コナン「キック力増強シューズで博士蹴るの超楽しいいいぃぃいいいい!!」 (156)


灰原「……」カタカタ

灰原「……何やら上が騒がしいわね。少し様子を見て来た方がいいかしら…。」ギッ

灰原(そういえば今日は工藤くんの御両親がいらっしゃってるんだったわ。私も挨拶しておかないと。)トコトコ

??「———!!」

灰原(だいぶ盛り上がってるみたいね…。)

灰原「ちょっと、あまりうるさくすると近所の迷惑に……」ガチャ



コナン「キック力増強シューズで博士蹴るの超楽しいいいぃぃいいいい!!」ガッ ガッ

灰原「!?」



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灰原「なっ何やってるのよ工藤君!!!」

コナン「うひょーwwwwwwwwエクスタシぃいいwwwwwwww」ガッガッ

阿笠「」グチャッ グチャッ

灰原「止めて工藤君!!止めなさい!!!」

コナン「すっげwwwwwwwwwwwwマジさいこwwwwwww」ガッ ガッ

阿笠「」グチャッ グシャッ

灰原「工藤君!!!」

パシンッ

コナン「!」


コナン「——…あ、れ……灰…原……。」

バタン


灰原「はぁっ……はぁ……」

灰原「! 博士!博士しっかり!!」ユサユサ

阿笠「」

灰原「し、死んでる……そん、な……」

灰原「とにかく、警察、警察を呼ばないと…!」ガタガタ


ガチャ

優作「ただいま。博士に頼まれたアイス、買ってき……」

優作「なんじゃこりゃ」

ガチャ

有希子「もーう……人がせっかくゆっくり寝てるっていうのに、うるさ……」

有希子「……なんじゃこりゃ」

灰原「何って殺人事件よ、殺人事件…!!早く警察と救急に連絡して!早く!!」

優作「あ、ああ……」ピポパ

有希子「新ちゃん!どうしたの新ちゃん!!」ダッ

灰原(目の前には、靴が血まみれのまま倒れている工藤君と博士の死体。)

灰原(これが…これが夢なら、どれだけよかったか……)グスッ

灰原(笑い泣きしながら博士を蹴り続けていた工藤君の表情が頭を離れない……)ガタガタ


翌日/米花総合病院


歩美「博士が死んじゃって、コナン君も逮捕されるなんて……」グスッ

光彦「仕方ないですよ…灰原さんが見てたんですから……コナン君が博士を蹴り続けていたことを……」

元太「っ!何でだよコナン!何でこんなことしたんだよチクショウ…ッ!!」

灰原「……」

灰原(あの後私達はすぐに警察を呼んだ。そして状況と証言から工藤君が緊急逮捕された。)

灰原(けれども工藤君の意識は未だに戻っていない。結局工藤君は意識が戻るまで入院することになった。)

灰原(普通なら面会拒否にされるでしょうけれど、目暮警部のお陰もあって、私達は工藤君のお見舞いに来ていた。)


歩美「コナン君…起きないね……」

小五郎「もし起きたとしても即逮捕だろうがな……」

蘭「お、お父さん!そんなこと…」

目暮「残念ながら毛利君の言う通りだ。目覚め次第、容疑者として警察に協力してもらうことになる。」

蘭「そっそんなぁ……」

灰原「…警部さん。一応博士の死因と死亡推定時刻を知っておきたいんだけど。」

目暮「これこれ…。君達はまだ子供なんだから、そんなこと……」

光彦「何言ってるんですか!僕達は少年探偵団ですよ!!」

歩美「そうよ!コナン君が博士を殺しちゃうなんて、そんなこと絶対にないもん!!」ポロポロ

元太「だから俺達で真犯人を捕まえるんだ!コナンをこんな風に追い詰めた犯人をな!!」

灰原(この子達……)

小五郎「……」

目暮「わ、分かった!教える!その代わり絶対に周りに洩らさんでくれ…」アセ


目暮「……被害者は阿笠博士。死因は後頭部強打による急性硬膜下血腫及び脳挫傷。死亡推定時刻は昨日21時前後だ。」

目暮「第一発見者は灰原哀。それは被害者と親交があった工藤優作君と工藤有希子さんが証人だ。」

蘭「そういえば新一のご両親はどちらに…?」

目暮「ああ、優作君らは先程の事情聴取が終わり次第、阿笠さんのお宅に向かっていったよ。」

目暮「友人が殺され、知り合いの子が捕まったこの事件…。いてもたってもいられなくなったんだろう」


小五郎「……蘭。コナンのことを看ててやってくれ。」

蘭「お父さん、コナン君置いてどこに行くつもり!?」

小五郎「真犯人を見つけに行くんだよ……そこのガキ共が言ったようにな」ザッ

ガシッ

灰原「待って、私も行くわ。どうせ博士の家に行くつもりでしょう?」

小五郎「あ、ああ…」

元太「俺達も行くぞ!必ず別の犯人がいるはずだ!」

歩美「そうよね!こういう時にこそ、私達がコナン君を信じないといけないんだよね!!」ゴシゴシ

光彦「そうと決まれば早速博士の家に向かいましょう!」

??「オレも行くで……」


目暮「! 服部君!来ていたのかね!!」

服部「ああ。東京から知らせがあったと思たら、工藤が逮捕された聞いてな……バイク飛ばしてきたんや。」

小五郎「工藤だぁ?何でアイツが関係あるんだよ」

服部「あ。そっ、それは工藤やなくて……九郎や!九郎言うたんや!コナン君って源九郎義経みたいやなぁて!!」アセアセ

灰原「クスッ、あなた嘘が下手ね…。」ヒソヒソ

服部「しゃ、しゃーないやろ……工藤が意識不明の上に容疑者やなんて、動揺するにきまとるっちゅうの…。」ヒソヒソ

蘭「あれ?和葉ちゃんは?」

服部「ああ、和葉も工藤…やないコナン君の見舞いに来たいゆーとったんやけど……緊急やからと置いてきてしもたわ。」

服部「……何かあったときに心配やしな。」ポリポリ

歩美「あー!平次お兄さん照れてるー!」

服部「ア、アホぬかせ!誰も照れとらんわ!!」アセアセ

小五郎「とにかく!!!俺はもう行くからな!ついてくんのは構わねぇけど邪魔だけはすんじゃねぇぞ!」スタスタ

元太「あっ、待てよおっちゃん!」ダッ




蘭「……コナン君が犯人だなんて、そんな訳、ないよね…?」


阿笠邸


服部「現場検証も昨日のうちに終わっとるやろうから、覚悟してたんやけど……」キョロキョロ

灰原「事件が起こった時のままになってるみたいね。」



優作「それは私が目暮警部に頼んでおいたからですよ。」ツカツカ

服部「工藤のおとん!?来てたんか!」

優作「ああ、たまたま博士の家にお邪魔していたんだ。」

優作「私は自分で現場を見ないと納得出来ない性分なものでね、現場検証が終わってもそのままにしてもらったんですよ。」

小五郎「そ、それで新たな手掛かりは見つかったんですか?」

優作「ええ、二つほど。一つは…」

服部「一つはこの割れた瓶やろな。」

優作「!」

服部「瓶が茶色いのとアルコールの臭いがするのとで酒瓶なのは間違いなさそうや。」

灰原「割れていて詳しくは分からないけど人を殴るには申し分ない大きさだったみたいね…。」

優作「そう、一つはその割れた酒瓶。いかにも怪しそうですが…」


小五郎「…分かった!犯人は被害者が後ろを見せたのを好機だと思い、近くにあったこの酒瓶で殴ったんだ!」

服部「アホかオッサン…。」ヤレヤレ

小五郎「ア、アホだとぉ!?」

服部「よう見てみい。酒瓶は阿笠のジイさんの頭付近で割れとる。状況から見て酒瓶を持ってた時に襲われたか、被害者が残したダイイングメッセージかのどちらかや」

小五郎「ぐぬぬ…」





服部「…それにねぇちゃん、その酒瓶のラベル見てみい。」ヒソヒソ

灰原「——GIN(ジン)…!」

服部「こりゃ、例の組織っちゅうのが絡んどるかもわからんな…」ヒソヒソ

灰原(……でも変ね。本当にジンならこんな手掛かりをみすみす残したりはしない筈だわ)

灰原(それに、このお酒は私には見覚えが無いわ…。博士はどこでこのお酒を手に入れたのかしら…)

ゴソゴソ

灰原(他に気になるような点は特に無いわね……。)

灰原(博士はうつ伏せに倒れているから、犯人は後ろから凶器で襲ったんでしょうね。)

灰原(博士の眼鏡が手元付近に落ちているけれど、これは襲われた時に吹き飛んでしまったと考えるのが妥当だわ。)


優作「そうそう、私にはこの部屋の中でもう一つ気になることがあってね。」

服部「気になること?」

優作「そこの血痕だよ。阿笠君の死体があった場所から、随分離れているだろう?」

小五郎「こんな所に血痕か……これは返り血と言うよりは…」

灰原「凶器から垂れた血が床に残ってたんでしょうね。」

優作「そう。そう考えるとしたら、凶器は別にあったことになる。」

優作「もしかしたら犯人は何らかの凶器で阿笠君を殴って気絶させ、その後倒れた阿笠君に止めを刺したのかもしれません。」

優作「…もしコナン君が本当に犯人だとしても、柄の長い凶器だったならばこの犯行は可能でしょう。」


灰原(今の工藤君の身長で立っている大人の後頭部を気づかれずに蹴りつけるだなんて、不可能だと思ってたけれど……)

灰原(その推理が本当だったならつじつまは合うわね…。)


服部「……そういや、あのチビッコ達はどうしたんや?」

灰原「あの子達なら周りの家に聞き込みに行ってるわ。まぁ警察が既に調べてるでしょうし、これ以上有力な情報は出てこないと思うけど…。」

ピピッ ピピッ

灰原(DBバッジ…)

服部「噂をすれば、やな。」

灰原「ええ…。——どうしたの?」ピッ

歩美『哀ちゃんあのね、一応周りに住んでいる人とか通りすがりの人に話を聞いてみたんだけど……』

光彦『どうやら事件の時間帯に博士の家から出てきたのは、優作さんだけらしいんです。』

元太『別に怪しい男は見てねぇって、近所のおばちゃんが言ってたぞ』

灰原「そう…ありがとう。」ピッ

小五郎「やっぱり誰も見てねぇか……」ワシャワシャ

優作「おかしいですね……」

小五郎「何がっすか?」

優作「私は博士に頼まれ、夜にコンビニへ行ったんですよ。——ちょうど事件が起きた頃です。

優作「その帰り、博士の家の前で怪しい人影を見ました。」

小五郎「怪しい人影…?」

優作「ええ、回りをキョロキョロと見回していました。ですが、ここの周りの人々は怪しい人など見てないという……」

小五郎「恐らくソイツが真犯人だ……周りの人に気づかれなかったのは運が良かったからでしょう。」

優作「…そうでしょうか。私には何かしらのトリックを使ったように思えます。」

優作「そして例えその人物が真犯人だったとしても、コナン君が博士の後頭部を蹴り続けた理由も未だにはっきりしません。」

灰原「……どうして警察にその話をしなかったのかしら?」

優作「いや、一応警察にも話したんだが、警察はコナン君が犯人だと見ているらしくてね、取り合ってくれなかった。」

服部「まぁせやろな…。」

灰原(怪しい人物……もしかして本当にジンが…?)


プルルルル

小五郎「おっと失礼、電話だ。蘭から…?」

ピッ

小五郎「蘭、どうした?
——コナンの意識が戻った!?」

三人『!!』


米花総合病院


タッタッタ
ガラッ

小五郎「蘭!コナンは!」

蘭「大丈夫。少しボーッとしてるだけ……。」

コナン「……」

小五郎(待てよ、以前にもこんなことがあったじゃねーか…!)

小五郎「おいコナン!俺の事が分かるか!?」ユサユサ

コナン「…ふぇ?小五郎のおじちゃんどうしたの…?」

小五郎「ホッ…なーんだ心配かけさせやがって!記憶喪失にでもなったかと思ったぞ!」

目暮「いや、残念ながらその通りだ。」

小五郎「け、警部殿?それはどういう……」

蘭「……どうやらコナン君、事件の事を覚えてないらしいの…。」

小五郎「何ぃ!?」

目暮「早速話を聞こうとしたんだが、阿笠さんが亡くなったことさえも覚えていない様子でな。」

目暮「目覚めたばかりだから少し記憶が混乱しているのかもしれない。」

白鳥「いま取り調べをしても有力な証言は得られそうにないですし、結局明日に延期されることになりました」

小五郎「そうだったのか…。」

目暮「今後コナン君は病院内での軟禁生活を強いられると思う。しかし、すまんがそれが精一杯の譲歩だ。」

優作「いえ、普通ならとっくに留置場に勾留されててもおかしくない状況です。感謝します。」


服部「……おい工藤、ホンマに事件の事何一つ覚えてないんか?」ヒソヒソ

コナン「工藤?新一兄ちゃんはここにはいないよ?」

服部「いや何言っとんのや、お前がその新一やないか」ヒソヒソ

コナン「だーかーらー僕の名前は江戸川コナンだよ!平次兄ちゃんはいつも僕と新一兄ちゃんを間違えるんだから!」プン

服部「く、工藤…?」

優作「……コナン君、事件のことは本当に何も覚えていないんだね?」

コナン「あ、お父さんだ!」

一同『!?』


蘭「コナン君…?この人は新一のお父さんで、コナン君のお父さんじゃない……」

コナン「あー!蘭姉ちゃんまでそんなこというんだ!?」

コナン「——本当に皆どうしたの?僕の事忘れちゃったの?」

ガシッ

服部「アホか工藤!!なんでそんな疑われるようなこと言うんや!?」ユサユサ

コナン「止めてよ〜!平次兄ちゃーん!」グワングワン

服部「お前は本当に忘れてしもたんか!?自分が…」

灰原「——服部平次…!」

服部「自分が工藤新」

灰原「——服部平次!!!ちょっとこっちに来なさい!!」


服部「!」ビクッ

服部「——す、すまん…ちっと冷静さを失ってもうた…アハハ…」パッ

コナン「イテテテテ……」

蘭「……服部君…?」

服部「——頭冷やしてくるわ」ガラッ

灰原「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!」タッ


服部「……」スタスタ

灰原「ちょっと、待ちなさいってば!」ガシッ

服部「なんや、ねぇちゃん……今機嫌悪いんやけど。」

灰原「貴方がそんな様子でどうするのよ!工藤君が——」

服部「工藤がどうしたて?別に工藤は何もおかしくないやろ」

灰原「気づいてるはずよ…!何で工藤君があんな様子なのか——」

服部「すまんな。オレにはさっぱりや。」

灰原「貴方は現実を見てないだけだわ…!自分でも分かってるでしょう!?今の彼は…」

服部「……何を」

ドン!

服部「何を勝手にぬかしとんのや!!!!工藤は、工藤は何も変やない!!!アイツは賢いんや!ワザと子供の振りして——」





灰原「——工藤新一としての記憶を無くしている。」




服部「——っ!!」

灰原「……見てれば分かるわよ。どうやら今の工藤君は『工藤君』じゃなくて、」

服部「『江戸川コナン』本人になっとるんやろ…」

灰原「……やっぱり。分かってるんじゃない。」

服部「すまん、薄々はわかっとったんやけど…。」ハア

灰原「認めたくないのは私もよ……唯一同じ経験をした人物がいなくなったようなものだし、それどころか今回の事件の真相に近づくことすら難しくなったしね」

服部「どしたらええんやろか……いくら探偵ゆーても『記憶の欠片』探すんわ無理やって…」ハハハ


服部「……待てよ、そういや前に毛利のネェちゃんが同じような経験したゆーてたの聞いたな。」

灰原「ええ、その話は私も耳にしたわ……その時は犯人に追い詰められて記憶が戻ったと言ってたけれど。」

服部「アホか、そんなショック療法出来るわけないやろ…。」

服部「やっぱし馴染み深いもん見せてみるしかないんやろなぁ……。」

灰原「そうね。とりあえず工藤君の好きなものや思い出深いものを持っていってあげましょうか。」


灰原「……それで?少しは冷静になれたの?」

服部「ああ、もう大丈夫や。オレが混乱しとる場合やないし、何しろ工藤が戻ってきた時にあんな様は見せられへんしな。」

灰原「そう。なら期待してるわよ。」

服部「? 何をや?」

灰原「勿論『記憶の欠片探し』よ。そうでしょう?名探偵さん?」


コナン「シャーロックホームズ?僕大好き!!」パアッ

服部「そかそか、そりゃ良かった。わざわざ買ってきたかいがあるっちゅーもんや」

コナン「あれれ?でも……」

灰原「でも?」

コナン「内容は全く覚えてないや。……何でだろう?」

服部(コナンドイルの小説でもダメか…)

灰原(色々試してみたけれど、どれも記憶を取り戻す鍵ではなかったみたいね…)

蘭「コナン君、リンゴ剥いてあげるね。」

コナン「わぁーい!ありがとう!」

服部「……毛利のネェちゃんの時は工藤の写真に反応してた聞いたんやけど…なんで工藤は馴染んでしもとるんや?」ヒソヒソ

灰原「恐らく『江戸川コナン』としての関係が深くなってしまったからでしょうね…。」

服部(なるほど、こりゃ思い出すのは時間かかりそうやな)

近所の人にとっては怪しくなくて、優作にとっては見かけない人は誰だ?
犯人候補1、オキャスバルさん

関係ないけど有希子ってこの状態のコナンをこれはこれで楽しみそうだな


服部「そういや、毛利のおっさんはどこに行ったんや?」

蘭「目暮警部と一緒に出ていったわ。何でも、やることがあるからって…。」

服部「……で、代わりにこの喧しいねぇちゃんがおると。」

園子「誰が喧しいねぇちゃんよ誰が!!」ガミガミ

服部(おお、喧しい…。)

園子「ガキンチョが倒れたって聞いたから、急いで駆けつけてきたのよ。」

園子「そろそろ18時でしょ?ほら、子ども達は帰った帰った。」

元太「えーっ、もうそんな時間なのかよ…」

光彦「仕方ないですね……今日は帰りましょうか」

歩美「じゃあまた来るね!コナン君!」

コナン「うん!じゃーねー!」

>>29
すみません、今回は昴さんがまだ居ない頃の設定で書くつもりです。
探偵役が5人になると自分の技術ではまとめられなくなると思うので…。


服部「……じゃ遅なったし、オレもそろそろ帰るわ。」

蘭「か、帰るってどこに…?」

灰原「私の家よ。そんなに狭くはないし、一人くらいは泊められるから。」

園子(あら、見た目によらず大胆なこと…。)

蘭「そう…。」

服部「……何か心配事でもあるんか?」

蘭「え!?いや、確かにコナン君の今後は心配なんだけど……」

蘭「何だかコナン君がいつもと違う様に見えちゃって…まるで本当に子供になっちゃったみたいに…。」

灰原(……。)

蘭「って、コナン君は元々本当に小学生なのにね?私ったら何言ってるんだろ?」


灰原「……大丈夫よ。」

蘭「…哀ちゃん?」

灰原「またすぐにあの生意気な坊やに戻るわ。でもそれまで、貴方に江戸川君を任せていてもいいかしら?」

蘭「う、うん勿論!何の力になれなくても、近くにいてあげることは出来るから…」

灰原「……羨ましいわね」

蘭「えっ?」

灰原「何でも。じゃ、行きましょ探偵さん。」スタスタ

服部「お、おいちょっ待て!」タッ


米花町


トコトコ

灰原「で、今からどこに行くつもり?」

服部「え?いや阿笠のジイさんの家に向かっとるだけやで?」

灰原「違うところに向かってるのバレバレよ。大方警察署にでも向かっているんでしょうけど。」

服部「ありゃ、流石に鋭いなぁ。でも警察署じゃないんや」

灰原「?」

服部「オレも自分で調べな納得せん性分でな」ニシシ


毛利探偵事務所


小五郎「ああ?昨日の21時頃何をしていたかだぁ?俺を疑ってんのか!?」

服部「ま、まぁ落ち着けや。一応やから、一応」

小五郎「ったく、どうだか……昨日は確かヨーコちゃんのドラマがあったから、一人でココにいたな。」

服部「一人で?ネェちゃんはどうしたんや?」

小五郎「ああ、蘭なら鈴木財閥の娘と外に出掛けてたぞ。」

服部「ちゅーことは、証明できる人はいなかったんやな?」

小五郎「確かに俺にアリバイは無い。だけどな、昨日のドラマの内容は結末まで覚えている。」

服部「……つまり一時間はココから動いてない、と?」

小五郎「だってヨーコちゃんのドラマを見落とすだなんて有り得ないでしょ〜!?」

服部「……あっそ。」


ガチャ

灰原「ん。どうだったの?」

服部「アリバイはないな。只、その時間帯にやってたドラマの内容覚えてるゆーとったけど。」

灰原「それはまた微妙ね……テレビの内容を覚えているのが証拠だ、なんて。」

灰原(テレビを使ったアリバイトリックは以前にもあったしね…。)

服部「まぁ今考えてもしゃーない。ほな次や。」


蘭『え?昨日の21時頃?』

服部「せや。誰か証明できる人でもおらんかなぁ思て。」

蘭『昨日は園子と一緒に出掛けてたわよ。ついつい遅くなっちゃったけど……。』

服部「そか。聞きたかったんわそれだけや、おおきに。」

ピッ

灰原「……で?」

服部「毛利のオッサンの言う通りやな。2人は一緒に出掛けていたみたいや。」

灰原「じゃあほぼ白ね……共犯という可能性がなければだけど。」

服部「アホか、二人も犯行現場にいたら誰かしらに見られとるはずやろ。」

灰原「あら知らないの?二人の方が視野が広がるから周りに対しての注意もしやすいのよ?」

服部「……まぁええわ。次行くで。」


トコトコ

服部「そういや、何で工藤のオトンとオカンがおんのや?日本におるなんて珍しいやろ」

灰原「小説執筆がひとまず落ち着いたから、自分の家に帰ってきたそうよ…。」

服部「なんや、やっぱそうか。」

灰原「……何よ。あたかも今工藤君の家に向かっているのが当たり前、とでも言いたそうな顔ね。」

服部「そりゃそうや。米花町にいたっちゅーことは自分の家に帰ってた思うのが普通やろ?」ニコニコ

灰原「……貴方も結構生意気なガキね。」

服部「な、なんやとぉ!?ガキって誰がや誰が!!」

灰原「はいはい…そんなこと言っている間に着いたわよ、工藤くん家。」


工藤宅前


ピンポーン

……

灰原「……誰もいないみたいね。」

服部「いや、そんな訳あらへん。家には灯りがついとるし、」

チラッ

服部「…電気メーターも動いとるしな。」

灰原「既に寝ているのかもしれないわよ?もう20時近く回ってるんだから。」

服部「いやなーんか怪しい。」

灰原「何よ、只の勘?」

服部「『只の勘』ちゃうて『探偵の勘』や。」ガラガラ


トコトコ

コンコン
服部「おーい!!誰もおらへんのかぁ!?」

灰原「バカね、門は開けられても玄関は外からじゃ開けられ」

ガチャ

灰原「!」

服部「……開いとるな。」

シャー…

灰原(シャワーの音がしているけれど、)

服部(物音一つせーへんし、人の気配もない……。)

灰原&服部『——まさか!!!』

タッタッタッタッ

ガラッ

灰原&服部『!!!』


灰原(そこには……血みどろの中に倒れた工藤有希子の姿があった。)





服部「——ちっこいねぇちゃん!!早ぉ警察と救急車を!!」

灰原「わ、わかったわ!!」ピッ

服部「息は!……アカン…、しとらん…。」

服部「血染めのナイフが転がっとる……恐らくこれで…。」

服部「外傷は腕の傷、リストカットか。いや、腹にも刺し傷がある…?」

服部「浴槽の中に沈んどるのも、シャワーがかかっとるままなのも、ちとおかしいで……。」


灰原「——ちょっとこっちに来て!!」

服部「なんや!?どうした!?」タッ

灰原「電話をしている時にリビングを覗いてみたら、こんなものが……」

服部「!? パソコンに何や書いてある?なになに……


阿笠博士を殺したのは私です。
新ちゃんを取られそうだったから……。
だけど私も生きてはいけません。
ごめんね

有希子

……遺書か。」

灰原「まさか…自殺、していたなんて…。」

服部「……オレはな、一番怪しいんは工藤のオカンだと思っとったんや…。」

服部「事件の後、一度も姿見せへんかったからな…。」

灰原「それに、事件当時に博士の家にいたのは、私と工藤君と博士を除けば彼女だけだったわ…。疑うのは当然よ…。」

ウーウー

灰原「……警察が来たみたいね…。」

服部「……」


優作「有希子!!」

目暮「……まさか有希子さんが自殺してしまうとは…。」

白鳥「パソコンに遺書らしきものが。このパソコンは工藤先生の夫人のものだったそうです…。」

優作「何で死んだ、有希子…!」

目暮「……。」

目暮「……第一発見者は服部君と哀ちゃんだね?」

服部「そうや…。」

灰原「ええ…。」

白鳥「それで、その時の状況は?」

服部「浴槽で湯浸かったまま亡くなっとった。シャワーも出っぱなしだったわ。」

灰原「怪しい人物は見なかったわ…。只、玄関は開けっ放しだったけど。」

目暮「そうか…。」

服部「……死亡推定時刻は?」

目暮「え?いやこれは自殺なんじゃ」

服部「ええから!!!死亡推定時刻はいつやねん!!」

目暮「い、いま鑑識が調べてるが、被害者は高温の水に浸っていたんだ。参考になるような情報は得られんだろう…。」

服部「クソっ…!」


小五郎「け、警部殿!」ドカドカ

目暮「来たか…。」

小五郎「あ、あの、有希ちゃんが亡くなったって本当に…」

目暮「本当だ。そこを見てみろ。」

小五郎「……嘘だろおい…。」

服部「てか工藤のオトンはこんな時になにしとったんや!!」

優作「……私は警部と事件について調査をしていたよ。今日は家には戻らないつもりだった…。」

目暮「服部君、君は少し疲れているように見える。少し休んできたらどうかね?」

服部「……ああ、そうさせてもらうわ。」


灰原「……どう思う?」

服部「……何がや?」

灰原「決まってるでしょう、自殺かどうかよ。」

灰原「遺書らしきものもあったけれど、パソコンに書いてあるんだもの。犯人が書き込んだ可能性だってあるわ。」

服部「……さっきオレは工藤のオカンが怪しい思たってゆーたやろ?」

灰原「服部平次…?」

服部「でもな、信じたくなかったんや……勿論探偵が自分の心情で犯人逃したら探偵失格や。」

服部「それでも……自分の考えが信じられなかったんや。あの人のこと知っとったらな…。」

灰原「……」



服部「前に工藤のオカンに手伝ってもろた事があってな。そん時は工藤に変装したんやけど……。」

灰原「私がベルモットと対峙した時の話でしょ?工藤君から聞いたわ。」

服部「せやせや。そいでな、話聞いたら工藤のオカンは工藤の事が心配で、ずっと家に隠れて様子見とったらしいんや。

服部「そんな出来事をオレに楽しそうに話してくれてなぁ…。」

服部「——分かるか、工藤のオカンは工藤を取られそう思たからて、阿笠のジイさん殺したりはせえへん。自殺も絶対にせえへん。」

服部「そんな風に、オレには思へんのや。」

灰原「……本当にそうなのか、解き明かすのが探偵の仕事なんじゃないかしら?」

服部「……せやな、グチグチゆーてすまんかった。」

灰原「けれども、今回の事件は少し難しいかもしれないわね…。」

灰原「死亡推定時刻ははっきりしたものが出ないし、容疑者も絞り込めない…。」


服部「そんなことはないみたいやで?」

灰原「えっ…?」

服部「遺書みたやろ遺書。アレになんて書いてあった?」

灰原「でも、今回の事件が殺人だとしたらアレは犯人が書き込んだものなんじゃ…」

服部「そうや。しかし犯人が書いてるんなら重大なミスを犯してるで。」

灰原「重大なミス?」

服部「『この事件は、阿笠のジイさんの事件と関係がある』ってことを示してしもとるんやないか。」

服部「おかしいやろ?普通の強盗殺人なら、犯人は阿笠のジイさんの件を話題に上げんはずや。」

灰原「! そう言われればそうね……容疑者でもなかった工藤君の母親が、博士の事件と関係があると知っていただなんて…」

服部「そうや。犯人はあのジイさんの事件を詳しゅう知ってる奴っちゅーこっちゃ…!」


灰原「それで、犯人は解ったの?」

服部「それが今のとこサッパリや。せめて阿笠のジイさん殺した凶器でも見つかればエエんやけど……。」

灰原「……もしかしたらだけど、この二つの事件の犯人は本当に黒の組織かもしれないわね。」

服部「突然どないしたんや?」

灰原「博士の事件も、工藤君の母親の事件も、結局犯人が見つかってない……あの組織ならそれも可能よ…。」

服部「何言っとんのや。阿笠のジイさんの事件も、工藤のオカンの事件も、全く抵抗した形跡がない。」

服部「これは見知った奴が犯人やっちゅー証拠やろ?」

灰原「いいえ、あの組織なら警戒心を持たせない内に暗殺することも可能よ…。」


灰原「それと、西多摩市のツインタワービルの爆発……覚えてる?」

服部「ああ、あの大惨事か。怪我人が一人も出なかったんわ奇跡的やったけど、結局原因は解らずじまいやった聞いたで?」

灰原「アレを行ったのも、恐らく奴らよ。」

服部「な、何やてぇ!?」

灰原「これで分かったでしょ?いかに完璧で、いかに危険な組織か…。」

服部「……。」

灰原「指紋なんかも残ってないでしょうし、目撃者も工藤君の父親だけ…。」

服部「……そういや、まだ工藤のオトンにはアリバイ聞いてなかったな。」

灰原「まさか、今聞きにいく気?止めておきなさい。あんな事があった直後でしょ?」

服部「いんや、直接聞きにいく必要はもうないんや。昨日の21時頃にはコンビニに行っとったゆーてたしな。」

服部「只、確認だけはしといた方がええと……そうは思わへんか?」


米花駅前コンビニ


店員「防犯カメラですか…?」

服部「せや。ちっと見せてくれへんかと思てな。」

店員「申し訳ありませんが、一般のお客様にはお見せできないことになってまして…。」

灰原「ですって、刑事さん。」

高木(……いきなり呼び出されて、こういう役回りに使われるのはなぁ…。)トホホ

高木「警視庁刑事部捜査第一課の高木と申します。」

店員「ああ!警察の方ですか、それなら構いません、どうぞこちらへ…。」



ジジジジジ
灰原「……ちゃんと映ってるわね。」

服部「これで工藤のオトンも白、やな。」

店員「ああ、この人なら私がレジを打ちましたよ。」

服部「! それで、どないな様子だった!?」

店員「ええと……特に変な点は無かったですけど、少し思い詰めたような、哀しい目をされていました。」

服部(哀しい目…?)

灰原「……映像は以上のようね。」

高木「ありがとうございました。ご協力感謝します!」


ウィーン

高木「色々と調べているみたいだけど、犯人に目星はついたのかい?」

灰原「まだ何とも言えない、ってところね…。」

服部「そういや、工藤のオトンがゆーてた不審者ゆうのはどうなったんや?まさか捜索せん訳やないやろ?」

高木「え、えーと…。」ポリポリ

灰原「……その様子じゃ、警察は江戸川君を容疑者として固めに入ってるようね。」

高木「じ、実は警察署内ではコナン君が犯人で決まりそうな雰囲気なんだけど……佐藤さんや千葉は僕と同じで別の人物が犯人なんじゃないかと睨んでいてね。」

高木「トメさんにも協力してもらって少人数で調べているんだけど、工藤先生が見たという人物の行方はおろか、痕跡すら見つかってなくてね…。」

佐藤「なるほど、それで?」

高木「それで、今回起こった事件も部外犯だと睨んで調べてみたんだけど、指紋は全く出なくて……」


高木「……って佐藤さん!?」

佐藤「たーかーぎーく〜ん?情報を漏洩したことへの言い訳はある?」

高木「な、何でこんなところにいるんです!?」

佐藤「事件現場から帰る途中よ。今から署に戻ろうとしたら、ちょうど高木君が……」

グイ

服部「事件現場から帰ってきたっちゅーことは、現場検証は終わったんやな。詳しい話、聞かせてもろてもええか?」

佐藤「何言ってるの。知り合いとはいえ、一般人に事件の情報なんて教えられる訳……」

服部「頼む、この通りや!」

佐藤「ちょっと、そんなことされても…。」

灰原「私からもお願いするわ。もしかしたら江戸川君を救えるかもしれない…!」

高木「佐藤さん、僕からもお願いします。」

佐藤「……。」

佐藤「……はぁ、仕方ないわね…。一回しか言わないから、しっかり記憶しておくのよ?」


佐藤「被害者は工藤有希子。死因は腹部にあった刺傷と手首にあった切創。」

佐藤「落ちていたナイフとは傷口が一致したわ。」

佐藤「死亡推定時刻は不明。でも今日の朝に行った事情聴取の時にはいたから、その後に殺されたとみていいわね。」

服部「指紋はホンマに見つからんかったんか?ナイフも落ちてたんやろ?」

佐藤「残念だけど、ドアからもナイフからも目ぼしい指紋は出てこなかったわ……工藤先生と夫人のものしかね。」

灰原「……それで?警察はどういう結論を出した訳?」

佐藤「今のところは自殺と外部犯とで二分されてるわ。玄関のドアが開いていたから、誰でも犯行は行えただろうし。」


服部「ほなら腹部の傷は!?アレ見たらどう考えても他殺やないか!!」

佐藤「私もそう思うんだけど……『リストカットで死ねなかったから、割腹しようとして自分で刺した』なんていう意見もあるから……。」

佐藤「荒唐無稽な話だとは思うんだけどね。」

高木「でも指紋は残ってないんですよね…?」

佐藤「ええ。それに遺書もあったから自殺という声も意外と大きいわよ。」

服部「遺書——そうや、パソコンや!パソコンから別の奴の指紋が……」

佐藤「それも無かったわ。パソコンからは被害者の指紋しか出てこなかった。」

服部「そか…。」


佐藤「じゃあ私は署に戻るから。——ほら、高木君も戻るわよ!」グイッ

高木「は、はい!……ってちょっちょっと!!そんなに腕引っ張らなくてもいいじゃないですか〜!!」





服部「……仲良いんか悪いんか、相変わらずよー分からんコンビやなぁ…。」

灰原「……探偵って色恋事には鈍感な人しかいないのかしら。」

服部「ん?なんやゆーたか?」

灰原「別に…。」


服部「ほな、阿笠のジイさん家戻るか。」

灰原「そうね。もう22時になるみたいだし。」

服部「晩飯はどないする?お好み焼きやったら腕に自信あるでー?」

灰原「あら、それは魅力的な提案ね。だけど……」

灰原「……私には行かなきゃいけないところがあるから。」

服部「こんな時間にどこに行くつもりや?」

灰原「秘密よ秘密。教えられないわ。」






??「——A secret makes a woman woman...」





服部「……工藤のところに行くつもりやろ。」

灰原「」ギクッ

灰原「な、なに言ってるのかしらこの色黒元気印は。私が工藤君を心配して夜に見守るつもりじゃないか、ですって?冗談じゃないわ。あんな探偵脳のガキ、私がす、好きでいるなんてどの口で言ってるのかしら?勘違いもはだはだしいわね。別に好意とかがある訳じゃないわよ?けど工藤君はこの時間一人だし、もしかしたら寂しいんじゃないかと思っただけ。そう、それだけだから…!」

服部「そ、そか。」

灰原「じゃあ、そういう訳だから。遅くなっても心配しなくて大丈夫よ。」タッタッタ

服部「お、おい!……ったく。」


服部(……犯人が工藤の口を塞ぎに来るんやったら今日やろな。

服部(明日からは取り調べも始まる、警備はますますキツーなる。)

服部(ちっこいねぇちゃんの事や、たぶんそれに気ぃついて工藤の元に向かったんやろ。オレには気づかれへんように。)

服部(ちょっと間、工藤は任せたで……灰原。)

服部「さて…オレも行こか。」

服部(急いで阿笠のジイさんの家行ってこな。)

服部(オレの考えが正しければ、第一の事件で使われた凶器もあそこにあるはずや…。)タッ





灰原(……上手く撒けたかしら?)ハァハァ

灰原(もし工藤君が襲われるとしたら今夜のはず。)

灰原(でも確証がない以上、私のワガママに服部平次を巻き込むわけにはいかないわ…。)

灰原「……考えすぎだったなら、それに越したことはないんだけれど。」



米花総合病院内


灰原「……で?何でアナタ達がここにいるのよ?」

元太「もちろんコナンを守るために決まってんだろ!犯人はいつ襲ってくるか分からねぇしな!」

歩美「それに……今日のコナン君、何だか変だった…。」

光彦「ずっと子どもの振りをしているというか、何だかそんな感じがしましたよね。」


灰原「もしかしたら本当に犯人が襲ってくるかもしれないのよ…!アナタ達は大人しく帰りなさい!」

元太「灰原だって抜け駆けしようとしてたじゃねーか!」

歩美「シーッ!元太君声が大きい!」

元太「で、でもよ……俺だってコナンが心配なんだ!!指咥えて見てるだけなんて出来ねぇよ!」

歩美「元太君…。」

灰原「……」

灰原「はぁ、仕方ないわね…。危険になったら一目散に逃げるのよ?」

元太「おう!任せとけ!!」


光彦「——あっ、コナン君の病室はあそこみたいですね。」

千葉「……。」キョロキョロ

歩美「どうしよう……千葉刑事が見張ってるよ?」

灰原「任せて。こんな時の為に予備の時計型麻酔銃を持ってきたから。」カチッ

ピシャッ

千葉「!? ウッ……」

バタ

千葉「……ZZZ…。」

灰原「……相変わらず恐ろしく速効性の高い麻酔ね。博士が生きている内に詳しい生成方法を聞きたかったわ…。」


光彦「と、とりあえずこれでコナン君の病室に入れますね!」

コンコン

歩美「は、入るよ?コナン君……」カラカラ

灰原「! ちょっと待って!」

三人『?』

グスッ……グスッ……

灰原(何か聞こえる……泣き声?)


コナン「グスッ……お母さん……」

灰原「——あら、泣いているの?」

コナン「!! なっ何で灰原さんがこんなところに!?」ゴシゴシ

灰原「私だけじゃないわよ。」

元太「コナン!見舞いにきてやったぞ!」

光彦「こんな夜遅くにどうかと思いましたが、元太君がどうしてもと言うので…。」

歩美「今日はずっと一緒だからね、コナン君!」

コナン「元太君、光彦君、歩美ちゃん…。」

灰原「この子達もアナタが心配で来たのよ。感謝するのね。」


コナン「うん。皆、ありがとう…。でも僕は別に大丈夫……」

ポロポロ

コナン「……あれ?涙が勝手に……」ポロポロ

歩美「コナン君…。」

コナン「あれれーおかしいなー?別にもう大丈夫なのに……」ポロポロ

コナン「僕はもう、大丈夫、だから……」



歩美「大丈夫な訳ないよ!!!」


コナン「……歩美、ちゃん…?」

歩美「博士もコナン君と仲の良かったお姉さんも殺されちゃったのに……大丈夫なはずがないよ!」

コナン「で、でも…。」

歩美「悲しいときや辛いときは、我慢しないで思いきり泣いていいんだよ…?」

灰原「吉田さんの言う通りよ。悲しいことがあったなら、思いきり泣きなさい。」

灰原「その出来事を忘れないように、そして乗り越えるためにね…。」

コナン「歩美ちゃん…、灰原さん…。」


コナン「……ううん。いつまでも泣いているだけじゃダメなんだ。」ゴシゴシ

灰原「江戸川君…?」

コナン「泣いてるだけじゃ、前に進めないんだよ…。」

コナン「……灰原さん、今回の事件の詳細を教えてほしいな。」

コナン「僕も誰がこんな事件を起こしたのか知りたい…!真実を知りたいんだ!!」

灰原「……。」

灰原「……そういうと思っていたわ。結局、本質から探偵坊やってことなのね…。」

コナン「え?」

灰原「何でもないわ、呆れているだけだから。とにかく江戸川君は話を聞くことだけに集中しなさい。」


灰原(そして私は工藤くんに全てを話した。)

灰原(第一の事件と第二の事件の概要、被害者の死因と死亡推定時刻、使用された凶器、現場の状況、そして各個人のアリバイの有無…。)






コナン「この二つの事件を起こした犯人は同一人物の可能性が高い。」

コナン「第一の事件の凶器は結局見つかってなくて、犯行を行えたのはその場の人物の中ではお母さんしかいない。お父さんの証言から外部犯の可能性もある。」

コナン「第二の事件では死因からして自殺かどうかは怪しいけれど、不審な痕跡や指紋はなくて、死亡推定時刻も不明。」

コナン「——そういうことだよね?」

灰原「ええ…。」


コナン「他に何かなかった?細かいことでも何でもいいんだ。」

灰原「……そういえば、博士の手元に割れたジンの酒瓶と、博士の眼鏡が落ちていたわ。」

コナン「ジン?博士ってそんなお酒飲んでたっけ?」

灰原「さぁ…。」

灰原(やっぱり黒の組織についても憶えてないようね…。)


プルルルルル

全員『!!!』ビクッ

灰原「……あら、私の携帯だわ。」

元太「お、脅かすなよ灰原!」

灰原「仕方ないでしょ?電話なんだから。私だって驚かされたわよ…。」ピッ

灰原「——もしもし?」


服部『ちっこいネェちゃんか!?阿笠のジイさんの事件に使われた凶器、見つけたで!』

灰原「!! それで?」

服部『凶器は阿笠のジイさんの家の庭にあった、ごっつい石のブロックやったんや。』

服部『大部分は犯人が拭き取ったんやろうけど、細かい黒い染みがブロック全体に飛び散っとるで。ルミノール反応調べたら一発やろな。』

灰原(黒い染み……凝固した血液ね…。)


服部『それに、ブロックの下の地面が乾いとる。これは最近になって地面に置かれた証拠や。』

服部『普通なら岩やブロックの下は湿っとるはずやからな。』

灰原「でもそんなに大きなブロック、凶器として使えるの?」

服部『女子供には無理やな。重すぎる。大人の男でも振りかぶるのには精一杯や。』

灰原(女子供には無理…?)

服部『そいでな、ついでに犯人も解ってしもたんや!そいつはな……っ…』

『バタ』

プツッ


灰原「……もしもし?どうかした?」

光彦「どうしたんです?」

灰原「西の探偵さんからの電話だったんだけれど、突然切られたわ。……彼に何かあったのかしら」

コナン「平次兄ちゃんのことだから、きっと何か考えがあるんだよ。」

元太「それより何て言ってたんだ?」

灰原「第一の事件で使われた凶器を見つけたって。博士の家の庭に置かれてた大きな石のブロックみたいよ。」


歩美「大きな石のブロック?そんなのあったっけ?」

光彦「普段はあまり意識していませんでしたから……もしかしたらあったかもしれないですね」

元太「でもそんな重そうなモン凶器にできる奴なんていんのかよ?」

灰原「彼が言うには、女性や子供が持ち上げ、あまつさえ振り落とすなんてことは不可能らしいわ。」

コナン「もし本当にそれが凶器なら、犯人は大人の男の人に絞られたってことだね…」




歩美「やっぱり犯人は博士の家の前で目撃された怪しい人よ!」

歩美「証言ともぴったり合うし、一番納得いくもん!」

光彦「いやいや、犯人はやはり工藤有希子さんですよ。事件当時のあの場にいた人物で、唯一犯行が可能ですしね。」

光彦「その旨を書いた遺書も見つかりましたし。」

元太「もしかしたら宇宙人かもしれねーぞ!?それか……未知のウイルスとか?」

コナン「……灰原さんはどう思う?」

灰原「私?私は……>>95


1.外部犯
2.工藤有希子
3.宇宙人、もしくは未知のウイルス
4.その他の人物


(指定番号以外は安価下です)

4


灰原「それらの可能性はないと思うけど?」

コナン「バ、バッサリだね…。」

元太「何でだ?どうしてだよ?」

灰原「仕方ないわね……一つずつ説明してあげるわ。」


灰原「まず吉田さんの言ってた外部犯の可能性についてだけど、3つのパターンが考えられるわ。」

歩美「3つのパターン?」

灰原「ええ。1つ目は第一の事件のみ外部犯が関与していた場合。」

灰原「2つ目は第二の事件のみ外部犯が関与していた場合。」

灰原「そして3つ目はどちらの事件も外部犯だった場合よ。」

光彦「な、なるほど…。」


灰原「まず第一の事件の犯人が外部犯だった場合だけれど、わざわざ凶器をブロックにしている時点で疑問が残るわ。」

灰原「強盗目的だとしても恨みがあっての犯行だとしても、そんな回りくどいことするかしら?」

元太「た、確かにそうだよな…。」

歩美「じゃあ第二の事件の犯人が外部犯だった場合は?」

灰原「パソコンに残っていた遺書に疑問が残るわ。」

灰原「第二の事件にしか関与してないなら、その前に起きた事件なんて知る由もないはず。」


光彦「じゃあ、二つの事件の犯人が外部犯だった場合はどうです?」

灰原「その場合、一見筋が通りそうだけれど……外部犯でないと言い切れる証拠ならあるわよ。」

コナン「外部犯でないと言い切れる証拠?」

灰原「パソコンに残ってた遺書、何て書いてあったかしら?」

光彦「確か、博士を殺したのは私です、というような内容だったかと。」

元太「でもよく分からねぇ文章だったよな?まず『新ちゃん』って誰なんだ、って思ったしよ……」


灰原「ビンゴ。それよ。」

元太「——え?そ、それって?」

灰原「外部犯だったのなら、何故被害者が自分の息子を『新ちゃん』と呼ぶと知っていたのかしら?」

光彦「!! 言われてみれば確かにそうですね!身内でもなければ知らないことですよ!」

灰原「以上のことから、外部犯の可能性は極めて低いという訳。」

コナン「な、なるほど…。」



光彦「じゃあ僕の推理はどうですか?工藤有希子さんが犯人だという……」

灰原「それも疑問が残るわ。」

光彦「なっ、何故です!?」

灰原「さっき言ったでしょ?第一の事件で使われた凶器の石のブロックは、女性じゃ持てない重さなのよ。」

光彦「なら逆の発想ですよ!!」

光彦「博士をブロックのところまで連れていって頭をぶつけさせ、その後部屋まで引っ張っていったんです!」

灰原「それも無理ね…。」

灰原「博士が倒れていた場所以外からは血痕は見つからなかったし、引きずった後も見つからなかったわ。」

光彦「そ、そうですか…。」


元太「灰原!じゃあ俺の推理はどうだ!?」

灰原「論外。」

元太「ろ、論外……。」


コナン「——ちょっと待って!!外部犯でも母さんでもないとしたら、犯人は…!!」

カツン…

全員『!!!』ビクッ

歩美「——だ、誰か来た…?」

元太「き、きっと看護師さんだろ!」

コナン「いや……それはないよ。看護師さんだったなら、刑事さんと一緒に来るはずだから。」

灰原「一応容疑者ですものね…。」

カツン…

光彦「ち、近づいて来ますよ!」

灰原「とにかく隠れるわよ!!皆こっちに!」


ガラッ

??「……。」

カツン…カツン…

歩美(シ、シルクハットにマント着けてる…。)

光彦(仮面を被っていて、素顔は見えませんね…。)

元太(お、おい!!アイツ右手に銃持ってんぞ!!)ガタガタ

灰原(シッ!静かに!このまま、過ぎ去るのを待つわよ…。)

??「……。」

??「……フッ。」

カツンカツン

ガラッ

……。


灰原「……行ったみたいね。」

元太「何なんだよアレ!もしかして、幽霊…?」

コナン「足音してたし、幽霊ではないと思うよ。」

光彦「とりあえずここから出ましょう。いつまた来るか、分かりませんから。」

歩美「そうだね!」ガラッ





??「……。」カチャッ

歩美「……え?」


コナン「——歩美ちゃん伏せて!!!」



バシンッ!!

??「!」

カラカラカラ…

コナン「よし手に当たった!!アイツが銃を落としてるうちに皆逃げて!!早く!!!」パリ

歩美「う、うん!」

タッタッタ…

??「……。」


灰原「……追いかけてくるかしら」タッタッタ

コナン「たぶんね…」タッタッタ

光彦「も、もしかして本当に犯人がコナン君を襲いにきたんですか!?」

元太「ちょっ、ちょっと待ってくれよ…、もう走れねぇ……」ハァハァ

歩美「頑張って元太君!走るの止めたら殺されちゃう!!」

元太「そ、そうは言ってもよぉ……」ハァハァ

灰原(小嶋君はもう限界みたいね…。)


コナン「——あっ、分かれ道だ!」ザッ

光彦「左に行けば外に、右に行けば病棟ですね…。」

灰原「私が右に行って囮になるわ。皆はその隙に左に逃げて助けを呼んできて。」

光彦「そんなのダメですよ灰原さん!危険すぎます!!」

灰原「四の五の言ってる場合じゃないでしょ!?緊急事態なのよ…!?」

灰原「それに、小嶋くんはもう走れないみたいだし。このまま全員で逃げるよりかは、よほど生存率が高まるわ。」


コナン「いや……僕が囮になるよ。」

光彦「!! コナン君まで何言ってるんです!」

コナン「アイツが狙っているのは、恐らく僕だ。だから僕が右に行って囮になる。その隙に皆は…」

歩美「ダメだよそんなの!一人で囮になるだなんて!」

元太「……。」


元太「……オレが囮になる。」

光彦「!? 元太君!?」

灰原「何言ってるの!!只でさえこれ以上走ることの出来ないアナタが囮だなんて、死ににいくようなものよ!?」

元太「でも、オレのせいで皆の足を引っ張りたくねーんだ!!」

元太「それに父ちゃんも言ってたんだ……
『自分の命は一番大事だが、時にはその命を捨ててまで大事なもんを守らなきゃいけねーときが来る。それが男だ。』
ってな!」

歩美「元太君…。」

コナン「……。」


コナン「……分かった、元太君を置いていこう。」

灰原「ちょっと江戸川君!?」

コナン「その代わり僕は一人で左に行く。」

コナン「僕の推理が正しければ、アイツは僕の方を追ってくるはずだから…。」

コナン「その間、皆は病院で見つからないよう隠れていてほしい。」

歩美「で、でも…。」

コナン「大丈夫だよ、心配しないで。すぐに助けを呼んでくるから。」

歩美「そうじゃなくて、コナン君が…」

灰原「……私も一緒に行くわ。」

コナン「灰原さん!?」

灰原「今のアナタ一人じゃ心配だからね…。」

コナン「で、でも…」


カツン…

全員『!!!』

灰原「考えてる暇はないわ。それじゃ行くわよ、江戸川君。」

光彦「分かりました、元太君は僕と歩美ちゃんに任せてください!」

歩美「気をつけてね、コナン君!!」

コナン「……ああ!」


カツン…カツン…

コナン「鬼さーん!こっちだよー!」タッ

??「!」

灰原「とにかく、警察署に向かうわよ。」タッタッタ

コナン「うん。そこまで行けばアイツも追っては来ないだろうしね。」タッタッタ



米花町


灰原「はぁ、はぁ…」タッタッタ

コナン「アイツの姿が後ろにない……追ってくるのを諦めたのかな?」タッタッタ

灰原「ともかく、警察署までは、あと少し…」

??「……」ザッ

二人『!!!』

コナン「さ、先回りされた…?あと少しだったのに…!!」


??「……」カチャッ…

灰原「江戸川君!!何止まってるの、早く逃げるわよ!」ガシッ

コナン「う、うん!」タッタッタ

パァン!パァン!

チュン チュン

コナン「危なっ、アイツ躊躇なく撃ってきたよ!」タッタッタ

灰原「で、これからどうするつもり?署からはどんどん離れちゃってるけど?」タッタッタ

コナン「——博士の家に行こう!!」タッタッタ

灰原「博士の家に?」タッタッタ

コナン「このまま町を逃げ回るよりは、家の中に隠れた方がいいかなって!」タッタッタ

コナン「それに、今考えてる僕の推理は本当に正しいのか、あそこに行けば分かる気がする!」

コナン「この犯人は僕が捕まえないといけない……そんな気がするんだ。」

コナン「灰原さん、お願い…!」

灰原「……私も同意見よ。」

コナン「え?そ、それって…」

灰原「博士の家で決着をつけましょ。あの忌々しい殺人鬼とね…。」



阿笠邸


コナン「服部兄ちゃんの言う通りだ……微かに黒い付着物がある。」

パァン!

チュン

灰原「江戸川君!!早く奥に!」

コナン「う、うん!」タッタ


??「……。」カツン カツン

コナン「くっ…。」

??「……追い詰めたぞ。」ジャキッ

??「バカな奴らだ。自ら家に入って袋のネズミになるとは。」スッ

灰原「違うわよ。」

??「何…?」

灰原「ここでならアナタも落ち着いて話が聞けるでしょ?周りに怪しまれなくて済むから。」

??「残念ながら私には話すことなど一つもない…。」

灰原「あら、私達にはあるのよ。真実を掴むためにね…。」

??「……フッ、なるほど……探偵役の最後の大舞台、推理ショーに招待されたというわけか。」

??「いいだろう、探偵気取りの小娘。お前の推理、とくと聞かせてもらおう。」



灰原「——まずアナタは博士の家に犯行に必要な道具を持って行き、下準備をすませた。」

灰原「凶器に使われた石のブロック……あんなもの、博士の家には元々なかったわ。」

灰原「その後、博士の隙を伺って、後ろからそのブロックで殴り付けたのよ。」


灰原「そもそも、アナタがわざわざそんなものを凶器にしたのには、二つの理由があった。」

??「……。」

灰原「一つは調べられにくいため。庭に転がってるブロックなんて、普通は誰も見向きもしないでしょうからね。」

灰原「そしてもう一つは、例え見つけられたとしてもある人物では犯行が不可能だと思わせるため…。」

??「」ピクッ

灰原「でもそれが仇になったわね。お陰で犯人を絞り込むことが出来たわ。」

灰原「事件当時に犯行が可能で、凶器を扱える大人の男性……そんな人物、一人しかいない。」

灰原「そうよね……」






灰原「——工藤優作!!」



??「……フッ」

??「フッハッハッハッハ!!」

灰原「……何がおかしいの。」

??「この私が工藤優作?冗談も休み休み言え。」

??「第一、工藤優作にはアリバイがあったはずだ。コンビニの防犯カメラにも、その姿は映っていたいたんじゃないか?」

灰原「そ、それは…。」

??「……まぁいい。お前が真実に近づいていたのは確かだ。」

??「だが詰めが甘い…。」

??「真実を掴もうとした誇りと、己の無力さを胸に、このまま死ね。」カチャ

灰原(う、撃たれる…!!)






コナン「——アルセーヌ・ルパン…。」

??「……何?」

コナン「聞いたことくらいあるだろ。モーリス・ルブランが生み出した、世界最高の怪盗さ。」

灰原「工藤君…?」

コナン「そしてシャーロック・ホームズ。コナン・ドイルが生み出した世界最高の名探偵。」

コナン「彼らは怪盗と探偵……その性質は両極に位置するが、2人はとある共通の特技を持っていた。」

灰原「共通の特技…?」

??「……。」


コナン「変装だよ…。」

コナン「俺の母さんの特技、変装術さ。」

灰原「……まさか!」

コナン「ああ。恐らくお前は母さんにこう言ったんだ。」

コナン「『私の姿で買い物に行ってきてはくれないか』…ってね。」

コナン「そうだよな?怪人『闇の男爵(ナイトバロン)』。いや……」

コナン「——父さん!!」





??「……フッ」

カランカラン…

優作「その通りだよ新一…。流石探偵役なことだけはある…。」

灰原「ちょっと待って!工藤有希子は工藤優作と共犯だったってこと!?」

コナン「いや……恐らくアイツは母さんに拒否されないよう脅迫したのさ。」

コナン「拒否をすれば、俺を殺すってな…。」ギリ


優作「フッ…だがしかし、それだけで私を犯人だと推測した訳ではないだろう?」

コナン「ああ。博士にも助けてもらったぜ。ダイイングメッセージがあったからな。」

灰原「ダイイングメッセージ?どこにそんなものが…。」

コナン「灰原。博士の手元に何が落ちてた?」

灰原「ええと……確かジンの酒瓶と博士の眼鏡ね。」

灰原「……でも、今回の事件にジンは関係ないように思うけど?」


コナン「バーロ、そっちじゃねーよ。眼鏡の方だよ眼鏡。」

コナン「たぶん博士は最後の力を振り絞って、自分の眼鏡を外したんだ……犯人が誰かを知らせるために…。」

コナン「カモフラージュの為に使っている俺を除けば、眼鏡をかけているのは……アンタだけなんだよ。父さん。」

優作「ほぉ…。」


灰原「じゃあ、あのジンの酒瓶は?」

コナン「あれは捜査を混乱させる為に犯人が博士に渡したもんだろうよ…。主に黒の組織について知っている者に対してな…。」

コナン「あわよくば、黒の組織やジンの犯行だと思わせるつもりだったんだろうぜ…。」

コナン「博士の家の前で不審者を見た、というのも捜査の撹乱が目的だろ?」

優作「その通り。」

灰原「最初からそんな人物、いなかったって訳ね。どおりで痕跡も何も見つからない筈だわ…。」


コナン「次に第二の事件だが……証拠はたんまり出てくる筈さ。」

コナン「『持ち主の家だから指紋が出てきてもおかしくない』という心理を利用しただけの犯行だからな。」

コナン「アンタは母さんをナイフで刺した後、自殺に見せかけるために更に手首を切ったんだ。」

コナン「そして死亡推定時刻が出ないよう、風呂に沈めシャワーをかけたままにした。」

コナン「パソコンのキーボードから指紋が出てこなかったのは、咄嗟にハンカチでも使ったんだろう。」


灰原「それにしても変じゃない?博士の時と違って、計画性があまりにもないわ。」

コナン「それは、最初は母さんを殺すつもりがなかったからじゃねーかな……そうだよなぁ?」

優作「……何でそう思ったんだ?」

コナン「簡単なことさ。第一の事件で、アンタは凶器をわざわざ石のブロックにした。」

コナン「事件が起こったとしたら、状況的にあの場にいたことになっている母さんが一番真っ先に疑われる。」

コナン「それを回避する為さ。『女性に犯行は不可能だった』とかなんとか言ってな。」

コナン「今から殺すつもりである人への疑いを、リスクもあるのに晴らそうとするなんて有り得ないだろ?」


灰原「でもそうはいかなかったわよ?疑われたのは工藤君、アナタだったじゃない」

コナン「そりゃそうさ。俺の存在はイレギュラーだったんだから。」

灰原「え…?」

コナン「犯人は、最終的には外部犯の犯行に見せかけるつもりだったんだ。」

コナン「だけど、そこでハプニングが起きた…。」


優作「そうだ。お前が来てしまったことだよ、新一。」

優作「博士を殴り殺し、部屋から出ようとした直後にお前は来た。」

優作「『な、何やってんだ父さん…?』——あの絶望的な顔は忘れられそうにないなぁ!!!」

コナン「テメェ…!!」

優作「見つかったからには殺すしかないと思ったんだが、その時一つ閃いたんだ。」

優作「そして呆然としている新一にこう言ってやった……『博士を助けたければ、頭をそのシューズで蹴ってやればいい』と。」

灰原「そんな、無茶苦茶な…!」


優作「そう思うだろ?当然私もダメ元だった……まぁどうせ殺すんだ。試してみてもバチは当たらんだろうと。」

優作「そしたらどうだ…!!本当に博士を蹴り始めたんだよ!!!」

優作「信頼している者の死と、信頼している者の罪と言葉で、新一は精神をやられた訳だ!!」

優作「あの時ばかりは笑いを堪えることが出来なかった…!!最高だったぞ新一!!!」

灰原「アナタ狂ってるわ…!」

優作「結構結構。理解される気は更々ないよ。」


優作「事情聴取を受けた後、私は有希子と家に戻った。」

優作「家に着いた途端、質問の嵐だよ…。」

優作「やれ博士は優作が殺したんじゃないか、やれ新ちゃんがなんで容疑者なんだ、てな具合にな。」

優作「面倒だから殺してやった。年老いたアイリーン・アドラーに役目はないよ。」

コナン「テメェそれでも人間かよ!!!」

優作「ああ、勿論そのつもりさ。悪魔になった覚えはない。」


灰原「事件を起こした動機は……動機はなんなの!?」

優作「私は怪人『闇の男爵(ナイトバロン)』の生みの親にして、生粋の推理小説家、工藤優作だ。」

コナン「だからどうした!!」

優作「まぁまぁ、慌てるなよ新一……まだ夜更けだ。時間はたっぷりある。」

優作「私はナイトバロンの生みの親だろう?それである時ふと思ったんだ。」

優作「私はシャーロック・ホームズの素質より、ジェームズ・モリアーティの素質の方がずっと強いんじゃないか、とな。」

コナン「何っ!?」


優作「勿論知っているだろう……犯罪界のナポレオン、そう言われている彼のことを。」

優作「私は自分の可能性を見てみたかった……自分の素質を、観測してみたかった!!」

灰原「だから博士を殺した…?」

優作「その通り。彼はワトソン君を演じることは出来るが、セバスチャン・モランにはなれない大根役者だったからな。」

灰原「そんな意味の分からない理由で、博士を…!!」

優作「言っただろう?理解される気は更々ない、と。」


優作「……そんなに睨んでも無駄だよ。君たちに勝機はない。」カチャ

コナン「灰原!!何か武器になるようなものでも持ってねーのか!」

灰原「そんな都合のいいもの、持ってる訳ないじゃない!!予備の時計型麻酔銃もさっき使っちゃったわよ…!」

優作「探偵達の話はここで終幕だ。」

優作「新一。お前は俺の手でジャック・ザ・リッパーにするつもりだったんだが……こんな結末になるとは残念だよ。」

優作「だが安心しろ。インターポールと接点がある私だ。君達は無理心中したということにしてやろう。」

灰原「クッ…!」

優作「——さながら、あの時のチャリング・クロス駅行き最終列車を思い出すな。」

優作「今回は泣き言を言っても、シャーロック・ホームズは現れんぞ?新一?」

コナン「クソッ…!!」

優作「それではさらばだ、名探偵——。」グッ…






パァン!




優作「——ぐぁぁああぁあああああああぁあぁあああ!!!!クソッ!!手がぁあぁあ!!」カランカラン…

コナン「!?」

??「……間に合ったみたいやな、工藤。」

コナン「……服部!!」

服部「大丈夫や、手の甲撃っただけなんやから……死ぬことはあらへん。」

灰原「どうしてここに…?」

服部「どうしたもこうしたも、今日は阿笠のジイさん家に泊まる予定やったやないか?」

優作「クソがぁああぁあ!!私がが誰か分からないのか!!?」

優作「私は現代のモリアーティになる男だ!!誰に銃向けてると思ってるんだ!!!」

服部「……モリアーティ?寝ぼけとんのか?」

服部「アンタはモリアーティどころか、モランにもなれん、」

服部「只の人殺しや。」カチャ

コナン「——服部?何を…」


パァン!

優作「ぐぁぁああああ!!」ドサ

コナン「ちょっ何やってんだお前!!」

灰原「貴方、アイツをこのまま殺すつもり!?」

服部「オレ達はソイツに知人を二人も殺されてるんやで?何でそんなヤツ庇うんや?」

コナン「バーロー!!俺達は復讐者じゃない!探偵なんだ!」

灰原「そうよ!私達の目的は犯人を捕まえることで、殺すことではないわ…!」

コナン「そんなことも忘れちまったのかよ、服部…!」


服部「……相変わらず甘い奴やな、工藤…。」

服部「……ま、ええわ。」ポイ

ガッ

優作「ぐっ…」

服部「堪忍しいや、もうじき警察が来る。」

服部「残念やったな。アンタの下らん劇は、ここで幕切れや。」

優作「っ……」

ウーウー



灰原「……一つ疑問があるわ。どうして工藤君の母親は、事情聴取の時に助けを求めなかったのかしら?」

コナン「これは推測だけど……母さんは最後まで信じていたのさ。」

コナン「父さんは名探偵——シャーロック・ホームズだ、ってな…。」

優作「……。」



コナン(その後、警察が駆け付け、工藤優作は逮捕された。)

灰原「……終わったわね。」

コナン「ああ…。」

服部「そういや記憶戻ったんやな。どないな方法つこーたんや?」

コナン「さぁ……無我夢中で覚えてねーよ…。」

灰原「あえて言うなら、工藤君の記憶を取り戻す鍵は『推理』という行為そのものだったってことかしらね。」

服部「なるほどな。」


服部「ほな、事件も終わたし、オレは大阪に…」

コナン「……服部、どこで手に入れたんだ?その拳銃。」

服部「これか?大滝はんに無理言って、ちっと貸してもろてたんや。内緒やぞ?」

コナン「……んな訳ねーよな?」

服部「?」

コナン「警察で採用しているのはリボルバーのニューナンブM60。」

コナン「なのにその銃はオートマチック。どう見てもおかしいじゃねーか。」

服部「……。」

コナン「それに、服部は今まで銃なんて扱ったことないんだ…。」

コナン「だというのに手の甲や肩に確実に銃弾を当てていた。手慣れてなけりゃ出来ない芸当さ。」

コナン「そうだよな、ベルモット?」

灰原「べ、ベルモット!?」

服部「」クスッ



ベリッ

ベルモット「ふぅ…。」

灰原「な、何でアナタが…!!」

灰原「また私を殺しに来たって訳…!?」

ベルモット「出来ることならそうしたいけど、シェリー、貴方にはそこのCoolguyとの約束で手は出せないの。」

コナン「……で、いつ入れ替わったんだ?」

ベルモット「彼が一人でここに来たときよ…。」

ベルモット「電話に夢中で、後ろには全く気づいていない様子だったわ。」

灰原「まさか、殺したんじゃ…!」

ベルモット「安心しなさい、今はそこのトイレでぐっすりオネンネしているから。」


コナン「お前がわざわざ出て来た理由は何なんだ?」

コナン「この事件、黒の組織が関与していたのか?」

ベルモット「いえ、組織は関係ないわ…。」

ベルモット「実は彼の靴の裏側に、盗聴器を仕込んでおいたのだけれど……」

ベルモット「ある時、有希子が殺されたって聞こえたのよ。」

ベルモット「……私はベルモットではなく、シャロン・ヴィンヤードとして犯人を始末しようと決めた。」

ベルモット「有希子の仇をとるために…。」

ベルモット「……まぁ、それもCoolguy、貴方に止められたけれど。」

灰原「……アナタにまだそんな人間の血が通ってたなんてね。」

ベルモット「自分でも驚きだったわよ…。」クスッ


ベルモット「さぁ、お話はここでおしまい。」

ベルモット「私も帰らないと。無断で行動していたから、そろそろ門限だわ…。」

コナン「ベルモット。今回は助けてもらう形になったし、見逃してやるけどよ…」

コナン「また会う事があったら容赦はしねぇ…」

コナン「あんたが積み重ねた罪状や証拠を閻魔のように並び立てて、」

コナン「必ず地獄にぶち込んでやっからそう思え!!」

ベルモット(今の台詞…!)

ベルモット「——HAHAHAHA!!」

コナン「…何だよ?」

ベルモット「いえ……まさか同じ台詞を二回も聞かされるだなんて、思ってもみなかったのよ。」

コナン「同じ台詞だぁ?」

ベルモット「いいのよ。何でもないわ。」

ベルモット「只、この数奇な廻り合わせだけは神様に感謝しなくちゃね…」

ベルモット「それじゃあgoodluck,Coolguy,Sherry……。」

ベルモット「この先、幾度となく試練が待ち受けているだろうけれど、幸運を祈ってるわ…。」



後日談


服部「ぜっっったいに許さへんぞ!!ベルモットゆー奴!!」

服部「おいしいとこ、全部持っていきよって…!」

コナン「ま、まぁ落ち着けよ服部…」

服部「せやかて工藤!悔しいもんは悔しやないか!!」

コナン「気持ちは分かるけどよー…。」


コナン「……そういえば灰原、結局今後も博士ん家に住むつもりなのか?」

灰原「当たり前でしょ。アポトキシン4869の研究が出来るのなんて彼処くらいなものだし、」

灰原「私にとっては自分の家なんだから。」

コナン「……そうだよな。」

コナン「じゃあ仕方ねーから、時々泊まりに行ってやるよ。」

灰原「え?」

コナン「バ、バーロ!勘違いすんなよ!」

コナン「いつ黒の組織に襲われっか分かんねーからな!!」

コナン「それに、一人でいるより少しは心強いだろ?」

灰原「……ありがと。」

コナン「お、おう。やけに素直じゃねーか……」

光彦「あー!コナン君、灰原さんと二人で博士ん家に泊まるつもりですね!?」

コナン「バーロ、そんなんじゃ…」

元太「何だ何だ?今から博士ん家でお泊まり会か?」

歩美「そうなの?じゃあ私も用意してこなきゃ!」

服部「残念やったなーマセガキ♪ 二人きりじゃのーて」

コナン「ったく、そんなんじゃねーってのに…。」



コナン(あんな事件があったけれども、俺たちは平和に日々を過ごしている)

コナン(もう、人を悲しませる事件を起こさせはしない……そう胸に誓いながら。)

コナン(まぁ、相変わらず黒の組織の行方は掴めてねーが)

コナン(『江戸川コナン』としての生活も悪くない、なんて思い始めていたりする……)

コナン「……なんてな。」


END


以上です。
本当はもっとコンパクトにするつもりだったのですが、思った以上に長くなってしまいました。
まともなSS書くのって大変ですね。


レスしてくださった方、ありがとうございました。本当にありがたかったです。

読んでくださった方、少しでもお暇を潰させていただけたならば幸いです。

それでは。

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