それからさらに数日。
青鬼がいくら話しかけても、赤鬼はどこか上の空でした。
青鬼「なんだい。まだ例の人間のことを気にしてんのかい」
赤鬼「うん・・・俺のせいで彼にまで迷惑をかけてしまったから・・・」
青鬼「バカだねぇ。アンタがそんなこと気にしてどうすんのさ」
赤鬼「でも・・・」
青鬼「ああああジメジメとうざったいねぇ!!アンタそれでも男かい!?」
青鬼は苛立たしげに赤鬼を叱りつけますが、赤鬼はぼんやりと遠くを見つめるだけでした。
青鬼「・・・はぁ、やれやれ」
青鬼は大きく溜め息をつくと、赤鬼の手を引っ張りました。
赤鬼「何・・・?」
青鬼「いいからついてきな。アタイに考えがある」
赤鬼「ちょ、ちょっと・・・」
戸惑う赤鬼の手をぐいぐいと引っ張りながら、青鬼は山の中を歩いていきます。
そしてたどり着いたのは、あの若者が住む麓の村でした。
赤鬼「こ、ここは・・・」
青鬼「ふん、随分と人間どもがいるじゃないか」
そう言うと青鬼はニヤリと笑い、村の中へ入って行きました。
青鬼「人間どもおおおお!一人残さず喰らってやるから覚悟しなああああ!!」
村人「う、うわあああああ鬼だ!!鬼が出たぞ!!」
突然の鬼の登場に村の人々は慌てふためきます。
その間にも青鬼は金棒を振り回しながら暴れまわっています。すると青鬼の目に腰を抜かして動けなくなった子供の姿が映りました。
子供「ひっ・・・!!」ブルブル
青鬼「ほぉ・・・美味そうな子供がいるじゃないか」
青鬼はその子供の襟首を掴みあげます。
赤鬼「青鬼、ダメだ!!」
それを見た赤鬼も茂みから飛び出し、青鬼の手から奪うようにその子供を抱きかかえます。
青鬼「邪魔するんじゃないよ!」
赤鬼「ど、どうしてこんなことをするんだ!!君はおっかないけど、そんなことする奴じゃなかっただろう!?」
青鬼「うるさいなぁ。人間なんかがいるからいつまでたってもウジウジ悩まなくちゃいけないんだろ。面倒だから、全部消せばいいのさ」
そう言いながら青鬼はジリジリと赤鬼に近づいてきます。
青鬼「さぁ、その子供をよこしな」
赤鬼「だ、ダメだ!」
青鬼「そうかい・・・」
そう言ってニヤリと笑うと、青鬼は赤鬼めがけて突っ込んできます。
間一髪をそれを躱した赤鬼でしたが、青鬼はその様子をみて笑っています。
青鬼「そうやって、いつまでその子供を抱いたままアタイの相手をするつもりだい?」
たしかに、この子を抱いたままでは赤鬼は自由に動くことが出来ません。
困った赤鬼が辺りを見回すと、この子の両親らしき村人が遠巻きにこちらを見ているのをみつけました。
赤鬼は手招きして子供を手渡そうとしますが、親たちはかえって怖がり逃げてしまうのでした。
青鬼「あはは、薄情なもんだねぇ。自分の子供を置いてまで逃げようとしてるよ」
赤鬼「青鬼、もうやめてくれ!俺が悪かったよ、山へ戻ろう!!」
しかし赤鬼の言葉を無視したまま青鬼は再び突っ込んできます。
赤鬼が子供を守ろうと身を固めたその時、青鬼に向けて一つの石くれが投げつけられました。
若者A「赤鬼!!」
石を投げたのは、村八分にされていたあの若者でした。
青鬼が若者に気を取られている隙に、赤鬼は素早く子供を両親の前に置いて青鬼の元へ向かいます。
赤鬼「青鬼!!」
赤鬼が青鬼に話しかけると、彼女の瞳孔は紅蓮の光を宿していました。それは、鬼がマジ切れしている証拠でした。
青鬼「邪魔をするなら、アンタも容赦しないよ!!」
こんなにマジ切れしている青鬼を見るのは赤鬼も初めてでした。
赤鬼「ちょ、ちょっとタンマ!!えっ、ていうかなんでそんないきなりスイッチ入っちゃったの!?」
なんとか宥めようとする赤鬼の言葉も意に介さず、青鬼は金棒を振り下ろします。
それを両手で受けた赤鬼の周囲の土が、ボコリと数十cmほどめり込みます。例の若者はもう逆に爆笑するしかありませんでした。
赤鬼「もうやめないか!!」
怒った赤鬼は青鬼の腕を掴んでそのまま投げ飛ばします。青鬼の身体が数十m程ふっ飛んでいきます。
青鬼「なんだい・・・文句があるなら力づくで止めてみな」
吹き飛ばされつつも難なく着地した青鬼は、地面を蹴ったかと思うと赤鬼の元まで一跳びでやってきます。
もう完全にドラ○ンボールにみられる表現技法そのものでした。
二人の戦いは拮抗しているように見えましたが、そのうちにジリジリと赤鬼が押され始めました。
それもそのはず、普段から若干インドア派のきらいがある赤鬼と、外で身体を動かすことが好きな青鬼の間には基礎体力に差があるのでした。
赤鬼が息を切らしたほんの一瞬の隙をついて、青鬼は先ほどの子供の元へ向かいます。
両親「ひっ!!」
青鬼「鬼は、一度狙った獲物は見逃さないんだ・・・さぁ、その子をよこしな」
恐れ慄きすくみ上る両親の腕から、青鬼は無理やり子供をもぎ取りました。
子供「お父ちゃん、お母ちゃん!助けて!!」
青鬼「さて、煮ようか焼こうか・・・それともここで一口味見をしてやろうか・・・」
残酷な笑みを浮かべながら泣き叫ぶ子供を見つめる彼女の肩を、赤鬼の手が掴みました。
赤鬼「その子を放せ・・・」
その瞳には、紅蓮の光が宿っていました。
青鬼「へぇ、アンタにもそんな顔ができたのかい」
そう言って笑う青鬼の顔には、一筋の汗が流れています。
赤鬼はそのまま肩を握る力を強めます。
青鬼は思わず顔を顰め、子供を掴んでいた腕を離してしまいました。
子供が両親の元に駆け寄って行ったのを見ると、赤鬼は青鬼に必殺技の鬼神激を繰り出しました。
青鬼「くうっ!!」
一撃目のジャブこそなんとか捌いた青鬼でしたが、間髪入れずに放たれた二発目のストレートがボディにめり込みます。
青鬼「ひぐうっ・・・!」
さらに、直後のアッパーカットをまともに食らいうずくまる青鬼を、赤鬼は黙って見下ろします。
赤鬼「・・・もういいだろ。山へ戻ろう」
赤鬼は静かに語りかけますが、青鬼は返事もせずに金棒を手に取ります。
しかし赤鬼はその金棒を片手で掴むと、なんとそれを腕の力だけでぐにゃりと曲げてしまったのです。
これには青鬼も結構ガチで驚きました。
彼女が自分の意見を聞き入れるつもりが無いことを悟った赤鬼は、一言「ごめん」と呟くとその鳩尾に虎煌撃を打ち込みました。
その一撃にさすがの青鬼も気を失い、ついにはその場にバタリと倒れ込んでしまいました。
赤鬼「ごめんよ、皆・・・俺たちのせいで迷惑をかけたね。もう村には来ないよ・・・」
そう言って赤鬼は、青鬼を担いで山の中へ戻って行きました。
村人たちはただ茫然とその様子を見つめているのでした。
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しばらく森の中を歩いていると、青鬼が意識を取り戻しました。
青鬼「う、うぅ・・・」
赤鬼「あ、気が付いたかい?」
青鬼「痛たた・・・ちょっとは手加減しなさいっての」
赤鬼「それはこっちのセリフだよ・・・あれくらいしないと、あの時の青鬼は止められなかったって」
そう言いながら赤鬼は青鬼を降ろそうとします。
青鬼「あー待て待て。まだちょっと歩けないからこのまま担いでってよ」
赤鬼(重い・・・)
青鬼「・・・そういう目をしたッ!」
赤鬼「え、ええッ!?」
仕方なく赤鬼は青鬼を担いだまま山を歩きます。
青鬼「それにしても・・・アンタとは長い付き合いだけど、あんな顔初めて見たよ」
それは、子供を助けようとしたあの時のことを言っているのでした。
赤鬼「俺だって、あんなにマジ切れしてる青鬼は初めて見たよ。あぁ怖かった・・・」
青鬼「そうかい・・・はは、でもねぇ、あんなの見せられたらちょっとアンタのこと・・・ほ、惚れ直した、かな」
赤鬼「ははは、そうk・・・えええええええええ!?」
それはまさに青天の霹靂でした。
青鬼「なっ、そんなデカい声だして」
赤鬼「ほ、惚れ・・・はぁ!?」
青鬼「・・・やっぱり気付いてなかったんだね。ちったぁ人間とかよりも、アタイの事を見てくれりゃいいのに・・・」ブツブツ
初めて見る青鬼のデレっぷりに、赤鬼は少なからず戦慄しました。
あれから数日。
初めて人間達と出会った例の場所で赤鬼が薪を拾っていると、なんとそこへあの若者が現れたではありませんか。
若者A「ああ、やっと会えた!おーい、赤鬼!!」
赤鬼「えっ・・・!?どうしたの、こんなとこまで!?」
若者A「いい報せがあんだ!村の皆が、アンタにお礼をしたいって言ってんだ」
赤鬼「ええっ!!」
思わぬ朗報に赤鬼の顔に笑顔が溢れます。
若者A「そんで、俺が村に呼んでくるように言われたんだっけども、如何せんアンタの家知らんしさ。ここに来たら会えるかと思って」
赤鬼「そうか・・・うん、分かったすぐ行くよ!!」
こうして赤鬼は、再び山の幸を携えて村へ向かうことにしたのでした。
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赤鬼が村につくと、それはもう大層なもてなしを受けました。
若者も村人の誤解がとけ、今は家に戻ることが許されたそうです。
赤鬼はそれを心の底から喜び、村人たちと酒を酌み交わしました。
村人1「鬼に鬼ころしなんか飲ませて、いいんだか?」
赤鬼「いやー全然大丈夫ですよ!むしろ辛口のほうが好きなんで!!」
村人2「いや、鬼っつったらザルだと思ってたけどもよぉ、こんなに赤くなっちまって!」ワハハ
赤鬼「ていうか、自分赤鬼ですから!!」
総代「アンタみたいなのがいてくれたら、ウチの村も優勝待ったなしじゃの~」ガハハ
赤鬼「ゆ、優勝ってなんのですか」
若者A「気にすんな、皆酔っ払ってるだけだから」
赤鬼が村人たちと談笑していると、ふいにあの時の子供が現れました。
子供「・・・ね、ね」
その子はツンツンと赤鬼の背中を突きます。
赤鬼「あっ、君はあの時の・・・」
子供「こ、これ・・・」
その子供がくれたのは、赤鬼の似顔絵でした。
赤鬼「あぁ!これ君が描いたの!?ありがとう、とっても上手だよ!!」ナデナデ
そういって赤鬼はその子の頭を撫でます。
子供「!!・・・えへへ」
一瞬、驚いた様子の子供でしたが、その後すぐに赤鬼に懐きはじめました。
村人1「いやぁ、それにしても。お前さんみてえな良い鬼もいるんだなぁ」
村人2「それに比べてあん時一緒にいた鬼女なんかおっそろしかったもんなぁ」
しかし、本当は自分が村人と仲良くできるように青鬼がわざと悪役を引き受けてくれたことを赤鬼は分かっていました。
今はまだ無理だとしても、ゆくゆくは村人たちに青鬼のことも受け入れてもらえるよう話していくつもりでした。
ところが。
総代「あんな夜叉みたいなのがいたんじゃ、赤鬼っさんもゆうゆう暮らせねえべ」
赤鬼「え?いや、俺は・・・」
村人1「そういや総代、例の用心棒本当に雇っただべか?」
総代「ああ、何せ鬼憑きが出たってんで、そん時にしっかりお願いしとろーよ」
赤鬼「よ、用心棒って・・・?」
総代「ああ。なんでも、代々続く鬼退治の血筋だーての。今頃あの夜叉鬼を追いかけて山ん入ってさ。けんども、赤鬼っさんのことは手ぇ出さんように言ってあるんし、安心せ」
その言葉を聞いた赤鬼は急いで村を飛び出しました。
今の話が本当だとすれば、青鬼の身が危ないと思ったからです。
何せ彼女は先の騒動によって赤鬼受けた傷が未だ完全には癒えていなかったのです。
赤鬼は急いで山を駆け上り青鬼の家に向かいました。
ですが、そこはすでにもぬけの殻となっており、柱や梁には刀傷のようなものと青黒い血痕が残されていました。
赤鬼「青鬼!!」
赤鬼は必死になって山の中を探し回りました。
翌朝になり、赤鬼は川沿いで虫の息となっていた青鬼の姿を見つけました。
赤鬼は急いで青鬼の元に駆け寄ってその身体を抱き寄せましたが、既にそれは川の水のように冷たくなっているのでした。
赤鬼が大きな声で何度も呼びかけると、青鬼の口元がわずかに動いたような気がしました。
しかし、青鬼が再び目を開けることはついにありませんでした。
辺りに、赤鬼の慟哭が響き渡りました。
それからというもの、赤鬼が人間の前に姿を現すことは二度とありませんでした。
おわり
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