キョン「日曜日の午後?」 (22)
「キョンくんあたしもオレンジジュースちょうだい!」
日曜日の昼下がりのことである。
ちょうどコップにオレンジジュースを注いでいるところに妹がやってきた。
部屋着ではなく私服を着ていることから、この後どこかに出掛けるようだ。
「ミヨちゃんの家に行ってくるから、シャミの面倒見ててねー」
オレンジジュースを勢いよく飲み干し、そう言い残して妹は家を出て行った。
相も変わらず元気なこって。週末の元気は毎週土曜日に使い果たしてしまう俺には、
日曜日というものは安息日であり、その午後ともなれば最も心安らぐ一時であると言っても過言ではない。
「君は可愛いにゃー」
コップを持って部屋に戻ってくると、中から声がする。いつぞやみたいにシャミセンが話し出したのかと思われるが、
あの時以来シャミセンがしゃべっているのをみたことはない。
つまりは、だ。シャミセン以外の誰かがシャミセンに向かって話しかけているということだ。
……こんなこと誰でも気付くだろうに、俺は一体全体誰に向かって説明しているんだろうね。
「それにしても随分とご機嫌だな」
ベッドにシャミセンと一緒に寝そべっている佐々木に声をかける。
「それはもう。僕はこう見えて猫派だから」
こう見えるもなんも初耳だ。
「そうだったかい?まぁ、キョンとペットについて語り合ったことはなかったかもしれないね。
いい機会だ、僕が猫派ということを覚えておいてくれ」
「へいへい」
気のない返事を返し、コップをテーブルの上に置く。佐々木はシャミセンを抱いてベットに座り直し
、俺はベットに持たれかかり、その横に座り込む。その際、シャミセンと目があったが、
それ程嫌がっているわけではなさそうである。まぁ、普段から妹の相手をしているだけがあって、構われるのは慣れている。
ましてや、妹ほど雑に扱われるわけでないから尚更であろう。
「それはそうと。佐々木でも『にゃー』なんて言うんだな」
先日、偶然にも1年ぶりの再会を果たした俺達ではあるが、中学時代に佐々木がそんな可愛らしい言葉を使っているのには、
ついぞお目にかかったことはない。
「おや、キョンは何か勘違いしてないか?猫と話すときは語尾ににゃーをつけるのが礼儀ってものじゃないか」
さも当然に言い放つ佐々木。猫派ではそれが当たり前なのであろうか。俺個人としては犬も猫もどちらか一方に傾注することはないので、
そういうことは聞いたことがなかった。
「冗談だよ、キョン」
佐々木が楽しそうにくつくつと咽を鳴らす。そこでようやく俺はからかわられていることに気が付いた。
やれやれ。
「キョンのそういうところは相変わらずだね」
「佐々木のそういうところも相変わらずだな」
1年ぶりの再会ではあるが、昨日もあったような感覚。再会するまでの時間など関係ない。
俺と佐々木はそんな関係である。
佐々木に撫でられ、シャミセンがごろごろと咽を鳴らす。佐々木も笑う際に咽を鳴らす。
妙な共通点がある。いや、ほんとどうでもいい。
「猫はいいよね。こうやって膝の上に乗っているだけで、こんなにも癒やしてくれるんだから」
「そうか?うちの妹の膝の上に乗せられた時は大抵面倒臭そうな顔してるぞ」
シャミセンからしてみれば随分な迷惑である。その点佐々木の膝の上ならリラックスできて気持ちいいのではないだろうか。
キョンも試してみるかい?」
「……遠慮しておく」
「まぁ、そう言わずに」
やたら楽しそうな佐々木。というか、有無を言わせない。そういのははた迷惑な団長さんだけで十分である。
「ほら、そこに座るんだ」
指示されるがままベットに腰掛ける。そして、俺の膝の上にぽふっと佐々木が頭を乗せる。
そして、シャミセンは佐々木のほっそりとしたお腹の上に鎮座している。
いや、ちょっと待て。お前が猫のほうかよ」
「おや?逆のほうが良かったかい?」
再び咽を鳴らす。もはや、何も言うまい。
「ほら、キョン。僕を撫でるんだにゃー」
クールなキャラははるか一万光年先にでも行ってしまったのか。軽く嘆息し、
しょうがないので佐々木の顎から喉を撫でてやる。
佐々木は気持ちいいのか、猫がそうするようにすっと目を細めた。どう表現していいのかわからんが、
今ならなんとなく猫派の気持ちがわかるような気がする。
「にゃー」
そんなわけで、俺の安らかな日曜日の午後は佐々木を膝に乗せ、撫で続けることで過ぎていくのであった。
そして、それを帰ってきた妹に発見され、赤っ恥をかいたことを追記しておく。
終わり
キョン「鍋?」
冬も終わり、桜が咲き始めた今日この頃。気温も高くなり、花粉のことを考えなければ過ごしやすい季節になった。
とはいえ、やはり夜はまだまだ寒く、温かいものを食べたくなる。
「お待たせ」
炬燵に入り待つこと約30分。ポニテエプロン姿の朝倉が鍋をもって部屋に戻って来た。
なんのことはない。朝倉に鍋に誘われた。それ以上でもそれ以下でもない。俺を殺そうとしていた人物の家に、
鍋に誘われほいほいついてきたわけではあるのだが、長門が「心配ない」と言っていたので、おそらく大丈夫だろう。
「今日は長門さんがいなくて寂しかったから、キョン君がいてくれて良かった」
そうにっこりと微笑む朝倉に、思わず見惚れてしまいそうになる。谷口のランク付けでは確かAA+であったか。そのランクに恥じない可憐さである。
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