苗木「先輩達と合コンした結果……」 (224)
始業式も終わり、今日から俺たちも2年生になる。と言ってもクラス変えなんてないからあんまり新鮮味はない。
今いる教室も去年と同じだしな。
そんなことを考えていると、見慣れたつなぎ姿が興奮した様子で教室に入ってきた。
「おい日向、今年の新入生は女子のレベルめっちゃたけーぞ!」
「なんだよ左右田。新年度早々に言うことがそれかよ。お前は本当にブレないな。というか、わざわざ見にいったのか?」
「当たり前だろ。舞園さやかと江ノ島盾子のツーショットとかマジで感動もんだったぜ」
行ったのかよ……入学早々に女子のレベルチェックしに来る先輩とか印象悪過ぎだろ……
でも、そっち方面にあまり詳しくない俺でもその2人のことは知っていた。
左右田ほどではないけど、有名人に会いたいという気持ちはわからなくもない。
「しかも、その他も美女ぞろいでマジでレベル高いんだわ。まったく不公平過ぎて死にたくなるぜ。学年ひとつ違うだけで女子の偏差値に差あり過ぎだっつーの! うちのクラスにはソニアさんはいてもアイドルもモデルもいねーしよぉ」
「バカ! 声がでかい。教室でそんなこと言ったら……」
「最低」
「じゃあ[ピーーー]よミジンコ」
「ずいぶん好き放題言ってくれるっすね」
運の悪いことに、教室にはクラスの女子全員が揃っていた。
そして、左右田のアホ発言はまさにその全員の耳に届いたのだろう。
四方八方から軽蔑の言葉と視線が突き刺さった。
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「こうなるだろうがアホ……」
さすがにこの状況には目の前の男も冷や汗が浮かんでいる。やらかした自覚はある様だ。
「あっ、でも乳レベルじゃうちの方がだいぶリードしてるぜ! オレが保証する」
「…………」
左右田としては精一杯のフォローだったのだろう。
しかし、もはや女子からは非難の言葉すら返ってこない。
「ったく新年度早々アホな会話してんじゃねーよ」
「本当にね。どうしてくれるのかなこの空気。あ、それともあえて2人がハブられることによって他の14人を団結させようという希望溢れる意図があるのかな? まいったなぁ。そうやって希望の踏み台になるのはボクの役目なのに」
ついに男子にまで呆れられてしまった。
というか狛枝、なんで俺までバブられる前提なんだよ。
しかし、昼休みになっても俺が女子から話しかけられることはなかった。
偶然だよな。
「なぁ日向、合コンしようぜ」
「またその話かよ。そんなのむこうの女子は断るに決まってるだろ」
別にクラスでの立場が悪くなったからというわけじゃないが、俺と左右田は2人で食堂にて昼食をとっている。
いい加減この話題に付き合うのが面倒になりかけていたが、ぱっと見周囲にクラスの女子はいないし、さっきみたいなことにはならないだろう。
「そこは新歓だのオリエンテーションだの言っときゃなんとかなるだろ。それにな、心配しなくてもちゃんと作戦は考えてある」
「勝算はあるのか?」
「もちろん。既にノリのよさそうな2人を屋上に呼び出してある。だから日向、お前も一緒に来い」
「なんで俺まで……」
もう誘ってあるとか、今回はえらく段取りがいいんだな。
というか、よく誘えたな。それともこれは左右田が1人で盛り上がってるだけで、屋上には誰も来ていないパターンか。
あぁ……すごくありそうだ。
「お前今失礼なこと考えてるだろ?」
「いやいや」
結局成り行きで俺も屋上まで着いて行った。
意外にも左右田の言った通り、1年生の2人はちゃんとその場にいた。
「いやいや。遅くなってすまんね君たち」
「いえ、オレらも今来たとこっすよ」
「だべ」
予想外だったのは、その2人が女子ではなく男子だったことだ。
1人はヒゲとピアスが特徴的な派手な男。もう1人はドレッドヘアで確かに2人ともノリはよさそうだ。
しかしなぜ男子? まさか彼らが左右田のアホな提案にわざわざ協力してくれるとでもいうのか?
「で、先輩。例の話っすけど……」
ヒゲの方が若干軽薄な笑みを浮かべながら言った。
どうやらむこうにはある程度話が通っているらしい。
「もちろん、ちゃんと用意してきたぜ」
何をだよ。と思っていると、左右田がバインダーのようなものを取り出した。
「なんだよそれ?」
「見るか? 今回の作戦の肝だぜ」
左右田からバインダーを受け取って中を確認すると、そこには見覚えのある顔写真が簡単なプロフィールとともに並んでいた。
「おい! なんだよこれ!」
俺は左右田の脇腹を肘でどついた。
バインダーの中身は大いに問題のある内容だった。
並んでいたいた顔写真はうちのクラスの女子達。プロフィールには各自の胸囲などがデカデカと記載されている。
まるで風俗店じゃないか。
「お前……バレたら本当に殺されるぞ」
「だからバレないようにやるんだろうが。あぁ、待たせたね君たち」
左右田は悪びれる様子もなく2人にバインダーを手渡した。
「「おー!」」
バインダーを受け取った2人の喜びと驚きが入り混じったようなリアクションに俺は頭が痛くなった。
「先輩、いくらなんでもこの数字は盛ってないっすか?」
「いや、嘘偽りない数字だぜ。なぁ日向」
「あ、あぁ……」
確かにぱっと見では明らかに嘘だと思えるような内容はなかった。
どうやって調べたか知らないが、おそらく真実なのだろう。
というか俺に振るなよ。
「うひょーマジかよ!」
「大豊作だべ」
その後も他人に聞かれたら一発で学園生活が終了するような下世話なやりとりが続いた。
どうやら左右田は自分が1年生の女子と合コンをするために、うちのクラスの女子と1年生の男子との合コンを主催するという取引を持ちかけた様だ。
なるほど。確かにこれなら新歓やオリエンテーションといった大義名分も少しは真実味がでてくるかもしれない。
もし左右田が単独で合コンを持ちかけたとしても、下心を見抜かれて、まず相手にされないだろう。
「よし、オレは決まったぞ! 葉隠、決まったか?」
「俺も決めたべ。せーので指差すべ」
「「せーのっ!」」
ヒゲとドレッドが同時に写真に向かって指を差す。
どうやら目当ての女子は被らずにすんだ様だ。
「なるほどな~わかるわ。オレも顔か乳かで悩んだけどよ。まぁ最終的にはこっちだわ」
「いやいや桑田っちもいいセンスしてるべ。その子は間違いなく金持ちだべ。でもこの子の方が金を貸してくれそうに見えたべ」
例によってお互いのチョイスに対して下世話なやりとりがなされる。
というか片方に至っては下世話を通り越してクズの領域だろう。
「はいはい。ソニアさんに罪木ね~」
まるで注文を受けたウエイターのように左右田がバインダーの写真に○印をつけていく。
なんだか本気で罪木ことが心配になってきた。
それに、左右田の方こそソニアのことはいいのか?
「おい左右田、ちょっとこい」
「あ、なんだよ?」
俺はヒゲとドレッドには見えない位置に左右田を引っ張っていき、彼らには聞こえないくらいの声で言った。
「いいのかよ、俺は罪木が心配になってきたぞ」
「まぁ大丈夫だろ。さすがにガチで金品要求するようなことになれば、黙ってないぜ。小泉あたりが」
人任せかよ。
「ソニアはいいのかよ」
「心配すんなって。あんな軽薄なヤローにソニアさんが靡くわけがねぇ」
「お……おう」
なんだよその余裕は。しかもブーメランじゃないのかそれ。
なんだか釈然としなかったが、左右田に押し切られる形で話は進んでいった。
「ところで先輩。どうせ合コンするんだったら3対3の方がよくないっすか?」
「え? なんで?」
ヒゲの唐突な提案に左右田は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「なんでっつーか、合コンっつったら普通は3対3か4対4じゃないっすか?」
「え? そうなの?」
「だべ。全部で4人はちょっと寂しいべ。初対面同士なんだし、人数いないと盛り上がらないべ」
「王様ゲームとかそういう系の定番も4人だとできねーしな」
なるほど。確かに言われてみればそうかもしれない。
というか左右田。お前舞園や江ノ島に会いたいだけで、そのへん全然考えてなかったろ。
「ってわけで、先輩達もせめてあと1人呼べませんか? こっちも1人くらいだったら今からでも都合つくと思うんで」
「おう、任せとけ」
ヒゲの提案を左右田が適当に引き受けた。これで3対3に落ち着いたわけか。
「じゃこっちもあと1人適当に声かけますんで、このバインダーは借りていきますね。次会う時はこっちも女子の写真もってきますんで」
そう言って、ヒゲとドレッドは去って行った。
そういえばこっちの希望はまだ伝えてなかったな。といっても既に舞園と江ノ島は決定してるようなものだから、あとは写真見て適当に1人決める感じか。
「じゃオレたちも教室に戻るか。あと1人都合つけなきゃいけねーし」
「そうだな」
まぁあと1人よりも女子に了承してもらうことの方が難しいと思うけどな。
校舎に戻ろうとする左右田に続いて、後ろ手に屋上入口のドアを閉めた時のことだった。
ガタッ……と屋上の方でなにか物音が聞こえた……ような気がした。
「あれ? 今なにか聞こえなかったか?」
「は? なんか聞こえたか?」
左右田には聞こえなかったみたいだ。やっぱり俺の気のせいかな?
まぁほぼ死角のない屋上だし誰もいないことは多分間違いないだろう。
漫画みたいに入口のドアの上で寝てる奴とかいれば話は別だが。
俺は小さな疑念を無視して教室に戻った。
※
放課後。アタシはある不愉快な出来事を報告するために、クラスの女子全員を人通りの少ない空き教室に呼び出した。
「どうしたんすか真昼ちゃん? こんなところに呼び出して」
「しかも男子に知られないように、っということは、もしかして今からここで女子会が開催されるんですか?」
「ち……違うと思いますぅ」
「うむ。どうやらあまり愉快な内容の話ではなさそうだな」
内容を察してくれている人とそうでない人がいるけど、全員揃ったみたいだし、そろそろ始めようかしら。
「揃ったようだから始めるわね。まずは、みんな集まってくれてありがとう。急なお願いでごめんね。でもどうしても話しておきたいことがあったの」
7人とも、ちゃんとこっちに注目して話を聞いてくれている。
「実は、今日の昼休みに、どうしても屋上から撮りたい写真があって、そこに行ったんだけど、ちょっと角度が気に入らなくて、屋上入口のドアの上のことろに登って写真を撮ってたんだけどね……」
「そしたら左右田のアホと日向が1年生の男子らしい2人組を連れて入って来たのよ」
左右田の名前が出ると、みんなの表情が険しくなった。
どうせまたろくでもないことなのだと察したのだろう。
まぁその通りなんだけどさ。
アタシは話を続けた。
左右田のアホがアタシ達を巻き込んだ合コンを勝手に企画していること。
そして、アタシ達をまるでいかがわしいお店の従業員のように扱ったこと。
その際に無断で顔写真と一部の身体的情報を使用したこと。
「はぁ? 左右田おにぃと日向おにぃはマジで何様のつもりなの? つーかわたし達がそんなもんに参加するわけないじゃん!」
「あ、でも見てる感じ日向は左右田に巻き込まれただけっぽかったわよ」
日向がそんなアホなことを進んで企画するわけないしね。
「うきー、なんかムカつくっすけど、唯吹も合コンとか参加してみたいっす」
「ジャパニーズ合コンですね。日本に来たら一度はやりたいと思っていたんです」
日寄子ちゃん、朱音ちゃん、ペコちゃん、蜜柑ちゃんが露骨に苛立ちや嫌悪感を露わにする一方で、唯吹ちゃんやソニアちゃんは合コンに興味津々といった感じだ。
まぁ、アタシだって全く興味がないわけじゃないけどさ。
千秋ちゃんはあんまり興味なさそうだ。
「よしっ、話はわかった! なら左右田と日向と1年の2人をボコって終いだな!」
「待って朱音ちゃん」
指を鳴らす朱音ちゃんを制止する。
今までの話はいわば前置き。本題はここからなのだ。
「ただ断ってお灸を据えるだけじゃ気が済まないわ。ここは敢えて誘いに乗って、思い切り懲らしめてやりましょう」
「なるほど。つまり上げて落とすという作戦ですね」
「なんすかそれ、ちょー面白そうっす!」
もともと乗り気だった2人には反対の様子はない。むしろ目をキラキラさせている。
「まぁ、おねぇがそう言うならいいけどさ。合コンっていったら支払いもなにもかも男が持つのが常識だしねー」
「つーことはタダ飯じゃねーか!」
「私みたいなゲロブタはお呼ばれすることもないでしょうし、どっちでもかまいませんけど……」
他の面子からも強い反対はない様だ。
あっ、そういえば大事なことを言い忘れていた。
「ごめんごめん、言い忘れてたんだけど、合コンは3対3で、こっちの面子も2人は既に指名済みなのよ」
「え? そうなんですか?」
「で、誰と誰なんすか?」
ソニアちゃんと唯吹ちゃんが目を輝かせながら訊いてくる。
うわぁ……なんか言いにくいなこれ。
せめてどっちも指名なしとかだったらまだ言いやすかったんだけど。
「う~このクラスは綺麗どころが多いから3人って言われても全然読めないっす!」
「まぁソニアは鉄板だろうな」
「そうですね。顔写真と胸囲ならソニアさんは間違いないでしょうね」
しまった。なんだか変に女子としてのプライドみたいなとこ刺激しちゃったかな。いつの間にか興味なさそうだったペコちゃんまで乗ってきてるし。
ていうか蜜柑ちゃん、「顔写真と胸囲なら」とか若干トゲがあるように聞こえるんだけど大丈夫? まぁ無意識なんだろうけどさ。
「いえいえ、そんなことありませんよ。大体胸囲なら罪木さんの方が立派じゃないですか」
顔はニコニコしてるけど、「胸囲なら」の部分が完全に嫌味になっている。
駄目だ。ソニアちゃんまで変なスイッチ入っちゃったよ。
「そ、そんなことないですよ~胸だけですぅ」
それは謙遜なのか自慢なのかどっちなのよ!
あー駄目駄目。アタシまでイライラしたら収拾つかなくなっちゃう。
「あーもう、うっせーな糞ビッチ! 心配しなくても誰もお前なんか指名しねーっつーの!」
日寄子ちゃんも今のには相当苛ついているみたいだ。でも指名あるんだなこれが。
「いや、そうとも言えないっすよ。少なくとも蜜柑ちゃんは唯吹が持ってないものを持っているっす!」
「そうだな。罪木も自分を卑下するのはほどほどにしておけ」
「嫌みになってるからな」とでも続きそうな言い方だ。
ペコちゃんまで参戦してくるのはちょっと意外だったかな。
それに、蜜柑ちゃんへのジャブはともかくとして、唯吹ちゃんへのストレートの方はまずいよ。
確かに唯吹ちゃんは普段から自分の胸が薄いことをネタにしてるけど、それに対して「そうだな」とか言っちゃだめでしょ。特に巨乳のアナタがさ。
そういうつもりはなかったのかもしれないけど、唯吹ちゃんが珍しくイラッときてるのが親友のアタシにはわかる。
「わ、私は糞ビッチじゃありませ~ん。でも、やっぱりソニアさんは確実だと思います。背も高くてスタイルいいですから」
あ、駄目だこれ。これは駄目だわ。
ソニアちゃん背が高めなのすごく気にしてるのに。
さすがにこれはレフェリーがストップかけないと今後の学園生活に支障が出かねないわね。
「はいはいそこまで。指名されたのはソニアちゃんと蜜柑ちゃんだから。あと1人は未定。だから2人ともよろしくね」
「はぁ~!? ソニアおねぇはともかく、ゲロブタ指名とかどこのブタフェチだよ。きっしょ」
「御指名ですか。精一杯頑張らせていただきます」
「はわわわわ、私ですかぁ!?」
「うぎぎぎぎ。やっぱり唯吹はお留守番ですか……でもまだ枠は1つ残ってるっすよね」
「うむ。まぁ妥当なところだな」
みんなのリアクションは様々だけど、やっぱりこの手の話題で盛り上がっちゃうのが女子なのよね。
わかってたけど、日寄子ちゃんは蜜柑ちゃんが指名されたことに相当不満みたい。
ソニアちゃんは、自分が指名されることは当然わかってました感が……なんかねぇ……
蜜柑ちゃんはリアクションがわざとらし過ぎてちょっと腹立つかな。
ペコちゃんは「妥当な」とか言いながらちょっと悔しそうにしる。一番驚いたのはこれかな。こういうイベントは「くだらん」とか言って切り捨てるキャラだと思ってたよ。
1年も付き合ってるのに、知らないことってたくさんあるもんね。
純粋にこの手の話題に興味なさそうなのは赤音ちゃんと千秋ちゃんだけかな。
「あくまで上げて落とすことが目的だからね。特にソニアちゃん」
「はい、もちろん。がってん承知の助です!」
大丈夫かな……まぁ1年生の男子達はお世辞にも好感が持てるタイプではなかったし、ソニアちゃんが好きになることもないだろうから、そういう意味では大丈夫かな。
「蜜柑ちゃんもよろしくね」
「は、はい……」
こっちはすごく心配だ。蜜柑ちゃんって押しに弱そうだからなぁ……
本人も指名されたことはともかく、参加自体は本気で嫌そうだ。
これは念のため武闘派を待機させておいた方がいいかもね。まぁもともと合コンの様子はチェックするつもりだけどさ。
こうしてやや波瀾がありながらも、無事にアタシ達の作戦会議は終わった。
あとは1年生の女子にも事情を説明して協力してもらわないとね。
※
「で、舞園ちゃん。結局先輩達はアタシらに何の用なわけ?」
「すいません。それが私にもよくわからないんです。用件はそのとき話すから、なるべく女子全員を集めてくれとのことで……」
「きっとあれだよ~歓迎会かなんかだよ!」
「そうだといいんですけど、なんだかそういう雰囲気でもなかったんですよねぇ……」
先輩からの突然の呼び出しに、江ノ島さんはややめんどくさそうで、朝比奈さんは期待に胸を膨らませているといった感じだ。
「しかし、男子には知られぬようにとは、どういうことであろうな」
「だ~か~ら~、女子会なんだよ。そういうのって男子には秘密なんだよ」
「なんと、そうであったか」
いや、だからそういうのじゃないと思うんですけどね……
先輩に言われるままに、とりあえずクラスの女子全員に声をかけてみたものの、まさか全員が集まるとは思っていませんでした。
失礼ながら霧切さん、セレスさん、腐川さん、戦刃さんの4人は初対面で断定できるほどのコミュ症でしたからね。
中学ではクラスカーストの頂点だった私も、さすがにこの希望ヶ峰学園ではどういった立場になるのか不安でしたが、この調子ならおそらく女子の中心は私と江ノ島さんになりそうです。
仕事が近い江ノ島さんや、同じ中学の苗木君がいたことは幸運でした。
「ところで、舞園さんを呼び出したその先輩って、具体的に誰だか分かるかしら?」
唐突に霧切さんが話しかけてきました。警戒心が強そうな彼女らしい質問ですね。
ちなみに私は朝日奈さんと霧切さんの中間くらいの気持ちです。
「超高校級の写真家の小泉さんと、超高校級の軽音楽部の澪田さんです」
「そう」
その短い返事だけで、霧切さんは私から視線を外した。
自分が満足すればそこで会話終了というわけですか。まだ入学二日目ですが、どうもこの人とは上手くやっていける気がしません。というか、むこうがこっちと上手くやっていこうという気があるように見えません。
こういう周囲に無関心なタイプは正直言って嫌いですね。自分勝手だし、自己中だと思います。
美人なのも余計に腹立たしいですね。ブスならまだ気にならないんですが。
とは言っても、女子のリーダーとしては嫌悪感を表に出すわけにはいきません。
ただでさえ私みたいな美人は同性から嫉妬を買いやすいんです。ちょっとでも失点があればあっという間に都落ちです。「調子乗ってる」とか「お高くとまってる」とか言われて、特に理由がなくても仲間はずれにされちゃうもんなんですよ。
なので、私は霧切さんのようなタイプの人間にも礼儀正しくするつもりです。
美人であればあるほど周りに気を使う義務があるんです。私みたいな髪の毛さらさらのお上品な清楚系美人は特に。
私はもう美人の税金だと思ってますけどね。
そういう意味では霧切さんは私の悪いお手本です。
苗木「ボクの生体情報が電子生徒手帳で確認できるって?」舞園「はい」
舞園「苗木君王様ゲーム」
完結させてから次建てなよ
「写真家と軽音楽部か。それなら多分大丈夫」
倒せる。とでも続きそうな感じで戦刃さんがつぶやいた。
「あら、呼び出した人間と待ち伏せている人間が同じだとは限りませんわよ」
「あ。そうだった」
なぜ戦う前提で話が進んでいるのでしょうか。そんなことにはなりませんからね……多分。
しばらくそんな間の抜けた会話をしているうちに、私達は指示された教室へ辿り着いた。
「失礼します」
私が先陣を切って扉を開けると、既に小泉さんと澪田さんの2人がいた。他に人はいないようでセレスさんが心配したようなことはないらしい。まぁ当たり前ですが。
「いきなり呼びだしちゃってごめんね。適当に座ってくれていいから」
小泉さんに促されて私達はそれぞれ適当な場所に着席する。小泉さんと澪田さんが教卓側にいるので、なんだか授業みたいだ。
それにしても、こういうときにどこに座るかで、性格とか、誰と誰が仲がいいかとか悪いかとかわかっちゃったりしますよね。
ちなみに私は江ノ島さんと戦刃さんと一緒に前列に座っています。まぁ呼び出しを受けたのは私ですし当然ですね。
朝日奈さんと大神さんも一緒に前の方に。残りの4人はそれより後ろにそれぞれ距離をとって座っている。
女子って普通は孤立を恐れるものだと思うんですが、このクラスはそうでもないようです。
超高校級だからでしょうか?
それとも入学二日目からこんなことを考える私がせっかちなんでしょうか。
ぼっちが多すぎて、ぼっちがぼっちに見えない。
そんなある意味ぼっちに優しい空間が形成されています。
そういえば、不二咲さんがぽつんと座っているのってちょっと意外なんですよね。
他の3人は納得ですが。
彼女に関しては容姿にも性格にも孤立する要素はなさそうなのに、どこか私達に対して壁を作っている印象を受けます。
控えめな性格なのもあるでしょうが、どうもそれだけじゃない気がします。
と、そんなことを考えている間に小泉さんが話を始めました。
まずは二人の自己紹介から始まって、それから時間にして十分程度でしょうか。
小泉さんの要点を押さえた説明は、よく通る声も相まって非常にわかりやすく、気持ちのいいものでした。
もっとも、話の内容は不愉快でしたが。
「その二人ってさぁ、多分桑田と葉隠だよねぇ」
「うむ。容姿から察するに間違いないであろうな」
なんだかちょっと楽しそうにしている江ノ島さんに対して大神さんが相槌を打つ。
わざと誘いに乗って懲らしめるという先輩達からの提案は、確かに江ノ島さんが好みそうな内容だ。
「なるほど。なかなか面白そうな話ですわね」
セレスさんも乗り気の様だ。合コンに、というよりは懲らしめるの方にだろうけど。
正直言って私は合コンにはいい思い出が全くないんですけどね。
アイドルとしてまだ無名のころ、中学の友達とのお付き合いで仕方なく参加させられましたが、男子の方はみんな私にばかり話しかけてきて、雰囲気は最悪でした。
あの後の友達へのフォローは本当に大変でしたよ。危うく中学で孤立するところでした。
しかしながら、このクラスにおいては、その手の心配はそれほど必要ないかもしれませんね。江ノ島さんもいますし。
私としてはわざわざ合コンに参加してまで懲らしめたいという気持ちはありませんが、断ってもしつこく誘われ続ける可能性を考えれば、いっそ提案に乗った方がいいのかもしれません。
「合コンなんて絶対嫌よ。どうせあたしみたいなブスが行ったって惨めな思いをするだけなんだから……」
「私も……合コンはちょっと……」
腐川さんと不二咲さんは合コン自体に反対の様だ。
でも腐川さん、合コンは三対三ですからね。聞いてなかったんですか?
「でも、都合が悪い。などと言って断っても、しつこく誘われ続ける可能性があるわ。毎回断る手間を考えれば、いっそ先輩達の提案に乗るのもありだと思うけど」
「そっか。そうだね……」
霧切さんの主張に不二咲さんはある程度納得したらしい。
私の方は若干思考が被ったことにストレスです。
「そうですわ。それに腐川さん。合コンは三対三であることをお忘れですか?」
「な、なっ……」
セレスさんの容赦ない指摘に腐川さんは顔を引きつらせている。
つまり「あなたには関係ないでしょ?」ってことなんですが、私は口には出しませんでしたからね。
「私はどっちでもいいかな」
「え~!? でも合コンだよ?」
「我は皆の判断にまかせるとしよう」
戦刃さんと大神さんは自分が指名されるわけがないということに自覚的な様だ。
自分を客観的に見られる人って私は素敵だと思います。
朝日奈さんは口では否定的だけど、実はちょっと興味あるみたいな可愛い反応をしています。
普通ならウザいと思うことろですが、彼女なら微笑ましく見えますね。
こうして、一部反対意見はあったものの、結局は提案を受け入れる形で落ちつきました。
「ホントにごめんね。入学早々うちのアホが迷惑かけて」
「いえいえ、誘いに乗ったのはうちのアホですから。お互い様です」
「ところで、そちらの男性二名は既に決まっているとのことですが、どのような方なのでしょうか?」
小泉さんとのお喋りにセレスさんが割って入ってきた。
確かに懲らしめる前提の合コンで、まともに相手をする気ははなからないとはいえ、相手のレベルが気になるのは女子の性ですよね。
というかセレスさん。ノリノリですね。
「それなら写真を用意してきたわ」
小泉さんが一番前に座っていた私に写真を手渡した。
あれ? なんか二人にしてはやけにたくさんあるような……?
「とりあえず男子全員分用意しといたわ。左右田と日向は確定してるけど、もう一人はその中の誰かだろうから」
ああ、なるほど。それでですか。
私は渡された写真を机の上に広げてみた。
とりあえず品定めしてみることにする。
「こっちが左右田で、こっちが日向ね」
「なんか左右田さんって、桑田に雰囲気似てない?」
「類は友を呼ぶということね」
「この男とは手合わせ願いたいな」
いつの間にか朝日奈さんに大神さん、そして後ろにいた霧切さんにセレスさんまで側にきていた。
やっぱりみんな興味はあるんですね。
「それは弐大ね。確かにそいつならさくらちゃんともそこそこ勝負になるかもね」
「日向さんの方は……特にないわね」
「ぷっ……」
なんだかその特にないという評価があまりに適切な気がして思わず吹き出してしまった。
やめてくださいよ霧切さん。小泉さん達の前で失礼じゃないですか。
「た、確かに日向はあまり特徴はないかもしれないけど……その、いいところもあるっていうか……」
あれだけハキハキ喋っていた小泉さんが伏し目がちでしどろもどろだ。
これってもしかすると……あれですか?
私達は顔を見合わせて、何かを了解した。これ以上小泉さんの前で日向さんを批評するのはやめておこう。
朝日奈さんと戦刃さんはポカンとしているけど、まぁいいか。
「この方はなかなか見どころありますわね」
セレスさんがその中で一番顔立ちが整っている男子を指してそう言った。
なるほど。セレスさんは面食いなんですね。
「あ~、凪斗ちゃんはちょっと癖があるっすよ」
「そうね。狛枝はあんまりおすすめできないかも……」
割とはっきりものを言いそうなこの二人が言いにくそうにする癖っていったいどんなものなのだろう?
性格に難のあるイケメンというと、うちのクラスでいうと十神君みたいな感じだろうか。
でも、写真を見る限り狛枝さんは表情も柔らかくて女性に人気がありそうに見えるんですけどね。
もしかしてすごく女癖が悪いとかそういうのでしょうか?
それならむしろはっきり教えておいてほしいのですが……
※
学園寮での就寝も今日で二度目になる。
入学する前はボクみたいな平凡なやつがこんなところでうまくやっていけるかどうかすごく不安だったけど、今はなんとかやっていけそうな気がしている。
まだ友達と呼べるほど仲のいいクラスメイトはいないけど、舞園さんがボクのことを覚えていてくれて、お近づきになれたのは幸運だった。
ピンポーン
個室のインターホンが鳴った。
こんな時間に誰だろう?
ちなみにカメラはついていないので、ドアを開けるまで訪ねてきたのが誰なのかがわからないのが難点だ。
まぁ学園内だから九分九厘身内なんだけどね。
「おっす苗木」
ドアを開けると桑田クンと葉隠クンの二人がいた。
「どうしたの? こんな時間に」
「苗木っちに耳寄りな話を持ってきたべ」
「とりあえず中に入れてくれ。あんま人に聞かれたくねーんだわ」
そう言って二人はボクが許可する間もなく部屋に入ってきた。
耳寄りで、人に聞かれたくない話とはいったいどんな内容なんだろう?
胡散臭さは感じたものの、追い返すもの気が引けたのでとりあえず話を聞いてみることにした。
「えっ? 合コン!?」
話によると二年生の先輩達と合コンをすることになったらしい。
そりゃ、ボクだって高校生になればそういうこともあるのかな……なんて、入学前には淡い期待を抱いてはいたけどさ。まさかこんなに早く実現するとは思わなかった。
というかまだ入学二日目だぞ。いくらなんでも手が早すぎないか?
「で、もちろん参加するよな?」
誘ってくれるのは嬉しいし、合コンに憧れる気持ちもある。
二人はなんだかやり慣れてそうだけど、ボクはそういうの初めてだし、女子とうまく喋れる自信もないし……
「でも、ボクみたいな冴えないやつが参加しちゃっていいのかな?」
「いいべ。いいべ。全然問題ないべ。それにもう合コンは三対三に決まったんだべ」
なるほど。つまり人数合わせか。
「でも、なんでボク? 十神クンとかの方がカッコいいし女子は喜びそうだけど」
「苗木、オメーはアホか。なんで人数合わせにイケメンで金持ちで高身長な奴連れてかなきゃならねーんだよ」
「だべ。そんな奴連れてって女子全部取られたらアホみたいだべ」
「つかまぁあいつは誘ってもこねーだろうけどな」
なるほど。そういう理屈か。言われてみれば納得だ。
「でもよ。じゃ確実に自分以下の醜男連れてきゃいいかっていうと、そういうわけでもねーんだわ」
「そうなの?」
「苗木っち。想像してみるべ。三対三の合コンだと、自然と三組のカップルができるべ。つまりむこうの女子の一人は醜男とペアにならざるを得ないべ」
「でもよ、そうなってその女子が「帰る」とか言い出すと、オレ達二人も困るんだわ」
「どうして?」
「女子ってのは仲間意識の強い生き物なんだべ。一人が帰ると、せーのでみんな帰っちまうんだべ」
「よって山田みないなブーデーは連れていけねぇ」
なるほど。さすがにやり慣れてる感じだな。
もしかして経験談だったりするんだろうか?
「ちなみに石丸みないな堅物もダメだ。合コンは盛り上げてなんぼだからな」
「大和田っちみたいなタイプも危険な賭けだべ。女子が恐がったら厳しいべ」
なるほど。つまり……
「つまり、苗木っち以外に適任はいないべ」
「まぁ心配すんなって。合コン初心者の苗木でもちゃんとゲットできるようにサポートはするからよぉ」
「だべ。合コンで大事なのはチームワークだべ。盛り上げ役はこっちに任せてくれていいべ」
う~ん。でもなぁ……参加してみて喋れなかったりしたら嫌だしなぁ……
「よし、わかった。迷ってんならまずはこれを見てから考えろ」
そう言って桑田クンがバインダーのようなものを開いて見せた。
信じられないことに、そこにはおそらくは先輩たちであろう顔写真がずらりと並んでいた。胸囲付きで。
「えっと……これって……」
「そんなもん言わなくても分かるべ。ほれほれ、苗木っちも素直になるべ」
「そんなこと言われても……」
しかしボクの目はバインダーに釘付けになっていた。
かわいい……
予想以上にレベルが高い。
うちのクラスもアイドルやモデルがいてとんでもなくハイレベルだけど、先輩達も全然負けてない。
むしろ、その道のプロでもないのにここまで輝きを放っているむこうのう方が逸材といえるんじゃないだろうか。
期待と不安が均衡状態だったボクの気持ちは大きく一方に傾いていた。
「さぁ苗木っち、素直になって好きな子を選ぶべ!」
「あ、でも丸印ついてんのはダメだからな」
幸いにして、ボクが一番気になった子に印はついていなかった。
「う~ん……でも、やっぱり……」
気持ちははっきりしていながらも、ボクは気恥しくて口に出せないでいた。
「あ、もういいべ。目線でわかったべ。なるほど苗木っちは巨乳好きだべ」
「え、いやっ……そういうわけじゃ……」
「照れるな照れるな。まぁ趣味は悪くないと思うぜ。オレもそこは候補に入れてたしなぁ」
「い、いや……そんなんじゃないって! それにボクはまだ参加するとは一言も……」
「そーか。なら仕方ねぇな」
「え?」
桑田クンはバインダーを閉じると、あっさり引き下がり部屋を出ようとする。
「だべ。無理なら仕方ないべ。他を当たるべ」
「ちょ……ちょっと」
「そんじゃ邪魔したな苗木」
桑田クンが部屋のドアに手を掛けた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
※
「おっ、ビンゴ!」
モニタに映った男子達を見て江ノ島さんがつぶやいた。
「響子ちゃんの言うとおり、早めに準備をしておいて正解だったわね」
小泉さんが言った。
そう。私達は昨日の話し合いの後、霧切さんの提案で男子達が作戦会議に使いそうな場所にカメラと盗聴器を仕掛けて回ったのだ。
といっても実際に作業をしたのは霧切さんと江ノ島さんと戦刃さんだけですが。
普通の女子高校生はカメラや盗聴器なんてすぐに用意はできませんからね。
「でもさ~なんで霧切ちゃんは屋上だってわかったの?」
「消去法でそこが一番可能性が高いと思っただけよ。昨日も屋上だったみたいだしね」
朝日奈さんの質問に霧切さんが淡々と答える。
そんなやりとりをしている間に男子六人全員の姿がスクリーンで確認できた。
私達は今、視聴覚室にて屋上の映像と音声を視聴している。
ちなみに、私達というのは私のクラスの女子全員と先輩達のクラスの女子全員を合わせた十七人だ。
『お、都合良く誰もいねぇな』
『ついてるべ』
音声に問題は無い様だ。
これならよほどの小声でない限り拾えるだろう。
しかし、それにしても……
「三人目って苗木だったんだ。ちょっと意外」
「まぁアタシは予想してたけどね~でも苗木が合コンとかウケる」
「まぁそう言ってやるな二人とも。大方桑田と葉隠が人数合わせのため無理に連れ出したのであろう」
まさか3人目が苗木君だとは……中学時代の彼を知っている私としても、朝日奈さんと同じく意外という印象ですかね。
まぁ参加の経緯は大神さんが言った内容で正解だと思いますが。
「あら、あの方は苗木さんとおっしゃるんですか。可愛くて素敵ですね。これはわたくしも合コンが楽しみになってきました」
「ふゆぅ……確かにあのくらいの小ささなら男の人でも普通に喋れるかもしれません」
なんか先輩達にも好評だし。
ちなみに今喋ったソニアさんと罪木さんがむこうの参加メンバーの内の二人らしいです。
先輩達全員と顔を合わせたのは今日が初めてですが、予想以上にレベル高いです。
正直言って舐めてました。私や江ノ島さんがいるうちのクラスが学園でも断トツだと思っていましたが、全然そんなことありませんでした。
指名済みのソニアさんと罪木さんはもちろんのこと、あぶれたメンバーにも七海さんや辺古山さんなど私の隣に立っても恥をかかない美人がちらほらいます。
なるほど。これは桑田君や葉隠君が私達を売るわけですね。
「それにしても、クラスメイトとたいして親しくもならないうちから先輩達と合コンなんて、苗木君のくせに生意気ね」
「だよね~! 私もそれ思った。なんか感じ悪いよね~」
その点に関しては霧切さんに同意ですね。クラスメイトにこれだけの美女がそろっているのに、わざわざ先輩達と合コンとはどういうことですか。
「うわぁ……こっちはよりによって狛枝か」
「日向おにぃも左右田おにぃも、もうちょっとマシな人選できないかなぁ?」
「うむ。心配だが、かといって代わりに誰を連れてくるべきかと言われれば悩ましいところだな」
先輩達が狛枝さんを見て次々に不安を口にする。
そんなこと言われるとこっちが不安になってくるんですけど……
狛枝さんって何者なんですか?
そういえば昨日はちゃんときいていませんでしたね。
「狛枝さんですか。ふふっ。まぁこれでようやく参加してもいいかと思えるレベルになりましたわね」
面食いのセレスさんは狛枝さんが何者であろうとも、そんなことはお構いなしに歓迎らしい。
イケメン好きもここまでくると清々しいですね。
でもそれ以前に、なぜあなたは参加する前提なんですか?
私は本命で私、江ノ島、霧切。
対抗で私、江ノ島、朝日奈。
みたいな感じだと思っているんですが……その自信はどこから?
『それじゃ早速だが苗木。お前も相手を選んでくれよな。つかバインダーは桑田に預けたままだったか。じゃあもう決まってたりするか?』
『あ、はい……まぁ』
これは気になりますね。
苗木君は中学時代も浮いた話はありませんでしたし、好みのタイプも読めませんね。
「誠ちゃん信じてるっすよ~」
「ふふっ、なんだかもじもじしてて可愛らしいですね」
「やはり後輩の男子はこうでなくてはな。むしろ髭とドレッドが手慣れ過ぎているのだ」
「ホントは腹立たしい状況だけど、あそこまで初々しいと微笑ましくなるわね」
なんだか先輩達も色めき立ってるし……まぁ私も可愛いとは思いますけど。
『ええと……この人なんですけど……』
苗木君は指差した先は……
「あ、私だ」
「ぐぎぎぎぎ……やっぱり貧乳に人権は無いんすか!?」
「ふむ……」
「まぁ千秋ちゃん可愛いもんね。納得だわ」
悔しさを露わにする澪田さん。
一見クールに見えながらも、悔しさ丸出しの辺古山さん。
身の程をわきまえていて、初めから期待していなかった小泉さん。
先輩達の反応は本当に見ていて飽きませんね。
当事者である七海さんがあんまり関心なさそうなのがまた笑えます。
『なるほど、七海か。お前もなかなか目が高いぜ』
左右田さんが写真に印をつけながら言う。
『いや~こいつもマジでむっつりですから』
『ちょ、なに言ってるの桑田クン!?』
桑田君の茶化しに対して苗木君が可愛い反応をする。
しかし、その一方で七海さんが指名されたときに、日向さんの表情が一瞬だけ険しくなったのを私は見逃さなかった。
なるほど。わかりやすいですね。
『日向。ちょっと来い』
左右田さんは小さくそう言って、日向さんを苗木君達からは見えない位置へと連れて行った。
おそらく左右田さんは一年間の付き合いで日向さんの気持ちを知っているのでしょう。
『日向。気持ちはわかるがここは堪えてくれ』
『はぁ? なんの話だよ?』
日向さんが白々しくとぼけているところをみると、知っているというより、気づいていると言った方が正確かもしれませんね。
それにしても、物陰に隠れたにもかかわらず、映像も音声もばっちり入っています。
このあたりが霧切さん達の仕事なのでしょうね。
『無理すんな。気持ちはわかる。俺もソニアさんを我慢してんだ』
『いや、それとこれとは……』
『あのな、むこうにはアイドルやモデルがいるんだ。こっちが小泉や澪田みたいなので取引が成立するわけねーだろ』
『確かにな……それには賛成だ。わかったよ』
「うぎぎぎぎ……和一ちゃん、いくらノリのいい唯吹でも笑いで済ませられる限界ってもんがあるっすよ……ねぇ真昼ちゃ――」
その瞬間、澪田さんからおちゃらけた雰囲気が消え、真顔に戻った。
彼女が声をかけようとしたその先には、スクリーンを直視したまま、微動だにせず、声をあげることもなく、光を失った両目から涙を流し続ける小泉さんがいた。
「ちょっと、おねぇ! しっかり!」
慌てて西園寺さんをはじめ、他の先輩達も駆け寄る。
うわぁ……これはガチ泣きですね。私はアイドルですから、演技とガチの違いはよくわかります。
「うぅ……ごめんね。ちょっと目にゴミが入っちゃって……」
みんなに心配をかけまいとするその姿。
健気ですね。
容姿が平凡なわりに美女ぞろいのクラスのリーダー的ポジションにいるのはこのあたりに理由がありそうです。
「私達に聞かれていることを知らないとはいえ、許せんな左右田のやつ」
いや~辺古山さん。致命傷はそっちじゃないんですけどね。
まぁ誘発したのは左右田さんですけど。
好きな人にあんなふうに言われたらそりゃ死にたくなりますよね。
「ふゆぅ……日向さんも左右田さんも酷すぎます。口に出していいことと悪いことがあります」
それってなんかトゲないですか?
あくまで口に出したことに対する批判であって、言ってる内容については異論なしってことでいいんですかね?
「私は小泉さんも澪田さんもすごく可愛い……と思うよ」
七海さん……ずっとボケーっとしてたくせに、ここで入ってきますか。
最悪のタイミングですよ。わざとやってるんですかね?
それに、言うならもっと自信持ちましょうよ。なんで疑問形なんですか。
「…………チッ」
あれ? なんだか聞こえちゃいけない音が聞こえましたよ。
これは本格的に先輩達の人間関係が心配になってきましたね。
まぁ私はこの企画が友情破壊ものだってことには初めから気付いてましたけどね。
『そういえば、先輩達の指名をまだきいてないべ』
『おう、そうだったな。とりあえずこっちは舞園と江ノ島だ』
「は~い! ご指名頂きました」
「私ですか……アイドルが合コンなんて本当はまずいんですけどね」
ここまでは予定調和ですね。
わかっていましたけど、一応わかっていなかったふりをしておきます。
あまりやりすぎても嫌味になるので、リアクションの加減が難しいんですけどね。
こういうときは本音を言っても嫌味にならない江ノ島さんのキャラが羨ましくなります。
「やっぱりそこか~」
「まぁ当然だよね」
朝日奈さんと戦刃さんがつぶやく。
先輩達のときと違って嫉妬や嫌味は全く感じられない。
他の面子も同様だ。
これは私と江ノ島さんがあまりに有名だからでしょうね。
アイドルやモデルに負けるのは仕方なくても、保健委員やゲーマーに負けるのは面白くないということでしょう。
加えて、うちのクラスには女子として投了している人も何人かいますしね。
『もう一人はどうするべ?』
『え? あぁ、そうだな……』
『決めてなかったのかよ』
三人目をすっかり忘れていたように見える左右田さんに日向さんのツッコミが入る。
そういえば最初は二対二の予定なんでしたっけ。
『じゃあ日向。お前はどう思うんだよ』
『いや、俺は舞園と江ノ島以外はよく知らないんだが……』
『あ、クラス写真でよければ持ってきましたよ』
『おう、気が利くな』
左右田さんが桑田君から写真を受け取る。
あぁ……これはまずい流れですね。
写真で選ぶということは、純粋に容姿の勝負になりますからね。
さっきの先輩達みたいに険悪にならなければいいのですが……
『で、日向。どうするよ?』
『俺に決めさせる気かよ……女子は八人か。確かにここからもう一人は悩ましいな』
『あ、先輩。どうでもいいかもしれないっすけど、実は女子九人います』
『服装をよく見るべ』
このやりとりはデジャヴですね。
うちのクラスの風紀委員は本人を前にして間違えたわけですから、写真で見間違えても正直言って責められませんね。
「ちょっとひどいよ! さくらちゃんはどう見たって女の子じゃん」
「いいのだ朝日奈よ。我はこんななりだ。見間違えても責められまい。悪気があるわけではないのだ」
「でも……」
朝日奈さんは納得いかない様子ですが、大神さんは慣れっこのようで、気を悪くした素振りは見受けられません。
さすがに世界最強の格闘家だけあって器も大きいようです。
私は経験上美人と不美人が親友としてうまく付き合っていられるのは小学生までだと思っています。
中学生くらいになると本格的に恋愛に興味を持ち始めますから、そのあたりで美人と不美人に価値観の相違、というか差ができてしまうんですよね。
美人の方だけ遊びに誘われたり、彼氏ができたりして友情にひびが入るわけです。
二人の友情が試されるのは、今は初心な朝日奈さんが恋愛に目覚めたときでしょうね
『ぶっは! マジかよ! よく見たらセーラー服じゃねーか!』
見られていることを知らない左右田さんが遠慮なく吹き出す。
私もつられて笑わないように口に手を当てて必死に堪えます。
笑って伝染するので厄介ですよね。
何人か同じことをやってる人がいて、それがまた笑えてくるんですが、笑ったら死ぬので私も必死です。
「心配せずとも我は気にしておらん」
笑いを堪えたり、大神さんを気遣うもなんと声をかけていいかわからずおろおろしたりと場の空気がやや気まずくなったところで大神さんが言った。
気にしてないアピールも必死ですね。
フォローしてあげてもいいんですが、こういうのって美人がやっても逆効果ですからね。
『あれ? 左右田クンは大神さんを知らないの? 超高校級の格闘家という素晴らしい才能をもって入学したんだよ』
『マジかよ! 聴かれてねーだろーな』
『聴かれてたら今ごろミンチだろうな』
周囲に人がいないのを確認してホッと胸を撫で下ろす先輩方。
残念ながら既に手遅れです。
『というか、今はそんなどうでもいいだろ。あと一人を誰にするかを考えないか?』
『だな。こいつが男か女かなんてどっちでも構わねーな。どうせこんなん呼ぶとかありえねーし』
室内は水を打ったように静まり返る。
大神さんも黙っちゃいましたし、さすがにここまで来ると笑えません。
どうしてくれるんですかこの空気……
左右田さんも日向さんも責任とってくださいよ。まぁ彼らには既に取り返しのつかないところまできていますし、後で十分すぎるほどの罰を受けるのでしょうけど。
『決められないなら、とりあえず候補を絞ってみるのはどうかな? 今みたいに消去法で一人ずつ消していくのは簡単だよね』
『なるほど。確かにそりゃ名案だな』
狛枝さんの恐ろしい提案に左右田さんと日向さんが賛成する。
いや、全然名案じゃないですよそれ!
この状況では考えられる限りで最悪の決め方です。
『それじゃ大神の次にない奴決めようぜ』
すいません。とりあえず生存報告だけ。
生存報告><
このSSまとめへのコメント
頑張って、先生!マジ面白いから
面白い 楽しみ
はよはよ
苗木君と苗木が、77期生と78期生の女子達にガバガバにされる未来が見えるべ。私的には、苗舞展開お願いだね
続きオナシャス!
はよw
はやくはやく
はよ
狛枝が誰を選ぶのか非常に気になる
性格みんなゲスイな
舞園クズすぎワロタ
こんなもんじゃね? 実際
続きはよ、お願い頼む
胸糞
書くなよ
無茶おもろい 続き気になるっすパイセン
アンチ草 構ってちゃんかな? そんな嫌ならみるなよw ダサ過ぎw