穂乃果「あなたは…誰なの?」ヴィオラ「……」 (973)









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・ラブライブ!×魔女の家

・グロ、死亡描写あり


人によっては不快感を感じるかもしれません。
ホラー要素が苦手な方はスレを閉じることをお勧めします。

穂乃果「はぁ~今日も授業疲れた…」

海未「何をどうしたら疲れてるのですか?殆ど寝ていましたのに…」

穂乃果「寝疲れだよ!」

海未「自信ありげに答えないでください!」

ことり「あはは…でもそのおかげで今日の練習も頑張れそうだねっ」

穂乃果「うんっ!今日も張り切って行こうよ!」

海未「全く穂乃果は…」



ガチャ


穂乃果「こんにちはー!」

凛「あ、穂乃果ちゃん達お疲れー」

海未「おや、もう全員集まっていたのですね」

真姫「たまたま早く終わったのよ」

絵里「私たちも今日は生徒会の集まりが無かったらかすぐに部室に来ることができたわ」

にこ「やっぱりここが一番落ち着くわねー」

希「それ、何だか引きこもりみたいな言い方やんな」

にこ「うるさいわね!誰が引きこもりよ!」

凛「にこちゃんが言うとリアリティありすぎて冗談にならないにゃー」

花陽「り、凛ちゃんそういう事は思ってても黙っておいたほうが…」

にこ「こらー!その話もうやめなさーい!」

ことり「えへへ…今日も賑やかだね」

海未「少しハメを外しすぎな気もしますが…ラブライブまでの時間も迫っていていますので適度な緊張は持って

頂きたいですね」

絵里「はーい、じゃあみんな今日の練習メニューを言うわよー」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



穂乃果「あー疲れたー」

ことり「いい汗かいたねー」

花陽「も、もう動けない…」

にこ「なっさけないわねー、もうちょっとにこの機敏さを見習いなさいよー」

真姫「にこちゃん足が笑ってるわよ」ツン

にこ「ひぎぃ!」

希「にこっちはもうちょっとスタミナをつけないといかんね。今度みんなでマラソンでもしよっか」

花陽「ま、マラソン…」

凛「いいね!やろうよー!」

絵里「いいアイデアね、ライブは体力勝負だから持久力を鍛えることは基本だわ」

海未「では練習メニューに加えておきましょう。これからも厳しくいきますよ」

穂乃果「ひえぇ…お手柔らかにぃ…」








絵里「…ん?誰ー?こんなところに手紙落としたのー」

ことり「手紙?」

凛「もしかしてラブレター!?」

にこ「ちょっとやめなさいよー自分はモテるわよアピール」


絵里「私のじゃないわよ…それにモテるって」

希「宛名は書いてある?」

絵里「ええっと…ないわね」

穂乃果「ちょっと中身見てみようよ」

海未「ダメですよ。勝手に見てしまっては…」

穂乃果「でも見ないと誰の手紙なのか分からないじゃーん」

海未「それはそうですが…」

真姫「いいんじゃない?持ち主に渡す時ちゃんと説明すれば」

絵里「うーん…書いた人には悪いけど少し拝見させてもらいましょう」

穂乃果「うわぁどんな内容なんだろう~」

海未「穂乃果、悪趣味ですよ」

凛「オープンにゃー!」




『遊びに行くのはかまわないが、あまり森の奥には

     近づかないようにな。早く帰ってくるように。      

                           父より 』





ことり「…?」


凛「んんー?」

にこ「何これ?ラブレターじゃないじゃん」

海未「そうですね…というよりこれは」

穂乃果「ねーねー何て書いてあるのー?穂乃果にも見せてよー」


花陽「あっ穂乃果ちゃん危ないよぉ」







真姫「…ねぇ、それより何でこの手紙、破れてるのよ…?」



ことり「あっ、ホントだ」

海未「凛…もしや貴女」

凛「違うよ!?最初っから破れたままだったよ!」

絵里「とすると…誰かのイタズラの後かしら?」

真姫「イタズラ?」

希「この手紙がドッキリか何かに使われた後で、そのまま捨てられたって考えるね」

穂乃果


「でもなんで私たちの部室に?」

にこ「どうせ適当にどこにでもいいから投げつけたんじゃないの?全く迷惑な話ねー」

花陽「でも、そう考えるとちょっと嫌だね…」

凛「そうだよー。せっかく誰かのラブレターだと思ったのに…」

海未「そこではないでしょう…これは処分しておきましょう」

穂乃果「そうだね、穂乃果捨ててくるよ」カサッ










ゾクッ




穂乃果「…!?」ブルッ

ことり「穂乃果ちゃん?」

穂乃果「…えっ?」

海未「どうしたのですか?固まって…」

穂乃果「う、ううん何でもないよ!」

海未「…?」

絵里「さっ、問題も解決した事だし、今日はもう遅いから帰りましょう」

にこ「さんせー。私先に帰るわよー」

凛「凛も今日はかよちんと真姫ちゃんと緒にラーメン食べに行く約束があるんだにゃ!行こうかよちん!」

花陽「うんっ、じゃあねみんな」

真姫「それ、気味悪いからさっさと捨てといてね」

希「気をつけて帰るんやで」

穂乃果「ばいば~い」

海未「では私たちも帰りましょう」

ことり「そうだね。穂乃果ちゃん一緒に帰ろうっ」

穂乃果「うんっ」

-その夜-


穂乃果「んー!今日もいっぱい動いたなー」

穂乃果「そろそろライブも近いし早めに寝ないと…」

穂乃果「体調管理は基本中の基本です!って海未ちゃんに言われちゃうしね…」

穂乃果「さーて明日の準備を…」カサッ





穂乃果「…えっ」

穂乃果「この手紙…確か部室のゴミ箱に捨てたはずだよね?」

穂乃果「何で穂乃果の鞄の中に…」



ゾクッ



穂乃果「うっ!…ま、またっ…」

穂乃果「き、気持ち悪い…窓から捨てちゃえっ」ガララッ

穂乃果「えいっ!」ポイッ

穂乃果「…ふぅ」

穂乃果「勘弁してほしいよもう…穂乃果ホラー苦手じゃないけど実体験は流石に怖いよ…」

穂乃果「ううっ…何か怖くなってきた!寝る!もう寝る!おやすみなさーい!」










穂乃果「…怖くて寝れない」

穂乃果「うぅ…こういう時はアルパカを数えてさっさと寝ちゃおう」

穂乃果「アルパカが一匹…アルパカが二匹…」

穂乃果「ぐう」Zzz…





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・



-森-




穂乃果「……」


穂乃果「…ん、んぅ…」


穂乃果「あれ…ここどこ?」

穂乃果「…えっ」




ガバッ




穂乃果「な、なにこれ…!?」

穂乃果「木がいっぱい…森かな」

穂乃果「…何で森の中に?」

穂乃果「もしかして夢なのかな…」グニッ






穂乃果「…痛い、夢じゃない」

穂乃果「夢、じゃない…?」

穂乃果「どういう事…?穂乃果確か自分の家で寝てたよね…」

穂乃果「だったどうしてこんな所に…」ガサッ

穂乃果「!?」














ヴィオラ「……」

穂乃果「だ…誰?」


ヴィオラ「……」

穂乃果「……」

穂乃果(何も喋ってくれないなぁ…もしかして日本人じゃないのかな?)

穂乃果「ハ、ハロー!」


ヴィオラ「……」


穂乃果「あの、私高坂穂乃果って言うんだけど…あなたの名前はなんて言うの?」


ヴィオラ「……」


穂乃果「……」

穂乃果「えっと…どうしよう」

穂乃果「取り敢えずここから出ないと…」ガサッ







ヴィオラ「……」テクテク

穂乃果「…!?」

穂乃果「穂乃果と同じ方向に歩いてる…?」

ヴィオラ「……」ピタッ

穂乃果(…穂乃果が止まったらこの子も止まっちゃった)

穂乃果「…何だか気味悪いなぁ」

穂乃果「ねぇ、イタズラならちょっと止めてほしいなぁって…」



スルッ







穂乃果「…すり、抜けた?」

ヴィオラ「……」


穂乃果(ヤダ…怖い…)

穂乃果「もしかして、幽霊…?」

穂乃果「……」





ヴィオラ「……」テクテク


穂乃果「うぅ…何がどうなってるの…?」

ヴィオラ「……」テクテク

ヴィオラ「……」ピタッ



穂乃果「なに、コレ…?」

穂乃果「薔薇…でも。これって大きすぎるよ!」

穂乃果「ここからは通れない…のかな」



キランッ



穂乃果「…!」

穂乃果「あっちで…何か光ってる!」

【マチェットを 手に入れた】



ヴィオラ「……」


穂乃果(穂乃果が拾おうとしたら、あの子が拾っちゃった)

穂乃果「…マチェットって何だろう?」

穂乃果「これ、カッターみたいにして使えるかも!」


ヴィオラ「……」テクテク


穂乃果「…バラが茂ってる方に行こうとしてる」

穂乃果「何で穂乃果の考えてる事と同じ行動をするの…?」

ヴィオラ「……」ガキンッ


穂乃果「…ダメだ。茎が固くて切れない」

穂乃果「やっぱりここからは出られないんだ…じゃあ」









ヴィオラ「……」テクテク



穂乃果「…うん、上に行くしかないよね」

ヴィオラ「……」ピタッ


穂乃果「あっ…こんな所に立て札があったんだ」

穂乃果「えっと…」





【 ↑ ……の家  ↓ 森の出口 】





穂乃果「…やっぱりあのおっきな薔薇の向こうが出口なんだ!」

穂乃果「何で通れないんだろう…」



穂乃果「…もしかして、閉じ込められてる?」

穂乃果「…それに、この『……の家』って」

穂乃果「文字が掠れて見えない…誰か住んでるのかな」




ヴィオラ「……」テクテク


穂乃果「……」テクテク

穂乃果「…!また薔薇だ!」

穂乃果「でも今度は小さい…これって」



ヴィオラ「……」シャッ

ザクッ  ザクッ


バサッ…



穂乃果「切れた!」


パキンッ!


穂乃果「ひゃ!?」



【マチェットは壊れてしまった。】



ヴィオラ「……」


穂乃果「…壊れた」

穂乃果「錆びてたからかな…?」

穂乃果「もっと使い道があると思ったんだけどなぁ…」

穂乃果「…ここから先に、進むんだよね?」




ヴィオラ「……」


穂乃果「…すごく嫌な予感がする」

穂乃果(でも、向こう側にはいけないし…)








穂乃果「…うん、行ってみよう」

ヴィオラ「……」テクテク



――――――――――――――――


ヴィオラ「……」テクテク


穂乃果(…この子、穂乃果が思ってる方に歩くし、考えてる事をやってくれる)

穂乃果「もしかして…この子は穂乃果の分身?」

穂乃果「あはは…流石にそれはないかな」

穂乃果「でもそれだと…ん?」






黒猫「」

穂乃果「…猫?」

ヴィオラ「……」


穂乃果「野良猫かな?」

穂乃果「でもよかったぁ…動物も何もいないからてっきり穂乃果とこの子だけなんじゃないかって」

黒猫「…あれ?どうしたの?」

穂乃果「ひゃあっ!?」










ヴィオラ「……」

黒猫「………」

黒猫「ふーん。花が出口をふさいじゃって 出られないんだ。」

穂乃果「ね、猫が喋って…」


ギ ィ ィ ィ …


穂乃果「ひっ…!」




穂乃果「…と、扉が勝手にっ…!」

黒猫「入ってみたら?」

穂乃果「えっ…」




黒猫「どうせ、ここから出られないんだし。」





ヴィオラ「……」

穂乃果「ね、ねぇ…それってどういう」





プツン

――――――――――――――――



-???-




穂乃果「…あれ?」

海未「ほ、穂乃果!」

ことり「穂乃果ちゃん!」

穂乃果「えっ…?海未、ちゃん?…ことりちゃん」

真姫「よ、よかった!こっちに来てくれた!」

凛「もうっ!みんなずっと穂乃果ちゃんの事呼んでたのに全然反応してくれないからすごく怖かったんだよっ!」

花陽「よ、よかったぁ…うっ…ぐすっ…」

穂乃果「真姫ちゃん…みんな…?どうしてっ…」








絵里「…それはこっちが聞きたいわ。私達はてっきり穂乃果だけがこの状況を知ってると思ってたの」

希「でも、穂乃果ちゃんのその反応からして…何も知らないみたいやね」

にこ「なによここ…何が一体どうなってるのよっ…!」

穂乃果「ね、ねぇ…穂乃果をずっと呼んでたって」

海未「…先程、この部屋全体がモニターのようになっていて」

ことり「そこに、森の中で歩いてる穂乃果ちゃんが映ってたの」

穂乃果「…えっ?」

絵里「信じられないと思うけど、本当なの」

花陽「え、えっとね…まるで私達もそこにいるみたいにすっごくリアルで…」

凛「でもこっちから呼んでも全然聞こえてなかったね…」






穂乃果「…そうなんだ」

真姫「ねぇ、さっきまで何してたのよ?」

穂乃果「えっ?」

真姫「ずっと一人でウロウロして…なにか思い立ったように薔薇を切り出して」

穂乃果「それは出口が…えっ」

穂乃果「ちょ、ちょっと待って!」

真姫「きゃっ…!な、何?」

穂乃果「今…一人でって言った?」





真姫「言ったけど…」

穂乃果「ひとりじゃないよ!穂乃果ずっと女の子の後ろにいたんだよ!」

穂乃果「それにバラを切り裂いたのは穂乃果じゃ…」

海未「ほ、穂乃果…貴女は一体何を言っているのですか?」

穂乃果「海未ちゃんも見てたよね?穂乃果ずっとあの女の子と二人で…」





絵里「…真姫の言っている事は本当よ」

絵里「穂乃果、貴女は一人で彷徨いて…一人で薔薇を引き裂いてた」

穂乃果「そ、そんな…」

ことり「えっと…穂乃果ちゃんの他にも誰かいたの?」

穂乃果「…うん」

穂乃果「白いワンピースを着た…金髪の女の子」

希「……」

花陽「そ、そんな子いたかな?」

凛「ううん?凛は見てないよ」

にこ「ね、ねぇ…その女の子、本当にいたの…?もしかしたら最初っからいなかったとか…」

真姫「や、やめてよ…!」

穂乃果「…穂乃果にもよく分からない」

穂乃果「でも、確かに一緒にいた筈…」フッ

















ヴィオラ『……』

穂乃果「っ!?」

穂乃果「な、なんでっ…!」

海未「これですっ!さっきと同じように映っています!」

ことり「そ、それよりもあれっ…!」

真姫「白いワンピース…金髪」

花陽「さっき穂乃果ちゃんが言ってた…!」

にこ「穂乃果!あの女の子で間違いないわよね!?」

穂乃果「う、うんっ!でも…」











ヴィオラ『……』テクテク

穂乃果「…何、してるの?」

ヴィオラ『……』テクテク




穂乃果「家の中に入った…」

海未「…小さい家ですね」




絵里「…ん?ねぇちょっと見て」

花陽「えっ?」

絵里「この部屋の真ん中…何かで汚れてるわよ」




穂乃果「…あっ本当」


ダンッ!
                  ダンッ!
         ダンッ! 

  ダンッ! 
        
          ダンッ!        ダンッ! 

   ダンッ! 
                   ダンッ!!











穂乃果「…え?」

…いきなり連れてこられら森の中 大きな家に小さな部屋。


少女が部屋の中心に立つと、突然部屋が動き出す。
勢いよく動き出す壁、それは小さかった部屋をさらに圧縮させる。
やがて壁は少女の場所までたどり着き、止まることなく―







              ぐちゃっ







       ―…少女の身体を肉塊に変えた。―

穂乃果「あ…あっ…ああああああああっ!!」


海未「いっ…いやあああああああああああっ!!!」


ことり「きゃああああああああああっ!!!」





やがて部屋は元の姿へと戻る。まるで何もなかったかのように。

少女だったものは骨を砕かれ 内蔵が破裂し 重力に任せその場に音を立てて落ちていった。



ボトッ    ベチャ



花陽「うっ…げっ…おえぇっ…!」


凛「あっ…やっ…やだっ…」


真姫「な…何よ…これっ…!」


にこ「なっ…何が起こったって言うのよおおっ!?」


絵里「ひ、人がっ…!つぶっ…潰れてっ…!」


希「なんで…何が…こんな…こんなのっ…!」









―しばらくすると少女の肉塊は青紫の粒子へと変化し、跡形もなく消えた。

                      
                          
                             その場に 血の跡だけを残して…―







.

穂乃果「な…なに…これっ…」

穂乃果「死んだの…?女の子が…?」

穂乃果「あの…場所に…立ったから…?」

穂乃果「なんでっ…!どうしてっ…!」





にこ「出てきなさい!いるんでしょ!?私たちをここに連れて来た犯人!」

にこ「私達に…こんな物見せてっ…!何がしたいって言うのよぉ!!」

凛「に、にこちゃん…」

にこ「出てきなさいよぉ!ここから出しなさい!出せ!出してっ!出してええええ!!!!」





にこ「いやだぁ…家に帰りたいっ…帰してよぉ…」

希「にこっち…」

穂乃果「…海未ちゃん、大丈夫?」

海未「ひぐっ…うっ…だ、大丈夫…です…」

ことり「どうして…どうして…こんな事にっ…」

穂乃果「分からないよ…穂乃果だって…何が起こってるのか…」











真姫「ね、ねぇ…!みんなっ…!」

真姫「絵里がっ…絵里がいない!」

穂乃果「えっ!?」

希「絵里ち…!?どこっ!?どこに行ったの!?」

にこ「ちょ、ちょっと!冗談やめなさいよ!有り得ないでしょ!?」

凛「そ、そうだよ…きっとこの部屋の片隅に座って震えてるだけで…」








花陽「あっ・・・ああ・・・あああああああああああっ!!!」

穂乃果「かよちゃん!?」

花陽「ま、前っ…前にぃっ!」












絵里『………えっ?』








.

絵里『な、なんで!?どうして私がっ…!』

絵里『みんなっ…!みんなどこっ!?何処にいるの!?』





希「絵里ち!絵里ちこっち向いて!返事して!」

海未「聞こえていない…?」

ことり「これって…もしかして」




穂乃果「穂乃果と……同じ、なの?」







【To Be Continued…】


お久しぶりです。多分覚えてる人なんていないけどな!

前々から雑談スレで書き込めしてた魔女の家とのクロスがやっとプロット完成したので投下してみた
かなり前の話だけどね…

続きは一週間後のこの時間帯に更新すると思います。
これからもよろしくオナシャス

再開していきます。
今夜もお付き合いよろしくお願いします。

-森-



絵里「ど、どうして私が…」


絵里「さっきの穂乃果の状況が…今の私だって言うのっ…?」


絵里「一体何がどうなって…」


絵里「…っ!?」










ヴィオラ「……」

絵里「あ、あなたっ…な、なんで…どうしてっ…!?」

絵里『…!……!』





真姫「今度は絵里が…何でっ…」

にこ「分からないわよっ…どうしてこんな事に…」

海未「しかし…現にここから絵里が消え、こちら側から絵里が見えている」

花陽「つ、つまりこれって…」








凛「凛たちも…あっちに行く事になるの…?」

ことり「そ、そんなっ…」

にこ「い、嫌よっ!にこあんな所行きたくないっ!」

海未「私だって行きたくありませんよっ!でも穂乃果がこっち側に来てもう安心だと思ったら…」

海未「結局私たちもここから出ることが出来なかったじゃないですかっ!」

海未「そして絵里が消えて…今度は絵里が穂乃果と同じ状況に陥ってしまった…!」









      「つまり…ここから私達が脱出出来ない限りっ…!」







.

-森(……の家 前)-



ヴィオラ「……」

絵里「どうして…あなたがここに…」







ヴィオラ「……」

絵里「…答えてはくれないのね」

絵里(どういうことかしら…彼女はさっき、この家の扉から入って…あの部屋に)

絵里(でも私がここに来て、彼女がまだ生きている…)

絵里(……)

絵里「この場所は、穂乃果があの部屋に戻ってきた?場所よね…?」

絵里「えっと…穂乃果は確かここにいる黒猫に話しかけてた筈」

絵里「それなら…」


黒猫「」


絵里「あ、いたわ。…ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるのだけど」







黒猫「……」

絵里「…?」

絵里(喋ってくれないの…?穂乃果の時は喋っていたのに…)

ヴィオラ「……」

絵里「…いつまで経ってもさっきの場所には戻らない」

絵里(この子も全然…いや、私が動こうとしないから動かないの?)

絵里「…このままじゃ埒があかないわ」

絵里「つまり…」











ヴィオラ「……」テクテク

絵里「…入るしかないのね。この屋敷に」

-…の家 入口 -


ヴィオラ「……」テクテク

絵里「…ここは」

絵里(部屋には照明が二つ…その間に扉)

絵里(確かさっきの映像には部屋の真ん中が汚れていた筈だけど…この部屋にはないわ)

絵里(つまりさっきの部屋は実際にはないの?それとも…)










ヴィオラ「……」ガチャ

絵里「…予想が的中していなければいいのだけど」

――――――――――――――――

-小部屋-



ヴィオラ「……」ガチャ



絵里「っ…!やっぱり」

絵里「この扉が…この部屋の入口だったのね」


絵里(確かにこの部屋の真ん中に彼女が立ったときに…)

絵里「…!」

絵里「これっ…ただの汚れじゃない…血の跡じゃないのっ…!」

絵里(どういう事…?つまりさっき見た映像は本物だって言うの…?)

絵里「でも…彼女はここに…」










ヴィオラ「……」

絵里(振り向きもしない…何も動揺してない…)

絵里(まるで自分に意思がないみたいだわ…)

絵里「…取り敢えず、この場所は避けて通りましょう」

絵里「でも他に扉らしきものはないし…その前の部屋にも特に道らしきものなんて…」

絵里「…ん?」








絵里「…部屋の血痕に気を取られて、全然見えてなかったわ」

絵里「何よ…この見てくださいと言わんばかりの、張り紙…」









      【わたしの へやまで おいで】










絵里「…部屋?部屋なんて何処に」




ボッ



絵里「ひっ…!」

絵里「か、紙が…燃えてっ…」

絵里「ほ、他に何か変化したものは…!」












ヴィオラ「……」

絵里「…何も、無い」

ヴィオラ「……」

絵里「…はぁ、もう意味が分からない」

絵里「取り敢えず、さっきの部屋に戻って…」




ガチャ




絵里「!?」

絵里「えっ…どうして…っ」

絵里「ここ…さっきの部屋じゃないっ…!」

絵里「ここにあったのは照明だけの筈…」

絵里「花瓶なんて…なかった!」

-最初の部屋-



ヴィオラ「……」

絵里「な、何が起こって…」ドンッ

絵里「痛っ…えっ?」

絵里「さ、さっき開けたはずの扉が消えてる…!」

絵里「なんで…壁にっ…!」









黒猫「」

絵里「ひっ…!」

絵里(さっきの黒猫!?どうして此処に…!)

ヴィオラ「……」

黒猫「やぁ。」


絵里「しゃ、喋った…?」


ヴィオラ「……」

黒猫「面白そうだからついてきちゃった。」


絵里「つ、ついてきたって…」


黒猫「ところで 今どっから出てきたの?」


絵里「そんなの、私が聞きたいくら」





プツン





-???-




絵里「…え?」

希「え、絵里ち!」

真姫「戻って来れたの!?」

絵里「えっ…何で…どうして…?」

希「絵里ちっ!」

絵里「きゃっ…の、希」

希「よかった…本当に…っ…よ、よかっ…!」

希「うっ…うち…絵里ちがっ…さっきみたいにっ…なるんじゃ…ないかってっ…!」

絵里「希…」

穂乃果「絵里ちゃん」

絵里「…穂乃果」

絵里「ごめんなさい。あなたの言っていた事は本当だった」

穂乃果「え?」

海未「ど、どういう意味ですか…?」



絵里「…ねぇ、私があっち側にいる時、こっちから見た私は…」

ことり「えっと…うん。ずっと一人だったよ」

絵里「…そう」

真姫「ねぇ…そ、それってもしかして…」





絵里「…うん、いたの。白いワンピースの女の子」

穂乃果「…!」

にこ「で、でもさっき死んだはずじゃ」

絵里「そうね…確かに私達は見た。あの子が死ぬ所を」

絵里「……」

絵里「でもいたの。ずっと私の前を歩いてた」

絵里「私の思考、行動全てを読み取って彼女は動いていた」






絵里「まるで…私が彼女を動かしてるような…不思議な感覚だったわ」






穂乃果「うん…うんっ!穂乃果と一緒だよっ!」

真姫「どういう事…私達には何も見えなかったのに…」

絵里「私にも分からない…でも確かに」



「きゃああああっ!!」



海未「凛!?」








凛「か、かよちんがっ…かよちんが!」


凛「かよちんがあの中にっ!」

-最初の部屋-





花陽「…う、嘘…だよね?」

花陽「花陽はさっき、凛ちゃんと一緒にいて…」

花陽「ずっと…ずっと凛ちゃんの手を握っててっ…!」

花陽「それなのに…それなのにっ…!」












ヴィオラ「……」

花陽「あっ…や、やだっ…いやだっ…だ…誰かっ…!」

-???-


花陽『…!…!!』



凛「かよちんっ!かよちんっ!」

真姫「こ、今度は花陽がっ…」

ことり「や、やっぱり…ここにいる全員が…あっちにっ…!」

にこ「い、嫌よ!にこあんな所行きたくないっ!」

にこ「ねぇ!どうにかして此処から出られないのっ!?」

穂乃果「そ、それが分かってたらこんな所にっ…!」








絵里「……」

希「絵里ち?」

絵里「…みんな、一つ聞いて欲しい事があるの」

海未「な、何か分かったのですか!?」

絵里「確証はないけど…憶えておくことに越したことはないわ」

真姫「それで十分よ…早く言って」





絵里「…私も穂乃果も、あの黒猫に話しかけたらここに戻って来ることが出来た」

絵里「そうよね…穂乃果?」

穂乃果「う、うん…」

絵里「やっぱり…」

にこ「どういう意味よ?一人だけ納得してないで私達にも説明しなさいよ」



絵里「つまりこの黒猫は、あっちとこの部屋を繋げるキーパーソン」


絵里「黒猫に話しかける事によって、あの世界での探索を終えることが出来る」


絵里「そして次の相手と交代して、自分はこの部屋に戻る…」


絵里「…ここまでが私の考えよ」

海未「…つまり、黒猫に話しかけるという事は」

希「他の誰かに先を任せるってこと…」

絵里「えぇ、そういう事ね」

穂乃果「そ、そんな…」

絵里「厄介なのが、一度話しかけた場所の黒猫は二度と話しかける事が出来ない」

絵里「穂乃果が居た場所の黒猫に話しかけてもこの場所に戻れなかった…これは確証済みよ」




ことり「あれ?でもぉ…」

真姫「どうかしたの?」

ことり「えっとね、穂乃果ちゃんと絵里ちゃんが入れ替わる前に、その…あの映像が映ってから入れ替わったよね?」

ことり「でも…絵里ちゃんとかよちゃんはすぐに入れ替わったのはどうしてかなぁって…」

凛「そ、そうだよっ!かよちんは凛とずっと手を握ってたんだよっ!」

凛「でも…絵里ちゃんがこっちに来て…気が付いたらいなくなっててっ…」

絵里「…見せしめ」

穂乃果「えっ…」

絵里「あの少女は死んだと思ってたけど…生きていた」

絵里「でもそれはあの子だからであって、私達が死んでも生き返るという証明にはならない」

にこ「な、なによっ…それって!」











   「つ、次はお前達がこうなる番だって…私達に伝えたとでも言いたいの!?」










海未「…そう、考えるのが妥当かと」

真姫「ふさげないでよっ…!有り得ないわこんなのっ!」

真姫「私達にこんな事させてっ…何がしたいって言うのよっ!」

絵里「…分からないわ。でも今私達が出来ること、それは…」

凛「…っ!」

ことり「り、凛ちゃん!?」








凛「聞こえる!?私たちをここに連れ込んだ人!」

凛「かよちんの次は凛が行くにゃ!」

穂乃果「り、凛ちゃん!」

凛「その代わりかよちんは殺さないでっ!」

凛「凛はどうなってもいいからっ!…かよちんはっ…かよちんはっ!」

海未「凛!」

凛「何するの海未ちゃんっ!放してっ!」

海未「ふざけないでくださいっ!自分を犠牲にして花陽を助けるなどとっ…!」

凛「じゃあどうしたらかよちんは無事に帰ってくるの!?教えてよっ!」

海未「いい加減にして下さいっ!」

凛「っ…!」









海未「今は…花陽が無事に帰ってくる事を祈るしか出来ません」

海未「それしか…出来ないんです…」

凛「うっ…ぐすっ…ひっくっ…かよちんっ…かよちん…」

穂乃果「……」

-最初の部屋-



ヴィオラ「……」



花陽「……」

花陽(行かなきゃ…進まなきゃ)

花陽(進まないと…何も変わらない…)

花陽「……」










ヴィオラ「……」テクテク

花陽「うぇ…えぐっ…ぐすっ…怖いよぉ…っ」

ヴィオラ「……」

花陽「…ここから絵里ちゃんは入って来た。けど…」



ヴィオラ「……」ガチャガチャ


花陽(…開かない。閉じ込められてる)

花陽(ここから外には出られないんだ…)

花陽「……」

花陽「右と左に扉が二つあるけど…どうしよう」

花陽(本当はどっちにも行きたくない…けど)










ヴィオラ「……」テクテク

花陽「行かなきゃ…帰れない…っ」

-渡り廊下-


チッ

     チッ




ヴィオラ「……」テクテク



花陽(こっちは…渡り廊下なのかなぁ…)

花陽(目の前に扉と、北側に廊下があって…)

花陽(うぅっ…時計の音がすごく不気味だよぉ…)

花陽「ま、まずは出てすぐ目の前の部屋に入ってみるね…?」







ヴィオラ「……」

花陽(何も喋ってくれない…花陽嫌われてるのかな…?)

-東側 小部屋-


ガチャ



ヴィオラ「……」

花陽「…!」

花陽「ここは…」



ヴィオラ「……」

花陽「小さな部屋に…かごが置いてあるよ…」

花陽「かごの中に…くまのぬいぐるみ?」

花陽「ど、どういう事だろう…」

花陽「あっ…張り紙が」









          【くまを かごに】












花陽「…?」

花陽(くまを…かごに?)

花陽(えっと…もうクマのぬいぐるみはかごの中に入ってるよね?)

花陽(どういう意味だろう…)

花陽「…ちょっとかごの中、調べてみるね?」








ヴィオラ「……」

花陽「…!」

花陽(大きなくまのぬいぐるみ…だけど、まだ入りそう…!)

――――――――――――――――


-北側 小部屋-



ヴィオラ「……」

花陽「…北に進んでを歩いたら、また部屋があったよ」

花陽(何だろう…この部屋)

花陽(プレゼントの箱がいっぱい…それに)

花陽「日記帳…?」








ヴィオラ「……」

花陽(読んだほうがいいのかな…?)

花陽「うぅ…怖い内容じゃありませんようにっ…」






     ― 私は 病気だから ―


  ― 誰も 私と 遊んでくれなかった ― 





    ― お父さんもお母さんも ―


   ― 私を 愛してくれなかった ―











ヴィオラ「……」

花陽「この日記…この屋敷に住んでる人の日記かな?」

花陽「えっと…これはあなたの日記なのですか…?」

ヴィオラ「……」

花陽(ううっ…答えてくれないよぉ…やっぱり嫌われてるのかなぁ…?)

花陽「でも、日記の内容は…とっても可哀想」

花陽「病気だからって、愛してくれなかっただなんて…」







花陽「…えっと、他には…」

花陽「…!」

花陽(あったっ…!プレゼントの箱の山に…くまのぬいぐるみ!)

ヴィオラ「……」ゴソゴソ

花陽「あっ…花陽が取ろうと思ったけど…取ってくれてるんだね」

花陽「ありがとう…えへへ」




【テディベアを手に入れた。】




花陽「じゃあ、これをさっきの場所に…」



ガコンッ



花陽「ぴゃあ!?」







ヴィオラ「……」

花陽「び、びっくりしたぁ…箱が落ちただけ…」

――――――――――――――――

-東側 小部屋-



ヴィオラ「……」グイグイ


花陽「あ、あれ…?入らないよぉ…?」

花陽(このくまさん…大きすぎて入らないんだ)

花陽「ど、どうしよう…」








ヴィオラ「……」テクテク

花陽「・・・戻って他のぬいぐるみを探すしかないのかなぁ…?」

――――――――――――――――

-西側 作業台-



ヴィオラ「……」

花陽「こ、ここって…!」

花陽(一番最初の部屋の西側にも扉があったけど…)








ヴィオラ「……」

花陽「な、なに…?この…ハサミ…っ」

ヴィオラ「……」ジャラッ

花陽(鎖で繋いで机の上に置いてある…持ち出すことは出来ないね)

花陽「でも、何に使うためにあるんだろう…」









      『くまを かごへ』









花陽「あっ…はぁ…っ!」

花陽「も、もし…もしかしてぇ…っ!」

ヴィオラ「……」

花陽「ほ、本当にっ…切るの…?」







ヴィオラ「……」スッ

花陽「…っ!」




ザクッ…ザクッ…


ブシュッ…ジャキッ…



花陽「ひっ…ひいっ!」

花陽「お、音がっ…!わ、綿を切る音じゃないっ…!」

ヴィオラ「……」


ポタ…ポタッ…



花陽「あ…血っ…血がっ…!」

花陽「ひ、あ…ああああっ…!!」




【テディベアの胴体を手に入れた。】








ヴィオラ「……」

花陽「ひっ…やめてぇっ…それをこっちに向けないでっ…!」

花陽「は、早くかごに入れっ…入れに行かないとっ…!」




  
      べたっ





花陽「ひゃあああっ…ぁ…!!」

花陽「血っ…!血のっ…!くまのっ…手がっ…!壁っ…壁にっ…!」

花陽「ごめっ…ごめんなさいっ…ごめんなさいっ!」

花陽「やだっ…もうやだよぉっ…あっ…えぐっ…!」

――――――――――――――――


-東側 小部屋-



ヴィオラ「……」

花陽「はぁっ…はぁっ…!うぐっ…ぇ…」

花陽「ふう……ふぅーっ…」

花陽「……」

花陽(くまの手足を切り取ったから…かごの中に…)





ヴィオラ「……」グイッ ギュッ  ギュッ



花陽「ひぃっ…!む、無理矢理…入れてるっ…!」

 カチッ





花陽「…!」

花陽(どこかでカギの開く音がした気がする…!)

花陽「…あっ、もしかして入口の鍵が開いたのかな?」

花陽「こ、ここから出られるかもっ…!」

花陽「え、えっとぉ…!い、行ってみよう…?」

ヴィオラ「……」テクテク

花陽「ほっ…よかったぁ…これでこの家から出られ」





   ズズッ






ヴィオラ「……」

花陽「…えっ、今、かごが動いて」




バタンッ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


-最初の部屋-




花陽「っ…はあっ…!ぎゅぅ…っ!」

花陽「はぁっ…はぁっ…!」

ヴィオラ「……」

花陽(さ、さっきと…空気がっ…違う!)

花陽(怖いっ…ぁ…やっ…やだっ…!)



   ガチャンッ!




花陽「ひゃあっ!?…あっ…か、花瓶っ…!」

花陽「もう嫌だよぉ…っ!早く…早く入口にっ…!」






    ズンッ








花陽「…えっ?」

一瞬の出来事だった。

入口に向かって一直線に進もうとすると、何かが落ちた音がした。


それは余りにも大きく、一目見ただけではそれが何かを認識する事ができなかった。
しかし徐々に迫り来る『それ』を理解することより先に体が動いた。


先ほどの自分の行動を思い出す。


テディベアを持ち出し


手足を切り取り


籠の中に無理矢理ねじ込んだ。




胴体のみとなったテディベアは、あたかも生き物であるかのように血に染まっていた。
もし喋ることができたなら、テディベアは悲鳴を上げていたのかもしれない…。


もうテディベアは見たくない。
思い出したくない。無かったことにしたい。
血の手形はあのテディベアの怨念だ。私を恨んでいる。









             そして、それは形になって現れた。


  血の色に染まった目をした巨大なテディベアが 私を押し潰そうと追いかけてきた。








ドンッ

      ドンッ

 ドンッ


   ドンッ!!     



花陽「きゃああああっ!!ああああっ!!!」

花陽「いやああっ!来ないでっ!来ないでぇっ!!!」

花陽「ごめんなさいっ!ごめっ…えぐっ!ごめんなさいっ!!あああっ!」

花陽「やだああっ!!いやあああああっ!!!」

花陽「あああああああっ!!!」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・





――――――――――――――


-渡り廊下-



バタンッ!


花陽「はぁっ…!はぁっ…!うっ…げほっ!げほっ…」

花陽「う…うっ…あっ…あっ…あぁ…」ポロポロ

花陽「ごわがっだ…っ…えっ…っぐ…」

花陽「花陽…し、死んじゃうかってっ…ひっ…ぇぐ…」









ヴィオラ「……」

花陽「うぅっ…あなたは…何でっ…平気なのぉ…っ」

-西側 作業台-


ヴィオラ「……」テクテク

花陽「……」

花陽(入口…鍵がしまってた)

花陽(さっきので開いたと思ったのに…どうして…どうして…)

花陽(いやだ…先…進みたくないよぉ…)



ガチャ



ヴィオラ「……」

花陽「誰もいない…」

花陽(花陽を襲ってきた…あのくまは…どこにいったの…?)

花陽「…ここにも扉がある」

花陽「じゃあ…さっきの鍵の音は…ここの扉だったの…?」

花陽「…まだ、終わらないんだ…」

花陽(進みたくない…)

花陽(でも…進まないと…みんなの所に…)




    ぼとっ




花陽「ひゃあっ!」

花陽「あ…あぁっ…!これ…これぇっ…!」

花陽「な、なんで…どうしてっ…!」

花陽「いやだっ…やだっ…やめてぇっ…!」

花陽「もういやっ…やだぁ!」




ガチャ…バタンッ








ヴィオラ「……」

ヴィオラ「」



-食堂-





花陽「はっ…!はっ…!はぁっ…!」


花陽「えぐっ…どこぉ…?何処にっ…ひっくっ…行けばっ…」


花陽「凛ちゃん…えぐっ…みんなぁ…」


花陽「誰か…誰か助けてぇ…あっ…あっ…」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・


・・・・・・

-厨房-



花陽「はっ…はっ…はぁっ…っ」

花陽「あれ…ここ…どこぉ…?」

花陽「…あの子もいない…っは、はぐれて…」




トントントン…

    トントントン…




花陽「…え」

花陽「ほう、ちょうが…勝手に…動いてる」

「……」


花陽「だ…誰か…いる…の」


「ああ いそがしい いそがしい。」


花陽「…え?」


「ああ いそがしい いそがしい。」



トントントン…

    トントントン… 
 






花陽「……」

花陽「手伝って…あげたらいいの…?」

「ああ いそがしい いそがしい」


花陽「え、えっと…わ、私…」

花陽「お、お手伝いしますっ!」

花陽「花陽が…手を貸してあげますっ…!」

花陽「だ、だからっ…ここから出る方法を…!」



「ああ ありがとう。」



ぐいっ




花陽「…え」















     「ちょうど ''て'' が 足りなかったんだ。」











…見えない何かが花陽の腕を掴む。
突然の出来事に困惑する花陽をよそに、それは腕をまな板に押し付けた。


そして、先程音を鳴らすためだけに振っていた包丁を持つと




花陽「えっ…ぁ…」





…花陽の手にそれを添えた。

花陽「ぁ…う…あっ…?」



…さっき、この人は何と言っただろうか?



『ちょうど ''て'' が 足りなかったんだ。』




…ああ、そうだ。手が足りないと言ったんだ。
だから手伝って、終わったら話を聞いてもらおうと思った。




終わったら…?


何が終わったら?


腕を掴まれて、まな板に手を押し付けられて、包丁を振り上げて



何 を す る の ?

花陽「ぁ…や…やだっ…!やだっ!いやぁ!」


花陽「放してっ!放して下さいっ!いやっ!いやああああっ!!」


花陽「許してぇっ!やだ…やだあああああっ!!」


花陽「いやだぁっ!やめてぇ!はなっ…はなしっ…!」





…まな板に押さえつけられた花陽の手は、指が動かない様に固定される。


見えない'それ'は包丁を花陽の第一関節に添えて、皮残りの無いように力を込め








             ごりっ







      - いっきに指を 切断した。-






花陽「い゛っ…ぎゃああああああああっ!」


ぶしゅ…ざぐっ…

骨を砕く鈍い音をならしながら、見えない何かが花陽の指を一つ一つ丁寧に切り落としていく。


花陽「あがっ…ぎっ…あああああああっ!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ

゛っ!!」


第一関節を切り終えると、まな板の端に追いやり次の関節に刃を置いた。



花陽「い゛や゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!ゆ…ゆる…じっ゛…!ぎゃあああああああっ!!!」



ごりっ…ごりっ…!



花陽「がぁっ…!ぎっ…あっ…ぁ…!」



やがて全ての指を切り終えると、最後だと言わんばかりか、指を失った手首に刃を向ける。

花陽「い…たぃ…ぃだい゛よぉっ…ぃ゛」



花陽の許しを請う悲鳴は、それには届かず、ただ厨房に響き渡るだけの結果に終える。

刃は既に手首を貫通させ、切りにくい関節部分を力任せに押し込んでいく…


花陽「はがっ…い゛い゛っ!?ぁあ゛ああっ!!」



気が狂う程の激痛と共に、切断してはいけない動脈を鈍らの刃で強引にねじ込まれる。

骨が軋む音が体内から聞こえる 中で破裂しているかのように腕が震える。

残りの肉と皮が引き裂かれる感触が花陽の全身を響かせた。



ぶしゃ…ぁ…



花陽「がっ…はっ…ぁ…」




…花陽は手を失った。

凛「いやあああああああっ!!かよちんっ!かよちんっ!!!」

海未「て…手っ…手がっ!花陽のっ…!手がっ…!」

ことり「いやあああああああああっ!!やめてっ!やめてえええええええっ!!!」

絵里「い、嫌っ…!こ、こんなの…こんなっ…あ、あああああああっ!?」



ぼたっ   ブシュ


   ぼたっ



花陽『あ゛…だ…れ…か…たづ…げ…で…ぇ…』


花陽『どま゛ら゛な゛い…ぢがっ…ぁ…とまら…ない』


花陽『り゛ん゛…ちゃん……み…ん…な…ぁ…』




にこ「いやぁ!花陽っ!花陽っ!!」

真姫「押さえてっ!腕を押さえて血を止めてっ!お願いっ!お願いっ!!」

希「花陽…ちゃん…あっ…!嫌…っ!こんなんっ…み、見たくないっ…!」



花陽『い゛や…い゛やぁ…ぁ……』


花陽『し…に…たく…な…っ……』


花陽『……』






穂乃果「か…かよ…ちゃん…っ…!」

穂乃果「かよちゃん!かよちゃんっ!!返事してっ!」

穂乃果「かよちゃんっ!!」





ブツンッ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


絵里「ぁ…き、消えっ…!」

にこ「な…なによっ…なによっ!今のっ…!」

にこ「何がどうなってるのよぉ!?」

凛「かよちんっ!!!ねぇ返事して!かよちんっ!」ドンッドンッ

凛「いやあああああっ!!お願いっ!かよちんを戻してええええっ!!!」

凛「ねぇお願い!お願いしますっ!!いやああああああああああ!!!!」

海未「は、花陽はっ…!花陽はどうなったのですかっ!?」

真姫「知らないっ…こんなのっ…知らないっ!!」

穂乃果「あっ…やだっ…やだぁ…!」

ことり「もう許して下さい…お願いします…お願いします…っ!」

希「本当に…し、死んで…しまったの…?」

穂乃果「こんなっ…こんなの…絶対嘘だよっ…!」

穂乃果「だってっ…!こんな事がっ…現実に起こるわけっ…!」

穂乃果「もういいよっ!もう夢から覚ませてっ!」

穂乃果「こんな夢っ…すぐに忘れてやるっ!」

穂乃果「早く覚ましてよっ!はやっ」





グ ニ ャ ア …




穂乃果「…えっ?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・



穂乃果「……」

穂乃果「んっ…ぁ…?」

穂乃果「ここ…穂乃果の家…」



ガバッ!



穂乃果「家!穂乃果の家だよねっ!」

穂乃果「よ…よかった!夢だー!夢だったんだ!」

穂乃果「わーい!夢だから怖くない!怖くないぞー!」

穂乃果「やったー!あはははははっ!」


バタンッ


雪穂「お姉ちゃん朝からうるさいよっ!」

穂乃果「ごめんごめん!あはははっ!!あははは!」

雪穂「うっ…あ、頭でもおかしくなったの…?」



-音乃木坂-

穂乃果「るんるんるーん♪」

穂乃果「さぁー今日も張り切って練習するぞー!」

穂乃果「あっ!おーい海未ちゃーん!」




海未「……」

穂乃果「うっみちゃーん!」

海未「きゃ…ほ、穂乃果…」

穂乃果「あれ?どうしたの?何だかすごく顔色悪いよー?」

海未「え、えぇ…実は…昨日の夢見が悪くて…」

穂乃果「海未ちゃんも!?実は穂乃果もなんだよー!」

海未「ほ、本当にですか…?」

穂乃果「うんうんっ!でも夢でよかったよー!」

穂乃果「だってかよちゃんが死んじゃうなんて縁起でもないよ!ぷんぷんっ!」











海未「…ほ、穂乃果」

海未「何故…私の夢の内容を…」

穂乃果「…えっ?」

穂乃果「う、海未ちゃん何言って」



「あ、穂乃果ちゃん!海未ちゃん!」



穂乃果「あ、かよちゃんの声だ!」

穂乃果「かよちゃん!おはよー!今日も…」



ドサッ…



穂乃果「……」

海未「あっ…あっ…あああっ…!」

海未「あ、あなたっ…!な、何故っ…!」


「えっ?ど、どうかしたの?海未ちゃん?」











ヴィオラ「花陽の顔に…何か付いてるのかな?」






【To Be Continued…】

今週はここまでです
お付き合い頂きありがとうございました。

再開します
今回は少しばかり長いですが、最後までどうかよろしくお願いします。

――――――――――――――

-放課後、部室-




絵里「…みんな、集まってるわね」





海未「……」


希「……」


凛「っく…ヒック…ぅ……」


ことり「……」






穂乃果「……」

絵里「…その後、花陽は?」

真姫「…今日は練習が休みってことにして、帰らせたわ」

絵里「そう…」
















にこ「……あれのどこが花陽だって言うのよ」

海未「…っ」

真姫「ちょっとにこちゃ…」

にこ「だって!おかしいじゃないのよっ!」

にこ「声は花陽なのに!姿形はまるっきりアイツじゃないっ!」

にこ「私たち以外の周りは気にもとめないで普通に話しかけてるし!」

にこ「まるでにこ達がおかしいみたいじゃないのよぉ!」

にこ「あんなの花陽じゃないっ!花陽は昨日殺されたのよっ!」

穂乃果「にこちゃん!」

凛「もうやめてぇっ!!」








ことり「凛ちゃん…」

凛「もうっ…やめてよっ…ぅ…っ」

にこ「……」

穂乃果「……」

絵里「…みんな、頭が混乱して状況が掴めていないのよ。…私も含めて」

絵里「だからこそ、情報を整理して考える時間が必要だと思うの」

絵里「こんな事になってしまったからこそ…ね」






希「…うん、うちもそれがいいと思う」

希「もしかしたら、またあの部屋…世界に閉じ込められるかもしれない」

希「その前に少しでも対策があれば、昨日のような惨劇は起こらない」

希「…どうかな?」

真姫「…賛成。反対する理由がないわ」

海未「右に同じです」

ことり「うん…」

にこ「…凛、ごめんなさい。あんたが一番辛いの知ってて、にこ…」

凛「……」フルフル

穂乃果「…凛ちゃん」

絵里「…さて、まずは状況の整理からしていきましょう」

絵里「私達は昨日の夜、全員が同じ夢を見た」

絵里「これは合ってるかしら?」

ことり「うん…ことりもはっきりと覚えてるよ」

真姫「って言うより、本当にあれは夢だったのかしら…?」

絵里「そうよね…痛みもあったし、自分が物に触っている感覚もあった」

絵里「あんなリアルな夢、今までに見たことないわ」

希「それに、全員が同じ夢をみるってのも普通は有り得ないと思うんよ」

希「似たような夢を見たとしても、それが9人全員同じ場所で、しかも互いに認識してる」

希「…これを夢の一言で終わらせるには、少しスピリチュアルが過ぎるんやない?」

海未「そうですね…普通の夢ならまだしも、あんな残虐非道な物を見せられては…」

絵里「…つまり、こういうことかしら」


絵里「私達は何かの意志によって意図的にあっちの世界に招かれた。」


絵里「理由は分からないけど…あっちの世界は、私たちに殺意を向けている。」


絵里「…私達は、あの屋敷を探索する事を強いられてる。」



にこ「…うん、そんな感じじゃないの?」

凛「誰が凛たちを…」

絵里「それは後にしましょう。手がかりのない今の状況じゃ犯人を探すのは難しいと思うわ」

海未「…そうですね。今はこんな事になってしまった原因を探るべきです」

穂乃果「うん、そうだね」

絵里「じゃあ次。海未も言ってくれたけど、私達がどうしてあの世界に行くことになったのか、その原因…」

絵里「昨日の出来事で、何か心当たりがある事と言ったら…」







希「…あの変な手紙があったことくらいかな?」

にこ「手紙…?あぁ、あのイタズラの事ね」

海未「確かあれは穂乃果がゴミ箱に捨てた筈ですが…」

絵里「…今日、部室のゴミを回収した時に手紙らしきものは見当たらなかったけど」

ことり「穂乃果ちゃん、ちゃんと捨てた?」












穂乃果「…うん。捨てたよ。捨てたけど」

穂乃果「昨日、穂乃果の鞄の中に入ってた」




「「………!」」





.

真姫「…ちょっと、それどういう事よ?」

にこ「アンタ、間違えて鞄の中に入れてただけじゃなかったの?」

穂乃果「ち、違うよ!本当に部室のゴミ箱に捨てたもん!」

穂乃果「でも、どうしてか穂乃果の鞄の中に入ってて…」

絵里「…その手紙はどうしたの?」

穂乃果「気味が悪かったから、そのまま家の窓から捨てちゃった」












海未「…その手紙、今朝家の近くに落ちている事を確認しましたか?」

穂乃果「えっ?ううん…そんな事全然気にしてなかったから」

海未「……」

穂乃果「…海未ちゃん?」

海未「…穂乃果、鞄の中身を出してみてください」

穂乃果「えっ?」

海未「……」

穂乃果「…ま、まさかそんな事ある訳ないじゃーんっ!」

穂乃果「そんなホラーみたいな事が現実に起こるわけ…」ガサゴソ








       
          ペラッ









穂乃果「…ぁ…あっ…あああっ!!!!」


穂乃果「なんでっ…ど、どうしてっ…!」

真姫「ほ、穂乃果っ…」

にこ「あ、あんたまさかっ…」

穂乃果「…っ!本当だよっ!本当に昨日窓から捨てたんだよっ!」

穂乃果「その前にも部室のゴミ箱に捨てたのにっ!なんでっ…!どうしてっ…!」









海未「……」カサッ

真姫「…海未?何してるの?」

海未「……」ビリッ  ビリッ ビリビリッ

凛「う、海未ちゃんっ!?」

                      .


   パラパラ…



海未「……」

にこ「ちょ、ちょっと!あんたなんてことしてっ…!」

海未「…どうやら、穂乃果の言っていることは本当のようですね」

絵里「えっ?」

海未「…花陽の席を見てください」














凛「…っ!えっ…ええっ!?」

ことり「て、手紙がっ…!」

真姫「し、信じられないっ…さっきまで、何も無かったのにっ…!」

海未「……」

絵里「…これではっきりしたわね」

穂乃果「だからずっと言ったのに…」

希「ごめんね穂乃果ちゃん。こんな状況だから、みんな疑り深くなるんよ」

希「許してあげて?」

穂乃果「むー」

にこ「わ、悪かったわよ…」

絵里「はいはい、いい加減話を進めるわよ」








絵里「…私たちが昨日見つけたこの手紙」

絵里「捨てても、破っても私たちの前に現れる…」

絵里「私はこの手紙が昨日の出来事に関連してると思うのだけど、みんなはどう思うかしら?」

海未「…恐らくは、確定でしょうね」

海未「その手紙が私たちの前に現れたのは昨日の事です」

海未「そして、あちらの世界に連行されたのはその後の出来事」

海未「…二つが繋がっていないとは考えにくいですね」

穂乃果「そうだね…今までこんな事一度もなかったもん」

絵里「これで原因ははっきりしたわね」

にこ「じゃあ、次は誰がこんな事をしてるのかについて?」

絵里「…どうかしら?誰か心当たりのある人はいる?」








ことり「……」

凛「……」

真姫「……」

希「…誰も分からないみたいやね」

絵里「当然よ。分かってる方がおかしいもの」

にこ「…見つけたらタダじゃおかないわよ」

凛「かよちん…っ」







穂乃果「えっと、次はどうするの?」

絵里「そうね…じゃああの世界での話をまとめてみましょう」

絵里「まず、あっちではあの大きなお屋敷がある場所に私たちの中の一人…と、あの女の子」

絵里「それ以外の人間が閉じ込められている小さな部屋がある場所…この二つに分かれているわ」

希「やっぱり、あの部屋と屋敷は全然別の場所にあるのかな?」

絵里「そう考えていいと思うわ」

絵里「あの小部屋、外部との接触が全く出来なかったもの」

真姫「ただずっと森と屋敷の中を探索する様子を見せられただけだったわ」

海未「…まるで選手の控え室のようです」

にこ「実際控え室なんじゃないの?入れ替わりもあったんだし」

絵里「えぇ、私もそう思うわ」

ことり「じゃあ…私達は絶対誰かがあの家に行かなきゃいけなかったの?」

穂乃果「そう…なんだと思う」








希「…そしてそれは、今日の夜にも起こりうる」







.

凛「……」ブルッ

真姫「嫌っ…行きたくない…っ」

穂乃果「そ、そうだっ!今日の夜みんな寝ないで起きてたら」

海未「…それを何日もずっと続ける気ですか」

穂乃果「うっ…で、でも昼間授業中とかに寝れば…」

海未「はぁ…それが許されるのだとしたら穂乃果だけですよ」

穂乃果「うぅ…」








絵里「…それに、このままだと花陽を元に戻す方法も分からないわ」

絵里「いずれにしても、私達はまたあの世界に行かなければならない」

穂乃果「…うんっ。そうだね。このままでいい訳がないよ」

穂乃果「絶対に、かよちゃんを元に戻さないと…!」

凛「穂乃果ちゃん…」

にこ「で、でもっ…もしかしたら今度はこの中の誰かが…」

絵里「そうならない為にも事前準備は必要ね」

ことり「事前準備…?」

絵里「私なりにあっちの世界での仕組みを出来るだけまとめてみたわ…。みんなにこれを読んで欲しいの」

海未「す、凄い…流石絵里ですね」

絵里「あの世界から戻ってこられたのが私と穂乃果だけだったから…」

穂乃果「えへへ…穂乃果全然役に立たなかったけどね」

絵里「そんな事ないわよ…さぁ、みんな注目して」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・

絵里「…こんな所かしら?」

ことり「うんっ、分かりやすくて全部覚えたよ~」

真姫「…これで、誰も死ななければいいんだけど」

にこ「……」







穂乃果「行こう…かよちゃんを元に戻す方法を探しに!」

穂乃果「ずっとこのままだなんて…いい訳ないよっ!」

穂乃果「私達は、9人で一人なんだから!」

凛「うんっ…絶対に見つけてやるにゃー!」

絵里「…辛いのはみんな一緒。μ'sは9人全員が心で繋がってるもの」

絵里「一人の悲しみはみんなの悲しみ…でもそれを乗り越えることができるのも」

絵里「仲間がそばにいるから…でしょ?」

ことり「うんっ…!」

海未「正直、まだ何も分かっていない事だらけで不安ですが…」

海未「それでも、みんながいるから私は頑張れます」

穂乃果「そうだよっ!私達はみんな同じグループで、仲間でっ!」



穂乃果「''友達''だかr…!」












      ゾ ワッ…














穂乃果「……え?」

真姫「…穂乃果?」

穂乃果「……」

にこ「…おーい、どうしたのよー?」

穂乃果「…えっ?あっ、ううん。何でもないよ」

海未「…穂乃果、何だか顔色が優れていないようですが」

穂乃果「ぜーんぜんへーき!ほらっ!いつもの穂乃果だよっ!」

絵里「…あまり無理はしないで、今日はこれで解散にしましょう」

絵里「もしあるとするならば、今日の夜…また会いましょう」

希「そうやね…」











穂乃果「……」


穂乃果(昨日と同じ…すごく、嫌な感じ)


穂乃果「気のせい…だよね」




――――――――――――――――




-夜 穂乃果の部屋-



穂乃果「……」


穂乃果「部室ではあんな事言ったけど…」


穂乃果「……」


穂乃果(…やっぱり、怖い)


穂乃果(次は誰からだろう?)


穂乃果(もし、また穂乃果だったら…)


穂乃果「……」










穂乃果(…っ)バサッ

穂乃果(お願いすることは、二つだけ)

穂乃果(かよちゃんが元に戻る事)

穂乃果(そしてもう一つは…)









      「みんな、生きて帰ってくること。」










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・

――――――――――――――――




-???-



穂乃果「……」

穂乃果「…っ」

穂乃果(やっぱり…来ちゃた)



海未「…穂乃果」

穂乃果「あ、海未ちゃん」

ことり「ことりもここにいるよぉ~」

海未「ここにいる、という事は…私たちではないようですね」

穂乃果「他のみんなは?」

絵里「……ここよ」

希「予想的中…今夜もここで過ごさないといけないみたいやね」

凛「今回は凛でもなかったよ」

にこ「……」

穂乃果「にこちゃんもいる…ってことは」














真姫『…!……!!』


穂乃果「真姫ちゃん…っ」

・・・・・・・・・・・・・・



-最初の部屋-



真姫「嘘でしょ…よりによって私だなんて…」


真姫「は、8人もいたのに…」


真姫「やだ…怖いっ…」












ヴィオラ「……」

真姫「きゃああっ!!」

ヴィオラ「……」

真姫「あ、アンタ…いつからそこにいたのよっ!」









ヴィオラ「……」

真姫「何か言ってくれてもいいじゃない…」

真姫(何なのこの子…不気味だわ)

真姫「…ねぇ、ちょっと」

ヴィオラ「……」

真姫「振り向いてもくれない…なんなのよもうっ」








ヴィオラ「……」

真姫「…取り敢えず。先に行かなきゃ」

真姫(確か花陽はこの先にある扉で食堂みたいな所に出たわよね…そこまで行ってみようかしら)

-西側 作業台-




ヴィオラ「……」ガチャガチャ

真姫「えっ…?」

真姫「な、何で開かないのよっ!」

真姫「え?どうして?昨日花陽が開けた筈じゃ…」






ヴィオラ「……」

真姫「ちょっとっ!何か言いなさいよ!どうしてこの先の扉が開かないのよ!」







ヴィオラ「……」

真姫(…自分で調べろ、って言いたいの?)

-???-



真姫『……!?』ガチャガチャ





ことり「こ、これって…どういう事なのかな?」

希「昨日花陽ちゃんが開けたはずの扉が開いてない…それに」

にこ「…え?何?」




絵里「…血の跡がない」

凛「あっ…!ほんとだっ!」

絵里「ハサミに手形に…あれだけあった血の痕跡が一つもないわ」

海未「はい…それに真姫が最初に現れた場所にも違和感を感じます」

海未「あの場所は確か、花陽が探索を開始した場所です」

ことり「てことは、つまり…」












穂乃果「……時間が、戻ってる」

――――――――――――――――



-西側 作業台-



ヴィオラ「……」ザシュッ…! ザシュッ…!

真姫「うっ…」

真姫(何これ…意味わかんない)

真姫(これじゃ花陽とやってる事と一緒じゃないっ…!)

真姫(…じゃあ、私も)

真姫「…っ!」ブルッ









ヴィオラ「……」

真姫「…絶対に、死なないんだからっ…!」


ドンッ

      ドンッ

 ドンッ


   ドンッ!!  




真姫「はぁっ…!はぁっ…!はぁっ!」 ダッダッダ…




バタンッ!






ヴィオラ「……」

真姫「はっ…はぁっ…!うっ、げほっ!げほっ…!」

真姫「…っ、ふぅ…」

真姫(何もかもが花陽と一緒…って事は)

真姫(花陽が黒猫に話しかける前に…死んじゃって)

真姫(それまでの経緯が全部消えてるって事…?)

真姫「…じゃあ、この先は」







ヴィオラ「……」テクテク

真姫(花陽と同じ行動をすれば、死んじゃう)

真姫(気を引き締めないと…)

-西側 作業台-



ヴィオラ「……」

真姫「…確か、ここに」





      
      ぼとっ






真姫「きゃっ…!」

真姫「…これ」

真姫(さっきこの子が切り取ったテディベアの手足…)

真姫(花陽はこれを気味悪がってそのまま放置してた。けど…)









ヴィオラ「……」

真姫「何してるのよ…早く拾ってよ」

真姫(何か、使えるのかも)







【テディベアの手足を手に入れた。】







ヴィオラ「……」

真姫「…このまま進めば、次は食堂ね」

真姫「必ず…必ず生きて帰ってやるんだから…」


-食堂-




ヴィオラ「……」テクテク

真姫(…花陽はここを一目散に駆け抜けて行ったけど)

真姫「周りをよく見てみれば…すごく色んなものが置いてあるのね」

真姫「それにっ…酷い臭い…う゛えぇ…」

真姫「……周りを調べないと」

真姫「何か、ヒントになるようなものは…」










真姫「…!」

真姫「あるっ…机に紙が一枚…そしてこっちには貼り紙…!」









          【どくみを しろ】











真姫「…どくみ?」

真姫「どくみってあの毒味よね?何を毒見しろって言うのよ…」

真姫「…机の上には、蝋燭と、空のティーカップとポットしかないし」

真姫「…ん?」

ヴィオラ「……」テクテク








真姫「うっ…な、何よ、これ…」

真姫「気持ち悪いっ…酷い臭いっ…!」


ヴィオラ「……」

真姫「…頭蓋骨を模った器に、明らかに毒が入ってると思われる変な色のスープ」

真姫「まるで御伽話に出てくる魔女の実験のみたいね…」

真姫「…これを、毒見しろって事?」

真姫「冗談言わないでよ…こんなの飲めるわけないじゃない」




真姫(…毒見の方法って、確か人体に含ませるだけじゃない筈よね)

真姫(何か周りに使えるものはないかしら…?)









ヴィオラ「……」

真姫「ダメね…何も使えそうにない」

真姫「ここは後回しにするわ」

ヴィオラ「……」

真姫「えっと、貼り紙には何が…」








  【こっくはいそがしい てをかしてやれ】








真姫「こっく、って…!」

真姫(あの、包丁を動かしてた透明人間の事…?)

真姫「……」

真姫(そのまま手を貸す…って意味じゃ無い事は、わかってる)

真姫(だとしたら一体…)










真姫「…!」

真姫「そういう事ね…ふーん」

真姫「ほんっと…くだらないわ…っ」

-厨房-



カサカサ…


    カサカサ…


  ウゾ
      ウゾ



真姫「うっ…何よここ」

真姫「虫だらけじゃない!少しは清潔にしたらどうなのよっ!」

真姫(ううっ…早く出たい)




  シャクッ




真姫「ひぃっ!!ふ、踏んだっ…!」

真姫「気持ち悪いっ…!は、早く用事済ませなきゃ…」



 トントン

    トントン



「ああ いそがしい いそがしい」






ヴィオラ「……」

真姫「……」

真姫(見えないコックが包丁を動かしてる…)

真姫(花陽はこいつに…)

真姫「…っ」

真姫(落ち着いて…感情任せに動いてはだめ…)

真姫(きちんと状況の確認をしないと…)

真姫(汚い台所に…食器棚、あとさっき鍵がかかってる扉もあったわね)







真姫「…机の上に何かあるわ」

真姫「料理のレシピ…?取り敢えず読んでみようかしら」

ヴィオラ「……」ペラッ

真姫「…『貴族の食卓』」

真姫「………」








真姫(昔の富裕層は、銀製の食器を好んで使っていた)

真姫(手入れの大変な銀製の食器を使う事で、経済力を示してたのね)








ヴィオラ「……」

真姫「…ふーん、そういう事ね」

真姫「で、銀は毒に反応して色が変わる、と…」


 トントン

    トントン



「ああ いそがしい いそがしい」



真姫「……ねぇ」

真姫「あなた…手が足りてないのでしょ?」

真姫「あげるわよ…これ」







「ああ ありがとう」


「ちょうど ''て'' が 足りなかったんだ。」








真姫「……そう」


「お礼にこれをやるよ。」








【銀のカギを手に入れた。】







.

-食堂-



バタンッ






ヴィオラ「……」

真姫「……」

真姫「何が…手を貸してやれよ」

真姫「こんなの…ただの言葉遊びじゃないっ…」

真姫「こんな事で…花陽はっ…!」







ヴィオラ「……」

真姫(…でも、もし私が昨日の花陽と同じ立場なら)

真姫(ここまでの答えにたどり着くことが出来たのかしら…?)

真姫(あんな怖い思いして…頭が全然回らない状態で…)











真姫「…ごめんね、花陽」

真姫「あなたの死は…絶対に無駄にしない」

ヴィオラ「……」

真姫「…'銀'の鍵っていうくらいだから、ここに入れてもいいわよね?」

真姫(さっき開かない扉に使ったらひどい目にあったし…て言うより、ゴキブリが落ちてくるってタチ悪過ぎじゃないの!)

真姫「…ねぇ、入れてよ」


ヴィオラ「……」トプンッ










真姫「…!」

真姫「鍵が黒く変色した…つまり毒が入ってる!」

カチッ




真姫「…今、鍵が開いた音がしたわね」

真姫「きっとさっきの扉…行ってみようかな」








  ガシャンッ






真姫「ひっ…!」

真姫「…わ、ワインボトルが落ちただけ?」

真姫「もうっ!なんなのよー!」

真姫「びっくりさせないでよっ!このっ!このっ!」 グシャ グシャ

ヴィオラ「……」

-厨房-





ヴィオラ「……」

真姫「…あれ?」

真姫(さっきのコックがいない…何処行ったのよ)

真姫「変に動かないでよ…怖いじゃない」









ヴィオラ「……」ガチャ

真姫「…ここから先は、全くの初見ね」

真姫「慎重に進まないと…」

-階段-



ヴィオラ「……」テクテク

真姫「…何か、普通ね」

真姫「何か仕掛けでもあると思ったのだけど」










           「……」      フッ










真姫「…えっ?」

真姫「い、今…何かいた…」  スッ

真姫「!?  ま、窓にもっ!」


ヴィオラ「……」ガチャ

-渡り廊下-



ヴィオラ「……」テクテク

真姫「もうっ…なんなのよっ…」

真姫「こんなの…怖がるなってのが無理よぉ…」









黒猫「」

真姫「…あ、あれはっ…!」







ヴィオラ「……」

真姫「黒猫…って事は、私っ…!」












          【猫の置物がある。】















黒猫「…なんちゃって。」

真姫「……」イラッ






プツンッ




・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・

-???-




真姫「…っっとにムカつく!今度あったら文句言ってやるんだからーっ!」

ことり「ま、まぁまぁ…無事に戻ってこられたから、ねっ?」

真姫「何かの罠かと思って心臓止まりそうだったわよ!ほんっと信じられない!」

絵里「真姫、お疲れ様。…何か分かったことはあったかしら?」

真姫「…得に何もないわ。幽霊が二人いたくらいよ」

絵里「そう…」










真姫「…でも、直感でわかる」

真姫「この屋敷…絶対おかしいっ…」

穂乃果「……」

凛「真姫ちゃん!」

真姫「…ただいま、凛」

凛「おかえりっ…!無事でよかったっ…」

真姫「うん…花陽が守ってくれたの」

凛「かよちんが…?」






真姫「あの子が私たちの為に進んでくれたから…私は戻ってくることが出来たの」

真姫「花陽に感謝しないと…それに、絶対に元に戻して…」

凛「……かよちん」

にこ「…おかえり」

真姫「ただいま」

にこ「どう……怖かった?」

真姫「こ、怖いだなんて…この真姫ちゃんに怖いものなんてないに決まってるでっしょー?」

にこ「…そっか」

真姫「ちょ、ちょっと…そんなに沈まなくてもいいじゃない」

にこ「……」







真姫「……大丈夫だから」

真姫「慎重に考えて、落ち着いて行動すれば…絶対戻って来れる」

にこ「……」コクン

海未「…さて、今ここにいないメンバーは」






希『…………』






ことり「…もう行っちゃってるね」

絵里「……希」

穂乃果「大丈夫だよ、絵里ちゃん」

穂乃果「希ちゃんは私達の中でもすっごく頼りになる女の子だもん」

穂乃果「絶対に戻ってくる」

凛「そうだにゃー!希ちゃんが簡単に倒れる訳ないよ!」

海未「…絵里、希の無事を祈りつつ見守りましょう」

絵里「えぇ、そうね」











絵里(……)

絵里(絶対に死んじゃダメよ…希)

-渡り廊下 甲冑の前-





希「…今度はうち、なんやね」

希「あはは…いざ自分の番ってなったら、やっぱり怖いなぁ」

希「絵里ちも自分の時はこんな気持ちだったのかな?」

希「……」

希「うー!あまり暗いのはうちの性分には合ってない!」

希「今を精一杯生きる事が大事やんな。気合入れて頑張ろっ!」












希「…ねっ?あなたもそう思わないー?」

ヴィオラ「……」

希「まず、周りの探索をしてみよっか」

希「……」キョロキョロ




希(扉が三つ…一つは蜘蛛の巣が張って少し不気味やね)

希(それにこの甲冑、なーんか怪しい…)

希(今にも動きそうって感じやんなぁ)

希「……」








ヴィオラ「……」テクテク

希「うんうん、まずは怪しい所から行ってみるのが定番!」

-倉庫 樽置き場-



ヴィオラ「……」ゴソゴソ

希「うーん、どれも同じ樽ばっかりやんなぁ」

希「それに蜘蛛の巣が至る所張ってるから少し気持ち悪い…」

希(何かありそうと思ったけど…違ったかな?)

希「…ん?」













希「…貼り紙、やね」

希「見ておくことに越した事はないし、読んでみようか」








         【くもは めがわるい】

 
      【いろまでは  わからないだろう】













希「…くも。いろ…」

希「これだけじゃ何も分からないなぁ…もうちょっと探索を」

希「…ん?」












希「…あれは」

希(他の蜘蛛の巣の何倍もの大きさ…その真ん中に蝶が捕まってる)

ヴィオラ「……」

希「…蜘蛛は、目が悪い。…色までは分からないだろう」

希「つまり、蜘蛛の目を欺けって事なのかな…?」

希「だとしたら…まだこれには触らない方がええんやろうね」

希「っと、ここは後回しにして次の場所に…」ゲシッ

希「きゃっ!」











ヴィオラ「……」

希「いたた…樽に突っ掛った」

希「…ん、これって」

【ロープを手に入れた。】






ヴィオラ「……」

希「…不幸中の幸いって事かな?」

希(でもロープ…何に使うんやろ?)

希(窓から脱出!…ってするには短すぎるし)

希「…取り敢えず、持っていこうか」

希「備えあれば憂いなし♪ってね」










ヴィオラ「……」テクテク

希(本当に何も喋らないんやんなぁ…うちの声聞こえてるのかな?)

ヴィオラ「……」ガチャガチャ

希「…ここは開かない、かぁ」

希「…ん?」







    【ちょうを すくえ】









希「…ふむふむ、なるほど」

希「要するに、あの部屋の蝶を放してあげないと先に進めない」

希「…そうすると他の部屋は、蝶を助けるための用意されている」

希「こう考えたほうがいいみたいやね」

ヴィオラ「……」



-書物庫-





ヴィオラ「……」

希「こ、ここはっ…!」

希(本が一杯…ここは書物室みたいやね)

希(これはいけそう…色んな事を理解するチャンス)

希「…ちょっと待っててなー」















希「……」パラパラ

希「うーん…コレといって役に立つものはないなぁ」

希「でも虱潰しに探してみるのも…」

希「あれ?」

希「…ここ、妙な気を感じるなぁ」

希「……」

希「」ペラッ

ヴィオラ「……」







『魔女の家』








希「…!」

希(魔女の…家?)

希(何やの、これ…)

希「……」ペラッ



 
    ~魔女の家の扉は カギでは開かない。
 

     何かがカギになっている。




希「…うん、うちの予想通りやんな」

希「……つまり、仕掛けを動かすことで扉が開く」

希(そしてここが『魔女の家』…って事で間違いないみたいやね)

希(…他の本も読んでみようか)






希「魔女の家、その2」ペラッ






    ~魔女の家は 魔女の力によって 姿かたちを変える。






希「その3」





    ~魔女の家は 人間を喰らう。

 
 
     食われた人間の魂は 悪魔に捧げられる。







希「…その4」





    ~魔女の家は 意志を持つ。

     魔女の家の住人は 悪魔に喰われた魂の残骸であり

     意志を持たない。





.

希「……」

希「段々と分かってきた…でも」

希「巻が進むにつれて何の事を言ってるのか…よく分からないなぁ」




希(それに、なんやろう…このもやもやする感じ)

希(まるで、まだ知らなくていい事を知ってしまった。…そんな感覚)

希「…まだ続きがあるのかな?」











ヴィオラ「……」テクテク

希(…この子は、何も関心を持ってない…持とうとしてない)

希(もしかして、この子が)

希「…次はこの本棚やね」

希「」ペラッ






   『笑い話』






希「…魔女の家の続きじゃない?」

希「取り敢えず読んでみよっか」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





希「……何やの、これ」






アッハッ!     

          ハッ!

     ハッ!

ハッ!      
         
          ハッハ~ッ!






希「っ!」

希「…今、椅子が笑ったよね」

ヴィオラ「……」











希「……」

希「ブラックジョークにしても全然笑えないけど」

希「少なくとも、あなたにとっては面白いってことなんやね」

ヴィオラ「」ゴソゴソ

希「……おかしい」

希(確かにこの本棚にも読める本がある気がする…でも)

希「…読めない」

希「うーん、これはこれでもやもやするなぁ」ペラッ

希「…ん?」













ヴィオラ「……」ペラッ

希「新聞の切り端…何かに関連する事かな?」

希「…読んでみよっか」





   ~×月×日、×××区にて、××さん宅が全焼。

   
    焼け跡から、××さんと、その妻××さんの遺体が発見された。
  




   ~遺体には刺し傷があり

  
  
    何者かが二人を殺害後、建物に火を放ったとみられている。





   ~また、事件後、××さんの一人娘である

    エレンちゃん(当時七さい)が行方不明になっており

    警察は

 







希「……これは」

希(まるで推理小説の仕込みみたいな…そんなあからさまな手がかり)

希(建物っていうのは、この家の事で……この子がエレンちゃん?)

ヴィオラ「……」












希「…取り敢えず、ウチがする事は一つ」

希「生きて帰って、この事をみんなに知らせる事」

ヴィオラ「……」

希「さて…ここはもう調べ尽くしたかな?」

希「次は…ん?」









「あーあ、本の整理がうまくいかないや。」


「なにかしばるもの ないかな…。」







希「……」

希(見えない何か…花陽ちゃんの時と一緒)

希(落ち着いて、慎重に行動しないと…)

ヴィオラ「……」

希「縛るもの…って言ったら、これしかない」

希(でも、本当に渡していいのかな)

希「……」







        「あっ。」



        「それくれるの?」








希「……」コクリ






        「ありがとう!



        …これあげる。」








【読むと死ぬ本を手に入れた。】






希「…っ!」

希「…なに、これ」

希(今までのどの本よりも禍々しい気を感じる……これは、やばい!)

希「……」







        「…」







希「…ありがとうなー♪」

希「本の整理、頑張ってね」

ヴィオラ「……」

――――――――――――――――




ガチャ


希「ふぅ…次は」





  ギッ

    ギッ  

      ギッ…






希「…甲冑が動いてどこかに」

希「……」

希「スゥー…ハァーッ」







希「うん…じゃあ、次に行こうか」

ヴィオラ「……」

-展示室-



ヴィオラ「……」

希「…ここは」



希(ガラスケースが二つ…その中には、昆虫の模型…?)

希(昆虫…もしかして)








ヴィオラ「……」ガチャ ガチャ

希「あった…蝶の模型」

希「でも、ここは開かない…つまり何処かに仕掛けがある」

希「それを探さないと…」

希「えっと、部屋はこっちにも…」




   ガチャンッ!




希「っ…」ピクッ

希「何の音…?」

希「……」










ヴィオラ「……」

希「ガラスケースにひび割れしてる」

希「そ、それに…何?これ…」

ヴィオラ「……」

希「…うっ」

希(これ…どう見ても人間の生首やん)

希(虫だけじゃなくて、人間まで標本にする……魔女って言うのは、本当かもしれんね)

希「…それよりも、ここの部分からヒビが入ってる事は…これ」

希「……」





ヴィオラ「……」

希(どうしよう…もうここ以外に進める所はない)

希(でも…)

希(……)









ヴィオラ「……」テクテク

希「…神様。どうか、ウチの事をお守り下さい」

・・・・・・・・・・・・・・・・


ヴィオラ「……」

希「不自然な場所に置いてある本棚、そして」

希「この本一冊分の隙間…そういうことなんやね」

希「……お願いしてもええ?」

ヴィオラ「……」ゴソゴソ





   
    ゴトッ








希「…!」

希「今のは、ガラスケースの方から聞こえた…」

希「…ケースが、外れた」



             ォ


   
     ォ


             オォ…





希「……」










         ドクンッ…









.



…不意に、希の心臓が激しく動悸を起こし始める。


今までに経験した事のない緊張感が押し寄せ、全身に重しを括りつけたかのように体が思う様に動かなくなる。
先に呼吸を整え、不安で揺らいでいた心を落ち着かせた…が、それも無駄になってしまった。
仕掛けを動かした後、明らかに周囲の空気が変わるのを感じたのだ…。



もしかすると、自分は選択を誤ったのかもしれない。
もっと周囲を調べ、慎重に事を運ばなければいけなかったのかもしれない。
そんな思考を巡らせながらも、早まった行動に対する後悔をせず、冷静に次に起こる事を予測する。




仕掛け…ガラスケース…生首…ひび割れ
そこから導かれる答えを出すのにはそれ程時間を費やさなかった。

希「……っ」


希「…く…ぅ…」


希「はぁ…はぁ…っ…」


希「……」グッ






希は身構えた。今から起こる出来事に備える為に。
一歩、二歩と少しずつ足を動かしていく…
恐怖、














 
 
             そして、恐れていた事が現実に起こる





    物理法則を無視した動きをした生首が、希に向かって飛び出してきた。












.

ゴォォォォォォォォォ…!



希「ひぃっ!」ダッダッダッダ!

希「あっ…はっ…はぁっ…はぁっ!」

希「い、いやっ…!こっち!こっちに来んでっ!」

希「いやっ…いやぁっ!!」






希の声など聞く耳持たぬという勢いで迫り来る人の頭部
それは希の頭に狙いを定めて襲いかかってきた。


それはまるでヒトの下部を求めている行動のようだった。
足のない物体が、自らの顔に向かって飛んでくるという現実味のない出来事が希の恐怖心をさらに募らせていく。




希「い、いやっ!やめっ!やめてっ!」

希「うわああああああああっ!!!」



















ガチャ…バタンッ







――――――――――――――――




希「はぁっ…!はぁっ・・・!」


希「ぐっ…はっ…ふぅ…」


希「はぁー…はぁーっ…」









希「…もう、追ってこない」

希「……」



ペタン



希「は、はは…」

希「ウチ…生き残ったん…」

希「そっかぁ…そっか…」

希「……あはは」

希「……うっ…グスッ…っ」











ヴィオラ「……」

希「…あなたはすごいね、あんなに走っても、汗一つかかないだなんて」

-展示室-


ガチャ



ヴィオラ「……」

希「……もう、いないみたいやね」

希(でも、また襲いかかってくるかもしれない)

希(ちゃんとルートを確保しつつ…ケースの前に)












ヴィオラ「……」ガコン

希「やった…これであの部屋に行ける」






【蝶の模型を手に入れた。】






希「……」ガクカク

希「あっはは…膝が笑ってる」

希「やっぱり、うちも女の子やんなぁ…怖いものは、怖いね」

希「…でも」











ヴィオラ「……」テクテク

希「だからこそ、みんなの所に早く行かんとね」

-倉庫 樽置き場-



ヴィオラ「……」ガサゴソ

希「…うん、蝶を外してあげて…そしてこの模型を」

希「…よし」








【蝶を手に入れた。】







希「…これで、ここで出来ることは終わった筈。」

希「だけど…仕掛けが動いた音はしてない」

希「…うーん、まだ見てないところは…」



バキッ!



希「きゃっ…!」

希「…床が崩れただけ」










希「……余りにもタイミングが良すぎる、そう思わない?」


ヴィオラ「……」

――――――――――――――――

-渡り廊下 甲冑前-


ガチャ



希「…ふぅ」

希「ん?」ヒラヒラ









…蝶は手のひらから飛び立ち、壁の外へとすり抜けていった。









     ガチャ




希「…!」

希「今の音…扉が開いたのかな?」

希「…ちょうをすくえ。ちゃんとできたみたいやんな」

希「……ふふっ」

希「あっ…まだまだ!ここからが肝心!」

希「黒猫を見つけるまで安心は出来んよ!」









ヴィオラ「……」ガチャ

希「さぁ、レッツゴー!」

-階段-


ヴィオラ「……」ジャリ

希「…階段に土嚢が散らばってて、歩きにくいなぁ」

希「でも苦労して切り開いた道だから、ちゃんと通っていかんとね」











ヴィオラ「……」


希「さて、次は何があるのかな…?」

-通過口-



ヴィオラ「……」

希「あれ?ここは…何もない」

希「…このまま先に進めって事?」









黒猫「」

希「…どうやら、そうでもなさそうやんな」

ヴィオラ「……」

黒猫「やぁ。」











希「……」

希「えっ、それだけ…」






プツンッ





・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・

――――――――――――――――



-???-



希「…あ」

絵里「希っ!」

希「絵里ち…」


ギュウッ


絵里「あぁ…よかった…生きて帰ってきてくれてっ…!」

希「…うん、ただいま」

絵里「大丈夫?怪我とかしてない?」

絵里「もし具合が悪いならすぐに横になって…」

希「絵里ち、ウチは大丈夫。それより…」

希「ありがとう。ウチの事、心配してくれて」

絵里「もうっ…当たり前じゃない」

絵里「……副会長のいない生徒会だなんて私嫌なんだから」

希「…そっか、ふふっ」

穂乃果「希ちゃん!」

凛「よかった~!あの生首に襲われたときは死んじゃうんじゃないかって」

希「あー、ウチの事信用してなかったなぁ~?」

凛「えっ!?そ、そういう意味じゃ…」

希「うりゃー!」ワシワシ

凛「いやーっ!!」










真姫「もうっ…希は相変わらずね」

にこ「…本当にそう思う?」

真姫「えっ?」

にこ「誤魔化してるのよ…みんなが不安にならないように」

にこ「あんなに怖い思いした癖に…」

真姫「……」

絵里「…次は、誰かしら?」

ことり「あっ…あっ…」

穂乃果「ことりちゃん?」

ことり「さ、さっき…ことりの前にいたはずの」

ことり「う、海未ちゃんがっ…!」

穂乃果「…えっ!」












海未『………!』


穂乃果「…今度は、海未ちゃん…!」

-通過路-





海未「……ついに、私の番が回って来てしまいました」

海未「ゆくゆくはこうなるとは思っていたのですが…これは」

海未「…少し、ショックが大きいですね」

海未「……」









ヴィオラ「……」

海未「初めまして、園田海未と申します」

海未「少しの間ですが、どうぞ宜しくお願いします」

ヴィオラ「……」

海未「…さて」

海未(今までとは違い、扉がありません)

海未(これは、何か意味があるのでしょうか)

海未「……」キョロキョロ






海未「…!」

海未「この明かりの下の壁、血の跡が…」

海未「そして、この先の道からまっすぐに、血痕が残っている」

海未「……」

海未(絵里や花陽、そして希の時にも感じていましたが…)

海未(血痕のある場所には、必ず罠が張られていました)

海未(そしてそれは、どれもが死に直結するものばかり)












ヴィオラ「……」テクテク

海未「…いつでも走れる準備をしておいたほうがいいみたいですね」

-渡り廊下-




海未「さて、この廊下をっ…!?」






    ヒュンッ!





海未「きゃあっ!」サッ




海未「はっ…はぁっ…!」


海未「い、今のは…っ!」




海未(僅かに見えた…あれは紛れもなく、ナイフっ…!)

海未(もし、あの場で咄嗟に避けていなければ…!)

海未「……」

海未(いつまでもここにいたら危険です)

海未(ここは…自分の眼を信じるしか、ない)





海未「…はっ!」ダッ!





ヒュンッ  

     ヒュンッ 
      
          ヒュンッ!




海未「うっ…!」

海未「はぁっ…!はぁっ…!ああっ!」ダッダッダッ

ヴィオラ「……」ダッダッダ

-通過路-




ヴィオラ「……」

海未「はぁ…はぁっ…」

海未「な、何故…私だけ初めから…」







海未(……文句を言っても仕方ありません)

海未(ここからは本当に慎重に進まなければ…)

海未「…おや」
















黒猫「」

海未「えっ…も、もう終わり。ですか…?」

ヴィオラ「……」

黒猫「やあ。」

海未「…こ、この猫は」




黒猫「そういえばこの家ってね、魔女の家なんだよ。


   …知ってた?あ、そう」




海未「…魔女の、家」









プツンッ





・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・

-???-



海未「……」



穂乃果「う、海未ちゃん!」

海未「穂乃果…」

ことり「うえ~んっ海未ちゃぁんっ!」

穂乃果「よかったっ…ナイフが飛んできた時一瞬何が起こったのか分からなくてっ…!」

海未「す、すみません…こんなに早く帰ってきてしまって」

ことり「そんな事ないよぉ~!もしことりだったら絶対あの場所で絶対死んでたよぉ!」

海未「こ、ことり…少し落ち着いて下さい…」

絵里「…さて、次は誰が」

絵里「…って、あら?」

にこ「どうしたのよ」

絵里「いや…えっと…あれ?」

真姫「ちょっと、言いたい事があるなら言いなさいよ」

希「……!」

凛「えっ?み、みんなどうしたの……え、みんな?」

ことり「こ、これって…」

海未「もしかすると…!」




穂乃果「み、みんない」









グ ニ ャ ア









・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・

――――――――――――――――



チュン…   チュン






穂乃果「……」

穂乃果「え……えっ?」

穂乃果「穂乃果の…家」



ガバッ



穂乃果「も、戻ってこれた!?」

穂乃果「えっ…?どうして…?どういう事…?」


ピリリリ


穂乃果「!」ピッ

穂乃果「も、もしもしっ!」


海未『穂乃果っ!…あぁ、よかったっ…!』


穂乃果「海未ちゃん!穂乃果達…戻ってこれたんだよねっ!?」


海未『詳しくは学校で…全員が戻ってきていのか心配ですから』


穂乃果「うんっ!分かった!」pi










穂乃果「……」

穂乃果「生きて…帰って来れてんだね」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・



…その後、みんな元の世界に戻ってることを確認できてみんなで喜んだ。

でも、やっぱりかよちゃんはそのままで…まだ何も終わってない事を穂乃果たちは知った。



今日も部室で会議がある…いつになったらこの悪夢が終わるんだろう?

あの家から外に出る事が出来たら?

私達をあそこに閉じ込めた犯人をやっつけたら?




それとも…みんなあの家で死んでしまったら?







穂乃果(……こんな事、考えたくないのに)


穂乃果(悪い方、悪いほうに考えちゃう…)


穂乃果(どうして…)


穂乃果(どうしてこんな事になったんだろう?)


穂乃果(穂乃果…何か悪い事したかなぁ)


穂乃果(何か…なに、か…)


穂乃果(………)








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 
                「……」


           「ねぇ、そろそろ諦めたら?」



「今度の人間、すごく頑張ってるよ?このまま最後まで進ませていいの?」




                「……」

      
        

        「まぁ、別に私はどうでもいいのだけど」


        
   「でも 自分がどれだけ無駄な事してるのか分かってる?」
      




                「……」



         「えっ?…無駄かどうか分からない?」










             「……ふふっ、」


   「面白いね 何も分かってない''魔女''と話すのって」







      「だって おかしいもの。今の×××ちゃん」






            
    「私と 同じ事をして 私と同じように家を作って」


         「私と同じように騙されてる。」
 

        「怖いよね。何も知らない事って」


      「恐ろしいよね。人間も 魔女も 悪魔も。」



             「……」


           「でも、いいよ。」 

 
  「どうせ、次に××が枯れたら終わりなんだから」

    「それまでは 一緒に遊んであげるね」





      「だって、私達 ''友達''だもんね。」




             「ねぇ。」

 













          【ヴィオラちゃん。】













.

穂乃果「……っ!?」ガバッ



ことり「…へっ?」

海未「ほ、穂乃果…一体どうしたのですか?」





穂乃果「…何、今の」

ことり「えっと…穂乃果ちゃん、お昼食べれそう?」

海未「随分と疲れている様子でしたから、声をかけずにいたのですが…」





穂乃果「……」

海未「穂乃果?」

穂乃果「あ、ううん。もう大丈夫だよ」

ことり「…穂乃果ちゃん、あんまり無理しないでね?」

海未「そうですよ。これから全員で話し合いを…」









ダッダッダッダッダ…!



バタンッ!!





.

にこ「はぁっ…!はぁっ…!」

ことり「えっ…に、にこちゃん?」

にこ「さ、三人ともっ!今すぐ部室に来てっ!」

海未「えっ…?会議は放課後のはずでは」

にこ「そんなの待ってられないわよっ!早く来なさいっ!」

穂乃果「に、にこちゃん一体どうし…」ガシッ








穂乃果「…えっ?」

にこ「……見つけたのよ」












「あの……手紙の正体をっ!!」











【To Be Continued…】

本日はここまでです
長い時間お付き合いありがとうございました。

再開します
今回は即興なので投稿するペースが格段と遅くなります。

-部室-


海未「…どういう事ですか?にこ」

ことり「手紙の正体が分かったって…」





にこ「……これよ」カチ

穂乃果「…?」





穂乃果「…何これ?」

にこ「何って都市伝説よ!私達の状況にそっくりじゃない!」

海未「えっと…『プレイすると死んでしまうゲーム…【手紙】』?」

にこ「そうっ!つまりこの手紙っていうゲーム!」

にこ「私達は今…このゲームの出来事を実際に体験してるのよっ!!」

ことり「…え、えっと」

穂乃果「海未ちゃん…どう思う?」

海未「ど、どうと聞かれましても…」

にこ「ちょっと!何よアンタたち!なんでそんな微妙な反応してるのよ!?」

ことり「だ、だって…これは流石に…」

穂乃果「ねぇ…?」

にこ「はぁー!?手紙よ手紙っ!私達にもあるじゃない手紙!」



希「にこっち、それはちょっと違うと思うよ」

穂乃果「希ちゃん!?」

海未「い、いつの間に…」

絵里「こんな時間に部室に駆け込むメンバーを見かけたから」

希「何事かと思ったんやけど…」カチ

にこ「あーっ!何してるのよ希!?それを見たら本当にっ…!」








ことり「……なにも起こらないね」

にこ「あぁ…もうダメ…私達もう呪われて死んじゃう…」

希「にこっち」

にこ「へっ?」

希「仮にこのゲームを実際に体験してるとしたら、どうしてこんなに動画がいっぱいあるのかわかる?」

にこ「そ、それは…」

希「それにこの都市伝説…ゲームをするだけで死んでしまうって書いてあるよ?」

希「これを実際に体験する必要があるとは思えないなぁ」

にこ「そ、そう…なの?」

穂乃果「そうだね…これは違うと思う」







穂乃果(…それに、あの夢には)

絵里「…でも、ゲーム…ねぇ」

海未「絵里?」

絵里「あの家での出来事…仕掛けを動かしたり何かから逃げ回ったり」

絵里「どれも人為的な要素が含まれてる事に気付いたの」

穂乃果「人為的?」

絵里「今日の朝、希が体験した事を聞いててふと思ったの」

絵里「それに、昨日は誰も死ななかったのにこっちに戻ってくることができた」

ことり「そうだね。ことりてっきり誰かが死んじゃったらこっちに戻ってくるって思ってたよ…」

絵里「えぇ、私も最初はそう思ってたわ」

海未「しかし私の探索が終わると私達は目が覚めました」

穂乃果「…という事は?」









希「…あの世界には、何らかの法則がある」

希「つまり戻ってくることができるシステムが存在するってことやんな」

にこ「な、何よそれ…それってまるっきりゲームと一緒じゃない!」

絵里「そう。だからにこが言ってた【ゲームの出来事を実際に体験している】という事は」

希「あながち間違いやない、って事かも」

ことり「…じゃあ、ことりたちは」

海未「ゲームを進めるプレイヤー…ですか」

穂乃果「……」

絵里「そうね、だからあの黒猫という存在は…所謂セーブポイントのようなものかしら」

にこ「…あ、じゃあ花陽が死んじゃって、真姫ちゃんが花陽と同じ場所から現れたのは…」

海未「花陽が黒猫に話しかける前に倒れてしまい、絵里が話しかけた黒猫…セーブポイントから始まった。という事ですか」

絵里「…恐らくはそうだと思うの」

ことり「じゃあ、私達が昨日こっちに戻ってくることができたのは…」

ことり「これにも何か法則があるのかなぁ?」




絵里「それについてはまだ仮定の範疇でしか話せないのだけど…」

絵里「一日目は穂乃果、私、そして花陽が倒れて終わり」

絵里「二日目は真姫、希、海未…そして海未が黒猫に話しかけた時点で終わり」

絵里「…何か気がつかない?」

にこ「えぇ?えーっと…」







穂乃果「…一日目は三人、そして二日目も三人」

穂乃果「三人の探索が【終わった】ら、元の世界に戻って来てるよ」

絵里「…正解よ。穂乃果」

海未「……終わる、というのはつまり」

希「黒猫に話しかけるか、力尽きて倒れるかを三回繰り返すと、一日のノルマを達成した事になるって事かな」

にこ「…だから昨日は」

絵里「そして、死んだ人間は次の日の探索にはカウントされない」

絵里「ここがゲームと違う所なの」

ことり「どういう事なの?」

絵里「そうね…簡単に言ってしまえば」










絵里「この世界ではセーブは出来ても、ロードは出来ない。」

絵里「つまり、全員が倒れた時点でゲームオーバ…私達全員、花陽のようになってしまうわ」

穂乃果「……」

にこ「……」ブルッ

絵里「…詳しい話は、放課後に全員が集まり次第始めましょう」

絵里「少しでも情報が増えるだけで生存率は大幅に上がるわ」

絵里「全員で乗り越えましょう。この困難を」




キーンコーンカーンコーン…




希「…あ、授業始まっちゃったみたいたね」

絵里「さて、と…教室に戻りましょう」

絵里「4人とも、色々と考えるのはいいけど、ちゃんと頭を休める事もするのよ?」

穂乃果「うん。わかった」

海未「では私達も教室に戻りましょう」

ことり「そうだね。じゃあみんなまた放課後にねっ」











にこ「……ゲーム」

…その後、放課後にまた作戦会議が開かれた。

内容は朝絵里ちゃんが言ってた事と一緒だったけど、凛ちゃんと真姫ちゃんは震えていた。

だから絵里ちゃんはこれ以上犠牲が出ないように昨日集めた情報で色んな仮説を立ててみんなに話していた。

そして気をつける事は昨日と一緒。




【冷静に判断し、慎重に行動すること】







穂乃果(……私達のいる世界は、本当にゲームの中なの?)

穂乃果(じゃあ…穂乃果の見た夢は一体何?)

穂乃果(希ちゃんも魔女とか悪魔とか言ってたけど)

穂乃果(それも全部ゲームの中の話なの?)











穂乃果「……」

穂乃果「よく、分からないや…」









・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

-???-



穂乃果「……」

穂乃果「…慣れないなぁ。この部屋」

海未「穂乃果」

穂乃果「海未ちゃん…」

海未「……」




真姫「…最初は誰?」

凛「……」

にこ「……」

希「……」

絵里「…三年生、一年生は全員いるわね。という事は…」

















ことり『……?……!』




穂乃果「ことり、ちゃん…」

――――――――――――――――


-通過路-



ことり「…あ…あ」

ことり「ことりの番…回ってきちゃった…」

ことり「どうしよう…どうしよう…」

ことり「穂乃果ちゃん…海未ちゃん…」












ヴィオラ「……」

ことり「ひっ…!」

ことり「あ…あの…は、はじめ、まして…」

ヴィオラ「……」

ことり(うぇぇん…何も喋ってくれないよぉ~)

ことり(これからどうすればいいのぉ…?)








ヴィオラ「……」テクテク

ことり「えっと…まずは周りをよく調べないと…」

ことり「何かないかなぁ…何か」

ことり「…あれ?」

ヴィオラ「……」

ことり「なんだろう…この大きな袋」

ことり「…開けても大丈夫かな?」

ヴィオラ「……」ゴソゴソ














ことり「ひっ!」

ことり「あっ…ね、猫…黒猫の…死体…っ」

ことり「いやっ!ダメっ!閉めてっ!」

ヴィオラ「……」

ヴィオラ「……」テクテク

ことり(はぁ…変なもの見ちゃったなぁ)

ことり(でもそれだけで何も起こらなくてよかったぁ…)

ことり「えっと…次は」



ことり(北の方向に、すっごく細い道があるね…ことりが乗ったら壊れちゃいそう)

ことり(そして黒猫さんがいる扉は…)






ヴィオラ「……」ガチャガチャ

ことり「開かないね…」

ことり「じゃあ…反対側のあの部屋かな?」

ヴィオラ「……」

ことり「…こ、ここって」

ことり「……」ペラッ













            【カエルは 好き?】















-カエルの部屋-



カエル「♪」 ピョン ピョン 



ことり「……カエル、さん?」







ヴィオラ「……」

ことり「カエルは、好き…?」

ことり(どういう事だろう…?)

ことり(カエルって、ことりの目の前にいるカエルさんの事だよね?)




カエル「……」

ことり「……」コクリ

カエル「!」 ピョン

ことり「きゃっ!」





カエル「~♪」 

ことり「あっ…ことりの手に乗っちゃった」

【カエルがついてきた。】



ヴィオラ「……」

カエル「♪」 ピョイン

ことり「あ、あれ…?この子じゃなくて、ことりになついちゃった…」

ことり「いいのかなぁ…」

カエル「……」 ジーッ






ことり「…よしよーし」ナデナデ

カエル「♪」ピョン ピョン 

ことり「わぁ…」

ことり「……」ナデナデ







カエル「~♪」 ピョイン

ことり「…えへへっ♪」

-通過路-


ヴィオラ「……」テクテク

ことり「えっと…カエルさん、付いて来ちゃっていいの?」

カエル「♪」 ピョイン

ことり「うん…ありがとう」




ことり(よかったぁ…女の子が喋ってくれないから、ことり不安で堪らなかったけど)

ことり(この子がことりに懐いてくれたから、少し元気が出てきた気がする…♪)






ヴィオラ「……」

ことり「でもぉ…これからどうすれば」

ことり「…あっ!」

ヴィオラ「……」

ことり(このすごーく狭い道…その先にレバーみたいなのがあるけど)

ことり(これって、もしかして…)






ことり「…えっとね、カエルさん」

ことり「ここを通って…あそこのレバーを倒す事って、できるかなぁ…?」







カエル「♪」ピョイン

ことり「きゃあっ」

カエル「」 ピョン ピョン ピョン









         ガチャ








ことり「ほ、本当にできちゃった…!」

カエル「♪」 ピョイン ピョイン



    …カチャ




ことり「!」

ことり「今の音は…扉!」

ヴィオラ「……」テクテク









ヴィオラ「……」

ことり「…やっぱり、開いてる」

ことり「先に進めるんだね…」

ことり「…えへへ。これもカエルさんのおかげだよ?」

ことり「ありがとう♪」ナデナデ

カエル「♪」 ピョイン

-鏡写しの部屋-


ヴィオラ「……」

ことり「こ、ここは…?」





ことり(なんだろう…この部屋)

ことり(同じような部屋が…二つ?)

ことり「…あ、貼り紙もあるね」

ヴィオラ「」ペラッ












         【かがみあわせにしろ】













ことり「鏡…合わせ?」

ことり「…あっ!もしかして…」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ことり「えっと、この観葉植物は…」

ヴィオラ「……」ギッ ギッ

ことり「うん、ここに移動させて…あとぉ」

ヴィオラ「……」 カチャ

ことり「そうそう…あと、薔薇の花が少ないから…この薔薇を」








~~~~~~~~~~~~~~~






ヴィオラ「……」

ことり「うんっ!これでいいかな?」

ことり「あとは…カエルさん。お願いね?」

カエル「♪」 ピョイン

ことり「えへへ、ちょっと待っててね?」

ことり「えっと…ここまで全部左右対称にしたけどぉ…」













ヴィオラ「……」

ことり「…何も起きないね」

ことり「うーん…あと何か見逃してる所はぁ…」







ことり「…!もしかして…」

ヴィオラ「……」テクテク

ことり「……」






ヴィオラ「……」ペリッ

ことり「やっぱり!この張り紙も剥がさないといけないんだね」








 
          …カチャ







ことり「…扉の開く音」

ヴィオラ「……」

ことり(次も頑張らなきゃ)

ことり「カエルさ~ん、おいで~」

カエル「♪」 ピョン ピョン

-小さな部屋-



ヴィオラ「……」

ことり「…すごく小さな部屋だね」

ことり「それに…あっ」









黒猫「」

ことり「黒猫さんだ…!」

ことり「えっと…これでことりの番は終わりかな?」

ことり「うーん…他のみんなと比べるとことり簡単だったけど…いいのかなぁ?」

ことり「うーん…」













ことり「…あれ?」

ことり「なんだろうこれ…日記帳?」

ヴィオラ「……」





        - お父さんもお母さんも -


       - 私を 愛してくれなかった -




          - だから ×した - 




     - それから ずっとこの家にいるの -   












ことり「…『魔女の日記』」

ことり「これって…真姫ちゃんが読んだ日記と同じ、だよね?」

ことり「……」

ことり「×した…って、もしかして」
 

ヴィオラ「……」

黒猫「やぁ。」







ことり「……えっと」

黒猫「そのカエル、迷子みたいだよ。」

ことり「えっ?」

黒猫「探してあげたら? あるべき場所を。」







ことり「…迷子」







プツンッ





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・

-???-





ことり「…あっ」

穂乃果「ことりちゃん!」

ことり「穂乃果ちゃんっ!」

穂乃果「お疲れ様!無事に戻ってこれてよかったー!」

ことり「うんっ!その…ことり、みんなに比べて簡単だったから…」

海未「何を言ってるんですか。無事に帰って来れただけで十分役目を果たしてくれましたよ」

ことり「えへへ…そうかなぁ?」

穂乃果「うんうんっ!本当に戻ってきてくれてありがとう!」

ことり「穂乃果ちゃぁん…」グスッ




絵里「…どうやら、場所によって難易度が異なるみたいね」

希「そうやね…ウチや花陽ちゃんの時は、結構難しかったんやない?」

真姫「そうね…私が初見だったら、乗り越えられてたかどうか…」







凛「あっ、次は…」















にこ『…!!!……!?』





穂乃果「にこちゃん…」

絵里「大丈夫かしら…あの子」

海未「一番嫌がっていましたからね…心配です」

-小部屋-



にこ「……」ブルブル

にこ「いやっ…なんでっ…なんでにこが…」

にこ「来たくなかったのにっ…本当に来たくなかったのにっ…!」













ヴィオラ「……」

にこ「いやあっ!来ないでっ!こっち来ないでっ!!」

ヴィオラ「……」

にこ「なによっ…なによっ…」

にこ「何でついてくるのよぉ…」

ヴィオラ「……」

にこ「何か喋りなさいよっ!気持ち悪いじゃない!」

にこ「無言でにこの前を歩いて怖がらせようだなんてそうはいかないわよっ!」

にこ「そんな事したってにこはぜんっっぜん怖くないんだからっ!えぇ本当よ!」

にこ「だからそんな事してても無駄なの!分かるっ!?」











ヴィオラ「……」

にこ「うっ…グスッ…何か…喋ってよぉ…っ」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


にこ「……」

にこ「ねぇ…本当に進まないといけないの?」

ヴィオラ「……」

にこ「……チッ」

にこ「何よ…少しぐらい話そうって気はないの?」









ヴィオラ「……」

にこ「……」

にこ(ダメ…もう何を言っても無理)

にこ(やっぱり…ここはゲームの中で、コイツは絶対喋らない)

にこ(いや違う…喋れない!)





にこ「…じゃあ、やっぱり行くしかない」

にこ「この先を…黒猫を見つけるまで」








にこ「……」

にこ(落ち着きなさいにこ…これはゲーム、所詮ゲームの中よ)

にこ(クリア出来ないゲームなんてある訳ないじゃない!必ず出口はあるはず!)

にこ(冷静に冷静に…いつものペースで)










ヴィオラ「……」

にこ「…ふん、分かったわよ」

にこ「進めばいいんでしょ進めば!」

にこ「えっと、その前に…」キョロキョロ

にこ(海未の時みたいに、こういう小さな部屋の先には何か絶対ある筈…)






にこ「…あ、貼り紙」

にこ「ことりが見逃してたの…?」

ヴィオラ「……」ペラッ
















【つぎのドアをくぐったならば そのつぎのドアまで よそみをしてはいけない】














.

にこ「…何これ?」

にこ「要するに真っ直ぐ進めって事?簡単じゃない」

にこ「……」

にこ「お、落ち着きなさい…真っ直ぐ、真っ直ぐ進めばいいのよ…」

にこ「余計なことはしない、ただまっすぐ進めばいい…」















ヴィオラ「……」ガチャ

にこ「…さぁ、行くわよ」

-廊下-



ヴィオラ「……」

にこ「真っ直ぐ、真っ直ぐ…」

にこ(…あれ?)





にこ(ここ…海未が通った廊下にそっくり)

にこ(じゃあ…もしかして…っ!)




    

       ヒュンッ!!






にこ「はぁっ!!」ヒョイッ

にこ「…ふ、ふふ。やっぱり来たわね」

にこ「こうやって忘れた時にやってくるのがありがちなのよねー!」

にこ「へっへーんだ!にこはそんなせこい仕掛けじゃ」



































にこ「   あれ」


にこ「ここ    どこ…?」


…不意に飛んできたナイフ。
それは一度経験したものならば反射的に避ける事は可能である事をにこは知っていた。

そしてそれを予想し、見事避けることができた事を喜ぶ。




しかし、気が付くと周りの景色は一変していた。
意図的に作られたと思われる長い廊下はそこにはなく、辺りは闇に覆われていた。


微かに見える煉瓦の壁には、無数の血の手形が張り詰めてられている。
地面にはいくつもの血の跡と、勢いよく叩きつけて砕けてしまったと思われる石の破片が散らばっていた。












だが、それだけだった。

出口はなく、四方に壁があり、前に進むことも、後ろに下がることも許されない。




まるで監獄のような場所に、にこは立っていた。

にこ「ちょっと……これ、どういうことよ…?」

にこ「にこ、ちゃんと避けたわよ?ナイフ当たらなかったでしょ?見てたわよね?ねぇ?」

にこ「なによここ、何処なのよ? どうしてにこ こんな所に」





混乱した頭でにこは考えた。

あの廊下はどのようにして渡らなけれないけなかったのか、どうして自分はこんな所にいるのか。


思い出すのは、貼られていた注意書き。
その張り紙通りに注意を向け、ただ真っ直ぐに進むもうとしていた。



そう【真っ直ぐ】に、進めばいい。








にこ「……ぁ、あぁ、そ、そっか」

にこ「真っ直ぐ、真っ直ぐ進まなきゃ…」

にこ「うん、にこ もう分かってる。次はちゃんと真っ直ぐ進むわよ」

にこ「ねぇ だからここから出して?次は、次はちゃんと言われた通りに にこ するから」

にこの声は誰にも届かなかった。

いつの間にかあの少女も姿を消し、ただ虚しく自分の声だけが部屋中をこだまする。





にこ「ねぇ 聞いてるの?聞こえてるんでしょ?早くここから出してよ」

にこ「もう避けたりしないから、何が来ても真っ直ぐ進むから」

にこ「ねぇ 早くここから出してよ ねぇ お お願い…」ガリ ガリ






無意識に壁を引っ掻く。
もしかすると隠し扉があるかもしれない。
そんな希望を抱きながら必死に周りの壁を引っ掻いていく


綺麗に整えられた爪は傷つき、やがてひび割れ皮膚を破いていく。
血が滲み、傷が広がり痛みを伴っているにも関わらず、にこはただひたすらに壁を掻き続ける。




そして、その行為は徒労に終わる。
全ての壁を引っ掻き回したにこの手は、新たな血の手形となり壁に染み付いた。

にこ「…ねぇっ!聞こえてるんでしょ!?ここから出してよっ!」 ガリガリ


にこ「もうわかった!もう分かったからっ!今度はもう間違えないからぁ!」 ガリガリ





                頭上から何か落ちてくる





にこ「出してっ!ここから出してっ!お願いっ!助けてっ!」 ガリガリ


にこ「いやぁっ!!!こんな所で死にたくないっ!やだっ!やだっ!いやああああああああああああああああっ!!!!!」 ガリガリ






        大きい 質量を持った何かが、重力に従って落ちてくる 


              そしてそれは 勢いに乗せて




にこ「もう間違えませんっ!お願いしますっ!お願いしますっ!」 バリッ バリッ


にこ「出してええええええええええええっ!!!ここからっ!!ここから出し」





             

              





                    ごしゃあ













             -にこの全てを 押し潰した。-



ブツンッ




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


穂乃果「…な、なに…これ…」

海未「ぁ…あ…ああっ!」

凛「に、にこ…にこ、ちゃん…っ!」



真姫「…何よ…なん なのよ 今の…」

真姫「ねぇ…何よ…何なのよ…」

真姫「にこちゃんに何があったっていうのよおおおっ!!?」  バンッ!

絵里「真姫っ!?」

真姫「戻しなさいよっ!にこちゃんをさっきの場所に戻しなさいよっ!」 バンッ バンッ!

真姫「にこちゃんはナイフを避けただけでしょ!?なんで死ななきゃいけないのよっ!?」 バンバンッ!

真姫「戻せえええええええっ!!!にこちゃんを戻してえええええええええええええっ!!!!」 バンバンバンッバンッ!

希「真姫ちゃん!」

真姫「放せっ!放しなさいっ!うわああああああああああああああああああああ!!!!」

真姫「返してええええええええええっ!!!にこちゃんを返せえええええええええええっ!!!」














真姫「ぁ…ひっ…ぎっ…返せっ…返して…ぁ…ぁあああっ…ぁ…」 ポロポロ

穂乃果「真姫 ちゃん…」




凛「そんな…にこちゃん…にこちゃん…っ!」

海未「また、一人…死んでっ…」

絵里「……」ガタガタ

真姫「ひぐっ…ぅ…あ…あぁ…あああっ…」

希「どうして…こんな…こんな酷い事っ…」










穂乃果「…ねぇ」

穂乃果「なんで ことりちゃん いないの…?」

海未「!?」

海未「こ、ことり!?何故っ!さっきまで私の傍にっ!」

凛「えっ!?ええっ!?何でっ!?どうしてっ!」

希「いない…何処にもおらんよ!ことりちゃんっ!」

絵里「一体どうなってるの!?早く映しなさいよっ!」







ブツンッ












ことり『……え?』





穂乃果「な、何で…どうしてっ…」

穂乃果「どうしてまたことりちゃんなのっ!?」

-小部屋-



ことり「…え?え?」

ことり「また……ことりなの?」

ことり「なんで…?ことりはもう終わった筈だよ…?」

ことり「なのに…どう、どうして…」












ヴィオラ「……」

ことり「ねぇ…どうして?」

ことり「ことりどうしてまた進まなきゃいけないのっ!?」

ヴィオラ「……」

ことり「…本当に、何も答えてくれないの?」

ことり「……」

ことり(…にこちゃんが、死んじゃって…でもことりたちはまだここから出られない)

ことり(という事は…やっぱり三回終わるまで続けないと…)












ヴィオラ「……」テクテク

ことり「ことりが…今日の最後」

-廊下-


ヴィオラ「……」テクテク

ことり「……」



 
 

      ヒュンッ!






ことり「っ!!」ギュッ





ことり「……」

ことり「…やっぱり、偽物だったんだ。ナイフ」

ヴィオラ「……」テクテク

ヴィオラ「……」テクテク

ことり「…あ」






黒猫「」





ことり「黒猫さんっ…!」


ことり「……でも」

ことり(何が見えても、よそ見をしちゃ、ダメ…)







ことり「……にこちゃん」

ヴィオラ「……」ガチャ

-巣窟前-



ヴィオラ「……」

ことり「うっ…」

ことり(なんだろう……ここ、生臭い)

ことり「何でこんなに…あれ?」






ことり「…紙が落ちてる?」

ヴィオラ「……」ペラッ













         【やつは はらをすかせている】













.

ことり「やつ…って、何…?」

ことり「えっと…何か周りにあるものは…」






ヴィオラ「……」

ことり「…ほかに何もないなぁ」

ことり「あるのは蝋燭と扉だけ…」

ことり「…あれ?」







ことり「こ、この扉って」

ことり「…窓から、この先が見えるようになってる…の?」

ヴィオラ「……」

ことり(扉の真ん中に…小さい窓)

ことり(ここ、どうして開いてるのかなぁ…)

ことり「…覗いても、いい?」

ことり「……」







     ジュル

  


           ウジュル


  ズル…  




ことり「ひっ…!」

ことり「な、何っ…あれっ…!」

ヴィオラ「……」

ことり(と、扉の向こうに…大きい…ヌメヌメした…)

ことり(ずりずりって…地を這って…っ)

ことり「あれって…ヘビ?」

ことり「じゃあ…やつって言うのは…あの大きなヘビの事?」

ことり「…む、無理だよぉ!見つかったらことり、絶対食べられちゃうっ…!」

ことり「だって、お腹空かせてるって…」










         『やつは はらをすかせている』














ことり「………」

ことり「あ・・・・ぇ・・・・・?」

ことり「そういう…事、なの ?」

ことり「……」


カエル「?」ピョイン


ことり「……えへへ、冗談だよね?」

ことり「だって、カエルさん、ことりの友達だもん」

ことり「ねっ?カエルさん」ナデナデ

カエル「♪」ピョイン ピョイン







ヴィオラ「……」

ことり「……嘘だって、言ってくれないの?」

ことり「……」ガシッ

ことり「……」

カエル「?」

ことり「……」





カエル「…!?」

カエル「…!…!!」ジタバタ




【カエルは嫌がっている。】





ことり「……」ガクガク

ことり「ぁ…ぅ…ぁ…」グイッ




【カエルは嫌がっている。】




ことり「ごめんなさい…っ…ごめん  なさい…」 

ことり「ごめんなさいっ!」グイッ

カエル「!?」  ガシャン!









…カエルを覗き窓から無理やり押し込んだ。






      ズウンッ…






ことり「…ぁ…あぁ…」

ことり「こ、ことり…とんでもないことっ…!」

ことり「で、でもっ…こうするしかっ…方法はっ…」










ことり(…あれ?)

ことり(でも…最初の場所に…確か…猫の 死骸が…)

ことり(じゃあ…それを入れれば…よかったんじゃ…)

ことり「…ぁ…ぁぁぁあああっ!!こ、ことり…まち、間違ってっ…!」

ことり「カエルさんっ!」ガチャ

-化物の部屋-


ヴィオラ「……」

ことり「…何処にも、いない」

ことり「……」ガタッ







ことり「ヒック…うぐっ…ごめ…ごめんな さ…」ポロポロ

ことり「ことりっ…ぁぐっ…ひどい…こと…してっ…!」

ことり「うわあああああああああんっ!!!ああああぁんっ!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



ヴィオラ「……」

ことり「……」

ことり(…行か、なきゃ)

ことり(でも…ことり…間違っちゃったから…)

ことり(にこちゃんみたいに…死んじゃうのかな?)

ことり(……)







ことり「ごめんね…ごめんねカエルさん」

ことり「ことりも…多分、死んじゃうから…」

ことり「あっちで…いっぱい謝らせてね」

ことり「…じゃあね」ガチャ













カエル「」

ことり「……え」バタンッ

バタンッ





ことり「い、今…ことりの後ろにっ…!」

ことり「カエルさんっ!いたっ!いたよね!?」

ことり「よかったぁ…!生きて…生きてたよぉ!」

ことり「カエルさんっ!かえっ」ガチャ


   ・躍+撝0・・}芭灯遏慧Cワカ>?オヌM・GfサYス^N曚麈C v徐・テVl?Ci)ヨK・惚ラテ絎・-ュ・L1
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ア・箙キ?[癇現゙ウ?モクワ2ョ・ ヘチ盈l 叢Z\]ウ'キ?u翹サNP・IK}(vー濃zノヘチ盈l 叢
NP・IK}(vー濃zノヘチ盈l 叢Z\]ウ'キ?u翹サNP・IK}(vー濃zノ


ことり「ひっ!ひいいっ!?」

ことり「いやっ!!いやあああああああああああああああああっ!!!!!」

ことり「きゃああああああああああああああああああああああっ!!!!!」

…何かがいた、湿った小さな部屋。

そこに生贄の姿は見当たらず、代わりに見えたものは生々しく動く肉の壁であった。


そのあまりのグロデスクな風景はことりに様々なものを彷彿させる。


先ほどの化物に飲まれたカエルの最後に見た光景なのか

カエルの引き裂かれた臓物が具現化したものなのか

あるいはこれが生物を犠牲にした人間に対しての罰なのか




…今のことりには、それを知る由はなかった。

ことり『いやあああああああああああっ!!ごめんなさいっ!ごめんなさあああいっ!!』


ことり『ゆるっ…許してぇっ!あグッ…あっあっあああっ!!』


ことり『いやあああああっ!!!やめてえええええええええっ!!!』


穂乃果「ことりちゃんっ!ことりちゃんっ!」

海未「は、早くっ!早くその場から離れて下さいっ!はやくっ!」



ことり『いやああああああああああああああああっ!!ゆるしてええええええええっ!!』


ことり『もうしませんっ!!もう無理矢理入れたりしませんからああああああああっ!!』


ことり『ごめんなさあああああいいいっ!!!ゆるっ…ぐぇっ…うっ…ゆるっ…ゆるしてっ…ぇぐっ…あ゛っ…!』

絵里「何よっ…これっ…!」

絵里「カエルの幻をみせて…振り返る事が分かってて…っ」

絵里「それを見据えての演出だって言うのっ!?」

希「じゃ…じゃあ…さっき、ことりちゃんが二回行ってしまったのもっ…!」

凛「これを…ことりちゃんに…見せる、為に…?」

真姫「…ふっざけないでよ…っ!」

真姫「何がしたいって言うのよっ!?こんな事して何の意味があるのよっ!」

真姫「答えなさいよっ!見てるんでしょ!?この魔女っ!!」





穂乃果「…これが、魔女の…っ」

ガチャ…バタンッ


ヴィオラ「……」

ことり「…ナサイ…ゴメンナサイ」









黒猫「猫の像がある。」

黒猫「…なんちゃって」


ことり「…ナサイ……ゴメ…」


黒猫「ちょ、ちょっと!無視しないでよ。」








プツンッ




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・

-???-



ことり「……」

穂乃果「こ、ことり…ちゃん」

ことり「…  ・・ ・」ドサッ

海未「ことりっ!?」



ことり「…なさい…ごめんなさい…」

ことり「もう…しません…だから…ゆるして…ぇ…」


穂乃果「ことり…ちゃん…」









グ ニ ャ ア 



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

――――――――――――――――





穂乃果「……」

穂乃果「…また、一人死んじゃった。」

穂乃果「…にこちゃん」

穂乃果「そして、ことりちゃんは…」

穂乃果「……」






ギシッ




穂乃果「…嫌だ」

穂乃果「もうっ…あんな所…行きたくないっ…」

穂乃果「誰か…助けて…っ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


…辺り一面に広がる美しい薔薇。
その薔薇を一つ摘み、花びらを一枚ずつ千切ることで暇を潰している少女がそこにいた。



「やぁ。」


「…なによ。何か用でもあるの」


少女はそれの相手をする事が面倒なのか、正面を向かずに薔薇を千切り続ける。


「ちょっと休憩をもらったんだよ」


「ふうん」


「ひどいなあ、僕もこれでも結構苦労してるんだよ?」


「………」


「あの子は凄いね。家に干渉する魔翌力を持ち合わせていないから」


「僕がいる場所を増やして絶望を調整するだなんて」


「………」


「聞いてる!?」


…少女は薔薇の花を千切る事に飽きたのか、森の奥を眺め始めた。

「…ねぇ、あとどれくらいで中に入れるの?」


「今の人間が全部終わったらかな?」


それは顔色ひとつ変えずに答えた。
少女の顔にはほんの僅かに苛立ちが現れたが、すぐに無表情を取り繕った。



「あの子が家を支配することは?」


「可能性はゼロに等しいね」


「………」


「やだなあ。どうして僕をそんな目で見つめるんだい?」


「べつに」


そう一瞥すると、少女はまた薔薇を弄りはじめた。

「あの子の魔翌力は、君の時ほど強くはないけど」

「それでも、着々と力が溜まりつつあるよ」


「………」


「君も運が悪かったね。まさかあの子がこんなに執念深いだなんて」


「友達は選ぶものだよ」


「うるさいな。」


訝しげに放つ言葉はそれの方を向いておらず、少女はただ薔薇に目を向けていた。

再開します
今回も即興なので深夜までかかると思います






「にっこにっこにー☆あなたのハートににこにこにーの矢澤にこにー!」


「にこにーって呼んでラブにこっ♪」








穂乃果「……」



「あっれー?みんなどーしたのー?元気ないじゃなーい」

「そんなテンションじゃ次のライブでも盛り上がらないよー?」




絵里「……にこ、今日は練習は休みにしたから」



「えぇーっ!?ほんとにみんなどーしたのぉ~?」

「元気が無いならぁ~、にこにーのにっこりの魔法でみんなにっこにっこにーにしてあげる♪」

「ほらっ!にっこにっこ」


絵里「にこっ!!」














絵里「…お願い、今日は帰って」


ヴィオラ「もーっ!絵里ちゃんつーめーたーいー!」


-部室-



…バタンッ



海未「…にこは」

絵里「帰らせたわ。本人は納得してない様子だったけど」

希「……」






凛「…真姫ちゃん」

真姫「……」

海未「真姫…」

真姫「…覚悟、してたから」















真姫「…でも、あんなのっ」

真姫「見たく…なかった……っ!」

穂乃果「……」

絵里「…そういえば、ことりは」

海未「学校を休んでいます」

海未「電話もメールも送ってみましたが…返事は来ていません」

希「こっちにちゃんと【いる】のは確認できた?」

穂乃果「うん。理事長…おばさんが部屋に篭ったまま出てこないって」

絵里「…そう」









海未「始めましょう」

凛「えっ?」

海未「昨日の時点で明らかになったことがいくつもあります」

海未「それを全員が頭に入れておく必要があると思いませんか?」

穂乃果「それは…」

海未「最早一刻の猶予もありません」

海未「今出来る事を全力で行わなければ…」












海未「私達は全員、あの家に殺されてしまいます」










.

絵里「…海未の言うとおりだわ」

絵里「仲間を失って、泣きたい気持ちは痛いほど分かる」

絵里「でも悲しんだからといって、今の状況が良くなる訳でもない」

絵里「…やりましょう。生き残って、二人を助ける為に」






凛「……」

穂乃果「……」

真姫「……」

希「…みんな」

海未「絵里、…始めてください」

絵里「分かったわ。まず昨日気付いた事なんだけど…」








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・

穂乃果(…絵里ちゃんや海未ちゃんは、昨日分かったことを一生懸命議論していた)

穂乃果(あの家は私たちを恐怖に陥れて[ピーーー]事を目的にしているとか、あの女の子が魔女なのか…他にも色々話してたと思う)

穂乃果(でも、凛ちゃんや真姫ちゃん…私も、そこまで真剣に聞いていなかった)

穂乃果(みんな、口に言わないだけで…本当は気付いてるんだと思う)

穂乃果(あの家から出ることが出来ても、二人が元に戻るなんて証拠は何処にもない事を…)










穂乃果(そして……あの家から本当に脱出できるかも分からないってこと)






穂乃果(…絵里ちゃんや海未ちゃんは、昨日分かったことを一生懸命議論していた)

穂乃果(あの家は私たちを恐怖に陥れて殺す事を目的にしているとか、あの女の子が魔女なのか…他にも色々話してたと思う)

穂乃果(でも、凛ちゃんや真姫ちゃん…私も、そこまで真剣に聞いていなかった)

穂乃果(みんな、口に言わないだけで…本当は気付いてるんだと思う)

穂乃果(あの家から出ることが出来ても、二人が元に戻るなんて証拠は何処にもないことを…)








穂乃果(そして……あの家から本当に脱出できるかも分からないってこと)






ガララッ


穂乃果「……」

雪穂「あ、お姉ちゃんお帰りー」

穂乃果「ただいま…」

雪穂「…どうしたの?そんな暗い顔して」

穂乃果「ううん、…何でもない」

雪穂「…?」

穂乃果「今日…ご飯いらないって言っといて」










雪穂「……」

雪穂「おかーさーん!お姉ちゃんが何か変だよー」


-穂乃果の部屋-



カチッ



穂乃果「……」ポチポチ




『新着メールはありません』




穂乃果「…ことりちゃん」

穂乃果「……」








ボスッ…





穂乃果「…寝よう」

穂乃果「早く…終わらせて」

穂乃果「…終わり」





穂乃果「終わりって、いつだろう…」

∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
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∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
「――お母さん?」∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
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∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵「どこか……いくの?」∴∵∴∵∴∵∵
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
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「×××……」∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
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∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∴
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴「お父さんと、仲良くね」∴∵∴∵∵
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
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「お母さん」∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∵
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
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∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵「私がやったの」∴∵∴∵∵
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∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
「やめて」∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
∴∵∴∵∴∵∴『私がやったんだよ!』∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∵
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
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∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵「やめて」∴∵∴∵
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∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
∴∵「やめろ!」∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∵
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∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
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∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵「やめろ!」∴∵∵
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∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵











            【――やめろぉ!!!】







.




「うわああああああっ!!!」 ガバッ


雪穂「うわあああっ!?」ビクッ







穂乃果「はぁ…はぁ…はぁ…っ!」

雪穂「…だ、大丈夫?」

穂乃果「…ゆき、ほ…?」

雪穂「えっと…ご飯も食べずに寝るだなんて相当疲れてるんじゃないかって」

雪穂「お父さんがコレ、持って行ってやれって…」

穂乃果「えっ…?」








穂乃果「…いちご」

雪穂「お姉ちゃん好きでしょ?いちご」

穂乃果「う、うん。でもどうして…」

雪穂「心配してるんだよ。お父さんもお母さんも」

雪穂「あんなに元気な娘がこんなにぐったりしてるだなんて何かの病気だー!って…」

穂乃果「あ、あはは…」

雪穂「はい、食べ終わったらお皿持ってきてね」

穂乃果「うん、ありがとう雪穂」

雪穂「ん」




ガチャ



雪穂「……」

穂乃果「…?」

雪穂「…無理はダメだよ」

雪穂「もう…倒れるお姉ちゃんなんて、見たくないから」

穂乃果「…雪穂」

雪穂「おやすみー」






バタンッ

穂乃果「…あはは、何か気を使わせちゃったかな?」

穂乃果「もう、みんな心配性なんだから」

穂乃果「少しぐらい放っておいても穂乃果は大丈…」










          ドクンッ









穂乃果「っ!?」バッ

穂乃果「ぐっ…はっ…はぁっ…!」




穂乃果「…げほっ」

穂乃果「なに…今の」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・


‐???‐



穂乃果「……」

穂乃果「あ…いつの間にか寝ちゃってた」





海未「穂乃果…」

穂乃果「海未ちゃん」

穂乃果「…ことりちゃんは?」

海未「……あちらに」







ことり「……」

穂乃果「ことりちゃん…」

ことり「っ!」ビクッ

穂乃果「大丈夫。…穂乃果だよ」

ことり「……」

海未「…先程から、ずっとあの調子です」

海未「落ち着くには、もう少し時間が必要かと…」

穂乃果「……」




絵里「…相変わらずね。ここの雰囲気は」

穂乃果「絵里ちゃん」

希「うちもおるでー」

穂乃果「希ちゃん…真姫ちゃんと凛ちゃんは?」

真姫「…凛なら、あそこよ」






凛『…………!!』





穂乃果「凛ちゃん…」

‐猫の銅像前‐



凛「あ……あっ……」

凛「来ちゃった…遂に…凛の番がっ…」

凛「どうしよう…どうしよう…っ!」








ヴィオラ「……」

凛「ひっ…!」

凛「り、凛には…無理…っ」

凛「絶対…無理だよぉ…っ」

ヴィオラ「……」テクテク

凛「……」

凛(本当に…何も喋ってくれない)

凛(うぅ~これからどうすればいいのぉ…?)








   ゴゴゴゴ…






凛「ひゃあっ!?」

凛「…ね、猫の首が」

凛「うぅ…もう早く帰りたい…」

ヴィオラ「……」

ヴィオラ「……」カツン カツン

凛「…長い階段」

凛「それに…暗いにゃ~…」







ヴィオラ「……」

凛「…えっ?」









-目の間-



凛「な…なに、ここ…」

凛「変な顔が…いっぱい」

ヴィオラ「……」










           【かためを とじるのがいい】










凛「……」ペラッ

凛「かため…とじる」

凛「片目を…閉じる?」

凛「どういう意味だろう…」

ヴィオラ「……」






凛「う~ん…」パチパチ

凛「凛が片目閉じても何にも起こらないにゃ…」

凛「えっと…分からない時は、周りを調べて…」

凛「…ん?」

ヴィオラ「……」

凛「こ、この口の絵…」

凛「…中が空洞になってる?」



凛(えぇっと…凛がしゃがんで進めばなんとか通れそう)

凛(それと同じような口の絵が三つ…どれも穴が空いてる)

凛(って事は…)









凛「この三つの穴の一つが、…正解?」

ヴィオラ「……」

凛(…ど、どれが正解なんだろう?)

凛(間違ったら…どうなるの?)

凛(…ううっ!考えたくないよぉ…!)

凛(で、でも…進まないと帰れないし…)












凛「うぅ~…どれが正解なのぉ~?」

ヴィオラ「……」





凛「うーん…うーん…」

凛「だめだにゃー…全然分からない」 ドサッ

凛「絵里ちゃんや海未ちゃんじゃないからこんなの分かる訳…」












凛(……)

凛(あれ…?この絵)

凛(ここから見ると…片方目を瞑ってるように見える…)













凛「!?」ガバッ

凛「も、もしかして…!」

ヴィオラ「……」

凛(…両目が開いてる口と、両目とも閉じてる口…)

凛(この二つの口の真ん中に立つと、片方ずつ見えるよね…)

凛(もしかしたら…)








      バキッ!






ヴィオラ「……」パラパラ

凛「や、やっぱり…!」

凛「もう一つ…もう一つ口の道があった!」

ヴィオラ「……」

凛「ここ、だよね…正解」

凛(もし…もしも)

凛(凛が他の三つの口の中に入ってたら…どうなってたの…?)











ヴィオラ「……」  ズリ  ズリ

凛「大丈夫…絶対」

凛「絶対合ってるから…大丈夫…!」

-隠し通路内-





ドンッ…


             ドンッ…



     ドンッ…






ヴィオラ「……」

凛「…すごく変な音がする」

凛「なんだろう…暗くて全然見えない」

凛「うぅ…ほ、本当に間違ってないよね…?」












凛「…!」

凛「と、扉…」

凛「扉だっ!扉があったにゃ!」

ヴィオラ「……」

ヴィオラ「……」

凛「よ、よかった…こっちが正解だったんだ…」

凛「でもさっきの音は一体なんだっt」






ドン



         ドンッ



    ドンッ









凛「……」

凛「え…なに…これ…?」

ヴィオラ「……」

凛「…針の、山…」

凛「え…これ…が…ずっと…動いてたの…?」

凛「他の…口の…中で…?」













ヴィオラ「……」

凛「……」

凛(見なかった…事にしよう)







ガチャ…バタンッ

-音の部屋-


ヴィオラ「……」

凛「ここは…?」





凛(何だろう…ここ、何も聞こえない)

凛(すっごく…不気味…)













凛「…あ、紙が落ちてる」

ヴィオラ「……」ペラッ












 
 
          【4つのへやで おとをならせ】















凛「…音?」

凛「どういう意味だろう…これ」


黒猫「やあ。」


凛「ひっ!?」ビクッ





ヴィオラ「……」

黒猫「この階は静かだねえ。」




凛「ちょ、ちょっと、まだ凛」





プツンッ



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・

凛「……あ」

穂乃果「凛ちゃん!」

海未「お疲れ様です、凛」





凛「…あ、あれ?」

穂乃果「凛ちゃん?」

凛「凛…黒猫に話しかけてないのに戻ってきちゃった」

海未「…どういう意味ですか?」

凛「え、えっとね?確か黒猫は居たんだけど…」

凛「凛じゃなくて、黒猫が先に話しかけてきたっていうか…」

真姫「…何よそれ、意味分かんない」

凛「だって本当にそうなんだよっ!凛、落ちてる紙を読んでたのにいきなり…」

穂乃果「どういう事だろう…?」

海未「分かりません。凛の言っていることが本当ならば…」

海未「私達の黒猫の捉え方は、少し違っているのかもしれません」

希「そうやね、じゃあ…」










絵里『………』



希「…絵里ちが帰ってきたら、その事教えてあげよっか」

穂乃果「…うん」

-音の部屋(通路)-




絵里「…2週目。ね」

絵里「穂乃果じゃなくて私だって事は…法則のようなものは無い。と考えていいみたいね」

絵里「やっぱり、この人選は人為的なものなのかしら…?」

絵里「この先、明らかに色々と頭を使わないと進めなさそうだし…」











ヴィオラ「……」

絵里「…悩んでても仕方ないわね」

絵里「まずは一つずつ部屋を廻っていきましょう」

ガチャ


絵里「…まずはここの部屋ね」






-絵画の部屋-




ヴィオラ「……」

絵里「…何かしら、ここ」

絵里「似たような絵が4つ飾られてる…これも何かの仕掛けなの?」

絵里「他には…」




絵里(机の上にトランプ、百合の花…)

絵里(そして…)








絵里「…何?このカボチャ?」

ヴィオラ「……」

絵里「…普通のカボチャが一つに、彫刻が施されてるのが二つ」

絵里「ジャック・O・ランタンだったかしら…?」

絵里「詳しくは覚えてないけど…確か青年と悪魔の話で、男の魂が憑依された物のがこれ…」

絵里「…でも、それに何の関係があるの?」







絵里(…私達の認識では、これはハロウィンパーティーで見かけることが多い)

絵里(ハロウィンのイメージとしては…幽霊や悪魔や化物)

絵里(…そして魔女)

絵里(ここは魔女の家…このジャック・O・ランタンは、この家の何かを暗示している…?)








絵里「…よく分からないわ」

絵里「取り敢えず、そこに張ってある貼り紙を見てみましょうか」

ヴィオラ「……」ペラッ










        【がくふは あおいめが みつめている】











絵里「楽譜?青い目…?」

絵里「カボチャの事は何も書かれてないのね…」

絵里「青い目…と言ったら、あの絵画なんだろうけど…」











絵里「……」ゴシゴシ

絵里「おかしいわね…どの絵も瞳の色が分からないわ」

ヴィオラ「……」

絵里(……)

絵里(4つの部屋で音を鳴らせ…そして楽譜)

絵里(これが今回の仕掛けなのは分かるのだけど…)

絵里(関連性はあるのだろうけど…その中身がいまいち掴めないわ)

絵里(この部屋だけじゃ、まだ何も分からない…って事ね)












ヴィオラ「……」 ポンッ

絵里「あら、いい音ね。このカボチャ」

絵里「……」

絵里「ふふっ、何やってるのかしら。私」

絵里「他の部屋も調べてみましょう」

絵里「…次は向かい側の部屋ね」







-オルゴールの部屋-




ヴィオラ「……」

絵里「…結構広い部屋ね」

絵里「随分と色んなものがあるけど…誰かの為の部屋なのかしら」




絵里(周りには机が数台、そして鏡台に日用品の数々…)









絵里「…そして、何よりも気になるのが」

絵里「あの不自然な場所に置かれたオルゴール…よね」

ヴィオラ「……」

絵里「…どう考えても、これがこの部屋での音の役割をしていることは分かるわ」

絵里「でもその前に、周りの確認は必要ね」

絵里「えっと…あ、あったわ。貼り紙」

ヴィオラ「……」ペラッ











           【オルゴールは 12で ならせ】












絵里「…オルゴールは、12で鳴らせ」

絵里「12…12時に鳴らせって事かしら?」

絵里「あるいはオルゴールのネジを12回捻って鳴らす…とか」

絵里「色々と考えられるけど…確証がない時点での軽率な行動は危険ね」

絵里「何かヒントとなるものはないかしら…?」

















絵里(…あれ、ちょっと待って)

絵里(これ…もしかしたら)

絵里「……」

絵里(…このオルゴール、ネジの部分が少し欠けてる)

絵里(この机は動かす事は出来ない)

絵里(でも、ここからなら…)







     


              カチリ









~♪



絵里「…!」

絵里「鳴り始めたわっ…どうやら正解のようね」

絵里(このオルゴールは蓋を開けると起動するアンティークなタイプ…たとえネジが欠けていても、音を鳴らすことは可能だわ)

絵里(オルゴールは12で鳴らせ…つまり、12時の方向を向く事で鳴らすことが出来る)

絵里(蓋を開ける部分はは私から見て12時の方向…つまり正面)

絵里(何も難しい事ではないわ…ただ正面を向いて、そこにある蓋を開けることで)








~♪


絵里「…こうやってオルゴールを鳴らすことが可能って訳ね」

絵里「危なかった…もし色々と余計な事を考えていたら、にこみたいになってたかもしれないわね」

絵里「取り敢えず、この部屋の音は鳴らすことが出来た…残り3つ」

絵里「じゃあ次の部屋に…あら?」








絵里「……この部屋、奥に扉があるわね」

絵里「行ってみましょう」

-日記の部屋-





     ピョイッ!




絵里「ひっ!」

絵里「…び、びっくり箱?」

絵里「うぅ…びっくりするのはこの家の仕掛けだけで十分よ…」









絵里「これは、日記帳…?」

絵里「魔女の日記の続きかしら…」

絵里「…読んでみましょう」






     - それから この家に 遊びに来た友達 -


           - みんな ×した -




 

        - みんな この家に食べさせた -









絵里「…これって」

絵里(確か希の読んだ本の中に、魔女の家は人間を喰らう。…ってのがあったわよね)

絵里(そして、その魂は残骸は家の住人となって…この家の中にある)




絵里「…じゃあ、にこや花陽の魂も」

絵里「この家の何処かに…潜んでいるって事?」



~♪





絵里(…もし、魂の残骸がこの家の何処かに残っているのだとしたら)

絵里(あの二人は完全に消えたわけじゃない…何らかの方法で、その魂を元に戻すことができるかも)

絵里(意志は持たないって言ってたから…探すのは少し骨が折れそうだけど)

絵里(それでも、可能性は0では無いって事になるわ)






絵里「……」

絵里「少しばかりだけど、希望の光が見えてきたわ」

絵里「僅かでも可能性がある限り、それは人を動かく動力となる」

絵里「その為にもこの階を突破して、みんなに伝えてあげないと…!」








絵里「さぁ、次の部屋の音を」











            カチリ











絵里「…えっ」

…扉を開けると、そこには兵隊の格好をしたブリキの人形が立ちふさがっていた。
この兵隊はこの通路の端に立っており、そこから微動だにしなかった事を絵里は見逃していなかった。



しかしその人形は扉の前に移動し、絵里が来る事を予測していたかのように構えていた。













――銃口を、心臓に向けて。



―ズドンッ!



絵里「がっ…!」

絵里「あ゛っ…あ゛あ゛あ゛ぁっ!!!」



猟銃と思われるその銃は、絵里の腹部に狙いを定めて銃弾を発射させた。
絵里は着弾した痛みと状況が理解できない事により錯乱し始める。


人形は心臓を狙った筈だと思ったのか、今にも折れそうな首を傾けている。
もし絵里ではなく小さな子どもであれば、狙った位置に一発で心臓を打ち抜き絶命させることができたかもしれない。





しかし、もはやそんなことはどうでもよかった。

人形は再び絵里に銃を向け玉を発射させた。




―ズドンッ! ズドンッ!

絵里「い゛っ…ぎゃああああっ!!!!」

絵里「あ゛っ…あああっ!?ああああっ!!」



…今まである一定の位置でしか発砲していなかったのか、二発の弾丸は絵里の心臓を撃ち抜かずに、右腕と左足にそれぞれ着弾する。


絵里「あ゛っ…なぁっ…なん…でぇ…ぇ…」

絵里「い、い゛やっ…だ、誰か…誰か、助げ…ぇ…っ゛!」



絵里はその場に倒れ、この場から逃げるように床を這いずり始めた。
腕と足から流れ出す血と痛みに耐えながら、半狂乱状態で動き始める…





絵里「だ…めぇ…こ…こで…じ…んだ…ら…ぁ」 ズリ  ズリ

絵里「私が…ぁ…がえらっ  ない   どぉ…!」 ズリ  ズリ

…やっとの思いで一番近いの扉に到着する。
しかし既に絵里の片足は機能しておらず。その場から立ち上がる事ができなかった…。




絵里「ぎっ…ぐっ…ごほっ!…ぐっ…がぁ…はっ…」



何とかして扉を開けようと壁を伝ってドアノブに手をかけようとする絵里。


壁伝いによじ登り開けようとするその様は、正に子どもの姿と同じだった。







そして、その後ろから向けられる銃口は、正確に絵里を捕らえ…










                 


                ズドンッ













       ― 心臓を撃ち抜き 止めを刺した。 ― 




本日はここまでとなります。
が、GWの為次の更新は明日の予定です。


では、おやすみなさい。



ブツンッ




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


希「……」

希「嘘だ」

希「こんな…嘘に決まってる」

希「だって…あの絵里だよ…?こんな…こんな所で…」

希「死ぬ  筈…    ないやん」




海未「の…希…っ!」

希「なぁ…そうやろ…?  海未ちゃん…」

希「さっきのは…何かの   ま  間違いで…」

希「う、ウチは…うち…絵里ち   …ぇ」



ストン



希「う   うわ…ぁ…あああああっ!」

希「うわあああああああああああああああああっ!!!!!!!」

真姫「希っ!」

希「な、なん…何で…ぇ…絵里ちがっ…どうしてっ…!どうしてっ!?」 ガタガタ

希「あんなっ…おもちゃにっ…こ、殺されっ…ぇえ!?」 ガタガタガタ

海未「っ…!凛っ!希をっ!」

凛「う、うんっ!」

希「いやや…こんな…こんなっ…ウチっ…絶対っ!!」 ガタガタ…

真姫「希!お…落ち着いて!お願いっ!」

希「やだっ…いやっ…!いやあああっ!!」

海未「落ち着いてくださいっ!希っ!のぞみっ!」



海未(…っ…自分の不甲斐なさに呆れてしまいますっ…!)

海未(あんなっ…あんな酷い殺人を見せられて怯えている友達にっ…)

海未(落ち着けなどとしかっ…言うことが出来ないだなんてっ!)

海未(こんな時、穂乃果ならどうやってっ…)








海未「…穂乃果?」

海未「ほ、穂乃果っ!穂乃果はっ…!」

ことり「ひっ!」ビクッ

海未「いない…まさかっ!」

凛「う、海未ちゃん!前っ!」

海未「っ!」









穂乃果『………あ』






海未「そ、そんな…穂乃果っ!」

真姫「ちょ、ちょっと…嘘でしょ…?」

真姫「絵里でも駄目だったのに…ここで穂乃果だなんてっ!」

海未「あ…ぁ…穂乃果…穂乃果…っ!」


凛「海未ちゃんっ!」

海未「!?」

凛「しっかりしてよっ!希ちゃんがこんなに怯えてるんだよ!?」

凛「海未ちゃんまで混乱したら誰が凛達に指示をくれるの!?」

海未「り、凛…?」

凛「ことりちゃんもまだ立ち直れてないのに…三年生と二年生がダメになって…!」

凛「凛と真姫ちゃんだけで色々考えてって言うの!?無理に決まってるじゃんっ!」






海未「…凛」

凛「お願いだよ…しっかりしてよっ…」

凛「凛だって…凛だってっ…!」

海未「…すみません」

凛「っ…ひっく…うっ…ぁ…!」 ポロポロ

真姫「……」








ことり「……ごめんね、凛ちゃん」






海未「こ、ことり…?」

ことり「…みんな、頑張ってるのに」

ことり「ことりだけ…いつまでも落ち込んで……甘えてた」

凛「ことり…ちゃん…っ」

ことり「……」

ことり「海未ちゃん」

海未「は、はい」

ことり「希ちゃんはことりに任せて」

ことり「海未ちゃんは、絵里ちゃんの代わりにこの家の事、よく見てて」

ことり「それと……穂乃果ちゃんの事も」

海未「……」

海未「分かりました。希の事をお願いします」

ことり「うんっ」









穂乃果『………』


海未「穂乃果…っ」

―――――――――――――――



穂乃果「……」

ヴィオラ「……」テクテク





穂乃果「…この人形」

穂乃果「鉄砲も、おもちゃだ」

穂乃果「……」











ヴィオラ「……」ガチャ

穂乃果「…絶対、許さない」



-ピアノの部屋-



ヴィオラ「……」

穂乃果「ここは…」





穂乃果「…ピアノ」

穂乃果「それに…なんだろう…この椅子の数」

穂乃果「演奏会でも開いてるの?」









穂乃果「…貼り紙だ」

ヴィオラ「……」ペラッ











           【おまえが ひくひつようはない】












穂乃果「……」

穂乃果「弾く必要はない…」

穂乃果(じゃあ…何でこのピアノ置いてあるんだろう)







穂乃果「…あ、本も置いてある」

ヴィオラ「……」ペラッ

穂乃果「…『瞳の研究』」



ペラッ






穂乃果「……よく、分からない」

穂乃果「でも、髪の色によって瞳の色が違うってことだよね…?」








ヴィオラ「……」

穂乃果(この子は、髪が金色だけど)

穂乃果(瞳の色は何色なんだろう…?)

穂乃果「ねぇねぇ、ちょっとこっち向いてくれないかな?」









ヴィオラ「……」

穂乃果(無反応…振り向いてくれるくらいしてもいいじゃん)

ヴィオラ「……」ガチャガチャ

穂乃果「…この扉は、開かない」

穂乃果「…あれ?」












          【4つのへやで おとをならせ】











穂乃果「……そっか、そうだったね」

穂乃果「全部の部屋の音を鳴らしたらこの先に進めるんだ」









ヴィオラ「……」ガチャ

穂乃果「…全部調べたけど、全然分かんないなぁ」

穂乃果「もう一度あの部屋、行ってみよう」

-絵画の部屋-


ヴィオラ「……」ペラッ

穂乃果「…楽譜は青い目が見つめている」

穂乃果「さっきのピアノ…もしかして、楽譜があれば」




    ボッ





穂乃果「…えっ!?」

穂乃果「は、貼り紙が…燃えたっ…!」







ヴィオラ「……」ペラッ

穂乃果「…!!」

穂乃果「ど、どういう事…?」









穂乃果「ま、また新しい貼り紙が出てきたよっ!?」

穂乃果「何が…何が起こってるの…?」









             【えを こわせ】











穂乃果「絵を…壊せ?」

穂乃果「どういう事…?あの絵を壊せばいいの?」




  ボッ




穂乃果「きゃあっ!」










ヴィオラ「……」ペラッ

穂乃果「…ま、また燃えた」

穂乃果「そして…最初の貼り紙に、戻った」

穂乃果「……」

穂乃果(絵を壊せ…)

穂乃果(覚えておいたほうがいいよね)





穂乃果「えっと…青い目が見つめてる所に楽譜があるって事でいいんだよね」

穂乃果「青い目…青い目…」








穂乃果「…んー!こんなの分かんないよ!」

穂乃果「取り敢えず、全部調べてみればいいことだよねっ!」

ヴィオラ「……」

穂乃果(まず、赤い髪の絵から…)

ヴィオラ「……」ゴソゴソ






穂乃果(…違う。次は金色の紙の絵…)

ヴィオラ「……」ゴソゴソ






穂乃果(…ここも違う)

穂乃果(次は…黒い髪の絵)










ヴィオラ「……」ゴソゴソ

穂乃果「…!」

穂乃果「ここ…壁が割れてる…」

穂乃果「その隙間に…白い紙があるっ!」

【五線紙を手に入れた】



穂乃果「やった…!これをさっきの部屋にっ…!」






  




            ドクンッ










穂乃果「…え」

穂乃果(な…何…今の)

穂乃果「っ!?」



ォ   


      オォ  

             オォ

   ォォオ    





        ォォオオオオオ…! 






穂乃果「ひっ!?」

穂乃果「い、いやっ…いやああああああああああっ!!!」ダッ





   オォオォォォォ…



              ォオオオオッ…!





穂乃果「やっ…やめっ…っは!こなっ…来ないでっ!!」 ダッダッダッ!

穂乃果「うわあああああああああああああああっ!!!きゃああああああああっ!!!」

ヴィオラ「……」 ダッダッダ










             『えを こわせ』












穂乃果「…っ!?」  ダッダッダ!


穂乃果「はぁっ…はぁっ…!」  ダッダッダ…


穂乃果「間に合え…間に合えっ…!」  ダッダッダ…!









穂乃果「間に合えええええっ!!!」  











        バキッ!












ヴィオラ「……」

穂乃果「はぁ…はぁ…はぁっ…!」

…五線紙を壁の亀裂から取り出し、その瞬間に突如現れた絵画の幽霊。

それは憑依していたと思われる絵画の額縁を壊す事で消し去ることができた。





穂乃果「…はぁ…はぁっ…!」

穂乃果「た…助かった…」

ヴィオラ「……」






穂乃果(危なかった…。あの貼り紙の事、忘れてた…)

穂乃果(…でも、どうしていきなり)

穂乃果(声が…聞こえたんだろう…)











穂乃果「…んぅ」  ポン

穂乃果「何か、穂乃果だけ色々とおかしくないかなぁ」  ポン  ポポンポン

穂乃果「みんなと違って、この家にいない時にも変な声が聞こえるし…」  ポンポポポンポン ポンポン

穂乃果「でも、誰が話しかけてるのかも分からないし…」   ポポンポ








           ガチャ







穂乃果「…えっ?」

ヴィオラ「……」

穂乃果「えっ?えっ?何?何が起こったの?」

穂乃果「カボチャ叩いてたら…扉が開いたよ…?」

穂乃果「な、何…穂乃果、何か間違ったんじゃ…」












         『4つのへやで おとをならせ』














穂乃果「…もしかして」

穂乃果「このカボチャを叩くことも…音を鳴らすって、事…?」

-時計の部屋-





ヴィオラ「……」

穂乃果「…な、何…ここ」

穂乃果「色んなものが…いっぱい」










穂乃果「…あ、貼り紙もある」

ヴィオラ「……」 ペラッ












     【私は「太陽」でもあり、「砂」でもあり、「鳥」でもある。】


               

                【私とは何か?】











.

穂乃果「…なぞなぞ?」

穂乃果「太陽でもあり…砂でもあり…鳥でもある…」

穂乃果「…うーん」
















             【…不正解。】












  ベタァ!




穂乃果「ひっ!?」

ヴィオラ「……」

ガチャ


穂乃果「な、何…今の」

穂乃果「え、えっと…これじゃないなら…植物?」











            【…不正解。】
  










ブワッ

穂乃果「わぁっ!?」

ヴィオラ「……」

穂乃果『え、ええっと、植物じゃなければ…鏡?』

穂乃果『ひゃあ!?ち、違う…?』





穂乃果『…あ、赤?』

穂乃果『うわぁ!?また違うっ!』




穂乃果『…お、女!』

穂乃果『ひぃ!もういやーっ!』






ことり「ほ、穂乃果ちゃん…」ハラハラ

海未「見てるこっちが心臓止まりそうですよっ…もうっ!」

穂乃果「と……時計」












              【…正解。】











チャリン




穂乃果「や、やっと当たった…」

穂乃果「…これは」








【王女のネジを手に入れた。】







穂乃果「…ネジ」

穂乃果「って事は…これっ!」

ヴィオラ「……」






-オルゴールの部屋-


ヴィオラ「……」カチリ

穂乃果「……」







~♪





穂乃果「オルゴールが鳴った…けど」

穂乃果「絵里ちゃんの時も、鳴る事は鳴ってたよね…?」











ヴィオラ「……」ガチャ

穂乃果(でも、ネジを付けたから…)

穂乃果(大丈夫…だよね?)

ガチャ



穂乃果「っ…!」








ヴィオラ「……」

穂乃果「…何も起こらない」

穂乃果「って事は…正解?」

穂乃果「……」






穂乃果「…あっ」

穂乃果(さっきまで点いてなかった明かりが…二つ点いてる)

穂乃果(あと二つ点ける所があるから…残りの部屋の音を鳴らしたら)











ヴィオラ「……」ガチャ

穂乃果「…頑張らないと」



-ピアノの部屋-


ヴィオラ「……」パサッ

穂乃果「楽譜を…ピアノに置いて」

穂乃果「……!」








~♪



…ピアノがひとりでに演奏を始めた。





穂乃果「…ふぅ」




チャリン



穂乃果「…!」

穂乃果「花瓶から何か落ちてきた!」







【王様のネジを手に入れた。】





穂乃果「…え?またネジ?」

穂乃果「またオルゴールに付ける…訳じゃないよね?」

穂乃果「…何に使うんだろう?」

ガチャ


ヴィオラ「……」

穂乃果「うーん…これ、何に使えば」





穂乃果(…あ、3つめの明かりも点いてる)

穂乃果(後一つ…後一つって、何処?)

穂乃果(えっと…ピアノとオルゴールとカボチャ…)

穂乃果(あとは…)










穂乃果「…!」

穂乃果「もしかして…あの部屋?」

ヴィオラ「……」ガチャ

-時計の部屋-


穂乃果「…!?」

穂乃果「えっ…どういう事?」

穂乃果「ここ…さっき色々あった部屋だよね…?」









穂乃果「…時計と、椅子だけになってる」

ヴィオラ「……」



穂乃果(もしかして、最後の音って…)

穂乃果「……」







穂乃果「…!」

穂乃果「あった…時計の正面に、ネジをはめる場所…!」

ヴィオラ「……」ズリズリ

穂乃果(…椅子を動かして、時計の前で乗って)








ヴィオラ「……」カチリ

穂乃果(ネジをはめて、回す…)











   チッ


        チッ


             チッ




…時計が時を刻みはじめた。




穂乃果「…よしっ」

穂乃果「これで全部の部屋で音を鳴らしたよね…?」







   カチャ




穂乃果「扉の開く音!」

穂乃果「やった…終わった」

ヴィオラ「……」

ガチャ


穂乃果「…ふぅ、これで一安し」









              ブワッ!










穂乃果「ひっ!?」ガタッ










穂乃果「……」

穂乃果(な…何…?今…何かが目の前に…っ)








ヴィオラ「……」

穂乃果「…もしかして、さっきの」

穂乃果「魔女…なの?」

穂乃果「……」

穂乃果「どこも痛くないから…まだ大丈夫だよね?」

穂乃果「えっと…じゃあ次の扉に」





     




        「おどろいたなあ。」










穂乃果「…え?」

黒猫「」

穂乃果「今…喋った?」

穂乃果(何で…?この黒猫は凛ちゃんがもう…)








黒猫「気づいてる?


    …家に助けられたんだよ。」








穂乃果「…今、何を」




プツンッ




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・



グ ニ ャ ア



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・





穂乃果「……」

穂乃果「え…?」ムクリ







穂乃果「…いきなりこっちに、戻って…」

穂乃果「……」

穂乃果「絵里、ちゃん…」











       

      
           ドクン…












,

穂乃果「!?」

穂乃果「がっ…!」バッ



    ドクンッ


          ドクンッ…!




穂乃果「はっ…くぁ…!」 ドッ  ドッ

穂乃果「な…何っ…!?」  ドッ ドッ ドッ

穂乃果「くっ…苦しいっ…!やめっ…やめてっ…!」









        ――やめて。行かないで。










穂乃果「はっ…ぁあっ!」 ズキンッ

穂乃果「うっ…いやっ…はあっ!!!」 ズキンッ ズキンッ

穂乃果「やめ…やめてっ!!」 ズキンッ    ズキンッ

穂乃果「痛いっ…!頭がっ…割れちゃうっ…!」 ズキンッ ズキンッ!






――いや。違う。そんなの、愛なんかじゃない。



――ああ。いやだ。こんなことって、ない。



――私の声で笑わないで。私の手でお父さんに触らないで。


                  やめて

    やめて       やめて  
                          やめて

 やめて        やめて

                    やめて
     やめて                やめて





穂乃果「はぁっ…!あっ…ぁあああああっ!!」

穂乃果「だっ…誰…っ…あっ…あなた  はっ…!」












          「あなたはっ…誰なのっ…!」











.

~~~~~~~~~~~~~~~~~


…窓から冷たい風が入り込む。

傷口から入り込んだ風が身体に痛みを走らせる…
が、少女にとってはそれすらも心地よいと感じてしまう程、壊れていた。






「やあ。」




―突如、窓から声が聞こえる。

聞き覚えのある声に少女は身を揺らしなんとか体勢を立てようするが、動けなくなる事を恐れやめた。
それでも顔だけは声のする方を向けて、口を動かそうとする。



「どう?もうこの家には慣れた?」


それの問いに少女は答えなかった。
寧ろ答えることができなかったのかもしれない。




「君は、一体何を考えてるの?」

「明らかにあの子だけ贔屓しているよね。それに何の意味があるの?」



…少女は答えない。
ただひたすらにそれの方をじっと見つめ、何処かに消えろと言わんばかりに睨みつける。



「ふうん。ま、別にいいけどね」

「でも、あの子の分はきちんと補わないと。家が君を主と認めないかもしれないよ」



それは手櫛をしながら興味なさそうに答えた。
少女は訴える事を無理だと判断したのか、顔を楽な方に向け静かに呼吸をする。

「でも、そうだね」

「もう少し力を溜めることができれば、君はもっと色んな魔法が使えるかもしれない」

「例えば、家に来た人間の痕跡を消して、新しく招く人間を取り込みやすくしたりとか」

「そうすれば余計な知識を与えずに済むだろうね」



少女は何も答えない。
ただ天井だけを見つめ、次の晩に備え動く事をやめ、体力を温存させた。



「ひどいなあ。エレンもそうだけど、どうして僕を無視するんだい?」

「これでも容姿には自信があるんだよ?」




「……ォ」



「わわ!分かったよ!もう消えるよ。」


それは慌てて窓の縁に飛び乗り、少女に一瞥をして去ろうとする。






「…でも、あまり無理をしてはいけないよ」

「その身体は、もう限界をとっくに超えているからね」







…そう言い残すと、それは森の中に消えていった。











           「じゃあね。ヴィオラ」











【To Be Continued…】

今回はここまでです。
3日間に区切ってしまい申し訳ありませんでした。


では、また一週間後に。

再開します

-穂乃果の家-


穂乃果「……」



コンコン




『穂乃果~。海未ちゃんが来てくれたわよー』



穂乃果「あ、はーい」








ガチャ



海未「…穂乃果」

穂乃果「海未ちゃん、いらっしゃい」

海未「どうですか?身体の調子は…」

穂乃果「うん、もう全然平気」

穂乃果「病院行ってきたけどどこもおかしくないって」

海未「…そうですか」

穂乃果「ごめんね。心配かけちゃって」

海未「……」

穂乃果「海未ちゃん?」

海未「いえ、何でもありません」

穂乃果「…?」

海未「それより、今日5人で話し合った事を伝えに来ました」

穂乃果「あ、うん」

穂乃果「…何か解決策、見つかった?」

海未「……いえ」

穂乃果「そっか」

海未「すみません。やはり私では絵里のようには…」

穂乃果「そんなことないよ」













穂乃果「聞かせて。…これからの事を」

海未「…はい」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・



海未「…今日は、4人ですか」


ことり「……」

凛「……」

真姫「……」


海未「誰か、希の事を知っている人はいませんか?」




シン…




海未「…そうですか」

ことり「さっき、電話は出てくれたの。でも…」

ことり「『大丈夫、心配しないで』って、…それだけ言って切れちゃった」

凛「希ちゃん…」

海未「……」








真姫「…もう、無理なのよ」

凛「…えっ」

真姫「無理よ。…だって、あの絵里が死んだのよ?」

真姫「私たちをずっと引っ張ってくれて…色んな対策を考えてくれて…」

真姫「その絵里が考えを誤って倒れたのよ!?あんな…馬鹿みたいな人形にっ…殺されてっ…!」

ことり「ま、真姫ちゃん…!」

真姫「分かるのよっ!あの家は…私達を生きて帰すつもりなんて一切ないっ!」

真姫「決まってるのよっ!私達は全員!あの家に殺されるっ!」

凛「っ…!」










真姫「…っ…何よ、何で誰も言い返さないのよっ…」

海未「……」

真姫「みんな…思ってるのでしょ…!私みたいに…みんな…っ!」 

海未「…今の私には、真姫の言っている事に十分な答えを返すことなんて出来ません」

海未「でも、それでも…私達は進まなければいけません」

海未「私達の誰か一人でも、あの家から脱出する事が出来れば」

海未「…救いは、必ずあります」

海未「私は……そう信じたいです」











真姫「……」

海未「さて、今日の会議を始めましょう」

海未「思考の停止は死を意味します。…大事なのは、考えることを辞めないことです」

海未「凛、確か昨日…黒猫が自分から話しかけてきたと言っていましたね?」

凛「う、うん…」

海未「つまりこれは、私達の黒猫に対する認識が間違っていたと考えるべきです」

ことり「でも…どうしてあの時だけ」

海未「思ったのですが…もしかすると昨日のあの部屋は、今までとは何か違う仕様になっていたのではないのでしょうか?」

真姫「…何よ、違う仕様って」

海未「穂乃果の探索をずっと見ていたのですが…それまでに至る所に居た黒猫が、あの一箇所以外には見当たりませんでした」

海未「…おかしくないですか?それまで至る所に黒猫がいましたのに…」

海未「少なくとも、2~3部屋移動する毎に1匹はいたと思います」

凛「…でも、かよちんの時だって」

海未「はい。あの時も確かに黒猫は初めの部屋にしかいませんでした」

海未「つまり、昨日の4つ…5つの部屋は、花陽の時の構造に似ているのです」

ことり「えっと…つまり、どういう事?」












希「…あの階は、誰かの犠牲なしに突破する事が出来なかった」


「「…!?」」


真姫「の、希っ…あなた」

希「ごめんね。今日はちょっと社長出勤しちゃった」

ことり「えっと…もう、大丈夫?」

希「んー?ウチは別に何処もおかしくないよ?」





海未「……希」

希「それより、ウチもずっと気にしてた事があるんよ」

凛「えっ?」

希「ほら、ウチと海未ちゃんと真姫ちゃん。三人とも死なずに帰ってくる事ができた夜があったやん?」

希「あの時はそれぞれの長所を活かす事が出来たからこその結果やったんやない?」

真姫「…確かに。私は毒の検知法が毒見だけではない事を知ってたし、海未は身体能力で突破する事が出来たし」

海未「しかし希、あなたは…」

希「そう。ウチは真姫ちゃんのように医学に詳しい訳ではないし、海未ちゃんの様にずば抜けた運動神経もない」

希「もしかすると、あの時はウチが犠牲になってたのかもしれないやんなぁ」

凛「そ、そんな…でも希ちゃんは」

希「うん、こうやって皆の前にいる。幽霊じゃないよ?」

希「ウチの場合はすごく運がよかったんやろうね」

希「…正直、賭けに走った場面もいくつかあった」

ことり「希ちゃん…」
















海未「……もしかして希は、こう言いたいのですか?」

海未「選ばれた三人の誰か一人に、【犠牲になる役目を持つ】者がいる…と」

凛「!?」

真姫「ちょ、ちょっと…それって…!」

希「…うん、ウチはそう思ってる」

希「花陽ちゃんの【手を貸す】にしろ、にこっちの【よそ見】にしろ…」

希「答えを知らない人間なら高い確率で間違えると思うんよ」

真姫「……」

ことり「……」

海未「…そうですか」

希「絵里ちはきっと、色々と考えすぎたのかもしれんね」

希「慣れてない柔軟な発想をしようとして…空回りしてしまった」

希「でもそのおかげで、穂乃果ちゃんは生き延びることができた」

海未「穂乃果は…かなり際どかったですけどね」

希「ふふっ…でも、それも大事な事なのかもしれない」

希「思い切った行動が実を結ぶ事って、他の事にも言えるやろ?」









希「…絵里ちは、それが良くない方向に動いてしまっただけと思う」

海未「……」

凛「…じゃあ、もし自分が犠牲になる役目だったとしたら」

凛「どうすれば…いいの?」






海未「…家に飲み込まれない事です」

ことり「えっ?」

海未「あの家は、人間の思考や特徴を知り尽くしています」

海未「その思惑に惑わされず、一つ一つの行動を考えて行わなければいけません」

海未「…いいですか、みんな」

















「決して恐怖に支配されてはいけません。…その先にあるのは、 【死】 なのですから」









.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


海未「…それで、今日は解散しました」

穂乃果「…そっか」

海未「何れも確証のない事とは言え、全員の自信を持たせる結果には至りませんでした」

穂乃果「ううん、それでも色んな事が分かった事は大きいよ」

海未「…そう、ですね」










海未「……」

穂乃果「…海未ちゃん?」

海未「……」

穂乃果「……」

ギュッ






海未「…ほ、穂乃果?」

穂乃果「安心して。…辛いのは、海未ちゃんだけじゃない」

穂乃果「穂乃果も、みんなも…怖くて怖くて、泣いちゃいそうなくらい辛いと思う」

穂乃果「でも、そんな時にみんなをまとめる事が出来た海未ちゃんはとっても凄いよ」

穂乃果「絵里ちゃんがいなくなって…不安だらけなみんなにまた頑張ろうって事を伝えた」

穂乃果「みんな口に出さないけど…すごく頼もしいと思った筈だよ?」










海未「そ、そんな…私は…っ」

穂乃果「いいんだよ、海未ちゃん」

穂乃果「穂乃果の前でくらい…自分に素直になってくれて」

穂乃果「今は、穂乃果と海未ちゃんの二人だけだから」









海未「穂乃果…っく…あっ…ほの…かっ…!」 

海未「うっ…ぁ…あっ…ああっ…!」 ポロポロ

穂乃果「…海未ちゃん」

海未「怖いんですっ……堪らなく…怖い…っ」

海未「一人ずつ…一人ずついなくなって…っ私の、目の前に…」

海未「みんなっ…みんな死んでしまうのでは.…ないかって…っ!」

海未「そう…考えるとっ…居ても立っても…いられなくてっ…!」

海未「私はっ…私はっ…!」

穂乃果「…うん」




海未「穂乃果っ…穂乃果…!」

海未「あなたは…私のっ…前から…消えない…?」

穂乃果「うん。絶対に消えないよ」

海未「本当…ですか?」

穂乃果「うん。だから安心して」

穂乃果「一緒に乗り越えよう…あの家を」








海未「…っ…っはい……勿論です」

穂乃果「えへへ…ありがとう。海未ちゃん」

海未「…ふと、考えてしまうのです」

海未「私の目の前から…ことりや穂乃果が消えてしまうのではないかと」

穂乃果「もう、そんな事思ったらダメなよ」

海未「そう考えたくもなります!特に昨日の穂乃果にはどれだけ心配したと思ってるのですか!?」

穂乃果「えっ?あっ…あー」

海未「いいですか!?今後あのように無闇やたらと物に触れないでください!」

海未「それで命を落としたらどうするつもりですか!」

穂乃果「あはは…はい。ごめんなさい」

海未「全く…行動が軽率過ぎなのです穂乃果は」

穂乃果「えーでもあの時はあれしか方法は…」

海未「ありました!もっと手がかりを理解する努力をして下さい!」

穂乃果「は、はい…」

海未「はぁ…穂乃果からは目が離せませんよ」

穂乃果「もー心配症だなー海未ちゃん」

海未「あなたの事を思って言っているんです!」

穂乃果「わ、分かってるよ?」

穂乃果「でも穂乃果だって自分の事は自分で出来るからそんなに心配…」












             ドクンッ












穂乃果「っ!?がっ…!あっ…!」  ズキンッ

海未「ほ、穂乃果!?」

穂乃果「い゛っ…!あ゛っ…!あああっ!」 ズキンッ ズキンッ

海未「穂乃果!穂乃果どうしたのですっ!?穂乃果っ!」











穂乃果「あっ…ま…  また…っ!」 

穂乃果「私のっ…な、か…にっ…!」

海未「穂乃果っ!しっかりして下さい!穂乃果ぁ!」









    ワタシハ キライ 


    アイサレテイルクセニ ソレヲシラナイオンナガ







    私は 憎い


    愛されているくせに それを受け入れない女が





    私は















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・



-???-



穂乃果「…ぁ」

海未「穂乃果!」

ことり「穂乃果ちゃん!」

穂乃果「…海未ちゃん、ことりちゃん」







真姫「…びっくりするじゃないの。ここに来て全然目が覚めないなんて」

希「穂乃果ちゃん、もしかして具合でも悪い?」

穂乃果「…ううん、大丈夫」

海未「穂乃果、辛いなら少し横に…」

穂乃果「大丈夫。…それより」









凛『………!』



穂乃果「…また、凛ちゃん」

ことり「…うん」



-ピアノの部屋-



ヴィオラ「……」

凛「……」

凛「4つの部屋で音を鳴らしたから…ここから先に進めるん…だよね?」

凛「……」











ヴィオラ「……」ガチャ

凛「大丈夫…大丈夫…っ」

凛「怖がったらだめ…ぜったい…」

-女像の部屋-



ヴィオラ「……」

凛「…あれ?」

凛「何だろうここ…すごく、暗い」

凛「それに…」






シクシク…








凛「…女の人の像が、泣いてる」

ヴィオラ「……」





    「わたしの ゆびわ…。


     どこにも ないの…。」





凛「…指輪?」

凛「指輪を見つけて来ればいいのかな…?」

凛「えっと…まずは周りの確認で…」

ヴィオラ「……」











凛「…あれ、ここ」

凛「ひび割れてる…もしかして」




      バキッ!




ヴィオラ「……」

凛「やっぱり!昨日と一緒!…だけど」

凛(どうしよう…一緒だから、もしかしたら入っちゃダメなんじゃ…)



凛「…でも、この部屋に指輪はないよ…」

凛「だとしたら、先の扉とここしか…」










ヴィオラ「……」ガチャ

凛「…あれ?」

凛「この扉…鍵がかかってるけど」

凛「強く引いたら…開きそう?」





凛(どうしよう…どうしようどうしようっ!)

凛(無理矢理開けていいの…?これが正解なの…?)

凛(でも…それだとなんで鍵がかかってるの…?)

凛(もしかしたらこの先に…で、でも…あの穴の中に指輪があるかもしれないし…)

凛(うぅ~…何で凛はこんな選ぶものばっかり…)












ヴィオラ「……」

凛「……」

凛「うん。何でも無理矢理は良くない…よね」

凛「あの穴を調べてみるにゃ」

ヴィオラ「……」

凛「…あっ」










凛「…日記がある」

凛「……」

ヴィオラ「……」ペラッ












        ― 病気は いや ―


      
     ― お外に 出られないから ―






     ― 誰も 愛してくれないから ―











凛「……」

凛「魔女って…病気だったの?」

凛「でも…愛してくれないって…どういう事だろう…?」

ヴィオラ「……」

ヴィオラ「……」

凛「うーん…結局指輪はなかったなぁ」

凛「じゃあやっぱり…あの扉を?」

凛「うー…すごく嫌な予感がする…」 ウロウロ

凛「でも…もう探す所なんて何処にも」








         ドォォォンッ…!







凛「にゃあー!?」

凛「な、何…!?何が…!」
















凛「さっきの音…ピアノの部屋から…?」

凛「何が…起こったの…」

ヴィオラ「……」 ガチャ

-ピアノの部屋-



凛「えっ…ええっ!?」

凛「な、何でっ…こんな所に」











凛「だ…暖炉が…あるの…?」

ヴィオラ「……」

凛「もー…説明ぐらいして欲しいにゃ~」

凛「じゃないと何が何だか全然…」








凛「…あれ」

凛「この暖炉…穴があいてる…」

凛「それに…はしご…かかってる…」

凛「……」

凛「…降りる、の…?ここを…」

ヴィオラ「……」









凛「……」

凛(わざわざはしごまで掛かってるって事は…進めるって事だよね?)

凛(それに…)






ヴィオラ「……」

凛「こんな矢印まで書いてあるのに、違ったらどうすればいいか分かんないじゃん」

凛「だから…」







カン 
   
   カン


       カン  







凛「…大丈夫、絶対大丈夫…」

ヴィオラ「……」 

-食堂-



凛「…!?」

凛「こ、ここって…!」







凛「真姫ちゃんが…スープの毒を当てた場所だ」

凛「どうしてここに繋がったの…?」

凛「えっと…確かあそこの扉から…」







ヴィオラ「……」 ガチャガチャ

凛「…あれ?開かな」







       ゴォォォオッ!
        







凛「ひぃっ!?」 ビクッ










凛「せ、石像が…目の前で止まった」

凛「もうっ!潰されるかと思ったじゃんっ!」

ヴィオラ「……」

ヴィオラ「……」 ガチャガチャ

凛「…ここも開かない」

凛「……」






凛「こっちにも、矢印が書いてある」

凛「でも、こっちは…」




    バキッ





凛「っ!?」

凛「うっ…っ…」












ヴィオラ「……」ガチャ

凛「…かよちんっ」

-厨房-



ヴィオラ「……」

凛「うっ…」

凛(変なにおい…それに)






グツグツ…




凛「…なに、これ」

凛「臭いの原因は…これ?」




   バタンッ!




凛「っ!?」 ビクッ

凛「と、扉…?」

凛「…こんな所に、扉なんて」









凛(この部屋…何かおかしい)

凛(前見たときと…色々違う…!)

ヴィオラ「……」

凛「…この鍋、どうしよう」

凛「……」





ヴィオラ「……」 カチッ

凛「取り敢えず、火は止めたけど…」

凛「……」




カパッ



凛「…うぷっ」 

凛(は…吐きそう…何これぇ…)

凛(ウインナー…でも…どれも…黒くて…すごく…)











       

             凛ちゃん













凛「っ!?」

凛「ぁ…あっ…あああああっ!?」

凛「まっ…まさかっ…これ…これっ…!」

凛「うっ…ぐっ…ぇ…!」


ボタッ


     ボトッ… ピチョ




凛「はぁ…はぁっ…はっ…ぁ!」

凛「げほっ…うっ…ぐぇ…ぇ…」







ヴィオラ「……」

凛「はぁ…はぁ…」

凛「……酷い」

凛「凛に…こんな…こんなのっ…見せる…なん…てぇ…っ!」 

凛「許さない…っ…許さないっ!」








ヴィオラ「……」 ガチャ

凛「ひぐっ…ぜっ…絶対…絶対にっ…!」

-死体遺棄室-


ヴィオラ「……」

凛「…こ、ここ」

凛「なに…ここ…?」






凛「ほ…骨…人間の…骨がっ…!」

凛「あっ…やっ…やだっ!」

凛「いやっ…!」 ダッ









『恐怖に支配されてはいけません』











凛「…そ、そう…だ」

凛「負けちゃ…負けちゃダメ…」

凛「やらなきゃ…進まなきゃ…!」




ヴィオラ「……」 パキッ  ペキッ

凛「っ…っは…ぁ…」  

凛「……」

凛「…ぁ」






凛「…骨の隙間に、何か刺さってる」

凛「これって…お箸?」

ヴィオラ「……」 カチャ







【金の箸を手に入れた。】












凛「……」

凛「もしかして…これで…」

凛「…やりたく、ない」

-厨房-

ヴィオラ「……」 カチャ

凛「……」





カチン



凛「…!」

凛「何か…あった!」










【豚の指輪を手に入れた。】







凛「…これって」

凛「!!」

凛「もしかして、この黒いのが…指輪!?」

凛「…何でこんな所に」

凛「でも、これを持っていけば…」

凛「…よぉし」













ヴィオラ「……」 ガチャガチャ

凛「…えっ」

凛「何で…開かないの?」

凛「な…何で…どうして…」

凛「り、凛…何か間違ったこと…!」

凛「あっ、ああっ…!も、もうっ…!」








凛「……」

凛「落ち着いて…怖いのに負けちゃ…!」

凛「何か…何かないの…?」

凛「お願い…何か…何かっ…!」











凛「!」

凛「あった!…メモだ!」

ヴィオラ「……」ペラッ












         【つかったものは もとのばしょに】













凛「使った、もの…?」

凛「……」

凛「もしかして、この…お箸?」

ヴィオラ「……」











ヴィオラ「……」ガチャ

凛「うぅ…もうここ…入りたくないのにぃ…」

-死体遺棄室-



ヴィオラ「……」

凛「えっと…確か、ここの骨に刺さって…」

凛「……」








凛(…あれ?)

凛(この骨の…何処に刺さってたっけ…?)

凛(え、えっと…確か…ここ?)

ヴィオラ「……」ザクッ









…鎖骨の間に、箸を戻した。








凛「…よし、これで」



 カタ

     カタ




凛「ひっ!?」

凛「…う、動いた?動いた、よね…今?」

凛「や、やめてよぉ…もうっ…やめて…」

凛「お願い…もう、帰らせてっ…!」 




ガチャ…バタンッ












ヴィオラ「……」

ヴィオラ「」

ガチャ


凛「はぁっ…!はぁっ…!」

凛「は、早くっ…この指輪をっ…!」






凛「……」

凛「あれ…あの子が……いない」

凛「もしかして…まだあの中に…!」




    ズドンッ!




凛「ひっ!?」

凛「た、棚がっ…!扉をっ…!」

凛「待ってよ!まだあの中にあの子がっ!」 グッ

凛「うっ!…ぐぐぐっ…動かないっ…!」

凛「はぁっ!はぁっ…!どうしてっ…!」









        トントントントントン










凛「……ぇ」

凛「包丁が…勝手に…動い   て…」


―その厨房には、誰もいない。
数日前に忙しそうに動いていた包丁はまな板の端に放り出されており、動く気配などしていなかった。



凛は辺りを見回すが、何者の姿も見えない。
まな板を包丁に叩いている料理人の姿など何処にもいなかったのである。





…しかし、確かにそれは動いていた。

包丁は以前の様に調理の過程で伴う音ではなく、まるで凛に気づかせる為だけに鳴らしている…


そんな軽快な音で、まな板を叩いていた。







凛「ぁ…あっ…い、いやっ…」

凛「あ、あの時と…一緒…だっ…!」

凛「ひっ…ぁ…ああっ…やだっ…やだっ!」

凛「やめてっ……こなっ…来ないでっ!」



凛はその場から逃げようとする。

だが、空中で動いている包丁による恐怖からは目を離す事が出来ず、後退りをしながら包丁との距離を遠下げようとした。




やがて包丁は、まな板から音を出すことを止めると、もう十分だと言わんばかりに刃の向きを変え動きを止める。











―その刃の先は、凛の心臓を狙っていた。

凛「やだ…やだっ…いやっ…!」  ジリ ジリ

凛「やめてっ…!やめっ…お願い…!やだっ…!」





        宙に浮いた包丁は動かない。


       それはずっと機会を待っている。






凛「いやっ…!誰か…誰かっ!」 





  

     獲物を仕留める機会を伺い楽しんでいた。


         まるで快楽殺人者のように。





凛「いやあああっ!!やめてっ!来ないでっこないでええええっ!!!」 ダッ!





         獲物が逃げ出す。逃げ出す。


     恐怖に支配された少女の心臓に向かって     













              ザシュ











      ― その刃を 血で染め上げた ―     




凛「…が、   はっ…っ」



心臓を突き抜かれ、凛はその場に倒れる。
視界はぼやけ、呼吸は出来ず、四肢は痙攣していた。



凛が倒れた不潔な厨房の床…
それは皮肉にも花陽が腕から血を流し事切れた場所であった。






カツン、カツン…と、何かが階段から降りてくる音がする。
やがてそれは倒れている凛を見つけると、腕を掴みズリズリと引きずり出した。




凛「……ぁ……ぁ」



意識がなくなる直前に、凛の視界に映ったものは







「わたしはいつまで、豚の手首を集めればいいんだ」








何かに語りかける、顔がつぎはぎだらけの醜い巨体だった。




ブツンッ



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



穂乃果「……」


穂乃果「また、駄目だった」


穂乃果「今度は…凛ちゃんが」










真姫「  いい加減に、しなさいよ」 

真姫「何よ、何よあれ」

真姫「凛を    花陽と同じ場所で殺して」

真姫「腕を掴んで引きずって…その後何をしたのよ…っ!」




バァンッ!




真姫「答えろおおおおおっ!!!!」

ことり「きゃあっ!?」

真姫「何よっ…何よ何よ何よぉっ!!」

真姫「手向けのつもりっ!?それとも侮辱してるのっ!?」

真姫「どこまで性格捻れてるのよあなたっ!?」

真姫「ふざけるのも大概にしなさいよぉっ!!!」  ズバンッ!

穂乃果「の、希ちゃん!」

希「分かってる!真姫ちゃん!真姫ちゃん!」

真姫「うわあああああああああああああああっ!?!!!?!!」


・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・



穂乃果「…真姫ちゃん」

真姫「ひっ…ぎっ…ぁあっ…がっ…ぐうっ…」

真姫「悔しいっ…何もっ…何も出来ないなんてっ…」

真姫「くやしいのよっ…!あっ…ああっあ…ぁ!」

ことり「真姫、ちゃん…」 ポロポロ








希「…三人共、前見て」







海未『………』





希「今、凛ちゃんが間違えたと思われるところまで、海未ちゃんが…」

穂乃果「……っ」

-死体遺棄場-



海未「……」

海未「つかったものは、もとのばしょに」

海未(恐らくここが…希の言っていた)

ヴィオラ「……」 ザクッ








…肋骨の間に、箸を戻した。









ヴィオラ「……」 テクテク

海未「……」







     カタカタカタ









海未「…うるさいですよ。骨の分際で動かないでください」

ヴィオラ「……」ガチャ





       ズドンッ!





海未「……」

ヴィオラ「……」テクテク











ガチャ



海未「……凛、花陽」

海未「待ってて下さい。…私達が、必ず」

ヴィオラ「……」  

バタンッ




海未「…ここにはもう用はありませんね」

海未「後はあの女像に…」






カツン




       カツン…





海未「…!?」

海未(階段から足音…まさかっ!)






 ズオッ!


             バキッ!



   ビトッ!



           ドドドドッ!






海未「はあっ!!」 ダッ!

海未「はっ…!こんな…所でっ!」

海未「私はっ!絶対に死にませんっ!!」

ヴィオラ「……」 ダッダッダ

-女像の部屋-



ヴィオラ「……」 チリン

海未「……」







「… … これは … 。」


「… … ありがとう。」








   カチャ







海未(もし、最初が私ならば…難なく通過することが出来る自信があります)

海未(それを凛にさせたという事は…魔女、あなたは)

ヴィオラ「……」ガチャ

-階段-



海未「…次の階は」







  ガシャンッ!  パリン  パリン…







海未「っ!?」

海未「今の音は…!」

海未(ガラスが割れた…?いや、それにしては音が大きすぎます)

海未(だとすると…っ)








海未「……」

海未「ことりの場合で考えると」

海未「後戻りをする事は…特にマズい事では無さそうですね」

ヴィオラ「……」ガチャ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



海未「……」

海未「何故、女像が…」

ヴィオラ「……」









「やあ。」








海未「っ!?」 バッ

海未「黒猫っ!?何故っ…!?」




ヴィオラ「……」

黒猫「愛ってなんだろうね。」







プツンッ




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

-???-


海未「…っ!」

ことり「海未ちゃん!」

海未「迂闊でしたっ…!あんな場所に現れるだなんてっ…!」

海未「私は自分の余裕がある限り進むつもりでしたのに…っ!」

ことり「な、何言ってるの!?そんな事してもし海未ちゃんが…!」

海未「しかしことり!これでは明らかに私がっ!」





プツンッ









穂乃果『………』




海未「ほ、穂乃果!?」

ことり「嘘…何でっ…今日も…穂乃果ちゃん!」

‐階段‐



ヴィオラ「……」

穂乃果「…何で、こんなタイミングで」








          ドクン
 







穂乃果「っ…!」















ヴィオラ「……」テクテク

穂乃果「…ねぇ、あなたは」

穂乃果「穂乃果に…何を、伝えて…」







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


‐渡り廊下‐



テクテク






穂乃果(……)

穂乃果(何だろう…何となくだけど…)

穂乃果(多分…この先が)

穂乃果(最後の、階)










         ガシャン!








穂乃果「っ!?」

穂乃果「何っ…!?何がっ…!」

穂乃果「…!」












穂乃果「あ、あの子が…」

穂乃果「あの子が…いないっ!どこにっ…!」








 

              「…………」













穂乃果「…えっ」

―突如現れた謎の影。
手も、足も、顔もはっきりとしていない。…黒い影の形のみがぼやけて見えた。





「……」




それは何も喋らない。何も語らない。
ただただ穂乃果と向かい合い、ゆっくりと近付いてきた。




やがて影は、穂乃果の目の前に立ちふさがる。
少しでもそれも触れれば取り込まれてしまう…そんな事が起こるだろうと頭の中で考えた。


今動けば離れる事が出来る。一度下の階に戻り、この状況から逃れられる。
そして体勢を立て直し、この影の対策を考えることができるだろう。















穂乃果「……」







…穂乃果は、一歩も動かなかった。

海未「…ほ、穂乃果」

海未「何を…しているの…ですか…何を…」





―黒い影が、穂乃果を抱きつく。
蛇が鼠を丸呑みするように、影が穂乃果に襲いかかる。




穂乃果『……』



海未「ほ、ほの…か」

海未「穂乃果ぁ!何をしているのですか!逃げて下さいっ!穂乃果っ!」

ことり「穂乃果ちゃん!動いてっ!何で動かないの!?」




影が穂乃果に侵食する。
闇は勢いを上げて膨張し、一つの大きな球となった。




真姫「何してるのよ穂乃果っ!逃げてっ!何で逃げないのよっ!?」

希「あっ…ああっ!もう…もうっ…顔までっ…飲み込まれてっ!」





そして影は、穂乃果の全てを取り込もうとする。
微かに人の形をした影の部分が、穂乃果を黒い瞳で見つめていた。












穂乃果「あなたは…」











                シュン














海未「…あっ…う、嘘…嘘っ…!」

海未「ぁ…あ     あ   っか…!   のかっ…!」














「穂乃果ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!」




















   ― 高坂穂乃果は、紫色の靄となり、跡形もなく消えた。―













【To Be Continued…】

本日はここまでです。
次回は私用のため二週間後の更新となると思います…


では

本日8時から再開します




ブツンッ




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



真姫「  嘘、 でしょ…?」

希「なんなん…あれ…っ…」

希「何が…起こって…何で…穂乃果ちゃん…」







ことり「ほ、穂乃果…ちゃんっ…」

ことり「なんで…なんでっ…ぇ…!」 

ことり「あっ…ああああああっ!!??!?」

真姫「ことり!」

ことり「やだっ、いやだいやだいやっいやぁっ!」

ことり「いやああああっ!!!穂乃果ちゃん!穂乃果ちゃんっ!!」


ことり「なんでっ!?今のどういう事なのぉ!?」

ことり「穂乃果ちゃんは何もっ!何もしてないのにっ!」

ことり「どうして消えちゃったの!?ねぇどうして!?どうしてなのぉ!?」

真姫「そ、そんなの…分かんないわよっ…!」

真姫「私だって一瞬の事で何がなんだか!」

ことり「ひぐっ…あっ…えぐっ…!どうしてっ…どうしてなのっ…!」

ことり「誰か教えてよぉ…!何でっ…なんでぇ…!…っ」

希「ことり、ちゃん…」

ことり「うわあああああああああああああああっ!!!!」















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・







-渡り廊下-





海未「……」

ヴィオラ「……」







海未「…何が、起こったのですか」







ヴィオラ「……」

海未「見ていたのでしょう、あなた」

海未「説明して下さい。…何ですか、今のは」










海未「…答ぇろと言ってるでしょ!!」 バキッ!

海未「いつまで沈黙決め込むつもりですかあなたはっ!!」

海未「少しは反応示したらどうなんですか!えぇ!?」

海未「答えなさいっ!穂乃果はっ!何故っ!消えたのですかっ!?」

ヴィオラ「……」

海未「…っ!」 

海未「知りたくば…先に進めとでも言いたいのですか…」

海未「このっ…人形めっ…!」








ジャリ






海未「……」







…海未の足元には、穂乃果を消し去ったものが破ったステンドガラスの破片が散らばっていた。

海未「……」 






海未は、そのステンドガラスを一欠片拾うと…







ぐしゃ





海未「……っ」




―それを一気に、手で握り込んだ。









ポタッ


    ピチャ…








海未「…嘆く、ものですか」

海未「全て、終わるまで…」

海未「絶対に…絶対っ…!」

ヴィオラ「……」 ガチャ

~???~



ことり「っぐ…ひっ…うっ…っ…!」

ことり「穂乃果ちゃん…穂乃果ちゃんっ…」










真姫「…ねぇ、おかしくない?」

希「……」

真姫「…もう、3人終わってる筈なのに」

真姫「なんで私達、ここから出られないのよ…?」






希「…うちにも、分からない」

真姫「…そう」

希「でも…もし魔女が、ウチらを殺して…力を強めているのなら」

希「この状況も、不思議な事ではないと思う」

真姫「……」









真姫(…魔女)

真姫(魔女って…何者なのよ)

-人形の部屋-



ヴィオラ「……」

海未「……」

海未「人形だと言い放ったら、人形の部屋に来てしまいましたね」

海未「ほら、一つ場所が空いてますよ?…あなたもそこに座っていたらどうですか」











ヴィオラ「……」

海未「…ふん」






海未(4つの台座に、3つの人形)

海未(人形、台座とそれぞれ色がバラバラに置かれていますね)

海未(今、私は人形などは持ち合わせていません)

海未(…なら)













ヴィオラ「……」 ゴトッ

海未「色を合わせる…まぁこれだけで終わるはずはないでしょうね」

カチャ






ヴィオラ「……」

海未「…扉の、開く音」

海未「……」




海未(台座は、まだ一つ余っています…)

海未(たとえ鍵が開いた音がしたとしても、それが正解だとは限らない)

海未(絵里のように正解だと思っていたものが違っていた、ということも十分ありえます)

海未(しかし、今までの場所で何処にも人形のようなものは…)








ヴィオラ「……」 ガチャ

海未「…!?」

海未「あ、あなた!何故勝手に…!」

-庭園-



ヴィオラ「……」

海未「…ここは」



海未(…何も、起こらなかった)

海未(何故いきなり…意思を持ったかのようにコレは…)








「やあ。」





ヴィオラ「……」

黒猫「ここが最上階みたいだよ。」





海未「……」

海未「嫌がらせですか、あなた」





プツンッ




・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

-???-


海未「……」

希「…海未ちゃん」

海未「重ね重ね申し訳ありません…私だけがこんなに楽をしてしまって」

希「ううん、そんなん気にすることじゃ…」

希「っ!?う、海未ちゃんそれっ!手が血だらけやん!?」

海未「……これは」

希「すぐに消毒せんと…ああでもここ何もないし…」

海未「構いません、それより…」












ことり「……」

海未「…ことり」

ことり「…海未ちゃん」

海未「……」

ことり「…どうして、ことり達はこんな目に合わないといけないの?」

海未「……」

ことり「どうして…穂乃果ちゃんは…」









海未「ことり」

海未「立ってください」

ことり「……」

海未「……」






ことり「…うん」

海未「……」

海未「……」

ことり「……」







希(…驚いたなぁ)

希(二人でじっと見つめるだけで…何かを悟ったようにことりちゃんが立ち上がった)

希(うちや真姫ちゃんが言っても取り乱すだけだったのに)

希(…二年生は本当に、お互いの事を分かり合ってるんやね)








真姫『………』



海未「…次は真姫ですか」

ことり「うん。…大丈夫かな」

海未「信じましょう」

ことり「そうだね」

-庭園-



ヴィオラ「……」

真姫「…何ここ?」

真姫「変に草や花が多くて…気持ち悪い」

真姫「一体何からやればいいのよ…」





真姫(…扉は3つ、その内の一つは)



ヴィオラ「……」

真姫「…変な植物があって、進めない」

真姫「つまりここを開ける為の仕掛けを見つけないといけないのね」








真姫「…貼り紙もあるわ」

ヴィオラ「……」 ペラッ









            【みどりは とりがたべる】











真姫「…みどり」

真姫「この蔦みたいな植物の事よね?」

真姫「…でも、鳥って」











ヴィオラ「……」

真姫「…もう少し調べよう」

真姫「最上階、って言ってたっけ…慎重に進めないと」

ヴィオラ「……」

真姫「…それにしても、大きな木ね」







「…なにか ようかね。」





真姫「っ!?」

真姫「しゃ、喋った…」






「…わしは おまえさんなどに ようはないわ。」
              
「…しずかに しとくれ。」




真姫「…この木、すごく大きい。かなりの年代物ね」

真姫「おじいさんみたいな喋り方だし、…もしかしたら、いろんなこと知ってるのかも」

真姫「……」













真姫「…ねぇ、何か知ってることがあるなら教えなさいよ」



「……」



真姫「……」

ヴィオラ「……」



「…そうだなあ。おまえさん。」

「ときをきざむもんには さわっちゃいかんよ。」






真姫(…時を、刻むもの?)

真姫(時…時間、時計の事?)

真姫(時計…この先にあるのかしら)









ヴィオラ「……」 ガチャ

真姫「次はこの部屋…」

真姫「理不尽なこと起こったら承知しないんだから」

-廊下 牢獄前-



ヴィオラ「……」




真姫(…なに、ここ)

真姫(気味悪い…なんなのよ…)

真姫(さっきの庭もおかしかったけど…ここだけ、明らかに空気が違う)

真姫(何があるっていうのよ…もうっ)





ヴィオラ「……」

真姫「…なにこれ、図鑑」




ペラッ



真姫「…『饒舌な花たち』」





真姫「……」

真姫「ふーん…そうなの」

真姫「白い花…の花びらは、雨に当たると光る」

真姫「赤い花は、物知りだけど常に嘘をつく」

真姫「…そして、黄色い花の粉は殺しも活かしもする高級な薬になる」

真姫「……」




パタンッ



真姫(……)

真姫(こんな見つけやすい場所に本があるって事は…花の情報は何れ必要となるって事よね)

真姫(覚えておくことが前提条件ね)






真姫「…他の場所も調べないと」

ヴィオラ「……」 テクテク

ヴィオラ「……」

真姫「げっ…」

真姫(ここにも気持ち悪い植物があるし…)

真姫「じゃあ、こっちの扉は…」












-穴のある部屋-



ヴィオラ「…」

真姫「…何もないじゃない」




真姫(でも…変ねこの部屋)

真姫(大きな穴があって…底が見えないくらい、深い)

真姫(一体何のためにあるのよ、この部屋)







ヴィオラ「……」

真姫「…分からない」

真姫「ここは置いといて、さっきの奥の道に行ってみようかしら」

-廊下 牢獄前-





ヴィオラ「……」

真姫「…あまり近づきたくないけど」

真姫「この二つの牢屋みたいな場所も調べるべきよね」






真姫「…一つ目は」

ヴィオラ「……」 ガシャガシャ

真姫「…開かない」

真姫「二つ目は…えっ?」












真姫「…こんな所に貼り紙」

真姫「なんなのよ…今回情報量多すぎよ」

ヴィオラ「……」 ペラッ










               【くすりを】











真姫「……」

真姫「えっ!?これだけ!?」

真姫「ちょっと!これだけでどうしろって言うのよ!」






ヴィオラ「……」

真姫「…この子に怒鳴っても虚しいだけね」

真姫「取り敢えず、二つ目の扉は…」









ウェッ… グェホッ… ゴホ…。








真姫「…誰か、いるわね」

真姫「……」




「ウェッ… グェホッ… ゴホ…。

 薬…。あんた… 薬…持ってないか?」




真姫「…薬って」

真姫(さっきの貼り紙の…)

真姫「…生憎だけど、今は持ち合わせてないわ」




「……」




びちゃ!



真姫「うぇっ!?」

真姫「何これ…!唾っ…?」

真姫「な、なにすんのよっ!?」 ガシャン!









ヴィオラ「……」

真姫「うぅ…気持ち悪い」

真姫「いきなり唾を吐きかけて来るなんて…非常識じゃないっ」














真姫「……あれ」

真姫「何…これ?」

真姫「……血文字」

真姫「……」




「ウェッ… グェホッ… ゴホ…。

 薬…。あんた… 薬…持ってないか?」




真姫「…薬って」

真姫(さっきの貼り紙の…)

真姫「…生憎だけど、今は持ち合わせてないわ」




「……」




びちゃ!



真姫「うぇっ!?」

真姫「何これ…!唾っ…?」

真姫「な、なにすんのよっ!?」 ガシャン!









ヴィオラ「……」

真姫「うぅ…気持ち悪い」

真姫「いきなり唾を吐きかけて来るなんて…非常識じゃないっ」

真姫「…最悪な気分」

真姫「ここも開きそうにないし、他に何かないかしら」

真姫「……」







真姫「…これは」

真姫「鳥籠…?でも、何もいないじゃ…」








真姫「…ううん、何かいる」

真姫「鳥…なの?」

真姫「すごく弱ってる…」

真姫「…ねぇ、これ開けなさいよ」




ヴィオラ「……」  ガチャガチャ

真姫「…開かないの?」

真姫「面倒ね…今は放置しておくしかないのかしら」





  ヒソヒソ


        ヒソヒソ
     




真姫「…そして、その奥には」

真姫「赤い花…いや、草…よね?あれ…」

ヒソヒソ

    
     ヒソヒソ




真姫「…話し声が小さすぎて、全然聞こえない」

真姫「ここも何かをしないと、話が聞けないのかしら…」









ヴィオラ「……」 テクテク

真姫「つまり、ここはまだ来るべき場所じゃなかったみたいね」

真姫「はぁ…唾は吐かれるし、収穫も花の知識ぐらいだし」

真姫「……もういいわ、次行きなきゃ」

-庭園-


ヴィオラ「……」 テクテク

真姫「…えっと、次は反対側の扉」

真姫「…あ」






真姫「……白い、花」




「ごきげんよう。」




真姫「えっ…」

真姫「…ご、ごきげんよう」







ヴィオラ「……」

真姫「…何呑気に返事してるのよ、私ったら」

真姫「でも、白い花って事は…」






真姫「……」

真姫「反対側の部屋、行かなきゃ」

ヴィオラ「……」 ガチャ

-黄色い花の部屋-






真姫「…な、なにこれ」

ヴィオラ「……」




真姫「花が…座ってる」

真姫「でも…それよりも…あの花達…黄色い」




真姫(赤い草に、白い花。…そして黄色い花)

真姫(全部あの本の通りに見つかってる…じゃあやっぱり)





真姫「…この家の仕掛けは、人によって作られてる」

真姫「だから、あの残虐的な殺し方も…」










真姫「……ほんっと、最悪な気分」

真姫「いいわ…この真姫ちゃんが全て掻い潜ってあげる」

ヴィオラ「……」

「ほんとうに いらいらするってないわ。」

「あのこさえいなきゃ わたしたちが ここいらでいちばん 美しいのに。」

「「ねー。」」






真姫「……」

「あらあなた、ずいぶん太い腕が生えているのね。オホホ。」

真姫「…植物のあなたと比べないで」

ヴィオラ「……」






「だれか あの子を×してくださらないかしら。」

「そうすれば、…そうねえ。」

「私たちの頭にできる粉を、少しばかりわけてさしあげるのに。」











真姫「…ちょっと待って」

真姫「今…粉って言ったわよね?」

真姫「……」

真姫(確か黄色い花から取れる粉って、高級な薬になるって)

真姫(じゃあ…この花達の言うことを聞けばいいの?)

真姫(……)





真姫「……頭にだけ置いておくわ」

真姫「不可解な事が多すぎる…順番に整理しないと」

真姫「…ん?」












真姫「…ひっ!?」

真姫「な、なによこれ…!」

真姫「文字が…ち、血でっ…!」

ヴィオラ「……」 











         はなを ×せば おまえも しぬ














真姫「…っ!」 ゾグッ

真姫「な…何よっ…これっ…」

真姫「花を…×す…」

真姫「これって…さっきのっ…!」





真姫(…どういう事?)

真姫(おそらくあの黄色い花たちが言ってる【あの子】ってのは、庭園に咲いていた白い花の事)

真姫(あの花を…こ、殺さないと、黄色い花から粉が貰えない)

真姫(でもっ…白い花を殺したら…私がっ…?)







真姫「……落ち着いて、まだ何も始まってない」

真姫「見つけないと…粉を手に入れて、私も死なない方法をっ…!」

真姫「この家の仕掛けは、必ず解けるように出来てる筈…」

真姫「もっと情報を…手に入れないとっ…」

ヴィオラ「……」 テクテク

ヴィオラ「……」


真姫「…ベットが3つに、スタンドライトが置いてある」

真姫「何か、妙な配置ね…ここ」

真姫「…もしかして」

ヴィオラ「……」

真姫「早くしなさいよ、あなたの仕事でしょ」

ヴィオラ「……」 ゴソゴソ










真姫「っ!?」

真姫「ひ、ひっ!?」






【頭蓋骨を手に入れた】





ヴィオラ「……」

真姫「なっ…何よっ…なんなのよそれっ…!」

真姫「なんでそんな所に頭蓋骨が落ちてるのよっ!」





ヴィオラ「……」

真姫(なにかヒントになる物があるとは思ったけどっ…頭蓋骨なんて想定外よっ!)

真姫(何!?これをどうしろって言うのよ!?)




真姫「…頭痛くなってきた」

真姫「なによ今回…謎が多すぎて頭おかしくなりそうっ…!」

ヴィオラ「……」 テクテク

ヴィオラ「……」 ガチャ





真姫「…ここは」

真姫「日記帳…でも」

真姫「なにこれ…血だらけじゃない」

真姫「まるでさっきの血文字みたいに…」









ヴィオラ「……」 ペラッ

真姫「…『魔女の日記』」


















 
           ― 女の子が 遊びに来た ―




     ― 金髪の髪を三つ編みをした 可愛い女の子 ―

















真姫「…えっ」

真姫「…金髪の髪を、三つ編みにした」 

真姫「可愛い……女の子」








ヴィオラ「……」

真姫(それって…この子の事じゃないの!)

真姫(だって、そうでもないと…こんな事、ありえないっ…)









真姫「……すぅ」

真姫「…はぁ」

真姫「……」




真姫「もう一度全部調べるわ」

真姫「一度行った所でも、二度目には何か変わってるかもしれない」





ヴィオラ「……」 テクテク

真姫「上等よ…絶対に死んでやらないんだから」 

真姫「…あっ」


  チッ

     チッ


ヴィオラ「……」

真姫「…柱時計」







『ときをきざむもんには さわっちゃいかんよ。』







真姫「…言う通りにしておいたほうが良さそう」

真姫「今まで散々時計の仕掛けがあったから…今度は、騙しで置いてある可能性」

真姫「…十分に、あるわ」









ヴィオラ「……」テクテク

真姫「後ここで調べてないのは…この扉だけね」






ガチャ










真姫「!?」

真姫「な、なによここ!真っ暗で何も見えないじゃない!」

真姫「こ、こんな所危なすぎて進めないわ!」

ヴィオラ「……」




真姫「…ここも後回し」

真姫「なんなのよもう…何からすればいいのよっ…」

真姫「……」




ヴィオラ「……」

真姫「…一度庭園に戻って、考えるわ」

真姫「流石に私でも…落ち着かないと、無理」














-庭園-


真姫「…ふぅ」

真姫「…このベンチ、やけに座り心地いいわね」

ヴィオラ「……」




真姫(…最初に、3つの場所に違う色の花がいた)

真姫(赤い花…いえ、赤い草の話し声は全く聞こえなかった)

真姫(もしかしたら、あの時私がまだ知らなかったことに関して話していたのかしら…?)

真姫(そして白い花…これを殺さないと、黄色い花から粉を貰えない)

真姫(恐らく、白い花を殺したら、同時に花びらが手に入るはず…よね)

真姫(黄色い花の粉は毒にも薬にもなる…ていうより、薬物って、用法と容量を変えればどんなものでも毒になるし、薬にもなるわ)

真姫(…一番最初に浮かぶのは、麻薬。…黄色い花の粉なんて聞いたことないけど)

真姫(……薬は多分、あの牢屋にいるのに渡せばいいとして、あとは…鳥籠)

真姫(あれを開けるには…どうすればいいのよ?あの中にいる鳥を開放してあげないと、あの変な植物を食べてくれない)

真姫(それに、一番の疑問が…この頭蓋骨)

真姫(多分これって、まだ進めない場所で使うもの…そうに違いないわ)




真姫「…大体こんな所ね」

真姫「まず最初にするべきことは…あの白い花の殺し方」

真姫「…あの赤い草の話が聞けるといいのだけど」




真姫「…さて、と」

真姫「疲れも取れたし…早く進まないと」

ヴィオラ「……」 テクテク

-廊下 牢獄前-

 ヒソヒソ

      ヒソヒソ






ヴィオラ「……」

真姫「…ねぇ、ちょっと」




「花の×し方を聞きにきたの?」



真姫(聞こえた…!)


真姫「…そうよ。教えて」








「引き抜く方法も、手折る方法も、どちらも正しい×し方。」

「引きちぎる方法と、引く抜く方法のうち、少なくとも1つは正しい×し方。」

「3つの方法の中には、1つも正しい×し方はない。だから花を×すのはやめなさい。」







真姫「…はぁ?」

真姫「なによこれ…全員言ってることバラバラじゃない」

真姫「意味分かんな…あっ」






真姫「…忘れてた」

真姫「確か赤い草って、常に嘘をつくってあの本に書いてあったっけ」

真姫「嘘って事は…反対の事を言ってる」

真姫「……」




真姫(…だとしたら、余りにもあの草達が言ってることは真面目すぎるわ)

真姫(まるでクイズみたいに、捻りがなくて…少し考えれば答えが出てくる)






ヴィオラ「……」 テクテク

真姫「…油断を誘ってるのかしら」

真姫「…じゃあ、さっきの庭園に」

真姫「…っ!?」






ヴィオラ「……」

真姫「び…びっくりした」

真姫「何よ!さっきまでこんな所に頭蓋骨なんてなかったじゃないの!」







【頭蓋骨を手に入れた】






真姫「…ああもうっ」

真姫「ほんっと趣味悪い…!どんな性格してんのよっ…」

ヴィオラ「……」 テクテク

-庭園-




「ごきげんよう。」





真姫「……」

真姫「さっきの赤い草の情報を纏めると」

真姫「手折る…でいいのよね」





真姫「…何してるのよ、早くしなさいよ」

ヴィオラ「……」  ポキッ





    

  キ
    
     イ

           
        ィ    
    
   ィ

   
       ッ

        !






真姫「ひっ!?」

ヴィオラ「……」

真姫「な、何よ…何よ今の声っ…!」

真姫「ほんとにっ…信じらんないっ…!」

真姫「やめてよっ…もうっ…!」

ヴィオラ「……」

真姫「ハァ…ハァ…」

真姫「…白い、花びら」







【花の残骸を手に入れた】







真姫「…次は、あの部屋に」

ヴィオラ「……」 テクテク










「…しずかに しとくれと いったのに。」








真姫「……っ」

ヴィオラ「……」 ガチャ

-黄色い花の部屋-


「きこえた!あの子の醜い声!」



「きこえた!」

           「きこえた!」


   「きこえた!」





「アハハハハハハハハハハハハハアッハッハッハッハハハハハハハ!!!!!」






真姫「…最低」




「え?ああ、約束のものね。差し上げてよ。」






【白灰色の粉を手に入れた】





真姫「……」



キャッキャ!

        ケラケラ!


アハハハハ!







真姫「…気分悪い。さっさと行くわよ」

ヴィオラ「……」 ガチャ

-庭園-



真姫(……)

真姫(次は…この粉の薬を渡して)

真姫(いや…花びらの解明の方が先?)

真姫(もしかしたら、あの大きな穴が空いていた場所に変化があったかもしれないわ)

真姫(何にしても、今するべき事は…)







「ひどいことするなあ。」



黒猫「」

真姫「っ!?」

真姫「えっ!?なんでこのタイミングでっ…」






プツンッ




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・

-???-




真姫「……」

海未「真姫、ご苦労様です」

真姫「うん…」

海未「…どうかしましたか?」

真姫「……」

希「それにしても、今回は随分と遠回りすることがおおいなぁ」

海未「魔女もいよいよ本気を出してきた…ということでしょうか」

真姫「…そうね、今までとは比べ物にならないくらい、考える事が多かったわ」

真姫「ここからの行動は、全員できちんと情報を共有し合って」











真姫「…え」

真姫「ちょっと、    待って…」

真姫「情報を…共有…   って」












真姫「っあ…あ……ぁあああぁああぁあああっ!!!」 ガタッ

海未「ま、真姫っ!?」

真姫「そ、そうよっ…!そうよそうよそうよっ!!」

真姫「馬鹿っ!私こんなっ…こんな事もっ…!気づかないなんてっ!」

希「真姫ちゃん!どうしたん!?何をそんな…」

真姫「海未!希っ!」

真姫「さっきの…!私が探索してた時の!」

真姫「私の【声】っ!どのくらい聞こえてたっ!?」

海未「こ、声…ですか?」

真姫「ずっと独り言でブツブツ言ってたじゃない!その独り言!ちゃんとここまで聞こえてたの!?」






海未「…いえ、こちらからはそれ程には」

希「全然聞こえてないっていう訳やないけど…ボソボソと、何か喋ってるなぁって感じには…」

真姫「…っ!」

海未「真姫、一体何を…」







真姫「……作っちゃったかも」

希「えっ?」

真姫「私がっ…!【犠牲になる役目】を作っちゃったかもしれないのよっ!」

海未「ど、どういう意味ですか!?」

真姫「この階…色んな謎が多すぎて、一つ一つ整理しないと危なくて先に進めない…!」

真姫「だから私の推測をみんなに話して、全員で共有すればいいと思ってた!」






真姫「でもっ!出来ないじゃないっ!」

真姫「生きてる全員が私が戻ってくるまでここにいる訳じゃない…必ず入れ替わりで誰かがあっちに行っちゃう!」

真姫「次の人が一番知っておかなきゃいけないのにっ…!それが出来ないまま魔女の家に連れてかれる!」

真姫「一度集めた情報が二度目も必ず手に入る確証なんてないっ…!だからっ!必然的に作っちゃうじゃないの!犠牲になる役目っ!」

真姫「私がっ…こんな事見逃すなんてっ…!」

海未「そっ…そんな…!」

希「で、でも…映像で大体の状況は把握出来とったし、真姫ちゃんがいない時うちらも三人で考察し合ってたから…」

真姫「…甘いわよ。この階、考察だけで突破出来る程生易しく出来てない…」

真姫「今まではそれでまかり通って来たけどっ…この階はそれとは訳が違うのよっ!」

真姫「持ち物もどんどん増えて…どこで何を使うかもまだ分かってないのに」

真姫「その前の出来事も正確に把握してない状態じゃ…絶対っ…!」

海未「こ、ことりっ!」







ことり『…っ?……?   …?』 キョロキョロ






真姫「ほらっ…何からすればいいか、分かってないっ…!」

真姫「どうしようっ…このままじゃ、ことりはっ…!」

希「こ…ことりちゃん!」 












「どうかっ…どうか死なないで下さいっ!ことりっ…!!」










【To Be Continued…】

本日はここまでです。
3日間に区切ってしまい申し訳ありませんでした。


続きは一週間後の予定ですが、私事によって変更するかもしれません。その場合は報告致します。


では

本日8時より再開します

-園庭-


ヴィオラ「……」


ことり「…今度は、ことり」

ことり「……」







ことり「……えっ  っと」

ことり「ことり、まずは何をすればいいんだっけ」

ことり「確か真姫ちゃんがこのお花さんを…それで、この粉を」

ことり「……渡しても、いいの?」




ヴィオラ「……」

ことり「あ、あれっ?この骸骨さんは何に使うの?」

ことり「ことりも探索したいけど…どこから行けばいいの…?」

ことり「そ、それに…さっき真姫ちゃんが行った所、もう一度行っても大丈夫なの…?」













ことり「……どうしよう」

ことり「全然、分からないっ…!」

ギィッ…


ことり「……」

ことり「はぁ…どうしよぉ…」






ヴィオラ「……」

ことり「…ごめんね、ことりがずっと座ってるから」

ことり「あなたもベンチに座っていいんだよ?」








ヴィオラ「……」

ことり(動いてくれない…ことりが動かないと動けないんだ)

ことり「……」










ことり「……」 スクッ

ことり「ずっとこのまま座ってても、ダメ」

ことり「ことりが進まないと…みんなに迷惑がかかっちゃう」














ヴィオラ「……」 テクテク

ことり「……穂乃果ちゃん」


―――――――――




ことり『………』 テクテク






希「…ことりちゃん、進み始めたね」

海未「ことり…」









真姫「……」

希「真姫ちゃん、どうしたん?」

真姫「…何でもない」

海未「何ですか?何か思う事があるなら私達に…」

真姫「別にそんな大したことじゃないわ」





真姫「…ただ、本来ならことりの前にあの子がいる筈なのに」

真姫「どうしてここからだとことりしか見えないのかしら?」




海未「…分かりません」

海未「そもそも、あの少女は一体何者なんですか」

海未「こちらの声に反応を示さない、名も名乗らない」

海未「…私には、アレが生き物かどうかさえ疑問に思います」

希「……なぁ、ちょっとオカルトな話をしてもいい?」

真姫「いいわよ。…何か心当たりあるの?」





希「んとね…」

希「見えなモノが見えたり…見えてはいけないものが見えたって言う人…」

希「写真には写ってるけど、実際にはそんなモノいなかったとか…」

希「いわゆる霊感が強い人ってのを、よくテレビとかで見かけるやん?」

海未「…はぁ。私はあまりテレビを見ないのでよく分かりませんが…」

真姫「それがどうしたのよ?」














希「…どうする?」

希「あの子が見えないモノ…あるいは見えてはいけないものだったら」

希「ウチらにだけ見えて、本当はあんな子…どこにもおらんかった、とか」

海未「……」

真姫「…そんな」

希「ありえない話ではないと思うんよ」

希「ウチらはずっと、あの子が自分の分身の様なものだと認識してた」

希「物を持ったり使ったり…でも、それはこの魔女の家だけの事やん?」

希「分身である確証なんてないし、意思を持ってないだなんても誰も言ってない」

海未「…確かに、今までも何度か私の意思に反した行動をあの少女はしています」

真姫「…ちょっと、そんな話聞いてないわよ」

海未「すみません…怒りと動揺で我を忘れていたので」

真姫「しっかりしなさいよ…」











希「…もしかしたらウチら、とんでもないモノと一緒におるのかもしれん」

希「二人共気をつけとき。…あの少女は、普通じゃない」

真姫「…そんな事、分かってるわよ」

海未「……」

-廊下 牢獄前-


ヴィオラ「……」

ことり「……たしか真姫ちゃんは、この本を」







ヴィオラ「……」

ことり「どうして…読めないの?」

ことり「……」






ことり「…どうしよう」

ことり「読めないってことは、もう必要ないってことなのかな…」

ことり「じゃあ…お花の事はもう気にしなくて大丈夫…?」








ことり「…牢屋の方に、行ってみよう」

ヴィオラ「……」 テクテク

「ウェッ… グェホッ… ゴホ…。

 薬…。あんた… 薬…持ってないか?」




ヴィオラ「……」

ことり「…えっと、これを」





ガシャンッ!!




ことり「きゃあっ!!」







「…おい!……それをよこせ。」



ことり「あっ…は、はいっ…!」

ヴィオラ「……」 カサッ







…何者かは 素早く粉を手に取った。





.

「… … …ああ、ああ?…?なんてこった。


 …あれが ねえや…。あれがねえと…。」




ことり「…えっ?」




「あれがねえと 吸えねえじゃねえかッ!!」  ドンッ!




ことり「ひゃあっ!?」




ガシャンッ!








ことり「あ…あっ…っ!」 



「…あああっ、くそっ、 …。」 トントントントン









ヴィオラ「……」

ことり「ひっ…えっ…ぐっ…怖かったよぉ…!」 ポロポロ

ことり「ことりっ…何か間違えたかと思ってっ…!」











ことり「……あ」

ことり「鳥籠が…倒れてる…」

ことり「…中に、何かいる」

ことり「ごめんね…びっくりしたよね…?」

ことり「戻してあげないと…」







ことり「…あ」

ことり「扉の金具がゆるんでる…倒れた時に曲がっちゃったのかな」

ことり「……」

ことり「開けても、いいの…?」






ヴィオラ「……」 ガチャ

ことり「えっ…えっ!?勝手に開けてっ…!」



バサッ!



ことり「きゃっ…」







…見えない何かが飛び出していった。





ことり「……行っちゃった」

ことり「良かったのかな…籠から出しちゃって」

ヴィオラ「……」
 


ことり「あ、貼り紙が…」

ヴィオラ「……」 ペラッ














                【すえるものを】















ことり「…吸えるもの」

ことり「さっきのひと…吸えないって」

ことり「……っ!」











            




              やみに かくした














ことり「ひっ…!」

ことり「ち、血の…文字っ…!」

ヴィオラ「……」

ことり「……」

ことり「吸えるものを…闇に隠した」

ことり「闇って…もしかして、さっき真姫ちゃんが入ってすぐに出てきた場所…?」

ことり「じゃあ、あそこに…」

ことり「…でもどうやって」

ことり「……」













ことり「…とにかく、色んな所に行ってもいいみたいだから」

ことり「探索、しなくちゃ…」

ヴィオラ「……」 テクテク

-庭園-



ヴィオラ「……」 テクテク

ことり「何か、何か変わった所…変わったところ…」

ことり「…あっ!」






バサッ



      バサッ








ことり「…さっきの小鳥さんが、飛んでる」

ことり「それに…あの植物がなくなってるよ!」

ヴィオラ「……」

ことり「…そっか。食べて元気になったんだね」

ことり「よかったね、小鳥さん…」










ヴィオラ「……」 ガチャ

ことり「ことりは…こっちに進まなきゃ」

ヴィオラ「……」

ことり「えっと、ここは」

ことり「…っ!?」 








-毒の水溜り廊下-



ことり「ごふっ!」

ことり「げほっ!ごほっ!ごほっ!」 バッ

ことり(な…なに…ここっ…!)

ことり(苦しいっ…!身体がっ…痺れてっ…!)

ことり「げほっ!」





ことり「た…たて…札っ…!」

ヴィオラ「……」











         【どくそ はっせいちゅう】



       【.いろのないくつで とおること】












ことり(毒素っ…!?)

ことり(ダメっ!ここにいたら、死んじゃうっ…!)

ことり(も、戻らない…とっ…!)

ヴィオラ「……」 ガチャ

-庭園-


バタンッ


ことり「げほっ!ごほっ…!」

ことり「はぁ…はぁ…!」

ことり「……」






ことり「…あれ、何ともない」

ことり「どうして…?ことり、いっぱい吸っちゃったのに…」






ことり「……」

ことり「とにかく、ここは後回しにしないと…」

ことり(でも、さっきチラッと見えた、箪笥の列も気になるし…)








ことり「…もうちょっと、色々調べなきゃ」

ヴィオラ「……」 テクテク

-黄色い花の部屋-




ヴィオラ「……」 ガチャ

ことり「…だめ。やっぱり明かりがないと危なくて入れない」

ことり「どうすればいいのかなぁ…」




ヴィオラ「……」

ことり「このスタンドライトを…」 

ことり「…あ、動かない」

ことり「うーん…」






ことり「…もう一回、牢屋の所に行ってみようかな」

ヴィオラ「……」 テクテク


-廊下 牢獄前-



ことり「…今度は、北の方に」

ことり「…あっ!」









ヴィオラ「……」

ことり「そっか…ここにも緑の植物があったから」

ことり「…入っても、いいよね?」










ヴィオラ「……」 テクテク

ことり「…そういえば」

ことり「なんで、ここだけ扉がないんだろう…?」

ヴィオラ「……」 

ことり「ここ、すっごく狭いよぉ…」

ことり「ヒト一人分の道しかないないんて…」



ことり「あっ、貼り紙…」

ヴィオラ「……」 ペラッ












        【みずは ずがいこつが ふういんしている】












ことり「…!」

ことり「頭蓋骨…って、もしかして…!」

ことり「でも…水?何の事だろう…」

ことり「でもでも、これでこの骸骨さんが何に使うのか分かったから…それだけでも!」

ことり「…あれ?」








ことり「……」

ことり「なんで…こんな所に…壺が…」

ヴィオラ「……」

ことり「……」

ことり「何か…入ってるの?」







ことり「……」

ことり(ここに、ひとつだけ壺があるって事は)

ことり(絶対何かあるって、事だよね…?)






ことり「…お願い、してもいいかな?」

ヴィオラ「……」 ゴソゴソ







ヴィオラ「……」

ことり「…!」

ことり「えっ…ま、また?」



【頭蓋骨を手に入れた】




ことり「…これで三つ目」

ことり「こんなにたくさん、いらないよ…」

ことり「これをどうしたら…」













ヴィオラ「……」 テクテク

ことり「こっちに行けば、分かるのかな…」

-頭蓋骨の部屋-



ことり「ひゃっ…!」

ことり「な…なにっ…なに…ここっ…!」

ことり「頭蓋骨がっ…いっぱいっ…!」

ことり「き、気持ち悪い…!」







ヴィオラ「……」

ことり「うぅ…もういやだよぉ…」

ことり「これ、いきなり襲ってきたりしないよね…?」

ことり「どうすれば…」

ことり「…あっ」








ことり「…なんだろう、これ」

ことり「レバー…だけど」










ヴィオラ「……」

ことり「…えっと、この部屋は」 キョロキョロ





ことり(あんまり広くない部屋に、たくさんの骸骨)

ことり(壁に青いレバーがあって…まだ触るのは、危険だよね)

ことり(後は…うーん、特に何もないけど…ないけど)











ことり「…ここ、不自然だよね」

ことり「たくさんの骸骨の隅っこに…何かを填めるくぼみがある」

ことり「……」

ことり「あっ、もしかして…!」






ヴィオラ「……」 ゴトッ

ことり「やっぱり…入った!」

ことり「そうだよね…こんなにたくさんの骸骨さんがいるのに…他に使うところがないよね」

ことり「…でも」








ことり「…ことりが持ってるのは、3つ」

ことり「くぼみは4つあるから…一つ足りない」

ヴィオラ「……」

ことり「…やっぱり、最後の一つは」

ことり「……」






ことり(あの部屋、ずっと居たら危ないけど…別にすぐに死ぬ訳じゃなかったよ)

ことり(じゃあ、入出を何回か繰り返しながらだったら、あの箪笥も調べることができるのかな…?)











ヴィオラ「……」 テクテク

ことり「…大丈夫、だよね…?」

ことり「……」

ことり「すぅ…はぁ…」

ことり「……」 グッ

ヴィオラ「……」 ガチャ









-毒の水溜り廊下-



ことり「…うっ」

ことり(い、息止めてもっ…苦しいっ!)

ことり(走れないっ…早く箪笥に…!)



ヴィオラ「……」 ガラッ

ことり(…何も、ない)

ことり(次…うぇっ…)








ヴィオラ「……」 ガラッ

ことり「…!」

ことり(何かあった!…これは?)







【空きビンを手に入れた】







ことり(空の…ビン?)

ことり「うっ…がっ…」

ことり(考える前にっ…ここから…出ないとっ…!)

ヴィオラ「……」 ガチャ

ガチャ


ことり「…っぷは!」

ことり「はぁ…はぁっ…」

ことり「…やっぱり、苦しくない」

ことり「何なんだろう…あの毒素って」

ヴィオラ「……」





ことり「……えっと」

ことり「最初はただのゴミかと思ったけど…拾えたって事は」

ことり「この空き瓶、何かに使う…のかな?」








ことり「…よぉし、もう一度」

ヴィオラ「……」 ガチャ





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




ヴィオラ「……」 ガラッ

ことり「げほっ…これは」







ことり(本…!でも、なんで…)

ことり(持ち出せない…じゃあ、ここで読まなきゃいけないのぉ!?)

ことり(は、早く読まないと…)






ことり(…『どくろの兵士』)

ヴィオラ「……」 ペラッ









ことり「…ごほっ!」

ことり(も、もうダメっ!一時退避~!)

ヴィオラ「……」 ガチャ

ガチャ


ヴィオラ「……」

ことり「……はぁ」

ことり「嫌だなぁ…もうここに入るの」

ことり「でも、まだ調べてない箪笥があるし…」





ことり「…さっきの本って」

ことり「死んだ兵士が滅んだ国の見張りをずっとしてた…って内容だったけど」

ことり「…正面、右、左、正面」

ことり「……これって」









ヴィオラ「……」 ガチャ

ことり「…次が最後、かな」


・・・・・・・・・・・・・・


ヴィオラ「……」 ガラッ


ことり「……!」

ことり(あった!……最後の骸骨さん!)







【頭蓋骨を手に入れた】







ことり(…これで、あの部屋に)

ことり「…げほっ」

ことり(……)

ヴィオラ「……」 ガチャ

-頭蓋骨の部屋-



ヴィオラ「……」

ことり「えっと、このくぼみに…正面、右…」

ことり「…あっ」



ことり(…何処から見て、正面なんだろう…?)

ことり(えっとぉ…ここが右を向いてて…こっちが正面で…だから)





ゴトッ





ことり「……これで、いい筈だけど」

ヴィオラ「……」




ことり「あとは、レバーを…」

ことり「…じゃあ、お願いね」

ヴィオラ「……」 ガコンッ







ザアァァァァ…






ことり「…!」





…近くで水の流れる音がした。

ことり「はぁ…よかったぁ」

ことり「これで水が…どこに溜まったんだろう?」

ことり「…あっ、もしかして真姫ちゃんが入ったあの大きな穴の部屋?」

ことり「ことりまだ調べてなかったっけ…」

ことり「…気をつけなくちゃ」







テクテク…








ことり「…けほっ」

ことり(あれ…おかしいなぁ…少し息苦しい)

ことり(……さっきの毒素、吸い込み過ぎたのかな)

ヴィオラ「……」

-通路-


ことり「えっと、ここを通り抜けて…北の」






ガシャン







ことり「……え」

ことり「壺が…ひとりでに…割れて」











        ドクン













ことり(…っ!)

ことり(ことり…この感じ…知ってる)

ことり(かよちゃんの…花瓶が倒れた時と…同じっ…!)

…ことりの呼吸が乱れ、激しい動悸が起こり始める。
先程の部屋で吸い込んだ毒素の影響とは明らかに違うと感じる症状…
それは自分が今置かれている状況に恐怖していることを証明していた。




花陽や希が人外に襲われた際、何かしらの前兆あった…

花瓶が倒れ熊が襲い、鈍い音が響き唸り声のようなものが聞こえたと希は話していた。







…この先、足を踏み出すと、自分は最期を迎えてしまうかもしれない。
そんな想像がことりの胸を更に締めつけ、呼吸が出来ず口を魚のように情けなく開閉を繰り返した。




ことり「はぁ…はぁ…はぁっ…!」

ことり「げほっ…!……はっ…はぁっ…あっ!」






金縛りに掛かったかのように動かない脚を必死に上げる。
ここで止まっていては何も起こらない、先に進めない…
仲間の為に、自分の為にと心に刻んだ決意だけがことりの身体を動かしていた。



かつん




…一歩、また一歩と、足を前に踏み出す。
























           地面を踏みしめたことりの視界に飛び込んできたのは


      恐ろしい程巨大で、返り血を浴びドス黒く変色した頭蓋骨の化物だった。


  



      ご

  ご



    ご  ご  ご




ことり「…はっ…ひっ・・・ひっ!!!」

ことり「ひゃ…!あっ…!…いやっ…!」

ことり「いやあああああああああああああああああああっっ!!!!」







悲鳴を上げるより先に足が動き出す。
巨大な頭蓋骨は奇っ怪な動きでことりに向かって襲いかかる。


希を襲った生首のように、足を持たないモノとは思えない程の速さでことりとの距離を縮めている。
化物自身が動かしているのは、鋼のように強靭な顎と歯だけのように見えた。






ことり「はっ…!はぁっ…!ひぃっ…!」





大量の骸骨の部屋に飛び込むも、化物は部屋に進入しことりを追いかける。
人一人動くのも神経を使うほどの狭い通路を、速度を落とさずに難なく進んでくるその様は異様だった。


その不可解な現実はことりの恐怖心をさらに募らせ、ただひたすらに走る事に意識を向ける。



ことり「やだっ!やだやめてっ!来ないでっ!いやっ!いやあああっ!!」

ことり「いやあああああああああああっ!!来ないでっ!来ないでええええええええええええええっ!!!」




















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



-廊下 牢獄前-



ヴィオラ「……」

ことり「はっ…はっ…はっ…!」

ことり「うっ…げほっ!ごほっ!…かふっ」

ことり「ハァー…ハァー…」










ことり「……うっ」

ことり「あっ…ひっ…ああっ…」

ことり「あああっ…ひぐっ…ぅあっ…!」 ポロポロ

ことり「怖かったっ…!えぐっ…!え゛っ…こわっ…怖かったっ…!」

ことり「もういやぁ…なんでっ…ことりがっ…こんな目にっ…!」











ヴィオラ「……」 ガチャ

ことり「ひぐっ…もうっ…嫌だよぉ…」

-穴のある部屋(注水後)-



 ポチャン



        ピチャン…







ヴィオラ「……」

ことり「…水」

ことり「透き通ってて…綺麗」





ちゃぽん



ヴィオラ「……」

ことり「……瓶に、水を」









…空きビンに水を入れた。








ことり「…喉、乾いた」

ことり(でも…、この家の物を…口に含みたくない)

ことり(我慢…しなくちゃ)






ヴィオラ「……」

ことり「えっと…水について、他に何かあったような…」

ことり「…あっ」 

ことり(そういえば…)

ことり(真姫ちゃんが読んでた花の本に…白い花びらの事が)

ことり(確か、雨に触れると、って…)






ヴィオラ「……」 ポチャン

ことり「…!」

ことり「光ってる…!これってもしかして…!」





…花の残骸を水の入ったビンに入れた。




ポワッ



ことり「…出来た」

ことり「これであの暗い部屋に行けるんだね」

ことり「…怖いけど、行かなきゃダメだよね」

ヴィオラ「……」 テクテク




























ことり(見てない)

ことり(ことりは何も見てない)

ことり(水中で泳いでるおたまじゃくしなんて  見てない)


・・・・・・・・・・・・・・



ことり「…じゃあ、行くよ」

ヴィオラ「……」 ガチャ







-暗闇の通路-



ことり「…っ!?」

ことり(暗いっ…この光、全然辺りが見えない…!)

ことり(どうしようっ…!一歩先も見えないだなんて思わなかったっ…!)








ヴィオラ「……」 テクテク

ことり「何も、起こりませんようにっ…!」

ヴィオラ「……」 テクテク

ことり「……」

ことり(壁伝いに進まないと…道が分からない) 

ことり(道が別れてたら…どうしよう)










ことり「…箪笥がある」

ことり「これを…調べてもいいのかな」

ヴィオラ「……」 カタンッ








ことり「…何もないね」

ヴィオラ「……」


ヴィオラ「……」

ことり(…机の下も、調べたけど)

ことり(やっぱり、何もなかった…)

ことり(ここ…来た意味あるのかな)






ベチャ




ことり「…えっ」

ことり「壁に何か触って…」







ことり「…ひっ!?」

ことり「ち、血がっ…!」







       ブワッ






ことり「きゃあああっ!?」

ヴィオラ「……」

ことり「なっ…なに…今のっ…!」

ことり「あの子…誰っ…!?」

ことり「うっ…ぐすっ…ここ…怖いっ…!」

ことり「早く出たいよぉ…うぅっ…!」













ヴィオラ「……」 カタンッ

ことり「…また、箪笥」

ことり「でも、何も見つからないから…探しても…」




カタンッ



ことり「……あ」

ことり「この箪笥だけ…何かある」





【翡翠のパイプを手に入れた】







ことり「……」

ことり「もしかして、これが」

ことり「吸える、もの…」

ことり「見つけた…見つけたよっ…!」

ことり「これで…ここから出られるっ…!」








ヴィオラ「……」 テクテク

ことり「あともう少し…あともうちょっと…!」





ヴィオラ「……」

ことり「…待っててね、みんな」

ことり「ことり、絶対にっ…!」



ドンッ



ことり「きゃ…!」

ことり「…何、これ」

ことり「銅…像?どうしてこんな所に…」

ことり「……」





ヴィオラ「……」 テクテク

ことり「…あれ」

ことり(気付かなかったけど…ここ…銅像がいっぱい)





ズ ズ ズ 





ことり「きゃあ!?」

ことり「あっ…?」

ことり(ど、銅像がっ…勝手にっ…!)





ことり「…やめてよっ…嫌だよっ…」

ことり「もう…怖いのは…嫌ぁ…!」 

ヴィオラ「……」 ダッダッダ








ベタ    


       ベタ 


ベタッ!





ことり「ひいいっ!?」

ことり「手っ…手ぇっ…!」

ことり「やだっ!やだやだっ!やめてぇっ!」 ダッダッダ!





   ズ




 ズ





ことり「いやっ…いやぁ…!」

ことり「来ないでっ…何もこなっ」







パリンッ






ことり「…え」

ことり「な、何も見えないよぉ…!!」

ことり「えっ…えっ!?なんでっ…なんで!」

ことり「ね、ねぇ!どうしてビン落としちゃったの!?なんで…」










ヴィオラ「        」 


 


ことり「ひっ…あ…ああっ!!」












「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」










.




ガチャ…バタンッ





ことり「ひっ…ひっ…ひぃっ…!」

ことり「うっ…げほっごほっ!」

ことり「ごほっ!…うっ…げぇっ…ぇ…」








ことり「…っは…はぁっ」

ことり「……」

ことり「何   今の…」

















ヴィオラ「……」

ことり「きゃあ!」

ことり「こ…来ないでっ!ことりに近寄らないでっ!」

ヴィオラ「……」



ことり(…暗闇の中でもはっきりと見えた)

ことり(この子が…私に向かって)






ことり(気味悪い笑顔でっ…私を見てたっ!)

ことり(赤くて…目が黒くてっ…!)

ことり(この子は…この子は一体何者なのっ…?)

ことり(怖いよっ…もう、一緒に居たくない…!)









ヴィオラ「……」

ことり「…うっ」 
 
ことり「えぐっ…ひっくっ…穂乃果ちゃん…海未ちゃぁん…!」 ポロポロ

-廊下、牢獄前-



ヴィオラ「……」 カランッ

ことり「……」







…鉄格子の隙間から、翡翠のパイプを投げ入れた。









「…あ、ああ。 これは… 


                へへっ、俺のだ。俺の…。」







…何者かは牢の奥に消えていった。








ことり「…えっ」

ことり「何も…起こらない…どうして」





…ガチャン




ことり「っ!?」





…隣の牢屋から何者かが出て行く音がした。

ヴィオラ「……」

ことり「隣の牢屋…開かない筈だったのに」

ことり「それに…なに、この変な匂い」






     ベタッ!






ことり「ひっ!?」

ヴィオラ「……」
















          せっかく かくしておいたのに









 





ことり「…ぁ…っあ…!」

ことり「なんでっ…だって…探せって…!」

ことり「…うっ…ひっく…っ」










ヴィオラ「……」

ことり(…こっち、調べよう)

ことり(何かしないと…怖さと、この甘い匂いでおかしくなりそう…)

-牢屋-




ヴィオラ「……」


ことり「…なに、ここ」



ことり(色んな本が散らばってる…どれも汚れてて読めない)

ことり(えっと…『楽×いお菓子づ×り』、『病×の子××つ親へ』)

ことり(…『×物依存症』)







ことり「…もしかして、さっきの薬って」

ことり「……」






ことり「…ここ、なんだろう」

ことり「牢屋じゃなくて…なんだか」

ことり「誰かの、部屋みたい…」

ことり「えっと…他には」






ことり「…!」

ことり「布に包まれて…何かある!」

ことり「…でも」



ことり(…取っていいのかな)

ことり(また…この前みたいに…猫さんの死体が入ってたり…)

ことり(…っ)









ヴィオラ「……」 バサッ

ことり「…!これって」





【赤い靴を手に入れた】






ことり「…なんだろう、この靴」

ことり「すごく…不気味…」

ことり「…あ、貼り紙も」

ヴィオラ「……」 ペラッ









         




             【ちをながせ】














ことり「…血を、流せ」

ことり「…っ!この靴の赤色って…血っ!?」





どろっ





ことり「ひっ!?」










               ちをながせ













ことり「なっ…なんでっ…!貼り紙にっ…血がっ…!」

ことり「やめてよぉ…!もう、怖いの嫌だよっ…ぉ…!」

ことり「ちゃんと言ったとおりにするからっ…!もう脅かさないでぇ…!」










ヴィオラ「……」 ガチャ

ことり「えぐっ…いつになったらっ…あっちに…戻れるのぉ…っ?」


・・・・・・・・・・・・・・



ヴィオラ「……」

ことり「……」

ことり(もう、ここに…来たくなかったのに)

ことり(早く、済ませないと…)






ジャブ


    ザバッ





ことり「…うっ」

ことり(あんなに綺麗だったのに…血で、真っ赤に)






…靴の血が洗い流されて、透明な色があらわれた。






ヴィオラ「……」

ことり「…綺麗に、なった」







【ガラスの靴を手に入れた】




.
     

ことり「…色の無い、靴って」

ことり「コレのこと…だよね」

ことり「…じゃあ、これを履いて…あの廊下の先に」

ことり「……この部屋から、抜け出せる」











ことり(……) チラッ







ことりは意図的に目を逸らしていた方へと顔を動かす


…そこには、数匹のおたまじゃくしが力なく浮いていた。







ことり「……」

ことり「ことりの、せいだよね」

ことり「…ごめんなさい」





ことり「ことり…元の世界に戻ったら」

ことり「カエルさんと…おたまじゃくしさんの…お墓を作るよ」

ことり「ごめんね…こんな事しか出来ないことりを…許して」

ことり「ごめんなさい…ごめんなさい…っ」








ことり「……」 ゴシゴシ

ことり「泣いてても、だめ」

ことり「早く行かないと…みんな、心配して」


















































「お父さん、死んじゃった。」







…血の気が引く音がした。


誰も居ないはずの部屋から、幼くてか細い声が聞こえたのだ。





ここにいるのは、ことりとこの少女だけ。
部屋は水が滴り、雫が落ちる音が部屋に響いており、その音が心地よいとすらことりは思っていた。










だが、聞こえたのだ。

その声は今まで一度も声を出さなかった少女の物ではない

この部屋の、水中から。







…死んだはずのおたまじゃくし達が、声を出して喋っていた。

ことり「   えっ」


ことり「あっ・・・     はっ・・・     え」





ことりは振り向く事ができなかった。
この血で赤く染め上げた部屋の水を、おたまじゃくしの死体を直視する勇気がない。
何より振り向く事で状況が変わるとも思っていなかった。






だが、声は再び聞こえた。


次第に喋り出す声は増え、その声は部屋中に響き渡る。







「お父さん、死んじゃった。」





「お父さん、ヘビに食べられて死んじゃった。」





「お父さん、いっぱい頑張ったのに、窓に押し込まれて死んじゃった。」      

ことり「……やめて」


ことり「やめてっ…!お願いっ…やめてっ…!」


ことり「いやっ…やだっ…!やめてっ……許してっ…!」



耳を塞ぎ、ことりは小さく蹲った。
しかしそれでもおたまじゃくし達の声は聞こえてくる。
小さな部屋の水場が、か細い声を響かせていた。




「お父さん、死んじゃった。」「お父さん、ヘビに食べられて死んじゃった」
「お父さん、死んじゃった。」「お父さん、ヘビに食べられて死んじゃった」
「お父さん、死んじゃった。」「お父さん、ヘビに食べられて死んじゃった」
「お父さん、ヘビに食べられて死んじゃった」「お父さん、死んじゃった。」
「お父さん、ヘビに食べられて死んじゃった」「お父さん、死んじゃった。」
「お父さん、ヘビに食べられて死んじゃった」「お父さん、死んじゃった。」
「お父さん、死んじゃった。」「お父さん、ヘビに食べられて死んじゃった」
「お父さん、死んじゃった。」「お父さん、ヘビに食べられて死んじゃった」
「お父さん、死んじゃった。」「お父さん、ヘビに食べられて死んじゃった」
「お父さん、ヘビに食べられて死んじゃった」「お父さん、死んじゃった。」
「お父さん、ヘビに食べられて死んじゃった」「お父さん、死んじゃった。」
「お父さん、ヘビに食べられて死んじゃった」「お父さん、死んじゃった。」
「お父さん、死んじゃった。」「お父さん、ヘビに食べられて死んじゃった」
「お父さん、ヘビに食べられて死んじゃった」「お父さん、死んじゃった。」
「お父さん、死んじゃった。」「お父さん、ヘビに食べられて死んじゃった」
「お父さん、ヘビに食べられて死んじゃった」「お父さん、死んじゃった。」
「お父さん、死んじゃった。」「お父さん、ヘビに食べられて死んじゃった」





ことり「いやぁっ!やめてっ!やめてぇ!」


ことり「やだっ…やだっ!聞きたくないっ!聞きたくないっ!」


ことり「お願い!やめてっ!もうやめ」



ことりはその声を止めようと、血の水場に振り向く。そして












          「お 前 が 殺 し た」
















―大量のおたまじゃくしの死体が、ことりの目に映った。


―ドボンッ!




ことり「がっ…!ごぼっ…ごっ…!」




突然、ことりが蹲っていた足場が崩れ始め、ことりは水中に引きずり込まれた。

突然の出来事に混乱する間も無く、ことりの身体は水中の底へと落ちていく。



何とかして浮き上がろうと手足を動かすが、上に進む気配など無く、むしろ更に沈みかけている気がした。




ことり「ごっ…がっ……   がぼっ…」




自分の身体が浮かび上がらないことに疑問を感じたことりは、息苦しさの中自分の足に目を向ける。





…そこには、先程の大量のおたまじゃくしがことりの足を引っ張り、水底へと引きずり込む様に泳いでいた。




ことり(……ごめん、なさい)


ことり(穂乃  果  ちゃん…   海未   ちゃん)


ことり(みん    な…)














              ごぽっ…
 










  ― そしてことりは 血の海へと消えていった。 ―



ブツンッ




・・・・・・・・・・・・・・・・・




希「 …そん、な」

真姫「あっ…あっ…ことり…っことり…!」








海未「…消えた」

海未「私の、前から」

海未「穂乃果と   ことりが    消え」








グ ニ ャ ア






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~



「…ガ…ォ…グ…ゲ…」




少女は悶えていた。

腐った足から焼けるような痛みが全身に響き渡り、意識が飛びそうになる。

だが、ここで意識を切らすことは、死ぬ事であるのを少女は知っていた。





…この身体は、魔法と気力のみで原型を留めていたのだ。









『…苦しそうだね。ヴィオラちゃん』




…聞こえる筈のない声が頭の中に響き渡る。
この家から【彼女】の存在を断ち切った筈だったのに、また、聞こえてきたのだ。





『…私、びっくりしてるんだよ?』

『ヴィオラちゃんがここまで、魔女になりきれてるだなんて』

『もしかしたら、私より才能。あるかもしれないね』

『ふふっ…よかったね。魔女になれて』




…ああ、うるさい。

この声は私を不快にする。

一度は仕方の無い事だと思ったけど、でも、今は彼女に慈悲の感情など持ち合わせていない。





無い筈だ。







『でも、残念だね。』

『その身体に、もうこれ以上の魔力を貯める力はないよ』

『だから、すぐに使うしかない…今日のアレも、そういう事でしょう?』





…見透かされていた。

家から生み出される魔力は、この身体には毒だった。

大きすぎる魔力は身体から溢れ、血を流すかのように止まらなかった。




…だから、魔法として消費する事で、溢れ出る魔力を抑えることができた。





―本当は、こんな筈ではなかったのに。

『…でも、あまり【改築】しないでね?』

『私が遊びに行く時に…迷子になったら、困るでしょ?』




彼女はそう言うと、くすくすと笑い始める。

何もかも上手くいかない私を揶揄いに【来た】だけなのだと、私は理解した。







『…もうちょっとだけ、待ってあげるよ』

『もう私も、いい加減外に出たいの…だから、もうちょっとだけ。』

『頑張ってね。   ヴィオラちゃん。』





…彼女の意識が、私の頭の中から消え去る。

この身体が悔し涙を流せる身体だとしたら、私は泣いていたかもしれない。





…だが、それは無意味だという事を知っている。

今はまだ、感情に気力を費やす時ではない。





…あと一夜で、全てが終わる。
だから、私は動かない。何も言わない。何も感じない。














……だから、早く伝えないと。




あの×××××に、私の事を。







【To Be Continued…】

本日はここまでです。
今月中に完結したいと思っていますので、次の更新は土日を予定しています。


では。

再開します


――――――



「かーよちーんっ!」


「きゃあ!?り、凛ちゃんどうしたの…?」


「今日のテストの出るところ教えて欲しいにゃー」


「…えっ?テストって明日の筈だけど」


「えぇっ~!?なんでなんでー!?」


「な、なんでって花陽に言われても…」


「せっかく早起きしてかよちんに教えて貰おうって思ってたのに…」


「これじゃあ早く来た意味ないにゃ~」


「り、凛ちゃん…」


「うー…あっそうだっ!今日かよちんに教えてもらって明日の朝詰め込めばいいんだよ!」


「で、でも今回の範囲…結構多いよ」


「そんなのかよちんなら大丈夫だって!あっそうだ!」


「真姫ちゃん!真姫ちゃんも一緒に凛の勉強に付き合って欲しいんだにゃー!」

真姫「    」


「…そうだね。三人一緒で勉強した方が効率はいいかも」


「決まりー!じゃあ早速」


パサッ


「…にゃ?」


「真姫ちゃん?」





真姫「   …それ、今回のテスト範囲」

真姫「内容。全部入ってるから」





「え、ええっ!?もう全部まとめちゃってるの!?」


「真姫ちゃんすごいにゃー!やっぱり凛とは頭の作りが違うんだねぇー」


「う、うん…ごめんね凛ちゃん、今回花陽あんまり役に立ちそうにないよ…」


「凛はそんなかよちんも好きだにゃー」


「も、もうっ!凛ちゃ」 バンッッ!!!














「…えっ?」


「真姫、ちゃん…?」



真姫「     …お願い」















真姫「…私の視界から、消えて。」

「ま、真姫ちゃん…?」


「どうしたの?生理中かにゃ?」



真姫「……」 ガタッ





カツン

     カツン…







「…真姫ちゃん、調子悪いのかな?」

「分かんなーい。でもしばらく一人にしてあげたほうがいいかも」

「そうだね…でも、心配だなぁ」

「大丈夫だって!どうせ真姫ちゃんの事だから後でひょっこり顔出しに来るよ」

「…うん、そうだね」















ヴィオラ「じゃあ、早速はっじめーるにゃー!」

ヴィオラ「もう、凛ちゃんったら…くすっ」

-放課後 部室前-




真姫(……)

真姫(……)  ガチャ








ヴィオラ「ちょっと!それ私のでしょ!?返しなさいよっ!」

ヴィオラ「ちょっとぐらいいいじゃーん!にこちゃんケチだにゃー!」

ヴィオラ「ほらっ!かよちんもこの前からコレ観たいって言ってたじゃん!」

ヴィオラ「え、ええっ!?そ、そうだけどぉ…」

ヴィオラ「そっちは保存用よ!観るならこっちの鑑賞用にしなさいよっ!」

ヴィオラ「どっちも同じだにゃー」

ヴィオラ「凛、その辺にしておくのよ?それ、にこが一年生の時から大事にとってた物らしいから」

ヴィオラ「ちょ、ちょっと絵里!?」

ヴィオラ「わぁ~♪ホントだっ。ほらっ、ここのカバーに日付が…」

ヴィオラ「わーわーっ!?やめてぇっ!見ないでー!!」















真姫(……)

真姫(……) カチャリ









カツン


      カツン…

-生徒会室-



真姫「……」

真姫「ここに、いたのね」












真姫「…希」

希「……」 

真姫「何してるのよ」

希「んー?」

希「…別に、何もしとらんよ?」

真姫「してるじゃないの」












真姫「…何?その散らばってるタロットカード…」

希「……」

希「…ねぇ、真姫ちゃん」

希「占い師が絶対にしてはいけない…禁忌って知ってる?」

真姫「…知らない」








希「…それはね」

希「自分の運命を占う事なんよ。」

希「占いっていうのは、その人のこれからの事を予測して、よりよい未来に導いてあげる為にあるもの」

希「だから、自分の運命を占ったところで、それが100%当たるだなんて証明が出来ない」

希「占い師としての沽券にも関わるし、何より信用を失ってしまうやん?」

希「世界中にいる占い師が自分の運命を占わないのは…こういう理由があるんやんな」













希「…だから、ウチは占い師…いや、まだなってはないよね」

希「カードを使う者として、…失格だね」

真姫「…占ったの?」

真姫「自分の、これからの事…」

希「……」







希「タロット占いって、普通は一回一回結果が違うんよ」

希「だから、2度占う事は絶対にしてはいけない…あっ、これも禁忌やったね」








希「…不思議なこともあるもんやなぁ」

希「何回やっても、結果が同じなんよ」




ペラッ




真姫「…何、それ」

希「『死神』の正位置」

希「意味合い的には…終末、破滅、離散、終局、清算、決着」










希「…そして、死の予兆。」

真姫「…っ!」

真姫「ふざけないでよっ!」

真姫「それで諦めるつもり!?ここまで生き残ってきたのに!」

真姫「これまで倒れていったみんなの犠牲を無駄にするつもりなのっ!?」

希「……」

真姫「希っ!」








真姫「…しっかりしなさいよっ!なんでっあなたが心折れちゃうのよっ…!」

真姫「希や海未がいなくなったら…私っ!」

真姫「私一人じゃ…何も…っ!」









希「…ごめんね。真姫ちゃん」

希「ちょっと弱気になってたんよ」

希「普段はここに…絵里ちも一緒に居たから」

希「それが急に居なくなると…ウチって、ここまで弱気になってしまうんやね」

真姫「馬鹿っ…私だってっ…!」











希「…帰ろっか、真姫ちゃん」

真姫「……」

-帰り道-



テクテク



希「…今日、海未ちゃん来なかったね」

希「大丈夫なのかな?」

真姫「……」

真姫「…メールは、来てた。」

真姫「今日は学校、休みますって…」

希「…そっか」








真姫「…ねぇ、今日は作戦。立てなくていいの?」

希「うーん、そうやんなぁ」

希「ウチが思うに、もうこれ以上の推測は意味がないと思うんよ」

真姫「…どうしてよ」

希「これまで、色んな仮設を立ててきたけど」

希「実際、殆ど裏目に出てきてるやん?」

真姫「……」

希「もしかしたら、ウチらの考えは魔女に読まれてて…それが原因でみんな倒れてしまったのかもしれない」

希「だったら、敢えて敵に情報を与えずに挑むってのも作戦の一つだとは思わない?」











真姫「…言えない、訳じゃないけど」

希「うんうん。後は自分を信じるだけやね♪」

希「じゃあ、ウチはこっちやから。またね真姫ちゃん」

真姫「…うん、じゃあ」

希「~♪」







タッタッタ…



真姫「……希」

真姫「本当に…諦めてないわよね」

真姫「…運命を、受け入れる…なんて」














真姫「……っ」 タッタッタ

真姫「はっ…はっ…はっ…!」 タッタッタ…!

真姫「はああああああああああああああっ!!!!」 ダッダッダッダッ!!!













真姫「はぁ…はぁ…はぁっ…!」

真姫「私は…死なないっ!」

真姫「あんな意味分かんない所でっ!絶対!」















「絶対にっ!死んでやらないんだからっ!!!」














・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・

-???-




真姫「……」

真姫「…ここも、寂しくなったわね」









海未「……」

真姫「…海未」

海未「…来ていましたか、真姫」

真姫「うん」

真姫「…貴女、大丈夫なの?」

海未「私は大丈夫です」

海未「すみません…今日は学校、休んでしまって」

真姫「いいのよ」

真姫「…今日は、行かない方がよかったと思うから」

海未「……」












希『………』





海未「始めは希、ですか」

真姫「……」

海未「真姫?」

真姫「ねぇ、海未」

真姫「貴女は」

真姫「諦めたり、しないわよね…?」

海未「諦める?」

海未「…まさか…希」

真姫「……」











海未「有り得ません。」

海未「私はどんな事があろうと、決して諦めない」

海未「たとえ一人になっても、必ずここから抜け出し、全員を助け出す方法を見つけ出してみせます」

海未「…この手に、そう誓いましたから」

真姫「…うん」

海未「安心して下さい。…必ず救いはあります」

真姫「そうね」

真姫「…それよりその手、治ってないじゃない」

海未「えぇ。」

海未「現実世界では怪我をしていない事になっていましたからね…治療のしようがありませんでした」

真姫「…そう」









希『………』





真姫(…希)

真姫(貴女は今…何を考えてるの?)

-血の水場-



ピチャン


     ポチャン…





希「……」 

希「このおたまじゃくし、死んでる」

希「それに、大量になんていない。…浮かんでるのは、三匹だけ」

希「……」







希「私には、話しかけないんだ」

希「…そんな事しても意味がないって言いたげだね」







ヴィオラ「……」 ガチャ

希「…そう」

希「それが魔女。…よく分かった」

-廊下 牢獄前-



ヴィオラ「……」 テクテク

希「…この靴で、あの通路を」






 カタ カタ


      
      カタ カタ





希「……」

希(椅子が揺れた)

希(死の、前兆…)





希「…っ!」 ダッ





ガタンッ!!





希「はっ!」 ダッダッダッ!





   ゴ 

 ゴ

 
     ドドドドッ!





希「私をっ!馬鹿にしてないっ!?」

希「三度も同じ手に引っかかるほどっ!阿呆じゃないよっ!」

ヴィオラ「……」 ダッダッダッダッ



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


希「…随分と、諦めが早いんだね」

希「ここまで素直に引っ込んでくれると、もっと疑いたくなるんだけどなぁ」

ヴィオラ「……」














ヴィオラ「……」

希「…でも、何度来ても一緒」

希「こんな事で運命だなんて言ったら、神様に怒られちゃう」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ヴィオラ「……」

希「…よし」

希(靴は履いた…これでここから先は行けるはず)



ガチャ







-毒の水溜り廊下-



希「…っ」 テクテク

希(歩けるけど…毒が回ってない訳じゃない)

希(早く渡らないと、この毒素にやられてしまう…でも、何でだろう)

希(…上手く、歩けない)







ヴィオラ「……」 テクテク

希「げほっ…も、もっと早く」

ヴィオラ「……」 テクテク


希「はぁ…はぁっ…げほっ!」

希「まだ…なのっ…」

希「早く…しないとっ…」







ヒュン





希「…え?」









         ドチャ








希「……」

希「…ぁ…ぁあ…あああっ!!」

希「がふっ…!ぎっ…!ぁ…あああああっ!!」

ヴィオラ「……」 テクテク



パリンッ



…ガラスの靴は粉々に砕け散った。




希「ひっ…がっ…ぁ…あ…っ!!」






バタンッ















-造花の小部屋-



ヴィオラ「……」

希「げはっ!げほっ!かふっ…かふっ…!」

希「はぁ…はぁ…はぁ…はぁっ…!」












希「…酷い」

希「こんなっ…!よく…思いついたなぁ…!」

希「ハラワタが…煮えくり返りそうっ…!」

希「うっ…ぐっ…ぁ…あああっ!!」

希「うわあああああああああああああああっっ!!!」   ガンッ! ガンッ!



…薔薇の造花で囲われている小さな小部屋に、希の大きな悲鳴が響き渡る。





希は毒の廊下を渡りきると、先程受けた屈辱に対しての怒りと悲しみを全て扉にぶつけ始めた。
魔女の家では与えられたものにしか動かす事が出来ず、物を投げるという行為が出来ない…
それを理解した上での行動だった。






…廊下を渡っている最中、頭上から何かが落ちてきた。
それは重力に従って落下し、鈍い音を立てて床に転げ落ち、希の進行を阻止するかのように行く手を塞いだ。







希は、その落下物の正体を知っていた。

他人との距離感が分からずに、周りに溶け込めず、排他的な態度を取り自分を守ろうとする。

そんな自分と似た面倒な性格で、希の友達だと胸張って言える存在








――銃殺された、絢瀬絵里の死体だった。

希「う゛っ…くっ…うううっ!!」

希「うぁう゛っ!あ゛あっ!あああっ!!」  ガンッ! ガンッ!








あの場で驚愕し、立ち止まっては自分の命が危ない。
そう感じていた希に余計な時間など無く、無駄な動きをせずに進む必要があった。







だから、踏み越えてきたのだ。

友達だった人間の屍をガラスの靴で踏みつけ、脇目も振らずに扉の先にへと進む。




…そうせざる負えないように仕組まれた、魔女の罠だった。








希「はっ…はっ…はぁっ!」

希「はぁ…はぁ…はっ」









希「…あは、あはははっ」

希「はははははははっ!!!アハハハハハハッ!!」

希「あはははははははははははははははははっははははははははははっ!!!!」






希「…ふふふっ、私がこんな事で泣くと思った?」

希「寂しいのは、慣れてるんだよ。辛いのは、慣れてるんだよ。」

希「私を馬鹿にしたら……『いかんよ』?」









ヴィオラ「……」

希「…でも、そうだなぁ」

希「私の友達を侮辱した償いは……絶対に払って貰うからね」




希「……」

希(ここは…何?)

希(小さい部屋に、造花の薔薇がびっしりと)

希(…少し、気味悪い)







希(…切り株に、猫の毛がある)

希(ここに黒猫がいたのかな?)
















希(そして)

希「…魔女の、日記」

ヴィオラ「……」 ペラッ






            ― 彼女は ×さない ―










             ― だって 彼女は ―



       ― 私を この病気から 救ってくれるから ―














       ― 私は 彼女と ''友達''になることにした ―














希「……」

希「友達」

希「あなたの言う、友達って何?」

希「こんな場所にこの子を閉じ込めて、悪事を強要させてあの手この手で殺そうとする」

希「それが友達にすることなの?」

ヴィオラ「……」

希「…もし、私の声が届いてるのなら」

希「もう一度考えて。…本当の友達の意味を」






ヴィオラ「……」 ガチャ

希「……」














         「''友達''って何だろうね。」


















希「……」 




バタンッ


-薬品庫-




希「…ここは」

ヴィオラ「……」







希(…数え切れない程のビンの量)

希(見ただけで分かる…ここは、収納室)

希(薬だけじゃない…何かの肉片や骨までびっしりと保管されてある)





希「…『私は病気だから』ってのは、本当の事みたいだね」

希「でも、この子が魔女の病気と何で関係があるの?」

希「……」










ヴィオラ「……」 カタンッ

希「全部調べてみないと分からない、か…」




ヴィオラ「……」 カタンッ

希「…頭痛薬、睡眠薬、鎮痛剤」

希「…これは止血剤かな?後は…」






希「…目薬」

希「何でこんなに沢山」












          ゾワッ 












希「……っ」 ブルッ

希「今…誰かに見られてた」

希「…また、かぁ」











ヴィオラ「……」

希「…次は、この戸棚」

カタンッ


希「…喉を××薬」

希「なに…これ?」

希「…危ないから、置いておこう」








希「×膚炎に塗×薬」

希「文字が掠れてるけど…これは恐らく、皮膚炎の薬」

希「…包帯や消毒液もあったから、病気は皮膚に影響のあるものだったのかもしれないなぁ」





希(…後は、骨や肉を詰め込んだビンが羅列してあった)

希(実験でもしてたのかな…いかにも魔女ってイメージを出してる)












ヴィオラ「……」 カタン

希「でも、ここだけは違う」

希「魔女とかそんなの関係ない…そんな気が漂ってる」


希「…血で汚れた戸棚」

希「微かに香る、甘い香り…」

ヴィオラ「……」 カタンッ








…棚の奥に小さなビンが入っている。







希「…その正体がこれ?」

希「こんな可愛い小瓶が…どうして」









【可愛い小瓶を手に入れた】










希(……) 

希(でも、どうしてだろう)

希(この瓶を持ってると、なんだか安心する)

希「…全部調べ終わったかな?」

希「でも、この瓶は何処で…」









ガシャンッ!!







希「っ!?」

希「なっ…!」










希「何、これ」

希「何で、人形の首が、飛んできて…」

ヴィオラ「……」

希「…これって」

希(海未ちゃんが台座に乗せた人形の顔と一緒…!)

希(一つ空いていたのは…この人形のスペースだったんだ)




希「…でも、胴体は」







【人形の頭を手に入れた】








ガタンッ!





希「どこにあるのかなってっ!!」 ダッ

ヴィオラ「……」 ダッダッダッダッ!



バタンッ




希「……ふぅ」




ダン! 
      ダン!
   ダン!

ダン!
       ダンッ!!




希「なっ!」

希「もうっ!しつこい!」

ヴィオラ「……」 ガチャ











…人形の首を拾うと、目玉のような何かが希に向かって襲いかかってきた。



しかしそれを希は予測していた。目薬を調べた時から自分を見つめる視線に注意を払っていたのだ。
瓶を手に取る瞬間、人形の首を拾う瞬間一つ一つに気を配らせ、自分がいつでも逃げることができるように…




…希は分かっていた。

自分に迫る「死の予兆」は、こんなものでは無いと。




















-小部屋-




ヴィオラ「……」


希「なっ…何、これ…は…?」

…希が小部屋に戻ると、辺りは紅色で染まっていた。
まるで血の雨でも降ったかのように、地面を、植物を、壁を染め上げていた。





希「…どういう事?」

希「さっきの目玉のせい?」

希「それとも…」







希は可愛らしい小瓶を手に取り見つめる。

思えばこの家にある持ち物を自分の手で手にするのが出来たのはこの瓶だけだったかもしれない。

今まで見つけてきたもののどれもがこの少女が扱ってきたので、自分達は触れることもできなかったのである。








希「……」


瓶の蓋を開けると、中には何も入っていなかった。

しかし香水とは少し違う甘い香りが漂い、匂いは切れることなく希を包み込んだ…










希「…この匂いは、まるで」

ヴィオラ「……」 ガチャ

-水溜りの廊下-


ヴィオラ「……」 テクテク

希「……」

希(あの毒々しい色の靄が消えて、普通の廊下になってる)

希(…まるで役目を終えたかのように…この通路自体が死んでるみたい)













希「…あ」

希「こんな所に部屋が…あの衝撃で周りが見えてなかったんだ」

希「……」

希(でも、それで良かった)

希(もしこの扉が目に入ってたなら…こっちに進んでしまう可能性もあった)

希(不幸中の幸い…私、こんなのばっかりだね)













ヴィオラ「……」 ガチャ

希「…じゃあ、この先には」

-水の流れる部屋-



希「…あった」

ヴィオラ「……」

希「人形の…胴体」









【首なし人形を手に入れた】








希「…次は何が来」




ザザザザザザッ!!



希「ひっ!?」

希「きゃあ!!ちょ…!やだっ!」







希「…ぁ…う、ううっ」

希「忘れてた…こんな事も、あり得るんだって」

ヴィオラ「……」

希「…スゥ…ハァー」




希「…気を取り直して、この人形の首を」








ヴィオラ「……」 ガポッ

希「…はまった」







【人形を手に入れた】






,

希「…うん」

希「後は…これを台座に乗せるだけの筈」

希「…終わりが、近づいてる」







ガチャ









希(…あれ)


希(そういえば…何か忘れてる気がする)


希(何だっけ…一瞬で思い出せないから、そんなに気にすることでもないような気もするけど)


ヴィオラ「……」 バタンッ



-園庭-



希「……」


希「ここも、なんだね」


希「すごく、怖い…」






植物を食べ元気に羽ばたいていた小鳥は消え、老樹は紅く染まり何も喋らない。
地面も植物も先程の小部屋と同じように染まっていた。


…唯一色に染まらず美しく飾られている造花の薔薇が、園庭の雰囲気を異様なものにしていた。











ヴィオラ「……」

希「…ここまで変わってるなら、他の部屋も色々変わってるのかな」

希「一応、調べた方がいいかもね」










ヴィオラ「……」 ガチャ

希「…うん、一番気になる所は、ここ」

-廊下 牢獄前-




カサカサ


    カサカサ





希「……」

希「牢屋が、赤く染まってる」

希「ぐちゃぐちゃになって、何を表してるのか、全然分からない」

希「…でも」













      おかあさんは わたしを 捨てようとした












希「…なんで」












      おとうさんは わたしを みていなかった













希「言葉が、頭に浮かんでくるの?」      

希「……」

希「魔女、あなたは…」

希「あなたが、本当に求めていたものが」

希「…少しだけ、分かった気がするよ」









希「…私も、両親から【それ】を貰った記憶、少ないんだ」

希「辛いよね、…自分が寂しい時に、近くに居ないのは」

希「怖いよね、自分を見てくれる人が居ないってのは」










希「でも、私はあなたに同情なんてしない」

希「あなたが求めている【それ】は、子供が駄々をこねているの一緒」

希「その我儘が私の友達を殺した。…その事実は、変わらない」










ガチャ


希「……」

希「でも、それでも」

希「あなたが両親の事で辛い思いをした、という辛い気持ちだけは」

希「私が…ウチが慰めてあげようって」

希「そう、思ってるんよ」




バタンッ












ヴィオラ「……」

ヴィオラ「」


-通路 骸骨の部屋前-




希「…そっか、あの骸骨達は」




ガタンッ!




希「っ!?」

希「また来たなぁ…でも、何度来ようが一緒」

希「ウチはみんなをっ!」 クルッ















希「  …え」

…希に迫る巨大な頭骸骨。

二度三度と現れるその化物にただならぬ執念を感じ取ったが、常に同じ動きをするそれに反応する事は容易いことだった…

簡単だった。また同じように逃げ出し、諦めるまで全速力で走るだけ













だが、それは不可能だった。

この通路が二手に分かれたりしていたなら、まだ逃げようがあったのかもしれない

幅が広く、化物との隙間があればくぐり抜け逃げることができたのかもしれない。












希は狭い一本道で、【二つ】の化物に襲われた。


前に一匹、後ろに一匹。


巨大な頭蓋骨が、希を挟むように襲いかかってきた。

希(……)



希はその場に立ち尽くし、両端から迫る化物を向い受ける。
頭蓋骨達は速度を落とさず、ただ真っ直ぐと道を進んできた。





希(…あぁ、そうだった)






やがて二つの頭蓋骨は希の一歩手前まで距離を縮める。
強靭な顎が希の頭上で大きく開き影となった。







希(今日は)






後ろの頭蓋骨もまた、希の胴体に喰らい付く為に大きく口を開ける。
鋭い歯は希の腹部を狙い、服を抉り















      「うち、   今日…   誕生日やったね。」











                しゃくっ
 










   ― 間の抜けた音と共に、二つに引き裂いた。 ―



ブツンッ



・・・・・・・・・・・・・・





真姫「あ  ああっ!あああああっ!」

真姫「希!のぞみぃっ!!」

真姫「うわあああああああああああああああああっ!!!」





…誰もいない空間に真姫の悲鳴が響き渡る。

かつてそこには沢山の仲間がいて、お互いに慰め立ち上がり、苦を共にしていた。






真姫「馬鹿っ…ばかっ!」

真姫「あれほどっ!あれほど言ったのにっ!」

真姫「何でっ…どうしてっ!!」

真姫「どうしてなのよおおおおおおっ!!!」





だが、真姫を慰める人間は残っていなかった。

次々と家に取り込まれていく仲間をその目で見届け…気がつけば残り二人になっていた。




自分の隣にいた最後の仲間は連れ去られ、しんとした雰囲気が真姫を包み込む。





真姫「ひっ…あっ…嫌っ…嫌ぁ…」

真姫「出して…誰か…私をっ…助けて…」





最早、この空間に語りかけてくれる人間などいない。

真姫は悲しみに打ちひしがれ、壁と思われる物に手を付け泣き崩れた。






ザラザラとした感触が真姫の手の平に傷をつける。
ずるずると壁に引きずった手は、針でも刺さったかのように皮膚を破いた。






…そして、無慈悲にもそれは映り始める。



信頼していた二人の友人を失い、怒りを押し殺し決意へと変えて…



無表情で、この赤色に染まった部屋を歩いている












―園田海未の姿が、そこにあった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「僕はね。」



「君がうまくここから逃げれようが、

 この家に食われようが、かまわないんだけど。」




「どちらかというと、ね?

 君に逃げてもらいたいなあとおもってるんだよ。」











海未「……」


ヴィオラ「……」

黒猫「ま、死なないでよ。」










海未「今のは、私に対しての言葉ですか」

海未「それとも、その人形に対してですか」












ヴィオラ「……」 ガチャ

海未「…まぁ、どちらでも構いません」

海未「私は、この家に魂を捧げるつもりなどありませんから」

-人形の部屋-




海未「……」

海未「穂乃果」

海未「貴女は、私とずっと傍に居てくれる」

海未「そう、言ってくれましたよね?」








ヴィオラ「……」 ゴトッ






ゴ ゴ ゴ ゴ 







…台座が移動し、大きな穴が現れた。









海未「約束、破らないでください」

海未「私が必ず救い出してみせます。だから、今度こそ…」

-魔女の部屋への道-



海未(……)

海未(暗い)

海未(何も、見えない)





テクテク…





海未(怖い)

海未(辛い)

海未(苦しい)






テクテク…





海未(悔しい)

海未(泣き叫びたい)

海未(逢いたい)

海未(逢いたい)



ヴィオラ「……」 ペラッ











           【わたしの へやまで おいで】












海未「…救いたい」

海未「穂乃果を…ことりを…みんなを」

海未「私の仲間をっ…今すぐ返せぇっ!!!!」


ガチャ…バタンッ

-魔女の部屋への道 廊下-



海未「…外が、明るい」

海未「……」



ヴィオラ「……」


海未「……」







扉の前に、黒猫の死骸があった。


つい先日の私なら、悲鳴を上げて震え上がり、穂乃果やことりに飛びついていたかもしれない。






…今、私の隣に二人の友人は居ない。

訳も分からずに連れてこられたこの家に、奪われたから。






海未「……」 グシャ






私はその死骸を踏み潰した。

タンパク質独特のぐちゃっとした感覚に鳥肌が立ったが、その他に感じるものは無かった。





…もしかすると、私の心は既に壊れてしまったのかもしれない。

私の前に歩いているこの少女と同じように、自分は動くだけの人形に成り果てたのだろうか。








海未「…今更、どうでもいい事です」

海未「全て…そう、全て終わらせれば」

海未「また、みんなで、一緒に」





ガチャ

-魔女の部屋-



海未「……」

海未「無残なものですね」

海未「これが魔女の部屋ですか…子供が見たら、泣き叫びますよ」










魔女の部屋と思われる場所は、酷く荒れていた。

ベットのシーツからカーペット、枕にかけて血で汚れ、水の入ったコップが転げて中身がこぼれている。


誰かが座っていたと思われる椅子は倒れており、人の気配はない。





…まるで殺人現場のような光景が、そこには広がっていた。







ふと、海未は机の方に目を向ける。


そこには、これまで何度も仲間が読んできた、辞書のように分厚い日記帳が置かれていた。






海未「……」

海未「私が読むのは初めてですね」

海未「魔女の、日記」






ペラッ





…海未はその日記帳を開き、文字のあるページまで捲り始める。







     ― 私は 病気で 死ぬ ―





         ― だから ―









    「彼女の 体を もらうことにした」



    「彼女の 体で 生きることにした」



          「いいよね」  








    『だって 私たち ''友達'' だから』



       『私に 体 くれるよね』 



         『''友達''だから』







 【だから 今日も 遊びに来てくれたんでしょ?】




   







        【ねぇ ヴィオラちゃん】










.



―バリンッ!



海未「っ!?」



悍ましい内容の日記を読み終えると、魔女の部屋のガラスが大きな音を立てて破れた。
ぼんやりと光が差していた部屋には靄がかかり、一瞬にして不穏な空気を作り上げた。






ずる、ずる…と何かが蠢く音がする

それは聞いたこともない、肉と骨が床を擦りつける音





…下半身のない女の子が、そこにいたのだ。






『 …ガぁッ …ぅう゛ … … ぅぎェ… 』






海未「ひっ!?」

海未「ひ…あっ…はっ…がっ…!」

海未「や、やめっ…こなっ…こっちにっ…こっちにこないでっ…!」

…謎めいた音が部屋中に響き渡る。
聞いたこともない音に海未は恐怖し、悲鳴を上げることすら出来なかった。
震えながら海未はその音を発しているものに目を向ける。




ぐちゃ、ぐちゃ…

内蔵がはみ出し、 両目は潰れ赤黒く染まり空洞が出来ていた。

化物と呼ぶに相応しいその身体は、潰れた瞳で海未の元へと確実に迫ってくる。














            そして それは





      人間の形である事を忘れたかのように






      ×××××を求めて襲いかかってきた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・


海未「はぁ!はぁっ!はぁっ…!」

海未「がっ…はぁっ!はぁっ!」

海未「ど、どこっ!何処に逃げればっ!」




気がつけば無意識に部屋を飛び出し、海未は来た道を全速力で走り出す。
扉を強く占めた筈なのに、下半身のない少女は勢いよく扉を開け、なおも追いかけて来る。



何故、目が潰れているのにこっちに向かって来ることが出来るの?
どうして、その身体で恐ろしい程の早さが出せるの?



理屈では考えられない動きと想像を超えた化物の速さに、海未は混乱している。
先程までの決意や余裕は一瞬にして吹き飛び、壊れかけていた感情は魔女によって強引に甦させられた。





ああ、この家はどこまで人間の心情を掌で転がしているのだろうか


花瓶は割れ壁に手形が現れ、床が崩れ椅子が勝手に動く


その一つ一つの出来事が、海未の心を蝕んていった。


逃げれば逃げるほど恐怖心は膨張し、それは身体にも影響を及ぼし始める。
足が痙攣を起こし上手く走れない、自慢の身体能力は普段の三分の一までにも落ちていた。







…捕まる。このままでは追いつかれる。

嫌だ、死にたくない、死にたくない。



もう、魔女の家なんて懲り懲りだ。私をここから出してくれ。









…そして、その願いは届いた。


階段を降り食堂を駆け抜けると、入口の扉が見えた。







―その扉の隙間には、微かに外の光が差していた。

海未「や…やった!」

海未「見えたっ!見えましたっ!光がっ!あの扉に光がっ!」

海未「やりましたっ!私はっ!穂乃果!ことり!みんなぁ!!!」

海未「これでっ!これで私は―」











         バキッ










海未「     えっ」


…身体は宙を舞っていた。
自分から飛んだつもりなど無い、ましてや体から飛び込むなどという愚行は今の今までした事が無かった。






だが、飛んでいた。

足は縺れ腕が交差し、何とも情けない格好をしながら…







海未は、崩れた床に足を踏み外し、体制を崩し飛び跳ねた。






―ドカッ!




海未「がっ…はっ…!」




 
扉とは正反対の方向の壁に海未の身体が叩きつけられる。

走った勢いを殺さずに飛び込み壁に衝突した為、直様に起き上がることができない。




海未「がふっ…がっ…い…た…」

海未「…は」











身体を起こそうと頭を上げたのは間違いだった。



何故なら、海未の正面には










―両目の潰れた怪物が、目と鼻の先に。




「…い、いや…やだっ…やめ」



「いやああああああああああああああああっ!!!あああっ!!!ああああああああああああああっ!!!?!?!?!」



「やめてっ!やめてぇっ!!!いやだっ!やだやだやいやああああああああああああっ!!!」



「こな…がっ!!?ごっ!がっ…!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!?!!」



「や゛め゛て゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!い゛や゛ぁ゛!があああああああああああああ!!!」



「い゛や゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!ゆ…ゆる…じっ゛…!ぎゃあああああああっ!!!」



「はがっ…い゛い゛っ!?ぁあ゛ああっ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」



「あがっ…ごっ…ぎゅ…げっ…がっ…ひゅ…ごっ…ぉ…!」














ブツンッ





真姫「な   なに」

真姫「今、何が    起こって…」








プツンッ






真姫「え    あ     」


真姫「う  海未…?  海未…」










…真姫の目の前に映っているのは、

倒れて動けなくなった下半身ない化物に、髪が乱れ顔が隠れ―













        ―両目が赤黒く染まった、海未の姿だった―















.



ブツンッ



・・・・・・・・・・・・・・・




真姫「………」





ストンッ





真姫「…もう、ダメ」

真姫「希も…海未も、居なく  なって」

真姫「私…一人だけに」





グワッ




真姫「ぁ…ひっ…!」

真姫「無理よ…無理よ無理よ無理よぉっ!」

真姫「無理だって言ってるでしょ!?やめてっ!!お願いやめてっ!!」

真姫「やだっ!いやあっ!!やめてぇっ!!連れて行かないでぇっ!」

真姫「いやああああっ!!やめてえええええええええっ!!!!」











プツンッ

-魔女の部屋-







『 …ガぁッ …ぅう゛ … … ぅぎェ… 』



真姫「う…ぁ…ゃ…」 





がさ、ガサと床を這いずる化物。

それは海未の身体ではなく、元の下半身のない少女のものになっていた。





その事実が真姫を自分が最後の生き残りであることを裏付け、絶望する。





真姫「…や、だ」

真姫「本当に…ホントに嫌なのっ…お願い…許して…」




命乞いをしようが泣き叫ぼうが、化物には届かなかった。

化物の目は潰れ、何かが崩れるような衝撃音が真姫の声をかき消し届かない。




真姫「ぁ…ぁ…っ!」




真姫が一歩、後ろに下がる。

それに合わせて辺りの空気が張り詰め…












―最後の死の追いかけっこが、始まった。

真姫「…ぅ…ぁ…ぁあっ!」

真姫「うわああああああああああああああああああっ!!!」




真姫は走った。
海未程の速さを出すことは出来ないが、自分の全ての力を出し尽くす勢いで足を動かす。




真姫「はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!」


真姫「ぁあああああああああああああああああっ!!!あああああああ!!!!!」





化物は近づかず、遠ざからず、常に一定の速度で真姫に向かって追いかけてくる。
その作られた速さで這いずる姿は真姫を恐怖で染め上げる。



しかし、それよりも先に逃げることに集中した。
かつてこれほどまでに必死になったことがあっただろうか…





厨房を抜け、海未が踏み外した床を避ける。
壁の奇っ怪な手形が何度も何度も目に入るが、脇目もふらずにただひたすらに走った。



真姫「がはっ!はっ!がっ!ああっ!あああっ!うわああああああああ!!!」



やがて魔女の家の入口が見えた。
海未の時と同様にその扉の隙間には、光が差していた。






この扉が開かなければ、私は化物に殺される。


光が差しているからと言って、この扉が開く確証などは何処にもない。


私を欺くために魔女が用意した罠だとしたら、私は













―扉の手を掴み、家の外へ













.




――




真姫「……」

真姫「……ぁ」








真姫「……」

真姫「ここ、は」







…真姫の目に写る光景は、見慣れた天井だった。


見慣れた机、見慣れた窓からの景色、見慣れた譜面用紙。





何もかもが、真姫の私物である。





真姫「っ!?」



真姫は飛び起きた。
自分の服装は魔女の家に囚われた時の制服などではなく、昨日寝る前に着た寝巻きだった。









―ここは、私の家。

真姫「…わ…わた、し」

真姫「生きて…帰って…」






真姫「っ!そ、そうだっ!携帯!」

真姫「確かめないとっ…!みんなっ!みんながっ!」 ピッ







真姫の携帯のアドレス帳には、μ's全員の名前が登録されていた。

高坂穂乃果、園田海未、南ことり、小泉花陽、星空凛、絢瀬絵里、矢澤にこ、東條希。



誰もが欠けてる事なく、画面に映されていた。





真姫「…や、やった」

真姫「やった、やったの、わたし、やったわ」

真姫「みんなっ…みんな元にっ!」








…真姫は急いで制服に着替え、音ノ木坂へと足を運ばせた。

時刻は午後3時、遅刻を通り越して欠席になっているだろう。





だけど、まだ練習は終わってない。この時間には全員部室に居るはずだ。




真姫は胸を躍らせ、学校への道を駆け出していった。



タッタッタッタ…!


真姫「はぁ、はぁ、はぁ…!」

真姫「まったくー、信じらんない!」

真姫「この、この真姫ちゃんが!学校サボって部活だけ行くだなんて!」

真姫「花陽に、どうしたのって心配されるだろうなぁ…!凛やにこちゃんに、いっぱいからかわれるだろうなぁ…!」






真姫「でもっ!それでもいいのっ!」


真姫「私っ…言えないけどっ…!」


真姫「みんなに面向かって、言えないけど!」







真姫「私は!μ'sのみんなが…!」












ガチャ





















真姫「…あ、れ」


真姫「…ここ、    どこ?」




…アイドル研究部と書かれた教室には、誰もいなかった。





人だけではない、スクールアイドルのポスターも、にこが保存していたDVDやグッズも、穂乃果が置き忘れた練習靴も、







何も、何も残っていなかった。








教室にあるのは、机と戸棚、そしてパソコンだけ。

そこは部室と言うより、空き教室に近い状態で存在していた。







真姫「……」

真姫「何よ…何よ、これ」

真姫「何で…こんな…みんなは?…μ'sは?」

真姫「私の   居場所が」

ふと、机の方に目を向ける。



…そこには、一枚の紙切れが丁寧に折りたたまれて置かれていた。







真姫「      」







真姫はそれを見た事があった。

自分を、仲間を、あの恐ろしい家に送り込む元凶となったもの






…上部の破れた、手紙だった。









真姫「………」





真姫はその手紙を拾うと、中身を開いた。

仲間を失い、見事生き残り生還した者へ送られたその手紙には







―カサッ













     【何も】書かれて、いなかった。













.


真姫「……」


真姫「… ・・・  ・・・・」






…真姫はその場で力なく座り込んだ。




今の自分に、状況を理解する事が出来なかったのだ。




泣けばいいのか、怒ればいいのか、恨めばいいのか。



それとも、死ねばよかったのか。















…窓から吹き込む風は、その答えを教えてくれなかった。


下校時間を知らせるチャイムと、茜色に染める夕陽だけが、真姫を優しく包み込んでいた。








【To Be Continued…】

本日はここまでとなります。
続きは土日の予定です



では

8時より再開します



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「はぁっ…はぁっ…!」

「かふっ…くっ…はっ…はぁっ…!」








長い、長い廊下を必死に走る。
壁の燭台は走った軌跡だけに光を灯し、先の道は暗闇で覆われていた。





走っても走っても先が見えない。まるでゴールのないマラソンをしている様だった。






「はっ…はっ…はぁっ…!」

「ど、どこっ…!どこまで行けばっ…!」







私は、何故走っているのだろうか。
何かに追われている訳でもないのに、どうして…







…やがて、大きな教堂が私を迎え入れる。

美しいステンドガラスから射す太陽の光が、私には希望の光の様に見えた。



「はぁっ…!はぁっ…はぁっ…」


「…?…・・・・?」




今まで見た事もない、とても綺麗な教堂だった。
中央に置かれている女像は天を仰ぐ様にして、窓から照らす光の先をじっと見ている…



その姿はとても神々しく、私を心を清らかなものにした。







「…ここは、一体」








―ガシャンッ!



「っ!?」



ガラスの割れる音と共に、辺りは藍色の闇に支配される。
太陽の光は一瞬にして消え去り、女像は粉々に砕け散っていた。




「な…なに…何がっ…起こって」






―ズドンッ!




「きゃああっ!?」






…天井から落ちてきたのは、猛獣を捕獲する為に作られた大きな檻だった。
太く、そして硬い鉄で出来ているそれは、私の力でどうにかなるものではなかった…






「い、いやっ…」

「出して…ここから…出してっ…!」






次々に起こる不気味な現象に、私の頭は追いつかなかった。
それでも必死にこの窮地から逃げ出そうと、私は檻に手をかける。










そして、薄暗くなった教堂から8つの影が見えた

影達は私が入っている檻を囲むように、ゆっくりと歩き始める。




―どうして一人で逃げたの。





「ぁ…あっ…っ…!」




影の一人が呟くと、残りの影も思い思いに言葉を綴る。






―助けてくれると、信じてたのに。


―自分だけ逃げて、ずるいよ。




「いやっ…やめ、やめて…」

「仕方なかったの…逃げるしか…なかったの…!」




―信じてたのに。本当に信じてたのに。


―私達、みんなで一つだと思ってたのに。





私はその場で跪いた。
自分ができる精一杯の懺悔を、この影達にしなければならないから。




―私、だけだったんだ。


―仲間だと、思っていたの。




「ごめんなさいっ!ごめんなさい!」

「許してっ…!お願いっ…私をっ…!」





―友達だと、思っていたのに。












           『―ねぇ、真姫ちゃん。』












.


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



真姫「いやああああああああああーっ!!!」





「……西木野さん?」





真姫「はぁっ…はぁっ…!」

真姫「……あ、れ」






「…ふぅ。夢の世界に行くのは別に構いませんが、授業中なので静かにして下さいね?」






真姫「……」

真姫「は、い…」


…教室に、私の悲鳴が響き渡った。


クラスメイトは何事かとこちらに目を向けたが、真姫がただ寝ぼけていただけと分かると再び黒板に意識を集中させた。




真姫「……」



私は今、授業を受けている。
いつもと同じ日常。同じ様な時間がゆっくりと流れていた…





そう、【同じように】だ。





「じゃあこの問題を…」


「―星空さん」

真姫「……」




先生は居るはずのない凛の机に視線を向けている。

そしてその角度は段々と上へ向き、黒板の中央に視点を留めた。





…まるで、そこに何かがいると言わんばかりに。






「…はい、結構です」

「ここの助動詞は―」




答えが間違っていたのだろうか?

先生は空白の括弧に赤線だけを引き、その上に正解を板書していく。




その意味不明な行為に誰もがおかしいと異議を申し出さず、黙々とノートに写し始めた。
隣の生徒のノートを見てみると、凛が書いたと思われる間違った単語に赤線が引かれていた。










私以外には、見えている

存在しない筈の、星空凛が。


――


「ねぇねぇ西木野さん、μ'sのHPみたよ!」

「みんなすごく可愛かった~。今度またライブするんでしょ?」




クラスメイトが嬉々とした顔で私に話しかけてきた。
ここ数日、人と会話するという事をしていなかったので、私は咄嗟に言葉を発することが出来ず…




真姫「…ぅん」



…なんとも情けない声を出してしまった。




「あ、何か手伝えることがあったら言ってね?差し入れとかしに来るから!」

「何がいい?小泉さんだったら…ご飯パック?」


真姫「…そうね」


「ちょっとそれは流石にダメだよ~!」 アハハハハ





そう言い残し、彼女達は自分の席に戻っていく

私の周囲は静かになり、自分だけの時間が訪れる。





真姫「……」







…空は、とても青く澄んでいる

心地よい風が窓から入り込み、私の髪を優しく靡かせていた。



――



放課後、私は教室をすぐに出た。
クラスメイトにいるはずのない仲間の話をされることに嫌気をさしたからだ。







…存在しているのは、凛や花陽だけではなかった。

二年生も、三年生も、あたかもそこに存在しているかのように生徒が接していて、名簿表にも名前が記されているのを確認した。

アイドル研究部という部室も、μ'sというスクールアイドルもこの世界には存在している。







それを認識出来ないのは、私だけ。

私だけが、この現実の一部から切り離されていた。





真姫「……」 ピッ




携帯を取り出して、インターネットブラウザを立ち上げる。
ブックマークをしているμ'sのHPのURLを選択し、サイトに繋げた。





…HPにアップロードされた写真の中には

9人いる筈のスペースに8人分のスペースが空き、私一人だけが笑顔で写っていた。



真姫「…どうして」




私の呟きは、誰の元へも届かない。
いや、もしかしすると私の近くに仲間がいて、普段通り喋りかけているのかもしれない。






真姫「…馬鹿じゃないの」






自分が精神異常者の様な気がして気分を悪くする

私は考えていることを振り切るように早足で廊下を駆け出した。








…あれから、部室には行っていない。
行ったところであの場所に私の居場所などないのだから。













―私は、音楽室へと足を運ばせた。


-音楽室-




真姫「…ふぅ」





誰もいない、静かな教室。

ここは何も変わることなく、ありのままで私を迎えてくれる。







―私の、もう一つの居場所。





真姫「……」



グランドピアノの鍵盤蓋を上げると、白と黒だけで構成された鍵盤が私を迎え入れてくれた。
屋根を突上棒で立たせ、椅子に腰掛けながらゆっくりと深呼吸をする。



頭の中を音楽で一杯にして、自分の世界を作り上げる。
奏でられるメロディーを想像し、指に少しだけ力を入れ…





―トンッ





…音色は、響かなかった。





真姫「…?」


想像していた音と明らかに違う、気の抜けた音に真姫は首を傾げた。



真姫「…んっ…しょ」




…響盤内の弦の調子が悪いのだろうか?
真姫はピアノの中を覗き込み、どこかに異常がないか調べた。






異常は何処にも見つからなかった。
目に見えない細部が故障しているのかと考え、自身の身を更に中に潜り込ませ









 


          【おまえが ひくひつようはない】










.



―ガンッ!



真姫「あ゛っ…がっ…!?」



グランドピアノの屋根が、真姫の頭上に落下してきた。
首が譜面台にめり込み、顔面は前框に叩きつけられる。



真姫「はっ…がっ…な、なん…で…っ」



突上棒が外れて屋根が落ちてきたのだと、最初は思っていた。
だがそれは違うのだと次の瞬間に嫌でも分かってしまう






…落ちたはずの屋根が、再び頭上で浮かび上がり、そして落下してきた。







―ガンッ!ガンッ!!ガンッ!!!



真姫「ぎゅっ!げっ!ごっ!がぁっ…ぁあああ゛っ!あ゛あ゛あ゛っ!?あ゛あ゛っ!」




ピアノは何度も何度も真姫の頭に落とし、顔をグシャグシャに潰していく。
鼻から、口から血が流れ出し、頭蓋骨にひびが入る音がした。
それでもピアノは動きを止めず、真姫の頭に屋根を叩きつけた。





…まるで、猛獣が獲物を咀嚼するかの様に



突上棒が真姫の制服を掴み、響盤の中へと引きずり込む。
中の弦はピンと張られており、真姫の体重によって身体にめり込んでいた。



…この身体は、中に入るには大きすぎる。
だからと言わんばかりに、重く頑丈な屋根が再び浮かび上がった。




真姫「ひっ…ぎっ…や゛め゛っ…い゛や゛っ!お願いやめっ…!」





歯のように並んだ弦は真姫を引き裂き、鉄のように硬い屋根は













                がしゃん













      ― 真姫の身体を、血と肉片に変えた。 ―





「いやあああああああああああああああああああああっ!!!」







自分の悲鳴と共に、椅子から転げ落ちた。

頭を手で抱え、保身の形を取りながら小さく蹲る。






…今、何が起こったの?


ピアノが身体を引きずり込み、プレス機のように何度も叩きつけた。


そして弦に引き裂かれ、私の身体はぐちゃぐちゃに…










真姫「…なって、ない」



…私の身体は、傷一つ付いていなかった。

ピアノが動いた痕跡などは何処にもなく、私が弾く準備をしたままでそこにあった。







…ここは、夢の中なのだろうか

それとも、私は本当に頭がおかしくなってしまったのか





真姫「…誰か、答えてよ」

真姫「ここは、…【どこ】なの?」

真姫「私は…どうしちゃったのよっ…!」






…もし、今が夢の中だったら

私はまだあの悪夢から覚めていないのかもしれない。




だけど、悪夢が続いているのならば、私はあの時点で死んでいた。
私が今ここに存在しているという事実が、この部屋が魔女の家ではないという事を示している筈だ。




なら、さっきの映像はなんだったのか。
考えれば考えるほど、何もかもが理解する事が不可能になった。




何故私一人だけ見えないのか、何故私は死ななかったのか













―何故、扉の前に小さな女の子がいるのか。

真姫「―っ!?」




少女は、私を見つめて笑っていた。
小さな身体はピクリとも動かず、ただじっと私だけを見ていたのだ。




真姫「あっ…ああっ…!」


真姫「あっ…あなたっ…!あなたはっ…!」








私は、その女の子を知っていた。

あの家の厨房から二階へと向かう階段を、私より先に歩いていた。






紫色の髪をした、可愛らしい女の子。

真姫「な、なんっ…で」

真姫「どうしてっ…あなたがここにっ…」




私がそう問いかけると、彼女はまたにっこりと笑った。
後ろの大きなリボンが、髪を靡かせる度にひらひらと揺れている。




その屈託のない笑顔と姿に、私は少しだけ警戒心を解いて女の子に近づいた。






真姫「…えっ」





私が少し近づくと、女の子はその小さな口を動かして喋っていた。
でも、その声は全く聞こえず、口の動きだけを見て言葉を理解するしかなかった。




女の子は聞こえない事を知っているのか、一文字の間隔を空けて、口を大きく広げ









『わたしの へやまで おいで』







・・・そう、はっきりと答えた。

真姫「わたしの…へや?」

真姫「―っ!?」




私は思い出したかのように驚き、尻餅をつく。
手で彼女の姿を覆い隠し、自分の視界から見えないようにしながら後退りをした。





…思い出したのだ。


私は、あの魔女の家の最後の部屋で彼女を見ていた。




両目が潰れ、足は無く内蔵ははみ出ている…
それでも尚、私を殺そうと恐ろしい速さで追いかけてきた







あの化物と、同じ髪の色だった。






真姫「ぁ…ひゃ…!」

真姫「待って…お願いっ…殺さないでっ…!」







そう彼女に伝えたところで届かないことは分かっていた。
でも、そうする事でしか彼女に私の意思を伝えることができない。





『………』





小さな女の子は、私が怯えている姿を見ると軽快な動きで後ろを向き、







―タッタッタ…






音楽室を、出て行った。

真姫「…えっ?」




どういうことか、理解できなかった。



彼女は私を殺しに来た訳ではないの?
私を殺し、あの家の養分にする為に現れたのではない?





だから私の部屋までおいで、と…





真姫「…っ!」

真姫「ま、待ってっ!」





私は咄嗟にそう言い放った。
来るなと言ったり待てと言ったり、自分でも意味の分からない事をしていると思う。



だけど、知りたかった。
ここは何処なのか、彼女は何故現れたのか



…私の仲間は、本当に死んでしまったのか。





真姫「お、追いかけなきゃ…!」







―ガッ


真姫「きゃあ!?」



足に何かが引っかかり躓いた。
体勢を崩しかけたが、近くの壁に手をかけることで辛うじて転ぶこまでには至らなかった。




真姫「もうっ!なんなのよっ!」




私が教室に入ってきた時、足を引っ掛けるようなものは何も無かった。
怪訝な表情を浮かべながら、足元を見渡すと…






真姫「…えっ」

真姫「何で…こ…これが」









赤い表紙の、分厚い日記帳が落ちていた。




日記帳は、開いていなかった。




あの魔女の家で何度も目にした、赤い日記帳…
一人の少女の記録が記されたもんが、何故ここに落ちているのだろうか。






真姫「……」




私はその日記帳を拾い、中身を開こうと手を添えた。




真姫「…あれ」




日記帳は開かなかった。
いくら表紙に力を込めても、びくともしない…


まるで、魔法でもかかっているかの様に、固く閉じられていた。





真姫「…これ、もしかして」




私は急いで廊下に出て周りを確認した。
まだHRから時間が経っていないのに、辺りは不自然に真っ暗だった。





…女の子が、階段を上がっていくのが見える。
私は見失わないように駆け足で追いかけた。





表紙が血で汚れて読めない、日記帳を持って。




真姫「はぁっ…はぁっ…はぁっ!」

真姫「ちょっと…待ちなさいよっ…あなたっ…誰なのっ…!」




子どもとは思えない動きで階段を一気に駆け上がっていく少女。
その速さに負けないように私も早足で登り始めた。






…二階、三階、四階を難なく駆け上がる彼女を目で追いかけながら、練習不足の身体で必死に階段を上がる。







やがて見えてきたのは小さな鉄の扉。

ここから先は屋上に繋がっていて、私が二番目に来たくない場所だった。







ここは、μ'sの練習場所。
ラブライブに向けてみんなで団結し、一つになった、あの…





―ガチャ


・・・・・・・・・・・・・・・



真姫「……」

真姫「え……えっ?」






屋上には、誰もいなかった。
辺りは暗く、夜にでもなったかのように何も見えなかった。




真姫「なに…これ」

真姫「なにが…どうなって」





一歩、また一歩と屋上を歩く。

普段と明らかない雰囲気が異なるこの場所で、私が見たものは













…人が一人飛び降りることのできる幅の、手摺の外れた空間だった。



真姫「……」

真姫「…あは」

真姫「あはは…あはははは」

真姫「あはは!あははははははっ!!」





唐突に、笑いがこみ上げてきた。
何だ、そうか、そういう事だったんだ。



あの自殺する為に意図的に手摺が外されている部分を見て、すべて理解することができたんだ。






真姫「…つまり、あなたは」

真姫「私にここで死ぬか、あっちで死ぬか選べって言いたいんでしょ…?」

真姫「死に場所くらい、好きにさせてあげるって言いたいんでしょ!?」

真姫「あはっ!あははははっ!優しいのね!あなた!本っ当に優しいわ!」

真姫「あはははははははっ!!あははっ!アハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」











真姫「…本当、優しくて」

真姫「もう…涙も…何も…出てこないわよ…」




…悪夢は、終わっていなかった。



違う、命をかけた逃走劇は私が家を出た時点で終わりを告げた。

それは間違っていないと、確信が持てる。








…続いてなんていない。


【新たに始まっていた】のだ。








私はあの家の外に出ることができた日、部室には何も無かった。
メンバーの名残を残しているものなんて、何も…




でも、一つだけあったじゃないか。






真姫「…この、手紙が」

真姫「私が…これに触れてしまったから」

真姫「また、悪夢が…始まって…しまったのね…」



…ポケットに入っている破れた手紙を取り出した。

手紙と呼ぶのも疑問に思うその紙切れには、相変わらず何も書かれていなかった。






…この手紙を無視すれば、私はひとりで生きていくことができたのかもしれない。


『魔女の家の招待状』を私が手に取り読んでしまった事によって、悪夢は再び始まりを告げたんだ。






…私が見る事のできない。8人の仲間


それは私の為に用意された虚像の駒だった。


私を含めて9人用意することが、このゲームの最低条件だったんだ。




きっと、そうに違いない。









真姫「…馬鹿にしないでよ」

真姫「私、絶対あの場所で死なないって、決めてたのよ」

真姫「何が何でも、魔女の思い通りになんて、絶対ならない」


真姫「…魔女、聞いてるわよね?」





私は一歩、歩き出す。





真姫「今日眠りについたら、私はどうせあの家に連れてかれるんでしょ?」





空に向かって、大きな声で語りかける。





真姫「あの子は、それを私に教えてくれた。そして、私に死に場所を与えてくれた」





歩幅はどんどん大きくなり、屋上の端へと進んでいく。






真姫「残念だったわね、私は、あの家の養分になんかならない」





やがて、柵の外れた場所に近づいて、脱いだ靴を綺麗に並べる。




真姫「魔女の思い通りになるくらいなら、わたしは…」






腕を広げ、後ろを向き、そして―












            【―この日、μ'sは…】







                 『End』











.









          【―この日、×××は…】





             『E×n×d×』










         


          【×この×、×××は×】



            
 
             『E×n×××』

               










          【××××××××××】







              『E×n×××』
























               【やあ。】







        【どうしたの?そんな不思議そうな顔をして】




 


   【…ふうん、そっか。何が起こってるのか、分からないんだ。】









         【僕はね、君を助けてあげたんだよ。】









   【魔女が君の身体を、心を、自分のものにしようとするその前に】










.


~~~~~~~~~~~~~~~




…風で木が揺らぎ、ざわざわと葉音が聞こえてくる。
辺りは美しい薔薇に囲まれていて、森の中を美しく魅せていた。






「気づいたみたいだね。」






切り株の上に乗っている黒い毛並みをした猫が、それに向かって話しかける。



…ここはどこ?




「君は知っているだろう?」





黒猫は何をとぼけているんだい?と言いたげな顔で丁寧に毛並みを整えた。





「ここは、家の外さ」





少し強めの風が吹き、カラスのような鳴き声がざわめかせる。
澱んだ空気が森中の雰囲気を異様なものに変えていた。


「間一髪だったよ。」



黒猫が切り株から飛び降りると、それに向かってゆっくりと歩いてくる。




「彼女は知っていたんだ。」

「家に魂を捧げるだけでは、自分が助からないことを。」

「恐らく、魔法について書かれたノートを、強引にあの家から取り出しただと思う。」





僕が望んでいない物は与えていない筈だったのに、と黒猫は怒ったような素振りを見せてきた。




…私は死んでしまったの?




「だから、言ってるじゃないか。」



黒猫は再び切り株の上にぴょんと飛び乗りると。





「僕が助けてあげたんだ。彼女の意思から君をね。」





少年のような声をした黒猫は、続けて語りだした。



「君も災難だったね」


「魔女に魅入られてしまったばっかりに、こんな事に巻き込まれるだなんて。」


「本当は君もあの家の一部になるだけの筈だったのに、彼女は君を気に入ったみたいなんだよ。」




…彼女って、誰?





「少女の名前は、ヴィオラ。」


「魔女に魅入られてしまった、可哀想な少女さ。」



悲しげな言葉とは逆に、黒猫は己の尻尾でじゃれながら楽しそうに動いた。



「今、彼女は魔女に囚われているんだ。」


「魔女と深い信頼関係にある彼女は、魔法を施すのにとても適しているからね。」


「ある程度人間の魂を取り込んだ後、身体を入れ替わるつもりなんだろう。」





…魔女は、どうしてそんな事をするの?

率直な疑問を黒猫にぶつけると、意外な答えが返ってきた。








「魔女は、愛されたかっただけなんだ。」


「誰かに愛されることだけが魔女の望みなんだよ。」


「でも、魔女の身体は決して愛されることのない身体だった。だから、彼女が羨ましかったんだろうね。」






…魔女の病気は、愛されなかったことが原因。
魔女にとっての望みは愛される事。魔女が望んだのは病気が治る魔法。








「君に彼女を救って欲しい。」



「魔女は、君を気に入ってる。だから、あの家に招待されたんだよ。」


「そして魔女は君の友達の魂を家に捧げて、ある程度力が溜まったら彼女を招き入れるつもりだったんだろうね。」








「でも、それは失敗に終わった。」


「君の仲間の一人が、家の外に出てしまったからね。」


「魔女はあの家でしか自身の身体を保つことが出来ない。だから、彼女の侵入を恐れた魔女は外に出た君の友達を追わずに家の扉を固く閉じた。」





「これじゃあいつまでたっても彼女が外に出ることが出来ないんだよ。」







…黒猫は後ろを向き、恐ろしい程大きな薔薇を見つめた。






「この薔薇を枯らす事ができれば、彼女は森の外へと出ることができる。」


「でも、彼女一人ではこの家に入る事が出来ない。そこで、君に頼みがあるんだ。」




黒猫はもう一度答える。
助けた恩をここで返せと言わんばかりの態度で、それに向かって言い放った。





「君に、彼女を救って欲しい。」







…どうすればいいの?







「それは彼女が知っているよ。」


「彼女は魔女の友達だからね。魔女の事なら何でも知っている筈だ。」


「君は彼女の言うとおりにしてあげるだけでいい。今の魔女の狙いは、あくまでも君だからね。」








「もし、君が【上手く】彼女を救ってくれるなら。」


「君の願いを一つだけ、僕が叶えてあげるよ。」


「例えば、そうだねえ」








「君の友達を、元に戻してあげる。なんてどうかな?」







…森をざわめかせる風が止んだ。
足は地面を踏みしめ、開いていた掌をぎゅっと握り締める。




「魔女の名は『Ellen』。愛されることを望み、愛される身体を求めた女の子。」




森の先には、魔女の家が見える。
不気味な瘴気が漂うそれを睨みつけ、心に決意を刻み込んだ。




「魔女の家は悪魔が魔女に与えた魔法。魔女自身が姿をあらわすとき、魔女の家は元の姿に戻る。」




やるったら、やる。
今まで出来ないと思っていたことを、出来ると信じ、それを実現してきた。



「僕は魔女と契約を交わしているから、直接手を加えることは出来ないけど。」





目を閉じて、夢から覚めるのをじっと待つ。
自分の役割を、そして、自分の役目を果たすために。





「それでも、彼女に逃げてもらいたいという気持ちは本当なんだ。」














             「じゃあ、頑張ってね。」










.


・・・・・・・・・・・・・・・




…何時まで私は、この澱んだ空を見上げていればいいのだろうか。




死ぬことを選んだ私は、屋上から飛び降り命を投げ捨てた。
あの家で死ぬくらいなら、自分の好きな場所で死にたかったから。






もしかすると、私はもう死んでしまってるのかもしれない。
魂と体が分離して、天に召されている途中なのだろうか。




だから、最期に見えるのはこの大空。
まるで私の心を映しているかのように灰色で、とても悲しい空。





…私って、こんなにもロマンチストだったんだ。
海未と一緒に歌詞を考えたりしたら、とても楽しかったかもしれない。




ふふ…穂乃果にこの事を話したら、どんな答えが返ってくるのかしら?
恥ずかしくて絶対言えないだろうけど、彼女だったら














「…すっごくいいと思う。それ、とっても面白そうだねっ」





―そう、答える筈よね。


――



真姫「……えっ」



聴こえる筈のない声が真姫の耳に届いた。

この世界には自分一人、私だけが生き残っている…

そう思い込んで命を投げ捨てたのだ。



真姫の手は、何者かによって掴まれていた。
彼女を引っ張る力は、真姫の体制を徐々に起こし、再び屋上の地に足を踏み入れさせる。




「でも私、歌詞を作っても歌う人がいなかったら寂しいと思うの」




空は、夕日で赤く染まっている。
屋上から見える夕焼けはとても綺麗で、目を前に向ける。



夕陽と同じ山吹色の髪の色をした、私に居場所を与えてくれた人。











穂乃果「そうだよね、真姫ちゃん」








―高坂穂乃果が、そこにいた。


真姫「ほ、ほの…か」

真姫「な、なんで…どうして、ここにっ…!」



予想だにしていなかった人物を目にして、真姫は混乱する。

彼女は、魔女の家に取り込まれで死んだ筈だ、それを真姫は自分の目で確かに見た。




穂乃果「…戻ってきたよ」

穂乃果「真姫ちゃんを、みんなを」

穂乃果「あの家の悪夢から、救うために」



…高坂穂乃果は、はっきりとそう答えた。
普段のふざけた彼女からは聞くことは出来ない、強くて頼もしい声だった。




真姫「う、嘘…嘘よっ」

真姫「だって…あなたは…あの時にっ…!」

穂乃果「……」

真姫「ねぇ…あなた、本当に…」

真姫「本当に…穂乃果なの?」


穂乃果「μ'sはみんなが歌って、みんながセンター」

穂乃果「誰か一人が欠けたら、それはもう私達じゃない」

穂乃果「私達は9人で一つ。その事実は変わらない」




…一つ一つの言葉が、真姫の心の闇を晴らしてゆく。






穂乃果「穂乃果は、それをもう一度叶えるチャンスを掴んだの」

穂乃果「あの家に囚われている女の子を救えたら、みんなの魂を元に戻す」

穂乃果「あの黒猫は、穂乃果にそう約束してくれた」





虚無で狂いかけていた彼女の心は、小さな太陽の輝きによって自身を取り戻そうとしている。






穂乃果「でも、それだけじゃない」

穂乃果「私はみんなの魂だけじゃなくて、あの子も救いたいと思った」

穂乃果「魔女に狙われたあの女の子も、みんなも、穂乃果にとっては同じ…救いたい命」





…聞こえるのは、彼女の本心。
真っ直ぐの一本柱で、決して揺らぐことのない信念。






穂乃果「私の力で助けることが出来るなら」

穂乃果「私はやる」

穂乃果「やるったら、やるんだっ!」







真姫「穂乃果…ほの、かぁ…!」

真姫「うっ…ぁ…ああっ…!」

真姫「うわああああああああああああああっ!!!!」




真姫は穂乃果に抱きつくと、大声で泣き叫んだ。
穂乃果はそれを受け止めると、真姫の頭を優しく撫でる。




穂乃果「…ごめんね、辛い思いをさせて」

穂乃果「悲しかったよね…誰もいないμ'sなんて」

真姫「馬鹿っ!寂しいなんてものじゃないわよぉ!」

真姫「私の…生きてる意味がっ…なくなるくらいっ…」

真姫「私はっ…みんなの事がっ…!」

穂乃果「…うん、分かってる」

真姫「ほんとに…ほんとに恐かったんだからぁっ…!」

真姫「あっ…ああっ…うぁぁぁっ…!」



…真姫が一頻り泣き叫ぶと、沈黙が訪れる。
二人は肩を寄せ合い、山に沈んでいく夕日を見つめていた。






真姫「…これから、どうすればいいのよ」




真姫がそう呟くと、穂乃果はすぐに答えた。




穂乃果「簡単だよ」

穂乃果「今日は家に帰って、ベットで眠るだけでいいの」



真姫「っ…!」

真姫「でも、それじゃあまた、あの家に行く事になるじゃないのよっ!」

真姫「嫌よっ…私、もう…あんな所にっ!」

穂乃果「大丈夫だよ」




真姫の恐怖で硬った表情とは逆に、穂乃果の声は冷静さを保っていた。







穂乃果「…多分、あの家に入るのは穂乃果だけ」

穂乃果「真姫ちゃんはずっと見てくれるだけでいい…穂乃果の、頑張る姿を」

真姫「…なんで、そんな事」

穂乃果「教えてくれたの」



穂乃果は立ち上がると、夕日に向かって手を振り上げる。




穂乃果「…魔女には、穂乃果が必要なんだって」

穂乃果「どうして穂乃果なのか分からないけど…でも、それって穂乃果以外の人間はいらないって事でしょ?」

穂乃果「だからあの家に最初に連れて行かれるのは、私」

穂乃果「今は、それだけ分かっていればいいと思うんだ」






再び穂乃果は真姫の方へと向き、真姫の手を取り身体を起こさせる。






真姫「…穂乃果」



握った手は、とても力強く感じた。
彼女の意思が、真姫の恐怖心を取り除いてゆく。







穂乃果「…いこう、真姫ちゃん。」

















「もう一度、魔女の家にっ…!」










【To Be Continued…】

本日はここまでとなります。
お付き合い頂きありがとうございました。


次の更新で完結となります。
書き溜め投稿を行いたいと思っていますので、早くて10日、遅くて二週間程時間を取らせて頂こうと思っています。



では

8時に再開します
書き溜めあまり出来てないので2日程かかるかもしれません





私の目は もういらない

私の足も 必要ない




あなたの目で 見ればいい

あなたの足で 駆ければいい








だから 私に頂戴

あなたのぜんぶ 私に





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・




-???-



真姫「…ん…ぅ…」

真姫「……」






ムクリ




真姫「…ここ」

真姫「っ!?」











穂乃果『………』




真姫「嘘っ…本当に穂乃果がっ…」


















穂乃果『…あなたが、ヴィオラちゃん?』











.


-森-



穂乃果「……」





「……」

「ふうん、今度は私が見えるんだ」




切り株に座り薔薇を見つめていた少女は、声をかけられた事に気がつくと穂乃果の方へ目を向ける。
これまで彼女が喋っている事を見たことがなかった穂乃果だが、不思議と驚いた様子は見せていなかった。





穂乃果「……」




「という事は…ふふっ」

「そっか、…やっと私入れるんだね」






少女が腰を上げると、穂乃果に近づくために足を運ばせる。

そして、ゆっくりと顔をあげ丁寧にお辞儀をした。










ヴィオラ「こんにちは。私の為にありがとう」

穂乃果「…ううん、これは穂乃果の為でもあるから」

ヴィオラ「そっかあ…ふふっ」



少女は含んだ笑いをすると、改めて穂乃果の顔を見つめた。
物の品定めをするかの様にジロジロと目を動かすと、小さな声で穂乃果に呼びかける。



ヴィオラ「ねぇ」

ヴィオラ「私と、友達になってくれる?」








穂乃果「…えっ?」



突然の申し出に穂乃果は困惑する。
驚いた顔を見たかったのか、ヴィオラは屈託のない笑顔を見せながら話を続けた。



ヴィオラ「ふふっ。…ごめんね。びっくりしたでしょ?」

ヴィオラ「私、あの子以外の友達って、知らないから」

ヴィオラ「だから、あなたが友達になってくれたら…とっても嬉しい」




…ヴィオラの表情は笑っていたが、その瞳は虚ろに輝いている。
寂しさを醸し出すその声に、穂乃果が答えを出のは容易なことだった。





穂乃果「…うん。いいよ」

穂乃果「私も、ヴィオラちゃんが友達になってくれたら、とっても嬉しい」





穂乃果は彼女の友達になることを承諾する。

それがこの子にとって大きな支えとなるのならば、お安い御用だと考えた。


ヴィオラ「…ふふっ。ありがとう」

ヴィオラ「とても優しいねの…あなた」

穂乃果「そうかな」



穂乃果が自分の素直な気持ちを告げると、ヴィオラは続けて自信なさげに語り出す。




ヴィオラ「普通、いきなり友達になろうだなんて言う女の子…気持ち悪くならない?」

穂乃果「ううん。そんな事ないよ?」

穂乃果「…私は、素直でとってもいい子だなって思ったから」

ヴィオラ「そっか。ふふっ…ありがとう」

穂乃果「ううん、こちらこそっ」





お互いに笑みを交わすと、穂乃果とヴィオラは森の奥に見える大きな家を見つめる。

辺りは相も変らず澱んでおり、不穏な空気に包まれていた。










ヴィオラ「じゃあ、そろそろ行こう」

穂乃果「…魔女の、家に」



二人の少女は歩き始める。

人の生命を喰らう魔の巣窟に入る為に…



-???の家 入口-




穂乃果「…あっ」







黒猫「」







穂乃果「…黒猫」

ヴィオラ「話しかける必要はないよ」

穂乃果「えっ?」







ヴィオラ「【あれ】は、私には必要のないものだから」

穂乃果「…どういうこと?」

ヴィオラ「ふふっ。…だって」



今まで命をつなぎ止める為に話しかけていた黒猫に、ヴィオラは目もくれずに魔女の家の入口に立つ。

立て付けの悪くなった不快な音が、穂乃果とヴィオラを出迎えた。










「私が、この家で殺されるわけがないのだから」











ガチャ…バタンッ

-魔女の家 入口-



ヴィオラ「…ふうん。ここはいつもどおりなんだ」



家に入ると、穂乃果達が隔離されていた部屋で映像として映された小さな部屋に足を踏み入れる。
そこは以前と変わらず、部屋の中心に血痕が残っていた。




穂乃果「…うっ」

ヴィオラ「ここは一番人間が死んでいったから、血がこべり付いてるのよ」



ヴィオラは何も感じていない仕草を見せて、奥にある貼り紙に目を向けた。



穂乃果「……」

ヴィオラ「わたしのへやまでおいで…かあ」

ヴィオラ「ふふっ…こんな事書いてるのに、今まで私を入れてくれなかったなんて」

ヴィオラ「おかしいなあ…ふふっ」







穂乃果「…ねぇ、ヴィオラちゃん」

穂乃果「本当に…この家に入るの、初めてなの?」



…穂乃果達は、何度もこの少女の存在を目にしている。
何も喋らず反応も示さなかったが、常に自分達の前を歩き共に行動してきた。




ヴィオラ「うん。あの子が私を閉じ込めてからは、一度も入ってない」

穂乃果「でも、それだとおかしいの」

穂乃果「私達は、この家でヴィオラちゃんとずっと一緒に行動してたから」

穂乃果「同じ場所を歩いて、道具を使って…私達は、ずっとヴィオラちゃんを見てきた」

穂乃果「これは…どういう事?」

ヴィオラ「私に聞かれても困るよ」



ヴィオラはそう一言呟くと、部屋を出るために元来た扉を開けた。








ヴィオラ「でも、考えられるとしたら…そうだね」

ヴィオラ「滞りなく人間を家の罠に誘導するために…魔法で作られた私の幻」

穂乃果「……っ」

ヴィオラ「さあ、早く行こうよ」

ガタンッ


ドンッ

      ドンッ

 ドンッ


 


穂乃果「はあっ…はあっ…はぁっ…!」

ヴィオラ「……」






穂乃果「ふぅ…ふぅ…」

穂乃果「…全然疲れてないね。ヴィオラちゃん」





テディベアの化物を切り抜けると、全く疲れを見せないヴィオラに穂乃果は話しかける。
あれだけの速さで追いかけられていたにも関わらず、ヴィオラは汗の一滴も出していなかった






…あのぬいぐるみが、私を殺せるわけないじゃない






穂乃果「えっ?」

ヴィオラ「私ね、この家の事沢山知ってるの」

ヴィオラ「よくこの家で、友達と一緒に遊んでたから」

穂乃果「…そっか」

穂乃果(…でも、それでも)

穂乃果(こんな簡単に切れ抜けれる事って…できるの?)



…穂乃果は、ヴィオラの後を追う様に走ってきた。
この少女は化物の動く距離や動作などを完全に把握しており、計算をしながら動いているように穂乃果は見えていた。



ヴィオラ「だから、この家の考えている事は分かる」

ヴィオラ「何処でどんな事が起こるのか、どんな風に殺そうとするのか」

ヴィオラ「全部全部、分かっちゃうの。…ふふっ」

穂乃果「……」





ヴィオラは床に落ちているぬいぐるみの手足を拾うと





ヴィオラ「ねっ。…私と一緒にいると、安心でしょ?」




…食堂へ通じる扉を開き、再び進み始めた。

-厨房-



トントントン…

    トントントン…




「ああ いそがしい いそがしい。」







穂乃果「…っ」

ヴィオラ「相変わらず、無駄な事をしてるんだね」

穂乃果「…えっ?」





ヴィオラ「……」 ボソッ


「…あれ?」





ヴィオラが話しかけると、コックは料理の手を止め何か喋り始めた。





穂乃果(…えっ)

穂乃果(どうして…普通に喋りかけてるの?)



ヴィオラ「…知らないわよ。そんなの」



「おかしいなあ…違ったかなあ…」





見えないコックは納得がいかない様子で独り言を呟くと、再び包丁を動かし始めた。






穂乃果「…知り合い、なの?」

ヴィオラ「うん」

ヴィオラ「あれは、ずっと昔からいるから」

穂乃果「昔?」

ヴィオラ「私が知らない、魔女」

穂乃果「……」




…穂乃果は理解ができなかった。
が、ヴィオラの握る銀の鍵を見つけると、あまり関係のない事なのだと考えるのを止めて





ヴィオラ「行こう?…こんな汚いところ、いつまでもいたくないでしょ?」





厨房を後に、食堂へと戻った。

-二階への階段-


スウッ




「……」







穂乃果「あっ…今の」

ヴィオラ「ふうん…まだあったんだ」

穂乃果「…まだ?」




紫色の髪をした女の子を見つけると、ヴィオラはまたクスクスと笑い始める。





ヴィオラ「意志」




穂乃果「…?」

ヴィオラ「知ってるでしょう?この家は…意志を持ってる」

ヴィオラ「だから、自然と魔女の意志も出てくるの…でも、こんな所にもあったんだ」

ヴィオラ「じゃあ、あの子の意志も何処かにあるのかな…ふふっ」




魔女の家は意志を持つ。
魔女の家の住人は悪魔に喰われた魂の残骸であり、意志を持たない。








穂乃果「じゃあ…あれは、魔女の意志?」

ヴィオラ「ええと、次は…あそこかあ」

-書物庫-



ペラッ



ヴィオラ「…ここも、懐かしいな」

穂乃果「え、っと…」

ヴィオラ「相変わらず、あれが望むもの以外は読めないんだ」

穂乃果「…あれ?」




ヴィオラは魔女の家と書かれていた本を本棚に戻すと、つまらなさそうに呟いた。




ヴィオラ「私ね。ここで字を覚えたの」

ヴィオラ「手に取れば、読める程度の本を提供してくれる…でも、まだ読むべきではないものは絶対に読ませてくれない」

ヴィオラ「…つまんない場所だよ」



ヴィオラの顔は、本当につまらなさそうだった。
この書庫に対してではなく、何か一つの事に対しての不満を吐き出しているかのように穂乃果は見えた。




穂乃果「……」

ヴィオラ「ああ、でも」

ヴィオラ「この家、あなた達が来る前から色んな人間が訪れたから」

ヴィオラ「読めないはずの本が読めるようになってる…きっと、ここから先の場所まで来ることが出来た人間がいたんだね」

ヴィオラ「まあ、その人間達はとうの昔に食べられたのだろうけど。…ふふっ」

ヴィオラ「普通は元に戻ってる筈なんだけど…どうしてかなあ?くすくす…なんでだろうね?」







そう言うと、ヴィオラは本を整理する魂の残骸の元へと近づき、ロープを渡して本を受け取った。

穂乃果「……」




穂乃果は本棚から一冊、本を取り出す。
そこには希が読むことのできなかった魔女の家の続きが書かれていた。









希『それに、なんやろう…このもやもやする感じ』

希『まるで、まだ知らなくていい事を知ってしまった。…そんな感覚』









穂乃果「…希ちゃんが感じてた事って、これだったんだ」

ヴィオラ「もういいよ」



ヴィオラはこの場所での作業を終えると、穂乃果を呼び出し手招きをした。




ヴィオラ「こんな所にずっといても、つまんないでしょ?」

穂乃果「……」



書物庫を出て、展示室へと向かう。
穂乃果も再びヴィオラの後を追うようにして歩き始めた。





…ヴィオラの淡々とした行動に穂乃果は少し疑問を感じていたが、自分が今するべき事を再び思い出し先へと進む。


-幻影の廊下-



  ヒュン!




穂乃果「っ!」 ギュッ

ヴィオラ「…何してるの?」

穂乃果「え、えっと…ナイフの幻だって分かってても…やっぱり怖いから」

ヴィオラ「……」




ヴィオラは興味なさそうに前を向くと、突然横を振り向き、黒猫や本棚のある場所へと身体を動かそうとした。





穂乃果「っ!?待って!そっち向いたらっ…!」




…ヴィオラはそのまま横に進み、黒猫や本棚のある場所へと歩いてゆく。





穂乃果「う、嘘…どうしてっ…!」

ヴィオラ「…別に、普通じゃない。こんなの」




…この廊下は、よそ見をしてはいけない
貼り紙に書かれた決まり事に従い真っ直ぐと進まなければ、謎の処刑場に連れてかれる。


そうやって、にこは殺されたのだから。



穂乃果「だ、だって…ここ、次の扉まで…よそ見をしたら」

ヴィオラ「そうなの?」

穂乃果「う、うん…それでにこちゃんが…っ」

ヴィオラ「…ふうん。そうなんだ」

ヴィオラ「でも、私そんなの【知らない】から」




ヴィオラは関心のなさそうな返事をして、少し小さな本棚の調べていた。




ヴィオラ「…やっぱり、読んだんだね」

ヴィオラ「魔法でこんな事もできるんだ…ふふっ」

ヴィオラ「あれの悔しそうな顔が目に浮かぶわね…ふふ、ふふふっ」



古い書物を手に取って眺めると、ヴィオラは含みのある笑いを静かにした。
その意味を理解出来ない穂乃果は、先程のルール無視の事もあり頭が混乱し始めていた。



穂乃果「…どうして」

ヴィオラ「ここはもう用済み。…次は、あそこ」




…幻影の廊下を抜けると、小さな部屋に出る。

その場所は穂乃果にとって、あまり思い出したくない部屋でもあった。


-巣窟前-







ヴィオラ「……」

カエル「♪」 ピョン




穂乃果「…ねぇ、このカエルは何のためにいるの?」






穂乃果は素朴な疑問をヴィオラにぶつける。
このカエルの存在価値が、本当にあの蛇に食べられることだけなのかという事を明らかにしたかった。



…他の方法があれば、ことりは傷付かずに済んだかもしれない
そんな想いが穂乃果の心の中にいつまでも残っていた。






ヴィオラ「…知ってる?悪魔にとってどんな魂が一番好みなのか」






ヴィオラはカエルを掌に乗せると、扉の前に立ち止まり覗き窓を開ける。



穂乃果「…悪魔?」

ヴィオラ「悪魔は、人間を殺すことができない。だから魔女は悪魔と契約して、魔女は人間の魂を悪魔に捧げる」




覗き窓の先に何がいるのか確認する必要もないと言うかのように、ヴィオラはカエルを窓に押し込む。

重みのあるずんとした音が、部屋中に響き渡った。

ガチャ



ヴィオラ「悪魔はね、人が苦しむのを見るのが好きなの」

ヴィオラ「こんなところで死にたくない、いやだ、助けてくれ」

ヴィオラ「そんな絶望で染まった魂は、悪魔にとってすごく美味なんだって」




化物の部屋を出ようとすると、小さなカエルの幻影が視界に入ってきた。




ヴィオラ「だから、悪いことをさせた人間にこんな光景を見せたら…」




ガチャ



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ヴィオラ「絶望、しちゃうでしょ?」





目の前に広がるのは、巨大な肉の壁。

絶望した人間を恐怖の底で陥れ、消化する為に存在する奈落の穴。





穂乃果「うっ…ぁ…っ!」

ヴィオラ「なあんて、魔女なら考える」

ヴィオラ「だから、この家もそれに合わせて作られているの」










「悪魔が絶望した魂を美味しく食べることができるように…ねっ。」

-音の部屋の通路-



ヴィオラ「どうして、そんな暗い顔をしてるの?」

穂乃果「……」

ヴィオラ「ごめんね。…怖がらせちゃった」



穂乃果「ううん、そうじゃないの」



穂乃果の表情は、怒りと悲しみで沈んでいた。
ヴィオラは予想していない穂乃果の表情を疑問に思うと



ヴィオラ「じゃあ、どうして?」



そう、正直に問いかけた。







穂乃果「…みんな、恐怖で怯えてた」

穂乃果「最初はどんな意味があって、こんな事が起こってるんだろうってずっと考えてた」

穂乃果「かよちゃんやにこちゃんの顔がヴィオラちゃんになったり、私の頭の中で声が聞こえてきたり…真姫ちゃんに幻覚が見えたり…」




ヴィオラ「…声?」




穂乃果はその場に立ち止まり、拳を強く握り締めると



穂乃果「全部、私達を絶望に陥れるために魔女がした事だったんだ」

穂乃果「あんな…普通じゃ考えられない事を…私達に見せつけて」

穂乃果「安心させる暇を与えないように…あっちの世界にまで入り込んできてっ…」

穂乃果「絶望する私達をっ…この家に殺させてっ…」

穂乃果「魂を…悪魔に…っ!」




…怒りを露にして、悔し涙を流した。


やり場のない怒りが穂乃果を苦しめた。

もしこの事に早く気が付いていたのなら、どれだけの生命を救う事が出来たのだろうか…?



中盤になると、海未は微かにその事を感じ取っていた。
しかし具体的な解決策を出すことが出来ず、海未の鼓舞は気休めにしかならなかった。




もし私が、悪魔の、魔女の思惑にいち早く気が付いていたなら
私があの日に休まず部室でみんなを励ましていたならば…



そんな考えが頭に過ると、急に怒りがこみ上げ…居ても立っても居られなくなった。





穂乃果「…絵里ちゃんも、ここで殺された」

穂乃果「こんなの、いつもの絵里ちゃんだったらすぐに分かる仕掛けだったのに」

穂乃果「余計な思惑が邪魔をして…これにっ」





穂乃果は兵隊の人形を睨みつけると、それを押し倒そうとした。


しかし、人形はぴくりとも動かない。
力負けした穂乃果は息を切らしながらその場に座り込み、髪で顔を隠した。




穂乃果「…っ…ぐすっ」

穂乃果「酷い…酷いよっ…」

穂乃果「なんで…私達がっ…こんな事っ…!」





…音を鳴らす為に用意された4つの燭台。

それは穂乃果の鳴き声では明かりを灯さなかった。















…ふうん。あの子、そんな事までしてたんだ。







.




穂乃果「…えっ」





ヴィオラ「どうやって繋げたのかな…悪魔の入れ知恵?それとも新しい魔法…?」

ヴィオラ「…ふふっ。そっか、契約したんだよね」

ヴィオラ「やっぱり、すごいよ。…魔女の素質、十分だよ」

ヴィオラ「私って、とってもすごい子と友達だったんだ…くすくす」





不敵な笑みを浮かべた少女の顔は、とても満足そうだった。
何故こんな状況で笑うことができるのか、理解出来ない。



…穂乃果は、ヴィオラの異様な雰囲気を不気味だと感じた。





穂乃果「…ヴィオラ、ちゃん」

ヴィオラ「もう大丈夫?」

穂乃果「あ、えっと…うん」

ヴィオラ「そっか」





ヴィオラ「じゃあ、進もう」

ヴィオラ「魔女の部屋まで、まだずうっと先だから」

穂乃果「…うん」







穂乃果達は進んでいく

音のある部屋を抜け、次の階段へ…


・・・・・・・・・・・・・・・



カツン

   カツン…




ヴィオラ「そろそろ最上階だね」

穂乃果「……」

ヴィオラ「どうしたの?…そんな顔して」






穂乃果「…私、ここからの記憶がないの」







最上階へと繋がる階段を登る途中、穂乃果はポツリと呟く。



…この先の廊下で、得体の知れない物体に穂乃果は取り込まれた。
大きな黒い靄が、身体を包み込むように侵食していく感覚は今でも鮮明に思い出すことができる。



自分の死因を穂乃果はありのままにヴィオラに告げた。



ヴィオラ「ふうん。…どうして逃げなかったの?」

穂乃果「……それは」



穂乃果がずっと抱えてきた違和感…
それはこの家が、魔女が、何故自分を求めているのかという疑問だった。



穂乃果「…あの靄は、私に何かを訴えてるように見えたの」

穂乃果「包まれた瞬間、色んな感情が渦巻いて…怖かったけど」

穂乃果「とても、心地…よかった」





小さな闇に包まれる瞬間…
それは穂乃果にとって苦痛ではなかった。


自分の全てを受け入れてくれる…そんな気がしたからこそ、穂乃果は動くことをしなかった。



穂乃果「…あれは、まるで」

ヴィオラ「ふうん…そっかあ」



ヴィオラは穂乃果の言葉を断ち切るように、もう一度クスクスと笑い始めた。
今度はさっきまでの小さく切るような笑いではなく、深く息を吐き出すかのような長い笑いだった。



ヴィオラ「ふ、ふふふ…ふふふふっ」

ヴィオラ「ああ、おかしい…とてもおかしいの」

ヴィオラ「あのね、分かっちゃうの。…あなたが、どうしてここにいるのかってのが」

ヴィオラ「やっぱり、やっぱりそうだったんだっ…ふふっ、あははははっ…!」



笑いのつぼにでも入ったかのように、ヴィオラは何度も何度も笑い出す。

心の底から喜の感情を表してる少女の顔は、とても幼く拙いものだった。



穂乃果「な、何がおかしいの…っ?」

ヴィオラ「もうすぐわかるよ」



階段を登ると、美しいステンドガラスが敷き詰められている廊下に出くわす。

その先を進むと窓の割れる音と共に、何かが家の外から入ってきた。










―恐ろしい程の速度で、それは穂乃果に襲いかかる。


―グワッ!



穂乃果「っ!?」

穂乃果「えっ…な、何でっ…!」

穂乃果「あれは…あれはっ!」



…人の形をした黒い物体に、穂乃果が以前感じた優しさなどは欠片も無い。

ただ穂乃果を奪うことだけを目的にして、敵意を丸出しにこちらに向かってきたのだった。






ヴィオラ「…だから、無駄なんだってば」





―ガキンッ!







穂乃果「…えっ」

ヴィオラ「……ふふっ」




二人の目の前に現れたのは、先程見かけた紫色の髪をした女の子の意志だった。

二つの意志は互いの力を相殺すると、靄となり消えていった。


穂乃果「な、なに…どういう事…?」

穂乃果「魔女の意志が…どうして」

ヴィオラ「これで、わかったでしょ?」





ヴィオラは再び足を動かし、扉を背にして穂乃果に語りかけた。






ヴィオラ「あれが、魔女の本心なの」

ヴィオラ「あなたをもう一度自分の元に置くために、今度は容赦なく私達に襲いかかった」

ヴィオラ「あなたが心地いいと感じたのは、魔女が自分のものにする為の甘い罠だったんだよ」

ヴィオラ「あなたはそれに引っかかっただけ…それだけの事じゃない?」






穂乃果「……」



穂乃果は何を言えばいいのか分からず、黙り込む。
ヴィオラの言い分に反論する為の理由を思いつく事ができなかった。





ヴィオラ「ああ、次は面倒だなあ…まあ、いいけど」






…人形の部屋を抜け、二人は園庭へと進んでいった。



-???-



穂乃果『……』

ヴィオラ『……』




真姫「…二人が、見える」



私は、魔女の家を歩いていく二人の姿をずっと見ていた。
声は魔女の家に入ると聞こえなくなり、今までのように映像だけが映されている。




真姫「…信じられない」

真姫「私達があんなに苦労した家の中を、こんなに早く進んでいくだなんて…」



私達の感覚で例えると、まだ一日目の夜だった。
黒猫に話しかけ無い事によって私の順番が回ってくることはなく、ただじっと歩く姿を見るだけ。





真姫「…でも、おかしい」

真姫「私達の時は、黒猫を無視しても向こうから強引に話しかけてきたのに」






黒猫『』



ヴィオラ『……』 ガチャ

穂乃果『……』




真姫「どうして…何も起こらないのよ?」




ヒュン




ドチャ





穂乃果「…っ」

ヴィオラ「…何これ?」




毒の水溜りの廊下に落ちてきたのは、ヴィオラと思われる少女の死体だった。
ヴィオラはそれを躊躇なく踏みつけると、扉の先へと足を急がせた。




ヴィオラ「…今更、こんな仕掛けで私が絶望するとでも思ったのかな」

ヴィオラ「それとも、もう考えれる程の頭が残ってないのかも…ふふっ」

穂乃果「……」





…廊下を抜けると、小さな部屋に出る。



そこにはいくつもの薔薇の造花が部屋中を進み込んでいて、異様にも神秘的だった。





ヴィオラ「…ねえ、薔薇は好き?」


穂乃果「えっ?」

ヴィオラ「私は好きだよ…だって」

ヴィオラ「とっても綺麗で、美しいから」

ヴィオラ「ずっと見ているとね、…なんだか楽しい気持ちになってくるの」



ヴィオラは造花の薔薇を一つ手に取ると、小動物を扱うかのように優しく手で摘み取った。



ヴィオラ「ね、とっても綺麗でしょ?」

穂乃果「…うん、そうだね」

ヴィオラ「前に住んでいた魔女も、薔薇が好きだったんだって」



穂乃果はヴィオラから薔薇を受け取ると、どうしていいのか分からず暫く出て持ち歩いた。




穂乃果(…作り物の薔薇、だからかな)

穂乃果(冷たくて、…何だか、怖い)



そう思った穂乃果だったが、楽しそうにするヴィオラを目の前に水を注すような事はしたくない…。
なので薔薇を日記の置いてある机に置き




穂乃果「えっと…次、行こっか」




ヴィオラに、そう呼びかけた。

どうしていいのか分からず暫く出て持ち歩いた。

どうしていいのか分からずに暫く手に持っていた。


-薬品庫-



穂乃果「…うわぁ」



初めて見る物品の多さに、穂乃果は驚いていた。
薬品だけではなく、肉や骨などといったサンプルのようなものまで棚に収められていた。




ヴィオラ「…これだけ集めるのに、苦労したんだよ」




穂乃果「…えっ?」

ヴィオラ「魔女は、病気だったの」

ヴィオラ「皮膚はドロドロで、歩くと痛みが走って」

ヴィオラ「誰もが見ても、化物にしか見えなかった」



ヴィオラの顔は沈んでいた。
魔女がどれだけ重い病気を患っていたのかを感じ取ることができる程に、その顔は悲しげだった。




穂乃果「…ヴィオラちゃん」

ヴィオラ「その病気のせいで、魔女は愛されなかった」

ヴィオラ「愛されることを求めていたのに、身体は愛される事を拒んだ」




血の飛び散った戸棚の前にヴィオラが立ち尽くす。

戸を開けると、棚の奥に小さな小瓶を見つけた。





ヴィオラ「【これ】に愛される事が、魔女は幸せだと思っていた」





穂乃果「…?」

ヴィオラ「…ねえ、この小瓶」

ヴィオラ「あなたが持っててくれないかな」

穂乃果「えっ?」

ヴィオラ「私を助けてくれるのでしょ?」

穂乃果「う、うん…そうだけど」

ヴィオラ「なら、いいじゃない」

穂乃果「……」





…穂乃果は棚に手を伸ばすと、甘い香りのする小瓶を手に取り落とさないように握り締めた。


・・・・・・・・・・・・・・



-園庭-


穂乃果「…っ!」

穂乃果「ここも…真っ赤にっ…!」





…紅く染まった園庭は、穂乃果の恐怖心を煽るのに十分だった。
冷たく生い茂る造花の薔薇は何色にも染まらず、まるで魔法にでもかけられたかのように美しく咲き誇っていた。





ヴィオラ「……」




あれからヴィオラは一言も喋らなかった。
後ろを振り向かない彼女の表情は穂乃果には分からなかったが、穏やかではないという事だけは察する事が出来た。






…馬鹿だよね、こんな奴に振り回されてたなんて。






穂乃果「…ヴィオラ、ちゃん?」

ヴィオラ「ふふっ…本当に、何で分からなかったんだろう」




ヴィオラは園庭を通り抜けると、二つの牢獄が存在する廊下へと早足で進んでいく。





ヴィオラ「…むしろ、気付かなかった方が幸せだったのかな」

穂乃果「ま、待ってよヴィオラちゃん!」





ガチャ…バタンッ



-牢獄前-




ヴィオラ「…日の沈みかけた時の空気と、甘い香りの混ざった匂いを嗅ぐのが好きだった」




ヴィオラは手前の牢獄の前に立つと、何かに語りかける様に声を出す。




ヴィオラ「悲しげな顔を見ると、愛されなくなるのだと思って一生懸命いい子を演じた」


ヴィオラ「そうする事でしか繋ぎ止めれない。臆病な気持ちと行動が心を削っていった」


ヴィオラ「愛されることだけが、存在してもいいという証明になっていた」





語る声は次第に感情が篭り、声と共に吐き出されていく。







ヴィオラ「そんな気持ちも知らずにお前は何と言った?」 ガンッ

ヴィオラ「同情?我儘?子供の駄々?」  ガンッ

ヴィオラ「挙句の果てには慰める?慰めるって言ってたわよね?」 ガンッ ガンッ

ヴィオラ「何も、何も知らない人間が、よくもそんな知ったふうな口ぶりが出来るわねえ」 ガンッ! ガンッ!

ヴィオラ「私がこいつにどれだけの憎しみを抱いているのか知らない癖に」 ガンッ! ガンッ!

ヴィオラ「ふふっ 私 あなた 大嫌い」 ガンッ! ガンッ!

ヴィオラ「だって あなた この女に似てるもの」 ガンッ! ガンッ! ガンッ! 

ヴィオラ「全部包み込む振りをして 心の中は全然違うことを考えてる」 ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!

ヴィオラ「偽りの愛なんていらない 慰めなんていらない」 ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!

ヴィオラ「ふふっ いらないの そんなものは いらない いらない いらない」  ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!





ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! 



穂乃果「―ヴィオラちゃんっ!」 ガバッ




…穂乃果は、興奮するヴィオラの身体を抱きしめた。
事情が掴めず、何に対して怒っているのかも分からなかったが、…この状況が良いとは思えない。





ヴィオラ「…ふ、ふふっ」

ヴィオラ「でもよかったねえ…生まれた日に、死ねるなんて」

ヴィオラ「死ぬ意味を 身をもって知ることが出来たのだからっ!」

ヴィオラ「ふふふっ あはははっ アッハハハハハハハハハハハハッハッハッハッハッ!!!」


穂乃果「…っ」



穂乃果には、誰の事を言っているのか分からなかった。
このヴィオラの異常とも言える憎悪の塊は何に対してなのか




…それを知る術は、見つからなかった。





ヴィオラ「…ふふっ。ごめんね」

ヴィオラ「寄り道しちゃったあ…早く行かないと、間に合わないかもしれないよ」

穂乃果「……」










牢獄を抜けると、道中で手に入れた人形を置き、隠し通路に入る。


その先に見えるのは、魔女の部屋へ繋がる扉だった。





【わたしの へやまで おいで】





ヴィオラ「……」

ヴィオラ「何だか、懐かしいなあ」

ヴィオラ「ついこの前まで、ずっとここに居たのに」




…扉を抜けると、魔女の部屋へと繋がっている廊下に出る。
その先にはきっと、魔女が待ち構えているのだろう。



穂乃果「…ヴィオラちゃん」



穂乃果は不安を隠し切れず、ヴィオラに何か縋り付くかのように手を握る。
海未ですら逃げ切ることのできなかった魔女に、自分が立ち向かうことが出来るのか…
自分が足でまといになり、ヴィオラを巻き添えにしてしまうのではないか



ヴィオラ「……」



恐怖を察したのか、ヴィオラは柔らかい笑顔を穂乃果に向け手を握り返した。




ヴィオラ「大丈夫だよ」



ヴィオラの顔には不安など何処にも無かった。
短くも、心強い言葉が穂乃果の不安をかき消していく。












ヴィオラ「私と同じ様にすれば、絶対…」

ヴィオラ「【絶対】に、助かるから。」

-魔女の部屋 廊下-



カツン


      カツン…







「やあ。」







穂乃果「……あっ」




魔女の部屋の前には、一匹の獣が待ち構えていた。

ヴィオラはそれを目にするそれを目にすると、少し不機嫌そうな態度で話しかける。








ヴィオラ「…なに?」


「ひどいなあ。少しくらい嬉しそうな顔をしてくれてもいいのに」




少年のような声を出すそれは、残念そうに伏せた。




ヴィオラ「別に、おまえの顔なんて見飽きたから」


「僕はずっと心配してたんだからね。折角手助けしてあげようと思ってたのに」



獣は僕の目を見て信じてと言わんばかりに丁寧に座り込む。




ヴィオラ「いらないわ。そんなの」

ヴィオラ「だって、私はもう、お前とは何の関係もないのだから」



「いやまあ、そうなんだけどさあ」






…外の景色は、少し明るかった。

窓から差し込むぼやけた光は、一人の少女と一匹の獣を静かに照らしていた。



「僕だって、少し感慨深いものがあるんだよ。」


「彼女はもうすぐ、この家を××××みたいだからね。」




獣の言葉にヴィオラは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにそれは笑みに変わった。




ヴィオラ「ふうん。そっか」

ヴィオラ「ふふっ…全部、終わりにするつもりなんだね」


穂乃果「終わりに…する?」



「そうみたいだね。」



穂乃果の疑問に答えず、それは続けて話し始めた。



「君ってば、ぼくの助けなんて、全然必要としないんだから。やんなっちゃうよなあ。」


ヴィオラ「だから、必要ないって言ってるでしょ」


「まぁ、そうだよね」



…少女と獣は、少しずつ語り始める。

友達や、仲間などといった繋がりとはかけ離れている『何か』を穂乃果は感じながら、



穂乃果「……」



ただそこに、立っていた。




「じゃあ、そういうことで、あとは頑張ってね。」




―シュン。




穂乃果「…っ!?」




…黒猫の身体は、魂が抜け去ったかのように力なく倒れた。

寄り代としての役目を終えたそれは、ただの猫の死骸へと成り果てたのだった。




穂乃果「…黒猫、が」


ヴィオラ「行くよ」




ヴィオラが扉に手を付け、穂乃果を呼びかけた。








「会いたかったよ…××××ちゃん。」



・・・・・・・・・・・・・・・・




穂乃果「はぁっ…はぁっ…はぁっ…!」



化物は穂乃果達を追いかける。
下半身のない女の子の格好をした魔女は、全ての力を出して襲いかかってきた。



ベトッ!
        バキッ!

ダダダダッ!



穂乃果「はぁっ!ひっ!はぁっ!はあっ!」


ヴィオラ「こっちだよ」




階段を駆け下りると、厨房に繋がる。
その先の食堂を抜け、手首を切り取った部屋を全力で駆け抜けた。



やがて入口に戻り、外へと繋がる扉を見つけた。





ヴィオラ「こっち」

穂乃果「―えっ!?」




…ヴィオラは、入口への扉を開けなかった。

狭い廊下を渡り北の方角へ、柱時計を横切ると





ヴィオラ「あった」







小さな部屋に入り、箪笥の中から何かを取り出した。






【××ンズ×××を手に入れた】 








穂乃果「な、何っ!これっ!どうしてっ!」


ヴィオラ「外に出るよ」







考えている暇は無かった。

部屋に入ろうが扉を閉めようが魔女は動きを止めずに追いかけてくる。



穂乃果はただひたすらにヴィオラの後を追い、離れないように手を握り必死に走った。












「ァ…い…ゃ…ダ……ぁ…!」





















―扉を開けると、穂乃果とヴィオラは光に包まれる。



眩しすぎる光に目を閉じて、辺りが見えるのをじっと待っていた。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・




-森-





…風は、静かに森の中を泳いでいる。

何の花なのか分からない花壇が規則正しく並び、人が通る道を作っていた。






後ろに見えるのは、屋敷の様大きい魔女の家。
白い壁に大きな赤い屋根が、私達を上から見下ろしていた。











穂乃果「…あ、あっ」

穂乃果「で、出られたっ…!家の…外にっ…!」

穂乃果「やったっ…!私、魔女に!」





ヴィオラ「……」 テクテク




穂乃果「…あっ、ヴィオラちゃん!」



森の外に出ると、ヴィオラは颯爽と森の外へと歩いていく。
穂乃果もそれにつられて、駆け足で魔女の家を後にした。








…家を離れると、誰も魔女の家に振り向く事をしなかった。





穂乃果「…あれ?」


森を歩いていると、花畑の中に小さな紙が落ちていた。

この場所に初めて来たときは、こんな物は落ちていなかった筈だったのに。




ヴィオラ「……」

穂乃果「えっと、拾わなくても…いいの?」

ヴィオラ「好きにしたら?」




ヴィオラは紙になど見向きもせず、ただ真っ直ぐと森の外を目指して歩いて行った。

あまりの素っ気無さに穂乃果は少し驚くが、彼女が早く森の外へと出たい気持ちを察して追求はしなかった。





穂乃果「…えっと」


穂乃果は花畑の中に入ると、中途半端に破れた紙を拾う。





穂乃果「…こ、これって」











【手紙を手に入れた】





.


穂乃果「……」 ペラッ



間違いない。
この手紙の続きを私は知っている。



これは、私達が部室で見た…上半分の破れた手紙の残りの部分だ。







穂乃果「…ヴィオラ、ちゃん」




私ははその手紙をポケットの中に仕舞い込み、ヴィオラの元へと駆け寄る。




ヴィオラ「……」




…そこには、少女の力ではどうする事も出来ない程大きな薔薇が生い茂っていた。


穂乃果「ヴィオラちゃん?」

ヴィオラ「仕上げだよ」



彼女が私の為に道を空ける。
すると次に私は、彼女に最後の仕事を任せられた。




ヴィオラ「小瓶を出して」

ヴィオラ「それをこの薔薇に、注いで」




小瓶を持っているのは私だった。
彼女がどうしても私に持っていて欲しいと言ったから、私はこの甘い香りのする小瓶を無くさないように持っていた。


…これで、薔薇を枯らすことが出来るの?



穂乃果「…うん」



私は蓋を開けると、薔薇に向けて小瓶を傾けた。

液体の様な気体の様な何かが小瓶から流れ落ち、それは薔薇に触れると






―カッ








…辺りの薔薇は、跡形も無く消え去った。



穂乃果「え…あ…?」


不思議な出来事に私は戸惑った。
さっきの大きな薔薇だけが消えるのだと思っていたら、周りの薔薇全てが私の周りから消えてしまったのだから…





「……」




私の困った顔とは逆に、彼女の顔は嬉しそうだった。
魔女の呪縛から解き放たれ、やっと自分の家に帰ることが出来る。




…私は、この女の子を救う事が出来たんだ。





穂乃果「…行こう、ヴィオラちゃん」





私は彼女と一緒に歩きだした。

苔の生えた切り株を横切り、人が通れる道に出るまで。

-道-




穂乃果「…みんな、私」

穂乃果「私、出来たよ」

穂乃果「みんなを、元に戻すために、頑張ったんだよ…!」







穂乃果「これで、みんなでもう一度…!」















               ゾワッ
 













穂乃果「―ッ!?」


グチャ 



ベチャ…



ズリッ…



     ズリッ…






穂乃果「…ぁ」

穂乃果「あっ、あああっ・・…ああああああっ!?」





…後ろを振り向くと、下半身のない少女がこちらに近づいてきた。

地面を這いつくばり、来た道に血を残しながら、悲鳴のようなうめき声を出しながら…







―魔女が、私達の後を追いかけてきた。





穂乃果「う、嘘っ…!」

穂乃果「だってっ…!魔女はっ…あの家でしかっ…!」





魔女は、魔女の家でしか身体を保つことができない。黒猫はそう言っていた筈だ。



…なら、どうして魔女は、私達の元に来ているの?







「ギ …がァ …ぁゲ …ッ …ッ」






穂乃果「…いや、いやっ!どうして…どうしてっ!!」

















               「しつこいな。」













.



―ザクッ!








穂乃果「…えっ」












「いつまで追いかけてくるの?」



「もうすぐ その体は死んじゃうのに。」





???「 …ガぁッ …ぅう゛ … … ぅぎェ…」






「''かえして''?   やだよ。」



「この体、どこも痛くないんだもん。」





「一度は 私にくれた体じゃない。


 …どうして 返す必要があるの?」




「ねえ?」



















エレン「ヴィオラちゃん。」






小さなナイフが、少女の目を抉る。



ヴィオラと呼ばれた少女は、何かを求めるかの様に震える手を振りかざし、ナイフを刺した彼女に話しかけようとした…。





ヴィオラ「 … ギぃ … ごォ … イ゛ぃ…!」




ヴィオラ?「酷い? …ふふっ。どうして?」

ヴィオラ?「私は、ただ家の外に出たかっただけなのに」

ヴィオラ?「それを邪魔したのは、ヴィオラちゃんだよ」




彼女がヴィオラに近づくと、続け様に言葉が投げかけられる。



ヴィオラ?「それに 酷いのはヴィオラちゃんだよ」

ヴィオラ?「どうせ、一日でその身体は朽ち果てると思ってたのに」

ヴィオラ?「勝手に悪魔と契約して、関係のない人間まで巻き込んで」

ヴィオラ?「おかげで 私」








ヴィオラ「すごく無駄な時間を、過ごしちゃったじゃない。」



穂乃果「…ぇ…ぁ…?」

穂乃果「な、んで…」

穂乃果「何が…何が起こってっ…」





ヴィオラ?「…あぁ、あなた。まだいたの」

ヴィオラ?「もう役目は終わりだよ。…早く消えれば?」





優しさの欠片もない言葉が、穂乃果に突き刺さる。


彼女の穂乃果を見る視線は、汚物を見るかのように冷めていた。





穂乃果「…どういう事」

穂乃果「ねえ、説明してよ…」

穂乃果「何で、ヴィオラちゃんが…魔女の事を、ヴィオラちゃんって 呼んでるの…?」

穂乃果「返してって…何? 酷いって…何?」

穂乃果「あなたは…あなたは…」













穂乃果「あなたは…誰なの?」









.





「……」





大きな雷が、音をたてて森に落ちる。

次第に雨が降り注ぎ、森の中には雨音が響き渡った。






「…ふふっ。あなた、ずうっと言ってたじゃない」


「ヴィオラちゃん、ヴィオラちゃんって。…だから、私はヴィオラなんでしょ?」



穂乃果「違うっ!だってそれはっ!」



「何が違うの?」




三つ編みをした金髪の少女は、穂乃果の顔を覗きながら





「どうせ、知ったところであなたには関係のないことじゃん」


「あなたは私を救うためにここにいるの…そうだよねえ?」






魔女の様な邪悪な笑みを浮かべながら、辛辣な言葉を言い放った。





穂乃果「あっ…あ、    ああっ…!」



「…あのね、正直あなた、邪魔だったの」


「せっかく家の中に入れたのに…あなたってば、まるで役に立たないんだもん」


「いちいち落ち込んだり、泣いたり…ああ、面倒だなあ」




次々と投げかけられる言葉に、穂乃果は呆然とする。


少女の本音は嘘偽りなく、ただ事実を述べていた。




「家の扉を開けた時点で、あなたの役目は終わってたの」


「何かさせてあげないと可哀想だったから、私がやりたくない事だけをやらせてあげたんだよ」




でも…と続いて少女は穂乃果に優しく微笑みかけた。



「あなたがいなかったら、家には入れなかったのも事実だから」


「ありがとう。  私の、お人形さんになってくれて」


「ふ、ふふっ。ふふふっ…」


穂乃果「…う、嘘だ…嘘だ」


穂乃果「こんなのっ…嘘に…決まってるよ」


穂乃果「私はっ…!  みんなの魂を…救って…」


穂乃果「魔女に…狙われている…女の子もっ…救うって…!」


穂乃果「その為に私…私はっ!」






「ふ、ふふっ…ふふふふふっ…!」


「アッハハッハハッハッハッハッハッハハハハハハハハハハハハッハッハッハッハッひいーーーひひひひひひひひひひひいははははははひひははああはははははあはははははは!!!!!!」







聞いたことの内容な笑い声が、森中に響き渡った。


彼女の身体から発されるその音は、穂乃果の心をズタズタに引き裂いていく。




「…ふふふっ…ねえ?私、言ったよねえ?」

「あなたが、どうしてここにいるのかって、言ったよねえ?」





蛇のように開いた瞳の裏側には、絶望に染まった穂乃果の顔が映っていた。






「あなた 似ているの ヴィオラちゃんに ほんとうに似ているの」

「優しくて 優しくて 会って間もない人に 情けをかけて 同情してくれる」

「全部 全部聞いたことを 本当の事だと思って 疑わない」

「それを心配してくれる人の意見なんて 耳にも入らない」

「愛されてるくせに 愛されてることを知ろうともしない」

「ふふ、ふふふふふっ 似てる 似てる似てる似てる!」







一頻り笑うと、少女は振り向き






「―私ね」










        


        「お前みたいなのが 一番嫌いなの」











.


穂乃果「…あ…ぁ…っ」



穂乃果はその場で、膝を落とし空虚を見ていた。

今まで自分を支えていた何かが壊れ、声も出すことも出来ない






…私は、騙されていた。


醜い体を擦り付けられた少女を救わず、魔女が森の外へと逃げる手伝いをしていたんだ。









「ヴィオラ?」









…森の外から、猟銃を抱えてやって来たのは


ヴィオラの名を呼び、無事である事を確信して安堵する男の姿だった。




「ヴィオラなんだな!?無事か!?どこも怪我してないか?」



男は彼女に事情を聞こうとしたが、怖がる素振りを見せる娘に困惑していた。



…が、目の前で倒れている化物を見ると、事情を把握したかのように






「…下がれ、ヴィオラ」





―猟銃を、目標に照準を合わせた。





穂乃果「ぁ…あ…やめ、やめて」

穂乃果「お願いっ…!違うっ…その子はっ!」





「無駄だよ」


「魔女の魔法が消え去った今、お父さんにあなたの姿は見えない」


「娘を助ける感動的な場面なんだよ?…邪魔しないで見ててね」










―ズドンッ!



「ギ … ぁ゛ … …」



「 ォ… ド… ゥザ … ン」





「……  ・・・・・」




―ズドンッ! ズドンッ!





穂乃果「あっ…あっ…ああああっ!!!!」


穂乃果「いやああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」





「こ、この、化物めっ…!」






化物の息の根を止めた事を確認すると、男は森の外へと出て行こうとする。



「お父さん。待って」


「忘れ物があるの」




少女がそう言うと、穂乃果の前まで近づき




「さようなら。  …名前も知らない。私の友達」





…ポケットから二つの手紙を抜き取り、森の外へと出て行った。






真姫「ほ、穂乃果…!」


「何時までそこに立っているんだい?」





真姫「…えっ?」





「君を取り囲む薔薇の壁は、魔法と共に消えて無くなったよ」


「そんな所にいないで、仲間の元に駆け寄ってあげたほうがいいんじゃないかな」




真姫「えっ…!なっ…!」








…真姫の周りには、草や木などの自然で溢れている。

その先に見えるのは、声を上げて無く穂乃果の姿だ。






真姫「ど、どうして…声が、さっきから…聞こえてっ…!」





「森の外にいた時も聞こえていただろう?」


「君達は、森の外の薔薇の壁に隔離されいてたんだ。」


「彼女が誤って一人以上の人間を家に入れないために、彼女が作ったのだから」


「彼女がいなくなったら、外の景色が見えるのは当たり前だろう?」





一匹の黒猫が、少女の死体の元に現れた。


黒猫が傍に近寄ると、死体は青紫色の靄となり、やがて跡形もなく取り込まれた。






「さようなら。エレン。僕の魔女。」





黒猫は悲しげにそう呟くと、取り込んだ魂を小さな靄に変えて、穂乃果の方に体を向けて喋り始めた。





「彼女を上手く救ってくれてありがとう。」

「約束通り、君の願いを―」








穂乃果「…私を、騙したんだ」



穂乃果は涙で腫れた目で黒猫を睨みつけ、怒りの言葉をぶつけた。



「騙したなんて、とんでもない。」


「僕はエレンとも契約をして、ヴィオラも同じように契約をしたんだ。」


「どちらも魔女である事に変わりはないよ」




穂乃果「…ふざけないで」






「まあ、僕はエレンにしか興味がないのだけれどね。」


穂乃果「ふざけないでっ!!!」






穂乃果の声は、森の中で小さく響いた。

黒猫はやれやれといった表情を見せて、切り株の上に乗り座り込んだ。









穂乃果「私は、魔女の手伝いなんてするつもりは無かった…」

穂乃果「あの女の子の…ヴィオラちゃんを魔女から救えたらって…そう思ってたのに」

穂乃果「こんなっ…こんな筈じゃ無かったのにっ…!」

穂乃果「返してよ…ヴィオラちゃんの魂、返してよっ…!」






黒猫は驚いた顔をしながら語り始めた。



「それは僕も同じだよ。」


「最初から、そんなつもりじゃなかったんだから。」


「君は僕の言う通り彼女を救って、魔女の、人間の魂を僕にくれた」


「それをどうしてそんなに嘆く必要があるんだい?」




穂乃果「そんなのっ…そんなのっ!」




「仮に君がヴィオラを救ったとして、どうなるの?」


「彼女の身体を入れ替えたのはエレンだけど、君達の仲間を家に食べさせたのはヴィオラなんだよ?」


「君達と利害が一致してるのはエレンの方であって、ヴィオラじゃない」


「それなのにどうして、助けるなんて言葉が出てくるの?」


「悪魔の僕には、理解出来ないなあ。」



穂乃果「それはっ…!」




「ヴィオラは、エレンと同じことをしようとしたんだ。」


「自分と同じ、優しくて、何でも信じてくれる君と接触して、絆を深めた後に」


「互いの体に影響を及ぼす魔法の実行して、自分の身体と君の身体を入れ替えるつもりだったんだろうね」


「まあ、そんなの許したらいたちごっこになってしまうからね。だから僕が君を助けてあげたのさ。」







穂乃果「う…うっ…!!」


「でもまあ、そんなに言うのなら…」




黒猫は靄を穂乃果の手のひらに出現させると、呆れた口ぶりで話し始めた。











「君に、選ばせてあげるよ。」


「仲間を元に戻すのか、友達を元に戻すのか。」


穂乃果「…えっ」

穂乃果「どういう…意味?」





「君にとって  ヴィオラは友達なんだろう?」


「だったら  僕が最初に行った通り  友達の魂を元に戻せばいいんだよ。」


「まあ 僕が君から貰った魂は一つだかね、魔法も一つしかあげられない。」






…聞こえてくるのは、優しさも何も感じない悪魔の囁き。


求められたのは言葉遊びの様な稚拙で、苦渋な選択。







「だから 君が救えるのは一つだけ。」


「仲間の魂なのか 友達の魂なのか。」


「君自身が 選んで決めなよ。」







穂乃果「あ…あ……ぁ…」






目を細めた黒猫は、微笑んだ。


口の端が釣り上がり、鋭い牙と歯肉を覗かせ





「早くしろ。」




…悪魔の様な声で、穂乃果を威嚇した。










穂乃果「……お願い  します。」







  

     

      「私の仲間を      ……返してください。」












.





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




海未「穂乃果、穂乃果ー!」

海未「もう…何処に行ったのでしょうか」

真姫「海未、どうしたのよ?」

海未「いえ、ことりが穂乃果の衣装の調整をしたいと言っていましたので」

海未「採寸をしなければならないのですが…」

真姫「ああ、そういう事ね」

海未「全く、海での合宿だからといって遊びに行っては困ります」

海未「もうラブライブの予選も近いというのに…」

真姫「…えっと、じゃあ私も探してあげるわ」

海未「すみません、真姫も作曲で忙しいのに」

真姫「いいのよ。…ここの辺りの地理、詳しいの私だけなんだから」

海未「助かります。では私はこっちを探してみるので真姫はそっちを…」






真姫「えっと、確かこっちは…」




…合宿は、海と森が一緒にある場所で行われていた。

練習方法の豊富さや歌詞作曲の作成に適している場所は、この場所の他に優っている場所が無かった。







真姫「まったくー。この真姫ちゃんに人探しをさせるなんて…」






真姫が向かったのは、小さな森の中。

そこには野生の花畑や切り株などがあり、気分は中世代の物語の舞台の様だった。












穂乃果「……」








…高坂穂乃果は、その中心に立ち、海の先の地平線を眺めていた。



真姫「穂乃果」



真姫が呼びかけると、穂乃果はゆっくりと後ろを向いた。




穂乃果「…真姫ちゃん」


真姫「何してるのよ。…海未が探してたわよ」


穂乃果「…海未、ちゃん」


真姫「折角少人数で別れて練習してるのに、居なくなったら困るじゃないの」


穂乃果「……」





…穂乃果は再び、海の向こうの地平線へと目を向ける。

空は鳥が羽を広げて飛び交い、森は太陽の光を遮り隙間を作っていた。




光に映る穂乃果の姿は、憂い表情を浮かべている。

それはまるでお伽話に出てくるか弱き少女の様だった。








真姫「…穂乃果」



穂乃果「…ねぇ、真姫ちゃん」

穂乃果「穂乃果は…本当にみんなを救う事が出来たのかな」




あの出来事から数日が経ち、μ'sのメンバーは全員元に戻っていた。
誰も欠けること無く、心や身体に傷を残した者は一人もいなかった。





…高坂穂乃果、一人を除いて






穂乃果「…時々ね、信じられなくなるの」

穂乃果「みんな、みんな魔女の家の事を覚えてなくて…それどころか、みんなで励ましあった日々の事でさえ覚えてなかった」

穂乃果「あんなにみんなで一生懸命頑張ったのに…手紙を見つけた時からの記憶が、みんな消えちゃってる」

穂乃果「ねぇ…あのみんなは、穂乃果の知ってるみんななの?」

穂乃果「本当のみんなは魔女の家で魂を悪魔に食べられて…あのみんなは、穂乃果が魔法で作った、偽物のみんなじゃないの…?」





…穂乃果の心に残った傷跡。

それは全てものを信じることができなくなる疑心暗鬼の心だった。



魔女に、人間に、悪魔に騙された少女の心に、かつての輝きを見ることはできなかった。
次は世界か、それとも神に騙されてしまうのか…


穂乃果の心に突き刺さった魔女の言葉は、癒える事のない傷として深く残った。





そんな事情を唯一知っている真姫は、何を馬鹿なことを言っているのか、という直接的な言葉をかける事が出来ず





真姫「…なにそれ、意味分かんない」








…そう、答える事しか無かった。

答える事しか無かった。

答えるしか無かった。



真姫「……」 ペラッ


穂乃果「…それ、何?」




真姫が手に持っていたのは、辞書のように分厚い日記帳だった。

赤い表紙をしたそれは、所々に血で汚れている。



―名前を綴る場所には、小さく『Ellen』と書かれていた。






真姫「…この日記帳には、エレンの過ごしてきた日々が書かれていたわ」

真姫「魔女になる前の彼女の事、魔女になった後の彼女の事」

真姫「…ヴィオラと出会った後の、彼女の事も」






彼女は悪魔に魅入られた少女。彼女にとっての病気は愛されないことの原因。

彼女にとっての望みは愛される事。彼女が望んだのは病気が治る魔法。




真姫「…この日記を見たからと言って、私の魔女に対するイメージや恨みが変わった訳じゃないけど」

真姫「彼女の、エレンと言う少女の生きた世界…これは、認めてあげないとダメだと思った」





彼女が手に入れたのは身体を交換する魔法。彼女が見つけたのは愛された少女。

彼女が手に入れたのは愛された身体。彼女にとって愛される事は…




真姫「あの世界は二人の少女にとって残酷だった」

真姫「もし一つ巡り合わせが違ったのなら、悪魔の好む絶望なんて生まれる事は無かったのかもしれない」

真姫「…私は、そう思う」






純粋、ゆえに残酷。

二人の少女が絶望を生み出し、悪魔は人間を魔女と呼び弄んだ。



真姫「…私には、何が正しい事なのかなんて、分からないけど」

真姫「これを読むことが、二人の少女を弔う事が出来るのかもしれない」

真姫「一つの物語として完結させるで、私達の心からあの悍ましい記憶を閉じ込める事が出来るかもしれない」

真姫「だから―」

穂乃果「ごめん真姫ちゃん」





穂乃果は真姫の言葉を断ち切り、身体を震わせ言葉を出した。






穂乃果「穂乃果は…それに触れたくない…っ!」






―ダッ!




真姫「穂乃果っ!」





拳を握り締め、脇目も振らず穂乃果は森の外へと駆け出していった。


真姫を横切り、ただ走る穂乃果の表情は…







穂乃果「っ…!……っ!!」






―怒りと悔しさで、溢れかえっていた。



真姫「…穂乃果」


森の中に一人残させた真姫は、穂乃果を追いかける為に走ろうと足を踏み出す。



が、それをした所で彼女の傷に塩を塗る行為になると考え、追いかけるのをやめた。





真姫「……」



切り株の上に日記帳を置いた。

どうせ捨ててしまうのならば、森の中でと決めていた真姫の心は善なのか悪なのか









真姫「…さようなら。愛に溺れた少女、エレン。」









誰も知ることは、無かった。



森の中は、風や鳥の鳴き声でざわめいていた。

理想郷のような美しい景色の中に、招かねざる獣が紛れ込む。






「ああ。こんなところにあったんだね。」


「…ん?なんだこの紙切れ。邪魔だなあ。」


「僕が欲しいのはエレンとの×××だけ。こんなものは、要らないよ。」





日記帳の中には、一枚の紙が挟まっていた。

獣がその中身を確認すると、日記帳の中から取り除き、花畑の中に投げ込んだ。








愛を求めることで、愛を失った少女。

愛に気付かなかったことで、愛を奪われた少女。


二人の少女から愛を失わせた世界。





『LOVELESS WORLD』 と書かれたその詩は、誰の目にも止まること無く、





「じゃあ、次の場所に行こうか。」


「今度はどんな魂を食べることが出来るのかなあ。」






森の中で、静かに音を立てて揺らめいていた。












              『END』










.

長い間、私の拙い文章にお付き合いいただきありがとうございました。

また何処かでお会いしましょう。



では

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年06月14日 (土) 07:41:24   ID: nyW-HZZ0

ホノカチャン

2 :  SS好きの774さん   2014年06月21日 (土) 13:07:57   ID: afcwOMQR

MスタBD……

3 :  SS好きの774さん   2014年06月28日 (土) 07:00:34   ID: iZgcb-Ci

おもしろかった!

4 :  SS好きの774さん   2014年06月28日 (土) 08:02:55   ID: Gtn5iSIY

ラブレスとリンクしていたとは…これは鳥肌たった

5 :  SS好きの774さん   2014年10月17日 (金) 16:24:34   ID: CpGdMPHo

おもしろかった

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