上条「だから俺は……強くなるって決めたんだ」(1000)



※原作設定を甚だしく崩しております

※カップリングは特にありません

※たまにグロいシーンがございます

※脳内変換、ご都合主義よろしくです


前スレ↓
【上条浜面】とある四人の暗部組織【一方垣根】
【上条浜面】とある四人の暗部組織【一方垣根】2

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1373473753



投下しまーす




言葉にできなかった。
何を言えばいいのかも判らなかった。

この男には本当に適わないと実感する。
口振りから『猟犬部隊』の事を感付いてると言ってもいい。

ドコまで知ってるのだろう。
この手で人を殺めたのも既に周知済みなのか。
警備員見られたから、今頃指名手配の紙が出回ってもオカシくはない。



上条「ってか、電話出なかったろ? 捜すのに手間かかったじゃねえか」



呆れたように、けど笑みを浮かべているのは『優しさ』だった。
……不思議と嫌ではなかった。

でも、違和感を感じざるをえなかった。
今の自分に『優しさ』を向けられる資格はあるのか?
この際、罵倒してもらう方が楽かもしれない。
木原数多なら容赦なく暴力化した言葉をブツケてくるので、受け入れやすいのだ。




上条「何を迷ってんだ?」




―――思考が払拭される。

―――妨げとなる部分が取り除かれる。




上条「迷ってるヒマはねえぞ。今どんな立場だろうと、お前は前へ進むことだけを選んでいけばいい」

一方「……あァ。その通りだ」



核心を突かれた訳じゃない。
諭された訳でもない。

ただ、見失っていた『道』を元の位置に戻すことができた。

前に進めばいい。
ひたすら突き進めばいい。
資格がない何てどうだっていい。
怪物がどうこうとか気にする事はない。

後は“終わってから”、考えればいい。




「本当にいたよ……」



上条とは反対側から声がした。
馴染みのある声だ。
仲間と呼べる存在の声だった。

一方通行は振り返る。
いつもと変わらない姿の浜面仕上があった。

分かれてから一日も経たないまま、彼らはこうして邂逅する。



浜面「あれ? なぁ一方通行、杖はどうしたんだ?」

一方「捨てた。邪魔にしかなンねェからな」

浜面「……にしても」



浜面はショットガンを眺める。
言いたい事はそれだけで判った。

だから、一方通行は浜面が続きを言うより先に述べる。



一方「一応杖代わりだ。今までこンなもン使ったことねェから、勝手は悪ィがな」

浜面「他の用途は?」

一方「仕様通り」

浜面「……なんつーか、珍しいな。アンタが武器を使うなんてよ」




上条だけは不敵な笑みを浮かべていた。
意図は読めない。
浜面と同様に意外だと感じてるのか、それとも面白いと感じてるのか。
どちらにせよ彼の事だ、マイナスではないはず。



上条「一方通行、バッテリーは後どれくらいある?」

一方「四分もねェな。残りは木原に使いたい」

上条「ってことは指示する部下の連中には使えない、と」



ガリガリと頭を掻いた。
思考を巡らせているのだ。
彼の脳内で、あらゆる可能性とシチュエーションが広げられている。

『思考展開』。

浜面と一方通行と垣根は、そう呼ぶ。
これにより、何度も仕事の際は細心の注意と共に確実に成功を収めてきた。



上条「そろそろ、ですかね」

一方「……なにがだ?」

上条「反射を外せ」



浜面は、その言葉に目を丸くさせた。
『反射』は一方通行の最大の防御であり、最大の攻撃でもある技だ。
それをわざわざ捨てる……?




上条「鎧を取れ。そしてその分の演算を他に使うんだ」

一方「……」

上条「何に使えとかは言わない。んな甘えに頼ってるようじゃあ“あの人”には勝てないからな」

一方「要は自力で活路を見出せってか?」

上条「その通りですねー。防御を捨てて、感じ取りな。そうしたら、また一皮剥けるぜ?」



ひとしきり話すと、彼は一息つく。



上条「……正直、お前と“あの人”が接触する前に言っておきたかった。少しでも事態は最小限に抑えれたかもしれないのに」

一方「過ぎたことを言っても仕方がねェ。今はヤツの居所を探るのが優先だ」

上条「もちろん。だが、余りそれは心配要らなかったりするんですなーこれが」



そう言うと、おもむろに携帯を操作しだした。
他二人は不思議そうに見続けていると、一方通行のズボンのポケットからバイブ音がなる。

携帯だった。
一方通行は携帯を取り出し、開いて画面を見る。
するとそこには地図と思わしき図形と、赤い印、青い印が表示されていた。


横から覗いていた浜面が尋ねる。



浜面「……これは?」

上条「簡単なGPSと思ってもらえばいい」



トントン、と携帯を指で叩き、



上条「赤い方は打ち止めのいる所」

一方「!!」



今度こそ、一方通行は耳を疑った。

横の浜面でさえ驚いていた。
会話の流れと言葉の節々から、きっと“あの人”とは『木原数多』なのだろう。
木原数多の目的は判らないけど打ち止めか00001号かな? と憶測はしていたのだ。

その打ち止めの居場所を上条は知っていると言う。



上条「誤解を招くと面倒だから先に言っとくけど、上条さんは決してロリコンではありませんよ?」

浜面「そっち!? この状況でそういう捉え方は流石にねえよ!!」

上条「え、そう? 土御門とかはからかいネタとして食い付きそうだから、予防線を張ろうと思ってさ」

一方「どォいう経緯だ?」

上条「元々、打ち止めが全部教えてくれてたんだよ。場所もな。まあ、着いた頃には既にいなかったけど」

一方「……」




恐ろしい、と一方通行は純粋に感じた。
上条に対してそう感じたのではない。

この『繋がり』に恐怖を抱いたのだ。

あの時の願い(想い)は少女に託されて、この少年に届いたのか。
そう、すべては『繋がっていた』と。

何もかも上手くいき過ぎている。
こういった場合、彼の経験上、“何かの前触れ”ではないかと不安がよぎるのだ。



上条「頭を撫でるついでに発信機を仕掛けさせてもらったんだよ。あ、青い方は現在位置な」

浜面「……」

一方「……」

上条「おい! なんだその“やっぱり疑惑あるかも”的な目は! 上条さんはお姉さん派なんですぅぅぅぅぅぅぅぅッッ!!!!」

浜面「理想だろ? 現実を見ようぜ」

上条「やめろよ俺だけは解ってやるからみたいな雰囲気出すの!!」

一方「この際どっちでもいいからよォ、さっさと進めてくれ」

上条「どっちでも良くなーいッ!!」





―――その時だった。

―――彼らの視界が凄まじい閃光に塗り潰された。




とっさに三人は身構える。
敵の強襲かと思って警戒したのだ。
しかし、そんな状況を掴めないでいる三人を余所に、落雷のように一歩遅れて音と衝撃が襲いかかる。



『―――ッ!!』



三人が歯噛みする。
思いがけない攻撃に今は耐えるしかなかった。

しばらくしてから、三人は顔を合わせる。
それが合図かのように一斉に路地裏から表通りへの道に駆け出した。



一方「木原の野郎か!!」

上条「いや、だったら確実に命を取りにくるはずだ! そうじゃないにしても、身動きが不能なぐらいはある!!」

浜面「そもそも今のって『能力』じゃねえだろ!? 『能力』なら大将の右手で掻き消される!!」

上条「ともかく今のが歴とした攻撃なら、俺達に向けられた物じゃない! つまり、アレは余波だ!」



そうした会話を交わしながら、三人は表通りに飛び出し……目視する。



一方「……!」

浜面「な、なんだよ、ありゃあ……」

上条「……」





―――――――――――――――




―――虚数学区・五行機関が部分的な展開を開始。

―――該当座標は学園都市、第七学区のほぼ中央地点。

―――理論モデル『風斬氷華』をベースに、追加モジュールを上書き。

―――理論モデル、内外ともに変貌を確認。

―――妹達を統御する上位個体『最終信号』は追加命令文を認証。

―――ミサカネットワークを強制操作する事により、学園都市の全AIM拡散力場の方向性を人為的に誘導する事に成功。

―――第一段階は完了。

―――物理ルールの変更を確認。



―――これより、学園都市に『ヒューズ=カザキリ』が出現します。



―――関係各位は不意の衝撃に備えて下さい。




―――――――――――――――





道に並ぶ街灯も、ビルの電灯も点いていない学園都市は真っ暗だった。
この晩に関しては、『光』が乏しい街に陥っていた。

そんな夜の街に“それ”は顕現する。

第七学区を中心に莫大な『光』が溢れ出す。
瞬間、光の中心点から無数の翼のようなものが吹き荒れた。
まるで刃のように鋭い、数十の羽。
一本一本の長さは異なり、短いものから長いものまで。
建物を巻き込んで伸びていく羽は、天に逆らうように広がっていた。



浜面「武器なんて類に収まれないだろ……ッ! 学園都市はあんなもんを使ってなにをする気だ!?」

一方「どォする?」

上条「…………」



困惑が生まれる中、上条当麻は光を見据える。
ヴェントという襲撃者や木原数多の猟犬部隊が蠢くさなかで現れた、更なる猛威の存在。
もし、アレが学園都市が生み出したもので、ヴェントを排除するためにあるのだとしたら。

彼女は必ず、潰しに来るはずだ。




上条「俺はあそこに行く。浜面! 電話で話した通り、インデックスはまだ外にいるはずだから、家に届けて―――」



その時だった。



「離して! 私はあそこに行って、ひょうかを助けるんだよ!!」

「なに言ってんのよ!? 今あんな所に行ったら、アンタ巻き込まれるわよ!」



とても聞き覚えのある二つの声が、三人の耳に届いた。
振り返ると、そんな離れてもいない所に見覚えしかない三人組の女の子がいた。

まだ揉め合う御坂美琴にインデックス、更に二人の様子を眺める木原円周。
何とも異質な組み合わせだった。
話の流れから察するに、どうやらインデックスはあの『光』に心当たりがあるらしい。
向かう途中で美琴と円周に出くわした、という形だろう。



円周「あ、当麻お兄ちゃん」



その一言で、二人の言い合いは見事に止まった。





―――――――――――――――




バタバタという足音が、表通りから聞こえる。
猟犬部隊のものだ。おそらく、自分達を捜しているのだろう。

上条達は再び、裏路地へと身を潜めていた。……合計六人で。
狭い裏路地に対し、人間が六人も集まるのは非常に比率が悪い。
ハッキリ言って窮屈である。

かと言って表に出てしまえば、猟犬部隊に狙われるので仕方ないのだ。
ただでさえ気の短い一方通行がいるのに、更に御坂美琴まで参戦させてしまうとややこしい事この上ない。

猟犬部隊の連中はあちこちに目を走らせているが、やがて上条達の潜んでいる場所も気付かれるだろう。
しかし、目の前の銀髪のシスターはそんな事気にも留めていなかった。
何やら怯えた瞳でこちらを見上げていた。

彼女は上条の濡れたシャツを掴みながら、告げる。



インデックス「おねがい、とうま。あそこには行かないで。どういう理屈か私にも判らないけど、でもあの『光』はひょうかなんだよ!」



ひょうか、との名前には心当たりがあった。
風斬氷華。AIM拡散力場の集合体。人間の心を持つが、人間の体を持たない者。
そして何より、インデックスや上条の『友達』だった。

インデックス「あれは絶対に止めなくちゃいけない現象なんだけど、でもとうまだけは関わっちゃ駄目! とうまが触ったら、善悪関係なくひょうかが消えちゃ―――」

上条「必殺、拳骨殺し」

インデックス「うみょおっ!?」



ムカついたので、とりあえず頭に拳骨を落としてやった。
技名に他意はない。単なる思い付きである。



インデックス「ひょ、ひょうま……?」

上条「頭に血が上りすぎだ。一旦落ち着け」



舌を噛んだらしく、拙い喋りになっていた。
上条は今ある情報を整理させる。

インデックス曰わく、あの『光』は風斬氷華で間違いないようだ。
学園都市が今になって『打ち止め』を必要とした理由。

……どうも、この二つの事柄は妙に繋がりを感じる。



上条(……インデックスが感付いたって事は、あの『光』の現象に僅かながら“魔術”が関与してる可能性がある)



たとえ憶測だとしても。
たとえ都合の良い考えでも。
たとえ一歩踏み外せば危険を冒す事になっても。



―――上条当麻は賭けてみようと思う。




上条「俺は風斬の下に向かう」

インデックス「とうま!!」

上条「インデックスは『核』を見つけて、風斬を元に戻してやってくれないか?」

インデックス「!」

上条「お前がそこまで敏感に反応してんのは、少なからず“そっち側”が絡んでるからだろ?
   俺にはその知識はない。だからこそ、この役目を託したいんだ」

インデックス「で、でも! とうまがひょうかに触っちゃったら」

上条「触らねえよ。そして」



確かな瞳で、確固たる信念で、彼はインデックスに告げる。



上条「風斬に危害を加えようとする連中にも触れさせはしない」



インデックスは頷く。
己の役目を承諾したと、意味を込めたものだった。

上条は確認すると視線を浜面に走らせた。
何も言わずとも要求は伝わっていた。

しょうがない、と笑みを浮かべ、



浜面「場所の特定は?」

上条「確証はない。けど、上層部の目論見とそれによって動かされてる連中を読むと……おそらく、打ち止めの可能性が高い」

浜面「……ってことは」

上条「既に打ち止めは捕らわれている、と考えて良いな」




一方通行はその事実を耳にしても、一切動じないでいた。
彼の中で、少女が捕まっている事は視野の範囲内かもしれない。



浜面「了解。俺がインデックスをその場所まで届ければいいんだな?」

上条「慎重にな。顔が割れてるかもしれない。……それまでに」

一方「俺が木原と決着をつければいいンだろ」



ビルの壁に預けていた背中を離す。
一方通行が再び第一位として君臨する時がきたのだ。

……そして、完全に取り残された二人は、



美琴「はぁー……」

円周「美琴お姉ちゃん。わざとらしいよ?」

美琴「うるさい。後、その呼び方やめい」



円周に茶化されながら(?)も、我が幼馴染みは何やら疲れたような顔で睨んできた。




美琴「……今日は私に付き合ってくれるって約束だったのに」

上条「う……そ、それはだなぁ」

美琴「まあいいわ。なんだか当麻らしいしね。少しだけ、当麻が私に隠し続けてきた『所』を見えた気がして嬉しいから……」



彼女は表通りを睨むように見据えた。
複数の人間が路地の中まで入ってきた足音が響いたからだ。

それでも美琴は、にぃ、と笑う。




美琴「―――これで帳消しにしてあげるわよッ!!」




止める間もなく、彼女は自信の持つ必殺技を足音の方向へ放っていた。
轟音と閃光が炸裂する。超電磁砲。
音速の三倍で放たれた一撃は、路地の左右の壁を抉り取り、表通りへ突っ込んだ。

突然の奇襲に猟犬部隊が戸惑うさなか、灰色の粉塵の中から―――雷帝、第三位は降臨する。




上条「お、おいッ!!」

美琴「行って! こんな連中、私だけで充分よ!」



悪戯好きな子供のように彼女は笑みを上条に向けて浮かべた。



美琴「いつまでも護ってもらう私じゃないのよ」



更に、一人の少女が上条の前に出る。
お団子を左右に備えた髪型の少女―――木原円周だ。



円周「うん、うん。分かっているよ、当麻お兄ちゃん。当麻お兄ちゃんは行かなきゃいけない所があるんだよね」



ゆっくりと表通りへ歩いていく。
絶賛美琴が戦闘中の場所へと。




円周「本当は一緒に戦いたいけど、仕方ないんだよね。だからせめて、当麻お兄ちゃんが戦いやすくするために『協力』してあげるね」



その時、ブツン! という音が聞こえた。
少女の首から紐で掛けてある携帯電話、小型ワンセグテレビ、携帯端末が一斉に電気が通ったのだ。
小さな画面に現れたのは高速で変化を続けるグラフ群。
一見して意味不明なその正体は、『木原』の思考パターンが記録されたものだ。

その眼球の中で、無数のグラフ群が生き物のように踊り続ける。



円周「アドバイスお願いね、数多おじちゃん」



更なる『木原』という怪物が、戦場へと赴く。

そんな二人の少女に上条は眺めて、一言。



上条「十分持つかな。円周に限っては本気っぽいしさ」

浜面「大将んトコのヒロイン格は勇敢すぎると思うんだ、うん」

一方「オマエがヘタレなだけじゃねェの?」

インデックス「もう!! 三人共!! のんびりと雑談してる場合じゃないんだよ! 時間がないんだよ!!」




それもそうだ、と三人は頷く。






上条「死ぬなよ」

浜面「もちろん」

一方「互いにな」





こうして六人の少年少女は、それぞれの役目を背負い、駆けていった。



投下しゅーりょー

さてさて、このSSも三スレ目に突入しましたね

相も変わらずひっそりとした感じで更新していくので、よろしくお願いします



さてさて、投下しますよっと


39さん、Yes.

46さん、そうですね。当時はモチベーションの問題と多忙に追われてまして

今となっては何やら週刊感覚です




木原「ははっ、スゲーなオイ! ありゃあ一体何なんだ!?」



今は使われなくなったオフィスで、木原は歓声をあげた。
数百メートル先で、あちこちのビルを切り崩しながら大量の『羽』が飛び出した。
この窓からは『羽』しか見えないが、木原は何故か一目で『天使』という言葉が浮かんだ。
科学とは無縁の存在が、科学によって顕現する。その非科学的な事態を、木原は頭から否定しなかった。

むしろ、ついに科学はこの領域にまで足を踏み入れたのかと呆れていた。



木原「ちくしょう、悔しい! 飛んでやがるなぁアレイスターッ!! 理論のりの字も判んねーぞ!?
   見ろよテメェら! 天使なんざ持ち出しやがって、聖書ってのはいつから飛び出す絵本になっちまったんだぁオイ!?」



状況をマトモに追い付かないまま、『猟犬部隊』の部下達は戸惑いながら木原の言葉に従って、誇りの被ったガラス窓から外を見た。
しかしその誰もが、遠くに見える『天使』を捉えていなかった。


















今まさに、空を飛んだ一方通行が窓を蹴り破る直前だったからだ。



ガッシャア!! とガラスが炸裂する。
能力は既に解放されている。
一方通行は真っ先に手前にいた猟犬部隊の一人を蹴り飛ばした。
反対側の壁に激突した一人は、装甲服を粉砕しながら崩れ落ちる。

彼は気にも留めない。
ショットガンの銃口をターゲットに定める。



一方「木ィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥゥン!!」



迷わず引き金に指をかける。

……と、木原は近くにいた自分の部下を前方へ突き飛ばした。
「うわっ」と間抜けな声を漏らした男が、ちょうど木原の盾になる形で躍り出る。
そこへ無数の散弾が襲いかかる。
猟犬部隊の一人が血を撒き散らし、床に転がった。

木原は笑みを浮かべたままだ。




木原「オイオイ、ちゃーんと狙って撃てよぉ? じゃねえとみんなの迷惑だぜぇ!!」



あからさまな挑発を一方通行は無視する。
上条の言葉がある限り、彼は確実に木原を殺すために冷静であれる。

ガキッ、とショットガンを床に突き立てて銃口を自分に向けた。
ためらいなく引き金を足で引く。
しかし呻き声をあげたのは猟犬部隊の方だった。

つまり、散弾の方向を操作したのだ。

頭、胸を中心に着弾する。
急所を捉えた弾は一瞬でその人間の命を刈り取る。
残る猟犬部隊は一人だ。



「ひっ!?」



一方通行に目を向けられた最後の男は、とっさに事務机に横たわっている打ち止めを掴み取る。


人質を盾にすれば攻撃できないと思ったのだろう。
だが、男は気付いていなかった。
その行為を取るという事は、自らの命を賭ける行為に繋がるという事を。



一方「はァ……」



至極つまらなそうな物を見る目で、彼はひとまず溜息を吐いた。

―――それも一瞬である。

次の瞬間には既に男の懐まで潜り込んでいた。
そして躊躇なく、ショットガンで男を薙ぎ払った。
ショットガンが粉砕するほどの威力を誇る一撃は、男を窓の外まで吹き飛ばす。
まだ終わらない。彼はバラバラに砕け散ったショットガンの残骸を一つ、殴りつけた。
ベクトルを制御された残骸は、男の肩の近くに備え付けられた手榴弾を貫く。


空中で人間が爆発した。


手放された打ち止めを抱え、テーブルの上へと優しく置き直す。
それから全ての元凶、木原数多に視線を投げる。
これでヤツを守る護衛部隊は全滅した。
しかし、そちらの方が却って身軽になったとばかりに、木原は嘲笑う。



木原「カッコイーッ!! 一皮剥けやがって、惚れちゃいそーだぜ一方通行!!」

一方「スクラップの時間だぜェ! クッソ野郎がァあああッ!!」



武器は要らない。『反射』も要らない。
この手で、ヤツの体を引き裂いてやる。
ヤツがその手で『妹』を殺したように、自らの手でヤツを葬ってみせる。

能力使用モード、残り時間一分。




―――――――――――――――





見慣れた第七学区の一角だった。
通学路から外れているが、美琴やインデックスを連れて何度か食事に出かけ覚えがある場所だ。

そこにあった風景が、瓦礫の廃墟に変わり果てていた。



上条「……」



思わず眉をひそめる。
天災が起こした爪痕にわざわざ感想は要らないように。
感傷的になれるほど、緩い現実を目の当たりにしたのではない。
実際は言葉も出ないし、呆然と立ち尽くしてしまう。

しかし、



上条「……風斬」



クレーターのように穴の空いた中心点。
そこに彼女はいた。

気弱で泣き虫で、悪党を殴る事にさえためらうような、そんな女の子だ。
服装も、髪型も、以前と変わりない。

だけど―――今、上条当麻が見ている風斬は、そんな彼女からかけ離れていた。

一言で表すなら『天使』。
ミーシャ=クロイツェフとは違う、不自然で歪んでいた。
頭はグラリと垂れ、不気味にふらつく目玉は涙の一滴も流さない。
頭上には、輪が浮かんでいた。
俗に言う天使の輪っかと言った感じだろうか?



上条「……」



彼は歯を食いしばる。
目の前に明らかに正常ではない彼女がいるというのに、何も出来ない自分が歯痒い。
手出しは許されない。右手で触れてしまえば彼女は消えてしまうのだ。

自分の役目は風斬を護ること。
そして、






「おやおや、大罪人同士、キズの嘗め合いでもやってるトコだったかしら」






前方のヴェントを倒すことだ。




上条「来たか」



上条は振り返る。
そこにいたのは黄色いワンピースを身に纏った、顔面ピアスだらけの女。
学園都市の昨日をほとんど奪い、その中を悠々と歩いて上条を殺しにやってきた、『神の右席』という組織の一員。



ヴェント「あら、私がココに来るコトが判ってたような言い種ね。またそのクソ忌々しい頭が働いたのかしらぁ?」

上条「んなことはどうだっていい。そうやって俺を煽るのが目的かどうかは知らねーが、今の俺には意味ねえよ」

ヴェント「随分と余裕のないコトを言うのね。そこの冒涜の塊のせいかな?」

上条「……」

ヴェント「アッハハ! まっさか図星ぃ? あんなモンに情でも湧くっていうのか、気持ち悪い」




―――BANG! と。銃声が響いた。





上条が腰にある拳銃を抜いて、発砲した音だった。
銃弾はヴェントの頬を掠める。ワザとだ。

対する彼女は愉しそうに笑みを浮かべていた。
頬から血が垂れるが、気にもしていない。



上条「……いけないな。あれだけ一方通行には冷静でいろと言い聞かせてるのに、俺がこんなんだと説得力に欠けちまう」



後一つ良いか? と続け、



上条「どうやら俺は、相当頭にきてるらしくてな、手加減が出来そうにないから……」



腰を低くして、グッと踵に力を込めると―――水しぶきを巻き上げ、爆発的な加速力で詰めだした。



上条「そのつもりでよろしくッ!!」




戦闘態勢に入った彼を、ヴェントは黙って見ていない。
即座に反応を示し、ハンマーをがむしゃらに振り回した。
その際に舌に取り付けられた十字架のチェーンが生き物のように蠢き、何度もハンマーに触れて火花を散らす。
一つは上条目掛けて、残りの複数は手前の地面に放った。

上条は右手で消そうとはしなかった。
いちいち幻想殺しを使うヒマはないからだ。
僅かな身のこなしだけで、自分に向かう空気の鈍器を避ける。
しかし、手前の地面に着弾する方はどうする事も出来ず、足を止めて回避する他なかった。

泥混じりの水や残骸を巻き上げ、粉塵が舞い、上条の視界を奪う。
雨のおかげか粉塵は長くは持たなかった。
粉塵が消えるも、ヴェントの姿はない。



―――頭上で、じゃりり! と金属が擦れる音が鳴る。



バッ、と顔を上げる。

ヴェントは空高く飛び上がり、ハンマーを振り下ろしていた。

だが、そんな事よりも最も奇妙なのが鎖の十字架であった。
鎖の十字架は生き物のように蠢き……螺旋の槍を描く。

空気の鈍器はその形をなぞるように、上条に向けて射出される。



上条(やっぱりあの鎖は関係があるのかッ!!)



流石に避けるのは得策ではないと考え、右手で拳を作り、裏拳の構えを取った。

……視界の左端に、ヴェントが降り立つ姿が映る。

たったそれだけで彼の行動は早い。
左手で腰から拳銃を引き抜き、銃口を姿が映った左に向けた。
そして引き金を引き―――二発目の閃光弾が撃ち抜かれる。



ヴェント「ッ!? こ、んの……!!」



風の鈍器を射出しようとハンマーを振りかぶったその時、彼女の視界は猛烈な光に覆われた。
腕で目を庇っても遅い。一時的ではあるが、回復するまでの間、目は使い物にならない。


―――ヴェントの耳に、幻想殺しが発動した音が届く。




ヴェント(マズい……ッ!!)



おそらく彼が螺旋の槍を打ち消した音だ。
視界を奪われた状態では避けることはおろか、防御する事だって困難である。
がむしゃらに空気の鈍器を撃っても、上条当麻には意味がない。
きっと容易くかわしてみせるだろう。

狙いを定めて撃つのに最も必要なのは目の回復だ。
その時間稼ぎで、彼女はもう一度空高く飛ぼうとして、



上条「させねえよ」



声に判断がつくまでに襲いかかってきたのは、腹部に受ける衝撃だった。



ヴェント「ごはぁッ!?」



吐血に及ぶ一撃は、確実に彼女の体力を削る。
しかし上条の攻撃はまだ続く。


腹部に決めた一撃とは逆の手、腰を捻り、遠心力を味方にし、手の平の底をヴェントの顎目掛けて放つ。
アッパーの要領で放たれた掌底はヴェントに隙を与え、次の追撃へと繋げてくれる。



上条「―――覇ッ!」



元々無防備だった彼女の胴体に、左手の拳が突き刺さった。
重く、硬く、速い。どんなに円周が努力を費やしても追い付けそうにない拳。
内臓が一つ、押し潰されたのではないかという錯覚に陥りそうになる中、



ヴェント「……」



彼女は、嗤っていた。

とん、と。ハンマーの先端を上条の腹に押し付けられた。
そのハンマーの柄に、舌の鎖をぐるぐると巻き付けて、



ヴェント「吹き飛べ」



直後、空気の鈍器がハンマーの先から吹き荒れた。




上条「が、ぁ……ッ!?」



肉と骨が丸ごと内側へめり込む感覚に襲われる。
少なくとも、一部の肋骨は間違いなく折れた。

更に上条の体はボールを蹴ったように回転しながら吹っ飛んでいく。
上手く着地が出来ないほど勢いが強く、彼は崩れた壁に直撃した。



上条「―――ッ」



即座にヴェントへ視線を移す。
この状況で彼女から目を離すのは決して良くない。

そしてその予測通り、既にヴェントはハンマーを振りかぶっていた。
全身の痛みに対し、歯を食いしばって耐え、彼は構え直す。

ヴェントの鎖が描くのは……、



上条(螺旋ッ!)



螺旋の槍が射出される。
何とか対応は可能だった。

避ける事も出来るが、止めた方がいい。
後ろにあるのは崩れかけのビルだからだ。
もし避ければ倒壊は免れない。崩れ、瓦礫の下敷きになるのは確実である。

迫ってくる螺旋の槍に右手を構える。
ここは難なく消そうとして……上条当麻は気付いた。



ヴェント「……ッ!!」



彼女はハンマーを薙ぎ払って空気の鈍器を生み出していた。
それだけなら何も問題ない。
避けるなり右手を使うなり、対処をすればいいのだ。
しかし、ヴェントは空気の鈍器を射出する前に手首を返し、“もう一度”ハンマーを払った。

二発目の鈍器が生まれる。

二つの鈍器はバラバラに飛んでくる事はなかった。
お互いを食い破って一つの塊になると、まるでシャワーのように扇形に炸裂する。
数百もの尖った空気の錐が、上条目掛けて一気に襲いかかった。

避けるか? いや、遅い。螺旋の槍の対処だって済んでいないのに、避けたところでビルの瓦礫に潰される。
右手を使うか? いや、無理だ。数百の空気の錐に対して、右手一本で対処できるものじゃない。



上条「―――ッ」



彼に逃げ場はない。



投下しゅーりょー



投下しまーす

ゲームしてたら遅くなりました←




制限時間は僅か六十秒。

それまでに木原の息の根を止めなければならない。
普通の人間なら、十秒もあれば充分すぎるほどの時間だ。
しかし、木原数多はこちらのパターンを完全に読み、笑みを浮かべたまま反撃を可能とする。
今もなお彼は余裕の表情で立っている。



一方(まずはそのフザケた面ァを潰すッ!!)



脚のベクトルを操作させ、木原の懐へ弾丸のごとく突っ込んだ。
右手の全ての指に神経を研ぎ澄ませる。
能力を作用すれば肌に触れるだけで死をもたらす事すら容易い。
でも、そんな簡単に殺させはしない。
苦しむて苦しめて、生きる苦しみをこの男に味あわせてやるのだ。

……そう、妹失って苦しんだ自分と同じように。




木原「なーに悲壮な顔してんだよ、思い出にでも浸ってんのか?」



思い出?

何を言っている? 浸るだと?
何にだ? 思い出?
思い出に浸ると言ったのか?

そもそもの“原因”を作った男が?



一方「オマエが……語ってンじゃねェよッ!」



右手が意志の下で、木原の喉目掛けて鋭く横に放たれる。
潰す事も裂く事も造作にない悪魔の右手は、木原の命を刈り取らんと牙を剥く!



木原「言ってんだろ? 狙えってなあ」




――――ヒラリと、いとも簡単にかわされた。




『もしかしたら当たる』という概念が奴にはなく、『絶対に当たらない』という確信だ。
故に木原の心に恐怖は宿らず、絶対的な自信しか生まれない。
木原数多にとって、一方通行のやり方は児戯に等しいのかもしれなかった。
何を与えれば喜ぶか、ドコを刺激すれば情に左右されるか、どうすれば徹底的に潰せるか。

判るから、読まれる。
動きも。思考も。何もかも。
一方通行を研究し尽くした男だから成せる芸当。



一方「ごはッ!?」



頬に、拳が突き刺さった。
一方通行に木原は追い討ちを掛ける。
よろめいた事によって出来た隙を突くように、顔を重点に拳を何度も叩きつける。
時折、腹部にも蹴りを入れて確実に一方通行の命と体力(時間)を奪っていく。



木原「どうした小僧ォ!! こんなもんじゃねえだろ!? あのガキ助けに来たんだろうがあ!!」



タイミングを奪われ、リズムを掌握され、手玉に取られる。
本当に子供の遊びでしかなかった。
避けようとしても、木原の拳は先読みしたと思わせるほど正確に避けた方向へ飛んでくる。
そう、一方通行の思考を読んでいるかのごとく。



一方(……そォか)



一方通行自身を開発した者だから読まれる。
いつまでも開発当初と変わらないから読まれる。
“あの頃”からまったく何も自分の中で起きないから読まれる。

つまり、



木原「ぎゃはは! 何が復讐だ! 妹の死を前にして何も出来なかった分際で、何を気取ってやがる!! テメェは一生泥ん中なんだよ!」



“俺”自身を、



木原「どっかでくたばっちまう前に、妹と同じようにこの手で沈めてやるって俺の優しさが判んねーかなあ!!!?」







―――確立させればいい。





木原「……あ?」



この場を圧倒し続けてきた男が、ずっと笑みを崩す事のなかった男が。
この時、初めて止まって、初めて笑みを崩して呆然とした。

見つめるは一点だけ。
戦いが行われてから“初めて木原の一撃を避けた”一方通行だ。



一方「……」



すっ、と彼は拳を静かに構える。
拳を構えるなんて、今までした事がない。
木原の記憶が正しければ一方通行の戦い方からは、かなり遠い位置にある響きすらある。

腰を据え、片足を一歩退いて、両手に拳を作り、鋭い眼光で木原を睨む。



木原「テ、メェ……! その構えは!!」



木原の表情に憎しみを浮かばせた。
まるで忌々しいと言わんばかりに。



木原「そうか、テメェ……『あの小僧』と出くわしやがったなッ!!」



そう。今の一方通行は皮肉にも、上条の構えと同じ構えを取っていた。
その一方通行に木原は、微かに上条当麻を投影してしまった。




―――いつか見た光景と同じ。


―――自分を含む身内の人間が三人と一匹。


―――とある実験場で見た修羅(上条)。





一方「……!!」



一方通行の動きが明確に変わった。
デタラメに突っ込むのではなく、脚のベクトルを作用して弾丸のように飛び込むのではなく。
床を踏み、踵に力を込め、能力に頼らず、尚且つ―――腰を低くして距離を詰めてきた。
……瞬発力、爆発力と共に上条当麻さながらだった。



木原「クソが……ッ!」



一歩遅れて木原は構える。
問題はない。今まで通りに拳を叩き込むだけだ。
たかが動きがあの小僧と同じになっただけでは駄目だ。
頭で動きは理解しても、体が追い付くはずがない。
元々、一方通行に運動神経なんてものは皆無に等しい。
幾らマネた所で、目指した所で、この状況が覆る事はありえないのだから。

リーチ範囲内に一方通行が入り込む。
見計らって片足を退いて、横へかわす。
すかさず、木原は拳を一方通行の顔面へ叩き込む……が、



木原「な―――」



一方通行は流すように一回転しながら避け、その勢いを殺さずに―――木原の頬に裏拳を決めた。



木原「が、ぉ……ッ!?」



幸いだったのは、今の一撃にベクトル操作が加わってなかった事か。
だとしても見事に決まった事には変わりなく、体力を削られた。



木原「―――響かねえぞ小僧おおおッ!!」



足をぐっと踏ん張って、拳を一方通行に放つ。


一方通行の瞳に焦りはない。戸惑いもなかった。
彼は反射を切り、脚にかけるベクトルも切り、今まであてがっていた演算をすべて切り捨てた。
その代わり切った演算を全部、五感の一部に当てる。
そして尚、大気を操ることが可能ならば“この部屋にある空気の流れを読む”事も可能である。

人は動く時、必ず空気抵抗を受ける。
走ったり腕を振るったり、空気をその身に受ける。
要するに―――今の一方通行は木原の動きを完全に読んでいるのだ。



一方(……左、からの蹴り)



放たれる拳を避け、更に木原の動きを読む。
視覚を強化された一方通行の目には、木原の繊細な体の動きを追える事も容易い。
故に拳を放った割に、次の蹴りを繰り出すための『準備』を見抜く。



一方(感じ取れ、か。この言葉の意味、理解したぜ)



一歩後退して、その蹴りをいなす。

上条が言いたかった事。つまり、囚われるな。
反射と運動量の操作だけで甘んじるんじゃないと。
それらを取り払い、無防備になった時、己自信の真価は問われる。
攻撃に転化する事だけがすべてではない。
打ち止めを救出時にとっさの機転で行った『治療』と同じように。

この力は、『破壊だけを目的とした力』なのではないのだ!



木原「が……ッ!!」



体勢を崩した木原の脇腹に一方通行の蹴りが決まる。
こちらへ振り返り反撃を転じようとするも、顔面にカウンターをお見舞いする。
この後も、木原がどんな手を打ってもことごとくかわされ、返り討ちに遭う。



木原「ゲホッ、く……ッ、図に乗りやがって……」

一方「……」



既に木原は息があがっている。
おそらく次の一撃を食らえば、沈むだろう。
覚束ない足取りながらも構えを取り、もはや執念で動いているようだった。

……皮肉にも、それは以前の自分と同様の姿である。


隙だらけになった予備動作だ。
細かい動きを出来る余裕が今となってはなくなった、大振りの拳を振るう。
首を動かし、あっさり避ける。
拳を作ると僅かに能力を作用させる。

ようやく空気を読む繊細な演算を解除し、たった一撃で内臓破裂を可能とする悪魔の拳を放てる時がきた。



一方(……百合子)



一人の少女を脳裏に浮かべ、拳が木原の腹部を貫く―――その直前。

ピピッ、という電子音が鳴った。

それは一方通行の首元にあるチョーカー型電極から発せられたものだ。
それは一分間、六十秒が経過したという機械的な合図である。

示された意味は、バッテリー切れ。



一方「……ぁ」



力を失った一方通行は、勝利を目前に、その場で崩れ落ちた。





―――――――――――――――




ヴェント「…………」



今、何が起きた?

とうとう追い詰めた上条に対して、空気の螺旋を射出させた。
背後には倒壊寸前のビル。避ければ瓦礫の下敷きは免れない。
だから彼は右手を使わざるを得ない。
そこへ空気の錐を射出。
互いに食い潰し合いながら上条を襲う、幾百もの空気の錐に右手一本で対処は不可能だ。




―――なのに、




上条「……」




―――どうして彼は、平然と立っている?




螺旋の槍と同様に右手で対処した。
そこまでは変わりなかった。
確実に勝利を確信した瞬間でもあった。
しかし、唯一違ったのは、彼はただ右手を突き出した訳でなく、消し切れない事を利用して、“掴んで捻った”のだ。


するとどうだろう?
後を追うように、すべての空気の錐が捻られた方向へ流れる。
そう、空気の錐のほとんどは上条に届く前に地面へ落とされた。
曲がり切れなかった空気の錐もあったが、どれも上条の周りに着弾していく。
奇怪な事にビルにさえ当たらなかった。

……この現象は垣根帝督しか知らないもの。
一戦交えた時に見せた技法。
彼はこう呼ぶ―――『消去と干渉』と。



ヴェント「そんなフザケた話が……ッ!!」



上条は今、片手を額に当てていた。
頭痛でも起こっているのだろうか。

彼女は口元の血を拭う。
ハンデなら自分にもある。
どういう訳か知る由もないが好都合だ。



ヴェント「……ドコまでも生意気なガキね。その年で、その力を、何事もないように手に入れてるコト事態が」



上条は答えない。
返す余裕がないほど苛まれているのか。
それとも返す価値もないというのか。






ヴェント「やはり科学の人間なんざ―――憎きモノでしかない!」





彼女は水平にハンマー振るう。





ヴェント「私を!! こんな風にさせた科学が憎い!! アンタもその一員に過ぎない!!」





更に手首を返し、二発目の空気の鈍器を生み出す。





ヴェント「私は敵対する存在を一人残らず叩き潰すッ!! これは私という『前方のヴェント』が生まれてからの決定事項だ!!」





今度は垂直に振り下ろした。
三発目の空気の鈍器が生まれる。





ヴェント「大切な人を失った悲しみを知らないクソガキが神の右席をナメてんじゃねえぞおおおおおッ!!!!」





空気の鈍器は一本の『杭』となって射出された。
圧倒的な速度と破壊力を兼ね備える杭は、上条の頭を目掛ける。
とても常人では追う事が不可能なレベルのスピードを出す杭。


それは上条とて、同じであった。
拳銃の弾丸を目で追うなんてありえないのと一緒で、幾ら動体視力が良くても不可能なのだ。
しかも彼は今、頭痛に襲われていた。
無意識に空気の錐から逃れた時からずっとである。
かなりの激痛で意識が遠のくほどだった。



上条(声が……する……)







―――ッッッ―――ッ。







聞こえない。

頭の中で響く声は遠い。

しかし、







―――ッッ―――ッッ。







次第に、近くに、







―――ォ―――か。







意識が……奪われ、













―――俺がやる、退がってろ。





幻想殺しが発動した音が響く。
ヴェントが放った杭を掻き消したのだ。
マトモに突き出しただけでは、反動が上条を襲い、体ごと吹っ飛んでしまう。
そこで『彼』は、裏拳を下から叩き付け無理矢理に方向を変えさせたのだ。
……杭の速度に合わせてピッタリに。



ヴェント「は……」



今度こそ、彼女の動きが止まった。
今度こそ、彼は並大抵の人間がなす動作の範疇を超越した。
聖人かと思わせる反応速度で杭をいなしたのだ。

そして―――ヴェントは見た。






上条『大切な人を失った悲しみを知らない、ねえ……ククッ』






ゆらりと佇み、ゆっくりと歩み始めた上条(修羅)を。






上条『あるに決まってんだろうがよォォおおおおおおおおおおおッ!!!!』






口元を歪めるように狂笑を浮かべたのは男の瞳には、ギラギラと輝きを示していた。



投下しゅーりょー


88に関して、第一スレ目の478を見ていただければよいかと



投下します


今回は短いですが、一方通行篇となっております




木原「は……はは、は。ぎゃはは! オイオイどうしちゃったのかなあ!? 一方通行!!」

一方「―――」



意識はある。目は開いてるし、呼吸もしていた。
しかし、外見は生きているように見えるだけで、中身はもう廃人同然の状態である。
『計算』と『言語機能』を失った彼には、もはや喋る事はおろか指の本数を数える事すらできない。
受動は可能でも能動の機能を遮断されているのだ。

その弱点を木原は熟知している。
だからこそ、笑みをこぼしてしまった。
もはや敗北は考えられない。




木原「オラァ!! さっきまでの威勢はどうしたクソ野郎!!」



床に崩れる一方通行の胸ぐらを掴み取り、文字通り殴り飛ばした。
紙屑のように容易く飛ばされ、ゴロゴロと床を転げ回る。
どうやらまだ意識はあるようだ。
手探りをしていた。

木原は生ゴミを見るような目で一方通行を見る。



木原「チッ、しぶてえ野郎だ。いい加減楽にしてやるか」



床に転がった拳銃を見つける。
一方通行に潰された『猟犬部隊』の一人のものだ。
今なら『反射』も使えない上に、立ち上がる事すらままならないだろう。
そんな彼にトドメを刺すには打ってつけの武器に違いない。


拳銃の下まで歩き、掴もうとして―――その腕を逆に何者かに掴まれた。



木原「あ……?」



この部屋でマトモに動ける人間は、自分を含めて二人しかいない。
しかし、内の一人は『計算機能』を奪われた廃人同然の人間だ。
目標を定めても、それを果たすための具体的な手段が出来ない。
故に体を動かす事も計算に入るため、今まで通りに動けないだろう。

そんなクソみたいな人間が、拳銃を手にするのを阻止するかのように自分の腕を掴むはずが……。



木原「ッ!? この、何しやがる!!」



掴んだ張本人である一方通行は反対の手をゆっくりと伸ばし、木原の髪を鷲掴みにする。
生唾を垂らしそうなほど、だらしなく笑みを浮かべながら―――頭皮ごと髪を引き剥がした。




木原「ごァああああああああああッ!?」



血しぶきをあげる。
そして木原は思い知った。

確かに今の一方通行には『計算機能』という、人間の根幹を失ったと言っても過言ではない状態だ。
だけど、それは計算が出来ないから情けや容赦も消えてしまう事になる。
例え高性能の武器がなくとも、原始的に人間を追い詰めるのは簡単なのだ。

今度は口の中に親指を突っ込んできた。
ちょうど頬の裏側で彼は爪を立てた。
それだけで木原は察する。

頬を柔らかい裏側から裂くつもりだ。



木原「く、そ……がッ!!」



首を動かして回避し、顔面を殴って脱出する。
床の上を転がって移動して、再び一方通行を見据えた。




木原(ナメやがって、絶対に殺してやる!!)



のろのろと蠢く一方通行の鳩尾に蹴りを決める。
更に数発、踵を顔面に落とす。
何度か間合を取り、リーチから外れる事で一方通行の攻撃手段を封じた。
これを保ち続ければ勝利は見えてくる。

そして木原の考え通り、一方通行は何度も手を伸ばすがことごとくかわされていく。





木原「ハハハッ!! 結局、テメェはこういう結末の方がお似合いだぜえ!?」





顎に拳が炸裂する。





木原「だからよお、さっさとくたばれよ死に損ないが!!」





ねじ込むように、拳が鳩尾に決まり―――とうとう一方通行は立ち上がれなくなった。


息はある。目も開いている。
しかし、どれも朧気だった。
一体何が一方通行の意識を繋ぎ止めているのか、本人さえ判らない。



木原「あーあー、そんなんじゃコレはもう必要ねえな」



取り出したのは小さなチップだ。
打ち止めに流し込んだウイルスを除去する事が出来る、唯一の代物である。
それを……ぐしゃり、と握り潰した。

これで、打ち止めを救う最後の希望は断たれた。



木原「はい残念でした。『あの時』と同じように、テメェは誰も救えずに終わっちまったな」






―――しかし、神は一方通行と打ち止めを見捨ていなかった。










『……こえる!? ね……―――しあげ! これ繋がってるの?』

『今調節した! 俺が何とかするから、インデックスは気にせずやってくれ!!』









声が、届いた。






木原「館内放送だと!? チッ、誰か知んねーがジャックしやがったか!!」





指示を出そうにも駒の『猟犬部隊』はこの部屋にもういない。
つまり、他の者達を呼び出すか、自ら手を下しに行くかしかないのだ。
だとしても一方通行を放っていくのは得策ではない。




『あくせられーた!! 大丈夫、あの子は私に任せるんだよ! 必ず救ってみせるから、あくせられーたは存分に戦っていいんだよ!!』




虫唾が走るほどの言葉がスピーカーから響くが、意にも介さない。
それの後始末は後でだ。今は、





木原「……ほら、まだ戦う気があるなら這い上がってみせろよクソガキ」





ピン、と。
懐から取り出した球体のピンを抜いた。

それは―――手榴弾だった。







一方(……)






声が聞こえた。
誰のだろうか。
わからない。
考える事すら今は億劫だ。

考える事が出来ないからどうしようもないのだが。

体に力が入らない。
深い深い闇に沈むようだ。


……そういえば、俺は何しにココに来たんだっけ?






一方「……?」






声、ではない。
音、が聞こえる。

メロディーだった。
ドコからか流れた女の子の滑らかな歌だった。

何を言っているかは判らないけれど……感情が伝わってきた。
言葉の壁を越えた、誰かを救おうとする気持ちは感じ取れた。






一方(……、あ……)






同じ姿をした、しかし可憐で幼い妹を思い出した。
こんな俺を慕い、最期まで微笑み続けてくれた最愛の妹を。

同時に己の目的を思い出す。
打ち止めを助けるためだ。

なら、この歌は打ち止めを救おうとしてくれているのか。
今までそんな事もしてもらえなかった打ち止めが。







一方「……」






それだけで、充分だった。
立ち上がる『理由』には充分過ぎた。

こんな所で崩れてはいられない。






一方「……」







―――結論は出た。







悪としても胸を張れ。


闇の世界を突き進んだとして、それでも光を救ってみせろ。


進むべき道が周りと違うからといって、それを恥じるな。


闇の奥にいる事を誇りに思えるような、それほどの『黒』となれ。














―――爆音が轟いた。













木原が放った手榴弾は一方通行の頭に落ちて、跳ねる間もなく起爆した。
辺りは灰色の煙が立ち籠める。姿は確認できないけれど、見るまでもないだろう。



木原「ひひっ、ハッハハッ、ぎゃはははは!!」



腹の底から湧き上がる笑いを抑えられなかった。
死んだ。これは死んだ。今の一方通行に爆発を防ぐ手段はない。
頭から焼かれ、脳みそすら残ってるか危ういかもしれない。
しかしもうどうだっていい。
死んだ人間の事を考えるのは、ただの無駄なのだ。



木原(さて、侵入者したゴミクズの後始末でもやるかぁ。そういや、クソガキの事を知ってるような発言してたな。手土産に死体を突き付けて―――)






その時だった。






木原「……あ……?」



オカシい。妙な違和感を感じ取った。
幾つもの死んだ人間、肉が裂かれ、内蔵が飛び出た状態なんて腐るほど目にしてきた。
鼻を刺激するキツい臭いも、死体が転がる雰囲気も経験から身に染みている。

だが……灰色の粉塵の中からは、まったくそういった『物』を感じ取れない。

背筋に汗が流れる。
見えない恐怖が木原を襲う。



木原「生きてるはずが……ッ!?」



粉塵が引き裂かれた。
中にいたのは、しっかり両足で体を支えて立つ一方通行だった。

どうやって生き延びたとか、何故立っていられるとか、どうでもよかった。
何より木原が目を疑ったのはそういった事柄ではなかった。
一方通行自身でもない。

それらを無視して、彼は言葉を放った。






木原「オイ……何だよその背中から生えてる真っ黒の翼は―――!?」






木原に猶予は、なかった。










一方「ihbf殺wq」










投下しゅーりょー

投下します!
練ってたら遅れました!

てな訳で分割しまーす←

本来なら今回で終わりの予定でしたが、ヴェント篇はまだ続きます

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練ってたら遅れました!

てな訳で分割しまーす←

本来なら今回で終わりの予定でしたが、ヴェント篇はまだ続きます

ヴェントは目を細くし、訝しむ。

目の前の男は誰だ?
外見からすれば間違いなく上条当麻だろう。
しかし、どうも様子が変だ。
今まで構えていた体勢を崩し、言わば隙だらけの状態である。
正直に言うと、これから戦う者としての行動ではない。
あたかも全身の力を抜いているように、更に言うならば。

既に自分を敵とすら見ていないよう。



上条『あ゛ー……久々だなぁ、こうして“外”に出るのは』



彼のまとう雰囲気、目つき、物言い、それら全部を含めて一変していた。
何故か彼が発する言葉はノイズがかかったみたいに、聞き取りづらい。
まるで別人と相対している錯覚に陥る。
……いや、もはや錯覚すらどうか危ういかもしれない。

実際、今の彼は“上条当麻”どうかすら疑問だった。




ヴェント「……誰だ。アンタ、上条当麻じゃないわね?」



だから、思わず尋ねてしまった。
目の前の人間に問いかけた。

人間はノイズがかかった声で―――嗤う。



上条『誰だだと? ハハッ! 誰、ねぇ……』



天を仰ぐ。
雨粒を顔から受け止め、己に言い聞かせるようにつぶやき始めた。



上条『アイツに有って、俺には無い。俺に有って、アイツには無い。そう、至って単純なことさ』



再びヴェントを見据えた。
黒き輝きを示す瞳で、そしてその瞳は―――






上条『俺には名前すらねぇよ!!』






―――戦いたくて仕方がない、と物語っていた。




男が一歩を踏み出した瞬間、死闘は再開された。

ヴェントに向かって走る。
リーチの差を埋めるように走る。
……走り方なんてあったもんじゃない。

これまでは風の抵抗をなるべくなくすために、体勢を低くして突っ込む技法をなしていた。
だけど今の彼はそれをすべて取っ払い、ひたすら大股で突っ込んできた。
なのに、たったそれだけのはずなのに身に感じるのは猛烈な圧迫感。
とにかく判るのは、近寄られたらマズい気がするという事だ。



ヴェント「チッ……」



ハンマーを無造作に振るう。
鎖は螺旋を描き、空気の鈍器はそれをなぞり、槍を生み出した。
射出をする際、地面に近い位置で放った。
そうする事で土と水を抉りながら進んでいく。
幻想殺しは異能は消せても、物理をいなす事は出来ない。

そして、あくまでも螺旋の槍はフェイクだ。
リズムを崩すための一撃に過ぎない。


彼女はハンマーを三回、薙ぎ払った。
三発の空気の鈍器は一本の『杭』となり、射出された。
これで右手を二回使わなければならなくなった。
螺旋の槍を避けるには遅すぎる。



上条『ハッ!』



しかし彼は笑みを崩さない。
螺旋の槍を跳躍で容易くかわしてみせる。
だけど、そこを狙ったかのように『杭』が男を目掛けて突っ込んできた。


彼は一層、笑みを濃くする。

右手で拳を作り、左手は拳に添えた。
両手を振り上げて―――『杭』に向かって斧の如く振り下ろされた。

爆音が轟いた。

幻想殺しでも掻き消しきれなかった『杭』は振り下ろされた両手によって、軌道を地面へ無理矢理曲げられてしまったのだ。
爆音の起因は『杭』が地面に着弾し、爆発して響いたもの。
彼の周囲に灰色の粉塵が舞う。
粉塵は一瞬にして男を覆い隠されて姿を見失うが、ヴェントは逆手に取る。



ヴェント(瞬間的な移動手段を持ち合わせていない……なら、叩き潰せる!!)



とにかく、粉塵の中にいることは間違いない。
だったら逃げる事の出来ないほどの質量で潰せばいい。
彼女はハンマーを二回振り、数百に及ぶ『錐』を生み出した。
『錐』はお互いを食い潰し合いながら粉塵を丸ごと呑み込まんと襲いかかる。

……が、幻想殺しの独特な音が響いた。

突如粉塵の中から右手が突き出されたかと思えば、『錐』掴んでねじ曲げたのだ。
数百の『錐』は目標を失い、バラバラに地面に着弾していく。
ただでさえ灰色の粉塵が立ち籠めるのに、更に十メートルを越す粉塵が舞った。




―――その中から、変わらぬ笑みを浮かべた男が姿を現した。










上条『もう終わりか?』












視界はお互いに不利だった。
だけど比較的にこちらが有利でもあった。
遠距離の攻撃が主体なのが幸いした。
それでもどんな人間だろうが敵の位置把握が出来なくなれば、多少なりに支障が出るものだ。

彼女はその支障を利用し、力を振るったのだ。
今の男はヴェントを見えていない状況である。
そう、ハンマーを振るう動作すら見えていないだろう。
にも拘わらず、合わせて右手を出してきた。

……彼女は知る由もないが、この現象をある特定の人々はこう言う―――『前兆の感知』と。



上条『動揺するヒマがあるなら、神経を研ぎ澄ませとけ。じゃねぇと』









――――死ぬぞ。










ヴェント「ッ!?」



闇の奥を覗いたような殺気を浴びた。

目の前が真っ赤になる熱を帯びた殺気とは違う性質の殺気だった。
しかし、そんな悠長に語っていられるほど時間もない。
男が再び距離を詰め始めたのだ。
……思わず、一歩後退りしてしまった。

ハッとして自分に対して舌打ちをする。



ヴェント「……私は『神の右席』、前方のヴェント」



静かな声色だった。
それでも、確かな意志と闘志を兼ね備えた感情がこもっていた。

彼女は水平にハンマーを払う。
一度に七つの空気の鈍器を生み出した。
それぞれはお互いに食い潰し合う事なくギュルリと渦を巻き、一本の巨大な杭となった。



ヴェント「アンタ如きに……負けてたまるかぁぁぁあああああああああああッッッ!!!!!!」



三つの鈍器を束ねた杭ですら速度と威力は相当なものを誇るというのに、二倍以上の数となれば想像もつかない。
それでも男の笑みは崩れなかった。

臆さず懐から……指貫タイプのグローブを取り出し、『左手』だけにはめる。

突如だった。
左手から暴風が吹き荒れ、竜巻を出現させた。
生き物のように蠢く竜巻は一直線に、巨大な杭と衝突する。



―――爆発が轟いた。



雨音を消し去り、雨粒は霧状に吹き飛ぶ。
その中心、二人の猛者が激突していた。



上条『……』



左手で拳を作り、ヴェントの横腹を殴りつけようと横へ払う。
しかしそう簡単に喰らうほど、彼女は馬鹿ではない。
それに巨大な杭を消し飛ばした“妙な左手”だ。
必要以上に警戒するに決まっていた。

間一髪、大きく飛躍することで拳を回避する……が、



ヴェント「ッ!?」



ガクンと、飛躍力は一気に勢いをなくした。
逆に下へ持って行かれる重力に襲われた。

視線を移す。すぐに原因は発覚した。
男が足首を掴んでいたのだ。
心の中で悪態をつき、吹き飛ばそうとハンマーを振り上げて―――気がついた。

感覚がない。
ハンマーに『風』が宿らない。
意味が判らなかった。
術式は完璧に組んであるし、変えた記憶もない。

どうして、と脳裏をよぎった瞬間ハッとした。



上条『ハッアーッ!!』






右手だ。






ヴェント「―――ッ」



言葉すら出る余裕はなかった。

彼女の体は空中から地面へと叩きつけられた。
全身に衝撃と共に重い何かがのし掛かった感覚に襲われる。
遅れてやってきたのが痛覚だった。



ヴェント「は、ごふっ……はぁっ、ゲホッゲホッ」



呼吸がマトモに出来ないでいた。
意識も何とか保っている状態だった。
視界が揺れる中、辛うじて男を捉えた。
男はその狂気の瞳で自分を映し、『左手』を振り上げる。



上条『……運がいいな』



狂笑を浮かべてボソッと呟いたその刹那―――視界から男が消えた。
もっと正確に言えば、彼は突然の奇襲によって吹き飛ばされたのだ。

地響きのような破壊音が轟き、ビルが崩れていくさなか、ヴェントは頼りない意識で新たに現れた人間を捉える。



ヴェント「アック、ア……」

アックア「喋らない方が賢明である。わざわざ伸ばした命を無駄にしたくはあるまい」



屈強の肉体をした男。
青系の長袖シャツの上に、更に白い半袖を着重ねている。
下は通気性のスラックスを穿いていた。
動きやすそうではあるけれど、これから戦場へ赴く者の格好ではない。
ヴェントのような精巧の術式が組まれていそうとか、そういう雰囲気は一切なかった。
……しかし、脇に抱えるのは全長十メートル程度の電柱だった。
おそらくこの電柱で薙ぎ払い、吹き飛ばしたのだろう。

この男はヴェントと同じく『神の右席』。

後方のアックア。



ヴェント「余計なコト……してくれ、ちゃって。おかげで……ッ、死に損ねた、じゃないのよ」

アックア「ふん。減らず口は相変わらずか。その分なら、要らぬ心配であるな」



視線をヴェントから崩れたビルへ移す。
白い肌から何もかもが鋭い雰囲気を持つ彼は、あの男を見て何を思ったのか。




アックア「……奇妙な奴だ」



電柱を投げ捨て、不満そうに言葉を紡ぐ。



アックア「感触が甘いにしては吹き飛びすぎである。直前で受け流し、衝撃を飛距離に変えたか」

上条『んだよ、バレてたのか』



瓦礫の中心が爆ぜた。
爆心地から現れたのは傷一つ負っていない男である。
学ランのあちこちに砂埃が目立つが、彼は意にも介さない。
それよりも自分を薙ぎ払ったアックアに意識が向いていた。



上条『……強いな、オマエ』



嬉しそうに笑みを浮かべる。
愉しそうに目がギラギラと輝く。

ただ、強い相手と戦いたいのだと語っていた。

対するアックアは表情を変えずに応える。



アックア「あの幻想殺しかは別として貴様の場合の戦い方は好かん。一歩間違えればリスクを負うが、与える一撃は大きいだろう」



例えば螺旋の槍からの『杭』。
普段の上条なら、下から突き上げるアッパーのように右手を繰り出し、螺旋の槍を掻き消す。
そのまま勢いを殺さずに『杭』を下から殴り、方向を変えて流す事で回避するはずだ。

そう、あくまで“安全”に。

今の彼は螺旋の槍を跳躍で避け、『杭』を上から叩きつけて地面に着弾させた。
そのおかげで粉塵が舞い、視界を遮断してしまったのだ。
だが、それを判っていながら彼は笑みを浮かべたままであった。

つまりワザとなのだ。





アックア「貴様の戦い方は、己自身が楽しむための戦い方である」




ギャンブルに近い感覚だ。

安全な対処はつまらないと投げ捨て、自らの命をも賭けるほどの大勝負の選択をする。
与える一撃がデカければ、受けた時の一撃もデカい。
そして、彼はその賭けに『勝利』を掴み取ってくる。



上条『そうでもしねぇと、つまんねぇだろ? 全ては楽しむためさ。クソマジメに殴り合ったってよぉ、全っ然楽しくもねぇし、相手は“壊れちまう”し』






嗤う。滑稽だとばかりに。






上条『……で? テメェはそこの女より壊れなさそうだな?』

アックア「だとしても、私が赴いたのは彼女の回収が目的である。貴様と戦う事が最優先ではない」



何しろこちらは、準備を整えてやってきていない。
こんな事なら整えて来れば良かった、と後悔する。
たかだか高校生一人に、後方のアックアを万全の状態にさせるまでに至るとは思いもしなかった。

それに……『左手』の事も不可解だ。
右手に関しては情報は行き届いている。
しかし、これまで『左手』の情報なんて微塵も入らなかった。



アックア(あの手袋を嵌めた途端、竜巻が起きた。ならば起因は手袋にあるのであるか?)



答えにたどり着く事はない。
その前にアックアの思考は中断された。
何故なら、彼は目視したのだ。




目の前の男の背後に、六枚の白い翼を携えたホストのような格好をした男が現れたからだ。




それは唯一無二の能力。

この世に存在しない物質を生み出し、物理法則すらねじ曲げてしまう代物。

そしてその能力を扱うに充分の素質を持つ男。

学園都市の頂点、LEVEL5の第二位、垣根帝督だった。



投下しゅーりょー

とあるの総選挙は、もちろんヴェントさん押しで!!←




垣根「―――ッ!!!!」



彼は上条(仮)の背後に迫ると、三枚の右翼を重ねて一枚の巨大な翼に変える。
左翼も同じだ。これで垣根の背中に二対の巨大な翼が形成された。
そして左右の翼を上条に向かって薙ぎ払う。
威力は計り知れない。彼の能力にかかれば、この地帯を荒野に変えてしまう事だって出来る。
音速を超える一撃は確実に頭と胴を捉える。
殺さない。気絶してくれればいい。
それだけで危険は抑えられる。



上条『……』



嗤っていた。
僅かに覗かせる口元は嗤っていた。

無造作に彼は胴を薙ぎ払うはずの翼に右手で触れた。
いや違う。掴んでいた。
更に翼を幻想殺しで掻き消す前にグイッと捻った。
するとどうなる? 翼と垣根は繋がっているのだ。



垣根「な……っ!?」



体勢が、崩れる。




上条『今日はアイツの好きなバーゲンセールの日か? つっても、品物は違ぇけど』



もう片方の翼は体勢が崩れてしまった事により、ズレて目標の頭より上を行き、頭の上を薙ぎ払った。
遅れて幻想殺しの音が響き渡る。
砕け散った翼、羽根が舞う中、垣間見える上条の表情は己が知る上条のモノではない。
プライベートや仕事の時にすら見た事がない、戦いに快楽を覚えたような顔だ。



垣根「チッ!」



今までの彼の動きをずっと見ていた。
以前、自分と戦闘を交えた時に見せたまったく同じで特異の動きだ。
『消去と干渉』に『前兆の感知』である。
しかし普段の彼とはまるで異なっていた。
戦闘を好む野蛮な発言や、悪い意味で型の外れた戦い方は自分が知る上条ではない。


……上条の事を全部知っている人間は、まず周りにいない。

浜面も、一方通行でさえも。
幼馴染みの御坂美琴や食蜂操祈の二人はもちろん知らないであろう。
可能性として知る者は一握り、もしかしたらという予想ならばある病院の冥土帰しと呼ばれる医者だ。

つまり何が言いたいかというと、垣根帝督は上条の“この状態”を知らない。
自分が知らないのであれば、他の者達もまた同じ。
上条がこの状態を話さなかった理由は、抑えられる自信があったからと考える。



垣根(……リーダーの中で何かが起きてる。もしくは起きてた、って事かよ)



気付けなかった事に悔恨するが、そんな余裕は与えてくれない。
今、目の前にいるのが上条でないならそれでいい。
心理定規との目的は諦める。
今はこの男から―――リーダーを取り戻す事だけを考えろ!!




上条『ほら、もっと俺を楽しませてみろよ』



グローブを嵌めた左手で水平に振るう。
垣根を殴るにはリーチが足りない。
だが疑問はすぐに明解した。

垣根の手前で“風”が不自然に蠢いたのだ。



垣根「ご……ぁッ!?」



ボール状の風の塊が出来たかと思えば、垣根の腹部に突っ込んできた。
そのまま塊が弾け、上空へ吹き飛ばされた。



垣根「チッ、これじゃ接近も遠距離も状況は好転しねぇな」



再び六枚の翼を展開、羽ばたかせて体勢を空中で立て直した。
即座に上条を目で捉える。特に目立った動きはない。


垣根は軽く円を描くように手首を返す。すると、手の平に『水』が集結し始めた。
空気中の水分を能力で作用し、一点に集めているのだ。
更に彼は、『雨粒』さえも掌握する。



垣根「リーダーには悪ぃが……本気でいかせてもらうぜ」



大きく、翼が広げられていく。
片翼だけでも十メートルはある翼を広げ、雨粒を受ける。



垣根「俺の未元物質に常識は通用しねぇ。つまり、今この場は俺の支配の元にある」



彼は天候さえも手中に収めてしまう。

雨粒は翼を叩き、雫となった水は物質を変え―――雹となる。
しかし、ただ水を氷に変えるだけならLEVEL3だって出来る。
彼の本領はここから始まるのだ。




上条『へぇ……』



地面に落ちた一つの雹を見れば、雹は転がったり砕けたりせず、そのまま地面に染み込み……一瞬で凍りついた。
これがもし人の肌に触れでもしたら、骨から血や神経に至るまで一瞬で凍結してしまうだろう。
あえて言うなら、染み込んだ範囲が凍結しただけなので、大した脅威にならない……が。



垣根「もうここは―――俺がルールの世界だ」



“無数の雹”は地面に落ちることなく宙をさまよい、垣根を中心に円を描く。
氷の礫を操る彼は、手の平に水のボールを浮かばせて佇む。



垣根「撃てッ!!」



その言葉が合図だった。
円を描いていた無数の雹が突然止まったかと思うと、一斉に上条目掛けて飛来していく。
それでも上条は楽しくなってきたとばかりに、狂笑を崩さなかった。

そして、まるでマシンガンの如く轟音を響かせながら次々に着弾する。


目標となる上条は一切動かなかった。
避ける動作どころか、反撃の仕草すら見せなかった。
垣根は静かにボール状の水を目の高さまで持っていき、構える。
その様は御坂美琴が超電磁砲を放つ時と酷似していた。




―――雹が降り注いだ中心点から爆音が轟く。




上条『ハッハァ!!』



地響きが聞こえた途端、上条が垣根と同じ位置まで飛んできた。
おそらく『左手』を使ったのか、しかしどうでもいいことだ。
今の上条からは何が起きても不思議ではない。
却って謎なのは今頃になって“サングラス”をかけた点。



垣根(確かアレはレンズ自体に赤外線が仕込まれていて、視界が真っ暗で見えねぇ状況でも切り開くためのはず……)



疑問は残るが深く悩んでいる時間は今はない。
上条との距離はあるし、右手は届かないだろう。
凍結されたらしき所は見当たらない。どうにかあの雹の雨から逃れたのか。


上条は続いて自らの背後を殴るかのように『左手』で振りかぶった。
刹那、爆音と共に上条が浮かんだまま急接近してきた。
おそらく『左手』で振りかぶった時に風か、もしくは何らかの力を作用したのだろう。
驚きは少なかった。



上条『……』



笑みを浮かべ、右手で拳を作った。
更に体を回転させ始めた。遠心力を付けて裏拳をかますつもりか。
上条からは考えられないリスクが大きい戦い方だ。
普段の彼なら予備動作すら見せないだろう。



垣根「……」



垣根は指にグッと力を込め、ボール状の水を弾いた。




―――突如、垣根の手の平から凄まじい量の水が溢れた。




鉄砲水かと思わせる水量は、一本の奔流となり上条を襲う。
圧倒の一言だった。
水流操作の能力者でもこのレベルは到底無理だろう。

水の奔流は一瞬で上条を包み込んだ。
このままでは気絶、最悪は溺死を免れない。
しかし、そんな簡単に上手く事が運ぶとも考えちゃいない。




上条『―――ッ!』



幻想殺しの音が響き、水の奔流はカーテンのように引き裂かれた。
垣根の頬に決めるはずだった裏拳は、ひとまず水の奔流を掻き消すために使ったのだ。
視界が明瞭になる。垣根を―――捉える事が出来なかった。



垣根「……!!」



彼は瞬時に上条の背後に回り込んでいた。
元から水の奔流に期待などしていない。
あくまで一瞬でも上条の視界を遮る事が目的だ。
そうすれば、翼で叩き込む事が出来る。
先ほどは左右からの攻撃で失敗した。
ならば今度は左右からではなく、片翼の三枚をだったらどうだろうか?
これなら『前兆の感知』で感づけても、『消去と干渉』は発揮されない。










上条『よお、久しぶり』









耳元で、悪魔が囁いた。


さっきまで上条は背中を向けていた。それは確かだった。
間合いもある程度取り、例え気付かれてもすぐには近寄れないはずだ。
どうして、と脳裏を過ぎる。
それが決定的な油断と彼自身気付かずに。

ぽん、と。優しく肩に手を置かれた。『右手』で。



垣根「……ッ」



瞬間、六枚の翼が一斉に砕け散った。
更に浮力を失った垣根の体は、ガクンと重力に従って地上へ落下していく。


―――その、さなかの事だった。


上条のちょうど腹部を通り過ぎようとした時である。
垣根帝督はこれまでにない焦燥に駆られ、悪寒を感じた。
何故なら上条の片手が腹部辺りで待ち構えていたのだから。
ただの片手なら問題ない。むしろ何の問題があるというのか。
けれど、今彼が構えている手はグローブをはめた『左』だ。それはつまり、



上条『……』



指に力を込め、軽く弾いた。
指は垣根の胸骨に触れる。


その刹那、彼の体は猛烈な勢いで地面へと吹っ飛んでいく。
倒壊したビルの瓦礫へと突っ込んだ。
地響きが轟き、瓦礫が更に砕け、粉塵が舞った。
普通の人間ならば死んだだろうが、垣根帝督は吹っ飛んでいく際に能力を使ったのだろう。
瓦礫の中から彼がゆっくりと現れた。



垣根「ち、くしょうが……ッ」



いくらダメージを防いだからといって、彼に致命的な傷を負わせた事に変わりなかった。
骨は軋むし、頭からは血が流れる。
とても立っていられる状態ではない。即刻病院送りは確実だ。
それでも……彼は上条を見据える。



上条『弱ぇよ、テメェ。得意なのは手品だけか。そりゃぁアイツも弱くなる訳だ』



ガン! と上条は地面にあった瓦礫を両足で砕きながら、垣根の目の前で着地した。
お遊びは終わりとばかりに溜息をつき始めた。


その言い種は―――彼の逆鱗に触れる。




垣根「フザケんなよ……!! テメェがドコのどいつでリーダーとどういう関係か知らねぇし、テメェが俺の事をなんて言おう勝手だ」



けど、と垣根は紡ぐ。



垣根「リーダーの事を俺の前で悪く言ってんじゃねぇ。例えフラグ乱立でトラブルに巻き込まれやすい体質でも―――上条当麻って男は垣根帝督っていう大馬鹿野郎を救ったヤツなんだよッ!!!!」



怒りに呼応するように六枚の翼が展開される。
一気に十メートルを越すとそのどれもが上条を狙い、音速を超越する。
打撃、斬撃と二種類に分かれた翼は上条の全身に叩き込まれる。

……その、直前。



上条『見飽きたつってんだろ』



翼は届かない。
拳が迫り来るのが見える。

“あの日”と同じように。
以前、敗北を喫した時と同じように。

しかし、同じでも意味が違う。
あの時は解放感に満ちていた。

今回は……どうしようもない無力さに、悔しさだけが残った。





―――――――――――――――




垣根「…………」



彼は“誰もいなくなった”戦場で座っていた。
片膝を立て、顔はうつむき、ジッと水溜まり眺めている。

あれから、どれくらいの時間が経っただろうか。
気が付いた時には、上条も外国人の男も居なくなっていた。
一人戦場に残された自分は無力さに苛むしかなかった。
心理定規との目的を無視してまで突入したが、上条の“暴走”を止められなかったのだ。


雨に打たれ、地面の泥水が服に染み込んでくる。
そんな感覚さえも今はどうでもいい。










「風邪、引くわよ」









ふと、雨が止んだ。




垣根「……なんだ、テメェか」



彼はうつむいたまま応える。
顔を見上げずとも、声質や足元だけで判断が付いたからだ。

赤いドレス姿をした女、心理定規。



心理定規「随分な言い草ね。背いたくせに」



彼女は傘を差し、半分を垣根に入れていた。



垣根「何をしにきた。俺を咎めるか?」

心理定規「そんな訳ないでしょ」



呆れたように溜息を一つ。
それでも彼女は少し寂しそうな顔をすると、






心理定規「……“上”から通達がきたわ」






垣根は忌々しく目を細めた。




心理定規「私達がターゲットとしていた外部からの侵入者を追って、幻想殺しは学園都市を離れたらしいわ」

垣根「…………」

心理定規「……幻想殺し率いるグループは解散、ですって」

垣根「俺は、どうなる」

心理定規「『スクール』に戻されるみたいよ。第一位も浜面仕上も、他のグループに配属されるわ」

垣根「良かったじゃねぇか。テメェの思い通り、俺は『スクール』に戻ったぜ?」

心理定規「……本当にそう思う? 私がこの結末に満足してるって、本当に思ってるの?」



誰よりもあなたを見てきた私が。

誰よりもあなたを想ってきた私が。

誰よりもあなたを判っているつもりの私が。


あなたにそんな顔をさせてまで、『スクール』に戻る事を願うと思っているの?





垣根「……知らねぇよ、んなもん」





彼は立ち上がる。
そのまま歩き始めた。
ドコに行くのだろう。
聞きたいけど……ためらう自分がいた。




心理定規「……」




あの頃に戻ってしまうのだろうか。
ドコまでも冷たくて、ドコまでも無関心だった垣根帝督へと。




垣根「一つ、聞く。俺が『スクール』を抜けると言った時、テメェだけが反対を言わなかったのは?」

心理定規「……むしろ反対をする理由なんてあるかしら? 彼と出会う前のリーダーは、物事をとてもつまらなそうな目で見てきたのに」




それでいて、その背中に可哀相と思ってしまったのに。
下に立つ人間もいるし、上に立つ人間もいる。



しかし―――彼には横に立ってくれる人間がいない。













垣根「……そうかよ」












今の彼の背中は……―――。

投下しゅーりょー

ようやく折り返し地点!!←

最近は色んな上条さんが居ますね、楽しく読ませてもらってます
ちなみにここの修羅条さん、彼は中条さんのつもりです

グローブとサングラスの説明が入れられなかったのが残念
また今度ですねー


仕事→帰宅→用事→朝帰り→風呂上がり←今ここ

さてさて、寝ない状態のまま投下しまーす









この物語に幻想殺しの少年は登場しない。















正確には幻想殺しの少年がいなくなった物語。







これは、かの少年に残された、かつて仲間であった者達の話である。










―――10月9日。

―――とあるビル。




一室に一人、椅子に座る赤いドレス姿の少女がいる。
しかし一人で占領するには随分と広い部屋だ。
三人ぐらい余裕で座れるソファが幾つも置いてあるし、高級感溢れるテーブルも同様である。
あまつさえカウンターや瓶のお酒もあるのだから、もはやドコか判らない。
BGMさえあればとバーでも始められそうな雰囲気だった。
この部屋は単なるアジトの一部に過ぎない。
集合場所として扱われ、それ以外の何物でもない。
たまにビルの所有者がカウンターに入ってノンアルコールの飲料水を作る程度だ。

少女は心理定規。
学園都市の下部組織、『スクール』に所属の中学生くらいの女の子だ。

彼女は爪にマニキュアを塗っていた。
時折、壁に掛けてある時計を見て、また爪に集中する。
時間を気にしているのか、今のところ定かではない。




「戻りましたー」



そこへ、新たな人影が現れる。
360度にプラグが挿してあり無数のケーブルを腰の機械に繋げている、土星の輪のように頭全体を覆うゴーグルが特徴の少年。
彼もまた『スクール』の構成員の一人だった。

少年は辺りを充分に見回した後、心理定規に問う。



ゴーグル「あの、垣根さんは?」

心理定規「いつも通り。仕事がないからって、また地下室に立てこもってるわ」

ゴーグル「はあ……戻ってからずっとッスね。地下はなにがあるんですか?」

心理定規「なにも。彼が暴れても耐えられるくらい強度がある空間だけよ。物なんて置いてなかったわ」



むしろ入った事がある発言に驚いた。

このビルの所有者は何を隠そう垣根帝督である。
彼が買い取った訳ではなく、“上”の提供だ。
その時点で怪訝ではあるが今は置いておく。

『スクール』を抜ける前も戻った今も、垣根は頑なに誰も入れようとはしない。
たった一人で地下に籠もり、しばらくしたら戻ってくる。
『スクール』に戻ってからというもの、毎日こういう感じだ。
けれど、以前まではこんな頻繁に立てこもる事はなかった。
それこそ多少ピリピリしている時に、彼の逆鱗に触れる事がない限りは。

……そんな気持ちが顔に出ていたのか、心理定規は憂いを帯びた声で、



心理定規「そうね……彼、仕事に関してはキッチリとこなしちゃうんだから、命の心配はないんだろうけど」

ゴーグル「意外ですね。仕事柄の関係だと思ってたんスけど」

心理定規「どうかしらね。リーダーって立場だからじゃない? とも思うし……」

ゴーグル「……?」

心理定規「……」











―――見てられないじゃない。













―――――――――――――――




広大な部屋だ。ただただ広い空間。
その割に物は何も置いていなかった。
まるで実験で使われてそうな雰囲気である。
けど実際、作らせた本人はそこを目指したのだ。
自分が暴れても壊れない程度の頑丈さ、そして広さを求めた。

その中心に腰を下ろすのは垣根帝督。
水でも被ったかのように汗を掻いていて、上半身は上着を脱いでシャツ一枚の状態だった。
ネクタイを緩め、ボタンも何個か外していた。



垣根(……まだだ。まだ足りねぇ)



髪を掻き上げ、眉をひそめる。
かれこれ一時間以上、未元物質の試行錯誤を繰り返している。
今の現状に甘んじず、更なる高みを見据えていた。



垣根(もっと未元物質の本質を理解しろ。捉え、壁を取り払うんだ)




誰が見ても、彼には焦りがあった。
そして余裕がないように見えた。
彼自身、自覚はもちろんある。
原因なんて……一つしかない。



垣根「……あいつらは……」



一方通行や浜面は、今頃どうしてるのだろうか。
突然の解散に困惑してるのか。
何を思って、どうしてるかなんて今更判らない。
散り散りになってしまった今では、あのファミレスに集まる事すらなかった。
別々の組織に入れられた、という報告ぐらいしか情報がない。







―――安心しろ。俺達四人は永久不滅だ。







垣根「……クソッタレが」





―――――――――――――――




やりたい放題だな、と浜面仕上は思った。

彼は今、第七学区のファミレスにいた。
その四人用のボックス席に女の子四人が座っていた。
何の変哲もない事だが、少女らは確実に異色な雰囲気を出していた。
周りの客も店員でさえも、遠慮どころか引くぐらいの。
何せ彼女達は店のメニューを頼まず、明らかにコンビニで買ってきました感バリバリの物を食べていたからだ。



「あれ? 今日のシャケ弁と昨日のシャケ弁なんか違う気がするけど。あれー?」



店内なのに秋物らしいコートを着込んだこの女は麦野沈利。
ストッキングに覆われた足を組み直しながら、窓際でそんな事を呟いては首を傾げている。
変わんねえよ、と浜面は心の中だけでツッコンだ。




「香港赤龍電影カンパニーが送るC級ウルトラ問題作……超気になりますね。要チェック、と。フレンダと滝壺さんはどう思います?」



一方、絹旗最愛というふわふわしたニットのワンピースを着た、12歳ぐらいの少女は映画のパンフレットに目を通しながら、他の少女二人に問いかけた。



フレンダ「え!? えーと……結局、絹旗の感性にはついていけない訳よ」

滝壺「……」



そして如何にも気まずそうにしてる二人がご存知の通り、フレンダ=セイヴェルンと滝壺理后である。

彼女達は『アイテム』。

学園都市の非公式組織で、主な業務は浜面が前に所属していた所と大して変わらない。
変わるのは依頼する人間だけであろう。



浜面(案の定動揺してやがるな。まあ、俺も人のことは言えねえけど)



……浜面仕上はまだ、頭の整理が追い付いていなかった。


学園都市を揺るがしたあの事件のその後。
彼はインデックスを上条の家に送り届けた直後、黒ずくめの武装集団に襲われたのだ。
特に危害を加える事もなく、通達を出して引き下がっていった。
実に明快な言葉だった。

上条当麻の組織は解散、浜面仕上は『アイテム』の雑用に命ずる、こんな感じであった。

物言いはもう少し砕けて乱暴だった気もするが、あまりの衝撃の事実に覚えていない。
どうして解散なのか、上条の身に何かあったのではないか、とか色々彼の中で渦巻く。
しかし、数々の疑問の中でも最たるものは―――垣根や一方通行は受け入れたのか?



浜面(急に連絡が出来なくなったし、滝壺はまだ『闇』にいるってことが発覚したし……)



それに関しては半分予想していたので、ショックは少なかった。
そんな事よりも、



浜面「まさかフレンダまでとは思わなかった……」

麦野「何か言った?」

浜面「いんや、なにも」




自分はあくまで『アイテム』の雑用係。
上条の所とどう違うのか、定かではない。
やっていく内に判っていくだろう。

チラリと視線を知り合いの少女達に移せば、まだ気まずそうにしていた。
フレンダは苦笑いを浮かべ、滝壺は完全に電波を受信中である。



浜面「……で? 俺はどんな事をすればいいんだ?」

麦野「主に車の調達。後は……そうね、口じゃ説明しにくいから現場でするわ」

浜面「ん、早速調達してこようか?」

麦野「仕事が速いのは何よりだけど、今日は私達オフだからこれといって必要ない」

浜面「……」



思わず目が点になってしまった。
え? じゃあ今日来た意味なくね? と素直に顔に出ていた。

察した麦野は呆れたように、



麦野「顔合わせは必要でしょ? じゃなきゃ呼ばない」

浜面「そうかよ……」



どれほど上条が仕事にキッチリとしていたか、身に染みて感じる。
別に麦野がアバウトだとか、そういう訳ではない。
だけどこれがもし、初めての暗部の仕事であれば確実に自分は戸惑うであろう。
困惑しながらも、グチグチと零しつつ仕事に取りかかったはずだ。
その点、上条は下準備を欠かさなかった。おかげで突然の襲撃に遭っても難無く対応できたのだ。




麦野「……ん?」



……と、話を遮るように携帯のバイブ音が鳴り響いた。
まっさきに反応を示したのは『アイテム』のリーダーである麦野だった。
それに伴い浜面以外の少女達は麦野の表情を窺い始めた。
と言っても一瞥の程度のもので、そんな不穏な空気は流れない。
しかし、適当にだべっていた三人が一斉に麦野を見たのは、それなりの意味があるに違いないだろう。
浜面はそれを見抜いていた。



浜面(とうの本人は……)



麦野は携帯の画面を見て、眉間にシワを寄せていた。
とても良い結果が待っているとは考えにくかった。
携帯は今もなお、バイブによる震動を続けている。

麦野は無言のまま携帯を耳に当てると、通話ボタンを押す。



麦野「今日は私らオフだから。それじゃ」



切ろうとする麦野に対し、電話の奥で「こいつときたらーっ!」という声が聞こえてきた。

うるさそうに携帯から耳を離すも、奥の音量が小さくなったのを見計らってから再び耳に当てる。
麦野の相槌しか聞こえなくなった。という訳で、浜面は麦野から興味の対象を変える。
先ほど妙に麦野の電話に構えた少女達にだ。

だが、三人のうち二人は自分に対して気を遣っているので、おのずと一人に絞られる。
なるべく麦野の電話の邪魔にならない程度に声の音量を下げて、



浜面「なあ、アレってもしかして……」

絹旗「おそらく仕事だと思いますよ。オフといっても、超こんなことばかりですから大抵集まっているんです」



あくまでも業務的に、と言いたいそうだ。
こちらを見向きもせず答えた少女だったが、その割に集まる事が面倒だとは言っていなかった。
それなりに仲間意識はあるのだろうか?



絹旗「……初めてだからってのは判りますが、初対面でそこまで顔を近付けられると超引きますよ?」

フレンダ「結局、キモいって訳よ」



オイ待てこの野郎、と思わずツッコミそうになったが何とか踏みとどまる。
とりあえず心の中だけにしておいた。

今さっきまで気まずそうにしていた人間の言葉ではない事は確かだ。
あまつさえ、やれやれといった感じで呆れていた。



滝壺「大丈夫。私はそんな浜面を応援している」

浜面「テメェまでもかっ!!」



我慢の壁はいとも容易く取り払われたようだった。




麦野「はいはい。お喋りはそこまで」



話が済んだらしい麦野は携帯を閉じ、会話を中断させる。
伴って自然と浜面達は麦野へと注目した。
全員が聞き入る姿勢になってから彼女は言葉を紡いだ。



麦野「察しは付いてるでしょ? 浜面、調達お願い。それまでに大体の説明は話しておく」

浜面「あいよ」

麦野「あぁそれと、事が終わったら調達以外の説明できるようになったから」



つまり残れという事か。
適当に返事をすると彼は席を立った。
外に出て、歩きながら思う。

まず『アイテム』の第一印象。



浜面(……もし敵に捕まった場合、一人でなんとか出来そうなのは今のトコ麦野だけ、か)



Level5だと聞いているし、充分可能だろう。
しかし他の少女達はどうなのか。
絹旗は知らないが、滝壺は能力的に到底無理だ。

そんな時、リーダーである麦野はどんな判断をするのか?




浜面(……)



一部を除いて、『アイテム』自体に思い入れがある訳でも、感情移入するなんてもっとない。
それなら上条がいた組織の方が期間は長いし、感情移入すると言えば頷ける。


しかし、例え今日加入されて初日だとしても、身内の人間が捕まったなど裏切ったなどと聞いてしまったら……。



浜面(俺は……どうするんだ)



信じるのか。
許さないのか。

もしくは捨てるのか。

彼の道はいまだ不安定なままである。

投下しゅーりょー

医師に体が限界ですと言われました←
入院中は携帯を触れなかったので、入院前に溜めてた分と退院後に書いたものなので短いです

さて投下ですよ!




浜面仕上は黒いワゴン車に残されていた。
戦力外どころか正規メンバーですらない彼は『アイテム』の雑用でしかない。
こうして車の調達と運転しか仕事はないのだ。



浜面「……」



トントン、と指でハンドルを一定のリズムで叩き、暇を持て余していた。
無言で見つめる先はとある施設であろう研究所だ。

詳しい事は知らないが、麦野の話の節々を繋げていくと何となく理解した。
元々ココは植物に関する所だったらしい。
しかし新しく出来た場所へと移動となった為、取り壊しの予定だという。
それだけなら問題はない。
けれど、最近になって不審な動きが見え始めたのだ。
設備だけなら植物を育てるには適している場所。




浜面(花から出る花粉や香りで能力向上を計る実験ねえ……)



何も脳を弄くるだけが能力を発現させる訳じゃない。
人が生活を送る何気ない日常の中に、ポンと一つ織り交ぜる。それだけで既に実験は行われているのだ。
それこそ自販機のジュースに一本でも自然に混ざっていれば、充分実験は可能である。
人間の認識上、「自販機で売られているんだから安心だろう」でしかない。
例え見慣れない商品があっても、ロゴ付きで“新感覚!”と書かれていれば新商品だと思い、完全に安心の認識レベルまで下がってしまう。
学校でもいい。花壇の中に施設で育てた花を一輪混ぜるだけで、後はデータとして記録するだけで済むのだ。

これはあくまで一つの例だ。
この施設の植物も同様である。

だが、その植物を育てるには打ってつけの環境を利用して、どうやら薬物を育成、売買をしているという情報をキャッチした。
本来なら警備員(アンチスキル)の役目だと思われるが、何しろやっている人間が『闇』に関わっていて、尚且つ統括理事会の一人も干渉しているというのだから放ってはおけない。
表沙汰になれば学園都市その物の信用問題になりかねないのだ。



浜面(能力、か)



物によるがあった方が特はしたという認識ぐらい。

昔の自分なら能力者と無能力者の違いにコンプレックスを抱き、それを理由に逃げてばかりいただろう。
だけど、無能力者と能力者に優劣を付けること自体間違いなのだと上条を見て学んできた。

それよりも『あの日』に滝壺を助けられなかった自己嫌悪の方が圧倒的に強い。
延長線上で「能力があれば……」となるかもしれないが結局は無い物ねだりでしかない。



浜面「今の俺がいるのはそれのおかげだしな」

滝壺「……はまづら?」

浜面「なんでもねえよ」



……と。何気なく出た言葉は後部座席にいた滝壺に聞かれてしまったようだ。
今回は滝壺に出番はないようで、浜面と一緒に留守番らしい。

二人の間に会話はなかった。
滝壺は聞きたい事が山ほどあるはずなのに。
聞きづらいのだろう。浜面はその気持ちが痛いほどよく判る。

九月三十日、滝壺とようやくマトモに会話が出来た時の自分がそうであったから。
そんな簡単に聞ける内容であるならば、浜面も滝壺も苦労しないのである。
けれど明確な事もある。浜面の心の闇は滝壺以外に拭える人物はいないということ。
そして拭った時、何もない平地に己の道、彩りを付けるのは浜面自身の問題だということ。



滝壺「……はまづら」



しかし、困った事が起きた。

思わず出た言葉は彼女が紡ぐキッカケとなってしまったのだ。
彼の心の中で動揺が走る。
たった一言、それも自分を呼ぶ言葉だが、その声は普段とは異なっていた。
不安や疑問が混ざり、それでも確かな意志が宿った声である。

浜面は恐れていたのだ。彼は滝壺が学園都市の闇にいることを許せないでいる。
当然だろう。未だ学園都市の良いように使われていると知って、怒りを感じない訳がない。
……しかし、だ。これはあくまで浜面視点での話なのだ。

そこで今度は滝壺に置き換えてみる。









滝壺は同じように、浜面が学園都市の“こんな所”にいる事を許せないでいるのでは?











滝壺「一つ、聞いていい?」



そして何より、浜面が恐れているのは彼女の勇気だった。
自分には兼ね備えない、一歩踏み入れる勇気に。
滝壺がする質問の内容は言うまでもない。

どう答える。

スキルアウト繋がりで堕ちたとでも言うか?
それとも上条の話から真実を話すか?
こんな生半可な気持ちのままで説明をできると思っているのか?



滝壺「はまづら……?」

浜面「あ、あぁ。なんだ?」



黙っていたため、不安がらせてしまったようだ。
けど……何て答えればいいのだ?

説明どころか誤魔化しの言葉すら思い付かない。
そんな整理されていない自身の状況で、滝壺を誤魔化し切れたり、伝えられるのか。



滝壺「……」



バックミラーで彼女を確認すると、じっと浜面を見つめていた。
後部座席に座っているため、視線の先は頭だ。顔が見えない事が幸いか。
今見られたら何もかも見透かされる気がしてならない。



滝壺「わかった。聞かない」




―――一瞬、息ができなかった。




その言葉の意味が判らず、頭が追いついていけなかった。
どうしてそんな事が言える。話題に触れるだけで相当な勇気がいるというのに。
口にして聞いてしまったら後戻りは出来ない。振り返る手段は用意されないはずだ。
自分がそうだから。一歩でも進むと、その足を戻す事が怖くて堪らなくなる。
戻ってしまえば“あの頃”の自分に戻るのではないかと思うのだ。

なのに彼女は何故、踏み出した一歩を戻す事が出来る。
振り返り、過去を見つめる事が出来る。




浜面「……どうして」

滝壺「聞いてほしくないって感じたから」



彼女は優しく微笑みかける。
今はその温かさが……辛くて仕方ない。



滝壺「はまづらが聞いてほしくないなら、今は聞かないよ。時間はいくらでもあるから」



違う。違う。そうじゃない。
時間は幾らでもあるが、経った分だけ辛さは増す一方なんだ。
放っておけば現実逃避してるみたいでまた嫌になる。
これの繰り返しだ。何も成長しない。

判っていながら動けない自分は嫌だし、そして何より滝壺の言葉に安心している自分が一番嫌だった。



滝壺「待つよ」



待たないでくれ、と言えたらどれだけ楽か。


聞いてほしいというのは本音で、聞かないでほしいというのも本音である。
実にワガママだろう。どんなに強がっても自分は正直なのだ。
怖かったら足は震えるし、逃げたいとも思う。
昔に比べれば考えるようになったが気持ちと体が一致しない。
誰にでもある事。そう言ってしまえば楽だ。

しかし、ここから二手に人間は分かれる。

誰にでもあると自身に言い聞かせ、立ち止まってしまう人間。
その壁を取り払うために行動へと移す人間。






―――俺はどっちなんだ?






麦野「……なにこの空気?」



後部座席のスライドドアが開いたかと思えば、麦野が戻ってきた。
彼女は黒い寝袋を引っ張っている。
大人一人分ぐらい入るくらいのサイズで、中身が詰まっているらしく、デコボコとしていて妙な感じだった。


何てタイミングが良いのだろうと浜面は心の中でつぶやいた。
まるで話題を変えるチャンスのように麦野が戻ってきた。
普通に考えれば施設内から爆発音が止んだ時点で、仕事は終了したのだと予想ぐらいつく。
しかし、そんな気が回らないほど自分は追い詰められているのかもしれない。



浜面「終わったのか?」

麦野「ええ。滝壺、裏口の所に帰宅用に呼んだ車があるからそっちに移って。絹旗とフレンダは既に向かってる」

滝壺「むぎのはどうするの?」

麦野「ん」



と、黒い寝袋を浜面の方へ突き出した。
選択肢がない彼は仕方なく両手で抱える。
重量はかなりあるし、感触も生々しい。
まるで本当に人間一人を抱えてるみたいで。




浜面「おい、これって……」

麦野「死体」



表情を変えず、普段とまったく同じトーンで彼女は言った。
それは魔法の言葉であり、悪魔の囁きだ。
黒い寝袋の印象が一瞬で変わる。
今、自分が両手で抱えている“物”が死んだ人間だと思うだけで気味が悪い。
それはそうだろう。どんなに精神力が強い人間でも目の前に死体があるっていう事実は受け入れがたい。

ここで問題なのは視覚である。

果たして死体を見えていないのは救いなのか?
きっと見えている方が良かった。
想像なんてしなくて済むのだから。
大人かもしれないし、子供だってありえる。
男性か女性も判らない。どちらにせよ、自分が今から行う仕事をするとなると……。



麦野「考えるな」

浜面「……」

麦野「この世界で生きていくなら、一人の命の価値なんて考えないこと」











浜面「……ああ、判ってる」










滝壺「……」

投下しゅーりょー

投下しまーす

短いです



死んだ人間を間近に見た事はなかった。

死んだ人間を見た事はなくとも感じた事がある。


かつて仲間であった三人が仕事を終えて車に乗り込む時、現場へ向かう姿と帰ってきた姿は違う。
何がどう違うかを聞かれると答えにくい。
感じるのだ。「あぁ……」と。
例え殺す事が目的としない日でも、浜面は僅かな違いを感じる。
それは今まで彼が車の調達、更に仲間達を送り迎えしてきたからこそ。

人を殺した事がないから、本人の中で渦巻く物を知る事は出来ない。
考えて判るような事でもないから、仲間達に何も言えないのは当然だった。




浜面「……」



彼は今、死んだ人間を両手に抱えている。

自分が手をかけた訳ではない。
殺した人間は別にいて、自分は死人の『後始末』を任されただけだ。
暗闇の中で生きてきた者の末路なんてロクでもないだろうと、頭の隅っこで考えていた。
だけど、墓ぐらいはあると微かな救いも求めていた。



浜面「こんな、価値でしかねえのか」



目の前に鎮座する巨大な装置、電子炉だ。
その性能は肉から骨まで灰に変えることすら容易い。
元々、実験動物を処分するために作られた装置である。
今となっては不要の代物で、誰も使わなくなれば近寄る事もなくなったそう。



しかしこの機械は、今もゴウンゴウンと低い音を立てながら起動中である。
理由は至ってシンプルだ。まだこの機械は使われているということ。



浜面「どっから電力引っ張ってんだか、コンセントじゃ足りないだろうに」



そんな場違いの愚痴の一つや二つ言わないと、こっちとしてもやってられないのだ。
彼の仕事は簡単で、寝袋を電子炉に放り込み、蓋を閉めて赤いボタンを押すだけ。
後は勝手に中身に限らず寝袋ごと灰に変えてくれる。
灰になった“モノ”は袋に纏めて捨てればよい。

たったこれだけだ。
時間にして十分もかからないだろう。



浜面(……)



電子炉を前にして、彼はためらいを覚える。


自分が殺した訳ではない。
だから罪を感じる必要はない。
この街で生き残るには必要だから。

けれど、死んだ人間は『人間』という枠がある。
これから行おうとしてるのは『人間』という枠から『物』に変える作業だ。
手の平から伝わってくる重みと、柔らかい感触などそれら全てを焼き尽くし、灰に変わる。

人として認められなくなる。
その作業を行った人間は罪ではないと言えるのか?



浜面「クッソ……」



彼の脳裏に見た事もない誰かの顔が想像されたが、ムリヤリ振り切って寝袋を電子炉の中へ放り込み、蓋を閉めてロックをかけた。

赤いボタンに手を当てる。
押すまでには至らなかった。
この期に及んで自分は何をためらっているのか。
まだ綺麗でありたいという執着心からか。

グルグルとあらゆる思考が回る。
無駄だと感じ、できるだけ何も考えないようにしたら、表情が消えた。
本当に人を殺そうとする人間の顔になった自身に恐怖を覚えて、手が震えた。
すると、意志とは関係なしに手がボタンを押してしまっていた。





処分が始まった。





しばらく眺めていた浜面だったが、一歩、二歩と後退して、やがて床に尻餅をついた。

結局、寝袋の中身は誰だったんだろう。
自分と同じ無能力者かもしれないし、もしかしたらLevel4の能力者の可能性もある。
子供だと考えたくないが、大人だとも言い切れない。更に言うならば女性だってありえる。


そしてこの電子炉はそれらを全て焼き尽くして灰に変えるのだ。
灰になった後は判らない。
風に吹かれてちりぢりになり、学園都市の一部になる可能性だって否めない。
最悪、ゴミ処理場に送られて、他の物とまとめてグチャグチャに変えられ肥料になる。

仮にゴミの中から灰が見つかっても、人間の扱いはされないだろう。

喋ることもない。動くこともない。まして死体“だった”物だ。
それらを灰ではなく、人間だと認識するはずがない。
DNA情報を紛失した肉体は、物的な証拠として認められないのだから。

墓石が作られても遺骨はそこにない。
まず作られるかどうかも判らない。
寝袋の中身が自分と同じ下っ端の人間、或いは何の事情もなく巻き込まれただけとする。
そんな人間のために学園都市がわざわざ墓を作るのか。
……知らないだけでそういう所があると信じたい。

でも、結局その墓に意味なんてない。
建前上あるだけの石に過ぎないのだ。




浜面(俺も死ぬと、こうなるのか。燃やされて、なにも残らなくて……)

「はまづら」



後ろから呼ばれた。
滝壺理后のものである。
心配して、駆けつけてくれたのか。
そんな事をすれば麦野に怪しまれる危険性だってあるのに、健気だと本当に思う。

……分かってる。今の自分はあの滝壺でさえ、他人事に考えてしまっている。
余裕がある訳ではない。むしろない方だ。
しかし、たった一つ言えるのは―――彼は今自分の道を見失いそうになってる事だ。







滝壺「はまづら」






ピーッと、音が鳴った。
電子炉の焼却処分が終わった知らせである。

浜面は滝壺を無視して、腰を上げた。
蓋を開け、中にある灰をかき集めると、別に用意していた袋に移していく。






滝壺「……」






彼の仕事は、まだ終わっていない。

投下しゅーりょー




麦野「やっと終わった?」



ビルを出てすぐの所に、壁に背中を預けている麦野がいた。
腕を組みながら待つ姿は退屈そうな雰囲気を覗かせる。
何だかんだで車から寝袋を抱えて出て、十分以上はすぎているはずだ。
今日初めて会ったばかりだが、判ることはこの女は自分以外に都合を合わせようとしない。
Level5特有の自己中心的な部分が強い傾向にある。
と言っても、Level5なんて三人しか知らないので断言はできない。



浜面「……待ってたのか? てっきり帰ったもんだと思ってたんだが」

麦野「監督不届きで勝手に死なれちゃ困んのよ」

浜面「心配、してたのか?」

麦野「頭のネジが弛んでるならシメ直してやろうか?」



ゾッとする。

殺意すらこもってない上辺の言葉であるにも拘わらず、麦野の目は本気だった。
つまり、手加減はするものの本気ということだ。



麦野「代えなんざ幾らでも利くけど、手間かかるじゃない」

浜面「……」



今更、能力の格差に絶望するほどひねくれてはいない。
思い知らされる。どんな社会でも同じだ。
相手は自分に期待もしなければ、時間をかけることすらもない。

そう思うと、駒場を率いるスキルアウトや上条がリーダーを務める暗部に居た頃は、異様の一言に尽きる。
駒場利徳は基本無口ではあるが、情に厚く、それでいて仲間を重んじる心を持ち合わせていた。
上条当麻は揺るがない信念を持ち、厳しく冷めた所もあるけれど仲間の危機ならば駆けつけてくれる。


ここで疑問が浮かぶ。
はたして二人は『上』に立ちたくて立っていたのか?
俺についてこい! のような気質は二人にない。
どちらかと言うと“自然と集まってきた”タイプだ。
自ら呼び集めたというより、付いて来る者が増えていった。



浜面(麦野はどうなんだ?)



暗部の面で上条は元々一人だったと聞く。
麦野も一人だったのか? そして滝壺達が彼女に惹かれて集まったのか?
……失礼ではあるが、考えにくかった。

「代えなんざ幾らでも利く」と麦野は吐き棄てた。
それは自分だけが対象と限らないのでは?
他の三人もそうで、結局彼女にとって取るに足りぬ存在かもしれない。



では―――『アイテム』とはなんなのであろう?





浜面「じゃあ、よ。もしもの話をしてもいいか?」

麦野「長くならなければ」

浜面「あんたにとって……他の三人も同じなのか?」



判らないから聞くことにした。
絹旗、滝壺、フレンダの三人も俺と同じように使い捨ての存在なのかと。

対する麦野はその言葉を聞き、大袈裟に溜息をついた。
何を下らない事を言ってるんだと主張するように。



麦野「考える意味なし。以上」

浜面「……」

麦野「不満って顔ね。なら、テメェの理想論に現実を叩きつけることになるけどいい?」

浜面「わかったよ。聞かねえ」

麦野「よろしい」




これ以上話す事はない。
彼女が去るのを待っていれば、こちらが気まずくなるだけである。
それに仕事の『残業』も終わっていないのだ。

浜面が麦野を通り過ぎようとしたところで、






麦野「その手に持ってる“袋”」






彼の足は止まってしまった。
嫌な所を突かれたとばかりに動揺が走る。

今の浜面には一番触れてほしくない所だったからだ。




麦野「追及はしないけど、忠告はしたはずよね」

浜面「……ああ」

麦野「自覚はあるのか。言っても聞かないなら、無理やり聞かせる手段は取らせてもらうわよ?」



空気が張り詰める。
能力でなくとも、拳の一発は覚悟を決めなければならないかもしれない。

彼女の能力については垣根から聞いたことがあった。
簡単に“空中からビームが撃てる”と思ってくれればいいと。
細かい話になれば難しくなり、浜面の頭では追いつけそうになかったからだ。



浜面「別にいいだろ。袋に関して手間がかかるのはアンタじゃない、俺だ」

麦野「ふーん……あっそ」



言った後に怒るのではないかと懸念したが、そうでもなかった。

どうやら見切りをつけられたようだ。
言っても聞かない手合いの対応は上条と垣根の二人でも違っていた。
これが麦野のやり方だと思えば、これといって違和感はない。



麦野「先に戻っとくから、終え次第、あんたも来なさいよ?」

浜面「あいよ」

麦野「場所は後で絹旗かフレンダにマップを送らせるから」



そう言い残し、彼女は浜面より先に去っていった。
興味が失せたのだろう。見切りをつけ、歩き出すまでの時間が短かったのがいい証拠だ。
一人佇む彼は去っていく麦野の背中を見つめることしかできない。



浜面「……」



視線を下ろして袋を見つめる。


つい数十分前までは両手で抱えるほどあった質量は、片手で掴める僅かな物でしかなくなった。
これが一般のゴミならば植物や畑の肥料に変わっていくのだ。
動物の場合は骨をすり潰して粉末状にした後、最後は上記と同じ結末である。



浜面「俺も……こうなっちまうのか」



自分という体は失い、人間としての扱いまでも失う。



浜面「……」



彼は袋を強く握りしめると、歩き出した。




―――――――――――――――




浜面仕上は河川敷に訪れていた。
灰を川に流していたのだ。
どんな理由があろうと、灰をゴミ箱に棄てることなんてできなかった。
ただの自己満足に過ぎないのは分かっているし、こんなことをしても心の蟠りが晴れないことも知っている。
……それでも、元は人間だった物を生ゴミの中に捨てるのには抵抗があった。




浜面(最低、だな)



流れていく灰を、じっと見る。
川に溶け込む様子を眺め、ぼんやりと彼は思う。



浜面(別に俺は、あの寝袋の中身に同情したわけじゃねえ。単に次は俺かもしれないって思うのが怖かっただけだ。
   俺が死んだ時にそういう風に処分されるのが気持ち悪かったからってだけなんだ)



仕事は終わった。
けれど、仕事は一つではない。
『アイテム』の隠れ家に戻れば新たに仕事が舞い込んでくる。

決して“仲間”とは言えない身内のところへ帰らなければならないのか。
上条と比べていない、と言えば嘘になる。比べるな言う方が無理だ。
ただ、素直な感想を述べるならば―――麦野に付いて行こうとは思えない。







「お、浜面じゃねえか。こんな所でどうした?」






と。彼の思考は中断された。


急に現実の世界に引き戻された浜面は、声の主の判別がつかないまま振り返る。
するとそこには、見知った顔があった。
スキルアウト時代、駒場と一緒に連んでいた人物だ。
辺りは薄暗くて多少見えづらいが、その姿を見間違える訳がない。



浜面「お前……半蔵か?」

半蔵「もう顔を忘れちまったのか? 寂しいねえこの野郎」



そんな軽口が言えるのは仲が深い証拠である。
かつて共にスキルアウト同士として過ごしてきた日常は今も鮮明にある。

半蔵がこんな所をうろついてたということは、またATMの強奪でも考えていたのだろう。
頭を使う半蔵は、よく金儲けに関して上手く立ち回っていた。




半蔵「気を付けろよ、ここらは駒場に恨みを持った連中が潜んでるって情報が入ってんだ。お前の顔も割れてると思っていい」

浜面「その駒場は今なにしてんだ?」

半蔵「昔と変わんねえさ。ただ、浜面のことは気にしてるな。駒場も俺も」



懐かしい。純粋にそう思う。
半蔵が計画を練って、自分がアシを確保して、駒場が襲撃の指揮を執っていたあの頃。
綺麗な道を歩んでいた訳ではないけれど、充実はしていたと感じる。



半蔵「迷ってる顔してるなお前。スキルアウトを抜けてから少しマシになったと思って、安心してたんだけどな」

浜面「すまねえ」

半蔵「なにも謝ることはねえだろうよ。浜面の場合、悩むのは性分って決まってんだ」

浜面「クッソ、否定しようにもできねえよ……」

半蔵「その優柔不断な性格も相変わらずか」



半蔵は懐かしむようで、ドコか呆れたように笑みを浮かべた。

ふと、何かを思い出したのか、彼は懐を探り出した。
浜面はその様子に首を傾げながらも黙って見守る。



半蔵「ほれ、やるよ」



取り出した物は、拳銃だった。
半ば押し付けられる形で受け取る。



浜面「お、おい、これ」

半蔵「俺には必要のねえ代物だよ」



それに、と続ける。



半蔵「今のお前はあの時の駒場によく似ている」

浜面「……」

半蔵「『無能力者狩り』に腹を立ててた時の駒場は自分のことを顧みなかったからよ。生きてるから良かったものの、もしあのまま続くと……って考えるとな」




きっと上層部に目を付けられ、暗部に依頼がきていただろう。
そうはさせないために裏で上条と駆け回り、『無能力者狩り』事件は鎮静化に至ったのだ。



半蔵「念のためだ。別に絶対使えって訳でもねえ。けど、今のお前になら必要かもしれない……そんな気がする」

浜面「そう、か」



浜面は拳銃を見つめる。
グリップが手のひらの半分ぐらいしかない。
上条から貰った拳銃に比べれば、幾分小さかった。



浜面「……レディースだぞこれ」

半蔵「武器なんてものは使い勝手が悪い方がいい。手に馴染みすぎると余計な血を流す」



そうかもしれない。
手にする武器はいざという時に発揮される。
垣根や一方通行みたいに圧倒的すぎる能力があれば話は別だが。
浜面もスキルアウトの時は、武器なんて持ち歩かなかった。
主に拳と足か、そこら辺に落ちてある物を拾って武器にしていたものだ。




浜面「……」



彼は拳銃を懐に入れる。
踵を返し、歩き出した。
軽く片手を上げ、ぶっきらぼうに手を振る。



別れの言葉はなかった。



半蔵も黙ってその背中を見送る。
彼もまた、言葉を告げない。
二人の間に言葉は必要ないのだ。

投下しゅーりょー


さて、投下します
短いですぞ




第三学区の高層ビル、総合スポーツジム内のプライベートサロン。
『アイテム』の複数ある隠れアジトの一つである。
メールで寄越してきたマップの指定通りに、浜面仕上は足を運ぶ。
着く頃には日も暮れ、月が顔を出していた。



麦野「遅いよ、浜面」



浜面と目で確認を取り、気怠げに答えるのはリーダーこと麦野だった。
辺りを見回す。フレンダ、絹旗、滝壺、と他の面子も揃っているようだ。
滝壺と目が合いそうになったが……思わず逸らしてしまった。
さすがに気まずい。心の中で謝っておくので、勘弁してもらいたい。


彼は平静を装いつつ、



浜面「で、次はどんな仕事だ?」

麦野「まだよ」

浜面「……?」



その意味が判らないでいると、見かねたフレンダが携帯から顔を離して、



フレンダ「いつもの『電話の女』から連絡がまーったく来ないの。結局、それ待ちよねえ」

絹旗「かれこれ何時間も超待ってるんですけどね。もうパンフレットの読むところありませんよ」



フレンダに続いた絹旗は映画のパンフレットから視線を外さずに述べた。

なるほど、大体話の流れは見えた。
つまり、麦野沈利は機嫌が悪くなっているのだ。
彼女に限らずフレンダや絹旗ですら、不満が溜まっているのだろう。
愚痴の一つや二つをこぼしてしまうほどに。




麦野「……ったく、休暇もなくなって、挙げ句の果てには連絡よこさねぇのかよ」



イライラしてるのが目に見えて判りやすかった。
口調が変わりすぎている。



浜面(電話が来るまで待機ってことか)



どうしたものか、と浜面は困ったように頭を掻く。
暇を持て余している訳だが、それはそれでこの上なく気まずいのだ。

自分の立ち位置は“雑用”である。
しかし、仕事がなければ雑用なんて必要ない。
適当に過ごしてればいいのかもしれないが、その過ごし方が判らない。
フレンダみたいに携帯をカチカチするタイプではないし、絹旗みたいに没頭できる趣味もない。



滝壺「……」



ふと、彼女を見てしまった。
彼女は自分を見ていなかった。
目が合わなかったことにホッと胸をなで下ろすのと同時に、滝壺に違和感を覚える。
じっと……入り口の扉を眺めていたのだ。



浜面「滝壺?」










滝壺「誰か、来る」









その時だった。


突如、個室サロンの扉が蹴破られた。
その奥から一人の男が歩いてくる。
全員が一斉に男を見るなか……浜面はポツリと言葉が出た。



浜面「か……垣根……」

垣根「……」



紛れもない、かつて仲間であり戦友でもあった垣根帝督だった。
……今までにないくらい、冷たい表情を浮かべてさえいなければ、以前と変わらないままだ。



麦野「『未元物質』……!!」

垣根「名前で呼んでほしいもんだな。どっかの中二病野郎じゃあるまいし」



麦野は忌々しげに言葉を放つ。
顔見知りであることは知っていたのだが、まさか早くも一触即発の雰囲気にガラリと変わるとは思っていなかった。
仮にも二人はLevel5だ。そんな二人がドンパチやろうものなら、この部屋がいくら3LDKはあろうと吹き飛んでしまう。


どんな目的かは判らないけれど、垣根は話し合えば暴力沙汰にはならない。
彼の逆鱗にさえ触れなければ問題はないはずだ。



浜面「ちょ、麦野待て―――」



制止の声は虚しく終わる。
何故なら、浜面の声を聞かずして彼女らの行動が早かったからだ。

まっさきに動いたのは絹旗である。
少女はソファから立ち上がりもせず、目の前に置いてあった高級感溢れるテーブルを垣根に向けて投げつけた。
これは絹旗の窒素装甲(オフェンスアーマー)という能力によるもの。

結果を見ずに絹旗は壁際まで走り、容赦なく破壊した。
そして浜面と滝壺の手を掴むと、麦野に目配せをしてから壁の向こうへ飛び込む。



浜面「お、おい……!?」

絹旗「行ってください」



絹旗は言う。




絹旗「未元物質とは以前、接触したことがありますから。麦野も超能力者ですし、あの手合いの戦闘に巻き込まれれば超厄介です」

滝壺「きぬはた、ダメだよ」



どうやら滝壺は絹旗の意図が読めたらしい。
絹旗は取り合わず、真剣な面持ちでハッキリと言葉を発した。



絹旗「だから、私達が時間を稼ぎます。その間に浜面と滝壺さんは超逃げてください」

浜面「……お前、それって」

絹旗「ええ。私達を見捨てていけと言ってるんです」



浜面が反論する前に、少女はさせまいと畳み掛ける。



絹旗「『アイテム』は滝壺さんが要です。滝壺さんが生きてさえすれば、『アイテム』は成り立つんですよ」

浜面「滝壺が生きてさえすればって、お前らが死んだら意味がないだろ! 『アイテム』は四人揃って『アイテム』じゃねえのか!?」

絹旗「……そんな綺麗事、超久々に聞きましたよ」

フレンダ「結局、雑用のくせに生意気な訳よ」




元いたサロンから、壁の穴をくぐってフレンダが現れる。
何故か頬には傷が入っていた。
既に戦闘は始まっているというのか。



フレンダ「もし見捨てる感覚ってのが嫌なら、第二位のことは私達に任せて浜面は滝壺を『守る』ために逃げるって思えばいいんじゃない? 結局、死ぬつもりなんてないの」



パチンと、ウインクを決めてみせた。



絹旗「二人はもう?」

フレンダ「まだ。でも、時間の問題よね。麦野は機嫌悪かったし……と、言ってるそばから」

絹旗「始まったみたいですね」



隣のサロンで爆発音が轟いた。
あまりの震動にビル自体が揺れ、壁にヒビが入る。
浜面はギョッとするが、絹旗とフレンダは至って冷静だ。
これからLevel5同士の戦いに突っ込んでいくというのに、余裕すらあった。







絹旗「行ってください。超早く」

フレンダ「結局、こっからは『アイテム』の仕事って訳よ」






彼女らは小さく笑い、背を向けた。
浜面が止める前に壁の奥へと走っていった。

思わず掴もうと伸ばした片手が行き場を失い、宙をさまよう。



浜面(なんだよ……そんな大役を雑用に任すんじゃねえよ。『アイテム』ってのは、仲間のことをなんとも思ってない集まりじゃなかったのかよ)

滝壺「……はまづら、これ」



腕を引っ張られ、何かを手に渡される。
見ればそれは白い粉末が入った小さいケースだった。

『体晶』だ。



滝壺「私が能力を使わないように、はまづらが持ってて」

浜面「なんで、俺に」

滝壺「私は―――」



まっすぐ浜面を見つめ、






滝壺「―――はまづらを信じてるから」

投下しゅーりょー

物語は加速していきます

投下しまーす

投下しまーす




浜面と滝壺はエレベーターに乗り込み、地下の駐車場を目指していた。
静かなモーター音を響かせて、箱型の密室が動く。
その間に浜面はポケットの中から開錠用のツールを取り出し……手が止まった。



浜面(勢いのまま来たけど、本当に良かったのか。あの状況で麦野と垣根がやり合うのは判ってた。けど、俺がもっと早くに前に出ていれば、それは避けられたんじゃないのか?)



勢いのまま頷き、勢いに押され、勢いの状況に流されてきた。
結果、自分は『今』の仲間の半分以上を見捨てる選択をした。

信じた訳ではない。そんな綺麗な心で少女達に託した訳じゃない。
ただ自分に力はないからと決め付けて、そして少女達に託された想いを受けて、自分を納得させたのだ。



浜面(……あいつらは信じてた。仲間を。俺を。フレンダはともかく、絹旗なんかは片手で数えられるぐらいしか話したことないはずなんだ。なのに、なのに……)



自然と開錠用ツールを握りしめる力が強くなる。

滝壺でさえ、自分を信じると言ってくれた。
気まずくも滝壺から避ける形で接してきたにもかかわらず、無能力者で雑用の自分を信じると。
彼女らは純粋だ。闇に浸ったこの世界、珍しい人間だと思う。
仲間を裏切ってもオカシくはない。裏切ってでも生きたいと思うのが人間だから。

それに比べて自分はなんて臆病で、そして他人任せなんだろう。
自動車の調達しか任されて来なかったのだから仕方ない、とは言いたくない。
自分より年下、しかも中学生ぐらいの少女が自らの命を賭けてまで仲間を助けようとし、託した。
時間を稼ぐなんて脆い言葉である。負けるということは判りきった言葉だからだ。
それでも少女は己の役目を背負った上で、背負うことのないものまで背負った。



浜面(俺の方があいつらを仲間と認識していなかったんじゃねえか)



ピン、と音が鳴る。
階数表記は目的地の地下の駐車場だった。

今になって戻りたいと思ってしまう。
自分が勇気を出して、話せば判ってくれるのではないか。
最悪の事態に陥る前に……、





心理定規「あら? 存外に遅かったのね」






―――彼の思考は、一気に払拭される。




心理定規「リーダーなら、もうココに居ないわよ。他に済ませたいこともあるようだし」

浜面「だ、誰だよあんた。それにリーダーって……」

心理定規「垣根帝督。現『スクール』のリーダーよ。私はその一員に過ぎない」



とてもつまらなそうだった。
まるで納得していないかのようだ。

浜面は滝壺を守るように前に出て、



浜面「……何の用だよ。滝壺が狙いか?」

心理定規「まさか。私はあの人の付き添いなだけ。そもそもリーダーの目的はそこのサーチ能力者じゃないっていうのに」

浜面「垣根は滝壺を狙ってたんじゃないのか?」

心理定規「……本気で言ってるなら、あなたは一体リーダーのなにを見てきたの?」



目を鋭くさせ、睨んできた。
怒らせちまったか、と浜面に動揺が走る。




心理定規「リーダーもそうだけど、あなたはもう少し自分がいた組織のことを知るべきだわ」

浜面「は……? おい、それってどういう―――」

心理定規「とにかく、判らないようなら言ってあげる」



彼女は紡ぐ。





心理定規「リーダーは他の誰でもない、仲間であるあなたの様子を見るためにココへたどり着いたの」






浜面にとって、衝撃の言葉を。



浜面「……っ」



言葉が出なかった。判らない。
どうしてだろう、涙が溢れそうになる。


純粋に嬉しかったのだ。会えたことよりも、まだ“仲間”だと思ってくれていることに。
『アイテム』と『スクール』という敵同士の組織に入れられても、垣根は変わっていなかった。

誰かは言うだろう。甘ったれと。
誰かは言うだろう。綺麗事だと。
誰かは言うだろう。現実を見ろと。

確かにその通りだと思う。
学園都市は決して甘くない。
綺麗なことより、汚いことの方が多いかもしれないのだ。
けれど、その『汚い』中でも共に過ごしてきた“仲間”がいた。
たとえ綺麗な道を歩んでなくとも、笑い合った日常が刻まれている。



浜面「……」



垣根は解散を受け入れて、しかし諦めていないのかもしれない。
既に行動を起こしている。それも単独で。



浜面「しっかり……しねえとな」




と、そこに携帯のバイブ音が響く。
浜面の携帯からだ。電話である。
通話の相手は……麦野沈利だった。



麦野『はーまづらあ。そっちに滝壺はいるかな?』

浜面「お前、大丈夫なのか!? 垣根と戦って、それで」

麦野『ゴチャゴチャと騒ぐなよ。今から未元物質に逆襲開始。滝壺の能力を使って追跡させるの。判る? そっちにいるなら、死んでも結果を出させてもらうからさっさと連れて来い』

浜面「連れて、来いって……」



返答はない。ブツッと勝手に通話が切られたからだ。
携帯を耳から離し、画面を見つめる。

マズい。今の麦野は完全に暴走している。
周りが見えなくなっているのだ。



心理定規「どうするつもり? 私は巻き込まれる前に退散するけど」

浜面「……頼みがある」



もう迷うことはない。
迷う必要すらない。

しっかりと、自分の意志を持て。

今のことを考えるよりも、未来のことを考えるよりも、己がどうしたいかという意志を持て!




浜面「滝壺と一緒にココから逃げてくれねえか」

滝壺「はまづら……?」

心理定規「私は暗部の人間よ? あなたの所の第四位もそう。同業者が同業者の逃走ルートを知らないとでも?」



もっともな意見だ。
しかし、浜面は食い下がる。



浜面「だからといって、滝壺をこの建物内に留めておくのは危険すぎる。アンタが敵で、同業者なのも判ってんだ。そうだとしても、滝壺を助けるには俺だけじゃなくて誰かの手が必要なんだよ!」



静かな言葉は、やがて叫びに変わる。
崩れそうな表情で、彼は遮るように続けた。



浜面「頼むよ……。本当は俺一人の力で助けられるならそうしたいさ。けど、無理なんだよ。俺は垣根みたいに能力や、大将みたいに頭が切れる訳でもねえんだ。無能力者で雑用が似合う下っ端に過ぎない!
   誰かの手を借りたところで麦野を抑えられる保証はないけど、最悪の事態は避けられる! だから、こいつと一緒に逃げてくれよ!!」

心理定規「……」



押される形で黙って聞いていた少女は、表情を一つ変えず、本当につまらなそうに溜息をついた。




心理定規「等々交換ね。代わりに私の言うことを一つ聞いてもらうから」

浜面「……」



今度は彼が黙る番だった。
一体どんな要求を突きつけられるのか。

……いや違う。怖じ気づいてどうする。

要求の内容によってためらうのか? 違うだろう?
迷わないと決めたんだ。




―――――――――――――――




車のエンジン音が響く。
浜面が選んだのはスポーツカーだった。
理由は一番近くにあったから。本当はスモークガラスが張ってある自動車が良かったが、探してるヒマもない。

浜面はシャッターを下ろすスイッチを見つける。
地上へ繋がる通路用のものだ。



浜面(気休めにしかなんねえけど……あった方がいいだろ)



カバーを外し、ボタンに触れる。
振り向き、車に乗った二人を見た。

運転席の方のサイドガラスが開く。




滝壺「はまづら……私」

浜面「……生きて帰ってこれるかは判らない。なにせ相手はLevel5だ。時間稼ぎすらできない可能性の方が圧倒的に高いに決まってる」

滝壺「……」

浜面「でも、滝壺は信じてくれるんだろ?」

滝壺「!」

浜面「だから―――必ず帰るよ。傷だらけになってでも」

滝壺「うん、うん。大丈夫だよ、そんなはまづらを応援してる」



彼女の表情に不安が取り除かれ、またあの温かい笑みを浮かべてくれた。
もう辛くはない。素直に受け止められる。

心理定規に目を向けると、携帯に意識は注がれていた。
僅かに見える画面にはマップが映し出されている。
逃走ルートを検索中なのだろう。

そんな彼女に浜面は言う。



浜面「待たせてすまねえ。……行ってくれ」

心理定規「そうさせてもらうわ。なんだか私の方が気まずくなってきたし」



パタン、と携帯を閉じて……浜面を一瞥する。




心理定規「リーダーのこと、任せたから」

浜面「おう」



それが合図だった。
車は発進し、地上へ走っていく。

目をつむって、触れていたボタンに添える程度の力を加える。
するとサイレンの音と共にシャッターが下りてきた。



浜面(さあ、どうする? バレるのも時間の問題だ。これで麦野が滝壺を諦めるなら、次の標的は滝壺を逃がした俺に―――)

「はーまづらあ」



突然、駐車場に反響しながら聞こえた声におぞましい悪寒を感じた。
振り返る直前、浜面の体が何かに薙ぎ払われたように横へ吹っ飛んだ。
そのまま駐車中のトラックへ叩きつけられる。



浜面「ぇ、あ……ッ!?」



激痛が全身に襲われるも声は思うように出てくれなかった。
歯を噛みしめて痛みを堪え、顔を上げる。

さっきまで浜面が居た場所に一つの人影。

錯覚だと思いたいが、あの姿を見間違える訳がない。
麦野沈利が恐ろしい笑みを浮かべながら立っていた。

どうやって居場所を突き止めたのかは判らないけれど、考えてる余裕はないだろう。



麦野「はーまづら? これは一体どういうことかな? ……まさか、粛清が必要って訳じゃないよねー?」



手の平に光の玉を浮かばせる。
『原子崩し』。彼女の能力であり第四位を冠する圧倒的な力。
しかし、今自分を吹っ飛ばしたのは能力によるものではないはずだ。
単純な腕力、だとしても人間を飛ばすほどなのか。



麦野「お前の処置は後、今は『スクール』だから」



シャッターを能力で撃ち抜き、人が通れるくらいの穴が空く。

いとも簡単に突破されてしまったか、と思うのと同時に……彼は笑みを浮かべた。

トラックに手を付いて、支えながら立ち上がり、



浜面「……へへっ、いいのかよ? 俺にとどめを刺さないで」

麦野「あ゛?」



鬱陶しそうに目だけで浜面を見た。
そこで彼女の表情は驚愕に染まった。

視線は浜面の手に注がれている。
―――『体晶』のケースを持っていたからだ。



浜面「これがねえと、『能力追跡』は使えないんじゃないか?」



言った瞬間、浜面は麦野とは真逆の方向へ駆け出した。
彼女の瞳が明確な怒りに変わる前に距離を取ったのである。
現に浜面のその判断が正しかったとすぐに証明された。
駆け出した僅か一秒にも満たない感覚の間に、光線がトラックへ襲いかかったからだ。

地下の駐車場で爆音が轟いた。

炎と熱風が吹き荒れる。
浜面は爆発に巻き込まれることはなかったが、爆風によって十メートル以上の距離を吹き飛ぶことに。
骨折に至らなかっただけマシだろう。目的通りではないものの、鍛えた体が功を奏した。

更に彼は近くにあった柱へ転がり、身を潜める。




浜面(ちくしょう、やっぱマトモに対面する手合いじゃねえ!)



休憩を挟む場合ではない。
すぐさま対抗策を練る必要があった。

……そうは言っても実際の現場に出たのが初めてであるのも確かだ。
だから対抗策を練る、とまでは良いのだが具体的な案が一向に浮かんでこない。
現場での動きやら相手の見るべき所、行動などは一切教えられてこなかった。
今まではサイン一つで主にサポートに回っていただけなので、仕方ないと言ってしまえば楽だ。



浜面(……こんな時でさえ、“お前”はいつも通りか)



そんな窮地に陥った中で、彼は微かに笑った。
優しい瞳で“右腕の古傷”を見つめていた。
まるで自分の存在を示すかのように傷は疼いていたのだ。


だけど何故だろう? 今までの感覚とは違う気がする。
嫌ではなかった。左手で抑え込み、強引に疼きを止める気も起きない。

俺もいるぞ、と言っている。
そんな気がした。

なんてファンタジーな発想だろうか。
けれど、不思議と心強いと思えた。
改めて考えれば、自分は一方的にこの傷を嫌っていただけなのだ。
この傷が疼くと『あの日』の記憶が蘇る。
囚われ続けた『あの日』はやがて思い出に変わり、傷は残る。


……もしかしたら自分は否定したかったのかもしれない。


逃げてしまった事実を。
助けてやれなかった無能さを。

それはつまり、自分にとってトラウマは『滝壺理后』ではなくて、『あの日』なのだ。
否定したかった理由は、事実と無能さを認めたくない自己防衛だろう。
滝壺と話すことに対して恐怖を抱いたり、傷の疼きに対して強引に抑え込もうとしたのは―――『あの日』を思い出すから。



浜面(いいぜ。戦ってくれるか)



認めよう。何もかもを。

俺はあの時、逃げてしまった。
俺はあの時、助けられなかった。
俺はあの時、戦おうとしなかった。


だから―――もう逃げたりしない。




麦野「浜面ぁ? 人の邪魔しないでくれる? さっさと『体晶』を渡して欲しいんだけど。私は『スクール』の連中を皆殺しにしないと気が済まないんだって」

浜面「断る。アンタに付き合う気も、滝壺を付き合わせる気もない」

麦野「誰に口利いてるか判ってる? 私は『アイテム』のリーダーで、浜面はその雑用。つべこべ言わず働けよ」

浜面「……向いてねえんだよ」

麦野「あ?」

浜面「何度も言わせんな。アンタはリーダーの『器』じゃないっつったんだ」



返事はなかった。
ズバァッ!! と白い光線が貫き、近くの柱と車をまとめて吹き飛ばしたのだ。
幸い浜面は爆発に巻き込まれることはなかったが、あまりの爆風に思わず両腕で顔を守った。

ココにとどまっていてはやられる、そんな思いに駆られ、浜面は膝を突きながらも移動する。



浜面(クソッ、足が震えて思うように動かねえ!)



恐怖からきた震えだろう。
カツ、カツ、と着実に近付いてくる足音が一層増幅させる。

しかし、例えみっともないやり方でも『戦わない』という手段は選ばない。
不格好でも構わない。『戦う』という意志が大切なのだ。




浜面(……さっき手応えはあった。麦野は第三位と同じで直情型だ。リスクは大きくなるけど、『スキ』を狙っていけば活路は見いだせる!!)



手探り状態だが、それでも微かに光を掴める可能性が見えた。
充分だ。絶望的でも可能性があるのとないのでは訳が違う。



浜面「―――そもそも、アンタは勘違いしてんだよ」



身を潜め、けれど麦野に聞こえるように呟いた。



浜面「アンタはまるで垣根に勝てるみたいなこと言ってるけど、本当に勝てるのか?」



浜面は彼女の逆襲宣言の電話から、疑問に思う点があった。
垣根の強襲から麦野の電話までにかかった時間は十分経ったかぐらいである。
その間に決着は既についていて、絹旗とフレンダも気を失っているのだ。

……オカシいと思わないだろうか?



浜面「絹旗とフレンダの二人は垣根と戦って、今も気を失ってる。対してアンタはどうして意識を保っていられてるんだ? そこまで『スクール』を潰すことに固執してんなら、なんでさっき垣根を殺さなかったんだよ?」



一拍置いて、彼はこう続けた。











浜面「―――てことは、麦野沈利は“逃げた”んじゃねえのか?」













足音が止まった。
彼女が奥歯を噛み締める音がここまで聞こえた気がする。



浜面「垣根は自分の障害となる人間はためらわず払いのけるヤツだ。結果、絹旗とフレンダは命は拾ったものの今は動ける状態じゃない。アンタが本当に垣根に食い下がっていたなら、平然と歩けるはずがないんだ。
   ……垣根は見透かしたんだろ、“第四位はもう戦う気なんてない”って。だからアイツはお前を見逃した」



無数の光線が駐車場の柱と車を貫いた。
爆発に爆発が重なり、地震かと思うほど揺れた。

ここもずっと保てる訳じゃない。
この調子だと一時間持てばいい方だ。
騒動を聞きつけて、学園都市がもみ消そうと『掃除』を出動を命ずるまでの時間も気になるところだ。



浜面(なんか、なんか良い方法は……ッ!!)



すると、近くに見覚えのある車があった。
三又の矛、トライデントをモチーフにデザインされたシンボルマーク。
それをライン状にプリントした車、警備員(アンチスキル)の車だった。

即座に開錠用ツールを取り出し、開けようとしたところで浜面の手が止まった。




浜面(これはスライド式の扉だ。開けたら麦野に居場所を示すことになっちまう。どうする、多少リスクを冒してでも……)



彼は思い出したかのように半蔵から貰った拳銃、ではなく、上条から貰った拳銃を取り出した。
一発目の弾丸を引き抜く。

拳銃を懐に収め、弾丸を握りしめる。
辺りを見回して一台の車を定めた。
なるべく遠くにあってココへは隠れて見えない場所を選ぶ。
その車目掛けて弾丸を放り投げた。

弾丸は見事に弧を描き、狙った車へと着弾した。
カン! と音を立てた途端―――そこ一筋の光線が走った。



浜面(今!)



爆発と同時にスライド式のドアを一気に開ける。
音を爆発によって掻き消したのだ。

浜面はザッと中を見渡す。
どれも警備員が使うアイテムが転がっていた。
その内、彼は二つの着目する。



浜面「これは……」



「SIG SG552」。
警備員が使用しているライフルである。


役立つかもしれない。手を伸ばし……迷う。
確かにこれがあれば浜面は麦野に勝てるだろう。
けれど『コレ』を持つということは、人を殺める可能性も高くなることにも繋がる。
標準なんて定めてられない。素人な上に相手は麦野だ。

腕や足、胴に当たり、可能性の話をするなら首から上に当たらないとは限らない。
直結するのは“死”である。



浜面(……殺すのか? この手で、麦野を)



浮いた手を握りしめる。
今は敵でも、さっきまでは仲間だった。
例え上辺のそれが言葉で、自分は雑用でしかないとしても、『仲間』であることに変わりない。

甘いか? 甘いだろう。
目の前で自分を殺そうとしてる人間を生かす考え方は。
では垣根はどうなる? 上条は? 駒場は?




浜面「……少しでも可能性があるならそれに全力を注げ。不可能なら可能を見出して状況を覆せ」



死体が入った寝袋を抱えた自分は一体何を考えた。
ここで殺してしまったら、何も変わらないのではないか。

麦野を殺せば、自分にトラウマを植え付けた、“アイツら”と同じことをしてるだけだ。

『上』の連中はこのやり取りですら予測し、嘲笑っているのかもしれない。
全てが筋書き通りに進み、この戦いの結末ですら決まっているのなら……。
学園都市が仕組んだこのシステム、その最中で植え付けられた精神的な鎖を完全に断ち切った浜面は、ようやく誰にも流されない一人の人間として、目に光を宿す。





浜面「―――俺の意志を持て」






ライフルを捨て、もう一つのアイテムを掴んだ。





―――――――――――――――




麦野「……」



防災のために設置されたのだろう。
スプリンクラーの水が麦野の全身を叩く。
既にビショビショに濡れていたが、彼女は気にしなかった。

同様にビショビショに濡れた浜面仕上が目の前へ現れたからだ。



浜面「……」

麦野「やっと出て来たのねぇ、浜面。死ぬ覚悟決めた?」

浜面「標的は俺に移ったのか。ホントにお前は何がしたいんだよ?」

麦野「……」

浜面「結局、アンタは“勝利”を得たいんじゃない。垣根に関しても『さっき負けたのは何かの間違いだ』と思い込みたいだけだ」

麦野「うるさいッ!!」



幾つもの光線が迸った。
地面を抉り、車を薙ぎ払い、水を消し去る。
顔を掠めるが、浜面は麦野から視線を外さない。




麦野「殺す! 殺してやるさ! テメェも、『スクール』の連中も!! 無能力者だろうが第二位だろうがカンケーねえんだよおッ!!」

浜面「そうやって、自分を守ることで精一杯だったのか? 生きてるんだ、って自己満足を得るために」

麦野「黙れよッッ!!!!」



今度は能力じゃなくて、純粋な力を振るった。
接近した麦野の蹴りが浜面の横腹に決まる。
至って単純な一撃なのだが、彼の身体はいとも簡単に吹っ飛んでいく。
更に浜面が立ち上がる前に胸ぐらを掴み、片手で大の男を投げ飛ばした。



浜面「げ、ぅ……!?」



頭は必死に守った代わりに腕や足の骨から激痛が走った。
受け身を知らない浜面はみっともなく転がる。
その際、半蔵から貰ったレディースの拳銃が零れ落ちた。
何らかの接触で弾倉も外れ、銃弾がコンクリートにバラまかれる。

マズい、と感じたのだろう。
浜面は弾倉を乱暴に掴み、もう片方で拳銃を手に取る。
装填、銃口を麦野に向けて―――発砲した。




浜面「……?」



弾は出なかった。
感触も甘い。
人差し指を幾ら動かしても、虚しくカチッカチッと鳴るだけだ。
ハッとして落ちている銃弾を見る。
正確に数えなくても見ただけで判った。
八以上は絶対にあった。
さっきので全弾抜け落ちたというのか。
急いで拾おうと手を伸ばし―――その先を一閃の光が貫いた。
転がっていた全弾だけでなく、コンクリートごと砕きながら吹き飛ばす。
浜面は伸ばした手で思わず顔を庇った。

それが決定的なスキだった。
突然、首に絞め付けられる感覚を覚え、自分の体が宙に浮いた。
息苦しい中で原因をすぐに突き止めた。麦野が片手で浜面を持ち上げていたのだ。



麦野「これがLevel5だ。これが第四位の『原子崩し』だ!! どんなに足掻こうが同じ土俵にすら立てねぇ!! 戦力差はひっくり返らねぇんだよ!! テメェら無能力者なんざ、ムシケラに過ぎねぇんだよォォォォッ!!」



首を絞める力が増していく。
きっと今の状態で能力を使われたら、浜面の首から上は消し飛ぶだろう。
絶体絶命。まさにこの言葉が似合う。
けれど、それでも浜面は笑っていた。



浜面(……まあ、こうなるとは思ってたさ。俺も馬鹿じゃねえ。実戦の経験がなくても、これぐらいは予想できる)



スプリンクラーの散水に打たれ、浜面はぼんやりと思う。

充分時間稼ぎはできた。
絹旗やフレンダから託された役目は終わったと言ってもいい。
潮時だ、他人から背負った分は下ろそう。








―――上条『浜面、諦めるなよ』





―――心理定規『あなた達の組織を、復活させなさい』





―――滝壺『うん、うん。大丈夫だよ、そんなはまづらを応援してる』







後は自分から進んで背負い、自らの意志の下、信じる道をいこう。




浜面「死体袋の話、覚えてるか?」

麦野「あ゛?」

浜面「アンタは言ったよな、死体袋の中身が俺でも、他の三人でも変わりないって」

麦野「……」

浜面「きっとそうなんだろうな。この世界で生きてきたヤツが言うんだ。……けど、いつかのアンタは考えたはずだよ」



ゆっくりと銃口を麦野に向ける。
頼りなく、手は小刻みに震えていた。
腕に古傷がある方の手だった。

弾はないと確信してるので、麦野は彼の行為に何も言わない。
案の定、引き金を引いたがカチッと虚しく音が響くだけだ。

浜面は……笑っている。



浜面「『自分がこの袋の中身になる日が来るかもしれない』って」



もう一度引き金を引いた。“二回目”だ。

そう―――『二発目』は閃光弾である。


視界が光に包まれ、一瞬のうちだが麦野の視力は完全に奪われた。



麦野「が、クソ……ッ!?」



目を覆うが、既に遅い。
彼女は首を絞めていた手を反射的に放してしまった。
自然と浜面の足はアスファルトへ再び地をついた。



浜面「麦野、アンタの敗因は二つだ」



彼は上着の懐から手錠を取り出す。
それは先ほど警備員の車から拝借した物である。
一般の警察が使うような手錠ではない。形は8の字で、精密に作られた『能力を封じる機能』が搭載されている。
主に犯罪者が能力を持っていた場合に使われる代物だ。

浜面はその手錠を手に取り、麦野の両手にはめる。
これで麦野は能力を使うことは出来なくなった。



浜面「一つ。俺が持ってる拳銃は一つだと思い込み、完全に油断していたこと」



すり替えたことに気付かないくらい、彼女は浜面に憤慨し、躍起になっていた。
あらかじめレディースの拳銃の弾倉を弄って緩くしておいたが、弾が全部出てしまったのは幸運に違いなかった。
引き金を引いたのも、定まらないことを逆手に取っただけだ。
この局面で武器を出すということは浜面にとって拳銃が切り札である、と麦野に思わせるため。
弾がなくなった半蔵から貰った拳銃も、ワザと一発目を抜いて二発目の閃光弾を活用した上条から貰った拳銃も、全部お膳立てに過ぎない。

切り札は、最初から手錠だと決めていた。




浜面「二つ。アンタの『臆病な心』と『プライドの高さ』だ」



初めから、こんな無能力者にこだわる必要はなかった。
お得意の能力で遠くから狙い撃ちをすれば、それで済む話だった。
邪魔をしたのは臆病とプライドである。

麦野から電話があった時には、もはや彼女に心の余裕はなかったのだろう。
自分の言葉に敏感に反応を示したのは、きっと垣根からも何かしら言われたのかもしれない。
そうでなければ、麦野の怒りの矛先が自分へ向けられる何てことはありえないのだ。
最初こそは『体晶』が目的だったとしても、途中から自分に変わっていたのが良い証拠だった。

そして彼女は恐怖を感じたはずだ。
いつかの麦野沈利は、『自分が死体袋に入る』想像をしてしまった。
これに関しては今日に限ったことではない。
恐いから、力を振るうことで誤魔化しているのだ。

その『臆病』が―――同時に『プライド』も生み出したのだろう。



浜面「楽勝だ。超能力者(Level5)」



古傷が自己主張するように、疼いていた。




―――――――――――――――




とりあえず地下の駐車場から移動して、一本道の広い通路にやってきた。
さっきまでアスファルトなこともあって、絨毯の感触に何故だか安心を感じる。
人は誰一人もいなかった。
おそらく騒動に対して避難を促されたんだと思う。
自分も早くこのビルから立ち去りたい所だが……。



麦野「……」

浜面(どうすりゃいいんだよ……)



手錠と目隠しをされた状態で、麦野は廊下に座り込んでいた。
完全に敗北が決まった途端、麦野はさっきまでの鬼の形相とは打って変わって、何も話さずおとなしくなった。
それはそれで不気味だったりするので、非常に困る浜面だった。




麦野「……殺さないのか」



とても、寂しそうな声色で彼女は言った。
ドコかに置いてけぼりを食らった少女のように、頼りなさを感じた。



浜面「むしろ抵抗しねえのかよ。ヘタすりゃ、それ壊せるぐらいの腕力はあるだろ」

麦野「そんな気分じゃない。……だから殺しとけ。私の気が変わらないうちに」



確かに一理ある。
いつまでも彼女がおとなしくしてる保証なんてありはしないのだ。
手錠を力づくで壊し、また襲われる可能性はゼロではないのだから。



麦野「浜面や未現物質に言われた通り、私はリーダーに向いてない。残しておいたら……今度こそ取り返しのつかない事態になるかもしれないわよ」



最後は消え入りそうなほど、小さかった。
本心からの言葉だろう。
彼女はドコかで感じていたのだ。
浜面や垣根に言われたことを。
突き付けられた事実を否定したくて自分に言い訳をし、納得させてきた。




浜面「……?」



携帯が震えていた。電話だ。
画面を見れば、フレンダからだった。

浜面は通話ボタンを押して耳に当てる。



フレンダ『浜面ッ! 大丈夫!? 滝壺は!?』

浜面「うるせえよ。心配すんな、滝壺は無事だし垣根はもう居ない」

フレンダ『ホントに!? 良かったって訳よぉ。……麦野はそっちにいるの?』

浜面「麦野は……」



チラリと一瞥する。
彼女はまるで殺されるのを静かに待つかのように座っている。

僅かに逡巡したが、浜面は意を決して麦野へ手を伸ばした。
目隠しを外して、手錠のロックを解除した。



麦野「……おい、なにやって―――」

浜面「フレンダ、アクシデントで麦野が怪我をした。至急に救護班を呼べないか?」

麦野「どういうつもり?」

浜面「逃げるな。諦めるなよ」

麦野「……」

浜面「俺はそう教わった。なんであの人が俺に現場の仕事を与えなかったのかも、麦野と戦って初めて判ったんだ。場慣れをしていたら、俺はトラウマを克服出来なかった」

麦野「……勝手な野郎だ」

浜面「ああ、俺は勝手なヤツだよ。そして麦野もそうだ。あいつらを置いて、勝手に死のうとしてんじゃねえよ」



彼は再び携帯を耳元へ寄せる。
この後は色々駆け回らなければならない。
一方通行と垣根を捜したり、上条の行方の情報を集めたりと忙しくなってくるだろう。










フレンダ『結局、無事ならそれでいいって訳よ。第二位はもう大丈夫そうだし、絹旗からの情報によると第七学区で第一位と戦闘中みたいだからねー』










―――この言葉を聞くまでは、そう考えていた。

投下しゅーりょー

浜面に必要なのは場数より、どれほど精神的に追い込まれるか
上条さんのチームを抜けて『アイテム』に入ったことで、浜面は一皮剥けることができました

さて、投下します。

今回で暗部抗争篇は終了です!




リーダーとの初対面は最悪な形だった。

たまたま仕事で現場に赴いた時のことだ。

上条当麻は……いた。



垣根『あん? 一般人が混ざってるなんざ聞いてねぇんだけど』

上条『……こっちとしても、二枚目になりきれないホストが迷い込むなんて聞いてないんですけどねー』



皮肉を皮肉で返してきた根性のある野郎だ、という印象を受けた。
同時にムカつく印象もあったのも覚えている。
何より、暗部組織や下部組織に居たとしても、どことなく放つ特殊の雰囲気は誰かに似ていた。
大きなものを背負った人間しか出せない―――そう、第一位とか。
それはつまり俺にも当てはまる。


何を背負っている?


己の役目か。他者からの願いか。
それとも……俺と同じ復讐か。




垣根(あの後は俺が喧嘩ふっかけて……見事に逃げられたんだっけか)



懐かしむように彼は笑った。
第七学区のとある道を歩きながら、垣根帝督は思いふける。

それ以来、出くわしては何度も攻撃を仕掛けていた。
けれど上条はどんな状況だろうと子供の遊びのようにあしらう。
プライドもあって、イライラはは募るばかりだった。



上条『なんでこう必ずと言っていいほどテメェは俺の仕事場に現れるんだよ!? アレイスターめ何か仕組んでんじゃねえだろうなッ!!』



怒りが爆発する決定打はこの言葉だ。
アレイスター、と彼は言った。
自分が心の底から恨んでは復讐を望む相手である。


“お遊び”終了の知らせが鳴った。

これまでにないくらい翼を広げ猛威を振るうと、すぐさま上条は理解した。
本気でかかってきてる、と。

上条当麻は垣根帝督に対して初めて拳を作ったのだ。



垣根(まぁ、ボロクソに負けちまったんだけどよ)



彼はオープンカフェにたどり着いた。
そこに二人の少女がいる。
一人は見たことがある、アホ毛の少女だ。
もう一人は頭に花飾りを乗せた中学生らしき少女だった。

アホ毛の少女はお金を手に持つと、喫茶店の方へ走っていく。



初春「ちゃんと戻ってくるんですよー」



花飾りの少女はハンカチを振りながら言う。
言うだけ言って即刻目の前にあるパフェに手をつけ始めた。

少女と接点はない。周りにアホ毛の保護者もいない。
それだけで大体読めた。
打ち止めがウロチョロしてる所を花飾りの少女に保護されたのだろう。
垣根は花飾りの少女へと近付く。



垣根「……ちょっといいか?」



パフェに不釣り合いな小さいスプーンを止め、少女はこちらを見た。
ぶっきらぼうな上に格好が格好だからかもしれないが、警戒心を持った目をしていた。

構わず、彼は続ける。



垣根「今喫茶店に向かってった子と知り合いか?」

初春「はあ。いえ、今日初めて会ったばかりですけど」

垣根「そうか。なるべくあの子から目を離さないようにしてくれねぇか?」

初春「……では、こちらからも質問をよろしいですか?」

垣根「あぁ、なんだ?」



少女はまっすぐな目で垣根を見つめる。







初春「どうしてあなたは今にも泣きそうな目をしているんですか?」







―――言葉が詰まった。





初春「あなたが少しでもアホ毛ちゃんに危害を加える素振りを見せたなら、私は知らない振りをするつもりでした。
   確かに一見はガラが悪そうですけど、とてもアホ毛ちゃんに危害を加えるとは思えなかったのです。何故なら今にも泣きそうだから」

垣根「マジか」

初春「はい。大マジです」

垣根「……ふっ、ハハッ。そうか、んな情けねぇ面してんのかよ俺は」



片手を額にあてる。
違う、表情を隠したのだ。
ふつふつと笑いが込み上げるものの、心は泣いていた。



初春「そんなあなたにも元気が出るように、プレゼントを差し上げますね。はいこれ」



そんな姿を見かねたのか、少女は頭の花飾りから一つ、花を取って差し出してきた。

垣根は横に首を振る。笑みを浮かべ、



垣根「俺は人を捜してんだ。用事があってな、あの子が捜してる人と同一人物だ」

初春「なら一緒に捜しませんか? ちょうど私一人ではアホ毛ちゃんの面倒を見きれなくて困ってたんですよー」

垣根「その必要はねぇよ」

初春「へ―――わぁっ!?」



少女の隣に、新たな人影が突如現れた。
白い髪に赤い目、たったこれだけの特徴だけで人物の特定が可能である。
学園都市に七人しかいないLevel5の第一位、一方通行だ。

少女は思わず立ち上がり、



初春「え、えっ!? いい、いつのまに―――」

垣根「打ち止めの所へ行ってやってくれ。そして、ここに近付かないようドコか遠くに」

初春「な、何をする気なんですか……?」

垣根「言ったろ?」



用事だよ。この言葉が皮切りだった。


垣根は六枚の翼を広げ、一方通行はチョーカーのスイッチを入れて杖を投げた。
刹那、二人は上空へ飛び上がる。木を越え、ビルを越えて止まった。

衝撃はすぐにやってきた。オープンカフェの机やイスは一斉にひっくり返る。
少女は両腕で顔を庇い、数歩後退した。
ほどなくして二人がいる空を見上げた。



初春「……」



唖然とする少女だったが、何かを思い出したかのように駆けだしていた。




―――――――――――――――




風が吹き抜ける。
髪を靡き、風の音が聞こえる。

垣根は言葉を発する。
久々に会えた仲間に向かって。



垣根「よぉ、元気にしてたか中二病野郎」

一方「オマエはそォでもないみてェだがなメルヘン野郎」

九月十九日以降、会うこともなければ連絡を取ることさえなかった。
最後に話したのは大覇星祭なので、一ヶ月近くは会っていない。
けれど二人の会話はまったく変わっていなかった。
皮肉の「ひ」の字もない、直接的な悪口である。
そんな彼らにとってこの“一ヶ月”は、本人の中で大きな動きがあったと言えるだろう。
浜面にも当てはまり、そして上条にも。



垣根「事の顛末は全部知ってんだろ」

一方「相変わらず抽象的な野郎だな。もっと具体性を詰めろ」

垣根「判らないとは言わせねぇぞ」

一方「……」

垣根「テメェが木原数多を抹殺した同時刻、リーダーは学園都市から失踪したってのは『上』の通達で聞いてるはずだ。俺がその場に居合わせていたこともな」

一方「……あァ」

垣根「止められなかった俺に対して何か言うことはねぇのか」

一方「ねェよ。つか誤魔化してンじゃねェ、言ってほしいンだろォが」



的確に突かれ、垣根は黙ってしまう。
うつむいたまま奥歯を噛みしめていた。
それは本心を見抜かれたからか、何も言ってくれないことへの怒りか。




垣根「さすが第一位。何もかもお見通しって訳か」

一方「逆を言えば、俺の考えはオマエにとってお見通しな訳だ」

垣根「そうだ。つまり今から俺達が取る行動は一つしかない」



次の瞬間、空気が震動するほどの爆音が轟いた。

六枚のうち、左翼の三枚の翼が一方通行を薙ぎ払う。
それに対して一方通行も黙っていない。腕を振るって空気を文字通り掌握する。
巨大な風の塊が三枚の翼と激突し、爆音が鳴り響いたのだ。

一連の動作は一瞬である。
音速など既に越えている。
余波として、衝撃が辺りに拡散していった。
幸いにも場所は空であったことから、被害は最小限に抑えられる。
しかし、それもいつまで持つか判らない。
なにせ学園都市のトップの戦いだ。
空中にとどまってられるとは思えない。



一方「シケた面ァ晒しやがって、ちィとばかし根性入れ直してやンよ!!」

垣根「前々からテメェはブチ殺すと決めてたんだ。ありがたく思えよ!!」



第一位と第二位が激突する。

そもそも彼らは何故戦う必要があるのか。
明確な理由はなかった。
打ち止めの命に関わったからでもなければ、アレイスターとの交渉権を得るためでもない。
垣根は打ち止めを狙うつもりはないし、アレイスターに関しては今はどうだっていい。
一方通行も垣根が打ち止めの命を狙うなどとも思ってすらない。

では、二人はどうして再び邂逅したのか。

理論立てる必要はない。一言で済む。
何となく、打ち止めの側にいれば会えると思ったからだ。





垣根「―――ッ!!」





そして戦う理由について。

先ほど言ったように、お互いに理由なんてなかった。
けど、それ故に二人の思いはまったく同じであった。





一方「―――ッ!!」





感情をぶつけられる―――相手が欲しかった。

二人は鏡だ。
いつだって背中合わせ。
だから鏡を見ては“自分”を嫌悪する。
皮肉では足りなくて、直接的な悪口が出てしまう。

上条当麻が居なくなった。
二人にとって大きな打撃だ。
ここに浜面が含まれないのは簡単で、本人たちが『背負う物』に関係がある。
垣根は力があるにもかかわらず上条を止められなかったと悔やみ、一方通行はもっと早く決着を付けて駆けつけていればと悔やむ。

浜面に比べて二人は『弱い』のだ。

こうして罪悪感を背負い、独りで奮闘する。
誰の所為でもないことを独りで背負い込むのだ。
そして二人が求めるものは『糾弾』だった。
自分が許せなくて、なのに周りは許してくれている。
だから自分を咎めてくれる人物が欲しかった。



垣根「まさか俺の未元物質ごと再演算するとはな、これじゃあ『反射』を突破しても意味ねぇか」

一方「ムカついたかよ、チンピラ」

垣根「あぁムカつくね。けど、“想定範囲内”だ」



六枚の翼が震動する。
羽根が垣根の頭上を舞う。




垣根「俺の未元物質はこの世の常識に囚われねぇ。……けど、俺自身この能力を完全に把握し切れてないのも事実だ」



空中を舞っていた羽根はやがて、一点に集中し始める。
羽根は形を変え、液体なのか固体なのか定まらないまま『球体』型に変形した。



垣根「どんな物質も生み出すっつっても、限度はある。だが“どこまで”が限度なのかは判っていなかった」



『球体』は分裂し、二つになった。
更に変形を遂げていく。



垣根「未元物質の本質を見つめていくうちに、俺はインスピレーションを受けたんだ。そこで疑問が一つ」



『球体』は人型に変わっていた。
しかし二つの物質は同じ姿を象る。

垣根帝督だった。

『二人』はどこまでも白く、髪の先から足のつま先まで白かった。
唯一違うのは、瞳の色である。
一人は緑色の瞳を宿し。
一人は黒色の瞳を宿す。



垣根「俺の『未元物質』は―――この世界でどこまで通用するんだ?」




彼は階段を何段上ったのだろう。
己の限界の範囲設定を一から崩し、広げてまた上っていった。
なら、こちらも負けてはいられない。
階段を上るということなら、九月三十日に既に済ませてあるのだから。

自然と、一方通行の背中から『黒い翼』が噴出していた。



垣根「……面白ぇ。テメェも同じように進んでるっつー訳か」




―――――――――――――――




第七学区のスクランブル交差点。
普段なら車が行き交い、人でごった返しの状態である。
しかし、この日、この時間帯に車はおろか人ですら通らなかった。
皆、歩こうとせずに中心点を見つめていた。



一方「はっ、はあッ……」

垣根「ごふっ、っくそが……」



中心点、地面は砕かれ、砂埃が立ちこめる中から二人の少年が姿を現した。

二人とも血だらけで、片方は頭から血を流し、ともすればもう片方は脇腹辺りが真っ赤に染まっている。


満身創痍でなお、彼らは立ち上がり、お互いを睨み合う。




垣根「……なぁ、第一位」

一方「ンだよ」

垣根「何で、こうなっちまったんだろうな」

一方「……」



『俺達四人は永久不滅だ』



あの時の言葉を撤回するつもりはない。いや、なかった。
おそらくそれは一方通行もそうだ。

けど上条の失踪で、全員バラバラになってしまった。

どこで間違えた?
どこで俺達は道を誤ってしまったんだ?
どこで俺達の『絆』は砕けてしまったんだ?




一方「さァな」

垣根「……」



二人の背中には、もう翼はなかった。
代わりに二人は拳を握る。

迷いの瞳は消える。
戦う手段はたった一つだ。



垣根「おおおォォォォォォォォォォォッッ!!!!!!」

一方「あああァァァァァァァァァァァッッ!!!!!!」



絶叫と共に彼らは走り出した。
距離を詰めていき……拳が交差する。

一方通行の拳が垣根の頬に突き刺さり、垣根の拳が一方通行の頬に突き刺さる。

互いに仰け反り、後退した。
その時、一方通行の目が見開いた。
後退する足を踏ん張って、垣根の頬へ拳を振り下ろすように殴る。
垣根も黙ったままではない。拳を受けても耐え、一方通行の腹部に拳を決めた。









「あなたッ! ってミサカはミサカは叫んでみる!」












声がした。誰もが二人に近寄らず、誰もが呆然と眺めることしか出来ない空間に、干渉する声がした。
それは小さい少女だった。空色のキャミソールの上からぶかぶかのワイシャツを羽織ったアホ毛の女の子。


打ち止めである。


少女は人混みの中を掻き分けて、誰よりも前に出ていた。
近くには花飾りの少女の姿もある。どうやら逃げずに追いかけてきたようだ。

垣根と一方通行は少女らを見るが、それも一瞬だ。
再び睨み合い、怒りを含んだ声を張り上げながら拳を交える。



打ち止め「どうして……ってミサカはミサカは呟いてみる」

黄泉川「打ち止め!」



人混みの中から緑のジャージ姿をした女性が現れた。黄泉川愛穂だ。
彼女は打ち止めに近付き、中心点にいる二人を見た。
彼らは今も戦いを止めていない。




黄泉川「一体どういうことじゃんよ……!」

初春「分かりません。気が付いた時にはもう遅くて……」

打ち止め「でも、なんでこんなに切ないの、ってミサカはミサカはスカートの裾をギュッと掴んでみる」



少女の言葉に、二人は彼らを改めて見る。

何度殴られても、どれだけ血を流しても、地面に崩れることなく立ち上がる。
もう一度拳を握り殴る。能力を使う様子は見受けられない。
殺すことが目的ならば武器や能力の方が確実だろう。
なのに彼らはどうして拳で互いを殴り合ってるのか。

いや、そもそも何故“避けない”のか。

避けられないはずがない。
大振りで繰り出してるんだ、いなすことだって出来る。
しかし、二人は避けない。






一方「オマエが!! あの時!! 止められなかったからこォなっちまったンだろォがッ!!」





ぶつけた感情は怒りだ。
けれど、その表情は悲しみに染まっているような気がした。
何故そう感じたかは自分ですら判らない。
泣いてる訳でも、本当に悲しんでる訳でもない。

……でも、






垣根「あの場に居なかったテメェに言われたくねぇよ!! 目の前に囚われてばかりで、知らない所で大事なもんを失うハメになったテメェになあッ!!」





どうして、こんなに悲しいのだろう。


元々は不器用な二人だった。
やり方も、頼り方も。
そんな彼らにとって、何もかもを教えてくれた上条の存在は絶大だ。
絆を深め、友としての関係を築き上げてきた。

しかしその上条が居なくなった時、彼らはどうするだろうか?

ましてや、少しでも自分に責任があると思い込むようなことがあったとしたら。
きっと彼らは罪悪感に苛まれ、自分を責めるだろう。
ほんの些細な、誰も気にしなくて咎めないことでも責任を感じ、追い込んでいく。
些細なことだから誰も二人を責めない。そもそも原因とすら見てないのだ。
浜面以上に気にし過ぎるタイプの二人だから、表面上には出さない。


再度言うが二人は鏡で、求めるのは己への糾弾だ。





一方「オマエがッ!!」




だから責める。咎める。
目の前にいる“自分”に。
お前の所為だと“自分”に言ってやる。

どうしようもない葛藤に苛まれる中でも、唯一ありのままの感情をブツケられる存在だから。




垣根「テメェがッ!!」




本当は悔しかった。
本当は悲しかった。

取り繕うことしか知らない二人は仮面を被り、仮面の下で涙を流す。

己の歯がゆさと、何も出来なかったという無力感に覆われて。
慟哭の術すら判らない不器用な二人は必然と別の手段を頼る。

自分にとって安易な方法―――戦いに身を置くことで、わだかまりを晴らそうとすること。




『悪いんだろッッッ!!!!!!』




声が掠れるほどの叫びだった。

誰に向けてなのか。相手にか? 自分にか? それとも両方か?
それは本人たちですら定まっていないが、判ることは一つだけある。
目の前にいるアイツ(自分)だけは許せない。




打ち止め「もう、いいよ。ってミサカはミサカはっ……!」



心境も知らない、何があったかすら判らない。
そんな人々に二人を汲め、と言われても酷でしかないだろう。
第三者にとって彼らは高位能力者同士が暴れている、という認識だ。
警備員を呼ばれても不思議ではない。


けれど……皆、涙を流していた。


スクランブル交差点で中心点を見つめる第三者の人々。
そんな中で彼らと縁のある人物なんて居ないはずだ。
打ち止めや黄泉川、初対面だが初春を入れて三人程度しか居ない。
他人で関係ないのに、一同に涙を流して、ひたすら一方通行と垣根を見つめていた。

本来なら恐れる者もいるだろう。
戦いは悪だと思う者もいるだろう。
でも、誰も警備員へ通報せずにその場で釘付けになったままだ。

そしてこの場の誰もが思った。
はたして戦いというのは悪なのか? ならば―――この二人の戦いが悲しいのは何故だ?




打ち止め「やめて……っ、お願いだから、もうやめて! ってミサカはミサカは頼み込んでみる!!」



ポロポロと涙を流しながら、少女は一歩前に出た。

一方通行と垣根の事情は判らない。
けれど、これ以上二人に戦ってほしくないと思った。傷付け合ってほしくないと思った。
何があったか判らなくても、彼らは相手を責めてるのではなく、自分自身を責めてるんだと判った。
それは一方通行という人間を見てきた打ち止めだからこそ、判ったことだった。
止めに入った所で、止まってくれるかは判らない。
でも、こんなに優しい二人が傷付け合う姿なんて見てられない。

二人は既にボロボロだ。
いつ倒れても不思議ではない。
少女は覚束ない足取りで、走り始める。
ちょうど、彼らも一気に間合いを詰めて拳を交える瞬間だ。



打ち止め「――――っ!!」



叫んだ。やめて、と。
声にならないくらいに。

周りの人々も願った。
この戦いを止めてほしいと。
声に出したかったが、人々には勇気が足りない。
彼らの間に割って入る勇気がなかった。
もはや願うしか方法が見つからなかったのだ。



一方「……ッ!!」

垣根「……ッ!!」




―――その願いは、その言葉は、紡がれることになった。




一方「な、に……?」

垣根「は……?」



二人の拳は交じり合わなかった。
寸前で止まっている。
何故だ。拳を作った腕が動かない。
呆然としつつ彼らは原因を探り、すぐに判明した。
二人ではない、誰かの手が二人の腕を掴んでいた。

ゆっくりと、腕の方へと顔を向ける。






浜面「……」







―――浜面仕上がそこに居た。





浜面「やめよう……」



首を横に振る。
涙を流すも、彼は拭わない。
握る力が増して、もう一度首を振った。



浜面「やめてくれ……。誰も悪くねえんだ。偶然が何度も重なって、その結果俺達はバラバラになった。そこに原因なんてものはないんだよ。一方通行も、垣根も、悪くねえんだ」



かつて、浜面がこんなぐしゃぐしゃな顔になりながらも『勇気』を出したことがあっただろうか。
誰もが足を竦んで動けない状態のさなか、自ら前に出たことが今までにあったか。
その役目は上条当麻だったはずだ。彼は雑用で、サポートの立ち回りが上手かったはずだ。



浜面「だから……もう許してやってくれ」



この短期間で階段を上ったのは浜面も一緒だということか。
それも自分達のような力に拘ったものじゃなく、もっと根本の精神的な面でだ。





浜面「バラバラになっちまったけど―――俺達は『仲間』だ」





二人は力が抜けたように膝から崩れた。

こうして怪物同士の戦いは、一人の仲間によって終止符が打たれのだった。
何もかもを失った者達が再び大切な『物』を取り返し始めた瞬間でもあった。





―――――――――――――――




気が付けば、救急車に乗せられていた。
浜面に止められてから、どうやら気を失っていたらしい。
病院に運ばれてる途中なのか、辺りを見回す。



打ち止め「本当に心配したんだからねっ! ってミサカはミサカは憤慨してみたり!」

一方「うっせェな……こちとら怪我人なンだから、ちったァ静かにしろっつーの」

打ち止め「あと、00001号が既に病院で待ちかまえてるから覚悟しておいてよね、ってミサカはミサカは報告してみる」

一方「うンそれマジで要らねェ情報だわ。クッソ余計に行きたくねェンですけど……」



首を動かすと近くに一方通行と打ち止めの姿があった。
二人は何やら言い合いをしているようだ。
相変わらずドコにいても賑やかな連中だと思う。
首を元の位置に戻し……と、視界に見覚えのある人物が入った。



初春「ども。また会いましたね」



一方通行と戦う前に、少し話をした花飾りの少女だった。




垣根「テメェは……」

初春「渡し忘れていた物があったので、思わず同乗してしまったんです」



えへへ、と少女は照れくさそうに舌を出した。



初春「はい。これです」



少女の手には一輪の花があった。
オープンカフェで差し出してきたやつだ。



初春「ハイビスカスの花言葉は『まぁやってみたまえ』です。……なにか思い詰めることがあるのなら、考えるよりも動いてみたらどうでしょうか?」

垣根「まず花言葉から違うんだがよオウ。良いこと言ってるつもりなのか知らねぇけど台無しだっつーの」



けど、悪くないと思った。
デタラメではあるものの、今はその花言葉は嫌ではなかった。
肩の荷が降りたように、さっきまでのしかかった重圧的なものはもうない。
仲間が居る、そう感じられるだけでこんなにも違う。
それはきっと上条が組織を離れたからこそ、気付くことが出来たのだ。




一方「……」



ふと視線を感じ、目を横にやると一方通行がこちらをジッと見ていた。
視線が合い、お互い黙ったままなのも気持ちが悪いので垣根は言葉を発する。



垣根「んだよ」

一方「いンや、よォやく腑抜け面が抜けたと思ってなァ」

垣根「……ハン、俺を誰だと思ってんだ。常識に囚われてる時点で、テメェの底は知れてるね」

一方「言ってろ第二位が」



笑みを浮かべ、彼らは拳を合わせたのだった。

投下しゅーりょー

やっと書けました
ここのシーンは第一スレ目を立てた時から考えていました

投下しまーす




第七学区、とあるファミレス。

久しぶりの集合である。
重体と扱われた彼らの負傷は僅か一週間足らずで傷一つ残さずに完治した。
相変わらずフザケた医者だと、一方通行はつぶやく。
退院したその日に“いつものファミレス”へ足が運ぶ彼らも相当フザケていた。

にしても本当に久々だ。
こうしてファミレスへ足を運ばせることが。
一つ空席があることを除けば、何ら変わりない光景だった。



垣根「やっぱあれだ、一番重大な問題が解決しねぇとダメだな」



コーヒーを飲む一方通行の手が止まり、ランチを食べる浜面の手が止まった。
神妙な面持ちで話す垣根からは真剣な雰囲気が伝わってきた。
自然と二人の脳裏によぎるのは上条だ。
これからどうするのか、二人の顔も真剣なものへと変わっていった。




垣根「的確なツッコミ役がいねぇと俺も迂闊にボケられねぇんだよな……」

浜面「くっそ! 少しでも真面目に聞こうとした俺が馬鹿だった!」

垣根「お、なんだよ浜ちゃん、しばらく見ない間にツッコミ力上がったんじゃね?」

浜面「うるせえ! それになんだよ変な呼び方すんなよ気色悪い」



それでも三人が成長したのは間違いない。
浜面はトラウマを乗り越え、一方通行は仇を取り、垣根は仲間がいること再確認した。
後は上条を捜し出して自我を取り戻してもらうだけである。



一方「……まァ、バカキネは置いといてだ、幾つか疑問に思う点は確かにある」



再びコーヒーに手をつけ始めた一方通行は静かに述べる。
今までなら考えるだけで口にはしなかった。
こうして自分の意見を仲間に言えるようになっただけでも、彼は著しい成長を遂げているのだ。




一方「ここにあの木原円周がいねェこと」



いつもなら無断で同席し、ハンバーグを頬張っているはずだ。
その少女は今、上条が居なくなった同時期に姿を消した。



一方「一番厄介なのはオリジナルだ。なンで俺達の下へ乗り込ンで来ねェンだ」



上条の失踪。これに最も敏感に反応を示すのは第三位の御坂美琴だろう。
知られていないのならそれでいい。しかし、彼女の恐ろしい所は上条にも劣らない行動力にある。
納得がいかなければハッキングしてでも知ろうとするその行動力は、今の自分達には不都合でしかない。




絹旗「へー、信じてなかったんですけどフレンダの情報は超本当だったんですね」

フレンダ「すっごい失礼な訳よ」

麦野「柄でもないことするからよ。あと日頃の行い」

フレンダ「麦野までっ!?」

滝壺「大丈夫。私はそんなふれんだを応援しているよ」

フレンダ「それはフォローになってないわよ滝壺ーっ!」



……と、まるでシリアスな雰囲気を吹き飛ばすように横槍の会話が聞こえてきた。
彼らが座るボックス席の隣、紅一色に染まった四人の集団、『アイテム』だ。



一方「もう一つあげるなら、どォして俺ら以外の暗部の連中が集まってるかだよなァ。……そこンとこどォよ浜面くゥン?」

浜面「いや、あのよ、俺も知らなかったっつーか、こいつらが勝手に付いてきたっつーかな? それなら気を遣ってバレない程度に隠れて欲しかったんだけどもだなッ!!」

麦野「別に疚しい理由があって付いて来てる訳じゃないんだから、隠れる必要なんてねぇだろ」

浜面「気を遣えって俺は言ってんの!! 俺が困るって判っててやってるだろ!?」

麦野「当然でしょ」

浜面「何で俺の周りのヤツらってこう無駄に肝が据わってるんだよ! 垣根と戦ったばっかだろうから、こっちとしては心配してんのに!!」




一方通行の怒りの矛先が自身に向けられると知り、全力で弁明を試みるが狼狽は隠しきれていないようだ。
そんな中、垣根も何か言い分があるのか、眉間にシワを寄せて、



垣根「んなら、俺も文句を言いてぇヤツが居んだけどよ」

心理定規「あら、今のあなたでも文句はあるのね」

垣根「テメェだよテメェ。何でココに居んのか五文字以内に説明してみろコラ」

心理定規「たまたまよ」

垣根「嘘吐け」

心理定規「……五文字に収めたのに勝手な人」



隣に座る『アイテム』とは別で、通路を挟んだ向かいのボックス席に彼女は居た。
一人でボックス席を陣取り、ティーカップに淹れた紅茶を飲む姿はどこか優雅である。
垣根のムチャクチャな言動もさらりと言い返す人物も珍しい。


改めて見ると、なかなか奇妙なメンバーが揃っている。
『アイテム』『スクール』『グループ』の三つの組織がこの場に居る。
知る者が目撃したならば、上層部に喧嘩売るつもりなのかと揶揄されそうだ。



浜面「そもそも何で付いて来たんだよ? 今日はオフじゃなかったのか?」

絹旗「浜面のくせに良く知ってますね。まあ超アレですよ、フレンダが妙な情報をキャッチしたもんですから」

浜面「妙な情報?」

麦野「うちらみたいな下部組織じゃなくて、上層部と同等の位置にいる組織が存在するって」

フレンダ「そしてその組織の構成メンバーの中に、浜面が入ってるって情報な訳」



これには浜面だけでなく、垣根や一方通行も目を見開き、驚愕を露わにする。
上条の噂なら耳にしたことはあるものの、自分達の組織の噂など聞いたこともなかった。
そもそも彼らは組織名すら知らないのだから無理もない。


様子を見ていた心理定規は溜息をつく。
頬杖をつきながら、



心理定規「……再三言うようだけど、あなた達はもっと自分達のことを知るべきよ?」

「いやぁ、まったく以てその通りだにゃー」



第三者の声が飛び込んできて、全員の意識は声の主へ向かれる。
店の入り口側の通路から、学生服を着た金髪サングラスの男が歩いてきた。
仮にも暗部の集団だ。スイッチが一斉に切り替わる。

垣根が立ち上がろうとして―――一方通行が片手で制する。



一方「……一体なンの用だ、土御門」

土御門「なーに、別にお前を咎めに来た訳じゃないから安心すると良いぜい」



適当に会話を済ますと、空いていた心理定規の前の席に座る。
その際に彼女は嫌な顔をしたが、すぐに割り切ったのか元に戻っていた。




土御門「済まないな。こいつらの席に座るとカミやんにも苦情が来そうだし、こいつらからも怒られそうなんですたい」

心理定規「あら、私が納得した理由が一致でビックリだわ」

土御門「とりあえず自己紹介はしておこうか。そこにいる一方通行と同じ、『グループ』の土御門だ」



それでも警戒は解かれることはなかった。
むしろ同じ暗部と聞いて、一層強めた者もいただろう。
しかし男性陣は一度顔を合わせていることもあって、侮れないものの警戒は薄い。



土御門「この嬢ちゃんの言う通り、お前らは自分達がどういう組織に身を置いてるか認識した方が良いぜよ」

浜面「どういう組織って……んなこと言われてもな」

土御門「そもそもオレら下部組織っつっても『上』の連中から適当に組まれた集まりに過ぎない。
    ところがどっこい、カミやんは自らメンバーを収集したって話だにゃー」

絹旗「……さっきから出てくる『カミやん』って超誰なんですか? 全然話に付いていけないんですけど」

麦野「そうね。判るのはなかなかフザケた野郎ぐらいか」

土御門「……言っていいのか?」




サングラスをくいっと持ち上げる。
突然、彼のまとう雰囲気が変わった気がした。
飄々とした態度にフザケた口調、そのどれもが胡散臭さで固められた彼。
サングラスの奥に隠れる瞳は値踏みをするような鋭さがあった。
どこまでが作られていて、どこまでが本物なのか。



土御門「“この世界”に携わっているなら、誰でも聞いたことがある名前だ。今でこそ落ち着いたが、全盛期は名前を聞いただけで震え上がる人間もいたくらいにな」

垣根「全盛期だと? 今じゃねぇのか?」

土御門「まだ一人で活動していた時期だ。それに、その話ならこの嬢ちゃんの方が詳しいさ」

心理定規「……急に振るのやめてもらえない? 対応に困るわ」



少女は一つ溜息をすると、目だけで周りを見る。
視線は自分へ一点に注がれていた。
話す義理なんてないが、こうなると否が応でも話さなくてはならない。
面倒くさい役割を回されたものだ、と心の中で愚痴る。



心理定規「私自身、直接関わった訳じゃないから。小遣い稼ぎに金持ちの人とかの話を聞いていたら、たまたま耳にしたのよ。―――『幻想殺し』の話をね」




その名を口にした途端、『アイテム』内の一部からリアクションがあった。
麦野と滝壺からだ。
麦野は忌々しそうに顔を歪め、滝壺は酷く驚いたように目を見開いた。

気付いた浜面は、無言で二人を促す。
何か知ってるのか? と。



麦野「……まだ絹旗とフレンダが居なくて他のメンバーが居た、一度だけ出くわしたことがある」



当時、彼女らは仕事で現場に赴き、順調にこなしていた。
しかしトラブルが起きたのだ。
ドコから現れたのか判らないが、一般人らしき人物にその現場を目撃されてしまった。
放っておけばいい。麦野はそう判断し、この場を去ろうと踵を返す。
滝壺も同じ判断だったか、またはリーダーである麦野が決めたのだから関わらないでおこうと思ったようで、麦野に続いた。
その二人の背後で……何かが潰れる音と、弾ける音が鳴ったのだ。
やけに生々しく、慣れ親しんだ音である。



麦野「五秒足らずで、滝壺以外の二人を瞬殺しやがった。あん時のクソムカつく面は未だに覚えてるよ」

滝壺「……うん。でもそのおかげで、きぬはたとふれんだに会えたのも事実」

フレンダ「滝壺。結局、嬉しいんだけど何気に恐ろしいこと言ってるの判ってる?」

麦野「しっかし、なるほどねー。『幻想殺し』か、通りでムカつくはずだ」



何やら引っかかる物言いに垣根が眉をしかめる。




垣根「あん? 知ってんのかよ?」

麦野「黙れホスト」

浜面「む、麦野? お願いだからこんな所でドンパチだけは……」

麦野「判ってるから安心しなさい」

垣根「何これ? 俺どんだけ嫌われてるの?」

一方「第四位の言い方をすりゃ、日頃の行いじゃねェの?」

浜面「その前に数週間前に何をしたか思い出してくれ」



話が進まない、これだからLevel5は……。と心理定規は嘆く。
好き勝手に喋り始めるから困ったものだ。



麦野「『幻想殺し』って言やぁ、結構噂になってる名じゃない。逆を言えば、噂だけだから信じてなかったけどね」

土御門「そうだな。“噂しか流れていないから本当に実在する人物かどうか判らない”、といった所か」

一方「実体像が見えない訳か」

土御門「ああ。大体読めてきたんじゃないか? この嬢ちゃんにしろ、第四位にしろ……」

一方「あくまで“聞いた話”で止まってる。噂を流したヤツから聞いた訳でも、直接本人から聞いた訳でもねェ」

垣根「……なるほどな。俺らやリーダーでもない、“間”が見えねぇっつー感じか。見えねぇのは“間”に居た人間が死んでる可能性が高ぇなこりゃ」

土御門「間違いないだろう。もし生きてるなら噂を流した時に残った痕跡を探し出して、とっくに特定しているさ」




一方その頃、まったく理解が追い付かない世紀末帝王・浜面仕上君。
悶えた挙げ句、近くにいるフレンダと滝壺に助けを求める策に。



浜面「どうしよう。俺、この時点で半分も理解できてねえ……」

フレンダ「結局、浜面は浜面って訳ね」

浜面「判ってるのか?」

フレンダ「ぜーんぜん」

浜面「……」

フレンダ「……」



がっくりとうなだれる二人を余所に、滝壺はどこからともなく紙とペンを取り出していた。
キュッキュッと先を走らせ、程なくペンをしまい、紙を二人に見せる。



滝壺「こういうことだよ」



『げんそうごろし』  ←  『?(死亡)』  →  『おかねもち』  →  『わたしたち』



浜面「あ、すっげー判りやすーい」

フレンダ「あ、ホントに」



密かに滝壺先生による授業が行われているのだった。




一方「だが、それがどォしたってンだ? そいつを特定してなンになる?」

土御門「判らないか? オレが手を出し尽くして幻想殺しの情報を調べ上げても、九月三十一日からお前らと幻想殺しが出会った時までの情報しか出てこないんだ」

垣根「まさか“間”に居たヤツが鍵を握って……ああクソッ、話が見えたぞ」

土御門「つまり、その“間”の人間はお前らと出会うより以前の幻想殺しを知ってる可能性がある。知らないにしても鍵は必ず握っていると見ていい」



その事実に一方通行は驚愕に染まる。
上条の過去を知る人物が判明したから驚いたのではない。
さっきまで繋がらなかった事柄が今は嘘のように繋がり、それによってボヤケていた“先”が自ずと見えてきたから驚いたのだ。

けれど、浜面は当然のこと『アイテム』の面々ですら、その事実が何を意味するのか判らない。
なので多少なりに意味はあるんだと判りつつも、素直な心情を言ってしまう人物が一人。



麦野「人の過去を知りたいなんて、趣味悪すぎでしょ」

浜面「……麦野、判らないのは俺もだし、気持ちは同じだけどよ。それはねえよ」

土御門「無理もないさ。この事実は二つの結び目が解かれる答えがある」




一つ。

そもそも“間”に居た人間を抹消したのは誰か。
百%上層部の連中の意図と考えて良い。
ただ、ここで上層部が甘かったのはもみ消すにも理由が必要になることだ。
上層部の連中が“間”に居た人間を消さずにはいられなかった理由は―――上条の過去と関連するかもしれない。



土御門「二つ。幻想殺しの過去を無かったことにするのが『上』の意図なら話は見えやすい。
    『上』は幻想殺しを利用して何かを企んでいる。が、実行するには知られてはマズいことが幻想殺しの過去にある」




だから、消した。

探られても知られないよう“間”に居た人間を。




土御門「この二つを踏まえた上で組み合わせようか。今まで散々オレらを嘲笑ってきた『上』が、目論見を果たそうとする過程で幻想殺しの過去を“消した”。
    あの『上』が後手に回るなんざ変な話だろ? まるで知られたら計画が破綻に追い込まれると言ってるようなものだ」



ようやく光が見えたと、土御門は不敵な笑みを浮かべる。
上条当麻の過去を知ることで上層部の陰謀を抑えられる可能性が少しでもあるのなら、本人には悪いが調べさせてもらう。

それに……土御門元春がここまで行動を起こしている理由は上層部へ一矢を報いるだけではない。
彼もまた、上条当麻の友人だ。魔術関連では戦いを共にした戦友でもある。
助け、助けられた仲だ。その友人が上層部によって利用されようとしている。
しかも経験上から述べると、学園都市に利用された本人はロクな目に遭わない。
大切な友をそんな下らない計画のために、使い潰されてたまるか。






土御門「これでも尚、根拠を求めるなら、核心をつこうじゃないか。一方通行、垣根帝督、浜面仕上。
    お前達も薄々気付いていたんじゃないか? 幻想殺しが七月二十日以降、都合良く事件に“巻き込まれている”ことに」






サングラスの奥に潜む鋭い瞳が、三人を射抜く。






土御門「本当に巻き込まれているだけと思うか? 心の底からお前達はそう信じているのか? そんなことはないだろう。
    幻想殺しに選ばれたお前達なら、一瞬でも考えたはずさ。『誰かの手によって、必然的に幻想殺しが巻き込まれるよう仕組まれていたんじゃないか?』とな」

投下しゅーりょー

揚げ足取るようで悪いが
9月は30日までだぞ

チビタン王国軍のご視察なの~
   ______

   |  ( .| ─⌒)  |
   |  .((| ・ω・)  |                 ∧_∧        ∧_∧
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  [二二[====() ̄ .|==()              ⊂ ⊂ )  ∧_∧ (    )
   |__|____|                │ │ │ (・Д・ ;)ヒィィィ… │

   (00000)_)/)_)                (_(__) (    ) (_(__)
                                   │ │ │
                                    (_(__)

汚物は消毒なの~

   ______               ,,从.ノ巛ミ    彡ミ彡)ミ彡ミ彡ミ彡)ミ彡)''"
   |  ( .| ─⌒)ギラッ          人ノ゙ ⌒ヽ         彡ミ彡)ミ彡)ミ彡)'
   |  .((| ・ω・)  |ゴオオオオオ,,..、;;:~''"゙゙       )  从    ミ彡ミ彡)ミ彡,,)i     ∧_∧
   |  /|つ¶ ,,..、;;:~-:''"゙⌒゙          彡 ,,     ひ~!!     ミ彡"       (´Д`; )アワワ…
  [二二[====(:::゙:゙                    '"゙∀`) >>    ミ彡)彡''" モギャァァ ( ⊃ ⊃

   |__|__``゙⌒`゙"''~-、:;;,_              )   彡,,ノ彡~''" >>       / 人 ヽ
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                                "⌒''~"      し(__)


チビタン王国軍がお通りになるの~♪

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お久しぶりです
投下しまーす

>>504 あらホントですね。全然気づきませんでした

すいませんが脳内変換お願いします




夜の街を男三人が歩いていた。
一方通行、垣根帝督、浜面仕上である。
電灯と月の光だけが彼らを照らし、学園都市を照らす。

どこかに向かってる訳でもない。
当てもなくブラブラと歩く理由すらない。
それでも三人共々、帰路につく気になれなかったのだ。

土御門の話が終わると、自然と解散の形になった。
全員言葉が出ないのを土御門が察したのだろう。
別れ際、土御門はこんな言葉を残していた。



土御門『……本当ならオレが食い止めてやりたい。だが、オレ一人が足掻いただけではどうしても限界がある。頼む。お前達の力を貸してくれ』




垣根「あの野郎と同じ組織に属していたテメェはどう見る?」



無言の空気を断ち切ったのは垣根だった。
歩む足は止めずに、彼は返答を求める。

誰に向けてなのかは言わずとも判るから、一方通行は言葉を紡いだ。



一方「……土御門の言ってること全部が真実だとは言い切れねェな。ヤツ自身、推測でしかねェンだろォし、嘘をついてる可能性だってありえる」

垣根「さすがに俺らに嘘をつくメリットを考え出したらキリないか」

一方「あくまで可能性の話だがな」

浜面「俺は……信じてもいいと思ってる」



進む足を止めて、浜面は会話に参加する。
つられて二人も歩くのをやめて、浜面へ向き直った。




浜面「確かに二人の言う通りドコまで信用していいのか判らねえ。だけど、頭のどっかで引っかかりを感じていたのは事実なんだ」



三人とも考えてはいたものの、問題視せず後回しにしていた。
優先すべきことがあったのもそうだし、“どうせ考えても答えが見えない”という結果に至った所為もある。
しかし、見えないだけで答えは必ずあると確信はあった。
そして土御門が話した件……これに繋がりを感じるのは仕方のないことだ。



浜面「全面的に信用はできないけど、大将のことに関しては協力してもいいんじゃねえか?」

垣根「少し訂正」



不敵な笑みを浮かべると、垣根はいつもの調子で、いつものように述べる。



垣根「俺らは俺らで勝手に行動する。情報には感謝するが、俺らに指示を促せるのはリーダー以外ありえねぇよ」



一瞬、一方通行と浜面は目を丸くさせるが、すぐにクスッと笑った。
思わず納得したのだ。確かにそれもそうだ、と。

自分達に命令を下せるのは上条当麻だけである。それ以外は存在しない。



垣根「そうと決まればこれからの方針が必要だな。よし、アレイスターの野郎に喧嘩売りにいくか?」

一方「ひとまずアイツの場所を特定だろォな。それが判らない限りは話にならン」

浜面「……すんげえ見事にスルーしたな。何事もなかったように」

一方「話が進まねェンだよ。構ってられるほど……ってオイ? どこに行く気だ?」



再び歩き出した時だった。
浜面が他の二人とは別の方向へ向いたのだ。
当の本人はキョトンとした顔で、



浜面「え? どこって、こっちだけど?」

一方「別に方角なンざどォでもいいが、まだ話が済んでねェのに急にどっか行こォとすンじゃねェよ。用事でもあンのか?」

浜面「ねえよ。ねえけど……何か、そっちに行く気になれなくてさ」




浜面が見る方向、電灯が消えた川に鉄橋が架かっている。
灯りのない鉄橋は暗闇に染まった森のように不気味に感じさせられた。

二人も浜面に倣い、先にある鉄橋を見る。



垣根「……なぁ、第一位」

一方「あァ……」



笑っていた。この笑みは何度も見たことがある。
状況を楽しんでる訳でも、余裕があっての笑みでもない。
闇に包まれた鉄橋の奥に“敵”が見えた気がした。



一方「どォやら既に動きはあったみてェだな」

垣根「その方がこっちとしても捜す手間も省けて楽だぜ」



異様なまでに人の気配がなくなる現象は、たった一つしか思いつかない。

七月二十日。

確かあの日の夜もこういう状況を生んでいた。
その時は浜面を待機させて、上条を回収したのを今でも覚えている。




浜面「まさかとは思うけど、そっちに行く感じなのか?」

垣根「もちろん。ちなみにテメェもな」

浜面「強制!?」

一方「当前だろ。オマエ言ってたじゃねェか、俺達は仲間だって。なら最後まで付き合ってもらおォか」

浜面「ちょ、そんなキャラだったかお前ええええええええええッッ!!!?」



ぐわしっ!! と両サイドから腕を取られる。
こうして世紀末帝王は、連行される形で鉄橋へと向かうのだった。




―――――――――――――――




鉄橋へ踏み出した瞬間、違和感は明確な圧迫感に転化した。
進むと見えてきたのは倒れている人である。
それは進む度に増えていき、傷も酷くなる一方だ。

垣根はあちこちに落ちてる“武器”を見る。



垣根(誰かと戦っていた……?)



ふと、一方通行の足が止まった。
彼の目は闇の奥を見据えている。
垣根は怪訝そうに一方通行を見て、促す。
ちなみに浜面は逃げられないと悟り、それでも落ち着かないのかそわそわしていた。

一方通行が、静かに口を開く。




一方「……来るぞ」




突如のことだ。
暗闇の奥から『何か』が飛来してきた。
浜面はとっさに構えるが、それは彼らに到達する前に何度かリバウンドし、足下で止まった。

人間の女の子である。
髪はショートで二重まぶたが印象的な少女。
体中傷だらけで、意識はあるものの曖昧な様子だ。
少女は痛みに耐えるように呻き声をあげ、武器を握り直す。
顔を上げるとこちらに気付いたようで、凄く驚いた顔で少女は言葉を漏らす。



五和「あ、あなた達は……?」



疑問が解決されることはない。
間を置くヒマもなく、闇の奥から更に人間が複数降ってきた。
一人は見知らぬ男だ。だぼだぼのTシャツにぶかぶかのジーンズという奇抜な服装である。
もう一人も男で、どうやら二人まとめて吹き飛ばされたようだった。



浜面「大将!?」



……もう一人の方、紛れもなく上条当麻本人であった。


満身創痍でピクリとも動く気配がない。
今すぐ病院で集中治療室に運ばれるレベルだと、無知な浜面でも見ただけで判った。
放っておくと命の危険性が跳ね上がるのは確定だろう。

正直、上条がここまで負傷する姿を見るのは初めてだった。
いつどんな時も相手を打ち負かし、圧倒の一言で勝利を握ってきた人物だ。
ある意味、自分の中では絶対的な存在。なのに、



浜面「……ッ、垣根! 早く大将、を……?」



そこで、ようやく気付いた。
学園都市の頂点に立つ二人は“まだ闇の奥を見据えていた”ことに。

足音が聞こえてくる。
しかし変だ。たかだか歩くだけで鉄橋は震動するものなのか?
そして足音は一つ。この人数、上条を相手に敵は一人で立ち向かっているのか?








「侵入者か。どのような方法で『人払い』を潜り抜けたかは分からんが、ここが戦場だと知ってのことかね?」










闇の奥から屈強な体つきの男が姿を現した。途端、闇が拭われる。
まるでカーテンを開くように、闇が男から遠ざかった印象を受けた。



アックア「悪いことは言わん。引き返せ。貴様達が目の前にするのは、そこに転がっている者達を蹴散らした人間である」



次元が違う。対峙するだけで圧迫感を感じるなんて、麦野でさえなかった。
逃げ出したい……けど、浜面は一歩も退かない。
それは一方通行も垣根も一緒だった。
全員、思いは同じなのだ。

アックアの目が垣根を見る。



アックア「あの時の判断では、敵同士と見ていたのだがな」

垣根「悪いな。元々はこっち側だからよ」

アックア「そうか。私の敵として前に立つならば仕方ない」



ふらりとアックアの体が揺れる。

一方通行と垣根が能力を使って先手を取る―――その直前、アックアの姿が文字通り“消えた”。

目を離すなんてことはしていない。
突然消えたと判断するしかなかった。
音速の域なら超えることはあるし、スピードに関しては付いていける自信すらあった。
だが、これはもう速さの問題かどうかすら怪かった。






アックア「―――どこを見ている」






すぐ近くからアックアの声がした。

背後だ。




一方「ッッ!!!?」

垣根「ッッ!!!?」



バッ!! と彼らは振り返る。
一方通行は風を掌握し、垣根は翼を展開し、背後を薙ぎ払うその直前のこと。
二人の間を人間が吹き飛んでいったのを目視した。
あまりにも突然なため確認しきれなかったが、見覚えのあるパーカーに金髪……かろうじて捉えた人物像は充分、特定可能だ。



垣根「浜面ッ!!」



ギリギリ翼で受け止めた。
何とか立ち上がろうとしても、足に力が入らないのか立てないようだ。
意識を保てただけでも良くやったと思う。



アックア「人の心配をしてる場合であるか」



歪な音が響き、一方通行が地面に靴底を擦らせながら後退してきた。
反射の音だ。しかし様子がどうもオカシい。
今の一方通行を見ると、反射しきれずに衝撃を受けた感じだ。




垣根(魔術か!!)



判断は速い。ありえる可能性を拾い上げ、一番確実だろうと思うのがそれだからだ。
動きも迷いはなかった。
片翼の三枚でアックアを狙う。……が、



アックア「良い動きである。しかし、相手が悪かったな」



翼が触れる寸前のところで異常が起きた。
原因はアックアの足下から伸びる影によるものだ。
ズアッ!! と巨大な金属の塊が飛び出し、翼の軌道を変えたのだ。
全長五メートルを越す得物の正体、それは撲殺用のメイスである。



アックア「立ちはだかるのなら覚悟しろ。我が戦場に立つならば蹴散らすのみだ」



おもむろにメイスを握り、そのまま垣根の五体目掛けて振り下ろした。

垣根は感じる。マズい、と。


己のスピードはとうに音速の域を越えて翼を振るっている。
にもかかわらず、この男はあしらうように退け、一歩も動かずに佇んでいた。
そんなヤツが重い腰を持ち上げるように、ゆっくりと戦闘態勢に入ったのだ。
防御から攻撃へと転ずる。
こちらの猛威を容易くいなした相手の攻撃を避けられるかは判らない。

でも、垣根帝督は避けようとはしなかった。
何故なら彼は信じているからである。






一方「―――ッッ!!!!」






仲間という存在を。
決して一人で戦っているのではないと信じている。



アックア「……見事。メイスの軌道を直接変えたであるか」



振り下ろされるはずのメイス。
それは一方通行のベクトル操作した飛び蹴りによって阻止された。




一方「チッ、さっきからどォなってンだ。演算は出来てンのに何かが邪魔しやがる」

垣根「十中八九、『魔術』だろうな。あの武器も破壊されなかったってことは、同様に施されてんのかもしれねぇ」

一方「面倒だな。オートで駄目なら直接ベクトルを操った方がいいか」

垣根「どうだろうな。あっちも本気じゃねぇし、突破されたら詰むぞ」

一方「舐めるなよ。上条と共に戦うならもォ一つ階段を上る覚悟ぐらい決めろ」

垣根「……オーケー。確かに言う通りだ」



意見は一致した。
二人とも笑みを浮かべるが余裕はない。
でも、負ける気もさらさらない。



アックア「話し合いは済んだかね」



巨大なメイスを肩に担ぎ、二人を見据える。
その“佇むだけで感じる圧迫”は、もはや理不尽の域に達していた。
アックアは感情を込めずに淡々と、突き刺すように告げる。




アックア「私の目的は騒乱の元凶を断ち切ることである。ならば、命を奪わなくて良いだろう。―――幻想殺しの右手を差し出せ。さすれば命だけ助けてやる」



言い終わる頃には、一方通行と垣根は既にその場に居なかった。
垣根は翼で一方通行は風で。あまりの範囲と威力で鉄橋が破壊されていく。

アックアは眉一つ動かなかった。
迫りくる猛威に焦りすら感じさせずにメイスを握り直し、一歩引いた。
構えを取ったのだ。



アックア「怯まぬ姿勢は褒めよう。だが、諦めないのなら仕方あるまい。もう少し現実を知ってもらうのである」



ほとんど消える速度でアックアは突っ込むようにメイスを薙ぎ払う。
爆音が轟く。
拮抗するまでもない。吹き飛んだのは垣根と一方通行だった。
能力なんて関係ない。ただの力の暴力である。


二人は空中で態勢をととのえ、互いに合図を送る。
言葉は交わさなかった。そんなヒマはない。
何故なら既にアックアは遥か上空からメイスを振り上げているからだ。
空間を蹴るようにして二人は別々の方向へ飛ぶ。
間髪を容れずにメイスが地面に突き刺さった。

アスファルトで塗り固められた鉄橋が、容易く一撃で揺さぶられた。
あちこちで鉄骨を留めるボトルが破壊される不気味な音が響く。
メイスを中心にクレーターが出来て、大量のアスファルト片が散弾となって周囲に襲いかかった。

おぞましい一撃だが二人はまったく怯まない。
魔術を介さない、この程度の物理攻撃は二人にとって遊びのようなものだ。



一方「ッ!!」



アックアと垣根の位置を把握してから、風を掴んだ。
旋風が巻き起こり、アスファルト片を飲み込んでいく。
蠢く旋風の矛先はアックアだった。

無造作にメイスを振るう。
たったそれだけで、旋風は跡形もなく消し飛んだ。
勢いを失ったアスファルト片はバラバラと雨のように落ちていく。




アックア「……なるほど。大したものだ。さっきの奴等よりは、手応えを感じるのである」



身を翻してメイスを水平に薙ぐ。
やさき、メイスが何かに衝突した。
余波が生じる。遅れて凄まじい風が突き抜けたのだ。

辺りに白い羽根が舞っていた。
それはメイスが衝突した際に衝撃で空に舞ったものだ。
つまり―――垣根の三枚の片翼である。



垣根「こん、のッ!!」



即座に後ろへ飛んで間合を取った。
六枚の翼が羽ばたき、羽根が舞い散る。
空中を漂う無数の羽根は地面へ落ちず一斉に動きを止め、勢いよくアックアへ向かっていった。
アスファルト片の散弾よりも凌駕する、それこそ本当の弾丸のように。



一方「圧縮……!!」



更に頭上では一方通行が光を作り上げていた。
プラズマだ。
風を操り、空気を圧縮し続けることで起きる一方通行ならではの現象である。
彼はアックアだけでなく、ここら一帯を全て消し飛ばす気だ。


ただでさえアックアの一撃により鉄橋に莫大なダメージを受けているというのに、そこへ垣根の羽根が着弾した。
破壊音が連続する。鉄橋に穴が空く勢いで、無数の羽根がアックア目掛けて突き刺さっていった。
視界を覆い尽くすほどの砂埃が巻き上げ、鉄橋を一瞬で飲み込んだ。








―――その時、砂埃を消し去りながらプラズマが放たれた。








今度こそ、鉄橋の半分近くが跡形もなく消え去ったのだ。
脅威は鉄橋の下にあった川にも及んだ。
音はない。ただ膨大な光が鉄橋包む。




アックア「……」



それでもアックアは生きていた。
メイスを肩に担ぎ、悠然と目の前を見据えている。
アックアが立つのは無くなってない所の鉄橋だった。
流石に身の危険を感じ、回避を行ったのだろう。

光が消え、視界が明瞭化する。
ゴッソリ地面ごと無くなった鉄橋には誰一人として居なかった。
一方通行や垣根に限らず、倒れていた複数の人間すら見当たらない。



アックア「ふん。逃げたか」



追いかけるのは容易い。
しかし、性急過ぎるのも如何なものかと思う。
手応えは感じた。ならば泳がせて、一つ二つ策を練らせる時間を与えるのも一興というもの。



アックア(それにしても本当に奇妙な男であるな。幻想殺しよ。貴様、途中から“戻っていた”な?)



誰も居ない空間を見据えながら振り返る。
戦闘の途中で、上条当麻の異変にアックアは気付いていた。
……いや、異変というよりも「元に戻った」との方が正しいかもしれない。



アックア(問題は戻ったことではなく、それでなお私の動きに付いてきたことであるがな)



次の瞬間には彼の姿は消えていた。

投下しゅーりょー

投下した

てことで投下しまーす


そういえばもう三年目でしたか
これからもひっそりとしていきます




とある夜の街の一角に少女二人の姿がある。
二人の名は御坂美琴、木原円周。
どちらも一人の少年に思いを寄せる健気な女の子だ。


美琴「……」



何故か美琴はガックリとうなだれていた。
もう疲れましたと言わんばかりに。
円周は小首を傾げて、



円周「美琴お姉ちゃん、どうかしたー?」

美琴「アンタが原因と判っててその言い種かッ!」



心配したら火を噴く勢いで噛みついてきた。
何とも難しい年頃である。
デリケートな時期なんだろう、と円周は口には出さず心の中でつぶやいていた。




美琴「どうやって侵入してきたか知らないけど、部屋に突撃してきてはアンタの用事に付き合わされ、それが毎日続けば疲れも出るわよ……」

円周「あのツインテールの人も諦めが悪いよねぇ。あの精神だけは認めてあげてもいいかな」

美琴「アンタが凄すぎるんでしょうが。何度やっても勝てない黒子の身にもなってあげなさいよ、あの子本気で落ち込んでるんだから」

円周「止めはしないんだねー」

美琴「最初は止めてたでしょっ。それにあれよ、こうも毎日見てると止める気力も無くなるっていうか、ね」

円周「でも大丈夫だよ! 手加減はちゃんとしてあるから!」

美琴「あの実力で手加減と言うかこの娘は……。これは肉弾戦だけだと私もキツそうねぇ」




木原円周とは九月三十日から急激に絡むようになった。
やたらと好奇心旺盛なので、当分は円周の気が済むまで終わりそうにない。
だから美琴も最初こそは文句も出たが今となってはもう何も言わない。

連れて行こうとする度に全力で阻止を試みる黒子には不憫な話である。
でもまあ幸いな事に、そこまで大騒ぎしてる訳でもないので良しとする。
寮監に怒られる事態に発展した場合は別だ。そうなれば美琴も黙っちゃいない。



美琴(そういえば、この子に絡まれてる間は当麻にも会えてないんだっけか……会いたいな)

円周「今日はお風呂回ってストラップゲットしたから、明日はぁ……んー……」

美琴「ないんなら美琴センセーは休ませてもらうわよー」

円周「あ! 明日はセブンスミストの屋上で『とあるゲコ太の英雄目録』ってショーの日だけど―――」

美琴「お供させていただきます!!」



光の速さで餌に食い付いた娘がここに一人。

こんな調子で食い付いていた結果、上条に会えないでいる。
まさに自業自得だった。

ハッ、と美琴は自分のダメダメモードから辛うじて我に返る。



美琴「……私はここ最近、アンタに振り回されっぱなしな気がするんだけど。何なのよこれ?」

円周「んー。そう捉えられても仕方ないよね。実際そうしてるもん」

美琴「おい! 私だってヒマじゃないんだからね!」

円周「分かってるよ、美琴お姉ちゃん。そう言いつつ付き合ってくれるんだよね!」



どうやら図星だったようで顔を真っ赤にしながら反論してきた。
一方の円周は既に美琴を見ていない。腹が立ったのか美琴の勢いは更に増した。
しかし当の少女は右から左へ聞き流し、携帯の画面をジッと見つめていた。

ふと、笑みを浮かべる。




円周(……うん、うん。分かっているよ、当麻お兄ちゃん)




美琴「げっ」



今まで食い下がっていた美琴だったが、急に打って変わった声色を出した。
それもこういう場合は、大抵彼女が苦手とする人物が現れたパターンである。
美琴を見れば眉をひそめるどころか顔全体を歪めていた。
これはよっぽどなのだろう、と円周が思ったその時、



「あらあ、顔を合わせて第一声が『げっ』だなんて失礼力だと思うわあ」



……美琴だけではなく、今の円周にとっても不都合な人物のようだ。
振り向くと、そこに居たのは美琴と同じ常盤台中学の制服を身にまとうLevel5だった。



美琴「……食蜂操祈」

食蜂「ご機嫌よう、御坂さん♪」




美琴にとって出来れば会いたくない人物である。
単純に反りが合わないのだ。
極端なことを言えば、巨乳派VS貧乳派ぐらい意見が分かれていた。
両方良いとか、程よい大きさという選択肢はココにない。
そんな二人にも皮肉なことに共通点が“Level5”以外にあったりする。



―――上条当麻の幼馴染みなのだ。



片方は異を唱えるだろうが何を言っても間柄は変わらない。
そして数少ない……いや、彼女達以上に『上条当麻』を知っている人間はいないと断言できる。
彼が変わる前も変わった後も。



円周(そっか、操祈お姉ちゃんも昔の当麻お兄ちゃんを知っているんだよね)



未だに食蜂は円周を見ていなかった。
美琴をイジるため、気にかけていないようだ。
それも時間の問題だろう。
いつ対象が美琴から円周へ変わってもオカシくない。




食蜂「こんな時間に出歩いてるなんて、さすが野蛮力に溢れてる人は違うわよねえ」

美琴「うっさい。大体、それはアンタにも言えることじゃない? 取り巻きが居ないなんて余計怪しいわよ」

食蜂「私は用事力で仕方なくよお。御坂さんみたいにお遊び目的じゃないしい?」



同じ学校で仮にもLevel5なのだが、二人が揃う所なんてめったにない。
故に常盤台の生徒が見ようものなら憧れと尊敬の眼差しが集中するだろう。
なかなか珍しい光景なのかもしれない、と円周はこっそり思った。



円周(困ったねー。今、頭を覗かれるのはマズいよね。あと“もう少し”なのに)

食蜂「まさか御坂さんが……」



ようやく気付いたようだ。
会話の途中でこちらを一瞥した。

その瞬間、食蜂の顔色が変わった。

余裕の笑みが凍り付き、目が点になっている。
まるで信じられない事実を知ったかのように。




美琴「……? 急に黙っちゃって、どうした―――」

食蜂「上条さんが入院してるってどういうことかしらあ?」



円周に詰め寄りながら尋ねた。
いつものフザケた態度とは打って変わって、真剣な眼差しを向けてきた。
普段なら決してありえない、上条当麻に関わることだからこそ見せる一面なのだ。
円周は確信する。食蜂操祈も御坂美琴と同様、知っておくべき存在だ。



美琴「……はぁ。あの馬鹿、またなにかに巻き込まれてるのね」



驚きもなく、呆れたように溜息をついた美琴は食蜂にならい、円周を見る。
入院程度では臆さなくなったところを見ると、彼女も少しは成長したらしい。




美琴「この際、食蜂がこの子の頭を覗いたのはノーカンよ。仕方なくだから!」

食蜂「しつこい女って面倒力が高めよねえ」

美琴「勝手に人の頭の中を覗くってのはどうなのよ? 当麻もさすがにデリカシーに欠けるって思うかもねー」

食蜂「……は……は、はあッ? なななに言ってるのかしらあ? あの人がどうとかそんなの、私には関係力ゼロだしい」

美琴「はいはい判りやすい反応どうも……ん?」



ピロン♪ と携帯の着信音が鳴った。
円周の首から紐で掛けてある携帯電話からだ。
画面が明るくなるや、真っ白なところに文字の羅列が並べられていく。
メールといった通信機能ではないことが明らかである。
こういうのは、あらかじめ入力されていて既定時刻になると送られてくるパターンだ。






円周「―――うん、うん」






文字を目で追っていた円周の目の色が変わった。






円周「分かっているよ、唯一お姉ちゃん」





それは合図である。





円周「分かっているよ、数多おじちゃん」





この文章が送られてきたということは。





円周「分かっているよ、幻生お爺ちゃん」





あの『約束』を果たす時が来たのだ。





円周「……分かっているよ、当麻お兄ちゃん」





目を閉じて、一度だけ頷き、目を開けた。



円周「美琴お姉ちゃん、それと特別に操祈お姉ちゃん!」

美琴「なによ?」

食蜂「……」



雰囲気が一変した円周に驚くも、二人は動じない。
上条当麻に何かあったのは間違いない、けれど彼女らはそれに焦りを見せることはなかった。
長年の付き合い、上条当麻を本質を見てきたからこそ、こうして冷静でいられる。

彼は死んではいない。生きている。それだけで充分である。

そう思えるには時間と覚悟が必要だから。
二つの条件をクリアしてるからこそ……円周は告げる。










円周「当麻お兄ちゃんが今まで誰にも話さずに『背負ってきたもの』……知りたい?」














―――――――――――――――




夜の病院に慌ただしい音が響く。
静寂を破ったのは、全身血まみれの上条当麻を白髪の少年が運んできたのがキッカケだ。
最初に見た看護婦さんが一瞬で顔色が真っ青に変化していた。

瞬く間に上条はストレッチャーに乗せられ、走ってきた数名の看護婦さんに取り囲まれながら集中治療室へ入っていった。
白髪の少年―――一方通行が見送ると、遅れてきた垣根帝督が到着した。
肩には意識を失っている浜面が担がれている。
幸いにも目立った傷はなく、打撲程度で済んだようだ。



「やれやれ。夜遅くに何事かと思ったら君達か」



垣根が浜面を長椅子に寝かせていると、彼らが来た道から医者が現れる。
彼らが何度もお世話になり、信頼を置いている名医―――冥土帰し。

しかし事態は刻一刻を争うのだ。
そんなのんびりとしてるヒマは、



冥土帰し「僕を誰だと思っている?」



……焦りを読まれたのか、一刀両断されてしまった。




冥土帰し「僕はこれから『戦場』へ向かう。そして必ずや帰ってくるね。君達は『戦場』から帰ってきたのかい? それとも残らせてきたのかい?」

一方「……」

垣根「……」

冥土帰し「残らせたのなら、早々と決着を付けてくるんだ。こんな所で彼の心配をする余裕があるのなら、彼が意識を取り戻した時に安心できる状況を作るのが、今の君達の役目じゃないかな?」



二人の間を通り過ぎ、冥土帰しは手術の準備に取りかかりながら、



冥土帰し「僕は君達を信用しているよ。何故だか分かるか? 一方通行、垣根帝督。体は傷だらけでも、君達は上条当麻の“命”だけは失わさせずに連れ戻してきた。
     これ以上の理由は要らないだろう? 命の保証は確実となったんだ。だから、ここを『戦場』に変えてしまうことだけは避けてほしいね」



その言葉を残し、冥土帰しは『戦場』へ向かった。




建宮「……状態は、どうなのよな?」



ようやく追い付いたのは『天草式』の教皇代理を務める建宮斎字だった。
彼に続き、大勢の老若男女が集まってくる。総勢五十人の集団は『天草式』である。



一方「ひとまずは安心、と言いたい所だが……それも時間の問題だろォな。あンだけのバケモノが俺らに付いて来れないなンて考えられねェからよ」

垣根「待ってやるってか? それはまたムカつく話だなクソッタレ」



悪態をつくも、実力の差が歴然だったのも事実だ。
肉弾戦でアックアに勝てる人間は、悔しいがココに居ない。



建宮「なるほどな。確かに現時点で後方のアックアに勝てる見込みはゼロに近い。しかし、その程度で我らが足を止める理由にはならんのよな?」



真っ直ぐとした目だ。
何の迷いもない、もう答えは出ていると建宮の目は語っている。
……いや、最初から決まっていたのかもしれない。
生半可な決死の覚悟を持つならば、既に諦めているだろう。
だがこの男は“最初から諦めてなんかいない”。




建宮「それは我らだけでなく、アンタらも同じだろう?」



まったく以てその通りだった。
一方通行も垣根帝督も浜面仕上も、諦めるの「あ」の字も知らない。
そう教わり、その背中を見てきたからこそ言える。



建宮「異を唱えるヤツを居るか?」



周囲を見渡して全員の顔を確認していき……たった一人だけ、うつむいている姿を発見した。



建宮「……五和」



ビクリと、少女は怯えるように震えた。
五和は最前線で戦う上条当麻と共に戦い、誰よりも彼の近くに居た。
その彼女がどうして今になって怖じ気づいているんだ?




五和「わ、たし……守れ、なかったんですよ……?」



ほとんど息のような声であったが、それでも答えないという選択をしなかっただけで良しとする。

そもそも『天草式』と上条当麻が合流したのは途中からで、既に彼は傷だらけではあった。
後方のアックアと上条当麻が戦闘中だと報告が入り、急遽加勢したのだ。
どうやら彼は単独でローマに乗り込み、神の右席と対峙したらしい。
激闘の末、アックアと上条は国を海を越え、移動しながら戦い、『天草式』が上条当麻を発見した時はもう日本だった。

状態を見る限り劣勢であることが明らかななか、彼は学園都市へ戻ることに執着していた。
理由は定かではないが、勝機があるならばと『天草式』は護衛に徹底することを決めたのだ。



五和「なのに……私、逆に守られていたんです。あの人の言った通りに後方のアックアが襲ってきて、動きに追いつけない私のために……」

建宮「……」

五和「あの人がとうとう動けなくなってしまったのも、私に放った一撃を身を挺して受けてしまったからなんです」



その時、彼女は笑っていたかもしれない。
しかしその顔は笑みとは程遠く、自嘲を隠しきれない歪みに見えた。




五和「そんな人間が、何で一人だけがのうのうと生きているんですかっ!! おかしいでしょ! 私が守られてあの人がベッドで眠っていて、何もかも立場が逆で! 笑い話にもなりませんよ!!」



もはや彼女は、自分自身の感情をコントロールし切れていなかった。
誰も咎めていないのに自分で自分を追い詰めて、解決策も見いだせない。
建宮はそれに何も言わない。代わりに黙って五和の下まで近づき、



建宮「動きはしないのか?」

五和「……」

建宮「お前さん、一体そこで何してんのよ?」

五和「……さん、だって……」



涙で濡れた瞳で建宮を睨み返し、





五和「建宮さんだって、負けたじゃないですか」





醜い言葉だ。彼女も判っているはず。
そして本来、建宮に怒りをぶつけるべきではないことも。


それでも彼女が棘のある言葉を放ったのは、もうそれぐらいのことをしないと自分の精神が耐えられないからだ。
この場に居る全員がそれを感じ取っていた。
五和という少女が、心の底から建宮に対して言ったのではないと。
きっと、本当にあの少年を守りたかったに違いない。
でなければ、彼女がこんな言い逃れをするような発言を今できるはずがない。
それだけ芯の通った想いがあるからこそ、粉々に打ち砕かれてしまったことが何よりも悔しいのだ。




―――下らねぇな。




沈黙が場を占め、重い空気が流れるの院内にそれは響いた。
独り言のようにつぶやかれた一言はあまりにも透き通って聞こえ、この澱んだ空気を引き裂く。

当然、五和の耳にも届いていた。
彼女は刃物に刺されたような表情を浮かべた。
建宮の言葉に苦痛の色も表さなかった顔が、一瞬でグシャグシャに崩れていく。

自然と全員の視線は声のする方へ向いた。



垣根「……」



壁に背中を預けた第二位が、つまらなさそうにこっちを見ていたのだ。




五和「な……に、を……?」

垣根「判らねぇか。なら大サービスだ、もっと現実的に言ってやる」



彼は顔色も声色も一つ変えず、淡々と告げる。



垣根「テメェのような女を助けるために、上条当麻は命を張ったのか?」

五和「―――ッ」

垣根「初対面だけど、もういい。テメェの底は知れた。さっきから“私私”うるせぇんだよな。
   アレだろ? 結局は我が身が可愛いんだろ? 『守られるヒロイン』の立ち位置に居たいから、いつまで経っても動こうとしねぇんだろ?」

五和「ちが……!」

垣根「何が違う? 現にテメェは泣き言を並べてばかりで、自分から行動を移す気配も戦意の欠片すら感じられない。
   まぁ、どちらにしても馬鹿が馬鹿を助けて命を落としかけてるっていう単純で救いようのねぇ話だ」



五和の頭にカッと熱がこもった。
獣のような叫び声をあげて垣根の胸ぐらを掴む。
そして拳を打とうとして……放てなかった。
唇を噛みしめ、拳を作る手は震えている
強く握りしめすぎているせいか、彼女の指の間から血が流れてきた。


垣根は至って冷静だった。
つまらなさそうな目で、彼女を見続ける。



垣根「その拳は何の拳だ? 一体どういう目的で振るうつもりでいやがるんだ?」

五和「……ッ」

垣根「まさか俺を殴るつもりで、とか言わねぇよな?」

五和「……」

垣根「どうなんだよ」

五和「……」

垣根「だんまりか。じゃあ質問を変えよう。どうしてテメェはその拳を止めた?」

五和「!」

垣根「それだけ感情的になったテメェは拳を止めた。何故? 答えは簡単だ。さっきの俺の言葉に少なくとも『自覚』があったからだろうが」

五和「……私、は……ッ」



徐々にうつむいていく彼女の頭を鷲掴み、無理矢理顔を上げさせて目を合わす。



垣根「他の野郎は真正面から見てるけど、どうやらテメェだけは目を背けてやがるから直接“事実”を言ってやる」



初めて垣根の声色に怒りの火が灯された。





垣根「―――あの男は必ず来るぜ」





ビクリと五和の体が震えた。
目を逸らしたいほど判りきっていることを、垣根は再確認させる。




垣根「テメェがそうやってウジウジ悩んでるこの間に乗り込んでこられてもオカシくねぇんだよ。今はたった一秒でも大事な時間のはずだろ? それをテメェのせいで台無しにするって言うのか?」

五和「……」

垣根「じゃあよ、テメェ責任取れるんだな? 責任持って、右腕を失った上条当麻の人生を看護できるんだな?
   アイツは絶対に『気にすんな』って笑顔を向けてくるけど、そん時のテメェは一体どんな感覚に襲われるだろうな? 今でそんな風になってるっつーのによ」

五和「……っ」



垣根「……あくまでも、“生きていた”場合の話だぞ?」



五和「―――!」

垣根「テメェまだ甘えてんのか。誰が死なねぇって断言したよ? そんな虫の良い話、あの男に通用する訳ねぇだろ。戦って実感してるだろうが」

五和「かみ、じょう……さん……っ」

垣根「そうはさせないために俺らが立ち上がらなきゃいけねぇのに、テメェは座ってる。あーあ! こんなヤツのために上条当麻は殺されるのかよ」

五和「……ます」

垣根「あ? 何か言ったか?」

五和「私、戦います……!」

垣根「……聞こえねぇな」

五和「私戦います!」

垣根「もっと出せるだろッ!」

五和「私ッ!! 戦います!! 今度こそ上条さんを守りたいです!!」




五和の顔に、もう絶望の色はなかった。
目に涙も溜めていなかった。
体も震えていなかった。
声も掠れていなかった。

決意と覚悟。
そして闘志に満ち溢れた姿だった。



垣根「やりゃあ出来るじゃねぇか」



自然と垣根にも笑みが戻る。
建宮を見れば、同じく笑みを浮かべていた。

垣根は乱れたシャツを整えながら、



垣根「悪いな。テメェのとこの連中を虐めちまって」

建宮「いいってことよ。むしろ、この空気を打破するにはこれぐらいは必要なのよな」

垣根「それには同感だ。リーダーが負けた相手だ、テメェの命を賭けるぐらい覚悟を決めないと勝てそうもねぇからな」

建宮「墓前で懺悔をしたくなけりゃ、立ち上がるしかねえのよな」



身を翻すと、一方通行が退屈そうな目でこちらを見ていた。
言いたいことはそれだけで伝わった。




垣根「柄にもないことをってか?」

一方「判ってンじゃねェか。天下の第二位様も随分と丸くなられてご苦労なこった」

垣根「知らねぇよ。そこで伸びてる野郎のせいで平和ボケでもしたんだろ」

一方「違いねェ」



各々が準備に取りかかるなか、学園都市のトップ二人は『天草式』を掻き分けながら歩く。



垣根「浜面はどうする?」

一方「『妹達(シスターズ)』のクソガキに任そォと思う」

垣根「あー、そういやココはそうだったか。でも、テメェから00001号に絡みに行くなんざ珍しいんじゃね?」

一方「……うっせェな。世話のかかるガキが二人も居ると面倒も二倍なンだよ」

垣根「なるほど。たまには構ってやらないとってことか。保護者さんは大変……」



曲がり角に差しかかった時である。
白い物が曲がってきた。


それは人間だった。
白いショールに白いワンピース。更に白いヒール。
素肌や髪の色まで驚くほどに真っ白だ。
そして特徴的な……赤い目。

一方通行と垣根帝督はその人間を知っていた。
今年の夏、木原数多の策略によって生まれたクローン体だ。

そして、その名は―――






百合子「……こんばんは。私のこと、覚えていますか?」






―――百合子。一方通行の妹のクローンだった。

投下しゅーりょー

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年03月03日 (月) 21:08:55   ID: gyBfYRL7

続ききたー!
やっぱり面白い!更新楽しみに待ってます!

2 :  SS好きの774さん   2014年05月23日 (金) 00:18:11   ID: OjVm-Y8Q

ここにも気持ちの悪いあらしがいるな

3 :  SS好きの774さん   2014年06月09日 (月) 03:46:42   ID: sxpWKAOa

凄く気になります。
続編希望です!

4 :  SS好きの774さん   2014年09月25日 (木) 01:53:52   ID: Dar9gJno

打ち切り希望です!

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