鷺沢文香「考え事」 (21)

アイドルマスターシンデレラガールズ
鷺沢文香(19)

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独りでいる事が好きだ。


なんて言うと、まるで「誰かといるより好きだ」、と言っているようだが


私は、そうは言えないだろう。





比べられるほど、誰かと一緒に時間を過ごしたことが、無いのだから。






何才の頃か、定かには覚えていない。だけど、その時の気持ちだけは、今でもはっきりと思い出せる記憶がある。



私の父の弟である伯父が、本屋を営んでいるほどに本が好きなように


私の父も、本が好きだ。


父の書斎には、沢山の本が綺麗な本棚に、丁寧に整理され、並んでいる。

子どもの頃、それを楽しそうに眺める父の隣で、私も一緒に眺めているのが、好きだった。

どの本も当時の私には難しくて、ほとんど内容や意味は、分からなかった。


でも、父の好きな本を読むことが、私は好きだった。




いつも、母と昼食を食べたあとには父の書斎に行った。

低い棚にあった本をなんとか引っ張り出し、そして父の椅子に座って読んだ。



そのうち母が、おやつの時間だと私を呼ぶ。

本を棚に戻して、母の元に行く。

そして母と一緒に、午後の時間を過ごす。

それが、私のいつもの一日だった。










ある日、母は


私をずっと、呼ばなかった。












気付いた時は、もう日がほとんど沈んだ夕方で。

昼に入って明るかった父の部屋は、夜闇が近づいて暗かった。

本に夢中になっていて、時間を忘れたままでいた。

キイ、と、父の椅子の軋む音だけが聞こえていた。






お母、さん?






どうして?







リビングに行くと母はテレビを見ていていつも通りだった。


あの日母は母の気まぐれで、なんとなく私を呼ばなかったのだろう。

いつもいつも父の書斎で本を読む私を気遣って、呼ばないでおいてくれたのかもしれない。




十九歳にもなってそんな事をずっと覚えていて

独りでいる自分を自覚すると必ず、思い出しては

まるであの経験が原因だと、自分の中で結論づけてしまっているような

浅はかで、母を責めるかのような自分の考えに嫌気がさして






そんなくだらない堂々巡りを

私はもう何回、繰り返してきただろう。







あれから何年も経っている


あの記憶を忘れられるような、新しい経験を得られないで


中学生から高校生


大学生になった今まで、ずっと


人付き合いを避けて


何処か消極的な


達観しているような


自分のことばかりを考えて過ごすことに、時間を費やしている私で





もう今更、なのだろう


私はきっと、こうなのだろう


考える度考える度

自棄に疲れて結論を投げる

独りでいる事を自覚すると、自分がとても面倒になって




私はどこか、逃げ場を求めるようになっていた。





でも、それだけでは、決してない。


今も、好きだ。


覚えているのは、あの日の父の書斎の暗さだけではない。





あの日から今日まで

今だって、店番をしている叔父の本屋のカウンターに何冊も積んで





私はずっと、本を読むことが


やめられないでいる。








ガチャ。






店のドアが、静かに、控えめに開けられる。





「あの、こんにちわ…文香、さん?」





ドアの開け方と、私を「文香さん」と呼ぶ声。


それだけで誰がこの店を訪れたのか、分かった。けれど



最近は、声だけでも


彼女を、分かるようになってきた。




文香「…はい。カウンターに、います」




思えば、いつ以来なんだろう。家族以外で




私を、名前で呼ぶ人。






「…どうも、こんにちわ…。…ふふ、今日も相変わらず…ですね…」




私の横の、カウンターに積まれた本をちらりと見て


彼女は慣れたように笑い


私を、見る。



からかっているような

優しく待っているような


真意の掴みきれない

不可思議で奥深い、静かな眼差し。




文香「……おすすめ、ですよ。一冊、どうですか?」



精一杯、遊んだ返しをしてみる。



「ふふ、それはまた、今度…。今日は私が、本を持って来たんですから…」





対等に、好きなことを語り合える人。




文香「あ…前に話していた本、ですか…?ありがとう、ございます…」




無言でいても息苦しくない


同じ時間でいられる人。




「お父様が読み終えたら、文香さんも是非…。…おすすめ、ですよ。…ふふ」





先ほどの私の遊びを、返されてしまった。





文香「…ふふ、ありがとう。そうですね…。父を、早く読めって、急かしてみようか、な…。…ふふ」





私より二つ年下なのに、私より落ち着いていて


しかし、堂々ともしているようで


纏う雰囲気はそう


まるで怪盗、のような、不思議な





先輩であり


友人である人。






文香「父が、探していた本…ありがとう。…頼子、さん」






私の世界を、一緒に広げてくれる人。




古澤頼子(17)


古澤頼子(17)




頼子「いえ……。たまたま、私の家にあっただけ、ですよ…。でも、どういたしまして…ですね」



本を読むこと以外に、こんなに楽しいことがあったと


私は知らないで、知ろうともしないで生きてきた。





文香「はい…。それで、あの……」





誰かと一緒に過ごす楽しさを、教えてくれたのは彼女。そして





そこへ私を、導いてくれたのは



文香「プロデューサーさんは……今日は、いらっしゃらないんですか…?」






頼子「それがですね…今日は、プロデューサーさんは」






少し、彼女が視線を落とす。



私の心が、追いかけて沈む。





私と出会い、導いて



光を見せてくれた人



いつも背中を眺めている、私の前を歩く人




頼子「…………少し遅れて、来るそうです。……ふふ」



文香「あ……そう、ですか………」





こんな簡単に、私の気分が変えられてしまうあの人








文香「………………」



頼子「ごめんなさい。…私もさっき、同じことをちひろさんにされてしまったものですから。ふふふ…」






文香「いえ…なかなか、自分で思っていたより私は、単純…なんだって、分かったので…」


頼子「私も、そう…。ミステリアスだなんて、お互い、よく言われているのに、ですね…」










また、新しいことを見つけられた。




独りで考えていては、見つけられないこと。




頼子「文香さん…可愛らしかったです、よ。ふふ」




私の名前を呼んでくれる




文香「……次は、私がからかってみせます…。…ふふ」






私の大事な、人たちのおかげで。




終わりです。
ありがとうございました。HTML化依頼してきます。

N  鷺沢文香 親愛度MAX台詞
書の世界はどこか時が止まったような感覚で…でも、もしアイドルという道に一歩を踏み出せば…私も前に進めるでしょうか…?

SR 古澤頼子 親愛度MAX台詞
華やかな世界に憧れてた事、プロデューサーさんは気付いていたの?…もう、嘘はつけないね。このまま全て受け止めてくれる…?

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