モバP「恋、したいですよねえ」 (40)
ちひろ「……はぁ?」
P「……なんですか、その『何言ってやがるんだ、このとんちき』って顔は」
ちひろ「とんちきはともかくとして、そんな顔にもなりますよ」
P「いいじゃないですか。珍しく事務所でお昼食べた後の休憩時間なんですから。最近外回りばっかりでしたし」
ちひろ「いえ、私があきれてるのはそんな理由じゃないんです」
P「あ、まさか俺が恋愛経験ゼロだって疑ってます? いやだな、過去にはちゃんと……」
ちひろ「そんな疑いを持っているわけでもありません。あんまり興味もないですが」
P「じゃあ、なんでそんな顔なんです? スタドリセットにもう一本おまけつけてくれって頼んだ時みたいな顔してますよ」
ちひろ「最近結構おまけしてるじゃないですか。……いや、そうじゃなくて」
P「はい」
ちひろ「私があきれているのは、唐突に恋愛話をふられたことでも、なぜそれを女の私にふってきたかということでもなく」
P「はい?」
ちひろ「よりにもよってあなたがそれを言うか、という点にあります」
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注意
・Pがひどい
・直接的描写はないがきわどい行為に関わる単語が出てくる
P「よりによってって、俺がなにかしましたか」
ちひろ「あなた、モテモテプロデューサーじゃないですか」
P「はぁー……」
ちひろ「な、なんですか、その深いため息は」
P「そういう誤解、されてると思いましたよ」
ちひろ「はい?」
P「たしかに俺はたくさんの女の子をプロデュースしています。みんなかわいいし、中には俺に好意を示してくれているように思える娘もいます」
ちひろ「ええ。ですから、贅沢な悩みだと」
P「でも、その子たちと恋愛関係になるのはかなり難しいと思うんです」
ちひろ「ああ、職業倫理的に?」
P「え? いや、別に業界的にはそこまで問題じゃないと思いますよ。スキャンダルにならなければ」
ちひろ「ええっ!?」
P「あの有名な秋元康さんだって、奥さんはおニャン子クラブのメンバーじゃないですか。つまりは、プロデュースした娘をものにしたわけですよね?」
ちひろ「え、ええ。まあ、それは……」
P「まあ、当時は秋元さんは総合プロデューサーってわけではなく、スタッフの一員ですが、そう変わるものじゃないですよ」
ちひろ「いや、でも、ですね」
P「そもそもおニャン子クラブのソロデビュー順は、人気順じゃなく、番組プロデューサー、ディレクター、作詞家勢のカキタレ順だって当時から有名で……」
ちひろ「わー! わーわーっ! わーーーーっ!!」
P「どうしたんですか、ちひろさん。騒がしいですよ。茜みたいに元気があふれましたか?」
ちひろ「どうしたんですか、じゃないですよ! カ……カキタレとか下品なこと言わないでください!」
P「あ、これは失礼しました。それに、秋元さんはマジタレだったわけですしね」
ちひろ「いや、そこ問題にしてませんから」
P「まあ、どちらにせよ、俺には無理な話ですよ。一見、俺に好意を示してくれてるように見える娘もいるにはいますが……」
ちひろ「いるにはいるって数じゃないと思いますが」
P「でも……」
ちひろ「なにが問題なんです? いや、手を出せと言うんじゃありませんけど」
P「そうですね。ここはひとつ俺の脳内シミュレーションの一つを聞いてもらいましょうか」
ちひろ「あれ、なんかめんどくさいぞ、この人」
P「たとえば、こんなことを言ってくれる娘がいます」
??『ずっと私のプロデューサーでいてもらいたい。だって……ね?』
??『一緒にいるだけで元気がもらえるから』
??『変装していれば……隣を歩いても……いいよね?』
ちひろ「これ、加蓮ちゃんですよね?」
P「ついでに俺の飲みかけのペットボトルを自然に飲んだりもします」
ちひろ「加蓮ちゃんですよね?」
P「でも、たとえば、この娘に俺が告白したとしますね?」
ちひろ「うっわ、聞いちゃいねえ」
??『え?……私、と? 本気?』
P「と、まあ、こうきますよね」
ちひろ「割と普通じゃないですか? 人間関係が変化するときはみんな大なり小なり戸惑うものですから」
P「いえ、でも……」
??『でも……。私たち、10歳くらい離れてるよね?』
??『そりゃ、プロデューサーとしてはとても頼りにしてるし、身近な大人の男の人として親しみはあるけど……』
ちひろ「あ、あれ……?」
??『世代が違うと考え方もやっぱり違うのかな?』
??『距離、勘違いさせちゃったみたいだね?』
ちひろ「いやいや」
??『ちょっといままでのでわかんないの? 大の大人が、小娘にはっきり言わすわけ?』
??『あーあ、いい加減にしてよね』
??『好きって言ったってさあ。Loveじゃないことくらいわかんないの? 信頼とかあこがれとかさあ』
??『ま、それも、いま無くなっちゃったけど』
P「うう……。加蓮、俺を捨てないでくれぇ……」
ちひろ「結局、加蓮って言っちゃってるよ、この人」
P「ああ……なんてことだ」
ちひろ「いや、全部あなたの妄想ですからね?」
P「そ、それはそうかもしれませんけど、実際、10歳近く離れた男と……ってのは厳しくないですか?」
ちひろ「あー……。20の時に30、30の時に40と考えると……」
P「でしょう? それに、16、17……へたすると二十歳前の娘たちって、恋に恋してる部分ってあると思うんですよ」
ちひろ「それはしかたないんじゃ……」
P「あ、15以下は、そもそもそういう目では見られませんから」
ちひろ「……ロリコンプロデューサーとして逮捕されずに済んでよかったですね」
P「ええ、本当に。まあ、そんなわけで、モテてるわけじゃないと思うんです」
ちひろ「否定要素のほとんどがプロデューサーさんの妄想ですけどね」
P「いやいや、好き好き言ってくれるのは、結局、実際の恋愛につながるわけじゃないって承知してるからですよ。アイドルたちのほうも」
ちひろ「そうでしょうか……」
P「え?」
ちひろ「……年齢のこと、アイドルであること。それらを考慮した上で、叶わぬとわかっていても、好意を示している娘たちもいると思います」
P「はっはっは。ちひろさんは妄想たくましいなあ!」
ちひろ「あんたが言うかっ!」
P「妄想事務員枠は、もう埋まってると思いますよ」
ちひろ「わけのわからんこと言わないでください。ともあれ、未成年の娘らが示す好意がプロデューサーさんにとって恋愛に結びつかないことは理解しました」
P「理解してくれましたか」
ちひろ「でも、二十歳以上の女性陣もたくさんいますよね?」
P「いますね。魅力的な方々が」
ちひろ「じゃあ、いいじゃないですか。恋愛はタイミングもあれば相性もありますから、うまくいくかはともかく、チャンスはあるわけですから」
P「まあ……はい」
ちひろ「しかも、美女揃いですよ。なにしろ、あこがれのアイドルたちですからね」
P「手を出してはいけないのでは?」
ちひろ「正直、成人しているとなると、あまり咎められないと言いますか、覚悟の上だろうと思えると言いますか」
P「判断能力はあると」
ちひろ「大人ですからねぇ」
P「でも……なかなか、ねえ」
ちひろ「またまた。よく一緒にお酒飲みに行ってるじゃないですか」
P「ああ、それは行ってますね」
ちひろ「知ってるんですよ。みんなで行くだけじゃなく、二人きりで行ってるのも」
P「それについては、まじめな理由もあるんですよ。リラックスできる環境で話し合うとなると、どうしても、ね」
ちひろ「ええ。本音を引き出すには必要なんですよね」
P「大人ってそのあたりは面倒ですからね」
ちひろ「積み重ねているからこそ、ですよ。でも、その後、ちょっといい雰囲気になったりとかないんですか?」
P「いい雰囲気というと、どんな感じです?」
ちひろ「え? いや、まあ、『今日は帰りたくないの』なんて言わせたら勝ちなんじゃないですか?」
P「ああ、その程度はみんな言ってくれますよ」
ちひろ「え?」
P「帰りたくないとか以外でも、モーニングコーヒーを一緒にとか、このあと予定ないのとか、まあ、結局はベッドへの誘い文句ですよね?」
ちひろ「あ、は、はい」
P「その程度のコミュニケーションは普通にしてます」
ちひろ「はい?」
P「でも、俺の求めてるのは体のつながりじゃないんですよ。そりゃあ情事は楽しいですけど、やっぱりしっかりとした恋愛とは……」
ちひろ「ちょ、ちょ、ちょ……」
P「トゥチョ=トゥチョ人?」
ちひろ「意味不明! ちょ、ちょっと、こっちに来てください!」
P「え? 会議室ですか? でも、そろそろ仕事にとりかからないと……」
ちひろ「いいから!」
P「はあ」
・参考
http://uploda.cc/img/img519605e585b84.jpg
トゥチョ=トゥチョ人(クトゥルフ神話に登場する矮人種)
ちひろ「確認させてください」
P「はい。ところで、鍵までかけなくても……」
ちひろ「黙れ」
P「は、はいっ」
ちひろ「アイドルと……それも複数のアイドルと体を重ねていると受け取れるようなことを、先ほどおっしゃっておられましたが」
P「ええ」
ちひろ「事実なのですか?」
P「ええ。肉体関係なら、ありますよ?」
ちひろ「だ、だ、だれと? 誰とデスか!」
P「ちひろさん、なんだか、発音がヘンですよ?」
ちひろ「いいから!」
P「ええと、礼子さん、早苗さん、あい、清良……」
ちひろ「すと、すとっぴゅ!」
P「ストップ? あ、はい」
ちひろ「な、何人と!?」
P「定期的に関係しているのは、いま、10人くらいですかね。一夜だけの相手は、こちらも忘れることにしてますから、言えません」
ちひろ(ぽかーん)
P「大丈夫ですか? ちひろさん」
ちひろ「……はっ! 呆けてる場合じゃないわ、ちひろ。この女の敵を糾弾しないと!」
P「女の敵って……。当たり前ですけど、無理矢理なんてしてませんよ?」
ちひろ「わかってますよ! もし無理矢理なんてしてたら、巴ちゃんのお家に引き渡して済ませられるんですけどね!」
P「広島湾は勘弁してください」
ちひろ「くっ。恋愛がしたいとか言っておきながら、女を次々食い物にして!」
P「いや、そんな食い物にだなんて。言っておきますが、仕事にはけしてそういう部分での私情は挟まずに……」
ちひろ「ああ、もう。仕事ぶりが悪くないのはよく知ってますよ! だから困るんです。だいたい、どうして、そんなことになるんですか!」
P「どうしてと言われましても、たいていは、なんらかの節目とか……祝杯からの流れが多いですかね。仕事の成功を祝っての」
ちひろ「……それから?」
P「個別の話ですか?」
ちひろ「いえ、大づかみな話でいいです」
P「そうですね……。たいていは、ライブが成功したからおねだりとか、せめて思い出が欲しい、なんて話から発展しますね」
ちひろ「……え?」
P「あ、変わり種では、同人誌即売会の帰りに、お礼を兼ねてなんてのもありますけど」
ちひろ「それ、特定の二人のうちどちらかですよね」
P「由里子です。比奈は、同人誌のモデルをしているうちに、あちらからですから」
ちひろ「言わんでいいっ!」
P「はあ」
ちひろ「ちょっと待ってくださいね。思い出……? あれ?」
P「どうしました?」
ちひろ「体の、関係……なんですよね?」
P「ええ。残念なことに。俺としては出来れば恋愛関係に持ち込みたいんですが、一度そうなるとなかなか……」
ちひろ「プロデューサーさんから申し出るのではなく、アイドルたち……女性のほうから誘いをかけてくるんですか?」
P「もちろん、多少の駆け引きはありますよ? あちらの熱視線に応じて、言葉を口にするのはこちらとか」
ちひろ「でも、雰囲気は確実にそう、なんですね?」
P「そうですね。さすがに、そうでなかったら、アイドルに手を出せませんよ」
ちひろ「……それって……」
P「なんですか?」
ちひろ「すいません。少し詳しく聞かせてもらえますか? 個別の事案ではなく、全体の流れをもう少しさかのぼって」
P「さかのぼってですか?」
ちひろ「はい。なにか積み重ねがあるのかどうかを」
P「じゃあ……ええと。さっきも言ったとおり、普段から、相手がリラックスできる場所に行くようにしているんです」
ちひろ「飲むだけじゃなく、ですか?」
P「そうですね。人によっては、バーとかじゃなくて、音楽会や美術館、ただ散策したり、服を選びに行ったりもします」
ちひろ「デートですね」
P「え! デートじゃありませんよ? あくまでアイドルとの親睦を深めるためです」
ちひろ「……デートなんです」
P「デートってカノジョとするものですよね?」
ちひろ「……こいつは。いや、まあ、いいです。それから?」
P「え? ああ、ええとですね。俺は、担当のアイドルたちとは、条件つきで、約束を交わしてることが多いんです」
ちひろ「ライブやドラマが成功したらとか、CDが一定以上売れたらって感じのご褒美ですよね?」
P「もちろん、俺はアイドルの日々の努力は認めてますし、彼女たちもそれは承知しているでしょうが……」
ちひろ「言葉や態度だけでは足りないこともありますからね」
P「はい、目に見えるものがあると嬉しいですから」
ちひろ「区切りをつけて激励するというやり方は理解できます」
P「はい。そういう約束について、たいていの大人組は、特別な場所に一緒に行って欲しいって言うんです」
ちひろ「ほう……」
P「俺が連れて行くのではなく、アイドルが知ってる店に一緒に行くことが多いですね。自分のテリトリーに招き入れてくれるようで嬉しいです」
ちひろ「……そりゃ、そうでしょうね」
P「そこで飲んだり食べたり、ゆっくりしていると……」
ちひろ「誘ってくる流れになるんですか」
P「たいていは。大胆な行動をとるのは、その日はわがまま言い放題だと俺が言ってるせいもあるんですかね?」
ちひろ「……あの、ですね」
P「はい」
ちひろ「聞く限り、普通の男女の関係の発展過程なのですが」
P「え? なにがですか?」
ちひろ「ですから、その経緯が、です。それで、なぜ体だけの関係になるんです?」
P「なぜと言われても……」
ちひろ「むしろ、その流れで結ばれて、どうして恋人にならないんですか?」
P「そりゃあ、告白してませんし……。されてもいませんからね」
ちひろ「は?」
P「ベッドの上での愛してるなんてのは、戯れ言のうちですからね……」
ちひろ「いやいやいや!」
P「いや、ほんと、すごい悲しくなるんですよ。つながりながら甘い声でささやかれても、これはいまを盛り上げるためだけだよなあと思うと」
ちひろ (ブチッ)
ちひろ「あなた、底なしの阿呆ですか!」
P「い、いきなりなんですか」
ちひろ「いきなりじゃありませんよ! 告白してないから恋人じゃないってなんですか!」
P「いや、だって、恋人ってのは、告白してOKもらわないと……」
ちひろ「それ、学生まで!」
P「ええっ」
ちひろ「いや、告白ありもありますけど! 告白無しもあるんです!」
P「なんと」
ちひろ「というか、女の子のほうから、夜を共にしようと誘ってきたら、それは告白です! 行きずりじゃないんだから!」
P「えええ!」
ちひろ「しかも、愛してるって言われてるじゃないですか!」
P「いえ、ですから、それはベッドの上とか、誰にも見られない密室の中だけで……」
ちひろ「アイドルが!」
P「は、はい」
ちひろ「大人の関係である相手と二人きりの時以外に! 愛してるって口に出せると思ってるんですか!」
P「……え? あー……あれ?」
ちひろ「スキャンダルはもちろん、仕事のけじめも考えて、明らかに二人きりの時以外、胸に秘めてるに決まってるでしょうが!」
P「……そ、そうだったのか! も、もしかして……」
ちひろ「ああ、どうせ、思い当たる節があるんでしょ? そうなんでしょ?」
P「あいが『Fly Me to the Moon』を二人きりの時に演奏してくれたのも、もしかして、遠回しな愛の表現だったんですかね?」
ちひろ「あいさんがせっかくロマンチックに盛り上げたの台無し!」
P「あと、聖來がチョーカーに飾るリングなのに薬指サイズをねだってきたのって意味あったりしますか?」
ちひろ「気づかないほうがどうかしてます!」
P「真奈美と茄子が競うように毎日お弁当を作って来てくれたり、早苗さんが目が合う度ウィンクしてくれてたのが、愛情表現だったり?」
ちひろ「あああ! もう、こいつ死ねばいいのに!」
P「……なんてこった」
ちひろ「頭抱えたいのはこっちですよ」
P「みんなにひどいことをしてしまったようです」
ちひろ「ああ、まず、女性たちの心情を考えるだけましですね」
P「どうしましょう?」
ちひろ「どうにもならないと思います」
P「みんなの気持ちを出来る限り傷つけない方法を選び取らなければいけませんね」
ちひろ「まあ、出来るものなら……」
P「だったら、解決法は一つですね」
ちひろ「なんです?」
P「つまり……俺は今日から10人以上の恋人持ちになります!」
ちひろ「本気で死ねっ!」
おしまい
以上であります。
コメディは難しいなあ。
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高橋礼子(31)
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片桐早苗(28)
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東郷あい(23)
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柳清良(23)
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村上巴(13)
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大西由里子(20)
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荒木比奈(20)
あ、アイドルの画像ありがとうございます!
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