女「おとこー! あさーだよー!」
男「あ、おはよう」
女「うおぅっ、起きてた」
男「最近ずっと天候不順ばかり続いてるじゃん? 夜も蒸し暑くて全然寝付けないんだよ」
女「そうだよね」
男「今晩もまた暇潰し?」
女「……朝です」
男「まだ午前3時半。朝の挨拶には早すぎる」
女「私、太陽みたいな笑顔だねってよく言われるよ」
男「つまり白夜か」
女「男も起きててちょうどいいことですし、遊ぼう」
男「遊ぶ? どうやって」
女「それはほら……またトランプとか、記憶力ゲームとか……」
男「俺が聞いてるのは遊び方じゃなくてさ」
女「じゃなくて?」
男「部屋がね」
女「あー……、汚いね」
男「その……お手伝いお願いしてもいい?」
女「うえへへ、男が私に上手なおねだりができれば考えてあ」
男「掃除をしよう」
女「ばっちこい」
*
男「燃えるごみは20リットルの黄色い袋に突っ込んでおいてね」
女「ビニールは?」
男「レジでもらった袋が転がってるから、それを好きに使って」
女「らじゃっ!」
男「定期的に片付けはしてるんだけど、何故か汚れちゃうんだよね」
女「私もわたしも。ポテチの空袋がどうしてもゴミ箱から溢れちゃって」
男「健康面を考えてそろそろ間食は卒業しようか」
女「私から主食を奪う気?!」
男「なんでスナックが三食に格上げされてるの? 育児放棄されてるの?」
女「あのクセになる美味しさが病みつきに。コンソメ美味しい」
男「女の体に正しい生活を教え込みたい」
女「……べ、ベッドでね。きゃっ」
男「『正しい』の意味を叩き込みたくなった」
女「使いかけのルーズリーフ発見」
男「計算用紙にしてるのなら勝手に捨てちゃっていいよ」
女「お、なんか書いてある」
男「メモ?」
女「『窓辺から柔らかな日差しが注ぎこむ。「おはよう、ベリエッテ」朝の挨拶である口づけをかわし――』」
男「ちょっと待って。色々おかしい」
女「ん? なにが」
男「そんなことその紙には絶対に書かれてないよね?」
女「騙せなかったか。実は白紙でした。ほらほら」
男「その一文はどこで読んだの?」
女「机の引き出しを漁ってたら奥底から怪しげな一冊のノートが。これ」
男「……」
女「……」
男「…………」
女「…………『ベリエッテの白く細い手が頬に』」
男「お願いします。眠らせたままにしておいてください」
女「このノートは燃えるごみ?」
男「傷つくからごみ扱いはやめて。ふざけた内容に見えても、本人はすごく真剣なんです」
女「ポエム用のノートはどこだっけ?」
男「なんでプライバシーを細部まで掌握してるの? 教えないし、あること前提で聞いてくるのがすごく怖い」
女「てっきり最近流行りの可愛いイラストを描き溜めてると思いきや」
男「絵は苦手だから」
女「現代を生きるバッハとか言ってなかったっけ?」
男「それ音楽家」
女「モーツァルト?」
男「それも音楽家」
女「モッツァレラってなんだっけ?」
男「それチーズね」
女「チーズだったね。紛らわしくてごっちゃになっちゃう」
男「乳製品と人名の区別くらいはできるようになろうか」
女「モッツァレラの別名ってモナ・リザだっけ?」
男「モザレラ」
女「そうそうそれそれ、詳しいね」
男「その曖昧さを維持できるのは一種の才能だと思う。絶対に接線になりえないよね」
女「あーっ!」
男「ん? どうしたの?」
女「ペットボトルの投げっぱなしはよくないって前に言ったよね?」
男「あー……、そうだっけ?」
女「見つけるたびに言ってるんだからちゃんと覚えてよ」
男「専用の篭でもどこかに置いておこうかな」
女「まったく、飲みかけだったら期限きれてても私が飲んじゃうんだから」
男「女の健康面に配慮して二度と不始末をしないようにするね。女の健康面に配慮してね」
女「男の部屋は未開のダンジョン。隠されたお宝がいたるところに隠されております」
男「必要以上の詮索はよくないよ」
女「あんだー・ざ・べっど! 書籍はっけん!」
男「失くしてた文庫本そこにあったんだ。映画化したらしいから気になって買ったんだ」
女「びっとぅいーん・ふとん!」
男「布団は英語にしないんだ」
女「雑誌発見!」
男「そろそろ衣替えの時期かと思って寝る前によく読んでます。ファッション雑誌」
女「うら・ざ・ほんだな!」
男「それ完全に日本語じゃん」
女「埃!」
男「そうだろうね。埃しかないだろうね」
女「……ちゃんと思春期だよね?」
男「初めてそんな心配された」
女「なんでえっちな本の一冊もでてこないの? なんで持ってないの?」
男「なんで持ってると思ったの?」
女「なんで持ってないと思われてると思ったの?」
男「その返しのずるさは禁じ手級だよ」
女「傍線部の『男が女に疑われないと思っていた。』理由を1本文中から15文字以内で抜き出しなさい」
男「配点は?」
女「五点です」
男「……」
女「……」
男「テストで解けなかったんだね。現代文」
女「……うん」
男「家に入れた友達も同じようなこと聞かれたよ」
女「現代文?」
男「そっちじゃなくてエロ本とかビデオとか」
女「そうだよね。世の男性は漏れず大人の兎だもんね」
男「表現に気を付けよう。それはある種の侮辱にあたる」
女「その自称お友達は」
男「自称じゃなくて俺が認めてます。公認です」
女「そのお友達は持ってるんだよね?」
男「見せてもらったことはないけど、本は何冊か持ってるとは言ってた」
女「男は興味ない?」
男「まぁ……それはいいじゃん」
女「よくない。教えて」
男「なくは……ないよ。今は一アダルトチックなアイテムよりも趣味に時間と小遣いを費やしたいだけ」
女「……」
男「真剣な表情になってどうしたの?」
女「男はえっちな本持たなくていいと思う」
男「ん? なんで?」
女「だ、だってさ。ほら、わ、私が……いるんだし……ね?」
男「女……」
女「だから……」
男「……35点。女はそういうキャラじゃない」
女「赤点取っちゃった」
男「あらかた片付いてきた。掃除機を使うのは昼でいいかな」
女「すっごい今更なんだけど、男のお父さんたちってこんなにうるさくしてても怒らないの?」
男「睡眠妨害を働いてた自覚はあったんだ」
女「それくらいの常識は心得ておりますて」
男「丑三つ時に不法侵入してくる人間の台詞とはとても思えない」
女「掃除終わったらどうしようか?」
男「徹夜してるし寝ておきたいな」
女「そっか……、遊べないんだ……」
男「明日、日曜日だし今日はのんびり過ごそうよ」
女「そうだね……、ん?」
男「さて、これだけ綺麗にしても見つからないか」
女「……」
男「遊びに来たときに忘れてったとは言ってたけど、どこに置いていったんだか……」
女「……おとこー」
男「なに?」
女「えっちな本は読まないって言ったよね」
男「言ったね」
女「読まなくてもそういう妄想とかするの?」
男「……なんで?」
女「ちょっと気になって」
男「……女さん。あなたが熟読しているノートはどこにありましたか?」
女「んー? ラックの下に落ちてた」
男「……」
女「『白く透き通った肌に無言で手を這わせ』」
男「ストップ」
女「……作者、男?」
男「脳の隅々まで桃色な友人の忘れ物です」
女「欲求不満が積り溜まってこの方面で爆発したとかじゃなくて?」
男「俺は読み専です」
女「…………」
男「違うから。それは読んでないから」
女「なんとか綺麗になったね」
男「最後の最期で始末に困るゴミが出てきたけど、焼却処分すればいいか」
女「返してあげないの?」
男「俺の部屋に無かったことにしてあげるのが最上級の友情だ」
女「男同士の友情は厳しいね。世知辛いよ」
男「一休みついでに仮眠でも取ろうか」
女「寝てないけど眠気がきません」
男「賑やかに掃除してたせいか……」
女「眠くなるまで遊ぼうよ」
男「遊ぶのはいいけど、たまには女の部屋で時間つぶすのもいいよね」
女「え?!」
男「え?」
女「私の部屋?」
男「たまには、ね?」
女「急に言われても困るよ」
男「恥ずかしいの?」
女「恥ずかしいよ。男に見せられるような部屋じゃないもん。だから……」
男「そっか」
女「だからね……その……」
男「掃除をしよう」
女「ばっちこい」
おわり
久々すぎてキャラ忘れかけてた
性格に差異があったらごめん
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