「ふう、忘れ物はないな……」
自分で確認するようにつぶやき愛車の軽トラを走らせる
数十分ほど走った小高い丘が俺の目的地だ
「また来ましたよ、鈴さん」
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墓参りに来る人のいないために汚れたままの墓を丁寧に磨いて行く
あたりの雑草も抜かなきゃならないのが結構手間だ
しかし来たときとは見違えるように綺麗になった墓石に一息つく
「さてと……」
一旦軽トラへと戻りお供えの品を持ってくる
とは言っても特にかわったものがあるわけでもない
彼女の好きだった花と少しの酒、それとぼたもちだ
「見てくれが悪いのは勘弁してくださいよ?」
男で一つで娘を育ててはいるがだからと言って料理が全て上手に作れるわけではない
特に確固たる目標があるこのぼたもちは……
「少しは貴女の味に近づけましたかね?」
火事で妻と家を亡くし路頭に迷っていた俺を拾ってくれた女性
それが目の前の墓に眠っている女性だ
あまりの出来事に生きる気力を失ってしまっていた
そんな俺を励ましてくれたのも彼女だった
親子ほど歳の離れた彼女からしたら俺は息子のようなものだったのかもしれない
なにせ彼女には血のつながった身内といったものが一人もいなかったのだから……
半ばそれに甘えてしまっていたのだろう
鈴さんに俺、そして娘の綯という奇妙な家族生活はずっと続くと思っていた
しかしそんな生活はある日突然終わりを迎えた
鈴さんが倒れたのだ
病院に担ぎ込まれた貴女の病状を聞いて俺は愕然とした
原因不明で完治の見込みなし
別の医者なら診断もかわるかもしれない
しかし現実はそう甘くなかった
診せる医者診せる医者が同じ診察をくだしたのだ……
それでも俺は貴女の回復を信じていた
毎日毎日来る日も来る日も見舞いに行った
しかし貴女の思いは俺とは違っていたようだった
きっと貴女は自分の死期というものを悟っていたんだろう
自分の資産の管理を全て俺に任せてくれた
だんだん弱っていく貴女
それを見るのがどれほど辛かったか……
そして貴女は亡くなった……
喪主として葬儀などを執り行ったが弔問客はほとんどいなかった
それに不思議と悲しいという感情もわかなかった
置いて枯れた貴女と置いてかれた俺
きっと妻が死んだときもそんな感情だったのだろう……
鈴さんの死後しばらくして遺品の整理をしていてふと目についた
あのおはぎのレシピが……
「一応素晴らしい師匠のレシピ通りのはずなんですがねえ……」
毎年2回
彼岸が近づくと作ってくれたぼたもちとおはぎ
その美味さは今でも鮮明に覚えている
娘の綯は覚えてないかもしれないがな……
それ以来俺も年2回ぼたもちとおはぎを作るようになった
最初は失敗ばかりでとても食えた代物じゃなかったが……
最近では少しは納得のいくものが作れるようになってきた
娘も美味いと言ってくれる
といっても貴女の味には全然届いちゃいませんがね……
「じゃあそろそろ帰りますね」
娘も学校から帰ってくる頃だろう
墓に供えたぼたもちを下げる
カラス共に食わせてやるにはもったいなからな
「じゃあまた来ます」
来たときと同じように軽トラを走らせる
家にたどり着くとちょうど娘も帰って来たところだった
「ただいまー、お父さん」
「おう、おかえり」
「今日のおやつはなに?」
「ぼたもちがあるからちゃんと手を洗ってうがいをしてから食べるんだぞ?」
「うん!」
さて……
たしか上にいるのは8人だったか……
いつも綯も世話になっているしこれくらいしてやってもいいだろう
本当はあまり付き合ってほしくないやつもいるが嬢ちゃんになついてるしな……
まあいいさ
心して食えよ?
鈴さんのバカ息子からバカ息子たちへのぼたもちを……
おわり
以上です
自スレであったネタを書いてみました
小説版の鈴さんとMr.ブラウンのやり取りが好きです
>>1の妄想にお付き合いいただいた方、ありがとうございました
レスくださったみなさんありがとうございました
少しだけ補足?的なものを
今回>>1が参考にしたのはコミック『恩讐のブラウニアンモーション』ではなく小説版の方です
手元にないので正確なタイトルは思い出せませんが『円環連鎖のウロボロス』か『比翼連理のあんだーりん』のどちらかです
その中に実際に過去に鈴羽がその後どのような人生を送ったのかの記述があり、それを参考にしました
なので世界線だけでいうとシュタインズゲート世界線が最も近いものになるのでしょうか?
そこまで深く考えているわけでもないのですいません……
別のスレに書いた妄想をSSにしたのがそもそもこのスレなので……
読んでくださったみなさん、本当にありがとうございました
過去に跳んだ鈴羽の小説と聞くと
アニメ版小説4巻(六分儀のイディオム・上)が思い浮かんだ
鈴羽は世界線による影響が大きいキャラだけど
どの世界線・時代の鈴羽もいいよね
>>28
ご指摘ありがとうございます
たしかに過去に行った後の鈴羽の話は『六分儀のイディオム』でしたね
完全に失念していました……
あの小説は面白かったのと同時に色々な妄想の余地があったのでまた短編にはなると思いますが書いてみたいですね
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