501基地 通路
ミーナ「この辺りかしら?」ピコンッ
ミーナ「……やっぱり、この壁の中に通路のようなものがあるみたいね」
エーリカ「あれ? ミーナ、何してるの? 魔法なんか使っちゃって」
ミーナ「ちょっと調べ物を、ね。それより、貴方は訓練の時間じゃなかったかしら?」
エーリカ「今から行くところなんだって。そしたら、ミーナが何かしてたからさ」
ミーナ「実はね、先日この基地の古い見取り図を見つけたのよ」
エーリカ「見取り図?」
ミーナ「これよ」
エーリカ「うわぁ。またえらく古いのだね。いつの?」
ミーナ「古代のウィッチが残したものだと思うけれど、いつの時代なのかは分からないわ」
エーリカ「ふぅーん。あれ、ちょうどこの辺りになんかあるね」
ミーナ「そうなの。何か危険があったら困るから調べていたところなのよ。でも、ここは普通の壁にしか見えなくて。何かあるのかしら?」ググッ
エーリカ「お、壁が動いた。なにか出てくるかな?」
ミーナ「変なこと言わないで。何かがでてくるなんていうことはな――」
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ハルトマン・バルクホルンの部屋前
バルクホルン「ハルトマンめ。訓練の時間だというのにまだ寝ているな……」
バルクホルン「ハルトマン!! 起きろ!! 訓練の時間――」ガチャ
バルクホルン「いない……。全く、どこに行ったんだ」
ペリーヌ「バルクホルン大尉、ハルトマン中尉なら随分前に訓練へ向かわれたようですけど?」
バルクホルン「なに?」
リーネ「10分前ぐらいにハルトマンさんが部屋から出てくるのを見ました」
バルクホルン「10分前か。それなら訓練の時間を守っていることになるな」
ペリーヌ「行き違いになったのではありませんか?」
バルクホルン「しかし、私はずっと滑走路で待っていたが、ハルトマンは来なかった。だから、こうして部屋までやってきたんだ」
リーネ「どこかにいるんでしょうか?」
ペリーヌ「中尉ですからね。ありえますわ」
バルクホルン「リーネ、ペリーヌ。時間に余裕があるならハルトマンのことを探してくれ」
リーネ「了解っ」
ペリーヌ「仕方ないですわね」
通路
バルクホルン「ハルトマン!! どこだ!!」
バルクホルン「どこで油を売っている……。今日の訓練は特別厳しいものにするか」
バルクホルン「ん? これは……」ペラッ
バルクホルン「古い見取り図のようだな。図からいってこの基地のものか」
バルクホルン「しかし、何故これがこのような場所に落ちている?」
バルクホルン「……」
バルクホルン「あとでミーナか少佐に渡しておくか。今はハルトマンを探すことを優先しなければ」
エイラ「あ、大尉」
バルクホルン「エイラ、ハルトマンを見なかったか?」
エイラ「いや、見てないけど」
バルクホルン「見かけたら、私が探していたと伝えてくれ」
エイラ「りょーかーい」
バルクホルン「サーニャはまだ寝ているのか?」
エイラ「ああ。あと1時間は起きないと思う」
格納庫
ルッキーニ「すぅ……すぅ……」
シャーリー「で、このエンジンがもう少し出力上げられたらなとは思うんですけど」
美緒「特別なパーツが必要になってくるな。カールスラントの冷却装置なんかも取り寄せるか」
シャーリー「いいんですか!? やったぁ。流石、少佐。話が早い」
美緒「話は早いが、届くまではかなり待たされることになるだろうがな」
リーネ「坂本少佐、シャーリーさん。今、いいですか?」
美緒「構わんぞ」
シャーリー「メシか?」
リーネ「いえ、ハルトマンさんを見ませんでしたか?」
シャーリー「ハルトマン? いやぁ、見てないな」
美緒「そういえばバルクホルンが滑走路で待ちぼうけをくらっていたな」
シャーリー「顔が怖かったですよね。ハルトマンのやつ怒られるな」
美緒「はっはっはっは。ハルトマンが悪いがな」
リーネ「そうですか。ありがとうございました」
食堂
芳佳「んー……。味付けは大丈夫かな」
ペリーヌ「ここにもいませんわね」
芳佳「あ、ペリーヌさん。手伝いに来てくれたの?」
ペリーヌ「そんなわけないでしょう。ハルトマン中尉を探しているところです。宮藤さんは何かご存知ですか?」
芳佳「ううん。見てないよ。こっちにも来てないけど」
ペリーヌ「そうですか……。どこにいるのか……」
芳佳「ハルトマンさんが居なくなったの?」
ペリーヌ「ええ。ルッキーニさんのように外で寝るわけでもないでしょうし、すぐに見つかると思ったのに」
芳佳「なんだか、心配だね。よし!! 私も探す!」
ペリーヌ「貴方は食事の準備がありますでしょう?」
芳佳「もう殆どできてるから、大丈夫。それより、ハルトマンさんを探そう!」
ペリーヌ「はいはい。では、宮藤さんは宿舎のほうを見てきてくださいな。わたくしは外を見てきますので」
芳佳「うん! わかった! ハルトマンさーん!!! どこですかー!!」テテテッ
ペリーヌ「あ、ちょっと! そのエプロンぐらい外していったらどうですの!? あぁ、行ってしまいましたわ。もう……」
格納庫
シャーリー「で、ここがこうなって……」
美緒「ほうほう」
バルクホルン「ハルトマン!!! どこだ!!! いい加減にでてこい!!!」
美緒「なんだ、バルクホルン。大声を出して」
バルクホルン「少佐。ハルトマンは見ていないか?」
シャーリー「まだ、見つかってないのか? さっきリーネがここに来たぞ」
バルクホルン「そうか……」
美緒「ハルトマンも困ったやつだな。まぁ、501にはそういう奴が多いが」
シャーリー「それ、少佐も入ってます?」
美緒「何か言ったか、シャーリー大尉?」
シャーリー「いえ、なんでも」
バルクホルン「ここまで探してもいないとは……。どこに……。ああ、少佐。通路でこれを拾ったぞ。希少価値が高いものではないのか?」
美緒「それは……」
シャーリー「なんだそれ? いつの地図だよ」
バルクホルン「この基地のものだと思うが」
シャーリー「言われてみれば確かにそんな気もするな」
美緒「バルクホルン。通路に落ちていたと言ったな?」
バルクホルン「そうだ。それが何か問題か?」
美緒「……シャーリー、ルッキーニを起こしてくれ」
シャーリー「え? いいですけど、どうしたんですか?」
美緒「ルッキーニと共にミーナ中佐を探してくれ」
バルクホルン「少佐。今はハルトマンを見つけるほうが先だ」
美緒「ミーナがどこに行ったのかわかれば、ハルトマンの居場所もわかるかもしれない」
バルクホルン「なんだと?」
シャーリー「……ルッキーニを起こすか。おーい、ルッキーニ! おきろー!!」
ルッキーニ「うぅん……? どったの?」
シャーリー「ミーナ中佐を探す。来てくれ」
ルッキーニ「わかったー」
美緒「私も探すか。バルクホルン、この見取り図が落ちていた場所に案内してくれ」
通路
芳佳「ハルトマンさーん!! どこですかー!!」
芳佳「……」
芳佳「どこにいるんだろう……」
リーネ「芳佳ちゃーん」テテテッ
芳佳「リーネちゃん!」
リーネ「はぁ……はぁ……。芳佳ちゃんもハルトマンさんを探してるの?」
芳佳「うん。でも、見当たらなくて。もしかしてリーネちゃんも?」
リーネ「そうだよ。芳佳ちゃん、一緒に探そうよ」
芳佳「そうだね。そうしよう。次はどこを探そっか?」
リーネ「宿舎のほうも居なかったんだよね? あとハルトマンさんが居そうな場所は……」
ドンッ!! ドンッ!!
リーネ「きゃぁ!?」
芳佳「か、壁から変な音が……」
リーネ「なんだろう……この辺りから音がしたよね……」
バルクホルン「では、その見取り図をもってミーナは基地内の調査をしていたわけか?」
美緒「地下遺跡のこともあるからな。罠があれば危険だろう。何かの弾みで仕掛けられた罠が起動しては困る」
バルクホルン「もしかしてミーナは……」
美緒「それは分からん。現場を見てみないことにはな」
バルクホルン「少佐。あそこが落ちていた場所だ」
美緒「ん? 何か落ちているぞ?」
バルクホルン「これは……」クンクン
バルクホルン「宮藤のエプロンだ」
美緒「何故、ここに落ちている……?」
バルクホルン「まさか!!」
美緒「この見取り図では、この壁の向こうに通路のようなものがあるな」
バルクホルン「ここか!?」
美緒「待て、バルクホルン!!」
バルクホルン「宮藤!! 中にいるのか!! 宮藤!! 応答しろ!!」ドンドンッ!!!
美緒「やめろ!! 何があるか分からないんだぞ!!」
バルクホルン「しかし、少佐!! もし何かの罠によって宮藤の身になにかあったら!!!」
美緒「そんなことは分かっている!!」
バルクホルン「ならば、行かせてくれ!! こんな壁、私にかかれば……紙も同然だ……!!!」ピコンッ
美緒「バルクホルン大尉!!」
バルクホルン「はぁぁぁ……」
美緒「バルクホルン!!」グイッ
バルクホルン「やめろ!! いくら少佐でもこればかりは……!!」
美緒「目の前でお前を失うようなことがあれば、私は自害するしかない。やめてくれ」
バルクホルン「しょ、少佐……」
美緒「頼む」
バルクホルン「す、すまない……。冷静さを欠いてしまった……」
美緒「皆をブリーフィングルームに集めてくれないか」
バルクホルン「了解」
美緒「すまないな」
バルクホルン「謝るのは私のほうだ」
ブリーフィングルーム
ルッキーニ「消えたの!? 芳佳とリーネがぁ!?」
ペリーヌ「ほ、本当なのですか、少佐?」
美緒「今現在もシャーリーとバルクホルンに基地内を捜索してもらっているが、見つかってはいない。ハルトマン中尉もミーナ中佐もな」
エイラ「手がかりはないのか?」
美緒「通路に宮藤のエプロンとミーナが持っていた物が落ちていたが、行方は分からない」
ルッキーニ「そんなぁ……」
エイラ「私のダウジングとサーニャの力を借りればすぐに見つかるはずだ。サーニャを起こしてくる」
美緒「私もそれを頼むつもりでいた。いけるか?」
エイラ「当たり前だ。ちょっと待っていてくれ」
美緒「ペリーヌ、ルッキーニ。お前たちはシャーリー、バルクホルンと共に基地内の捜索を続けてくれ」
ペリーヌ「は、はい」
ルッキーニ「いくよ、ペリーヌ!! ほら、はやく!!」グイッグイッ
ペリーヌ「わかっていますわよ!」
美緒(ミーナ、どこにいるんだ……。やはり、壁の中か……?)
通路
サーニャ「……」
エイラ「どうだ、サーニャ?」
サーニャ「壁の奥に反応があるわ。もしかしたら芳佳ちゃんたちかも」
エイラ「そうか、やっぱりな。私のダウジングもここで反応したし」
美緒「エイラ、サーニャ。助かった」
サーニャ「いえ。では、坂本少佐。行きましょう」
エイラ「準備、できてるぞ」
美緒「いや、お前たちはここに居てくれ」
エイラ「少佐、なにいってんだよ。私たちも行くって」
美緒「全員で行くわけにはいかん。加えて、お前たちにはまだまだ最前線に居てもらわなければならない」
サーニャ「少佐……」
美緒「5分しても戻らなければ、バルクホルンに伝えてくれ。あとのことは任せるとな」
エイラ「な……!? わ、私、そんな命令は聞けないぞ!! いやだ!!!」
美緒「よろしく、頼む。……行くか」ググッ
エイラ「少佐ー!!」
サーニャ「行かないでください!!」
美緒「……」ググッ
エイラ「……」
サーニャ「……坂本少佐?」
美緒「ふーん……!!」ググッ
エイラ「どうしたんだ? 開かないのか?」
美緒「……ここではないのかもしれないな」
サーニャ「でも、この先に反応がありますから」
エイラ「だよな。サーニャが間違えるってこともないだろうし」
美緒「入り口が別なのか? だが、見取り図とエプロンが落ちていた場所はここだからな……」
サーニャ「えーと……」カチッ
エイラ「お? サーニャ、どうした?」
サーニャ「あ、ここ動いたわ、エイラ」ガコンッ
エイラ「サーニャ!! あぶな――」
バタンッ!!!
美緒「しまった!! サーニャ!! エイラ!!!」
美緒「聞こえるか!! 聞こえるなら返事をしろ!!」ドンドンッ!!!!
美緒「サーニャ!! エイラ!!!」
美緒「……」
シャーリー「少佐ー!! 何かあったんですかー!!」
美緒「シャーリー……」
シャーリー「ど、どうしたんですか?」
美緒「目の前で……サーニャとエイラが……」
シャーリー「二人はどこに?」
美緒「壁の中だ。私が触ったときはびくともしなかったが、サーニャが触ったとたん動き出してな。そのまま引き摺り込まれるように二人が……
シャーリー「とにかく、残っている連中を集めましょう」
美緒「そうだな……」
シャーリー「少佐……。ほら、心配しなくても、エイラもサーニャも無事ですって、絶対」
美緒「……」
ブリーフィングルーム
バルクホルン「エイラとサーニャまで……」
ペリーヌ「そんなぁ……」
ルッキーニ「うぇぇぇん!! よしゅかぁー!! りーねぇ!! えいりゃー!! さーにゃぁー!!」
シャーリー「ルッキーニ……」ギュッ
ルッキーニ「うえぇぇん……」
美緒「バルクホルン、見取り図を見てくれ」
バルクホルン「突入、するんだな?」
美緒「それしかあるまい。ただ、全員を捜索に投入するわけにもいかない」
バルクホルン「ネウロイのこともあるからな」
美緒「その通りだ。捜索班は私とバルクホルン。残りの者は待機していてくれ」
シャーリー「了解」
ペリーヌ「少佐! あの……」
美緒「もしものときはシャーリーの言うことを聞くようにな」
ペリーヌ「そ、そんな……やめてください……」
通路
バルクホルン「……この辺りか」カチッ
美緒「気をつけろ」
バルクホルン「分かっている」ググッ
美緒「動いたか」
バルクホルン「開くぞ、少佐」
美緒「いつでもいける。開けろ、バルクホルン」
バルクホルン「はぁぁ!!」ガコンッ
美緒「突入だ!!」
バルクホルン「行くぞ!!」
バタンッ!!!
美緒「……」
美緒「バルクホルン!! おい!! 私がまだ……突入して……ない……」
美緒「……」
美緒「斬り開くしかないな」シャキン
美緒「はぁぁぁぁ!!!!」ザンッ!!!!
美緒「開いたか。……これは!? なるほど、入った瞬間、奈落の底まで滑り落ちてしまうようにできていたのか」
美緒「バルクホルン!! どこだー!!!」
美緒「……声がしない。相当、深いようだな」
美緒「魔眼で底が視認できればいいが……。くっ。この滑り台のような道はかなり曲りくねっているようだな」
美緒「行くしか、ない」
美緒「ふっ!」
美緒「待っていろ!! 今すぐ私がお前たちを――」ズサァァァ!!!
ルッキーニ「少佐、行っちゃった」
ペリーヌ「少佐ぁ……。不安で胸がはち切れそうですわ」
シャーリー「うーん……」
ルッキーニ「シャーリー? さっきから見取り図みてるけどなんかわかったの?」
シャーリー「なぁ、ペリーヌ。この見取り図を見ていて、何か気づかないか?」
ペリーヌ「はい? うーん……。あら、これはもしかして……」
シャーリー「私の部屋に来てくれ。多分、あれを見ればはっきりするはずだ」
地下通路
美緒「――っと。ここは終着地点か」
美緒「やはり、暗いな。魔眼で……」ピコンッ
美緒(いくつか足跡があるな。これはバルクホルンのものか。こちらは宮藤か……)
美緒「進むしかないようだな」
美緒(ミーナ、宮藤、リーネ、ハルトマン、エイラ、サーニャ、バルクホルン。今すぐ行くからな)
美緒「この先には何が……。扉か?」
美緒「これも古代のウィッチが作ったものか」
美緒「どれ……」ググッ
美緒「ふっ……!!」グググッ
美緒「ぬおぉ……!! 開けぇぇ……!!!」
美緒「ダメか。ならば……」シャキン
美緒「はぁぁ!!!」ガキィィン
美緒「な!? 斬れないだと!? 特殊な魔法でも施してあるのか」
美緒「ならば使うか。烈風斬を……」ゴォォォ
美緒「れっぷうぅ――」
美緒「……待て。ここは地下だ。無闇にこの力を使えばどうなるかわからんな。下手をすれば崩落してしまう危険性もある」
美緒「それに皆がここにいないということは開ける手段は必ずあるということ。考えることを止めて実力行使に出るなど、指揮官失格だ」
美緒「まずは……」
美緒「鍵穴らしきところは……。ないな」
美緒「押してダメなら、引いてみるか」グイッ
美緒「……持ち上げてみるか」グイッ
美緒「スライド式だったりするのか?」ググッ
美緒「はっはっはっはっは。どれも違うのか」
美緒「くそっ!!」ドンッ!!!
美緒「この先に皆がいるというのに!!」
美緒「時間が惜しい。一か八か、我が烈風丸に全てをかける!!」
美緒「はぁぁぁ……」ゴォォォ
美緒「烈風ざぁぁぁん!!!!」ガキィィィン!!!!
美緒「……一度、引き返すか」
通路
美緒「ふっ……!! もう少し……で……!!」
美緒「ふんっ!!」ガシッ
美緒「ふぅ……。なんとか登ってこれたな。烈風丸、すまないな。ピッケルのように扱ってしまって」
美緒「さてと、シャーリーたちに内部の様子を報告しなければな」
美緒(ブリーフィングルームあたりで待機してくれていればいいが)
美緒「行ってみるか」
美緒(だが、どのような顔であいつらに会えばいい)
美緒(仲間を、家族を1人も救えずにおめおめと戻ってきた敗残兵だぞ……)
美緒(いや、私1人の力ではどうにもならなかったのも事実だ。そこは認めなければ)
美緒(シャーリーたちには深く謝罪しよう。そして、私の責任を償うために命を賭してやつらを救う)
美緒「万が一……ミーナたちの命に関わることだったのなら……」
美緒「私は腹を切ろう」
美緒(未来あるウィッチたちを犠牲にしながら、生きながらえようとは思わない)
美緒(皆……無事でいてくれ……)
ブリーフィングルーム
美緒「シャーリー、いるか?」
美緒「……ここではなかったか」
美緒「この時間なら、昼食だな。食堂にいるかもしれんな」
美緒「全く。こんなときでも食欲があるのか、あいつらは。頼もしいというかなんというか」
美緒「だがまぁ、それでこそウィッチ。それでこそ501だがな」
美緒「はっはっはっはっは」
美緒「……」
美緒(この漠然とした不安はなんだ……)
美緒「こんなにもこの基地は静かだったか……?」
美緒「いや!! 余計なことは考えるな!!」
美緒「あいつらは食堂だ!! 食堂にいるはず!!」
美緒「はっはっはっは!!」
美緒「はっはっは……」
美緒(シャーリー、ペリーヌ、ルッキーニ……どこにいる……)
食堂
美緒「シャーリー!! ペリーヌ!! ルッキーニ!!」
美緒「いない……」
美緒「何故だ……。どうしてここにも……。待機していろと言ったのに……」
美緒「ん?」
美緒「これは……。宮藤が作っていた料理か……」
美緒「そうか、今日は扶桑料理を振舞ってくれようとしていたのか」
美緒「まだ料理は温かさを残しているな」
美緒「くっ……!!」
美緒「つい数刻前までここで宮藤は料理を作っていたといのに……!!」
美緒「何故、居ないんだ。どうして私の前から消えた!!」
美緒「……諦めるな。あいつらが簡単に死ぬようなことはない」
美緒「どこかにいる!! いるはずだ!!」
美緒「まずは基地にいる全ての人間に声をかけなくてはな!!」
美緒「どんなことをしてでも、奴らを見つけてやる!!」
地下
バルクホルン「また扉か。ふんっ」ガコンッ
バルクホルン「かなり広い場所に出たな」
「わぁぁぁー!!!」テテテテッ
バルクホルン「誰だ!?」グイッ!!!
芳佳「ぐぇぇ……! わ、わた、しです……バ、バルクホルン……さ……ん……」
バルクホルン「宮藤!! 無事だったか!! 心配したんだぞ!!」
芳佳「よかったぁ。バルクホルンさんが助けにきてくれて!」
バルクホルン「他のものは?」
芳佳「みんなここにいますよ」
リーネ「バルクホルンさーん!!」テテテッ
バルクホルン「リーネ。怪我はないようだな」
エイラ「あ、大尉だ。助かったぞ、サーニャ?」
サーニャ「すぅ……すぅ……」
バルクホルン「心配して損したな」
エーリカ「トゥルーデなら来てくれると信じてたよ」
ミーナ「ごめんなさい。こんなことになってしまって」
バルクホルン「いや。少佐から話は聞いている。ミーナは隠し通路の調査をしていたのだろう?」
ミーナ「ええ。それで壁を調べていたら、急に回転ドアのように壁が動いて私とハルトマンは巻き込まれて下まで落ちて」
エーリカ「で、一回自力で上まで登ったんだけど、ぜーんぜん開かなくてさぁ。一生懸命叩いてたら、次は宮藤とリーネが転がりこんできて。また落ちたんだよ」
リーネ「あのときはびっくりしたよね」
芳佳「うん! オバケかと思っちゃった」
バルクホルン「もう一度、登ろうとはしなかったのか」
ミーナ「中からでは開かないと思ったのよ。開くときにはまた誰かが転がり落ちてくるだろうし」
エーリカ「で、じゃあ、奥を調べようって話になって、ここまで来たんだ」
バルクホルン「それで、ここは何かわかったのか?」
ミーナ「まだはっきりとは。でも、向こうに部屋の中を見て大体の想像はつくけれど」
芳佳「バルクホルンさん、こっちです。すごいんですよー。キッチンとかベッドが置いてあるんです。暫くならここで住めると思いますよ」
リーネ「非常食まであったんですよ。流石に食べることはできないと思いますけど」
バルクホルン「まるでシェルターだな……」
501基地 周辺
シャーリー「多分、この辺だと思うんだけどなぁ」ガサガサ
ペリーヌ「わぷっ!? もう!! なんですの!! ここはぁ!!」
ルッキーニ「基地の周りにある森だけど?」
ペリーヌ「そういうことを言っているのではありません!! どうしてわたくしがクモの巣を顔に貼り付けてまでここを歩かなくてはいけないのかってことですわ!!」
ルッキーニ「えー? ペリーヌ、芳佳たちのこと心配じゃないの?」
ペリーヌ「心配をしていないなんて、一言も言っていないでしょう!!」
ルッキーニ「だったら、心配なんだよね? ほら、文句言わないでさがそ!」
ペリーヌ「わかっていますわよ。坂本少佐の安否も気になりま――はぅ!? またクモの巣がぁ!!」
ルッキーニ「とったげる」
ペリーヌ「どうも」
シャーリー「このあたりだよなぁ。基地の避難・脱出経路的に言えば……」ガサガサ
ペリーヌ「シャーリーさん。本当に符号いたしますの? 古代のウィッチが使ったとされる避難経路と今現在の避難経路なんて」
シャーリー「今の見取り図とも似ている点が多いからな。まぁ、合ってると思うよ。この避難経路は」
ペリーヌ「古代のウィッチも何かから逃げる用意はしていたというわけですか……」
ルッキーニ「ペリーヌっ」グイッ
ペリーヌ「ちょっと!? なんで――ふむぅ!? また! またクモの巣がぁ!!」
ルッキーニ「あ、ごめんごめん」
ペリーヌ「急に腕を引っ張らないでくださいな。それで、なにかありまして?」
ルッキーニ「ここ。踏んでみて」
ペリーヌ「え? うーん……。土の固さじゃないですわね」
シャーリー「見せてくれ」
ルッキーニ「ここだよー」
シャーリー「ええと……」ザッザッ
ペリーヌ「これは……。扉、ですわね」
シャーリー「よっと……」ググッ
ルッキーニ「おぉー。下に続いてるー!!」
シャーリー「ビンゴ。ペリーヌ、行くぞ。ルッキーニは基地に戻っていてくれ。もしかしたら別の場所から誰かが帰ってくるかもしれないからな」
ルッキーニ「あいっ。で、ここのこと話したらいいの?」
シャーリー「それでいい。頼むな」
格納庫
美緒「はぁ……」
美緒(全人員を使って捜索しても、奴らの影すら発見できないとはな……)
美緒「私が不甲斐無いばかりに……第501統合戦闘航空団が消えてしまった……」
美緒「宮藤。お前は本当に素晴らしいウィッチになれるはずだったのに、すまない」
美緒「リーネ。宮藤と共に技能を高めていく姿にはいつも驚かされていた」
美緒「シャーリー。お前の快活さはいつも我々に明るさを与えてくれていたな」
美緒「ペリーヌ。こんな私を敬愛してくれて、感謝している」
美緒「ルッキーニ。問題も多かったが、お前の愛くるしさは荒みそうな心に清涼をくれていた」
美緒「エイラ。類稀なる才能でいつもチームを支えてくれていたな。ありがとう」
美緒「サーニャ。貴重なナイトウィッチ故に夜間哨戒を殆どお前だけに押し付けてすまなかった」
美緒「バルクホルン。次期、戦闘指揮官として活躍させてやりたかった……」
美緒「ハルトマン。エースとして本当によくやってくれていた。ありがとう」
美緒「そして……ミーナ……。私はお前に……感謝してもし足りないほど……くっ……どうして、こんなこと、に……」
ルッキーニ「らんらーん。あー!? 少佐だぁー!! おかえりー!! 心配したんだよー!!」テテテッ
美緒「ルッキーニ!? ルッキーニか!?」
ルッキーニ「にゃはー!! よかったぁー。怪我はな――」
美緒「ルッキーニ!!」
ルッキーニ「あにゃ?」
美緒「この馬鹿者!!!」
ルッキーニ「ひぎゃ!?」
美緒「どこで何をしていたんだ!! お前たちには待機を命じておいたはずだ!!!」
ルッキーニ「ご、ごめんにゃさい」
美緒「謝って済む問題ではない!!!」
ルッキーニ「でもぉ……シャーリーがぁ……」
美緒「……っ」
ルッキーニ「あ、あのね! あたしもね、芳佳たちのこと探したかったの。だから、その、じっとはしてられなくてぇ……」
美緒「ルッキーニ……」ギュッ
ルッキーニ「少佐?」
美緒「よかった……無事で……本当に……」
ルッキーニ「くるしいぃ」
美緒「当然だ。強く抱きしめているからな」
ルッキーニ「少佐ぁ」
美緒「ああ。間違いないな。お前の温もりを感じる」
ルッキーニ「少佐、心配してくれたの?」
美緒「当たり前だ。お前にもしものことがあったら……私は……」
ルッキーニ「少佐、あの……」
美緒「私は……くっ……」
ルッキーニ「ごめんね。勝手に動いたりして」
美緒「全くだ」ギュゥゥ
ルッキーニ「ぐるじぃ」
美緒「他の者は?」
ルッキーニ「そ、そうそう。それを言おうと思ってたんだ」
美緒「案内しろ」
ルッキーニ「あいっ。こっちこっち!」
森
美緒「どこだ?」ギュゥゥ
ルッキーニ「しょ、少佐ぁ。くすぐったいぃ」
美緒「今だけだ」
ルッキーニ「うじゅぅ……。でも、なんだか嬉しいー」ギュッ
美緒「お前は抱きつかなくていい。それで問題の扉というのはどこにある?」
ルッキーニ「えっと、この辺……。あ、あったあった。これこれー」
美緒「地面に扉が……。これは一体……」
ルッキーニ「昔のウィッチが使ってた避難用の脱出口じゃないかって、シャーリーが言ってたよ」スリスリ
美緒「そうか。では、あの壁にあった地下への道も」スリスリ
ルッキーニ「何かから逃げるために使ってたんじゃない?」
美緒「古来よりウィッチは異形のモノと戦ってきたという言い伝えがあるからな」
ルッキーニ「それより、迎えにいくなら早くいこ」
美緒「そうだな。全員の無事をこの目でみたい」
ルッキーニ「あたしは基地のほうで待ってるから」
美緒「どれ……」ググッ
美緒「ふん……!! ぐぅぅ……!!」ググッ
ルッキーニ「少佐、どったの?」
美緒「あ、開かないぞ……。どうなっている?」
ルッキーニ「シャーリーは簡単に開けてたけど?」
美緒「だが……。ふっ……!! はぁ……ダメだ……」
ルッキーニ「ちょっと、私にやらせてー」
美緒「私が無理だったんだ、ルッキーニでは――」
ルッキーニ「よっこいしょ」パカッ
美緒「な……」
ルッキーニ「あいたー」
美緒「……ルッキーニ、もう一度閉じてくれ」
ルッキーニ「いいけど」バタンッ
美緒「私が開ける。ふっ……!! ふぬぬ……!!!」ググッ
ルッキーニ「あにゃ……」
美緒「なるほどな……」
ルッキーニ「どったの?」
美緒「古代のウィッチが使った脱出用の避難経路。簡単に扉が開いては意味がないはず」
ルッキーニ「少佐?」
美緒「そう。ある程度の力がなければ扉は……」
ルッキーニ「んー?」
美緒「ルッキーニ、一緒に来てくれ」
ルッキーニ「でも、あたしはお留守番してないと、まずくない?」
美緒「いいから、来るんだ。お前の力が、必要だ」
ルッキーニ「にひぃ! 了解! いっしょにいくー!!」ギュッ
美緒「まずは開けてくれ」
ルッキーニ「あいっ。よっこいせ」パカッ
美緒「ふっ……。行くぞ」
ルッキーニ「おー!!!」
美緒「はぁ……」
地下
ルッキーニ「まっくらだぁー」
美緒「ルッキーニ。私から離れるなよ」
ルッキーニ「もっちろん!! しょうさぁー」スリスリ
美緒「……奥に扉があるな」
ルッキーニ「そうなの? うぅー……。全然、みえにゃいけど」
美緒「魔眼の力を使っている」
ルッキーニ「にゃはっ。やっぱり、少佐ってすごーい」
美緒「そんなことはない。お前のほうがよっぽど……」
ルッキーニ「そう? ありがとー」スリスリ
美緒「扉だな……。ルッキーニ、開けてくれ」
ルッキーニ「少佐が開ければいいのに」
美緒「私ではもう無理なようだ」
ルッキーニ「どういうこと?」
美緒「いいから、開けてくれ。お前にしか、いや、私にはできないことだからな」
シェルター内
シャーリー「よっ……と!」ガコンッ
ペリーヌ「あら、ここはまた随分と広いですわねー」
エーリカ「あれ? ペリーヌじゃん。どうしたの?」
ペリーヌ「ハルトマン中尉!! ご無事でしたのね!!」
エーリカ「うん。なんともないよ」
シャーリー「心配したんだぞ。無事なら戻ってこいよ。その様子だとミーナ中佐も大丈夫なんだろ」
エーリカ「それがさぁ、ミーナがもう少しここのことを調べたいって言ってて、中々戻れなかったんだよね」
ペリーヌ「調査なら戻ってからでもできるでしょうに。残された私たちがどれだけ心配したのか分かりまして?」
エーリカ「でも、トゥルーデの話だと少佐も一緒に来たはずだけど、今もまだここには来てないから一度上に戻ったってことだよね?」
シャーリー「少佐は来てないのか?」
エーリカ「うん」
ペリーヌ「わたくしがルッキーニさんの代わりに待っていればよかったですわ」
シャーリー「それならルッキーニが全部話してくれているだろから、問題ないか」
エーリカ「もうすぐ調査も終わるはずだから、ちょっと待っててよ」
芳佳「このベッドで寝るのはちょっと怖いね」ギシギシ
リーネ「うん。寝ている間に脚が折れちゃいそうだよぉ」
ミーナ「やっぱり、ここで数日、いえ、数年は住むことを想定しているような作りね」
バルクホルン「数年か。古代のウィッチはやはり何かと戦闘していた、或いは近く来る脅威に備えていたということだな」
ミーナ「恐らくね。これだけの設備ですもの。水だって通っているし」
バルクホルン「色々とあったんだな」
ミーナ「そうでしょうね」
バルクホルン「ミーナ、何を考えているんだ?」
ミーナ「……もしものときにはここを使えるかもしれないでしょ?」
バルクホルン「そんなときは来ない」
ミーナ「トゥルーデ……」
バルクホルン「私たち、501がいる限りな」
ミーナ「そうね……」
エイラ「サーニャ、危ないから降りてくれ」オロオロ
サーニャ「大丈夫よ、エイラ。ちょっと軋むだけだから」ギシギシ
地下通路
美緒「これで5つ目か。頼む、ルッキーニ」
ルッキーニ「あい! よーいしょっ!!」ゴゴゴッ
美緒「……」
ルッキーニ「あいたぁー!」
美緒「よくやった」ナデナデ
ルッキーニ「にゃは。ありがとー」スリスリ
美緒「扉一つも満足に開けられない指揮官など……」
ルッキーニ「どしたの?」
美緒「なんでもない。行くぞ」
ルッキーニ「うん」
美緒「っと、まただな。ルッキーニ」
ルッキーニ「でーいっ」グググッ
美緒「ん? ここは……」
エーリカ「お。少佐だ。こっち来ちゃったのか」
美緒「ハルトマン!!」
エーリカ「ごめんごめん。ミーナがさぁ」
美緒「ハルトマン、無事だったか!!」ギュッ
エーリカ「おぉ? ど、どうしちゃったのさ?」
美緒「怪我はないか?」
エーリカ「うん。なんともないよ。ありがと」
美緒「そうか……」
エーリカ「心配かけちゃったみたいで、ごめん」
美緒「気にするな。お前になにもなくてよかった」
エーリカ「少佐に抱きつかれたのは初めてかも」
美緒「ハルトマン……」ギュゥゥ
エーリカ「ところでさ、少佐。嬉しいんだけど、ちょっとマズいよね」
美緒「なに?」
エーリカ「あれが」
ペリーヌ「しょ、少佐ぁ……」
美緒「ペリーヌ!!」
ペリーヌ「少佐……あの、わたくしは……その……遠くからみているだけでも……その……」
美緒「大丈夫だったか!?」ギュッ
ペリーヌ「へ?」
美緒「何事もなくてよかった……」ギュゥゥ
ペリーヌ「お……ほぉぉ……!!」
美緒「ペリーヌ……」
ペリーヌ「しょ、しょ、うさ……ぁぁ……」
シャーリー「おーい。こっちにも抜け道があったぞー」
美緒「シャーリー!!」
シャーリー「少佐!? いつこっちに!?」
美緒「待機していろと言っただろう!!」ギュッ
シャーリー「あ、いやぁ、すみません。じっとしてるのも性に合わなくて」
美緒「馬鹿者。私に心配をかけさせるな」
シャーリー「はい。気をつけます」
ルッキーニ「あれぇ? あたしだけ特別じゃなかったんだ」
エーリカ「どういうこと?」
ルッキーニ「少佐はみーんなの心配してたんだ」
エーリカ「当然だろー。少佐なんだし」
ルッキーニ「そっか」
美緒「それで、ミーナたちはどうした?」
ペリーヌ「中佐なら向こうの部屋にいますわ」
美緒「あの部屋か。何をしているんだ?」
エーリカ「なんでも居住空間としてどうなのか調べたいってさ」
美緒「居住空間。やはりここはシェルターか」
シャーリー「ええ。多分そんな感じ――」
『サーニャぁぁぁぁ!!!』
ペリーヌ「エイラさん!?」
美緒「今行くぞ、エイラ!!!」
ルッキーニ「あぁーまってよぉー!!」
美緒「どうした!!!」バンッ!!!
ミーナ「美緒!?」
バルクホルン「少佐!! 来てくれたのか!?」
美緒「当たり前だ!! それよりも今、エイラの叫び声が聞こえたが!!」
リーネ「あ、あれです」
美緒「サーニャ!!」
サーニャ「いたい……こし、うった……」
エイラ「サーニャ、だから言ったのにぃ」
芳佳「サーニャちゃん、今治療するからね!!」
美緒「何があったんだ?」
リーネ「それが古くなったベッドの上でサーニャちゃんが飛び跳ねていたら、案の定脚が折れて、そのままサーニャちゃんが床に叩きつけられて……」
芳佳「すぐによくなるからね」
サーニャ「ごめんね、芳佳ちゃん」
美緒「……サーニャ」
サーニャ「あ、坂本少佐」
美緒「今、怪我をしただけか?」
サーニャ「はい。そうです。腰を強打して……」
美緒「それ以外には何もないな?」
サーニャ「なんともありません」
美緒「エイラは?」
エイラ「特に何もないけど」
美緒「そうか……」ギュッ
サーニャ「あぅ」
エイラ「な、なになに?」
美緒「安心した」
エイラ「……ごめん。少佐。すぐに戻ればよかったな」
美緒「気にするな。すぐに駆けつけられなかった私にも責任はある」
サーニャ「どうして……?」
美緒「なんでもない。気にするな」
サーニャ「は、はい」
美緒「宮藤とリーネもどうやら、無事のようだな」ギュッ
芳佳「さ、坂本さん。今、治療中ですから」
リーネ「うぅ……」
美緒「はっはっはっは。こうして抱かなければ気が済まない。一時と言えど、お前たちは私の傍からいなくなったわけだからな」
リーネ「すみませんでした」
芳佳「ごめんなさい。でも、私たちは遊んでたわけじゃないんですよ!」
美緒「そうなのか?」
リーネ「はい。ここがどんな場所なのか調べていて、使えるなら使おうって、ミーナ中佐が」
美緒「ミーナ……。何故、すぐに地上へ戻ってきてはくれなかったんだ」
ミーナ「すぐに戻れるなら戻りたかったわ。けど……」
バルクホルン「私が来た時点でいつでも戻れると判断したミーナは内部の調査を続行したんだ。脱出用の通路も程なくして見つけたしな」
美緒「……」
ミーナ「ええと……心配、した?」
美緒「心配しないわけがないだろう。馬鹿者」
ミーナ「まさか、みんなが来るとは思わなかったの。ごめんなさい」
美緒「ミーナ」
ミーナ「はい」
美緒「バルクホルン」
バルクホルン「なんだ?」
美緒「とにかく、無事でよかった」ギュッ
ミーナ「そんな……。私たちが……」
バルクホルン「そうだ。全ての責任はミーナにある」
美緒「いや。私がバルクホルンと共に来ていれば、もっと簡単だった」
バルクホルン「え?」
美緒「私もここへもっと早くに来ていれば、お前たちには調査を続行させ、シャーリーたちには無事であると報告ができた」
ミーナ「違うわ。私がバルクホルン大尉の到着で気を緩めて判断を誤った所為よ」
美緒「いいんだ。もういい」
バルクホルン「少佐、何故私のあとを追ってはこなかったんだ?」
美緒「……もう、お前の背中は遠い場所にある、ということだろうな」
バルクホルン「どういう意味だ?」
美緒「さてと、ミーナはもう少しここの調査を続けるか?」
ミーナ「え、ええ。できれば」
美緒「何人ぐらい必要になる?」
ミーナ「そうね。私のほかに2人ほどいれば問題ないわ」
美緒「では、バルクホルンとシャーリーを置いていこう。いいな?」
ミーナ「ええ」
ルッキーニ「サーニャ、だいじょーぶー?」
サーニャ「うん。もう平気だから」
エイラ「気をつけろよな」
エーリカ「サーにゃんって結構危ないこと平気でするよねー」
サーニャ「すみません……」
芳佳「でも、よかったぁー。なんともなくて」
リーネ「芳佳ちゃんのおかげだね」
芳佳「えへへ。そんなことないよー」
美緒「……お前たち。帰るぞ」
ルッキーニ「はーい!!」
芳佳「かえりましょー!! あ!? そうだぁ!! ごはんそのままにしてきちゃってるよー!!」
エイラ「うぇー。もう冷え冷えだな」
芳佳「あぁ……。折角、がんばってつくったのにぃ」
リーネ「もう一度温めたらきっと大丈夫だよ」
サーニャ「私もそう思うわ」
芳佳「ありがとう」
ペリーヌ「冷めた食事を食べてお腹でも壊したらどうするおつもりですの?」
ルッキーニ「壊したほうがわるいー」
エーリカ「だねー」
ペリーヌ「はぁぁ!? そんなの違いますわ!? 少佐もそう思いま――」
美緒「……」
エーリカ「少佐? どうしたの。早くあけてよー」
美緒「すまん。誰か開けてくれないか?」
ペリーヌ「それならわたくしが!! どうしてみなさん少佐に扉を開けさせようとするのか理解できませんわ!! 全く!! ふぅーん!!」ググッ
ルッキーニ「にゃはー!! わーい!!」
芳佳「ペリーヌさん、ありがとー」
ペリーヌ「こら!! 少佐が先でしょう!?」
美緒「構わない。先に行かせてやれ」
ペリーヌ「しかし、少佐!!」
美緒「いいんだ、ペリーヌ。私はお前たちの前を歩く資格はない」
ペリーヌ「え? いや、少佐? なにをおっしゃって……」
リーネ「坂本少佐、何かあったんですか?」
美緒「……何もない! ほら、行くぞ!! 基地の者達だってお前たちのことを血眼になって探してくれたんだ。しっかりと謝罪と礼をするようにな!!」
ルッキーニ「えぇー!? やだー。メンドくさーい」
美緒「ルッキーニ」
ルッキーニ「あ、うそでーす」
美緒「素直に謝り、礼のできる人間になれ。それだけでも他人は評価してくれる」
ルッキーニ「う、うん」
エーリカ「……」
森
芳佳「はぁー!! 外の空気がおいしー!!」
リーネ「うん。そうだねー」
エーリカ「あー。なんかすっごいつかれちゃった」
エイラ「ダナ。サーニャは?」
サーニャ「私は少し寝たりないかも」
エイラ「それは大変だ! すぐに部屋に戻ろう!!」
芳佳「あ! その前にごはん食べていってくださいよー!!」
ルッキーニ「ごっはん!! ごっはん!!」
美緒「こら!! まずは謝りにいけ!!」
ペリーヌ「少佐……」
エーリカ「……」
美緒「なんだ、お前たちも早くいけ」
ペリーヌ「は、はい」
エーリカ「了解。坂本少佐」
格納庫
美緒「……」
ミーナ「坂本少佐」
美緒「ミーナ。調査は終了か?」
ミーナ「ええ。色々と迷惑をかけたわね。改めて謝罪します。申し訳ありませんでした」
バルクホルン「すまなかった」
シャーリー「すみません!」
美緒「私のことはいい。それよりも基地の人間全員がお前たちのことを探してくれたんだ。そちらのほうが大変だぞ?」
シャーリー「ホントだぁ。バニーの格好でもするか」
バルクホルン「それはお礼の意味が違うだろう!!」
ミーナ「それじゃ、坂本少佐。またあとで」
美緒「ああ。しっかり謝って来い」
ミーナ「そうさせてもらうわ」
シャーリー「バニーがダメなら……。チアガールでも。リベリオンで多少経験があるし……」
ミーナ「やめて」
美緒「……ん?」
バルクホルン「……」
美緒「どうした? 早く行かなければ日が暮れてしまうぞ」
バルクホルン「何故、私のあとを追っては来なかったんだ?」
美緒「……」
バルクホルン「どうしても気になるんだ。少佐が途中で引き返した理由というのが」
美緒「あの仕掛け、扉は全て古代のウィッチが作ったものだ。それも何かから逃げるために作られた避難用のもの」
バルクホルン「それは聞いたが」
美緒「その仕掛けや扉は簡単に作動しては困るだろう? ウィッチだけが行き来できなくてはならない。魔法力を持たぬものまで避難場所へ通しては意味がないからな」
バルクホルン「まさか……」
美緒「途中にあった扉は私をウィッチと認めてくれなかったようだ。枯渇寸前の魔法力では当然かもしれないがな」
バルクホルン「……」
美緒「扉一つ開けるのにもルッキーニがいなければいけなかった」
美緒「私はお前を追わなかったのではない。追えなかったんだ。……すまんな」
バルクホルン「そうか……」
美緒「満足か? さあ、行け」
バルクホルン「坂本少佐」
美緒「……」
バルクホルン「貴方がどう思っているのかは聞かない。だが、私の気持ち、いや、501の総意は知っておいてくれ」
美緒「総意?」
バルクホルン「貴方なくして第501統合戦闘航空団は成立しない」
美緒「バルクホルン……」
バルクホルン「裏を返せば、貴方が消えれば第501統合戦闘航空団も消える、ということになる」
美緒「……そうか」
バルクホルン「では、失礼する」
美緒「ああ」
美緒「私が欠けても501は消えてしまう、か」
美緒「ふふ……」
美緒「はっはっはっはっは」
美緒「ありがたい言葉だ……とても……」
滑走路
美緒「烈風斬でも扉は破壊することができなかった。こんな不甲斐無い私があいつらと飛ぶことなど……許されるのか……?」
エーリカ「しょーさ!」
美緒「ハルトマン。謝罪は済んだのか?」
エーリカ「まぁ、なんとか。それより、色々思いつめてない?」
美緒「そう思うか?」
エーリカ「うん」
美緒「……」
エーリカ「坂本少佐は我々ウィッチの憧れであります!! 一緒に戦えて光栄であります!!」
美緒「急になんだ?」
エーリカ「だから、最後まであがいてください」
美緒「……!」
エーリカ「私、なんでもします」
美緒「……了解」
エーリカ「ありがとう。それじゃ!」
美緒「最後まであがけか……。そのつもりだったはずなのにな……」
芳佳「あー、いたいたー!! 坂本さーん!!」
美緒「宮藤。どうした?」
芳佳「どうしたじゃないですよ。食堂に行きましょう! ごはん、温めなおしましたから!!」
美緒「そうか。すまんな」
芳佳「坂本さん!! 私、坂本さんのこと好きです!!」
美緒「お前までどうした?」
芳佳「絶対に諦めないでくださいね」
美緒(そうか……。宮藤にも気づかれていたか……)
美緒「はっはっはっは!! 誰に向かって言っている? 私が途中で投げ出すようなウィッチに見えるのか?」
芳佳「あ、すみません!! そういうことじゃ……」
美緒「ありがとう、宮藤。少しだけ気が楽になった」
芳佳「本当ですか!? よかったぁー」
美緒「さ、行こう」
芳佳「はいっ!!」
食堂
ペリーヌ「あぁ!? 坂本少佐ぁ!」
美緒「なんだ、ペリーヌ? そんなに不安そうな顔をして」
ペリーヌ「あの……その……」
美緒「心配しなくてもいい。お前たちが居る限り、私は引退したくてもできんようだ」
ペリーヌ「少佐ぁ……」
美緒「まだまだヒヨッコの宮藤とリーネ!!」
芳佳・リーネ「「はいっ!!」」
美緒「能力はよくとも私生活で色々と問題の多い、ルッキーニ!! エイラ!! ペリーヌ!!」
ルッキーニ「あにゃ!?」
エイラ「なんか問題あることしたっけ?」
ペリーヌ「何故、わたくしがエイラさんと同等の扱いなんですの!?」
エイラ「あぁ? こっちだって嫌なんだぞ!!」
ペリーヌ「わたくしのほうが嫌ですわ!!」
美緒「そういうところがいかんと言っている。是正する努力をしろ」
美緒「それからハルトマンも同じだな。もう少し上官の言うことを聞け」
エーリカ「はぁーい」
バルクホルン「お前は聞く気があるのか!?」
美緒「バルクホルン!!」
バルクホルン「わ、私か!?」
美緒「時折感情的になるだが、もっと自分を律する努力をしろ。そうすればもっといい指揮官になれる」
バルクホルン「りょ、了解!!」
美緒「シャーリーもな」
シャーリー「え!? 私ですか!?」
美緒「バルクホルンを支えてやれ。ハルトマンと共にな」
シャーリー「了解!!」
美緒「それから……」
サーニャ「はいっ」
美緒「サーニャはそのままで構わない。だが、今の自分に満足だけはするなよ」
サーニャ「了解! がんばりますっ!」
>>57
美緒「時折感情的になるだが、もっと自分を律する努力をしろ。そうすればもっといい指揮官になれる」
↓
美緒「時折感情的になるが、もっと自分を律する努力をしろ。そうすればもっといい指揮官になれる」
美緒「本当にこの部隊は問題児が多くて困るな」
ミーナ「そうね」
美緒「問題児には私もお前も含まれているがな」
ミーナ「分かっているわよ」
美緒「今日は、私にとっては大きな意味があったかもしれない」
ミーナ「そう」
美緒「ああ、ミーナ。地下のシェルターだが使いたければ今から準備はしておいたほうがいいぞ。非常食をあそこへ移動させるのもかなりの労力を使うからな」
ミーナ「いいえ。あそこは使わないことに決めたわ」
美緒「そうか。いい場所だと思ったが」
ミーナ「……使えないわ。あんな場所」
美緒「すまんな」
ミーナ「はい! 食事にしましょうか。宮藤さん、お願いね」
芳佳「はーい!! すぐに用意しまーす!!」
ルッキーニ「よしかぁー!! あたし、大盛りだよぉー!!」
シャーリー「大盛りアリなのか!? それじゃ私も頼む!!」
エーリカ「おおもりだぁー!! イェーイ!」
バルクホルン「こらぁ、お前たち!! 節度を守れ!! 節度を!!!」
芳佳「まだまだ、ありますから」
ルッキーニ「やたぁー! 大盛りだぁー!!」
エイラ「サーニャの分、取って来るから」
サーニャ「うん、ありがとう」
リーネ「はい、サーニャちゃん」
サーニャ「ありがとう、リーネちゃん」
エイラ「リーネ、こらぁ!!! それは私の役目だろー!!」
リーネ「す、すみません!! サーニャちゃんの席が近かったので!!」
ペリーヌ「おやめなさい!! リーネさんを苛めることは許しませんわよ!!」
エイラ「やるかぁ!? ツンツンめがねぇ!!」
ペリーヌ「受けて立ちますわ!!」
リーネ「だ、だめですよぉ」
サーニャ「エイラ、やめて」
ミーナ「貴方たち!! 坂本少佐が言っていたことをもう忘れたの!?」
美緒「はっはっはっは」
ミーナ「美緒も笑っていないでなんとかいったほうが……。もういいわ」
シャーリー「いただきまーす!!」
ルッキーニ「うまーい! よしかー、さいこー!!」
芳佳「ありがとー」
エイラ「ガルルルル……!」
ペリーヌ「ガルルル……!!」
リーネ「ペリーヌさん! やめてくださーい!!」
サーニャ「はむっ……。美味しい」
エーリカ「トゥルーデのちょっともらいっ!」
バルクホルン「なぁー!? エーリカぁ!! それは私が最後まで取っておこうとしたものだぁ!!! 返せぇ!!!」
エーリカ「ごめん、トゥルーデぇ。もうたべちゃった。てへっ」
美緒「はっはっはっは!」
美緒(最後の最後までこの11人で戦いたい。心からそう思う。第501統合戦闘航空団を消さないためにもな……)
おしまい。
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