咏「健夜さん、一度だけでいいから私と――」(209)

 彼女は私を真っ直ぐに見つめていた。

 少女という形容が相応しい幼い外見。袖の丈が余った和服がその印象を増長させる。

 だがその表情は、その可憐な容姿とは裏腹に憂いを帯びたものだった。

 どこまでも真摯で、切実で、救いを求めているかのような、そんな視線。

 私はその視線から目を逸らすことはできなかった。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1372006805

 彼女の名前は三尋木咏。

 迫り来る怒涛の火力の異名を持つトッププロ。

 そして、現在の日本のエース――かつて、私が居た位置に据えられた存在。

 実のところ、私は全てを理解していた。

 今、彼女が何を考えていて、そして何を言い出そうとしているのか。

 何故なら、彼女のことを一番理解しているのはおそらく私だから。

 だから、いつかこういう日が来るだろうことは分かっていた。これが避け得ぬことであることも。

 けれども、私は彼女に対してなんて応えればいいのか、答えが出ていなくて。

 なんとか話を逸らすことができないかと、必死に考える。

 だけど、彼女はそれを許してはくれないだろうことも分かっていた。

 だって、私が彼女を一番理解しているように、私のことを一番理解しているのも彼女だろうから。

 逃げ道を塞ぐように、私が聞きたくなかったその言葉を、彼女は口にした。





「健夜さん、一度だけでいいから私と――」





どうもはじめまして。
本日は冒頭だけの投下とさせていただきます。短くてすみません。
非安価で、だいたい週に一度ぐらいのペースで投稿していきたいと考えてます。

私の妄想にほんの少しの間お付き合いいただければ幸いです。

※本編のみトリップをつけて投稿させていただきます。

乙期待

> 「健夜さん、一度だけでいいから私と――」
この後「貴女と合体したい」とかそんなことしか浮かびませんでしたすみません

俺もだ

乙ー!
期待してます

*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 小鍛治健夜は、夏になると東京での仕事が増える。
 この季節は東京で麻雀のインターハイが開催されるからだ。


 麻雀の大会は数多くあれど、これほど一般に浸透したものはないだろう。
 年若い学生が仲間と協力し合い、同じ学生と全力で鎬を削って戦う姿は数多くのドラマを生み出す。それを見た人々に感動を与えると同時に、自身の若い頃を思い起こさせるのだ。
 全国で放送されるこの大会は、もはやこの国の夏の風物詩と言ってもいいだろう。
 そして、こういった競技の放送する上では解説者の存在は欠かせない。
 多くの人が見るということは、それだけ様々な層が視聴するということである。麻雀のような専門性の高い競技では、目の前の攻防がどういった意味を持ったものであったのか俄かには理解できない者も少なくはない。
 だからこそ麻雀のプロが招かれ、視聴者へ理解を促す為に解説を行うのである。
 しかし、ただプロであればいいという訳ではない。先に述べたように、インターハイの放送は風物詩と呼ばれるほどの人気コンテンツなのだ。解説者として招くには相応の実力と人気が求められる。
 特に全国大会のそれとなれば、トッププロの中でも一握りの者にのみ与えられる栄誉であり、一種のステータスであるとも言えるだろう。


 そんな選ばれし役割を、健夜は毎年享受していた。既に一線を退いた者であるにも関わらず。
 そのことに不平不満を覚える者は決して少なくない。少なくない……が、結局はそれを口に出すことは出来ない。
 その卓越――否、逸脱した実力を疑う者は存在しないから。


 その日もインハイ関連の仕事を終え、健夜は放送室を立ち去ろうとしていた。

健夜「……」

 彼女はドアを開けると、顔だけを外に出した。
 冷房の効いた室内とは違い、廊下はエコの名の下に節電が敢行されている。
 思わず顔をしかめるほどの熱気。しかし、彼女は何も口にはせず、廊下の左右を見やる。

健夜「……ふう」

 廊下に“彼女”がいないことを確認し、健夜は安堵の息を漏らした。
 そうしてようやくドアを完全に開き、外に出て――

??「すーこやんっ」
健夜「うひゃっ!?」

 背後から奇襲を受けた。
 まあ、奇襲とは言っても抱きつかれただけであり、
 その相手が誰であるかも分かっているのだが。


健夜「もう、こーこちゃん。いきなり何するの」

 奇襲をかけてきた相手の名前は福与恒子。職業アナウンサー。
 健夜とは仕事上パートナーを組まされることが多い相手であり、個人的な友人でもある相手だ。

恒子「いやー。ごめんごめん。なんかすこやんが怪しい行動してたものだから。つい、ね」
健夜「それ理由になってないよね!?」

 悪びれる様子もなく、笑いながら謝罪する恒子。
 健夜はそんな彼女に抗議の声を上げるも、本気で怒っているわけではない。
 二人のいつも通りのやり取りだ。

健夜「それといつまで抱きついてるの。動けないよ。それに……暑いし」
恒子「はーい」

 不承不承といった様子で恒子は健夜を開放した。
 いつまでも部屋の出入口を占領してるわけにも行かず、二人は廊下に出る。



健夜「まったくこーこちゃんは……急に後ろから抱きつくのは驚くからやめてよ。心臓が止まるかと思ったよ」
恒子「ん? 急じゃなければいいのかな?」
健夜「いや、そういう意味じゃないからね!?」

 そして恒例のコント的な二人のやり取りも再開。
 基本的に自由奔放な恒子に健夜が振り回されるという形。
 だが、この日は少し様子が違った。

恒子「それで、すこやん。最近どうしたの?」


 普段とは違う、心配そうな声音。
 恒子の言葉が何を指しているのか察しはついていたものの、

健夜「最近どうしたって、何が? インハイ関連でちょっと忙しいぐらいだけど」

 健夜はとぼけた。
 人見知りであまり人と接してこなかった健夜は、打ち明け話の類が苦手だった。
 だから、とぼける。
 普段の言動とは裏腹に恒子は察しがよく、他人との距離感を測るのが上手い。
 だから、こうすればこの話題は終了になると計算した――のだが。

恒子「そうじゃないって。分かってるでしょ、すこやん。さっきのドアでのこと。あれ、今日が初めてじゃないよね」

 恒子は引き下がらなかった。それは、それだけ健夜のことを心配しているということでもある。
 誤魔化せない。いや、誤魔化すべきではない。
 意を決して友人に打ち明けようと考えを改める。


健夜「うん、ごめん。ちゃんと話すね。そんな心配してもらうようなことじゃないんだけど……」

 口にしながら、健夜は廊下の前後を確認する。
 人はほとんど居ないものの、皆無というわけではない。

健夜「人に聞かせるような話でもないから、ちょっと場所を変えようか」
恒子「うん、わかった。それじゃ、どこが都合がいいかな……」

 真面目モードなままの恒子を前に、彼女を安心させるように健夜は気軽に口にする。
 悩みを打ち明けることに不安はあれど、その相手が彼女であれば大丈夫だろうという安心感もあった。
 それに打ち明けようと決心したことで、驚くほどに心が楽になっていたのだ。

健夜「本当、たいした事じゃないし、適当な居酒屋とかでも大丈夫だよ。久しぶりに飲みながら色々話そうよ」

 意図を察したのか、恒子はいつも通りの笑顔を浮かべた。

恒子「りょーかい。この前よさげな個室の居酒屋見つけたし、そこでいいかな」
健夜「うん。こーこちゃんに任せるよ」

 こうして突発的に二人だけの打ち明け飲み会の開催と相成ったのだった。

今回の投下はここまでです。
短い上に話もほとんど進んでおらず、すみません。
次回以降は会話中心になってくれると思うので、もうちょっとテンポはマシになるのではないかと……



>>6
>>7
>>8

コメントありがとうございます。

>この後「貴女と合体したい」とかそんなことしか浮かびませんでしたすみません

そういった展開予想をしてもらおうと言葉を曖昧なままにしていたので、個人的にはしてやったりという感じです。
この言葉がどういった意味なのか、そもそも二人はどんな関係なのか、
それらについては話を進めるうちに明らかになりますので、この先もお付き合いいただければ幸いです。

*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 恒子が連れてきたのは、都内にある小さな居酒屋だった。
 個室と彼女が言っていたが、座敷席を仕切りでいくつかに分けたような作り。席をカーテンで区切っただけで個室と名乗る店があることを考えると上等といえるだろう。
 仕切りは薄く防音は完全とはいえないが、うるさいというほどでもなく。むしろ適度なざわつきは飲み屋特有のBGMといえるかもしれない。
 二人はお約束のように「とりあえず生」と注文。お通しの枝豆と生ビールがすぐに出てきた。

恒子「それじゃ、とりあえずは――今日の仕事もお疲れ様でしたー。かんぱーい」
健夜「か、かんぱーい」


 そして乾杯。ぐいっと豪快にジョッキを傾ける恒子。一方、健夜は両手でジョッキを持ってちびちびと口につける。

恒子「ぷはーっ。この一杯のために生きてるーっ」
健夜「こーこちゃん、ちょっと親父くさいよ……」
恒子「いやー、お約束だし言っとかないとなーって」

 一口飲んで、ジョッキをテーブルに置く。一口といっても、そのビールの減り具合にはかなりの違いがあるが、そこは個人個人のペースというもの。
 とりあえず飲み会における前置きはこれにて終了。
 今回の飲みの本題はこれからになる。得てして、重要な話題だとなかなか切り出せなかったりもするものだが――

恒子「それで? すこやんは何で最近あやしい挙動を繰り返してるのかな。さっさと吐いちゃえ、おらー」
健夜「テレビの人軽いなあ!!」

 テレビの人はド直球だった。


恒子「だって、すこやん。さっき大したことじゃないって言ってたしー?」

健夜「うん、確かにそう言ったけどね……」

 なんとなく釈然としないものが残る。さっきのシリアスモードは一体なんだったのか。
 まあ、彼女なりに話しやすくしてくれてるのだろうと健夜にも予想はついているのだが。


健夜「はあ……」

 ひとつため息をつく。
 うん、大丈夫。
『大したことじゃないし』
 確かに健夜が自分で言ったことだ。

健夜「うん、えっとね。私が最近周囲を気にしてたのはね」

恒子「ふむふむ」

 だから、話してしまおう。
 この場を設けてくれた年下の友人の為にも、気軽さを装って。

健夜「ある人に、ずっと見られてるような気がしたからなんだ」


 口にしてみてから気づく。
 あれ? これって。

恒子「えっと……それって、ストーカー?」

健夜「え? あっと、いや」

 さっきまでの陽気な雰囲気はどこにいったのか、場の空気は一瞬で重くなっていた。

恒子「ふふふ、そっかー。私を差し置いてすこやんにストーキング行為を働いてる奴がいるのかー。それは正体突き止めてから個人情報込みで全国ネットでその事実を暴露してあげないとねー.
勿論、ある事ない事ふんだんに尾ひれを付けまくった上で」

健夜「それ社会的に抹殺するって言うよね!?」

健夜「あと、私を差し置いてってどういうことかな!?」


 感情のこもらぬ声で物騒なことを呟く恒子。普段の彼女に似つかわしくないその姿からは、本気でやりかねないと思わせる凄みがあった。
 だから、健夜も慌てて止めに入る。


健夜「うん、ごめん。ちょっと言い方が悪かったと思う。ちょっと見られてるような気がしたってだけで、もしかしたら私の自意識過剰なだけかもしれないし」

恒子「……本当?」

 疑うように聞き返す恒子。
 健夜はぶんぶんと勢いよく首肯する。


健夜「うん、本当だって。それに相手も私に危害を加えるような人じゃないし、見られてるのが勘違いじゃなくても大丈夫だよ」

恒子「――そういえば『誰か』じゃなくて『ある人』って言ってたっけ」

健夜「……うん」

 そこで恒子もようやく健夜の言動の中にあった違和感の正体に気がついた。


恒子「ねえ、すこやん。その相手って、誰なの?」

恒子「いや、勘違いしないでね。もう全国に晒して再起不能にしてやろうとか考えてないから」

健夜「……やっぱり本気だったんだね、恒子ちゃん」

恒子「そんなことはどうでもいいからっ。相手っていうのは――」

健夜「うん、えっとね……」


 それこそが、今まで健夜が口にするのを躊躇っていた理由。
 名前を出してそれを告げることで、それが事実であると確定されてしまうような気がして。
 しかし、健夜は先ほど思ったのだ。これだけ自分を心配してくれる相手を前にして誤魔化すことは出来ないと。
 だから、健夜は意を決してそれを口にした。






健夜「最近、咏ちゃんにじっと見つめられてることが多いような、そんな気がしたんだ」


相変わらず短くてすみません。今回の投稿はここまでです。
そして、来週は諸事情により拉致されることが確定してる為、投稿するのは難しそうです。
なんとか週に一回は投稿できるようにしたいと思っているのですが……
遅々として進まないこんなSSですが、最後までお付き合いいただけましたら幸いです。

>16
乙ありですー

>17、18
ありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

>19
遅くなってすみません。待ってくれていたようで、どうもありがとうございます。

おつころりー

乙です。ゆっくりでいいんで、最後まで完走してください

うたすこ?両方好きだから期待


至る所から迸る名作の予感……!

おつおつ


 健夜の言葉を聞き、恒子は呆気にとられたような表情をした。

恒子「えっと、咏ちゃんっていうのは、麻雀の三尋木プロのことだよね?」

 こくりと頷く健夜。

健夜「私の口から出る可能性があるのって他にはないと思うけど……。そう、現在の日本麻雀界のエース、三尋木咏ちゃんのことだよ」

 健夜は内心「流石の恒子ちゃんも咏ちゃんのことは知ってるよね」と安堵すると同時に、「意外な名前だろうし、恒子ちゃんも驚いてるかな」などと思いながら恒子の顔を見た。

 恒子は――呆れた様な表情を浮かべてから、一気にビールを飲み干す。そして、

恒子「あ、店員さーん。注文いいですかー」

 店員を呼んで注文を始めていた。

恒子「まず、生中おかわりで。食べ物の方は軟骨のから揚げとー、出汁巻き卵にタコわさ。イカの一夜干しと……漬物の盛り合わせ。んー、とりあえずはこれぐらいで。お願いしまーす」
健夜「こーこちゃん!?」


 またもや一転してマイペースになっていた恒子に対してツッコミを入れる。

恒子「いや、だってさー。話を聞いた限りじゃ確かに危険とかはなさそうだしさ。だったら気楽に聞こうかと思って」
健夜「だとしても限度があるよね? ていうか、さっきからテンションの上下がおかしいよね!?」

 恒子の適当な発言に、健夜がツッコむといういつもの空気になっていた。

 が――

恒子「まあ、気になるとすればー」
健夜「うん?」

 恒子は含みを持たせるように、にやりと笑う。

恒子「すこやんが『うたたんだから大丈夫』って、なんでそこまで信頼してるのかってことかなー」

一週間空けた上に、今まで以上に短いですが今日はここまでで。
37はトリップが違いますが、タイプミスであって私の投稿で間違いないです。すみません。
次はもうちょっと先に進められたらいいなーというのと、もう少し間隔をあけずに投稿できたらと思います。


>>32 ありがとうございますー

>>33 趣味で書いているので、私自身の楽しみの為にも絶対に完結はさせるつもりです。どうぞお付き合いいただければ幸いです。

>>34 咏ちゃんとすこやんは共に日本のエース、最強と称されながらも絡みがなかったので、色々と妄想した結果思いついた話がこれになります。二人ともいいキャラですよね!

>>35 き、期待を裏切らないように頑張りたいと思います(カタカタ

>>36 ありがとうございますっ

おつおつ

この組み合わせだと、大人の醜い四角関係が見れそうだな。


このスレはsage進行でいくの?



健夜「え?」

 恒子が言った言葉の意味がにわかには理解できなかった。

恒子「いやあ。すこやんはさー。相手がうたたんだから危険はないって断じてたけど、随分と信頼してるんだなーってね。私が知らないだけで仲良かったりするのかなーって」

 にやにやと笑いながら恒子。

健夜「別に仲がいいという訳じゃないよ。咏ちゃんとはほとんど接点がないし、正直なところどういう子なのかはよく知らない」

 健夜は恒子の言葉を冷静に否定する。

健夜「でも、咏ちゃんは、今この国の麻雀界の頂点にいるから。そんな咏ちゃんが危ないことをするとは思えなくて」

恒子「ふーん? つまり、常識的に考えて今の地位を捨ててまで凶行に及ぶとは考えられない、と」

 健夜は頷いて、言葉を続けた。

健夜「うん。咏ちゃんの居るところに立てる人はほとんど居ないし、並大抵のことじゃないはずだから……」

 以前の私にはそれが分かっていなかったけれど……健夜は言葉には出さず、心の中でそっと呟く。

>>45
おーい酉バレしてるぞ



健夜「それに、咏ちゃんが麻雀に対してどれだけ真摯に向き合っているのか、その対局、牌譜を見れば伝わってくるから」

 そう伝わってくる。痛いほどに。

健夜「だからね……やっぱり、咏ちゃんはそんなことはしないと思うんだ」

 健夜にとってはこちらの理由の方が大きいのかもしれない。信じたい、と彼女は思う。
 恒子はそんな健夜を見て、一つため息をつく。

恒子「……やっぱり“信頼”してるんじゃん」

健夜「え、何て言ったの?」

恒子「いや、なんでもないよ。なるほどねー。別に親しくはない、と」

 恒子は首を振る。
 そして、やはりにやにやしながら、からかうように口にした。

恒子「それにしては随分と親しげに呼んでるよねー。咏ちゃん、ってさ」


 その言葉を聞いて、理由も分からずに慌てる健夜。
 顔を真っ赤にしながら弁明する。

健夜「あっ、それについては……ほら、咏ちゃんって人形みたいに可愛らしい容姿してるじゃない。だから『咏ちゃん』って呼び方が妙にしっくりきちゃって、つい」
恒子「うん、それはすっごい分かる」

 年齢に比して幼子のようにすら見える可憐な姿を頭に思い浮かべる二人。三尋木咏という人物を『さん』付けで呼ぶことに違和感があるという認識で共感していた。

恒子「でも、あれだね」

健夜「うん。何、こーこちゃん」

 いつの間にか配膳されていた注文した料理をつまみながら、ビールを呷る。

恒子「すこやんはうたたんに襲われるとは考えてないけど、ストーキングされる心当たりはあるんだよね」

 健夜は思わず飲んでいたビールを吹き出しそうになった。


健夜「いや、ストーキングっていうかね……」

 口元をおしぼりでぬぐいながら、口にする。

健夜「私って咏ちゃんに嫌われてるんじゃないかなって、そう思うことはあるよ」

恒子「んー、『嫌われてる』ねー。それはまた、どうして?」

 若干沈んだような表情の健夜。
 それに対し、恒子は納得がいかないといった表情を浮かべる。


健夜「私もそれほど見るわけじゃないんだけど、こーこちゃんは知ってるかな――」

 そこで一度言葉を区切る。そして一拍置いて続けた。

健夜「ネット上で私と咏ちゃんがどんな風に言われてるか」

 健夜の言葉を聞き、恒子は「あー……」と声を漏らした。
 恒子は彼女が何を言いたいのか理解する。だから、それを口にした。





恒子「――咏厨とスコシンの対立、か」

本日の投下はここまでになります。
いきなりのトリップミスとか拙い進行ですみません……

それはそれとして、ビッグガンガンで咲のスピンアウト『シノハユ』が発表されましたね。
いやー、楽しみです。個人的にプロ編か、もこっちの話がくるんじゃないか――ていうかきてくださいと思っていたので大喜びでした。

……ですが、このSSはすこやんと咏ちゃんを中心とした話であり、書く側としてはわりと致命的なことになったような気がしないでもなかったり。
一応最後までの話の流れは出来ており、しかもそれは情報がないからこそ私が好き勝手に捏造・妄想した設定の上に成り立っていたりもしますので、公式でその妄想が完全否定される可能性があるんですよね……

そんなわけで今更ながら謝罪とご注意を

このSSは「シノハユ」の発表前にあった情報より妄想した設定を基盤として成り立っています。
その為、連載過程により「公式」とのズレ、矛盾が発生する可能性がありますが、
当初の予定通りに話を進めていくことになります。
路線変更できない話の根幹となる部分も否定される可能性が高いので……

以上について、どうぞご了承くださいませ。

>>51
乙 もし>>45の文字列そのまま使ってるなら変えたほうが良いぞ

うたちゃんは今度のではまだ中学生だから出るとしても半年後とかじゃね
連載開始自体が9月末なんだしそれまで進めるしかないんじゃないかな

>>42 
 おつありですー

>>43
 すこやんとこーこちゃん、咏ちゃんとえりさんの関係っていいですよね。だからこそ、逆らってみたいという衝動がこのSSを書き始めるきっかけの一つとしてあったことは否定できません

>>44
 おつありですー。特にsage進行というつもりもないのですが、本編以外ではトリップなしのsageでいこうとしてて、前回はそれを引きずったまま投稿しちゃった感じになります。

>>46
 ご忠告ありがとうございます。穴があったら入りたい……

乙です

>>53
おつありですー。
トリップは別の文字列でつけることにしました(既にこのスレ内で3つ目……)。ご忠告ありがとうございます。

新連載の影響は直接的にはあまりないと予測しているのですが、それでも皆無というのはなさそうだなーと。
それにすこやんの設定も結構でてきそうで、楽しみであると同時に……という感じです。

何はともあれ、できるだけ早く完結できるようにしたいと思います。


あんまシノハユ意識せんでええやろ
赤土さん絡みでなんかありそうだけど


健夜「……うん」

 恒子の言葉に健夜は沈痛な面持ちで頷く。

 咏厨にスコシン。
 それはネット上における三尋木咏、小鍛治健夜それぞれに対する妄信的・狂信的なファンの蔑称である。
 そう、蔑称。
 自分の贔屓の相手を賞賛する為に他を貶めるといった言動を繰り返し、周囲から疎まれる。ファンと呼んでいいかも分からない輩。
 得てして他を認めようとしない彼らは、別の“信者”と対立することが多い。
 中でも過激で、根が深いと言われているのが咏厨とスコシンの対立である。


恒子「私もちらっとしか見たことはないけど、ネットの世界って“最強”とかそういうの決めるの好きだもんね」

健夜「まあ、ね。麻雀が競技である以上、そういうのはどうしても出てくるものだとは思うけど……」

 いつの世にも最強論争というものはある。
 果たして一体誰が一番強いのか?
 シンプルにして根源的な問い。その問いに答えるため、優劣を決する為に競技は存在するという言い方も出来るだろう。


 だが、単純に勝負すれば“最強”が決まるというわけでもない。
 人の能力とは衰えるものだからだ。
 同程度の能力を有した者が、同時期に全盛期を迎えているとは限らない。いや、むしろそれは稀有な例といえよう(だからこそ、宿命のライバルと呼び、世間では盛り上がるのだが)。
 だから人は、最強論争という机上の空論を楽しむ。
 もし、同時代に両者が存在していて競ったならどちらが上だったのか、と。


恒子「でも私さ。なんとなく分かるような気もするんだよね」

健夜「分かるって、何が」

恒子「咏厨とスコシンが対立する理由。だって、私も気になるからね」

 何故、三尋木咏と小鍛治健夜の信者は殊更に対立するのか。
 その理由は――

恒子「ねえ、すこやん。今までうたたんと一度も対局したことがないのって本当なの?」


今回の更新はここまでとなります。
明日からしばらく遠出――宮守巡礼してくる為、次回の更新は遅くなってしまうと思います。すみません。
鈍行でのんびり行く旅ですので、道中気力があったら少しずつ書き貯めておきたいなーなんて思ってます。

>>55
 乙ありですー


>>57
 ですねー。シノハユに関してはあまり気にせず、
都合の悪い部分からは目を逸らして、使えそうなエピソードがあったら取り込むという感じでいこうと思ってます。

乙です



健夜「さっきも言ったと思うけど、咏ちゃんとはほとんど面識がないからね――あ、生ひとつお願いします」
恒子「ああ、そういえばそうだっけ――すみません。生もう一つ追加で」
健夜「こーこちゃん、早いなあ……」

 互いに飲んで、食べながら話す。気楽に話すような内容ではないが、素面でも話しにくい。そんな自覚があったのかもしれない。



健夜「そんなわけでね。私と咏ちゃんは一度も打ったことがなくて、それでも外野から色々言われてて……だから、咏ちゃんには疎まれても仕方ないんじゃないかと思うんだ」

恒子「ふーん。そういうものかな?」

健夜「ううん。本当は分からないよ。でも、そうであってもおかしくはないと思う」

 小鍛治健夜が一線から退いている間、三尋木咏は目覚しい活躍をして現在の地位にまで上り詰めた。だが、世間の評価としては――
 健夜が何かをしたというわけではない。それでも、罪悪感を拭い去れないでいるのも確かだった。



健夜「ねえ、こーこちゃん。ちょっとしたクイズなんだけど」
恒子「うん? なに?」

 冗談めかして口にする。

健夜「私が今のチーム――地方リーグに移ってから、今までトップリーグでは誰がMVPを取ったか分かる?」

 健夜はプロになってから恵比寿のチームの所属していた時代、全ての年度においてリーグMVPに輝いている。では、それ以降は――

恒子「あれ?」

 恒子は思い出そうとして、

恒子「誰だっけ?」

 一人も頭に思い浮かばなかった。



恒子「え? ちょっと待って。もしかして、ヤバい?」

 慌てる。軽いキャラで通っている彼女ではあるが、麻雀に関わるアナウンサーとして流石にこれはまずい、とごく少ない職業倫理が警鐘を鳴らす。
 そんな恒子の姿を見て、健夜は微笑んだ。

健夜「大丈夫だよ、こーこちゃん。それで、正解だから」
恒子「えっ?」

 呆気に取られる恒子。

健夜「私が退いてから三年間、MVPの受賞者は一人もいないんだよ」

 何でもないことのように、健夜は言った。


健夜「毎年『該当者なし』。おかしな話だよね。本来MVPというのは、その年で最も優秀だった選手を称えるものなのに、該当する人がいないだなんて」

 特に去年は三尋木咏が圧倒的な成績を残している。攻めと守備、両方の指標において最も優秀な数値を叩き出し、首位打点王とゴールドハンドの同時受賞を果たした。しかも、彼女がエースとして牽引し、チームは日本一に輝いている。
 それでも、MVPは『該当者なし』。つまり、それが意味するのは――

健夜「一度も対局をしたことがない相手と比較され、そういう評価を下される――咏ちゃんからしたらさ、面白いはずがないよね」


 だから、咏ちゃんにとって私は邪魔者でしかないんじゃないかな――健夜はそう言葉を結んだ。
 たこわさをつまむ。ツンと鼻に来る刺激。どこか感傷的な気分にさせる。

恒子「ふむふむ、つまりそれは」

 健夜のそんな気分を知ってか知らずか恒子は、

恒子「『ネットでは色々言われているが、格付けは既に済んでいる。最強雀士はこの私だ!』っていうことだよね。さすがすこやん。国内無敗は伊達じゃない!」
健夜「そんなこと一言も言ってないよ!?」

 いつも通りにそんなことを言うのだった。


本日はここまでになります。
相変わらず進んでないというか、話題がループしかけてるというか。
たぶん次の更新辺りで一区切りつく……はず。

出来れば明日か明後日に書いて投下しておきたいとは思ってます。
今までを考えると思うだけになる確率高そうですが……

遅々として進んでないSSではありますが、これからも付き合っていただければ幸いです。


>>72、73、74

ありがとうございます。
そして一ヶ月も間を空けてしまいましてすみませんでした。

乙です

おつ

すばらです乙乙!
こーこちゃん優しいな
続き期待

日曜日終わったけど、明日更新かな?

こーこちゃんかわいい


恒子「ふーん。それじゃあさ。すこやんは、自分ではどっちが強いと思ってるの?」

 ジョッキ片手に恒子。飲みの席だからこその気軽さで問いかける。
 それに対し、健夜はしばらく考える素振りを見せ、

健夜「うん……実際に対局したことがないから、分からないかな」

 結局、無難な答えを返す。はぐらかすように。
 恒子は頷く。健夜の反応が分かっていたから。だから、質問を変えた。

恒子「じゃあ、すこやんはうたたんの実力をどう思ってる? 強い? それとも――」
健夜「強いよ」

 今度は即答した。
 あまりの反応の速さに恒子は少し驚く。


健夜「咏ちゃんは強いよ。序盤、中盤、終盤、隙がないと思う。それに加えて、首位打点王とゴールドハンドの同時受賞――」

 首位打点王はシーズンで最も多くの点棒を稼いだ者に、
ゴールドハンドはシーズンで最も相手に振り込んだ点数が少なかった者に与えられる賞である。
 この二つを同時受賞というのはそれほど多くの例はない。近年で成し遂げたのは三尋木咏、そして小鍛治健夜の二名のみ。


健夜「相手に振り込まず、自分は出来る限り高い点数で和了る。それは麻雀の基本であると同時に、理想の一つでもあるんだよ。咏ちゃんはそれを体現して見せた」

 健夜は語る。三尋木咏という雀士が如何に傑出しているのかを。

健夜「咏ちゃんを現役最強と評するのは決して過大評価なんかじゃないと、私はそう思うよ」

 表面上は、いつもの解説のように落ち着いた口調。
 しかし恒子には、健夜の言葉の中にどこか相手を羨んでいるような、そんな感情が垣間見えたような気がした。

今回の更新はここまでとなります。
一週間前の「明日か明後日には更新したい」とはなんだったのか……
そして、結局一区切りとなるところまで辿り着かず。

……三連休で徹カラが二回発生するなんて、そんなん考慮しとらんよ。

>>82
>>83
ありです!

>>84
ありですよー。
こーこちゃんは、空気が読めないように見せかけて色々気にかけてくれる人なんじゃないかなーって思ってます。
踏み込んじゃいけないラインを見極めた上で、みたいな。

>>85
更新遅れちゃってすみません。私用でグロッキーになってました(自業自得)
次の更新は遅くとも日曜までに……

>>86
こーこちゃん、可愛いですよね!
そのせいで、すこやんとこーこちゃんのシーンがなかなか終わってくれません(責任転嫁)

おつ

乙です

すばらです乙乙!
すこやんかっこいいな
続き期待

乙です
咏ちゃん早くこないかな(ワクワク)


恒子「……というか、べた褒めだね。すこやんにしては珍しく」

健夜「咏ちゃんはそれだけの実績、牌譜を残してるよ――って私にしては珍しくって何!?」

恒子「え? だって、いつもだったら賞賛の流れでもさりげなく相手下げの発言織り交ぜたりするでしょ?」

健夜「いや、そんなことしてないからね! ……うん、してないからね!」

 余計な一言が多いという批判があるのを思い出しつつも健夜は反論する。

恒子「じゃあさ、すこやんはうたたんと打ったら結果はどうなると思う?」

健夜「って、スルーなの!? あー、うん、そうだね……」



 しかし、どこ吹く風といった様子の恒子に、健夜は諦めて新たな質問に向き合うことにする。
 テレビや会場で見た三尋木咏の闘牌を思い浮かべ――

健夜「……っ」

 ――疼く。
 健夜は思わず右手を押さえていた。



恒子「すこやん?」

健夜「ううん、なんでもないよ」

 心を落ち着かせながら、答える。

健夜「そうだね……勝敗はひとまず置いておいて、咏ちゃんと打ったら、面白い麻雀になると思うよ」

 言葉を選びながら、一つ一つ区切るように、口にする。

恒子「なんとなく凄いんだろうなーとは思ってたけど、うたたんってすこやんをしてそこまで言わせるほどなのかぁ」

健夜「そう。凄いんだよ」


 そして、


――咏ちゃんは、もしかしたら私にとって三人目になってくれるかもしれない人なんだから。


恒子「うん? すこやん、今何か言った?」

健夜「ううん。気のせいじゃないかな?」

 最後の呟きは誰にも聞こえないように。ただ、自分に言い聞かせた。


恒子「んー? まあ、いいか」

 どこか釈然としない様子の恒子だったが、追求しても埒が明かないだろうと判断し、話を進めることにする。

恒子「それじゃあ、最後の質問。すこやんはさ、うたたんとどうなりたいの?」

健夜「どうなりたいって、どういうこと?」

 恒子の言うことが何を意味しているのか俄かには理解できず、聞き返す。

恒子「簡単に言うと、仲良くなりたいのかってこと。会うたびに睨まれてるような気がしてるんでしょ? それをどうにかしたいと思ってたりするの?」


 単刀直入に、恒子は言う。
 現状のままでいいと思っているのか、それとも改善したいと思っているのか。

健夜「うん……そうだね」

 健夜は言葉に詰まる。
 彼女は咏に嫌われるのは仕方のないことだと考えていて、そこで思考を止めてしまっていたから。
 だけど――

健夜「できることなら、仲良くしたいって思うよ」

 健夜はそう口にした。


恒子「嫌われてるかもしれないのに? 私なんかは自分を嫌ってる相手とは近づきたいとは思わないけどなあ」

 突っ込んで聞いてくる。
 自身に対してよくない感情を持っている相手は敬遠したい、それは人として当たり前の心理といえるのではないだろうか。

健夜「うん。分かるよ。私もそうだもん。でも」

 恒子の言うことを肯定しつつ、それでも。

健夜「もし機会があるなら、咏ちゃんとは一度ちゃんと話してみたいと、聞いてみたいと思ってることがあるから……」

 健夜は自分の意志を主張した。


 そして、しばし二人の間に無言の時が流れる。
 いつの間にか料理は全てなくなり、グラスも空になっていた。だが、どちらも追加の注文をしようとはしない。

恒子「……そう、わかった」

 恒子が立ち上がりながら、沈黙を破った。

健夜「こーこちゃん?」

 怪訝そうに健夜。
 恒子が何を言い出すのか分からず、少し不安そうな表情を浮かべる。
 そんな健夜の様子とは裏腹に、恒子はあっけらかんと言い放った。

恒子「そんなに気になるっていうならさ、直接会って話しちゃえばいいんじゃない?」

 極めて真っ当で、正攻法な解決策を。


 だが、この案には一つ大きな問題点がある。

健夜「簡単に言うけど、こーこちゃん。ほとんど接点がないって言ったよね? 話す機会自体がないんだよ?」

 健夜がその点を突く。
 テレビ局で姿を見かけることはある。そもそも今回の発端は、健夜が咏に見られているように感じるということなのだから。
 しかし、話す機会となるとまた違う。
 今回、同じくインハイでの解説という仕事をしているものの、局が違うこともあり直接絡むようなことはない。
 だが、そんな反論は予想していたと言わんばかりに、恒子は人差し指を左右に振って否定する。


恒子「だから、この恒子さんが一肌脱いであげようというわけだよ。私がその場を設けて進ぜよう」

 ドヤ顔で言い放つ恒子。
 しかし、健夜の頭には疑問符が飛び交う。

健夜「え? その場を設けるって、どういうこと?」

 どうしてそういう話になっているのか、理解できない。

恒子「どういうことって。私、うたたんとは友達だからね。頼めばそれぐらいらくしょーってことで」

 そして恒子はさらりとそんなことを言った。


健夜「え? えっ?」

 やはり状況に頭が追いつかない健夜。不測の事態にはわりと弱いところがあるのだった。
 そんな健夜の様子を見て、恒子はにやにやと笑うのを隠そうともしない。如何にも狙い通りといった表情。

恒子「だって、私はずっと三尋木プロのことをうたたんって呼んでたでしょ? 流石に親しくもない相手にこんな呼び方はしないって」

健夜「あっ」

 得意満面に種明かしをする。
 意外なことではあるが恒子は人の呼び方に関してはきちんとしている。事実、プライベートでは健夜のことをすこやんと呼んではいても、仕事の場では小鍛治プロと呼ぶ。
 だから、この言葉を聞いて健夜も恒子の言葉の意味がようやく理解できた。


健夜「つまり、こーこちゃんに担がれてたってこと?」

恒子「人聞きが悪いなあ。すこやんとうたたんがそういうことになってるのは知らなかったし、私は単に情報の一つを伏せてただけで、何も嘘はついてないよ」

 恒子は否定する。

 ――それに、私がうたたんと友達だと知ったら言いにくいことだったかもしれないしさ。

 口に出さず、心の中でだけそう付け足した。


 代わりに、いつも通りの軽口を。

恒子「そりゃ、ちょっと面白くなりそうだなーと思って隠してたってのは否定しないけど。あ、お会計お願いしまーす」

健夜「こーこちゃんっ」

 釈然としない思いは拭えず、名前を呼ぶ。

恒子「それじゃ、日程が決まったら私から連絡するから」

 しかし、どこ吹く風で聞き流す恒子。
 こうなっては何を言っても無駄だと、今までの経験から悟った健夜はため息をついた。

健夜「……もう」


 こうして、健夜と恒子の飲み会はその始まりと同じく唐突に終わりを告げた。
 店を出る。
 東京の夏特有のむわっとするような熱気。僅かに吹く風がアルコールで火照った頬に心地よい。

恒子「すこやん」

 歩き出そうとした健夜を、恒子は呼び止める。


健夜「ん、何?」

 振り返る。
 恒子は何か口にしようとして、しかし言葉がまとまりきらなかったようで軽く頭をかく。
 そして結局、笑顔とともにこう言うのだった。

恒子「誤解、とけるといいね」

 たった一言。
 しかし、その一言には様々な想いが籠められているのだろう。

健夜「……うん、ありがと。こーこちゃん」

 それに対して、やはり健夜も単純な言葉で返した。
 無二の親友に対し、伝えきれない想いを籠めて。


 ・

 ・

 ・

 ・

第一部・完
 

本日の投稿はここまでになります。
ようやく第一部であるすこやんとこーこちゃんの飲み会のシーンを終わらすことが出来ました。
読んでくださった方々、どうもありがとうございます。

第一部とはいっても、区切りがいいからそう言ってるだけであり、
続きはいつも通りにしれっと更新してると思います。
これからもお付き合いいただけると嬉しいです。

そういえば、シノハユ始まりましたね。
周囲にドン引きされながらもこーすけくんに依存する慕ちゃんを猛プッシュしたりしてました。
イーソーも残らず牌は処分されちゃって、慕に残されたのはおじさんだけで。
一方のこーすけくんは慕には肉親としての情しか抱けないけれど、
今にも壊れてしまいそうな慕を拒絶することも出来ず……みたいな
きっと誰か、そんな感じのSSを書いてくれると、僕は信じてます。

>>92
>>93
ありがとうございますー

>>94
ありでございます。
この話で書きたいすこやんはこんな感じだったので、そう思っていただけたなら嬉しいです。

>>95
ありですー。咏ちゃんは……もう少々お待ちくださいませ

乙 さてうたちゃん側の話はどうなるのか
>>112
だけどそんな関係に疲れてしまったこーすけくんははやりんと……

きっと誰か、そんな感じのSSを書いてくれると、僕は信じてます。

乙です


咏「健夜さん――いい加減、決着をつけましょうか」

健夜「咏ちゃん……」

 咏は笑いながら握手を求めてくる。
 警戒しつつも健夜はそれに応じ、
 次の瞬間には宙を舞っていた。
 消える重力。
 加速する世界。
 あまりにも前兆がなくて、自分が投げられたのだと気づくのに時間がかかった。
 そして、その時間が命取り。体勢を立て直すことも出来ず、地面に叩きつけられる。

咏「悪いけど――」

 立ち上がろうとした健夜だったが、

咏「貴女を相手に、この程度で勝てるとは思ってないんだよねー」

 再び重心を崩され、容易く投げられる。
 一度だけでは終わらない。
 咏は地面に叩きつけられた際の弾みを利用し、彼女を宙に舞わせる。 
 何度も、何度も。
 健夜が宙を舞うたびに、地には赤い花が咲く。
 幾度も顔から叩きつけられているのだ。どのような惨状になっているのか、想像するに難くない。

 やがて健夜は何の反応も示さなくなり、漸く咏はその手を止めた。
 大きく息を吐く。
 常に反撃を警戒をしながら技をかけ続けていたのだ。
 彼女の消耗も決して小さいものではなかった。

咏「不意打ち気味で気は咎めるけど、これで私が最強――」








健夜「――やっと、意識を逸らしたね」






咏「……!?」

 かけられるはずのない声をかけられる。
 勝利を確信し、緊張を緩めてしまったが故に反応が遅れた。
 地面に伏しながらも、健夜は咏の足首を掴む。
 そして、単純な腕力で以って、咏を自分の位置まで引きずりこんだ。

健夜「咏ちゃん。私がグラウンドマスターと呼ばれるわけを、教えてあげるよ」

 そう言って、
 小鍛治健夜は血に塗れた顔をそのままに、
 ニタリと嗤った――





ちょっと今週は試験があったりで更新できなさそうです。
間があいた上にこのようなことになってしまい、すみません。

期間が開きすぎるのもなんなので、
周囲への宣伝用に以前に書いてみたよこくへん()を投下してみました。
連載は生ものなので、多少展開は変わるかもしれませんけれど(棒読み)

ちなみに友人には「本編書けよ」と真顔で言われたのでした。

>>114
こーすけくん! ねんれいさをかんがえよう! はんざいですよ!

……それで、このSSはいつ頃に投下されるのでしょうか?(期待のまなざし)

>>115
ありですー

乙です

乙ー!

乙ー!

乙ー!

乙!
予告から滲み出る名作臭。どんな展開になるのか気になる


 *  *  *  *  *  *  *

健夜「ただいまー」

 帰宅の挨拶。この日の解説の仕事を終え、小鍛治健夜は自宅に帰りついた」

小鍛治母「おかえりなさい。すこや、夕飯はどうする?」

 母親からの返事。質問の体をとってはいるが娘の返答は分かっているのだろう。台所からは温かな夕餉の匂いが漂ってくる。

健夜「んー、食べるー」

 靴を脱ぎ、自室に向かいながら、健夜は母親の想定通りの答えを返した。


 そのまま自室へ。健夜はぞんざいに服を脱ぎ、ベッドの上に置いてあるTシャツとジャージに着替える。そこで漸く人心地がついた。
 やはりゆるめのTシャツにジャージを履いただけというこの恰好は楽で落ち着く。機能性を追及した極致と言っても過言ではないだろう。
 健夜は半ば本気でそんな風に考えていた。
 それが高じて「これを健夜スタイルと名付けようと思う」と提唱してみたところ、彼女の友人――というか恒子――には蔑むような目で見られてしまったのであるが。

 閑話休題。

久しぶりの本編投稿ですが、今回はここまでです。
続きは今週末には……(信用度ゼロ)

そういえば、まどかの劇場版観てきました。面白かったです。
TV放送してた時に妄想してた「ぼくのかんがえたまどかさいしゅうかい」を
書かないまま闇に葬り去る決意がつきました。

はい、全然関係ないですね。
えっと、咲の話……シノハユの続き、楽しみですね。はやや。

>>119
>>120
>>121
>>122

おつありですー

>>123

何か、見覚えのある文章のような……?
できるだけ期待に背かないように頑張ります

了解

保守だよ~


ダイニングへ戻る。まずは流しで手を洗い、席に着いた。テーブルの上には肉じゃがとほうれん草のおひたし。それにわかめと豆腐の味噌汁が今夜のメニューのようだ。

健夜「いただきまーす」

 手を合わせて挨拶をしてから、健夜はさっそく肉じゃがに箸をつけた。
 じゃがいもは煮崩れてしまっているが、その代わりにしっかりと味がしみていて、口に入れた瞬間にやわらかな甘みが広がる。健夜にとってはもっとも慣れ親しんだ家庭の味。

健夜「うーん。おいしい」

 思わず言葉が漏れる。他人にはあまり見せられない、気の緩みきった幸せそうな表情。
 そんな健夜の姿を見て、彼女の母はため息をついた。


健夜「ちょっと、お母さん。いきなりため息なんてどうしたの?」

 いきなりそんな反応をされれば、彼女としては気にせずにはいられない。母親に問いかける。その肉じゃがを頬張ったままに。
 そんな娘の姿を見て、母は頭をおさえながら首を振った。

小鍛治母「どうしたのって……娘がいつまでたっても恋人を作る気配も見せず。如何にも幸せそうに親の作ったご飯を食べてれば、ため息のひとつもつくわよ」

健夜「うっ」

 こうかはばつぐんだ。
 いつも言われることではあるが、このようにしみじみと告げられると一段と破壊力があった。

年内にきりがいいところまで書き上げようと思っていたのですが、力尽きました……申し訳ございません。

今年の年末年始は素敵に休みが入りましたので、休みが明けるまでにもう一度は投下できると思います。
遅々として進まないSSではありますが、来年もお付き合いいただければ幸いです。


それにしても、閑無ちゃんは基本無敵ですね。

>>133
遅くなってしまってすみません・・・

>>134
保守ありがとうございますっ

 健夜としては何も言い返すことが出来ない。出来ようはずもない。

健夜「そうは言うけどね、おかあさ――」

 しかし、それでも言い訳めいたことを口にしようとし、

小鍛治母「麻雀のプロになって東京にいた時もね。フライデーの一回や二回はされるものと思っていたのに、そんなこともないし」

健夜「娘のスキャンダルを望むのはどうなの!?」

 とんでもない発言――あるいは暴言――が投げ込まれた。
 健夜からは即座に突っ込みが入るものの、そこは母親に一日の長がある。しれっと受け流して、言葉を続けた。

小鍛治母「期待していたわけじゃないわよ? 勿論はじめは心配していたんだから。ただね、その年まで浮いた話がひとつもないと心配の意味合いが変わるというだけの話」

健夜「うん……それは、まあ」

 やはりこの話題になると健夜の分が悪いと言わざるを得ない。
 小鍛治健夜。現在27歳。今までに誰かと付き合った経験は皆無だったから。


小鍛治母「ねえ、すこや。別に男の人と付き合うのが女の幸せだなんて言うつもりはないけれど、本当に気になる人は一人もいないの?」

 健夜はふと「最近は女の人同士で付き合うっていうことも増えてきたらしいよ。同じ麻雀プロのはやりちゃんだって――」なんて反論しそうになったが、思いとどまる。
 ただ話をややこしくするだけだし、彼女の母がそういうことを言っているのではないと理解している。ただ、純粋に娘のことを心配しているのだと分かっていたから。

 だから、言葉が詰まる。なんと答えればいいのか分からなくて。

 まず男性とは仕事関連で少しやりとりをするだけの相手が何人かいるだけであり、恋人どころか接点があるかどうかも怪しい。
 性別を問わずに、今一番親しい相手といえば恒子になるだろう。
 では、恒子に対して恋愛感情を抱いているかといえば、それも違うような気がした。
押しが強くて振り回されることがあるけれど放っておけない、気の置けない年下の友達。
それが健夜にとっての恒子という存在である。誰よりも親しくて、大事な相手ではあるがそういう目で見たことはない。
 いや、そもそも――

健夜(誰かを好きになるって、どういうことなんだろう?)

 小鍛治健夜は未だ恋を知らなかった。



 健夜にしても、この年になって恋に恋してるなんて言うつもりはない。自身に春は訪れたことはないが、周囲の人間関係からどういったものであるか察することぐらいは出来ている。ただ、自分が誰かと恋愛をしている姿を思い浮かべることが出来ないのだ。

健夜(私は、相手に何を求めているんだろう? 求めて欲しいんだろう?)

 健夜にはそれが分からない。
だから、彼女は恋を知らないし、母親の問いに答えることは出来なかった。
結局、健夜は「そういえば見たいテレビがあるんだった」とあからさまに誤魔化すと、夕飯を片付け、逃げるように自室に戻っていったのだった。

間隔が空いてしまってすみません。
短いですが、本日の更新はここまでになります。
……いきなりトリップの入力ミスしてしまってるのが、また。

次回は出来るだけ早く更新できるように頑張ります。


 自室に戻り、パソコンを起動。メールのチェックをする。
 テレビ局から今日のインターハイの牌譜が送られてきていた。解説をする上で必要な資料ということで、実況及び解説者には全対局の牌譜が送付されるのだ。
 ざっと目を通す。
 そこで目を引いたのは一つの学校。
 奈良県代表の阿知賀女子。健夜にとって、特別な意味を持つ名だ。


 牌譜を読んでいく。
 結果から言えばこの試合、阿知賀女子が予選を通過した。
 選手もそれぞれ特徴的であり、興味深いと思わせるだけのものはある。
 だが、それ以上に彼女の目を引いたのは、一緒に記載された監督の名前。

健夜「赤土さん……」


 その名前を思い出すだけで、微かに血が騒ぐ。
 かつてインターハイで対局し、唯一健夜に傷を負わせた相手。
 そして、彼女にとって初めて――
 頭を振る。そこから先は考えるべきではない。
 ふと、連想して思い出す。

健夜「そういえば、この試合って咏ちゃんが解説をしてたんだっけ」

 いつもの通り「わっかんねー」と言いながらも、意味を理解すれば的確な解説をしていたのだろうか。


健夜「赤土さんが率いるチームの解説を、咏ちゃんがしてたんだ」

少し観たかったな、なんて思う。彼女は同じ会場で別の試合を解説していたのだから、不可能ではあったのだが。
 それでも録画したものを観るという手がないではないが――

健夜「それよりも、今はこっちを観るべきだよね」

 テレビをつける。
 母親から逃げる為の言い訳として用いたが、見たいテレビがあるというのは嘘ではない。


 画面に映し出されるのは麻雀の試合会場。
 と言っても、インターハイではない。プロ雀士の試合中継だ。
 タイミングがよかったようで、ちょうど選手が入場する場面だった。


アナウンサー『選手を紹介していきましょう。速攻が持ち味。圧倒的な速度でリーチの山を築いていきます。一之瀬プロ』

 一之瀬プロが卓に着く。軽く目を瞑っている。集中力を高めているのだろう。



アナウンサー『その打ち筋は堅実というよりも、もはや堅牢。自身は振り込まず、着実な和了りで安定した成績を誇ります。二階堂プロ』

 二階堂プロが卓に着く。どこかおどおどとした様子だった。



アナウンサー『戒能プロに新人王の座こそ明け渡しましたが、プロ入りした去年は目覚しい活躍を見せました。四条プロ』

 四条プロが卓に着く。若いが自信に溢れ、堂々とした姿。



 そして――




アナウンサー『もはや説明不要。日本のエースにして、去年のチーム優勝の立役者。その二つ名の通り、今日も怒涛の火力を見せ付けるのか。三尋木プロ』

 三尋木咏が、卓に着く。いつもの飄々とした態度でもって。


長い間放置となってしまい、申し訳ございませんでした。
諸事情により、このSSに手をつけられない状態になっていまして……

もうちょっとその状態が続きそうですが、
おそらく4月の中頃には再開できると思います。


健夜「……うん、やっぱり咏ちゃんはこの中じゃ抜けてるよね」

 画面越しなので、正確なところはわからないが各人の立ち振る舞いや、今までの戦績から戦力分析を行った結果、健夜はそう結論付けた。
 他の選手も曲がりなりにもプロであり、その中でもA級リーグに所属する実力の持ち主だ。決して弱いはずがない。相応の実力者である。


 それでも三尋木咏という打ち手は別格であると、健夜は評した。
 いや、健夜だけでなくこの試合を見ているほとんどの者が同じ結論に至ったことだろう。
 日本のエース――その称号は伊達や酔狂で冠されているわけではない。
 では、この試合は結果の分かりきった出来レースかといえば、それは違う。
 今夜の試合において、かなりの人間が「もしかしたら」を期待、あるいは危惧していた。
 その理由は――

健夜「咏ちゃん、解説と同日に対局だなんて、無茶をして……」

 三尋木咏が、この試合の前にインターハイの解説の仕事をしていたという事実。


 インターハイの解説はトッププロにのみ依頼される、一種のステータスではある。
 だが、だからといって通常の対局が免除されるなどということはない。
 つまり、普段の仕事に加えて解説が上積みされることになるのだ。
 そういう意味では解説はトッププロほどの実力者でなければ受けるだけの余裕がないといえるかもしれない。
 
 しかし、トッププロであっても、並大抵の負担ではないのは確かだ。
 インハイの解説に必要となる牌譜等の資料はテレビ局から送られてくるものの、それを分析する時間も必要となる。
 すると、自身の対局の為の準備の時間は当然削られる。
 なので、得てしてこの季節にはジャイアント・キリング――大番狂わせが発生しやすい。
 人は言う。夏の卓には魔物が棲む、と。



 しかし、対する相手もまたプロ雀士。易々と独走は許さない。

二階堂プロ「……チー」

 二階堂プロはすかさず一発を消すと同時にツモ順をずらした。
 守備型とは言っても、降りるだけが能ではない。
 何事もなく一巡し、二階堂プロは次の手番で引いた牌を抱え込む。
 それは、一之瀬プロの和了り牌だった。



健夜「鳴いていなければ一発……か。ううん、だからこそ鳴いたんだよね」

 テレビの前で健夜はつぶやく。
二階堂プロのとは、一線を退く前に何度か対局の経験があった。彼女のこのような打ち回しは決して珍しいことではない。そしてこの結果も。
 偶然と片付けるにはあまりにも精度が高すぎる和了り防止。
 健夜は彼女に対して「次の手順で相手がツモ和了りするかどうかが分かる」と結論付けている。


 絶対に振り込まないという訳ではないので、あたり牌がなんなのかまでは判別できないのだろう。
 あくまで相手が次順で和了するかどうかが分かる程度に留まると推測される。
 しかし、それだけでも十分すぎるアドバンテージ。
 自身は振り込まぬように気をつけ、相手のツモ和了りも察知して可能であれば妨害する。受動的ではなく能動的な防御。

二階堂プロ「……ツモ」

 そして安手であろうとも、最小限のリスクで和了って場を流す。
 これが長期スパンで結果を残してきた二階堂プロのスタイルだった。



 自室のテレビで観戦していた健夜も、三尋木咏の敗北が脳裏をよぎった。
 彼女からしても咏の打牌は悪手としか思えなかったのだ。
 だが、とある可能性に気がつく。

健夜「はっ」

 息が漏れる。それは溜め息ではなく、笑い声。
 まさか、と思った。
だが、それしか三尋木咏という打ち手がこのような一手を指した理由はない。

健夜「……咏ちゃん、本気でそんなことができると思ってるの?」


 三尋木咏の打牌を目の当たりにし、最も驚いているのは同卓している面々だった。
 日本のエースと呼ばれる彼女の実力を知っているからこそ、信じがたい打ち筋。
 だが――否、だからこそ。
 当然ではあるが、対局している彼女達には、他の観戦者と違って三尋木咏の手牌は見えない。
 だから想像してしまう。何か意図があるのだろう、と。
 四条プロがまさにそれだった。
 流れは自分にあると、確信に近いものがある。直感に加え、彼女の今までの経験が告げる。このまま手を進めれば自分の勝利だと。
 だというのに……
 ふと思い出す。三尋木咏がマスコミに何と呼ばれているか。
 迫りくる怒涛の火力。
 昨年は首位打点王にまで輝いた圧倒的なその火力。もし、今それが引き金に指をかけられた状態だったら?
 その可能性が頭をよぎってしまった。



 手牌が見えない中、それでも相手の手が張ったと察する手がかりはいくつかある。
 それは捨て牌の流れだったり、相手から感じられる気配だったり、根拠があるものもあれば、根拠のないオカルトと呼ばれる類のものだったりもする。
 相手のリーチに対しても引かずに押していく、なんていうのはその中でも最たるものだろう。

 だから、その可能性を捨てきることが四条プロにはできなかった。
 ここで高打点の直撃を受けてしまえば、そこで試合は終了してしまう可能性が高いだろう。
 早い和了を信条とする一之瀬プロが相手にいる以上、時間をかけて高い手を育てるなんてことはできない。
 堅実な麻雀を信条とする二階堂プロを相手にして、一発狙いが成功する見込みは薄い。
 そして三尋木咏を相手にして、一度離されたら追いつける気がしない。
 大丈夫だと本能は告げる。
 しかし、理性がそれを否定し――
 横目で三尋木咏を見遣る。
 普段テレビの前で見せる飄々とした態度はそこにはなかった。無。何もない。その表情からは何の感情も読み取れない。真っ直ぐに卓上のみを見つめている。ぞっとするほどに、ただ真っ直ぐに。

四条プロ「……っ」

 葛藤しながら四条プロが下した決断は、三尋木咏に対する現物――ドラの対子落としだった。



 あるいはそれは、三尋木咏の一手以上に視聴者を混乱させたかもしれない。
 彼らには三尋木咏の手牌が見えていたから。
 彼らは三尋木咏と対峙していたわけではないから。
自ら勝機を捨てたようにしか見えなかったのだ。

 四条プロは別に勝負を捨てたわけではない。自身の七対子は自由度が高く、まだ立て直すことができると踏んでの判断だった。
 だが――

健夜「……流れが変わった」

 幸運の女神には前髪しかないのだという。
一度逃げた者を、幸運の女神がどうして愛すというのだろう。
 その局は結局、誰も和了に辿り着けずに流局。テンパイはリーチした一之瀬プロと、三尋木咏。
四条プロは結局テンパイにも辿り着けず、そして三尋木咏の手牌から己の失態を悟った。



 次局。今まで引きに全く恵まれなかった三尋木咏の手牌が回り出す。
 それは彼女の打ち筋に、牌がようやく追いついたといえるかもしれない。
 試合の流れが変わったのは誰の目にも明らかだった。
 流れを変えたのは四条プロの一手。彼女が逃げたことが試合の様相を一変させたのだ。


 ――試合の顛末はもはや語るまでもないだろう。
 彼女達は確かな実力者ではあったが、三尋木咏という主役を前にすればただのモブに過ぎなかった。大番狂わせなど起こりようがない。役者不足にも程がある。
 終わってみれば、三尋木咏の圧勝という順当な結果だけが残っていた。


更新が遅く、もうしわけありません。
だらだらと続けていたオリキャラ()との対局を漸く決着させることができました。

麻雀はろくにできないので詳しい描写をせずに、それでいて闘牌的なことはさせてみようと目論んだ結果、
想像以上に苦しめられることとなってしまい……
個人的に一番苦しい部分を抜けることができたので、次からは話として進められると思います。

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