ゾマリ・ルルー「『PSYREN』ですか」 (1000)





ここはどこだ――


ああ、そうだ、私は『侵入者』に殺されたのだ――


ならばここは――以前藍染様が仰っていた『地獄』だろうか――


否、ここには何も存在しない、まるで夢のように――


夢、そうか、私は眠っているのか――――――





SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1400590285




リリリリリン!リリリリリリン!!


リリリリリン!リリリリリリン!!


ピー…ピー…ガガガッ…


ピー…ガッ……Q…!!ピーッガガッ……


ピー ピー ピー ピー


・PSYRENとBLEACHのクロス

・「第七十刃(セプティマ・エスパーダ)」ゾマリ・ルルーの話

・基本的にゾマリがPSYREN世界を訪れる

・ゾマリは朽木白哉に敗北後



ゾマリ「……………………」

ゾマリ(四方を壁に囲まれ扉が一つに窓が一つ、この空間に存在するものは私自身が横たわっている寝台のみ)

ゾマリ(霊子濃度が薄い……つまり少なくともここは『虚圏(ウェコムンド)』ではない)

……ガチャリ

ゾマリ「………………!」

「おーう、やっと気がついたかい」

ゾマリ「…………貴女は?」

「その前にアンタのことだ、腰に帯刀しているその『刀』……アンタどっかの国の軍人さんか何かかい?」

ゾマリ「………………」

「ま、話したくなけりゃそれでもいい、人間秘密の一つや二つ、抱えているもんさ」



ゾマリ「私の名はゾマリ・ルルー、貴女は何者で、ここが何処か教えていただきたい」

「……私は八雲祭、ここは私の借りてるマンションだ、このマンションの裏でアンタが酷い傷を負って倒れてたんだ、くたばっていてもおかしくない傷だった、ギリギリだったんだよアンタは……」

ゾマリ(マンション……確か『現世』の建造物だったか……そして身体中の傷が癒えていたのは彼女が私に治療を施した……と)

ゾマリ「……助けていただき感謝する、貴女の治療が――」

「何やら騒がしいが、目が覚めたみたいだな、じゃあさっさとこの部屋からお引き取り願いたいね」

ゾマリ「……!」

祭「この男はイアン、この通り気難しい奴だがアンタの治療をしたのもこの男だ、私も何度も世話になってる」

イアン「キミの為にこの『力』を使うことにボクは何ひとつ不満はないが、この『力』を世間に知られぬまま平穏に暮らしたいという僕の願いも汲んでもらいたいね」

プルルルルルルル……

イアン「おっと電話だ、少し席を外させてもらうよ」




ゾマリ「……ヤグモマツリ殿」

祭「ん?」

ゾマリ「彼に礼を言っておいてほしい、先程貴女にも言ったが、助けて頂き感謝する、と」

祭「アッハッハッ!堅苦しいやつだな!私のことは祭でいい、イアンにも伝えておく」

祭「あ、アンタ腹減ってるだろ、何か作ってくるからちょっと待ってな」



ゾマリ(初対面だというのに随分と親切な人間だ……人間……?)

ゾマリ(まさか……『霊圧』は感じられなかった、彼女らは『死神』ではない、『虚』でもない、ならば何故彼女らは『虚』である私が視えるのだ……!そして何故私自身の『霊圧』に耐えられる……!)

ゾマリ(……そもそも私がここに存在することが可笑しいのだ、『死神』である『侵入者』に斬られたのだ、行き着く先は『現世』ではない)

ゾマリ(……謎が多い、考えても始まらぬか)

ゾマリ(む……懐に何か……札?PSY…PSYREN……サイレン、と読むのか)

ガチャリ

祭「おいアンタ!何か食えない物とか…………」



祭「…………!!アンタ……何故アンタが『ソレ』を持っている……!!!!!」



ゾマリ「この札ですか、私の懐に入っていましたが……貴方の物でしたか?」

祭「違う……!そうじゃない……!」


ジリリリリリリリリリリリ…


ゾマリ「…………?」


ジリリリリリリリリリリリ…!


ゾマリ「何処かでベルのような物が鳴っているようですが……」

祭「…………!!!!!」


ジリリリリリリリリリリリ…!!!


祭「携帯電話だ……これを使え」

ゾマリ「ケイタイデンワ……?」

祭「アンタ携帯電話を知らないのか……!?耳にあててここのボタンを押すんだ、早く!」


ジリリリリリリリリリリリ…!!!!!


祭「私からは“今”何も言うことは出来ない……!!後ですべてを話す……」

ゾマリ「……何やら理由がおありのようだ、ここは貴女に従いましょう」


ジリリリリリ――――――――――――




祭「…………生きて帰ってきなよ、ゾマリ・ルルー」











――――――――――…世界は…つ・な・が・る……――――――――――











ゾマリ「…………ハァ……ハァ……」

ゾマリ(私は先程まで『現世』にいたはずだが……何なのだ此処は……あまりにも霊子濃度が薄すぎる……!!『現世』とは比較にならん……!!)



――――――――――――――――――――――――――



ゾマリ「………………」

ゾマリ(この地の霊子濃度に適応するまで約三十分、ある程度適応したとはいえこの薄さ、ここに長居するのは得策ではない)

ゾマリ(まずはこの『地』からの脱出、そして『虚圏』に戻るのだ)

ゾマリ(『黒膣(ガルガンタ)』は開けない、ならば虚圏に戻る別の方法を探すのみ)


ジリリリリン!ジリリリリン!


ゾマリ「……!」


ジリリリリン!ジリリリリン!


ゾマリ(音はあの“箱”からか……確か、あの箱の名は…“デンワ”)

ガチャ…




――サイレンを目指すものに……

絶望と力を…!!

サイレンを目指すものに絶望と力を

サイレンにたどり着いた者に世界の全てを

このゲームの出口はひとつ………!!

サイレンを目指す者よ…

世界の出口を探す者よ…

門を探せ―…!!!


ゾマリ(頭の中に直接浮かび上がるような映像……門とは“デンワ”のこと、つまりはここではない何処かの“デンワ”を探せ、というわけか)


ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ……


ゾマリ「サイレン……まるで始まりの合図……戯れが過ぎるものだ」




ゾマリ(しばらく歩いたものの、これといった手掛かりはない……とりあえずは先程頭の中に流れた映像の“デンワ”のある廃屋を目指すとしよう)


ジャリ……ジャリ……


ゾマリ「……!」

「……アグロ」

ゾマリ(体躯は“人型”、『霊圧』は感じない……、『虚』ではない、か)

ゾマリ「……何者です?貴方は」

「エイブラハム…………」ダッ!!

ゾマリ「……どこを狙っているのです?」

「…………!!!!」

「……グァロッ!!!」スカッ

ゾマリ「後ろです」ブンッ

「……!!――――」ブシャッ!

「―――――――――」サァァァァ…

ゾマリ(一瞬で灰に……いったいどうなっているのだ)



ゾマリ(どうやら“デンワ”を目指す道のりには、『死神』でも『虚』でもない『異形』が立ち塞がるということだろう、恐らくこの遊戯の『絶望』とはソレのこと)

ゾマリ(そして……先程の戦闘で確信したが……やはり“鈍い”、霊子濃度の極端な薄さ故か『響転(ソニード)』の速度が異常に鈍化している……恐らくは『鋼皮(イエロ)』の硬さも、『虚閃(セロ)』の威力も減衰しているだろう)

ゾマリ(何より『響転』一つであれほどの体力の消耗、『技』の使用は極力控えるが賢明か)

ゾマリ(……時間はあるのだ、少し考えるとしよう、私がここに来ることになった理由を、そう、何故私だけが……)

ゾマリ(…………!!!!)

ゾマリ(そうだ、なにも私だけが『ここ』にいるとは限らない、何故他の『破面(アランカル)』がいる可能性を考えなかった……起こっているのは唯でさえ特異な現象なのだ、何があろうと不思議ではない)

ゾマリ(『探査神経(ペスキス)』を……―――)


ドン…! ズズゥン…!


ゾマリ(戦闘音……!“デンワ”とは方向が違うが……向かうとしよう)




ゾマリ(……移動だけでも『霊力』の減少が身をもって感じられる)ハァハァ

ドドォン!

ゾマリ(近い、ここからは慎重に行動せねば……)




「ギシシシ……!!殺すんじゃねえぞゴルドフ!『塔』に連れ帰るんだからよォ!!!」


ゾマリ(……!)サッ


「モルモットを二匹も逃がしたとなりゃア、ドルキの野郎に何されるかわかったもんじゃねえ」

ゴルドフ「…………」


ゾマリ(……微かな『霊圧』が感じてとれる、追われているのは『虚』か、はたまた『死神』か)


「ハッ……ハッ……ケホッ!」

「……ミイツケタァ!遊びましょお!!」ザシュッ

「あうっ…………!!!」

「ギシシシシ……お前は生きたまま『塔』に連行させてもらうぜ……!!」

「と、言いたいが……どうでもいいやァそんなコト!!お前を切り刻んで遊ぶことに決~めたァ!!」

「女の肉を刻むあの快感……ギシシシ……!!何人殺っても飽きねェな……!!」

「う……あ……!!」


ゾマリ(確認を……)サッ

ゾマリ(やはり『虚』……!!そして『彼女』は確か……『第1十刃(プリメーラ・エスパーダ)』の『従属官(フラシオン)』)

ゾマリ(『リリネット・ジンジャーバック』……!!)




リリネット「た……助けて……」

ゾマリ(…………!!!!)





『…慈悲を………』





「ギシシシシ……!!」


ゾマリ「幼子一人相手に何をしているのです?」

「……!なんだァテメェは……!!いいところだってのによォ……!」


ゾマリ(この心の奥底に沸いてくる感情は……侮蔑か、憎悪か)


ゾマリ「彼女は私の『同胞』でして、こちらで引き取らせてもらいたい」

リリネット「…………!!!」

「……おいゴルドフ、やっちまえ」

ゴルドフ「…………」ズズッ


ゾマリ「『虚弾(バラ)』」パシュッ


ゴルドフ「……!!―――――」ピシッ…サァァァァ…



「な……!!バカな……!!!まさかコイツ、『サイキッカー』……!!」



ゾマリ「牽制の意味合いで撃った『虚弾』でしたが……どうやら当たりどころが悪かったようで……その身体に埋め込まれた『水晶玉』、随分大切なもののようですが」

「…………!!ギシシシ……!ご名答……テメェ、名は?」

ゾマリ「……ゾマリ・ルルー、さあ、あなたも名乗りなさい」

「俺はワイズ特別警備隊ギッザーニ、テメェ、ゴルドフを一撃で倒すとはなかなかヤるじゃねえか」

ギッザーニ「だが俺はアイツみてェにトロくはねぇ、さっきのように上手くいくとは思うなよ?」

ゾマリ(……幸いにもこの付近には他の『異形』は見当たらぬ、『響転』を使い『虚弾』を使い……もはや長期戦では敗北は必須……)

ゾマリ「さあ、かかってきなさい」

ギッザーニ「……ギシシシ、サイッコーにムカつく野郎だ……!!」



ギッザーニ「死ね」ヒュッ




ギッザーニ「(ライズ……!!)」ビュン!!


ゾマリ「……!!」ブシャッ!


ギッザーニ「ギャハハハハ!!!あっけねェ!!俺の『ライズ』の速さについてこれねえのか!!」


ゾマリ「何処を見ているのです?」


ギッザーニ(な……!?幻覚……!?コイツ『トランス』型か……!?)


ギッザーニ「カアッ!!」ブンッ…


ゾマリ「後ろです」ヒュンッ


ギッザーニ「……おっとォ!!」サッ


ゾマリ「……避けますか、どうやらその驕りは虚勢ではないようですね」


ギッザーニ「ギシシシ……!!『トランス』なんてせこいマネしやがって……!」


ゾマリ(『トランス』……?先程も奴の言葉に『ライズ』といった単語が出てきましたが……何かの俗称でしょうか)




ギッザーニ(トランス偏重型なら……速さで攻めればいい、ギシシ……さっきの一撃で俺を殺せなかったのがテメェの敗因だ)


ギッザーニ「(ライズ全開!!!!!)」ビュンッッ!!!


ゾマリ「…………」


ギッザーニ「ヒャハァッ!」スカッ


ゾマリ「…………」スッ


ギッザーニ「ハァッ!!」スカッ


ゾマリ「…………」スッ


ギッザーニ(なぜ当たらねェ……!!確かに刀はヤツを捕えてる!!『トランス』のジャックはされていない……!!)


ギッザーニ「ガアッ!!」スカッ


ゾマリ「お終いです」ザクッ


ギッザーニ「……!!カハッ……!!……ゴホッ!」


ギッザーニ「なんだ……なんなんだテメェは……!!なんで……!!」サラ…


ゾマリ「この戦闘中私が使用したのは『双児響転(ヘメロス・ソニード)』、特殊な歩法で疑似的な分身を作り出す……まあ、手品の類のお遊びです」


ギッザーニ「歩法で分身だと……!!ケホッ……そんなもん……どれだけの強度の『ライズ』が必要だと……!!ゴホッ……!!」サラサラ…


ギッザーニ(俺が『トランス』だと思っていたのは『ライズ』……!!『ライズ』で分身を作り出すなんて……ありえない……ジュナス……様レベル……だぞ……!!いや……それ以……――――――)


ギッザーニ「――――――――」サラサラサラ…





ゾマリ「………………!!」ガクッ

ゾマリ(少し、無理があったか……やはり、この霊子濃度では戦闘そのものが負担……)

ゾマリ「ハァ……ハァ……―――――」バタリ











ゾマリ「………………!!」ガバッ

ゾマリ(眠りについていたのか、私は)

ゾマリ(そうだ、彼女は……!!)



リリネット「…………大丈夫?」

ゾマリ「……リリネット殿」

リリネット「…………さっきはありがとう、助けてくれて」

ゾマリ「なに、そんなことより……其方、先程の戦闘で脚を負傷していたはずだ、治療をせねば」

リリネット「大丈夫、少し掠っただけだから……」


ゾマリ(……明らかに無理をしている、そもそも彼女は『第1十刃』の『従属官』、ではその『第1十刃』は何処に……?いや、先程の男、“モルモットを二匹も逃がした”と言っていた……しかし『最上級大虚(ヴァストローデ)』である『第1十刃』があの程度の雑兵に後れをとるとも考えにくい……)



ゾマリ「……つかぬことをお聞きするが、貴女は何故ここに?」

リリネット「……わからない、頭の中に甲高い音が鳴り響いて……気がついたらここにいた」

リリネット「スタークと一緒に」



リリネット「そう、気がついたらここにいて……なんでかわからないけどすごく息苦しかった」

リリネット「そんな時に、あたしたちの前に角のついたヘルメットを被った男が現れた」

リリネット「その男はスタークと何か話した後、いきなり襲い掛かってきたの」

リリネット「スタークは自分が囮になってあたしを逃がすって言った、あんな状態じゃまともに戦えないっていうのに」

リリネット「あたしも残って戦いたかったけど、あたしでもその男がものすごく強いってことはわかった」

リリネット「怖かった、少しだけ見えたあの男の眼、殺戮を心から愉しんでいるようなあの眼」

リリネット「だからあたしは必死で逃げた、スタークを見捨てて……その後のことは覚えてない、無我夢中だったから」

リリネット「そしてここまで逃げてきて、あなたが助けてくれた」

リリネット「でも、あたしのせいで―――――」



ゾマリ「……もういい」

リリネット「……!」

ゾマリ「リリネット殿が責任を感じることはない、『第1十刃』が、『十刃』で最も強い男がそう簡単に死ぬはずがない、それに、それは貴女自身が一番分かっているはずです」

リリネット「…………うん」



ゾマリ「とりあえず、この場所に長居は危険すぎる、積もる話は『現世』に戻ってからにしましょうか」

リリネット「『現世』……?どうやって……?」

ゾマリ「恐らくあなたも『コレ』を持っているはずです」スッ

リリネット「あ!『ソレ』なら確かポケットに入って……」サッ

リリネット「これ、なんて読むんだろ……ピ……ピシ……プシレン……?」

ゾマリ「『サイレン』では……?」


リリネット「…………」

ゾマリ「…………」

リリネット「…………///」カァァ

ゾマリ「…………」


リリネット「……まって!違う!ホントはわかってたんだって!」

ゾマリ「…………」

リリネット「ちょっと!その“ああ、わからなかったのか”って目やめて!」


ゾマリ「さて、予測にすぎないが、恐らくこの札が『現世』に戻るカギになる」

リリネット「…………」ムスッ

ゾマリ「……『コヨーテ・スターク』を見つけ出すカギにも」

リリネット「……!!」

ゾマリ「私たちはこの『場所』のことに関して圧倒的に知識が足りない、しかしどうやら『現世』にはこの『場所』のことを知っている人間がいるようで……」

ゾマリ「『彼女』に話を聞けば、なにか新たな発見があるかもしれません」

ゾマリ「そのためにはまず出口である“デンワ”を探しましょう」



―――――――――――――――――――――――――――――――――



ゾマリ「どうやらここで間違いないようだ」

リリネット「……この“デンワ”がホントに『現世』に繋がってるの?」

ゾマリ「……恐らくは」


オオオオオオオオ………………


リリネット「“デンワ”が光り出した……!!」

ゾマリ「……“デンワ”の中央部に窪みがある、札はあの部分に挿すために使うのでしょう」




リリネット「……どっちが先に試してみる?」

ゾマリ「……私からいこう」


ピッ ガチャ ピポパパピピポパ  シュン!


リリネット「…………!!!!」

リリネット(消えた……!?)


ピッ ガチャ ピポパパピピポパ 


リリネット(必ず、必ず戻ってくるよスターク、私たちは“二人で一人”なんだから)


シュン!







ゾマリ・ルルー カード残数『48』
リリネット・ジンジャーバック カード残数『49』



明日の夜また投下します

明日は来れないと思うので長めに




ドスン!!


祭「……!!」

祭「帰って来たか……!!」


――――――――――――――――――――――――


ゾマリ「……どうやら、無事『現世』に戻ることが出来たようだ」

リリネット「さっきの場所に比べると、だいぶ息苦しさがなくなった気がする……」

ゾマリ「『あの場所』の霊子濃度は非常に薄い、呼吸や霊圧に乱れが出るのはそれが原因でしょう」

リリネット「……!だからあんなに息苦しかったんだ……」



祭「よう、無事に帰ってきたみたいだな」

ゾマリ「…………!」

リリネット「…………!!」ザッ

祭「おっと、そんなに警戒しなくてもいい、お嬢さんの敵ってわけじゃあない」

祭「……ま、聞きたいことは色々あるだろうし、細かいことは場所を移して話そう」

祭「その子の治療も兼ねてね」



――コンサートホール――

―――――――――――――――――――――――――


~~~~~~~♪~~~♪♪……


ゾマリ(……嘆美な音色だ、嘗てこれ程までに美しい演奏を聴いたことはない)


~~~~~~~♪~♪♪~~……


リリネット(きれいな音……なにか心が落ち着くような……)


~~~~~♪♪~♪~~~♪~♪~……



―――――――――――――――――――――――――

~♪~~♪♪……―――――――


パチパチパチパチパチ…………


祭「……!」


ゾマリ「……素晴らしい演奏でした、貴女、ピアニストだったのですか」

祭「ま、そんなトコさ、こんなふうに全国を廻ってコンサートをしてる」

祭「そっちの子もだ~いぶ落ち着いたみたいだし、今回は貸し切りコンサートを開いて正解だったかな」

リリネット「……!!」

祭「さて、そろそろ本題に移ろう、あっちの会議室に行こうか」



祭「そうだな……まずはそこのお嬢さん、名前を教えてくれるかい?」

リリネット「……リリネット、リリネット・ジンジャーバック」

祭「私は八雲祭、よろしくな」ニコッ

リリネット「……!……うん!」



祭「さて、まず私が何者か……説明しといた方がいいかもな」

祭「私はお前たちよりずっと以前に『あの世界』と現代を行き来していた、元サイレンドリフト……」

祭「『ネメシスQ』のゲームをクリアした人間だ……!!」

ゾマリ「……ゲームをクリア……?サイレンドリフト……?貴女は―――」

祭「まあ、そう慌てなさんな……!!お前たちの知りたい事はこの『テレホンカード』が教えてくれる……!!二人とも『カード』は持ってるかい……?」

ゾマリ「この札のことですか……」スッ

リリネット「…………」ゴソゴソ…スッ



祭「実はな、このカードには特殊なギミックがあるんだ、とりあえず二人とも自分のカードを額にかざしてみろ」

リリネット「…………?」

ゾマリ「特に何も起こりませんが……」


ピン ポン


ゾマリ・リリネット「……!!」

リリネット「数字が……浮かび上がってきた……!!」

ゾマリ「この数字は……?」

祭「その数字は『カード』の残数さ、ゲームが終了するごとに数字が減っていく、減り具合はまちまちだがな」

祭「これが『カード』の秘密……裏面を読んでみな」

ゾマリ「これは……!」



Welcome to PSYREN

・あなたはゲームの参加者〈サイレンドリフト〉となる

・サイレンドリフトとは ――――×に――××―――との――×――し――

・このゲームはカードを使い切るまで続く

・カードは常に携帯すること

・PSYRENの事 サイレンドリフトである事をドリフト以外の者に決して話すべからず

・スタート地点では地図を確認せよ

・塔は危険 力無き者は近寄るべからず

・サイレンドリフトは死して灰となる運命


ネメシスQと共に…時を飛び越え 未来を変える旅をするドリフト達に幸あれ――…




祭「この『カード』にはね……初回のゲームを生き延びた者のみに開示される“隠された情報”があったのさ……!!」

リリネット「……?二行目の文字がかすんでよく見えない……」

ゾマリ「……私も同様のようだ」

祭「……なに?」

祭「……私の『カード』には、その部分は『アンケートに答えネメシスQとの契約を交わした者』と書いてある」

ゾマリ「……アンケート、そのようなものを受けた覚えはありませんが」

リリネット「……私も、気がついたらあの世界にいたし……」

祭(……アンケートに答えずにサイレンドリフトになったとでも……いや、本当に答えていないのか……それとも無意識の内にどこかで……)


祭(………………)


祭「……アンタたち、いったい何者なんだ……ゾマリ、アンタに関しては最初“携帯電話”すら知らない口ぶりだった、それに恐らくその『カード』が『テレホンカード』だってことも」

祭「……そしてリリネット、お前はさっきゾマリと一緒に『あの世界』から帰ってきた、見たところゾマリとは“ついさっき知り合った”なんて関係じゃないだろう」

祭(それに、本来『あの世界』の門の位置は『こっち』の門の位置とリンクしているはず……“私のマンション”に戻ってくることがまずありえない……)

祭「……教えてくれ、アンタたちはいったい…………」




リリネット「(どうするの……!)」ヒソヒソ

ゾマリ「(打ち明けるしかないでしょう、互いに疑念を抱いたままでは望ましい交流はできますまい)」ヒソヒソ

リリネット「(どうやって!人間にあたしたちは『虚』です、人間じゃありません、なんて言っても信用してもらえるわけないじゃん!)」ヒソヒソ

ゾマリ「(まずは話してみることが先決、この状況で人間だと偽り続けることは可能でしょうが……私としても『彼女』には恩がある、秘め事を隠し続けるといったことは……あまり気乗りがしないのです)」ヒソヒソ

リリネット「(……!!ん……とりあえず、話せることだけ話してみよっか)」


ゾマリ「……マツリ殿」

祭「……ん?」

ゾマリ「これから私が話すことは貴女には信じられないことかもしれませんが……それでも聞いて頂けますか?」

祭「……ああ」



ゾマリ「まず私たちは人間ではありません、私たちの種族は『虚』といいます、恐らく貴女たち人間の間で『幽霊』と呼ばれているものに値するでしょう」

祭「……へえ」


祭「………………!?……は!?…………幽霊!?」


ゾマリ「はい、私たちは本来『虚圏』という世界の『虚夜宮(ラスノーチェス)』という城に住んでいるのです」

祭「…………幽霊ってのは触れるものなのか?」ペタペタ

ゾマリ「いえ、本来は触るどころか視認すらできないはずなのですが、その原因に関しては私にも見当がつかず……」

リリネット(そういえばこの人……人間なのに普通に私たちのこと視えてるよね)

祭「……幽霊かどうかはこの際置いといて……そもそもアンタはなんであんな酷い傷を負ってあんな場所に倒れてたんだ……?」

ゾマリ「あの傷は、私たちに敵対する勢力の方によってつけられたものです、私の記憶では……私はその敵対した方に敗れ、死んだはずなのです」

リリネット(……!!そうだったんだ……あれ、そういえばあたしはどうして……)

祭「…………!!踏み込んだ質問で悪いけど……幽霊でも死ぬものなのか?」

ゾマリ「はい、伝承によれば私たち『虚』が死んだ場合は『地獄』に落ちることになっているのですが……何故か、ここの『現世』にいたようで……」



祭「……話はわかったようなわからないような……けど……こう、幽霊っていう証?みたいなものはないのか?」

ゾマリ「証、ですか……『幽霊』の証明にはならないかもしれませんが、私たち『虚』はみな、個体差はあれどある程度の『戦闘能力』を有しています」

ゾマリ「例えば……このように」ヒュン

祭(……消えた!?)

ゾマリ「後ろです」

祭「(……!!いつの間に……!)」チラッ


祭「瞬間移動……なるほど、いかにも幽霊らしい能力だな……!」


ゾマリ「……お言葉ですが、これは瞬間移動ではありません、これは『響転』といいまして……特殊な歩法により高速移動を可能とした移動術です、私たち『虚』のほとんどが身につけている術です」

祭(移動術……!?ってことは身体能力だけで私の後ろをとったのか……!!)

祭「……アンタ達『虚』ってのはみなこんなに速いのか……」

リリネット「……違うよ、ゾマリは私たち『虚』の中で誰よりも『響転』が速いの」

ゾマリ「恐縮ながら」


祭「……はは、とりあえずアンタたちがただ者じゃないってことは分かったよ」


祭「……幽霊ってことなら、“携帯電話”を知らなくても無理ないか」




祭「……さて、じゃあ、話の続きだ」


祭「一番下の行を読んでくれ」


“ネメシスQと共に…時を飛び越え 未来を変える旅をするドリフト達に幸あれ――…”


ゾマリ「(…………!!!!!!)」

ゾマリ「……そういうことですか」

祭「……!ふふ、理解が早くて助かるよ」

リリネット「……え!?……どういうこと!?あたしだけ仲間はずれにすんな!」


ゾマリ「……つまり、この『ネメシスQ』なる者によって私たちは『あの世界』に呼び出されたのだ」

ゾマリ「そして……『あの世界』は未来の『現世』、あの未来を変えるために私たちは『あの世界』に呼び出された……まあ、これは私の推測にすぎないのですが」

祭「大正解だ」



リリネット「(……!!ちょっとまってよ……!!もし『あの世界』が未来の『現世』だっていうのなら……未来の『虚圏』は……『虚夜宮』はどうなってるの!?)」ヒソヒソ

ゾマリ「(……無事ではすむまい、『虚圏』は少なからず『現世』の影響を受けるのですから)」ヒソヒソ

ゾマリ「(もはや私たちはただ『虚圏』に戻ればよい、というわけにはいかなくなったのだ……私たちはこの『現世』の未来を変えたうえで、『虚圏』に戻る手段を探さなければならない)」ヒソヒソ

リリネット「(…………!!)」



ゾマリ「しかし解せぬな、この『ネメシスQ』なる者は何故……私たちにこのような遊戯を強制するのか……未来を変える、といった意志は同じであるはずだというのに……」

祭「さあてね、ただのゲーム好きの怪人なのか、こうするしか術はないのか、本人に聞くしか答えは分からないね……」

祭「だが、奴の目的を探る手掛かりならある」


ゾマリ・リリネット「……!!」


祭「ゲームが行われている地区は……回を追うごとにズレるように、少しずつ移動しているんだ」

祭「今回のゲートはこの愛知県の豊口市だった……あ、そういえばアンタたち、地名はわかるのかい?」

ゾマリ「ええ、この『国』の過去の文献を少々読み込んだ程度の知識ですが……」

リリネット「はい!(……え!?……あたし全然わかんないんだけど!!)」

祭「そうか、なら話を続けるぞ……恐らく次のスタート地点はその数km圏内の公衆電話だ……!!」

祭「私の初めてのゲームはその当時住んでいた九州……そして回を重ねるごとにゲームの本拠地は本州…広島…兵庫へ……」

祭「そう、お前たちは“電話(スタート)”と“電話(ゲート)”を回線でつないでいくかのように……未来の『日本』を東に向かって旅しているんだ……!!」


ゾマリ「………………」



――――――――――――――――――――――――――――――――


祭「とにかく……いつ、どんな原因によって……?この国に何が起こったのか……!!何故未来世界は崩壊したのか……!!私たちはそれを突き止めなければならない……」

ゾマリ「………………」

リリネット「………………」

祭「そうだな、まだまだ話していないこともあるが……とりあえずお前たちの疑問に答えるよ」


ゾマリ「……そうだ、私たちは『あの世界』で人ならぬ『異形』と遭遇したのだ、あれはいったい何者なのです?」

祭「やはり……お前たちも遭遇したのか……奴らは“禁人種(タヴー)”、私も奴らとは何度も遭遇し渡り合った……その経験から言わせてもらえば、奴らはどこか、何者かによって造られた生命体である気がしてならない……!!」

リリネット「……!!」

ゾマリ「(造られた生命体……科学者である『第8十刃(オクターバ・エスパーダ)』の『彼』がいれば何か解ったのかもしれぬが……)」

祭「奴らを創り出した元凶がどこかにいやがるのさ、人か、組織か、もっと別次元の何かが……!!」


ゾマリ「……ふむ」



ゾマリ「……あともう二つ」

祭「ん?」

ゾマリ「……私はその“禁人種”に二度遭遇しましたが……その内の一体と戦闘になった際、彼は私の『技』を見て、『ライズ』や『トランス』といった単語を発していました、あの言葉にはいったい何の意味があるのでしょうか?」


祭「ああ……!そうだった、それに関しては後でまとめて説明する」


ゾマリ「ならば最後に……あちらの世界の『ワイズ』といった言葉に聞き覚えは……?」

祭「ワイズ……?いや、ないな」

リリネット「……あ!あたしからもいい?」

祭「おう」

リリネット「あっちの世界で“角のついたヘルメットを被った男”に逢ったことはない?」

祭「……ヘルメットを被った男か、悪いけど……見覚えが無い」

リリネット「……そう」


祭(…………?)


ゾマリ「……では、先程の話を」



祭「そうだったな、『ライズ』や『トランス』ってのは“PSI(サイ)”の一種だ」


ゾマリ「“PSI”……?」


祭「“PSI”とは脳の潜在能力……ま、簡単に言えば『超能力』みたいなものだ」

祭「“PSI”は全脳細胞を瞬間的に100%活性化することで発揮できる『思念の力』だ」

祭「普段ヒトの脳細胞は負担が大きすぎる為、およそ9割の脳細胞を眠らせ活動しているという」

祭「“PSI”は脳を酷使する危険な力……!!ヒトは進化の過程で脳にリミッターをかけて“PSI”を封印したんだ」

祭「あちらの世界、とりあえず『サイレン世界』と呼ぶが、あちらの世界の大気にあてられると、本来人の脳にあるべき“制御装置(リミッター)”が解除され、“PSI”が覚醒するんだ、本来ならお前たちもそうなるはずなんだが……」


祭「合点がいったよ……サイレン世界の大気に“感染”した奴はその症状として目の充血や鼻からの出血がみられるものなんだが、お前たちにはそれが無い」


祭「ふふ、お前たちはあながち本当に『幽霊』なのかもな……!!」




祭「そして“PSI”が覚醒したものは五感・身体能力を飛躍的に伸ばすことも可能になる……筋力・視力・聴力・反射神経……上げる力は人により様々……」

祭「“制御装置”の外れた脳に超負荷をかけ……“PSI”は人間性能の限界を突破することが出来るのだ……!!」

祭「例えば……こんなふうにな」


ガタガタ… フワッ…


ゾマリ「…!」

リリネット「(椅子が浮いた……!!)」

祭「そしてもう一つ……オーバークロック状態の脳はある特殊な力の波動を産み出す……」


ススススス……… サァァァ……


ゾマリ「(床の塵が集まって模様に……)」

祭「通称“テレキネシス”……“PSI”の波動で床一面に塵で模様を描いたのさ」

祭「“PSI”はテレキネシス・パイロキネシス・透視・テレパシー・未来予知……その応用は個人の資質と訓練で幾多にも及ぶ……!」

祭「“禁人種”が言っていた『ライズ』ってのは人体の感覚機能、筋力や治癒力を高める力で、『トランス』ってのは人間の内なる心界、いわゆる精神に働きかける力だ」




祭「そして“PSI”はあの『サイレン世界』の謎を解くカギでもある……!」


ゾマリ「…!」


祭「“PSI”を覚醒させるサイレンの大気……つまりあの世界は“PSI”の力に満ちた異界に変貌してしまったのだ」

祭「“禁人種”……!あの異形たちの誕生にもこの“PSI”の力が何らかの形で関わっている……何者かの“PSI”の力が……!!」

祭「我々を襲う、何者かの“PSI”で創られた生命体……“PSI”に対抗するにはより強力な“PSI”しかない……」

祭「だが、お前たちほどの実力があれば“PSI”が無くとも大きな問題はないとは思うが……」

祭「……いや、“感染”の症状が出ていないだけかもしれない」

祭「どうだ?“PSI”の訓練、受けてみる気はないか?」


ゾマリ「(…………!)」

リリネット「(……説明が難しくてわかんないって……つまり、え、どういうこと?)」ムムム…


祭「そうだ、お前たち“携帯電話”が必要だろう、私の知り合いに余りものを貰えるように頼んでみるから……戻ってくるまでに『受ける』かどうか、決めておいてくれ」

タッタッタッ…



ピッピッ アーモシモシ カゲトラ? ワタシワタシ オマエノショクバニアマッテルケイタイデンワガ…ナニ? ダミー? アシガツク? ナニイッテンダ?





リリネット「う~ん……説明が難しくてよくわかんなかったけど、要するに“PSI”ってのを使えるようになるための特訓を受けるかどうか!ってことだよね?」

ゾマリ「ええ、大まかに掻い摘んで言えば……」

リリネット「どうするの?受ける?」

ゾマリ「この“訓練”を行うことに対しての欠点は見当たりません、己の力を磨くためにも、受けるが得策でしょう」



祭「……待たせたな、決まったかい?」


ゾマリ「ええ、是非、ご指導ご鞭撻の程を……」

祭「ふふ、本当に堅苦しい奴だな」

リリネット「ゾマリっていっつもこんな感じだからね、気にしなくていいと思うよ」

祭「ははは、そうか、リリネット、お前も受けるのかい?」

リリネット「おう!」


祭「よし、さっきは言い損ねたが……これから行う“訓練”は『バースト』の訓練だ、『バースト』ってのは内なる“PSI”を物理的な波動に変えて外界に放つ……さっきの『テレキネシス』が最たる例だな」


祭「とりあえず……ここじゃあ狭いし、外に移ろうか」




祭「よし、そこで止まってくれ」


ゾマリ・リリネット「………………」ピタッ


祭「私とお前たちとの距離はおよそ10m……そうだな、その場から動かずに、どこでもいいから私の体に触ってみろ」

リリネット「……え?……動かずに?そんなの出来っこないって!」

祭「なに、“PSI”は『思念の力』……イメージを現実に変える力だ……!!自分を信じろ……お前たちがもし“PSI”に目覚めているのなら、己のイメージを実現させることが出来るはず……!!」

祭「さあ、試してみな」






ゾマリ(――――――――――――――――)

祭(凄いな……!!姿勢に一寸のブレもない……まるで初めから『そこ』に在るような……“瞑想”って奴か……?)


リリネット「(んぐぐぐぐぐぐ………!!……はっ!……ほっ!)」サッサッ

祭(……やる気は感じられるが……まだまだ荒削りだな)

リリネット「(ううううううう……!!……このっ!……このっ!)」ブンブン

リリネット「(とどけ……!とどけ……!………………はっ!!!)」ズズズ…


バシュウ!!


リリネット「あ」


祭(…………………!!!?)

祭「…………くっ!!」バッ


…………ズズウン…!!!





リリネット「…………!!マツリ!大丈夫!?」


祭「……ああ、大丈夫だ、何とか『バースト』で相殺できた」

祭「しかし今のは……?“PSI”波動は感じられなかったが……」


ゾマリ「私から説明いたしましょう」


祭「……!」

ゾマリ「今のは、私たち『虚』の中の『技』の一つである……『虚閃』です、『虚』の中でも『大虚(メノスグランデ)』といった『虚』のみが放つことのできる、破壊を目的とした閃光……もちろん『響転』のように威力に個人差はありますが……」

リリネット「あの……ごめんなさい……夢中で……」

祭「気にするな、訓練の中で起こったことだ……それに私は強いからな、このくらいなんともない」

祭「しかし……ますますお前たちに興味が出たよ、『虚閃』……か、まるで『バースト』のような力だな」


プルルルルルルルルル……


祭「おっと、電話だ、ちょっと待っててくれ」





ゾマリ「何か……手応えはありましたかな、リリネット殿」

リリネット「ううん、なにも……マツリには悪いことしちゃったし……」

ゾマリ「……気に病むことはない、マツリ殿もそう仰っていたでしょう」


リリネット「………………」


ゾマリ「……どうかしましたか?」

リリネット「……ゾマリって、結構優しいんだね、『虚夜宮』で見かけた時は、もっとこう……変な奴ってイメージがあったけど……」

リリネット「……最初は私が『第1十刃』の『従属官』だから優しくしてくれるのかと思ってた……だけど違ったみたい、あなたは……いや、あんたはそんなコト関係なしに私に接してくれてる……」


ゾマリ(……………………)


ゾマリ「……優しくなどありませんよ、私は」

ゾマリ「……私の信ずるこの世で最も絶対的な力は『愛』、私はその信念に従って行動したまでです」

リリネット「はは……!『バラガン』が聞いたら絶対怒り出すよ、ソレ、『ワシの力こそが唯一絶対!』ってね」


ゾマリ「……ふっ」





祭「ふう、何度も待たせて悪いな」

ゾマリ「滅相もない」

祭「悪いがまた場所を移すぞ、“携帯電話”の調達と……とりあえず『バースト』の“訓練”は後回しだ、まずは『ライズ』の“訓練”を行う」




ガラガラガラ……


ゾマリ「ここは……?」

祭「今は使われていない廃倉庫さ、“訓練”にはうってつけだ」

リリネット「『ライズ』の“訓練”っていうけど……どんな訓練なの?」

祭「なに、今回は“私の知り合い”の相手をしてもらう」

リリネット「……ふ~ん」

祭「……もしかしたらゾマリ、お前でも手を焼く相手かもな」

ゾマリ「……!」


「 押 忍 ! !」


ゾマリ・リリネット「……!!」

祭「来たか……」



「お久しぶりです姐さん!!あなたの為ならいつでも死ねる!!雹堂影虎、只今参上いたしやした!!」


祭「おィーす、久しぶりだな影虎!悪ィな急に呼び出して」

影虎「姐さんの頼みとあっちゃあこの影虎……エンマに心の臓抜かれようが断るわけにゃいきやせんぜ」

影虎「あ、こちら“例のブツ”です」

祭「おう」

影虎「それで?あっしにとことんまでシメて欲しい奴ってのはどいつですかい?」



リリネット「うわ……この人『グリムジョー』よりガラ悪いんじゃない?」

ゾマリ「……他者を見かけで判断してはいけませんよ、リリネット殿」

影虎「おう!いいこと言うじゃねえか兄ちゃん!」

影虎「兄ちゃんを見習えよ嬢ちゃん!はっはっは!」ガシガシ

リリネット「……イタっ!……イタタタっ!!……頭ガシガシすんな!!」



祭「よし、“訓練”を発表するぞ、『ライズ』を覚えたいならやる事はただ一つ!」

祭「そこの影虎の顔面にパンチを一発ぶちこむ事!」


ゾマリ・リリネット「……!」


影虎「クク……心配すんなや、50%の力で相手してやるからよ……」

リリネット「…………!」ムッ

リリネット「おじさんちょっと私たちのことバカにしてるんじゃないの?」

影虎「はっはっは!気の強い嬢ちゃんだ、どっからでもかかってきて構わねえぞ」

祭「“PSI”の基本はまず己の脳でイメージを構築すること、自分の強くなったイメージを探すところから始めないとね」



リリネット「(ギャフンと言わせてやる……!)」


リリネット「……『響転』!」スッ


影虎「(…………消えた!?)」


リリネット「(もらった……!)」ブン

影虎「後ろか」

リリネット「……!?」

影虎「ほい」ペシ

リリネット「あうっ」ドシャッ




リリネット「はぁ……はぁ……」


リリネット「う…うおおおおおおおお!」ブンッ


影虎「まだまだァ!!」ヒラリ

リリネット「へぶっ」ズシャ


リリネット「う…うああああああ!!」ダッ


影虎「どうした!動きが鈍ってるぞ嬢ちゃん!!」ヒラリ

リリネット「ぶっ」ドシャッ

リリネット「う…うう……」ジワッ


リリネット「うわああああああああああん!!ぶっころしてやる!!」ポロポロ


影虎「はっはァ!その意気だ!!」



ゾマリ「……あの男の速さ、あれが『ライズ』ですか」

祭「ああ、驚いたかい?」

ゾマリ「……ええ、しかし彼は先程“50%の力で相手をする”と仰っていましたが……恐らく今は……3、いえ……2割の力も出していないでしょう」

祭「……!!凄いな、そこまで見抜くとは……」

祭「どうだ……?アンタの“訓練”相手にはなりそうか?」

ゾマリ「………………」




リリネット「はぁ……はぁ……!!」

影虎「嬢ちゃん、お前さんスジはいいが……いかんせん攻撃が単調だな、攻撃の後の隙も大きい」

リリネット「…………!!」ジワッ

影虎「おいおい泣くな泣くな、今はまだ荒削りだが……これから嬢ちゃんは強くなる、俺の後ろをとれる奴なんざ世界中探し回ってもそうはいねえだろうしな」

リリネット「……いつか、いつか絶対あんたの顔に一発入れてやるからな!」

影虎「……おう!」





祭「……影虎!まだいけるか?」

影虎「ええ、その気になりゃァ三日三晩戦い続けることもできますよ」

祭「そうか、なら次は……あっちの男の相手をしてくれ」


ゾマリ「…………」


影虎「はっはっは、随分強そうなナリをしてやがりますね」

祭「……影虎」

影虎「はい?」


祭「……“本気”でやって構わん、油断はするなよ?」


影虎「…………!!」



影虎「…………」ザッ


ゾマリ「…………」ザッ


影虎「さっきも紹介したが……俺は雹堂影虎、お前の名は?」

ゾマリ「……ゾマリ・ルルー」

影虎「……その腰の『光り物』は使わねェのかい?」

ゾマリ「……あくまで“訓練”ですので」

影虎「クク……そうか……!」

ゾマリ「……では、手合せを」

影虎「おう」



ゾマリ「(…………『響転』)」ヒュン

影虎「…………!!」

影虎「(……正面!……手刀か!!)」


メキ……!!


ゾマリ「(押し込めない……!!)」グググ

影虎「(押し返せねェ……!!)」グググ



ゾマリ「(………………!)」ブン

影虎「(……おっと)」スッ


ゾマリ「(………………)」ヒュン


影虎「(また消えた……)」

影虎「(今度は……後ろか!)」ブオンッ

ゾマリ「(………………!!)」

影虎「(………ドンピシャ!)」スカッ

影虎「(…………!?)」


ゾマリ「何処を狙っているのです?」スッ


影虎「(なに……!?蹴りは確かに奴を捉えたハズだ……!)」


ゾマリ「(………………)」ヒュン


影虎「(フゥゥゥゥゥゥ………『ライズ』全開!!)」ビュンッ!!


ゾマリ「(…………!!!!)」

ゾマリ「(『双児響転』…!)」スッ




影虎「こりゃぁ……分身……!?『バースト』じゃねえ……『ライズ』か!」

ゾマリ「……いきますよ」

影虎「はっはっは!かかって来い!!」


影虎「(この“分身”は恐らく『ライズ』による残像、二体なら片方を対処してから本体を叩けば問題ねェ)」

ゾマリ「(………………)」ヒュン

影虎「…………はっ!!」ブンッ

ゾマリ「(………………)」スッ

影虎「(……!!手応えなし、こっちは偽物!なら……!!)」ビュンッ


ゾマリ「………………!!」


影虎「(捕った…………!)」スカッ

影虎「(………………な!?……コイツも残像!)」


ゾマリ「『双児響転』は二体までではありませんよ」スッ


影虎「だろうと思ったぜ……!!」ニヤッ

ゾマリ「……!」


影虎「“ストレングス”全開!!」ヒュッ


ゾマリ「(…………背後に……!)」


影虎「終わりだ!“三体目”……こいつがテメェの本体だ!」ブンッ


スカッ


影虎「…………な!?」

ゾマリ「……終わりです」ピトッ

影虎「…………く……!」

ゾマリ「言ったはずですよ、『双児響転』は二体までではないと」


影虎「……はっはっは、“四体目”……か、俺の敗けだ、兄ちゃん」


―――――――――――――――――――――――――――――


祭「じゃあな、影虎、わざわざ付き合ってもらって悪かったな」

影虎「いえいえ!姐さんの為ならこの雹堂影虎、地獄の底からでも駆けつけますよ!」

祭「ふっはっは!そりゃあ頼もしいこった!」


影虎「……嬢ちゃんと兄ちゃんもまたな」

リリネット「……次はぜーったい勝つから!」イーッ

影虎「ははは、元気な嬢ちゃんだ」

ゾマリ「……それでは失礼する」


影虎「おう、またな」



祭「……どうだ?さっきの“訓練”で『ライズ』を行使している感覚はあったか?二人とも」

ゾマリ「……いえ、先程の“訓練”では……私は『虚』としての戦闘を行ったにすぎませんので」

祭「んー……やっぱ幽霊に“感染”はしないのか……?」


リリネット「…………」フラ


祭「……ん?どうした、リリネット」


リリネット「…………あれ?」ダラダラ


祭「鼻血……!!」


ゾマリ「…………!」ツー



祭「……!!まさか……お前たち……やはり“感染”していたのか……!!」




ジリリリリリリリリリリリリリ………!



ゾマリ・リリネット「……!!!」


祭「……!まさか……!!」

ゾマリ「どうやら……“招集”のようです」

祭「ちっ……!」スッ

ゾマリ「これは……?」

祭「……お前たちの“携帯電話”だ」


ジリリリリリリリリリリリリリ………!!!


祭「“ベル”の音は時間が経つにつれて大きくなり、やがては脳が潰されるような衝撃になっていく……!だから“ベル”が鳴り始めたら、この“携帯電話”をとれ……!」

リリネット「……!」


ジリリリリリリリリリリリリリ………!!!!!


祭「死ぬな……絶対に生きて帰って来い……!」


ゾマリ「………………」

リリネット「いろいろありがとう、マツリ……」


ジリリリリ……―――――――――――








祭(…………歯痒い…!!私も行くことが出来たら……!!)





投下終了

予定が明日明後日にずれたので今日投下



ドサッ…



ゾマリ(ここは……)

ゾマリ(暗い……どうやら建物の中のようですね)

ゾマリ(……!……リリネット殿は……!!)


リリネット「…………うぅ」


ゾマリ「……リリネット殿!」


ゾマリ(…………鼻血が)ビリッ

ゾマリ「……無事でしたか」フキフキ


リリネット「……………うぅん」スゥスゥ


ゾマリ(……そうでした、恐らく彼女は今まで睡眠をとっていない……この場所は危険ではないようですし……『霊力』の回復の為にも少し、休ませるべきでしょう)





リリネット「……う………ん…?…」


リリネット「…………!!」ガバッ


ゾマリ「……眠れましたか?」


リリネット「……あたし、いつの間に寝ちゃったんだろう」

ゾマリ「……疲れていたのでしょう、私が気がついた時には既に眠りについていたようで」

リリネット「……そうだったんだ」


ジリリリリン! ジリリリリン!


ゾマリ・リリネット「……!!」


ジリリリリン! ジリリリリン!


ゾマリ「……ふむ、あそこの“電話”からのようですね……」


ガチャ…







サイレンを目指す者よ……



世界の出口を探す者よ……



門を探せ――――……!!







リリネット「……ん~、頭の中に浮かんだ映像だと“出口”は崖に囲まれてるみたい……」

ゾマリ「……とりあえず、“地図”の確認をしておきましょうか」


リリネット「……!!そうだったね、確認しておかなきゃ(完全に忘れてた……)」


ゾマリ(このボタンでしょうか……)ポチ


ヴン……


リリネット「あ!“電話”の画面に地図が……地図?」

ゾマリ「……地図と言うには随分とお粗末なものの様ですね……手掛かりは“出口”は北東方面、といったことくらいでしょうか」


ゾマリ「……まずは屋上に上がって、地形を把握しておいた方がいいでしょう」




ゾマリ「どうやら、私たちは積み上げられた廃墟の山の上にいるようだ……そして、このまま道なりに伝っていけば東の山岳地帯に辿りつけそうです」

リリネット「そこに“出口”もあるのかな?」

ゾマリ「恐らくは」


ゾマリ(そういえば……前回ほど霊圧や呼吸の乱れがない、『この世界』の霊子濃度が異常に薄いことには変わりはないのですが……)


ゾマリ「…………」チラッ


リリネット「(むむむむ…………!!……ほっ!……ふんっ!)」ブンブン


ゾマリ(……リリネット殿も同様のようで)


ゾマリ「……何をしているのです?」


リリネット「え?だって……さっき鼻血が出たってことは“PSI”が使えるようになってるんじゃないかなあ、って……マツリも言ってたでしょ?」

リリネット「でもやっぱり無理みたいだなー……」




ゾマリ「……ふむ、ところでリリネット殿」

リリネット「なに?」


ゾマリ「前回の“ゲーム”で言っていた息苦しさ……まだ、ありますか?」


リリネット「……!」

リリネット「そういえば……そんなにないや、なんでだろ……?」


ゾマリ「一つの仮説を立ててみたのですが……恐らく私たちは……既に“PSI”の力に覚醒しているのではないかと」


リリネット「え!?でも……」


ゾマリ「マツリ殿が仰っていたでしょう、“あの世界は“PSI”の力に満ちた異界に変貌してしまった”と……“PSI”の力で満ちている『この世界』、前回と比べ、霊子濃度の圧が変化していない以上……私たちに霊圧の乱れがなく、呼吸も楽になっているのは、何らかの“PSI”の力が我々に働いている、と考えるのが道理でしょう」


リリネット「(………………?)」ムムム…


ゾマリ「恐らく……現在、私たちの持つ微々たる“PSI”は……“PSI”の力で満ちている『この世界』によって、ある程度その力が増幅していると考えられます……それは不足している『霊力』を補っているのか、はたまた単純に基礎能力を底上げしているのか、詳しいことは分かりませんが……」


リリネット「(………………えっと……どういうこと?)」ムムム…


ゾマリ「……簡潔に言えば、私たちは現在、“PSI”の力の恩恵を受けている状態……と言ったところでしょうか」


リリネット「あ!最後ちょっと説明するの面倒になっただろ!」



ゾマリ「……とはいえ、先程の説明はあくまで推測にすぎませんので、あまり鵜呑みになさらぬよう……本当は全く別の事象が原因である可能性も無きにしも非ず……」

ゾマリ「とりあえず、“出口”の方面に向かいましょうか」


リリネット「…………あのさ」


ゾマリ「……どうしました?」


リリネット「……『探査神経』でスタークを探せないかな……、あたしの『探査神経』は範囲が狭いし……近くにいるかどうかだけでもいいから……」


ゾマリ「……わかりました」





ゾマリ(『探査神経』――――――)







ゾマリ「…………残念ながら」


リリネット「…………」


リリネット「……“出口”、向かおっか」


ゾマリ「…………!!」


リリネット「……大丈夫!スタークが誰かに敗けるなんてありえないし……!ましてや死ぬなんてこと絶対にない!……そりゃあ本調子じゃなかったかもしれないけど……それでも……ないよ……そんなこと……ぜったい……」ツー


リリネット「…………ぜったい……」ポロポロ



ゾマリ(リリネット殿…………)





―――――――――――――――――――――――――――――


「……デルボロ様、570番区にて正体不明の微弱な“PSI”波動を傍受しました」



デルボロ「……そうか」


「……微弱な“PSI”波動ってことは、“生存者”ご一行様かねェ……」


「かァーーッ!面倒くせえ!!なんで俺たち“スカージ”が“地域警備”なんざしなきゃならねェんだ!」


デルボロ「そう言うな……アッシュ、“地域警備”担当のドルキ様は“星将”の会議に出席中だ……なによりこれはジュナス様直々の命だ」

アッシュ「わかってるけどよ……俺たちは“戦闘部隊”だぜ?ったく……ドルキの野郎の尻拭いなんざ勘弁してほしいってんだ」


「……570番区って……たしかドルキの部下たちが軒並み行方不明になった場所の近くじゃなかったっけ?」


「ん~……そういえば、ミスタードルキが先日そのようなことを呟いていたかねェ」


アッシュ「チッ……頭が頭なら部下も部下ってか……ったく、なんでアイツみてェなヤツが“星将”なのか一度ミロク様にお尋ねしてみたいぜ」




「……で、570番地区に行くのはだれだい?早いとこ決めておくれよ、リーダー」


デルボロ「……そうだな」


アッシュ「……『新入り』に行かせりゃいいんじゃねえか?」

アッシュ「……おい!『新入り』!!」


「……………………」


アッシュ「……おい!聞いてんのか!!」

「……仕方がないと思うよ、『彼』は先日“イルミナス・フォージ”を受けたばかりだからねェ……それも“新型”の手術だったそうじゃアないか」

「今は……“手術”の影響で最低限の知能と最低限の理性しか持ち合わせちゃァいないさ」

アッシュ「ハッ……!気味の悪いヤツはオドだけで十分だっての!」


オド「……………………」ショボン


アッシュ「…………すまん、冗談だ」



デルボロ「よし……アッシュ、『新入り』を連れて行って来い」


アッシュ「はあ!?なんで俺なんだよ!ネッカとかバーリィとかに行かせりゃいいじゃねえか!!」


デルボロ「……ネッカとバーリィはつい最近、別の任務にあたったばかりだ、疲労がたまっている」


ネッカ「そうさ、少しはレディを気遣いな」


アッシュ「はっ、お前がレディなら全世界の女が女神か天使になっちまうだろうが」

ネッカ「……死にてえのかテメェ」


バーリィ「まァまァ……落ち着きなさいな二人とも」


アッシュ「『新入り』ねぇ……まったく、胸に“数字”の入れ墨なんかしちゃってまあ……」

アッシュ「いったいどこのどいつなんだコイツは」



デルボロ「……グラナ様によれば高度な『ライズ』を使う『サイキッカー』らしい」


アッシュ「……グラナ様?……グラナ様は“手術”には関与してないはずじゃなかったか?なんでそんな事を……」


デルボロ「この『サイキッカー』を捕縛したのは他ならぬグラナ様らしい……恐らくは交戦の最中にお気づきになられたのだろう」

バーリィ「ほゥ……しかしミスターグラナに“高度な『ライズ』”と言わせるとは……」


デルボロ「……側にいたシャイナ様の話によれば、この『サイキッカー』は手足を吹き飛ばされても瞬時に自己修復するほどの『ライズ』の使い手だったようだ……それでも一方的な戦いだったようだが」


バーリィ「……流石はグラナ様、と言ったところかねェ」




アッシュ「はぁ~……まあいい、今回は俺が行って来る……」


アッシュ「おい!行くぞ『新入り』!!……お前名前はなんて言うんだ!!」


「……………………」


アッシュ「ああ、そうだった……メンドくせぇ……」


アッシュ「……リーダー!コイツの名前とか分からねえのか?」


デルボロ「名前?」


デルボロ「そうだな、確かグラナ様が仰っていた……」


デルボロ「そいつの名前は……―――――」











デルボロ「『ウルキオラ・シファー』だ」







投下終了

早く帰ってくることが出来たので今日の夜投下します




ゾマリ「…………落ち着きましたか?」


リリネット「……うん」グスッ


ゾマリ「……涙を」スッ

リリネット「……ありがと」


リリネット「……今度こそいこっか」


ゾマリ「……ええ」



ガラガラ……


ゾマリ「ふむ……道なりといえど……やはり廃墟、瓦礫が多い」


ゾマリ「……リリネット殿、足下に気をつけなさい」


リリネット「……大丈夫大丈夫!わかってるって!」


ミシッ…


ベキベキ…!


リリネット「うわっ!?」


ドスン!


ゾマリ「リリネット殿!」




リリネット「いたたたた……」


リリネット「ただの道だと思ったのに……底が抜けた……」


ゾマリ「……どうやら、瓦礫の下に空洞があったようですね」

リリネット「しかも階段になってるし……オシリぶつけちゃったよ……」




リリネット「あれ?……奥のほうに大きな扉がある……」


ゾマリ「……恐らく『現世』の人間が造った“地下倉庫”のようなものでしょう」


ゾマリ「……なにか“情報”があるかもしれません、開けてみましょうか」


バキン!……ギギギィ……


ゾマリ「……酷い荒れようだ……」

リリネット「扉、閉まってたのに……」


ヒラリ…


ゾマリ「……む」パシッ

ゾマリ(……『現世』の情報記録紙か)


“北海道に隕石落下”


ゾマリ(隕石……?)



『2009年10月29日 深夜2時10分…北海道古都霊山中に隕石が落下した』


『隕石の推定直径は1~1.2m 隕石の衝突現場には直径20mのクレーターができていたが 飛来した肝心の隕石は見当たらなかった…』


『しかし隕石の衝突直後に現場から走り去る不審なトラックが付近住民に目撃されており… 事件との関連性がないか調べられている…』



ゾマリ「……ふむ」





リリネット「……どうしたの?」

ゾマリ「……いえ」


ゾマリ「とにかく、もう少し調べてみましょう」




リリネット「……ん?なんだろうこの紙……たくさんあるけど……」


ゾマリ「……何か見つかりましたか?」


リリネット「変な紙がたくさんあって……えっと、地球……転生の日……?ワイズ?」

ゾマリ「……!!」


ペラリ…




2009.10.29 我々はとうとう神との交信に成功し 約束の涙を手に入れた…!


我らは 神に選ばれしもの『W.I.S.E』


我らは 今ここに世界再生計画の発動を宣言する……!!


全人民に告ぐ…!


『転生の日(リバース・デイ)』は近い…!!




ゾマリ(……『ワイズ』……最初の“ゲーム”で敵対した“禁人種”が言っていた……)

ゾマリ(やはり『ワイズ』とは何かの組織……いや、決断をするには早計にすぎる、まだ他の“情報”を見極めてからでも……)


リリネット「………………うわあっ!!」


ゾマリ「……!!」


ゾマリ「どうしました……?」

リリネット「…………人が……」


ゾマリ(……死んでいる、この“地下倉庫”の主か)


リリネット「この人、なんでこんなところに一人で……」

ゾマリ「恐らくは『現世』の崩壊と共にこの“地下倉庫”に逃げ込んだのでしょう、食料が備蓄してあることからも……その可能性が高い」


リリネット「…………」






リリネット「……あ、この人……手帳を持ってる……」

ゾマリ「……手帳、ですか」


リリネット「読んで……みる?」


ゾマリ「……死者の私物を漁るのは気が進みませんが……読ませて頂きましょう」


ペラ…


11月7日
今 全国でバラまかれているW.I.S.Eと名乗る集団の声明文を友人の伝で入手 『世界再生計画』とは随分思いきったものだ


11月14日
ビラはまかれ続ける… W.I.S.Eの正体は依然不明…


11月25日
最近妙な事件が起きている…!! 関東郊外で2基巨大鉄塔が融解し大停電を引き起こした事件… 爆音と共に車両基地から消えた鉄道車両が3km離れた水田で発見された事件…! 一体誰が…どうやってこんな真似を…!?






リリネット「ねえ……この事件って……」


ゾマリ「……ええ、“PSI”の力を持った者の仕業でしょう」


リリネット「……『ワイズ』ってやつらがやったのかな?」

ゾマリ「それは断定しかねますが……」

リリネット「……あ、まだ続きがある」



「宣戦の儀」

12月1日
明日は14時 ワイズによる決起集会!!―…どうやら奴らが公衆の面前に出てくるようだ…!! 「宣戦の儀」とは何か?ビデオカメラ持参 必ず撮影する予定!!


リリネット「『宣戦の儀』……?」

ゾマリ「この日行われた『ワイズ』の“決起集会”のことでしょうが……いったいどのような……」


リリネット「……もう少しなにかあるか探してみる?」

ゾマリ「……そうしましょうか」





リリネット(ん……?なんだろうこの“箱”)ツンツン

リリネット(………………?)コツン


ジジ……ジ…


リリネット「……!」





ゾマリ(……これは)ペラッ



いまだ小さな地震は続いている

あの地ごくから何日たったのか…

自力であの扉を開ける体力も もはやない

外はどうなっているのだろうか?

あの大きなじしんでへやのなかのものがくずれた

オレの両足は もう 動かない

おふくろ たすけにいけなくてすまない

カ―― もし生きているのなら

あきらめるな



ゾマリ(…………)


ゾマリ(主の遺言……ですか)



リリネット「……ゾマリ!ちょっと来て!」


ゾマリ「……!」

ゾマリ「……どうしました?」



リリネット「ふふふ……じゃーん!!」スッ

ゾマリ「……その円盤は?」

リリネット「これはね、デーブイデー?って言って……映像を記録しておくことができるモノ……だったような」


ゾマリ「……そのような知識を何処で」


リリネット「ちょっと前に『ザエルアポロ』の“研究室”に遊びに行った時に似たようなモノがあったから、聞いたら教えてくれて……危うく実験台にされるところだったけど」


ゾマリ(『12/2 W.I.S.E』……と書いてありますね)


ゾマリ(つまり『これ』を使えば『宣戦の儀』とは、どの様なものであったのか……分かるということでしょうか)


リリネット「えーっと……たしか“ぷれいやー”のここに……」ウィーン



ジジ…ジー…ザザザ……



ゾマリ・リリネット「……!」



ザザ……ザー……



リリネット「……見えた!」


ゾマリ(白装束の三名……彼らが『ワイズ』……でしょうか?)


リリネット「ん……フードをかぶってて顔が見えない……」

ゾマリ「……当然と言えば当然ですが、正体を隠しているのでしょう」



ザザッ…――ザ……


……この…世――界…に!!―ザザ――


―――とうとう…!!……の裁きが下される……―時が来た……!!


『転生の日』は――目前に……!!………ている!!


―……後戻りはできない……!!




――…今日をもって…!!……


……I.S.Eは神と共に世界の浄化を……始め……宣言する…!!


我らが手に入れた力!!――……思……知れ…愚民共…!!――



フワ…… ベキベキ……!



ゾマリ・リリネット「……!」


ゾマリ(これは……“PSI”の力で建物を破壊している……?“テレキネシス”……でしょうか)



ザザ…―ザ…―ザザッ…―――


リリネット「あ、消えちゃった!」




ザザッ――――――――


リリネット「うーん、もう動かないのかな……」ペシペシ

ゾマリ「……どうやら、そのようですね……しかし有益な“情報”は手に入りました」


ゾマリ「……この『ワイズ』という連中は“PSI”を使う組織であること」

ゾマリ「……そして恐らく『現世』を滅ぼした要因も彼ら『ワイズ』にあるのでしょう」


リリネット「ってことは……」

ゾマリ「ええ、私たちは本来の『現世』に戻り、この『ワイズ』といった組織の企みを阻止する……それが目的になります」


リリネット「……!」


ゾマリ「もちろん、『この世界』にいるはずのスターク殿を見つけ出すことも忘れずに……ですが」





ゾマリ「……とりあえずは、“出口”を目指しましょう、この事をマツリ殿に話せば何か手掛かりが掴めるかもしれません」


リリネット「そうだね、あたしたちは『現世』のこと、あまりよく知らないし……」



ゾマリ「…………!!!!!」ピクッ


リリネット「……?どうしたの…?」


ゾマリ「……何か、巨大な『霊圧』が接近している」

ゾマリ「……恐らくこの『霊圧』は……『最上級大虚』のもの」


リリネット「……え!?じゃあスタークが……!!」


ゾマリ(……妙だ、幾ら『最上級大虚』とはいえ……この霊子濃度の薄さでここまで巨大な霊圧を放てるとは考えにくい……例え『第1十刃』といえども……)





ドガアアアアアアン…………!!!!!




ゾマリ・リリネット「……!!!!」






ミシ……!!ガタガタガタ…!!



ゾマリ「……!ここも長くは持ちそうにありませんね」


リリネット「……逃げよう!」ダッ


ゾマリ「……ええ」


ゾマリ(…………)


ゾマリ(……この“円盤”は念のため『現世』に持ち帰りましょう)スッ


リリネット「……早く!」



バキ……!ガラガラガラ……!!


投下終了

明日の夜に来ます




ゾマリ「………………」


リリネット「攻撃……!?どこから……?」


アッシュ「や~っぱ出てきやがったか!」


ゾマリ「……!」

リリネット「…………!!」ザッ


アッシュ「テメェら“生存者”だな、俺についてくるか、ここで死ぬか、選べ」


ゾマリ(……左手の甲に『水晶玉』……“禁人種”のようですが……)

ゾマリ(……『霊圧』は感じられない、ならば先程の攻撃は……?)


ザッ…


アッシュ「……遅えぞ、『新入り』」


ゾマリ・リリネット「…………!!!!!」



ゾマリ(………………)


ゾマリ(……『第4十刃(クアトロ・エスパーダ)』、ウルキオラ・シファー……)


ゾマリ(やはり先程感じた霊圧は……『最上級大虚』のもの)

ゾマリ(しかしスターク殿のみならず、ウルキオラ殿も『この世界』に……)


リリネット「……!!!……ウル…むぐっ」


リリネット「(なにすんの……!)」ヒソヒソ

ゾマリ「(……ウルキオラ殿の様子、どこか妙な部分があります……それに“禁人種”にはウルキオラ殿と私たちが『同胞』であることは悟られないほうがいいでしょう)」ヒソヒソ


リリネット「(…………!!)」


ゾマリ「(私が囮になります、リリネット殿は急いで“出口”に向かってください)」ヒソヒソ

リリネット「(……!!……そんなこと!!)」ヒソヒソ


ゾマリ「(……納得できないことは百も承知です、しかし相手は『最上級大虚』、さらには得体のしれない“禁人種”もいます)」ヒソヒソ

リリネット「(…………)」

ゾマリ「(かと言って……あの“禁人種”の言葉に従っても私たちが無事でいられる保証はどこにもありません)」ヒソヒソ


アッシュ「おい!さっきからなにコソコソやってんだ!」





ゾマリ「(今、大切なことは……一人でも生き残って『現世』の未来を変えることです、私たちが全滅すれば……その時点で『この』“未来”が訪れることは確定的になるでしょう)」ヒソヒソ


リリネット「(…………!!!)」


ゾマリ「(……彼らの隙は私が作ります)」ヒソヒソ


アッシュ「チッ……もういい!テメェらまとめて……」


ゾマリ「……『虚弾』!」


バシュ!!!!


アッシュ「…………な!?」



ズズゥン……!!



ゾマリ「……さあ」


リリネット「でも……!!」


ゾマリ「……なに、私も『十刃』です……“禁人種”に『最上級大虚』が相手とはいえ、易々と敗れはしませんよ」


ゾマリ「必ず……共に『現世』に戻ると、約束します」



リリネット「…………!!」


リリネット「………………」ググッ


リリネット「…………!!」ダッ!




アッシュ「ちっ……目眩ましたぁナメたマネしてくれるじゃねえか……!!」

アッシュ「……おい、『新入り』!俺はあのガキを追う、コイツの相手はテメェに任せるぞ!」ダッ!


ゾマリ「(…………させん)」ヒュン

ウルキオラ「(………………)」ヒュン


ギィン…!


ゾマリ「…………!!」


ゾマリ「(…………追わせてはくれぬか)」グググ

ウルキオラ「………………」グググ



ゾマリ「……ウルキオラ殿」


ウルキオラ「………………」


ゾマリ(どうやら……私のことは覚えていないようだ)


ゾマリ(……“孔”の部分に『水晶玉』が埋め込まれている)


ゾマリ(あの『水晶玉』は今までの“禁人種”すべてに見られたもの)


ゾマリ(恐らくは“禁人種”の『核』)


ゾマリ(最も考えたくなかったことではあるが……恐らく――)


ウルキオラ「………………」ヒュン

ゾマリ「…………!」ヒュン


ガキィン!


ウルキオラ「………………」ブン


スカッ


ウルキオラ「…………!!」




ゾマリ(“禁人種”を創り出しているのは『ワイズ』、それも“生物”を媒介に……)

ゾマリ(……あの『核』を利用して“禁人種”を創り出すのだろう)


ゾマリ(……そして、なにより……ウルキオラ殿が『この状態』に陥っているということは、『最上級大虚』の上を往く力を持つ者が、『ワイズ』に存在するということ)


ゾマリ(この霊子濃度とはいえ……『最上級大虚』を“ただ殺す”のではなく“捕える”ことのできる者が……)



ウルキオラ「…………何者だ、貴様」


ゾマリ(……!……言語能力は失ってはいない……)


ゾマリ「……私をお忘れですか、ウルキオラ殿」


ウルキオラ「……知らんな」


ゾマリ「『第7十刃』、ゾマリ・ルルーと申します」


ウルキオラ「……貴様、俺を知っているのか」




ゾマリ「……貴方は私たちの『同胞』です、『第4十刃』、ウルキオラ・シファー……」


ウルキオラ「………………」


ゾマリ「私たちを……『十刃(エスパーダ)』を、藍染様をお忘れですか?」


ウルキオラ「………………!!」


ウルキオラ「…………………ぐ……!!」ガクッ


ゾマリ「……!!」


ウルキオラ「……が………あ……!!!」ズキズキ


ウルキオラ「……『十刃』…………違う……俺は……“スカージ”」


ウルキオラ「“ジュナス様”……直属の……“戦闘部隊”……!」



ウルキオラ「――――――――――――――」



ゾマリ「…………!!!」


ゾマリ「(先程の『霊圧』と同じ……!!)」





リリネット「はぁ……はぁ……」


リリネット(あたしは……“また”逃げるの……?)


リリネット(今度は、ゾマリを見捨てて……)


リリネット(このまま……また“独り”になるの……?)


リリネット(あたしは……――――)



アッシュ「よう……!見つけたぜクソガキ……!!」


リリネット「……!!」



リリネット「…………!」ザッ


アッシュ「はぁ?」

アッシュ「おいおい冗談だろ!……まさか俺と戦うつもりか?」


リリネット(あたしは……――――)


アッシュ「どこ見てんだ?」ブンッ


バキ…!


リリネット「………げほっ……!」ドサッ


アッシュ「……アバラの数本へし折るつもりで打ったが……硬ェな」


リリネット「……うう…………」


アッシュ「どうでもいいが、さっさと『塔』に連れて行かせてもらうぜ」ガシッ


パシッ


アッシュ「……!」


リリネット「…………触んな」


リリネット「……『虚弾』!」


パシュ!




リリネット(……決めたよ、ゾマリには悪いけど……!!)


リリネット(……もう、“独り”なるのはいやだ……!!)



アッシュ「……テメェもくだらねえ目眩ましを……!!!」


リリネット「………………」


アッシュ「(…………!……さっきまでと目つきが変わったか?)」


リリネット「あたしはもう、逃げない……!……ここであんたを倒す!!」


アッシュ「カカカ……!面白え、捕縛は止めだ……かかって来いや“生存者”!」


投下終了、また明日来ます



リリネット「………………!」ズバッ


アッシュ「(……頭から『刀』?……『バースト』使いか)」


リリネット「……『響転』!」ヒュン


アッシュ「(……『ライズ』!速いが……目で追えないことはねぇ……!)」ジャラ…


アッシュ「…………!」ピン!


リリネット「………………っ!」ヒュン


リリネット「(……少しだけ、掠った)」ツー


リリネット「(……それに、『響転』が……『現世』の時より……マツリの“訓練”の時より遅くなってる)」


リリネット「(……やっぱりゾマリが言ってた通りなんだ)」




アッシュ「クソガキが……!とっととくたばれや!!」ピン! ピン! ピン!


リリネット「……!……『響転』!」ヒュン


アッシュ「(…………『ライズ』!)」ビュン!


リリネット「…………!!」ブン


アッシュ「当たらねえよそんなもん!!!」スッ


アッシュ「終わりだ……!!」


リリネット「…………『虚閃』!!」



バシュウ!!



アッシュ「(な……!『刀』は囮……!!)」



ドォン……!!





リリネット「………………?」フラ


リリネット「……っ……はぁ……はぁ……!!」ガクガク


リリネット(ははは……たったのこれだけで、もう体に力が入らないや……)ゼェゼェ


ピン…!


ドスッ!


リリネット「…………っ!!」ブシャッ

リリネット(……!!……そんな……!!)


アッシュ「ちっ、腕か……狙いがそれちまった……!」





リリネット「…………なんで……!!」


アッシュ「俺を殺せなかったのが不思議か?」


リリネット「………………!!」


アッシュ「……単純にテメェの技がゴミだっただけだ、あの程度なら『ライズ』でどうにでもなる」

アッシュ「…………」ブンッ


バキッ!


リリネット「…………うっ!!」ドサッ


アッシュ「……手こずらせやがって、くたばれクソガキ」


グイッ……ガッ! ガッ! ガッ! ガッ!…………





ウルキオラ「………………」ヒュン


ゾマリ「…………!」ヒュン


ギィン!


ゾマリ(何故だ……『響転』の速度差がごく僅かしかない……幾ら『最上級大虚』とはいえこの速さは……)


ウルキオラ「……『虚閃』」



ドギャアン!!!



ゾマリ「…………!!」ヒュン


ゾマリ(……『虚閃』の威力も妙だ……この霊子濃度でここまでの威力が出るとは考えられん……何か原因が……)


ゾマリ「(……『双児響転』)」





ウルキオラ「…………」ブン


ゾマリ「……当たりませんよ」ヒュン


ウルキオラ「…………!」


ゾマリ「……私の『響転』は『十刃』最速……お忘れですか」スッ


ズバッ!


ウルキオラ「…………!!」ツー…


ゾマリ(殆ど斬れていない……やはり『鋼皮』も健在ですか……)




ゾマリ(しかしどうしたものか……長期戦では私の『霊力』が持たない……と、言えどもウルキオラ殿を止める手段は……)

ゾマリ(手足の腱を切るか……?いや、ウルキオラ殿には『超速再生』がある……)


ゾマリ(そもそも彼のこの『霊圧』の正体は……)


ウルキオラ「…………」スッ


バシュ!


ゾマリ(……『虚弾』!間に合わん……!!)



ドォン……!!





ゾマリ「…………」ボタボタ


ウルキオラ「…………『虚弾』で相殺、直撃を躱したか」




ゾマリ(左脚の裂傷が激しい……『双児響転』はもう、使えそうにない)



ウルキオラ「…………遊びは終わりだ」




スッ…




ゾマリ「……………!!!!!」


ゾマリ(…………まさか)


ゾマリ(…………あの構えは)



ゾマリ(『刀剣解放(レスレクシオン)』…………!!)




ゾマリ(馬鹿な……『この世界』での『刀剣解放』は自殺行為……『霊力』の減少が著しい『この世界』で“本来の力”を“還せ”ば“器”である自身の肉体が耐えられない……!)


ゾマリ(それこそ強引に自身の『霊力』を引き上げる手段が無ければ……!!)


ゾマリ(まさか……この『霊圧』の源は“PSI”……?……あの『核』は……“禁人種”の力そのものでもあるのか……?)



ゾマリ(………………)



ゾマリ(ああ…………)


ゾマリ(ウルキオラ殿を止めるには、力の源である『核』を破壊すること)


ゾマリ(しかし、『核』を破壊すればウルキオラ殿は死ぬ)


ゾマリ(相手取るのは“解放状態”の『最上級大虚』)


ゾマリ(私は手負いのうえ、『刀剣解放』もままならない)





ゾマリ(すまない、リリネット殿)


ゾマリ(どうやら私は『現世』に戻れそうにない)


ゾマリ(存在しないのだ)


ゾマリ(抗う術が)


ゾマリ(そう)


ゾマリ(何もないのだ)


ゾマリ(ああ……)


ゾマリ(皮肉にも)


ゾマリ(これが『第4十刃』の司る死の形)



ゾマリ(『虚無』……か)








ウルキオラ「『―――――鎖せ』」













ウルキオラ「『――――黒翼大魔――――』」







投下終了、明日の夜また来ます

明後日は少し長めに投下します




アッシュ「…………」ピタッ


リリネット「――――」


アッシュ「…………死んだか」パッ


ドサッ


アッシュ「……けっ、ガキ相手に柄にもなくムキになっちまったぜ」






ドクン…


リリネット(…………)


ドクン…


リリネット(…………)


ドクン…


リリネット(…………)



ドクン…!!



リリネット「―――――――!」




リリネット(――あれ……?あたしはたしか……)

リリネット(…………身体の痛みが引いていく……)

リリネット(それに、なんだろう……体が軽い……?)



アッシュ「……!!……なんだぁコイツ……体の傷が消えていきやがる」




リリネット「…………」ヨロッ


アッシュ「……あァ?」


リリネット「…………」ザッ


アッシュ「ガキが……『ライズ』で傷を治したところで俺に勝てると思ってんのか?」




リリネット「…………な」ボソ


アッシュ「ハァ?」


リリネット「…………んな」ボソ


アッシュ「……あァ?……なんだって?聞こえねェよ!!」



リリネット「あたしを……なめんな……」


リリネット「『第1十刃』を……『#1(プリメーラ)』をなめんな!!!」




リリネット「……『王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)』!!!!!」



ドシュウウウウウウウ!!!!!



アッシュ「(…………な!!!!?)」




ドガアァァァァァァン……!!!





リリネット「はぁ……はぁ……」


リリネット「やった……やったよ…………」


リリネット(……あれ……力が抜ける……)フラッ


リリネット「…………っ!」ググッ


リリネット(……戻らないと……ここで倒れちゃ……)ググッ


リリネット(……しっかりしなきゃ……!)


リリネット「…………!」グッ


リリネット「…………!!」ダッ





ウルキオラ「………………」


ゾマリ(………………)


ゾマリ(……ウルキオラ殿を止める手段が無いのならば)


ゾマリ(……私に出来ることは一つ、リリネット殿が『現世』に戻る為の“時間を稼ぐ”こと)



ウルキオラ「……構えを崩すな」


ゾマリ「…………!」


ウルキオラ「……意識を張り巡らせろ」


ウルキオラ「……一瞬も気を緩めるな」


ヒュン


ゾマリ「…………!!!」サッ


バシュッ!


ズバッ!


ゾマリ「…………く」ボタボタ


ウルキオラ「……反射的に『虚弾』を撃ったか」


ウルキオラ「……賢明な判断だ」




ゾマリ「……『虚閃』!」


バシュウ!!!!


ウルキオラ「…………」バシッ


ゾマリ「…………!」


ゾマリ(片手で……)


ウルキオラ「……その程度か?」スッ



ウルキオラ「……『虚閃』」


ドギャアアアアン!!!


ゾマリ「…………!!!」



ズズゥン……!!





ゾマリ「…………っ」ユラッ


ウルキオラ「…………まだ立っているのか」


ゾマリ「…………ハァ……ハァ……!」ボタボタ


ウルキオラ「……何故、剣を離さない」


ゾマリ「…………く……」ボタボタ


ウルキオラ「……これだけの力の差を目にしても」


ウルキオラ「……未だ俺を倒せると思っているのか?」



ゾマリ「……力の差」フラッ


ゾマリ「……それがどうしたものでしょう」ボタボタ


ゾマリ「……“未解放”の『No.7(セプティマ)』が“解放状態”の『No.4(クアトロ)』に」ボタボタ


ゾマリ「……『中級大虚(アジューカス)』が『最上級大虚』に及ばぬことなど……とうに理解しています」ボタボタ


ゾマリ「……それでも……私は倒れるわけにはいかないのです」ボタボタ


ウルキオラ「………………」


ウルキオラ「…………戯言だ」


ゾマリ「……戯言であろうと構わん」ボタボタ


ゾマリ「……私は……私の“信念”に基づき……今、ここに立っているのです」ボタボタ


投下終了、短めですが切りがいいのでここまで

遅れて申し訳ありません、投下





「うおおおおおおおおお!!!」


ゾマリ・ウルキオラ「……!」


「『虚弾』!!」


パシュ!


ドォン……!




ゾマリ(……何故)


リリネット「……ゾマリ!……助けに来たよ!」ハァハァ


ゾマリ(……何故)


リリネット「……!!……酷い傷」


ゾマリ「……何故、逃げなかったのです」


リリネット「…………」


リリネット「もう、嫌だから……“独り”になるのは……」


ゾマリ「……!」




リリネット「……それよりその傷……!」


ゾマリ「……なに、少々痛手を負っただけです」

リリネット「……少々って……!!」


リリネット「………………」


リリネット「戦ってた相手……やっぱりウルキオラだよね?」

リリネット「……なんで、あいつと戦ってるの?」


ゾマリ「……彼は恐らく、『ワイズ』によって洗脳されています……私たちのことも覚えていないようでした」


リリネット「…………『ワイズ』……!」


ゾマリ「……そのため、やむを得ず戦闘を」



ゾマリ「……それよりも、ここは危険です……今は貴女の『虚弾』で目眩ましにはなっているものの、埃が晴れるのも時間の問題――」



ザッ…


ウルキオラ「………………」


ゾマリ・リリネット「……!!」


リリネット「ウルキオラ……!!あんたホントに―――」


ウルキオラ「……『虚閃』」スッ


ドギャアアアアン!!!



ゾマリ「…………!」グイッ


リリネット「…………!?」


ゾマリ「…………」ガシッ



ズズゥン……!!!





リリネット「…………う……」


リリネット「…………!!」


リリネット「…………ゾマリ!!」


ゾマリ「――――」ボタボタ


リリネット(…………!……あたしを庇って……)


ゾマリ「――――」ドサッ


ウルキオラ「…………」ザッ



リリネット「……!!……『王虚の閃光』!!」スカッ


リリネット(……!あれ……でない……)




ウルキオラ「…………」ガシッ


グググ…


リリネット「……う……ぐ……!」ジタバタ


ウルキオラ「………………」


ウルキオラ「……俺の役目は“生存者”の捕縛、及び殺害」


ウルキオラ「………………」


ウルキオラ「……貴様らは消す」






『お前たち「死神」は我らを斬る、それが当然であるかのように!』


『貴様らは神にでもなったつもりか!!』


ゾマリ(…………)


『一体誰の許しを得て、我等「虚」を斬っているのだ!!』


『我らが人間を喰らうからか!?ならばその人間を護る権利は誰に与えられている!?』


『否!貴様等は誰にも何も与えられてなどいない!!』


ゾマリ(…………)


『「死神」が「虚」を悪と断じ切り捨てるのは』


『自らの手に正義があると、ただ思い上がっているからに過ぎない!!』


『貴様等は――』






『私がいつ、“死神として貴様を切る”などと言った』


『私が貴様を斬るのはただ、貴様が』



『私の誇りに刃を向けたからだ』



ゾマリ「――――――!」パチッ




ゾマリ(……走馬灯、ですか)


コロッ


ゾマリ(……!!)


ゾマリ(これは……)


ゾマリ(あったようです……たった一つだけ)


ゾマリ(弥縫策ですが……)


ゾマリ(貴方を止める手段が)ヨロッ




リリネット「…………う……」


ウルキオラ「…………終わりだ」スッ


ヒュン


ゾマリ「…………」ガシッ


ウルキオラ「…………!」


ウルキオラ「……何の真似だ」


ゾマリ「……ウルキオラ殿」


ウルキオラ「………………」


ゾマリ「……今の私たちは“弱い”」


ゾマリ「……私たちは必ず……今一度貴方を“救いに”来ます」


ウルキオラ「……何を言っている」


ゾマリ「……どうか、それまでご無事で」


ゾマリ「(『反膜の匪(カハ・ネガシオン)』)」


ウルキオラ「…………!!!」


ウルキオラ「…………貴様―――」


シュン!





ゾマリ「…………ハァ……ハァ……」



ドサッ

リリネット「……!!げほっ……!……ごほごほっ……!」


リリネット「…………倒した……の?」


ゾマリ「……いえ、あれは『反膜の匪』……『十刃』に渡されている……対象を永久に閉次元に閉じ込める、部下への処罰の為の道具です」


リリネット「……!!それじゃあウルキオラはもう……」


ゾマリ「……『反膜の匪』は、元々『十刃』用に作られた道具ではありません」


ゾマリ「……『最上級大虚』である彼ならば、数時間もあれば脱出することが出来るでしょう」


リリネット「……!」


ゾマリ(……『反膜の匪』、藍染様からいただきはしたものの……所持はせず、自宮に置いてきたはず)

ゾマリ(……何故、私の懐に……)


ゾマリ(……あの『テレホンカード』と共に、入っていたのでしょうか)





ゾマリ「……現時点の私たちでは、ウルキオラ殿を救う手段はありません」

ゾマリ「……彼を救う為にも、『現世』に戻り、一刻も早く対策を立て――」フラッ


リリネット「…………!!」


ゾマリ「…………ぬ」グッ


リリネット「……ごめん」


ゾマリ「……?」


リリネット「……ホントに、迷惑かけてばかりで」


ゾマリ「……何を言っているのです……リリネット殿に助けていただかなければ、今頃私の命はありませんでした」


リリネット「…………」




ゾマリ「……そういえば……あの“禁人種”は……確かリリネット殿の方角に」


リリネット「……!あいつなら、あたしが倒した……と思う」


リリネット「『虚閃』で思いきり吹き飛ばしたし……」


ゾマリ「……そうでしたか……私こそ申し訳ありません、“禁人種”をみすみすそちらに向かわせてしまい……」


リリネット「……!!……そんなこと―――」


ゾマリ「リリネット殿」


リリネット「…………」


ゾマリ「……ここは、“お互い様”……ということにしておきましょうか」


リリネット「……!!!」


ゾマリ「……さあ、“出口”へ向かいましょう、いつ追手が来るやも分かりません」




ザッ



リリネット「“電話”……!……“出口”、ここだよね」


ゾマリ「……ええ、どうやらそのようです」


リリネット「……敵も……近くにはいないみたい」


ゾマリ「……では、戻りましょうか」



ゾマリ「『現世』に」






ゾマリ・ルルー カード残数『45』
リリネット・ジンジャーバック カード残数『48』







ガララ……



アッシュ「ぐ……!!チクショウ……!!」


アッシュ「あのクソガキ……!!」


アッシュ「……ハァ……ハァ……!」


ザッ…


アッシュ「……誰だ!」


「……おやおや、こんな所で……“生存者”の捕縛はどうしたんですか?」


アッシュ「……!!!……シャイナ……様」



アッシュ「……申し訳ありません、私の不手際で……取り逃がしました」


シャイナ「……へえ……“取り逃がした”んですか……その割には、大分傷を負っているみたいですけど」


アッシュ「……!」


シャイナ「……案外苦戦したんじゃないんですか?“スカージ”の名が泣きますよ」


アッシュ「…………!」ググッ


シャイナ「……戦力にならない“戦闘部隊”……いっそのこと、ここで死んでおきましょうか」スッ



アッシュ「…………な……!!!」ゾクッ





シャイナ「なーんて、冗談ですよ」


シャイナ「『塔』に戻りましょうか、ジュナスさんも待ちくたびれていますよ」


シャイナ「……あなたと一緒に来たもう一人の方は?」


アッシュ「……570番区付近にいるはずです」


シャイナ「そうですか、では彼も拾って帰りましょう」






デルボロ「……!!……どうした、アッシュ……随分と手酷くやられたようだが……」


アッシュ「……敗けた、“生存者”に」


デルボロ「……!!」


ネッカ「……敗けた?……相手は“反抗勢力(レジスタンス)”か?」


アッシュ「……“反抗勢力”じゃねえ、男一人と女のガキ一人……『サイキッカー』の二人組だった」


ネッカ「……その男に敗けたのか、どんな奴だったんだい?」


アッシュ「…………」


デルボロ「……どうした?」


ネッカ「……!!……お前まさか……!!」


アッシュ「……ああ、俺が敗けたのは男の方じゃねぇ……」





ネッカ「……ふざけんなテメェ!!」


ガッ


アッシュ「……!!」


ネッカ「……“スカージ”の一員がガキに敗けた?……しかも女のガキに……この事をジュナス様が知ったら―――」


パシッ


アッシュ「うるせえよ!!……んなこと俺が一番―――」


デルボロ「……やめろ」


アッシュ・ネッカ「……!」


デルボロ「……二人とも少し落ち着け、ここで言い合ってもどうにもならない」


オド「…………」オロオロ




デルボロ「……『新入り』、お前も戦闘痕があるが……何かあったのか?」


ウルキオラ「…………」


アッシュ「……まただんまりかよ」


バーリィ「これも“手術”の影響だと思うがねェ……意識の混濁と覚醒が不定期に訪れる……」

バーリィ「……今はそっとしておいた方がいいだろうねェ」


ネッカ「そういえば……ジュナス様はまだお帰りにならないのか?」



デルボロ「……ああ、本日二度目の“星将”会議だそうだ」

ネッカ「……!」


バーリィ「日に二度の“星将”会議……正体不明の『サイキッカー』といい、何か不穏な匂いがするねェ……」


デルボロ「………………」







「……その『サイキッカー』の二人組は何者なんだ、“スカージ”が戦闘で後れをとるなど考えられん」


シャイナ「“スカージ”の報告によれば……子供の方は『バースト』と『ライズ』を使用、男の方は新しく入った『彼』が対応したようで……詳しくは分からないと」


「……ちっ」


シャイナ「あと……子供の方は『プリメーラ』や『エスパーダ』と言った単語を発していたと……」


「……なんだそれは」


シャイナ「どうやらスペイン語に近い単語のようで……『プリメーラ』には『1』、『エスパーダ』には『刀剣』といった意味があるようですが……」


「そりゃあ“反抗勢力”のコードネームか何かじゃないのか?」


シャイナ「……コードネーム……ですか……案外そうかもしれませんね、グラナさん」





グラナ「あー……そういやあ……最近俺がとっ捕まえた奴ら二人の体にも“数字”の刻印があったが……」


グラナ「確かあいつらも主に『バースト』と『ライズ』を組み合わせた戦闘スタイルだったな……」


シャイナ「二人……?グラナさんが捕縛したのは“スカージ”に新たに入った彼のみでは……?」


グラナ「ん?その後にもう一人捕まえたんだよ、腰の部分に『6』の数字が入った女……いや、男だったか……」


グラナ「そんでもってそいつらが撃ってきたあのビームみたいな『バースト』、なんつう名前だったか……確か……セ……セ……」


シャイナ「『セロ』、ですか?」


グラナ「ああ!それだそれ!」



「…………!!!」



シャイナ「…………?どうしました、ジュナスさん」





ジュナス「そうだ、俺が交戦した二刀流の男……!……確かそいつも今の話と似たような『バースト』を使い、手の甲には『1』の数字があった……」


シャイナ「……!」


ジュナス「その男と共に一人の女のガキもいた……逃げられたが……」


「なんだお前、ガキにも逃げられたのか」


ジュナス「…………!」


「お前の口ぶりからしてその『男』も取り逃がしたんだろ?」


「お前に預けたオレの部下は戻ってこねえし……お前の部下は“生存者”だか“反抗勢力”だか知らねえクソみてえなヤツらにやられるしよ……」


「“第二星将”ってのも名ばかりなんじゃねえか?」


ジュナス「……!!!」


ジュナス「…………ドルキ……貴様……!!」ヴン…!


シャイナ「……!」




ガシッ


ジュナス「…………!」ググッ


グラナ「やめとけ」



シャイナ「ドルキさん、あなたもです」

シャイナ「あなた、“第五星将”でしょう?……もう少しご自分の立場をわきまえて下さい」


ドルキ「……!!」


ドルキ「……チッ」





シャイナ「話を纏めますが……恐らく『1』、『4』、『6』の“数字”を持つ者たちと正体不明の男と子供……彼らには何かしらの接点があるものかと考えられます」


シャイナ「……十中八九、『サイキッカー』で構成された“反抗勢力”の組織だとは思いますが」


ドルキ「……おい、『4』の“数字”の男は今“スカージ”にいるんだろ?……『トランス』で頭いじってみりゃ何か分かるんじゃねえか?」


シャイナ「捕獲後に一度調査は行いましたが……強い『トランス』耐性がありました、恐らく『6』の数字を持つ男も同じでしょう」


シャイナ「……“イルミナス・フォージ”の影響がなくなったら、“スカージ”の彼には一度、問いただしてみる予定です」


ジュナス「……その二人組の行方は」


シャイナ「それが、“PSI”反応が消えてしまったんですよ……ケムリのように」

シャイナ「ですから、今は行方は分かりませんが……恐らく、また現れるでしょう」




シャイナ「あと……“数字”の法則性から見るに……彼ら以外にも“数字”を持つ“反抗勢力”がいるかもしれません」


グラナ「……!」

グラナ「はっはっは……面白くなってきやがったな……!!」


グラナ「……よし!会議はこれで終わりだ!各自、『塔』に戻ってくれ!」


グラナ「『ワイズ』に抗う者ならば……いつか俺と闘う宿命!」

グラナ「楽しみにしているぞ、“反抗勢力”……いや、『エスパーダ』!」


カツカツ…





ジュナス「……シャイナ」


シャイナ「……!」

シャイナ「……どうしました?」


ジュナス「奴らのいたポイントは、確か570番区付近だったな」


シャイナ「……ええ」


ジュナス「そうか」


カツカツ


シャイナ「……?」





「………………むにゃむにゃ」スゥスゥ


ドルキ「おい、カプリコ、起きろ」トントン


カプリコ「………ん……あれ、ジュナスは?」


ドルキ「知らん、自分の『塔』に戻ったんじゃねえのか」


ドルキ「会議も終わったしよ、お前もとっとと自分の持ち場に戻れ」


カプリコ「はーい」


スタスタ



ドルキ(……“反抗勢力”、か)


投下終了、次は土曜日の夜に来ます





ゾマリ「―――――!」パチッ


祭「また、酷い怪我で帰って来たもんだ」


ゾマリ「……マツリ殿」


祭「リリネットはあっちの部屋で寝てる、心配しなくていい」

祭「勝手だが……今回の事はリリネットの“記憶映像”を見させてもらった」


ゾマリ「……“記憶映像”?」

祭「……『トランス』で相手の記憶を映像として読み取るんだ、モヤがかかって少ししか読み取れなかったがな」



祭「……例の映像記録に……『W.I.S.E』……この時代で調べなければならないことがたくさん出来た……」


祭「『宣戦の儀』までは約一年半……それまでになんとしても『W.I.S.E』の居所を突き止めなければ……」

ゾマリ「…………」



ガチャ…


ゾマリ「……!」


リリネット「……マツリ?」


祭「おう、起きたか」

祭「お前が無事に帰ってきてなによりだよ」


リリネット「……ありがとう」

リリネット「あ……!……ゾマリ、怪我は……!」


ゾマリ「ご心配なく」




祭「そうだ……!お前たちに関係があるかもしれん話がある」


ゾマリ・リリネット「……?」


祭「これを聞いてくれ」


カチッ


――次のニュースです

「秘密結社サイレン」の情報に『5億円』の懸賞金をかけた「エルモア・ウッド」の「天樹院エルモア」氏――

今回、「秘密結社サイレン」の情報に次ぎ、「虚」なるものの情報にも懸賞金をかけると――


ゾマリ・リリネット「……!!」


カチッ


祭「……気になるか?」


ゾマリ「……ええ……このエルモアという方が、何故『虚』の事を知っているのか……」


祭「ふふ、気になるなら行ってくるといい……ほら、『エルモア・ウッド』までの地図だ」スッ




ゾマリ「……ふむ、少々遠いようですが……赴く価値はありそうです」


祭「なーに、遠いならタクシーでも使えばいいさ、金は貸してやる」


リリネット「……タクシー?」


祭「……ん?ああ、タクシーってのは……金さえ払えば行きたい所に連れて行ってくれる乗り物さ、便利だろ?」

リリネット「へえ……そんなのがあるんだ……」


祭「ちょっと待ってろ」


ゴソゴソ… カチッ カキカキ…


祭「よし、とりあえず行き先と帰りの住所を書いたから……タクシーの運転手に金と一緒にこれを渡しな」


ゾマリ「……かたじけない」

祭「はは、いいってことよ」





リリネット「……じゃ、行ってくるよ!」

祭「おう!気をつけて行って来いよ!」


ゾマリ「それでは……」

祭「ふふ、お前も気をつけてな」


ゾマリ「……お気遣い感謝いたします」


祭「はっはっは!本当に堅苦しいヤツだよお前は!」




リリネット「……あ!タクシーってあれのことじゃない?」

ゾマリ「そのようですね」


ガチャ


ハイ オキャクサンドチラマデ?

ハイ ハイ ア オカネハアトデ

リョウカイシマシタ シュッパツイタシマス



ブロロロロ…





ブロロロロ… キキッ

トウチャクイタシマシタ


ガチャ



リリネット「うーん、ここであってる……よね?」


ゾマリ「……立て看板に『ELMORE WOOD(エルモア・ウッド)』とあります、ここで間違いないでしょう」

ゾマリ「……まずは、庭内に入ってみましょうか」


リリネット「うん」



リリネット(きれいなところ……『虚夜宮』とは少し感じがちがうなあ)


「うわーー!逃げろ逃げろー!!」

「マリー!早く逃げないと捕まるわよ!」


「クソガキどもが……待ちやがれ!」


ゾマリ・リリネット「……!」


リリネット「……あっちの方から声がする……なにやってるんだろう?」

ゾマリ「……複数の子供の声がしましたが……追いかけっこ、でしょうか」



「ちっ……相変わらず逃げ足の速えクソガキどもだ……!!」


「ん?」


ゾマリ・リリネット「……!!!」


リリネット「もしかして……ヤミー!?」


ヤミー「……!!てめえら……ゾマリと、そっちのガキは確か……スタークんトコの金魚のフンか?」


リリネット「誰が金魚のフンだ!!!」


ゾマリ「お久しぶりです、ヤミー殿」




ゾマリ「しかし、何故このような所に……?」


ヤミー「あー?んなこと俺が聞きてえよ、ここのバアさんによりゃあ……俺はこの中庭にぶっ倒れてたらしいが……」

ヤミー「まったくよ…………相変わらず『現世』は霊子がウスすぎて息がしづれえし……」

ヤミー「……何故か知らねえが“魂”は吸えねえわ、“黒膣”も開けやしねえわ……」

ヤミー「飯を食わせて貰えなかったらここで野垂れ死ぬところだったぜ……」


ヤミー「てめえらこそ何でこんな所に居やがんだ?」


ゾマリ・リリネット「………!!」


リリネット(『サイレン』のことは誰にも話しちゃダメなんだよね……)ヒソヒソ

ゾマリ(ええ、残念ながら……)ヒソヒソ


ヤミー「……ん?どうした?」


ゾマリ「…………」


ゾマリ「……私たちは今……『虚圏』に戻る手段を探しています」

ゾマリ「その為、こちらに住むエルモアといった方が何か手掛かりを知っているかもしれないと思い……」




ヤミー「……エルモア……あァ、あのバアさんか、会いたいならオレが案内してやるよ」


「ちょっと!鬼が来ないと始まらないでしょうが!」

「なにやってんだよー!」


ヤミー「ちっ……!」

ヤミー「……うるせえぞガキども!!少し黙ってろ!!」


ヤミー「……あのバアさんならここをまっすぐ行けばいるはずだ」

ヤミー「じゃあな、何か分かったら俺にも教えてくれよ」


オラァ カクゴシロヤテメェラ!  ウワア オニガキタゾー!





リリネット「…………」


リリネット「……気のせいかもしれないけど……ヤミー、あんな性格だったっけ……?」

リリネット「ヤミーが子供相手に遊んでるなんて考えらんない……」


ゾマリ「……話を聞く限りでは、ヤミー殿はここの方々に命を助けていただいたようです」

ゾマリ「恐らくは、好意を無下にするようなことはしたくないのでしょう……彼なりの恩返しとでも言うべきでしょうか」


リリネット「……ふーん……アイツがそこまで考えてるとは思えないけど……」


スッ…


「……お前さんたち、“虚”じゃな?」


ゾマリ・リリネット「……!!!」


ゾマリ「貴女は……」


「ワシは天樹院エルモア、この屋敷の主みたいなもんじゃ」


エルモア「詳しい話は、屋内でしようかの」





エルモア「よっこらせ……と、さて、お主らには先に話しておくことがある」


エルモア「お前さんたちが今遭っとる災難に関して、ワシはある程度の推論ができておる」


エルモア「お前さんたちは『サイレン』の世界に行き、生き延びた人間……いや、“虚”じゃろう」


ゾマリ・リリネット「……!」


エルモア「だからお前さん方は何も話さんでいい、聞いとればいいんだ」


エルモア「……これでもタダのババァじゃないんでね」


エルモア「ワシは『予知能力者』、いわゆる極度の『トランス』偏重型サイキッカーぞよ」


ゾマリ(予知能力……)


エルモア「……見ちまったんだよな、ワシ、地球がこう……ブァワワ~ッと崩壊しちゃうとこ……」


リリネット「……!!!」

ゾマリ(やはり……)


エルモア「正確な時も原因も分からんが、あれはとても近い未来じゃった……!」

エルモア「……あの未来は何としても変えねばならぬ」






エルモア「死んだ亭主の古比流(コペル)は心を読むサイキッカーじゃった……」


エルモア「ワシは未来を読み、古比流が心を読む……ワシら夫婦は無敵の占い師じゃった……」


エルモア「うなる程の金を稼いで……五年ほど前、二人揃ってキッパリ足を洗った……」


エルモア「疲れたんじゃよ……そしてワシらは悩みを抱える子供たちを引き取り……」


エルモア「……いや、この話はお前さんたちには話しておらんかったか」


エルモア「ワシはな、“PSI”の悩みを持った……自分の持って生まれた力と環境によって行き場を無くしてしもうた子たち……」


エルモア「……ワシはここでそういった子供たちを集め、育てておるのじゃ」


リリネット(……!)


エルモア「どこまで話したか……そう、そしてワシらは悩みを抱える子供たちを引きとり、ここに引きこもったわけじゃ」




エルモア「そんな古比流が一年前、ワシの目の前で灰になった……」


リリネット「……!!」

ゾマリ(灰……)


エルモア「大事な話があるとワシを呼び出し、何かを言いかけた瞬間じゃった」


エルモア「だが灰になる瞬間……時間にしてわずか数秒、わしと古比流の心はテレパスで通じあったんじゃ……!……それは断片的な古比流の記憶……」


エルモア「『サイレン』のテレホンカード……『ネメシスQ』……崩壊した世界……」


エルモア「その世界はワシがその頃毎晩見ていた予知夢の世界と同じじゃった……」



エルモア「『ネメシスQ』は古比流にテレホンカードを与え、暇をもてあました古比流はうっかり手を出した」


エルモア「あれは九州へ旅行に行ったほんの何週間か後じゃなあ……」


エルモア「ワシはね……『サイレン』と世界崩壊の謎をその足で直接調べにいける……資格と“実力”を持ち合わせた者とずっと話がしたかったんじゃ」


ゾマリ・リリネット「…………!」


エルモア「すまんのう、おびき出すような真似をして……お主らが『サイレン』の世界に関わっていることはワシの“予知能力”で知っていた……だがどうしてもお主らの居場所が掴めんかった……」


ゾマリ(ふむ……大体の合点はいったが……)

ゾマリ「……しかし」


エルモア「……む?」


ゾマリ「……貴女が私たちの事を“予知能力”で知っていたとしても……何故、貴女は私たちが『虚』であると……」


エルモア「ああ、それはあの男に聞いたんじゃ……あの男、お主らの知り合いじゃろう?」


ゾマリ「……ヤミー殿か」



エルモア「つい最近のことだが……あの男、満身創痍で中庭に倒れていてな……」


エルモア「ヴァンの……ここの“PSI”を使う子供の治療によって、昨日、ようやくあの男の目が覚めたんじゃ」


エルモア「そしてあの男自身にいろいろと問いただしている内に……ワシは、あの男が『この世界』の者ではないことに気がついた」


エルモア「……その後はおのずと“虚”の話になり……その話の中の“虚”の身体的特徴が“予知能力”で見たお前さんたちに酷似していた故、ワシはお前さんたちを“虚”であると判断した」


エルモア「とはいえ、お前さんたちが此処に来るかどうかは……一種の賭けのようなものではあったのじゃがな」





ゾマリ「……ふむ」


ゾマリ(しかし……ということは、エルモア殿から『虚圏』へ戻る為の手掛かりは掴めそうに無い……)


ゾマリ(……だが)

ゾマリ(……『テレホンカード』に『ネメシスQ』……恐らく、彼女の亭主の状況から察するに……『サイレン』について部外者に話した者は……『ネメシスQ』なる者の制裁により、灰にされてしまうのだろう……)



ゾマリ(しかし……いったい“どの程度”話せば灰となるのか……)

ゾマリ(古比流殿のように一瞬……?……いや、“言いかける”までの時間があったはず……)

ゾマリ(賭けではあるが……『ネメシスQ』なる者について、何か手掛かりが掴める可能性もある……)


リリネット「……ゾマリ?」


ゾマリ「……エルモア殿」


エルモア「……どうかしたかの?」


ゾマリ「私たちは――――」



ピシッ…





ズズズ…



『………………』



ゾマリ「……!」

リリネット「……!?……何コイツ……!!」ザッ


エルモア「……!!……ふふ、来よったかよ……!!」

エルモア「久しぶりじゃな……『ネメシスQ』……!」


ゾマリ・リリネット「……!!!」


ゾマリ「……『ネメシスQ』」

リリネット「…………コイツが」



『………………』




エルモア(……この感じ……こいつは……“PSI”エネルギーの塊じゃ……)

エルモア(じゃが、こいつは……多少の意志まで持ち合わせておる……!!)

エルモア(“人格”を持つ強力な“PSI”プログラム……!……『ネメシスQ』を操るサイキッカーが……裏にいる……!! )


『………………』スッ


ゾマリ「…………!?」ズキン!


ガクッ


ゾマリ「…………ぐ……!!」ズキン! ズキン!


リリネット「……ゾマリ!」


エルモア「……お主!やめい!」

エルモア(……まさか、ワシに『サイレン』の秘密を話そうとしておるのか!?)


ゾマリ「く……――――――」ドサッ


リリネット・エルモア「……!!!」





ゾマリ「ここは……」

ゾマリ(道は一本……周囲は湖……)



『………………』フワッ


ゾマリ(……!……『ネメシスQ』)


『………………』スーッ


ゾマリ(どこへ行くのでしょうか……とりあえず、後を追ってみましょう)タッ




『………………』スタッ


ゾマリ(ここは……城?)

ゾマリ「……貴方、一体何者です?」


『………………』スッ


カチッ


ピ―――ザザ――――……


――過去へ……


時間を過去へ……遡る実験を……ザザ――


ゾマリ(……!)




10年前の……平行時間軸へ……


私の時を遡る力……!“Nemesis(ネメシス)”で……ザザ――――過去を変え……る……


10年前……世界の崩壊――真犯人を……突き止め……れば……――


……でも、大きな問題……


私自身の……肉体が……時空転移に……耐えられない……


過去の時代へ飛び……行動する代行者を造りあげる必要がある……



ザザ――私の力“Nemesis”自身に意志を持たせる――――……


時を越える私の代行者……プログラム“Nemesis Q”――――


ゾマリ(…………!!!)

ゾマリ(……そういう事ですか)


ゾマリ(……『ネメシスQ』は、『あの世界』の何者かによって造られたもの……)

ゾマリ(そう、『ネメシスQ』を“操る”、『あの世界』に存在する何者かによって……)




しかし……Qに組み込めたのはいくつかの行動原理……ささいな知能と人格だけ……


……Qだけで真相を解明するのは不可能……――――


やはり過去の人間たちの手を借りなければならない……“協力者”が必要……


不特定多数の……を選別する……


未来を教え……調査……真実を突きとめさせる……


“協力者”に未来の情報を喋らせてはならない――


こちらの意図せぬ未来改変……私の存在が露呈し全てが破綻する危険性あり……


未来情報を漏らす“協力者”は……殺してもよいと……“Nemesis Q”にプログラムする……――


ザザ……――――ザ―――――


カチッ





『………………』



ゾマリ(……やはり、確定的)

ゾマリ(この“ゲーム”は『ネメシスQ』を操る何者かによって計画されたもの……)

ゾマリ(しかし……何故『ネメシスQ』を操る者はこのような方法を……)


ゾマリ(……そうか……全てを話しても……“協力者”の助力が得られる保証はどこにもない……ましてや『現世』が崩壊するなど……誰が信じようか……)

ゾマリ(……ならばこのような強硬手段をとる他に無い……ということでしょうか)


ゾマリ(いや……違う、この口ぶりからすれば……『ネメシスQ』を操る者の目的は“未来を変える”ことではなく“真実を知る”こと……)


ゾマリ(己の探求心にのみ基づいて動いているのでしょうか……)

ゾマリ(ならば……『ネメシスQ』を操る者にとって、我々は一つの駒にしかすぎない……?)


『………………』


ゾマリ(もう少し、お話を伺いたいところですが……“ささいな知能と人格”……これ以上の詮索は無意味でしょう)

ゾマリ(『あの世界』で『ネメシスQ』を操る者に、直接会うことが出来れば良いのですが……)






ゾマリ「――――――!」パチッ


リリネット「……起きた!」


エルモア「……起きたか……!まあ、何にせよよう生きて戻ってきたわい……」


ゾマリ「…………」


エルモア「……お前とネメシスQの間に何があったのかはあえて聞くまい、お前さんも今は妙な事を口走ろうとせん方がええ」

エルモア「……あてにならんかも知れんがの、どうやらお前さんは……いや、お前さん方は……奴に特別扱いされておるのかもしれん」


ゾマリ・リリネット「……!」


エルモア「自分の目的を完遂する為に事情を話してよい者、信じられる者を選別しておるのかもな」


エルモア「……蚊帳の外にいる老いぼれにはよう分からんがの……」


投下終了、日曜月曜は来れないかもしれません





「えー!じゃあ兄ちゃんたちは友達なのか!」


ゾマリ「友達……ですか」

ヤミー「友達ぃ?んなもんじゃねえよ」

リリネット「仲間というかなんというか……友達といえば友達みたいなもの……かな」


「オトナにはね、コドモにはわからない複雑な事情があるのよ、カイル」

カイル「うるせーフレデリカ、お前もコドモじゃんか」


フレデリカ「な……!」


ヤミー「オイ、それ食わねえなら貰うぞ」ヒョイ


フレデリカ「ちょ、なにすんのよ!」


ゾマリ「……よろしければ私の分を」スッ


フレデリカ「あ……ありがと」



「すみません……少しお聞きしたいことが……」


リリネット「……え?……あたし?」


「ええ、先程の鬼ごっこのあの動き……いったいどのように『ライズ』を使えば……」

カイル「あ、抜け駆けすんなよシャオ!オレも気になるんだよアレ!」


リリネット「……『響転』のこと?……あれは『ライズ』じゃないよ」

リリネット「そもそもあたしたち、“PSI”は使えないし……」


シャオ「……!“PSI”を使わずにあの動きを……」

カイル「“PSI”無しでどうやってんだよ!?」


リリネット「うーん、あたしたちは身体にあの動きが染みついてるから……うまく説明できないや」


カイル「ちぇー、オレもできるようになりたかったのになー」



「紅茶のおかわりはいかがですか?」スイー


リリネット「ん、貰おっかな」

トクトク

リリネット「ありがとね、マリー」


マリー「いえいえ……!そんな……!」


「………………」ムシャムシャ

フレデリカ「ヴァン、あんたもう少し綺麗に食べなさいよね……」

ヴァン「…………」ゴクン



プルルルルル……プルルルルル……


カイル「あ、電話だ」


ガチャ

ハイハーイ コチラエルモアウッド ンー ダレ? ワカッタ カワルヨ


カイル「ババ様、カゲトラって人から電話、ゾマリの兄ちゃんいないかーだって」

ゾマリ「……!」

エルモア「ちょっと代わりな」



エルモア「何か大事な話のようだね……このカゲトラという男、今、外に来ているらしい……行ってきな」

ゾマリ「……かたじけない」





影虎「よう、久しぶりだな兄ちゃん」

ゾマリ「お久しぶりです、カゲトラ殿」

影虎「……突然で悪いな、実を言うとだ……少し兄ちゃんに頼みたいことがあるんだ」


ゾマリ「……私に、ですか」


影虎「ああ、俺の組……いや、俺の知り合いが大金を盗まれてな、俺は今その犯人グループを追っている」

影虎「その犯人は裏世界で生きる三人組の『サイキッカー』……そいつらの居場所(アジト)ももう判明済みだ」

影虎「後は捕まえるだけなんだが……万全を期してサポートが欲しい」

影虎「兄ちゃんに手伝って貰えれば山々なんだが……あいにく幾ら兄ちゃんが強いとはいえ、一般人を巻き込むわけにはいかねえ」


影虎「だからな……」




影虎「今日……夕方の16時までに俺から連絡がなかったら……俺の“形見”を姐さんに……渡してほしい」


ゾマリ「……!」


影虎「……死ぬ気はねえさ、そんなもんは億に一の可能性だ」

影虎「だが……俺としちゃ珍しく……何か胸騒ぎがするんだ、何か……」


ゾマリ「…………」


影虎「ちっ……辛気臭くなっちまったな……ほらよ、“コレ”預かっといてくれ」

影虎「俺ァ友達いねーからよ、ほとんど頼み込む形ですまねえ……」




ゾマリ「……カゲトラ殿」

影虎「……どうした?」


ゾマリ「私でよろしければ、その補助役……引き受け――」


影虎「……おっと、その先はダメだ、気持ちだけ貰っておく」

ゾマリ「……!」


影虎「兄ちゃんに万一の事があったら申し訳ねえ、それに、あの嬢ちゃんに会わせる顔もなくなっちまう」

影虎「……身勝手で悪ィが……」


ゾマリ「…………」



ガタン!


ゾマリ・影虎「……!」


リリネット「…………あ」


影虎「……嬢ちゃん、聞いてたのか」


リリネット「…………」


ザッ…


エルモア「お前さん、カゲトラって言ったね……確か、三好組長のトコのモンだったかの」


影虎「…………!!」

影虎「何故、組長と俺のことを……」



エルモア「お前さんトコの組長とは昔、ちょっとしたことで知り合っての……その時にチラっとお前さんの話がでたのを思い出したんじゃ……」

エルモア「しかし、随分と危険な橋を渡るようじゃが……一人で大丈夫かの?」


影虎「…………」


ゾマリ「…………」

リリネット「…………」


エルモア「この二人は相当な手練れじゃよ……連れて行っても足手まといにはならんと思うがの」

影虎「……駄目だ、どれだけ実力があろうが……無関係の兄ちゃんと嬢ちゃんを巻き込むワケにはいかねェ……」


ゾマリ「私は構いませんよ」

リリネット「あたしも」


影虎「…………」




エルモア「ならばこれでどうじゃ……16時になっても連絡が来なければ、ワシらはお前さんを助けに向かう……」


影虎「…………!」


影虎「…………」


影虎「へっ……尚更しくじれなくなっちまったじゃねえか……!」


ゾマリ・リリネット「……!」



影虎「……ありがとよ」



――――――――――――――――――――――――



シャイナ「どこへ行くんです、ドルキさん」


ドルキ「……“例”の場所だ」


シャイナ「……珍しいですね、“あそこ”はあなたの暇つぶしの為に見逃しているものだと思っていましたが」


ドルキ「反乱分子は徹底的に潰す、あのゴミ溜めにはもはや何の用もない」


ドルキ「それに、ククク……新しい楽しみができそうだからな……!!」


シャイナ「……“数字”を持つ“反抗勢力”の事ですか……まったく、遊びも程々にしてくださいよ」


ドルキ「そう言うな、シャイナ」


シャイナ「……あそこは“汚染”の影響をモロに受けますよ?……“マスク”を用意させます」


ドルキ「ああ」





「はぁ……はぁ……クソ……!!このパイロマスター友親様が……!!」


ガッ


「ここはどこだ?……あの化け物共はなんだ?」


友親「さ……さっきも言っただろ……!ここは九州……!……あの化け物は“禁人種”……!」

友親「お、お前は何者なんだ……『ワイズ』か……?」


「……あァ?なんだそりゃあ」


友親「……『ワイズ』を知らないのか?まさか……お前、“生存者”か……?“転生の日”から今まで、どこで生き延びてたんだ……?」


「ちっ……話にならねェ……」ブンッ


友親「へぶっ」ズザー



「……友親、そいつは誰だ……『ワイズ』か……!?」


友親「……太河様!!」



「あァ……?誰だてめえは」


太河「……『ワイズ』に話すことなど何もない、友親……お前はこの事を天草様に報告しろ、コイツの相手は俺がする」


友親「は、はい!」ダッ



太河「貴様、名は」


「雑魚に名乗る名なんざねェよ」

「ところでよ、てめえらの言う『ワイズ』ってのはなんだ?」


太河「何をとぼけた事を……!!」ヒュン


「…………」ブン


太河「…………っ」ツー


「……質問に答えろってんだ」

(一振りが重ェ……ここの霊子濃度、『虚圏』や『現世』の比じゃァねえな)





ドガアアアアアアアアン…………!!!!




太河「……!?」


「……オイ、今のは何だ?」


太河「……くっ」ダッ



「……行っちまった、追うか」





億号「…………ぐ……!!」ポタポタ


ドルキ「……まだ生きてやがるのか、テメェらの頭のジジイ共はとっくにくたばっちまったぜ」


太河「……“光輪(チャクラム)”!!!」ヒュン


ドルキ「……『爆塵者(イクスプロジア)』」スッ


ドォン……!!


太河「な……!?」


ドルキ「テメェらの軟弱な『バースト』なんざ……俺の『爆塵者』の敵じゃねえ」


太河「……!……億号、コイツは……!?」


億号「『ワイズ』だ……!!退くぞ太河……この男は……」


ドルキ「消えろ」スッ




ドガアアアアアアアアン!!!!!





パラパラ……


ドルキ「ちっ……クソ共が、暇つぶしにもなりゃしねえ」


「『虚閃』」


バシュウ!


ドルキ「……!!」サッ


ドォン……!


ドルキ「…………」プスプス…


「けっ……防いだか」


ドルキ「…………」





ドルキ「先程の『バースト』……『セロ』と言ったな……貴様、『エスパーダ』か?」


「……!!」


ドルキ「ククク……!その反応、間違いないな……!……“数字”は幾つだ?」


「……!!……てめえ……!!……何処まで知ってやがる」


ドルキ「クク……これから死ぬ奴に話しても無意味だろう」


「……あァ?」ピキッ


ドルキ「『爆塵者』」スッ




ドガアアアアアアン!!!!





ドルキ「……期待外れだな、『エスパーダ』」


ザッ…


「なんだァ今のは…………蠅か?」


ドルキ「……!!!生きているだと……!?」

ドルキ「ククク……気に入った……!……貴様、名は?」


「あァ……?これから死ぬカスに名乗っても意味ねえだろうが」


ドルキ「……!!」ピキッ

ドルキ「テメェを見てるとよ、やたらとムカついてきやがるぜ……!」

ドルキ「その脳細胞にとくと焼き付けておけ……!!貴様を殺す俺の名は……」


ドルキ「……『W.I.S.E 第五星将』、ドルキだ……!!」


「ドルキか……憶えとくぜ」

「てめえが死ぬ迄の、ちょっとの間だがなァ……!」


ドルキ「ほう……!!」ピキキ…


「教えといてやる……俺の名は……」


「『第5十刃(クイント・エスパーダ)』……ノイトラ・ジルガだ……!」


投下終了、明日の夜また来ます

...!←これ使いすぎではなかろうか

>>257
ホントですか……書き溜め修正して来ますので一週間ほど時間ください

修正は無しで投下します


――――――――――――――――――――



エルモア「……16時……じゃな」

エルモア「さて、お前たち……さっきの話、どうせ聞いておったんじゃろう」


カイル「あれ、バレてた……」

シャオ「あまり良くない話のようでしたが……」


エルモア「どうやら、万一の事態が起こってしまったようじゃ……皆、出かける支度をせえ」


フレデリカ「さあ、支度するわよマリー!」ダッ

マリー「あっ、あっ、待ってぇ!」タッ

ヴァン「…………」ムニャムニャ


ヤミー「おいおい……なんだかよ、面白そうな事になってきたじゃねえか」

リリネット「……え、あんたも行くの?」

ヤミー「当たりめえだろ、ようやく俺の本領が発揮できるってもんだぜ」


ヤミー「……“霊圧”はまだまだ溜まってねえがな」


リリネット「……?」



エルモア「シャオ、準備はできたかい」


シャオ「はい、先程の彼の持ち物をここに」


シャオ(……『風導八卦白蛇(ホワイト・フーチ』)ポウ…

シャオ(こびりつく思念を嗅ぎ取れ……白蛇(フーチ))


リリネット「なにやってるの……?」

エルモア「シャオの能力じゃ……所持品から思念を嗅ぎ取り、その持ち主の居場所を突き止める……」

ゾマリ「へえ……!」


シャオ「……!白蛇が彼の思念を嗅ぎとった……追いましょう」





エルモア「このマンションで間違いないかい?」


シャオ「ええ……」

シャオ「この部屋です」


マリー「誰もいない……」


シャオ「ここにいたのは確かですが……一足遅かったみたいですね」


エルモア「シャオ、もう一度探知できるか?……遠くへ行きすぎてしまう前に」

シャオ「はい」




リリネット「…………?」

リリネット(なんだろう、これ……壁に貼ってある紙が邪魔で見えないけど……壁一面に何か絵が描いてある)

リリネット(はがしてみよう……)ビリビリ


リリネット(……この絵、どこかで見たことあるような……あ……!!)


リリネット「……ゾマリ!」


ゾマリ「どうしました?」


リリネット「ねえ、この壁に描いてある絵って……」


ゾマリ「…………!」


ゾマリ「同じですね……“地下倉庫”で見た、情報記録紙にあった『ワイズ』のシンボルと……」

リリネット「それってつまり……!」

ゾマリ「ええ、今回のカゲトラ殿の失踪……どこかに、『ワイズ』の影が潜んでいる」


リリネット「…………!」


ゾマリ「用心するに越したことはありません……行動は慎重にいたしましょう」



シャオ「白蛇に反応がありました!!」


ゾマリ・リリネット「……!」


エルモア「本当かの?」

シャオ「ええ、反応はすごく弱いですけど……追いかけ始めました」

シャオ「ただし向こうが移動していたら……こっちも追わないと見失ってしまう……」


フレデリカ「なら早くいきましょ!」


エルモア「さー行くよ!マリー、シャオ、フレデリカ!早く車に乗っとくれ!」




バキィ!!


影虎「ガァ……!!」ピシャッ


「普通の人間ならとっくに死んでる……なんて怪物だ」

「話せば楽な方法で殺してやるぞ、オレたちのことをどこまで知ってる?誰に話した?」


影虎「か……は…………」

影虎「あー……ションベンがしてぇんだけどなァ……」


「………………」ブンッ


バキィ!!




「あんな拷問に誰が付き合えるか……」


「おいラン!見ろよこの金!」


「あの……すみません……コーヒー入れたんですけど……別に飲みたくなければ……」


ラン「…………」

ラン「……あんた、あの男の弟なんだろ」


「……三郎です」


ラン「なんであんなヤバイ兄貴と一緒にいる……オレたちが何してるかも知ってるんだろ?」


三郎「えと……オレ……頭悪いし、いつも一人じゃ何も決められないし……あの……すみません……」

三郎「よく分からないっスけど、今兄貴がやってる事は世の中を綺麗にする為なんでしょう……?」

三郎「でも……いいなぁ、キレイになったら……オレ、キレイなもの大好きだもん……水色のビー玉とか……虹とか……」


ラン「………………」




「痛いか?雹堂」


「いいか雹堂、“痛み”って奴は悪いもんじゃない」


「痛めつけられて痛めつけられて、人間も物も完成していくんだよ」


「痛みを感じることで人は学び、生を尊ぶこともできるんだ」


「なのに……人は痛みから一生逃れようと必死にもがく……何故だ?」


「理解できんよ……傷つくことは究極の美だ、至高の教訓だ」


「己を変えるにはそれが必要なんだよ……人も、そしてこの世界も」


影虎「……それで、金を集めて……一体何をするつもりなんだ変態野郎……」


「……教えても無駄だろ?」






ゾマリ「……ついたようですね」


シャオ「ババ様とヴァンは車の中に……」


エルモア「はいよ……いいかい、お前たちは人を救い出すのが目的だ……くれぐれも人を殺めるようなことはしないでおくれ、畜生に成り下がってはならん」


マリー「……うん」

カイル「おう!」

フレデリカ「といっても、私たちの出番があるかどうかわからないけど……」



ヤミー「で、どうすんだ?『虚閃』で建物まるごと吹き飛ばすか?」

リリネット「……あんたさっきの話聞いてた?」



シャオ「……建物の内部には“PSI”反応が四つ、ただの生命反応が一つ」

シャオ「……“PSI”反応は、上手い具合に二階に二つと一階に一つの2グループに分散しています」

シャオ「地下の動かない“PSI”反応は……恐らく、カゲトラさんのものでしょう」


ゾマリ「ならば……私は地下に向かおう……ヤミー殿とリリネット殿は一階と二階の方々の制圧を」

ヤミー「ちっ……つまんねえ仕事だぜ」

リリネット「……ヤミー、ちゃんと手加減するの、忘れないでよね」


カイル「……ホントに兄ちゃんたちだけで行くのか?」

シャオ「僕たちの助けが必要ならいつでも……」


ゾマリ「……お心遣い感謝いたします」

ヤミー「あァ~……ま、すぐ終わるだろ」

リリネット「……じゃ、行こっか」




ゾマリ「(……リリネット殿)」ヒソヒソ

リリネット「(わかってる……『ワイズ』には気をつけるよ)」ヒソヒソ


ヤミー「……よし、行くぜ、『虚弾』!」


パシュッ!!


ドガアアン……!!


リリネット「加減しろって言ったでしょ!!」

ヤミー「あァ~……悪ィ」

ゾマリ「行きますよ」



ドガアアン!!!


バキバキバキ!!


「なんだ!?」

ラン「敵襲だ!……伏せろハルヒコ!!」

ハルヒコ「ちっ……クソったれがァァァ!!!」



「……ラン、ハルヒコ!……相手は『サイキッカー』だ!固まれ!!」


ザッ…


ヤミー「ん~?なんだぁコイツは?」


「……!!貴様ら何……」


ヤミー「邪魔だ」ブン!


「………………がっ!!」メキメキ…!


ガシャアン!!!


リリネット「だから加減しろっての!!」




ラン「……逃げるぞハルヒコ!……家の外だ!」

ハルヒコ「冗談じゃねえ!外に敵がいるかもしれねえんだぞ!」


ラン「イチかバチかだ!!こんな馬鹿げた突入をしてくるってことは大量のヤクザ共じゃねえ……『サイキッカー』だとしても少人数だ!!」

ラン「このまま俺たちが殺られたら……今まで集めた金が……今までやってきた苦労が水の泡になる……!」


ハルヒコ「……ちっ!」


リリネット「二階から声……多分あの部屋!」


ハルヒコ「……!!」

ラン「気づかれたか……!“トリックルーム”は間に合わん!……窓から飛び降りる!」


パリィン……!




ラン「く……!」スタッ

ハルヒコ「ちっ……!」スタッ

ラン「敵は……!?」


カイル「誰か落ちてきた!」

フレデリカ「私たちの出番のようね……!」


ハルヒコ「……!!おいおい……ガキだと……!?」

ラン「……!!」


フレデリカ「ふん、子供だと思ってたら……大火傷しちゃうかもよ?」


ハルヒコ「子供のサイキッカーってか……!……どこの差し金だか知らねェがふざけてやがるぜ……!」



ハルヒコ「テメェら、これは子供の冗談じゃ済まねぇぞ……容赦はしねえ、痛い目みるぜ?」


フレデリカ「フン!ほざくがいいわ、小悪党……殺しはしないから安心なさい」

カイル「……二対二だろ?オレもやるぜ!」


ラン(……!……こんな子供と闘うのか……!?)

ラン(やらなきゃならないのか……?自分の大切なものを救う為には……!!)


ハルヒコ「……なに腰砕けてんだラン!!オレたちには金が必要なんだろうが!!」

ラン(……!!!)


フレデリカ「私の前に平伏しなさい……“パイロ・クイーン”」ボウッ


ゴゴゴ…!!


カイル「熱っ!!」


ラン(“パイロキネシス”……!しかもこんな強力な……!)



ハルヒコ「平伏すのはお前だ!チビ!“ショットガン・ボルト”!!」スッ


バチバチィ!!


フレデリカ「キャアア!……痛ッたァァ!!」バチバチ…


ハルヒコ(俺のショットガン・ボルトは殺傷力は低いが、相手の“PSI”を解除させることができる!)


フレデリカ「……っ……炎が……!」


ハルヒコ(もう一人もやっとくか!!)ビュン


カイル「……!!……しまっ……!」



ガシャアアン!!



ラン・ハルヒコ「…………!!」


ヤミー「おいおい、ガキ相手になにやってんだァ~テメェは?」


ハルヒコ(なんだこのデカブツ……!!)



カイル「……ヤミー!」


ヤミー「オウ、悪ィな、うっかりこいつら外に逃がしちまった」


ハルヒコ「“逃がしちまった”だと……?なめやがって……!テメェも喰らえ!!“ショットガン・ボルト”!!」


バチバチィ!!


ヤミー「あァ~?……なんだこりゃ、そよ風か?」

ハルヒコ「……な!?」


ヤミー「俺の『鋼皮』にこんなゴミみてえな攻撃が効くかよ」


ガシッ


ハルヒコ「ぐっ……!!」


ブンッ!!


ダァン!!!


ハルヒコ「…………が……!!」ドサッ


ラン「……ハルヒコ!!」


トンッ…


ラン「……!う……――――」ドサッ


シャオ「…………」


カイル「シャオ!」




ゾマリ(地下への階段はどこに……)


ガララ……


ゾマリ「……!」


「ククク……効いたよ、あの大男……」

「だが、痛みを知ることで……人は強くなるように造られているんだ……!」

「プログラム完了……“アングリー・ゴーリー”」


ゾマリ(これは……人型の人形……?)


「“アングリー・ゴーリー”は自動プログラム……あの大男から与えられた一撃をプログラムした……あの男の一撃の力全てがゴーリーに詰まっている……」


「そしてゴーリーの痛覚、触覚等の感覚機能は全て俺に繋がっているんだ」


「叩き潰した相手の骨の砕けた感触……その肉の柔らかさまで、全て伝わってくる」



「どこの誰だか知らないが……僕の味わった至上の幸福(イタミ)を……君も味わいたまえ……!!」


ゾマリ「…………」スッ


ヒュン


スパッ


「…………か……!!……―――――」


ゾマリ「……首をもぎ取るより他に、死を確認する術などありはしない」

ゾマリ「……感覚機能を共有しているのならば……貴方の動きを止めるには、分身の首を切り落とすのみで十分」


「――――――」ドサッ


ゾマリ「申し訳ありません……“愛”を信ずる私にとって、“痛み”“苦しみ”を信条とする貴方とは、到底相容ることは敵いません故……」





三郎「上に人が来てる……おかしいな……どうして……?」


三郎「……どうしよう」


三郎「なんでこうなっちゃったんだろう……?」



三郎「なんでバレた……?」




ザッ…!


ゾマリ「……カゲトラ殿」


三郎「……!」ビクッ


ゾマリ「……貴方は?」


三郎「犬井三郎……兄さんの弟……」

ゾマリ(兄……先程の男のことでしょうか)

三郎「きれいな瞳……あなたは……誰……?」


ゾマリ「…………」



影虎「……ったく、本当に来ちまうとはな……」


ゾマリ「……!」

ゾマリ「ご無事で……」


影虎「はは……バァカ野郎、ズタボロだっての……」



――――――――――――――――――



ドルキ「『爆塵者』!!!」


ドオオオオオン…!!


ザッ…!


ノイトラ「効かねえって言ってんだろうが!!」ブンッ


ドルキ「ククク……その割には動きが鈍くなっているようだがな……!」スッ


ノイトラ「ぬかせ!!」


ノイトラ「(くそッ……!……闘えば闘うほど……身体が重くなっていきやがる……!!)」

ノイトラ「(『霊力』が削がれていってやがるのか……!)」


ドルキ「随分と苦しそうだが……クク、最初の威勢はどこへ行った?」




ノイトラ「『虚弾』!!!」


パシュ!


ドォン…!


ドルキ「馬鹿が……何度やればわかる、そんな目眩ましが俺の『爆塵者』に……」


ノイトラ「どこ見てんだ?」スッ


ドルキ「(……!背後に……!!)」


ノイトラ「死ね」ブンッ




パシッ


ノイトラ「な……!」ググッ


ピキ…ピシ…!


ドルキ「近づきさえすれば、俺を倒せるとでも思ったか?」

ドルキ「この俺に『ライズ』なんぞを使わせやがったのは褒めてやる」

ドルキ「だが、考えが甘かったな……恨むならテメェの馬鹿さ加減を恨め」


ノイトラ「…………」ニィ

ドルキ「……!!」


ノイトラ「馬鹿はてめえだクソ野郎が……!」

ノイトラ「俺が気づかねえとでも思ったのか?……この戦闘中、どうもてめえは動きが不自然だった」


ノイトラ「まるで“何か”を庇って闘ってるような……!」


ドルキ「…………!」

ドルキ「『爆塵者』!!!!」



ドオオオオン!!!!




ガシッ!


ドルキ「……!!」


ノイトラ「効かねえって言ってんだろうが……!!」


ノイトラ「その“マスク”、随分大切な物のようだが……」

ノイトラ「……剥ぎ取っちまったらどうなるんだろうなァ!!!」グイッ


メキメキバキ…!!


ドルキ「…………!!」

ドルキ「貴様……!」



ドクン…!



ドルキ「が……ッ……!」


ドルキ「があああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!」




ノイトラ「…………」


ドルキ「……はッ……かァ……!……ふざ、ふざけ――――」


シュン!


ノイトラ「消えた……?」




シャイナ「どうやらついて来て正解だったようですね」


ノイトラ(こいつ……何処から……)


ノイトラ「……その“マスク”、あの野郎と同じだな……」

ノイトラ「あの野郎はどこ行きやがった?」


シャイナ「ドルキさんはもうここにはいませんよ」

シャイナ「しかし、“汚染”の影響があるとはいえ……まさかここまでやるとは思いませんでした」



ノイトラ「てめえらは一体何モンだ、『ワイズ』ってのはてめえらのことだろう?」


シャイナ「残念ですが、あなたとお話している暇はないんです」

シャイナ「我々に逆らう“反抗勢力”……」

シャイナ「今回あなたは本当に運が良かった」


シャイナ「……次会う時は、次元の違いを見せられるよう取計らいますので」


ノイトラ「待ちやが――」


シャイナ「ごきげんよう」


シュン!





ノイトラ「ちっ……結局何も分からず終いか……」


ノイトラ「…………」フラッ


ノイトラ「……ったく……あんな野郎に手こずるなんざ……情けねェ……」


ガクッ


ノイトラ「……はぁ……はぁ……」ゼェゼェ


ノイトラ「…………畜生が……」


ドサッ…


投下終了、次は金曜日の夜に来ます





エルモア「今、シャオに周囲を索敵してもらっとる……まぁ、あまり長居はできんと思うがの……」

影虎「コイツはとりあえずは縛り上げたが……これからどうするか……」


「………………」


リリネット「(……ねえ、この人が『ワイズ』に関係してる人?)」ヒソヒソ

ゾマリ「(……ふむ、しかし……どうもそのような気配は……)」ヒソヒソ


ゾマリ「……分身とはいえ、首を切り落としたのは些か早計だったでしょうか……」

エルモア「心配はいらんよ、大きな力を使って組み上げた分身を破壊されたんじゃ」

エルモア「今、この男にはワシらに抗う力が残っとらんだけじゃろう」


「……貴様ら」


ゾマリ・リリネット「……!」



「貴様ら……オレを潰して良い事でもしたつもりか……?」


「……オレにはこの世界を救う使命がある」


「今まで集めてきた金も、オレの力も、命も、全てはその為に必要なモノだ……貴様らにそれを邪魔する権利はない……!」


影虎「また何か言ってやがる……聞くなよ兄ちゃん、嬢ちゃん、イカレが感染るぜ」


「俺は『ワイズ』……!この腐りきった世界をもう一度白紙に還す為に生まれた……!」


ゾマリ・リリネット「…………!!」


「アマギミロクが率いる『ワイズ』の世界再生計画……サイキッカー達による新しい時代が始まるんだよ……!喜べ……!!」


エルモア「……この男、強力な催眠をかけられておる……洗脳されとるわい」


リリネット(……洗脳……ウルキオラと同じ……?)


エルモア「……この男を『トランス』で操り、今回の騒動を起こした張本人がいる」


リリネット「……!」




ゾマリ(この男が、『ワイズ』の人間……『あの世界』の始まりに関わった人間……ですか)

ゾマリ(そして“アマギミロク”……それが『ワイズ』を率いる者の名……)


「俺はアマギミロクの新しい世界を弟と一緒に見る……」

「三郎は一生俺が守る……三郎にはこんな汚れた社会は耐えられない……」

「貴様ら三郎に何かしてみろ、絶対に許さんぞ!!三郎を傷つけていいのは俺だけだ!!」


ゾマリ「…………」

エルモア「……ワシに任せぇ、これでも『トランス』での読心は一応心得ておる」スッ


キィィィ…





エルモア「これは……なんて強力な催眠じゃ……ワシの力では解くことができぬ……」

リリネット「……!……ねえ、コイツの言ってる『ワイズ』や“アマギミロク”って言葉で……なにかわかることってない……?」



エルモア「分からぬ……それらに関する記憶は何一つこの男には残されておらん……」

エルモア「恐らくこの男、ほとんどの記憶を消されておる……何度も何度も時間をかけてな」


エルモア「この男を動かしているのは洗脳主の“アマギミロク”からの命令のみ……」

エルモア「……こやつが具体的に知っている事はほとんどないと言っていい」


ゾマリ「…………」


エルモア「でも、だからこそ分かることもある」

エルモア「この男の頭をいじっている“アマギミロク”はかなり近く……常にコントロールできる位置にいた……!」

エルモア「でなければここまで見事な洗脳と記憶の改竄はできん……!」


リリネット(近くに……?)




「う……三郎……俺の弟はどこだ……」


影虎「…………」

影虎「……どいてくれ、兄ちゃん」


ゾマリ「……!」


影虎「おい犬居……何わけの分からねえこと言ってやがる……?」

影虎「テメーの居場所探す時に……俺が家族の事を調べねーわけがねーだろう」


影虎「お前の弟は20年も前に死んでる……お前に弟なんかいねえだろうが、忘れたのか?」


ゾマリ「…………!」

リリネット「…………え?」


エルモア「……記憶の改竄じゃな」


犬居「嘘だ……オレの弟は生きてる……!!」


影虎「海で溺れ死んだ……その記憶もイジられてるのか……幸か不幸か」





犬居「うッ!!……ぐぶッ!!!」ガタッ


影虎「……!!……なんだ……!?」


犬居「嘘だ……!!弟は……!!……が……あか……」ゲボ




コオオオオオオオオオオオオオ……




リリネット「なに……!これ……!?」


ゾマリ(彼の口から……巨大な光の木が……)

ゾマリ(……しかし、彼の弟が既に故人ならば……先程“弟”と名乗った男は……)

ゾマリ(……もしや)


ゾマリ(カイル殿とヤミー殿が……!)タッ


リリネット「……!!」




ヤミー「ちっ……なんで俺がこんな奴の見張り役なんだか」


三郎「…………」スッ


カイル「何やってんだ……お前……?」


三郎「もっと犬居三郎でいたかったのに……全部君たちのせいだからね」


ヤミー「……!」


カイル「お前も『サイキッカー』だったんだな……!!」



三郎「でも、犬居三郎をやめるいい頃合いなのかもしれない」


カイル「やめる……?」

カイル「……お前、誰だ……?」


三郎「……僕の名前は天戯弥勒」


カイル「…………!」


ザッ…!


カイル(何退いてんだ……コイツはただのサエないヤツのハズだろ……)

カイル(怖くなんかない……!怖いわけあるか……!!)


弥勒「動いたら殺すよ」


カイル「…………!」ゾクッ




ヤミー「退いてろ」


カイル「……!」


ヤミー「テメェ、なかなか骨のありそうな奴じゃねえか」

ヤミー「あの雑魚共相手じゃ全然暴れ足りねえからよ……今度はテメェが相手してくれや」


弥勒「キミ、さっき外で暴れていた男か」


ヤミー「オラァ!!」ブンッ


メキメキ…!


弥勒「…………」ググッ


ヤミー「なに……!!」


弥勒「なかなかの『ライズ』だね、でも所詮はその程度」


弥勒「……『生命の樹(セフィロト)“峻厳(ゲプラー)”』」スッ


キィィィィィィ……


ヤミー「…………!」



グサグサグサグサ…!!



ヤミー「かっ…………!!?」ブシャッ


カイル「ヤミー!!!」


弥勒「……全ては僕の手の中に」





ヤミー「ぐっ…………クソがぁ……!!」ググッ


弥勒「……!頑丈だな、『生命の樹』に貫かれてまだ生きているのか」


ヤミー「テメェみてえなカスに……この俺が……!!」


ヤミー「……『虚閃』!!!」


バシュウウ!!!


弥勒「……!」


ズズゥン……!!


ヤミー(……ちっ……“この程度”じゃあ、このクソみてえな威力が限界……か……)ドサッ



パラパラ……


ザッ…


弥勒「……次は君の番かな」


カイル「…………!!」ザッ



ゾマリ「……カイル殿!ヤミー殿!」



カイル「兄ちゃん……!」

カイル「……兄ちゃん!ヤミーが……!」


ヤミー「――――――」ボタボタ


ゾマリ「……!!」


リリネット「……ゾマリ、いきなりどう……」

リリネット「……!!」

リリネット「…………ヤミー……」


ゾマリ「カイル殿、リリネット殿……ヤミー殿を上階へ」


カイル「わ、わかった……!……運ぼう、姉ちゃん……!」

リリネット「うん……!」




弥勒「…………」


ゾマリ「貴方が……“アマギミロク”ですか」

ゾマリ「恐らくは、『ワイズ』の統率者……」


弥勒「……犬居のヤツ、おしゃべりだな……そうだよ、僕の考えた組織さ」


ゾマリ「貴方がヤミー殿を……」


弥勒「ヤミー……?ああ、あのデカいのか」


弥勒「人の命なんて夜空の幾億の星粒みたいなもんさ」

弥勒「一つ散ったところで誰も気づかない」


ゾマリ「…………」

ゾマリ「貴方は……私たちの目的の為、ここで拘束させてもらう」


弥勒「“拘束”か……随分と冷静だね、でももう遅い」



弥勒「キミもサイキッカーなら見届けるがいい、僕が変える新しい世界を」

弥勒「もし、生き延びられたらね」


キィィィィィィ……


バキバキバキ……!!


ゾマリ「……!!」




バキバキ……!メキメキ……!!


影虎「……こいつァ……!!」


影虎「(犬居の奴から出てきた光の木と同じか……!)」

影虎「まずい……!!全員ここから脱出しろ!!!」


エルモア「…………!」

エルモア「逃げるよ……!カイル、ヴァン!」



リリネット「ゾマリがまだ……!!」


影虎「……脱出が先だ、嬢ちゃん!……こっちのデカい兄ちゃんは俺が運ぶ!」

影虎「急げ!!」


リリネット「…………」

リリネット「…………!」ダッ



バキバキバキ……!! ガシャアン……! メキメキ……! バキ……!





フレデリカ「……はぁ、私の活躍の場が……」

マリー「ま、また機会があるよフーちゃん……」

フレデリカ「なにいってんのよ、こんな――――」


ドスゥン……!! バキバキバキ……!!


マリー「……!?」

フレデリカ「……何事!?」


マリー「みんなのいる家が……!!」

フレデリカ「行くわよマリー!!」




弥勒「…………」


シャオ「…………!」


弥勒「……せっかく楽しく金を集めていたのに、君たちのせいで台無しだよ」


シャオ「…………」ガタガタ


弥勒「……君は何をそんなに怯えてるんだ?」


シャオ「…………」ガタガタ


弥勒「今回集めたお金はあげるよ、僕はまた集めるからいいや」






弥勒「天戯弥勒はこの宙の中心になる」







フレデリカ「……シャオ!」


シャオ「…………」ブルブル


フレデリカ「ちょっとシャオ!聞いてんの!?」


シャオ「…………!」ハッ


フレデリカ「……すごい汗、あんたどうしたの……?」


シャオ「……いや、何でもない……皆のところに急ごう」


マリー「はぁ……はぁ……フーちゃん走るの速いよ……」ゼエゼエ

やや中途半端ですがここまで、明日の夜また来ます



ヴァン「…………」ポワ…

ヤミー「――――」


エルモア「……全員無事かの」


影虎「子供たちは全員無事のようだが……」

リリネット「ゾマリを助けに行かなきゃ……!!」


ガラガラ……


リリネット「……!」


影虎「……無事だったか、兄ちゃん」


ゾマリ「ええ……“アマギミロク”なる者は逃がしてしまいましたが……」


リリネット「……よかった」ホッ





エルモア「……さて、ここらで解散といこうかの」


影虎「ここの処理と……コイツら二人の処遇はウチが受け持ちます」

ラン「…………」

ハルヒコ「…………」


リリネット「……ヤミーは?」


エルモア「なに、この男なら今は眠っとるだけじゃ、心配せんでええ」


ヤミー「…………」グガー


エルモア「完全に治療が終わるまで、この男はワシが預かろう」

ゾマリ「……かたじけない」


エルモア「あとは……お前さんたち二人はワシが責任をもって送り届けよう」






祭「影虎から聞いたよ、いろいろ大変だったみたいだな」



祭「ゾマリ、お前が持ってきたDVDだがな……お前たちが最初に言っていた内容と、私が見た内容だと……何か食い違っている部分があるみたいだ」


リリネット「……え?」

ゾマリ「食い違い、ですか」


祭「まあ、見てもらったほうが早いだろう」



ピッ


ザザ…ザ……――――――


弥勒『…………』

『…………』

『…………』



リリネット「……!……顔は見えてなかったはずなのに」


ゾマリ「この男は……先日出会った“アマギミロク”と名乗った者……」

ゾマリ「やはり、『ワイズ』の人間であることは真実でしたか……」



弥勒『……いらっしゃい、来ると思ったよ』

弥勒『「宣戦の儀」へようこそ』


ザッ…


カイル『行くぞ!みんな!』

マリー『うん……!』

フレデリカ『言われなくてもわかってるわよ……!』

ヴァン『…………』

シャオ『……あの“光る木”には十分に注意してください』


ゾマリ「……『エルモア・ウッド』の彼らが『宣戦の儀』に……」


ヤミー『テメェら一人残らずここで叩き潰してやらあ!!』


リリネット「ヤミーも!?」


弥勒『どうせ僕の事は君たちに知られているからね』

弥勒『だから素顔のままで来た』




リリネット「……でも、なんでデーブイデーの内容が変わってるんだろう?」


ゾマリ「……恐らく、私たちは本来、“アマギミロク”と出会うはずではなかった」

ゾマリ「……しかし、私たちはあの場所で“アマギミロク”と出会ったため、本来出会うはずではなかった未来が変わってしまった……と推測しています」


祭「成程、こいつらにとっては私たちは敵だからな」

祭「既に正体が知られているから、『W.I.S.E』が“素顔のまま『宣戦の儀』に登場する”未来に変わったわけか……」





弥勒『同志、グラナとジュナスが君たちの相手をしよう』


ザッ


ジュナス『……生きたくば退け』スッ


キィィィィィィィィィ…


リリネット「なんだろう、空にたくさんの……刀?」

リリネット(それに……この人どこかで……)


ゾマリ「…………!!!!」


ゾマリ(これはまさか……あの『死神』の……!!)

ゾマリ(いや、違う……それ以上に禍々しい何かが……)


ヤミー『なんだぁ……こりゃあ?』

シャオ『…………!』

フレデリカ『……私の後ろにいなさい、マリー』


ジュナス『“毘沙門・叢(むら)”』





リリリリリリリリリ…


リリネット「刀が……?」


シャオ『これは……』


弥勒『天樹院エルモアウッド……か』

弥勒『そうか、君たちはあの預言者エルモアが集めたサイキッカーだったんだな』


弥勒『あの女は未来予知の能力者だろう?さしずめ君たちはエルモアの望み通りに未来を変える私設部隊といったところか……』


カイル『……!!』

フレデリカ『うるさい!私たちとババ様の絆はそんなもんじゃない!!』




弥勒『TVでみたよ、残念だったねぇあのバァさんは……去年の7月に墜落したあの旅客機に乗ってたんだろ?』

弥勒『もし生きていれば……君たちが『W.I.S.E』に虫ケラのように殺される未来が予知できただろうに……』


弥勒『まあ、そう悔やむことはないさ……どうせあんなババァあと二、三年の寿命で死んでたさ』


カイル・フレデリカ『……!!』

カイル・フレデリカ『黙れ!!!!!』ヒュン!


リリリリリリリ…!


シャオ『……!!』

シャオ『……やめろ!皆動くな!!!!』



ジュナス『“毘沙門・叢”は全てを切り裂く刃型「バースト」……だがとても脆く壊れやすい……』


シャオ『皆バーストを抑えろ!!!』


ジュナス『だから余り刺激するな……』

ジュナス『……刃が爆ぜる』


カッ!


カイル・フレデリカ『…………!』


ザザッ……ザ……ザザ…――――





リリネット「映像が……」

ゾマリ「…………」

祭「ここまでが――」



ザザ―――ザザザ――ピーザザ……



リリネット「……あれ、また映りだした……?」

祭「なに……!?」



ザザ――ピー……ザザ……―――



ヤミー『ったく……俺は『響転』が苦手なんだよ』ポタポタ

ヤミー『テメェらを庇ったおかげで身体中傷だらけじゃねえか』ポタポタ


カイル・フレデリカ『…………!』

シャオ『ヤミーさん……』


ヤミー『あとは俺がやる、テメェら全員下がってろ』


リリネット「ヤミー……!」


弥勒『犬居の山荘の時の男か……相変わらず頑丈な奴だ』


ヤミー『テメェをぶっ潰したくてウズウズしてたぜ……!!』

ヤミー『「虚閃」!!!!』


バシュウウ!!!




弥勒『グラナ』


グラナ『…………』スッ


パァン!!!


ヤミー『……!打ち消しやがっただあ……!?』


グラナ『あばよ』



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!



ゾマリ「……これは」

リリネット「空が暗く……」


グラナ『「日輪“天墜”」』



ピー……――ザザ……―――



祭「……今度こそ本当にここで終わりだな」




リリネット「……ヤミーは、あの子たちはどうなったの?」

ゾマリ「『第10十刃(ディエス・エスパーダ)』である彼がそう簡単にやられるとは考えたくないものですが……それに、子供たちも」

ゾマリ「とにかく、彼らを『宣戦の儀』に赴かせることは防いだ方がいいでしょう」

リリネット「でもどうするの……あたしたちはこのこと他の人には話せないし……」


祭「見返して思ったが、もしかすると……エルモアの婆さんさえ生きてれば、この子たちは『宣戦の儀』に行かなくてすむんじゃないか……?」


リリネット「……え?」


ゾマリ「そうですね……彼女には“予知能力”があります……恐らく先程“アマギミロク”が言ったように、彼女が存命ならば『宣戦の儀』で起こる未来を予知できるはずです」

リリネット「でも、“リョカッキ”?の墜落で死んじゃったんでしょ……、“リョカッキ”ってなんだろ……」

ゾマリ「“リョカッキ”とは確か、『現世』で使われている移動手段の一つ……」


祭「ああ、それによる事故が死因だ……とりあえず『エルモア・ウッド』に連絡を入れて、それとなくこの事を匂わせてみる」

祭「直接この事を伝えたら、私たちが『ネメシスQ』によって“制裁”されてしまうからな……」


ピッピッピ… プルルルル





ゾマリ「……どうでしたか」


祭「……真意が伝わっていることを祈るばかりだ」


リリネット「…………」

祭「そうだ、リリネット」

リリネット「え?なに?」


祭「お前、“PSI”の力に目覚めているぞ」

リリネット「ええ!?」

ゾマリ「……!」


祭「人型の“禁人種”と戦った時、身体が軽くなった感覚がなかったか?」


リリネット「……そういえば」


祭「あれは多分、お前が内包している“PSI”の力を『ライズ』に変換して、一時的にだが身体能力を大幅に上昇させたんだと思う」

祭「『バースト』の威力も跳ね上がっていたのが不思議だがな……」




祭「そしてゾマリ、薄々とは気づいているだろうと思うが、お前も“PSI”の力を既に会得しているはずだ」

祭「何故か、今は発現していないが……な」

祭「勝手な憶測だが……お前もリリネットと同系統の“PSI”能力のような気がするんだ、私は」


ゾマリ「…………」


祭「あと、一度能力が発現した以上、リリネットはもう“PSI”能力を使おうと思えば使えるはずだ」


リリネット「……え?」


祭「だが、あの“PSI”能力は見たところ諸刃の剣……短期的な身体能力の底上げと引き換えに、その後急激な脱力が身体を襲う、ってところか」

リリネット(……そうだ、確かにあの時、体の力が抜ける感じが……)

祭「大きな隙になる……あの能力はここぞという時に使え」




ゾマリ「…………」


祭「ん?どうした」


ゾマリ「少々疑問に思いまして……」


ゾマリ「……何故、私たちはあの『宣戦の儀』にいないのでしょうか」

ゾマリ「私たちが『宣戦の儀』のことを知っている以上……それを阻止する為、私たちは『宣戦の儀』に、必ずや赴くはずだと思うのですが……」


祭「……!」


リリネット「なにか行けない理由があったんじゃ……」


祭「あの『宣戦の儀』に向かわない以上の理由があるか……?」

祭「あったとしても、なにか相当な事情が……」


祭「……!!!」



祭「…………」


祭「……なあ、ゾマリ」


ゾマリ「…………」


祭「…………」


ゾマリ「……分かっています」


ゾマリ「今ここで、その可能性に気づく事ができた以上、“その未来”を変えることは可能なはず」


リリネット「……え?え?……どういうこと?」


ゾマリ「私たちが『宣戦の儀』にいない理由、最も考えられることは……」

ゾマリ「私たちは『あの世界』で命を落とし、二度とここに戻ってくることが無かったということ……」


リリネット「…………!!」


祭「あくまで一つの可能性だ、そこまで深刻に考えるな」



ゾマリ「そしてもう一つ、マツリ殿も『宣戦の儀』にいない理由……」


祭「……ああ、私がいない理由は見当もつかないが……『宣戦の儀』までに、私の身に何かが起こったのか……それとも……」

祭「……考えても始まらないか、お互い自分の身体は大切にすることだな」


ゾマリ「ええ」

リリネット「……うん」



ピシッ…




ズズズ…!


『………………』


ゾマリ「……!」

リリネット「……『ネメシスQ』!!」


祭「……!!」


『………………』


祭「……よう、『ネメシスQ』」

祭「もう一度、この私を“ゲーム”に参加させろよ」


『………………』


祭「『カード』がゼロになった今でも……私はお前の呼び出しをずっと待っている……」


祭「待っているぞ……!」


リリネット(マツリ……)


『………………』スッ





ジリリリリリリリリリリリリリ………!



ゾマリ「“招集”……ですね」

リリネット「…………」



ジリリリリリリリリリリリリリ………!!



祭「……行って来い」


ゾマリ「…………」

リリネット「…………」


祭「何度も言うが……死ぬな、絶対に……!!」



ジリリリリリリリ……――――――――





祭「…………」



祭「無力だ……!私は……!!」ググッ


投下終了、明日の夜にまた来ます





シャイナ「成功したみたいですね」

シャイナ「“新型”からさらに改良を加え完成した、“凝縮型イルミナ”の手術……」


ドルキ「ああ」


シャイナ「手術担当の話によれば、適合率99%以上での成功……まったく、“イルミナス・フォージ”を二度も行うなんてほとほと呆れますよ」

シャイナ「ですが、これで恐らくは“汚染”を受ける前と同じ……いや、それ以上に“PSI”の力を高めることが出来るでしょう」


ドルキ「そうだな、クク……いい気分だぜ……!」



ドルキ「あの大鎌を持った男……ノイトラと言ったか、あの野郎だけは必ず俺の手で殺す……!」

ドルキ「『バースト』波動の極到であるこの俺の『爆塵者』を……あまつさえ“効かねえ”と言い放ちやがった……!」


ドルキ「どんな小細工を使ったのかは知らんが……俺の『爆塵者』を受けて無事でいられるはずがねえ……」


シャイナ「もう一度“例の場所”に行くんですか?」


ドルキ「行かねえよ」


シャイナ「そうですよね、流石に“汚染”のリスクを二度も背負って……」


ドルキ「違えよ、そういうことじゃねえ」

ドルキ「俺はもう一度『爆塵者』を鍛えなおす……奴を殺すのはその後だ」


ドルキ「最高の状態で、奴を“力”で叩き潰す……!!」


シャイナ「……!」




ドルキ「……ああ、あとよ、例の「4」と「6」の奴らからは何か分かったのか?」


シャイナ「いえ、残念ながら」

シャイナ「「6」の男も推測の通り、ジャックに対する強い『トランス』耐性がありました」

シャイナ「彼にも“イルミナス・フォージ”を行いましたが……“アレ”はもうダメですね」


ドルキ「なに?」


シャイナ「拒否反応が大きすぎるんですよ、辛うじて人型は保っていますが……自我はほとんどなく本能のままに動きます」

シャイナ「あれでは『トランス』で洗脳するどころの話じゃありません」

シャイナ「このままなら、恐らくは例の“ゴミ捨て場”行きになるでしょうね」



シャイナ「そして「4」の男……あの男に関してはこちらの質問に対して全く反応を見せません」

シャイナ「自我はあるようですが、一体何を考えているのやら」


ドルキ「強引にでも聞き出せばいいんじゃねえか?」


シャイナ「形式上、彼は“スカージ”の所属ですからね」

シャイナ「……あまり度が過ぎると、ジュナスさんの逆鱗に触れることになります」


ドルキ「……けっ」

ドルキ「……あの野郎は何かあるとすぐにキレやがるからな」


シャイナ「(……あなたには言われたくないと思いますよ)」






リリネット「外に誰かいる……?」


ゾマリ「ええ、この洞窟の外……一人でしょうか」


リリネット「……どうするの?」

ゾマリ「……無用な戦闘は避けたいところです」

ゾマリ「隙を伺って、ここから脱出しましょう」


リリネット「……わかった」




「……さっさと出てきたらどうだ?」


リリネット「……!!」


ゾマリ「……既に見つかっているようですね」

ゾマリ「私が――」


リリネット「……だめだよ」


ゾマリ「……!」


リリネット「あたしも行くよ」


ゾマリ「…………」


ゾマリ「……分かりました、行きましょう」



ザッ


ジュナス「……男一人にガキが一人、報告通りだな」



リリネット「…………!!」ゾクッ

ゾマリ「どうしました?」


リリネット「コイツだ……!あたしとスタークを襲ったの……!」


ゾマリ「……!!」


ジュナス「貴様、この間のガキか……やはり逃げ延びていたか」

ジュナス「貴様らは何者だ、“反抗勢力”か?」



リリネット「…………」ガタガタ


ゾマリ「……後ろに」

リリネット「……!」


ジュナス「……どうした、さっさと答えろ」


ゾマリ「……私からも一つ――――」


ジュナス「…………」ピッ


ゾマリ「………!!」ヒュン


ズバッ!!


ジュナス「躱したか……」

ジュナス「……誰が無駄口を叩けと言った、クズが」



リリネット「…………」ガタガタ

リリネット「(だめだ……どうしよう……!震えが止まらない……)」ガタガタ


ジュナス「今の『ライズ』……薄弱な“反抗勢力”の動きではない」

ジュナス「やはり貴様らが『エスパーダ』か」


ゾマリ・リリネット「……!!」


リリネット「(あたしたちを知ってる……!?)」

リリネット「……あんた……スタークを、スタークをどうしたの……?」


ジュナス「…………あの男か」

ジュナス「貴様の知ることではない」


リリネット「……!」




ジュナス「そうだな、アッシュが“ガキに敗けた”と言っていたが……貴様のことか」


ジュナス「死ね」ヒュン


リリネット「……!!」


ガシッ


ジュナス「……」ググッ


ゾマリ「『虚閃』!」


バシュウ!!



ズズゥン……!



リリネット「ゾマリ……!」



ゾマリ「なるべく遠くに、隠れていて下さい」


リリネット「……!」


ゾマリ「リリネット殿の覚悟は理解しているつもりです」

ゾマリ「しかし、相手が悪い」


ゾマリ「……彼は強い、恐らくは、『最上級大虚』並の力を……いや、それ以上の力を持っているやもしれません」


リリネット「…………」


ゾマリ「……今の私には、貴女を巻き込まずに戦う保証はできません」


リリネット「…………」

リリネット「……わかった、絶対に……死なないで……!」


ゾマリ「ええ」



パラパラ……


ザッ


ジュナス「……『バースト』と『ライズ』の併用、あとは……“数字”か」


ジュナス「貴様の“数字”は幾つだ……?あの「1」の男と貴様、どちらが強いんだろうな……」



ゾマリ「……どうやら、隠す必要もなさそうですね」


ゾマリ「『第7十刃』、ゾマリ・ルルーと申します」


ゾマリ「……貴方を格上とみなし、全霊を賭してお相手させていただきます」


ジュナス「…………」


ジュナス「……いいな、お前……面白いよ」


ジュナス「俺と闘いになると思ってるところが」


ジュナス「じゃあ、味わえよ……絶望ってやつを」

短いですが投下終了、明日また来ます



ギィン!


ジュナス「『ライズ』だけは一級品だな」


ゾマリ「(『響転』……!!)」スッ


ジュナス「“毘沙門……」スッ


ゾマリ「……!『虚閃』!」


バシュウ!!!


ジュナス「……『神刃』」スッ


ズバッ!!!!



ズズゥン……!!



ジュナス「……下らんな」


ジュナス「一見、俺自身を狙ったように見えるが……先程の『バースト』は土埃を立て、俺の視界を封じるための囮」


ジュナス「本命は、背後から喉元への奇襲」スッ


ギィン!


ゾマリ「……!」ググッ


ジュナス「見えているぞ」


ザッ…!


ゾマリ「(やはりこの男、相当な強さ……)」

ゾマリ「(全く本気を出していない……スターク殿を相手取ることが可能な点も頷ける)」



ジュナス「“毘沙門・叢”……」


キィィィィィィィィ…


ゾマリ「……!!」

ゾマリ「(宙に浮く数多の刃……『宣戦の儀』の映像のものと同じ……!)」


ジュナス「死ね」


ヒュン ヒュン ヒュン!


ゾマリ「(……『響転』!!)」ヒュン



ドガアアアアアアアン!!!!



ジュナス「……外したか」


ゾマリ「……」ヒュン


ジュナス「背後に回り、急所を一閃」

ジュナス「飽きたぞ、同じ戦法は」ブン


スカッ


ジュナス「……!!」



ゾマリ「…………」ヒュッ


ガシッ


ゾマリ「……!!」


ジュナス「『バースト』……いや、『ライズ』による疑似的な分身か」

ジュナス「“先程の攻撃”すらも囮に使い、背後に気を取らせ、死角となった正面から敢えて攻撃を加える……」

ジュナス「浅知恵だな」

ジュナス「言ったはずだ、見えていると」


ゾマリ「(掴まれた刀が動かん……)」ググッ


ジュナス「これ以上貴様の相手をしても、何も得るものはなさそうだ」



ジュナス「“毘沙門・礫”」スッ


ドス! ドス! ドス!


ゾマリ「くっ……!」ブシャッ


ジュナス「隙だらけだぞ」ヒュン


ゾマリ「(……!!速い……!!)」

ゾマリ「(『双児響……』!)」


ジュナス「遅い」スッ


ズバッ!!!


ゾマリ「…………ぐ」ブシャッ


ジュナス「その程度の速さで、俺の『神刃』から逃れられるとでも思ったのか?」


ゾマリ「…………」フラッ



ゾマリ「…………」ヨロッ


ジュナス「ほう、今の一撃を受けてもまだ倒れないか」

ジュナス「だがもう終わりだ、俺はさっさとあのガキを追わせてもらう」


ゾマリ「……『虚閃』!」


バシュウ!!


ジュナス「『神刃』」ブン


ズバッ!



ドォン……!



ジュナス「終わりだと言っている」

ジュナス「その『バースト』は幾ら撃っても俺には届かん」


ゾマリ「…………」ザッ


ジュナス「……余程あのガキを追わせたくないようだな」


ジュナス「何故そこまでしてあのガキを守る」

ジュナス「貴様にとってあのガキは、そこまで大事な人間か」




ゾマリ「…………」



ゾマリ(……そうだ、何故私は彼女を守るのだ)


ゾマリ(『虚』は本来……互いを喰らいあう存在)


ゾマリ(『同胞』とはいえ、彼女を守ることに何故ここまで固執する……)


ゾマリ(……何故、私は……彼女を守るのだ)


ゾマリ(……私の信ずる“愛”故に、か)


ゾマリ(いや……そんなものは建前に過ぎない)



ゾマリ(ならば、情に絆されたのか……?私は)


ゾマリ(……一人の『従属官』に)


ゾマリ(否……)


ゾマリ(気づいていたのだ……私は)


ゾマリ(彼女がどこか抱えている“孤独”に)


ゾマリ(私の抱くこの感情)


ゾマリ(心に浮かぶこの感情は……“友愛”)


ゾマリ(『人間』の抱く、“友愛”の心)



ゾマリ(『虚』と形は違えど、それもまた一つの“愛”)


ゾマリ(私は……彼女を“孤独”から救いたかったのだ)


ゾマリ(彼女を……“独り”にさせたくなかったのだ)


ゾマリ(ならば)


ゾマリ(ならば私は戦おう)


ゾマリ(“私”の意志で)


ゾマリ(詭弁であろうとも)


ゾマリ(彼女を)


ゾマリ(彼女を“護る”為に……戦おう)





ドクン…


ドクン…


ドクン…


ドクン…



ドクン…!!!





ジュナス「……!」


ジュナス「(なんだ……この肌を刺すような感覚は)」

ジュナス「(あの男からか……?)」



ゾマリ「…………」



ゾマリ「…………」スッ


ジュナス「今更、刀を構え直してどうする」


ジュナス「“毘沙門・叢”」


キィィィィィィィ…


ジュナス「さっさと死ね」スッ



ズバズバズバズバ…!




ゾマリ「…………」ポタポタ


ジュナス「……!」


ジュナス「何……!?」



ゾマリ「…………」スゥ…






ゾマリ「『鎮まれ』」











ゾマリ「『呪眼僧伽(ブルヘリア)』」






明日の夜また来ます




アッシュ「…………」


デルボロ「どうした?」


アッシュ「いや、ジュナス様……随分と帰りが遅くねえかと」


ネッカ「そうか?“反抗勢力”の制圧の時は、いつもこんな感じじゃなかったかい?」


デルボロ「心配なら俺が探してくるが……とはいえ、ジュナス様に限って“反抗勢力”に後れを取るなどありえんがな……」


アッシュ「……そりゃあ俺への当てつけか?」


デルボロ「……すまない、そういった意味合いで言った訳ではないのだが」


アッシュ「分かってる、本気にすんな」



アッシュ「そういや……バーリィとオドがいねえが、あいつらドコに行ったんだ?」


デルボロ「シャイナ様の命で、別区域の“地域警備”と例の“ゴミ処理”にあたっている」


アッシュ「ああ……新しく“スカージ”に入るかもしれねぇって言ってたヤツか」

アッシュ「結局、ダメだったのか」


デルボロ「ああ、手の施しようがなかったらしい」

デルボロ「前例がない症状だったらしく、ひと暴れした後、急に動かなくなったと聞いている」

デルボロ「“手術”が成功していれば、相当な戦力になっていたらしいがな」


アッシュ「まあ、ただでさえ面倒な野郎が入って来たんだ、これ以上人員を増やされても困るっての」


ウルキオラ「…………」






ゾマリ(『霊力』の満ちるこの感覚……これがマツリ殿の言っていた“PSI”の力)

ゾマリ(身体能力の底上げ……ある意味間違ってはいないが……)

ゾマリ(正確には“PSI”の力を膨大な『霊力』に変換し、還元する……といったところでしょうか)


ゾマリ(しかし、結局は一時的なもの……『刀剣解放』には耐えられるものの、どちらにしろ『この世界』での『帰刃(レスレクシオン)』は長くはもたない)




ジュナス「…………」


ジュナス「(傷が塞がっている……)」

ジュナス「……何だ、その姿は」



ゾマリ「貴方の知ることではありません」


ジュナス「…………」ピクッ

ジュナス「誰に向かって口を訊いている、クズが」ヒュン


スカッ


ジュナス「ちっ……」


ゾマリ「…………」ヒュン


ゾマリ「宣告の通り、全霊を賭してお相手させていただきます」

ゾマリ「……但し、“この戦い”で貴方に与えるものは“愛”ではない」


ジュナス「なに……?」



ジュナス「クク……何を言っているのか知らないが」スッ


キィィィィィィィ…


ジュナス「……爆ぜる刃に呑まれて死ね」


ジュナス「(『バースト』全開)」


ジュナス「“毘沙門・叢”」



ギィィィィ…ギギギ…ギギィ……!!



ゾマリ(先程とは比にならない数……)


ゾマリ(やはり、似ている)

ゾマリ(あの『死神』の技に)


ゾマリ(……だが)


ゾマリ(威力に差はあれど、“億の刃”には及ばん)




ゾマリ「『黒虚閃(セロ・オスキュラス)』」スッ




ズギャアアアアアアアアアアアアン!!!!!




バキ バキバキバキ! パキ パキィ…!



ジュナス「(…………!!!)」

ジュナス「(“毘沙門”ごと……!)」



ジュナス「くっ……!!」


ジュナス「“阿修羅・解”!!!」ヴン…!




ドバアアアアアアアアアアアアアア!!!!!





パラパラ……


ジュナス「ハァ……ハァ……!くそ……」ボタボタ

ジュナス「(『神刃』に匹敵する力……なんだ、今の黒い『バースト』は……!)」


ザリッ…


ジュナス「……!」ブン


スカッ


ゾマリ「…………」スッ


ブシャッ!


ジュナス「……か……!」ボタボタ

ジュナス「(速い……!)」

ジュナス「(それに、只の手刀でこの威力……)」



ジュナス「クズが……」


ジュナス「(『ライズ』……!)」ヒュン


ゾマリ「(……『響転』)」ヒュン



バキィ!



ドッ!



ガッ!



ジュナス「(これでもついてくるか……!)」


ゾマリ「(速い……『この世界』での戦闘とはいえ、“解放状態”の私の『響転』と遜色ないとは……)」





ゾマリ「『虚弾』」スッ

ジュナス「“毘沙門・礫”……!」サッ



ドォン……!!!



ゾマリ「『虚閃』」スッ

ジュナス「『神刃』……!」ブン!



ズズゥン……!!!!



ジュナス「(『ライズ』全開……!!)」ギュン!


ゾマリ「…………!」


ジュナス「終わりだ……」ブン


ガシッ


ゾマリ「…………」ググッ


ジュナス「(……!!)」

ジュナス「(『神刃』を素手で……!)」


ゾマリ「この距離ならば、避けることは敵いません」スッ


ジュナス「……!!」


ゾマリ「……『王虚の閃光』」







バシュッ…




投下終了、区切りの問題で最近短くてすみません、明日の夜また来ます







ああ











頼む、あと少しでいい











慈悲を……











ズバッ!!







ゾマリ「――――」ボタボタ


ドサッ


ジュナス「…………」

ジュナス「惜しかったな」


ジュナス「突如として戦闘能力を高めたあの形態」

ジュナス「面白いものを見せてもらった」


ジュナス(まだ、何か力を隠しているようだったが……)

ジュナス(仮に、あの形態が持続していれば……)

ジュナス(“あれ”が決まっていれば、そこに倒れていたのは俺のほうだったのかもしれん)


ジュナス「…………」

ジュナス「さらばだ、『エスパーダ』」ヴン…




リリネット(…………!!!)


リリネット(どうしよう、どうしよう、どうしよう……!)

リリネット(このままじゃゾマリが……)


リリネット(もう、逃げないって決めたのに……!)

リリネット(怖い……怖い……!)



リリネット(…………)ガタガタ

リリネット(……こんな震え……!)ブン!


ザクッ!


リリネット「…………っ」ポタポタ


リリネット(なんで……なんで止まんないの……!)

リリネット(こんな……!)スッ


ガシッ


リリネット「…………!!!!!」







「な~に縮こまってやがんだぁ?」







リリネット「……!!」


リリネット「なんで……!!」


ヤミー「ったく、本当にあのバァさんの言う通りだったぜ」

ヤミー「世話ァかけさせやがる」



リリネット「ヤミー……!」


リリネット「……!」ハッ

リリネット「ヤミー!ゾマリが……!」


ヤミー「あァ~……、ゾマリのヤツならもういい」


リリネット「な……!?あんた……!!!」


ヤミー「違え違え、俺たちが出ていくまでもねぇってことだ」


リリネット「……え?」




「『虚弾』」


バシュウ!!!


ジュナス「……!」サッ



ドォン……!



ジュナス「……新手か」

ジュナス「貴様も『エスパーダ』か……?」


「…………」

「その男は私たちの『仲間』だ」

「引き渡してもらいたい」


ジュナス「みすみす“反抗勢力”を引き渡すなど、この俺が応じると思っているのか」


「応じてもらえぬなら、力づくでも引き渡してもらう」




ジュナス「舐めているのか、女」


「舐めているのはお前のほうだ」

「“禁人種”にも、相手の力量を理解する程度の知能はあるはずだと思っているのだがな」


ジュナス「“禁人種”だと……」

ジュナス「クク……あんなゴミ共と同じにするなよ……」


ジュナス「『神刃』……!」ヴン


「…………」

「『響転』」ヒュン



ズバッ!


ジュナス「く……!!」ボタボタ


「……既に手負いのようだな」

「動きが鈍い」


ジュナス「貴様……!!」


「…………」スッ


ジュナス「……!」

ジュナス「……何故刀を収める」


「……“禁人種”とはいえ、手負いの戦士を痛めつけるような真似はしたくはない」

「その男を置いて退け」


ジュナス「…………!!」




ジュナス「ククク……!」

ジュナス「この俺に情けをかけるか……」


ジュナス「…………」ヴン…


ジュナス「自惚れるなよ……クズが!!!」ビュン!


「……わからん奴だ」スッ



ギィン!



ジュナス「俺は『W.I.S.E 第二星将』、ジュナス……貴様も名乗れ……!」ググッ


「…………」ググッ

「……『第3十刃(トレス・エスパーダ)』、ティア・ハリベル」


ジュナス「そうか……!」ググッ




ハリベル「……さらばだ、『ワイズ』の戦士よ」


ハリベル「もし、貴様が万全の状態だったならば、勝敗は違っていたのかもしれんな」



ハリベル「『王虚の閃光』」スッ



カッ…



ジュナス「……!!!」




ズギャアアアアアアアアアアアン!!!!!!!








ハリベル「数年の年月を経たとはいえ、やはり、この“大気”での戦闘は慣れぬものだ……」




投下終了、明日、明後日は来れないかもしれないです





バーリィ「…………」


バーリィ「この下が、“イルミナス・フォージ実験生命体廃棄層”」

バーリィ「随分と辛気臭そうなトコロだネェ……」


「…………」


バーリィ「哀れなものだよ……これが“失敗作”の末路、か」チラッ


「…………」


バーリィ「早いところ捨てて、『塔』に帰るかネェ……」



「……誰が失敗作だって?」



バーリィ「……!」


「アハハ、ようやくキミ一人になったね」


バーリィ「…………」ザッ



バーリィ「何故……正気を保っている、“手術”は失敗したはずでは……」


「キミたちがバカみたいに騙されてくれたおかげで、ようやくここまで漕ぎつけることができたよ」

「恥ずかしい話だけど、キミたちの中にはボクより強いヤツが何人かいるみたいだからね」

「だから、得体の知れないあの『塔』から脱出し、敵が少なくなる機会を伺ってたんだ」

「ま、ここまで上手くいくとは思わなかったけどさ」


バーリィ「ホゥ……」

バーリィ「その言い回しだと、“お前が相手なら簡単に勝てる”と言っているように聞こえるがネェ……」


「んー……その通りだよ」

「キミ、弱いでしょ?」


バーリィ「…………」

バーリィ「……まったく、随分と甘く見られたものだ」



「長々と話してると、いつキミたちの仲間が来るかわかんないし」

「もうそろそろ殺していいかな?」


バーリィ「……闘う相手の名は、是非聞いておきたいものだが」


「ふぅん……メンドくさいヤツだなぁ」


「『第6十刃(セスタ・エスパーダ)』、ルピ・アンテノール……覚えた?」


バーリィ「俺は……」


ルピ「あーいいよいいよ、これから死ぬヤツの名前なんて聞くだけ無駄だからさ」

ルピ「しっかしキミたちもほんっとバカだよねー、ボクにわざわざ“力”をくれるなんて」


ルピ「あの白髪の大男にやられた時は『霊圧』のコントロールが上手くいかなかったけど、今は随分いい気分さ」

ルピ「そこだけはお礼を言っておくよ」


ルピ「じゃ、さよなら」






ハリベル「…………」


リリネット「ハリベル!」


ハリベル「……!」


リリネット「なんでここに……」

リリネット「あと、助けてくれてありがと……」


ハリベル「……礼には及ばん」

ハリベル「事のいきさつは……後ほど話そう」

ハリベル「それよりも、ゾマリの治療が先だ」


ハリベル「ヤミー、ゾマリを運んでくれ」


ヤミー「へいへい」



ヤミー「しっかし酷え傷だな、早えとこ“根(ルート)”に戻るか」


リリネット「……“根”?」


ヤミー「俺たちのアジトみてえなもんだ、『虚夜宮』に比べりゃチンケなモンだがな」


ゾマリ「…………ぬ」パチッ


リリネット「……あ!」


ヤミー「おう、起きたか」

ハリベル「傷が深い、そのままヤミーに担がれていろ」


ゾマリ「……!ヤミー殿に……ハリベル殿……?」





ヤミー「あァ~、確かこの洞窟だったな……」


ハリベル「ああ」


リリネット「……大丈夫?“禁人種”に入るところ見られてないかな?」


ヤミー「問題ねえよ、ここはただの入り口にしか過ぎねえからな」


ヤミー「ここは、十ある内の三番目の“根”の入り口だ」

ヤミー「いくら“禁人種”のゴミどもが俺たちを探そうが、“根”の内側はここにはねえ」


ヤミー「さて、いくぜ」



キィィ…



リリネット(……!なんだろう、あたしたちの周りに……半透明の、壁?)



ヒュン!





ヒュン!



「上手くいったみたいだな」

「奴らにバレたかもしれんから、念のため“γ”ゲートはしばらく使わない方がいいだろう」


ヤミー「おう」


リリネット「……!」

リリネット「あの洞窟から、どうやってここに……」


「俺の能力だ」


リリネット「……!」


「これは空間操作系“PSI”……俺は“トリックルーム”と呼んでいるが……」

「“PSI”能力でBOXを二つ作り出し……一つ目のBOX“α”の中身を二つ目のBOX“β”に転送することができる、またその逆も可能だ」

「この能力でBOX“α”を先程の洞窟内に作り、その中身であるお前たちを、BOX“β”のあるこの“根”に転送したわけだ」


リリネット「へぇ……」ムム…?


ヤミー「話は後だ、とりあえずはゾマリのヤツを治療しねえとな」





ヴァン「じっとしてて下さいねー」ポウ…


ゾマリ「……かたじけない」


ゾマリ「しかし……皆、よくぞご無事で……」

ゾマリ「やはり『宣戦の儀』には……」


シャオ「……!『宣戦の儀』のこともご存知でしたか」


カイル「俺たちは、『宣戦の儀』には行かなかったんだ」


ゾマリ・リリネット「……!」


ヤミー「バァさんがどうしても行くなって言うからよ……俺としちゃあ、あの『ワイズ』の野郎どもを早く叩き潰してやりたかったんだがな」



カラカラ…


エルモア「……ふむ、予知通り、生きておったか、お前さんたち」

エルモア「十年前に死んだはずのお前たちが予知で見えた時は信じられなかったが、どうやらワシのもうろくではなかったようで何よりじゃ」


リリネット「……!」

リリネット「(リョカッキの事故で死んでない……ってことは)」ヒソヒソ

ゾマリ「(……ええ、マツリ殿の電話が良い方向に働いたのでしょう)」ヒソヒソ


ヴァン「なにヒソヒソ話してるんですかー?」


リリネット「……!」

リリネット「あはは……なんでもないよ、なんでも……」




フレデリカ「しっかしアンタたちが幽霊だなんて今でも信じられないわ」


リリネット「……!」

ゾマリ「何故そのことを……」


エルモア「ワシが話したんじゃよ、特に隠す必要もなかったからの」


フレデリカ「幽霊なのに話せるし触れるのね、ホント不思議なものよ」


フレデリカ「それに、いつの間にかあなたより私たちの方が背も大きくなっちゃったわね」

フレデリカ「ホント、こうして見ればカワイイものだわ」ムギュムギュ


リリネット「いひゃひゃひゃ!ほっへふまむのやめほ!」



リリネット「いたたた……」


リリネット「……!」

リリネット「あ……そういえば、ハリベルはどうしてここに?」


ハリベル「……私は、数年前だったか、気が付いたら『この世界』に居た」

ハリベル「藍染に斬り伏せられ、意識を失った後にな……」


ゾマリ「……!!!」

リリネット「な……!」


ゾマリ「藍染様が……」


ハリベル「……ゾマリ、お前も……いや、『十刃』の連中は、理解の程度はさりとて、皆薄々気づいていたのだろう」

ハリベル「私たちは、所詮は藍染にとっての、道具の一つにしか過ぎないといったことに」


リリネット「……!!!」




『何だよボーッっとして!弔い合戦するんじゃないの!?情けないなあ!』


『だから“ガラじゃねえ”って言ったろ、いいよもう……』


『藍染サマだって俺ら助ける気無えよアレ……』


『このまま戦ってもどうせまた誰か死ぬんだろ……わかったからもう帰って寝ようぜ……』


『バッカじゃないの!』


『藍染サマがあんたに『1番』くれたのはなんでだと思ってんの!?あんたの力を信じてるからだろ!!』

『仲間が死んでイヤなら、あんたが戦うしかないだろ!!』


『………………』





リリネット(…………)


リリネット(スタークも、知ってたのかな……)




リリネット(…………)


エルモア「話の途中で悪いがの、ワシの話を聞いてもらおうか」


エルモア「2008年から今まで、何があったのか……順を追ってな」


ゾマリ(……!)


ゾマリ「ええ」



エルモア「まず、2008年7月……あの山荘での“天戯弥勒”との戦いから数日後、お前さんたちが姿を消した……」

エルモア「行方不明……ワシはお前さんらが『サイレン世界』に行き、帰って来れなくなったと判断した」


リリネット「……!!」

ゾマリ(やはり、私たちは今回の“招集”にて命を落とす運命であったと……)


エルモア「まったく、あの時のこの子らの悲しみようといったら……」


ヤミー「あの時のテメェらはホント酷かったぜ」


フレデリカ「なに言ってんのよ、アンタなんてババ様から事情を聞いたとき、口では『先に死んでちゃ世話ねえぜ』とか言ってたくせに、ものすご~く落ち込んでたように見えたけど?」


ヤミー「……けっ、『虚』が仲間の死の一つや二つで落ち込むかよ」


リリネット(…………!)

リリネット(今……)



ゾマリ「その後の“アマギミロク”の動向は……?」

リリネット「『宣戦の儀』には行かなかったん……だよね?」


エルモア「うむ……あの男を止めれば世界崩壊を食い止められる……そう信じてワシらは“天戯弥勒”を追った」

エルモア「だが奴らを捕まえられぬまま、月日は流れ……2009年の11月、『W.I.S.E』によるビラが撒かれ始めた……」


エルモア「『宣戦の儀』……!じゃが、ワシはもう予知しておった……勝負を挑んでも必ず負ける、絶対に行ってはならぬと……」

エルモア「2009年の秋までに“天戯弥勒”の所在を突き止められぬ時点で……全てが終わっておったんじゃな……」



エルモア「そして……2009年、12月10日、新宿、代々木公園より、新宿は街としての機能を破壊された」




エルモア「その後、大阪、仙台、名古屋……主要都市が次々と破壊されていった」


ゾマリ(…………)

ゾマリ(記憶では、あの“円盤”の記述は『12/2』であったはず……やはり、『現世』での行動の影響により、未来が変化してきている……?)


エルモア「今思えば、あれは“天戯弥勒”の……終わる人類に向けたアピールだったんじゃろうな」

エルモア「これから起こる未曾有の大災害が、天災ではなく自分たちが引き起こした“人災”であると……」


リリネット「…………」




エルモア「そして、1月5日……直径150km、観測上地球から離れたところを通過するはずだった巨大隕石、『ウロボロス』が突如軌道を変更し、一直線に地球に向かってきた」


エルモア「…………」


エルモア「……1月7日、人間文明最後の日」



エルモア「『転生の日(リバースデイ)』が訪れた」


明日か明後日にまた来ます



2010年 1月7日 『転生の日』



防衛の為のミサイルによって破壊された隕石片が地上を蹂躙している頃


巨大隕石『ウロボロス』の中から現れた、人の知る『宇宙』の圏外からやってきた“それ”が――――


形を変えていった、見た目にはゆっくりと、だが実際には遥かなスピードで――地球をすっぽりと包み込んだ


地表では大地を貫く幾億の稲妻が、あらゆる電子機器とシステムを破壊し


その光の鉤爪はまるで卵の殻を剝くかのように、大地を引き剝がした


空と大地は反転し


その後、空へ巻き上げられ消えた文明は、残骸となって再び地上へ降り注いだ


死体も、崩壊を免れた街も覆い尽くすように――――




エルモア「『転生の日』を地上で生き残った者も数多くおったんじゃ」


エルモア「だが、『W.I.S.E』による人間狩りが始まった……」

エルモア「奴らは生存者を捕え、異形の兵隊を生みだし、新しい秩序を創ろうとしている……」


リリネット「……!」

ゾマリ(異形の兵隊……“禁人種”か)



ゾマリ「……しかし、“隕石”ですか」

ゾマリ「私は天文に関しては詳しく存じませんが……“隕石”が突如軌道を変え、地球に向かってくるなど、有り得ることなのでしょうか」


エルモア「そうじゃな……普通に考えれば、そんなことはありえん」


ゾマリ「…………」


ゾマリ「(その“隕石”が『現世』を滅ぼした元凶であるならば……“隕石”を引き寄せたのは“アマギミロク”だとでも言うのか……)」

ゾマリ「(……個人の力で宇宙の“隕石”を引き寄せるなど、まず考えられん)」

ゾマリ「(『死神』にも、『虚』にも、そのような芸当ができる者はいまい……)」

ゾマリ「(ならば、恐らく何か……隕石を引き寄せる為のカラクリが、『引き金』がどこかにあるはず……)」


ゾマリ「…………」


ゾマリ「(“隕石”といえば、確か例の“地下倉庫”にそのような文献が……とはいえ、話のような巨大な物ではなかったが……)」

ゾマリ「(なにか、関係が……?)」


ゾマリ「…………」





エルモア「……あとは、もう一つ、お前さんたちに話して置かなければならぬ事がある」


エルモア「八雲祭、と言うピアニストを……知っておるか?」


ゾマリ・リリネット「……!!」


エルモア「やはり、知っておったか……」


リリネット「マツリが……どうかしたの?」


エルモア「…………」


エルモア「その前に、お前さんたちのことじゃがの」

エルモア「お前さんたちは十年前の世界からタイムスリップしとるんじゃろう?」


リリネット「…………!」


エルモア「返事はせんでえぇ」



エルモア「元々予想はついておる……ワシは予知の力で世界の崩壊する様を見た」

エルモア「昔、お前たちと同じように、『サイレン世界』へ行った旦那の記憶も見ておる」


エルモア「そして現在、変貌したこの世界も、この眼で……な」


エルモア「要するに、全て同じ世界……ハッキリとわかったぞい」

エルモア「お前たちは『ネメシスQ』の力で、十年の時の流れを行き来しておったんじゃな」


ゾマリ・リリネット「…………」


ヤミー「おい」


リリネット「……!」

ゾマリ「……どうしました」



ヤミー「バァさんから粗方の事情は聞いたけどよ、俺たちからも色々訊きてえことがある」


ハリベル「後にしろ、ヤミー」


ヤミー「あ?」


ハリベル「そう急ぐ事案でもあるまい、彼女の話が全て終わってからでも遅くはない」

ハリベル「それに、内輪の話になる……これ以上この“根”に余計な問題を持ち込むのは避けたい、それはお前も同じだろう」ボソッ


ヤミー「……ちっ」



エルモア「……悪いのう、話を続けさせてもらうぞい」



エルモア「雹堂影虎……あの男の話から、ワシは八雲祭とお前さんたちには何か繋がりがあると察した」

エルモア「どうやら、間違ってはおらんかったようじゃの……」


リリネット「マツリは、今どこにいるの……?」


エルモア「…………」


エルモア「……もう、おらんよ」

エルモア「彼女は死んだんじゃ」


ゾマリ「……!!」

リリネット「え……」




「そこからは、俺にも話をさせてくれ」


ゾマリ「……貴方は」


エルモア「犬井の一件でお主もこの男とはあったことがあるじゃろう」


リリネット「あ……!ヤミーにぶっ飛ばされなかったほうの人……!」


「む……確かにそうだが……」


エルモア「この男は東雲嵐……今は別のフロアにおるが、夢路晴彦という男もこの“根”におる」

エルモア「この二人組が犬居の一件の時の二人じゃな」



シャオ「“根”には水力発電用の地下水路があるのですが……現在得られる電力は微々たるものです」

シャオ「そのため、今、ここにはいませんが、足りない電力はその晴彦さんの“PSI”能力である『電磁’n(ショッカー)』でカバーしてもらっています」


マリー「そして嵐さんの空間転送能力のお陰で“根”の場所は『W.I.S.E』に気づかれない」

マリー「この二人のお兄さんたちがいてくれるから、私たちはここで暮らしていけるんです」


ゾマリ「…………」


ラン「…………」

ラン「……俺たちがしでかした事の大きさはわかっている、それに、あんたの言いたいこともな」

ラン「十年も前の事だが、水に流せとは言わん……だが俺たちなりに心は入れ替えたつもりだ」


ラン「雹堂さんがいたからオレたちはここにいる……あの人に、二度も命を助けられたから……な」


リリネット「……!」



リリネット「マツリに……カゲトラのことも知ってるの……?」


ラン「…………」

ラン「あの山荘での一件の後、俺たちは色々あって雹堂さんの“天戯弥勒”探しを手伝っていた」


ラン「お前たちが消えた後、八雲祭は、あの女は独りで動いていた」

ラン「仕事も何もかも放り出して消えたのさ、たまに雹堂さんに連絡をよこすくらいでな……」


ラン「あんたたちを失った怒りと悲しみか……話せない秘密があったからなのか、単独で『W.I.S.E』を追い始めたんだ」


ゾマリ「…………」

リリネット(もしかして、あたしたちを探して……?)



ラン「雹堂さんの“天戯弥勒”探しは、唯一の繋がりであった犬居の死で前に進まなかった」

ラン「奴が何者なのか……出生も潜伏先も不明のまま、2009年が終わりかけていた頃……」


ラン「…………」


ラン「『宣戦の儀』の前日、雹堂さんが、既に息絶えた八雲祭を抱きかかえ、帰ってきた……」


ゾマリ・リリネット「……!!!」


ラン「『W.I.S.E』の居所をつきとめて……単独で挑みに行ったらしい」

ラン「詳しいことは、あまり話してくれなかったがな……」


ラン「あんなに怒っている雹堂さんは初めて見た……守れなかった怒り、頼りにされなかった自分への怒り……」



ラン「八雲祭の身体には奇妙な紋様が浮かび上がっていたと同時に、なにか鋭利な鉤爪のようなもので身体を切り裂かれていた」

ラン「『サイキッカー』による攻撃だとは思うが……恐らくはその二つが合わさり、致命傷に至ったのだろう」


ゾマリ(奇妙な紋様に、切り裂かれた跡……同一人物の“PSI”能力だろうか……?)


ラン「そして、俺たちが『宣戦の儀』に行くことはなかった」

ラン「俺たちはエルモアの力を頼ることに決め、八雲祭を埋葬し……この場所で『転生の日』を迎えたのさ」



ラン「そしてその一か月後、俺たちは“生存者”を探しに地上に出た」

ラン「地上はもはや地獄と化していた……めくれあがる大地に死体の山」


ラン「…………」


ラン「全員不眠不休で、晴彦すら愚痴もこぼさず動き続けた」

ラン「雹堂さんは化け物だった……俺はあれ程の『サイキッカー』を見たことが無い……」


エルモア「この大災厄を生き延びたのが、ワシら以外に32人……」


エルモア「本来ならもっと多くの者たちを災厄の前に助けられるはずじゃった……」

エルモア「じゃが、隕石落下の正確な日は予知できず……気がついた時には交通機能は麻痺し、全ての人間がパニックを起こしておった」

エルモア「ワシらと“根”の存在が『W.I.S.E』にバレてはならぬ為、メディアにも流せんかったしの……」



ラン「そして、オレたちが“生存者”の救出作業をしていた時、奴らが……『W.I.S.E』が現れた」

ラン「スーツを着た白髪の男と、もう一人、別の男が」


ラン「……あんたたち、イアンさんのことも知っているのだろう」


ゾマリ「……!」


ラン「影虎さんとイアンさんは、俺たちを逃がすために、奴らと闘った」

ラン「イアンさんは、戦闘向きの“PSI”能力は持ち合わせていないって言うのにな……」


ラン「…………」


ラン「そうだな」

ラン「オレが、八雲祭と雹堂さんについて知っているのはそれだけだ……」


ラン「あんたたちにも関係のある話かもしれない……と思ってな……」



ゾマリ(マツリ殿にカゲトラ殿、そしてイアン殿も……)





エルモア「……すまぬのう、悪い話ばかりで」


ゾマリ「……いえ」



カイル「なあ」

カイル「兄ちゃんたちがさっき話してた、アイゼンとか、エスパーダって何なんだ?」


フレデリカ「こんな状況で言うのもなんだけど、アンタたち、ただの幽霊ってわけじゃなさそうじゃない?」

フレデリカ「アンタたちの素性はあんまり詮索しないように、ってババ様に言われたけど、やっぱり少し気になるわね……」


シャオ「何か、協力できることがあるかもしれません……」

シャオ「……話せる範囲で構いませんので、ゾマリさんたちの事について、何か聞かせてはもらえませんか?」



ゾマリ「(……素性……何処まで話してよいのか)」

ゾマリ「(『サイレン』に関すること以外なら……『十刃』に関することならば問題はない、でしょうか)」


ゾマリ「…………」チラッ


ハリベル「…………」コクリ



ゾマリ「……分かりました、では、私たちの事について説明いたしましょう」


ゾマリ「私たちは……そう、ここにいるハリベル殿とヤミー殿含めた計十人で構成される、『十刃』といった組織に属しています」

ゾマリ「リリネット殿はまた別ですが……」


ゾマリ「先程の藍染という方は、私たちの上司のようなもので……まあ、彼の話は置いておきましょうか」

ゾマリ「私たち『十刃』は1から10までの数字のどれかを肉体の一部に宿しています」


カイル「数字?」


ゾマリ「ええ、個体により位置は異なりますが、身体の一部に“数字”の刻印があり、数字が低ければ低いほど“殺戮能力”に秀でています」


マリー「……さ、殺戮能力……ですか……?」


ヤミー「そんな怖えモンじゃねえよ、数字が小さけりゃ小せえ程強えって思ってくれりゃあいい」


ハリベル「……そこまで単純なものでもないがな」



シャオ「……ということは、ゾマリさんたちにも“数字”が?」


ゾマリ「ええ、私の数字が『7』、ヤミー殿が『10』、ハリベル殿が『3』となっています」


フレデリカ「セプティマ、ディエス、トレス……?」


シャオ「スペイン語のようですね、数字に直すと順番に『7』、『10』、『3』です」


フレデリカ「フフン、ってことはヤミーは一番格下なのね」


ヤミー「…………けっ」



カイル「へえ……って『3』!?」

カイル「じゃあハリベルの姉ちゃんより強いヤツがいるのか!?」



ゾマリ「……?」


ヤミー「あ~……コイツらはな、一回敵同士として戦ってんだよ」


リリネット「え!?」



シャオ「この話をする前に、ここが何処かを説明しておきましょうか」


カイル「ああ、そうだな」




カイル「ここは伊豆の『エルモア創立総合病院“天の樹”』の地下で……」


カイル「エルモア財団が政府共同で開発した、緊急避難シェルター“天樹の根”ってんだ」


ゾマリ「ふむ、地下施設のようなもの……ですか」


シャオ「はい、ここは対有事コロニーとして、内部は居住区、生産プラント、空調、浄水、発電施設の他に、避難民千人が五年間生存可能な物資が備蓄されています」


フレデリカ「食料も五年前から人工照明で栽培を始めたから、食糧難に陥ることもないわ」

フレデリカ「まあ、どっかの大飯喰らいさんのおかげで少~し大変だけどね」


ヤミー「へーへー、すいませんすいません」


マリー「でも、ヤミーさんはここの誰よりも働いてくれているので、私たちはとても助かっています」

リリネット「え、ヤミーが……?」ジー


ヤミー「おい、なんだその目は」

ヤミー「わざわざ住まわせてもらってんだ、いくら俺でもそのくらいの事はするぜ?」



カイル「さーて、話に戻るか」


カイル「あの時はさすがに驚いたぜ、“根”で過ごし始めて六年目くらいだったかな」

カイル「地上からの入り口をぶち割っていきなり姉ちゃんが入って来たんだ」


ハリベル「……あの時はすまなかったな」


シャオ「いえ、僕たちも逸る気持ちがありましたし……」


ヤミー「ありゃあ仕方がねえとは思うがな、お互いによ」



ハリベル「私は『この世界』を訪れてから、しばらくの間、『探査神経』で『霊圧』を探りながら彷徨い続けた」

ハリベル「そして、地下から一つの霊圧反応を探り当てた」


カイル「まあ、あとは大体想像の通りだな」

カイル「俺たちは、姉ちゃんの事は『ワイズ』だと思い込んでたし、姉ちゃんも俺たちがいきなり襲い掛かったから反撃してきた」


カイル「その時の姉ちゃんは随分体調が悪そうに見えたけど、それでも俺とシャオの二人がかりで手も足も出なかった」


シャオ「ヤミーさんが来て誤解を解いてくれなかったらどうなっていたことか……」


シャオ「しかし、そのハリベルさんより強い人がいるなんて……」




フレデリカ「……『エスパーダ』は十人いるって言ったわよね?それだと残りの人たちはどこにいるの?」


ゾマリ「……」

リリネット「……」


フレデリカ「あれ……?」


ゾマリ「……私たちは今、『この世界』にいるはずの『1』の数字を持つ男、コヨーテ・スターク殿を探しています」


ハリベル・ヤミー「……!!!」


ハリベル「スタークが『この世界』にいるのか……?」


ゾマリ「……ええ、但し、スターク殿は私たちが先程交戦した男と戦闘を行ったらしく、現在は行方不明の状況です」


ハリベル「『W.I.S.E 第二星将』、ジュナス……」

ハリベル「恐らくは『ワイズ』の幹部の一人だったのだろう」



ゾマリ「そしてもう一人、『4』の数字を持つ男、ウルキオラ・シファー殿も『この世界』に」


ヤミー「なんだと……!?」


ゾマリ「私は少し前、やむをえず彼と交戦しましたが……私たちのことは覚えておらず、彼の胸には“禁人種”に見られる“核”がありました」

ゾマリ「“禁人種”というのは……」


フレデリカ「大丈夫よ、“禁人種”のことはみんな知っているわ」


ヤミー「……待て、あの“珠”をつけてやがったってことはよ」


ゾマリ「……ええ、恐らく、彼は一度『ワイズ』に捕えられたのでしょう」

ゾマリ「私たちのことを覚えていなかったことから察するに、彼は『W.I.S.E』に洗脳されている可能性が高い」


ヤミー「…………」


カイル「『トランス』による洗脳……か?」


ハリバル「スタークに、ウルキオラ……現段階で『この世界』で確認できた『十刃』は私たちを含め六体か」


ゾマリ「六……?」


ハリベル「……!すまない、五体だったな」


ハリベル「もしかすると、他の連中も『この世界』の何処かにいるのかもしれんな……」

ハリベル「だが、深刻だ……『最上級大虚』の内一体が行方不明、一体が既に敵の手中にあるとは」




シャオ「…………」


カイル「シャオ、どうした?急に黙っちまって」


シャオ「……スタークという方は、『1』の“数字”を持っているんですよね?」


ゾマリ「ええ」


シャオ「ゾマリさんたちが闘った、ジュナスと言う男」

シャオ「その男とスタークさんが交戦し、それでいてなおその男がゾマリさんたちの前に現れたということは、少なくともスタークさんはその男に敵わなかったということ」


フレデリカ「ん……なにが言いたいの……?」


シャオ「僕たちより遥かに強いハリベルさん以上の強さを持つスタークさん、その彼ですら敵わない男が『W.I.S.E』内に存在したということです……」

シャオ「その男に関しては、ゾマリさんとハリベルさんによって倒されたようですが……」


シャオ「先程、ハリベルさんは相対した男について、『第二星将』と言いました」

シャオ「“星将”と言うのは恐らく、『W.I.S.E』内における役職、地位のようなものでしょう」



シャオ「『“第二”星将』というからには、“星将”が複数人で組織されているのはほぼ確定的です」

シャオ「その“星将”の役職を持つ者たちが、皆、ゾマリさんたちが倒したジュナスという男に匹敵する力を持っていたとしたら……」


フレデリカ「……!!!それってつまり……」


シャオ「ええ、到底敵わないんですよ、僕たちは……『エルモア・ウッド』は……」

シャオ「それに、『4』の“数字”を持つウルキオラという方……ハリベルさんに近い強さを持つその方も、『W.I.S.E』に捕えられたうえ、敵の戦力として存在している……」



カイル「なんだよ、それ」

カイル「俺たちじゃ『W.I.S.E』には勝てないってことかよ」


カイル「……だったら、俺たちが今まで、この“根”で修行を続けてきたのは無駄だっていうのか?」

カイル「俺たちは『W.I.S.E』を倒すために、この十年、修行を続けてきたんじゃないのかよ……」


シャオ「…………」




ハリベル「待て」


カイル「……!」


ハリベル「説明しそこねていたが……私たちは『この世界』の“大気”に適応するまでに時間がかかる」

ハリベル「スタークがいつ、その男と闘ったのかは知らないが……時期によっては、あの男に敵わなかった事にも頷ける」


ハリベル「あの男がゾマリとの戦闘による影響で手負いの状態だったとはいえ……“私に”敗れたあの男が、そう簡単にスタークを倒せるとは考えられん」

ハリベル「それに、あいつはあれでも『No.1(プリメーラ)』だ、簡単に死ぬようなことはないはずだ」


ハリベル「そうだろう、“リリネット”」


リリネット「……!」




ヤミー「それによ、なにも『ワイズ』と闘うのはお前らだけじゃねえ」


マリー「え……?」


ゾマリ「『ワイズ』を止める、もしくは倒す、といった意志は……みな共通のものです」


リリネット「ウルキオラも助けなきゃいけないしね」


ハリベル「私たちも、微力ながら協力させてもらおう」



フレデリカ「あんたたち……!」


カイル「でもよ……」


ヤミー「遠慮はいらねえよ、そこのちっこいガキも言ってたけどよ、俺としちゃウルキオラってヤツを何とかしてやりてえんだ」

ヤミー「あの野郎とはいろいろ腐れ縁があるからよ……」


シャオ「…………」


ゾマリ「個々の目的は違えど、目標が同じならば、協力関係にあっても不都合は無いでしょう」



エルモア「…………」

エルモア「お前さんたちは、本当にそれでいいのかい」


ゾマリ「ええ」

ヤミー「何度も言わせんなっての、バァさん」



エルモア「……ありがとの」


フレデリカ「ふふ、それなら『ワイズ』をぶっ潰す策を考えなくっちゃね」

シャオ「ゾマリさんやハリベルさんの存在をハッキリと知った奴らがどうするか、出方を窺った方が良さそうだ」


カイル「まぁ、ムズカシーことはあとにして、とりあえずメシにしようぜ」

カイル「ゾマリの兄ちゃんも、リリネットの姉ちゃんも、腹減ってるだろ?」


エルモア「そうじゃの、ワシらは食事の支度をしようか……お前さんたちはここで少しくつろいでおってくれ」




ハリベル「……ゾマリ」


ゾマリ「ええ、分かっています」

ゾマリ「先程ヤミー殿が言った通り、積もる話もあるでしょう」


ゾマリ「少し、“私たち”のことについて、話をしましょうか」






ルピ「あーあ、あっけないの」


バーリィ「――――」ドサッ


ルピ「どうしよっかなー、これから」

ルピ「ここがドコだかイマイチわかんないし」



「「ソウナノ?ダッタラ僕ガ、オシエテアゲヨウカ?」」



ルピ「……!!」ザッ

ルピ「……アーロニーロか」


アーロニーロ「「久シブリダネ、ルピ・アンテノール」」



ルピ「キミもここにいたんだ、アーロニーロ」

ルピ「『下級大虚(ギリアン)』のくせして、よく生きてたね」


アーロニーロ「「…………」」


ルピ「ア、ごめーん、一応『十刃』だったっけ?」


アーロニーロ「「……藍染様の気まぐれで、グリムジョーの後釜に選ばれたお前が言えることか?それは」」


ルピ「なに……?」ピクッ


アーロニーロ「「俺にはお前に本当に『十刃』としての実力があるとは思えないんだよ、同じ『No.6(セスタ)』のグリムジョーにあっけなく殺されたんだってな」」


ルピ「……口の訊き方に気をつけなよ、『No.9(ヌベーノ)』」



アーロニーロ「「怒ッテイルノカイ?“数字”ヲヤタラ気ニシテイルミタイダケド、モシカシテ図星ダッタノカナ?」」


ルピ「あまりボクを挑発するなよ、『No.9』が『No.6』に敵わないことくらい、『下級大虚』のキミでもわかるだろ?」


アーロニーロ「「“数字”ナンテノハ、アクマデモ“強サ”ノシヒョウニシカスギナイサ」」

アーロニーロ「「『No』の本質は“殺戮能力”にある、その事はお前も知っているはずだがな」」

アーロニーロ「「仮に『十刃』同士で戦闘を行えば、必ずしも数字が上の者が勝つとは限らない、と」」


ルピ「“殺戮能力”か……はっ、それなら尚の事キミはボクに敵わないじゃないか」


アーロニーロ「「ナンデ僕ガ『下級大虚』デアリナガラ『十刃』デ在リ続ケタノカ、知ラナイ訳ジャナイダロウ?」」

アーロニーロ「「僕ガ全テノ『破面(アランカル)』ノナカデ唯一、“無限ニ進化スル”『破面』ダカラダトイウコトヲ」」


ルピ「“無限の進化”か、それでも結局は『No.9』止まりじゃないか」



アーロニーロ「「それは『虚圏』での話だろ?」」

アーロニーロ「「この世界はいいぜ、オレの弱点である“日の光”は射さねえし、そこらじゅうに“力”が溢れている」」


ルピ「“力”……?」


アーロニーロ「「オマエモ分カッテイルハズダヨ、ソノ“珠”ヲツケテイルノダカラ」」


ルピ「まさか……」


アーロニーロ「「ソノマサカサ、僕ハココデ幾百ノ“禁人種”を喰ライ、“力”ヲ手ニ入レタ」」


アーロニーロ「「そして、その“記憶”もな」」


アーロニーロ「「単純に考えれば、『この世界』に存在する『十刃』はオレとお前だけじゃないだろう」」


アーロニーロ「「ダカラ、僕ハコレカラ僕ノ『同胞』タチヲ、他ノ『十刃』ヲ探シニ行ク」」



ルピ「……へえ、こんなトコでもお仲間ごっこかい?」


アーロニーロ「「何トデモ言エバイイサ、ダケドネ……」」


アーロニーロ「「気に入らないんだよオレは、まがい物の『十刃』であるお前が俺より上に立っていることがな」」


ルピ「なに?」


アーロニーロ「「ここで俺に喰われていけよ、『中級大虚』」」


ルピ「本気で言ってるのかい……?あとで泣きついても許してあげないよ」


アーロニーロ「「相変ワラズ、オシャベリダネ……ソレトモ、僕ト闘ウノガ怖イノカイ?」


ルピ「……!」


ルピ「アハハ……ムカつくなあ……そんなに死にたいなら、お前のその顔面、叩き割って潰してやるよ!!!」


アーロニーロ「「ハハ、出来ルモノナラヤッテミナヨ……!」」






ルピ「『縊れ』……!」











ルピ「『蔦譲(トレパドーラ)』!!!」











アーロニーロ「『喰い尽くせ』」











アーロニーロ「『喰虚(グロトネリア)』……!」






投下終了、七月に入るまでは来れる日が不定期になりそうです

時間が空いたので投下します





ゾマリ「とはいえ、何処まで話してよいものか……」


ハリベル「やはり、天樹院エルモアに聞いた通り、会話に関しても相当制限されているようだな」


リリネット「……うん、『サイレン』の事について話すと、あたしたちは灰になっちゃうみたいだし」


ゾマリ「!!!」


リリネット「……?」


リリネット「あ!!!」



リリネット「ってあれ……?」

リリネット「なんともない……」



ハリベル「……今のは話しても構わん内容だったのか?」


ゾマリ「…………」


ゾマリ(……エルモア殿の話によれば、『サイレン』について“話そうとした”古比流氏は、灰になったと言った)


ゾマリ(…………)


ゾマリ(……あの時『サイレン』について話そうとした私に対し、『ネメシスQ』は制裁のため“直接私の元に”出向いた)

ゾマリ(エルモア殿の話の通りならば、『ネメシスQ』は私を即座に灰にしてしまう手段も持ち合わせていたはずだというのに……)


ゾマリ(……エルモア殿は、私たちが“ネメシスQに特別扱いされている”と言ったが、果たして本当にそうだったのだろうか)


ゾマリ(仮に、特別扱いをされていたのであったとしても……)

ゾマリ(あの時『ネメシスQ』が私の元を訪れたのには……それ以外に、何か、別の理由があったのでは……)


ゾマリ(…………)


ゾマリ(やはり、『ネメシスQ』を操る者に直接会わねば分からぬか……)



ゾマリ(原因は不明だが、今リリネット殿は『サイレン』について少しだが、話すことが出来た)

ゾマリ(ならば、私とて例外ではないはず……)



ゾマリ「……全てをお話しいたしましょう、私たちの身に今まで起こったことを」


ハリベル「……!」


リリネット「ちょっと……!ホントに大丈夫なの……?」


ゾマリ「ええ、恐らくは」

ゾマリ「それにこの機を逃せば、私たちの置かれた境遇を話す機会は二度と訪れないやもしれません」


リリネット「……わかったよ」





ルピ「グ……っ……!!」


バシュッ…


ルピ「……!」

ルピ「(くそっ……!“帰刃”が……!)」



アーロニーロ「「ハァ……ハァ……」」

アーロニーロ「「ドウヤラ、僕ノ勝チミタイダネ」」


バシュッ…


アーロニーロ「「……!!」」



ルピ「……!」

ルピ「……ハハ、キミも大分まいってるみたいじゃないか」



ルピ「一つ、訊かせてもらうよ」


ルピ「どうしてキミはこの闘いで、“今まで喰らってきた『虚』”の力を使わなかったんだい……?」


アーロニーロ「「…………」」


ルピ「ボクの考えだと」

ルピ「キミは力を“使わなかった”んじゃない、“使えなかった”んだ」


ルピ「幾万の『虚』の力、そしてこの“珠”の力……それを同時に行使していれば、もしかしたらボクを倒せていたかもしれない」


ルピ「でも、それをしなかった理由」


ルピ「キミは、“今まで喰らってきた『虚』”の力を失っているんだろう?」



アーロニーロ「「…………!」」


ルピ「やっぱりね」

ルピ「キミの今の“力”の全ては、キミがここで喰らった“珠”の“力”でしかない」


ルピ「でも、“只の『下級大虚』”に成り下がったキミを、ここまでの力量に押し上げたこの“珠”……」

ルピ「そこだけは称賛に値するよ」


アーロニーロ「「…………」」

アーロニーロ「「確かに、お前の言う通り、オレは『この世界』で目が覚めた時……自身以外の『虚』の力を全て失っていた」」


ルピ「ハハ、それは残念だったね」

ルピ「キミは、『十刃』としての力を失っただけじゃなく、この得体の知れない“珠”の力を幾百と借りてなお、ボクを倒せなかった」


ルピ「所詮、キミは『No.9』に過ぎなかったのさ……いや、今はそれ以下か」



ルピ「ボクも“帰刃”はもう使えなくなっちゃったけど、まだキミを倒すくらいの力は残ってる」

ルピ「地力でボクに劣るキミに、ボクを倒す手段があるのかい?」


アーロニーロ「「…………」」


ルピ「……ハハ」ヒュン


アーロニーロ「「……!」」



ガシッ!



アーロニーロ「「ぐ…………!」」


ルピ「どうする?命乞いでもするかい?」


ルピ「ま、許してあげないけどね」



アーロニーロ「「…………」」

アーロニーロ「「ヤハリ……ナニモ変ワッテイナイナ、オマエハ」」


ルピ「はぁ?」


アーロニーロ「「戦闘デトドメヲ刺サズニ相手ヲイタブルノハ、キミノ悪イ癖ダヨ、ルピ」」


ルピ「……ボクに説教のつもりかい?ここでどれだけ強がっても、“力”を失ったキミに敗けるほどボクは落ちぶれちゃいないよ」


アーロニーロ「「ああ、確かにオレは“力”を失った……“『虚』の力”を全てな……」

アーロニーロ「「嫌だったんだがな、この“力”を使うのは」」


ルピ「…………」


ルピ「……あのさあ、何言ってんのか全然ワカンナイんだけど」


ルピ「さよなら、もう死になよ」スッ


アーロニーロ「「ソウダネ……モウ、オ終イダナ」」

アーロニーロ「『中級大虚』」ユラ…


ルピ「……!」






アーロニーロ「『水天逆巻け』」





アーロニーロ「『捩花(ねじばな)』」











ドスッ…








ルピ「けほっ…………」ボタボタ


アーロニーロ「……“珠”ごと貫いた、灰になって消えるのも時間の問題だ」


ルピ「……なんだよ……その“力”……隠してた……のか……」


アーロニーロ「この“力”は『死神』の“力”、俺たちを斬る連中の“力”なんて、極力使いたくはなかったさ」


ルピ「……!」


ルピ「『死神』の“力”……か……」


ルピ「ハハ、『虚』が『死神』に殺されるなんてね……」



アーロニーロ「…………」


ルピ「どうした、ボクを喰らっていかないのかい?」

ルピ「早くしないと、灰になって消えちゃうよ?」


アーロニーロ「…………」


ルピ「…………」スッ


アーロニーロ「……!」


ルピ「まだボクにも、『虚閃』を一発撃つくらいのことはできる」

ルピ「この至近距離で撃てば、キミも無事じゃすまないだろうね」


アーロニーロ「…………」


ルピ「…………」ハァ


ルピ「……ったく、甘いんだよ、『虚』のくせに」

ルピ「大方、その『死神』の“記憶”にでも感化されたんだろうけど……さ」


アーロニーロ「…………」


ルピ「…………」

ルピ「せいぜい気をつけなよ、アーロニーロ……あの『塔』にはボクたちより強い連中が集まってる」


アーロニーロ「……!!」



ルピ「勘違いするなよ、ボクは別にキミに対して忠告をしてるわけじゃない」

ルピ「ただ、ボクに勝ったキミがみっともなく死んだら、ボクの立つ瀬がなくなっちゃうだろ?」


アーロニーロ「…………」


ルピ「ハハ……」

ルピ「ボクを喰らっていくんだから……つまんない死に方したら許さないよ」


ルピ「…………!」サラ…


ルピ「もう、お喋りする時間もなさそうだ」


ルピ「あーあ……せっかくのチャンスだったのになあ……グリムジョーのヤツを探し出して殺す、絶好のね」


ルピ「…………」


ルピ「ま、いっか」


ルピ「さようなら、アーロニーロ」



アーロニーロ「…………」


アーロニーロ「……ああ」


アーロニーロ「さよならだ、ルピ」




アーロニーロ「…………」



アーロニーロ「……お前の“心”は、俺が預かろう」スッ






アーロニーロ「『喰い尽くせ』」




アーロニーロ「『喰虚』」







ハリベル「……そうか、スタークの件は、やはりそういった理由だったか」


ヤミー「ちっ……ウルキオラの野郎も、スタークの野郎も、情けねえもんだ……」


ハリベル「…………」


ハリベル「それに、お前たちの置かれている状況も良くわかった」


ハリベル「お前たちは本当に、時間旅行をして『この世界』に来ていたのだな……」


ハリベル「話を聞いた限りでは、その『ネメシスQ』を操る人間がこの時間旅行の首謀者とみて間違いないだろう」


ハリベル「幾つかの疑問は残るがな……」


ゾマリ「疑問……ですか」


ハリベル「ああ……」


ゾマリ「お聞かせ、願えますか?」



ハリベル「そうだな……まず一つ、“何故私たちはこの世界にいるのか”」

ハリベル「とはいえ、この件に関しては、方法は不明にしろ『ネメシスQ』を操る人間が私たちを『この世界』に送り込んだことが原因である可能性が最も高い」


リリネット「……うん」


ハリベル「だが、疑問は次だ」


ハリベル「“何故お前たちだけが時間旅行を行っているのか”」


ハリベル「ゾマリの推測の通り、『ネメシスQ』を操る人間の目的が“世界崩壊の真実を知る”ことならば……“私たち”は何故、『この世界』に送られたのか」

ハリベル「例の『カード』も与えられずに、“世界崩壊の真実を知る”といった目的を果たせそうもない私たちを何故……」


ゾマリ「…………」



ハリベル「そして、私たちが『この世界』に送られた時期についても疑問がある」


ハリベル「何故、こうも出現時期がバラバラなのか……」


ハリベル「私は数年前に『この世界』で目覚め、ヤミーとゾマリは『現世』の崩壊前、リリネットと……恐らくスタークも、つい最近『この世界』で目覚めた」


ハリベル「私たちを集結させることによって“意図しない世界改変”が起こる可能性を極力減らすため、といった考えもできるが……」


ゾマリ「何故『カード』を与えられた者とそうでない者が存在するのか……と?」


ハリベル「ああ……」


ハリベル「『ネメシスQ』を操る人間は、何を基準にして、時間旅行を行う者を選別したのだろうな」


ゾマリ「…………」



ヤミー「お前らよ、少し難しく考えすぎなんじゃあねえのか?」


ハリベル「……!」


ヤミー「お前らの話を聞いててもよくわからねえけどよ、わからねえことはその『ネメシスQ』ってのを操ってる野郎に直接聞けばいいんじゃねえか?」

ヤミー「その野郎は『この世界』にいるんだろ?」


ゾマリ「…………」


リリネット「だから、それができてれば苦労してないっての!」


リリネット「そいつがどんなヤツかもわかんないし、ドコに要るかもわかんないから、あたしたちは今こうやって話をしてるんだろ!」


リリネット「そのくらいあたしでも直ぐにわかったよ!!あんたホントにゾマリの話聞いてたの!?」



ヤミー「お、おう」タジッ




リリネット「…………」


リリネット「ごめん、ムキになりすぎた……」


リリネット「なにあたしが偉そうに言ってるんだろうね……」


ハリベル「そう、気を落とすな」


リリネット「…………」


ハリベル「今、お前が誰よりも焦燥しているのは、私たちも理解している」


ハリベル「スタークとの繋がりが最も深かったのは、お前なのだから」


ハリベル「お前としては、一刻も早くスタークを探しに行きたい、だが私たちやゾマリには迷惑をかけたくない、というところが本音だろう」


リリネット「…………!」


ヤミー「ったく、ガキが一丁前に気ぃ遣ってんじゃねえよ」



ハリベル「…………」


ハリベル「話は変わるが、例の組織である『ワイズ』……」

ハリベル「お前たちも気づいているだろうが、恐らくは各地に点在するあの『塔』が奴らのアジトだ」


ハリベル「ウルキオラも、その『塔』の何処かにいるのだろう」


ヤミー「……!」


ハリベル「直接乗り込むのも一つの手だが、『この世界』は『現世』や『虚圏』と比べて霊子濃度が極端に薄い」

ハリベル「さらに、戦闘に於いては闘えば闘うほど、その『霊力』は急速に削ぎ落とされていく」


ハリベル「幾ら私たちが“PSI”の力を利用することが可能といえどな」


ゾマリ「……!」


ゾマリ「まさか……」



ハリベル「そのまさかだ、私とヤミーはお前たちと同様に“PSI”の力を行使することが出来る」


リリネット「……!」


ヤミー「俺やハリベルの“力”も、お前らと似たようなモンみてえだな」


ゾマリ「私たちと同じ、“PSI”の力を『霊力』に変換し、還元する能力……ですか」


ハリベル「お前たち程の力の上昇は見込めんがな」


ハリベル「先程の戦闘でも、ゾマリがあのジュナスという男を疲弊させていなければ、恐らく私に勝ち目はなかった……」


ハリベル「あの状況だったからこそ、私は『王虚の閃光』に全てを賭けることが出来た」



ゾマリ「…………」


ゾマリ「勝ち目がなかった、とは?」


ゾマリ「『最上級大虚』であるハリベル殿が“刀剣解放”を行えば、私よりも遥かに力量の上昇が見込めるはず」

ゾマリ「私の“刀剣解放”ですら善戦することのできたあの男相手ならば、それこそ一瞬で勝負を決することも……」


ハリベル「…………」

ハリベル「“刀剣解放”を行うこと自体は可能だろう……だが先程も言った通り、私とヤミーは“PSI”の力を行使できるとはいえ、お前たち程の急激な『霊力』の上昇は見込めない」


ハリベル「“帰刃”形態になったとしても、先程のお前と同様、あの男を打ち倒すまで“帰刃”が持続する可能性は低い」

ハリベル「仮に“帰刃”形態が持続したとしても、倒すことが出来るかどうか……」


ゾマリ「…………」



ハリベル「その点、お前たちの“PSI”能力は非常に強力だ」


ハリベル「その“PSI”の力を行使している状態ならば……ゾマリは『最上級大虚』、リリネットは『十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)』並の力までその『霊力』を引き上げることが出来るだろう」

ハリベル「あるいは、それ以上かもしれんな」


ゾマリ・リリネット「……!」


ハリベル「だがそれでも、現時点では、私たちに奴らに対抗できるだけの力があるとは考えにくい」


ハリベル「“PSI”の力を行使できるという前提で考えれば、『この世界』で『ワイズ』の幹部連中の強さ……あの男クラスの強さに真っ向から対抗できるのは、それこそスタークか、バラガンか……」


ゾマリ「『第1十刃』に、『虚圏の王』ですか……」


ハリベル「ああ、私はバラガンの奴とはあまり反りが合わんのだがな……奴の実力は認めざるを得ない」

ハリベル「あの二人は、私やウルキオラと同じ『最上級大虚』といえど、その力は私たちを遥かに上回る」

ハリベル「それは、お前もわかっていることではあろうが……」


ゾマリ「ふむ……」



ヤミー「しっかしよ、だったらどうすりゃいいんだ」


ヤミー「ココでずっと大人しくしてるワケにもいかねえだろ?」


ゾマリ「ええ、どうしたものか……」


リリネット「…………」







ピシッ…







ズズ…



『………………』



ハリベル「……!!」


ヤミー「……!なんだぁコイツは?」


リリネット「『ネメシスQ』……!」


ハリベル「これが……」


ゾマリ(…………!)

ゾマリ(私に“制裁”を加えに来たのだろうか……)



『………………』ボロ…



ゾマリ(…………違う)


ゾマリ(……妙だ、なにか様子がおかしい)



ザザ…


『一刻を争う事態になった……お前たちの力を借りる必要がある……!』


リリネット「……!」


『私自身の命が危険に晒されている……!』


『私が死ねば、全てが破綻してしまう……』


『来てくれ、私の下に……!』


『場所は九州鹿児島県沖“夢喰島(むくろじま)”……!』


『“夢喰島”で待っている……!』


『早く……来…………』



ピシッ…



カッ…!



リリネット「……消えた」

リリネット「死んじゃったってワケじゃ……ないよね?」


ゾマリ「恐らくは」



リリネット「でも、今のって……」


ゾマリ「どうやら、『ネメシスQ』を操る者からの救援要請のようですが……」


ゾマリ「『ネメシスQ』を操る者が、直接私たちに救援要請を行ったということは……その者は現在、あまり良い状況には置かれていないのでしょう……」


ゾマリ「しかし、これはある意味……」


ヤミー「スエルテ(ラッキー)、って言ったトコか?」


リリネット「……え?」


ハリベル「私たちの今の現状を最も理解しているのは、この『ネメシスQ』を操る人間、といったことになる」


ハリベル「ならば、先程ヤミーが言った通り、疑問は直接会って問いただすのが現時点での一番の得策……そう言いたいのだろう?」


ゾマリ「ええ、やはりそれが最善手でしょう」



ヤミー「よし、さっさとその“ムクロジマ”ってトコに向かおうぜ」


リリネット「でも、キュウシュウカゴシマケンオキ?ってどこにあるんだろ……」


ハリベル「この“根”には資料室があったはずだ、そこで地図を確認しよう」



ガサッ…


パラ…


ゾマリ「ありました、“ムクロジマ”……“夢喰島”」


ゾマリ「鹿児島から南西に約20km……無人島のようです」


ヤミー「ソイツは今、そこに隠れてるってワケか」


リリネット「どうする……?」


ゾマリ「向かいましょう」


ハリベル「……問題は“夢喰島”へ向かう手段だな」


ハリベル「ここから九州へ行くのには相当な時間がかかりそうだ、『黒膣』を開くことが出来ればいいのだがな……」


ゾマリ「『ワイズ』との戦闘も極力避けたいところです……“夢喰島”で何が待ち受けているかわからない以上、『霊力』の無駄な消費は抑えたい」

ゾマリ「それに、海を渡る手段も見つけねば」


ヤミー「ちっ、なかなか面倒なもんだ……」



ザッ…


カイル「おいおい、そういうことは俺たちにも相談してくれよ」


リリネット「……!」

ゾマリ「いつの間に……」


シャオ「皆さんを呼びに行ったら、揃っていなくなっていて……探していたら資料室から声が聞こえたもので……」

シャオ「盗み聞きをするような真似をして申し訳ありません」


ゾマリ「…………」


カイル「水くせえじゃねえか、俺たちも兄ちゃんや姉ちゃんたちに何か協力させてくれよ」


ハリベル「…………!」


ヤミー「ったく、お人好しなヤツらだぜ……」





アーロニーロ「「…………」」ユラ…


アーロニーロ「「……サテ、コレカラドウシタモノカ」」

アーロニーロ「「……!」」


バーリィ「――――」


アーロニーロ「「ソウダナ、コノ男ノ記憶ヲ覗イテオクノモ悪クナイ」」


アーロニーロ「「『喰虚』」」」ズズ…



アーロニーロ「「…………!!」」


アーロニーロ「「(『ワイズ』に、“星将”……“イルミナス・フォージ”……)」」

アーロニーロ「「(……他にも、今まで喰らった奴らの“記憶”には無い情報が数多くあるな……)」」


アーロニーロ「「(サッキノ“イルミナス・フォージ”ニ、“イルミナ”……)」」

アーロニーロ「「(……ソウカ、ルピガツケテイタ“珠”ハ、コノ“手術”デ得タモノダッタノカ)」」


アーロニーロ「「(あとは……“スカージ”に……ウルキオラ……!?)」」

アーロニーロ「「(まさかな……)」」



アーロニーロ「「(……コイツニモ、他ノ“禁人種”ト同ジデ、“記憶”ニモヤガカカッテイルヨウダネ……)」」

アーロニーロ「「(……完全ナ“記憶”ノ読ミ取リハ、少シ厳シイカナ)」」


アーロニーロ「「(しかし……こいつの“記憶”によれば、ここは『現世』の成れの果てか)」」

アーロニーロ「「(そして“反抗勢力”……やはり他の『十刃』も『この世界』にいるみたいだな……)」」


アーロニーロ「「(『認識同期』デ情報ノ共有ガ出来レバイインダケド……コノ“大気”ダト使イモノニナラナサソウダ)」」

アーロニーロ「「(ダッタラ、シバラクハ“コイツ”ニ成リスマシテ、情報ヲ集メルノモイイカモシレナイナ……)」」



アーロニーロ「…………」ユラ…




バーリィ「…………」


バーリィ「フム、なかなかしっくり来るじゃァないか」


バーリィ「しばらくは、この肉体を使わせてもらうとしよう」


バーリィ「『アーロニーロ・アルルエリ』は、少しお休みだ」


バーリィ「クク……」


バーリィ「さて……『塔』に戻るとするかネェ」

投下終了、七月に入れば投下頻度も元に戻ると思います

>>426
前半戦では浮竹と京楽の二人相手に戦えてたし、京楽はセロの無限連射でやられかけて
浮竹にもオレ卍解出すわっていうようなこと言ってるから始解より弱いってことないんじゃね?

後半戦もラブ&ローズと戦ってる最中に影鬼で不意打ち食らって、腹に重傷負って、しかも単行本の余白の二匹の狼を見る限りそれでリリネッとが死んだっぽいから能力も制限されちまったしな
バラガンが死んでしばらくショックで動きが鈍るような奴だからリリネットの死に何も思わなかったとは思えんし

エスパーダの数字は悪魔で殺傷能力で決められてるから、戦闘の強さはとは別
ヤミーが怪獣のような帰刀姿で0を名乗れるのが良い例

後は忘れられがちだが、虚圏内だと霊子だかの濃度で破面の能力も若干上がる設定

>>556
素人 「てめえは自分を指して破面№11と言った。つまり「11番目」だと」
「・・・てことはてめえの強さは破面の中で上から11番目って事か?」
シャウロン 「我々の番号は゛強さの序列゛ではなく゛生まれた順番゛です」
「゛№11(私)より下に限っては゛ですが。No.10以降は殺傷能力順です」

一護に十刃トップと勘違いされたウルキオラが4の数字を見せつけながら「十刃内での力の序列は4番目だ」

未解放ヤミーの10の数字を見た恋次が 「今まで戦ったどの十刃よりも力は下だ」

ハリベルが胸の数字を晒して素人が 「てめえ程の腕でまだ三番目か」

急所に卍解虚化月牙ををブチ込んでもまるで堪えていない事に驚く一護にヤミーが0番を見せながら
「つまりてめえが今まで戦った十刃の中に俺より強い奴は一人もいねえ」

ジャンプ掲載の地獄編序章の読み切りでアーロニーロと一触即発となったザエルアポロが
「十刃の数字は君のような馬鹿にも力の差を理解させるため」「僕は8番、君は9番。君は僕に敗北する」


よそのスレからコピペってきたっす

公式ファンブック「MASKED」より
【十刃】…藍染直属の精鋭部隊。霊力の高さで序列され、小さい数字ほど高い霊力を持つ。
破面の中から選りすぐられた、特に優れた戦闘能力を有する十体。
戦闘力の高い順に1から10までの番号を与えられ、身体にその番号を刻印している。

公式ファンブック「UNMASKED」より
クッカプーロ…ヤミーの傍らに寄り添う破面。
それは十刃の誰よりも強く、十刃の誰よりも弱い男の全てを知る、唯一無二の存在。

これもコピペの続きだな


>>555
まあ、スタークは未解放の時でも卍解チャン一(未解放ウルキと渡り合える)や剣八(当時でもノイトラには勝てる)が
反応出来ないようなスピードで織姫掻っ攫ってるから流石に解放したら、
第一解放のウルキオラや解放ノイトラよりはつええだろうな

忘れがちって書いてあるけどこのスレでも散々霊子濃度は虚圏>現世>サイレン世界って書いてある
しかも霊子濃度低いほど戦い辛そうに書いてあるし
あとこの話の中での十刃の強さは殺戮能力順を基礎として大方数字通りでスターク、バラガン>>ハリベル>ウルキオラは確定してるっぽい、強さ議論でもしたいならどっか別のスレ行ってこい

>>559
済まぬ・・・




エルモア「九州へ行く?」

エルモア「えぇよ、二、三人ついてってやりんさい」


リリネット「え……?ずいぶんとあっさり……」


エルモア「なーに、お前さんたちがおれば安心じゃわい」

エルモア「この子たちを任せたぞい、ゾマリ、ハリベル、リリネット」


ヤミー「おい、俺を忘れてねえか?」


フレデリカ「アンタはどちらかって言えば迷惑かけるほうでしょうが」


ヤミー「けっ、ヴァンにデザート食われて泣きわめいてたガキの言うこととは思えねえぜ……」


フレデリカ「な……!いつの話をしてんのよ!!」



カイル「ははっ、相変わらず仲がいいな、あの二人は」


ゾマリ「……ヤミー殿はいつもあのように?」


シャオ「ええ、フレデリカだけでなく、いつも僕たちを何かと気遣ってくれています」


マリー「すごく優しい人ですよね、ヤミーさん」


リリネット「…………」ポカーン


シャオ「どうしました?」


リリネット「へ?……あ、いやいや、ちょっとボーッとしてただけ!」



エルモア「で、誰が行くか決まったのかい?」


カイル「おう!俺とマリーと……あとはヴァンだな」


ヴァン「ちょっと!今の言い方は心外です!なんですかそのついでに……みたいな扱い!」


カイル「はっはっは、悪い悪い、そう機嫌悪くすんなって!」


ヴァン「む……」ムス…


カイル「明日の俺の分のプリンやるからよ、機嫌直してくれよ」


ヴァン「……本当ですか!そうと決まれば早くいきましょう!」ビシッ!


フレデリカ「まったく、わかりやすいヤツね……」



ラン「決まったか……」

ラン「よし、じゃあ俺の“トリックルーム”で例の洞窟まで転送しよう」


マリー「お願いします」ペコッ




ポタ…ポタ…



マリー「みなさん、足下が滑りやすくなっているので気をつけてくださいね」


ハリベル「ああ」


カイル「この洞窟は海へ通じてるんだ、まず海岸へ出よう」


ゾマリ「何か方法が……?」


カイル「おう、任しとけって!九州なんてすぐさ」


リリネット「……?」





ポコポコ…



リリネット「すごい……マツリの言ってた『バースト』、こんな使い方があるなんて……」


カイル「空間に大気を超圧縮変換した俺印の“PSIブロック”を造りだす空間操作系“PSI”、『マテリアル・ハイ』と……」

マリー「私の“テレキネシス”による潜水モードを組み合わせた……」


ヴァン「魅惑の深海ツアーです!!」ビシッ


リリネット「あなたたち、息ピッタリね……」


ゾマリ(マリー殿が操作する巨大な岩を足場に、カイル殿の“PSIブロック”で周囲の水を遮断した動く要塞……)

ゾマリ(これにより水中での移動を可とし、地上の敵に発見されることなく目的地へ向かうことができる……)


ゾマリ(……見事だ)



カイル「結構進んだな、少し休憩するか」

カイル「いったん海面に出よう」



ザパァ…



ハリベル「マリー、ここはどの辺りだ?」

マリー「えっと……もうだいぶ“夢喰島”に近いみたいです」


カイル「ここからは地図をあてにし過ぎない方がいい、“隕石”のせいで地形が変わってるからな」

ハリベル「一度海岸に上がり、はっきりと“夢喰島”の位置を確認したほうが良さそうだな」


ゾマリ「ええ」

ゾマリ「全員、十分に体を休めてから“夢喰島”へ上陸しましょう」


ハリベル「あとは、周辺の状況も少し探った方がいいだろう」


ヴァン「…………zzz」ムニャムニャ



ザッ…


カイル「この洞窟を拠点にしよう」


ゾマリ「では、少し周辺の状況を確認して来ます、マリー殿たちはしばし休息を」


カイル「俺も行くよ」


ハリベル「いや、マリーとヴァンをここに置いていくのは些か忍びない……カイル、お前もここに残ってくれ」


カイル「んー……そうだな、じゃあ周りの詮索は姉ちゃんたちに任せるよ」


ハリベル「ああ」


ヤミー「よし、行くか」




ザバァン…



ヤミー「何もねえな」


リリネット「……?」


ハリベル「どうした、リリネット」


リリネット「あっちの方、空が赤い……」


ハリベル「……!」


ゾマリ「何かが燃えている……それもかなりの広範囲で」


ゾマリ「……行きましょう」






アッシュ「オイオイオイ、また“星将”会議かよ……」


アッシュ「ヤバくねえか、一体なにが起きてんだ……?」


デルボロ「…………」


ネッカ「デルボロ、あんた直接ジュナス様に会ったんだろ?なにか話は聞いてないのかい?」


デルボロ「…………」


ネッカ「…………?」


デルボロ「ジュナス様は……『エスパーダ』と呼ばれる“反抗勢力”に敗れたらしい……」


ネッカ「な……!?」



アッシュ「ウソだろ……?」


デルボロ「こんな嘘を吐いてどうする」


デルボロ「幸いにも、致命傷は負わずに済んだらしいが……」


ネッカ「らしい?」


デルボロ「俺が直接ジュナス様にお目見えすることは叶わなかった……この話は全てシャイナ様に伺ったものだ」



ガシャァン!!!



オド「…………!」ビクッ



アッシュ「…………」ポタポタ


デルボロ「……どうした」


アッシュ「そいつらは今ドコにいるんだ?」


デルボロ「…………」


デルボロ「“反抗勢力”の下に向かうつもりなら止めておけ」


アッシュ「なんだと……!?」


デルボロ「ジュナス様が敵わなかった相手だぞ、お前や俺たちがノコノコ出向いたところで返り討ちに遭うのが関の山だ」


アッシュ「…………!!」


アッシュ「…………っ」ググッ…




バーリィ(このデルボロってのが“スカージ”のリーダーで間違いないな)

バーリィ(“コイツ”の“記憶”が鮮明に読み取れない以上、情報を探っていく必要がある……)


バーリィ(ソシテ……)



ウルキオラ「………………」



バーリィ(コノ『霊圧』、紛レモナク『第4十刃』……ウルキオラ・シファーノモノダネ)


バーリィ(しかし、『虚夜宮』で見た時よりも虚ろさに磨きがかかってやがる……コイツ、自我はあるのか……?)

バーリィ(だがオレに気づいていない以上、少なくとも『探査神経』は働いていない……か)



バーリィ(……ソレニ、ヤッパリルピノ言ッタ通リダッタヨウダ)

バーリィ(ウルキオラニ“イルミナス・フォージ”ガ施サレテイルトイウコトハ……)


バーリィ(この『塔』には『第4十刃』を捕獲することのできる、ウルキオラを上回る力を持つ奴がいる)

バーリィ(“星将”の中の誰かだとは思うが……)


バーリィ(ルピノ“記憶”ニアッタ“白髪ノ男”カ、ソレトモコイツラノ話ニ出テキタ“ジュナス”トイウヤツカ……モシクハ全ク別ノ……ハタマタ全員カ……)


バーリィ(…………)



アッシュ「おいバーリィ!」



バーリィ「……!」

バーリィ「どうかしたかい?」


アッシュ「さっきから珍しく押し黙りやがって……」

アッシュ「ジュナス様がやられたってのに、よくそんなに冷静でいられるな……!」


バーリィ「…………」


バーリィ「我々がここで平静を失ってもどうにもなるまい」

バーリィ「“情報”が少ない以上、今はジュナス様の帰りを大人しく待つのが得策だと思うがネェ……」


ネッカ「その通りだよ、アッシュ」

ネッカ「頭に血が上ってちゃ、冷静な判断もできやしない」


ネッカ「それに、アタシたちが勝手に動いたらそれこそジュナス様に迷惑をかけるだけだ」


アッシュ「ちっ……!」



デルボロ「…………」


デルボロ「アッシュ、ネッカ、バーリィ、オド……」


ネッカ「……?」


デルボロ「俺がこれから話すことを、外部に一切口外しないと誓えるか?」


アッシュ「どういうことだ?」


デルボロ「……この話は、シャイナ様から“スカージ”には伝えてはならないと言われている」


オド「……!」


アッシュ「オイオイ……なんだそりゃ、リーダーのお前だけが知ってるってことか」



デルボロ「とはいえ、大した話ではないのだがな」

デルボロ「“スカージ”の統率が乱れる恐れがあるとして、この“情報”は俺にしか与えられていない」


ネッカ「……統率?」

ネッカ「アタシたちに関することかい」


アッシュ「もったいぶらずに早く言えっての」


デルボロ「……わかった」

デルボロ「この話は、つい先ほどの話にも出た、“反抗勢力”である『エスパーダ』に関するものだ」


ネッカ「……!」

アッシュ「ちっ、その名を二度も聞くのはゴメンだぜ……」



バーリィ「…………」

バーリィ(何を話すつもりだ……?)



デルボロ「つい最近、新手の“反抗勢力”が現れたというのはお前たちも良く知ってるはずだ」

デルボロ「アッシュが闘った“生存者”も含めてな……」


アッシュ「…………」


デルボロ「その“反抗勢力”は、『エスパーダ』と呼ばれる組織を組んでいるらしい」


アッシュ「……ああ、さっきも言ってたしな、その辺りはもう大方の見当はついてるぜ」


デルボロ「問題は『エスパーダ』の組織員としての特徴に、“身体の何処かに数字の刻印が施されている”といった点があることだ」

デルボロ「あくまでシャイナ様の話によれば……だがな」


ネッカ「……?それがアタシたちと何の関係があるっていうんだい」


アッシュ「“数字の刻印”か……そういやドコかで……」



『『新入り』ねぇ……まったく、胸に“数字”の入れ墨なんかしちゃってまあ……』



アッシュ「……!!!!」バッ



ウルキオラ「………………」




アッシュ「……テメェ!!」ブンッ



ガシッ



アッシュ「…………!」ググ…


アッシュ「何故ソイツを庇う、バーリィ」


バーリィ「…………」ググッ


バーリィ「“反抗勢力”の一員であるといった確証がある訳でもあるまい……」


バーリィ「それに、ミスターデルボロが聞いた“統率の乱れ”とはこのことだろう……」


バーリィ「この男が『十刃』の一員であると、またその可能性があると我々が知れば、少なくとも部隊内での不和が発生するであろうことが容易に推測できる……というネェ……」


デルボロ「……ああ」


バーリィ(マッタク……余計ナコトヲ言ッテクレルヨ)



デルボロ「恐らくは十中八九、ソイツは『エスパーダ』の一員だろう」


アッシュ「だったらよ……!」


デルボロ「それでもコイツは俺たちにとっての大切な戦力だ、俺たち“スカージ”のな……」


ネッカ「…………」


デルボロ「それに、既に洗脳は完了している……」

デルボロ「その点を踏まえれば、コイツは“スカージ”の兵隊として、また“反抗勢力”の一員として……“いくらでも使い道がある”」


アッシュ「……?」


ネッカ「……あんたには似合わない発想だな、リーダー」

ネッカ「案外、あんたが誰よりも一番“反抗勢力”への復讐に燃えているのかもしれないね」


デルボロ「…………」



デルボロ「さて一旦解散だ、会議からジュナス様がお戻りになるまでにはまだ時間を要するだろう……」


デルボロ「今は、各自自分の担当に戻ってくれ」


デルボロ「分かっているとは思うが、“反抗勢力”……『エスパーダ』には警戒しておけ」


アッシュ「……あいよ」カツカツ


ネッカ「また“地域警備”に逆戻りかい……面倒なもんだよまったく」カツカツ


オド「…………」スタスタ



デルボロ「バーリィ」


バーリィ「……!」


デルボロ「お前は少しここに残ってくれ」



バーリィ「…………」


デルボロ「…………」


バーリィ「ミスターデルボロ、私になにか……」


デルボロ「…………」ヒュン


バーリィ「……!!」サッ



ガッッ!!!



バーリィ「(っ…………!!)」ズキッ


バーリィ「(この野郎……!もう気づきやがったのか……!?)」ヒリヒリ



バーリィ「突然、何を……?」


デルボロ「…………」


デルボロ「……いや、すまない」

デルボロ「今回、お前にはやたらと『あの男』を庇う言動が多かったからな……一瞬、お前はバーリィに扮した偽者ではないのかと疑った」


デルボロ「それに時折……お前からいつものお前と違う、何か別の匂いを感じた気がしてな……」


デルボロ「だが、俺の蹴りを受け止めたその『ライズ』……紛れもなく本物だ」


デルボロ「……試すような真似をして悪かった」



バーリィ「…………」


バーリィ「確かに、言動を振り返ってみれば私を疑うのも仕方のないことです……聡明な判断御見逸れ致しました……リーダー」


デルボロ「……そうか」


デルボロ「俺ももう行く、お前も『塔』の外へ出る機会は多々あるだろう……“反抗勢力”の襲撃には十分に気をつけろ」


バーリィ「……ええ、お気遣いありがとうございます」



カツカツ…



バーリィ(……ちっ)

バーリィ(一部隊を束ねるリーダーとして、部下の変化に対しては流石に鋭いな)


バーリィ(アトハ……)



バーリィ「…………」チラッ


ウルキオラ「………………」


バーリィ「……オイ」トンッ


ウルキオラ「………………」


バーリィ(心ココニ在ラズ、ッテ感ジダネ)

バーリィ(コレモ“イルミナス・フォージ”ノ影響……カナ?)


ウルキオラ「………………」


バーリィ「お前の胸の“イルミナ”を身体から取り除く手段があればいいんだがな……悪いが今、オレにはどうしようもない」

バーリィ「お前の事もなんとかしてやりたいが……まだそっちまで手が回りそうにないからな」


バーリィ「オレが『ワイズ』の内情を暴くのが先か、それともオレの正体がバレるのが先か……」


ウルキオラ「………………」


バーリィ「ま、安心しろ、オレに限ってヘマをするなんてことはないだろうよ」

次は木曜日の夜に来ます




パチパチ…



ヤミー「ちっ、そこらじゅうで人が死んでやがるな」


リリネット「…………」


ハリベル「かなりの数の人間がここに居住していたようだ……この荒れ様からして、何者かの襲撃を受けたのだろう」


リリネット「『ワイズ』……かな?」


ハリベル「ああ、どうやら人間同士のいがみ合いによる抗争……という訳ではなさそうだからな」


ゾマリ(……“根”以外にも、『現世』の崩壊を生き残った者たちがいたようだ)

ゾマリ(しかし、それも此処で潰えた)


ゾマリ(この痕跡を見る限りでは、炎を扱う“PSI”能力者による襲撃だろうか)


ゾマリ(だが、そうだとした場合この破壊痕には少々疑問が残る……)

ゾマリ(この家屋の破損具合を見れば、被害の原因は炎が燃え広がったといったような緩いものではなく、まるで凄まじい力で粉砕された……といった具合に激しく損傷している)



ゾマリ「…………」


リリネット「……!この人、まだ息がある……!」


ゾマリ「……!」


太河「う…………」


ゾマリ(右腕を失っている……)


太河「なんだ……お前たちも『ワイズ』……か……?」


ハリベル「……違う、我々は『ワイズ』ではない」


太河「そうか……なら“生存者”か…………」


太河「気をつけろ……俺たちを襲ったのは……『ワイズ』……銀の長髪の男に……巨大な大鎌を持った……長身で隻眼の男……」


ゾマリ・ハリベル「……!!!」


ゾマリ(まさか……)



ハリベル「リリネット」


リリネット「え?」


ハリベル「ヴァンを呼んできてくれ、この男を治療する」


リリネット「わ、わかった」ダッ


太河「治療だと……?」


太河「やめておけ……俺はもう助からない……なにせ、腕が吹き飛んでいるんだ……」


太河「っ……」ズキッ


太河「…………」


太河「……――――」


ゾマリ・ハリベル「……!」


ゾマリ「どうやら、私たちで洞窟まで運んだ方が良さそうですね」




ヴァン「…………」ポウ…


太河「…………」


マリー「どう?ヴァン君、治りそう……?」


ヴァン「わかりません……とりあえず、外傷の治療は完了しました」

ヴァン「あとは、この人の生命力と、精神力に賭けるしかありません」


マリー「…………」



ザッ……



マリー「……!」


ヤミー「おい、コイツもまだ息がある、治してやってくれ」


ドサッ…


億号「――――――」



マリー「ハリベルさんたちはどこに……?」


ヤミー「あいつらなら、他の“生存者”を探してる」

ヤミー「そのうち戻って来るだろうよ」


カイル「ヴァン、まだ治療は続けられるか?」

カイル「疲れたら、脳に負担が来る前に休んだ方がいい」


ヴァン「なに言ってるんですか、このくらいへっちゃらです!」


マリー「無理はしないでね……?」


ヴァン「心配ご無用!このヴァンにお任せあれ!」ビシッ



ザッ…


ハリベル「……ゾマリ」


ゾマリ「ええ、先程の男の発言……恐らくはノイトラ殿のことでしょう」

ゾマリ「ああまで特徴が一致している以上、彼以外を指しているとは考えにくい」


ハリベル「…………」


ハリベル「あの男の発言が真実ならば、ノイトラは『ワイズ』に加担しているとでもいうのか……?」


ゾマリ「そうとは考えたくないものですが……仮に彼が『ワイズ』として活動しているならば、ウルキオラ殿と同様の状況に置かれていると考えた方が良いでしょう」


ハリベル「……洗脳、か」


ゾマリ「…………」




ハリベル「どうやら、これ以上の捜索は意味を成しそうにないな」

ハリベル「あの二人の男がかろうじてこの襲撃を生き残った、といったところか」


ゾマリ「ええ」

ゾマリ「他にも、何か『現世』の崩壊に関する手掛かりが見つかればよいと考えていましたが……資料に類する物は全て、この襲撃により燃え尽きてしまったようです」


ハリベル「…………」


ハリベル「戻るか」



ザリッ……ザリッ……



ゾマリ・ハリベル「……!」


ハリベル「あちらの岩陰の裏からか……まだ“生存者”がいたようだな」


ゾマリ「私が確認して来ます」



ゾマリ「…………」スッ



ザリッ……ザリッ……



ノイトラ「…………」フラッ


ゾマリ「……!!!」



ゾマリ(間違いない……彼は『第5十刃』、ノイトラ・ジルガ……)

ゾマリ(まさかこうも早く遭遇するとは)


ゾマリ(しかし、極度に疲弊している……私が『霊圧』を感じ取れないほどに……)


ゾマリ(彼の身体に……煤、だろうか、何か戦闘の跡が見て取れるが……)

ゾマリ(少なくとも、『ワイズ』に洗脳されているようには見受けられん)


ゾマリ(出るか……)



ザッ…


ノイトラ「…………!」


ノイトラ「……誰だ!」ブンッ



スカッ



ゾマリ「…………」スッ


ノイトラ「てめえ……!……ゾマリ、か?」


ゾマリ「お久しぶりです、ノイトラ殿」


ノイトラ「俺に何の用だ……『第5十刃』の俺の寝首でも掻きに来たか……?」ヨロッ


ゾマリ「…………!」


ノイトラ「っ……」グッ



ゾマリ「その消耗具合……もしや『ワイズ』と戦闘を……?」


ノイトラ「…………!」


ノイトラ「……てめえには関係のねえことだ」


ゾマリ「…………」


ノイトラ「はぁっ……はぁっ……」


ノイトラ(クソ……あの銀髪野郎との戦闘は大したモンじゃあなかったハズだ……!)

ノイトラ(この身体の重さは『霊力』を失いすぎたツケか……?)


ノイトラ(それに、『現世』とも『虚圏』とも違う『この場所』に来てから、どうも『霊圧』の調整がうまくいかねェ……)


ノイトラ「…………」フラッ



ドサッ……



ゾマリ「……!!」



マリー「ハリベルさんたち、遅いですね……」


カイル「そうだな……俺が見て来るよ」



ザッ…



マリー「……!」


ハリベル「すまない、遅くなった」


ヤミー「なにしてやがったんだ、“生存者”の捜索にしちゃあずいぶん時間がかかったみてえだが……」



ザッ…



ゾマリ「申し訳ありません、『彼』を運ぶのに少々時間が……」


ノイトラ「――――――」


ヤミー「……!」


リリネット「ノイトラ……!?」




ヴァン「…………」ポウ…


ヴァン「……ふぅ」


ノイトラ「…………」


マリー「ヴァン君、少し休んだほうが……」


ヤミー「そいつは頑丈な野郎だからな、それだけ治せば十分だろう」


ヴァン「わかりました、お言葉に甘えて少しだけ……」ウトウト


ヴァン「………zzz」


リリネット「寝るのはやっ!」


カイル「ヴァンの能力は強力だけど、脳に負担がかかりやすくて疲れやすいんだ」

マリー「だからヴァン君は、脳の回復のためにいつも私たちより睡眠を多くとるんです」


リリネット「そうなんだ……」



カイル「それよりさ、その人も姉ちゃんたちの知り合いなのか?」


リリネット「うん」


ハリベル「私たちと同じ『十刃』で、名をノイトラ・ジルガという」


カイル「へぇ……!」


マリー「でも、よかったです……ハリベルさんたちのお友達が無事見つかって……!」


ハリベル「……“友達”というにはかなり語弊があるがな」


カイル「でもさー、なんか姉ちゃんたちの仲間ってみーんな強そうだよな」

カイル「この人ともいつか組み手をしてみたいよ」


ハリベル「やめておいた方がいい、その男は『十刃』の中でも一、二位を争うほど好戦的な性格だ、下手をすれば只の殺し合いになりかねない」


カイル「ちぇー」


ハリベル「私はもう一度外の様子を探って来る、先程は見当たらなかったが……この洞窟が“禁人種”に気づかれた恐れもあるからな」


マリー「気をつけて下さいね」




ノイトラ「…………!」ガバッ


カイル「あ!」


ゾマリ「目覚めましたか」


ノイトラ「……ゾマリか」

ノイトラ「なんだ、こいつらは」


カイル「……ん?」


マリー「…………」


ヴァン「……zzz」


ゾマリ「私たちの“協力者”です」


ノイトラ「“協力者”だァ……?人間なんざと手を組んで何をしようってんだ」


ヤミー「こりゃあいっぺん一から話したほうがいいかもしれねえな」


リリネット「だね」





ノイトラ「……今のが全てか」


ゾマリ「ええ」


ノイトラ「…………」

ノイトラ「堕ちたな、てめえらも」


ヤミー「……なに?」


ノイトラ「ここが何処で、てめえらが何をしようとしてんのかは知ったこっちゃねえが……」

ノイトラ「『虚』が人間と仲良しこよしってか……?くだらねェ……」


ノイトラ「てめえらカスどもが徒党を組んだところで何が変わるってんだ」

ノイトラ「恥だとは思わねえのかてめえらは……てめえら自身なにをしてるか分からねえってワケじゃあねえだろうが」



ゾマリ「……認めたくはないものですが、『この世界』での私たちは『弱者』です」


ゾマリ「だからこそ、『現世』の崩壊の手掛かりを掴むためにも、『この世界』で『ワイズ』と戦う為にも、こうして彼らと協力を……」


ノイトラ「それが恥だって言ってんだ!!!」


マリー「……!!」ビクッ


ノイトラ「『十刃』がこんな腑抜けの集まりだとは思ってなかったぜ……」


ノイトラ「『ワイズ』だかなんだか知らねえが……そんなもん俺一人でもなんとかしてやる……!」


ヤミー「……意地張ってんじゃねえよノイトラ、現にテメェはくたばりかけた状態でここに担ぎ込まれて来やがったんだ」


ヤミー「どうせその『ワイズ』に敗けたか、苦戦でもしたんだろうが」


ノイトラ「……!」



ノイトラ「敗けちゃいねえよ、最強は俺だ……!」


ノイトラ「…………」


ノイトラ「……てめえらは精々ここの人間共と傷の舐め合いでもしてろ」


ノイトラ「あばよ」ザッ



リリネット「ノイトラ!」



ノイトラ「……なんだクソガキ」


リリネット「あんたそれ本気で言ってんの……?あんた独りで『ワイズ』に敵うわけないだろ!」


ノイトラ「……あァ?」


リリネット「言わせてもらうけど……今のあんたは全然強そうに見えない……!」

リリネット「くだらない意地はって、強がって……無駄に死にに行こうとして、ホントなに考えてんの……?」


ノイトラ「……オイ」



リリネット「『この世界』では、独りじゃどうにもならないってことぐらい、あんたもわかってるんだろ!?」


リリネット「今のあんたは自分の弱さを認めたくなくて、それを隠してるだけ……!」

リリネット「あんたは……」


ノイトラ「黙れ……!」ガシャ…


ゾマリ・ヤミー「……!」



ザッ…



マリー「……!」


ハリベル「何をしている、ノイトラ」


ノイトラ「……!!!」


ノイトラ「ハリベル……!」



ハリベル「…………」


ノイトラ「なんだその眼は……」


ハリベル「私たちと共に来い、ノイトラ」


ノイトラ「…………!」


ノイトラ「ふざけんな!!!」ブンッ



ギィン!!!



カイル「姉ちゃん!」


ノイトラ「イラつくんだよてめえは……」ググ…

ノイトラ「てめえを見てると、“アイツ”を思い出す……!」


ハリベル「…………」ググッ


ノイトラ「同じだ、てめえもよ……その眼は“アイツ”と同じ、俺を“弱え奴”として見てやがる眼だ」



ノイトラ「どうした、反撃しろ……!」


ノイトラ「来ねえなら俺がてめえを殺す」


ハリベル「…………」スッ


ハリベル「お前と戦うつもりはない」


ノイトラ「それがイラつくんだよ……!」


ノイトラ「てめえはよかれと思ってやってんだろうがな……情けってのは戦いの中で軽々しくかけるモンじゃあねえんだよ!!!」ブンッ



ガシッ



ノイトラ「……!」


ゾマリ「ノイトラ殿……」



ノイトラ「止めんじゃねえ……!」


ゾマリ「何故、そうまでしてハリベル殿と戦おうとするのです」


ノイトラ「……気に喰わねえんだよ、戦場でメスがオスの上に立つのがな」


ゾマリ「…………」


ゾマリ「仮にその言葉が貴方の本心であったとしても……それでも貴方の戦いには、目的が見受けられない」


ノイトラ「……目的なら見えてるさ」

ノイトラ「戦いこそが俺の目的だ」


ゾマリ「…………」


ノイトラ「俺は戦いの中で死にてえんだ」


ノイトラ「だから俺は強くなる、どこまでも」


ノイトラ「強くなれば戦いを引き寄せられる、そうすれば常に戦いの中で呼吸できる」


ゾマリ「……陶酔に過ぎませんよ、それは」


ノイトラ「確かにな」


ノイトラ「だがゾマリ、てめえにそれを言われる筋合いはねえ」



ノイトラ「俺は行く」


ノイトラ「戦いに美学を求めて、死に美徳を求めて何がいけねえ」


ノイトラ「俺は斬られて倒れる前に息絶える、そういう死に方をしてえんだ」


ゾマリ「…………」


ノイトラ「どうする、力づくでも俺を引き止めるか」


ゾマリ「…………」


ノイトラ「…………」


ノイトラ「……あばよ、もう俺に関わるな」ザッ


リリネット「ノイ…………むぐっ!」


ゾマリ「…………」スッ





リリネット「…………」


リリネット「なんで引き止めなかったの……」


ハリベル「…………」


ゾマリ「リリネット殿」


リリネット「…………」


ゾマリ「あれは、ノイトラ殿の持つ“信念”なのです」

ゾマリ「“信念”を踏みにじることは、何人たりとも許されることではない」


リリネット「……!」


リリネット「でも……」


ゾマリ「例え先に待つものが絶望であろうとも、彼は己の道を進むと決めた」


ゾマリ「ならば最早私たちに、彼を止める資格などありません」

次は土曜日か日曜日の夜に来ます






カツ……カツ……







弥勒「…………」


弥勒(この何も無い世界を眺めるのが好きだ)


弥勒(あの汚れた人間たちのニオイがしない、それだけで心が落ち着く)


弥勒「…………」





カツ……



グラナ「よう」



弥勒「……グラナか」


グラナ「久しぶりに顔を見せたな、こんなトコにばかり引き籠ってないでたまには外に出てこい」


弥勒「お前がいれば、俺が動く必要もないからな」


弥勒「信頼してる、グラナ」


グラナ「へっ、なんちゅう言い草だ」



弥勒「わざわざこんな所まで何をしに来たんだ、まさか俺を心配して顔を見に来たわけでもあるまい」


グラナ「ま、そう言ってやりたいトコだがな……今回はお前に伝えたい事があってここに来た」


弥勒「やはりそうか、あまり面倒な事ではないといいが……」


グラナ「ジュナスとドルキが“反抗勢力”にやられた」


弥勒「…………!」


弥勒「……死んだのか?」


グラナ「いや、死んじゃいねえよ、ちっと怪我を負っただけだ」

グラナ「二人とも相当応えたんだろうな、ジュナスもドルキも二度目の“イルミナス・フォージ”を受けて自らの力を高めてやがる」


グラナ「ジュナスのやつに関しては、わざわざ俺に“稽古をつけろ”なんて似合わねえことも言ってきやがったしな」



弥勒「そうか、ジュナスが……」


グラナ「あいつ曰く、『俺は力に溺れたクズのままあの場でくたばるところだった』『もう二度と理子を悲しませるわけにはいかない』、んだとよ」

グラナ「ドルキのやつも地域警備の任務を“スカージ”に丸投げして、ひたすら『爆塵者』の洗練に励んでやがる」


弥勒「ふっ……ドルキはともかく、あのジュナスがそこまで言うとはな」


グラナ「なんだよ、“星将”が二人もやられてんだからもうちょい焦るかと思ったぜ」

グラナ「てっきり“反抗勢力”の事についてでも聞いてくるかと思ってたんだがな」


弥勒「何度も言うが、お前やジュナスがいてくれるお蔭で、俺はこうして俺自身の成すべきことを全うできている」


弥勒「お前たちがいて、焦ることなどなにもないさ」



グラナ「……ったくよ、褒め過ぎで怖えっつの」


弥勒「“反抗勢力”の件はお前に任せる……楽しめよ、グラナ」


グラナ「ああ」


グラナ「っと」


グラナ「すっかり忘れてたが、もう一つ伝えることがあった」


グラナ「会議でシャイナが言ってたんだけどよ、ここ最近特定の番地を中心に『神経制御塔』が次々に“消失”してやがるらしい」


弥勒「“消失”だと……?」


グラナ「ああ、完全に消えたってワケじゃあないらしいんだが、どうやら『塔』そのものが急速に風化したような痕跡があるって話だ」


弥勒「妙だな……原因は掴めていないのか」


グラナ「それに関しちゃ、『塔』が“消失”した区域をシャイナに調べさせてるトコだ」



グラナ「ぶっちゃけた話、『塔』がちっとばかし無くなったところで大した影響もないんだが……また造り直せばいいだけだしな」


グラナ「まあ、一応伝えておいた方がいいかと思ってな」


弥勒「…………」


グラナ「どうした?」


弥勒「早急な解決を頼む、グラナ」


弥勒「俺は忙しい、もういくぞ」


グラナ「ああ」




弥勒「…………」


弥勒(やはり現れたか、十年の時を経て)


弥勒(確証はないが、ジュナスとドルキがやられたのも、“あの時”の連中の仕業なのだろう)


弥勒(恐らくは、『神経制御塔』の“消失”に関しても……奴らが関わっている)


弥勒(本物の“反抗勢力”の登場といったわけだ)


弥勒「…………」


弥勒(『彼女』が予言していた、“『W.I.S.E』に仇なす強大な敵”の出現……)


弥勒(…………)


弥勒(俺も近い未来、奴らと戦う時が来るのかもしれんな)






リリネット「…………」


ゾマリ「……お騒がせして申し訳ありません」


カイル「……なあ」


ゾマリ「…………」


カイル「さっきの人だけどさ、なんかハリベルの姉ちゃんに対してこう……対抗心みたいなものがあるように感じたんだ」

カイル「あんまり仲が良くないのか……?」


ヤミー「あいつは昔からああなんだよ」

ヤミー「ハリベルがまだ『十刃』にいなかった時のことだがな、その時期にもノイトラより“数字”が小せえ女の『十刃』が一体いたんだが……」


ヤミー「あいつはその時も、その『十刃』にやたら食って掛かってやがったんだ」

ヤミー「あいつの言ったとおり、女が自分より立場が上なのが気に入らねえんだろ」


ヤミー「ま、実際はなにか別の理由があったのかもしれねえがな」



カイル「…………」


リリネット「そんなヒトがいたなんて初めて聞いた……」


ヤミー「かなり昔の話だからな、テメェが知らねえのも無理はねえ」

ヤミー「そいつの名前は忘れちまったが……」


ハリベル「『ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク』」


リリネット「……!」


ハリベル「私も名前しか知らんのだがな」

ハリベル「背中に『3』の“数字”を持ちながら、ある日突如消息を絶った『十刃』だと聞いている」


ゾマリ(…………?)


ゾマリ(…………)



ゾマリ「…………」


リリネット「……どうしたのゾマリ、またなにか考えごと?」


ゾマリ「いえ、お気になさらず……」


リリネット「……?」




マリー「この人たち、大丈夫かな……なかなか目を覚ましませんけど……」


億号「…………」

太河「…………」


ヴァン「らいじょうぶれふよ……」ウトウト

ヴァン「じょうたいもだいぶかいほうにむかってますので……」


カイル「おいおい、寝てろって」



ヤミー「しっかしコイツらが目え覚ますまで待ってちゃ、“ムクロジマ”に到着するのはいつになるかわかったもんじゃねえ」


ハリベル「とはいえ、安全が確立されていない場所に怪我人をつれていくのも危険だ」


カイル「んー……」



リリネット「なら、先にあたしたち四人で“ムクロジマ”に向かえばいいんじゃない?」

リリネット「カイルとマリーとヴァンは、この人たちが目を覚ましてから“ムクロジマ”に来ても遅くはないと思うし……」


カイル「でもよ、姉ちゃんたちだけだと海を渡る手段がないんじゃないか?」


ゾマリ「その点はご心配なく、一つ方法がありました」


カイル・マリー「え?」


ヤミー「お前らもう忘れたのか、結構前だが“アレ”はお前らに一度見せてるだろうが」


マリー「……?」


ハリベル「地図によれば海岸から“夢喰島”までの距離は20km程度、特に問題はないだろう」



カイル「……ああ、思い出した!」




リリネット「って言われても“アレ”がなんのコトかわかんないんだけどね、考えてることはみんな同じなんだろうけど」


ヤミー「ハリベルかゾマリに作ってもらえばだいぶ安定するだろうよ」


リリネット「結局ヒトまかせなのね……」


ヤミー「『虚圏』や『現世』で作るならワケもねえんだがな……『ここ』じゃあ元々脆いうえに、俺が作ったらすぐに崩れて全員海にドボンだ」


リリネット「それなら最初から出来ないって言えばいいのに」


ヤミー「……まったく減らず口の多いガキだ、どうせお前も作れねえくせになに言ってやがる」ギューッ!!!


リリネット「いひゃいいひゃい!!ほっへひぎれる!!!」ジタバタ



リリネット「いたたた……あんたはフレデリカと違って馬鹿力なんだからもうちょい加減しなさいっての……」ヒリヒリ


ヤミー「わりィわりィ」



カイル「じゃあ、姉ちゃんたちが先に“夢喰島”へ向かって、この人たちの目が覚めたら俺たちも姉ちゃんたちの後を追いかける……ってことでいいのか?」


ハリベル「ああ」


マリー「私たちもなるべく早く向かいます!」


ハリベル「なに、それほど焦らずとも大丈夫だ」


ゾマリ「では、行きますか」


リリネット「いざ、“ムクロジマ”へ!」

明日の夜また来ます




ザバァン……



ゾマリ「では私が『霊子』で足場を固めます、踏み外さぬよう後ろについて来て下さい」


ハリベル「いや、ここは私が道を作ろう」

ハリベル「お前には先程のノイトラとの件といい、少なからず疲労が溜まっているはずだ」


ゾマリ「しかし……」


ハリベル「遠慮をするな、こういった時くらい私にも働かせてくれ」


ゾマリ「…………」

ゾマリ「わかりました、ここはお任せします」



パァァ……



ハリベル「これで道としての視認は出来るはずだ、少々脆いが私に続いてくれ」




スタスタ……



リリネット「うーん……地図によればこの辺りであってるはずなんだけど……」


ヤミー「ちっ、よこせ」バッ


リリネット「あ!」


ヤミー「“ムクロジマ”……と」


ヤミー「あー……どこに書いてあんだ?」


リリネット「…………」ワナワナ


リリネット「わかんないなら取ってくなっての!」バッ


ヤミー「おっと」ヒョイ


リリネット「もう!貸して!」ピョンピョン



ハリベル「ヤミー、リリネット、あまり暴れるな……足場を踏み外すぞ」


リリネット「はい……」


ヤミー「……すまねえ」



ヤミー「それにしてもよ、ホントに“ムクロジマ”なんてあんのか?」


ゾマリ「……見えました」


リリネット「え……どこに?」


ハリベル「見ろ、空間にヒビが入っている」



ピキッ……



リリネット「……!」

リリネット「ホントだ……空の中であの部分だけが黒い……」


ハリベル「恐らくは“夢喰島”の存在を隠すための、“PSI”による空間迷彩だろう」


リリネット「でも、なんでヒビが……」


ゾマリ「『ネメシスQ』を操る者の“PSI”の力が弱まっている……ということでしょう」


ゾマリ「何はともあれ、急いだ方がよさそうです」


ハリベル「さあ、行くぞ」



スタッ…


リリネット「すごい……!」

リリネット「ここが“ムクロジマ”……」


ハリベル「森……か、外の荒廃した世界とはまるで別物のようだな」


ヤミー「しっかし思ったより広いな、この島の中から例の野郎を探さねえといけねえのか」


ゾマリ「手分けをして探した方が良さそうですね」

ゾマリ「見落としを避ける為にも、ここは二手に分かれて行動しましょう」


ハリベル「そうだな……ならば私とヤミーは西側を探すとしよう、お前たちは東側を頼む」


ゾマリ「わかりました」




ザッ…



リリネット「なにもないね……」


ゾマリ「ええ」



ガサッ!



リリネット「……!!」



「………………」バッ



リリネット「……!」

リリネット「『ネメシスQ』……じゃない?」


ゾマリ「雰囲気は似ていますが、恐らく別物でしょう」


リリネット「だね、なんか小っちゃい『ネメシスQ』って感じ……」



「…………!」ワタワタ


ゾマリ「随分慌てている様子ですが……」


「…………!!」コッチコッチ


リリネット「あたしたちについて来てほしいのかな」


「…………!」ダッ


リリネット「あっ、走り出した!」


ツルッ


「…………!!」ズザー


リリネット「転んだ……」


「…………」ムクリ


「…………!」ダッ


リリネット「また走り出した……」


ゾマリ「追いましょう」



ピタッ



「………………」ヨタヨタ



リリネット「止まった……」ハァハァ

リリネット「……ん、なんだろコレ」


ゾマリ(石で造られた建造物……)

ゾマリ(扉はあるが、この建造物そのものは非常に小さい……地下に繋がっているのだろうか)


ゾマリ「……これも、先日見た“地下倉庫”と似たようなものでしょう」


ゾマリ「…………」

ゾマリ「ここに、貴方の主人が?」


「………………」コクリ



ゾマリ「行きましょうか」


「………………」ブルブル


リリネット「大丈夫かな……この子、怯えてるみたいだけど」

リリネット「中になにかあるんじゃ……」


ゾマリ「…………」


「…………!」


「…………」ウーン…


リリネット「……?」


ゾマリ「心底怯えた様子ではなさそうですが……」

ゾマリ「とりあえず、私が屋内を確認して来ます」


リリネット「待って、あたしもいく!」




カツカツ……



リリネット「長い階段……」


ゾマリ「やはり、地下に繋がっていましたか」



スタッ…



ゾマリ「ふむ……どうやら構造を見る限りでは、ここは何か重要な施設のようですね」

ゾマリ「今は、機能していないようですが……」


リリネット「施設……」


ゾマリ「何か、『現世』の崩壊について新たな発見があるやもしれません」

ゾマリ「少し周囲を探ってみましょうか」


リリネット「うん」



ガサッ


ペラリ…


ゾマリ「…………」


リリネット「なんか、不気味なトコ……」


リリネット「かなり広いけど……ここ、何のための施設なんだろう」


ペラリ…


ゾマリ「…………」


リリネット「なにかわかった?」


ゾマリ「資料の文字が滲んでしまっています……残念ながら、これでは“情報”を得ることは出来そうにありません」


リリネット「そう……」


ゾマリ「先に進みましょう」




ザッ…



リリネット「なんか、進めば進むほど床が汚くなってく……」


ゾマリ「…………」スッ


ゾマリ(確かに、物が不用意に散乱している……)

ゾマリ(それに、ただ散乱しているだけではない……資料や備品が人為的に破壊されたような痕が見て取れる……)


ゾマリ(この資料も、こちらの棚も、まるで強い憎しみを持って切り刻まれているかのようだ……)


ゾマリ(……『ネメシスQ』、あるいは『ネメシスQ』を操る者の仕業だろうか)








ガゴン!!!









ギギギギギギ……!!



リリネット「………!!」ビクッ


リリネット「なんの音……!?」


ゾマリ「なにか、巨大な扉のようなものが開く音……でしょうか」




カツン……カツン……




リリネット「……奥の方から誰か来る!」


ゾマリ「……身を潜めましょう」スッ


ゾマリ(…………)

ゾマリ(『霊圧』は感じない、どうやら『虚』ではないようだが……とはいえ『ワイズ』がこの島に気づくとも考え難い)


ゾマリ(ならば、『ネメシスQ』を操る者自身が……)

ゾマリ(……違う、その者に活動できる力があるのならば私たちに助けを求める必要などない)




カツン……カツン……



カツ……――――



リリネット「……!!」


リリネット(足音が止まった……)





ザッ…



ヤミー「ちっ、木ばっかりで何もありゃしねえ」


ヤミー「ハリベル、そっちは何かあったか?」



ヤミー「…………」



ヤミー「……いねえ、どこ行きやがったんだ?」




ハリベル「ここにも何も無い、か……」



ガサッ…



ハリベル「…………!」



「ハリベル様!」



ハリベル「……!!!!」



ハリベル(馬鹿な……!)



ハリベル「お前たち、どうしてここに……」


「何言ってるんですか!ハリベル様がいなくなってから、あたしたち必死でハリベル様のこと探してたんですよ!」


「あなたがダラダラしてたお蔭でこんなにも遅くなってしまいましたけど」


「んだとコラ!!!」


「みっともない喧嘩してんじゃないよ、アパッチ、スンスン」


アパッチ「あァ!?いつになく仕切るじゃねえか、ミラ・ローズ」


スンスン「……無駄に大声を張り上げるのはやめてもらえません?」



ハリベル「…………」


アパッチ「さあ、『虚夜宮』へ帰りましょうハリベル様」


ハリベル「……帰るだと?」

ハリベル「『黒膣』も開かないこの状況で、一体どうやって帰ると……」


ミラ・ローズ「アタシたちで別の方法を見つけました、一緒に来て下さい」


ハリベル「…………」


ハリベル「……駄目だ、私にはまだやるべきことがある」

ハリベル「悪いが、お前たちに従うことは出来ない」


スンスン「何故です?」


スンスン「やるべきことなど、忘れてしまいましょう」



ハリベル「……何を言っている、スンスン」



アパッチ「あたしたちは」


スンスン「私たちは」


ミラ・ローズ「アタシたちは」



アパッチ「ハリベル様を助けに来たんです」


スンスン「ハリベル様を助けに来たんです」


ミラ・ローズ「ハリベル様を助けに来たんです」



アパッチ「なのに、どうしてあたしたちの言うことを聞いてくれないんですか」


スンスン「なのに、どうして私たちの言うことを聞いてくれないんですか」


ミラ・ローズ「なのに、どうしてアタシたちの言うことを聞いてくれないんですか」




ガシッ…



ハリベル「……!」グッ…



アパッチ「さあ」ググッ…


スンスン「さあ」


ミラ・ローズ「さあ」



アパッチ「行きましょう」


スンスン「行きましょう」


ミラ・ローズ「行きましょう」



アパッチ「一緒に」


スンスン「一緒に」


ミラ・ローズ「一緒に」




ハリベル「どうした、お前たち……!」グッ…



アパッチ「さあ」ググッ…


スンスン「さあ」


ミラ・ローズ「さあ」




アパッチ「さあ」


スンスン「さあ」


ミラ・ローズ「さあ」




アパッチ「さあ」


スンスン「さあ」


ミラ・ローズ「さあ」




アパッチ「一緒に」


スンスン「一緒に」


ミラ・ローズ「一緒に」

投下終了、今日から少し投下が不定期になりそうです





リリネット「(……足音が聞こえなくなったけど、どうしたんだろう)」ヒソヒソ


ゾマリ「(……恐らく、私たちが出てくるのを待っているのでしょう)」ヒソヒソ

ゾマリ「(姿を見せようにも相手の正体が判明していない以上、迂闊な行動は避けたいところですが……)」ヒソヒソ


リリネット「(どうしよう……)」ヒソヒソ


ゾマリ「(私たちに敵意があるのかどうか……それを確認する必要があります)」ヒソヒソ


リリネット「(でも、どうやって……)」ヒソヒソ


ゾマリ「(今から軽い陽動作戦を行いますので、いつでも動ける準備をお願いします)」ヒソヒソ


リリネット「(……わかった)」ヒソヒソ



ゾマリ「(そこの資料を一冊私に)」ヒソヒソ


リリネット「(ん……)」スッ


ゾマリ「…………」スッ



ブンッ



ドサッ…



「………………!」スッ



バチッ……!



ピシュッ!



ズバンッ!!



リリネット「…………!!」


リリネット(黒い……光線……?)

リリネット(ゾマリの投げた資料が真っ二つに……!)


ゾマリ「どうやら、私たちに敵意があるのは間違いなさそうです」

ゾマリ「行きましょう」



ザッ…



「………………」



リリネット「人間……?」


ゾマリ「いえ、喉元に“核”があります……“禁人種”で間違いないでしょう」


リリネット「なんでこんなトコに“禁人種”が……」


ゾマリ(……確かに、どのようにしてこの場所に“禁人種”が入り込んだのか……この島にはハリベル殿の言った通り空間迷彩が施されていた、ならば外部からの侵入は困難なはず)

ゾマリ(ましてや此処は海上の島、“禁人種”がここまで辿りつけるとは考えられん)


ゾマリ(これではまるで、この“禁人種”が初めから……もしくは遥か昔からこの島に存在していたかのような……)



「………………」



ゾマリ「貴方、何者です?」



「………………」スッ



バチッ…!



リリネット「……!」

リリネット「(またさっきの黒い光線……!?)」



ピシュッ!



ゾマリ「…………」ヒュン



ググッ……



ゾマリ「……!」


ゾマリ「(軌道が……)」



ズバッ!!



ゾマリ「…………」スッ


リリネット「大丈夫……?」


ゾマリ「ご心配なく」


リリネット「なんだろう、あの黒い光線……あれも“PSI”なのかな」


ゾマリ「ええ、マツリ殿の仰っていた『バースト』の一種でしょう」


ゾマリ「速度そのものはそれほど脅威ではありませんが……先程の光線が触れた床を見て下さい」

リリネット「床……?」


ゾマリ「あの光線が照射された箇所が綺麗に削り取られている」

リリネット「ホントだ……!」


ゾマリ「不用意な接近は避けたほうがよいでしょう」



リリネット「だったら、どうやって戦おう……『虚閃』を撃ったりしたらこの施設そのものが崩れちゃうだろうし……」


ゾマリ「隙を伺って、“核”を破壊するのが最善手でしょう」


リリネット「やっぱりそうだよね……」



「………………」グッ…


「………………」ビュン



ゾマリ「(『ライズ』……!)」


リリネット「(狙いはあたしか……)」



「………………」ギュン!



リリネット「……ってか速っ!」


ゾマリ「リリネット殿!」


リリネット「わかってる!!」



「………………」ヴン…



ゾマリ(“禁人種”の両腕に……黒い円盤……?)



リリネット「『虚弾』!」スッ



パシュッ!



「………………」サッ



ズッ…



リリネット「……!?」

リリネット「『虚弾』が消えた……!」



「………………」ブンッ



リリネット「……!」


リリネット「……『響転』!」ヒュン



スカッ



「………………!」



ヒュン…



リリネット「なんなのあの黒いの……!」


ゾマリ「…………」


ゾマリ「……今の攻防から察するに、あの“禁人種”の能力は先程の黒い物質を作り出し、その物質に触れたものを吸収、或いは消滅させるといったものでしょうか」

ゾマリ「それに、あの黒い物質……ある程度の形態の応用が可能なようです」


リリネット「なによそれ……」


ゾマリ「…………」


ゾマリ「一度、外に出ましょう」

ゾマリ「この場所では戦闘そのものに大きな制限がついてしまいます」


リリネット「…………」

リリネット「そうだね……」


ゾマリ「行きますよ」



ダッ!



「………………!」



ダッ!






「ハリベル!なにやってやがる!!」



ハリベル「……!」



アパッチ「…………」ユラ…


スンスン「…………」ユラ…


ミラ・ローズ「…………」ユラ…



サァァァァ……



ハリベル(消えた……)



スッ…


「………………」ブンッ


ハリベル「…………!!」サッ



ギィン!



「………………!」



ハリベル(女……“禁人種”か……いつの間に私の目の前に……!)


ハリベル(…………)

ハリベル(そうか……今のは『トランス』による幻覚か……)


ハリベル(情けないものだ……幻とはいえ、アパッチたちの姿を見て平静を失っていたのか、私は)



「………………」スッ



ヤミー「馬鹿が……!目の前に“禁人種”がいるってのになに突っ立ってやがる!」


ハリベル「……すまない、油断した」


ヤミー「ったく……」


ハリベル「礼を言う、ヤミー」


ヤミー「……ちっ、いらねえよそんなモン」


ヤミー「んなことより、まずはコイツをどうにかしねえとな」



「………………」



ハリベル(腹部に“核”、やはり“禁人種”で間違いない……しかし、何故この島に“禁人種”が……)


ハリベル(…………)


ハリベル「気をつけろ、この“禁人種”は『トランス』を行使してくる」


ヤミー「『トランス』……シャオの言ってたやつか」

ヤミー「聞いた限りじゃ藍染さんの能力と似たようなモンみてえだが……」


ハリベル「奴の能力に比べれば効果も範囲も幾らか限定的だ」

ハリベル「あくまでも、基本的な『トランス』に限ってだがな」


ハリベル「とはいえ、幻覚の類の能力は脅威であることに変わりはない……」


ハリベル「今、私たちが視ている『奴』も、本物であるといった確証は無いのだからな」


ヤミー「けっ、面倒なモンだぜ……」



「………………」スッ



ギギギ……!



ハリベル(大鎌……そして腰に帯刀している刀、あれが奴の武器か)


ハリベル「ヤミー」


ヤミー「あ?」


ハリベル「私から少し距離を置いて援護を頼む」


ヤミー「距離を置くだぁ……?わざわざそんなことする必要があんのか、一気に畳みかけちまおうぜ」


ハリベル「逸る心持ちには私も同意だ……だが短絡な決断から早まった戦闘を行えば、その分だけ油断と隙が生じる」


ハリベル「それに奴の能力の全容も、『トランス』の発動条件もわからん以上、一所に固まって戦うのは愚作に近い」

ハリベル「私たちがまとめて幻覚に掛かってしまえば、その時点で大きなハンデを背負うことになる」


ヤミー「ちっ……」



ハリベル「そうだな、私に一瞬でも不可解な部分が垣間見えたら……何でもいい」

ハリベル「『虚弾』を当ててでも正気に戻してくれ」


ヤミー「へいへい……ったく損な役回りばかりだぜ」

ヤミー「慎重になるのはいいが、なるべく早いトコ終わらせてくれよ?」


ハリベル「分かっている、どちらにせよ長期戦は私たちの望むところではないからな」



「………………」スチャッ



ハリベル「来い」スッ



「………………」ヒュン



ハリベル「(『ライズ』……どうやら、奴の戦闘方法は『ライズ』と『トランス』を共用するスタイルのようだな)」

ハリベル「(この大鎌は……『バースト』か……?)」



「………………」ブンッ



ハリベル「(『響転』)」ヒュン



スカッ



「………………!」



ハリベル「『虚弾』」スッ



パシュッ!



「………………!」ブンッ



ドォン……!



ハリベル「(鎌を盾に相殺したか……)」



「………………」ケホッ



ハリベル「『波蒼砲(オーラ・アズール)』」スッ



バシュッ!



「………………!」



ズバンッ!!



「………………!!」ブシャッ!



「……―――――」ボタボタ…



「―――――――」フラッ



ドサッ…





ハリベル「…………」


ハリベル(何だ、この違和感は……)

ハリベル(こうまでも易々と戦闘が進むものか……?)


ハリベル(奴には『ライズ』があるはずだ、その割には先程の攻撃を防ぐそぶりも、躱すそぶりも見せていない……)

ハリベル(そう、これではまるで……)



ザザ……ザ……



ハリベル(何だ……視界が……!)



スチャッ…



ハリベル(刀身と鞘が触れる音……後ろか……!)


ハリベル「『虚弾』!」スッ



パシュッ!



「………………!」



スッ…





ドォン……!



「………………」



ハリベル(……やはり、今の攻防そのものも『トランス』の影響下にあったのか)


ハリベル(しかし、一体いつから幻覚を見せられていた……)

ハリベル(初めからか……いや、アパッチたちの姿が消えた時点では確かに『トランス』は解けていた筈だ……)



「………………」



ハリベル(ならば、あの大鎌を破壊した時か……?だがそう考えるなら、『奴』は“あえて私に鎌を破壊させた”とでもいうのか……)

ハリベル(いや、元より『トランス』が解けていたと考えていたこと自体が間違いだったのか……?)


ハリベル(…………)


ハリベル(そもそも、今私が見ている『奴』は本物なのか……?ここで私が見ているこの光景も、幻覚ではないのか……?)



「………………」



ハリベル(……待て)

ハリベル(私が『トランス』に掛かっているのならば、援護に回ったヤミーは何故……)



ガサッ



ハリベル「…………!」



ブンッ!



ハリベル「ぐ…………!」メキメキ…



ハリベル(ヤミー……!)フワッ



ズザザ……



ダァン!



ハリベル「けほっ…………!」



ハリベル「…………」ツー


ハリベル(失策続きだな……援護が途絶えていた以上、ヤミーが“この状態に陥っていること”は容易に推測できた筈だった……)


ハリベル「…………」


ヤミー「ちっ……全力でぶん殴ったんだがな、“禁人種”のくせしてしぶとい野郎だ」


ハリベル(私であると気づいていない……やはり『トランス』に掛かっている……)

ハリベル(大方、私が“禁人種”にでも視えているのだろうが……)


ハリベル(……っ)ズキッ


ハリベル(やはり、流石にヤミーの全力の一撃には堪えるものがあるな……)



ヤミー「あばよ、トドメといくぜ」グッ


ハリベル(先ず以って、どうにかしてヤミーを止めねば……)

ハリベル(……しかし、まさかこのような形で『十刃』が敵に回るとはな)


ハリベル(ゾマリがウルキオラと対峙した時も、今の私に似た胸中だったのかもしれんな……)



「………………」ザッ



ハリベル(二対一……)

ハリベル(この特殊な状況も相俟って、もはや『霊力』の消費に配慮している場合ではなさそうだ)


ハリベル(……少々荒いが、まずは幻覚の真偽を解くべきだな)


ハリベル「……いくぞ」スッ



「………………!」








ドオオオオオオオオオオオオオオオン……!!!!!








ハリベル「…………!!」


ハリベル(爆音……東の方面からか……?)


ハリベル(…………)


ハリベル(あちらの方面は、ゾマリとリリネットが向かった方角……)

ハリベル(今戦闘を行なっているのは、私とヤミーだけではないということか)


ヤミー「ん……?」ハッ

ヤミー「おいハリベル、なにそんなトコで座り込んでやがんだ」


ハリベル「……!」

ハリベル(今の爆音の衝撃で『トランス』が解けたのか……)



「………………!」タジッ



ハリベル(動揺している……?)

ハリベル(この爆音に対してか、『トランス』が解けたことに対してか……)


ハリベル(どちらにせよ、好機であることに違いはない)



ハリベル「……『虚弾』」スッ



パシュッ!



ヤミー「うおっ!」スッ



「………………!」ハッ



ドォン!



パキッ……!



「………………!!!」



ハリベル(……“核”を捉えたか)



「………………!」ガクッ



ピシッ……パキ……



「………………」サラ…



「…………――――――」サラサラ……


やや中途半端ですがここまで





太河「…………っ」パチッ


億号「よう太河、ようやく目が覚めたか」


太河「億号……」

太河「ここはどこだ、俺は助かったのか……?」


億号「ああ、怪我してぶっ倒れてた俺たちをそこの兄ちゃんたちが助けてくれたらしい」


太河「そうか……」


カイル「…………」


カイル「なあ、あんたたちいったいあそこで何があったんだ?」

カイル「……やっぱり『ワイズ』の奴らに襲われたのか?」



億号「……ああ、爆発系の“PSI”能力を持った『ワイズ』の野郎にあのコミュニティごと吹き飛ばされちまった」

億号「俺たちの『バースト』も『ライズ』も全く通用しなかった……化け物だぜありゃあよ」


マリー「コミュニティ……?ということはあなたたちはあの場所で生活していたんですか?」


億号「そうさ、あの場所は“ウスイ”って爺さんが統治する小さな国みてえなもんだった」

億号「それも今回の襲撃であっけなく消え失せちまったけどな……」


マリー「…………」


億号「話は変わるがお嬢ちゃん、どうだ、俺の嫁になる気はないか?」


マリー「…………」


マリー「え?」



マリー「な、なな、何ですか突然!?」


億号「ふふ、どうやら俺はアンタに惚れちまったみたいでな……!」


マリー「え、えええ……」タジッ


ヴァン(あーあ、ついにシャオ君にもライバルが一人……)


太河「……億号、命の恩人に無礼な態度はよせ、困っているだろう」


億号「わりいわりい、半分くらいは冗談だっての」


マリー(半分は本気なんですね……)



太河「…………」チラ


億号「どうした?」


太河「……俺の思い違いかもしれないが、確かあの時俺を助けようとした人間が別にいた気がしてな」


カイル「それは気のせいじゃないと思うぜ」


太河「……!」


カイル「負傷したあんたたちを見つけて直接ここに運んで来たのは俺たちじゃないんだ」

カイル「ま、その人たちは少しワケあって今ここにはいないんだけどな」


太河「…………」



億号「さーてと、長居しても悪いしよ、そろそろ行くか太河」


太河「そうだな」


億号「ありがとうな兄ちゃんたち、今の俺たちにはこうして礼を言うことぐらいしか出来ねえが……」


太河「ここにいないであろう人たちにも、礼を言っておいてくれ」


カイル「……おいおい、ちょっと待てって」

カイル「あんたたち、どこか行く宛てはあるのか?」


マリー「あなたたちの住んでた場所は、もうなくなっちゃったんでしょう……?」


億号「あー……行く宛てなんざ無いっちゃ無いけどよ、まあこうして生きてりゃなんとかなるだろ」

億号「わざわざ気を遣ってくれてありがとよ」ザッ



マリー「あ、あの……」


億号「ん、どうしたお嬢ちゃん」


マリー「もしよろしければ、私たちと一緒に来ませんか……?」

カイル「俺も賛成だ、あんたたちをこんなトコに放り出すのは気が引けちまう」


億号「……来るって言ってもよ」


マリー「私たちもあなたたちと同じように一つのコミュニティを抱えているんです、『根』って言うんですけど……」


太河「…………」



太河「……何故だ」


カイル「ん?」


太河「……俺たちとあんたたちは初対面なんだぞ、何故そこまで俺たちに対して気を許せる」

太河「俺たちが心の内で何か邪なことを考えているなどとは思わないのか?」


カイル「……初対面だろうがなんだろうが関係ないさ、仮にあんたたちが何か企んでるならその時は俺たちが全力で止める」

マリー「それに、あなたたちは悪い人には見えませんし……」


太河「…………」

億号「その『根』ってのがどんなトコか知らねえけどよ、人が二人も増えちゃあ食料とかそういった部分であんたたちの負担になっちまうだろう」


マリー「その点は心配ありません、『根』には空調も、生産プラントも、浄水設備も、発電施設も全てしっかり整っています」

マリー「居住区もしっかり確保されていますし、ざっと千人以上が暮らせる場所になっています」


太河「……馬鹿な、この荒れ果てた日本のどこにそんな場所があるというんだ」



カイル「伊豆の『エルモア創立記念病院』って知ってるか?」


億号「ああ、あのバカでかい病院だろ」

億号「昔何度かニュースで見たっけか……」


カイル「そこの地下に今言ったその設備が造ってあるんだ、緊急時の為の避難シェルターってヤツだな」

ヴァン「シェルターって言うにはちょっと大きすぎますけどね」


太河「なるほど……地上ではなく地下ならばそれだけの設備が整っていてもおかしくはないな、何故わざわざそんな施設を造り上げたのかは知らんが……」

太河「それに『エルモア創立記念病院』といえば、莫大な資産を有するあのエルモア財団が創設した施設として有名だったからな……」


億号「だからそれだけ立派なシェルターがこしらえてあっても不思議じゃねえ、ってことか」



太河「……しかし、あんたたちは一体何者なんだ」

太河「その話が本当だったとしても、ただの一般人がそんな情報を知り得るとは思えないが……」


カイル「俺たちは、子供のころにバアちゃ……天樹院エルモアに引き取られた養子なんだ」

カイル「この世界がこんなになっちまうまでは『エルモア・ウッド』ってところで暮らしてた」


太河「養子……」

太河「そうか、道理でそんな事まで知っているわけだ」


億号「わざわざこんなハッタリかますとも思えねえし、こりゃあ今までの話も全部信じざるを得ねえな……」



カイル「……どうする、俺たちと来るかい?」


太河「…………」


億号「……よろしく頼む」ペコリ


カイル「決まりだな」


マリー「カイル君、そろそろ……」


カイル「……!」

カイル「そうだな、話もまとまったし今は急いで“夢喰島”に向かおう」


億号「“夢喰島”か」


カイル「ん、知ってるのか?」


億号「ああ、ちょっとな」



億号「なんなら俺が先導して案内してやろうか」

億号「伊豆から来たんじゃ、多分ここらへんの地理にはあまり詳しくないんだろう」


カイル「ホントか!だったらよろしく頼むよ」


億号「おう、恩人の兄ちゃん嬢ちゃんたちの為ならどれだけでも働くさ」


マリー「ふふ、ありがとうございます」


カイル「よし、じゃあ支度ができ次第出発だ」






ザッ……



「………………」



リリネット「なんとか外におびき出せたけど……」

リリネット「どうしよう、やっぱり戦わなくちゃダメなんだよね……」


ゾマリ「私としてもあまり気乗りはしないのですが……致し方ありません」

ゾマリ「彼に言語能力が備わっていれば、説得も可能であると思案していたのですが……」


リリネット「…………」


ゾマリ「しかし『彼』が私たちの敵として立ちはだかる以上、戦闘を避けることは敵いません」


リリネット「…………」



リリネット「ねえ、ゾマリ」

リリネット「今、こんなことを話す状況じゃないとは思うけど……」



バチッ…!



リリネット「……!」



ピシュッ!



リリネット「…………っ!」サッ



ズバッ!



「………………」スッ



ゾマリ「残念ながら、悠長に話している時間はなさそうです」

ゾマリ「下手に隙を見せれば、逆に私たちが命を落としかねません」


リリネット「……うん」




「………………」ヴン…



ゾマリ「さて」スッ


リリネット「待って」


ゾマリ「どうしました?」


リリネット「ここはあたしが行くよ」


ゾマリ「しかし……」


リリネット「大丈夫、少し確かめたいことがあるだけだから……」



リリネット「『虚弾』」スッ



パシュッ!



「………………」スッ



ズッ…



リリネット(やっぱり、あの黒いのに当たると『虚弾』が消えちゃう)


リリネット(…………)


リリネット(よく視なきゃ……あの黒いのの正体が“どっち”なのか)




「………………」ビュン!



リリネット(また『ライズ』……!)


リリネット「……『響転』!」ヒュン



「………………」クルッ



リリネット「…………!!」


リリネット(動きが読まれてる!)



「………………」ブンッ



リリネット(避けらんない……!)



ガッ!!!



「………………!?」グラッ



ザッ



ズザザ……!



ゾマリ「ご無事ですか」スッ


リリネット「ゾマリ……」


ゾマリ「どうやら、何か策がおありのようですね」

ゾマリ「援護いたします」


リリネット「策ってほどじゃないけど……」



「………………」ムクリ



リリネット「……!」


ゾマリ「来ますよ」




「………………」ビュン!



リリネット「『虚弾』!」スッ



パシュッ!



「………………」スッ



ズッ…



リリネット(……やっぱり)

リリネット(『虚弾』の消えた今の感じ……あの“禁人種”の能力はバラガンみたいな“消滅”の能力じゃない)


リリネット(あの黒いのは触れたものを“吸収”する能力……)

リリネット(だったら……)




「………………」ブンッ



リリネット「……『響転』」ヒュン



スカッ



「………………」ザッ



バチッ…!



リリネット「……!」

リリネット「『虚弾』!」スッ



パシュッ!



「………………!」サッ



ズッ…



リリネット(……間違いない)



ヒュン…


リリネット「わかったよゾマリ、あの黒いのの正体」


ゾマリ「…………」


リリネット「さっきゾマリも言ってたよね、あの黒いのは触れたものを“吸収”するか“消滅”させる能力だって」

リリネット「多分、あの“禁人種”の能力は“吸収”のほうだと思う」


リリネット「ちょっと前にスタークに聞いたんだけど、何かを“吸収”するタイプの能力には必ず吸収限界があるんだって」

リリネット「だから……」


ゾマリ「あの黒い物質の吸収限界を超える攻撃を行えばよい、と」


リリネット「うん、そうそう……」


リリネット「…………」


リリネット「あれ?」



リリネット「もしかして、あたしが説明しなくてもわかってた……?」


ゾマリ「大半は」


リリネット「…………」

リリネット「ってことは今のあたしの戦いは意味がなかったってこと……?」


ゾマリ「いえ、決してそのようなことはありません」

ゾマリ「先程のリリネット殿の戦闘により、私の推測は確信へと……」


リリネット「待って、気遣われると余計に悲しくなるからやめて」


ゾマリ「…………」


リリネット「…………」


リリネット「……とにかく、早く戦いを終わらせよっか」




「………………」ヴン…



リリネット(来る……)


リリネット(まずは相手から攻撃が見えないようにするために……土ぼこりをたてる!)

リリネット「『虚弾』!」スッ



パシュッ!



ドォン…!



「………………!」ザッ



リリネット(そして……)ポウ…


ゾマリ「……!」

ゾマリ(この場面で“PSI”の力を……)



リリネット「『虚弾』!」スッ



バシュッ!



リリネット「まだまだぁ!!」スッ



バシュバシュバシュッ!!



ズズゥン…!



リリネット「だだだだだだだだだあっ!!!」



バシュバシュバシュバシュバシュバシュッ!!!



ドォン…ドォン…ドドォン……!!



リリネット「『虚閃』!!!」サッ



バシュウウッ!!!




ドオオオオオオオオオオオオオン……!!!!!






リリネット「はぁ……はぁ……!」


リリネット「『虚弾』であの黒いのを消して、『虚閃』でトドメ……のつもりだったけど……倒せた……かな……?」ゼェゼェ


ゾマリ「……リリネット殿」

ゾマリ「そうまでして疲弊の大きい“PSI”の力を使わずとも、私を頼って頂ければ……」


リリネット「はは……」

リリネット「あたしはいつも、ゾマリたちの足手まといだから……こういう時くらい……役に立てたら、ってね……」


ゾマリ「……何を仰っているのです」

ゾマリ「只の一度も、リリネット殿に対してそのような考えを持ったことはありませんよ」


ゾマリ「恐らくハリベル殿もヤミー殿も、あなたの言葉には皆同じ答えを返すでしょう」


リリネット「……!」

リリネット「ありがと……そう言われると、嬉しいや」







ヒュン……ヒュン……







リリネット「……!」


リリネット「なに、この音……」

リリネット「倒せて……ない……?」ゼェゼェ



「………………」ザッ



リリネット「……!」



「………………」ツー



ゾマリ「……倒すには至らなかったようですが、少なからず傷は負っているようです」

ゾマリ「先程の攻撃が功を奏した、と言ったところでしょうか」


リリネット「……!」



ゾマリ「ここからは私が戦います……リリネット殿は念のため私と『彼』の戦闘範囲に入らぬよう……」スッ


リリネット「…………」


リリネット「……ふふ」


ゾマリ「……?どうしました」


リリネット(もう、“逃げろ”とか“隠れろ”とは言われないみたい)


リリネット「なーんでもない!」ニッ


ゾマリ「…………?」


リリネット「ぜーったい、負けないでね」グッ


ゾマリ「ええ」



ゾマリ(さて……)



「………………」ヒュン……



ゾマリ「…………」


ゾマリ(『彼』を中心に、“渦”でしょうか)

ゾマリ(あの黒い物質が『彼』全体を覆うように展開している……)




「………………」ビュン!



ゾマリ「『虚弾』」スッ



パシュッ!



ズッ…



ゾマリ(ふむ……)

ゾマリ(あの黒い渦で自らを覆うことにより、“渦”の外部からの攻撃を吸収し遮断)


ゾマリ(そしてあの“渦”を纏いながら相手に突進することにより、それそのものが十分な攻撃手段と化す……)

ゾマリ(さしずめ、攻防一体の要塞といったところでしょうか)



ゾマリ(だが……)

ゾマリ(あの形態はあくまで渦状、自身を完全に覆い尽くしているわけではない)


ゾマリ(先程のリリネット殿の攻撃で傷を負っていることからも、あの防御は完璧なものではないはず)

ゾマリ(ならば……)


ゾマリ「『虚閃』」スッ



バシュウッ!!



「………………!」ギュン!



ゾマリ「……!」

ゾマリ(『虚閃』を避けずになお速度を上げこちらへ向かってくるとは……己の能力への絶対的な自信の表れといったところでしょうか……)


ゾマリ(……しかし、些か無謀であると言わざるをえない)




ズズゥン……!



「………………」ポタ…



ゾマリ「『虚……』」スッ



「………………!!!」ピクッ



ゾマリ「…………!」ピタッ


ゾマリ(動きが止まった……?)

ゾマリ(西の方角を、ハリベル殿とヤミー殿が向かった方面を気にしているようだが……)




「………………」



「………………」



「………………」



「………………」



「………………」




「――――――――――」





リリネット「…………!!」ゾクッ


リリネット(さっきと雰囲気が変わった……!?)

リリネット(なんだろう……遠くからでもわかる、このイヤな感じ……)


リリネット「…………」スゥ…



リリネット「ゾマリ!!!」



ゾマリ「……!」



リリネット「そいつさっきとなにか雰囲気が違う!気をつけて!!」



「――――――――」



ゾマリ「…………」


ゾマリ(……確かに)

ゾマリ(先程とは違う『彼』から放たれる強い“殺気”……これは“怒り”からか、はたまた“悲しみ”からか……)


ゾマリ(…………)

ゾマリ(……何にせよ、今は戦闘に専心するべきでしょうか)スッ

短めですが投下終了
最近はパソコンに触れる機会も作れず申し訳ありません




「――――――」ヴン…



ゾマリ「…………」


ゾマリ(黒い円盤……)


ゾマリ(“渦”でも“光線”でもなく……)


ゾマリ(…………)


ゾマリ(激昂しているであろう中で選択した形態があの円盤ならば……恐らくあの形態が『彼』にとって最も“扱いに長けている”形態であるということ……)

ゾマリ(ならば、『彼』の本分は近接戦闘にあると推測できる……)


ゾマリ(相手の土俵での戦闘は避けたいところだが……こちらとしてもある意味では好都合)

ゾマリ(受けて立ちましょう)



「――――――」ギュン!



ゾマリ(……『響転』)ヒュン



「――――――」ブンッ



スカッ



ゾマリ「…………」スッ



ブンッ



「――――――」スッ



ゾマリ(……焦りもせず避けますか)

ゾマリ(それも、自らの攻撃を次へと繋げるために私の刀を限界まで己に引き付け紙一重で躱している……)


ゾマリ(恐らく、心に激情を秘めながらのこの動き……『彼』もまた先日の男と同様、相当な手練れであることは間違いない)



「――――――」ブンッ!



ゾマリ「…………」サッ


ゾマリ(やはり推測の通り……先程の動きは攻撃に転じる為の布石)


ゾマリ「…………」スッ



ブンッ



「――――――」サッ



ゾマリ(攻撃後の崩れた体勢からでもなお躱しますか……)



「――――――」ググッ…



「――――――!」ブンッ!



ゾマリ「……!」スッ



スカッ



「――――――」



ゾマリ(……迎撃と同時に攻撃対象を私ではなく『斬魄刀』へと変更)

ゾマリ(私自身を捉えるのではなく確実に訪れる攻撃に対しての迎撃を行うことにより、あの黒い物質の特性も相俟って相手の使用武器を確実に破壊することが出来る……)


ゾマリ(なおかつあの黒い円盤の一端でも私に触れれば、それだけで私に致命傷を負わせることが可能……)



ゾマリ(…………)


ゾマリ(全てを飲み込む黒い“PSI”……非常に戦闘に特化した能力であると言えるが……)

ゾマリ(しかし、一見万能にも思えるその能力にも欠点はある)


ゾマリ(それは“能力そのもの”ではなく……)



「――――――」ブンッ!



ゾマリ(……『双児響転』)ヒュン



「――――――!?」



ゾマリ(『双児響転』の全ての分身をその“円盤”で捌ききることは不可能……)


ゾマリ(……ならば必然的に、攻撃の選択肢としては“それ”が残る)



「――――――!」スッ…



ゾマリ「…………」ヒュン



ズバッ!



パキッ…!



「――――――!!!」



ゾマリ(そう、“円盤”での攻撃が不合理であると知れば、必ずや別形態への攻撃手段の切り替えが行われる……)

ゾマリ(……ならばその切り替えの瞬間を狙い“核”を破壊すればよい)


ゾマリ(『彼』はこの戦闘中、あの黒い物質を様々な形態へと変化させていたが……使用する形態は“渦”なら渦、“円盤”なら円盤と、常に“単一の形態の行使”のみに留まっていた)

ゾマリ(つまり裏を返せば、複数存在する形態を“同時に行使すること”は不可能であるとも取れる)


ゾマリ(……そもそも形態の同時行使が可能であるならば、“円盤”を囮に近接戦闘を誘った上で“渦”や“光線”を展開するといった戦法も可能であったはずなのだ)

ゾマリ(あるいは全く別の戦い方も……)


ゾマリ(…………)


ゾマリ(ともかく、これにて一段落といったところでしょうか)



「――――――」グラッ



「――――……」



「………………」



ゾマリ(……“殺気”が消えた)



「………………」



パキッ…!



「………………!」フラッ



ダッ!



ゾマリ「……!」


ゾマリ「走り去りましたか……」




ザッ…



リリネット「……ゾマリ」フラッ


ゾマリ「…………!」


ゾマリ「リリネット殿、まだ先程の戦闘における消耗の度合いが大きいはずです……あまり無理はなさらぬよう……」


リリネット「大丈夫、少しフラつくだけだから……」

リリネット「それより今の“禁人種”、突然走り出してどこに行ったんだろう……」


ゾマリ「……ふむ」

ゾマリ「あちらの方面は、先程の施設があった方角でしょうか」


リリネット「……!」


リリネット「…………」



リリネット「……あのさゾマリ」

リリネット「さっきこの戦いが始まる前、あたしゾマリになにか話そうとしたでしょ……?」


ゾマリ「ええ」


リリネット「その話なんだけどさ……」


リリネット「なんで、あの“禁人種”はこの島にいるんだろう……って」

リリネット「あたしたちに敵意を向けるのはどうしてなんだろう……って思ってさ」


ゾマリ「…………」


リリネット「あたしの勝手な考えなんだけどさ、もしかしたら……」

リリネット「もしかしたら、あの“禁人種”はこの島の“何か”を……あたしたちから守ろうとしてるんじゃないか……って思うの」


ゾマリ「…………」



リリネット「その“何か”がわかんないんだけどね……」


ゾマリ「…………」


ゾマリ「……あながち、その考えは間違ってはいないのやもしれません」


リリネット「え……」


ゾマリ「施設内で『彼』が現れた時を思い出して下さい」


リリネット「…………?」


リリネット「確か、あの時は大きな扉が開く音がして……その後に足音が聞こえてきた」

リリネット「……でも、それが何か関係あるの?」



ゾマリ「ええ」


ゾマリ「今の点から、『彼』がその扉の向こうから出てきたということは容易に推測できるでしょう」


ゾマリ「ならば、彼が出てきたその扉の向こう側には一体何があるのでしょうか」

ゾマリ「重厚な扉にて外部と隔てる必要があるほどの“何か”……恐らくその“何か”が『彼』の守ろうとしているものである筈です」


リリネット「なにって言われても……」


リリネット「…………!」


リリネット「……今までの話からだと一つしか思い浮かばないけど」


リリネット「もしかして、その扉の向こうにあるのは……『ネメシスQ』を操ってる張本人……?」

リリネット(っていうか“ある”って言い方はおかしい気もするけど……)


ゾマリ「そう考えるのが妥当でしょう」


リリネット「…………」


リリネット「でも、ゾマリのその言い方だとさっきの“禁人種”が守ろうとしてるのは……その『ネメシスQ』を操ってる人、ってことだよね」


ゾマリ「ええ」



リリネット「あたしも最初はほんの少しだけそう思ったけど……でも『ネメシスQ』を操ってる人はあたしたちに助けを求めてきたでしょ」

リリネット「それってさっきの“禁人種”が危険だからあたしたちに助けを求めたんじゃないのかな……?」


ゾマリ「……いえ、恐らく別の理由かと」


ゾマリ「あの“禁人種”が扉の向こう側にいて尚、『ネメシスQ』を操る者もその扉の向こう側にいたとするならば、少なくとも“禁人種”にとってはその者を敵対対象として認識していないということになります」

ゾマリ「仮に『ネメシスQ』を操る者があの“禁人種”に敵対対象として認識されていたのならば……その者の命は既に失われているはずです」


リリネット「……!」


ゾマリ「この島の空間迷彩が未だ保たれていることからも、『ネメシスQ』を操る者が存命であることは間違いありません」



リリネット「……なら、あの“禁人種”はなんでわざわざその『ネメシスQ』を操ってる人を守ってるの?」

リリネット「それに、あの“禁人種”が『ネメシスQ』を操ってる人にとっての敵じゃないなら、別にあたしたちに助けを求めなくてもその“禁人種”に助けてもらえばよかったんじゃ……」


ゾマリ「その二つの点に関しては現時点では些か分かりかねますが……」


ゾマリ「『ネメシスQ』は何らかの理由で己の危機を感じ、私たちに救援信号を送った」


ゾマリ「仮説に仮説を重ねることになりますが、あの“禁人種”が仮に『ネメシスQ』を操る者を何らかの理由で守っていたのだとしましょう」

ゾマリ「しかし先程から見る限りでは、あの“禁人種”に強い知性が存在するようには見受けられない」


ゾマリ「そのような『彼』に、仮に『ネメシスQ』を操る者からの救援信号が送られたとして、果たしてそれを理解することが出来るのでしょうか」

ゾマリ「それに、『ネメシスQ』を操る者の求める“救援内容”があの“禁人種”には実行不可能なものである可能性も無きにしも非ず……」


リリネット「…………」


ゾマリ「何にせよ、『彼』にとってはこの島に突如現れた私たちを敵と認識するのも自然なこと」

ゾマリ「それも『彼』の目的が“『ネメシスQ』を操る者を守ること”ならば尚更、と言ったところでしょうか……」


リリネット「…………」


リリネット「……それじゃあつまり、あの“禁人種”はあたしたちのことを誤解してるってこと……だよね?」


ゾマリ「ええ、今の仮説が正しければ、の話ですが」


リリネット「…………」



ゾマリ「先程の小さな『ネメシスQ』の反応を見る限り、あの施設内に『ネメシスQ』を操る者が存在することは確かです」

ゾマリ「それにあの怯え具合から鑑みるに、小さな『ネメシスQ』にとってのあの“禁人種”は“得体の知れない者だが自身に危害を加える者ではない”といった程度の認識だったのでしょう」


リリネット「…………」

リリネット「……そう考えればそうなのかも」


ゾマリ「真偽の程は定かではありませんが、先程の説も含めこのように考えれば幾らか合点がいきます」


リリネット「…………」


リリネット「なんか……複雑……」

リリネット「それだと、あの“禁人種”にとってのあたしたちって……」


ゾマリ「…………」






リリネット「…………」






リリネット「……追おう」


ゾマリ「……!」


リリネット「あたしたちの誤解を解かなきゃ」


ゾマリ「しかし『彼』は……」


リリネット「言葉が通じないってのはわかってる……」

リリネット「“核”が傷ついて、もう先が永くないってことも……」


リリネット「でも、このままだとあの“禁人種”が報われない……」


ゾマリ「…………」


リリネット「勝手なこと言ってるのはわかってる……」


リリネット「でも、せめて伝えなきゃ……あたしたちの目的と思いを……」


リリネット「伝わるはずだよ、わかってくれるはずだよ、きっと……」



ゾマリ「…………」


ゾマリ「行きましょう」


リリネット「……!」


ゾマリ「リリネット殿の仰る通り、『彼』にも理解していただける筈です」

ゾマリ「貴女のその“慈愛”の心、その“愛”の形を……」


ゾマリ「“愛”とは偉大なものです、言葉などなくとも“心”で通じ合うことが出来る……」

ゾマリ「その力の前には如何なる垣根の存在も意味を成さず、ただ純粋に互いの心を繋ぎ合う……」


リリネット「…………」


ゾマリ「さあ、急ぎましょう」

ゾマリ「『彼』の命の灯が潰える前に伝えなければなりません、私たちの目的と思いを……」


リリネット「うん……急ごう!」

投下終了





パラッ…パラッ…



バーリィ「…………」


バーリィ(…………ちっ)

バーリィ(この『ワイズ』とかいう組織の全体像がどうも掴めないな……)


バーリィ(……資料ガアル程度残ッテイルノガ不幸中ノ幸イダケド、殆ドガ『ワイズ』ノ実態ニハ繋ガラナイ意味ノ無イモノバカリダネ)


バーリィ「…………」


バーリィ(トリアエズ、分カッタコトヲマトメテミヨウカ……)



バーリィ(“禁人種”どもから聞きだした情報が確かなら“星将”は全部で五人……どうやらこの“星将”より“上”に存在するヤツもいるみたいだが……)

バーリィ(そして、ヤツらは“首都”である『アストラル・ナーヴァ』を中心にこの『国』全域を支配している……)


バーリィ(コノ『アストラル・ナーヴァ』ガ造ラレテイル場所ハ『現世』デイウ“東京”ッテトコロニ値スルミタイダケド……『現世』ノ情報ナンテ一々気ニシタコトガナイカラヨク分カラナイノガ残念ダヨ)


バーリィ「…………」


バーリィ(ソシテ『アストラル・ナーヴァ』トハ別ニ、コノ『国』ノ至ルトコロニ乱立シテイル『神経制御塔』……)

バーリィ(色々調べはしたがこの『塔』の存在理由がいまいち分からねえ……)


バーリィ(“禁人種”の生成が行なわれている、ってことだけは分かったが……それだけの理由ならこんな数えきれない程の本数の『塔』を建てる必要はないはずだ……)



ガサガサッ……パラッ…



バーリィ(…………)

バーリィ(『神経制御塔』ニ、“イルミナ”……探サナクチャナラナイ資料ガ多クテ困ルネ)



ガサ…ガサガサ……


ピタッ…


バーリィ(…………)

バーリィ(……コノ資料ダケ随分ト汚レガ少ナイナ)スッ



ペラリ…



バーリィ「…………!」


バーリィ(これは……この『国』全域に建っている『神経制御塔』の配置図か……?)


バーリィ(…………)ジー


バーリィ(ご丁寧に塔の構造までしっかりと描かれているな……残念ながら『塔』の配置の情報は真新しいモノじゃなさそうだが……)


バーリィ(…………)


バーリィ(…………?)


バーリィ(妙ダネ……コノ『アストラル・ナーヴァ』ヨリ遥カ北方ニアル一本ノ『塔』、コイツニダケ“地下”ノ空間ガ設計サレテイル……)

バーリィ(何故、コノ『塔』ダケ……)


バーリィ(…………)


バーリィ(只の偶然か……?)



ペラリ……ペラリ……


パタン…


バーリィ「…………」

バーリィ(……駄目だな、この資料に載ってるのはあくまでも『塔』の構造と配置に関してだけ)


バーリィ(仕方ナイケド、コレニ関シテハ後回シニスルシカナサソウダ)

バーリィ(本当ハ『塔』ノ役割ニツイテノ情報ガ欲シカッタトコロダケド……)


バーリィ(……今は、先に“イルミナ”についての資料を探すか)

バーリィ(ザエルアポロのヤツによれば、研究者にとって本当に重要なデータは機械の中ではなく己の脳内に記憶するか文書に記して厳重に保管すると言っていたが……)



ギィィ……



バーリィ(…………!!)ピクッ



「なにやってるのー?」



バーリィ(…………)



バーリィ「…………」


バーリィ「これはこれは……久しくお目にかかります、カプリコ様」


カプリコ「ここは勝手に入っちゃメー、だよ?」


バーリィ「…………」

バーリィ「申し訳ありません、只今ジュナス様の命により地域警備担当地区の情報収集を行なっているところでして……」


カプリコ「……あれ、そうなの?」

カプリコ「ここは“星将”の人たち以外はぜったいに入っちゃダメ、って言われてるんだけど……」


バーリィ「…………」


カプリコ「でも、ジュナスが言ってたなら間違いないのかな」

カプリコ「この部屋には大切な資料がたくさんあるみたいだから、あまり散らかさないようにね」


バーリィ「もちろんです」


カプリコ「私は見回りにきただけだから、もういくね」

カプリコ「お仕事、がんばってねー」ヒラヒラ



スタスタ……



バーリィ「…………」



バーリィ(……危ナイトコロダッタケド、見ツカッタノガ“第四星将”デ助カッタネ)

バーリィ(まあ、あんな出まかせが通るとは思わなかったが……)


バーリィ(…………)


バーリィ(もう少しだけ“イルミナ”に関しての資料を探してみるか……アレを取り除く方法を見つけ出さない限り、ウルキオラを正気に戻すことは難しそうだからな)

バーリィ(トハイエ、ソウハ言ッテモアマリ長イ間コノ場所ニ留マッテイテハ、マタイツ他ノ“星将”ニ見ツカルカ分カッタモノジャナイ)スッ


ガサガサッ…


バーリィ(他ニ気ニナルコトモアル……資料ガ見ツカラナケレバ、早々ニココカラ退散スルコトニシヨウ……)






カツ…カツ…



ピチャ…


リリネット「……!」

リリネット「血の跡……」


ゾマリ「…………」

ゾマリ「その跡を辿っていけば、『彼』の元に辿りつく筈です」




ギギギギギギ……!




リリネット「……!」

リリネット「また扉が開く音……?」


ゾマリ「……いえ、どうやら今度は扉が閉まる音のようです」



ザッ…



「………………」フラッ



リリネット「(いた……!)」ヒソヒソ


ゾマリ「(行きましょう)」ヒソヒソ



「………………」



リリネット「ねえ……」



「………………!」ピクッ



ググッ…



バキッ!!



リリネット「……!!」

リリネット「今、なにかを壊した……!?」


ゾマリ「見た限りでは……壁面に付随している取手を、あの巨大な扉を開くためのレバーを破壊したといったところでしょうか」

リリネット「…………!」



リリネット(…………)



ピシッ……!



「………………!!」フラッ



「………………」



「………………」ヴン…!



リリネット「……!」


リリネット「待って!」



「………………!」ピクッ



リリネット「……あたしは、あなたに話さなきゃいけないことがある」


リリネット「あなたにあたしの言葉が伝わるかどうかわからないけど……あたしの話を聞いて」



「………………」



リリネット「あなたはあたしたちを誤解してる……」


リリネット「……あたしたちはあなたの敵じゃない」


リリネット「…………」


リリネット「……その扉の向こうに、あなたの守りたい人がいるんだよね」



「………………!!」



ゾマリ(この反応……やはり……)


リリネット「……あたしたちはその人を助けに来たの」



リリネット「……あなたがどうしてそこまでしてその人を守りたいのか……多分あたしにはいくら考えてもわからないと思う」


リリネット「でも……その人があなたにとって、とても大切な人なんだってことはわかる」

リリネット「だから、あなたがあたしたちをその扉の先に進ませたくないってことも……」



「………………」



リリネット「だけど……」

リリネット「あたしも……大切な人のためにその先に進まなきゃいけないの」


リリネット「あなたが守ってるその人は、あたしたちが知りたい事を……たくさん知ってるはずだから」

リリネット「だからあたしたちにはその人が必要で、その人を助けなきゃいけないの」



「………………」




リリネット「こんな言い方だと……あたしがその人を助けたいのは、その人のためじゃなくてあたしたちのためって言ってるように聞こえると思う」


リリネット「……言いづらいけど、それは本当」


リリネット「でもあなたには知ってほしい……あたしが思ってる、あたしの本当の気持ちを……」

リリネット「嘘で塗り固めた言葉なんて、心に届くはずがないんだから……」



「………………」



リリネット「あたしがその人を助けるのは、あたしの……あたしの『仲間』のため」

リリネット「あたしが大好きな……みんなのため……」


ゾマリ「……!」


リリネット「あたしたちが今『この世界』にいる理由も……多分、その人が知ってる」

リリネット「こんなこと言っても……あなたには何のことだかわからないと思うけど……」




「………………」



リリネット「あたしは、みんなと一緒に『あたしたちの世界』に帰りたい」

リリネット「たとえ帰れなくたって、せめてみんなと一緒にいたい……」


リリネット「だから……」



「………………」



リリネット「……だから、そこを通して」


リリネット「あなたが守りたいその人は、今度はあたしたちが守るから……」




「………………」



「………………」スゥ…



カツン……カツン……



リリネット「…………」



ピタッ



「………………」スッ



リリネット「……?」

リリネット(拳を合わせろ……ってこと?)スッ



コツン…



「………………」





「………………」スッ



リリネット「…………」



「………………」



「………………」ヴン…!



リリネット「……!!」



ズバンッ!!





ガガッ……ズズゥン……!



「………………」



リリネット(さっきの黒い『バースト』で扉を斬った……)


リリネット「……先に進め、ってことかな」


ゾマリ「……ええ」

ゾマリ「どうやら……リリネット殿の言葉は、確かに『彼』へと伝わったようです」



「………………」



リリネット「……ありがとう」



「………………」サラ…



リリネット「……さようなら」




「………………」ボロッ



パキ……パキッ……!



「………………」サラサラ…



ピシッ……!



「………………」スッ…



ピキッ……パキ……!



「………………」ポウ…!



パリィン……!



「……――――――」サラサラ……






ハリベル「…………」



「――――――――」サラサラ…



「――――――……」フッ



ハリベル「……!」



「――――――――」サァァァァ……



ハリベル(…………)


ハリベル(今、一瞬笑ったように見えたが……)

ハリベル(……私の思い過ごしだろうか)



ハリベル「…………」フラッ


ハリベル「いくぞ、ヤミー」

ハリベル「先程東の方角から爆音が聞こえた、恐らくゾマリたちが何者かと交戦している筈だ」


ヤミー「…………」


ハリベル「……どうした」


ヤミー「いや、俺の気のせいかもしれねえけどよ」

ヤミー「確か俺がぶん殴った“禁人種”がその辺にいたはずなんだが……どこ行きやがったか知らねえか」


ハリベル「…………」


ヤミー「何でか知らねえが、殴ったヤツがどんな“禁人種”だったかいまいち覚えてなくてよ」

ヤミー「そこで灰になったそいつとはまた別のヤツだった気がすんだが……」



ハリベル「…………」


ハリベル「なに、その“禁人種”は既に私が倒した」

ハリベル「お前が気にする必要はない」


ヤミー「ん?そうか」

ヤミー「まあそれならいいんだがよ」


ハリベル「…………」


ハリベル「……ゾマリたちの元へ急ぐぞ、もう既に『ネメシスQ』に関する何らかの手掛かりを得ているのかもしれん」


ヤミー「おう」







ガラガラ……



リリネット「……部屋の中なのにすごい瓦礫の山」ケホッ

リリネット「ホントにここに居るのかな……」


ゾマリ「そのはずです」



カツ…



「………………」スッ



リリネット「あ!」


リリネット「さっきの小さな『ネメシスQ』……!」




「………………」



ゾマリ「先程から姿が確認できないとは思案していましたが、はたして今まで何処に……」


リリネット「じつはあたしたちの戦いが終わるまでここに隠れてただけだったりして……」



「………………!」ギクッ


「………………」


「………………」コッチコッチ



リリネット「……?」



「………………」グイッ



バサッ……



ゾマリ・リリネット「…………!!」








コポ……








ゾマリ(…………)


ゾマリ(液体で満たされた巨大なカプセル状の容器……)


ゾマリ(そして……)




『………………』ユラ…




ゾマリ(その容器の内部に一人の“人間”……)


リリネット「もしかして、この人が……」


ゾマリ「ええ」


ゾマリ「『彼女』こそが、『ネメシスQ』を操る者……その張本人で間違いないでしょう」


ゾマリ「それと同時に、私たちの置かれている状況を誰よりも理解している者である、ということも……」


リリネット「…………」


投下終了、最近は投下間隔が空いてしまい申し訳ありません



『………………』コポ…



リリネット「…………」


リリネット「あなたが……」



『……――…―……』ポウ…



『――…――……―』



リリネット「……?」

リリネット「う……なんだろ、頭の中が変なカンジ……」


ゾマリ「“招集”の時と同じですね」

ゾマリ「音声が脳内に直接響き渡るような感覚……『彼女』は今、私たちに何かを伝えようとしているのでしょう」


ゾマリ「しかし、最早その思考の伝達すら行えない程に衰弱している……」


リリネット「……!」


リリネット「だったら、早く助けないと……!」



『………………』コポ…



リリネット「うーん……このカプセルはどうやって開ければ……」キョロキョロ



「………………」スッ



ポチッ



ガゴン! ザバァァァ……



リリネット「……!」

リリネット「開いた……」チラッ



「………………!」エヘン



リリネット「ふふ、ありがとね」



『………………』ドサッ…



リリネット「……!」


ゾマリ「やはり衰弱の度合いが激しい……早急に外へ運び出しましょう」



「………………」ポツーン



リリネット「……あなたも来る?」



「………………!」ピクッ



「………………ガ!」ビシッ



ゾマリ「では、共に参りましょう」


リリネット(というか、この子喋れたんだ……)



「………………」ゴソゴソ



リリネット「……?」



バサッ



「ガ!」スッ



ゾマリ「衣服、ですか」


リリネット「そういえばこの女の人、今素っ裸だもんね」

リリネット「こんな状況だし、今まで気にならなかったのもあれだけど……」



『………………』



ゾマリ「ふむ……いくら『この世界』とはいえ、一人の貴婦人をこのような格好のまま外へと運び出すのは些か道徳に反する」

ゾマリ「移動の前に、まずはその衣服を着せるとしましょうか」





バシャッ バシャッ



億号「もうそろそろか……」



「……号!」



億号「ん?」ピタッ



太河「……億号! もう少し速度を落としてくれ!」



億号「っと、少し速すぎたか……」



フワ…



マリー「ふぅ……」


太河「“オルガゥス”の速度を出しすぎだ、億号」

太河「これではお前についていくこちらのテレキネシスの使い手に負担がかかる」


億号「おお、悪かった」


カイル「しかしすげえよな、俺たちを先導してるこのデカいライオンみたいな乗り物」

カイル「これってあんたの『バースト』で造ってるんだよな?」


億号「ああ、コイツは“オルガゥス”ってんだ」

億号「俺はどちらかと言えば『バースト』偏重型だからな、移動や戦闘の時も『ライズ』よりこの“オルガゥス”を主に使ってる」



カイル「ふぅん……」

カイル「これだけ精巧に組まれた“PSI”プログラムは初めて見たよ」


ヴァン「それに“PSI”能力としても珍しいですよね、『バースト』を実体として具現化させて、なおかつこれだけ自由に扱える能力なんてそうそう無いと思いますし」


億号「はっ、そこまで率直に評価してくれるとはな」

億号「嬉しい限りだぜ」


マリー「……?」キョロキョロ


億号「どうしたお嬢ちゃん?」


マリー「あ、いえ……“夢喰島”まではあとどのくらいで着くのかなあって思って……」


億号「そうだな、もうそろそろ近くに見える頃だと思うが……」キョロキョロ


マリー「…………」


億号「……見当たらねえな」

億号「進路は間違っちゃいないはずだが……」



太河「……!」


太河「……あれはなんだ?」



ピキッ……



マリー「……!」


ヴァン「空間に裂け目……!?」


億号「……ありゃあ、『バースト』で構成された空間迷彩か?」

億号「場所としちゃ、あそこが“夢喰島”で間違いないと思うが……どうする、行くか?」


カイル「空間迷彩……」


カイル(……アレが“夢喰島”なら、姉ちゃんたちもあそこにいるはず)


カイル「ああ、行こう」




ドスゥン……



億号「到着だ」



ザッ…



カイル「ここが“夢喰島”か……!」

ヴァン「すごいですね、こんなに緑が残っている場所がまだあるなんて……」



ガサッ…



太河「……!」ピクッ


太河「誰だ!」



ザッ…



ヤミー「ぶはァ~、ったく草木が邪魔でしょうがねえ」


ヤミー「……ん? なんだテメェは」ズイッ


太河「……!」ザッ


ハリベル「無駄に威圧するのはよせ、ヤミー」


マリー「ヤミーさん! ハリベルさん!」


ハリベル「……マリーか、どうやら私が思っていたより早く到着したようだな」


太河「知り合い……なのか?」


カイル「ああ、この人たちがさっき話したあんたたちを直接助けた張本人さ」


太河「……! そうだったのか……」



億号「なあ、アンタ」


ヤミー「あ?」


億号「アンタたちが俺たちを見つけ出して助けてくれたんだろう?」

億号「一度しっかりと礼を言わせてくれ」


ヤミー「あァ~……そういう面倒くせえのはいらねえよ」


億号「そうか……だったらせめてアンタの名前を教えてくれやしないか?」


ヤミー「名前だァ?」


億号「ああ、命の恩人の名くらいは知っておきたくてよ」


ヤミー「ったく……」

ヤミー「ヤミー・リヤルゴだ、覚えたか?」


億号「おう」



ヴァン「あれ……そういえばゾマリさんたちの姿が見えませんけど……」


ハリベル「ああ、私たちも今あの二人を探しているところでな」



ガサッ…



カイル「ん?」


リリネット「ふぅ……」

リリネット「ってあれ、もうみんな揃ってる……」


ヤミー「なんだクソガキか、ゾマリのヤツはどうした?」


リリネット「クソガキ言うな!」

リリネット「あと、ゾマリならもう少しで来るはずだよ」



ザッ…



ゾマリ「どうやら皆さんお揃いのようで……」



『………………』



ハリベル「……!」


ハリベル「その女は……」


ゾマリ「ええ、『例』の……」


ハリベル「…………」



ヴァン「…………」ツンツン


カイル「ん、どうしたヴァン?」


ヴァン「(……ゾマリさんが担いでるあの女の人、何者なんでしょう)」ヒソヒソ

ヴァン「(ハリベルさんたちの仲間、ってわけじゃなさそうですけど……)」ヒソヒソ


カイル「(うーん、何者かって俺に聞かれてもよくわからないけど……たぶん姉ちゃんたちはあの女の人を探すのが目的でこの島を訪れたんじゃないのかな?)」ヒソヒソ

カイル「(姉ちゃんの口調からして全く知らない人、ってワケじゃないだろうし……)」ヒソヒソ

カイル「(たぶんあの女の人はバアちゃんが言ってた、俺たちが姉ちゃんたちについて“探っちゃいけないこと”と何か関係があるんじゃないのか?)」ヒソヒソ


ヴァン「(ん~、やっぱりそうなんですかね)」ヒソヒソ


ヴァン「(よく考えたらハリベルさんたち、結局この島に来なきゃならない理由に関してもはっきり教えてくれませんでしたし……)」ヒソヒソ

ヴァン「(……なんだか気になりますね)」ヒソヒソ


カイル「(ま、それは姉ちゃんたちから話してくれるまでは聞かないことにしようぜ)」ヒソヒソ

カイル「(いずれ全てを話してもらえる時が来る、ってバアちゃんも言ってたろ?)」ヒソヒソ


ヴァン「(そうですね)」ヒソヒソ



ハリベル「ヴァン!」


ヴァン「……!」

ヴァン「どうしました?」


ハリベル「……すまないがこの女の治療を頼む、どうやら酷く衰弱しているようでな」



『………………』



ヴァン「本当ですね……この弱り具合だと小康状態に戻すだけでもだいぶ時間がかかりそうです」


ヴァン「急いで“根”に戻って本格的な治療を施しましょう」



ヴァン「マリーさん、出発の準備をお願いします」


マリー「はい!」


ヴァン「カイル君は全員の誘導を」


カイル「おう」


億号「あー、俺たちは俺たちで伊豆に向かったほうがいいのか?」


カイル「いや、ここから伊豆までは少し時間もかかるし、何より陸上の移動は“禁人種”に見つかるかもしれない」

カイル「それにみんなでまとまって帰った方が安全だろうし、あんたたちも移動のためだけに“PSI”能力を使うのは大変だろ?」


億号「まあ、そうだな」


太河「……何度も世話になってすまない」


カイル「はは、そんなこと気にすんなっての」



ゾマリ「…………」


ゾマリ(これで、大方の目的は達成できたといえようか)

ゾマリ(『彼女』の体調の安否が少々気掛かりだが、それに関しては治療についての専門知識を持つヴァン殿に任せよう)


ゾマリ(治療さえ終えれば、今私たちが欲している“情報”について『彼女』に訊きただすことが可能なはず)


ゾマリ(…………)


ゾマリ(とりあえずは、“根”に戻り『彼女』の快復を待つのみ……か)



ポン!



ゾマリ「……!」


リリネット「もう出発するってさ、早く行こう!」ニッ


ゾマリ「…………」


ゾマリ「ええ、行きましょうか」






フレデリカ「あー、マリーたちはまだ帰ってこないのかしら」

フレデリカ「もしもこれでマリーになにかあったら承知しないんだからね」


シャオ「心配しなくても大丈夫でしょう、ハリベルさんやゾマリさんもついていますし」


フレデリカ「ふーん……ずいぶんとあいつらに肩入れしてるのね、シャオ」


シャオ「何言ってるんですか、フレデリカも僕と同じく随分と彼らを信頼しているように見えますよ」

シャオ「特に、ヤミーさんに対してはね」


フレデリカ「は、はあ!? そんなワケないでしょうが!」

フレデリカ「ってか、いま読心能力で私の心を読んで言ったでしょソレ!?」


フレデリカ「…………」


フレデリカ「あっ」


シャオ「ふふ、やはりそうだったんですね」


フレデリカ「……っ!」カァァ…


フレデリカ「ああもう! マリーが帰って来るまで寝る!」プンスカ



ラン「…………!」ピクッ


ラン「仮眠を取ろうとしているところ悪いが、どうやら帰ってきたみたいだぞ」


フレデリカ「……!」


フレデリカ「みんな無事?」


ラン「ああ、何人か知らない顔があるが……」

ラン「とりあえず、“トリックルーム”でこちらに転送する」



シュン!



カイル「っと」


マリー「ただいま戻りました!」


フレデリカ「マリー、ケガは無い?」


マリー「大丈夫、心配しないでフーちゃん」


ヤミー「けっ、あいかわらずマリーに甘いんだなお前は」


フレデリカ「うるさい!」


ヤミー「おいおい、なにそんなにイラついてやがんだ」


フレデリカ「やかましい!」




太河「…………」


太河「まさか本当にこれほどの施設が存在するとは……」


億号「なんだ、さっきの話聞いて信じてなかったのか?」


太河「いや、ここまで大規模なものだとは想像していなくてな」



シャオ「あなたたちは……」



カイル「ん、この人たちはこれからここで俺たちと一緒に暮らすことになったんだ」

カイル「詳しいことは後で説明するよ」


シャオ「そうでしたか」

シャオ「僕はシャオと申します、これからよろしくお願いします」


億号「ああ、俺たちのほうこそよろしく頼む」


太河「……随分とあっさり受け入れるんだな」

太河「正直、もう少し警戒されるものだと思っていたが……」


シャオ「ふふ、あなたたちは悪人には見えませんし、警戒する必要はないでしょう」



カラカラ…



ヴァン「ふう」


ヴァン「あ、ゾマリさん! その女の人、今から別の部屋に運ぶのでこのベッドに寝かせてください」


ゾマリ「わかりました」スッ



『………………』



ヴァン「じゃあ、僕はあっちの部屋でこの人の治療を続けてますので……」


ヴァン「よいしょっと」



カラカラ…



エルモア「…………」


ゾマリ「……エルモア殿」


エルモア「分かっておるよ」

エルモア「今のアレが、ワシの亭主をゲームに巻き込んで殺した張本人なんじゃろう」


エルモア「本人を目の前にしたら何か、もっとあると思っとったんじゃが……」

エルモア「老いは怒りも鈍らせるのかねえ……」


ゾマリ「…………」



エルモア「ゾマリや」

エルモア「お前さんたちはあの女に聞かねばならぬこと、尋ねねばならぬことが仰山あるんじゃろう」


ゾマリ「…………!」


エルモア「返事はせんでええよ」


エルモア「だったら、今は他の三人と共にあの女が目を覚ますまで側についとるのがええ」


エルモア「ま、治療中じゃし、ヴァンのやつに追い出されるかもしれんがの」


ゾマリ「……かたじけない」




ヴァン「…………」ポウ…



『………………』



リリネット「どう、治りそう?」


ヴァン「ええ、多少時間はかかりますが体力も戻るし、脳のダメージもいくらかマシになると思いますよ」


ゾマリ「…………」


ゾマリ「…………?」



『………………』カラン



ゾマリ(左手首に腕輪……?)スッ



ヤミー「ん? なんだコイツ、腕になにかつけてやがんな」グイッ


ゾマリ「……!」


ヴァン「あ、ヤミーさん、彼女をあまり乱暴に扱わないでください」


ヤミー「おー、すまねえ」


ハリベル「その女の腕輪、何か文字が彫ってあるようだが……」


ヤミー「小さくてよく視えねえが……」ジー


ヤミー「あァ~……NO(ナンバー)……07(セプティマ)?」



『………………』



『…………おい』



ゾマリ・リリネット「……!」


リリネット「今の声……この人の……?」



『勝手に私の体に触るな』



ヤミー「あ?」



『聞こえないのか 私の体に触るなと言っているんだこの豚野郎』



ヤミー「!」


ヤミー「なんだとこのクソ女……!」


ハリベル「落ち着け、安い挑発にのるな」スッ



リリネット「あたしたち、あなたに聞きたいことが……」



『私は疲れているんだ お前たちの相手は後でしてやるからさっさとここから出ていけ』



ヴァン「って言ってますけど……」


ゾマリ「…………」


ゾマリ「今は、『彼女』の言葉に従いましょう」


リリネット「……そうしよっか」


ヤミー「ちっ……」

投下終了



――――――――――


―――――――


――――









『……ろ』











『起きろ』











『話をしようか』







ゾマリ「…………」パチッ

ゾマリ(ふむ……)


リリネット「……zzz」


ゾマリ「リリネット殿」トントン


リリネット「……むにゃ」


リリネット「……はっ!」パチッ


リリネット「あれ、あたし今までなにやって……」


リリネット「…………!」


リリネット(そうだ……結局、あの女の人の体調が良くなるまで別の部屋で待つことになったんだっけ)

リリネット(それでいつの間にか寝ちゃったんだ……)



リリネット「それより、今の声……!」


ゾマリ「ええ、『彼女』による“招集”のようです」


リリネット「……やっとだね」

リリネット「これでやっと、あたしたちのことが……」


ゾマリ「…………」


ゾマリ「急ぎましょうか」

ゾマリ「恐らく、ハリベル殿とヤミー殿も既に彼女の下へと向かっているはずです」


リリネット「うん……!」



ザッ…



『来たか』



ゾマリ・リリネット「…………」


ヤミー「くぁ……」

ヤミー「ったくあくびが出るぜ……」


ハリベル「…………」


『どうした 私に聞きたいことがあるのだろう』

『黙ってないで何か言え』



ゾマリ「……その前に一つ」

ゾマリ「貴女、何者です? 名は……」


『名前など無い』

『“あのカプセル”ではそんなものは必要なかった』


『私は6歳の時に人として生きる権利を失った』


リリネット「…………」


リリネット「あなた、いったい……」


『文部科学省能力開発研究局 異種心理神経課』

『国家機密研究組織“グリゴリ”『実験体07号』』


『とでも言っておこうか』



ハリベル「……実験体だと?」


07号『…………』


07号『見るがいい』

07号『これが私が人間でいられた頃のわずかな記憶』スッ



パァァ……



ヤミー「……!」

ヤミー「なんだこりゃあ……!?」


リリネット「頭の中に映像が直接……!」





07号『――私は身寄りのない孤児だった』


ゾマリ「…………」


ゾマリ(この映像の施設……)

ゾマリ(『児童養護施設“はるかぜ学園”』……情景から察するに、幼子を育むための施設だろうか)


07号『両親に名もつけられず捨てられ 孤児院での生活は厳しかったが』

07号『幸福と不幸の物差しを持たぬあの頃の私は ただ“笑って”過ごしていた』


07号『そう あの時までは』



07号『ある時 私たちの施設にとある男たちがやってきた』

07号『その男たちは孤児院の子供達全員にあるテストをさせた』

07号『成績が優秀な子供を研究の実験体として連れていくために』


リリネット「…………」


07号『そのテストは伏せられた数枚のカードから その男たちが指定する特定の絵柄が描かれているカードを当てるものだった』

07号『私はどこにも行きたくなかった』

07号『誰か別の子が行けばいいと思った』


07号『だから 私はその指定された絵柄以外の外れカードを 何十回も何百回も何千回もめくり続けた』

07号『自分のしている行為がどれだけ天文学的な確率かも気付かずに』


07号『そして――――』




ハリベル「…………」


ハリベル「その研究機関である“グリゴリ”とやらが何かは知らんが……」

ハリベル「結果的にお前はその男たちに捕まり、研究の実験体になったというわけか」


07号『ああ』

07号『だが その研究機関“グリゴリ”も滅んだ』


07号『私は元は東京の研究所に幽閉されていたが ある時用済み扱いとなり“夢喰島”に移送された』

07号『だがそこで――あの大災厄が起きた』


ゾマリ「……!」

ゾマリ「『現世』の崩壊、ですか」


リリネット「…………」



07号『しかし 偶然にもカプセルに入れられた私だけが“夢喰島”に置き去りにされ生き残った』


07号『まあ このまま野垂れ死ぬことに変わりはないと思ったが――』

07号『ふと 死ぬ前に何かしようと考えた』


07号『そして創り上げたのが 時を遡る私の分身『ネメシスQ』だ』


リリネット「……!」


ゾマリ「…………」


ゾマリ「……そして、貴女は私たちに例の『テレホンカード』を与え時間旅行を行わせた」

ゾマリ「私の当初の推測では、貴女の目的は私たちに『現世』の崩壊を阻止させることであると思案していましたが……」


ゾマリ「貴女の実際の目的は、私たち時間旅行者を利用し“この世界が崩壊した原因を突き止めること”」

ゾマリ「違いますか?」


07号『察しがいいな』


07号『お前の言う通り 私は世界を救う気など毛頭ない』

07号『ただ真実を知りたいだけだ』



07号『だが それではまだ正解の半分と言ったところだな』


ゾマリ「……!」


07号『私がこの“ゲーム”を行う理由』

07号『それはお前たちを“ある最終目的地”に送り込むため』


07号『そこには――“ある者”がいる』


ゾマリ「…………」


07号『今は“アマギミロク”と呼ばれている』

07号『私と一緒に連行されてしまった少年――』


07号『“グリゴリ”『実験体06号』』






07号『私の双子の弟だ』




投下終了、非常に短いですが区切りの問題でここまで
次回は木曜か金曜の夜に来ます




07号『まあ こんなところか』


07号『言っておくが、“最終目的地”について明かす事は出来ない』

07号『聞いても無駄だと言っておく』


リリネット「…………」


ゾマリ「…………」


ハリベル「……そうか、では今度は私からも幾つか訊かせてもらおう」



ハリベル「私たちを『虚圏』から呼び出したのはお前で間違いないのだろう」

ハリベル「お前がゾマリやリリネットを呼び出した理由も、先程の話である程度は理解したつもりだ」


ハリベル「この際、ゾマリやリリネット、そして私たちをどのようにして『虚圏』から呼び出したかなどの手段は問わないでおく」


07号『…………』


ハリベル「だが、何故お前は『カード』を所持しているゾマリとリリネットのみならず、“私たち”すらも呼び出す必要があった?」

ハリベル「先程の話の通りならば、『カード』を所持しておらず時間旅行を行えない“私たち”はお前にとっては何の役にも立たない存在のはずだ」


07号『役には立つさ』

07号『お前たちには 時を越える彼らのための“緩衝材”の役割を持たせている』


ハリベル「……なに?」



07号『あらかじめ言っておくが 私の知る限りでは私が『お前たちの世界』から『この世界』に呼び出した者は合わせて“12”人』

07号『そこの小娘も加えれば計“13”人だ』チラッ


リリネット「……!」


07号『本来は全員に『カード』を与えこの『ゲーム』に参加させるつもりだった』

07号『だが イレギュラーの大量導入による意図しない未来改変を避けるため 私は時を越える役割を持たせる者を数名に絞った』


07号『簡潔に言えば 『カード』の所持者ではないお前たちは 『カード』を持つ者の為に働く私の奴隷――』

07号『まあ さしずめ使い捨てのサポート役と言ったところか』


ハリベル「……!」


ヤミー「なんだとてめえ……!」


07号『ん 今のはそんなに怒るような台詞だったか?』

07号『まあ どうでもいいか』



ハリベル「…………」

ハリベル「……二つ目の質問だ、私たちはどうすれば『虚圏』に戻ることができる?」


リリネット「……!」


07号『『虚圏』か』

07号『確か お前たちの『元いた世界』の名だったな』


07号『残念だが 戻る手段は無い』


ハリベル・ヤミー「……!!」


リリネット「え……?」


ゾマリ「…………」


ゾマリ「……理由をご説明いただきたい」



07号『理由も何もない 私はある時偶然にもお前たちの世界である『虚圏』に一時的にだが干渉することが出来た』


07号『そして『お前たちの世界』で『十刃』と呼ばれている 私が実力者であると判断した者を『こちらの世界』に呼び出した』

07号『お前たちならば私が望む“最終目的地”に辿りつける力量があるだろうと判断し 意識の混濁下にあったお前たちに個体差はあれどある程度の治療を施してな』


ハリベル「…………」

ハリベル「……随分と勝手なものだな」


07号『勝手か』

07号『言っておくが 私が治療を施さなければお前たちの殆どは命を落としていたはずだ』

07号『私としては 逆に感謝してもらいたいものだがな』


ハリベル「…………」


07号『何にせよ 一度目の干渉が偶然の賜物であった以上 私が再び『お前たちの世界』に意図的に干渉する術など持ち合わせてはいない』



07号『そしてもう一つ言っておく』

07号『『この世界』はお前たちの知っている『現世』ではない』


リリネット「……?」

リリネット「知ってるよ、『この世界』は『現世』が壊れちゃった後の世界なんだし……」


07号『話を最後まで聞け』

07号『どうやらお前たちは根本的に思い違いをしているようだが まず『この世界』には――』


07号『この星には“お前たちの言う”『現世』も『虚圏』も存在しない』



リリネット「は……!?」


ハリベル・ヤミー「…………」


ゾマリ「……存在しない、とは?」


07号『『この世界』はお前たちの知る世界とは似て非なる全く別の世界』

07号『『お前たちの世界』と『この世界』は 存在する『次元』そのものが異なっている』


07号『だいぶ意味合いが異なるが 『この世界』はお前たちの世界から見た『平行世界』とでも言えば分かりやすいか』

07号『故に『この世界』には『現世』や『虚圏』 ましてや『虚』などと言う概念は存在しない』


ゾマリ・ハリベル「……!」


リリネット・ヤミー「…………」


07号『だから 私が何をしようがお前たちが何をしようが 『この世界』から『お前たちの世界』に干渉することは出来ない』

07号『さっきも言ったとおり そもそもこの星には『お前たちのいた世界』――『虚圏』など存在しないのだからな』



リリネット「……ちょ、ちょっと待って」

リリネット「話がよくわかんなかったけど……つまり、あたしたちが今いる『この世界』はあたしたちの知ってる世界とは全く別のモノってことだよね」


07号『その通りだ』


ゾマリ「……故に、私たちを呼び出した手段が全くの偶発的なものであったうえ、そもそも次元すら異なる『虚圏』に貴女が再び干渉する術などないと」

ゾマリ「そう仰りたいのですね」


07号『ああ』

07号『理解が早くて助かる』


リリネット「それじゃあ……!」

リリネット「それじゃあもう……あたしたち、『虚圏』に帰れないってことじゃんか……!」


リリネット「あんた……自分がなにをしたのかわかってるの……!?」



リリネット「あんたの勝手な目的のためだけに呼び出されて、ゾマリやみんなを危険な目に遭わせて……」

リリネット「最低なヤツだよあんた……!」


07号『お前たちの命は私が放っておけばどのみち消えていた命』

07号『私は自分のしたい事をしているだけだ 死に損ないのお前たちを利用していったい何が悪い?』


リリネット「……っ!」ブンッ



バチンッ!



ゾマリ「……!」



07号『…………』ヒリヒリ


07号『どうした 何をそんなに怒っている』


リリネット「……っ!」


リリネット「この……!!」スッ



ドガァァァァン!!!



リリネット「……!?」



パラパラ……!




ヤミー「あ~あ! ったくよ、黙って聞いてりゃナメたことばかり抜かしやがる……!」

ヤミー「こんなにイラついたのは久々だぜ……!」スッ


ゾマリ「……!」


ヤミー「“まだ足りねえ”がまあいい」


ヤミー「『ブチ切れろ』……!!」


ヤミー「『憤……』」



ガシッ!



ヤミー「!」グッ…


ハリベル「……刀を収めろ」ググッ…



ハリベル「……この女がどんな奴であろうが」

ハリベル「この女を殺せば、私たちが『虚圏』へ戻る手段は完全に断たれることになる」


ハリベル「どんな形であれ、この女が一度『虚圏』から私たちを呼び出したという事実が存在する以上、今一度干渉する術が全く無いといったことはないはずだ」


ヤミー「…………」


ハリベル「…………」


ハリベル「……頼む、今は抑えてくれ」


ヤミー「……ちっ、わーったよ」スッ…




ボソッ……


ゾマリ「……!」


07号『…………』


07号『あの二人は 特に小娘のほうはより強く――『仲間』のために怒っているのだな』


ゾマリ「…………」


07号『私は“グリゴリ”での生活に耐える為に恐怖も悲しみも全ての感情を完全遮断(シャットアウト)し“心”を捨てた』

07号『だから 私にはアイツらの怒りが理解できない』


ゾマリ「…………」

ゾマリ「……貴女の心には、何処か迷いがあるように見受けられます」


07号『…………』


ゾマリ「……貴女の今までの発言、あれらは本当に貴女の真意ですか」

ゾマリ「心の奥底では本当は……」


07号『――やめてくれ』

07号『“心”を失った私に あまり難しい質問をしないでくれ』


ゾマリ「…………」



07号『…………』


07号『聞け』


07号『先程 お前たちが『虚圏』へ戻る手段は無いとは言ったが 実は可能性が全く存在しないというわけではない』


リリネット「…………」


07号『一度『この世界』とお前たちの世界である『虚圏』が繋がった以上 『この世界』のどこかに“繋がりあった痕跡”である“特異点”が残っている可能性がある』


ハリベル「……“特異点”だと?」


07号『お前たちの言葉で言う『黒膣』とほぼ同一のものだ』

07号『それを伝って行けば あるいは『お前たちのいた世界』に戻ることが出来るのかもしれん』


07号『だが それがいったい何処に存在しているのか そもそも本当に存在するのか 私には知る由もないがな』



リリネット「…………」グッ…


ゾマリ「…………」


ゾマリ(やはり……)

ゾマリ(『彼女』がただ私たちを利用しているのみならば……私たちに『虚圏』へと戻る手段など伝える必要はないはず)


ゾマリ(先程から今までの『彼女』の言葉には“嘘”は見受けられなかった)


ゾマリ(…………)


ゾマリ(ならば、やはり『彼女』の欠落した感情、その何処かにはまだ……“愛”が残っている)


ゾマリ(私たちへの慈悲はその“愛”によるものか、はたまた単に先日の恩によるものか……)


ゾマリ「…………」



ハリベル「……質問を続けるぞ」

ハリベル「お前は先程、『この世界』に呼び出した者は『虚圏』で“『十刃』と呼ばれている者”であると言ったな」


ハリベル「リリネットを除けばお前が『虚圏』から呼び出した者の総計は“12”とのことだが……私たち『十刃』は計“10体”しか存在しない」

ハリベル「……これはどういうことだ?」


07号『何かおかしな部分でもあるのか?』

07号『私はただ 言葉の通り『お前たちの世界』から『十刃』と呼ばれている者を呼び出しただけだ』


07号『まあ それぞれの『十刃』に干渉した時間軸は異なるがな』


ハリベル「…………」



ゾマリ「…………」


ゾマリ(ふむ……)

ゾマリ(……『彼女』の口ぶりから察するに、『虚圏』から『この世界』に呼び出された者は“現”『十刃』のみではないのだろう)


ゾマリ(……恐らくは、“前任者”も含まれている)

ゾマリ(そして、『彼女』が先程述べた――)



『あらかじめ言っておくが 私の知る限りでは私が『お前たちの世界』から『この世界』に呼び出した者は合わせて“12”人』

『そこの小娘も加えれば計“13”人だ』



ゾマリ(この“私の知る限り”、とは……)



ハリベル「……次だ、何故お前は私たちを“それぞれ全く別の時間と場所”に呼び出した」


ハリベル「“意図しない未来改変”を避ける為か?」

ハリベル「それとも、“私たち”に“サポート役”としての役割をより強く持たせる為、あえて異なる時間と場所に呼び出したのか?」


07号『どちらも違う』


07号『ただでさえ私は『次元』の異なる世界に干渉していたのだ』

07号『流石にお前たちを転送する時間軸と場所までは正確にコントロールすることは出来なかった』


07号『まあ 私の力不足だ』

07号『そもそも“契約プログラム”無しでの転送など初の試みだったからな』



ゾマリ「……何です、その“契約プログラム”とは」


07号『あの『テレホンカード』に私が埋め込んだ“PSIプログラム”のことだ』


ゾマリ「…………」


07号『『テレホンカード』の契約者をこの“ゲーム”に送り込み 公衆電話から公衆電話へ――』


07号『ゴールの公衆電話に私の力を宿しながら少しずつ前に進んでいく』


07号『私の“力”が――意識が繋がっていき――』


07号『お前たちと共に“最終目的地”へ導かれていく』



07号『この“PSIプログラム”により私の脳に掛かる負担は極度に軽減され 契約者を円滑にこの“ゲーム”に参加させることが出来る』


07号『だが 異なる『次元』に存在するお前たちにはこの“契約”の力が及ばなかった』

07号『そもそも私がお前たちの殆どに『カード』を付与しなかった以上 “契約”など施しようがないのだがな』


07号『そして お前たち『十刃』の一部には『この世界』に呼び出した後“強制的に”私との契約を行わせ『カード』を与えた』


リリネット「…………」


07号『ついでに言っておくが 本来はこのプログラムの中の一つに“制裁プログラム”というものが組み込まれている』

07号『『カード』の背面に記されているルールを破る者 秘密を守れぬ者 そういった私の存在を“敵”に露呈させてしまう危険性を持った者をいつでも灰にするといったプログラムをな』



07号『だがこの“制裁プログラム”の付与は“ゲーム”開始前に『アンケート』を契約者に受けさせることが絶対条件』

07号『そのため『アンケート』を受けていないお前たちにはこの“制裁プログラム”を埋め込むことが出来なかった』


07号『お蔭で 秘密を明かそうとしたお前たちの下へわざわざ『ネメシスQ』を向かわせなければならなかったのには少々骨が折れた』


ゾマリ「…………!」


ゾマリ(……道理で)

ゾマリ(マツリ殿の『カード』と私たちの『カード』の相違点であった背面の記述の違いは、この“制裁プログラム”の有無が原因……)


ゾマリ(そして、私がエルモア殿の邸宅で『この世界』の秘密を明かそうとした際に灰と化さなかったのは、この“プログラム”が働いていなかった為……)

ゾマリ(同じく、あの時私たちの下に『ネメシスQ』が現れたのも、この“プログラム”の代替手段として私に直接制裁を加える為……)


ゾマリ(さらに、ハリベル殿とヤミー殿に私たちが置かれた境遇を説明することが可能であったのも、あの時点で既に『彼女』自身が衰弱しており私たちの下に『ネメシスQ』を赴かせることが困難であった為であると……)



07号『結局 最終的にはお前たち全員に“記憶の読み取り”に対する『トランス』耐性を植え付けることにした』

07号『不測の事態により“敵”に情報が漏れるといったことがないようにな』


07号『ただしこの『トランス』耐性は対象者が私から離れれば離れるほどその効力は薄まっていく』

07号『とはいえ それでも並の『サイキッカー』ではどうにもならない代物だがな』


ハリベル「…………」


ハリベル「見ず知らずの他者を利用することに関して、そこまで周到な用意が成されているとはな……」

ハリベル「……狡猾も甚だしいものだ」


リリネット「……!」


リリネット(ハリベル……)



07号『…………』


07号『まだ聞きたい事はあるか?』


リリネット「…………」


リリネット「……ある」


リリネット「あなた、あたしたち以外の『十刃』が……今どこにいるのか知らない?」


07号『…………』


07号『――残念だが 知らないな』


リリネット「…………」


リリネット「……そう」



07号『さて 話はこれで終わりだ』


ゾマリ・リリネット「…………」


07号『まだ私に聞きたいことがある といった顔だな』

07号『今日はもう疲れた 明日また相手をしてやる』


「……ガ!」グッ グッ


ヤミー「あ? 何だてめえは、押すんじゃねえよ」


ハリベル「この部屋から出ていけ、ということか」


ヤミー「ちっ、つくづく勝手な野郎だ」


ゾマリ「……ここは一旦退くとしましょうか」


リリネット「…………」



ギィィ…


バタン



07号『…………』



ゾマリ「…………」


ゾマリ(ふむ……)

ゾマリ(やはり生半可な問題ではなかった、か)


ゾマリ(…………)


ゾマリ(此処は『虚圏』とは次元の異なる『別の世界』……ただし、『霊子』の存在が見受けられる以上私たちの世界とそれ程かけ離れた世界というわけではない)

ゾマリ(そしてこの世界の人間が私たちを視認することが可能であるのも、恐らくは此処が『私たちの世界』と『別の世界』であることが理由の一つ……)


ゾマリ(そして、『この世界』と『虚圏』の関係……)

ゾマリ(此処が私たちの世界と関連の無い『別の世界』であるならば、『この世界』の影響は『虚圏』には及ばないのだろうか……)



ゾマリ(否……現時点で私たちを呼び寄せた張本人である『彼女』ですら理解しかねている事象があるのだ)

ゾマリ(別次元での出来事とはいえ、一度『この世界』と『虚圏』が繋がった以上……何かしらの形で影響が及んでも不思議ではない……)


ゾマリ(…………)


ゾマリ(引き続き“アマギミロク”の計画阻止の為に動くと同時に……例の“特異点”の捜索を行うとしましょう)

ゾマリ(さらにはそれに加え、ウルキオラ殿の救出とスターク殿の捜索)


ゾマリ(……そしてもう一つ)


ゾマリ(明日は、私が思案している“最大の疑問”について『彼女』に問いただす必要がある)



ゾマリ「…………」


ハリベル「……思った以上に、事は重大なようだな」


ゾマリ「ええ」


ヤミー「クソがあ……あの女と話してるとイラついてしょうがねえぜ……!」


リリネット「…………」


ゾマリ「……どうしました、リリネット殿」


リリネット「……」


リリネット「あ……」


リリネット「……ちょっと忘れ物」ダッ


ゾマリ「……!」



ヤミー「おいおい、突然どうしたってんだあのガキ」


ハリベル「…………」


ゾマリ「私が追います」


ゾマリ「ハリベル殿とヤミー殿は先んじて休息を」



スッ…



ヤミー「おい!」


ヤミー「ったく、行っちまいやがったぜ……」








ミシッ…ミシッ……!



バキバキ……!!



ズズゥゥン……!!!!



「………………」



「……そろそろかのォ」



ヒュン!


シャイナ「…………」


シャイナ(最近、この区域で発生している『神経制御塔』の“消失”)


シャイナ(何事かと思いましたが、やはり『サイキッカー』の仕業でしたか)



ザッ…



シャイナ「こんにちは、お爺さん」


シャイナ「いったいここで何をしているんです?」ニコッ


投下終了、次回も近いうちに来ます

「ペペ様の為に」が「月島さんのおかげ」とも被る

「ペペ様の為に」が「月島さんのおかげ」とも被る

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年09月04日 (木) 18:36:30   ID: 65U9Vnrj

ネタSSかと思いきやしっかりしててわろた

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