結城晴「真剣ゼミ…?」 (119)
モバマスのSSです。
このSSはフィクションであり、実在の企業、団体とはなんら関わりがございません。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1401186341
晴「はあ…やべえよなあ…」
ありす「あなたがため息とは珍しいですね、どうしたんですか。」
晴「実はさ、これ…」ペラ
ありす「え、なんですか、これ…」
晴「見ての通り学校のテストだよ…こんなん母さんに見せられないよなあ…」
ありす「すごいですね。小学校のテストでこんな点数をとれるのはある意味才能だと思います。」
晴「褒めてんのかバカにしてんのかどっちだよ!」
ありす「…でもどうして?以前はそこそこやれていたと思ったんですが。」
晴「なんかさ…最近、授業難しくないか?」
ありす「確かに…六年生も後半ですからね。内容が高度になってきたと思います。」
晴「そうなんだよな…中学ってもっと難しいんだろ?英語とか数学とかも始まるし…」
晴「オレ、やってけるのかなあ…」
ありす「まあ、私達は加えてアイドル活動もありますからね。どうしても勉強に割く時間が少なくなるのは仕方ないことだと思います。」
みりあ「あ!それ私も感じる!アイドルしてるとお勉強大変だよね!」
千枝「千枝も…レッスンあった日は宿題やるだけで精一杯かも…」
梨沙「アタシはパパに教えてもらうから大丈夫だし!」
桃華「あら、最近はお父様が忙しくてなかなか会えないとおっしゃっていませんでした?」
梨沙「…くっ!」
凛「みんなどうしたの?」
晴「凛さん!」
この人は渋谷凛さん。うちの事務所のトップアイドルで超人気ユニット「ニュージェネレーション」のメンバーだ。
他にも「トライアドプリムズ」っていうユニットもやっていてそっちもすごく人気がある。
とにかくいつもカッコよくて、みんなの憧れの的なんだ。
凛「…なるほど。確かに中学の勉強はグッと難しくなるね。」
晴「や、やっぱり…」
未央「それだけじゃないんだよ!」
千枝「未央さん!」
未央「中学1年生のスタートダッシュに失敗するとその後3年間の勉強に影響するっていうデータが有るんだ!」
卯月「しかも、そのつまづきは小学生の時の勉強に原因があると言われているの。」
みりあ「ええっ!じゃ、じゃあ私もひょっとして…」
凛「そう。早いうちに対策を打っておかないとその後の高校受験、大学受験、ひいては就職にまで影響するってわけ。」
晴「マジかよ…でも、いまさらガリ勉なんて…」
凛「大丈夫。そんなことしなくてもちゃんとアイドルと勉強を両立できるよ。」
未央「『真剣ゼミ』があればね♪」
「「真剣ゼミ?」」
卯月「そう!ゼミなら1日30分、この『チャレンジ』で要点をしぼった予習、復習ができるの!」
みりあ「ええっ?たった30分でいいの?」
凛「そう。写真やイラストがたっぷりでわかりやすいから自然に楽しく頭に入ってくるんだ。」
未央「それだけじゃないよ。テスト対策や楽しい知識が身につく副教材もたくさんあるんだ!」
梨沙「…へえ。それならパパがいない時でも一人でできそうね。」
卯月「それに、小学生なら『ごほうびシール』を集めて素敵なプレゼントももらえるんだよ♪」
晴「うわ、かっけー!」
千枝「でも、どうしてみなさんそんなに詳しいんですか?」
凛「それはね…私達もゼミをやってるからだよ。」
みりあ「ええっ!?トップアイドルの凛さんたちが?」
凛「そう、ゼミなら自分のペースで、無理なく勉強できるからね。明日からの全国ツアーももちろんゼミと一緒だよ。」
晴(すごい…!ゼミならオレも…!)
ありす「…」
未央「あーりーすーちゃん!」
ありす「きゃっ!」
未央「ありすちゃん…さっきから黙ってるけど…それ…『チャレンジタッチ』だよね?」
千枝「チャレンジタッチ?」
卯月「真剣ゼミの新しいスタイルだよ。専用のタブレット端末で楽しくお勉強できるの。」
ありす「…///」
晴「ははっ!なんだよありす!お前涼しい顔して実はもうゼミやってたんじゃねーか!」
ありす「い、いいじゃないですか!その…すっごく楽しいんですから…」
「アハハハハハハ…‥」
晴「母さん!オレ、真剣ゼミやりたい!」
母「だめよ。どうせすぐ飽きちゃうでしょ。」
晴「違うよ!ゼミなら続けられるんだ!このグラフを見てくれよ!」
母「まあ!98%の人がゼミを続けているのね!いいわ!やりなさい!」
晴「やったー!」
――晴「へへへ…!見ろよ!これ!」
ありす「またですか…100点をとる度にいちいち見せなくてもいいですから。」
みりあ「ゼミを始めてからますますアイドル楽しくなったよ!」
千枝「千枝はこの前Pさんに褒められちゃいました!」
梨沙「アタシもパパに褒められたわ!」
仁奈「ごほうびシールでもらったでごぜーますよ!」
舞「わあっ!かわいいきぐるみだね!」
桃華「…」
晴「いやー、まったくゼミ様様だぜ。桃華はやんないのか?」
桃華「私には家庭教師の先生がいらっしゃいますので。必要ありませんわ。」
千佳「桃華さんも一緒にやろーよ!魔法ゼミ少女にへんしーん♪」
桃華「お気遣いありがとうございます。…そろそろ先生がいらっしゃるお時間ですので失礼致しますわ。」
晴「なんだよ…」
そんなこんなでゼミを始めたオレはアイドル活動により集中できるようになって人気もグイグイあがっていった!
もうすぐ中学だけど何も心配はない。だってゼミと一緒ならどんな困難も乗り越えられるんだ!
晴「なーんて、そんなにうまくいくわけないよなあ…」
―――――――――――――――
『晴!どういうこと!全然ゼミやってないじゃない!』
『え、いや…これからやろうと思ってたんだよ…』
『昨日も一昨日もそう言ってたじゃないの!会費だって安くないのよ!』
『あれだけ言っといて!そもそもアンタはいっつもだらしなくてクドクドクドクド…』
―――――――――――――――
晴「…まさか、ベッドの下に隠しといたチャレンジが見つかるなんてなあ。」
晴「とにかく、家においておくのは危険だ。どっかにこれを捨ててこないと。」
晴「この辺のコンビニならいいかな…」
晴「…ん?あれって…」
「…」キョロキョロ
晴「卯月さん。」
卯月「!」ビクッ
晴「やっぱり卯月さんだ。こんなとこで何してんの?」
卯月「え…あ、あの…人違いです…」
晴「えっ、だって…あれ?それって…」
卯月「!」ダッ
晴「あ、ちょっと!…なんか変だな。待ってくれよ!」
―――公園
晴「ハアッ、ハアッ……卯月さん…帽子、落としてたよ。」
卯月「ハア、ハア…ありがとう…脚、速いね。さすが晴ちゃん。」
晴「へへ…サンキュー…」
卯月「とりあえず、座ろうか…」
晴「卯月さん何してたの?あんな変装までしてさ。」
卯月「あ、えと…」
卯月「は、晴ちゃんこそ、もう夜だよ?子どもは寝る時間だよ?」
晴「って言ってもまだ8時前じゃん…オレはさ、これを捨てに…」ガサガサ
卯月「ひっ!」
卯月「ごめんなさい!ごめんなさい!」
晴「え、どうしたんだよ卯月さん。何もしてないってば!」
卯月「ごめんなさい…ごめんなさい…」ガクガク
晴(ひょっとしてチャレンジのせいか?)ガサガサ
晴「ほら、もう何も持ってない!大丈夫!」
卯月「あ…。」
晴「なんか変だよ卯月さん…一体何が…」
卯月「私ね…ツアーにチャレンジを持っていくのを忘れちゃったんだ。」
晴「え…?」
卯月「本当、バカだよね。ついうっかりしてて…」
卯月「でも、大したこと無いって、帰ってから出来なかったぶん頑張ろうって、思ってたの。」
卯月「それなのに…ツアーから帰ってきてすぐに熱を出してしまって…」
―――――
『さあ!たまっちゃったチャレンジをやらないと!』
『うーん…結構あるなあ…でも頑張ろう!』
『…』
『一日30分でも数教科あるもんね……もっと頑張らないと…』
『……』
『えっ?もうこんな時間?』
『明日は収録だ…休んでた分頑張らないと…もう寝よう…』
『…明日、2倍頑張ればいいよね…』
―――――
『…終わらないよ。』
『ううん。だめだめ…自分のミスだもの…』
『あ…寝る時間…でも…もう少し頑張ろう…』
『…』
『…』ウツラウツラ
『…くー…くー…』
―――――――――――――――『ナマケモノ』
『…えっ!?』
『…気のせい・・・だよね。』
『ああ…また今日の分がたまっちゃった…早く追いつかないと…』
―――――――――――――――『オチコボレ』
『どうして…こんなに頑張ってるのに…?』
―――――――――――――――『ダメニンゲン』
『だめ…寝る時間をもっと削らないと…』
―――――――――――――――『シッパイサク』
『そう…私は…ダメなんだ…一日30分の努力もできないんだ…』
『え…?嘘でしょ…?これ…今月号…。』
そんな…まだ先月号が終わってないのに…』
―――――――――――――――『ガンバレ』
『まだやってない教材も…出してない答案もあるのに…』
―――――――――――――――『ガンバレ』
『…ああ…やらなきゃ…やらなきゃ…』
『ガンバレ』 『ガンバレ』 『ガンバレ』 『ガンバレ』『ガンバレ』
『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』
『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』
『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』
『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』
『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』『ガンバレ』
『いやああああああああああああああああああっっ!!!!!』
―――――――――――――――
晴「…」
卯月「それで…お仕事にもいけなくなっちゃって…だから…だから私…ここでチャレンジを捨てようと…」
晴「そうだったのか…」
卯月「うん…でも晴ちゃんに話せて少しスッキリしたよ。ありがとう。」
「そうだったんだ。ごめんね。卯月。気づいてあげられなくて。」
卯月「!!」
凛「こんばんは。何驚いてるの?」
未央「しまむーの家にお見舞いに行ったら出かけたって言うからさ。みんなで探してたんだよ?」
いつからそこにいたんだろう。振り向くと凛さん、未央さん、加蓮さんに奈緒さんがいた。
それだけじゃない。みりあやありす、千枝に梨沙達まで…
凛「卯月はさ、真面目だから一人で頑張らないとって重く考えすぎてるんだよ。」
凛「私達は一人じゃない。一緒に頑張ることだってできるんだよ?」
卯月「凛ちゃん…」
凛「さ、行こう。今夜は卯月が寝ないようにそばで見ててあげるよ。」
卯月「え?…え…え?」
未央「ふふふ、今夜は寝かさないよ!しまむー!」
卯月「やだ…もうやめて…」
凛「何言ってるの?卯月がいつも言ってることじゃん。『頑張ります!』って」
卯月「離して…離して!」
未央「さー、レッツゴー!」
卯月「いやっ!!離して!離してぇぇっ!!」
加蓮「ダメだよ、こんなところで大声出しちゃ。」
卯月「私!もうダメなの!嫌なの!頑張りたくない!頑張れないの!」
千枝「卯月さん。ゼミは毎日やらないと悪い子になっちゃいますよ?」
卯月「無理なの!お願い!もうゼミやめます!お願い!頑張りたくないよぉっ!!」
――――「島村卯月、頑張ります!」
それが卯月さんの口癖だった。
「トレーナーさん!まだ頑張れます!頑張ります!」
「さあ、みんな、もう少し頑張ろう!」
いつもいつもそればっかり言っていた。
あまりに頑張る頑張る言ってるからネタにされたり、個性がないとかからかわれることもあったけど、
その言葉が口先だけのものではないことを知っていたから、みんな卯月さんの事を信頼して、尊敬していた。
オレ達の前では弱音は吐かなかった卯月さん。絶対にかっこ悪い所は見せなかった卯月さん。
凛さんが「みんなの憧れ」だとしたら、卯月さんは「みんなのお手本」だった。
オレ達も何かあったらまずは卯月さんに相談したし、いつも自然に人の輪ができていた。
だから、目の前で起きていることが信じられなかった。
卯月さんが、あの卯月さんが、小さな子どもみたいに手も、足も振り回して泣きじゃくっている。
「頑張りたくない」 「頑張れない」
絶対に言わなかった、聞きたくなかった言葉を叫んでる。
おい、ウソだろ?さすがになんかのドッキリじゃねえのか?
そう心の何処かで思っても、この雰囲気がドッキリなんかじゃないって教えてくる。
卯月「助けて!晴ちゃん!助けてぇっ!!!」
晴「!」
晴(そうだ、何やってるんだオレは。卯月さんを助けないと。)
晴「おい!ちょっと待て…え?」
奈緒「…」
晴「なんだよ!邪魔しないでくれよ!」
奈緒「…」
晴「離して!離してくれよ!卯月さんが…!ああ…行っちまう…」
両脇を抱えられた卯月さんが遠くなっていく。
なんでだよ。みんな、仲間じゃなかったのかよ…?
晴「奈緒さん…なんでだよ…なんで…」
奈緒「…」
――――――――――――――ピンポーン
晴「こんばんは。奈緒さん。『今日も勉強教えてください』」
奈緒「おお、待ってたぜ。はいんなよ。」
ガチャ
奈緒「…誰にも見られてないか?」
晴「へへ、大丈夫だって。ちゃんと廊下を曲がる前と部屋に入る前。2回ずつ確認したぜ。」
奈緒「よし。まあ座りなよ。今お茶くらいいれるからさ。」カチ
晴「ありがとう…勉強、すすんでるのか?」
奈緒「へ?あ、ああ…まあな…」
晴「アニメのDVDが落ちてるけど…」
奈緒「こ、これは!その…息抜き、だよ…」
晴「大丈夫なのか?その、よくわかんねーけど追い込み、ってやつなんだろ?」
奈緒「わ、わかってるよ!」
奈緒「ていうか!そんなことしに来たんじゃないだろ!早く出せって!」
晴「あ、おう…これ。」
奈緒「おし…これで最後か?」
晴「うん、家にあるやつはそれが最後で…」
奈緒「わかった。来月号が来たらまた持ってきなよ。」
晴「わかった。ありがとう。奈緒さん。」
――――――――――あの夜、奈緒さんはオレの耳元でささやいた。
奈緒「落ち着け晴。あたしは味方だ。」
晴「!?」
奈緒「今卯月を助けに行ってもあの人数じゃ勝ち目はない…」
奈緒「悔しいけど、今は様子を見るしかないんだ。」
晴「…くっ」
確かに、奈緒さんの言うとおりだ。
奈緒「卯月のことはあたしが後で隙を見て助けだす…今は仲間のふりをしてくれ。」
晴「…わかった…」
ありす「何してるんですか?コソコソと…」
奈緒「あ!いや。なんでもないよ。な!」
晴「え!…あ、ああ…」
ありす「…」
ありす「結城さん。こんな時間に卯月さんと何をしていたんですか?」
晴「あ、いや、その…」
ありす「それ、先月号のチャレンジですよね。どうしてそんな物を?」
晴「これは…その…」
ありす「見せてください。」
晴「え?だ、だめだよ…その、オレ、字、汚いから…」
ありす「気にしませんよ。先月のチャレンジをわざわざ持っているというところが気になるだけです。」
ありす「それとも、何か。見せられないわけがあるんですか?」
晴「あ…いや…」
奈緒「違うよ、ありす。」
ありす「…私は今結城さんに聞いているんです。」
奈緒「あたしがさ、ちょっと小学生の復習をしたくなっちゃってさ。晴に頼んだんだ。」
ありす「信じられませんね。ゼミをやっていればそんなものは必要ありません。」
奈緒「あたしがゼミを始めたのは最近だ。」
ありす「…」
奈緒「だから、やってなかった頃のことでちょっと疑問に思うことがあってさ。恥ずかしいから晴に頼んだんだよ。」
奈緒「ありすも内緒にしてくれよ?受験生のあたしが小学生のチャレンジ見てるなんて、カッコ悪いからさ。」
ありす「…わかりました。」
奈緒「さっ、じゃああたしの部屋に行こうぜ!ありすもみんなと一緒に帰るんだろ?気をつけてな。」
晴「あ、じゃ、じゃあな…」
「あたしは女子寮で一人暮らしだからこっそりチャレンジを処分してもばれない。」
「実家暮らしだと捨てたらバレてしまうからあたしが少しずつ処分してやる。」
奈緒さんはそう言ってくれた。
約束通りあの夜から今日まで、オレは少しずつチャレンジを奈緒さんの部屋に運んだ。
親には小さな子たちに見せてあげてると言ってある。
奈緒「いいんだよ。今までもらったチャレンジと同じようにシュレッダーにかけて捨てておくから安心しなよ。」
晴「卯月さんは…?」
奈緒「まだ、連絡が取れない…みんなに聞いても要領を得ない返事ではぐらかされちまう…」
晴「…そうか。あのさ、奈緒さんはいつからやってたんだ?」
奈緒「…」
奈緒「…あたしもさ。焦ってたんだよ。受験生だしさ。アイドルなんかやってると思うように時間も取れないしさ。」
奈緒「そんな時にさ、レッスンの後に加蓮がさ、教えてくれたんだよ。」
――――――――――――――――――――――――――――――
『それならゼミやってみなよ!簡単だし、勉強わかるとすっごく気持ちいいよ!』
『ゼミ…?あたしはそういうのはいいや。なんかうさんくさいっていうか…』
『大丈夫だって!事務所の子もみんなやってるよ?凛だって私が教えたらすっごくハマってるんだから。』
『え、あの凛が…?』
『どう、私今ちょっと持ってきてるからさ…試してみない?』
『え、でも、ハマっちゃったら怖いから…』
『1日30分だけだから影響はないってば。ひょっとして…奈緒ってば勉強できないのバレるの、怖い?』
『なっ…!そんなことねえよ!貸せよ!』
――――――――――――――――――――――――
奈緒「最初は、軽い気持ちだったんだ。」
奈緒「こんなの大したこと無い。合わないと思ったらすぐにやめればいいってさ。」
奈緒「でも、そんなの無理だった。ゼミは…魅力的すぎたんだ。」
―――――『はい!その答えは〇〇です!』
『正解だ。みんなも神谷を見習ってよく勉強するように。』
『奈緒ってすごいよね、アイドルやってて授業についていけてるんだもん。』
『かっこいいなあ、ますますファンが増えちゃうよ。』
―――――――『…よし、オッケーだ!』
『奈緒、どうしたんだ?すごいパフォーマンスじゃないか?』
『へへっ、実力だよPさん。』
(…勉強の不安がなくなったおかげでレッスンに集中できる。寝不足も解消されたから調子もいいぞ。)
『そうか…よし。次のライブは奈緒中心のフォーメーションを組んでみよう。』
『えっ!本当かよPさん!』
『ああ、がんばれよ。期待してるぞ。』
『奈緒、すごいじゃん。』
『ゼミの効果出てるね。奈緒。』
『へ、へへ…』
――――――――『よし、今日はこれで終わりか。』
(ゼミなら短い時間で集中して要点だけを学習することができる。)
(だから時間を有効に活用することができるんだ。)
『じゃあ、ちょっと休憩しようかな…』ピッ
~erector infected SEXOSS~
~♪
(撮りだめておいたアニメ…前は見る時間なんてなかったけどな…)
――――――――――――――――――――――――
奈緒「正直、サイコーだったよ。みんなに褒められて、Pさんに期待されて、趣味を楽しめて。」
晴「…」
奈緒「なんでも出来るんじゃないかって思ってた。怖いくらいうまくいってたんだよ。」
奈緒「もしかしてあたし東大に入っちまうんじゃないか、いや、海外留学かも…なんてバカなことも考えたりしたよ。」
奈緒「だってしょうがないじゃないか!?ゼミをやっていると全然疲れないし、眠くならないし、すごく集中できるんだ!」
奈緒「もうゼミなしの生活なんて考えられなかったよ…」
――――――『な、なあ…加蓮…チャレンジ…貸してくれないかな…』
『え?今月のぶんは3日前に…』
『その…』
『…もう、使っちゃったの?』
『あ、うん、その…へへ…』
『…』
『あ、あのさ…加蓮が解き終わったのでもいいから…復習、したくてさ…』
『…ふふ。』
『な、なあ…』
『いいよ、特別。貸してあげる。』
『本当か!やった!』
『友達だもん。あたりまえだよ。』
『はい、返すのはいつでもいいからね。』
『ありがとう!ありがとう加蓮!』
――――――――――――――――――――――――
奈緒「そんなふうにさ、段々勉強量が増えていったんだ――」
奈緒「授業がわからなくてむしゃくしゃしたらチャレンジで見直す。」
奈緒「ライブ前の緊張を和らげるために楽屋で英単語帳を見る。」
奈緒「勉強がわかる、わかるから楽しい、楽しいからもっと勉強したくなる――」
奈緒「そうなったらもう止まらないよ。チャレンジと参考書と赤本の無限ループさ。」
奈緒「もう勉強のことしか考えられない。早く次号のチャレンジがほしい。新しい問題を解きたい――――」
晴「…もういいよ、奈緒さん。」
奈緒「いや、話させてほしい。…ひとり言だと思ってくれていいから…」
奈緒「…ひどい時には学校の休み時間に予習したことまであったよ。」
晴「が、学校の休み時間は遊ぶ時間だろ?」
奈緒「我慢できなかったんだよ。…オフの日なんか朝から晩まで図書館で自習したりもした。」
晴「…そんなの、頭がおかしくなっちまうよ…」
奈緒「それでさ…ある土曜日の夜の事だった。その日はなんだかいつもよりはかどってさ、」
奈緒「よし、このまま朝までぶっ通しでやってやろう、なんて思ったんだよ。」
晴「それって徹夜…子どもはしちゃだめなんじゃ…」
奈緒「うん。でも、すっごく集中できたよ。みんな寝静まった静かな空間で何もかも忘れて集中できた。」
奈緒「…そう。本当に何もかも忘れていたんだ。」
奈緒「最高にハイだった時が過ぎ去って、時計を見て…あたしは絶望した。」
奈緒「…もう、さ。1時間も前に、さ、あたしの大好きな、お気に入りのアニメが終わってたんだよ…」
晴「そんな…」
奈緒「録画してあったけどさ、生で見るのがあたしの楽しみだったんだよ。生きがいだったんだよ。」
奈緒「ゼミは――そんなあたしの生きがいをいともあっさりと奪っていった。」
奈緒「だから、あたしはゼミをやめたんだ。紹介してくれた加蓮に悪いから。こっそりと。」
晴「…ごめん。」
奈緒「気にすんなって。ただ、受験勉強の辛さを誰かに話したかっただけさ。」
晴「…うん」
奈緒「…それにしても、小学生用のは本当にカラフルで、わかりやすいよな…」パラパラ
奈緒「あたしの時もこれやってればな…」
奈緒「はは、さすがに簡単だな。すぐにとけちまう。」
晴「奈緒さん…?」
奈緒「うんうん…ああ、そういうことだったのか…分数の割り算…」
晴「お、おい…」
奈緒「へへ、まるで手応えがないな…なあ、晴、もっと難しい問題集――」
晴「…」
奈緒「わ、悪い…」
晴「奈緒さん…ひょっとしてまだ――」
トントン
「「!」」
「奈緒、今大丈夫かな。」
奈緒「…凛だ。」
「ちょっと話があるんだけど」
晴「加蓮さん…」
奈緒(晴、適当に挨拶して出て行け。後はあたしがうまくごまかしておく。)
晴(わかった。)
奈緒「おう、いらっしゃい。」
凛「お邪魔するよ。」
加蓮「晴ちゃんもいるんだ。…ちょうどよかった。」
晴「え?」
奈緒「いや、晴はちょっと遊びに来ただけで…すぐに帰るからさ。」
加蓮「――遊び?」
加蓮「勉強、でしょ?」
奈緒「何言ってんだよ。勉強道具なんて」
凛「勉強だよね。だってこんなに――――」
凛「一生懸命やってあるんだからさ。」
奈緒「!」
晴「な…!」
それは、オレが奈緒さんに渡してシュレッダーでバラバラにしてもらったチャレンジだった。
バラバラなのにどうしてわかったか。細長い紙片になったページがセロハンテープでつなぎ合わされていたからだ。
でも一つおかしいのが、
オレはその問題を一回もやってないのに、ページは真っ黒に書き込まれてる、ということだった。
晴「…そんなの、やった覚え…」
奈緒「…」
晴「え?まさか――」
加蓮「――――奈緒。」
奈緒「!」ビクッ!
加蓮「だめだよ。勝手に退会しちゃ。」
奈緒「な、なんで…」
加蓮「ゼミの勧誘マンガ。面白いよね。私大好きなんだ。」
奈緒「…」
加蓮「おかしいよね?どうして入会してる奈緒のところにくるんだろうね?」
奈緒「――っ。ああ、そうだよ。あたしはゼミをやめた。加蓮には悪いけど…もう二度とやらない。」
晴「…奈緒さん。」
奈緒「大丈夫だ…晴。」
奈緒「話ってそれか?じゃあもういいな。」
凛「ふーん。その割にはすっごく一生懸命やってあるね。コレ。」
奈緒「それは…!」
加蓮「奈緒。」ギュッ
奈緒「!?」
加蓮「辛かったよね?苦しかったよね?こんな小学生用の問題じゃ満足できなかったでしょ?」
奈緒「やめろ!あたしはもう…!」バッ
凛「ほら見て、奈緒…数学Ⅲのチャレンジだよ。…丁寧な解説でわかりやすいよ。」
奈緒「…あ…」
晴「奈緒さん!」
奈緒「っ!…サンキューな、晴。…いらない。あたしはもうゼミの世話にはならない。」
加蓮「クスクス。だめだよ凛。ゼミは一人ひとりに合わせた学習、合格プランが自慢なんだからさ。」
加蓮「奈緒は文系だからさ…これが好きなんだよね…?げ・ん・だ・い・ぶ・ん。」ペラ
奈緒「!」
加蓮「…まだ新品だよぉ…奈緒の高校のレベルにも合わせてあるよお?」
加蓮「ほら、見てよ…コレ。筆者の気持ちなんかわかったら、きっと気持ちいいよぉ?」
奈緒「筆者の気持ち…正しい慣用句…」ハアハア
加蓮「…あ、でも、奈緒にはもう関係ないんだっけ。」ヒョイ
奈緒「あ…」
加蓮「しょうがないからこれは私がやろっかな。話はそれだけ。帰ろ、凛。」
凛「うん、ごめんね。邪魔しちゃって。」
奈緒「ま、待って…」
加蓮「?」
奈緒「……したい……チャレンジ……したい…」
晴「奈緒さん!だめだ!」
奈緒「――ごめん。晴。ゼミには…勝てなかったよ…」
晴「そんな…」
加蓮「ええ~…だって…ねえ…?奈緒は一回退会しちゃったんだよね?ゼミ。」
加蓮「だったらちゃんと再入会のお願いをしないと…ねえ?」
奈緒「…っ」
奈緒「わ、わかったよ…する…再入会のお願い…する…」
加蓮「ふふっ。じゃあ、ちゃんとお願いしてね。耳貸して。」
加蓮「…」ボソボソ
奈緒「なっ!…そ、そんなの言えるわけ…!」
加蓮「へえ~っ。そっか。じゃあ仕方ないね。もうこれでおしまい。」
加蓮「再入会のチャンスはもうないね?…ざ・ん・ね・ん・で・し・た。」
奈緒「…」
凛「行こっか、加蓮。」
加蓮「うん。バイバ~イ奈緒。…一人で寂しく頑張ってね?」
奈緒「…ま、待てよ…」
加蓮「ん?」
奈緒「…たしの……っちで…て…」
凛「何?聞こえないんだけど。」
奈緒「…」
加蓮「私達もヒマじゃないからさ。用がないなら行くよ。」
奈緒「…う、ううっ…」
奈緒「…あ、あたしの…えっち(判定)、で…だらしない…ア、アソコ(志望校)に………いれて、ください…」
奈緒「アツくて(厚くて)…(内容が)濃いの(問題集)…たくさん、出して……」
奈緒「あたしの(頭の)中…グチョグチョかきまわして…(知識で)いっぱいに、して……くだ、さい…」
晴「…ウソだろ…奈緒さん…」
加蓮「…へえ~?聞いた?凛?」
凛「うん、奈緒ってば結構大胆なんだね。」
奈緒「な、なあ…いいだろ…?あたし、ちゃんと言っただろ…?だからさ、早く…」
加蓮「ええ~?どうしよっかなあ~?」
奈緒「そ、そんな…」
加蓮「―――――ウ・ソ♪」バサッ
奈緒「ふあああああああああっ!?」
凛「相当たまってたみたいだね。奈緒。」
奈緒「は!あああ!すごい!すごいよぉっ!どんどん入ってくる!あたしの中にどんどん(知識が)入ってくるのがわかる!」
加蓮「奈緒ったら。そんなにがっつかなくても問題は逃げないよ。」
奈緒「へへ…えへへ…白いの…いっぱい…まだ埋まってない解答欄ばっかりだ…へへ…へへへ…」
奈緒「ア…!ア…!イ・イ…イ・ク…!選択肢が手に取るようにわかるよぉぉっ!」
凛「ふふ、すっごく気持ちよさそう…ね、加蓮。」
加蓮「うん。…ねえ、奈緒。これ…なんだかわかる?」
奈緒「ふぁ…?」
加蓮「『完全暗記!歌で覚える古典文法!』だよ。」
奈緒「え…おい…まさか…」
加蓮「そう、これをさ…聞きながら勉強したら…奈緒、どうなっちゃうのかな…?」
奈緒「…やだ…こわい…無理だよ…あたし……古典は苦手なんだよ…」
奈緒「……友達だろ?なあ、勘弁してくれよ…なあ…」
凛「どうする?加蓮。ちょっとスパルタすぎるんじゃないかな?」
加蓮「う~ん。でも、奈緒は今までサボってたからなあ…」
奈緒「頼む…頼む…そんなの…あたし…天才になっちまうよ…」
加蓮「う~ん…それもそうかな…」
奈緒「…あ…加蓮…」
加蓮「…」ニコッ
加蓮「やっぱ ダ メ ☆」カチッ
~~~♪
奈緒「――んほおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!!!!!!」ビクンビクン!!
凛「うわ、すっごい。」
奈緒「ひぎぃっ!しゅごい゛っ!しゅごしゅぎる゛っ!!!!」
奈緒「きょんにゃの!きょんにゃにょ、みゅりにゃのぉぉっ!!」
奈緒「おんがきゅがっ!けーかいなりじゅむににょせて!ごだんかちゅようおびょえちゃうにょぉっ!!!」
奈緒「あ゛あ゛っ!!!なんかぐるっ!!きじゃうのぉっ!!」
奈緒「A判定!A判定キちゃうのぉっっ!!!」
加蓮「――――――――――――――――――――――いいよ、イッちゃえ。志望校。」
奈緒「イクっ!イグッ!志望校イクっ!みんなに見られながら合格発表イッちゃう゛ぅ!!」
奈緒「 現 役 合 格 絶 対 確 実 ぅぅぅっ!!」
プシャアアアアア
凛「あーあ、やかん、火にかけっぱなしだよ。」カチ
やかん「プシャー」
奈緒「――――――――――」ハアハア
加蓮「よくできたね、奈緒…次は、志望校のランク、上げちゃおっか…?」
奈緒「あ…へへ…うん…あげりゅぅ…真剣ゼミだいしゅきぃ…」
凛「…奈緒は素直になったみたいだね?」
晴「あ…あ…」ガクガク
加蓮「さ、晴ちゃんもお勉強しようね。」
凛「大丈夫。すぐに慣れるよ。…ゼミなしじゃ(学校)生活ができないくらいにね…」
晴「ひっ!く、来るな!!」
加蓮「大丈夫。すぐに奈緒みたいに賢くなれるからさ。」
晴「やめろ!」
凛「ねえ、加蓮。いいモノ見つけたよ。これつかっちゃう?」
加蓮「『これでカンペキ!中学生活スタートダッシュBOOK』か…いいかも。」
晴「やめ、やめて…」
凛「もうすぐ晴も中学生だもんね?ちょっと早いけど経験しておこうか。」
加蓮「その方がいいね。早めに知っておいたほうがめんどくさい子だって思われないよ。」
凛「梨沙はお父さんと一緒に、ありすも一人で済ましちゃったみたいだから…晴も、ね?さ、大人しくして。」
晴「!」ガブッ
凛「痛っ!」
晴「どけっ!」
加蓮「あっ!」
凛「捕まえて!」
加蓮「待ちなさい!」
晴「ハア…ハア…ここまで、くれば…大丈夫だろ…」
あの後メチャクチャに走って、どうにか逃げ切れたみたいだ。
ここは…ボイラー室ってやつか。こんなとこなら誰も来ないだろ。
途中、あの二人だけじゃなくて、他の人達にも捕まりそうになった。
どうやらオレは寮の中で指名手配されているらしい。
晴「…ハア…ハア……少し……休憩だ…」
奥の壁にもたれかかる。コンクリがひやりとして気持ちいい。
晴「…」
晴(…かびくせー…)
晴(…)
晴(あのパイプ…円柱か…)
晴(直系20センチ位かな…高さは…2メートル半、250センチ…)
晴(底面積は、半径×半径×3…)
クチュ
晴(ん…だめだ…問題によっては3でもいいなんていうけど…そんなのじゃすっきりしない…)
クチュクチュ
晴(やっぱり3,14だよな…それで…)
クチュクチュ
晴「…んっ……‥ふっ…‥…‥はぁ…はぁ…」
クチュクチュ
晴「小数点……戻さないと……検算も…しないと…」ハアハア
晴「…はぁ…んっ……」クチュクチュ
晴「―――――――え?」
晴「え、うそ…オレ……なんで?」
晴「何やってんだよ…なんで……そんな…こんなの…」
晴「…床にたれてた水で式を書いて……ハハ……雪舟じゃねーんだからさ……」
晴「なんなんだよ…どうなっちまったんだよ…オレ…」
晴「これじゃまるで…ガリ勉みたいじゃねーかよっ…!!」
晴「怖いよ…誰か助けてくれよ…」
晴「誰か…誰かいないのかよ…ゼミとは関係ない奴…」
『私には家庭教師の先生がいらっしゃいますので。必要ありませんわ。』
晴「…桃華!」
晴「携帯で…」
晴「……頼む、出てくれ…」
桃華「はい、桃華ですわ。」
晴「…!あ、あ…!桃華?本当に桃華か?頼む!このままじゃオレ…」
桃華「ちょっと!落ち着いてくださいまし!…何があったのか、ゆっくりと説明してくださるかしら。」
―――――――
桃華「なるほど。状況は飲み込めましたわ。…正直、にわかには信じられませんけれども。」
晴「本当なんだよ。みんなおかしくなってる。」
桃華「あなたの様子を聞いてると嘘だとも思えませんわ…私もすぐに向かいます。」
晴「…!ありがとう!ありがとう!」
桃華「お礼を言うのは助かってからでいいですわ…では、後ほど。」
晴「よかった…これで助かる…」
晴「そうだよ、あいつもさ…お高くとまってるけど友達思いのいいヤツなんだよ…」
晴「…この前は傑作だったよな。みんなで事務所でゲームしてたら桃華とありすがきて…」
晴「最初は子どもっぽい、なんてバカにしてたけど…結局二人ともキャーキャー言いながら遊んでさ。」
晴「特にありすのやつなんか、ゲームじゃオレに絶対負けるはずがない、ってムキになってさ…」
晴「あいつ、結構負けず嫌いなんだよな…意外とサッカー向いてるんじゃないかな…」
晴「そうだよ…今度誘ってみるか…とりあえず、フットサルくらいなら…」
晴「…グスッ」
晴「千枝…お前、悪い子になりたいって言ってたのに、そんなガリ勉になってどうすんだよ…」
晴「みりあもさ…あんな顔するなよ…いつもみたいに笑ってくれよ…」
晴「みんな…みんないいやつだったんだよ…。うぅ」
晴「どうして…どうしてこんなことに…」
「やだ!やめて!」
晴「!?」
――美嘉「ふひひ★そんなに怖がらなくても平気だよ。おねえちゃんと一緒に勉強しようね。」
薫「やだ!かおるはせんせぇのところに行くの!」
珠美「薫殿、しっかりと勉強しないと珠美のような大人のお姉さんになれませんよ!」
晴(…クソ…追われていたのはオレだけじゃなかったのか…)
晴(…珠美さんだけならどうにかなるかもしれないけど…美嘉さんも一緒かよ…)
晴(不意をついたら…いや…でも…)
美嘉「さあ、こっちにおいで?お勉強が終わったら二人でお風呂に入ろうね★」
薫「やだ、やだやだやだやだ!」
晴(…っ!)
晴(落ち着け…今オレが出てっても二人一緒に捕まるだけだ…)
晴(ここは桃華を待って…)
珠美「さあ!参りましょう!」グイ
薫「やだ!せんせぇはどこ?せんせぇのところにいくの!」
晴(そうだよ…しょうがない…いくらなんでも高校生二人相手じゃ勝てないよな…)
晴(桃華だって許してくれるよ…しょうがない…ごめんな…薫…)
薫「たすけて!だれかたすけてえ!!」
晴「…くそ!」
美嘉「今日はお姉ちゃんがせんせぇだよぉ?みかせんせぇ、って呼んでね★ふひ、ふひひ★」
「うわあああああああああああああああああっ!!!」
ブシャアアアアアアッ
美嘉「きゃっ!」
珠美「なっ!消火器!?」
晴「こっちだ、薫!」
美嘉「えっ、晴ちゃん?」
珠美「何も見えません!」
薫「はるさん、ありがとう…」
晴「あ、ああ…それより、薫はどうしてここに?」
薫「あのね、かおる、せんせぇとおしごとのお話しにきて…」
薫「さいしょはみんなでお話してたんだけど、かおるがゼミやってないって言ったら、みんなおかしくなって…」
薫「それで…おいかけられて…せんせぇともはぐれちゃって…」
晴「そうだったのか…大丈夫。オレは味方だ。まずはここから出よう。」
薫「うん!…でも、せんせぇは?」
晴「Pか…できることなら合流したいけど…今ウロウロするのは危ないな…」
薫「あ!だったらかおるせんせぇがどこにいるか知ってるよ!」
晴「何?」
薫「あのね、にげてるときにせんせぇが言ってたの。『入り口はだめだからおく上からにげよう』って。」
晴「屋上…そうか、確かにあそこなら、非常階段から誰にも気付かれずに脱出できるな。」
晴「よし!屋上に行くぞ薫!」
薫「うん!」
ギイ…
晴「…よし。大丈夫そうだな…」
薫「あ、せんせぇ!」
P「薫!無事だったのか!」
晴「P…助かったぜ…」
P「晴、無事でよかったよ…随分遅かったな。」
晴「結構慎重に来たからな…って」
晴「遅かった、ってどういうことだよ。」
P「…」
晴「おい、まさか…」
薫「ねえねえせんせぇ!」
P「ん?どうした薫。」
薫「かおる、上手にできた?」
P「ああ、完璧だったぞ。百点満点だ。」
美嘉「いやー、まさか消火器で来るとはねえ…見てみて、こんなに白くなっちゃったよ★」
珠美「なかなかよい気迫でしたよ。晴どの。」
晴「えっ…なんだよ…それ…どういうことだよ…」
P「…なあ、晴。なんで俺が薫にせんせぇ、って呼ばれてるか疑問に思わなかったのか?」
P「それはな…俺が…『赤ペンせんせぇ』だからなんだよ。」
晴「そんな…マジかよ…」
P「と言っても、たくさんいるうちの一人だけどな。幸いうちの事務所は副業OKだからな。」
P「うちの事務所のアイドルは未成年も多い。勉学がおろそかにならないように俺が管理しているというわけだ。」
晴「なんだよ…信じてたんだぞ…Pのこと…いいやつだって…」
P「隠していてゴメンな。晴。バラしたらお前に嫌われると思ってな…」
晴「…なんだよ…最初から、ハメられてたってわけかよ…クソッ!くそぉぉっ!!!!」ヘタリ
薫「ねぇねぇせんせぇ!シール!シール!」
P「おっとすまん、忘れていたな。薫は百点満点だからな。金色だ。」
薫「やった!きんいろ♪きんいろ♪」
P「ほら、舌を出せ。」
薫「あーん…んっ………えへへぇ…あまぁい………のりのあじがするぅ……」フルフル
珠美「P殿!珠美にも、珠美にも!」
P「おいおい、ごほうびシールは小学生までだろ?」
美嘉「えー。アタシ達だってチョー頑張ったんだけど★」
P「わかってるよ。…後でじっくりと添削してやるからな。」
珠美「あ、えへへ…///その…花丸も、ほしいです…///」
美嘉「ちょ、ちょっとPさん///あんま厳しいコメントはカンベンしてよ///」
P「さて、と…」
晴「!」
P「晴。そろそろ覚悟を決めてもらおうな。」
凛「まったく。遊びたいのはわかるけどさ、鬼ごっこはもう終わりだよ。」
加蓮「大丈夫だよ。Pさん…P先生とっても優しいから、すぐに晴ちゃんも大好きになるよ。」
みりあ「わーい!これで晴さんもチャレンジメイトだね!」
薫「えへへぇ…あと2まい…えへ、えへへ…」ダラダラ ガクガク
ありす「いい加減大人になったらどうですか?嫌なことから逃げてばかりじゃだめですよ。」
晴「くっ…」
ここまで、か…完全に囲まれちまった。
ごめん。卯月さん、奈緒さん…助けてあげられなかった…
…もうすぐそっちに行くから、待っててくれよ…
―――バラバラバラバラバラ!!
凛「きゃっ!」
加蓮「何?」
桃華「早く!そのロープに捕まって!」
晴「桃華!」
P「くっ!へリ…だと!?」
桃華「乗り込みましたわ、早く!離れて!」
P「逃すな!」
凛「ダメ!すごい風で近づけない!」
珠美「珠美はもう飛ばされてしまいます!」
P「クソッ…!」
桃華「間一髪でしたわね。遅くなって申し訳ありませんわ。」
晴「…サンキュー…ヘリなんて、無茶するぜ…」
桃華「尋常ではない様子でしたから、少々急がせていただきましたの。」
晴「…」
桃華「…まずは、私の家で休んでくださいまし。これからのことは、その後…」
晴「これから…これからか…」
晴「これから、なんて、あるのかよ…」
晴「もう、みんな滅茶苦茶だよ…どうすればいいんだよ…どうすれば…」
晴「なあ…桃華…お前なら、わかるだろ…?頭いいだろ?なあ…どうすればいいんだよ…」
桃華「…」
晴「どうするんだよ…こんな時どうすれば…」
晴「どうすれば…」
晴(…どうすれば…こんな時…)
晴(…!)
晴(…………いや、あるぞ。方法は、ある。)
晴(…そうだ…これ…)
ゼ ミ で や っ た と こ ろ だ
晴「う゛ああああああああああああああああああああっ!!!!!」
桃華「え!?」
晴「ああああ゛っ!!!」グイ
パイロット「おい君!何をするんだ!」
桃華「晴さん!おやめなさい!」
晴「あああああ!!あああああああああっ!!」フーッ フーッ
桃華「くっ…なんて力…」
パイロット「もうダメです!お嬢様!脱出を!」
晴「ああああ゛あ゛!!!」
――――「…る…はる!」
晴「…えっ?」
P「…おいおい。大丈夫か?」
ありす「まったく。本番前に居眠りなんて、中学生になっても相変わらずですね。」
晴「え…?あれ…夢?ここは?」
凛「寝ぼけてるの?これから大事なCM撮影があるんだよ?」
晴「CM?」
奈緒「真剣ゼミのCMだろ?しっかりしてくれよな、晴。」
晴「え?…あ、ああ…ゼミ……ああ、うん。そうだったな。ごめん。」
ありす「まったく…」
晴「ははは…」
晴(なんだろう…何か大事なことを忘れている気がする…)
晴「…!桃華!」
晴「桃華!そうだ!桃華は?」
ありす「えっ?…そういえば、最近桃華さんの姿を見ませんね…」
P「…」
P「この際だからみんなに言っておくことがある。」
P「…桃華な、もしかしたらアイドルやめるかもしれない。」
みりあ「えっ!なんで?」
P「中学受験に失敗してからご家庭の教育方針がいっそう厳しくなってな…」
P「これからはアイドル活動をさせないで家庭での勉強に専念させると親御さんから連絡があった。」
P「だが、まだ確定じゃない。俺の方も最後まで説得を続けるから、みんなはまず目の前のことに集中するんだ。」
凛「…そうだね。プロデューサーに任せておけばきっと大丈夫だよ、みんな。さあ、気合入れていこう!」
奈緒「そうだ。あたし達が勉強もアイドルもしっかりやっていれば桃華の親御さんも考えを変えるかもしれない。」
加蓮「おっ、さすが東大生。言うことが違うね。」
奈緒「なっ…おい、やめろって!」
晴「そうだな…奈緒さんの言う通りだ。今はオレたちのできることを頑張らないと。」
卯月「はい!島村卯月も頑張ります!」
未央「おっ!さすがしまむー、すごい気合だね!」
卯月「はい!頑張ります!島村卯月は頑張ります!」
薫「えへへ!かおるもがんばります!」
みりあ「頑張ります!赤城みりあも頑張ります!」
卯月「頑張ります!島村卯月は頑張ります!」
晴「…はは、みんな気合入ってんな。」
ありす「当然ですよ。今や真剣ゼミは国民の7割がやっていますからね。」
晴「そうだな、そのCMともなれば、トップアイドルの証明みたいなもんだもんな。」
晴「…なあ、今度一緒にサッカーでもやらないか?」
ありす「どうしたんですか?珍しいですね、私にそんなことを言うなんて。」
晴「え…?あれ…?なんで、かな…。」
ありす「…変な人ですね。いいですよ。たまにはそういうのも。」
晴「マジか!そうだ!桃華も誘おうぜ!」
ありす「話を聞いていなかったんですか?桃華さんは…」
晴「だからさ、チャレンジを持って行ってやるんだよ!そしたらきっとまた一緒にアイドルできるって!」
ありす「…なるほど。」
晴「な、いいアイディアだと思わないか?」
ありす「いいですね。では次の日曜日に。」
晴「ああ!…楽しみだな。桃華がオレたちの仲間になるの…」
――オレは、オレたちは変われた。真剣ゼミで変われたんだ。
あの時、ゼミを始めてよかった。今、オレはすっごく充実している。
今ならまだ間に合う。さあ、君もゼミ、今すぐ始めようぜ!
~おしまい~
こんなおっさんのSSを読んでくれてありがとう。ちゃんと勉強しないとおっさんみたいなアホな大人になるで。
ちなみにおっさんも塾に行く予定や。塾と言っても小さな個人塾や。
出来の悪いおっさんはそこで美優先生に居残りで優しくシゴカれてしまうんや、勉強的な意味でな。
ところが偶然ありすちゃんに見られてしまってな、次の日からは学校でも「まだ出ないんですか?(答えが)」
と厳しくシゴカれ、塾では美優先生に「何度でも、できるまでしましょうね?とシゴカれる日々なわけや。
これが本当の「苦悶式」というわけやな。あー、優等生は辛いでホンマ。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません