春香「これからの彼女のさらなる一歩」 (63)


とある収録後に


春香「愛ちゃんが迷走?」

涼「迷走というか、ちょっと焦ってるというか……」

春香「焦るって……どうして?」

絵理「最近、春香さんたちが凄く盛り上がってて……愛ちゃんもジッとしてられない?」

春香「愛ちゃん、負けず嫌いなところがあるからね」

絵理「だけど、何も分からないまま動いちゃうと、愛ちゃんは途端に迷走しちゃうので――」

涼「僕らも、それとなくフォローを入れているんですけど。春香さんも、現場で会ったら、それとなくお願いできますか?」

春香「任せて! ……というか、フォロー入れるだけでいいの?」

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絵理「愛ちゃんは、着実に成長してるから、大丈夫?」

涼「以前の愛ちゃんなら、しっかり支えて導いてが必要だったでしょうけど――いや、多分今もだと思うんですけど」

春香「私もそう思うよ」

涼「けれど、自分で頑張って、壁を壊せるぐらいに愛ちゃんは成長していると思うんです」

絵理「うまくいかなくて、迷ったりして、遠回りもしちゃうかもしれないけど、ちゃんとゴールに辿り着ける?」

春香「そっかぁ……そうだよね。愛ちゃん、沢山頑張って、経験して、大きくなったもんね」

絵理「だから、今はそっとフォローを入れるだけでいいと思うんです。最後まで手を貸すのは、きっと愛ちゃんのためにもならないので」

春香「……うん! 分かったよ!」


765プロ


春香「とは言ったものの……」

千早「どうしたの?」

春香「あっ、千早ちゃん。ちょっとね、愛ちゃんのことで」

千早「愛ちゃん――日高さんが、何か? まさか、また前みたいな歌い方でも?」

春香「そこは大丈夫だよ。もう心配ないと思う」

千早「そう……よかった」ホッ

春香「だけどね、ちょっと気になるの」

千早「……ちょっとだけ?」

春香「……あはは。分かっちゃうかぁ」


千早「春香はよく日高さんを気にかけているものね」

春香「何を隠そう、愛ちゃんがアイドルになるお手伝いもしているからね!」エッヘン

千早「それで、日高さんをまた心配しているようだけど? 実際のところはどうなの?」

春香「難しい問題みたいで……876プロの子たちが言うには、愛ちゃんはもうこういうことは自分で乗り越えられるみたいだけれど――」

千早「気になってしまう、と」

春香「そうなのーーー……」

千早「難しい問題というと、深い悩みとかそういうものかしら?」

春香「うーん……実はね、最近765プロが更に盛り上がってるでしょ?」

千早「ええ。いい傾向だと思うわ」



春香「私たちも頑張って、前に進んでいて……愛ちゃんがそれに触発されちゃったみたいなの」

千早「……無理な頑張りをしている、ということ?」

春香「それに近い形になってて、迷走をしだしてるみたい」

千早「だけど、日高さんはこれぐらならもう乗り越えられる」

春香「私はちょっと手を貸してあげるぐらい必要だと思うんだけどね」

千早「と、春香は余計なお節介をかけたがっている」

春香「余計なお節介なのかなぁ」

千早「あまり構いすぎるのは良くないわ。日高さんの成長を信じているなら、見守るだけにしておくべきだと思う」

春香「そうだよねー……」



春香「……けど、分からないと思うんだよなぁ」

千早「何が?」

春香「愛ちゃんが、たとえ壁を乗り越えたとしても、どうしてそうなったか自分で分からないんじゃないかって」

千早「……自己理解のこと? 確かに、日高さんは自分を低く見てしまいがちとは思うけれど……」

春香「愛ちゃんにはプロデューサーさんみたいな人がついていないから、特にね。そういうものなんだよ。中々、分からないの」

千早「……どうしても、迷ってしまったら、その時こそ春香や仲間の出番だと思うわ」

春香「そうだよね!」

千早「だから、軽率はダメよ」

春香「大丈夫だよー」




雪歩・美希「……」


―――
――


ある日の事


春香(たまの休みにやる事が後輩の仕事ぶりを見ることだなんて……)

春香(けどいいの! 春香さんは心配なんですよ!)

春香(変装もしたし、大丈夫大丈夫!)



愛「おはようございまーす!」

貴音「おはようございます、愛」

愛「貴音さん! 今日はよろしくお願いします!」

貴音「こちらこそ、お手柔らかに」



春香(あっ、今日は貴音さんとお仕事だったんだ)

雪歩「四条さんと愛ちゃん……大丈夫かなぁ?」

美希「貴音も愛も根はすっごい真っ直ぐなタイプだから相性いいと思うよ?」

春香「……」

春香「あれ? なんで二人ともいるの?」


雪歩「愛ちゃんが悩んでると聞いて。放ってはおけません!」

美希「休み同じだったから雪歩と遊びに行くつもりだったけど、この通りなの。あと久しぶりに愛に会おっかなって」

春香「あれ? 美希、私も休みだったんだよ? ……代休だったねそうだよね誘われないよね」

美希「拗ねてると愛を見失っちゃうの」

雪歩「なんだか切ない響きがするね……」

春香「そ、そうだ! 愛ちゃん!」



愛「貴音さん、ズバリお聞きしたいことがあります!」ギラリッ

貴音「なんでしょう? 日高愛!」ギラリッ



美希「なんだか緊迫してるけどあの二人だと素っぽいから安心して見てられるの」

雪歩「そうかなー……?」

春香「聞きたいことってなんだろ? 悩みに関してかな?」

雪歩「案外、四条さんについてかも」

美希「身長大きくする方法だと思うな。愛ちっちゃいし」

春香「あんな力入れて聞く事じゃないよね、身長って」


愛「どうすれば、そんなに背が高くなるんですか!?」

貴音「適切な食事と運動、健全な日々の暮らしが必要なのですよ、愛!」



美希「ほらねー」

雪歩「美希ちゃんよく分かったねー」

春香「」パクパク

美希「春香? どうしたの?」

春香「愛ちゃんはあれぐらいでいいから! それで思いつかなかっただけだもん!」グスンッ

雪歩(美希ちゃんに当てられて悔しいんだ……)



貴音「しかし、背が高いことも良し悪しです」

愛「そーなんですか? 背が高いとかっこよくて便利だなーって思いますけど?」

貴音「確かに利点もありますが……こうして、愛と目線を合わせるのが難しくなってしまいます」

愛「あたし気にしません!」




美希「愛はちいさいけど飛び跳ねたりするから気にならないの」

雪歩「美希ちゃんと一歳しか違わないのにね……」

春香「ちょっと屈めば合うのになぁ……」


貴音「しかし、なぜ背のことを? 突然聞くようなことではないでしょうし、何かあったのですか?」

愛「はい……実は今、悩みがあるんです」



春香「悩み……やっぱり悩んでるんだね、愛ちゃん」

雪歩「愛ちゃん、四条さんならきっと何か助けてくれるよ!」

美希「というか二人ともこっそり見るなんてまどるっこしいことしないで直接言えばいいのに」

春香「それダメって言われてるの!」

雪歩「行けるなら今すぐ行ってあげたい……」

美希「愛も面倒な先輩を持ったの」

春香「とは言いつつ、美希もこっそりだよね?」

美希「愛は見てて飽きないからいいって思うな」



愛「貴音さんが見てる景色が想像つかなくて、聞いてみたんです」

貴音「私の景色……ですか?」

愛「はい! 他の人はなんとかなるんですけど、貴音さんがどういう風にステージとかファンとかアイドルが見えてるか、ちょっと想像つかなくて」



春香「あっ、そういうことか」

雪歩「私たちが見てる景色に興味がある、のかな?」

美希「身長とは関係ないと思うの」

春香「心の持ちようだもんね」


貴音「そう、ですね……愛、少し失礼します」グイッ

愛「わわっ! ……おー」



春香「抱っこした! 愛ちゃんそんなに軽かったかな?」

雪歩「いいなぁ……ちゃんと浮いてる」

美希「愛は抱き心地よさそうなの」

春香「後ろからガーッと行きたいよね」

雪歩「やる前に愛ちゃんから来そう」

美希「やり返しても素直に喜んでくれそうなの」


貴音「見えますか?」

愛「高いですねー!」

貴音「愛もあと数年待てば、この景色に近づけますよ」

愛「待たなきゃダメですか?」

貴音「身長は日々と親からの授かりものですから。それに、愛が見たいのは、これではないはずです」

愛「うーーん、そうなのかなー……」

貴音「認識というものは、様々です。私と愛が見ているものは、違っているようで、きっと同じなのですよ」




春香「やっぱり後ろから抱きしめてあげるのがいいと思う」

美希「春香は転びながらできるね」

春香「そんな事故みたいに抱き着かないよ!?」

雪歩「後ろからだと、愛ちゃん振り向いてくれるかな?」

美希「振り向かせないでジタバタさせた方が可愛いと思うの」

春香「そこは振り向かせてあげようよ」



貴音「さぁ、愛。同じものを目指す者同士、今日も仕事に励みましょう」

愛「うーーーん……」

貴音「まだ、納得いただけませんか?」

愛「もちょっとで何か出そうな気がするんですけど……」

貴音「困りました……。仕事は、しっかりこなさなければいけませんよ?」

愛「分かってるんですけど、えっと……うーーーん」

貴音「……それでは、愛のプロデューサーに聞いてみるというのはいかがでしょう?」

愛「プロデューサーいないので、社長じゃダメですか? 今日は来てませんけど……」

貴音「困りました……」


「愛ちゃーん! 貴音ちゃーん! スタンバイお願いしまーす!」

貴音「愛、時間が来てしまいました。答えは仕事をこなしながら探すことにしましょう」

愛「……はい! そうします! じゃあ、先に行ってますね!」タッタッタ



春香「だから、こう手の位置と愛ちゃんの肩の位置が……」

貴音「三人とも、日高愛ならもう仕事に向かいましたよ?」

雪歩「し、四条さん!? いつの間に!?」

貴音「お話しに夢中になっているようでしたので。今日はお休みではなかったのですか?」

美希「休みだから愛を見てるんだけどね」

貴音「愛の抱きしめ方を語り合うのに夢中で、愛を全く見ていなかったようですが」

春香「あ、あはは……」


貴音「それにしても、愛はどうしたのでしょう?」

春香「実は悩みがあるみたいで」

貴音「それは私にも分かりましたが……あのような言い方で、よかったものか」

美希「どんな言い方したの?」

貴音「本当に見てなかったのですね」

雪歩「うぅ……愛ちゃんの先輩失格ですぅ……」

貴音「雪歩、愛を思うなら、これから気を付けることを考えるべきですよ」


貴音「それでは、私もそろそろ行きますので」

春香「行ってらっしゃい!」



春香「とりあえず、大丈夫だった!」

美希「余裕でアウトだったと思うの」

雪歩「よく考えれば、愛ちゃんの様子を見に来ただけなのにアウトもセーフもないような……」

春香「気にしないで次いってみよー! 次の愛ちゃんは……何するのかな?」

美希「愛がここ終わるまで暇なの……」


愛「おつかれさまでしたー!」

「おつかれさまでしたー」

貴音「おつかれさまでした、愛」

愛「はい! 貴音さんも!」




美希「終わったみたいなの」

雪歩「愛ちゃんも四条さんも特に変わったところなかったね」

春香「うんうん。二人とも好調!」

美希「愛の悩みはどうなったか、よ~く観察しておくの」



貴音「ところで、愛、探しものは見つかりましたか?」

愛「う~ん、トークと歌に手一杯で……」

貴音「そうですか……愛は悩むなと言っても悩んでしまうでしょうし、今日一日よく考えてみることにしてはいかがでしょう?」

愛「はい! 最近は色々悩んでるけど、今日こそはって思ってます!」

貴音「うまくいくとよいですね」

愛「はい!!」





春香「絵理ちゃん涼君が相談に来るぐらいだし、流石にすぐは悩みも晴れないかぁ……」

雪歩「ねぇ、春香ちゃん、ちょっとさっきより近づきすぎなんじゃ……?」

美希「転んで視界に入る距離になったら取り押さえるからね」


愛「さてと!」テキパキ



春香「次の仕事に移動するみたい」

美希「あれ? 愛って一人で来てるの?」

雪歩「社長さんが来てないって言ってたから、そうなのかな?」

美希「というか社長ってついてくるものなの?」

春香「他についてくる人がいないのかな?」

雪歩「876プロの事情ってよく知らないけど、そんなに人手不足なのかな?」

美希「765から貸してあげればいいのに」

春香「愛ちゃんがしっかりしてるから一人でも大丈夫、とか」

美希「しっかり……?」

雪歩「愛ちゃんは頑張れる子だよ!」


愛「……」キョロキョロ



美希「なんだか周囲を見回してるの」

春香「尾行に気付いてるのかな?」

雪歩「気付かれたらどうしよう……」

美希「春香と雪歩について来たって言うの」

雪歩「愛ちゃんが気になって」

春香「愛ちゃんが心配で」

美希「二人とも過保護なの」



愛「おはようございまーす! よろしくおねがいします!」

真美「愛ぴょんおはよー」

伊織「……一人で来たの?」

愛「はい! 今日は一人です!」

伊織「ふーーーん……」チラッ

真美「へーーーー……」チラッ




春香「今度は伊織と真美とで撮影だね」

雪歩「二人とも、愛ちゃんと知り合いだったかな?」

美希「仕事では会うと思うけど? みんな人気アイドルだし」

春香「というか、二人こっちに気付いてるよね……」

雪歩「こっち見てたもんね……」

美希「バラしたりして」



伊織「今度から事務所に言ってちゃんとしたマネージャーとかつけてもらった方がいいわよ? 愛ぐらいだと一人は危なっかしいでしょ?」

愛「いてもらえると嬉しいですけど、あたし一人でもちゃーんと通勤できますよー!」

真美「怪しい人につけられたりしたらどーすんの? 例えば……リボンとスコップとミキミキみたいな」

愛「つけられたら……ちゃんと面と向かってお話しして叱るよ? フツーに」



雪歩「叱られちゃいますぅ……」

春香「可愛く叱ってくれるんだろうなぁ」

美希「ミキだけ名前出されてるのにスルーなの」

雪歩「美希ちゃんのことだって認識されなかったんじゃないかな?」

美希「分かりやすさ満点なのに……」


愛「あっ、そうだ! あの、実は伊織さんに聞きたいことが……」

伊織「準備あるんだから手短に済ませなさいよ」

愛「はい!」

真美「愛ぴょん愛ぴょん、真美にはー?」

愛「真美ちゃんは後でね」

真美「おぉぅ……そうやって愛ぴょんは真美のことはいつも後回し。あんなに優しくしてくれた言葉もうそ――」

愛「あれ? えっと……前に何か後回しにしたことあったかな?」

真美「んーん、ないよ」

伊織「手短にって言ったのにボケてどーするの! 愛も付き合わない!」



美希「ビミョーにボケ潰されたね」

春香「愛ちゃん真面目だから」

雪歩「伊織ちゃん優しいなぁ」


伊織「それで、何?」ズイッ

愛「最近、こう、燃えてるんです!」ズイッ

伊織「そう。ちょっと冷却したら?」

愛「勿体無い気がして! なんだか、こう! もっとどんどん楽しめそうなんです! 最近の765プロを見てると、あたしももっとって!」ズズイッ

伊織「そ、そう……」

愛「そゆことで伊織さん! 伊織さんは今、どうですか!?」ズイッ

真美「いおりんは今、燃えてるよ!」

愛「やっぱり!」

伊織「やっぱりじゃない!」



春香「伊織最近更に調子上がってる感じはあるけどね」

雪歩「真美ちゃんも春香ちゃんもだと思うけど」

美希「事務所全体いい感じって律子言ってたよ」


伊織「……だいたい、仕事やってて調子がそう簡単に変わるのもどう? 安定って大事でしょ?」チラッ

愛「あっ、はい……」シュン

伊織「積み重ねて盛り上がっていくことは確かにあるけど、常に熱し過ぎず冷め過ぎず。それが基本だと思うわ」

愛「はぁーい……」

伊織「……なんて言っても、愛には無理かしら。あんたはまず思う存分やった方がいい結果に繋がると思うし」チラッ

真美「習うより慣れろってやつなのだよ、愛ぴょんー」

愛「それは……違う気がするよ真美ちゃん!」

真美「テキトー言ったからね」



春香「伊織がこっち見てくる……もっと隠れた方がいいかも」

雪歩「愛ちゃん、今のちゃんと覚えててね! 大事だよ!」

美希「デコちゃん扱い上手なの」

春香「やりやすいんじゃないかな?」

雪歩「やりやすいって?」

春香「愛ちゃん素直で真面目だし」



伊織「とにかく! 仕事に集中できないぐらい考え込んでちゃ意味がないわ。その辺しっかりやってくれないと困るのよ」

愛「はい……」

伊織「もっと、なんてね、その中でいつの間にか掴めちゃうものなんだから」

愛「そーなんですか?」

伊織「実際はその人によるわ。愛は愛らしくしてればいいんじゃない? 私もそうだし」

愛「へぇ~……伊織さんはかっこいいですねー!」

伊織「当然よ。さっ、準備なさい。私はちょっと行くところあるから」チラッ

愛「はい!」

真美「……」



春香「あっ、伊織来る。こっち来る。どうしよ」

雪歩「え、え~!? ぜ、絶対怒られるというか呆れられ……」

美希「うん、もう呆れてると思うの」



真美「愛ぴょん愛ぴょん」

愛「なーに真美ちゃん?」

真美「真美にはー? 何か聞かないの? 隠し事はなしですぜ、お嬢さん」

愛「う~ん、伊織さんに聞いたのと同じこと聞きたいんだけど……いいかな?」

真美「いいよー。さぁ、心をこめて改めてー!」

愛「最近、どう!?」

真美「ボチボチかなー」

愛「ボチボチなんだ」

真美「うん。すんごい忙しいけど、その分すんごい楽しいよ」

愛「ボチボチ……?」





伊織「あんたたち……」

春香「のヮの」

雪歩「違うの、これは、その……」

美希「愛の後をつけてただけだよ?」

伊織「へー」ギロリ

春香「いや、あの、見ての通り愛ちゃん最近ちょっとヒートアップしてるから心配で」

伊織「逆に心配かけるようなことしてるじゃない」

春香「はい……仰る通りです」


真美「愛ぴょんはさー、忙しい?」

愛「そりゃあ忙しいけど、もっと忙しくても大丈夫だよ?」

真美「楽しい?」

愛「楽しいよ! すっごく! だけど、なんだか、もっと色々頑張れそうな……」

真美「そいつぁ裏切りだぜ、お嬢さん」

愛「あ、またかっこよくなった」

真美「さっきいおりんに言われたっしょー?」

愛「うん。だから反省中ー」

真美「うむうむ。結構結構」




伊織「愛はあれ、どうしちゃったの?」

春香「真面目が過ぎるというか、真っ直ぐすぎるというか」

雪歩「765プロの盛り上がりにあてられて……」

美希「便乗ってやつなの」

雪歩「それは違うと思うけど……」

伊織「あの手のはこういう時に失敗しがちなのよねぇ……」

春香「だからフォローだよ、こっそりフォロー!」

伊織「こっそり後をつけるのはフォローじゃないでしょ」

春香「はい……仰る通りです」


真美「ま、焦っちゃう気持ちは分かるけどねー」

愛「焦ってるのかなー? あたし、今すっごいいい感じだと思ったんだけど……」

真美「焦ってるよ! もうメチャクチャに焦ってるよ!」

愛「え、え~?」

真美「なんというか、真美には分かるんだー。遠くに行かれちゃう気持ちとかって」

愛「わあ、真美ちゃんがなんだか大人ー!」

真美「おねーちゃんしっかりしてね」

愛「はーい……」

真美「けどねー、焦ったって転ぶだけだよ。動かないよりはいいけど。愛ぴょんは転んでも絶対起き上がると思うし」




伊織「とりあえず、私としてはこっそり愛にバラす方向で行きたいんだけど」

春香「そ、それだけはお願いやめて!」

雪歩「あとで謝るから!」

伊織「今謝りなさいよ!」

美希「ミキはどっちにしろ楽しそうだしどっちでもいいと思うな♪」

伊織「あんたは自覚を持ちなさい!」


真美「だから愛ぴょん、追い越されたり離されたりしてもさ、愛ぴょんらしくゴーでいこ?」

愛「……」

真美「愛ぴょん?」

愛「真美ちゃん、本当に大人だなー」

真美「今頃気付いてしまったか……真美の魅力に!」

愛「真美ちゃんの魅力かぁ」

真美「あれ? 本当に気付いてなかった?」

愛「ううん! 確信しただけだよ!」

真美「確信?」

愛「うん。お互い、らしく頑張ろうね!」




伊織「あっちも話まとまったみたいだし、行くわね」

春香「内密に! 内密に~!」

伊織「仕事に支障が出ることは言わないわよ」

雪歩「ありがとう、伊織ちゃん……」

伊織「……ちゃんとあとで謝るなりフォローなりしなさいよ」

美希「当然なの」



「お疲れさまでしたー!」

愛「伊織さん、真美ちゃん、おつかれさまー!」

伊織「全っ然疲れてないわね、あんた……」

真美「体力飛びぬけてるわけじゃないけど元気はあるからねー、愛ぴょんはさ」

愛「最近体力だってついてきたよ!」

伊織(元々体力はあるでしょうが……)

愛「それじゃ、あたし次のスケジュールあるから先にあがりまーす!」

伊織「後ろに気をつけなさいよ」

愛「? はーい」

真美(本気で気付いてないんだ……真美、ちょっと愛ぴょんの将来が心配だよ)




春香「ふぅ、ここも愛ちゃんしっかり切り抜けたね!」

雪歩「なんだかんだで、みんなフォローしてくれてるね」

美希「愛はもっと自分が恵まれてるって実感してもいいと思うの」

美希(そしてミキたちなにもやってないの)



愛「急ご!」テキパキ



春香「あれ? 愛ちゃんまだ何かあるのかな?」

雪歩「今日はもう二つも仕事こなしてるけど……」

春香「今日は忙しいのかな? それとも……」


愛「~♪」タッタッタッ



雪歩「……このままレッスンみたい」

春香「オーバーワーク大丈夫かな? それが心配で見に来たんだけど……」

雪歩「最近、ずっとこうだったらどうしよう……」

美希「ミキも調子いいとこれぐらい楽にいけるよ?」

春香「ちゃんと適度な休みとってるの?」

美希「休む時は休まないと力出せないの」



愛「」タッタッタッ



雪歩「……愛ちゃん、バスとか使わないのかな?」

春香「そういえば今日ずっと走ってる気がする……」

美希「全然休日って感じじゃないの……」


愛「遅れるよーーーーーー!! うわぁぁーーーーん!」ダダダダッ




春香「愛ちゃん……いつか、ちゃんと送迎してもらおうね!」

雪歩「バス使おう……! タクシー使おう愛ちゃん……!」

美希「雪歩大丈夫? 疲れてきてるよ?」

雪歩「だ、大丈夫だよ……!」

春香「私たちはペース落とそうか?」

雪歩「大丈夫!」


レッスン場


愛「ぜー、ぜー、ぜー!!」

千早「あら? 日高さん、どうしたの? そんなに息を切らして」

愛「ち、千早さん……ぜ、全力疾走で来ました! やる気満タンです!」

千早「やる気があるのはいいことだけど……レッスン前に身体を整えられないと、いい結果は出せないわよ?」

愛「はい! すぐにストレッチ入ります!」

千早「ゆっくりでいいのよ、ゆっくりで」

愛「はい! すー、はー、すー、はー」

千早「それにしても、レッスンで日高さんに会うのは久しぶりね」

愛「そうですね! 千早さんも今からですか?」

千早「いいえ、私は帰るところだけれど……日高さんは今から?」

愛「はい!」

千早「そう……!?」



春香「あ、千早ちゃんに見つかった」

雪歩「春香ちゃん、そんなに身を乗り出すから……」

美希「愛以外全員に気付かれてるね」



千早「日高さん」

愛「なんですか?」

千早「怖かったでしょう、あとは任せて」

愛「怖かった……?」

千早「すぐ片付けてあげるから」

愛「何かいるんですか?」

千早「ええ、いるわ」

愛「虫ですか!?」

千早「ある意味そうかもしれないわ」

愛「じゃあ、あたしがなんとかしちゃいます!」

千早「日高さんはレッスンでしょう? 行ってていいわよ」




美希「ねぇ、春香、逃げた方がいいような気がしてきたの」

春香「ダメ、今逃げたらそれこそ千早ちゃんに何をされるか分からない……」

雪歩「春香ちゃん、顔が青くなってるよ!?」

春香「物凄い顔でこっちを睨んでくるんだもん……」



愛「じゃあ、レッスン行っちゃいますね!」

千早「ええ、行ってらっしゃい」





千早「話を聞きましょうか?」

春香「はい」

雪歩「はい」

美希「はい」



千早「春香、私との会話を思い出しましょうか」

春香「見守ってるだけだもん。嘘ついてないもん」プイッ

千早「そうなの」

春香「……」

千早「……」

春香「ごめんなさい、心配で心配でつい……」

千早「萩原さんまで……」

雪歩「あ、愛ちゃんが心配で……」

千早「心配ばかりしていると、日高さんのためにもならないわ。違う? 美希」

美希「ミキはこの二人ほど心配してないの」


千早「全く、揃いも揃って。よその事務所のアイドルのあとを付け回すなんて知れたら大騒ぎよ?」

雪歩「深く掘って反省しますぅ……」

春香「本当に申し訳なく思っています……」

美希「千早さーん、千早さんは心配じゃないの?」テアゲテー

千早「日高さんが満足できるようにやればいいと思うわ。彼女ももう自分をコントロールできないような――」

春香「今日二本の仕事終わらせて休まないままここまで走って来てるよ愛ちゃん」

千早「……今日は、たまたま、よね?」

春香「そうだといいんだけど……876はアイドルが自分の判断で動ける範囲が広いから、無理にレッスン入れたりしてるのかも」


千早「焦っているのは本当ね……。体力も気力も余裕はありそうだけど」

春香「だから、フォローするときはフォローしてあげなきゃ」

千早「後をつけ回すのはフォローとは言わないわ」

春香「わ、分かってるけど……」

千早「……面と向かったらどう?」

雪歩「い、いいの?」

千早「日高さんに、おつかれって、声をかけるぐらいなんてことはないでしょう?」

春香「……レッスン、見てくるね」


愛「~~♪」

愛「~~~~~♪」キュッキュッ

愛「」ピタッ

愛「……今の、もう一回やらなきゃ!」




春香「何度も同じところを繰り返してる」

雪歩「どうしたのかな? 納得いかないのかな? 上手なのに……」

美希「これだ、って思ってるのが高いレベルに設定されてると思うの」

春香「高いレベルっていうと……」

雪歩「お母さんの日高舞さんとか?」

美希「違うよ。それは多分違う」


愛「~~~♪」ピタッ

愛「う~~~~~~~~ん……」

愛「もっと、こう、あの時の春香さんは違ってたよね」




春香「私!? えっ、嘘!? 私ああじゃないよ!?」

雪歩「春香ちゃんの真似をしてるわけじゃないと思うけど……愛ちゃんらしさがちゃんと見えるもの」

美希「脳内春香が凄いレベル高いのかな?」

春香「私愛ちゃんの頭の中でどうなってるの!?」



愛「……スリー、ツー、ワン」タンッ

愛「~~~~♪」キュッキュッ タタンッ



春香「……何度も繰り返してる。脳内私手強いのかな?」

雪歩「どういうことなのかなぁ……?」

美希「……」ジー


愛「~~~……」タンッ

愛「……」

愛「やっぱりダメだーーーーー!」バタンッ

愛「うぅ~……どこがいけないんだろ……どうすれば一緒に立てるんだろ……」



美希「……そういうことなの」ハァ

春香「どういうこと?」

美希「触発されて、焦ってるってことなの。行こ? 二人とも」

雪歩「え? え!?」


愛「……」スクッ

愛「いじけてる暇なんてないんだ。こうしてる間に、みんな歩いちゃうんだから!」

愛「よーーーし! もーーいっかーーーい! ……はっ!」ダダッ!



春香「愛ちゃーん、おつか――」

愛「日高チョォォォォォォップ!!」ドゴォ!

春香「ぶふっ!?」

愛「とうとう姿を見せましたね! もしかしたらって思ってましたけど、ストーカーはダメです! 今からよーーーーく……あれ?」

春香「あ、愛ちゃん……ナイスチョップだよ……」

愛「は、春香さん!? 雪歩先輩に美希センパイまで!?」

雪歩「お、おつかれさまですぅ……」ガタガタ

美希「むぅ、凄い破壊力だったの」


―――
――


愛「……ごめんなさい。皆さんに心配かけちゃってたんですね」

春香「いや、こっちこそごめんね……こんなストーカーまがいなことしちゃって……」

雪歩「まがいというか、完全にストーカー……」

美希「春香はチョップ受けたんだし、もういいと思うの」

雪歩「じゃ、じゃあ今度は私がチョップを受け……」

愛「そ、そんな! できませ……う、うぅ~……」グルグル

春香「愛ちゃん?」

愛「……よし! 決めました! 雪歩先輩!」

雪歩「はい……」

愛「心配かけちゃったのはあたしですけど……それでも、ストーカーはダメです! 絶対ダメー!」コツン

雪歩「痛っ……これだけでいいの?」

愛「本当はやりたくないんですけど……」

美希「春香だけチョップ受けるのも、ね」


春香「それで、愛ちゃん……あの、最近なんだか焦ってるのは……」

愛「その、頑張らなきゃって思って」

雪歩「だけど、無理はダメですよ。愛ちゃんは愛ちゃんの頑張りでいいはずです」

愛「そ、それは、そのぉ……」

美希「早く次に次に歩いていかないと、先に行かれちゃう気がしたんだよね」

春香・雪歩「え?」

愛「み、美希センパイ!?」

美希「さっきも、春香を真似たりしてたわけじゃないでしょ?」

愛「あ、うぅ~……」

美希「春香やミキたちがいる舞台に、一緒に立った時のイメージ……違う?」


愛「……美希センパイ、やっぱり凄いです。お見通しなんですね」

美希「とーぜん! なの!」

春香「つまり……愛ちゃん、私たちと一緒に活動したかったの?」

愛「よく分からないんです。最近の春香さんたち765プロを見てると……なんだか、凄いんです!」

雪歩「す、凄い? そうなの?」

愛「はい! あたし、あたしなりに昔も今も、勿論これからもガーッて頑張るつもりです! だけど……春香さんたちも、ガーッと行っちゃう」

雪歩「……そうですね。止まっちゃうのは、勿体無いですから」

愛「それが何度もあって、もっともっと頑張って、いつか、同じところに、あたしとして行けたらって……」

春香「……それで、愛ちゃんは、頑張って、どう思ったの?」

愛「よく分かりません……。765プロの人達が何を見て、何を思ってるのか分かればって思ったりもしたんですけど……ゴール見えなくて」



愛「それで、その……色々試してみたいんです。春香さんたちと同じ舞台に立てたら、とか」

春香「……愛ちゃん、ありがとう。だけどそれは、やっぱり焦りすぎだよ」

愛「やっぱり、そうなんですか……」

春香「知ってる? 愛ちゃん……私もね、愛ちゃんと一緒に立ちたいなぁって思ったことあるよ」

愛「え……?」

春香「何度も、何度もね。私は愛ちゃんに憧れてるから」

雪歩「愛ちゃん、愛ちゃんが行きたいって願った舞台は、もう愛ちゃんがいるところなんですよ」

美希「愛もそれに気づかないようじゃ、まだまだなの。足元ちゃんと見なきゃダメだよ?」

愛「足元……」


春香「大丈夫、愛ちゃんは置いていかれたりしない。誰からも、そして誰も置いて行ったりもしないよ」

雪歩「愛ちゃんは、もう知っていますよね? 愛ちゃんには愛ちゃんのやり方があるって」チラッ

春香「そうそう。もう一度、それを確認!」

愛「は、はい! 確認しました!」

春香「それじゃあ――」

美希「春香、ストップなの。あとは宿題なの」

春香「ええっ!?」

美希「千早さんも言ってたよね? だから、ここから先はもう口出しダメなの」

雪歩「も、もう少し! もう少しいいよね!?」

美希「ダメなの。さっ、行こ」

春香「ちょっと待ってー! もうちょっとー!」

美希「愛、今日はごめんね。それと……」

愛「それと……?」

美希「ガンバレ!」


―――
――


春香「大丈夫かなぁ……肝心な事言いそびれた気がするんだけど」

雪歩「美希ちゃん、やっぱり戻って――」

美希「二人とも心配し過ぎなの。愛は大丈夫だよ?」

春香「……美希、今日は一番先輩っぽいね」

美希「中学組として愛には頑張ってもらうの」

雪歩(そういえばこの中で一番歳が近いんだよね……)

春香「はぁ……愛ちゃんを信じて、今日は終わりにしよっか」

美希「だから、大丈夫なの」

雪歩「あっ……春香ちゃん、美希ちゃん、あれ」


愛「あれ? 絵理さん涼さん!」

涼「愛ちゃん、おつかれさま」

愛「どうしたんですか? もう夜ですよ?」

絵理「それは、こっちのセリフ? たまには愛ちゃんの送迎しようと思って。女の子が夜一人で動き回るのは危ないし」

愛「大丈夫ですよー! けど、嬉しいです!」

涼「事務所までだけど、乗り物使う?」

絵理「それとも、歩きながら?」

愛「じゃあ、歩きながらで!」


絵理「歩きながら、今日の仕事のこと、話してくれる?」

愛「いいですよー! ……今日は、ちょっと考えちゃうことありましたから、聞いてもらいたいです」

涼「何かあったの? 言ってみて」

愛「まずは、ごめんなさい! 聞いちゃいました、絵理さんと涼さんが春香さんたちにあたしのこと頼んでるの」

涼「あ……バレちゃったんだ」

絵理「……迷惑、だった?」

愛「いえ! おかげで、あたしが心配かけちゃったって分かって、反省できましたし……なんだか、見えてきた気がします!」

涼「いいことが?」

愛「それがいい事か悪い事かまだ分からないけど……もう一度、あたしらしく、次の一歩頑張らなきゃって思います! だから!」クルッ

絵理・涼「?」

愛「絵理さんも涼さんも、これからもよろしくお願いします! ガンガンアイドル楽しんで、どんどん行っちゃいましょー! おー!」


春香「……一番の味方は、そばにいてくれるんだね。どこでも、いつでも」

美希「ね、大丈夫でしょ?」

雪歩「本当、大丈夫だったね……」

春香「じゃあ、私たちはこれから……プロデューサーさんに怒られてきますか」



おわり

終わりです

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