モバP「とあるウサミン星人の物語」 (28)




少し、昔話をしませんか?



彼女がそう切り出したのは、第3回目の総選挙を終えた帰り道の事。
出来れば静かなところで、と御所望を頂いたので夜の海水浴場へと車を走らせた。

長話になるかも。
構わないさ。どうせ明日は休みだから。
そう言葉を返せば、彼女はくすりと笑って砂浜を歩き始める。

静観とした海水浴場と、夜空には散りばめられたの星。
告白するにはうってつけですね、なんて。からかうように笑った後、彼女は波打ち際に腰を下ろした。



さて、それじゃあ始めましょうか。

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☆ミ ☆ミ
 ☆ミ ☆ミ



「おばーちゃんっ。ただいまー!」

「おかえり。ほら、手洗いとうがいをしておいで。おやつ用意してあげるから」

「はーいっ!」

どこにでもいる、ウサミン星人でもなんでもない、普通の小学生がいました。
ちょっと人と違うのは、両親とじゃなく祖母と暮らしている事くらい。
別に両親がいない訳じゃありません。共働きで家にほとんど居らず、1人ぼっちになる娘が可哀想で祖母に預けている、それだけの話です。

特に寂しいと思う事はありませんでしたね。
自分にとってはそれが当たり前だったし、祖母は大好きだから一緒に居られて嬉しかったですから。

優しくて、少し厳しくて。
自慢のおばあちゃんだと、胸を張って言える人でした。

そんなおばあちゃんが好きなものは、オルナミンBと干し芋。あとは――アイドルでした。
テレビはいつもアイドル番組。してなければ、録画してた番組を再生してました。

「かわいいねぇ」

「うん! すっごくかわいい!」

いつだったか、おばあちゃんがアイドルが好きな理由を教えてくれました。
明るくて楽しそうで、見ている自分まで幸せにしてくれる。
どんなに辛くても、彼女達の笑顔で救われたんだって。

「菜々もおんなじだよ」

「え?」

「おばあちゃんね、菜々の笑顔を見てるとすごく元気になれるんだ。菜々はおばあちゃんのアイドルだからね」

「ななが、アイドル?」

「うん。おばあちゃんの、一番のアイドル」

アイドルを目指すきっかけは、その一言でした。
単純ですよね。笑ってもいいですよ?

でも、嬉しかった。
テレビの中できらきらしてる人と同じだって言われて。
何より、おばあちゃんの一番って言われて。
だから、おばあちゃんに本当のアイドルになったナナを見せてあげようって。

それから学校の演劇では必ず主役になれるよう頑張りましたし、中学生になってからは演技の幅を広げようと演劇部に所属しました。
最初は楽しかったです。新しい自分が見つかるたびにワクワクしましたし、難しい役所にも挑戦してみたり。
覚えた振り付けをおばあちゃんに見せたら喜んでくれましたし。

――そんな時でした。
初めての壁に突き当たったのは。

「え……?」

「今回のヒロインは菜々ちゃんには無理だから。他の役をお願いね」

「な、なんでですか!? 台詞もしっかり覚えたし、演技力にも自信があります!」

「うん、確かにね。でも菜々ちゃん、こう言っちゃ悪いけど、あの子に勝てる?」

「そ、それは……」

その子は綺麗な人でした。声も大きく、それでいて澄んでいて。
まさしくヒロイン役にぴったりな女の子でした。
部長の言い分は正しいとわかってはいたんですが、納得出来なくて……。

それで、お互いの演技をみんなに見てもらい、多数決を取ろうってなったんです。



結果は、惨敗でした。
ナナに手を上げてくれた人は1人もいませんでした。

悔しかった。悲しかった。妬ましかった。
羨ましかった。

自分に無いものを持ってるその子が、とても輝いて見えて。逆に自分は真っ黒な気がして。

多数決の後、逃げるように帰宅して布団で泣きました。
情けないですよね。
勝負に負けたからって。
でも、今までの自分が否定されたみたいな気がして。
おばあちゃんが夕御飯を部屋に持ってきてくれたのに、それも食べずに延々と泣き続けました。

次の日は、まあ。予想通りと言いますか。
目が腫れた上に真っ赤になっちゃって、恥ずかしくて登校出来ませんでした。
おばあちゃんにバレないように体温計をお湯につけて38℃に調整して、わざと咳もしたり。
騙すのは気が引けましたけど、どんな顔で学校に行けばいいのかさっぱりで、えへへ……。

たぶん、おばあちゃんにはバレてたと思います。
そんな都合よく風邪を引く訳もありませんし。

でもおばあちゃんは何も聞かずに、1日中頭を撫でてくれました。
たまにはゆっくり休んでいいんだよ。頑張りすぎちゃっただけさ。
そんな風に優しい言葉をかけてくれて、嬉しさと騙しちゃった罪悪感でまた泣きました。

日が暮れてから、でしたね。全部話したのは。
嘘ついてごめんなさいって謝りもしました。

「よく話してくれたねぇ。ありがとう」

きょとんとしましたよ。
怒られると思ってたのにありがとうなんて言われるんですから。
そしたらまた涙が勝手に出るわで完全にパニックでしたよ。当時のナナ。

今思えば安心したんでしょうね。許してほしい人に許されたから。
で、またわんわん泣いちゃったんですが、その時におばあちゃんが言ってくれた言葉は今でもはっきり覚えてます。

「人生うまくいくばっかりじゃつまらないからって、神様がイタズラする時があるのさ。でもそれに負けちゃダメだよ。転んだからって倒れたままにならずに、立ち上がりなさい」



菜々転び八起き、だよ。



はい、はっきりと。
そう言いました。
あ、笑いましたね?
いいんですよ。思い出すたびにナナも笑っちゃいますし。
名前になぞらえて上手い事言われちゃいました。

その後ですか?
ええ。立ち上がりましたよ。そんな事言われたらねぇ。
脇役でしたけどヒロイン以上に目立ってやるって躍起になりました。

中学生時代の思い出はそれくらいですかね。
趣味が古臭いとか言われてた気もしますが、まあそんなのはほっときましょう。
ピンク女やおにゃんこ倶楽部が好きで悪いかっ!

こほんっ。
えー。じゃあ次は初めてのオーディションの話をしましょうか。

高校に入って新しく友達が出来たんですが、その子もアイドル志望だったんですよ。
で、その子に近場でオーディションがあるって聞いて、なら一緒に受けようってなったんです。

自信はありました。
演劇部で培った経験がありましたし。



結果は言わずもがな、です。
書類選考は受かったんですけどねぇ……。
いざ夢への本番と思うと舞い上がっちゃって。

審査員にダメ出しされたところはすぐに直せるよう頑張りました。
友達もこのくらいじゃへこたれない! と言ってましたし、どんどんオーディションを受けようと誓いました。



何回目でしたかね。
友達が全然笑わなくなっちゃったのは。
見ててわかるんです。
この子の笑顔はこんな張りぼてみたいなものじゃないって。
たぶんナナも同じだったんでしょうけど。
オーディション落ちたらカラオケで発散してたのに、それもいつしか無くなって。

ちょうど10回目のオーディションに落ちた時でした。
もうやめるって、泣きながら言われて。
もう夢を見たくない。こんな辛い思いをしてまで頑張れない。
ごめんね。ごめんね。
1人にして、ごめんね。

繰り返し謝罪してくる友達に「ナナ、頑張るから。絶対絶対、頑張るから」って伝えました。

それから1人の戦いです。
最終選考にも残れない事も多かったですけど、それでも、友達やおばあちゃんのために。何より自分のためにアイドルになるんだ! って頑張りました。

その友達は今でも親友ですよ。
ライブや握手会にもちょくちょく顔を出してくれてます。
そうそう! その子ですよ。この前赤ちゃん抱いてきた時はびっくりしましたけど……。

まあまあそれはおいておきましょう!

ともかく、高2までオーディションを受けまくりました。
同じ数だけ、落ちました。
でも転んだままいるつもりはありませんでしたよ。
菜々転び八起き、ですし。ふふっ。

 
――突然でした。
おばあちゃんが倒れたのは。

授業中に担任に呼ばれ、病院へと連れてかれて。
集中治療室の前で両親に事情を説明されましたけど、いまいち覚えてません。
ただただ、おばあちゃん無事なんだよね? 絶対大丈夫だよね? と言ってたらしいです。

何時間もかかった手術の後、病室におばあちゃんは移りました。
ようやく意識が戻ったのは、10日を過ぎた頃でした。

本当に嬉しかったです。
おばあちゃんがいない生活なんて考えられませんでしたから。
アイドル姿のナナもまだ見せてあげれてませんでしたし。



おばあちゃんが目を覚まして2日後、ナナが学校を終えて面会に行った時でした。

「菜々」

「うん? どうしたの?」

「菜々は、好きに生きなさいよ」

「おかげさまで、好き勝手させてもらってまーす」

「本当かい?」

「ホントだってばー」

「それならいいんだ。なあ、菜々」

「んー?」

「おばあちゃんにとって、菜々はいつでもアイドルだからね」

「……ふふっ。ありがと」

「夢を叶えるのは大変だけど、頑張った人には必ず神様が微笑んでくれるから。負けないでね」

「うんっ!」



それを伝えたかったんでしょうね。

言い終えると、ふーっと。
安心したように息を吐いて、そのまま眠っちゃいました。



もう、起きないとわかってたのかもしれません。

家にいる時間が寂しくなりました。

虚無感……って言うんでしょうか。
何をするにも意味を見いだせなくなっちゃったんです。

それでもオーディションは受け続けました。
それだけが、おばあちゃんと繋がってる気がしてたのかもしれません。

まあ受かる訳ないですよね。
他の子は眩しい笑顔を振り撒いてる中、どんより濁った顔してるんですから。

でも、受け続けました。
受け続けなきゃいけないと思ったから。
それが私の使命だと感じたから。



そうこうしてる間にも月日は流れちゃって、気がついた時にはナナは高校3年生になってました。
えーっと……。つまり今年ですね。今年ったら今年です!

正直悩み始めてました。
両親からは大学に進学するためにも勉学に励めと言われてましたし、ナナ自身も諦め始めてましたから。

ゴールデンウイークに、あるオーディションに受けました。
17歳最後のオーディションになるだろなー、なんて。
もしかしたらこれが最後かも、とも。

悔いは残したくありませんでしたから必死にアピールしました。
なんとか最終選考まで残って、自分に出来る精一杯をしました。

で、事件が起きたのはその後でした……。
ナナの次の人が自己紹介をした瞬間、会場の空気が……その。凍りついたというかなんというか……。
あ! ぜ、絶対言わないでくださいね!?
約束ですよ!?

「アナタのはぁとをシュガシュガスウィート☆ さとうしんことしゅがーはぁと☆ はたちでぇす☆」



逆隣の子から「えー……」って聞こえました。
まあ気持ちはわからなくもなかったですけど……。

いやもう笑い事じゃないですよ?
オーディション受けてる子たちのあいたたたたな顔と、しゅがーはぁとさんが何を言おうと真顔で採点してる審査員に挟まれてるんですから。

でも不思議な気持ちでした。
確かにちょっと、ほんのちょっとあいたたとは思いましたけど、そんなナナたちをよそにアイドルになるために全力投球なしゅがーはぁとさん。
見れば見るほど、さっきやったナナの自己紹介が型に嵌った無個性なものだと思ってきて。



結局、ナナもしゅがーはぁとさんも落ちました。

オーディションの帰り道、思い切って声をかけてみました。

「あ、あの!」

「んー? なになにぃ? サインほしいなら書いちゃうぞ☆」

「そ、そうじゃなくて……。す、すごいですね」

「なにがかなー?」

「あの、えっと……。個性が、と言いますか……」

「しばくぞ☆」

「ご、ごめんなさい!」

にこやかな顔であんな事言われたのは初めてです。

「……ま、冗談はともかく。こんくらい普通っしょ。個性がなきゃ埋もれちゃうわよ」

「それが素ですか……?」

「やかましい☆」

「あ、あう……」

「……アイドルになるためなら何だってする。どう思われたって構わない。そう決めてるの」

しゅがはさんとうさみんはどっちが歳上なんだろう

「……やっぱり、すごいです」

「そう言ってくれるとうれすぃー☆ あなたももっと輝けるんだから、型に嵌ったままじゃダメだよー? ナナちゃん」

「えっ?」

「ライバルになる可能性がある子の情報は常にチェーック☆ それがオーディションを勝ち抜く秘訣だぞ☆」

「受かった事あるんですか!?」

「ないけど」

「あ、ごめんなさい……」

「ま。またどっかであったらよろしくねー☆」

「はい! ありがとうございました、佐藤さん」

「いやん☆ しゅがーはぁとさんと、よ、べ☆」

「しゅ、しゅがーはぁとさん」

「オケィ☆ んじゃ、バイバー☆」



オーディションで鉢合わせたのはそれが最初で最後でした。

ハート様が当時ハタチならウサミンは現在17歳ですね間違いない

でもあの時しゅがーはぁとさんと出会えてよかったです。
もう立ち上がる気力が無くなってたナナに、勇気をくれましたから。

「輝ける」

あんな真剣にアイドルを目指してる人にそう言われると、本当だと思っちゃうじゃないですか。
諦めるにはまだ早いんだって。

だから、両親とケンカしちゃったけど、大学進学はやめてアイドルを追い続ける事にしました。
実家じゃとやかく言われるからおばあちゃんの家に住み続け、割と高額な上にアイドルみたいな事が出来るメイド喫茶に勤めて生活費を稼ぎました。

でも、まだ個性は決めかねてました。
メイドアイドルっていうのも面白いかなとは思ったんですが、それだけじゃ足りない気がして……。

友達にも相談しました。
そこで聞いたのが17歳教。
なるほどそんなのもあるのかと。
しかも教祖は声優。声優アイドルを目指してるナナにはぴったりじゃないか。
まあナナは正真正銘17歳ですけどね?

あと再放送をたまたま見かけたセーラー月。
月……ウサギ……うーん。
ウサミン星とは関係ありませんよ?

そんなこんなで考えてたんです。どうしよっかなって。
次のオーディションはどうアピールしようって。



そんな時でしたね。
物好きなプロデューサーがナナに声をかけてきたのは。

あははっ。
そうですよ。ナナがウサミン星人になったのは、そのプロデューサーさんに話しかけられてからなんですよ。

「いきなりで悪いんだけど、アイドルに興味はある?」

びっくりしたんですよ?
スカウトなんて都市伝説だと思ってましたし。
こんなチャンス二度と無い。
絶対ものにしなきゃ……っ!

「もちろんです! 歌って踊れる声優アイドル目指して、ナナはウサミン星からやってきたんですよぉっ! キャハっ! メイドさんのお仕事しながら夢に向かって頑張ってまーすっ!」



……後でフロアチーフに言われました。

なに? ウサミン星って。

東京から電車で1時間のとこにある小さな星です。

電車で行けるんだ。

銀河鉄道に限りますけどね。

総武線に乗ってなかった?

気のせいですよ。

そっか。まあ頑張りな。

はいっ!

それからはPさんも知っての通りです。
デビューに向けて一生懸命レッスンに取り組みました。
最初の頃はアソメルツや栄養剤にはお世話になりっぱなしでしたねぇ……。こほんっ。

でも全然辛いなんて思いませんでした。
ただただ、楽しくて。
ずっと追い求めてたものにようやく手が届いた気がして。



初めて迎えたライブは一生忘れません。
小さなステージ、観客も3桁にも満たないくらい。
でもみんながナナを呼んでくれて、応えてくれて。
大事な、大事な思い出です。

あのライブ衣装、今でも宝物として大事にしてるんですよ。
おばあちゃんにもちゃんと見せに行きました。
お墓参りにあの格好はちょっと派手でしたけどね、ふふっ。


……ね、Pさん。

ん?

ずっと言いたかったことを、言わせてください。

……うん。



ありがとうございます。ナナにこんな素敵な魔法をかけてくれて。
こんなに幸せにしてくれて。
Pさんと会わなければ、ナナは今も灰被りのままでした。
……シンデレラにしてくれて、本当にありがとうございます。

……ああ。

えへへ、なんだか照れくさいですね。
あのね、Pさん。

なんだ?

ナナは、2位でよかったかもしれません。
もちろん1位になれたらPさんにも恩返し出来るし、ナナも泣いちゃうくらい嬉しかったと思いますけど!
……それでも、2位でよかった。
まだ、上を目指せるから。
夢を、見続けられるから。


……でもいつか必ず、この夢は覚めてしちゃうんでしょうね。
12時を迎えたシンデレラのように。
また、普通の女の子に戻る時が来ます。

だからPさん。
そうなったら、また魔法をかけてくれませんか?

シンデレラでも、ウサミン星人でもない、ただの安部菜々に。





「ずっと、あなたのそばにいられる魔法を……かけてください」





王子様じゃなく、魔法使いに恋するシンデレラがいてもいいと思いませんか?
ね、ナナの大好きな魔法使いさん♪





fin

地の文の難しさを改めて知りました。
もっと鍛えてきます。


すごいよかった

ところでシュガハさんのサイドストーリーはまだですか?

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