阿笠「できたぞ新一。スイッチじゃ」(20)

コナン「何のスイッチなんだ?」

阿笠「スイッチじゃ」

コナン「いや、だから何の――」

阿笠「受け取るのか? 受けとらんのか?」

コナン「受け取るけどさぁ。いいかげん何のスイッチか教えてくれよ」

阿笠「今日はもう遅い。早く家に帰れ。蘭くんが心配するぞい」

コナン「あ、ああ」

帰り道

灰原「あら、工藤くんじゃない。博士の所に行っていたみたいね」

コナン「そういうお前は買い物帰りか」

灰原「ええ。それで? また博士は変な発明でもしたのかしら」

コナン「これ、なんだが」

灰原「またスイッチなの。飽きないわね、あなたたちも。それで、何のスイッチなの?」

コナン「分からないんだ」

灰原「どういうこと?」

コナン「博士が教えてくれなかったんだ」

灰原「……ボケでも始まったのかしら」

コナン「いや、そういうのじゃねえ気がするんだ。さっきの博士は少し変だった」

灰原「そう。なら、帰ったら博士に聞いてみるわ」

コナン「頼む。これじゃあなんだか落ち着かねーんだ」

灰原「とにかく今は押さないことね。それじゃ、また明日」

コナン「ああ、またな」

次の日・昼休み

コナン「それで、博士はどうだった」

灰原「教えてくれなかったわ」

コナン「お前でもだめだったのか」

灰原「ええ。食事の量を減らすと言っても教えてくれなかった。これは少し変ね」

コナン「くそ。一体このスイッチは何なんだ」

歩美「ねえねえ。二人とも何話してるの?」

光彦「あ! またスイッチですか!?」

元太「今度は光彦がどうなるんだ?」

コナン「いや、それがよ」

灰原「どんなスイッチか分からないの」

歩美「そうなの?」

光彦「僕に何か起きるんじゃないんですか?」

元太「とりあえず押してみようぜ」

コナン「駄目だ!」

元太「な、なにも怒鳴ることねえだろ……」

コナン「悪ぃ」

灰原「ともかく、何が起こるか分からない状態で押すのは危険なの」

光彦「なら博士に聞けばいいじゃないですか」

歩美「そうだよ。博士が作ったんでしょ?」

コナン「いや、聞いても教えてくれなかったんだ」

灰原「私にも教えてくれなかったわ」

元太「そうなのか?」

光彦「じゃあ放課後みんなで博士の所に行きましょう。僕もどんなスイッチか分からないのは落ち着きません」

歩美「みんなで行けばきっと教えてくれるよ」

放課後・阿笠邸

阿笠「おや、みんなそろって遊びに来たのかのう」

コナン「博士。昨日のスイッチなんだが――」

阿笠「みんなちょうどいい時に来たのう。新しいスイッチを作っていた所じゃ」

歩美「今度はどんなスイッチなの?」

元太「うな重が出るのか?」

阿笠「押すと光彦くんの鼻毛が一ミリずつ伸びるスイッチじゃ」

光彦「また僕ですか!?」

阿笠「うな丼がうな重になるスイッチもあるぞい」

元太「博士すげえぜ!」

歩美「あははは! 光彦くん面白ーい!」

光彦「なんだか鼻がむずむずしますぅ~」

灰原「ねえ博士。あなた彼の話を――」

阿笠「ほら、二人ともみんなと遊んできなさい」

灰原「だから――」

コナン「もういい。行こう」

灰原「……いいの?」

コナン「ああ」

あれから数週間が経った。

歩美、光彦、元太の三人はスイッチのことなどとっくに忘れている。

灰原もスイッチのことはもう気にするなと言っている。

だが、俺はどうしてもスイッチのことが忘れられなかった。

最近推理に身が入らず、事件の解決にも手間取っている。

コナン「このままって訳には行かねーな」

俺はスイッチを押すか否かをコインに賭けることにした。

押すのなら、今すぐ押してしまおう。

押さないのなら、博士に返してしまおう。

俺はコインを弾いた。

――カチリ。

スイッチを押した音が静かに響く。

コナン「一体、何が起きたんだ?」

翌日、登校してすぐに光彦に昨日何か起きなかったか聞いた。

光彦「いえ、特に何も。……あ」

コナン「何だ?」

光彦「たいしたことじゃないですけど。昨日寝てるときにベッドから落ちてしまいました」

光彦には何も起こらなかったと考え、歩美と元太にも聞いた。

歩美「昨日? 特に何もなかったよ」

元太「聞いてくれよー。昨日ウナギだと思って食ったのが穴子だったんだ」

その後、思い当たる人物に聞いて回ったが、特に何もなかったと言う。

結局あのスイッチは何だったのか、もはや確かめられる気がしなかった。

何かとんでもないことをしてしまったのではないか。そんな考えが俺を支配した。

もう博士がどんなスイッチを作っても、俺はそれを押すことができないだろう。

俺はその後一生、あのスイッチのことが忘れられないのだった。

終わり

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