男 「やべ、財布忘れちまった」 (25)
友 「おいおい、マジかよ」
男 「まあいいよ、どうせ今日は金を使う予定ねえし」
友 「適当だなおい」
男 「高校にとりに戻るのが面倒なんだよ」
友 「盗まれたらどうすんだよ」
男 「鍵付きロッカーの中だろうから大丈夫だろ」
男 「それに、あの財布の中にははした金しか入ってねえし」
友 「大金は持ち歩かない主義だっけか、男は」
男 「お前みたいに無駄遣いはしないんだよ」
友 「一度やっちまったら抜けられなくなるぜ?」
男 「ドラッグかよ」
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男 「じゃ、俺電車だから」
友 「おう、またな!」 タッタッタ
男 (……どうせ足に使うのはバスと電車)
男 (定期券は手元にあるから、それらを利用する分にはなにも問題ない)
男 「……よし、帰るか」
-バス停-
男 「……」
男 (……暑い、なんて暑さだ)
男 (電車から降りたはいいが)
男 (そこから家の近所に停留するバスが、一時間に一本しかない)
男 (……神はなぜ俺を田舎に生んだのだろうか)
男 (……考えてると喉が渇いてきた)
男 (百円、落ちてたら嬉しいんだけどなぁ)
男 「……」 チラッ
コンビニ 「飲み水、あるよ」
男 「…………」 ゴクリ
男 「……はっ!?」
男 (ダメだダメだ! 何考えてる俺!)
男 (金がないのにどうやって商品を買う気だ俺!)
男 (……いや、待てよ?)
男 (……一つぐらいいただいても、罰は当たらないんじゃないか?)
男 (なにしろ、こんなにもたくさんの飲み水があるんだ)
男 (一つぐらいかすめとったところで気づかれや……)
店員 「……」 ギロッ
男 「ヒイッ!」
男 「……」 キョロキョロ
男 「……」 ガチャガチャッ
自販機 「お釣りの取り忘れはございません」
男 「……チッ」
「ママー、どうしてあのおじさんはジュースを買わないの?」
「しっ、見ちゃいけません」
男 「……」 ショボン
男 (……なにか、なにか手は)
男 「……そうだ!」
男 (便所だ、便所の水があるじゃないか!)
男 (あの水なら飲み放題だ)
男 (蛇口をひねればいくらでも手に入る!)
男 (ひゃっほうっ! これで俺は干からびずに済むってもんだ!)
男 「……よし」
「あ、男だ!」
男 (……なん、だと)
幼 「奇遇だねー、男」
男 「そ、そうだな、まあたまにはこんな偶然もあるか」
幼 「うん、確かにあたしたちは部活もクラスも違うから」
幼 「一緒に帰る機会って、部活のないときぐらいしかないよね」
男 「ああ、んで今日は俺もお前も部活がなかったわけだから鉢合わせと……」 アセアセ
幼 「……どしたの男、焦ってるみたいだけど」
男 「い、いや、別に!?」
幼 「……はぁ、喉乾いちゃった」 テクテク
男 「!?」
幼 「自販で飲み物でも買おうっと、男も飲む?」
男 「いや、俺はいい」
男 「女の子に奢ってもらうなんて、男として情けない」
男 (嘘ですほんとは奢ってほしいですオネシャス)
幼 「考え方古いよぉー」
幼 「……あ、だったら男が奢ってよ!」
男 「ねぇよそんな金!」
男 (しまった、つい本音が!)
幼 「……ケチ」 ガチャ
幼 「……」 ゴクゴク
男 「……」 ジィー
幼 「あんまりジロジロ見ないでよ、男」
男 「わ、悪い」
幼 「まったくもう、いやらしいこととか考えないでよね」
男 「な、なんでそうなるんだよ!」
男 (喉さえ乾いてなければ、そんなことも考えるかもしれない……が)
男 (……性欲よりも大事なものって、あるんだな)
幼 「……おいしいなぁ」
男 (金さえあれば、そこらのコンビニないし自販で安全な水が手に入る)
男 (……『カネ』さえあれば)
男 「……」 ガサゴソ
幼 「……なにしてんの、男」
男 「ちょっくら、探し物」
幼 「ふーん、見つかりそう?」
男 「さあ、どーだろうな」
男 (……荷物の中に百円混じってたり……しないか)
男 (……動いたら、余計に喉が渇いた)
幼 「ぷはぁ、おいしかった」
幼 「たった百円でジュースが飲めるって、いいよね」
男 「……なんで、ジュースなんだ」
幼 「……男?」
男 「なあ、幼馴染」
幼 「ど、どしたの、改まって」
男 「俺、思ったんだ」
幼 「な、なにを?」
男 「どうして、安心して飲める水はタダで飲めない?」
幼 「……何言ってるの?」
男 「別にただの水でいいんだよ、飲んで腹壊さない水ならなんでもいいんだよ!」
男 「でも、それは金を出さなきゃ手に入らない!」
男 「なぜだ、なぜなんだ幼馴染……!」
男 「どうして、それはタダで手に入らない」
男 「どうして、それはタダで作り出せない……!」
男 「いや、どうして俺たちの体は」
男 「『汚い水』で体を壊してしまうんだ!」
幼 「……男って、意外とケチくさいし弱っちいね」
男 「」
幼 「……あるっちゃあるよね、タダで飲める水」
男 「本当か!?」
幼 「海水とか、川の水とか、湖の水とか」
男 「……このあたりにはないよな」
幼 「うん、確かに」
幼 「……でもさ、そんな水っておいしくないと思う」
男 「自然の水が旨くない?」
幼 「ん、だって汚そうだもん」
幼 「おなか壊しちゃいそう」
男 「……腹壊す、か」
幼 「……ほかにもあるっちゃあるよね、水」
幼 「例えば、べん」
男 「お手洗いの水なんて汚くて飲めるかよ!」
幼 「だよね」
男 (……女の子の口から便所など、インモラルな)
幼 「……」 プルルル
男 「ん、携帯なってるぞ、幼」
幼 「あ、ほんとだ」 ピッ
幼 「あ、もしもし、友?」
男 (……友?)
幼 「もう、どうして男なんかと一緒に帰っちゃうのよ」
幼 「え、あたしが遅いからだ? 生意気なー」
男 (……は?)
幼 「ふん、いいよーだ」
幼 「その代わり、今度のデートではきっちりエスコートしてよね!」
幼 「……うん、うん、それじゃ、また!」
ピッ
男 「……友と、付き合ってたのか」
幼 「そだよ」
幼 「男よりも面白い人だよね、友って」
男 (……確かに、友と幼が親しく話している場面を)
男 (そう、何度か目にした覚えはある、が)
ブオオン
幼 「……あ、バスが来たね」
男 「あ、ああ」
幼 「……男?」
男 (……なんで忘れてたんだろうな、俺)
幼 「どうしたの男、変な顔して」
男 (まだあったじゃないか、タダで飲める水が)
男 (……ああ、この水はしょっぱいなぁ)
おしまい
奇跡も魔法もない世界なんだ、すまない
ジャンクフード的な楽しみ方をしていただけたなら幸いです
ではノシ
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