女の子「目が覚めたらムウマージになってた」 (59)

女の子「るんるるんるーん♪学校早く終わっちゃった」

女の子「あっ今日は母の日、ママにお花を買わなくちゃ」

キキーッ

女の子「あっ、車!」

女の子「きゃあ!」

ドンッ



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女の子「ん…ここは…?ふかふかのベッドの上…?」

?「気付いたみたいだね」

?「そのようですね」

女の子「あ、どうも…って、ユキメノコとシャンデラが喋ってる!」

ユキメノコ「いや、あんたも似たようなもんだよ。鏡見るかい?」スッ

女の子「わっ…私、ムウマージになってる…!じゃあ、ここはどこなの?
パパとママは?」

シャンデラ「それは…その…」

ユキメノコ「あんたは死んだのさ。ここは天国みたいなもんで、
死んだ人間は姿を変えられてここにやってくるって寸法ね」

ムウマージ「じゃ、じゃあもうパパとママには会えないの?
私はずっとこの姿のまんまなの?」

ユキメノコ「そういうことになるね」

シャンデラ「そ、そんなはっきり言わなくても」

ムウマージ「うっ…うっ…うええええええん!」

シャンデラ「ほら、あなたがひどいこと言うから泣いちゃったじゃないですか」

ユキメノコ「事実じゃないか。まったく、ムウマみたいなムウマージだね」

シャンデラ「まあしばらくそっとしておきましょう。
若くして死んだ苦しみはわたくしどもには分かりませんからね」

ユキメノコ「…ふん」



ドア「ギィィィィ」

シャンデラ「落ち着きましたか?」

ムウマージ「うん…でも私、変なの。自分の名前が思い出せないの」

シャンデラ「それについては後で説明があるでしょう」

ムウマージ「せつめい?」

シャンデラ「ええ。とりあえず、ここから広間へ移動しましょう。立てますか?」

ムウマージ「え?ここから立つの?うんしょ…むり、手がないもの」

シャンデラ「でしょうね。私も手がありませんから、最初は苦労しました。
手伝いましょう…よいしょ」

ムウマージ「ありがとう、シャンデラさん」

シャンデラ「いえいえ、礼には及びませんよ」

ムウマージ「シャンデラさんも昔は人間だったの?」

シャンデラ「ええ、もちろん。
ここにいる住人たちは例外なく、もともと人だったものです。さ、急ぎましょう。
集会の時間が始まりますので」

ムウマージ「しゅうかい?」



シャンデラ「ただ今、参りました」

ムウマージ(すごい…大広間に大きなテーブル…)

ヨノワール「おお、シャンデラ君。そして新たな仲間よ」

ムウマージ「わ、私?」

ムウマージ(よくひびく声だなあ…)

ヨノワール「そうだ。ここにいる全員が君を歓迎している。
今はまだ頭の整理ができていないかもしれんが、徐々に慣れる。
さあそこの空いている席に坐りなさい」

シャンデラ「ささ、私の隣へどうぞ」

ヨノワール「さあ、まずは我々の新たな仲間に乾杯!」

幽霊たち「かんぱーい!」

ジュペッタ「どうした新入り、遠慮せず食べな」

ブルンゲル♀「ここでは欲しいものは何でも手に入るのよ。
食べるものならいくらでも」

ムウマージ「う、うん」

パン
パン

ゴルーグ「む、管理人の手拍子が鳴ったか」

ヨノワール「いや皆さん、特にムウマージ君。食べながらでいいから聞いてくれ。
ここは霊界、簡単に言えば天国の一角。
死んだ人間は幽霊の姿に変わり、ここに送られる。かく言う私も元は人間だ」

ヨノワール「私は生前…死ぬ前は社長をやっていた。
社長と言っても小さな会社だ。
90歳くらいあたり、病院で死んで気が付けばここにいた。
一応ここでは管理人、いわば先生のような役割だが、
別段命令もしなければ宿題も与えない。何か質問はあるかね?」

ムウマージ「えと…私、名前を思い出せないんですけど…」

ヨノワール「いや申し訳ない!忘れていた。
ここでは死ぬ前の名前や親の名前を思い出すことはできないんだ。
見た目通りの名前でお互いを呼び合うことになる」

ムウマージ「でも、どうして?」

ヨノワール「死ぬ前の姿や名前にとらわれて、
お互いが話しにくい雰囲気になるのを避けるためだそうだ。他には?」

ムウマージ「あ、だいじょぶです…」

ヨノワール「いやはや、話が長くなって済まない。
それでは皆、仲良くしてくれたまえよ」

幽霊たち「分かりました」



ムウマージ「これからどうしようかな…」

?「ねえねえ、おねえたん」

ムウマージ「ん?だあれ?」

ムウマ「おねえたんはどっから来たの?」

ムウマージ「わっ、ムウマだあ!かーわいい」スリスリ

ムウマ「えへへー」

ゴルーグ「新入りのようだな。よろしく頼む」

ブルンゲル♀「よろしくねえムウマージちゃん」

ムウマージ「あ、はい。みんなよろしく…お願いします」


シャンデラ「いやあ、打ち解けてくれたようで何よりです」

ムウマージ「シャンデラさん!」

ユキメノコ「思ったより慣れるのが速くて助かったよ。
そこのムウマなんて、来て1週間くらいは泣いてたんだから」

ムウマージ「そうなの?」

ムウマ「おねえたん!」


ムウマージ「私と一緒で、みんな死んでるんだよね…」

シャンデラ「もう何十年も前の話、気にもしておりませんがね」

ムウマージ「ヨノワールさんは社長さんだったよね?じゃあ、みんなは昔なんだったの?」

ユキメノコ「ああ〜…ちょっと言いにくいけどねえ」


ゴルーグ「おお、もうこんな時間か。済まないが我々は部屋に戻るぞ」

ブルンゲル♀「私たちもまだまだ話したいとこだけどねえ。ムウマ、戻ってらっしゃい」

ムウマ「ええ〜?もうちょっとお姉たんと話したいのに…」

シャンデラ「はいはい、それではまた」

ユキメノコ「さてさて、どこまで話したっけか」

シャンデラ「何も話していませんよ」

ムウマージ「あ、いや、話したくないならいいけど…」

ユキメノコ「いや、そんなことはないけどね」

シャンデラ「致し方ありません。私からお話ししましょう」

シャンデラ「私はしがないサラリーマンでしたがね、リストラされましてね。
妻と子に逃げられ、自殺してここにいるわけです」

ムウマージ「ええっ?そんな…」

ユキメノコ「ちょっと、ショック強すぎやしないかい?」

シャンデラ「あなたも話しやすくなったんじゃないですか?」

ユキメノコ「ふぅ…あたしゃあ夜の仕事してたのさ」

ムウマージ「よるのおしごと?」

ユキメノコ「まあそこは聞き流していいさ。あたしゃあバカな男に惚れて、
こっぴどくフラれた。そんで自殺。簡単にいやあそういうこった」

ムウマージ「二人とも、自殺なんだ…」

ユキメノコ「正直、心が弱かったって後悔してるさ」

シャンデラ「私はむしろ、ここに来れて満足ですがね」

ムウマージ「二人ともいい人なのに…」

ユキメノコ「人間ってな、人によっちゃ残酷なもんさ」

シャンデラ「まあ、あんまり考えなくていいですよ。もう関係のない話ですから」


…数日後

ムウマージ「何を書いているの?」

シャンデラ「小説ですよ。ここは暇ですからね。おまけに終わりがなく、無限に時が続きます」

ムウマージ「へえ、見せて見せて!」

シャンデラ「ダメですよ。完成したら皆さんに向けて出版します。
それより生活にも慣れましたか?」


ムウマージ「うん!手がなくても、念力でものを動かしたりできるんだね」

シャンデラ「そうです…さ、私と二人でお話してるのもなんでしょう。部屋を出なさいな」

ムウマージ「うん…わかった…」ガチャリ

シャンデラ「はて、どうしたのやら」


…大広間

ムウマージ(今の時間は人、というか幽霊さんが全然いない)

ジュペッタ「よう新入り。ゲームとかするタチ?」

ムウマージ「あ、ジュペッタさん。ゲームってなあに?」

ジュペッタ「ここで作られたテレビゲームさ」

ムウマージ「テレビゲームなんてあるの?」


ブルンゲル♀「当然よ。霊界だもの」

ジュペッタ「こんなものがほしいってヨノワールの社長さんにいえば
次の日にはなんでも持ってきてくれるのさ」

ムウマージ「うわあ、ヨノワールさんってそんなにすごいんだ!」

ブルンゲル♀「正確には彼が凄いんじゃないのよねえ」

ムウマージ「どういうこと?」


ジュペッタ「俺らも会ったことないけど、霊界にはマンションみたく
部屋があってそのうち一人を管理してんのが社長さん。
つまりここを全部まとめる、社長の上の会長みたいな幽霊さんがいるってことさ」

ムウマージ「ヨノワールさんはその幽霊さんに会ったことあるの?」

ブルンゲル♀「ええ、だからこそここではなんでも願い事が叶うのよ。
人の死も、ここでどの部屋に行くのかも、その幽霊が全て決める」

ムウマージ「へえ…会ってみたいなあ」


ジュペッタ「ほら、そこをこうしてこうするわけよ」

ムウマージ「うんうん、わかってきたよ!」

ブルンゲル♀「まあまだイージーモードだけどね」

ムウマージ「あれ、みんなゲームやるの?」

ブルンゲル♀「ここに来てからが初めてだけど、何分退屈だものね」


ピコピコピコバシューン

ムウマ「あー!おねえたんゲームやってる!ムウマにもやらせてー!」

ゴルーグ「こらこら、お姉さんはゲームを教わってる最中だぞ」

ブルンゲル♀「あらあなた、今来たの」

ムウマージ「あなた?!」

ドカーン

ジュペッタ「あー!目を離すからやられちゃったじゃないか!」


ムウマージ「だ、だって『あなた』って…」

ゴルーグ「ここでは普通のことだ。死語の世界で結婚し、血縁関係のない子供を引き取る」

ジュペッタ「まあここにいる時点でみんな家族みたいなものだけどな」

ブルンゲル♀「六戦連敗中の婚活大好きさんの癖によく言うわね」

ジュペッタ「うるさいな!時は無限に続くんだよ!いつかは結婚相手の一人や二人!」


ムウマージ「結婚かあ…考えたこともなかったけど、ロマンチックだなあ」

ジュペッタ「お、興味があるなら付き合わな…」

ムウマージ「ごめんなさい、まだそういうのは…」

ジュペッタ「ぐぬぬ…」

ゴルーグ「だいたい年の差があり過ぎるだろう」


ムウマージ「そう言えば私と同じくらいの年の幽霊さんはいないの?」

ムウマ「ムウマ、おねえたんとおんなじくらい!」

ブルンゲル♀「冗談よしなさい…残念だけど、今はいないみたい」

ゴルーグ「ここもだいぶ幽霊の数が増えてきたと思うが今のところはね」

ジュペッタ「しかし若いのにここに来るなんて不幸だよなあ、お前もムウマも」


ムウマージ「そんな、私は別に…自殺とか変な死に方したわけじゃないし幸せな方かなって」

ゴルーグ「確かにこのムウマも虐待で死んだみたいだし、シャンデラやユキメノコもなあ…」

ムウマージ「ムウマも…」

ムウマージ(私ってやっぱり幸せな方なんだ)

ブルンゲル♀「でもお父さんとお母さんのところへ帰りたいのは一緒でしょう?」

ムウマージ「…うん」


ブルンゲル♀「どういう死に方が不幸だとか、そんなこと関係ない。
ここにいる幽霊たちはみんな気にしてないしね。だから、自分だけ特別なんて思う必要ないわ」

ムウマージ「あ、ありがとうございます」

パン
パン

ジュペッタ「集会だ」


ヨノワール「やあ皆様、新入りのムウマージ君が来てからだいぶ時間が経った。
ここでの生活は慣れたかね、ムウマージ君」

ムウマージ「はい、それなりには…えへへ」

ヨノワール「そうかそうか。それじゃあ特に訳もないが、乾杯と行こうかあ!」

幽霊たち「かんぱーい!」


シャンデラ「いやはや、他の方々とも打ち解けていただいて何よりです」

ムウマージ「そんなこと…シャンデラさんがいなかったら」

シャンデラ「私は何もしておりませんよ」

ムウマージ(そう言えば、集会の席はシャンデラさんが隣なんだよね)

パン
パン

ヨノワール「諸君、本日はめでたい日だ。十年ぶりくらいに興行をしようと思う」

ジュペッタ「よっ!待ってました!」


ムウマージ「こうぎょう?煙突からもくもく煙が出るアレ?」

シャンデラ「それは工業です。まあ面白いから少し席をずらしましょうか」


ババーン


ユキメノコ「みんな、応援しなよー!」

ワーワー

ゲンガー「メノコちゃん相手でも手加減しないぜぃ」

キャーキャー

ムウマージ「ユキメノコさん?!」


シャンデラ「さあさ、彼女の十八番が始まりますよ」

ワーワー

ゲンガー「シャドーボールでここにいる奴はみんな弱点突けるんだよ!」ズバァ

ユキメノコ「ったく、華がないねえ…吹雪を食らいな!」ビュォオ

ゲンガー「あ…が…」バタンキュー

ヨノワール「勝者、ユキメノコー!」

ウオオオオー

ムウマージ「わあ、すごい…!」

シャンデラ「新入りが来た時の伝統芸です。みんな、あなたの来訪を祝っているのですよ」


ムウマージ「みんな…私を…」

ムウマージ(でも…なぜかな…今はシャンデラさんと二人っきりでいたい)

ムウマージ「結婚…かあ」

シャンデラ「はい?」

ムウマージ「う、ううん!なんでもないの!」グビグビ

シャンデラ「ああー!ワイン飲んじゃダメですよ!未成年飲酒厳禁!」


ムウマージ「でも私ここでは年を取らないし、お酒飲んでも死なないんでしょ?」

シャンデラ「それはそうですがねえ」

ムウマージ(私のこと、ずうっと気遣ってくれてるんだ)

ユキメノコ「あ、二人ともどうだった?あたしの活躍っぷりは」

シャンデラ「いやはやお見事でしたよ、いつもながら」

ムウマージ「え?!あ、うん!凄かったよ!あの吹雪なんか本当に!」

ユキメノコ「…」


—翌日

シャンデラ「いやあ、昨日は凄かったですねえ」

ムウマージ「すっごく感動しちゃった!また見たいなあ!」

シャンデラ「ここでは何をやるにもお金が要らないですから臨めばいつでもやれますよ。
まあ準備が聊か必要ではありますがね」

ムウマージ「あ、そうだ。シャンデラさん」

シャンデラ「なんでしょう?」


ムウマージ「ユキメノコさんは結婚してないよね?」

シャンデラ「まあ彼女は強もそうしてるように人の部屋に出歩くのは好きですが、
恋愛自体にはもううんざりしてますからね。諦め、とでも言うんでしょうか」

ムウマージ「シャンデラさんは結婚しないの?」

シャンデラ「私は…死んだとき年でしたし前世で妻もいましたからね」

ムウマージ「でも…!」

シャンデラ「いいんですよ、私は」


シャンデラ「それよりどうしてこんな話を突然?」

ムウマージ「それは…その…」

シャンデラ「…」

ムウマージ「私は、シャンデラさんを!」

バタン

ユキメノコ「ムウマージ、あんたに来てくれってヨノワールからのお話だ」

ムウマージ「え?!私が?!」

ムウマージ(もう、いいとこだったのに)


ヨノワール「おお、済まない。わざわざ呼び出して」

ムウマージ「ええっと?」

ヨノワール「少し、ついてきてくれ。他の住人達には見せられない場所へ行く」

ムウマージ「ど、どういうこと?!」

ヨノワール「聞いてなかったかな。『私より上』からお達しがあった」


ムウマージ「え?!」

ムウマージ(それって前にブルンゲルさんたちが言ってた…!)

ヨノワール「心当たりがあるようだな。説明の手間が省けるというものだ。
さあ、掴まってくれ」

フヨフヨフヨ

ムウマージ「すごい…宇宙みたい」

ヨノワール「私だけは見慣れた風景だがね」

???「…来たか」


ヨノワール「はい、こちらにおります彼女が」

???「紹介せずとも良い。しかし、こんなことは百年ぶりかもしれん」

ムウマージ「あ、あなたは…!」

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