まどか「差別のない世界」(44)
朝
~学校 教室~
ワイワイ
ガヤガヤ
女子A「…なによこれ~」
女子B「え?暁美さんってハーフだったの?」
男子A「…なあ?だから暁美って美人なんだろ」
男子B「いや、嘘だろこれ」
男子C「なあなあ、このざいにち?ってなんなんだ?」
男子B「知るかよ、万年国語2の俺に聞くなっ」
ガララ!
…スタスタ
杏子「おっは~」
さやか「おっはよ~」
さやか「ん?」
杏子「なんだ?なんでみんな黒板の前に集まってんだ?」
ダダダッ
さやか「何してんの~?みんな」
女子A「あ、おはよ、美樹さん、佐倉さん」
女子A「なんか朝からこんな落書きが、黒板に…」
さやか「何これ…」
落書き『2-Aの暁美の親は韓国人である』
落書き『在日はさっさと国に帰れ 在日を許すな』
杏子「なあ、さやか、在日ってなんなんだよ?」
さやか「…ちょ、ちょっとこれって…」
スタスタ…
ガララ
まどか「でね、ほむらちゃん…」
ほむら「うん」
さやか「!!」
バッ!
ケシケシ!
さやか「な、何してんの!あんたも手伝って!」
杏子「え?あ、ああ」
ケシケシ
まどか「あ、みんな、おはよう」
ほむら「おはよう」
さやか「お、おはよう、まどか、ほむら」
まどか「?」
まどか「どうかしたの?さやかちゃん」
さやか「ん?んん~、ただちょっと黒板に落書きして遊んでただけ~」
まどか「そうなんだ、相変わらずだね、さやかちゃんは~」
ほむら「……」
杏子「……」
____________
先生「…それでは、朝礼を終わります」
日直「起立!礼!」
日直「着席!」
ガヤガヤ…
ワイワイ
スタスタ
さやか「あ、あの、先生…実は話したいことが…」
先生「?」
その後
空き教室
………………
先生「本当?本当なの!それ!美樹さん」
さやか「…本当です」
先生「そ、そんなことが…!」
さやか「で、でも、クラスのみんなもそれが知れたところで別に何も…」
先生「…そういう問題じゃないのよ、美樹さん」
さやか「え?」
先生「この問題はね、そんな簡単な問題じゃないのよ…」
さやか「……」
先生「もしも書いた人がうちのクラスにいるなら、それが一番信じられないわ」
先生「先生も今まで、いじめとか結構ひどいのみてきたけど、今回の”それ”が」
先生「もし本当だとしたら、それは陰湿過ぎる…本当に…」
先生「そんな人が私のクラスにいると思うだけで…私…私は!」
さやか「…せ、先生…」
さやか「あ、あの…どうして韓国人とかいけないんですか?何か悪いんですか?」
先生「え?」
さやか「だ、だって、別にほむらがの親が韓国人だったのが本当だったとしても」
さやか「それは、ただあいつがハーフってだけで、何も別に…」
先生「……」
先生(そうよね、この子たちはまだ何も知らないのよね…知らなくて当然よね…)
先生(知らないほうがいい、知ってしまえば、こんなにも純粋なこの子たちも…)
先生「美樹さん」
さやか「…はい」
先生「あなたのその気持ち、絶対に忘れちゃダメよ」
______
ほむら「……」
ほむら(まどかが、円環の力を取り戻そうとしてから数日後)
ほむら(私は毎日のように、まどかを見張っていた)
ほむら(少し異常かもしれないけど、これも全てはあなたのためよ)
ジロジロ
ザワザワ…
ほむら(今日はやけに教室が騒がしいわ…しかも、聞こえるのは私の話題ばかり)
ほむら(何があったのかは、詳しくは知らないけれど、まあ、こういうのもたまには悪くないわね)
翌日
教室
ほむら「…こういうことね」
ほむら(何かあると思って、教室に最初に来たつもりだったけれど)
ほむら(どうやら先客がいたようね…)
ほむら(私にこんなことをして、相手は一体何が目的なのかしら…)
ほむら(考えるのも下らないくらい頭が弱いんでしょうね、こんなことを書くような人だから)
…ガララー
??「あ…」
ほむら(しまった…)
まどか「ほ、ほむらちゃん、おはよう…今日は早いんだね」
ほむら「おはよう、まどか」
まどか「あ、あの…こ、これ…」
ほむら「誰かのいたずらよ、気にしてないわ…」
ほむら「一体何を考えているのかしらね、書いた人は…」
まどか「こ、こんなの酷いよっ、早く消さなきゃ…」
バッ
ケシケシ…
ほむら「……」
まどか「ど、どうして…」
ほむら「え」
まどか「どうして、ほむらちゃんは何も思わないの…?」
ほむら「」
まどか「こんなこと書かれて、平気でいられるの…?」
ほむら「そうね、別に…私は何とも思わないわ…」
ほむら「私の両親は父も母も韓国人じゃないし…嘘を書かれてもね」
まどか「そ、そっか…」
ほむら「まどか、あなたは本当に優しいのね」
まどか「そんなことないよ…」
ほむら「……」
まどか「…どうして、こんなことする人がいるんだろうね」
ほむら「考えるのすら下らないわ、やめなさい、深く考えるのは」
まどか「う、うん…」
ほむら「さあ、もうすぐみんなが来るわ、日直の準備、しておきましょ」
ほむら(見られてはいけなかった…あの子が見てしまえば)
ほむら(円環の理の力を取り戻すきっかけになるかも知れない…)
ほむら(だから、深く考えさせるのはやめさせなきゃいけなかった)
ほむら(でも、止める方法を私は他に知らなかった…)
ほむら(あの子がこの世界にある、”闇”を知ってしまえば)
ほむら(また自らの存在を犠牲にして……)
ほむら(それだけは、もう二度とさせない)
~翌日 朝~
教室
先生「…遅かった」
先生(犯人を突き止めるために早く来たのに…)
教頭「ん?誰かいるのか?」
ガララー
教頭「あ、早乙女先生でしたか、おはようございます」
先生「あ…教頭先生…」
教頭「!」
教頭「な…!」
教頭「早乙女先生!この落書きは一体なんですか!?」
先生「これは…」
その後
~校長室~
校長「…早乙女先生、これはどういうことですか?」
教頭「……」
先生「実は…私もつい先日、生徒から聞いて、今朝それを確かめるために…」
……………………
教頭「校長!これは由々しき事態ですぞ!」
校長「……」
教頭「もし保護者にでも発覚してしまったら、どう責任を取られるおつもりですか!」
教頭「早乙女先生!」
先生「す、すいませんっ、すいません!」
先生「しかし、私も…こんなこと初めてで、どうすればいいのか…」
先生「それにこんなことを平気でするような生徒が私のクラスにいるのかと思うと…!」
教頭「起こってしまったことは仕方ありませんぞ、それを嘆くよりも今は…」
校長「…教頭先生、まあ、そう早乙女先生を責めなくても…」
教頭「……」
校長「早乙女先生の気持ちも汲んであげなさい…」
教頭「は、はあ…」
校長「早乙女先生、とりあえず近日中に全校集会を行いましょう」
~翌日~
教室
放送「これより緊急集会を始めます、生徒はすぐに体育館に集合してください」
先生「さ、みなさん、放送にしたがってください」
ザワザワ…
キャイキャイ
ほむら「……」
昼休み
~屋上~
マミ「…いじめかしらね」
杏子「まあ、そうだろうな、じゃなきゃ、いきなりあんな集会なんてするかよ」
さやか「……別に名乗りでろとは言わないけどさ」
さやか「早くやめればいいのにっ」
杏子「はっ!ま、アタシなら、その犯人ぶっ潰してやるけどな!」
マミ「佐倉さん…」
まどか「…ダメだよ、杏子ちゃん」
まどか「それじゃ、いじめしてる人たちと同じだよ…」
杏子「っ…けどよ…!」
マミ「鹿目さんの言う通りだわ」
マミ「…実はね、あなたたちには話したことなかったけど…」
マミ「私も昔ね、いじめられてたことがあったの」
さやか「え!?マミさんがですか!?」
杏子「ホントか!?」
まどか「…マミさん」
マミ「当時ね、クラスの女の子とちょっと揉めてね…それで私が標的?ってのにされちゃって…」
さやか「…大丈夫だったんですか?」
マミ「うん…と言いたいところだけど、家族も亡くしたばかりの私にはとても辛かったわ」
マミ「ああいうのって、体験した人にしかわからないものなのよ」
杏子「…おい、マミ、そいつらの名前教えろ、今すぐアタシがぶっ潰してやる」
マミ「も、もういいのよ、佐倉さん、終わったことだから…」
マミ「でもね、それも標的が、私から他の人に変わっただけだった…」
マミ「いじめてた子たちがいじめをやめてくれることはなかったの…」
さやか「…そうなんですか」
まどか「……」
マミ「いじめる人も、いじめを見て見ぬふりする人も、全てが悪いと言うのは酷な話だと私も思うわ…」
マミ「私だって、いじめられなくなってからは見て見ぬふりをしていた立場の人間だったんですもの…」
マミ「でもね、だからこそ私は思うの…」
マミ「どうしてか、人は歪むのよ」
マミ「どこかで誰かを自分よりも下に見て、蔑まないと生きていけないの」
マミ「…世界から戦争やクラスのいじめがなくならないのも、私は仕方ないことだって、最近思い始めたわ…」
まどか「そ、そんなのっておかしいですよ!」
さや杏「まどか…」
マミ「鹿目さん…」
まどか「だ、だって…どうしてそんな風になっちゃうんですかっ」
まどか「クラスのみんなだって、世界中の人たちだって」
まどか「私たちみたいに仲良くなることってできないんですかっ」
まどか「…私たちはこんなに仲良くしてるのに」
まどか「どうして…」
~放課後~
帰り道
スタスタ
まどか「ねえ、ほむらちゃん」
ほむら「ん?」
まどか「この世界って理不尽だと思わない?」
ほむら「え…」
まどか「だってさ、私たちはおいしいもの食べて、友達に囲まれて」
まどか「毎日なに不自由ない暮らしを送ってるけど…世界のどこかでは」
まどか「戦争で死んでいく人や、食べ物さえ困って、飢えで死んでいく人たちがいるんだよね…」
ほむら「…まどか、あなた…!」
まどか「なんだか、よくわからないの…私」
まどか「ほむらちゃんのこと黒板に書いた人やマミさんをいじめてた人の気持ちもそうなんだけど…」
まどか「だって、ほむらちゃんの親が本当に韓国の人だったとしても、別になんとも思わないよ?私」
まどか「何か悪いことをしたわけじゃないし、ほむらちゃんが本当はとっても優しくて、いい人だって」
まどか「私は知ってるから」
ほむら「……」
まどか「多分、さやかちゃん、マミさん、杏子ちゃんとなぎさちゃん、仁美ちゃんにクラスのみんなだって、そうだと思うよ」
ほむら「まどか…」
まどか「…だからね、私思うんだ」
まどか「どうして、私たちはこんなにもわかりあえてるのに…」
まどか「ほかの人たちは、どうしてわかりあえないんだろう…って」
ほむら「……」
まどか「ねえ、ほむらちゃん…私たちが幸せなら、それでもいいのかな」
まどか「私たちが笑えてれば、この地球の裏側で誰かが泣いててもいいのかな…」
ほむら「…そ、それは…」
まどか「ねえ、ほむらちゃんはどう思う…?」
ほむら「…もう」
ほむら「…も、もう、やめて…まどかっ…!」
ダキッ!
まどか「えっ」
まどか「ほ、ほむらちゃん!?」
ほむら「…それ以上はもういいの!あなたは別に悪くない…!」
ほむら「どんなに、どんなに…!この世界が荒んでいても!あなただけは…!」
まどか「……」
まどか「ご、ごめんね、ほむらちゃん、私なんだか一人で変なこと考えてた…」
ほむら「あなたは…!あなたは、優しすぎる!」
まどか「ううん…違うよ、ほむらちゃん…」
まどか「私は優しいわけじゃないよ…弱いだけ」
まどか「みんな、多分私と同じようなこと考えたことあるんだと思う」
まどか「…でも、みんなはそれを知ってても、割り切れる”大人”なんだよね」
まどか「私はまだそんなことを割り切れないんだよ…弱いんだ」
ほむら「まどか、あなたのその優しさが、私を…私をどれだけ…!」
まどか「…ごめん、ほむらちゃん」
まどか「やっぱり、私…」
ほむら「私ね、まどか…あなたのために全てを捨てて、今こうしてるんだよ…」
まどか「えっ」
ほむら「ごめんね、わけわかんないよね、でもこれだけは本当のこと」
ほむら「あなたの本当の気持ちを知って、私は自分が間違っていたことに気付いたの」
ほむら「だから、私は…あなたをもう二度と失いたくない…!」
ほむら「そのために私は…!」
まどか「…ほむらちゃん」
~翌日 朝~
教室
ほむら「……」
ほむら(落書きはもう消えていた)
ほむら(それは、誰が書いたものなのか…もう消してあったのか)
ほむら(そんなことはどうでも良かった)
ほむら(まどか…あなたの純粋な気持ち…)
ほむら(その気持ちに私は何度も傷つき、何度も折れそうになった)
ほむら(でも、あなたにその気持ちがなければ、私は今みたいになれなかった)
ほむら(この世界は理不尽で、今日も世界のどこかでは誰かが泣いている)
ほむら(それは、私の意志や力でもどうにもならない問題…)
ほむら(私たちが幸せなら、それでいい…)
ほむら(間違いじゃないかもしれないけど、まどかはそれを赦さない)
ほむら(大丈夫、大丈夫よ…まどか)
ほむら(あなたはこの世界の闇なんて知らなくていい)
ほむら(私があなたを守るから、あなたを幸せをする世界を創るから)
このSSまとめへのコメント
ほんとね、理不尽で、不条理だ
わけがわからないよ