男「俺たちがこの世界の英雄?」 (16)

目の前いっぱいに広がる海。
その青色を見つめていると、心がだんだんと穏やかになっていくのはどうしてだろう。
母親の胎内にいるときの感覚とよく似ている。
深く、もっと深く、沈んでいきたくなる。

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?「おーーとーーこっ」

男「いてっ」

背中に鈍い痛みが走る。
振り返ると、後ろには幼馴染が満面の笑顔で立っていた。

男「……てーな。なんだよ人がせっかく」

幼馴染「ねーねー、一緒にトランプやろうよ。トランプー」

男「は?トランプ?」

幼馴染「女友ちゃん強すぎて何回やっても勝てないんだもん」

なるほど。
それで俺を呼びにきたというわけか。
カードゲームの実力はそこそこの俺を。
だが――

男「知るか。他のやつを誘えばいいだろ。見てのとおり今の俺は船旅気分を満喫している真っ最中なんだよ」

幼馴染「待ってるからねー」

男「おい、ちょっ」

「待て!」と言おうとしたときにはすでに、幼馴染は扉の向こうに消えてしまっていた。
相変わらず人の話を聞かないやつだ。
つっても、ほっといたらほっといたで後からうるさいしなぁ……

男「はあ……」

深い溜め息とともにフェンスから体を起こし、俺は甲板を後にした。

俺たちが通う速報高校は、美府島にある唯一の高等学校だ。
全校生徒数153名。
生徒のほとんどが島生まれ島育ち。
本州からわざわざやってくる物好きなんてほとんどいない。
一部例外を除いて。

男「おーい。きたぞー」

『103号室』というプレートがついてる扉を確認してノックする。
すると、部屋の中から「どうぞー」という女友の声が聞こえてきた。

了承を得たところで扉を開けると、部屋では幼馴染と女友が大富豪をやっていた。
だが幼馴染が机の上に突っ伏しているあたり、もう決着はついているようだった。

女友「おはよ。ちょうどよかった。幼馴染相手だと全然手ごたえなくってさー」

幼馴染「うぅ、ひどいなぁ。女友ちゃんのいじわる……」

女友「あはは、冗談!ただの冗談だって!ほんと幼馴染ってかわいいなー」

幼馴染「わわわ」

幼馴染を抱き寄せて頬ずりする女友。
もう見慣れた光景だが、知らない人が見たらきっと変な誤解をすると思う。

男友「うぃ~っす……」

女友「あれ、男友も来てたんだ?」

男「寝てるところを叩き起こした」

男友「聞いてくれよ!ひどいんだぜこいつ。修学旅行は夜が本番だろ?そのために仮眠とってたのによ」

そう言って、男友は大きなあくびをする。
夜が本番って、こいつ一体何を考えているのやら。
どうせろくなことじゃないんだろうけど。

男「ま、奇数よりも偶数の方がいいだろ」

女友「チーム戦か。いいよ。どっちにしろ私、負けるつもりないから」

女友が目に見えない火花をバチバチと飛ばしてくる。
いいだろう、俺も勝負事は嫌いじゃない。

男「勝負だ!」

女友「望むところ!」

男友「え?なんなのこの変な空気?」

幼馴染「ふぇ?」

俺たちはチーム分けジャンケンのために一斉に構えた。

それからしばらくして。

先生「あら、ずいぶん盛り上がってるわね」

おそらく写真撮影のためだろう。
ババ抜きの最中に先生が首からデジカメをぶら下げてやってきた。
自分の腕時計に目をやりながら、先生は真面目そうな顔つきで俺たちに忠告する。

先生「3時からミーティングがあるから、各部屋の班長はくれぐれも忘れないようにね」

女友「先生ちゃん、今日ぐらい教師っぽいこと言わなくてもいいのに」

先生「女友さん、先生をちゃんづけで呼んではいけませんよ」

女友「はいはい」

言いながらニヤニヤ笑ってる女友は絶対に反省してない。
大学卒業したての若い先生だし根が真面目だから、いじりたくなる気持ちもわからんでもない。

男友「あ、せんせー」

突然、男友が右手をまっすぐ上にあげた。

先生「どうしたの男友くん?」

男友「一つだけ質問いいっすか?前々から気になってたことなんですけど」

先生「いいわよ。先生に答えられる範囲のことならね」

男友「どうして飛行機じゃないんですか?」

男友にしては意外とまともな質問だった。
こいつの場合、スリーサイズとか彼氏の有無とかを聞くのかとばかり思っていた。
だが、予想は見事に外れた。

先生「それって、今回の修学旅行はどうして飛行機を使わなかったのかってこと?」

男友「そう!そうです!」

世間の高校生たちが夏休みを満喫している中。
今の俺たち……速報高校二年生は修学旅行に来ていた。
行き先はハワイ。
しかもフェリーを貸切で。

幼馴染「あー、実はそれ、わたしも気になってたんですー!」

うつぶせになっていた机から顔をあげ、幼馴染は目をキラキラと輝かせている。
だが先生の回答は、俺たちの期待から大きく外れたものだった。

先生「ごめんなさい。本当は教えてあげたいところだけど、生徒には言っちゃいけないことになってるの。ほら、こういうのってお金とかいろいろなことが絡んでくるから」

幼馴染「せんせーーー!」

先生「……うっ」

男友「そこをなんとかーーー!」

先生「……いい?みんなには内緒よ」

苦笑いをしながら先生は唇の前に人差し指をピンと立てた。

幼馴染「やった!」

男友「YES!」

説得の成功を見届けてハイタッチする馬鹿二人。
先生は真面目だけど押しには弱い。
女友は「やれやれ」といった表情で肩をすくめていた。

チラシの裏にでも書いてろ

>>11
辛口コメントありがとうございます!

一旦休憩

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