少年「君は誰?」少女「私は幽霊」 (40)


 日が沈みかけた中学校の屋上。

 僕は幽霊と出会った。

少年「幽霊?」

 長い髪をたなびかせて、夕陽を背に彼女は笑った。

少女「そうね、幽霊」

 僕と同じくらいの年に見えるけど、その笑顔はどこか大人びていた。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1397217417


少女「あなたはいいの?」

少年「なにが?」

 少女が校庭を指差す。サッカーをしている同級生が見えた。

少年「僕は、友達いないから」

少女「そう。寂しいの?」

 少女の言葉が深く突き刺さる。


少年「別に」

 僕は強がった。

少年「君ほどじゃないよ」

少女「……寂しさは人と繋がったことが無ければ分からないわ」

少年「でも、君は幽霊だろう? 足もないし」

少女「……」


少年「君はどうして屋上にいるの?」

少女「きっとあなたと同じ理由よ」

少年「ふーん、君は弱虫なんだね」

少女「あなたもね」

少女「……あなたはまだ戻れると思うけど」

少年「無理だよ。自分じゃどうしようもないことってあるんだ」

少女「出来ないと思い込んでるからね」


少年「君はどうして幽霊になったの?」

少女「そうね。怖かったからかもしれない」

少年「なにが?」

少女「人が」

少年「そっか」


少年「そろそろ帰るよ」

少女「じゃあね」

少年「君はどうやって帰るの?」

少女「分からない」

少年「一緒に帰る?」

少女「途中までなら」


翌日

少年「あ、またいたんだ」

少女「また来たの?」

少年「屋上、好きなの?」

少女「嫌いよ。私はここで幽霊になったから」

少年「じゃ、また一緒に帰る?」

少女「一緒に帰ってもまたここに連れ戻されるわ」

少年「でも、一緒に帰ろう」

少女「……うん」


翌日

少女「また来たの」

少年「うん。他に話す人いないからね」

少女「だから幽霊と話すの」

少年「正直、誰でもいいんだ」

少女「本人に言うことではないわ」


少女「授業はいいの?」

少年「うん、机無かったから」

少女「いじめられてるの?」

少年「そうだね」

少女「まあ、誰にも見向きもされないよりはマシかもね」


少女「やり返さないの?」

少年「やり返しても無駄だから」

少女「勇気がないのね」

少年「君にはあるの?」

少女「無いから幽霊になったの」


少年「どうして幽霊になったの?」

少女「また? 人が怖かったの」

少年「それだけ?」

少女「……私も元々いじめられてたの」

少年「やり返さなかったの?」

少女「勇気が無いからね」


翌日

少年「やあ」

少女「またサボり?」

少年「君に言われたくないけど」

少女「私は幽霊だから」

少年「ずるいなあ」


少女「羨ましいなら代わってもいいわ」

少年「やだよ」

少女「いじめもなくなるわよ」

少年「代わりに君がいじめられるつもり?」

少女「別にいいけど」

少年「僕が良くない」


翌日

少年「やあ」

少女「そんなびしょ濡れでどうしたの?」

少年「池にカバンを放り込まれてね」

少女「ひどい」

少年「本当だよね」

少女「ハンカチ使う?」

少年「いや、いい」

少女「そっか」


少年「君はどんないじめをされてたの?」

少女「身体的な特徴を馬鹿にされたり、物を隠されたりね」

少年「そっか」

少女「今はもう何もされないけど」

少年「幽霊だからね」


少年「明日は学校休みだけど何してるの?」

少女「べつに。何もしない」

少年「ここにいるの?」

少女「さすがにいないわ」

少年「そうなんだ」


週明け

少年「やっぱりここにいたんだ」

少女「来たくて来てるわけじゃないけどね」

少年「君はどうして学校にいるの?」

少女「そうね。……ここが地獄だからじゃない?」

少年「地獄だから?」

少女「何もないより地獄の方がいいから」

少年「よく分からないよ」


少女「あなたは死にたいと思わないの?」

少年「死ぬのは怖いから」

少女「きっと一瞬よ。私がちょっと背中を押すだけで死ぬの」

少年「君には無理だよ」

少女「そうね」


少年「君は幽霊だけど死にたいと思うの?」

少女「幽霊だからね。消えてしまいたいと思うこともあるわ」

少年「消えちゃうの?」

少女「幽霊だっていじめられっ子だって死ねば消えるわ」

少年「いじめっ子も?」

少女「そうね」


翌日

少年「今日は可愛らしいね」

少女「もう、お気に入りの服を汚される心配が無いからね」

少年「そっか。いじめられっ子よりもいいかもね」

少女「どうかな」

少年「泥をぶつけられたり、カレーを頭からかけられたりしないからね」

少女「そうね」


翌日

少年「今日は可愛らしいね」

少女「もう、お気に入りの服を汚される心配が無いからね」

少年「そっか。いじめられっ子よりもいいかもね」

少女「どうかな」

少年「泥をぶつけられたり、カレーを頭からかけられたりしないからね」

少女「そうね」

ミスです

少年「ねえ、どうやったら幸せになれるのかな」

少女「そんなこと考えてるうちはなれないわ」

少年「考えなきゃいいの?」

少女「違うわ。大事なのは一歩踏み出す勇気よ」

少年「自分には無いのに?」

少女「無いからよ」


翌日

少女「遅かったね」

少年「服を隠されてね。探してたんだ」

少女「そっか」

少年「君は僕がいない時はどうしてたの?」

少女「1人でずっとここにいた」

少年「1人で?」

少女「幽霊だから」

少年「そっか」


少女「いじめのこと、お父さんお母さんに言わないの?」

少年「言えないね」

少女「なんで?」

少年「悔しくて、怖いから」

少女「意気地なしね」

少年「お互いね」


少年「君の家はどっちにあるの?」

少女「あっちの方」

少年「僕の家と反対方向だ」

少女「何もない家だけどね。会話一つないし。私が帰らなくても何も変わらない」

少年「最低だね」

少女「ね」


翌日

少年「やあ」

少女「どうしたの、その顔」

少年「ちょっと殴られただけ」

少女「大丈夫?」

少年「いたっ、触らないで」

少女「手も擦りむいてる。後でちゃんと消毒しなさい」

少年「……うん」


少女「あなたはどうして屋上に来るの?」

少年「だって君と話せるのはいじめられっ子の僕だけだから」

少女「そうね、ありがとう」

少年「それに僕とちゃんと話してくれるのも君だけだから」

少女「そうね」


少女「私はあなたがいなければここから出ることもできないわ」

少年「……」

少女「でも、もし、迷惑をかけているなら。もうあなたの前には現れない」

少年「迷惑じゃないよ」

少女「そう言ってくれると思った」

少年「それにしてはホッとした顔だったけど」


翌日

少女「辛そうな顔をしてる」

少年「君は、死ぬのは怖い?」

少女「ううん、どうせ幽霊だから。生きててもいいことなんてないし」

少年「僕もないよ。でも、怖いんだ。死ぬのも、生きるのも」

少女「なら、2人でいっちゃう?」


少年「いいの?」

少女「うん」

少年「でも」

少女「いいの」

少年「そっか」

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom