比良坂初音「聖杯戦争?」(303)
誰かオナシャス
モジャンボ「もじゃあああああ」
エリカ「からみつく!」ぐしっ!
ヘルガー「が…っ」がく…
カリン「なんてパワー…やるわね」
ボワッ…バタッ
カリン「でも、やけどになってたおれた…と。一応引き分けね」
エリカ「もじゃ!!ウツボットぉおおおおお!!」ぽーん!
カリン「一気に終わらせてあげるわ!ディザソル(改造ポケモンに登場するアブソルの進化系)!」ディザアアアアアアッ!!
エリカ「ねむりごな!」ぱらら
カリン「かわしてつるぎのまい!」でぃあああああ!
誰も書いてくれないから飽きるまで自分で書くか…
※注意書き
あくまでif
舞台はステイナイト
登場マスターは型月のキャラ
サーヴァントは総取っ替え
主人公はシロウ
完璧だった。その手応え……
ドンピシャ、引き当てた、ここ一番で失敗せず、間違いなく遠坂凛は目当てのサーヴァントを召喚した。
凛「貴女、セイバー?」 深夜。時刻にすれば丑三つ時。自宅の地下に在る物置小屋で、厳重に厳重を重ねた魔方陣は最高の結果を現界させる。
方陣のの央、消えて行くくの
ららををしたたはは人の少女。ブルーブラックク長いいををきなリボンンでニーテールルにねね、、ににサギの耳ををしらったカチューシャャをけている。。
>>5がいきなりバグったから、投稿しなおし……orz
完璧だった。その手応え……
ドンピシャ、引き当てた、ここ一番で失敗せず、間違いなく遠坂凛は目当てのサーヴァントを召喚した。
凛「貴女、セイバー?」
深夜。時刻にすれば丑三つ時。自宅の地下に在る物置小屋で、厳重に厳重を重ねた魔方陣は最高の結果を現界させる。
魔方陣の中央、消えて行く柱の中から姿を表したのは一人の少女。ブルーブラックの長い髪を大きなリボンでポニーテールに束ね、頭にはウサギの耳をあしらったカチューシャを付けている。。
セイバー「そう。そう……」
そして凛の方を向いて短く返事をしながらコクリと頷き、ゆっくり辺りを見渡してもう一度短く言葉を発して目を瞑った。
まるで何かを考えているかのように黙り混み、微動だにせずただその場に立ち竦む。
凛「変わった服装ね……制服かしら? ねぇセイバー、貴女……強いのよね?」
凛が不安に思う要素は充分だった。召喚した瞬間こそテンションあげあげだったが、今、じっくりと、上から下まで眺めて、「しくじった?」と頭を抱え込みそうになる。
まず、このサーヴァントには『凄味』が無いのだ。声を聞いただけで逃げ出したくなるような、姿を見ただけで絶望するような、極端な話し、怖くない。そこいらに居る女子高生と見た目は何ら同じ。
だが、それとは逆……
同じ日、同じ時に召喚を行った間桐桜は全く逆の反応をしていた。
桜「あの、あのっ、貴方のクラスを……教えて、ください」
召喚に応じたのは高身長の男。黒い髪をセンターパートで分け、黒いロングコートに、黒いフィンガーグローブに、黒いブーツ。黒一色を身にまとう黒の支配者。
桜を最初に襲ったのはその威圧感で、何もしていなくとも、居るだけで精神を削り取って行く凄まじいプレッシャー。
それでも何とか途切れ途切れで声を紡ぐと、ようやく長い時間を掛けて短い質問を終えた。
「アサシンだ……気を抜けマスター。今は休息に全力を注ごう」
更にこの時、奇しくも……
一つのサーヴァントが呼び出され、一つのサーヴァントがこの世から姿を消す。
綺麗「ランサー……よもや、英雄王すら鎧袖一触とは」
世界最古にして黄金の英雄王ギルガメッシュは、宝具を使う事すら許されず『ミンチ』になった。
身体が粒子の光に分解されて消え失せ、前回の聖杯戦争から現界を続けていたチャンプは、真っ先に今回の戦いから脱落する。
ランサー「フン。ちょいと、ぶちかましてやっただけなんだがな? 英雄王とやらも、七英雄であるオレには勝てんかったようだ」
ランサーの外見をシルエットだけで表すのなら、ケンタウロス……これだろう。
武器こそ西洋の槍で頭に角が生えてはいるが、腰から下は馬のような四足歩行で、足の一本一本が隆々とした筋肉で膨れ上がっている。
綺麗「して、ランサー、貴様の願いは何だ?」
ランサー「知れた事。七英雄の復活……それしかあるまいて」
これで、今日、この時、この瞬間、召喚されたのはセイバー、アサシンに続いて三人目。
しかしもっと前、とうに現界しているサーヴァントも存在した。それは森の奥深く、アインツベルンの古城で端的な呼吸を繰り返す。
──コー、ホー。コー、ホー。
イリヤ「バーサーカー、夜の散歩に出るから着いて来て」
バーサーカー「コー、ホー。わかった」
電子音が混じる声、アサシンと同様にこちらも黒。ただ、バーサーカーの黒は本物だ。服が、では無い。髪が、でも無い。まるで影のように目以外の全てが黒い。
格好はリングコスチュームで、それにメットを被り、仮面が顔を覆う。覆面レスラー……と言ってしまえばそれまでだが、無論にしてたかだか覆面レスラーの筈も無い。
バーサーカーは特徴的な呼吸を繰り返しながらマスターのセリフに応えると、大気中に溶けるように己の姿を不可視に変えた。
セイバー、アサシン、ランサー、バーサーカー。そして続いては……
志貴「お前は、何なんだ?」
アーチャー「江戸川コナン、アーチャーさ!!」
七夜志貴。彼が呼び出したのは、飛び道具を得意とするサーヴァント。
だが、何なんだ? そんな問い掛けが自然と溢れるのも頷ける。
それは外見。低い身長、細い身体、幼い顔立ち。どう見ても小学生低学年にしか思えない。
しかし小学生低学年には思えない言葉使い、鋭い眼光、蝶ネクタイを身に付ける大人びた格好。やはり英霊として呼ばれるに値する存在なのだろう。
志貴「探偵? チッ、とんだ外れクジか……」
コナン「ハズレ? 違うよ……僕は英霊だけど英霊とは誰にも悟られ無いスキルと、最強の宝具を持ってるんだ。そしてマスターの居場所は誰よりも先に探知できる……この結論から僕がハズレだと思う理由を言ってみてよマスター?」
そして数日が過ぎ、場所は古ぼけたガラクタの溜まる蔵の中へと移る。 これもまた深夜。赤みがかった髪の少年と向かい合うのは、腰のラインよりも長い黒髪の少女。
──貴方が、私のマスター?
シロウ「えっ、あ、あっ……あの」
血よりも赤い瞳。雪よりも白い肌。どんな闇よりもドス黒い髪。黒いロングスカートのセーラー服に黒いタイツを穿いた学生……初見でこの人はどんな人だと問われたならば、そんな答えも出よう。
しかし、しかし、しかし。
キャスター「私はキャスターよ……はっきりしなさい。マスターなら、『食べない』から」
これは人外なのだ。シロウとキャスター、向き合っちゃあ居るが、シロウは両腕を胴体ごと蜘蛛の糸でグルグル巻きにされ、グルグル巻きにしたキャスターは目を細めて微笑む。
性的に、では無い。食的に、食べる。つまりは餌。シロウの返答を待ち、マスターを拒否したならば、その肉体を即座にバラして食つもりだった。
シロウ「すぅぅっ、はぁぁっ……うん、俺がマスターだ。でも驚いたよ、女の子が出てくるなんてさ」
これにて、6/7。残るは一体、最後のサーヴァント。
ウェイバー「やっぱりボクは、ライダーを引く運命に有るんだな……でも大丈夫かお前? なんちゃらしんけんとか聞いた事も無いぞ?」
ライダー「何だ、北斗に文句が有るのか? 北斗の文句は、北斗の文句はなぁっ、北斗の文句は俺に言え!!」
太い葉巻を咥え、薄紫色のカンフー胴着に身を包む。筋肉隆々の分厚い胸板、腕、足。三文字で述べるのなら、『ゴツい』。
ウェイバー「いや、文句は無いけどさ……強いんだよなライダー?」
ライダー「クンクン、くんくん……この臭いは、上海(しゃんはい)!?」
ウェイバー「って、中国か? それより質問に答えろっ」
ライダー「この街のどこかに、上海の臭いがする相当な手練れがいるな」
戦いの駒は出揃った。後はその時を待つばかり。
全てのマスターとサーヴァントが登録を済ませて三日後。聖杯戦争前日……
キャスター「手出しもしない最弱のサーヴァントに一太刀も浴びせれず、それでよく「女の子には戦わせられない」とほざけたものねマスター?」
シロウ「ぐっ、くっ……はぁっ、はぁっ、はぁぁっ」
シロウ「だって、『この時の俺』なら言いそうなセリフだったからな。だけどヤメた……『一周目』をなぞるのは、もう、ヤメた」
キャスター「んっ?」
早朝。広い道場の中、エミヤシロウは息を整えると左右にそれぞれ竹刀を握る。
素人芸……と笑う事なかれ。二刀流こそがこの少年のスタイル。その証拠にキャスターから余裕が消え、値踏みをするように目を細めてシロウを見据えた。
シロウ「あくまでもパートナーとして接し、パートナーとして接して貰いたい。だからマスターがサーヴァントに舐められるのは否だ」
キャスター「そう……つまり主導権を渡すつもりは無いと? ふふっ、良いわ、来なさいなマスター」
シロウ「ああ、そうだな……そう、させて貰うよ」
サーヴァントに凝視されようと、然りとて心音に変化は無い。
足を開き、上体を前傾させて極限まで重心を下げ、一歩目を踏み切る右足に全体重を乗せる。
後はタイミング。十メートル程も離れたキャスターの呼吸するタイミングを計り、1、2、3……
お
シロウ「おおおおおおおおおオオ!!!」
三度目の息を吐くタイミングに合わせて、地面を思い切り踏み切った。
咆哮と呼べる大声、それさえ上書きする板床が剥がれ砕ける音。その中を自身の身体を弾丸にして跳躍する少年の姿。
たかが人間……と思わせてからの、奇襲。奇策。豪腕戦略。
キャスター「ふふっ、あはははははははは♪♪」
しかし、その奇襲を、奇策を、豪腕戦略を、汗一つ掻かずに捌いてこそのサーヴァント。
キャスターの手首から先が黄色と黒の毒々しい色に変わると、降り下ろされる竹刀を一本ずつ掴み、そして握り潰した。
シロウ「なっ!?」
キャスター「真剣なら驚きもしたけど、所詮は模造刀……それで、続けるのかしらマスター?」
シロウ「いや、止めておくよ。よろしくキャスター。それで、なんだけど、真名を教えて欲しいんだ。それで作戦も立てるからさ」
シロウは折れた竹刀を道場の隅へ放り投げると、ニコリと笑ってキャスターへ右手を差し出す。
キャスター「比良坂 初音(ひらさか はつね)……よ。こちらこそ、良いマスターに巡り合えたようで嬉しいわ」
キャスターは一瞬だけ考えるが、わざわざ隠す必要も無いと結論付けると、シロウの手を取って握手を交わすのだった。
最終的に裏切るとしても、使えるマスターだと分かればまずは信頼関係を築く。それがキャスターとしての常套手段。
シロウ「初音。初音……悪い、聞いた事が無いな」
初音「平安の頃に生きていた土蜘蛛よ」
シロウ「平安時代に生きててセーラー服を着てるのか?」
初音「ふふっ」
セイバー 川澄 舞(かわすみ まい)
ランサー ダンターグ
アーチャー 江戸川コナン
ライダー 霞 拳四郎(かすみ けんしろう)
アサシン 孔 濤羅(こん たおろー)
キャスター 比良坂 初音(ひらさか 初音)
バーサーカー ウォーズマン
セイバーとバーサーカー誰かと思ったらw
セイバーは舞のアレをスキルか固有結界扱いにでもするとか?
アーチャー組はコナンがマスター推理して志貴がマスター狙いだと結構いけそう。
というかサーヴァントって基本的に全盛期の姿で召喚されるはずだが、新一でなくコナンの方が全盛期なのか。
まあ宝具が充実しそうなのはコナンの方だけど。
聖杯戦争開始 一日目
シロウ「確かに、藤ねぇが来ないな……」
初音「言ったでしょ? 魔術は得意ではないけれど、陣地作成ぐらいはできるって」
夜の間に衞宮邸に張り巡らされた不可視の結界。無意識にこの場所から足を遠ざけさせ、それでもシロウと初音以外がここに侵入すれば、自動的にドレイン呪術へ切り替わり精力を吸い上げる。
強力なa級結界だが、ギリギリ魔術のカテゴリーに分類されるもので初音が扱えるのはコレしか無かった。キャスターのクラスで召喚されたにも関わらず、魔法も魔術も使えない。
シロウ「なら、ひとまずは安心か……じゃあ、俺は学校に行くよ。マスターには何人か心当たりが有るから探って来る」
──
>>20年以上も謎を解き続けてるコナンのが、新一だった頃より頭脳が鍛えられてるって事で
初音「その言い方だと、まるで『学校にマスターが集まってる』って聞こえるけど?」
シロウ「この聖杯戦争の為に準備してた奴は一人居て、その他はどう転ぶかって感じかな? 実際に会って見るまでは分からないけど」
初音「ふぅん……なるほどねぇ。それじゃあ、出番が来るまではマスターの勉強姿でも覗かせて貰うわ」
朝の食卓風景。シロウは食べ終わった食器を洗いながら、キャスターは湯飲みに入ったお茶を正座して飲みながら、朝の食卓風景には相応しく無い会話を終えた。
もう平常には戻れない。下手を打てば明日を拝めない。最後の一組になるまで、戦い続けるしかない。
シロウ「よしっ、行くか!!」
シロウは洗い物を全て拭くと両手で自らの頬を張って気合いを入れ、キャスターはまるで空気中に溶けるように体を透明化させた。
学校 昼休み
シロウ「おっ、二人とも先に来てたのか?」
凛「衞宮君、これはどう言う事かしら?」
桜「先輩……」
学校の屋上、扉を開けた先では二人の女生徒が気不味そうに向き合い、シロウが到着すると揃って顔を向ける。
何故なら、この状況はシロウによって作り上げられたものだから。前もって休み時間にそれぞれ呼び出し、昼休みの屋上でこのメンツを集合させた。
シロウ「遠坂、お前マスターだろ? それと桜……お前はマスターなのか?」
そして手の甲に浮かぶ『証』を見せながら、開口一番で確信を問い掛ける。
凛の場合は勿論なのだが、桜の場合は反応しだい。「何を言ってるんですか先輩?」そんな言葉、そんな表情、それだけで桜はマスター候補から外す。
桜「あはは……何を、言ってるんですか先輩?」
シロウ「ちょっとゴメンな」
しかし、どれほどの関係なのだろうか? 毎日のように顔を合わせ、毎日のように料理を振る舞い合うと言うのは?
相手に後ろめたい事など無く、きちんと目を見て会話をし、だからこそ、咄嗟に誤魔化そうとする嘘が見抜ける。
シロウ「背中、少し冷たいな桜? そっか……桜もマスターか」
桜「え、えっ、えっ!?」
凛「ちょっ、衞宮君!!」
シロウは桜の背中に腕を回して抱き締めるとすぐさま離して謝り、凛にグイグイ押されて更に距離を離した。
今、この時、この瞬間。この場所には三名のマスター。
シロウ「二人とも、俺と組まないか?」
最弱と言われるキャスターを召喚した者が述べるべき事は決まっていた。
そして、呼吸する音だけが屋上で息づき、10秒、20秒、30秒……
凛「それ、マジなわけ?」
最初に応答したのは凛だった。片手で自身の顔を覆うように隠し、指の隙間から提案者で有るシロウを覗く。
疑心暗鬼。凛はこの聖杯戦争に備え、冬木市に存在する魔術師の家系を全て調べた。当然シロウの事も調べ、調べた上で「魔力が無いから白」としたのに、そのシロウがマスターに選ばれている。この状況がまず凛は信じられなかった。
シロウ「ああ。俺達が残るまでって期間限定ではあるけれどな。本格的な共闘とまでは行かなくても、他のサーヴァントの情報を共有するぐらいで良いぞ?」
桜「先輩……相談もしたいので、返事は今すぐじゃなくても大丈夫ですか?」
シロウ「それなら二人とも、もし組んでも良いと思ったら、今日の夜9時までに俺の家に来てくれ。表で待ってるよ」
そんな三人のやり取りが、今から凡そ5分前。
今も屋上に残っているのは凛と桜だけで、これから始まるのは少女達だけのマスターガールズトーク。
桜「私は、組もうと思います。遠坂先輩はどうするんですか? 遠坂先輩は裏切られる可能性も有るのにわざわざ組むはずもないですよね? 組まないですよね? すみません、聞くまでも有りませんでした」
桜は捲し立てるように刺々しい台詞を言い終えると、とどのつまり「お前は来るな」と示して頭を下げる。
凛「あ、当たり前じゃない!! でも一応、帰ってからサーヴァントと話し合ってみるわ。まぁ組まないけど一応ね、まぁ組まないけど!! じゃ、私は早退するからっ」
だが凛は濁す返事に留めると、手をヒラヒラ振って屋上から去るのだった。
ガチャン!! と、扉の閉まる音が響く。
桜「例えばだけどアサシン……貴方なら今の女を悟られずに殺せる?」
聖杯戦争一日目 夕方 とある貸ビルの一室。
志貴「お帰りアーチャー。で、マスターはわかったのか?」
コナン「ただいま志貴お兄ちゃん。おおよそ、だけど何人かね」
志貴はソファーに座りながらつまらなそうにテレビ番組を眺め、アーチャーは部屋に入ると背負っていたランドセルを志貴の隣に投げ捨てた。
志貴「聞こうか」
コナン「まずはここから離れた森の奥に一人。この時期に、この場所に、魔術師がやって来たなんてまずマスターと見て間違いない。
それとここからそれほど離れて無い位置に有名な魔術師の家系が二つ有る。恐らくどちらか……もしくは両方の家系がマスターの可能性が高いね」
志貴「ふむ、それならさっそく今日から一夜一殺で行こう」
コナン「森の中ならイリヤスフィール。近くなら遠坂凛か間桐臓硯。僕の推理ではこうだけど、サーヴァントは未だ謎のまま。それでも行くの?」
志貴「魔術を得意とするキャスターだと少々厄介だが、キャスターの時はお前が相手をしろ」
コナン「りょ~か~い。じゃあまずは腹ごしらえだねっ」
聖杯戦争一日目 同時刻 教会地下
まさか。そう思っただろう。まさか、このような展開になろうとは……
ダンターグ「どうした、貴様の力はその程度か?」
綺麗「ぐっ……シィィィィッ!!」
綺麗が放つ無数の黒鍵。連続投擲による弾幕に次ぐ弾幕。その全てが己がサーヴァントで有るダンターグの上半身に突き刺さる。
それをダンターグは防ごうともせず、むしろ腕を広げて自分から食らいに行く。
ダンターグ「このような攻撃ではな……この攻撃を『100』としたら、オレの一定秒数ごとの自己再生値は『999』。まるで足らんぞ?」
綺麗「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
ダンターグ「しかし先程のすかした拳法擬きよりはだいぶマシか。それに、ようやく貴様の『人間らしさ』も見えて来たしな」
ダンターグは刺さった黒鍵を一本ずつ引き抜きながら、息を乱す綺麗を見下ろしニヤリと笑う。
気に入らなかった……その達観した人生感も、無気力に見える言動も。
かつて人間だった頃の七英雄ノエルもそんな奴だったが、そんな奴でも妹のピンチには表情を鬼にして駆け付けていた。だからこそ仲間として信頼できたし、最後まで背中を預けられた。
綺麗「こんな事をして、いったい何になる!?」
ダンターグ「人間(ザコ)のクセに強者を装うな。人間は人間らしく……怒れ、泣け、笑え!! 長年共に居た英雄王とやらをオレが殺した時、貴様は怒りも泣きもしなかった」
綺麗「ふっ、それが何だと……」
ダンターグ「怒り、泣き、笑える者が強き人間だ。したがって貴様は、体術が得意だろうが、奇妙な武器を使おうが、人間の中でもザコなのだ。
そんなザコをマスターと呼び共闘など出来ん……貴様を殺し、他の者をマスターとして再契約しよう」
綺麗「くっ……ふはははは!! くだらん。こうやって笑えば良いのか? 泣けば良いのか? 怒れば良いのか? 強き人間になったところで、サーヴァント相手にどうなるものでも有るまい」
ダンターグ「生前、オレを倒したのは強き人間だ。1200年掛け、何代も何代も血を受け継いでな」
強き人間に育てようとするランサーと、それを否とする綺麗。どちらも意志を曲げずに一歩も引かない。
とすれば、マスターとサーヴァント……自ずと結末は見えて来る。
綺麗「どうやら……意見はどうやっても別つようだな。七英雄ダンターグよ、令呪によって命ずる!! これ以上私の邪魔を……」
ダンターグ「セヴンセンシズ、ボクオーン!! マリオネット!!」
力の強い方が、力の弱い方を、力を以て、制するのだ。この場合はお互いの切り札。綺麗の切り札(令呪)とランサーの切り札(宝具)。
そしてより早く発動したのは、後手で割り込んだランサーの切り札。ランサーは一瞬で外見をピエロの仮面を付けた細身の姿に変えると、声帯ごと綺麗の動きを封じ込めていた。
七戦士ズか
聖杯戦争一日目 夜 衛宮邸前
20時55分。シロウが門に背中を預けていると、大きなスポーツバッグを持った少女が駆けよって来た。
シロウ「おお、来てくれたのか桜!!」
桜「はいっ、話し合ったんですけど。やっぱり先輩と一緒の方が安心だろうって」
シロウ「と、言う訳だ。キャスター、桜も家の中へ入れるようにしてくれ」
初音(この少女ね? ええ、結界の設定を変えたわ)
シロウ「それと桜……最初はマスターだけで話し合いたいから、サーヴァントはここに待機させててくれないかな? もちろん、俺のサーヴァントもここへ待機させて置くから」
桜「えっ、あの……先輩が、そう言うなら」
>>32
その通りw
聖杯戦争一日目 夜 衛宮邸内
桜は多少の受かれた気分で門を潜り、玄関に上がり、茶の間の障子を開け、持っていたスポーツバッグをドスンと床に落とした。
桜「なっ、何で遠坂先輩が居るんですか!?」
凛「あら桜、いらっしゃい」
そこに居た先客は見知った……何ならついさっきまで話していて、ここで出会う筈も無いと思っていた人物。
凛が座布団の上で正座し、テレビを見ながらお茶をすすっていたのだ。
桜「組まないって言いましたよね? 言いました!! い、い、ま、し、た!!」
凛「うっ……わ、私はどっでも良かったんだけど、サーヴァントが……ね? あはは」
シロウ「桜、お茶を出すから桜も座ってくれ。取り敢えず大事な事だけ決めちゃうからさ」
桜「組まないって言ったのに、言ったのに……嘘つきウソつきうそつき」
桜はジト目で凛を見据えながらもシロウに促されて隣へ座り、シロウは新たに三人分の湯飲み茶碗をお盆に乗せ、二人と向き合う位置に腰掛ける。
シロウ「さて、桜と遠坂を疑う訳じゃないけど、お互いに安心できるように『おまじない』を掛けたいと思うんだ。まずは遠坂、右手を出してくれないか?」
凛「んっ、こうかしら?」
凛が右手を伸ばし、テーブルの中央辺りへ置く。
シロウ「オッケー。次に桜、遠坂の手に左手を重ねてくれ」
桜「この人の手に、ですか? わかりました……」
続いて桜が左手を伸ばし、凛の手に右手を重ねる。
シロウ「で、最後に俺が桜の手に左手を重ねて、っと」
凛「どうするのかしら? まさか団結の掛け声とか?」
シロウ「いやいや、そうじゃなくて、そうじゃなくて……だな」
と、ここで凛は異変を感じた。まるで押さえ付けられているかのように手が重いのだ。
最初は桜が嫌がらせをしていると重い何もしなかったのだが、多少なりとも痛みを感じて来たので桜へ視線を送る。
桜「せん、ぱい……ちょっと、痛い、です」
しかしそれは間違いだとすぐに分かった。桜も凛と同じで、だとするならば、押さえ付けているのは、エミヤ、シロウ。
シロウ「トレース、オン──」
凛「えっ、何よそれっ!?」
まるで鮮血でコーティングされた深紅の刃を持つ、果物ナイフ程の小刀を逆手で握る、エミヤ、シロウ。
シロウ「ごめん桜、遠坂、すぐ終わるから。えーっ、と……これは『剣と盾の誓い(アイゼルメイカー)』って儀式剣で、これを刺されても傷一つ付かないんだ。
でも、刺されている間は本人が嘘と認識してる事を言うと痛みが走る……これを今から俺達の手に刺して質問応答をして行く、けど良いか?」
凛「上等っ。たった今、衛宮君に死ぬほど質問する事ができたわっ」
桜「私も構いません。先輩、どうぞ」
シロウ「ありがとう二人とも……行くぞ?」
トン。
シロウは右手を降り下ろし、赤い刃の短刀が三人の手を貫通してテーブルへ突き刺さった。
だが前述通り、その光景を目視していなければ短刀が刺さっているとは信じられないぐらいに、痛みも、何も感じない。
>>37
× 続いて桜が左手を伸ばし、凛の手に右手を重ねる。
○ 続いて桜が左手を伸ばし、凛の手に左手を重ねる。
シロウ「まずは俺から。サーヴァントのクラスと、俺達以外の予想できるマスターについて話すよ。サーヴァントはキャスター。ただ、どうやら魔術は苦手らしい。
そして予想するマスター候補は教会の神父。確率は低そうだけど柳洞寺に住んでる葛木先生。最後は確定で、恐らく近々相手から攻め込んで来る……女の子。こんな所かな?」
凛「次は私。サーヴァントは、ふふん……セイバーよ。少し無口だけどね。予想してるのは衛宮君と同じで柳洞寺。だけど私の場合は一成君よ。質問は……桜が終わってからで良いわ」
桜「私のサーヴァントはアサシンです。剣の勝負だったら、セイバーにも負けないと言ってました……言ってました。言ってましたよ遠坂先輩?」
凛「何よ?」
桜「他のマスターについては、すみません……ちょっと分からないです」
桜と凛の間に刺々しさが残るものの、一巡目はそれぞれの情報を頭に入れながらすんなりと終わった。
次巡は質問。表情だけで凛がウズウズしているのが見て取れる。
凛「で、で、でっ。そろそろ質問いいかしら衛宮君? 衛宮君の魔術の事なんだけど……」
シロウ「んっ? ああ、どうぞ」
こうして夜は更けて行く。三人のマスターによる会議は日付が変わるまで続き、まだ穏やかな聖杯戦争の一日目が終わった。
穏やかでなかったとすればこことは違う場所。間桐の屋敷、その一室。
志貴「切り裂きたくなるような美しい月だ……そう思わないかジジイ?」
臓硯「カカッ、なんじゃ小僧? 不法侵入は駄目だと親に教わらんかったのか?」
臓硯が自室に入ると、そこには椅子に座って背中を向け、窓から月を見上げる少年が居た。
あくまでも座った後ろ姿で、パーカーを被り全容は把握できないが……若い男の声。それが確実に目の前の人物から聞こえて来るのだから、その認識で当りだろう。
志貴「チッ、ほら答えろよ。お前のサーヴァントは何だ? キャスターか?」
臓硯「サーヴァント、とな? キャスター、では無いな」
志貴「と、言う事は、だ……今からジジイに切りかかっても、何かしらの結界が発動するなんて事は……」
臓硯「ない」
ドスッ──
臓硯「心配する必要は無いぞ小僧? お主はたった今、死んだのだからな……ふぇっふぇっふぇっ」
声を遮り、臓硯の腕が鞭のように伸びてしなると、一瞬で椅子に座っていた少年の首を切り落とした。
愉快。痛快。ケラケラケラケラ。
臓硯「どぅれ、顔でも拝んでやるか」
そして落ちて転がる頭部からパーカーのフードを取り去り、髪を掴んで持ち上げ……
臓硯「ふぇっ?」
それが間桐シンジだと気付くまで、大幅な時間を有した。
志貴「よぉジジイ、気分はどうだい?」
臓硯「キサマァァァァァアア!!」
本物の志貴は真上。天井にまるでヤモリのように張り付き今の今まで息を殺していた。
真実は、いつも一つ!!
この事件のトリックはこうだ……
まず気絶させたシンジの胸にスピーカー型ピンバッチを付け、そして蝶ネクタイ型変声機で声を志貴に変えたアーチャーが、物影からまるで椅子に座っているのは志貴であるかのように装う。
臓硯「死ねぃ小僧ッ!!」
臓硯は再び腕を鞭に変えると、志貴に向けて大きく凪ぎ払う。
人の首を跳ねただけ有ってその凶器性は凄まじく、進行先の壁を、天井を、ガリガリと削り破壊する。
志貴「これからは孫と二人……あの世で良きご余生を」
しかし志貴は慌てもせず、逃げもせず、むしろ振るわれる鞭へ飛び込み、臓硯に向かい足場となる天井を蹴り飛ばした。
トンッ──
結末は、そんな音のように軽く呆気ない。
志貴「死の点を突いた。もうじき間桐臓硯と言う存在は消滅する……アディオス、ジジイ」
臓硯「ま、待てっ、まだ儂は……ひあ゙あ゙ぁぁぁァァアア!? 体がっ、体が溶けるぅっ!!」
志貴が握っていたナイフは臓硯のうなじに深々と突き立てられ、そして引き抜かれると同時にボトボトと身体の肉が崩れ落ちる。
皮が、骨が、血が、蟲が、ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ、煙を上げて、溶けた。
志貴「ふぅぅっ……おいアーチャー? もしかするとコイツは、マスターじゃ無いんじゃないか? 結局サーヴァントは出て来てないぞ?」
コナン「あれれ~っ、おかしいなぁ。絶対にこの家の誰かがマスターだと思ったのに」
聖杯戦争一日目
↓
聖杯戦争二日目
聖杯戦争二日目 早朝 衛宮邸
シロウ「当分は柳洞寺と教会を探りつつ、向こうから接触して来るであろうマスターとサーヴァントを三人で撃破……昨日の段階ではここまで決まったんだけど、キャスターからは何か有るか?」
初音「先に言って置くけど……食べるわ。もし足手まといになるようなら、あの二人を喰らう」
庭の隅に存在する薄暗い蔵の中。そこかしこに蜘蛛の糸が張り巡らされた初音の『巣』。
そんな場所でキャスターは束ねた糸をハンモックのようにして寝そべりながら、シロウはキャスターを見上げながら、マスターとサーヴァントの密談は始まっていた。
シロウ「それは困る……二人を無事に生還させたいから仲間にしたってのも有るし。もしキャスターが喰らうと言うんなら、俺は令呪でそれを止めるぞ?」
初音「ふっ、ふふふふっ。あはははははははは♪♪ やめてやめて冗談は。この戦いに、負けるわよ?」
シロウ「むっ……まさか、手をぬくとか言うんじゃないだろうな?」
初音「私はね、外から取り込んで力を回復させるタイプなの。それには何かを喰らうしかない。生きた肉を喰らうか、それか……」
ここでキャスターは一度言葉を区切ると、糸の上からシロウの目の前へ降り立つ。
そしてそのまま両腕を拡げ、ゆっくりとシロウを抱き締めた。
初音「貴方の精力をちょうだいな。それも嫌なら、性別はどちらでも構わないから知り合いを紹介しなさい。死なない程度に搾り取るわ」
シロウ「あー、精力ってのは、あの……」
初音「多分、貴方の想像通りよ」
シロウ「だよなぁ。う~む……それってアレか? 戦って力を使ったら回復の為にって事か?」
初音「ん、それもそうだけど……あら? お客さんが探してるみたいよ? 行ってあげなさいマスター」
蔵の外。シロウの名前を呼びながら探す桜の声が聞こえ、初音は密談を打ち切って姿を消した。
同盟中限定だが、桜と凜は半ば無理やりこの家で共に行動する事を決めたのだ。
昨夜、会議が終わった後に桜がここへ泊まると言い出し、凜もそれに対抗する形で泊まる事になった。
桜に関しては最初からそうする気だったらしく、スポーツバッグから次々とお泊まりグッズを取り出し……特に洗面所へ行ってハブラシとコップをシロウの物の並べ、「しばらくの間よろしくお願いします」と笑顔で言われたら断るに断れない。
仕方なしに桜へ一室を与え、わざわざ帰宅して着替えを持って来た凜にも同じように一室を与えた。
そして二人のサーヴァントに関しても、同盟中は結界の効果を受けずに出入り可能となる。
聖杯戦争二日目 朝 町外れの屋台
男「あ、あの……」
店主「へい、いらっしゃい!!」
小さな公園の隣に店を構える屋台。ここは朝帰りのホストやホステス向けに深夜から朝方に掛けて店を開けているのだが、今日は余り客が来ず店じまいをしようとした矢先に暖簾(のれん)が上がった。
娘「とおちゃん、おなかすいた」
男「待ってろ娘、今とおちゃんが美味しいラーメンを食わせてやるからな」
やって来たのは、一見で浮浪者と分かるボロを身に付けた親子。
父親は左手で娘の手を握り、右手にお金……恐らく数枚の硬貨を握り締めると、キョロキョロと視線を動かしながらメニュー表を探し始めた。
桜wwwwww怖いわwwwwww
その光景を見て、人としての優しさが有ったなら、誰しもがこの店主と同じ行動を取るだろう。
男「すみません、これで……どうかラーメンを一杯、頂けませんか?」
店主「はいよっ、ちょうど大盛り一杯分だ。毎度あり!!」
結局メニューが見付からずに男がカウンターへ置いたのは230円。
やはり……そんな予感がしたから、店主はメニュー表を出さなかった。この店で一番安いメニューでも小ラーメンの400円なのだから、まるで足らない。
店主「味わって食ってくれよ?」
男「ありがとうございます。うぅ、ありがとう……ごさいますっ」
しかし店主は娘へニコリと微笑み、大盛り用の器にチャーシューをたっぷり乗せて男へ差し出した。
娘「とおちゃん、とおちゃん!! 早く食べよう!!」
父「ああっ、そこのベンチに座って食べような」
三人が三人とも笑い、この国もまだ捨てたもんじゃないと思わせる瞬間。
不良「ひゃっはー!! ゴミがぁ、邪魔だジャマだ~っ!!」
だが、瞬間は本当に瞬間で終わった。
男「ら、ラーメンがぁっ!!?」
娘「おと~~ちゃ~~ん!!!」
屋台にやって来た若いモヒカンスタイルの男が、まるで蟻でも踏み潰すかの如く当然に男の持っていたラーメンを、すれ違い様に蹴り飛ばした。
中に舞ったラーメンの器は、
一滴の汁も溢す事無く……
ウェイバー「お~い、待てよライダー!!」
拳四郎「これは、お前の愛だろ? もう落とすなよ?」
男「どこのどなたか存じませんが、あっ、ありがとうございます!!」
消えかけた、親子の絆を取り戻す。
弱き者の、絶望を希望に変える。
生前は閻王(えんおう)とも呼ばれ、上海マフィアも恐れて逃げ出した第六十二代北斗神拳伝承者、霞 拳四郎(かすみ けんしろう)。
拳四郎「親子の愛は、いつ見ても心が温まる……そう思わないか?」
ウェイバー「ふぅぅっ、やっと追い付いたよまったく。でも、そうだな。それには同意かな」
父と娘は公園の中へ入ると、二人で分け合いながらラーメンを食べ始めた。
ウェイバーは自然と笑みが漏れるが、拳四郎は逆に険しい表情になると屋台に向かう不良を眺め、ポキポキと指を鳴らす。
不良「おい店主ぅ~っ!! 俺様にラーメンを出しやがれぇ!!」
店主「オメェに食わせるラーメンはねぇ!!」
不良「なんだとぉ? 死ねぇぇッ!!」
不良は懐から刃渡り30センチ程のサバイバルナイフを取り出すと、店主の顔を目掛けて降り下ろした。
店主「ひぃぃぃっ!?」
間一髪。咄嗟に後ろへ下がり大ケガは避けられたものの、店主の頬には切り傷が生まれ、そこからドクドクと赤い血が流れ落ちる。
不良「ひゃはーッ!! もうラーメンなんて要らねぇ!! 売り上げを貰うぜぇっ」
不良は店主の怯えた声に気を良くし、乗り越えて金を奪おうとカウンターに足を掛けた。
拳四郎「クンクン、くんくん……くせぇドブネズミが居るようだな。店主、俺が変わりにドブネズミを駆除してやろう」
不良「あ? ドブネズミだぁ? それは、俺の事かぁ……って、あれ、あれっ? 俺の指がああぁぁぁぁなぁぁぁぁぁい!!?」
だがライダーは後ろから不良の手首を掴み、対する不良は掴まれていないサバイバルナイフを持っている手で、振り向き様に突き刺そうとするが、サバイバルナイフは手の中に無かった。
拳四郎「五指烈弾……早く病院に行け。その指がくっつく内にな」
サバイバルナイフは、付け根から破裂して落ちた五本の指と同じく、いつの間にか地面で転がっていたのだ。
>>54
桜の性格
× ヤンデレ
○ 恐怖
不良「ゆ~びゆびゆびゆびゆびぃぃぃぃぃっ!!」
不良は奇声を上げながら無事な方の手で落ちた指を拾うと、一目散に病院へ向けて走り出して行くのだった。
ウェイバー「お前……殺しちゃうのかと思ったぞ?」
拳四郎「この闘い、是非など問わぬ……が、例えドブネズミでも、無関係の者を殺すのはマズイんだろウェイバー?」
ウェイバー「あ、ああっ。騒ぎになるまで殺し捲っちゃうってのはな、色々と」
ウェイバーが思い浮かべていたのは前回の聖杯戦争。そこでのキャスター陣営が取った奇行。
それは他のマスターとサーヴァント全てを敵に回す凶行。一般人を巻き込み、結果……マスターは真っ先に脱落した。
闘いとは覇道。覇道とは裏を掻く策を弄さずの正々堂々。正面から迎え打ち、そして勝つ。
前聖杯戦争のライダーもそんな男だった……
ウェイバー「ライダー、必ず勝とう!!」
拳四郎「フッ、北斗神拳に敵は無い。誰で在ろうとな」
聖杯戦争二日目 午前 間桐邸
桜「なに、コレ? なに、これ……なにこれなにこれっ、何コレぇぇぇぇぇええ!!」
衛宮邸での朝食を終え、忘れ物が有ったと桜は一度自宅へ戻り、そこで信じられないモノを見る。
転がった兄の首と、骨だけになった『誰か』の死体。
桜「うぅっ……うぷっ、うあっ、あぁ……げほっ、げほっ」
部屋中が荒らされ、壊され、殺され、這いつくばって、這いつくばって、胃の内容物を逆流される。 だけでは無い……逆流するのは。口から吐き出されるのは。身体が拒絶した全てだ。ビチビチと跳ねる蟲の全て。
吐き出して、吐き出して、泣いて、泣いて、『搾り尽くした蟲』を体外に排出して。
桜「はっ、あは、ふふふふふっ……あははははははははっ」
笑う。
濤羅「おい、しっかりしろサクラ!! 邪気に飲み込まれるなっ」
桜「しっかり? しっかりって言ったのアサシン? 私は……しっかり、してますっ!!」
実体を現して背中を撫でるアサシンの手を振り払い、桜は足取り確かに立ち上がると、痩せ細った蟲をグチャリと踏み潰す。
嗚呼、ああ、アア。
なんて、清々しいのだろう──
兄が死んだと言うのに、家族が殺されたと言うのに、何故こんなにも、心踊る。
枷は消えた。縛り付けていた者は消えた。気持ち悪い蟲は逆に喰って吸収してやった。
桜「ねぇ、アサシン?」
髪を掻き上げる。
桜「外でネエサンが先輩と離れたら……セイバーをヤるから」
聖杯戦争二日目 午前 遠坂邸
凛「セイバー、貴女から見て他の二人はどう?」
舞「どう?」
凛「あー。どんな奴らに見える?」
舞「どっちも……」
凛「どっちも?」
舞「どっちも、信用できない。戦うなら早い方が良い。最後まで同盟を続けてたら、たぶん負けるから」
凛「でもでもっ、セイバーならアサシンやキャスターには勝てるでしょ?」
舞「マスターが……」
凛「マスターが?」
舞「私が勝っても、マスターが死んだら負ける。裏切るタイミングを間違えたら……負ける」
朝食の後に桜を見送り、どうせならと凛も「わすれもの」と理由を付けて帰宅し、顔は前を向いたままソファーへ並んで座る。
もう一度、サーヴァントと話し合いをする為に。
だが、当然だが、良かれと思って同盟を組んだのだが、どうやら……凶の可能性も出てきた。
人よりも直感の鋭いサーヴァント、それも最強クラスのセイバーが、「よくない」と言う。初恋(シロウ)も、妹(桜)も、信用できないと言う。
でも、それでも私は──
凛「私から先には裏切らない。どんな事があろうとね」
サーヴァントステータス
クラス:セイバー
真名:川澄 舞(かわすみ まい)
《ステータス》
筋力:c
耐久:c
敏捷:a
魔力:e
幸運:a
宝具:【エンディングルート】
スキル
対魔力:sss
奇跡の体現者。どんなに強力な古代魔法も、セイバーへ向けて放たれた魔法ならば無傷でキャンセルする。
ビヨネットタンデム
一度の攻撃で、二度の攻撃結果を残す。
サーヴァントステータス
クラス:ランサー
真名:ダンターグ
《ステータス》
筋力:s
耐久:s
敏捷:c
魔力:c
幸運:e
宝具:【セヴンセンシズ】
スキル
対魔力:e
最低限の魔術避け程度。
リジェネレート:sss
この地上に置いて最上位の自己再生能力。
高速ナブラ
無拍子の三角同時攻撃。
サーヴァントステータス
クラス:キャスター
真名:比良坂 初音(ひらさか はつね)
《ステータス》
筋力:b
耐久:d
敏捷:b
魔力:b
幸運:c
宝具:【アトラクナクア】
スキル
陣地作成:s
様々なドレイン呪術に長けた結界を作成可能。
チャーム:b
魔力の無い一般人ならば、老若男女問わずに魅了し傀儡に出来る。
サーヴァントステータス
クラス:アサシン
真名:孔 濤羅(こん たおろー)
《ステータス》
筋力:a
耐久:b
敏捷:s
魔力:e
幸運:e
宝具:【真・双撃紫雷掌】
スキル
気配遮断:a
その存在を認識されるまでは、視覚からの発見は出来ない。
サイバースレイヤー
機械人体やサイボーグを相手に戦う時、全ステータスが1ランク上昇する。
サーヴァントステータス
クラス:ライダー
真名:霞 拳四郎(かすみ けんしろう)
《ステータス》
筋力:s
耐久:a
敏捷:a
魔力:c
幸運:a
宝具:【天授の儀】
スキル
飛来避けの加護:ss
魔力の付加されていない射撃&投擲を指で挟み跳ね返す。
夢想転生
一度戦った相手の技を見切り、自分のものとする事ができる。
サーヴァントステータス
クラス:アーチャー
真名:江戸川 コナン
《ステータス》
筋力:e
耐久:e
敏捷:d
魔力:e
幸運:s
宝具:【黒の組織の親分、アガサの探偵グッズ】
スキル
必中:ss
蹴り飛ばした対象物を、目標へ当てるスキル
qed
抜群の推理力。じっちゃんの名にかけて!
サーヴァントステータス
クラス:バーサーカー
真名:ウォーズマン
《ステータス》
筋力:a
耐久:s
敏捷:b
魔力:e
幸運:c
宝具:【1200万パワー】
スキル
異常耐性:ss
毒や麻痺などのバッドステータスを完全に無効化する。
ウォーズマンスマイル
理性と引き換えにステータスを1ランク上昇させる。
聖杯戦争二日目 午前
↓
聖杯戦争二日目 午後
。
聖杯戦争二日目 午後 教会地下
バゼット「これはっ!?」
瓦礫だった。残骸だった。壁のレンガは崩れ落ち、オブジェは破壊され尽くし、砂埃が舞って、建物として形を保っているのが信じられない程の瓦礫、残骸。
魔術協会から派遣されたバゼット・フラガ・マクレミッツが見たのは、そんな中でも向かい合う二つの影。
ダンターグ「どうだ……そろそろ結論は出たか?」
綺麗「変わらんよ。これが私だ、私の生き方だっ。それを貴様が否定する権利は有ったとしても、私を矯正する権利は断じて無い!!」
綺麗は瓦礫を押し退けて立ち上がると、再び自らのサーヴァントでへ向けて八極拳の構えを取った。
聖堂服は破け、丸一日続く『指導』に膝が震え、しかし死闘六課の覚悟で拳を握る。
ダンターグ「そうか……ならば変われとはもう言わん。マスターを放棄しろ。ちょうど、『代わり』が来たようだしな」
綺麗「なるほど……この為に私を操って呼ばせたか? だが、断るッ!!」
二人は現れたバゼットにそれぞれ視線を送って一瞥すると、決着を付けるべくお互いにフィニッシュブローを準備する。
次から
綺麗→綺礼に変更しときますm(__)m
綺礼「私がマスターとされたのは神からの啓示だ。祝福せよ……とな」
ダンターグ「もはや語るまい……その悪徳、実に天晴れ!! しかしな、やはりお前がマスターでは勝てる戦いも勝てん」
凍てつく殺気に煽られて、気温が急激に下降する。
両者の瞳はどこまでも険しく流移し、どちらが己の生きざまを貫けるのか?
綺礼「はっ……シィィィァァァアア!!」
先に動いたのは綺礼。その性格からは考えられない程の大声で咆哮すると、何の小細工も無く直線に、真っ直ぐに、地面を踏み切ってランサーへと駆け出した。
真逆にランサーは動かない。避けない。逃げない。先日と同じく両腕を広げ、「来い!!」と態度で示すのみ。
この態度、綺礼の一撃を真正面から受け止め、力の差を見せ付けるのだと、完封無きまでに絶望させるのだと……『勘違い』させるには充分だ。
ダンターグ「セヴンセンシズ、ノエル!! カウンター!!」
それこそ一瞬、十メートルに満たない距離を綺礼が駆け抜けるよりも、両掌を前へ差し出して会心の八卦掌を放つよりも、「しまった!?」そんな思考が浮かぶよりも尚も早い。
ダンターグは自身の姿を腰に剣を携えた若い青年へ変えると、右手に力を込めて握り締める。
綺礼「桜花、八卦……」
ノエル「カウンター」
──ズドンッッ!!!
綺礼の両掌が変身したダンターグに触れた刹那、まるで後出しで先行を取るように、大気さえ震わせる破裂音と衝撃を放ちながら……
綺礼「ッッ!!?」
杭打ち機を思わせる重いカウンターブローが、綺礼の腹部に深々と叩き込まれていた。
ノエル「次はその腕を切り落とす。心配はするな、令呪を移したら完全に治そう」
意見も反論もさせてもらえない。腹部を押さえてうずくまり、呼吸を求めて口をパクパクと開閉させるのが精一杯で。
それもそうだ……鍛えてるとは言え、生身の身体でサーヴァントの攻撃を受けたのだから。
ノエル「では、貰うぞ?」
ノエルは倒れ込む綺礼を見下ろし、数歩もバックステップで距離を取ると、腰へ携えていた剣の柄に手を添えて一気に引き抜いた。
そして、凍る。
何かの比喩では無く、先程の比でも無く、本当に地面が、瓦礫が、大気が、部屋中が、パキパキと音を鳴らせて氷点下まで冷え切り凍り付く。
バゼット「まっ、待ちなさ……」
ノエル「乱れ雪月花」
聖杯戦争二日目 夕方 遠坂邸
志貴「これは、どう言う事なんだアーチャー?」
コナン「あれれ~っ、おっかしいなぁ~?」
朝と夜の間。その、果てしなく夜に近い側の時刻。志貴は深く溜め息を吐くと、近くに有ったベッドへ腰を下ろす。
コナン「でも生活してる様子は有るし、今は何処かに出掛けてるのかもしれないよ? 少し待ってみようよ?」
志貴「ああ、待とう。だが今日も空振りなら作戦を練り直すぞ?」
一夜一殺……そのつもりが、連日のノーヒット。遠坂邸に侵入し、あらかた探索を終え、最後に凛の部屋でうなだれる。
コナン「ちょっと待って志貴お兄ちゃん。くんくん、スンスン、ペロペロ……これはっ、女子校生のパンティー!? ペロペロ、ペロペロ、ペロペロ、ここに住んでるマスターのパンティーで間違い無い!! qedだ!!」
コナンはタンスを順に開けて行き、凛の下着を見付けるとおもむろに鼻に押しあて嗅ぎ始めた。
志貴「はぁっ……性欲の塊だな。先に帰ってるぞアーチャー」
志貴はもう一度だけ深く溜め息を吐くと、アーチャーへ目をくれずに部屋から出て行くのだった。
聖杯戦争二日目 夜 衛宮邸前
凛「うっ……」
シロウ「ん、どうした遠坂?」
凛「いや、何か寒気がしてね」
桜「休んでて良いですよ? 柳洞寺への調査は私と先輩で行きますので……ふふっ」
凛「私も……行くわよ」
シロウ「よしっ、それじゃ確認だ。今日は柳洞寺の廷内まで入り、マスターとサーヴァントの有無を確認する。アサシンとキャスターはこちらに居るから、それだけ近付けば分かるはずだ。
そしてもし戦闘になった場合、俺とキャスターがマスターを、セイバーがサーヴァントを狙い、アサシンは凛と桜を守りながらセイバーのアシスト。これで良いな?」
凛「おっけーよ」
桜「はい、それで」
聖杯戦争二日目 夜 柳洞寺廷内
三人のマスターと霊体化した三体のサーヴァントが目的地へ着くと、そこは虫の鳴き声だけがbgmとして役割を果たす静かなる場所だった。
長い石階段を登り、鳥居を潜り、砂利が敷き詰められた広い廷内。雲一つ無い空が月の明かりで大地を照らし、更に幻想的な空間へ作り上げる。
シロウ「キャスター、探ってくれ」
初音「着いた時からやってるけど、魔力は微かも感じないわね。ここにマスターは居ないか……それとも、私のサーチにも引っ掛からない隠密能力を持っているか」
しかし、目標の発見には至らない。キャスターは実体化し、改めて周囲を魔力探知するが、寺の中からも、木々の奥からも、マスターとサーヴァントの気配は感じ取れない。
志貴「どうやら、俺の悪運は抜群らしいな。知人へ会いに来ただけで見つけられるなんてさ……っと」
そう。このマスターは、魔力では見つからない。
志貴は鳥居の上から飛び降りると、退路を断つようにシロウ達の前へと立ちはだかるのだった。
凛「ッ!? セイバー!!」
桜「アサシン!!」
だが、悪運は悪運で、幸運には決してなれない。
霊体化していたサーヴァントはマスターの呼び掛けに応え、セイバーとアサシン……どちらもが手に刀を、正確にはセイバーが日本刀でアサシンが野太刀の柄を握り、その切っ先を志貴へと向ける。
志貴「なんだ……こまされてる女供かと思ったら、お前らもマスターか? チッ、来いアーチャー!!」
コナン「見た目は子供、頭脳は大人っ、その名は名探偵コナン~~ッッ!!」
と、なれば自然と行動は限定されよう。志貴は令呪を使って離れた位置に居たアーチャーを召喚すると、青い瞳を月明かりに輝かせ、乱れ波紋のナイフを逆手で引き抜いた。
シロウ「アーチャー、か……みんなっ、手筈通りに!! この場で決めるぞっ!!」
志貴「いぃや、ここは退かせて貰うねぇっ。やれアーチャー!!」
幾ら何でも、流石に三対一は分が悪すぎる。
コナン「怪盗キッドの煙玉!!」
アーチャーは懐から小石程の丸玉を取り出すと、それをすぐさま地面へ叩き着けた。
一瞬で煙が辺りを覆い始め……
シロウ「エクスッ、カリバァァァァァァッッ!!!」
一瞬で煙が消し飛ぶ。暴風。
逃がさない。シロウを起点として乱気流が巻き起こり、天高く黄金が伸びる光の剣『エクスカリバー』が志貴を目掛けて放たれた。
剣を振り、剣が降る。
凛も、桜も、セイバーも、アサシンも、アーチャーも、キャスターさえも、この状況に着いて来れない。
特にサーヴァント勢は強者で在るが故に硬直する。それが1/100秒ほどの実際は意味の無い時間でも。高々人間が宝具クラスの術を有しているなど想像すらしていなかったのだから。
志貴「それは、良くないぞ!!」
だが、冷静に、冷静に。恐ろしいほど冷静に。志貴は振り注ぐ黄金の剣を見上げて笑うと、むしろ自ら当たりに行くようにシロウへ向けて大地を蹴った。
超低空を這うように跳び、エクスカリバーの凡そ中程に見える『線』の場所でナイフを振り上げる。
シロウ「嘘……だろっ!?」
志貴「じゃあな」
すると結末はまさかを迎えた。
黄金の剣は切り落とされて光を失い、志貴は目前まで接近して凶器を順手に持ち替えると、シロウの心臓へ向けてナイフを突き刺す。
濤羅「蹴り……」
舞「飛ばす」
その手前五センチ!!
シロウの背後から現れた二体のサーヴァントが、志貴の右肩と左肩を同時に蹴り飛ばした。
志貴「ぐあ゙ああああああああ!!?」
コナン「志貴!? くそっ、もういっちょ煙幕!!」
セイバーの蹴りは肩が外れる程度で済んだが、アサシンの蹴りはメキメキと沈み肩を砕く。
志貴「くっ、そがぁぁぁぁぁあ!! お前らの顔は覚えた、次は必ず殺す……必ずだっ!!」
志貴は数十メートルも吹き飛んで地面に背中を打ち付けると、すぐに体勢を回復させて立ち上がる。
そして充満する煙に姿を隠して行き、捨てセリフと共にこの場所から消えたのだった。
凛「衛宮くん!!」
桜「せんぱいっ!!」
シロウ「あ、危なかった……何なんだよアイツ?」
シロウは緊張が解けると一気に膝が笑い出し、尻餅を着くように座り込むと、夜空を仰いで長い長い溜め息を吐く。
シロウ「ありがとうセイバー、アサシン」
舞「ん」
濤羅「気にするな」
シロウ「ありがとう桜」
桜「と、当然の事をしただけです」
シロウ「ありがとう凛」
凛「無事だったなら別に……って、ん?」
桜「せんぱい、いま、凛って……」
シロウ「あ」
初音「もう、話しちゃったらマスター?」
シロウ「っ……そうだな。もう隠し切れないか」
凛「突然どうしたのよ?」
桜「せんぱい?」
シロウ「俺は、な……聖杯戦争は、これが初めてじゃない」
聖杯戦争二日目 夜 路地裏
志貴「はぁっ、はぁっ、つっ……ふぅぅぅっ」
シロウと一対一の戦いならば勝利していたかも知れないが、この現状……お世辞だって敗北としか言えない。
人通りの無い、細く暗い路地裏。志貴は壁を背に俯いて座り込み、痛みに耐えながら荒い呼吸を繰り返す。
タトン──
そんなボロボロの肉体と精神では、幾ら並外れた人間だったとしても、近付いて来る足音の一つや二つも聞き逃すだろう。
イリヤ「初めまして……おにぃ、ちゃん」
幼い少女と、その後ろを歩く超人の足音ぐらいは。
聖杯戦争二日目
↓
聖杯戦争三日目
聖杯戦争三日目 早朝 柳洞寺石段下
まだ霧も立ち込める早朝、柳洞寺に続く長い石段を見上げ、マスターとサーヴァントがその先を睨む。
ウェイバー「ここだ……うん。ここの地脈から魔力の流動を感じる。キャスターならここを陣地にしそうなんだけど、どう思うライダー?」
拳四郎「俺には魔力と言うのはよく分からん。だが、この上で死合が有ったようだ……それも一日の内にな。そして、今も誰かが俺に気付き誘っている」
ウェイバー「えっ!? この上に他のサーヴァントが居るって言うのか?」
拳四郎「恐らく……しかも相当の手練れだな。行くかウェイバー?」
ウェイバー「ふぅっ……ああ、勿論だ!! 行くぞライダー!! 必ず勝つ!!」
ウェイバーとライダーは長い石段を登り、そして……
ノエル「来たか……何か聞きたい事は?」
拳四郎「これも宿命」
ノエル「ならば……」
拳四郎「ただ、死合うのみ!!」
ノエル「久し振りに骨の有る奴と戦えそうだ」
両者から放たれるプレッシャーが土を、虫を、鳥を、自然をヒリ付かせ、大気中に混じる元素(マナ)までもが極度の緊張に堪えきれず逃げ出す。
ノエルは対峙する拳四郎を一見すると、ベルトごと剣を外して脇へ放り投げ、身軽に特化させてニヤリと笑う。
拳四郎「下がっていろウェイバー。すぅぅっ……はあぁぁぁぁっ!!」
ライダーは固まっているウェイバーの肩に手を乗せて硬直を解くと、十メートル前後の距離まで相手に近付いて気を高める。
このウェイバーくんは少年なの?
>>103
成長してる設定です
死合い 開始
ノエル「貴様も体術に自信が有るようだが……はぁぁっ!!」
拳四郎「むっ!?」
爆肉綱体。ノエルは全身に魔力を行き渡らせて筋肉を一回り膨れ上がらせると、しかし残像を幻視させるほどの高速で拳四郎へ駆ける。
右へ、左へ、流れるような動きで狙いを絞らせず、必殺技の射程距離まで接近すれば両腕の拳に力を込めて最強の体術を放つ。
ノエル「貴様に俺の千の手は見切れんよ!! 喰らえいっ、千手観音ッ!!」
・
てす
カウントアップ。1、2、3──
ガトリングの速射よりも早い拳の弾幕。世界の理を超越し、多重に軌跡を残す無明の拳。ほぼ同時に千発の攻撃を繰り出す千手観音。998、999、1000。
拳四郎「ほぉぉあ、あぁたたたたたたたたたたッ!!」
ノエル「なにっ!? 無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
だが拳四郎は、その千の拳を、拳の弾幕を、一発、一発、全て見切り、おのが拳をぶつけて弾き返して行く。
ノエルがどれだけ速度を上げようと、むしろ拳四郎の攻撃を防ぐ為に千手観音は放たれ、いつの間にか攻守は逆転していた。
拳四郎「ほわったああぁぁッ!!」
,
ノエル「ぐふッ……バカなっ!?」
そしてついに千手観音は弾き切られ、拳四郎の拳がノエルを捕える。
ノエルは空高く打ち上げられると、受け身も取れず真っ逆さまに落ちて身体をぶつけ、地面を転がりながら吹き飛び、二回もバウンドした所でようやく止まった。
ウェイバー「やった、倒したぞライダー!!」
拳四郎「いや、まだだ……手応えが薄い」
ノエル「つぅっ、これが噂に聞く北斗神拳……離れた位置の敵を攻撃する技も有るんだろ? カウンタースタイルを貫けない時点で勝てる筈も無かった。
拳の戦いでは敗けを認めよう。だが、俺の専門は武器(こっち)でね? よもや、卑怯とは言うまい?」
拳四郎「北斗と知って尚も挑んだか……良いだろう。来いッ!!」
ノエルはヨレヨレと立ち上がって自らの膝を手のひらで叩き渇を入れ、一度捨てた剣を拾い上げると再び腰へ身に付けた。
柄を握れば目に見えてノエル闘気は膨れ、第二形態への移行を確認させられる。
ノエル「我が剣は風を友とし、風の中に真空を走らせる……カマイタチ!!」
拳四郎「まさかっ、ウェイバー!!」
そして剣を振るう寸前、ノエルの視線はウェイバーを見据え、抜刀により生じた半月状の真空は、そのまま視線の先へ向けて放たれた。
完全に意表を突かれる形となった拳四郎は一息でウェイバーの前へ立ちはだかると、守るように両腕を広げてカマイタチを背にする。
ウェイバー「ライダー!?」
ノエル「切れろ切れろぉッ!!」
,
カマイタチは拳四郎の服を切り、背中の皮を裂き、一撃一撃のダメージはそうでも無いが……
剣を振るう度に真空波は発生し、確実に拳四郎の身体を傷付けて行った。
拳四郎「ぐっ!?」
ウェイバー「ライダー、令呪を使うぞ? ここから逃げようっ」
ノエル「無駄無駄ぁっ、マスターを守ったままでこの波状攻撃を避けるすべは無い。貴様はこのまま切り裂かれる運命なのだ!!」
とは、言ったものの……
この攻撃が効果的では無いのも明らかで、だとするならば、『ノエルとして勝つ』ならば、それこそ大技で有る乱れ雪月花か、プライドに拘らずに魔法を使うか。
ノエル「そろそろフィニッシュと行くぞ!! ソウルフリィ……」
一瞬、ほんの一瞬。ノエルはカマイタチを止め、冷獄魔法ソウルフリーズを使おうと一歩、ほんの一歩踏み出し、踏み出そうとして……
ノエル「ッッ!?」
身体を仰け反らせ、慌てて後ろへ跳んで逃げた。
ノエルの居た場所は爆音を響かせて砂利を巻き上げ、北斗七星の形に地面が抉られて傷痕を残す。
支援
楽しいから、良かったらもっとたくさん書いてほしい
拳四郎「北斗神拳奥義、天破活殺……天破活殺の極意は、離れた位置から秘孔を突く事にある」
ノエル「なるほど。僅かな隙も許さないと言う事か……良いだろう。俺は負けを認めるよ、『俺は』、な」
ウェイバー「何だよアイツ、敗けを認めるとか言ってるのに笑ってるぞ?」
ノエル「俺では相性が悪い。となれば、お前のようなタイプには……妹が有効と見た。では、第二ラウンドと行こうか? セヴンセンシズ!! ロックブーケ!!」
>>113
あざますm(__)m
美しい──
それはそれだけで価値が在り強きモノ。
目を奪われれば動きが止まり、攻撃するのも躊躇い、いっそ配下となって傍に居たいとさえ思わせる。
ロックブーケ「お兄様に代わり、私がお相手いたしましょう」
この少女がそうだ──
青く長い髪を無風に靡かせ、白いワンピース型のドレススカートを身に纏う。
七英雄が一人、凶つ強制魅了、ロックブーケ。
彼女の強制魅了(テンプテーション)を防ぐ手立てはたった一つ。
強力な魔力抵抗(レジスト)が必要なのか? 否、そんなものは無意味だ。
では、強靭な精神力が必要なのか? 否、そんなものは無意味だ。
必要なのは性別。この世へ生を受けた時に女として産まれる事。つまり、女で在ればテンプテーションは効果を発揮しない。
だが、男で在れば……
拳四郎「ぬぐっ!? これはっ……なんなんだ!?」
ウェイバー「身体がっ、動かないっ!?」
彼女への攻撃と認識する行為、彼女を敵と認識する思考回路、その両方が誤作動して身体が混乱し、まともに動く事すらままならなくなってしまう。
目が合った……ただそれだけで。
ロックブーケ「ふふっ、でもね? 私はお兄様と違って慎重な性格ですから……貴方達を行動不能にしたとて、迂闊に近付いたりは致しません」
ですから、ですからね──
ロックブーケ「いでよっ、星天弓!! ここから、マスターの方を、射抜かせて貰いますっ」
ロックブーケが両手を上空に翳すと、金色に輝く弓が現れてそれを掴み、同じく金色の矢をセットして弦を引く。
そして狙うのはノエルが負けた拳四郎……では無く、あくまでもターゲットはマスターで在るウェイバー。
ロックブーケ「イド、ブレイク……」
後は放つだけ。それだけだが、ロックブーケはジッとウェイバーを見詰めたまま数秒だけ動きを止めると、大きく溜め息を吐いて構えを解いた。
ロックブーケ「運が良いわ貴方達……どうやらマスターの『引き継ぎ』が終わったみたいね。すぐに戻って来いと令呪が使われたわ。それじゃ、また会いましょう?」
拳四郎「待てッ!!」
ロックブーケ「あはっ、汚ならしい言葉だけど使わせて貰います……
死に急ぎたいなのら
追って来い雑魚共
」
聖杯戦争三日目 早朝
↓
聖杯戦争三日目 午前
,
一区切り。
ここまでは顔見せの第一部的なの。
聖杯戦争三日目 午前 衛宮邸
シロウ「あー、そのー、あーっ、何から話そうか?」
凜「桜は?」
桜「遠坂先輩からどうぞ」
凜「それじゃ私から。衛宮くんの、「聖杯戦争は初めてじゃない」発言についてまずは聞きたいわね」
>>119
×死に急ぎたいなのら
○死に急ぎたいのなら
昨晩の強襲から一夜明け、衛宮家の茶の間にマスターが集まって、先伸ばしにした会合を開く。
今回のテーマは、協力関係を結んだエミヤシロウについて。
シロウ「やっぱそうなるよなぁ……あー、まぁ、しょうがないか!! よし、言うぞ?」
凜「なによ、もったいぶって」
シロウ「俺は、俺はな? 最低一回はこの聖杯戦争を勝ち抜いてる。その記憶が有るんだ」
凜「続けて」
シロウ「曖昧なのは、例えば三回勝ち抜いてるとしたら、一回目の記憶と二回目の記憶と三回目の記憶と、その出来事が何回目の出来事なのかがイマイチはっきりしないんだよ」
凜「続けて……」
シロウ「だから、遠坂を凜って呼んじゃったのは、その……何回目かの聖杯戦争で遠坂と『そう言う関係』になっちゃったからなんだよ」
凜「そう言う……関係?」
シロウ「さくらっ、桜も聞いてくれ。たぶん周回の違う聖杯戦争で、それぞれと恋人関係になった!!」
凜「えっ!?」
桜「えっ!?」
シロウ「二人とも抱いた!!」
凜「えぇぇぇぇっ!?」
桜「えぇぇぇぇっ!?」
てすと
桜「あ、あのっ、それじゃ先輩? 私の身体の事は……」
シロウ「ゴメン。それは知ってる。記憶が混ざっちゃって本当に曖昧だけど、そこはきちんと覚えてるよ」
桜「知っても、私を抱けたんですか?」
シロウ「当然だろ? たぶん、その聖杯戦争じゃ、桜を一番に愛してたと思うよ」
桜「そう、ですか……すみません、少しっ、だけ……泣いて来ます」
桜は席を立つと、とたとた小走りで自分の部屋へと消えて行った。
シロウ「さくら……今の、姉の目にどう映ったんだ?」
凜「嬉し泣きよ。絶対にね……ってさ? 私、桜と姉妹だって言ったっけ?」
シロウ「だから記憶に有るんだよ。何度も言うけどかなり曖昧だけどな。これで信じてくれたか?」
凜「ん、まぁ半分かな。それなら、衛宮くんが聖杯戦争の記憶が有るって前提で質問するけど良い?」
シロウ「ああ、いいぞ」
凜「どうして私達と組もうとしたの? 勝ち抜いた記憶が有るなら、別に組まなくても苦戦しなさそうなんだけど?」
シロウ「むっ、それはちょっとややこしくなるぞ? 何て、言ったらいいのか……結論だけ言うと、今の俺は『衛宮士郎を演じてる』んだよ」
凜「はっ? 自分を演じてるって事? なによそれ」
シロウ「勝ち抜いてる……つまり、何周もしたのは、聖杯戦争の部分だけなんだ。聖杯戦争が終われば、その都度まるっきり違う未来を辿って人生を全うした。だけど、これまでスタートは、あくまでも聖杯戦争だったんだよ」
凜「もぅちょい、分かりやすくお願い」
シロウ「あー、そうだ。聖杯戦争の始まりを『a』とするだろ?」
凜「ふむ」
シロウ「で、戦争戦争を勝ち抜き、人生を全うして死んだ時を『b』とする。ここまでは大丈夫か?」
凜「おっけー」
シロウ「aから始まり、bで終わって、記憶をリセットされてまたaに飛ばされる。それを何周かしたんだ」
凜「なるほど……」
シロウ「だけど今回は、今まで繰り返した全ての記憶が一気に甦ったんだよ。しかも、aからスタートじゃなくて、俺がこの家に養子として迎えられた時からスタートだった」
凜「その割には一般人で居たのね? 観察するに、幼い頃から相当な魔術は使えたんでしょ? 噂にもならないし、って、あ……そこで、『演じてる』が出てくる訳ね?」
シロウ「ああ。俺はどうしても一周目の聖杯戦争を迎えたかったから、そこに至るまでの俺を、できるだけ模範して過ごした。でも……」
凜「不都合が起きた?」
シロウ「まるっきり違うんだよ。今のところ、知ってたサーヴァントは一体も出て来ない。マスターだって、凜や桜こそ同じだけど、昨夜のアイツは初めてだ」
凜「ふ~ん……じゃあ衛宮くんは、不確定要素があったから、私と桜に手を組もうって言ったのね?」
シロウ「そうだ。事情も知ってるから二人を仲良くさせたいってのも合ったし、俺も経験してない聖杯戦争だから不安だったってのもある」
凜「私が裏切るとか考えなかったわけ?」
シロウ「裏切らないよ遠坂は……どの聖杯戦争でも必ず俺の味方をしてくれたんだから」
凜「うっ……ち、ちょっと顔を洗ってくるわ!!」
凜は自分の頬が赤くなるのを感じると、すぐに俯きながら洗面所へと向かうのだった。
それから約10分後。二人は茶の間へ戻り、桜には退出してた時の内容を話し、新たな飲み物を用意して会議は再開される。
ここからは、引かない。媚びない。茶化さない。個人の感情は取っ払い、マスターとしての、その立場としての話し合い。
シロウ「で、何だけど……記憶だけじゃなく、経験や魔力なんかも継承しててさ。ハッキリ言うけど、今の俺は強い。少なくとも、綺礼よりは強いよ俺」
凜「ふ~ん。それは遠回しに、私を挑発してるのかしら? もしかして、ケンカ……売ってる?」
シロウ「ん? 別に遠坂の知り合いだから名前を出したんじゃないぞ?」
凜「だったらなによ!?」
シロウ「ラスボス……だったんだよ俺の」
凜「え~っと。どう言う事?」
シロウ「アイツは聖杯戦争の監督役で有ると同時にマスターだった。今回はまだ確認してないけど……いや、前回からアーチャーが現界を続けてるし、必ず何かしらの形で今回も参戦する」
桜「あ、だから前の話し合いで……と、言う事は、柳洞寺に行ったのも?」
シロウ「うん。そこにもマスターとサーヴァントが居た。葛木先生がそうだったけど、今回は違うみたいだな」
シロウ「それと、さっき「俺は強い」って言っただろ?」
凜「言ったわね」
シロウ「実はさ、マスターとしてじゃなく、サーヴァントとして聖杯戦争に参加した記憶も有るんだ。それこそ遠坂のサーヴァントとしてな」
凜「はっ? えっ、えっ!?」
シロウ「だから、まだ抑えちゃいるけど、その力を引き出せばマスター相手には負けない」
桜「凄いです先輩!! これなら……」
シロウ「ってさ、思ってたんだけどな。昨夜の……本能が言ってる。アイツと俺は相性が最悪だ。遠坂ならアイツに勝てるけど、俺は勝てない。そんな変則的な奴だと思う」
凜「ちょっと待ってちょっと待って!! 桜は何なの? 何で鵜呑みにして話を続けられるのよ。まずは衛宮くんがサーヴァントの下りから詳しく教えてちょうだい!!」
シロウ「なんでさ? 言葉通りだよ遠坂。俺には将来、英霊になる未来があるんだ」
凜「そこは、納得したくなくても納得したわ。それで、私と組んだって事は、私が勝ち抜いたのよね?」
シロウ「勝ち抜けなかった。英霊で参加した俺は、マスターで参加した俺に負けたよ。後は……バーサーカーに負けた事も有ったかな?」
凜「そっか。残念……」
桜「先輩!! 私とはっ!? 私とはマスターとサーヴァントの関係にはならなかったんですか!?」
シロウ「あはは、桜とは……」
初音「マスター!! 結界が破壊されたわ!!」
シロウ「何ッ!?」
凜「敵襲!? セイバー!!」
桜「アサシン!!」
志貴「いやはや、団欒中すまないな……それじゃ初めるか? ラウ~ンド、ツ~っ」
,
聖杯戦争三日目 午前 教会
ダンターグ「どうした、元気が無いじゃあないか?」
綺礼「私とて、落ち込む事もある」
教会の中。綺礼は最前列の席に座り、キリストの張り付けられた十字架を見上げ、床を見下ろして俯き、覆い被さる影に気付いて再び顔を上げる。
最早どうなるものだろう? ギルガメッシュを失い、令呪を失い、マスターの権利を失った。本当にただの監督役に成り下がってしまった。
ダンターグ「お前、まさかとは思うが……俺に勝てなかったのを老いた体のせいにしてないかね? 若い全盛期の自分ならなんとかなった……とか、勘違いしてないよな?」
綺礼「する、筈も無かろう。かの有名な七英雄ダンターグに、私一人では……」
ダンターグ「望むのなら!! 綺礼、お前が望むのなら、数日の間だけ若返らせる事もできる。俺にリベンジしたいと言うのなら、手も足も出ずに負けて悔しかったと言うのなら、望めッ!! 心から勝ちたいと望むんだ!!」
綺礼「私は、私はっ……私は勝ちたい!! お前に、この聖杯戦争に!! 勝ちたいッ!!」
ダンターグ「良く言ったぁっ、活殺獣神衝!!」
──ドスッッ!!
唐突に、そして突然に、全身に鈍い衝撃。ダンターグは、槍の矛先で、綺礼を貫いた。
一ミリの狂いも無く心臓ド真ん中へ。活殺獣神衝(かっさつじゅうしんしょう)は、体を貫通して座席の背もたれにまで突き刺さる。
綺礼「うぐっ!!?」
綺礼は目を見開き、喉を逆流して昇る血液を口横から垂らし、ほんの短い悲鳴を漏らす。
タラヲ「…いつぅ…ん!?何ですかここ!?」
憂「あはは、気がついた?」
タラヲ「さ、さっきの女デス!」
ゲシッ
タラヲ「ぐぎゃん」
憂「私にはちゃんと憂っていう名前があるから」
憂「そんなことより…お前が昨日犯した女は私のお姉ちゃんだ」
タラヲ「!!」
憂「お姉ちゃんは今体も心も傷ついている」
憂「お姉ちゃんを傷つける奴は許さない」
誤爆…だよな?
ダンターグ「安心しろ、今すぐは死なん。この活殺獣神衝で突かれた者は、長い寿命と引き換えに莫大な力を得る」
槍は抜かれるが、貫かれた筈の身体からは血が流れないどころか傷さえ無い。ただ、耐え難い激痛が走るのみ。
ダンターグ「さぁ、自らが英霊となって、この聖杯戦争を勝ち抜いてみろ。この俺を超えてみよ綺礼!!」
綺礼「ふっ、このような運命も有ろうとは……少し、寝るとしよう。起き、たらっ、考えさせて……貰う」
ダンターグ「フッ……愚かだと思うかバゼット?」
バゼット「男と言う者は……理解に苦しみますね」
ダンターグ「どんなに取り繕ろうが、どんなに無関心を貫こうが、男と言うのは、とどのつまり最強で有りたいのだ」
バゼット「仮に彼が強くなりライバルに育ったとして、貴方が負けたらどうするのですか?」
ダンターグ「負けんよ、最強の肩書きは我ら七英雄にのみ許されるのだ」
ダンターグは寝息を立てて崩れる綺礼を胸の前に抱え上げ、短く微笑むとベンチへ横たえて寝かせるのだった。
バゼット「やはり、私には理解しかねます……それよりどうしますか?」
ダンターグ「すぐに出るぞ。そろそろサーヴァントの数を減らして置かねばな」
聖杯戦争三日目 午前 衛宮邸道場内
志貴「場所はここで良いのか? サーヴァントは全部『拐わせて』もらったんだ……もっとそっちの有利な場所で良いんだぜ?」
シロウ「ここでいい。その代わり3対1だ、お前はここで倒す!!」
静けさに殺気が渦巻く道場の中、志貴、シロウ、凛、桜、四人のマスターが睨み合う。
正確には四人だけ。これで全員。サーヴァントは乗り込んで来た志貴のも含めて誰も居ない。
キャスター、セイバー、アサシンは、アーチャーの宝具の一つ『黒タイツの誘拐犯』により、隔離空間の中へと連れ拐われた。
志貴「宝くじに当選するより低い確率だがな……お前の能力は一度見た。そしてアーチャーが推理し、ほぼ百パーセント理解している。勝ち目は無いぞ?」
シロウ「……だから?」
志貴「そいつらは魔法使い崩れなんだろ? 到底、到底。役に立つとは思えないが?」
シロウ「……だから?」
志貴「ヨーイドンなんか待たずに、リングゴングなんか待たずに、確認なんか取らずに、さっさと来いよ……お前の固有結界、俺が殺す」
シロウ「だから、それがどうした!!」
凛「アンタは長々と喋り過ぎなのよ!! トパーズ石第三解放、ダイヤモンドダスト!!」
ただジッと、ボケッと、唐変木で居た訳でも独活の大木で居た訳でも無い。
凛の詠唱が終わるまで、シロウが志貴の意識を向けさせて会話していただけ。
挑発にも乗らず、微動だにもせず、宝石の礫を放つ凛のアシストをしていただけだ。
志貴「なにッ!?」
投げ付けた宝石の一つ一つが途中で氷塊へ変わり、そこから更に細かく砕けて、まるで散弾銃(ショットガン)のように志貴へと降り注ぐ。
一発!! 二発!! 三発!!
しかしそれさえも、一、二、三。三度のバックステップで避け切り、三度目は大きく後ろへ跳んで壁にピタリと張り付くと、凍らされて透明に光を反射させる床を眺めて笑う。
シロウ「そう、避けると予想していた!! トレース……曲刀カムシーン!!」
既に道場内の床半面は凍結し、踏ん張りも助走も不可能な状態になっている。
これを……狙っていた。志貴がシロウの力を理解したと同じく、シロウもまた、志貴の戦闘スタイルを見抜き済み。
それ故に、一にも二にもまずは足場を潰したのだ。
シロウ「遠距離から俺の間合いで討たせて貰う。デミルーン、エコー!!」
そしてシロウが振るうのは、砂漠の王の遺産。ドラゴンルーラーによって守られていた究極の湾曲、曲刀カムシーン。
その刀、曲がっているのは刃だけでは無い。中華刀よりも極端に三日月のような形で作られ、周囲の空間を歪ませて見せる程の湾曲。
シロウ「はぁぁっ、せいやぁぁぁぁぁアア!!」
曲がにて魔餓を凶つ。『偉大なる砂漠の王(カムシーン)』の名は伊達じゃない。
それは砂漠に浮かぶ蜃気楼……カムシーンが得意とした極技、デミルーン=エコー。
志貴「んッ!? 殺気が、近い!?」
シロウはその場で曲刀を真一文字に振り切り、志貴は当然届く訳は無いと思い、思い、思わず油断しようとして、身体を真っ二つにされる殺気を感じ取り、慌てて上へ跳んで天井にへばりついた。
瞬間。
ガリ、ガリ、ガリ、ガリ、ガリ……
鈍い破壊音を響かせて、壁の板木がカムシーンの振られた軌道そのままに抉り、削られ、バラバラと木片が落ちる。
シロウ「それも読んでた!! トレース……ガラスの剣!!」
凛「ダイヤモンドダスト!!」
初見のカムシーンをも回避して見せたが、それすらも想定の範囲内。そして再び撃ち放たれるのは、氷礫の雨霰。
と、ここで志貴は考える……時間にして1/100秒。
──自身に迫る氷結魔術、これは天井が凍るだろうとも避けなくてはならない。
──シロウがカムシーンと逆の手に持っている『見えない剣』、いつの間にか凍っている床を足場にして、剣を持つ……風を装っている。
──だが、見えない。直死の魔眼を用いても、死の線も死の点も。エクスカリバーでさえ殺してみせたのに。
だとしたら、やはり『持っている風』。牽制の為のブラフ。または、氷結魔術だけに意識を向けさせない為。
と、ここで志貴は考えた……時間にして1/100秒。
ならば解答は……
志貴「貴様ら全員、斬刑に処す」
──ドンッッ!!!
天井を足場にして蹴り飛ばし、魔術の当たらないルートを瞬時に見極めると、シロウへ向かい、自身を弾丸に変えて飛び掛かった。
シロウ「ッッ!!?」
志貴「アディオス……」
目に映るのはカムシーンのみ。それの動きにさえ注意していれば、シロウの首をかっ切るなど容易い。
そして志貴は、シロウの首を切り落とし、凛の首を切り落とし、桜の首を切り落とし、聖杯戦争で勝利を納めたのでした。ちゃんちゃん。
と、こうなっていただろう。
凛「エメラルド第六解放、ダイヤモンドダスト!!」
この道場の中が凍結していなければ……
いや、氷に覆われていてもヒントは有った。シロウがまだ凍っていない床半面から凍っている床半面へ足場を移した時に、『ガラスの剣』と言う名前を聞いた時に、もう少し冷静でいられたなら、もしかして……と気付けたはずなのだ。
シロウ「刻め、硝子のビート!! ファイナルストライク!!」
ガラスの……正確にはガラスでは無く単分子で形成された剣。貸すかな衝撃でもミリ単位の微塵に壊れ、召喚と同時にガラスの剣は壊れていた。
既に壊れていたのだから、手には何も握られていないのだから、例え直死の魔眼を以てしても死が見抜けない。
見抜くのに魔眼など必要なく、必要なのは純粋な視力。氷に覆われてキラキラと光を乱反射させる世界で、キラキラと光る細かいガラスの破片を見抜く、純粋な、視力。
志貴「ぐッ!? なにいぃぃぃッ!?」
しかも破片は、生死で言うならまだ死んでいない。ガラスの剣は一度だけ……制作されてたった一振り、一振りで壊れて、そして壊れた瞬間に力を発揮する。
キラキラ、キラキラ、刻まれる。衣服が、皮膚が、肉が。
キラキラ、キラキラ、空気と共に吸い込めば、ノドが、胃が、内臓が、ズタズタにされて血が逆流する。
志貴「きぃさぁまぁぁぁぁっ!!」
粉々に砕けた全てのガラス片が、飛び掛かって来る志貴を迎え撃ち、その身体を切り刻む。
衣服を、皮膚を、肉を、ノドを、胃を、内臓を。となれば、危険だと分かっていても目を閉じるしか無い。
振りかぶった両腕は自身の前でクロスさせて身を守り、空中で急激に進行方向を捻り曲げて落下地点を変える。
シロウ「これでラストだ!! 遠坂、桜っ、目を瞑れ!! トレース……七星剣、スターバースト!!」
だが、そんな好機を見逃して貰える筈もない。シロウはカムシーンから神を降臨させる儀式剣の七星剣に持ち代えると、すぐさま魔力を流してフィニッシュブローの体制に入る。
七星剣はまるでスタングレネードのような白い閃光を放って輝き、細い刀身の中心部にあしらわれた七つの宝石がバキバキと音を立てて砕け散って行く。
これもガラスの剣と同じく、一撃に特化した剣。生涯で一度しか放てないが故に強く、彼の四魔貴族でさえも恐怖した『儚き無限包容(スターバースト)』。
志貴は受け身も取れずに床へ背中を打ち付け、シロウはそこへ七星剣を降り下ろす。
──その、15分前。
濤羅「触れられた……感覚は無かったがな」
初音「どうやら空間ごと店員させられたみたいね」
舞「それも、サーヴァントだけ……」
>>163
×初音「どうやら空間ごと店員させられたみたいね」
○初音「どうやら空間ごと転移させられたみたいね」
ここはどこだ? と問われても答えられる者はいない。
未来の上海を生きたアサシンも、現代を生きたセイバーも、過去を生きたキャスターも、誰しもが思い当たらない。
それまでに不可思議。この『白い空間』は……
空も、木々も、オブジェも無く、目に見える先の地平線までが白。本当に、何もない。何もない空間に、三体のサーヴァントがポツンと取り残された形。
イリヤ「いらっしゃい。後は消えるだけのサーヴァント達……」
しかし、登場人物は次々と増える。
まずはマスターの一人、イリヤ=スフィール。サイズの合ってないブカブカのドレススカートを引きずり、左手に小瓶を持ちながら、それでも優雅にやって来た三体を見渡して微笑んだ。
イリヤ「これ開けてバーサーカー」
続いてはその後ろに佇むサーヴァント。バーサーカー、ウォーズマン。
バーサーカーは、開けて……と放り上げられた小瓶をキャッチすると、グルグルに巻かれていた鎖を軽く引き千切ってイリヤへ手渡した。
そして最後に蓋を開け、中からドクドクと脈打つ『キモ』を取り出し、口角を吊り上げて更に微笑む。
イリヤ「貴方達を雑魚扱いなんてしない。私も伝家の秘宝、『女神の心臓』を使っておもてなしするわ」
パクリ、と──
イリヤは口を大きく開き、戸惑いも躊躇も無くキモを……女神の心臓を呑み干した。
イリヤ「カウントアップ!! 10、20、30、40──」
さすれば変化は唐突に。突然変異とも言える変貌を遂げる。
まずは髪。急激に伸び、あっという間に身長を越えた。
イリヤ「50、60、70、80──」
次はその身長。顔。体格。ブカブカだったワンピースタイプのドレスがジャストサイズになるまで身長は伸び、体型は大人の女性そのもになり、顔も若干幼さが残るものの大人びて、銀髪の、妖艶な、女性に、変わる。
だけじゃない。
イリヤ「90、99、100──、ふっ、あはははははははっ♪♪」
体の左半身からは薄青く発光する魔方陣や古代文字が浮かび上がり、魔力の……桁が増える。
数値にして、元々の魔力量を『100』としたなら……
イリヤ「バーサーカー、ウォーズマンスマイル!!」
今のイリヤは、実に『100000000000(千億)』。
喰らったのは、世界創造より遥かに昔、この地上が、この世界が、植物の茎によって幾つも繋がれていた時代。
俗に言う秘宝伝説で、最後の最後に世界を救う為に人柱となった美しき女神の、その心臓。
イリヤ「続いてっ、バーサーカー、強化、狂化、叫化、凶化っ、刧化ッ!!」
ウォーズマン「コー、ホー。ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
濤羅「ここは共同戦線……で構わんのか?」
舞「それでいい」
初音「じゃあ私は、死んだ女のような目で私達を盗み見してるネズミの相手でもしようかしら」
凡そ十メートル程にまで巨大化したバーサーカーを確認し、瞳を険しく流移させてアサシンとセイバーは武器を構え、キャスターはクルリと背を向けて逆方向を睨む。
コナン「なに? キャスターのお姉さんが一人で僕の相手をするの?」
まるで保護色のカメレオンが擬態を解くように……白い風景から表れたアーチャーが向かい合ってキャスターと対峙する。
初音「ええ、不満かしらボウヤ?」
コナン「ううん。僕を……舐めてくれて、ありがとう」
聖杯戦争 三日目 ビルの屋上
ウェイバー「どうするんだライダー?」
拳四郎「んっ、なにがた?」
ウェイバー「な、なにって……アイツだよ!! 次に出会ったら負けるぞ!?」
拳四郎「心配するな、見切ってある。北斗神拳に同じ技は二度も通用しない」
ウェイバー「む……本当だろうな? それにアレは技なのか?」
拳四郎「それよりもだウェイバー、どうする?」
ウェイバー「どうするって……アレか?」
拳四郎「そうだ。混ざるなら構わん」
ウェイバー「いや、少し様子を見よう。流石に数が多すぎる」
拳四郎「様子を見る? ならば混ざる意志はあるんだな?」
ウェイバー「ああ、正直に言うとな……今朝の敗因は自分なんだ。サーヴァントに任せて、魔術士なのに援護の一つもしてやれなかった。このままじゃ前回と変わらない!!」
拳四郎「んっ。僅かだが気が上がった。どうやらお前は、怒りによって潜在能力を開花させるタイプのようだ」
ウェイバー「怒ると……強くなるって言うのか?」
拳四郎「そうだ。己の不甲斐なさにでも良い。過去の失敗にでも良い。思い出しながら気を高めて解放してみろ」
ウェイバー「……って、急に言われてもな」
拳四郎「お前は高い力を、自ら発揮しづらいタイプらしい……となると、無理やり引き出す他は在るまい」
ウェイバー「なんだそれ? 身体を鍛えるとか?」
拳四郎「『天龍呼吸法』。常人は潜在能力の30%しか発揮できないが、北斗神拳伝承者は100%発揮できる。それが天龍呼吸法……これからお前に伝授しよう」
聖杯戦争 三日目 特異結界内
──誰が創造できようか?
濤羅「ぐっ!?」
イリヤ「あははははははっ♪ 踊れ踊れっ!! スカーレットニードル!!」
英霊と呼ばれる生きた伝説が、たった一人の少女に手も足も出ないなど……その結果、自らの目で実際に見ようとも信頼を勝ち取れない。
攻める少女の攻撃を例えるなら、それは針。巨大で真紅な、蠍(さそり)の針。
だけならば。このアサシン、中国拳法と内家気功の達人で有る孔濤羅を苦しめられる訳が無い。
槍、と称した方が的確な針。と言うトリックだけだならば、小娘一人を相手にして表情を歪めない。
濤羅「法則性は無い、か」
幾ら達人とて、『見えない』のでは対処の方法は限られる。イリヤの放つ『スカーレットニードル』は、当たる瞬間、インパクトの瞬間まで、姿も、軌道も、見えないのだ。
それも、襲い来る方向が実際にギリギリ直前まで全く予測不可能。
イリヤが濤羅に手を翳す……までは同じだが、視線を追っても、指先を追っても、上から来るのか、後ろから、見当が付かない。
──ガキンッ!!
ただそれでも、こうやって槍を弾き続けていられるのは、天性のバトルセンスによるものか?
イリヤ「どんどん槍の数を増やしていくよ~っ。スカーレットニードル、アンタレス!!」
濤羅「らちが明かん!! ちっ、セイバーやキャスターに頼りたくは無いが……」
この場所が特異空間で無ければ、弾きながらもイリヤに近付いて切り捨てる事も出来たろうが、何故かここでは距離が縮まらないのだ。
逆にサーヴァント同士、セイバーとバーサーカーの戦いは、零距離、超接近の、肉弾戦。
ウォーズ「──────!!」
何段階もの強化を重ねたウォーズマンは発音不可能な雄叫びを上げ続け、無呼吸、無休憩、無拍子。ベアークローと呼ばれる鉄の爪を両手に装備しての、連打、連打、連打。
セイバーにパワーで上回り、スピードで上回り、タフネスで上回り、最初こそ日本刀で弾かれていたが、徐々に押し込む間合いが大きくなって行く。
そしてついに……
舞「ぐふっ!?」
三重にフェイントを織り混ぜた右のボディブローがセイバーを捉え、その細い腹部をベアークローが貫通し──
舞「ふっ!!」
てない。舞は三重にフェイントを織り混ぜた右のボディブローを見切り、ガキンと大きな金属音を響かせてバーサーカーの腕を弾いた。
川澄舞の宝具【エンディングルート】。ツラい過去を乗り越え、現在を乗り越えて手に入れたそれは、ハッピーエンド以外絶対に認めない。
ハッピーエンドに到達するまで
巻き戻し やり直す 何度でも
ウォーズ「ウヴウウウウウッッ!!?」
無論、やり直しに気付いているのは舞だけで、更にバーサーカーの足にはいつの間にか切り傷が付けられていた。
それはセイバーの、川澄舞の、特殊能力と言うべき攻撃『ビヨネットタンデム』。
守り では無く 攻め として繰り出された攻撃は、必ず二撃行われるのだ。
舞「畳み、掛ける!!」
ウォーズ「───────!!?」
一撃目は舞自身が放つ剣撃。戸惑いを見せる相手に虚を突く形で凪ぎ払われる日本刀も、しかしバーサーカーは上体を僅かに反らすだけでそれを回避する。
そして二撃目、ビヨネットタンデム。完全に凪ぎ払いを避け、カウンターの体制を取ろうとして、右脇腹に違和感。
ウォーズ「グオオオオオオオオッッ!!」
確かに突き刺さっている、見えない刃が……痛みを伴って、確かにバーサーカーの身体へ穴を空ける。
この二撃目の傷、付けたのは舞で有って舞では無い。例えるなら、守護霊のような存在。
ウサギの耳をあしらったカチューシャを付け、白いワンピースを着た、幼い少女の姿をした守護霊。
舞だけに見えて、舞だけが感じ取れる、幼い舞の姿をした、ビヨネットタンデム。
舞の攻撃と同時に、このビヨネットタンデムも独自に動いて攻撃する。
舞「百花繚乱」
ともすれば、攻撃。攻めて、攻めて、攻め捲って、相手に反撃させずにひたすら攻撃する事がセイバーの強さで有り真髄。
──────。
バーサーカーに向けて穿たれる高速の突き、突き、突きの弾幕。それぞれが的確に急所を捉え、その軌道もまるで蛇のように曲線を描きながら食らい付く。
ウォーズ「アアアアアアアアアア!!!」
しかしそれも届かない。ビヨネットタンデムにより切り傷は増えるが、舞の攻撃は一撃たりとも通さずに全てベアークローで弾き返す。
子供に刃物で刺された……程度の痛みでは、何重にも強化を重ねたバーサーカーの動きが鈍る事は無いのだ。
舞「つッ!!」
それに、まだバーサーカーは、宝具を使っていない。
既に奥の手まで追い込まれたセイバーとの実力差は、誰が見ようが明らかだった。
アサシンは劣勢。セイバーは超劣勢。
残るサーヴァントはキャスター、未だに隠す実力を見せない比良坂初音。
初音「どうしたのかしら?」
コナン「お姉さんこそ、どうしたの?」
こうして他のサーヴァントと敵対し、対峙するこの現状に至っても頑なに『見』を貫いている。
コナン「当ててあげよっか?」
初音「ふふっ……面白いわね。聞こうかしら」
コナン「貴女は、あの二人を、見捨てようとしているっ!!」
初音「それで?」
コナン「理由は、そうだね……ここで脱落させる事。こうやって僕と向き合ってるのに何もしないのが証拠だね」
初音「お互いに牽制し合って動けない……と言うのを装っていると?」
コナン「正解……でしょ? でもね、一つ分からないんだ。あの二人が負けたら3対1になるんだよ?」
初音「ああ、そんな事? 3対1になったらどうするかって?」
コナン「そっ。ん……って、あれ? あれれっ? 足、がっ」
初音「そんなの、殺すに決まってるじゃない? 勝者は、たった一組なんだから」
このキャスター、他のマスターも、サーヴァントも、文字通り食べる食事か、性的に貪る贄か、どちらにしても『肉』としか見ていない。
美しい顔と身体で同性までも魅せて引き付け、一滴たりとも残さない、骨になるまでしゃぶり尽くす。
初音「貴方には少し、そうしてて貰いましょうか?」
コナン「くっ!?」
アーチャーの靴裏はいつの間にかベットリとした強粘着の糸で地面とくっつき、そのままでは足を上げる事さえ不可能になっていた。
無論、靴を脱げば脱出はできるが、ジィーっと赤い瞳で見詰め離さないキャスターを相手に、すぐさま反撃に移りたい衝動を理性が押し留める。
アーチャーも子供の姿をしては居るが、列記とした間違いの無いサーヴァント。
先手を取られて分を悪くしてしまうも、死中に活は有る。それこそ一発逆転の切り札(宝具)が。
コナン「お姉さん……そんなに見詰められると、ボクてれちゃうんだけどなぁ」
初音「ふふっ、穴が空くまで見ててあげるわよ」
しかし、連発は利かない。更に、弾丸速度はそれなりでも、真正面からサーヴァントにヒットするとは思えない。
となれば、狙うのは一瞬の隙。それも誘っているのではない本当の油断。
コナン「チッ……」
それを見極めるまで、迂闊に宝具は射てない。結局はお見合いを続ける……『見』。
イリヤ対アサシン。バーサーカー対セイバー。そしてアーチャー対キャスター。三者三様の思惑。
この中で解決に向けて頭一歩だけ抜きん出ているのは……
イリヤ「真紅の衝撃、スカーレットニードル、アンタレス!!」
濤羅「疾ッ!!」
イリヤと濤羅の戦い。当初から濤羅の防戦一方で進展は無いが、諦めてはいない。
十秒。いや、八秒。いや、六秒。
六秒イリヤから視線を切れれば勝利の456賽は濤羅へと転がり込む。まずバーサーカーに接近する時間が三秒。気を練り、宝具を叩き込むのに三秒。
イリヤなら仕留めるまで三秒で充分だが、最初に見た姿……本来はまだ幼い少女、できるなら子供を殺す事は避けたいのだ。
この六秒……短いようで果てしなく長い。視線や動作で僅かに注意を逸らせたとしても、マンツーマンで戦っていて六秒はとても無理。
それでも自分から意識をズラしたいなら、外部からの、視線を向けたくなる、天恵が現れれば……
何か、奇跡が──
拳四郎「北斗剛掌波ッ!!」
ウェイバー「解き砕け破魔の閃光、ハマオン!!」
巨大な爆発音を響かせ、空間全体がガタガタと揺れる。それこそ唐突に、何の前触れも無く。
>>195
× この六秒……短いようで果てしなく長い。
○ しかし、この六秒……短いようで果てしなく長い。
重要な一言をいれ忘れた
予兆の無い震度にイリヤも、バーサーカーも、セイバーも、アーチャーも、キャスターも、誰もが発信源の頭上を見上げ……
お
濤羅「おおオオオオオオオオ!!!」
戦いのプロで有るアサシンだけが見上げなかった。バーサーカーに踵を返し、即座に地面を蹴り飛ばす。
早く、速く。目で追えないのでは無く、目で見えない。映らない。瞬く程の間でも視線を切ってしまったのなら、アサシンの行動を遮るのは困難の極み。
神速で、縮地で、一瞬で。振り向く隙も許さない。
濤羅「真、双撃ッ……」
身体の中心に気を集め、それを全て両方の手のひらへ。バーサーカーの背後、誰にも気付かれる間も無く、アサシンは最大宝具の準備を整え終わる。
イリヤ「あッ!! バーサーカー、後ろよっ!!」
ウォーズ「───────!!?」
,
誰もがアサシンの思惑に気付き、イリヤが気付き、バーサーカーが気付いたとしても……
舞「お前は、こっちを向け」
同時にセイバーも気付いているのだから、サポート面では何ら心配も無い。
アサシンの頭部を振り向き様に打ち抜こうとするバーサーカーの右腕を、セイバーは死角からの一刀両断で切り落とす。
ウォーズ「ガアアアアアアアアアアウウ!!?」
舞「ッ!?」
肘間接から先がガンッ!! と重低音を立てて地面で跳ね、しかしバーサーカーの動きは止まらずに、逆の手でセイバーの腹部を殴りブチ抜いた。
だがこれもしかし、セイバーへの反撃は絶好の隙を晒す事になる。
濤羅「爆ぜろ、機械人形……」
アサシンはバーサーカーの背中へ両手の手のひらを押し付けるように添えると、溜めに溜めた気を必殺の一撃に乗せて解き放つ。
他の誰でも無い、『機械』にだけ効く、機械にしか効かない、機械相手の戦いにのみ特化した雷撃の宝具。その名を……
濤羅「紫電掌ッ!!!」
紫電掌(しでんしょう)。機械人体殺し(サイバネックキラー)を生業としていた孔濤羅が伝家の宝刀。
紫色に光放つ電撃が瞬時にバーサーカーの全身を駆け巡り、コードと言うコードを、パーツと言うパーツを、その機械の体を、バチバチとショートさせて余す所無く『焼き切る』。
ウォーズ「ウオオオオオオオオオオオッッ!!!」
イリヤ「バーサー、カぁ……イヤァァァァァァァッ!!!」
マスターとサーヴァントの絶叫が同期して反響し、マスターはサーヴァントへと走り、サーヴァントは赤朱に炭化して崩れ落ちた。
焦げた煙が天へと昇り、バーサーカーの身体はサラサラ砂のように変わって風に飛ばされて行く。
ウォーズ『すまないイリヤ……君を勝たせると言ったのに、約束を守れなかった』
イリヤ「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
最後に届いた言葉は、イリヤにしか聞こえない、イリヤにだけ聞こえる、バーサーカーのクラスから解放された正義超人ウォーズマンの残響か……
聖杯戦争
マスター イリヤ
バーサーカー ウォーズマン
脱落
,
拳四郎「北斗虚無指弾!!」
ウェイバー「鳴り響け聖者の絶叫、ムドオンッ!!」
だが、脱落者が一組出たとしても、ここでの戦いは終わらない。
再び巨大な音が炸裂し、目に見えてこの隔離空間にヒビが入り始める。
初音「さて、さてさてさて……さて」
これにより、もう一人のサーヴァントが死線に触れようとしていた。
もはや『見』で居る必要は無いのだから、『我慢』する必要も無い。
喰う、喰う。喰う……喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰喰──喰う事を。
,
コナン「くっ……」
追い詰められていた。この小さき狩人は、生前を含めても最高に切羽詰まっていた。
志貴をマスターに据え、イリヤとバーサーカーのコンビを仲間にして、それでもここまで手に汗握る。
起死回生の、チャンスは、一度……
初音「んっ?」
その匂い。絶対的に有利な状況でも、初音はその危険な匂いに辿り着く。
手の爪をそれぞれ指程の長さにまで鋭く伸ばし、アーチャーを切り裂く準備は済ませたのに、一歩、たったの一歩進んだだけでピタリと足を止めた。
関係を言えば手負いのウサギとライオン。それまでに今のパワーバランスは絶対的。だが、だが、だがこのウサギ……何かを隠し持っている。
初音「考えても仕方ない、か……ふっ!!」
だが、だが、だがこのライオン……餌を前に「待て」をし続けるほど我慢強くも無い。
キャスターは両腕を後ろに振りかぶると、改めてアーチャーを一瞥して助走を踏み切る。
コナン「こうなりゃ、上等だぁぁぁぁっ!!!」
宝具発動──フルオート。
対するアーチャーの取った行動は、自分の掛けていた眼鏡を外し、キャスターへと放り投げる事った。
一見すれば、何でもない、変鉄のない、ただの眼鏡、に見える。
初音「邪魔!!」
それを反射的に、無意識に、無造作に、キャスターは右手で払いのけた。
やはりただの眼鏡、ガラクタ。触れた瞬間に爆発でもするのかと頭に過っての拍子抜け。
コナン「いっけぇぇぇぇぇっ!!」
からの……
追撃!! アーチャーのベルトバックルからサッカーボールが飛び出し、サッカーボールは糸を引き振りほどいた『輝く右足』によって蹴り抜かれた。
その速度、実に340キロ!! シュートスピードで言えば間違い無く世界最速で、真っ直ぐにキャスターの顔面へとブッ飛ぶ。
初音「はっ!!」
だがしかし。サーヴァントを再起不能にする殺傷能力へは程遠い。
キャスターはこれも眼鏡と同じように、反射的に、無意識に、無造作に、左手でサッカーボール払いのけた。爆発もしない、拍子抜け。
コナン「もらったっ!!」
しようとして……
まだ続く!! アーチャーの本当の切り札はこの三撃目。シロナガスクジラも四秒で眠らせるこの腕時計型麻酔銃。
──────。
そこから発射されたのは針。髪の毛よりも極細の目にも映らない麻酔針。
初音「……」
初音の、動きが、止まる。
初音の、身体が、崩れ落ちた。
早い、だけならば避けれるだろう。硬い、だけでも弾けるだろう。
されど、目に見えない。音も聞こえない。臭いもなければ、風の流れを変える程の物量もない。
五感の内の四感は早々に振り切られ、残る一感は役に立たない。認識できるのは針が触れた時……即ち、針が自らに刺さった時だけ。
コナン「おやすみ、キャスターのお姉ちゃん」
,
急がなくては、ならない。
やらなくては、ならない。
結ばなくては、ならない。
契約を──
コナン「あのイリヤってマスターを拐って、また契約するしかない!!」
その感覚が訪れたのはほんの直前。キャスターが腕を振りかぶった直後。
マスターが、志貴が……力尽きた。
コナン「くそっ!!」
再び契約を結ぶ為にアーチャーは走り出し、身体が少女へと戻ったイリヤの元に向けて地面を蹴り飛ばす。
仰向けに倒れているキャスターを飛び越え、放心状態のイリヤを掴まえて脱出し、説得して再契約。
そこから怒涛の挽回と快進撃で、ついには聖杯戦争優勝!!!
と、
そんな結末も在った。そんな未来も想像出来た。
仰向けに倒れているキャスターが……
初音「つか、まえ、たっ♪」
麻酔針の昏睡から復活しなければ。
コナン「ッ!!?」
蛇が、グルグルと、心臓に、絡み付く、錯覚。
キャスターの身体を飛び越えようとしたら、起き上がったキャスターに手首を掴まれた。
そして、そのまま、力任せに……
ぐちゃり──
握り潰され、引き千切れた。
コナン「ぐわあぁぁぁぁぁぁっッ!!?」
,
初音「ふっ、あははっ、あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハはぁ~あ」
アーチャーは手首から先の無い右腕を押さえて地面を転がり、キャスターは割り箸のように細い手首の断面をペロリと一舐めした後にそれを投げ捨てる。
コナン「うゔぅぅっ……」
血は止まらない。ドクドクと致死量の勢いで溢れ出し、気を失いたくなる痛みで全身を犯し尽くす。
何故だ──
振り絞る意識で考えるのは、たったこの一言。
初音「子供だから期待したのに……貴方、美味しくない。マズイわ」
確かに宝具を当て、なんなら今も麻酔針はキャスターの首筋に刺さったままなのに、どうしてコイツは動けるのか?
わからない。どう推理したって答えは出てこない。
コナン「こっちだイリヤ!!」
ただ、赤く輝く二つの瞳が、とてつもなく恐怖を駆り立てると言う事だけ。
アーチャーはマスター候補のイリヤに声を掛けると、煙幕を地面へ投げつけ、それと同時にキャスターへ向けて駆け出した。
正確にはキャスターへ、では無く、キャスターの横を素通りして、その先のイリヤの元へ。
初音「チッ……」
,
油断、していた。初音は舌打ちして毒吐くと、足音からの目測へ慌てて腕を振るう。
しかし、空を切る。『スカ』を食らう。アーチャーを、難なく通過させてしまった。
コナン「イリヤァァァァァァッ!!」
イリヤ「アーチャー……」
このままでは、再び逃がしてしまう。キャスターは即座に反転してアーチャーを追い掛け、そのやりとりに気付いたセイバーとアサシンも、二人の合流地点へ向けて踏み切る。
三人のサーヴァントが囲むように追い詰め、だが……それぞれ手を伸ばすアーチャーとイリヤへは間に合わない。
コナン「早く手を掴めッ!! ここから脱出するぞ!!」
イリヤ「……あんたと」
そう。アーチャーと、イリヤ。合流の意志が有ったなら、間に合わない。
イリヤ「あんたと、組むんじゃなかった!! スカーレッドニードル……アンタレス!!」
,
合流の意志が、有ったなら……
コナン「へっ?」
セイバーの、アサシンの、キャスターの、アーチャーの動きが止まる。驚きと、戸惑いで、止まる。
イリヤの手は合流する為に差し出されたのどは無く、怒りと悲しみを発散する為に差し出された。
結果……
コナン「うっ、そ……だろっ!?」
アーチャーの左胸に風穴が空く。槍で貫かれたかのように円状の形を作り、心臓がゴッソリと抉り取られていた。
そしてアーチャーが力尽きた事により、固有結界も砕け散った。
ガラスが割れるように空間が破片となってバラバラ剥がれ落ち、現実世界の、本来の場所が露になって行く。
舞「……」
濤羅「ここは?」
初音「河川敷……とでも呼べば良いのかしら?」
そこは川原。戦いを繰り広げていたのは、橋のたもとの、土手の下の、砂利と砂で覆われた河川敷。
ウェイバー「うおっ、と」
拳四郎「どうやら……戦いは決着したようだな」
アーチャーとバーサーカー、二体のサーヴァントが命を落とし、ウェイバーとライダー、一組みのコンビが姿を表した場所。
隔離空間は消え、その空間を破壊しようとしていた乱入者は、マスターを脇に抱えて着地すると、残る者たちをじっくりと眺め観察する。
拳四郎「んっ!? くんくん、くんくん……アイツか?」
ウェイバー「どうしたんだライダー? もしかして、上海がどうのこうのってやつ?」
イリヤ、違う。キャスター、違う。セイバー、違う。アサシン……アサシン、で、ライターの視線が止まった。
聖杯戦争三日目 衛宮邸
仮死──
そんな言葉が存在する。そして、そんな言葉はここで存在を証明されるのだ。
志貴「ってぇ……死ぬかと、思ったぞ」
三人のマスターに追い詰められ、シロウの技によってトドメを刺され、確かに志貴は命を落とす。
時間にして59秒、確かに志貴は死んだ。しかしその59秒、59秒で息を吹き返したのも確かな事実。
志貴「なんだよ……アーチャーの奴、やられてるじゃあないか」
スターバーストを食らって道場の壁ごとブッ飛ばされ、咄嗟にガードした左腕は千切れて無くなり、だがまだ生きている。
アーチャーを失い、仮死から復帰し、こうして空を仰ぎ呼吸するだけで精一杯なのに、だがまだ諦めていない。
志貴「ふぅっ、ふぅっ、ふぅぅっ……」
呼吸を整え、身体で稼働可能な部位を探り、次なる作戦を考える。
対峙したのは三人……魔術を使う女。無数の剣を持つ男。ただ突っ立っていた女。
普通に考えれば、僅かな休憩を挟んだ後にこちらの死体を見に来るだろう。
だとしたら、取るべき行動は二つ。その時までに足腰を奮い立たせて逃げるか、もしくは……死んだフリを続け、無闇に近付いて来た所を不意討つか。
ただ後者は、相討ち覚悟。一人殺れたとしても、残った二人にまず殺される。
そう。微かな望みを繋ぐなら、一人ずつ。一人ずつ来てくれるのがベスト。
──タッ。
志貴「……」
ベスト!! ベストベストベストベストベストッッ!!!
聞こえる足音は一つ。しかも軽い、女だっ。息の乱れも無い、突っ立っていただけの女だっ!!
これは神からの啓示。神が言っている、聖杯戦争を勝ち抜けと。
天啓!! この女を人質にすれば、この場から、安全、確実に、逃げ出せる、生き延びれるっ!!
桜「……」
桜「フフッ……アサシン、セイバーを、殺してちょうだい。アハハハハッ!! さて……こっちも、ゴミを始末しないと」
これは神からの啓示。これは、神からの啓示、のはず。
志貴「……」
これは、神からの啓示だ。ただ、神は神でも……死神、だが。
桜「ああ、アアッ……沸き上がる魔力が、抑えられない!!」
桜の身体からは令呪が一つ消え、それと代わるように内側からドス黒い力が溢れ出す。
自らを抱き締めて、身を悶えさせて、周囲に『もや』を浮かび上がらせて。
もや。それを闘気と呼ぼうが、オーラと呼ぼうが、魔力と呼ぼうが構わないが、桜のもやは黒く、とても黒く、志貴の命を刈り取ろうと蠢いていた。
桜「いつまで死んだフリをしてるんですか? 心臓の元気な音……聞こえてますよ?」
志貴「そう、かよっ!!」
志貴の決断は早い。桜が一定距離から近付かないと分かれば不意討ちを諦め、即座に起き上がって蔵の屋根へと飛び乗った。
引くなら今、このタイミング。突っ立っていただけの女が一人だけの今しかない。不意討ちも人質も止めて、今、今、逃げる。
志貴「傷が癒えたら、また来るぞ……」
志貴は捨て台詞を残し、屋根から塀を飛び越えようとして……しかしこんな事、通じる相手では無かったのだ。
桜の右手が動く。すぅぅっと真っ直ぐに伸ばされ、その手のひらが、志貴へと向けられる。
桜「ワーム、スマッシャー」
,
果たして、それはどんな魔術か?
凛「さく、ら?」
遠くから見えたのは、志貴が空中で黒い牙のような軌跡に抉られ、削られ、身体が跡形も無く消えてしまった光景だった。
そして、桜はツマらなそうに右手を下ろし、ゆっくり振り返って……
こちらを見て……
凛「ッ!!?」
桜「ネエ、サン……」
ニヤリ。
笑う。
,
聖杯戦争
七夜志貴 マスター
脱落
聖杯戦争三日目 河川敷
拳四郎「上海の男よ……俺と死合うか?」
ウェイバーを後ろに下げ、ライダーは指をポキポキと鳴らしながらアサシンだけに視線を絞る。
セイバーも、キャスターも、当然イリヤも、ライダーが戦おうと思うには値しない。
濤羅「いや……それは無理だ。たった今、仕事が来てな」
しかし、値したアサシン自身は左右に首を振って目を伏せ、手にしている野太刀の切っ先を静かに揺らす。
ゆらり、ゆらり──
『力み』が消える。殺気が消える。存在感が消える。
ゆらり、ゆらり──
揺らめいて。刀、から徐々にかけ離れて行く。
揺れて、揺れて、ぐにゃり。ぐにゃり。刀は鞭へ、鞭は猫じゃらしへ、赤子や小動物が居れば無警戒に手を伸ばすオモチャへ、その姿を変えて幻視させる。
舞「……」
と、するなら自然と。普段なら凶器で有るはずの刀から、普通なら決して視線を離してはいけないアサシンの武器から、自然と……意識が、離れる。
セイバーは何か様子が変だと感付きながらも、意識を、完全に、ライダーへ、向けた。
──────。
舞「あ」
その代償は、余りにも大きい……
アサシンが振り向き様に、音も無く凪ぎ払った剣は、それこそ一瞬で、こちらも音無く、セイバーの胴体を腹部から上下に切り離した。
同じサーヴァントで在っても、戦闘経験、戦闘技術は、それまでに段違い。
これが生前の、生身の戦いだったなら、舞は一分も濤羅に敵いはしないだろう。
舞「ふぅっ!!」
だが……
アサシンが振り向き様に、音も無く凪ぎ払った剣を、セイバーは超反応で身を屈めて完全に回避する。
濤羅「何ッ!?」
,
戦闘経験の差が、戦闘技術の差が、どれだけ段違いに有ろうとも、宝具の差がその段を埋めて補う。
宝具だけで言えば、川澄舞の【エンディングルート】は、孔濤羅の【紫電掌】を遥かに凌駕しているのだ。
拳四郎「フッ……戻るぞウェイバー」
ウェイバー「えっ、せっかく来たのに、戦わずに帰るのか!?」
拳四郎「俺の出番はまだ先らしい」
ウェイバー「おいっ、説明しろ。待てったら、ライダー!!」
しかし、二人の開戦に気を削がれたライダーは、大きく息を吐いて再びウェイバーを抱え、一、二と地面を蹴って土手の上まで飛び上がった。
この場から去って行く。この場にはもう、興味が無い……
初音「私も、先に失礼するわ……さぁ、行きましょうお嬢ちゃん? 教会に、保護を求めないと」
そしてもう一人。キャスターもこの場には興味が無い。
興味が有るのは、興味をソソルのは、子供の姿に戻り、未だ涙を流すイリヤ=スフィール。
この綺麗で、可愛くて、柔らかそうで、美味しそうな……イリヤ=スフィールに興味津々なのだ。
イリヤ「ふぇっ!? ちょっ、ちょっと離しなさいよっ!!」
ライダーに続き、キャスターもこちらはイリヤを脇へ抱えると、同じように河川敷を後に飛び出して行く。
そして残される、同盟を組んでいた筈の、奇襲で幕を開ける、アサシンとセイバー。
濤羅「同盟は無くなった……」
舞「そう」
二人の間に、言葉など不要。剣戟を合わせる事こそが、最もお互いを理解するツールなのだから……
アサシンは一度大きく下がって距離を取ると、改めて相手を見据えて武器を構える。
それはセイバーも同じで、マスターの所へ戻るかどうかを考え、この場に留まる事を選び、武器を両手で握り直した。
濤羅「円風……」
舞「獅子……」
二人の殺気に当てられて、周囲の温度は急転直下で凍て付き始める。
濤羅は太刀を後ろに振りかぶって重心をグッと落とし、舞は日本刀の切っ先を相手に向けてこちらも重心を落とす。
濤羅「千縫刃ッ!!」
舞「活劇舞踏剣ッ!!」
そして、同時。全くの同時に、対峙する二体のサーヴァントは足場の砂利を吹き飛ばし、必殺の一撃を携えて地面を蹴り飛ばした。
──ガキィン!!
勝負は一瞬。すれ違い様に決まる一瞬の交錯。烈火に轟く金属音。
舞「ッ!!?」
濤羅「ふっ!!」
濤羅が放った太刀は舞の日本刀を切り上げて弾き飛ばし、そのまま続く二の太刀で舞の左腕を肩ごと切り落とした。
先にボトリと体を離れた左腕が地面へ着き、次に着地を失敗した本体が背中を打ち付けてゴロゴロと転げ回る。
舞「うぅっ……あああああああッ!!?」
,
【エンディングルート】 発動
──ガキィン!!
勝負は一瞬。すれ違い様に決まる一瞬の交錯。烈火に轟く金属音。
舞「ふッ!!」
濤羅「なにっ!!?」
濤羅が放った太刀は舞の日本刀を切り上げて弾き飛ばし、しかし続ける二の太刀は上体を反らす舞に避けられ、逆に喉元への打撃を許した。
だが……英霊とは言え、喉元を狙われたとは言え、力技を得意としないセイバーの、しかも拳で殴り付けるだけの打撃では、ダメージを与える事は出来ない。
だが。これも、だが……舞は攻撃さえ成立すれば、もう一つの攻撃が発動する。
それは当然。唐突。突拍子も無く。
濤羅「これはっ!?」
グラリ……と身体がよろける。濤羅は慌てて後方へ大きく跳躍すると、再び相手との距離を取って構え直す。
いつの間にか、そうとしか言えない。いつの間にか、左足に、刺し傷ができていた。
傷自体は深く無いし戦闘を中断するほどの出血でも無いが、『いつ攻撃された?』……その疑問が全身を支配する。
舞「まだ、やる?」
舞も再び距離を取り、弾き飛ばされた日本刀を拾い上げると、ジッと濤羅を睨み付けた。
現状ではセイバーの圧倒的有利。セイバーは剣技と身体能力で劣ってなお、アサシンの攻撃で沈まない。
この攻防を何度か繰り返せば、その内に濤羅はダメージの蓄積で動きが鈍り、舞の攻撃すら避けらなくなる。
結果の八割は既に決まっていた……
このまま舞が競り勝つ。その確率が八割。濤羅が偶然にもエンディングルートの発動しない方法を見付ける。それが二割。
アサシンとセイバー、二人の戦いに、誰も参加しなければ……と条件付きだが。
よって、この確率は意味を成さない。アサシンとセイバー、二人の戦いに、たった今から乱入する者が居るのだから。
舞は濤羅しか見ていないから気付かない。濤羅はどんなに小さくても殺気さえ向けられたなら気付いただろうが、殺気さえ無いから気付かない。
河川敷……つまりは橋の下を流れる川沿い。その、川。川の『水位が上がっている』と、舞と濤羅、どちらも気付かない。
その、川、の、その、水面、から、野太い腕が出て来たとしても、どちらも気付かないのだ。
バゼット「ダンターグ……いえ、今はスービエでしたか? スービエ……go!!」
離れたビルの屋上から、バゼットが双眼鏡で現場を覗き込み、水中に潜むサーヴァントへ合図を送る。
殺気は、無い。
晴れやかな清々しい朝、心地よい風、最新曲が流れるラジオ、これから朝食のクロワッサンとコーヒーをいただくのに、気張る必要は有るだろうか?
これから蟻を踏み潰すのに、殺気を放つだろうか? 蟻を相手に殺気を放てと望む方に無理が有るのではないか?
スービエ「メイル──」
ダンターグが姿を変えた七英雄の一人、海聖のスービエにしても、それは同じ事。
セイバーとアサシン、意識するまでも無い相手だから、殺気は存在しないのだ。
腕を伸ばし、空へ翳した手のひらの先に、川の水が集まり始める。
ああ…取り込んでるほうなのね
サッカーボール程の、水の球体。だが、そのサッカーボール程の球体に川の水は吸い上げられ、凄まじい渦を巻きながら圧縮されて行く。
川、どころか海水まで引き寄せ、スービエの必殺秘技は完成する。
濤羅「ッ!!?」
舞「なに?」
今さら異変に気付いたとしても、何もかもが遅い。遅過ぎる!! 手遅れ、手遅れ、手遅れ!!
渦潮なんてもんじゃない。ウォーターサイクロン、トルネード!! 海を統べる四魔貴族、フェルネウスが起源とされるこの技の危険性は、現代になってさえ余りにも有名。
ハンマーヘッドシャークを一瞬で挽き肉にする、水のミンチメーカー。
その技の名を、メイル……
スービエ「シュトローム!!!」
,
>>251
下半身がタコは、触手プレイのエロしか考えられなかった…
剛水の激流にて、河川敷が、沈む……
濤羅「ガァッ!!?」
舞「ふっ!!」
水位が膨れに膨れ、土手の高さを振り切るまで氾濫を起こし、回避の間に合わないアサシンを飲み込んで、渦の中心に居るスービエの元へと引きずり込む。
しかしセイバーの方は、宝具によりメイルシュトロームが発動する直前まで巻き戻し、橋の、更に鉄骨の上まで跳躍して完全な安全域まで足場を移していた。
聖杯戦争三日目 衛宮邸内
凛「いま、姉さんって」
桜「そうですよ、ネエサン? 過去に色々ないざこざは有りましたが、こうやって同盟を組んでる以上……仲良くして行こうかなと」
桜「お互いを疑ったら意味が無いですし、ネエサン……そう呼ぶ事が、私からネエサンへの信頼の証です」
凛「さくら……」
桜「さぁ、ネエサン。共に勝ち進み、最後は正々堂々と戦いましょう」
凛「うっ、うん!! 負けないわよっ!!」
桜「……」
志貴を撃破した後の蔵前で、桜はペテンと作り笑顔を浮かべ、凛は本当の笑みで涙を浮かべる。
姉妹とて、進む道は極端に違うのだ……優勝したい凛と、凛だけに勝ちたい桜。
現状でこそ同盟の口約束をしてはいるが、どちらもマスターで、どちらもサーヴァントを所持し、いずれはぶつかる強敵同士。
凛「そう言えば桜、貴女って魔術が使えたのね?」
桜「はい、つい最近ですが……見せ、ましょうか?」
そして、潰せるチャンスが有るのなら……
,
凛「見せるって……魔術を?」
桜は変わらず笑顔を浮かべたまま、スゥッと右手を凛に向けて伸ばす。
指を開き、手のひらを翳し……黒色に歪む陽炎のオーラで身を包み。
桜「ワーム、スマッシャー」
情けなど掛けない。抵抗する間も与えない。一撃で凛を葬り去る魔術を生成する。
自然と口角は上がり、本当の笑顔になって……
凛「えっ、えっ!?」
桜「ネエサン、さよ、な……ッ!?」
だが、最後の一文字が出てこない。サーヴァントからの、緊急sosが届いたからだ。
このままでは、アサシンが、力尽きる……
桜「ネエサン?」
凛「さくら? どう、したの?」
そして、そう言えばとも気付く。凛に慌てた様子は無い。つまりセイバーは未だ健在で、しかもマスターが察知するほどの危機には陥っていないと言う事。
セイバーに返り討ちされたのか。それとも、何かしら他の要因か。
どちらにしても、このままはマズイ……
桜「すみません姉さん、魔術を見せるのは今度で良いですか? 急用を思い出しました」
凛「それは良いけど……って、ちょっと、桜!?」
桜は凛の言葉に耳も貸さずに走ると、門を潜り、衛宮邸から外へ出て、近くの細い裏路地に入り込んだ。
やるべき事は一つ。二度目の令呪発動。
桜「今すぐ、ここへ来なさいアサシン!!」
,
聖杯戦争三日目 河川敷
スービエ「マスターに救われた……か」
メイルシュトロームの渦でアサシンを引き寄せ、三又の槍、トライデントを突き刺そうと放った瞬間……トドメを刺す瞬間に、アサシンが消えた。
それと合わせるように、水位は下がり始め、水流は穏やかになり、水中に隠れていたスービエの姿が露になって行く。
野太い腕、分厚い胸板、髪は蛸の足で、腰から下は海の主と呼ばれる一角クジラ。
舞「はぁぁぁぁぁっ!!!」
そんな七英雄の姿をセイバーは鉄橋の上から確認し、覚悟を決めて自身を奮い立たせ、思い切り……踏み切った。
踏み切った、までは良かった……
スービエ「フッ、串刺しに……なれい!!」
舞「ッ!!?」
投擲されたトライデントは、獲物を貫く為に一直線の軌道を描いて飛ぶ。
セイバーはそれを何とか弾き返すも、大幅に力負けし、ぶつかった衝撃によって鉄橋の上まで体を戻されていた。
舞「ぐっ……」
受け身も取れずに背中から落ちて転がり、ジンと痺れる手に力を込めて立ち上がる。
そして改めて下を確認すると、水の引いた河川敷へ飛び降りるのだった……
舞「ここで、貴方を始末する」
スービエ「……」
着地すると同時に日本刀の切っ先を敵へ向け、ウサミミ付きのカチューシャを外して投げ捨てる。
対するスービエは、ジッと動かず思案を巡らせていた。完全なタイミングでの不意討ち……強力な魔法や盾で防いだならまだしも、前もって避けた。これは何を意味するのか?
スービエ「不思議、だな……今のトライデントを避けた事では無い。先のメイルシュトロームを避けた事がだ」
不思議……と言うのは興味をそそる。だが今は手を焼く場面では無い。
スービエ「どうやら、俺やダンターグ、ノエル辺りでは相性が悪そうだな……となれば!!」
よって、手を焼く相手だと知れば、手を焼かないように自分が変わる。
何故ならこの体は、それぞれが個性の塊で在る七身一体で、一身七体なのだから。
スービエ「セヴンセンシズ……クジンシー!!!」
個体を相手に、敗けはしない。
クジンシー「キキッ、グフフフフフフッ……」
七英雄の一人、骸妖鬼クジンシーが、スービエから姿を変えて現界する。
右手には命を刈り取るブラッディソードを、左手には腐り掛けた肉片が付着する人の頭骨を持つ。
瞳孔の無い瞳、長く鋭い二本の角、血管の浮き出る薄皮一枚の痩けた躯。正しくクジンシーは、恐怖……それがそのまま形を成した姿をしている。
舞「巻き打ち!!」
しかしセイバーは恐怖を前にしても怯まず、むしろ逆に闘志を燃え上がらせてクジンシーへと剣を振りかぶった。
砂利の地面を蹴り飛ばし、高速で、最速で、真っ直ぐで、最短距離で、浮遊する妖鬼に接近して剣を降り下ろす。
──ザシュゥゥッ!!!
クジンシー「ぐひゃぁぁっ、やられたぁっ」
斬った。右肩から左腰に掛けての袈裟斬り。手応えも十分……
それなのに、その斬った痕が、傷痕が無い。クジンシーの下手過ぎる棒読みの悲鳴が返って来るだけ。
クジンシー「なんて、ナァ……クククッ」
舞「ならっ!! 流し斬り!!」
だが、セイバーは止まれない。空かさず次の剣撃へ移る。例え大したダメージを与えれなくとも、攻撃方法はこれしか存在しないのだから。
自らの剣技と、ビヨネットタンデムによる二重攻撃で、押し切って、押し切って、最後まで押し切り続ける。
クジンシー「ンフゥッ、効かんなぁっ……」
舞「もう、一度ッ!! 流し斬り!!」
半円を描くように……たったの一振りで両腕を断つ、秘剣の流し斬り。
これも確かに手応えが有り、連発した二度目も、やはり手応えは有って、やはり……傷痕は無い。
クジンシー「ギキャハハハハハハハッ!!」
舞「くっ!!」
やはり、クジンシーは、笑う……
セイバーは大きく跳躍して距離を取ると、ゆっくり息を吐いて気を落ち着ける。このままでは勝てない、そう悟ったから。
敵の弱点を、ウィークポイントを探さなくては……クジンシーが未だに攻撃して来ないのも、それはそれで不気味。
クジンシー「ナルホド……キサマ、『ふたり』、居るな?」
舞「ッ!!?」
,
事情が、変わった……
ある意味で最強の宝具、【エンディングルート】のトリックが見破られようとしている。
クジンシー「見える、ミエルゾ……そしてこのような場合、ドチラを攻撃すればイイカも知っている」
舞「私が戦う!! 早く逃げて!!」
もはや、弱点を探っている場合では無い。敵の視線は、既にセイバーを向いていないのだから。
クジンシーが、
見ている、
のは……
クジンシー「そのタマシイ……貰ってヤルぞ!! ソウルスティール!!!」
,
ウサギの耳をあしらったカチューシャを付け、白いワンピースを着た、守護霊……のような存在。
少女「たす、けて……ゆーいち」
舞「ヤメロォォォォォッ!!!」
本来なら、本当なら、舞にしか見えない、幼い少女……もし、その少女の姿を発見されたのなら、もし、その少女を倒されてしまったなら。
咆哮と共にがむしゃらで振るわれ続ける剣は、しかしクジンシーの体を捕らえる事はできない。
クジンシー「クカカッ、怖かろう?」
そして、左手に持たれていた頭骨の顔が、見抜かれた少女へと向けられた……
聖杯戦争三日目 衛宮邸前
桜「そう、ですか……横から出て来たサーヴァントに邪魔され、こんな醜態を私に晒したと?」
濤羅「ゲホッ、ゲホッ……返す言葉も無い」
アサシンは咳き込んで口から水を吐き出し、それでも呼吸を整えながら、急速に顔色は回復して行く。
しかし先ほどの説明からすると、横入りして来たサーヴァントの攻撃に、恐らくセイバーも巻き込まれたとの事……
こんな『恐らく』なんて信用出来ないが……調べる価値は、有る。
凛「ちょっと桜!? 急に出て行ったりして、どうしたのよ!?」
桜「ッ!!? ネエ、サン?」
,
凛は、桜を心配して追って来た……と、言う事は? それ以外に、慌てた様子は無い……と、言う事は? セイバーは、健在。と、言う事。
それならば、起こすべき行動は一つ。
桜「アサシン?」
濤羅「……」
サーヴァントが駄目なら、マスターを……
アサシンは桜に返事をせず、何かを思い詰めたように無言で立ち上がると、体の向きを凛へと変えた。
凛「あっ……ああっ!!」
桜「ネエサン?」
だが、それと入れ替わって凛が膝を地面に着いて崩れ落ちる。
両手で頭を抱え、身体をブルブルと震わせ、目を見開いて爽やかな青空を見上げた。
凛「っ、いやぁぁぁぁぁぁぁァァアアッ!!!」
,
聖杯戦争
川澄舞 セイバー
脱落
桜「しっかりしてください!! どうしたんですか!?」
凛「さく……ら?」
桜「もしかして、サーヴァントが?」
凛「うん。負け、ちゃった……あは、ははっ、は」
桜「ああ、何て可哀想なネエサン……」
凛「しょうがない、わよ」
桜は力の抜けた凛を正面から抱き締め、アサシンはマスターの考えを汲み取って霊体化する。
セイバーは倒れた……しかも自らの手を何も汚さず。これ以上の結果は有るまい。
桜「そうですね。これは聖杯戦争……仕方ないです」
表情は悲しそうに、声は同情するように、心は飛び上がるほど大声で笑い……
弱り切った凛に、最後の追い込みを掛ける。
桜「ですから。もう、遠坂先輩は負けたんですから……この家から、出て行ってください」
凛「えっ? なに、言って……」
,
桜「だってそうですよね? 私にとっても、先輩にとっても、遠坂先輩は……お荷物にしかならないんですから」
凛「でっ、でもまだ何かっ!!」
桜「ありません!! さっきの戦いで、頼みの宝石は殆ど使いましたよね?」
凛「それは、そう、だけど……」
桜「遠坂先輩? 自宅に戻るなり、教会へ保護を求めるなり……良き、ご判断を」
凛「さくら、私……わたしっ!! わたし、はっ……分かったわ。ここから、出て行く」
桜「流石は頭脳明晰の遠坂先輩。聡明な、判断ですっ♪」
聖杯戦争三日目 夕方 教会
凛「セイバー……」
自暴自棄……になっていたのかも知れない。いや、なっていた。
だからシロウから注意は受けていたはずなのに、それすら忘れてフラフラと教会へ足を運ぶ。
シロウは、凛のサーヴァントが敗れたと知っても屋敷へ囲おうとしたが、足手まといになる後ろめたさと桜の強い視線は、そんな事を許してはくれなかった。
かるぐちを叩いて屋敷から去り、自宅へ戻って荷物を放り投げて泣いて……
凛「おじゃましまー、って、何よココ!? ボロボロじゃない!!」
一人の寂しさも有ってか自宅から離れ、自然と教会の中へ足を踏み入れていた。
そして、見る……
新たなサーヴァントが誕生する、その瞬間を。
凛「うそ……」
歪んで、歪んで……
捻れて、捻れて……
捻れ捲って螺旋を描いて……
しかし、先端は鋭く。鋭角に、鋭敏に、強き意志と身体は、鋭さを増して甦る。
綺礼「敗れたか、凛?」
男が一人、半壊したステンドグラスの十字架を見上げ、片膝を着いて祈り続けていた。
真新しい黒の神父服に身を包み、だがそんな物では隠せない程に絞り込まれた筋肉が体のシルエットを浮かび上がらせる。
凛「綺礼……なのっ?」
綺礼「いかにも。私は言峰綺礼、それ以上でもそれ以下でも無い」
言峰綺礼……七英雄の力により、死してより蘇りし者。
全盛期の力に戻り、いや、その何倍もの力を得て、英霊として、変則的ながらも再びこの地へ降り立つ。
凛「なんか雰囲気が全然ちが……いつっ!?」
ともすれば、足りない。英霊の数に対して、マスターの数が。
消えた霊呪の場所に突然痛みが走り、凛は思わず声を上げてうずくまった。
綺礼「回収された令呪は、マスターで在った者に再び割り振られ易いと言うが……」
綺礼「そうか、凛……君が私のマスターか」
凛「ちょっと!! 何をワケわからな……くは、ないか」
凛「こうやって、実際に令呪が現れた訳だしね」
綺礼「取り敢えず場所を移そう。ここはマズイのでな、そこで成り行きを話す……」
凛「ん……オッケー。でも、これだけは今聞かせて。綺礼、貴方のクラスは何?」
綺礼「私は、アーチャーだ……」
遠坂 凛 マスター 復帰
言峰綺礼 アーチャー 参戦
聖杯戦争三日目 夕方 橋の上
シロウ「酷いなこれは……」
シロウは橋の上から河川敷を見下ろし、サーヴァント達が戦い合ったその名残をじっくりと見渡す。
水こそ引いているが、草野球のグラウンドやゲートボール場は無惨に流され、建てられていた公衆トイレも壊れて跡形も無い。
今は土手にパトカーが数台止まり、警察官が慌ただしく走り回っているだけ。
初音「あらっ、どうしたのマスター? こんな所で……」
,
シロウ「はぁぁっ……お前なぁ、今までどこに行ってたんだよ?」
そこへ……キャスターは微笑みながら、何食わぬ顔で現れた。
長い髪を風に靡かせ、黒いセーラー服を揺らし、そして、何度も、何度も。
何度も……自身の妊婦のように膨らんだ腹部を上から下へ、何度も、何度も。優しく撫でる。
初音「どこへっ、て……孕んでたわ。ほらっ、いま、あかちゃんが、動いた……」
シロウ「はっ? あー、悪い。もう少し分かり易く頼む」
まるで臨月。いつ出産しても可笑しくない膨れ具合。
初音が人間で、臨月までの徐々に大きくなる腹部の過程を見ていたのなら、シロウに疑問は無かった。
しかし、人が一日も経たずにここまで腹を膨らませるのは、「妊娠した」の一言で納得できるものではない。
初音「ふふっ、魔力を充電したのよ。これなら分かるかしら?」
シロウ「それなら、まぁ、な」
シロウ「でも見付かって良かったよ。夜までにキャスターが戻って来なかったら、令呪を使おうとしてたし」
シロウ「ん……ところでキャスター?」
初音「何かしら?」
シロウ「『それ』で、戦えるのか?」
初音「ええっ、明日の朝には元通りよ……それに明日からは、私も本気で戦うわ」
初音「明日には、消化してるから……」
聖杯戦争
イリヤ=スフィール マスター
脱落
聖杯戦争三日目 夜 上空
地上から見上げる月を遮り、雲間の中をマスターとサーヴァントが優雅に飛び抜ける。
ワグナス「ラー♪ ラー♪ ラー♪」
バゼット「今夜は、他のマスターは出て来ないようですね……」
マスターはサーヴァントの背に乗って立ち、特殊な双眼鏡を覗き込んで下界を見下し……
サーヴァントは陽気に羽をはためかせ、歌いながら月光の輪分を地上へ撒き散らす。
サーヴァントの名はワグナス。混合研究により魔物と一体化した七英雄の一人。
中性的な顔に、女性の胸に、男女両方の性器に、手足の代わりに巨大な蝶の羽を生やす。
高揚、していた……
ワグナスが、では無い。バゼットが、高揚していた。
代理として参加したこの聖杯戦争だが、しかしサーヴァントで在る処のランサーは反則的に強く、優勝は既に現実味を帯びている。
バゼット「今日は、ここまでにしましょう」
なのだから、高揚もしよう。浮かれもしよう。優勝した時の願いをリアルに思い描きもしよう。
表面には出さずとも、バゼットの内面は、完全に優勝者となっていた……
今のバゼットを言葉に……
しかも、一言で表現するのならそれは……
バゼット「帰りますよワグ……」
「北斗剛掌波ッ!!」
バゼット「なにッ!?」
ワグナス「ッ!!?」
今のバゼットを言葉に……
しかも、一言で表現するのならそれは……
油断。としか、言いようが無い。
空に居るからと下しか見ず、『更に上から攻撃される』事を想定しなかった、バゼットの、油断。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません