勇者「卒業したから魔王倒しに行くぞ」 (104)
———第一都市・魔王討伐アカデミー
学園長「ここに貴殿の卒業を認め、勇者として魔王討伐任務を行う事を依頼する」
———————パチパチパチパチ
勇者「………有難うございます」
学園長「君には期待しているよ。真の勇者として名を馳せ、平和へと世界を導いてくれ」
勇者「全力を尽くします。必ずや魔王を討伐し……世界を平和にしましょう」
学園長「頼んだぞ。必要というのならパーティメンバーを魔王討伐支援部で手続きをすると良い」
勇者「はい、そのつもりです。といっても各地の街を回って仲間を見つけようと思います」
学園長「そうか。では明日から旅立ちたまえ。無事を願っているぞ」
勇者「……はい、失礼します」
学園長「これにて卒業式を終了する。在学生と留年者は訓練に励む様に。では本日は解散!」
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勇者「ふぅ……ようやく卒業か。4年とは長いものだ」
後輩「先輩!卒業おめでとうッス!く〜〜〜っ!格好良すぎて俺、卒業式で泣いちゃいましたよ!」
勇者「やめろ恥ずかしい。お前もさっさと卒業して勇者を名乗れば良いだろう」
後輩「そうなんスけどねぇ。単位が取れないんですよぅ……このままじゃ留年かもしんないッス」
勇者「別に恥じる事でもないがな。現役で卒業出来るのは三割程度と聞くしな……」
後輩「先輩はその三割かつ首席ですからねぇ、格好良いッス!卒業式でも代表で前に出たっしょ!?」
後輩「学園長と話せる機会なんてないですしねぇ……いやぁ、羨ましいッス!」
勇者「確かに偉大な方だ。それに魔法学にも詳しい。あのお方が現役ならパーティを組みたかった所だな」
後輩「せんぱぁい!俺卒業するまで討伐の旅に出るの待ってくださいよぉ!」
勇者「ははっ、馬鹿言え。お前が卒業するのを待ってたら俺は爺さんになってしまう」
後輩「ひでぇ!」ガビーン
勇者「………さて、荷物はこの程度で問題ないな。最初の街までは十分に持つだろう」
勇者「この街に次に来る時は真の勇者と名乗りたいものだ……よし、行くか」
勇者「じゃあな、相棒。街の外にはお前を連れていけん。帰ってきたら、またドライブに行こう」
・・・
門番「あっ、勇者さん!魔王討伐頑張ってくださいね!」
勇者「あぁ、必ず倒す。街を気軽に出れない世界なんて、俺も嫌だからな」
門番「ほんとにそうですよ。俺だって愛車で違う街までドライブしたいですもん」
勇者「まったくだ。街中は広いといっても、限りがあるからな……満足にエンジンも吹かせん」
門番「はは、留守中のバイクの整備は任せといて下さい!ずっと完璧にしときますからね!」
勇者「あぁ、頼むよ————じゃ、行ってくる」
門番「行ってらっしゃい!世界に平和を!」
———都市外・平原
勇者「よし、先ずは最初の街……第二都市か。とりあえず北へ向かえば良いのだったな」
勇者「まぁ三日ほど歩けば着くだろう————っと、いきなりか?」
スライム(半溶解した決して某RPGの様に可愛くないお馴染みモンスター)
スライム「ぐるるるるる……ッ!」
勇者「スライム……か。低級ではあるが、油断は出来ないか。よし、行くぞ!」
勇者の攻撃!ミス!スライムは直感で避けた!
スライムは勇者を嘲笑している!
勇者「…………まぐれで避けた程度で勇者を舐めるんじゃあない!」
スライムの攻撃!ミス!勇者は完全に見切って攻撃を避けた!
勇者の反撃!会心の一撃!スライムに999ダメージ!!スライムは倒れた!
勇者「ふぅ……いかんいかん、少し頭に血がのぼったか」
勇者「しかしまぁこの程度か。シミュレーターのスライムと同じ強さだったな……流石アカデミーの技術力というやつか」
勇者「とはいえ機械に便りすぎるのも良くない。日々精進だな……よし、いざ最初の街へ!」
勇者「ふぅ、大分歩いたな。モンスターもそこそこ強くなってきた様だ。ふむ、つまりは森が近いということか」
——————おいこらぁ、姉ちゃん待ちなってェ!
勇者「…………モンスターだけではないな、倒すべきなのは」
僧侶「はぁ、はぁ、はぁ……もう、しつこいですよ!」ゲンナリ
盗賊「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、うっせぇ!ちょこまか逃げやがって……ぜってー許さねぇぞ!」
僧侶「もう、こんなことしてる場合じゃないでしょう!大体盗賊なんてして、その技能を魔王討伐に向けたらどうなんです?」
盗賊「ぎゃははは!やーなこったぁ!法律守ってりゃ街に閉じ込められるのが関の山じゃねぇか!」
盗賊「街の中じゃ警備隊がいるから暴れらんねーけど、街の外は無法の世界だぁ!強さだけがモノを言うんだ!」
僧侶「………最低ですねぇ」
盗賊「この辺ならモンスターも強くねーしな。でもよ、こうして無用心な通行人は貴重なんだぁ……ほら、俺の女になれよぉ?」
僧侶「…………………」
盗賊「街の中は窮屈だろ?機械ひとつも持ち出せねぇ。ルールもあるし、何より怖い警備隊が目を見張らせてやがる……っ!」
僧侶「……………要するにビビってるだけじゃないんですか?」ニコッ
盗賊「うっせー!うっせーよ!大体、あいつら警備隊が魔王討伐行きゃいいだろーが!」
僧侶「街の中に貴方みたいな人達がいるからでしょう。それにアカデミー卒業した勇者様達がいるから問題ないでしょう」
僧侶「………あの、もしかしてそこまで頭が回らないんですか?あの、賢くなる本買ってきましょうか?」
盗賊「このアマぁ!完全に舐めてやがんな!ちょっと足が速くて可愛いからって調子に乗るなよぉ!?」
僧侶「褒めてくれてどうもありがとう。でも盗賊さん、タイプじゃないんで勘弁してください。ごめんなさい」
盗賊「フラれちまったよー!?あぁ、クソもう知らねー!街の外じゃ強いヤツがルールなんだよ!」
盗賊「そこに人間もモンスターもねぇ!だからテメーより強い俺様は!テメーを支配する権利があるのだーッ!!」チャキィン
僧侶(—————やば、短剣!この距離だと……流石に)
盗賊「ひゃっはー!ほらほらほら、追いかけっこはもうおしめぇだぁ!勇者さまーって泣き叫びながら、俺様と楽しい事しようぜぇ!!」
勇者「なんだ、呼んだか?」シュタッ
盗賊「」
僧侶「あら」
勇者があらわれた!
盗賊「おおおおおおおお前どっからでてきたぁ!?」ビクビクッ
勇者「いや、森の中から怒鳴り声が聞こえたからな。とりあえず木の枝を蹴って他の木へと乗り移りながらだな」
盗賊「忍者かよテメー!?いきなり上から落ちてくんな!マジでビビったわ!!!」
勇者「そうか、それは悪かった。それで、ひとつ聞きたい事があるんだが」
盗賊「なんだよ!?俺様は今からその女と楽しむんだからよぉ……邪魔すっとテメーもこの短剣でよぉ!!」
勇者「お前の持論で行くなら……俺はお前を好きにして良いんだろう?」チラッ
盗賊「あぁ!?テメー何言って—————ッ!?て、てめーもしかして……その、バッジ……」
勇者「魔王討伐アカデミー勇者学部を先日卒業した。それで、俺をその短剣でどうすると?」
盗賊「は、ははは……こ、こうなりゃやけだァー!クソがーッ!!」
盗賊は自暴自棄になって勇者に襲いかかる!ミス!しかし勇者は紙一重で避ける!
勇者「弱いな……せめて我流でも鍛錬はするべきだな。お前には筋力が足りないし、踏み込みも足りん」
勇者「それに俺に斬りかかる信念も安っぽい。そんな覚悟で————俺を倒せると思うか、盗賊が!」
勇者の攻撃!勇者の拳が炸裂する!盗賊に100のダメージ!!
盗賊は吹き飛んでボロ雑巾の様に倒れた!
僧侶「つ、つよ……うわぁ、盗賊さんに同情するレベルだなぁ」
盗賊「…………」ピクピク
僧侶「あ、あの……ありがとうございます」
勇者「いや、構わない。しかし、女性が街の外を一人で歩くのは感心しないな」
勇者「ましてや森の中。君の様な女性ではモンスターに囲まれれば一巻の終わりだぞ……?」
僧侶「あ、あはは……本当はモンスターの少ない早朝から昼頃までしか外出する気なかったんですけどね」
僧侶「さっきの盗賊さんに見つかってから、逃げまわってたら日が暮れちゃいまして……」
勇者「ふむ……まぁ彼も男だからな。それに街の外で生きる盗賊だ。久しぶりの女性に舞い上がったのだろう」
僧侶(う〜ん………まぁ、別に良いけどね)
勇者「いやしかし、それは災難だったな。それで、君はこんな森の中に何しに来たんだ?」
僧侶「ここでしか取れない薬草があるんですよ。申し遅れました、僕の名前は僧侶といいます」
勇者「なるほどな、それなら仕方ない。教会でいるのだろう、薬草が」
僧侶「いえ、生憎と教会には所属していない身なので。単純に自宅で使おうと思ってただけですよ」
勇者「ふむ?僧侶であるなら教会に……むむ?」
僧侶「えっとですね、僕はその……アカデミーの神学部を専攻していたんですけどね」
僧侶「まぁ、諸事情で退学になっちゃったんですよ。だから教会に所属出来ないんです」
勇者「………ふむ、なるほど。退学の理由は……聞かない方が良いな」
僧侶「そうですね、出来れば伏せさせて下さい。まぁ元々信仰する気持ちも薄かったので……気にしてませんけどね」
勇者「それについてはなんとも言えんな。俺だって別に神を信じている訳でもないから……」
僧侶「それでも回復魔法を使えたりするんですけどね。というわけでまぁ、実は勇者さんのこと知ってますよ」
勇者「そうなのか?すまないな、俺の方は……面識がなかった、と思うんだが」
僧侶「あはは、仕方ないですよ。僕は二年目で退学になりましたし、実際に話した事はなかったですもの」
僧侶「勇者さんはその頃から期待の星でしたからね。全学部で知らない人もそんなにいないんじゃないかなぁ……」
勇者「はは、あんまり褒めるな。そこまで出来た人間でもない。まだまだ修行の身だよ」
僧侶(ふーん……実際に話してみれば案外真面目だな。割りと顔は良いし、ガタイも良いし……背も高いから)
僧侶(神学部ではこの人の事を悪く言う人も居たけど。………やれやれ、男の嫉妬は醜いもんだね)
僧侶「あの、やっぱり魔王討伐に向かってたりします?」
勇者「そうだ。先ずは最初の街で情報収集をと思ってな。それに仲間も見つけないと」
僧侶「あれ、支援部ありませんでしたっけ?」
勇者「あるにはあるんだがな。なんというか……こう、実際に俺の目で見て決めたくてな」
勇者「やはり同じ志を持つ仲間なら、俺の信念を貫く覚悟に相応した骨のある仲間を求めているんだ」
勇者「だから俺は旅をしている途中、自分の目で見て認めた人間と……魔王を討伐したい、と思っている」
僧侶(熱血だな、この人。古臭い人間だね、今はそんな勇者も少ないっていうのに……ふふ、面白い人だなぁ)
僧侶「凄いですね———あ、街見えてきましたね」
勇者「おぉ、ここがキミの住む街か……ふむ、俺の住む街と違った活気がある」
とりあえずこれだけ
のんびり書いていく
人間誰しも最初から強かったわけではありません
勇者はよく言われる努力の天才というやつですよ
少しだけ補足。毎回ちょいちょいだすかもしれません
・魔王討伐アカデミー
名の通り魔王を討伐する為に作られた勇者一行を養成する学園。
様々な職業の学部があり、現代でいう大学の様なもの。
卒業者には魔王討伐に向かうに当たり優遇されるアカデミーバッジが支給される。
勇者であるなら待遇は更に良い。パーティを組むか、単独かは選べる。
また、卒業生は討伐に向かわなくても討伐支援部に所属することで適した職業になることも。
・勇者学部
数ある中でも一番人気で倍率も高い。この学部の卒業者は年に入学者の三割という難関学部。
卒業すれば勇者としての待遇を受けられる。特技と魔法と武器の扱いとなんでも詰め込まれる万能な学部。
・神学部
神を信仰することで神秘の力を扱い、仲間のサポートをする人間を養成する学部。
規律は厳しく、男女交際が厳禁。しかし同性同士の交際は不問とされています。
・勇者 男 20代前半
一人称は俺。筋肉質の男気溢れる熱血漢。物理攻撃から魔法まで万能。ただし回復系統は苦手。
直情的でなにかと根性でのりきるタイプ。色々と音痴。魔王討伐アカデミー勇者学部首席。
———第二都市・僧侶の自宅
僧侶「はいはい、ここが僕の家です。どうです、一晩お礼に?」
勇者「いや、若い女性の自宅に上がり込むのもな。宿屋を探すとするよ」
僧侶「そうですか。まぁ、何かこの街で分からない事があったら頼ってくださいね」
勇者「ああ、有難う。それじゃあな」
僧侶「はい、ありがとうございましたー!お元気でー!」
僧侶(といっても、また会いそうだなぁ……あはは……)
勇者「なにぃ、一晩5000Gだと!?」ガタンッ
宿屋「最上級のロイヤルスイートルームしか空いておりませんので」シレッ
勇者「ぐぬぬ……いや、しかし……」サイフカクニン
宿屋「お客様、5000Gで最上級ですよ。今なら可愛い女の子もおつけいたします」
勇者「……い、いらんいらん!もういい、他の宿屋を探す!」
宿屋「そうですか。この街に宿屋は沢山ありますが……生憎、今日は祭りの前日。予約でいっぱいと思われますが」
勇者「なん……だと……?」
・・・
勇者「というわけで、一度遠慮したが恥を忍んで頭を下げに来たわけだ」
僧侶「まぁ、こうなると思いましたけどねぇ。まぁまぁ、お気になさらずくつろいでくださいよ」クスクス
勇者「すまん……一人旅ともなれば、節約がな……。いや、そもそも女性の自宅に……」ゴニョゴニョ
僧侶(面白いな、この人……初心っていうか、なんていうか)ニヤニヤ
勇者「それはともかく。祭りの前日と宿屋が言っていたが」
僧侶「そうそう。この街はですね、毎年一回だけ神に自分の最も大事なモノを捧げる祭りというものがあるんです」
勇者「ほう……最も?」
僧侶「そう、最も。ですからまぁ、良かれ悪しかれ……ね?」
僧侶「ちなみに神というのはこの街の長老ですね。あはは、長老で神なら王様は創世神ですかってね」
勇者「ふむ……なぁ、この街はそれを容認してるのか?」
僧侶「ふふ、容認してるんですよ」
僧侶「まぁ、別に本当に大事なモノを捧げなくても良いんですよ」
僧侶「僕だって、さっき採った薬草にしますし。強制ではありませんからね」
勇者「なんだ、ならよかった……」ホッ
僧侶(”強制”ではない、けど……ですね)
勇者「よし、俺も一晩この街に世話になる身だ。何かしら捧げるとしようか」
僧侶「そうですね。何か、大事なモノ……んー、童貞とか」
勇者「—————っ!?な、なにをいうっ!?」カァァァァ
僧侶「わぁ、純情さん」ニヤニヤ
勇者「くっ……女性がそんな、ことを言うんじゃあない!」
僧侶「はーい、ごめんなさい勇者さま」ニコニコ
僧侶(さて、思わぬ保険が手に入った……後は、明日だね……)
———翌朝 第二都市・祝福際
勇者「おぉ、凄い人数だな……僧侶、長老にはいつコイツを捧げれば良い?」
僧侶「そうですねぇ、まぁ気長に順番を待ちましょう」
勇者「うむ……いやしかし、かなりの長蛇だな。それに、皆が幸福そうな顔をしている」
僧侶「年に一度の長老に媚び売る機会ですからねぇ」
勇者「……どうした、あまり快く思っていないのか?」
僧侶「んー、あんまり僕はね。でもちゃんと自家製の薬草渡しますので」
勇者「ふむ、そうか。有難うな、俺の分まで作ってくれて……毒消し、だったな」
僧侶「えぇ、とても強力なヤツです。魔物の毒にやられてもへっちゃらですもの」
勇者「僧侶は万能だな。調合は得意なのか?」
僧侶「えぇ、得意中の得意ですよ。他にもしびれ薬とか、惚れ薬とか作れますよ」ヘヘン
勇者「……まぁ、悪用はしないようにな」
僧侶「えぇ、勿論」ニコッ
勇者(これだけ広い市街中の人間がこの場に集まっているのか……凄い、な)
勇者(皆、幸福そうな顔をしている————ふむ、あそこの女性は子供を抱いているな)
「では、これを……ああ、有難うございます、私の大事なものを頂いてくれて……」ウレシナキ
勇者「お、おい……赤ん坊を、あの女性は赤ん坊を捧げたのか?」
勇者「なぁ、僧侶————なっ、いない!?」ガバッ
勇者「はぐれたのだろうか……いや、しかしあの女性、本気で捧げたのか?」
勇者(それにしては幸せな表情だ。よくみれば、子供を抱いている女性は少なくない……)
勇者「まさか、あの女性たちは全員……?」
「おい、アンタ、早く進んでくれんかね」
勇者「あ、あぁ……すまない……」
「アンタ、手ぶらかえ?」ニコニコ
勇者「いや、俺は……毒消しを、だな……」
「そうかい、まぁ、アンタはまだ若いからな……」
勇者「………どういう、ことでしょうか」
「成長すれば分かる。神が悦ばれることよりも、大事な事なんてないのさ」ニコニコ
勇者「………貴方は、一体何を捧げるので?」
「ワシは……ほれ、出て来なさい。こちらのお兄さんに挨拶を———ワシの、可愛い孫ですじゃ」ニコニコ
「…………こん、にちは」ニコニコ
勇者(………なんだ、何か、おかしいぞ!?なぜ当然の様に肉親を捧げるのだ!?)
勇者(なぜ、この少女は嫌がる素振りを見せることもなく————っ)
「おや、もうそろそろですな。ほれ、お若いの……来年は、恋人を捧げれるくらいになってればよいの」ニコニコ
勇者「……………」
勇者「…………お初、お目にかかる」
長老「おや、これはこれは。もしや貴方は旅のお方かな」
勇者「そうです。お分かりになるので?」
長老「私は一度会った人は全て覚えていますからね。この市街の住人、全て把握しております」
勇者(市街の人口は凡そ3000人程度……それを把握するとは……)
長老「どこから来たのかわかりませんが、良い時期にこられましたな……では、貴方の大事なモノは?」
勇者「昨日出来た友人に作ってもらった、毒消しです」
長老「ふむ、そうですか。おぉ、これは上質な……良い香りすな」ナカミカクニン
勇者(—————……む?)クンクン
長老「では、有り難く頂きましょう……では、お次の方を」
勇者「いや、少し待ってくれ———お前、本当に人間か?」
長老「………ほう?」ピクン
勇者「微かにだが、魔族の匂いがする——————っ!?」
A「暴れるな」
B「おとなしくしろ」
C「動けば心臓を貫く」ソレトモシリガイイカ
勇者は音もなく近寄ってきた長老の部下ABCにかこまれた!
勇者の胸に拳銃が突き付けられる!勇者は身動きがとれない!
勇者「貴様……」ギリッ
長老「旅のお方、どうやら鼻の効く様子。よくない、実によくない」
長老「まったく……こんな毒消しなんて貰っても、私は嬉しくありませんな。せめて動物の肉とかならまだしも」
勇者「やはり、貴様は……魔族かッ!」
長老「如何にも。ただでさえ今年は何故か捧げ物が少ないのですから、あまり迷惑をかけないで頂きたい」
長老「この祭りが終わればまた、部下に暗示をかけ直させねば……さ、お前たち連れていけ」
勇者は長老の部下ABCに連れ去られた!!
———宮殿・地下牢
勇者「うっ…………くそ、油断した」ガチャガチャ
勇者(手錠をかけられた……これでは身動きが、できんな)
勇者(それに眠らされてから、どれくらい時間が経った……?)
……コツコツコツ
勇者(む、足音……誰か、来るか)
門番「………おい、生きてるか?」
勇者「見ての通り、まだ拷問前だろう。なんだ、お前は新人か?他の門番は『あとでじっくり洗脳してやる』って言ってたぞ」ギロッ
門番「あぁ、そうだな。新人さ————まったく、助けに来たんだからそんなに敵意をぶつけないでくださいよ」カチャッ
勇者「…………キミ、は」
僧侶「あっつー、鎧なんて着るもんじゃないですねぇ。お元気ですか、勇者さま?」ヌギヌギ
勇者「ふむ、つまり……あれか、囮に使われたのか?」
僧侶「そういうコトです。勇者さんってば直ぐに捕まるから入りやすかったですよ」カチャカチャ
勇者「………ふぅ、事前に相談してほしかったな。む、すまん……ありがとう」フゥ
僧侶「勇者さんを囮にしたわけじゃないんですよ。保険に保険を重ねてですねぇ」
僧侶「あの毒消しさえ安全に長老に手渡せればよかったんです。もし捕まったら、僕じゃ逃げ出せれませんからねぇ」
僧侶「まぁ、まさか捕まるにしても……勇者さんが匂いで気づくなんて、思いませんでしたのである意味予想外です」
勇者「ふーむ、まぁ、なんにせよ”毒消し”がキー……だな?」
僧侶「えぇ」
勇者「それで……俺が捕まってから、どれくらい時間が?」
僧侶「もう祭りは終わりましたよ。長老も宮殿に戻ったかと……」
勇者「そうか。それで、これからどうするんだ」
僧侶「勇者さんが捕まった牢獄は収容所です。捧げられた女子供が捕まっているので……彼女らをまず解放しましょう」
勇者「わかった。ここまで来たなら手を貸そう————次は、ちゃんと作戦内容は話せよ?」ニコッ
僧侶「わ、わかりましたよ〜……じゃ、先ずは」
勇者「あぁ、コイツらだ」
A「貴様!」
B「どうやって抜けだしたぁ!」
C「誰だその美少女は!!」タイプダ!
僧侶「いやん♪」テレッ
勇者「通りすがりの友人だ」
長老の部下ABCがあらわれた!
部下ABCは拳銃を構えている!!
勇者「街中ではやはり拳銃が相手になるよな———くっ、やはりモンスターのが楽だ」
勇者と僧侶は壁に隠れてやりすごす!
部下ABCは発砲している!勇者と僧侶は身動きがとれない!
僧侶「外じゃ機械類は一切ありませんからねぇ……っていうか、街中で戦うの初めてです?」チュインチュインチュイン
勇者「あぁ、警備隊と揉め事を起こした事はないからな。まったく、モンスターよりも厄介だ」チュインチュイン
僧侶「でも困った事に拳銃とかはモンスターに無力ですからねぇ———っと、弾切れみたいですよ?」チュイン……
勇者「まったくだ。だからこそ、俺ら勇者がいるのだ————さぁ、攻めるぞッ!」
勇者が部下ABCに襲いかかる!部下ABCは拳銃に弾を込めながら飛び退く!
僧侶が静かに詠唱を始める———。
勇者「貴様ら警備隊、拳銃がなければ敵ではない————撃ちすぎたな、未熟者どもめ!痺れてろッ!」ビリビリ
勇者の右手から雷が放たれる!部下ABCに320のダメージ!
部下ABは気絶したようだ!部下Cは痺れながらも拳銃を撃った!
勇者「———————っ!」
僧侶「はい、油断大敵です」プロテクトー
僧侶の詠唱が終わる!勇者の身体を薄い半透明の膜が包む!
部下Cの放った銃弾は膜の上で止まる!勇者に0ダメージ!!
薄い膜が全て剥がれ落ちる!部下Cはもう一発撃とうとしている!!
勇者「恩に着る—————ふぅん!」ブォン
勇者の素手の攻撃!部下Cに120のダメージ!部下Cは吹っ飛んだ!
部下Cは泡を吹いて倒れた!勇者たちの勝利!!
僧侶「あらら、かんっぜんに伸びちゃいましたね……いたそー」アチャー
勇者「………こいつらは、魔族じゃないな」クンクン
僧侶「えぇ、操られているだけですから。基本的に長老だけですよ、魔族なのは」
勇者「ほう……つまり、洗脳されているだけか。悪い事をしたな……少し、手荒だったか?」
僧侶「いえいえ、甘言に乗せられるコイツらが悪いんです。それにもう、洗脳は解けませんよ」
勇者「………そう、なのか?」
僧侶「親玉を[ピーーー]しかないですね。つまり、長老を———……うん、これでよし」キュッ
勇者「ふむ……なら、問題はないか。それにしてもなんで、そういう縛り方にするんだ」
僧侶「こうしたほうが、屈辱的かなって……ほら、洗脳から目覚めた時に悔い改めるかもしれません」
部下ABCはM字開脚の姿勢で宙に釣り上げられている!
勇者「…………ご愁傷様、だな」
本日はここまで
書き溜めてきます
saga入れ忘れてました
ご指摘有難うございます
さてさて、ちまちまと投下していきますゆえ
———第二都市・収容所最深部
勇者「さて、ここに彼女らが……?」
僧侶「ですね。ここに、今日捧げられた人達が捕まっています……まだ、洗脳は終わってないかと」
勇者「……彼女ら、洗脳されるとどうなるんだ?」
僧侶「自ら肉を捧げます。あとは魔族に変えられ真の配下になったり……たまに、洗脳されないのもあって」
勇者「洗脳されないと?」
僧侶「嫌がりながら、色々されて食べられます」
勇者「胸クソが悪くなるな………よし、助けるぞ」
勇者は勢いよく牢獄の扉を蹴った!警報機が鳴る!
勇者「………なんだ」
僧侶「あのー、感情昂ったのはわかりますけど、蹴破らないでくださいよ」ボクピッキングデキルノニ
勇者「………すまん」
僧侶「気づかれない様に脱出させようと思ったんですけど、仕方ないですね」
「たすけてー」
「たべられるぅ!」
「いやあぁぁあ!」
僧侶「はいはい、今更泣いたって遅いですからね。信仰なんかに負けない強い心を持ってれば良かったのにですねー」
勇者「………なんか、酷い言い方だな」
僧侶「仕方ないです。信仰に全て委ねてしまった人の末路です。魔を魔と見抜けなかったんです。本当なら死んでもおかしくないです」
僧侶「でもこうやって、”この人達”は私たちが助けに来た。まったく、幸運に思って貰いたいです……そう、思いません?」ニコッ
勇者(悲しい目をする。何かあったのだろう……俺は、何も言えん)
僧侶「神を信じ過ぎるとこうなるんですよ————さ、一度閉じ込めておきましょう」ガチャガチャ
勇者「う、うむ……すまんな、キミたち。また後で助けに来るからな」
勇者「しかし、あれでいいのか?門番がいつくるかもわからんのに」
僧侶「あんなにいると思わなかったんですもの。あの収容室だけでも50人いるかいないか……」
僧侶「一応、勇者さんを助けるまでに門番は気絶させときましたよ。お薬って偉大ですねぇ」
勇者(怖いな……睡眠薬でも、盛ったのだろうか)
僧侶「仮に来たとしても、あの扉は呪いで開けられない様にしといたんで。」
勇者「凄いな、呪術も使えるのか?」
僧侶「解呪するには、使いこなしませんと♪」
勇者(回復術はともかく、呪術に調合術……なぜ、これでアカデミーを退学になったのだ……?)
僧侶「さてさて、そろそろ地下からでますよ————あの階段登りきれば、宮殿です」
勇者「いよいよか、長老め……勇者を敵に回したこと、思い知らせてやろう」
———宮殿・長老室
長老「なんですって?あの青年が逃げ出した……本当なのですか?」
部下D「はい、今宮殿内を僧侶であると思われる女性を引き連れて、こちらに向かっております!」
長老「ふーむ……僧侶、ねぇ?なかなかどうして、骨のある旅人たちだ」カンシンカンシン
長老「収容所のほう、連絡はついているのですか?」
部下D…「いえ、それが……誰も応答しません。確認に向かわせ様にも、収容所につながる道をヤツらが塞いでおります!」
長老「はぁ……今年は人数も少ないというのに。また、お邪魔なもしや”勇者一行”ですかな……まったく、面倒だ」
部下D「ど、どう致しましょう!ヤツら、異様な強さであります!拳銃がききませ———ぬわぁぁ!」ドカーン
壁が吹き飛び部下Dはふっとばされた!壁の向こうから勇者と僧侶があらわれた!
長老「おやおや、ようこそいらっしゃいました。もしや、勇者殿で……?」
勇者「あぁ、未熟者ゆえ捕まりはしたが————そうだ、勇者だ!」
僧侶「…………」
長老「ふーむ、今年の勇者は骨があります。ここまで来たのは、中々どうして運がいい」
勇者「今年の、だと?」
長老「毎年この時期になるとですね、来るんですよねぇ……新人勇者殿が」
長老「でもまぁ、大体が私の手に堕ちます。拳銃に勝てなかったり、罠に落ちたり……まぁ、いつもは事前に察知しますからね」
長老「まぁ、要因はそれだけじゃないんですが————さてさて、お強い勇者殿とそのお供よ、どうなさいます?」ニヤニヤ
勇者「勿論……っ!」
僧侶「長老、貴方をブチ殺しますよ」ニコッ
勇者の攻撃!飛び上がり、するどい拳を放つ!
ミス!長老はかんたんに身を翻した!
僧侶の攻撃!手にしていた鈍器で殴りかかる!
ミス!長老はそれを受け流す!
勇者「むっ……!?」
僧侶「ちっ……結構、速い……」
長老「ふーむ、遅い……ですね」ニコニコ
長老「おぉ、そうです。面白いことを致しましょう————………ふふ」ヨッシャコユウケッカイヤデー
長老は凶々しい詠唱を始めた。室内の空間が歪む!
勇者「な、なんだ……!?」
僧侶「これ、は———結界!?」
長老の詠唱が終わる!いつのまにか景色は闘技場になっていた!
そうして長老の周りに顔色の悪い————歴代の勇者たちが並ぶ!
勇者「…………せ、先輩っ!?」
僧侶「あぁ、なるほど……洗脳して、異次元に幽閉してるんですね」
長老「御名答。駒としてね……ふふ、この勇者たちは私に勝てなかったモノたち。弱かったですねぇ」
勇者「……………ちっ」
長老「あまりに弱いので、魔族として作り変えておきました。これで、従来の10倍の強さは得ていますよ」
僧侶「問題は理性がないこと、ですか?人間が魔族に変わったら……どうなるか、想像したくもないです」
長老「うふ、うふふふふあはああっはは!!だからなんです、人間。さぁ、勇者と勇者の戦いを見せてみろ—————ッ!」
勇者だったモノたちABCDEが勇者と僧侶に襲いかかる!!
僧侶(や、やばいかも……この手は、考えてなかった————え?)
勇者「……………俺は今、猛烈に怒っている」
勇者は腰の剣を抜いた!
勇者「貴様は吐き気を催す邪悪な存在だ—————許さん、ぞ!」ブチッ
勇者の怒りの会心の一撃!勇者だったモノたちに9999ダメージ!!!!
剣の一振りで勇者だったモノたちABCDEFは斬り伏せられる!
長老「ば、ばかな……そ、そいつらはお前と同じ、勇者だぞ!?それに魔族にしたのだから、負けるはずが……ッ!」
長老「いや、そもそも、貴様は……その手で、殺めたのか……っ!?勇者が、ヒトが、見知った人間を……!?」
勇者「魔族に変えられ、理性を失ってでも生きれるほど……勇者は出来たモノではない」ジャキィン
長老「ひっ……」
勇者「勇者もまた人間。ああなっては、貴様ら魔族同然……さぁ、貴様も彼らと同じ様に、眠れ」
僧侶(……………そりゃ、エリートなんて噂されますね)
長老「ひ、ひひひひっ!残念だったな勇者ぁ!確かに貴様は強い!これまで見てきた中でも格段にだ!」
長老「だが勇者よ!なぜ彼らもまた勇者であるにも関わらず、私に敗北したのか分かるか!拳銃をかいくぐるモノだっていたのに!」
勇者「…………さぁ、な」
長老「答えはこれだ!」ガァッ
長老の姿が禍々しく変わる!蜘蛛と百足を足した様な魔物の姿に!!
長老は猛毒の吐息をはきだした!その毒は人間を死に至らしめる!
死んだ人間は洗脳され、長老が死ぬまで操り人形となり、強力にかけられたモノは魔族と化す!!!
長老「ひゃーはっはっは!これに対抗できた勇者はいない!そこの僧侶ぉ!勇者の一行の僧侶たちにも解毒は不可能だったわ!」
僧侶「…………はぁ、それで?」ヤレヤレ
勇者「…………それで?」ヤレヤレダゼ
長老「って、えっ?」ビクッ
勇者「なるほど、毒消しがキーだったな」
僧侶「そういう事です。やーっと、僕の二年間が報われましたとも……」ニコッ
長老「ちょっ、えっ……なんで、どうして、なぜ……効かないっ!?」
勇者「貴様、俺から受け取っただろう。毒消し……あれ、開いて吸い込んだな?」
僧侶「あれは僕が調合した聖なる毒消し。粉末タイプでありながら、空気に混じって体内に侵入するタイプです」
僧侶「更に言えば解毒効果てきめん、むしろ毒を司る器官をぶっ壊すレベルですとも」
長老「なっ、なっ————なにぃ!?」
勇者「あぁ、完全に真空じゃないと意味ないらしい。だからどのみち、貴様は手にとって吸い込んでしまったな」
僧侶「つまり、貴方の身体もう、毒がないですし、解毒されすぎて中身ボロボロですね。あ、遅効性なんで……そろそろ、ですね♪」
長老「あっ、そ、そん……がはっ、そんな馬鹿、なっ!?いっぱい、くわされ……た、だと!?」ゴボゴボ
勇者「な、末恐ろしいだろう。俺も彼女にいっぱい食わされたよ」
僧侶「いやん♪」テレテレ
長老「バカな……そんな、私の毒がぁ……解毒出来るはずなど、ないのだぁ!」ガハァ
僧侶「二年もあれば、解毒できますよ。まずはじめに、市街の幹部を毒で操ってましたもんね?」
僧侶「それをひっ捕らえて、毒抜きして。一人ずつ直していったのは、中々骨が折れましたとも」
僧侶「まぁ、毒抜きした段階で死んじゃいましたけど。ほんと、悪趣味な毒吐きますよね……」
長老「くっ、くくく……っ!?」ゴボゴボ
僧侶「今年がどうして捧げ物が少ないかわかりました?全部、僕の仕業ってわけです」
僧侶「市街は広いです。駒である幹部がいないと、洗脳をかけ直せませんもんね。辛うじて、貴方がいる地区だけ洗脳が終わらない」
僧侶「だから、ちょっとずつ他の地区から直していった。幹部もまともな協力者になっていただいて」
僧侶「貴方は慎重です。大っぴらになれば他の街から大量に勇者が来ますもんね。」
僧侶「それゆえに多少、他の地区の様子がおかしくても強行できない。だから捧げ物さえあれば、幹部が変わっても知らない」
僧侶「捧げ物が減っても可笑しいと思うだけ……慎重で、馬鹿なんですね。小心者で有難うございます……♪」
長老「な、なななな……なんだ、貴様は……っ!?」
僧侶「この日の為に二年前から入念に計画したんです。名前くらい……と思ったけど、教えません」
勇者「では、これまでだ—————もし生まれ変われるなら、来世では善行を積めよ?」シュッ
長老「や、やめ—————てっ」
勇者「ふむ……そうだな、俺じゃない」ピタッ
長老「あ、あぁ……はぁ、はぁ……っ」
勇者「そうだろ、僧侶」
僧侶「あら、止めは僕に任せてくれるんですか————ふふ、じゃあ遠慮なく」
長老「——————っ!?」
僧侶は微笑みながら勇者に羽交い絞めされた長老に近寄る!
長老は身動きが取れない!僧侶は静かに長老の喉元に手を……その手には鈍器でなく、毒針が握られていた!
僧侶「………さようなら」
長老の喉元にゆっくりと毒針が刺さる———長老に必殺の一撃!!
長老「ん、がっ、ががが、ぎゃぁぁああ、おごぁあぁぁっ!!!」ゴボゴボゴボゴボ
僧侶「長老、貴方の毒の数倍強いヤツです。解毒された中身には堪えるでしょう?」ニコッ
勇者「凄いな、キミは……一人で、二年間も」
僧侶「凄くないです。協力してくれた幹部になってもらってる人たちは、僕より辛い思いをしています」
僧侶「駄目だと言えないんですよ、信仰に洗脳された人たちが子供や恋人を捧げるのを」
僧侶「一年間の一度だけ。今日の作戦を実行に移してから一度だけとは言え……彼らは間違いを見て見ぬふりしたんです」
勇者「…………そう、だな」
僧侶「今日助けた人たちはともかく、去年、一昨年……その前の年の人達はもういないんです」
僧侶「僕らに力がないから。強行できないのは僕らも同じ……一年に一度しか明るみにでない長老を倒すには、今日だけ」
僧侶「他の街には助けを求められない。あまり遠出すればモンスターに食べられる」
僧侶「たまたま魔王討伐のついでで立ち寄った勇者さまに助けを求めても、ああなって……」
僧侶「だから、だから……僕は、ずっと、二年も……」ボロボロ
勇者「すまなかった……もう少し、早くこの街に……」
僧侶「い、いいえ。昨日、勇者さんが来たのは偶然でした。たまたま、出会って、たまたま今こうして助けてくれている」
僧侶「そ、それに……捨て駒、みたいに。囮に使ったりして……ごめん、なさいっ」グスッ
勇者「は、ははは……」
僧侶「でもほんとに、ツメが甘かったです。僕だけじゃ、あの結界と元勇者さま達には勝てませんでしたし」
勇者「そうだな。二度はないだろう……だから、今日この場に俺がいて、本当によかった」
僧侶「えぇ、本当に。本当に……強いん、ですね?」ニコッ
勇者「……まだまだ、未熟さ。俺の叔父の方が何倍も強い」
僧侶「はぁ……化け物、ですね。まさに……」
勇者「あぁ、化け物だよ、まったく。さて、そろそろ行こうか……彼女らも、助けないとな」
僧侶「あぁ、もう、それなら大丈夫です。今頃は協力者たちが全部やってくれていますよ」
勇者「そうなのか?」
僧侶「えぇ。それに洗脳も一年ほど経てば個人差はありますが、薄れていきますから……ゆっくり、この街は元に戻ります」
勇者「聞いていいか?どうしてキミはそこまで……」
僧侶「……僕の、故郷ですから」
勇者「そう、か……」
———翌朝 僧侶の自宅
勇者「ふあぁぁ〜……うむ、良い朝だ」
僧侶「ふぇぇ……おはよ、ございます……」ペタペタ
勇者「なっ、ななっ、僧侶!シャツ一枚はいかん!」カァァァ
僧侶「ん……?あぁ、すいません……じゃ、着替えてきますねぇ……」ペタペタ
勇者「びっくりした……リビングにあの格好でくるとは、俺がいるのだぞ?」
勇者「まったく、若い女性が……無防備な……」アセアセ
勇者(ふむ、しかし……緊張の糸がようやく解れた、というところか)
僧侶「ゆうひゃひゃーん、ごひゃんらにはべはいれす?」シャコシャコ
勇者「歯磨きしながら喋るんじゃあない!そして着替えに行ったんじゃないのかーっ!?」ガーン
勇者「さて、随分と遠回りになったが……この街で情報収集をしたかったわけだが」
僧侶「うーん、多分この街に情報はないでしょうね。支援部だって、洗脳されずみでしたから」
勇者「だろうな……長老も、魔王の手下なわけだしな。そもそも、どうやって街に侵入したんだアイツは」
僧侶「魔物避けを掻い潜ってくるくらい、上位種なのもたまにはいますよ」
勇者「やれやれだな……救いは、あれがまだまだ弱い部類だったことか」
僧侶「えぇ、魔王の幹部級がくればこの広い街でもあっと言う間ですから……」
勇者「いつもいつも、後手にまわるな、俺たちは」フゥ
僧侶「それでも、救って行くしかないんですよ。それが勇者さんの宿命なんですから」
勇者「あぁ……魔王の城に近づけば近づくほど、虐げられている人々は多くなっていくんだ……」
勇者「しかし、この街は誰が統治するんだ?長老も、魔物だったわけだが……」
僧侶「あぁ、それは適当に。僕の協力者たちがなるんじゃないですか……?」
勇者「ふむ。キミは、立候補しないのか?」
僧侶「まさか。僕はまだまだやる事があるじゃないですか————ねっ♪」
勇者「…………良い、のか?」
僧侶「ふふ、むしろ僕が良いのか、と聞きたいですね。アカデミー、退学になっちゃってますけど?」
僧侶「魔王討伐の為の権利、もってませんけど?完全にフリーな感じなんですけど?」
勇者「俺は良い。キミが俺の旅には、魔王討伐には必須だと思う……だが、過酷な旅だぞ?女性には……」
僧侶「勇者さんは女性を腫れ物みたいに扱いすぎですよ。それに、僕はね——————男なん、ですけど?」
勇者「えっ」
僧侶「ほら」ピラッ パオーン
勇者「!?」
僧侶「わー、お婿にいけませーん。それで……男らしく言いましょうか?僕を連れてけよ勇者♪」ニコッ
勇者「……………はは、よし、着いて来い」
僧侶(♂)が仲間になった!!!
補足
・僧侶 男 18才くらい
一人称は僕。見た目はパッと見女の子な男の子。腕っ節は弱く、回復系統の魔法に優れる。
それだけでなく調合の知識や、呪術の知識など幅広く網羅している。果てはピッキング技能。
信仰は薄いが僧侶である。腹黒く、微笑みの裏で毒針を握る小悪魔っ娘。アカデミー神学部途中退学者。
・長老 男 年齢不詳
一人称は私。第二都市の長。人間に扮しているときは優しそうな爺。
真の姿は凶々しい蜘蛛と百足を足した様なモンスター。得意技は人間を洗脳する毒。強力なモノは魔族に変える事もできる。
本日はここまで
そろそろ書き駄目ストックがなくなってきた……
定期的に一ヶ月またはそれ以上休んでも
放置することはないと断言したい
地の文は基本的に最小限で
補足は簡単なキャラ紹介と学部だけに留めておこうかと
さて、ちょっとずつ始めていきますよ
それから数日後、勇者と僧侶は魔王の城を目指した。
しばらくして、第三都市までの道のりにあった小さな村に立ち寄った。
———都市外・小さな村
勇者「さて、今日はこの村で一日の疲れを癒そうか」
僧侶「…………ふぅ、そうですねぇ」ゲンナリ
勇者「どうした?」
僧侶「い、いえ……なんていうか、体力の違いを見せられた気がします」
勇者「すまない、僧侶のペースで歩くと日が暮れてしまうものでな」
僧侶「いや、確かにそうなんで良いんですよ。3日連続野宿は辛いですから……」
勇者「まったく、男だろう!根性をだせ!ほら、元気だすんだ!」
僧侶「あのね、僕だって平均レベルの体力は持ちあわせてますから……まったく……」ブツブツ
勇者「だらしないな、12時間歩いたくらいで……途中、休憩しただろうに」
僧侶(わー、この人ほんと脳筋だー)
勇者「む……?」
子供「じー……」
勇者「どうした、坊主」ニコッ
子供「旅の人?どこから来たの?」
勇者「俺は第一都市から来たんだ。それで、あっちの———お姉ちゃんに見えるお兄ちゃんは第二都市だ」
僧侶「その説明、面倒くさいならお姉ちゃんって紹介してくれても構いませんよ?」
子供「へぇ!なんで旅してるの?外はモンスターだらけで、危ないんでしょ?追い出されたの?」
勇者「稀に追放措置を受ける人間はいるが……俺はそんなに堕落してはいないさ。そうだな、これが何か分かるか?」チラッ
子供「あっ!勇者!勇者のバッジ!アカデミーって所のだ!てことはお兄ちゃん勇者なの!?すごーっ!」キラキラ
勇者「はっはっは、まだまだ駆け出しだけどな。坊主、宿屋はどこにあるか知ってるか?」
子供「うん!あっちだよー!ついてきてー!お兄ちゃんたち!」
僧侶「うーん、お兄ちゃんって言われるのは……なんか、心外……」
勇者「ははは、まぁいいじゃないか」
———小さな村・宿屋
子供「おとうさーん!勇者さまがきたよー!」
宿屋「なんと!?勇者さまが!」ガタッ
勇者「失礼する——— 一晩、宿を借りたいんだが」
宿屋「これはこれは、勇者様……はい、一晩50Gでございます」
勇者(よかった、良心的な値段だな……)ホッ
宿屋「…………あ、あの、本当に勇者様なのですか?」
勇者「あぁ、そうだが。未だ駆け出しだが……ほら、これが証明だ」チラッ
宿屋「おぉ、バッジ!これはこれは、ようこそお越しくださった……疲れたでしょう、こちらへどうぞ」
僧侶「おふろ、おふろ♪」
僧侶「きゃー、久々のベッドですよー」モフッ
勇者「ふぅ、やっとゆっくり眠れるな……この村、小さいが魔物避けはちゃんとしてるようだ」
僧侶「ですね。畑が多いみたいですし、魔物なんて来たら荒らされて大変ですからねぇ」
勇者「確か、この村でしか採れない特産品もいくつかあったな」
僧侶「えぇ。第一と第二、第三都市には月に一度いくつか運ばれてますね」
勇者「ふむ……ご苦労なことだ。さて、先にシャワー浴びていいぞ」
僧侶「無意識にそういうアレな言葉使わないでくださいよ……じゃ、お先に失礼しますね」
勇者「ふむ………?」
僧侶「あー、結構汗かいちゃってますねぇ……お洋服、村で買っちゃおうかな……」ヌギヌギ
勇者「目の前で脱がれると、変な気分になるな。ほぼ女性にしか見えんだけあって」
僧侶「欲情しちゃ駄目ですよー、僕は普通に女の子が好きですからねー」ヌギヌギ
勇者「阿呆が」
宿屋「失礼します、勇者様……お話が—————ぬぉぉ、失礼しましたぁ!?」ガチャッ
勇者「あぁ」
僧侶「あちゃー」
勇者「そのまま入ってくれて構わないぞ。大丈夫、こいつは男だ」
宿屋「はっ、えっ、そ、そうなんですか……じょ、女性かと……」
僧侶「有難うございます♪」キナオシ
勇者「それで、話というのは……?」
宿屋「はい、あの……ひとつ、頼み事がございます」
勇者「あぁ、俺の出来る範疇なら承ろう」
宿屋「……実は、この村には魔物が現れるのです」
勇者「変だな、魔物避けは都市のモノと変わらないものを使ってるはずだろう」
宿屋「そうなんです。でも、実際にヤツは現れるのであります……数日前ほどから、深夜になると村に侵入してきます」
宿屋「そして、農作物を荒らし回り、特に薬草類を持って東へと逃げ去って行くのです」
勇者「………どんな、魔物だった?」
宿屋「はっきりとはわかりません。なにしろ暗がりの中の上にあまりにも速いので……」
僧侶「討伐クエスト、承りますか?」
勇者「そうだな。困っている人を見過ごしては魔王討伐なんぞ、夢のまた夢だ」
村長「これはこれは、よくおいでなすった」
勇者「お初お目にかかる、第一都市から来た”勇者”と言います」
僧侶「第二都市からきた”僧侶”と言います」
村長「うむ、ワシがこの村の長ですじゃ……さて、宿屋のものから簡単に説明は受けたじゃろうが」
勇者「はい……夜な夜な、農作物を荒らす魔物が現れる、と」
村長「そうですじゃ。魔物避けをものともせず、門を乗り越えてやってくるのですじゃ」
村長「農作物の中にはここでしか採れない薬草も混じっておる……大変、困っておるのです……」
勇者「被害はそれだけで?例えば、村民に被害などは」
村長「不思議なことに、軽いかすり傷程度しか負っておりません。これもまた神のご加護かもしれません」
僧侶「………………」シラー
村長「それで、そも魔物は目にも留まらぬ速さで動きますのじゃ。黒い、我々くらいの大きさの……恐ろしい、魔物です」
村長「それにヤツめ、大剣を扱います。暗闇に銀白色に光る、あの大剣と紅い眼だけがくっきりと我々の目に映るのですじゃ」ガタガタガタ
僧侶「魔物なのに、武器を使いますか……中々、手強そうですね」
勇者「魔物の知性は俺たち人間よりも遥かに高い種もいる。もしかすれば、高位種なのかもしれないな」
僧侶「あー、うちの長老とかもそうですからね—————っ!?」
村民A「でたあああああああああああああ!!」
村民B「きゃあああああああ!!!!」
勇者「来たか!村長、その依頼受けた————行くぞ、僧侶!」ガタッ
僧侶「村長さん、報酬はお金でお願いしますね♪」ガタッ
村長「は、はぁ……」ガタガタ
村民A「助けてください勇者様!あそこでございます、あの黒い影が————あぁ!」
勇者「………確かに、暗がりの所為であまり見えないな。それに、やけに動きが速い」
僧侶「銀白色の大剣と紅い眼だけが月明かりに輝く、ですか。洒落た魔物ですね———行きますか!」
「————————っ」ピクン
勇者「………こい、魔物」
勇者は素手で身構えた!
魔物は大剣を握りしめたまま、勇者を睨んでいる!
勇者(ほんの僅か、微かだが……魔族の香りがする、が……こいつも隠しているのか?)クンクン
魔物は勇者に襲いかかる!目にも留まらぬ速さで大剣を振り下ろした!
ミス!勇者は咄嗟に飛び退いた!勇者は体制を立てなおしている!
勇者(なんという速さ……太刀筋が、殆ど見えん!大剣をあんなに軽々と……っ)
僧侶「勇者さん、大丈夫ですか!?」
勇者「あぁ、少し油断した……これから、少し本気だす……」
勇者は剣を抜いた!魔物は暗がりの中、静かに大剣を構えなおしている!
「———————ふっ」
勇者「ぬぅ……っ!」
勇者と魔物の剣が火花を散らす!
勇者(ちらちらと月明かりに見えるが……こいつ、人間の様な姿形……っ)
勇者(人間に化けているのか?それなら匂いが薄く、魔物避けを素通り出来るのも合点が行く……っ!」
勇者「なるほど、貴様上位種か—————だが、俺もまた人間では勇者と呼ばれる存在!」ファイアアアア
勇者は空いている手で火の玉を作りだす!
それを魔物に向かって放つ!魔物に40のダメージ!!
「—————がっ」
勇者「ちっ、腕を掠った程度か……だが、逃がさんぞ」
魔物は腕を抑え、後退した!しかし勇者は更に詰め寄って行く!
僧侶「勇者さん!一気に決めてください———えいっ!」バイキルトー
僧侶の力を増幅させる魔法が赤いオーラとなって勇者の身体を包む!
勇者は一気に勝負を畳み掛けようとする————っ!
勇者「うおおおぉおおぉぉおおおお!!」
「————————っ!?」
……ミス!勇者の一撃は宙を虚しく切った!
魔物は素早く身をかわして更に後退した!
勇者「なんだと……っ!?」
「……………」
勇者「おのれ……すばしっこい奴……っ!」
僧侶(小柄で、怪力なんてチートだ……勇者さん、わりと本気で切り込んでるのに……)
魔物は何を思ったのか突然にげだした!
勇者「ぬっ!僧侶ぉ!追うぞ!」
僧侶「はい!」
とりあえずこの辺で
実は風邪気味です。皆さんも風邪には気をつけて
時間の流れって、すごくはやい
———鉱山・洞窟
僧侶「血の跡、ですね……」
勇者「あぁ、さっきの俺の魔法で出来た傷……だろうな」
僧侶「このまま続くと————あの、洞窟の中ですね」
勇者「あぁ、どうやらあそこにあいつはいるらしい」
僧侶「……それにしても、あの魔物強いですね。勇者さん、結構本気だしてましたよね」
勇者「全開ではないとはいえ、その辺の魔物よりも本気で相手したさ。あの太刀筋は人間の技に通ずるものがある」
僧侶「それだけ知能が高いという事でしょうか……それなら、もう少し何かしら手段を以て村を襲うと思うんですけど」
勇者「そうだな。魔物の種もわからない。謎に包まれた奴だが、俺は負けん」
僧侶「えぇ、信じてますとも。じゃぁ、行きましょうか……っ!」エイエイオー
勇者「あぁ!」
———洞窟内
勇者「………村も機械類がないから、相当な暗さだったが。洞窟は本当に何も見えないな」
僧侶「大丈夫です、松明もらってきたんで————ほら、これで2m先くらいまでは見えるんじゃないですか」シュボッ
勇者「うむ、なんとか進めるな。血の跡も途切れていない……どうやら、奥にいるらしい」
僧侶「結構深そうですねぇ、この洞窟……って、きゃっ!!?」ビクンッ
勇者「どうした!?」
僧侶「………わ、わぁ、骨がいっぱいですよ」カランコローン
勇者「これは……あの魔物が、食べた……のだろうか?」
僧侶「うわ、うわわわ……人骨ですよねぇ、動物じゃないですよねぇ、絶対」ビクビク
勇者「………いや、これは。動物の骨が多いが、魔物の骨も……?人間の骨は見られないな」
僧侶「あれ、変な話ですね……人間のお肉は嫌いな子なんでしょうか。魔物なのに偏食家なんですね」
勇者「ふむ………なんだか、な」
勇者「だいぶ歩くが……まだ、最深部にはつかないか」
僧侶「その間にもう結構な骨を踏んで来ましたよぉ……あぁ、こういうの苦手なんですよぅ……」ガタガタ
勇者「まったく、神学部を専攻していたなら魔物にも詳しいだろう。それにホラー系統は得意ジャンルだろう」
僧侶「そういうのは魔法学の方面なんですぅ!魔物はホラーじゃありません、実在するんですから!」
勇者「いやまぁ、知ってるが」シレー
僧侶「ですよねぇ!勇者学は全部網羅しますもんね!あー、もう、意地悪ですね……」
勇者「はっはっは、まぁそう泣くな。男ならビシッとしろ」
僧侶「こんなに可愛くてか弱い僕を男扱いするのは勇者さんくらいですよ……はぁ」
勇者「………そろそろ、気を引き締めろ。音が聞こえる」
「……………う、ぅ、ぁ」
僧侶「苦しんでる……さっきの、魔物?」
勇者「みたいだな————よし、行くぞ」ダッ
勇者があらわれた!!魔物は大剣を手に取り、苦悶の表情を浮かべて立ち向かう!
密室で松明の明かりに照らされて、魔物の姿が鮮明に浮かび上がった!!
勇者「…………限りなく人間に近い形。なるほど、貴様子供のサキュバスか?ならば、俺の言葉が理解出来るだろう」
「……………」
勇者「なぜ村を襲う?それほど高い知能があるなら、何か狙いがあるのだろう……言ってみろ」
勇者「例に漏れず、村民の精気が狙いなのか……?」
勇者は剣を抜いて突き付けている!
サキュバスは静かに勇者を睨みつけている……。
僧侶(ん、ん?なんか……人間、っぽい。髪はボサボサだし、羽と尻尾がある……んだけど、白い肌、だし?)
勇者「答えないなら、貴様はここまでだが……まぁいい、元より魔物に情けはかけん。幼体であろうとな」
僧侶(魔物……サキュバスの後ろ?何か、あるけど————あれは?)
サキュバスは大剣を握りしめたまま動かない!それどころか大剣を取り落とし、膝をついた!
勇者「俺の魔法が効いた訳ではなさそうだな……貴様、空腹か。ならば、好機……っ!」
「……………う、ぅ」
勇者は剣を構え、その剣を突きつけようと走りだす————っ!
僧侶「勇者さん、ちょっと待ってくださいっ!」
勇者「————っ!?」
勇者の剣はサキュバスの目の前で止まる!サキュバスは息を荒げてその場に座り込んでいる!
勇者「なぜ止めた……?」
僧侶「サキュバスの後ろ、見えますか?僕も暗くて見えないんですけど……もしかしたら、あれって」
勇者「…………む、あれは、人間とサキュバス?」
僧侶「えぇ、それも人間は男で……サキュバスは成体、のようですね」
勇者「………つまり、どういうことだ」
僧侶「少し、下がっていてください————……あの、言葉はわかりますか?」
「…………わか、る」
勇者(…………襲いかかるようなら、斬り伏せるが……どうだ?)
僧侶(大丈夫、この子は……多分……)
僧侶「もしかして、後ろの二人は……お父さんとお母さん?」
「………そう」
勇者「馬鹿な……人間と魔物が子供を産んだ、というのか?」
僧侶「事例がない事もありません。ハーフエルフなんて種族もいるらしいですし……サキュバスとなら、あるいは」
「……………」
僧侶「どうして、村を襲ったんです?」
「…………おかあさん、おとうさん、うごかなくなったから、ごはんを」
僧侶「そうですか、それで畑を……お母さん、傷ついてますね。だから薬草も?」
「…………そう」
勇者(混血……それも限りなく人間の血が全面に出た。羽も小さく、尾も短い……)
僧侶「なぜ、あの村を?」
「………おとうさん、の故郷。よく、話を聞いて……たから……」
それから僧侶はゆっくりと魔物……サキュバスの話を質問し聞き出していった。
父親は元々、あの村の出身であったこと。母親であるサキュバスはたまたまあの村に忍び込み、彼を標的にしたこと。
なぜか二人の間に愛が生まれ、二人は逃げる様にこの洞窟で過ごし始めたこと。
他の魔物から居場所を護る為、二人は戦い続けていたこと。自分が生まれ、10年ほど経った時に二人は動かなくなったこと。
ひとつひとつ聞き出す度に、僧侶の顔が暗く沈んで行くのを勇者は感じ取っていた————。
僧侶「そう、ですか………その大剣はお父さんの?」
「………おとうさん、戦士」
勇者「…………アカデミー、のバッジ。戦士学部の……首席、か」
僧侶「だいぶ前の卒業生の様ですね。魔王討伐に行かずに村に戻ったのでしょうか」
勇者「さぁな……だとしても、魔物と結ばれるとは」
「……………」
僧侶「お父さんとお母さんはもう、動けなくなったんだよ」
「……………っ!」
僧侶「だから、天国に返してあげなくちゃいけない。それで、貴女は旅立たなきゃ行けない」
僧侶「そして、村のみんなに謝らなければいけない。貴女がしたのは理由があるとはいえ、悪いこと」
「……………」
勇者(…………さて、どうするか)
僧侶「…………わかる?わかってくれたら、嬉しいんだけど」
「わかる……私、悪いことした……」
僧侶「そうだよ。うん、じゃあ理解してくれたお礼だ————えいっ」
詠唱が始まり、僧侶は掌をサキュバスの腕にかざす!
光りに包まれ腕にあった傷はみるみるうちに回復していく!
「…………!あ、ありがとう」
僧侶「いえいえ、どういたしまして—————さて、勇者さん」
勇者「あぁ、言われなくてもわかってる」
勇者「……………サキュバス」
「—————っ」ビクン
勇者「すまなかった。キミの理由も聞かず、剣を向けたことを許してくれ」
「……………ぁ」
僧侶「はい、よくできました。ねぇ、貴女はまだ勇者さん怖い?」
「…………だいじょうぶ、いいひと」
僧侶「うん、よかった。じゃあ、次は——————あら?」
「勇者さん、ごめんなさい」
勇者「………はっはっは、いいさ」
僧侶「ん〜〜〜〜っ!えらいっ!貴女、可愛いなぁ!」ダキッ
僧侶はサキュバスに抱きついた!サキュバスは眼を点にして硬直している!
勇者「ふぅー……まぁ、一件落着だな。だが、この子はどうする?」
僧侶「うーん……そうですねぇ」
———小さな村
村長「おぉ、お帰りなさいませ……もしや、その肩に担いでおられるのは!」
勇者「あぁ、村を苦しめた魔物だ。このまま外で燃やそうと思うんだが……処理は任せてもらえるか?」
村長「えぇ、えぇ!勿論ですとも!後始末まで有難うございます……それで、報酬、なんですが」
僧侶「あっ、村長さん!お金とか言っちゃったけど、変更でもいいですか?」
村長「は、はい……問題はありませんが」
勇者「この村で、戦士の称号を持っていた男はいたか?」
村長「えぇ……馬鹿な息子でしたが、ワシの息子がどうかしましたか?あいつなら、もう帰ってきませんのじゃ……」
勇者「彼は魔物と結ばれたらしいな?」
村長「はっ、いや……とんだ馬鹿ものです!よりによって魔物と結ばれるなど……っ!し、しかしそれをどこで……っ!」
勇者「この魔物、息子さんとサキュバスの子供だ」
村長「……………っ!」
勇者「それと、これを見つけたんだ————戦士学部首席卒業のバッジ。形見となるのだが、貰って構わんか?」
僧侶「それが報酬……ってことでも問題ないですか?」
村長「形見です、と……え、えぇ、問題なんて、ありません……が……」
勇者「…………では、確かに。一晩だけ宿を借りる。この魔物の処理は明日旅立ってからする」
村長「わかりました。……ですが、その前にひとつだけよろしいですかな?」
勇者「あぁ」
村長「その子は、本当に……息子と魔物の、子供なんでしょうか?」
勇者「そうだ。間違いない……仕留める前、話を聞いたからな」
村長「そうですか……その、息子は如何にして……?やはり、サキュバスに魂まで吸い取られたのでしょうか?」
勇者「………違うな、最後まで魂を共にした。幸せそうに、二人で逝ったと聞いた」
勇者「父と母が傷つき、空腹で倒れた。だからこの村から農作物や薬草を奪っていったそうだ……」
勇者「そして、この魔物の剣の腕も、彼の剣技を叩きこまれたからだ。なぁ、孫は————強かったぞ」
村長「孫、ですか……はは、魔物と人間のハーフでござましょう。そんな……う、うぅ……!」
僧侶「………さて、行きましょうか勇者さん」
勇者「あぁ………それでは、失礼する」
勇者「—————……はぁ、もういいぞ」
「う、ん……疲れた……」
僧侶「だらーんてしてるだけだもんね。脱力って案外疲れちゃうんだよね」ホッペプニプニ
「…………ん」
勇者「さて、早朝に出るぞ。だから確り疲れを癒すんだ———特にサキュバス、お前だ」
「…………いいの?」
勇者「何がだ?」
「私、はーふだから……連れて、いいの?」
勇者「ほっとけまい。それに僧侶が連れていかないと駄々をこねそうだ」
僧侶「そうですよ、凄く駄々こねますからね。大体、羽も尻尾もちっちゃいから服で隠れます」
僧侶「ぱっと見、ちゃんと髪も直して服も整えたら可愛い女の子じゃないですか!何か問題でも!?」
勇者「わかったわかった、ないない。魔族の血が流れていても、別に俺はもう気にせん」
「……………ありがとう」
僧侶「…………はぁ、はぁ」
勇者「おい、息が荒い」
————コンコン
「……………っ!」
勇者「隠れてろ————……誰だ?」
村長「ワシですじゃ……その、入ってもよろしいですかな?」
勇者「構わない。入ってくれ」
村長「失礼する………あの、ひとつだけお聞きしたいことが」
勇者「どうぞ」
村長「…………魔物を本当に、殺してしまったのですか?」
村長「ワシには立場があります。魔物と駆け落ちした息子は今でも許せんのですじゃ……」
村長「村の皆々には言っておらん。ただ、息子が魔物討伐に赴いて帰ってこん……とだけ、言っております」
村長「ワシは保身の為、息子を探すこともしなかった。あまつさえ憎んでいたのですじゃ……ですが、ですが……」
僧侶(まだもうちょっと、隠れててね?)
(…………………うん)
村長「息子が死んだと聞いて、ワシは過ちに気づいてしまったのですじゃ。月並ですが、今更……っ!」
村長「でもワシは村長なのですじゃ!ですが!……父として、祖父として……孫の、亡骸を……っ」
村長「引き取らせてくれませんか!ワシのたったひとりの肉親を!」
村長「嫌じゃというのなら、ワシは勇者さまに……襲いかかってしまいそうですじゃ!」ブワッ
勇者「…………だ、そうだ。よかったな、サキュバス」
「…………う、うん」
村長「ま、まさか!」
僧侶「殺しませんよ。全部話聞いちゃったら、殺せませんよ……」
村長「お、おぉ、おぉ……お前が、息子の……は、はは……勇者さま、有難うございます……っ」
「……………ぁ、おじい、ちゃん」
勇者「だが、引き取るというのはできん」
村長「………わかっております」
僧侶「この村でこの子は幸せになれないでしょう……からね」
「……………」
———小さな村・早朝
勇者「さて、行くか———ありがとう、いい宿だった」
宿屋「いえいえ、勇者様にはもっと上質な布団がよろしいでしょう。有難うございました!」
子供「勇者さまたちー!ありがとねー!魔物を退治してくれてー!」
僧侶「…………うん、どういたしまして」ニコッ
「……………」
宿屋「その担いでいるのが魔物ですか……まだ、子供のようですね」
勇者「あぁ、サキュバスの幼体だ。これから村の外で燃やす……世話になったな」
宿屋「いえいえ………それと、勇者様これを」
宿屋は戦士の鎧と女性ものの下着、衣服を差し出した!
僧侶「………えっ?」
勇者「…………え、えーっと、なぜこんな?」
宿屋「娘が出来たら、と置いてあったものです。その子にぴったりでございましょう」ニコッ
———村の外・鉱山へ向かう道
勇者「ふむ……見ぬかれていた様だな」
僧侶「いやぁ、男前ですね宿屋のお父さん……ていうか、会話筒抜けだったみたいですね」
勇者「はっはっは、ついうっかりそこに気づかなかったよ」
僧侶「まぁ、理解ある人で良かった————うん、似合うねぇ」
「…………ちょっと、うごきにくい」
僧侶「いやぁ、まさに戦士って感じ!尻尾も羽もちっちゃいから服の中に隠れるし……ばっちりだよ!」グッ
勇者「ほら、これをつけろ———お前の父の称号だ」
サキュバスは襟元に戦士学部首席卒業のバッジをつけた!
勇者「似合うな。大剣と剣技は、父親のもの……その紅い眼は、母親のもの。これからお前の生きる道は困難ばかりだが」
勇者「月並みな言葉だが、俺達がついている。最後の確認だ————魔王討伐、付いて来てくれるか?」
「—————うんっ」
僧侶「はいはーい!じゃあ、サキュバス————ううん、戦士ちゃん!これからよろしくですよ♪」
勇者「よろしくだ、戦士」
戦士「……………うん、うんっ!」
戦士(ハーフサキュバス)が仲間になった!!
次のお話の一区切り着くまでまた少し時間が空きそうです
きっと原因は花粉症です間違いない……いや、頑張ります
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