憩「保健室の荒川先生」(373)

・以前vipで書いた
 照「保健室の荒川先生」
 憩「恋愛相談?」
 の続編的なものを書いて行こうと思います。

・気分が乗った時にしか書かないので更新は不定期ですが、書き始めたら区切りの良い場所で終わらせるようには頑張ります。

ここで書くのは初めてで分からない事だらけですが、よろしくお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1372679611

凄く期待!
質問です「あわずきんだよ!!」を書いた作者さんですか?

すみません、立てられなかったと勘違いして右往左往してました
あと大切なことですが、咲キャラ全員同一校設定です

>>2
はい、あれ書いたの僕です

 

コンコンコン


憩「……」


コンコンコン


憩「はぁ……はーい、どうぞー」

怜「明らかに面倒くさそうな声出すのやめえや」ガラ

憩「ここは健康な人間が来るところやないんやけど、それは分かっとる?」

怜「私めっちゃ不健康やから……週1で病院通ってるし」テクテク

憩(また勝手にベッド使おうとして……)

憩「えっと、せめてウチが許可出してから寝ようとしてな?」アハハ

怜「私と憩の仲やし別にええやん」

憩「良くない。依怙贔屓はせえへんっていつも言っとるやろ」

憩「まだ授業中やのに抜け出して来て……」ジト

怜「病弱の私にこの時期のサッカーはキツいわ」

憩「どんな時期でもサッカーやなくても、体育やったら大抵サボってると思いますけどー」

怜「サボってるなんて人聞き悪いわ。ちゃんと先生の許可貰ってここ来とるのに」

憩「赤土先生の優しさに付け込むのやめなさい」

怜「あの人も数少ない私の理解者やから。優しい大人は大好きやで」

憩「赤土先生は本気で心配してくれとるのに、あんたって子は……」ハァ

怜「別にええやん。それにあの人も言うて本気で心配してないと思うで」

怜「ただ要領よく私の対応をしてるってだけで」

怜「私みたいな病弱に無理させた結果、倒れられたりでもしたら大問題やからなー」

憩「はぁ……ホンマ不良っぷりは相変わらずやな……」

怜「そんな呼び方せんとってや。ただ病弱が祟って保健室のお世話になるのが多いってだけやのに」

憩「あんたのことよく知ってる人はそんな風に思ってないで」

怜「私のことよう知ってる人間なんてそれこそ片手で数えられるくらいしかおらんで」

憩「ああ言えばこう言って……」ハァ

怜「溜め息したら幸せが逃げるで。たぶんこのやり取りだけでも3個は幸せ逃げたな」クス

憩「園城寺さんのせいってことは分かっとるのかな?」ニコ

怜「これ以上幸せに逃げられたくなかったら見逃すことやな」

憩「はぁ……なんか園城寺さんと話してると10歳くらい歳取った気分になるわ……」

怜「10老けても27なんやから、まだまだ若いで」

憩「きっかけ作ったのはウチやけども、さらっと年齢言うのやめてくれるかな……?」

怜「別にええやん。私以外誰もおらんのやし」

憩「そういう問題やなくて……」

怜「あと二人きりなんやから名前で呼んでや。いつも言ってると思うけど」

憩「公私混同はせえへんっていつも言ってると思うけど」

怜「無駄に堅物なとこは相変わらずやな……」ハァ

憩「教師なんやから当たり前やろ」

怜「憩の理想の教師像は知らんけど、今時そんな頭でっかちなのは受けへんと思うで」

憩「人気者になりたくて教師やっとるわけやないからどうでもいいです」フン

怜(まあ今の憩でも十分人気者やから、私の言ってる事的外れてるけど……)

怜「あれ」

怜「憩が堅物なのって、もしかして私限定?」

憩「何を持って堅物なんかは分からんけど、素行不良な子に対しては教師らしい態度は取っとるつもりやで」

怜「……なんかイマイチ面白くないわ」

憩「面白くないって……」

怜「ツンデレ的なあれで私だけに厳しくしとるんかなぁ、と思ったんやけど、そうでもないから……」

憩「あのなぁ……」

怜「まあええわ。学校でツンツンされた分、プライベートでデレてもらうから」

憩「そんなにも饒舌に喋れるくらい元気なんやったら体育に戻りなさい」

怜「堪忍してや……」

怜「ディフェンスもでけへんウチが入ったってみんなに迷惑かけるだけやで」

憩「体育のサッカーは勝ち負けが目的やないんやから」

怜「『園城寺さんドンマイ!』 『次頑張ろー!』 とか言われるたびに心痛なるねん……」

怜「ボール取りに行ったら相手の子が『あっ……』って顔したりするし……」

憩(運動音痴特有の傷つき方してるなぁ……)

怜「だからサッカーは堪忍してや。体力よりも精神的にしんどいわ」

憩「なんか保健室に悩み相談する生徒な感じの理由でちょっと困惑するんやけど……」

怜「ただ単にサボりたいだけって思われてるのが心外やわ」

憩「……」

憩「いや、これはもしかしたらウチの同情を誘うためにそれらしい理由を付けてるだけで……」

怜「おい」

憩「ウチはまだしも、他の人やったらこういう風に思うのは普通やと思うで?」

怜「信用ないんやなぁ」

憩「日頃の行いが良かったらみんな同情してくれるんやろうけどねー」

怜「なんか私狼少年みたいやな……」

憩「そう思うんやったらもうちょっと真面目になりなさい。掃除サボってるとかは病弱でも言い訳でけへんで」

怜「な、なんで憩がそれを……」

憩「クラスでの様子は弘世さんからよう聞いてるからね。全部愚痴混じりのクレームやけど」

怜「委員長も大変やなぁ」

憩「だから誰のせいやと思って……」

怜「まあ別にええよ。狼少年、もとい狼少女になったとしても」

憩「あのなぁ、そんなこと言って本当に大変なことになったとき困るのは……」

怜「憩は私のこと信じてくれるやろ?」

憩「!」

怜「他の人がみんな私の言うこと信じてくれんようになっても」

憩「……えらい信用されてるんやね」

怜「教師冥利に尽きるやろ?」クス

憩「不良にそんなこと言われても心には響きません」

怜「素直やないんやから……ま、そういう憩も可愛いけど」

憩「はぁ……」

怜「また幸せ1つ逃げてもうたな」

憩「園城寺さんとおったらどんどん不幸せになる気がするわ……」

怜「その分私が幸せにするから、問題なしやで」

憩「減らず口を……」ジト

怜「さて、そろそろ私寝るから昼休みになったら起こしてな」

憩「ナチュラルに4限目サボる宣言せんとって欲しいんですけどー……」

怜「いっぱい喋った分睡眠時間減ってもうたから」

憩「……最後の方だけでもええから授業出ときなさいよ」

怜「ふふ、おおきにー。優しい憩は大好きやで」

憩(結局こうなってしまう辺り、ウチもあかんなぁ)

憩(心の深い所で怜に対する意識が埋め付けられてる気がするわ……)

憩(生徒と教師なのは学校だけなんやから、まったく違う風に接するなんて無理なんやろうけど……)

憩(あかんあかん、弱気になったら終わりや。次来たときは絶対に……!)


怜「~♪」



『荒川先生と怜のお話』 終わり

・安価で主役になる登場人物を決めて、そのキャラに焦点を当てた短編を書くっていう方向性でいきます
 照「保健室の荒川先生?」とまったく同じ感じで

・男性陣は話がまったく思い浮かばない自信があるので、すみませんが女の子だけでお願いします

とりあえず、00:00になってから最初に名前が出たキャラで次いきます

次はシズで

とりあえずシズ編を今日中には終わらせるよう頑張ります

  
――――――――――――――――――――――――――――


憩(学校で怜の相手すると疲れるなぁ……)

憩(ウチも毎度の如く突っかからんと、赤土先生みたく受け流せば楽なんやろうか……)

憩(でもそうすると怜はどんどん調子に乗って授業サボりだすやろうし、やっぱり向き合うしか……)


コンコン コンコン


憩(あれこれ考えてるうちにお客さんやな)

憩「はーい、どうぞー。開いてますよー」

憧「失礼します」ガラ

穏乃「失礼します……」ヨロ…

憩(初めて見る子たちやなー……一見するに、体調悪そうなんはポニーテールの子やけど……)

憩「二人はここに来るの初めてやんな。とりあえずどっちかで良いからこの紙書いてくれるかな?」

憧「私が書くんで、その間に先生はこの子の体温測っててもらえますか?」

憩「見るからに体調悪そうやけど、熱でもある感じ?」

穏乃「いや、そんなことは無いと思うんですけど……」

憧「あんなにも熱かったんだからあるに決まってるでしょ」ジト

憧「ここまで来たんだから大人しく介抱されなさい」

穏乃「うぅ……」

憩「まあそういうことらしいから、早速熱測ろか」ニコ

穏乃「はい……」

憧「まったく、無理やりにでも連れて来ないと絶対に保健室行かないんだから」

穏乃「大したこと無いって言ってるじゃん……憧は大袈裟だよ……」

憧「今にもぶっ倒れそうなクセに何言ってんのよ。自分の顔鏡で見なさいよ」

穏乃「う……」

憩(なんとなくやけど、この二人は付き合い長そうやなぁ)

憩(宮永さんと弘世さんみたいなものを感じるというか……)

憧「次の体育出るなんて絶対にあり得ないんだからね、分かった?」

穏乃「そんなぁ……」

憩(世間話ついでに色々聞いてみよかな……)

憧「あ、先生。書けました、これでいいですか?」スッ

憩「おおきになー」ニコ

憩(1-A、高鴨穏乃。麻雀部)

憩(症状、体が異常に熱い。ぼーっとしてることが多い。立つとふらついて今にも倒れそう……)

憩(なるほどな、ポニーテールの子が高鴨穏乃、って言うんや)

憩(初顔合わせやから1年生かも、って思ったけど、やっぱそうみたいやなー)

憩(部活は麻雀部で……え。ってことは宮永さんと弘世さんの……!?)チラ

穏乃「……」ポー

憩(こ、こっちは……1-A、新子憧。演劇部……? 演劇部ってことは、竹井さんの……!?)

憧「……」ハァ

憩(この二人、あの子らの部活の後輩なんや……)

憩(ってことは両方とも問題児……い、いや、流石に決めつけるのは安直すぎるけども……)

憩(どないしよ、めちゃくちゃ興味沸いて来たんやけども……)


ピピピ ピピピ


穏乃「あ、鳴った……」

憧「何度?」

穏乃「38度2分……」サァァ

憧「普通に高熱じゃないの……」

憩「かなり高いなぁ。高鴨さんどうしよっか、早退する?」

穏乃「こ、これくらい大丈夫です! 早退するほどじゃありません!」

憧「アンタねぇ……」

憩「そうは言ってもこの熱でほっとく訳にはいかんからなぁ。とりあえず5限目はベッドで寝てよか」

穏乃「え」

憩「それでもし37度前半くらいになったら、6限目は参加するって感じでどう?」

穏乃「えっと、次の体育は受けちゃダメなんですか……?」

憧「当たり前でしょうが……」

憩「本当やったら今すぐ帰ってもらいたいところやから」アハハ…

穏乃「そんなぁ……」

憧「ほら、分かったなら大人しく寝ときなさい」ジト

穏乃「嫌だ! 次の体育絶対に出たい!」

憧「そんな状態で体育なんて出来るわけないでしょ!?」

憩「新子さんの言う通りやで高鴨さん」

憩「怜に見習ってもらいたいくらいの……じゃなくて、真面目なのはええことやけど体調悪い時は無理したらアカンで」

穏乃「それはそうですけど……で、でも次の体育は……!」

憩「?」

憧「もしかしてアンタ、淡との勝負を気にして……」

憩(勝負? それに今、淡って……)

穏乃「だって短距離走は次の体育で最後だし……このまま参加しないと私が逃げたみたいになって……」

憧「ちゃんと事情説明すればいいでしょ。そうすれば淡も煽って来たりなんかしないって」

穏乃「でも……」

憧「半分喧嘩売られたみたいなもんだから、意地になる気持ちも分かるけどさ」

憩「えっと、話に割り込んでごめんやけど、淡って言うのは1年生の大星淡ちゃんのこと?」

穏乃「そうですけど……淡のこと知ってるんですか?」

憩「よう知ってるで。ちょくちょくここに来るし」

穏乃「そうなんですか……」

憩「高鴨さんは淡ちゃんとどういう関係なん? あの子1-Bやから、クラスは別やと思うけど」

穏乃「私と淡は……友達、なのかな?」

憧「私は淡と一緒に買い物したりとかたまにするけど、シズはそういうことしないもんね」

憩「新子さんと淡ちゃんは仲ええんやね」

憧「はい、趣味とか話がよく合うんで。こっちに比べれば」

穏乃「それってどういう意味だよ」ジト

憧「言葉のままの意味よ」

憩「つまり淡ちゃんと高鴨さんは友達の友達ってことでええの?」

穏乃「たぶん……」

憧「淡にとってのシズはライバルだけどね」

憩「ライバル?」

穏乃「いや、ライバルになった覚えはないんだけど……」

憧「言ったでしょ。淡にとっては、って」

憧「それにアンタもなんだかんだで淡のこと気にしてるじゃん」

穏乃「まあ、それはそうだけど」

憩「よう分からんけど二人は訳アリなんやね」アハハ

憧「訳が無かったらシズも大人しく寝てますよ」ハァ

穏乃「あの、なんか元気になる薬とかって無いですかね……?」

憩「無いですねー。大人しく寝てることが一番の薬やで」

穏乃「うぅ……」

憧「事情なら私から説明しといてあげるから」

憧「淡としても本調子じゃないシズと勝負して勝ったって嬉しくないって」

穏乃「憧……」

憩(新子さんはええ友達やなぁ……高鴨さんのこと考えた上で無茶せんようストッパーになって……)

憩(たぶん幼馴染みかなんかなんやろなぁ)


キーンコーンカーンコーン


憧「うわ、もう予鈴……」

憧「私は体育出なきゃだからもう行くけど、シズは絶対に大人しくしてなさいよ。分かったわね?」

憩「高鴨さん。こんなにも心配してくれてるんやから、ちゃんと気持ち汲み取ったらな可哀想やで」ボソ

穏乃「っ」

穏乃「わ、分かったよ……憧の言う通りにする」

憧「それで良し。途中で参加して来たりしたらぶっ飛ばすからね」

穏乃「そんなことしないよ……てか病人ぶっ飛ばすって……」

憧「先生、授業終わりにまた来るんでシズのことお願いしますね」

憩「任せてや」ニコ

穏乃「別に来なくていいのに……」

憧「体育の帰りだからちょっと寄るってだけよ」

憩「二人は仲良いんやねー。見ててほっこりするわ」ニコ

穏乃「べ、別に仲良いってわけじゃ……」

憧「私がいつもシズに振り回されてるだけですから」

穏乃「憧が世話焼いてくるだけだろ!」

憧「世話焼かせてるのはどこの誰よ!」

憩(宮永さんと弘世さんのやり取り見てるような気分やわ……)アハハ

穏乃「憧が勝手にあれこれしてくるんだろ……今日だって嫌がる私を無理やり引っ張って……」

憩「まあまあその辺にして。新子さん次体育やから間に合わんくなるで」

憧「まったく、人の気持ちも知らないで……ぶっ倒れても知らないんだからね」プイ

穏乃「むぅ……」

憩「あはは……」

憧「先生、そいつ唐突に変な事言いだしたり何かしようとしたりするんで、そうなったらすぐに止めてくださいね」

憩「了解ですー」ニコ

穏乃「どんな言い様だよ……」

憧「何度も言うけど、アンタはとにかく大人しくしてなさいよ」


バタン


憩(高鴨さん帰らせるときも、新子さんがおれば心配なさそうやな)クス

穏乃「まったく、アイツ私をなんだと思ってるんだよ……」ムス

憩「さっきも言ったけど、全部心配してるからこその言葉やと思うで?」

穏乃「それは分かってますけど……」

憩「あれこれ言ってくれるうちが華やで」

憩「そういう人はおらんくなってからありがたみが分かるものやけど」

穏乃「……憧には感謝してます」

憩「それはウチに言ってもしょうがない言葉やで」ニコ

穏乃「……」

憩「そういえば高鴨さん、さっきから元気に喋っとるけどしんどくないん?」

穏乃「……言われてみるとしんどくなってきたかもです」

憩「そやったらもう寝とこうか。保健室来たのに悪化したら元も子もないで」

穏乃「それもそうですよね……」

穏乃「それじゃあちょっとだけ寝させてもらいますね」

憩「ちょっとやなくてゆっくり寝ててええで。ええ時間になったら起こすから」

穏乃「私、保健室で寝るとか初めてだから寝れるか分かりませんけど……」アハハ

憩「保健室に無縁やなんてすごいなぁ。どっかの不良娘にも見習わせたいわ……」

穏乃「不良娘?」

憩「あ、ごめんな。こっちの話やわ」ニコ

憩「しんどなったりしたら声かけてな。すぐ対応するから」

穏乃「分かりました。そのときはよろしくお願いします」ペコ

憩(礼儀正しい子やなぁ……)ニコ

とりあえずシズ編の前半終了で
また今日の夜にでものんびり続き書きます


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

憩(五限目っていつもは保健室来る子多いんやけども、今日は平和やなぁ)

憩(怜も来えへんし授業が無い先生方も来えへんし……まあ養護教諭が仕事せえへんのが一番ええことなんやろうけど……)


プルルル プルルル


憩(職員室から内線……そうそう暇にはさせてくれんか)アハハ…

憩「はい、荒川です」

憩「あ、瑞原先生。お疲れ様です……いや、仕事中ですんでその呼び方は……」

憩「あ、あはは、善処しますねー……ところで要件の方は……?」

憩「えっ、書類に不備ですか?はい、はい」

憩「分かりました、すぐに確認に向かいますね」

憩「お手数かけさせてすみません……はい、では後ほど……」ピッ

憩(用事出来てもうたなぁ。高鴨さん寝てるから保健室開けたくないんやけど……)

憩(……早く用事済ませてぱっと帰って来るのが一番やな)

憩(ちょっとの間だけ留守番お願いするわ)

憩(一応ウチはおらんことにしていて、と……)カラン…


『外出中』


憩(鍵は……このままでええか。新子さんとか来るかもやし)

憩(まあ、そこまで遅くならんとは思うけど……)


バタン


穏乃「……」スヤスヤ…


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

淡「……」ソローリ

淡(シズノの苦しんでる顔を見に来たのはいいけど、流石に体育抜け出して来たのはまずかったかも……)

淡(ケイになんか言われそうだなぁ……まあ適当に理由付ければ大丈夫だよね)

淡(私との大切な勝負の前に熱出すなんて信じらんない……一言言ってやらないと気が済まないよね、うん)

淡「お邪魔しまーす」ガチャ

淡「……あれ?」

淡(誰もいない……珍しいな、いつもならケイいるのに……)

淡(ってシズノは……)キョロキョロ

淡「……なるほど、あのカーテンが閉まってるベッドだねー」フフン

淡(隠れようったってそうはいかないんだから……!)

淡(とりあえず寝てるとこ起こしちゃアレだし、静かに……)ソローリ

淡「……」

淡(どうしよ、こういう時って勝手に開けちゃダメなのかな)

淡(でも中に入らないとシズノの顔見れない……)

淡(別にいいよね。そもそもアイツに気を遣う必要なんてないし)


シャッ


穏乃「すぅ……」

淡(ふふ、発見♪)

淡「まあまあ呑気に寝てくれちゃってますねー……」クス

淡(私の前でこんなにも無防備な姿晒して……ふふふ……)ニヤニヤ

穏乃「……」

淡(今のシズノは隙だらけ。さらにここには私しかいないから、どんな悪戯でもし放題……)

淡(なんかもうそれだけで気分良いしテンション上がっちゃうよねー)ムフフ

淡(お前の命運は私が握ってる! みたいな!)

穏乃「うーん……」

淡(手始めに何してやろうかなー……)

淡(よし、ここは王道に顔に落書きで)ゴソゴソ

淡(病人だから水性で勘弁してあげよう。私って優しいなぁ)

淡「ふっふっふ……」

穏乃「すぅ……」

淡「……」

淡(こうやって見ると整った顔してるなぁ……睫毛とか長いし、肌も綺麗)

淡(……私の可愛さを100としたら70くらいには可愛いかな、うん)

淡(でも言わゆる黙ってれば美人ってヤツだし、常時可愛い私にはまだまだ及ばな……)


コンコンコン


淡「……」


コンコンコン


淡「!?」

 

「すみませーん、どなたかいらっしゃいませんかー」


淡(だだ、誰か来た!?)

淡(ヤバいヤバいヤバい! 早く隠れないと―――)


ガチャ

淡「なっ」


優希「のどちゃんは律儀だなぁ。中に用があるんだから入ればいいだけなのに」

和「勝手に入るなんて非常識です」

和「それに外出中の札が吊るされているんですから、先生が帰って来るまで待って……」

優希「そんなことしてたら休み時間終わっちゃうじぇ」

和「それはそうですが……」

淡(こ、この声、ノドカとユーキだ……)

淡(ヤバいヤバい……何がヤバいのかよく分かんないけどとにかくヤバい……!)

淡(カーテンから出たら絶対に見つかるし、でもこのままだと何もしなくて見つかるし……)アワワ…

穏乃「ん……」モゾ…

淡「!?」

穏乃(誰か来たのかな……なんか人の気配が……)

淡「あ、あわわわ……」

穏乃「……」ボー

穏乃「淡……?」

穏乃「お前、なんでここに……てかその格好……」

淡「しーっ! 静かにして!」コゴエ

穏乃「え、なんで……」

淡「すぐそこにノドカとユーキがいるの!」

穏乃「和と優希が……?」


優希「たぶんあの閉まってるカーテンの中にいるじぇ」

和「寝ているでしょうから、そっとしておいた方が……」

優希「穏乃の間抜け顔拝まないと来た意味ないじぇ。ほら、行くぞのどちゃん」

和「あなたって人は……」ハァ

淡「しし、シズノ! 隠れさせて!」

穏乃「はぁ? なんでそんなこと……」

淡「いいから! 私のメンツに関わることなの!!」

穏乃「なんだよそれ……てかここに隠れる場所なんてどこにも……」

穏乃「うわぁ!? おお、お前何してっ!? ひゃぁ!?」


優希「ん? この声って……」

和「穏乃のものでしょうけど、何か様子がおかしかったような……?」

優希「中で何かが起きている……! 事件だじぇのどちゃん!」

和「ま、まさか誰かに襲われて……!?」

優希「きっと憧の仕業だじぇ! 保健室で淫行とは許せん!」

和「いやいや、憧は体育の片付けで残ってますし、そもそも憧に限ってそんなことあり得ないです」

優希「ツッコミご苦労! 待ってろ穏乃! 今助ける!!」

 
 
シャッ



穏乃「おお、おはよ二人とも。来てくれたんだね」ニコ…

優希「あれ、穏乃一人か?」

穏乃「そ、そりゃ一人だけど、なな、なんで?」

優希「いや、なんか変な声出してたから襲われてると思って……」

穏乃「なな、なに言ってるんだよー。そんなことあるわけないだろー」

優希「あはは、まあそりゃそうだ。何にせよ思ったより元気そうで拍子抜けだじぇ」

和「……」

優希「?」

優希「どしたのどちゃん? さっきからだんまりしてるけど、お腹でも痛くなったか?」

和「いえ、お腹は痛くなってはいませんが……少し、いやかなり気になる事が……」ジー

優希「気になる事?」

淡(ユーキはアホだからまだしもノドカは……!)ドキドキ

穏乃(の、和の視線が……てか淡、くっ付き過ぎだって……!)ドキドキ

和(あの布団の膨らみ……明らかに誰か人が入って……)

和(し、穏乃……まさか本当に淫行を……)カァァ

穏乃(なんか変なこと想像されてそうなんだけど!?)

優希「のどちゃん? 何故に発熱してるんだ?」

和「な、何故って……あなたは分からないんですか優希……?」カァァ

優希「はえ?」

穏乃(も、もう無理! これ以上隠し続けると絶対に変な誤解される!)

穏乃(バレた後だと訳を説明しても全部良い訳に聞こえるだろうし、淡には悪いけどもう……)

淡(な、なにこの嫌な感じ。なんか裏切られそうな気が……)

穏乃「えっと、その、和が思ってるようなことは一切無いんだ……」

和「ど、どういう意味ですか……?」

穏乃「じ、実は……ここにあわ」

穏乃「ひゃあ!?」ビクッ

和「!?」

優希「ど、どうした穏乃。今女の子みたいな声出したじぇ」

穏乃「みたいなじゃなくて女の子だよ!?」

和(この状況でもツッコミは入れられるんですね……ってそんなことより今の声……)


穏乃(ああ、淡のヤツどういうつもりだよ!?)

穏乃(てかどこに手突っ込んで……!?)カァァ

淡(裏切られるくらいなら道連れなんだから……!)ガルル


優希「急に奇声をあげるなんておかしなヤツだじぇ」

優希「顔も赤くなってるし、そんなにも熱が酷いのか……」

淡(顔赤くなってるんだ……)

穏乃「う、うん。だからその、もう一眠りさせてくれると嬉しいんだけど……」

優希「……」

穏乃「えっと、優希……?」

優希「さっき、布団が不自然に動いたようなー……」

穏乃「!?」

淡(!?)

優希「あと今さらだけど、なんかベッドが盛り上がって……」

穏乃(も、もうダメだ……優希にまで怪しまれたら……)

淡(ノドカが何も言って来ないだけでも奇跡だったけど、これ以上は……)

優希「もしかして、中に誰か―――」


和「優希、そろそろ行きましょうか」


穏乃「へ……?」

和「本来の目的は終えていますし、これ以上は穏乃の体に障りますから」

優希「私も元よりそのつもりだが、この布団の膨らみが気になって……」

和「ただの毛布ですよ。病気の時は体を冷やさないことが大切ですから」

優希「夏でもか?」

和「な、夏でもです。保健室は空調が利いていますから」

優希「ふぅむ……」ジー

穏乃「さ、寒いって言ったら先生が用意してくれて……」アハハ…

和「あと早く着替えないと食堂にタコス買いにいけませんよ?」

優希「あ!!」

和「お昼休みの売れ残りがどうのこうの言ってたのは優希で……」

優希「ナイスだじぇのどちゃん! そういえばこんなことしてる暇なかった!!」

穏乃「おい」

優希「ダッシュで食堂行ってくる! 穏乃はとっとと元気になれよ!」ダダッ

和「優希、走ると危ないですからゆっくり……って聞いてませんよね」ハァ

淡(あ、あれ……? よく分かんないけど……)ドキドキ

穏乃(助かった……?)ドキドキ

和「……」

穏乃「……」

和(一体どういう事情で誰と何をしていたのかは知りませんが、)

和(隠しているということは知られたくないってことでしょうから……友達としてこうするのが正解なんでしょうね)

和(しかし、中に一体誰が……)

淡(これって出ても良い雰囲気なのかな……?)

淡(でもユーキに知られるよりかはマシだけどノドカに知られるのも……)

穏乃「……淡、もういいだろ。出てこいよ」

淡「なっ」

和「淡……?」

穏乃「和なら大丈夫だって……淡が心配してるようなことにはならないよ」

淡「……それを決めるのはシズノじゃないと思うんだけど」ムス

穏乃「これ以上付き合わされるのは勘弁して……」ハァ

和「そ、そんな……穏乃と淡が保健室で淫行を……」カァァ

穏淡「してない!!」

和「なら一体どんな事情があって、その、二人が同衾を……?」

穏乃「だから同衾とかそういうのじゃなくて……」

淡「てか布団の中めっちゃ暑かったぁ……事情はちょっと休んでからで」


憧「失礼しまーす」ガチャ


「「!?」」


憧「荒川先生……ってあれ、いない」

憧(まあ外出中って書いてあったんだし、そりゃそうか……って)

憧「和……」

和「こ、こんばんわ憧。さっきぶりですね」アハハ…

憧「和まだ居たんだ。てっきり教室戻ったと思ってたのに」

和「す、少し穏乃との話が弾んでしまって」

憧「そうなんだ。アイツまだ起きてるの?」

和「えっと、さっきまた寝付いたところです。まだ体調が悪いみたいで」

憧「そっか……」テクテク

和「ま、待ってください!!」

憧「へ?」

和「どど、どうしてこちらに近付いて来るんですか……?」

憧「どうしてって……シズに飲み物買って来てるから、傍に置いておこうと思って……」

和「そ、そうですか……憧は優しいんですね」ニコ…

憧「優しいっていうか、まあ……熱出てる時は喉渇くだろうし……」テクテク…

和「ああ、憧!」

憧「な、なに?」

和「えっと、その……い、一緒にトイレ行きませんか……?」ニコ

憧「ど、どうしたの急に……」

和「その、憧とトイレに行きたくなって……」

憧「ごめん。私さっき行って来たから……てかすっごくらしくないこと言うんだね」アハハ

淡(この状況見たアコはどう思うんだろ)クス

穏乃(がが、頑張って和……!)

和(つい空気に流されて隠そうとしてしまいましたが、これ以上はもう……)

和(憧は鋭いですから、不自然なことをすればするほど怪しまれて……)

淡(諦めるなら早ければ早いほど良いんだろうけど、パニック状態のシズノはそこまで頭回んないだろうし……)ウーン

穏乃(ヤバいヤバいヤバい……! こんなとこ見られたら絶対に変な風に思われて……!)アワワ

憧「えっと、なんかさっきから様子おかしいけど大丈夫?」

和「!」

和「な、なんのことですか……?」

憧「いや、顔色悪いっていうか、挙動不審っていうか……」アハハ…

和「そんなことは無いと思いますけど……」ニコ…

憧「なんていうか、和って嘘付くの下手だよね」クス

和「うっ」

憧「根が真面目だからだろうけど、隠し事してるのもすぐ分かるし」

和(も、もうダメです……)

憧「一応訊くけど……その先に私が見ちゃまずい何かがある感じ?」

憧「シズが寝てるはずのベッドだと思うけど」

和「」

淡(そろそろ修羅場な気がするなぁ)

穏乃(あ、頭くらくらしてきた……変な汗も出て……)

淡(シズノすごいドキドキしてる……体も熱くなってるし……)

淡(ま、自業自得だね。こんな展開になる時点で日頃の行いが悪い証拠だよ、うん)

穏乃(淡のせいだ……全部淡が……)


憧「えっと、なんかこの世の終わりみたいな顔してるけど大丈夫?」

和「ごめんなさい憧……疾しい事は本当に何もなかったんです……」

和「いや、詳しくは私も知りませんが、二人がそんなことをするはずは……」ウルウル

憧「とりあえず、そこのカーテン開けていいかな……」アハハ…

和「だ、ダメです! 世の中には知らない方がいいこともたくさんあって……!」

憧「分かったからとりあえず落ち着いて」

憧「心配してくれるのはすっごく嬉しい。でも私なら何があっても大丈夫だから」

憧「てか何をそんなに必死に隠して……」シャッ

和「あ……」


穏乃(お、お願い気付かないで……!)ドキドキ…

淡(うぅ、暑いー……)


憧「……」

 
 

憧「……シズが寝てるだけだけど、これの何がそんなにまずかったの?」

穏乃(えっ)

和「え……?」

淡(えええっ!?)

和(ま、まさかこんなことが……)

淡(憧に限って気付かないとかあり得るんだ……)

穏乃(な、なんか知らないけど、このまま寝たふりしてれば……)ドキドキ


憧「しっかし顔色悪いわね……めちゃくちゃ汗かいてるし……」スゥ

穏乃「っ……」ピク

憧「……拭いといた方がいいかも」ボソ

和「やや、やめときましょう!! せっかく寝てるんですから起こすのは……!」

憧「それもそっか……それにシズは嫌がりそうだし」

穏乃(あ、当たり前だろそんなの……)ドキドキ…

淡(うーん。なーんか面白くない、じゃなくて釈然としないなぁ)

和(気付く前に憧を教室に……)ドキドキ…

憧「うわ、もうこんな時間……和が変に止めたりするからだよ?」

和「今の穏乃を前にすると憧が心配すると思ったので……」ニコ

憧「そりゃ友達なんだから心配はするけど……」

和「も、もうすぐ六限目も始まりますし、教室に戻りましょうか」

憧「それもそうだね。荒川先生居ないのが気になるけど……」

和「授業が始まる頃には戻っていますよ。ほら、行きましょう憧」グイ

憧「う、うん……」

憧(和が手繋いでくるとか超珍しい……)

和(一つ貸しですよ、穏乃)

穏乃(本当にありがとう和……)

和(こんなにも疲れた休み時間は生まれて初めてです……)ハァ

憧「溜め息なんてついてどうしたの」アハハ

和「いや、少し心労が祟って……」

憧「あはは、なにそれ……」


バタン


穏乃「……」

淡「……」

穏乃「はぁ、助かったぁ……」クタ…

淡「うぅ、暑かったぁ……危うく窒息死するとこだったよ……」

穏乃「そのまま気でも失ってたら良かったのに」ボソ

淡「ちょっと」

穏乃「なんだよ」ギロ

淡「な、なんでもないよー」

淡(ちょっと本気で怒ってる……)

穏乃「もう……早く出てけよバカ」

淡「言われなくてもこんなクソ暑いとこ出るよ」ゴソ…

淡「ベッドの中、シズノの汗臭かったし最悪だった」

穏乃「ぐっ……散々人のこと振り回しといて、謝りもせずにその言い草かよ……」ジト

淡「ごめんね♪」キャピ

穏乃「淡ー……!」

淡「謝ったんだから別にいいでしょ」フン

穏乃「お前なぁ……!」

淡「そんなにカッカすると熱上がっちゃうよー。もう遅いだろうけど」

穏乃「もう許さない! 一発殴る!!」

淡「かかってきなさいよ! 熱出てフラフラのシズノになんか殴られるわけ……!」


淡「へぶぅ!?」ゴシィ


淡「ちょ、痛い! 痛い! 一発って言ったでしょ! ちょっと!?」

穏乃「おのれー……!!」グググ…

淡「ぎ、ギブ! ギブギブ!! 絞まってる、絞まってるから!!」パンパン

穏乃「今日という今日は絶対に……!!」

淡「ぎゃあああああ!!」



憩(あ、あの二人は保健室で一体何をして……)


―――――――――――――――――――――――――――

淡「ぐずっ、今日はこれくらいで勘弁しといてあげるんだからっ……」ボロ…

淡「私が本気出せば、ひぐっ、シズノなんかボコボコなんだからねっ……」

穏乃「分かったから……早く授業行けよ……」グッタリ

淡「見て分かんないの!? シズノにやられたところ治してもらって……痛い!」

憩「はいはい動かんとってなー。てかそこまで酷い傷でも無いから自然治癒でええと思うで?」ペタペタ

淡「他のとこだったらまだしも顔はすぐに治したいの!」

憩「まあ女の子やし、気持ちは分からんでもないけど」

穏乃「お手数おかけして……すみません……」

憩「ウチの短い教師人生の中で保健室で喧嘩した子たちは初めてやで……」アハハ…

穏乃「我慢の限界が来ちゃって……」

憩(高鴨さんめっちゃ温厚そうやのに、我慢の限界来るって相当な出来事あったんやろな……)

淡「カルシウム足りないんじゃないの。そんなんだからちっこいままなんだよ」フン

穏乃「お前なぁ……」

憩「まあまあ二人ともその辺にして」

憩「詳しい事情はあとで聞くけど、あんま穏便じゃない喧嘩はしたらアカンで?」

憩「場合によっては停学とかもあるから」

淡「停学喰らうなら手出して来たシズノだね」

穏乃「どう考えても原因作った淡だろ……」

憩「喧嘩両成敗で両方やね」アハハ


穏淡「「理不尽だ……」」


憩「まあ今回は初犯やし二人の仲を見込んで見逃すけど、今度からはこんなことしたアカンで?」

憩「特に高鴨さんは病人なんやから、喧嘩吹っかけるなんて言語道断やで」

淡「吹っかけてないもん……」

憩「どっちが悪いの水掛け論になるだけやから、あんまり言及はせんけども」

淡「私は被害者だよ! ほら、この傷が動かぬ証拠!」

穏乃「先生すみません……私そろそろ限界なんで、淡の相手お願いします……」

憩「だ、大丈夫高鴨さん?」

穏乃「大丈夫じゃ、なさそうです……」グッタリ

淡「へっへーん、イイザマだね!」

憩「そういうこと言わないの」チョップ

淡「はぅ!?」

憩(普段の淡ちゃんはこんなにも攻撃的やないのに、高鴨さんに対して何の因縁があるんやろか……)

淡「うぅ……ケイまでシズノの味方するなんて……」

憩「ウチは基本的に病人と怪我人の味方やでー」

淡「私も怪我してるのに」ムス

憩「さ、こんなもんでいいでしょ。淡ちゃん、そろそろ授業戻り」

淡「えー」

憩「えー、やないの。ここは健康な人がおる場所やないんやで?」

淡「分かってるけど……」

憩「授業付いて行けんなるとテスト前にひぃひぃ言うのは淡ちゃんなんやから」

淡「た、確かに数学は受けないとヤバいかも……」

憩「ほらほら、今やったら半分は受けられるで」

淡「英語とかならサボったんだけど数学はしょうがないや……行って来る……」トボトボ

憩「あ、そうや。その前に高鴨さんに一言謝っとき」

淡「えー!? やだよ!!」

憩「悪い事したんやから謝らなアカンで」

淡「私悪い事してないもん!」

憩「高鴨さんをあんなんにしたんやから、その分だけでも謝らんと」

淡「むぅ……」チラ

穏乃「……」グッタリ

淡「むむむ……!」

憩(どんなに謝るの嫌やねん……)アハハ…

淡「はぁ……シズノ、聞こえてる?」

穏乃「……なに」

淡「謝るのは嫌だから代わりに一つ良いこと教えてあげる」

穏乃「……」

淡「アコ、私がシズノのベッドに隠れてたこと気付いてるよ」

穏乃「え……?」

淡「たぶんだけど」

穏乃「な、何を根拠にそんなこと……」

淡「ユーキでも気付いた布団の膨らみに憧が気付かないわけないじゃん」

穏乃「そ、それでも中に誰が入っていたかなんて……」

淡「私が体育途中で抜け出したの知ってるから、たぶんアコならそれだけでピンと来るよ」

淡「最後まで私が帰って来なかったのも知ってるだろうし」

穏乃「……」

憩「えっと、一体なんの話をして……?」

淡「そういうことだから。じゃあね」

憩「あ、ちょっと! 淡ちゃ……」


バタン


憩(行ってもうた……)

  
  
ガチャ



憩「!?」

穏乃「!?」

淡「言い忘れてた! ケイ! 手当してくれてありがとう!」

淡「また来るねー!」


バタン


憩「あ、あはは……」

穏乃「はぁ……」

憩「なんていうか、淡ちゃんはどこまでも淡ちゃんやね……」

穏乃「そうですね……」

憩「えっと、高鴨さん。事情はよう分からんけど、なんか悩み事とかあったら相談してな?」

憩「ウチ、スクールカウンセラーもやってるから……」

穏乃「そうなんですか……近いうちにまた来るかもですけど、その時はよろしくお願いします」ニコ…

憩(心身ともに限界そうやなぁ……一体ウチがおらん間に何があったんやろ……)

憩(新子さんがどうこう言ってたけど……うーん……)

憩(あかんわ。現段階ではどうすることも……)

穏乃「先生、すみません……ちょっとだけ寝させてもらいますね……」クタ…

憩「う、うん。ゆっくり休み。最終下校過ぎてもウチが家まで送ったるから」

穏乃「ありがとうございます……」

憩(悩める生徒がまた一人増えたか……)

憩(高鴨さんに新子さん……宮永さんらとの関係性考えても、顔会わせる機会はまだまだあるやろなぁ)

憩(頭痛の種にならんことを祈りたいけど、どうなるんでしょ……)アハハ


穏乃「すぅ……すぅ……」


憩「ま、今あれこれ考えてもしゃあないし、ウチは自分の仕事に戻ろうかな……」

 
――――――――――――――――――――――――――――

穏乃「ん、んぅ……」

穏乃(あれ、今何時だろう……私、どれくらい寝て……)

穏乃「……」


憧「……」ピッピッピ…


穏乃「憧……?」ボー

憧「あ、シズ。起きたんだ、随分遅いお目覚めね」

憧「今さっき最終下校のチャイム鳴ったところよ」

穏乃(私、そんなにも寝て……)

憧「寝起きのとこ悪いんだけど、そろそろ帰るわよ。ここに泊まる訳にもいかないから」

憧「歩ける?」

穏乃「……ちょっと無理っぽい」

憧「そりゃそうよね……じゃあ私がおぶってあげるから、家に着くまで寝ときなさい」

穏乃「……」


穏乃「なっ」



『荒川先生とライバルな二人、幼馴染みな二人』 終わり

シズ編終了です
この憧と淡は別のお話でも活躍してたりするので、そっちも見ると面白いかもです

また明日か半年後にでも安価出しますので、その時はよろしくお願いします

半年後ってwwww
とりあえず乙
ところで>>1の話で咲さん出てるのある?

>>87
このシリーズで登場したのは
照「保健室の荒川先生」の安価で咲さん当たった時だけです

他に書いたSSでメインで登場してるのは

咲「レズから逃げ切ったら10万円?」
咲「照さん今月の妹料金まだですか?」
淡「あわずきんだよ!」
憧「巫女さんプレイ? なら別料金で2万ね」

とあと、照「おもち党と新党iPSが連立!?」のちょい役で出たくらいだと思います

とりあえず次誰でいくかだけ決めときます
今日の2:00になってから最初に名前が出た女の子で

○○と○○みたいに二人だしたら安価は無効になる?

>>95
そういう場合は出来るだけ両方に焦点を置いた話を考えるよう頑張ってみます
無理そうな場合は書き易そうな子をどちらか選んで書きます

菫「飲み会?」って>>1?

次は末原さんでいきます
書き溜めとかはしないので、時間が出来た時、気が向いた時に随時進めて行きます

>>97
違います

もしかして体育倉庫シリーズの人?

>>104
菫と宥が体育倉庫に閉じ込められる話のことなら、僕であってます

一応話の基幹はこっちで、あれは宥菫編、みたいな感じで自分では認識してます

 
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

憩「今日は珍しく平和やったなぁ」

憩(怪我したって子も授業サボりに来た子もけえへんかったし)

憩(良いことなんやけど、ちょっと寂しかったりしないことも……)


コンコン


憩「!」

憩「は、はーい。開いてますよー」

恭子「失礼します」ガチャ

憩(わわ、これは珍しい……) 

恭子「えっと、少しお時間頂いてもよろしいでしょうか……?」

憩「もちろん大丈夫やで」ニコ

憩「とりあえずこの紙書いてくれるかな?」スッ

恭子「分かりました」

憩(これはレアなお客さんやなぁ)

憩(しかもユニフォームやなくて制服姿……明日なんかええ事でもあるんかな)

恭子「……」カキカキ

憩(3-C、末原恭子さん。愛宕さんに次ぐソフトボール部の大黒柱)

憩(普段保健室にけえへん子が来たらテンション上がってまうなぁ)アハハ

恭子「書けました。何か変なとこあったら言うてください」スッ

憩「おおきになー」

憩「……」

憩(訪問理由。相談、かぁ)

憩(見た感じ怪我とかもしてなさそうやから、そうかな、とは思ったけど……)

恭子「……」

憩(まずは世間話でもしようかな)

憩「末原さんはここに来るの久しぶりやね」

恭子「えっ? あ、はい……」

憩「確か最後に来たのは二条さんの付き添いの時やったと思うけども」

恭子「そういえばそんなこともありましたね……」アハハ

憩「目回してる二条さんを末原さんが担いで来た時は何事かと思ったわ」

恭子「絹ちゃんが蹴ったサッカーボールが泉ちゃんの頭に直撃した時のことですね」

恭子「あの時はホンマ大変でした。サッカー部が戦争仕掛けて来たとかって騒ぎになって主将が暴走して……」ハァ

憩「日頃からいがみあってる愛宕さんと江口さんが喧嘩するには、それだけで十分過ぎる理由やったね」アハハ

恭子「二人とも自分じゃなくて他人のことで熱くなりやすいタイプですからね」

恭子「口論始まった瞬間に止めるの無理やと確信しましたよ……」

憩「そこで冷静に怪我人運んでくるあたり、末原さんのすごいところやと思うわ」

恭子「あの二人の喧嘩は日常茶飯事ですが、泉ちゃんが倒れたのは緊急事態でしたから」

恭子「それにあの場には浩子もいましたし、まあ怪我人出る前に止めてくれるやろと思って」

憩「結局、ボロボロになった愛宕さんと江口さんがここに運び込まれて来たんやけどな」アハハ

恭子「ふふ、そういえばそうでしたね」

憩「懐かしいなぁ。て言ってもあの事件から半年も経ってないわけやけど」

恭子「あの時は重ね重ねすんませんでした。無駄な手間取らせた挙げ句説教までしてもらって……」

憩「今さら過ぎるし、末原さんが謝ることでも無いと思うで?」

恭子「まあ、一応アホ二人の保護者みたいなもんなので……」

憩「ソフトボール部とサッカー部のトラブルが大事にならへんのは末原さんのおかげやねー」

恭子「向こうに関しては浩子のおかげですから、そっちも労ってやってください」

憩(愛宕さんが引っ張って末原さんが支えるソフトボール部)

憩(江口さんが引っ張って舟久保さんが支えるサッカー部)

憩(両方とも強い理由がよう分かるな)クス

恭子「あ、そうや。浩子と言えば最近―――」


ブブブブ ブブブブ


恭子「……」

憩「携帯、鳴ってるけども出んでいいの?」

恭子「はい、いいんです。誰からの着信なんかは大体分かるんで……」ハァ

憩「?」

恭子「会話に花が咲いたせいで本来の目的忘れてましたわ……」

憩(え、もしかして余計なことしてしまった感じで……)

恭子「先生。私の居場所がバレて連れ戻される前に、相談受けてもらっていいですか?」

憩「それは勿論ええけども……つ、連れ戻される?」

恭子「はい。部活サボってここにおるんで」

憩「!?」

憩「な、えっ。ええぇ!?」

恭子(私が部活サボるってそんなに驚かれることなんか……)

憩「え、ど、どないしたん末原さん? 一体何があってそんな……」

恭子「まあ、ちょっと色々ありまして……」アハハ

恭子「あんま時間も無さそうなんでささっと話しますね」

恭子「先生、3年前までここで養護教諭として働いてた善野、って人知ってますか?」

憩「!」

恭子「知ってるみたいですね」

憩「そ、そら知ってるよ……てかなんで末原さんが善野さんのこと……」

恭子「私、中等部の頃あの人にすごくお世話になってたんです」

憩「中等部の頃……?」

憩「いや、善野さんはここで働き始めてからずっと高等部の担当やったはずやけど……」

恭子「私が保健室に遊びに行ったりしてたんですよ」

恭子「善野さんの方からこっち来てくれたりしたこともありましたし」

憩「そうなんや……」

恭子「もしかしたらとは思ってたんですが、やっぱり善野さんと知り合いだったんですね」

恭子「養護教諭の先輩と後輩、みたいな関係ですか?」

憩「そんな感じやね。ここに来た当初の、右も左も分からんウチにいろんなこと教えてくれたのはあの人やから」

憩「仕事のこともそうやし、それこそ教師としてのあり方とかも……」

恭子「めちゃくちゃ興味深い話です……」キラキラ

憩「言うて1年とちょっとしか一緒に仕事は出来へんかったんやけど」アハハ

恭子「持病が悪化して2年前にやめはったんですよね……」

憩「そやねん。ちょうど今の3年生が進学してすぐのタイミングに……」

憩「だから今の3年生で善野さんのこと知っとる人はおらんはずやったんやけど」

恭子「主将やセーラ、浩子たちも善野さんのこと知ってますよ。共々お世話になったんで」

憩「あの子らも知っとるんか……」

恭子「逆に言えば、在校生で善野さんのこと知ってるのはウチ含めてその4人だけですね」

憩「善野さんの最後の教え子かぁ……なんか感慨深いわ」

恭子「教え子って表現されていいのかどうかは微妙ですけどね」

憩「まあ言葉の意味を正しく使うなら、教え子ってウチのことやろうしな」

恭子「だから私からしてみれば先生のことがめっちゃ気になったりするんですが……」ジー

憩「な、なんか末原さんに興味持たれてるって思うと恥ずかしくなるわ」

恭子「どういう意味ですか?」

憩「いや、深い意味はないで……?」アハハ…

恭子「?」

憩(一目置いてた子にぐいぐい来られると戸惑う的なアレ、とは言えんなぁ……)

憩「えっと、話戻そか。善野さんのことは末原さんの相談となんか関係ある感じ?」

恭子「実は、その。相談内容の半分は荒川先生と善野さんの関係を知りたい、っていうのでして……」

憩「あ、そうなんや。深刻そうな顔してたからもっと重大なことかと思ってたわ」アハハ

恭子「重大なことは今から訊こうと思ってることなんですけど……」

恭子「むしろそれが一番訊きたいことやったりもして……」

憩「えっと、なんでしょうか……?」


恭子「善野さん、一ヶ月後にここに戻って来るって……本当ですか?」


憩「……」

憩「へっ!?」

憩「う、嘘!? ホンマに!?」

恭子「それが知りたいから、最近部活休んでまで真相突き止めようとしてるんですが……」

憩「ご、ごめん、ウチもその情報は初耳やわ」

恭子「そうですか……」

憩(あの善野さんが……もし本当やったら嬉し過ぎるけど……)ドキドキ

恭子「荒川先生が知らないってことは、やっぱりガセなんですかね……」

憩「えっと、それはどこからの情報やの?」

恭子「赤坂先生の電話越しの会話をたまたま聞いて、その時に……」

憩「郁乃さん……あの人善野さんと親友やから、聞き間違いじゃないならかなり信憑性高そうやな……」

恭子「ええ!? そうなんですか!?」

憩「うん。まあ先生方でも知らんかったりすることやから、末原さんが知らんのは当然やけど……」

恭子「善野さんが監督と……」

憩「本当かどうか郁乃さ……やなくて赤坂先生に直接訊いてみいひんかったの?」

恭子「いや、訊いてみたんですけどね……」

憩「?」

恭子「あの胡散臭い喋りで物の見事に有耶無耶にされまして……」ハァ

憩「あはは、めっちゃ想像できるわ……」

恭子「必死になって訊けば訊くほどはぐらかすんですよ……」

恭子「挙げ句の果てには『パンツ見せてくれたら教えたげる~』とか言って来て……!」ワナワナ

憩(あの人も相変わらずやなぁ……)アハハ…

恭子「そういうわけでして、赤坂先生から聞き出すのは無理やったんです……」

憩「それでウチを頼って来た、ってわけやな」

恭子「その通りです。荒川先生はまともな大人やと信じていますから」

憩(あなたの一つ下です、とは絶対に言えんなぁ……)アハハ…

憩「直接善野さんから……は無理か。あの人携帯持ってへんもんなぁ」

恭子「はい……ビックリするほどの箱入り娘ですからね……」

恭子「家の電話番号は教えて貰ってたんですが、それも引っ越した際に変わったみたいで……」

憩「末原さんもウチとまったく同じ状況なんやね」アハハ…

恭子「えっ。それってつまり、先生でも連絡付けれんってことですか……?」

憩「そうやねんなぁ。いつかは向こうから連絡してくれる、って思いながら待っとるんやけど……」

恭子「そんな……」

憩「まあでも、そこまで悲観する事でもないんちゃう?」

憩「末原さんの言うことやと、赤坂先生が善野さんと連絡取れるみたいやし、お願いすれば」

恭子「……私からは無理です」

憩「あはは、まあそやろなぁ」

恭子「先生の方からあの人にお願い出来ませんかね……?」

憩「うーん……ウチも善野さんのことは気になるから、訊くこと自体は全然構わへんのやけど……」

憩「ウチが頼めば教えてくれるか、というと微妙やと思うねんなぁ……」

恭子「え……?」

憩「赤坂先生は普段の態度とかから胡散臭い人って思えるかもやけど、根はめちゃくちゃ誠実な人やねん」

恭子「……」

憩「だから、ただ末原さんにいじわるしたいがために善野さんのこと有耶無耶にした、ってのは絶対あり得へんと思うなぁ……」

憩「まあでも、そこまで悲観する事でもないんちゃう?」

憩「末原さんの言うことやと、赤坂先生が善野さんと連絡取れるみたいやし、お願いすれば」

恭子「……私からは無理です」

憩「あはは、まあそやろなぁ」

恭子「先生の方からあの人にお願い出来ませんかね……?」

憩「うーん……ウチも善野さんのことは気になるから、訊くこと自体は全然構わへんのやけど……」

憩「ウチが頼めば教えてくれるか、というと微妙やと思うねんなぁ……」

恭子「え……?」

憩「赤坂先生は普段の態度とかから胡散臭い人って思えるかもやけど、根はめちゃくちゃ誠実な人やねん」

恭子「……」

憩「だから、ただ末原さんにいじわるしたいがために善野さんのこと有耶無耶にした、ってのは絶対あり得へんと思うなぁ……」

恭子「……赤坂先生が隠すのには何か理由があるってことですか?」

憩「たぶんな。それこそ善野さんから内緒にするようお願いされてるとか、そんな理由かも」

恭子「……」

憩「もしそうやとしたら、赤坂先生は末原さんに勘付かれて相当やってもうたと思っとるやろうから、」

恭子「これ以上噂を広げんためにも、口をさらに固くする……」

憩「その通り。同僚で仲の良いウチが訊いたとしても誤摩化すやろうね」

恭子「打つ手無し、ですか……」

憩「訊いてみれば、って提案したのウチけど、考えたら無理そうやったね」アハハ

恭子「先生はすごいですね……私と同じくらい善野さんのこと気になるやろうに、この状況で笑ってられるって……」

憩「まあ、一ヶ月経てば分かるやろうから」

恭子「それはそうかもしれませんが……」

憩「2年近く連絡待ってる身からすれば、一ヶ月なんて一瞬やで」ニコ

恭子「先生……」

憩「まあでも、もしかしたらなんか教えてくれるかもやから、一応赤坂先生に訊いてみるわ」

憩「成果あったとしてもなかったとしても、後日ウチの方から末原さんに伝えるな」

恭子「良いんですか……? 結果はほとんど分かってるのに……」

憩「可愛い生徒にお願いされた手前、何もせんってのは出来へん性分やねん」

憩「善野さんもそういう人やったやろ?」アハハ

恭子「!」

恭子「……はい。そうやって困った時に笑うところとか、そっくりやと思います」

憩「ふふ、あの人に憧れてる身としては嬉しい言葉やなー」

恭子「荒川先生、今日はホンマにありがとうございます」ペコ

恭子「先生のおかげで、どうにかしたいのにどうにも出来ん、っていう胸のイライラがなくなりました」

憩「そっか。何もしてあげれんかったと思ってたから、その言葉が聞けて良かったわ」ニコ

憩「とりあえず、末原さんは早く部活出たってな。じゃないとソフトボール部の子らが保健室来る事になりそうやから」

恭子「了解です」アハハ

恭子「それじゃあ、私はそろそろ戻りま……」


洋榎「恭子!!」バタン!!


恭子「!?」

恭子「しゅ、主将……?」

洋榎「やっと見つけたぞこのドアホが……!!」ゴゴゴ

憩(噂をすれば、やなぁ……しかも選りに選って愛宕さんて……)アハハ

恭子「なな、なんでここが分かって……!?」

洋榎「監督が教えてくれたわ! お前やったら絶対にここにおるってな!」

恭子「なっ」

憩(流石郁乃さん……)

洋榎「副部長たる立場の人間が三日連続で部活サボるとはええ度胸しとるやんけ……!!」

恭子「さ、サボってませんよ! ちゃんと部活休むて報告したでしょ!?」

洋榎「アホか! ウチが来いって言ってもけえへんかった時点でそれはサボりや!!」

恭子「そんな横暴な……」

洋榎「来いっ。なんでサボったか全員の前で喋ってもらうからな!」

洋榎「その上で反省文と千本ノックや!!」グイ

恭子「ちょっ、待ってください! 流石にそれはっ」

洋榎「なあ分かるか恭子? ウチは休んだことを怒ってるやないねん」

洋榎「昼休みにあんだけ念押して釘差して、お前もハッキリ来る言うたにも関わらずサボり腐りやがったのが―――」

恭子「あ、荒川先生……あとは頼みま……」

洋榎「人の話を聞けぇええ!!!」



憩(末原さん、強く生きるんやで……)

 
――――――――――――――――――――――――――――

憩(末原さんの相談を受けた翌日、郁乃さんに善野さんのことを訊きましたが……やっぱりはぐらかされました)

憩(結構マジなトーンで迫ったつもりやけども、ウチ程度じゃあの人にはなぁ……)

憩(諦め際、おちゃらけるだけおちゃらけてた郁乃さんが、真剣な声で「ごめんな」と言ったことだけが、成果と言えば成果なのかもしれません)

憩(善野さんは本当に帰って来るのか)

憩(それは本当に一ヶ月後なのか……)

憩(このお話は一応大団円を迎えますが……それはまた次の機会に)



『荒川先生と末原さんのお話』 前編終わり

・いくつか他の子の話を挟んだ方が話として味が出るような気がする
・善野さんの口調がどんな感じのか分からない
・他の子の話が書きたい

どう決着するかはもう考えてますが、以上の理由でこの話は一時停止しときます
次の安価は……今日の18:00に最初に名前が出た女の子でいきます

次は久or久照怜でいきます

 
―――――――――――――――――――――――――――

憩「なあ竹井さん、保健室を仮眠所やなんかと勘違いしてないかな?」アハハ…

久「してませんよ? 現にほら、私すっごい体調悪いし」

憩「どこからどう見ても健康にしか見えませんけどー」

久「健康にも二つあるじゃないですか、心の健康と体の健康と」

久「で、私は今心が不健康なんです」ニコ

憩「仮に心が不健康やったとしても、本来病人が使うはずのベッドでお昼寝していい理由にはならんと思うで?」

久「心に病を抱えているって意味だと、私も病人であると言えるはずです」

憩「はぁ……いやその通りなんやけどもな……」

憩「その心に病を抱えてる云々があまりに嘘くさいというか……」

久「いや、悩んでることがあるってのは本当ですよ? 昼寝の口実にしようとはしてますけど」アハハ

憩「じゃあその悩んでることっていうのをウチに相談してみよか」ニコ

久「いえいえ、お昼寝させてもらえればきっと事故解決出来ることですから、先生の手を煩わせることはありません」ニコ

憩「お昼寝して治るくらいの心の病なんやったら、今すぐ授業に戻って欲しいんですけどー……」

久「本当は私もそうしたいんですけど、授業中に居眠りってすっごく印象悪いじゃないですか」

久「仮にも生徒会長なんてお固い立場なんで、それはまずいかなー、って」

憩「つまり、居眠りして自分の評判下げるくらいやったら、堂々と体調不良訴えて大義名分の元ぐっすり寝る、と」

久「そういうことです」アハハ

憩「相変わらずのずる賢さやね……」ハァ

久「喋りたいなら教室出てけー、とかってよく言いますし、寝たいなら保健室で寝るのがスマートだと思いません?」

久「うとうとしながらノート取るだけじゃ勉強になりませんし、それならこの授業をしっかり休んで次に備えるのが良いかな、って」

憩(言ってる事は一応筋通っとるのがこの子の厄介なところやねんなぁ)

憩「うーん……」

久「ふふ……」

久(頭ごなしに感情論押し付けてこないのが荒川先生の良いところよね)

久(どういう考えを持ってるのかちゃんと伝えれば、それを汲み取ってくれるところも)

憩「はぁ……4限目からは出るんやで」

久「やた♪」

憩(竹井さんとかには厳しめに接したいんやけど、ウチもなんだかんだで甘いなぁ……)ハァ

久「荒川先生ならそう言ってくれるって信じてました」

憩「まあ、授業サボったらその分のツケ回って来るのは結局自分やし……」

久「それってつまり私は見放されてるってことですか……」

憩「竹井さんは要領がええから。それこそ何事に対しても」

久「荒川先生に褒められるってなんか不思議な気分です」

憩「いつもは怒ってばっかやしねー」

久「怒られたくて怒られてるわけじゃないんですけどね」アハハ

憩「もうちょっとその、自分の好奇心みたいなものを自制出来るようになれば言うこと無いんやけど」

久「自制なんて不自由なこと言わないでくださいよ」

久「好奇心に従えるのは学生のうちだけなんですから」

憩「自分の中だけでその好奇心を完結してくれるならええんやけど、竹井さんの場合そうでもないやろ?」

憩「何か思い立つと周りの人間も巻き込んで、さらに台風みたいに各方面に傷痕残していって……」

久「あはは、例えがお上手ですね」

久「まあでも、雨降って地固まる、って言葉もありますし、台風が来るのもあながち悪いことじゃないと思いません?」

憩「地固めるところまで竹井さんがしてくれるならええんやけどね」ハァ

久「主に勝手に固まるか先生たちが奔走するか、ですもんね」アハハ

憩「文化祭での活躍とか生徒会での功績みたいな、良い事ばっかりやったら手放しで褒めるんやけども……」

久「それもまあ、私の好奇心の産物みたいなものですから」

憩「とりあえず、誰かが本気で傷つくようなことだけはせんようにしてな」

久「一線は越えないように、やりすぎないように、ってのは日頃から気を付けてますから、ご心配せずに」ニコ

憩「……誰かってのは竹井さん自身も含まれてるんやけど、その辺は分かってる?」

久「……」

久「こんな私でも心配してくれてる先生がいるなんて、ちょっと感動しちゃいますね」

憩「ウチ以外の先生方も何かと気にかけてくれてるでー」

久「そうなんですか?」

憩「良くも悪くも竹井さんは目立つから」

久「それってただ目付けられてるだけなんじゃ……」

憩「あはは、それはそうかもやけど」

久「まあ、それでも嬉しいです。好きの反対は無関心、って言いますから」

憩「竹井さんのこと好きな人はおっても嫌いな人なんておらんよ」

久「結構に恨み買うようなことはしてきてる覚えはあるんですけどねー……」

憩「恨み買うようなことをせんようにだけウチからはお願いしとくわ」

久「善処させて頂きます」ペコ

憩「さて、お話もこの辺にしとこか。ごめんな、早く寝たいやろうに」

久「とんでもない。先生と話せる機会なんて早々ないですから、有意義な時間でした」

憩「社交辞令は完璧やね」ニコ

久「あはは……」

憩「ウチも久しぶりに竹井さんと話せて良かったわ。最後に話したのあのキス騒動の時やったから」

久「そんなこともありましたねー……って言ってもついこの前のことですけど」

憩「あの二人とつるんで妙なことするのだけは本当に勘弁してな?」ニコ

久「ぜ、善処しますね」ニコ…

憩「あと悩み事が云々言ってたけど、それは本当に訊かんでもええ感じなん?」

久「深刻なこととかじゃないんで、心配はしてもらわなくて全然大丈夫なんですけど……」

久「とりあえず相談に乗ってもらうかは寝ながら考えときますね」

憩「なんやそれ」アハハ

とりあえず、ここで一旦休憩で

tes

 
―――――――――――――――――――――――――――


キーンコーンカーンコーン


憩(3限目も終わりか……)

憩(竹井さん以外は誰もけえへんかったなぁ。まあそう続けざまに来られても困るんやけど)

憩(とりあえず、この休み時間中に竹井さんを戻らせな……)スッ

憩(あの子のことやから、チャイム鳴ったらもう何言うても動かんはず……そうなる前に……)テクテク

憩「竹井さん、起きてる?」


「……」


憩「チャイム鳴ったからそろそろ教室戻りやー」


「……」


憩(狸寝入りか否か……)


シャッ

 

久「……」

憩(完全に寝てるなぁ、これ……)

憩(狸寝入りやったら常習犯がおるから一発で分かるんやけども)

憩(うーん、どないしよ……起こした方がええんかな。でも……)

久「すぅ……」

憩(……こうやって見ると、この子もやっぱ美人やなぁ)

憩(このルックスに加えて求心力とか人望もあるんやから、そらモテるわ)

憩(特に女の子はこういうタイプに弱いやろなぁ……)

憩(こんな子に本気で迫られたら、ウチでも唇許してまうかも……)アハハ

久「……」

憩(しかし、寝てるだけでここまで印象変わるもんなんやな)

憩(起きてる時は頼れるお姉さん、って感じの印象やけど、今は年相応というか、無垢というか……)

久「んぅ……」

憩(……竹井さんに頼れる人とかっておるんかな)

憩(どう考えても頼られる側の人間やろうし、何かあった時に相談できる相手とか、自分の弱いとこ見せられる人とか……)

憩(この子との付き合いもそこそこに長いけど、深い人間関係とかってなると謎が多いわ)

憩(……辛い時とか、ウチでええなら是非とも頼ってもらいたいんやけど……まあ無いやろうなぁ)

憩(そもそも竹井さんにそんな時が来るのかも怪しいし)アハハ

久「ん……」

憩(……話した感じちょっと疲れてるみたいやったから、今日は昼休みまで寝させてあげよかな)

久「すぅ……」

憩「トラブルメイカーやなかったら完璧やのに」スッ…

久「……」

憩(綺麗な髪やなぁ……)ナデ…


怜「……憩?」


憩「っ!?」ビクッ

怜「なにしてるん……?」

憩「ななっ……!?」

怜「……」ジトー

憩「べ、別に何もしてないで……? てか怜いつの間に……」

怜「普通にノックして普通に入ってきただけやけど。あと何もしてないこと無かったと思うけど」

憩「いや、えっと、これは、その」

怜「……」

憩「た、竹井さん頭打ったらしいから、その触診を……」アハハ…

怜「触診って寝てる相手にしたりすんの?」

憩「た、たまにするで……?」ニコ…

怜「ふーん……」

憩(アカン、絶対信じてへん……いやこんな嘘信じる子なんておらんやろうけど……)

怜「なあ憩……女同士でもセクハラって成立すると思うで?」

憩「せっ!?」

怜「まあ、憩は捕まったとしても少年院やから前科は付かんやろうけど」

憩「あ、あのなぁ……」

怜「私、ちょっと体調悪いからベッド借りるな。……いつもの場所は久に取られてもうてるけど」テクテク

憩「ちょ、待ちや! 別に怜が思ってるようなことはなくてっ」

怜「呼び方、間違っとるで」

憩「!」

怜「公私混同はせえへんやろ? "荒川先生"」


シャッ


憩「……」

憩(これも竹井さんの魔力、みたいなものなんやろうか……)

久「すぅ……」

憩「なんでこうなるかなぁ……」ハァ

憩(ってサボりが二人も保健室に……!)

憩(ま、まだ間に合う! 今すぐにでも心を鬼にして二人を……)


キーンコーンカーンコーン


憩「……」

憩「はぁ……」

 
―――――――――――――――――――――――――――

憩(流石に二人も同時にサボらせたら福与先生になんか言われるかなぁ……)

憩(あの人がそんな小言言って来る姿とか想像できんし、今までも一回もなかったからあり得んか……)

憩(てかあの子らのクラスの4限目って何の授業なんやろ)

憩(あんなにも目立つ二人が同時におらんくなったとなったんやから、軽い騒ぎになりそうなもんやけど)

憩(怜はちょくちょく消えてるやろうからまだしも、竹井さんは……)


コン コン コン


憩「!」

憩「はーい、どうぞー」

菫「失礼します」ガチャ

憩「弘世さん……ってことは……」

照「失礼します」スッ

憩「……宮永さん?」

照「?」

菫「どうかしましたか?」

憩「いや、今日は松実さんやないんやなー、と思って」

菫「……どういう意味ですか」

憩「言葉のままの意味やでー。いつも弘世さんがここ来る時は松実さんが一緒やから」

照「保険委員でも無いクセにちゃっかりしてますよね」

憩「せやなぁ。まあでもそういうアプローチの掛け方はなかなか」

菫「ちょ、ちょっと待ってください! 私が宥の付き添いをしているのは本来保険委員である園城寺が仕事をしないからであって……!」

照「保健室くらい一人でも行けると思うけど。子供じゃあるまいし」

菫「保健室の場所が分からないとか抜かしたお前は一体なんなんだよ……!!」グググ

照「痛い痛い痛い!?」

憩「み、宮永さん。流石に3年も学校おるのに保健室の場所分からんってのはヤバ過ぎると思うで……?」アハハ…

照「ち、違います。分からないんじゃなくて一人だと時間がかかるってだけで……」

菫「時間がかかるって時点で異常だと言う事が分からないのか……」ハァ

憩「よう移動教室とかで苦労せんなぁ」

照「……同じクラスの人に付いて行けばいいだけなので」

憩「そんな修学旅行での電車の乗り換えみたいな……」アハハ…

照「そもそもこの学校は広い上に構造が分かりにく」

菫「おい照、早く傷口を見てもらえ。お前の話に付き合っていたら日が暮れる」

照「……私だって好きで雑談を始めたわけじゃない」

憩「あはは、ごめんな二人とも」

憩「えっと、傷口ってのはその左手のことでええんかな?」

照「左手の人差し指を……」スッ

憩「あちゃー、まあまあ深く切ってもうてるね。カッターとかじゃ無さそうやけど……」

菫「包丁です。家庭科の調理実習の途中だったので」

憩「なるほどなー。とりあえずぱぱっと消毒やってまおか」

照「……あまり沁みないようにお願いします」

憩「沁みない消毒液ってのはあるにはあるんやけど、残念ながらここでは仕入れてないわ」アハハ

照「そんな……」

憩「しかし調理実習で指切るってのもまたベタやねー」

菫「コイツに包丁を持たせた私がバカでした」

菫「これを機に料理の一つでも覚えればと思ってのことだったんですが……」

照「……あのすごいヤツが無いのに、じゃがいもの皮なんて剥ける訳がない」

憩(ピーラーのことかな……)アハハ…

菫「ならどうして剥こうとしたんだ……」

照「菫が野菜切れって言ったから」ムス

菫「……すまん」

照「……本気で謝られると複雑な気分に―――ッ!?」

憩「ちょっと我慢してなー」ペタペタ

照「うぅ……」

菫「はぁ……妹がいなくなったらお前生きて行けないんじゃないのか……?」

照「……咲はいなくならない」

菫「いや、そういうことを言ってるんじゃなくてだな」

憩「宮永さんちのご飯は咲ちゃんが作ってるの?」

照「はい。母は単身赴任している父のところにいるので」

憩「あ、そういう家庭事情なんや……そやったら宮永さんからも料理作ってあげて、咲ちゃん助けてあげなな」

照「……食器洗いや洗濯は私がしています」

菫「お前と咲の二人で、だろ」

照「……です」

憩「あはは、まあでも任せっきりやないのはええことやで」

菫「お前ももう18なんだから、そろそろ自立した生活くらい出来るようになれ」ハァ

照「……出来てるよ」

菫「咲がいなくなった時のことを想像してみた上で、同じ事は言えるのか」

照「……」

照「咲はいなくならない」

菫「あのなぁ……」

憩「でも真面目な話、この先もずーっと咲ちゃんが実家におる、ってのはあんまり現実的やないと思うで?」

照「どうしてですか?」

憩「そら宮永さん自身が実家から」

照「離れないです」

憩「そ、そっか……」アハハ

菫「即答で断言するのはどうかと思うぞ……」

憩「でもほら、咲ちゃんは実家から出てくかもしれんで?」

照「……どうして?」

菫「ここから遠い大学に通うために下宿するとか言いだしたらどうするんだ」

照「あり得ないよ。咲は私と同じ大学に通うって言ってる」

憩(あの子もあの子でかなりのシスコンやったからなぁ……)アハハ

菫「なら、咲に好きな人が出来てその人と一緒に暮らしたい、と言いだしたら?」

照「……」

照「咲はそんなこと言わない」

菫「あのなぁ……」

照「だって、咲の好きな人は私だから」

菫「……はぁ」

憩(そのこと分かってるんや……なんか宮永さんって鈍感そうなイメージあったから、めっちゃ意外やわ……)

憩(まあでも、どういう好きなんかはたぶん宮永さんも咲ちゃん自身も分かってないやろうけど……)アハハ

菫「お前がそう思うのも言い切るだけの根拠があるのも分かるが、何事も変わらないことばかりだと思うなよ」

照「……松実さんも菫の知らない、誰か素敵な人と恋をするかもしれないね」

菫「ぐっ……!」

憩「あはは、まあそれは確かにそうやね」

憩「でもそれは咲ちゃんにも言えることやと思うで?」

照「……あり得ない」


久「そうやって言い切るのは危ないと思うわよ?」


照「!?」

菫「お前……」

憩「起きたんやね、竹井さん」アハハ

久「とっても面白そうな会話が聞こえたので」ニコ

久「もう、宮永さんも弘世さんも酷いわ。恋バナしてるなら言ってくれればいいのに」

菫「3限目に体調不良がどうのこうのと猫撫で声で言っていたが……」

照「ここに居たんだね、久」

久「そりゃまあ、体調不良だし」アハハ

菫「ただの寝不足を体調不良と言うのはどうかと思うが」ジト

久「あはは、相変わらず辛辣ねー」

菫「まったく、お前も園城寺も隙あれば授業を抜け出して。学校を何だと……」

照「ってことは怜も……」

憩「あそこで不貞寝してるはずやで」

久「あ、そうなんだ……ってもしかして。園城寺さんのお気に入りの場所、私が使っちゃってた感じですか……?」

憩「うん、まあそうやね」アハハ

憩「起きとき機嫌悪いやろうけど、よろしくお願いなー」

久「園城寺さんの扱いは先生の方が得意だと思うんですけど……」

憩「いや、たぶん今回はウチがあれこれしても逆効果やと思うから」

菫(一体何があったんだ……)

照「……怜のことは気になるけど、話を戻そう。久、さっきの言葉はどういう意味?」

久「あんまり余裕かましてると足下掬われるわよー、って意味」ニコ

照「……」

久「まあまあ。そういういかにも不機嫌そうな顔はしないで」

久「私だって何の論理も根拠も無くこんなこと言ってるわけじゃないから」

照「……ならその論理と根拠を訊かせて欲しい」

久「では語らせて頂きましょう」フフン

憩(えらいノリノリなんですねー)アハハ

菫(気にならない、と言えば嘘になるな……)

1行目修正 憩「起きたとき~」

久「宮永さんの妹さんは宮永さんのことが好き」

久「それは事実なのよね?」

照「うん」

菫「まあ、断言出来るレベルだろうな」

久「じゃあそれがどういう好きなのかは分かる?」

照「……どういう、好き?」

久「そう。好きにもいろんな種類があるわ」

久「私が宮永さんや荒川先生のこと好き、っていうのと、弘世さんが松実さんのこと好きってのは全然違うでしょ?」

照「うん、菫のは肉欲に塗れてる」

菫「おい」

久「それと同じように、宮永さんの妹さん……面倒くさいから咲さんって呼ぶわね」

久「咲さんの好きが必ずしも肉欲に塗れた好きであるとは限らないわ」

久「ってより、もしそういう好きだとしたら宮永さんが一番困ると思うけど」アハハ

照「そ、それは……」

久「仮に咲さんの好きが肉欲に塗れていたとして、宮永さんにはそれを受け止める勇気はあるのかしら?」

照「……」

菫「……なあ竹井。口を挟んで悪いが、その肉欲に塗れたって言い方やめてくれないか……?」

久「あら、私は良い表現だと思うわよ? 生々しくて」ニコ

菫「あ、あのなぁ……」

照「……分からない。そんなこと、考えた事もなかったから」

久「まあそれが普通だと思うわ」

久「でもね、宮永さんが咲さんと一生ずっと一緒にいるには、」

久「咲さんが宮永さんのこと本気で好きで、なおかつそれを宮永さんが受け止められないといけないのよ?」

照「……そんなこと」

久「しなくてもずっと一緒にいられる、っていうのは、やっぱり私も現実的じゃないと思うかな」アハハ

久「人が自分の一生を誰かと添い遂げたい、って思うのは相当な感情のはずだろうから」

照「……」

憩「た、竹井さん。論理の方はその辺にしとこか」

久「まだ話的には起承転結でいう承くらいなんですが……」

憩「それ以上やると三日くらい引きずりそうやから、な?」アハハ…

久「それもそうですね……私自身が昔随分と悩んだテーマだったりするんで、最後まで話したかったんですが」

憩(これで承やったら結に行く頃には、同性同士での問題とかそういうところにまで突っ込んでいくんやろうなぁ……)

菫「……」

憩(弘世さんもなんか神妙な顔つきなってもうてるし……)

久「な、なんかごめんね、暗い雰囲気にしちゃって」

照「……別にいい。次は根拠について説明して欲しい」

久「そっちの方は簡単よー。咲さんと同級生であろう女の子が良い感じの雰囲気だった、ってだけの話だから」

照「!?」

設定が今までのシリーズと同じなら淡も照が好きなんだよね

菫(咲にそんな相手が……?)

憩(お姉ちゃん一筋って感じやったから、なかなか驚きの事実やね)

憩(まあ、竹井さんの主観とかも混じってるやろうけど……)

照「だ、誰と!?」

久「うーん、その辺はプライバシーの問題だから伏せさせてもらうわ」

照「そんな……」

久「咲さんの恋路の邪魔になっちゃうようなことになるとアレだから。ごめんね」アハハ

照「ほ、本当に良い雰囲気だったの……?」

久「咲さん可愛かったわよ。なんか女の子してるなー、って感じで」

照「……」

菫「……おい照、あまり竹井の言葉を真に受けすぎるな」

菫「コイツの主観も多分に混じってるだろうし、何より情報が少な過ぎるから断定は出来ないだろ」

久「百聞は一見に如かず、っていうし、自分の目で確かめるのも良いんじゃない?」アハハ

憩「そういう出歯亀みたいな行為はあんまり関心せんけども……」

照「あり得ない、咲に同年代の友達は淡しかいないはずなのに……」

照「それに人見知りだし内向的だし……そんなことになるはずが……」

久「ねえ宮永さん、私の経験談だけど、人が恋に落ちる瞬間って案外あっさりしてるものなのよ?」

久「気付いた時には好きになってた、って人もいれば」チラ


菫「……」


久「すっごく取り留めも無い理由で好きになった、って人もいるだろうし」チラ


怜「……」


久「さらに言えば、告白されてその人を意識するうちに好きになっちゃった、ってパターンもあるし」


玄『くしゅんっ』


久「人が誰かのことを好きになるのに特別な理由なんて何もいらないのよ?」

久「宮永さんにはまだピンと来ないかもだけど」アハハ

照「酔ってない」
↑はパラレル扱い?


憩(この子、ウチと一つしか年違わんはずやのになんでこんなにも……)

照「……私には分からない」

久「今はそうでも、いつかきっと分かる日が来るわ」

久「たくさん悩む時もね」

照「……」

菫(コイツの恋愛経験は一体どうなってるんだ……)ハァ

憩(この手の話で一番置いてけぼりなのウチかもしれん……)

久「今はたぶん咲さんが悩んでる時期だろうから、お姉ちゃんらしい態度を取ってあげるのが良いと思うわ」

久「あなたの咲さんに対する好きが肉欲に塗れていなければ、の話だけど」クス

照「……」

久「あなたが何を感じて何をするかで、いろんなことが大きく変わっていくはずだから……まあよく考えて、自分の行動には責任を持ちなさい」

憩(その辺は自分にも言えること、ってのは分かってるんかなぁ……)


久「なんかごめんね、途中から説教じみちゃって」

久「まあ今はよく分かんなくてもいつかよく分かる時がくるから、覚えておくといいわ」

照「分かった……」

憩(宮永さんも色恋沙汰絡むと存分にトラブルメイカーであるから、予め釘差しとくのはナイスやで竹井さん)

菫(これが少しでも薬になればいいんだが)

照「指切っただけなのにこんな話をするとは思わなかった……」

久「私もよ」アハハ

菫「ってしまった!? 早く授業に戻らないと―――」


キーンコーンカーンコーン


照「あ……」

久「なかなか良いタイミングで鳴るわねー」クス

憩(や、やってもうた……)

菫「は、早く戻るぞ照! 調理実習が―――」

怜「もう終わったんやからそんな慌てんでもええと思うで」フワァ

照「怜……」

久「私も園城寺さんと同意見だわ。エプロンとかは優しい松実さんあたりが預かっててくれてるわ」

菫「そ、そういう問題じゃ……!」

憩「うぅ、最悪や……4人も同じクラスの生徒を授業不参加にさせてまうなんて……」

照「あ、荒川先生……」

久「私たちが勝手にサボっただけだから、責任感じなくてもいいのに」アハハ

怜「まあサボり容認したのは先生やし、照と委員長はよ返さんかったのも先生やから、責任ないってことわないわな」

憩「うぅ……養護教諭失格や……」

菫「死体を蹴り上げるような真似をするな!?」

照「授業は終わったからもうしょうがないとして……今からどうするの?」

久「昼休みと言えばお昼ご飯ね。久しぶりにみんなで食堂でも行きましょうか」

怜「委員長は松実さんと先約あったりするんちゃうの? ってあるわけないか」

菫「おい、どういう意味だ」

照「でも私、お弁当持って来てるし……」

久「みんなで頂いたらいいんじゃない? 咲さん料理上手らしいし、食べてみたいわ」

照「どこでその情報を……」

菫「おい待てお前ら! その前に授業に出られなかったことを謝りにいくのが先決で―――」


怜「ほら、先生も一緒に行こうや。食券一枚くらいやったら奢ったるで」クス

憩「……はぁ」



『荒川先生と久のお話、いつもの4人のお話』 終わり

怜成分薄くてすみませんでした
自分でも話がどう転がるのか分からないのはいつものことなので……善処します
次の安価はまた近いうちに出します。成香ちゃんとか成香ちゃんとかガイトさんとかをひっそり期待してます

>>180
この設定で書いたヤツ全部同一世界観、同一人物って認識で大丈夫です

>>183
保留させてください。あれをパラレルにするかしないかで宥菫の結末がかなり変わって来るので

明日の01:00に最初に名前が出た女の子で次いきます

成香ちゃん以外の有珠山メンバーって大丈夫?

>>196
現段階では原作からの情報が少ないので、たぶん無理だと思います
もし当たったら一応考えてみますが、あまり期待しないでください

心配かけさせてしまったようで申し訳ないです

憩「昼は飛んだ災難やったなぁ」ハァ

憩(竹井さんが絡む話は大体ロクなこと起こらんけども)

憩「今日は平和に、出来れば最近出来てない書類仕事に集中し……」


コンコンコン


憩(まあそういう訳には行きませんよねー……)アハハ

憩「はーい、開いてますよー」

姫子「し、失礼します」ガチャ

憩(あれ、この子見たことあるかも……)

姫子「えっと、ここにスクールカウンセラーの先生がいるっち聞いて来たとですが……」

憩(この聞き覚えのある喋り方は……確か九州からの子で……)

憩「鶴田姫子ちゃん、やったかな?」

姫子「な、なんで私の名前知っとーとですか……?」

憩「一回でも保健室来てくれた子の顔と名前は大体覚えてるから」

憩「剣道部の子やんな? 時期は覚えてないけど、前来てくれた時は腕の打撲とかやったような……」

姫子「凄かです……そげなことまで覚えとーなんて……」

憩「姫子ちゃんみたいに九州訛りの子は珍しいから、印象にも残り易いんやわ」

憩「岩戸さんとかもあの辺りから来てたはずやけど……あと剣道部と言えば白水さんとかも」

姫子「!」

憩「そう言えばこの前来てくれた時って確か……」

姫子「はい、ぶちょーと一緒でした……本当に凄かです。半年以上前のことを……」

憩「まあ、薬の名前覚えるより生徒の顔覚える方が簡単やから」

姫子「先生がみんなから好かれちょる理由がよく分かるけんです」

憩「そういう実感はあんまり無いんやけどなー……」アハハ

憩「っとあかんあかん。つい誰か来ると世間話してまうんやわ」

姫子「ふふ、その気持ちちょっと分かるとです」

憩「関西人の性ってヤツなんかなぁ……とまあそれはさておき」

憩「今日はどう言った用事なんかな? スクールカウンセラー云々言ってたけど……相談?」

姫子「はい、相談です。ずっと悩んでることがあって……」

憩「悩み事かぁ。今まで抱えて来てるってことは、他人には相談しにくいような感じなんかな?」

姫子「はい……本当は先生に相談するのも気が引けるくらいで……」

憩(結構深刻な悩みみたいやけども、どんな内容なんやろ……ウチが力になれると良いんやけど)

姫子「す、すみません。勿体振ってもどうにもならんので単刀直入に訊きますね」


姫子「えっと、その……女同士ってどげん思うとですか……?」


憩「……」

憩「えっ」

姫子「うぅ……」

憩「お、女同士……?」

姫子「すす、すみません!! やっぱり変ですよねこげなこと! やっぱり私帰っ」

憩「ちょ、待って待って!? まだ何も言ってないから落ち着いて!!」ガシ

姫子「あうぅ……」ウルウル

憩(うわわ、顔真っ赤や……それに泣きそうになって……)

姫子「せんせぇ……どげんしたらええとですかぁ……」ウワーン

憩「と、とりあえず順を追って話してもらってええかな?」

憩「色々と唐突すぎて結構に意味不明で……」アハハ

姫子「ぐずっ……うぅぅ……」

憩「あわわ……え、えっと、ほら。そんな泣かんで……大丈夫大丈夫」ヨシヨシ

憩(これはちょっと時間かかりそうやなー……)

憩(女同士がどうって言ってたけど、この反応から察するに……そういうことやんな)

憩(昼にああいう話された流れでこれって、なんか色々考え深いわ)

憩(これはちょっと骨の折れそうな感じやけど……果たしてどうなるやら)

姫子「うぅぅ……」

憩(竹井さん呼んで来た方が早いかも……)アハハ…

 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
姫子「本当にすみません、急に泣き出したりして……」

憩「別に何とも思ってないから大丈夫やでー」ニコ

憩「それにこういう感じの相談する子はそんなに珍しくもないから」

姫子「えっ……?」

憩「いや、でも姫子ちゃんみたいなパターンは初めてかも」

憩「女子校なせいかしれんけど、まずそこに疑問を持つって子があんまり……」

姫子「えっと、何の話ばしよっとですか……?」

憩「ごめんごめん、独り言やわ。今の姫子ちゃんには……関係ないことも無いねんけど、うーん」

姫子「……?」

憩「えっと、一応確認するけど、悩み事っていうのは女の人を好きになった、っていうのでええんやんな?」

姫子「……はい」

憩「なるほどなぁ……それは確かに相談しにくい内容やね」

姫子「やっぱりおかしかですよね……」

憩「普通では無いんやろうけど……おかしくは無いと思うで?」

憩「世界的に見たら同性愛っていうのはそこまでアブノーマル、ってわけでもないから」

姫子「でも、普通は気持ち悪い思うとですよね……?」

憩「うーん、それも人次第やと思うけど……そう思う人もおれば思わん人もおるやろうし」

憩「もっと言えば、そういうことに理解がある人もおるやろうし」

姫子「……」

憩「もしかして、社交辞令でこんなこと言っとるとか思われたりしてる?」

姫子「えっ」ドキ

姫子「そ、そげなことはなかとで……」

憩「気遣わんでええよ。綺麗ごとだけ並べるのは大人がよくすることやもんなぁ」アハハ

姫子「先生……」

憩「まずはスクールカウンセラーとして信頼されなやな。うーん、どないしましょう……」

姫子「あ、あの! 信頼してないとかじゃなかとです! ただ、その……」

姫子「荒川先生がどっちなんか気になって……」

憩「どっちとは……?」

姫子「こういうの、気持ち悪い思うとですか? それとも……」

憩「……」ウーン

憩「気持ち悪いとは思わんけど、自分が同性の子に好き、って告白されたら……やっぱりちょっと戸惑う、かなぁ」

姫子「戸惑うだけですか……? 嫌な気持ちになったりとかは」

憩「せえへんかなぁ。自分のこと好いてくれてるんやから、その気持ちは素直に嬉しいで」

姫子「……」

憩「今回の姫子ちゃんの相談で大切なポイントは、相手の子が同性愛に対してどういう認識を持っとるか、やね」

姫子「どげんゆうこつですか……?」

憩「ど、どげんゆうこつ?」

姫子「あ、すみません……どういうことでしょうか?」

憩「あ、なるほど、そういう意味で……じゃなくて」

憩「えっと、姫子ちゃんの様子から察するに、自分の恋は最初から叶うはずがない、って思ってて」

憩「そやからどんどんネガティブになって、辛い気持ちになっとるんやろうけど」

憩「ウチみたいな考え持った子も中にはおるやろうから、最初から諦めるのは早過ぎると思うで?」

姫子「ほ、本当ですか……?」

憩「姫子ちゃんの好きな子に彼氏さんがおるとかって話になったら、正直アレやけども」

姫子「そ、そげな話は聞いたことなかです! ぶちょーに彼氏なんて、そんな……!」

憩「ぶちょー?」

姫子「あ……」

憩「あーっと、姫子ちゃんが嫌なら何も訊かんし忘れるよう努めるけど」

姫子「いや、大丈夫とです……遅かれ早かれ、先生には話さんといけんかったことやと思いますし……」

憩「なら遠慮なく訊かせてもらうけども……部長っていうのは、白水さんのことであってる?」

姫子「……はい」モジ…

憩「そっかぁ、白水さんかぁ……なんかちょっと分かるかもやわ」アハハ

姫子「え……どげん意味とですか……?」

憩「ほら、白水さんって女の子が憧れるタイプの女の子って感じやん? カッコいい系というか。だから」

姫子「ぶちょーは先生にもモテるとですね……」ハァ

憩「ああいう子はやっぱ思わず目で追ってしまうわ」アハハ

憩「って、その言い様的に考えるに、白水さんやっぱしモテるん?」

姫子「……きゃーきゃー言われてるだけとです。本気でぶちょーのこと好きな人なんて……」

憩「まあ好きにも色々あるからね」

憩「ウチら……じゃなくて、姫子ちゃんくらいの年頃の子やと、ファン的な意味合いでの好きって子が普通やで」

姫子「やっぱり私はおかしかです……?」

憩「いや、おかしくはないと思うで? 本気の好きっていうのはその気持ちの延長みたいなもんやろうし」

姫子「延長、ですか……」

憩「そうそう。憧れとかを恋と勘違いするって思春期の子にはよくあることやから、姫子ちゃんももしかしたら」

姫子「憧れなんかじゃなかです! 私は本気でぶちょーのこと好きです! 愛してます!!」

憩(そういうこと言ったり思ったりするのも思春期特有の云々、とは言えんなぁ)アハハ…

憩「じゃあ例えば。白水さんとキスしたいと思う?」

姫子「なっ……」

憩「白水さんとキス以上のこと、したいと思う?」

姫子「……」

姫子「……」カァァ

憩(あ、この子ウチの想像以上に……)

姫子「し、したいかしたくないかで訊かれれば……されたい、です」モジ…

憩「そ、そっか……その答えも想像の斜め上やけど、まあ置いといて」

憩「なんかごめんな、疑ったりして」

姫子「そのことは気にしてなかですが、いきなり変なこと訊かんで欲しいとです……」

憩「こういうこと訊くと大抵の子は言葉詰まらせるから、姫子ちゃんはどうなんやろ、って気になってな」

姫子「……私は本気です」

憩「そこまでハッキリ言えるくらいやから、自分なりに気持ちの整理は付いてそうやね」

姫子「この気持ちについては……もう嫌になるくらい考えたですけん」

憩「そっか」

憩(これ以上ウチから堅苦しい事言う必要はなさそうやな)

姫子「だからこそ、どうすればいいのかが分からんとで……」

憩「告白は流石に勇気いるもんなぁ……ほとんどカミングアウトみたいなもんやし」

姫子「はい……それでもしぶちょーに嫌われたら……」ウルウル

憩「白水さんやったら嫌いになったりとかは無いと思うけども」

憩「姫子ちゃんと白水さんは仲良いんやろ?」

姫子「はい、ぶちょーとは中等部の頃からの付き合いです」

憩「ほえー、結構に年季入っとるんやね」

憩「それやったら尚更、気持ちを打ち明けたせいで避けられたり、ってのは無いで」

姫子「ばってん……」

憩「奥手になる気持ちはめっちゃよく分かるんやけどなー」

姫子「先生、私どげんしたらよかですか……?」

憩「うーん……正直なところ、この相談はウチだけで解決するにはちょっとしんどいかも」

姫子「そんな……」

憩「だから、姫子ちゃんがもし良かったらなんやけど……」

憩「この手の話に強い子に意見訊いてみようかな、って思うねん」

姫子「え?」

憩「姫子ちゃんと似たような境遇の子やから、色々と為になるかな、って」

姫子「似たような境遇ってことは……」

憩「ストレートに言うと、姫子ちゃんと同じ女の子を好きになった女の子、やね」

姫子「!」

憩「(思い浮かぶのはあの2人のどっちかやけど……今回の相談に向いてそうなのはあの子やな)

姫子「そそ、そんな人ばいるとですか!?」

憩「おるでー。その子やったら姫子ちゃんの気持ちもよく分かるやろうし、絶対にウチよりも為になるアドバイスしてくれるわ」ニコ

憩「今から呼んでみるなー」

姫子「お、お願いします!」


ピンポンパンポーン


憩『バスケットボール部1年の東横桃子さん。校内にいましたら、至急保健室まで来てください』

憩『繰り返します。バスケットボール部1年の……』

 
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

憩「練習中ですぐには来れんかもやけど、とりあえず気長に待とか」

姫子「1年生、ですか……」

憩「色恋沙汰にはかなりアグレッシブな子やから、話してみると価値観変わるかもやで」アハハ

憩(故に姫子ちゃんみたいな子に紹介するのはちょっと勇気の要ることなんやけど……)チラ

姫子(どげん子なんやろか……)ドキドキ

憩(なんとなく意気投合しそうな気がするし、何より姫子ちゃんの現状を変えるには打ってつけの子やろうから……良い結果に結びつくと信じたいなぁ)

とりあえず前半終了で
後半は……明日の深夜からのんびりいきます


――――――――――――――――――――――――――――


コンコン


姫子「!」

憩「はーい、どうぞー」

モモ「失礼するっす」ガチャ

憩「こんばんわモモちゃん。急に呼び出したりしてごめんやで」

モモ「校内放送で名前呼ばれるなんて初めてでしたから、めちゃくちゃビックリしたっすよ」

憩「呼び出しといてあれやけど、今時間もらっても大丈夫な感じ?」

モモ「大丈夫っすよ。ちょうど休憩してたところなんで」

モモ「それに呼び出されといて出向かない訳にも行かないっす」

憩「職権乱用してごめんやで」アハハ

モモ「それはそうと、一体何の用事っすか? 特に心当たりはないんすけど……」

憩「ちょっとモモちゃんに相談に乗って欲しくてな」

モモ「相談?」

憩「ウチの相談じゃなくてこの子の相談なんやけど」

姫子「はは、初めまして。剣道部2年の鶴田姫子言う者ですけん」ペコ

モモ「わわ、これは御丁寧に……私はバスケットボール部1年の東横桃子っす」ペコ

姫子「今日はその、東横さんにお話ば伺いたくて出向いて頂いた次第で……」

モモ「私の方が年下みたいっすから、出来ればそんな改まった喋り方せずに普通に話して欲しいんすけど……」アハハ

姫子「そ、そげなこと出来んとです! 東横さんほどの大先輩にそんな……!」

モモ「だ、大先輩?」

憩「ごめんなモモちゃん、盛大に意味不明やよな。ウチから説明させてもらうわ」アハハ

モモ「そうして貰えると助かるっす」


――――――――――――――――――――――――――――

憩「っていう訳でモモちゃんにここまで来てもらった訳なんやけども」

モモ「そんな甘く切ない事情があって……」

姫子「うぅ……」モジ…

憩「だから、モモちゃんの身の上話みたいなのを姫子ちゃんにしてあげてもらえたら」


モモ「分かるっす!!」


姫子「!?」

憩「!?」

モモ「鶴姫さん! めちゃくちゃよく分かるっすよその気持ち!!」ガシ

姫子「え、あ、っと……」

モモ「私も先輩にこの気持ちを打ち明けるまで悶々としてたっす! 夜も眠れなかったっす!」

モモ「鶴姫さんもその人と一緒にいるだけでドキドキしたり、自分の知らない誰かと仲良くしているのを見るたびに嫉妬したりするんすよね!」

姫子「!」

モモ「気付かれないようにこっそり後付けたり、誰もいない教室に侵入して私物を拝借したりするんすよね!」

憩「と、東横さん?」

姫子「そそ、それは……」カァァ

モモ「恥ずかしがらなくていいっすよ鶴姫さん! 私もよくしてるっすから!」

姫子「!?」

憩(この子はホンマに……)

モモ「好きな人にそういうことしちゃうのは普通のことっす」

モモ「全然おかしいことじゃないですし、むしろしない方がおかしいっすよ」

憩(いや、普通では無いと思うけども……)

姫子「好いちょる人に対してそーゆうこつしたりするんは普通かもしれんけど……私の場合、相手は同性で」

モモ「関係ないっす!!」

姫子「!」

モモ「好きって気持ちに異性も同性も関係ないっす!」

姫子「そ、そげなこと……!」

モモ「私は先輩が女だから好きになったんじゃありません。先輩が先輩だから好きになったんっす」

モモ「例え男だとしても絶対に好きになってた自信がありますし、先輩が今から男になったとしてもこの気持ちは変わりません」

モモ「鶴姫さんもそうじゃないんすか?」

姫子「っ……」

憩(モモちゃんはまっすぐやな……)

モモ「鶴姫さんのその気持ちは、おかしいって言われて諦められる程度の気持ちなんすか?」

姫子「そげなことなか!!」

姫子「私はぶちょーのこと好きやし諦める気も絶対にない!」

姫子「ばってん、ぶちょーに嫌われてまで……この気持ちを受け入れてもらいたいとは思わん……」

憩(姫子ちゃん……)

モモ「……その気持ちは痛いほどよく分かるっす」

モモ「私も少し前までまったく同じ風に思ってましたから……でも、だからこそハッキリ言えるっす」

モモ「そんな風に億病なままじゃ、一生前には進めないっすよ」

姫子「……」

モモ「自分と一緒に相手も前に進まないならそれでいいかもしれないっすけど……実際はそんなことないっす」

モモ「自分が立ち止まってる間にも相手はどんどん前に進んで、気付いた時には手が届かない場所にまで行ってしまって……」

モモ「もしそうなった時に、鶴姫さんは耐えられるっすか……?」

モモ「自分が大好きなその人のことを……諦めることは出来るんすか……?」

姫子「……」ウルウル

モモ「出来ないっすよね。私なら、一生後悔し続けると思うっす」

モモ「鶴姫さんもそう思うっすよね?」

姫子「ぐずっ……」コクリ

モモ「それならやっぱり……勇気を出して前に進んだ方がいいっすよ」

モモ「私はやる後悔よりやらない後悔の方が大きいと思うっす」

モモ「実際やらないと分からない事もたくさんあるはずっすから……それに、やることで想像もしなかったような新しい道が出来たりもするはずですし」

憩「……」ウンウン

モモ「絶対に失敗するって分かってるなら、こんな偉そうなことは言え無いんすけど……」

姫子「……」

モモ「ちなみに自分的にはどれくらい脈があると思うっすか?」

姫子「分からんけん……ぶちょーとの付き合いは長かし、仲も一番良かっち思うばってん、そげな風ば目で見られちょるとも思えんけんで……」

モモ「え、えっと……」

憩「その人との付き合いは長いし自分が一番仲ええと思うけど、そういう風に見られてるとも思えない、って言ってると思うわ」ボソ

モモ「先生すごいっすね……今のはちょっと分からなかったっす……」

憩(感極まって来てるせいで方言がキツなってきてるんやろなぁ……)アハハ

モモ「ちなみに鶴姫さんはどこの出身で……ってそんなことは後回しっすね」

モモ「付き合いが長くて一番仲が良いなら、気持ちが受け入れられなかったとしても嫌われたりはしないと思うっすけど……」

憩「それはウチも同意見なんやけど、それでもやっぱり怖いらしくて」

姫子「……」

モモ「自信が持てないんすね……気持ちはよく分かるっす……」

モモ「自分は相手のこと大好きでも、相手は本当に自分のこと好きなのか、とか考えだしたら止まらないっすもんね……」

姫子「そん気持ちばちかっぱ分かるけん……!」ウルウル

モモ「ち、ちかっぱ……?」

憩(これはウチも分からんなぁ……)

姫子「ばってん、そげなこと自分から訊く訳にもいかんし……訊いたら変に思われるやろうし……」ショボン

モモ「えーっと……」

憩「でも、そんなこと自分から訊くわけにもいかんし、って言ってるわ」ボソ

モモ「そんなことって、相手がどう思ってるか、ってことっすか?」ボソ

憩「たぶん……」

モモ「それなら私たちが訊いてきてあげるっすよ!!」

憩「!?」

姫子「えっ……?」

モモ「大切なのは相手の人が鶴姫さんのことをどう思ってるか、ってことっすよね」

モモ「つまり、もし少しでも脈アリな感じだったらその時点で勝負アリのハッピーエンド一直線ってことっすよ!」

憩「それはそうかもしれんけど……」

姫子「ばってん、もしぶちょーが全然そういう気持ちば持って無かったら……」

モモ「その時はその時っす! 自分が惚れさせてやる、ってくらいの気持ちでアタックすればいいっす!」

モモ「現に私はアタックしまくって先輩を落としたっす!」

姫子「す、すごか……」

憩(ちょっとでも脈があるんやったらアプローチも通用するんやろうけど、逆の場合は……)

モモ「そうと決まれば話は早いっす! 早速その人の所に乗り込んで偵察して来るっす!」

モモ「荒川先生と一緒に!」

憩「ちょっ」

姫子「ふ、二人とも部活げな仕事げなあるけんにそげなこと……」

モモ「鶴姫さんの恋が叶うかどうかの大切な時にそんなこと言ってられないっす!」

憩「も、モモちゃんちょっと待って」

憩「協力するのは全然そのつもりなんやけど、ウチが行ったとしても足手まといになるだけやと思うんやけど……」

モモ「何かあった時に先生が居ないと即不審者扱いっすから、保険の意味も込めて来てもらわないと困るっすよ」

憩(確かにモモちゃん1人で行かせるのは不安と言えば不安やなぁ……)

モモ「大丈夫っすよ。見つからなければ何の問題もないっすから」

憩「目的は白水さんが姫子ちゃんのことどう思ってるかを聞き出すってことやから、見つかる見つからんってのはずれてる気が……」

モモ「それじゃあ私たちは早速行ってくるっすね。その人は剣道部にいるっすか?」

姫子「う、うん……そやけど今は練習中で……」

モモ「大丈夫っす! 必ず有益な情報を持ち帰ってみせるっすから!」

モモ「さあ先生! 張り切って行くっすよ!」グイグイ

憩「姫子ちゃん、とりあえずお留守番しといて……出来るだけすぐ戻って来るから……」アハハ

姫子「わ、分かりました」


モモ「先生、私なんだか燃えて来たっす……!」ク

憩「燃えるのはええけど、あんまり暴走せんとってなー……」



姫子(大丈夫なんやろうか……)

また今日の17時くらいから再開します

 
―――――――――――――――――――――――――――

憩「さて。剣道部に来たのはええけど……」


メーン ヤァー タァー


モモ「絶賛練習中みたいっすね‥‥」

憩「剣道部の練習っていつまでやっとるんやろか?」

モモ「分かんないっす。バスケ部はいつも最終下校のちょっと前くらいまでやってるっすけど」

憩「とりあえず……終わるまで待とか。練習中に部長を連れ出す訳にもいかんし」

モモ「それもそうっすね……ところで」

憩「?」

モモ「部長、っていうのはどなたっすか!? 鶴姫さんの思い人はいずこに……!?」キラキラ

憩(モモちゃん興味津々やなぁ。気持ちは分からんでもないけど)アハハ

憩「えっと、緑髪をリボンで二つ結びしてる子が白水さんで……」キョロキョロ

モモ「ぱっと見そんな人いないっすけどー……」

憩「たぶん今練習してるんやと思うわ。ほら、面被っとると顔分からんし」

モモ「あ、なるほどっす」

モモ「となると、あの打ち合ってる人たちの中に……!」

憩(部長やし、流石に練習に参加してないってことは……)


パァン!!


モモ「す、凄い音っすね……あんなに強く叩かれて怪我しないっすか……?」

憩「あんだけ綺麗に一本取られてたら逆に痛くないんちゃうかな」アハハ

モモ「私がやられたら卒倒しそうっす……」

憩「防具ありでも痛い言うけどどんなもんなんやろなぁ……ってあの二人……」

モモ「?」

哩「こんで私の5戦5敗か」

智葉「いくらなんでも弱過ぎる。集中の欠片も感じられないぞ」

哩「……すまん」

智葉「はぁ……今日はもう終わりだ」

智葉「今のお前を相手にするくらいなら素振りでもしてた方がよっぽど練習になる」

哩「ぐっ……」

智葉「まったく主将ともあろう者が情けない……」

哩「うぅ……」



憩「モモちゃん、白水さんおったで」

モモ「え!? どこっすか!?」

憩「ほら、あそこに」

モモ「おおー、あれが鶴姫さんの思い人で……」キラキラ

憩(なんか様子おかしいように思えるけど、気のせいやろか……?)

智葉「……」ジト

哩「……」

智葉「……そんなに気になるなら捜しに行けばいいだろ」

哩「……無理や」

智葉「なら部活に集中しろ。私情を挟むな」

智葉「大会も近いんだぞ。主将であるお前がこのザマで他のヤツにどう示しを付けるつもりだ」

哩「うぅ……」

ダヴァン「さ、サトハ。今は練習中ですのでそのくらいにシテ……」

智葉「ったく……」

ダヴァン「二人とも、一旦休憩にしませンカ。1時間近く立て続けに試合をしてましたから疲れてるでショウ?」

哩「いや、私はまだ……!」

智葉「お前は一回頭を冷やせ。雑念を捨ててから戻ってこい、分かったな?」ギロ

哩「っ……」

智葉「ダヴァン、今から付き合え。地稽古だ。1時間ほどやるぞ」

ダヴァン「えっ」

智葉「ほら、早く準備しろ」

ダヴァン「ちょ、ちょっと待ってくだサイ。流石に1時間は……」


哩「……」


モモ「なんか一悶着あったみたいっすけど大丈夫っすかね……?」

憩「辻垣内さんらはともかく、白水さんは大丈夫じゃ無さそうやなぁ。見るからに落ち込んでるし」

モモ「先生、どうするっすか? あの様子の白水先輩を直撃するのは流石に……」

憩「他の子捕まえるにもみんな練習中やし、困ったなぁ」

モモ「鶴姫さんにあんなこと言っちゃった手前、何も収穫無しに帰る訳にも行かないっすし……」

憩「しょうがないな。今日はタイミングが悪かったってことで退却……」

モモ「あ! 白水さんがこっち来るっす! 隠れるっすよ先生!」グイ

憩「え、ちょっ……」


哩「……」トボトボ

 
 


―――――――――――――――――――――――――――


哩「……」


モモ「白水先輩どこに向かってるっすかね……?」

憩「分からんなぁ。そもそもなんで剣道場から出て来たんかもよう分からんし」

モモ「剣道着姿のままっすから、帰るってわけじゃなさそうっすけど……あ、止まったっす」

憩「水飲み場? ってことは……」


哩「ん……」ゴクゴク


モモ「……水飲みに来ただけっすか」

憩「休憩するためにここまで来た、って言うなら納得やわ」

モモ「鶴姫さんのこと訊くなら今がチャンスっすけど……」


哩「……はぁ」


憩「あの雰囲気の白水さんに話しかけるのはちょっと勇気要りそうやね」アハハ

モモ「も、もうちょっと様子見するっす」

憩(そもそもなんであんなにも落ち込んでるんやろうか……?)

憩(辻垣内さんに何か言われてああなってるっぽいけど……)ウーン

 
 
哩「姫子……」ボソ



モモ「!?」

憩「!?」

モモ「先生! 今白水先輩姫子って言ったっすよね!?」

憩「も、モモちゃん。ちょっとだけ声のトーン落とそか」アハハ…

モモ「どういうことっすか!? 独り言で誰かの名前呼ぶってなかなかのことだと思うっすけど!?」コゴエ

憩「うーん……白水さんの様子を見て素直に考えるんやったら、」

憩「あそこまで落ち込んでるのに姫子ちゃんが関係してる、ってことなんやろうけど……」

モモ「ってことはつまり……!」

憩「いや、それは流石に都合よく考え過ぎな気が……」


哩「はぁ……」トボトボ


モモ「また歩き始めたっす! 追いかけるっすよ先生!」グイ

憩(こういうのはあんまり良い気分せえへんやけどなぁ……)アハハ


――――――――――――――――――――――――――――


哩「……」


モモ「白水先輩、次はどこに向かってるっすかね?」

憩「さっき来た道そのまま戻ってるから、剣道場なんちゃうかな」

モモ「あれで休憩終わりっすか? 短過ぎるような気がするっすけど……」

憩「剣道場におらんと落ち着かんのとちゃう? 部長ってそういう子多いし」

モモ「上の立場になると責任感が強くなるっすかね? 私には分かんないっす」

憩「モモちゃんも次期バスケットボール部部長やろうし、分かる時が来るで」

モモ「こんな私が塞先輩みたいな部長になんて、生まれ変わってもなれないと思うんすけど……」アハハ

憩「ってあれ、剣道場スルーしてもうた」

モモ「一体どこに向かって……?」

憩「剣道部の部室ちゃうかな? 更衣室って言い方のがあってるかもやけど」

モモ「剣道部の部室って……あー、あれっすか」

憩「見た目和風やからまあまあ印象に付くねんなぁ、あの建物」

モモ「そういえば体育の帰りとかでよく見かけるっすね」

憩「って話してる間に中入ってもうたな」

モモ「尾行はここまでっすか……」

憩(なんで尾行してるんかもよう分からんかったけども……)アハハ

憩「さて、どうしよっか。あくまで本人に姫子ちゃんのこと訊くんやったら、白水さんが出て来るの待たなあかんけど」

モモ「……これ以上鶴姫さんを待たせるのは申し訳ないっす」

モモ「だから、傷心のとこ申し訳ないっすが、少し話をさせてもらいましょう」

憩「……白水さんにはちょっと悪いけど、そうするのが一番やね」

憩(後日話を伺ってもええかもやけど……これ以上姫子ちゃんをヤキモキさせるのは可哀想やわ)

モモ「そうと決まれば早速突撃っす!」

とりあえずこの辺までで
3日以内には続きいきます。たぶん次で姫子編終わらせられる……はず

3日以内とか適当なこと言ってすみませんでした……

 
 
コンコンコン



モモ「……」

憩「……」


コンコンコン


モモ「……」

憩(あれ?)

モモ「どうしたんすかね? 白水さん中にいるはずっすけど……」

憩「居留守使うってことは無いやろうし、ノックの音聞こえてないんちゃうかな?」

モモ「そんなことあるっすか?」

憩「ほら、トイレ行ってるとかやと気付かんやろうし」

モモ「え、剣道部の部室ってトイレあるんすか?」

憩「……」

モモ「普通の部室には備え付けられて無いと思うっすけど……」

憩「確かにそれはそうやわ……じゃあなんで白水さんは……?」


ガチャ


モモ「あ、開いてるっす」

憩「!?」

モモ「先生、今さらっすけどこれって入っていいんすかね?」

憩「開けてから確認取るようなことでも無い気と思うけどー……」

モモ「ここで立ち往生してる暇は無いっすから、マナー悪いっすけどお邪魔するっす」テクテク

憩(あとで白水さんに謝れば大丈夫やろか)

モモ「うわー、なんかすごいっすね……剣道部の部室ってこんな風になってて……」キラキラ

憩「そういえばウチも初めて入るわ。まあまあに広いんやなぁ」

モモ「他の部の部室に入るとなんかテンション上がっちゃうっす!」

憩「ふふ、その気持ちちょっと分かるかもやわ」

憩「ウチら教師でもこういう場所は普段入らんから……」キョロキョロ

モモ「?」

モモ「どうしたっすか先生?」

憩「いや、白水さんおらへんなー、思って」

モモ「あ、そういえば……」

憩「更衣室におるんかな? それやったらノック聞こえへんかったのも納得やけど」

モモ「更衣室……あの部屋っすかね?」

憩「分からんなぁ……まあええわ。ここはもう手っ取り早くいこか」

モモ「手っ取り早く?」


憩「すみませーん、剣道部部長の白水哩さんはいらっしゃいますかー」


モモ「あ、なるほど……」

憩「白水さーん」


「…………」


憩「あ、あっれー……?」

モモ「まさかの反応無しっすね」

憩「ちょっと意味分からんなって来たかも……」

モモ「着替えてるとしても声が聞こえないってことはないっすもんね」

憩「……ちょっと気引けるけど、中探してみよか」

モモ「了解っす。まずはあの更衣室と思われる部屋から……」

憩(広いのはこの部屋だけやろうし、この部室におってウチの声が聞こえへんなんてことは……)

モモ「先生、白水さん居たっす」

憩「え」

モモ「私たち二人とも頭であれこれ考え過ぎてただけみたいっすね」アハハ

憩「どういう意味かイマイチ分からんのやけど……」テクテク


シャァァァァァァァ


モモ「シャワールームっす」

憩「……なるほどな」

憩「そらノックもウチの声も聞こえへんわけやわ」

モモ「ここがシャワー室で、この先が更衣室になってるっすか」

憩「シャワー浴びてから更衣室に行けるから便利そうやねー」

モモ「部室にシャワールームがあるなんて羨ましいっす……」

憩「剣道部は特に臭いがキツくなりやすいから特別やで」アハハ

憩「しかしまあ良かったわ。白水さんが失踪したりしてへんで」

モモ「一時はどうなるかと思ったすけどこれで一安心っすね」

憩「とりあえずおるのも確認したことやし、白水さん出て来るまで外で待ってよか」

モモ「了解っす」


憩(いよいよ白水さんと話すことになるって思うとちょっと緊張するなぁ)

憩(落ち込んでるみたいやったから、そのことも訊きたいところやけど……果たしてどうなるか)

憩(モモちゃんがヒートアップせんかったらええけども……)チラ

モモ(鶴姫さん……! すぐに良い知らせを持ってくるっすから待ってるっすよ……!)メラメラメラ

憩「あはは……」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

モモ「……出て来ないっすね」

憩「まだそんなに時間経ってないと思うで?」

モモ「いや、10分近く待ってるはずっすけど」

憩「ほら、着替えとかもあるやろうし時間かかるんとちゃう?」

モモ「でもシャワー浴びるだけにしては遅くないっすか?」

憩「それは……」

モモ「練習の疲れが出て更衣室の中で寝ちゃってるという可能性が……」

憩「……あるかもやね。ちょっと様子見にいこか」

モモ「了解っす」


憩(うーん、なんやろうかこの感じ……胸騒ぎがするというか、嫌な予感がするというか……)

モモ「シャワー室にはいないっすね……ってことは更衣室に……」

憩「ま、待ってモモちゃん。やっぱりもうちょっと待たへん?」

モモ「どういうことっすか? これ以上鶴姫さんを待たせるわけにはいかないと思うっすけど」

憩「いや、そうなんやけども。なんていうか、今はまずい気が……」

モモ「……?」

モモ「よく分かんないっすけど、先生がそう言うならもう少し様子を伺うっす」

憩「ありがとうなー」

モモ「とりあえず、白水さんがいるかだけこっそり確認してくるっすね」

憩(この感覚がして良い事が起こった経験ってあんまりないからなぁ……モモちゃんの聞き分けが良くて助かるわ)


モモ「……」テクテク

憩「……」

憩「って。ちょ、まま、待ってモモちゃ―――」


ガチャ


憩(更衣室への扉が開かれたその瞬間……時間が止まったような、そんな気がしました)

哩「んっ、ぁ……」


モモ「……」

憩「……」


哩「ぁ、ふぁっ……」


モモ「……」

憩「……」


哩「姫子っ、姫子ぉ……」


バタン


モモ「……せ、先生。これは」

憩「えっと……うん。あの、何も見んかったことにした方がええと思うわ」アハハ…

モモ「そ、そうっすよね。その、私もしたことあるか無いかで言えばしたことあるっすから、別に何もおかしいことはな」

憩「も、モモちゃん落ち着いて!! めっちゃ顔赤なってるから!」

モモ「と、とにかく早急にここから脱出するっす!」

憩「そ、そうやな。白水さんはウチらに気付いてなかったみたいやし、今やったら全てを闇に葬り去って……」


智葉「何を闇に葬り去ると言うんです?」


憩「!?」

モモ「なっ!!」


智葉「……荒川先生。一体誰の許可を取って剣道部の部室に入っているんですか?」

憩「つつ、辻垣内さん? あのな、これには深い訳が」

智葉「養護教諭と言えど、顧問でも無い人間が関係の無い部室に勝手に入るのは些か常識が欠けていると思われますが」ギロ

憩「そ、それは、その……」

 

「んぁああああ!!」


モモ「」

憩「」

智葉「はぁ……あのバカ……」

智葉「少し場所を変えましょう。ここじゃ色々と都合が悪い」

智葉「付いて来てください」

智葉「無論、あなたたちに拒否権はありませんが」スチャ…

モモ「あわわわわ……」カタカタ…

憩(人間ってこんなにも冷や汗かけるんやなー……)アハハ…

書き溜めなくなったんで遅くなります

 
――――――――――――――――――――――――――――――――――

憩「……」

モモ「……」


智葉「……」


憩(め、めっちゃ気まずい……)

モモ(てかこの人めちゃくちゃ怖いっす!! 醸し出すオーラが女子高生のそれじゃないっす!!)

憩(穏便に済ませればええんやけども……)

智葉「……単刀直入に聞くが、どこまで見た?」

憩「ど、どこまでとは……?」

智葉「質問を変えよう。あそこに白水がいたが……お前らは一体何を見た?」ギロ

モモ(怖い! 怖いっす!! ナチュラルに先生にタメ口使ってますし!)

智葉「釘を刺して置くが……何も見ていない、というのが通用するとは思うなよ」

智葉「無論その心意気は結構だが、今は腹を割って話してもらいたい。いや、話してもらう」

智葉「もし嘘を吐いたりこのことを口外しようものなら……どうなるかは分かっているな?」スチャ

モモ「ああ、荒川先生……!」カタカタ

憩「はぁ……教師を脅しにかけるなんて前代未聞やで辻垣内さん……」

智葉「脅しをかけられても仕方が無いことをしたのはそちらだと思うが」

憩「それはそうやけども……」

智葉「質問に戻る。お前らは一体更衣室で何を見た? もはや訊くまでもないと思うが念のために訊いておく」

憩「えっと……白水さんが、その……あれを……」

モモ「わ、私は何も恥じる事じゃないと思うっす! 無論非難されることでも無いし見ちゃったからと言って」

智葉「黙れ」

モモ「ごめんなさい!」

智葉「……白水の自慰行為を見た。それで間違いないな?」

憩「……ふ、不本意ながら」

智葉「はぁ……そうか」

憩「辻垣内さんは驚いてないみたいやけど……白水さんが部室でああいうことしてる、ってのは知ってたん?」

智葉「ああ、今まで10回以上は目撃している」

モモ「!?」

智葉「その都度やめろと何度も言っているが……あの雌犬は一向にやめようとしない」

智葉「一度病院送りにしてやったこともあるんだがな」

憩「あ、あはは……えと、それって部の風紀的に大丈夫なん……?」

智葉「大丈夫なわけないだろう。だからこうやって口止めをしている」

憩「ってことは、他の剣道部の子たちもこのことを知って……?」

智葉「ああ。と言っても、白水自身もそのあたりは気を付けているから、認知しているのは部内で3人もいないがな」

モモ「ならなんで辻垣内さんは10回以上も目撃して……」

智葉「知らん。よっぽどタイミングが合うのか、わざと私にだけ見せつけているんじゃないのか」

モモ「え、エニグマティックすね……」

憩「そういうことするんは、その……まあ分からんでもないんやけど」

憩「なんで家でせえへんやろうか?」

智葉「私は常人だ。変態の考えることなんて分かるはずがないだろう」

モモ「私は分かるっす!!」

憩「!?」

モモ「白水さんの甘く切ない気持ちがすごーく分かるっす!」

智葉「……何故そう思うのか。参考までに訊かせてもらおうか」

モモ「白水さんが鶴姫さんのこと大好きだからっすよ」

憩「え……?」

智葉「……」

モモ「白水さんが行為に励んでいた時、確かに鶴姫さんの名前を呼んでいました」

モモ「それに加えてオカズらしき物は手に持っていた道着……状況から考えて、鶴姫さんの物と考えるのが当然っす」

モモ「つまり、白水さんのお気に入りのオカズが鶴姫さんの道着だから、その道着がある部室でしちゃうんすよ!」

モモ「見つかるかもっていう緊張感と背徳感も相まって、きっとめちゃくちゃ気持ち良くて……!」

憩「も、モモちゃんもうええで。もう十分ってほど分かったから」

智葉「……」

モモ「冷ややかな視線を向けないで欲しいっす!!」

智葉「この学校には変態しかいないのか……」ハァ

憩「変人の割合は多いけども……」アハハ

モモ「喋らせておいてその反応はあまりに酷くないっすか!?」

智葉「話を戻すが……つまり、鶴田の道着があるからアイツは執拗に部室での自慰に拘る、ということか」

モモ「その可能性は極めて高いと思うっす」

智葉「……同類が言う事だ、説得力はある。早速対応させてもらおう」

智葉「鶴田には毎日道着を持ち帰らせて……」

憩「辻垣内さん。素朴な疑問なんやけど……ええかな?」

智葉「なんだ」

憩「白水さんが姫子ちゃんのこと好きってことは知っとるんやんな?」

智葉「当然だ」

憩「じゃあ姫子ちゃんが白水さんのこと好きってことも……」

智葉「知っている。部内で気付いていないのは本人たちくらいだろう」

憩「……」

モモ「やっぱり2人は相思相愛だったんすね!! 朗報っす先生!」

モモ「鶴姫さんの思いは届いていたんすよ! もうこれ以上悩むことは……」


憩「2人を恋人同士にしてあげようとは思わんかったの?」


モモ「え?」

智葉「……」

憩「白水さんに自慰をやめさせたいなら、それが一番手っ取り早くて本人らにとっても幸せなことやと思うんやけど」

モモ「言われてみれば……」

智葉「噂通りの賢明さだな、荒川憩」

憩「……何か深い事情があるんやったら、相談くらいには乗るで?」

智葉「さて、どうするかな」クス

モモ「えっ、えっ。どど、どういうことっすか? なんすかその意味深な雰囲気は!?」

モモ「も、もしかして辻垣内さん白水さんのこと……!?」

智葉「ふざけるな。私にそんな趣味は無い」

モモ「……じゃあどうして2人のキューピッドになってあげなかったんすか」

モモ「鶴姫さんが白水さんのこと好きって知ってたんすよね?」

智葉「ああ。恋愛対象として見ていたのは明白だった」

モモ「なら鶴姫さんが白水さんに対する恋心で苦しんでいることも知っていたはずっす。……違うっすか」

憩「……」

智葉「その通りだ。事実、鶴田は白水を意識するあまり、体調を崩して部活を休むことが多かった」

智葉「白水もそのことに影響され、酷く剣道の調子を落とすことが度々あった。……まったく、迷惑な話だ」

モモ「迷惑な話って……なんすかそれ。あの2人の恋心が迷惑だって言うんすか?」

智葉「ああ、迷惑だ」

モモ「……」ギロ…

憩(なーんか不穏な空気が……)

モモ「……なんすかそれ」

モモ「あの2人がどれだけお互いのことで苦しんでいたか、辻垣内さんには分からなかったんすか」

智葉「当たり前だ。私は恋愛をしたことも無ければ同性愛者でも無い」

智葉「アイツらの気持ちを理解していたと宣う方が無礼極まりない。違うか?」

モモ「それは……」

智葉「アイツらが部にとって取るに足らない人間なら、私は心底どうでもいい」

智葉「どこで乳繰り上おうが情を通わせていようが構わない。勝手にすればいい」

智葉「しかし、現実は違う。鶴田は2年にして全国大会団体戦の副将で、次期部長を望まれる立場であり」

智葉「白水は現部長で不動の大将でありエースだ。この2人が部にもたらす影響がどれだけの物なのか……部外者のお前に理解出来るか?」

モモ「っ……」

智葉「もしあの2人が恋人同士になんてなってみろ」

智葉「それこそ白水の部室で自慰なんて目じゃない、洒落にならないことが起こるぞ」

憩(まあ、そうなるやろうなぁ……)

モモ「あ、あの2人は問題になるようなことなんて絶対にしないっす!」

モモ「互いのことと同じ以上に剣道部も愛してるっすから、剣道部に不利益になるようなことなんて……!」

智葉「片方は大会前に関わらず1週間近く無断で部活を休み」

智葉「片方は部室での自慰を常習的に繰り返す有様だぞ。現段階でも十分に不利益を被ってるんだが……」

モモ「うっ」

智葉「今日昨日アイツらに会ったばかりのお前がどうこう言える問題じゃないんだ。分かったら口を慎め馬鹿者が」

モモ「うぅぅ……」

憩(強いなぁ)アハハ…

智葉「他の部はどうか知らんが、剣道部は恋愛禁止だ」

智葉「これは創立当時から守られている鉄の掟であり、その身も心も全て剣に捧げるという覚悟と誓いでもある」

智葉「にも関わらずあのバカ2人は……」ハァ

モモ「ちゃ、ちゃんと守って恋愛してないじゃないっすか! そこはセーフっすよセーフ!」

智葉「中途半端にいられる方がよっぽど迷惑だ」

智葉「恋心に現を抜かすくらいなら部から出て行けと言ってもまったく聞かないし……迷惑極まりない」

智葉「部をやめるか恋心を諦めるかどっちかにすればいいものを……」

智葉「そもそも一生恋愛をするなと言っているわけでもないのに、どうしてあのバカ2人は……」

憩「辻垣内さんストップストップ。愚痴になってきてるから」アハハ

智葉「……失礼」

モモ「でも、恋愛と部活の両天秤はあまりに残酷っす……」

智葉「あの2人が原因で他の部員の努力の全てが水泡に帰す可能性があるんだぞ、そっちの方がよっぽど残酷だ」

モモ(ぐ、ぐうの音も出ないっす……)

憩「確かに校内での不純異性交遊……じゃなくて不純同性交遊なんかが表沙汰になったら大問題やからなぁ」

智葉「確実に大会は出場禁止、伝統ある剣道部の名誉は地に墜ちる」

智葉「白水のアレでさえ外部に漏れれば相当にまずい。剣道部全体のイメージ問題に繋がる」

モモ「いろんな柵があって大変なんすね……」

智葉「組織に属するということはそこのルールに囚われるということだ」

智葉「どんな世界でもルールを守れないヤツは排除される……私は常識の話をしているだけだ」

憩「まあ、辻垣内さんが正しいね」

モモ「そんな……」

智葉「荒川憩。お前の賢明さは理解しているつもりだが、釘は刺して置く……妙な真似はしてくれるなよ」

憩「……」

智葉「そこのバカにもしっかり首輪を付けておけ」


智葉「もし不要に事が荒立つようなら……骨の一本じゃ済まないぞ」


モモ「っ……」ゾク…

憩「おっかないなぁ」アハハ

憩「まあでも、その心配は無いから安心してや」

憩「辻垣内さんの言ってる事は理解出来るし、正しいとも思えるし」

モモ「……」

憩「それにウチは生徒が不幸になるようなことは絶対にせえへんから」

憩「辻垣内さんもそうやろ?」ニコ

智葉「……」

憩「まあでも……辻垣内さんが部のみんなの幸せを一番に考えるように、ウチも生徒の幸せを一番に考えさせてもらうけど」

智葉「……言っておくが、一切の妥協はしないぞ」

憩「生徒ってのは辻垣内さんのことも含まれてるんやで?」クス

智葉「……食えないヤツだ」フッ

モモ(な、なんか荒川先生めっちゃカッコいいっす……!)

憩「さて、そろそろ戻ろかモモちゃん。姫子ちゃん待ちぼうけてるやろうし」

智葉「……」

モモ「え……い、言っちゃっていいんすかそれ!?」

憩「ウチらがどんな目的でここに来たかくらい辻垣内さん気付いてるやろうから」

智葉「……鶴田に一言伝えておいてくれ」


智葉「明日必ず部活に来い。一週間の無断欠席はそれで不問にしてやる、と」


モモ「辻垣内さん……」

憩「了解ですー」ニコ

智葉「もし来なかったら強制退部だとも伝えておけ」

憩「あはは……」

モモ(ほ、本気で退部させそうで笑えないっす……)

憩「んじゃまたね辻垣内さん。なんか悩み事あったら相談してな」

憩「1人で抱え込むのは良くないで?」

智葉「それはお前にも言えることだと思うが」

憩(竹井さん並に大人な子というか、厄介な子やなぁ……)アハハ

憩「あと、教師に対してはちゃんと敬語使うこと。お前とか言わない。分かった?」ジト

智葉「……年下に丁寧語で喋るのはどうも気が乗らないんだが」

憩「なっ」

モモ「年下?」

憩「なななな……!?」

智葉「失言です。大変失礼しました」


智葉「荒川先生」フッ


憩「……」

モモ「??」

オチまでちょっと休憩

 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

憩(あの口ぶり……辻垣内さん絶対ウチのこと気付いてたよな……?)

憩(な、なんでバレたんやろか……自分から喋る以外で気付かれるなんて始めてやし……)

モモ「先生、鶴姫さんになんて報告するつもりなんすか?」

憩「へっ? あ、えっと……分かったことを言うだけやで? 2人は相思相愛やで、って」

モモ「え……そ、そりゃ私もそう言って背中押してあげたいっすけど……」

憩「なんとなくやけど、辻垣内さんの本心は別にあると思うから」

モモ「どういうことっすか?」

憩(……今は余計なことは考えずに、やな)

憩「言ってたやろ? 現状でも十分な不利益を被ってる、って」

憩「常に何かしらのリスクのある2人を退部させへん、ってのもおかしい話やと思わへん?」

モモ「それはあの2人が部にとって必要な人間だからっすよ」

モモ「エースで部長に次期部長の2人をやめさせられるわけがないっす」

憩「それでも辻垣内さんやったら容赦なくやめさせると思うねんなぁ」

憩「あれだけ規律とか和を重んじてる人が、それを乱す人間を許すはずがないから」

モモ「それはそうっすけど……」

モモ「でも、それならなんで2人を退部させないんすか?」

モモ「今起きてる事も一度や二度だけじゃなさそうなのに、ますます意図がわからないっす」

憩「なんやかんやであの2人のこと大好きなんやと思うで?」

モモ「そ、そんな理由ってあるっすか? それこそ私情を挟むような人じゃないと思うっすけど」

憩「だからこそ辻垣内さんも悩んでそうやねんなぁ」

憩「立場的に2人の関係を後押しする訳にも行かず、かと言って心を鬼にする事も出来んやろうから」

憩「その証拠にどっちつかずの状態が今まで続いてるんやろうし」

モモ「……この相談、先生はどう決着するのが一番だと思うっすか?」

モモ「私は鶴姫さんと白水さんが結ばれればそれが一番だと思うっす。でも……」

憩「姫子ちゃんらが結ばれて、なおかつ辻垣内さんに認めてもらう」

憩「それでええんちゃうかな」

モモ「そんなのって……」

憩「無理かどうかを決めるのはあの2人やで」ニコ

憩「ウチに出来る事は……そのための道筋を用意してあげることやな」


ガチャ


憩「お待たせ姫子ちゃん」


姫子「……先生」

憩「ごめんな長い時間待たせてもうて。ちょっと色々あって」アハハ

姫子「全然大丈夫です……そっか、もうそげな時間経って……」

モモ(鶴姫さん、目が……)

姫子「東横さんもおかえり。……ありがとうな、私のためにわざわざ」

モモ「……ごめんなさい」

憩「……」

姫子「なんで謝ると? 頭下げるのは私の方で……」

モモ「その目……いっぱい泣いてたんすよね。待ってる間、不安でしょうがなくて」

姫子「……東横さんはすごかね」グス

姫子「なんで初めて会ったばっかやけん私のことそんなに分かると?」

モモ「たぶん似た者同士だからだと思うっす。他人とは思えないほどシンパシー感じますし」アハハ

姫子(似た者同士……)

憩(今まで1人で悩んで来た姫子ちゃんからすれば、自分の気持ちを理解してくれる人は貴重な存在やろうな)

モモ「鶴姫さん、そんな風に泣くのも今日で最後っすよ」

姫子「えっ?」

モモ「白水さんの姫子ちゃん対する気持ち、ばっちりリサーチして来ましたから!」

姫子「……」

憩「結果がどうやったか。聞くの怖い?」

姫子「怖いか怖くないかで言えば……怖くて仕方なかです」

姫子「でも、それでも聞きたい……もう吹っ切れてるけん」キッ

憩(覚悟は出来てる、か)

モモ「……先生、もう言ってもいいっすよね?」

憩「うん、問題はこのあとやからぱぱっといこか」ニコ

モモ「ゴーサインも出たんで早速報告させてもらうっす!」

モモ「鶴姫さん、あなたと白水さんは相思相愛っす!!」

姫子「!」

モモ「もちろん先輩後輩の垣根を超えた意味で!」

姫子「ほ、本当に……?」

モモ「本当っす! 鶴姫さんが思ってる10倍は鶴姫さんにぞっこんだと思ってくれて構いません!」

モモ「だからこれからは悩む必要も泣く必要もないっす!!」

姫子「ぶちょーが、私を……」ポロ…

憩「……ただ、告白して結ばれるかどうかは分からんと思うわ」

憩「剣道部の恋愛禁止については姫子ちゃんの方がよう知っとるよな?」

姫子「はい、知ってます。だから、付き合うとかってつもりは最初からなかとです」グス

モモ「え……?」

憩(これはちょっと予想外かも……というより、ウチは一番大切なことを忘れて……)

姫子「2人とも、私のために本当にありがとうございました」ペコ

姫子「私のこん気持ちについて真剣に考えてくれた上に、ぶちょーの気持ちまで……」

モモ「ちょ、ちょっと待ってください鶴姫さん! 付き合うつもり無いってどういうことっすか?」

モモ「それってつまり、自分の気持ちを白水さんに打ち明ける気が無いってことっすよね?」

姫子「……今は大会前やけん。ぶちょーに余計なことは考えて欲しくなか」

モモ「そ、そんなのって……」

憩(ここに相談に来た時もそうやった)

憩(自分の気持ちについてどう思うかを訊いただけで、姫子ちゃんは白水さんと恋仲になりたいなんて一言も言ってない)

憩(私が勝手に姫子ちゃんの気持ちを作り上げてしまってた……そもそも前提から間違ってたんや、私のやってたことは……)

モモ「すみません、ちょっと確認させてもらうっすね……」

モモ「鶴姫さんはどういう目的で荒川先生にこの相談をしたんすか?」

姫子「ぶちょーに対するこの気持ちばどうすればいいか教えてもらいたかったけん」

モモ「で、でも気持ちを打ち明けることは出来ないって分かってたんすよね?」

姫子「うん。そのこともあってなんもかんも分からんくなってたけど……今は自分がどうしたいかハッキリ分かっちばい」

姫子「私が引退したら、絶対ぶちょーに告白する」

姫子「こう決心させてくれたんは2人のおかげやけん。本当にありがとうな」ニコ

モモ「……」

憩(まあ、拍子抜けっていうのはおかしいけど、肩の力抜けるよな……)

憩(ウチらはてっきり姫子ちゃんが白水さんと今すぐ付き合いたいんやと思ってて、)

憩(その上で辻垣内さんをどう説得するかを考えてたわけやから……)

憩(そらそうやよな、姫子ちゃんにとっても剣道部は大切な場所なんやから、その考えは何もおかしくない。正解やと思う)


憩(ただそれは……姫子ちゃんだけの事情を考えたら、の話や)

モモ「……ダメっすよ」

姫子「えっ?」

モモ「今すぐちゃんと気持ちを伝えなきゃダメっす鶴姫さん! 気持ちを伝えて、ちゃんと結ばれて……!」

姫子「ど、どげんしたと東横さん……? なんでそげなこと……」

憩「モモちゃんもやっぱそう思うよな。ウチもそう思うわ」

姫子「どげんゆうこつ、ですか……?」

憩「姫子ちゃんが白水さんのことで悩んでたように、白水さんも姫子ちゃんのことで悩んでんねん」

姫子「!」

モモ「それこそ剣道にも全然身が入ってないみたいでした……だから、このまま白水さんを放っとく訳にはいかないんすよ」

姫子「ぶちょーが、私のことで……」

憩「姫子ちゃんのその気持ちを伝えてあげるだけで白水さんは元気になると思うんやけど……」

姫子「む、無理です……今気持ちば伝えるなんて、そんな……」

姫子「そもそも剣道部は恋愛禁止やし、その上みんなに私らのこと話すなんて出来るわけなかと……」

モモ「そこは心配しなくていいっす!」

モモ「鶴姫さんと白水さん以外の部員は全員2人の気持ちを知ってるらしいっすから!」

姫子「なっ」

モモ「今まで部員の方に変な目で見られたり避けられたりしたことあるっすか?」

姫子「……」

モモ「無いっすよね? つまりみんな2人のことを認めてるし陰ながら応援してるんすよ!」

モモ「だからその点は大丈夫っす!!」

憩「問題があるとすれば恋愛禁止っていう剣道部のルールと、それを副部長として守ろうとする辻垣内さんの存在やな」

憩「もし他に辻垣内さんと同じことを思ってる部員がおっても、辻垣内さんが認めればみんな認めてくれるやろうし」

モモ「そんな人いないと思うっすけどね!」

姫子「それこそ無理です……あの人に創設当時から守られてる部のルールば破らせるなんてこと、絶対に……」

憩「それは副部長としての立場があるからやと思うで?」

憩「辻垣内さん自身は2人のこと絶対に応援したいと思ってるよ」

姫子「もし仮に智葉さん自身がそう思ってたしても……」

モモ「……」


憩「……姫子ちゃんが気持ち伝えてあげな、白水さんはずっと苦しんだままやで」


姫子「!!」

憩「姫子ちゃんはそれでもええの?」

姫子「……良くなか、です」

憩「なら伝えてあげな。白水さんを楽に出来るのは姫子ちゃんだけなんやから」

姫子(私、だけ……)

モモ「……先生、辻垣内さんはどうするつもりっすか?」

モモ「2人が互いの気持ちを知ったとしても、結局はあの人、いや部のルールをなんとかしないと……」

憩「辻垣内さんと話して思ったんやけど、恋愛禁止ってルールの根幹は剣道に身が入らなくなるからやと思うねんな」

憩「現に白水さんは姫子ちゃんのこと意識して調子崩してるらしいし、姫子ちゃんは剣道部行ってなかったらしいし」

姫子「最近はぶちょーが近くにおると剣道のこと考えれんくて……」

憩「つまり、剣道に支障が出えへんかったら問題ないんやないかな?」

憩「もっと言えば、恋愛してるからこそ剣道が強くなるとかってなれば」

姫子「!」

モモ「確かに……そうなれば辻垣内さんに2人の交際を咎める理由がなくなるっす!」

姫子「私が、剣道で力を示せば……」

憩「姫子ちゃん、辻垣内さんと試合して勝ったことある?」

姫子「一度もなかとです……本気のあの人に勝ったことあるのはぶちょーくらいで……」

憩「じゃあ試合申し込もうか。勝てば白水さんとの交際を認めてもらうってことにして」ニコ

姫子「へっ!?」

モモ「名案っす先生! 一度も勝った事のない鶴姫さんが勝てば、それはまさに白水さんへの愛があったからと証明できるっす!」

憩「剣道部のことは剣道で決着つけた方が分かり易いやろうしね」

モモ「鶴姫さん! 今こそ愛の力を見せる時っすよ!!」

姫子「むむ、無理やけん! 智葉さんはインハイの個人戦で優勝しとーとよ!?」

モモ「え……ってことは日本で一番剣道が強い女子高生ってことっすか!?」

姫子「うん……そげな人に真剣勝負で勝つなんて……」

憩「伝統と歴史ある剣道部のルールを変えるんやから、そんくらいのことはせんとな」ニコ

モモ「も、もし負ければ退部とかになんないっすかね……?」

モモ「辻垣内さんのことだったら、それくらいの条件は吹っかけて来そうな……」

憩「白水さんも一緒にやめさせられるかもね」アハハ

姫子「それだけは絶対にダメです! 私がやめさせられるならまだしもそげなこと絶対……!」

憩「まあ、ウチが出来るのはあくまで提案だけやから」

憩「やるかどうかは姫子ちゃん次第やで。もちろんやらずに今のままを続けるってのも1つの選択やし」

憩「ただ、今のままじゃ誰も幸せにはならんと思うかな」

憩「姫子ちゃんも白水さんも……それこそ辻垣内さんも」

姫子「……」

モモ(鶴姫さん……)

憩「ウチは一応みんなが幸せになれる答えを考えたつもりやけど、これ以外の方法は思い浮かばんわ」

憩「これ以上力になれそうもないし……これにて一応相談は終わり、ってことでええかな」

モモ「そんな……」

姫子「いや、これで良かよ東横さん。これ以上を求めるんは甘え過ぎやし、ここからは剣道部の問題やけん」

憩「やる気になってきた感じ?」

姫子「……先生の言う通り、ぶちょーば救えるんは私だけですから」

姫子「それに智葉さんや部のみんなにも、かけてきた迷惑の分恩返しせないかんとです」

憩(さっき弱気なこと言ってた割りには闘志十分……本当に白水さんのこと好きなんやな)

モモ「今から決闘申し込みに行くんすか?」

姫子「うん、変にタイミング図った方が負ける思うたい」

姫子「あの人も大会近付くに連れて状態上がって来るけん、万が一でも勝算があるなら……」

憩「辻垣内さんは練習で疲れてて、なおかつ自分のコンディションが良い今やね」

姫子「その通りです。やるからには絶対に勝ちに行きます」

モモ「頑張ってください鶴姫さん!! 陰でめっちゃ応援しとくっす!」

憩「ウチも応援してるで。良い知らせ待ってるから報告しに来てな」

姫子「はい」ニコ

姫子「……それじゃあ、行ってきます」

憩(愛の力で強大な敵を打ち破れるか)

モモ(鶴姫さんファイトっす……!)

憩(ウチらに出来る事は……姫子ちゃんを信じることだけやな)



憩(姫子ちゃんの相談に私が関わったのはここまでで、あとの話は後日談になります)

憩(あくまで剣道部内での問題なので、こういうことがあったという事実もその結末も、外部に知れることはありませんでした)

とりあえず一旦切ります。ここからはすぐ終わる、はず

 
―――――――――――――――――――――――――――――――――

智葉「……」


コンコンコン


智葉「入れ」

姫子「失礼します」

智葉「一週間の無断欠席、まず詫びるなら白水だと思うが」

姫子「先にあなたと話がしたいです」

智葉「……」

姫子「最初に謝ります。部活勝手に休んで本当にすみませんでした」

智葉「お前は今度の団体戦で副将を任されているはずだが、そのことは忘れていたのか?」

姫子「忘れてなかです」

智葉「部の代表として選ばれたという自覚は無かったのか」

姫子「……」

智葉「出たくても出られないヤツがたくさんいると知った上での行動なのかと訊いているんだ」


姫子「……寄せられた期待と信頼を裏切るような無責任な行動、相応の罰は覚悟してます」


智葉「……」ギロ…


姫子「っ……」


智葉「……明日、全員の前で謝れ。この件に関する私からの処分は以上だ」

姫子「え……?」

智葉「不服か?」

姫子「い、いえ、そんなことは……」

智葉「なら返事をしろ」

姫子「は、はい!」

智葉「自分の体調や精神面を考えた上での判断だろうが、行動に移す前に必ず上の人間に相談と報告をしろ」

智葉「どんな事情であれ無断欠席が許されることはないぞ」

姫子「……はい」

智葉「本当に申し訳ないと思っているなら結果を出して部に報いろ」

智葉「言葉だけの謝罪はいらない、分かったか?」

姫子「はい!!」

智葉「お前の無断欠席については以上だ。あとは白水に任せる」

智葉「他に何か話は?」

姫子「……智葉さん、今から私と試合してください」

智葉「……」

姫子「もし私が勝ったら……部長との部内恋愛を認めて欲しいです」

智葉「そんなふざけた提案を受け入れるとでも思っているのか」

姫子「お願いします!!」

智葉「お前らの腑抜けた態度が部にどれだけ迷惑をかけているのか、まだ分からないのか」

姫子「理解しています! だからこそ今、この思いを剣に昇華して部のために捧げたいんです!」

智葉「白水への恋心が自分を強くするとでも?」

姫子「はい」

智葉「くく、面白い……ならその強さとやら、私に見せてみろ」

姫子「!」

智葉「私の十年間よりお前の白水への思いが上だと証明出来たのなら、白水との交際を特例で認めてやろう」

智葉「部室でまぐわうなり好きにさせてやる」

姫子「ぶ、部室ではしません」

智葉「ただしこちらも条件を出す。もしお前が負けたら退部してもらおう」

姫子「!」

智葉「剣道部の伝統と歴史に泥を塗る行為だ」

智葉「それくらいの覚悟を示すのは当然だと思うが」

姫子「……分かりました。それでよかです」

智葉「先に道場で待つ。準備が終わったら来い」

姫子(負けたら退部……)

智葉「……手が震えているぞ。威勢がいいのは口だけか」

姫子「っ……」

智葉「……お前らの愚かさに頭を悩ませるのも、今日で最後だな」


バタン


姫子「……」

姫子(これでもう後戻りは出来んなった)

姫子(絶対に負けられん、それやのに……)

姫子「っ……」ブル…

姫子(身体の震えが止まらん……まだ剣取って向かい合ってすら無いのに、こんな……)

姫子(真剣勝負の場であの人に睨まれたら、それこそもう終わりで……)


 
哩「自分中で相手ば大きくしすぎるな」


姫子「!!」

哩「格上の相手に挑むときの心構えたい。……智葉の受け売りやが」

姫子「ぶちょー……!?」

哩「姫子、さっきん言葉は本気なんか?」

姫子「へっ?」

哩「いや、まずは謝る。盗み聞きしてすまん」ペコ

姫子「ってことは……」

哩「……智葉との会話。全部聞いてた」

姫子「なな……!?」カァァ

哩「そ、そのこと自体は偶然や。私も智葉に話があって、そいでたまたま……」

姫子(もしかして智葉さん、ぶちょーがここに居たのを知ってて……)

哩「……訊きたいことも確かめたいことも色々あっけど、そいは今置いとく」

姫子「そ、そうして貰えるとありがたいです……試合に集中したいんで……」

哩「姫子、智葉に言ったこともやろうとしちょることも、全部本気なんか?」

姫子「……冗談でこげなこと言わんとです」

哩「智葉の実力は知っとるやろ。あまりに無謀過ぎん、今のお前じゃ絶対に勝てん」

姫子「……」

哩「今ならまだ間に合う。私と一緒に智葉に謝って……!」

姫子「ダメです」

哩「!」

姫子「このまま中途半端に居続けるんは、もうダメなんです……」

哩「なんでや……?」

姫子「ぶちょーを苦しめて、智葉さんや部のみんなに迷惑かけて」

姫子「そんこと分かってるくせに、いつまでもケジメ付けんとみんなの優しさに甘えて……」

姫子「そんなんをこれ以上続けるんは、もうダメなんです」

哩「……」

姫子「3年は次の大会で実質引退……ぶちょーや智葉さんらの3年間を私のせいで台無しにするんだけは絶対にしたくなかです」

姫子「どういう形であれ決着は付けないかんとです。部のためにも、みんなのためにも」

姫子「だから、止めないでください。今まで迷惑かけて来た分の恩返し、させてください」

哩「……お前の気持ちと覚悟はよう分かった」

哩「そこまで強いもん持った上でやろうとしちょるなら……私はもう何も言わん」

哩「ただ、自分が部をやめることが恩返し、ケジメやと思ってるなら……それは間違いやぞ、姫子」

姫子「!」

哩「剣道部にとってお前は必要不可欠な存在や」

哩「自分がやめることが一番迷惑かかるってことを分かった上で試合に挑め」

哩「本当にみんなに報いたいと思ってるなら……絶対に勝て。分かったな?」

姫子「っ……」

姫子「はい!!」

哩「胸張って行って来い。私はお前を信じて待っちょる」

姫子「……ぶちょー」

哩「?」

姫子「好きです」

哩「っ!?」

姫子「もし私が智葉さんに勝ったら、その……付き合ってくれませんか……?」

哩「な、な……」

哩「なしてこんタイミングで……」カァァ

姫子「その、モチベーション上げる何かが欲しかったんで、つい……」モジ…

哩(ひ、姫子に告白されるなんて夢にも思っち……)

姫子「ダメ、ですか……?」

哩「そ、そげなことはなか!」

姫子「じゃあ付き合ってくれるとですか!?」

哩「……あ、ああ」

姫子「キスもしてください!」

哩「わ、分かっちからはよ行って来い!!」

姫子「ふふ、約束ですからねっ、ぶちょー!」ニコ

哩「っ……」ドキ

姫子「そいじゃあ行って来ます!」タタッ


哩「…………」


哩(キスだけで済ませられるやろか……)

 
―――――――――――――――――――――――――――――――――――


智葉「……」


姫子「待たせて申し訳ないです」

智葉「逃げずに来るとは意外だな」

姫子「付き合わせてるんはこっちですから、逃げたりなんてしませんよ」アハハ

智葉「……白水に会ったのか」

姫子「な、なして分かるとですか……?」

智葉「さっきまでと雰囲気がまるで違うからな……少しは楽しめそうで何よりだ」

姫子「一本勝負でよかですか? 試合時間は無制限で」

智葉「なんでもいい。さっさと始めるぞ」

姫子「……智葉さん、今までありがとうございました」

智葉「……」

姫子「これからもよろしくお願いします」ペコ…

智葉(これからも、か……)フッ



智葉「来い、一瞬で終わらせてやる」


――――――――――――――――――――――――――――――――――


憩「……」ボー


憩(姫子ちゃんあれからどうなったんやろ)

憩(昨日は結局あれから来おへんかったし……辻垣内さんと試合はしたんやろうけど、勝敗は……)

憩「うーん……」

憩(辻垣内さんのことやから、負けてもたぶん大丈夫やと思ってあんなこと言ったけど)

憩(もし本当に退部させられてたら、その時は……)


コンコンコン


憩「はーい、どうぞー」




ガチャ…


憩「!」

姫子「失礼します」

憩「姫子ちゃん……それに」

哩「お久しぶりです、荒川先生」

憩「白水さん……」

哩「姫子が色々とお世話になっちみたいで……お礼ば言いたくて来ました」

憩「ってことは……」


姫子「私たち、付き合う事になりました」ニコ



『荒川先生と姫子の話、剣道部の話』 終わり

成香×ガイトさんとか咲さん関連とか各部活の話とか

書きたい話はまだまだあるけど、気力も時間もないしこれ以上gdgdやってもアレなので

とりあえずこれにて締めたいと思います。HTML化依頼? します

また書きたくなったら適当に立てます。付き合って頂きありがとうございました

照淡の方を気ままにやっていきます。次にスレ建てるとしたら宥菫書きたいですね

お疲れ様です。
照淡は淡ずきんの続編ですか?

>>369
照淡は速報に立ててるもう1つのヤツです
あわずきんは自分が書いたヤツの中で一番好きだったりするんで
いつか続き書きたいなぁとは思ってるんですが、今は思うだけです

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