―部室―
八幡「よう!」ガラッ
雪ノ下「ひっ……どちらさまですか……?」ゾワッ
八幡「おいおい!いくら俺が普段と違って賞味期限切れの納豆みたいな目をしているからってその言い草はないだろう!」ニコニコ
雪ノ下「その気持ち悪い目と卑屈さは……ひょっとして比企谷くんかしら」
八幡「はは!見れば分かるだろ?」キラッ
雪ノ下「……一体何があったの?無理矢理作っている笑顔と見事に死んだままの目が凄まじいミスマッチと気持ち悪さを引き出しているわ」
八幡「おいおい、俺が変だとでも言いたいのか?」ニコニコ
雪ノ下「変ではないけれど、不審よ」
八幡「オーケー分かった。流石にそろそろ泣きそうだから止める」
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X X X X
雪ノ下「どうしてあんな事をしたの?」
八幡「なんで明るく振舞おうとしただけで説教されてんの俺」
雪ノ下「今回は私一人だけだったから良くなかったものの、ここに由比ヶ浜さんが居たら更に良くなかったのよ?」
八幡「どちらにせよ良くないのかよ……いやまぁ、冗談半分でやってたのに我ながら吐きそうだったけど」
雪ノ下「自覚があったのなら尚更よ。どうしてあんな気味の悪い事をしようという結論に至ったのかしら?」
八幡「いや……うん、すいませんでした」
雪ノ下「いいえ、別に良くないわ。それよりも何故あんな事をしたのかと聞いているのだけれど」
八幡「よくよく考えてみると会話が全く進展してねぇ」
雪ノ下「それとも、何があったのかと質問した方が答えやすいかしら」
八幡「まぁ……そうだな。今日の休み時間の事なんだが……」
…………………………
女子A『ねぇ、あの人の名前なんだっけ?』
女子B『え?あぁーえーと……思い出した。ヒキタニ君だ』
女子A『あぁそうそれそれ。あの人、性格は無いけど顔はまぁまぁだよね』
女子B『あーうん、確かに顔は……けどキョドり方とかいかにもオタクって感じじゃん?』
女子A『だから性格は無いって言ってるじゃん……正直キモいし。顔はあんな感じで、性格が明るければ私の好みだなー。あの人は無いけど』
女子B『へぇーまぁ分かんない事もないかなー。ヒキタニ君は無いけど』
…………………………
比企谷「……てな感じで、寝たふりをしてる俺に対する女子の会話が聞こえて若干テンション上がってたんだよ」
雪ノ下「喜ぶ要素が二割程しか無い上に残りの八割はほぼ悪口だと思うのだけれど……」
比企谷「当然そんな事は分かってる。けど、俺の数少ない長所である顔を褒められたんだからそんなのは割とどうでもいい」
雪ノ下「そのプラスなマイナス思考は逆に尊敬に値しないわ」
比企谷「その話し方まだ続けんのかよ……うるせぇ、ほっとけ」
雪ノ下「……要するに比企谷君はその人の好みに近付きたくて、明るく振舞う練習をしようとしたのかしら?」ジト-
八幡「なんで睨むんだよ……いや、人の悪口をいう女に一々惚れる訳ないだろ。それに中学生の頃これと全く同じ会話を聞いた俺が翌朝明るいキャラで登校して一部の女子からのあだ名が盗聴器になった時点で学習してるっての」
雪ノ下「……そう。それなら構わないわ」
八幡「人のトラウマを構わないの一言で片付けちまう雪ノ下さん流石っすわ……」
雪ノ下「けれど、それなら何故比企谷君は明るいキャラに挑戦しようとしたのかしら?」
八幡「……いや、それは……お前がどんな反応するのか知りたくて」
雪ノ下「残念ながら貴方がいくら明るくなろうとも比企谷君が比企谷君という存在である以上私が好意を寄せる事は有り得ないわ」
八幡「いやちげぇよ!そういう意味じゃないっての」
雪ノ下「……ならどういう意味だったのかしら?」ムッ
八幡「なんでそこでまた睨むんだよ……自分の予想を否定された程度でいちいち不機嫌気になんな」
雪ノ下「別に勘違いしないで頂戴。私は比企谷君みたく著しく精神に余裕が無い訳じゃ無いの。そもそも」
八幡「あーうん分かった俺が悪かった!」
雪ノ下「……ふん」
八幡「言い方が悪かった。今の俺が明るいキャラになったらどんな感じなんだろうかと思って。気持ち悪いのか不気味なのか奇妙なのか変なのか……ちなみに中学生の頃の評価は不審だったから変化してなくて内心超落ち込んでる」
雪ノ下「候補の中にプラスイメージな言葉が無い時点で流石は比企谷君ね……けれど、いくら友人が居ないからって私にあんなものの評価を任せるのはとても不快なのだけれど」
八幡「いやだからさっき謝っただろ、自分でもあそこまで気持ち悪いとは思ってなかったし……だけどさ、こういうのはお前からの評価が一番信頼できるんだよ」
雪ノ下「……」
八幡「だってお前絶対嘘つかねぇし。その辺の友達だとか他人だとか、下手したら小町よりも信頼できる。友達いないけど」
雪ノ下「……ふふっ、そうね」クスッ
八幡「そういうこった。だからお前に聞いた、それだけ」
雪ノ下「そういう事なら、別に構わないわ。いえ、良くないけれど構わないわ」
八幡「どっちだよ……てか、読書の邪魔して悪かったな。他には特に無いから以上だ」
雪ノ下「いえ、まだ話は終わっていないわ」
八幡「ん?終わっただろ。ってか俺が終わらせただろ。もしかして更に謝罪を要求するつもりか?」
雪ノ下「……貴方は私を鬼か何かと思っているの?」ギロッ
八幡「と、とんでもない……」
雪ノ下「……まぁ良いでしょう。比企谷君、将来貴方に好きな……仮に好きな異性が出来たとするわ」
八幡「仮にってなんだよ。お前俺の事を同性愛者だと思ってんの?」
雪ノ下「……話を続けるわ」
八幡「流石にこれだけは否定して!?違うから!」
雪ノ下「将来、比企谷君に好きな異性が出来たとして。まず貴方はどうするの?」
八幡「え?えーと……なるべく視界に入らず、関わりを持たず、ひっそりと関係を断ち切る」
雪ノ下「ごめんなさい。流石の私にも貴方の常識だけは全く理解出来ない事を忘れていたわ」
八幡「ん?俺何か変な事言った?」
雪ノ下「おかしい点しか無かったと思うのだけれど」
八幡「いや、だって普通好きな人には嫌われたくないと思うだろ」
雪ノ下「私が言いたかったのは如何に嫌われずにいるかではなくて、如何に関係を発展させていくかという事よ。というか、普通に考えて視界に入った程度で嫌われる人間はそうそう居な」
八幡「ここにいるが?」
雪ノ下「……仕方ないので、小説における人間関係の発展を例に上げましょう」
八幡「おい。馬鹿にするとかでも良いからなんか言ってくれ」
雪ノ下「まず主人公かヒロインのどちらか一方、もしくは両方が、相手に対して行為を抱いたとします」
八幡「あー、うん。完全に聞かなかったことにする気ね……それで?」
雪ノ下「その場合、多くの小説ではどういう風に話が展開しているか分かるかしら?」
八幡「まず女の子が空から降ってくるから受け止めて、親方に報告」
雪ノ下「時々貴方が何を言っているのか分からない時があるのだけれど」
八幡「……すまん。そういう話だと大抵は話しかけるなりなんなりして、互いの距離を縮めようとする。それもなるべくいい印象を与える話し方でな」
雪ノ下「えぇ、そうね。ではそれにさっきの比企谷君を当てはめてみるわ」
八幡「は?」
………………………………………………
八幡『よう!』
ヒロイン『ひっ……どちらさまですか……?』
八幡『おいおい!いくら俺と初めて話すからってそんなに緊張する事もないだろう!』ニコニコ
ヒロイン『そ、その……どちらさまですか……?』
八幡『はは!見ればわかるだろ?』キラッ
ヒロイン『……いえ、あの……本当に誰ですか……?』
八幡『おいおい、俺が変だとでも言いたいのか?』ニコニコ
ヒロイン『だ、誰かー!不審者ですー!』
………………………………………………
雪ノ下「こうなるわ」
八幡「おい、流石に悪意しかないだろこれは」
雪ノ下「いいえ、明るい比企谷君に対して、初対面の女性はこう思うでしょう。ソースは私」
八幡「……いや……そうなのかもしれんが、別にそのキャラで口説くつもりなんてさらさらねぇよ……」
雪ノ下「なら、素の比企谷君であれば女性を口説き落とせるとでもいうの?」
八幡「いや無理だな」
雪ノ下「貴方の将来の夢はなんだったかしら?」
八幡「……はっ……ヒモに、なれ、ない……だと!?」
雪ノ下「……動機が凄まじく不純だけれど、そもそも貴方がこの奉仕部に居る理由というのがその腐った性根を矯正する事なのだし……まぁいいでしょう」
八幡「まずい雪ノ下……早く教えてくれ!」
雪ノ下「貴方が本気で誰かに愛されたいのなら、好青年になるべきね」
八幡「なるほ……いや。は?」
雪ノ下「要するに、由比ヶ浜さんのような明るい性格になるべきという事よ」
八幡「いや……無理だろ」
雪ノ下「私もそう思うわ」
八幡「おい」
雪ノ下「けれど、少なくとも今よりマシな状態になる事は可能だと思うわ」
八幡「……今よりマシに?」
雪ノ下「冗談よ」
八幡「おい……」
雪ノ下「冗談よ。現時点でもはや地面に埋まっている比企谷君の人間性だけれど、貴方次第では少しでも顔を出すことは可能でしょうね」
八幡「……そうか?」
雪ノ下「冗談よ」
八幡「おい!」
雪ノ下「冗談よ」
八幡「からかうなよ……」
雪ノ下「からかっている訳ではないわ。五割程は」
八幡「半分からかってんのかよ……」
雪ノ下「そうね。けれど残りの半分は本気よ」
八幡「……」
雪ノ下「これを多いと取るか、少ないと取るかは比企谷君次第よ」
八幡「……いや、うん。多く見せようとしてるけど普通に考えて少ないだろ」
雪ノ下「誠に遺憾ながらその通りよ。ごめんなさい」
八幡「お前本当に嘘つかないよな。優しい嘘ってのを学んだ方がいい」
雪ノ下「それで」
八幡「ん?」
雪ノ下「それでどうするの?比企谷君。好青年を目指すのか、それとも今のまま、不審に生き続けるのか」
八幡「……俺って普段から不審なのか……知ってたけど知りたくなかったわマジで」
雪ノ下「そんなことより、質問に答えて頂戴」
八幡「……そうだな、こうしよう」
雪ノ下「こう、というのは?」
八幡「俺は明るくても素でも、どっちにしても不審なんだろ?なら現時点でどっちがマシなのかという話になる」
雪ノ下「……そうは思わないのだけれど」
八幡「そうでも無いだろうな。けど、俺としてはマシな方で居たい。これでも一応向上心はある、努力しなくて済む場合に限るが。そこで他の奴……えと、小町とか……両親とか……に、明るく話しかけてみて、普段の俺とどっちがマシか聞く」
雪ノ下「そこで浮かぶ知り合いが家族だけしか出て来ないというのは流石にどうかと思うわ……」
八幡「……ほっとけ。で、明るいキャラが多かったら、俺は好青年を目指す。どうだ?」
雪ノ下「非常に残念な案ね」
八幡「うっせ」
雪ノ下「つまり、非常に比企谷君らしい案だと思ったわ」
八幡「俺らしい=残念って事ですか、そうですか」
雪ノ下「けれど比企谷君が少しでも更生する可能性がある以上、私としては反対する理由は無いわ」
八幡「だろ?じゃあ早速今日うちに帰ったら……」
雪ノ下「しかし」
八幡「え?」
雪ノ下「貴方には同級生の知り合い……いえ、顔見知りなのかしら。良く分からないけれど、学校で会話をする人物が数人程度居るでしょう?」
八幡「……まぁそうだな……クラスだと時々戸塚とか……体育の授業で友達が休んだ戸塚とか……」
雪ノ下「……貴方って、やっぱり」
八幡「はっ!いやいや違うから!戸塚は戸塚だから!だから別に同性愛に興味があるとかじゃ断じて!」
雪ノ下「……そ、そう」
八幡「すまん、本気で引かれると流石に。じょ、冗談だから」
雪ノ下「……けれど、戸塚君の他にも……非常に遺憾で、同時に同情を覚えるけれど……由比ヶ浜さん、が居るでしょう?」
八幡「お前本気で由比ヶ浜の事好きだよな。けどその言い草は本当に酷い。俺に対して」
雪ノ下「他にも……在木材君だったかしら。比企谷君の友人である彼が居るでしょう?」
八幡「材木座の奴に関してはしっかりと名前を覚えてやれ。それと同時に俺の友人ではないという点も一緒にしっかりと覚えてくれ」
雪ノ下「そういった人達に意見を聞くのも重要では無いかしら。数少ないとはいえ比企谷君の被害者な訳だし」
八幡「なんでサラッと加害者になってんの俺。ひょっとしたら痴漢より遥かに酷い冤罪受けてるんだけど」
雪ノ下「一応冗談である部分も含まれているわ」
八幡「一応な上に部分かよ」
雪ノ下「けれど、より多くの人物に意見を求める事によって正しい答えを導き出し易くなるでしょうね」
八幡「……それもそうか」
雪ノ下「ではそれで決まりね。もうすぐ可哀想な由比ヶ浜さんが来る頃よ、心の準備をしておきなさい」
八幡「お、おう……なんか緊張と同時にさっきの俺を思い出して吐き気が込み上げて来た……」
ひとまずここまで
ガラッ
雪ノ下「!」
八幡「!」
由比ヶ浜「やっはろー!ヒッキーゆきのん!」
八幡「やっはろー由比ヶ浜!」ニコッ
由比ヶ浜「ひっ……だ、誰この人……?」ゾワッ
八幡「おいおい、雪ノ下と同じリアクションだな!ははは!」ニコニコ
雪ノ下「……由比ヶ浜さん、彼は比企谷君よ」
由比ヶ浜「いや、見れば分かるし……けどこれヒッキーじゃないじゃん……いやどう見てもヒッキーだけど、ヒッキーじゃない……ヒッキーキモい……」
八幡「……これ、続ける必要は無いんじゃないかな!」ニコニコ
雪ノ下「何の事かしら比企谷君」
八幡「……」
由比ヶ浜「続けるとか続けないとか何の話……?や、どう考えてもヒッキーの話し方なんだろうけど……」
八幡「気にしないでくれ由比ヶ浜!それはそうと、いつもより遅かったじゃないか!」ニコニコ
由比ヶ浜「……ヒッキー。何があったのか知らないけど本気でキモいからやめてよ……」
八幡「ははっ酷いなお前!俺だってテンション上がる時があるんだよ!」ニコニコ
由比ヶ浜「……それ、隼人くんの真似なの?」
八幡「そんな訳ないだろ。マジで嫌だなぁ。ははっ」
雪ノ下「比企谷君。いつもの無表情に戻っているわよ」
由比ヶ浜「その……無理に明るくするよりも、普段通りのヒッキーの方が100倍マシだと思うな……ヒッキーはヒッキーなんだし」
雪ノ下「終了するより先に答えが出てしまったわね……そこまで。ご苦労様、由比ヶ浜さん」
八幡「あーやっべぇ……由比ヶ浜にまで泣かされそうになったわ……葉山の真似とか言うなよマジで……リア中の真似してるぼっちとか心臓抉る気かよ……てか雪ノ下お前、俺に対しては労いの言葉なんて無いのな。知ってたけど」
由比ヶ浜「や、やっぱり何かしてたんだ……ほ、本気でキモかったんだからね……」
雪ノ下「……本当にごめんなさい、由比ヶ浜さん。比企谷君に変わって謝罪するわ」
八幡「お前ら二人して死体蹴りするのやめてくんない」
>>32
訂正
リア中→リア充
雪ノ下「それにしても気持ちが悪かったわよ比企谷君、直接会話していた訳ではないのに未だに鳥肌が止まないわ」
八幡「死体に更にダメージ与えるとかバクテリアかよお前。俺のライフはもうゼロだぞ……」
由比ヶ浜「えと……つまりどういう事?」
雪ノ下「あぁ、ごめんなさい。説明を忘れていたわね」
由比ヶ浜「あ、いや、別に良いんだけど……」
八幡「……はぁ。やれやれ」
雪ノ下「……」
由比ヶ浜「……」
八幡「……」
雪ノ下「……」
由比ヶ浜「……?」
八幡「……ん?どうした雪ノ下」
雪ノ下「何を言っているの比企谷君?早く由比ヶ浜に説明して頂戴」
八幡「なるほどな。俺に関する説明をする義理は微塵もないってか。じゃあ、最初からそう言えよ!」
>>34
訂正
「早く由比ヶ浜に説明して頂戴」→「早く由比ヶ浜さんに説明して頂戴」
雪ノ下「普通は言うまでもなく了解しているものでしょう?」
八幡「しかも暗黙の了解……分かったよ。俺から説明する」
由比ヶ浜「えーっと……それで結局さっきのってなんだったの?演技の練習?」
八幡「まぁ、演技といえば演技だな。事の発端は実は今日の休み時間……あっヤバい。このままだとなし崩し的に中学のトラウマまで話す事になる気がする」
由比ヶ浜「虎馬……?ヒッキー。虎馬ってなんだっけ?野次馬みたいなやつ?」
八幡「いや、訂正。由比ヶ浜の頭の方がヤバいから良しとする」
あかん眠い。今日はここまでとします。みなさんのレス嬉しいです
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