モバP「眼鏡の子」 (55)


・モバマス眼鏡シリアス




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―――CGプロ

比奈「おはようございまース」

比奈「あれ? 誰もいない……」



???『絶対イヤですっ!!!』バンッ

比奈「おわっ」

比奈「あの声は春菜ちゃん? 会議室のほうッスね…」

―――会議室

P「これも嫌か? じゃこっちは…」

春菜「なおさらダメです!!」



比奈「あのー…」オズオズ

P「お、比奈、おはよう」

比奈「おはようございまス。あの、どうかしたんでスか?」

P「それがな……」



春菜「私こんな仕事絶対やりませんから!! 全部お断りしてください!!」



P「…というわけなんだ」

比奈「ど、どういうわけなんでスか」

春菜「聞いてくださいよ比奈ちゃん! Pさんがですね」

比奈「春菜ちゃん。聞きまスから。まずは落ち着いて」

春菜「はい!」


春菜「Pさんがですね、私にひどいお仕事をさせようとしてるんです」

比奈「ひどいお仕事? それってどういう…」

春菜「アイドルとしての一線を越えた、あんなことやこんなことです」

比奈「い、一線を越えた?それってつまり…」


比奈「(それって)」

比奈「(つまり…)」




比奈「Pさん…」ジト-

P「いやいや誤解だ誤解! そんな仕事じゃないから」

比奈「ほんとでスかね? Pさんは前科が多いでスからね。怪しいでス」

P「法を犯した覚えはないんだが…」



P「ほら、ここに客先からの書類がある。比奈も見てみるか?」

比奈「いいんでスか?」

比奈「なになに…」

比奈「あ、これテレビの企画書でスね。春菜ちゃんテレビに出るんだ。すごいでスね」

P「なんたって総選挙33位だからな。最近売れっ子なんだ、春菜は」

春菜「売れっ子だなんて、そんな、えへ、えへへ」テレ



春菜「ってそうじゃなくて! 問題なのは内容です内容! 読んでみてください」

比奈「えーっと」

比奈「"特集! 今評判のメガネアイドルの素顔! フレームの裏に隠された真実とは?"」

比奈「なんスかこれ」



P「朝の報道系番組の特集だよ」

P「今話題のアーティストや芸能人をインタビューするっていう、よくあるだろ?」

比奈「あー、朝よく見かけまスね。いいじゃないでスか」

P「ちょこっとだけどライブ映像も流してくれるしな。宣伝効果もばっちりだと思うんだが」

春菜「全然ダメですってば。比奈さん、続きをお願いします」

比奈「続き? あっ、質問事項があらかじめ決まってるんでスね。まあ、そういうもんでスよね」

比奈「なになに…」


『休日の過ごし方をお聞かせください』

『猫がお好きとのことですが、特にどの猫が好きですか?』

『猫キャラとして活躍する気はありますか?』

『今後、にゃんにゃんにゃんに加入する可能性はどれくらいありますか?』

『ぶっちゃけみくにゃんのファンですか?』


比奈「…これ、インタビュアーみくちゃんでスね」

P「よく気付いたな」

P「みくが猫トークを交えながらインタビューするって内容なんだ」

比奈「ほぼ100%猫の話題なんでスが…」

春菜「おかしいですよね! 眼鏡にノータッチすぎますよ!」

比奈「え? 眼鏡?」

春菜「そうですよ!」




春菜「タイトルからして眼鏡メインのインタビューだと思うじゃないですか!
お気に入りの眼鏡について熱く語れると思うじゃないですか! それがなんですか! 
猫も好きですけど、ここは眼鏡メインでいくべきでしょう!」

比奈「春菜ちゃん落ち着いて」

P「朝から眼鏡について力説されても視聴者が困惑するだろうしなあ」

P「春菜のことよく知らない人も大勢視るわけだし、無難な内容じゃないか?」

春菜「納得できません! せめて15分は眼鏡について話したいです」

P「朝の貴重な15分が眼鏡に消費されるのか…」

比奈「15分猫トークされるのはいいんでスかね」

春菜「とにかく! 眼鏡に触れるような内容でない限り、お断りします!」




P「ううん。いい仕事だと思ったんだがな。じゃ、こっちなんてどうだ」

比奈「今度は旅番組のゲストのお仕事でスね。あ、これ楓さんがリポーターしてるやつでスよね?」

P「そうそう。楓さんが全国の温泉地を巡って傍若無人な振る舞いでゲスト困らせた挙句、
酔いつぶれてゲストに介抱されるのがお決まりの流れになっている、あれな」

比奈「楓さん。あの番組のとき滅茶苦茶テンション高いでスよね……。
それはともかく温泉かあ。いいじゃないでスか、温泉」

P「なあ、温泉に美女二人。悪くない絵面だよな」

春菜「全くよくありません! いいですか、お二人とも…」


春菜「 眼 鏡 に温泉は厳禁です!!」バンッ



春菜「眼鏡は熱に弱いんです! 
温泉に入れたりすると表面のコートがはがれちゃいますし、フレームが変形する恐れだってあります! 
硫黄が入ってる温泉だったりすると、変色しちゃうことだってあるんですよ! それになにより…」


春菜「視界が曇って前が見えなくなるじゃないですか!!」



P「(外せばいいのでは?)」

比奈「(それは禁句でスよ)」


春菜「露天風呂にひとりの美女と、ひとりの曇り眼鏡…」

春菜「ビジュアル最悪じゃないですか!!」

P「どうせ楓さんは酔ってるだろうから、酔っぱらいと曇り眼鏡だな」

比奈「収拾つきそうにないでスね」

春菜「そんな仕事できません! こちらもお断りさせていただきます!」

P「ええー」


春菜「比奈ちゃんも、お風呂に眼鏡を入れたりしたらダメですよ!」

P「比奈は大丈夫だよな。ほら、こないだだって眼鏡外してたしな」

比奈「こないだ? ああ、ブルーフロートパーティーの時でスね。もう結構前になりまスね」

P「そうそう、あの泡姫のやつ」

比奈「…誰が泡姫でスか誰が」ギリギリ

P「痛い、つねるな痛い」

春菜「(仲いいですね…)」






P「じゃ、じゃあこれなんてどうだ。グルメ番組のリポーターだ」

比奈「わあ、うらやましいでスね。何を食べるんでスか?」

P「ラーメンだ」



比奈「…いやな予感がしてきたッス」

P「聞いて驚け、なんと765Pの四条さんとのコラボだ。四条さんおすすめの名店を優雅に食べ歩くだけの、簡単なお仕事だ」

春菜「…そこで私は何をするんですか」

P「決まってるじゃないか。ラーメンを食べるんだ」

春菜「ラーメンを食べるとどうなりますか」

P「腹が膨れるな」

春菜「いいえ、そうじゃなく」

春菜「メガネはどうなりますか」


P「曇るだろうな、間違いなく」



春菜「~~~~~~~!!」バンバン

P「痛い! 書類の束でたたくの痛い!」

春菜「眼鏡アイドルが曇り眼鏡でラーメンすする姿をどこのファンが望んでるんですか!」

P「絶対需要はあると思うんだ」

比奈「コアなファンを狙いすぎでスよ」

春菜「それにラーメンの油汚れ、これは眼鏡の大敵です! べたつく眼鏡を私は許しません!」

春菜「四条さんには申し訳ないと思いますけど、これも断っておいてください!」

P「まあ引き受けたら受けたで、春菜の胃がもたないだろうとは思ったけどな」

比奈「“優雅に食べ歩く”って言ってまスけど、優雅なのは四条さんだけで、いつもゲストの人満身創痍でスからね…」




P「しかし一事が万事この調子なんだから、困ったもんだよ。なあ比奈」

比奈「Pさんのチョイスにも問題があるように見えまスが…」

春菜「そうですよ! なんで眼鏡と関係ないお仕事ばっかり探してくるんですか」

P「仕事の幅が広がると思ってな。たまにはこういうのもいいだろ?」

春菜「よくないですよ!」
 
春菜「そもそもですね、眼鏡アイドルなのに眼鏡以外のお仕事するなんて、ちゃんちゃらおかしいです」

P「むっ」

春菜「たくさんお仕事が来てるんですから、
きちんと眼鏡の布教ができるようなのを選ばないと、眼鏡アイドルの名が廃ります!」

P「おいおい春菜ちょっと待て、さすがに看過できないぞ今のは」

春菜「な、なんですかいきなり、真面目な顔して…」

P「春菜、まさかお前このまま眼鏡以外の仕事は引き受けないつもりか?」

春菜「え?」




春菜「そうですよ?」





春菜「だって私、眼鏡アイドルじゃないですか!」





P「…」

比奈「…」


春菜「どうしたんですか二人して。私、何か変なこと言いました?」

比奈「いや、春菜ちゃんらしいなあって思って」

P「春菜、一つ確認したいんだが」

P「春菜の目標ってなんだっけ?」

春菜「目標ですか? やだなあPさん、決まってるじゃないですか」



春菜「世界一の眼鏡アイドルですよ!」ドン

春菜「ベストメガネドレッサー賞も狙ってます!」



P「…ええと、トップアイドルは目指してない?」

春菜「いえいえ、とんでもない」

春菜「眼鏡界のトップアイドル、目指してますよ!」

P「なぜ限定する」

比奈「ナチュラルに脳内補完されてるみたいでスね」




P「はあ…。あのな春菜、この際だからははっきり言っておくが」

P「俺はお前を眼鏡だけのアイドルで終わらせる気はないからな」

春菜「…眼鏡だけ?」ピクッ

春菜「どういうことですか? いくらPさんでも、今の言葉は聞き捨てなりませんよ」


P「まあ聞け。いいか、俺の仕事は春菜をトップアイドルにすることだ」

春菜「だから、眼鏡界の」

P「眼鏡に限った話じゃない、もっと普遍的な意味でのトップアイドルだ」

P「歌、ダンス、ビジュアルの三拍子揃った、老若男女に幅広い支持を持つ国民的アイドル。これが俺のいうところのトップアイドルだ」

P「俺は春菜にそうなってほしいって思ってる」

春菜「」

春菜「さ、三拍子そろった国民的アイドル? 私がですか?」

春菜「ち、ちょっと荷が重すぎませんか」


P「いや、春菜ならなれる」

P「この間の総選挙だってそうだ。ロクに露出もなかったにも関わらず、上位に食い込めたんだ」

P「春菜ならもっと輝ける。次は総選挙一位だって狙えるって、俺は本気でそう思ってるんだ」

春菜「Pさん…」


P「だからこそ、春菜にはこの機会にもう一皮むけてほしい」

春菜「えっ」




P「もっといろんな魅力を打ち出していきたいし、眼鏡だけに固執してほしくない」

P「眼鏡アイドルというニッチな枠に収まって満足してほしくないんだ」

春菜「…」



P「そんなわけで、いろんな仕事を片っ端から集めてきたんだ」

比奈「そうだったんでスね」

春菜「…それって、もうやめってことですか?」

P「ん?」



春菜「眼鏡アイドルは、もうお終いってことですか?」




P「いやいや、別に眼鏡アイドルやめろって言っているわけじゃない」

P「ただ、他の路線を模索してみるのもいいんじゃないかって話だよ」

春菜「他の…」

P「そう、眼鏡以外の春菜も売り出していこうってことさ」



春菜「眼鏡以外の…私」

春菜「そんなの……」




P「そのためには、仕事を選り好みしているようじゃダメだ」

P「もっといろんなことに挑戦しないとな」

春菜「…」

P「これなんてどうだ? チャレンジクッキングの仕事だ」

P「キュートから法子と、みちるがタッグを組んで出場するらしい」

比奈「うわあ」

P「どうかな春菜? 料理番組やってみないか。料理はできるほうだっけか?」



春菜「…」

春菜「…できません」



P「ありゃ。そうか、これもいいと思ったんだけどな」

P「じゃあ、こっちはどうだ。スターの球団の始球式だ」

P「友紀にも同じ依頼が来てたんだけど、なぜかやりたがらなくてな」

比奈「宗教上の理由ってやつでスかね」

P「キャッチボールができる程度で大丈夫だと思うんだが、どうだろう春菜」


春菜「……できません」


P「うーん。これもダメか」

比奈「(あ、まずい感じ…)」

P「お、これなんていいんじゃないか。超能力バラエティーっていう――」


春菜「できません!!」バンッ


P「うわっ」

P「ま、まだ最後まで言ってないぞ」

春菜「聞く必要なんてないです。私の気持ちは変わりません!」

春菜「私は、眼鏡以外の仕事なんて、絶対やりません!」



P「な…」

春菜「大体、おかしいじゃないですか!」

春菜「眼鏡アイドルになれって、はじめに言ったのPさんですよね!」

比奈「そうなんでスか?」

P「いや、えっと、そうだったか?」

春菜「そうですよ!」

春菜「私の眼鏡を誉めてくれたじゃないですか! 魅力的だって言ってくれたじゃないですか!」

P「それは…」

春菜「それで私、やっと自信が持てて」

春菜「眼鏡アイドルとしてやっていこうって、そう思えたのに」

春菜「それを、それを今更…他のことなんて…」

P「お、おい春菜。何もそんな深刻に」



春菜「やっと視界が明るくなったんです。それなのに、また――」

春菜「…私、絶対に嫌ですからね!」


ダッ

比奈「あっ、春菜ちゃん! どこに」

春菜「…レッスン場です。もう時間ですから」

バタン


比奈「ああ、行っちゃった」

P「まずったかな。何か地雷を踏んだか」

比奈「いや、ちょこちょこ踏んでたかなって思いまスけど」

P「マジか」


P「そんなに眼鏡以外の仕事がいやだったのかな…」

比奈「というより、多分」

比奈「春菜ちゃん、眼鏡以外の自分に自信がないんじゃないかって思いまス」

P「自信が?」

比奈「はい。私もPさんにスカウトされる前は似たようなもんでしたから、よくわかりまス」

比奈「私も漫画しか取り柄がないんだって、そう思い込んでました」

P「…」

比奈「そうすると、他のことに自信が持てなくなっちゃうんでスよね」

比奈「…他の自分は価値がないって、思ってしまうんでス」

P「でも、比奈はアイドルになれたじゃないか」

P「漫画以外のことにだって、打ち込めるようになったじゃないか。それはなんでだ?」

比奈「なんでって」


P「そんなに眼鏡以外の仕事がいやだったのかな…」

比奈「というより、多分」

比奈「春菜ちゃん、眼鏡以外の自分に自信がないんじゃないかって思いまス」

P「自信が?」

比奈「はい。私もPさんにスカウトされる前は似たようなもんでしたから、よくわかりまス」

比奈「私も漫画しか取り柄がないんだって、そう思い込んでました」

P「…」

比奈「そうすると、他のことに自信が持てなくなっちゃうんでスよね」

比奈「…他の自分は価値がないって、思ってしまうんでス」

P「でも、比奈はアイドルになれたじゃないか」

P「漫画以外のことにだって、打ち込めるようになったじゃないか。それはなんでだ?」

比奈「なんでって」


比奈「そりゃ、Pさんのプロデュースのおかげでスよ」

P「俺の?」

比奈「はい。Pさんは私の漫画趣味をやめさせようとはしなかったでスよね?」

P「まあ、そりゃな」

比奈「それに、今までお仕事を強要したことも無かったでスよね?」

P「そう、だったかな」

比奈「無かったでスよ。他のアイドルにだってそうでス」

比奈「いつもみんなの良さを活かしたお仕事を持ってきてくれて」

比奈「みんなの個性を尊重したプロデュースをしてくれてました」

P「…」

比奈「だから、初めは私も自信がなかったでスけど、徐々に慣れていくことができたんでス」

比奈「Pさんが私の良さを見つけてくれて、それを伸ばしてくれたから、今までやってこれたんでス」

比奈「他のアイドルだって、春菜ちゃんだって、きっと同じだと思いまス」

P「…そうか」

P「そうだったな」


比奈「だから、さっきのやりとりも違和感があったんでス。なんだかPさんらしくないなあって」

比奈「仕事ありきで、そこにアイドルを割り振るんじゃなくて」

比奈「なんていうんしょう、その」

P「…仕事より、アイドルをまず第一に考えるのが普段の俺だって、そう言いたいんだろ?」

比奈「そう、そうでス!」

P「なんとなくだけど、わかったよ」

P「俺らしくなかったな」

P「……」

比奈「Pさん?」


P「いや、春菜さ。最近本当に仕事が増えたんだよ」

比奈「総選挙効果ってやつでスか? すごかったでスもんね」

P「俺もびっくりしたんだ。春菜はこんな人気があったんだって、恥ずかしながらその時初めて気づいたんだ」

P「当のプロデューサーが一番驚いてるんだから、世話ないよな」

比奈「…」

P「だからかな。いきなり仕事がたくさん舞い込んできて、俺も少し焦ってたのかもしれない」

P「春菜を一躍有名にするチャンスだって、次はシンデレラガールも夢じゃないって」

P「本人が望まない仕事を紹介したりしてさ。それじゃ意味ないのにな」

比奈「…」


P「とまあ、そういうわけだ」

P「あんな風に、数打ちゃ当たるで仕事を薦めたのはよくなかったな」

P「俺のほうで春菜の魅力を見つけて、それに合う仕事を探してやんなきゃな」

P「トップアイドルはその次でいい。焦る必要は、無いよな」

比奈「そうでスね。春菜ちゃんの新しい魅力、見つけてあげてください」

P「うん。ありがとう、比奈」

比奈「いえいえ、そんな」

P「比奈って割としっかりしてるよな、普段はだらしなく見えるけど」

比奈「なんでスかいきなり。馬鹿にしてるんでスかっ」

P「そんなことない。誉めてるんだ」

P「俺は比奈のそういうところ、魅力的だと思うよ」

比奈「…はい?」

P「また何かあったら、相談に乗ってくれないか」

P「比奈のこと、結構頼りにしてるんだ。これでも」

比奈「」

比奈「アッハイ」

比奈「(…ナチュラルにこういうこと言うからズルいでスよね、Pさんは)」



―――レッスン場

トレーナー「はい、今日の分のレッスンはお終いです! お疲れ様でした」

みく「ふにゃあ…疲れたにゃあ」グデー

みく「最近のレッスンはハードすぎるにゃ、みくのセクシーな足が棒の様だにゃ…」、

春菜「…」

みく「春菜チャン、なんだか今日は元気がないように見えるにゃあ」

春菜「え、あっ」

みく「レッスン中もふわふわしてた感じだったにゃ。大丈夫かにゃ?」

春菜「う、うん。ちょっとね…」

みく「わかったにゃ! さてはPチャンと喧嘩したんでしょ?」

春菜「ええっ。な、なんで」

みく「あ、図星だにゃ! ふっふ~ん。みくには何でもわかるんだにゃ。なんたって猫だもんね」

春菜「猫は関係ないんじゃ」

みく「みくに話してみるといいにゃ! 内容次第じゃPチャンにねこぱんちお見舞いしてやるにゃ」

春菜「みくちゃん…」

春菜「ありがとう。あのね――」


――
―――

春菜「――というわけなんです」

みく「…う~ん」

春菜「改めて考えると、悪いのは完全に私ですよね」

春菜「お仕事選り好みするなんて、トップアイドル目指してる子のすることじゃないですよね」

春菜「なんであんな感情的になっちゃったんだろう。Pさんに嫌われちゃったかな…」

みく「まあ、春菜ちゃんの気持ちもわからなくもないけどにゃ」

春菜「えっ?」

みく「春菜チャン。まず初めに言っておきたいんだけど」

みく「Pチャンは別に眼鏡アイドルをやめさせようとしたわけじゃないと思うにゃ。それは大丈夫かにゃ?」

春菜「はい、それはわかります」

みく「眼鏡アイドルっていう前提のうえで、いろんなことに挑戦させようとしたんだと思うにゃ」

春菜「はい…」

春菜「でも、なんていうんだろう。Pさんが“眼鏡以外”とか“ニッチな枠”とかって言ったとき、なんだか」

春菜「ちょっと突き放された気がしたんです。だから」

みく「そこはPチャンの悪いところにゃ! 全くデリカシーに欠けるんだから」

みく「みくだって、猫キャラのことを”イロモノ枠”だなんて言われたらイラッとするにゃ!」

みく「自分にとって大切なものを馬鹿にされたら、怒るのは当然にゃ」

春菜「みくちゃん…」


みく「でも多分、春菜チャンが感情的になったのはそれだけが理由じゃないと思うにゃ」

春菜「え?」


みく「春菜チャンは、怖いんじゃないかにゃ?」

春菜「怖い、ですか?」

みく「眼鏡以外の自分を見られるのが、怖いんじゃないかにゃ?」

春菜「…」

みく「みくは、自分が大好きにゃ。猫キャラのみくも好きだし、そうじゃないみくも好きにゃ」

みく「アイドルのみくも、そうでないみくも、全部みくにゃ。どっちが欠けてもみくじゃないにゃ」

みく「だからみくは、猫キャラ以外のお仕事だって平気へっちゃらだよ」

みく「みくは自分を曲げないからね!」

春菜「みくちゃんは、強いんですね……」

みく「春菜チャン。春菜チャンは、眼鏡以外の自分のこと、どう思ってるにゃ?」

春菜「私は…」

みく「眼鏡を外した自分のこと、好き?」

春菜「…」



トレーナー「あれっ、二人ともまだいたんですか? そろそろ鍵閉めますよ」

みく「はーい。わかったにゃあ。ほら、春菜チャン行こう」

春菜「え、あ、はい」


――帰路


春菜「…さっきの話ですけどね」

みく「うん」

春菜「私、眼鏡を外した自分のこと、好きじゃないと思います」

みく「…そっか」

春菜「眼鏡が無いと私、本当にひどいんです。何の特徴もなくて、恰好悪いんです。みくちゃんもきっと笑っちゃうと思います」

みく「…」

春菜「やっとわかりました。みくちゃんの言うように、私は怖かったんですね」

春菜「自分の嫌いなところを晒して、人気が落ちちゃうのが怖かったんです」

春菜「眼鏡以外の私を見せて、Pさんに見限られちゃうのが、怖かったんです」

春菜「だからあんなに反発したんですね。子供ですね、私…」


みく「みくだって、最初から好きだったわけじゃないよ」

春菜「え?」

みく「あんなこと言ったけど、みくもはじめっから自分が好きだったわけじゃないにゃ」

みく「Pチャンと出会って、アイドルやって、それで自信がついたんだにゃ」

春菜「Pさんが…なにかされたんですか?」

みく「ううん。Pチャンは何もしてないよ。Pチャン鈍感だもん」

春菜「ふふふ、みくちゃんひどい」

みく「にゃはは」


みく「…でもね、Pちゃんは受け入れてくれたの」

みく「猫キャラじゃない、みくもね」

春菜「…」


みく「だから春菜チャンも、大丈夫」

みく「Pチャンに全部話してみればいいにゃ!」

みく「私は本当はこんななんだって、正面からぶつかってやればいいにゃ。そしたら」

みく「きっと、わかってくれるにゃ。全部受け入れてくれるって、みくはそう思うにゃ」

春菜「…失望、されないですかね」

みく「Pチャンのこと、信用できない?」

春菜「そんな! Pさんのことは、誰より信頼してます」

みく「だったら、ね」

春菜「……」

春菜「…わかりました」

春菜「私、Pさんに話してみます。見せてみます。全てを」

みく「その意気だにゃ。よーし、善は急げにゃ! ダッシュで事務所に戻るにゃ!」

春菜「ええ? ちょ、ちょっとみくちゃん?」


――
―――CGプロ

みく「戻ったにゃ!」バンッ

春菜「い、いま戻りました」

比奈「あ、帰ってきたみたいッスよ。ほら、Pさん」

P「ああ」

P「春菜、お帰り」

春菜「あ…Pさん。その、ただいま、です」

P「早速だが、話したいことがあるんだ。また会議室に来てくれるか」

春菜「は、はい」

みく「ちょっと待つにゃPチャン。話は聞かせてもらったにゃ」

P「みくが?」

みく「そうにゃ。春菜チャンも反省してるにゃ。だから怒らないであげてほしいにゃ」

春菜「みくちゃん…」

P「なんだ、そんなことか。大丈夫、怒ったりしないよ」

P「むしろこっちが謝るくらいだ」

春菜「え?」

P「春菜、準備ができたら来てくれ」

春菜「あ、はい」

みく「(…どうやら問題なさそうだにゃ)」

みく「春菜チャン。ファイトにゃ!」

春菜「は、はい!」


――会議室

P「まず、謝らせてほしいんだ。さっきのこと」

P「やりたくもない仕事をさせようとして、すまなかった」

春菜「そんな。Pさんが謝るようなことじゃ…」

春菜「Pさんは、プロデューサーとして当然のことをしてただけじゃないですか」

P「いや、アイドルに合った仕事を探してくるのがプロデューサーの仕事だ」

P「やたらめったら仕事を取ってくればいいってもんじゃない」

P「そのことに気付かなかったよ。申し訳ない」

春菜「Pさん……」

春菜「私のほうこそ、せっかくのお仕事断ったりして」

春菜「わがままばっかりいって、本当にごめんなさいっ」

P「いいよ。気にすることない」

P「そしたら、もうお互い謝るのは無しにしよう」

春菜「え?」

P「両成敗ってことで、な」

春菜「は、はい」


P「よし。じゃあ、今後の話をしよう」

春菜「今後の…」

春菜「眼鏡アイドルを続けるべきかとか、そういう話ですか?」

P「眼鏡アイドルはそのままで構わないよ。嫌がる仕事をやる必要だってない」

P「でも、春菜にはいろんな経験を積んでほしい。その気持ちは変わらない」

春菜「はい」

P「そのために、今後の方針としてだな」

P「俺は春菜のこと、もっと知りたいって思う」

春菜「え?」

春菜「それが方針ですか?」

P「ああ。春菜が何が好きで、何が得意で、何ができるのかってことをもっと知りたい」

春菜「…あの、それは眼鏡以外で、ですか?」

P「眼鏡のことだっていいさ。なんでもいいんだ」

P「苦手なことでも、嫌いなものでも、なんでも」

P「『上条春菜』はこういう人間なんだって、教えてくれればそれでいい」

春菜「私が、どういう人間か…」

P「ああ。そのうえで、春菜に一番合った仕事を見つけてやりたいんだ」

P「もちろん、春菜さえよければだけど…」


春菜「……難しい、です」

P「…まあそうだよな。いきなり言われても困るよな」

春菜「違うんです。その、嫌ってわけじゃなくて」

春菜「私、自分のことなんて全然話したことなくて」

春菜「だから、どうお伝えすればいいのかわからないんです」

春菜「…特に、眼鏡以外のことは」

P「…春菜、別に無理に眼鏡以外のことを話す必要はないんだぞ?」

春菜「いえ、それじゃダメなんです」

春菜「みくちゃんと話して気づいたんです」

春菜「眼鏡以外の私も、私なんだって。まぎれもない私自身だって」

春菜「何の特徴もなくて、恰好悪いけど……」


P「春菜……」

春菜「私、このまま眼鏡以外の自分を受け入れないでいたら、いつか本当にダメになっちゃうと思います」

春菜「眼鏡の自分と、そうでない自分との差に押しつぶされて」

春菜「きっとまた、今日みたいに何も視えなくなってしまうって…」

春菜「だから、そうならないために。自分と向き合うために」

春菜「Pさんに、眼鏡以外の私を知ってほしいんです」


P「……」

P「よし、わかった。ちょっと待ってろ」ガタッ

春菜「Pさん?」

シャッ

バタン、ガチャッ


P「うん。これでいいかな」

春菜「ど、どうしたんですか。急に部屋を閉め切ったりして」

春菜「ブラインドまで下げて…まっくらですよ」

P「いや、この方がやりやすいかと思ってな」

春菜「やりやすいって…」

P「春菜、見せてくれないか」



P「眼鏡を外した、春菜を」


春菜「」

P「多分、それが一番手っ取り早いんじゃないかって思う」

春菜「ここで、ですか」

P「ああ」

春菜「…Pさん。きっとがっかりしますよ」

P「しないよ」

春菜「しますよ。絶対します。だって」

P「絶対しない。大丈夫だ」

P「俺は春菜のプロデューサーだぞ。いわば、春菜のファン第一号なんだ」

P「スカウトしたときからずっと見てるんだ。何回もライブしたし、ドイツにだって行った。みんなでパーティーもしたよな」

P「俺は、そのたびに春菜を好きになっていったんだ」

春菜「」

春菜「す、好き!? え、ええ!?」

P「そうだ。俺は今だって春菜に夢中だ」

P「この先、どんなふうに春菜が輝いていくのか、楽しみでしょうがないんだ」

P「どんな姿見せられたって、がっかりなんてするもんか」

春菜「Pさん…」



春菜「…わかりました」


春菜「Pさん。もっとこっちに来てくれますか?」

P「うん。これくらいか?」

春菜「いいえ、もっとです」

P「も、もっとか? もうこれ以上は」

春菜「お願いします」

P「お、おう…」

春菜「見えますか? Pさん」

P「ああ。よく見えるよ」

P「(…というか、もう目と鼻の先なんだが)」

P「いいのか? こんな近くで」

春菜「はい」

春菜「…恥ずかしいですけど、ちゃんと見てもらいたいですから」

春菜「じゃあ、取りますね」



スッ


春菜「……」

P「…春菜?」


春菜「Pさん」

春菜「さっき私のこと、好きっていってくれましたよね」

P「…ああ」

P「好きだよ。春菜」

春菜「…」

春菜「私も…」





春菜「私も、Pさんのこと、大好きです」





…カチャリ


――
―――


―会議室前

みく「うー全然見えないにゃ! 一体中はどうなってるにゃあ」

比奈「完全に閉め切られてしまったようでスね」

みく「すっごく気になるにゃあ…」

比奈「まあ、覗くのは趣味が悪いでスよ。きっとあの二人なら大丈夫でしょう」

みく「わかんないにゃ。Pチャンはああ見えてケダモノだもんね」

比奈「ケダモノ?」

みく「そうにゃ。二人きりなのをいいことに、春菜チャンを…」

比奈「まさか、そんな…」

比奈「(まさかね…)」チラッ

みく「ふふふ、やっぱり比奈チャンも気になるんじゃないかにゃ?」

比奈「いや、これはでスね。けしてやましい意味ではなく」



ちひろ「(…なんだか楽しそうですね)」



ガチャ


みく「うにゃっ」ゴンッ

比奈「あだっ」ゴツッ

P「…お前らドアの前で何やってんだ」

比奈「あ、Pさん…話し合いは終わったんでスか」

P「ああ、終わったよ」

春菜「は、はい」///

比奈「春菜ちゃんも」

比奈「(なんだか顔が赤いような…)」

みく「春菜チャン、どうだったにゃ?」


春菜「い、いえ、あのですね。ちゃんとお話しできました」

春菜「それだけじゃなくって…」

春菜「Pさんに、恥ずかしいところいっぱい見られちゃいました…え、えへへ」

みく「」

比奈「」

P「ちょ」


比奈「会議室で閉め切って」

比奈「やっぱり、そういうコトを…」

P「いや、違うからな」

みく「ケダモノにゃ!! いや、Pチャンはケダモノ以下にゃ!!」

みく「ねこぱんちで成敗してやるにゃ!!」

ポカポカポカ

P「痛い痛い! 爪たてるのやめて」



春菜「ふふふ」

ちひろ「よくわからないですけど、春菜ちゃん何かいいことありました?」

春菜「え?」

ちひろ「なんだかとっても機嫌がよさそうだから」

春菜「…そうですね」

春菜「曇りが取れたんです」

ちひろ「曇りが?」

春菜「はい。それで」




春菜「また少し、世界が明るくなりました」


――

―――
―――――――



みく『特集、みくにゃんインタビュー!!』

みく『今日はCGプロから、上条春菜チャンをお呼びしているにゃ!』

みく『春菜チャンはみくと同じ事務所で、とっても仲がいいんだよ!』

みく『眼鏡で有名な春菜チャンだけど、実は大の猫好きでもあるんだにゃ』

みく『ふふふ。この機会に春菜チャンも猫キャラに引きずり込んでやるにゃ』

みく『え? インタビュー? そんなのどうだっていいにゃ』

みく『みくは自分を曲げないからね!』

みく『では、行ってみるにゃ!』


バタン!

みく『おっはようございますにゃー!』

春菜『あ、みくちゃん。おはようございます…にゃー』



みく『』

みく『は、春菜チャン? 今なんて』

みく『そ、それにその猫耳、どうしたんだにゃあ!!』

春菜『えへへ…似合いますかにゃ?』

みく『眼鏡に猫耳…あざとい! あざとすぎるにゃ!!』

春菜『ふふふ』


春菜『私も猫が好きなので、ちょっとみくちゃんの真似をしてみました、にゃあ』

みく『つたない猫口調も、破壊力が高いにゃ…』

みく『これは、手ごわいライバルが現れたにゃ!』

春菜『ふふ。たまにはこういうのもいいですね、にゃ』

みく『みくも負けてられないにゃ。よーし、今日は猫についてじっくり語り合うにゃ!』

春菜『はい。いいですにゃ。でもその前に…』

みく『?』

春菜『今日はみくちゃんに、プレゼントを持ってきました、にゃ』

みく『ま、まさか…』


春菜『はい、みくちゃんも眼鏡どうぞ!』

みく『うにゃー!! やっぱりー!!』

春菜『眼鏡と言えば私、私と言えば眼鏡ですからね!』

春菜『私も、曲げない自分を手に入れましたよ!』

春菜『さあ、眼鏡について熱く語らいましょう!!』




春菜『眼鏡アイドル、上条春菜をよろしくお願いします!! …にゃ』




お終い


―おまけ―

―事務所内


春菜「Pさん。もっと顔を近づけて…」

P「う、うん」

春菜「目を瞑って…」

P「こうか?」

春菜「じゃあ、いきますよ……」スッ


カチャリ


春菜「はい、オッケーです!」

春菜「やっぱりすっごく似合ってますよ!!」

P「そ、そうか?」

P「春菜が選んでくれたからかな?」

春菜「ふふふ。ありがとうございます」

春菜「Pさん。ほんとに素敵です」

P「てれるな」

フフフ

アハハ




みく「…何やってるんだにゃあ。あの二人は」

比奈「眼鏡のかけさせあいっこ、だそうでスよ」

みく「それはわかるにゃ。なんでそんなことしてるんだにゃ」


比奈「春菜ちゃん。最近眼鏡を外した姿も見せてくれるようになったじゃないでスか」

みく「そういえば、稀に見かけるにゃ。眼鏡を外した春菜チャンもかわいいにゃ」

比奈「そうでスね。でも、まだやっぱり人前で眼鏡を外すのは慣れないらしくって」

比奈「ああして眼鏡をかけさせあうことによって、訓練しているらしいんでス」

みく「ん、んん?」

みく「訓練は何となくわかったにゃ。でもPチャンが眼鏡をかける必要はないんじゃ…」

比奈「なんでも、それが訓練する条件らしいでスよ」

比奈「Pさんも、眼鏡をかけてもらって、辛さを共有してもらうんだそうです」

みな「よ、よくわからないリクツだにゃ…」


P「よし。じゃあ今度は俺がやるぞ」

春菜「え、Pさんが?」

P「ああ、これを見ろ。今度のライブ用の眼鏡だ」

春菜「わあ! これ、どうしたんですか?」

P「俺が見繕ってきたんだ。春菜に似合うと思ってな」

春菜「Pさん…」

P「さあ、目を閉じるんだ」

春菜「はい!」



…カチャリ


春菜「んっ…」

P「よし。もういいぞ」

春菜「…すごい! この眼鏡、かけ心地バツグンですよ!!」

P「気に入ってくれたならうれしいよ」

春菜「流石です。Pさん、私の好みにピッタリです」

P「うん。似合ってる」

P「最高にかわいいぞ。春菜」

春菜「か、かわ……ふへへ」

P「実は他にも候補があってな」

P「いろいろ迷った挙句、全部持ってきちゃったんだが…」

春菜「! そっちも試してみたいです!」

P「そういうと思った。よーし、こっちもかけさせてやる」

P「春菜、目を閉じろ」

春菜「はいっ」


フフフ

アハハ





みく「…」

比奈「…」

みく「これ、いちゃついてるだけじゃないかにゃ」

比奈「いちゃついてるだけッスね」





眼鏡をかけさせあいたい人生だった。
html化依頼してきます。

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