女「勇者と結婚すると思っていた時期もありました」(117)

女「あの時期の私を殴ってやりたい。切実に」ドンッ

看板娘「帰ってきてそうそう荒れているわね」

女「……麦酒ちょうだい。あと……ふわふわオムレツ」

看板娘「はいはい。ソーセージのチーズ焼きは?」

女「それも!」

看板娘「ふふ、わかったわ」



女「……これからどうしようかなぁ」

看板娘「はい。お待ちどうさま」トンッ

女「……おいしそう。いただきます!」モグモグ

看板娘「……で、勇者君はこっちには帰ってこないの?」

女「うん、今はお婿さんとして修行中。……でも、そのうち顔見せにくるんじゃない?」ゴクゴク

看板娘「あの勇者君がねぇ……」

女「……好きな人が恋に落ちる瞬間なんて見たくなかったなぁ」モグモグ

女「こっちは出会って18年も好きだったのに」ゴクゴク

女「なんか悔しいので、思いきって告白したら……」

看板娘「したら……?」

女「大切な親友だとしか思っていないと言われて諦めがつきました」

女「自分でも意外なほど心の整理がついちゃって吃驚ですよ」

女「そして結婚するから、パーティーを解散するって言われて帰ってきたわけです」ゴクゴク

看板娘「これからどうするの?」

女「お仕事探しかな。護衛とかその辺の」

看板娘「貴女なら、きっとすぐ見つかるわ」

女「ありがとう。……あ、もうないや。お酒お代わり!」

看板娘「はい。ちょっと待っていてね」



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

女「じゃあね、看板娘ちゃん。久しぶりに会えて嬉しかった」

看板娘「私もよ。これからは頻繁に顔見せに来てね」

女「うん、バイバイ~♪」

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 酒場を出ると、丁度夕日が町を覆い始めた時間だった。

辺りは仕事の終えた人達でごった返している。

すでに酔い、次の店へと向かう人や、ここよりももっと奥の花街へ向かう人、

客寄せを始めた店員もちらちらと見える。

その流れを逆行して、私は2年ぶりに実家へ向かうことにした。


ガチャ

女「ただいまー」

弟「いらっしゃ……、あ。姉ちゃんか。お帰りー」

弟嫁「……!お義姉さん!!お帰りなさい!」ダキツキ

女「……うぉ。……弟嫁ちゃん久し振り」イロイロヤワラカイ……///

弟嫁「お久し振りです!……お姉さんずいぶん肌焼けましたねぇ。益々凛々しくなりました」ギュー

女「う、うん。ちょっと焼けたかナー。弟嫁ちゃんは前より綺麗になったね」
 
弟嫁「そんなこと言われると照れます。お義姉さんだから余計///」ギュー

弟「……弟嫁、嬉しいのは分かるけどもういいだろ。姉ちゃんもいいよな?」ハガシ

女「うん」

弟嫁「はぁい。……もしかして妬いた?」

弟「……。お前は母さん手伝ってこいよ」シッシッ

弟嫁「うふふ。お義姉さん、またね~♪」


女「……ふぅ」

弟「帰ってきてそうそうごめんな。疲れてるだろうに」

女「ううん。隣町まで移動魔法で送ってもらったからそんなには」

弟「術者の人この町きたことないのか」

女「そうみたい。あえて王都は行ったことないっていってた」

弟「……ふぅん。あ、肌もそうだけど髪も切ったんだな」

女「うん。すっきりしたでしょ」

弟「すっきりというか、短すぎ。何もベリーショートにしなくても……」

女「前から切るなら、そう決めてたし……。もしかして似合ってない?」

弟「いや、似合いすぎ。また、女の子のファン増えるな」

女「……何それ。そもそも、ファンなんていないし」アハハ

弟「……思ったより元気そうで良かった」

女「うん。思ったより元気。……っと、そうだ。今日部屋空いてる?」

弟「客室に泊まる気かよ」

女「だって私の部屋、あんたと相部屋だったから今は夫婦の部屋でしょ?……お金はあるよ?」

弟「……父さんしばらく帰ってこないんだから、そこ使えよ」

女「臭そう……」

弟「大丈夫だよ。昨日一通り綺麗にしたし」

女「うーん。そこまでいうなら……」

弟「よし、決まりな。父さんにも連絡いれとく」

弟「……夕食は食べたみたいだし母さんに顔見せたらもう休めよ」

女「分かった。ありがとう、弟」ナデナデ

弟「……おぅ」

母「お帰り。女ちゃん」

女「ただいま、母さん」

母「弟嫁ちゃんに聞いてはいたけど、とっても素敵になったわね。若いころのお父さんみたい」

女「……あんな筋肉ゴリラじゃないですよ?」

母「あらー?そっくりよ」

母「そうそうお父さんったら、もうすぐ女ちゃんが帰ってくるというのに、一昨日だったかしら?」

母「また、出かけちゃったのよ。早くても2週間は帰ってこないわね、きっと」

女「……相変わらずだね」

母「そうね、困っちゃう」ニコニコ

女「母さんも」

母「2年くらいで変わらないわよ。貴女は変ったみたいね」

女「うん」

母「ずっと、ここに居てもいいのよ?」

女「そうはいかないよ。……まあ、しばらくはお世話になりますが」

母「まぁ♪嬉しい」

女「……おじゃましまーす」

女(変わらないな)

 以前見た父の部屋と変わらない姿がそこにあった。

広いベットとぎっしり敷き詰められた本棚。

閉じられたクローゼットの中には、きっと父の商売道具が眠っている。


女(よくわからない呪いの武具とか、ガラクタみたいな骨董品とか)

女「前、好奇心に負けた時はミイラが入っていたんだっけ……」ブルッ

女「開けない、絶対に」ボスン

女「ベット気持ちいいな」ゴロゴロ

女「……。勇者とあの子相変わらず仲よくしてるのかなぁ」

女「そうだと、いいなぁ」

女(なんか、眠くなってきた……)フワァ

女「お休みなさい」

――――――

弟「姉ちゃん、おはよう」

女「……おはよう」

女「弟嫁ちゃんと母さんは朝ご飯の準備?」

弟「残念。もう昼だよ」

女「あ~。寝過ぎたかな?」

弟「今日くらいはいいよ。はい、ここにご飯置いておくから」

女「……うん」

女「さてご飯も食べたし、お仕事探しにいきますか」

弟嫁「頑張ってくださいね。応援してます♪」

女「うん、ありがとう!」

―――職業斡旋場

ガヤガヤ

女「……これと、これが一番いい条件かな。職員さん、コレでお願い」

職員「はい、どれどれ。……って貴女には指名のお仕事あるわよ。弟君から聞いていない?」

女「指名?」

職員「今朝直接伝えにいったんだけど。まあいいわ」

女(弟が忘れるなんてめずらしい……)


職員「この依頼書読んで」

女「はい」

女「どれどれ……」

女「…………」

女「……あー、そういうことか」ビリビリ

職員「どう?受ける?」

女「丁重にお断りしたいです」

職員「気持ちは分からないでもないけど……」

女「この方とはかかわりたくないです」

職員「…!でも、報酬はとってもいいわよ?」

女「それでもです。私の心は固く揺るぎません」

職員「……そう。……お断りしておくわね」

女「お願いします。それでこれかこれ受けたいんですけど」

職員「そうね、女ちゃんの能力ならどちらも依頼主さん満足してくれると思うわ」

女「じゃあ、仕事日の近いこっちで…」

女「当面の仕事は決まったし、一度家に帰るかな」
――――――

弟「……だから!姉はまだ帰ってこないですから、一度お引き取りください」

?「いや、そろそろここに戻ってくるはずだ。僕の勘がそう告げている!」ポヨン

弟「貴方の勘なんて知りません。それにここにいられると迷惑なんです」

?「迷惑?また冗談を。本当は嬉しくてたまらないのだろう、君は彼女と同じくツンデレだからな!」グフフッ
 
?「……んん?顔も女君にていて僕の好みだなぁ」ジットリ

弟「気持ち悪いこと言わないでください。不愉快です」

バッ

女「」モノカゲヘカクレ

女(なんでいるの、あいつ)

女(いや、わざわざあんなふざけた依頼だしてくるくらいだから、いてもおかしくないか)

弟嫁「鬱陶しいですね~。ちょっと追い払ってきましょうか?」ヒソヒソ

女「……あ、弟嫁ちゃん。いや、あれでも偉い人だから手荒な真似できないよ?」ヒソヒソ

弟嫁「面倒くさいですね」ヒソヒソ

女「うん、すごくめんどうなの」ヒソヒソ

?「……ん?!ああ、女君!そんな所にいたのだね!」ポヨンポヨン

女「あ、気付かれた」

弟嫁「こっちこないで下さい、気持ち悪い」

?「やはり女君だ。会いたかったよ!」ガバッ

女「私はなるべくお会いしたくありませんでした」ヨケッ

?「ふふ、そんなことを言って照れているのだな」モウイチドダキツキ

女「照れていませんし本心です。また、供も付けず城下を出歩くと怒られますよ」カワシ

?「!それなら、依頼した通り君が僕の従者になるといい。……愛人でも良いが……な」ニヤリ

女「それならお戯れと思いお断りしてきました」ヤッパリ・・・

?「何故?君に対してはあの日からずっと戯れなんて言ったことないよ」ガシッ

女「……おやめ下さい。あの時もそういいましたよね?」テハガシ



女「王子様」


王子「」ジーン

王子「女君が僕の名前を呼んでくれた!これだけで今日来たかいがあったよ!」ポヨンポヨン

女「……気がすんだらお帰り下さい」

弟「……術者捕まえてきた」コノヒトシロマデオネガイシマス

王子「…!いや、まだいる。あの勇者が消えた今こ……!!」イドウマホウ


女「……はぁ。なんであの人はあんな……」アタマイタイ

弟嫁「初めて実物みましたけど豚さんみたいでしたね」エトチガウ

弟「肖像画描いた絵描きは、配慮して描いたんだろうな」

弟嫁「王子様とはどうお知り合いに?」

女「まだ勇者と二人旅の時あの人の護衛したらなんか異様に好かれちゃって……」

女「サイショハ、ナイチチトカ、キンニクオンナトカ、イイマクッテクレタノニナンナノ?」

弟「姉ちゃんから聞いていたから依頼伝えなかったんだけど……。まさか、直接来るとは……」

弟「俺もあの人バイだって噂だからあんまり会いたくなかった」アノメネライサダメテタヨ

弟嫁「この国の行く末が心配ですね」

女「ああ、後継ぎじゃないから大丈夫」

女「もしなったとしても、そこからはあんな簡単に城から出られる環境じゃなくなるよ」

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
女「早くお金貯めて出ていかないと……」ハァ

女「……お仕事は明後日からか。明日はしっかり準備して……」

女(出ていってどこにいこう……)

女(まだ行ったことない町を巡ろうかな)

女(旅の途中での解散だったし)

女(こっちの国では、魔王討伐成功したことになってるけど)

女(本当は魔術の使える隣国の王の娘と結婚しただけだもの)

女(結婚認めてもらうためにあちらの国の悩みの種だった)

女(ドラゴン倒してあっちでも英雄になってそれで終わり)

女(……あの国の向こう側ってどんなところなんだろう)

女「……うん、考えても仕方ない。もう寝よう」

――――――
―――

女『勇者!旅立つって本当?』

勇者『あ、女。ちょうど良かった。明朝町を出るつもりだよ』

女『……あ、あの、私も一緒に……』

勇者『勿論。そのつもりさ。君の力僕に預けてほしい』ニッコリ

女『……!!そう!わ、私、用意してくる!』

―――

王『勇者よ、ついでで悪いのだが……』

勇者『?』

王『王子を2つ先の町まで送り届けてほしい』

勇者『移動魔法をお使いにならないのですか?』

王『アレが、嫌がってな。……徒歩で供も伴わず行きたいと』ハァ

王『だが、あれでも私の子だ。そんな危険に合わせることはできない』

王『せめて護衛をつけることでなんとか納得させたのだ』

勇者『私どもで本当によろしいのでしょうか?』

王『……お前たちならアレも気に入るだろう』

―――

王子『お前たちが僕のことを守ってくれるのか!』ブヨン

勇者『はい、私が勇者。こちらが女です』

王子『……ほう。勇者と、無い乳筋肉女だな!』ウハハ

女『!』プルプル

勇者『女落ち着いて』コブシオロシテ

------

王子『ゆ、勇者!モンスターが!早く蹴散らせ!』アワワ

勇者『ご安心ください。すぐ終わりますから、結界から出ないで下さいね』

女『ガンガンいくよー!勇者サポートお願い!』ブンブン

勇者『了解』

―――

王子『もう……、終わったのか?』ソローリ

勇者『……!まだ、出ないで!』

ザクッッ

モンスター『ギャァァ』

女『大丈夫ですか?』フリカエリ

王子『あ、ああ』ドキン

―――

―――

王子『女!明日には僕と離れることになる。そこでだ』ポヨン

王子『僕の愛人にならないか?』ガシッ

女『お戯れはおやめ下さい。困ります』テハガシ

王子『何故?そうか、照れているのだな』

女『違います。それに私には心に決めた人が……』カァァ

王子『勇者だろう?』

女『!』

王子『君があいつを好きなのはすぐ分かった』

王子『一つ一つの行動があいつのため。あいつが君の行動原理だ』

王子『それでもだ。僕は君に惹かれてしまった』

王子『だから、ここで断られても僕は諦めない』プヨン

女『……ごめんなさい』

―――
――――――

女「……懐かしい夢」

女(昨日あの人に会ったからか……)


アハハウフフ

女「……?なんか騒がしい」

母「あら、女ちゃん。おはよう」

看板娘「おはよう。女」

女「おはよう。看板娘ちゃん、どうしたの?」

看板娘「ちょっとね」

母「女ちゃんのご飯持ってくるわねぇ」

女「ありがとう」

看板娘「おばさん相変わらずフワフワしているわね。貴女達が子なんて信じられない」

女「よく言われる」

看板娘「今日は、お休みなの。そこで、香草でも摘みにいこうかなって」

女「付添ってほしい、と」

看板娘「駄目?」

女「いいよ」

看板娘「……!ありがとう。お礼にうちでの食事1回サービスしちゃう!」ダキッ

女「でも、香草くらいなら、貴女一人でも大丈夫なんじゃない?」イイニオイ///

看板娘「最近あのあたり物騒なのよ。兎くらいなら手土産にするけど……」

女「そう。じゃあ対魔法アイテムも少し持っていったほうがいいね」

母「香草ならお母さんも少し欲しいわぁ」オマタセー

女「じゃあ、何が欲しいか書いておいて。……いただきます」

―――東門前

王子「やあ。女君!清々しい朝だね!」ポヨヨン

女「何故いらっしゃる」

看板娘「あら、とてもふくよかな方」

王子「本当は君の家に行こうとも思ったんだが、ここに行った方がいいとなんとなく思ってね」

王子「何かね。君たちは町の外へピクニックかな?」

女「危険ですから、くれぐれも付いていらっしゃらないで下さいね」

王子「……!昔の僕のままだと思ってくれたら困るな」

王子「あれから剣、そして魔術の師範をつけたんだ」マジュツハミニツカナカッタケドナ!

王子「スライムなら3ターンで倒すことができるぞ!」ドヤッ

看板娘「ふふ。守ってあげたい方ね」

女「術師がいないかと、声掛けてみたけどいない」

看板娘「連れて行ってあげたら?」

女「えー……」

王子「娘!よく言った!」

女「……これを持っていて下さい。1回だけ身を守ってくれますから」

王子「!僕に、女君がプレゼントを、……だと!」ワワワ

女「あと傷薬も。……聞いています?」

王子「ああ、聞いている。聞いているとも!」ヒャーホーイ!

看板娘「わかりやすく舞い上がっているわね。可愛い」

女「……このまま置いていこうかな」

―――草原

看板娘「うふふ♪モンスターにあんまり遭遇しなくてよかった♪」

女「そうね。帰りもこうだといいけど……」

王子「帰りは僕に任せたまえ!あの程度なら1匹10回攻撃を与えれば……」

女「王子は引き続き安全なところにいてください」キズモノニシタラクニニイラレナイ

王子「なに、傷の1つや10……」

女「傷が付く前に排除しますから、……お願いします」


看板娘「……♪」

女「……これと。……あとこれも」

王子「ふむ。そのまま食べてもあまり美味しくないな」ムシャムシャ


カサッ

?「……ブヒ」

看板娘「これだけあれば充分ね」ドッサリ

女「私も大丈夫だと思う(母さんこれ少しの量じゃないよ)」ズッシリ

王子「うむ。もう昼か。お腹がすいたな」グー

看板娘「帰ったらご飯にしましょう♪久し振りに腕ふるっちゃうわ♪」

女「……!やったー!」バンザーイ

王子「……たまには、質素な食事もいいな」

女「お帰りになったらどうですか?」ムッ

王子「いや、今から城に帰ったら昼食には間に合わん」

看板娘「お口に合うかわからないけど、遠慮せず食べていってらして」

王子「ああ、ごちそうになろう!」

?「キミの女体盛りとかボクの好みブヒ」

看板娘「あら、私のレパートリーにはないの。ごめんなさい」

女「王子そういうのはいけないと思います」ジトー

王子「僕は、凹凸があまり激しくない方が……。って、僕じゃないよ!?」

?「それもなかなか……ブヒブヒ」

女「ブヒブヒ言っているじゃないですか!」

王子「僕は語尾にブヒなんてつけない!美しくないじゃないか!」プヨプヨ

看板娘「豚さんが紛れているみたいね」

女「そんな!一体どこに!」ザッ

王子「……!女君、迷わず僕に剣向けるんじゃない!」アブナイ

看板娘「女ちゃん、豚さんはこっち♪」ユビサシ


ワラワラ

豚の怪物の群れ「「「ブヒヒ」」」


女・王子「「!!!」」

豚の怪物「女二人でこんな所来るなんて不用心だブヒ」

豚の怪物「襲われたって噂聞いていなかったブヒ?」

王子「僕もいるぞ!?」

豚の怪物「お前、仲間じゃなかったブヒ?」

王子「違う!」

豚の怪物「それはすまなかったブヒ。男はいらないブヒ、さっさと立ち去るブヒ」

豚の怪物「女の子たちはボクらといいことしましょうブヒ」

豚の怪物「片やグラマーなおっとりお姉さん、片や締りのよさそうな健康体のお嬢さん」

豚の怪物「傾向は違えどもなかなかの上物ブヒ」

王子「そんなことは、僕がさせない!」プヨン


女・看板娘「「……」」

看板娘「豚さんが一杯。何日分になるかしら」ヒソヒソ

女「看板娘ちゃんのところだったら2日半ってところかな」ヒソヒソ

看板娘「でも、3人じゃこんなに一杯持って帰れないわね。……旦那さまに連絡しなきゃ♪」ヒソヒソ

女「買い出し用の荷車持ってきてもらったほうがいいよ」ヒソヒソ

看板娘「うふふ♪そうするわ」デンタツマホー


豚の怪物「格好つけてもボクらのテキじゃないブヒ」

王子「そ、そんなことやってみないと分からないだろう!」プルプル

豚の怪物「女の子たちも怖がって声が出ないみたいブヒね」

女・看板娘「「……」」

女「……」スタスタ


豚の怪物「……ブヒ♪そちらから来てくれるな……グフッ」

女「術使いがいないなら、アナタたちなんて敵じゃないの!」ポキポキ


豚の山「「「」」」

女「ふぅ……」オテテフキフキ

看板娘「うふふ。食材の調達も出来て一石二鳥だったわ♪」

王子「僕が頑張ったかいがあったな!」ドヤッ


<おーい。看板娘~

看板娘「あ、旦那さま。こっちよ♪さあ、積み込みましょう♪」

―――酒場

王子「2往復するとは……」ヘタリー

女「だからお帰りになれば良かったのに……」

王子「なあに、疲れたあとのご飯は格別だからなんてことないさ!」プヨヨン

女「……それもそうですね。ご飯まだかなー」


看板娘「はい、どうぞ召し上がれ♪」ホカホカ

女「!いただきまーす」

王子「いただこう」


女・王子「「美味しい!」」

看板娘「まだあるから、どんどん召し上がってね」

―――
女「お腹いっぱい」シアワセー

王子「素朴だがなかなかの味だった。礼を言うぞ、娘」オクチフキフキ

看板娘「お気に召していただいたようね♪お茶入れてくるわ」


女「……」テーブルニホオペター

女(この町にいた頃は、自主練習の後よく一緒にご飯食べたなぁ……)

女(旅に出た後もしばらくは二人きりだったし)

女(最初は動物さばけなくてずっと植物や干し物ばっか食べてたっけ)

女(そのうちに慣れて、食事が種類豊かになって)

女(焚き火を囲んで、喋りながら、今後の予定たてたっけ……)

女(楽しかったなぁ……)

王子「……女君?どうした?疲れたのか?」ノゾキコミ

女「……いえ。なんでもありません」ガバッ

王子「ならいいが……」


看板娘「はい、お茶しましょう♪旦那さまが、お菓子も食べていいって♪」

王子「うん、いいにおいだ」

女「美味しい……」

看板娘「うふふ♪」

女「それにしても、あんなところに豚の怪物がいるなんて」

看板娘「だから物騒って言ったでしょ?」

女「……確かに護衛無しでは危険だね」

王子「あの豚達は目が悪いんじゃないか。僕が同類に見えるとは勘違いはなはだしい」プンプン

女(それは仕方ないような……)

王子「父上や兄上、大臣たちは対策しているんだろうか?」

看板娘「たまに、兵さんたちが駆除しにいっているみたいよ?」

看板娘「依頼も出ているみたいだし、そのうちおとなしくなるんじゃないかしら」

女「どこからか流れてきたのかな?2年前、いや、それ以前は見かけなかったし」

看板娘「さぁ?ただ、新鮮なお肉が獲れるのは嬉しいわ」ウフフ



王子「さて……、僕はこの辺でお暇しようか」タチアガリー

女「あ、じゃあ隣から術師を呼んできますね」アッセンジョニイルハズ

王子「いい。自分で帰れる」

王子「女君、明日は仕事頑張りたまえ!」

女「はい……(明日から仕事って言ったっけ?)」

看板娘「もう一杯いかが?」

女「あ、いただこうかな」

看板娘「言いたくなければいいのだけど」コポポ

女「?」オカシオイシイ

看板娘「相手の方ってどんな人?」ハイドーゾ

女「あー……。きれいな人……だよ」

女「サラサラの金髪で青い目で、スタイルもよくて。性格も悪いわけじゃない……」

看板娘「童話のお姫様みたいね」クス

女「う、うん。彼女とその仲間がね、困っているのを助けたのが知り合ったきっかけ」

女「意気投合しちゃって。それから、1年4人で旅をしたの」

看板娘「意気投合……ねぇ」

女「パーティの仲は本当に良かったよ?ずっと以前からいた友人みたいに」

看板娘「はいはい。でも、恋敵だったんでしょ?」

女「こっちが勝手にそう思っていただけかも……」

女「旅が進むにつれどんどん彼女に惹かれていく勇者を、私はただ見てるだけだった」

女「彼女もそんな勇者を受け入れて、二人を包む空気が変わった」

女「そんなときに告白しても手遅れだよね。諦めるためだったとしても」

看板娘「嫌がらせでもなんでもしたら良かったじゃない」

女「今ならそう思う。でも結果は変わらなかったんじゃないかな」

女「勇者も彼女も一目ぼれだったらしいから」

看板娘「そう。つらかったわね」

女「……ううん。嫌いな人とならと思ったこともあったけど」

女「彼女が勇者の伴侶になってよかったと思っている。どちらとも心から祝えるから」

看板娘「……泣いてもいいのよ?」

女「ありがとう」

女「でも、もう一杯泣いたから……。だから大丈夫」


―――

――――――

翌日―――とある貴族の屋敷

依頼主「君が、女くんか。早速だが今日から娘の警護を頼みたい」

依頼主「どうやら変な輩が、屋敷周りをうろついているようなのだ」

女「変な輩?」

依頼主「ああ。使用人があれは術使いだという」

依頼主「私はただのチンピラだと思うのだが、用心に越したことはないからな」

女「はい、承知しました」


女(術使いねぇ……)

 この国では数十年前まで魔法の使えるものがほとんどいなかった。

今も外から来る者を除いて簡単な魔法が一つしかつかえない、また一切使えない者が多い。

例外もあるが、術使いといえるほど複数の魔法を使える者は外部の人間だといっても過言じゃない。


女(ここは王都だから結構いることにはいるんだけど……)

女(あんまり強いの覚えてると厄介かな)

依頼主の娘「あなたが、私を守ってくれるのね」

女「はい。よろしくお願いします」

依頼主の娘「……勇者と共に、魔王と戦った方と聞いてどんな恐ろしい方が来るかと思っていたのだけれど」

女(……恐ろしい?)

依頼主の娘「王子様の言う通り……いえ、素敵な方で安心したわ」ホッ

女「そうですか……(あの人の知り合いか……ってなんて言ったんだろう……?)」キニナル

女「貴女は変な輩について心当たりは……」

依頼主の娘「ないわ」

依頼主の娘「窓越しに見たけれどフードを被っていて顔はみえないし……」

依頼主の娘「交友関係はきちんとした方しかいないし、屋敷を出入りする者だってお父様がきちんと
御調べになってから採用するもの」

依頼主の娘「私が知らないところで目を付けられたとしたら、わからないですけれど」

女「術使いだと言っている使用人の方は、いまいらっしゃるんですか?」

依頼主の娘「ええ、ちょっと待っていらして」

依頼主の娘「メイド!すぐいらっしゃい」パンパン

<はい、ただいま!

ガチャッ

メイド「およびですか、お嬢様」

依頼主の娘「こちらの方が貴女の話を聞きたいのですって」

メイド「ああ、あの術使いのことですね」

女「お願いします」

メイド「はい!あれは今から1週間前のことです」

メイド「お嬢様と町に出てその帰りに気づいたんですが」

メイド「後をついてくる足音と気配がしたんです。それで振り返ったんですが」

メイド「誰もいない」

メイド「そこからは普段以上に用心しながら歩いては何度か振り返りました」

女「でも、誰もいない?」

メイド「はい!」

メイド「でも、お嬢様をなんとかお屋敷にお連れして辺りを見回したら男がこちらをじっと凝視しているんです」

メイド「こちらに気づいたのかすぐ立ち去りましたけどね」

メイド「それから毎日その男がお屋敷を見に来ているんです」

メイド「そして近づくとあっという間に消えちゃうんですよね」

女「術使いだとおもった理由は?」

メイド「お屋敷周りに見慣れない陣が張ってあったんです。小さいですけど」

女「それって今も?」

メイド「はい。消してもすぐ復活しちゃって」

メイド「その陣自体は術使いじゃない人でも、張ることはできなくもないんですけど」

メイド「復活するとなるとそれ相応の力の人じゃないと無理かなって」

女「このお屋敷には術使いの方、雇っていないんですか?」ソウイエバ

依頼人の娘「前の術使いが亡くなってから、いないのよ」

依頼人の娘「お父様が探してはいるみたいだけれども」

メイド「私も、一応術使いなんですけど相手よりも力が弱いみたいで」

メイド「まだ何もしてこないからいいんですけどね」

女「何かしてきそうな気配はあるんですか?」

メイド「陣がただ盗聴するとかそういう類いだけだけじゃないみたいなんです」

メイド「いつ仕掛けてくるか、何をしてくるのかは、私にはわからないんですけど……」

依頼人の娘「それをお父様に言ったら貴女が来たというわけね」

女(うーん……これは、協力者が必要かな……)

メイド「伝達魔法ですか?一番得意です!」

女「メイドさんはあの国の人だよね?」

メイド「そうですよ!よくわかりましたね!」

女「ちょっと縁があるからね。じゃあ、あちらの王都の斡旋所に繋げられる?」

メイド「はい!そこから紹介されて、このお屋敷に来ましたから!」

女「じゃあ、斡旋所の職員の人に知り合いいるね?その人にこの手紙の内容を届けてほしい」

メイド「お安いご用です!」

依頼人の娘「その手紙は何なのかしら?」

女「術師の知人に協力を仰いだんです」

依頼人の娘「そう。あの日から私、一歩も家を出ていないの」

依頼人の娘「でも、あの男は今日も来るでしょうね」

メイド「私も、そう思います」

女「……」

―――

フードの男「……」ジーッ

―――

メイド「あ、あれです。あの建物の陰になっているところにいる……」

女「……あの人?」

メイド「そうです」

女(確かに陰になっていて顔見えないな。体格的に男なのは間違いないだろうけど……)

依頼人の娘「いったい何なのでしょうね……?気味が悪いわ……」

―――

<またお前か!


フードの男「……!」タタタッ


<?!いない!?クソ、また逃げられた!!


―――

依頼人の娘「日中だけのお話だったでしょう?今日はお帰りになってよろしいわよ」

女「はい、また明日」


 フードの男が消えてから、そいつが立っていたところ屋敷内、屋敷周りと調べて回った。

メイドさんが言う場所には小さな陣があったが、それ以外に変わったことは特になかった。

また、それ以降はフードの男が現れる様子も、不審な人物も見当たらなかった。

夜間の警護の人と引き継ぎ、家へと帰ることにした。


弟「姉ちゃんお帰りー」

女「ただいま。お客さんの入りはどう?」

弟「2部屋空いているけど、まあ普通」

女「あ、飛び入り入っても1部屋だけは空けといてね」

弟「お客さんくるの?」

女「連絡がうまく言っていれば来ると思う」

魔法使い「……すまん、ここが女の身内がやっている宿か?」


弟「そうですよ」

女「魔法使いきてくれたんだね!」

魔法使い「……女!お前に連絡を貰ったら来ないわけが……じゃない!」ゴツン

女「痛い」ヒリヒリ

魔法使い「お前、よくも今日中に来いとかいいやがって!」キタコトナイッテイッタダロウガ!

女「急ぎだったもので……」エヘヘ

魔法使い「そもそも、なんであんな依頼受けた?」

女「身辺警護としか書いてなかったし…」

女「相手が術使いでもまぁアイテム持っていれば……」

魔法使い「アホか、お前は!」

魔法使い「勇者殿と共に戦っていたからと、自惚れていやがんのか?」

女「うっ」

魔法使い「ほぼ術耐性がないお前は、仕事はよく選べって何度もいったよな?」

魔法使い「どうせ、報酬がいいからとか」

魔法使い「職員の姉ちゃんの満足いただけますよーって言葉信じたんだろう?」アレ、レベルアレバミンナニイッテルノ

女「返す言葉もありません」シュン

魔法使い「だから、ひメサ……」女「それはこっちで言っちゃダメ」ワーワー

弟「?」

魔法使い「名前も言っちゃ駄目なのかよ……」ヒソヒソ

女「あの子の名前はこの国じゃ、ある意味有名なの」ヒソヒソ


弟「姉ちゃん、……その人誰?」ナカガヨロシイヨウデスガ

女「ああ、この人は……」

魔法使い「……勇者殿のパーティで一緒だった魔法使いといいます」

弟「ああ、僧侶さんと一緒に仲間になったっていう……」

魔法使い「数日宿を使わせてもらうことになると思うがいいだろうか?」

弟「はい、姉ちゃんの知り合いならよろこんで」

―――酒場

ガヤガヤ

魔法使い「姿がすぐ消えるっていうのは移動魔法でも使ったんだろう」

女「姿が見えなかったっていうのは?」

魔法使い「認識させない術を使ったとか、すぐ物影に隠れたか……」

魔法使い「足音や気配まで消さなかったっていうのは中途半端だ」

女「でも、お屋敷についてからは姿見せているんだよね」

魔法使い「その姿事態がフェイクの可能性もあるけどな……」

女「陣は何だと思う?」

魔法使い「詳しくは直接見てみないとわからない」

魔法使い「だが……」

女「だが……?」

魔法使い「……いや、お前と今あーだこーだ言っても憶測の域を出ないから言わん」

女「それはそうだけど……」ムゥ

看板娘「はい、麦酒とミルクティーお待ちどうさま」トンッ

女「わーい♪」

魔法使い「ありがとう」

看板娘「お二人ともお料理のご注文は?」

女「ポークソテーのライス添えがいいなぁ」

魔法使い「……俺はハーブサラダとパンを」

看板娘「ご注文承りました♪」


ゴクゴク

女「ぷはー!生き返る!」

魔法使い「相変わらず親父臭いな、お前……」

女「魔法使いはもっと食べないの?」ブタノニモノトカオイシイヨ?

魔法使い「肉はあんまり好きじゃないの知っているだろう?」ホンジツノオススメブタバカリダナ・・・

女「お魚?看板娘ちゃーん!川魚の香草焼き追加―!」

<はーい

魔法使い「……ちっ!……食べきれなかったらお前食べろよ?」

女「うん、シェアしよう♪」ワタシモタベタカッタシ

魔法使い「……ああ。お前が大部分食べることになるがな……」ショクモホソインダヨ

女「そういえば、そうだったね」

魔法使い「ひ、いや、僧侶様といい、勇者殿といい、なんであんなに食べられるんだ」キャシャナノニ

女「野宿の時はいいんだけど、町に泊まるときはお金大変だったね」

魔法使い「盛りのいい店を見つけられればいいんだけどな……」ムラハソノテンイイ

女「足りないときはわざと町から出て狩りしたものね」

魔法使い「夜間だから外出るなって門番に怒られても強行突破してな……」

女「朝市場で果物買うのも日課だったよね」ソウリョチャンガスキダッタカラ

魔法使い「朝は辛かったな……」

女「そう?軽い散歩になってちょうど良かったよ?」

魔法使い「お前はそうだろうな」



看板娘「お待ちどうさま。女ちゃんがお世話になったみたいだしサービスしておいたわ♪」コンモリ

魔法使い「……どうも」オオイ・・・

女「看板娘ちゃんありがとう!」

―――

魔法使い「分かっていると思うが、…警護することが依頼だからな?」

女「分かってますよ?」ギクッ

魔法使い「無理に捕まえる必要はない」

魔法使い「それならば、依頼完了日時まで警護対象に細心の注意を払えばいい」

魔法使い「あと、力があるやつに新たに結界を書いてもらう」

魔法使い「話の感じだと前の結界が崩れているだろうし……」

魔法使い「なるべく身元のしっかりした奴にやってもらった方が安全だな」

女「それは魔法使いさん、お願いします!」ペコリ

魔法使い「そうだろうと思った」

魔法使い「ツテがないから俺を呼んだんだろうし」ユウシャノトモダッタノニナ

女「……お金の問題もあります」ホウシュウホトンドトンジャウ・・・

魔法使い「……こいつ!」

魔法使い「まぁ、いいさ」

女「ありがとうございます!」ミルクティーモウイッパイドウデスカ?

魔法使い「もういらん」

魔法使い「そういや、髪、切ったんだな……」マエハコシマデアッタノニ

女「うん、送ってもらった後にね」サッパリシタヨ

魔法使い「……」

女「何?」

魔法使い「いや、なんでもない」

魔法使い「……そろそろ出るか。人も増えてきたし」

女「えー。もっとのもうよ?」

魔法使い「明日も仕事だろうが」

女「ちぇー」

―――
――――
――――――

依頼人の娘「で、何かわかりましたの?」

女「まだ、なんとも」

女「今、陣を解析しているのでお待ちいただけますか?」

依頼人の娘「ええ。わかりました」

依頼人の娘「とはいえ、そろそろお屋敷の外に出たいわね」

―――

魔法使い「ああ、これか」

メイド「そうです。昨日も消してみたんですけどやっぱり復活してますねー」

魔法使い(この程度なら完全に消し去ることはできるな……)

魔法使い(……これは、複数の陣が重なり合っている?)

魔法使い「……屋敷周りの結界は前にいた術師のだな?」

メイド「そうですよ。亡くなってからもずっと維持されていたんですけど……」イツノマニアンナニオオキナアナガアイタンデショウ?

魔法使い「・・・・・・」

魔法使い「今から結界を新たに張っておく。以前のを完全に消してからだから、少し時間がかかるがな……」

魔法使い「魔法系の攻撃なら大体は防ぐし、外で惑わされたとしても屋敷に入れば瞬時に解かれるだろう」

魔法使い「ただ、維持される期間は以前のに比べて各段に短いから、主人にさっさと術使いを雇えといっておけ」

メイド「はい!わかりました!」

―――

依頼人の娘「あら、空気が……?」

女「?」

バタン

メイド「お嬢様!早くお屋敷からお離れ下さい」

依頼人の娘「何事です?」

メイド「隣のお屋敷から火が……!」

依頼人の娘「……!本当ですか?」

メイド「窓の外を見て下さい。ああ、もうあんなに!!」

依頼人の娘「まぁ!早く外にでましょう!」

女「!……はい!」

メイド「ここまで来れば大丈夫でしょう」

依頼人の娘「ああ、外に出たいとは言ったけれども。こんなことになってほしいなんていってません……」

依頼人の娘「……他の者たちは無事でしょうか?誰もいないけど違うところに逃げたのかしら……?」

女「……?」

メイド「きっと皆無事ですよ、お嬢様……」

女「!!」

……バッ!

依頼人の娘「なんですの?女さん?!」

女「私の背から離れないで下さい……」

メイド「女さん?なんでそんなに怖い目で見てくるんです?」

女「……一緒にいた魔法使いはどこへ?」

メイド「いつのまにか離れ離れになってしまったのです」

女「異常事態なら彼はなんとしても連絡を取ると思います」

女「炎の出たあの屋敷の隣で作業していたんですから……」

メイド「連絡をとるにしても、……貴女もお嬢様も魔術の素質がないじゃないですか」

女「実はこういったアイテムがあるんですよ」

メイド「これは……?」

女「素質が無くても受信をすることができるものです。あちらの方なのにご存じなかったんですか?」

女「それにメイドさん、なぜ私が魔術の素質が無いとご存じで?」

メイド「……あ、貴女が自分で……」

女「言っていませんよ?彼女のことは知っていらしたかもしれないですけど」

女「力が弱く術使いとして雇われなかった貴女に素質を見抜く術が身についているとは到底思えません」

女「貴方は一体誰なんですか?」


メイド?「……」

メイド?「わたし、このやしきないといいとおもいます」

メイド?「なければわたしのおやしきつくれる」

メイド?「わたしのおやしきいっぱいおともだちくる」

メイド?「わたししあわせみんなしあわせ」

女「……」

依頼人の娘「……」ブルブル


メイド?「でもここわたしずっとはいれない」

メイド?「のろった」

メイド?「ずっとおやしきみてのろった」

メイド?「じゃまするやつきえた、やっとはいれた」

メイド?「でもわたしのにならない、なんで……?」


メイド?「……あなたいらないね?」

女「……っ!」

メイド?「どいてあなたじゃない」

女「どけるわけ……ないじゃない!」

メイド?「わたしこうげきあなたたえる?」

メイド?「いつまで?」

ジリジリ

女「……っく!」

メイド?「がんばる?たいせいそうび?こわせばいい」

ガシャーン

女「……!!!」



依頼人の娘「……女さん!!」

女(痛っ……。でも耐えな……きゃ)

メイド?「まだがんばる……ごほうびあげる?」

メイド?「ぐっすりおやすみ?あなたしあわせ!」

女「……!」


女「……あれ?」

魔法使い「結界張り終わった後だって言うのにこれ相手にするのか……」

メイド「お嬢様こちらに!」

女「魔法使い!」

依頼人の娘「メイド?本物よね?」

メイド「そうですよ!ですからお屋敷に退避しましょう!」

依頼人の娘「火事は?!どうなったの?」

魔法使い「火事なんてもともとありません。だから安心してお逃げ下さい」

依頼人の娘「……!ええ」


メイド?「にがすにがさない!」

魔法使い「そうはいかない」

メイド?「え?うごけない?じゅつといて!」

魔法使い「やなこった。目の届かない隙によくも屋敷の中入りやがって」

メイド?「とかない?こまった」

メイド?「まほう?きかない?どうする?」

魔法使い「そのまま、大人しくしてくれると嬉しいんだけどな」

メイド?「やだやだやだやだやだやだ!」

魔法使い「嫌か?だが、俺は知らない」フウイン!

カタンッ

魔法使い「念のため、……僧侶様に送っておこう」

女「……何だったの?あれ」マダヒリヒリスル

魔法使い「ああ、悪霊みたいなもの?」

女「みたいなものってなに?」

魔法使い「……やっぱり丈夫にできてるな、お前」キズアンマリナイナ

女「それが取り柄ですから……」


―――
依頼人「もう変な輩はでないと……」

女「はい。出たとしてもお屋敷には侵入できないでしょう」

魔法使い「ご心配でしたら依頼完了は数日様子を見て下さってからでもかまいません」

依頼人「うむ。そうしてもらおう」


 それから数日屋敷周りには、連日目撃されたフードの男は現れなくなった。

不審者の目撃もなく、依頼は無事完了した。

依頼人の娘「フードの男もあれでしたのね……」ブルッ

メイド「ずっと入る機会をうかがっていたんでしょうか?」

魔法使い「……ええ。貴女たちが気づく、ずっと前からです」ナンセダイモマエカラデシショウ

魔法使い「ただ、ここにいた術使いが、あれの力を抑え、少しずつ奪っていた」

魔法使い「その方が亡くなった後、思っている以上に力を無くしたことに気づいたんでしょう」

魔法使い「なかなか消滅しない結界に苛立ったあれは、まず貴女方に自分を認識させることにした」

女「認識……」

魔法使い「認識させることによって、あれは実体を取り戻した」

メイド「……私が気づかなければよかったんでしょうか?」

魔法使い「貴女じゃなかったら違う人になっただけだけですから」

依頼人の娘「……」

魔法使い「貴女の家に恨みを持っていた他者が仕掛けた陣からその者の力を吸い上げながら」

魔法使い「結界を破壊し続けた。それでも、1週間はかかったみたいですが」スイアゲラレタヒトヒンシカナ

魔法使い「そして、今日あれは結界の穴から侵入した」

魔法使い「正直1日早く来ればと後悔しています」

依頼人の娘「……もうあれはででこないのでしょう?」

魔法使い「はい。封じた石は、しかるべき場所で保管していますので安心してください」

依頼人の娘「それを聞いて安心したわ……」


―――
――――――

ズサッ

魔法使い「なんだこれは」 

女「報酬でございます、魔法使いさま」

魔法使い「そうじゃなくて、こんなにもらっていいのか?」

女「私、あんまり役に立たなかったし。助けてもらったし」

魔法使い「……そうか。でも……これだけでいい」

女「そんな!それじゃ気が済まないよ」

魔法使い「……じゃあ、今度一緒に飯食うときの金として持っておけ」

女「えー……」

魔法使い「えーじゃない。ちゃんと残しておけよ」

女「……うん」

女「帰るんだね」

魔法使い「そりゃ帰るだろ。家はあっちにあるんだし」

女「そりゃそうか。……僧侶ちゃん、勇者によろしく!」

魔法使い「ああ……。……なぁ、女」

女「……ん?」

魔法使い「……いや、また会おう」

女「うん。またね」テフリフリ



魔法使い「……んん?」

女「?どうしたの?」

魔法使い「いや、まさかな。もう一度」


魔法使い「」

女「……魔法使い?」


魔法使い「……ちょっと待て、あっちと連絡を取る」

魔法使い「……移動魔法の陣が稼働しなくなった?陣書ける奴がいま国にいないから復旧は1週間後?」

女「?」

魔法使い「……ああ。わかった。勇者殿、姫様によろしく頼む」

女「!勇者と話していたの?」ピトッ

魔法使い「うわ、ちょ、離れろ」

女「あ、ごめん」


魔法使い「……。後1週間ここで足止めか……」

女「近くの町まで飛んで、あとは徒歩なり馬車で帰らないの?」

魔法使い「あっちの国全部駄目だそうだ」

魔法使い「国境まで飛んだとしてもそこからと考えると……」

女「そっか。でも用事とかなかったの?」

魔法使い「大丈夫。1か月くらいの休暇のつもりで来たから」

女「じゃあ、もう少し一緒にいられるね」

魔法使い「……!あ、ああ」

王子「……」

王子「依頼が終わったと聞いて久し振りに会いに来たら」

王子「何だね。このすかした男は……!」プヨン

魔法使い「」ビクゥ

女「あ、王子様」

魔法使い「……?え、この人が王子?」

王子「ああ、そうさ。僕が王子だ」

魔法使い「」

魔法使い「あー。でもそれなら納得か……」

王子「一体なんだい?」

魔法使い「うちの姫様が絶対いやだって結婚蹴ったって話」

王子「……!お前あの国の人間か!」

王子「その話は僕にとってタブーなんだぞ?」プヨヨン

魔法使い「タブーなんだぞって言われても……」

女「タブーだったんだ……」

王子「彼女だって月日を重ねれば僕の魅力に気づいただろうに」

王子「まあ、女君。君に出会えたからそんなことはどうでもいいんだけどね!」ブヨ

女「そんなこといわれても……」

魔法使い「……女を愛人にでもするつもりか?」

王子「ああ、僕はそのつもりさ。後は女君が首を縦に振ってくれれば」

女「……だからなりませんって」

魔法使い「拒否されているように見えるが……」

王子「いずれそうさせるさ、僕の魅力でな!」

魔法使い(魅力……ねぇ……)

女「魔法使い、今のうちにこの人城前まで飛ばして」ヒソヒソ

魔法使い「まだ行ったことないから無理だ」

女「そうだった」

王子「ん?城前まで行きたいのか?僕が直々に案内してやろう!」

女(結果オーライ……かな?)

―――城門前

<あ、王子様!今日は早いお帰りですね

王子「ああ。この者が案内してほしいというのでな」

<そうですか。くれぐれもお怪我はなさらないでくださいね!

魔法使い「無理に抜け出してきているわけではない……のか?」

女「城下なら、そこまで問題はないみたい」ソレデモトモハツケテホシイケド

魔法使い「目立つし……危ない気がするが……」

女「出回っている肖像画との共通点が、髪と眼と肌の色だから直接会ったことが無ければ分からないと思う」

女「面倒だからできるかぎりお帰りいただいているけど」

王子「魔法使い。陣はあそこだ」

魔法使い「こうしてみるとでかい城だな」

王子「君の国の城だって大差ないだろう?」

魔法使い「うちの国に来たことが?」

王子「ああ。婚約の為に一回と」

王子「幼い頃おじい様に連れられて非公式に」

王子「あの時移動魔法に酔って以来、僕は好きじゃない」

魔法使い「慣れないやつはそこで嫌がるようになるよな」

女「便利なのにね」

魔法使い「便利すぎても考えものだがな」

女「魔法使い、用は済んだし戻ろう」

魔法使い「ん?ああ」

女「じゃあ、王子様さようならー」


王子「ま、待て!」

王子「……そんな急いで帰らなくてもいいじゃないか」ショボン

<王子様、そろそろお食事ですって!

王子「ああ!今行こう!」

―――

魔法使い「さて、戻ってきたはいいが」

女「どうしようか」

魔法使い「お前は、どうするつもりだったんだ?」

女「お仕事終わったし、もう一度斡旋所で探そうかと」

魔法使い「俺もやることないし、……ついていくか」

―――

―――斡旋所

職員「あら、女ちゃん。お仕事良いのあるわよ」

女「見せてもらえますか?」

職員「はい、どうぞ」ペラッ

女「モンスタ―討伐?」

魔法使い「近隣の森での依頼だな」

女「ドラゴンが住み着いて困っています?」

魔法使い「おい、この国にもドラゴンが生息していたのか?」

女「初耳……かな」

職員「近くだからとっても困っていらっしゃるの。でも、ドラゴンを倒せる人となるとねぇ……」

職員「でも、勇者様と一緒に魔王を倒した女ちゃんなら大丈夫でしょ?」ニコニコ

女「何体もいるんですか?」

職員「いいえ。1体だけらしいわね」

女「じゃあ、引き受けます」

職員「女ちゃんならそう言ってくれると思ったわ」

―――

魔法使い「ドラゴン退治再びか」

女「あの時は複数だったでしょ」

魔法使い「湧いて出てきたな……」オモイダシタクモナイ

魔法使い「僧侶様に悪いドラゴン退治しにいきましょうって誘われた時は肝が冷えたの思い出したし」

女「僧侶ちゃんお転婆だよね」

魔法使い「お転婆で済ませていいのか?」

魔法使い「……お前らがパーティにならなきゃ今頃ドラゴンの血肉になってただろうな」

女「あはは」

魔法使い「笑いごとじゃない。……すぐ森に行くのか?」

女「うん。家においてあるアイテム持ったら行こう!」

―――近隣の森

魔法使い「至って普通の森だな」

女「変わった所はモンスターが偶に出るくらいかな」

女「鳥の鳴き声が聞こえるね」

魔法使い「いるとしたらこの奥か」

――――――
―――

魔法使い「ここが最深部か」

女「何もいないね」

魔法使い「ここまで1本道で数回雑魚と戦っただけだが……」

女「この森自体大きくないし、今来た道以外にルートはないはずだけど」

魔法使い「特別な結界がはってある様子もないな」

魔法使い「仕方がない。辺りを注視しながら戻ってみよう」

女「うん!」

―――
――――――

魔法使い「で、森の入口に戻ってきたわけだ」

女「あれー?」

魔法使い「本当にドラゴンなんているのか?」

女「私に言われても……」


キュオーン


女「!」

魔法使い「鳴き声?」

女「もう一回戻ろう!」

魔法使い「ああ……」

―――最深部

ドラゴン「キュー…」

女「何これ……」

魔法使い「随分小さいな。ドラゴンの、……子供か?」

女「可愛い。前倒したやつと全然違う」

魔法使い「無暗に近づくな。油断させて襲う気かもしれん」

女「あ、そうだね」

魔法使い「……うちで悪さしていたのとは違う種類の奴だな」

魔法使い「草むらに隠れていたのか……」カラダニハガツイテイル

女「どうしよう、魔法使い」

魔法使い「どうしようといわれてもな……」

魔法使い「倒すしかないんじゃないか……?」

女「そんな!」

?「困っているようだね」

魔法使い「貴方は……?」ガチムチナオッサンダナ

女「あ、父さん!」

魔法使い「え?」

父「久し振りだな。女!」


父「これは、南の国よりもっと先の国に生息する品種のドラゴンさ」

父「むやみに人間を攻撃しないし、成長しても1mほどだから愛玩用に人気なんだ」

女「へぇー。なんでこんなところにいるんだろう」

父「誰かが卵を持ってきたんだろう」カネモチノコドモダネキット

父「途中で羽化してしまったから捨てっていったというところかな」イヤーコマッタコモイルモンダネ!

女「捨てドラゴン?」

魔法使い「捨て猫みたいにいうな」

女「余計倒しにくくなっちゃったじゃない……」

父「倒してもいいが、私が買いとってもいいぞ?」

女・魔法使い「「え?」」

父「高く売りつけるカモ……いやあてがある」

女「切り刻まれたり?」

魔法使い「実験の材料になったり?」

父「大丈夫だ。ペットとして可愛がってくれる優しいカモだから」

魔法使い「言い直した意味がないな……」

女「本当だね?って、報告はするけど、この子連れて町には入れないよ?」

父「いつ私が家に帰ると言った?」

女「え、帰らないの?」

父「まだ、帰らんよ」

父「この森にドラゴンがいるって風の噂に聞いてな。偶然捕まえに来ただけだからな」

父「いやぁ、無事保護できて良かった」ホントホント

女「でも、帰れば母さんも弟も喜ぶよ?」

父「この間見たから充分だ。それに、女の顔も見れたからな」

女「そっかー」

魔法使い「……えっと失礼ですが何で生計を立てているんですか?」ナンカウサンクサイナ

父「ん?ああ。私はただの商人だよ」

父「ダンジョンに潜って商品を自力調達する系統のね」

女「へんな物ばっかりだよね。売れるの不思議」

父「こらこら、変な物とはなんだ。とーっても貴重なものばっかりなんだぞ?」

父「謂われも添えてちょっと口説けば即お買い上げさ」ミンナイガイトスナオダヨネ!

父「なんなら、君も一つどうだい?」

魔法使い「いや、特に欲しいものは無いので……」

父「君は見たところあの国の人のようだしね、ドラゴン除けの鈴なんてどうだ?」コレハコダイイセキニアッタモノダガウンタラカンタラ

魔法使い「あいにく、ドラゴンの被害は収まりましたので……」

父「ああ、そうだったね。私としたことが……」ウッカリサンダ

父「あちらにも英雄が生まれたんだってね。こちらでは勇者君がどこかで魔王を倒したし」

父「同時期にそういう人間が二人も現れるとは偶然とはいえ凄いよねぇ」キセキダネ!

魔法使い「ええ……」

女「……」

父「そういえば、勇者君は結婚したんだってな」

女「うん」

父「看板娘ちゃんも弟も結婚したしなぁ……」ツキヒガナガレルノハハヤイナ

父「……」ジーッ

魔法使い「何ですか?」

父「君、独身か?」

魔法使い「そうですが……」

父「こいつ、貰ってくれたりしないかね」サービススルヨ!

魔法使い「え?あ、あの……」

父「ちぃとばっかり乳がないし、嫁き遅れ気味だが……」

女「お父さん!!」

父「なんだ、そんなに怒るなよ」カルイジョウダンジャナイカ!

女「もー。魔法使いもごめんね」

魔法使い「……いや、気にしてない」

―――
父「ほれ、買取料としてとっておけ」ジャラリ

女「こんなにいらないよ。依頼の報酬もあるし」

父「そうか?もらっておいた方がいいと思うぞ?」

父「報酬貰えんだろうしな」ハハハ

女「へ?」

父「君、女の代わりに受け取っておいてくれないか?」

魔法使い「はい」

女「どうして、そんなこと父さんが?」


父「さあてな。じゃあ女、またな!」

職員「ごめんなさいね。貴女が帰ってくる前に依頼取り下げられちゃったの。勘違いでしたって……」

女「」

魔法使い「依頼人の名前確認できますか?」

職員「それもごめんなさい。匿名でって、念押しされているから」

―――

魔法使い「まぁ、こういうこともあるよ」

女「父さんにしてやられた感があるんだけど……」

魔法使い「今頃、笑顔であのドラゴン売りつけているんだろうな……」

――――――
―――

『君が言う通りこの婚姻は決められたものさ』

『嫌がる君と姫が言い争っている所に現れたのも』

『ドラゴンを討伐する手助けをしたのも全部ね』

『姫君の我儘くらいで国同士が仲違いできないよね?』

『あのドラゴンは僕の力がなきゃ倒せなかったのは事実だし』

『ただ僕が姫を好きになったのは嘘じゃないよ』

『それだけは神に誓って本当さ』

『信じられないって顔しているね』

『女はどうするんだって?』

『彼女には言ったよ。異性としては見れないって』

『仕方ないじゃない。本当のことだもの』

『君彼女のこと嫌いじゃないんだろう?』

『今口説けばコロッといくよ?』

『嫌だなぁ。そんなに怒らないでよ』

『悪気はなかったんだ』

―――

『魔法使い、わたくしとっても幸せよ』

『相手が誰でも政略結婚は絶対嫌だったもの』

『本当に好きな人と結ばれたかった』

『それが、実現したんですもの』

『あの日お城から抜け出して本当に良かった』

『あの人と女さんに出会えたんだもの』

『彼女が国に帰ってしまうなんて寂しいわ』

『折角お友達になれたのに』

『……?どうしたの?』

『変な魔法使い』


―――
――――――

―数日後―

―――宿屋

魔法使い「……ああ。ありがとう」

女「どうだった?」

魔法使い「やっと陣が修復されたようだ」

女「じゃあ、帰れるね」

魔法使い「……なぁ、女」

女「なあに?」

魔法使い「すぐじゃなくていいんだが、……旅に出ないか?」

女「……!すごいね、魔法使い。私が旅に出ようと思っていたの知っていたの?」

魔法使い「いや、一緒に……」

女「……え?」

女「いいの?ずっと遠くに行くつもりだよ?」

魔法使い「……お前意味分かってないな」

女「何が?」

魔法使い「何でもない!」

女「でも、楽しみだね!それならもっとがんばってお金貯めなきゃ」

魔法使い「俺も、色々頑張らないとな……」

女「うんうん!」

魔法使い「……あっちに戻ったら連絡する」

女「待っているね」

魔法使い「ああ」


―――
――――――

―――数か月後

女「よし!」

弟嫁「お義姉さん、本当に出ていくんですか?」

女「わ!弟嫁ちゃん。……吃驚した」

弟嫁「私達のことなら気にしないでいいですよ?」

女「……そうはいかないよ」

弟嫁「お義父さんだって……」

弟「こら、姉ちゃん困らせるな」

弟嫁「弟君……」

弟「姉ちゃん、旅に出ても帰ってくるんだろ?」

女「うん。ちゃんと帰ってくるよ」

弟「なら、父さんとかわらない」

弟嫁「……。旅先で連絡くださいね?絶対ですよ?」

女「手紙でいいなら……」

弟嫁「はい!」

母「女。わたしにも頂戴ね?」

女「うん!」

―――

看板娘「これ、旦那さまからって」

女「この包みって……。お弁当?」

看板娘「あたり♪私からはこの香り袋ね♪」

女「前の旅立ち思い出すなぁ」

看板娘「……嫌だった?」

女「そんなわけないじゃない」

看板娘「なら良かった♪」

女「じゃあ行ってくるね?」

看板娘「いってらっしゃい♪」

―――

王子「女、僕も連れて行け!」

女「お断りします」

王子「……そう言うと思っていた!だが、僕はついていく」

女「……門番の人が不安そうに見てますよ」

王子「大丈夫だぞ、門番!」

王子「お前らが僕を見送っても誰も咎は受けぬよう書き置きをしてきた!」

魔法使い「遅いと思ったら……。また、絡まれているのか」オウゾクハドコモコンナヤツバッカナノカ?

女「あ、この人城までお願い」チガウトオモウヨ?

魔法使い「ああ」

王子「!!不意打ちとは!だが、僕は後からでも……」

―――

魔法使い「ちゃんと挨拶はしてきたのか?」

女「ばっちり!」

魔法使い「なら、良かった。移動魔法使ってもしばらくは帰ってこれないからな」

女「そうだね。楽しみだなぁ」

女(今度ここに帰ってきたときは、完全にあの人への想いは振りきれているだろう) 
 
女(なぜか、そんな気がする)

魔法使い「女、置いて行くぞ」

女「あ、待ってってば!」
 



fin

読んで下さった方、支援、レス下さった方有難うございました

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