P「向井拓海、趣味、共に特になし、か…」 (77)
夏樹「ん…それか?街中で捕まえてきた新人候補ってのは…」
P「そ、簡単に自己PRしてっては言ったんだけど…」
美世「ふむふむ…趣味が何にも無いってのは、やっぱりちょっと…」
P「やっぱりアイドルってのはインパクトが大切だからなあ、特にうちの方針は個性派アイドル!」
P「ロックアイドル、木村夏樹!」ビシッ
夏樹「おう!」
P「フルスロットル!原田美世!」ビシッ
美世「ふふふ」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1396021014
P「…ややメカメカしい気もしないではないが、2人とも充分インパクトがあるアイドルだと思うぞ」
夏樹「メカメカしいって…アタシはまあ、バイクには乗るけど…そんな機械オタクみたいな…」
美世「そんなこと言って、この前手曲げ管頼んだでしょ~?」
夏樹「ちょ、ちょっと!」
美世「ヨシムラFCRキャブ、オーリンズサス、しかもモノサス化!倒立フォークにタイヤは…」
P「…だから最近お金が~って…」
夏樹「あはは…まあ、勘弁してくれよ」
P「まあ…とにかく二人ともバイクに詳しいってことは分かった、俺は昔原付に乗ってた程度だから吉村とか言われてもよくわかんないけど…」
P「…っと、そろそろ来る頃だな」
コンコン
P「どうぞ!」
拓海「…こんにちは」ガチャ
夏樹「…よっ!新人さん!」
拓海「!」
美世「向井…拓海ちゃんだね」
拓海「は、はあ…そうですけど…」
P「じゃあまずは自己紹介からだな」
夏樹「ようしアタシから!アタシは木村夏樹、ロックが大好きでそういう路線で売り出してるぜ!」
夏樹「趣味はツーリングかな、よろしく!」
拓海「…ツーリングですか…よろしくお願いします」
美世「あたしは原田美世、車いじりやバイクいじりが趣味なの、ちょっと男っぽいかな…ま、よろしくね」
拓海「…えっ、2人ともバイクが好きなんですか!?」
P「あはは…たまたまね、2人とも俺が発掘してきたんだけど…まあなんでかこうなっちゃってさ、はは…」
P「じゃあ、俺は今日はこれで、外回りしてくるよ」
美世「頑張ってね!」
夏樹「頼んだぜ!」
P「おう、任せとけ!じゃ!」
拓海「え?アタシ、どうすれば…」
P「ん?まあ、適当にしといてよ、先輩からの話を聞くのも悪くないぞ」
拓海「…行っちゃったよ、適当って…」
夏樹「ああ見えて結構計算高いところ、あるんだぜ?」
美世「そうそう、あたしたちのために色んなことしてくれてるんだから」
拓海「そ、そうなんですか…」
夏樹「なーんか、大人しいやつだな、拓海って」
拓海「えっ?」
夏樹「だって、髪も染めてなけりゃ、趣味もないと」
拓海「そ、そうですかね…」
夏樹「あー、あと、タメでいいよ、同い年なんだろ?アタシは18よ」
拓海「あ、夏樹…も18?」
夏樹「そうそう、誕生日はいつ?」
拓海「8月7日」
美世「あれ、拓海ちゃん、夏樹ちゃんと誕生日近いじゃん」
拓海「そうなんですか?」
美世「ねー、あ、あとあたしも呼び捨てで良いから、あたしの友達もみんな呼び捨てだし」
拓海「はあ」
夏樹「アタシの誕生日は8月19だからな!ばいくの日だ!ははは!」
拓海「はは、そうだな」
夏樹「…なあ、趣味が無いんならバイク乗りなよ」
拓海「…え?」
美世「そうそう、人生変わるよ!」
拓海「…いや、せっかくだけど、良い」
夏樹「…あらそう」
拓海「…いや、その…男っぽいっていうか、さ…アタシには…」
美世「ふーん、似合うと思うけどなあ」
拓海「…人生変わる、か…」ボソッ
夏樹「…なんか言ったか?」
拓海「え?い、いや、何でもない!あはは…」
………
……
…
P「で?それからは?」
夏樹「飯食いに行った!」
拓海「美味い中華料理屋があるってさ」
美世「そうそう、前にプロデューサーさんと一度行った…」
P「ああ、あそこか、何食べた?」
拓海「中華丼を」
P「なら次は天津飯だな、あれは俺の中でもだいぶ評価高いぜ」
スレタイの日本語がよく分からないのだが
拓海「そっか、覚えとくぜ」
P「じゃ、今日は拓海をレッスン場に連れていくか!」
美世「どうしよう、あたし、午後から工場に戻らないと…」
P「じゃあ美世さんにはバイクで行って貰うか」
美世「じゃ、そうさせてもらうかあ」
P「じゃあ2人とも、俺の車で…」
夏樹「いや、アタシが後ろに乗せるよ!」
拓海「…え?」
>>10
共にを消すの忘れてたんだよ、笑ってくれ
P「あれ、拓海の分のヘルメットは?」
夏樹「じゃーん、ちゃんと用意してるぜ!」
P「こりゃまた用意周到な事…分かったよ、じゃあまた後でな」
美世「…最初っからこのつもりだったんでしょ」
夏樹「へへ、まあね。はいヘルメット」
拓海「…」
美世「じゃ、行きましょっか」
夏樹「まあ心配するなって、別に飛ばさねえから」
拓海「お、おう…」
夏樹「…あれ、もうヘルメットしたのか、早いな」
拓海「え?ま、まあいつ着けるかの話だろ?」
夏樹「それもそっか」
夏樹(…)
美世「行くわよ~、カブ子ちゃん」
夏樹「好きだなあ」
美世「大型持ってたら足に使うのは、ね…車よりもずっと燃費良いし」
夏樹「燃費ねえ、アタシのはシングルなのに大したことないや…」
美世「回し過ぎなのよ、夏樹ちゃんは…」
拓海「…」ジーッ
美世「…夏樹のSR、分かる?って、拓海ちゃんに言ってもしょうがないか…」
拓海「…え?そうですね…かっこいいなーぐらいしか…」
夏樹「お!?それさえわかりゃあ上等よ!」
拓海「はは、そっか」
美世「じゃあ、お先~」
夏樹「…さて、そろそろ行くか~」
ギコ ギコ ギコ…ガコン!ジッ!
ガロロロロロロ…!
夏樹「う~ん、一発で決まった…サンバーストが美しいぜ…このタンクの塗装、ヤマハはギターも作ってるから同じ塗装なんだぜ。タンク変える人は多いけど、アタシは純正のこれが一番好きだな」
拓海「ヤマハ、か…」
夏樹「…やっぱ楽器の方か?」
拓海「え?あ、ああ…ピアノのイメージが強いかな…」
夏樹「まあ普通はそっか」
夏樹「…そうそう、そこに足かけるんだよ、って、なんだ?知ってるのか?」
拓海「…え!?…ま、まあ知り合いに乗せて貰ったりしたから…」
夏樹「ふーん…」
拓海「…ホンダだったよ、そいつ」
夏樹「ホーン…」
拓海「…ダジャレ?」
夏樹「今の無しで。っしゃあ!行くぜ!」
拓海「おう」
バロロロッ!バロロロロロロロッ!
夏樹(久しぶりにだりー以外の奴を後ろに乗せるなあ…)
夏樹(…あれ?)
夏樹(…)
夏樹(コイツは…)
………
……
…
夏樹「…なあ、プロデューサー」
P「どうした?」
夏樹「アイツ、拓海、バイク乗れるよ」
P「素質があるってことか?」
夏樹「…いや、免許持ってる」
P「…はい?」
夏樹「さっきプロデューサーを後ろに乗せて走った時、やっぱ確信した」
P「…なんでそれで分かるんだよ」
夏樹「やっぱバイクに乗ったことある奴って、後ろに乗せててもカーブの時に自然と体重移動してるんだよ、免許を持っていないプロデューサーやだりーはそうじゃなかった」
P「だりーって…ああ、あの子か…気のせいじゃないのか?」
この拓海は(言い方が古いけど)ツッパッてないと言う事で良いのかな?
(つまり普通のJK)
夏樹「…他にもタンデムステップを知ってたり…まあ、後は色々バイクが気になるみたいだったし…」
P「タンデムステップ?」
夏樹「タンデムするときに後ろの奴が足を乗せるところだよ、まあ、知り合いに乗せてもらったって言ってたけど…」
P「…だったらなおさら気のせいじゃないか?まあ夏樹のバイクはかっこいいからそりゃあまじまじと見ることだって…」
夏樹「違うんだよ~、あれはバイク乗りの目だったんだって!」
P「わ、分かったよ、でもさ…じゃあなんで拓海は趣味の欄にバイクとか書いてないんだ?それにバイクに誘ったら断られたんだろ?」
夏樹「そこなんだよな~、なんでなんだ~?」
P「…バイクが嫌いになったんじゃないか…?」
夏樹「…え?」
P「…いや、これは単なる俺の推測だけどな」
夏樹「…」
P「まあ、今は深く突っ込むのはよした方が良いかもしれないな」
P「本人にとっては、大きな問題かもしれない、ただ…」
P「いざという時は忙しい俺じゃなくて、普段良く接するお前たちの方が本人にとっても頼りになるはずだ」
夏樹「…分かった」
夏樹(…バイクが嫌いになる…か…)
夏樹(やっぱ…)
>>21
はい
………
……
…
夏樹「あー、極楽極楽!」
拓海「へえ~、プロデューサーの奴気が利くじゃん」
美世「感謝しないとね、良くこんな温泉見つけてきたと思うよ」
夏樹「そうだな~、ふー、これで明日の遠征も頑張れるぜ」
夏樹「…しっかし…」
美世「…ねえ」
拓海「…な、なんだよ」
夏樹「いやいや、そりゃあね、アタシもちょーっとはまあ自信はあるわけよ」
美世「そうそう、まあ歌が重要、ダンスも重要、とは言うけどねえ」
拓海「…」
夏樹「こりゃあ、すげえよ」
拓海「…な!?馬鹿野郎!見るんじゃねえ!」
美世「良いじゃん減るもんじゃあるまいし」
拓海「おめーらの場合は減るんだよ!」
夏樹「意味わかんねえし!ほーれ!」
P「お~い、あんまり騒ぐなよ~」
夏樹「あ、プロデューサーが壁の上から覗いてる」
拓海「はあ!?あの野郎叩き落としてやる!」
夏樹「うっそー。拓海、おめえ結構可愛いな」
P「何か言ったか~」
美世「あんまり拓海ちゃんからかうのやめなって、あはは」
拓海「何~!?」
夏樹「ちょ、ちょっとお湯かけるのやめろって!」
拓海「こんにゃろ~!!」バシャバシャ
美世「あはは、こら、あんまりはしゃぐと怒られちゃうって!」
夏樹「そんなこと言って一番楽しんでるじゃん?」
美世「…あ、ばれた?きゃっ!」
拓海「…隙あり」
バシャッ
拓海「…」
夏樹「へっへっへ!」
拓海「ぜってー逃がさねえ!」
ヤイノヤイノ
P(全然あいつら言う事聞いてねえ…)
………
……
…
美世「ふーん、来週また行くんだ?」
夏樹「おう、伊豆スカは走ってて気持ちいいからな」
美世「事故多いから気を付けてよ~」
夏樹「そうなんだよな~、アタシは巻き込まれるのが怖いよ…さすがに自分の限界は知ってるさ」
美世「ホントかしら…」
拓海「…慣れてきた頃が危ないんだぜ」
夏樹「え?まあ…そうだけどさ…」
美世「あら、良いこと言うじゃない」
拓海「まあ何だってそうだろ?」
美世「そうね~、油断は禁物よ」
夏樹「分かったよ、安全運転で行くぜ、これでも無事故無違反だ!」
美世「来週か…日曜日よね?あは、あたしもロードスターちゃんでいこっかな~」
夏樹「え?美世も休み?」
美世「ロドスタちゃんの内装いじろっかなーって思ってたけど、また今度にするわ。そうだ、拓海ちゃんもどう?」
拓海「え?」
美世「乗せてってあげるわよ」
拓海「じゃあ…アタシもお願いしよっかな」
夏樹「よっしゃ、決まった!」
美世「今からでも楽しみね~、あー興奮してきた…」
拓海「おいおい、明日はライブだろ?早く寝て明日に備えないと…」
夏樹「zzz…」
拓海「はやっ!?」
美世「zzz…」
拓海「…なんなんだ…コイツら…」
拓海(…)
拓海(伊豆スカ…か…)
………
……
…
美世「あ~、もうサイッコー!」
美世「はああ…まさに2シーターのトップアイドルよね~、特にこのNBちゃんは初代NAお姉さまからの正常進化と言える…」ブツブツ
拓海「…」
拓海(車、全然分からねえや…)
拓海(…懐かしいな、この景色…)
拓海(…いや、この風、この空気…全部だ…)
美世「それでこのエンジンなんだけど、ちょっとシンクロナイザーの強度に難はあるけど、それもまたこの娘の、お姉さんのNAよりも大人しくなったNBらしいっていうか…」ブツブツ
拓海「お、おう…」
拓海(すげーよ美世、ずっと一人で喋ってる…)
夏樹(さーて、そろそろICか…)
夏樹(しっかし流石日曜日…まだ朝だってのに車もバイクも結構走ってるな…)
夏樹(ま、R135よりかは断然マシだけどな…これでもすいてるほうだし…)
夏樹(…!?)
対向車ドライバー「…!!」
夏樹(ヤバッ!!)
ギュゥッ!キャキャーッ!!
美世「…ッ!!」
プーッ!!
拓海「夏樹!!」
ガシャン!ガキンッ!ガンッ!!
夏樹「…ッ!!」ザザーッ!!
夏樹「ぐっ!」
美世「あああ…嘘でしょ…!?」
夏樹「…あんのやろおおお!!センター割りやがって!!」
美世「…大丈夫!?夏樹ちゃん!?」
夏樹「くっそー!!ああ…大丈夫だ…」
美世「警察に電話するわ…」
拓海「夏樹!!怪我は無いか!?」
夏樹「ああ…ちょっと打ち身っぽいけど…」
夏樹「…くそ…上手くこけられたからまだしも…」
夏樹「…SR!?っ…」
夏樹「…ちくしょう!!」
夏樹「何だよあの車!?こんなところで追い越ししかけるか!?」
夏樹「結局抜かせてないし…アタシがまだ反応速かったから…」
バキィッ!!
夏樹「…ッ!?」
美世「ちょっと!?」
拓海「…もう少し速度を緩めていたら、こけずに済んだんじゃないのか…!?」
夏樹「…何するんだよ!!」
拓海「もう少し速度を落としていたらって言ってんのが聞こえなかったのか!?ああ!?今のはどう見てもリアが滑ってただろうが!!後ろから見てりゃ全部わかんだ、パニックブレーキでロックしてたんだよォ!!」
夏樹「んだとおおッ!?」
美世「2人とも!やめなさい!!」
拓海「てめえみたいな下手糞が、調子こいてるから!!」
夏樹「…もっかい言ってみろ!?ああ!?」
美世「やめなさいってば!!」
………
……
…
P「…分かった、とにかく、大きな怪我が無くて良かった」
美世「すみません…こんな事になるなんて…年長のあたしがもっとしっかりしていれば…」
P「…ふむ…」
P「どうだろう…皆が皆、ちょっとずつ責任があるんだろうな…」
美世「…」
P「俺にも普段から気を付けるように言うなり、やりようがあったのかもしれない…」
P「とにかく…美世さん一人に責任があるわけじゃないんだ、美世さんは転倒した夏樹を撥ねなかった…事故で怖いのは起きた後だから、その点に関しては美世さんのスキルに感謝してるよ…それに事故を起こしたのも夏樹だ…」
美世「それは…そうですが…拓海ちゃん…あれからもう三日も事務所にこないし…」
P「…美世さん、話しておかなければいけないことがある…」
美世「えっ…?」
P「…実はな、向井拓海なんだけど…」
美世「…免許証のコピー…ですか…?」
美世「これって…」
美世「普通自動二輪…やっぱり…」
P「事故の後、言い争っていたんだって?」
美世「…ええ、結局夏樹ちゃんが転倒した理由は、突然センターラインを割った対向車に驚き、リアブレーキを強く握りすぎたため後輪がロックしたからだと思います」
美世「あの状況でのブレーキはマズいです…本来はハンドル操作だけでかわすべきでした…ですが、なんてこの場では言えますけど、いざという時に反射的にブレーキを握ってしまうのは仕方ない部分もあるんです…あたしだって免許取りたての時砂利っぽい道で横道から急に出てきた車にビックリして握りごけしてしまいましたから…」
美世「拓海ちゃんはその事で速度の出し過ぎだったのではないかと言っていました…速度としては普通だったんですが…確かにもう一段スピードを落としていれば余裕が生まれパニックブレーキにはならなかったのかもしれません…」
P「…そうか、俺は拓海が何故バイクに乗るのを辞めたのか知っている」
美世「えっ…」
P「およそ1年前、先輩をツーリング中に事故で亡くしたと言っていた、それだけを聞いた」
P「俺は当時の新聞を調べてそれらしい事故を探した、場所は神奈川のとある峠道、伊豆スカイラインではないが、これも何かの因果か今回の夏樹の事故とよく似た状況だったよ…」
美世「そん…な…」
P「…拓海の部屋に行ってくれないか、今は1人暮らしらしい」
美世「…分かりました、でも、プロデューサーさんは来てくれないんですか…?」
P「夏樹には伝えてあるんだが、俺よりも普段良く接する二人の方がずっと話しやすいと思うんだ、それにアイツも今ではプロとしての自覚はあるはず、俺が指示すれば本心でなくとも普段通りに動こうとするだろうが…」
P「そんなの、傍から見れば一発で分かる、今のこじれた状況を解決するには3人が話し合うのが一番と思う」
P「その上でもし俺が必要と感じたら連絡してくれ、その時は出来るだけのことはする」
美世「…分かりました」
P「…すまないが、頼んだよ」
美世「はい…」
………
……
…
夏樹「…だから…アイツ…」
美世「…夏樹ちゃんが嫌いだから、あんなこと言ったんじゃ無いんだよ」
夏樹「拓海…」
美世「…ここのアパートね」
夏樹「…」
夏樹(…バイクがある…カバーで隠れて…じゃなくて…)
夏樹(…ちゃんと、謝らないと…)
ピンポーン…
美世「…拓海ちゃん?」
シーン…
美世「…拓海ちゃん、いないの…?」
シーン…
夏樹「…あれ、留守か…?」
美世「…かな…」
夏樹「…どうする?」
美世「携帯にはメールもしたし、何度か電話したけど…」
ゴト
夏樹・美世「!」
夏樹「拓海!いるのか!?」
…ガチャ
拓海「…夏樹…美世…」
夏樹「…上がっていいか?」
拓海「…何も無いけどな、すまねえ」
美世「ううん、あたしたちこそ何か持ってくればよかったね…お邪魔します」
拓海「いや、気持ちだけ充分さ」
夏樹「…ちゃんとご飯、食べてるのか?」
拓海「…ちょっと食欲がな、まあ今朝は冷蔵庫の中身で適当に作ったけど…料理番組に出てて助かったよ、そういやそろそろ事務所に行かないと…みんな心配かけて…」
夏樹「拓海…!」
拓海「…どうしたんだよ」
夏樹「あの時、すまなかった!!」
拓海「…」
拓海「アタシこそ、殴ったりして…」
夏樹「殴られて当然だ、だって…拓海は…」
拓海「…」
拓海「…プロデューサーから聞いたんだろ?」
美世「…ええ」
拓海「…」
拓海「先輩に言わせれば事故る奴が下手なんだそうだ」
拓海「上手い奴なら同じ状況でもかわせるんだとよ」
拓海「先輩は速かった、RVF400に乗ってて負けなしだったよ、アタシが乗っていたのはXJR400、いつもバトルとか言って2人で走ってたけどレプリカとネイキッド、絶対勝てなかったな、でも一度だけお互いのマシンを交換したことがあってさ」
拓海「…勝てなかったよ、結局、マシンの差じゃなくて腕の差っていう事を思い知らされた」
拓海「男にも負けず、かっとんでいく先輩はアタシの中で憧れだった、でも、先輩は死んだ」
拓海「右コーナーを抜けた場所、カーブミラー無し、アタシの目の前でセンターラインを割った車と正面衝突さ、車は、落石を避けようとしたんだそうだ」
拓海「…元々さ、アタシってヤンキーだったんだ」
夏樹「えっ…?」
美世「そうなの…?」
拓海「だってさ、よくよく考えてみろよ、ペケジェイアールはスーフォアのライバルを目指したとはいえ、空冷だぜ?それでマジでRVFに勝とうとしてたんだからな」
夏樹「ああ…だからXJRなのか…」
拓海「アタシは空冷の4発が好きなんだ、その前に乗ってたのはペケジェイ。今となっちゃ恥ずかしいけどケツ上げ、純正をぶった切った直管、ロケットとまあ…ものの見事に族車だったんだよ」
拓海「まあそんな族車でも一応走りとかは意識するんだよなあ、やってることは速さとは真逆なのにな」
拓海「先輩とは昔からの幼馴染で、族をやめさせるのに走り屋ってのを使ったんだよ」
拓海「先輩はジムカーナもしていた、むしろそっちがメインだったんじゃないか?ジムカーナも上手かった、そう、まるで蝶のようにヒラヒラとさ…」
拓海「ようは先輩にとっては峠なんての、族をやめさせるための切っ掛けに過ぎなかったんだ」
拓海「そう…そうだったはずなのに…」
夏樹「…」
拓海「いつしか2人して夢中になっていたんだ、ついにその日はやってきた…」グスッ
拓海「…事故の直後、まだ意識は…ひっく…あったんだよ…!」
拓海「…せん…ぱい…は…ひっく…アタシに…言った…!」
拓海「…私…ひっく…下手だった…って…えぐっあっ…うぅっ…あああ…!うわあああん…!!」
拓海「ひっく、ごめんなさい…ごめんなさい…!!」
夏樹「…」
美世「…」
拓海「なんで…!普通に単車を楽しめなかったんだろう…!?」
拓海「族も、走り屋も、そんなの…!!」
拓海「ああぁっ…!!」
夏樹「…バイクは危険だよ、今回の事故で嫌というほど分かった、けどさ…」
拓海「ひっく…え…?」
夏樹「注意次第で、経験次第で、事故は防げる、軽減出来ると思うんだよ…」
拓海「…そんなの…」
夏樹「なあ、拓海…」
夏樹「…先輩は、拓海に族はやめさせても…」
夏樹「バイクからは…降ろさなかったんだろ…?」
拓海「…!」
夏樹「…ちょっとでもバイクがまだ好きなら…拓海はまだ走れるよ…?」
美世「夏樹ちゃん…!?」
拓海「…」
拓海「…」キッ
拓海「…!」ダッ
夏樹「…拓海!」
美世「…拓海ちゃん!」
美世「夏樹ちゃん…あれはちょっと…」
夏樹「いや…あの目は…」
美世「えっ…?」
夏樹「あれは単車乗りの目だ!」ダッ
美世「…ちょっと!」
美世「…!」
拓海「…!」バサッ
夏樹「黒…の…」
美世「XJR…400…」
夏樹「…これ…お前のバイクだったのか…?」
拓海「…ああ」
拓海「…恐らく状況は最悪だ…」
拓海「バッテリーは確かめるまでもなく確実に死んでる、キャブレターも固着したガソリンでオーバーホールが必要だろう、腰上…いや…フルオーバーホールか…タンク内は恐らくサビだらけ…っ…それにまずはこの蜘蛛のアパート状態なのをどうにかしないと…」
拓海「…なあ、美世…」
美世「拓海ちゃん…」
美世「…」
美世「…大丈夫」
美世「この娘はまた、走れるよ…」
拓海「…」
拓海「…うっ…ううっ…!!」
拓海「…あああっ…ごめんね…!ごめんね…!!」
夏樹「…気が済むまで泣けよ」
美世「…ええ…」
拓海「うん…!えぐっ…うわあああん!」
………
……
…
P「…今日だって?」
P「…ああ、ああ…」
P「そうか…それは喜ぶだろうな」
P「うん、気をつけてな」
P「…じゃあな」
P「ふう…一件落着…なのかな…」
P(…どうなんだろう…一度事故を起こしたのに、まだ俺は夏樹をバイクに乗せている…それに今度は拓海までだ…)
P(でも…これだけは言えることがある…)
P(あいつらはやっぱり、バイク乗りなんだなあ…)
P(ったく…バイク乗りなんて…ろくでもない生き物だよ…!)
P(思い出が再び走り出す…ねえ…)
P(詩人のつもりかっつーの…)
P(…)
P(俺も久しぶりに原付でも乗るかねえ…スワニー…だったかな…あれ、まだ親父乗ってるのかな…)
おわり
以上です、読んでくれた人達ありがとう
このSSまとめへのコメント
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