吸血鬼「欲しけりゃくれてやる」 (32)


えーっと、これをあっちに置いて。それからこれを足下に置く。

それから跪いて、それから、うん。後は……


「願いを口にするだけ、か」


この紋様、明らかに黒い方の魔術っぽいけど、大丈夫だよね。

いきなり五臓六腑をぶちまけたり、爆発四散したり飛び散ったりしないよね。

爆発四散と飛び散るは一緒か……まあいいや。

よし、願いを言おう。

私は今とても困ってます。どうか助けて下さい。



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私に、悪しき者を討ち倒す力を……






シーン…



そうだよね。

こんな都合の良いおまじないがあるわけない。

こんなくだらない物に縋っちゃダメだ。

やっぱり自分の力で解決しなくちゃダメなんだ。


「努力すれば、きっと上手く行く。よね……」


取り敢えず片付けよう。

明日は早いし、こんなの見つかったらかなりまずいし。

さっさと片付けて寝よう。

準備する時は心躍る感じだったけど、今感じるのは虚しさだけだ。

全くバカなことしちゃったなぁ。


「ふぅ、疲れたぁ」


さてと、片付けも終わったし寝よう。

ブゥン…ドタンッ


「いってぇ!?」

「だ、誰!?」


私が跪いていた場所。

魔法陣と呼ばれるものがあった場所に、誰かが落ちてきた。

部屋の天井に穴は空いてない。つまり何も無い場所から、彼は落ちてきた。


宝石のような赤い瞳。黒い髪。

痩せっぽちな体、色白の肌。

尖った耳。派手なジャージ。

それらが、差し込んだ月明かりに照らされて浮かび上がった。


それともう一つ。

気怠そうに立ち上がり袖で涎を拭く彼の口元に、ちらりと牙が見えた。


「なんだよ、じろじろ見やがって。つーか誰だよオマエ」


どうやら、お呪いは最悪の形で成功したらしい。


もし私の勘が正しければ、かなりマズいことをしたんだろう。

決して喚んではならないモノを、喚んでしまったんだろう。


「あの、あなたは吸血鬼。ですか?」

吸血鬼「見りゃわかんだろアホかオマエ。今何時だと思ってんの?ぶっ飛ばすよ?」


「たぶん二時くらいです」


吸血鬼「そんなんどーでもいいわ!!」

吸血鬼「俺が言いたいのは夜更けに呼ぶなってことだよ分かったかハゲ!!」


「あっ、はい。ごめんなさい」

吸血鬼「ったく。最近の魔

「あの、一ついいですか?」

吸血鬼「なんだよバカ女」


「私は、ハゲてません」

吸血鬼「やかましいわ!!もう付き合ってらんねー、帰る」



「あのっ、待って下さい!! まだ伝えてないことがあるんです」


吸血鬼「……なんだよ」


「私は、バカ女じゃなくて女騎士です」


吸血鬼「うるせーよ!!もう帰るからな!!」


シーン…


吸血鬼「は?」

女騎士「あの、どうしました?」

吸血鬼「帰ろうと思って転移しようとしてんだけど、帰れねー」



女騎士「あの、吸血鬼さん」


吸血鬼「なに?今めちゃくちゃ集中してるから話し掛けないで欲しいんだけど」

女騎士「あっ、すいません」

吸血鬼「くそっ、全然ダメだ。何で帰れねーんだよ」

女騎士「あの、吸血鬼さん」


吸血鬼「めちゃくちゃ考えてるから話し掛けんな」

女騎士「あ、はい」


ーー数分後

吸血鬼「……あのさ、ここどこ?」


女騎士「私の部屋ですけど」

吸血鬼「そうじゃねーよ!! もっと大きい括りで!!」

女騎士「地球ですけど? 頭大丈夫ですか?」


吸血鬼「デカ過ぎんだよ!! つーかバカにすんな!!」

吸血鬼「ここはどんな種族がいる世界!? いわゆる何界!?」


女騎士「ああ。それは勿論、人間界ですよ」


吸血鬼「ふざけんな死んじまえ!!」

女騎士「嫌ですよ!!」


こんな感じで、私達は出逢った。


邯壹¥


つづく



吸血鬼「くだらね」ペッ


私は上司である騎士団長(ハゲ)の日常的なBodytouch。

度重なるセクハラに傷付き、疲れ果て、途方に暮れて街を歩いていた。

すると見慣れぬ本屋を発見。

なんとなく気になったので中に入ると、とても綺麗な店主さんに


「あなたには、コレが必要なようね」


と怪しげな本を渡される。


一瞬、店主の瞳が金色に輝いたような気がした。


怖くは無いけど引き寄せされるような瞳。

とてもじゃないけど断ることの出来ない雰囲気だったし、タダで貰うのに気が引けた。

なので、二千円を渡して逃げるように本屋から逃げ出した。


そのあと、騎士宿舎にある自室で渡された本をぼーっとしながら眺めていた。

するとそれはどうやら魔術関係の本。

表紙には、大きな目玉が描かれていた。


その本の項目には

『嫌なアイツに復讐』
『殺したい奴の名前を書くだけOK』

『泥棒猫は針で殺る……』
『浮気男の根本を絶て!!』

『親指一つで爆散♪』
『猫好きを犬好きに変えよう』

『髪の毛一本で奴は死ぬ★』
『バカでも出来る神秘の術』


などなど、怖いものが沢山あった。

二千円も払ったんだし、使わないのはなんだか勿体ない。



ーーどうせ叶うことはないだろう


と思いながらもビビりな私が選んだのは……

『望みを叶える』というものだ。

これなら害は無い。というわけでもう一度街に出て材料調達。

そして深夜。ちょっぴりワクワクしながら儀式開始。


だけど思った通り願いは叶わずに終わり、現れたのはジャージ姿の吸血鬼。

その吸血鬼に「どうやって呼び出した。答えろハゲおっぱい」

と問われ、素直に事情を話した直後に言われたのが


吸血鬼「くだらね」ペッ


この発言である。


吸血鬼「じゃあなんだよ?」

吸血鬼「俺にハゲ団長を亡き者にして欲しいから呼んだわけ?」

吸血鬼「悪しき者を打ち倒す力を……とか大層なこと言ってなかった?」


女騎士「そもそも吸血鬼さんを喚ぶつもりは全くありませんでした」

女騎士「それに、悪に大小はないと思います」キリッ


吸血鬼「もっともらしいこと言ってんじゃねーよアホ」

女騎士「アホじゃないです」


吸血鬼「つーかオマエの事情なんてどうでもいいんだよ」


女騎士「事情を聞いてきたのは吸血鬼さんじゃないですか」


吸血鬼「魔力を持たない筈の人間が、どうやって俺を呼び出したのか気になったんだよ」

吸血鬼「話しを聞く限り、原因はこの本だろうけどな」パラパラ


女騎士「じゃあ、その本自体に魔力があるってことですか?」

吸血鬼「へぇ、思ったよりハゲてねーバカじゃねーか」


女騎士「ハゲじゃないしバカじゃないです」


吸血鬼「色々書かれてるけど、どれを選んでも俺を呼び出す仕掛けになってんだよ」

女騎士「そうですか、無視ですか」


吸血鬼「界が違うから転移は出来ない」

吸血鬼「なら、界が重なってる場所を探すしかねーな。めんどくせーな」


女騎士「それは本当にごめんなさい。迷惑、ですよね」シュン

吸血鬼「うん」


女騎士「気にすんな。とか言わないんですね」


吸血鬼「例えば、好きでも何でもない男に急に呼び出されました」

女騎士「えっ?あ、はい」


吸血鬼「挙げ句、その理由が気になるあの子に告白しようか迷ってます」

吸血鬼「とかだったらさ、オマエならどうするわけ?」


女騎士「文句言ってひっぱたいて帰りま…はっ!!」


吸血鬼「オマエがやったのはそういうことなんだよ、嫌がらせ以外の何物でもねーだろ?」

女騎士「本当にごめんなさい。許して下さい」


吸血鬼「オマエだったら許せんの?」


吸血鬼「どうでもいい奴に深夜二時に呼び出されて恋愛相談されたら、許せんの?」

女騎士「それはもう許す許さないのレベルじゃないですよ!!」


吸血鬼「今の俺がそれだよ!!」

女騎士「うっ、手違いとは言え本当にごめんなさい」

吸血鬼「はぁ…取り敢えず眠いし、棺桶持って来いよ」


女騎士「へー、棺桶で寝るんですか。変わってますね」



吸血鬼「オマエはアホだから忘れてるかもしれねーけどさ」

女騎士「はい?」


吸血鬼「俺さ、ドラキュラだからさ」

吸血鬼「うっかり朝日浴びて消し炭になるのはゴメンなんだ」


女騎士「じゃあ死…棺桶置き場に案内しますからそこで寝て下さいよ」

吸血鬼「誰かに見つかったら面倒だからここに持ってこい。今すぐ」

女騎士「えぇー?」


吸血鬼「不満!?なんなのオマエ!?」


女騎士「だってあそこ、凄く怖いんですよ?」

吸血鬼「知らねーよ!!さっと行ってさっと持って来ればいいじゃねーか」


女騎士「あの、怖いので一緒に来てくれませんか?」

吸血鬼「人の話し聞かねーなオマエ」

女騎士「もうすぐ夜明けですよ?いいんですか?」ニヤァ


吸血鬼「脅し!?オマエ最低だな!!」

女騎士「早く行きましょうよ。私だって眠いんですから」ハァ


吸血鬼「なぁ、頭握り潰されんのと心臓を抜き取られんのどっちがいい?」


女騎士「すいません、本当に勘弁して下さい」

女騎士「あまりにスムーズな会話が出来たので調子に乗りました」


吸血鬼「取り敢えず案内しろ」

女騎士「はい。では、参りましょう」トコトコ

吸血鬼「しおらしい声出すな、すっげー気持ち悪い」

女騎士「……チッ」


吸血鬼「皮剥ぐぞ」

女騎士「やめて下さい」


続きます

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