艦娘「艦娘になった理由」 (136)
*色々と妄想と捏造あるけど気にしないで
*この艦娘が誰かは最後まで読んでのお楽しみ
艦娘(今の姿から見れば信じられないかも知れない。でも少しだけ昔の話をしよう)
艦娘(私は古くからある名家の、文字通りの箱入り娘だった)
艦娘(でも名家とはいえ、時代と共に力を喪っていく家の生き残る道は、政略結婚の繰り返し)
艦娘(幼い頃から髪が綺麗だと言われてた私は、物心つく頃から許婚をどうするかという話だった)
艦娘(とにかく実家を支えてくれるだけの財力のある家の人間ならば誰でも良かったというのが家族の本音。でも私はそんなの嫌だった)
艦娘(だけど私一人のわがままで家を潰す訳には行かない。結局、許婚が決まったけれど、初顔合わせの日まで私は相手の写真すら見なかった)
眼帯提督「待たせたな!」
艦娘(その日、私の前にやってきたのは髭だらけで、右目の眼帯が特徴的な…提督だった)
眼帯提督「おい。俺は許婚に会えと仕事を休まされてきたんだぞ? どこにもいないじゃないか?」
艦娘父「あの、そこにいますが」
眼帯提督「………」
艦娘「な、なんですか」
眼帯提督「会うのが10年早かったな」
艦娘(第一印象は最悪だった。具体的に言うとイラッと来た)
艦娘「逆ですね」
眼帯提督「なに?」
艦娘「あなたが10年遅すぎました」
眼帯提督「……はっはっはっは! それもそうか!」
艦娘(大笑いした彼は私が気に入ったのか、その場で彼自身は婚約をOKした。実家への援助も約束してくれた)
艦娘(私にとっては、それは明るいものではなかった。その時点は)
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数日後
艦娘(結婚、とはいっても彼は鎮守府勤務。なにより私はまだ二十歳の半分にもならない子供だったので、しばらくは実家で暮らしていた)
艦娘(顔合わせの時は仕事を休む羽目になった、とか言っていたが、彼は突然やってきた)
眼帯提督「よう」
艦娘「なに」
眼帯提督「旦那が妻に会いに着ちゃまずいか?」
艦娘「仕事はどうするの」
眼帯提督「優秀な秘書艦がいるんでな。こいつを一服させてくれる暇もくれないぐらいにな」
艦娘「…煙草を吸うの?」
眼帯提督「好きだからな」
眼帯提督「…ふぅ。いい香りだ」
艦娘「ただの煙なのに?」
眼帯提督「大人になれば解るさ」
眼帯提督「ところで、君は何をしてたんだ? こんな日当たりの悪い所で」
艦娘「日当たりが悪くても、庭は庭だから」
眼帯提督「そうか。庭のどの辺が好きなんだ?」
艦娘「あの蔓植物よ」
眼帯提督「ほう」
艦娘「こんな場所でも、一生懸命太陽を求めて、蔓を伸ばしてる。どんなものに絡み付いてでも、よ」
眼帯提督「蔓植物は生命力が強いからな」
艦娘「そう、どんな場所でも、強くね……」
眼帯提督「……見習いたいものだな、その強さを」
艦娘「とても。私はこんな風にはなれないから」
眼帯提督「わからないさ。人生は長い」
艦娘「そういうもの?」
眼帯提督「もちろんだとも。俺の鎮守府にいる艦娘もそうだ」
艦娘「…かん……むす?」
眼帯提督「ああ」
艦娘(箱入り娘で幼かった私は、当時世間の常識に疎かった)
艦娘(艦娘という存在を知ったのもその時だ。海から襲い来る深海棲艦と、彼らに立ち向かう艦娘)
眼帯提督「君みたいな小さい女の子でも、強さを秘めているのさ。彼女達は、それぞれ意志を持って戦っている」
艦娘「意志……」
眼帯提督「ああ。強い意志だ。いつもおどおどしている女の子もいる、敵を救おうと考える優しい女の子もいる、だけど彼女達を動かしているのは」
眼帯提督「彼女達が持つ、強い、意志だ」
艦娘「……」
眼帯提督「それは誰だって持っているものさ。勿論、君にも」
艦娘(そう言って笑った彼の顔は、どこか優しかった)
艦娘(箱入り娘で、家の為に結婚相手まで決められて)
艦娘(牢獄のような世界で生きていた私に、自分の意志というものを教えてくれたのはその結婚相手)
艦娘(奇妙な感じだった)
別の日
眼帯提督「よう、奥さん!」
艦娘(紫煙をくゆらせながら、右目に眼帯をつけた彼は再びやってきた)
眼帯提督「今日は学校は休みか?」
艦娘「元から通ってない。家庭教師もいるし」
眼帯提督「外に出たりはしないか?」
艦娘「あんまりない」
眼帯提督「よし、出かけるか!」
艦娘「どうしてそうなるの…って、な、なにいきなり!? 肩車とかしないで!」
眼帯提督「なに、お前さんにはこれぐらいがちょうどいいさ。まだまだ子供だからな」
艦娘「ば、バカにしないで! 高いって! 下ろしてってば!」
眼帯提督「はっはっは! なに、車に着いたら下ろしてやるさ! さあ、行こう!」
艦娘(親子ほども年の離れた許婚は私を強引に車に乗せて、本当に町へと繰り出した)
艦娘(流石にもう抵抗は出来ない。諦めた私は付き合うことに決めた)
眼帯提督「さて、どこに行く?」
艦娘「この前聞いた艦娘について知りたい」
艦娘(私は少し意地悪を言った)
艦娘(仕事場に連れてくようにせがめば、向こうも嫌がるのではないかと。軍には機密が多いから詮索するな、と父親からも言われていた)
眼帯提督「そうか。ちょうどいい場所があるんだ!」
眼帯提督「俺のいる鎮守府に、取材が来てな。そして、それが映画になってんだ!」
艦娘(それが失敗だと気付くのに10秒もかからなかった)
艦娘(曰く、深海棲艦と戦っている艦娘だがその矛先が自分達に向くのが恐ろしいと考える人もいるそうだ)
艦娘(そういった人たちへの宣伝向けに、艦娘について知ってもらおうと映画が撮られたらしい)
艦娘「艦娘が怖いって…変なの」
眼帯提督「そうか? 俺は別におかしくないと思うが」
艦娘「どうして? 海上輸送が深海棲艦のせいでずたずたにされて、今や艦娘なしじゃ日本はたちゆかなくなっちゃうんでしょう?」
眼帯提督「唯一抵抗できる存在だから、だろうな」
艦娘「?」
眼帯提督「深海棲艦は確かに脅威だ。だが、それすらもねじ伏せる存在がいる。確かに頼りになる。だが、それだけの力がこちらに向いたら?」
眼帯提督「深海棲艦がいなくなった後、彼女達はどうなるのか? そして悪い想像をしてしまう人が怖い、と思ってるのさ」
艦娘「ばかばかしい。まるでハーメルンの笛吹き男の話ね」
眼帯提督「ははは、確かにそれは近いかもな。でも」
眼帯提督「笛吹き男と艦娘が違うのは、艦娘たちを守る味方がいるという事だ。だから、笛吹き男の話にはならない」
艦娘「守る、味方?」
眼帯提督「俺だ」
艦娘(その時のドヤ顔にはイラッときたが)
艦娘(でもその時の彼は、どこか誇らしげで、頼もしく見えた)
眼帯提督「どうした?」
艦娘「……艦娘は強い意志を持っている」
眼帯提督「ああ」
艦娘「でも、守られている? あなたに?」
眼帯提督「ああ。彼女達も、また人間だ。君と同じだな」
艦娘「……」
艦娘(艦娘も同じ人間なのだ、と思うと好感を抱いた。そしてなにより、彼女達のお陰で私達は生きているのだと知ると)
艦娘(映画に映されていた少女達は皆輝いていた。皆、輝いた笑顔を見せていた)
艦娘(それだけが、すごく羨ましくて、すごくかっこよく見えた)
艦娘(それが切っ掛けだろうか)
艦娘(私の日々が変わり始めていた。牢獄のような日々から)
艦娘(大嫌いだった勉強だって、新しいものを知れるとなると楽しく思えた)
艦娘(面倒くさいばかりの家事修行。でも、覚えれば褒められるし、いつか彼に披露すると思うと…)
艦娘(披露すると思うと、嬉しい気がするんだ。そう、嬉しい……)
艦娘(親子のような年の差。だけど私は彼に、本当に好きになっていたのだ)
艦娘(これに初めて気付いた夜は恥ずかしさを隠せなかったものだ)
艦娘(でも、これでよかったんだ。時々訪ねてくる彼が楽しみで)
艦娘(二人で出かける事も、色々と教えてくれる事も、彼が吸っている煙草の臭いも)
艦娘(全部、全部、好きになっていって)
艦娘(彼といる時間の全てがかけがえのないものになって)
艦娘(人生最良の時間を選ぶなら、今の私はきっとこの頃を選んでいる)
艦娘(まだ十歳ぐらいの自分が、本当に心底愛している人との時間を)
艦娘(永遠になる事を願っていた)
艦娘(手紙を書いて、その度に気取った中身の返事が来て、それに対してまた返事を出して)
艦娘(会いに来れない日が空いた時は、戦闘が激化したのだと聞いて、また便りを出して)
艦娘(その便りの1通が……)
艦娘(あて先不明になって、帰ってきた)
艦娘(何度も住所を確認して、そして全部書き直してもう一度出した)
艦娘(だけど数日後、帰ってきた)
艦娘(子供だから、という理由で鎮守府に電話だけは架けさせて貰えなかった)
艦娘(初めて、その約束を破った)
艦娘(自分で調べた番号は、何も聞こえなかった)
艦娘(そして私は、一人で列車に飛び乗って―――鎮守府へと向かった)
艦娘(なんで手紙が届かないのか。なんで電話が通じないのか。どうしても彼に聞きたかった)
艦娘(聞きたかった……)
鎮守府跡
艦娘「……これって……」
艦娘「瓦礫の…山……」
艦娘(瓦礫と化した鎮守府。映画に映っていた、あの場所は無惨にも瓦礫の山と化していた)
艦娘(火事ではないそれは、攻撃による破壊だと私は悟った)
艦娘(何度も何度も彼の名前を呼んで、その中を探し回って)
艦娘(でも返事は返ってこなくて、そしていつしか私は泣き出して、その場に崩れ落ちた)
艦娘(周りの何も気にしないまま、大泣きして。誰かが優しく頭を撫でてくれて、泣き止むまで待ってくれた)
艦娘(そこにいたのは――――艦娘だった)
長門「大丈夫か? 子供がこんな所で泣いているなんて」
艦娘「ここの…提督はどこにいるの…ここにいる筈なのに…」
長門「!」
艦娘「手紙を出しても。帰ってこなくて…電話も通じなくて…それでっ…!」
長門「………君は、提督の…」
艦娘「私は……私はっ、提督の妻です! 彼の妻です!」
艦娘(そう叫んだ時、彼女の顔がはっと曇ったのを覚えている)
艦娘(でも彼女も艦娘だった。震える手で、何かを探り出したのだ)
長門「君が……提督の妻か……」
長門「君に渡すように言われていたものがあるんだ」
艦娘(差し出されたのは、一つの封筒。中に入っていたのは、短い手紙と、彼がいつも付けていた眼帯)
艦娘(短い手紙には「すまない」と書かれていた。それだけだった)
長門「………提督から、全艦に出撃命令が出されたんだ。普通はまずないことだった」
艦娘(私と目線を合わせるように、瓦礫の山に膝をついた彼女は語りだした)
長門「敵の大規模艦隊が来ている。別の鎮守府に増援部隊として行って欲しい。本来は支援要員の明石や間宮さんにまでついていけというんだ」
長門「思えば、この時点で問いただしていればよかったかも知れない。旗艦を任された私に、この封筒が入った別の封筒を渡されたんだ。任務が終わるまで開けるな、と」
長門「……私はただの命令書だろう。そう思っていた。向こうに迷惑をかけないように、と多くの資源まで満載させられて、警備すら残さず全艦が出航した」
長門「確かに大規模艦隊は着ていた。それも。千近い数だった。だが、目標はその別の鎮守府じゃない――――ここだったんだ」
艦娘「……」
長門「私達の本来の任務はそれを迎撃して少しでも数を減らすことだった……とてもじゃないが、相手の数が圧倒的すぎた……」
長門「提督は……私達に偽の命令を出して…私達を守ったんだ…そして少しでも敵を減らす為に」
長門「恐らく、敵をひきつけて自爆したのだろう。凄まじい爆発で、遠くからも見えていたそうだ」
艦娘「提督は。いつまでも…艦娘の味方…だから……」
艦娘「その身を挺して、あなた達を守った」
艦娘(今すぐ殴り倒したい気分だった。どれだけすまなそうに語ろうと、彼女は恩人を、私の夫を見殺しにしたのだ)
艦娘(だけど同時に、彼の言葉が浮かんだ。彼がいかに艦娘達を守ろうとしていたか。そして彼女達もまた)
艦娘(私と同じ、人間である事を。私は知っていた)
長門「罵ってくれてもいい。殴っても構わない。恨んだっていい」
長門「……私達は提督に感謝している……」
艦娘(涙を流す彼女の姿を見て、私は自然と彼女を慰めるように抱きしめていた)
艦娘「恨むことなんて出来ない……あなた達は私達を守ろうとした…」
艦娘「提督はあなた達を守る存在だから……」
艦娘「あなた達も私達と同じ、だから……」
艦娘(だからこの時、決意したのだ)
艦娘「――――私も、あなた達のように戦う! 今度は、私が守る!」
艦娘(それが、私が艦娘になった理由)
艦娘(自慢の長い髪を切った。弱さも、全て置いて行く事にした)
艦娘(彼が遺した眼帯は―――今もなお、私の右目にある。彼と同じように)
艦娘(これだけを外す訳には行かないのだから)
現在 墓地
天龍「俺も随分背ぇ伸びただろ? 今じゃ、俺がガキ共を肩車してるよ」
天龍(あれから背も伸びた。まだまだ男の彼ほどとは程遠いが、それでも女の子としては大きい方だろう)
天龍(艦娘としては軽巡洋艦だからさして大きいサイズじゃないけど)
天龍「アンタの好きだった煙草って、年々見かけなくなっちまってるよ。探すのには苦労するしよ」
天龍「ほら、好きだっただろ? ま、俺も大人になったけど、この味はわかんねぇよ」
天龍(なにより、吸おうものなら提督といい龍田といいガキ共といい凄くやかましいし)
天龍「ガキって言うなよな。アンタからみりゃ、まだまだガキかも知れねぇけど……」
天龍「……提督が艦娘を守ろうとするのって、艦娘になった今なら充分わかんだ」
天龍「俺の所の提督、中破したら即撤退だぜ? おいおい、1艦だけしか中破してねぇぞ? みたいな」
天龍「優しいよな。あははは。アンタがどうだったかは知らねぇけど、たぶんこんなもんじゃないかな?」
天龍「ま、本当はさ。俺は……死ぬまで戦いたいってのが本音なんだ」
天龍(そう、これは、紛れも無い本心だ。きっと、偽りのない本音だ)
天龍「バカな事言うなって言われるかも知れねぇ。でも……アンタがそうだったように」
天龍「俺は俺の命を賭けてでも、守りたいものを守りたい。その為に戦う」
天龍「死んだら元も子もねぇけど、それでも…アンタが艦娘達を守ったように」
天龍「龍田も、ガキ共も、皆も、提督も、俺は守りたい。その為に死んだっていい」
天龍「俺は艦娘だ。艦娘として、皆を守りたい……」
天龍「……しみったれた話しちまった…俺らしくねぇ。今の俺はこんな感じさ」
天龍「また、会いに来るからな」
天龍(今はもう、いつでも会えるんだから)
再開するよー
次はちょっと意外な娘の話
艦娘(本当に子供だった頃、新しい自転車を買ってもらった翌日)
艦娘(早くも自転車を壊した。急な坂道をブレーキ無しで駆け下りて、速度を出しすぎて転倒したからだ)
艦娘(その頃から私はスピードの魔翌力に執り付かれていたのだろう)
艦娘(早い事って最高だ。だから私は早いことに拘っていた)
艦娘(そんな事もあったのだろうか。なんだって早かった。足も早いし、勉強だって早い)
艦娘(そう、その勉強の早さのお陰か、飛び級に飛び級を重ねた)
艦娘(だから同年代の友達なんていなかったし、ずっと年上のクラスメイト達とも馴染めなかった)
艦娘(でも早いことだけを考えていた私はそんな事を気にしなくて、早い事だけに拘っていた)
艦娘(そんな私の元へ、一つの苦難がやってきた)
艦娘「しゅう…しょく?」
艦娘(飛び級しすぎて10代の前半にも関わらず、大学まで卒業しかかった私に就職の波が押し寄せてきた)
艦娘(かといって、いくら天才児いえども所詮は子供。経験も無ければ体力がある筈も無い。何より、私は早い事が好きなだけ)
艦娘(だから早いことに拘りたい私は、エンジン開発なんかしてみたい、と希望を出して就職活動を始めた)
艦娘(私にとっての、苦難の日々の始まりだった)
レースチームの整備員「腕前見て欲しいって言われて、持ってこられたエンジンなんだけどね」
艦娘「自信作です」
レースチームの整備員「ぶっちゃけさあ、燃費が酷いんだよねぇ」
艦娘「……」
レースチームの整備員「確かに早いよ。最高速度もいい。加速力だって確かにすごい」
レースチームの整備員「だけどさ、これ、うちのレースチームで使おうにもさ、燃料タンクを3倍にしないといけないのよね」
レースチームの整備員「今さ、燃料の輸入もだいぶ軍優先になってきてるからさ、燃料の規定とかも決まってるのね。うん」
艦娘「じゃ、じゃあ…」
レースチームの整備員「うん。そういうことだから。もう少し勉強しなよ。うん」
艦娘(見事に落とされたのは悔しくて、新しいエンジンを造りながら、別の企業の門戸を叩いた)
艦娘「どうでしょうか」
エンジン開発者「このエンジンは出来損ないだ。使えないよ」
艦娘「ええっ! まだ見ただけですよ!?」
エンジン開発者「なにって、君……。どう見てもパワー重視にしか見えない造り方だよ。その分燃料を使うだろう?」
艦娘「で、でもパワーが必要な車だって……」
エンジン開発者「ああ、確かにあるとも。だけどそれは限られた用途だ。これはその規格にあっていない」
エンジン開発者「なによりこれだけパワーがあれば、それを制御するまでに人はどれだけの練習を要すると思うんだい?」
艦娘「………」
艦娘(話にならなかった。その日は泣きながら帰って、もう一度次のエンジンを造った)
艦娘(ならばその限られた用途で生きる他は無かった。そしてもう一つ、軍に燃料が優先されるというのならば)
艦娘(その制限が無い軍用車両向けに走ることにしたのだ)
陸軍の開発者「新型のジープやトラック向けのエンジン、ですか」
艦娘「はい。これだけのパワーがあれば、どんな不整地でも走りぬく事が出来ます」
陸軍の開発者「問題はこれが使えるかどうか、という事だよ」
艦娘「…何故です?」
陸軍の開発者「我が国の国土は車が入っていけないような場所ならばヘリを使う。時には人力も使う」
陸軍の開発者「それに…トラックやジープは新型を納入したばかりだ。次の更新は未定なのだよ」
艦娘「……」
陸軍の開発者「データを見せてもらったが…現行の新型よりも燃費も良くない。シーレーンがズタズタにされている以上、燃料も難しい」
艦娘(敵は海から来ている。それで燃料が無いという大事な事を、私は失念していた)
陸軍の開発者「だが腕前はいいようだ。どうだろう、整備兵として働かないか?」
艦娘(疲れ果てていた。もう、疲れ果てていたのだ)
艦娘(私はそれに頷いて、陸軍の整備兵として働き始めた)
艦娘(今も時々思い出すが、その頃の私はエンジン開発が出来ない悔しいという思いと、規格にあわさせられて自由に出来ない辛いという思いに挟まれた)
艦娘(悔しい、辛い、という思いが渦巻いていた頃、ふと近くを通り過ぎる子供を見た)
艦娘(友達もいる、楽しそうな同年代の女の子。好きな事をして、楽しい事をして)
艦娘(それがとても羨ましかった。自分は友達も行き先も無くて、やりたいこともできないのに)
艦娘(そんなある日の出来事だった)
整備兵A「なに? うちの輸送船が海軍の鎮守府に?」
整備兵B「物資輸送とか、航空隊の整備要員を乗せたいんだと」
整備兵A「けっ! ちゃんと輸送されてるかどうかも心配だぜ。こっちには全然資源がこねぇんだから」
整備兵B「ああ。だから送るのはアイツだ。何度も攻撃受けて、殆ど役にも立たないあいつだよ」
整備兵A「ああ、あきつ丸か」
艦娘「……」
整備兵B「未だに倉庫の奥で膝でも抱えてるんだろ」
艦娘(整備兵として長く勤務していたが、そのあきつ丸なる存在を見た事が無かった)
艦娘(そして私は、倉庫の奥で膝を抱える一人の少女を見つけた)
あきつ丸「どなたでしょうか」
艦娘「整備兵よ」
あきつ丸「私に何か用ですか」
艦娘(初めて見た彼女は、想像を絶するほどボロボロだった)
艦娘(知識として、艦娘という存在を知っていたが、見るのは初めてだった。厳密には違う系統だが)
艦娘「あなたが海軍の鎮守府に貸し出されるらしいわ」
あきつ丸「そうでありますか。ここではお役御免という事でありますか」
艦娘「……酷いわね。このまま貸し出しても、向こうで働けないわよ」
あきつ丸「仕方ないであります。私は役立たずであります」
艦娘「役立たずって」
あきつ丸「燃料喰いで航空機も乗せられず、ついでに装甲も薄いであります」
あきつ丸「限界まで荷物を積んで輸送船としての任を果たそうにも、戦う術もあまり無いであります」
艦娘(淡々と語る彼女に、どこか虚しさを感じた)
艦娘(艦娘として生まれても、役に立てなければ意味が無い。彼女はそう思っていた)
艦娘「………陸軍がどう言ったかは知らないけれど、海軍ではどういわれるかまだ解らないでしょ」
艦娘(だから私はこう答えた。彼女は無表情のままそう言葉を綴る彼女を内緒で工廠まで引っ張る事にした)
あきつ丸「なにをするでありますか」
艦娘「海軍に送り出すにしても、そのまんまじゃ大恥かくだけよ。満足に性能も出せないでしょう」
あきつ丸「しかし……」
艦娘「あっちで役に立つか立たないかは、あっちが決めることよ。ここで決まってることじゃない」
艦娘(命令違反を承知で、私はあきつ丸を勝手に修理し、あまつさえ勝手に改造まで行った)
艦娘(少なくない鋼材が使われ、ついでにボーキサイトと弾薬までちょろまかして)
艦娘(もともと数日しか期限の無い、しかも他人の目を盗んでの突貫作業)
艦娘(エンジン開発とは程遠いそれが何故か楽しくなっていた。そう、何かを作る事そのものが楽しかったのだ、と私は気付いたのだ)
艦娘(エンジン開発が一番わかりやすかっただけなのかも知れない)
艦娘(調子に乗った私は装備の開発まで行い、彼女に載せた。役に立つか立たないかは向こうが決める、とあきつ丸もこの頃には理解したようだった)
艦娘(受け取りに来た海軍の関係者は何度もお礼を行ってあきつ丸と共に行った。そして、当然のように私の行為はバレた)
艦娘(貴重な資源を無断借用した、しかも海軍に送り出す船を陸軍の資源で治しちゃったものだから大変だ)
艦娘(何日も及ぶ尋問、殴る蹴るの暴行も当たり前の数日が過ぎた後、軍法会議にかけられ、刑務所送りになった)
艦娘(幼い女の子が刑務所送りになるなんて奇妙かも知れないが、実際そうだったのだ。多くの大人に混じって、牢屋に入れられた)
艦娘(たった一度の衝動の結末が、牢屋送り)
艦娘(だけど、あきつ丸の改造が楽しかった、という事だけは覚えていた)
艦娘(こんな私の元に、転機が降って来たのはわずか数日後)
収監から数日後
看守「あー。お前に面会が来てるぞー」
海軍の開発者「どうも」
海軍の開発者「あきつ丸を改造して、ついでに装備も開発したとか! 陸軍の整備兵が? こんな子供が?」
海軍の関係者「うちで働かないかね?」
艦娘(同じ事の二の舞はゴメンだ、と私はその申し出を断った)
艦娘(ところが、彼は再びやってきた)
海軍の開発者「エンジン開発がしたいそうじゃないか? 艦娘の為の…タービンの開発者を探している」
海軍の開発者「とにかく早いものが欲しい」
艦娘「……!」
艦娘(あまりにも魅力的すぎる言葉だった)
艦娘「でも、私は…エンジンが作りたい…」
海軍の関係者「うむ。だが、君はまだ若い。勉強するという意味でも、タービンを作ってみてくれないか?」
海軍の開発者「君の家にあった、昔作ったエンジンを見せてもらった。あれを、船の為に活かしてくれないか?」
艦娘「………私は…」
艦娘(一筋の、光のように見えた)
艦娘「…お願いします…」
海軍の開発者「そうと決まれば早速出所だ!」
艦娘(そしてそのまま海軍の工廠へと連れられた。牢屋にいなくて済む、という思いと、早いものが作れる、という思いでいっぱいだった)
艦娘(何故新型タービンを欲していたのか。その理由は、到着してすぐわかった)
海軍工廠
先代島風「おっそーい! こんなタービンじゃおっそーいよ!」
艦娘「あの子は?」
海軍の開発者「ああ。新型タービンを載せるための、駆逐艦娘だよ。最新型のな」
艦娘「すると、私が作るのは…」
海軍の開発者「彼女の為のタービンだ。彼女が納得できるレベルを、な」
先代島風「なになに? なにこの小さいの」
海軍の開発者「君の新型タービンの開発担当だ」
先代島風「ふーん。かけっこ好き?」
艦娘「早いのは好きよ」
先代島風「そうなんだー。よろしくねー」
艦娘(そして私は彼女の為に新型タービン開発に全力を注ぐことになった)
艦娘(ある意味、私にとって深海棲艦と戦う以上の戦いだった)
先代島風「ちょっとこれどういうことー!」
艦娘「むしろこっちが聞きたいけど。どうしたの?」
先代島風「全然速くならない! 最高速度は確かに早いほうだけど、加速するのがおっそーい!」
艦娘「はあ? ただ単にパワーが溜まるまで時間がかかるでしょ、そういうものよ」
先代島風「深海棲艦は待ってくれないもーん! やり直しー!」がっしゃーん
艦娘「ああっ! じ、自信作になんてことを! なにをするきさまー!」
先代島風「へっへーんだ!」
艦娘「新型できたわよ!」
先代島風「ちょっ! これっ、重すぎ…風になれない!」
艦娘「加速性上げる為にちょっとパワーを求めたら大型になったのよねー。でも駆逐艦につめるサイズで…」
先代島風「こんなんじゃダメー! もっと軽いの!」がっしゃーん
艦娘「な、なにをするきさまー!」
艦娘(ほぼ毎日のように彼女と喧嘩をしていた。理由は全部タービンの事で、だ)
艦娘(でも、どこか嬉しかった。私の作るものが、必要とされてる。そして、全力でぶつかりあうことが)
艦娘(とても嬉しかった。私も彼女も、速さを求めていたから。その速さを求めるという点では、一緒だった)
先代島風「…ねぇ」
艦娘「なに?」
艦娘(そんなある日、彼女が神妙な顔で私を呼んだ)
先代島風「来週、大きな作戦があるの。それまでに、新しいのを造って」
艦娘「最高に早いのを?」
先代島風「うん」
艦娘(時間は残りわずか。そこで私は全力投入した)
艦娘(彼女に友情なようなものを感じていたのも、理由の一つだろう)
艦娘(徹夜が続いた。不眠不休の開発と、テストの繰り返し)
艦娘(そしてついに当日の朝になって、それは完成した)
先代島風「テストしてる暇なんてないよー! そのままいく!」
当時の提督「旗艦の無事を祈る!」
艦娘(見送った後は、祈るしか出来ない。私は工廠へと戻った)
艦娘(その時になって、私は信じられないものを見つけてしまった。冷却装置のパーツが、一個だけ残っていたのだ)
艦娘(取り付けたはずのそのパーツ。だが、早朝辺りに調整した時に外して、そのままにしてしまった)
艦娘(痛恨のミスだった。私はパーツを抱えて慌てて港に戻った。しかし、既に出航した後)
艦娘「提督!」
当時の提督「なにかな?」
艦娘(私はすぐにその事を白状した。包み隠さず、白状した)
艦娘(提督は全てを聞き終えた後、「わかった」とだけ答えて私に自室に戻るように言った)
艦娘(最後の最後で、私は台無しにした。針のむしろに座った気分だった)
艦娘(何時間もの時間が経った後、今度は入渠所が騒がしくなった。艦隊の帰投だった)
艦娘(そして、怒り心頭の駆逐艦娘が何人もやってきて、私を部屋から引きずり出した)
艦娘(最悪の事態が起こった事を悟った。冷却装置のパーツを忘れたタービンは、彼女にとって満足すぎる最高速度を出したまでは良かった)
艦娘(だが、最終的には耐え切れずに爆発してしまい、彼女は大破した。二度と艦娘としては復帰できないほど、酷いダメージだった)
先代島風「おっ! 来た来た!」
艦娘(彼女の前で、私は必死に頭を下げた。パーツを忘れた事を、何度も何度も謝った)
先代島風「あー、そうだったのかー。だから熱かったんだ。だけど……」
先代島風「すごい速かったよ? あのレ級の動きに先回りできたんだ! 今まで、誰も追いつけなかったのにねー」
先代島風「すごく早くて、もう満足したよ。充分過ぎる程!」
艦娘(彼女は…笑っていた。私の新型タービンの凄さを、強く語り、自らの戦果を誇らしく思っていた)
艦娘「でも…でも、あんた…」
先代島風「ん? なに泣いてるの?」
艦娘「だって…だって…あたしが、あんなミスしなければ……」
先代島風「早いことに、命賭けてる」
先代島風「そしてそれに答えられた。それだけだよ。それに、今まで誰も追いつけなかったレ級を追い越せた。もう、満足だよ」
先代島風「これで作戦が失敗してたら怒ってたと思う。でも、作戦は成功したし、なによりも性能はすごかった! 怒ることなんてないよ」
艦娘「気にして…ないの? もう…艦娘には、なれないのに…?」
先代島風「充分過ぎる程、早いからね」
艦娘(涙がこぼれた。彼女は、早いことに命を賭けた、という意味を理解した)
艦娘(彼女は、本当に早いのが好きだったのだ。私と同じように)
艦娘(だから、私は…)
艦娘「いいわ」
艦娘(涙を拭って。少しでも彼女に報いようと。少しでも彼女に近づくことを、決めた)
艦娘「あたしは、それより先に行く」
先代島風「どゆこと?」
艦娘「もっと早い、速度を出してみせるわ―――あなたと同じ、艦娘として!」
艦娘(彼女は二度と艦娘として戻れなくなってしまった責任を取る為でもあった)
艦娘(彼女と同じフィールドで、それ以上に早い世界にたどり着くこと。それが私の艦娘になった理由)
艦娘(そして彼女以上の戦果を、私は挙げる。その為に、闘い続ける。艦娘として!)
現在 鎮守府
ディーラー「オーライ、オーライ…この余裕たっぷりのガレージなら入るね。まあ、これが入庫第1号なのかな?」
雷「わ、見てみて! すごい大きなバイク!」
響「新しくガレージが出来て、みんなの趣味のものを置いてもいいと通達が出たけど…いきなりこれはすごいな」
電「はわわわ、まるでおばけみたいなのです」
暁「きっと長門さんとか陸奥さんみたいな大人のレディーが乗るのよ!」
長門「いや? 私はこういうのには疎いが…確かに大きいな。ビッグ7に名を連ねそうだ」
陸奥「私のでも無いわ。大和にはそんな趣味なさそうだし…武蔵か、それとも伊勢とか?」
武蔵「私は違うぞ。大型二輪を持ってないしな。空母組みの誰かじゃないか?」
加賀「朝から騒がしいですね。何の騒ぎですか?」
島風「あれはすごい早いバイクなんだよー! 乗りたーい!」
天津風「ダメよ、勝手に触ろうとしちゃ! 確かに早そうだけど…」
加賀「バイクですか。誰のですか? 戦艦娘か、重巡の誰か?」
摩耶「そこでなんで俺を見るんだよ。俺じゃないって」
吹雪「え? 摩耶さんでもないって…じゃあ、こんな大型バイク、誰の?」
叢雲「私のよ」
武蔵「ふぁっ!?」
吹雪「へっ!?」
摩耶「え?」
叢雲「なに、おかしいかしら? ああ、どうもね」
ディーラー「一台確かに届けたよー」
叢雲「燃料は入ってるのよね?」
ディーラー「まあねー。そんなにたくさんは無いけど、ひとっ走りするにはいいかなー」
叢雲「ありがとう。カスタムパーツは別で届けてくれればいいわ」
ディーラー「…試運転するの?」
叢雲「まあね」
島風「いいなーいいなーわたしも乗りたいー」グイグイ
天津風「ちょっと島風やめなさい! 叢雲さん困ってるでしょ!」
雪風「そうですよ二人乗りは危ないですからー!」
叢雲「別にいいわよ」
天津風「へ?」
島風「やった!」
叢雲「でも、その格好じゃ危ないから長袖長ズボンに替えてきなさい。鳳翔さんにでも頼めば出してくれるでしょ」
島風「えー。このままの方が風を感じるもん」
叢雲「ダメよ。二人乗りは結構大変なの。さっさと行ってきなさい」
島風「はーい…」とたた
ディーラー「いつの時代の、早いのが一番は変わらないのかな?」
叢雲「……そうね。少なくとも、アンタの魂は、あの子にもあると思うわ」
ディーラー「ふふっ。確かに。でも、肝心の君は速度の方は…」
叢雲「ほっときなさいよ。そのうちこれを幾らでも改造してやるわ」
ディーラー「まあねー。パーツの調達は任せて」
摩耶「それにしてもすげーよなー。こんな大型バイク一度でいいから乗ってみたいってーか」
不知火「朝から騒がしい理由はこれですか。この鉄の塊は」
熊野「不知火さんは粗野ですわねぇ。こんな素敵なバイクそうそうお目にかかれませんわ」
不知火「そういうものでしょうか…あ」グラッ
ガターン!
摩耶「ギャー! 不知火が早くも下敷きにー!」
不知火「し、不知火に…なにか…落ち度でも…」
熊野「あわわわわ! は、早く助けませんと!」
叢雲「ちょっとアンタ達! アタシの新車になんて事してくれてんのよ! 酸素魚雷ぶち込むわよ!」
ギャーギャーワーワー
叢雲(まったく…でも)
叢雲(速度の世界は、いいものね)
島風「お待たせー!」
叢雲(少なくとも、速さの世界の中で命を賭けられるのは――――艦娘でも、あるのね)
第2話投下でごんす
夕張かと思ったと思うけど叢雲ちゃんは私の嫁です
さて、次は誰で書くか…
艦娘(子供の頃、戦う男達の映画を見るのが好きだった)
艦娘(具体的に言うとマッチョな男が出てくる映画だ。バズーカを撃っていたり或いはボクシングだったり)
艦娘(ついでにサイボーグな映画もあった。4以外は大好きだ)
艦娘(そんな男達に憧れた私は、身体を鍛えることから始めた。武術の道場に通ったりして、男として振舞っていた)
艦娘(そう、その当時は男勝りな性格で、喧嘩だって派手にしていたのだ)
艦娘(山があって、海に囲まれた、小さな離島。そこが私の故郷で、そこら中が遊び場で、そこら中が喧嘩の場所だった)
悪ガキ「なんだよー! おとこおんなー!」
艦娘「うるせー! いいから帽子返せよ! オレの帽子ー!」
悪ガキ「拾ったんだもーん!」
艦娘「オレがお寺で落としちまった奴だよ! 返せー!」
悪ガキ「と、取り返して見やがれ!」
艦娘「なにをー!」
艦娘(と、まあこんな感じで好き放題に暴れまわっていた。帽子は取り返せたがこっちも傷だらけになった)
艦娘「いちち……」
姉「なんだー? また喧嘩してきたのかお前?」
艦娘(私には一人、姉がいた。姉といっても凄く年が離れていて、私が物心つく頃には既に成人していた人だ)
艦娘(姉は私と違って身体を動かすのを面倒くさいと感じる人だった。具体的に言うと望月や初雪といい勝負のダウナーだ)
艦娘(少なくとも私の知っている姉の姿は、家業の雑貨屋の店番…をしている振りをしていつも昼寝しているぐらい姿ばかりだ)
艦娘「だって、アイツらがオレの帽子取ったんだもん」
姉「まったく、少しは女の子らしい言葉遣いをしたらどうだ? そんなんだから友達が少ないんだぞ」
艦娘「と、友達少ないは関係ねーし!」
艦娘(友達が少ないのは本当だ。女子には怖がられるし、男子には噛み付かれるしでご覧の通りだ)
姉「まったくお前はこんなに傷だらけになって…」
艦娘「だけどアイツら倒してやったぜ! オレ、強いし!」
姉「あほ」ぺしっ
艦娘(姉は心底呆れた口調で私をひっぱたく。喧嘩をする度にやられることだ)
姉「いいか。強さってなんだ?」
艦娘「負けなくて、カッコよくて、それで泣かないこと」
姉「あほ」ぺしっ
艦娘「な、なにすんだよー!」
姉「よく聞け。強さってのはな、別に負けないことじゃないんだ。お前みたいに誰彼構わず喧嘩して、相手を泣かせてることじゃねぇよ」
艦娘「じゃあ、なにさ」
姉「大切なものを守る為の力。それが強さだ」
艦娘(いつもは目が死んでいる姉が、どこか強い目でそう告げたのを、曖昧に覚えている)
艦娘「ぼ、帽子だって大切だよ! 父ちゃんにもらった、大事な帽子だ!」
姉「まあ、それもそうだろうな。けど、それだけじゃ強いとは言えない。お前、本当に強くなる為に道場通ってるんだろ?」
艦娘「そりゃ、そうだけど」
姉「先生は喧嘩したら怒るだろ?」
艦娘「うん…」
姉「どうして怒るのかって事を、先生に聞いて来い。話の続きはそれからだ」
艦娘「むー…姉ちゃん意地悪言うー!」
姉「意地悪じゃない。まったく、お前はどうして短気なんだ…」
艦娘(結局、道場の先生に聞いても。姉ちゃんと同じような答えを返された)
艦娘(本当の強さってなんだろう。私はそれが解らないまま、ただ鍛錬を繰り返して、マッチョな男の映画を見ていた)
艦娘(ジョッキに生卵を幾つも入れて飲むのをやっていたら母親に背負い投げされたのは恥ずかしい記憶だ)
艦娘(ただ鍛錬に打ち込む姿の私は、同年代の子供達にとって奇特に映った。かつて幾度も喧嘩した悪ガキ達は私を見れば避けるほど)
艦娘(大切なものを守るとは何なのか、本当の強さとは何なのか。私は解らないまま、ただ無心にトレーニングに励んだ)
艦娘(こんな小さな島で、それを披露する場所なんてどこにもないというのに。滝に打たれたりもしていた)
艦娘(そんな、ある日の事だった)
漁師A「みんな逃げろー! 海からアレが来たぞー!」
漁師B「山だー! 山に逃げるんだー!」
艦娘「なんの騒ぎ?」
艦娘(大人たちが海から来る何かに怯えて、逃げ回っていた)
艦娘(津波ならば逃げなくては、と思ったが海の様子を見ても津波が来る様子は無い)
艦娘(ではいったい何が来たのか。何が海から来たのか)
漁師C「深海棲艦だー! 逃げろ、逃げろー!」
主婦「そんな! 夫がまだ漁から帰ってきてないのよ!」
漁師B「ダメだ、ゴローさんの船が襲われるの、俺は見たんだ。助からねぇ!」
主婦「うう…」
漁師A「逃げるんだ! 皆食われちまうぞ!」
姉「んあ…? 深海棲艦!? なんでここに…」
艦娘(姉が現れたのは偶然だった)
姉「海軍に電話したのか!?」
漁師D「かけはしたけど、到着するまで相当かかっちまうぞ!」
姉「クソッ……なにもできねぇのかよ……! 誰か船を貸してくれ! アタシが鎮守府まで行けば!」
漁師E「バカを言うな! アンタは今、何も持ってないんだぞ! たった数体だって、相手は深海棲艦なんだ!」
艦娘(何を話しているか解らないが、何か恐ろしいものが海から襲来したのだという事だけは解った)
艦娘(本当の強さについて語っていたあの姉が、悔しそうにしていた)
艦娘(腕っ節が自慢の漁師たちがどうにもならねぇと涙を流していた)
艦娘(山へ山へと、逃げ惑う人たち。それらを見ていると)
艦娘(誰も強さなんて持っていない――――そう、思ってしまった)
艦娘「よし!」
艦娘(幼い私は山を駆け下りて、港に戻った。その怪物がなんなのか、だったら倒してやろうじゃないか。そんな気持ちだった)
駆逐イ級「……ギギ?」
艦娘(そして私は、初めて深海棲艦を見た)
艦娘(第一印象は魚のバケモノ。小型の漁船ぐらいの大きさはあるそれが、歯をむき出して、目を光らせてこっちを見ていた)
艦娘「うおおおおっ!!!」
艦娘(私の戦いが、始まった)
艦娘(尻尾による打撃で、背中から壁に叩きつけられ)
艦娘(砲撃は直撃こそ避けても、爆風までは避けきれずに傷が次々とついて)
艦娘(噛み付きを避けても、体当たりの質量までは避けきれずにその重量で骨が折れた)
艦娘(反撃の拳を叩き込んでも、鍛錬してきた蹴りを叩き込んでもびくともしない)
艦娘(だが、痛みを感じる度に、一撃を浴びせる度に)
艦娘(戦っているという実感が沸いていた。そう、戦っているという思いが、私を動かしていた)
艦娘(強さではない。戦う事を求めていたのかも知れない)
艦娘(一対一での戦いに、私は時間を忘れた)
艦娘(指が折れて、アバラも折れて、歯も欠けて、腫れ上がった顔で視界もままならなくて)
艦娘(それでも、数体いた中の1体だけ、私は足止めすることに成功していた)
艦娘(そして私は身体を動かし続けていた。その痛みが止められなかった)
艦娘(痛みだ―――痛みだ――――)
艦娘(そこへ――――――)
陸奥「敵艦発見! 全砲門、開け!」
駆逐イ級「ギギ!?」
陸奥「選り取りみどりね。このーっ!」
艦娘(私の宿敵は、駆けつけてきた艦娘の砲撃一発に沈んだ)
艦娘(たった数体の深海棲艦の襲撃は、救助に来た艦娘によってあっさりと撃退されたのだった。同じく数体の艦娘に)
陸奥「……君、大丈夫?」
艦娘(すごい、とか。羨ましい、とか。そういうものでなくて、ただ私が思ったことは――強い、だった)
艦娘(それが、私が見た艦娘の印象だった)
陸奥「君、逃げ遅れたの?」
艦娘「違ぇよ。戦ってたんだ」
陸奥「戦ってた? 君が?」
艦娘「もちろん」
陸奥「………それで、こんな怪我を……」
陸奥「ま、とにかく親を探しに行かないとねー」
艦娘(彼女に半ば連れられる形で、集落の方に戻ると。姉が凄まじい顔をしていた)
姉「おま…どこに行ってた! あれ?」
陸奥「やっほー。お久しぶり。この子、すごいのよ。駆逐イ級相手に装備も無しで戦ってたのよ?」
陸奥「さっすが。あんたの妹ねー」
艦娘(この時、私は艦娘という存在を知った。そして、同時に)
艦娘(姉が元艦娘だったという事を知った。だからこそ、深海棲艦というものについて知っていたのだ)
姉「……おい」
艦娘「なんだよ」
姉「この大馬鹿!」
艦娘(姉に殴られたのは、初めてだった)
姉「なんでこんな無茶をした! 答えろ! どうしてだ! お前は死んでたかも知れないんだぞ!」
艦娘「違うし! 見出したんだよ!」
姉「あ?」
艦娘「俺は強さじゃない、戦う事を、求めて」
艦娘(最後まで紡がないうちに再び拳骨が飛んできた)
陸奥「ちょ、やめなって! その子、歯ぁ折れちゃってる!」
姉「もうお前という奴は! 倉庫にでも閉じ込めてたほうがマシだ!」
艦娘(姉の怒りは凄まじかった。傷が治るなり、本当に私を倉庫に閉じ込めたのだ)
艦娘(俗に言う座敷牢という奴だ。トレーニング器具も没収されてしまった)
艦娘「どうしてなんだ」
姉「あれはただの無謀だ」
艦娘「無謀…じゃない。あれは」
姉「深海棲艦は! ちょっとやそっとじゃ倒せない怪物なんだ! お前なんかが太刀打ちできる相手じゃない!」
艦娘(だけど、姉が元艦娘だったという事を知ってしまった私はこう返した)
艦娘「でも姉ちゃんは、戦ってたじゃないか!」
艦娘「姉ちゃんは戦ってたんだろ!」
姉「装備があって、それで訓練を受けて……って、色々あったんだよ」
艦娘「なにがあったんだよ」
姉「お前は知る事じゃない! とにかく、もう二度とあんな真似はするな」
艦娘「また襲ってきたらどうするの?」
艦娘(私の問いかけに、姉は黙り込んだ)
艦娘「深海棲艦は、海から来るんでしょ? いつ来るかも解らない」
姉「…艦娘でしか戦えない…そういうもんなんだ」
艦娘「なら、俺は」
姉「ダメだ!」
艦娘「どうして!」
姉「お前は艦娘には向いてない。もう寝ろ。この話は終わりだ」
艦娘(どうして姉がそう告げるのか解らなかった)
艦娘(戦いたい、という気持ちが私を動かしてた。そう、私は深海棲艦と戦いたいのだ)
艦娘「俺は……艦娘になりたい!」
艦娘(何日も何日も、何度も何度も)
艦娘(声が涸れて、唇が裂けて、扉や窓を外そうとして手が血豆だらけになって)
艦娘(ある日の深夜。姉がやってきた)
姉「起きろ」
艦娘「…姉ちゃん」
姉「お前、本当に艦娘になりたいのか?」
艦娘「ああ」
姉「いいか、よく聞け。お前にずっと言わなかった…正確には」
姉「本当はお前が見つけ出すものなんだけどな。それでも、艦娘になるには、本当の強さが必要だ」
艦娘「本当の、強さ」
姉「ああ。前にも言った。大切なものを守る強さってのは、一つの一例だ」
姉「本当の強さは、折れない心だ」
艦娘(姉はそう言って、目線を少しだけ伏せた)
姉「私が艦娘をやめた理由は、その心が折れちまった事だよ。辛い事がありすぎた」
姉「いいか、忘れるな。艦娘になるって事は、ただ深海棲艦と戦って、勝って、それで終わりじゃないんだ」
姉「そこにある全てを忘れるな。戦場だけじゃない、全てに関わって、全てに責任があるって事だ」
姉「たとえどんなに辛くても、どんなに痛くても」
姉「艦娘であるなら、決して折れるな。そしてもう一つだ――――やるべき時には躊躇うな。進むべき時に進む事が、強さの条件だ」
艦娘(姉の言葉一つ一つが、重かった)
艦娘(家でダラダラしている姉の姿とは違う、かつて艦娘だった。戦士だった姉の姿)
艦娘(胸に刻み付けた言葉がある)
艦娘(やるべき時には躊躇うな。進むべき時に進む事が、強さの条件)
艦娘(戦う事だけを目的としそうになった私を導いた、本当の強さの言葉だ)
姉「もう皆寝てる。今のうちに行け。荷物と、紹介状、書いてあるから」
艦娘「あ、あんがと」
姉「それともう一つ。もうちょっと女の子らしい言葉遣いにしろ。俺なんて言葉はやめとけ」
姉「仲間からも怖がられちゃ、話にもならないからな」
艦娘「…わかった」
姉「……じゃあな」
艦娘(深夜の、たった一人だけの見送りだった)
艦娘(姉は私の姿が見えなくなるまで、きっと敬礼を続けていただろう。振り返らなくても解ったのだ)
艦娘(艦娘になると決めた。戦士となる事を決めた私に、迷いは無い)
艦娘(そう、折れない心を持って。本当の強さを手にするその日まで)
鎮守府 食堂
若葉「――――と、いうわけなんだ」
陽炎「ねぇ、ちょっといい?」
若葉「なんだ?」
陽炎「たしか私達、百物語をやってるのよね?」
若葉「ああ」
陽炎「百物語の趣旨、わかってる?」
如月「それでなんで若葉ちゃんの昔話聞かされたのかしら…?」
電「で、でも怖い話ではないのです。とてもいい話だったのです」
暁「い、痛い話ではあったけど…指が…指が…」
深雪「でも確かに若葉ってアクション映画とかやたら詳しかったよな」
長月「今度トレーニングについて聞かせてくれ」
若葉「了解した」
陽炎「いや、だから百物語…」
電「つ、次の話はもう聞きたくないのです! 一度怖くない話を聞いてしまうと怖いのはいやなのです!」
暁「ふ、ふん! あ、暁はレディだから怪談なんて怖くもなんともないのよ!」
若葉(まあ、でも艦娘になって解ったことや、得たものはたくさんある)
曙「で、次は誰が話すのよ?」
電「だから嫌なのです!」
若葉「電」
電「へ?」
若葉「たとえお化けが出ても構わないさ。私が守ろう」
巻雲「次は巻雲が話す番です! 鎮守府の裏の…」
電「ひいっ!」
若葉(あの時は、ただ戦う事だけが目的になっていた。今は違う)
若葉(守る為の戦い。そう、守る為の戦いなのだ。人々だけじゃない。提督も、仲間も)
若葉(出来る限りの力を持って、全てを守ろう。折れない心を掲げて)
若葉(それが、艦娘としての強さだ―――――)
3話目は長月じゃなくて若葉です。
主に被弾カットイン時のあの台詞がなんとなくツボに嵌ったせいなんだ。
次はそろそろ戦艦や空母あたりの大型艦にしようかしら…
こんー。
今夜は大型艦の人です
当ててみてくだせ
艦娘(子供の頃、よく親に連れられて天体観測をした)
艦娘(その時だけ夜更かししてもいい、というのもあったかも知れないけれど。星を見るのが好きだった)
艦娘(色んな色に輝く、光の強さも、大きさも、目では殆ど見えない星まであって、色んな瞬きを見上げるのは夢のようだった)
艦娘(やがて、星への憧れは、宇宙への憧れへと変わった)
艦娘(小学校の自由研究は天体観測で、読書感想文も宇宙に関する本で)
艦娘(私の将来の夢は、宇宙飛行士です――――誰もが憧れるその言葉は、いつしか本当へと変わった)
艦娘(猛勉強に励んで、幾つも積み重ねて。子供の頃の私を動かし続けたのは宇宙への情熱)
艦娘(中学校卒業と同時に、私は宇宙飛行士になる夢をかなえるべく、一般公募の試験を受けた)
艦娘(何百倍もの倍率、大学生すらも頭を悩ませる難問の数々、体力測定に、心理テスト)
艦娘(だけど私は、どんな困難にもぶつかってきた。それだけ、宇宙を夢見ていた)
試験官「あなたが最年少ですよ。まだ、高校も卒業していない子が試験を受けにくるのも、前代未聞です」
試験官「とても、優秀な子ですね」
艦娘「ありがとうございます」
試験官「何故、宇宙飛行士の道に?」
艦娘「宇宙は一つのフロンティアだと思うからです」
試験官「……」
艦娘(この答えを告げた時、何人かの試験官が顔を見合わせた。やはり子供らしい答えだと思われたのだろう)
試験官B「続けたまえ」
艦娘(そんな窮地を救うかのように、一人の試験官が声を張り上げて続きを促した)
艦娘「子供の頃から、ずっと星が好きで。色んな星に、何があるんだろう。それが切っ掛けでした」
艦娘「勉強を続けていくうちに、地球には無いレアメタルや、無重力でしか出来ない実験、人口爆発で来る移住地開発や、食料開発とかにも興味を持ちました」
試験官B「なるほど。それで西部開拓時代に例えて。フロンティアかね?」
艦娘「はい。今はまだ、私が挙げた全ては実験段階だというのは承知です。実験段階だから、です」
試験官B「つまり?」
艦娘「私が、それらを進めたいと考えているからです。この地球が抱える問題を、宇宙から少しでも解決する手助けをしたいのです」
艦娘「それが、私の宇宙飛行士としての夢です」
艦娘(調べていく上でぶつかる数々の、問題)
艦娘(この地球が抱える問題を、私一人ではどうにも出来るかどうかは解らない。でも)
艦娘(宇宙開発という舞台ならば、或いはもっと大きな舞台ならば―――助けたい、という私の夢は叶うはずなのだ)
艦娘(そして、運命の結果発表の日)
艦娘(私は――――晴れて宇宙飛行士としての候補生に選ばれた。史上最年少という快挙で)
艦娘「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
艦娘(なにせ高校受験すらもせずにいたのだ。自宅で狂喜乱舞し、両親や近所の人まで巻き込んでちょっとした宴を開いたものだ)
艦娘(私の人生で最高の瞬間の一つだった。この当時は)
艦娘(そしてもう一つ、あの時、私に続きを促した試験官が…)
センター長「私がセンター長です」
艦娘(宇宙開発の、いわゆる現場責任者的な人だった。私の合格は彼の後押しがあったからだ)
センター長「合格おめでとう。最年少という快挙と共に、若さを生かして頑張ってくれ」
艦娘(訓練が始まった)
艦娘(大人でも音を上げる多くの訓練。厳しいもの。厳しい倍率を生き残った候補生も、更に絞られていく)
艦娘(私は最年少だろうと特別扱いされない。当たり前だ。宇宙飛行士とは、必ずしも何かのスペシャリストでもあるのだ)
艦娘(学者や技術者に混じって、単なる女子高生と同じ年代の私は、そういった点では大きく劣っていても、だ)
艦娘(だから私は必死に猛勉強した。厳しい訓練に勉強だらけの日々。当然のように疲労が蓄積して、眠れない日々も続いた)
艦娘(でも辛くは無かった。宇宙飛行士としての道を歩めるのだ、なんともないぞと思いながら)
艦娘(或いは、多くのスペシャリスト達と同じラインに立たなきゃ生き残れない、と言い聞かせながら)
艦娘(辛いよりも頑張ろうという気持ちだけが、私を動かしていた。そんなある日の事だ)
センター長「君は良く頑張っているな。大したものだ」
艦娘「ありがとうござます」
センター長「でも無理をしてはいけないよ? 少し眠そうじゃないか?」
艦娘「すみません、昨日どうしても勉強が終わらなくて」
艦娘「他の人たちは、皆すごい人たちです。尊敬する人が両手両足の指全部使ってもまだ数え切れないぐらいですよ」
艦娘「そんな中で一緒に訓練するんですから、その人たちぐらいの位置に立たないと、スタートラインに立ったとは言えません」
センター長「おいおい、きみきみ」
センター長「君も他の候補生達も、何百倍もの倍率を勝ち抜いてきた。それぞれが色々なもののスペシャリストではある」
センター長「でも彼らはそれに辿りつくまでにも、君よりも長い時間積み重ねてきた」
センター長「でも、それはそれぞれが持っている分野での話だ。宇宙飛行士、という点では彼らも君も同じスタートラインに立っている」
センター長「だから君は、君だけが持つスペシャリストとして、スタートラインに立っているんだよ」
艦娘「私だけが? でも、私、ただの女子高生でしか――――」
センター長「いいや、違うとも。その年でここに辿り付ける程のものを君は持っている)
センター長「そうだとも。君が持っているのは―――掲げた夢を実現させようとする、歩む力だよ」
艦娘(その時の言葉は、今も胸に残っている)
艦娘(掲げた夢を実現させようとする、歩む力)
艦娘(一見。誰もが持っているものだと思う。その通り、誰もが持っているものなのだ)
艦娘(でもそれは、案外容易な事ではないのだ。何故なら)
艦娘(私と同じく、宇宙に憧れながら、私よりも年上の、私よりもスペシャルな人たちが何人も脱落していく)
艦娘(ほんの一握りのトップガンが、決して諦めなかった人たちだけが、宇宙飛行士として宇宙を目指せるのだ)
艦娘(そう…決して、諦めなかった人たちだけが……)
艦娘(あの頃と言えば、こんな人の事をいつも思い出す)
候補生「しっかしすげぇなあ。お前さん、また一番じゃないか。オレ、またギリギリだったよ…」
艦娘「え? 筆記試験の合格点って450点以上でしたよね?」
候補生「うん。452点だった!」
艦娘(決して歳は近くない。既に三十路に近く、私より一回りは上のこの候補生は、明るい性格で話しやすい人だった)
候補生「ま、合格してるし、問題ねぇよな! 体力試験で割とカバーできてたし!」
艦娘(ポジティブといえばポジティブなのだが、時々調子に乗ることがある)
訓練官「えー。今日は水中で月面車の訓練やりまーす」
候補生「質問です! 時速何キロまで出ますか?」
訓練官「水中と月面で環境違うでしょうけど、爆走するほどは出ませんよ」
艦娘「えーと、アンテナを立てて、バッテリーをセットして…」
候補生「よし、タイヤも装着完了! 水中で動くかな?」
艦娘「私はアンテナの設置やりますので、月面車の方をお願いしますね」
候補生「了解」
艦娘「えーと、アンテナはこっち…」
候補生「やっべ! ハンドルの固定が忘れてたー!」
艦娘「へ? きゃあああああ!!!!」
訓練官「ダメだこりゃ」
艦娘(衝突事故こそ免れたものの、当然のように私達は大目玉を喰らった)
候補生「たははは、本当にゴメンな」
艦娘「酷い目に遭いました…本当に怖かったんですよ?」
候補生「悪かったって! まあ、上手く回避してくれたお陰で大事故には繋がらずに済んだしな」
艦娘「充分回避出来る時間はあったので…実際はどうなるか解らないから、油断は禁物ですよ?」
候補生「…だな。でも、あそこまで素早く反応できるのは、大したもんだよ」
艦娘「こんなことで大怪我なんてしてられません。夢がありますから」
候補生「…だろうな。俺もだよ。宇宙から見た地球は蒼いって言うけど、それだけじゃないと思うしな」
艦娘「確かに。ただ蒼いだけじゃない地球って、どんなんでしょうね」
候補生「それは見ないと解らないだろうなあ」
候補生「だけど、きっと一言じゃ言い表せないぐらい。すごいんだと思う」
候補生「それをガキの頃からずっと夢見てきたんだ。君も、そうだろ?」
艦娘「…はい!」
艦娘(共に夢を持つ仲間がいる事は、私にとって幸せだった)
艦娘(だからこそ、どんな辛い訓練にも耐えられたのだと思う)
艦娘(そして当時はまだ夢のある時代だった。私の事を取材しにきたテレビだの記者だのもいて)
艦娘(最年少で宇宙飛行士候補になった私に憧れている、なんて手紙も届いた時は嬉しかった)
艦娘(そう、嬉しかった…)
センター長「あー、皆に発表がある」
センター長「米国でただいま新規の有人宇宙飛行機のプロジェクトがあって、その搭乗員に日本からも数人、選ばれるそうだ」
センター長「とは言ったものの、NASAの方でも選抜を行いたいらしいから、全員アメリカ行きが決定しましたー!」
候補生's「「「「「おおおおおおー!!」」」」
センター長「あ、出発なんだけどこの日ね」
艦娘(候補生のほぼ全員と、多くのスタッフ。それらが皆アメリカに行く)
艦娘(確率はわからないけれど、宇宙にいける可能性が本当に目の前にやってきたのだ)
艦娘(だけど、その日。私はそのアメリカ行きの飛行機に乗ることは無かった)
艦娘(祖母の悲報が届いたからだ―――――センター長をはじめとするスタッフは、私のアメリカ行きを一日遅らせるという措置を取った)
艦娘(私も訓練を耐え抜いてきたのだ。だが、その一日が)
艦娘(全ての運命を分けてしまうなんて思わなかった)
艦娘(実家から東京へと戻る電車の中で流れてきたニュースだった)
アナウンサー『続いてのニュースです。深海棲艦による襲撃で、最悪の事故が起こりました』
アナウンサー『東京発ヒューストン行き9999便が、太平洋上で深海棲艦の艦載機による攻撃を受け、墜落しました』
アナウンサー『乗客乗員、全員の生存が絶望視されており、この中には宇宙飛行士候補生が含まれ――――』
艦娘「嘘……」
艦娘「嘘でしょ…!?」
艦娘(同じ訓練をした仲間たち、支えてくれたスタッフ、職員たち)
艦娘(優しくて、時に厳しくて、皆で笑いあったりして)
艦娘(同じ夢を掲げた、大切なひとたち…なのに。もう二度と…会えないかも知れない?)
艦娘「どうして…なんで……!」
艦娘(どうにか東京に戻り、その足でセンターまで向かって。とにかく続報を求めた)
艦娘(何日経っても、生存者の話は無くて。そして一人だけ生き残った私の元へ、政府の人がやってきた)
役人「君が最後の候補生か」
艦娘「はい」
役人「これは明日発表することだが、君は知っておくべきだと思っている」
役人「我が国の宇宙開発計画は無期限中止となる。深海棲艦と戦っている時勢だ、もう一度組織を立て直す余力が無い)
艦娘「え…ちょ、ちょっと待ってください! アメリカでの有人宇宙―――」
役人「我が国の人間でなくても、アメリカが自国でなんとかするだろう。アメリカの計画だ」
艦娘(私にとって、最悪の死刑宣告だった)
艦娘(宇宙開発計画が無期限中止――私の、宇宙への夢が、絶たれた瞬間だった)
艦娘「…ぁ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
艦娘(その場で人目も憚らずに泣き崩れて、家に戻って、また泣いて)
艦娘(泣いて泣いて、色んな人たちの事を思い出して、子供の頃の夢を思い出して、また泣いて)
艦娘(宇宙だけを夢見ていたから―――その全てが終わったことに気付いて、また泣いて)
艦娘(そして何日も経った頃―――涙も涸れ果てた私は、死体のようになった)
艦娘(同じ夢を掲げた仲間達もいない。支えてくれる人もいない。何よりも夢はもう、終わってしまった)
艦娘(緩やかに、死を迎えようとしていた―――肉体はどうかも解らないが、私の心はほぼ死んでいた)
艦娘(そこへ――――)
役人「失礼する」
艦娘(私に死刑宣告をした、あの政府の人がやってきた)
役人「君に話があってきた。会ってくれないだろうか?」
艦娘「………」
役人「酷い顔だ。まるで死人のようだ」
艦娘「帰ってください。私に話はありません」
役人「私達の方に話がある。君は多くの訓練で優秀な成績を収めた。まだ若く、将来もある」
艦娘「でももう、何の意味も無い」
役人「あるとも」
艦娘「ありません! 宇宙をずっと目指して! その為に子供の頃から、色々努力してっ、勉強も重ねて、訓練して…宇宙に飛びたかったから…!」
艦娘「その為にどんなことにだって頑張ってきたのに…その夢が…もう……」
艦娘(思えば、全てを吐き出していた。その全てを、叩きつけていた)
役人「そう。無期限中止だ。再開がいつになるか解らない」
役人「これを見てご覧。ニュースだ」
艦娘(彼が点けたテレビのニュース。そこには抗議デモのようなものが映っていた)
艦娘(じきにそれは―――宇宙開発計画を中止しないで欲しい、という願いだと解った)
艦娘(そしてそのデモのようなことをしているのは、子供達だった。私よりも幼い。子供達)
役人「……いつか再開しなければならない計画だ。だが、今すぐに再開は出来ない」
艦娘「……」
役人「深海棲艦という敵がいる限り、宇宙開発に向ける余力が出来るほどまで、この国を回復させなければならない」
役人「君と同じだ。あの子達も、宇宙への夢を持っているのだ」
艦娘「なにが、言いたいんですか」
役人「君に、彼らの夢を取り戻して欲しい。いや――君自身の夢も、取り戻して欲しい」
役人「だから君のような優れた人材が欲しい! 深海棲艦から全てを取り戻す為に、艦娘となる人が欲しい!」
艦娘「スカウト、ですか」
役人「ああ、そうだ。君ならば偉大な艦娘になれる! あれほどの努力を重ね、あれほどの訓練を耐え抜いてきた君ならば!」
艦娘「夢を……」
艦娘(宇宙を夢見てきたのは私だけじゃない)
艦娘(あの明るい候補生も、今テレビに映る子供たちも、皆同じなのだ)
艦娘(その夢を奪った深海棲艦と戦う、鑑娘――――)
艦娘「―――わかりました」
艦娘「私は、艦娘になります」
艦娘「深海棲艦から一人でも多くの人を守れるように、そして」
艦娘「私たちの夢を、取り戻すために!」
艦娘(奪い去られた夢を、多くの人の願いを、深海棲艦から取り戻す為に)
艦娘(私は、戦う事を選んだ)
鎮守府 縁側
武蔵「意外だな。大和が星に詳しいだなんて」
長門「星見酒とはいいものだが、一つ一つその名と由来を知るのもいいものだ」
大和「あら、そう?」
霧島「人には意外な一面というものが一つはありますからね」
比叡「霧島が姉妹で一番腕相撲強いとか」
霧島「比叡姉様っ!」
大和「ああ、霧島は暴れない暴れない…。おっと」
武蔵「大和、こぼさないようにな」
大和「ええ。解ってます」
大和(こうして星を見ていると、やはり宇宙に飛んでみたかったなと思う)
大和(だけど、時代がそれを許さなかった。私は艦娘として、その夢を取り戻す為に戦っている)
大和(それが何時になるかは解らない。だけれど、私よりも未来の世代たちの夢だけは、守り通したいと願う)
武蔵「…大和?」
大和「……武蔵。武蔵は子供の頃の夢って、覚えてますか?」
武蔵「…いや、あんまり覚えてないな…大和は?」
大和「……私は覚えてます。しっかりと」
武蔵「ほう。どんな夢だった?」
大和「今は秘密です。この海が平和になったら、教えますよ」
武蔵「なんだ、教えてくれたっていいじゃないか」
大和「今はまだ、ですよ」
大和(そう、今は、まだ……平和じゃないこの海を、多くの人の夢を、取り戻してから)
大和(私の夢を、いつか、もう一度)
投下完了、と。
大和さんをお迎えしたいけれど資源がなさ過ぎるので大型建造回せないことが悩みです。
大型回したら一航戦の人たちの食事が無くなる気ががが
大和が宇宙戦艦になるSSがあったような
努力次第で大和レシピを一日一回回せるようになります(出るとはいってない)
艦娘(海に囲まれた島国であるこの国の人にとって、海は身近で糧をもたらしてくれる場所)
艦娘(漁港のある町で、漁師の家に生まれた私は毎日のように海に行っていた)
艦娘(裕福とは言えない家庭の、大家族の長女として生まれた為か、少しでも家計の足しと、弟妹達の遊び場探し、という事で)
艦娘(だけど、今だから告白しよう。その頃の私は、海が大嫌いだった)
艦娘(具体的に言うと、裕福ではない家の、長女であるという事に不満を持っていた。いつも面倒見をさせられて、手伝いばかりさせられて)
艦娘(決して表に出ないその不満は、いつもいつも溜まっていた。表に出せなかった。だけど本当は思っていたのだ、外に出たいと)
艦娘(私だけを見て欲しいという願いは、叶えられるものじゃないのだから)
艦娘(成長を続けていった、ある日の事だった)
女子生徒A「あー、そろそろ進路決めないと」
女子生徒B「あたしは、□×高校に行こうと思うんだけど」
女子生徒A「私は○△か◎◎高校かな。艦娘はどうするの?」
艦娘「そっか、高校かぁ……行くとしたら、××高かな…」
女子生徒B「えー!? だって、あそこのド底辺じゃん。学費殆どかからないけど」
女子生徒A「艦娘は成績いいじゃん。推薦で◎◎は行けるんじゃない? あそこ、奨学金だけじゃなくて学校からも補助出るし」
女子生徒B「うんうん、艦娘の成績なら行ける。ちょっとこっから遠いけど…」
女子生徒A「でも電車で一時間ぐらいだし、大学への進学率も高いし」
艦娘「うん…あそこ、制服も綺麗だものね」
艦娘(本音を言えば、◎◎高校に行きたいと思うのだ。学費という問題さえ乗り越えられれば)
職員室
艦娘「先生、あの進路の事で」
先生「ああ、艦娘はまだ進路出してないな。なんだ?」
艦娘「あの、私の成績で◎◎高校は進めるでしょうか?」
先生「充分過ぎる程だ。むしろ推薦で行けるだろう。うちの学校にも推薦枠がある」
先生「ついでにあそこは奨学金制度も充実している。ほら、これを持ち帰るといい」
艦娘「ありがとうございます。両親に確認してみます」
帰宅
艦娘「…ただいま」
艦娘「…お父さんとお母さんが、帰ってきてる?」
父「最近不漁が増えてな」
母「隣町とか、別の組合の人も皆そう言ってる」
父「なんだろうなぁ、”しんかいせんかん”のせいなのかなあ?」
母「どっか対策もしてくれればいいんだけどねぇ。結局割りを食うのは私達なんだから」
父「ああ…。まったく、いつもいつも酷い目にあってばっかじゃ」
母「私はパートに出るわね」
父「ああ。まあ、家の事は艦娘も大きくなってるから大丈夫だろう。俺も漁に出る時間長くなるだろうが」
母「そうそう、艦娘もいるから大丈夫よ」
艦娘「……」
父「ああ、お帰り。どうした?」
母「あら、帰ってたの?」
艦娘「…ただいま」
パラリ
父「なんか落ちたぞ。ん、進路決定か…」
母「……は? ◎◎高校?」
父「いかんいかん、あそこは遠い上に学費が高いだろう!」
艦娘「しょ、奨学金が出るから。学費に関しては、多分大丈夫だろうって。私の成績なら」
母「中学校の成績が良くても、高校がどうなるかわからないでしょ。途中で成績悪くなって奨学金取り消しになったらどうするの」
艦娘「そうしないように勉強頑張って――――」
父「家の事はどうするんだ。最近、魚が獲れなくてな。母さん、働きに行こうと思ってるんだ。その間に他の子の面倒を見てもらいたい」
母「おまけに通学時間がかかるでしょ。それで勉強するって言っても…本当にその間、下の子たちどうするの?」
艦娘「……」
父「まあ、勉強は後でも出来るし、学が無くたってなんとかなるときはなんとかなある。他の子が大きくなるまで、少し勉強はお休みして―――」
母「正直な話、今高校に通わせるほどの余裕がうちには―――」
艦娘(今まで育ててくれた、そして仕事で支えてくれて、尊敬していた父と母)
艦娘(だけど、私の中でたまりきっていた不満は、今まで溜められ続けていた不満が、今、爆発した)
艦娘「お願い!」土下座
艦娘「私は、◎◎高校に行きたい! 頑張るから、どうあっても頑張るし、絶対に成績落としたりしないで、家の事も頑張って何とかするから!」
父「だから遠い学校行っちまったら、家の事なんてできねぇだろ。いいか、まだあんなに」
母「受験どうするの! 勉強しないといけなかったら、他の事なにも出来ないでしょ!」
艦娘「頑張る! 絶対、頑張るから! 今日から始めてでも頑張るから!」
艦娘(それは私の一世一代の訴えだった)
艦娘(少しでも、私の意志で決めた事をやりたい。そういう思いで叫んだ)
艦娘(でも父も母も、首を縦に振ろうとしなかった。だからあ私は訴え続けた)
艦娘(そして両親はしぶしぶ、条件を出した。受験の費用も自分で出す事。進学したら交通費も自分持ち、そして少しでも家にお金を入れる事、家事を疎かにしないこと)
艦娘(その頃の私の生活を聞いたら、他の皆は「無理しすぎだ」と窘めるだろう。オリョクルも真っ青なフル稼働だった)
艦娘(文字通り、嵐のような日々が始まった。受験の費用と、後の交通費を少しでも稼ぐ為に、早朝に新聞配達のアルバイトを始めた)
艦娘(早朝に終わる仕事だから家に戻ってすぐに弟と妹の世話と家事をこなし、学校に行って、夕方に戻ってきたらやはり家事と幼い子の面倒を見て)
艦娘(そんな間にいつ勉強をするかというと、夜だ。夜遅くまで勉強して、また早朝に起きる。無茶な生活リズムだった)
艦娘(全てを疎かにしない。そう言った私は、全てをこなした。必死にこなし続けた。……どれだけ疲れてても、どれだけ無茶でも)
女子生徒A「艦娘、大丈夫?」
艦娘「え?」
女子生徒B「うん、体育休んだほうがいいよ」
艦娘「大丈夫、休んだら推薦の為の単位が…」
女子生徒A「……無理、しないでね」
女子生徒B[せめて家事ぐらい誰か手伝えばいいのに」
艦娘「ああ、そうか。次、体育か…着替えなきゃ……」ノロノロ
女子生徒A「ポカリ飲みなよ。少しは元気出るから」
艦娘「あ、ありがとう…」
女子生徒B「…ねぇここんところさあ、艦娘の隈が無い日が無いんだけど」
女子生徒A「大丈夫かな、本当に…」
艦娘(そしてその体育の日に、悲劇は起こった)
体育教師「えー、今日の体育は校外に出てマラソンでス★」
生徒's「「「「「えぇー!」」」」」
体育教師「文句を言ってはいけまセン★」
体育教師「皆さん、駆け足★」
ゾロゾロ
艦娘「ハァ…ハァ…」
体育教師「艦娘さん、遅れてマス。もっと早く走りなサイ★」
艦娘「は、はい……」
艦娘(涼しくなって来た秋のはずなのに、いつも以上に汗が酷かった)
艦娘(ガクガクになっていく、力が抜けていく足はやがて動きが緩慢になり、意識も朦朧となってきていた)
艦娘「……」バタン
艦娘(遂に過労で、私はその場に倒れて動けなくなってしまった)
???「…!? 大丈夫ですか! 日射病かしら、すぐに木陰に運びますからね!」
???「酷い熱……もし、もし!? すぐに救急車を」
艦娘(救急車、という単語を聞いて私はすぐに意識が戻った。お金を使っちゃいけない、入院するわけにもいかない)
艦娘(だから大丈夫です、少し休めば良くなりますという言葉を紡ごうとして、私は目を開いた)
???「! 意識が戻って…わかりますか?」
艦娘「だいじょ―――――ウボェォッ!?」ドボッ
艦娘(目を疑う出来事だった。吐瀉物の中に混じる、赤い塊)
艦娘(なんなのこれ、という思いと―――死んじゃう、とかそういう思いが渦巻いて)
???「血が…すぐに医者に!」
艦娘(再び意識を失った私は、彼女が呼んだ救急車によって運ばれた)
艦娘(診断結果は過労と、胃に穴が開く病。ストレスで免疫が低下している上に体力が低下したせいで重症化したのだという)
艦娘(それからはもう滅茶苦茶だった)
医者「どうしてこんなになるまでこの子を放っておいたんだ!」
艦娘(お医者さんが両親に激怒した。とても十代の子供にさせる生活じゃない、と)
艦娘(絶対安静が言い渡された。だけど私は、心の中で頭を抱えていた)
艦娘(入院の費用。遅れる授業。足りない出席日数)
艦娘(もう、全てが終わってしまった)
医者「助けてくれた人がいなければ、危ない所だったよ。ああ、いや。人じゃないかも、な」
艦娘(お医者さんは親切で、塞ぎこんでいた私に色んな話を振ってくれた)
医者「ほら、見てご覧。この新聞なんだが」
新聞『護国の盾たる艦娘 休暇中に女学生救助』
新聞『深海棲艦の脅威から国を守る艦娘が休暇中に、急病に倒れた女学生を救助した』
新聞『実に美談である』
艦娘(深海棲艦とは単語では知っていた。だが、まだこの頃は別世界の話だと思っていた)
艦娘「……」
艦娘(私は、この艦娘に手紙を書いてみた。助けてくれたお礼と、深海棲艦と戦っている事についての激励だけの、短い手紙)
艦娘(そして手紙を出した後に退院した私は、学校を休学し、家事だけに専念する日々を送った。もう次に進めないと感じたせいだろう、学びたいという意志が消えた)
艦娘(そして手紙を出した事も忘れた、ある日の事だった)
???「ごめんください」
艦娘「はい…」
鳳翔「私は、海軍鎮守府所属の艦娘、鳳翔といいます」
艦娘「…あの時、私を助けてくれた…?」
鳳翔「はい。お手紙、ありがとうございました」
艦娘「………」
鳳翔「…あまり、元気にはなられてないようですね」
艦娘「ええ……」
艦娘「行きたい学校に、行けなくて」
艦娘「貧乏で、大家族だから、弟とか妹の面倒を見ないと行けなくて。でも、進学とかしたくて…」
鳳翔「あんなになるまで、頑張っていたんですね」
艦娘「そうですね。頑張っていました。でも、もう終わっちゃいました」
艦娘「…あんなに辛かったのに、不思議なんです。いざ、終わっちゃうと…目的を果たせずに終わっちゃうと、そっちの方が辛いんです」
艦娘「おかしいのですよね。あの頃と今じゃ、あの頃の方が疲れ果ててたのに。今じゃ、酷く疲れはしないけど…何も…」
鳳翔「艦娘に似ていますね」
艦娘「…え?」
鳳翔「私は長く艦娘をやってるんですけど…私よりも若い子達が、色々な理由で艦娘をやめていきます。でも」
鳳翔「命をかけて戦っている。だけど、皆それぞれ艦娘になったのにも、理由があるんです。そして、その理由を、果たせないまま辞めていくとき、辛そうなんです」
艦娘「……理由」
鳳翔「なんにでも、理由はあるんです。始めるのも、終わるのも」
艦娘「…あの」
鳳翔「はい」
艦娘「鳳翔さんは、なんで艦娘に?」
鳳翔「………ごめんなさい。恥ずかしい理由なので…」
艦娘「……」
艦娘「じゃあ、その理由って」
鳳翔「はい」
艦娘「鳳翔さんの意志ですか? それとも、誰かの意志なんですか?」
鳳翔「私の意志です」
艦娘(その言葉は、凛として響いた)
艦娘(母親のような暖かさを持つその人が、凛として残したその言葉が)
艦娘(私の中で、一つの火を付けようとしていた)
艦娘(始める理由があれば、終わってしまう理由がある)
艦娘(だから私は…自分の意志でそれを決めた)
艦娘(殆ど知らない深海棲艦を倒す、という理由でなければ)
艦娘(明確に戦わなければいけない、という理由でもない)
艦娘(強いて言うならば)
鎮守府
艦娘「艦娘になりたくてここに来ました」
艦娘「理由ですか? 理由は、私は、私の意志で、誰かを助けたい。そして、家族を支えたい。それが理由です」
艦娘(私は、家族に仕送りを約束して、反対を押し切りながら艦娘になった)
鎮守府 食堂
伊58「もうオリョクルはいやでち。血を吐きそうでち」
天龍「ほう。配属されてからガキ共のお守りと遠征しかしてない俺に一言」
伊58「変わって下さい」
天龍「奇遇だな、俺もそう思う」
北上「主に燃費と回避の理由でそれ無理だから諦めろー」
川内「そうそう、ずっと夜戦させてくれない私に一言!」
天龍「『かわうち』うるさい」
川内「『せんだい』だよ!」
龍田「天龍ちゃん喧嘩はダメよー」
大鯨「そ、そうですよ。仲良くしないと…」
川内「あー、わかったわかったって」
伊58「大鯨さんはすごいでち」
伊58「誰にでも優しくて、あったかくて、包んでくれるみたいでち」
大鯨「みんなが元気にいてくれるのが、一番だから」
鳳翔「でも無茶はいけませんよ。前みたいに倒れたりしないように気をつけて、ね」
大鯨「大丈夫ですよ」
大鯨(そう、大丈夫だ。あの時は一人だったけれど)
大鯨「鳳翔さんだって、間宮さんだって、皆もいますから」
大鯨(無茶をする前に、皆助けてくれる。だから私も、皆が無茶をしそうなときに助けに行く)
大鯨(私自身の意志で)
5話目投下。
大鯨って、なんか大家族のお姉ちゃんみたいな感じで母性溢れてるよね
艦娘(私の始まりの記憶は、沈んだ船の姿)
艦娘(幼い私は救命ボートに乗って漂っていて、父の姿も母の姿も無い、海の暗闇の中での孤独)
艦娘(その当時はよく解っていなかっただろう。だが、私の乗っていた船は深海棲艦に沈められた、という事は今、はっきりと解る)
艦娘(救命ボートにあった食料もすぐに尽きて、私は飢えに晒された)
艦娘(魚をどうにか捕まえようとして棒っきれを海に突っ込んで、渇きを癒す為に雨に顔を出して)
艦娘(だけど、その中で私は思い知らされた。はっきりと思い知らされた)
艦娘(孤独である事の恐怖、そして目に見えようと目に見えまいと、人は一人では生きてゆけない)
艦娘(顔も覚えていないけれど家族を失い、孤独を思い知らされた私は痛んだ)
艦娘(数ヶ月の時を経て、救助された。奇跡の生還、ではなかった)
艦娘(幼い私にはよく解らなかったが、多くの客船がその襲撃事件で沈んだ事、そして客船が私の父か母が関わっていて、その賠償が家に行ったのだ)
艦娘(数少ない生き残りの私に降りかかった批難と、全ての喪失。保険金も、家も、何もかも奪われて一人になってしまった)
艦娘(そして、生きる為に私は町を彷徨った)
艦娘「……おなか、すいた……」
市民A「ん? おい、アレ…」
市民B「ああ、あの事故の生き残りか。保険金山ほど降りただろうなあ」
市民A「いいね、ちょっと金を貰おうか。おい、そこの!」
艦娘「!?」ビクッ
市民A「君確かさー、あの事故の生き残りでしょ? お金たくさん貰ったんじゃねーの?」
市民B「そ、少し貸してくれないかなー? ほら、俺も家族死んじゃってさぁ、金無いんだよねぇ」
艦娘「…ありません」
市民A「あ?」
艦娘「お金、ありません」
市民B「ねぇじゃねぇよ! いいから出せ!」ガッ
艦娘「うっ!?」
艦娘(理不尽な暴力と、罵倒。来る日も来る日も、どこを彷徨っても、同じ事の繰り返しだった)
艦娘(一人では生きていけない事は解ってて、それでもどこでも疎外されて)
艦娘(いつしか、私は…)
艦娘(疲れ果てた私は、人気の少ない場所へとやってきて。そこで、眠りに就いた)
艦娘(眠りに就いたまま、穏やかに消えていけばいい。どこにいても、疎外されるのならば)
艦娘(一つの夢を見た)
艦娘(恐らく、全ての始まりだった。沈んだ船の夢を見た。船のオーナーである両親と、一等船室にいた私)
艦娘(不沈船と言われる程のその客船は頑丈で、ちょっとやそっとじゃ沈まない工夫が幾つもされていて)
艦娘(それだけでなく少しでも多くのサービスを提供する為に船で働く人たちも色々な方面のスペシャリストである事が自慢で)
艦娘(深海棲艦の襲撃で少しでも落ち込んだ人たちの元気を出してもらおうと、かなり大きい客船でありながら頑張れば手の届く値段でもなるという値段設定)
艦娘(夢の中で父は語っていた)
父『少しでも皆に元気になってもらおう』
父『深海棲艦のせいで職を失った人もいるが、彼らの仕事としてもこの計画は立派だ』
父『何隻も作って、世界中に輸出しよう。居住性に力を入れたから病院船としても使えるよ』
艦娘(父の夢だったそれは、この国の希望の象徴になる筈だった。そして私もこの船の事を、自慢に思っていた)
艦娘『お父さん、この船を見たら皆驚くかな?』
父『ああ、驚くさ! 深海棲艦と戦ってる軍人さんたちだって驚くだろう!』
艦娘『眺めもいいし、皆優しくて立派だよね!』
船長『オーナー。少しよろしいですか?』
父『どうしたんだい、船長?』
船長『近くの海域に艦娘が出ているようです。もしかしたら深海棲艦がいるかも知れません。……進路変更するべきか否か…いかがなさいますか?』
父『船長の判断に任せるよ。君達はスペシャリストだ』
船長『では、進路を変更させて頂きます』
父『深海棲艦がいるかも知れないのか。用心するにこした事は無い』
艦娘『深海棲艦はどうして、来るのかな?』
父『わからない…なんでだろうな』
父『ただ、一つわかる事は私達は彼らから身を守り、生活を守らなければいけないという事だな』
艦娘(深海棲艦が襲ってくる理由なんて、誰も知るはずは無かった。今までも、これからも)
船長『緊急です』
父『どうしたんだ?』
船長『たった今、通信士が受電したものです。艦娘が数隻ほど、燃料が不足して戻れないかも知れないと鎮守府とやり取りしていた…のを偶然傍受したと』
父『……予備の燃料タンクがあったな?』
船長『はい、充分に備えてあります。分けてもよい、という事ですね?』
父『ああ。折角だ、燃料を融通している間に食事でも用意してあげなさい』
艦娘(私が艦娘という存在を知ったのは、きっとこの時だ)
艦娘(客船は途中で進路を変更し、戦闘後であろう艦娘の艦隊へと出会うことが出来た)
艦娘(私よりも少しばかり年上ぐらいのお姉さん達―――そんな印象だった)
船長『本船へようこそ。燃料の予備がありますので、お使いください』
先代高翌雄『ありがとうございます。なんとお礼を申し上げたらよいか…』
先代満潮『豪華な船ね…随分かかってるんじゃない?』
父『ははは。確かにね。でも、少しでも皆を元気づけようと思っているよ』
先代満潮『……余裕があればね』
父『居住性と耐久性は自慢だよ。まあ、なるべく安い値段にしようと、ね』
先代満潮『ふぅん…』
艦娘(その子の態度に少しだけむっとした。まあ、自慢だったから無理も無い)
艦娘『こ、この船はお父さんの自慢で! みんなの希望なんだから!』
父『こらこら。彼女達は忙しいんだから』
先代高翌雄『こら、満潮! すいません、失礼を…』
父『いえいえ』
先代満潮『うー…』
艦娘(私は力強く彼女に語った。語り尽くすほどだった)
艦娘『この船はちょっとやそっとじゃ沈まないのよ! 隔壁だってたくさんあるし!』
艦娘『乗ってる人はどんな分野でもスペシャリストで、楽団もコックさんも、何もかも五本の指に入るぐらい!』
艦娘『居住性にだって優れてる。色んな人も乗せられるし、速度も早いのよ!』
先代満潮『そ、そう。すごいのね……』
艦娘『本当にすごいのよ。いいわ、いつかあなたを…いえ、あなた達を招待してあっと言わせてあげる』
先代満潮『その時は私もあんたを背中に乗せてあげるわ。艦娘のすごさを教えてあげるんだから!』
艦娘(それは単なる自慢のしあいのようなもの。だけど、不思議とお互いに約束のようなものだと感じていた)
艦娘(絶対に、果たさなくては、いけない約束)
先代高翌雄『こら満潮はいつまで喧嘩してるの。あの、燃料ありがとうございました』
父『お構いなく』
先代高翌雄『いつか、お客として乗ってみたいと思います』
船長『良い航海を!』
先代満潮『またね! 約束したわよ!』
艦娘(長く手を振り続けていた。仲良しになった訳でも、友達になった訳でもない)
艦娘(だけど私は今の今まで忘れていた。いつか、彼女達をその船に招待するという約束を)
艦娘(それはもう叶わぬ夢…そして、約束すら果たせずに消えていくのも…)
艦娘(気が付くと、涙が溢れていた。声を押し殺して、空腹を抱えて、泣きながら消えようとしていた)
医務室
艦娘「……あれ?」
任務娘「目を醒まされたようですね。大丈夫ですか?」
艦娘「…ここは?」
任務娘「鎮守府の医務室です。鎮守府の敷地内で倒れていたんですよ? それにしても、こんな小さい子供がどうしてここに?」
ドラゴン提督「ホァッチャァ! 巡回の時間だコラァ!」
任務娘「提督、うるさいです」
ドラゴン提督「失礼。あー、君君、どうしてあんなところで倒れてたのかな? アチョー!」
艦娘(なお、この時に出会った提督だが、未だにバリバリ最強だ。つい先日司令部でカワラ三十枚割をしたらしい)
艦娘(そこで私は、身の上話を少しずつした。行き場所も無いという事も。そして……約束の事も)
ドラゴン提督「あの船の事は私も聞いた事がある」
ドラゴン提督「同型船が海軍の慰労艦として提供するという計画があったそうだが、あの船の沈没で船会社も潰れて立ち消えになった」
艦娘「…はい」
ドラゴン提督「辛かっただろうな。だが、今度はこちらの話もさせてほしい」
艦娘「…はい」
艦娘(そして彼は一人の艦娘を連れてきていた)
ドラゴン提督「あの時の、だそうだ」
先代高翌雄「あなたは…! 覚えてます! あの時、満潮と…」
先代高翌雄「漂流して救助されたけれど、行方不明になったと聞いて…」
艦娘「……あの時。みんな招待するって、言ったけど…約束、守れなくて…」
艦娘「ごめんなさい…」
先代高翌雄「……あの時、私達は本当に燃料が尽きそうでした。あの通信と申し出は、本当に嬉しかったです」
先代高翌雄「満潮が一番喜んでいたんです。口は悪いけれど、別れた後、絶対に乗りに行くって言ってて……」
先代高翌雄「あの客船が撃沈されたと聞いて、すぐに駆け付けて。満潮はあなたの事を探してました」
艦娘「私を…?」
先代高翌雄「ええ。あなたが生きている事を確認しなきゃ嫌だって。あなたを死なせないって。夜を徹して、何度も何度もあの海域に足を運んで」
先代高翌雄「それで…! あなたが発見される…一日前に……」
艦娘「どうなったんですか…」
先代高翌雄「無茶がたたって…疲労が溜まっていたところを襲われて……あの海域に沈みました」
艦娘「~~~~~~~~!!!」
艦娘(ある意味、一番のショックだった。私の事を、そこまで思ってくれていた人がいただなんて)
艦娘「……ごめんなさい…私……死に場所を探そうとしてたんです……」
先代高翌雄「!」
艦娘「でも、でもぉ…そんなに、そんなに思ってくれてたなんてぇ…!」
艦娘「約束、守れないはずなのに。なんで、なんで…どうして…そこまで…!」
艦娘(大粒の涙をこぼして。私は声をあげて泣いた)
艦娘(何度も何度も謝罪の言葉を口にして、そしてありがとうという言葉も連呼して)
ドラゴン提督「行き場が無い、そうだな」
艦娘「…」こくり
ドラゴン提督「皆に元気になってもらいたいからこそ、華やかな…素晴らしいものだ」
ドラゴン提督「しかも一番下の等級。俺の給料でいけるな。くそ、乗りたかった」
ドラゴン提督「…君に一つ提案がある。人々の希望となる道を、だ」
艦娘「え…」
ドラゴン提督「海軍と契約して、艦娘になってくれないか?」
ドラゴン提督「艦娘は深海棲艦と戦っている。人々の生活を守り、新たな未来を築く。その姿は、まさに希望」
ドラゴン提督「客船が皆を元気にするならば、艦娘は皆に勇気を与えてくれる。そんな存在だ」
ドラゴン提督「希望を誇りに思う君にこそ、なってもらいたいのだ! ホァッチャア!」
艦娘(行き先も無い、幼い私。一人では生きていく事も出来ない)
艦娘(だけど、その言葉は深く刺さった。勇気を与えてくれる、存在)
艦娘(私の為に無茶を承知で探してくれた艦娘。その献身的な姿にも、打たれた)
艦娘「お願いします…」
艦娘「私を…私を艦娘にしてください! みんなに勇気を与える存在であり、いつか元気を与える存在になるために!」
鎮守府 食堂
時雨「民間船舶が艦娘に燃料を分けてあげた…へぇ、いい美談だね」
涼風「優しい船もあるもんだな! 本当に、ありがてぇや」
時雨「幾ら軍人向けの広報新聞とはいえ、もう少し大きく取り上げてもいいんじゃないかなとは思うけど。ボクが思うに、この記事小さすぎだよ」
青葉「あー、それはですねー。そういう事例が何度かあったけど、その一番最初の話が美談に終わらなかったんですよー」
時雨「どういうことだい?」
青葉「それはですねー」
熊野「あらあら、何の話ですの?」
青葉「あ、熊野さん…えーと、この話はここまでという事で…」
熊野「ちょっと青葉さん? どうして私が着たら逃げますの?」
青葉「いやーまーそのー」
涼風「えーと、民間船舶が艦娘に燃料を分けたっつー話の最初の事例が美談で終わらなくて…」
熊野「ああ、それですのね」
青葉「あちゃー…」
熊野「別に秘密にするようなことでもないですわよ? まあ、それが美談じゃないのは事実ですけど」
時雨「え? そ、それって…その…」
熊野「ええ。当事者が言うのですから、間違いありませんわ。でも…」
熊野「あれがなければ、私は艦娘ではありませんでしたから」
熊野「……私の生存を信じて、探し続けてくれた、先の満潮さんの為にも、ね」
熊野(そう。決して美談で終わる話ではない。誇るべき話でもなんでもない)
熊野(だけど、私が生涯忘れてはならない出来事だ。そして…)
熊野(いつか平和になったら、その時こそ、あの約束を果たすときなのだ)
熊野(今度こそ、世界中の人たちを元気にするために)
6話目、投下完了。
今回は案外イメージしやすかったかも知れない。
映画のタイタニックがもう17年前なんだよな…
>>64
大和「宇宙戦艦になりました!」みたいな題名だったと思います。
支援!
>>80
トンクス
後で探してみるお
うぃうぃ、7話目行くよー
今回も大型艦。みんな大好きなあの人でち
艦娘(本当に昔の話をしよう)
艦娘(私の姉は、艦娘だった)
艦娘(ぴかぴかの艤装にシャープなシルエット、そして華々しい戦果)
艦娘(大艦巨砲主義の時代、そんな姉は多くの少女達の憧れで、そんな姉が私の一番の自慢だった)
母「あら、またお姉ちゃんの絵を描いてるの?」
艦娘「うん! おねえちゃん大好きー」
母「……まるで艦娘になりたいみたいね」
艦娘「うん、大きくなったら艦娘になるのー!」
艦娘(姉に憧れ、艦娘になりたいと答える私の姿に、母はいつも困惑していたのを覚えている)
艦娘(当然だろう。生死を賭ける戦いなのだ。華々しい活躍の影に、幾千幾万の艦娘が海の藻屑に消えただろうか)
艦娘(親として自身の子を心配するのは当然の事。特に姉が既に艦娘としている以上、その困難さが痛いほどわかる)
艦娘(しかし同時に、姉の活躍ぶりも理解していた。だからこそ、母はいつもそんな私に戸惑っていたに違いない)
艦娘(私は成長するにつれて、ますます艦娘に憧れた。母は逆に、私を姉から引き離そうとした)
艦娘(遠くの全寮制の学校へと入れられた私は、寂しさを紛らわせるように姉と手紙のやり取りをした)
姉『母さんだって心配しているんだからしょうがないだろう』
姉『正直な話、私も艦娘にはなってほしくないかな』
艦娘『どうして? 多くの人が艦娘になれば、その分だけ人を救えるかも知れない』
姉『ちょっとやそっとの決意で艦娘になっちゃいけない。命を賭けて戦っている。だから、それだけの覚悟が必要だ』
姉『そう。華々しい活躍の陰で、多くの悲劇と惨劇がある。それと向き合わなければならない』
姉『時として、残酷な答えしかない場合もあるんだから』
艦娘(姉も姉で、姉なりの苦労や考えがあるのだろう。私が艦娘になる事はやはり反対された)
艦娘(きっと今でも賛成はしないだろう。母から未だに帰ってくるように言われるように)
艦娘(そんな事を思っていたある日のことだった)
同級生A「次の研修、隣の国にホームステイだって!」
同級生B「えー、でも飛行機今飛ばないんじゃない? 軍に優先的に燃料回されてるし…」
同級生A「船だってさ。そんな長い距離でも無いから心配要らないって」
同級生B「まあ、大陸と結ぶ航路にまで深海棲艦入り込んでたら干上がるものねー」
艦娘(島国であるこの国は、シーレーンが封鎖されてしまえばたちまち干上がってしまう)
艦娘(海軍が発達したのはある意味自然な事だったのだ。そして、艦娘の活躍もまた、必然だったのかはわからない)
艦娘(隣国へのホームステイの為に、学校の多くの生徒がそのフェリーへと乗り込んだ。もちろん、私も)
艦娘(短い距離の、素敵な船旅。とても深海棲艦との戦争中とは思えない、ひと時)
同級生A「そういえば艦娘の姉って、あの×××なんでしょ? いいなぁー」
同級生C「私、子供の頃から憧れだったのよ!」
艦娘「うん、私も憧れなんだ! 本当に自慢のお姉ちゃんだよ」
同級生B「あれ、艦娘は…海軍には入らないの?」
艦娘「なかなか親とか…あと、お姉ちゃんも許してくれなくてね。入隊するには、保護者の許可証いるし」
同級生B「あー……親とかがいない場合は無くてもいいけど、いる場合は必須だっけ?」
艦娘「親に黙って入隊して、そのまま戦没して軍が抗議されたーなんて事件があったからって。お姉ちゃんが言ってた」
同級生C「でも、あの人たちが命賭けて戦ってるから、今の私達が生きていられるのよね」
艦娘「うん。同じ年頃の子が戦ってる。私達は何が出来るんだろうね?」
艦娘(これは艦娘になりたくてもなれなかった、当時の私の呟きだったのかも知れない)
同級生A「応援とかだったら、言葉にしてもすぐには届かないかも」
同級生B「かといって、何かお見舞い送るとか?」
艦娘「でもそれだと、やっぱり一時的だよね。本当に、どんな風になれば誰かの力になれるんだろうね」
艦娘「あはは、すぐには解らないよね。変な事聞いちゃった」
同級生C「ううん。私達も、何か考えなきゃって思ったもん」
同級生A「うん。立派だよ、艦娘は」
艦娘(そしてこの会話が――――)
艦娘(最後の、平和な会話だった)
ドゴーン!
艦娘「!?」
同級生A「なに!? 攻撃?」
同級生B「嘘でしょ!? この辺りは深海棲艦の勢力圏じゃないし、殆ど確認されてもいないのに…」
船員『甲板員は救命ボートの準備! 機関部は沈没を防げ、水を出すんだ!』
同級生C「揺れてる…どうしよう!?」
同級生B「見て、あれ!」
艦娘(その時、私は初めて深海棲艦を見た)
艦娘(たった一隻のフェリーに、数十を超える深海棲艦の姿)
艦娘(後で知った事だが、安全な海域であると多くの船が進んでいた航路に深海棲艦が侵入。そして護衛も無い船では成すすべ無く)
艦娘(数多くの民間船舶が沈められ、多くの人命が失われた)
同級生B「ダメだぁ! 私、船室に戻る!」
同級生C「に、逃げるから! ダメ、逃げるからぁー!」
艦娘(地獄絵図だった。無数に届く砲撃は船体のあちこちを破壊し、救命ボートも炎上させた)
艦娘(恐怖に駆られて飛び込んだ後輩たち。ピラニアのように群がる深海棲艦たちに殺された)
艦娘(船室に逃げ込んでも、既に無数の魚雷を受けて沈みつつある船ではどうすることも出来ず、閉じ込められて溺死した)
艦娘(砲撃で吹き飛ばされ、海面へと叩き付けられた私は浮かぶ漂流物に必死でしがみついた)
同級生A「た、助け、助け…」
艦娘「あ!」
艦娘(親友も目の前で食い殺され、私も同じ運命を辿る――――)
艦娘(―――筈だった)
戦艦タ級「……同じニオイがする」
艦娘(目の前にいる、ボスらしい深海棲艦が、私を持ち上げた)
戦艦タ級「そうね。同じニオイがするわ…アイツを」
雷巡チ級「どーします?」
戦艦タ級「そうね、他の皆は適当に船でも沈めてなさい」
戦艦タ級「この子、どうしようかしらねぇ?」
艦娘(深海棲艦に囚われた私は、彼女に連れまわされる形で、多くの船の最期を見せつけられた)
艦娘(重油と血が撒き散らされた海と、浮かぶ死体、炎上する船)
艦娘(未だに鮮明に覚えている。決して忘れる事の無い惨劇)
艦娘(そして、どれだけの時間が流れたか解らなくなった時に)
姉「―――――艦娘!?」
艦娘「お姉ちゃん…」
姉「離せ!」
戦艦タ級「よくきたわねぇ? 下手な真似したら、この子を[ピーーー]わよ」
姉「…ッ…!」
艦娘(考えた。必死に考えた)
艦娘(私に何が出来るか。必死になって考えた。そして、結論づけた)
艦娘「撃って! お姉ちゃん、撃って!」
姉「っ!?」
艦娘(残酷な答えしかない場合もある、と姉自身がかつて言っていたことだ)
艦娘(その残酷な答えが、私が死ぬ事だとしても―――ここで姉を失うわけには行かなかった。それほどまでに、姉は大きい)
戦艦タ級「黙れ!」
艦娘「ぎっ…! いいから、私の事はいいから撃って!」
艦娘(叫んだ。私の自慢の姉は、皆のあこがれであり、希望)
艦娘(私に出来ることなんて、それぐらい。妹として、姉を庇うことしか出来ない)
艦娘「悲劇や惨劇と向き合わなければならない、残酷な答えしかない場合もある…だけど、それが艦娘だって、お姉ちゃん!」
姉「っ…!」
艦娘(だがそれでも姉は躊躇ってしまった。私自身にその答えを突きつけた、姉自身が。それが、命取りだった)
戦艦タ級「残念」
姉「艤装が!?」
艦娘「あ、ああ……!」
艦娘(姉を含む艦隊は、艤装を次々と狙い撃ちのように破壊されていった)
艦娘(私を人質にして釘付けにしている間に、他の艦隊で包囲していたのだ。逃げ場も、武器も失った)
艦娘「おねえちゃああああああん!!!!」
艦娘(私の中で、最も忌むべき光景。何度も何度も夢に出てくる、最大の悪夢)
艦娘(姉と仲間達を、目の前で嬲り殺しにされるその姿。苦しみの叫びと、血を撒き散らして)
艦娘(全てが海の藻屑になった後で、私はゴミのように投げ捨てられた)
艦娘(そして……)
軍人A「……我が海軍のエリート艦隊全部轟沈と引き換えに、生存したのはこの子か」
軍人B「適正テストをしましたが、いやはや、酷い数値ですよ…」
軍人A「フン。彼女と、この子100人。どっちが大事かね?」
軍人B「我々は、獅子を失い、ノミを得た。そういうものです」
軍人C「で。広報発表はどうします?」
軍人A「艦隊と引き換えに、女子生徒一人を守った。それでいいだろう」
軍人B「パッシングは彼女一人に向けさせる、という事ですか」
軍人A「その通りだ。軍への希望者は増える。そっちを探したほうが良かろう」
軍人C「なるほど。世間が彼女を殺してくれますか」
軍人B「いいや、名目上ここに保護するのだよ。そうすれば軍が彼女を汚名から守っていると思わせられる」
軍人C「すると?」
軍人B「何かのモルモットとしては役に立つだろう」
艦娘(私は、文字通り軍人達に監禁された)
艦娘(重傷を負った身であるが、ろくに治療もされず、何かの実験体にでも使われるのを待つ身)
艦娘(食事こそ差し入れてくれるが、それがいつ最後の晩餐になるか解らない)
艦娘(そして目を閉じる度に浮かぶ悪夢が、私を苛めた)
艦娘(どれぐらいの夜が過ぎたか解らない朝になって、見知らぬ姿がやってきた)
???「構わないか?」
艦娘「…?」
???「君の姉は立派な艦娘だった」
艦娘「…」こくり
???「今、世界中の国々が深海棲艦の脅威に晒され、艦娘たちが戦っている」
???「君は確か艦娘に憧れていたんだったな。君の姉の遺品を整理している最中に君からの手紙が出てきたそうだ」
艦娘「……でも、私はお姉ちゃんを、そしてその仲間達を殺してしまった…」
艦娘「皆の憧れを、希望を…」
???「辛かっただろうな」
艦娘「……優しいんですね。私に優しくしても、意味ないのに」
???「そうかな? 何にも、意味が無い筈は無い。君を助けたら、必ず返してくれるだろう」
艦娘「できないよ。私はもうじき死にます」
???「死なない。死なせない」
艦娘「どうして!」
???「…君に死んで欲しくないからだ」
広報官「君の悲劇を残し、伝えなくてはならない。二度とその悲劇を起こさぬ為に、艦娘を増やしていかなければならい」
広報官「その為に君の体験をまとめさせてくれ! 講演で多くの人に話し、少しでも多くの艦娘を―――」
艦娘「お断りします」
広報官「な――――」
艦娘「艦娘であることは、命を賭けて戦う事…ちょっとやそっとの決意で、艦娘になってはいけない…」
艦娘「皮肉ですね。私に昔そう言ったお姉ちゃんも…覚悟、無かったのかも知れませんね」
艦娘(私にその答えを突きつけたのは姉自身。しかし、その答えと向き合えなかったのもまた、姉だった)
広報官「貴様…! どんな立場かわかってるのか!」
艦娘「だからこそです。だからちょっとやそっとの衝動で、人を艦娘にして新たな犠牲者を出すのはお断りです」
艦娘「でも」
艦娘「私ではダメですか?」
広報官「なに?」
艦娘「私が艦娘になるのは、ダメですか」
艦娘「私は、それだけの覚悟を決めました。たった今」
艦娘「私が艦娘になって、皆の憧れで、希望で、誇りになればいい! お姉ちゃんはもういない、なら私がなる!」
艦娘(一世一代の叫びだった。そう、皮肉なもので姉にはない覚悟が、私に出来た瞬間だった)
艦娘(エリート艦隊と引き換えに生き残った私。だからこそ、私は艦娘となる)
広報官「我が軍はお断りだ」
広報官「そもそもお前の評判は最悪だ。町に出たら殺されてもおかしくないぞ」
広報官「ま、その決意は買うがな」
艦娘(僅かばかりの見舞金とともに釈放された)
艦娘(少なくとも国にいては批難される。解りきっていた。そして私は国を出た)
艦娘(たとえどんな場所であろうとも、艦娘になるという事は覚悟を決めること。それがどこであろうと、同じ覚悟が必要だ)
艦娘(数多の海を超えて、私は―――この国で艦娘となる事を選んだ。姉と同じ、戦艦として)
鎮守府 執務室
金剛(そして、今だから言える。自身が姉と呼ばれる存在となり、艦娘として戦ってきた今なら)
金剛「何にでも向き合う覚悟は、いつでも出来ている」
比叡「? 姉様? 何か言いました?」
金剛「何も言ってないデース」
榛名「そ、そうですか。あ、金剛姉様宛に手紙が…」
金剛「Mamaからの手紙ネー。後にシマショー!」ポイッ
提督「こら金剛。家族からの手紙をむげに扱うものじゃない」
金剛「どうせ艦娘やめてI'm homeしろという中身デース。そもそも私は英国に帰れまセーン」
霧島「? 姉様、パスポートでも失くされたんですか? それなら大使館に…」
金剛「Shit! あまり良い理由ではありまセーン」
提督「なに? まさか、故郷で好きでもない婚約者に無理やり縁談進められてるとか…」
金剛「Hey、提督! バーニングラァァァァブ!」
金剛「艦娘として…絶対に負けられません。私は、提督をずっとラブしてるね!」
金剛(もう二度と故郷に帰れないことは解っている。だけど、艦娘として、この国で今)
金剛(私は、あんな悲劇を二度と繰り返さぬように。頑張り続ける)
金剛(大丈夫、最高の提督と、最高の仲間達がいるのだから!)
7話目は皆の嫁、金剛さんでした。
深海棲艦がベラベラ喋ってるのは気にしないでください。そんな感じで喋ってるんじゃね?というようなものです。
2回連続で那智さんがMVPだったので、自分も飲もうかと思ったけれど。
問題は>>1は酒好きなのに下戸です。
艦娘にいるとすれば誰かしら?
少なくともヒャッハーさんは無いとして。
こんー
お久しぶりでござる
久々の投下ですが今夜はちょっと変わり種
艦娘(私の人生は、ドラマチックに非ず)
艦娘(『拝啓、ご両親様。私は今日も元気です』そんな書き出しから始まる手紙は何百通に上ったか)
艦娘(まあ、兎にも角にも私が今、何故艦娘として鎮守府にいるか?)
艦娘(もう一度言おう、私の人生はドラマチックに非ず)
艦娘(私の実家は、医者だった。決して大きいとは言えないが、非常に腕の良い医師の両親とそれを支えるスタッフ達)
艦娘(家中に転がる医学書と人体の解剖書その他。それらを読んで育った私の興味は人体へと向かった)
艦娘(医学でなくて人体というのがミソだ。そう、人体である)
艦娘「…おお。人体の神秘展…」
艦娘(夏休みなどの大型休みともなれば、よく博物館だので行われる人体模型やらホルマリンやらの展示会に好んで行くような子である)
艦娘(まあ、浮いている子であるのは事実だ。否定はしない。女の子が一人でそんな展示会にやってくるというのも、あまりある事でない)
艦娘「大たい骨…これは綺麗だなー」
学者「骨が好きかね?」
艦娘「骨以外にも色々。好きというよりも、興味かも」
学者「ほう」
艦娘(その日、私は奇妙な学者に出会った。その時の私はこれが人生を変える出会いになるとは知らなかったけれど)
学者「面白い子供だな。どんな興味がある?」
艦娘「構造とか、働きとか…骨が中空なのに強度があるとかね」
学者「確かに。中身がしっかり詰まっているほうが、強度があるようにも思える。しかし実際は中空の方が、重さなどにも強い」
学者「他にも、肉体とは不思議なものだな。全力を出すと壊れてしまう、というな」
艦娘(この学者は色々な事を知っていた。その時はお互いに名乗らず、ただ興味が尽きるまで話しただけだった)
艦娘(しかし数日後、とある講演会に足を運んだ時に再会してしまった)
艦娘「おっそろしい程ガラガラ……」
艦娘(この日はオカルトやら陰謀論やらの与太話大好きな友人に連れられ、その手の学者の講演会に誘われたのである)
友人「エヌ先生は荒唐無稽だって思われてるからねぇ」
学者「うぅむ、マスコミ着てないのか。ま、いいか」
艦娘「あれ、いつかの学者さんだ」
学者「えー、皆さん。本日発表するのは深海棲艦と人間の関連性についてでして…」
艦娘「深海棲艦?」
友人「へー、あの怪物について?」
学者「多くの資料から検証するに、深海棲艦というのは未発見の人類の亜種ではないかと考えられます」
学者「人を含む全ての生物は海から生まれました。類人猿から進化した我々人類がいるように、魚類から発達し、何らかの形で人の遺伝子を取り込んだ…」
憲兵「異議有り!!!」
学者「な、なにやつ!?」
憲兵「なんなんだこの理論は! 配布されたレジュメに目を通したが、どうだろうか。人間の遺伝子が何らかの形で魚類に流出したというと、深海棲艦は新たなキメラ扱いではないか!」
憲兵「これでは我々人類に非があるように思える! 我々人類があんな悪魔を生み出したとでも言うのかね!」
学者「な、何を言う! あくまでもこれは研究成果であってそう仮定できるという点だ! しかし、それがなんだというのだ!」
学者「海軍をはじめ、多くの人が深海棲艦との戦いに明け暮れているのは、否定できない事実であり、それに感謝はしねばなかろう!」
憲兵「……ふむ」
学者「そしてなにより深海棲艦の出所を知るところで、彼らへ対抗策も生まれるというもの!」
学者「さて……魚類から新たな進化を経た深海棲艦は、人間のような進化を辿るならば、意志を持つ可能性もある」
学者「ここに高い知性を示したというデータもあるのは否定できない!」
艦娘「そのデータは、どこから?」
学者「うむ。これをご覧アレ。実際に戦う艦娘から…」
憲兵「軍事機密漏洩の現行犯! 確保ー!」
学者「な、なにをするきさまー!」
友人「ああ、先生が!」
艦娘「…あれ、もしかして悪いこと聞いた?」
友人「そうかも」
艦娘(なお、その日のうちに釈放されたそうな)
艦娘(数日後、本を読んで住所を知ったその学者の家を、私は訪ねた)
艦娘(具体的に言うと余計な事を聞いたせいだろ、と親に怒られて謝って来いという事である)
学者「む? ああ、この前のかね?」
艦娘「この前はすみませんでしたー」
学者「よくある事だ、問題ない」
艦娘「それより前に人体の不思議展で会いましたね」
学者「ああ、そう言えば」
艦娘「あの時は魚類からの進化云々で、人を見に来たんですか?」
学者「ああ。これをご覧。駆逐イ級と呼ばれる生態の剥製だよ」
艦娘「大きいですね」
学者「見事だろう? これが人や船を襲うというものだから驚きだ。大砲や魚雷まで背負ってね」
艦娘「…大砲も魚雷も、人が作った武器ですよね? 進化したとはいえ、魚が備えられるものですか?」
学者「鉄砲に近いものならテッポウウオというのがあるがね。これが解らんのだよ」
学者「この謎が解明できれば、更に理解できるものだろうが…」
艦娘「理解、ですか?」
学者「うむ。知能うんぬんの話は仕掛けたな? その続きをしてみようか」
学者「深海棲艦は高い知能を持っている。それは人に近い形をしているだけでなく、行動にも現れているんだ」
学者「襲撃対象も貨物船の方が多い。死者も出ない訳ではないが、救命ボートを好んで襲っているかというとそうでもない。割と見逃されがちだ」
学者「まあ貨物船だけでなく客船も多く襲われているといればそうだが」
艦娘「資源の方を狙う? でも、この国みたいな島国以外じゃ資源を運ぶ船を襲われても…」
学者「島国は干上がるし、そうでなくても連絡手段が絶たれるときついものがある。軍事的な協力として兵器の融通とかもある」
艦娘「すると、こちらを攻撃したい、困らせたい、と考えているって事ですかね?」
学者「恐らく、それぐらいの知能はある。だが、それには戦力が足りないのが現状、であるな。海岸付近に稀に上陸する事例がある」
学者「しかし陸地深くまで侵攻することはあまりない。陸地にあがる能力はあるのだよ、深海棲艦には」
学者「では何故進まないかというと、戦力面ではないかとしか考えられん」
艦娘(学者の話は興味深く、面白かった)
艦娘(深海棲艦の生態や目的、その他に関する考察。様々な資料には軍事機密に関わりそうなものもあっただろう)
艦娘(だけどそれは私の興味を引くには充分で、私は度々学者の家を訪れた)
艦娘「今日は何故、彼らが艦艇という姿をとるのかを聞きたいんですが」
学者「これも詳しいことは解らないが、泳ぎ易いのと防御形態ではないかな?」
学者「艦艇にはいわゆるダメコンというシステムがある。それを自然的に体内に導入したのだろうね」
艦娘「えーと、ダメージを受けてもすぐに沈まないように?」
学者「うむ。まあ、これも人が作り上げたシステムだが自然的には難しいな」
学者「だが、人に取り込めないシステムではない。だから深海棲艦は人に近いのかも知れない」
艦娘「ダメコンが人に取り込める? どういう事です?」
学者「艦娘、だよ」
艦娘「艦娘、ですか」
学者「彼らは人間でありながら、艦艇の力を持つ。その誕生には諸説あるが、艦娘として艤装を装備した時点で肉体構造が大きく変革するらしい」
学者「この艤装についてもまだよく解っていないが…もしかしたら深海棲艦に…」
艦娘「そんなバカな」
憲兵「軍事機密漏洩罪だ!」バターン
艦娘「また!?」
憲兵「ばかもーん! 貴様も逮捕だー!」
艦娘(何の因果か、十代にして私は逮捕されるという憂き目に遭った)
艦娘(取調べそのものは普通で、どういう話を聞いたのかとかそういう話ばかり。まあ、子供だから当然だったかも知れないが)
憲兵「……ふむ、興味を持って、か」
艦娘「別に悪用するとか、スパイとかそういうつもりは毛頭ないです」
憲兵「ふむ」
艦娘(ここで憲兵は何を思ったのか、学者を連れてきた)
憲兵「おい。研究記録を見させてもらったが、理論上は深海棲艦との意思疎通も不可能ではないとかあったな」
学者「その為のデータは必要だし、実験もいるだろうがな」
艦娘(それはそうだ。なにせ、学者の立てたものは全て仮説。それを証明する術が無ければ解らない)
艦娘(憲兵だってそれをわかっている筈。そう考えていた時だった)
憲兵「まあ、いつまで続くか解らん戦争だ。それを考えるのも変ではない」
憲兵「だから貴様に告げるべきことはただ一つだ。お前が艦娘となり、試してみろ」
憲兵「そうだ、お前がな」
艦娘「…私?」
艦娘(全ての矛先は私に向けられた。逮捕された私に拒否権は無かった)
艦娘(だがしかし、私はこれを不幸な出来事と思ったことはない)
艦娘(艦娘になった事で、知る事が出来たのは山ほどあるし、数多の実験を繰り返すのも悪くないと思ったからだ)
艦娘(私が艦娘になったのは、そんな理由。決してドラマチックでもなんでもない)
鎮守府 食堂
艦娘(ただ一つ思う事があるとすれば…)
球磨「クマー。飲みすぎたクマー」
多摩「ニャー」
木曾「ああ、どいつもこいつも飲みすぎだ! 北上、大井は…」
大井「北上さん北上さん北上さん」スリスリ
北上「実験なんてろくに出来もしないって事かなー」
木曾「?」
北上(そう。憲兵の監視もあまり届かないし。そもそも学者が時折手紙で知らせてくる実験内容に関しても、命令にそぐわなければ提督が止めてしまう)
北上(そんな状況の私に出来る事は、深海棲艦と戦いながらこの日々を楽しむだけ)
北上(まあ、決して悪い生活ではない。だけど)
北上「もうちょっと満たされたいかなー」
大井「北上さん私じゃ不満?」
北上「いや、まあ、そういう訳じゃないけど…」
北上(こればっかりは大井っちにもどうにも出来ないもんなー)
北上(未だに深海棲艦への興味は尽きない。そしてそれと関わる仕事という面での)
北上(艦娘として生きるのも悪くない。まったく、ドラマチックではないけれども)
北上(たぶん、艦娘という存在であることは嬉しいんだろうな)
8話目は皆の大好きな雷巡の北上様でした
どこかダウナー系なのが堪らなく好きだ。
ひょっこりひょうたん島っと。
9話目になる今回は、初めて扱うジャンルの子。
早くうちの鎮守府にも来て欲しい…、まあ大鯨とか大和もいないんだけどね。
艦娘(私の知っている世界は、どこか平和だった)
艦娘(世界が深海棲艦の脅威に晒されていても、陸地と陸地に挟まれた内海近辺に住む私達には遠い話)
艦娘(せいぜい軍港とその周辺に住む海軍の人たちが何かと戦っている、それぐらいの認識)
艦娘「見てみてお姉ちゃん! 戦艦だよ、おっきぃ!」
姉「あれは空母だよ艦娘。大きい軍艦なんでも戦艦って思わないの」
姉「でもなんでこんな内海の基地に空母があるんだろう? 海峡通れるのかな…?」
艦娘「なんだろ、わかんないや! お姉ちゃん、アイス食べに行こうよ!」
姉「行こう行こう!」
艦娘(学校帰りに、お姉ちゃんや友人たちと出かけるちっちゃなお店。そこでアイスを食べるのが何よりも楽しみだった)
艦娘(中でも好きなのは安く買えて、青く綺麗なソーダアイス。当たりつきである)
艦娘「くーださいなー!」
少年「いつもの二本?」
艦娘「いつもの二本!」
艦娘(この店に来るもう一つの楽しみ。それはこの店のおばあちゃんのお孫さんに会う事。孫といっても、私達よりも年上なんだけれど)
艦娘(なんでも中学を出てからお手伝いをしているそうで、優しくて宿題や遊びを教えてくれたり、時々おまけもしてくれたりする人だ)
姉「もー、走らないでよ。あ、ありがとう」
少年「どういたしまして」
艦娘(そして彼に会うたびに、お姉ちゃんは頬を赤く染める。ほの字なのは、昔から知っている)
艦娘(羨ましいと思う事はある。だけど…お姉ちゃんがいるから)
艦娘(踏み出せない自分がいる。そんな自分が時々、苛立つ)
姉「あ、あのさ…この前の事、やっぱり…」
少年「あ、ああ……まあ、お前ももうすぐ卒業だし…。で、でも。これは俺の意志で…」
姉「……」
艦娘(邪魔しないように外に行こうっと)
ばあちゃん「これ、なんの話をしとる?」
少年「あー…な、なんでもない!」
姉「う、うん!」
艦娘(おばあちゃん空気読んでー!!!)
ばあちゃん「孫の嫁に来るなら妹の方がええねぇ。畑仕事巧い聞いてるよ」
艦娘「あははは…」
姉「わ、私は不器用だから…」
艦娘(この時何を話していたのか、それを知るのは数日後。お姉ちゃんが学校の卒業式を迎える時だった)
数日後
父「か、か、か、艦娘になるだってぇぇぇぇぇ!!!」
艦娘(あまりにも藪から棒な発言に、小さな家は揺れに揺れた)
姉「うん」
母「な、なんという事なの!? いったい突然どうして!?」
艦娘「………」
姉「うん。決めた事だから」
艦娘「あのおにーちゃんの事、どうするの? いつものお店のお孫さん」
艦娘「私、知ってるよ。お姉ちゃんが気にしてること」
姉「…違うの」
姉「二人で、海軍に入るって決めた事なの」
艦娘(母親は泡を吹いて卒倒し、父親は慌てて店にすっ飛んでいった。そしておばあちゃんも腰を抜かした)
ばあちゃん「な、なんじゃってー!!! それいったいどういう――――」
少年「うん、二人で海軍に入るって決めた」
ばあちゃん「忘れたんかい! 爺さんも、お前の父さんも母親も、軍人として深海棲艦と戦って死んだんじゃ!」
少年「忘れてない。だからだよ。俺に何が出来るかって聞かれたら、これぐらいしか出来ない」
ばあちゃん「うーん」バタッ
父「ああっ! おばあさんしっかり!」
父「と、とにかくそれに娘を巻き込むのは…」
姉「違うのお父さん。これは私の意志だよ。私は私として、戦いたいの」
父「だ、だいいち泳ぎだって艦娘の方が巧いし…」
姉「いや、艦娘になれば水上移動だからあんま関係ないって」
艦娘(家族会議は続いた。しかし、結論は変わらなかった)
艦娘(ある意味正しいのか、それとも悔しいのか。二人で一緒にいたそうな姉の願いが叶ったのか、それとも自分の……)
艦娘(考えたくなかった。自分ひとりが取り残されるような虚しさを。でも、それが現実だった)
艦娘(そして二人は海軍へと入隊していった。寂しそうなばあちゃんの姿だけが、残った)
艦娘(いつも一緒だった姉が消えた事で、私の家庭は少し笑顔が減った。だから私は代わりに笑った)
艦娘(スキンシップを取るようにして、父や母を笑わせようと、一生懸命色んな事をした)
艦娘(だけど我が家は、少しずつおかしかった。そりゃそうだ。姉は毎月便りは来るけれど、それでも死と隣り合わせの世界なのだ)
艦娘(私の住んでいた世界は、こんなにも平和なのに)
艦娘(そんなある日、私宛に手紙が届いた)
艦娘「お姉ちゃんからだ…」
姉『家の近くの鎮守府に来て欲しい』
姉『色々、話したい事があるから』
艦娘「……日付は、今度の日曜日?」
今度の日曜日 鎮守府
艦娘「……あの、姉に呼ばれて」
海兵「はい、面会ですね。こちらへどうぞ」
艦娘(鎮守府に入ってまず飛び込んできたのは、巨大な工廠だった)
艦娘「ずいぶん大きいですね」
海兵「うちの鎮守府は開発や建造に力を入れているので。新人さんのお陰で、色々開発できてます」
海兵「まあつまり、あなたのお姉さんなんですがね」
艦娘「…おねえちゃんが?」
姉「艦娘!」
艦娘「お姉ちゃん!」
艦娘(久しぶりの再会。孫はどこ、というよりまず再会が嬉しかった)
艦娘(目は隈だらけで、だいぶやつれてるように見えてても、再会が嬉しかった)
艦娘「元気? 怪我とかない?」
姉「大丈夫よ。心配しないで。ちょっと仕事ばっかりだったけど」
艦娘「工廠で色々やってるって聞いたけど」
姉「うん……ここは内海だから、戦闘はあんまりないんだけれど。訓練とか、研究とかはメインだもの」
姉「ついてきて。色々案内してあげる」
艦娘「そんなの、私に公開していいの?」
艦娘(なにせ私は一般市民なのだ。幾ら妹とはいえ、ほいほい機密に触れるようなことはいけない筈だ)
姉「大丈夫、大丈夫。鎮守府は、市民に愛される海軍を目指してるの」
姉「あれが砲で、あれがタービンで…」
艦娘「色々あるね」
姉「うん。色々なものが戦いを支えてるの」
姉「それで、こっちが研究所」
艦娘(この時に私は違和感に気付くべきだった。そう、気付くべきだった)
艦娘(再会した時にそのサインはあった。そして、孫の事を一度も話題にしないことが)
艦娘「おねえちゃん。おにーさん、元気?」
姉「……元気、といえば、元気ね」
姉「さ、ここよ。入って入って」
張り紙『関係者以外許可ナシノ立入ヲ禁ズ。厳罰ノ場合アリ』
艦娘「これって…」
姉「大丈夫よ」
艦娘「でも、私は軍属ですら…」
姉「いいからいいから」
艦娘(厳重な扉が閉められ、真っ暗な階段を降りて。そして、明かりが点けられた)
深海棲艦『シーン』
艦娘「これは…!?」
艦娘(テレビの中でしか見た事の無い深海棲艦が無数のカプセルに入れられていた。まるで標本のようだった)
艦娘「こ、こんなところに連れてきてどうするの」
姉「こっちへ来て……早く」
艦娘「だ、だって怖いよ」
姉「いいから、早く」
姉「これは軽空母ヌ級と呼ばれるんだけど…深海棲艦では、雄の個体も確認されてる数少ない種類…」
姉「そう、雄のね……」
艦娘「どういう意味で…」
艦娘(その時に、私はその標本を見て。初めて理解した)
艦娘(顔が大きく艤装で隠れているが、その下の顔は解らないはずは無い)
艦娘「……嘘……」
艦娘(そこにいたのは、かつて憧れたおにーさん)
姉「ねぇ知ってる?」
姉「彼が好きだったのは、ずっと気にしていたのは、私じゃないの」
姉「私に会う度に話してたことはいつも艦娘の事で、海軍に入隊するって言ったのも艦娘を守る為で、私が入隊したのは一緒に戦おうって言ったから」
姉「だけど彼の事はいっちも艦娘の事ばっかりで手紙を書けばみんな艦娘宛てで、何度手紙を焼き捨てたかわからないぐらい」
姉「ああそうよ、いつも艦娘の事を気にしてた。その挙句がこのザマよ!」
姉「…私が何度呼びかけても目覚めない、でも艦娘がいれば目覚めるはず。だから連れてきたの…」
艦娘「…!?」
艦娘(背後で響いた、砲弾を装填する音。14cm単装砲は、生身の人間を[ピーーー]には充分過ぎる程)
姉「ほら、大好きな艦娘だよ。連れてきたよ。ね、お願い…」
艦娘(そこにあるのは狂気だった。狂気でしかなかった。自身の姉の姿をした狂気だった)
軽母ヌ級『…ヌ?』
艦娘(その時、カプセルの中が動いた。深海棲艦と化した彼は、私を見た)
軽母ヌ級『ヌ…ヌ…』バリーン!
艦娘(割れるカプセル。流出した培養液)
姉「あははははははははは、ほら、目覚めたよ! ね、私を見て、私を見てよぉ!」
艦娘(私を突き飛ばしてヌ級へと飛びついた姉。だけどその直後――――)
軽母ヌ級「ヌ…ヌ…」ドロォ…
姉「あはははははは一緒だぁ…一緒ぉ…」ゴボゴボ
艦娘(軽母ヌ級から伸びた触手が、姉をあっという間に掴んでそのまま…艤装の中へ入り込み、更に変質していった)
艦娘(それだけじゃない、そこから伸びた単装砲が火を噴き、周囲のカプセルを破壊し始めた)
艦娘「ひ、ひぃっ!」
ヌ級「ヌゥッ!」
艦娘(流出する培養液を浴びたヌ級は更に変質。無数の深海棲艦を取り込んで言った)
海兵「な、なんの音だ!」
艦娘「逃げて! 深海棲艦が…!」
ヌ級「ドコダ…! ヌゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
艦娘「こ、こないで!」
艦娘(バケモノ。そうとしか言いようが無かった)
艦娘「っ!?」ズデッ
艦娘「魚雷…!?」
ヌ級「ヌォォォォォォ」
艦娘「ええい…ままよ!」
艦娘(落ちていた魚雷を掴んで、私はそのまま海に飛び込んだ)
艦娘(元は深海棲艦のバケモノも海まで追って来る。そう、私を追いかけているのは目に見えていた。だから…)
艦娘「……お願い…」
艦娘(強く抱きしめた魚雷と共に、深く、考えられるほど深く潜り、そして――――)
艦娘(手を、離した)
ヌ級「…ヌ?」
艦娘(爆音は、海の中にいても聞こえた)
艦娘(突き刺さった魚雷の威力は凄まじかった。私が浮上するのとすれ違うように、沈んでいくバケモノ)
艦娘(だけどその顔は笑っていた。その笑みの答えを、私は今でも知らない)
当時の提督「上がってきた…人か?」
艦娘「…ハァッ…ハァッ…」
当時の提督「奴はどうした!?」
艦娘「魚雷を当てたら…沈んだ…」
当時の提督「そうか…沈んだか…」
艦娘(そして私は、姉の事、そして姉の行為とヌ級について告白した)
艦娘(見てはいけない場所を見た事についてどっさり怒られ、ついでに姉の所業についても少し責められて)
艦娘(最後に声をかけられたことは、魚雷が狙い通りに当たった事だった)
鎮守府 現在
伊19(そして今、私はここにいる)
伊19「イクの魚雷はいつも狙い通りに当たるの」
伊19(静かな海のスナイパー。だけどその始まりはたった一発の魚雷だった)
伊19「…きっとおねえちゃんを沈めたときと同じように、一発で仕留めるの」
伊19(あれから何度も夢に見る。あの追いかけてくるバケモノを。そして最後に見せた笑みの夢)
伊19(今になってもその意味は解らない。だから)
伊19「えーい!」魚雷発射
伊19(今の私に出来るのは、二人の為に祈るだけ。海の底に沈む二人について、祈るだけ)
伊19(そして二度とあのような悲劇を生み出さない為に。深海棲艦を沈めるのだ。犠牲者が増えないように)
本当に亀更新でごめんなさい
今回は海のスナイパーこと伊19ちゃんでしたー。
でち公とどっちにするか激しく迷ったけど。
本当に亀すぎる…
今回も大型艦です。
艦娘(美しい真珠)
艦娘(綺麗なそれは、長い時間をかけて育てられるもの)
艦娘(この美しい海で、長い時間をかけて、育てて行くもの)
艦娘(私の家は、そんな真珠の養殖を手がけていた家だった。否、真珠の養殖を家業にしようとしていた)
艦娘(あちこち駆け回って借金した父が山ほど揃えて来たアコヤガイの山を、今でも覚えている)
父「立派なアコヤガイの子供だ」
父「この海は台風が来る事も少ない、穏やかな場所だからな」
艦娘「これだけあれば、どれだけ真珠ができるの?」
父「そうだなあ…数千…数万は行くんじゃないか?」
艦娘「お風呂がいっぱいになる?」
父「ああ。いや…お風呂だけじゃない。学校のプールだっていっぱいになるぐらいだ!」
父「全部育てよう。立派に育ててみるんだ!」
艦娘(余談だが、真珠の養殖というものは数年単位である。そもそも真珠を作るにしても、真珠の核を入れる貝を育てるにも一苦労だ)
艦娘(借金もあったし、決して裕福とはいえない生活。食べ盛りの私はいつもお腹を空かせていた)
艦娘(だけどご飯が食べられないのはしょうがない事。いつか、綺麗な真珠をたくさん作って、私はそんな立派な真珠を誇りに思うのだ)
父「貝もだいぶ大きくなって…ん? なんだ、あれ?」
ニュース『えー、続いてのニュース。インド洋方面から帰還中の漁船集団が深海棲艦に襲われました』
ニュース『積荷のタコが大量に海上に流出し、現在国内にてたこ焼き用のタコの供給が追いつかず…』
父「タコだー!!!」
艦娘「お父さん大変! タコの大群が!」
父「蛸壺をたくさん用意するんだ! タコは貝の天敵だ、貝が食べられてしまう!」
艦娘(とにかく養殖では様々な困難の闘いだった。特にタコとの死闘は毎年続いた)
艦娘(この時、深海棲艦のせいでタコが流出したと思うと、深海棲艦の事は海から来る怪物だけど許せない、と思っていた)
艦娘(当時子供だった私にとっては、深海棲艦の認識というのはそれぐらいだったのだ)
ニュース『異状発生した台風13号と14号と15号が海域に高速で接近中です』
ニュース『台風13号は14号と15号の勢いに乗せられ、暴風域の最大風速は鎮守府が半分吹き飛ぶ威力を持っております』
ニュース『専門家によりますと13号の内部で極めて稀な現象、スーパーなんとかが起こっており…』
父「なんで台風が3個も来るんだ! やめてくれ、皆吹き飛んでしまう!」
艦娘「お父さん、言ってるそばから!」
父「急いで避難させないと! 近所の漁船にも応援を頼もう!」
艦娘「大変、船が転覆してる!」
父「ああっ! 大変だ!」
艦娘(あの大嵐の中で吹き飛んだ漁師たちを救助できたのは奇跡に近い)
艦娘(考えてみれば父親は昔からツイてない人だったらしい。台風が直撃したり、タコに悩まされたり)
艦娘(季節は巡り、夏になった)
艦娘「…今日の海は穏やかね」
艦娘(台風を乗り切ったその日はとても良く晴れていて、穏やかな海だった)
艦娘「貝の様子はどうかな? またタコが来てたら捕まえないと…」
艦娘(連日のタコ料理にはうんざりしていたが、それでもタコは駆除しないといけない。そう思って養殖場近くに向かった時だった)
艦娘「ん?」
艦娘(初めて見た時は不思議だった。船もないのに、女の子が浮いていた。背中に機械のようなものをつけて)
艦娘(今まで見た事がなかった、艦娘との初遭遇だった)
艦娘「大丈夫? なんでこんなところに?」
先代吹雪「う…うぅ……」ぼたり、ぼたり、
艦娘「油が漏れてる! 大変! 貝が全滅しちゃう!」
艦娘(とにかく先に漏れている油を処理してから、彼女を船へと引っ張りあげ、家へと連れて帰った)
艦娘(ちなみに滅茶苦茶重かった。当時の私は艤装というのに何の知識もなかった)
父「おお、どうした! 女の子か?」
父「とにかく手当てをしよう。息を吹き返すといいが」
艦娘(満足とはいえないが、私と父は一生懸命手当てをした)
艦娘(何故あんなところにいたのかは解らないが、とにかく拾う神はあるということだ)
父「…それにしてもこれはなんだろう。大砲?」
艦娘「軍の人かな?」
父「でもこんな子供がねぇ」
艦娘(彼女が目を覚ましたのは、二日後の朝の事だった)
先代吹雪「まさか遠征の帰還中に深海棲艦の攻撃に遭うなんて……うぅ…」
先代吹雪「えーと、この島…かなり離れてるんだよね? 本土から?」
父「ええ、まあ。連絡船は二週間に一度ですし」
先代吹雪「電話って…」
艦娘「ないです」
先代吹雪「無線は…」
父「えーと、島の役場にあるんですが」
先代吹雪「ああ、良かった」
父「壊れたんで次の連絡船で新しいのと交換する予定なんですよねー」
先代吹雪「連絡船は?」
艦娘「10日後です」
先代吹雪「あの、何か手伝いますので…宿、教えてもらえませんか?」
父「では、うちの家業を」
艦娘「まあ、あなたが垂れ流した油の処理も大変だったから」
父「こら、言うもんじゃありません」
先代吹雪「ご、ごめんなさい…」
艦娘(なにはともあれ、我が家に艦娘がやってきた)
先代吹雪「広い…これは、貝?」
父「ああ。真珠の養殖だよ」
先代吹雪「真珠って、あの真珠ですよね? 白くて綺麗で」
父「その通りさ! この島で新しい産業にしようと思うんだ。海は穏やかだからね」
先代吹雪「…」
艦娘「どうしたの?」
先代吹雪「穏やか、なんですね。この辺り」
父「ああ。嵐は少ないし、その…あまり怪物の話も聞かない」
先代吹雪「ちょっと、羨ましいですね」
艦娘(彼女は少しだけ遠い目になって、語りだした)
先代吹雪「私の両親は漁師でした。でも、私が子供の頃に、海から怪物が出てきて…それで帰ってこなかったんです」
父「…」
先代吹雪「だから子供の頃からずっと、海って怖いもので。泳いだことも無くて、近づくこともあんまりなくて」
先代吹雪「艦娘になったのは、それぐらいしか行き先が無かったからかも知れません。家族もいないし」
先代吹雪「いつかきっと…素敵な真珠を飾って。白いウェディングドレスを着て、お父さんとバージンロードを歩く夢も抱いてたけど」
先代吹雪「それが全部無くなって。海って怖くて、つらいもので、悲しみの象徴」
先代吹雪「だけど…海って、こんなに穏やかなんですね。真珠だって、海から来る」
父「そうだな。海は、優しい顔もある。恐ろしい顔もある」
父「出来ることなら」
父「この真珠が育ったら、君に最高の奴を贈ろう。君がいつか使う為に」
艦娘「…うん! それなら、どんな場所にいたって見える! とても大きいのを贈ろう!」
先代吹雪「…ありがとう!」
艦娘(彼女が飛び切りの笑顔を見せてくれたのは、その時だった)
艦娘「艦娘って、どうやって戦ってるの?」
先代吹雪「まあ、大砲だったり、機銃だったり…空母とかだったら、艦載機とかも飛ばせるよ」
艦娘「飛行機を飛ばすの?」
先代吹雪「うん。弓や、式神とかでね。それぞれ個別の方法で」
艦娘「私にも出来るかな?」
先代吹雪「艦娘にならないと無理かなあ」
艦娘(艦娘という一つの選択肢は、私の心を少しだけ動かした)
艦娘(しかし、それでも真珠に命をかける父の姿と、私自身がまだその事を望んでいた)
艦娘(だが、彼女が来て九日目の朝だった)
父「なんだ? 魚の死体がだいぶ上がってるな…」
艦娘「なんだろう? 色々海に浮いてる」
父「油かな?」
先代吹雪「おはようございます。どうしました?」
父「ああ、海が変なんだ。初めて見るよ」
先代吹雪「…!」
先代吹雪「海に近づかないでください。お願いします。他の人にも伝えてください!」
父「え? だけど…」
先代吹雪「…深海棲艦が来る…!」
父「!」
先代吹雪「だから子供の頃からずっと、海って怖いもので。泳いだことも無くて、近づくこともあんまりなくて」
先代吹雪「艦娘になったのは、それぐらいしか行き先が無かったからかも知れません。家族もいないし」
先代吹雪「いつかきっと…素敵な真珠を飾って。白いウェディングドレスを着て、お父さんとバージンロードを歩く夢も抱いてたけど」
先代吹雪「それが全部無くなって。海って怖くて、つらいもので、悲しみの象徴」
先代吹雪「だけど…海って、こんなに穏やかなんですね。真珠だって、海から来る」
父「そうだな。海は、優しい顔もある。恐ろしい顔もある」
父「出来ることなら」
父「この真珠が育ったら、君に最高の奴を贈ろう。君がいつか使う為に」
艦娘「…うん! それなら、どんな場所にいたって見える! とても大きいのを贈ろう!」
先代吹雪「…ありがとう!」
艦娘(彼女が飛び切りの笑顔を見せてくれたのは、その時だった)
艦娘「艦娘って、どうやって戦ってるの?」
先代吹雪「まあ、大砲だったり、機銃だったり…空母とかだったら、艦載機とかも飛ばせるよ」
艦娘「飛行機を飛ばすの?」
先代吹雪「うん。弓や、式神とかでね。それぞれ個別の方法で」
艦娘「私にも出来るかな?」
先代吹雪「艦娘にならないと無理かなあ」
艦娘(艦娘という一つの選択肢は、私の心を少しだけ動かした)
艦娘(しかし、それでも真珠に命をかける父の姿と、私自身がまだその事を望んでいた)
艦娘(だが、彼女が来て九日目の朝だった)
父「なんだ? 魚の死体がだいぶ上がってるな…」
艦娘「なんだろう? 色々海に浮いてる」
父「油かな?」
先代吹雪「おはようございます。どうしました?」
父「ああ、海が変なんだ。初めて見るよ」
先代吹雪「…!」
先代吹雪「海に近づかないでください。お願いします。他の人にも伝えてください!」
父「え? だけど…」
先代吹雪「…深海棲艦が来る…!」
父「!」
艦娘(小さな島に深海棲艦の姿を知るモノは殆どいない。だが、怪物という事だけは解っていた)
艦娘(漁業に出ている漁師たちが慌てて家に逃げ戻ってきた)
先代吹雪「弾丸少ないし、魚雷も2発しかないか…しょうがないよね」
艦娘「行く、の?」
先代吹雪「うん。それが仕事だから」
艦娘「でも、それ壊れてる」
先代吹雪「大丈夫。たとえ何体来たって怖くない」
先代吹雪「それにね。アイツらがいたら、貝だって全滅しちゃう。アイツらは海の資源も壊しちゃう」
先代吹雪「私がやっつけちゃうんだから!」
艦娘(そして彼女は壊れたままの艤装をつけ、弾丸の少ない砲を掲げて沖へと向かった)
艦娘(沖へ、とにかく島から離れた場所で戦おうとして)
艦娘(止めるべきだったのか否かは、今でも解らない。でも…)
艦娘(夕暮れの頃に大砲の音が幾度も響いて、島からも見えるほどの火が何度も放たれて)
艦娘(そして夜のうちに、戦いは終わった)
艦娘「…!」
父「なんてことだ……」
艦娘(沖から、こちらへ戻ってきた彼女の姿は誰が見ても重傷だった。もう、長くないことははっきりしていた)
先代吹雪「貝は…貝は……」
父「…あ、ああ」
艦娘(深海棲艦との激しい戦いで流出した油が、弾薬が…まさに私達の家の貝カゴを直撃していた)
艦娘(どれもこれも、死んでいる。父の顔が曇っているのが解っていく。だが)
父「だ、大丈夫だ! 君は、貝を守ったんだ! 素敵な真珠が出来るぞ!」
先代吹雪「見たい…どんな貝だろ…」
艦娘(力なく微笑む彼女の先に、一つだけ貝があった)
艦娘(小ぶりで、成長が遅れている。でも、一つだけ被害を免れていた。たくさんあった貝の、一つだけ)
父「ほ、ほら! ごらん、綺麗な色をしてるだろう?」
先代吹雪「綺麗……」
先代吹雪「素敵な真珠に…なるといいな」
艦娘「私達を…守ってくれた…だけじゃない、貝を…」
先代吹雪「いつか…いつか綺麗に……優しい海で…綺麗な真珠をつけて……」
艦娘「…いつか、綺麗な…優しい海で…」
艦娘(その日来たの連絡船での輸送中に、彼女は息を引き取った)
艦娘(彼女が守ったのは命だけじゃない。その生活も、守ろうとしてくれた)
艦娘(いつか綺麗な、優しい海を夢見た彼女を放ってなんておけなかった)
艦娘「お父さん、私…」
鎮守府 現在
吹雪「わ! どうしたんですか、このネックレス!」
加賀「私の実家からです」
吹雪「綺麗な真珠ですね。大粒で、白くて綺麗で」
吹雪「で、でもどうしてわざわざ? 私と加賀さんって…」
加賀「提督とのケッコンカッコカリなんでしょう? 折角だから、着飾るのも良いでしょう」
吹雪「でもこんな立派なの頂いても」
加賀「心配しないでください。私の家業が、真珠養殖なので」
加賀(生き残った一つの貝を元手に、再び借金した父は数年後に借金を完済、真珠養殖の達人となった)
加賀(お陰で私にも結婚しろとうるさいが。だがこうして美しい真珠を艦娘に贈るぐらいの事はしてくれる)
吹雪「ありがとうございます…加賀さん。大事に、します」
提督「…なあ、加賀。この請求書の金額はナンデショウ? 桁が一つ違う気がするんだが」
加賀「ケッコンカッコカリ代ではありませんか」
加賀(海を見る度に思い出す。全てを守ろうとした彼女の事を)
加賀(だから私は夢を見る。綺麗な優しい海で、いつか。綺麗な真珠のネックレスをつけて、白いウェディングドレスを)
加賀(その夢を見るのは、どんな子にだって許されるのだから)
今回は加賀さんでした。
クールな加賀さんだからこそ、綺麗なものへの憧れとかがあるのかもと妄想してみる。
次回でラストにする予定です。
本当にお待たせしてごめんなさい。
実は最後に2話分まとめて投下しようと思いましたが…
うっかり全消しとか新しいネタ襲来とかあったので
ラストまでもう1回延長しまして…この次回がラストで二人分になります。
アンカーと今回の子だけはやる事が決まってたというか、今回投下する子は皆知ってるあの子です。
読んでくれてる人たちにはサンクスです。
はじめは天龍ちゃんから始まったんだなあ…
艦娘(爆撃と銃声が子守歌。砂と廃墟と灰だらけの世界を、幼い頃から彷徨っていた)
艦娘(父親も母親も、気がついたら私の側にいなくて、他の肉親は解らない)
艦娘(どっかで誰かが殺されてて、どっかで誰かが殺しに来る。それが戦争なんだって事しか知らない)
艦娘(来る日も来る日も逃げ惑って、来る日も来る日もお腹を空かせて喉が渇いて)
艦娘(苦しみながら死んで行く人を見た。血と内臓なんて見慣れてた。私にはどうにも出来なかった)
艦娘(ずっと生きていた。一人ぼっちで。誰も助けてくれなかった。ただ、その日を生きる為に生きていた)
艦娘(だから私は、この世界で一人なんだとずっと思ってた。あの日まで)
艦娘(ある夜、空腹に耐えかねた私は夜の砂漠を彷徨っていて、幾らかの建物を見つけた)
艦娘(明かりが灯っている場所は人がいる。明かりを避けて近づき、倉庫を探せば食べ物があるかも知れない。そう思って足音を忍ばせた)
艦娘(だから夜の砂漠である事に気付かなかった。そこには毒を持つ生き物がたくさんいた)
艦娘(素足だった私は、夜闇に潜んでいた毒蛇を知らずに踏んづけて、そして噛まれた)
艦娘(夜に私の絶叫が響いた。同時に騒がしくなる建物。人が集まる。そう思って、逃げようとした)
艦娘(蛇に噛まれた足がどうなっているのかわからぬまま、逃れようとする私を光が照らした)
艦娘(死を覚悟して、目を瞑った)
艦娘(銃弾は飛んでこなかった。いつまで経っても。そしてしばらく経った直後、人々は騒ぎ始めた)
艦娘(そしてそのまま抱えあげられて建物の中に運ばれた。何がなんだか解らなくて、私は手足で暴れた)
艦娘(その時だった。優しい手が、私を撫でてくれた)
艦娘(きっとお母さん以外に初めてだろう。私を撫でてくれたのは)
医師「大丈夫よ」
艦娘(彼女の治療もあってか、私は一命をとりとめた。そこは海外からの支援で出来た病院だった)
医師「あなた、家族はどうしたの?」
艦娘「わからない」
医師「名前とか解る?」
艦娘「おぼえてない。幾つなのかも解らない」
艦娘(家族も名前も、何もない私を、彼女を含めた医療スタッフたちは痛く心配してくれた)
艦娘(行き先のない私を手伝いとして雇ってくれたのだ。それも医療支援だけでなく、色々な支援の取り組みのところに連れて行ってくれた)
艦娘(洗濯や水汲みに始まり、井戸掘りの手伝いに木を植えたりするのも、色々あった)
艦娘(そんあある日。病院の近くの道を走る人に出会った)
艦娘「なんで走ってるの?」
男「足が速くなれば、それだけ評価される。評価されればお金が貰える。そして皆助かるようになる」
艦娘「はやいって、いいことなの?」
男「そうだよ」
艦娘(彼はそう言って、私を見た)
男「君も走らないか? 迷ったり、哀しかったり、辛かったりしたら走るんだ」
男「走っていると苦しいかも知れない。だけど、早く走っているだけで、世界は変わって見えてくる」
男「走っている間だけは、人は一人だ。でも、本当の孤独じゃない」
男「走った先に、待っている人はきっといる」
艦娘(短い会話の後、彼は走り出した)
艦娘(その姿に、どこか心が震えた。私は彼の後を追うようにして走り出した)
艦娘(走っている間は確かに一人ぼっちだった。だけど、当てもなく彷徨っていたあの頃とは違う)
艦娘(辿り着いた先で待ってる誰かを目指して走るのだ)
艦娘(走って、走って、また走る。私に打ち込めるものが出来た、とスタッフ達は微笑ましく見守ってくれた)
艦娘(走ることを教えてくれた人がいて、私の命を救ってくれた人がいて、私は一人じゃないんだって思い始めた)
医師「ねぇ。別の国で、走る大会があるんだけど、行ってみない?」
男「僕も出るんだ。子供の部もあるんだが、君も試してみるかい?」
艦娘「わかった。がんばる」
艦娘(そして私は、初めて国の外に出た。船で一度近くの国に行き、そこから飛行機で行くという旅)
艦娘「おおきい…」
艦娘(初めて海を見た。綺麗で青くて、どこまでも広くて先が見えない)
医師「ここは内海だから安全よ。深海棲艦も来ない」
艦娘「しんかいせんかん?」
医師「ええ。海から来る怪物でね」
艦娘(そこで医師は色々な話をした。深海棲艦が海の道を壊し、船や飛行機を沈めてしまう事で、資源を輸入したり物資を運んだり出来なくなった事)
艦娘(それで私たちの国への支援が難儀になり、結果的に内戦に発展。解決策の一つとして、今の私たちの国そのものに産業を造ったりするしかない)
艦娘(その資金源の為にも、男や私に走る事が期待されているのだ)
男「綺麗だ。こんなに綺麗な海があるなんて…」
艦娘「すごいね」
艦娘(海の広さと、その怖さに考えさせられていた、その時だった)
男「あれはなんだ?」
医師「……深海棲艦!?」
艦娘(現れたのは、魚の怪物だった)
船長「メイデイメイデイメイデイ! こちらはコスタリカ船籍の石油タンカー、ピースウォーカー号! 深海棲艦を目視で確認!」
船長「砲撃で攻撃してきている! 救助を頼む! メイデイメイデイメイデイ!」
艦娘(叫び、逃げ惑う船員達。救命ボートに逃げ込んでも、助かるとは思えない状況)
艦娘(深海棲艦はタンカーよりも遥かに小さくて、小さい漁船ぐらいの大きさが数隻。それでも大きな被害を出すという)
医師「神様…この子たちをお守り下さい…」
艦娘「……」
艦娘(衝撃音。魚雷が突き刺さった瞬間だった)
船長「機関長! どこに被弾した!」
機関長『あーあー。機関室よりブリッジ。機関室は無事だ』
航海長『航海長よりブリッジ! どうやらオイル保管庫に被弾したようですぜオーバー!』
船長「浸水はあるか?」
航海長『今のところはありません! しかし、さしでやったら負ける相手ですぜ! チビの癖に!」
艦娘(告げられる状況はよく解らない。だが、震えていた私たちの耳に、通信が届いた)
???『ピースウォーカー号、聞こえますか?』
船長「…救援か!」
Z3『こちらは多国籍軍アフリカ連合艦隊に派遣中、ドイツ海軍の艦娘、駆逐艦マックス・シュルツ』
Z3『本艦だけでなく、アメリカ海軍、イギリス海軍の艦娘もそちらに向かっている。諦めないで』
船長「本船の現在位置はここだ! 急いでくれ!」
Z3『全速で向かう。アメリカ艦隊が近い。急がせる』
艦娘(海の方に視線を向けると、遠くの方に海を走る人影がいた)
艦娘「走ってる! 海を!」
艦娘(それが初めて見た艦娘の姿)
米艦娘A「標的はっけーん! 米帝プレイの恐ろしさを教えてあげる! 喰らえ、愛と憎しみの…」
米艦娘B「5インチれんそーほー、発射」
艦娘(強烈な砲撃。だが、それが合図のようだった)
米艦娘A「クソ、増援だ!」
艦娘(数隻だった深海棲艦は数を増やして十数ほどにもなっていた。その攻撃は、こちらにも届く)
医師「ひいっ!」
船長「増援はまだか!」
機関長『右スクリューに魚雷直撃! プロペラが全部折れました!』
船長「取り舵いっぱい! バランスを保て!」
航海士『船倉に浸水が始まりました! 防水区画でまだ防げるレベルです!』
船長「どうにか持たせろ!」
艦娘(ひしひしと、絶望的な状況に傾くのが解っていた。なにせ敵は海中から襲ってくるのだ)
米艦娘A「ぐへぇっ!」
米艦娘B「っ! まずい…」
甲板員「おい! 艤装から火を噴いてるぞ!」
航海士「ボートを下ろせ! 救助しろ! 自衛用の銃を使え! 少しはましだ!」
医師「人手が足りないわ。私たちもロープを引っ張りましょう」
艦娘(ロープを使って被弾した艦娘たちを救助する。だが、その間無防備な船目掛けて深海棲艦は一気に迫った)
米艦娘A「こ、これを…」
艦娘(医師たちが駆け寄り、私も傷口を抑えて治療の手伝いをしていると、彼女は私にその武装を差し出した)
艦娘「え?」
米艦娘A「真ん中の星をアイツらに合わせて引き金を引く、だ。近ければ近いほど当てやすい……」
米艦娘A「真ん中の星を合わせて引く、合わせて、引く」
艦娘「でも…」
米艦娘「艦娘ぐらいの歳でしか、使えないんだ」
艦娘(渡された連装砲は、とても重かった)
艦娘(銃を怖いものだと思っていた。生死をさまよいながら生きていた)
艦娘(だけど私は、それでも戦うしかなかった。助けが来るまでの間、戦えるのは)
艦娘「星を合わせて…引く」
艦娘(重たい音。火薬の匂い。だけどそれでも、敵を貫いた)
艦娘「おそい」
艦娘(一度当ててコツを覚えれば、難しくない。守る為の戦いであり、そして素早くやるこ)
艦娘「おっそーい!」
Z3「遅くなった、すまない…ってあの子は誰?」
英艦娘「艦娘でもないのに深海棲艦を連装砲で撃退してる…」
艦娘(救援が間に合い、私達は無事に陸地に戻ってくることが出来た)
艦娘(だけどその直後、私は大使館に呼ばれた。その医師が元々いた国の大使館だ)
艦娘(そこで、私は……)
大使「君には立派な艦娘の素質がある」
大使「その力を役立ててみてはくれないか?」
大使「君が望むなら、だが」
艦娘(すぐには判断できなかった。走ることへの未練があったし、何よりもあれだけ戦争で荒れ果てても、そこは私の故国)
艦娘(だけど、私の命は他国の人に救われた)
医師「嫌なら、断ってもいいのよ」
艦娘「ううん」
艦娘「嫌じゃない。深海棲艦がいなくなれば、支援はまた再開できる」
艦娘「だから……」
大使「そうか。ありがとう。これからも頼む」
大使「君を、世界の海の平和に役立ててくれ」
鎮守府
島風(そして私は遠く離れたこの国で、艦娘になった)
島風(故国のニュースを聞くと、まだ戦争が続いているようで辛くなる)
雪風「島風はどうして外国ニュースを見てるんですか?」
響「しかも英文そのままだよ。金剛さんなら読めるんじゃないかな」
Z3「あれは、島風の故国のニュース」
陽炎「へ? 島風の故国って…」
Z3「あの子、この国の生まれじゃないの。だから私やレーべと話す時、いつも英語よ」
雪風「え!? ホントですか!?」
島風「うん。レーべは英語もそこまでって感じだけどー」
Z3「まあ、母語じゃないからしょうがないけど」
島風(寂しいと思う時もあるし、辛いときもたくさんある)
島風(だけど、外国で頑張ってる人たちはたくさんいる。私も、レーべもマックスも、それは同じ)
島風「……よーし、がんばるぞー」
島風(走ることへの魅力は、まだ続いてる。だって)
島風「海の上を誰よりも早く走れるなんて、普通は考えられない世界だもんね」
島風(だから私は走り続ける)
島風(いつか、遠い故国へ未来を届ける為に)
投下完了。
という訳で今回は皆がホイホイされたぜかましちゃんでした。
イラストもあるかも知れないけど、ぜかましちゃんって結構等身高いですよね。
マックスかわいいよマックス。
んな訳で次回がラストになります。
乙
コスタリカにピースウォーカー…作者はメタルギアのファンだな?
>>127大好きです、メタルギア。
こんばんはです。
とうとう今回がラストになります。
皆が知っている、あの艦です。
艦娘(私は、海とは無縁の、山のある村で生まれた)
艦娘(ごく普通の農家の娘で、過疎化が進む土地で生まれた数少ない子供)
艦娘(同年代の友達なんてまずいないし、通っていた学校も小中学校合同で、幾らかの学年で一クラスが当たり前)
艦娘(使っている鉄道だって一両しかなくて、一日に両手で数え切れる本数しか来ない)
艦娘(穏やかで緩やか、だけど内心つまらないと思う日々)
艦娘(私はこれからどうするのか。思春期の子供が誰もが一度は本気を出して考えること)
艦娘(流れ行く日々の中で、私はそれを考え続けていた)
女の子「おねーちゃん、どうしたの?」
艦娘「ん? ああ、なんでもないよ」
女の子「じゅぎょーちゅーだよ」
先生「…艦娘さん、この問題を」
艦娘「わかりませんえん」
先生「出席簿を攻撃表示で召喚! プレイヤーにダイレクトアタック!」
艦娘「リバースカード、回避!」
先生「んな訳ないでしょ!」べしっ
艦娘「ふべえ!」
艦娘(ちなみに私は成績は普通なほうだ。結構授業を聞いてたりもしている)
艦娘(実は真面目な姿勢が後に縁に繋がるというのも変な話だが)
艦娘(もう一つあるとすれば、私は昔から意地っ張りなところがあるぐらいか)
男の子「わわっ!」
男の子「助けてー!」崖の窪みで辛うじて引っかかってる
女の子「大変! よしひこが崖の変な窪みから降りられない!」
艦娘「お姉ちゃんが助けてあげる! 今行くから!」
艦娘(崖、とはいっても断崖絶壁ではない、山から足を滑らせて、辛うじて狭い足場に男の子はいる状態)
艦娘(もちろん高いが、それでも私は山登りは得意にしていたから助けに行った)
艦娘「もう大丈夫だよ! すぐ行くからね!」
男の子「うん、ゆっくり降りてきて…へへ」
艦娘「なんで笑って…あ! ちょっと! パンツ、パンツ、見ないでったら!」
艦娘(当然だがこの子には後でゲンコツをかましたが…とにかく足場まで降りて、その子を押しながら上る)
艦娘「大丈夫だから、ね? お姉ちゃんが背中抑えてるから」
男の子「うん…」
艦娘「よっと…結構重…うわ、わわわ!?」
艦娘(そして間抜けにも私は足を滑らせて転落。そのまま下まで転げ落ちたが、転げ落ちたお陰が、そこら中に痣と擦り傷、そして手首を折るだけで済んだ)
艦娘(ギブスで固めた腕で男の子にゲンコツしたせいで完治まで時間がかかったけれど)
艦娘(とにかく私は、少しアグレッシブな子供時代を送っていた)
艦娘(怪我をするのもしょっちゅうで、その度に艦娘は強い子とか無鉄砲な子とか、色々言われる)
艦娘(強いといわれるのは悪くない気持ちだけど、でもこんな平和な村で出来る事はたかが知れている)
艦娘(それは本当に強さなのかな? 小さな社会で完結してるんじゃないかな?)
艦娘(本気出して考えてみることにそれが加わり、私はこの村でのなんともいえない気持ちを覚えている)
艦娘(世間では海からやってくる深海棲艦の暗いニュースばっかり。だけど、ここは別世界)
艦娘(平和で、穏やかな世界。だからこそ、人々は平和を謳歌し、平和を好む)
艦娘(村の外をまるで外の世界のように話して、切り離されている)
艦娘(それが幸せなんだと思っている。きっと両親は今でもそう思っている。それは否定しない。否定できない)
艦娘(出来ることなら誰も傷つきたくないし、傷つけられないのは解りきった事だ)
艦娘(でもそれがどこか言い様のない虚しさを感じていたのは、私だけなのかな)
艦娘(平和すぎる村の中で、一つの風がやってきた)
艦娘(村の最果てに、一人の男性が引っ越してきた。普通ならば畑仕事や林業がこの村の常、でもその人はどちらもやっていなさそうだった)
艦娘(彼は時折、若い少女に視線を向けては時に遠い目をしていた。決して若くはなく、仕事もしていないのに生活に困っている様子はない)
艦娘(村人達は不気味な余所者とあまり関わらないようにしていた。でも、私はそんな彼の存在が不快には見えなかった)
男「ん?」
艦娘「こんにちは」
艦娘(その人は、私の事も見ていたのだから)
男「ああ、いいものだな」
艦娘「よく、そうしてますね」
男「ああ。少し前まで、君と同じぐらいの子達がたくさんいる環境だったからな」
艦娘「へぇ、すごいですね。先生をしていたんですか?」
男「似たようなものさ」
艦娘(はっきりとは答えなかったが、それ以来、私は彼をセンセーと呼ぶことにした)
艦娘(本当の先生ではないが、こんにちはセンセー!とか声をかけるのは案外楽しいものだ)
艦娘(村の人や家族、歳の離れた友達と話すのとはまた違う新鮮さもあった)
センセー「南の国に行っていた時期があるんだ」
センセー「海は綺麗だけど何も無くてね。ああ、ヤシの木ジュースは飲み放題だったけど」
艦娘「あれって美味しいんですかねぇ」
センセー「毎日飲むと飽きる。だけどそれしかないから飲み続けると美味しくなる。時々飲みたくなる」
艦娘「そこで色んな子供に囲まれてたんですか?」
センセー「まあね。その頃は片手で数えるぐらいしかいなかったが。缶詰料理が上手くなったよ」
センセー「ランチョンミートとは案外美味しいものさ。鍋にしても合うしね」
艦娘「南の方で鍋を? 暑くないですか?」
センセー「ベトナムで鍋を食べた人の記録があるから、暑気払いにもいいさ」
艦娘(後日、本当にヤシの木ジュースを頂いた。確かに慣れれば病み付きになりそうな味だった)
艦娘(こんなこともあった)
センセー「ふぅん、崖に落ちかけた子供をねぇ」
センセー「まあ、子供は背伸びしたがりなものさ。よく解るよ。そういう時は、むげに否定しないのが大人というものさ」
艦娘「少し恥ずかしいですね、今思えば」
センセー「そうだな。後で恥ずかしくなるのはわかるさ。でも、いい思い出になる筈だよ」
センセー「ところでその時君は何色を履いていたんだい?」
艦娘「ああ、それは…センセー!」
センセー「ごめんごめん」
艦娘(考えてみれば教師という割にはセクハラとスキンシップが多かったので、違うと気付くべきだったかも知れない)
艦娘(センセーは色々な話をしてくれた。その殆どが海に関する話題だと気付いたのは、センセーと出会ってからしばらく経ってから)
艦娘(そして、私はその理由をあるものを見た事で知ってしまうことになる)
センセー「ふぅ、手紙か…まあ、いい。後で読もう。お茶を淹れて来るよ」
艦娘「おかまいなく…人の手紙を盗み見なんて趣味悪いよね。テーブルに置いとこ」
艦娘「ん?」
艦娘(その時に見たのは、退役軍人局という文字と、海軍の文字)
艦娘(センセーの正体を想像するには難しくなかった。元海軍の軍人)
艦娘(それで女の子がたくさんいたという事は、艦娘に近い人だった、という事か)
艦娘「センセー」
艦娘「艦娘って、どういう存在なんですか?」
艦娘(今までテレビや新聞の中でしか知らない艦娘について、私はストレートに聞いた)
センセー「………」
センセー「ああ、彼女達は誇り高い戦士であり、君達と同じ女の子だ。優しくて、可憐な」
艦娘(輝いて見えた。その言葉、一つ一つが)
艦娘(平和だけどつまらない日常。それは約束された平和で、鳥籠の中の国)
艦娘(外にあるのは荒波だ。戦士たちの闘い。死と隣り合わせ)
艦娘「怖がってる子も、いるんですか」
センセー「もちろんだ。優しい子なんていくらでもいる。それでも大切なものの為に戦っている」
センセー「彼女達はみんな、大切なものを持っている」
センセー「君は何を持っている?」
艦娘「私は…」
艦娘(この平和な国で、私は何を守りたいのだろう。世界の荒波にもまれても、命を賭けても守りたいもの)
艦娘「それは……それは…」
センセー「すぐに答えは出ない筈だよ。それでいいんだ」
センセー「甘くない世界だからね」
艦娘(それが精一杯の優しさだと、今でも痛々しいぐらいに解る)
艦娘(でも、一度でも示されてしまった、その美しい運命を)
艦娘(一度でも見てしまった、外の世界への魅力を、私は抑え切れない)
艦娘(ある日、私はセンセーの元を訪ねた)
センセー「やあ」
艦娘「私にとって大切なものが何か。それはまだ、解りません」
センセー「そうか」
艦娘「だけど。私は、私が出来る事をやります! それが、世界の誰かの、希望に繋がるなら!」
センセー「……」
艦娘「私、艦娘になります!」
艦娘「誰かの希望に繋がるならば、それは私の希望にもなるんだから!」
艦娘(ある雪の日に、降り続く雪の中で私は誓う)
センセー「……ああ! 頼もう!」
艦娘(雪の日に、私は艦娘になる事を誓った)
艦娘(誰かの希望を、誰かの未来を守る為に。自分につなげる為に)
艦娘(私が出来る、やり方の一つなんだ)
艦娘(そして、今日……)
同時刻 鎮守府
提督「……お? 誰かいるな」
艦娘(来た!)
吹雪「提督が鎮守府に着任しました! これより、艦隊の指揮を執ります!」
吹雪「特型駆逐艦、吹雪です! よろしくお願いします!」
吹雪(私は頑張り続ける。あの雪の日の誓いを掲げて)
吹雪(たとえこの命尽きようとも、私は希望の為に闘い続けよう。この荒海の中で)
吹雪(ようこそ、世界の荒海へ)
アンカーを飾るのは、アニメ艦これでも主人公の吹雪さんです!
やっぱり彼女とぜかましちゃんは外せないかなーと思ってました。
ちなみに私の初期艦は漣です。嫁は叢雲ですが。
と、いう事で長きに渡ってスレを展開したけど、今回が最後です。
嫁艦出なかった人ごめんなさい、それでは、どっかのスレでまた会うかも。
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