土御門「ガストレア?」 (421)
禁書×ブラック・ブレットクロス。
地の文あり。遅筆ですので、のんびり書き溜めながらやっていきます。
両作品を噛み合わせるため、一部設定にはオリジナル・独自解釈が混入しています。
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ババンバン! というゴム弾の鈍い銃声が、背中側から炸裂した。
強烈な衝撃に身体を押し出された土御門は、眼下に広がる河に投身しながら、激痛とともに気絶した。
……意識のない者が川の底に沈んだ場合、その生存確率は恐ろしく低いと言ってもいい。
だから、次に目を覚ました時、彼はそこが死後の世界だと考えた。
禍々しい色に囲まれた空間。鼻をつくような異臭も漂っている。
確かに、自分が死ねば天国に行けるなどとは思っていない。むしろ、客観的に、間違いなく地獄行きだろう。あまりに自分は他人を騙り、殺しすぎた、と思う。
小さな復讐が終わって、『処刑』という名の処罰を与えられて、無様に死亡した。
と考えて疑わなかったがーーー、
「おや、目覚めてしまったか。このまま死体となってくれれば、私の恋人にしたかったのだが」
ハッとして薄目を見開き、意識が完全に覚醒する。前方は変わらず禍々しい部屋。いや、それだけではなかった。悪い霊にでも取り憑いているんじゃないかというぐらい顔色の優れない白衣を着た女性が、ベッドの上に横になっている土御門の顔色を伺っていた。
実に怪しげだった。
(ここは、一体……?)
土御門元春は、自惚れではなく、顔が広い。
陰陽博士と呼ばれるほどの達人の域にまで専門の魔術を極め、しかし、様々な理由からそれを全て投げ捨てて学園都市に来た彼は、血の滲むような努力を下地に手回しをして、裏方に徹してきた。科学サイドと魔術サイド、その間に戦争が勃発しないように。
「聞こえているのかい?」
彼を覗き込む瞳。
そういえば、いつも身につけているサングラスはどこへいったか。土御門は状況を飲み込めないまま、とにかく何か情報を得るために、絞り出すように声を出した。
「ここは、どこだ?」
直後に、喉がカラカラであることに気付く。
水……いや、頼んで何を入れられるかもわからない。薬でも盛られたら終いだ。
女性は白衣を着た医者のような風貌だが、第一印象を操作するための衣装であるとも考えられる。
そんな思考に浸っていると、女医が土御門の呟きを拾って答えた。
「ここは私の研究室だ。私は小室菫という。世界最高の頭脳と名高い医者にして科学者だが、知らないかね」
違う。
そんなことが聞きたいんじゃない。
彼はベッドの上で軽く身動ぎする。身体は動くようだった。
そしていつでも跳び起きることができるよう準備しつつ、もう一度問いかけた。
「ここは、どこだ?」
「……? まあ、もう少し広く答えようか。
ここは日本の東京エリアだ。にしても、いやに傷の治りが常人より早いね、君は。
ガストレアやイニシエーターを彷彿とさせるよ。
しかし見たところ身体中に古傷もあるようだが、君は警察……はないか。なら民警の人間かい?」
東京エリア。ガストレア。イニシエーター。民警。
知らない単語にしては、その女医は当たり前の様にそれらを口に出していた。
これも、こちらを揺さぶろうとしているのだろうか?
土御門は一時期イギリスで暮らしていたこともあり、一般的な英語圏の人間クラスの英語は理解している。イニシエーターという単語はわかるが、ガストレアとやらは単純な造語か、或いは。
……疑うのはよそう。まずは情報収集からだ。
「ガストレアっていうのは?」
東京エリアは東京。民警は……字面から想像するに、国家権力が民間レベルに移行した組織か。
その程度の想像はできるが、ガストレアとやらは考えてもわからない。
そして女医の話しぶりからすると、それはやはり個人の何かを指す名詞なのだと察する。
女医は土御門の言葉に硬直していた。口元で小さく、「記憶喪失の類か?」という自問の独り言が零れたのを、聞き逃さなかった。
彼は学園都市の闇を知っている。そこで行われていた非人道的な実験の数々も。
彼女は科学者であり、医者だとも言った。
(……まずいな)
嫌な汗が浮かぶ。きょろきょろと周りを見ると、枕元に愛用しているサングラスがあるのを見つけた。
現在着用している服は、とある高校の制服だ。内側にアロハシャツを着ているのはいつものことで、折紙や拳銃も……いや、危険物の有無は確認して押収されているか。せめて折紙があればと願う。
(…………、まずいな)
「君、ちょっと……」と女医が口を開いたのを合図に、彼は全身をバネのようにしてベッドの上で跳ねた。左手でサングラスを取って装着しながら、反動を利用して一気に駆け出す。
(入り口は一箇所、あそこか!)
そうしてドアノブに手をかけようとした瞬間だった。
「せんせー、どこだよ?」
という気の無い声とともに扉を開けて入ってきた、どこぞの不幸少年と気が合いそうなほど幸薄顔の少年と正面衝突した。
「いっ、てェ!?」
急な刺激に、身体が勝手に臨戦態勢に入る。
土御門は冷静な部分でそれを押さえつけ、突き飛ばしてしまった相手を改めて見る。
と、その前に手を差し出して起こしてやる。
「……、悪いな」
「いや、こちらこそ……?」
「まあ悪く思わないでやってくれ蓮太郎君。彼は記憶喪失らしくてな。情緒不安定らしい」
「勝手にオレを記憶喪失扱いするなッ!」
思わずツッコミを入れてしまったが、こんなことをしている場合ではない。
これでこの場から逃げるという選択肢が消えてしまった。
あれこれと考えを巡らせてみるが、妙案は浮かばない。
「先生が拾ってきたのか……? 俺は里見蓮太郎だ。まぁ、よろしくな」
手を借りて起き上がった男、蓮太郎は握手したまま自己紹介をしてきた。
不幸な事態だが、こうなってしまった以上、必要以上に敵意を出し続けるのは危険だ。
ここは友好的な関係を築いた方が、よっぽど動きやすいと、彼の勘が言っていた。
「……土御門元春だ。よろしく頼むぜい、サトやん!」
「誰がサトやんだ!?」
小室菫、里見蓮太郎とともに、薄暗く気味が悪い部屋の中で椅子に座り向かい合う。
気が付けば茶会のようなものが開かれていた。
冷静に、客観的に現状を分析してみると、どうやら自分は異世界に飛ばされたらしい。土御門はそう考えた。
そもそも魔術という存在も、異界の法則を無理矢理現存する世界に出力しているにすぎないのだ。
別の世界に、彼の知らない、即ち想像の外側にあるような世界があったとて不思議ではない。
彼が話術で自らの素性の説明を後へ追いやりながら相手の手札を引き出して見ると、そんなあり得ない憶測もいよいよ現実味を帯びてきた。
「ガストレアっていうのは、ガストレアウィルスに感染して遺伝子を書き換えられちまった生物のことを言うんだ。ウィルスに感染したら、人間もガストレア化する」
里見蓮太郎は簡潔にそう言った。
女医の菫がそれに続く。
「尋常ではない再生能力と、禍々しい真紅の瞳。醜く巨大な体。おおよそ人が考えうる『化け物』像としてこれほどピッタリなものもないんじゃないかね」
データで画像を見せてもらったが、確かに映画や漫画で見るような化け物よりもずっと化け物らしい。
こんなものが世界中を闊歩しているという。
他にも、いろいろと聞いた。バラニウムという金属がガストレアの再生能力を阻害させることができたり、
そのバラニウムを集めた巨大な壁『モノリス』から放たれる特殊な電磁波がガストレアの進入を妨げ、構築された生存可能地域が『エリア』と呼ばれていたり、
10年前に起きたというガストレア戦争において、妊婦の体内に侵入したウィルスが胎児に取り付き生まれた、異常な身体能力を持つ『呪われた子供たち』についてなど。
民警──民間警備会社と呼ばれる組織が、その『呪われた子供たち』イニシエーターと、その司令塔であり精神的支柱ともなるパートナー、プロモーターとが二人一組となって、対ガストレアのスペシャトリストとして活躍しているのだそうだ。
蓮太郎も、藍原延珠という少女とコンビを組み、もう一年になるそうだ。
そしてなにより、呪われた子供達はガストレア戦争以後生まれた存在であるため、全員が10歳以下。
更に、遺伝子的な問題か、女の子のみであるという。
10歳以下の。
女の子だ。
こほん。
土御門はポーカーフェイスで思案していると、あらかた説明も終わったため、次の矛先は正体不明な彼へと向けられた。
「それで、土御門くん。そろそろ君のことを話してもらいたいんだが」
事実を語るのは容易い。
しかし、その事実が『真実』としてまかり通るかどうか。
ここは学園都市や、超能力者、魔術師が居る世界じゃない。
10年前の戦争で、未知の生命体と戦争し、人類が敗北した世界。
無論、土御門なら話の整合性を整えながら矛盾なき理由もでっちあげられる。しかし、それを相手がどう受け取るか。
元の世界に戻るにしても、人との繋がりは大事だ。一人で無茶をして、そのガストレアとやらに急に襲われて死んでしまえば元も子もない。
どうせ後で嘘だったとばらすよりは、初めから真実のみを語る方がいいのかもしれない。
本名を名乗ったのも同じ理由のはずだ。
信用と信頼は、初めからゼロ。
ここに、上条当麻のようなお人好しは存在しない。
土御門はややあって、ようやく口火を切った。
「……オレはこの世界の人間じゃない」
「……は?」
蓮太郎はポカンとした。
「オレの世界にはガストレアなんて存在しないし、バラニウムなんて金属も発見されちゃいない」
「……ほう」
菫だけが興味深そうに、彼を注視していた。
「科学技術が発展し、超能力を科学的に開発した科学サイド。
同時に、人間が持つ生命力を魔力に変換し、それを媒介に魔術を扱う魔術サイド……。
その二つが介在するような世界から、オレは来た」
蓮太郎は「何言ってんだコイツ」という目で土御門を見ている。
対する菫は、顎に手を当てて考えるようなポーズを取っていた。
まずいな。
あまりに突拍子のない話すぎたか。
事実に違いはないのだが。
土御門はやや迷って、続けた。
「証拠を見せるのは簡単じゃない。
オレの身体はちょっとした異端でな、能力開発をしていながら同時に魔術も扱う。
能力と魔術ってのは相性が悪い。話せば長くなるから要点だけを言うぜい。
能力者が魔術を使うと、最悪死に至るぜよ。能力だけなら問題はないんだが……。
生憎俺が持つ能力は底辺中の底辺、破れた血管に薄い膜を作り出して傷を応急措置する程度の力だからにゃー」
菫はなるほどと呟き、
「少し合点がいった。
君の背中の傷は完治に少し時間を要するレベルだったが、
その能力とやらが働き、傷を治療したと」
背中の傷……雲川芹亜の『処刑』か。
彼はそこで気を失った。
気を失って……。
(……オレは、どうやってこの世界に来たんだ?)
「……魔術って、あれだよな。手から炎を出したり」
ついつい思考に浸ってしまう。土御門は蓮太郎の言葉にハッとしながら答えた。
「オレの専門は一応『水』だが、まあその認識で間違いないぜよ」
「概ね事情は把握した。
一つ確認したいが、この世界に来たのは故意なのか?はたまた偶然か?」
「後者だ。原因も理由もわからない。
そもそも、あんたはオレをどこで拾った?」
「近くの川だ。死体遺棄かと引っ張り出してみれば息があったのでな。いやはや、久々に外の世界に出て見たが、これだけ面白いことがあったんだ。たまにはいいものだな」
「……こっちは面白くないがな」
「まあそう言うな。これも何かの縁、或いは神の悪戯か。
ともかく、君は原因不明の何かによってこの世界に来てしまった。
能力だの魔術だのは知らないが、同じ人間だろう?
まずは腹を膨らませようじゃないか。どれ、私の創作料理を提供しよう」
そう言った菫は、レンジに向って中に放置されていた皿を取り出した。ラップを取ると、その禍々しい創作料理が顔を出す。
「これは……」
白い粥……のように見える。厳密に言葉に起こして説明することすら拒みたいほど異質な食べ物(?)だった。
「自信作だ。食べて見てくれ、蓮太郎くん」
「……先生、マトリックスって映画に出てくる『ゲロッグ』って食い物知ってっか?」
字面からして口にしたくないような名前だった。
「ああ、あれは美味そうだよね。
ぐりとぐらのパンケーキ、ラピュタパン、ゲロッグ。
これらは二次元の国における食べたいものベストスリーと言ってもいい」
「変なの混じってねえか?」
……あのよくわからない物体を食わされる前に、土御門はこっそり退散することにした。
外に出てよく身体中を調べてみると、拳銃を始めとした手荷物は取り上げられていなかった。手持ちのものは折紙や拳銃、財布には数千円鎮座していた。
学園都市製の紙幣には内部にICチップが内臓されているが、さて、こちらで使ってもよいのやら。
もしものためにと体の至る所に隠していた約5万円ほどの紙幣も確認したが、最後に記憶にある河の水に塗れてシワクシャになっているわけでもなかった。
外の風景は、やはりというべきか、学園都市のそれではない。
そこそこ活発のある街ではあるが、元いた世界の東京とは比べ物にならないだろう。
……尤も、彼は学園都市を除けば東京に足を踏み入れたことなどないが。
というか、これからどうすればよいのだろうか。
全財産は五万円弱。申し訳程度という額で、食費だけで言うなら数ヶ月は食いつなげられる。だが、住む家を用意して、お金を手に入れるために仕事を見つけて、暮らす?
この東京エリアとやらに戸籍はない。
ガストレア云々の話は聞いたが、こちらの世界についての常識はない。
やはり、繋がりは大切にすべきか。
頭を冷やして、一度菫の元に戻ろうか、と踵を返そうとする。
そのときだった。
目の前に。
黒い、
何かが、
いる。
一目見て、土御門は硬直した。
巨大ディスプレイの映画で見るような怪物。
3DCG技術で飛び出てきたような化け物。
禍々しい赤々とした瞳、巨大な体躯、異質な姿形。
ホラーのようなジャンルがそこまで苦手でもない土御門でも、つい、一瞬、恐怖心という感情が己の中を貫いたことに気づく。
これが。
これが、ガストレア。
土御門が硬直したのは、何も、その怪物への恐怖だけではない。
その目の前で尻餅をついている、青とも黒ともとれる髪色をした少女の存在が、彼の目線を釘付けにしていた。
なんだか見覚えのある風貌だった。
いや、知りえているはずはない。間違いなく初対面だが、その少女はどこか、彼が最も守るべき少女と似ているような気がしたのだ。
「……ッ!」
呆けている場合ではない。
相手は怪物。
人をその醜い体躯へと変化させ、また人を襲わせるという怪物だ。
その怪物の矛が、幼き少女へと向けられているのだ。
理由はそれだけで十二分。
直後、土御門は駆け出していた。
蜘蛛のような体躯をしたガストレアの前脚の一つが、鎌のようになって少女へと襲い掛かった。
鎌がその首を切り落とす前に、土御門は片手で少女を抱えて前転し受身をとる。
標的が、彼へと変わる。
土御門は戦慄していた。
遺伝子の書き換えによって、ヒトはガストレア化する。
ということは、目の前にいる怪物も、元々はどこかで暮らしていた人間なのだ。子供か大人か老人かはわからない。だけど、確実な、人類の敵。
少女を地面に降ろし、離れていろと忠告する。少女はとてとてと走っていき、十数メートルほど離れた地点の電信柱の裏側に隠れた。
(……、)
もっと離れろと言いたかったが、怒鳴りかけて目の前の怪物が妙な動きでもすればたまったものではない。
ゴクリと生唾を飲み込み、土御門は腰に差した拳銃のグリップにかけた。
確か、里見蓮太郎の話では、通常の弾丸ではむしろガストレアを興奮させてしまうだけで効果は薄いらしい。
(……どうする)
土御門は右手を拳銃のグリップから懐の折紙へ移動させつつ、思考する。
怪物との距離は、既に十メートルを切っている。
(そもそも、オレのチカラが奴に有効なのかどうか。それさえもわからないままこんなところで行使するのは、リスクが高すぎる)
いいや。
余計な心配をしている場合ではない。
目の前には、人類の敵が居て、後ろには、大人が救うべき、何の罪もない無垢な少女が居るのだ。
土御門は一つ舌打ちをして、懐から4つの小さな何かを取り出した。五センチほどの円筒状のケースに入っているそれは、赤、青、黒、白。四種の色でそれぞれ折られた色紙だ。
土御門は一度手を振るうだけでそれらを四方へ配置した。ガストレアは反応しないらしい。
「……、」
生命力を魔翌力に変換する過程で、一般人とは構造が異なる彼の体では、拒否反応が発生する。具体的な症状は、血管の破裂から始まり、最悪簡単に死に至る。言わば、能力者の魔術使用は自殺行為に等しいのだ。
だが、土御門元春という男は、いざというときは躊躇しない。
四色のシキガミを配置した彼は、ガストレアを正面に据えて右手を掲げた。
そして、その右手を、思い切り地面にたたきつける。
地脈と龍脈を支配する。
血液のように循環した大地の膨大なチカラ。その末端を握った土御門は、その場で得たエネルギーを媒介に、それを発動する。
「……オレにチカラをカしておけ!」
それは、彼が学園都市に来てから練り上げた、一つの戦闘補助用術式。
集気三叉。
大地に存在する地脈や龍脈を、一人の人間の血液の循環に喩え、その膨大なエネルギーを吸収する。
大地を一つの演算装置に。
大地に流れるエネルギーを魔力に。
演算装置は彼の能力である肉体再生《オートリバース》の代理演算を行い、その効率を、レベル0からレベル4クラスにまで引き上げる。
生命力を魔力に変換する過程で、『超能力者が魔術を行使する際に引き起こる拒絶反応』を緩和するために、魔術発動に大地の魔力を経由する。
欠点として、地脈や龍脈の流れを把握し、尚且つそれが合致する範囲内でしか使用できず、一度発動してその『パターン』の範囲外に出てしまえば効果が切れるということ。
そして現在、彼はこの土地の地脈や龍脈などを知る術はなかった。
土御門の掌を中心に、摩訶不思議な魔方陣が展開する。4つのシキガミがそれぞれの色に発光し、その全てが術者である土御門へ、電力送電のように集約されてゆく。
ガストレアは約五メートルの位置で静止していた。
そして、前脚の二本を大きく振りかぶっていた。
間に合う。
こちらが動く必要はない。
この怪物を吹き飛ばせる。
願わくば──倒す。
土御門は口角から赤黒い液体を垂らしながら、黒い折り紙を取り出す。
発動するは、彼が最も得意とする、水を用いた黒ノ式の攻撃用術式。
「さあおきろクソッタレども。ぜんぶこわしてゲラゲラわらうぞ!!」
呪文の完成とともに、何もない空間から、一メートルほどの水球が現出し、怪物のハラワタを貫き、飛散してゆく。
そして同時に、土御門の視界が眩む。
連続での魔術使用による、大きな拒絶反応。
体中が悲鳴を上げ、激痛に膝を折りながら、土御門は上半身を捻って後方を確認した。
霞んでよく見えないが、黒髪の少女は彼を見ながら何かを言っていたような気がした。
「舞──、」
直後。
人一人が倒れる鈍い音が、アスファルトの上でやけに反響した。
本日分は終わりです。たくさん書いたつもりでも、投下は一瞬で終わるから困る。
次回更新日は未定です
ご意見ご感想、励みになります。
よいぞ>>1。わらわはガストレアについてよく知らないが面白いぞ。
で、木更のおっぱいはいつ出てくるのかね
>>1に書き忘れましたが、イニシエーターのオリキャラが出ます。その点ご了承ください。
禁書×ブラック・ブレット・・・見てみたいなと思ってたのが遂に来たか。
禁書はつっちーのみ?
レスありがとうございます。もう少し書き溜めたいので今日はなしです。
ブラックブレットは原作も面白いですよ(ステマ)
室戸菫じゃないのか?
>>42
思い切り勘違いしていました。
以後修正していきます。
たくさんのレスが来てて嬉しい
今日は夜勤もあってオールなので更新できません。
明日休みなので、明日か明後日ぐらいには投下しようかと思います
健康診断とその後のお話会とやらで夜までかかるようなので、今夜中は無理かもしれません。
明日中には必ず
こんばんは。
目標とするところまで書けなかったので、少しだけ投下します
「……また、この天井か」
いっそのこと、元の世界──学園都市の凄腕の医者のところへ戻っていないか、などという幻想を抱いていた土御門だったが、目を開いて一秒でぶち壊されてしまった。
呟きに気づいた白衣の女性、室戸菫は、口元でニヤリとした笑みを作って彼の横たわるベッドまで近づいてきた。
「やあ、気分はどうだい、土御門くん」
「……、」
「ガストレアから女の子を救って、血塗れで倒れたらしいじゃないか。しかしなるほど、君の話の信憑性は高まった。
確かに君は、『魔術』とやらを扱い、そして傷を癒す『超能力』を使う異世界の存在であるらしい」
「見ていたのか?」
「まさか。私は外に出るのが好きではなくてね。全て蓮太郎くんから聞いた話だ」
土御門はサングラスに手を伸ばしながら上体を起こす。既に傷害は完治しているらしい。
事前に補助用の術式を使用していたとはいえ、魔術使用による拒否反応と肉体再生《オートリバース》による回復はイタチごっこだ。イタチごっこというのは得てして第三者が不利益を被ることが多い。この場合、土御門はその身体をズタボロにされる。
今回も、その不毛な争いの最中に彼は押し潰された。
「どれくらい、時間が経った?」
土御門は手に持つ色眼鏡をかけながらポツリと問いかける。
「君がここに来てから数えて、二時間というところかね」
「……!」
たったの二時間。
傷を癒す能力があるとはいえ、この場所に運び込まれる過程で、集気三叉の効力は失っている。
菫は蓮太郎から、自分が魔術を使い、倒れたところを見た、という話を聞いたはずだ。
一日や二日は覚悟していたので、拍子抜けした気分だった。
二時間というと、現在は夕方になるのだろうか。
腹ごしらえをしたいところだが、この女医に提案するとどんなゲテモノ料理が出てくるかわからないのでひとまず我慢する。
当面の問題は、住処と金だ。できれば正式な戸籍もほしい。
土御門はサングラスの内側から、悟られないように菫へ目を向けた。
菫は科学者であり医者であると言った。
そして異常事態だらけの中だったので記憶が曖昧だが、世界有数の頭脳、天才だとも言っていた気がする。
金は腐るほどあるだろうし(実際に腐っているんじゃないかとすら思った)、交渉してみる価値はあるのかもしれない。
「にゃー、ちょいと頼みたいことがある……いや。アンタと取引をしたいんだけど」
「ん? なにかね。概ね予想はつくが」
やっぱりかと思いつつも、しかし言うと決めた以上、土御門は口を止めなかった。
「前にも言ったとおり、オレはここよりも科学技術が何十年も発達している世界から来た。
……どうだ、オレの頭の中の知識を、金で買ってみる気はないか」
こちらのカードは、学園都市が作り上げた遺産の基礎理論。
菫は少し考える素振りをしながらも、やがて口角を上げて薄く笑みを浮かべながらそれを承諾した。
交渉成立だ。
「さて、私としては君の世界の話を一刻も早く聞きたいところだが……今日はもう遅いからな。
先ほど蓮太郎くんに連絡を入れておいた。彼は見たとおり不幸顔で乱暴者のようだが、根は面倒見が良く義理堅い男だ。
私が手回しをしておいたから、今日は彼の家に泊めてもらうといい」
急に話が進んで行き、勢いにそのまま頷いてしまう土御門。もとよりそんな話、断る道理はないのだが。
そのうち気づかない間に怪しい壷でも買わされそうだ。
「心配しなくても、君がこの先暮らしていける分の費用は用意しておく」
「待ってくれ。オレは何も、ずっとこちらに居るつもりはない」
「あるのかい? 帰る方法が」
相変わらずズバズバと切り込んでくる。土御門はやりにくさを感じながらも、図星を突かれて一瞬思考が停止した。
「いや……今はまだ」
「……まあ、そちらについては追々考えていけばいいだろう」
話が一応収束したところで、出入り口の扉がガチャリと開いた。そこから不幸顔の少年が顔を出す。
「やあ、お疲れ捜査官どの。二度目、いや、三度目だね」
「だから性別が逆だっての。……大丈夫か?えっと、土御門」
「おーう、聞いたぜいサトやん! 気絶したオレを颯爽と救ってくれたそうじゃねえかにゃー!」
「誰がサトやんだっての。その様子なら先生から聞いてると思うけど、まあ、今日はよろしく頼む」
「こちらこそにゃー。いやー、やっぱ持つべきものは友だぜい。ささっ、腹減ったし帰ろうぜ。あと噂の延珠ちゃんにも合わせるぜよ」
「お、おう……」
勢いに飲まれた蓮太郎が生返事を返し、何が楽しいのか土御門はにやにやとした笑みを張り付ける。
最後に眼鏡の下の瞳で菫を見やると、蓮太郎を連れ立って部屋を出て行った。
今回はここまで。次回更新は未定ですが、最低でも週一更新ぐらいを目指します。
http://i.imgur.com/jkAbxeI.jpg
少しでも興味があるなら是非見るべきだと思います。
原作全ての内容を描写してしまうととんでもない量になるので、話のつながり(合間)に話を差し込んでいたりするので、その点もわかりやすくなるかと思います。
うお、週一とかいいながら既に過ぎていた。
vitaなんか買ったぼくがわるい
ちょくちょく書いてるんで、なるべく早く投下します
こんにちは。
まだ目標まで書き切れてないですが、とりあえずいけたとこまでは今晩投下します
ずっと言い忘れてましたが、ゲーム初出である集気三叉が地脈に関係しているだとか(そこまで深く設定されていなかったはず)、『水』や『防御』の魔術が黒ノ式の術式だったりするのはオリジナル設定です。
魔術関係はそのうちまとめます。
こんばんは。
のんびり投下します
うごご、連投規制と言われてしまった。IDが毎回違う可能性があります
「あ! 蓮太郎遅いぞ!」
里見蓮太郎が住んでいるというアパートは、まさしく「ボロアパート」という形容が似合う外観であり、台風ぐらいの強風で簡単に崩落してしまいそうだった。
そして、そのアパートの前まで帰ってくると、突然二階風呂場の窓が開かれる。湯煙とともに窓から上半身を乗り出している少女は蓮太郎のパートナー、藍原延珠だった。
満面の笑みで出迎えてくれるのは蓮太郎としても嬉しいのだが、どうみても入浴中な上、全裸なのはいただけない。
「おい馬鹿! 見えるから! 隠せよ!」
「安心するのだ。妾のカラダは蓮太郎だけのものだぞ!」
「わかるぜいサトやん。ロリは全裸もメイド服もスクール水着もバニーガールも、全てにおいて最強なんだにゃー。いやあ、こっちに話のわかるヤツが居て助かったぜよ」
「お前……」
残念ながら、厚い湯気に覆われて、少女の裸体はアパート前の道路から観測することは出来なかった。土御門がだらしない表情を顔面に貼り付けているのを横目に見た蓮太郎は、ついその額にデコピンを見舞う。「いてっ!」と反射的に漏れた声が土御門の意識を再び目覚めさせ、再び延珠が視界に入り、
「にゃー、ひんにゅー幼女ばんざーい」
などと戯けた土御門に、蓮太郎は今度こそ割りと本気の鉄拳を喰らわせてやった。
「遅かったな。木更とエッチなことでもしていたのか?」
蓮太郎はどかりと床に座って腕組みをしながら、
「うっせぇな。『働け』って殴りかかってきたよ」
「ハハハ、だろうな。妾もそんなことだろうと思ってた」
「ひでぇ居候だな、お前は……」
「ところで、そっちで伸びているのは一体何者なのだ?」
「……、えっと」
どう説明しようかと頭を回転させ始める蓮太郎。その瞬間、延珠の声に反応した土御門が勢いよく上半身を起こして復活し、
「オレは土御門元春! このサトやんの大親友ぜよ。今日は優しい優しいサトやんが、身寄りのないオレに手を差し伸べ、この家で一夜を過ごすことになったんですたい。よろしく頼むぜい、延珠ちゃん」
「妾の名前を知っているとは! 蓮太郎から何か聞いたのか??」
「オレが延珠ちゃんに会わせろって言ったら、『俺の延珠に手は出すなよ』って言われちまったぜよ。いやあ、人の恋路を邪魔するつもりはないんだけどにゃー」
うきゃー、と奇声を上げながら蓮太郎ボイスに変換してゴロゴロ転がりだす延珠と、それをニヤニヤと眺める土御門。
片眉をピクピクと震えさせながら、蓮太郎はどちらかを追い出すべきかと真剣に考え出していた。
その後すぐに食事し終え、延珠と蓮太郎の夫婦漫才を見届け、侵食抑制剤とやらを延珠に注射して寝かしつけると、すでに夜も遅くなっていた。
居間で麦茶を飲んで一服しながら、土御門は小さな声量で言った。
「しかしサトやん、なかなかいい飯だったぜよ。
まあ、ウチの舞夏には敵わないけどにゃー」
「舞夏?」
「ああ、言ってなかったっけか。オレの愛する義妹ですたい。サトやんにとっての延珠ちゃんみたいな感じぜよ」
それを聞いて、蓮太郎は少し意外そうな顔をした。普段はおちゃらけている彼にも守るべき存在が居るのだと、親近感に近しいものが湧く。
「ま、当然この世界に来てから会えてないんだが……」
最後に会ったのはいつだったか。
社会的な意味で一度『死んだ』彼女は、問題も起こさず暮らせているだろうか。
そういえば、昼間に会った少女が、不思議なことに舞夏に似ていた。そのまま、出会った当時の舞夏の面影にそっくりだったのだ。
感慨深げにサングラス越しで遠くを見る土御門に、蓮太郎は何も言えなかった。
暫くして、土御門がそのまま壁にもたれて寝ていることに気付き、なんとも言えない気持ちが湧き出てつい溜め息をつく。
タオルケットだけかけてやり、蓮太郎も眠ることにした。
「蓮太郎。大家のおばさんが自転車を貸してくれたぞ!」という元気な声で、土御門は目を覚ました。
朝からテンションが高いな、と思いつつ、人前で簡単に眠ってしまった自分も、疲れているとはいえ焼きが回っている。
話を聞くと、昨日あった事件を解決した際に、現場に自転車を置いてきたらしい。
蓮太郎はダルそうに学校のものらしきスーツに似た制服を着込みながら、リモコンでテレビのチャンネルを切り替えていた。
テレビをはじめとした電化製品は、やはり学園都市での生活に慣れた土御門にとっては見劣りする。特にめぼしい番組がなかったのか電源を消そうとしたようだが、その瞬間に画面から「見てくださいッ」という叫びが聞こえてきた。
思わず三人ともテレビを注目する。若いレポーターが興奮した様子でマイクを握りしめていた。画面に映っているのは、東京エリア第一区の聖居のようだった。
興味なさげに視線を外そうとした土御門だが、それよりも前に画面が切り替わり、バルコニーから純白の少女が登場し、目を奪われた。
ウェディングドレスにも似た服装の少女は、肌も髪も真っ白だ。
「……聖天子様」
「聖天子様?」
魂を抜かれたような蓮太郎の声を土御門が拾った。
聖天子とは、十年前の戦争によって事実上五つに分断された日本、その一つである東京エリアの統治者であるらしい。
政治家ではなく、統治者。
前聖天子の逝去によって、現在の彼女は三代目のそれであるそうだ。
「蓮太郎、あれ」
説明を聞いていると、延珠がテレビに向かって指を指した。微笑を浮かべる白い少女、その隣。
齢70になる厳つい顔をした男だった。まだまだ衰えは感じさせず、ガタイだけ見れば護衛官でも通りそうだ。
「チッ、ジジイか」
天童菊之丞。聖天子のサポートなどをこなす聖天子付補佐官。聖天子は世襲制であるため、戦後の東京エリアでは、その補佐官というのは政治家の最高権力的ポストだ。天童を天童たらしめている存在があの老人だ。
「人間って支配階級のいない統治形態を誰も実現したことがないんだよなぁ」
「ほぉそうなのか? ところで時間はよいのか?」
「ん? ああッ」
テレビ画面右上に表示されている時間を見ながら、蓮太郎は慌てて立ち上がった。
「じゃあ俺たちは学校があるから。飯代は……」
「心配しなくても持ってるぜよ。家探しはしないし、タンスにも手を付けない。安心して行ってくるにゃー」
蓮太郎は少し訝しげな目で土御門を見やると肩を落とし、延珠を促して外に出た。
外から「出発進行!」という声が聞こえてからたっぷり100秒数えて、土御門は呟く。
「……さて、オレも動くか」
目的は幼女のパンツ探し。
ではなく、室戸菫の研究室だ。
「やあ土御門くん。来ると思っていたよ」
相変わらず異界のような雰囲気を醸し出す一件清潔そうな研究室で、今日も禍々しい朝食を口にしながら菫は土御門を出迎えてくれた。
「ああ……ん?」
見ると、菫の腰の左右あたりから、指のようなものが見えた。というか指だった。後ろからしがみついてる感じだ。
一瞬ひやりとしたが、直後に菫の背後からぴょっこりと顔を傾げてそれが出てきた。
その顔に、土御門も驚きを隠せなかった。
「君は……」
「ああ、彼女ね。土御門くんが助けた子だそうじゃないか」
舞夏によく似た少女だった。
「君を運んだ蓮太郎くんを追って、ここを見つけたらしい。君のことをずっと待っていたそうだ」
「……」
見れば見るほど似ている。そのままスケールダウンしたみたいだ。小学生のような舞夏は可愛い。出会ったころの記憶を呼び覚ましながら土御門は感慨に耽る。頭を撫でても怒らないだろうか。
ぐるぐると思考が回っている間に、菫の腰を離して少女は前に出てきた。
「あの……」
声に、土御門は瞬時に我に帰る。少女を見やって、土御門は言った。
「オレは、土御門元春。君は?」
「……舞、です」
思わず目を見開いた。
「あなたに付けてもらった名前です」
(……ん?)
少女に名前を付けた覚えはない。
というか、少女との会話といえば、今の自己紹介と、ガストレアと対峙した時、離れていろと忠告した時だけだ。舞などと口にした覚えは……
いや、あった。
そういえば、倒れる寸前に舞夏の顔が浮かんで、その名前を呟こうとして……結局最後まで言えなかったような、言えたような。
意識を失う寸前のことで、記憶が曖昧だ。
「君は彼女を見て意味深に舞と呟いたそうじゃないか。彼女、『呪われた子供たち』でね。随分前にイニシエーターをやっていたそうだが、相方が死んでから記憶が殆どないらしい。もちろん、自分の名前も」
それでどうやって今まで生活したきたんだと言いたいが、今も外周区では数え切れないほどの『呪われた子供たち』が存在している。今は生存の方法論を話している場合じゃない。
「舞っていうのは……厳密には舞夏っていうんだがな。元の世界での、オレの義妹のことぜよ。どういう訳か、彼女、舞は舞夏に似てるみたいなんだけどにゃー……」
「ほう」
菫は意味深に微笑しながら呟く。
彼女はデスクの上から茶封筒を引っ張り出して、土御門に突き出した。
「昨日の件だ」
思わず受け取ると、そこそこの分厚さだった。中身が全て一万円札だとすると、50から70といったところか。
「オレはまだ何も話していないが。いいのか、こんなに?」
「今回の分はな」菫は代わりに、と繋げて、
「天童民間警備会社。蓮太郎くんがそこの民警をしている。君もそこに所属し、彼らを手伝ってやって欲しい。その前報酬だ」
「……最初から、それを言うつもりだったのか」
封筒を撫でながら土御門は適当に言う。
菫はその呟きを聞こえなかったことにして言った。
「プロモーターとイニシエーター。二人で一つ。それが民警だ。イニシエーターは彼女、舞ちゃんにやってもらえばいいだろう」
「義妹に似た小学生を巻き込めっていうのか?」
「君の世界や倫理観は知らないが。少なくともね、この世界ではそれが当たり前だ。
その半身にガストレアウィルスを抱え迫害される彼女らが、今の人類の希望なんだよ」
「……チッ」
小さく舌打ちして、土御門は少女を見やった。「ひっ」と怯んだので、やりにくさを感じながらも、サングラスを外し、屈んで目線の高さを合わせてやる。
「……一つだけ、何でもお前の望みを叶えてやる」
それは、土御門の芯の一つ。プロが素人を巻き込む代償としての、最低限の矜持だった。
対する少女は首を傾げながら、あっけからんと言った。
「……そんな素敵なチケットがあるなら、私よりもっと困っている人に使ってあげるべきだと思います」
その返しに、思わず土御門は面食らった。
……やはり、彼女は舞夏に似ている。
「君のIP序列は25万7662位からスタートだ。精進したまえ」
魔術以外は出来損ないなのは相変わらずか、と土御門は自嘲するような笑みを零した。
聞いた話によると、舞はモデル・ウルフのイニシエーターだそうだ。鋭いツメを利用し、場合によっては犬歯を用いた戦闘が得意らしい。
イニシエーターの戦闘など見たことのない土御門にとって俄かには信じ難いが、その身体能力と戦闘能力は驚異的であるらしい。
といっても、学園都市で生み出された怪物のような超能力者の側にいれば、どれだけ言葉で飾ってもチープに聞こえてしまうのは否めないが。
菫は既に、その天童民間警備会社とやらにも根回しをしていたらしい。社長である天童木更の電話番号を受けるときに、ご丁寧に新品の携帯電話も渡された。
連絡を寄越すと、ギャラは要らないことについて大層喜ばれ(報酬は菫の分で事足りる)、すぐに防衛省まで来て欲しいと一方的に告げて通話を切られてしまった。どうやら忙しいようだった。
(……どこだよ防衛省って)
結局菫に助けを求めたのは言うまでもない。
もう少し書けてますが中途半端になるのでここまでにします。
まだ原作の一章が終わってないだなんて(白目)
舞ちゃんの容姿は、本文通りミニチュア舞夏みたいな感じです。
おはようございます。
明日から出張なので、ちょっと執筆の時間がとれないかもしれません。
期間は長くて一週間ほどですが、それまでお待ちください…。
おはようございます。
実は先週ごろに帰ってきましたが、なかなか筆が進んでおりません。
もう少しお待ちを。
漫画版は読んでないですね。
延珠ちゃんの太腿が素晴らしい出来らしいので気になってはいますが、コミカライズ作品としてはかなりの当たりだとか(ステマ)
今度書店に行った時に買うことにします
おはようございます。
今週こそは投下します。
雑談に関してですが、ブラブレの話題なら少しくらいはいいかなと思います。でも、本編の感想も欲しいかなとも思います。
コミック版購読しました。夏世ちゃんが思いのほか掘り下げられててよかったですね。巻末にもありましたが、ブラブレ世界は不条理すぎる…
こんばんは。
告知からかなり待たせてしまいましたが、今週は毎日残業でちょっと時間が取れませんでした(言い訳)
明日に投下したいと思います。量はあまり期待しないでください。
こんばんは…
昨日の豪雨の中の屋外作業で携帯がやられるというアホなことをしてしまったようで、今朝起きたら携帯の充電がストップ…
仕方ないのでパソコンからやりますが、修理云々かんぬんの手続きにてこずってしまったので、投下は明日にします。申し訳ない。
こんばんは。
パソコンからですが投下したいと思います。
連投規制とかかからないかなぁ
案の定イーモバ規制にかかったようです。
今は携帯から書き込んでますが(もう充電が切れそう)、現状どうしようもないので修理予定の金曜までお待ち願います。
それまでにはもっと書き溜めておきますゆえ。
おはようございます。
一週間待たせて申し訳ありません。
無事復旧しましたので、今晩こそ投下します。
はやく戦闘が書きたいなぁ。
あんまり進んでませんが、投下。
どっかで集中的に書ける時間が欲しい…
舞は菫の研究室で待っててもらうことにした。
防衛省とやらがどんな場所かは知らないが、できればもっと落ち着いた場所で紹介してやりたい。
そもそも、その天童民間警備会社とやらの社長にもまだ電話で一度話したきりなのだから。
防衛省の場所を聞きに菫の元に訪ねに戻ると、ついでにと地図を渡された。どうやら蓮太郎の住むアパートの周辺図であるらしい。朝二人を見送った後地理を確認したのでほぼ間違いない。
何かと問えば、「これから君が住む家だよ」と言われた。何から何まで世話になってしまい、頭が上がらない。
見ると、少し小さめのマンションだった。マンションというよりは、アパートといったほうがイメージが近いかもしれない。二棟で作られており、その間には大きな庭がある。
少なくとも、学生寮よりはいい物件だろう。そちらについても、とにかく今回の件が終わった後にでも舞を連れて行くことにした。
「ようサトやん。それから……天童木更さん、でいいのかにゃー?」
閑散とした庁舎で施設を背もたれにしながら待つこと数十分。美人な女性とともに現れた知り合いに声をかける。
外見の怪しさから一度職質を受けたが、民警を示す手帳のようなものをちらつかせて事なきを得たが、かなり危ないところだった。
本当に菫には頭があがらない。
あんなナリをしているが、よく気がついて手回しをしてくれる。意外と世話焼きなのかもしれない。
「こんにちは。そしてはじめまして、土御門くん。私のことは好きなように呼んで頂戴。早速で悪いけど件の会議があるから、二人ともついてきてくれるかしら?」
(……ねーちんって呼んだら怒りそうだよにゃー)
ちらっと聞いた話だが、二人とも同級生で高校二年生の年齢であるらしい。つまり、普通に土御門より年上だ。
三人は入り口で名前を告げ中に案内されると、エレベーターで上へ上がった。やはり学園都市のものと比べれば、速度も騒音も振動も低レベルと言わざるを得ない。これはこれで、口に出して文句を言うほど心地の悪いものではないが。
第一会議室と書かれた部屋の前まで通されると、案内人は去って行った。顔を見合せ、蓮太郎が扉を開けると、彼は思わず声をあげた。
小さな扉からは想像もできないほど広いその部屋の中央には、楕円形の細長い卓があり、奥には巨大なELパネルが壁に埋め込まれていた。
問題は中にいる人間だった。
「木更さん、こいつは……」
「ウチだけがよばれたわけではないだろうと思ってたけど、さすがにこんなに同業の人間が招かれているとは思わなかったわ」
仕立ての良いスーツを着た民警の社長格にあたる人間たちは、既に指定の席に腰を下ろしており、その後ろには、見事に荒事専門という厳つい面々が控えていた。彼らの手にあるのは、ブラッククロームの輝きを持つバラニウム製の武器。間違いなく蓮太郎と同じプロモーターだ。
彼らの側には延珠たちと同じような年齢のイニシエーターも幾人か控えているのが見える。
「おいおい、最近の民警の質はどうなってんだ?ガキまで民警ごっこかよ」
プロモーターの一人が聞こえよがしに言いながら近づいてきた。威圧感のある鉄板のような胸板が服の上からも伺える大男だった。
背中には、バスタードソードとでも言うべきか、両手でなければ扱えないほど巨大で重量のありそうな肉厚長大な剣があった。
蓮太郎は勇気を振り絞って木更を庇うように前に出た。土御門は心の中で賞賛の口笛を鳴らす。しかし、男にとって蓮太郎の行動はいたく気に入らないらしかった。
「あぁ?」
「アンタ何者だよ、用があるならまず名乗れよ」
「なにが『アンタ何者だよ、用があるならまず名乗れよ』だよボクちゃん。見るからに弱そうだな」
「別に民警は見た目で実力が決まるわけじゃねぇだろ」
「ムカつくなテメェ、斬りてぇ、マジ斬りてぇよ」
「やめたまえ将監!」
なんとかするべきか、と土御門が迷っていると、思わぬところから助け舟がきた。将監と呼ばれた男の雇い主らしい。
「おい、そりゃねぇだろ三ヶ島さん!」
「いい加減にしろ。この建物で流血沙汰なんか起こされたら困るのは我々だ。この私に従えないなら、今すぐここから出て行け!」
将監は何かを考えるように一瞬不気味に沈黙すると、ギロリと蓮太郎を、ついでに隣の土御門に一瞥をくれて「へいへい」と言いながら引き下がった。
前途多難、そして面倒なことになりそうだと土御門は思った。
「止めてくれてよかったわね」
蓮太郎の後ろで、木更はかろうじて聞こえるようにボソりと呟く。
「伊熊将監。ロイヤルガーダー所属の民警。IP序列は、1584位」
「……ッ」
千番代。
蓮太郎は驚愕の表情を浮かべていたが、土御門はそのランクの凄さにいまいちピンとこない。
IP序列とは、国際イニシエーター監督機構(IISO)が規定・発行しているもので、倒したガストレアの数や挙げた戦果に応じてつけられるランクのことだ。
個人の相性問題もあるが、基本的には、IISOが与えた位階が、ほぼそのまま強さの基準と考えられている。
千番代に入ることで、全民警の上位1%に属すると言われれば、その凄さは想像に難くないだろう。
土御門が目線で将監を追うと、壁際にいた少女の隣で、静かに背を預けるところだった。傍らの少女は将監に似合わない娘で……考えていたら、あちらの少女もこちらを見ていた。
ちらりと横目に蓮太郎の顔を覗くと、どうやら蓮太郎もその少女に目をやっているらしい。
視線を少女のほうへ戻すと、お腹に両手を添えて、首を傾げながら何かを言っていた。
『お・な・か・す・き・ま・し・た』
「……、」
傍らの蓮太郎にはちんぷんかんぷんのようだが、読唇術を心得ている土御門にはおおよそ理解できた。どうやら腹をすかしているらしい
(あんな可愛い娘に満足に飯も食わせられねぇとは、甲斐性のない男ぜよ)
今日から相棒となる舞には、何不自由なく生活させてやろうとよくわからない目標を心に決める土御門。
その時、制服を着た禿頭の男が部屋に入ってきた。
「本日集まってもらったのは他でもない。諸君ら民警に依頼がある。
依頼は政府からのものと思ってもらって構わない」
禿頭が何か含ませるように一拍起き、周囲を睨めつける。
「ふむ、空席1、か」
視線を追うと、確かに土御門ら天童グループの6つ隣、『大瀬フューチャーコーポレーション様』という三角プレートだけが空席だった。
空席の存在自体はどうでもいいらしく、禿頭男は話を続けた。
「本件の依頼の内容を説明する前に、依頼を辞退する者は速やかに退席してもらいたい。
依頼内容を聞いた場合、もう断ることはできないことを先に言っておく」
きな臭いな。
土御門は心の中で吐き捨てた。
政府からの依頼というだけで、怪しさはあった。土御門の中の第六感が、男の言葉で確信にさせた。
サングラスの下で周りを見渡してみると、立ち上がる人間は居ないようだ。目立たないように溜息をつき、社長である木更の意向に従うことにする。
「よろしい、では辞退はなしということでよろしいか?」
男が念を押すように全員を順番に見渡すと、「説明はこの方に行なってもらう」と言って身を引いた。
突然背後の特大パネルに一人の少女が大写しになった。
『こきげんよう、みなさん』
木更がかっと目を見開き、次の瞬間勢いよく立ち上がった。ほぼ同時に他の社長格の人間も泡を食ったように立ち上がる。
同時に恐ろしいほど強大な殺意を感じた土御門は身震いしながら周囲を警戒するが、杞憂のようだ。
雪を被ったような、銀髪に色白の肌、ドレスまで白に揃えた少女、聖天子。敗戦後の日本において、その東京エリアの統治者。つかず離れずの距離には影のように天童菊之丞も付き従っていた。
『楽にしてくださいみなさん、私から説明します』
と言われても、誰一人着席する者など居なかった。
『といっても依頼内容はとてもシンプルです。民警のみなさんに依頼するのは、昨日東京エリアに侵入して感染者を二名出した感染源ガストレアの排除です。もう一つは、このガストレアに取り込まれていると思われるケースを無傷で回収してください』
ケース。
誰もが思った疑問に答えるように、ELパネルに小さなウィンドウが開かれる。ポップアップされたのは、ジュラルミンシルバーのスーツケースだった。その横に表示された数字の羅列は、成功報酬だろうか。その額を見て、周囲が困惑し始めていた。
有り体に言えば、人生を10回何不自由なく過ごせるぐらいの金額だ。たかがガストレア一体とケースの回収にここまでする意味があるのか、物価がおかしいのか。土御門は考えたが、どうやら周りの反応も同じであることから、設定金額は異常であるらしい。
先ほどの将監の雇い主、三ヶ島がすっと手を上げて言った。
「質問よろしいでしょうか。ケースはガストレアが飲み込んでいる、あるいは巻き込まれている、と見ていいわけですか?」
『その通りです』
巻き込まれる、という表現は、被害者がガストレア化した際に、破れた衣服や装飾品が変化したガストレアの皮膚部などに取り込まれ癒着してしまう現象を指している。
次に、木更が挙手した。
「回収するケースの中には何が入っているのか、聞いてもよろしいですか?」
ざわりと、周りの社長たち色めき立つのがわかった。図らずとも、この場に居る全員の疑問を代弁した形となったのだ。
『あら、あなたは?』
「天童木更と申します」
聖天使は少し驚いたような表情を浮かべた。
『お噂は聞いております、天童社長。しかし妙な質問をなさいますね。中身については、依頼人のプライバシーに関わることなので、お答えすることはできません』
「政府からの依頼にプライバシー、ね」
土御門は誰にも聞こえない声でぼそりと吐き捨てる。
「納得できません。感染源ガストレアが感染者と同じ遺伝子型を持っているという常識に照らすなら、感染源ガストレアもモデル・スパイダーでしょう。その程度ならウチの社員一人でも倒せます」
「問題は、なぜそんな簡単な依頼を破格の条件で──しかも民警のトップクラスの人間たちに依頼するのか、腑に落ちません。ならば、報酬に見合った危険が、そのスーツの中にあると邪推してしまうのは当然ではないでしょうか?」
例えば爆弾とか。
いいや、直接的な危険物だけじゃない。持つだけで我が身を危険に晒すものは、世界には山ほどある。
頭に10万3000冊の魔道書を抱える少女を思い出しながら、土御門は適当に中身の正体を考えていた。
『それは、知る必要のないことでは?』
「かもしれません。ですが、あくまでそちらが手札を伏せたままならば、ウチはこの件から手を引かせていただきます」
確かに、危険だと土御門も思う。
依頼する者と実際に動く者。依頼人が必要以上に金を積む場合は、スピードか確実性、あるいはそのどちらともを求める場合だ。
『……ここで席を立つと、ペナルティがありますよ』
「承知の上です。そんな不確かな説明で、ウチの社員を危険にさらすわけには参りませんので」
肌がぴりぴりするほどの沈黙。幾許かの時間の断絶があった。
その静寂をぶち壊したのは、けたたましい男の笑い声だった。
『誰です』
「私だ」
蓮太郎や土御門を含め、屋内やパネル越しの人間たち全員の視線が、声の元へ集まり、そこで誰もがぎょっとした。
数分前まで確かに空席だった大瀬社長の席に、仮面、シルクハット、燕尾服の怪人が、卓に両足を投げ出して座っていたのだ。
両隣に座っていた社長は唐突に現れた仮面の男に驚愕し、悲鳴を上げながら椅子から転げ落ちた。
「お前は……そんな馬鹿なッ!」
男は器用に立ち上がると、パネルにどでかく映っている聖天使と真正面から相対した。
『……名乗りなさい』
「これは失礼」
男はシルクハットを取ると、体を折りたたんで不気味なほどほど礼儀正しいお辞儀をしてみせる。
「私は蛭子影胤という。お初にお目にかかるね、無能な国家元首殿。端的に言うと私は君たちの──敵だ」
仮面の下で不敵な笑みが浮かんでいるのがわかる。
「お、お前ッ……」
蓮太郎の言葉に、影胤は振り返った。
土御門は知らないが、蓮太郎はこの男と面識があるらしい。
「フフフ、元気だったかい里見くん。我が新しき友よ。そして紹介しよう──おいで、小比奈」
「はい、パパ」
土御門が何かを感じ取った瞬間に、背後から声がした。蓮太郎たちも驚愕しているのがわかる。背後に居たというのに、その一瞬前まで気配すら感じなかった。
銀に近いウェーブのかかった短髪。フリルつきのかわいらしい黒いワンピース。腰の後ろで交差して刺された二本の鞘は、長さを見るに小太刀だろう。
「蛭子小比奈、十歳」
「私のイニシエーターにして、娘だ」
イニシエーター。
ということは、この男も民警の中の一人なのか。
「パパ、みんな見てる。恥ずかしいから斬っていい? それとあいつ、テッポウこっち向けてる。斬っていい?」
「よしよし。だがまだだめだ小比奈。我慢なさい」
「……なんの用だ」
「挨拶さ。そして、私もこのレースにエントリーしたいという旨を伝えておきたくてね」
「エントリー? なんのことだ」
「『七星の遺産』は、我々が頂くと言っているんだ」
その単語が出たとたん、聖天使が参ったように目をぎゅっと瞑ったのが見えた。
「……なんだよ、それ」
「おや、君たちは本当に何も知らされずに依頼を受けさせられようとしていたのか。可哀想に。君らが言う、ジュラルミンケースの中身だよ」
あたりがざわつき始める。政府は面目つぶれだろう。正体を隠したまま依頼しようとしていたものが、あっさりと別の誰かによって解き明かされる。それも、こちらの敵と豪語する者に。
「さて、諸君。ルールを確認しようじゃないか。私と君たち、どちらが先に感染源ガストレアを見つけて七星の遺産を手に入れられるかの勝負といこう。ケースはガストレアの体内に巻き込まれているだろうから、手に入れるにはその感染源ガストレアを殺せばいい。掛け金は君たちの──命でいかがかね?」
「……黙って聞いてればゴチャゴチャと」
押し殺したような低い男の声は、テーブルの向こうからだった。
バスタードソードにドクロのフェイスカーフ、伊熊将監だ。
「ぐだぐだうるせぇんだよ。要約すっと、テメェがここで死ねばいいんだろ?」
将監の姿が消えたと思ったら、将監は瞬時に影胤の懐にまで肉薄していた。
速い。
「ぶった斬れろやッ!」
逆巻く突風を纏って、莫大な質量を持つバラニウム合金の刃が振り回される。角度、タイミング共に最適。逃れようのない必殺の間合いだった。
だが。
バシィッ!という雷鳴音が弾け、次の瞬間将監の剣が明後日の方向に弾き飛ばされていた。
「なッ!?」
「ざぁーんねん!」
今のは、なんだ?
一瞬のことだったが、将監の剣と影胤の間に、蒼白い燐光が見えた。
バリア。フィールド。結界。そんな単語が土御門の脳裏を廻る。
「下がれ将監!」
三ヶ島の意を汲み取った将監は、舌打ちと共に後退。
そのときを見計らっていたように、周囲の社長や民警が一斉に護身用のピストルを抜き、引き金を引いた。
土御門も銃は持っているが蓮太郎や木更が発砲するのを横目に、冷静に様子を見ていた。
乾いた破裂音と硝煙の匂いが、一瞬で会議室を支配する。
しかし、肝心の肉を貫く音と血飛沫はなかった。
「そんな……」
弾痕だらけとなった長机の上で、仮面男は飄々と周囲を見渡していた。
列席した民警の高位序列者たちも、麻痺したように動かない。
そんな中で、影胤は鷹揚に両手を広げた。
「斥力フィールドだ。私は『イマジナリー・ギミック』と読んでいるがね」
土御門の目には、さながら学園都市製の能力者のように映った。
具体的な防御能力はわからないが、今の現象なら、レベル4クラスは間違いないな、と土御門は思った。
「バリア、だと? お前、本当に人間なのか?」
「人間だとも。ただこれを発生させるために内臓のほとんどをバラニウムの機械に詰め替えているがね」
「機械……?」
「名乗ろう里美くん。私は元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊『新人類創造計画』蛭子影胤だ」
その場にいた全員が、驚きに目を見開いた。
投下は以上となります。
最近遅れがちなので、きっちり時間を取って執筆したいものですね。
こんばんは。
かなり中途半端だったので、一章終わりまでさくっと書いてきました。このへんは説明ばかりなのでほとんどそのままですが。
「ガストレア戦争が生んだ対ガストレア用特殊部隊? 実在するわけが……」
「信じる信じないのは君たちの勝手だよ。まあなにかね里見くん? つまり私はあの時、全く本気じゃなかったのだよ。悪いね」
あの時。
土御門は知らないが、実は蓮太郎と影胤は『仕事』中に出会って戦闘を繰り広げていたのだ。
影胤は音もなく蓮太郎の前にやってくると、マジックショーさながらに白い布を自分の掌にかぶせ、三つ数えて取り去る。するとそこには、赤いリボンがあしらわれた箱が現れた。卓の上に置くと、愕然としている蓮太郎の肩に手がおかれる。
「君にプレゼントだ。ではこの辺でおいとまさせてもらうよ」
「絶望したまえ、民警の諸君。滅亡の日は近い。……いくよ小比奈」
「はい、パパ」
二人は悠然と窓まで歩いて行くと、窓を割り、ごくごく自然な動作で飛び降りて消えて行った。
蓮太郎を含め部屋の人間たちは暫く動けない。誰も彼らを追いかけようとはしなかった。
土御門はつまらなそうに溜息を吐く。
それを合図としたように木更が動き、蓮太郎の肩に手を置いた。さきほどの影胤を思い出したのか、一瞬びくりとしながら振り返った。
「里見くん、説明なさい。あの男とどこで出会ったの?」
「それは……」
蓮太郎が言い淀んでいると、三ヶ島が怒りに任せて卓を叩きながら言った。
「天童閣下! 新人類創造計画は、あの男が言っていたことは本当なのですか!?」
『答える必要はない』
誰もが思う疑問は一刀両断された。ますます信用ならない。
重い沈黙が訪れかけてその時、突然半狂乱の体で男が会議室に飛び込んできた。
「大変だ、しゃ、社長があああッ!」
それは会議に欠席した大瀬社長の秘書だった。肩で息をし、眼球がせりださんばかりに錯乱している。
「社長が自宅で殺された! し、死体の首がどこにもない」
全員の視線が、蓮太郎の手前に置かれた箱に向けられた。
箱の一辺は目測でも30から40程度。丁度、人間の首が……、
蓮太郎は震える手でゆっくりリボンを解き、蓋を持ち上げた。
50代だろうか。いかにも会社の社長というような、少し肉付きの多い男性の生首。
赤い液体に満たされた底面から、卓に血が垂れた。誰かの悲鳴が木霊する。
「……ぁの野郎ッ!」
『静粛に。事態は尋常ならざる方向に向かっています。みなさん、私から新たにこの依頼の達成条件を付け加えさせていただきます。ケース奪取を企むあの男よりも先に、ケースを回収してください。でなければ大変なことが起きます』
木更が聖天子を睨みあげながら言う。
「中に入っているものがどういうものなのか、説明していただけますよね?」
聖天子は目を瞑り少し逡巡し、再び口を開く。
『……いいでしょう。ケースの中に入っているものは「七星の遺産」。邪な人間が悪用すれば、モノリスの結界を破壊し東京エリアに「大絶滅」を引き起こす封印指定物です』
次回より、第二章になります。
今後、先に進むに連れてオリジナルの展開になっていくのは既定路線なのですが、原作改変(生存、死亡、その他)まで踏み切るべきか非常に悩んでます。
できれば、皆さんの意見を聞かせてもらえると嬉しいです。
了解しました。ありがとうございます。
禁書側のキャラですが、前にも言った気がしますが出る予定はあります。今の予定では2~3名ほど。
あんまり掘り下げるとネタバレになりそうなのでそれだけ。
おはようございます。
ここ数日忙しくて時間がとれませんでしたがようやく盆休みになりました。
近々投下するかと思いますので、それまでお待ちいただくようお願いします。
投下する詐欺みたいで申し訳ない。
今日中にはできた分まで投下します。
今筆が進んでいるのでしばしお待ちを
帰る家はまだないので、菫の研究室まで戻ってきた。
これから、相棒となる舞を新たな自宅に連れて帰り、共同生活が始まるのだ。
共同生活。
素晴らしい。
あの舞夏に似た可愛い少女は、そりゃもう可愛がろう。
そう思っていた土御門だが、部屋に入った途端、舞は菫の後ろに隠れてしまった。
「お帰り、土御門くん」
「……ああ」
てっきりさっきの様子だと、少しは心を開いてくれている感じだったのだが。
と思ったが、
「彼女は狼の因子を持つイニシエーター。君は夜になると狼になる人間。里見くんや延珠ちゃんに負けない、実に相性のいいペアだね」
「色々と待て。舞に変なことを吹き込むな」
吹き込むなら自分で吹き込みたい。それこそ手取り足取り。
「因みに、舞ちゃんは鼻がいい。たとえば君がえっちなことを考えても、その匂いを嗅ぎ分けられるらしいから、気をつけた方がいいだろうね」
「……は?」
いや。
いやいや。
「待ってくれ。オレは紳士だぜい? 義妹に似た、しかも幼い子供に手を出すとでも?」
Yesロリータ、Noタッチ。
紳士とはつまりそういうものだ。
舞夏の前では甘いところを見せてばかりだったが、舞の前ではかっこいいところを見せよう。
土御門は紳士なのだ。
「君は義妹に手を出したと言ってなかったか?」
「なっ!?!?」
「なんだその反応は。カマをかけただけだが、まさか図星ではないだろうね?」
ごめんなさい。
オレは変態紳士です。と土御門は心の中で土下座した。
舞は幸いにも、何の話をしているんだとばかりに頭の上にハテナマークを浮かべていた。
そんな経緯がありながら、紹介されたマンションに辿り着いた。少なくとも外観はそこそこレベルの高いマンションだ。二棟あるうちの一号棟。その204号室。マンションは四階建てで、いかんせん土地を無駄遣いしている気がした。しかも、二棟の間には庭にしては少し大きく、公園にしては少し小さい空間まであるのだ。恐らく庭を共有するためにこんな中途半端な広さになったのだろう。学園都市の感覚だから……とも思ったが、東京エリアもトントンの広さだ。
ふと一階のポストを見ると名札が一つもなかった。まさかと思って挨拶ついでに幾つか部屋のチャイムを鳴らしたが、人の気配はないし、扉が内側から開けられることもなかった。もしかすると、土御門たち二人しか住民がいないのかもしれない。
まさかとは思ったが、菫ならそれくらいやってのけそうだ。
「まさか、マンションごと持ってたりはしないよな……?」
部屋はオートロックと指紋認証つき。セキュリティシステムに気を遣うのは、民警としては当然であるらしい。蓮太郎を不憫に思いながらも、確かに舞のようないたいけな少女を守るには強固なセキュリティシステムが必要だ、とよくわからない納得の仕方をする土御門。
「あの、お兄さま」
「ッ!?!?!?」
その瞬間。電撃が土御門の脳髄を駆け抜けた。
ペイント弾で川に叩き落とされた時以上の衝撃だった。
「ど、どうしたぜよ舞。お兄様だなんて」
最初、いや二回目の対面のときはそんなことを言われなかったはずだ。
「菫せんせいが、そっちのほうがお兄さまが喜ぶと」
「グッジョブセンセイ!!(なにやってんだ先生!!)」
本音と建前が入れ替わっていることにも気付かないほど半狂乱になりながら叫ぶ土御門。
思わずお姫様抱っこして備え付けの布団にしまっちゃいそうになったが、すんでのところで抑えた。
やがて落ち着いた土御門はクールに戻って、
「それで、どうしたぜよ? 何かあったか?」
「はい。ごはん……どうしますか?」
舞は上目遣いで聞いてきた。
そんな舞をおいしくいただきたい。
いやいや。
よく考えたら、起きてから何も口に入れていない気がする。そしてそれを意識した瞬間、急激に腹が空腹感を訴え出した。
舞は料理ができるらしいので是非とも作って欲しいものだが、これから買い物に行って、帰って作ったとすると、まあどれだけ小さく見積もっても一時間以上はかかる。それに、新しいキッチン周りの環境で万全に料理ができるとは言えないだろう。正直、今すぐにでも腹に何かを入れたいのだ。
土御門は心の中で言い訳を並べながら、
「んー、今日は外で済ませるか」
「そうですか……」
適当に言いながら、土御門は貰ったスマートフォンで周辺の飲食店を検索する。幸い、徒歩で10分程度の位置にファミレスがあるらしい。
行き着いたレストランは、どこにでもあるような普通のファミレスだった。菫が変な料理を作っていたので少し不安だったが、どうやら食文化は日本そのままであるようだ。
金はしばらく暮らす分ぐらいはある。家具は備え付けてあったので、出費に悩むことはあまりない。
「何が食べたい?」
「では、お肉を」
凄くアバウトだった。
もちろんメニューには『お肉』なんて料理はない。さすがは肉食動物の因子ということか。
適当にハンバーグセットを頼んでやる。
食事の傍ら、土御門は今後について考える。
まず、金の問題はなんとかなった。衣食住も問題無い。この世界で最低限生活していくための要素は満たしている。
しかし、なにも土御門はこの世界で暮らして行きたい訳ではないのだ。
(……なんとかして、学園都市に帰る手段を手に入れなきゃならない)
死ぬことによってこの世界に来たのか。或いは全く別の理由か。
しかし、土御門は基本的に死後の世界を信じていない。
彼とてイギリス清教の人間だ。根底となるキリスト教の概要は知っている。とはいえ、所属はしているものの生まれは日本。扱う魔術も、陰陽道を利用したものだ。有り体に言えば、彼は宗教にそこまで執着を抱いていないのである。
ともかく、学園都市に繋がる手がかりを得るには、この世界のことをよく調べる必要がある。
そのために、IP序列を上げていく。高位序列者には機密情報がアンロックされるという話だ。
序列を上げるには何が必要か。
基本的には、戦果を挙げればいい。
つまり、ガストレアの撃破。
あの怪物と再び相対するのかと思うと、ガストレアへ不慣れな土御門はぞっとする。
そして、ガストレアを倒すには、やはり武器が必要だ。
土御門は魔術師であり、学園都市の能力者でもある。
魔術とは『才能のない人間が、才能のある人間に追いつくための技術』であり、才能のある人間とは、簡単に言えば能力者だ。厳密には、学園都市で開発された能力者ではなく、生まれ持った不可思議な力を持つ者を指している。これは俗に『原石』と呼ばれ学園都市内外問わず研究されていたが、詳しいことはわかっていない。
『才能のない人間が才能のある人間に追いつくための技術』を、才能のある人間が持つことは一つの矛盾だ。よってどういうわけか、能力者の魔術使用には反動が生じる。土御門の持つ能力は『レベル0』の『肉体再生《オートリバース》』という中途半端な才能であるため、少し無理をすれば魔術は何度か使える。しかし、魔術師のように連続して使うような戦闘スタイルを行えば、待っているのは死だ。
(とにもかくにも、魔術に代わる武器が必要だな)
世界では一般的に、ガストレアの再生能力を阻害する金属であるバラニウムを用いた刀剣や鈍器、弾丸を武器とするらしい。土御門は基本的に体術、場合によっては銃器を用いることが多いので、その戦術に合わせた武具が必要になってくる。
そこまで思考を巡らせたところで、かちゃん、と目の前で音がした。
「ご馳走様でした。お兄さま」
舞が飯を終えたようなので、急いで掻き込む。
こっちに来てからまだ日も浅いというのに、いろんなことがありすぎた。
体もゆっくり休めたい。
ああ、こういう日は舞夏にマッサージをして欲しいものだが。いないのは仕方が無いな。
いや。今は舞がいる。
土御門はちらりと舞を見た。
「……? なんですか、お兄さま?」
と、舞もこちらを見ていたらしい。
しかし、何故だかわからないが、義妹に似ているだけあって、舞は可愛い。
舞夏の誰にでも気さくな話し方もいいが、舞の敬語も中々である。
敬語妹というやつだ。
「や、なんでもないぜい。帰るか、舞」
「……あの、お兄さま」
「ん?」
「じつは、欲しいものがあります」
もうちょっとあるんですが眠気がすごいんで誤爆しないうちに寝ます。
明日早ければ朝、遅くても昼頃には予定していた部分まで投下。
欲しいもの。
舞が欲しいものとは、女児用の生活用品だった。
流石に初潮はまだのようだが、いろいと気を遣うものがあるらしい。ついでに風呂で使うシャンプーその他や歯磨き関係のものも買っておいた。
学園都市にいたころは舞夏も勝手にやっていたことなので、気が回らなかった。
そういえば、服なんかもあまり持っていないのだろう。かくいう土御門も、蓮太郎が貸してくれた私服と、最後に学園都市に居た時に着ていたアロハととある高校の制服しか持っていない。
それらも買って帰ることにする。
といっても、じっくり吟味するほどの元気はない。
早く帰りたい。
というわけで、適当に自分で気に入ったものと、舞にも少し時間を与えて選ばせ、数十分で店を出る。
立て続けに出費しているが、生活の初期費用の範囲だろう。
さて、いよいよ帰って……と考えたところで、何やら騒ぎが聞こえてきた。
成人を過ぎた男の声と、明らかに幼い少女の声だ。
「なんだ……?」
顔をしかめながらそっぽを向いている舞に気付かないまま、土御門はそれに近付いた。
近付いてしまった。
「……ッ」
そこにはちょっとした人だかりができていた。
中央に居るのは少女だった。ボロボロの汚れた服を見にまとい、日焼けした肌と、時たま青ざめている痣が見える。ボサボサの栗毛、そして怪物を想起させる真紅の瞳。
呪われた子供たち。
ぎゅっ、と手を繋いでいる舞の力が強くなった気がした。
「オラ、さっさと起きろよバケモノ。聞いてんのか?」
さっきは少女の声も聞こえたが、今は黙りこくっているらしい。片手に手錠を繋がれた彼女はぺたりと座り、連行に対抗的な姿勢を務めていた。
世間において呪われた子供たちがどういう目で見られているのか、知らない土御門ではない。
理性的で賢い土御門は、呪われた子供たちとガストレアが別の存在であると考えることができる人間だ。
この世界にはガストレア戦争を経験した『奪われた世代』とその後に生まれた『無垢な世代』とに人を分けることがあるが、土御門は事実上そのどちらにも含まれていないのだから。
「チッ。立てっつってんだよ!」
手錠を繋ぐ男、恐らく警官は、集まってきた人達を面倒臭そうに見遣ると、少女の片腕を掴んで無理矢理引きずるようにパトカーのほうへ連れて行った。
いくら犯罪を犯した者だからといっても、乱暴に扱っていいはずはないのに。
ここで動くことはできる。
土御門なら、警察をものの数秒で無力化し、目撃者を消すことも容易だろう。
しかし、やってもいいことと、やってはいけないことがある。
手錠に繋がれた彼女を助けるというのは、つまり犯罪者に加担するということだ。
学園都市には街の中を隈なく探索・情報収集できる超小型ナノマシン『滞空回線《アンダーライン》』という代物が存在するが、たぶんこの街にはそんなハイテクマシンは存在しないだろう。
そして恐らく、ここで行動を起こすと、自分はきっと後悔する。
そんな考えが土御門にはあった。
「……、」
胸糞の悪い気分に苛まれながらも、土御門は踵を返した。舞の手を引いて、強引に帰路につく。
街中のビルに映る巨大パネルでは、ガストレア新法に関するニュースが流れていた。
呪われた子供たちに人権を与えようという、聖天子様が考案した法律だ。
しかし、あの様子を見る限り、その実現は遠いだろうと土御門は思った。
そして、適当にパネルを流し見て視線を前に戻すと、土御門の全身が緊張した。
「お前は……」
「やあ。名前も知らない民警クン。確か君は里見くんと同じ会社の民警だったね」
「蛭子影胤……!」
趣味の悪い奇抜な拳銃を指で器用に回しながら、仮面にシルクハットの男が眼前に立っていた。
こんにちは。
投下分7割ほどできたので、多分明日の夜ぐらいには投下できるかと思います。
量はあんまりないと思います。戦闘+αくらい。
そして、応援レス他ありがとうございます。
どうも。
ミスで一部会話シーンのデータが吹っ飛んでしまったので、ちょっと書き直します…
恐らく明日になると思います。
こんばんは。
早速投下します。
蛭子影胤。
依頼……『七星の遺産』回収任務の競争相手。
事実上、勝利すれば依頼の難易度を大幅に下げることができる相手。
影胤の表情はその白い仮面で伺えないが、きっと薄ら笑いでも浮かべていることだろう。
奇抜な銃を振り回す猟奇的な印象とは違って、彼の立ち振る舞いは不気味なほどに冷静に思えた。
「白昼堂々と、危ないものを振り回すな」
土御門は適当に吐き捨てる。すると影胤は小さくヒヒ、と笑い、人差し指を軸に回転させていた右手の拳銃をしっかりと握った。
「実は君を探していたんだ。里見くんの居場所を教えてもらいたくてね」
「サトやんに何の用だ」
「大したことではないが、君に言うことでもない」
どうやら本題は教えてくれないらしい。
ついでに、里見蓮太郎の居場所を話さないと撃たれるらしい。
土御門はサングラスの下で眼球を動かし周囲を見渡す。辺りには買い物袋を提げた主婦や顔に汗を浮かべながら忙しそうに営業に走るサラリーマンがわんさかと居た。
心の中で舌打ちしつつ、土御門はポケットの中から紙切れを取り出し、ため息混じりにこう呟く。
「T P I M I M S P F T(これよりこの場は我が隠所と化す)」
紙切れには、『Opila』とあった。
人払いという魔術が存在する。
『無意識的に他者をこの場から離れさせる』。これは風水の理論を応用したもので、『居心地の悪い場所』を意図的に作り、人が『居心地のいい場所』へ無意識的に流れることを利用してその場から他人を遠ざけるという、非常にポピュラーな魔術だ。
詠唱が終わると、ブチリ、という音が土御門の体の中で響いた。どこかの血管が『能力者が魔術を使用した反動』として破裂したのだろう。
そしてそれを合図に、周りの人の流れががらりと変わり出す。
土御門と蛭子影胤。二人を中心に半径で4,50メートルほどの円形に、人が寄り付かなくなった。
「サトやんの居場所の情報を手にいれるか、無理なら人質に取るなり殺すなりしてエサにするか。お前にとっては一石二鳥だったんだろうが、イニシエーターを連れていないのは油断のしすぎだな」
土御門はズキリと身体の芯を貫くような痛みを全く表情に出さずに言った。
彼はイニシエーターの戦闘能力を話でしか知らない。
が、少なくとも話に聞く限りでは、生半可な戦い方で勝利を得られるようなものでもないだろう。
そして何より、幼い少女に手をかけることに躊躇してしまうだろう。
彼は傍にいる舞と繋いでいた手を離すと、下がっていろとジェスチャーを送った。とたとた走って路地に向かう舞を、斜め前に存在する鏡貼りのビル越しに確認すると、土御門も静かに息を整える。
「なるほど。そううまく話は進まないか。しかし、出来るのかね?
君に、この私を、倒すことが」
「やってみなきゃわからないぜい?」
蛭子影胤は容赦無く発砲した。間髪いれず、左手に隠し持っていた二丁目の拳銃も発砲。しかしその初動を読んでいた土御門は、既に斜め前に踏み込んでいた。
(理屈はわからないが、例のバリアがある以上、こいつに物理攻撃は効かない。となると体術も意味がないか)
二発目を回避するのは至難の技だ。
土御門はフェイントのように素早く体を揺さぶりながら距離を詰める。
パン!と乾いた音が響き、顔の左を紙一重に過ぎ去って行った銃弾に思わず冷や汗が湧き出た。
しかし三度目はない。二発目さえ避けてしまえればもうあと数歩で彼我の距離はゼロになる。
アタリを外した蛭子影胤は、体操選手の締めポーズのように手を広げて吠えるように言った。
「マキシマム・ペイン!」
次の瞬間。
空気が。
爆ぜた。
「ぁぐッ!?」
声にならない呻き声が思わず漏れ、天と地が逆転した。
眼前いっぱいに広がる赤い空に気付き、自分が吹き飛ばされたと認識するのに、五秒。
「どうかね、イマジナリー・ギミックの味は」
衝撃の正体は攻撃転用された斥力フィールドだった。
全身がフルマラソン走破後のように重かった。たった一瞬で少なくともそれだけのダメージが蓄積されたのだと気づくのに、更に五秒を要した。
「ぐ、かは」
なんとか呼吸をしようと、口内に溜まった血を吐き出す。魔術を行使した際のものだけではない。今の攻撃が、吐血させるほどの威力を内包していたのだ。
視界を巡らせると、建物の影から、今にも飛び出しそうなほど影胤を赤目で睨む舞に気付いた。
右手からは真っ白な鋭い爪のようなものが辛うじて見える。あれが舞のイニシエーターとしての力だろうか。
(まず、い……!)
「さて、では目標の一つを達成するとしよう」
次の一撃で、土御門は意識を手放すことになるか、最悪の場合死に至るだろう。
五臓六腑を駆け巡った衝撃は今も痛みとして続いている。
そんな恐怖の前に舞を立たせるわけにはいかない。
そんな苦痛を、舞に味わわせるわけにはいかない。
「マキシマム・ペイン」
衝撃が来る。
アスファルトとコンクリートを引き剥がし、ビルの窓ガラスを破砕する一撃が。
土御門はまず、体を起こすことを諦めた。
彼はただ、右手を動かすことに全力を尽くす。
衣服に仕込んだ赤い折鶴を取り出し、ただこう詠唱する。
「全テヲ始メシ合図ヲ此処ニ!眩キ光ト鋭キ音ト共ニ!(へいわボケしたクソッたれども!しにたくなければめをさませ!)」
精製された魔力の奔流があった。
吸い出された量は微量だが、それは拷問に等しい痛みと実感を持って土御門を襲った。
土御門は苦痛に耐えながら、その『儀式』を完成させる。
結界破壊。
斥力フィールドを結界魔術に見たて、それを破壊するための魔術。
物理攻撃を無効化するからといって、魔術が効く保証なんてどこにもない。
つまりは、一種の賭けだ。
しかし、土御門はその賭けに勝った。
「何……?」
不可視の衝撃波は、倒れている土御門に触れるかというところまで広がると、透明のガラスが割れたかのように中空にヒビが入って霧散したのだ。
土御門は倒れたままニヤリと笑う。
「……どうやら、そのバリアはオレのチカラで破れるようだな」
「馬鹿な……ッ!」
土御門は肉体再生で最低限回復した体に鞭を打って起きあがりながら、余裕の表情を作って見せた。
「続けるか? 言っておくが、オレの手札はまだまだあるぞ」
「……なるほど。ノーマークだったが君も彼と同じ匂いをしているね」
影胤は顎に手を当てて数瞬の間思案すると、踵を返しながら言った。
「今日は引き返すが、また会うことになるだろう」
案の定、蛭子影胤は立ち去った。
立ち去ってくれた。
「……ふう」
息をつき、土御門は崩れるように座り込む。本音を言えば、彼に戦闘を続けるのは不可能だった。
思わぬところで戦闘になってしまったが、しかし大きな収穫があった。
この世界でも、魔術は効果があるのだ。
対魔術用の結界、それも、精々中級クラスの結界を破るための『結界破壊』が、魔術ではない影胤の斥力フィールドに効いた理屈はわからない。
しかし、確かに効果はあった。
土御門が興奮した体を冷やしていると、とてとてと舞がすぐ近くまで寄ってきた。
「舞……ケガは?」
「ありません。あったとしても、もう回復しています」
例の衝撃波は全方位に渡っていたが、流石に距離が離れていればかなり減退するらしい。
「……そういや、ガストレアとか呪われた子供たちってのは、自己回復の能力があったんだっけにゃー」
土御門は適当に言いながら立ち上がろうとするが、ふらっと倒れかける。舞が慌てて彼の腰に手を伸ばして支えてくれた。
支えられたことに内心ぎょっとしながら、土御門は「悪い悪い」と笑って体の不調を誤魔化す。バレてはいるだろうが、詳しく話すのは家の中でいいだろう。
東京エリアから多くの民警に依頼された『ケースの回収任務』。
蛭子影胤も行動しているようだが、自分一人が慌てたところで意味はないだろう。
賞金は欲しくないわけではないが、こちらに来てから金に困ったことはない。
少なくとも、菫に学園都市の全てを話せば、数十年暮らせる額が手に入ることだろう。
この世界で、学園都市の科学、そして魔術は一種の知的財産と言っていい。
みだりに喋り回っては自分が不利益になる。
菫や蓮太郎は信用できるが、無条件に信用できる善人ばかりがいるわけでもない。むしろ悪意を隠して、金だの名誉だのを目的に利潤を横取りしようとする連中のほうがわんさか居る。
この世界にヒーローはいない。
解決困難な事件を無事に解決に導いてくれる安全地帯は存在しない。
ここにきて。
裏方に徹していた土御門は初めて、本当の意味で自らが『表』に、役者に抜擢されてしまったことを認識する。
投下は以上です。
これでようやく三章突入くらいですかね。早く禁書キャラ出したい…
季節の変わり目に弱く、ちょっと厄介な風邪をひいております。
とりあえず生存報告です。
しばしお待ちを
一月以上待たせて申し訳ないです!
引越しをしてようやくネット環境ひっぱってきました。その間に昔考えてた別作品のプロットのメモを偶然見つけてアナログな方法で文に起こしたりして過ごしてましたが、近々続きを投下させていただきたいと思います。
もう一つ書いてたほうもスレ立て次第投下したいなと思います。垣根帝督のお話です。
ちょっと別スレばっかりやってました。
最近はこっちも筆が乗ってきてます。
水曜日ぐらいを目処に書いて行きますので、よろしくお願いします
今日あげるのは厳しそうです。
なるべく急いで書き上げます。
まずい、今度書こうを繰り返していたらもう二ヶ月が迫っている。
期限を設けても恐らくあんまり筆が乗らないので、申し訳ないですが今しばらくお待ちを。
こんにちは。生存報告しておきます。
スレ建ってから半年以上経過してるのに禁書勢がまだ息してないですが、何名か登場はするのでもうちょっとだけお待ちください。もうちょっとだけ!
戦闘の有り無しで悩んだりとか資料探しとかでただでさえ少ない削り取られてます。
書いてないですが、ケジメをつけに行った時には元の格好に戻っています。
こんばんは。ブラブレ新刊まだですか(白目)
遅筆な私が言えたことではないですが。
4月中に最低でも一回は投下したいと思います。
保守等レスありがとうございます。
多分、明後日日曜に投下します
たぶん10時ぐらいになります
ふかふかなベッドの上で朝を迎える。
天使のような、いや正しく天使そのものと言えるほどの愛らしさで眠る舞を起こさぬように、静かにベッドから抜けた。
全身のダルさなんて一瞬で回復してしまう。
ベッド脇の小棚の上に置いてある青がかったサングラスをかけ、ぐうっと体を伸ばす。
自分の体をぺたぺた触りながら、土御門は一人呟いた。
「……治ってる、か」
『肉体再生』の強度が上がっている。
前々からふと感じていたが、土御門は今確信した。
ここに来てから、あまりにも短時間に魔術を何度も行使している。
にも関わらず、こうして専門の治療もなしに生きながらえている訳は、ひとえに彼の持つ能力によるものとみて間違いないだろう。
彼の能力の強度はレベル0だった。
本来なら、破れた血管に膜を張り応急処置する程度しかできないはずである。元来人間が持つ治癒能力と併用させれば一般人より回復は早いが、かといってここまで短時間なケースは、今までなかった。
原因はわからない。この世界には、肉眼では捉えられないAIM拡散力場を観測する装置がないからだ。『そっち関係』の異常は、さして専門家でもない土御門には推測しかねる。
(さて)
土御門は洗面所に移動し、顔を洗いながら思案する。
やるべきことは大きく分ければ二つというところか。
一つは、蛭子影胤の捜索、ならびに撃破。
これについては、昨日面白いヒントを得たので希望はある。といっても、最低一回以上の魔術使用が前提であるため、また体のどこかに痛みを抱えることになるだろう。
二つ目は、学園都市への帰還。目下の最終目標だ。
ガストレアに支配されたこの世界は、あまりにも生きづらい。欲を言えばこの世界全体の問題をどうにかしたいが、恐らく土御門元春一人の力ではどうにもならない。なら、この世界と元いた世界を繋ぐ術を見つければ、こちらで出来た知り合いぐらいは助けることができるはずだ。
「問題は、そっちの手がかりがないことだが……」
タオルで顔を拭って、跳ねた毛を温水で濡らす。ドライヤーで軽く乾かしたあと、ヘアワックスで全体的に調整。
そこに軽くヘアスプレーをかけて固め、再びドライヤーで完全に乾燥させる。
現状の確認は済んだ。
その中で、優先事項はやはり蛭子影胤の撃破だろう。放っておけば、学園都市への帰還方法を見つけるなんて言ってる場合ではなくなる。その間に世界が滅んでしまう。
といっても、魔術一辺倒で攻撃を仕掛けて倒せる相手でもない。そもそも、連発すれば最悪死ぬのはこちらなのだから。
となると必要なのは一つ。
「あんまり世話になるのも考えものだがにゃー……」
そう考えたのも何度目だろうかと思いつつ、土御門は舞を起こして身支度を始める。
今日の出かけ先も、菫の研究室だ。
「なるほど。それで武器が欲しい、と」
研究室についてすぐに、昨日のことを話した。
魔術による『斥力フィールド』の相殺は可能。
しかし、そこから追撃を行うには、攻撃魔術という選択は些かリスクが高い。
どうやらこちらの世界では能力の強度が少々上がっているらしく傷ができるのはさして問題ない。
しかし、負荷のあまり即死、という事例も、学園都市の闇の歴史に残っている紛れもない事実なのだ。
持ってきた拳銃もあるが、この世界では殺傷力に欠ける。
接近して体術を仕掛けるには、再展開される可能性が捨てきれない。
となれば、やはりこちらの世界での基準を満たしたものが必要だろう。
「単純にガストレアに対処するって意味でも必要だ。つまり……」
「必要なのは、バラニウム弾というわけか」
土御門は首肯する。
「確かに、これは私の落ち度かな。民警でありながらバラニウム製の武器一つ持たないというのはやりづらいだろう。
幸い、弾丸の供給元は手近にいる。こちらから手配しておくよ」
「助かるにゃー」
土御門は舞を撫でながらほっとする。何百何千と壁の外に蔓延るガストレアを相手に、いちいち魔術で対抗するなど体がもたないだろう。
「ああ、そうだな。どうせこれから世話になるのだし、君が顔を出した方が何かと都合がいいかもしれない。一筆書いておくから、令嬢の娘……司馬美織嬢に渡してくれ」
デスクの上から適当なメモ用紙をひったくり、そんなんでいいのかと内心思いながら何から何まで頭が上がらない土御門。
ペンを走らせる様子をじっと見ていると、菫は何やら話し始めた。
「なあ土御門くん。ガストレアはなぜ発生したんだと思う? 10年前、同時多発的に。
時を同じくしてガストレアの再生能力を阻害できる金属なんてものが見つかり、
更に、ガストレアウィルスとその抑制因子を身に宿す『呪われた子供たち』なんてものも出現した……」
「……?」
言われてみると、確かに出来すぎた話ではある。
土御門は黙って菫の言葉を聞いた。
「日本は言うまでもなく対ガストレアという声で溢れているが、海外では彼らガストレアを神聖視している宗教団体も存在している始末だ」
「……ヒトが神を崇める理由なんてそれこそ無限大だ。世界の真理を追う者、貧困から救われたい者。夢を叶えがたいために何かに縋る者。オレたちには到底理解できない領域だよ。他人のことなんて」
彼も彼で、陰陽道のスペシャリストである。
その心の内に信仰心があるのかはわからないが、若くして陰陽博士とまで呼ばれた天才をもってしても、別の概念を理解できるわけではない。
「……そうか。そうだね」
菫は書き上がった紙切れを二つに折ると、二本の指で挟んで土御門のほうへ突き出す。面食らいながらも受け取り、礼を言う。
紙切れの裏には地図が書かれていた。かなり緻密に書かれているのだが、はっきり言って地名がどうとか言われてもわからない。
「舞、わかるか?」
紙切れを見せると、舞は少し困った顔をして言った。
「……わかりません」
……流石に子供に道を尋ねるのはみっともないか。
「ああ、前に渡した携帯があるだろう。アレにもマップ機能がついていたはずだ。地名を入力すればナビもできる」
「重ね重ね、恩に着るぜよ」
「それは言わない約束だよ。私も正当な報酬を得るんだからね」
司馬重工のビルに辿り着いた。
歩きなのでなかなか時間がかかってしまった。
アポなしだが、今は菫の名を借りさせていただこう。正直彼女の名がどこまで通用するのかは知らないが、通してくれると信じたい。
「すまない、司馬美織嬢に会わせていただきたいのだが」
受付で菫が一筆書いたという紙切れを渡すと、受付嬢に困った顔をされた。奥の部屋に引っ込み内線でどこかに電話をかけ、しばらくしてせわしなく戻ってくる。
「申し訳ありませんが、お嬢様はただいま学校に登校しておられます」
……ああ。
確かに今日は平日だった。
慣れというのは恐ろしいもので、たった数日でこの日常がインプットされてしまっているようだ。
「あと5時間ほどはかかると思われます。どうぞ、中でお過ごしください」
いいながら、見学中とかかれた首下げを渡された。
「食堂は有料で使用できますので」
特に聞いてもいないのにそんなことを言われた。
舞も何を急にと思ったのか、きょとんとしている。
壁にかかっている高そうな木製の時計を見ると、既に短針は頂点の12を過ぎていた。
暇潰しがてら、昼食を取るとしよう。
「なら、世話になるかにゃー」
とりあえず笑顔で返しつつ、舞の手を掴んで食堂とやらに向かうことにした。
恐らく社員食堂なのだろう、規則正しくずらりと並んだひたすら横に長いテーブルが五本あり、ちらほらとスーツを着た男女が利用している。
場違い感が凄かったが、今更腹の虫にあと10分待てというのも酷だ。
土御門は適当に窓際を陣取ると、日替わりの定食に決め、舞に問いかける。
「何がいい?」
「お腹、すいてません」
(ん?……先生のとこで何か貰ってたっけか)
それならちょっと退屈なことをさせてしまった。
「んー、そうか。遠慮しなくていいから、腹減ったらいつでも言うといいぜよ」
舞はこくりと頷く。
食券を買い、結局食事は土御門一人で摂った。
中身は野菜4割、揚げ物3割、米3割の、無難な定食だ。可も不可もなく、平凡な味だった。
値段相応といったところだろう。
その後は、適当に施設内を見学することにした。
蛭子影胤の件は無視できない案件だが、今の自分にはどうすることもできない。それに、数百人の民警が虱潰しに探している状態だ。まだ慣れていない土御門一人が抜けたところで、と彼は言い訳のように心の中で繰り返す。
司馬重工のビルは、街の中でも結構目立つ大きさをしている。
なんでも、司馬重工は世界に名を轟かす兵器産業の大企業であるらしい(同社著パンフレットより)。
技術レベルは学園都市並とはいかないが、それでも人類種の天敵を相手取るにあたって必然的に進歩したのだろう、少なくとも学園都市の外には負けないぐらいだ。
特にバラニウムを利用した武器の発展は目覚ましい。弾丸、剣、槍、靴など、イニシエーターやプロモーターの要望はなんでも作っているという感じだ。もちろん、一部は生産数が少ないので値段もそれ相応。世界の脅威と戦っているのに、生きづらい職業だな、と土御門は他人事に思っていた。
「戦車にバラニウムの砲弾を積んだ方が効率いいんじゃないのかにゃー? ……いや、砲それ自体の火力よりも、ガストレアはバラニウムの磁場で弱らせることができる。なら下手に砲弾にしてしまうより、剣や槍みたいな固形のものにしてしまうほうが……」
展示されている武器を眺めつつぶつぶつと喋る土御門の傍らで、舞は無感情に土御門の手を握ってどこかを見ていた。
10歳前後にしては表情の起伏に乏しいが、菫曰く特別珍しい訳でもないようだ。彼には10歳ぐらいの女の子の知り合いなんて居なかった(ほんとは100人ぐらい欲しかった)ので、何が普通で何がおかしいのか、判断しかねる。
(……少なくとも、小学生の女の子に武器を見せても喜んだりはしねえよな)
「舞、歩き疲れたろ。食堂でジュースでも飲んで休憩するぜよ」
舞はこくりと頷くと、土御門を引っ張って元来た道を先導しだした。
(やっぱ退屈だよにゃー)
そんなこんなでなんとか暇を潰し、17時頃になった。
どうやって合流しようかと受付付近で挙動不審にしていると、突然女子高生が話しかけてきた。
「あら、あなた……」
顔を見たことがあるわけではない。しかし、一目でわかった。
「司馬美織……さんであってるのかにゃー?」
「いらっしゃい。話は聞いとるよ」
どこか安堵した表情で柔和な笑みを浮かべながら言ったのは、和服に身を包んだ少女だった。
司馬美織。ご令嬢自らとは恐縮するばかりだが、彼女は土御門を客人ではなく取引相手と睨んでいるのだろう。
(話は聞いている、ね。こっちの都合は大体お見通しというわけか)
最初から『科学の最先端』という情報を知られているのと、後から知られるのでは、やはり違うものだ。
これは土御門の持論だが、情報には鮮度がある。
情報は他人が知る(日が経つ)ことによって鮮度が落ちてゆく。
高い鮮度の情報は、事前に相手の興味関心を昂らせることで、より価値あるものへ昇華させられるのだ。それはハードルと言い換えることもできるだろう。
この時点で、科学や魔術という情報を使った有利な取引は難しくなった。
「耳が早いな。オレは土御門元春。以後よろしく頼むぜよ」
「ウチは司馬美織。好きなように呼んでええで。あ、でもファーストネームは里見ちゃん専用やからそこんとこよろしゅう。して、今日は何用なんや?」
どうやら蓮太郎を知っているらしい。というか、ゾッコンらしい。
扇子に和服がやけに似合っている美織は、土御門を上から下まで見遣りながら言った。
品定めでもしているのだろうか。
「取引……といいたいところだが。オレはそちらの、『司馬重工』の技術を知らない。オレが欲しいものを作れるかどうか、確信が欲しいにゃー」
「……へぇ」
あくまで。
微笑みを浮かべながら、司馬未織は呟く。
「土御門ちゃん。民警というからには、戦闘経験はもちろんあるんやんな?」
なにかと思えば、突拍子もない質問だった。
土御門は首を傾げながらも、一つ頷く。
「あるが……それが?」
「それじゃ、いっちょ見せてもらおかな。あんたの戦いぶりを」
「……?」
どこか意味深な口ぶりをする未織の言葉に戸惑うが、その後、意味が理解できた。
ビルの中を進むこと数分。エレベーターで地下へ潜ると、そこには巨大なガラス張りの部屋が広がっていた。
なにかの実験施設のようだった。ガラスを隔てた先は果てしなく広大な空間が広がっており、こちら側にはびっしりと配線された特殊な機材がいくつも置かれていた。
「ここは?」
「ウチの自慢の戦闘用シミュレーション・ルームや」
なるほど。
土御門は素直に関心した。
その表情を見て、未織は上機嫌に笑いながら続ける。
「発展した科学の都市出身ゆうことやから想像はついてるやろうけど、これは施設内部をヴァーチャルで処理するタイプのシミュレーション装置や。
中は特殊なゴムで出来てるから壊れる心配はいらん。思いっきり暴れてくれてええ。ほな、早速やけど」
美織は饒舌に語ると、満足して扉の方を指差す。扉は重金属製のようで、表面にはエマージェンシーだとかウォーニングとか横文字が走っている。
土御門は小さく息を整えながら、厳重にロックされた扉の前に立つ。未織が懐から取り出したカードがカードリーダーを通過すると、重低音を鳴らしながらひとりでに開いていく。
(……やってみるか)
シミュレーション、あるいは訓練というものは、人によって大きく効率が異なる。
有り体に言えば、その違いは受け止め方だ。或いは、没入度というべきか。
死の恐怖、或いは緊張感のない訓練に意味はない。そんなものはただの怠惰であり、ながら作業と変わらない。
意識を集中し、緊張し、没入することで、初めて訓練は練習となる。
『モーションリアリティ・プリズム・バトルシミュレータ Ver 9.89起動。情報カード読み取り完了。司馬美織改め、「土御門元春」をNo.10022に登録完了。初めまして土御門元春』
流暢に日本語を話す女性の機械合成音に唖然としながら、土御門は改めてこの世界の技術を認める。
眼前には『Hello,World』という文字が出現し、その周りを何かの模様がくるくると回転している。
気が付けば、そこは白に覆われた空間だった。
10分でも放置されれば、或いは目の前に英語の文字列がなければ気が狂ってしまいそうなほど、白が永遠の彼方まで続いている。頭上高くには辛うじて照明らしき異物が見える。
『「目標」は?』
天から響く未織の声に、冷静さを取り戻した土御門は答える。
「蛭子影胤……と言いたいところだが、データなんてないだろうからな。ヒト相手ならなんでもいい」
『了解。ほな、デフォルトデータを弄っておくで~』
未織が言うと、土御門の立っている世界が豹変する。白で包まれた空間は、一瞬でどこまでも奥行きのある森へと姿を変えた。
空間転移能力で転移したような感覚はなかった。
施設の背景を森として出力・投影するような技術を使ったのだろう。
周囲には木々が生い茂っているが、行動を害するほどではない。地面は土と芝生が少々、石ころはなく、転ぶ心配はなさそうだ。
そして、前方に微かに人影を見つける。
(……あれか)
『外っ側は人間。身体能力はイニシエーターと同等、で設定してある。痛覚再現度は? 最初やから、易しめのほうがええやろうけど』
「……いいや、100%で頼む」
言うと、目の前に薄い透明のウィンドウで警告文がポップアップされた。
要約すると、『死んでも責任は取れません』という話だ。
……いきなり話のレベルが飛躍した気がするが、ひとまず置いておく。
まあ、こんなので死ぬようじゃやっていられないということだ。
それに、現実と同じ感覚でやれるほうが訓練には好都合だ。彼我の距離はすでに五十メートルを切っている。その気になれば拳銃でも狙撃できる距離だ。
『じゃあ始めるで。武器は敵と同じ奴を用意しとくから、頑張ってや~』
自分に言い聞かせていると、目の前に拳銃が出現した。手に取ると、やはり現実と同じ質感、重みがある。
最後にふうと小さく息を吸い、土御門は一気に駆け出した。
パァン!! という乾いた破裂音が森林に響く。
足元に着弾し、土の塊が舞い上がった。土御門は大きく斜めに踏み込む。誤差修正された二発目は、やはり足を狙ってきている。
膝ぎりぎりを掠めた弾に冷や汗をかきながら、土御門は全速で接近する。距離は十メートルを切った。
土御門も右手の拳銃を構える。その銃口を迷いなくポイントする。
「……ッ」
発砲。
9ミリのバラニウム弾が真っ直ぐと飛翔する。対ガストレアに有効とされるバラニウムだが、その本質は金属だ。鉛より剛性がある分、下手な銃弾よりも破壊性は高い。
標的は体を捻って簡単に回避すると、驚くことに飛び蹴りをかましてきた。五メートルを一瞬で詰め、脳天を狙う爪先。
対する土御門は迎撃を選んだ。斜め下からの鋭い手刀で足の角度をさらに上げてやる。そして顔の上に逸れ、無防備に晒された股間を蹴り上げる。
だが。
(嘘だろ……!)
普通なら悶え苦しむはずだが、特にダメージを受けている様子はなかった。
標的は足を下げると、続いて握り拳をハンマーのように振り下ろしてきた。
「ッ!」
掌底を叩きつけて正面から迎撃するが、土御門の左手に感電した時のような痛みが走った。見かけによらずかなりのパワーが込められている。
土御門は痛みを無視し、左手を平手にして標的の耳に打ち付けた。確実に鼓膜を破り、耳から血が噴き出る。しかし致命傷ではない。
『死突殺断』と名付けられた戦闘技術体系。あらゆる格闘技から反則技をかき集めた土御門の我流技術。
拳銃での攻撃を狙う標的に対して、同じくこちらも拳銃を手刀のようにして叩きつける。取り落としたのを見計らい、膝蹴りをかましつつ左手の二指を突き出す。眼球を抉る。更に頭突きをお見舞いして鼻も潰した。
拳銃を手放すと、宙ぶらりんとなっている両手を掴み、一回転してぶん投げ樹木に叩きつける。
大きな木に激突し、顔面が血だらけにした標的は、しかし攻撃をやめなかった。
急に動きが変わった。
背後の木を蹴って鋭く踏み込み、体重を載せた右ストレート。目は潰したはずだが精度が良い。恐らく部位破壊に意味はないのだ。
土御門は交わそうとするが、頬骨を掠った。直撃ではないものの、激痛が走る。
「チッ……!」
『随分やれるようやから、ちょこっとレベルをあげさせてもらったで』
そんなのありかよ! と心の中で叫ぶが、しかし一方的な試合だったのは間違いない。体術だけで勝てるなら、その辺のチンピラと喧嘩しているのと変わりないのだから。
当たりを得た標的はさらに膝蹴りを繰り出す。これをすんでのところで交わすが、次の瞬間アクロバティックに空中で前周りしつつ足を振り下ろしてきた。
回避を諦め、防御。両手を眼前でクロスし、顔への直撃は避ける。更に次のアクションに入る標的。だが──、
(遅かったな)
クロスされた片手には、青の折鶴が握られている。
土御門は叫んだ。
「青ハ木ノ象徴! 木ト水ヲ以テ憎キ者ノ自由ヲ奪エ(デクのボウども、ヤツらのネクビをカいてやれ)!!」
直後、足を降ろした標的の直下に泥沼が発生した。
土御門も反動として右手の血管が破裂する。肌の内側を一瞬で青く染める内出血だ。
それら激痛に顔を歪めながらも、足元を取られ体勢を崩す標的の片手を掴む。内側に捻って肘方向から思い切り拳を叩きつける。簡単に関節の制約を超えて折れた腕をさらに引っ張り、首元の動脈に喰らい付いた。
血が吹き出し、土御門の顔が返り血に染まる。やがて標的は力を失って、沼の中に倒れた。
しばらくすると、ファンファーレが鳴った。『Mission Complete』というポップアップを合成機械音声が流暢に読み上げる。
どうやら勝利判定が出たらしい。
森が消失し白い世界に戻ると、美織の声がどこからか響いた。
『想像以上や! ええで、取引や。あんたの望み、ウチが叶えたるで!』
「……ふう」
それを聞いてようやく、一息を吐く。油断していれば大ダメージを受けていたかもしれないが、どうやら切り抜けられたらしい。
さて。
第一関門は突破。
本番はこれからだ。
ということで、今日のところは投下終了です。
この山さえ越えてしまえば一巻の決戦入れる……と思いながら細細と書き進め、非常に長い間お待たせしてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいです。
青ノ式は登場どころか名前も出てないので完全にオリジナル魔術となります。
ご意見ご感想お待ちしております。
お久しぶりです。
明日か明後日ぐらいに再開します
土日ちょっと予定入ってゴタゴタしてました。明日、明日は必ず
もうじき一年経つのに一巻分すら終わっていないとは……
今日こそ投下します。今回と次回は説明回になりそうです。
今まで未織の名前が美織になってました。訂正します。
結局その日は時間も時間ということでお開きとなってしまった。
代わりに翌日の朝から呼び出しである。未織は学校を休むらしい。
そんな適当でいいのかと思う反面、土御門も経験があるため一概に文句を言える立場ではない。
まず、必要なものを列挙してみる。
9ミリ規格のバラニウム弾。
弾丸を紛失しても使えるように、バラニウム製のナイフ。
あとは、出来れば駆動鎧《パワードスーツ》のようなものも欲しいところだ。
その辺のことを掻い摘んで説明すると、司馬未織は兵器開発・研究者としての血が騒いだのか、もっと教えてくれとせがんできた。
二人は朝10時から会議室のようなところに入って、かれこれ数時間話し込んでいた。舞は暇そうにホワイトボードの隅に絵を描いている。
ちらりと覗いてみると、菫先生が作ってそうなゲテモノ料理の絵だった。
土御門は脳裏でなんでだよと思いながらも、未織に説明を続けた。
「『演算型・衝撃拡散性複合素材《カリキュレイト・フォートレス》』。少なくともオレの頭の中で、学園都市が誇る最大の防御機構だ。理論上じゃ核兵器も真正面から無力化できる」
核も効かない。
その言葉に未織は途端に怪訝な顔をした。恐らく胡散臭く感じたのだろう。なまじ兵器産業に精通しているだけはあり、そのフレーズの胡散臭さに自分でも苦笑してしまう。
土御門は記憶を頼りにポツポツと話す。
「こいつは見た目はただの装甲板だが、材質は特殊なゴムで出来ている。その防護性の本質は、単なる硬度や剛性じゃないんだ」
土御門はホワイトボードで図も交えながら説明した。
即ち、その防御機構の本質は、『演算型・衝撃拡散性』というだけあって演算にある。
「どれほど高性能なコンピュータを使っているのかは知らないが、とにかくこいつは馬鹿げたスピードで演算ができる。紫外線だの電磁波だのを飛ばして向かってくる衝撃波のパターンを観測し、ゴム製の装甲が“動いて”衝撃を相殺する」
なるほどなぁ、と未織が呟いた。その手があったか、とでも言いたげな顔だ。
「仮にどんな衝撃でも逃がせるとしたら、確かに凄い技術やね」
「できる。それが学園都市の先端技術だ。少なくとも、数年前から学園都市はあれを実装している。親玉の根城である『窓のないビル』にな」
未織が予想通り頭の上にハテナマークを浮かべたところで、土御門は説明を続ける。
「『窓のないビル』は、文字通り窓が存在しない。窓どころか扉もな。物資の搬出入は全て空間移動《テレポート》系能力者によって行われている。内部に独立した発電機構を持っているから、演算や装甲の稼働に必要なエネルギーも、中で全部賄っているわけだ」
実は耐熱耐薬品性能まで獲得している『窓のないビル』だが、そちらについては理屈がわからないので黙っておく。
「へえ、物凄い費用対効果なんやなぁ」
確かに、あの巨大な建造物全てをぐるりと覆う装甲を365日、二十四時間稼働し続けているのは凄いことだ。
「と言っても、弱点がない訳じゃない。装甲の演算はあくまで0と1で出来たプログラムに過ぎない。幾つかサンプルを取って、そこから『装甲板が逃がしきれない衝撃波のパターン』をスパコンで演算し、掘削機なんかに入力してやれば穴を開けられるだろうにゃー」
実際に、外から来たグレムリンのメンバーがそういう方法で傷をつけていた、という情報を小耳に挟んだ。
といっても流石は学園都市というべきか、装甲板の性能が勝っていたためかなりの時間を要したらしいが。
「しかし興味深いわぁ。土御門ちゃん、博識なんやね」
「別に。仕事柄そういう情報が勝手に集まっただけだ」
他にも色々と話した。ガトリングレールガン、六枚羽、パワードスーツに関することや、学園都市内で実装されている武器も。特に法律の内角低めを狙った吹き矢なんて興味深そうに聞いていた。
本来なら菫に話して対価を得るべきものなのだが、こうして未織に話したことで、この世界に大きく干渉してしまったと改めて思う。
「それはさておき」
一通り言い終わると、未織は一区切りした。備えつきのポットからインスタントコーヒーを沸かして淹れてくれるサービスまで。
訝しげにする土御門だが、未織は椅子に座り直すと、サングラス越しの土御門の目を見ながら切り出した。
「ずっと気になってた。話してくれるのを待ってたんやけど、その気がないならこっちから聞くわ」
「……?」
「昨日のアレ、なんなんや?」
???
土御門の脳内でハテナマークが広がる。
何の話だろうか。
昨日と言えば、シミュレータで模擬戦闘を行ったぐらいか。
「泥沼や」
「泥沼?」
「しらばっくれてもアカンで。あたしはこの目ではっきりと見たんやから」
話が噛み合わない。
と思った土御門だが、直後に未織の言いたい事に気付いた。
「……魔術か」
確かに、さっきのシミュレーション内で使った。
呟くように言って、直後にしまったと思った。
……と言っても、こちらについては菫はおろか、蓮太郎にも聞かれているので、今更だ。
「オレはさっき言ったとおり、学園都市──科学の街の出身だ。だが、その前、つまり学園都市に来る前は魔術結社の人間だった」
厳密には彼の所属する『必要悪の教会《ネセサリウス》』は魔術結社と一言で片付けていい存在ではないのだが、詳細な説明が面倒なのでそう言っておく。
しかし、こうまで一般人に言いふらしたのがバレたら、イギリス清教から追放されそうだ。追放で済んだらマシ、というレベルか。
「魔術……」
呟く未織の様子を伺いつつ、続ける。
「説明した通り学園都市は科学の街だ。科学をもって超能力を開発する世界唯一の機関。それとは別に、魔術サイドっていう別の枠組みが存在する。オレの立ち位置はその間にある」
スパイ、という言い方はやめた。一企業の娘を前にして不信感を煽るような物言いは流石にやめたほうがいいだろう。
魔術が誕生した経緯についても、これまた説明が面倒なので適当にでっちあげる。
「でもって、魔術ってのは簡単に言えば学園都市外の国々が、科学の超能力に対抗する為に産まれたものだ。オレはその両方に身を染めているが、科学を毛嫌いする魔術ってのは相性が悪い。
能力者でありながら魔術を使ったものは、体に甚大な負荷がかかる。だからオレにはあんまり使えないぜよ」
「それ、昨日のは大丈夫やったんか?」
「まあ、少しくらいなら問題ないにゃー」
即死の危険性は変わらないが、経験上滅多に起きない。経験上とは言っても経験した途端に命はないので飛躍してしまっているが、そう言い訳しておく。
今も右腕が少しダルいが、なに、この世界では肉体再生の強度が学園都市の時よりも上がっているようだ。一日経過したことで、裂けた内部の血管はほぼ完全に塞がっている。
これなら、ちょっと無理をするくらいなら問題はない。流石に連続使用はどうしてもという時以外控えるべきだが……。
ふと控えめに腹が鳴った。そういえばと会議室に幾つかある時計に目を向ける。時刻はいつの間にか午後二時を過ぎていた。
未織も視線に気付いたのか、
「もうこんな時間か。ご飯食べよか?」
「そうだな。腹が減ってきたところぜよ」
食堂へ移動する。
話を聞くに、先のガストレア戦争で有名な凄腕シェフもその多くが命を落としてしまったらしい。
戦後十年丸々料理の腕を鍛え続けてきたような人間も少なく、現状でこれが最大限の味だという。
まあ確かに、自分の舌は未だ学園都市で最適化された味付けを覚えている。
それと比べてしまうというのは酷な話だ。
土御門は日替わりのランチを頼み、未織は裏メニューなのか身内メニューなのか知らないが、やけに豪勢な料理を頼んでいた。
舞に聞いてみると、絵を見て腹が膨れているらしい。なんだその省エネ体質。もしかしたら、あんまり食に関心がないのかもしれない。こんなに細いし。
「舞~、たくさん食わなきゃ大きくなれないぜよ」
使い古された文句を投げかけてみると、渋々といった様子で、
「じゃあ……兄さまと同じで」
控えめな呟きを零した。
(……というか絵を見て腹一杯って……)
食堂のメニュー表に絵はない。
ということはやはりホワイトボードの隅の絵だろう。
さっき舞が落書きをしていた、いかにも菫先生が食べそうなゲテモノ料理。
案外舞は珍味好きなのかもしれない。
(いやいや)
土御門はぶんぶんと頭を振る。
(あの先生、ほんと何してくれてんだ……)
舞に変なものを食わせて味覚障害になった、なんてことになったら許さない。絶対にだ。
食事を済ませ会議室に戻る途中、電話があった。
社長だ。
天童民間警備会社社長、天童木更。通称ねーちん二号。
「もしもし?」
『もしもし、土御門くん? 実は──』
木更は言った。
昨日、『遺産』の確保に向かった蓮太郎が蛭子影胤と戦闘し、現在も意識不明であること。
心肺停止の状態だったが、手術で一命を取り留めていること。
未織にもそのことを伝えると、彼女は目に見えて狼狽しだした。
(つーかサトやん、こっちにも唾つけてやがったのか!!)
別に狙っていたとかそういうことはないのだが、こうも行く先々で出会う異性の意中の男性が偏っていると複雑な気分だ。
(いい。オレには舞がいる)
まあ、その話はいい。
木更は一度区切って、こう言った。
『これから、例の依頼を頼まれた民警で会議があるの。予定があったら悪いけど、今すぐ来てもらえないかしら。場所は前と同じ』
例の依頼。
『七星の遺産』の回収任務だ。
(サトやんは昨日影胤に負けた。ということは……)
『依頼について、改めて説明があるらしいわ。蛭子影胤に持ち去られた「七星の遺産」……その正体について』
次回は蓮太郎が寝ている間にあったという集会のお話です。たぶんそんなにかからない……はず
あと、地の文読みにくいようだったら教えてくれたら嬉しいです。
そんなにかからない(大嘘)
すみませんお久しぶりです。投下します。
『みなさん、お集まり頂きありがとうございます』
特大ディスプレイに映る少女は、申し訳なさそうにお辞儀をした。
聖天子。
この東京エリアの、簡単に言えば総理大臣と言ったところか。
「……」
当然のように末席に名を連ねる天童民間警備会社は三人だけだった。つまり、土御門元春とその相棒の舞、そして天童木更だ。
元々民警の代表者のみ集めたものらしく、以前より人数が少ない。具体的には、イニシエーターがあまり来ていない。
或いは、既に蛭子影胤と戦闘し脱落者が出ているから少ないという可能性もある。
場の中では比較的浮いている小さな舞は、しかし特に気にすることもなく特技の沈黙を保っていた。
土御門は手持ち無沙汰な片手でその頭を撫でつつ、ディスプレイに映る聖天子の言葉を待つ。
『お話します。全てを』
白い少女は、淡々と話した。
『七星の遺産』についてのこと。
『あのアタッシュケースの中身は、ガストレアのステージVを呼び出すことができる触媒です』
ガストレアのステージV。
土御門は自らの記憶を探る。つい先日、こちらの世界に来たあの日。菫と蓮太郎から受けた説明にも、その単語はあった。
バラニウムの集積体であるモノリスの強大な磁場を受け付けない巨大ガストレア。
ステージVによってモノリスが一つでも破壊されてしまえば、そこから下位、即ちIからIVまでのガストレアがエリア内に雪崩れ込んでくることになる。
そういうケースのことを、人々は大絶滅と呼んでいるそうだ。
「十年前、世界を滅ぼした十一体のガストレア……」
誰かが呟いた。
シンとした会議室内に阿鼻叫喚はない。
代わりに、何人かの中年の男が口を抑えながら慌てて退室して行った。
(……十年前、か)
土御門は、前述の通り、本当につい最近、この世界で目覚めたばかりだ。
彼にも十数年の生があったが、そのほとんどは学園都市のあるあの世界の話。
想像も絶するほどの絶望があったのだろう。それこそ単語を聞いて吐き気を催すほどに、その深紅の瞳を見て体が震えてしまうほどに。
『昨晩、蛭子影胤は「遺産」を持って「未踏査領域」へと逃亡しました。恐らく、ステージVを呼び出す準備をしているのでしょう』
その言葉でようやく状況を飲み込めてきたのか、周囲からぼそぼそと聞こえてくる。
「終わりだ……」
「嘘だろ、私には生まれたばかりの──」
「神はいないのか……」
聖天子はその呟きが聞こえているのかいないのか、一喝するように力強く言い放つ。
『なんとしても! ステージVが目覚める前に、蛭子影胤を撃破してもらいたいのです』
聖天子は隣の男に目配せした。確か──天童菊之丞。
男は黙って、持っていた資料を少女に手渡した。
聖天子はそれをゆっくりと読み上げる。
『プロモーター、蛭子影胤。現在はライセンス停止中ですが、最終IP序列は134位』
ざわり、と民警達のひそひそ声が大きくなる。
耳を傾ければネガティブな言葉ばかりが入ってくる。
しかしそれも当然なのだろう。千番台であれほど驚いていた蓮太郎だ。土御門は自分の順位を思い出し、その民警の母数から百番台の恐ろしさを想像する。
土御門の順位が25万代、ざっくりと切り捨てて下限が20万だとして、単純計算で上位0.0005%ということになる。
『影胤の出す斥力フィールド。みなさんも実物を見たと思います。あれはバラニウム合金を利用した『新人類創造計画』の遺物。彼の斥力フィールドは、対戦車ライフルの弾丸を弾き、工事用クレーンの鉄球を受け止めるほどの防御性を有しています』
だが、その盾は結界破壊を少し応用してやれば突破できる。土御門は起きるかもしれない二度目の戦闘を片隅でシミュレーションしながら続きを聞いた。
『イニシエーター、蛭子小比奈。モデル・マンティス、カマキリのガストレア因子を持つイニシエーターです。
戦闘記録では、小太刀を利用した接近戦で無類の強さを発揮しています』
そこまで読み上げると、聖天子は資料を天童菊之丞に返し、
『彼らを撃破するのは、決して簡単ではありません。
ですが、貴方たちの肩に、この東京エリアの未来がかかっているということも同時に理解して欲しいのです』
東京エリアの未来。
土御門には実感がなかった。世界を滅ぼしたガストレアのうちの一つ。ガストレアが嫌悪するバラニウムの磁場を平気で突破する怪物の中の怪物。
だが、やるしかない。
こんなところで終わってしまったら、もう二度と学園都市に戻ることが出来ない。
周りを見てみる。絶望の前に俯く者も多いが、同時に好戦的な目をしているプロモーターも多かった。
『ここに、「蛭子影胤追撃作戦」を発動します』
彼らはきっと待っていたのだ。
己が実力を発揮できる、絶好の機会というものを。
「ごめんなさい、土御門くん。付き合わせてしまって。舞ちゃんもごめんね?」
会議が終了して外に出ると、控えめな声で木更が謝ってきた。
「いや……。オレも暇……じゃないけど、重要な案件はなかったから、問題ないぜよ」
誤魔化すために暇だと言ったら蛭子影胤についてどうしていたのだという話なので、余計に誤魔化すことになった。
舞も土御門に習って首をぶんぶん振った。
木更は相当参っているようだ。それはそうだろう。一命を取り留めたとはいえ、蓮太郎はまだ目を覚ましていない。
やはり起きて声を聞くまでは不安なものだ。
「……サトやんは大丈夫だ」
つい、そんな言葉を言ってしまう。
(って、これじゃ口説いてるみたいだにゃー……)
頭を振って雑念を取り払いつつ、土御門は目的地へ足を向ける。
「今夜9時半、だったな」
日中の『未踏査領域』はガストレアに溢れている。彼らも生物だから基本的に夜は眠る個体が多い。ただし、夜行性の動物をベースとしたガストレアもいるから、完全に安心というわけではない。あくまで昼よりはマシという程度だ。
「ええ。詳細な場所については追って連絡させてもらうわ」
「オレのことは気にするな。そっちはサトやんの面倒を見ていればいいぜよ」
返事は聞かず、歩き出す。
なにせ急な話だ。菫の元に行って、決戦への準備を整えなければならない。
最早自宅よりも行き慣れた大学病院の地下に存在する一室。菫はいつものように薄暗い部屋に引きこもって、謎の創作料理を屠っていた。
舞が興味深そうに眺めているが、教育によろしくないので早々に声をかける。
「やあ、待っていたよ。……うん、舞ちゃんも一緒か」
「一緒だと都合が悪かったか?」
「いいや。君の大切なパートナーだ。末長く、大事にしてやってくれ。……さて、要件を聞こうかな?」
「オレを待っていたんだろう、話は聞いているのか?」
菫はそれについては答えず、真っ黒なバッグを渡してきた。
「……これは?」
「司馬未織嬢からの餞別だそうだ。面白い話が聞けたと言っていたが……?」
ぐぬ。
大元の雇い主である菫に先払いで大金を貰っておきながら、別の人間に先に情報を話すのはやはりまずかったか。
菫は焦る土御門の唇に指を当てながら首を横に振った。
「別に、話についてはいつでもいいさ。今は目の前のことに集中したまえ」
「随分と、落ち着いているんだな。何も聞いていないのか?」
よく考えれば、明日東京エリアが存在しないかもしれない、なんて一般市民には公表できない話だ。唯一、直接話をされた民警でもない菫は知らなくて当然か。
「ステージVのことかい?」
秘密にしようと決意した途端図星を突かれ、思わずビクッと肩が跳ねる。にやりと笑う菫は何が面白いのか、くつくつと笑いながら言った。
「私を誰だと思っている? 天才科学者であると同時に、実は未来を知る能力者でね。君が生まれる前から、こうなることは知っていたのさ」
「……はあ」
思わず溜息を吐く土御門。気を遣って冗談を言うくらいなら、もうちょっと考えて欲しいものだ。
まあしかし、どこかで緊張していた体がストンと落ち着いた気がする。
「さて、確かに渡したよ」
菫はバッグから手を離す。黒の鞄はパンパンに膨らんでいて、ややズッシリとしていた。
「そういえば、何だこれ……?」
誰にでもなく呟きながら、土御門はチャックを開けてみた。中には、黒光りするものが大量に詰まっている。
「ほう、バラニウム弾か。それに拳銃と……そっちは?」
黒いケースに入っているものを開けると、真っ黒なナイフが出てきた。
といっても、ナイフの柄はわずか数センチしかない。
「へえ、面白いね。拳銃に銃剣か」
「確かに、悪くはない組み合わせだ」
最悪弾切れを起こしても、まだガストレアに対処する手段があるということだ。もっともそこまで最悪な状況なら魔術を使ってしまうしかなさそうだが。
一緒に出てきた説明書を読むと、特徴的なトリガーガードに直接装着する仕組みらしい。
「まんま、銃剣の縮小版って感じだにゃー」
「だね」
バッグの中にはマガジンが三本入っていた。装填数は7+1といったところか。
他にも、ベルトにひっかけられるマガジンポーチやレッグホルスターまで至れり尽くせりである。
土御門は早速バラニウム弾を詰め込みながら、ふと菫のほうを見た。彼女はデスクで試験管のようなものをいじっている。
「それは?」
「ん? ああ、AGV試験薬だ。里見くんへの手土産にね」
何の頭文字かはわからないが、どうせろくでもない代物なのだろう。
特にそれ以上聞くつもりはなかったが、菫はいささか話したがりらしく続けた。
「これは私のガストレア研究の中の一つだ。ガストレアウィルスを利用していて、使用者の再生能力を瞬間的に飛躍させる代物だ。ただし、使用者は20%の確率で形象崩壊を起こし、ガストレア化してしまうけれどね」
「なっ、そんなものを」
サトやんに渡すのか、と言おうとしたが、菫はそれを片手で制した。
「もちろん、出来れば使うなと忠告はするさ。だが、相手は蛭子影胤。君は魔術や能力である程度のダメージは許容できるかもしれないが、蓮太郎くんは違う。致命傷はおろか、細かな傷で出血し、そのまま誰にも発見されなければ、死ぬしかないんだ」
「……、」
「私は君たちの生還を望んでいる。……でなければ、ここへの訪問客が減ってしまうからね」
菫は少し寂しそうに笑いながら言った。
そもそも、蓮太郎が今日中に目覚めるとも限らない。
彼女も彼女なりの方法で、蓮太郎を待っているのだ。
「……行ってくるぜよ、先生」
「大丈夫さ。もし君が死んでも、綺麗にしてから冷凍保存してやろう」
「…………台無しだにゃー」
名残惜しそうにする舞の手を引きながら、土御門たちは早足で退室する。
……少しだけ、張り詰めていた空気が和らいだ気がした。
本日の投下は以上となります。
もう半分以上ブラックブレット原作からかけ離れてますが、この先さらに独自解釈(と言う名の妄想)が増えます。
どうも、生きてます。
現在出張中で、向こう一週間くらいまで何もできない状態です。
どうも。他の住人のレスが保守していてくれたら一月は大丈夫なんじゃないでしたっけ。
垣根スレのほうは筆が進まず。こちらはちょっと進んでますが原作紛失したので続き書けず。
書く意欲はあるのでもうしばしお待ちを
了解しました。
生きてます(震え声)
最近リアルの方も落ち着いてきたので、執筆再開してます。まだもう少しお待たせしてしまうことになりますが、宜しくお願いします。
このSSまとめへのコメント
上条出せませんか?
結局超面白いssを発見してしまったわけよ。
セロリさん出す予定ですか?
麦野は機械化したらチート
最後のところ里見が里美になってますね。
上条はいても役に立たんだろ
投稿頑張って下さい
面白いです(°∀°)
室戸だったっけ。
くっそーついに落ちたか...保守し続けたんだがなぁ...