六月愛生誕大歌舞伎『義経千本桜』<川連法眼館の場> (36)

あらすじ
西国へ赴く事を諦めた義経は、幼少の頃に世話になった川連法眼(かわつらほうげん)に匿われていた。
そんな折、義経を訪ねて佐藤忠信がやってくる。義経は忠信に預けた静御前の安否を尋ねるが…


出演


佐藤四郎兵衛忠信
  実は源九郎狐:日高愛

静御前:萩原雪歩

亀井六郎:双海亜美
駿河次郎:双海真美

源九郎判官義経:四条貴音



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従者「日高愛殿、罷り出でましてございます」

「日高愛が…わかりました、会いましょう」


〽対面せんと四条判官貴音公 一間の内より出でさせ給い


貴音「待ちかねましたよ日高愛。早く来なさい」

「はーい!!!」


〽案内につれて入り来たる 日高四郎兵衛愛!

愛「お久しぶりです貴音さん!!!」

貴音「あなたも変わりないようで安心しました…日高愛、雪歩は無事ですか?」

愛「雪歩さんですか?」

貴音「伏見稲荷にて、あなたに雪歩を預けたではありませんか」

愛「伏見稲荷?…あたしは屋島の合戦のあとに、ママが病気になったって聞いて国へ帰っていたので、そんな事知りませんよ」

貴音「…知らない?」

愛「急いで国へ帰ったんですけど、ママったら病気になったなんて嘘付いてあたしを呼び戻したんですよ!!!もうあたしがどれだけ心配したかわかってるのって怒ったら、「だって寂しかったんだも~ん」だなんて…」

貴音「黙りなさい!!」

愛「うわっ!?ど、どうしたんですか急に怒鳴って…」

貴音「伏見稲荷にて、あなたが雪歩の窮地を救ってくれたから、あなたを信用して雪歩を預けたというのに…それを知らないで済むと思っているのですか!このわたくしを見限って、鎌倉方へ寝返る気ですね…亜美!真美!」

「「ははぁ!!」」


〽声に駆け来るいたずら姉妹!双海亜美、双海真美!

亜美「不忠不義の愛ぴょん!」

真美「ゆきぴょんをどこへやった!」

亜美「白状しないと、こっちも容赦しないよん!」

真美「愛ぴょん返事は!」

亜美真美「ナナなんと!!」

愛「ま、待ってください!!!あたしは本当に何も…」

従者「申し上げます!雪歩御前様と日高愛殿が、貴音様へお逢いしたいと…」

愛「え、あたしが?…そ、そいつは偽物です!!!あたしがその偽物をひっ捕らえて…」

亜美「ダメダメ!詮議が終わるまで」

真美「ちょっとでも動く事!」

亜美真美「まかりならぬ!!」

貴音「待ちなさい二人とも」

亜美真美「ははぁ…」

貴音「日高愛がここに居るというのに、雪歩を連れてもう一人の日高愛が…亜美、見て来なさい」

亜美「合点承知の助!」


〽はっとばかりに双海亜美!お次とこそは入りにける


亜美「はっ!よっと!いってきま→す!」

真美「いってらっしゃ→い!」

愛「あたしの偽物め!!!来たらとっちめてやります!!!」


〽愛は声を張り上げ様子を窺えば 



〽君が顔 見たさ逢いたさ とつかわと それと見るより


雪歩「四条さん…お久しぶりです…」


〽恋しゆかしの溜々を 涙の色に知らせけり


貴音「雪歩、泣かないで…またあなたに逢えてよかった…」

雪歩「もう逢えないとさえ思う時もありました…でもまたこうして逢えて、私は嬉しいです…」

貴音「…雪歩、あなたと一緒に来た日高愛は…」

雪歩「愛ちゃんですか?愛ちゃんなら私の後から…」

愛「雪歩さんお久しぶりです!!!」

雪歩「あれ?いつの間に先に…それに久しぶりだなんて、ずっとここまで一緒だったでしょ」

愛「雪歩さん!!!そいつはあたしの偽物です!!!」

雪歩「に、偽物!?…か、からかわないでよ」

愛「いえ、本当です!!!」

「おひめちーん!!」

亜美「はぁ…はぁ…」

貴音「亜美、日高愛は?」

亜美「そ、それがここまで連れてこようと思ったら、いつ間にか消えてて…そこら中探したんだけど、どこにも居ないんだよ→!」

貴音「面妖な…雪歩、この日高愛は先程国より帰ったと言っています。あなたを預けた日高愛と、変わったところは無いですか?」

雪歩「変わったところ…」


〽雪歩御前 つれづれと打ち眺め


雪歩「…よく見ると服もちょっと違うし、それに私と一緒だった愛ちゃんは、ここに居る愛ちゃんよりも大人しかったような…そ、そう言えば…」

貴音「なにかあるのですか?」

雪歩「愛ちゃん、時々姿が見えなくなる時があったんです。でも、四条さんから預けられた、この初音の鼓を打ち鳴らすと、どんな時でも必ず私の前に出て来たんです…」

貴音「鼓を…わかりました。ではそこに居る日高愛にはまだ聞きたい事があります。奥の一間まで連れて行きなさい」

亜美真美「ははぁ!!」

亜美「愛ぴょん、さあこっちに来なさい!」

愛「はい…雪歩さん…」

雪歩「愛ちゃん…」


〽不安げに愛は いたずら姉妹に引っ立てられ 奥へと下がりける… 



貴音「雪歩、この場はあなたに任せます。この鼓を打ち鳴らし、その日高愛を詮議しなさい。もし危うくなれば、この刀で討ち捨てなさい…」

雪歩「は、はい…」

貴音「任せましたよ…」


〽奥殿深く入り給う…


〽園原や 帚木にならぬ人の身を 雪歩は貴音の仰せを受け 調べ結んで胴かけて 手の中締めて肩に上げ 手品もゆらに打ち鳴らす


雪歩「……」 


ポン…

    ポン…


〽声清々と澄わたり 心耳をすます妙音は 世に類なき初音の鼓 かの洛陽に聞こえたる会稽城門の越の鼓 かくやと思う春風に


雪歩「……」 


ポン…

   ポン…


〽誘われ来たる日高愛!



愛「……」

雪歩「!?」

雪歩「…愛ちゃん」

愛「……」


〽雪歩が前に両手を突き 音に聞き惚れし其風情


ポン…

   ポン…


愛「♪~」


〽すわやと見れど打ち止まず 猶も様子を調べの音色!


愛「♪~」


〽聞き入り聞き入る余念の体 怪しき者とは見てとる雪歩 折り良しと鼓を止め…


雪歩「愛ちゃん、奥で四条さんが待ってるよ。早く奥へ…」

愛「……はい」

雪歩「……えい!」


〽油断見すまし斬りつくるを!

愛「!?」


〽ひらりとかわし飛び退り!


愛「ゆ、雪歩さん…なに……をするんですか?」


〽咎められて機転の笑い!


雪歩「は、はは…こ、これは舞の稽古をしてたんだよ…ほら!」


〽舞の稽古と鼓を早め!


愛「あ…えへへ…」

〽鼓にまたも聞き入って 余念他愛も無き所を!


雪歩「えい!」


〽と斬りかくる太刀筋! かわしてしっかと取り


愛「あたしは斬られる覚え……なんて何にもありません!!!」

雪歩「覚えがない?愛ちゃんの偽物め!覚えがないなら無理矢理にでも言わせてみせる!」

〽鼓打ちつけさあ白状! さあ!


雪歩「さあ!」


〽さあさあさあと!!


愛「あ…ああ!!!」

愛「待って!!!…待って、ください…」


〽しずしず立って広庭へ 降りる姿も梢々と みすぼらしげに手をつかえ

愛「今日まで秘密にしてましたが、本物の日高愛さんにこれ以上迷惑はかけられません…全て、お話します…その、その初音の鼓はあたしの…あたしのパパとママ…あたしはその鼓の子ども…なんです」

雪歩「え…?」


〽語るにぞっと怖気立ち 騒ぐ心を押し鎮め


雪歩「鼓の子…この鼓は、確か狐を使って作ったって聞いた事がある…と言う事は、あなたは狐なの?」

愛「は…はい!!!」

愛「あたしがまだ子狐の頃にパパとママは…鼓にされてしまいました。あたしはなんにも親孝行が…出来なかった…その鼓はずっと宮中の奥深くにあって触る事も…出来なかったんです…でも、その鼓が貴音公の手に渡ったって聞いて、今こそ親孝行をする時だと…」


〽鳩の子は親鳥より枝を下がって礼儀を述ぶ 烏は親の養いを育み返すも皆孝行 鳥でさえ其通り まして人の詞に通じ人の情も知る狐


愛「畜生でも、親孝行したいんです…その鼓に付き添う事こそ、あたしが今出来る孝行だと思って…あたしは、あたしを生んでくれたパパとママのために、何かしたかったんです!!!」

愛「うああ…うわああああああん!!!」


〽五臓を絞る血の涙 火焔と見ゆる狐火は 胸を焦する炎ぞや


愛「ぐす…でも、パパとママが言っています。これ以上忠臣である日高愛さんに迷惑をかけるなって…だから、もう帰ります…雪歩御前様、貴音公や愛さんに、狐が謝っていたと…伝えてください…」

雪歩「狐さん…」


〽縁の下より伸び上がり 我が親鼓に打ち向い 交わす詞の尻声も 涙ながらの暇乞い 人間よりは睦じき 


愛「パパ…ママ…」


〽泣いつ口説いつ身を悶え どうと伏して泣き叫ぶ!


愛「うああああああああん!!!」


雪歩「…ずっとずっと、一人で居たんだ…寂しかったろうね…」


〽雪歩はさすが女気の 彼女が誠に目もうるみ 一間の方に打ち向い


雪歩「四条さん、聞いていましたか?」

「ええ、聞いていましたよ…」


〽一間を出づる御大将 四条判官貴音公!

貴音「まさか狐であったとは…でも、今まで辛かったでしょうね…」


愛「勿体なき、お言葉…」


〽頭をうなだれ礼をなし 御大将を伏し拝み伏し拝み 座を立ちは立ちながら 鼓の方を懐かしげに見返り見返り


愛「さようなら…さようなら!!!」


〽消ゆるともなき春霞 人目朧に見えざれば…


雪歩「狐さん!」


〽大将哀れと思し召し


貴音「雪歩、鼓を打って呼び戻しなさい」

雪歩「は、はい!」

〽雪歩はまたも取り上げて 打てば不思議や音は出ず


雪歩「あ、あれ…もしかして、親子の別れを悲しんで、音が出なく…」

貴音「…かつてわたくしも、子どもの頃に父を討たれ、母とは生き別れ…兄の為にこれまで戦い続けてきましたが、今はその兄に追われる身…これも宿業なのでしょうか…」

雪歩「四条さん…うぅ…」

「泣かないでください!!!」


〽見につまされし御涙 雪歩はわっと泣き出せば 目にこそ見えぬが庭の面
晴れて形を顕せり!

貴音「狐、ここまでよくぞ雪歩を守り通してくれました。その褒美としてこの初音の鼓、あなたに与えましょう!」

愛「え…その鼓を、あたしにくれるんですか?」

貴音「いかにも!!」

愛「ああ…ああああ!!!」


〽有難や忝なし!!


愛「やっと、やっと…嬉しい…嬉しいです!!!」

愛「パパ、ママ…これからはずっとずっと一緒だよ!!!」


ポン! 

ポン!

ポン!


愛「え?なになに?…ええ!!!」

雪歩「ど、どうしたの?」

愛「この館に、吉野山の僧兵達が貴音公を夜討にしようと向かって来ているそうです!!!」

雪歩「えぇ!?」

愛「でも、安心してください!!!このあたしの妖術であいつらを懲らしめてやります!!!」

愛「ていっ!!!はぁっ!!!」

僧兵「……」

愛「こっちに来なさい!!!それ!!!」


〽或いは右袈裟左袈裟 上を払えば沈んで受け 裾を払えばひらりと飛び


愛「それそれそれそれ!!!」

僧兵「か、体が勝手に…」

愛「はいっ!!!」

僧兵「うおお!?」

僧兵「うわあ!?」

僧兵「あ、あいつがやってるのか…」

僧兵「捕まえろ!」

愛「へへぇ~…それ!」

僧兵「き、消えた…」

愛「こっちですよ~♪」

僧兵「ぎゃああ!?」

愛「そりゃあ!!!」

僧兵「うげええ!?」

僧兵「こ、こりゃたまらん…逃げるぞ!」

愛「そうは問屋が卸しませんよ!!!」

「「「うおあああ!?」」」

愛「てやああ!!!」

「「「う、うげぇ~…も、もう駄目だ~…」」」

愛「見ましたか?あたしの妖術!!!」


〽軽捷秘術は得たりや得たり 御手に入れて亡すべし! 必ず御油断遊ばすなと!
鼓を取って礼をなし!


愛「早、おさらば!!!」


〽飛ぶが如くに!!

貴音「親子共々、達者で暮らしなさい!」

雪歩「狐さん!また逢おうね!」

愛「貴音公…雪歩御前様…ありがとう…ありがとうございました!!!またいつか逢いましょう!!!」

貴音「ええ、その時を楽しみにしていますよ!」

愛「はい…皆さん、さようなら…さようなら!!!」


愛「さよーなら!!!さよーーならーー!!!」



『義経千本桜』<川連法眼館の場> 終幕

短いですが終わりです。拙い物ですが、読んで下さった方々ありがとうございました。

愛ちゃん、誕生日おめでとう!!!

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