穂乃果「マヨナカテレビ?」 (154)
こちらはラブライブとペルソナ3,4世界観のクロスになります。
μ'sの面々の設定は初期、アニメ、SIDなどから都合のいい部分を切り貼りしていますのでご注意を。
また、オリジナルペルソナ、オリジナルスキルも多々登場します。
それではごゆるりとお楽しみくださいませ……
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>音ノ木坂学院・廊下
私、高坂穂乃果16歳!今日から華の高校二年生!だったはずが……
「廃校~~!!!!????」
「落ち着きなさい、穂乃果」
「だってだって廃校だよ!私のスクールライフはどうなっちゃうの!?」
「穂乃果ちゃん、少なくともことり達が卒業するまでは廃校にならないよ」
「本当!?ならいいや……ってよくなーい!!」
「朝から元気ですね、全く。ほら授業に遅れますよ」
「穂乃果ちゃん、急ごう?」
今私をおいて歩き去ったのが園田海未ちゃん、待っててくれているのが南ことりちゃん。
二人とも私の幼馴染で大親友!
廃校のことはまだよくわからないけどとりあえず授業授業っと!
>音ノ木坂学院・中庭
午前中の授業の間、私は回転の良くない頭で色々考えていた。
いくら私達の代は無事卒業できると言っても、廃校がいいものであるはずがない。
私はこの学校が大好きだし、お母さんも卒業した伝統ある学校。
それに今の一年生は後輩を持つこと無く高校生活を送ることになる。そんなのは可哀想すぎる。
「というわけで!なんとかしよう!」
高らかに宣言した。
「なんとかって、一介の生徒である私達になにができるというのです」
「そ、それは……学校のいいところをアピールしてみるとか!」
「でも、アピールできるような大会成績とか多分無いから、廃校にしちゃうんだと思うよ?」
「うっ、じゃあどうすれば」
「そもそも私達が何とかするという考えが間違っています。私は昼練があるのでお先に」
海未ちゃんは弓道の練習に行ってしまった。
「ことりちゃんもやっぱり無駄って思う?」
「私はそうは思わないよ。でも何をやればいいのかも……」
「だよねー」
その後も色々学校の資料を探してみたりしたけど、無駄足だったよ。とほほ……
>2年2組・教室
下校時刻になって、私は気になる噂を聞いたんだ。それはマヨナカテレビ。
なんでも、雨が降っている時、日付が変わる時間に電源のついていないテレビを見ると運命の人が映るんだって!
別に穂乃果は今彼氏ほしいとか思ってないですケド。
「ことりちゃん、今日の夜の天気ってどうなるの!」
「えっと、予報だと雨かな。穂乃果ちゃんやっぱりあの噂」
「え?噂?な、なんのことかなあ」
「穂乃果?くだらないことをしている時間があったら早寝して遅刻しないように心がけるべきです」
「ぶぅ、海未ちゃんの鬼!」
「な、穂乃果!待ちなさい!」
へへーん、弓の道具を一式持ってる海未ちゃんに追いつかれるほど穂乃果もノロマじゃないんだよ。
>秋葉原駅前
全力疾走している内にアキバの駅前まで私はやってきていた。
「やっぱすごいなあ」
近代的なビルをキャンパスとしたUTX学園。私達の音ノ木坂学院から生徒を奪った元凶。
そして学校とは思えない街頭テレビに映るのがUTX学園の誇るスクールアイドル、A-RISEだ。
同じ高校生とは思えない洗練されたダンスと歌声。第一回スクールアイドルフェスティバル、ラブライブの優勝チームだけはある。
そうだ、スクールアイドルだ!
ことりちゃんと海未ちゃんはモデルになれそうな美人さんだし、私だってそれなりに可愛いと思う。あと歌には自信があるし!
これで学校を救うんだ!
ん?……何処かから視線を感じる。
「誰?」
振り返ると、軽いめまいがした。
貧血?いや、こんなひどいの、あの日でもあるまいし……
「あなた、大丈夫?」
トレンチコートにマスク、サングラスといった出で立ちの女の子に助け起こしてもらった。
花粉症がひどいのかなあ?
穂乃果もなんだかぼうっとしてきた。今日はもう帰ったほうがいいみたい。
>高坂宅
「ただいまー」
「おかえりー、おかーさん、お姉ちゃん帰って来たよ!」
家族で夕食を食べた。
>夜
>穂乃果自室
雨が降っている…
そういえばマヨナカテレビの噂を聞いたんだったね。
みてみようか。
キュン、キュイイィイ、ヒューン
「嘘でしょ!?」
電源の入っていないテレビに光が灯る。
『……つ…死………まえば…』
「何を言ってるのかよくわからないけど、これが運命の人?」
テレビに触れてみる。すると私の手が画面に吸い込まれていく。
「え、えええ!!ちょっと、抜け……ないっ!」
肩まで吸い込まれたけど、テレビの枠に引っかかる形で何とか踏みとどまった。
「うーん、うーん!よいしょ!」
なんとか腕を抜くことができたけど、何だったの今の?夢?
しばらくするとテレビは消えてしまった。
もう今日は寝よう……
>翌朝
気持ちのいい朝だ。朝ごはんを食べて出かけた。
>通学路
ことりちゃんと出会った。
「おはよう穂乃果ちゃん」
「ことりちゃん!おはよう!」
「ねえ穂乃果ちゃん、昨日の夜、見た?」
「もしかして、マヨナカテレビのこと?」
「うん、ってことはやっぱり」
「見たよ。でも女の人みたいだったし、運命の人ってことはないんじゃないかなあ」
「そう、だよね」
ことりちゃんはなにか考えているようだ。
「それよりさ、私、昨日テレビに手が吸い込まれちゃったんだよ!」
「テレビに、手が?」
「そう!こうすっと触れたらギュウンって吸われてぐぐぐーって!」
「寝ぼけてたんじゃないかなあ?」
「そんなこと無い!絶対本当だったもん!」
海未ちゃんは朝練なので二人で仲良く登校した。
> 2年2組・教室
午前の授業中、退屈な講義で私は眠りに落ちていった……
>??
「これはこれは、新しいお客様ですな」
あなたは?
「私、この部屋、ベルベットルームの主のイゴールでございます。以後お見知り置きを」
イゴールさん、わかりました、よろしくお願いします!
「おお、元気なお客様だ。大方ただの夢だと思っておられるでしょうが、ここは精神と物質の狭間にある部屋、ベルベットルーム。ただの夢とは違いますのでお忘れなきよう」
うん、わかりました!
「そして私は主に仕えています、マーガレットよ」
「さて、ここに招かれたということは、お客様はこれから大いなる試練に挑むことになるでしょう」
大いなる試練?
「左様。そして私達は大いなる試練に挑むお客様の手助けをするものにございます」
てだすけ。ですか。
「まずは貴女様の未来をこのタロットで占ってご覧に入れましょう。お名前は?」
高坂穂乃果です!
「真っ直ぐでいいお名前だ。では、早速……ほうほう、これはこれは。なかなかに数奇な運命をお持ちのようですな」
イゴールさんは一枚目のカードを指差す。
「塔の正位置、事故や不幸、思いもかけない災難を表します。次はこちら」
二枚目はリング?
「運命の正位置です。素敵な出会いや大きな転換点を示します、そして最後は星」
星、確か希望?
「その通りです。総合してみますとお客様は辛い試練を新しい仲間とともに乗り越えていく、と捉えられますな」
なんだか、ゲームの主人公みたいです!
「その意気ですぞ。常に明るく、前向きに立ち向かっていける力がお客様にはあるようだ。このカードは見せるまでもありませんでしたな」
それは?
「愚者のカード。お客様自身のアルカナでございます。貴女様にはまっさらで無限の可能性がある。どうかその可能性を大事になさってください。さらに貴女様はワイルドという特殊な資質をお持ちのようだ。そのことについては今度いらした時にお伝えしましょう」
色々とありがとうございました!
「なんの、私の仕事でございますからな。しかし貴女のようなお客様は初めてだ。次いらっしゃる時は現実世界から来ることでしょうが、その時までしばしお別れでございます」
……
……
あれ、授業終わってる!?
校内放送がかかった。
『えー、本日異常気象により帰宅困難が予想されるのですみやかに下校すること。繰り返します……』
「異常気象?ずいぶん急な話だねえ」
「穂乃果、外を見て御覧なさい」
あれ、秋葉原でこんなに霧が出ることってあったっけ?
「えええええ!!なにこれぇ!」
「穂乃果ちゃん、ずっと寝てたもんね」
「ことりはいつもそうやって穂乃果を甘やかして」
「甘やかしてるわけじゃないんだけどなぁ」
とにかくこれ以上霧が濃くなる前に帰ることにした。
>夜
>穂乃果自室
今日もマヨナカテレビが見れるかと思ったが映らない。よく考えたら今は霧であって雨ではないんだね。
もう今日は寝よう……
>翌朝
「お姉ちゃん、起きて!大変だよ!」
妹にたたき起こされる。天気は、雨だ。
「雪穂、どうしたの?」
「とにかく、はやくテレビの前に!」
せっつかれるようにして階段を降りた。
>高坂宅・茶の間
お母さんとお父さんが神妙な顔つきでテレビを見ている。
『速報です、東京都千代田区外神田で、女性が電柱の上で亡くなっている事件が起こりました』
「なに、これ……」
「物騒な事件ねえ、穂乃果も極力海未ちゃんやことりちゃんと一緒に、早く帰ってくるのよ」
お母さんは穂乃果のことが心配なんだよね。当たり前か。
でも私は違うところに注目していた。
『被害者はUTX学園に通う高校3年生の……』
UTX学園ということもそうだけど、その人の写真が、あのマヨナカテレビで見た人に似ている気がしたんだ。
>通学路
いつも通り、ことりちゃんと待ち合わせ。海未ちゃんはこんな日も朝練だ。
「おっはよう!ことりちゃん!」
「うん、おはよう、穂乃果ちゃん……」
「どうしたの?なんか元気ないよ?」
「実はね、今朝のニュースの事件のことなんだけど……」
「あの、電柱の上で亡くなってたっていう」
「そう。その人ね、私のバイト先の先輩だったの」
「えー!ことりちゃんバイトしてたの!……ってそこじゃないよね。そうなんだ、それは、ショックだね……」
「うん、それでね、先輩、マヨナカテレビに映ってたと思うんだ。私、どういうことなのかわからなくて、ずっと考えちゃって」
「うーん」
穂乃果も被害者の人がマヨナカテレビに映っていた人だと思った。
直接の知り合いであることりちゃんが言うならきっと間違いないはず。
「もしかしたら、テレビの中が関係しているかもしれない」
「テレビの中?」
「うん。穂乃果もマヨナカテレビに映った人が被害者と似ていたような気がしたんだ。多分だけど、テレビとこの事件は無関係じゃない」
「……じゃあ、試しにテレビにはいってみない?穂乃果ちゃん、入れるんだよね?」
「うん、穂乃果もそうしようと思ったんだ。でも珍しいね。いつも慎重なことりちゃんが言い出すなんて」
「やっぱりお世話になった人だもん。きちんと知っておきたいよ」
「テレビの中がどうなってるかもわからないよ?」
「でも、私は行きたい」
普段優しくておっとりしてることりちゃんからは想像できない、強い言葉だったよ。
だから私も、行くことに決めたんだ。
>放課後
>南宅
「ことりちゃんのお家にくるの久々かも!お邪魔しまーす」
「うん、どうぞ上がって」
穂乃果のうちのテレビだと肩で引っかかっちゃったから、ことりちゃんの家にやってきた。
さすがお母さんが学園の理事長だけあって立派なお家だしテレビも大きい。
「今日はお母さん、出張で帰ってこないから、安心して」
「うん、分かった。じゃあやってみるね!」
恐る恐る手を画面に近づけていくと、やはり私の手は突き抜けてしまう。
「わぁ、本当に手が入っちゃった……」
「吸い込まれる!ことりちゃん、手をつないで!」
「うん!行こう!」
吸い込みがきつくなり、私とことりちゃんは一緒にテレビの中へと落ちていった。
>テレビの中?
ギュンギュンギュンドスーン
目が回るような落下に終わりを告げたのは、お尻の激痛だった。
「いったーい!」
「あはは、思いっきりお尻から落ちたもんね」
ことりちゃんはしれっと両足で着地してるのに。なんか不公平だ。
「それにしても霧が酷いなあ……」
「なんにもみえないね」
「あれ、こんなところにお客さんなのです?珍しいのです」
「誰!?」
前も後ろもわからない霧の中、明らかに私達のものではない、少女の声がした。
声の発生源は段々私達に近づいてきて、やがて全容を現した。
「女の子?」
「はじめまして、オルフェはオルフェなのです。ずっと前からここに住んでるのです。お姉ちゃんたちは?」
「私は高坂穂乃果、テレビを通ってここに来たんだ。で、こっちは」
「南ことりです。よろしくね、オルフェちゃん」
「テレビ?とりあえず外から来たってことです?」
小学校低学年くらいに見えるオルフェちゃんに、そうだと返答すると血相が変わった。
「ということは、お姉ちゃんたちなのです!この前人を投げ入れたのは!」
「投げ入れた?そんなこと穂乃果達してないよ!」
「だって、お姉ちゃんたちはテレビの中に入れるんです?」
「達っていうか、穂乃果ちゃんだけだけど……」
「だったら穂乃果お姉ちゃんがこの前人を投げ入れた犯人ってことになるのです!すごい大変だったんだからもうやらないでほしいのです!」
人を投げ入れた?大変だった?どうにも話が噛み合っていない。
私は自分が何者で、どんな目的を持ちテレビにはいっていたか、そして入るのは今回が初めてだということを丁寧に話した。
「なるほどなー。だけど、人が投げ入れられたのは事実なのです」
オルフェちゃん曰く、人が入ってくると「シャドウ」が騒ぎ出して危ないから嫌なんだって。シャドウが何なのかよくわからないけどね……。
「ことりちゃん、どうする?」
「ここでこうしてても埒が明かないよ。オルフェちゃん、その人がいた場所ってわかるかな?」
「案内できるのです!だけど、まだシャドウがいて危ないのです……」
「こんなこともあろうかと……じゃーん!」
ことりちゃんが取り出したのは竹刀とおもちゃのステッキ。え、まさかそれで戦えって?
「うん!穂乃果ちゃん昔剣道やってたでしょ」
「まあやってたけど……穂乃果はいいとしてもことりちゃんのそれはなんなのさ!」
「え、魔法少女のステッキだけど」
「おもちゃじゃん!」
「ことりは前に出て戦うタイプじゃないかなーって、えへへ」
「可愛く言ってもごまかされないよ!全く」
ともあれ、オルフェちゃんの案内で人が落とされたって場所へ向かうことにしたんだ。
でも霧は濃いし、道もあるのか無いのかわからない。
「そうだ、お姉ちゃんたちにコレ、渡しておくのです」
「メガネ?」
「はいです!それをかけると霧でも眼が見えるのです」
私は山吹色の細フチのもの、ことりちゃんはグレーの丸みを帯びたデザインのもの。
騙されたと思ってかけてみると本当に霧が晴れた!
「あれ、でもオルフェちゃんはメガネかけてないじゃん!」
「オルフェはここでずっと暮らしているから平気なのです。ささっ、急ぐのです」
結構な早足で歩いて行くオルフェちゃんを追って、黄色い世界を進んでいく。
やがて、あからさまな異世界を演出していた黄色い空間は途切れ、私達の棲む現実に近い風景が広がってきた。
「ここなのです」
「ここって」
「私のバイトしてるお店……」
突如現れた秋葉原電気街の裏道、そして手招きしているかのように開いたメイドカフェの扉。ことりちゃんメイドやってたんだ、と、ボケている場合じゃないね。
「ことりちゃん、入ろう。先輩の手がかりを探さないと」
「うん……」
「待つのです!シャドウが出てくるのです!」
扉の中から黒いヘドロのような塊が勢い良く飛び出してきた。
昔とった杵柄で叩き落とすも、重い。
「次来たら止められるかどうか……」
「穂乃果ちゃん、危ない!」
ことりちゃんがステッキのボタンを押すと懐かしい効果音と共に光がビームのように……
『ぉぉぉぉぉぉ……』
「って、効いてる!?」
「今のうちに!」
「わかったよ!」
私は竹刀を握りなおすと黒い塊に突っ込んでいった。「それ」の大きさは私の膝上ほどまでしかない。
「どおおおおおおおお!!」
返し胴の要領で引き打ちを放つ。
生物なのかどうかもよくわからない「それ」とあまり接近したくない。
「やった?」
「それ」はドロドロと地表に溶け広がっていく。
「ことりちゃん、やったよ!」
「穂乃果ちゃん!ダメ!後ろ!」
「へ?」
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!』
言葉なのか声なのか、この世のものとは思えない叫びに足がすくむ。
「あれ、もしかしてこれ、やば――」
「それ」のしなる腕はゴムのように伸びて一帯を薙ぎ払った。
――少し、意識を失っていたようだ。とっさに竹刀で受けたのが良かったのか、目立った外傷はない。
「あいつは……うぐっ」
たたきつけられた衝撃で全身が痛む。腕に、脚に、力が入らない。
「やっぱりシャドウと戦うなんて無茶だったのです!」
オルフェちゃんは今にも泣きそうだ。ことりちゃんに至っては声すら出ていない。
参ったなあ。もう帰って休みたいのに、そんな顔されちゃったらさあ。
四肢に、気合を入れる。
『ここに招かれたということは、お客様はこれから大いなる試練に挑むことになるでしょう』
イゴールさんの言葉を思い出す。
そうだ、コレは、まさしく試練じゃあないか。
ぐぐぐっと、ゆっくり立ち上がる。もう、立った。
「ことりちゃん、オルフェちゃん、大丈夫だよ」
まだ私の物語は始まっちゃあいない。こいつと戦って、倒すんだ。
そう決めた時、目の前に青いカードが浮かんできた。
不思議と何をすればいいかはわかる。
落ち着いた心持ちで右手を広げ、カードを掴み、砕く。
パリィン
「ペルソナぁ!」
私はお腹の底から、聞きなれない単語を叫んでいた。
砕いたカードから青い光と風の奔流が洪水のように溢れだす。
それが収まった時、目の前にはお腹に大きく穴の空いた人物が佇んでいた。
私と同じサイドを縛った髪型、機械のような四肢、そして炎を封じ込めたような瞳。
この人が、私のペルソナ。名前は――
「プロメテウス、いくよ!」
始まりの炎、プロメテウス。これが私の力。
『ぉぉぉぉぉぉぉぉ!』
「防いで!」
プロメテウスが左の前腕で影の一撃を受け止める。
「そのまま、アギ!」
アギという、これまた私の中から湧き上がってきた言葉を受けると、プロメテウスの右の拳に真紅の炎が渦巻き出す。
私のペルソナは、メタリックな右腕を大きく振りかぶり、炎ごと垂直に振り下ろした。
メキメキメキィ
『ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……』
黒い影が霧散してゆく。
「今度こそ、倒したよ……」
「穂乃果ちゃん!」
「お姉ちゃん!」
ことりちゃんが肩を貸してくれて、なんとか倒れ伏さずには済んだ。
ペルソナを激しく動かしたからかどうかはわからないけど、どっと疲れた気がする。
「ありがとう、もう大丈夫。さ、ことりちゃん、真実を確かめに行くんでしょ」
「でも穂乃果ちゃん!」
「私なら大丈夫だよ。ご覧のとおりペルソナ?もあるし」
私の中にプロメテウスはしっかりいる、その実感がある。
「穂乃果お姉ちゃんはペルソナが使えるなんてすごいのです!先生と読んでもいいのです?」
「大げさだよ。それよりオルフェちゃん、私のことはただの穂乃果でいいんだよ。もうお友達でしょ?」
「私も、私もね!」
「う、うう……嬉しすぎるのです……」
よほど嬉しかったのか、オルフェちゃんは涙と鼻水を流しながらえづいている。
……そっとしておこう。
………
「取り乱したのです。オルフェ、友達なんて初めてだったから」
「いいのいいの。でもオルフェちゃん、ペルソナについて知ってるみたいだったけど、あれってなんなの?」
「せんせぇはご存じないのです?」
「全然」
正直なところイゴールさんは何か知っていそうだけど、夢で見た話だし、黙っておこう。
オルフェちゃんは逡巡した後、話し出した。
「ペルソナは人格の鎧、と言われているのです。オルフェも見たのは初めてですが、もう一人の自分、というものらしいのです」
「もう一人の、自分」
だから使うほど疲労があるのかな。
「自分と向き合った人しかペルソナを持つことはできないです。あと、ペルソナを持つことによってせんせぇたち自身の力が強くなったり頑丈になったり、いろいろいいことがあるのです!」
なるほど。確かにさっきまで体にあった激痛が消えている。
でも私、自分と向き合うなんて大層なことしてないんだけどなあ?
「ほえー!せんせぇはやっぱりすごいのです!」
オルフェちゃんは目をキラキラさせながら羨望のまなざしを向けている……
ペルソナのことはわかったようなわからないようなだけど、じゃあさっきの敵は?
シャドウとか言ってたはずだけど。
「あれはシャドウなのです。何なのかはよくわからないですけど、せんせぇたちの世界のわるーいイメージみたいなものが溜まってできる感じなのです」
要領を得ないけど、なんとなくイメージは掴めた、かな?
「まあ、細かいことはあとで考えよう。今はことりちゃん」
「うん……」
重苦しい雰囲気の立ち込めるメイドカフェへ、私達は足を踏み入れた。
>追憶の純喫茶
比喩ではなく空気が重い。見たところシャドウはいないみたいだけど……
「くんくん……大丈夫なのです。オルフェの鼻にもシャドウの気配は感じないのです!」
「なら、一安心かな」
「穂乃果ちゃん、ここ……」
「ん?」
ことりちゃんの指差す方向を見てみる。あれは、水たまり?それにしては色がどす黒いというか
「血、だよね?」
そう、口にした時、部屋全体から発生しているような声が聞こえてきた。
『南ことり、アンタのことが憎かった』
「なに、これ」
「ことりちゃん、しっかりして」
「う、うん」
『ここは私の居場所だった。私の夢へのスタートラインだった。でも、あんたがそれを奪った』
「そんなこと!」
『うちの学校にはもうA-RISEがいる。このメイドカフェで名を上げて、地下アイドルでも何でもいいから売り込んでいくつもりだったのに』
『突然入ってきた後輩、可愛かったし物覚えも良かったから色々教えてあげた。でも気がついたらその子はナンバーワンになってアキバの伝説のメイドとまで言われるようになっていた』
『目標も特に無いくせに人気を一心に集めることりのことが、正直嫌いだったよ』
内容から察するに、ことりちゃんの先輩さん、の残留思念みたいなものなのかな。
「うぷっ」
「ことりちゃん!大丈夫?」
「ことりお姉ちゃん!」
私ですら聞いていられなかった、強すぎるナマの感情。
ましてことりちゃんは好きだった先輩からそんなふうに思われていたわけで、大ショックだろう……
オルフェちゃんも心配そうに見ている。
背中をさすりながら思う。
この重い空気は、死の臭いなんだ。
こんなに身近に死を感じるなんて、私達一介の女子高生なんだから、普通じゃ有り得ない。
こうしていやに冷静に考えられるのもペルソナのおかげだったりするのかなあ。
……ちょっと怖いかも。
思案しつつことりちゃんの体調が戻るのを待っていた時だった。
『あらあら、ずいぶんと無様な格好なのね』
「誰!?」
『穂乃果ちゃん、誰だなんて酷いよ~』
「ことりちゃん!?あれ、でもことりちゃんはこっちに」
どこからともなくことりちゃんがもう一人現れた。でも少し雰囲気が変だ。
「あ、あなたは誰なの?」
『だから言ってるじゃない。私は南ことりだよ?』
「嘘よ!だって私はここにいるもの!」
『あまり強い言葉を使わないでよ。弱く見えるわよ』
「だって、だって!」
「ことりちゃん、落ち着こう」
『ことりちゃん、落ち着こう(キリッ)だって!アッハハハハハハ。やっぱり穂乃果ちゃんは頼りになるねえ』
ことりちゃん?の声は甲高く、キンキンと耳に刺さる。
『穂乃果ちゃんの後ろにいれば絶対安心。やりたくないことは全部やってくれるし、そのくせツメが甘いからそこをフォローしてあげれば自分も手柄を立てられる!』
「そんなこと思ってないもん!」
『思ってるわよ!だって私はアンタなんだからさあ!』
「違う!」
『アンタにはなにもない。中身が無いのよ。それが嫌で、とにかく突っ走る穂乃果ちゃんにくっついて、それで中身を得た気になってるだけ』
もう一人のことりちゃんはずいぶんと言いたい放題だ。
わからなくはない、だけど、ことりちゃんがそれだけの子じゃあないって事は、私がよくわかっているよ。
『今日だって、先輩の真実を知りたいとか言ってさあ、穂乃果ちゃんが都合よく妄想じみた話したからのっかただけ。結局穂乃果ちゃんに戦わせて自分は後ろから応援してるだけ。それでも穂乃果ちゃんは許してくれるからいいよね~』
「穂乃果ちゃん、違うの、違うんだよ」
「ことりちゃん、大丈夫だよ、落ち着いて」
多分だけど、これは、このナマの感情はオルフェちゃんの説明と噛み合うんだ。
ことりちゃん、頑張って。
『そろそろ認めようよ、私は穂乃果ちゃんの後ろにくっついて美味しいところを貰ってるコバンザメ。裏から穂乃果ちゃんを操った気になって名脇役、ナンバーツー気取りだってさあ』
「違う!私はそんなこと思ってない!」
『違わない!なぜなら私はアンタだからよ!』
「違うもん!あなたなんか……」
「あなたなんか私じゃない!」
その時、もう一人のことりちゃん、いや、シャドウの目が怪しく光った。
同時にことりちゃんは力が抜けるように倒れこんでしまった。
揺さぶって、呼びかけても反応はない。
『やっと言ってくれた。これで私は自由』
「あなた、やっぱりことりちゃんのシャドウだったんだね」
『穂乃果ちゃんは流石ね。そのペルソナ、プロメテウスを得てから勘が冴え渡っているみたい』
「ことりちゃんをどうするつもり?」
『どうもしないけど、シャドウが抜けた人間は放っておいても死んじゃうわよ』
「そう。だったら、あなたにはことりちゃんの中に帰ってもらう」
『帰ってもらう?ハハハハハ、馬鹿言わないでよ!さっきの戦闘の傷も癒えていないアンタに私が倒せると思ってんの?』
「やってみなくちゃわからないよ」
『その心意気だけは買うよ。でも残念、敵対するなら死んでもらう』
シャドウの気配が膨れ上がっていく。
ことりちゃんの輪郭を失い、見上げるまでの高さに膨張。
その姿は4本の腕を持つ異形の巨人。
一対の腕は前腕部が翼となり、もう一対には縫い針を持つ。その縫い針から伸びる糸は、影の体をグルグルと縛っている。
体幹部分は完全に透明で、中身が何もない、ように見える。
『我は影、真なる我……』
「オルフェちゃん、ことりちゃんを離れたところに」
「はいなのです!」
アレは多分ことりちゃんが本当に思っていたことなんだろう。そりゃあショックを感じなかったといえば嘘になるよ。
だけど、人間は正の面だけじゃないように負の面だけでもない。
いつも気を回して、みんなを笑顔にさせるような、そんな素敵なことりちゃんのことを私は知っている。
負の面だけが全て、そんな風に思っている奴に私は負けない。
『もう穂乃果ちゃんに頼り切りの人生は終わり。だから手始めに死んでもらうよ!』
影の縫い針が振り下ろされ、戦いが始まった。
動きはさほど早くない、余裕を持ってかわしていける。しかし問題がひとつ。
「くっ、隙がない……」
縫い針を避け、時には竹刀でいなしていくが、絶え間ない連撃で攻め手を封じられてしまっている。
『ほらほら、どうしたの?さっきから逃げてばかりじゃない!』
「一撃もらう覚悟は必要かな……ラクカジャ!」
プロメテウスのスキル、防御を上げるらしい呪文を唱える。
「行くよ、ヤアアアアアアア!!」
竹刀を構え、気炎を上げながら吶喊する。
両手からの針の攻撃をなるべく避けつつ懐へ。予想通り一発かすったがさほど痛くはない。
助走の勢いをそのままに大上段に振り上げた竹刀をシャドウに叩きこむ!
ドゴォン
「まずは一本!」
『痛い痛いイタイイタイイタイ!』
手応えあり。シャドウも呻いている。
『モウヤサシクハデキナイ……ガル!』
口調が一気にカタコトになったシャドウが、今まで振るっていた針の両手ではなく、翼の生えた双手を力任せに振り回す。
「うわっ、危なっ!」
影に肉薄していた私は、たまらず吹き飛ばされ、メイドカフェの調度品を巻き込んで壁へと激突した。ラクカジャをかけていなかったら危なかったかも。
『モウ、チカヅケルトオモウナヨ……』
厄介なのは翼の腕。アレを振り回されると近寄ることができない。プロメテウスのアギは飛ばすこともできるみたいだけど、風でかき消されてしまう。
だけど、風が出るのは一回転した時、連続では回れないと見た。
「そこぉ!」
歩幅以上の距離を、一気に踏み込んで縦斬りを入れようとする。しかしそれを読みきっていたかのように針の両腕が振り下ろされる。
「うわぁっ!」
風の腕と針の腕がお互いを補いあうような形で攻撃を仕掛けてくる。
これではジリ貧。私の体力は強風でゴリゴリ削られていく。
あまり長くは持たない。ここは賭けに出るしか無い。
『オシマイダ……』
「プロメテウス!アギ!」
シャドウが翼を大きく広げたその時、私はありったけの力でアギを放った。
強風でバラバラになった調度品たちに。
細かく砕けたアンティークの木材はアギの高熱で一気に燃え上がる。
天井まで焔が届くほどに。
このまま燃えてくれれば楽なんだけど……
『コザカシイワ!』
風の術でかき消される。
やっぱそう簡単には行かないか。だけど、もう私の勝ちだよ。
『ナ、ドコニキエタ!?』
「上から行くよ!アギ!」
『イツノマニ!ダガ、ガル!』
翼を振り回すシャドウ、だけど体が縛られている影響か自分を中心に水平にしか風は出せない。
台風の目って言葉、知ってる?
私は無風地帯に飛び込んでいく。
回転軸になっている頭が一番弱いんだよ!
「喰らえ、メエエエエエエエエン!!」
炎をまとった上段斬りが、シャドウの脳天に直撃。
そのまま勢いに任せて切り抜ける。
抵抗感も殆ど無く、私の着地と同時にシャドウは縦一文字に両断された。
「名づけて炎剣唐竹割り、なんてね」
家具の破片を燃やしたのは目眩まし。その隙にプロメテウスのパワーで私は自分自身を天井にぶん投げた。そこから先はご覧のとおりだ。
「せんせぇ!カッコ良かったのです!」
「オルフェちゃん、ありがとう。ことりちゃんは?」
「ことりお姉ちゃんはさっき目を覚まして……あっ」
オルフェちゃんの目線の先には先ほど倒したシャドウの残骸。そしてその中心に立つ二人のことりちゃん。
『今度は私が無様になっちゃったわ……笑いなさいよ』
「笑わないよ」
ことりちゃんは、自分の影を抱きしめた。
『何を……』
「ねえ聞いて。あなたの言葉は全部私の思ったことだったの」
「確かに私は穂乃果ちゃんの後ろにいつもくっついていて、穂乃果ちゃんを利用しているという思いも実際あったよ」
「このアルバイトを始めたのも、私には中身が無いと思ったからだった」
「あなたの言ってたことは極論だけど、でも私の気持ちだったんだね」
「また穂乃果ちゃんに助けてもらっちゃったけど、おかげでわかったよ。あなたは間違いなく私だって」
「よく言われるんだけどおっとり優しいことりちゃん、だけじゃない。ちょっとずるいところも、私なんだよね」
「ありがとう。だから、帰っておいで」
ことりちゃんに抱きしめられたシャドウの表情が、安らぎに満ちた微笑みに変わる
そして眩しい輝きを放つと、光の粒子になってことりちゃんの中に吸い込まれていった。
パリィン
>自分自身と向き合える強い心が、“力”へと変わる…
>ことりは、もう1人の自分…自ら進むための人格の鎧、ペルソナ”ダイダロス”を手に入れた!
「ことりちゃん、お疲れさま」
「穂乃果ちゃん、なんかごめんね。軽蔑したよね」
「ううん、そんなこと無いよ。むしろ嬉しいんだ」
「え?」
「だって、ことりちゃんのことをこんなに深く知れたんだもん。私もことりちゃんに自分のやりたいことを押し付けすぎてたなあって思ったし」
「穂乃果ちゃん……」
「この程度で私が軽蔑するわけ無いでしょ、何年親友やってると思っているのさ」
「オルフェも、ことりお姉ちゃんは立派だったと思うのです。シャドウを受け入れてしまうなんて」
あ、そういえばことりちゃんの中にシャドウが帰っていったけど、あれってまさしく「自分と向き合うこと」なんじゃ……?
「うん、私の中にもうひとりの私を感じる。名前は、ダイダロスちゃんっていうみたい」
「ことりちゃんもペルソナが使えるようになったんだね」
「これで、次来た時も安心なのです!」
そうね、次、次かあ。
「今回はっきりしたのは、ことりちゃんの先輩さんはテレビの中に入れられて、それで亡くなったってこと」
「私の影も言ってたけど、シャドウを受け入れられないと死んじゃうみたいだよね」
「そうだね。抜かれて放って置かれても死んじゃうって言ってたけど、今みたいにシャドウが暴走したら、ペルソナもなしに倒すのは不可能だよ」
ことりちゃんの影はかなり強かった。竹刀一本で立ち向かえたとは到底思えない。
あと、1つ気になったことがある。
「オルフェちゃん、今は霧が立ち込めてるけど、霧が晴れてる時ってどうなるの?」
「霧が晴れる時はシャドウが活発になるのです。ことりお姉ちゃんのシャドウみたいに1人の人間から生まれた自我のあるシャドウを核にして一気に暴れだすのです……この前も怖かったのです」
「つまり、最初戦った小ぶりのシャドウはテレビの外の色んな悪い感情の塊、テレビの中で人間から出てくるのが1人の悪い感情の塊、ってことなのかな」
「オルフェ、難しいことはよくわからないけど、せんせぇの言った通りで多分あっているのです」
「穂乃果ちゃん、もしかしたら今後も先輩みたいな被害者が出るかも……」
「そうだね。だけど私達なら助けられる」
「ペルソナの力はたしかに強力だけど、シャドウが暴れだす霧の前に見つけなきゃいけないんだよ?」
「ことりちゃん、忘れちゃったの?」
「忘れたって、なにを?」
「アレだよ、アレ」
私達がここに来るきっかけになった出来事があったでしょ?
「あ、もしかして!」
「「マヨナカテレビ!」」
おそらく、運命の人が映るというのはでっち上げで、本当はテレビに入れられた人が映るのだと思う。
先輩さんの時は気づいてあげられなかったけれど……此処から先は誰も死なせたくない。
「マヨナカテレビに気を配って、誰か人が映ったら助けよう」
「そうだね、もうこんなのは嫌だもん」
「オルフェもお手伝いするのです!」
「よーし、それじゃあ二人とも頑張ろう!」
「「「おー!」」」
パリィン!
どこからともなく声が聞こえる。
我は汝…汝は我…
汝、新たなる絆を見出したり…
絆は即ち、まことを知る一歩なり。
汝、“愚者”のペルソナを生み出せし時、
我ら、更なる力の祝福を与えん…
>“愚者”属性のコミュニティである
“自称特別救助隊”コミュを手に入れた!
なんだかわからないけど、プロメテウスが少し成長したような気がする。
オルフェちゃんに出口となるテレビ(テレビから入るなら出るのもテレビかららしい)を設置してもらい、帰ることにした。
今日は激しい戦闘でとても疲れた。ゆっくり休もう……
キリの良い所で、書き溜めはもう少しありますが僕も疲れたので休みます
明日投下再開です
乙
メンバーそれぞれのアルカナと武器、ペルソナが気になるところですな
再開します
>翌朝
「おねーちゃん起きてー!ことりさんと海未さん来てるよー!」
手早く着替え、パンをくわえて出かけることにした。
>通学路
「全く、穂乃果はたるんでいます!」
「朝からそんなに怒らないでよう……ふわぁ」
「寝不足ですか?また夜更かしですか」
「昨日はちょっと疲れちゃったんだよ、ことりちゃんもそうでしょ」
「う、うん。穂乃果ちゃん、ちょっと」
ことりちゃんが耳に口を寄せてきた。吐息が軽く当たる。
(海未ちゃんにあんまりペルソナの事は話さないほうがいいんじゃない?)
(えー、なんで?)
(だって、あんな話普通信じられないし、もし付いて来る流れになっても責任取れないよ?命がけになるかもしれないんだから!)
(それもそうだね、わかった)
「二人とも、なにをコソコソ話しているのですか?」
「なんでもなーい!」
三人で仲良く登校した。
乙
ペルソナもラブライブもアニメしか見てないけど期待
千枝ちゃんポジは誰なんだろ?凛が1番近いかな?
>昼休み
> 2年2組・教室
「というわけで、スクールアイドルをやろう!」
高らかに宣言した。
「また、唐突だね……」
「スクールアイドルとは、なんなのでしょう?」
二者二様の反応。まあまあ、唐突なのは勘弁してよ。
「スクールアイドルっていうのはその名の通り学校をアピールするアイドルだよ!」
「あー、あのA-RISEみたいな」
「そうそう!」
「話についていけません……」
海未ちゃんは忙しいからあんまり興味なかったみたいだけど、UTX学園の資料(雪穂にとってこさせた)も見せながら説明したら理解はしてもらえた。だけど……
「絶対無理です!」
「えーなんでー、やろーよー」
「海未ちゃぁん……」
「歌って踊るなんて、恥ずかしすぎます! ことりも泣き落としが通じると思ったら大間違いです!」
「恥ずかしくなんてないよ!海未ちゃんは可愛いもん!」
「そうだよ!」
「うぅ……とにかく、無理なものは無理です! 練習に行ってきます!」
「あ、逃げた」
「海未ちゃんのことだから、きっとやってくれるよ」
「そうだよね!よーし、やるぞー!」
ことりちゃんと今後の展望について話すことにした。
>放課後
「結局やるのですね、はぁ」
「学校を救うためだもん!」
「がんばろ~」
「仕方ありませんね……ですが、やるからにはきちんとやりましょう」
やっぱり海未ちゃんは来てくれると思ったよ。それでいろいろ決めることになったんだけど……
「衣装はことり、振り付けは私が考えるとして、曲がありません」
「あと練習場所も確保しないと~」
「うーん、じゃあ曲は私が何とかするから二人は練習場所を探して!」
「何とかって、あてはあるのですか!?」
「ないけど、何とかする!」
「穂乃果!」
海未ちゃんたちに後は任せて教室を飛び出した!
>音ノ木坂学院・廊下
あてもなく教室を飛び出した私は、とりあえず音楽室の前にやってきていた。
……ピアノの音と澄んだ歌声が聞こえる。
少し覗いてみよう。
>音ノ木坂学院・音楽室
明るい髪の女子生徒がピアノ椅子に座っている。
ちょうど演奏が終わったところのようだ。
「すごいすごーい!」
「うえぇ!?」
「あなた、ピアノも歌もとっても上手だね!お名前は?」
「えっと1年の西木野真姫、ですけど……先輩はなんなんですか」
「私は高坂穂乃果、二年生だよ!」
「いや、そういうことじゃなくて!」
「あ、ごめんね、邪魔だったかな?」
「別に、邪魔じゃないですけど」
西木野さんは困惑した面持ちだ。そうだね、もうちょっとちゃんとお話しないと、ただの怪しい人になっちゃう!
「単刀直入に聞くんだけど、アイドルに興味ない?」
「はい?」
西木野さんに事情を詳しく説明した。
「話はわかりました」
「じゃあ?」
「お断りします」
「えー!そこは受けてくれる流れだったでしょ!」
「流れってなんですか!……いや、私そういうポップスとかに興味ないんです」
「そっかあ、でも私、西木野さんのこと待ってるからね。いつでも歓迎する!」
「考えが変わることはありませんよ」
「そうかもしれないね、でも、西木野さんが私達と一緒に歌ってくれたら素敵だなあって思っちゃったから!」
「……もう帰りますね。失礼します」
西木野さんは出て行ってしまった。
私も教室に戻ろう。
> 2年2組・教室
「ただいまー」
「穂乃果ちゃん、おかえり~」
「お疲れ様です、穂乃果。曲の当ては付いたのですか?」
「すごい歌とピアノが上手い子を見つけたんだけど、断られちゃった」
「念のため聞きますけど、なにを断られたのです?」
「アイドルを一緒に……あっ」
「あなたは曲の算段をつけに行ったのではありませんでしたっけぇ?」
海未ちゃん、笑顔が怖いよ?
そういえば、練習場所の方はどうなったの?
「とりあえず屋上は使えそうかな~」
「あとは神田明神周辺をトレーニングに使おうかと」
「神田明神……まさかあの階段」
「穂乃果とことりは体力が足りていないでしょうから。歌って踊るというのはかなりハードですよ?」
「わかったよぉ」
曲のことは保留にして、今日は解散することにした。
>神田明神
明日から始まる練習の覚悟を決めるため、神社に下見に来た。
うっへえ。やっぱりこの階段は……
「こんにちは」
「ふぇ? こんにちは。って、あなたは!」
見覚えのある青い衣装の美人さん。確か……
「マーガレットよ。ふふ、これで夢ではなかったことがわかってもらえたかしら?」
「はい、でもどうしてここに?」
「たまには出かけたい時もあるし、何よりあなたに渡しそびれたものがあってね」
はいこれ、とマーガレットさんが手渡してくれたのは、青い蝶々があしらわれた古風な鍵だった。
「それは契約の鍵。私達ベルベットルームの住人の力を借りるために必要なものよ」
「契約の鍵……」
「まあ実際やってみたほうが早いわね。ほら、ここの敷地の片隅に青い扉が見えるでしょう?」
「え? あ、本当だ」
先ほどまで何もなかったところに扉が現れた。
「あれが物質世界からベルベットルームに入る入口よ。契約の鍵を持つものにしか見えないし通れない。早速行ってみましょう」
マーガレットさんに手を引かれ、ベルベットルームへの入り口をくぐった。
>ベルベットルーム
扉をくぐると、テレビとかで見る高級車のような内装。夢と同じだ、ベルベットルーム。
「お待ちしておりました」
「イゴールさん!」
「今日は私共のお手伝いの内容と、コミュニティについてお話致します」
まずここではペルソナを合体させて新しいペルソナを生み出せるということ。
合体させるペルソナは、シャドウを倒した時や絆を深めた時に心に湧き上がってくるということ。
「そしてその絆なのですが、あなたは既に1つのコミュニティを得ておられます」
イゴールさんが手にとったのは0番、愚者のカード。
「心のなかに感じるはずです。不明瞭な目標に立ち向かっていくことを決めた絆を」
むむむ、難しいけど……あ、この前ことりちゃんとオルフェちゃんと結成した!
「それこそが絆、コミュニティの力でございます」
「コミュニティの絆を深めていくとそのアルカナに対応したペルソナが強くなるわ。さらに最大限まで絆を深めると新しいペルソナに目覚めるとか、そんな話もあるわね」
なるほど、大体わかりました。
「注意していただきたいのは、コミュニティを得なかったからといってそれが仲の悪さを示すわけではございません。貴女様に訪れる試練において関わりが深い運命の人との間に、コミュニティは生まれるでしょう」
「ちなみに、一度生み出したペルソナは私がこのペルソナ全書に登録するわ。合体させてしまって二度とそのペルソナが使えなくなる、ということはないから安心して」
ただし、お金はとるけど。ってそんなのあり?
しばらく談笑を楽しんだ後、マーガレットさんとイゴールさんに別れを告げ、家路についた。
>翌朝
>穂乃果自室
「おねーちゃーん!朝練するんでしょー!」
雪穂の声で目が覚めた。
天気予報によると、今日の夜は雨がふるらしい。
マヨナカテレビを見てみようか……
>神田明神
「それでは階段ダッシュ行きますよ、よーい……どん!」
海未ちゃんのハードすぎる指導のもとトレーニングを行った。
体力が少し上がった。
>音ノ木坂学院
>午前中
トレーニングの疲れからくる眠気と闘いながら過ごした。
>放課後
「今日こそは西木野さんに作曲のお願いをしてくるよ!」
「では、今日は解散ですね」
廊下へ飛び出し、1年の教室へ向かった。
> 1年1組・教室
「こんにちはー!」
元気よく挨拶をした。
あれ、2年の先輩?という声が聞える気がする。
「なにか御用ですか?」
ショートカットの可愛らしい女生徒が応対してくれた。
「西木野さんってまだいるかな?」
「うーん、西木野さん、いつもすぐ帰っちゃうから……もしかしたら音楽室にいるかもしれないです」
「そっか、ありがとうね!」
……
結局今日は西木野さんに会うことはできなかった。
>夕方
>高坂宅
テレビを見ながら家族で夕食を食べた。
ふーん、医療の最先端ねえ……ん?西木野医師?
どことなく西木野さんに似ているようなおじさんだ。
『……家族がいるから頑張れるという面もありますね』
西木野医師の言葉に呼応して、机の上の写真立てにカメラが寄る。
うん、小学生くらいの写真だけど、これは西木野さんに間違いないね。そっか、お医者様のお嬢さんだったんだ。
>夜
>穂乃果自室
雨が降っている。マヨナカテレビを見てみようか……
以前と同じように電源のついていないテレビから映像が流れだす。
キュン、キュイイィイ、ヒューン
「今日も映ってるのは女の子、みたいだね」
あれ?この子どこかで見たことがあるような。誰だっけ?
考えている内にマヨナカテレビは終わってしまった。
携帯の着信……、ことりちゃんからだ。
「もしもし」
『もしもし穂乃果ちゃん、見た?』
「うん、見たよ。まだ靄がかかっている状態だったけど」
『次の被害者、なのかなあ?』
「被害者にしちゃいけないよね。またあっちの世界に助けに行く準備はしておこう」
『わかった。じゃあまた明日ね』
もう今日は寝よう……。
>翌日
>昼休み
> 2年2組・教室
「穂乃果ちゃん、これどう?」
ことりちゃんが見せてくれたのは初ライブのポスター案。
私達三人がデフォルメされたイラストがとっても可愛い。
「さすがことりちゃん!いい仕事!」
「いい仕事なのはいいことですけれど、曲が……」
「そうだねえ、曲が決まらないと振付もできないし」
今日こそは西木野さんを捕まえないと。
「それなのですが、いっその事最初はカバー曲から始めるというのはどうでしょう?」
海未ちゃん曰く、やるなら早く活動を始めないと学校のアピールという面では厳しいのではないかって。
「海未ちゃんの言いたいことはわかるけど、デビュー曲ってやっぱり大事だよ。カバーじゃダメだと思う」
「ですが、その西木野という1年生とは交渉が難しそうなのでしょう?」
「でも、難しくても無理じゃないよ」
そうだ、3人でお願いしに行ってみようよ!
「私はいいよ~」
「私も構いませんが」
「じゃあ決まり!早速1年の教室に向かおう」
> 1年1組・教室
「こんにちはー!西木野さんいますかー?」
「あ、この前の。西木野さーん!先輩が呼んでるよ!」
「え、私?……あっ」
「こんにちは。何度もごめんね、ちょっとだけお話を聞いて欲しいの!」
「別にいいですけど……」
少し場所を変えることにした。
> 2年生教室・廊下
「私に作曲を?」
「うん、メンバーにはなってくれなくてもいいから!」
「どうしても曲が必要なの」
「圧迫面接のようで申し訳ないですが、この通りです。お願いできないでしょうか」
全員で頭を下げた。
「ちょ、やめてくださいよ! それに私、今風の曲ってあまり聞かないし、書いたこともないし……」
西木野さんは「今風の曲」というものになにか思うことがあるみたい。
「別に今風だとかそうじゃないとか、そういうのはいいの。あの曲、自作なんでしょ?」
「そうですけど……」
「私は西木野さんの歌っていたあの曲がとっても素敵だったから頼みたいって思ったんだよ!」
「うっ、とにかく、書けるかどうかもわからないし、期待しないでくださいよ!」
西木野さんは顔を真っ赤にして走り去ってしまった。
「あれ、今のって……」
「書いてくれる、ってこと?」
「そう聞こえましたよね」
思わず顔を見合わせる。
次の瞬間、私達の歓喜の叫びが校舎にこだました。(担任に怒られた)
>夜
>穂乃果自室
今日も雨が降っている。マヨナカテレビを見てみようか。
キュン、キュイイィイ、ヒューン
今日のテレビには色がついてるし映像が鮮明だ。そんな風に思っていたら見知った顔が現れる。
『はぁーい、こんばんは!』
え、西木野さん!? なんか派手な格好してるなあ。
『えー、今日はわたくし西木野真姫、歌って踊って男をはべらせたいと思います!』
『名づけて』
『ピチピチJKマッキーが往く!輝夜の城で捕まえて』
デデンという派手な効果音と共に、大きなテロップが画面に浮かび上がる。
『この私の美貌と美声をもってすれば男なんてイ・チ・コ・ロ♪』
『彼氏いない歴=年齢だけど、本気で落としまくっちゃうんだから!』
『それじゃあ、レッツゴー!』
西木野さんは画面の奥に見える施設に走り去っていった。
「え、なにこれ……」
プルプルとスマホに着信。ことりちゃんからだ!
『穂乃果ちゃん、今の見た!?』
「うん、見たけど……何アレ」
『多分だけど、西木野さんのシャドウなんじゃないかな』
なるほど、ことりちゃんの時も本人とは似ても似つかぬ暴言を吐いていた。
心のなかに押し込めている負の感情がシャドウということならば、あれが西木野さんの押し殺しているナマの感情ってこと……。
「ということは、もう西木野さんはテレビの中に入れられちゃったんだね……」
『早く助けてあげないと』
「そうだね。明日早速オルフェちゃんのところに行ってみよう」
『うん、じゃあまた明日』
もう日付が変わってしまった。明日に備えて寝よう……
>朝
スクールアイドルの朝練に出かけた!
>神田明神
「穂乃果、ことり、昨日のアレは何だったのでしょうか」
「どしたの海未ちゃん、酷い隈だよ?」
「アレってなぁに?」
「あなた方が言ったのでしょう、雨の日の0時にマヨナカテレビが何とかって」
げ、海未ちゃん自分から踏み込んできちゃったよぉ!
助けてことりちゃーん!
「え、えーっと、昨日はことり、早く寝ちゃったんだけど、何が映ったの?」
「あの西木野という一年生です。出てくるなり……は、恥ずかしくてとても真似できないような破廉恥なことを言って!」
お気持ち、お察しします。
まあ、うまく切り抜けられたかな……
「ん、穂乃果。どうしてそんなに安心したような顔をしているのですか」
「うぇっ!? べべ、別に海未ちゃんが追及してこなくてよかったなんて思ってないよ?」
「穂乃果ちゃん……」
「あっ」
「二人とも何か隠しているようですね。私たち三人の間に隠し事は無しと、常日頃言っているのは穂乃果のはずですが」
海未ちゃん、笑顔が怖いです。
ことりちゃん、そんなに冷めた目で見つめないで。
「――と、いうわけでテレビの中に西木野さんは入れられちゃって、助けなきゃいけないの」
「穂乃果、からかっているのですか?」
「からかってないよ! ね、ことりちゃん!」
「うん、信じられないかもしれないけど、本当のことなの」
「ことりが言うなら……しかし、本当にそんなことが?信じられません」
そりゃあそうだ。私だって自分がテレビに吸い込まれるなんて体験をしなかったらマヨナカテレビのことも夢だと思っていたかもしれない。
でも、あそこで体験したことは紛れも無く本物。私とことりちゃんの中にいるペルソナがその証明。
「そこまでいうなら、私も手伝います」
「ダメだよ!生身でどうにかなる場所じゃない!」
「ペルソナが無かったら生きて帰れるかどうか……」
「それでもです」
海未ちゃんの決意は固そうだ。こうなっちゃうと梃子でも動かないんだもんなあ。
「危険な目にあっている人を、放っておける訳がないではありませんか」
「まあ、海未ちゃんならそういうよねえ」
「穂乃果ちゃんが前線で戦えば大丈夫だよ。ことりのペルソナなら羽で守ってあげられると思うし」
「さらっと私の扱い酷くない?」
「気のせい気のせい~」
練習はあまりはかどらなかったけれど、三人でテレビの中に入る決意を固めた。私も気合入れて海未ちゃんを守らないとね!
>放課後
>南宅
「ごめんごめーん!」
「遅いですよ、穂乃果」
「一応1年の子に聞きこみをね。やっぱり西木野さん、学校に来てないって。お家にも帰ってないみたい」
「ということは、やっぱりあっちの世界に」
「助けなくてはなりませんね」
「そうだね。海未ちゃん、最後に確認。本当に来る?」
「愚問ですよ穂乃果。私のことはよくわかっているでしょう?」
海未ちゃんは和弓を担ぎなおした。今日の私の装備は木刀。ことりちゃんはどこで入手したのか伸縮式の特殊警棒。
「行きましょう」
「あ、じゃあ今日はことりが先に行ってみるね」
ことりちゃんがテレビに手をかざすと、私の時と同じように腕が吸い込まれていく。
「やっぱり私にもできるようになってる!」
「喜んでる場合じゃないでしょ!海未ちゃん、ことりちゃんにつかまって!」
「わかりました!」
私達は、そのまま転がり落ちるようにしてテレビの中へと潜入した。
ギュンギュンギュン……
「よしっ!今日は着地成功!」
「あ、あはは」
「まさか本当にテレビの中にこんな世界が……」
霧が濃い。そうだ、あの眼鏡をっと。
眼鏡によって開けた視界には私達のもう1人の仲間の姿。
「せんせぇ!ことりお姉ちゃん!また来たのです!」
「オルフェちゃん!元気だった?」
「こんにちは~」
「こんにちは!オルフェは元気なのです。えっと、そっちのお姉ちゃんは?」
一方の海未ちゃんはというと
「誰です、この子供は?」
こんな調子。なので改めて自己紹介をすることにした。
「まあ、事情はわかりましたけれど、こんな世界にずっと住んでいるだなんて大変ですね。あと眼鏡ありがとう」
海未ちゃんのメガネはフレーム部分が少なく、全体的に青い配色。オルフェちゃんの工作技術、すごい。
「霧がなくなった時は大変ですけど、基本的には快適なのですよ」
オルフェちゃんと海未ちゃんもなんとか打ち解けられた所で、今日の目的を果たしに行くとしようか
「オルフェちゃん、また人が入れられたみたいなんだけど、心当たりはないかな?」
「オルフェの鼻を甘く見ちゃいけないです、かる~く追いかけるですよ!」
オルフェちゃんは鼻をひくひくさせると確かな足取りで歩き出した。
私達も後を追う。
この前のメイドカフェの時と同じく、歩くに従って景色がリアルなものに変化していく。
「なんとなく古臭いというか、昭和?」
「少なくとも現代の町並みじゃないねえ」
「大きな建物が見えてきましたよ、コレは……」
>死の舞踏会場・ジュリアナマッキー
私達の前に現れたのは大きなライブハウス風の建物。ド派手なネオンサインで入り口は装飾されている。
「じゅりあなまっきー、と読めばいいのでしょうか」
「とにかく行こう」
ずしりと重い防音扉を開けて私達四人は歩きだした。
「せんせぇ、シャドウの気配は感じないですけど、ここはテレビに入れられた子の心が創りだした空間なのです。何が起こるかわからないので十分警戒を!」
オルフェちゃんの言葉に従って、武器を構えたまま慎重に進んでいく。
このフロアは劇場の入り口からロビー、ホワイエと言った風情の作りだ。
黒と赤を基調とした内装からは、やや攻撃的な印象を受ける。
「シャドウ、来るです!」
「蹴散らすよ、プロメテウス!」
「守って、ダイダロス!」
向かってくる大きな鳥型シャドウを、私とことりちゃんのペルソナが撃ち落としていく。
ことりちゃんのダイダロスは、シャドウの時と違い背中に羽のある女性の姿。両手には縫い針と糸玉。
体はかなり自由に動くようで、的確に風の刃を飛ばしていた。
「海未お姉ちゃん、大丈夫なのです?」
「少々驚きましたが大丈夫です。行きましょう」
海未ちゃんの様子はオルフェちゃんとことりちゃんに任せて、私はとにかく後ろに敵をやらないように木刀とアギで暴れまわる。
撃ち漏らしはことりちゃんが倒してくれる、理想的なコンビネーション。
「あの扉がフロアの終わりみたいです!」
「よし、行こう! 後ろから敵は?」
「大丈夫だよ!」
シャドウを蹴散らした勢いで、扉の先へと雪崩れ込む。
そこはちょっとしたホールのようになっていて、天井にはミラーボール、中央にはダンスステージ、周囲にはソファや立食テーブルが有り、盛り場の空気が充満していた。
『遅かったじゃない?待ちくたびれたわよ』
そして部屋の主であることを誇示するようにダンスステージに立つのは、明るい髪の少女。だが服装は制服ではなくテレビにも映ったボディコンスタイル。
「あなたは、西木野さんじゃないね」
『ふぅーん、初見で見抜くなんて高坂先輩は勘がいいんですね』
「勘というか経験なんだけど。とにかく、西木野さんの中に戻ってもらうよ」
海未ちゃんとことりちゃんもそれぞれの武器を構える。
『ひっどーい、後輩に乱暴するのね! 怖いから私、逃げちゃう!』
ついでに男も落とすと叫びながら西木野さんの影は部屋奥の階段に消えていった。
「あら、行っちゃった」
「まだ追いかけなくちゃいけないのでしょうか」
「海未ちゃん、ことりちゃん、待って。まだ何かいる」
なんだか嫌な気配。その気配の主は私達の背後、先ほど通ってきた扉の前に佇んでいた。
「なんです、あれは……私?」
「海未ちゃん、あれがシャドウなの。気をしっかり持って」
『ことりの言うとおりです。私はもう一人の園田海未、あなたそのもの』
ことりちゃんのときよりは冷静な感じのシャドウだ。これなら暴走しないでもなんとかなるかも。
そんな考えは甘かったと、私はすぐに思い知ることになる。
「私、そのもの」
『信じられませんか? なら少しお話でも』
「なんでしょう」
『ラブアローシュート♪』
「なっ、何故あなたがそれを!」
『だから私は園田海未そのものだって言ってるじゃあないですか。他にもこんなふうに思っていますよ』
海未ちゃんのシャドウは一呼吸、そして
『最近妙に穂乃果とことりが仲良くなっている、気に入らない』
「そんなこと」
『私だけ仲間はずれにされているみたいで怖かった、でしょう?』
「そんなことありません!」
『まだ認めないのですか、なら……穂乃果』
「え、私?」
『私は穂乃果が好き。穂乃果のことを独り占めにしたい。1人では何もできない穂乃果を私が管理してあげたい』
「やめて、違います!穂乃果、これは!」
『何が違うのですか、全部私が思っていることでしょう。今日着いてきたのだって、内心穂乃果と同じ力が欲しかったから。西木野真姫の救出なんてさほど重要なことでもなかったわけです』
「うるさい! なんなんですかあなたは! あることないことべらべらと!」
『自分でもあること、ってわかってるんじゃないですか。何度でも言うけど私はあなた。あなたは私。園田海未ですよ』
「違う! あなたなんて――」
海未ちゃん、だめ!それ以上言ったら!
「あなたなんて、私じゃありません!」
「海未ちゃん!」
前と同じだ。海未ちゃんのシャドウの目が怪しく光る。
『言いましたね、その言葉を。私自身を否定する言葉を!』
海未ちゃんは意識を失いその場に倒れこんだ。同時にシャドウの輪郭が崩れていく。
「オルフェちゃん!」
「海未お姉ちゃんは任せてなのです!」
「ありがとう、じゃあことりちゃん、ちょっと手荒になるけど海未ちゃんのシャドウをおとなしくさせるよ」
「うん、気を引き締めていこう」
海未ちゃん、そんなに穂乃果のことを。
なんていうか、告白された経験とかもないし、どうしたらいいのかよくわからないや。
だけどさ、管理するとかされるとか、そんなのがなくても穂乃果たちは友達じゃん。
海未ちゃんは一人じゃない。
『我は影、真なる我……』
海未ちゃんのシャドウの姿は弓を構えた女の人。顔には頬かむりをしていて、足元には鎖で縛られた女の子のようなものが二つ……どことなく私とことりちゃんに見えないこともない。
『穂乃果、ことり。私に管理されて、ずっと一緒に生きていきましょう』
「ううん、それは違うよ」
「そうだよ、今までだって三人で助けあって来たじゃない!」
だけど、私達の言葉は暴走した影に届かない。
『管理サレナイノナラ、私ヲ受ケ入レテクレナイノナラ、貴様達モ滅ブガイイ!』
「ことりちゃん、背中は任せた!」
「わかった!」
影が矢をつがえ、放つ。すんでのところでそれを躱すと私達も反撃に転ずる。
「まずは、ラクカジャ!」
「ことりも援護するよ、スクカジャ!」
穂乃果に防御を上げるラクカジャと、体を身軽にするスクカジャの呪文がかかる。
このシャドウは遠隔攻撃型、ならばことりちゃんの時と同じように懐に飛び込んだほうが有利をとれる。
「やあああああああっ!」
木刀を青眼に構え、素早く踏み込む。狙うは、突きの一撃。
『近寄ラセハシナイ!』
シャドウは大弓に矢を一掴み、乱暴につがえると一気に射出。私の前に壁のように矢が迫り来る、しかし
「させない、ガル!」
ダイダロスの双翼から生じた突風が、矢を弾き飛ばす。
「穂乃果ちゃん、気にしないで行って!」
「ありがとう、んじゃ、行っくぞぉ! 突きいいいいいいい!!」
相手が大きいので、ちょうどみぞおちの辺りに木刀が突き刺さる。
シャドウとはいえ手に伝わる感触は生々しく、突きを選択しなければよかったと少し思ったり。
『クッ、穂乃果ノクセニィィィィ!』
「む、癖にってなにさ! ちょっとかちんと来たよ!」
木刀を引き抜いて距離を取る。
ことりちゃんの影と戦って、シャドウというのはこのくらいで倒れる相手じゃない事は織り込み済み。
「じゃあ、今度は私の番!」
ことりちゃんが特殊警棒を魔法の杖のようにふるうと、ダイダロスがガルを浴びせる。って、その演出必要なの?
「なんか強くなってる気がするでしょ!」
「緊張感ないなー」
「ことりは真剣だよ!」
さいですか。とにかく海未ちゃんのシャドウは弱ってきている。このまま押し切れればいいんだけど。
『アアアアアアアアアアアアア!!』
シャドウが獣のように咆哮すると、足元に転がっていた私とことりちゃんに似た子シャドウが起き上がった。
『管理コソ正義、管理コソ幸セ!』
>アイハブコントロール
「単純に敵が増えた、ってことかな」
「ちょっときつい?」
「増えた方には構わず、本体を狙おう」
「わかった」
『構ワナイデイラレルカナ?』
>アギ
>ガル
「くぅっ!」
「熱っ!熱いよぉ!」
穂乃果に似た方から炎が、ことりちゃんに似てる方からは突風が。
なるほど、私達と能力まで似通っているわけね。こいつはなかなか
「穂乃果ちゃん、回復を!」
>ディア
「ことりちゃん、ありがとう」
痛みが引いていく。だけど状況はあまり良くない。ことりちゃんの時みたいに奇策が通じる状況でもないし……
「穂乃果ちゃん、諦めずに少しずつでいいからダメージを与えていこう」
「……そうだね、私達が諦めたらおしまいだ!」
木刀を構え直す。ここからが正念場。
――10分ほど経っただろうか。激しい戦闘でもう私達の体力は底をつきかけていた。
だけど、二体の子シャドウを倒し、後は本体を叩くだけ。
ここまで保ったのも海未ちゃんの特訓のおかげだよ。本当に何が幸いするか分からない。
「あとは、あなただけだよ」
『ヨクモ、ヨクモオオオオオオオ!!』
追い詰められたシャドウが、やたらめったらと矢を射掛けてくるが、冷静さを失った攻撃なんて怖くない。
「ことりちゃん、私に向かって思いっ切りガルを!」
「わかった!やってみる!」
>ガル>ガル>ガル!
三倍がけされたガルをプロメテウスがお腹の穴で受け止める。
>ジェットガル突撃
その力をもって、私の体は海未ちゃんのシャドウへ突き進む!
『ドコニソンナチカラガ!』
「ことりちゃんの力を分けてもらったからね! 管理するだけじゃ力を合わせられない、これが協力するっていうことなんだよ。プロメテウス!」
炎が木刀に絡みついていく。竹刀の時もそうだったけど、得物を燃やしているわけではないようだ。
>炎剣唐竹割り
「メエエエエエエエエエエエン!!」
『ソウハサセヌ!』
渾身の飛び斬りを束ねた矢で防がれる。三本の矢は折れないというけれど、たしかにこれは、硬い。
「それはこっちのセリフ! ダイダロス!」
>ラクンダ
ことりちゃんのペルソナが、針と糸を鎖鎌のように使って矢を取り上げてくれた。
そのチャンスは逃さない。もう一度、決める!
>炎剣唐竹割り
「ヤアアアアアアアアアアアアアア!!」
『クソッ、クソオオオオオオオ!』
頭から一刀両断。シャドウはドロドロに溶けていき、元の姿――海未ちゃんの姿に戻った。
「終わったぁ」
「穂乃果ちゃん、お疲れ」
「お疲れ~、さて、あとは」
「うん、海未ちゃんの番」
海未ちゃんも意識を取り戻し、影の元へしっかりとした足取りで歩いている。
私達がやれることはここまで。後は見守るとしよう。
『1人は嫌……管理してしまえば、私の元を離れることはない、それは間違っているの?』
「間違ってはいません。ですが、それは最高の答えでもありません」
『……』
「私は確かに穂乃果のことが好きです。もちろん、ことりのことだって大好きです」
「2人がべったりな時は少しもやもやすることもありましたけれど、ね」
『寂しかった』
「そうですね。だから穂乃果を管理するように動いた、というところも確かにあったのかもしれません」
「私自身気づいていませんでした。無意識に自分の思想を穂乃果に押し付ける、それは、とても無遠慮なことですね」
「ですが、そんな無遠慮なところもまた、私なのだとわかりました」
『……』
「これからは、あなたともしっかり向き合います。どうしようもなく弱くて、管理なんて考えに至ってしまう私だけれど、一緒に気をつけていきましょう」
「あなたは私です。もう、逃げませんよ」
海未ちゃんのシャドウは安心したような笑みを浮かべると、光の粒子になって海未ちゃんの中に吸い込まれていった。
パリィン
>自分自身と向き合える強い心が、“力”へと変わる…
>海未は、もう1人の自分…友と歩むための人格の鎧、ペルソナ”アタランテ”を手に入れた!
「これが、ペルソナですか」
「うーみちゃん!」
「きゃっ! 急に抱きつかないでください!」
「いいからいいから。つらかったよね。お疲れ様」
「……もう、あんな恥ずかしい物まで見られたら、お嫁にいけません! 責任をとってください!」
「海未ちゃん、話が飛躍し過ぎだよ……」
「はっ! ことり、そうだ、ことりにも同じようなことがあったのでしょう!?」
「あったけど?」
「私のだけ見られるなんて不公平です!」
「ことりだって恥ずかしいもん。教えないよ」
ま、こんな会話ができるなら大丈夫そうだね。
パリィン
我は汝…汝は我…
汝、更なる絆を見出したり…
絆は即ち、まことを知る一歩なり。
汝“愚者”のペルソナを生み出せし時、
我ら、更なる力の祝福を与えん…
> “愚者”自称特別救助隊に海未が加わった!
西木野さんを見つけることはできなかったけれど、激闘で体が限界。今日は帰ることにした。
「オルフェ、ここまでの道筋はバッチリ覚えたので次はショートカットできるのです!」
「ありがとう。じゃあまた明日ね!」
霧まではまだ時間がある。多少時間がかかっても確実に西木野さんを助けよう。
このSSまとめへのコメント
ペルソナとのクロス待ってました!