勇者「魔王を笑い殺せ?」(395)

王様「そうじゃ」

勇者「そうじゃ、じゃねぇよ」

王様「その為に貴公を勇者に命じたのだ。頼むぞ」

勇者「だから話を聞けジジイ。俺は勇者じゃねぇ。ただの大道芸人だ」

王様「だから申したであろう。魔王を笑い殺してくれとな」

大臣「お主の噂を聞いて、王が自ら頼んでおるのだぞ」

勇者「順を追って説明しろ。全くもって話が見えん」

大臣「お主、魔物を笑い殺したそうだな?」

勇者「……あー確かに」

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客『わはははははっ!!』

芸人『ありがとうございましたー』

司会『さぁ、お次はこの方! 大道芸人の 『勇者』 だぁー!』

勇者『どうもー』 パチパチパチパチ

 勇者は 【渾身のギャグ】 をはなった!

客『……………………』 シ――――ン

勇者『……あ、あれっ?』

???『ぶっひゃっひゃっひゃっひゃ!! ひひいいぃぃ!! 死ぬゥ――!!」』

勇者『!?』

???『ウヒヒイイィィッ、イッ、息が……アガガ――』 バターン!!

客『人が倒れたぞぉ! 誰かー! 医者を呼べぇーっ!』

司会『待てっ! コイツ……魔物だぞ!?』

客『何ぃ!?』

司会『死んでる……』

客『あ、あんなクソつまんねーギャグで笑い死にしたのか……っ』

勇者『…………』

王様「と、言うわけだな」

勇者「俺の回想シーンを読み取るな」

王様「実は先日、噂に名高き貴公のネタを劇場にて観賞させて貰った」

勇者「どうでし――」

王様「クッソつまんなかった。もうビックリするくらい」

勇者「…………」

王様「それで確信した。貴公のギャグは人間には通用しない」

勇者「言い切るな!!」

王様「だが、魔物には絶大な効果がある」

勇者「だから、意味が分からないって言ってんだろおおぉぉ!」

大臣「これっ! 王に触るでない!」 ガタッ

勇者「順を追って説明しろって言ってんだよおおぉぉ!」 ガクガクガク

王様「だだだかかかららら説明いいいしてるるる」 ガクガクガク

大臣「離せと申したであろうっ!」

王様「ごほごほ。良いか、よく聞け。我らは今、危機にさらされておるのだ」

勇者「俺の人生が危機だ」

王様「即ちそれは、魔王に世界が狙われているという事」

勇者「……あのさ」

王様「その為に貴公を勇者に命じ、魔王の討伐にだな――」

勇者「あのよおおぉぉ!!」

大臣「大きな声を張り上げるな」

勇者「魔王が世界を狙って? はっ、馬鹿じゃねーの?」

王様「貴公もそう思うか。ただの能無し芸無し金無し徳無し男ではないようだな」

勇者「ぶっ飛ばすぞ!!」 クワッ

王様「そう。我ら人間と魔物の間では現在、不戦条約が結ばれておる」

勇者「アレだろ? 教科書に出てきたえぇと……英雄がどうたらとかいうやつ」

王様「今から50年以上前になろうか。先代の勇者一行が魔王討伐に向かった」

勇者「長くなりそうだな……」

大臣「当時、世界は魔物に脅かされ、人間は細々と生活していたのだ」

王様「お、おい……」

大臣「そこへ現れた勇者一行が元凶である魔王の討伐に乗り出した」

王様「ちょっと大臣さん? 儂が話しとる最中――」

大臣「その戦いは長きに渡り決着付かず。人間と魔物は不戦条約を結び、争いをやめた」

王様「……」

大臣「そして世界を分かち合い、互いに干渉せず、今日に至るわけだ」

勇者「ほうほう」

大臣「それが今……はい、どうぞ王」 ズイッ

王様「そんなフリですんなり入れるかぁ!」

勇者「だから何が危機なんだっつーの」

王様「魔王は再び、世界を侵略しようと企んでおる」

勇者「はぁ!? でも不戦条約結んでんだろ?」

王様「そう。奴らはあくまで戦わずして人々を葬り、領土拡大を企んでいるのだ」

勇者「つまり……どういうことだよ……?」

王様「あいつ等、人間を笑わせて笑い死にさせておるのだ」

勇者「帰る」 スタスタ

王様「うおぉい!! 話は途中!!」 ズイッ

勇者「耄碌したジーサンの戯言に付き合ってる暇はねぇんだ」

王様「戯言で一国の王が、三下芸人と話をするかぁ!」

勇者「んだとぉ!?」

大臣「信じ難いだろうが事実なのだ。現に、行方不明事件が急増している」

勇者「あー確かに最近、やたらとそういう事件を聞くわ」

王様「兵や商人の証言からも裏は得ておる。間違いないのだ」

勇者「人を笑い殺す、ねぇ」

大臣「不戦条約の穴を突いた、何とも卑劣な所業よ」

勇者「いや、そういう以前の問題だと思うぞ」

王様「そこで貴公の出番なのだ。目には目を、笑いには笑いをだ」

大臣「お主のクッソつまらん芸は人間には通用せぬが魔物には――」

勇者「それさっき聞いた! いちいち繰り返すなっ!」

王様「引き受けてくれるな?」

勇者「何で俺が……」

王様「芸人としての腕の見せ所だぞ?」
大臣「お主の芸……いや、ネタやギャグが世界を救う!」

勇者「……」 ピクッ

王様「無論、討伐の暁には報酬は思いのまま」
大臣「新たな領地の領主になるも良し。城主だろうが爵位だろうが……」

勇者「……ごくっ」 ピクピクッ

王様「今のまま能無し芸無し金無し徳無し男で終わるか」
大臣「金持ちモテモテ英雄スーパースターで一生涯過ごすか」

勇者「仕方ない、引き受けましょう。人々の命には代えられん!」

王様「そう言ってくれると思った! 絶対言うと思った!」

大臣「という事でこれが旅の資金だ。あとは討伐まで顔を見せなくて良いぞ」

勇者「へっ!?」

王様「それじゃ気を付けてな。貴公に幸あらん事を」

大臣「連れてゆけ」

衛兵「はっ。さぁ来い、さっさと行くんだ」

勇者「ちょっ、おい! 待って、何この扱い!」

大臣「ええい、早く下がらぬか」

勇者「待て待てっ。最後に1つだけ!」

王様「何かね?」

勇者「魔王ってさ、どこにいるわけ?」

王様「知らぬ。それを探し当てるのも勇者の仕事だ」

衛兵「早く歩けっ!!」 ゲシッ

勇者「俺っ、勇者なんじゃないのかよおぉ――――」

・ ・ ・

勇者「まずは仲間を集めよう。これは決して心細いわけではない」

勇者「そう。勇者と言えばパーティーを組んで、足りない部分を補いつつ――」

盗賊「どけええぇぇぇぇ!!」 タタタタタタッ

衛兵「待てこらぁ!!」

盗賊「俺様の逃げ足、なめんじゃねぇぞ~ギャハハハハ!」 スタタタ

勇者「素早さか。まぁ、必要ないな」

勇者「必要なのはそう、俺に足りないスキル。つまり――」

・ ・ ・

劇場主「戦士? ああ、奥にいるけど。おーい戦士ー」

戦士「はいよー。あ、勇者やないか。何やねん」

勇者「俺と魔王討伐に行こうぜ!」 ビシッ!!

戦士「……お前のギャグ、ほんっまつまらんなぁ」

勇者「ギャグじゃねぇ!」

戦士「じゃあ何やねん!」

勇者「魔王を笑い殺す。俺に課せられた使命だ」

戦士「次の公演、夜やねん。1回帰るわ」 スタスタ

劇場主「おーう。遅刻すんなよー」

勇者「話を聞けぇ!!」

戦士「さっきからゴチャゴチャゴチャゴチャ、なんやっちゅーねん!!」

勇者「これを見ろ」 バサッ

戦士「何やこれ?」

劇場主「これって、国王の書状じゃないか!!」

勇者「よく読め愚民共。俺はつい先程、王自ら勇者に指名されたのだ!」

戦士「ふぅん」

勇者「ふぅんって」

戦士「そら難儀やなぁ。頑張れよー」 スタスタ

勇者「だからお前が仲間になってよぉ!」 ズルズル

戦士「なんでワイやねんっ!」

勇者「……お前は俺よりちょっとばかしイケメンでモテる」

戦士「はぁ?」

戦士「そして劇場でもちょーっとばかし俺よりウケてる」

劇場主「どっちもちょっとじゃねぇよ。圧勝だ」

勇者「だから俺はお前の事が大~っ嫌いなわけ。分かる?」

戦士「殴るぞアホンダラ」

勇者「だがな、お前は……俺が認める最高の……」

戦士「……」

勇者「最高のツッコミなんだ!!」

戦士「――――!?」

勇者「だから頼む。俺に唯一足りない 『ツッコミ』 の力を貸してくれ!」

戦士「お、お前」

勇者「俺のギャグとお前のツッコミがあれば魔王なんざイチコロだ!」

戦士「それはない」

劇場主「うん」

戦士「それはないけど、まぁ面白そうやん」

勇者「おっ!?」

戦士「もちろん報酬はあるんやろな?」

勇者「ああ。俺が9でお前が1だ!」

戦士「何でやねんっ!!」 バゴォン!!

勇者「……拳でツッコんじゃ……いけないんだぞっ」 プシュー

戦士「5:5や。いいな?」

勇者「ちっ。仕方ねぇ」

戦士「よし、そうと決まれば出発や!」

勇者「今からかよ!」

戦士「あかんのか?」

勇者「いーや。芸人たるもの思い立ったら吉日だ!」

戦士「ほな行くで!!」

勇者「おーう! ってこらぁ! 逆だろうがっ!」

 【戦士】 が仲間になった!

・ ・ ・

戦士「そんで、まずどないすんねん?」

勇者「魔王が住んでんのって西大陸だろ?」

戦士「知らんがな。でもそうちゃうん?」

勇者「西が魔物の大陸だ。つまり、おそらくそこにいるんだろ」

戦士「つまりやら、おそらくやら、アバウトやなぁ」

勇者「だって知らんもん」

戦士「聞いとけや」

勇者「聞いたっつーの。知らんってよ」

戦士「はぁ?」

勇者「だからー、王様が知らんって言ってたの」

戦士「んなアホな」

勇者「アホだと思うならお前が聞いてこいよ」

戦士「そんなら仕方あらへんなー」

勇者「まずは北にあるセカンド村に行ってみよう」

戦士「ほぉー」

勇者「山を越えるよりそっちのが楽そうだし」

戦士「ま、そやろな」

勇者「んでその先のサード城まで道なりに抜けてー」

戦士「海やな?」

勇者「そーいうこった」

戦士「それでええんちゃう? サクサク行こうや」

勇者「おーし、まずはセカンド村までレッツラゴー」

戦士「レッツラゴーや!!」

・ ・ ・

戦士「なぁなぁ」

勇者「んー?」 テクテクテク

戦士「ところで、どうやって西大陸に入るつもりなん?」

勇者「へっ? フツーに入ればよくね?」

戦士「でも、魔物がわんさかおるんやで?」

勇者「どうせ攻撃してこねーし平気だろ」

戦士「分からへんやん。証拠残るわけでもないし」

勇者「……」

戦士「俺らが目隠ししながら女子更衣室に入って、許されるか?」

勇者「いい例えだなおい……」

戦士「西は奴らの大陸やぞ? 隠滅なんかチョチョイやぞ?」

勇者「……っ」

戦士「俺らが来たことすらなくなってまう――」

勇者「よし、帰ろう!」

戦士「アホか!」

勇者「それもそうだよな、どうするよおい」

戦士「せやからそれを考えるんやろ」

勇者「大義名分がありゃーいいってことだよな」

戦士「せやな」

勇者「大義……あ、そうだ。人質を取るとか」

戦士「俺らが悪者になってどないすんねん」

勇者「じゃあ襲ってきた魔物を返り討ちにして、魔王に引き渡す」

戦士「何の意味があんねんそれ」

勇者「じゃあどうしろってんだよ!」

戦士「知らんがな! お前が勇者やろ!」

勇者「あっ!」

戦士「浮かんだか?」

勇者「着いた」

・ ・ ・

戦士「のどかな村やなぁ」

勇者「前に来たことあるけどさ、ここ苦手なんだよなぁ」

戦士「そうなん?」

勇者「だってさー、ここの人達……」

修道女「御機嫌よう」 ニコッ

勇者「こんにチワワ~」 ホゲー

修道女「まぁ、はしたない」 スタスタ

勇者「な?」

戦士「な? じゃねぇよ」

勇者「この村、宗教色強くてお堅い奴らばっかなんだもん」

戦士「お前のギャグがつまらないだけやないの?」

勇者「んだとぉ!?」

――「きゃーっ!!」

戦士「悲鳴やっ!」

勇者「お、おい……まさか魔物じゃねぇだろうな」

戦士「ええから行くぞ!」

勇者「おうっ」 ダッ

・ ・ ・

ゴブリンA「フヘヘヘヘ」

僧侶「……っ」

ゴブリンB「おいオンナ。観念するぎゃー」

勇者「待て待てーい!」

戦士「こんな所にまで魔物がいるやなんて、やっぱり噂は本当みたいやな」

ゴブリンA「何だお前ら」

勇者「ふっ、そのお嬢さんを離すんだ。そうすればお前らの命は助――」

ゴブリンA「ギャーッハッハッハッハ!!」
ゴブリンB「ウ、ウケるー!!」

勇者「へっ?」

戦士「なんや……?」

ゴブリンA「コ、コイツ……なんちゅう恰好を!」
ゴブリンB「ク、クソー!! 息が出来ないッ!」

勇者「お、おい……っ」

ゴブリンA「こんな、見た目だけでクソォ――」 バターン
ゴブリンB「無念だぎゃー」 ガクッ

戦士「し、死んどる……」

 勇者は 【ゴブリンA】 【ゴブリンB】 をたおした!

勇者「てめーこら起きろ! これじゃ俺のファッションセンスがダセーみたいじゃんかよ!」 ガクガク

戦士「流石は勇者や。見た目だけで笑い殺しよった」

勇者「褒めてねぇだろそれ!!」

戦士「何で褒めなあかんねんっ!」

僧侶「ぷっ。くくくっ、ふふふふ!!」

勇者「!?」

僧侶「ふふっ、あ……ごめんなさい。あの、ありがとうございました」

戦士「無事か?」

僧侶「はいっ。あの、私……僧侶って言います」

勇者「俺は勇者。んでこっちが」

戦士「戦士や。よろしゅう」

僧侶「勇者さんに戦士さんですねっ」

戦士「何でこんな村の外れにまで魔物がおんねん?」

僧侶「分かりません」

勇者「そうか。し、しかし……」

戦士「なんちゅうナイスバディや……」 ゴクッ

僧侶「あ、あのー」

戦士「はっ!」

勇者「とにかくここは危ない。村に入った方が良さそうだな」

・ ・ ・

牧師「本当に有難うございました」

勇者「なーに、勇者として当たり前の事ですよ。はっはっは!」 パクパク

戦士「せやで。俺らは魔王を倒す為に旅しとるんやからな」 モグモグ

牧師「ほぉ、魔王をですかっ!」

勇者「王から直々の命令でな」

牧師「そうでしたか。どうりでお強いわけだ」

勇者「……」
戦士「……」

牧師「戦わずして勝つ。まさに神のようなお力!」

勇者「…………」
戦士「…………」

牧師「これが俗に言う、救世主というものなのでしょう!」

勇者「……変な汗出てきた」
戦士「……俺もや」

牧師「勇者様!」

勇者「は、はいっ!」 ビクッ

牧師「宜しければこの僧侶を共に連れて行っては頂けませんか?」

勇者「はいっ! は、はあぁ!?」

戦士「なんでやねんっ!」

牧師「この僧侶、実は不思議な力がありまして……」

戦士「不思議な力?」

勇者「もしや神のご加護とか、体力を回復させるとか――」

牧師「実はこの僧侶、魔物を引き付ける体質なのです」

勇者「ぶっ!!」

戦士「あかんあかんっ! そんなんあかんわ!」

牧師「ですが、勇者様のお力があれば……」

僧侶「牧師様っ、良いんです」

牧師「僧侶……っ」

僧侶「私、やっぱり一人で生きていきます」

勇者「……」
戦士「……」

僧侶「誰かと一緒に居ては、迷惑を掛けてしまうばかりですから」

牧師「……くっ!」

勇者「……なぁ」
戦士「……うん」

勇者「わかったわかった! わーったよ!」

僧侶「えっ?」

勇者「連れて行きますよ! 行きゃいいんでしょ!」

牧師「おぉっ、勇者様!!」

勇者「でもよ、身の安全は保証できねぇぞ?」

僧侶「あのっ、でも……」

勇者「迷惑だとかそんな事は思うなよ」

戦士「せや。どうせ魔物は倒さなあかんのやし」

僧侶「勇者様、戦士様……っ」 ウルウル

勇者「お、おい。勇者様だってよ」 ヒソヒソ
戦士「あんな可愛いコ、そうそうおらんで」 ゴニョゴニョ

僧侶「ありがとうございますっ!!」

勇者「!?」

僧侶「私っ、誰かに必要とされた事なんてなかったから。ぐすっ」

勇者「な、泣くなって! なっ!」

戦士「そそっ、そうや! これからは俺らが仲間や!」

僧侶「うわーん!」 ボロボロボロ

勇者「前途多難だな」
戦士「せやなぁ」

 【僧侶】 が仲間になった!

・ ・ ・

僧侶「それでは牧師様、行って参ります」

牧師「うむ。無事を祈っておるぞ」

僧侶「それでは参りましょう」

勇者「ずいぶんとあっさりだな。もう故郷に帰ってこれねーかもしれないんだぞ?」

僧侶「故郷? 私の故郷はセカンド村ではないですよ?」

勇者「何ぃ!? んじゃ何でセカンド村に居たんだよ」

僧侶「ですから、救いを求めるべく旅を」

戦士「おい、どうやら一杯くわされたようやな」

勇者「あんのクソ牧師、次に会ったらタダじゃおかねぇぞ!」

・ ・ ・

修道士「うまくいきましたねっ、牧師様!」

牧師「ああ。厄介払いが出来たよ」

修道女「あの子が来てからというもの、魔物が増えて困ってましたものね」

牧師「勇者だかなんだか知らんが魔王を倒すのなら丁度良いだろう」

修道士「全くもってその通り! 私達は何も悪くない!」

修道女「悪くありませんわ!」

牧師「悪くない! あー助かった。わはははは!」

・ ・ ・

勇者「ほんじゃま、サード城まで真っ直ぐ向かうか」

戦士「せやな」

僧侶「あのー」

勇者「んっ?」

僧侶「私は何をすれば宜しいでしょうか?」

勇者「別に何もしなくていいぞ。なぁ?」

戦士「せやなぁ。特に何もないしな」

僧侶「でもぉ」

勇者「あ、じゃあさ。料理とか洗濯とか出来る?」

僧侶「え、ええ。それはもちろん」

勇者「じゃあその辺りの事をお願いしようかな。長旅になるかもしれないし」

僧侶「……うぅっ」 ボロボロボロ

勇者「なぜ泣くううぅぅぅぅ!?」

戦士「お前が雑用なんか押し付けるからやろ!」

僧侶「違うんですううぅぅ」

戦士「ふへ!?」

僧侶「今まで人に頼られたことなんて、なかったからぁー」 ドバー

勇者「と、とにかく泣くな! なっ?」

僧侶「はい……ぐすっ」

勇者「……可愛い」
戦士「……可愛い」

ゴブリンC「ジャジャーン!」 ガサッ

勇者「おわぁっ!?」 ビクゥ!!

ゴブリンD「昨日は兄弟分を、よくもやってくれたぎゃー」

戦士「やっべ、完全に油断しとった」

ゴブリンC「そしてお前のファッションネタも調査済みだぎゃー」

勇者「ネタじゃねぇ! ぶっ殺すぞ!」

僧侶「くふっ、ふふふふふっ」

 僧侶は 【トーク】 でわらいころげている!

戦士「何してんねんっ!」

ゴブリンD「隙ありだぎゃー!」

 ゴブリンDは 【軽いギャグ】 をはなった!

戦士「ぶはっ! 大して面白くもねぇのにどうして……っ」 ガクッ

勇者「ひ、ひぃ! 横っ腹が痛い……っ!」

ゴブリンD「き、効いてるッ」

ゴブリンC「チャンスだぎゃ!」

僧侶「はぁ、面白かった……って、勇者様っ!?」

勇者「ま、まずい……これ以上はっ、うははは!」

戦士「何とかせんとヤバイで……」

僧侶「戦士様っ、勇者様!」

勇者「そ、そうだっ!!」

僧侶「……?」 キョトン

勇者「僧侶っ、セクシーポーズだ!」

僧侶「へっ!?」

勇者「何でもいいっ! 俺を悩殺してみろ!」

僧侶「の、悩殺っ!? はいっ、やってみます!」

 僧侶は 【悩殺ポーズ】 をはなった!

僧侶「う、うふ~ん」 キュピーン!!

勇者「全っ然、悩殺じゃねぇけど……っ」

戦士「あの乳揺れとくびれたウエストはヤバイ」

 勇者と戦士は 【正気】 にもどった!

勇者「回復!!」

ゴブリンC「何ぃーッ!?」

勇者「よくもやってくれたなおい」

戦士「モノホンの漫才を見したるでぇ!!」

 勇者と戦士は 【漫才】 をはなった!

ゴブリンC「ぶっ!! ギャハハハハハハ!!」
ゴブリンD「フハッ、ワハハハハハハッ!!」

戦士「なんでやねん、もうええわ!」 バシッ
勇者「どうもありがとうございましたー」

 【ゴブリンC】 と 【ゴブリンD】 をたおした!

勇者「いっちょ上がりぃ!」

戦士「なかなか、ええネタやったんちゃう?」

勇者「どうかなー。お前のツッコミ、もうちょい多くてもいいけどな」

戦士「あーそれもそうやなぁ」

僧侶「凄い凄い凄いっ!!」

勇者「へっ?」

僧侶「凄いですよっ、お二人とも!」

勇者「そ、そうかな?」

戦士「まぁファースト国一のツッコミやからな!」

勇者「自分で言うな!」

戦士「事実やろ、ってかお前も言うとったやんか!!」

勇者「そうだっけ?」

戦士「なんでやねん!」

僧侶「あはははははっ」

・ ・ ・

僧侶「ここがサード城なんですね」

戦士「初めて来たんか?」

僧侶「はい」

勇者「はいってお前、サード城経由じゃなきゃどうやってセカンド村に行ったんだよ」

戦士「まさか西側の険しい山脈越えたんか……?」

僧侶「えっと、上から……」 スッ

勇者「……おい、空なんぞ指差してるぞ?」 ヒソヒソ
戦士「なぁ、記憶障害でもあるんちゃうかな?」 ボソボソ

僧侶「あ、あのー」

勇者「オッケーオッケー。そうだねうん、お空から来たんだねぇ」

戦士「ほな、行こか。まずは宿の確保や」 スタスタスタ

僧侶「は、はぁ……」

・ ・ ・

勇者「あー疲れた。とりあえず飲むぞ!」

戦士「せや。まずは乾杯や」

僧侶「はいっ。乾杯~」 チンッ

勇者「かぁーっ! うめぇ!!」

戦士「しっかし繁盛しとる酒場やなぁ」

勇者「まさか相席とはな。ファーストとは大違いだ」

戦士「あ、ねーちゃん。これもう1杯や」

勇者「飲みすぎんなよ?」

戦士「酒に飲まれるほどアホちゃうわ」 ゴクゴク

勇者「お前めっちゃ強そうだもんな」

僧侶「勇者様は弱いんですか?」

勇者「んー、人並み?」

戦士「ぷっはぁー! ねーちゃん、もう1杯――」 ドンッ

勇者「お前なぁ、相席なんだから落ち着けよ。すまねぇな、兄ちゃん」

魔法使い「い、いえ……っ」 チビチビ

戦士「なんや、景気悪いなぁ。もっとこう、ぐぁーっと飲まんかい」

魔法使い「はぁ……」

勇者「絡み酒すんな」

戦士「せっかく相席なんや。一緒に楽しもうや!」

魔法使い「……っ」

・ ・ ・

勇者「しっかし魔物との遭遇率、高過ぎじゃね?」

戦士「初めてやから基準が分からん」 ゴクゴク

勇者「そりゃそうだけどよ」

僧侶「ごめんなさい。多分、私のせいで」

勇者「いやっ、そういうことじゃなくてだな」

戦士「でもあれやな、ネタも倍以上は作らんと」

勇者「だ、だよなぁ」 ゴクゴク

僧侶「あの、別に同じネタでも良いんじゃ」

勇者「バカ! 俺らは芸人だぞ。同じネタをそう何度も使い回せるか」

戦士「せやで。相手が客である以上、飽きさせたら負けや」 ゴクゴクゴク

僧侶「は、はぁ」

勇者「それとアレだな、対魔王様々の鉄板ネタも考えておかねぇとな」

戦士「せやなぁ。どんなネタで攻めたらええんやろか」 ゴクゴクゴクゴク

・ ・ ・

戦士「ぐぅー」

勇者「……こいつ、酒強いとか言ってなかったか?」

僧侶「そうでしたっけ」

勇者「思いっきり弱いじゃねぇか! 薄めのグロッグ三杯で潰れてるし!」

戦士「ぐごぉーっ!」

勇者「ぐごー、じゃねぇよこのタコ!」 バシッ!!

僧侶「ど、どうしましょう」

勇者「しゃーないから宿に帰ろう」

僧侶「じゃあ私、お会計してきます」

勇者「ったく、これどうやって宿まで連れて帰るんだよ……」

魔法使い「……あ、あのぉ」

勇者「……?」

・ ・ ・

勇者「いやー助かったよ! サンキュー!」

魔法使い「い、いえ……っ」

勇者「あんた、名前は?」

魔法使い「あ、あの魔法使いです!」

勇者「俺は勇者。んでこっちが僧侶」

僧侶「僧侶ですっ」

勇者「んで、この寝てるのが戦士。よろしくな!」

魔法使い「ど、どうも」

勇者「んだよ、暗い奴だなぁ。酒入ったんだし明るくいこうぜ!」

魔法使い「はぁ」

僧侶「見えてきましたよ」

勇者「やーっと着いた! ありがとうな、魔法使い!」

魔法使い「えっ?」

勇者「いやぁ、流石に俺一人じゃ、こんな早くたどり着けなかったわ」

魔法使い「は、はぁ」

勇者「ほんとありがとな。あ、そうだ。良かったら礼でもしたいんだが」

魔法使い「れれ礼だなんて、そんな結構です」

勇者「そうか?」

魔法使い「じゃあ、僕はその……これで」

勇者「お、おう。そんじゃな! おやすみっ!」

僧侶「良い人でしたね~」

勇者「ちょっと大人しい奴だったけどな」

・ ・ ・

戦士「おはようさん」

僧侶「おはようございますっ。よく眠れましたか?」

戦士「いやぁ、それが全然記憶がなくてなぁ」

勇者「ふざけんな」 ビシッ!!

戦士「痛った! つむじにデコピンとか痛った!」

勇者「何が酒強いだよこのヤロウ」

戦士「強いなんて一言も言うとらへんわ!」

勇者「とんちかましてんじゃねぇ!」

戦士「悪かったって。なっ」

勇者「ったく。これからは飲みすぎ禁止な」

僧侶「あのーこれからどうします?」

勇者「そうだなぁ。昨日の感じからすると町の外は危ないよな」

戦士「せやかて、このままずっと町におるわけにもいかんで?」

勇者「次の町は北にあるフォースか」

戦士「フォースからは船で中央大陸のフィフス城まで行けるわな」

僧侶「フォースという町はどのくらいかかるんですか?」

勇者「分かるか?」

戦士「行ったことあらへんけど、ざっと一週間くらいやないか?」

勇者「一週間……」

戦士「結構ハードやぞ」

勇者「かと言って、ちっちゃな村とかに立ち寄るのは迷惑だしなぁ」

戦士「せや。魔物が襲ってきたら他人を巻き込んでまう」

勇者「野宿覚悟で突っ走るか」

戦士「それしかあらへんかぁ」

僧侶「野宿ですかぁ……」

勇者「仕方ないだろ! 他に方法……ん?」

魔法使い「き、昨日はその……どうも……」 ペコペコ

戦士「おぉっ? 酒場にいた、あんちゃんやないか!」

勇者「そいつの手助けで宿まで帰ってきたんだぞ」

戦士「へ?」

勇者「どうしたんだ? えっと確か、魔法使いって言ったっけか」

魔法使い「え、えぇ。そのぉ……」

僧侶「あの、何か?」

魔法使い「あうぐぎぎっ、あっの……えと……」

勇者「なんだよ」

魔法使い「ききっ、昨日、おしゃ仰ってたのを! き聞きまして!」

戦士「はぁ?」

魔法使い「ままま魔王を倒すとっ! おしゃしゃってて!」

勇者「まーな。凄い?」

戦士「話の腰を折るな」

魔法使い「僕もそのっ! なな何かそのっ! お手伝い……ごにょごにょ」

勇者「えっ?」

戦士「おい、俺ら道楽でやっとるんやないぞ?」

魔法使い「わかってます!」

戦士「!?」

魔法使い「僕もあの、何もないですけれど、何かしたくって……」

僧侶「魔法使いさん……っ」

戦士「あんちゃん、すまんけどなぁ」

勇者「魔王を倒すには笑いの力が必要だ」

戦士「お、おい」

勇者「今からお前の持つギャグを見せてみろ」

魔法使い「ひへぇ!?」

勇者「面白ければ採用してやる。だが、つまらなかったら……」

戦士「おい、素人相手に何を言うとるんや」

勇者「分かりやすくていいだろ。断るにはうってつけだ」

戦士「でもなぁ、何も一般人にそんな」

魔法使い「や、やります!」

戦士「っておい!!」

勇者「よーし、そんじゃそこの広場でショータイムだ!」

・ ・ ・

魔法使い「……っ」 ドキドキ

勇者「よーしいいぞ。俺ら三人の内、二人を笑わせたら合格」

僧侶「頑張って!」 ドキドキ

戦士「何を応援してんねん」

魔法使い「ででっ、では!!」

 魔法使いは 【よく分からない動き】 をした!

戦士「こらあかん。素人以下の問題や」

僧侶「……」

魔法使い「ぜはー、ぜはー、ぜはーっ」

戦士「ぶっ! たったそれだけで汗びっしょりやんけ!」

魔法使い「う、うんふぉうは大のにがふぇで……ぜはー」

勇者「僧侶、面白かった?」

僧侶「えっ? え、えっと……まぁ、はい」

勇者「戦士は笑ったよな?」

戦士「はぁ!? 笑ってへんわ」

勇者「いま笑ったろ」

戦士「今のはノーカウントやろ!」

勇者「ふーん。まぁいいや、合格」

戦士「そらそうやろ……はああぁぁ!?」

魔法使い「ぜはーぜはー、ぜはー」

僧侶「合格ですって! 魔法使いさんっ!」

戦士「おまっ、何で――」

勇者「いいかよく聞け。今の動き、思いっきりど素人だ」

戦士「そら見りゃ分かる」

勇者「だが逆に素人だからこそ使える」

戦士「お前、まさか……」

勇者「ああ。コイツは天然の素人芸だ。これは才能だ」

戦士「素人をイジって笑いを取るという素人イジリに使う気か!?」

勇者「俺らの台本が決まったネタじゃ、いつか底が尽きちまう」

戦士「せやけどなぁ、死ぬかもしれないっちゅーのに」

勇者「本人だってその覚悟で志願したんだろ。なぁ?」

魔法使い「ぜはぁー、もち……ろんです」

勇者「とりあえずフォースまで試してみよう」

戦士「しゃーない。もしあかんと判断したら帰るんやぞ?」

魔法使い「は、はひぃ!」

 【魔法使い】 が仲間になった!

・ ・ ・

勇者「んじゃ改めて自己紹介」

魔法使い「は、はいっ。魔法使い、三十七歳です」

戦士「めっちゃ年上やんけ!!」

勇者「俺らの一回りも上とか……」

魔法使い「あ、あのぉ」

勇者「何か特技とかは?」

魔法使い「へあっ? はいっ、趣味は読書と人形劇。特技は人形作りと裁縫です!」

戦士「めっちゃくそインドアやな」

勇者「家族は?」

魔法使い「両親には追い出されました……」

勇者「……彼女は?」

魔法使い「居ない歴、三十七年です」

勇者「……」

戦士「なぁ、これアカンちゃうか?」

勇者「熱意がありゃいいんだよっ! おーし、行くぞー!」

僧侶「おーっ!」

魔法使い「お、おおうっ」

・ ・ ・

リザードマンA「呼ばれて飛び出てリザードジャーン!」 ガサッ

僧侶「魔物っ!?」

戦士「呼んでねぇ!!」

勇者「ごめん、俺呼んだわ」

戦士「なんでやねんっ!!」

僧侶「くふふっ」

戦士「何でお前が笑ろうとんねんっ!!」

リザードマンB「ブハハッ! しま……っ息が……」 バターン

リザードマンA「バカヤロー! 油断してんじゃねぇ!」

勇者「ふっふ、見たか。これぞ不意打ちカウンター」

リザードマンA「おのれ。だが貴様らのネタは調査済みだぞッ!」

戦士「何ぃ!?」

勇者「よーし。そうくるなら魔法使いっ、早速の出番だぞ!」

魔法使い「ひえっ!?」

勇者「お前の実力、見せてやれ」

魔法使い「お、お手柔らかに……っ」

リザードマンA「何だコイツは。どこも面白そうには見えないぞ?」

魔法使い「え、えぇと……」

勇者「もっと前でやらんか!」

魔法使い「ふごっ、はいぃ!」 ドテーン!!

戦士「何もない所でズッコケたー!!」

魔法使い「いてて……」

僧侶「きゃーっ!」

戦士「何でコケただけでズボン脱げてんねんっ!」

魔法使い「わっ、わわっ!!」 ドテーン!!

戦士「ズボン直さんで走り出したら、そらぁもつれて転ぶやろ!!」

リザードマンA「ブハハハハッ! 何だコイツ……は、腹がよじれるうぅ!!」

勇者「にやり」

リザードマンA「クソォ、俺様っが……こんなワケの分からん奴にィ……ッ」 バターン

 【リザードマンA】 と 【リザードマンB】 をたおした!

僧侶「魔法使いさんっ、すごーい!」

戦士「やるやんけ!」

魔法使い「は、はは。どうも……っ」

勇者「やっぱりな。コイツには天然っつー天性の才能がある」 ニヤッ

・ ・ ・

魔法使い「ぜはぁー! ぜはーっ! ぜはああぁぁーっ!」 ヨロヨロ

僧侶「はぁ、はぁ、ふぅ」

戦士「もう何日経つねん……。フォースはまだか」

勇者「一週間近く経つぞ。もう着いてもいいはずだ」

戦士「せやけど全く手がかりすらあらへん」

勇者「道は合ってんだろうな?」

戦士「間違いないはずや」

勇者「ちょっと地図見せてみろ」

戦士「ほれっ」 バサッ

勇者「!? て、てんめえぇ~っ!!」

戦士「何やねん……はぁはぁ」

勇者「地図が逆さまじゃねぇか、このすっとこどっこい!!」

戦士「はぁ!?」

勇者「はぁじゃねぇ! どこをどうやったら見間違えんだよタコ!」

戦士「んなわけあるかいっ! 貸してみい!」 グイッ

勇者「破れんだろっ! 急に引っ張んな!」 ドサッ ジャラジャラ

僧侶「もうっ、喧嘩はやめて下さいよぉ~」

魔法使い「ぜはぁーぜはぁーぜはぁーっ」

勇者「どうすんだよ……食料尽きちまうぞ」

戦士「い、行くしかあらへんやろ!」

勇者「こいつ……」

僧侶「あっ!」

勇者「なんだよ」

僧侶「あれ見て下さいっ! あの丘の上!」

勇者「!?」

戦士「なんやあれ? デカイ屋敷やなぁ」

魔法使い「あ、あれは伯爵の屋敷です。ぜはぁー」

勇者「伯爵ぅ?」

魔法使い「サードの領主です。ぜはぁー」

戦士「いつまで疲れとんねん」

勇者「領主か。休ませてくれっかな?」

僧侶「でもぉ、面識もないのに無理じゃないですか?」

魔法使い「め、面識なら……ぜはぁー。僕が、ぜはぁー」

戦士「いいから落ち着けや」

・ ・ ・

勇者「ほう。伯爵とクラスメイトだったと?」

魔法使い「はぁ」

僧侶「それなら何とかなりそうですね」

戦士「最悪、食料の援助くらいはしてくれはるかもなぁ」

勇者「行く価値はあるかもな。つーかどうせ目の前だし」

・ ・ ・

勇者「たのもー!」 ゴンゴンゴン

メイド「はい、どちら様でしょうか?」

勇者「風と共に颯爽と現れる火の闘士と氷の心を持った光の勇者――」

メイド「はい?」

戦士「ちょっと道に迷って、助けて欲しいんや!」 グイッ

勇者「あ、こら。まだ自己紹介が終わってない」

僧侶「あのー私は僧侶と申します~。どうぞ宜しく~」 ニコー

戦士「せやからっ、迷子になってもうて助けて欲しぐぶえっ!」 グイッ

勇者「俺が先だこのやろー!!」 グイッ

魔法使い「はくはくはく……伯爵……」

メイド「ご主人様、よく分からない謎の方々がお見えです」

・ ・ ・

伯爵「君が勇者か。噂には聞いているよ」

勇者「おお、もう噂に」

伯爵「ファーストの国王から各領主には通達が来ているからね」

勇者「それならば話は早い」

メイド「紅茶です。どうぞ」

僧侶「ありがとうございます~」

勇者「早速だが、もし良ければ食料を」

戦士「あーあと、一泊もさせて貰えへんかな?」

勇者「強いて言うならお金も少し恵んで欲しいなぁ」

戦士「あと馬車!」

勇者「なんなら船も!」

伯爵「メイド、そろそろご帰宅されるそうだ」

勇者「嘘ですゴメンナサイ」
戦士「ギャグに決まっとるやろ」

魔法使い(たぶん本気だった……)

伯爵「ふーむ」

魔法使い「あ、あの……」

伯爵「ん?」

魔法使い「お、覚えてない……かな?」

伯爵「何をかね?」

魔法使い「クラスメイトだったその、魔法使い……です」

伯爵「クラスメイト? 魔法使い?」

魔法使い「や、やっぱり覚えてないですよね。はは……っ」

伯爵「……クラスメイトか。魔法使いくん」

魔法使い「!?」

伯爵「いま思い出したよ。いや、懐かしいな」

魔法使い「は、はは……っ」

伯爵「まぁ良い。勇者を助ける事には私にも意義がある」

勇者「おぉー!」

伯爵「それに学友の頼みだ。断れはしないだろう」

魔法使い「ありありあのっ、ありがっと……ござます」

伯爵「メイド、何か食事と……客間を二つ開放せよ」

メイド「はい」 テクテク

戦士「さっすが伯爵殿っ! いよっ、イケメン!」
勇者「いよっ、紳士!!」

・ ・ ・

勇者「おぉー! ふっかふかのベッド!」 ボフッ

戦士「しっかし三人で一部屋かいな」

勇者「文句言ってらんねぇだろ。野宿より数万倍マシだ」

戦士「ま、それもそうやな。これもお前のお陰や!」

魔法使い「ぼぼ、僕はその……何も……」

戦士「んな事あらへん。なぁ?」

勇者「んーまぁ、どうなんだろな」

戦士「何がやねん」

勇者「伯爵のやつ、本当に魔法使いの事、覚えてたのかなってよ」

戦士「はぁ?」

魔法使い「ぼっ、僕もそう……思います」

戦士「でも、だから宿泊させてくれたんやないか」

勇者「いーや。あいつはどうも信用できん」

戦士「どういう事やねん?」

勇者「もしだ、ここで勇者を助けたとして~」

魔法使い「うんうん」

勇者「俺らが魔王を倒したとなれば、伯爵は手助けした事になる」

魔法使い「うんうん」

勇者「もちファースト王から見返りもあるだろうし、世間の評判もいい」

戦士「つまりアレか? 名声の為に手ぇ貸したっちゅー事か?」

勇者「うーん。まぁそれだけじゃないような気もするんだけどなぁ」

戦士「結果はどうあれ助かったわけだし、ま……ええか!」

勇者「そうだな! さーて、風呂入って寝ようぜ!」

魔法使い「は、はい!」

・ ・ ・

僧侶「こんな広いお部屋で一人ぼっち」

伯爵「失礼」 カチャッ

僧侶「伯爵さん?」

伯爵「少し良いかな?」

僧侶「はい。何でしょうか?」

伯爵「部屋は気に入って貰えたかな?」

僧侶「はいっ。一人なのにこんな広くて素敵なお部屋」

伯爵「眺めも良いし、何よりこの部屋は防音でね」

僧侶「そうなんですか」

伯爵「……ふふっ」 バタン

僧侶「……?」

・ ・ ・

戦士「おっはようさん!」

勇者「お前、広い部屋に一人だったんだってな」

僧侶「はいっ。ゆっくり休めましたよ~」

勇者「ちくしょー。つーか伯爵は?」

メイド「それが、自室で意識が朦朧としておりまして」

戦士「病気か?」

メイド「さぁ。何か心当たりはありませんか?」

勇者「全っ然ないけど?」

戦士「せやなぁ。直接、礼も言いたかったんやけど」

勇者「伯爵に伝えといてくれ。俺らは旅立――」

メイド「……」 ジーッ

勇者「な、何だよ……っ」

メイド「本当に心当たりはないのですか?」 ズイッ

勇者「だっ、だからないって! なぁ!」

戦士「せ、せや!」

メイド「……」 ジーッ

勇者「そ、そんじゃ失礼します!」

戦士「ありがとうございましたー!」

勇者「ほれっ、行くぞ!」

僧侶「へっ? きゃっ!」 グイッ

魔法使い「ま、待ってぇー」

メイド「……」

・ ・ ・

戦士「何や知らんけど、めっちゃ疑われてたで」

勇者「俺らが何かしたんじゃねぇかと思ったんだろうな」

僧侶「誤解を解かないと……」

勇者「そうは言っても勝手にぶっ倒れたわけだし」

戦士「俺らが無罪って証拠もあらへんし、触らぬ神に祟りなしや」

・ ・ ・

憲兵「勇者一行ですね」 カキカキ

メイド「はい」

憲兵「それで、伯爵の容態は?」

メイド「ご覧の通りです」

伯爵「うぅ、おそろし……ぶつぶつ」 ガタガタガタ

憲兵「だいぶ、うなされてますなぁ」

メイド「絶対にあの人達が何かしたに違いありません」

憲兵「分かりました。早速、憲兵を動員して話を聞くとしましょう」

メイド「早く捕まえて死刑にして下さいっ!」

憲兵「死……それはちょっと」

メイド「はぁ!?」 ギロッ

憲兵「で、ではっ! 自分はこれで失礼を!」 ソソクサ

・ ・ ・

僧侶「ここがフォースの町ですか?」

戦士「せや! 見てみい、海が見えるやろ!」

僧侶「わぁっ、本当だぁ~」

勇者「船で海を渡れば中央大陸のフィフス国だ」

魔法使い「おぉ……っ」

勇者「行ったことは?」

戦士「あらへん」
僧侶「ないです」
魔法使い「あっ、ありまりま……」

勇者「おっ」

魔法使い「ありません……」

勇者「……」

戦士「誰も行ったことないんかい」

勇者「まーこんな町に用はねぇし、さっさと船に乗ろうぜ」

戦士「せやな! フィフス行ったことないから楽しみやわ」

僧侶「あのー情報収集とか良いんですかぁ?」

勇者「情報たって、なんの情報聞くんだよ。おっ、船着き場だ」

戦士「収集するならむしろ、フィフスに行ってからやろ」

僧侶「それもそうかぁ」 テクテク

魔法使い「でも、フィフスの情報を聞いておくというのも……その」

戦士「そんな情報聞いてどないすんねん。これから行くんやぞ?」

勇者「そーそ。こういう時はとっとと金払って、サクッと行くのが……」 スタスタ

戦士「何してんねん。はよ金払わんかい」

勇者「……ない」

船員「乗るのか? 乗らないのか?」

戦士「だから何をしとんねん。はよせんかい」

勇者「……っ」

僧侶「あの、勇者様?」

勇者「情報収集! うん! そう! これ大事!」

戦士「はぁ!?」

勇者「と、とにかく引き返そう! わはははっ!」

魔法使い「あ、あの~?」

・ ・ ・

戦士「情報収集はええゆうとるやろ!」

勇者「い、いいからいいから!」

僧侶「私達ももう納得しましたし、別に、ねぇ?」

魔法使い「え、ええ。はいまぁその……はい」

勇者「いやいやいや! ここから先、危険はつきもの!」

戦士「話を聞かんかい!」

勇者「いってぇなコラ!」

戦士「お前が話を聞かんからやろ!」

魔法使い「あ、あのー」

勇者「あん?」

魔法使い「もしかして……お金……ないとか……?」

・ ・ ・

勇者「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

戦士「土下座で謝られても意味が分からへん」

僧侶「でもあんな沢山あったのに、もう無くなっちゃったんですか?」

戦士「……お前まさか」

勇者「……っ」

戦士「使い込んだんか!!」

勇者「ちがーう!! 落としたんだよ!!」

戦士「なんや。それならそうと――何いいぃぃ!?」

僧侶「お、落とした……っ」 ヘナヘナ

戦士「何で気付かないんや!」

勇者「いや、俺も妙に軽いなーとは思ったんだ。マジで」

戦士「だからそれやろがっ!!」

勇者「ふへっ!?」

僧侶「お、思い当たる節はないんですか!?」

戦士「なんかあるやろ! おいっ!」 ガクガク

勇者「なななないいいいよよよよ」 ガクガクガク

戦士「どないすんねん」

魔法使い「か、稼ぐしか……ないですよねぇ」

勇者「えぇー」

戦士「誰のせいや、ボケっ!」

商人「アハハハハ!」

戦士「……?」

勇者「誰だアンタ?」

商人「ああスンマセン。商人言います。ヨロシク」

勇者「はぁ」

僧侶「よろしくお願いしますっ」 ペコリ

商人「こらまぁベッピンさんですなぁ~」

僧侶「へっ!? そんなぁ~」 モジモジ

勇者「照れてんじゃねぇよ」

商人「今ちょっと耳にしたんですが、お金に困ってるとか?」

戦士「ああ。コイツが有り金ぜーんぶ、落としよった」

商人「アラマァ」

魔法使い「……っ」

商人「ハッハァ。そんで金を稼ごうと悩んでいた!」

勇者「ピンポ~ン! 大正解~!」

戦士「大正解やあらへんやろ!」

商人「それならワタシと会った事はちょうど良いですネ~!」

勇者「はい?」

・ ・ ・

勇者「ハッハッハ! なぁんだ、商人だったのか!」 バシバシ

商人「痛ったいねぇ。アハハハハ」

勇者「それで商人くん、どんな仕事を紹介してくれるのかね?」

商人「そらやっぱり得意分野で稼ぐのが楽でしょうねぇ」

勇者「得意分野……頭か!」

戦士「何でやねんっ! 一番かけ離れとるわ!」

勇者「はぁ!?」

商人「アハハハハ! それですよそれ」

戦士「えっ!? おいおい嘘だろ?」

商人「いやぁ、頭の事じゃないですってば」

勇者「……?」

・ ・ ・

勇者「だーかーらー」

戦士「だーかーらーはコッチの台詞や!!」

客「わははははっ」

勇者「どうもー」
戦士「ありがとうございました~」

老人「若いのになかなかやるじゃないか、ツッコミの方」 チャリン

青年「ナイスなツッコミだったぜ!」 チャリリーン

女性「あの、どこかで舞台やってらっしゃるんですか?」

戦士「ファーストの劇場に所属しとるで」

女性「今度、見に行きます……っ!」 ウットリ

勇者「けーっ、やってらんねぇ!」

僧侶「でも稼げたじゃないですかぁ」

勇者「何で俺が路上漫才しなきゃなんねーんだよ」

魔法使い「で、でも……お金落としたのはその……勇者――」
勇者「ああん?」

魔法使い「ひっ」

僧侶「もう、やめて下さいよ」

勇者「何で戦士だけもてはやされてんだよ。面白くねー」

戦士「お待たせー」 スタスタ

勇者「……このやろ!」 ゲシッ

戦士「あ痛っ! 何すんねん!」

・ ・ ・

魔法使い「……これっで、最後です」 パサッ

戦士「そこそこ稼げたんちゃう?」

勇者「いや、こんなんじゃ足りねーだろ」

僧侶「もうひと頑張りしないとですね!」

勇者「漫才はもう嫌だ」

戦士「じゃあどうすんねん」

勇者「大体よ、俺のギャグは魔王を倒す為のものであってだな」 ブツブツ

魔法使い「さ、探しに……行きましゅ、すか?」

戦士「もうとっくに拾われて、誰かの懐やろなぁ」

僧侶「あっ! 伯爵にお借りするとか?」

勇者「駄目だろ。変な疑いかけられて逃げてきたんだからよ」

僧侶「あ、そっか……」

商人「仕方ありませんな~。ワタシの出番ですかねぇ」

勇者「ほぉ」

戦士「何かアイディアがあるんか?」

商人「ちょっと僧侶さんをお借りすれば、ですねぇ~」 ニヤリ

僧侶「……?」

・ ・ ・

勇者「おい、もうすっかり夜だぞ」

戦士「あいつら、どこ行ったんやろか」

魔法使い「あっ、あれあれあれ!」

勇者「あーん?」

戦士「いたっ! 何してんねんあいつら」

商人「どうだい兄さん、一晩でたったの1000ジェーピー」

兄さん「こ、この子が!? マジかよ……」 ゴクリ

僧侶「あ、あのぉ」

商人「早くしないとドンドン、予約入ってるからねぇ~」

戦士「このどアホ!!」 ドゴッ!!

商人「――――っ!!」

戦士「なんちゅー事してんねんワレ!!」

兄さん「ひっ、ひいぃ~!」 スタコラサッサ

商人「痛ったいなぁ。お客さん逃げちゃったヨォ~」

戦士「いくら稼ぐっちゅーても、手段考えんかい!」

商人「何を仰る。一晩話相手になるだけで1000ジェーピーですぞぉ?」

戦士「詐欺やないか!!」

商人「詐欺だなんて人聞きの悪い。ワタシは一晩としか言ってません!」

勇者「グレーだなおい」

戦士「せやかて、んなこと言うたら客からクレームが……」

おじさま「居たっ、アイツらだ!」

おじ仲間「おいコラ、よくも騙してくれたなぁ」

商人「騙す? 失礼ですね、騙してなんかおりません」

戦士「ほれ見てみい」

勇者「ん?」

おじさま「ふざけるな! 話だけして1000ジェーピーなんぞぼったくり……」

コワモテ「……」 ズイッ

おじさま「うっ」

商人「何か?」

おじさま「き、汚ねぇぞ……っ」

商人「いやぁ、ただのボディーガードですよぉ」

コワモテ「……」

おじさま「おっ、覚えてやがれ!!」 スタコラサッサ

商人「全く。困ったモンです」

勇者「お前だお前」

戦士「しっかし何者なんやこいつ」

コワモテ「あのぉ、僕もう帰っていいですかぁ?」

商人「ああ、ご苦労サン」

コワモテ「あの、じゃあお金はまたいつも通りに」 ヘコヘコ

商人「彼、見た目はあんなだけど気弱でしてねぇ」

戦士「詐欺や……」

勇者「ああ、これは詐欺だな」

魔法使い「でも、本当に大丈夫でしょうか……」

勇者「任せておきゃいい。この町の事はアイツの方が知ってっし」

戦士「せやけどなぁ」

勇者「俺らは俺らで、やるしかねぇわな」

戦士「は?」

勇者「は? じゃねーよ。徹夜で路上漫才だ!」

戦士「!? おうっ! やったろうやないか!」

魔法使い「お、おぉ……っ」

・ ・ ・

勇者「だーっ! 疲れたぁ!」

戦士「声枯れて……もう大声あげられへん」

魔法使い「おっ、お疲れ様です! どうじょ!」

勇者「サンキュー!」

戦士「買ってきたんかこれ?」

魔法使い「ちちちゃんとぉ、値切ってきましたのでぇ!!」

戦士「やるやん」

勇者「ぷっはぁー。うめぇ!」

戦士「ところで僧侶と商人、まだ帰って来ないんか?」

勇者「噂をすりゃあってやつだな」
戦士「おっ!?」

僧侶「ただいま~」

勇者「稼いだか?」

商人「ガッツリ8000ジェーピーです」 ヒラヒラ

勇者「すげぇ!!」

戦士「俺らが昼から、徹夜までして稼いだのが……」

魔法使い「約3000ジェーピー……です」

勇者「……」
戦士「……」

僧侶「て、てへっ」

・ ・ ・

勇者「これで合わせて11000ジェーピー。十分だな」

戦士「商人には礼をせなあかんなぁ」

商人「礼ならもう頂きましたよぉ」

戦士「へっ?」

商人「僧侶さんが十人の相手をしたので」

魔法使い「確かにお、おかしいです」

勇者「一人1000ジェーピーなら10000……っておい」

戦士「おまっ、2000も抜きよったんか!!」

商人「いえいえ。ワタシが一割の1000ジェーピー」

勇者「残りは?」

商人「ボディーガード代に1000ジェーピーですわ」

戦士「あぁー。あのゴツイ奴か」

勇者「なるほどな。抜け目ないぜったく」

魔法使い「そ、それでもこれだけ稼いでるならそのぉ……」

勇者「まぁな。文句はない!」

商人「まいどドウモ~」

勇者「さーてと、そんじゃフィフスに向けて出航準備だ!」

僧侶「はーい」

・ ・ ・

勇者「じゃあな商人。世話になったな!」

戦士「魔王倒したら飲みにでも行こうや」

魔法使い「の、飲み……」

商人「それじゃあ頑張って下さい。ワタシはこれで」

僧侶「さようなら~」

勇者「しかしフォースの町でも収穫はあったな」 スタスタ

戦士「収穫?」 スタスタ

勇者「俺とお前のネタだよ。結構ウケてなかったか?」

戦士「ウケてたなぁ!」

勇者「人間相手にこれなら魔物なんぞ……」

戦士「大爆笑間違いなしや!」

水夫「出航ーっ! 出航ーっ!」 ブオーンブオーン

勇者「さらばフォースの町!」
戦士「さらば東大陸!」

商人「さらば故郷!」

勇者「……」
戦士「……」

商人「感慨深いモンですなぁ~」

勇者「どわあぁーっ!!」

戦士「なっ、何でここにおんねん!?」

商人「いやぁ、それが実は――」

兵長『そっちには居ないのかぁ!?』

兵士『おりません! まさか、船に乗り込んだのでは……?』

兵長『何ぃ!?』 チラッ

商人「――――っ!!」 ササッ

勇者「おい」

商人「い、いいから背中貸してっ!」

・ ・ ・

勇者「逃亡だぁ!?」

戦士「密航やん」

商人「仕方ないでしょ。捕まりたくありませんし」

僧侶「捕まるって、なにか悪いことしたんですかぁ?」

商人「まぁ、勇者さん達に迷惑はかからんと思います」

勇者「おい待て。まさかそれって……」

商人「へい。昨晩の件がどうも通報されちゃいましてぇ~」

勇者「げっ!!」

商人「大丈夫ですって~。悪いことしてないし中央大陸に行っちゃえば関係なし!」

僧侶「私達、伯爵家にも追われてますしねぇ」

勇者「いや追われてるかは知らん」

戦士「何で魔王を倒す勇者ご一行がこんな目に遭わなあかんねん」

勇者「まぁ仕方ないさ。こんな苦境も勇者への試練」

戦士「なんでやねんっ!!」

商人「ま、とにかくしばらくの間、よろしくお願いしますわ。アハハハハ」

勇者「アハハハじゃねぇよ!!」

 【商人】 が仲間になった!

・ ・ ・

???「フッフッフ。魔王様を倒そうなどという馬鹿な人間が居るらしいな」

???「命知らずとは、まさにこの事よ。フッ」

???「だが、我等四天王が居る限り、魔王様に近づく事すら出来まい」

???「その通りッ! 魔王様の手を煩わせる事なく、笑い殺してくれるわッ!」

・ ・ ・

水夫「ほいよ、この荷物はー?」

僧侶「あっ、私です私~」 ギュムッ

勇者「ここがフィフスか」

商人「そうですぜぇ。東大陸と違って気候が激しいから要注意ですヨー」

戦士「来たことあるんか!?」

商人「そりゃ商売やってますから。当然ですよぉ」

勇者「タナボタだな! 俺ら誰一人こっちのこと知らんからよ」

商人「色々と案内しちゃいますよ。さ、行きやしょう」

戦士「魔法使い、行くで」

魔法使い「あ、あつあつ……暑いぃ……」 ヨタヨタ

・ ・ ・

商人「ここですここです。ささ」 ギイィ

戦士「なんや、誰もおらんやん」

マスター「店はやってないよ」

商人「マスター!? どうしたんですこりゃあ」

マスター「今はそれどころじゃねぇんだ」

勇者「なぁ、何かあんのか?」

マスター「フィフスはもう滅びるんだ。今のうちに逃げた方がいいぜ」

僧侶「ほ、滅びる!?」

魔法使い「うーん……」 バタン

商人「マスター、どういう事ですのん?」

マスター「北の塔が魔物に占領されちまったんだよ!」

勇者「そうなるとどうなるんだ?」

マスター「その先にあるシクスやセブンス小国との道が閉ざされたんだ」

戦士「それって困るんか?」

商人「大変ですよぉ。逃げ道はないんですから」

魔法使い「ふふ、船でフォースに行くしか……道が……」

マスター「そういうこった。だからどいてくれ」 ザッ

僧侶「ど、どうしましょう~」

勇者「どうしましょうってもなぁ」

魔法使い「あ、あのぉ……おうおうっ」

勇者「王?」

魔法使い「ははひぃ。王宮……王宮行けば分かるのでわわぁ」

戦士「せやな。王様なら何か対策練っとるかもしれんわ」

勇者「うーん……。まぁ、行くだけ行ってみっか」

・ ・ ・

衛兵「何だ貴様等は」

勇者「魔王を倒す為に旅してる勇者様ご一行だ!」

戦士「自分で言うな!」 バシッ!!

勇者「じゃあ誰が言ってくれんだよっ」

戦士「誰も言う必要あらへんやろ!」

商人「漫才が始まった」

僧侶「いつもの事ですよっ」

・ ・ ・

衛兵「……それで、国王への面会を希望しているわけだな」

戦士「お、おう」

勇者「こいつプロか? 二十分間で一度も笑わなかったぞ?」

魔法使い「ネネネタがもしかして面白く……ごにょごにょ」

勇者「あぁ!?」
魔法使い「ひいぃ!!」

衛兵「何をしている。早くついてこい」

勇者「へっ?」

僧侶「お城に通してくれるそうですよ~」

勇者「そ、そう」

・ ・ ・

衛兵「ここで待つが良い」

僧侶「お城って、素敵ですねぇ~」

勇者「そうかぁ?」

僧侶「そうですよ~。ステンドグラスやシャンデリア……素敵」 ウットリ

フィフス王「騒がしいな」 ザッ

衛兵「国王様だ」

フィフス王「そなたらは」

勇者「よっしゃー! おっしゃー! ゆうしゃー! 呼ばれて参上! 勇――」
フィフス王「魔王討伐の勇者一行か。私に何の用だ?」

勇者「自己紹介させろ!!」

戦士「何の用って、この国ピンチなんやろ?」

衛兵「貴様、国王様に向かってなんと言う口の利き方を」

フィフス王「構わん。どうせもうじき王ではなくなるのだ」

戦士「何やて?」

フィフス王「この国はもう滅ぶ。つまり私はもう王ではなくなるのだ」

勇者「おい、諦めるのかよ」

フィフス王「貴様等は奴の強さを知らんから言えるのだ」

商人「奴?」

フィフス王「北の塔にいるのは、魔王直属の四天王だ」

魔法使い「!?」

僧侶「四天王って、強いんですか?」

戦士「そら強いやろ。四天王なんだし」

勇者「四天王だからって強いとは限らんぞ?」

戦士「じゃあ何で四天王やねん」

勇者「そりゃあ……四人いるからだろ」

戦士「そら当たり前やろが!」

勇者「いえーい」 バシッ
戦士「いえーい」 バシッ

フィフス王「おほん」

僧侶「お話聞いてあげましょうよ~」

勇者「話すことなんざねーだろ」

僧侶「えっ?」

勇者「だってもう王様じゃないんだし、俺らには何の関係もない」

フィフス王「……」 ピクッ

勇者「一般国民に勇者様が話しかけてどうすんのよ」

僧侶「でもぉ」

勇者「どうせ 『このくには もう おしまいだ!』 とか繰り返すモブの如く」

フィフス王「……」 ピクピクッ

勇者「あ、そうだ。王様いないんならさ、魔物倒してこの国もらっちゃおうぜ」

商人「ほほぉ、そらいいですなぁ~。ワタシ財務大臣やりたいです」

戦士「ほな俺はお笑い大臣やな」

勇者「何でだよ。お笑い大臣は俺だろ」

戦士「笑えんやん」

勇者「ぶっ飛ばすぞ!!」

僧侶「それじゃあ私は、なに大臣をやろうかなぁ」

魔法使い「そそっ、じゃあ僕はその……だいじ……えっと大臣」

フィフス王「おほん」 ピクピクピクッ

勇者「おっさん、風邪か?」

フィフス王「小僧、誰が王を辞めるなどと言った?」

勇者「さっき言ってたじゃねーか!」

フィフス王「もうじき王ではなくなると申したのだ」

勇者「同じだろ!」

フィフス王「それに私が自ら辞めるわけではない。魔物のせいでそうなるのだ」

戦士「何が言いたいねん」

フィフス王「私は王だ。というか、王でいたい」

勇者「なんか変なこと言い出したぞ?」 ゴニョゴニョ
戦士「あれやろ。権力にしがみ付きたいタイプなんやろ」 ヒソヒソ

フィフス「おほん。そこで貴様等を勇者と見込んで――」

勇者「貴様等ぁ?」

フィフス王「……貴公等を勇者と見込んで頼みがある」

勇者「嫌です」
戦士「なんでやねんっ!!」 バシッ

フィフス王「北の塔の魔物を倒してくれ。頼む」

勇者「そう言われてもなぁ」

フィフス王「フィフス国王がこうして頭を下げて頼んでいる。どうか」 フンゾリ

勇者「頭を下げてから言えっ、頭を!!」

フィフス「無論、討伐の折には報酬を――」
商人「やりますやりますっ」

勇者「軽はずみに返事してんじゃねぇ!」

戦士「報酬次第やな」

フィフス王「何を望む?」

戦士「うーん」

勇者「金……いや、女だな。美女を数人。いや数百でもオーケー!」

商人「ワタシはお金だなぁ。もしくは土地! 地主は儲かるのヨネ~」

僧侶「私はお洋服と~あっ! 新しいバッグに靴も欲しいかもですっ」

魔法使い「ぼぼ僕は僕はえぇと……」

戦士「ええかげんにせい!!」 バシバシバシッ

商人「痛っ!!」
僧侶「わ、私まで突っ込まれましたぁ」

戦士「ちゃうやろ! もっと魔王倒すのに役立つようなもんをなぁ」

勇者「戦士の言う通りだ」

フィフス王「!?」

勇者「船だ。船をくれ」

フィフス王「船だと?」

勇者「ああ。俺らは東大陸に行かなくちゃならねぇ」

衛兵「東大陸!? 魔物の大陸だぞ」

戦士「せやから行くねん。魔王倒すんやからな」

勇者「そういう事」

フィフス王「成程。己の船を手に入れ、余計な犠牲者を増やさぬ算段か」

勇者「い、いやっ。別にそこまでは」

フィフス王「貴公の精神に真の勇者を見た。その報酬、約束しよう」

僧侶「おぉ~っ。やりましたねっ、勇者様!」

勇者「いやっ、あの……だからね」

フィフス王「直ぐに手配出来る船はあるか?」

衛兵「それが、どの船もフォースへの避難で出払っておりまして」

フィフス王「そうなると、セブンスにある船を使うしかないな」

商人「セブンスまで行けと申しますか」

フィフス王「うむ。すまぬがそうなるな」

勇者「そんなん面倒だから、じゃあ要らね――」
フィフス王「勇者よ! 頼んだぞ!!」

衛兵「さぁ、もう時間だ。王宮から出て頂こうか」
勇者「どわっ、押すなこら!」

フィフス王「北の塔は夜が手薄だ。気を付けてなー」 ヒラヒラ
勇者「またこの展開かよくそおおぉぉー!!」

・ ・ ・

僧侶「さっそく出発ですね」

勇者「追い出されたんだよ。くそっ」

商人「しかし晩餐の一つでもないと、割に合いませんなぁ」

戦士「せや。酒ぐらい出してくれれば良いもんを」

魔法使い「……」

勇者「しかし四天王か。俺らのネタが通じるかどうか」

戦士「何や、自身ないんか?」

勇者「まさか」

戦士「ファースト一のツッコミがあるんや。安心しとき!」

勇者「まぁな。でもファースト一とはちょっと頼りねぇな」

戦士「魔王倒したら世界一名乗ったるわ!」

勇者「強気だなおい」

戦士「間違ってないやろ」

勇者「まぁな。そしたら世界一のコンビってことだな」

戦士「お前とコンビ組まなあかんの?」

勇者「へっ!? 組んでるじゃねぇか」

戦士「今はやろ」

勇者「何でだよ、おかしいだろ。何で解散する必要あんだよ」

戦士「魔物相手なら頼もしいけど、人間相手にはなぁ」

勇者「……」

僧侶「商人様はネタ、出来るのですか?」

商人「いやいや、ワタシは芸人じゃあありませんからねぇ」

魔法使い「でででも、ネタ出来ないととっと」

僧侶「じゃあ、笑わないように気を付けないといけませんね」

勇者「商人なら大丈夫だろ」

僧侶「そうなのですか?」

勇者「商人ってのは喋りのプロだ」

戦士「せやなぁ。話がうまくないちお商売出来んもんなぁ」

勇者「トークやガヤに関しちゃお手のものだろ?」

商人「うーん。まぁ分かりませんけど、やるだけやってみますわ」

・ ・ ・

僧侶「これが、北の塔」

商人「ご両人、大丈夫ですかい?」

勇者「ああ。しかし立て続けにネタは厳しいぜ」

戦士「せやな。声が枯れそうやわ」

魔法使い「みずみ水どうぞ!」

勇者「さーて、そんじゃやってやっか」

戦士「なぁ勇者」

勇者「あん?」

戦士「四天王、きっと手強いで」

勇者「分かってらぁ」

戦士「恐らく人間を笑い殺してるのはそいつの仕業や」

勇者「そうなのか?」

戦士「そうとしか考えられへんやろ」

勇者「言うねぇ~」 ツンツン

戦士「真面目な話や」

勇者「お、おう」

戦士「そこらの雑魚、散々戦ってきたけど笑えたか?」

勇者「いやー、そこそこ笑える奴は居たけどグッとはこねーな」

戦士「せやろ」

僧侶「言われてみれば、不思議ですねぇ」

戦士「今まで笑かしてきた奴らは、言ってみれば新人か三流や」

勇者「……っ」 ゴクリ

戦士「四天王ってのは相当、面白い奴に間違いない」

商人「ワタシ、怖くなってきてしまいましたワァ」

戦士「せやからチームワークが大事や」

勇者「ほほう、チームワークねぇ」

戦士「俺と勇者でネタかます」

商人「ワタシは合いの手入れまくりますわ!」

魔法使い「あのぅ、僕は」

勇者「お前は間が出来た時に不意打ちで一発芸かませ」

魔法使い「はっ、はひい!」

僧侶「あの~私はいかがすれば宜しいですかぁ?」

戦士「僧侶は俺らが笑いそうになったら、すかさずセクシーポーズや」

魔法使い「!?」 ドキーン

勇者「何とか俺らの笑いを打ち消してくれ」

僧侶「が、頑張りますっ!」

勇者「んじゃー行くぞー!!」

戦士「おう」
商人「おーっ」
僧侶「おーっ」
魔法使い「おっ、おおう……っ」

・ ・ ・

商人「うぐっ、脇腹が痛い……っ」

勇者「四天王ってのはまだ現れねぇのか。くそぉ」

戦士「計算外やな。まさか塔の中にこれだけの芸魔物揃えとくなんて」

魔法使い「あのののっ」

勇者「あん?」

魔法使い「さ最上階みたいでっすよ!」

勇者「ほぉ、つまりここが塔のてっぺんかい」

戦士「くるでぇ」

――「レディースアーンド、ジェントルメーン!!」

僧侶「!?」

――「こっちこっち!」

商人「後ろですね!」

勇者「出やがったな四天王!」

――「四天王が一人、私の名は 『烈火の朱雀』 お見知りおきを」

戦士「朱雀」

勇者「戦士、先手必勝だ」
戦士「せやな!」

朱雀「早速だが、こいつを見て欲しい」 バサッ

僧侶「マントを脱いだ?」

商人「ぶはっ! ビキニパンツ一丁――しまった」 ガクッ

戦士「僧侶っ、セクシーポーズで回復や!」

僧侶「きゃーっ!」

勇者「顔伏せて、うずくまってんじゃねぇ!」

朱雀「ほーれほーれお嬢さん、どうかね?」 クイッ クイッ

勇者「奇襲かけるつもりが奇襲くらうとはな。汚ねぇぞ」

朱雀「汚い? 失礼だな、毎日朝シャンして清潔に洗っている」

勇者「そういう意味じゃねぇ!」

商人「ふはっ! や、やめて下さい勇者さ……っ」 ガクガク

戦士「仲間笑かしてどうすんねんっ!」

僧侶「くっ、くぅ。セクシーポーズ! うっふん!」 バキューン!!

魔法使い「――――っ!!」 ブシューッ!! バターン!!

戦士「魔法使い!?」

勇者「これだから三十過ぎて童貞はああぁぁ!!」

朱雀「クフッ、鼻血噴水で気絶したぞ!?」

勇者「でもちょっとウケてる」

戦士「チャンスや!」

朱雀「おっとぉ、ここで本日のメインイベントー!」

商人「!?」

朱雀「朱雀さんの、ギャグ百連発~!!」 ドンドンパフパフ

勇者「百連発だとぉ!?」

朱雀「まず早速、一発目はご存じ~尻カゲル!!」 ドンッ!!

戦士「早っ! こっちがかます間もないっちゅーんか」

朱雀「さぁドンドンいくぞぉ!!」

商人「烈火とはよく言ったものですなぁ。くふふっ」

戦士「感心しとる場合かっ!」

勇者(駄目だ。朱雀とかいう奴、自分のギャグ連発でこっちが見えてねぇ)

朱雀「七発目ェ! 朱雀! 朱雀! うるせー!!」 ドンッ!!

僧侶「ぷっ!」
商人「ふはっ、立て続けで……一呼吸置く暇もない……ぃ」 プルプル

勇者「一発一発は大して面白くねぇのに、じわじわきやがる」

戦士「こっちが休む暇あらへんからな……くそっ」

朱雀「そぉれ、十二発目! いないいな~い……いな~い!!」 ドンッ!!

・ ・ ・

朱雀「六十九発目ェ! 右翼、左翼、朱雀!!」 ドンッ!!

勇者「意味分からん! うははははは!」

戦士(あ、あかん。このままじゃ全滅してまう……っ) フラフラ

商人「いっ、息が……ぶはははははっ!!」

僧侶「あははははっ! セ、セクシポ――あはははは!!」

朱雀「どんどん行くぞぉ! 七十発目ェ!」 ドンッ!!

戦士(奴を笑かす方法は一つ。百発凌ぎきる事や)

朱雀「七十一発目ェ!!」 ドンッ!!

戦士(せやけど、このままじゃもたん。何とかせんと)

朱雀「七十二発目~!」 ドンッ!!

戦士(僧侶の回復で勇者を正気に戻して、一発ネタをかます)

・ ・ ・

勇者「ぶわぁーっはっはっは! ひぃっ、腹痛てぇ!」
商人「も、もうワタシ駄目ですわぁ」

朱雀「九十三発目!」 ドンッ!!

戦士(……仕方ない。やるしかないわなぁ) フラフラ

朱雀「九十四発目ー!」 ドンッ!!
戦士「なんでやねん!!」
朱雀「!?」
戦士「何で九十四発もやってんねん!」

朱雀「きっ、九十五発目!」 ドンッ!!
戦士「ぶははは! なんでやねんっ!」

朱雀「九十六発目ェ!!」 ドンッ!!
戦士「なんでやねん! わはははは!」

勇者「せ、戦士……うはははは!!」
商人「連発ギャグにツッコむなんて、うひひいいぃぃ!!」

朱雀「えぇーい、九十七発目!」 ドンッ!!
戦士「あはははは! な、なんでやねんっ!」

勇者「戦士、やめろ。持たないぞ、ぶっははははは!!」

僧侶「勇者様~くふふ」

勇者「!?」

僧侶「セクシーポーズ、ふふっ、うふふふ」 バキューン

勇者「含み笑いしながらセクシーポーズって、ぶぷっ!」

僧侶「だっ、大サービス~!」 ドババキューン
勇者「――――!?」

朱雀「九十八発目、とっておきだ!」 ドンッ!!
戦士「ぶはっ! 今頃とっておきって、なんでやねん! わははは!」

朱雀「九十九発目エエェェ!!」 ドンッ!!
戦士「もう終わってまうやん、わははははははは!!」

朱雀「百発目エエエエェェェェーッ!!」 ドンッ!!
戦士「これはあかん! ふっ、ふはっ! あはははははは!!」

朱雀「終わっちゃった。てへっ」

戦士「じゃあ俺が百一発目~」

魔法使い「せ、戦士さんを……止めないとぉ……」
勇者「魔法使い!? 生きてたのか!」

僧侶「止めるって?」

魔法使い「き、禁断の技を使うつもりです……っ」

僧侶「禁断……?」

勇者「ま、まさか」

魔法使い「そう。 『ノリツッコミ』 です」

戦士「俺が百一発目~って――」
勇者「戦士! よせっ、やめろぉ!!」

戦士「 な ん で や ね ん ! 」
朱雀「――――っ!!」

 戦士は 【渾身のノリツッコミ】 をはなった!

戦士「…………」

勇者「戦士、お前が盾になって、視界を遮ってくれた」

商人「しかもツッコミの声で、朱雀のギャグを掻き消して」

僧侶「お陰で私達、正気に戻れました」

魔法使い「さ、最後まで……一人で……っ」

朱雀「ぬぐううぅぅ」

勇者「おい朱雀、戦士の顔を見てみろよ」

朱雀「何ィ!? ブフッ!!」

勇者「仁王立ちで最後まで変顔かますとか、笑えねぇよ」

朱雀「クフッ、いかんいかん。あやうくツボに入るところだった」

勇者「もう遅い。後ろを見てみな」

朱雀「はっ!?」

魔法使い「やぁー! ぼくぼ僕わわっ!」 ステーン

朱雀「ギャハッ!しま――――」

勇者「食らえ朱雀、必殺……ギャグ百連発返し!」
朱雀「!?」

・ ・ ・

勇者「二十一発目ぇ!!」
商人「勇者さん」

勇者「んだよ、邪魔すんな」

商人「もう、終わりましたよ」

勇者「へっ?」

朱雀「…………」

魔法使い「ししっ、死んでまうぅす!」

勇者「……そうか」

フィフス王「勇者!」 ドカドカドカ

僧侶「あれ、王様?」

フィフス王「我が国の事を人任せというのも気が引けてな」

衛兵「お止したのですがね。国王様の意思は固く」

フィフス王「それで、四天王は?」

商人「つい先ほど、倒しましたよ」

フィフス王「おぉ!!」

衛兵「皆、無事のようで何よりだ。噂は本物であったな」

僧侶「無事なんかじゃ、ないですよぉ~」 ボロボロボロ

フィフス王「どういうことだ?」

衛兵「こ、国王様!! この者……」

フィフス王「戦士と言ったか。どうしたのだ?」

衛兵「立ったまま、変顔で死んでおります……っ!」
フィフス王「何ぃ!?」

魔法使い「戦士くんばぁ、ボクらのために゙いぃ、最後の最後まで笑わぜでぇ」

勇者「笑えねぇよ」

商人「勇者さん?」

勇者「イケメンがいくら変顔したって、笑えねぇんだよぉ……っ!」

僧侶「戦士様ぁ」

 【戦士】 は死んでしまった……。

・ ・ ・

フィフス王「ご苦労であった。約束通り、船を譲渡致そう」

勇者「……っ」

フィフス王「船はセブンス小国の港に停泊している。それを使うが良い」

勇者「今さら、船なんてもらったってよぉ……っ」

衛兵「気持ちは分かるが、今は落ち込んでいる場合ではないのではないか」

商人「そうですよぉ。戦士さんだって覚悟の上だったんでしょう?」

勇者「くっ」

魔法使い「ま、魔王をを……倒しましましまっ」

勇者「戦士がいないってのに、魔王なんざ」

僧侶「勇者様っ!」 バシッ!!

勇者「!?」

僧侶「勇者様がクヨクヨしてて、どうするんですかっ!」

勇者「僧侶、お前」

僧侶「勇者様が笑ってあげないで、どうするんですかぁ!」 ダッ

魔法使い「あふっ、そそそ……」

商人「放っておきましょうや。みんな辛いんですヨォ」

勇者「……ちくしょう」

商人「勇者さん、その涙は……」

勇者「ああ。あいつのビンタ、めっちゃくちゃ痛てぇ」

商人(戦士さんの死を悲しんでるんじゃないんかーい!)

・ ・ ・

勇者「というわけで、あれから三日経ったわけだな」

商人「そうですなぁ」

僧侶「あの、勇者様」

勇者「これより、修業をするぞ」

魔法使い「しゅしゅっしゅ、しゅぎょ」

勇者「そうだ」

商人「何の修業をするんです? ワタシらじゃ戦士さんの代わりなんてとても」

勇者「精神の修業だ」

僧侶「宗教でも興すのですか?」

勇者「違げぇよ! 攻撃は最大の防御って言葉を知らねぇのか?」

僧侶「えぇと、つまり」

勇者「笑っちまうから仕掛けられねぇ。だったら笑わなきゃいいんだよ」

商人「つまり、笑いをこらえる修業って事ですかい?」

勇者「そうだ」

僧侶「うまくいくでしょうかねぇ」

勇者「特に沸点低いお前のためだよ!!」

僧侶「私、そんなに沸点低いですかぁ?」

勇者「にょろ~ん!」 ムニー

僧侶「あははははっ!」

勇者「……」

魔法使い「あ、あのあのー」

勇者「魔法使いもそう思うよな」

魔法使い「ややややおかしいですうよ」

勇者「何が」

魔法使い「ここ、こけ攻撃は最大の防御ぎょっ、って逆じゃあ……」

商人「た、確かに」

僧侶「!? 逆っ、あははははは!!」

勇者「……」

・ ・ ・

勇者「まずは滝行!」

僧侶「頑張って下さいねぇ」

勇者「お前もやれ!」

僧侶「寒いの、苦手なんですよぉ」

勇者「ちっ、仕方ない。ヤローだけで行くぞ!」

商人「お先どうぞ」

勇者「何で俺なんだよ、お前行けよ!」

商人「えっ、いいんですか?」

勇者「!?」

商人「それじゃあ」

魔法使い「あの、僕……行きまうす……す」

商人「いやいや、ここはワタシが」
魔法使い「いえっ、僕が……」

勇者「待て待て。やっぱりここは勇者の俺が」

商人「どうぞどうぞ」
魔法使い「どうぞどうぞ」

勇者「っておーい!!」

・ ・ ・

勇者「押すなよ? 絶対に押すなよ?」 プルプル

商人「これ、あれですよ。芸人サンお得意の」

僧侶「ああ、押せってことですね!」

魔法使い「でっ、では押ししいいぃぃ――」 ツルッ バッシャーン!!

勇者「!?」

魔法使い「つべだっいいぃぃ、死ぬ゙ううぅぅぅぅ! 溺れ……ごべぇ!!」

勇者「ぶわはははは!!」

商人「安定の天然ボケ!」

僧侶「笑ったらダメですってばぁ、あははははっ!!」

勇者「おめーが一番、大爆笑してんだよ!!」

・ ・ ・

――「朱雀がやられたようだな」

――「だが奴は、四天王の中でも最弱」

――「そうか?」

――「えっ?」

――「少なくとも玄武、お前よりは面白かった」

玄武「確かに……って、おいおい。自分はどうなのだ白虎」

白虎「あやつは勢いだけの芸だからな」

――「人の事は言えぬだろう」

玄武「それは聞き捨てならぬな青龍よ」

青龍「ほぅ、この儂に意見するというのかね?」

――「騒がしいな」

白虎「魔王様ッ!!」

魔王「朱雀がやられたそうだな」

青龍「面目ありませぬ」

魔王「まぁ良い。勇者もなかなかのものではないか」

白虎「ご心配は無用! 朱雀が油断していたに過ぎませぬ」

玄武「魔王様の手を煩わせるまでもなく、我らが笑い死にさせてみせましょうぞ」

魔王「では玄武よ、お前に任せるとしよう」

玄武「有り難き幸せ。それでは早速」 ヒュッ

白虎「魔王様、やはりここは私が」

青龍「白虎よ、魔王様の決めた事に逆らうつもりか?」

白虎「そうではないが」

魔王「玄武の芸風は高く買っている」

青龍「あやつのネタならば勇者とて笑わずにはいられまい」

白虎「確かに。ならば仕方ない」

魔王「さて、間もなく部下共のネタ見せだ。お前らも来い」

白虎「はっ」 ザッ

・ ・ ・

フィフス王「おぉ、一週間も行方をくらましていたので心配したぞ」

勇者「ちょっと山籠もりの修業をな」

フィフス王「どうやら戦士の事は吹っ切れたようだな」

勇者「吹っ切れちゃいねーさ」

魔法使い「……っ」

勇者「でも俺は証明しなきゃならねーんだ」

フィフス王「証明?」

勇者「魔王を倒して、アイツが世界一のツッコミだって事をな!」

フィフス王「そうか、そうだな。それが戦士への弔いとなるだろう」

勇者「そんじゃ、船は頂くぜ」

フィフス王「うむ。ゆくが良い勇者よ」

衛兵「ところで勇者殿」

勇者「ん?」

衛兵「そなた等が居らぬ時、尋ねて来た者が居たぞ」

勇者「えっ? 誰だ?」

衛兵「一人はサードから来たという憲兵で、もう一人はフォースの役人だった」

勇者「――――!!」
商人「――――!!」

衛兵「居場所が分かれば伝えてやったのだが……」

勇者「いやいやいやいやっ、余計なお世話……じゃない、結構!」
商人「そそっ、そうですよ! 気にシナイ気にシナーイ!!」

衛兵「何を慌てておるのだ?」 キョトン

勇者「そんじゃ、失礼しまーっす!」
商人「ごきげんよう~!!」 スタタタ

僧侶「あのー。サードとフォースって」

魔法使い「ままままっさかさまさか……っ」

勇者「気にするな! 俺達は魔王を倒す勇者一行なんだぞ!」

商人「そうですよぉ! 堂々としていればいいんです。は、はははは」

・ ・ ・

勇者「えーと、北の塔があっちだから~」

魔法使い「こここ、このまま真っ直ぐ……ですね」

僧侶「次は何と言う所でしたっけ?」

商人「シクスってとこですネェ」

勇者「どんなとこなんだ?」

商人「ワタシも何度か立ち寄った程度なんで詳しくは知らないですケド」

勇者「なんだよ」

商人「でも、フィフスとセブンスの間ですから、発展した良い街ですヨォ」

僧侶「楽しみですねぇ~」

勇者「魔物が出ないでスムーズに行けばいいけどなぁ」

魔法使い「あののっ、でもあの僧侶さん……」

勇者「あー。コイツの体質のこと、忘れてたわ」

・ ・ ・

リザードマンA「待ちな!」 ザザッ

 【リザードマンA】 【リザードマンB】 があらわれた!

勇者「待て、これを見てみろ」

リザードマンA「何? ブハハハハハ!!」 ドターン

 【リザードマンA】 をたおした!

リザードマンB「不意打ち仕掛けて何でやられてんだよ!」

勇者「おい雑魚。この勇者様とやり合う気かね?」

リザードマンB「クッ」

勇者「やめておけ。修業のせいで三下のギャグにはもう笑えねぇんだ」

商人「なにやら哀愁漂ってますネェ」

魔法使い「はっ、へほい」

リザードマンB「ならば、とくと味わえ! 渾身のギャグ!」

 リザードマンBは 【渾身のギャグ】 をはなった!

勇者「……」
商人「……」
魔法使い「……」

リザードマンB「あ、あれ?」

僧侶「ふふっ、くくくくっ! ぷふふっ!」

勇者「……」
商人「……」
魔法使い「……」

リザードマンB「おっ、ちょっとウケてる」

勇者「人間だろうが魔物だろうが、節操ねぇなおい!」

僧侶「ごめんなさい~。だって、面白いんですもの」

勇者「仕方ねぇ。俺が客役を務めっから、二人で何とか笑わせろ!」

商人「りょ~かいっ」
魔法使い「は、はひぃ!」

勇者「へいへい、もうネタはおしまいか?」

リザードマンB「まだまだよッ」

勇者「いよっ、待ってました!」

リザードマンB「ではここで小話を一つ」

勇者「ワクテカ!!」

リザードマンB「むか~し、あるところに魔王様……ん?」

商人「どうだ?」

魔法使い「ももっ、少しです」

リザードマンB「何してんだよおい!」

商人「見れば分かるでショウ。バーベキュー」

リザードマンB「ワハハ! 何でこのタイミングでバーベキューしてんだよカオスすぎ!」

商人「焼けた! さぁ、召し上がれ」

魔法使い「いあただき熱っづああああぁぁぁぁ!!」 ゴロゴロゴロ

リザードマンB「ギャハハハハハ!!」 ドターン

商人「いっちょあがりですな。わはっ」

勇者「おい」

商人「やりましたよ勇者さん」

勇者「小話すげー気になってたのに何してくれんだよ!」

商人「えー」

魔法使い「あづい゙いぃぃ」

・ ・ ・

勇者「ほぅ、ここがシクスの街か」

僧侶「素敵な街並みじゃないですかぁ~」

盗賊「どけええぇぇ!」 シュタタタタ

魔法使い「へっ!?」

勇者「何だこいつは」 ムンズ

盗賊「バッ、離せこら!」

勇者「あぶねーだろおい」

盗賊「分かった、分かったから今は離せ! なっ!」

勇者「ほほー。さては逃げてるな?」

盗賊「だあぁ! いいから離せこの馬鹿っ!」 ペシッ

勇者「痛っ! このやろー!」

商人「勇者さんっ、騒ぎは駄目ですよっ」

僧侶「そうですよ。よろしくありませんよ」

商人「違いますって。騒ぎを起こしたらワタシ達も……」

警備団「居たぞっ! 待てー!」

商人「ほら、関わるとワタシ達まで捕まってしまいますヨォ」

勇者「!?」

魔法使い「ししししめい指名手配ぃ……っ」

勇者「げっ、忘れてた! そうだよ、トラブルはまずい」 パッ

盗賊「恩に着るぜ! んじゃ、あーばよ~」 シュタタタタ

警備団「追えーっ! あっちから回り込むんだ!」 ドドドド……

勇者「ふー」

商人「伯爵って人の件とフォースの件がありますからねぇ。いやはや困った」

勇者「半分はお前の責任だろっ!」

・ ・ ・

マスター「いらっしゃい」

勇者「とりあえず酒と食い物、そうだな肉がいいな」

マスター「ほらよ、酒だ」 ダンッ

勇者「そんじゃ今日もお疲れさんでした~っと」

僧侶「……」

商人「どうしましたカァ?」

僧侶「淋しい……ですね」 ウルッ

魔法使い「戦士……さん……」

勇者「ば、馬鹿言うなよなっ!」

商人「……っ」

勇者「悪酔いヤローが居なくなってゆっくり飲めるぜ。あはは――」

盗賊「ちょい失礼~!」 ドバンッ

魔法使い「うわぁっ!」

勇者「ま、またテメーか!」

警備団「ちっ、どこへ逃げたんだ」 

商人「外に警備の連中がいますぜっ」

マスター「おいおい、店で揉め事は勘弁してくれよ?」 フキフキ

警備団「くそっ、街の外に逃げられると厄介だ。出入口を張るぞ!」 ダダダ……

盗賊「ふいー。危なかった」

勇者「危ねぇのはテメーだ!!」 クワッ

盗賊「まぁまぁ。あ、俺様は盗賊だ、ヨロシクな!」

勇者「聞いてねぇよ! 俺は勇者様だ覚えとけ!」

盗賊「ギャハハ! お前、面白いなぁ」

勇者「当たり前だろ。なんたって俺は、ギャグで魔王を倒しに行く最中なんだからな」

盗賊「ほぉ、ギャグでねぇ」

勇者「驚いたか?」

盗賊「いや。だって俺様、ギャグとかお笑いとか、よく分かんねーし」

・ ・ ・

盗賊「ギャッハハハハハ!!」
勇者「わはははははは!!」

盗賊「そうかそうか! そいつはご機嫌だぁ~!」

勇者「おうよ!」

僧侶「二人とも酔っぱらって、わけが分からなくなってしまいましたね」

魔法使い「へへぇ……っ」

盗賊「おーし。そんならば、俺様もひと肌脱ぐぜー!」

勇者「おう! 脱げぬげー!」

僧侶「脱がなくていいですっ! もう……っ!」

盗賊「俺様がいりゃあ、魔王なんざイチコロよー!」

勇者「ヒューヒュー! 頼もしい~!」

商人「しかしなぁ、お笑いが分からんのではちょっと」

盗賊「何ぃ? 要は笑わせりゃいいんだろ笑わせりゃ」

勇者「そうだそうだー!」

商人「こりゃアカン。手に負えませんわトホホ……」

・ ・ ・

魔法使い「おはっはぁよう、ございます」

勇者「あーおはようさん。頭いてー」

盗賊「おはよう!!」

勇者「うるせぇ! 二日酔いに響く! てか何でお前ぇ!?」

盗賊「ありゃ、まさか昨晩のこと、忘れたわけじゃないだろうな?」

勇者「へっ?」

盗賊「俺様が手ぇ貸してやるって話だよ」

勇者「あ、あー」

商人「あれ絶対に忘れてますなぁ~」
魔法使い「ででっ、すねぇ……」

盗賊「俺様とお前は天才だから、組めば怖いものはないって話だ」

勇者「天才?」 ピクッ

盗賊「あれ? 天才なんじゃねーの? 笑いの」

勇者「……天才だ」 ドーン

盗賊「なら決まりだな。ヨロシク頼むぜ!」 バシバシッ

勇者「おうよ! 任せてとけ!」

盗賊「こっちこそ頼むぜキョーダイ!」

僧侶「あの、でもぉ」

勇者「いつの間に……」

僧侶「あっ、おはようございます~」

勇者「んで、何だよ。でもって」

僧侶「盗賊さんって、お笑いできないんですよね?」

商人「あっ」
魔法使い「……っ」
勇者「そうだよ!」

盗賊「あーだから」

勇者「なんか思い出したぞ。お前、お笑いできねぇじゃんか!」

盗賊「だーかーらー」

勇者「それに俺のこと、天才なんて言ってたか? なんか段々記憶が戻って――」

盗賊「話を聞けぇ!!」 シュタタタッ

勇者「!?」

盗賊「そーれ、コチョコチョコチョコチョ」

勇者「ぎゃーっはっはっははは! やっ、やめ――あはははは!!」

魔法使い「そそそそっ、そうかぁ!」

商人「あの素早さで、相手を物理的に笑わせる……っ!」

勇者「ひっ、ひいぃ! おしっこもれるううぅぅぅぅ!」

盗賊「そーれそれそれ」 コチョコチョ

商人「流石は盗賊さんですわ。天才っ! いよっ!」

盗賊「むっ?」 ピタッ

勇者「はぁーはぁーはぁーはぁー死ぬー」

盗賊「ま、これで実力は分かってもらえたかな?」

勇者「なるほどな。ネタじゃなくて強引に笑わせる、か」

盗賊「俺様のスピードなら、魔物だって防げねぇぜ!」

勇者「邪道だがこれは使えるな。よーし、いいだろう」

盗賊「改めてヨロシクな! ギャハハハハ!」

・ ・ ・

僧侶「そういえば盗賊さん、もう追っては大丈夫なんですかぁ?」

勇者「げっ、そういやそうだよ」

盗賊「あーそれは大丈夫じゃんか?」

勇者「じゃんか~ってなぁ」

盗賊「あいつら、俺様が単独行動だと思ってっからな」

商人「なーるほどっ。こうやって団体行動していれば見つからない……って」

盗賊「ん?」

商人「あんたまさか、最初からそれが目的で!?」

盗賊「さぁーどうだろうなぁ? ギャハハハハ!」 スタスタ

商人「勇者さん、ありゃーえらい食わせ物ですヨォ~」

勇者「なんだろうが約に立つならいいさ」

商人「しかし」

勇者「俺らだってお尋ねモンみてーなもんだ……」

魔法使い「ひゅっ、不本意……ながらっ」

商人「まぁ、それもそうですわナァ」

・ ・ ・

僧侶「あれっ? 街の出口に人だかりができてますよ?」

盗賊「おいおい、勘弁してくれよ」

勇者「嫌な予感がする……」
魔法使い「すごく……」
商人「ですわナァ」

警備団「お前ら、止まれ」

勇者「あっ、あやあやあやしいあやし」

警備団「……?」

商人「ワタシら旅の商人でして、決して怪しいものではないですよ」

魔法使い「あやあやあややあやや」
勇者「あっ、あやしやあやしあしあやし」

警備団「……とんでもなく怪しいな」

僧侶「あのー何かあったのですか?」

警備団「セブンスまでの道は、しばし閉鎖だ」

僧侶「えーっ!?」

商人「ワタシらセブンスへ行くんですが……」

警備団「西の森に魔物が現れてな。この先の道も危険だ」

勇者「あーそういう事。だったら俺らなら大丈夫――」 ムンズ

警備団「騎士団殿っ!」

騎士団「そういう問題ではないのだ。どのみちセブンスには入れぬ」

勇者「……あのー首根っこ掴まないでくれる?」

警備団「こちらはセブンス騎士団の団長さんだ」

騎士団「ん? お前らどこかで見たような……」

勇者「よく言われます! 平凡な顔なモンで! うははは!」

騎士団「ふーん。そうか」 パッ

勇者「わっ! いってぇ!」 ドスン

騎士団「とにかく次なる指示があるまで、決して街を出ないように」 パッカパッカ

盗賊「キザったらしいヤローだ。俺様の嫌いなタイプ」

僧侶「でもっ、困ってしまいましたねぇ」

勇者「どうするつもりなんだ?」

警備団「セブンスが中心となって、討伐隊が出る予定らしい」

勇者「いつ? 勝てるのか?」

警備団「フィフスや他の国にも援軍を依頼している」

勇者「援軍ってなぁ」

警備団「とにかく世界中から面白い奴を掻き集めるとさ」

商人「随分とまぁ、必死ですナァ」

警備団「……どうやら魔物は四天王の一人らしいのだ」

魔法使い「!?」

勇者「四天王だとぉ!」

警備団「ああ。だからセブンスや我らもこれだけ厳重なのさ」

僧侶「勇者様、四天王って……」

勇者「ああ。こりゃやるしかねーな」

警備団「……?」

勇者「安心しなニイチャン達。勇者様が何とかしてやるぜ」

警備団「勇者?」

商人「ななっ、何でもないです! ははは……っ」

魔法使い「しっ、しちゅるぅしますうぅ!」 タタタッ

警備団「本当に怪しい連中だな……」

・ ・ ・

盗賊「あービックリしたわぁ」

商人「でも勇者さん、本当にやるんですか?」

勇者「もちろんだ。そうしなきゃセブンスまで行けねーんだし」

魔法使い「本当に……それだけでしゅすか……?」

勇者「どういう意味だ?」

魔法使い「あひいやっ、いえ……っ!」

勇者「おーし、さっそく行くぞー。善は急げってな!」 スタスタ

僧侶「たぶん、そうですよ」

魔法使い「僧侶しゃん……」

僧侶「四天王って言葉を聞いた時、すっごく怒ってましたもん」

商人「戦士さんを殺した四天王、朱雀の仲間ですもんナァ」

僧侶「勇者様……っ」

・ ・ ・

僧侶「西の森って、この辺りの事で良いんですよね?」

盗賊「しかし昼だってのに真っ暗だな」

僧侶「なんだか不気味で、私……怖いです」

盗賊「俺様が守ってあげちゃうよー。いつでも抱きついて! こうやって」 ムギュッ

僧侶「もうーっ、やめて下さいよぉ」

勇者「遊んでんじゃねぇ」

盗賊「お、勇者ちゃん。いつになく真面目じゃないの」

勇者「お前もちょっとはマジになれよ」

盗賊「あ?」

勇者「油断してっと死ぬぞ」

盗賊「おいおい、死ぬって」

商人「四天王ってのは、そんくらいすんごいんですわ」

盗賊「……マジかよ」

魔法使い「あぁっ!!」

勇者「きやがったか」

盗賊「な、何だこのBGM」

商人「それに、赤いライトが――」

玄武「玄武です。四天王なのに一人だけ浮いてます……」

勇者「ぶっ!」

玄武「他の三人が合コンしてる中、一人でアニメ見てました。しかも実家です」

僧侶「ぷくくっ」

勇者(こ、こいつはマズイ!)

玄武「玄武です」

勇者「自虐系ギャグか。俺、苦手なんだよなぁ」

魔法使い「ふっ、くくく……ぷひゅっ」

商人「普段は耐える魔法使いさんが!?」

勇者「魔法使い自身も似たところがある。共感してウケてるんだよ」

僧侶「あははははっ」

勇者「コイツは相変わらずだし……」

玄武「玄武です……」

勇者「汚ねぇぞ! せめてBGMとスポットライトはやめろ!」

玄武「君達の弱点は分かっているつもりだ。だからこその私」

勇者「ピンの分際で。集団コントってのを見せてやるぜ! 行くぞ!」

商人「はいなっ」
魔法使い「は、はひぃ!」

勇者「まずは掴み。魔法使いの出落ち芸だ」 ドンッ

魔法使い「おわっ、わっ、べひゅ!」 ドターン

盗賊「ギャハハハ! 味方を笑わせてどーすんだよ!」

玄武「フッ」

勇者「失笑!?」

玄武「よくある」

魔法使い「――――っ!!」 ガーン

盗賊「ショックうけてるー! ギャハハハ!」

僧侶「おっ、お腹痛いぃ!」

勇者(朱雀ん時にも増して相性が悪すぎる。さすが四天王ってか)

玄武「玄武です」

勇者「じゃかあしい!!」

僧侶「あははははははっ!!」

勇者「……っ。こうなったら頼みの綱は」

盗賊「……?」

勇者「魔法使い、商人。こっちに来い」

魔法使い「へっ、はひぃ!」

商人「一体なんでしょ?」

勇者「こっから先、何もしなくていい」

商人「へいへい……へいぃ!?」

魔法使い「あののっ、どういうことと」

勇者「中途半端なネタは無意味、っつーか逆効果だ」 チラッ

盗賊「あー笑った笑った」

勇者「見ろ。盗賊のやつ、玄武のネタで笑ってねぇ」

商人「ほんとだ……凄いですナァ」

勇者「ここは俺らが玄武のネタに耐えて、盗賊に仕留めて貰う」

魔法使い「なっ、なるひょど」

勇者「問題は効くかどうかだけどな」 ボソッ

魔法使い「ひぇっ?」

勇者「なんでもねぇ! そんじゃー行くぞ」

玄武「玄武です。魔王様に勇者討伐を命じられたのに、顔も知りません」

僧侶「くくくっ」

勇者「僧侶はダメだ。使いモンにならん」

商人「回復なしはシンドイですナァ」

勇者「やるしかねぇよ。おらっ、どけ!」 ムンズ

僧侶「ひゃっ!?」 ポイッ

勇者「おらおら、そんなモンで終わりかぁ?」

玄武「ほぉ、真っ向勝負ですか。良いでしょう、笑わせてあげましょう」

商人「さぁーっ、正念場ですヨォ~」

勇者「おい、盗賊ぅ!」

盗賊「……?」

勇者「いいか? ゴニョゴニョ」

盗賊「ほーう」

勇者「天才であるお前にしか出来ないことだ。頼むぞ!」

盗賊「天才か。おっしゃ、俺様に任しとき!」

・ ・ ・

玄武「玄武です」

勇者「ふはっ、ひふーひふー」
商人「も、もう駄目ですわ……」
魔法使い「…………」 ヒクヒクッ

玄武「言うだけの事はあって、頑張るではないですか」

勇者「へっ。て、てめーのネタがつまんねーんだよっ」

玄武「言ってくれますね。聞き手一方のくせに」

勇者「悔しかったら笑い殺してみろや……っ。はぁはぁ」

商人「そ、そうですヨォ。こんなものではやられませんっ」

魔法使い「……」 ピクピク
僧侶「…………」 ピクピク

勇者「ま、まぁアイツらはアレだ、サービスだ」

玄武「フフッ、それはどうも。お陰で気分良くネタが出来ましたよ」

勇者「そりゃー何よりだ。思い出になったな」

玄武「思い出? それは貴方達でしょう?」

盗賊「い~やっほおおぉぉ!!」 ババッ

玄武「――――!?」

盗賊「スキだらけだぜっ! そぉ~ら!!」 コチョコチョコチョコチョ

玄武「ギャハッ、背後から汚い――アハハハハハ!!」

盗賊「そーれそれそれっ、コチョコチョコチョ!!」

玄武「ひっ、卑怯だぞ! こんな無理やりアハハハッ! クハハハ!」

勇者「うるせぇ! 笑わせたモン勝ちだ!」

玄武「おっのれギャハハハハハハ!!」

勇者「今だ商人っ、とどめをさすぞ」

商人「はいな」

盗賊「コチョコチョコチョ」

玄武「ギャーッハッハッハ!!」

勇者「笑いの沸点下がってる今のうちに――」
商人「――ワタシらのネタ、とくと見て貰いやしょうかぁ!」

 【勇者】 と 【商人】 は渾身のネタをはなった!

玄武「クッソオオォォォォ! こっ、こんなはず……こんなああぁぁ――――」

・ ・ ・

勇者「おーい」 ペチペチ

盗賊「おい、俺様にも叩かせろよ!」

僧侶「う~ん」

商人「魔法使いサーン」

魔法使い「うぅ……っ」

勇者「終わったぞ。ったく、役立たずどもめ」

僧侶「あれ、勇者様」

魔法使い「終わ……あぁ!!」 ガバッ

商人「心配なさるな。もう倒しましたよ」

魔法使い「!?」
僧侶「ほっ、本当ですか?」

盗賊「おうよ。俺様がちょちょいのチョイと」
勇者「おいコラ、手柄横取りすんなよ」

盗賊「はぁ!? 俺様のお陰でしょーがよ」
勇者「トドメさしたのは俺だろうが!」 バチバチバチ

商人「はぁ。しょうもありませんナァ」

僧侶「でもこれで、セブンスまで進めるようになったんですよね……っ?」

魔法使い「そそっ、そうでっすよ」

勇者「だな。んじゃ帰るか」

盗賊「そうしますか!」

商人「ですナァ~」

・ ・ ・

勇者「よう。森にいた四天王、どっか行っちまったんだって?」

警備団「お前らは確か怪しい奴等」

勇者「おい」

警備団「そうなのだ。もうかれこれ五日ほど姿を見せぬ」

勇者「じゃあ、もう通ってもいいんだよな?」

警備団「ああ。今しがた、許可がおりたところだ」

僧侶「やったぁ!」

警備団「それにしても何故、急に居なくなったのだろうか」

勇者「さぁな。アンタらの警備が手ごわいと感じて逃げたのかもな」

警備団「……」

勇者「んじゃ、失礼するぜ。あばよ」 スタスタスタ

警備団「うーむ。怪しい。怪しいが、不思議な連中だ」

・ ・ ・

盗賊「さーて、次はセブンスだっけか?」

勇者「何でお前、堂々とついてきてんだよ」

盗賊「俺様の力が必要だって言ってたじゃねーか」

勇者「それは玄武を倒す時の話だろうがっ!」

僧侶「でも、良いじゃないですかぁ~」

商人「そうそう。盗賊さんは役に立ちそうですヨォ」 ボソボソ

勇者「……まぁ、確かにな」

盗賊「犯罪者同士、仲良くやろうや! ギャハハハ!」

勇者「犯罪者じゃねぇ!!」

魔法使い「ささ、先が思いやられるううぅぅ……」

 【盗賊】 が仲間になった!

・ ・ ・

青龍「烈火の朱雀に続いて、よもや流水の玄武までやられるとはの」

白虎「どいつもこいつも魔王様の足を引っ張りやがって」

青龍「止む無し。次はこの青龍が出るとしようか」

白虎「待て。俺が行く」

青龍「ほぅ」

白虎「ご老体は大人しくしてるんだな」

青龍「貴様も先の二人と同様、やられるでないぞ?」

白虎「ブワーッハッハッハ!」

青龍「……」

白虎「この轟雷の白虎様が、勇者の息の根を止めてくれようぞ!」 バッ!!

青龍「ふーむ。奴の力ならば、万に一つやられる事はないと思うがの」

魔王「白虎の能力はこの俺ですら恐ろしいものよ」

青龍「魔王様ッ!」

魔王「安心して待とうではないか。朗報をな」 スッ

青龍「御意に」 ススッ

・ ・ ・

オークA「そこで言ってやったわけだよ。俺の横にいたオッサンが」
オークB「お前じゃないんかーい!」

勇者「……」
商人「……」
魔法使い「……」

僧侶「……ぷっ、ふくっ」

オークA「あ、あれ?」

オークB「ウケてない……?」

勇者「そんな未熟なネタでこの勇者様を笑わせられるとでも思ってんのかぁ!」

盗賊「おう、言ったれ言ったれ! ギャハハ」

勇者「コントー!! リストラ社長と住職!」

僧侶「頑張ってぇ~」 ヒラヒラ

勇者「お前もやるんだよ!!」

僧侶「へっ!?」

オークA「ギャハハハ!」

オークB「バ、バカッ! 耐えろ!」

魔法使い「おはようござい――うわぁ!」 ズテーン!!

オークB「ブッハハハハ!」

商人「コント進まねぇー!」

勇者「テイクツー!」

盗賊「退屈?」

勇者「テ イ ク ツー !!」

オークA「ダ、ダメ……」
オークB「も……許し…………」 ドターン

僧侶「倒しちゃいました」

勇者「テメーら真面目にやれよな」

商人「いまだにコント演じきれた事ありませんナァ」

勇者「それどころかワンシーンもできてねーよ!」

盗賊「でもよぉ、結果的に魔物倒してんだからいいんじゃねーの?」

勇者「いいけど芸人としては不本意だ!」

魔法使い「コッ、コチョコチョで倒すのはおk――」

勇者「黙れ」 ドゴン

魔法使い「し、しどい……っ」 シュウウゥゥ

・ ・ ・

僧侶「おぉーっ、ここがセブンスですねぇ~」

盗賊「でけぇ城だなおい」

商人「それで、船は?」

勇者「港にあるはずだ」

盗賊「勝手に持ってっていいのか?」

勇者「盗人らしかぬ質問だな」

商人「ちゃーんとフィフス王からの書状がありますからネェ」

勇者「そうそう。ほら、ここに……」 ガサゴソ

商人「ちょっとお!? まさか紛失したとか言わないでしょうネェ?」

勇者「あるっつーの。ほれ」 ピラッ

魔法使い「きょっ、これでつつ次の大陸ぅに」

勇者「次はいよいよ魔物どもの大陸だ」

僧侶「……ごくっ」

盗賊「魔物の大陸? 聞いてねーぞおい」

勇者「言ってねーもん」

盗賊「俺様、ここで降りるわ。そんじゃーな」

勇者「待て」 ムンズ

盗賊「離せよ」

勇者「仲間になったんだろぉ? あぁん?」

盗賊「きったねぇぞ! それでも勇者かよ……っ」 ジタバタ

勇者「死なばもろともだ!」

僧侶「あっ、役人さんが来ます」

勇者「――っ!?」 ササッ
盗賊「――っ!!」 ササッ

魔法使い「は、早い」

騎士団「お前ら、確かシクスの街に居た連中だよな」

盗賊「あっ、キザ男!」

勇者「な、何の用だよ」

騎士団「用があるのは私ではない」

僧侶「へっ?」

勇者「嫌な予感がする……」
盗賊「うん」

騎士団「他国よりはるばる、お前らを探しに来たそうだ」

勇者「やっぱりいいぃぃ!!」 ササッ
盗賊「オレサマハ、タダノフナノリデース」 ササッ

商人「盗賊さん、お別れですネェ」

兵長「探したぞ、商人!!」

商人「げぇっ!?」

兵長「フォースでの詐欺容疑で逮捕する」 ガシャーン!!

商人「――っ!!」

勇者「ち、ちょっと待ってくれよ!」

兵長「ん、何だ貴様は。仲間か?」

勇者「いやっ、てゆーか……商人は罪を犯したわけじゃねーだろ」

兵長「いや、被害届も出ている」

勇者「ガッデム」

兵長「邪魔翌立てすれば共犯とみなし、連行するぞ」

勇者「くっ」

魔法使い「商人しゃんだけっ、見捨てるなんてできまひぇんよぉ」

僧侶「そうですよっ!」

盗賊「俺様は知らなーい」 コソコソ

僧侶「勇者様っ!」

勇者「し、商人は……俺らの仲――」
商人「いいんです」

勇者「ま……?」

商人「ワタシはどうやら、ここまでのようです。勇者さん」

勇者「商人?」

商人「ワタシ一人捕まれば、旅は続けられますからネェ」

勇者「おまっ、何言って……」

商人「そうです。ワタシが一人でやりました。ワタシが悪いんです」

僧侶「そんなっ、商人様っ!」

商人「僧侶さん、勇者さんを助けてやって下さいヨォ」

魔法使い「そそそそんっ、そんなっ」

商人「魔法使いさん。ワタシの代わりにツッコミ、頼みますネェ」

盗賊「……っ」

商人「盗賊さん、短い間でしたが、お世話になりました」

兵長「よし。ではフォースへ連行する。ご協力感謝」

騎士団「うむ」

勇者「商人……っ」

商人「生きていれば、また会えるでしょう。お元気で」

勇者「商人ーっ!!」

商人「……?」

勇者「魔王ブッ倒したらよぉ、王に頼んで釈放してもらうからよおぉ!!」

商人「ええ。待ってますヨォ」 ニコッ

僧侶「うぅっ、商人様ぁ……っ!」

魔法使い「……ふげええぇぇ」 ボロボロ

盗賊「……っ」

 【商人】 は逮捕されてしまった!

・ ・ ・

僧侶「盗賊さん、捕まっちゃいましたね……」

魔法使い「どどどどうしましょううぅぅ」

盗賊「どうするったってなぁ」

僧侶「やっぱり、助けないと」

盗賊「無茶言うなよ」 モグモグモグ

僧侶「無茶か分からないじゃないですかぁ」

盗賊「あのなー、話して何とかなるわけじゃないんだろ?」

勇者「まぁな」 ゴクゴク

盗賊「対話して解決してんなら、追っかけまわされてねーっつの」

僧侶「あ……っ」

盗賊「それによ、俺様も勇者サマもとっ捕まっちまうぜ」

勇者「俺を巻き込むな」

盗賊「伯爵相手にやらかしたんだろ?」

勇者「だからそれは誤解だって言ってんだろ!」

騎士団「邪魔するぞ」 バンッ

勇者「!?」 ササッ
盗賊「っ!!」 ササッ

店主「き、騎士団が何用で?」

騎士団「酒場の中をしらべさせて貰う」

店主「べべ別に悪い事してないですよぉ。あはは」

騎士団「邪魔すればお前の家や帳簿も調べるぞ?」 ジロリ

店主「どうぞご自由に。店内隅々までご覧下さいませ!」

僧侶「あの人って先ほど会った方ですよね?」

勇者「バカッ、隠れろ!」

騎士団「ここに居たか」 ザッ

勇者「……」

騎士団「おい、顔を伏せてどうした?」

勇者「いやぁ、小銭を落としちまったまでよ」 スクッ

僧侶「こんばんは。どうかしましたか?」

騎士団「シクスで見かけた際、どこかで見た顔だとずっと思っていたのだ」

勇者「――っ!!」 ドキィ!!

騎士団「この似顔絵を――」

勇者「勘違い!!」
盗賊「そうそうっ!!」

騎士団「ハッハッハ。既にバレているぞ」

勇者「くそっ」

盗賊「あーあ。お前のせいだぞ」

勇者「あぁ!?」

騎士団「謙遜せずとも良い、魔王討伐パーティーの勇者殿よ」

勇者「あぁ…………あ?」

・ ・ ・

勇者「わっはっはっは! なんだ、早く言ってくれればいいのに!」

騎士団「すまんな。ファースト王の似顔絵がまた似てなくてなぁ」

勇者「どれ」

騎士団「これだ。拡大版はほれ、城門の所にある」 スッ

勇者「誰だよこれ……」

魔法使い「にっ、似てない……」

騎士団「ましてや集団とは思わなんだ」

勇者「まぁ色々とワケアリでね」

騎士団「詳しい事は聞かん。さぁ、入り給え」

僧侶「まさかお城に入る事が出来るだなんて、夢のようですぅ」

盗賊「しっかし、なんだってまた城なんざに」

騎士団「どうしてもお会いになられたいとご所望でな」

僧侶「お会い? どなたがですか?」

盗賊「まさか、王か?」

魔法使い「おぉう……っ」

騎士団「いや、王ではない。姫様だ」

勇者「何ぃーっ!?」

・ ・ ・

勇者「……」 ソワソワ

盗賊「お、おい。ソワソワすんなよ」 ソワソワ

勇者「てめーこそ」

魔法使い「あううあう……」 ガクブル

勇者「お前は恐れ戦き過ぎだ」

騎士団「さ、姫様。こちらです」

僧侶「あれが、姫様」

勇者「やっべ。めっちゃカワイイじゃん!」
盗賊「マジだ!」

魔法使い「ひひひっ、うひっ、ひめっ」

姫様「お前らが勇者一行か?」

勇者「はい。いかにも私が勇者――」
姫様「さぞ面白いのだろうな。どれ、見せてみよ」

勇者「……はい?」

姫様「魔王を倒す為に選ばれたのだろう?」

勇者「あのー」

姫様「私にネタを見せてみよ、と申したのだ」

勇者「いやっ、いきなり見せろと言われても」

姫様「何よ、自信がないの? とんだ期待外れだわ」 ツン

勇者「いや、そういうことじゃなくって」

姫様「じい、こやつ等に用はない。帰って貰え」

じい「はい」

勇者「ちょっと待ちなよ姫さん」

姫様「気安く呼ぶな」

勇者「俺のネタは魔物を倒すためのモンなんだ」

姫様「知ってる」

勇者「あんたの余興のためにあるんじゃねーぜ」

姫様「だからもう、用はないと申したでだろう。帰って良い」

勇者「ぐむっ」

盗賊「おい勇者、面倒事は勘弁だ。ここは大人しく帰ろうぜ」 ボソボソ

姫様「せっかく、私を笑わせたら報酬も用意していたというのに」 ツン

盗賊「おい勇者、報酬は大切だ。ここはバッチリ、ネタを決めてこい!」 バシッ!!

勇者「いって! なんなんだテメーは!」

姫様「やるのかやらぬのか?」

勇者「だーっ、うるせぇな! やりゃいいんだろやりゃあよ!」

・ ・ ・

勇者「――なんちゃって~。ちゃんちゃん」

姫様「……」

勇者「どうでい、俺のネタ」

姫様「ふー」
じい「ふぅ」
騎士団「わっはっは!」

姫様「騎士団は相変わらず、沸点低いのう」

騎士団「ぐっ、面目ない……」

勇者「どういう意味だ!」

姫様「とんだ期待外れだったわ」

勇者「何ぃ!?」

姫様「魔王を倒す勇者というから、どんなものかと思えば」

勇者「……っ」

僧侶「勇者様のネタ、相変わらず人間相手には通用しませんね」 ボソボソ
魔法使い「しょしょっ、そうでしゅね!」 ゴニョゴニョ
勇者「聞こえてるぞコラァ!!」

盗賊「そんで姫サマ、報酬の方は……」

姫様「報酬? こんなつまらぬネタにあるわけなかろう」

盗賊「っ!?」

姫様「あーもう、時間の無駄だったわ。じい、行くわよ」 スクッ

勇者「待ちな!」

姫様「何?」

勇者「確かに俺はちょっとばかし面白くない時もあるかもしれねぇ」

盗賊「いつもだろ」
僧侶「え、ええ」
魔法使い「うん……」

勇者「だがなぁ、アンタみてーな素人にゴチャゴチャ言われる筋合いはねぇ!」

騎士団「お、おいっ」

じい「口が過ぎますぞ、勇者殿」

勇者「うるせぇ! 姫だか何だか知らねーが、ド素人に俺の――」
姫様「……だぁーれが、ド素人ですってぇ?」 メラメラメラ

じい「あちゃー」

勇者「な、何だぁ?」

騎士団「こう見えても姫様はな、セブンス一のお笑い好きなのだ」

勇者「!?」

じい「いや、中央大陸一じゃろうな」

騎士団「お笑い協会の理事も務めておられる」

勇者「何だとぉ!?」

じい「自身も日々、お笑いの研究に余念がない」
騎士団「世界大会では審査員も務めているし」
じい「若手育成のライブや地方イベントも手掛けておる」
騎士団「お笑い批評の出版物は数知れず」
じい「最近では若手だけでなくベテラン芸人からも信頼厚く」
騎士団「孤児院への訪問ライブやボランティアも欠かさず」

勇者「――――っ」 ガクブル

魔法使い「おっ、恐れおののき過ぎてます……っ」

姫様「それならハッキリと申し上げますわ」

勇者「いや、いい――」
姫様「まず貴方のネタ、独りよがりで客の事を全く考えてない」

勇者「……」 ズーン

姫様「自己満足に過ぎない。もっと相手を笑わせる気持ちが必要」

勇者「……」 ズズーン

姫様「所詮、ネタやってる自分に酔ってるんじゃないかしら」

勇者「……」 ズズズーン

僧侶「もっ、もうやめて下さい! 勇者様の魂が抜けかかってますぅ!」

姫様「貴方のような芸風にはツッコミが必要ね。なのにツッコミが居ないだなんて」

勇者「……おい」 ピクッ

姫様「何よ」

勇者「ツッコミの話はすんな。やめろ」

姫様「そうやって独りよがりの考えを続けている限り、貴方のネタは」

僧侶「そうじゃないんですっ!!」

姫様「……?」

僧侶「勇者様は……ツッコミは……そうじゃないんですぅ!」

・ ・ ・

姫様「ふえぇーっ! ぐすっ、ぐすん」 ボロボロボロ

勇者「泣きすぎだろ」

姫様「だってぇ、貴方にそんな過去があっただなんてぇ!」 ボロボロボロ

勇者「だから分かったってば」

僧侶「ふえぇーん!」
魔法使い「ひっぐひっぐひっぐ!」

勇者「何でお前らまで泣いてんだよ!!」

僧侶「だってぇー」

姫様「ぐすっ。分かりました」

盗賊「報酬?」

姫様「いいえ」

盗賊「……」 ガクッ

姫様「私が、貴方の力となりましょう」

勇者「ほう…………ほおおぉぉ!?」

姫様「じい、共に来なさい。魔王退治の旅ですわ」

じい「姫様……」

勇者「ほおおおおぉぉぉぉ!?」

盗賊「おいおい、一国の王女がそんな勝手な行動、いいのかよ」

姫様「あら、先程もじい達が言いましたわよね?」

盗賊「は?」

姫様「私はお笑いの為に日々、あらゆる場所へ訪問しているのです」

勇者「でもよ、魔王討伐は流石に勝手が違うぜ」

姫様「お笑いはお笑いですわ」

勇者「死ぬかもしれねーんだぞ?」

姫様「お笑いで死ねるなんて、私にとっては本望ですわ」 フン

盗賊「こりゃダメだな」

僧侶「でもぉ、王様の許可とか良いんですか?」

騎士団「案ずるな。セブンス王は既に諦めておる」

魔法使い「ええぇぇ」

姫様「じい。早速、旅の準備よ!」

じい「はい」

勇者「お、おいっ。そんな勝手に」
盗賊「おい待て勇者」

勇者「あのな、いくらなんでも今回ばかりは仲間にできねぇよ」

僧侶「えぇ~っ!? どうしてですかぁ?」

勇者「お前らみてーなどこの何者かも分からん連中ならまだしも」

僧侶「ひどいっ!」
魔法使い「……」

勇者「あれはセブンスって立派な国のお姫様だぜ?」

盗賊「あー待て待て」
勇者「んだよ」

盗賊「本人の意向なんだし、何かあっても俺様達のせいにはならんだろ」
勇者「そんな簡単な話じゃないだろってんだよ」

盗賊「本人がいいって言ってんだからいいだろ」
勇者「何でそんなムキになってんだよ」

盗賊「いいか、考えてもみろ」 ススス
勇者「んだよ、気持ち悪りぃな」

盗賊「姫サンが仲間になる」
勇者「なってたまるか」

盗賊「モチロン、一国の王女だ。出はいいし金もある」
勇者「だろうな」

盗賊「金があるってこたぁ、俺様達の旅にも反映される」
勇者「……」 ピクッ

盗賊「イコール、姫サンを仲間にすれば金に困ることはない」
勇者「ならなくてたまるか!」

姫様「お待たせ」 テクテク

勇者「待ってま……し……」

姫様「何よ?」

勇者「随分とまた、質素な恰好で」

姫様「旅に派手さや贅沢は必要なくてよ」

盗賊「いやいや! 旅に資金は必要――」
姫様「ありません!」

じい「姫様は庶民の気持ちを重々、理解さなれた素晴らしい姫君なのじゃ」

盗賊「余計なことを……」

姫様「そういう事だから安心して」 ニコッ

勇者「野宿だってあるんだぞ?」

姫様「あら、サバイバルやキャンプはお手の物よ?」

勇者「何日もメシが食えないことだって」

姫様「ダイエットには丁度良いですわね」 ニコニコ

僧侶「そうなんですよっ!」

盗賊「同意してんじゃねぇ!」

姫様「そういう事だから、旅の最中は普通の女の子として扱ってね」 ニコッ

盗賊「ノオオォォォォ!」

僧侶「宜しくお願いしますっ、姫様」

姫様「姫、で良いわよ」

僧侶「んーじゃあ、姫ちゃん!」

姫様「ありがとう。僧侶ちゃん」

僧侶「えへへへ~」 ニコニコ

勇者「金は手に入らなかったが、まぁいいか」

盗賊「よくねぇ!!」

魔法使い「あっ、よろよろよろ」 ペコペコ

じい「宜しくお願いしますじゃ」 ペコペコ

勇者「なんか知らんが、うまくバランス取れてっし」

 【姫様】 が仲間になった!
 【じい】 が仲間になった!

・ ・ ・

姫様「成程ね。フィフス王から船を譲り受けた関係で、セブンスへ来たのね」

僧侶「そうなの」 テクテク

盗賊「んで、その船はどこにあるんだ?」

姫様「そこを曲がれば港。おそらくそこに停泊しているはずよ」

勇者「なーなー」

じい「……?」

勇者「姫様は分かるけどよ、あんたは役に立つのか?」

じい「わしはあくまで、姫様のお供ですわい」

勇者「まぁそれなら、邪魔だけはしないでくれよ」

じい「分かっておりますじゃ」

姫様「ちょっと、じいはこう見えても昔は凄かったのよ?」

勇者「へっ?」

姫様「かつて若かりし頃は大賢者として名を馳せてたそうよ」

じい「ひ、姫様」

勇者「大賢者だぁ!?」

盗賊「なんかすげぇ強そうな響きだな」

勇者「でも今は違うんだろ?」

じい「もう歳ですからなぁ」

姫様「さぁ、港に着いたわよっ」

僧侶「うわぁ~っ!!」

勇者「フォースやフィフスより断然デカイな」

姫様「そりゃもう、なんたってこの先は魔物の大陸ですもの」

勇者「ああそうか。軍港も兼ねてたわけか」

じい「先の大戦では、我が国を中枢に、連合国軍が魔物と戦ったのですじゃ」

盗賊「んで、肝心の船はどこだよ?」 キョロキョロ

姫様「あれではなくて?」 スッ

盗賊「おっ! そこそこ良さげじゃん?」

姫様「随分と小さな船ね。まぁ小回り効くし少人数なら丁度良いかしら」

盗賊「……」
勇者「……」

・ ・ ・

勇者「こほん。それでは、いざ出航~!!」

僧侶「おーっ!」

勇者「って、誰が操舵するんだよ!」

盗賊「仕方ねーな。俺様がやってやらぁ」 スタスタ

勇者「何っ!? できんのか?」

盗賊「伊達に盗賊やってねーよ。ギャハハハ」

姫様「盗賊?」

盗賊「――っ!! とー遠くに行くぞー!!」

勇者「お、おーっ!!」

・ ・ ・

僧侶「暖かいから気持ち良いですねぇ」

勇者「あちーくらいだよ」

姫様「でも、こんな時に魔物が襲ってきたら、ひとたまりもないですわね」

勇者「海の上だぜ? 魔物が襲ってくっかよ」

マーマン「どーもー! マーマンでーす!」 バッシャーン!!
マーメイド「マーメイドで~す」

マーマン「二人合わせてまぁまぁです」
マーメイド「まぁまぁなんかーいっ!」 バシッ

魔法使い「ひぎゃああぁぁぁぁ!!」

勇者「ちょっ! こんな所でも襲われるのかよぉ!」

盗賊「こっちは魔物の領域だ。当たり前だろっ!」

マーマン「しかし天気がいいですなぁ」
マーメイド「そうですなぁ」

勇者「夫婦漫才か。どれ、まずは様子見といくか」

僧侶「はいっ。ぷっ、ぷふふっ」

・ ・ ・

マーマン「…………」
マーメイド「…………」

姫様「ちょっと、聞いてますの?」

マーマン「はい」
マーメイド「はい」

姫様「ですから、先程の部分は言い回しをもっと柔らかく――」

盗賊「説教してる」
勇者「説教っつーか、ダメ出しだな」

僧侶「魔物さん……泣いてますよぉ?」

姫様「分かった?」

マーマン「はい……」
マーメイド「ごめんなさい」

姫様「もっとスキルアップしてからまた、来て頂戴っ」

マーマン「うわーん!」 バシャーン!!
マーメイド「覚えてろー!」 バシャーン!!

僧侶「す、凄い! 戦わずして魔物を撃退した……っ」

勇者「なるほど。そういう手もあるか」 ニヤリ

姫様「全く。レベルが低くて困りますわね」

じい「姫様のレベルが高すぎるのです」

姫様「もっと骨のある魔物はいないのかしら?」

勇者「きっといるぜ」

姫様「えっ?」

勇者「四天王があと二人残ってる」

盗賊「四天王だからって四人いるとは限らねーだろ」

勇者「限るだろっ! じゃあなんで四天王を名乗ってんだよ!」

盗賊「あ、そっか」

勇者「馬鹿か! お前は本物の馬鹿か!」

僧侶「ぷくくっ!」

姫様「アドリブにしては悪くないわね」

勇者「ネタじゃねぇ!!」

・ ・ ・

盗賊「……」 ザザーン

勇者「おい」

盗賊「な、何だよ」

勇者「いまどの辺だ?」

盗賊「見りゃ分かんだろ。海の上だよ」

勇者「そんなことは分かってんだよっ!」

盗賊「静かにしろっ、みんな起きちまうだろ!」

勇者「あぁ!?」

盗賊「もう夜中なんだし、お前も寝てていいぞ」

勇者「おいコラ、話を逸らすな」

盗賊「大丈夫だって! 魔物が出たらすぐに大声で知らせっから」 クルクル

勇者「ちげぇよ! 今、海のどの辺にいるんだって聞いてんだよ!」

盗賊「勇者」

勇者「んだよ」

盗賊「男はなぁ、野暮なことを聞くもんじゃあないぜ」

勇者「はあぁ!?」

盗賊「なーに、行先はほら……風が教えてくれ――」
勇者「――っ!!」 ドゴンッ!!

盗賊「いってええぇぇ!!」

勇者「てんめぇ。やっぱり迷ってやがったな!?」

盗賊「だってよぉ! 分かるわけねージャン!」

勇者「地図渡したろーが!」

盗賊「いいか? 空を見てみろ」

勇者「星が教えてくれるとか言ったら海に突き落とす」

盗賊「いやいや、星が教えてくれんだって。マジで」

勇者「藻屑となれ」 グイグイッ

盗賊「どわぁっ! 聞けっ、話を聞けっ!」

勇者「言い分次第では俺を殺人犯にすることになるな」

盗賊「今の季節と星の位置を照らし合わせるだろ」

勇者「星の位置?」

盗賊「そんんくらいお前だって分かるだろ」

勇者「あんま詳しくねぇよ」

盗賊「そんなんでよく冒険してられたわなぁ」

勇者「いいから次!」

盗賊「あの光り輝いてる星、分かるだろ?」

勇者「ああ」盗賊「あれとあっちの赤っぽい星、見えっか?」

勇者「ああ、あれか」

盗賊「あのちょうど間が真西。つまり地図と照らし合わせると……この辺りだ」

勇者「ほぉ」

盗賊「今がだいたい深夜の二時だから、セブンスの出航時間を考えると……」

勇者「……」

盗賊「ここがこうなって、ここで、こうだな。よし、今はこの辺りになる」

勇者「お前……ほんとはすげぇんだな!」

盗賊「うるせぇ! いいから聞け」

勇者「あ、はい」

盗賊「んでだ。本来ここにあるはずの小さな島が見当たらねぇ」

勇者「地図の誤植じゃねーの?」

盗賊「最新の地図だぜ? んなわけあるかよ」

勇者「そう言われてもなぁ」

盗賊「なーんかおかしいんだよなぁ」

勇者「そんで迷ったってか?」

盗賊「ああ」

勇者「お前の勘違いってことは?」

盗賊「今、説明した通りだ」

勇者「勘違いではなさそうだな」

盗賊「だろ? だから困ってんだよ」

勇者「分からねー中、あんまりウロウロすんのもこえーよな」

盗賊「ああ。かと言って海のど真ん中で船を止めるのもこえー」

勇者「どうする?」

盗賊「だから困ってんだろが」

勇者「いいよ。このまま真っ直ぐ行こうぜ」

盗賊「いいのかよ?」

勇者「行くしかねーだろ。そこに道がある限りな!」

盗賊「道はねーけどな。仕方ねぇ、行くか!」

勇者「行け!」

盗賊「おう! ギャハハ!」

・ ・ ・

姫様「……それで、こんな島に着いてしまったと?」

勇者「はい」
盗賊「すみません」

姫様「全く。どうかしてますわ」 プンスカ

僧侶「でも、仕方ありませんよぉ」

じい「お嬢様~」 テコテコテコ

姫様「じいと魔法使いが戻ってきたみたいね」

勇者「どうだった?」

魔法使い「みみみみちみちもこっ」

勇者「あ?」

じい「この先に開けた平野と道がありますじゃ」

盗賊「てことは、人が住んでる!?」

勇者「魔物かもしんねーだろ」

盗賊「魔物が道なんざ作るのかよ?」

勇者「知らん」

盗賊「知らんってなぁ」

勇者「でもここは、魔物の領域なんだぜ?」

盗賊「まーなぁ」

姫様「魔物の気配は?」

じい「魔物はおろか、人の気配も全くありません」

魔法使い「せせんせんせん……っ」

僧侶「どうしましょう」

勇者「とにかく何か情報が欲しい。探索してみよう」

盗賊「だな。海に出ても手掛かりゼロだもんな」

魔法使い「ううぅぅ、怖い……っ」 ガクブル

姫様「それでは参りましょう。しゅっぱーつ!」

勇者「おーっ! ってそれは俺の台詞だ!!」

・ ・ ・

盗賊「無事かー?」 ガサガサッ

僧侶「盗賊様が草木を切りながら進んでくれてるので、大丈夫ですぅ!」

勇者「ったく、どこか平野が広がってて道がある……だよ」

じい「道があったのは最初のようでしたな」

姫様「ちょっとー、魔法使いが死にかけてるわよー」

勇者「ほっとけ。いつものことだ」

魔法使い「はふはふっ、はふぅ……ひいぃ」

盗賊「おっ、なんだありゃ?」

勇者「どうした!?」

盗賊「見てみろ。建物らしき物があるぞ」

勇者「マジだ! 人がいるかもしんねーな」

盗賊「魔物かも、だろ?」

勇者「だな。単独行動は危ない、全員集合!」

僧侶「はぁ~い」

魔法使い「はっ、はひいいぃぃ」

姫様「本当に大丈夫なのこれ?」

じい「さぁ……」

・ ・ ・

勇者「どうだ? 誰かいるか?」

盗賊「暗くて分かんねーよ」

勇者「お前、盗賊だろ。目とか耳で判断できねーのかよ」

盗賊「盗賊だからって目とか耳がいいとは限らねーだろ。差別だ差別!」

勇者「足は速えーじゃんか」

盗賊「これは生まれつきと、死活問題に関わるからだ」

勇者「ふーん」

島民「おい」 ガサッ

勇者「――――っ!!」 ビックゥ!!

盗賊「ぎゃああぁぁぁぁ!!」

僧侶「きゃああぁぁぁぁ!!」

魔法使い「ひっ、ぎゃああああぁぁぁぁーっ!!」

姫様「ちょっと! なによみんなしてっ!?」

島民「驚かしてしまった、すまん」

勇者「人間……か?」

島民「失礼な、奴だ」

勇者「すまんすまん。そういう意味じゃないんだ」

島民「あんたら、旅人か?」

勇者「まぁそんなとこだ。実は」

島民「遭難、したのか?」

勇者「そ~なんだよ~」

姫様「全くもって面白くありませんわ」

勇者「へっ? あ、いやっ、別にギャグで言ったんじゃねぇぞ」

姫様「だったら尚更ですわ」

勇者「……」

・ ・ ・

勇者「……というわけで、この島に流れ着いてきたわけよ」 ムシャムシャ

盗賊「これ、めっちゃくちゃ美味いな」 ムシャムシャ

勇者「ここはどこなんだ? なんて島だ?」

島民「知らない。島から、出たこと、ない」

勇者「他の住民は?」

島民「この先、山のとこに、いる」

勇者「分かりそうな奴はいるか?」

島民「酋長、長生き、だから詳しい。でも、言葉、違う」

勇者「言葉? ああ、俺らが話してる言葉か」

僧侶「でも、あなたは何故、話せるんです?」

島民「俺、色んな、遭難者、見てきた」

姫様「それにしたってお上手ですわよ。20年は学んだのかしら?」

島民「もっと、学んだ」

姫様「でも貴方、お若く見えるけど。もしかしてその外見でもう50近いとか?」

島民「俺、四百歳くらい」

勇者「ぶはははは! なかなかギャグセンスあるじゃねぇか!」

盗賊「なんなら一緒に魔王でも倒しに行くか? ギャハハハ!」

姫様「ひとまず酋長という方の所まで案内して頂きましょうか」

魔法使い「そそっ、そうが良いでっすよぉ」

じい「何か分かるやもしれませんじゃ」

勇者「んじゃ、頼むわ」

島民「分かった」

盗賊「なぁなぁ、これメッチャ美味いけど何の肉?」

島民「ああ、これ」 ズイッ

姫様「わっきゃああああぁぁぁぁ!!」

盗賊「ぶっ!!」

勇者「オオトカゲ……?」

島民「美味い、俺も好き」 ムシャムシャ

魔法使い「うーん」 バターン

じい「こりゃ出発は明朝ですかな」

・ ・ ・

島民「ここが、村だ」

僧侶「おぉーっ」

島民「さ、付いてこい」

勇者「なんでアンタは一人で住んでんだ?」

島民「俺、監視してる」

勇者「監視? ああ、俺らみてーな遭難者をか」

島民「そうだ」

盗賊「でも大変だろ。一人でずっと監視なんて」

島民「定期的に、交代はしてる」

盗賊「あっそ」

島民「ここが、酋長の家だ」 ザッ

勇者「おじゃましまーす」

酋長「……」

盗賊「あれが酋長か。おっかない顔してるな」 ボソボソ
姫様「しっ! 失礼ですわよ」 ゴニョゴニョ

島民「○△□×~」

酋長「↑↑↓↓←→←→」

勇者「な、なに言ってんだ?」

姫様「恐らく、現地の言葉ですわよ」

じい「この者らはどこから来たのか、と申してますじゃ」

姫様「え……っ?」

勇者「ジーサン、分かるのかよっ!?」

じい「そうか。ここがエイスの島か」

僧侶「エイス……?」

じい「若い頃に聞いたのじゃ。古より存在するという謎の島の話を」

姫様「それがここという事?」

じい「はい。その時に教わった言葉がエイス語だったとは」

勇者「そうか、だから酋長の言葉が分かったんだな」

じい「そういう事ですじゃ」

島民「○◎●Θ@」

酋長「○―○―○―」

島民「酋長、お前らを受け入れる、宴する、と言った」

盗賊「おっ、マジか!」

僧侶「ありがとうございます~」

・ ・ ・

勇者「それでは勇者、一発芸やりま~す」 ワキワキ

島民「…………」 シーン

酋長「□◆◇■」

じい「$%&$%&」

姫様@「良い人達で助かったわね」

盗賊「いや、どうだかまだ分かんねーぞ?」

姫様「ちょっと失礼ですわよ。せっかくここまで持て成して頂いてるのに」

盗賊「でもまたオオトカゲかもよぉ?」

姫様「――っ」 ゾゾッ

盗賊「いや、実はこうして油断してるところにグワーッと」

島民「おい」

盗賊「ぐわああぁぁぁぁ!!」 ビックーン!!

魔法使い「ひあああああぁぁぁぁ――」 バターン

島民「良かったら、飲め」

姫様「あ、ありがとう。何ですのこれ?」

島民「ヘビ、の酒だ。何年も、漬けて、味が染みてる」

姫様「……あ、ありがとう」 ヒクッ

島民「みんな、喜んでる」

姫様「えっ?」

島民「この島、人来るの、久しぶり」

僧侶「へぇ、そうなんですかぁ」

島民「みんな、楽しい。あの男、以外」

勇者「だぁーっ! 何でウケねーんだよ! 笑いは国境をも超えるんだぞ!」

姫様「そ、そうね……っ」

僧侶「ほらぁ、盗賊様。皆様、優しい方ばかりではないですかぁ」

盗賊「ふ、ふん」 グビッ

女島民「♂♀×××~」 ススッ

盗賊「なっ、なんだぁ!?」

島民「お前、とてもカッコイイと、言ってる」

盗賊「!?」

女島民「㌢㌧㌢㌧……」

盗賊「な、なかなかイイ島じゃねぇの! ギャハハ!」

姫様「……」
僧侶「……」

・ ・ ・

島民「この家を使うといい。まとめてで、すまない」

勇者「いいって。屋根があるだけ野宿よりマシさ」

盗賊「そうそう」

島民「何かあれば、遠慮なく言え」 スタスタ

姫様「ちょっと食べ過ぎたかしら」

僧侶「でも、久々のご馳走といった感じでしたね~」

盗賊「まぁな」

姫様「じい、何か収穫はあった?」

じい「色々と話を聞きました」

勇者「んで?」

じい「ここ、エイス島は何か特殊な環境のようですじゃ」

姫様「特殊?」

じい「はい。この島の周辺だけ、潮の流れが違うようですじゃ」

勇者「なるほどな。それで俺らも流れ着いたってことか」

盗賊「それだけじゃねぇ」

勇者「あん?」

盗賊「星の位置で進んでたのに遭難したんだ。他に何かあるはずなんだよなぁ」

魔法使い「たししかにかに……っ」

勇者「でも、それは分かんねーんだろ?」

じい「そうですじゃな」

勇者「ともかく、最優先はこの島から無事に脱出することだ」

姫様「それについては何か手がかりあった?」

じい「酋長が興味深い事を申しておりました」

僧侶「……?」

じい「この島の神木を背に、船で真っ直ぐ進むと楽園がある、と」

勇者「楽園!?」

盗賊「イイ響きだな」 ニヤリ

姫様「船でって事は、別の大陸という事よね?」

じい「島の民は行った事がないようですじゃ」

勇者「んじゃ、楽園から来た連中がいたってことか」

じい「古い言い伝えのようなもののようですじゃ」

盗賊「どーするよ?」

勇者「手がかりはそれしかねぇし、明日にでも行ってみっか」

僧侶「はいっ!」

勇者「んじゃ今日はゆっくり休もうぜ」

姫様「貴方は徹夜よ」

勇者「へ……っ?」

姫様「私がみっちり、ネタ作りに協力して差し上げますわ」 フンッ

勇者「…………」

・ ・ ・

勇者「ふぁ、ねみぃ」

僧侶「おはようございます~」

盗賊「さーて、いざゆかん。楽園!」

勇者「ジジイと魔法使いは?」

姫様「島民の案内で神木までの道を確認してますわ」

勇者「さすがだねぇ。ふあぁ」

僧侶「あっ、帰ってきましたよ」

魔法使い「ただいだいだいっ」

じい「神木はこの先、ずっと真っ直ぐのようですじゃ」

勇者「んじゃ船で、そっちまで向かおう」

盗賊「おうよっ」

島民「無事を、祈る」

勇者「色々と世話になったな!」

酋長「√≧+πβ≦」

じい「またいつでも来なさいと申しておりますじゃ」

勇者「おうっ! またな!」

・ ・ ・

盗賊「んで、神木がこっちか?」 クルクル

勇者「ちゃんと合ってんだろうな?」

盗賊「だったらテメーがやれやっ!!」

僧侶「見て見てっ! 大きな木が見えますよっ!」

姫様「あれが神木ね」

盗賊「つーことは、あれを背に船を進める……と」

勇者「んじゃこっちだな」

盗賊「あっちだよバカ!!」

勇者「……」

・ ・ ・

勇者「あぢぃー。今日で何日目だぁ?」

僧侶「分かりません~」

盗賊「まだ二日だ!」

姫様「勇者」

勇者「んー?」 パタパタ

姫様「シャキッとなさいな! ほら、ネタ作り!」

勇者「げぇ」

姫様「げぇじゃないわよっ。そんな事で魔王に勝てると思っているの?」

勇者「へいへい」 トボトボ

僧侶「何だかんだ、お似合いですねぇ。あの二人」

魔法使い「しょそっ、そうですね……っ!」

僧侶「もしかして、このまま良い関係になったりとか……ふふっ」

魔法使い「はっ、はのぉ!!」

僧侶「はいっ?」

魔法使い「そっ。しょのおおぉぉ」 モジモジ

盗賊「僧侶っち、ちょいと来てくれやー」

僧侶「はーい」 タッタッタ

魔法使い「そそそそっ、うりょ様っさんわぁ! あのっ、そのぉ」 チラッ

じい「何をしておるんじゃ?」

魔法使い「……い、いえっ」

・ ・ ・

盗賊「見えたぞっ!!」

勇者「楽園か!?」

盗賊「楽園だ!!」

勇者「楽園! 楽園!」

姫様「でも、ちょっと変じゃないかしら」

勇者「何がだよ」

姫様「あれ、港よね? でも随分と廃れてない?」

僧侶「言われてみれば、そうかもしれませんねぇ」

勇者「もう使ってねぇんだろうよ」

盗賊「とにかく上陸だ! 楽園! 楽園!」

・ ・ ・

勇者「おい、どういうことだよ」

盗賊「俺様が聞きてぇわ」

姫様「だから言ったじゃない。変って」

じい「駄目ですじゃ。人は全く見当たりません」 スタスタ

魔法使い「ここっちも、です……っ」 スタスタ

僧侶「ほ、本当にここで合っているんでしょうか」

勇者「エイスの奴らの言う通りに来たんだぞ?」

盗賊「そうだそうだ。あいつらが騙すとは思えねぇ」

姫様「最初は目一杯、疑ってたくせに」

盗賊「……」

勇者「結構、広さもありそうだし、色々と調べてみようぜ」

・ ・ ・

盗賊「なぁ、これって……」

じい「うぅむ、どうやら随分と前に滅んだ国のようだ」

僧侶「えぇっ!?」

盗賊「ところどころ戦争か何かで壊れた跡が残ってる」

勇者「ただの遺跡じゃねぇってわけか」

姫様「ねぇちょっと! こっちこっち!」

勇者「……?」

姫様「これ見てっ、個人が書いた日記か何かじゃない?」

勇者「ボロボロだな。焦げて今にも崩れそうだ」

僧侶「読めるんですか?」

姫様「えぇと、うん。大丈夫そうね」 ペラッ

盗賊「俺様はちょっくら、あっちの方も見てみるわ」 スタスタ

じい「言語は我等と同じようですな」

姫様「ええ。つまりここが私達、人間と変わらない文明である事を証明しているわね」

魔法使い「……っ」

姫様「……ナイン?」

僧侶「ナインって何です?」

姫様「この地の名前よ。ナイン、と記されているわ」

じい「それ以外に手がかりはなさそうですね」

姫様「ええ。損傷が酷くて他の部分は……勇者?」

勇者「ナイン、だと?」

魔法使い「勇者ひゃ」

姫様「それがどうかしたの?」

勇者「ナインって、あの伝説のナインか?」

姫様「はぁ?」

盗賊「どうやら地名っつーか、国名で間違いなさそうだわ」

僧侶「盗賊様」

盗賊「ちょっくらこっちに来てくれ」

・ ・ ・

姫様「城跡」

盗賊「ここに 『ナイン城』 って書かれてる」 コンコン

僧侶「あ、本当だ」

姫様「あ、そうだ。それで何が伝説なの?」

勇者「お前っ、あんだけお笑い詳しいのに知らねーのかよ!」

姫様「へっ!?」

勇者「お笑いの起源と言われてる、今は亡き国のことじゃねぇか」

僧侶「そ、そうなんですかぁ?」

姫様「ちょっと待って。初耳ですわよそれ」

勇者「はぁ?」

姫様「そんな話、どこで誰から聞いたのよ?」

勇者「……っ」

姫様「ちょっと勇者」

勇者「親父だよ」

姫様「えっ?」

盗賊「親父?」

勇者「俺の親父から聞いたんだよ」

僧侶「あのー。勇者様のお父様って」

勇者「……お笑い芸人さ」

僧侶「えーっ!?」

姫様「ゆ、有名な方なの?」

勇者「いーや。三流も三流、売れない芸人さ」

じい「今も、ご健在なのか?」

勇者「さぁな。俺が小さい頃に家を出たっきりだ」

僧侶「そうだったんですかぁ」

勇者「別にいいだろ、親父の話はよ」

姫様「でもその話、本当に初耳ですわよ」

勇者「だろうな。誰も信じちゃいなかったし」

僧侶「でも、勇者様のお父様がそう言われたのですよね?」

勇者「親父は適当な人間でどうしようもない奴だけどよ」

魔法使い「……っ」

勇者「でも、嘘だけは絶対につかなかった。だから俺は――」

姫様「……どうしたの?」

勇者「な、なんだてめぇ」

盗賊「は?」 クルッ

白虎「ブワッハハハハハ!!」 ズンッ

僧侶「魔物!?」

白虎「こんな所までご苦労な事だ」 ドズン

勇者「コイツは大物の臭いがプンプンするぜ」

白虎「おっと自己紹介が遅れたな。俺の名は……白虎」

勇者「!?」

白虎「四天王が一人、轟雷の白虎様よ! 覚えておくがいい!」

姫様「し、四天王……っ!!」

白虎「ま、もっともお前らはここで死んじまうがな。ブワッハハハ!!」

勇者「行くぞ!!」

盗賊「おうっ!」

姫様「待って!」

勇者「なんだよっ!」

姫様「相手の出方が分からない以上、様子を見た方が良いわよっ」

勇者「先手取られてネタかまされたら打つ手はねぇ!」

盗賊「お嬢サマよぉ、ここは劇場じゃねぇんだ。素人は黙ってな!」 ババッ

姫様「――っ!」

白虎「勇者よ、朱雀と玄武を葬ったという実力、見せてみよ」

勇者「言われなくてもぉ! まずは小手調べだ、盗賊! 魔法使いっ!」

盗賊「すでに動いてるっつの!」 シュババッ

魔法使い「は、はひぃ!!」 スデン

白虎「ブワッハハ! コケておるわ!」

勇者「余裕かましてられんのも今のうちよ」

盗賊「もらったぁ!」 コチョコチョ

白虎「何ィ!?」

盗賊「そーれ、コチョコチョコチョコチョ!!」

白虎「き、汚な――ブワーッハッハッハッハッハ!!」

勇者「はっはっは! 他愛ない!」

じい「……」

白虎「ギャーッハッハッハッハッハッハ!!」

魔法使い「ふっ、くくっ」
勇者「ぶぷっ」
盗賊「ははは! それっ、コチョコチョ……ギャハハ!」

姫様「じい、これは……っ」

じい「なにやら様子がおかしいですじゃ」

白虎「ギィーヤッハッハッハッハッハッハ!!」

勇者「くはっ、あはははは!」

姫様「な、なんだかよく分からないけれどぉ……ふふっ、あはは!」

じい「こっ、これはまさか……ははははは!」

白虎「そうだ! これが白虎様の得意技よッ!」

勇者(こ、こいつの笑いは……偽りだ!!)

姫様(分かったわ、白虎の能力……っ)

白虎「ブワァーッハッハッハッハッハッハッハ!!」

姫様(そう、それは……)

勇者(嘘笑いで釣られ笑いさせることかっ、くそ!!)

・ ・ ・

勇者「……っく」 ヒクヒク

盗賊「ギャーッハッハッハッハ!!」
魔法使い「ふひひっ、ひひいいぃぃ!!」
姫様「アハハハハハハハハ!!」
じい「くくくっ、くっ、ぶふっ!!」

勇者「ま、まずいっ! このままじゃ全滅しちまう……っ」

白虎「ブワーッハッハッハッハ!!」

勇者「ぎゃははははは!!」 ヒクヒクッ

僧侶「だ、大丈夫ですか!?」

勇者「だ……め……ぎゃははは!!」

白虎「ハッハッハッハ……ん?」

勇者(……あれ? 僧侶の奴、何で笑ってねぇんだ?)

僧侶「勇者様っ、私……どうすれば」

勇者「の……」

僧侶「の?」

勇者「悩殺ポーズ!! あははははは!!」

僧侶「はっ! わ、分かりましたっ!」

白虎「ヌッ?」

僧侶「みっ、みなさ~ん! こっちですよぉ!」

 僧侶は 【悩殺ポーズ】 をはなった!

僧侶「う、うふーん」 バッキューン!!

魔法使い「うっ」

勇者「ま、まだだ……っ」

僧侶「えぇ~っ!?」

勇者「早くしろぉ! もっとだ!!」

僧侶「は、はいぃ」

勇者「もっと俺に……エロスをよこせええぇぇ!!」

僧侶「はいぃ!!」 ピラッ

勇者「――――っ!!」

姫様「み、自らスカートをめくるだなんて……っ」

盗賊「た、たまらんっ!!」 クワッ!!

魔法使い「いったああああぁぁぁぁ!!」 ビクビクビク!!

勇者「お、おぉ……おおぉぉぉぉ」

僧侶「勇者様ぁ!」

勇者「ふっかーつ!!」 ズダンッ!!

白虎「こいつ等ッ、雑念で笑いを」

勇者「だが、まだまだだぁ!」

僧侶「……はい?」

勇者「僧侶、俺のフルパワーまでには、まだ力が足りん!」

僧侶「あの、今までそんな事ありましたっけ?」

勇者「あるんだよっ! ほれ、もっと悩殺パワーをよこせ!」

僧侶「こ、これ以上は無理ですよぅ!」

勇者「カワイコぶってんじゃねぇ!!」
盗賊「そうだそうだ!!」

魔法使い「……」 ピクピク

僧侶「無理ですよぉ! 恥ずかしいんですからっ!」

勇者「ちいっ」
盗賊「残念!」

姫様「しかたありませんわね」 スッ

じい「ひ、姫様?」

姫様「大それた事は出来ないけれど」

勇者「お、おい」

姫様「こ、この程度ならして差し上げますわよ!」 チラッ

勇者「ぶっ!!」
盗賊「うおおおおぉぉぉぉ!」
魔法使い「――――!?」 ビクビクビクーン!!

姫様「はいっ! も、もうおしまいっ!」 カアァ

勇者「……来たぜ」

白虎「どうするつもりだ?」

勇者「来たぜええぇぇ――」
じい「う、ぬぬぬぬううぅぅぅぅ」

勇者「えっ?」

じい「姫様の……姫様のおパンティー!!」 ズゴゴゴゴゴ

勇者「お、おいっ。ジジイ?」

じい「しばし待たれよ」 スタスタスタ

勇者「おーい」

盗賊「ボケたか?」

白虎「待てと言われて待つ奴がおるかッ!!」 クワッ

勇者「バーカ! テメーの釣られ笑いなんざ、もう効かねーんだよ!」

白虎「何ィ!?」

勇者「僧侶と姫の悩殺回復があれば、もはや恐るるに足らず!!」

盗賊「そーだそーだ!」

白虎「ブワーッハッハッハッハッハ!!」

勇者「……?」

姫様「くっ、くふふっ」

白虎「だからとてこの白虎様を倒せるわけではあるまいッ!」

勇者「ぐぬっ」

白虎「貴様等のチンケな笑いなんぞ、この白虎様には通用せ――」
じい「……はぁはぁ」

白虎「ん……」

じい「はぁはぁっ、姫様……っ」

白虎「な、何だァ?」

勇者「おいジジイ! 岩陰で何してんだよ!? 大丈夫か!?」

じい「うっ!」 ビクビクッ!!

姫様「……じい?」

じい「ふぅ」 ババッ!!

盗賊「うおっ!? 跳んだ!」

じい「貴様の技、破れたり」 スタッ

勇者「ジジイ!?」

じい「五十年も前になろうか」

勇者「五十? 何言って――」
姫様「大賢者よっ!」

勇者「だ、大賢者ぁ?」

姫様「言ったでしょ! じいはかつて、大賢者だったのよ!」

じい「ふぅ」

白虎「ブワーッハッハッハ! 小賢しいッ!」

じい「どうした四天王よ。怖いのか?」

白虎「馬鹿を言えッ! 笑い殺してくれるわッ!!」 ゴウッ!!

僧侶「す、凄い気迫……っ!」

白虎「ブワァーッハッハッハッハッハ!!」
じい「どわぁーっはっはっはっは!!」

白虎「!?」
じい「どうした? 皆も笑えい。わっはっはっはとな!」

姫様「じい?」

勇者「いや、あのジジイ何か考えがあるみてーだ」

盗賊「笑うしかねぇ!」

勇者「あっはっはっはっはっは!」
盗賊「ギャハハハハハハ!!」
姫様「あははははは!」
僧侶「は、はははははー!」

白虎「な、何だコイツら……ッ」

じい「どうした、もうお終いか?」

白虎「ブワーッハッハッハ! とんだ大馬鹿者だな!」

勇者「くくっ」
盗賊「ギャハハ!」

じい「わっはっはっはっは!」

白虎(この白虎様相手に、笑い続けるだと?)

じい「わっはっはっはっはっは!」

白虎(何を考えておるか知らんが、自殺行為にも等しい)

じい「わっはっはっはっはっは!」

白虎(……とはいえ、かれこれ数十分は笑っておる)

じい「わっはっはっはっはっは!」

白虎(……よく分からんが、なんだかおかしくなってきたぞ)

じい「わっはっはっはっはっは!」

白虎「ブワーッハッハッハッハ……ククッ」

じい「!?」

白虎「しまった!」

じい「今じゃっ!!」

勇者「渾身のおおぉぉぉぉギャグ!!」

じい「古典的いいぃぃぃぃギャグ!!」

盗賊「コチョコチョコチョコチョ!!」 ササッ

姫様「しまった、乗り遅れましたわ」

僧侶「ま、魔法使い様ぁ。そろそろ起きて下さいよぉ」 ユサユサ

魔法使い「う~ん――パイイイイィィィィ!?」 バターン!!

白虎「グクッ、ブワッハッハッハッハ!!」

じい「笑い声が本物になったようじゃな」

白虎「おのれええぇぇ! ブハハッ」

勇者「姫ちゃんよ、ツッコミ頼む!」

姫様「分かりましたわっ!」 ササッ

 勇者と姫様は 【夫婦漫才】 をはなった!

姫様「誰が夫婦漫才よっ!」 バシッ
勇者「いてぇっ!」

白虎「ブワァーッハッハッハッハッハ!!」

じい「もうひと押しじゃぞっ」

白虎「ハッハッハッハアアァァァァ!!」

じい「むっ!?」

白虎「あああああああっ、なんでやねんっ!!」 ドゴウッ!!

勇者「!?」

白虎「ガハァーッ、ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ」

姫様「な、何て肺活量なの」

じい「過呼吸に陥ってたはずじゃ……っ」

白虎「轟雷の白虎様を、ナメるんんじゃねぇぞ」 フラフラ

勇者「バカデケー声のツッコミでネタを強制中断しやがった!」

姫様「味な真似してくれるじゃないの」

白虎「よ、良かろう。確かに認めてやろう」

勇者「認める認めない以前に、俺の崇高なネタが――」
白虎「お前ではない」

勇者「ぐぬっ」

白虎「まさか釣られ笑い返しとは考えたものよ」

じい「ふぅ」

白虎「今日のところは退いてやる」

勇者「逃げる気か!?」

白虎「逃げるのではない。態勢を立て直すのだ」

勇者「逃げるんじゃねーか!!」

白虎「違うって言ってるだろ!!」

勇者「やーい、雑魚雑魚~」
盗賊「なーにが四天王だ雑魚~!」

白虎「頭きた。やはり今ここで殺す!!」

勇者「受けて立つ! 生きるか死ぬか、デッドオアアライブ」

白虎「それでこそ勇者よ。ネタはつまらんけど」

勇者「ぶっ飛ばす!!」

盗賊「ん?」 モクモクモク

姫様「この煙、何!?」

白虎「ブワーッハッハッハ!!」

勇者「何だ?」

白虎「ひ、卑怯だぞキサ――ブッハッハッハッハ!!」

盗賊「駄目だっ、煙幕のせいでなんも見えねぇ」

勇者「何が、どーなんてんだ?」

白虎「ええいッ、やはりここは仕切り直しだ!」

勇者「おい待て、白虎!!」

白虎「勇者よ、次に会う時こそ貴様の命日だ。ブワーッハッハッハ!」 ドウッ!!

勇者「くっ」 シュウウゥゥゥゥ

盗賊「煙幕が晴れてくぞ」 シュウウゥゥゥゥ

じい「何者じゃ?」

忍者「危ないところだったな」

じい「何者かと聞いておるのじゃ」

忍者「某の名は『忍者』。お主達こそ何者だ?」

勇者「魔王を倒す旅をしてる。一流芸人の勇者様だ」

忍者「ほう、芸人か。何故このような所におるのだ」

勇者「魔物の大陸目指してたら道に迷ったんだよ」

忍者「どうやら諸事情あるようだな」

勇者「つーか、どうして邪魔しやがった!」

忍者「えっ?」

勇者「え、じゃねーよ! もう少しで白虎を倒せたんだぞ!」

忍者「どうみても劣勢であったが」

勇者「全然っ、劣勢じゃねぇ!!」

盗賊「そうだそうだ!!」

忍者「それは面目ない」

姫様「ところで貴方こそ、ここで何をしてるわけ?」

忍者「某はこの地に眠るという幻の経典を探しておるのだ」

僧侶「幻の経典?」

盗賊「おいおい、お宝臭がプンプン漂うぜ!」 ワクワク

僧侶「どういったものなんですか?」

忍者「実は、ナインがかつて栄華を極めていた頃の……」

盗賊「おぉっ!!」 キラキラ

忍者「ありとあらゆる笑いのネタを収めたという経典なのだ」

盗賊「お、おぉー」 ガクッ

勇者「やっぱり」

忍者「ん?」

勇者「親父の言ってた話は本当だったんだよ!」

姫様「ほ、本当なの?」

じい「ナインが笑いの発祥の地とは」

忍者「とにかく、あのような化け物がおるのでは危険だな」

じい「またいつ、襲ってくるとも限らぬ」

忍者「お主達、ひとまず我が国に来ないか?」

姫様「えっ!? 宜しいのかしら」

忍者「勇者殿は芸人のようであるし、是非とも」

僧侶「その方が安全かもしれませんねぇ」

勇者「まぁ、僧侶がいる限りどこにいても危険だけど」

僧侶「う……っ」

盗賊「そんで、あんたの国ってのはどこなんだよ」

忍者「ここより北へ進んだ地、『テンの国』だ」

勇者「テン!?」

忍者「さぁ、参ろうぞ」 ザッ

勇者「テンってのはどんな国なんだ?」

姫様「さ、さぁ。私も初めて聞きましたわ」

盗賊「つーかいい加減に起きろ!」 ペシッ!!

魔法使い「っ!?」

・ ・ ・

盗賊「おいおい、まだ着かねーのかよ」

忍者「もうじきだ。この山を越えれば見えてくる」

盗賊「つーか、若干二名ほど死にそうなんだが……」

魔法使い「はひいいぃぃ、はふううぅぅぅぅ」 ガクガクガク

じい「ほへええ、うほおおぉぉ」 プルプルプル

姫様「じい、さっきまでの威勢はどうしたのよっ」

じい「さ、先程の戦いで精力を使い果たしましたじゃ……ほへぇ」

忍者「見よ、あれがテンの国だ」

勇者「おぉーっ!」

僧侶「おっきなお屋敷みたいですねぇ!」

忍者「街全体が塀に囲まれておるのだ」

盗賊「そりゃ面白ぇな」

忍者「テンはかつて、魔王の猛攻に晒されていた」

僧侶「えぇっ!?」

忍者「不戦協定を結ぶ、随分と前の話だ」

勇者「なーるほど。そんで街全体を壁で」

忍者「左様。その頃の名残だ」

盗賊「しかしナインと言いテンと言い、そんなに魔物に脅かされてたのか?」

姫様「魔物の大陸から近いんじゃないかしら」

勇者「可能性はあるな。方角的には合ってるはずだし」

じい「しかしテンの国やナインの国など聞いた事もなかったですじゃ」

盗賊「俺も」

忍者「ここは、特殊な地であるからな」

勇者「やっぱそうなのか?」

忍者「古くは魔王の住む城が間近にあり、常に戦火に晒されていた」

僧侶「……っ」

忍者「しかし終戦後、それを不憫に思った女神が加護を授けた」

盗賊「女神だぁ?」

忍者「その日よりこの大陸は、他者の干渉を受けなくなったと言われている」

勇者「マジかよ」

忍者「おとぎ話だろう。誰が見たわけでもあるまい」

勇者「だよなぁ。そもそも女神だなんてよ」

盗賊「どうかねぇ」

勇者「あん?」

盗賊「何度も言うが、潮の流れや風の影響だけとは思えねぇんだ」

勇者「まだ言ってんのか?」

盗賊「天候以外の何かが関与しててもおかしくはねぇんだよな」

忍者「着いたぞ」

僧侶「おぉーっ。近くで見ると、より凄いですねぇ!」

姫様「これはどういった建築なのかしら」 マジマジ

じい「初めて見ますじゃ」

姫様「じいでも知らない事もあるものね」

じい「お恥ずかしい」

魔法使い「あれは」

忍者「ああ、芸者だな」

魔法使い「おほぅ」

勇者「ヒュー。いい女!」

忍者「好みか? 何なら手配するが」

勇者「手配?」

忍者「晩の話だ。宴のみでなく夜を過ごすのなら費用はちとかさむが」

魔法使い「!?」

勇者「い、いや……別にそこまでは。なぁ?」

盗賊「俺様は僧侶ちゃんや姫ちゃんの方がいいわなぁ」 サワサワ

僧侶「盗賊さんのえっち!」

姫様「殺しますわよっ!!」

忍者「ここだ」 ザッ

僧侶「あの、ここは?」

忍者「我が主の屋敷だ」

勇者「主!?」

・ ・ ・

忍者「ただいま戻りました」

侍「うむ。ご苦労でござった」

忍者「この者ら、ナイン跡地で出会った、勇者一行にございまする」

侍「ほう。何者だ?」

勇者「魔王を倒す為に旅をしてるんだ」

侍「魔王を!? するとそなたら、芸人か?」

勇者「そのとーり!!」

侍「さぞかし面白いのであろうな。どれ、何か芸を見せてはくれぬか?」

盗賊「なんだか見たことある展開だぞこれ」

姫様「…………」

・ ・ ・

侍「はっはっはっはっは!!」

勇者「どーもー。ありがとうございました~」

侍「いやはや天晴れ天晴れ!」

僧侶「ウ、ウケてますよ?」

姫様「おかしいわね。孤立して笑いに飢えてるのかしら」

勇者「どうよ?」

侍「うむ。全くもってよく分からん」

勇者「じゃあ何で笑ってんだよ!!」

侍「いや、勇者殿の必死な姿が面白くて面白くて」

勇者「――っ」

盗賊「安心の通常営業だったな」

姫様「余計な心配でしたわね」

侍「異国の芸はいまいち、分からんで御座る」

勇者「そういうアンタらはどうなんだよっ!」

侍「それが、からっきしでなぁ」

忍者「だからこそ我等は、ナインにて幻と言われる笑いの経典を探しているのだ」

姫様「なるほどね」

盗賊「でもよ、本当に存在すんのか?」

侍「確証はないが、古くから言い伝えられている」

勇者「女神の件といい、伝承ばっかだなぁ」

侍「とにかく今宵は宴を催し、皆の話をお聞かせ願いたいで御座るよ」

勇者「宴? いいねぇ!」

盗賊「なーんでも話たるわい! ギャハハハ!」

・ ・ ・

侍「わはははは!」

忍者「主、そろそろお時間が」

侍「む、そうだな。いやはや楽しい刻と言うものは直ぐに過ぎてしまうものよ」

勇者「今日はありがとな。俺も楽しかったぜ」

侍「うむ。勇者殿の芸は相変わらずわけが分からぬがな」

勇者「いちいちウルセーんだよ!」

忍者「では宿まで、某が案内致す」

盗賊「宿まで手配してくれてんのかよっ」

忍者「余計な世話であったか?」

盗賊「いや、大助かりだ!」

姫様「久しぶりにきちんとした所で休めるわね」

僧侶「ですねぇ~」

侍「明日、また屋敷に来てくれぬか?」

勇者「いいともー!!」

僧侶「何かあるんですか?」

侍「お主達さえ良ければ、共にナインへ同行頂けぬか?」

盗賊「経典探しってか?」

姫様「まぁ、私達は構いませんけど」

勇者「駄目だ駄目だ」

僧侶「勇者様?」

勇者「俺達ぁ、魔王討伐で忙しいの」

姫様「でも、魔王を倒す為のネタがあるかもしれないわよ?」

勇者「ネタなんぞ俺ので充分だろ」

姫様「……」
僧侶「……」
盗賊「……」

勇者「な、何だよそのリアクションは!」

盗賊「俺様は手ぇ貸すぜ」

勇者「裏切り者!!」

盗賊「だって、お宝の匂いがプンプンするし~」

姫様「私もお笑い協会の理事として、興味がありますわ」

じい「姫様が行くのであればお供致しますじゃ」

勇者「くっ」

僧侶「わ、私もやっぱり……困っている方は見捨てられませんよ」

魔法使い「そっ、僧侶しゃんが行くいくいくっ!!」

勇者「だあぁ!! わーったよ、行きゃいいんだろ行きゃあよ!」

侍「有り難い。感謝致す」

忍者「もし魔物が現れれば、我等では到底、笑わせる自信がないのでな」

勇者「その代わり、俺らにも経典っての見せてくれよ?」

侍「無論で御座る」

勇者「っしゃ。そうと決まれば明日に備えてぐっすり寝るぞー!」

盗賊「だな。流石の俺様もクタクタだわ。酒も入って眠みぃし」

侍「ではまた明日」

僧侶「はーいっ!」

盗賊「ジーサン、行くぞ」

じい「わしと魔法使いは少し街を散策から戻る」

姫様「こんな夜更けに?」

じい「直ぐに戻りますじゃ」

魔法使い「あ、あのぉ……」

じい「さ、行こう」 スタスタスタ

勇者「何しに行ったんだ?」

姫様「さぁ」

 ・ ・ ・

魔法使い「あ、あにょう」

じい「お主、わしの若い頃によく似ておる」

魔法使い!?」

じい「わしも若い頃はまぁ、あれでな。気付いたら三十を過ぎておった」

魔法使い「……」

じい「晴れて魔法使いとなってしまったのじゃよ」

魔法使い「そうだったんでしゅか……」

じい「じゃがな、本当は魔法使いなどなりとうなかった」

魔法使い「ぼっ、僕もでっす……」

じい「しかしなってしまったものは仕方ない。わしは更なる高みを目指したのじゃ」

魔法使い「そっ、それはつまり」

じい「そう、賢者じゃよ」

魔法使い「!?」

じい「魔法使い、お主には賢者の素質がある」

魔法使い「ぼ、僕に」

じい「これよりお主の、本当の力を開放するのじゃ」

魔法使い「えっ!?」

じい「お主に秘められた力じゃよ。さぁ、ついてまいれ」 ザッ

魔法使い「あ、あの」

じい「とは言っても、わしが何かしてやれるわけではない」

魔法使い「じじじじゃあ」

じい「お主に足りないもの、それは……経験じゃ!」

魔法使い「っ!!」

じい「さぁ魔法使いよ、経験を積んでくるのじゃ! 卒業してくるのじゃ!」

芸者「いらっしゃいましぃ~」

魔法使い「――――っ!?」

 ・ ・ ・

勇者「ったくよぉ。あのバカどもっ、何やってんだよ」

姫様「結局、一晩帰ってこなかったみたいですわね。くあっ」

盗賊「姫ちゃんでもあくびなんてすることあんだな。ギャハハ」

姫様「べっ、別に心配で待ってたわけではありませんわよ!」

僧侶「あれっ、あそこ歩いているの……二人じゃないですか?」

じい「おはようございますじゃ」

勇者「おはようじゃねーよ! 一晩も何してやがったんだ」

じい「まあまあ。ちょっと魔法使いを大人に、な」

勇者「はぁ!?」

魔法使い「おはよう」 ズンッ

勇者「お、おう……っ」

盗賊「魔法……使いだよな?」

魔法使い「他に誰だって言うんだい? HAHAHA!!」

僧侶「な、なんだかすっごく凛々しくなってるような」

勇者「背筋伸びてっし」

盗賊「声もでかいし口調もしっかりしてやがる」

姫様「じい、凄いじゃないっ!!」

じい「彼はもう魔法使いではないですじゃ。その名も……賢者!」

勇者「何ぃ!?」

盗賊「まさかの転職ぅ!?」

魔法使い「……ふぅ」

・ ・ ・

僧侶「賢者、ですか?」

魔法使い「ふぅ。そうなんですよ」

姫様「賢者に転職すると、何か変わるの?」

じい「賢者は如何なる時も、常に冷静でいられるのです」

姫様「ふぅん」

魔法使い「これからは魔物のギャグにも動じませんよ」

僧侶「魔法使い様っ、頼もしいです!」

魔法使い「HAHAHA!!」

勇者「おら、着いたぞ。早くしろい!」
盗賊「そうだそうだ!」

姫様「何をカリカリしているのよ」

勇者「してねぇよ!」

魔法使い「きっと僕の変化に嫉妬しているんですよ」 ボソボソ

勇者「うるせぇな!!」

忍者「主、ここより東側はほぼ探索を終えておりまする」

侍「すると残るは向こう側か」 ザッ

勇者「気ぃつけろよ、白虎のヤローがまた来る可能性はあんだからよ」

侍「その為のそなた等ではないのかな?」

勇者「ちっ、抜け目ねーなぁ」

姫様「さっ、私達も取りかかりましょ」

僧侶「はいっ!」

・ ・ ・

盗賊「だぁーっ。疲れた~腰痛てぇ!」

勇者「ほんとにこの辺りなんだろうな?」

忍者「うむ。秘伝の巻物にはそう記されている」

侍「そびえ立つ城を背に小川流るる花畑にあると言われている。とな」

勇者「言われているだぁ!?」

盗賊「確定じゃねーじゃんかよ」 ドサッ

忍者「だが、花畑の跡地はこの辺り以外に見当たらぬ」

侍「皆はしばし休まれよ。あとはテンの者らで進めるとしよう」

勇者「んじゃお言葉に甘えて」 スタスタスタ

姫様「薄情ね」

僧侶「私、もう少しお手伝いしますよ~」

足軽「おぉっ」

下忍「女神じゃ」

足軽「それに比べ……」 チラッ

勇者「うるせーな! 文句あっか? おっ?」

盗賊「行こうぜ」

勇者「おしっこしたい」

盗賊「俺様もだ。あの影で立ちションすっか」 スタスタ

勇者「ったくよぉ、俺らは白虎が出た時要員じゃねーのかよ」

盗賊「そうだそうだ」 ジョボジョボジョボ

勇者「ふーっ」
盗賊「はぁ~」

勇者「よっと……おわっ!!」 ガツン

盗賊「おいおい気を付けろよ。立ちションした所にコケたら最悪だぞ」

勇者「石ころの分際で……邪魔くせぇなこのっ!!」 ドカッ!!

盗賊「んっ!?」 キラキラキラッ
勇者「な、なんだぁ!?」 キラキラキラ

盗賊「何か、光ってんぞ!!」

勇者「もしやお宝!?」

盗賊「本……みてぇだな」

勇者「まっ、ままままさかっ!!」

勇者・盗賊「「秘伝書おおぉぉ!?」」

忍者「!?」

侍「秘伝書? 何かあったて御座るか!?」 ダッ

勇者「ひっ、ひで……秘伝……っ」

忍者「おぉっ! こ、この光り輝く書物はもしや!」

侍「我等が長年、探し求めていた秘伝書に間違いない……っ!」 ガシッ

勇者「あの……」

侍「湿っておるな。それに、何やら臭い」 クンクン

盗賊「……」
勇者「……」

忍者「長きに渡り地中に埋まっていたので仕方ありませんな」

侍「いやはや、流石は勇者殿だ! 見事なり!」

勇者「ど、どうも……」

・ ・ ・

足軽「おいっ、見えねぇぞ!」 ガヤガヤ

盗賊「押すなっつーの!!」

姫様「ちょっと! どこ触ってるのよっ!」

侍「では、開けまする」

勇者「おう」

侍「まずは……ほう、やはりネタが記されている模様」

勇者「これは……っ」

僧侶「……?」

忍者「長いな。これで一つの作品なのか?」

勇者「無駄骨だったな」

盗賊「あん?」

侍「どういう事だ、勇者殿?」

勇者「こりゃ古典落語に近い。あえて言うなら口上ってとこだな」

盗賊「口上……って何だ?」

姫様「一人トークよ。商人なんかが店先でよくやってるでしょ」

盗賊「ああー」

侍「しかし、何が無駄骨なのだ?」

勇者「この口上、とてもじゃないが出来る代物じゃねぇよ」

僧侶「えっ?」

姫様「確かに、息継ぎする場面が全くないわね」

じい「しかし省略してはネタが成立しなくなってしまう……」

勇者「つまり数分間、息継ぎもなく言い切らなくちゃならねぇ」

盗賊「お前でも無理なんか?」

勇者「冗談じゃねぇよ。窒息死しちまうわ」

侍「何と。死と引き換えの芸当か」

勇者「禁断の奥義ってとこだな」

忍者「せっかくの秘伝書だと言うのに、使い手が居ないのでは仕方ない」

勇者「しかし……ネタとしては最っ高によく出来てやがるな」

姫様「そうね。これを会得出来れば、魔王だって……」

勇者「おい、目の前に立つなよ。暗くて読めねーだろ」

白虎「おお、悪い悪い」

勇者「――――っ!?」

白虎「グワッハハハハ!! また会ったな、勇者!!」

足軽「まっ。魔物だあぁーっ!!」

下忍「逃げろー!!」 スタタタッ

侍「無関係の者は退けいっ!」

白虎「ブワァーッハッハッハッハッハ!!」

足軽「な、何笑って……ぎゃはははは!」 バタン

下忍「くくくっ、わはははは!」 バターン

侍「何とっ。たったひと笑いで数十人が倒れるとは……っ」

勇者「くそっ! おら魔法使い! 賢者の力見せてみろ!」

魔法使い「ほっ、はひぃ!?」

勇者「!?」

盗賊「元に戻ってやがるううぅぅ!」

じい「賢者タイムが終わったのじゃ。今は賢者ではない」

勇者「意味が分からん! 何とかならんのか!?」

白虎「この間の借りは返させて貰うぞッ、勇者ぁ!」

姫様「ネタの準備を!」

盗賊「んなこと言ったって、急すぎて何もできやしねぇよ!」 アタフタ

勇者「攻撃は最大の防御。勇者、一発芸やりま~す」 ホゲー

白虎「なんでやねんっ!!」 ゴアッ!!

勇者「なんつぅツッコミだ。間髪入れる間もなくネタが途切れちまう……」

白虎「カウンターの誘い笑い。ブワァーッハッハッハ!!」

勇者「あはははは!! ひっ、ひいぃ!!」

盗賊「おい勇者――ギャハハハハ!!」

姫様「じいっ、何とかしなさいっ! あはははは!」

じい「賢者モードさえ使えればウハハハハハ」

僧侶「……?」

白虎「小娘、前回の戦いの時もそうであった」

僧侶「は、はいっ」

白虎「貴様は何故、白虎様の笑いに釣られぬのだ!」

僧侶「えっと~偽物の笑いでは、面白くないからですぅ」

白虎「何ィ!?」

勇者(アイツ、くだらねーギャグでも笑うくせに、作られた笑いは効かねぇってのか)

僧侶「だからその、釣られて笑えないというか……ご、ごめんなさいっ!」

勇者「謝らんでいいわ!」

白虎「むぅ、まあ良いわ。小娘一人くらい、後でとっておきのネタで始末してくれようぞ」

じい「僧侶ちゃん、あんたのお陰で何とかなりそうじゃわい」

僧侶「へっ?」

じい「頼みますじゃ。とっておきの……セクシーポーズをして下され!!」

盗賊「何を言ってやがんだエロジジイ!」

じい「それしか窮地を脱する手段はないですじゃ!」

僧侶「で、でもぉ」

じい「早く!!」 クワッ

盗賊「見たいだけじゃねーのかジジイ」

僧侶「……分かりました。やってみます」

 僧侶は 【セクシーポーズ】 をはなった!

じい「駄目駄目っ、もっともっと!」

勇者「この変態老人! いい加減にしやがれ!」

姫様「待って。じいが意味もなくあんな事を言うとは思えないわ」

盗賊「ジジイが死ぬ前に最後の思い出じゃねぇのか?」

じい「もっともっとおおぉぉ!!」

僧侶「うぅー///」

僧侶は 【とんでもないセクシーポーズ】 をはなった!

勇者「――――!?」

盗賊「痛い痛い痛いっ!」

姫様「何が痛いんですの?」

じい「そ、それじゃ! 魔法使いよ、とくと見るのじゃ!」

魔法使い「ごはぁ!!」 ブバッ

じい「ぬおおおおぉぉぉぉ!!」
魔法使い「ふおおおおぉぉぉぉ!!」 ササッ

盗賊「どこ行くんだよ! 逃げる気かコラ!」

じい「…………」
魔法使い「…………」

じい「……ふぅ」
魔法使い「……ふぅ」

勇者「な、何だ?」

じい「待たせたな」 ザッ
魔法使い「僕ら、二大賢者が相手だ」 ザッ

勇者「よく分からんがキター!!」

姫様「だから言ったでしょっ、ただのエロジジイじゃないって」

盗賊「お前が言っていいのかよ」

魔法使い「さぁ、この僕が相手になろうか」

白虎「生意気なァ」

魔法使い「勇者、僕らが盾になるから、その隙に」

勇者「お、おう」

白虎「まとめて笑い殺してくれるわァ! ブワァーッハッハッハッハ!」 ゴウッ!!

魔法使い「……ふぅ」
じい「……ふぅ」

白虎「何イイィィ!?」

魔法使い「賢者である僕には、その程度の笑い、どうって事ないね」

じい「W賢者の策に惑わされるが良い」

白虎「コイツ等ッ、言うだけの事はある」

じい「まずは釣られ笑い返し」
魔法使い「はいっ!」

白虎「それは前の戦いで既に看破しておるわっ!」

魔法使い「でも、時間稼ぎくらいは出来る」

じい「そう、その通りじゃ」

白虎「時間を稼いでネタでも考えるかァ? ンンー?」

勇者「盗賊、忍者」

盗賊「おう」
忍者「何用か?」 ザッ

勇者「今のうちにごにょごにょ……」

忍者「成程」
盗賊「オッケー。任せとけ!」 バッ!!

じい「ふむ」 チラッ

魔法使い「確かに時間稼ぎに意味はないかな」

白虎「ブワァーッハッハ!! 気付くのが遅いわッ!!」

じい「ならば次じゃ」

魔法使い「ふぅ」

白虎「次? 次などないわいッ!」

じい「魔法使い、良いか?」

魔法使い「いつでも」

白虎「喰らえッ、ブワーッハッハッハッハッハ!!」

じい「勇者殿っ、回復を付けて下され」

勇者「なるほどっ。僧侶、姫、二人にセクシーポーズだ!」

僧侶「は、はいっ!」
姫様「私もですの!?」

 僧侶と姫様は 【セクシーポーズ】 をはなった!

魔法使い「ふおおぉぉぉぉっ!」
じい「もっともっとおおぉぉ!」

僧侶「えぇっ!?」
姫様「これがっ、限界よぉ」


 僧侶と姫様は 【強烈なセクシーポーズ】 をはなった!

魔法使い「ぐおおおおぉぉぉぉーっ!!」
じい「まだまだああああぁぁぁぁ!!」

僧侶「ひえぇ……っ!」
姫様「ほんとのほんとに、限界なんだからぁ!」

 僧侶と姫様は 【とんでもないセクシーポーズ】 をはなった!

魔法使い「――――っ!?」
じい「――――!!!!」

白虎「な、何だァ!?」

魔法使い「はぁはぁはぁ……ああああぁぁぁぁ!!」 ビクビクビクッ!!
じい「い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!」 プッツーン

魔法使い「…………ふぅ」 シュウウゥゥ
じい「…………ふぅ」 ゴゴゴゴゴゴ

白虎「何が起きたというのだッ!?」

じい「賢者タイム中に更に賢者タイム」

魔法使い「これぞ、スーパー賢者タイムだ!」

白虎「スーパー賢者タイムだとぉ!?」

じい「今のわしらには、どんなネタだろうが通用せんっ!」

白虎「な、ならば試してくれるわ!!」 ゴウッ!!

勇者「おぉ!? 白虎の誘い笑いにも無表情!!」

僧侶「すっ、凄い!」

白虎「クッ! ならばショートコントを!」

じい「白虎よ、貴様はもう終わりじゃ」

白虎「!?」

魔法使い「誘い笑いや大声でのツッコミによるネタの強制終了」

じい「そんな小手先の技に溺れて、本来のネタを忘れた貴様など」

魔法使い「もはや、芸人として終わっているよ……ふぅ」

白虎「こ、この……人間風情がアアァァ!!」

盗賊「おっとぉ、お前のターンはもうお終いだぜぇ~?」 ズザァ

忍者「そぉーれ、忍法くすぐりの術」 コチョコチョ

白虎「ギャーッハッハッハッハッハ!!」

勇者「今だっ!」

じい「頼むぞ勇者殿。ふぅ」

魔法使い「奴のネタは僕らが完全に封じますから。ふぅ」

盗賊「勇者ぁ、決めろぉ!!」

忍者「頼むで御座るよ」

勇者「最っ高のネタを見せてやるぜええぇぇ!!」

 勇者は 【渾身のギャグ】 をはなった!

白虎「ブワァーッハッハッハ……」

勇者「どうでいっ」

白虎「……え?」

勇者「は?」

白虎「今の……ギャグ……か?」

勇者「!?」

じい「まさかの空振りいいぃぃ!?」

盗賊「何やってんだこのボケェ!!」

勇者「な、何で効かねぇんだ……っ」

白虎「いや、普通に面白くないし」

勇者「はあぁ!?」

盗賊「マジかよ……」

姫様「大事な時に、何やってるのよぉ!!」

白虎「お前、ピンだと面白くないんだな」

勇者「ぜってぇ笑い殺す!!」

 勇者は 【切り札のネタ】 をはなった!

白虎「…………」 ポカーン

勇者「はぁ、はぁっ、どうでい!」

白虎「いや、どうでいって言われても」

盗賊「てんめぇ!! 大真面目にやれっ!!」

勇者「真面目にやってるっつーの!」

白虎「劣勢かと思ったが、肝心の攻撃が大した事ないのでは怖くはないな」

勇者「俺のネタが通じねぇなんて、笑いの分からん奴めっ」

姫様「貴方が情けないのよっ! バカっ!」

勇者「くそぉ、どうする……っ」

侍「勇者殿、某が参ろう」 ザッ

勇者「何っ? お前、ネタできんのか?」

侍「苦手ではあるが、何もせんわけにはいかぬで御座る」

盗賊「こうなったらアイツに全てを託すしかねぇ! やるぞ、ニンジャ!」

忍者「承知」 コチョコチョ

白虎「ギャハハハハハ!!」

侍「食らえっ、我が渾身の一撃!」

 侍は 【ギャグ】 をはなった!

侍「桶屋の前に……置けや」

勇者「……」
盗賊「……」
姫様「……」
じい「……」
魔法使い「……」

僧侶「くふふっ」

勇者「てんめぇ……」

白虎「グフハッ、おっと!」

盗賊「ウケただとぉ!?」

白虎「ウケてないわボケ!」

勇者「コイツ、もしかして……」

姫様「オヤジギャグ好き!?」

勇者「この囲い、カッコイー!!」

白虎「ギャハッ! しまっ――」

勇者「なーんだ、そういう事かぁ」 ニヤリ

じい「どうやら、片付いたかのう……ふぅ」

侍「刀を買ったな」

白虎「ブハハッ! ギャハハハハ!」

勇者「馬車に水がかかりました。バシャバシャ」

白虎「グワァーッハッハッハ! ヒイィ!」

盗賊「戦士が戦死」

白虎「グフハアアァァァァ! ハッハッハッハ!」

勇者「不謹慎なこと言ってんじゃねぇ!!」

盗賊「おぉ、すまん」

姫様「そろそろトドメよ」

勇者「おう! 行くぜぇ、布団がああぁぁ」

盗賊「吹っ飛んだ!!」
姫様「吹っ飛んだ!!」
侍「吹っ飛んだ!!」

白虎「――――っ!!」

魔法使い「どうだっ?」

白虎「ま、まさかこの……白虎様がァ……」

勇者「お前の敗因は、本当の笑いを忘れちまったことだ」

白虎「白虎様ガアアアアァァァァ」

勇者「とどめ。サムい侍」

侍「!?」

白虎「魔王様アアアアァァァ――――」 ズッドーン!!

勇者「おっしゃ!」

盗賊「ふいーっ、強敵だったな」

姫様「流石は四天王と言ったところかしらね」

魔法使い「ぐはっ」 ドサッ
じい「ああああああああ」 バターン

忍者「どうしたのだ!?」

じい「賢者モードの……使いすぎです……じゃ」

姫様「じいっ、しっかり!」

盗賊「じいの自慰、なんちゃって」

姫様「……」
僧侶「……」

盗賊「……ゴメンナサイ」

侍「経典も手に入り、魔物も倒した。さて、テンの国に変えると致そうか」

足軽「侍様ぁー! 手負いの者は荷車に乗せましたぜぇ!」

下忍「力尽きた者は、埋葬致しました……」

忍者「そうか」

勇者「無傷とはいかなかったが、仕方ねぇか」

盗賊「魔王を倒すまでの辛抱なんだろ? もうちょいじゃねぇか」

勇者「ああ、そうだな」

 勇者たちは 【白虎】 をたおした!

・ ・ ・

僧侶「到着~ですねっ」

盗賊「生きて帰ってこれたな、テンの国」

侍「さて、お主達も付いて参られよ」

勇者「どこ行くんだよ」

侍「殿の元で御座る」

勇者「殿?」

忍者「そなた等の言う、王で御座る」

勇者「おー」

姫様「いちいち余計な小ネタ挟まないで頂戴」

勇者「……」

盗賊「お前らは先に宿で休んでろよ」

じい「そ、そうさせて頂こうかの……」 フラフラ

魔法使い「づびばぜん……っ」 ヨロヨロ

勇者「んで、トノってのはどこにいるんだ?」

侍「殿はあの城に居られる」

僧侶「あのでっかい建物、お城だったんですねぇ~」

姫様「異国の文化に接するのは楽しみが多いわね」

忍者「くれぐれも失礼のなき様」

勇者「お前のその発言が失礼だろ」

・ ・ ・

家老「よく戻られた侍殿」

侍「これはご家老。是非、殿にご面会を」

家老「うむ。ところでそちらの方々は何者じゃ?」

侍「魔王を倒すべく旅をされておる、勇者ご一行で御座る」

家老「おぉっ、噂には聞いておる」

勇者「ふっふっふ。それはそれはなにより」

家老「おっ、殿が参られたぞ」

殿「やぁやぁ、ご苦労」

侍「殿、この者ら――」

殿「話は聞いた。勇者一行であるな?」

勇者「おうよ」

殿「侍等の助太刀をしてくれたそうだな。礼を言うぞ」

勇者「なーに、大したことじゃねぇよ」

姫様「そうですわよ。こちらも結果的に四天王の一人を倒せたんですし」

殿「些細ではあるが、感謝の意を表して宴を催したいのだが」

盗賊「おっ! そいつは大歓迎」

僧侶「でもぉ、魔法使い様とじい様が居ませんよ?」

忍者「殿、先の戦いで負傷した者が二人居りまして」

殿「何? それは聞き捨てならぬな。是非、見舞いを」

勇者「いやいや気にしないでいいすよ。自業自得だし」

殿「しかしだな」

侍「であれば、明日に改めて、という事では如何ですかな?」

殿「そう致すか」

家老「では明日、宴の手配を整えましょう」

侍「では我々はこれにて」

勇者「んじゃ、また明日な」

殿「明日は色々と話を聞かせてくれ」

勇者「おうよ!」

 ……

侍「良き主であろう?」 スタスタ

勇者「そうだな。若いのに立派なもんだ」

侍「拙者は殿の為にも平和な世を築きたい」

姫様「だから伝説の秘伝書を」

侍「うむ。この地は魔物の大陸に程近い。魔物も定期的に偵察に参る」

勇者「何っ!?」

盗賊「やっぱ近いのか!」

忍者「主」

侍「そうだな。ついて参られるが良い」

僧侶「どこへ行くんですかぁ?」

侍「岬じゃ」

勇者「……?」

 ……

姫様「断崖絶壁ね」

侍「暗くて見えづらいやもしれぬが、あの先にうっすら見えるであろう?」

盗賊「あれが魔物大陸ってか?」

忍者「そうだ。この海峡を越えて、魔物がやって来るのだ」

侍「人々は魔物に怯え、城壁に囲まれた街から外へ出ようとはしないで御座る」

僧侶「こんな素敵な場所なのに……」

侍「朝や昼は、もっと素晴らしい眺めで御座るよ」

姫様「皆に見て貰いたいわね」

侍「その為にも、魔物を倒さねばならぬ」

勇者「ま、それもそうすぐさ」

侍「勇者殿?」

勇者「この勇者様がチャチャっと魔王ブッ倒してやっからよ!」

侍「頼もしい限りで御座るな」

盗賊「そん時は、たらふく褒美を用意してくれよな。ヒャハハ」

姫様「全く、貴方はそればっかりですわね」

盗賊「こちとら命掛けてんだ! トーゼンだろ!」

姫様「その前に逮捕されなければ良いですけれどね」 ツン

盗賊「……っ」

 ……

魔法使い「ううう宴!?」

勇者「おうよ。だから城に行くぞ」 スタスタ

姫様「じいも、もう体調は万全なの?」

じい「ご心配をお掛けしましたじゃ」

僧侶「良かったですねぇ」

盗賊「お、侍と忍者だ」

侍「お待ちしておりましたぞ、ご一行」

忍者「殿がお待ちだ。さぁ、参ろう」

勇者「おうっ」

 ……

家老「ささ、おくつろぎ下され」

盗賊「遠慮なく!」

殿「今宵は心行くまで、飲み明かしてくれ」

勇者「うひょー! 美味そう~!」

僧侶「本当ですねぇ~」

殿「それでは勇者一行の無事を祈願して、乾杯」

盗賊「カンパーイ!!」

勇者「いやぁ、こりゃ美味いわ!」 バクバク

魔法使い「ほっ、本当でしゅうね」 モグモグ

殿「勇者殿、これまでの旅の話など聞かせては貰えぬか?」

勇者「いいでしょう。我が武勇伝、とくと聞かせましょう! わっはっは!」

姫様「そんなに濃厚でもないでしょう?」

勇者「うるせー!!」

 ……

殿「いやはや、楽しいひと時であった。感謝するぞ勇者殿」

勇者「こっちこそ盛大な持てなし、ありがとさんだ」

殿「最後に一つ、頼みを聞いては貰えぬだろうか?」

勇者「あん?」

殿「侍を魔王討伐の供に連れて行ってやってはくれまいか?」

勇者「へっ?」

侍「と、殿っ」

殿「こやつは常日頃より、魔物に倒しての思い入れが強くてな」

侍「殿……」

殿「それ以上に、テンの国の平和を、自らの手で築きたいと感じておる」

忍者「某からも頼み申す。どうか我が主を、勇者殿の一行に加えて頂きたい」

勇者「個人的には忍者のアンタが欲しいとこだな」

忍者「某、でござるか?」

勇者「ああ。アンタのスピードは役に立つ。そこの酔っ払いと並んでな」

盗賊「だれが酔っ払いだってぇ~ヒック」

侍「ではっ、某も――」

勇者「アンタあはサムライって言うよりもサムイって感じだしなぁ」

侍「……」

勇者「役に立つとはあまり思えな――」 グイッ

殿「……おい」

勇者「ち、ちょっと……離せって」

殿「だれが役に立たないだとぉ!?」

勇者「!?」

殿「くぉ~の私の重鎮である侍が、クソ面白くなくて使えない役立たずのカスだとぉ!?」

勇者「そこまで言ってね……ぐえっ!!」

殿「おうコラ! 連れて行かねぇってんなら、今まで飲み食いしたモン返して貰おうかぁ!」

勇者「――!?」

殿「今すぐ全て吐き出してテンから出てくか、代金払ってテンから出てくか決めろやコラァ!」

勇者「ひいいぃぃ!!」

盗賊「まぁまぁ殿サンよ。許してやんな」

殿「あぁ!?」

盗賊「勇者っちもよ、笑わせようと思って冗談で言ったんだよなぁ~? ヒック」

勇者「そそっ、そう! 冗談! 冗談っ!!」

殿「冗談だとぉ!?」 ピクッ

勇者「そそそうなんですよぉ! あはっ、あはははは……っ」

殿「それならばそうと申してくれれば良かろうに」 パッ

勇者「ぐえっ」 ドサッ

侍「大丈夫で御座るか、勇者殿」

勇者「い、一体……どうなってんだ。ごほごほっ」

侍「殿は拙者やテンの者を馬鹿にされると激高するので御座る」 ヒソヒソ

忍者「普段はとても温厚なのだが……」 ヒソヒソ

勇者「そ、それを早く言えっ!」

盗賊「もうみーんなまとめて、連れてっちゃうぜ~!」

殿「そうかそうか。それは何よりじゃ」

勇者「勝手に決めるな!」

殿「何?」 ジロリ

勇者「い、いやっ! 侍……さんと忍者さんには期待してますハイ」

殿「宜しく頼むぞ」 ニッコリ

僧侶「仲間が増えて良かったですねぇ、勇者様っ」

勇者「……はぁ」

 【侍】 と 【忍者】 が仲間になった!

 ……

勇者「さぁて、いざ行かん魔物の大陸へ」

盗賊「海路はアンタらが案内してくれ。任せるぜ」

忍者「承知」

姫様「いよいよね」

僧侶「なんだか、怖くなってきましたよ……っ」

盗賊「大丈夫大丈夫。俺様が守ってやっから!」

姫様「余計に心配ね」

侍「勇者殿」

勇者「あん?」

侍「某、正直言って芸には自信が御座らぬ」

勇者「でしょうね」

侍「勇者殿の采配にしたがって戦いまする。なんなりとお申し付け下され」

勇者「おーう」

姫様「勇者、ちょっと良いかしら?」 スタスタ

勇者「ん?」

忍者「主、盗賊殿が呼んでおられます」

侍「うむ、今参る」 スタスタ

勇者「んで、何だよ」

姫様「編成の事だけど」

勇者「編成?」

姫様「ここから先は相手の本拠よ。作戦を練らないと」

勇者「んなの、俺がサクッと倒してやるって」

姫様「そんな甘い考えではやられるわよ」

勇者「何だと」

姫様「思い出してみなさい。今までだって苦戦してきたのでしょう?」

勇者「確かに。四天王もあと1人、残ってやがるしな」

姫様「先頭は盗賊と忍者さんで仕掛けましょ」

勇者「だな。アイツらの素早さは奇襲くすぐりで役に立つ」

姫様「中軸には私達ね」

勇者「いーや、魔法使いとじいだな」

姫様「そうなの?」

勇者「あと、その後ろにお前と僧侶」

姫様「えっ、また……あれやるの?」

勇者「やってもらわにゃ困る」

姫様「でもあれ、副作用が凄いみたいだし」

勇者「自業自得だろ」

姫様「えっ? あの技の秘密、見破ったの?」

勇者「いやっ、まぁ……なんとなく」

姫様「なに?」

勇者「それはどーでもいいんだよ! とにかくその配置でいいっつの!」

姫様「ふぅん、まぁ良いけど」

勇者「魔王の前に、まずは四天王を片付けねーとな」

姫様「そうね……って勇者!」

勇者「あん?」

姫様「編成っ、貴方はどこにつくのよ?」

勇者「ん、ああ。俺はテキトーに動くわ」 スタスタ

姫様「適当って貴方ねぇ……」

勇者「その方が臨機応変に動けていいだろ」

姫様「!?」

勇者「くすぐり隊が成功すればそのままネタをブチこめばいいしー、
    駄目なら賢者ーズの援護を待てばいいしー」

姫様「意外と、きちんと考えてるのね」

勇者「バカにすんなよ」

姫様「ちょっと、見直した」

勇者「わはは」

姫様「勇者、頑張りましょうね」

勇者「言われんでも頑張るっつの」 スタスタ

姫様「……」

 ……

魔法使い「あっ、あれあれああ! れれれっ!」

忍者「見えてきたな。あれが魔物の住む大陸だ」

盗賊「なんか、ドンヨリしてんなぁ」

侍「十分に気を付けるで御座るよ」

じい「岸壁が鋭いですじゃ。船をゆっくり近づけ――」 ドゴオォン!!

僧侶「きゃあーっ!」
姫様「きゃああぁぁ!」

盗賊「やっべ、飛び降りろぉ!!」 ババッ

魔法使い「ふふふっ、。ふねふね……っ!」

忍者「沈没した」

盗賊「やっべー。やっちったわ」

侍「皆、無事で御座るな」

姫様「ちょっと待って、勇者がいないわよっ!?」

じい「あれを見るですじゃ」

侍「!?」

僧侶「勇者様ぁ!!」

勇者「……」 ピクピク

盗賊「んなとこで、何してんだ?」

勇者「テメーが飛び降りろっつったから飛び降りたんだろうがっ!!」

盗賊「あ、あぁ」

勇者「そしたら受け身とれなくて、このザマなんだろうがよ!」

僧侶「ぷふっ」

勇者「笑いごとじゃねぇ!!」

忍者「船を失ってしまったな」

勇者「テメー! どんな操舵してやがんだ!」

盗賊「あぁ!?」

勇者「ジジイがゆっくりって言った矢先じゃねぇか!」

盗賊「こちとら素人なんだよ。んなことできっかっての!」

勇者「散々やっておいて、今更、素人ヅラすんのかよ!」

盗賊「誰もできねぇからやってやったんだろ! 何だよのそ言い方はよ!」

姫様「ちょっと二人共、やめてよ」

勇者「うるせぇ! 関係ねー奴は黙ってろ!」

盗賊「そうだ。姫ちゃんは引っ込んでな」

姫様「関係ないですってぇ!? 仲間じゃない!」

勇者「勝手についてきただけだろうが」

姫様「――――っ!?」

僧侶「勇者様、言い過ぎですよぉ」

勇者「うるせぇって言ってんだよ!!」

じい「いい加減にせんかっ!!」

勇者「!?」

じい「これから大きな戦いが待っていると言うのに、一丸とならずしてどうする!」

姫様「じい……っ」

じい「先の戦いで、儂は賢者として、勇者と共に魔王と戦った」

侍「何とっ!!」

じい「あの時もそうじゃった。魔王との戦い直前、皆の心が乱れてしまった」

盗賊「どういう事だ?」

じい「意見の食い違いでな。それが尾を引いてしまったんじゃよ」

勇者「おいジジイ、そりゃどういう意味だ?」

じい「チームワークが乱れたまま魔王と戦い、無駄な犠牲を出してしまったのじゃ」

僧侶「っ!!」

じい「儂と勇者を除く仲間が、魔王に殺されてしまったのじゃよ」

忍者「そうだったのか」

じい「じゃが、その犠牲もあり、儂らはやっとの事で、魔王を封印する事が出来たのじゃ」

勇者「それで教科書には決着付かず、引き分けって書いてあったのか」

じい「封印したのは魔王による悪の力。引き分けどころか、儂らの敗北じゃよ」

姫様「そんな事ないわよ。じい達が居たお陰で、こうして今があるのだから」

じい「姫様にそう申して頂けると、気が休まりますわい」

姫様「皆だって、そう思っているわよ。ねぇ?」

僧侶「そうですよっ」

魔法使い「ももも、もちろん……っ」

勇者「なぁ、ジジイ」

じい「なんじゃ?」

勇者「魔王の目的はなんなんだ? どうしてこんなことをしてやがる?」

じい「さぁ。じゃが、己の力を取り戻す為に必要なのやもしれぬな」

勇者「力?」

じい「封印した悪の力じゃよ。それを開放するのに、動いておるのやもしれん」

盗賊「なるほどな」

勇者「なぁ、先代の勇者ってのは今、どこで何してんだ?」

じい「さぁな。魔王と戦ったあの日以来、会っとらんよ」

勇者「そうか」

じい「当時十歳。今も生きておれば六十じゃからまだ健在じゃろうな」

盗賊「当時十歳だぁ!?」

姫様「若いのに凄いわね……。誰かさんとは大違い」

勇者「あぁん?」

じい「さて昔話はお終いじゃ。勇者よ、怒鳴ってすまなかったな」

勇者「……こっちこそ、悪かったよ」

盗賊「俺もだ。すまねぇ」

僧侶「仲直り出来て、良かったですねぇ」

じい「二度と過ちは繰り返さぬぞ。儂が居る限りな」

姫様「じい?」

じい「何でもないですじゃ。さ、進みましょう」

青龍「どこへ行こうというのかねぇ?」 ザッ

侍「――!?」

忍者(な、何だこいつはっ。気配が全くなかったぞ……っ)

勇者「何だテメーは?」

青龍「四天王が一人、疾風の青龍とは儂の事よ」

勇者「何ぃ!?」

青龍「よくぞここまで辿り着いたと誉めてやろう」

盗賊「けっ、ありきたりなセリフを」

青龍「だが、貴様等の命もここまでだ。笑い死ぬが良いッ!」

姫様「くるわよっ!」

勇者「みんなっ、配置につけぇ!」

盗賊「行くぞぉ!」

忍者「承知っ」 シュタタッ

青龍「さて、毎度馬鹿馬鹿しい小話を一つ」 スッ

侍「むっ、正座をしたで御座るよ」

勇者「こ、これはまさか……っ」

忍者「くらえっ」

盗賊「コチョコチョコチョコチョ」

青龍「とある国のとある村に、一人の青年がおったそうな」

盗賊「な、何いいぃぃ!?」

忍者「くすぐりの術が……効かぬだとぉ!?」

姫様「落語……っ」

勇者「ああ。コイツは厄介だ」

僧侶「えっ!?」

姫様「落語はこちらがツッコミを入れるような術はないわ」

じい「しかも、口上にはかなりの精神力を持ちうるですじゃ」

僧侶「どっ、どういう事ですか?」

勇者「くすぐりも、ツッコミによるネタの強制終了もできねぇって事だ」

僧侶「そんな……っ」

侍「ではっ、どうすれば」

勇者「……耐えるしかない」

僧侶「そんなっ」

青龍「そこで青年、一つの柿を口にし、こう言った。『こりゃ渋い』 」

僧侶「ぷくっ」

侍「いかん、これは面白い」

青龍「ちょいとおかみさん、こりゃなんだい? 柿? そんな事は知ってるよ」

盗賊「ぶふっ」

忍者「くっ、不覚……っ」

青龍「渋いなら食べなきゃ良かろう? いんや、もう食べちまったから困ってるんだ」

魔法使い「ぐふふふふっ」

じい「何と爽やかな笑いよ。疾風とはよく言ったものじゃ」

青龍「この期に及んで青年ときたら、文句を滝の如く浴びせるからたまったもんじゃない」

勇者「なんでやねん!」

青龍「次から次へと出る文句、利き手衆もイライラの限界」

勇者「なんでやねんっ!!」

青龍「ついに堪忍袋の緒が切れた。 『黙って聞いてりゃあ何なんだいっ!』 ってな」

勇者「なんでやねんっ!!!!」

じい「駄目じゃよ勇者殿」

勇者「くっ、くそぉ」

魔法使い「大賢者しゃまぁ……こうななったらら」

じい「やるしかあるまいか」

勇者「賢者モードか?」

じい「それ以外に活路は見出せんじゃろ」 ザッ

勇者「よぉし、僧侶! 姫っ! セクシーポーズだ!」

僧侶「!?」

姫様「も、もうやるの? ふふふっ」

勇者「早くしねぇと、笑い殺されんぞ!」

姫様「くふふっ、仕方ないわね……あはは」

僧侶「あはははははっ、はいぃ」 タタタッ

青龍「ところがどっこい、青年はこう言ったんだ。 『俺の話かい?』 ってね」

盗賊「ぎゃははは!」

僧侶「あはははははっ!」

勇者「笑ってねーで早くしろっ!!」

僧侶「は、はひぃ」

姫様「こ、これで良い?」 ピラッ

じい「ふおおぉぉぉぉ」

勇者「もっと、もっとだ!!」

姫様「なんなのよもうっ!」 バキューン

僧侶「セ、セクシーポーズ!!」 ドキューン

 【姫様】 と 【僧侶】 は きわどいセクシポーズをはなった!

魔法使い「ブーッ!!」 ブバッ!!

じい「あがががががが……っ」

青龍「むっ!?」

魔法使い「はああああぁぁぁ!! いったああああぁぁぁぁ!!」

じい「おほおおおおぉぉぉぉーっ!!」 シュウウゥゥ

勇者「よっしゃあ、頼むぜ~」

魔法使い「ふぅ」
じい「ふぅ」

盗賊「け、賢者……モードか」 ガクッ

僧侶「盗賊様っ」

侍「まだだ、まだ倒れるわけには……」

忍者「ぬぐぐっ」

姫様「全滅寸前、ギリギリだったわね」

勇者「ああ。でもこれで終わったわけじゃねぇ」

姫様「そうね。次の手は?」

勇者「どうすっかな。まずはあの二人のお手並み拝見といくか」

青龍「何という研ぎ澄まされた精神力よ」

じい「悪いがお主の技は、もう通用せんぞ」

青龍「それはどうかな?」 ニヤリ

じい「賢者に同じネタは二度と通用せぬと申しておるのだ」

青龍「同じネタ? ククッ、この青龍が三下のようなネタの使い回しをするとでも?」

じい「何っ? 新ネタを用意しているのか。やはり手強い」

魔法使い「ふぅ」

青龍「どうにも不気味。仕掛けられる前に先手必勝よ」 ザッ

じい「魔法使い、精神統一じゃ」

魔法使い「……ふぅ」

勇者「すげぇ集中力だ。あれなら落語は通じねぇ」

姫様「そうね。あそこまで悟りの境地に入っていれば、小難しネタはかえって逆効果」

じい「青龍、破れたりっ!」

青龍「馬鹿めェ!!」

魔法使い「!?」

青龍「びろ~ん」 ホゲー

じい「――――っ!!」

勇者「一発ネタだとぉ!? ぎゃっははははは!!」

盗賊「あははっ、あはははは!! ひいいぃぃ!!」

姫様「さっきのっ、落語と差がありすぎて余計にもあはははは!」

忍者「…………」 ピクピク
侍「…………」 ピクピク

僧侶「おなっ、お腹……いったいいぃぃ!!」 ピクピク

青龍「ばぁ~っ」

魔法使い「ぎゃはははははがふっ!!」 ドシャッ

勇者「こひゅーっ、こひゅーっ」 ピクピクピク

姫様(先にハイレベルなギャグを見せておいて、後から一発芸……っ)

青龍「片付いたようだな」 スタッ

姫様(その落差までも利用した計画的な笑い。完璧にやられたわね)

青龍「勇者一行よ。今日までの快進撃、どうやら奇跡だったようだな」

勇者(今までの三人なんざ雑魚にすぎねぇっ、レベルが桁違いに高すぎる……っ)

青龍「それ。念仏代わりに止めの落語でも――」

じい「…………」 ザッ

青龍「ほう、まだ立てるのか」

じい「困った……もんじゃ」

青龍「何だそれは?」

じい「ここまできて、お主のような化物に遭遇しちまうとはのう」

青龍「何だと申しておる」

じい「やれやれじゃわい」

青龍「手にしたそれは、何だと聞いているッ!!」

じい「ああ、これか? これは……秘伝書じゃ」

勇者「――――っ!?」

侍「い、何時の間に……っ」

青龍「秘伝書、だとぉ?」

じい「青龍よ、あんたは強かったが、これで終わりじゃ」

青龍「何をつべこべとォ」

勇者「ジ、ジジイ……っ」

じい「勇者、後は……任せたぞ」 ザッ

勇者「無理だぁ!! その秘伝書はぁ、長すぎて読め――」

じい「すぅ――――ふぅ」 コホン

姫様「じい……やめて、駄目よ……っ!」

じい「これより述べるは毎度馬鹿馬鹿しい話なんだがその前に小話を一つ」

姫様「駄目っ、じいっ! 駄目っ、やめてよぉ!」

じい「それはそれは馬鹿馬鹿しいのだがはて、どこまで話せばよいものか」

青龍「ククッ」

じい「まず紹介せねばならぬのはこの女が紙の長い色白の女である事と」(さらば、勇者)

勇者「ジジイ!! やめろおおぉぉぉぉ!!」

じい「その女の旦那がこれまただらしのない博打打ちの冴えない男である事なわけでな」

姫様「じい……っ」 ツツー

じい(さらば、姫様。有難う――)

姫様「じいいいいぃぃぃぃ!!」

青龍「な、なんだこの口上は!? 休む刻を与えぬと言うのかッ!!」

じい「それもそのはずこの男は女房を質に入れてでもと今日此処へきたわけで――」

青龍「クハッ、ハハハハ!! くそぉ、何という面白さッ! クハハハハハァ!!」

じい「そこで横に居た博打仲間が言うわけだ『ありゃあとんでもねぇ代物さ』ってねぇ」

青龍「魔王様ァ、こやつ等……本物の……ハハハハアアァァァァ――――」 ドサッ

じい「でもよぉがはっ、あ……れ…………を…………」

勇者「じじいっ! もういいっ、もう青龍は倒したんだ!」

じい「…………」

姫様「じいっ!!」 ダッ

勇者「…………っ」

姫様「勇者っ! じいを、じいを早くっ!」

勇者「……駄目だ」

姫様「!?」

勇者「既に……死んでる。立ったまま、死んじまってるんだ」

姫様「――――っ!!」

魔法使い「だ、大賢者……様ぁ……」

僧侶「そんなっ、そんな!」

勇者「じじい……いや、大賢者。あんたの……勝ちだ」

 【青龍】 をたおした! 【じい】 は しんでしまった!

 ……

盗賊「あれからもう一か月近くか」

僧侶「勇者様、無事なんでしょうか……っ」

侍「勇者殿は強い。きっと無事で御座るよ」

姫様「ごめんなさい。私のせいで……」

盗賊「姫ちゃんのせいじゃないって」

僧侶「そうですよ、姫様っ」

姫様「……っ」

 ――

姫様『じいっ! じい!!』

忍者『……残念だが』

盗賊『くそぉ!』 ガンッ

姫様『何が編成よ! 作戦よっ! 全然駄目じゃないっ!』

勇者『…………』

姫様『貴方が、貴方のせいでじいが……うぅっ』 バシバシ

勇者『…………』

盗賊『姫ちゃんよ、何も勇者だけのせいってわけじゃ……』

姫様『うあぁっ、うわああぁぁぁぁん!』 ボロボロボロ

勇者『秘伝書貸せ』

侍『勇者殿?』

勇者『しばらく一人にさせてくれ』

僧侶『勇者……様?』

勇者『お前らはこの洞窟にいろ。雑魚が来ても今のお前らなら倒せんだろ』

姫様『どこ行くのよ、、逃げる気?』

勇者『ああ、そうかもな』 スタスタスタ

姫様『……っ』 ボロボロボロ

侍『勇者殿っ』 タッタッタ

勇者『俺のせいだ……っ』 ググッ

侍『勇者殿、お主のせいではない』

勇者『こんなんじゃ魔王なんざ倒せねぇ。勝つ為には必ずアレを』 ボソッ

侍『勇者殿?』

勇者『んじゃ、秘伝書は借りてくぞ』 スタスタスタ

忍者『主、宜しいので?』 ザッ

侍『勇者殿は自問自答しておった』

忍者『責を背負うと?』

侍『乗り越えるには己を越えるしかあるまい。一人にしてやろうではないか』

忍者『御意に』

 ――

忍者「勇者殿は己を悔いていた。自身で望んだ事」

盗賊「それにしちゃー遅せぇけどな」

侍「しかしこの一か月、魔物がほとんど襲ってこなかった事は救いであった」

盗賊「青龍との一戦で敵もビビッてるみてーだな」

侍「迂闊に手を出せぬという事で御座るか」

姫様「出せないでしょうね。四天王が全滅したのだから」

盗賊「でもまぁ、いつまでもこの洞窟に籠ってるわけにもいかねーよなぁ」

勇者「その通りだ」 ザッザッ

僧侶「勇者様っ!!」

盗賊「てめーこのやろう、心配させやがって!」

勇者「心配してたんか?」

盗賊「バッ、バカ言うなよ! だーれが心配なんてするかっての!」

侍「勇者殿、その声は」

勇者「ちょっと頑張り過ぎて枯れちまった。ま、問題ねぇよ」

僧侶「大丈夫ですか? 飴、舐めます?」

勇者「う、うん。ありがとう」

忍者「これで準備は整ったという事か」

盗賊「もう大丈夫なんだろうな?」

勇者「おう、任せとけ。おめーらも準備はできてっか?」

盗賊「もち」
僧侶「バッチリですっ!」
侍「何時でも」
忍者「準備は整っておる」
姫様「残す敵は一人よ」

勇者「魔法使いはどうした?」

姫様「彼なら、あそこに」

勇者「……?」

魔法使い「さて、行こうか。ふぅ」 スタスタ

勇者「早くも賢者モード!?」

姫様「この一か月で、魔法使いは常時、賢者モードを保つ事が出来るようになったの」

勇者「マジかよ……っ」

盗賊「何も頑張ってたのは、お前一人じゃねぇってことだ」

勇者「へっ、頼もしい限りだぜ」

魔法使い「大賢者様の意思は僕が継ぐよ。ふぅ」

勇者「おーし、そんじゃあ出発だ! いざ魔王討伐へ!」

僧侶「おーっ!!」

姫様「勇者、秘伝書貸しなさい」

勇者「あ?」

姫様「一人占めするつもり?」

勇者「そんなんじゃねーけどよ、どうするつもりだ?」 スッ

姫様「ありがと」 パラパラ

勇者「おい、聞いてんのか?」

姫様「一度読めば、覚えられるわ」 パラパラ

勇者「――!?」

姫様「……うん、オッケー。はい」 パサッ

魔法使い「ふぅ」 パラパラパラ

勇者「魔法使いまで……っ」

魔法使い「覚えておいて損はないさ。ふぅ」 パラパラ

勇者「お前ら……」

僧侶「勇者様っ」

勇者「おいおい、まさか僧侶まで……」

僧侶「飴、おかわり要ります?」 ニコニコ

勇者「う、うん。ありがとう」

 ……

忍者「大丈夫だ」 シュタッ

侍「ここまでは順調で御座るな」

盗賊「魔物もほとんど襲ってこねーし」

姫様「襲って来ても一蹴だしね」

勇者「僧侶の力があっても魔物が寄ってこねーとはな」

僧侶「そういえば、そうですねぇ」

勇者「おいおい、自分の力くらい把握しとけよな」

侍「勇者殿っ!!」

勇者「急にでけぇ声出すなっ、ごほごほ」

忍者「あれを」 スッ

勇者「!?」

姫様「あの山の頂上に見えるあれって……」

魔法使い「どうやら城のようだね。ふぅ」

盗賊「あそこに魔王がいるってのか」

忍者「そう考えるのが妥当であろうな」

侍「では、参ろうか」

姫様「いいわね、勇者?」

勇者「……ああ。行こう」

 ……

僧侶「ここが魔王城……っ」

盗賊「真っ暗でなんも見えねーや」

忍者「松明に火をつけるぞ」 ボッ

姫様「不気味な所ね」

侍「しかし、魔物の気配は微塵も感じられぬで御座るな」

勇者「うさんくせぇ」

僧侶「えっ?」

勇者「魔王を護衛する奴が一匹もいねーってのはうさんくせぇだろ」

魔法使い「確かにそうかもね。ふぅ」

勇者「そんだけ自信があるってことだろうな。くそっ、ナメやがって」

姫様「熱くなっては駄目よ」

勇者「分かってるよ。同じ過ちはもう二度と、繰り替えさねぇ」

忍者「……進むぞ」 ザッ

 ……

 そこは、長い長い暗闇であった。通路に照らされる赤い光は、
松明の輝きが僅かに反射されただけの、無機質なものであった。

姫様「何をぶつくさ言っているのよ」

勇者「物語っぽくていいだろ。雰囲気出るし」

姫様「呆れた。そんな枯れた声じゃ怪談か何かに聞こえるわよ」

勇者「少しでも暗い雰囲気を中和してやろうとだなぁ……」

僧侶「きゃああぁぁぁぁ!!」
勇者「ぎゃああぁぁ!!」 ビックゥ!!

僧侶「ネズミ!!」

勇者「脅かすんじゃねぇ!!」

僧侶「だって、ネズミが……」

姫様「あらあら、勇者様ともあろう御方が、怖いのかしら?」

勇者「んなわけねーだろっ」

盗賊「ギャハハ。だからブツクサ独り言呟いてたんか」 スタスタ

勇者「だから怖くねーって言ってんだろ!!」 ドンッ

盗賊「……」

勇者「痛てぇな! 急に止まるなよ!」

盗賊「扉だ……っ」

忍者「おそらくこの先に魔王が」

盗賊「……っ」 ゴクッ

勇者「開けるぞ」

侍「よ、良いので御座るか?」

勇者「ビビッてんのか?」 ギイィ

盗賊「心の準備ってもんが……っておい!」

勇者「なんだ、誰もいねーじゃん」 カツコツ

僧侶「何だか、イメージと違って凄くオシャレ……」

姫様「そうね。人間の王宮と変わりないわね」 キョロキョロ

盗賊「うおっ、柱の装飾がモノホンの宝石だぞ! 盗んじゃおっかな」

魔法使い「盗みはよくないよ。ふぅ」

勇者「そーだ。目的はちげぇだろ」

盗賊「じ、冗談だよ! 本気なわけねーだろ!」

姫様「絶対、本気だったわね」

勇者「ほんとに誰もいねーみたいだな」

忍者「無駄足か。此処ではなかったようだな」

侍「しかし、他に扉らしきものはなかったようだが」

姫様「もう一度、引き返して徹底的に調べ直した方が良いんじゃない?」

盗賊「そうだな。そうすっか」

忍者「それでは戻ろう」 ザッ

勇者「ちっ、余計な手間を取らせやがって――」 ピタッ

姫様「何してるのよ。早く行くわよ」

勇者「誰も……振り返るなよ」

僧侶「勇者様?」

勇者「こっちを見るなって言ってんだよ!!」

侍「どうしたで御座――」 クルッ

魔王「…………」

勇者「見んなって言っただろうが!!」

侍「ぶははははっ!! 何という恰好――」 ドサッ

忍者「主!? はっ!!」

魔王「人の部屋に土足であがりこんで無駄足だの手間だの、失礼な輩だ」

勇者「てめぇ……魔王か!!」

忍者(気配なんぞ微塵にも感じられなかったぞ……っ!)

魔王「しかし貴様、余の変顔とコスプレで笑わぬとは、大したものだな」 バッ

僧侶「変顔? コスプレ!?」

盗賊「な、何が起きてるってんだ!?」

勇者「いいからこっち見んな! 絶対にだぞ!」

忍者「そうは言われても、主を救うには振り返らねばならぬ」

勇者「やめろ! 俺が必ず何とかするからっ!」

忍者「心遣いは有り難い。だが、主は我が主なのだ」 クルッ

勇者「バカヤロー!!」

魔王「にょろ~ん」

忍者「くっ、くく……っ」

魔王「ほげー」

忍者「くくくっ、あはははははは!!」 ババッ

勇者「忍者ぁ!!」

魔王「抱腹絶倒しながらも救出を試みるとは」

忍者「主を……後は……頼む――」 ドサッ

魔王「天晴れ。しかし、愚か也」

姫様「後は頼むって、どうすれば良いのよっ!」

盗賊「人工呼吸でも何でもいいっ! とにかく息を整えろ!」 ダッ!!

僧侶「盗賊様っ!?」

盗賊「これ以上、好き勝手させっかよぉ!」

勇者「相手は魔王だぞ!」

盗賊「ビビってんのか? 魔王だろうがなんだろうが、倒さにゃなんねーんだろうがよ!」

魔王「果敢な二人に気圧されて、変顔を解いてしまったわ」

盗賊「くらええぇぇ!!」 ババッ

魔王「接近して、何かしおうという魂胆か」 ザッ

勇者「早いっ!!」

盗賊「くそっ、ならばこっちから」

魔王「甘い」 ババッ

盗賊「くっ! 俺様の速さに匹敵するとは」 ズザッ

勇者「盗賊、もういい。一旦、態勢を立て直すぞ」

盗賊「悔しくねぇのかよ」

勇者「悔しいに決まってんだろ。だからだ」

盗賊「態勢立て直す? 直してどうだってんだよ!」

勇者「バカヤロウ! 突っ込んでも打つ手はねぇぞ」

盗賊「俺様の出来ることなんてのはなぁ、これしかねぇんだよ!」 バッ

魔王「回り込む事など、無駄だ」 ザッ

盗賊「俺様からスピードを取ったらぁ、何も残らねぇだろうがよぉ!」

僧侶「盗賊様……っ」

盗賊「これがあるから生きてこられたんだ……っ」 ババッ

魔王「無駄だと申している」

盗賊「こんな……親からも捨てられて、泥水すすって生きてきた俺がよおぉ!」

魔王「しつこいぞ、ならば一発ギャグで葬ってくれようか」

盗賊「盗みでもしなきゃ生きていけねぇ、差別的で理不尽な世の中をよおおぉぉ!」

姫様「えっ?」

勇者「盗賊のスピードが……上がった……!?」

盗賊「うおおおおぉぉぉぉ!!」

魔王「何と」

盗賊「……取ったぜ」 ザッ

魔王「大した努力だ。それで、どうする?」

盗賊「くらええぇぇ!! こちょこちょこちょこちょ!!」

魔王「笑止だな。余にくすぐり程度で笑いを誘えるとでも思ったか?」

盗賊「こちょこちょこちょこちょ!!」

魔王「しつこいぞ。笑いどころか怒りが込み上げてきそうだ」

盗賊「あっ!! なんだありゃ!?」

魔王「……?」 クルッ

盗賊「お前ぇにくすぐりが効くなんてよ、ハナっから思ってねぇよ」

魔王「!?」

盗賊「ま、効けば儲けモンだったけど。勇者ぁ、俺様の仕事はこなしたぞ」

勇者「流石だよ。お前は世界一の大泥棒だ」

僧侶「どっ、どういう事ですの?」

魔法使い「彼は魔王気を引いて、不意打ちで勇者に視線を仕向けたのさ。ふぅ」

姫様「つまり魔王は、全く素の状態で今、勇者を見つめてしまっている」

僧侶「つ、つまりチャンス!?」

姫様「そういうことっ」

魔王「――――っ」

勇者「勇者ちゃんのイッツ、ショウターイム!!」 シャキーン

魔王「ヌオオォォ……ッ」

 勇者は 【ギャグ百連発】 をはなった!

勇者「一発目ぇ!!」

僧侶「あれって確か……」

魔法使い「四天王、朱雀が得意としていた必殺技だね。ふぅ」

姫様「四天王の技が魔王に効くとは思えないけど」

魔法使い「恐らくは様子見さ。ふぅ」

姫様「四天王レベルのネタが通じるならば、勇者のネタもいけるって事ね」

魔法使い「それだけじゃないさ。ふぅ」

僧侶「えっ?」

魔法使い「魔王の対処も、彼は念頭においているのさ。ふぅ」

姫様「そっか。ネタを放った際に魔王がどういうリアクションをとるか」

魔法使い「そこから相手の攻撃方法、つまり手の内も少し見えるだろうね。ふぅ」

僧侶「す、凄い……っ。勇者様ってば、そこまで考えて……」

姫様「考えてるとは思えないけれどね。本能なんじゃないかしら」

魔法使い「あくなき笑いへの探求心。ふぅ」

姫様「言い方を変えれば、お笑いバカ」

僧侶「な、なるほどですね」

勇者「次ぃ!!」

魔王「慌てるでない。次は余のターンだ」

勇者「百連発って言ってんだろうがよ!」

魔王「余の……ギャグ百連発~!」

勇者「――っ!?」

姫様「どういうこと!? まさか魔王も百連発を!?」

魔法使い「百連発の打ち合いか。これは予想がつかないね。ふぅ」

勇者「くっ、二発目ぇ!!」
魔王「二発目!!」

僧侶「た、互いにギャグを……くくっ、ふふふ!」

姫様「しかも、どちらも何て高クオリティ……くふっ!」

魔法使い「これは油断していると、こちらまで被害にあうね。あははははっ……ふぅ」

勇者「二十五ぉ!!」
魔王「二十五発目!」

盗賊「ギャーッハッハッハッハ!!」

勇者(百連発同士は互角だが、戦況は決して互角とは言えねぇな)

魔王「次、行くぞ」

勇者(魔王を羽交い絞めにしてる盗賊は、至近距離で魔王のギャグを受けてる)

盗賊「ぎゃーっはっはっはっは!!」

勇者(長引かせっと、盗賊が死んじまう……っ)

魔王「どうした? ネタのキレがなくなってきたぞ?」

勇者「やめだ」

魔王「何?」

勇者「百連発に関しちゃ、俺もアンタもネタは互角と見える。時間の無駄だ」

魔王「本当にそれだけか?」

勇者「……」

魔王「ま、良いだろう。そういう事にしといてやろう」

勇者「あんがとよ。代わりにアンタに攻撃権、譲ってやんよ」

魔王「後悔するぞ?」

勇者「へっ、させてみろや!」

姫様「ちょっと、余裕見せている場合じゃないでしょ」

魔法使い「いや、あれも彼の計画通りに進んでいるようだ。ふぅ」

姫様「えっ!?」

勇者「次はどんなネタ見せてくれんだい、魔王さんよ?」

魔王「こんなネタはどうかね?」 ザッ

僧侶「あれって!!」

魔王「……魔王です」

魔法使い「玄武の……自虐ネタ。ふぅ」

勇者「ぶはっ! くくくくくくっ!」

僧侶「ま、まずいですよっ。あのネタ勇者様のツボ……ふふふふっ!」

魔法使い「しかも切れ味は玄武よりも格段に上……あはははは! ふぅ」

姫様「……」 ピクピク

僧侶「姫様ぁ!?」

盗賊「姫っちの奴、初見で不意打ちだったみてーだな。くそっ」

僧侶「あれ? あ、そっか。盗賊様って、このネタ……平気なんですよね。くふふっ」

魔法使い「そうか。勇者くん、そこまで考えて……あはははは!」

勇者「盗賊ぅ、うはっ! 今のうちに……ぎゃははは!!」

盗賊「!? なーる。オッケー! 任しとき!」 ダダッ

魔王「……?」

勇者「おっとぉ、ネタ中に余所見たぁ芸人として三流だぜ?」

魔王「フン、大口を叩くのは余のネタを見終えてからにして貰おう」

勇者「ぎゃーっはっはっはっは!!」

魔王「もっとも、ネタが終わった頃には、息絶えておるだろうがな」

盗賊「侍っ、忍者! 起きろ!」 ズザッ

侍「う……っ」

忍者「盗賊……殿」 ヨロッ

盗賊「よーし、生きてるな。立てるか?」

侍「何とか。不覚であった、すまぬ……っ」

盗賊「謝るのは後だ。とにかく今は魔王を倒す。いいな!」

忍者「……承知」 ザッ

勇者「よーし、よくやったぜ盗賊!」

魔王「死にぞこないを助けたところで、何かが変わるわけでもあるまい」

勇者「そーかもな。でも、見捨てるわけにゃいかねーんだよ」

魔王「それに、一度折れた心はもう戻らぬ」

勇者「……ゴチャゴチャうるせぇ! 次のネタはどうした!」

魔王「お望みとあらば」

盗賊「お前ら、行くぞ」

忍者「う、うむ」 ザッ

侍「しかし、我らのような無力な者が、一体どうすれば良いのやら」

盗賊「何でもいいから、やるしかねぇだろ!」

魔王「そう。余の笑いを一度その身に受けてしまえば……」 チラッ

忍者「うっ」

侍「……くっ、くくく」

魔王「余が直接、手を下さずとも後遺症として残る」

忍者「顔を見ただけで、ネタを思い出してしまう……くくっ」

侍「何たる不覚くく……くくくっ」

盗賊「だあぁ! しっかりしろよ!」

魔王「魔王です……」

勇者「はひーはひー。やっぱ……玄武なんかとは比べモンにならんレベルだ」 フラフラ

盗賊「勇者まで! ちっ、しっかりしろよな!」 ダッ

勇者「はひぃーはひぃー」

盗賊「おら、あっち向け!」 グキッ

勇者「あだっ!!」

盗賊「転がってのた打ち回ってる姫っちを見ろっつってんの!」

勇者「何だってんだよ……うはは!」

盗賊「パンツ見えてんだろうがっ!!」

勇者「――っ!?」
忍者「何?」
侍「なんと!!」
賢者「ふぅ」

姫様「なっ!?」 ガバッ

僧侶「もうっ、エッチー!!」

魔王「余のネタが……看破されただと?」

勇者「助かったぜ、盗賊」

盗賊「どーも、あーいうネタは笑えねぇんだよなー」 ポリポリ

魔王「成程な。これだから笑いというものは奥が深くて面白いものよ」

勇者「さーて魔王様よ、ネタがねーんなら、そろそろこっちから行かせてもらうぜ」

魔王「ほう、面白い。見せてみよ勇者よ」 ニヤリ

盗賊「ブチかましてやれっ、勇者!!」

勇者(とはいうものの、俺以外のネタをうまく使えるかどうか……)

侍「こ、鯉の恋」 ボソッ

魔王「……?」

勇者(魔法使いが無駄に覚醒しちまったせいで、天然も使えねーし)

姫様「勇者、夫婦漫才いくわよっ」

勇者「おう」 ザッ

姫様「どうも~」

勇者「勇者と姫、略してプチトマトで~す」

姫様「どんな略し方してんのよっ!」 バシッ

勇者(オーソドックスな笑いが通じるとは思えねぇ)

姫様「それでなぁー―――」

勇者(かと言って、これ以外にネタはねぇし……どうしたもんかな)

姫様「ちょっと、さっきから何よ! 聞いてんの!?」

勇者「聞いてます聞いてます。反対側から抜けてるけど」

姫様「はあぁ~!?」

魔王「グハハハハ!!」

姫様「笑った!?」

勇者「いや、これはおそらく……」

魔王「ハーッハッハッハッハッハッハ!!」

盗賊「やった! 魔王のヤロー、ウケてやがんぞ……ギャハハハ!」

忍者「な、何故か釣られて……笑ってしまっハハハ!」

勇者「やっぱりな。誘い笑いか」

魔法使い「四天王、白虎の技だね……フフフフフ。ふぅ」

魔王「グワァーッハッハッハッハッハ!!」

姫様「ククッ、あははははははっ!!」

勇者「腹痛てぇ……わはははははは!!」

盗賊「白虎なんざ、目じゃねぇくらいにいいぃぃ! ギャハハハハハ!!」

僧侶「だ、大丈夫ですか!?」

勇者「ボケ……っとぉ、してんなはははははは!!」

盗賊「早くかいふックククククク!!」

忍者「……」 ヒクヒクヒク

僧侶「回復って、やっぱりそのぉ……」

勇者「早くしろおおぉぉ! 呼吸困難で死ぬううぅぅ!」 ガクガクガク

魔法使い「こひゅーこひゅー」 ピクッピクッ

僧侶「うぅーっ」

勇者「こ、このままじゃ全滅しちまう……っ」

魔王「何をするつもりだ?」

勇者「早くしろおおおおぉぉぉぉ!!」

僧侶「え、えいっ!」 バッ!!

魔王「何をしようと無駄な事よ。ブワァーッハッハッハ!!」 ゴウッ!!

勇者「もっとだもっとおぉ!! ぎゃっはっはっはっは!!」

僧侶「え、えーいっ!!」 ガバッ!!

勇者「ぶはははは! そんなんじゃ誰も正気に戻らねぇ……わはははは!!」

盗賊「今まで見すぎてきたせいか、パンチラ程度じゃ耐性が……ぎゃはははは!」

勇者「僧侶おおおおぉぉぉぉ!!」

僧侶「……っ。こっ、今回だけですからね!!」

 僧侶は 【胸】 をだした!

勇者「――――っ!?」
盗賊「――――っ!?」
魔法使い「――――っ!?」
侍「「――――っ!?」
忍者「「――――っ!?」 ブーッ!!

姫様「僧侶おおぉぉぉぉ――!?」

僧侶「…………っ///」 プルンッ

侍「あわ……あわわわわ……あわ」 ブクブク

魔法使い「いったああああぁぁぁぁーっ!!」 ビクビクビク!!

忍者「…………」 ドバドバドバ

姫様「僧侶っ!! やりすぎよっ!!」

僧侶「えっ!? だって勇者様がぁ……」

勇者「ふおおおおぉぉぉぉ!!」

姫様「!?」 ビクッ

盗賊「勇者ぁ!!」

勇者「盗賊ぅ!!」 ガシッ

盗賊「俺様は今、モーレツに燃え滾っているううぅぅ!!」

勇者「俺もだ盗賊! ボルテージは最高潮おおぉぉ!!」

魔王「余の誘い笑いを打ち消しただと?」

勇者「残念だったな魔王! 貴様の技、破れたり!」 ビシッ

盗賊「今なら俺様のくすぐりでも、テメーを笑わせる自信があるぜ!」 ビシッ

魔王「冗談のつもりなら、苦笑程度なら笑わせてくれたぞ」

盗賊「なんだとぅ!?」

勇者「魔王、お前の残された技……落語だな?」

魔王「ほう、そこまで読み切っていたか」

勇者「当ったり前だ! 四天王の技を順番に繰り出してちゃ気付くわい!」

魔王「だからどうしたと言うのだ? 防ぐ手立てはあるまい」

勇者「バーカ。あるんだよそれが」

魔王「何?」

勇者「それを今から見せてやるよ」

魔王「御託を。貴様が手の内を見せる前に、落語で始末してくれるわ」 ゴアッ!!

勇者「にやり」

魔王「毎度、馬鹿馬鹿しい小話を一つ」
勇者「毎度、馬鹿馬鹿しい小話を一つ」

魔王「昔々の話ではありますが、そりゃあ若くて美しい女性がおったそうな」
勇者「昔々の話ではありますが、そりゃあ若くて美しい女性がおったそうな」

魔王「その娘、領主の大切な一人娘でしてな」
勇者「その娘、領主の大切な一人娘でしてな」

魔王(こ、こやつ……余の真似をしておるのか?)

僧侶「ど、どういう事でしょう?」

姫様「分からないわ。でも、勇者の事だからきっと考えが」

魔王(しかも遅れが徐々になくなり始めている……だと?)

魔法使い「極めたね……うっ、ふぅ」

姫様「どういうこと?」

魔法使い「魔王のネタを聞きながら、次の展開を予測し始めている……うっ、ふぅ」

盗賊「そ、そんな事ができんのかよ!?」

魔法使い「言い方や使い回しは微妙にずれるかもしれないが……うっ、ふぅ」

魔王(まさか、余のネタを読み取り……ほぼ同時に発言しているというのかッ)

勇者「そこで彼は言ったわけだ。そんなに大きな荷物、持ち上げられないだろうってな」
魔王「そこで彼は言ったわけだ。そんなに大きな荷物、持ち上げられんだろうってな」

姫様「魔王の先手を取った!!」

魔法使い「ここからは勇者ワールドさ……うっ、ふぅ」

盗賊「さっきからどうしたんだ?」

魔法使い「どうやら僕も、新たな刺激で覚醒したよう……うっ、ふぅ」

盗賊「大賢者ってか!!」

魔法使い「ふふふ……うっ、ふぅ」 ビクッ

勇者「ちょいと待ちなって。それじゃあ話が違うじゃないかい」
魔王「ちょいと待ちなって。それじゃあ話が違うじゃないかい」

僧侶「口調が揃いましたよっ」

魔王(余が……勇者の口調に釣られているだと!?)

盗賊「そうかっ、これが勇者ワールド!」

魔王(こちらが述べるタイミングで重ねられるとどうしても釣られてしまう)

勇者(魔王め、ついに困惑し始めたな?) ニヤリ

魔王(かと言って止めてしまえば、そこでネタは強制終了)

勇者(ひとまずここは凌いだ。さて、次はどうするか……)

魔王(どちらに転んでも余に勝ち目はないか。勇者め。口だけではないようだな) スッ

僧侶「ま、魔王がネタをやめましたよっ!?」

魔王「余の落語をこのような方法で打ち破るとは。褒めてやるぞ勇者よ」

勇者「へっ、そいつはありがとよ。だが、これからが本番だろ?」

魔王「その通りだ。心して味わうが良い。我が、真のネタを!!」

勇者「望むところだ! こっちも見せてやる、本当の笑いってモンをなぁ!」

姫様「ちょ、ちょっと。勇者ってば、どうしちゃったのよ!?」

盗賊「知るかよっ、俺様が聞きてーわ!」

魔法使い「あれが勇者の本当の力……ふぅ」

僧侶「本当の力、ですか?」

魔法使い「そう。彼の持つ才能……ふぅ」

盗賊「ど、どういうことだ?」

魔法使い「先を見据える力……ふぅ」

侍「ま、まさか予言で御座るか?」

魔法使い「そこまでのものではないよ……ふぅ」

忍者「相手の行動や言動から予見をする、という事か?」

魔法使い「そういう事になるね……ふぅ」

姫様「勇者が、そんな事を!?」

盗賊「マ、マジかよ……っ」

忍者「言われてみれば、思い当たる節があるな」

僧侶「えっ?」

忍者「あやつ、魔王の攻撃を読んでいたように感じた」

盗賊「そうかぁ?」

姫様「あ……っ」

僧侶「何か気付いたんですか?」

姫様「魔王の最初の攻撃、朱雀……」

盗賊「それがどうしたってんだよ」

姫様「もしそこで勇者が気付いたならば、その後の不可解な行動に説明がつく」

僧侶「えーと、つまり?」

姫様「もし朱雀の攻撃が最初だとすれば、次の攻撃は玄武と読んだって事よ!」

盗賊「なんでそうなるんだ?」

魔法使い「四天王の戦った順番さ……うっ、ふぅ」

姫様「魔王の攻撃は朱雀、玄武、白虎、青龍と続いた」

盗賊「あぁっ!!」

魔法使い「つまり勇者は最初の朱雀でその法則に気付いたって事さ……ふぅ」

盗賊「んな、アホな……っ」

僧侶「でもぉ、何が不可解なんですか?」

姫様「勇者は百連発の打ち合いを途中で切り上げて、魔王に攻撃権を譲ってた」

僧侶「え、ええ」

姫様「それは何故か。今思えば、次に玄武がくると予測出来たから」

盗賊「それがなんだってんだよ」

姫様「分からないの? 貴方をフリーにする為よっ」

僧侶「そっか! 盗賊さんはあのネタ、笑わないですもんねっ」

侍「それを見越して、拙者らを救ったと言う事で御座るか」

魔法使い「その後の白虎に関してもそうさ……ふぅ」

盗賊「僧侶っちにゃ、誘い笑いが通じないもんな」

姫様「私との夫婦漫才まで布石に使ってくれちゃって」

忍者「そして確信は、先の落語のやり取り、即ち、先読みだ」

盗賊「あれが超能力か何かじゃないってんなら、そうだろうな」

姫様「ええ。相手の思考を確実に読み取って、先手の先を取ってるのよ」

魔法使い「言い方は悪いが、もはや化物だよ……ふぅ」

僧侶「勇者様……っ」

魔王「どうした? 本当の笑いを見せてくれるのではなかったか?」

勇者「うるせーな。んな焦んなっての」

侍「勇者殿、何か様子がおかしくないで御座るか?」

魔法使い「喉を傷めているね……ふぅ」

姫様「さっきよりもガラガラ声になってるじゃない」

僧侶「私っ、飴玉渡してきますっ」

盗賊「そんなんで治るかっつーの!」

魔法使い「それにしても変だな……ふぅ」

忍者「何か気がかりな事でも?」

魔法使い「彼ほどの実力者ならば、声が云々などネタで……はっ! ふぅ」

盗賊「どうした?」

魔法使い「ま、まさか……っ!! ふぅ」

姫様「……?」

魔王「真打ちでも気取る気か、生意気な奴め」

勇者「そっちこそもうネタはねーのかよ、魔王様」

魔王「今まで余が見せたのは、あくまで余興」

侍「!?」

勇者「だろうね。四天王ですら出来たんだからよ」

魔王「そう。余が笑いを知らぬ彼らに与えてやった、言わば低レベルなギャグよ」

盗賊「あ、あれで低レベルだとぉ!?」

魔王「これから見せるネタは、余の真骨頂。真のネタだ」

勇者「へっ、偉そうに」

魔王「さらばだ、勇者」 カッ!!

勇者「――――!?」

 魔王は 【とてつもないネタ】 をはなった!

盗賊「ギャハハハハハ!!」 ドサッ
姫様「くくっ、はは! あはははははは!」 ズシャッ

侍「ぶふっ!! ぶふふっ、ふはああぁぁ!!」 バタンッ
忍者「うふわははははははっ!!」 ガクッ

魔法使い「――――っ」 プルプルプルプル
僧侶「ひっ、ひっ、ひうっ、いひひっ」 ピクピク

魔王「どうだ」

勇者「あー腹痛てぇ。流石だぜ魔王」

魔王「ほう、今の一撃で立っていられるとはな」

勇者「何でだろうな。とびっきり面白いんだけどよ」

魔王「フッ、余裕を見せてくれおって」

勇者「さっきから不思議なんだよな。俺自身もさ」

魔王「不思議だと?」

勇者「魔王、お前のネタ……すんげー面白いんだよ」

魔王「勇者」

勇者「すんげー面白い。面白いんだけど、何だろうな。なんか変なんだよな」

魔王「何?」

勇者「ネタが分かりやすいっていうか、なんか前もって分かっちゃうんだよな」

魔王「ネタが分かるだと? 面白い、ならば難解なネタを披露してくれようぞ」

 魔王は 【難解なネタ】 をはなった!

姫様「も゙っ、も゙うや゙め゙でえ゙え゙ぇ゙ぇ゙!!」

盗賊「はぐっ、はうっ、うっ」 ガクガクビクビク

魔王「そ~れっ、もういっかい~か~ら~の~」

勇者「ケツバット!!」

侍「うっひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

忍者「…………」 ガクガクガク

姫様「あははははっ! 今っ、勇者の奴ううぅぅ!」

魔法使い「ふぐぐっ、確かにオチをふぐっ、魔王より先にぶふぅ!! ふぅ」

魔王「何故だ」

勇者「あ?」

魔王「何故、余が言う以前に、オチが分かったのだ?」

勇者「いや、なんとなく」

魔王「何となくだと? そんなはずはない」

勇者「はずはない、って言われてもなぁ」

魔王「今のネタは余が思考を凝らせた、絶対にオチの分からぬ難解なネタ」

勇者「でも分かっちゃったもんはしょーがない」

魔王「勇者よ、考え得る原因は一つしか見当たらぬ。しかしそれは絶対に不可能」

勇者「さっきからゴチャゴチャと何を言ってやがんだよ! 難しくて分かんねーよ!」

魔王「勇者よ、余のネタを……」

勇者「だーかーらー」

魔王「余のネタを予め、知っておったな?」

勇者「だー…………あぁ?」

盗賊「アイ……ツ、何を言ってんだ?」 フラフラ

魔法使い「合点はいく。だが、知る術はないんだ……ふぅ」

魔王「そうとしか考えられんのだ。それ以外に予見する方法はないのだ」

勇者「ちょっと待て。サッパリ意味が分からん」

魔王「貴様、どうやって余のネタを知った? ネタ帳を覗き見たか?」

勇者「だからイミフだって言ってんだろ!」

魔王「そうか。先程、部屋に忍び込んだのだな」

勇者「いい加減にしろっ!!」

魔王「余の理解を越えている。貴様は何者なのだ」

勇者「何者もクソもあるか! 俺はお笑いが好きなお笑い芸人。そんだけだ」

魔王「ならば貴様の隙な笑いに殺されるが良い。次は今ここで思いついたネタだ」

忍者「考えたな。あれなら勇者とて読めぬ」

盗賊「アドリブってかぁ」

 魔王は 【アドリブギャグ】 をはなった!

魔王「その時の音が――」

勇者「ガンッ!! スルッではなくガンッ!!」

魔王「――!?」

勇者「あれ? また分かっちまったぞ?」

魔王「勇者ァ、貴様は余に……何をしていると言うのだ」

勇者「だから俺が聞きてーわ!!」

姫様「ねぇ、本当にどういう事なのよ」

魔法使い「わ、分からない。賢者の知識をも凌駕している……うぅっ、ふぅ」

魔王「これが、勇者の力だとでも言うのか……ッ」

勇者「さて、そろそろ呼吸も肺活量も整った。そろそろブチかますか」

魔法使い「やはりっ!!」

姫様「呼吸? 肺活量……って、まさか!!」

勇者「魔王よ、俺の最っ大、最っ強、そして最っ高のギャグを食らわせてやる!!」

魔王「何ィ?」

勇者「もってくれよぉ!! 俺の……声と身体ああぁぁぁぁ!!」

姫様「勇者を止めてっ! 奥義を使うつもりよ!」

盗賊「あっんの……バカヤロウ!」

侍「勇者殿っ!」

魔法使い「行っても無駄さ。彼は止めないよ……ふぅ」

忍者「……っ」

勇者「これより述べるは毎度馬鹿馬鹿しい話なんだがその前に小話を一つ」

魔王「!?」

勇者「それはそれは馬鹿馬鹿しいのだがはて、どこまで話せばよいものか」

姫様「勇者っ!! じいの二の舞になるつもり!?」

勇者「まず紹介せねばならぬのはこの女が紙の長い色白の女である事と」

僧侶「勇者様ぁ!!」

勇者「その女の旦那がこれまただらしのない博打打ちの冴えない男である事なわけでな」

魔王「何だこれは……ッ」

勇者「それもそのはずこの男は女房を質に入れてでもと今日此処へきたわけで――」

魔王「落語でも口上でも漫才でもない。何だと言うのだ……ッ」

勇者「そこで横に居た博打仲間が言うわけだ『ありゃあとんでもねぇ代物さ』ってねぇ」

魔王「そして込み上げるこの抑揚。まさか余が面白いと感じておるのか……ッ」

勇者「――でもよぉ、あれを見たからってお前さんが代わる必要もないってのに」

魔王「い、いつまで続く……ッ。間隙を突く間も与えぬとは」

盗賊「おい、これ……イケるぞ!!」

侍「勇者殿っ、頑張るで御座るよ!」

僧侶「勇者様ーっ!!」

姫様「ねぇ」

魔法使い「ん? うっ、ふぅ」

姫様「本当にこのまま、いけると思う?」

魔法使い「……君はどう感じているんだい? ふぅ」

姫様「無理よ。今の勇者では……ううん、あれは人間には無理。不可能よ」

魔法使い「だろうね。完璧にこなそうと思えば、人間の肺活量に限界がある……ふぅ」

姫様「あれっておそらく……」

魔法使い「ああ。魔物の為のネタだろうねぇ……うっ、ふぅ」 ビクビク

姫様「やっぱり」

忍者「魔物の為の者だと? どういう事だ、あれは秘伝書ではないのか?」

魔法使い「それは分からないよ。君達の方が詳しいんじゃないのかな……ふぅ」

侍「某等は、伝承を伝え聞いているに過ぎぬで御座る」

忍者「古より伝わる伝承……滅んだナインの地。どういう事だ?」

姫様「何か、隠された秘密があるのかしら……」

魔法使い「今はそれよりも大切な事があるんじゃないかな……ふぅ」

姫様「あっ、勇者!」

勇者「――そこまで言うんなら、証拠を出せってそう言っているわけだ」

魔王「グクッ」

盗賊「ちょっとウケたぞ!!」

僧侶「やったぁ!!」

魔王「ウケてなどおらぬッ、余が人間如きのネタでウケるなど……」

勇者「ところがだ、証拠を出せったって、出せる証拠なんざありゃしない」

魔王「ブフッ!」

盗賊「絶対ウケた!!」

僧侶「はいっ、間違いありません!!」

魔王「ウケてない!!」 クワッ

侍「好機で御座るぞっ、勇者殿!」

勇者「そこで一同、考えたわけだ。証拠を……ごほっ」

姫様「!?」

魔法使い「ついに、限界か……ふぅ」

勇者(やっべぇ……喉が、声が出ねぇ……っ)

魔王「どうした、もう終いか?」

勇者「くっそぉ……ここにきて……」

魔王「勇者よ、貴様には心底、驚かされる」

勇者「……っ」

魔王「だが、最早……残された術は無いと見受ける」

勇者「喉さえ、喉さえもう少し治ってれば……っ!」

魔王「喉を痛めたか。馬鹿な奴だな。己の未熟さが招いた結果だ」

勇者「ああ。お前の言う通りさ」

魔王「覚悟は良いな?」

勇者「未熟だったから、修業した。修業で喉を傷めた。結局、未熟なんだ」

魔王「それではとどめだ。笑い死ぬが良いッ!」 クワッ

侍「させぬっ!」 ザザッ

忍者「勇者殿、我等が盾に」

魔王「そーれ、びろ~ん」

侍「がはああぁぁぁぁ!!」

忍者「ぶふぅ!!」 ドサッ

魔王「焦らずとも始末してやったものを。まぁ良い、順序が変わっただけだ」

勇者「侍……忍者……っ」

魔王「次こそ勇者にとどめを――」

姫様「……っ」 スッ

魔王「女と言えど、手は抜けぬぞ?」

姫様「勇者は殺させはしないわっ!」

僧侶「そうですっ!」

魔王「……」

盗賊「ちっ、損な役回りだよなぁ」 スタスタ

魔法使い「それでも勇者が最も、倒す可能性はあるからね。ふぅ」

勇者「お、お前ら……っ」

盗賊「俺様が盾になってやるって言ってんだ!」

姫様「だから、貴方は少しでも喉の調子を整えなさい」

僧侶「勇者様っ、飴玉どうぞ!」 スッ

勇者「でもな、お前ら……」

魔法使い「少しくらいは僕らを信じてくれ。君は死なせないよ。ふぅ」

魔王「美しき友情とでも言うべきか? ならば、まとめて葬ってくれようぞ」

 魔王は 【会心のギャグ】 をはなった!

姫様「――――っ!!」

僧侶「あはっ、あはははははは!!」

盗賊「ぐ……っくく……ぅ」 ドシャッ

勇者「言わんこっちゃねぇ……っ」

魔法使い「ま、まだだ……ふぅ」

魔王「まだ分からぬのか。無駄だと言う事を」

勇者「魔法使い、どけ」

魔法使い「君一人では無理だよ。ふぅ」

勇者「じゃあどうしろってんだ!」

魔法使い「焦りは禁物だと言っているのさ。ふぅ」

勇者「焦りじゃねぇよ」

魔法使い「……? ふぅ」

勇者「魔王を倒せるチャンスがあるのは、俺しかしねぇ」

魔法使い「……ふぅ」

勇者「その自負と、覚悟だ!!」

魔法使い「なるほどね……ふぅ」

勇者「分かったらどいてろ! 倒れてる奴らを何とかしてくれ」

魔法使い「そうはいかないな。ふぅ」

勇者「あぁ!?」

魔法使い「勇者、君との付き合いももう、随分と経つよね。ふぅ」

勇者「……ああ、そうだな。こん中じゃ僧侶の次に、古株になっちまったな」

魔法使い「だからこそ、僕の役目は一つ。君を救う事だと思っている。ふぅ」

勇者「へっ。どーせ役に立たねぇんだ。黙って見てろって」

魔法使い「後の事は心配しなくていいよ。全力で……魔王にぶつかってくれ。ふぅ」

勇者「言われなくてもぉ、そのつもりだ!!」 ザッ

魔王「往生際が悪い奴だな。何も変わる事など無い」

勇者「うるせぇ! 大人しく俺のネタを聞けええぇぇぇぇ!」 ゴアッ!!

魔王「クッ」

 勇者は 【秘伝書の奥義】 をふたたび はなった!

魔王「ククッ」

魔法使い「いいよ、ウケているよ勇者……ふぅ」

勇者(ちっくしょおっ、さっきよりも短いとこで喉に限界がきちまいそうだ……っ)

魔王「フッ、クク」

魔法使い「魔王の奴、小脇を抱え始めたよ。ふぅ」

勇者「見りゃ……分かるっつーの……っ」

魔王「勇者よ、確かに面白い。面白いが、もつのか?」

勇者「っ!!」

魔法使い「魔王も薄々、気付き始めたみたいだね。ふぅ」

勇者(駄目だ……っ、ここまでが……限界っ)

魔法使い「勇者、最後まで諦めちゃ駄目だよ……ふぅ」

勇者「!?」

魔法使い「声が出なくなろうが、口は常に、動かし続けるんだ。ふぅ」

勇者「魔……法使い?」

魔王「勇者よ、もう限界のようだな」

勇者「――こ、この雨が止んだらって、いつ止むのか見当もつか――ごはぁ!!」

魔王「フハハッ、とうとう限界か」

勇者(喉から血が……っ。もう、声が張れねぇ……っ)

――「見当もつかないときたもんだ。でもよぉ、今は雨、降ってないよなぁ」

魔王「――!?」

侍「ゆ、勇者殿の……声……?」

姫様「勇者、じゃない?」

魔王「どういう事だ? 勇者よ、喉が潰れたのではなかったのか?」

勇者「魔法使い……お、前……っ」

魔法使い「君の枯れた声程度ならば、真似るのは難しくはないよ……ふぅ」

勇者「やめろっ、まだ半分も消化してねぇんだぞ……っ」

魔法使い「そうだね……ふぅ」

勇者「どういうことか、分かってんのか!!」

魔法使い「……ふぅ」

勇者「このまま続けたら、死ぬってことなんだぞ!!」

魔法使い「言ったろ」

勇者「……?」

魔法使い「君を救うと。僕に出来る事は、この程度の事さ」

勇者「お前、最初から死ぬ気で……」

魔法使い「今のうちに回復を。そして、皆を頼む」

勇者「魔法使いいぃぃぃぃ!!」

魔王「そうか、そういうトリックか」

魔法使い「気づいたところで、防ぐ事は不可能だろう?」

魔王「確かに。一度でも途切れておれば我に返るチャンスであったが……」

魔法使い「ネタは止まっていないよ。これは勇者と、僕の魂だ」

魔王「やるな、人間」

魔法使い(勇者、君と出会って僕は生まれ変われたんだ)

魔法使い(ただ何もなく生きているだけ僕を、君は、君達は救ってくれた)

魔法使い(初めて会った酒場の席。相席で騒がしい連中だなぁなんて思ったっけ)

魔法使い(戦士くんが酔っぱらって、宿まで送って行った。それが最初の冒険)

魔法使い(それから色んな出会いがあって、色んな怖い思いをして……)

魔法使い(色んな楽しい事、面白い事、ワクワクする事があったっけ)

魔法使い(セブンスの国では、師とも仰げる人とも出会えた)

魔法使い(テンの国では、とうとう男にもなれた)

魔法使い(家族も定職もなく、存在価値なんてゼロにも等しい僕だ。いつ死んだって構わない)

魔法使い(それが、こんな価値のある人間のように扱えて貰えて……)

魔法使い(存在価値があったかのような死を迎えられるだなんて)

魔法使い「……最高だよ」 ボソッ

勇者「!?」

魔法使い「ありがとう。みんなが居たから、僕が居られた――――」

勇者「魔法使いいいいぃぃぃぃーっ!!」

魔王「ハァ、ハァ……クッ」

勇者「…………」

僧侶「ま、魔法使い……様……?」

勇者「んでだよ、なんで……なんで! なんでなんだよぉ!!」

僧侶「う、うぅ……そんな……っ」

勇者「どいつもこいつも勝手によぉ! なんで……死んじまうんだよぉ!」

 【魔法使い】 は死んでしまった……。

魔王「余が焦りを生じるとは、何時以来であろうか」

忍者「勇者殿っ、魔法使い殿は……」

勇者「……っ」

姫様「そ、そんな……」

魔王「だが、それも終わりよ。これで最後だ!」

侍「!?」

勇者「万事……休す、か」

魔王「冥途の土産にとくと味わえ、余の究極ギャグ、メイド喫――」 ドクン

勇者「!?」

魔王「ガッ、ガハ……」

盗賊「な、何だぁ?」

魔王「まさか、器が抗うというのか……ッ」

勇者「器? 抗うって、何を言ってやがる!」

魔王「ガアアアアァァァァーッ!!」 ガカァ!!

僧侶「きゃあーっ!」

姫様「な、なんなのよ……もうっ」 シュウウゥゥ

魔王「…………」

忍者「人間だ! 人間が倒れているぞ!」

侍「本当で御座る! こ、これは一体……っ」

盗賊「魔王の姿も見当たらねぇ。どういうことだ!?」

勇者「――――!?」

忍者「あの人間、生きておるようだが……どうなさいますか?」

侍「放ってはおけんだろう。助けねば」

勇者「……じ?」

盗賊「あ?」

勇者「お……やじ、親父、なの……か!?」

盗賊「おやじいいぃぃ!? あ、あれがお前の親父だってのか!?」

姫様「えっ!? げ、芸人だっていうお父さん!?」

勇者「親父っ!!」 ダッ!!

親父「う……っ」

勇者「親父! しっかりしろ……っつーか、こんなとこで何してんだよ!」

親父「……そ、その声……まさか勇者」

勇者「ああ、そうだ! 立てるか親父!?」

親父「俺は……はっ! そ、そうだ」 ググッ

僧侶「ゆゆっ、勇者様ぁ!!」

勇者「あんだよ!」

僧侶「うえうえうえうえうえっ!!」

勇者「上?」

魔王「ガアアアアァァァァ!!」

勇者「おわああぁぁぁぁ!!」

親父「魔王の思念体だ。近づくな! 身体を乗っ取られるぞ!」

盗賊「何ぃ!?」

姫様「ま、まさか貴方……魔王に身体を?」

親父「ああ。情けない話だが」

勇者「ちょっと待て。何で親父が魔王に身体を乗っ取られてるんだよ!」

親父「いや、ちょっとな」

勇者「ちょっとじゃねぇよ! ワケが分からねーよ!」

親父「……勇者。俺はな、魔王を倒す為に芸人になったんだ」

勇者「――!?」

親父「そしてお前と母さんを残して、魔王討伐に向かったのさ」

侍「な、何とっ!!」

親父「単身ネタを磨き、魔王に挑んだ」

姫様「どうりで、笑い協会理事の私が存じ上げないわけですわね……っ」

勇者「んで、返り討ちに遭ったってか?」

親父「いいや、魔王を笑わせて倒したさ」

勇者「なんだとおおぉぉ!?」

親父「しかし魔王は完全に死んではいなかった」

侍「あの思念体で御座るな。思念体だけに死ねんたい……」

勇者「……」
親父「……」

侍「あ、あいや済まぬ……っ」

勇者「んで?」

親父「倒したのはあくまで、魔王の肉体だったに過ぎない」

盗賊「そんで、あのウヨウヨした黒いのが……」

姫様「魔王の本体って事ね」

親父「アレを倒すには聖なる魔法しか手段はない」

勇者「バカ親父! 協定で直接攻撃は禁じられてるだろーが!」

盗賊「そうだぜ。あ、でも待てよ……」

姫様「何よ」

盗賊「魔王以外にゃ俺様達しかいねーんだし、コッソリ攻撃しちまえば……」

忍者「それで、その聖なる魔法とやらは誰が使うのだ?」

盗賊「……だよな」

姫様「それに、私達が協定を破って勝ったとしても、それはアンフェアですわ」

僧侶「アンフェアって何ですか?」

勇者「卑怯モンだってことだよ」

僧侶「あ、ああー」

勇者「他は?」

親父「可能性として考えられるものは一つ」

勇者「なんだよ、もったいぶらず教えてくれよ」

親父「思念体を体内に取り込み、そのまま消滅させるしかない」

勇者「はぁ?」

盗賊「意味が分からねぇ」

姫様「ねぇ、それってもしかして……」

親父「そうだ。そのまま自分ごと殺すしかない」

侍「!?」

僧侶「駄目駄目っ、駄目ですよそんなの!」

勇者「流石に引くわ……」

盗賊「おう……」

親父「だがそれは、俺も試したが無駄だった」

忍者「どういう事だ?」

親父「自分を殺す前に、魔王に肉体を奪われちまったのさ」

勇者「なるほどな。それで操られてたわけか」

親父「不覚だった」

侍「では、どうやって魔王を倒すで御座るか?」

親父「魔王を取り込んでしばらくは、俺のままでいられるはずだ」

勇者「何が言いてぇんだ?」

親父「勇者、俺が魔王を取り込んだら、俺を殺せ」

勇者「!?」

親父「魔物でないならば、殴ろうが蹴ろうが、問題ないはずだ」

姫様「大アリですわよ! そんな事、出来るわけないじゃないっ!」

盗賊「流石の俺様も引くぜ」

親父「だがな、それ以外に方法は――」

勇者「あぶねぇ!!」 ドンッ!!

親父「!?」

勇者「気を付けろ! 魔王様がウロついてんぞ!」

親父「すまん、助かった……っ」

勇者「なぁ親父」

親父「なんだ」

勇者「どうやって、あの魔王を笑い殺したんだ?」

親父「布団が吹っ飛んだ」

勇者「……は?」

親父「カラスが畑を枯らす」

勇者「はぁ!?」

親父「太陽の光が痛いよ――」

勇者「クソ親父!!」

親父「何だよ」

勇者「下らねーこと言ってないで、さっさと教えろよ!」

親父「だから今のがそうだが」

勇者「はああああぁぁぁぁ!?」

盗賊「さ、侍レベルじゃねーか……」

侍「う、うおっほん!」

僧侶「風邪ですか? 飴玉なめますか?」

侍「……結構」

勇者「そんなネタで魔王を倒せるワケねーだろっ!!」

親父「倒したんだから仕方ない」

勇者「おかしいだろ! どこをどうやったら倒せるんだよ!」

親父「俺はな、お笑い芸人を目指してた」

勇者「知ってるわ!」

親父「お前や母さんを捨ててまでギャグを追及しようと旅にも出た」

勇者「だから知ってるっつーの!!」

親父「だがな、全くと言っていいほど、笑いのセンスがなかった」

姫様「成程。勇者のつまらなさは父親譲りというわけね」

勇者「うるせぇ!!」

親父「そこで考えたのがこれだ」

盗賊「これだって……。誰でも思いつくレベルだぞおい」

親父「相手の呼吸に合わせてギャグを放つ呼吸法」

忍者「!?」

親父「相手が息を吸う瞬間、ネタを強引にブチ込み、相手に息を吸わせない」

侍「な、なんと……っ」

親父「面白かろうがつまらなかろうが、溜息だろうが、息をすわせなければ良いのだ」

勇者「なんつぅ非現実的な……」

親父「事実、これを延々と繰り返す事で、魔王も倒す事が出来た」

勇者「納得できねぇ……」

親父「俺はこれを、必殺技 【親父ギャグ】 と名付けた」

盗賊「だからなんだっつーんだよ!」

親父「おぉ、良いツッコミだな。勇者の相方か?」

盗賊「ちげぇ! ってか、そんなんどーでもいいだろっ!」

勇者「ともかく、魔王を倒した方法は分かった。が、それは親父にしかできん芸当だ」

親父「蟻が十匹」

勇者「……」

親父「……」

勇者「なあ親父、一つだけ教えてくれ」

親父「何だ」

勇者「魔王に身体を乗っ取られると、どうなるんだ?」

親父「そのままだ。魔王に身体を乗っ取られる。自分の意思とは無関係にな」

勇者「つーことは、自分の意識はあるってことだよな?」

親父「ああ。夢の中にいるような、不思議な感覚だ」

勇者「魔王とも会話はできんだよな?」

親父「ん、ああ。勇者、お前は何を考えているんだ?」

勇者「ならオッケーだ。おい魔王! ちょっとこっちこいやっ!」 ダッ!!

僧侶「勇者様!?」

勇者「俺の身体を貸してやるよ。きなっ!」

盗賊「おまっ、馬鹿か!? 何を考えてんだよ!!」

勇者「貴重な身体なんだ。大事に使えよ!」 シュウウゥゥ

魔王「…………」 シュウウゥゥ

姫様「勇者ああぁぁ!!」

勇者『……ん? こりゃあ、うまくいったのか?』

魔王『勇者よ、気でも狂ったか?』

勇者『おっ、魔王ちゃん! おひさっ!』

魔王『わざわざ余に肉体を差し出すとはな』

勇者『こうでもしねーと、あんたと会話できねーだろ』

魔王『ほう。さては人間を裏切って、余に忠誠を尽くすと決めたか?』

勇者『馬鹿言えよ。んなことするかっつーの』

魔王『ほう。では、どういうつもりだ?』

勇者『決まってんだろ。魔王、今度こそテメーを笑い殺す!!』

僧侶「ど、どうなったんですか……?」

親父「勇者の奴、自ら魔王を体内に取り込んだようだ」

姫様「馬鹿っ、ほん……っと馬鹿!!」

侍「拙者らに、何か出来る事は……」

親父「現時点ではないな。見守るしかない」

忍者「しのびないな」

盗賊「こんな時にクソつまんねーギャグ言ってんじゃねぇ!」

忍者「ギャグ? 何がだ?」

盗賊(天然かよ)

親父「ともかくだ、こうなっては仕方ない。勇者を信じて待とうではないか」

僧侶「勇者さ様、頑張って!」

勇者『ぶぇーっくし!!』 コオオォォォォ

魔王『なかなか肝の据わった輩だな』

勇者『そりゃどーも』

魔王『それでどうする? 余とネタで戦うか?』

勇者『俺はそのつもりだけどよ、魔王ちゃん自信なさげだね』

魔王『減らず口を。貴様こそ良いのか?』

勇者『何が?』

魔王『もし余との戦いに敗れる事とならば、貴様は死ぬのだ』

勇者『そうだな』

魔王『さすればこの肉体は永遠に、我がものとなる』

勇者『そうだな』

魔王『理解していてそれとはな』

勇者『言ってんだろ。ハナっから負けるつもりなんざねぇ!』

魔王『フハハッ、面白い! ならば全力でかかってくるが良い勇者よ!』

勇者『あ、ウケた』

魔王『あ』

勇者『チャンス!』

魔王『馬鹿者。これはあれだ、ほら、よくある決め台詞』

 勇者は 【奇襲ギャグ】 をはなった!

魔王『何たる不覚……ッ』

勇者『そらそらっ、まだまだいくぜぇ!』

魔王『不思議な人間だ。こやつと話していると、ペースを乱される』

勇者『でりゃああぁぁ!』

魔王『ヌウウゥゥゥゥ!』

……

盗賊「あれから、何時間経った?」

姫様「まだ三十分程度よ」

盗賊「まだそんなモンかよ。すっげぇ長く感じる」

侍「そうでござるな」 ツツー

親父「お前ら、今のうちに魔王城から脱出しろ」

僧侶「えっ!?」

親父「仲間が一人死んだんだ。これ以上はもう危険だろ」

盗賊「そうはいくかよ! ここまで来て、アイツ一人に背負わせるなんてよ」

忍者「同意だな。借りたままでは気が済まぬ」

侍「うむ。武士に退却の二文字無し」

親父「……馬鹿だなお前らは」

姫様「大きなお世話よ」

親父「だが、嫌いじゃない」

僧侶「あれっ? 見て下さい、あれって何でしょうか?」

盗賊「あれ? どれ?」

忍者「上だ!!」

親父「思念体!? まさか魔王……いやっ、そんなはずは……」

侍「一二……四つだな。まさか新手か」

親父「魔王以外にも思念体などと……」

青龍『フフフ』

侍「その声はっ!!」

白虎『魔王様』

姫様「まさか……そんなっ」

朱雀『今、助けに』

僧侶「あ、ああ……あぁ」

玄武『参ります』

盗賊「四天王だとぉ!!」

親父「まずいっ! 魔王一体ですら厄介だというのに」

忍者「四天王まで入り込んでは、勇者殿が死んでしまうぞっ」

盗賊「ちくしょう……っ」

僧侶「どどっ、どうしましょう!」

盗賊「まったく、残ってよかったぜ」

親父「……?」

盗賊「あとは任せたぜ!」 ブワッ!!

親父「待てっ、お前――」

盗賊「おらぁ! 勇者の邪魔はさせねぇぞ!」
朱雀『――!?』 シュウウゥゥゥゥ

侍「お主一人に、殿は務めさせぬで御座るよっ」
白虎『ヌウゥ』 シュウウゥゥゥゥ

忍者「ふっ。皆、考える事は同じか」
玄武『オオォォォォ……』 シュウウゥゥゥゥ

親父「あと一匹――」

姫様「どいて」

親父「!?」

姫様「貴方は要。ここに残って、万が一に備えて頂戴」

親父「しかしだな」

姫様「こんな連中、所詮は一度倒した奴らよ。心配しないで」 ニコッ

親父「……っ」

姫様「青龍、私とネタで勝負よっ」
青龍『小賢しい』 シュウウゥゥゥゥ

親父「ったく、どいつもこいつも身勝手な連中だ」

僧侶「あ、あのっ」

親父「俺らは居残りだとよ。気を失った全員をこっちに運ぶぞ」

僧侶「は、はいっ」

親父「そこの姫様はお嬢ちゃんに任せる。頼むぞ」

僧侶「はいっ!」

 ……

忍者『まるで暗い洞窟か何かのようだな』

玄武『貴様だな。私の邪魔をしたのは』

忍者『四天王か』

玄武『玄武です……』

忍者『ほう』

玄武『……』

忍者『わざわざ自分から名乗るとは愚かなり』

玄武(ちっ、こいつ……我がネタと最も相性の悪いパターンか)

忍者『どうした、ネタとやらを見せてみるが良い』

 ……

盗賊『へっ。俺様の中に入り込むとはいい度胸だぜ』

朱雀『貴様が勝手にこの私を引っ張ったのだろう』

盗賊『おっと、そうだったわ。ヒャハハハ』

朱雀『まぁ良い。貴様の身体を頂いて、再び地上に降臨するとしよう』

盗賊『できっかなぁ』

朱雀『せいぜい強がるが良い。どうせ貴様は朱雀様のギャグ百連発で笑い死ぬのだからな!』

盗賊『おーおー、いかにもフラグ的なセリフを吐きやがって』

朱雀『くらえっ!!』

盗賊『ならばこっちゃあ、盗賊様のくすぐり百連発だ!!』

 ……

侍『しかし、己の中に入るというのも不思議な話で御座るな』

白虎『ブワッハッハッハ!』

侍『耳障りな笑い声だ』

白虎『なぁに、気にする事はない。貴様は今から死んでしなうのだからな!』

侍『やれやれ、耳が痛い。その無駄に大きな声はどうにかならぬか』

白虎『デカイ声こそが白虎様の自慢よッ』

侍『ほう。拙者も声の大きさには自信があるぞ?』

白虎『だからどうしたッ! このまま釣られ笑いで死ぬが良いッ!』

侍『釣られ笑いか、ならばその前に拙者の芸で本当の笑い声を出させてくれようぞ!』

 ……

姫様『……何よ』

青龍『小娘、見覚えがあるな』

姫様『あら、それは光栄ね』

青龍『このような華奢な身体、何とも心許ないが仕方あるまいて』

姫様『それは褒め言葉かしら、それとも……私の胸が小さいとでも言いたいのかしら?』 ゴゴゴ

青龍『頂くぞ、その身体ッ』

姫様『そうはさせるもんですかっ!』

 ……

勇者『はぁ、はぁ、はぁ』

魔王『あまり無理をすると死ぬぞ? もっとも余にとっては好都合だが』

勇者『おめーこそ、結構ウケてんじゃねぇか』

魔王『ツボに入らなければ、どうという事もない』

勇者『蓄積して思い出し笑いしてもしらねーぞ』

魔王『その前に貴様を葬る』

勇者『そうはいくかってんだ!』

魔王『ならば我が奥義ネタ、とくと味わぐぁわ……わえ』

勇者『ぶふっ!!』

魔王『かかったな、馬鹿めッ!』

 魔王は 【会心のネタ】 をはなった!

勇者『魔王のくせに姑息な手ぇ使いやがって……くくっ、わはははは!』

魔王『噛んだフリだ。勉強になるだろう?』

勇者(だが裏を返せば、魔王にはもう、どデカいネタは残ってねーって事だ)

魔王『そうらッ!』

勇者(でなけりゃ、あんな力技を使う必要もねーからな)

魔王『休んでいる暇はないぞ?』

勇者『ここは何としても、凌ぐ!!』

 ……

親父「……」

僧侶「み、みなさん大丈夫でしょうか?」

親父「そう信じて待つしかないだろな」

僧侶「こんな時に、何も出来ないだなんて……」

親父「出来る事はあるさ。祈る事だ」

僧侶「祈る……っ」

親父「科学や理論で解明されてはいないが、人を思う気持ちは力があるもんだ」

僧侶「そう、ですよね」

親父「お嬢ちゃんが皆を信じて祈っていれば、それが力となるさ」

僧侶「はいっ」

勇者「……」 ピクッ

親父「!?」

僧侶「今っ、勇者様が……!」

親父「勇者っ!」 ガシッ

勇者「……」 ピクピクッ

親父「まだ意識の中で戦ってるみたいだな」

僧侶「でもなんだか、とっても苦しそう……っ」

親父「呼吸が乱れている。まずいな」

僧侶「勇者様っ」

姫様「……」 ビクンッ

盗賊「……っ」 ガクガクガク

僧侶「あぁっ! 他の皆さんもっ!」

親父「……っ」

僧侶「どうしよう、どうしようっ!」

親父「慌てるな。皆の身体を楽な姿勢にかえてやるんだ」

僧侶「楽って」

親父「例えば横とか、呼吸を整えやすく顔の角度を変えるとかだ」

僧侶「は、はいっ!」

親父「死ぬんじゃないぞ、勇者」

僧侶「皆さんっ、きっと無事に帰ってきて下さいね……っ!」

 ……

忍者『……』

玄武『玄武です』

忍者『うん』

玄武『貴様っ、何故この私のネタで笑わない!!』

忍者『笑える要素がない』

玄武『何だとぉ!?』 ガーン

忍者『先程から不幸の自慢話を続けて、どこに笑う要素があるのだ』

玄武(コイツ……ネタ自体を理解していないのかッ)

忍者『大体な、不幸ならば俺の方が上だぞ』

玄武『何ィ!?』

忍者『そりゃあもう、かくかくしかじか――』

 忍者は 【不幸の話】 をはなった!

玄武『ブプッ!!』

忍者『お、笑った』

玄武『わ、わらってなどいないッ!』

忍者『いいや、笑った』

玄武『笑っていない!!』

忍者『ほう、認めぬか。それならば力ずくで笑わせてくれよう』 ザッ

玄武『力ずく!? い、嫌な予感……ッ』

忍者『そらっ、コチョコチョコチョ』

玄武『ギャハハハハハ!!』

忍者『もういっちょ、それっ』

玄武『ギャハハハハッ、やめっ、ギャハハハハ!!』

忍者『どうやら、くすぐりが苦手のようだな。ならば忍法、分身くすぐりの術』

玄武『――!?』

忍者『そうらっ、コチョコチョコチョコチョ!!』

玄武『ギイヤアアアアァァァァーッ!!』 ブシュウウゥゥゥゥ

忍者『頭領に人前での使用を禁じられていた秘術だ。とくと味わうが良い』

玄武『お、のれぇ! 死なば諸共だァ!』

忍者『何っ!?』

玄武『そらぁ! コチョコチョコチョコチョ!』

忍者『なっ! や、やめ……うはははは!』

玄武『ギャハハハハハハ――――』
忍者『あははははははは――――』

 ……

朱雀『九十四発目ェ!』

盗賊『九十四コチョコチョ!』

朱雀『ブハッ! ワハハハ!』

盗賊『ギャハッ、くぅ……っ』 ズザッ

朱雀『……百連発の間、毎回毎回くすぐり続けおって』

盗賊『これが俺の、唯一の必殺技だかんな』

朱雀『しかも高速移動でくすぐりつつ、朱雀様の百連発に耐えるなど』

盗賊『俺様はよぉ、お笑いってあんま、興味なかったわけよ』

朱雀『だからどうした』

盗賊『それがよ、お笑い一途な馬鹿とツルんでるうちにさ、少しずつ理解してきた』

朱雀『だからどうしたと言っている』

盗賊『簡単に言えば、笑いのレベルが上がったってカンジ?』

朱雀『話にならんな』

盗賊『だからよぉ、お前さんの百連発っての? もう大爆笑できねーんだわ』

朱雀『――!?』

盗賊『いやー慣れって怖いねぇ。ギャハハハ』

朱雀『ならばこれならどうだ?』

盗賊『あ?』

朱雀『連続百連発。残り六つ程だが、間髪入れず全て叩き込んでくれる』

盗賊『マジかよ……』

朱雀『今更、絶望しても遅いぞ』

盗賊『いや、手っ取り早くて助かるわ』

朱雀『何だと?』 ピキッ

盗賊『んじゃ俺も、全力マッハくすぐりといこうかねぇ』 ザッ

朱雀『捨て身か』

盗賊『正真正銘、これが最後の一撃だ』

朱雀『お互いな。くらえっ、朱雀様のギャグ百連発!!』

盗賊『高速ぅ、マッハぁ、くすぐりいいぃぃ!!』 バシュッ!!

朱雀『オオオオォォォォ――――』
盗賊『だりゃああぁぁぁぁ――――』

 ……

白虎『ブワァーッハッハッハッハッハ!!』

侍『くくっ、ひひひっ、ひぃ』

白虎『先程からよく凌ぐ。しかしもう、限界も近いようだな』

侍『……』

白虎『ずっと無言のままだが、何か喋ったらどうだ?』

侍『……』

白虎『この白虎様と語る口など持ち合わせていないとでも言いたいのか?』

侍『勇者殿の父上が、良い事を教えてくれた』

白虎『……ア?』

侍『お主には確かに伝えた。拙者も大声には自信があると』

白虎『まさか、一撃を放つ為にずっと喉の力を溜めていたとでも言うのか……ッ!?』

侍『武士に二言無し。同じくして二刀無し』

白虎『何をッ、ゴチャゴチャとォ!!』

侍『そして、武士道と言うものは、死ぬ事と見つけたり』

白虎『次の誘い笑いで、望み通り殺してくれるわッ!!』

侍『今だっ!!』

白虎『――ッ!?』

侍『侍はぁ……寒いいいいぃぃぃぃ!!』 ドォン!!

白虎(コイツ、なんて声のデカさ……いやっ、それよりも……)

侍『侍はぁ、寒いいぃぃぃぃ!!』

白虎(俺様が息を吸うタイミングに合わせてッ、これでは息を吸う暇がないッ)

侍『侍わああああぁぁぁぁーっ!!』

白虎(大して面白くもないギャグなのに、あまりのしつこさと大声と自虐で……)

侍『寒いいいいぃぃぃぃーっ!!!!』

白虎『つ、つい……笑ってしまうぅ! ブワァーッハッハッハッハ!!』

侍『勇者殿の父上が教えてくれた。ギャグの神髄、親父ギャグ』

白虎『全然違げええぇぇぇぇーッ!!』

侍『し、しかし……流石は奥義。喉の負担が――』

白虎『ブワァーッハッハッハッハッハッハッハ!!』

侍『っ!?』

白虎『恐れ入った。しかし俺様も魔王四天王の一人。タダでは死なん!』

侍『何っ!!』

白虎『このまま大爆笑を、誘い笑いに昇華してェ! 貴様も道連れだァ!』

侍『不覚……っ』

白虎『ブワァーッハッハッハッハ――――』
侍『あはっ、あはははははは!――――』

 ……

青龍『――ーだとさ。お後が宜しいようで』

姫様『……っはぁ』

青龍『我が落語に耐えたとはな』

姫様『なかなか良い噺だったわよ。でも落語って長いから大変だったわ』

青龍『ならばもう一つ小話を――』

姫様『ちょっと! ずるいわよ、今度は私にもさせなさいっ』

青龍『何? お前のような小娘に、何が出来るというのかね』

姫様『貴方、大喜利ってご存知?』

青龍『無論。まさか大喜利で勝負とでも?』

姫様『ええ。互いにネタで正々堂々と勝負しましょ』

青龍『落語家と大喜利。これ程までに相性の良いものはない』

姫様『大層な自信ね。でもそれは、勝ってからにして頂戴』

青龍『此方の台詞だ』

姫様『さぁ、いくわよっ!!』

青龍『作麼生!!』
姫様『説破!!』

 ……

親父「――――っ!?」

忍者「がふっ、ごはっ!!」 

盗賊「ごほごほっ!! げほぉ!!」

侍「ぐぶ……っ! がっはぁ!」

僧侶「み、皆さん!?」

親父「大丈夫か!? 死ぬんじゃあないぞ!」

盗賊「へ、へへ……っ」

親父「……?」

盗賊「して、やったぜ……」

親父「お前、勝ったのか!?」

盗賊「俺様の身体だぁ、好きに……させっかよぉ」 フラフラ

僧侶「侍様っ!! 忍者様!!」

侍「そ、某もだ……っ」 ググッ

忍者「奴め……っ、何処へ逃げうせた……くっ」

親父「そうか、打ち勝ったのだな」

盗賊「でもまぁ、このザマさ」

忍者「最早、戦う事はままならぬ」

侍「無念……。だが、生きているだけ良いと言えるのか」

僧侶「じゃあ、姫様も……」

姫様「…………っ」 ビクビクッ

親父「まだ、戦ってるみたいだな」

盗賊「頑張れよぉ、ぜってぇ負けんじゃねぇぞ!」

僧侶「姫様……っ!」

 ……

青龍『そ、作麼生……』

姫様『説破……』

青龍『なんという人間だ。この私と、青龍様と互角とは……っ』

姫様『誤算だったわ。前回の戦いから踏まえて勝てると思っていたのだけれど』

青龍『短期間だと言うのに、恐るべき探究心よ』

姫様『こう見えても協会の理事ですから。日々、研究よ』

青龍『力や魔法であれば人間なぞ瞬殺だと言うのに、魔王様の戯れよ……ッ』

姫様『でも、お笑いも良いものでしょう?』

青龍『ああ。だからこそ貴様を、笑わせて勝つ。それに執着する』

姫様『ふふっ。貴方、良いセンスしてるわ』

青龍『では行くぞ、作麼生!!』

姫様『説破!!』

青龍『魔物と人間』

姫様『!?』

青龍『どうした? お題は、魔物と人間だ』

姫様『魔物と……人間……』

青龍『これで儂を笑わせなくば、貴様が圧倒的に不利となる』

姫様『……』

青龍『何故ならば互いにここまで、ほぼ限界であろう』

姫様『そうね、貴方の仰る通りですわ』

青龍『次のターンで貴様は笑いを堪える腹筋ものこされておるまいて』

姫様『整いました』

青龍『……は?』

姫様『ですから、整いました』

青龍『整いました……じゃとォ!?』

姫様『魔物と人間とかけまして』

青龍(ここにきて、まさかの謎かけだとォ!? ゆ、油断――)

姫様『……私の胸と解きます』

青龍『!? そ、その……こころは?』

姫様『も、もめない事に魅力を感じます……っ』

青龍『…………』 ポカーン

姫様『ふん、どうやら私の敗北のようですわね。この身体、好きになさい』

青龍『フッ、フフ……フハハハハハッ!!」

姫様『……?』

青龍『この期に及んで謎かけ、しかもネタは非常につまらないと来ている』

姫様『うるさいわね』

青龍『揉めない、か。まさしくその通りかもしれんな』

姫様『……どこ見て言ってんのよ』 ムカッ

青龍『何がだ?』

姫様『何でもないわよっ』

青龍『魔王様と人間の戯れにより、魔法や暴力行為が禁止となって早何年か』

姫様『急にどうしたの?』

青龍『かつては馬鹿げていると感じていたお笑いにも、今や愛着が湧いている』

姫様『あ、あのー』

青龍『そしてそれを心地良いと感じる儂も居る』

姫様『ちょっと、聞いてる?』

青龍『貴様の言う通り、魔物と人間が争う事なく笑い合えれば、それこそが至福なのだろうな』

姫様『ええ、そうよ』

青龍『儂の負けだ』

姫様『えっ? はあぁ!?』

青龍『この身体は諦めよう。貴様の勝利だ』

姫様『だって、さっきつまらないって……』

青龍『ネタとしては笑えぬ。だが、感動はした』

姫様『――っ!!』

青龍『それに、貴様とは戦う気が失せた』

姫様『じ、じゃあ……』

青龍『だが勘違いはするな。主を守る事が儂の役目』

姫様『ど、どうするつもり?』

青龍『勇者の命だけは取らねば、後顧の憂いとなるでな』 シュウウゥゥ

姫様『ちょっと! まさか勇者を――』

青龍『儂らの力を融合すれば魔王様も……ククク――――』
姫様『こらっ、待ちなさい!! 待ち――――』

 ……

盗賊「がほっ!! ごほごほっ!!」

僧侶「!?」

親父「おい、しっかりしろ!」

忍者「こ……こは?」

侍「どうやら、戻ってきたようで御座るな……ごほごほ」

僧侶「大丈夫ですか、皆さん……っ」

盗賊「あ、ああ。も問題ねぇぜ」 ググッ

親父「無理をするな。瀕死ではないか」

盗賊「でも、四天王はブッ倒したぜ」

親父「何っ!?」

忍者「此方もだ」

侍「拙者も同様で御座る」

親父「お、お前ら本当に四天王を……」

盗賊「苦戦したが、まぁ俺様の敵じゃあなかったな。ヒャハハ――」

姫様「まだ、よ」

僧侶「姫様っ!!」

姫様「まだ、終わってない」

盗賊「どういうことだ?」

姫様「まだ終わってないのよっ!!」

盗賊「だからどういう意味だよ」

親父「すまんが、説明してくれるか」

姫様「青龍は言っていたわ。勇者の命だけは取る、と」

僧侶「っ!?」

姫様「魔王と融合すれば、とか……儂ら、なんて事も言っていたわ」

親父「儂ら? まさか……っ」

姫様「推測だけど、四天王は魔王と融合しようとしているんじゃないかしら」

盗賊「何だとぉ!?」

忍者「融合する事で、飛躍的に力を増幅させようというのか」

侍「どうするで御座るか!?」

親父「どうすると言っても、どうしようもないな」

僧侶「ど、どうしよう……っ」

盗賊「ここまできて、勇者に手ぇ貸せねーのかよっ!!」

忍者「おのれ、魔王め」

僧侶「……うぅ」

侍「無念で、御座る」

姫様「いかに勇者と言えど……こればかりは……」

僧侶「うぅー」

親父「もういい。お前らだって無事じゃないんだ。今は休んでおけ」

盗賊「休んでなんざ、いられっかよぉ!!」

侍「そうで御座る。どうにか勇者殿を救う手を考えねば」

姫様「どうやって救うって言うのよ……っ」

忍者「……」

盗賊「くそっ!」 ダンッ

親父「……嬢ちゃん?」

僧侶「わたっ、私……なんにもっ、できなくって……!」 ポロポロ

姫様「貴方が泣く事じゃないわ。みんな一緒よ」

僧侶「皆さんは必至で戦ってて、なのに……っ」 ポロポロポロ

侍「僧侶殿」

盗賊「僧侶っちよぉ、悔しいのは分かるけどな、こればっかりは……」

僧侶「私がもっと、ちゃんとしてれば、出来れば……うぅー!」 チカッ

忍者「な――っ」

僧侶「勇者様ああああぁぁぁぁーっ!!」 パアアァァァァ

親父「――――っ!?」

・ ・ ・

メイド「体調はどう――あっ」

伯爵「やあ、メイド」

メイド「伯爵さまっ!」

伯爵「何やら長い間、意識が朦朧としていたようだ」

メイド「正気に戻られたのですねっ、良かった!」

伯爵「しかしあの女め……」

メイド「どうかなさったのですか?」

伯爵「あ、いや。何でもな――」

メイド「何か、あったのですか?」 ゴゴゴゴ

伯爵「うっ」

メイド「心配したんですから……っ」

伯爵「い、いやっ、実はな――」

・ ・ ・

僧侶『こんな広いお部屋で一人ぼっち』

伯爵『失礼』 カチャッ

僧侶『伯爵さん?』

伯爵『少し良いかな?』

僧侶『はい。何でしょうか?』

伯爵『部屋は気に入って貰えたかな?』

僧侶『はいっ。一人なのにこんな広くて素敵なお部屋』

伯爵『眺めも良いし、何よりこの部屋は防音でね』

僧侶『そうなんですか』

伯爵『……ふふっ』 バタン

僧侶『……?』

伯爵『美しいな』 ススッ

僧侶『!? ち、ちょっと……』

伯爵『怯えなくとも良い。それとも、初めてなのかな?』

僧侶『あ、あの』

伯爵『瞳、髪、頬、唇。どれも申し分ない美しさだ』

僧侶『やっ、やめ……』

伯爵『じっとしていれば良い。私が女にしてやる』

僧侶『やっ、あ……っ』

伯爵『さあ、その白い肌を全て見せてくれたまえ』 スルッ

僧侶『ほっ、本当に……やめ……っ』

伯爵『おぉ、透き通るような白さ。まるで女神――』 バチッ

僧侶『……』

伯爵『静電気? いや、なんだ……この感覚は』

僧侶『……よと申した』

伯爵『!?』

僧侶『やめよと申した。私は忠告しましたよ』

伯爵『何だっ、この光! それに君は一体――』

僧侶『愚かなる人間よ。しばし己を悔いる刻を過ごすが宜しいでしょう』 パアアァァ

伯爵『うっ、うわああああぁぁぁぁ――――っ!!』

・ ・ ・

メイド「伯爵様……っ」

伯爵「今、思い出しても恐ろしい。あれは人間ではない。もっと違う生き物だ」

メイド「伯爵様、まだ正常ではないようですね」 シクシク

伯爵「待て。私は正常だ。元に戻ったのだ」

医者「どうしました?」

メイド「伯爵が目を覚ましました。けれども……」

伯爵「医者か? 案ずるな、私はもう何も問題はない」

メイド「人間ではないだとか、わけの分からぬ事を申しておられるのです」

医者「ほう。どうやら錯乱しているようですな。では施設で治療を施しましょう」

伯爵「何っ!? だから私は――」

メイド「どうか伯爵をお願い致します」 シクシク

伯爵「おいメイド! こらっ、離せ――やめっ! うわぁっ!」

・ ・ ・

盗賊「そ、僧侶っちが金色に光ってる!?」

侍「ど、どういう事で御座るか!?」

姫様「私が聞きたいわよっ、これは一体……」

親父「この光、まさか君は――」

僧侶『……久しぶりね、勇者』

親父「!?」

忍者「勇者? 勇者はそこに寝て……」

僧侶『先代の勇者、とでも言うべきかしら』

親父「君は…………女神」

姫様「!?」

盗賊「おいおいおいおい、待て待て待て待て。意味が分からん」

親父「この方は天に住む伝説の女神様だ」

盗賊「はああああぁぁぁぁ!?」

姫様「め、女神!?」

親父「何故、あなたが再び地上へ?」

女神『刻が来たからかしら』

忍者「刻?」

侍「一つ訪ねたいのだが、親父殿が先代勇者だとか何とか」

親父「ん、ああ。恥ずかしながらな」 ポリポリ

盗賊「マ、マジかよぉ!!」

姫様「それでは貴方が芸人となって旅をしていたのは……」

親父「魔王を2度も仕留めきれなかった責任があるからな。それに……」

姫様「じい」

親父「!?」

姫様「先代の勇者と共に戦った伝説の賢者」

親父「何でそれを……」

侍「じい殿は姫様殿の供であったので御座る」

勇者「……っ!」

忍者「しかし、先の青龍戦にて無念にも」

勇者「そう、か」

僧侶『勇敢なる人間達』

盗賊「僧侶っち、ますます美しくなっちゃって」

姫様「女神様に失礼でしょっ!」

盗賊「もう今更だろ! さんざんパンチラやらモミモミやらしちまったもんね!」

侍「ヤケクソで御座るな」

忍者「死を覚悟しておるのでしょう」

僧侶『咎めませんよ。それよりも皆に覚悟はありますか?』

盗賊「覚悟? 死ぬ覚悟か?」

僧侶『はい』

侍「武士道と云う事は死ぬ事を見つけたり、で御座る」

忍者「左様」

姫様「ここまできて、生も死も関係ないわ」

盗賊「そりゃそうだ。ヒャハハハ」

親父「だ、そうだ」

僧侶『宜しい。それでは私が力を貸しましょう』

忍者「力?」

僧侶『皆の意識を、勇者の中に移します』 パアアアァァァァ

盗賊「なっ、なん……吸い取られて――」

姫様「はううぅぅ!!」

忍者「くっ!」

侍「ぬおおぉぉ!!」

親父「女神……」

僧侶『過去を悔いる事はありません。今を、悔いなく生きるのです』

親父「……ああ。ありがとう」 バシュウウゥゥ!!

僧侶『……』

・ ・ ・

勇者「ぜはぁーっ、ぜはぁーっ、ぜはー!!」

魔王「しぶとい人間だ。嫌いではない」

勇者「俺はお前が大っ嫌いだ」

魔王「しかししぶとすぎる人間は余も嫌いだ」

勇者「じゃあよー、さっさと消滅してくんねーかな」

魔王「貴様こそ消滅すれば、楽になるぞ」

勇者「嫌なこった……ん?」 シュウウゥゥゥゥ

魔王「来たか」

玄武「魔王様」
朱雀「我等、四天王」
白虎「再び、その下へ」
青龍「還る刻也」

勇者「四天王!?」

魔王「四天王は余の一部から作りだしたもの」

勇者「つ、つまり」

魔王「再び余の下に集い、1つとなるのだ」

勇者「くっ」

魔王「さぁ、これで余の力は何十倍にも膨れ上がった」

勇者「万事休すかよ……」

魔王「無論、面白さもな!!」 ザッ

勇者「ちっくしょお!!」

魔王は 【とんでもないギャグ】 をはなった!

勇者「ぐわああああぁぁぁぁーっ!!」 ドサッ

魔王「終わったな」

勇者「これ……ま……で……か……」

姫様「まだよっ!!」

勇者「……?」

盗賊「諦めんなっ!!」

侍「勇者殿、しっかりするで御座る!!」

忍者「拙者らが、助けるぞ」

勇者「空にあいつらの幻覚が……もう死んだのか……はは」

親父「しっかりしろ」 グイッ

勇者「お、やじ……?」

魔王「馬鹿なッ、此処は勇者の精神。どうやって貴様等が」

僧侶「魔王、もう退きなさい」

魔王「そうか、貴様の仕業だな……女神!」

勇者「女神?」

盗賊「聞いて驚くなよ、僧侶っちの奴、女神様だったんだよ!」

勇者「!?」

女神「勇者よ、よく1人でここまで頑張りましたね」

勇者「僧侶が……女神、そうかぁ」

女神「私が出来る事はここまでです。後は……」

勇者「仲間が、いる」

女神「そう。貴方を信じる仲間と、貴方が信じる仲間と、戦うのです」

勇者「ああ、ありがとよ」 ググッ

魔王「おのれ、女神め」

盗賊「さあ勇者、見せてやろうぜ。俺様達の力をよぉ!」

忍者「主やテンの国の為だけではない。全ての人々の為に」

侍「今度こそ本当に、終わりにするで御座るよ」

姫様「私達の勝ちよ、魔王」

魔王「どうかな」

姫様「四天王を倒した私達が勇者に加担している」

魔王「だからどうした」

姫様「つまり、貴方と勇者に対する援護は私達の勝ちって事よ」

魔王「肝心の本体が負けていてはどうしようもあるまい」

親父「俺が居る」

魔王「……貴様」

親父「魔王、50年前より続く因縁、ここで終わらせるぞ」

魔王「ハーッハッハッハッハ!!」

勇者「たった一言で笑わせるとは、流石は親父」

姫様「どう考えても違うでしょ! いつまで耄碌してんのよっ」

魔王「何か勘違いをしているようだな」

親父「何?」

魔王「確かに四天王を個々、撃破した事は些か驚いた」

盗賊「何が、言いてぇ」

魔王「だが四天王の力は元来、余の力」

勇者「そうか、そういうことかよ……っ」

魔王「貴様等が力を加法したところで、こちらは乗算と言う事だ」

忍者「何っ!?」

魔王「百がいかに増えようとも、万の力には敵わぬという事だァ!!」

魔王は 【抱腹絶倒なギャグ】 をはなった!

勇者「ぐああああぁぁぁぁーっ!!」

盗賊「はぐっ、ひっ、ひっ、ひいぃ」

忍者「…………」 ガクガクガク

親父「ここにきて、これ程のネタを蓄えているとは……っ」

魔王「女神も無駄な事をしたものだな。フッフフフ」

勇者「無駄、なんかじゃねぇ……っ」 ヨロッ

侍「勇者殿……」

勇者「みんながきてくれた、それだけで力になるんだ……っ」

魔王「微々たる力か?」

勇者「加法とか乗算とかんなモン関係ねぇ!!」

魔王「これでとどめだ、喰らえぃ」

勇者「本当のちからってのはなぁ、数字じゃ言い表せねぇんだよ!!」 クワッ!!

魔王「死ねぇー!!」

魔王は 【とてつもないボケ】 をはなった!

侍「ぎゃっははははははは――――」

姫様「ふぐぐっ、なんて……ボケ……」

勇者(ツッコむんだ、ツッコミで返せば、この場はなんとか凌げるんだ……!)

魔王「どうだ、息をする事も出来まい」

勇者(駄目だ、声が出ねぇ。ツッコミを……ツッコミ――――)

 …………でやねん

魔王「……?」

 なんでやねん

姫様「ツッ……コミ……?」

勇者「誰……が……」

戦士「なんでやねんっ!!」

勇者「――――っ!?」

魔王「ぐっ」

戦士「ありえへんやろ、そんなん!!」

魔王「余のネタを打ち消した、だとォ!?」

勇者「な、んで……どうして」

戦士「何してんねん! しっかりせんかい!」

勇者「戦士、どうしてお前が」

戦士「お前が情けないから助けに来たんや。ったく、手間かけさせるぜ」

勇者「戦士ぃ……」 ポロポロポロ

戦士「何で泣いとんねんっ! そんな場合ちゃうやろ!」

勇者「お、おぉ。そうだった! おーし、いっくぜぇ!」

戦士「おうよ」

親父「女神の力か」

盗賊「んな、アホな……」

 勇者と戦士は 【正統派漫才】 をはなった!

勇者「んでな、ここまで来たと思ったら話が通じねーでやんの」
戦士「なんでやねん!」

盗賊「すっげ、息ピッタリ」

侍「まさに阿吽の呼吸で御座るな」

忍者「彼が伝説のツッコミ、戦士か」

姫様「悔しいけれど、本物ね」

勇者「でも拾って食ってみた」
戦士「アホか!!」

魔王「グクッ、ウムムムム……」 プルプル

親父「いいぞ、押している」

戦士「ほな、もうええわ」 バシッ
勇者「ありがとうございましたー」

侍「終わったで御座る」

姫様「終わっちゃってどうすんのよっ!」

魔王「な、なかなか効いたぞ勇者」

勇者「くっ」

魔王「次はこちらの番だ。ほげー」

 魔王は 【一発ギャグ】 をはなった!

戦士「ぶははははは!」

勇者「ちぃっ、これじゃあ戦士のツッコミが入れらんねぇ」

姫様「せっかくツッコミ役が来たというのに、これでは……」

親父「俺らで何とか隙を作ろう」

魔王「そうはいかぬ。ほげー」

親父「――っ!!」

姫様「あはっ、あはははははは!!」

忍者「おのれっ」

侍「草が臭い」

魔王「小賢しいぞッ。ほげー」

忍者「無……念……」

侍「わははははっ、ははっ、ははっ!!」 ドターン

盗賊「ビックリするくらい役に立たねぇ!」

魔王「残るは貴様か」

盗賊「うっ」

魔王「そして最後に、勇者にとどめを――」

 そうはさせないよ……ふぅ

魔王「!?」

盗賊「ま、さか……っ」

魔法使い「さあ魔王、今度は僕が相手だよ……ふぅ」

勇者「ま、魔法使い!? それに……」

親父「う、ぐぐ」

じい「大丈夫か?」

親父「!?」

じい「久しぶりじゃな、勇者」

親父「賢者……っ」

じい「あの勇者がまさか、こんな立派になってるとはのう」

親父「賢者、俺は……」

じい「細かい話は後じゃ。ほれ、息子に手を貸してやろうじゃないか」

親父「ああ、そうだな」 グッ

じい「姫様も行きますぞ」

姫様「じい……っ」

戦士「おまっ、あの魔法使いか!?」

魔法使い「そうだよ。久しぶりだね戦士くん、ふぅ」

戦士「なんや、偉い凛々しくなったんちゃうん?」

魔法使い「そうかな? ふぅ」

勇者「なんか、懐かしいな」

戦士「せやなぁ。そんな昔でもないんやけどな」

魔法使い「うん……ふぅ」

勇者「なんか俺、いまさ、すっげぇ力が湧いて来てる気がする」

戦士「気のせいやろ」

魔法使い「気のせいだね、ふぅ」

勇者「お前ら……」

戦士「ほれ、魔王も待っとるみたいやで」

魔法使い「どんなネタで笑わせてあげようか、ふぅ」

勇者「こんだけ居んだ。何とでもなるっ!!」

盗賊「ヒャハハ! 援護は任せろい」

忍者「我ら2人で先手を取るか」

親父「侍、俺らは合いの手だ」

侍「合いの手、成程で御座る!」

姫様「じい、私達も……じい?」

じい「うぅむ、誠に残念」

姫様「えっ?」

じい「今ここには、世界を救うべく9人の魂が存在していますじゃ……ふぅ」

姫様「そうね。でもそれが何か?」

じい「儂は死の淵で、秘伝書の神髄を見つけましたじゃ。ふぅ」

姫様「神髄? それってどういうこと!?」

じい「秘伝書を見てみなされ。ふぅ」

姫様「えっ? 秘伝書……あった、生身じゃなくても持ってるものね」 ゴソッ

じい「思念体となった時のものがそのまま反映されるようですな。ふぅ」

姫様「それで、これが何?」

じい「よく読んでみると、何か気付きませんかな? ふぅ」

姫様「えぇと……何だろう、分からないわ」

じい「例えばこの部分、違和感を感じませぬか? ふぅ」

姫様「違和感? そうね、強いて言うなら、台詞の繋ぎ目が強引って事かしら」

じい「その通りですじゃ。ふぅ」

姫様「9人……ちょっと待って、まさか!!」 バッ

じい「そう。この秘伝書は元来、1人用のネタではないんですじゃ。ふぅ」

姫様「――――っ!!」

じい「これは10人が続々と、休む事なく繋ぎ合わせて読んでゆくネタ。ふぅ」

姫様「……道理で、1人じゃ息も続かないわけね」

じい「1人称に見せているのは悪用されぬ為のブラフでしょうな。ふぅ」

姫様「じい、貴方の言った事が理解出来たわ。でも……」

じい「そうなのですじゃ。今、ここに居るのは9人……ふぅ」

姫様「これじゃあネタは成立しない」

じい「誠に、残念ですじゃ。ふぅ」

姫様「……戦士!」

戦士「!?」

姫様「これ、読んでおいて!」 ブンッ

戦士「何やねん? 台本か?」 パシッ

姫様「折り目つけておいたから、そこからそこまでで良いわ!」

戦士「えっ、あ……おう。てか、あんた誰やねん」

じい「姫様」

姫様「勇者のお父上」

親父「言わずもがなだ。賢者、口頭で良い」

じい「うむ。お主は簡単で短めな4人目を担ってくれ。ふぅ」

親父「分かった」

姫様「これで……」

親父「だが、後1人はどうするつもりだ?」

姫様「誰かが2人分を担えば良いだけの事よ」

じい「死にますぞ」

親父「っ!?」

じい「10人で放つ、この本当の奥義は、膨大な肺活量を使いますじゃ。ふぅ」

姫様「……」

じい「1人が1つの部分を担うのですら困難なもの。それを2人分などと……」

姫様「でも、9人しか居ないならば、誰かがやるしかないでしょ」

親父「お嬢ちゃん、それをアンタがやるってのか?」

姫様「他に担える人が居て?」

じい「姫様……ふぅ」

勇者「てめー! サボってんじゃねぇ!」

戦士「しゃーないやろ! 文句はあの女に言うたれ」

勇者「はぁ!?」

盗賊「姫っちよぉ、そっちも早く手伝ってくれ!」

姫様「えっ、ああ。ごめんなさい」

魔王「虫けら、まさに虫けらよ」

勇者「偉そうに!」

魔王「力に於いても魔法に於いても、そして笑いに於いてさえも魔族には勝てぬ」

勇者「まだ負けてねーよ」

魔王「勝ち目もない強者に群がる虫けらだと申しておるのだ」

勇者「だから、まだ負けてねーだろ!」

盗賊「そうだそうだっ」

魔王「断言する。どんな技を用いようとも、貴様等の勝率は0だ」

勇者「なーら教えてやるよ。世の中に0なんてモンはねーってことをよ!」

魔王「口減らずが」

勇者「口だけじゃねぇ!!」

 勇者は 【渾身のネタ】 をはなった!
 魔王は 【とっておきのネタ】 をはなった!

勇者「ぶははははははっ!!」 ズザァ

魔王「クッ」

盗賊「勇者のヤツ、一方的におされてるだけだったのに」

魔法使い「今は何とか、持ち堪えるまでになっているねぇ。ふぅ」

侍「しかしそれでも、まだ魔王の方が上で御座る……っ」

勇者「ぐわぁ!」 ドサッ

魔王「打ち合いに耐える程のネタも、最早残されてはいないか」

勇者「ちょっとウケてたくせに」

魔王「ウケていない! クッ、と声が出ただけだ」

勇者「それをウケたって言うんじゃねーの?」

戦士「せや」

魔王「小賢しい……ッ」

盗賊「なぁ、魔王の奴ちょっと疲れてきてんじゃねぇか?」

忍者「そうか? 四天王を吸収して、余裕があるように見えるが」

親父「なんにせよ、ここが正念場だ。踏ん張るしかない」

勇者「もういっちょ、行くぜぇ!!」

魔王「何度でも来るが良い。そして己の無力さに打ちひしがれて死すべし」

 ・ ・ ・

上忍「見えたぞ。間違いなさそうだ」

兵長「本当に本当なんだろうな?」

中忍「頭領からの文だ、間違いはない。あそこに魔王城がある」

兵長「ようし、船を岸に付けるぞ! 準備に取り掛かれっ」

騎士団長「……」

兵長「本当に、こやつも?」

騎士団長「本人が命をかけての希望だ」

兵長「しかし罪人を……」

騎士団長「下手な真似をすればその場で処刑する」

兵長「……っ」

騎士団長「本人もそれについては了承済みだ」

兵長「そこまでして来たというのか」

騎士団長「かつての仲間が命を賭けている時に、じっとしてはいられなかったのだろう」

 ・ ・ ・

盗賊「ギャハハハハハ!!」 ドシャッ

魔法使い「はぁはぁはぁふぅ」

親父「もはやノーガードの打ち合い。いつ倒れてもおかしくはない」

勇者「はぁーはぁーはぁー」

魔王「……ッ」

親父「かと言って、常々言うが互角というわけでもない」

じい「そうじゃな。ふぅ」

勇者「互角っつーか、負けかもしんねーな」

親父「!?」

勇者「悪りぃみんな、ネタ切れだ」

盗賊「何ぃ!?」

魔王「ほう、ネタが尽きたか」

勇者「魔王に通用するネタは使いきっちまったわ」

戦士「おいおい、冗談やろ?」

勇者「いやマジ。結構ネタ作っといたんだけどなぁ」

戦士「何を諦めとんねんっ!!」

魔法使い「本当に何もないのかい? ふぅ」

勇者「ああ、残念だけどな」

侍「そ、そんな……」

勇者「おい魔王」

魔王「何だ」

勇者「そういうわけだ。でも1つだけ俺の頼みを聞いてくれるか?」

魔王「申してみよ」

勇者「俺以外の、こいつらの命は助けてくれ」

忍者「!?」

勇者「お前の狙いは俺だろ? 俺の肉体はくれてやる」

魔王「成程」

戦士「お前、何を言うとんねん!」

勇者「その代わりに、他の連中には手を出さないでくれ」

魔法使い「まぁ僕はもう死んでるけどね。ふぅ」

魔王「……」

勇者「魔王、アンタとのネタバトル、楽しかったぜ」

魔王「……良かろう。他の者には手を出さずにおいてやる。今はな」

勇者「それでいい」

盗賊「お前、本気で言ってんのか!?」

勇者「これで少しは時間が稼げんだろ」

侍「時間?」

勇者「今回は一旦、退いてよ、次の機会を狙えばいいのさ」

忍者「次か」

勇者「何年後になるかもしんねーけど、また面白い芸人が出てくんだろ」

姫様「まだよ」 ザッ

勇者「……」

姫様「貴方、本当にそれで良いわけ?」

勇者「ネタ切れなんだ。仕方ねーだろ」

姫様「あんたっ、それでも芸人なの!?」

勇者「!?」

姫様「ネタ切れだからおしまいって、お客はまだ目の前に居るのよ!?」

勇者「――っ!!」

姫様「ネタが切れたなら、その場で考えなさいよっ!」

親父「正論だな」

姫様「世界一の芸人を目指してるんじゃなかったの!?」

勇者「……っ」

姫様「聞いて呆れるわよ」

勇者「……そうだった」

侍「勇者殿?」

勇者「俺は世界一の、天才一流芸人だった!」

戦士「それはない」
姫様「それはない」
盗賊「それはない」
魔法使い「それはない。ふぅ」

勇者「お前ら……」

戦士「でもまぁ、凡才で三流やけど世界一は認めたるわ」

姫様「そうね。今や魔王をも苦戦させる程の芸人ですもの」

盗賊「ルックスと性格はどーしようもないけどお笑いは認めるぜ。ヒャハッ!」

魔法使い「僕が出会った中で、1番は君だよ……ふぅ」

魔王「何をゴチャゴチャと話している!」

勇者「魔王!! さっきの言葉は撤回だ!!」

魔王「……?」

勇者「俺は死なねぇ! だからコイツらと一緒に、生きて戻るぜ!」

魔王「寝言を。もはや術はないのだろう?」

勇者「ぐっ」

姫様「あるわよ」

魔王「何?」

勇者「おいおい、何を言って……」

姫様「勇者、これっ」 ポイッ

勇者「秘伝書!? まさか……」 パシッ

姫様「やるわよ、ネタ」

勇者「でもよ、こいつは……」

じい「この秘伝書はな、1人のものではないのじゃよ。ふぅ」

親父「皆で繋ぎ作り上げるネタだそうだ」

勇者「どういうこった?」

姫様「このネタはね、10人1組で披露するものなの」

勇者「10人!? でもそれじゃあ……」

姫様「大丈夫。足りない部分は私がなんとかするから」

勇者「お前……っ」

姫様「貴方は最後まで集中して。身振り手振りは貴方の役目よ」

勇者「大丈夫……なのか?」

姫様「私は協会の理事よ? 心配しないで」 ニコッ

勇者「……分かった」

盗賊「おーし! やるかぁ!」 バシッ

姫様「みんなっ、ネタと順番は大丈夫ね?」

侍「無論で御座る」

戦士「やったろうやないか」

親父「行くぞ」 ザッ

盗賊「まずは俺様からだぁ!!」

 盗賊は 【秘伝書の一】 をはなった!

魔王「……ッ!!」

盗賊「ど、どうでいっ。ぜぇぜぇ」

姫様「休まず次っ!」

 忍者は 【秘伝書の二】 をはなった!

忍者「はぁ、はぁっ、はぁっ」

侍「次は某、行くで御座るよ」

 侍は 【秘伝書の三】 をはなった!

侍「……むっ」

姫様「ネタが飛んだ! ちょっと何やってるのよっ」

親父「まずいか……っ」

侍「……だが男が言うには、それはそれはとてつもなく大きな――」

魔法使い「うまくリカバッたね。ふぅ」

戦士「せやな。違和感なく繋いだで」

侍「はぁはぁ、危なかったで御座る」

 親父は 【秘伝書の四】 をはなった!

魔王「ヌググッ」

姫様「流石は元勇者。安定感抜群ね」

じい「そうですじゃな。さて、次は儂か。準備に取り掛かろうか……ふぅ」

 じいは 【秘伝書の五】 をはなった!

魔法使い「流石はお師匠。声もトーンも完璧だね。ふぅ」

戦士「次はお前やろ、準備せんでええんか?」

魔法使い「おっと、そうだね。ふぅ」

 魔法使いは 【秘伝書の六】 をはなった!

魔王「――ッ」

姫様「良い感じじゃない。魔王、一言も発してないわよ」

戦士「さぁ、次は俺の番や! 行くでぇ!!」

 戦士は 【秘伝書の七】 をはなった!

姫様「ちょっとしどろもどろだけど、よく暗記してるわ」

勇者「ああ、だな」

魔王「クククッ、グク……ッ」

姫様「さぁ魔王、行くわよ!」

 姫様は 【秘伝書の八】 をはなった!

姫様「まだ、まだぁ!!」

 姫様は 【秘伝書の九】 をはなった!

魔王「この刻を待っていた」

姫様「――!?」

魔王「このネタを初めて聞いた時よりあった違和感。それが分かった」

勇者「馬鹿なっ、お前はまだ1度も奥義を――」

姫様「――――青龍っ!」

魔王「そうだ。青龍の記憶が余のものとなったのだ」

勇者「っ!!」

魔王「あの時感じた違和感、それは長すぎるネタだと言う事」

姫様「まさか……」

魔王「そこで考えた。これは複数人で行うネタではないのか、と」

姫様「まさか魔王、貴方……」

魔王「余の推測するに、ざっと10人は必要。そうなればここに居るのは9人」

姫様「最初から、このタイミングを狙って……」

魔王「唯一ネタを崩せるのはここしかない。そう、1人が2人分のネタを担う箇所だ」

勇者「狙ってやがったのか……っ!」

魔王「無駄な努力であったな。さらばだ」

 魔王は 【最後のネタ】 をはなっ――――

商人「そこでだ、男は老人に言い放つ。 『まだ終わりじゃあるまいねぇ?』 って」

魔王「――!?」

勇者「商人!! なんで……っ」

商人「ワタシを差し置いて大団円だなんて、許しませんよ」

戦士「なんや、見かけんと思ったら隠れとったんかいな」

商人「おぉっ、戦士さん!? い、生き返ったんですか!?」

魔法使い「僕らは魂なのさ。ふぅ」

商人「魂……。よく分からんけど良かったですなぁ」

戦士「なんやそれ」

魔王「ヌッ、グウウゥゥ……」

盗賊「魔王のヤツ、ネタを空ぶって身動き取れねーみたいだぞ」

姫様「チ、チャンスよ……っ」

商人「よーし、ほんなら」

 商人は 【秘伝書の九】 をはなった!

魔王「――――ッ!!!!」

親父「さぁ、次でラストだ。決めてこい!」 バシッ

勇者「お、おう」

魔王「おのれ……ッ」

勇者「最後だ魔王。俺達のとびっきりのネタ……食らいやがれええぇぇぇぇ!!」

魔王「おのれぇ、勇者アアァァ――――!!」

 勇者は 【秘伝書の十】 をはなった!

盗賊「今ぁ!!」
忍者「ここに」
侍「10の」
親父「願いと」
じい「笑いを……ふぅ」
魔法使い「込めた。ふぅ」
戦士「ネタの!」
姫様「完成」
勇者「だ!! だ!? 俺、『だ』 だけ!?」

魔王「グオオオオォォォォ――――ッ!!」 ゴゴゴゴゴゴ

盗賊「魔王が苦しんでるぞ!?」

魔王「まさヵ……な」

勇者「魔王」

魔王「よもや余が、この魔王が……人間に……」

親父「十数年前、50年前、どちらも俺はとどめをさせなかった」

魔王「人……間……にィ…………」

親父「だが今回は終わりだ。息子が俺の尻拭いをしてくれた」

勇者「ちげぇって」

親父「……?」

勇者「俺じゃない。ここに居るみんなだ」

親父「ああ、そうだったな」

魔王「今回は退いてやろう。しかし、今回は……だ」

勇者「まーた復活すんのかよ」

魔王「いつか必ずな。その時には……」

勇者「そん時にはまた、新しい勇者がいるさ」

魔王「…………」

勇者「俺なんかよりとんでもなく強くて、面白いかもしんねーぜ?」

魔王「そん時は、余も更なる力を付けてくれようぞ」

勇者「じゃあな魔王。アンタ、面白かったぜ」

魔王「フ、フフ……フワァーッハッハッハッハッハ――――」 シュウウゥゥゥゥ

 勇者一行は 【魔王】 をたおした!

姫様「終わった……のね……」

魔法使い「みたいだね。ふぅ」

じい「おや、身体が透けてきたようじゃな。ふぅ」 パアアァァ

侍「!?」

魔法使い「どうやらお別れのようだね。ふぅ」

商人「そんな」

魔法使い「元より僕らは死んだ身だ。今この状態が奇跡なのさ。ふぅ」

じい「左様じゃ。今度こそ本当の別れじゃな。ふぅ」

姫様「そんなっ、じい……」

じい「姫様、お元気で。貴方はもう立派な1人の女性ですじゃ。ふぅ」

親父「賢者」

じい「先代の勇者よ、これで心は晴れたな。ふぅ」

親父「ああ、ありがとう。感謝するよ」

魔法使い「では、お元気で。ふぅ」

商人「これで終わりだなんて、寂しい限りですよぉ」

勇者「……」

戦士「勇者、これでお別れやな」

勇者「……っ」

戦士「最後にこうやって会えて、本当に良かったわ」

勇者「…………っ」

戦士「お前にありがとうって、言えるからな」

勇者「――――っ!!」

戦士「勇者、ほんまありがとうな」

勇者「……ずりぃんだよ」

戦士「あん?」

勇者「こんな、一方的なよぉ! ずるいじゃねぇかよっ!」

戦士「しゃーないやろ、死んてもうたんやし」

勇者「だからずるいって言ってんだよ!!」

戦士「でもまぁ、感謝しとるで。お前に礼も言えずに死んでもうたから」

勇者「もういいっ! やめろよ!」

戦士「でも伝えられたわ。きっと神様からのご褒美やろな」

勇者「もういいって!!」

戦士「……」

勇者「何がありがとうだよ……バカヤロー」

戦士「バカとはなんやねん」

勇者「感謝してるのはなぁ! こっちだよバカヤロー!!」

姫様「……っ」 ポロポロポロ

勇者「お前がいたからっ、ここまで来れた!!」

忍者「……」

勇者「戦士や魔法使いや、みんなの力があったから、ここまで来れた!!」

商人「勇者さん……っ」

勇者「でも照れ臭くって、礼なんか言えなかった。けどよ、本当はよぉ……」

戦士「……」

勇者「ずっとぉ! ありがとうってぇ! 言いたかったんだよぉ!!」

戦士「勇者」

勇者「今でも照れ臭くて、泣きそうで、お前の姿すら見れねぇんだよぉ!!」

親父「最後に言ってやれ」 ポン

勇者「……っ」

戦士「なぁ勇者」

勇者「戦士、ありがとう。いままで本当に……ありが……と……」

戦士「なぁ勇者、最後に顔、見せてくれへんか?」

勇者「嫌だ」

戦士「なんでやねん。まぁええわ」

勇者「……」
戦士「……」

勇者「わーったよ! 見せりゃいいんだろ見せりゃ!」 クルッ

戦士「ほげー」 ムニー

勇者「!?」

戦士「……あれ? ウケへんかった?」

勇者「バーカ! お前の変顔なんて笑えるかよ!」

戦士「んだとぉ!?」

勇者「ははっ、あははははは!!」
戦士「ぶっ! わははははは!!」

勇者「じゃあな、戦士」

戦士「おう。あの世で待っとるで」

勇者「そん時はコンビ結成だな!」

戦士「あんまチンタラしとると他の相方誘ってるかもしれへんから、早よ来ぃや」

勇者「ふざけんな!」

戦士「あはははは! 冗談や冗談」

勇者「ったく」

戦士「んじゃ、またな。勇者」 パアアァァ

勇者「おう! またな、戦士」

じい「姫様、お元気で」 パアアァァ

姫様「じいっ、ふえぇ~ん!」

魔法使い「すぐ会えるさ。ふぅ」 パアアァァ

盗賊「すぐ会ったら困るけどな。ヒャハハハ」

盗賊「そうですよぉ~グスッ」

侍「彼らこそ、まさに武士の鑑で御座るな」

忍者「ええ。武士ではありませんが」

親父「……」

勇者「ん、何だ? 景色が歪んでるぞ!?」 ユラユラ

親父「おそらく魔王を倒した事で、勇者の精神から解放されるのだろう」

侍「そういえば我ら、思念体で御座ったな」

盗賊「うおっ、身体が透けてきた――」

姫様「消える――――」 パアアァァ

 ・ ・ ・

 ……しゃ。ゆう……しゃ。勇者。

勇者「……僧侶」

――「勇者! おいっ、しっかりしろ!」

勇者「ん……?」 パチッ

騎士団「勇者!! 気づいたか、良かった……っ!」

勇者「オッサン」

騎士団「……?」

勇者「あ、いや何でもねぇ。夢でも見てたみてーだ」

騎士団「とにかく無事で良かった。しかし、今はのんびりしている暇はない」

勇者「え?」

騎士団「魔王城が揺れている。恐らくだが間もなく崩壊すると思われる」

兵長「大変だっ! 上部が崩れているみたいだぞ!」 ゴゴゴゴゴゴ

姫様「きゃあぁ! どこ触ってんのよっ!」 バシッ

商人「違いますよぉ。ここへ来たらお嬢さんが倒れてたんで起こそうと……」

姫様「良いから離しなさいっ!」 バシバシッ

商人「そ、そしたら本と一緒に急に吸い込まれ……ふげっ」

下忍「頭領、先に。我らは皆を誘導しますゆえ」

忍者「おぉ、お主ら。助けに来てくれたのか」

中忍「侍様もお急ぎを」

侍「かたじけない。助かる」 ザッ

盗賊「こりゃマジでヤベーぞ。急げ急げ」

親父「……」

勇者「親父! 早くしろって!」

親父「ああ。……さらばだ、女神」 ザッ

姫様「ちょちょ、ちょっとぉ。かなり崩れてきたわよ!?」

商人「ひいぃっ! せっかく魔王を倒したのに、ペチャンコだなんて勘弁ですよぉ!」

忍者「見えたぞっ、光だ!」 ダダッ

勇者「だっしゅーつ!!」 バッ

盗賊「間に合ったぁ~」

侍「間一髪で御座ったな」 ズゴゴゴゴ

姫様「これで、全て終わったのね」

勇者「いーや、終わりじゃねぇさ」

姫様「えっ?」

勇者「魔王はまた復活する」

親父「だろうな」

勇者「その刻までに新しい勇者を、そして新しいネタを作り上げるんだ」

姫様「成程。始まりってわけね」

侍「拙者も協力するで御座るよ」

忍者「主は己の芸を磨いた方が……」

盗賊「さーて、帰ろうぜ……商人?」

商人「ワタシは犯罪者ですから。さ、連れて行って下さい」

騎士団「うむ」 グイッ

勇者「待てよ」

騎士団「君も分かっているだろう? 例外はない」

勇者「魔王を倒した奴が逮捕されんのかよ?」

兵長「あのなぁ」

勇者「魔王を倒した、勇者様一行の仲間が、逮捕かって聞いてんだよ!」

商人「――――っ!!」

勇者「確かに罪を犯したかもしんねぇ。でもなぁ、商人は俺達の仲間なんだ」

商人「勇者さん……っ」

勇者「確かファースト王やらフィフス王が魔王を倒したら褒美をくれるって言ってたなぁ」

騎士団「まさか……」

勇者「俺の望みは商人の解放だ。これでいいだろ?」 ニコッ

商人「勇者さああぁぁん!!」 ブワッ

騎士団「……今すぐに許可は出せぬ。王に確認せねばならぬからな」

姫様「私が承認しますわ」

侍「商人だけに承認」
忍者「主、黙っていて下さい」

騎士団「ひ、姫……っ」

姫様「セブンスも当然、褒美を出すつもりはありますわ」

騎士団「しかし……」

姫様「父上には私から離します。勇者、貴方の望みを叶えましょう」

勇者「サンキュ! てなわけだ諸君」

兵長「ぬぐぐ……っ」

騎士団長「姫様のご命令とあらば仕方ない。従うしかありませんな」

兵長「ぐぬぬぬっ」

盗賊「おっしゃ! これで万事、解決だ!」

兵長「あれ、お前……」

盗賊「お、俺様の願いは恩赦だっ!!」

姫様「……全く。うふふふっ」

勇者「さぁ、帰ろうぜ」

盗賊「おーっ!!」

勇者「じゃあな、僧侶」 クルッ スタスタスタ

 ・ ・ ・

男「ドロボー!!」

兵長「何ぃ!? 泥棒はどこだっ!」

男「アイツだアイツ!!」

兵長「!?」

盗賊「ヒャハハハ! 人聞きの悪いこと言ってんじゃねー!」 スタタタ

兵長「んで、何を盗まれたんだ?」

男「ネタだよネタ」

兵長「ネタ?」

男「俺のとっておきの面白ネタを盗まれたんだよ!」

盗賊「バカヤロー。これはパクリ芸っていう立派な芸の1つだ」

男「んな芸があってたまるかっ! 早くとっ捕まえてくれ!」

兵長「捕まえるも何も、芸は法で裁けないからなぁ」

男「――っ!」

盗賊「だーかーらー、パクリ芸だって言ってんでしょ。ギャハハハ」

兵長「まったく」

騎士団「困ったものだな」

兵長「おや。ええまぁ、いつもの事です」

騎士団「魔物も見かけなくなった昨今、あれがいわゆる大事件になるのかな」

兵長「でもあいつ、ああ見えて盗賊稼業からは足を洗ったみたいです」

騎士団「ほう」

兵長「何やら人の芸を盗んだり、人の仕草や歌を物真似たりはしてますが」

騎士団「それは罪にならぬのか?」

兵長「それも芸の1つだそうで」

騎士団「芸の世界と言うものは奥が深いのだな」

兵長「いや全く」

騎士団「しかしもう罪は働いていないのだな。それは安堵した」

兵長「一介の盗人が世界を救った魔王討伐一行だからなぁ」

騎士団「多少は心も入れかえると言うものか」

兵長「そういえば、今日は何用で?」

騎士団「ん、ああ。姫様の護衛だよ。ほら」 スッ

姫様「ご機嫌よう」

商人「ややっ、これは姫様! ご機嫌うるわしゅう~」

姫様「こちらはどう? 順調かしら?」

商人「ええ、そりゃもう。見て下さいこの賑わい」

姫様「まぁ、随分と増えたみたいですわね」

商人「ええ。劇場を改築してから好評でしてねぇ。入会希望者も倍増ですわ!」

姫様「それは何より」 ニコッ

見習い芸人「理事長、こんちには!」

姫様「こんにちは。どう? 面白いネタは出来た?」

見習い芸人「はいっ! 今晩の公演で披露します!」

姫様「それは楽しみにしているわ。うふふっ」

見習い芸人「それでは稽古がありますので失礼しますっ」 タタタッ

姫様「みんな、生き生きとしているわね」

商人「お笑い事務所と劇場を建ててから1年。話題が話題を呼んで大繁盛ですわ」

姫様「私財を投げ打って建てたそうですわね」

商人「慈善事業のつもりでしたが、今じゃ逆に儲けさせて貰ってますわ。あははは」

姫様「まぁ」

商人「姫様こそ理事長就任、改めておめでとうございます」

姫様「どうかと思ったけれど、お笑い発展の為と思って引き受けましたわ」

商人「やははっ、それが良いですよぉ」

姫様「……あっという間の1年でしたわね」

商人「ええ、ほんとそうですなぁ」

騎士団「そして魔王討伐からも1年か。早いものだ」

兵長「沢山の犠牲も出てしまったものだ」

姫様「でも今、こうして魂は受け継がれておりますわ」

商人「そうですなぁ」

男「待てこのやろう!!」

盗賊「ギャーッハッハッハッハッハ!!」

 ・ ・ ・

忍者「……」

侍「こほん」

門弟「……」 ワクワク

侍「よ、ようし……用紙を取るぞー!」

忍者「…………」

門弟「……くくっ」 プルプルプル

侍「ようし、用紙を取るぞ! よ、養子も」

門弟「あはははははっ」

忍者「何故、これで笑いが生じるのだ……」

門弟「先生の芸自体は面白くないのに、何故か笑えてしまいます」

侍「!?」 ガーン

忍者「滑り芸とでも言うべきか。不思議なものだ」

侍「忍者」

忍者「はい」

侍「しばし、修業の旅に出るぞ」 ザッ

忍者「そんな急な」

侍「こんな事では芸の神髄まで程遠い。一刻も早くで御座る」 スタスタ

忍者「主!? お、おいっ! 後は任せるぞ」

門弟「先生!? 忍者様ぁ!!」

 ・ ・ ・

国王「各地に養成所とも言えるお笑い事務所を建てたようだな」

親父「ええ。フォースにセブンスにテンにと、今やここファーストをも凌ぐ勢いですよ」

国王「むむ、それはうかうかしていられぬな」

親父「こうして笑いが世界中に広まって、浸透してゆく。素晴らしい事です」

国王「うむ。次世代の芸人も続々と出てくるじゃろう」

大臣「そうすれば、いつ魔王が復活しようとも大丈夫ですなっ」

国王「そうだな。ところで……」

親父「……?」

国王「勇者はまだ戻らぬのか?」

親父「あの日以来、行方知れずのままです」

国王「そうか」

親父「なぁに、心配はいりませんよ。そのうち帰ってくるでしょう」

国王「だと良いがな」

親父「世界一になったらきっと、帰ってきますよ」

 ・ ・ ・

勇者「ほげー!!」

島民「○×△□」
酋長「↑↑↓↓」

勇者「……駄目だ。全っ然、ウケてねー」

島民「☆Ψф」

勇者「言葉が分からないんじゃ当たり前か。いや、諦めてどうするよ」

主張「%&%&?」

勇者「世界中の奴らを笑わせてこそ世界一の芸人である証だろっ」

 勇者様。

勇者「……!?」

 勇者様、勇者様ぁ。

勇者「なんだ、久しぶりじゃねぇか……僧侶」

僧侶「勇者様っ」

勇者「俺はこれからよ、世界中の奴らを笑わせなくちゃならねぇんだ」

僧侶「はいっ」

勇者「エイスはちょっと早かった。もう1度修業しなおしだ」

僧侶「はいっ」

勇者「一緒に来るか?」

僧侶「はいっ!」

勇者「んじゃ行こうぜ。世界中の奴らを笑わせによ!」





おしまい。

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