「お帰りなさい、プロデューサーさん!」 (20)


劇場版アイドルマスターのネタバレが含まれています。

またご覧になっておられない方、ネタバレが嫌な方はそっとお閉じくださるかブラウザバックを推奨します。


それでは次から投下していきます。

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「プロデューサーさん!」

リボンがトレードマークの少女がゲートへと向かう背中に声をかける。

「離れていても、私達765プロの心は1つ。そうですよね!?」

少女の問いかけに、当たり前だろと前置きをしてから

「どこにいても、俺はお前達のプロデューサーだからな!」


笑顔でそう返したプロデューサーさんを、私達も笑顔で見送った。
去っていく背中を見送る、ただそれだけなのに、想いが止めどなく瞳から溢れ出て。

本当は言いたかった。

行かないで。

言えなかったその一言は消化されず、ずっと胸の内で渦巻いていた。
今も。


ゲートの向こうに消えていく彼は、最後まで振り向くことはなかった。
でもそれが今は寂しくもあり、ありがたくもある。
笑顔で送り出そうと決めたのに、こんな泣き顔している所を彼に見られずに済んだのだから。

後ろ姿が見えなくなると、張り詰めていた糸が切れたようにその場にしゃがみこんでしまった。
あとからあとから溢れ出る想いを止めることが出来ず、肩を震わせる。
声を圧し殺してそうしていると、髪を右に纏めたサイドテールの少女に声をかけられた。


「ピヨちゃん、泣いてるの?」

その問いかけに返事を返すだけの余裕は今の私にはなかった。
普段快活な少女の声も、今はどことなくトーンが低い。

一回り以上歳の離れた子に心配をかけてしまっている。
濡れた顔を上げると、私とは対照的に皆は寂しさを浮かべつつもどこか晴れやかな表情をしていた。

あぁ……。皆はしっかりと受け止めて、前向きに送り出したんだ。
私なんかよりこの子達は何倍も強かった。
ダメだなぁ、私。




―――――――――――――――――――――――





朝、事務所に一番に来て鍵を開ける。
私の一日で、最初の仕事。

着替えて、準備をしているとドアが開いてプロデューサーさんが入ってくる。
その彼に向かって

「おはようございます、プロデューサーさん」

と、声をかける。
私の一日で、二つ目の仕事。


今日も最初の仕事を終え、準備をしていると扉が開いた。
反射的に振り向き、出社した人物に声をかける。

「おはようございます……律子さん」

言い終わると、自分の頬に雫が伝っている事に気が付いた。


すごく失礼な事をしているのに、765プロのもう一人のプロデューサーさんはただ黙って胸を貸してくれた。
堰を切ったように嗚咽を漏らす私を、そっと包んでくれる。

「皆が来るまでなら、こうしていますから」

どれだけそうしていたのか、ようやく落ち着いた私に彼女は優しい声でそう言ってくれた。
その言葉に、私の目頭はまた、熱くなる。


「私でよければ話くらい、聞きますよ」

自分だって寂しいはずなのに、悲しいはずなのに。
こうして私を支えてくれる。
彼女もまたあの子達と同じく。
いや、ともすれば同僚として、同じ時を共にした時間が長い彼女は誰よりも強かった。


行かないで。

言いたかった、言えなかった言葉。

飲み込んだ想いを、胸の内をさらけ出す。
彼女の優しさに甘えて。

一頻り吐き出して、少しだけスッとした気分なれた。

「小鳥さん」


今まで静かに頷いていた彼女から突然名前を呼ばれ顔を上げる。

「私、決めたことがあるんです」

穏やかな口調で語り始めた彼女を注視する。
その表情は明るかった。

「あの人が帰ってくるまで、皆でこの場所を守ろうって」


決意を秘めた眼差しで私を見据える彼女。

「帰ってきた時に変わらずそこにある事、それがあの人の為に出来る事だって思うから」

言葉尻を震わせながら語る彼女に、迷いは感じられなかった。
強い意思を持った言葉は、私の中に入って来て胸に広がる。

言って、ふわりと微笑んだ彼女は。


「あの人の穴を埋める為に泣いてる暇なんか無いくらい、今日からビシバシコキ使ってあげますからね!」

いたずらっぽくそう言い放ち。
その言葉に、私は微笑みを返すのが精一杯だった。

でも、お陰で私も心が決まりました。



遠く、海を渡って頑張ろうとしている彼を想う。

貴方ならきっと大丈夫だって信じてるから。
だから、寂しいなんて言いません。
いつの日か帰って来たその時。
変わらないこの場所で、この言葉で、貴方を迎えたいから。



「お帰りなさい、プロデューサーさん!」



終わりです。

小鳥さんの「君が選ぶ道」は本当にいい歌です。
劇場版の後を自分なりに考えた結果このお話ができました。

とても短いですが、少しでもお楽しみいただけたら幸いです。
それではお目汚し失礼しました。

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