【改訂版】箒「もしも一夏が、私にぞっこんだったら!」 (58)




     その日は、夜風が気持ち良かった。

     やっとムシムシした空気が無くなり、心地よい気候に移りつつある。

     私は、部活動の後、虫の音を聞きながら月を愛でようと、IS学園の裏にある

     雑木林奥の丘を目指した。


     

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箒「……?」

箒「なんだこれは?」

箒「…………」

箒「……どう見ても電話ボックスだが」

箒「何故、こんな所に?」

箒「…………」

箒「……そういえば幼い頃見ていたアニメに、こんな道具があったな」 クスッ

     キィ…… パタン ……ガチャ

箒「もしも一夏が、私にぞっこんだったら!」

箒「……なんてn」

     ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリンッ!!

箒「……!?」


     バッ…… バタンッ!!

箒「くっ……なんなんだ!?」

箒「………………」

箒「…………」

箒「……帰るか」


 ——翌日・休日の早朝——

 ——IS学園寮・箒の部屋——



     コン コン

一夏「箒、起きてるか?」

箒「……!? 一夏か?」

箒「なんだ? こんな朝早く?」

一夏「……? 何って……朝稽古する約束していただろう?」

箒「それは……そうだが」

箒「お前は、休日の朝稽古には乗り気じゃなかったじゃないか……」

一夏「……? 何言ってるんだよ」




一夏「お前との大切な、二人の時間をないがしろにするわけ無いだろ?」



箒「!!??」 ///

箒「なっ、何を言ってるんだ! 朝っぱらから!」 ///

一夏(……? 箒……今日は、元気がいいな?)

一夏「悪い、起きているのならいいんだ。 先に道場に行ってるからな」

箒「あ、ああ……」 ///

箒「…………」 ///

箒(い、いったい、どうしたんだ? 一夏の奴……) ///


 ——IS学園・道場——



     パンッ! パパンッ! パンッ!

箒「はあっ!」 パシンッ!!

一夏「ぐうっ!」

     スルッ……バッ(面をとった音)

箒「……まだまだ、脇が甘いぞ、一夏?」 フフン

一夏「!?」

一夏(今、笑った……!?)

箒「? どうした? 一夏?」

一夏「! い、いや、何でもない……」

箒「?」


一夏「……箒」

箒「なんだ?」

一夏「そ、その……何か、いい事でもあったのか?」

箒「……? いや、特にないが?」

一夏「そ、そうか……」

箒「……?」



一夏(……どういう事だろう?)

一夏(アレ以来……笑顔を見せた事なんて、一度も無かったのに……)

一夏(………………)

一夏(強いて言うなら……付き合い始めた頃の箒みたいだ)

一夏(………………)


一夏「……箒、そういえばこの後、予定はあるか?」

箒「普通に部活動だが?」



一夏(……!? 部活動!?)

一夏(…………)

一夏(やっぱり……おかしい)


箒「一夏?」

一夏「……ああ、すまん」

一夏「もしヒマなら……デートでもどうかと思ってな」

箒「…………」

箒「はあっ!?」 ///

一夏「……ほ、箒?」

箒「い、今、何と言ったのだ!? デートと言ったか!?」 ///

一夏「お、おう……」

箒「デ、デートというのは、あ、あれか? こ、恋人同士がするアレの事か!?」 ///

箒「実は出・糸でした! なんてオチじゃないのか!?」 ///

一夏「……なんだよ、その意味不明なオチは? というか、それ以外の何があるんだよ?」

箒「…………」 ///

一夏「……? 箒……さん?」

箒「…………行く」 ///

箒「絶対、行く!!」 ///


 ——午前中——

 ——ショッピングモール——



箒「…………」 ///

一夏「……箒?」

箒「な、なんでもない……」 ///



箒(……いったい、何なんだ? わ、私は緊張で い、今にも押し潰れそうなのに) ///

箒(一夏め……ずい分と、慣れている感じじゃないか……) ///



一夏(こりゃ、いよいよもって、初めの頃の箒だな) クス


一夏「さて、どこに行こうか?」

箒「そ、そうだな……」 ///

箒「…………」 ウ〜ン……///

箒「と、とりあえず、服が、み、見たいかな……」 ///

一夏「よし、服な」


 ——ショッピングモール・洋服売り場——



一夏「箒、これなんて似合いそうじゃないか?」

箒「私は、丈の長いスカートは好きじゃない……」

一夏「……あ、そうだったな。 動きにくいから駄目なんだっけ……」

箒「……?」



箒(あれ? どうして……その事を知っている?)

箒(無意識に話していた……か?)

箒(……まあいいか)


箒「一夏、これとこれ、どっちが良さそうだ?」

一夏「そうだな……そっちの空色のブラウスかな?」

箒「ほう……こっちの緑のトレーナーは、似合わないか?」

一夏「いや、そんな事は無いと思う。 強いて言えば、ってだけだから」 ニコ

箒「そ、そうか……」 ///

一夏「両方とも試着してみろよ。 俺が見てやるから」 ニコ

箒「う、うむ。 そ、それじゃあ……」 ///

     シャッ…… ゴソゴソ…… シャッ……

箒「……どうだ?」 ///


一夏「うん、ブラウス、いい感じだ」

箒「うん、私も良いと思う」 ///

箒「よし、着替える、ちょっと待っててくれ……」

     シャッ…… ゴソゴソ…… シャッ……

箒「今度は、どうだ?」

一夏「おう、似合ってるぞ。 でも、やっぱり俺は、ブラウスの方が好きかな」

箒「そうか……」


箒(私は……こっちの方が好きなんだけどな)



一夏「箒は、トレーナーの方が 気に入ってるのか?」

箒「えっ?」

一夏「あくまで俺の意見だから。 それにさっきも言ったけど」

一夏「強いて言えば、ってだけだし。 両方とも良く似合ってるぞ?」 ニコ

箒「そ、そうか……」 ///



箒(ど、どうするかな) ///


一夏「結局、両方買ったのか」

箒「ああ、こういうのは一期一会だからな……」

箒「せっかく気に入ったのだし、思い切った」 クス

一夏「良いと思うぞ」 クス

     アハハ……

一夏「さて、少し早いけど、昼にするか?」

箒「うむ、そうだな」

一夏「どこで、何を食うかな……?」

箒「ふむ……うどんは、どうだろう?」

一夏「そうだな、軽いものがいいな」


 ——昼前——

 ——ショッピングモール内レストラン——



箒「天ぷらうどんを」

一夏「俺は、かき揚げの天ぷらうどんを」

     カシコマリマシター

箒「今日は……ありがとうな、一夏」

一夏「ふふ、どういたしまして」 クス

一夏「俺も箒が喜んでくれて……うれしいよ」 ニコ

箒「……っ」 ドキ///

箒「…………」 ///


箒(……なんだろう) ///

箒(本当に付き合っているみたいだ……) ///

箒(…………) ///

箒(……あ)

箒(もしかして、あの電話ボックス!?)

箒(ほ、本物だったのか……!?)

箒(…………)

箒(じゃあ……この一夏は)

箒(私に……ぞっこん、なの……か?) ///

箒(…………) ///


箒「……なあ、一夏」

一夏「ん?」

箒「その……私達は、つ、付き合っているんだよな?」

一夏(……!)

一夏「ああ、もちろん」 ニコ

箒「そ……そうだよな、う、うん」 ///



箒(や、やっぱり!) ///


一夏(……箒)

一夏(もしかして……)

一夏(記憶を無くした!?)

一夏(…………)

一夏(……だとしたら)

一夏(その方が……箒の為かもしれない)

一夏(…………)

一夏(とにかく、今は様子を見よう……)


     アリガトウ ゴザイマシター

箒「うむ、美味かった」

一夏「ああ、一心地ついたな」

一夏「箒、この後はどうする? 映画でも見るか?」

箒「う、うむ。 それで構わないぞ?」

一夏「よし、シネコンに行こう」


 ——シネマ・コンプレックス——



一夏「どれどれ……アクション物に、ヒューマンドラマ……」

一夏「戦争物に、恋愛物……どれにする?」

箒「一夏に任せる。 ……私は、そういう物に疎いから」

箒「私が見ても 楽しめそうな映画を選んでくれないか?」

一夏「そうか……それじゃあ……」

一夏「これにするかな」



———————————


箒「アクション物か」

一夏「おう、面白いって評判だ」

箒「ふふ、楽しみだな」

一夏「ああ」



一夏(…………)

一夏(やっぱり、覚えてないんだな……)


     ソンナ……ボクニ、ボクニ! ナニガ デキルッテ、イウンダヨ!!

     オマエハエラバレタ……ソレヲウケイレロ!!

箒「…………」

一夏「…………」

     イヤダ……イヤダ! ドウシテ、ボクバカリ コンナメニ!

     サイノウガアルカラダ! オオクノニンゲンハ、ソレヲノゾミナガラ

     サワルコトスラ ユルサレナイ! ソレハ、オウノシカクナノダ!!

箒「…………」

一夏「…………」


     オネガイ……イキテ…………。 アタシノ……ゼンブ、アゲルカラ……

     ……ドウシテ…………ドウシテ、コンナコトニ!

     ゴメン……ボクガ……ボクガ、マチガッテタ……

箒「…………」 グスッ…

一夏「…………」

     ボクガ、ゼンブアツメル。 ニクシミモ、カナシミモ、ナニモカモ!

     ボクガ、オウニナル!!

箒「…………」

一夏「…………」


     イヤダ! モウボクハ、アキラメナイ! カノウセイガナンダ!

     ウオオオオオオオオオッ!!

箒「…………」 ハラハラ

一夏「…………」

     コレデ……イインダヨネ。 コレガ、キミノノゾンダ

     セカイ ナンダカラ……

箒「…………」

一夏「…………」


箒「なんだ! あの主人公は!」 プンプン!

一夏「ハハハ……」

箒「ヘタレで意気地なしで……なすがまま行動していたくせに」

箒「ここぞという時に、徹底して逃げ出してばかりいた!」

箒「ここまで腹の立つ主人公は、初めてだ!」 プンプン!

一夏「最後は、頑張っていたじゃないか」

箒「むっ……確かにそうだが……」

箒「それにしたって幼馴染の扱いが、あんまりじゃないか!」 プンプン!

箒「主人公の気持ちを知りながら、健気に尽くしていたのに……」

箒「あんな最後は、酷すぎる!」 プンプン!


一夏「ああ、それについては反論できないな」

一夏「生き延びて欲しかったキャラが、全部死んでしまったし……」

箒「まったくだ!」

箒「生き延びたのはビッチに、裏切り者に……」

箒「とにかく、主人公を利用したか、ひどい目に合わせた連中ばかりだ!」 プンプン!

一夏「いくら主人公が覚醒して、心が広くなったと言っても」

一夏「あれは寛容になりすぎだよな……」


箒「まったく……どうしてくれるんだ、一夏!」

箒「私は、気分が悪くなったぞ!」 イライラ

一夏「ハハ……すまん。 評判なんて当てにならないな」

一夏「じゃあ……体を動かして、うさを晴らすか?」

箒「ふむ……それには賛成だ」

一夏「よし、ボウリングなんてどうだろう?」

箒「うむ! いいぞ!」


 ——午後——

 ——ショッピングモール内・ボウリング場——



     ゴロ ゴロ ゴロ ゴロ…… ガッコーン!

一夏「くあっ! 取り切れなかったか……!」

箒「惜しかったな」 クスッ

一夏「これで150にも届かないな……」

箒「なかなかの成績じゃないか」

一夏「箒は、180オーバー確定だろ……」

箒「ふふん♪」

一夏「くっ……!」

一夏「箒! もう一回! もう一回、勝負だ!」

箒「ああ、構わんぞ?」 クスッ


箒「では……」 スッ…

一夏「箒!」

箒「? なんだ?」

一夏「愛してる……」 キリッ☆

箒「!!?」 ドキッ///

箒「なななな、何を、突然!?」 ///

一夏「ほら、早く、投げろよ?」

箒「くっ……!」 ///

箒「……ふんっ!」 ゴロ ゴロ ゴロ ゴロ…

箒「ああ……」 ガター…


箒「一夏! 貴様、ずるいぞ!」 ///

一夏「なんでだよ?」 クスクス

箒「! あ、あんな事を、こ、公衆の面前で言うなんて!」 ///

一夏「おう、それはすまなかった」

一夏「ぜひ、仕返ししてくれ?」 ニコ

箒「!?」 ///

箒「くっ……よ、よし、やってやる!」 ///


一夏(……ふふふ、できるかな?)



一夏「…………」 スッ…

箒「! ……あ、あいっ……あいし……」 シドロ モドロッ///

一夏「……!?」 ゴロ ゴロ ゴロ ゴロ…

一夏「あ……」 ガター…

箒「!」

箒「そら! 見たことか!」 フフン!

一夏「…………」



一夏(顔を真っ赤にして必死な箒……可愛いすぎる) ///

一夏(反則だろ、こんなの……) ///



———————————


箒「どうだ! 三戦全勝!」 ドヤ!

一夏「……負けました。 完敗です……」 クスン…

一夏「おまけに肩は、痛いし……」 シクシク…

箒「情けない……普段から鍛えていないからだ」

一夏「ごもっともでございます……」


箒「……もう、夕方か。 日が落ちるのが早くなって来たな」

一夏「そうだな」

一夏「…………」

一夏「箒、良かったら……少し歩かないか?」

箒「……!」

箒「……う、うむ、構わないぞ、私は」 ///

一夏「そうか……」 クスッ


 ——ひとけのない公園——



一夏「おっ、ベンチがある。 座ろうぜ?」

箒「……あ、ああ」 ///



箒(こ、こ、これは! も……もしかして……) ///

箒(ふ、雰囲気もあるし、や、やっぱり……) ///

箒(こ、心の準備がっ……!) ///



一夏「……箒?」

箒「!? ……す、すまない。 ……なんでもない」 ソソクサ……ストン///

一夏「…………」


一夏「箒、今日は、ありがとうな」

箒「い、いや……こっちこそ。 私も楽しかった」 ///

一夏「映画は、ミスったけどな……」 クスッ…

箒「…………」

箒「ふふ……確かに」 クスッ

一夏「…………」




     ……言葉は、無かった。

     私の右隣に座る一夏は、私の肩に手をやり、そっと自分の方へ抱き寄せる。

     手馴れている感じがした。



     私の緊張は、限界を突破していて……ブルブルと無様に体を震わせていた。

     そんな私を察してか、一夏は急がなかった。


     




     一夏の肩に頭を載せ……私は、どこともなく虚空を眺めていた。

     一夏の呼吸音が聞こえる。 一夏の体温を感じる。 一夏の匂いがする……。

     私は……いつしか、安心していた。



     ころあい、と見たのか。 一夏が、私の名を呼んだ。

     私は……ゆっくりと一夏の方へ顔を向けると、彼の顔を見ながら

     静かに目を閉じた。


     




     ……それは、聞いていたのとは、少し違っていると思った。

     「甘酸っぱい味」なんてものじゃない。



     もっと……優しくて、体中が溶けそうになる様な……そんな「感覚」しかない。

     適当な言葉が、思いつかない。



     一夏の感情すら、そこから流れてくるような気がした……。


     


箒「…………」 ///

一夏「…………」 ///

箒「…………」 ///

一夏「…………箒」 ///

箒「…………」 ///

一夏「……箒?」

箒「!? ……な、なんだ?」 ///

一夏「大丈夫か?」 クスッ

箒「う、うむ。 こ、これぐらいなんでもない」 ///


一夏「…………」

一夏「箒、聞きたい事があるんだけど……」

箒「? なんだ?」

一夏「違っていたら謝るけど」

一夏「もしかしたら……記憶を無くしているんじゃないのか?」

箒「!?」

箒「…………どうして、そう思う?」

一夏「今日の箒、いつもと違っていたからな……」

一夏「確信したのは、一度見た映画を何の疑問もなく見た時」

箒「…………」


箒(私は、記憶を無くしたわけではないが……)

箒(私の事情を説明するのも手間だな)

箒(…………)

箒(よし、ここは話を合わせよう)



箒「……そうか。 バレていたのか」

箒「私は、相変わらず隠し事が下手だな……」

一夏「ふふ、言えてる」

一夏「今のキスも、初めて、と言ってる様だったしな」 クス

箒「なっ!?」 ///

一夏「ハハハ……」


一夏「まあ、冗談はこれくらいにして、だな」

一夏「……箒」

箒「うん?」

一夏「無くした記憶を、取り戻したいと思うか?」

箒「……?」

箒「それは……そうだろう? 普通」

一夏「…………」

一夏「………だよな」


一夏「でもな……箒。 あえて言う」

一夏「止めておくんだ……」

箒「!?」

箒「……なぜだ?」

一夏「…………」

一夏「お前にとって……辛い事だからだ」

箒「…………」


一夏「きっと……」

一夏「これから先、疑問に思う事がたくさんあるだろう」

一夏「誰かが居ないとか、ここが違う、とかな……」

一夏「でも、それらすべてを無視するんだ」

一夏「…………」

一夏「頼む……」

箒「………………」



箒(いったい……何があったんだ?)


 ——翌日の朝——

 ——IS学園・1組教室——



箒「……………………」

箒(居ない……)

箒(セシリアが、ラウラが、シャルロットが……)

箒(…………)

箒(しかし……シャルロットの席には人が居るが)

箒(セシリアとラウラの席は、空席のまま……)

箒(…………)

箒(一夏の話し方から推測すると……)

箒(…………嫌な予感しかしない)


 ——昼休み——

 ——食堂——



箒「…………」 モグモグ…

箒(気のせいか……)

箒(クラスの皆も 私に対して、よそよそしい感じがした)

箒(…………)

箒(……私は、何かしたのだろうか)

一夏「……箒」

箒「……!」

箒「一夏……」


一夏「…………」

一夏「つ、次の授業、なんだっけ?」

箒「…………」

箒「……現国だ、一夏」

箒「それに、私は大丈夫だ。 心配するな」 ニコ

一夏「そ、そうか……」


 ——数日後・放課後——

 ——IS学園・図書室——



箒(………………)

箒(……とは言うものの、やはり気になる)

箒(一夏は、あから様に話題をそらそうとするし……)

箒(合同授業の際に分かったが)

箒(鈴と千冬さんまで居ないなんて……)

箒(………………)


箒(図書室の端末からなら……行けるだろうか?) ピピ……ピ……ピ……ピ……

箒(…………) ピ……ピ……ピピ……ピ

箒(……!!)

箒(アクセスできた……!)

箒(……全学園生徒の名簿!)

箒()

箒(抹消!?)

箒(…………)

箒(全員……在籍を抹消されている)

箒(…………)

箒(一夏……)


 ——夕方——

 ——IS学園寮・一夏の部屋——



     コン コン

一夏「は〜い」 ガチャ…

一夏「!」

箒「…… 一夏」

一夏「箒……」



———————————


一夏「……ほら、お茶」

箒「……ありがとう、一夏」 ズズッ…

箒「……ふう」

一夏「…………」

一夏「……それで? 何の用かな?」

箒「…………」

箒「……わかっているのだろう?」

一夏「…………」


箒「一夏……お前が私の為を思って」

箒「過去を探るな、と言ってくれた事は感謝している」

一夏「…………」

箒「でも……やはり気になって仕方ないんだ」

箒「…………」

箒「頼む」

箒「教えてくれ、頼む……!」

一夏「…………」


一夏「……酷い状態だったんだ」

箒「……え?」

一夏「あの時以来、箒は目に見えて元気が無くなっていった……」

一夏「食事もほとんど取らなかったし、いつも泣き腫らしていた」

一夏「……代われるものなら、俺が代わってやりたかった」

箒「…………」

一夏「それでも最近は少しずつ持ち直して、良くなっていると思ってた」

一夏「……そんな時」

一夏「お前は、記憶を無くして、劇的に元気になっていたんだ」

一夏「……嬉しかった」

箒「…………」


一夏「だから……俺は怖い」

一夏「また元の様に、生気を失う事になるんじゃないかって……」

一夏「出来るなら、あんな箒は……もう見たくない」

箒「…………」

一夏「今からでも遅くない。 考え直してくれないだろうか?」

箒「…………」

一夏「…………」

箒「一夏……」

箒「余程……恐ろしい事、なのだろうな……」

箒「私にとって……」


箒「……でも、一夏が居てくれるのだろう?」

一夏「……!」

箒「それなら……きっと私は大丈夫だ」

一夏「…………」

箒「一夏が迷惑に感じるのなら……諦める」

一夏「…………っ」

箒「…………」


一夏「…………」

一夏「わかった……」

箒「……!」

一夏「どこから話すかな……」

一夏「…………」

一夏「まず、シャルロットから始めるか」

箒「…………」

一夏「シャルロットが、女の子だったのに男装して転入して来た事は」

一夏「覚えているだろうか?」

箒「ああ……」

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