春香「地獄先生」 (53)


社長「えー、諸君。ついに我が765プロも、専用の劇場を持つ事が出来た。これもひとえに、君達アイドルやそれを支えてきたプロデューサー陣、音無君が一丸となって頑張ってきた成果であり、私は社長として、この上ない喜びを‥‥」

亜美「もー、社長。話が長いよー」

真美「そーだよー。喜ぶなら、もっと分かりやすく喜ぼうよー」

P「こらこら」

社長「はっはっは。いやあ、これはすまなかったね。とにかく、今後は君達の後輩も入ってくるわけだし、ここは一つ、日頃の英気を養う意味も込めて、ささやかながら、こうしてお祝いをしようとなったわけだ。遠慮なく楽しんでくれたまえ」

律子「そういう事よ。お言葉に甘えておきましょう」

P「では社長。乾杯の音頭をお願いします」

社長「うむ。諸君、グラスの準備はいいかね? では‥‥君達の益々の躍進を願って、かんぱーい!」

アイドル「かんぱーい!」

ワイワイワイ ガヤガヤガヤ




黒井「ふん! 高木め。弱小プロの分際で生意気にも、こんな建物を‥‥」

社員「なんでも、小規模ながらステージや売店、レッスン場なんかもあるみたいですよ。もっとも、うちとは比べ物にならない、貧相なもんですけどね」

黒井「当たり前だ! しかし気に食わん。調子に乗らないよう、釘を刺しておかねばな」

社員「だからって社長自ら、わざわざ嫌がらせに来なくても‥‥」

黒井「何か言ったか?」

社員「いえ!」

黒井「パーティ会場に乗り込んで、嫌み‥‥もとい、警告でも与えてやれば‥‥ん? おい、これはなんだ?」

社員「え? なんです?‥‥なんか、お札みたいですよ。気持ちわりーなー‥‥」

黒井「お札?‥‥はーっはっはっは! これはいい! 曰く付きの物件か! 765プロにはお似合いじゃないか! はっはっはっは!」

社員「あ、これ、剥がしちまいましょうか」

黒井「何?」

社員「そんで、奴らの目に入りそうなとこに捨てておけば‥‥」

黒井「なるほど。お前、なかなか有能だな。今後の待遇について、上司に一言添えてやろう」

社員「ありがとうございます! では早速‥‥」ビリッ

黒井「いい気味だ。後は入り口の目立つところにでも‥‥ん?」


── この世には


黒井「おい、今、誰か通らなかったか?」

社員「へ? 誰もいませんけど。あれ? おかしいな、なんだか寒気が‥‥」


── 目には見えない、闇の住人達がいる


黒井「わ、私もだ。風邪でも流行って‥‥ん!? なんだ!? ぎゃ、ぎゃあああああ!」

社員「う、うわあ! ひいいいい!」


── 奴らは時として牙を剥き、君達を襲ってくる‥‥



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テレビ「先日お伝えした通り魔事件ですが、昨夜、また新たな被害者が出ました。警察では同一犯による犯行との見方を強め、付近の住人に警戒を呼びかけており‥‥」

リツコ「怖いですね。なんでも、襲われた人は全員、入院が必要なほどの怪我をしているんですって」

ぬ~べ~「けしからん奴がいるもんですね。生徒達にも、気をつけるよう言っておかないと。そ、それより、リツコ先生!」

リツコ「はい?」

ぬ~べ~「こ、今夜、一緒に食事でもどうです? 素晴らしいレストランを見つけたんです!」

リツコ「まあ素敵! でも、そんなにいいお店なら、今夜いきなりは無理なんじゃないですか?」

ぬ~べ~「そこは大丈夫! 隣が墓地で、人魂の噂なんてのもありまして、夜にはいつも客が1人も‥‥」

リツコ「きゃああ! 私が怖い話苦手なの知ってるくせに! 鵺野先生の意地悪! もう知りません!」

ぬ~べ~「リ、リツコ先生! 待ってください! リツコ先生~!‥‥はあ、またフラれてしまった‥‥」

校長「鵺野君、傷心のところ悪いが、君に電話が入ってるよ」

ぬ~べ~「俺にですか? 誰だろう。はい、鵺野です。‥‥なんだ君か」


ぬ~べ~「それで? 放課後会いに来いだなんて、何の用なんだ? ひょっとして、マジメに霊能力の修行をする気にでもなったのか?」

いずな「バカ言わないでよ。そんなんじゃなくて、紹介したい奴がいるんだよ」

ぬ~べ~「俺に?」

いずな「ミキって子なんだけどさ。実は‥‥」

ぬ~べ~「美樹? なんだ、それなら学校で話せばよかったじゃないか。そうだ。またあいつに要らん事吹き込んでないだろうな」

いずな「そのミキじゃないよ! 隣の中学に通ってる子で‥‥あ、いたいた。おーい」

美希「あ、いずな。久し振りー。そっちの人が、他の事は全部ダメだけど、霊能力だけなら頼りになるって言ってた人なの?」

ぬ~べ~「おい」

いずな「あはは‥‥やっべー‥‥」

ぬ~べ~「まあいい‥‥こほん、俺は鵺野鳴介。いずな君からどう聞いているかは知らんが、頭脳明晰スポーツ万能な二枚目教師だ」

美希「ミキは美希。星井美希だよ。765プロで、アイドルやってるの」

ぬ~べ~「アイドル? へえ。言われてみれば見覚えがあるような無いような‥‥」

美希「むー。ねえ、いずな。この人、大丈夫なの? 今時ミキの事知らないなんて、有り得ないって思うな!」

ぬ~べ~「うむむ‥‥と、とにかく、何か俺に用があるんだって?」

美希「そうなの! すっごく変な事が起きてるから、いずなに相談したら、そういう事なら頼りになる人がいるって言われて」

ぬ~べ~「変な事?」

美希「詳しく話すと長くなるんだけど‥‥ホントに長くなりそうだから、ちょっとめんどくさいの。ちょっと待っててね。‥‥あ、もしもし春香? 今、駅前のオブジェの前にいるんだけど、来れない?‥‥うん、だったら来て欲しいの。あ、千早さんも暇だったら一緒に来て欲しいな」

ぬ~べ~「‥‥いずな君。この子、マイペース過ぎないか?」

いずな「うん‥‥」

美希「あはっ。お待たせなのー。ちょっと時間かかりそうだから、そこの店でお茶しようよ。ミキ、おごっちゃうの」

いずな「オゴリだって。よかったじゃん。万年金欠教師」

ぬ~べ~「あのな! 俺だってコーヒー飲むくらいの金は‥‥」ゴソゴソ チャリンチャリン

いずな「‥‥これ、全財産?」

美希「‥‥やっぱりおごってあげるの」

ぬ~べ~「しゅいましぇん‥‥」


春香「美希! お待たせ!」

千早「急に呼び出して、何かあったの?」

美希「あ、2人とも。いきなりごめんね。ぬ~べ~、この2人は春香と千早さん。ミキと一緒にアイドルやってるの。ユニットで歌う事も多いんだよ。この人は、小学校の先生やってるの。鵺野鳴介って名前だけど、ぬ~べ~でいいんだって。で、こっちがいずな。友達なの」

いずな「私だけ軽くね?」

春香「天海春香です!」

千早「如月千早です」

ぬ~べ~「俺は鵺野鳴介。美希君が今言った通り、小学校の教師をやっている。何か困り事があるんだって?」

春香「困り事、ですか?」

千早「たしかに教師の方に悩みの相談に乗って頂ければ心強いですが、今は特に‥‥」

美希「あ、さっき電話で言うの忘れてた。ぬ~べ~はね、日本で1人しかいない、霊能力教師なの」

春香「霊能力? あ! じゃあ美希、ひょっとして‥‥」

美希「うん! でも、説明するのが大変そうだから、2人を呼んだの」

春香「そうなんだ。じゃあ早速‥‥」

千早「ちょっと待って」

春香「千早ちゃん? どうしたの?」

千早「初めて会う方に失礼かも知れないけれど‥‥どうにも信用出来ないわ。この手の詐欺だってあるって聞くし‥‥」

美希「大丈夫なの。いずなはミキの友達で、そのいずなが紹介してくれたんだよ?」

千早「でも‥‥」

いずな「あーもう。先生、面倒だから、パパッと証明しちまいなよ。霊視でもしてさ」

ぬ~べ~「しかしだな、霊能力は見世物じゃないし、あまりプライベートな部分を覗くようなマネは‥‥」

千早「私は構いません。困っているのは事実ですし‥‥鵺野先生さえよろしければ」

ぬ~べ~「そうか‥‥よし、じゃあやってみよう」ジャラ

春香「じゅ、数珠、持って歩いてるんだね‥‥」ヒソ

美希「ちょっと引くの」ヒソ

ぬ~べ~「うぐっ‥‥ごほん。始めるぞ」

千早「はい」

ぬ~べ~「宇宙天地 與我力量 降伏群魔 迎来曙光‥‥」

千早「‥‥‥‥」


ぬ~べ~「‥‥千早君だったね」

千早「はい」

ぬ~べ~「君は‥‥過去に辛い経験をしたようだな」

千早「!!」

ぬ~べ~「守護霊という言葉を聞いた事があるかな?」

千早「は、はい。‥‥もしかして‥‥」

ぬ~べ~「ああ。君の守護霊は、君の弟‥‥優君だ」

千早「あ‥‥で、ですが‥‥私の弟の件はメディアにも取り上げられましたし‥‥」

美希「ミキの事も知らないくらいだし、知らないと思うな」

千早「でも‥‥」

ぬ~べ~「ほうほう、君の昨日の夕飯は、コンビニで買ったハンバーグ弁当か。栄養の偏りを心配してるよ。それから、いくら疲れているからと言って、お風呂で寝るのは危ないからやめろと‥‥」

千早「ええ!? そ、そんな事まで!?」

春香「すごい‥‥」

ぬ~べ~「あと、グラビアに載っているアイドルの写真と自分を比べて落ち込むのは、見ている方も辛いからやめてほしいそうだ。それに‥‥」

千早「わ、わかりました! わかりましたから、もうやめてください! あと優に、胸の件は余計なお世話だと伝えてください!」

ぬ~べ~「ははは、ちゃんと伝わってるさ。楽しそうに笑っているよ」

千早「もう‥‥でも、これでわかりました。疑ってしまって、すみません」

ぬ~べ~「いや、いいんだ」

いずな「見た目から胡散臭いんだもん。しゃあないよなー」

ぬ~べ~「うるさい!」

春香「それじゃあ、改めてお話します。事の始まりは、多分、1週間くらい前‥‥765プロ劇場完成パーティの日なんだと思います」

ぬ~べ~「思いますというのは?」

春香「本当のところはどうなのか、はっきりしないんです。ただ、パーティの途中、外から救急車のサイレンが聞こえてきて‥‥劇場の前に停まったから、うちの事務所の社長やプロデューサーが見に行ったんです。そうしたら‥‥」

千早「765プロと関わりの‥‥というか、因縁のあるプロダクションの社長と、社員が倒れていたらしいんです。最近テレビで、通り魔の事件が話題になっていますよね? 実は、最初の被害者はその2人なんです」

ぬ~べ~「そうだったのか‥‥しかし、それが俺とどう関係するんだ? まさか、犯人を捜して欲しいとか‥‥」

美希「話は最後まで聞いて欲しいの」


春香「警察の人に色々聞かれた時、事件の現場に、くしゃくしゃにされたお札が落ちてたって話を聞いて‥‥それがどうも、うちの劇場から剥がされた物みたいで」

千早「話を聞いた時には、バチが当たったんだと言っている人もいました。私も、お札と事件なんて何も関係ないと思っていたんですが‥‥」

美希「そのすぐ後から、劇場で変な事が起きだしたの」

ぬ~べ~「さっきも言ってたな。変な事ってのは?」

美希「例えば、ミキね、お昼寝が好きなんだけど、控え室でこっそり居眠りしてたら、誰かに揺すられた感じがして‥‥でも、目を開けたら誰もいなかったの」

春香「他にも、誰もいない筈のレッスン場から足音がしたり、誰かにずっと見られてる感じがしたり‥‥」

千早「見た事のない番号から電話がかかってきて、折り返したら、使われていない番号だったという事もあるらしいです」

美希「事務所にはすっごく怖がりの子とかもいて‥‥ミキ達はまだ平気な方なんだけど、それでも夜までいたりしたら、流石に気持ち悪いの」

春香「そのせいで、劇場で働いてる時には、なんとなく嫌な雰囲気になっちゃって‥‥どうしようってみんなで話してたら、今日、先生とこうやってお話出来たんです」

いずな「どう思う?」

ぬ~べ~「うーん、実際に見てみないとなんとも言えんが、そのお札と言うのが気になるな。妙な出来事が起き始めた時期と、あまりにタイミングが合い過ぎている」

美希「なんとかしてくれるの?」

ぬ~べ~「そうだな。怪我人も出ているような危険な状態らしいし、放ってもおけないだろう」

春香「あ、ありがとうございます!」

いずな「いやー、よかったよかった」

ぬ~べ~「それにしても珍しいな。いつもなら、俺に相談なんかしないで、真っ先に首を突っ込みそうなのに」

いずな「それが、もっと金払いのよさそうな上客‥‥じゃない。どうしても私じゃないとダメだってお客がいてさ、そっちに取り掛かりたいんだよ。じゃあ私は行くから。美希の事、頼んだよ」

ぬ~べ~「あ、こら! おい!‥‥ったく、全然凝りとらんな」

千早「でも‥‥私達だけで決めてしまって、いいのかしら」

春香「あ、そうだよね。社長やプロデューサーさんに聞いてからじゃないと」

美希「なら、小鳥に電話して、劇場に集まってもらうの。その場でお願いすればいいって思うな」

春香「み、美希ってば‥‥」





春香「と、いうわけで、かくかくしかじかなんです」

P「まるまるうまうま、か。しかし‥‥じょ、除霊か。なんというか、唐突だな‥‥」

律子「そうよ。多分、みんな気にしすぎてるだけよ」

雪歩「で、でも‥‥私、このままじゃレッスンにも身が入らなくて‥‥ただでさえみんなの足を引っ張っちゃってるのに‥‥」

貴音「わ、わた、くしも‥‥出来る事ならば、お願いしたいです‥‥今こうしている時にも、物の怪に見られているかと思うと‥‥」キョロキョロ

響「貴音、劇場にいるとずっとこんな感じだからなー。自分も、なんとかした方がいいと思うぞ」

亜美真美「‥‥わっ!」

雪歩貴音「ひいい!?」

律子「こら!‥‥うーん、どうします?」

P「そうだなあ‥‥集中力が落ちているのは確かだよな」

社長「いいじゃないか。お願いしたまえ」

P「あ、社長。お疲れ様です。いいんですか?」

社長「ああ。幽霊がいるならば手を打たなければいけないし、気のせいにせよ、それを証明してもらえれば、君達も安心だろう?」

貴音「高木殿! 私、765プロに入ってよかったと、心から‥‥心から思っております!」

雪歩「私もですぅ! 一生付いていきますぅ~!」

高木「おやおや、はっはっは。役得だねぇ。それじゃあ律子君、彼に」

ぬ~べ~「リツコ!?」

律子「な、なんです!?」ビクッ

ぬ~べ~「あ、いや、なんでも‥‥知り合いに、同じ名前の人がいたもんで」

社長「そ、そうなのかね。世間は狭いね。とにかく、彼に例のお札を」

律子「はい。‥‥これです。手元に置いておくのも気持ち悪いけど、処分の方法に困ってしまって‥‥」

ぬ~べ~「これが‥‥ふむ‥‥」

美希「どうなの? やっぱり、これに何か原因があったの?」

ぬ~べ~「‥‥あっはっは! なーんだ。こいつは何の変哲もない、お守りみたいなもんだよ。そこらの神社でも売ってるような」

美希「へ?」

春香「そ、そうなんですか?」

ぬ~べ~「ま、こいつに封じ込められるんだから、よっぽど力の弱い低級霊だな。出来てもイタズラが精一杯だ」


雪歩「よ、よかったぁ‥‥怖い映画に出てくるような、とんでもないお化けだったらどうしようかと‥‥」

貴音「はあ‥‥真、生きた心地がしませんでした‥‥」

ぬ~べ~「パパッと終わらせるよ。ただ、数だけは多いみたいで、時間はかかりそうだけどな」

千早「では、特に心配はいらないという事ですか?」

ぬ~べ~「ああ。変に怖がっても、相手を喜ばせるだけだな」

亜美「なーんだ。つまんないのー」

真美「ねー。もっと、ホラーでサスペンスでスリリングな事が起きると思ったのに」

律子「ふふっ。イタズラばかりするなんて、あんた達みたいな幽霊ね」

亜美「あー! りっちゃんドイヒー!」

社長「しかし‥‥やはりこういう事だったか」

律子「え? それってどういう‥‥」

社長「いやなに、この建物、施設と立地の割には相当の格安物件でね。少々おかしいと思ってはいたんだが」

一同「」

社長「ん? な、なんだね諸君。まるで諸悪の根源を見るようなその目は」

律子「はあ‥‥嫌な予感はしてたんですよ。随分急な話だったし」

社長「し、しかし、こうして除霊をして貰える事になったという事は、素晴らしい物件をノーリスクで手に入れられたという事でだね‥‥」

P「あ、たしかにそう言われると‥‥」

律子「丸め込まれないで下さい! 今度、不動産屋に抗議しなきゃ‥‥」

真美「あ、ねえねえ。えっと‥‥ぬーぬー?」

響「呼んだ?」

真美「呼んでないよ」

律子「こら。ちゃんと鵺野先生とお呼びしなさい」

ぬ~べ~「あはは、気にしなくていいよ。俺の事なら、ぬ~べ~でいいぞ。で、どうした?」

真美「ぬ~べ~、なんで片一方だけ手袋してんの?」

ぬ~べ~「これか? 昔、ちょっと色々あってな」

真美「あ、ケ、ケガでもしたの? 嫌な事聞いちゃって、ごめんね」

ぬ~べ~「うーん‥‥まあ、似たようなもんかな」

真美「?」


律子「はいはい! 害は無いってわかったんだし、今日からちゃんとレッスンするわよ! こけら落としのライブまで、時間がないんですからね!」

真美「うえー」

亜美「ぬ~べ~! あの魔人をやっつけてよ!」

律子「なんですってえ!?」

真美「ぎゃー、魔人の怒りだー!」

亜美「天変地異じゃー!」

響「自分達も行こうよ」

雪歩「そ、そうだね。でも‥‥」

貴音「害は無くても‥‥いる事はいるのですね‥‥」

響「そうだぞー。‥‥今も2人の後ろに!」

雪歩貴音「ひええ!?」

響「なんちゃって! あっはっは、あだだだだ! 圧が凄い! 両サイドからの圧が! 冗談だから離れ‥‥潰れるー!」

律子「まったく、騒がしいんだから‥‥」

社長「まあまあ、怖がって縮こまっているより、よっぽどいいじゃあないか」

P「そうですね。鵺野先生にお願いして、正解でしたよ。性質の悪いもんじゃなかったみたいだし」

ぬ~べ~「その件なんですが‥‥3人にはお話しておきます」

律子「え?」





ぬ~べ~「よーし、それじゃあ除霊を始めるぞ」

亜美「へい隊長!」

真美「がってんでい!」

P「こらこら。遊びじゃないぞ。手伝いで劇場を案内したいって言うから、レッスンを中断したんだからな。鵺野先生の邪魔をするんじゃないぞ」

亜美「わかってるよー」

真美「ばっちりナビしちゃうかんねー」

律子「すみません。わがままに付き合ってもらっちゃって‥‥」

ぬ~べ~「こういう子は、ダメだと言っても首を突っ込みたがるからな。下手に目を離すより近くに置いといた方が安全だよ」

律子「たしかに‥‥会ったばかりなのに、よくそこまでわかりますね」

ぬ~べ~「ははは。普段から似たような年の子達と一緒だからな」

亜美「‥‥あれ? ぬ~べ~って」

真美「たしか小学校の‥‥あーっ!」

亜美「亜美達、れっきとした中学生なんだからね!」

ぬ~べ~「え? そ、そうだったの?」

亜美「なんたる屈辱‥‥」

真美「このナイスバデーが目に入らないとは‥‥」

伊織「戻ったわよー。って、あんたら、何騒いでんのよ」

亜美「あ、いおりんだー」

真美「あずさお姉ちゃんは?」

伊織「え?‥‥ま、まあ、劇場に入るまでは一緒だったし、大丈夫でしょ。それより‥‥どちら様?」

亜美「あ、ぬ~べ~はね、かくかくしかじかで」

伊織「へえ! やっぱり本物の霊現象だったのね!」

真美「で、これから除霊のサポーターやるんだけど、一緒に行く?」

伊織「行く行く! 面白そうじゃない!」

律子「あ、伊織! 仕事の報告は!?」

伊織「そんなの後よ後! さ、先生。行きましょ!」

律子「もう‥‥」





伊織「ここがレッスン場。主にダンスレッスンをする場所ね。ちょうど誰か使ってるみたい」ガチャ

亜美「あ、ひびきん達と、まこちんもいる」

響「ハム蔵ってばー。どうしたんだよー」

雪歩「響ちゃん、大丈夫?」

真美「どったの?」

真「あれ? みんな。あ、この人が、さっき雪歩達が言ってた‥‥はじめまして! 菊地真です!」

ぬ~べ~「へえ! まことまでいるのか! あはは、なんだか、妙な気分だな」

真「へ? そ、それより、ハム蔵がおかしいんだ。響のポケットに潜り込んで、出てこなくなっちゃって」

ぬ~べ~「ハム蔵? あ、ハムスターか。動物は、霊の気配に敏感だからな。無理もないか」

雪歩「れ、霊の‥‥」

貴音「気配‥‥ですか?」

伊織「そういえば、レッスン場では足音が聞こえるとかなんとか‥‥」

亜美「じゃあぬ~べ~!」

ぬ~べ~「ああ、早速おでましだな。しかし‥‥はは、なんだこいつ」

真美「え? どったの?」

ぬ~べ~「なんというか‥‥よし。宇宙天地 與我力量 降伏群魔 迎来曙光‥‥ここにいる霊よ! 姿を現せ!」

雪歩「え?」

貴音「姿を?」

雪歩「‥‥なななな、なんて事を! あ、穴掘って隠れますぅ!」

貴音「ぬ、鵺野殿! なぜそのような!」

霊『‥‥‥‥』ポヨン

響「え?」

真「‥‥これが?」

雪歩「‥‥かわいい」

貴音「なんと‥‥」

ぬ~べ~「霊と言っても、こいつは自然霊‥‥妖精とか精霊なんて呼ばれる類だな。ふらりとやってきて、迷い込んでしまったんだろう」

伊織「じゃあ、足音っていうのは?」

ぬ~べ~「多分、物珍しくてウロウロしていたんだろう。こいつは本来、もっと山奥にいるような奴だからな」

響「か‥‥」

真「ん?」

響「飼っていい!? ぬ~べ~! この子、うちの子にしていい!?」

ぬ~べ~「こ、こらこら。今言ったろう? 今は偶然こんなところにいるが、こいつは自然の中で生きる存在なんだ。無理に都会に閉じ込めておけば、消えてしまうかも知れない」

響「そっか‥‥そうだよね。自分だって、時々息苦しく感じる時があるもん。尚更だよね」

霊『‥‥‥‥』ピョコ フワフワ

雪歩「あ‥‥」

真「出て行っちゃう‥‥」

響「ばいばい! 気が向いたら、沖縄に行くといいさー! いいところだぞ!」


雪歩「お化けって、全部怖いわけじゃないんだ‥‥」

真「そうだね。あんなのなら、いくらでもいてくれていいよね」

貴音「私、少々弱気になり過ぎていたのかも知れません。これからは‥‥」

別の霊『‥‥‥‥』ヌゥ

雪歩貴音「」

真「うわああああああ!?」

響「うぎゃあああ!?」

ぬ~べ~「な、なんだ。他にもいたのか。さっきの奴だけかと思ってたよ。失敗失敗」

伊織「失敗失敗、じゃないわよぉ!」

亜美「そそそそれも、思いっ切り幽霊っぽい奴じゃん!」

真美「ぬ~べ~! 早く! 早くどっかやっちゃってよお!」

ぬ~べ~「こいつは浮遊霊だな。さっきの奴と同じく、たまたまやってきたんだろう。居心地がよくて気に入ってしまったようで、普通ならすぐに他の場所に」

真「いいから早く! 早く除霊してえ!」

ぬ~べ~「あ、すまんすまん。迷える魂よ、安らかに成仏し給え‥‥っと。おーい、もう大丈夫だぞ」

真「はあ、はあ‥‥」

響「し、心臓が破裂するかと思ったぞ‥‥」

伊織「怪談は好きだけど、実物見るとキッツイわねぇ‥‥」

亜美「あ」

真美「どったの?」

亜美「今まさに、迷える魂が抜け出ようとしてる」

雪歩貴音「」チーン

伊織「ちょっと! しっかりしなさいよ!」

雪歩「へへへい、へへへい、へいへいへい‥‥」ブツブツ

貴音「よなかむかえにくるんだよぅ‥‥」ブツブツ

真「ダ、ダメだ。しばらく放っておくしかないよ」

響「幽霊よりこの光景の方が怖いぞ」

ハム蔵「ヂュ‥‥」ブルブル





伊織「それじゃあ次は‥‥控え室ね」

ぬ~べ~「なんだ、まだ付いてくるのか? さっき、相当びっくりしたろうに」

真美「ちっちっち。1度引き受けた仕事は最後まで遂行する‥‥」

亜美「それがラードボーイズってやつだぜ」

伊織「ハードボイルドだし、あんたら探偵でもなんでもないでしょ。あら?」

やよい「うう‥‥」

伊織「やよいじゃない。どうしたのよ」

やよい「あ、伊織ちゃん。それに亜美と真美と‥‥えーと」

ぬ~べ~「ああ、俺は‥‥なんか、この説明も流石にめんどくさくなってきたな」

伊織「幽霊退治が特技の小学校教師よ。ぬ~べ~でいいわ」

ぬ~べ~「おい」

亜美「それより、何してたの? 困り事?」

やよい「それが‥‥これ見て。服の袖が‥‥」

真美「ありゃ。破れちゃってるじゃん。どっかに引っ掛けたの?」

やよい「引っ掛けてないし、転んだりもしてないのに、気付いたらこうなってたんだよ」

ぬ~べ~「うん? 微かに妖気を感じるな‥‥ははあ、こいつは、袖もぎという妖怪の仕業だよ」

真美「妖怪?」

伊織「はた迷惑な妖怪もいるもんねえ。人様の袖を千切り取って、何が楽しいのかしら」

亜美「それも、よりによってやよいっちの服を狙うなんて、ひどいじゃん! 見付けて懲らしめてやろうよ!」

ぬ~べ~「しかし聞いた話によると、袖もぎは一部の地域では神様として信仰されているらしいぞ。なんでも、袖を切り取って供え物にすると、願いを叶えてくれるとか。もしかしたら、やよい君にも、何かいい事があるかもな」

やよい「えー! そうなんですか? えへへ! じゃあ、ラッキーだったかも!」

伊織「お気楽ねぇ」

真美「あれ、やよいっち。電話みたいだよ」


やよい「あ、お母さんだ。なんだろう‥‥はい、もしもし。うん‥‥ええ!?うん‥‥うん‥‥わかった! はーい!」

亜美「どしたの?」

やよい「お、お父さんが新しい仕事先で褒められて、偉く慣れるんだって! それで、今日はお祝いだから早く帰っておいでーって!」

真美「へえ! よかったじゃん!」

伊織「それじゃあ、早くプロデューサーに報告して、帰ってあげなさいよ」

やよい「うん!‥‥う?」

伊織「どうしたのよ」

やよい「今、あそこの角に、誰かがいた気がして‥‥気のせいかな?」

亜美「誰もいないっぽいよー?」

やよい「そう? やっぱり見間違えかなぁ‥‥」

真美「もしかして、さっき言ってた妖怪じゃない?」

ぬ~べ~「ははは、そうかもな」

やよい「あ! それじゃあ、お礼言わないと! 妖怪さん! ありがとうございましたー!」ガルーン

伊織「ま、何にせよ悪い奴ではなかったみたいね。次行きましょうか。やよい、また明日ね」

やよい「うん!」

亜美「えっと、次の場所はねー」


袖もぎ『‥‥‥‥』ニヤリ




亜美「そんで、ここが食堂と厨房だよ」

ぬ~べ~「随分と立派なんだな」

伊織「なんでも、今度入る新メンバーの中に、絶対太らすウーマンがいるらしくてね」

真美「で、ここを曲がると‥‥あ」

あずさ「あらあら、困ったわねぇ~」

伊織「あずさ! あんた、こんなとこまで来てたの?」

あずさ「あら、伊織ちゃん達と‥‥ああ、新しいアイドルの方ですね~?」

ぬ~べ~「へ? あ、いや俺は‥‥」

伊織「こんなゲジゲジ眉毛がアイドルなわけないじゃない」

ぬ~べ~「あのな!」

あずさ「それじゃあ、新しいプロデューサーの方?」

亜美「それもハズレ。ぬ~べ~は(略)なんだよ」

あずさ「あらあら、霊媒師さんだったんですか。よろしくお願いしますね」

真美「それもちょっと違うけど‥‥ま、いいか。で、こんなところで何やってんの?‥‥って、いつもの迷子だよね」

あずさ「迷ってる事は迷ってるんだけど‥‥変なのよ。なんだか、ここがどうしても通れなくて」

伊織「はあ? 何言ってんのよ。別に普通に‥‥ギャッ!」ゴチン

亜美「いおりん!?」

あずさ「だ、大丈夫~?」

真美「大変だよ! いおりんのおでこが広くなってる!」

伊織「はっ倒すわよ! じゃなくて‥‥何よこれ。どうなってるわけ?‥‥あ、ひょっとして」

ぬ~べ~「ご明察。妖怪、塗壁だな」

亜美「あっ! それ聞いた事ある!」

真美「キタローに出てくるやつだ!」

ぬ~べ~「道行く人の前に、見えない壁のような物が急に立ち塞がる事がある。その正体が、この塗壁なんだ。こいつに道を遮られると、前後左右、どこに行っても壁にぶち当たって、立ち往生してしまうという」

あずさ「そ、そうなんです~。こっちにも行けないし、あっちにも戻れないしで、困っていたんです」

伊織「どうすればいいのよ」

ぬ~べ~「昔の人は、塗壁に出会うとその場に腰をおろし、一服したという。そうしてる内に、いつの間にかいなくなっているとか」

亜美「だってさ。もう少し待ってれば通れるようになるって」

あずさ「そ、それがその‥‥実は‥‥」モジモジ

あずさ「そ、それがその‥‥実は‥‥」モジモジ

伊織「あっ‥‥ぬ、ぬ~べ~。何かこう、もっと手っ取り早く済ませる方法はないわけ? 緊急事態みたいよ」

ぬ~べ~「え?‥‥あ、そ、そうか? じゃあ、もう1つ。塗壁の足元を、棒で払ってやればいいんだ」

あずさ「棒‥‥あ、確か、試作のペンライトを貰ってカバンの中に‥‥あったわ。これで足元を‥‥」スッ

ぬ~べ~「むひょっ!?」

あずさ「えいっ、えいっ」サッ サッ プルンプルーン

ぬ~べ~「な、なんという破壊力‥‥アイドル、恐ろしいな‥‥」

あずさ「このくらいでいいでしょうか~?」

ぬ~べ~「え? あ、そうですね。あと10回‥‥いや、あと100回くらいかな? なんて‥‥」

伊織「そんなに!? 全然手っ取り早くないじゃ‥‥あーっ! こ、このスケベ!」

ぬ~べ~「ち、違う! 誤解だ! 俺は決してよこしまな気持ちで‥‥」

亜美「なになに? どったの?」

伊織「屈んだあずさの胸見て、鼻の下伸ばしてたのよ! ド変態! エル変態! 変態教師!」

ぬ~べ~「ま、待て伊織君! 話せばわかる! 話せば!」

亜美「ぬ~べ~も男よのう」

真美「教師をも狂わす魔性の胸‥‥あずさお姉ちゃんは罪な女ですなあ」

あずさ「あ、あら~‥‥あ、通れるようになったわ! 私、ちょっと急ぐので失礼しますね。ありがとうございました~」

亜美「あずさお姉ちゃん! トイレはあっちだよ~!」

伊織「まったく‥‥」

真美「あ、終わったの? そんじゃ次の場所行こうか」

ぬ~べ~「はひ‥‥」





亜美「ここがステージ。亜美達、今度ここで劇場完成ライブやるんだよ」

ぬ~べ~「へえ。立派な会場だな。凄いじゃないか」

伊織「当然よ。ま、伊織ちゃんにはここでも狭すぎるくらいだけど」

真美「そんな事言って、大喜びしてたじゃ~ん」

伊織「う、うるさいわね! してないわよ!‥‥それより、ここで大体劇場は一周したわよ」

ぬ~べ~「そうか。‥‥うん。霊の気配は感じないな。とりあえず除霊完了だ」

亜美「とりあえず?」

ぬ~べ~「‥‥‥‥」







P「そんな‥‥本当なんですか?」

ぬ~べ~「ええ。この札、相当強い力を持った霊能者が作った物でしょう。間違っても、お守りや気休めに使うような代物じゃありません」

P「でもさっきは‥‥」

ぬ~べ~「ああでも言わないと、パニックになりそうな子もいたものですから‥‥それに、下手に怖がるとよくないっていうのは本当です」

社長「やはり、何か悪いものが封じられていたのかね?」

ぬ~べ~「その可能性は高いと思います」






亜美「ぬ~べ~?」

ぬ~べ~「ん? ああ、すまんすまん。大丈夫だろうが、油断はしない方がいいって事さ。もちろん、必要以上に怖がる必要はないけどな」

伊織「そ。じゃあ戻りましょうか」

ぬ~べ~(やはり妙だな‥‥今まで現れた霊や妖怪は、まるで人畜無害な連中だった。あれだけ大掛かりな封印を施すようなもんじゃないぞ‥‥)





律子「あ、お疲れ様です。どうでしたか?」

ぬ~べ~「粗方の霊はいなくなったよ。ただ、一ヶ所に留まらない浮遊霊のようなものも多いんで、念のためもう何回かは‥‥」

亜美「ねえねえねえ! ぬ~べ~、凄かったんだよ!」

真美「ぬ~べ~がお経の紙をバッて投げたら、幽霊がバシューって!」

P「へえ、そりゃすごいな。俺も見に行けばよかったかも」

伊織「そうよ! 滅多に見れるもんじゃないんだから。勿体無かったわね!」

春香「へえ、伊織がそんなに言うなんて、珍しいね」

伊織「あら、あんた達、まだ残ってたのね」

千早「ええ。今度のステージについて、ちょっと話し合いをね」

美希「マジメな話しすぎて、眠くなってきちゃったの‥‥あふぅ」

春香「もうちょっとだから、頑張ろう?」

美希「わかってるの‥‥あれ? 春香、何だか髪伸びた? 今気付いたけど」

春香「え? そうかな?」

律子「言われてみれば、少し伸びてるわね。最近忙しかったものね」

春香「自分では気付かなかったんですけどね。ねえねえ、どう? 似合う?」

美希「微妙なの」

春香「ひどい!」

美希「あ、そういう意味じゃないの。春香の顔でその長さなら、もっと似合うセットの仕方があるって事だよ」

春香「そう?」

美希「ミキ、新しい仕事で雑誌のヘアモデルになったし、後で教えてあげるの!」

春香「あ、じゃあお願いしよっかな! 美希のセンスなら、任せて間違いないもんね」


P「そうそう。新しい仕事といえば、千早。こないだのソロアルバム、業界内でも評判だぞ。売れ行きも申し分ないし」

千早「本当ですか?」

春香「わあ! やったね千早ちゃん!」

千早「春香やみんなのお陰よ。私、やっぱりアイドルを続けられてよかった‥‥」

春香「えへへ。‥‥っ!?」ドクン

美希「春香? どうかしたの?」

春香「う、ううん。なんでもないよ」

美希「そうなの? 体調がよくないなら、すぐ言った方がいいと思うな」

P「そうだぞ。無理は禁物だ」

春香「あ、本当に大丈夫ですから!」

P「ならいいんだが‥‥遠慮せずにちゃんと言えよ?」

春香「‥‥‥‥?」

P「あっと、すみません。今日はありがとうございました。こちら、少ないですが、うちの高木から預かっています」

ぬ~べ~「あ、いや、そういうのは受け取らない事にしていますので‥‥」

P「いやいや、そういうわけにも」

ぬ~べ~「いやいやいや」

P「いやいやいやいや」

伊織「何やってんのよ。面倒くさいわねぇ。ぬ~べ~も、素直に受け取っておきなさいよ。タダ働きなんて、させる方の気分が悪くなるものよ」

ぬ~べ~「霊能力を使っての金儲けはしない事にしてるんだ。ちょっと、色々あってな」

律子「そうなんですか? 無理に渡すのもおかしな話ですし‥‥あ、そうだ。次のライブのチケット、まだ一般発売前ですよね?」

P「あ、そうか! 春香達のライブに、席を用意させてもらうっていう事ではいかがでしょう。この子達がステージで輝いている姿、見てやってはいただけませんか?」

ぬ~べ~「そうですか?‥‥そういう事なら、ありがたく」

律子「はい、これです。楽しみにしていてくださいね」

ぬ~べ~「君も出るのか?」

律子「で、出ませんけど!?」

ぬ~べ~「なんだ、そうなのか。っと‥‥じゃあ俺はこの辺で。君達も、あまり遅くなるんじゃないぞ。いいな? それと、寄り道せず車に気をつけて‥‥」

春香「なんだか、学校にいるみたいですね」

美希「今更言われなくても、ちゃんとわかってるの」

ぬ~べ~「あはは、すまんすまん。何かあったら、すぐに呼んでくれ」





美樹「ねえねえ、みんな! 聞いた聞いた? 765プロの新劇場に、幽霊が出るらしいのよ!」

郷子「本当? 新劇場って、こないだ雑誌に載ってた、あれでしょう?」

克也「それ、俺もテレビで見たぜ。確か、今話題になってる、通り魔事件の現場が近くにあるとかなんとか」

美樹「そうなのよ! それで、ここからが大事なんだけど、どうやらあの辺り、何か曰くがあるらしいのよ」

広「え!? 本当かよ!」

美樹「詳しい事はまだ調べてないんだけど、なんでも昔、何か事故があって、女の子が1人死んじゃったんだって」

広「って事は、その女の子の幽霊なのか?」

美樹「だから、まだわからないって言ってるじゃないの。他にも、色々と変な事故や事件が起きてるみたいだし」

郷子「春香ちゃん達、大丈夫なのかしら」

美樹「そこは問題ないみたい。霊能力者に頼んで、除霊してもらったらしいわ」

広「霊能力者? それって‥‥」

ぬ~べ~「おーい、お前達。午後の授業を始めるぞー」ガラッ

広「なあ、ぬ~べ~。もしかしたら765プロの霊能力者って、ぬ~べ~だったりするんじゃねえか?」

ぬ~べ~「な、なに?」

郷子「バカねえ。そんなわけないじゃないの」

美樹「そうそう。こんなのがアイドルのところに行ったら、そのまま逮捕されちゃうわよ」

ぬ~べ~「あ、あのなあ‥‥」

校長「ぬ、鵺野君。君にお客が来てるんだが‥‥」ガラッ

ぬ~べ~「お客? 誰だろう‥‥」

校長「それが‥‥うわっ!」

真「先生! 大変なんだ!」

響「ぬ~べ~!」

ぬ~べ~「き、君達! 一体どうしたんだ!?」

郷子「ま、真くん‥‥!?」

克也「響ちゃんもいるぜ!?」

広「ま、まさかさっきの話、本当に?」

響「とにかく、早く来てほしいんだ! 春香が‥‥春香が!」

ぬ~べ~「春香君に何かあったのか!? わかった。急ごう! みんなすまん! しばらく自習をしててくれ!」

郷子「い、行っちゃった‥‥」

美樹「ぬ~べ~が765プロのアイドル達と知り合いだなんて‥‥信じらんない」





千早「春香!」

春香「う、ううぅ‥‥」

美希「春香! 春香ぁ!」

真「呼んできたよ!」

ぬ~べ~「一体、何があったんだ?」

律子「わ、私達にもわからないんです。春香の体調が悪そうだったものですから、心配してたんですけど、さっきのリハーサル中、急に倒れて‥‥」

雪歩「病院に連れて行こうとしたんですけど、全然動かせなくて‥‥それで、もしかしたらと思って‥‥」

ぬ~べ~「俺のところにきたわけか」

律子「社長もプロデューサーも不在で、私ではどうすればいいのか、わからなくて‥‥すみません」

ぬ~べ~「いや、いいんだ。よく呼んでくれた」

美希「ぬ~べ~! 春香は‥‥春香は大丈夫なの!?」

ぬ~べ~「‥‥微かにだが、妖気を感じる。間違いなく、妖怪の仕業だろう」

伊織「やっぱり‥‥」

ぬ~べ~「しかし、どこだ? 春香君にこれだけの影響を与えているのならば、近くにいる筈‥‥まさか!」

P「春香! 大丈夫か!?」

社長「天海君の状況は!?」

響「遅いぞ2人とも!」

社長「すまない。まさかこんな‥‥天海君! しっかりしたまえ!」

春香「う、あ‥‥ああ‥‥っ!」

千早「春香!?」

ぬ~べ~「いかん! みんな! 春香君から離れるんだ!」

美希「え!?」

春香「あ、あ‥‥あああああ!」バサーッ

P「こ、これは!?」

ぬ~べ~「やはりそうか! 道理で見付からない筈だ!」

亜美「ぬ~べ~! 何がどうなってるの!?」

ぬ~べ~「俺が初めてここを調べて回った時、奴は既に、春香君に取り憑いていた‥‥いや、隠れていたんだ」

千早「で、ではこれは‥‥」

ぬ~べ~「そう。こいつは、れっきとした妖怪‥‥逆髪だ!」

律子「逆髪?」

美希「妖怪、逆髪‥‥女の強い感情。それも、恨みや妬み、憎しみといった負の感情が髪に宿って生まれる妖怪だと言われているわ。‥‥あれ?」

千早「み、美希? 詳しいわね‥‥」

美希「いや、なんだか自分でもよく‥‥」

ぬ~べ~「名前のせいかな?」


美希「そ、それはさて置き‥‥春香がそんな妖怪に取り憑かれるなんて、おかしいの! 恨みや妬みなんて‥‥そんなの、春香に限って、絶対有り得ないの!」

千早「美希の言う通りです! 春香がそんな‥‥」

ぬ~べ~「しかし実際に‥‥」

美希「ミキと千早さんは、春香とずっと一緒だったからわかるの。こんなの、何かの間違いだよ!」タタッ

律子「み、美希! 危険よ! ああっ、千早まで!?」

千早「春香‥‥お願い春香。目を覚まして‥‥」

美希「ミキだよ。わかるよね? ねえ、春香!」

春香「う、うう‥‥千早ちゃ‥‥美希‥‥」

千早「春香!」

春香「離れ‥‥て‥‥!」ヒュン!

美希「え‥‥っ?」

千早「あっ‥‥」

ぬ~べ~「いかん!‥‥ぐうっ!」

真美「ぬ、ぬ~べ~!」

伊織「ちょ、ちょっと! 大丈夫なの!?」

ぬ~べ~「いてて、なかなか強烈な力だな‥‥それより」

春香「逃げて‥‥私、もう、ダメだよ‥‥先生に‥‥退治してもらわなくちゃ‥‥」

千早「春香!?」

美希「な、何言ってるの!?」

春香「私‥‥私ね? さっき聞いてた妖怪の説明‥‥正しいと思うの‥‥」

千早「‥‥え?」

春香「私、時々思ってたんだ‥‥千早ちゃんには、世界一を目指せる、歌がある。美希には、色んな人を惹きつける、魅力がある‥‥2人とも、誰にも負けないものを持ってるのに、私には、それがないって‥‥
 自分では、すごいなーとか、羨ましいなーっていう、軽い気持ちだと思ってたんだけど‥‥そうじゃなかったんだよね。こんな事になっちゃって‥‥私、性格までダメだったみたい‥‥こんな私が、2人と同じユニット‥‥ううん、みんなと一緒に、765プロにいるだなんて‥‥」

千早「‥‥‥‥」

美希「‥‥‥‥」

春香「だから、私の事はもう‥‥」

美希「春香‥‥わかったの」

千早「そうね‥‥」

真「ちょ、ちょっと! なんて事言うんだよ!」


美希「春香は、やっぱり春香なの」

千早「逆髪になってしまうだなんて、有り得ないわ」

春香「え‥‥?」

千早「誰がなんと言おうと‥‥それが春香本人の言葉だろうと」

美希「ミキ達にはわかるよ。どれだけ一緒にいると思ってるの?」

春香「だって‥‥だって! 実際にこうやって!」

ぬ~べ~「なるほど。ようやく合点がいったぞ」

千早「先生!」

美希「ぬ、ぬ~べ~、ケガしてるの? さっき、ミキ達を庇って‥‥」

ぬ~べ~「俺は大丈夫。この程度、慣れたもんだよ。そんな事より、君達の言う通りだ」

千早「え?」

ぬ~べ~「春香君が逆髪になってしまうなんて、理屈に合わないって事さ。こいつは本来、もっともっと凄まじい感情‥‥それこそ、人を呪いたくなるような怒りや憎しみから生まれる妖怪なんだ。だが、春香君からは、そんな物は感じられない」

春香「でも‥‥さっき言った通り、私、2人の事を‥‥」

ぬ~べ~「他人を羨ましがるなんて、生きてりゃ誰でもあるもんさ。その程度で妖怪になってたら、世の中は妖怪だらけだ」

律子「たしかに‥‥でも、それじゃあ、これって‥‥」

ぬ~べ~「だが、そんな小さな感情でも、何かの拍子に増幅されれば、大きな力になってしまう」

千早「増幅?」

ぬ~べ~「ああ。君達にも、経験があるだろう? 幸せな気分の人と一緒にいると自分まで嬉しくなったり、怒っている人が近くにいると、自分もイライラしてしまったり」

千早「それは‥‥でも、その話が何か関係が?」

ぬ~べ~「こういう事さ。天海春香の体に潜む霊よ! 姿を現せ!」ジャラ

霊『‥‥‥‥』ボウッ

雪歩「ひっ!」

あずさ「あ、あれは‥‥」

やよい「は、春香さんから、女の子が出てきましたぁ!」

ぬ~べ~「‥‥‥‥」

貴音「ぬ、鵺野殿! そんなに不用意に近付いては‥‥!」

ぬ~べ~「大丈夫。この子に敵意はないよ。‥‥そういう事だったのか」

霊『‥‥‥‥』

伊織「ぬ、ぬ~べ~?」

ぬ~べ~「この子は‥‥君達と同じ、アイドルだったんだ」

響「え!?」


ぬ~べ~「君達のように、歌が好きで、ダンスが好きで、いつも、懸命に練習していた‥‥だが、君達とは明確に違う事があった」

美希「違う、事?」

ぬ~べ~「この子には、頼れる仲間‥‥喜びや苦労を分かち合ったり、悲しい時に慰めあえるような、そんな相手がいなかったんだ。それも、所属していたプロダクションは、ひどい悪徳会社だったらしい」

社長「まさか‥‥」

律子「社長? どうしたんですか?」

社長「私がまだ765プロを興す前の話だ‥‥業界内に、とんでもない男がいるという話が出回ってね」

P「と、言うと?」

社長「詳しく説明するのも憚られるんだが‥‥あの黒井でさえ嫌悪していた、と言えば伝わるかね?」

律子「‥‥なんとなくは」

社長「最終的には、それまでの稼ぎやアイドルの活動資金を持ち逃げし、会社は無くなってしまったと聞いていたが‥‥ひょっとすると」

ぬ~べ~「ええ。その事務所に在籍していたのが、この子だったんです」

社長「なんという事だ‥‥」

ぬ~べ~「その日は丁度、オーディションの合否発表の日だった。残念ながら不合格だったこの子が落胆しながら会社に戻ると、そこは既にもぬけの殻。絶望の中で立ち尽くしていたこの子は、ハンドルミスで突っ込んでくる車に気付かず‥‥」

千早「そんな‥‥」

美希「ひどすぎるの‥‥」

ぬ~べ~「霊となってしまったこの子の恨みと、春香君の中にあった、小さな嫉妬。それが共鳴した事で、さっきみたいな事態になってしまったんだな。本人に悪気はなかったようなんだが」

春香「‥‥もしも、私の入ったのが、765プロじゃなかったら‥‥みんなやプロデューサーさん。高木社長に出会わなかったら‥‥」

千早「そうね‥‥もしかしたら、私達も、同じようになっていたのかも知れない」

美希「あんまりなの! この子だってミキ達と同じ様に、キラキラしたいって思ってた筈なのに‥‥」

春香「先生‥‥私達に、何か出来る事はないんですか?」

ぬ~べ~「春香君‥‥可哀想だが、こうまで念が凝り固まってしまっていては、強制的に成仏させる以外に方法は‥‥」

春香「そんな‥‥あ! もしかして‥‥」

美希「春香?」

春香「私ね、なんとなく思ったの。この子がここに留まり続けていた理由は、恨みじゃないんだって」

千早「え?」

春香「私の考えが正解かはわからないけど‥‥」

千早「‥‥私は手伝うわ。何をするのかはわからないけれど」

美希「ミキも春香に乗る。リーダーを信じてみるの」

春香「2人共、ありがとう‥‥それじゃあ」

霊『‥‥‥‥』

春香「‥‥空見上げ、手をつなごう」

千早「う、歌?‥‥この空は輝いてる」

美希「この曲って‥‥世界中の手を取り」

霊『‥‥‥‥!』

春香「ねえ、この世界で」

千早「ねえ、いくつの出会い」

美希「どれだけの人が笑っているの?」

真「みんな! 僕達も一緒に!」

あずさ「そうねぇ。やっぱりこの歌は、みんなで歌わないと」

響「2人は大丈夫か?」

雪歩「こ、怖くないって言ったら嘘になるけど‥‥」

貴音「歌で気持ちを届けるのが私達の本懐。ここで果たさず、いつ果たすと言うのですか?」

律子「ちょっとみんな! 危険じゃ‥‥はあ。ここまで来たら、止められないか‥‥この際、音楽も流しましょう! お願いします!」

P「え? あ、ああ! わかった!」


ひとりでは出来ない事


仲間となら出来る事


乗り越えられるのは Unity is strength


空見上げ 手をつなごう


この空はつながってる


世界中の手をとり
The world is all one

The world is all one
Unity mind


春香「あの!」

霊『‥‥‥‥?』

春香「あなたも一緒に歌いましょう!」

霊『!?』

春香「あなたが私から出て行く時、聞こえた気がしたの。「淋しい」って‥‥多分、そっちが本当の理由だったんじゃないかな? 事務所が無くなった事より、騙された事より、仲間がいなかったのが、1番辛かったんじゃないかな?」

霊『あ‥‥あ‥‥』

春香「だから‥‥私達と歌おう! 一緒に!」

霊『ああぁ‥‥』シュウウウ

春香「え‥‥っ!?」

P「鵺野先生! こ、これは?」

ぬ~べ~「そうか‥‥春香君の言う通り、これこそが。仲間と一緒にステージで歌う事が、彼女が生前、夢見ていた光景だったんです」

律子「それじゃあ‥‥」

ぬ~べ~「ああ。彼女は無事に成仏出来たよ。この歌には、経文と同等‥‥いや、それ以上の力があるみたいだ」


春香「よかった‥‥」

ぬ~べ~「しかし、俺もまだまだだな。こんな除霊の仕方があるとは」

春香「みんな、ごめんね。急な思い付きに付き合わせちゃって。それに、さっきの事‥‥私、心の底では、周りを羨んで‥‥最終的に、あんな迷惑を‥‥」

千早「春香‥‥私達こそごめんなさい。私、今の今まで、あなたの気持ちを知らなかった‥‥」

美希「うん‥‥春香はいつも、自分よりミキ達の事を考えてくれてるのにね‥‥でも春香! それは別として、もう二度と、あんな事言っちゃ嫌だからね!」

春香「え?」

美希「春香には何もないとか、ミキ達と同じユニットにいちゃいけないとか‥‥言われる方の気持ちを考えて欲しいの!」

千早「これに関しては美希の言う通りよ。春香。私達は、あなたがいるから、ユニットとしてうまくやっていけてるの」

美希「もし春香が抜けるんなら、ミキも抜けちゃうからね。ミキ達は‥‥なんだっけ。三世一身? とか、そういう仲なの」

千早「それ、三位一体の事かしら? 美希ったら‥‥」

伊織「ちょっとちょっと。何あんた達だけで話を進めてるのよ。私達の事を忘れてない?」

真「そうだよ。ユニットだけじゃなくて、僕達全員、同じ気持ちだよ。ね?」

伊織「わ、私は別に、そんな恥ずかしい事言うつもりは‥‥」

響「自分から話に割り込んでいったくせに」

伊織「うっさいわね!」

ギャーギャーギャー ガヤガヤガヤ

春香「みんな‥‥」

ぬ~べ~「いい友達をもったな」

春香「‥‥はい!」

律子「何はともあれ、これで問題は無事に解決‥‥あら? な、何!? 地震!?」

P「大きいぞ!」

ぬ~べ~「‥‥どうもおかしいと思っていたんだ。霊道でもないのに、あれだけの数の霊が集まっていたんだからな。その上、春香君とさっきの霊の感情の波長がたまたま一致する‥‥偶然にしては出来すぎだ」

春香「せ、先生?」


ぬ~べ~「それに例のお札。ちっぽけな自縛霊を封じるには、いささか大袈裟すぎる。だが、これではっきりしたぞ!」

真「あ! か、壁が割れて‥‥」

あずさ「え? あ、あれは‥‥?」

律子「嘘でしょ‥‥」

妖怪『‥‥‥‥』オオオオォォォ‥‥

雪歩「い、いやああああ!」

貴音「な、なんと‥‥あのように恐ろしいものが現実に‥‥」クラッ

ぬ~べ~「こいつは邪魅! 人に危害を加えるために存在しているような妖怪だ!」

亜美「何それ! 超ヤな奴じゃん!」

ぬ~べ~「765プロのアイドル達を狙うため、他の霊を利用してちょっかいをかけていたんだな! 逆髪は、その仕上げだったわけだ!」

妖怪『ギイエエエエエ!』

ぬ~べ~「まずい! みんな、物陰に隠れるんだ!」


ガシャーン バキバキバキ


春香「きゃあ! て、天井が!?」

亜美「ぬ~べ~!」

ぬ~べ~「ぐっ!」

響「まずいぞ! ぬ~べ~、ケガをしてるんだった! このままじゃあ!」

雪歩「そ、それに、あんなに大きくておっかない妖怪‥‥どうやって‥‥」

邪魅『ギギギ!』

ぬ~べ~「この力‥‥そうか! さっきの女の子が巻き込まれた事故! それも貴様の仕業だな!?」

春香「え!?」

ぬ~べ~「邪魅は、人からひどく恨まれている人間に憑依する事があるという。恐らく例の悪徳社長に憑いていたこいつに、運悪く狙われてしまったんだろう。その後はこの建物を住処にして次々と騒ぎを起こし、とうとう封印されてしまったってところか」

伊織「なんて奴なの‥‥」

P「じゃ、じゃあまさか、最近話題の通り魔ってのも‥‥」

ぬ~べ~「封印が解けたのをいい事に、また好き勝手に暴れ始めたんでしょう」

真美「ぬ~べ~! そんな悪い奴、やっつけちゃって!」

律子「無責任な事言わないの! いくら先生でもこんな化け物相手にしたら‥‥」

ぬ~べ~「任せておけ! 君達は、俺が必ず守ってみせる!」ジャラ

社長「き、危険だ! ここは、なんとかみんなでこの場を‥‥」

ぬ~べ~「宇宙天地 与我力量 降伏群魔 迎来曙光‥‥」   

邪魅『ギギーッ!』

真「ダ、ダメだ! あれじゃ避けられないよ!」

ぬ~べ~「吾人左手 所封百鬼 尊我号令 只在此刻‥‥我が左手に封じられし鬼よ! 今こそその力を‥‥示せ!」


ピカッ! ガシャーン


春香「先生ーっ!」


P「春香! 危険だ!」

千早「そんな‥‥」

美希「ぬ~べ~‥‥」

ぬ~べ~「昔‥‥」

春香「!?」

ぬ~べ~「鬼に取り憑かれた1人の生徒を救った事がある」

亜美「ぬ~べ~! よかったぁ!」

ぬ~べ~「だが鬼の力は強大で、完全に倒す事は出来なかった」

真美「‥‥え? あ、あれって‥‥?」

ぬ~べ~「仕方なく俺は、鬼を自分の左手に封印した」

P「嘘だろ‥‥特撮じゃあるまいし‥‥」

ぬ~べ~「それ以降も、俺は生徒を守るために、悪霊や妖怪と戦ってきた。霊的な存在に対して物理的な攻撃が出来る‥‥」

邪魅『ギギ‥‥』

ぬ~べ~「この、鬼の手で!」

邪魅『ギギギーッ!』

春香「あ、危ない!」

ぬ~べ~「お前のような奴に、この子達を傷つけさせはしない!」

邪魅『ギーーッ!』

ぬ~べ~「邪魅よ! 無に還れ!」

邪魅『ギャアアアアァァ‥‥‥‥

ぬ~べ~「ふう‥‥」

亜美「ぬ~べ~!」

真美「何あれ何あれ! 超強いじゃん!」

伊織「やるじゃないの!」

ぬ~べ~「な、なんだ? 君達、鬼の手が怖くないのか?」

雪歩「こ、怖くなんてありません!」

貴音「鵺野殿のその左手に、私達は救われたのです。何を恐れる必要がありましょう」

ぬ~べ~「はは‥‥アイドルってのは、肝が据わってるんだなぁ」

春香「あ、あの! なんだか色々あって、まだ言えてなかったんですけど‥‥ありがとうございました!」

美希「ミキ達からもお礼を言うの」

千早「春香を助けて頂いて、ありがとうございます」

ぬ~べ~「いや~、はっはっは」

社長「私からも言わせて貰おう。アイドル達を守ってくれて、感謝しても、し切れないよ」

ぬ~べ~「いえ。むしろ、俺の方がお礼を言いたいですよ」

社長「なぜかね?」

ぬ~べ~「霊現象の事になると、頭ごなしに否定する大人が多いですからね。そういう場合、もっと面倒な事になるもんなんですよ」


社長「ふむ。たしかに、私も最初から全面的に信じていたわけではなかったがね」

律子「そうなんですか? じゃあ、どうしてあんなにあっさり除霊の依頼を?」

社長「アイドル達がのびのびと楽しく活動出来る環境を作る事。そして、何かが起こった時には安全を保障するのが、私に出来る、数少ない仕事だからね」

P「社長‥‥」

社長「あの子は、私達、業界人の被害者だったんだ‥‥そのような子を、1人でも減らせればよいのだが」

律子「あの子? ああ、さっきの‥‥」

春香「私達は、きっと大丈夫だと思います」

社長「天海君‥‥」

千早「春香の言う通りです。少なくとも、765プロにいる限りは」

美希「ミキ達には、仲間も、支えてくれる人もいるんだもん。何があっても、へっちゃらなの」

伊織「そういえば、話に出てきた極悪人。その後どうなったのかしらね」

社長「しばらくは何かしらの事業を続けていたらしいが、すぐに話題にならなくなったよ。聞いたところでは、既に亡くなっているという噂もあるが‥‥」

ぬ~べ~「何にせよ、悪人の末路なんていうのは悲惨なものさ」





黒井「くそっ、765プロのおかげで酷い目にあった」

社員「仰るとおりです」

黒井「‥‥しかしまあ、気味が悪いし、しばらくは連中を泳がせておくのも悪くはないな」

社員「たしかに‥‥」

黒井「‥‥うん? なんだ、野良犬か」

社員「可哀想に。無責任な飼い主もいるもんですね」

黒井「まったくだ。捨てるくらいなら最初から‥‥う、うわ! なんだこいつは!?」

社員「き、気持ちわりぃ‥‥」

黒井「ん!? ま、待てよ? この顔、見覚えがあるぞ‥‥たしか‥‥」




数ヵ月後

春香「みなさーん! 劇場の初ライブ、楽しんでますかー!?」

美希「今他のみんなが準備してるとこだから、少しの間トークに付き合って欲しいの!」

春香「み、美希! 準備中とかそういう事は、わざわざ言わなくていいから!」

千早「まったく‥‥そんな事より、言っておかなきゃならない事があるでしょう?」

春香「あ、そうだった! ええと‥‥雑誌とかにも載ってないと思うんですけど、私達は何ヶ月か前、不思議な事件に遭遇しました」

美希「不思議で、怖くて、悲しくて‥‥なんだか、一言じゃ表せないカンジだったの!」

千早「それは、世の中の常識を遥かに超えていて、私達だけではどうしようもないものでした」

春香「そんな時、ある人が‥‥多分、この客席のどこかにいると思うんですけど。助けてくれたんです」

美希「ちょっとかっこよかったの! あ、別に恋人にしたいとか、そういうんではないから安心していいよ? 流石に遠慮しとくの」

千早「この世界には、怖い事、嫌な事、辛い事‥‥色々な風が吹いています」

春香「もちろん、どんな風にも負けず、自分で何とか出来る人は凄いと思います! でも、その人を見て、思ったんです」

美希「本当に強い人、かっこいい人っていうのは、自分の周りにいる弱い人を、守ってあげられる人なんじゃないかなって!」

千早「私達にはその人のように凄い力は無いけれど、少しでも誰かの力になれれば‥‥そう思います」

美希「あ! 準備が出来たみたいなの!」

春香「それでは聞いてください! 765プロオールスターズがお送りする次の曲は‥‥」




おわり

ぬ~べ~復活と聞いて、ほったらかしてあった書きかけの文章をサルベージ

お経がアニメ版なのは、小さい頃にやってたゲームの影響だと思う。映画版とOVAくらいしか見た記憶ないし

ありがとうございました

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