男「もう死んだ方がマシかもな」(26)
樹海
男「クソッ……」
男「やり残したことも色々あったのに……」
男「……いや、いいんだ」
男「俺は来世に賭ける」
男「グッバイ現世!」
パァン
男「……ん? 弾丸?」
?「待ちな、兄ちゃん」
男「だ、誰だ?」
?「私は俗に言う殺し屋だ」
男「グッバイ現世!」
パァン
殺し屋「待て」
男「止めたいのか殺したいのかどっち?」
殺し屋「そうやって命を粗末にするな、親が泣くぞ」
男「お前に言われたかないな」
殺し屋「そうだな、確かに私が言うことではない」
殺し屋「だがな、人の話は最後まで聞くんだ少年」
男「俺は19歳だ」
男「お前に少年と言われる筋合いはない」
男「グッバイ現世!」
パァン
殺し屋「私は18歳だ」
パァン
男「だから撃つなよ! 死んだらどうすんだよ!」
パァン
殺し屋「君は死にたがってたではないか?」
パァン
男「次どうぞみたいな感じで撃つなよ」
殺し屋「何が不満なんだ」
殺し屋「人が目の前で死ぬ程、飯が不味いものはない」
男「お前が何なんだよ」
男「人殺しが言う台詞じゃないだろ」
殺し屋「フッ……」
殺し屋「私は今まで人殺しなんてしたことがない」
男「はい?」
殺し屋「私が撃つ弾は全て外れ、解雇通告されて首を吊ろうとここに来たのだ」
殺し屋「予想が外れたなぁ!」
男「……お前ならまだ大丈夫だ」
男「やり直せる、来た道を引き返せ」
男「綺麗な顔してるんだ、全うに生きろ」
殺し屋「残念ながら私に口説きは通用しない」
男「グッバイ現世!」
バァン! ドゥゴォン!
男「……」
殺し屋「まぁ待て、なぜ君は死にたいんだ」
殺し屋「私が話を聞いてやろう」
男「……お前には一生わかんねーよ」
殺し屋「理解できるとは思ってない、だが話してくれないか?」
男「……お前が来てどのくらい経った?」
殺し屋「10分程度だ」
男「百聞は一見に如かず、少し待ってろ」
殺し屋「……いったいどういう……」
友「いたぞ!」
美少女「男くん!」
幼馴染「男!」
女「男くん!」
姉「おとこ!」
妹「お兄ちゃん!」
お嬢様「こら下僕!」
イケメン「おい待てよ!」
許嫁「男さん!」
従姉「待って!」
従妹「待ってよ!」
先輩「待つんだ!」
後輩「男さん待ってください!」
殺し屋「こ、これは……」
男「わかるか?」
殺し屋「……人望があるんだな」
男「それだけならいいさ」
男「だが俺には、俺自身しか持ってない物がある」
殺し屋「……それは」
男「主人公特権だ」
殺し屋「……は?」
男「これのおかげで俺は特に頑張らなくても人に恵まれた」
男「自分の力で勝ち取ったものは何もないんだよ!」
男「俺にはそれが苦痛でしかなかったんだ!」
殺し屋「……それはワガママと言うものだろう」
男「フン、この苦しみは俺にしかわからない」
男「ありがとな、最後に話せて少しスッキリしたぜ」
男「グッバイ現世!」
殺し屋「おい!」
とある家
男「ハッ!」
男「……ここは」
男「……他の皆は……」
殺し屋「私の家だ、他の連中は嘆き悲しみ帰っていったな」
男「放置されたのか……」
殺し屋「しかしこうやって生きてるではないか」
男「……この展開も過去何度も経験した」
男「決まって助けたやつとのハートフルコメディになるんだ」
殺し屋「私は君をそういう目で見てない」
男「あぁ皆最初はそういったさ」
男「だがどうだ!?」
男「何故か次々と苦難が相次いで、二人で乗り越えハッピーエンド!」
男「もううんざりだよ!」
殺し屋「そんなこと起こるわけが……」
ドゴォォォォン!
殺し屋「なんだなんだ」
男「そして決定的な矛盾がある」
殺し屋「あれは……」
殺し屋「ライバル組織!?」
男「俺は樹海にいたのになぜ普通に戻ってこれたんだ!」
男「毎回謎だ……」
殺し屋「そんなことよりも逃げるぞ」
男「逃げた先にあるのはなんだ?」
男「ハッピーエンドだよ」
殺し屋「いいから早くこい少年!」
洞窟
殺し屋「森に隠された私の隠れ家が……」
男「そう、森に隠されたなんて設定誰も知らない」
男「後付けでバンバン世界観が狂ってくる」
殺し屋「……ん?」
男「洞窟か、よくあったよ」
男「雨が降って服が濡れて風邪引くからって焚き火して、まだ寒いから肌で暖めあう」
男「そんなことしても主人公特権の条件は童貞でいることなんだよ!」
殺し屋「うるさい黙れ!」
男「おまけになぜ銃で撃ち返さないのか」
男「メンテナンス中とかふざけた理由で逃げてきたんだ!」
男「もう……もう死んだ方がマシかもな……」
殺し屋「クッ……見つかるのも時間の問題だな」
男「じょ、冗談じゃねぇ! こんなとこいたら死んじまう!」
男「俺は抜けるぜ!」
殺し屋「わざと死亡フラグを立てて死のうとするな!」
男「これだけじゃ死ねないんだよ!」
男「弁慶張りにやってもうまい具合に幹部が出てきて話し合いをするハメになるんだ!」
殺し屋「まだそんなことを……死んだら元も子もないだろ!」
男「お前だって死のうとしたんだろ! 同じ志をもった同士だろう!」
男「死にたいって言え!」
殺し屋「死んでどうなるんだ」
殺し屋「命を粗末にするな」
男「フン、命あっての人生、何もしない人生なんて死んだも同然だ」
殺し屋「それでも……それでも生きていればいいことはある!」
殺し屋「命は賭けがえのない物なんだ、たった一度の人生棒に振るな!」
男「命なんてカードより軽い、人間なんぞ生きる価値もないわ!」
殺し屋「クッ……どっちが殺し屋かわかったもんじゃないな……」
男「さぁ俺はここだ!」
男「殺すなら殺せ!」
殺し屋「……わかった」
殺し屋「私がこの手で葬ってやろう」
男「撃てるのか? この俺を」
男「女に声をかければその回りの子も巻き込みハーレムエンドも可能な俺を」
男「撃てるのか?」
殺し屋「ああ……最初で最後の……大仕事だ」
男「フッ……任せたぜ」
殺し屋「来世でまた逢おう」
男「グッバイ現世!」
パァン
殺し屋「……雨で火薬が湿気てたみたいだ」
男「クソォ!」
男「俺は死すら許されないのか!?」
殺し屋「諦めろ」
男「……いや、俺は何をしても死んでやる……」
男「死ぬことが俺の生きる目標だ……!」
殺し屋「どうしてこんなになるまで回りは放っといたんだ」
男「うわぁぁぁぁぁぁ!」
タッタッタッタッタ
殺し屋「待て! そっちは崖だ!」
男「グッバイ……現世」
アイキャンフラーイ!
男「……」
男「……ん?」
カラスの大群「カーカーカー」
殺し屋「いつかどこかで見た光景だ!」
男「カァラァスゥ!」
男「邪魔するな!」
殺し屋「お、おい……暴れたら……」
ヒュゥゥゥゥゥ
殺し屋「落ちた……」
男「何度目だろう……グッバイ現世!」
パラララララ
パラララララ
殺し屋「クソッ……今は逃げなくては」
タッタッタッタッタ
三日後
男「う……うーん……」
村娘「あ、じっちゃん!」
村娘「起きたよ!」
男「ここは……」
村娘「ここはトアル村!」
村娘「私がね、神様助けてって祈ったらあなたが落ちてきたんだ」
村娘「だからね、勇者様!」
男「勇者……今度は古典的rpg主人公か……」
男「はぁ……」
男「で、どこの魔王を倒せばいいんだ?」
村娘「崖の上の人魚だよ」
男「ポニョだろ? ポニョなんだろ?」
村娘「崖の上に行くには西の街【イグシアン】に寄って気球を借りるの」
村娘「でも【イグシアン】に到達する前の山賊を倒さないと先に進めないんだ」
村娘「そこで東の街【キャルリーバ】で勇者の剣を貰うんだ」
村娘「【キャルリーバ】の神官に1回話し掛けて、試練を受けるの」
村娘「試練の内容はそれぞれだから一概には言えないけど、噂だと……」
村娘「北の村【グリグランス】の村長に助言を貰って、南の街【ディストピア】の市長に報告するんだ」
村娘「そうしたら天空への道が開けて、試練を受けられるんだよ」
村娘「頑張ってね」
男「もう1回」
村娘「頑張ってね」
男「この子一人にどんだけ詰め込むんだクソ現世!」
男「えーと……」
男「北欧のお婆ちゃんにスープを届けて」
村娘「頑張ってね」
男「ダメだ思い出せない」
村娘「頑張ってね」
男「他人事だと思いやがって……」
村娘「頑張ってね」
男「やかましい!」
村娘「頑張ってね」
男「何を頑張るのか忘れてんのに……」
村娘「西の街【イグシアン】に」
男「悪かった、俺が悪かった」
山道
男「えーと」
男「まずここで山賊か」
男「まぁ回り道が普通だよな」
タッタッタッタッタ
タッタッタッタッタ
男「見えない壁だと?」
男「どこまでユーザーに不親切なんだ……」
男「こうなれば強行突破だ!」
男「山賊ごときに俺が負けるはずもない!」
男「崖の上の赤いチビ人魚なんぞ速攻で辿り着いてやるわ!」
男「うぉぉぉぉぉぉ!」
崖の下の村
男「ボッコボコですわ」
村娘「頑張ってね」
男「負けイベとかゲームだけじゃないの?」
村娘「頑張ってね」
男「あとさっき呼んだじっちゃん何でいないの?」
村娘「頑張ってね」
男「……」
男・村娘「「頑張ってね」」
男「ハモってやったわ、フハハハハハ!」
村娘「チッ」
男「え?」
村娘「まさかこんな早くに暴くとはなぁ……」
男「え?」
村娘「あぁそうだ、私が……いや、我こそが崖の上の人魚だ」
男「はい?」
村娘「特殊イベント、ハモりをこんなやつが見出だすとはな……」
男「え? なにこの展開」
村娘「我を見つけた褒美だ、主に元の世界に戻す的な願いを叶えてやろう」
男「え? 限定?」
村娘「んぅ? 他の願いがいいのか?」
男「あ、はい、自分の主人公特権をなくしてもらいたいです」
村娘「フハハハ、死ねぇぇぇ!」
男「何でぇぇぇ!?」
タッタッタッタッタ
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