モバP「なぁ、凛」凛「・・・何?」(196)
アイドルマスターシンデレラガールズSSです。
トライアドプリムス(渋谷凛・神谷奈緒・北条加蓮)のお話です。
地の文があるので苦手な方は気をつけてください。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1367393778
一週間のうち、最後の平日。学校帰りにそのまま事務所へ行き、レッスンまでの時間を適当につぶしていた、秋の半ばごろだった。
ソファに座って雑誌を読んでいると、後ろからプロデューサーが話しかけてきた。
「凛、ユニットを組もう」
「・・・プロデューサーと?」
「違う、そうじゃない。他に二人、候補生の子がいるんだ」
そう喋るプロデューサーの口調はなんだか少し嬉しげで、少し面白くなかった。
「ふーん、そうやってまたいろんな女の子に声かけてるんだ」
「いや、それが仕事なんだけど・・・と言うか凛だって最初はそうだっただろうに」
そんなことはわかってる。ただ他の女の子に声をかけてるところを想像したら、すこし棘がでてしまっただけ。
――――――
人のあふれる街を歩いてるときに急に喋りかけてきたときのこと。
スーツ姿の男の人に急に、アイドルに興味はありませんか、なんて声をかけられたのは未だ記憶に新しい。
『渋谷さんは多分、誰からも忘れられない、シンデレラみたいなトップアイドルになれると思う。そんな気がするんだ』
『まぁ、ティンと来たとしか言いようがないんだけどね。格好ももちろんそうだし、顔とか、オーラとか・・・すごくかわいい、かっこいいと思ったんだ』
『君みたいな可愛いけど格好いい、今時の高校生が舞踏会に行くんだよ。それって最高に面白いと思うんだ。渋谷さんとなら出来る』
・・・半ば強引に連れられて入った喫茶店で、大真面目にそんなことを言われた。
言われたそのときもそうだったけど、今思い出しても少し顔が火照る。本当にこの人はタラシだよねとつくづく思う。
後日、改めて承諾の意を伝えて、互いに自己紹介ってなったときは思わず動揺して強がってしまった。
『よし、これでとりあえず書類はオッケーだね。俺は―――だ。今後君のプロデューサーって形で、いろいろやっていくことになる』
『ふーん、アンタが私のプロデューサーなんだ?まぁ、悪くないかな・・・。私は渋谷凛。今日からよろしくね』
『悪くない、か・・・あはは、これからよろしくね、渋谷さん』
『その、』
『うん?』
『その渋谷さんっての、気持ち悪いからやめて。学校みたいで嫌だ。・・・凛でいいよ』
『そうか?じゃあ、凛。これから頑張ろうな。』
自分から言った癖に、凛と呼ばれた瞬間、心臓が、跳ねた。
・・・というか今考えてもあったのが二回目なのに悪くないかな、は失礼だよね・・・。
謝るにしても今更だし、まぁきっとプロデューサーもきっと気にしてないよね。なんてこの人の優しさに甘えてしまうのも、いつものことだった。
――――――
「それで?その、二人って誰と誰なの?先週入ったって言ってた子かな」
「あぁ、そうだ。一人は神谷奈緒っていう、凛より二つ上の子なんだが、まぁなんというかな、少し素直じゃないところがあるんだな、これが」
「ふーん、プロデューサーの好きなツンデレってやつだね」
「いや、まぁ俺が好きかはおいといてだな・・・。
もう一人が、北条加蓮。この子も凛の一つ上だな。昔、病気したみたいで少し体力がなくて、やる気もちょっと難アリみたいに見えるが・・・」
「やる気がないの?・・・プロデューサー、あんまり誰にも彼にも声かけてると・・・」
「わかってるわかってる。大丈夫だ。多分あの子はな、アイドルっていうものに対する純粋な情熱では、凛や卯月にも負けてない。ただちょっとワケありじゃないが・・・」
プロデューサーの目をジッと見る。まぁ、適当にいってるわけじゃないんだろうけど。
・・・どうせ何回も会ったことがないのにいろいろ見抜いてしまったんだろう。この人は、そういう人だから。
「わかった、そういうならプロデューサーを信じるよ。プロデューサーのお眼鏡にかなうってことは、変な人じゃないだろうし」
「すまんな」
・・・ええんやで、とは返さない。この前プロデューサーと友紀さんが会話をしてるときにそんな流れがあったのだ。
時々ふたりはわけのわからない言葉で会話する。プロデューサーも急に『営業に行く喜び』とか言われても困るんだけど。
「今、二人は?」
「トレーナーさんとレッスン。二人とも入ったばっかりで慣れてないからね」
「わかった。合流してきてもいいかな?」
「あぁ、かまわないぞ。そのまま今日のレッスンをこなしてきてくれ」
「了解、じゃあ、行ってくるね」
「おう、いってこい」
プロデューサーに背を向けて事務所を出る。話せる時間を終わらせるのは少し残念だったけど、今はそれよりユニットのことで頭がいっぱいだった。
*
私、渋谷凛にとって、誰かとステージに立つことはあまり珍しいことじゃない。
今は特にユニットを組んでいるわけではないけど、よく雑誌とかで書かれる所謂「ニュージェネレーション」などでステージに立つことは多い。
ほぼ同時期にデビューした卯月と未央。ソロでの活動は私が少し早かったけど、三人で仲良くやってきた。
最近はお互い忙しくなってきていてあまり公私共に会うことは多くないけど、二人とも、大事な仲間だ。
そんな様子を見てかどうかかは知らないけど、今回新しく組むことになったユニット。
年齢は上みたいだけど、彼女たちともいい関係が気づいていけたらいいなと思う。
そんなことを考えながら運動着に着替えて、レッスン場へ向かう。中からうっすらとトレーナーさんの声が聞こえてきた。
「・・・ツー、ワンツー、加蓮ちゃん遅れてますよ!奈緒ちゃんも意識をそらさないで!」
ダンスレッスンだろうか。外から様子を眺める。
そのときだった。茶髪を二つに結ったほうの女の子がその場にへたりこんでしまった。
「加蓮ちゃん、大丈夫?つらいだろうけど、あともうちょっとだから・・・」
「ダメぇ、もう無理~。もう今日は終わりにしよ?ね?」
・・・なるほど、この子が北条加蓮か。
確かに全体的に体の線も細い。これじゃあのレッスンについていくのは相当しんどいだろう。
もっとも、本人のやる気の問題もあるんだろうけど。
「おい加蓮、大丈夫か?」
「もうだめだよー・・・ちょっと休憩させて?」
今寄っていったのが神谷奈緒だろうか。こちらも見た感じ結構疲れてる。
と、扉の外から眺めているとトレーナーさんが私に気づいたみたいで手招きする。扉を開けると二人がこっちを振り向いた。
「あ、凛ちゃん・・・だよね?すごい、本物だ・・・」
「うん、そうだよ。そっちは、北条さんで間違いないかな?」
立ち上がろうとした北条さんに手を貸す。・・・初対面の人の前で座ったままでいないのだから、悪い人ではないんだろう。
「ふぅ・・・ありがと。アタシは北条加蓮だよ。まぁ、見てのとおり運動はからっきしなんだけどね、あはは・・・」
「うん、それとなくは聞いてるよ。身体のほうは大丈夫、なのかな?」
「一応ね。ただ、寝てる生活が長かったから。体力が全然だよ。やっぱ向いてないのかなー・・・」
さびしい笑い方をする人だなと思った。
そうやって二人で話をしていると隣からおずおずといった感じで神谷さんが近づいてきた。
「あっ、あたしは神谷奈緒だ。まァ、あんまし愛想もねぇけど・・・よろしくな。」
「渋谷凛だよ。これからよろしく、二人とも。」
手を差し出すと、少し困ったように神谷さんが手を出した。私よりも少し小さな手だった。
そのまま二人で握手を交わしていると、北条さんがアタシもーといいながら加わってきた。
なんだか傍から見たら珍妙な光景だっただろうな。っていうか実際、トレーナーさんも苦笑いをしていた。
北条さんのさっきの光景を思い出すと少し思うところもあるけど、とりあえずこの二人ともうまくやっていけそうだった。
「・・・もう、いいですか?」
なんてトレーナーさんが声をかけるまで私たちはなぜか手を握り合って顔を突き合わせて頷きあっていた。
うまくやっていけそうだった。
「じゃあ今度は凛ちゃんのレッスンにしましょうか。加蓮ちゃんと奈緒ちゃんはもうあがって大丈夫です、お疲れ様でした」
はーい、と二人が返事をして後ろに下がっていく。その途中で北条さんがあ、と声を出した。
「ねぇ、トレーナーさん。せっかくだからちょっと見学していってもいい?」
「あ、それいいな。なァ、いいだろ?」
「そうですね・・・そのほうがお互い刺激にもなるでしょうし、いいですよ」
わーい、と二人が喜んで壁際へ向かっていく。私の意志は関係なかったらしい。もっとも、拒否する理由もないので
壁際に並んで座り込んだふたりは仲良さそうに喋っている。あとから聞いたところ、事務所に入ったタイミングも同じとのこと。
トレーナーさんが音楽プレイヤーのところに移動する。はじまるみたいだ。
「じゃあ凛ちゃん、歌と踊り両方で、こないだの続きからでいいですか?」
「―――わかりました」
私はいつも、別人になる。
かといって別に姿形がかわったり、声が変わったり、超能力が使えたりするわけではないのだけれども。
頭の中のうしろのほうにあるスイッチを、パチンと切り替えるイメージ。
それをしたからといって特に意味があるわけではないのだけど、そうすることでスッと冷静になれて、お客さんの前に出てもあまり緊張したりしなくなる。
『ステージの上では自分が一番だと思え。ステージを降りたら自分が一番下だと思え。・・・まぁ、これは受け売りみたいなもんなんだけどな』
私の初めてのライブのとき、緊張して青ざめていた私にプロデューサーはそう言ってくれた。好きなミュージシャンの言葉らしい。
『今ここにいるお客さんは、凛のことを見に来てくれてる。どんなに格好悪くても、そんな凛を見に来てくれてる』
『だから、ステージで凛が一番自信を持ってやれば、その自信はお客さんに伝わる。だから、ハッタリでもいい』
『ミスしたら、それはあとで反省すればいい。ミスを怖がるな。ここは凛だけのステージなんだから、自信もって思いっきりやってこい』
そういってプロデューサーは手を挙げた。その意図はすぐにわかったから、私も震える手を無理やりあげて、手を思いっきり合わせた。
そのときのパチン、という音で、初めて私のスイッチが入った。
以来、レッスンでもライブでも、私が"アイドル"でいる間は、スイッチを切り替えるようになった。
最初のころは、ああやってプロデューサーとハイタッチをしなきゃ出来なかったけど、今はもう一人でできる。
・・・まぁ、プロデューサーとハイタッチしたほうが調子がいいのも事実なんだけどさ。
「―――はい、じゃあ、ここまででいいですよ」
トレーナーさんの声で現実に戻る。少し前のことを思い出してたけど、レッスンの内容はきっちり頭に残っていた。
「終盤のほうで、少し踊りのほうでズレがあって、それに引っ張られて歌がフラットしてましたね。それ以外は問題ないです」
・・・プロデューサーのことを考えてたあたりだった。反省。
頭の中にあの悪ふざけしてるときの顔が浮かんできた。かき消す、かき消す。あまりうまくは、いかなかった。
「凛ちゃんはこのあと、フリーですよね?そしたらもうあがっちゃって大丈夫ですよ」
「わかりました。今日もありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。凛ちゃんたちみたいに成長の早い子を育てるのはこちらとしても楽しいですから」
人の良さそうな笑みを浮かべるトレーナーさん。年上の女性の雰囲気というのは、どうしてもあこがれるものがあった。
時間はもう夕方になっていた。夕飯時といって差し支えないだろう。お腹もそろそろ、限界を迎えてる。
歓迎会というか、記念というか。二人といっしょにご飯でもいけないかなと思い、後ろを振り返る。
「二人とも、よかったらこのあと一緒に、ご飯でも―――」
北条さんと神谷さんが、あんぐりと口をあけて呆けていた。・・・いや、仮にもアイドルとしてどうなんだろう、その顔は。
「・・・す・・・」
「す?」
神谷さんが何か言おうとしていた。酢?
「すっ・・・・すげぇな!!凛!!!」
急に呼び捨てにされた。
気づけば隣の北条さんも興奮した様子で頬を赤らめていた。立ち上がって二人して詰め寄ってきた。
「いや、テレビに出たりしてるからすごいんだろうとは思ってたけど、間近で見るとこんなにすごいだね・・・!」
「な!すげぇよな!もうなんか、あたし何言えばいいんだかわかんないぜ!」
「お、落ち着いてよ北条さんも神谷さんも・・・そういってくれるのはありがたいんだけどさ・・・」
「加蓮でいいよ。ユニット組むんだったら、そのほうがやりやすいし」
「あぁ、あたしも加蓮から奈緒って呼ばれてるしな。凛が嫌じゃなかったらそうしてくれ」
「・・・そう?それじゃあ、そうすることにするよ、加蓮、奈緒」
うんうん、としきりに首を頷かせる二人。満足げなのはいいんだけど、とりあえずこっちはお腹が鳴りそうな雰囲気だから一刻を争う。
「とりあえず二人とも、せっかくだしご飯食べに行かない?」
「あ、もしもし、プロデューサー?」
『おう、どうした凛。レッスン終わったら、もうあがっちゃって大丈夫だぞ』
「うん。もう今あがるところ。それで加蓮と奈緒と、ご飯食べに行くことになったから、一応報告」
『そうか。しかし、仲よくなるの早いな。まぁ、そう思ってその構成にしたんだけどな』
「その意味もなんとなくわかるよ。・・・大丈夫。うまくやっていけそうだよ」
『うん、じゃあよかった。・・・しかしお前ら飯か、いいなー、俺いってもいいかなーチラッ』
「別に私は構わないけど・・・ちひろさんは大丈夫なの?」
『ちひろさーーーーん!凛たちとご飯食べにいってきてもいいですかーーー?
<その書類の束が終わったらいくらでもいってきていいですよー!!!』
「・・・まだまだかかりそうだね、プロデューサー?」
『ファッキューチッヒ...』
「聞こえるよ。やめなよ」
『はいはい。んじゃ楽しんでこいよ。・・・ちなみに聞くけど、駅前のレストランか?』
「そうだよ。・・・まぁ、デザート、おごりにきてくれても全然大丈夫だから」
『マジ?よしちょっとちひろ倒してくる』
電話がきれた。返り討ちにあわなきゃいいんだけど。どうせまた財布を人質にとられるんだろうな。あの人、学習しないから。
「凛?どうした、そんな微妙にニヤけて」
「ニヤけてないよ。大丈夫」
「プロデューサーでしょ?・・・あー、そういう?」
「違う、違うから加蓮。へんな勘繰りしないでくれるかな」
なんて言いながら三人で近くの駅まで向かう。この二人と喋っているのは未央や卯月とは違った気楽さがあった。
「凛はさ、なんでアイドルになったの?」
駅前のファミレスでご飯を食べ終わって、デザートを頼むか頼まないかを考えている最中のことだった。
加蓮はこっちをまっすぐ見ていた。奈緒も興味なさそうなフリをしていたけど、視線がチラチラこっちを向いている。
「・・・そうだね、私は別にオーディションを受けにいったわけではないから・・・まぁ、スカウトだったんだけどね」
二人もでしょ?と聞くと二人そろって頷く。
「街歩いてたら急にあのプロデューサーに聞かれてね。正直言って断る理由もあんまりなかったし。数日考えて決めちゃったよ」
「そう、なんだ・・・」
どこか気落ちしたような加蓮。奈緒は顔を赤くしている。・・・なんで?
「奈緒、どうしたの?」
「えっ?あぁ、いや、なんでもない!」
「何でもないわけないでしょ。そんなに顔赤くしてぇ~。何?何思い出したの?」
元気が戻ったらしい加蓮が奈緒に詰め寄る。
「ちっ、違う!別に、あいつのこと思い出したわけじゃ―――」
「あいつって、プロデューサーさん?」
「別にプロデューサーだなんて一言も言ってないけど・・・」
語るに落ちたね、奈緒。というかほとんど喋ってないけど。自爆だね。
「ほほ~う?これはつまりスカウトのときになにかあったとみてよさそうだね凛さん?」
「そうだね」
「なに、そっけないじゃない凛」
「べつに・・・そういうわけじゃないよ」
そう。別にスカウトのときに言われたことを思い出して心を落ち着かせすぎてクールになってしまったわけではない。
別にああいうセリフをやっぱり他の女の子にも言っているんだなんて思ったわけではない。断じて。決して。
「それで?奈緒のスカウトされたときの話、聞きたいな」
「そっ、それは・・・あ、アイツが何度もカワイイ、って連呼しやがるから・・・」
押し負けたのか。
奈緒は見てのとおりツンデレっぽいし、年上なんだけどなんだろう、いじりがいがありそうというか。
もっとも会って初日でそんなこと言えないし、初日でそんなこと考えてる私はすこし失礼かもしれない。
そんな奈緒を見て加蓮は一人で「へー」とか「ほー」とか言ってにやけていた。・・・加蓮も結構、いい性格してるかもしれない。
「そ、そういう加蓮はどうだったんだよ!」
「んー、アタシ?アタシは学校終わってコンビニから出たときだったんだけどね」
加蓮が喋りだす。
「急に『アイドルにならない?』って言われてね。まぁ、みてのとおりアタシよわっちょろいからさ。それでもいい?って聞いたんだけどね」
加蓮はそこで言葉を切った。言うか言わないか少し悩んで、結局言うみたいだった。
「『君は良い眼をしてる。だからきっとトップアイドルになれるよ』ってね。なんの保障があって言ったんだろうねー」
なんて呆れたフリをしていたけれど、アイスティーを飲む加蓮の口元は優しく微笑んでいた。
私の"シンデレラ"も大概だとは思うけど、眼か。これはまた、ちょっと変化球を使ったなぁなんてかってに分析してた。
しかし、加蓮も予備軍というかなんというか。敏腕さんの手にかかればこんなものなんだろうか。
無意識というか、考えないでやってるから余計に性質が悪い。
そんなことを考えながら、私は事務所でプロデューサーが言っていたことを思い出していた。
『大丈夫だ。多分あの子はな、アイドルっていうものに対する純粋な情熱では、凛や卯月にも負けてない』
・・・プロデューサーはそう言い切った。
確かに、本人は体力がないとかなんとか言っていたけど、それでもこうして話している分には、不真面目だとは感じない。
・・・病弱だったって聞いたけど、それとアイドルとが関係あるんだろうか。少し気になったけど、未だ言うべきじゃないかな、と思った。
「あ、携帯のバイブなってるよ。凛じゃない?」
「え?あ、ホントだ」
取り出した携帯の液晶には"プロデューサー"の文字。普段は個別の着信音にしてあるので、マナーモードにしておいてよかった。
通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『あぁ、よかった。まだいるか?』
「うん。今デザート頼むかどうかっていうところだよ」
『そうか。いやー間に合ったか・・・よかったよかった』
「来れそうなの?」
『おう。今車に乗るところだ。五分もすればつくから、俺の分も頼んでおいてくれないか?』
「いいよ。いつものでいいの?」
『おぉ、さすがだな凛。それでこそ俺のアイドルだ』
「もう、馬鹿なこと言ってないで早く来なよ」
『それもそうだ。じゃあ運転するから切るな。また』
「うん」
通話を終える。携帯を机に置くと、向かいに座る二人がニヤついた目でこちらを見ていた。
*
意味のない弁解を終えるのに五分ほどかかって、二人の好奇心が落ちついたころにプロデューサーは来た。・・・遅い。
プロデューサーが席について程なくして、頼んだデザートが到着した。
私はヨーグルトとバニラアイスの上にブルーベリーのソースがかかったものを。
加蓮はバニラアイスの乗った小さいワッフルを。
奈緒は白玉クリームあんみつと抹茶のセットを。
そしてプロデューサーはいつも通りの、大きなバナナパフェだった。
「プロデューサーさんってそんなに大きいの食べるんだ。甘いの、好き?」
「あぁ、そうだな。ここのパフェは何回食っても飽きなくてなー」
子供みたいにプロデューサーは笑った。時々こうやって無邪気な表情をみせるのだ、この人は。
「奈緒は和風なデザートなんだね」
「ん?おう。あたしはこういうの好きでな。京都とか行ったらこういうのいっぱい食べられそうだな・・・」
西に想いを馳せる奈緒。でも和風デザート=京都っていうのはちょっとあまりに安直なんじゃ・・・。
隣じゃプロデューサーは「京都か・・・」なんて呟いてるし。また仕事のこと考えてるよ、この人は。
「そういえばプロデューサー、私たちのこれからのスケジュールはどうなってるの?」
「そうだな、とりあえずはレッスンが中心になる。それでも来週あたりからは少しずつ露出していくぞ」
「・・・ずいぶんハイペースなんだね?」
「そりゃそうだ。凛がいるから地の人気みたいなのはある程度あるわけだし、加蓮と奈緒だったらすぐに人気でるだろうしな」
私に既に人気があるっていうのは、自惚れるわけじゃないけどなんとなくわかる。
そして二人がすぐに人気でるだろうというのも、想像がつく。加蓮も奈緒もとても魅力的だと思うし。
「明日はオフにしてあるけど、あさってからはもうずっとレッスンだからな。大変だとは思うがしっかり頼む」
プロデューサーの言葉に、私は普通に、奈緒はなんとなく恥ずかしげに、加蓮は少し困ったように頷いた。
「まぁ露出に関しては具体的に決まってるわけじゃない。しっかり実力をつけてくれ。」
「そうだね。恥ずかしくないパフォーマンスにしたいし」
「おう、あたしもやるからには・・・頑張る」
めいめいが気合を入れているとふと加蓮が思い出したように聞いてきた。
「そうだ、凛ってどこの学校に通ってるの?その制服どっかでみたことある気がするけど・・・」
「あぁ、私は・・・」
話が広がり始める。三者三様の話し方をみて、プロデューサーは満足げな表情をしながらコーヒーを飲んでいた。
*
「・・・これは、明日しようと思ってた話なんだがな」
喋っていた私たちは顔をプロデューサーのほうを向けた。
「お前らには、このユニットをメインに動いてもらう。もちろん個々の仕事も多少はあるだろうが、基本的には三人一緒の仕事がほとんどだと思ってもらいたい」
「まぁ、それには若干不安もあったんだが、今日一日でこんだけなじめてるんだ。お前らなら大丈夫だろうと思ったよ」
そこに関しては私も同様の感想を抱いていた。むしろ、しっくりきすぎて怖いぐらいだった。
もちろん、気になるところはあるのだけども。加蓮の過去やアイドルに対する姿勢。奈緒についても、姿勢や性格が少しまだ完全にわかったわけじゃない。
「そこでだ、俺もいくつか名前を考えてきたんだがな」
「名前?」
「おう。ユニット名だ」
ユニット名―――"ニュージェネレーション"のような通称、ではなく自分たちの二つ名とも言うべき名前だった。
「候補はあったが、お前ら見ててすぐ決めちまったよ。少しハードル高いかななんて思ってたけど、杞憂だったみたいだな」
「おい、もったいぶらないで話してくれよ」
じれたように奈緒が催促する。気持ちはわかるよ奈緒。でもこの人、こうやって遊んでるのだから。突っ込んだら負けだよ。
「そうだな」
そんな奈緒に苦笑したプロデューサー。そして間をおくかのようにアイスティーを一口。・・・アイスティー?
「ちょ、ちょっとまってプロデューサーさん!」
「お?」
「お?じゃないよ!それ、アタシのアイスティー!!」
プロデューサーは普通に眼前に座る加蓮のアイスティーを飲んでいた。あんた、コーヒーあるでしょうに。
プロデューサーはおぉ、すまんすまんなんていいながら、
「飲むか?」
そういってコーヒーを差し出した。いや、そういうことじゃないと思うけど・・・。
「もう・・・バカッ!」
そういう加蓮の顔は赤くなっていたけど、何処となく満更でもないように見えるのは、気のせいだろうか。
「っと、すまんな。ユニット名の話だったか」
加蓮が落ち着いたところでプロデューサーが再び切り出す。
私も二人も、少し緊張と高翌揚が混ざったような表情をしているのだろう。
プロデューサーは私たちの顔を一人ひとりみていってから、ニッと口元を歪めて、こう言った。
「お前たちは今日から、"トライアドプリムス"だ」
「トライアド、」
「プリムス・・・」
加蓮と奈緒が口々にこぼす。私もどこか不思議な、あまりなじみのないフレーズに少し戸惑いを覚えた。
けれども、口の中で反芻するうちに、不思議と心にスッと入り込んでくるような感じがした。
「ねぇ、プロデューサー。この"トライアドプリムス"っていうのはどういう意味なの?」
「ん?そうだな・・・自分で考えろ」
えぇ!?と三人で驚く。聞いたことないから聞いたのになんではぐらかすんだろう、この人は。
「出来れば、まだ知らないままでいて欲しいからな。いつかお前らに俺の口から、言えると思うから」
そういってプロデューサーは薄く微笑んだ。その表情に少しドキリとしてしまったのは、誰にも伝わってないといいんだけれど。
「じゃああたしたちも調べないほうがいいってことか?」
「あぁ、そうだな。別に調べてもいいけど、せっかくだし。俺がかっこつけるためにとっといてくれよ」
なんておちゃらけるプロデューサー。
「・・・じゃあ、あさってから私たち、頑張ろうね」
「おう。まァ、体力もつけなきゃいけないしな。凛においていかれちまう」
「加蓮も頑張らないとだな。お前のことは極力気にかけるから、無理するなよ?」
「えー、まぁ、うん。そうだね。頑張る」
加蓮は少し無理するみたいに笑った。まだやっぱり何か思うところがあるんだろうか。
いずれにしても加蓮自身がどうにかしなきゃいけないことだから、私は何もいえないけど。
「よし。それじゃもう9時半過ぎたし。そろそろ帰るか。家まで送ってくよ。車回してくるから、すこしのんびり出てきてくれ」
はーい、と私たち。プロデューサーは上着を羽織るとそのまま出て行った。
残された私たちも上着を着たり荷物をしまったり。私は一応、眼鏡(これは春奈に選んでもらった)と帽子を被った。
「じゃあ会計前に清算しちゃおっか。凛、伝票は?」
「そこの伝票立てに・・・あれ?」
伝票はなくなっていた。お店の人に聞いてみると、
「先ほどの男性が払っていかれましたよ」
とのことらしい。本当にもう、かっこつけすぎだよ・・・あの人は。
*
「ごちそうさま」
回された車の助手席に乗り込むなり私は運転席に座る人に言ってあげた。
「ありゃ、ばれたか」
「そりゃばれるよ。アタシたちお金出してないんだから」
「なんか・・・悪ィな。わざわざおごってもらっちまって」
後部座席に加蓮と奈緒が座る。そんな二人をみてプロデューサーは、
「いやまぁ、こんな現役女子高生アイドルと一緒の席に座れたんだからな、その礼だよ」
などとどこかはぐらかしたような答えしか返さなかった。
「こっからだと、奈緒の寮が一番近いから、そっちからでいいか?」
肯定。そもそも送ってもらってる身だし。それに、どう考えても"プロデューサー"の仕事の範囲外だし。
やさしすぎるよね、プロデューサーは。それだけ私たちを大事にしてくれてるんだろうけど。
走り出した車は、夜の街を抜けていく。不意に加蓮が口を開いた。
「プロデューサーさんの家ってどこなの?」
「ウサミン星と同じくらいの距離」
「・・・つまり電車で一時間なのかよ・・・」
・・・ご了承ください。
「っと、はい、女子寮だ」
「ありがと、プロデューサー」
「いいってことよ。それより、今日明日でしっかり休んでおいてくれよ。体調でも崩されたら困る」
「お、おう。気をつける」
「そうだ、奈緒。寮の先輩たちは大丈夫か?ダメな大人も何人かいるけど・・・」
「駄目な大人って・・・まァ、美優さんとか、木場さんには良くして貰ってるよ。友紀さんとか、楓さんとかは、まぁ・・・」
「・・・そうだな。ま、ともあれいい人たちばかりだからな。仲良くして貰え。・・・酒は飲まされるなよ」
「飲まねぇよ!」
「そうか、ならいいんだ。早く寝ろよ?凛みたいに大きくなれないぞ」
「いや、確かにあたしが一番小さいけど・・・いまさら大きくなってどうすんだよ」
「背が大きいほうがグラビアとか水着のときとか映えるぞ?」
「だっ!誰がグラビアなんかやるか!」
「そういう機会もこれからあると思うぞ?アイドルになるんだし」
「だっ!誰がアイドルなんかやるか!」
「それはお前だよ」
・・・早くいきなよ、奈緒。
*
「もうこの辺だから、ここでいいよ」
私の家が近くになったのでプロデューサーにそう告げるとプロデューサーは「そうか?」といい路肩に車を停めた。
「家の前まで送っていくのに」
「いや、親と出くわすといろいろ面倒だし」
「そうか。親御さんとはうまくやれてるんだよな?」
「それは大丈夫。面倒なのも、そういうことじゃないから」
ならいいんだが、とプロデューサーはこちらを見る。・・・あまりジロジロみないで欲しいんだけどな・・・。な、何か変かな。
「・・・どうしたの?ジっと見て」
「いや。凛が嘘ついてるときの顔じゃないなーって。まぁ、お前あんまり嘘つかないし、大丈夫だと思ってるけど」
・・・今までも大した嘘はついたことはないと思うんだけど。それって全部ばれてたんだろうか。なんだか気恥ずかしい。
あまり立ち話しても車内で待たせてる加蓮に悪いなと思い、反論は控えた。・・・つついて蛇がでてきても困るし。
「ごめんね加蓮、順番の関係で逆方向になっちゃって」
「ううん、大丈夫だよ。今日両親とも遅いって言ってたから、未だ帰ってないと思うし」
そっか、と相槌。運転席のプロデューサーに視線を送る。
「じゃあプロデューサー、加蓮。また明後日ね」
おう、はーいと二人から言われるのを確認して車のドアを閉める。車はすぐに走り出して、大通りへと消えていった。
明日、プロデューサー、たちに会えないのは少し残念だけど。たまには家でゆっくりしようと思いながら、私は帰路へとついた。
―――――加蓮 side
「悪いな、加蓮。さっき凛も言ってたけど最後になっちまって」
「ううん。気にしないでいいよ。車に乗ってるのは、嫌いじゃないし」
そういうとプロデューサーさんはまた前を向く。信号が青になると同時に、車を走らせる。
カーステレオから流れてくるのは凛デビューシングルのNever say neverだった。
この曲が出たのはもう何ヶ月も前で、そんなCDを出すような人とユニットを組んでる自分が、いまだに信じられなかった。
「ねぇ、プロデューサーさん」
「ん?なんだ」
「凛とって、もう結構長いの?」
今日、凛と喋っていて気になったこと。お互い気心が知れてる感じがあって、信頼してるんだなぁ、って思った。
「そうだな、ウチが本格的に始まって、俺が最初にスカウトして、俺が最初にプロデュースし始めたアイドルだからなぁ」
もう半年くらいになるかな、そうプロデューサーさんは教えてくれた。
「今でこそああだけど、当時はさらにクールでな?何喋ってもあんまり表情が変わらないから、こっちとしては結構やりづらかった」
あはは、と当時を懐かしむようにプロデューサーさんは笑いながら話してくれた。
確かに凛はあまり顔に出るタイプではないけれど、薄い微笑みとか、そういったところで自分より年上なんじゃないかなという気さえしてくる。
感情を読み取れるようになったら、もっとうまくやれるかな、なんて私は考えていた。
そして凛にも聞いたのに似たようなことを、どうしても聞きたかったことを聞いた。
「どうして、凛をスカウトしたの?・・・いや、なんとなくはわかるんだけどね」
「んー、そうだな。まぁ一番の理由は容姿・オーラなんだけどな。この子はステージに立つためにいるなって、なんとなくティンときたんだよ」
なんとなく。プロデューサーさんはそんな直感で自分の相棒とも言えるべき存在を選んだんだ。
そんなプロデューサーさんをすごいと思う反面、そうなってくるともう一つの疑問が浮かんでくる。
どうしても気になってて、納得のいかない疑問が。
「ねぇ、プロデューサーさん」
「・・・。なんだ?」
「じゃあなんで、アタシをスカウトしたの?」
そう。このことだ。
プロデューサーさんは『良い眼をしてる』とかって言ってたけど、そんな理由だけじゃ納得がいってなかった。
もちろん、アタシ自身の気持ちの問題もあるんだろうけど、どうにも、腑に落ちない。
そんなことを考えてたら。
「アタシ、あんまり態度もよくないし、さっきだって凛たちの手前ああ言ったけどさ」
あぁ、ダメだ。
「アタシよりかわいい子なんていっぱいいると思うしさ、アタシ、病弱だったし、そんなの面倒だと思うし」
アタシの中にあった嫌な気持ちが、どうしようもなく雪崩れてくる。
「二年くらい前までほとんど病院でさ、体力ないし。どうせすぐ、あきらめるし、迷惑かけるよ」
もういろいろグチャグチャだった。もう視界は滲んでたし、声も震えてた。
でも、こうやって言えば、プロデューサーさんもいい気はしないはずだし、凛たちだってこんなのとはやりたくないはずだ。
「トライアド、プリムスだって、アタシじゃ、ない、ほうが―――」
「加蓮!!!!!」
http://i.imgur.com/7o0A1Ih.jpg
http://i.imgur.com/jVcEguW.jpg
渋谷凛(15)
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http://i.imgur.com/ldGRn2w.jpg
神谷奈緒(17)
http://i.imgur.com/beCpDBD.jpg
http://i.imgur.com/gzjDorG.jpg
北条加蓮(16)
プロデューサーさんが急に大きな声を出した。アタシは思わず驚いて、体がビクリとしてしまった。
「・・・ごめんな、急に大きな声を出して」
そういいながらプロデューサーさんは近くにあったコンビニの駐車場に車を停めた。
「・・・少し、のどが渇いたから飲み物を買ってくる。加蓮は、いるか?」
ふるふると首を横に振った。プロデューサーさんはそうか、と呟くと車を出て、鍵を閉めた。
アタシは一人で何も考えられないまま、後部座席に体を預けていた。
*
「・・・落ち着いたか?」
戻ってきたプロデューサーさんが控えめに聞いてくる。私は小さく頷いた。
ホントは心の中はまだグチャグチャのボロボロで整理がついてなかったけど、呼吸だけは整っていた。
運転席から缶コーヒーの香りがした。プロデューサーさんは缶を一度大きく煽ると、ゆっくりと喋りだした。
「加蓮、お前はさ。アイドルに、なりたいんだろ?」
ドキリと心臓が跳ねた。
「そ、そりゃ、なれるんならなりたかったけど・・・」
「夢だったんじゃ、なかったのか?」
「・・・ッ!なんで、それ・・・」
「ごめんな。お母さんから聞いたんだ。前に加蓮のうちに行ったろ?承諾もらうのにさ」
―――――――
"私"は、小さいころから体が弱かった。
生まれたときに未熟児だったのが原因だとは聞かされてるけど、大したことのない病気をいろいろやって、入退院を繰り返す日々。
病院のベッドで寝てることのほうが多かった、小学校時代。
今考えると、あまりに会話のない生活だったと思う。
両親は仕事で忙しく見舞いにはめったに来なかったし、学校の友達はたまにお見舞いにきてくれたけど、"私"が入院を繰り返すのをみて、みんな次第に足が遠ざかっていった。
まぁ、両親は来たくても来れないわけだから、別にうらんでたりは全然してないのだけれども。
中学に入ってしばらくして。両親が「暇つぶしになれば」と、小さなテレビをもってきてくれた。
白一色で娯楽は読書くらいしかなかったから、"私"はとても喜び、ワクワクしながらテレビをつけた。
そこに映っていたのは、光るような笑顔で歌いながら踊る、アイドルたちだった。
衝撃的だった。自分より年上な高校生くらいのお姉さんたちが、キラキラと汗を輝かせながら人々を楽しませている、その光景は。
『大空を飛ぶ鳥のように 翼を広げて羽ばたきたい』
『可能性信じて進まなきゃ そう、何も始まらない』
彼女たちの歌声が心に響いてきて、気づけば"私"は泣いていた。
そんなときにちょうどお母さんが戻ってきたから、お母さんはとても慌ててたけど、そんな慌て方をみて"私"は泣きながら笑ってしまった。
そしてひとしきり涙を流した後、こう言った。
『お母さん、私、アイドルになりたい』
体調が急に悪化したのは、その1週間後だった。
―――――――
「・・・それでね、アタシはもうアイドルにはなれないんだな、って思うようになったの」
病気は無事快方に向かったが、それからしばらく病院から出ることはほとんど叶わなかった。
「『アイドルになりたい』なんて、分不相応なこと考えちゃったから、バチがあたったんだよね。あはは」
乾いた笑いが口から零れた。結局生まれてからほとんどのことを話してしまった。
退院して、高校生になってからも病院通いはしばらく続いたし、体力もほとんどなくなっていたので学校の体育などもほとんど出れていなかった。
ああやって輝きながら、鳴り止まぬ歓声を浴びる人は遠い世界なんだって思っていた。どうせ自分なんか、って卑下しないと、胸がつぶれそうだったから。
「―――そうか」
ずっと黙っていたプロデューサーさんが相槌を打った。
さすがにもう失望したよね?なんて期待して、そんな期待をする自分に嫌悪感。でも、こうやって言わないと、この人は優しいから―――
「それで?どうして加蓮はまだ燻ってるんだ?」
「・・・え?」
「だってもう体は殆ど大丈夫なんだろ?それで本当はアイドルになりたくて、そんなにかわいいカッコしてて、でもアイドルにはならないのか?」
「・・・え、ちょっとまってよプロデューサーさん、アタシは――」
「待たない。待つとお前勝手にネガティブなほうへ転がるから」
急にまくし立てられて、頭が混乱する。
「俺から言わせりゃ、そんな恵まれたルックスと才能があるのにわざわざ身を引く意味がわからない」
嘘。
「トレーナーさんだって褒めてたぞ?文句いいながらだけど、成長スピードと伸びしろでいったら一番だって」
・・・嘘。
「俺だって、加蓮なら出来ると信じてる。こんだけの熱意があって、やれないわけがないだろ」
・・・・・嘘だ。
「凛がうまくやってけそうだっていうんだから、心配ない。あいつはアレで、不安要素はキッチリ言ってくるタイプだからな」
・・・なんでそんなこというの
「奈緒とだってせっかく仲良くなれただろ?これであいつらとやっていかない理由はないだろ」
「もう、いいよ・・・」
「よくない。お前、もっと自分に自信持て。自分に期待してみろって。可能性信じろって。お前が思ってるより、やれるから」
「だって、アタシは、こんなにも弱くて、出来なくて」
「これから頑張ればいいんだよ!俺と、凛と、奈緒と一緒にさ!」
プロデューサーさんの声。まだ会って半月も経ってないのに、この人の声は自然と心に滑り込んでくるみたいで。
プロデューサーさんが後部座席を振り返った。私は涙でグチャグチャの顔をあげた。
「一緒に頑張ろう。お前が倒れたらそばにいてやるし、倒れる前に気づいてやる。お前は一人じゃないんだから」
「一緒にトップアイドル、目指そう。な?」
涙があふれて来て、嗚咽が漏れ出した。アタシは声を出せなくて、頷くのが精一杯だった。
「そうか、うん。いい子だな、加蓮は」
プロデューサーさんはアタシが泣き止むまで、頭をずっと撫でてくれていた。温かくて、大きな手だった。
また泣きはらして、真っ赤になった目を隠すように私は俯いていた。
時刻はもう11時近くになっていた。プロデューサーさんが先ほど私の母親に連絡していた。
窓から見えるのはもう見慣れた景色だった。
「・・・よし、この辺だよな」
「うん。そこの角のところだから、もうここで大丈夫だよ」
プロデューサーさんはハザードランプをつけ、路肩に車を停めた。私が車から降りると、プロデューサーさんは窓を開けた。
「・・・もう大丈夫か?」
「うん、目がちょっと赤いけど」
そうか、とつぶやくプロデューサーさん。
「じゃあ、とりあえず明後日だな。大変かも知れないけど、一緒に頑張ろう、加蓮」
「うん!Pさん。私、頑張るよ」
プロデューサーさんを名前で呼ぶと、少し驚いたような表情をしていたが、すぐにあの子供みたいな表情に戻って「おう」と返してきた。
・・・言って自分でダメージ食らってるんじゃ、ダメなんだけどね。でも、今日、いっぱい嬉しいことも、恥ずかしいことも言ってくれたから、そのおかえし。
「それじゃ」
「うん、また明後日」
Pさんは窓を閉めると車を走らせ始めた。角を曲がって見えなくなるのに、そう時間はかからなかった。
「・・・おかえりなさい、加蓮」
角を曲がると、家の前にはお母さんがいた。少し心配げな表情だったけど、私が笑ってるのを見てお母さんも微笑んでくれた。
そんなお母さんに私は、二回目だけど、ちょっと違う宣言をした。
「お母さん、私、アイドルになるよ」
*
―――――凛 side
二日後。私は事務所でプロデューサーと奈緒と話をしていた。
「じゃあ、今度のCDはもう三人のになるの?」
「ああ。一応その方向で考えてるぞ」
手元には、私たちの今後についてが簡潔に書いてある資料。レッスンの方針とかが中心なので、しっかり読んで予習しないといけない。
「しかしなんつーか・・・早くないか?あたし、まだデビューもろくにしてないのに・・・」
「んなことないぞ。というか、俺のかわいいアイドルたちを早く世の中に見せびらかしてやりたい!って感じだ」
「か、っかかかかわいいとか、いいい言うな!!」
奈緒、耐性なさすぎ。というか誰がプロデューサーのだ。誰が。―――聞いたら蛇どころか龍が出てきかねないので言わないけど。
「プロデューサー、加蓮は?もうすぐ時間になるけど・・・」
「ん?あぁ、もうすぐ着くってさっき連絡あったけど・・・なんかあったのか?少し見てこようかな・・・」
なんて話しているうちに、事務所の扉が開いた。
「おはようございます!」
加蓮だった。・・・ちょっと元気すぎない?
事務所内のみんなもちょっとびっくりしつつも、おはようとか煩わしき太陽よとか言ってる。・・・そっちのほうがビックリしそうだけどな。
「おはよう加蓮。気合入ってるね」
「おはよう凛。まぁ、ちょっとね」
といって笑う加蓮。何か憑き物が落ちたかのような笑顔だった。心の整理がついたのかな。そうなら嬉しいけど。
「奈緒も、Pさんも、おはよう!」
・・・え?
「あぁ、おはよう加蓮。間に合ったようでよかった。なんかあったんじゃないかと思ってたところだ」
「もう、Pさん心配しすぎ!でも、ありがと。ふふっ」
・・・なんだろう、これ。っていうか奈緒、その口あんぐりやめなよ・・・。
先日も仲良くなかったわけじゃないけど、急にプロデューサーとの距離が近づいてるというかなんというか。いや、別にそれで困ったりするわけじゃないから別にどういうわけじゃないけどただそれで仕事に支障がでても困んだけどそのへんわかってるのかなってだからある程度の線引きも必要なんじゃないかなって思うんだけどっていうか加蓮近すぎだよそれ以上近づくとちょっといろいろ風紀が乱れるとか闇に飲まれるとかにょわーというかやっぱりそういうことはよくないとおm
「あれ?どうしたの奈緒?そんなに口あけて」
「え・・・?あぁ、いや、その、なんだ。その、Pさんってよんでるとかそういうゴニョゴニョ・・・」
「?奈緒もPさんって呼べば良いじゃん」
「ばっ!?おま、そんなことできるか!!!!」
「やー奈緒照れてるのー?かーわいー!!」
「ちょっ、やめろ触るな頭撫でるなーーーーー!!!」
とたんにギャーギャー騒ぎ始める二人。プロデューサーはそんな二人を見て嬉しそうに笑ってた。
その満足げな表情がちょっとムカついたので、丸めた資料で頭を軽く叩いてあげた。
「痛ッ!なにすんだ凛!」
「別に。デレデレしすぎだよ、プロデューサー」
「いや、デレデレしてるわけじゃ・・・」
プロデューサーは私に向かってブツクサ言いはじめるし、加蓮と奈緒はうるさいし、みんな何事かと寄ってきたし。
ただでさえ大所帯な事務所がさらににぎやかになっていく。
半年前は、プロデューサーと私と、社長と、ちひろさんだけだった。それが今じゃこんなにいるんだ。
それが嬉しいような悲しいような気がして、でもそういうのは今はとりあえずおいておこうと思った。
話が始まらないので放っておくと昼まででも遊んでそうな加蓮と奈緒の間に入りに行く。
私と、加蓮と、奈緒。年齢も性格も違うけど、同じ"トライアドプリムス"として動き出す私たち。
私たちの活動はまだ始まったばかりで、大変なこともたくさんあるけど、きっと私たちならできる。
とりあえず今は、二人の仲裁からかな。
「あ、そうそう。お前らの最初のライブ、来月に決まったから」
・・・私たちの活動は、まだ始まったばかりなんだけど。
続
くぅ~疲れましたwこれにて完結じゃないです!
の、つもりですが続きが出来上がるのがちょっといつになるかわからないんです・・・
HTML化依頼出しといたほうが良いんでしょうか。一月以内に書けるか怪しいので出来ればいったん落としたいのですが・・・
どなたかご意見いただければと思います。
選挙速報を見て凛4位加蓮10位奈緒12位を見てこれはイケる・・・!と思いステマした次第でございます。コラなんかできねぇんだよ!
速報みて書き始めて今完成ってどんだけ遅筆だよって話か
二次創作の処女作なもんでろくなマーケティングになってないですが。すみません
これを見てしぶりん加蓮奈緒ちんの三人へ一票でも入れていただければと思います。いやむしろたくさんいれてくれ
とりあえず選挙に間に合ってほしいからHTML化しようかな(不純)
最後まで読んでいただきありがとうございました!!またどこかでお目にかかれたらと思います。
画像先輩もありがとうございました!!
なんか思ったより多くの方に読んでいただいたみたいでありがとうございます…!
続きはいつになるかわかりませんがとりあえず書いていこうと思ってます。完成してからあげるスタンス
ちなみに、というかどうでもいい設定に関してですが
お察しの通り765アイドルが活躍していたころから4,5年後ぐらいになってます。
アニメからそのくらいたった、ぐらいの認識でいいです。特に765勢を使うつもりも無いので……
ただ気が向いたらりっちゃんあたりは出てくるかもです。好みです
他のモバマスアイドルに関しても今回みたいなエキストラみたいな出し方でなくセリフありででていけたらなぁとは思ってます。
ちなみに、Pが加蓮を説得してるあたり、っていうか今回の話のイメージソングが勝手にありまして
一曲は自分REST@RT(ttp://www.youtube.com/watch?v=GO0KggIHyEU)なんですが
もう一曲、ポルノグラフィティの「ギフト」という曲があります。
まんま歌詞を引用してる部分もありますのでよかったら一度聞いてみてください。
ttp://www.youtube.com/watch?v=sOW9r9wMUXE
音源がみつからなかったので、弾き語りのやつですがよかったら。
なお、次の話は奈緒ちんの話になるもよう ふふっ
お久しぶりです。どうにか携帯を駆使して書き上げました第二話(のつもり)。
タイトルは特にありませんので、どうぞよかったらお楽しみください。
では、投下していきます
体を捻る。跳ねさせる。
手を伸ばす。曲げる。
汗が落ちる。
足を前に出す。
体を回転させる。
私は、踊る。
「はい、じゃあそこまでで大丈夫ですよ!お疲れ様です!」
ふぅ、と息をひとつ、大きく吐く。見ると後ろのほうでは奈緒も膝に手をついて同じように息を吐いていた
……加蓮は床に座り込んでしまっていた。無理も無い。というか、最後まではついてこれるようになったんだ。
「みんな、おつかれ。どうだった?」
「いや、キツいな、これは。これに、さっきの、歌を足すんだろ?もう頭まわんねぇよ……」
と奈緒。確かに、私もレッスン始めたてのころはこんな感じだった。要は慣れだと思うんだけどね。こればっかりは仕方が無い。
「加蓮、大丈夫か?」
奈緒が一言も発しない加蓮を案じて声をかけると、加蓮は首を横に振りながら「もう、ムリ」と口の動きだけで伝えてきた。
「まぁ最後まで止まらずに出来たわけだし、いいんじゃないか?このレッスン終盤でさ。あたしももう動けねぇよ……」
「そうですね。みなあん最後までよく頑張ったと思います!」
とトレーナーさん。指導者から褒められるのは、純粋に気分がいい。
「ただ、奈緒ちゃんと加蓮ちゃん、特に加蓮ちゃんなんですが……若干、その、後半、グロッキーといっても差支えが無いような顔になっていたので……」
苦笑するトレーナーさん。…まだまだ、二人はアイドルとしての意識みたいなのが足りないのかな。苦い表情で返事をする二人だった。
「その点、凛ってすげぇよな。最後までちゃんと微笑んだりしてるもんな」
「そんな、お菓子みたいに言わないでよ……」
いやまぁ、私も嫌いじゃないけどさ、アレ。
*
「奈緒ちゃんはもうちょっと、やわらかい表情を意識したほうがいいかもしれませんね」
トレーナーさんが飲み物を飲む奈緒に話しかける。表情のことについてらしい。
「って言われてもなァ、あたし、もともとこんな感じだしなぁ」
「なんていうんでしょうね……もうちょっとこう、女の子らしい振る舞いを勉強してみるとか……」
「…それは遠回しにあたしが男みたいだって言ってんのか?」
「えっ!?あっ、いやそういうわけじゃないんですけど!」
うろたえるトレーナーさん。今のは確かに言い方に問題があったかな。ちょっとフォローしづらい。
「んー、奈緒はこんなにもかわいいんだけどねー。伝わりづらいのかな?」
「うわっ、やめろ加蓮!くっつくな!」
「いいじゃんいいじゃーんこのぐらいのスキンシップー」
復活したらしい加蓮が奈緒に引っ付く。…スキンシップ?
事実、奈緒可愛らしい面をたくさん持ってる。からかわれるとすぐ赤くなったりするとこや、いろいろと耐性がないとこや、照れ屋なとこも。
どれも似たようなのな気がするけど、それは気のせいだと思うよ。
「二人とも、遊んでるのもいいけどそろそろシャワー浴びないとミーティング間に合わなくなるよ」
「あ、そうだね。奈緒、行こ?」
「……オウ」
釈然としなさそうな奈緒を連れ、トレーナーさんにお礼を言いレッスン室を出る。
時計を見るともうすぐ夕方だった。3時間のレッスンなんて、あっという間だねと加蓮が言っていた。
私たちの所属する、シンデレラガールズプロダクション、通称CGプロは大所帯である。
100人近いアイドルが在籍し、それぞれに適当な仕事が割り振られている。
最近は海外にもライブツアーを行うようになり、ここ半年ちょっとで目下急成長中のプロダクションとして業界でも注目を浴びている。
そんなプロダクションの正規の裏方社員は、驚くなかれ三人、いや実質二人だ。
一人は社長である。絵に描いたような人の良さそうなおじさんなんだけど、正直この人は何をしてるかわからない。
けど、この間見たときは業界最大手の765プロの社長と気さくに会話していたし、961プロの社長とも面識があるようだった。
私もきちんとしゃべったことは、二回か三回くらいしかない。きっとすごい人なんだろうけど、いまいち実感が持てなかった。
もう一人が、事務員の千川ちひろさん。
見たところ20代か30代の女性なんだけど、詳しいことは教えてくれない。企業秘密だそうです。
経理関連に滅茶苦茶強いらしく、一人でこのCGプロの財布(とプロデューサーの財布)を切り盛りしている。
私たちにはドリンクをくれたりして凄くやさしい、んだけどプロデューサーには何故か厳しい。まぁ、強く当たる感じではないけど。
そして、最後の一人が、プロデューサーである。
多分、20代の男性。彼の仕事を見てるとプロデューサーなんだかマネージャーなんだか事務員なんだか運転係なんだか、わからない。
どこからともなく女の子をスカウトしてきて、本人もわかってないうちにドレスを着せてしまう、なんだか魔法使いみたいな人である。
その実、魔法にかかっちゃう子も多くて……っとまぁ、これは余談だけど。私はまぁ…いいでしょ。
そしてそんな私たちCGプロが毎週土曜に必ず行っているものが、ミーティングである。
ミーティングは土曜の夕方5時ごろから始まる。オフの人や仕事のある人は無理に参加する必要はない。
…もっとも、オフの人は皆大体来る。理由は「暇だから」か「プロデューサーに会いに来た」のどっちかだ。
仮にもアイドルなんだから、その理由はどうなんだろうかと思うけど。まぁ、年少組は仕方ないかな。と思ったりもする。
…大人組はちょっと、たまに視線が違うよ。そういうのはちょっと、どうかと思うけど。
*
「お、凛たちもきたか。よし、始めるかな」
事務所に戻ってきた私たちを見て、プロデューサーは立ち上がった。ちょうど始まる時間だったようだ。
「二人は、ミーティングは始めて?」
うん、と頷く二人。
「しっかし…すげぇなこれ。何人いるんだ……?」
奈緒が驚くのも当然、広い事務所には約70人ほどのアイドルたちがいた。これじゃ女の園だ。
「これでまだ、全員じゃなんでしょ…?すごいんだね、うちのプロダクションって」
呆気にとられる二人をよそに、プロデューサーが手をパンパン!と二回叩いた。
「はい!じゃあみんな聞いてくれ!定例のミーティングを始めよう!」
はーいとぞろぞろとみんながプロデューサーのほうを向く。これも結構すごい光景だった。
「えーと、じゃあとりあえず俺から。とりあえずみんな今日までお疲れ様!」
「「「「お疲れ様でーす!!」」」」「おっつかれー!」「闇に飲まれよ!」「大塚レイがお疲れ様……ふふっ」
みんなが好きに返事をする。あと楓さん、若干無理があると思います。誰ですか、大塚レイって。
「今週も特に目立ったトラブルなどはありませんでした!この調子でこれからも頑張ってください!
あと、最近寒くなってきました!風邪には気を付けてくださいね!」
返事。こんな感じで出来のいい学級会みたいなものである。
「ちひろさんからは、なにかありますか?」
「そうですね、先月行ったイギリスツアーや学園祭ライブは大好評でした!その収益金で、一つ下の階にサウナルームができます!」
おぉーと歓声があがる。年少組はすこしつまらなそうだったけど、大人組はうれしそうだった。
「これからもみんなで頑張って、このプロダクションを大きくしていきましょうね!」
拍手がおこる。奈緒と加蓮は、少し置いていかれてるようだった。
「大丈夫?二人とも」
「お、おう…なんかスケールが違うな……」
「ね。でもサウナかー…私、入ったことないから楽しみ!」
私もほとんど入ったことはない。少しだけ完成が待ち遠しかった。
「私からは以上です!」
「はい、ありがとうございます!……しかしサウナか、俺も入れるのかな」
「Pチャン!女の子のサウナに入るにゃんて、セクハラだにゃ!」
「うわ、そうやって決めつけるのかよ…失望しました、みくにゃんのファンやめます」
「え、ひどくない…?」
沸き起こる笑い声。みくとプロデューサーも、いつも通りだね。最初のころから変わんない。
と、そこでプロデューサーと目があった。すると思い出したかのように手招きする。
「凛、奈緒、加蓮。お前ら、ちょっと前こい」
え?と動揺する私たち。どうしたのかとおもいつつも前にいく。奈緒と加蓮は戸惑ったまま私についてくる。
プロデューサーの近くまで行くと、みんなのほうを向くように言われた。
「みんなに一つ、報告がある」
と少し大袈裟に切り出したプロデューサー。
「えっと、凛はみんな知ってると思うけど、奈緒と加蓮は初めての人も多いと思う。二人とも、軽く自己紹介してくれ」
うぇえ!?と声を出す奈緒。いや、だからそういうのがトレーナーさんに注意されるんだよ。
と、狼狽える奈緒を見て逆に落ち着いたのだろうか。加蓮が落ち着いた様子で喋りだした。
「北条加蓮、16歳です。趣味はネイルアートとかです。よろしくお願いします!」
大きな声で挨拶した。わぁっ、と拍手が起こる。
そんな加蓮を見て奈緒も慌てて前に出て喋りだした。
「その、神谷奈緒、17だ。あ、アニメとか、好きだから…よっ、よろしくたのみゅ!」
噛んだ……
「(噛んだね……)」
「(うわー、顔真っ赤だね★)」
事務所がなんとも言えない沈黙に包まれているとこの場にいる唯一の男性が声をあげた。
「おいおい奈緒、大丈夫か?大事なとこで噛むなんて、お前らしいな!あっはっは」
……追い打ちかけたよ、このプロデューサー。
「…う……ううう…うるせぇーーーっ!!!!」
「(あ、怒った)」
「(あのおねーさん、顔が真っ赤でごぜーます)」
「(若いわね…羨ましいわ)」
「と、まぁ奈緒がおちついた所で」
「油注いだ人が言わないでよ……」
「はっはっは、そう言うな、凛。本題に入ろう」
と、プロデューサーはそこで一呼吸を置いた。
「この度、この三人をユニットとして売り出すことにした」
おぉーと歓声があがる。予想はしてたけど、やっぱりみんなの前で言うんだ。こういう経験はないので、少し気持ちのやり場にこまる。
見ると奈緒と加蓮も所在無さげにしていて頬を掻いたりはにかんだりしていた。プロデューサーが続ける。
「それについて、皆に頼みがある。
俺はもちろん、うち、CGプロにとっても初めてのユニットでの売り出しになる。 それで一応、来月のCGプロのライブで初披露をする予定だ」
反応をまつプロデューサー。特に意見がないのを見て、また喋りだした。
「それで、だ。何かと不慣れなのもあるし、この二人は入ったばかりだ。
そんな状況も鑑みて、来月のライブくらいまで、多少みんなより優先する形でこのユニットを中心にみることになると思う」
どよめきがおきた。これに関しては私たちも初耳だったので驚いた。
そんな中、友紀さんや莉嘉が声をあげた。
「えぇー、じゃあプロデューサー、キャッツの試合しばらく行けない?」
「そうだな…球場にはしばらく行ってやれそうにない。すまんな」
「そっか…まぁそういうことならええんやで」ニッコリ
「サンキューユッキ」
笑いあう二人。…なんなんだろう、ホントこの人たち……。
「えー!!Pくんとお仕事しばらくできないのー!?やだー!!」
「ごめんな、莉嘉。時間見つけて撮影見にいってやるから」
「もう、莉嘉!プロデューサーに迷惑かけちゃダメでしょ!」
「えー、でもー…はーい、分かったよ、お姉ちゃん」
「悪いな、美嘉。さすが、いいお姉ちゃんだな」
「えっ!?そんな、可愛いお姉ちゃんなんて……」
言ってないよ、美嘉。可愛いは一言も出てない。変な照れ方しないで。
とまぁ、こんな感じでみんなから不満の声が上がった。無理もないことだと思う。
みんな少なからずプロデューサーを信頼しているわけで、プロデューサーなしでする仕事が多いとなると、心配にもなるだろう。
「まぁ、と言っても来月のライブまではみんなもレッスン中心になるし、仕事のほうもインタビューや撮影などが中心になるからな」
確かに、もともとアイドルだけで仕事場に赴くことが珍しくないうちのプロダクションだから、問題はないと思う。
というか、みんなの不満はきっと別のところにあるんだろうな。口には出せない、けど。
「……なんか、いいのかな」
心配したような声を出す加蓮。見ると奈緒も不安そうな表情をしていた。
「大丈夫だよ。プロデューサーが大丈夫だって判断したんだろうから。ね?」
「あぁ、そうだ。今回はみんなの事を信じてるからこその判断だ」
プロデューサーは続ける。
「今回の、このユニットの売り出しが成功すれば、今ここにいるみんなにももっとチャンスができるはずだ。
どんどん事務所が大きくなって、数が増えてきて、流石に俺もそろそろ処理能力が限界近いんだ。あはは」
なんて言うけど、この人数で処理能力まだ越えてないっていうのが正直末恐ろしいというか、なんというか。
「だから、ユニット単位で売り出すことが可能になっていけば、ユニットごとでスケジューリングできるようになる。そうなるとこっちとしても楽っていうのもある。
それに、765プロの竜宮小町のように、1ユニットのブレイクによって事務所全体にも目がかかるようになることも多い。
三人はその走りというか、そのテストモデルのような感じなんだ。だからこそ、俺としても全力でやってみたい」
プロデューサーの言葉にみんなが耳を傾ける。確かに、全てのユニットが3人だとしても、全員ユニットを組んだとすると単純に三分の一だ。
プロデューサーの声色にはいつもあまり聞かないような、不安というか、怯えというか。そんなニュアンスが含まれている気がした。
「みんなには、少なからず負担をかけることになってしまうと思う。ただそれでも長い目でみれば、きっとみんなのためになるはずなんだ。
だから、ここは俺に任せてくれ。必ずこのユニットも成功させて、みんなをトップアイドルにする。頼む!」
プロデューサーが頭を下げる。わざわざそこまで…と思わなくも無かったけど、そうじゃないのかもしれない。
事務所内が少しざわつく。みんなここまで必死になるプロデューサーの考えを量りかねているようだった。
多分、プロデューサー自身も他のアイドルに目をかけられないのは悔しいんだろう。でも、状況を鑑みるにベスト。そういうことなんだろう。
……なんだろう、私たちにかかるプレッシャーが事務所規模になった気がするのは、気のせいかな。
私たちが何を言うわけにも行かず、奇妙な雰囲気が事務所を支配していた、そのとき。
「顔を上げてくれ、プロデューサー君」
騒然とした事務所を凛とした声が通り抜けた。
声の主は真奈美さんだった。真奈美さんはプロデューサーの近くまで歩くと、プロデューサーの肩に手を置いた。
「君が私たちのことをよく考えてくれているのは、他でもない私たちがよくわかっている。誰も蔑ろにされたなどとは考えてないよ」
普段の真奈美さんからは想像のつかない穏やかな声だった。
「君が不安に思っているのは、当然のことだと思う。だがなプロデューサー君、ここには私たちのような大人だっているんだ。
それに、ちひろくんだっている。なにも君が全てを背負って責任を感じる必要はないんだ」
ピクリ、とプロデューサーの肩が動いた。
「私たちを頼ってくれ。君が選んだ女たちだぞ?…君を信じないひとなど、いるわけがないだろう」
「それも・・・そうですね」
プロデューサーが顔を上げた。はじめに真奈美さんを見て、次に事務所にいるみんなを。最後に私と加蓮、奈緒を。
私たちもみんなも、その視線に浮かべるのは「大丈夫だよ」という意思表示だけ。プロデューサーはそれを見るとうん、うん、と頷いて、喋りだした。
「どうやら俺の心配しすぎだったみたいですね。いやー、よかったよかった。これならどうにかやってけそうですね。
それじゃすまんがみんな、これからよろしく頼むな、ミーティングはこれで終わりにする。俺はちょっと買出しにいってくるから、お疲れ様」
……不自然なまでにまくしたてるとプロデューサーは事務所から出て行った。
相変わらず、嘘が下手な人だなと思う。私はみんなの間を縫って、事務所の扉を目指した。
「あっ、しぶりん!?どこいくのー!?」
未央が呼びかけてくる。私は逡巡したあとに、答えた。
「……ちょっと、飲み物買って来るね」
「…嘘が下手なのは、凛くんも同じなようだね。ちひろくん」
「えぇ、そうですね♪」
「おぉー、しぶりんいっちゃったねー…」
「…ハァ、凛には適わないなぁ」
「どしたのー?お姉ちゃん」
「凛、早かったね」
「あぁ、そうだな」
「やっぱり、付き合い長いから、なのかな」
「ん、まァ、そうなんじゃねぇか」
「……いいなぁ」
「………」
屋上にあがると、秋から冬にかけての、雲ひとつ無い空が出迎えてくれた。
薄暮や、黄昏というべき空模様だろうか。夕焼けの残滓が遠くの空に見て取れる。頭上には、半分の月と、気の早い星たちが既に瞬いていた。
「……凛か?」
「うん。あたり」
プロデューサーは奥の柵に体重を預けて外を見ていた。声が少し濡れているような気がした。
「…どうにか、一番カッコ悪いとこは見せなくて済んだかな。あはは」
「…プロデューサーはいつもかっこつけすぎだよ」
「そうかな」
「うん」
会話が途切れる。私はプロデューサーの隣に、柵に背中を預けて寄りかかった。
体の向きもそうだけど、この暗さでは顔もよくわからない。誰そ彼、とまでは行かないけれど、彼の表情は読み取れなかった。
「なぁ、凛」
いつものようにプロデューサーに呼ばれる。
「……何?」
いつものように答える。
「みんな、なんていうか……すごいな」
「そうだね」
「あんなに強く言い切っちゃう木場さんもそうだけどさ、未央なんて鼻息荒いんじゃねぇかってくらい頷いてさ…」
「うん」
「卯月だっていつもみたいに『頑張ります!』って顔してるしさ、千枝とか仁奈も握りこぶし作ってこっち見てるしさ」
「うん」
「礼子さんとか楓さんとかはすっげぇ穏やかな顔してこっち見てるしさ、美嘉とかもいつも心配してくれてるし…」
「…うん」
「……アイドルってすげぇな。こんなに…こんなに元気くれるなんて、スタミナドリンクなんて目じゃねぇよ」
「…それ、ちひろさんの前じゃ言わないほうがいいよ」
「ははっ、そうだな。また怒られちまう」
そういうとプロデューサーは顔をこっちに向けた。私もつられてそっちをみる。
目が合った。プロデューサーは、言葉を捜すみたいに口の中でモゴモゴさせてから、口を開いた。
「なぁ、凛。ありがとうな。俺、お前と一緒だから―――」
「ストップ、プロデューサー」
え…?と意表をつかれた様子のプロデューサー。
ただ、彼が言おうとしたことは、彼じゃなくて、私が言うべきことだと、思ったから。
「いつも、ありがとう。プロデューサー。私、愛想ないから、あんまり伝わらないかもしれないけど…。
でも、プロデューサーと一緒だと、プロデューサーがいるから、頑張れるし、安心するんだ。これからも隣で私のこと、見ててね。私、頑張るから」
彼の驚くような、呆気にとられたような表情をみるのは久しぶりだった。
その表情を見ただけで、してやったりじゃないんだけど、少し胸のすくような気分になって。
それと同時に、やっぱりこの人がいないと私はダメだなぁなんて、考えてしまう。言ったことに何一つ誇張もなかった。
「……そうか。ありがとうな、凛」
「うん」
「凛がいるから、俺も頑張ってこれたよ」
「―――ッ」
「俺ももっと、頑張んなきゃな……凛?」
「……そうだね、任せて。…ふふっ、奈緒と加蓮と一緒に、どこまでも走っていくから。だから―――」
「あぁ、わかってる。いつだって見守ってるから、な」
「……そうだね」
ちょっとした冗談。言おうとしたことを先に言われてしまった。さっきの意趣返しのつもりだろうか。
そんな少しこそばゆいやりとりのあと、私は屋上を後にすることにした。
「それじゃ、先に戻ってるね」
「あぁ、わかった。俺は、もう少ししたら戻るよ」
「うん。多分私はもう帰ってると思うから」
「そうか。それじゃ、また明日だな」
「そうだね。また、明日」
屋上から出る扉をくぐる。後ろ手にとびらを閉める。
少し赤くなった頬と、どうしても持ち上がるそれを塞き止めておくのも、そこで限界だった。
こもった熱を逃がすように、息を一つ大きく吐き出した。
「ただいま」
「あれ、凛。Pさんは?」
「さっき買い出しに行くって言ってたでしょ。コンビニじゃないの」
「……凛、飲み物は?買いに行ったんじゃなかったの?」
「え……あっ」
「………。」
「いやね、加蓮。ちょっともうそこで飲んできちゃったんだよ」
「ふーん………」
「いや、その」
「別に嘘つかなくてもいいじゃん」
「う、嘘ついた訳じゃ…」
「…ふんだ。ま、いいや。明日もレッスンだもんね。帰ろうか、凛、奈緒」
「お、オウ(かれんこわい)」
「そ、そうだね」
*
その翌日も、私たちはレッスンだった。
躍りながら、トレーナーさんの指示を思い出して、実践して。
歌いながら、トレーナーさんの注意を受ける。
躍りながら、ときどき後ろのふたりを気にしてみたりして。
ふたりはやっぱり少し辛そうではあったけど、前に比べると顔も上がってきたし、若干の余裕がみてとれるようになってきた。加蓮は笑みも讃えてる。
ここ10日くらいで、それどころか昨日より全然様になってきたなぁなんて思う。やっぱりプロデューサーの目は恐ろしいのかもしれない。
ただやっぱり、奈緒は―――私が思うのも何なんだけれども―――少し表情がまだ固いというか、なんというか。
まだ慣れてないというのはあるんだろうけど、それにしてもなんだかぎこちない表情だった。
ふと扉をターンの時に視界にいれると、プロデューサーが難しい顔でメモをしつつこちらを見ていた。
レッスン室まで顔を出すなんて珍しいな、なんて思いつつまた前を向く。曲はフィニッシュに向けて最後のアウトロだった。
最後に三人でフォーメーションを決めるために足下のバミリまでステップを踏み出した。
曲の終わりに合わせてポーズを決めて、鏡の向こうの自分に微笑む。
これで終わり―――そう思った瞬間に奈緒が少し体勢を崩した。
「わっ…やべっ…!」
鏡の向こうの奈緒が倒れかける。あっ、ヤバイと思った次の瞬間―――
「ふぅ、間一髪だな」
いつも通りのスーツに身を包んだプロデューサーが奈緒の肩をすんでの所で抱き留めていた。……不可抗力とは言え、セクハラだよ、プロデューサー。
「Pさん!いたんだ!」
「ん、あぁ悪いな加蓮。なんだか覗き見するみたいだったが、あんまり意識させたくなかったんでな」
「いや、それはいいけど…よく間に合ったね?」
「まぁ、プロデューサーだからな。あっはっは」
なんて笑うプロデューサー。ちなみに私には、滑り込む直前の必死な顔、見えてたよ。
「っと、奈緒。どこにも怪我ないか?」
プロデューサーの顔を見ながらフリーズしてる様子の奈緒。プロデューサーがおーいと顔の前で手を振ると奈緒はようやく気づいて、
「えっ、なんでプロッ、ちょ!」
慌てた。
「おうおう奈緒、危ないから最後まで気を抜くなよ?今のだって倒れてたら頭を―――」
「うなあああああ!いいから離せぇぇぇええええええ!!」
奈緒 の スカイアッパー!
こうか は ばつぐんだ!
「イテテ…奈緒はすぐ手が出るな、危ない危ない」
「うっ!…その……悪ィ、助けて貰ったのに…その、殴っちまって」
「ん、まぁ気にするな。俺のかわいいアイドルに怪我がなかっただけで俺は十分だよ」
「ばっ!おま、かわいいとか、そんな」
「はいはい、そこまでだよー」
何やら赤くなった奈緒とプロデューサーの間に加蓮が割り込む。ちなみにプロデューサーはトレーナーさんに借りた氷嚢で顎を冷やしている。
「加蓮、トレーナーさんとの話、終わったの?」
「うん。あとは体力をつければ大丈夫だろうって。残りは曲次第かな」
「そっか。なら大丈夫そうだね」
「そうだね。あ、奈緒。今度は奈緒だって。向こうで待ってるよ」
「オ、オウ。わかった。んじゃプロデューサー、悪いけど…」
「気にすんな。俺はもう大丈夫だから」
「そうそう。Pさんは私が見てるから、大丈夫だよー」
そうか、と奈緒が立ち上がって離れていく。トレーナーさんとの話のためだ。
奈緒を見送った加蓮はプロデューサーのほうに向き直る。
「Pさん、大丈夫?」
「おぉ、まぁこの程度のケガならよくあることだし。ほら、きらりとか、早苗さんとか…」
あぁー…と事務所に来て日の浅い加蓮も納得するような苦笑いを零した。きらりんぱわーは正直洒落になってない。…なにもやらないからね。
「ま、なによりプロデューサーは気力と体力だけが取り柄だからな。このぐらいじゃへこたれねぇよ」
「そう?なら、いいんだけどね…」
「プロデューサーなら、危ないラインはわかってるはずだから。あぁやって女の子と戯れるのが好きだからほっといても大丈夫だと思うよ」
「おいおい凛、あんまりな言い草じゃないか」
そんなことはない。みんな黙っててもプロデューサーに甘くするんだから、私がこのくらいでバランスいいんだよ。
なんて考えていると加蓮がこちらを微妙にニヤついた目で見ていた。…何、加蓮。何か文句あるかな。
「ま、いいけどね。ふふっ」
「…そういう含み笑い、好きじゃないかな。はっきり言って欲しいよ」
「言っていいの?」
「…やっぱりいい」
笑う加蓮と、少し反応に困る私。プロデューサーは一人で首を傾げていた。
数分後、奈緒が浮かない顔で戻ってきた。
「おかえりー、奈緒。トレーナーさん、なんだって?」
「え?あぁ、おう。ん、まぁなんだ、もうちょっと頑張れだってさ」
ずいぶん歯切れの悪い奈緒だった。加蓮も首を傾げながらふーん、とつぶやくと突然何かを思い出したかのように喋りだした。
「あ!そうだ!」
「どうしたの?」
「あのね、私がいつも使ってるマニキュアのメーカーの新しい作品が今日出たんだって」
「あぁ、加蓮ってネイルが趣味なんだっけ」
「うん。今日はもう遅いからあれだけど、明日誰か一緒に出かけられないかなーって!」
明日は全オフに設定されている。私も家の手伝いもなさそうだったので、快く承諾した。
「私は全然大丈夫だよ。せっかくだし先月オープンしたモールでも行ってみる?」
「あ、いいね!私まだあそこ行ったことなくてさー。奈緒はどうする?」
話をふられた奈緒は上の空だった。何か考え事をしているようだった。
「奈緒?」
「へ?あぁ、悪ィ、なんだっけ」
「もう、聞いててよね。明日出かけない?っていう話」
「あぁ、そうだっけか。……悪ィ、あたし明日はちょっとパスする」
どこか無理に笑うような奈緒。トレーナーさんと話したときになにかあったのだろうか。
本人が話したがっているようには見えないので聞くに聞けないけれど、力になれるのならなりたかった。
「奈緒、どうかした?少し調子悪そうだけど」
「ん、いや、なんでもねぇよ。大丈夫だ。―――っと悪ィ、あたしこれから用があるんだ。明日は二人で楽しんできてくれ」
あ、うん、と加蓮は言われるままに頷いた。奈緒はそのまま立ち上がった。
「じゃあ、お先。みんなお疲れ。…プロデューサーも、その、ごめんな」
扉を開いて出て行く奈緒。取り残された私たち三人もなんとも言えない表情のままお互い見合ったままだった。
―――――奈緒 side
あたしは無愛想で、可愛げがない。
口調は男勝りだし、外見だって別に自分に自身があるわけではない。
そんなのは自分じゃわかっていたことだし、今まではそれでよかった。
アニメの中に登場する可愛いキャラクターと自分は違うから、ああなりたいとも思わなかった。
…なりたくなかった、ってのは嘘だな。憧れは、いつもあった。でも、あたしだからさ。
そうやってすごす毎日は何処か退屈で、楽しくないわけじゃなかったけど、アニメみたいな出来事が欲しかった、のかもしれない。
そんなときだった。街中で歩いているあたしを、アイツがスカウトしてきたのは。
『ねぇ、君。少しいいかな』
『…はぁ?何だよ』
『いや、そのね。急で悪いんだけど、アイドルになってみない?』
『は、はァ!?な、なんであたしがアイドルなんて…っ!てゆーか無理に決まってんだろ!』
『いや、俺はそうは思わない。君、そんだけ可愛い顔してるんだもん。アイドルどころか、トップアイドルになれるよ』
『か、かわっ!いや、そんなんあるわけねーだろ!きょ、興味も、ねぇし!』
『そう?アイドルになれば、衣装とかでいろんな可愛いカッコできたりするけど、それも興味ない?』
『べ、べつに可愛いカッコとか…興味ねぇ…し。きっ、興味ねぇからな!ホントだからなっ!!』
このあとも似たような問答が10分以上続いて、結局あたしは押し切られる形になった。
そのあと細かい話を聞いて、最終的な判断を親とも一緒にして(親は笑って追い出してくれたが)、あたしはアイドルになることになった。
それが、つい二三週間前の話。
あたしの実家は千葉だから、そこから事務所通いは大変だということで、都内に引っ越すことにした。
学校も…まぁそこまで別に思い入れがあったわけじゃねぇから、都内の学校に入りなおした。
部屋は、事務所で管理してる女子寮があるということだったのでそこで厄介になることにした。
あまりにもトントン拍子に話が進んで、頭がいろいろおっついてない。
言われるがままにレッスンを受けて、気づいたらあの渋谷凛とユニットを組むことになってて、気づいたら二人と仲良くなってて。
そんな自分は、本当に自分なんだろうか。
別に鏡に向かって「お前は誰だ」と自問するわけじゃないんだけれど、なれない踊りをやって、ガラじゃないポーズをとって。
鏡に向かって微笑もうとしてるあたしは本当にあたしか。毎日に退屈していた、神谷奈緒か。
ましてや、無愛想な自分が笑顔を振りまくという。なんともおかしな話なんだろうか。
自分でそうやって疑問を覚えてたらやっぱり顔や行動に疑問が出るわけで。
『奈緒ちゃんは……なんだろう、もうちょっと自然な笑みが意識できないかな』
トレーナーさんにそういわれた。
自然な笑み。表情が硬い。もっと笑おう。
自分とは似つかない指示が出ることに、やっぱり違和感を覚えて。
確かに、これから先お客さんの前に立つことができて、そこで仏頂面のアイドルが踊っていたら、それはさぞかしつまらないステージだろう。
けれど、自然な笑みなんていわれても意識して出来るものじゃないし、そもそも出来ないから無愛想だといわれるのであって。
そんな風に煩悶しながらついた帰路は、なんだかいつもより長い時間がかかったような気がした。
女子寮の自室に戻る。夕食まではまだ若干の時間があって、少し手持ち無沙汰になってしまった。
こっちに来てから日も浅く、友人といえる友人は加蓮と凛しかいない。
そんな閉鎖的な自分に少し自嘲しつつ、着替えもしないままベッドに倒れこんだ。長い髪の毛が目に入る。
このままボーっとしていると何時間も経ってしまいそうで、なんとなくそれが勿体無いような気がして体を起こす。
携帯を取り出して、なんとなく着信履歴を見る。
最新が加蓮で、その前が二件続いて凛。その前に母親の名前、そのあとにまた加蓮と奈緒が交互に続いた。
そして、一つだけスクロールしたそこに、その名前はあった。
「P、か」
本名で登録されたプロデューサーの名前。まだ一度もこちらからかけたことはなかった。
悶々とした精神状態がそうさせたのか、ほぼ無意識に通話ボタンへ指が伸びた。気づいたときには呼び出し音。
「あっ、やべっ…」
慌ててきろうとしたのも束の間。ここで電話することで何か糸口が見えてくるんじゃないかという、根拠のない希望。
それはやっぱりアイツのことを信頼し始めているからで―――そう考えているうちに、画面が通話中に切り替わった。
携帯を耳に当てる。
『もしもし、奈緒か?どうした、電話なんてしてきて』
いつもと変わらない、あたしを気遣う声。そんな声を聞いて、少し安心している現金な自分がいることに驚いた。
「あァ、いや、なんでもないんだけど…ちょっと、な」
『…?そうか?―――なんだ、俺の声でも聞きたくなったか?』
「ばっ、ちょ、違っ!」
『はっはっは、わかってるよ』
からかわれる。どうしてこんな人の声で心が安らいだのか。数秒前の自分に腹が立った。
『それで、どうした。何か話か?』
「いや、まぁ話っちゃあ話なんだが…」
何を何処から話すかも決めないまま電話していたので、少しどもる。
『そしたらさ、悪いんだけど明日に出来ないか?急ぎの用なら聞くんだけど』
「いや、急ぎじゃねぇよ。大丈夫。そっちも忙しいのに、悪ィな』
『うんにゃ、気にすんな。ただちょっとこれから他社の人と食事があってな、夜までかかりそうなのよ』
「そっか…。わかった、じゃあ明日、また電話しても、いいか…?」
『うん、全然オッケー。俺、明日は昼過ぎから休みだし。なんなら直接会ってにするか?』
「えっ、あぁ、うん。あたしは、大丈夫だけど…」
『おう、わかった。んじゃ明日2時か3時か、迎えに行くな。詳しい時間は明日で』
「お、オウ、それじゃ、また明日…だよな」
「おう。またな。―――あ、どうも秋月さん。ご無沙汰してま――』
通話が途切れる。切り際に女の人の声が聞こえた気がした。これからの食事相手の人だろうか。
「ふぅ、もうすぐ晩御飯だな…」
時計を見て、一人ごちる。カチ、カチと秒針の音が聞こえる。
会話の内容を反芻する。カチ、カチと秒針の音がやけに大きく聞こえる。
『―――なんなら直接会ってにするか?』
『―――明日2時か3時か、迎えに行くな』
「………………え?」
事態が飲み込めたのは、部屋の外から隣人が夕飯の完成をしらせる声をかけてくる何秒か前だった。
翌日の昼過ぎ、あたしは一人で部屋で自分との闘いに勤しむこととなった。
いろんな服を体に合わせては、あぁでもないこうでもないと自問自答を繰り返す。
結局はいつも着てるようなのと大差ない服に袖を通す。下は…一瞬、穿きもしないスカートが目に入ったけど、普通にズボンで。
最後に髪型を整えていると、携帯のランプが光る。携帯をあけると、十分ほどで寮の近くに着くとのこと。
「まァ、別に…ちょっと話聞いて貰うだけだしな…」
そう一人呟いて自室を出た。
寮を出て一番近くにあるコンビニの前で待っていると、プロデューサーの乗った車がウインカーを出して駐車場に入ってきた。
車はあたしの前に停まると、助手席側の窓からプロデューサーが顔を出した。
「悪い、奈緒。待たせたか?」
「いや、今来たとこだから…」
言ってからまるでデートの待ち合わせのようだと思い、顔が熱くなるのを自覚した。確かに、状況的にはあまりかわらないけども。
「?どうした、奈緒」
「ななななんでもない!」
赤くなった頬を隠すように急いで車に乗る。シートベルトを閉めると、プロデューサーは車を走らせた。
「…なァ、これ、何処に向かってんだ?」
「んー?とりあえず隣町まで。最近モールが出来た近くに、俺がいつも行ってるお茶屋さんがあるんだ。そこでいいか?」
「ん、まぁどこでもいいけど…」
「よし、じゃあちょっと待っててな――っと、じゃあなんか音楽でも聴くか」
そう言って、カーステレオのCDボタンを押す。するとサイドのスピーカーから、聞いたことのある音楽が流れ出した。
「あ、これ…」
「おう、かな子のショコラ・ティアラだな。かな子とはもう話したか?」
「いや、入寮のときにちょっと話しただけ。『甘いものは好き?』って聞かれた…」
「あいつの作ったケーキはうまいからな。今度食べさせてもらうといい」
「そうだな…」
そんな風に話しながら、目的地へと向かう。
「ここだな」
駐車場に車を停めて歩くこと数分。そこには和装の店舗があった。言葉を失う。
「この間、和系の甘いの好きだっていってたろ?だからな」
「ホ、ほんとにここでいいのか…?」
「おう、全然いいさ」
「……~~~~っ!」
嬉しかった。ここは前々から噂を聞いていたけれども入るに入れないままだったから。
そして、それ以上にプロデューサーがあたしの好みを覚えてくれていたってことも。
「よし!プロデューサー!早く入って食べよう!」
「おいおい、引っ張るんじゃ…」
あたしは、大はしゃぎだった。
「はぁ~~~…おいしかった…」
結局あたしは、白玉クリームあんみつとお餅の入ったぜんざい、両方を食べてしまった。…夕ご飯、大丈夫かな。
「喜んでくれたようで何より」
プロデューサーは満足そうにしながらお茶を啜っている。
「ありがとな、プロデューサー。あたし、どうにも一人でこういうとこはいるの苦手だったからさ…」
「ん、まぁ気にするな。俺も久々にここに来たかったし」
プロデューサーは時計をチラリと見た後、湯飲みを机に置くと喋りだした。
「奈緒、それで、話って?」
「あぁ、いや、大したことじゃねぇんだけどさ…」
「…話づらいようなら、店、出るか?」
「…そうだな。あんまり人前でするような話でもないしな」
プロデューサーは伝票を持って行ってしまう。あ、またかこの野郎。
「ちょ、プロデューサー!」
「いいから、今日は俺が連れ出したようなもんだし」
そういうとスタスタ歩いていってしまう。…こんなことなら、あんなに食べるんじゃなかったかな…。
お店を出てからしばらく歩くと、自然公園のような場所がある。
池のまわりにはベンチがあったり、芝生があったり。恋人同士や家族連れなどが思い思いに日曜の昼下がりを過ごしていた。
「このへんでいいか」
プロデューサーは適当なベンチに座ると「ほれ」といいながら隣をポンポン叩く。…隣に座るのは、なんだか気恥ずかしいけど。
腰を下ろすと、プロデューサーが少し大きめに息を吐いた。疲れてるんだろうか。
「なんか、ごめんな。仕事で疲れてるのに…」
「あぁ、いや気にするなって。お前らのためなんだから」
そうやって、プロデューサーは笑う。この人は、あたしが来る何ヶ月も前からこうやって身を削って仕事してるんだろう。
「それで、だ」
「…うん」
「奈緒の悩みのタネを聞かせて貰おうか」
「悩みってもんでも、ないんだけどな。ただちょっと、不調というか、考えがまとまらないだけで」
「バッカ、それを悩みっていうんだよ。…力になれるかはわからんが、話してみるだけ話してみろよ」
「……うん」
それを受けて、私はここ最近の思いを全部話していた。
あたしにアイドルなんか似合わないんじゃないか。笑顔をふりまくとか、そういうことは向いてないんじゃないか。
自然な笑顔もわからないし、無愛想さもかわってないし。こんなアイドル、見てても面白くないんじゃないかって。
そして、そんなことばっかり考えてたら、レッスンでも注意されるようになったこと。
そういったことを全部、プロデューサーに話していた。
プロデューサーはときどき頷くだけで、殆ど黙っていた。
いまさらこうやって弱気になってる自分に失望されるんじゃないかって少し思ったけど、この人が話してみろって言ったのだから大丈夫だと信じた。
「……ってわけなんだよ。いや、まァ、こんなこと言い出すなんてらしくねぇとは思うけどさ…」
いや、今のあたしよりも、そうやって笑顔を振りまいている自分のほうが「らしく」ないんじゃないかなんて思ってしまう。
ここまでネガティブになる自分も珍しい―――そんな風に考えていると、プロデューサーが口を開いた。
「なぁ、奈緒。コールってしってるか?」
「…コール?」
「あぁ。あのライブのときに、ファンの人たちが名前とか、曲にあわせて叫んだりする奴なんだけどさ」
映像で見たことはあるかもしれない。サイリウムをもった人たちが一緒にジャンプしてたり、そんなやつだろうか。
「あれ、うけてみたくないか?」
「…へ?あたしが?」
「そうそう。ライブやってみりゃわかるけど、みんなはアレ大好きだぞ。一番輝いてる気がするんだってさ」
一番輝く―――なかなか普段使う言葉じゃないけど、あんなステージの上にたって観客から歓声をうけたら、そんな気分にもなるだろう。
「俺はな、まず、奈緒に"アイドル"を好きになって貰いたいんだ」
「何度もステージに立ってほしいし、その喜びを知ってほしい」
「ファンのひとたちから歓声を受けて、会場で一体感を生んで欲しい」
「そして、アイドルであることに誇りが持てるようになって欲しいんだ」
そう語るプロデューサー。これは多分、あたしだけじゃなくて事務所のみんなに対して思っていることなんだろう。
「今の状況だと、少し先行きが不安になるのもわかる。でもな、一回あのライブを体感しちまえば、絶対にアイドルが好きになれる。
そしたら、トレーナーさんの言う自然な笑顔ってやつも、でてくるんじゃないかな」
今は無理しなくていいよ、というプロデューサー。確かに、今はまだそんな眺めは想像つかないけど、あの二人と一緒なら―――
そう考えたところで、後ろから何やら聞きなれた声がした気がした。
多分あたし、今振り向いちゃいけない。
そう思った次の瞬間、「お?」とか言いながらプロデューサーが後ろを振り向いた。バカっ、ダメだろ!!!
「え、プロデューサー…?」
「おう、凛」
「あれ、Pさん…と、………奈緒?」
二秒でバレた。
「ちょ、なんでPさんと奈緒が、二人で!」
「いや、ちょっと用があってな…」
急に詰め寄る加蓮と、逆に表情ひとつ変えずにこちらへ近づく凛。こわい、こわいよ凛。
「奈緒!私たちの用事断ってPさんと一緒にいるってなんでよ!!誘ってよ!!!」
「いや、その…断ったのといまプロデューサーと一緒なのは別な理由というか、その……」
「……奈緒。何にしても、黙ってたのは、よくないと思うな。ずる…くはないけど、よくないと思うな」
二人に詰問されて私は一気に言葉に詰まってしまう。
助けを求めるようにプロデューサーのほうを見るけども「のヮの;」みたいな顔して苦笑してやがる。ダメだなこれは。
「奈緒!とりあえず、説明してよ!」
「…奈緒、だんまりはよくないと思うな」
いや、あの。一言も発せないんですけど…
「奈緒!!」
「奈緒」
もう一回プロデューサーのほうを見る。今度は目をそらさなかった。
「どうする?」って目で聞いてきてた。あたしは、少し考えて、決断した。
「あぁーーー!もううるさい!」
立ち上がりながら言うと、前の二人がビクンとなる。
「今日あたしは、Pさんに誘われてあってるんだ!それを…邪魔するなぁ!」
あれ、あたしいまなんか思ってたのとちょっと違うこと言った。
ポカンとする二人。プロデューサーも一瞬目を丸くした後、クックックと笑いだした。
「な、なんだよプロデューサー…」
「いんや、なんでもない」
プロデューサーはお腹を抱えたあと、前の二人に向き直った。
「っと、悪いな、二人とも。今日の奈緒は貸切なんだ。また今度、なっ!」
そういうとプロデューサーはあたしの左手を掴んで走りだした。
「ちょっ、プロデューサー!?」
「Pさん!奈緒!」
後ろで二人が呼んでいるけど、プロデューサーは気にしない。
「お、オイ!いいのか!?」
「いいんだよ!邪魔するなって奈緒が言ったんだろ!?」
確かに。邪魔するなといったのはあたしなのに、それをとがめるようなこといってたらちゃんちゃらおかしい。
プロデューサーに手を引かれながら、そんな自分のおかしさにあたしは気がついたら笑っていた。
「ふぅ……ここまでくりゃ大丈夫かな」
しばらく走ったところで足を止める。おってきている様子もないので、まあ大丈夫だろう。
「はぁ、はぁ…疲れたな、少し」
「そうだな。アイドルがこのくらいで根をあげるんじゃないぞ?」
「うるさいなぁ…まだデビューもしてないっつーの」
と、そこで繋いだままの左手が目に入る。左手は離さないようにしっかりと繋がれていた。飛び上がる。
「・・・ッ!!」
「おぉ、悪いな、急に手ぇ掴んじまって」
「いや、その……別に、いい」
そうか、と頷くプロデューサー。気づくと回りの風景は公園を抜けた市街地だった。車を置いた場所に近いかもしれない。
「なぁ、奈緒」
「………なんだよ」
「あのな、奈緒は奈緒のままでいいんだぞ」
いまいち言ってる意味がわからないままプロデューサーのほうを向いたところで、さっきの続きだと気づく。
「自分自身に違和感とか、そんなことはどうでもいいんだ。別に、笑顔だって振りまく必要はない。
ただ、ステージで踊って歌う奈緒が、みんなと一緒に楽しんで笑顔になればいいんだよ」
その言葉にハッとする。確かに、あたしは何で笑顔を作ることが前提だったんだろう。
「だから、奈緒も別に誰かに成り代わる必要はないんだ。不器用なのも、無愛想なのも、全部ひっくるめて奈緒でいい」
無愛想は直せといわれた。不器用なのも得しないといわれた。
それなのにこの人は、あたしのネガティブなところも受け入れてくれているんだ。そう思うと、心に暖かいものがおちてくる気分だった。
「俺は、他の誰でもない、奈緒自身にアイドルになってほしくてスカウトしたんだ。だからさ。一緒に頑張ろうぜ?」
微笑むプロデューサーに目を奪われて、あたしの中の時間が止まった。
あたし自身をみてくれることがこんなに嬉しいものだなんて、思ってなかった。
「…へへっ、そうだな」
うつむいて少し緩みかけた目元を軽くぬぐう。そして、今度はきちんと目を見る。
「あたし、頑張るよ。これから、頑張って、アイドルになる」
「おう、その意気だ。ドレスは任せろ、可愛い奴用意してやるから」
「い、いや!それはいい!普通のでいいから!やめろよ、絶対変なのにするなよ!」
少しこっちがまじめになるとすぐにおちゃらけるんだから、この人はしょうがねぇなと思う。
でもそんな人だからこそ、あたしはこの人と一緒に頑張ろうって思えた。
「そういや奈緒、さっきお前俺のこと名前で」
「うあなあああああ!!!!それは忘れろ!!!!!!!!!」
―――――凛 side
「ハイ、じゃあ今日はここまでです!…奈緒ちゃん、凄くよくなったね。踊りも前より切れがある!」
「へへっ、そうか?ならよかったかな」
「はい!この調子ならもう次からは曲にとりかかれますね!」
「ホントか!よかった…」
安堵した様子の奈緒。確かに、今日の踊りは迫力を感じた。これなら私の心配するところもない。
それに、顔が前より朗らかだ。何か奈緒の中で吹っ切れたのかもしれない。同じユニットのメンバーとしても嬉しい。
でも、それとこれとは別だよね。
「なーお?」
加蓮が呼びかける。奈緒は肩をビクリとさせるとギギギと擬音がつきそうな感じでこちらを振り向いた。
「な、なんだよ加蓮」
「ううん?なんでもないよ?」
「そうだね、私たちは何にもないよ」
「ただ、奈緒が私たちに話すことがあるんじゃないかなーって」
うっ、とたじろぐ奈緒。残念だけど、昨日のことはきっちり説明してもらわないと。
と、そこに狙ったようにプロデューサーが入ってきた。
「あ、Pさん」
「おう、お疲れ」
「ちょ、Pさん!助けてくれよ!!」
……Pさん?
「奈緒?いまPさんって呼んだよね?」
「え?あぁっ!いや、違うんだよ凛!これは、その動揺してだな」
「言い訳はいいよ。ただ、ちょっと聞くことは増えたかな」
後ろであははと笑うプロデューサーと困るトレーナーさん。慌てふためく奈緒と少しお怒りの様子の加蓮。
まぁ昨日のことだって多分、奈緒が困ってるのを見抜いてプロデューサーが息抜きで連れて行ったんだろうけど、それとこれとは話が別。
気づくと口を割らない奈緒のほっぺを加蓮が軽く引っ張っている。…とても和やかな修羅場だった。
ライブまで残り三週間。私たちはまだまだこれからたくさん頑張っていかなきゃいけない。
けど、私たち三人とプロデューサーの力を合わせれば、きっといい方向に持っていける。
不安も期待もあるけれど、そうやってこれからも前に進んでいくんだろう。
とりあえず今は、仕方ないから悲鳴を上げている奈緒の助けに入ってあげようかな。
「そういえばさ、凛はなんでプロデューサー呼びのままなの?私たちが変えるとつっかかってきたけど」
「それは…その、もう定着しちゃったからね」
…いまさら変えるのが恥ずかしいとは、ちょっと言えない。
続
くぅ~疲れましたwこれにて完結じゃないです!
奈緒の話になると言ったな。あれは嘘だ。
奈緒ちんをどうやったら可愛くかけるのかがわかりません。全国の奈緒Pに申し訳ないです。
時間空くとか言っといて十日もあきませんでした。次はさすがに時間が空く・・・かも
序盤の屋上のシーンは気づいたら出来上がってました。恐ろしい。
次は加蓮ちゃんの話になる・・・かな、ちょっと細かいとこ考えてないのでアレですが
分岐するかどうかはまだわからないんじゃよ・・・(震え声)
もしこの三人で誰かシンデレラガールになったらそのときは別スレ立てておめでとう話かきます(予告)
ここまでお読みいただきありがとうございました。これからも楽しんでいただければ幸いです。
それでは。
ちょっと生存報告がわりにしぶりんといちゃいちゃしますね、インタールード的な
本編には全く関係ありませんので気にしないでください
・飲み物のすゝめ
凛「プロデューサー、コーラでいい?」
P「あぁ、ありがとう。…しかし、そろそろコーラじゃ寒くなってきたな」
凛「そうだね」
P「…凛さんは缶のホットココアですか」
凛「こっちの方がいい?」
P「いや、もう口つけただろ。いいよ」
凛「………飲む?」
P「………凛がいいなら」
凛「…………やっぱダメ」
P「そうか」
凛「……………やっぱり、いいよ?」
P「冷めるぞ」
凛「…冷める前に、飲んでいいよ」
P「……………冷めるぞ」
凛「……………いけず」
・愛称
P「なぁ、しぶりん」
凛「…え?」
P「いや…なんでもない」
凛「今しぶりんって言わなかった?」
P「言ったけど…」
凛「…なんかやだ」
P「そっか」
凛「うん」
・ラジオ
P「凛!大きな仕事がとれたぞ!」
凛「ホント?」
P「あぁ、ラジオだ!凛単独で、しかもレギュラー放送だ!」
凛「…すごい。さすが私のプロデューサーだね。ふふっ」
P「そんなことない。いつも凛が頑張ってくれてるお陰だ」
凛「それで、詳細とかって決まってるの?」
P「あぁ、放送は、再来月からだ」
凛「じゃあこれから企画なんだね」
P「おう。一応コーナーとしては、CGプロのアイドルを呼んで一緒に話すコーナーがあるよ」
凛「へぇ、面白そうだね」
P「しかし、名前がまだ決まってないんだよな」
凛「…そうだね、Linkラジオとかは、どう?」
P「他人様のネタはやめなさい」
・愛称2
P「なぁ、しぶにゃん」
凛「………は?」
P「いや…なんでもない」
凛「いや、今しぶにゃんって」
P「言ってない」
凛「…………」
P「…………」
凛「………………」
P「………………」
凛「……………にゃあ」
P「……!?」
凛「飲み物とってくる」
P「へ?あ?お、おう」
・ていおん
P「凛、そういえばベースは弾いてるのか?」
凛「あぁ、うん。たまに弾いてるよ」
P「そうか。企画で貰ったのだけど、あれそこそこいいやつだからな」
凛「そうなんだ?」
P「あぁ。監督さんたっての希望だったからな」
凛「ふーん」
P「そういえば今日、まさか縞パンなんてことはないよな?」
凛「えっ」
P「えっ」
凛「……なんで知ってるの」
P「いや、その黒髪ロングのベース弾きの女の子がアニメで穿いてたから…」
凛「……バカ」
・愛称3
凛「…………」
P「…………」
凛「……………Pさん」
P「………!?」
凛「どうしたの?」
P「いや…なんでもないぞ、しぶにゃん」
凛「……そうか、にゃ」
P「…悶え死にましたみくにゃんのファンやめます」
凛「…みく、ごめん」
・にゃん
P「なぁ凛、動物の耳とかは、仕事でつけるのは嫌か?」
凛「…嫌ではないけど、かぶらない?」
P「…ちょっとやってみてよ」
凛「………また?」
P「うん、またなんだ。すまないね」
凛「……………」
P「……………」
凛「……しぶにゃん、だにゃあ」
P「……お手」
凛「犬じゃん、それ」
これだけです。オチも盛り上がりもなくてごめんなさい。ちょっと行き詰ったんです許してくださいなんでもしますから!
一月近く放置してしまいました。少し短めですが続きがかけましたので投下します。
prrrrr,prrrrrrr
prrrrr,prrrr,Pi!
『あ、もしもしPさん?』
「おう、加蓮か。どうした?」
『ごめんね。今、大丈夫?あ、まだ仕事中だったかな…?』
「大丈夫だ。ちょっと一息入れてるところだった」
『そう?じゃあよかった!……あのねPさん、少しお願いがあるんだけど…』
「お?なんだ、珍しい。いいぞ。お前らのお願いなら何でもきいてやるぞ。…まぁ、出来る範囲だけど」
『ホント!?よかったー。その、明日なんだけどさ」
「おう。学校終わった後しばらくしてから撮影だな。場所はいつものスタジオだから、現地集合だったけども」
『あー、うん。それなんだけどね。その、集合前にちょっとお出かけできないかなー、ってね』
「ん、なんだその程度か?全然いいぞ。俺は書類だけだから、早めに済ませれば事足りるし」
『いいの!?やった!』
「おいおい、ずいぶんな喜び方だな。まぁいいや。学校の近くまで迎えにいくから、そのままでいいか?」
『うん!大丈夫だよ。それじゃPさん、ありがとね!』
「ほーいっ、と…」
「ん?プロデューサーさん、今何でもするって言いましたよね?」
「アイドルのお願いなら、です」
「……私のお願いは聞いてくれないんですか……?」ウルウル
「ちょっ……ちひろせ、…ちひろさんの言うことはいつも聞いてますよね、俺」
「それもそうですね!」ニッコリ
「……悪魔や…悪魔がおるで……」
「あれ?プロデューサー、まだいらしたんですか?」
「あ、楓さん。お疲れ様です。そうですね、まだちょっと雑務が残っていたので」
「そうでしたか。…よろしければなんですけど、このあと少しお酒でも飲みに行きません?」
「あ、いいですねー。ちひろさんもどうです?」
「いや、私はいいです…。というか、ここでいったら楓さんがかわいそうじゃないですか」ボソリ
「そうですか?じゃあ楓さん、いつものとこでいいですか?」
「ですね。…ふふっ、二人で飲むのは、久しぶりですね」
「よし、んじゃちょちょっと終わらせますんで向こうで待ってて貰えますか?多分、紗南がまだいると思うんで」
「わかりました。じゃあお仕事頑張ってくださいね?お酒を飲むには、さけては通れないですもんね、ふふっ…」
「………」
「……なんかいってくださいよちひろさん」
「…いやぁ、別に」
「…さ、とりあえず仕事終わらせますかね。ライブも近いし、友紀の始球式の仕事も取れそうだし」
「あ、すごいですねそれ」
「本人の念願ですしね。俺も球場に行くのが楽しみだなー」
――――――――――――――――――――――――――
「あ、Pさん!こっちだよ!」
Pさんに電話をした日の、翌日。
私、北条加蓮は学校を終えそのまま、校門の近くでPさんを待っていると、見慣れた車が近くに停まろうとするのが見えた。
路肩に停められた車に近寄ると、助手席側の窓が開く。Pさんが顔を覗かせていた。
「おう、待ったか?」
「ううん、さっき終わったところだから大丈夫だよ」
そうか、と呟くPさん。私は後部座席に乗り込む。
「それじゃとりあえず、スタジオの近くまで行っていいかな。ここからだと遠くはないし、仕事に遅れるわけにもいかないからな」
「うん、それで大丈夫だよ」
あいわかった、と頷いたプロデューサーさんは車を走らせはじめた。
「今日の学校はどうだった?」
「うん、いつも通り。でも、ちょっと話しかけてくる人が増えたかなー、なんて」
「あはは、この間の雑誌の成果かな」
「多分ね。まぁ、みんな珍しいだけだろうけど」
先日、私はメディアの露出としての第一歩とも言うべきものを踏み出した。
大手というべきファッション雑誌にて、3ページの特集。奈緒と一緒に、「CGプロ期待の新星」なんてかかれてしまった。
うちのプロダクションからデビューするときには、この雑誌からの人が多いらしい。
それがライブまで一ヶ月をきる頃のこと。この雑誌取材を皮切りに、キャンペーンガールなど仕事らしい仕事が増えていった。
そしてその雑誌が先日刊行されて、一躍私は時の人―――というよりパンダ―――のような気分を味わうことになった。
「衣装とかもさまになってきたしな。抵抗もなくなってきたろ?」
「うん。まぁ、奈緒はまだちょっとぶーたれてるけどね。あはは」
奈緒は私や凛に比べ少し、いや相当の恥ずかしがり屋だ。
はじめて衣装に袖を通したときも顔を真っ赤にしながら、
『は、はァ!? こんなカッコ似合うワケ…。…べ、べつに嬉しくなんかないからなっ! ちっとも嬉しくなんかないんだからなぁっ!!』
って言ってた。でも、完全に顔はニヤけてたよね。奈緒も素直じゃないなー。
だから、私と凛とPさんで、ニヤニヤしながらながめてあげた。奈緒はいつまでももじもじしてたっけね。
もっとも、そこが奈緒の一番かわいいとこで、最大の魅力なんだけどね。
車は大通りを進んでいく。昼下がり、あまり交通量は多くなかった。
「さて、どうすっかな」
スタジオの駐車場にいったん車を停めて、道を歩き出した私とPさん。
「加蓮は、どこか行きたいところはあるか?」
「うーん、そうだね……」
言われて私は辺りを見渡す。ふと視線を向けた先には、国内でも大手のハンバーガーチェーン店があった。
「ね、Pさん。ちょっとおやつが食べたいかな。今日体育もあったから、お腹すいたし」
「お?あそこのバーガーか?」
「うん。だめかな?」
「まさか。俺もちょっと小腹がすいたしな。軽く食べるか」
「やった!」
喜ぶ私を少し目を丸めてみた後、クスリと笑ってPさんは歩きだした。
「あー、今Pさん子供っぽいって馬鹿にしたでしょー!」
「してない、してない。加蓮だってオトシゴロだもんな」
「むっ…そうだよ?年頃の女の子だからね。やりたいこともいっぱいあるんだよ?」
私はそう言ってPさんの左手を取って、そのまま腕に抱きつくような体勢をとる。
「おい、こら加蓮」
「だいじょーぶ、帽子もしてるし、ばれないよ。それに、まだまだ駆け出しだし?」
一瞬、足をとめて非難の視線をよこしたPさんだったけど、あきらめたようにため息を一つついてまた歩き出した。
近くに見えるバーガーショップが少し恨めしくて、私はPさんが歩きづらくなるように気持ち、もう少しだけ体重をかけた。
「あー、おいしかった!」
30分後、二人で揃ってハンバーガーショップを出る。
「うまかったな。しかし、加蓮はああいう、バーガーとかって結構好きなのか?」
「うん。ああいうジャンクフードとか、結構好きなんだ。入院してた頃の反動かなー…」
言ってしまってから、花の女子高生がジャンクフード好きなんてちょっと風情に欠けるなーって思った。
けど、Pさんはそんな私の心など意にも介さぬように、
「へぇ、そうなのか。結構一生懸命食べてたみたいだっからな」
そういってきた。そう、不覚にも私は頼んだバーガーが届くや否や、すぐにかぶりついてあっというまに完食してしまった。
15分ほど前の私を頭の中で説教していると、あ、でもと思い出したようにPさんがこっちを向いた。
「ああやって小さい口でパクついてるのみると、なんかリスみたいでかわいいよな」
…そういうの、反則だと思うな。
私は抗議の代わりに宙ぶらりんのPさんの左手にしがみついて、非難の視線を無視してまた道を歩き出した。
「リスといえば…なんか、うーん…パンとかをこう、口いっぱいにしてフゴフゴフゴって言いながら食べる感じのアイドルとかダメかなぁ」
…さすがにニッチすぎない?パンをほおばるアイドルどころか、一般人を探すのが既に大変だと思うんだけど。
Pさんにそのことを言うとPさんは首をかしげた。
「うーん、でもなんかなぁ…なんかいそうなんだよな…見えたというか…今度四国でもいってみるかなぁ」
どうしてそこで四国がでてきたんだろうか。
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「あ、Pさん!ゲーセンあるよ!」
「お、ホントだ。こんなとこにあったのかぁ」
Pさんと二人で、店を回って、服を適当に見て回ったり、小物を見たり。そんなとき街角にゲームセンターをみつけた。
「ねぇ、ちょっと寄ろうよ 。まだ時間あるし、いいでしょ?」
「そうだなー、まぁ時間的にもここが最後かな」
やった、と一人呟いてゲームセンターの中にはいる。特有の混沌とした騒音が出迎えてくれた。
「うわー、すげぇ久し振りにきたな」
「Pさんってこういうとこは、よくきたの?」
「まぁ、学生時代にちょこっとな。あんまりどのゲームも得意じゃなかったんで、あれだがな」
学生のころのPさんを想像してみる。正直今とあんまり変わらなかった。
今も多分どのゲームをやろうか悩んでいるのだろう。しきりに首を回して物色していた。
「お、加蓮。あれなんてどうだ?」
そういってPさんが指したのは有名な太鼓型のリズムゲームだった。
「うん、大丈夫だよ。これだったらちょっとやったことあるし」
「そうか。よし、じゃあさっそくやるか」
そういうとPさんが財布からコインを取りだし、ゲーム機にいれる。太鼓をデフォルメしたようなキャラクターが喋りだした。
Pさんは難易度や曲を淀みなく選んでいく。曲なにかは気になったけど、最終的に765プロのGO MY WAY!に落ち着いた。
「加蓮、準備はいいか?」
「大丈夫、いつでもいけるよ」
「じゃあ負けた方罰ゲームな」
「えっ!?」
私が動揺してPさんのほうを振り向こうとしたとき、ゲームが開始した。
少し遅れそうになったもののギリギリ間に合い、スコアをかせいでいく。
難易度はさして難しくないようで、腕はどうにか譜面にあわせて動いてくれる。
少し余裕が出てきて、Pさんの表情を盗み見ると、これまた余裕の余裕で歌詞を口ずさみながら譜面を消化していた。
当然、ミスは見当たらない。Pさんは私の視線に気づくと、ニヤリと笑ってみせた。
「…ッ!このっ…」
負けじと私もバチを振るう、が。
どうやら経験の差は後半、如実に現れたようで、私のミスが目立ちはじめる。
ミスを修正せんとする間にまたミスを重ね、大崩れ。結局私はパッとしない成績でゲームを終えることとなった。
一方のPさんは終始自分のペースを崩さず、フルコンボを達成していた。
「ねぇ、Pさん…ちょっと、大人げなくない?」
「シツレイな。俺は手加減なぞしようものなら加蓮に喜んでもらえないと思ってな」
「…でも、フルコンボなんでしょ」
「あぁ、フルコンボだ」
「…むー、ずるい」
「何がだ」
自分でも何を言えばいいのかわからなくなってしまった。
「よーし、そいじゃー罰ゲームはどうす―――」
「あ、Pさん!あっちのほう行ってみよ!!」
罰ゲームという単語が聞こえた直後、私はPさんの手を引きゲームセンターを歩き出した。
あまり都合の悪いことは聞きたくなかった。
「さーて、そろそろ時間も近いな」
「そうだね」
時計を見ると集合時間の30分くらい前になっていた。外も少し暗くなっている。
「なんか最後にやりたいことあるか?」
「うーん…」
Pさんに聞かれ、私はあたりを見渡す。と、見慣れた機械が目に留まった。
「ね、Pさん。プリクラ撮ろうよ、プリクラ」
「プリクラ?」
「うん。撮ったこと、ないの?」
「まさか。さすがに俺でも撮ったことくらいあるさ」
「ふーん…ま、いいや。撮ろ?」
Pさんが渋る前に手を引いて筐体の中へと入る。Pさんはやれやれといった顔をしていたけど許してくれたみたいだ。
私はいつものように設定を決めていくのだけど、男の人と撮る、それも二人でなんて初めてだからか、少し緊張してる、かも。
「ほら、Pさん。始まるよ?」
「ん、おお。どうもこの明るい筐体はなれなくてな…」
なんだかんだといいつつもピースをするPさん。私もいつものように、軽くポーズをとる。
パシャリ、撮影音。
「な、なんか今俺変な顔してたかも…」
「そんなのはいいから、次、次!」
今度はなんとなく私がPさんの前で少しかがむ。これは出来上がりを見てから気付いたのだけど、なんかだっちゅーなんとかみたいなのが似合いそうなポーズだった。
再び、撮影音。次にPさんに前でしゃがんで貰い、その両肩を掴んで、隣から顔を出した。すこし、顔が近かったのは想定外。
「お、これで終わりか?」
「いや、まだだよ。次はフレーム変えてもう一回!」
「げ、まだあるのか…」
撮られるのに慣れてないようなPさんは少し戸惑い気味だ。そんな彼の様子も少し可笑しくて、私はつい笑顔になってしまう。
次の撮影が始まろうとしていた。
「ふー…疲れたな…」
落書きも終え、二人でプリクラの筐体から出る。Pさんは若干疲れた表情をしていた。
「あ、ほら。シールが出来上がってるよ」
「みたいだな。…しかし、これ色々と大丈夫、かなぁ」
Pさんがそう言ってプリクラを見る。どうみてもカップルのようなそれだった。
中では少しテンションがあがっちゃってたから、あんまり意識してなかったけど、思いっきり腕に抱きついたり、肩に頭乗せてたり、手を握ったり、エトセトラ。
「…………。」
思わず一人で沈黙してしまった。多分、顔も赤い。
見るとPさんはアイドルとそんなプリクラをとってしまったことのほうがいろいろ不味いらしく、しかめた顔でプリクラをみていた。
その顔にはちょっと一言言いたかったけども、今の自分のこの顔じゃ墓穴も掘りかねないと思って、私は金を選ぶことにした。
無言の空間がしばらく続いて、
「まぁ、なんだ。とりあえず切り分けないと。…もう仕事の時間だしな」
Pさんがそういったので、私はプリクラを受け取り、はさみで切る。
片割れをはい、と渡すとPさんはありがとうといってそのまま出口へと向かっていってしまった。
「さ、こっからは仕事だからな。しっかり切り替えていこう」
ゲームセンターを出るなりPさんはそういった。私もひとつ頷くと隣に並んで、撮影スタジオへと歩き出す。
横顔を伺う。仕事のときの顔になっていた。
急にそんな風に表情を変えられるのが少し悔しかった。
Pさんのスーツの袖をつまむ。
「ね、Pさん」
「ん、なんだ」
「また、こうやって遊びに、いきたいな」
「…そうだな。ライブが終わってから忙しくなってくるだろうけど、また来れたらいいな」
断言はしてくれなかったけど、まぁ、次第点かな。
そこから先は、きっと私の努力次第だと思うから。
私たちは仕事場のスタジオへと向かって歩きだした。
―――
―――――凛 side
スタジオでの写真撮影から数日経って、私たちは下見でライブの会場を訪れていた。
ライブまではとうとう一週間を目前にし、レッスンも気合が入ったものになっている。
プロデューサーが会場の下見に行くというので私たちトライアドプリムスの三人と、その場にいた夕美さんと忍もついてくることになった。
「うわぁ…!」
「すごいな、これ…」
ステージに立った奈緒と加蓮が口々に感想を漏らす。私もこの規模の会場は始めてなので、なんとも言葉にしがたい。
夕美さんがプロデューサーに近寄っていく。
「ね、Pさん。ここはどれくらいのお客さんが入るのかなっ?」
「んー、7000くらいかな、今回は。うちのプロダクションでは間違いなく最大規模だな」
「そうだね。私もここまでは一回もないよ…」
アイドルとして本格活動を始めて半年と少し。こんな大きなホールで出来ることは緊張するけども、それより純粋に楽しみで仕方がない。
「ちなみに、チケットはほとんど売れてる。当日はびっしりだろうな…」
「っていうか、本当大きいね。客席があんなに遠い…」
「そうだね…」
私と夕美さんも、言葉がみつからなかった。
と、後ろで忍が、私ね、と喋りだした。
「小学生のときに一回、東京のほうに遊びにきたことがあって。そのとき丁度、765プロがライブをやってたんだ」
「へぇ!すごいな忍、どうやったんだ?」
「え?」
「いや…なんでもない、続けてくれ」
「そう?それでね、そのときはまだ765アイドルで有名なのって竜宮小町くらいだったの。今じゃもう最大手といってもいいけど」
「そうだなー、あの頃のいおりんはまたあれでかわいかったよなぁ…今はもっと綺麗って感じだけど」
「うん、それでその日に帰るつもりだったんだけど、台風がきちゃってね」
「あれ?忍って、青森だったよね」
と加蓮。いつの間にか近くに戻ってきていたらしい。
「そうそう。だから飛行機も電車もなくて帰れなくなっちゃって。一日空いてしまったから、そのライブにいきたい!ってお父さんに頼み込んだの」
「馬鹿な…そんなの断れるわけがなかろう…」
プロデューサーがひとりで何故かうなだれていた。別にあんたは忍のお父さんじゃないでしょ…。
「そしたら二人ともOKしてくれてね。キャンセル分のいちばーーーん後ろの席を当日券で買って見に行ったんだ」
ほぉーと声を出す一同。
「ステージは遠くて、踊りもあんまり見えなかったんだけど…竜宮小町が出てくる前にね、真ん中に立ってた娘が言ったんだ」
『一番後ろの人も、ちゃんと見えてるからねー!!!』
自然とみんなの視線がステージから一番遠い、スタンド席のほうへと向かう。
あんなに遠いんじゃ、バックの映像でなきゃ私たちの表情はわかんないだろう。それでも足を運んでくれる人がいるんだ。
「じゃあ、そうだね」
私は一拍おいて言う。
「来週は、一番後ろの人も、最前列と同じくらい楽しめるライブにしようよ」
そうだね、と返事が戻ってくる。プロデューサーも満足げに頷いていた。
「ねぇPさん!入り口のところに、フラワーアートみたいなのっておけないかな?私がつくるから!」
「お、それいいな。どうだ、凛も一緒にやるか?」
「そうだね。せっかくなら、いいのがつくりたいね」
「よし、きまり!じゃあ、あとで凛ちゃんのおうちお邪魔してもいいかな?」
「うん。ハナコも喜ぶよ」
私は夕美さんと適当に時間について話すと、まだステージからぼぉっと眺めている二人のところに近づく。
「そろそろ現実に戻ったら?」
「いや、戻ってきちゃいるけどよ…」
「そう、だね…なんかまだふわふわしてる感じ」
どこか落ち着かない様子の加蓮と奈緒。気持ちはわからなくもないけどね。私も始めてのライブはこうなったし。
「ねぇ、凛」
「なに、加蓮」
「私たち、アイドルなんだよね」
加蓮がこちらを向く。その表情には期待がにじみ出てたし、後ろからこっちを見る奈緒の頬も心なしか上気していた。
「そうだね。私たちがここでは主役だよ」
もう一度客席のほうを見る。いつもは一人だったり、未央や卯月がいたりだったこのステージに、これからこの二人と立つ。そう考えたら、私もなんだかふわふわしてきた。
「頑張ろうね、二人とも」
「うん!」
「オウ!」
二人の返事を受けて、私たちはステージから離れる。車の近くでプロデューサーが手を振っていた。夕美さんと忍もいる。
ライブまであと一週間。やれることはすべてやってライブにぶつけたい。そう思いながら私たちは会場を後にした。
「なぁみんな、このあと昼飯でも食いにいくか?」
「あ、私ハンバーガー食べにいきたい!」
「お?いいけどまたかよ、加蓮」
…また?
またって、どういうこと、加蓮。プロデューサー。
ねぇ、ちょっと!!
続
今回は以上です。前回前々回の半分ちょっとくらいでしょうか…遅筆ですいません。
加蓮SRを金欠で引けずかなーしみーのー向こうーへとー
それと投下したあとに気がついたのですが、わた某アイドルが「うしろのひとも~」って言うのは竜宮以外も有名になったアニマス最後のライブでしたね。すんません。
ちなみに加蓮がテレビでみてたライブと同じっていうどうでもいい設定。忍ちゃんも好きなんです。
この後の展開はなんとなく決まったのですがどうにも風呂敷の広げすぎで収集つかなくなりそうでこわいです。
どうにか完結させてみせる。分岐は多分するよ!!!!!!!!!!!!!!多分
それでは少しでもお楽しみいただければ幸いです。
>>130
ご指摘どうもです。きゅうだいてんと読みながら次第点と書いてました。ありがとうございます。アホかよ俺
そちらは自分ではないです…というか初めてこういうとこに書くので。
遅筆でもうしわけないです…
早ければ明日か、遅くとも来週頭くらいには投下できると思いますので、待ってくださる方がいましたらもう少しお待ちをば…
と、一応生存報告しておきます
なんだか応援をいただいていたようで、ありがとうございます。
続きがかけましたので、投下していきたいと思います。稚拙な文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。
「はい、じゃあ渋谷さん、神谷さん、北条さん、音響チェック入りまーす」
「「よろしくお願いします!」」
三人で大きく腰を折って礼をする。顔を上げて準備を整えていると、イヤモニから音楽が流れてくる。
聞きなれたその音楽を聴いていると自然とリズムをとりそうになるけれど、踊るのはまだもう少し先だった。
「音量のほう、大丈夫でしょうかー?」
少し間延びした音響さんの声が響く。足元のモニターからも音は出ていて、十分な音量が確認できた。
「私は問題ないです。奈緒、加蓮はどう?」
「おうっ、まァなんだ、いまいちよくわかんねぇけど多分大丈夫だな」
「私も。このぐらいなら大丈夫だよ」
「ん。わかった。…ステージは大丈夫でーす!!」
はーいという声が聞こえる。
「それじゃあ、次は軽く動きながら声だしてください。音量バランスだけ見ますんで」
音響さんがそういうと耳にクリックが聞こえて、曲が流れ出す。
私たちは少し小さめに体を動かしながら歌う。聞こえてくる自分の声も、二人の声も問題なかった。
「はい、じゃあそこまでで大丈夫です。ステージ、何かありますかー?」
「こっちは大丈夫です!」
「ほい。んじゃーあとは全体のゲネでみますんで、なんかありましたらそん時に。んじゃよろしくお願いしまーす」
「ありがとうございました!」
私がお礼を言うと奈緒と加蓮も少し送れて続く。そのまま二人を連れてステージを降りる。
ステージのチェックは本番とは逆順で行われている。私たちの出番は、後半の部の一番最初だったため、続いては前半の部の人たちのチェック。
ちょうど、前半のトリを務める楓さんがステージに上っていくところだった。
「楓さん、お疲れ様です」
「あ、凛ちゃん。お疲れ様。ステージの具合は、どう?」
「多分、大丈夫だと思います。モニターが少し近づきすぎると自分の声がちょっと薄くなるかもしれないですけど、そのくらいです」
「うん、わかったわ。ありがとね、凛ちゃん」
「はい」
「それじゃ、行ってきますね。モニター使うのも、もーにかいめ…ふふっ…」
…楓さん、それ多分、すごい厳しい。
と、そんな感じで楓さんと喋り終えると、奈緒と加蓮がほあーみたいな顔してた。…いや、自分でもそのたとえはどうかと思うけどさ。
「なに、どうしたの二人とも」
「いや…なんてーかな」
「うん…凛って、やっぱり凄いね」
「?」
「いやだってさ、私たちはステージに立つだけでもういっぱいいっぱいだったのにさ、モニターのこととかまでチェックしてたしさ…」
「そんなの、私だってなんとなくだよ。二人もすぐこうなるって」
「そうかねぇ…それに、何かこういう仕事のときって、凛はすげぇこう…なんというかキリッとしてるよな」
「あーたしかに!なんか急に体育会系っていうか、挨拶とかもすごいビシッとしてるよね!」
そんなことを急に言われても困る。私はアイドルっていうのをはじめてからずっと、愛想がないのをせめて真面目さに見てもらえるようにしてただけだし…。
「なんかあれだよね、凛も、あそこまでキリリとしてると、男装とかも似合いそうだね!」
「お、いいなそれ。なんか菊地真みたいにさ!王子様みたいな!」
「あっ!いいねーそれ!凛だったらきゃっぴぴぴぴぴーんみたいなのも言わないしね!」
「あぁ…嫌な、事件だったな…」
なぜか急に関係ない話が持ち上がる。私も含めてではあるんだけど、この三人で喋ってると話題があっちにいってこっちにいってで収集がつかない。
っていうかそんな男装だってやらないし、そんなきゃっぴぴぴ…いや、やらないよ?
「あー、お前ら、もう終わったんだろ?」
後ろからした聞きなれた声に振り向くと、いつものようにスーツを着たプロデューサーの姿があった。
「プロデューサー。お疲れ様」
「おう、お疲れ。どうだ、あのステージは」
「これだけ広いのは初めてだから、ちょっと声が広がりすぎそうで怖いかな。二人は?」
「えっ?あぁうん、ちょっともう何がなんだかというか…」
「私たちはまだ全然、ただ広いなーすごいなーで終わっちゃった。ちょっと、実感わかないかも?」
「はは、それも仕方ないな。こんだけの規模は俺も初めてだしな。ステージ構成もセットリストも、まだ手探りだ」
そういうとプロデューサーはステージを振り返る。ステージでは楓さんがモニターの位置を確かめ、音のチェックをしている。
その様子を見ていた奈緒が呟く。
「しかし、こう…やっぱり、楓さんは雰囲気あるよな」
「うん、やっぱり大人の女性だよね…あーいうのはあこがれちゃうなー」
と感想を漏らす加蓮。言わんとしていることはわかる。やっぱり10も離れていると、どうしても自分が子供にみえてしまって…。
もちろん、年上の女性に直接はそんなこといえないのだけれども。川島さんの前でなんか言えない。何故言えないかも言えない。
「っと、楓さんは大丈夫そうだな…んじゃ凛、もうちょっとでニュージェネもあるから、そっちも頼むな」
「わかった。卯月たちは?」
「まだ控え室。そろそろ声かけてやってくれ」
「ん、了解」
それじゃ、と残してプロデューサーは小走りでステージ裏の通路へ走っていった。沢山やることがあるのだろう。
「Pさんも忙しそうだね…」
「そりゃな、だって100人近くいるんだろ?むしろ異常じゃねぇのか…?」
「まぁ、何から何までではないしね。ある程度私たちの自主的行動も込みだし。さ、私たちも控え室いこうか」
はーいと返事する二人と一緒に控え室へと歩き出した。
ステージからは、楓さんの伸びのある綺麗な声が聞こえてきていた。
「未央、卯月?そろそろチェック入るよ」
言いながら控え室の扉を通ると、そこには慌てた未央と上半身が下着姿で涙目になっている卯月がいた。
「え…ちょ……え…?」
私はどもった。
「あっ!しぶりん!ちょっと助けてよ!」
未央がこっちに気づいて手を拱く。入り口で立ち止まった私を不思議に思った奈緒と加蓮がひょっこり中を覗く。
「えっ!?」
二人が驚いた声を出したところで、私は普通に廊下には男性のスタッフがいることを思い出し、
「ッ!!」
二人を中に入れ込んで戸を閉めた。
「凛ちゃ~~~ん…どうしよ~~~~」
扉に向き合って深く息をつくと涙目を通りこして泣きそうになっている半裸の卯月が近寄ってくる。
「ちょっ、卯月!落ち着いて!どうしたの!?何があったの!?」
「衣装が~~~~~~~」
要領を得ない。こいつダメだと思いながら未央に向き直る。
「未央、なんでこの子泣いてるの…?」
「いやぁー、さっきちょっとふざけて遊んでましたらね、ちょーっとハンガーに衣装が引っかかっちゃったみたいでねー、あはは」
未央が持っている卯月の衣装を見ると、肩から背中にかけて少し大きめの穴が開いていた。腕が一本通るくらいのサイズだった。
「これ、どうしたもんかねー…」
「どうしたもんかって、衣装さんは?」
「さっき他のとこでもなんかあったみたいで、そっちにつきっきり。たはー、参ったなー!」
参ったなーって…もうステージチェックまで時間がない。ニュージェネの出番は最初のほうなので、チェックが終わったらゲネプロでの出番はすぐだ。
「とりあえず、誰かに報告を…プロデューサーには?」
「プロデューサーも今他所で忙しいみたいだから、未だ言えてない」
「凛ちゃ~~~~~~~~~~~~ん……わたじこのままじゃズテージだでないよぉ~~~~~~」
本格的に泣き出す一歩手前の卯月は置いておいて、このままではまずい。
残り時間は15分弱。この間にどうにかいなければ…。
「あぁもう…誰かソーイングでも持ってればとりあえずどうにかするのに…」
「あ…ソーイングだったら、私あるよ?」
えっ?と振り向くと、そこにはおずおずと持ち運び用の小さなカバンからソーイングセットを取り出す加蓮がいた。
「いやー、さすがだね加蓮ちゃん!こーいうのが女子力って奴ですかねー!」
「そんな…たまたま持ってただけだから」
「くぅー!謙虚だねぇー!このままオヨメにもらっちゃいたいくらいだよ!」
「未央、しつこい」
ズビシとチョップを未央の頭に入れるとイテッと未央が声を上げる。まったく放っとくとそうやってどうでもいいこと喋りだすんだから…。
「加蓮ちゃん、ホントありがとね~…助かったよ~~」
「いえ、大丈夫ですよ。……よしっ、とりあえずはこれで大丈夫かなっ」
針を針山に刺した加蓮がパッと衣装を広げる。穴はおおむねキレイにふさがっていた。
「へぇー…器用なもんだな、加蓮」
「私、ネイルとかこういう細かいこと好きだしね。役に立ってよかった」
「っと、それはいいから、早いとこ卯月、衣装着て!未央も準備!」
はーいと何処か気の抜けた二人の返事ながらも、テキパキと準備をしていく。
加蓮と奈緒は少し手持ち無沙汰にしていたようではあったけど、次のことを考え休むことにしたようだった。
「準備オッケーだよ、しぶりん!」
「私も大丈夫です!!」
「よし、じゃあ行こうか。加蓮、奈緒。ちょっと行ってくるね。あとの時間は大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
「おう」
「じゃ、ありがとね!加蓮ちゃん、奈緒ちん!」
「な、奈緒ちん…?」
「加蓮ちゃん、ほんとありがと!今度なんかお礼するねっ!」
「いえ、そんな…頑張ってくださいね」
「はい!島村卯月、頑張ります!」
―――バタン
「ふぅ…なんていうか、本田さんとか、見たまんまの人だったな…」
「ね、勢いがすごいね」
「島村さんは…こう、あれって素だったんだな…」
「アレって?」
「あの、『頑張ります!』って奴」
「あー…」
「―――はい、じゃーニュージェネさん、オッケーです!あとはゲネで、お願いしまーす」
「「「ありがとうございました!」」」
ニュージェネでのステージチェックを終え、ステージから降りる。
このあと最初の50人での歌チェックを終えたら、今度は全体通しのゲネプロだ。
着替えも含めてやるので、本番さながらだ。時間に余裕はもってあるものの、ここでできなければ明日の本番は厳しくなるだろう。
セットリストを含めた確認も行われるので、何かトラブルの原因になりそうなものは、この段階で処理されることが多い。
卯月の衣装について相談があったのでプロデューサーを探していると、舞台袖の隅っこにいた。
「プロ―――」
声をかけようとして、何やら電話中であることに気がつく。
「――えぇ、それじゃあ…えっ、本当ですか!?いやぁ、ありがとうございます。
それじゃ関係者のほうで何人―――三人ですね、わかりました。こちらで確保しておきます」
電話口なのにペコペコとお辞儀をするプロデューサー。本人からすればついなんだろうけど、周りから見ると少しおかしな光景ではあった。
「はい、じゃあすいません、これで。…えぇ、はい。わかりました。じゃあ明日はよろしくお願いします!はい、じゃあ失礼します」
ピッ、と携帯を切るとプロデューサーはよしっ、と一つガッツポーズをした。
「電話、誰だったの?」
「ん?おぉ、凛か。いや、ちょっとな。俺のアドバイザー的な人だ。明日のライブを見に来てくれることになってな」
「ふーん?よかったね。業界のひと、かな?」
「あぁ、今じゃ結構有名で…まぁお前も知ってはいるだろうがな、まだ名前は言わないよ」
「…なんで?」
「いやぁ、お楽しみというかな。いつか直接会うこともあるだろうし」
「ふーん……女の人?」
「えっ?何で分かったんだ?」
「……なんとなく。鼻の下、伸びてるよ、プロデューサー」
少し面白くなくなった私は踵を返す。そうやって事務所の外でも女の人をたぶらかしてるんじゃだろうか。あの天然ジゴロめ。
後ろからおーい、凛?と聞こえてくるが無視をする。すこし荒くなった歩調そのままに、私は未央と卯月のところへと向かった。
卯月の衣装のことを言ってなかったことを思い出したのは、未央と卯月のところについてからだった。
チェックの全ての組が終わり、今度は頭からのゲネプロ。
プロデューサーからの連絡の後、冒頭の合唱から始まって、ニュージェネレーションのステージ。私たち三人の曲をメドレー風にアレンジしたものを三人で踊る。
それが終わる頃には、息も結構あがっているけど、視線と笑顔は最後まで崩さない。
最後のNever say neverが終わりに近づき、決めの隊形へと移る。私を中心とした三人でのポーズで曲を終える。
少ししてから照明がおちる。私たちはステージの左右へとはけていく。暗がりの中で、ゆかりや響子といった面々とすれ違った。
「ふぅ…お疲れ」
「おつかれさまー!」
「おつかれー!うん、とりあえずオッケーだね!」
はけてから、二人と合流する。
「ミツボシのとこでさ、卯月のターンが少し遅れて…」
「あぁ、ごめん!そこちょっと距離確認してたら遅れちゃって…」
「ううん、大丈夫。そのためのゲネプロだし。明日は大丈夫でしょ?」
「もちろん!」
そのまま細かいところをお互いに指摘しあう。三人でステージにたつことも多かったから、この手の確認はいつものことだった。
あーだこーだと言い合っていると、プロデューサーがこちらに向かって歩いてきていた。
「プロデューサー」
「おう。お疲れ。お前ら三人は大丈夫そうだな?」
「うん!バッチリだよー!」
未央が元気よく答える。未央のこういう天真爛漫なところは、素直にうらやましく思える。
「卯月。衣装の件はとりあえず大丈夫だそうだ。気にしないでいい」
「あっ、本当ですか、プロデューサーさん!」
「あぁ。まったく、前日に余計な仕事増やすんじゃないっ!てな」
「あうっ!…えへへ、ごめんなさい!」
卯月がはにかむ。こういう可愛げのある、愛嬌あふれる表情も卯月の十八番だった。
「凛は、大丈夫そうか?」
「うん。大丈夫。あとは、加蓮たちと、かな」
「そうだな。…なんつーか、お前には任せることが多くて悪いんだがな。すまんが、頼むぞ」
「任せて、プロデューサー。…それより、行かなくていいの?多分、杏の出番もうすぐだと思うけど…」
「あっ!そうだった、あいつまたほっとくとゲームやってるからな…じゃあ俺もう行くから!
じゃあの。」
プロデューサーは去っていった。
「まったく、あの人は…」
プロデューサーがいなくなったあと、私はため息とともに一人ごちる。
「いや~、さすがの女房役でしたなぁ~しぶりん!」
後ろから未央が抱き着いてくる。鬱陶しい。
「未央、邪魔」
「そーいうなってしぶりん!『任せて、プロデューサー』だって!いやー、さまになってますなぁ!」
未央が一旦こうなるとなかなか止まらない。私は諦めの意味も込めてため息をもう一つついた。
「いやー、私たちももう半年以上一緒だけどね、しぶりんの甲斐甲斐しさはもう一級品だよね!」
「うん、凛ちゃんはいつもプロデューサーさんに優しいもんね!」
「いや、別に優しくしてるわけじゃ…」
何故か卯月も一緒になってわいのわいの言い出した。あの、私そろそろ加蓮たちのところいかなきゃいけないんだけど…。
「この間も、プロデューサーが喉痛めた風にしてたらのど飴机においといてあげてたしね!」
「それは…喉つぶされて、指示でなくなったら困るのはこっちだし」
「そういえば凛ちゃん、撮影先でプロデューサーさんのことフォローしてたね!プロデューサーさんが遅れてたときの――」
「それは!CGプロ自体の印象が悪くなったら困ると思って!」
ワケのわからない回想が始まった。付き合っていられないので私は踵を返す。そろそろ行かないと打ち合わせもできなくなってしまう。
「私、もう加蓮たちのところいくから。なんかあったら内線で連絡いれて」
それじゃ、と歩き始めると後ろから二人の声がきこえてきた。
「凛ちゃんって、ああやって照れてるときにごまかそうとしてるのが一番かわいいよね~!」
「耳、ちょっと赤くなってるしね。しぶりん、かーわいー!」
…うるさいよ、二人とも。
「入るよ」
「あっ、凛。お疲れさま」
控え室に入ると加蓮と奈緒が出迎えてくれた。近くの椅子に腰を下ろし、ドリンクを口に含む。
「お疲れ、凛。どうだったんだ、ゲネプロは?」
「特に問題はなし、かな。プロデューサーからも特にはなかったし、ニュージェネのほうは大丈夫だと思うよ」
少し安心した様子の二人。なんといっても、彼女たちは初ライブだ。私が他所でしくじっているとなれば、彼女たちの緊張も増すだろう。
「そっか、それじゃよかったね」
「まぁな。あたしたちもようやくこれで集中できるな」
あれ、意外。初めてのステージだからもう少し萎縮してるかもと思っていたのだけれど、少し吃驚。二人のことを甘く見ていたかもしれない。
「二人とも、思ったより余裕?」
「いや、そりゃな。あたしたちだって緊張してるさ」
「けど凛だって通った道なわけだし、私たちも負けていられないでしょ?」
ふふんと得意げな顔をする二人。いや、二人の気持ちの問題なわけだから威張られても困るわけだけど…。
でも、気負いがないならそれに越したことはない。私も少し口元を歪めると、彼女たちにステージについて話し出すことにした。
「―――みたいな感じで、ゲネとは言え絶対に踊りを止めちゃダメって言われてて、あと多分気持ち声を張らないと、ゲネもそうだし明日の本番も…ってどうしたの?」
ステージの注意事項やら経験談を話していたら、いつの間にか顔色の失われた二人の姿がそこにはあった。
「いや、そんな生々しい体験談、何も今喋らなくても…」
「そうだよ凛…。なに?プレッシャーなの?やめてよ…」
ちょっと意趣返しのつもりだったのだけれども二人とも結構なダメージ量だったらしい。コンボボーナスでもついたのかな。
そんなバッドコミュニケーションを交わしつつも時計を見ると、そろそろスタンバイへの時間が近づいてくる。
「というわけで、もうすぐ時間だけど…大丈夫?二人とも」
「誰のせいだと聞きたいところじゃあるんだがな…まァ、言っててもはじまらねぇしな」
「そうだね。このぐらいでモチベーション下げるわけにもいかないしね!」
復活も早かった。やっぱりこの二人はそこそこ肝が座ってるなぁと他人事のように関心していると、扉がノックされた。
「はい、大丈夫ですよー?」
加蓮が返事をすると、失礼しますの声と同時に現れたのは、
「はーい、みんなお疲れさまでーっす★キャハッ★」
安部さんだった。いや、菜々さんだった。
「ちょ、なんでみんな固まるんですか!?」
「いや、その…なァ?」
「ちょっと!別にそんな言いづらいようなことないでしょう!?ナナ、未だ17歳なんですから!」
それだよ…とは誰も言い出せる訳がないのでとりあえず、挨拶。
「こんにちは、おつかれさまです、菜々さん」
「うん、凛ちゃんお疲れ様ですっ!」
「お疲れさまです、菜々さん」
「加蓮ちゃんもお疲れ様!」
「お疲れ様です、菜々さん」
「奈緒ちゃん!?ナナ、前に『同い年だから呼び捨てでいいよ★』って言ったよね!?」
奈緒、その思いは酌んであげるべきだったかもしれないよ。
「…で、それで菜々さんはどうしたんですか?」
本題からそれてしまったようなので菜々さんに確認する。
「あぁ、忘れてました!ナナ、プロデューサーから三人を呼んでくるように言われてたんでした!」
「あれ、そうだったんですか?」
「はい!そろそろ時間が近づいてくるとのことでしたので、ローテーションで呼びに行くよう指示がでてます」
人手が少ないうちのプロダクションならではだろう。私たちは一旦顔を見合わせたあとすっくと立ち上がった。
「菜々さん、伝達ありがとうございました」
「いえいえ!ナナ、みんなの力になれて嬉しいです!三人ともがんばってくださいね!」
「はい、ありがとうございます!」
奈緒と加蓮が声を合わせる。先輩アイドルからの激励でやる気が出ないほど、クールな彼女らではないだろう。
「それじゃ、いってきます」
控え室を出て、ステージ脇へと向かう。ゲネプロとは言え、ここでの失敗は確実に明日に響く。気の抜ける状況ではなかった。
「お、凛、奈緒、加蓮ゥー!」
ステージ脇にいたプロデューサーがこちらに気づいたようで手を振る。なんか今イントネーション変じゃなかった…?
「あ、Pさん!どうしたの?」
「いや、お前らの緊張をほぐしてやろうかと思ってな」
「セクハラだよ、プロデューサー」
「え、ひどくない…?」
いつものようなくだらないやりとりだった。
加蓮と奈緒もおかしそうに笑っている。
「それで、ゲネのほうは問題なくできそうか?」
「うん、二人とも意外と落ち着いてるよ。まぁ、どう思ってるかまではわからないけどね」
「いやまぁ不安は不安だけどな…けど、やることはしっかりやるつもりだ」
「そうだね。凛の足を引っ張るわけにもいかないしね!」
頼もしいことを言ってくれる。明日もこのくらいのモチベーションで臨めるといいんだけど…。
そんなことを考えているとプロデューサーは一つ大きく頷くと、にっこりと笑った。
「よしよし、じゃあもうすぐだからそっちでスタンバイしてろ」
はーいと返事をする二人。振り返って待機場所へと歩いていく。
私もその後ろについていこうとしたそのときに、一歩を踏み出したプロデューサーが私の近くで、小さな声で呟いた。
「すまん、凛……頼む、頑張ってくれ」
「え…?」
思わず振り返った私の目線の先には、踵を返して遠ざかっていくいつものスーツの後姿しか見えなかった。
「りーん!はやくー!」
「っ…今行く!」
その言葉の意味するところはわからないまま、呼ばれた方向へと小走りで移動する。
プロデューサーのその言葉の意味を自力で理解することができたのは、ゲネプロが終わって、しばらくしてからだった。
短い休憩の後、後半の部のゲネプロに入る。
最初は幕が下りたままの状態で、私と未央と卯月、ニュージェネの三人でのトークが流される。
そしてそのまま新プロジェクト、「トライアドプリムス」の宣伝が大きく幕へと表示され、イントロが始まる。
そこからが私たち三人のステージになる、のだけれども…。
『ってわけでしぶりんがね、なんか新しいメンバーと一緒に活動を始めるみたいなのよ!』
『ええっ!そうだったの未央ちゃん!』
『いや卯月はそれ知ってるでしょ…』
と何処か白々しさを感じさせる内容(ちなみに本は未央が書いた)ではあるものの、普段の会話のノリそのままに声が流れている。
「…奈緒、加蓮。そろそろだよ」
斜めやや後方にへ向けギリギリ届くかというレベルで小さく二人にささやきかける。
しかし、二人に反応はない。ステージ上は静まっているので、聞こえないということはないはずだけれども…。
「二人とも?」
「…えっ?あ、あぁ!うん!頑張るよ」
「お、オウ、そうだな!」
歯切れの悪い二人の返事。嫌な予感がつもるものの、イントロが始まるまではもう5秒もないだろう。
「…二人とも、しっかりね」
そう小さく言ったところで、イントロが流れ、幕が上がりだす。私たちはポーズをとった。
「みなさんこんにちは!私たちが…!」
「「「トライアドプリムスです!!!」」」
違和感。いつもより少し二人の入りが遅い。声のトーンも少し高めだった。
それでも二人の緊張は一応織り込み済みではあるのでそのときはあまり気にしてはいなかった。
そのまま前奏に合わせてステップを踏み出し、踊り始める、が。
また違和感。二人の表情が硬い。緊張を織り込み済みとは言うものの、このままでは大きなミスに繋がりかねない。
もっとも今は演奏中だから二人に声をかける余裕もないし、ましてや私もこの大きなステージの雰囲気に徐々に呑まれつつあった。
観客がいるわけでもない。それでも何故かステップが少しずつずれ、声がフラットして、表情がにごる。
また、違和感。加蓮の息が大きく上がっている。緊張からきてるものか、それとも別の理由かは分からないけども、大きく肩が跳ねている。
奈緒のほうは何か大きなミスはないのだけれども、表情ににじみ出る焦りが隠しきれなくなってきていた。
私のほうも人にモノを言える状況ではなく、二人に合わせて踊り、歌うのが精一杯だった。表情のキープなど出来ているか、想像したくもない。
一番が終わり、間奏に入り、二番にさしかかった。
そして、大きなまちがい。
「あっ…!」
零れ落ちたのは誰の声だったんだろうか。加蓮か奈緒かが冒頭の歌詞を間違え、不協和音が聞こえたときに、思わず聞こえた言葉。
私たちはしまったというように顔を見合わせた。止めてはいけないと教わった踊りが、一瞬止まりかける。
どうにか体を動かすけれども、後の祭り。ぎくしゃくした動きは合うことはなく、滑稽な道化師でも見ているかのような光景だったろう。
違和感はそのまま音響や裏方の人たちへと伝播し、広がっていく。
やがて、曲が止まってしまって、私たちの身体も動くことをやめてしまった。
ゲネプロで曲がとまるなど、ありえないことで、こんな大きなミスはしたことがなかった。
奈緒がいるから?加蓮がいるから?いや、それだって私や未央たちが全員素人だったときのほうが拙かった。でも、こんなことはなかった。
初めての会場だから?大きすぎるから?そんなことは言い訳にできない。だってこの場所は、プロデューサーが用意してくれたステージで―――
「……ぁ…」
何か言わなくちゃいけない。奈緒と加蓮も固まってしまっている。くだらない思考回路はいつまでも理由を探している。
スタッフの視線がステージへと刺さる。その視線にこめられているのはなんだろう、非難、失望…さまざまな視線が私たちにふっているのだろうか。
言葉が見つからなくて、かすれたような声が喉元で暴れている。その先に脱出するのは、小さくもれた息だけだった。
何秒間のことだったんだろう。10秒か、20秒か…いや、そう感じただけで実際は5秒にも満たない時間だったのかもしれない。
誰も言葉を発することがなかった。私たちに関して言えば出来なかった。
そんな空気を裂くように、聞きなれた一つの声が響いた。
「すみません!1サビの前ところから、もう一度お願いします!」
思わず視線をやる。その先、ステージの端には頭を下げた状態で大声をだすいつものスーツ姿のプロデューサーがいた。
プロデューサーはいつも「お前らのものだから」といってこういうゲネのときなどはステージには上がってこない。それなのに―――
思考がそこまでいったところで、目が覚めたような思いがした。私が今すべきことは、呆然とすることじゃない。
「すみませんでした!もう一度、よろしくお願いします!」
あれだけ力んでも出なかった声が驚くほど滑らかにでる。そのまま頭を下げる。
後ろの二人も私からわずかに遅れてではあったけどもあやまりながら頭をさげていた。
その様子をみたスタッフもどこか呆気に取られているようだったけど、すぐに了解との返事。私たちはそろってありがとうございましたと叫んだ。
音楽入りますとの声とともに、音楽が再び鳴り始める。私たちは顔をあげてダンスへと、歌へと移っていった。
もっとも、そこから先はほとんど記憶に残らなかった。
唯一つ、ターンのときに目に入った、誰もいなくなったステージ端だけが、ひどく印象に残っていた。
しばらくして控え室に戻った私たちは、一言も発することはなく少し離れた位置に腰掛けた。
まだ息もどこか荒い。羞恥か、自分への憤りかはわからないけど、顔がとても熱い。まるで暖炉の前にいるかのようだった。
奈緒と加蓮もどこをみるでもなくぼーっとしている。あんな状況のあとであれば、仕方のないことかもしれない。
ゲネプロが再開してからのことは殆ど記憶には残っていない。自分がどうやって踊ったのか、声を出したのか。ましてや二人の様子なんてとても。
ちひろさん曰く、「形にはなってました」とのこと。あのひとも嘘をつかない人ではあるんだけど、少し困ったように私たちに言ってくれた。
プロデューサーは、ステージ端で見た以来、姿を見ていない。どこかでみていたのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
もっとも今はもう他のゲネプロのチェックで忙しいだろうから、何か聞きにいくこともできない。
何を聞きにいくのはかは、自分でもわからなかったけど。
ああやってプロデューサーが助けてくれなかったら、今頃どうなっていたんだろう。
うまくいかなかった理由は、多分いろいろあるんだろう。練習不足だったり、会場への不慣れだったり…
けどそれのどれに原因を求めても何かが足りない気がして、結局私はそこで考えることをやめてしまった。
どうして私はうまくできなかったんだろう。プロデューサーに任されたステージを、やりきれなかったんだろう。彼に負担を、かけてしまった。
そんな答えを探す気のない自問ばかりが頭のなかで続いていた。
衣装からジャージへと着替え、気づけばひどく喉が渇いていた。
目の前のペットボトルをつかみ、半分ほどの残りを一気に飲み干す。
潤った器官がようやく身体を冷やし始め、心に少し余裕ができた。
時計を見ると、あのステージから一時間近くもたっていた。
「…いけない」
このあとは所属するアイドル全員での、客席通路もつかった最後の曲だ。
激しい踊りなどがあったりするわけではないが、全員出演のフィナーレになる。こんなところにいるわけにはいかない。
かれん、なお。
二人が反応しない。おかしいな、声を出したつもりだったんだけど。
「加蓮、奈緒」
二人が反応したあと、私の顔をみておどろいたような顔をする。
「…?どうしたの」
「いや…だって、凛、お前…」
「凛…?」
二人が気遣うような声をだす。ためらったように奈緒が、少し目線を逸らして言った。
「涙、出てるぞ…」
「え…?」
ふと手を頬にやると、なんだかあたたかいものが手に触れた。それが目からこぼれた雫だと気づくのには若干の時間が必要だった。
「凛、大丈夫…?」
「だ、大丈夫だよ。ちょっとゴミが入っただけだし。それよりほら、もう行かないと、最後の曲だよ」
ぷいと後ろを向く。手元のタオルでぬぐってしまえば、それはすぐに止まった。
はやく、と二人をせかしながら部屋を出る。みんな既に向かっているのか、控え室周辺には人の気がなかった。
―――――奈緒 side
全員出演の、最後の曲が終わった。
ゲネプロも一緒におわりとなり、最後にPさんからの言葉で一応、〆になる。
Pさんは観客席のほうからマイクで何か喋っているみたいだったけど、あたしの今の頭には何も入ってこなかった。
プロデューサーの言葉を聴かないなんてアイドルとしてどうかとは思うけども、それよりあたしの頭の中は自分のゲネプロのことでいっぱいだった。
あのとき、音楽が止まってしまった、その瞬間。
その少し前に歌詞を間違えたのは、あたしだった。
その前から踊ってる最中は違和感とずっと戦っていたから、気がそれてしまったのかもしれない。何十回何百回と歌った歌なのに、間違えるなんて。
そして、音楽は止まってしまった。踊りもとまってしまった。
魔法使いにかけてもらった魔法を、灰を被って上書きしてしまったみたいだった。
そのときだって、Pさんのことがなかったら、また動き出すことはできないで、灰をかぶったままだったかもしれない。
いや、今だって、あのとき被った灰を拭うことができないままここで突っ立って話を聞き流してしまっている。
ふと視線を上げると、Pさんの話は殆ど終わりを迎えているようだった。
『じゃーみんな、今日は早く寝て、明日に備えて!大人組も、今日くらいはお酒控えてくださいね!』
ぶーたれる大人たちの声と、苦笑いのスタッフさん。全体のライブとしては問題がなさそうだった。
それだけに、あたしたちのミスは目立つ。もちろん、引き金となったあたしのミスは、ことさらに。
Pさんが話し終えるとみんな口々におつかれさまーといって徐々に解散するような感じらしい。
基本的にそこまであたしはまだ馴染めてないので、隣の加蓮とも所在無さげにしていたんだけど、とりあえず控え室へと行くことにした。
二人で歩いているのに、会話が無い。
あたしも大概だけど、加蓮はけっこうお喋りなやつだから、こうして黙っていることはめったにない。
考えても先ほどのことを少なからず引きずっている。とても気楽に話ができるような状況じゃなかった。
時々すれ違うほかのアイドルたちとは軽い挨拶はあるものの、残念ながら世間話ができるほどの交友関係もないし、おまけにあたしも愛嬌があるわけではなかった。
でも、そんなときふと後ろから声がかけられた。
「加蓮ちゃん、奈緒ちゃん?」
二人してふと後ろを振り返ると、そこにたっていたのは、ええと、川島瑞樹さん、だったろうか。
「あっ…川島さん…」
加蓮が声をあげる。少し二人でぼーっとしてしまったあと、慌てて二人で頭をさげながらお疲れ様ですといった。
「ふふふ、そんなに気にしなくてもいいのに。お疲れ様、二人とも」
年上の女性らしい微笑を湛えた川島さんは、後ろの自販機を指差しながら、
「少し、お姉さんと一緒に、お茶とお散歩でもしない?」
そう言った。
「すみません、ジュースまで買ってもらっちゃって…」
「ふふ、いいのよ。こう見えても私、二人よりまだまだ全然人気アイドルなのよ?」
川島さんは茶目っ気たっぷりに笑った。つられてあたしたちも少し笑う。
今あたしたちが歩いているのは、明日観客たちが通るであろうロビーのところ。中の売店なども下準備が始まっていた。
「あ、私たちの…」
加蓮がふと呟いた。視線の先を除いてみると、『新規発売 神谷奈緒&北条加蓮クリアファイル』の文字があった。
使われていたのは、この間スタジオで、明日のライブで着る衣装でとったものだった。
自分たちのグッズがもう発売されることにはおどろいたけど、そんな急に出して支持されるもんかなぁという不安もある。
「あら、よく撮れてるじゃない。二人とも、もう一人前ね」
なんて川島さんは言ってたけど、今日のゲネプロのことを思い出すと、軽々しく笑えるような状況じゃなかった。
それは加蓮もおなじように思っているようで、きつく口元を結んでいた。
そんなあたしたちを見てか、川島さんが穏やかに喋りだした。
「あなたたちの今日のゲネプロは、見させてもらったわ」
ドクンと心臓が一度跳ねた。もう幾分か時間がたったけれども、あのときのを見られていたと思うと、情けなさに顔から火が出る思いだった。
「そうね、確かにひどい出来だったと思う。でも、そうやってあなたたちは沈んでいていいのかしら?」
ハッとしたように顔を上げるけれども、だけどいまさらどうしたらいいのだろう。ゲネプロはもう終わってしまったし、本番は明日だ。
そのまま何も言わないあたしたちを見かねてか、川島さんは少し表情を引き締めると、こういった。
「あなたたちに、見てもらいたい光景があるの。少し、こっちへいらっしゃい」
それだけ言うと川島さんは振りむいて歩き出してしまった。二人で後を追う。
少し歩いたところで、それはあった。
あたしたちアイドルが普段あまり立ち入ることのない通用扉を抜けた先から、何やら人の話す声が聞こえてきた。
川島さんは立ち止まると、あたしたちに声を出さないでね、とジェスチャーするとあたしたちを前に出した。
曲がり角の先から声が聞こえてきた。この声は…Pさん?ともう一人誰かいるようだった。
「いやーなぁ、いくらPくんの秘蔵っ子かもしれんけどなぁ、新人にゲネでああいうことやられちゃうとウチも困っちゃうわけよ。わかるでしょ?」
「……えぇ、申し訳ありません。そのことに関しては、可能性が否定できないにも関わらずGOサインを出した私に責任があります」
「今日はゲネだったからよかったと思うかもしれないけど、明日の本番で何かあってみてよ?裏方の私らにまで悪評でも広まってくれちゃどうするんです?」
「それに関しましては、明日は必ず100%のものを披露させられますように…」
全てを聞くまでもなく、あたしたちのことでPさんが詰られているということはわかった。
ゲネプロであたしたちがしてしまったことは、自分で思っているよりも大事なんだろう。あたしたちが恥かけばすむって話でもないみたいだ。
「あの、いまPさんと喋ってる方って…」
加蓮が小声で川島さんに質問する。
「この会場の、本公演の責任者の方よ。まぁ、成功するしないは、彼の仕事のうちでしょうね」
思わず息を呑んだ。そんな人が直接口をだすくらい…。
「なぁ、Pくんよ。プログラムの変更とかってのは、考えてないのかい?」
それは、多分あたしが一番おそれていた言葉。出来の悪いグループを無理やり出させるよりは見送ったほうがいいと考えるひともいるはずだ。
それでも、あたしは…恥ずかしいながらも着た衣装や、一緒にレッスンを受けて備えてきたこのライブに出れなくなることは、嫌だった。
でもあたしに決めることはできない。決めるのは、プロデューサー。あの人がNOを出したら、それはできないことになる。
次のPさんの返事を聞く勇気はなかったけども、うつむいて歯を食いしばった。あの人の決断を、あたしは聞かなきゃいけないんだ。
そんな風に考えていたら。
「いえ、それに関しましては一切考えておりません」
あたしたちは思わず顔をあげた。相手が顔をしかめたものの、Pさんは気にせず続ける。
「確かに、今日のゲネプロの出来は散々でした。練度不足や、不慣れ。さまざまな理由はあると思います。
ですが!私は彼女らのことを信じなければなりません。信じて彼女を送り出すことができなければ、プロデューサー失格だと、私は考えています」
あたしも加蓮も、何かをこらえるように手のひらを握り締めていた。
「私は、あの子らのプロデューサーです。そして、あの子たちはアイドルです。
アイドルたちに重責を負わせるというつもりではありませんが、彼女らならきっと、最高のステージを作ってくれると信じています。
二人とも、まだ新人ではありますがこれまで立派に取り組んできてくれました。
その彼女らにステージを与えられないことは、プロデューサーとして恥ずべきことだと、思います」
Pさんは一気にまくしたてると、大きく息を吸った。
相手の人が対照的に息を吐いた。
「それで?Pくんは彼女らが失敗したらどうするんだ?彼女らが期待に応えなければ?」
「そのときは、彼女らに責はありません。すべて私の指導不足になります。
それと、私は彼女らが明日、失敗するとは思っていません。失敗を想定していないわけではありませんが、必ず成功するものだと、信じております」
その言葉は、何よりもあたしの心に響いた。
今まで、これだけ無条件に信頼されたことが、あっただろうか。これほどまでに、信用されたことがあっただろうか。
しばらく沈黙が続いていたけど、やがて相手の人が小さく笑い出した。
「クククッ…いやぁ、そこまで言われちゃうと、こっちとしてはどうしようもないねぇ。
…明日、いいステージを期待してますよ。我々も最大限、精一杯サポートさせてもらいますから」
そういうと、相手の人は去っていくようだった。Pさんが頭を下げるのが空気で伝わってきた。
あたしたちは気がつくと二人とも川島さんに手を引かれ、またロビーのほうへと向かって歩き始めていた。
ロビーに戻ったあたしたちは、誰も何も喋ることはなく、椅子に座っていた。
沈黙を破ったのは加蓮だった。少し遠慮がちな風に喋りだす。
「なんか、さ…」
川島さんはやわらかく微笑んで居る。
「凛が、あのとき泣いてた理由が、わかった、気がする…」
加蓮は途切れ途切れに喋っていた。
「あぁやって、Pさんに期待されて、それに応えたくて、それで、凛は…」
そこまで喋ったところで加蓮は声を詰まらせた。肩が震えている。
長い間、Pさんと一緒にやってきた凛。
あたしたちとは比べ物にならないくらいの信頼があって、それに応えてくることが凛の中で大きかったんだろう。
それが、今日こんな結果になってしまって、明日の本番に残った不安要素。これは彼女にとって、大きなダメージだった。
「そう、凛ちゃんが…」
川島さんが驚いたようにこぼした。
「…アイドルをやってるとね。嬉しいことも悲しいことも沢山あるの」
川島さんが、ポツリと喋りだした。
「レッスンがつらいときだったり、デビューが決まったとき…みんな、ほとんどの子が泣いてたわね」
「そ、その…川島さんも、なのか…?」
「そうね、この歳になって恥ずかしいけど、CDが決まったときはちょっと泣いちゃったわ」
そういって川島さんは舌を出すようにして笑った。でもそのあと、ふと視線を壁へと移すと。
「でも、凛ちゃんが泣いてるのは―――少なくとも、私はみたことがないわ」
凛は強い奴だ。あたしはそう思う。
いつも気丈に振舞ってるし、年上のあたしなんかより、クールで、しっかりしてる。一番長く業界にいるってのもあるんだろう。
そんな凛が強く見えるのは、きっとあたしたちの前だけじゃなくて、みんなの前でそうだったんだろう。
「凛ちゃんの、プロデューサーの期待に応えたい、っていう気持ちは、わかるわ。私だってそうだもの」
そこまで言って、川島さんは一度言葉を切った。言葉を捜すように言いよどんでいる。
「それでも、彼女の場合はちょっと違うのかもしれないわね。私よりももっと高い目標があって、それだけに……」
川島さんは、それ以上凛のことについて話そうとはしなかった。
でも、ここまで聞いて何も思わないあたしたちじゃない。このまま、明日に向けておとなしくしてるわけには…!
加蓮とも視線を合わせる。彼女の目にも再び光が灯っている。
「なァ、川島さん―――」
言いかけると、川島さんの長い人差し指がスッ、とあたしの唇へと伸びてきた。
「そこから先を言う相手なら―――後ろに、いるわよ?」
クスリと微笑む川島さんを横目に、二人で後ろを振り返る。そこにいたのは―――
「よ、奈緒、加蓮」
あたしたちの、プロデューサーだった。
―――――凛 side
『ねぇ、今日はLIVEしない?』
『今日は、って言ったって…一応、今日は握手会だぞ?』
『うん、わかってる。でも、せっかくきてくれる人がいるのに、握手で終わりじゃ、勿体無い気がしない?』
『そりゃ、そうだが…んでも、向こうだってそんなの分かってるだろ?だったら…』
『ふふっ…サプライズ、だよ。プロデューサー』
何ヶ月前のことだったか。まだプロダクションにアイドルが二桁いるかいないかのころ、CDデビューの直後だったと思う。
握手会の終わった後、スピーカーで音楽を流して、そのままコンクリートの上でのライブ。
見てくれていたお客さんは100人もいないくらいだったけど、その場に集まった人はみんな喜んでくれた。
そうやっていくうちに、私は徐々に有名になっていって…明日、私はここで、歌う。
それなのに、その前日に私は何をやっているんだろう。
堂々巡りの思考は抜け出すことはなく、いつまでたってもトートロジーのように頭の中を回っている。
ゲネプロで失敗して、その後のフィナーレでもまともに歌えず、最後のプロデューサーの話も、まともに聞かないまま出てきてしまった。
私が今居るのは、おそらく会場の外縁部。地上からは少し高さがあるベランダのような部分だった。
時刻で言うと、18時半ごろだろうか。あたりはすっかり夜の帳が降りている。
私は柵に体を預けながら遠くを見ている。遠くに見える繁華街の光が目に映った。
あの時、控え室で。
涙がこぼれてしまった理由が、私にはわかっている。
それでも、そのことを意識してしまったら、何かが変わってしまう気がして考えることをやめていた。
私が何でアイドルをやっているのか、何でステージに立つのか―――その理由を考えてしまったら。
少し強い風が、頬を撫ぜる。そのときだった。
「―――――凛」
聞きなれた声が、聞こえた。
「プロ、デューサー」
「…探したぞ、凛」
「…うん、ごめん」
いつものスーツ姿が近くへと寄ってくる。
ここにいることをみつけて欲しかったような、見つけて欲しくはなかったような…どちらともいえない気持ちが胸を占める。
私と同じように、プロデューサーは柵に寄りかかった。いつかの事務所の屋上でのことの、焼き直しのようだった。
あのときと違うのは、既に太陽は見る影もないことと、私とプロデューサーの立場が逆、だということ。
プロデューサーは何も言わずに外を見ている。
その横顔から何か表情を読み取れないかと思ったけど、いつものような顔ではなく、何を考えているのかよく分からないときの顔だった。
プロデューサーの顔を見ていても、気分が持ち上がるようなことも今はなかった。
数分の後、なんとなく沈黙が重く感じた私は、口を開いた。
「ねぇ、プロデューサー」
「…ん、なんだ」
問いかけたものの、何を聞くのかまでは考えてはいなかった。
「…なんで、何で何も言わないの?」
「…何か、言って欲しかったか?」
意地の悪い答えが返ってきた。いや、確かに意地の悪い質問をしたのは、私なんだけれども。
「そういうわけじゃない、けど」
そうか、と呟くとまたプロデューサーは黙ってしまった。プロデューサーもまた、何を言うべきか考えてるのかもしれない。
そのまま、また数分が過ぎる。
「……っへくち」
思わずくしゃみが出た。アイドルとして如何なものかと自分でも思う。
しかし自分の格好を見てみれば、Tシャツ短パンの上にジャージ上下を着ただけ。このもうすぐ冬になろうかという時期にしてはあまりに薄着だった。
だからといってこの状況のなかどうしたらいいかなんて何かから逃げるように関係ないことを考えていると、肩に暖かい感触。
後ろを見ると、ジャケットを脱いだプロデューサーの姿があった。私の肩には、彼のジャケット。
「風邪引くぞ、そんな格好してたら」
「あ…うん……」
思わぬところからの攻撃に、何もいえなくなってしまう。不意打ちはダメだと教えたほうがいいんだろうか。
しかしプロデューサーは私の意に介することはなく、彼自信別の言葉を捜しているようで―――ポリポリと頬をかいたあと、喋りだした。
「なぁ、凛」
「…何、プロデューサー」
「…ごめんな、今日の、ゲネプロのこと」
私は思わずプロデューサーと顔を見合わせた。私が謝るならともかく、なんでプロデューサーが―――
「いや、待ってよプロデューサー。どうしてプロデューサーが…」
「そうじゃないんだよ、凛」
えっと私が驚いているうちに、プロデューサーは再び外へと視線を戻すと、
「お前らが今日のゲネプロで失敗するのは―――8割方、予想通りなんだよ」
息を呑んだ。物事に関しては慎重に慎重を重ねるくらいのプロデューサーが、失敗が予想通り…?
プロデューサーの言葉の真意を量りかねているうちに、プロデューサーは続ける。
「お前はともかく、加蓮と奈緒、二人は確かに脅威的なスピードで成長してる。
それに関しては、あいつらの才能、プロデュースの方針、レッスンそのものの慣熟…要因はいろいろあるんだが」
確かに、加蓮と奈緒は事務所のほかのメンバーの事務所に入ってからの同時期に比べると、段違いの完成度だ。
「でも、何よりでかいのは、凛。お前と一緒にやってるからだよ。
お前と一緒だから、技術も盗み安いし、モチベーションも維持しやすい―――何より、お前がいるだけで、二人は安心できるんだ」
安心できる…そう、思ってもらえることは、何より嬉しい。一応先輩アイドルとして、立つ瀬は保持できたのだろう。
「まぁ、お前らの相性っていうのもあるし、それ以上に先輩1後輩2のシステムでいくことの利便性も把握できた。お前らを最初の三人組にしたことは大正解だったよ」
プロデューサーはそこまで喋り終えると、息を一つついた。
「それで、その…予想通り、っていうのはどういう…」
自分で答えにたどり着くことが出来ないまま、私はプロデューサーへと聞いていた。
プロデューサーは一度、私をチラリと見た後に口を開く。
「それはな…いくら、凛が他の二人に比べて経験があって、努力もしてて、素質があっても…今日のあのステージを背負いきることはできないと思ってたからだ」
プロデューサーの言葉が耳に届くと、私は身体が凍り付いてしまったかのように動けなくなった。
「凛が凄い奴なのは分かってる。努力は怠らないし、もともとのカリスマもある。
ただそれでも、新人二人を背負ったままあの大きなステージにあがることは、凛に相当の負担を強いることはわかってた。
それに、あいつら二人が耐えられないんだ。ユニットに求められるものは、一体感もそうだけど、個々の実力、魅力…。
あいつらにそれが不足してるとは思わないけれど、踏んだ場数が違いすぎる。だから、今日のようなズレが起こってしまう」
プロデューサーの指摘は、何一つ間違ってない。私が考えることを放棄したことを、全て把握している。
「ズレが起きたら、修正がきかないこともわかってた。それには場数が足りなすぎる。一度崩れたら瓦解してしまうことも、想像がついた。
それに、今日のような大きな会場じゃ尚のことだろう。雰囲気に呑まれて、坂道下るみたいに、な」
「じゃあ、だったら、なんで、プロデューサーは…」
そこまで分かってるのに、何故プロデューサーは、私たちの初ステージをここに決めたのだろう。
問いかけることしかできない私に、プロデューサーは―――いつかの夕暮れの屋上のような、泣きそうな、笑顔で言った。
「お前たちに、"失敗"をしてもらうためだよ」
身体が震えた。何か聞いてはいけないようなことを聞いてしまった気がする。
「これは、お前に言うつもりはなかったんだけど…」
プロデューサーは喋り続ける。
「この一ヶ月半、お前らにはほぼ確実に成功すると思った仕事だけを回した。…安全牌だけを選んでな。
お前のときみたく、急にライブしたり、CDを早い段階で売り出したりというようなことは一切しなかった」
確かにそうだ。ここのところの仕事は順風満帆で、目立つ失敗なんて、一度も―――
「凛はともかく、奈緒と加蓮には"失敗"をしてもらわないためにな。慎重に仕事を選んだよ」
「それも、今日の、ために…?」
「そうだ」
プロデューサーはそこで言葉を切った。
「お前たちには失敗をしてもらわなくちゃいけなかった。それも、とびきりでかい失敗を。
かと言って、お客さんの前でやるわけにはいかない。こっちも商売だし、何よりお前たちにそんな姿はさらしてもらいたくない」
「でも、なんで失敗を…?」
「厳しさを分かって貰うため、としか言いようがない。凛はともかくだが、あいつら二人には凛に追いついて貰うくらい踏ん張って貰わなきゃならないんだ。
そのための"失敗"なんだ。あいつらには奮起してもらわないといけない。俺の言葉なしでな。あいつらがどこまでわかってくれるかは分からんが…。
それでも、お前と一緒のステージに立つための経験があまりに足りなすぎる。だから手段は荒かったが、こうした」
プロデューサーの言ってることはわかる。失敗は、何よりの経験になる。
私も、今までたくさんの失敗をしてきた。それでも、プロデューサーが失敗を予想していたことなんてなかったはず。
失敗しないようアドバイスをくれたし、それに応えられないときだけだ。失敗を重ねてきたのは。
今日だって、確かに予想された失敗ではあったかもしれないけど、プロデューサーは助けてくれた。
そこまで急がなきゃいけない理由があるのか、それとも何か別の理由があるのかはわからない。それでもこうなってしまった以上は、明日に向けてどうにかするしかない。
「でも、な」
とプロデューサーは再び喋りだす。
「凛だったら…凛だったら、あの状況もどうにかしてくれるんじゃないかって、どっかで思ってたのかもしれない」
え、と声をあげたまま、私は固まってしまった。
その言葉は思ったよりも私の胸に刺さった。だからあのとき、プロデューサーは私に、謝りながら頼むって言ったのだろうか。
あんな状況になるって思ってても、プロデューサーは私に期待してくれて―――
そう思った途端に、さっきまでの思考停止していた自分に腹が立った。顔の周りがカーッと熱くなるのを感じた。
「さっき、奈緒と加蓮に会ってきた。凛、お前…泣いた、らしいな」
「それは…泣いたわけじゃ…」
「つよがらなくていい。…俺は、お前の涙なんてみたことなかった。
凛、すまなかった。俺は、二人を中心に考えてたせいで、お前の気持ちを考えてやれなかった。凛に、頼りすぎてたんだ。
お前だって、15歳の女の子だもんな…あんなことになって、お前の負担がどれほどかって……って、おい!?どうした、凛!!」
「え?」
慌てたようなプロデューサーの声。
気づくと、私の両目からは、水滴。
「や、ちょっと、いや、別にどうってこと、ないから」
言い訳しながら袖で拭う。けれど涙がとまることはなかった。拭っても拭ってもあふれるように流れてくる。
「お、おい。急に泣かないでくれよ…お前、なんだ…その、あぁ、やっぱりいろいろ心労が…」
急におたおたし始めたプロデューサー。
「ち、違うの!そうじゃない!!!」
おもわず大きな声を出してしまう。プロデューサーも目を丸くしていた。
ようやく収まりはじめた涙をもう一度拭って、喋りだす。
「嬉し、かったんだよ」
「あんな風な状況になっても私に期待してくれたことが、嬉しくて」
「そりゃ、そうだろう。お前は、俺のアイドルなんだから」
「それに!そうやって期待してくれたのに出来なかったことが、悔しくて!」
「それはお前…俺だってどっかで期待してたくらいだから…」
「でも、二割くらいはあったんでしょ?」
「うっ、まぁそう言われると、確かにそうだが…」
「私だって、私だって…!プロデューサーの期待に!応えたかったんだ、よ…」
そこまで言ったところで、また涙があふれてきて、言葉につまってしまう。
こぼれてしまった感情は止まるところなく流れていく。言葉も、水分も戻ることはない。
その思いを伝えてしまったことは、もしかしたらいけないことなのかもしれないけれども、今、私の胸を占めているのはそのことだった。
結局はそれなんだ。私は、プロデューサーの期待に応えたくて、応えられなくて。
それが出来なくて悔しくて涙を流して、こうやって駄々っ子みたいにプロデューサーに言葉をぶつけてる。
「私は、プロデューサーの隣に、いきたいから」
いつも、守って貰って。助けて貰って。
でも、それだけじゃ嫌で。
いつか、私の働きが、プロデューサーの助けになってほしくて。
弱いままの私じゃなくて、プロデューサーの隣で、恥ずかしくないようなアイドルになりたくて。
そうやって背伸びや我慢をして、私はアイドルを続けてきたんだ。
「あぁ、もう」
止まらない涙をどうするか考えていた私は、その声が聞こえた次の瞬間には、何故かぬくもりに包まれていた。
「えっ」
顔の脇には、すぐプロデューサーの髪。
「えっ!?いや、ちょ、プロデューサー!?」
私がプロデューサーに抱きしめられてるんだと気づくまでには、多少の時間がかかった。
「ぷろ、デューサー?」
「あのな、凛。プロデューサーとしては間違ってるかもしれんが、目の前に自分のせいで泣いてる女の子がいたらどうしたらいいかくらいは分かってるつもりだ」
プロデューサーの手が私の背中でトントン、と叩くように動く。
「ありがとうな、凛。最近、お前にはこうやってお礼ばっかり言ってる気がするよ」
「いや、あの、それはいいんだけど、あの」
「お前がそこまで思ってくれてるとは思わなんだ。本当に、感謝の言葉しか出てこない」
私も次第におちついてくる。嫌なら振りほどけばいいんだろうけど、嫌…ということは、ない。
「ホントに、お前は俺の自慢のアイドルだよ。ありがとな」
「……うん、ごめん。頑張るよ、私」
今度こそ何もいえなくなってしまう。背中を叩かれる感触が心地よくて、こんな風に泣いたのはいつ以来だろうなんて思い返してしまう。
鼻をみっともなく啜る。驚いたときあてもなくあげてしまった両腕は、とりあえず様式美に従ってプロデューサーの背中に、軽く、回した。
私たちはそのまま、しばらく何も言わないまま身体を委ねあっていた。
「…あー……」
数分後、お互いなんとなしに身体を離すと、私のさっきまでの言動がよみがえってくる。
「…ごめん、プロデューサー。私さっき相当恥ずかしいこと言ったよね」
「いや、まぁそれはいいんだ。お前の気持ちが聞けて嬉しかったしな」
「…はぁ」
どうしてそういうことを言うのか。いろいろなことが分かっても、今この瞬間の私の気持ちは、プロデューサーには分かっていない。
如何ともしがたい感情を溜め込むこととなってしまった私にかまわず、プロデューサーは告げる。
「そうだ、凛!早くステージに行かないと」
「え?ど、どういうこと、プロデューサー」
「いや、な。加蓮と奈緒もやる気が復活したみたいだから、あいつらのために裏方の人何人か残って貰ってるんだよ。
だから七時半前くらいまではステージが使えるようにしておいたから、お前らでもう一回チェックするんだよ。…あぁ、もう15分くらいしかないじゃないか!」
急にまくし立てて慌てるプロデューサー。え、つまりは今この、泣き通して赤くなった目と崩れかけた化粧で、二人のところに行けと?
「そういうわけだから、凛!早くしてくれ!」
「いや、ちょ、そんなこと急に言われても…目も腫れてるし、化粧も…」
「そんなのいい!お前はそんなこと気にしなくたって十分だよ!ほら、急げ!」
「そうじゃなくて私の問題なの!こんな格好じゃ人前には…!」
ましてや、加連や奈緒の前に行こうものならなんといわれるか分かったもんじゃない。リーダーとしての威厳がズタズタにされるまで―――
「ええい、もうゴチャゴチャうるさい!!」
そういうとプロデューサーは私へツカツカと歩み寄ってくる。私は抵抗する間もなく、
「きゃあっ!!」
持ち上げられてしまった。いわゆる…その、お姫様、なんとかって状態。
「ちょ、ぷ、プロデューサー!」
「悪いな凛、シンデレラが馬車に乗り込まないんじゃ魔法使いが担いでくしかないだろ」
「何言って…うひゃああ!」
そのままプロデューサーは小走りで移動を始めてしまう。思わず首の後ろへ手が伸びて、がっちりと体勢を整えてしまった。
「こんなとこ、みられたら!」
「大丈夫、スタッフさんはもう殆どいないよ。それより喋ると舌かむぞ!」
そんなことを言われてしまっては口を閉じるほかなくなってしまう。顔が赤くなっていることは自覚しているので、せめてと俯く。
「…バカ」
口を閉じてもこぼれてしまうのは、愛嬌にはならないだろうか。
一人乗りの馬車はステージへと向かっていく。
「…ごめん、お待たせ!!」
通用口ギリギリのところで降ろされ、そのままステージへとダッシュ。明かりのついたステージには、奈緒と加蓮がいた。
「凛!!!」
「うぉ、凛!間に合ったか!…って、なんでそんな、顔赤いんだ…?息もずいぶん荒いぞ」
「…いや、ちょっと、裏から、走って、きたから」
「お、オウ…そうか」
走ったのが短い距離だとしても、息が荒いのも演技でもなんでもないのだけれども、顔に残った熱のおかげで目元などはごまかせそうだった。
膝に手をついたまま息を整える。落ち着いたところで、顔を上げてあらためて二人と顔を合わせる。
「…二人とも、大丈夫、かな」
「オウ。もう凛に心配はかけさせないからな」
「うん。私たちだって、負けてられないんだから!」
「…そうだね。私も、頑張るから」
三人で頷きあう。たかだか何時間か前は会話が起きないくらいにやぶれかけていた気持ちが、また一つにまとまり始める。
明日、待っていてくれるだろうファンや、プロデューサーの期待に応えるために。
「それじゃあ、時間もないし、はじめようか」
「うん!」
「オウ!」
私たちはそろって前を向く。観客席の真ん中あたりで、プロデューサーがこちらをみていた。
あちこちに何人かのスタッフ、それから川島さんや楓さんたちの姿もあった。私たちのことを気にかけていてくれたのかもしれない。
私たちを支えてくれる人がこんなにもいるんだ。そう思わせてくれるには十分すぎる光景だった。
私たちは、大きく息を吸って―――
「「「よろしくお願いします!!!」」」
三人分の声が、会場に響いた。
――――――――――――
「ねぇ、プロデューサー」
「なんだ、凛」
「結局、トライアドプリムスの意味はまだ教えてくれないの?」
「あっ!そういえばまだ教えて貰ってないね」
「そうだな。なァPさん、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」
「んー、それもそうだな。というか今日逃したら、いつまでもいえそうにないし」
「おっ!やった。地味に気になってたんだよな」
「ね。調べるなって言われたから、余計に」
「トライアドにしても、プリムスにしても聞き覚えがないから英語じゃないのかなとは思ってるんだけど…」
「おぉ、そうだぞ。これはラテン語だ」
「ラテン語…?なぁ、それってどこの国の…」
「今はもう、使われてないんじゃなかったっけ?」
「そうだな。元々は古代ローマ共和国の公用語として広く普及した古代言語であるが、現在もバチカンの公用語であるが、
「ちくわ道明寺」
ラテン語の文章は、日常ではほとんど使われなくなったとはいえる。」
「何でそんないきなり説明口調…?」
「誰だ今の」
「まぁそこはあまり気にしないでくれ。そうだな…想像つく奴はいるか?」
「…トライ、で三人だし、なにか3が関連するんじゃねぇかとは思ってるんだけどさ…」
「お、正解だ、奈緒。よく知ってたな」
「ほら、アレだよ。あのゼル…なんとかでさ」
「あぁ、なるほど。それで知ってたのか」
「ほら、そんなのはいいから。早くしないと時間になるよ」
「それもそうか。まぁお察しの通りトライアド、ってのは"三人の"とか"三人組"だとか、そんな感じの意味合いがある」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、プリムスは?」
「プリムスには、"最初の"って意味とかだな」
「じゃあ、つまり…?」
「あぁ。まぁ簡単に訳すなら"最初の三人組"ってところかな」
「ほぉー…でもいいよな、響きもきれいだし」
「奈緒はロマンチストだもんね」
「ち、ちがっ!?そうじゃない!!」
「まぁまぁ落ち着いて」
「まぁまぁ眼鏡どうぞ」
「そうだよ奈緒、もうすぐなんだから、そんなカッカしないで」
「誰だ今の」
「…まぁ、俺としてはだけどな、"最初の"って意味だけじゃなくて、もうちょっと踏み込んだとこまで考えたつもりだ」
「ってことは?」
「まぁ、そうだな。最初の、ってところからNo,1に転じて、そっから"最高の"ってとこだな。最高の三人組。どうだ?」
「ふーん…まぁ、いいんじゃないかな」
「何だ凛、不満か?」
「いや、そういことじゃないよ」
「なんだよ、ノリの悪い…まぁ、お前らみて決めたって言ったろ?三人なら、相性だって、雰囲気だって、人気だって、実力だって最高にまでたどりつけるからな」
「そんな、ハードルあげなくても…」
「ふふっ、まぁいいよ。でも、トップへの道は甘くないよ、プロデューサー」
「あぁ、もちろん分かってるよ。だからまだまだこれはお前らの一歩目だ」
「そうだな…あたしも、ようやくここからなんだな」
「私だって、二人に頼ってるわけにもいかないからね。頑張らなくちゃ!」
「うん。私も、やるよ」
「おし、三人ともその意気だ。…よし、そろそろ後半始まるぞ。スタンバイ、いってこい!」
「うん!」
「オウ!って、なんだ、その手は」
「ふふっ、こうするんだよ」
「あぁ、なるほど」
「じゃあ…残していこうか、私たちの足跡…!」
プロデューサーとハイタッチをかわした勢いそのままに、私たちはスタンバイを完了し、MCの始まりを待っている。
少しして、休憩終了のアナウンスのあと、スピーカーから未央と卯月の声が流れる。…私のセリフが聞こえてこないんだけど、どういうことだろう。
『ってわけでしぶりんがね、なんか新しいメンバーと一緒に活動を始めるみたいなのよ!』
『ええっ!そうだったの未央ちゃん!』
『そうなんだようづきん!しぶりんに浮気されちゃったんだよぉ…シクシク』
『ああっ!未央ちゃん、泣かないで!』
…アドリブか。アドリブなのか。あの二人。録音してたもの使わないで二人で勝手に喋ってるのか。
思わず小さく嘆息すると奈緒と加蓮も苦笑いでこちらをみている。あの二人、後で一言言っておかないと…。
『ってなわけで、そんなしぶりん率いるNEWユニット、みんな見たいかなー!?』
まとめに入ったらしい未央の声にあわせて、観客のウオオオオオオ、という地鳴りのような声。加蓮と奈緒の顔が興奮で少し赤みを帯びていく。
『オッケーい!そんなわけで、しぶりん!奈緒ちん!加蓮ちゃん!やっちゃってくれー!ミュージック、スタート!』
流れ出す音楽。二人と一度頷きあう。舞台袖にいるプロデューサーとも目が合う。大きくサムズアップをしてくれた。
幕が上がりだす。耳から聞こえるクリック音にあわせて、大きく挨拶をした。
「みなさん、こんにちは!私たちが…!」
「「「トライアドプリムスです!!!」」」
勢いをそのまま、踊りへと昇華する。
こもりきった熱を、歌で空気へと逃がす。
浴びる光が、恥らうこともない私たちを煌めかせる。
会場が、歓声に包まれていく―――――
一部 終
一部とか言っといて二部の構想は全然なんです。
このあと短い話を一つ経て二部へといくんですが、二部に関してはそれぞれ別にスレをたてようと思ってますので、とりあえずこのスレはあと一つで終わりです。
途中から終わらせようと思って書いたので文章が支離滅裂になってるかと思います。ご容赦ください。
七月中は忙しくてどうにも進みませんでした。艦これやってたわけじゃないんですごめんなさいなのです。
長い間放置してたにも関わらずチェックしてた方々がいることに驚きです。ありがとうございます。
感動のあまり登場人物と会話してやろうかと思いましたが無理でした。主に羞恥心が邪魔します。くぅ~ww
次の短い奴(推定)くらいは、今月中にかけたらと思ってます。
それではこのあたりで失礼します。ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
ごめんなさい、生きてます。
どうにも余裕がなくて全然かけてません。半月以内にはあげたいですが…
短いのになるといか言っといていつも通りの体たらくで申し訳ないです。
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