真美「新しく来た兄ちゃんが961んだけど」(854)

このSSは、愛「あたしという存在……」の続きとなります。


前作




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1359212204



高木
「おはよう諸君」


赤羽根
「おはようございます!」


律子
「おはようございます社長」


高木
「ウォッホン! いきなりだが赤羽根君に聞きたいことがある。よく聞いてくれ」


赤羽根
「?」


高木
「これまでこの事務所は君たち二人だけでここまで成長することができた。しかし竜宮小町の3人を除き、他のアイドル達を全て君が担当するというのは負担が大きすぎる」


高木
「そこで赤羽根君の負担をなるべく減らす為に新しくプロデューサーを雇うことにしたのだが……」


律子
「確かに今まで一人で仕事ができたのが不思議なくらいでしたからね。私は良い考えだと思います」


高木
「ありがとう、律子君。だが、まずは赤羽根君の意見を聞かせてほしい」


高木
「君だって担当しているアイドルたちは可愛くて仕方が無いだろう。そんなアイドルたちを新しく来たプロデューサーに預けることに抵抗はないだろうか?」



赤羽根
「……そうですね。確かに不安はありますけど、美希や千早や雪歩……、みんな昔より一回りも二回りも大きく成長しました」


赤羽根
「だから、俺じゃないプロデューサーが担当になっても彼女たちなら頑張ってくれると思います!」


高木
「そうか……。それを聞いて安心したよ」


高木
「それでは膳は急げだ。早くプロデューサー応募職用のプロモーションビデオを作ってしまおう」


赤羽根
「いや、なにもそこまでしなくても……。ホームページで募集を掲示すれば良いんじゃないですか?」


高木
「それでも良いが、実際に仕事場の雰囲気を見てもらった方が応募する側も安心するだろう。それに、すぐに辞められては本末転倒だからね」


赤羽根
「なるほど」


高木
「それじゃ来週までにカメラマンを呼ぶが、君はいつも通りに過ごしてくれたまえ」


赤羽根
「分かりました」


高木
「新しく来るプロデューサーから尊敬されるくらいカッコよく仕事をするんだよ?」


赤羽根
「あはは……。やるだけやってみます!」


――



――「今週のゲストは……双海真美さんです!」


~♬~♫


真美
「どうも→!」


観客
『カワイイ~~!』


サングラス
「あれ? 竜宮小町は前にゲストで来たけど、お姉さんの方は初めてだっけ?」


真美
「そうだよ→。亜美がメイワクかけてなかった?」


サングラス
「できたお姉さんだね~。むしろ盛り上がって大助かりだったよ」


真美
「良かった→」


サングラス
「それはそうと髪切った?」


真美
「え? 初対面なのになんで分かったの? もしかして……」


サングラス
「もしかして?」


真美
「あの時のスタイリスト?」


サングラス
「んなこたぁない」


観客
『ハハハッ!!』


――




「お疲れ様。この後は別のスタジオでゲスト出演する予定だから早めに出るぞ」


真美
「ねぇ、白ちゃん。なんでいつもゲストばっかりなの?」



「イメージ戦略だよ」


真美
「イメージ戦略?」



「あっちこっちにゲストで呼ばれたら、茶の間の観客は“売れっ子アイドル”って認識してもらえるだろ?」


真美
「あ、確かに!」



「まぁ、ランクを上げるにしても、なんにしてもお前の知名度はまだ低いから今は地盤を固めてる感じかな」


真美
「おぉ! なんか白ちゃん、敏腕プロデューサーって感じだね!」



「ありがと。だけどお前の方こそ覚悟しておけよ?」


真美
「どういうこと?」



「コッチは竜宮小町っていうハンデがあるんだ。まずはお前を竜宮小町より有名にさせる。そこから知名度を広げつつ、Sランクまで成長してもらうつもりなんだからな」


真美
「ん~、それはムリっしょ! 竜宮小町ってラピュタだもん!」



「は? ラピュタ?」


真美
「うん、ラピュタ」



「えっと……、もしかして雲の上の存在って言いたいのか?」


真美
「あ、そうそう。それだよ白ちゃん。よく分かったね」



「俺もそう思う」


――



――「撮影終わりまーす。お疲れ様でしたー」


真美
「やっと終わった→!」



「お疲れさん。とりあえず今日の仕事はこれで終わりだな」


真美
「メッチャ疲れたよ……」



「今日は頑張ったから、どっかメシでも食べて帰ろうか」


真美
「おっ! 良いねぇ~!」



「なに食いたい?」


真美
「フレンチ!」



「いや、みんなで行くんだろ? 楽しみにとっておけよ」


真美
「え~。Boo→。Boo→」



「ほかに要望は?」


真美
「う~ん」



「無いんならたるき亭で良いか?」


真美
「ならガストが良い!」


――



亜美
「なんか最近の真美、よくテレビで見かけるようになってきたね→」


真美
「これも白ちゃんのお陰っしょ!」


亜美
「さすが白ちゃん! 兄ちゃんにできないことを平然とやってのける! そこに痺れる憧れるゥウ!!」


赤羽根
「ぐぬぬ」


律子
「ほらほら、二人とも! あんまり赤羽根殿をからかわないの!」


亜美・真美
『は→い!』


真美
「でもさ→、もしかしたら白ちゃんの言った通りホントに竜宮小町より有名になっちゃうかもね→」


あずさ
「うふふ。私たちも負けてられないわね~」


伊織
「はぁ、そんなことある訳ないじゃないでしょ」


亜美
「いおりん?」


伊織
「夢を見るのは勝手だけど、少しは現実を見なさい」


真美
「いおりん、そんな言い方ってないんじゃない?」ムッ


伊織
「なに怒ってるのよ。当然のことを言ったまでじゃない」


真美
「あ~、分かった。真美が人気出てきたから焦ってるっしょ」


伊織
「バカね。私たちとアンタ、どれだけ差があると思ってるのよ。寝言なら寝てから言いなさい」


真美
「むっか~!」


あずさ
「あら~?」


亜美
「なんか険悪なムードになってきたよ→……」


律子
「不味いわね……」


亜美
「ど、どうすんの、律っちゃん~!」


律子
「伊織ー! そろそろ仕事だから行くわよー!」


伊織・真美
『フンッ!』


――



真美
「なにが“寝言なら寝てから言いなさい”だよ! 確かにちょっと言い過ぎかなって思ったけど、そこまで言わなくても良いじゃん!」



「荒れてるな~」


真美
「白ちゃんもそう思うでしょ!」



「そうだな」


真美
「あれは真美が人気になってきて焦ってるだけだよ。絶対にそうっしょ!」



「でも、向こうの方がランクが上なのは本当の事だろ?」


真美
「分かってるよ! でも、そんなの今だけじゃん! 白ちゃんだって真美を竜宮小町より有名にしてくれるって言ってたでしょ?」



「言ったな。でも、お前の方はあんまり乗り気じゃなかっただろ?」


真美
「気が変わったの!」



「そうですか」


真美
「絶対にいおりんを見返してやるんだから!」


――



律子
「伊織、なんでアンタ真美にあんなこと言ったのよ?」


伊織
「別に……、なんとなく人気が出てきたってだけで調子に乗ってる姿がムカついただけよ」


律子
「だからって、あそこまで言う必要はなかったでしょ?」


伊織
「私は間違ったことなんて言ってないわ。アイツはなにも分かってないのよ」


律子
「伊織……」


伊織
「だってそうでしょう!? 育ててもらったプロデューサーから鞍替えして、ちょっと人気が出てきたら私たちより有名になるって大口叩いてるのよ!? 少しくらいキツく言った方がアイツには良い薬だわ!」


律子
「だけど、あれは言い過ぎよ」


伊織
「そうかしら?」


律子
「真美の気持ちを考えてみなさい。私たちが活躍してた頃からずっと日陰にいたのよ? 少しくらい態度が大きくなるのは仕方が無いことでしょう?」


伊織
「……」


律子
「とにかく帰ったらちゃんと仲直りするのよ?」


伊織
「……分かったわよ」


――



――「お疲れさまでした~」



『お疲れ様でした』



律子
「みんなお疲れ様。それと伊織、帰ったらちゃんと謝るのよ?」


伊織
「何度も言われなくても分かってるわよ!」


亜美
「フンッ! 勘違いしないでよね。別にアンタと仲直りがしたい訳じゃないんだから! でも……、今朝はちょっと言い過ぎちゃったわ。……ごめんなさい……」


伊織
「……なにやってるの?」


亜美
「いおりんのセリフをシュミレート!」


伊織
「私はこんな照れ隠しみたいなこと言わないわよ!」


亜美
「え~! 絶対こんな感じだよ→!」


伊織
「絶対に違うわよ!」


あずさ
「あらあら~」


律子
「二人とも遊んでないで帰るわよ~」


――



律子
「ただいま帰りました」


亜美
「いよいよですな~」


伊織
「フンッ。野次馬は黙って見てなさい」


あずさ
「あら~? でも、肝心の真美ちゃんがいないわ」


亜美
「まだ帰ってきてないだけじゃない?」


律子
「小鳥さん、真美たちまだ帰って来てませんか?」


小鳥
「それが……、戻って来てからずっと社長と会議室に籠もったままでして……」


律子
「社長と? なにかあったんですか?」


小鳥
「プロデューサー曰く、やりたい企画ができたとのことですけど、詳しくは……」


――ガチャン。



「それじゃ、社長。よろしくお願いしますね」


真美
「……」


高木
「まぁ、良いだろう。後は律子君だが……」


律子
「私がどうかしましたか?」


高木
「おぉ、律子君か。丁度良いところに帰ってきた。ちょっとコッチに来てくれないか?」


律子
「なんですか?」


高木
「突然のことで申し訳ないのだが……」


律子
「?」


高木
「彼が企画したライブに君たち竜宮小町も参加してくれないだろうか」


律子
「日程が合えば参加させて頂きますけど、なんで私だけなんです? ライブなんて重要な話はみんながいる時にするべきだと思うんですけど」


高木
「まぁ、本来ならそうするのだが……」


律子
「?」


高木
「実はこのライブ、参加者が君たち“竜宮小町”と彼が担当する“双海真美君”の二組だけなんだ」


律子
「えっ!? ど、どういうことなんですか!?」


高木
「それについては私よりも彼から聞いた方が良いだろう」


律子
「プロデューサー殿!」



「真美も人気が出てきたからここらで竜宮小町との差を知ってもらおうと思っただけだが?」


律子
「意味が分かりません! そんなことしたら真美が傷つくだけじゃないですか!」



「本人も覚悟の上だ。……この意味、分かるよな?」


律子
「ぐっ……」


律子
(仲間内で争うなんてなに考えてるの、このプロデューサー!?)


伊織
「あら、良いじゃない。その勝負、受けてたつわよ律子」


律子
「伊織!?」


伊織
「まさかホントに私たちを超えるなんて思ってたなんてね……。冗談にしても笑えないわ」


真美
「言ってなよ。最後に笑うのは真美だからさ」



「それじゃライブの件は承諾ということで良いか?」


伊織
「えぇ、捻り潰してあげるわ」


律子
「ちょ、ちょっと勝手に決めないで! 承諾なんてする訳ないでしょ!」


伊織
「律子、いいから黙って受けなさい。私たちはコイツらに舐められてるのよ? このライブでどっちが上かハッキリさせた方が良いわ」


律子
「だけど……、それじゃ真美が可哀想……」


真美
「――ッ」



「可哀想? まさか自分のユニットが絶対に勝てると思ってるのか?」


律子
「え? い、いえ、そういう訳では……」



「なら、迷わず決めろよ。コイツらの意気込みをムダにするつもりか?」


伊織
「受けなさい律子!」


真美
「律っちゃん!」


律子
「……っく。分かりました。受けますよ」



「決まりだな」


律子
「……私は責任は取りませんからね!」



「あぁ。責任は自分で取るから安心してくれ」


律子
(どうなっても知らないんだから)



「それじゃライブの開催日だけど、都合の良い日程はあるか?」


律子
「それなら三ヶ月後の上旬ですね」



「そっか。分かった。その時までにお互い調整しておこう」


律子
「……分かりました」


――




「さて、いよいよ引き返せないとこまで来たな」


真美
「別に良いよ。それよりも白ちゃん。真美、勝てると思う?」



「現状としては敗色濃厚だな。向こうはファンも知名度もある一流ユニットだ。普通なら勝てない」


真美
「そう、……だよね……。やっぱり竜宮小町に勝つなんてムリだったのかな……」



「言っただろ? “普通なら”って。格下には格下のやり方があるんだよ」


真美
「?」



「とりあえずダンスと表現力だな。ダンスは良いとして、表現力は……」


真美
(難しい顔して考えてる……。白ちゃん、きっと本気で真美を勝たせようとしてるんだ)



「……普通にやってたら時間が足らないし……。取ってきた仕事はキャンセルして時間をつくるしか……」


真美
「……」



「なぁ真美、これからのレッスンなんだけど……」


真美
「レッスンする日が増えるんでしょ! キツくても頑張るから大丈夫だよ白ちゃん!」



「いや、レッスンは直前までやらないつもりだ」


真美
「え!? じゃ、じゃあ、どうするの?」



「そうだなぁ……。適当に遊んでるか」


真美
「!?」


――

今日はここまでにします。
それにしてもブラウザバックが重すぎてやりずらい……。



一ヵ月後  



「ついにこの日がきたな……。緊張はしてないか?」


真美
「ぜんぜん。むしろ楽しみで仕方が無いって感じ?」



「おっ! なんか今日の真美は頼もしいな」


真美
「んっふっふ~。自分でも一回り大きくなった感じだよ」



「自信があるのは良いことだが、油断だけはするなよ。あくまで勝敗を決めるのは観客だ」


真美
「分かってるよ。真美たちはチャレンジャーなんでしょ?」



「あぁ。ちゃんと分かってるみたいだな」


真美
「当たり前っしょ」



「とりあえず……9時か。ライブ開始が14時からだから昼食を挟んでも4時間くらい余裕があるな」


真美
「ねぇ、白ちゃん。なんでこんなに早く来たの?」



「ダンスの確認以外にもライトを当てるタイミングとか、やることがたくさんあるんだよ」


真美
「へー、白ちゃんも大変なんだね」



「他人事だと思いやがって。コッチはお前を勝たせる為にやってるんだぞ?」


真美
「うん。ありがとね、白ちゃん」



「……」


真美
「どうしたの?」



「いや……、お前が素直だと気持ちが悪いな」


真美
「チョ→ひどいんですけど!」


――



照明係
「ライトアップのタイミングなんですけど……」



「それは……でお願いします」


ディレクター
「ここは……ですか?」



「いえ、ここは……で……という感じでお願いします」


真美
「白ちゃん、まだーー?」



「もう終わりだー! その前にテストするから最初っから踊ってくれー!」


真美
「りょーかいー!」


~♬~♪~♫~


真美
「……♪」タンッキュッキュッ



――ダンッ。シュー。パッ


~♫~♬♪


真美
「……ふぅ」



「オッケー! テスト確認できたから休んでて良いぞー!」


真美
「分かったー!」


――




「朝から疲れさせて悪いな」


真美
「も→まんたい。だから気にしないで良いよ」



「そう言ってくれると助かる。ところでお前、途中から出てくるのが遅かったな。どうしたんだ?」


真美
「う~ん。実は着替えるのが手間取っちゃって」



「あぁ、だからか。じゃあ、その時は俺も手伝おうか?」


真美
「それはさすがに……。恥ずかしいっていうかなんと言うか……」



「?」


真美
「とにかく! 着替えは一人でやるから白ちゃんは必要なし!」



「一人でやって失敗したヤツがなに意地になってんだよ」


真美
「うっ……」



「とりあえず女性スタッフを待機させとくから、ヤバそうになったら手伝ってもらえ。分かったな?」


真美
「はーい」


――コンコン



「どうぞー」


伊織
「アンタたち声が大きすぎるのよ。外まで聞こえたわよ」ガチャッ


律子
「こら、伊織!」


亜美
「こんにちわ→!」


あずさ
「真美ちゃん、白さん。こんにちわ」



「皆もう揃ってたのか。挨拶に行けなくて悪いな」


律子
「いえ、コチラも来る時間が遅かったんですから気にしないで下さい」


伊織
「フン。バカ騒ぎして来るの忘れてたんでしょ? ずいぶん余裕じゃない」


真美
「むしろそっちは余裕なさそ→だね」


伊織
「なんですって?」


律子
「ほらほら口ケンカしないの! 挨拶は済んだんだし、もう自分たちの楽屋に戻るわよ」


伊織
「フン。分かってるわよ。せいぜい無様に散りなさい」


――バンッ!



「おい、真美……」


真美
「分かってる。……もう、良いんだよね?」



「思いっきり暴れてこい!」


真美
「うん! 今日で真美の方が上だってショーメイしてやるんだから!」



「その意気だ!」


真美
「勝つよ! 白ちゃん!」



「あぁ! 後ろは任せな!」


――



――『長らくお待たせしました。これより竜宮小町・双海真美によるライブイベントを開催します』




――ウォオオオオ! パチパチパチパチ!




高木
「ぉお! 始まったよ善澤君!」


善澤
「そうみたいだね」


高木
「今回も頼むよ! 彼女たちの魅力を余すことなく記事にしてくれ!」


善澤
「このライブはあの876プロの彼が企画したものだったかな? どんなステージになるか楽しみで仕方が無いよ」


――



伊織
『みんなー! 今日は楽しんでいってねー!』


亜美
『今日は亜美たちもホンキで踊っちゃうんだから!』


あずさ
『三浦あずさ、頑張りま~す!』


真美
『それじゃ最初は真美から! いッくよ→! ポジティブ!』




~♪♬~♬




真美
『悩んでもしかたがない』


――イェーイ!


真美
『ま、そんな時もあるさ あしたは違うさ』


~♫♬~♪~♬


――WOW WOW!!


真美
『悩んでもしかたがない。ま、そんな時もあるさ あしたがあるさ』


真美
『ググってもしかたがない。迷わずに進めよ 行けばわかるのさ!』


――ウォォオオオ!!!


――




「前座お疲れさま。ステージの感じはどうだ?」


真美
「ん~、まあまあかな」



「なら良いや。この後は竜宮小町と一緒にトークする予定だけど……、ちゃんとネタ考えてきたか?」


真美
「バッチシ!」



「OK。ムカついてもステージの上だけは笑顔だぞ?」


真美
「分かってるよ」


――ワァアアアアアア!!!



「……出てきたな」


真美
「そんじゃ行ってきま→す!」


――



亜美
『みんな→! 盛り上がってる~~?』


――ォオオオオオオ!!!


亜美
『良いね→良いね→。ノリの良い兄ちゃんは大好きだよ→!』


あずさ
『あらあら、亜美ちゃんったら』


――あずさサーン! 結婚シテクダサーイ!


あずさ
「あら~? どこかで見たことがあるような~」


伊織
「というかあの外国人、隣の女に蹴られまくってるわよ」


真美
『ねぇねぇ亜美。久々に“アレ”やろうよ!』


亜美
『おっ、良いね!』


――『?』


亜美
『んっふっふ~。みんな不思議そうな顔してるね~』


真美
『今から真美たちがシャッフルするから、どっちが亜美か真美かを選んでね!』


亜美
『じゃあ兄ちゃんたち、最初は亜美を当ててね!』


真美
『いっくよ→!』


亜美・真美
『どっちが亜→美だ?』


――『ひだりー!!』


亜美
『正解! コレはちょっと簡単すぎたかな~?』


真美
『それじゃ次から同じ髪型にするからちょっと難しくなるよ!』


亜美
『いくよ→真美!』


真美
『OK!』


真美・亜美
『せーの!』


亜美・真美
『どっちが亜→美だ!』


――『みぎー!!』


亜美
「ざん――」


真美
『正解ッ! さっすが亜美のファンだね!』


亜美
(えっ!?)


真美
『それじゃ次は真美を当ててね! いくよ→!』


亜美
「ど……」


真美
「せーの!」


亜美・真美
『どっちが真→美だ!』


――『みぎー!!』


真美
『またまた正解ッ! みんな、なかなかやるね~。じゃあもう一回! って言いたいところだけど、みんなそろそろ亜美たちの歌が聞きたいって顔してるね→』


あずさ
『それじゃあリクエストにお答えして』


伊織
『いくわよーッ!』


亜美
『やっぱ竜宮小町といえばコレっしょ!』


真美
『一曲目!』


『SMOKY THRILL !!』


――ワァアオオオオ!!!


――





「ナイスフォロー。よくやった真美」


真美
「いや~、アレはさすがにビックリしたよ→。みんなホントに亜美のファンなの?」



「さぁ? ファンといっても竜宮小町のメンバーそれぞれにいるんだから仕方が無いんじゃないか?」


真美
「そんなもんかな?」



「そんなもんだ。ほら、喋るのも良いが早く着替えろ。この後はお前の曲だろ?」


真美
「そうだけどさ……。白ちゃん、女性スタッフは?」



「いない。確認したらスタッフは男しかいないって」


真美
「そ、そんな~~!」



「という訳で俺が手伝うことになった」


真美
「なら一人でやるよ!」



「後ろのヒモ縛れるのか?」


真美
「そ、それは……」



「諦めろ。現実はいつだって非情だ」


――



――キュッ。



「良し。終わったぞ」


真美
「解けない?」



「俺しか解けない」


真美
「それじゃ、また白ちゃんに身体を触られちゃうの?」



「あぁ。それで恥ずかしくなってまた顔が紅くなってくんだろうな」


真美
「ッ!?」



「なかなか可愛い顔だったぞ?」


真美
「し、白ちゃん!」



「悪い悪い。それはそうと髪留め外しても良いか?」


真美
「なんで?」



「なんとなくだけど、そっちの方が似合ってるかなって」


真美
「……痛くしないでね?」



「はいはい」


――さわっ


真美
「ぁっ……」



「……ほら、取れたぞ」


真美
「……」ボー



「どうした?」


真美
「な、なんでもない。というか白ちゃんリアクションが薄いYO→!」



「生まれつきこうなんだから気にするな」


――ワァアアアア!!!



「丁度良いタイミングだ。真美、準備は良いか?」


真美
「バッチシ!」



「良しッ! 行ってこい!」


――



真美
『みんな盛り上がってるね→!』


――イェェエイ!!!


真美
『それじゃ次は真美の曲だよ→! みんな聞いたことあるかな~? 青空のナミダ!』


――ォオオオオオオオオ!!!


~♬♫♬~♪~♬♪♫


真美
『悲しみの中に、勇気がある。輝きつかむと、信じてる』


真美
『降りしきるー、青空のナミダ。いつの日にかー、笑顔に変えるよ!』


――ォオオオオオオオオ!!!


真美
『みんなありがと→!』


真美
『次は竜宮小町と一緒に“自分REST@RT”を歌うよ→! みんな応援してねーー!!』


――



ォオオオオオオオオオオオオオオ!!!


亜美
『いくよーーーー!!!』


ウォオオオ! ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!!


伊織
『昨日までの生き方を否定するだけじゃなくて』


ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!


あずさ
『これから進む道が見えてきた』


ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ! 

Fo‐↑ Fo‐↑ Fo‐↑ Fo‐↑





~♫♬~♪~♬




真美
『輝いたステージに立てば』


Foooooooooooooooooooooooo!!! フゥッフゥ!!


伊織
『最高の気分を味わえる』


ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ! 


亜美
『全てが報われる瞬間。いつまでも続け』


Fo‐↑ Fo‐↑ Fo‐↑ Fo‐↑

ハイッ! ハイッ! ハイッ! フゥッフゥ!! ハイッ! ハイッ! ハイッ! フゥッフゥ!!


あずさ
『夢なら覚めないで』


ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!


真美
『いーてッ!』


ウォオオ!! ハイッハイッハイッハイッ!!


――





――大空を~飛ぶ鳥のように~


『ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ! Fo‐↑ Fo‐↑ Fo‐↑ Fo‐↑』





「ここまでは順調……」



(真美も竜宮小町も曲はもう使い切ったし、後はこの曲が終るのを待つだけだな)


――「……おい」



「あぁ、悪い。そろそろ準備するか」


――



亜美
『どんなに遠くても行こう』


Fo‐↑ Fo‐↑ Fo‐↑ Fo‐↑ ハイッ! ハイッ! ハイッ! フゥッフゥ!


あずさ
『あこがれの世界』


ハイッ! ハイッ! ハイッ! フゥッフゥ!


真美
『夢だけでは』


ハイッ! ハイッ! ハイッ!


伊織
『終らせたくない』


YEEEEEEAAAAAAHHHHHH!!!!


亜美
『みんなありがとーー!!』


――

ちょっと休憩。残りは7、8時くらいに



律子
「みんなお疲れさま」


亜美
「ねぇ、律っちゃん。ライブってこれで終わり?」


律子
「そのはずだけど……」


伊織
「結局アイツらなにも仕掛けてこなかったわね」


律子
「えぇ。なにか仕掛けてくるとは思ってたけど、意外だったわ」


伊織
「フン。遊び人にはこれが限――」






――バンッ! バンッ! バンッ! バンッ!






亜美
「え!? なになに!?」


伊織
「て、停電!?」


律子
「と、とりあえず落ち着きなさい! ライブはもう終ったんだから!」


伊織
「そ、そうね」




――バンッ!




亜美
「あ、直ったみた――」






真美
「……」






亜美
「って真美!? まだステージにいたの!?」


律子
(衣装が……変わってる?)








~♫♬~♪~♬


真美
『 ねぇ 消えてしまっても探してくれますか? 』








あずさ
「え?」


伊織
「これって美希の……」


律子
「……マリオネットの心?」


亜美
「ねぇ律っちゃん! どういうことなの!? ライブは終わったんじゃなかったの!?」


律子
「し、知らないわよ!」








♪~♬~♫♬~♪~♬


真美
『 きっと忙しくて メール打てないのね 』


真美
『 寂しい時には 夜空 見つめる 』


真美
『 もっと振り向いてほしい 昔みたいに 』


真美
『 素直に 言いたくなるの 』




~♬♫~♪♬~♫








亜美
「ねぇ! 真美、このまま歌い続けるみたいだよ!」


律子
「どういうことなの……? ステージの雰囲気を壊してまで何がしたいのよ」







真美
『 ZUKI ZUKI ZUKI 痛い 』


真美
『 DOKI DOKI DOKI 鼓動が身体 伝わる 』


真美
『 踏み出したら 失いそうでできない 』




――ダンッ!


北斗
「……」


――ダンッ!


翔太
「……」


――ダンッ!


冬馬
「……」


~♫♬~♪~♬


――ワァアアアアアアアアア!!!!!




真美
『 ねぇ忘れるフリすれば会ってくれますか?』


真美
『 待ち続ける 私マリオネット!』








亜美
「ジュ、ジュピター~~~~ッ!!?」


あずさ
「ど、どういうことなの!?」


伊織
「なにが……どうなってるの!?」


律子
(観客が驚いてない? ……まさか!?)


律子
「やってくれたわね……」


伊織
「律子! どういうことなの!?」


律子
「真美とジュピターを見て分からない? あのコンビネーションは一日そこらで出来るものじゃないわ!」


あずさ
「た、確かにそうね……」


律子
「それに、観客がまったくと言って良いほど驚いてないのよ。……つまり……」


伊織
「つまり……?」


律子
「……私たちはプロデューサー殿に騙されてたってことね」


亜美
「ぇえっ!? じゃ、じゃあ真美が遊んでたのも全部!?」


律子
「えぇ。きっとプロデューサー殿は、ここまで計算して伊織たちを挑発したんだわ」


伊織
「そんな……。じゃあ私たちはあの白髪の掌で踊ってただけっていうの……?」






真美・ジュピター
『 貴方に気持ち届かない Ah もどかしい 』


真美
『 ほらね 涙 ひと粒も出ない 』


真美・ジュピター
『 心が こわれそうだよー! 』






亜美
「ねぇ律っちゃん! ステージで踊ってるのホントに真美なの!? これじゃまるで、ミキミキだよ!」


律子
「……むしろ美希よりもタチが悪いわよ」


亜美
「え!?」


律子
「よく見てみなさい」








真美
『 切れそうになった糸は もう戻らないよ 』


真美
『 だけど勇気なくて 認めないの 』


真美
『 すでに醒めてしまった、ことーー!! 』




~♫~♪♬~♬


ジュピター
「……」




真美
「――ッ♪」タン、タタタン。ッタタン、ンッタタン。キュッ








あずさ
「真美ちゃんのソロだけど、……あ、あれって……」


亜美
「タップダンス!!?」


律子
「それも本来のダンスにアレンジを加えたオリジナル……」


伊織
「動きが変則的すぎるでしょ! あれじゃ本当に操り人形じゃない!」


律子
「マネだけじゃなくて完全に自分のモノにしてるってことみたいね……」


伊織
「くっ。あんな動き、真や響だってできないのに……。フリースタイルもいい加減にしなさいよ……」








~♪♫♬~


――タン、タン、タンッ!


真美
『 ねぇ まだ私のこと見つめてくれますか? 』


翔太
『 なにもできない 』


冬馬
『 それが 』


真美
『 マリオネット! 』


真美・ジュピター
『 貴方に気持ち届かない Ah もどかしい』


真美
『 ほらね 涙 ひと粒も出ない 』


真美
『 心が こわれそうッ、だよーーー!!』



~♪♬~♫♬~♪~♬


ジュピター
「……」ハァ、ハァ、ハァ


真美
「……」フーゥ、スーゥ


――



あずさ
「これが……真美ちゃんの……実力……?」


亜美
「ウソだよ……。こんなのウソだよ! だって真美、ずっと遊んでたじゃん! レッスンの時だって適当だったんでしょ!? こんなのオカシイよ!」


伊織
「私は認めない。認められるわけないでしょこんなの!!」


律子
「私だって悔しいわよ。……だけど認めなさい。この勝負……私たちの――」














『 ウォオオオオオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
 ワァアアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! 』














律子
「――負けよ……」


――



真美
「白ちゃん! 白ちゃん! どうだった真美のステージ!?」



「あぁ、最高だったぞ! 歓声なんか独り占めだったじゃないか」


真美
「凄かったよね! 真美もチョ→気持ちよかったもん!」



「興奮冷め止まないって感じだな」


真美
「そりゃそうだよ! だって……だって……! ホントに勝っちゃったんだよ!!」



「ふふっ。気持ち良いくらいに圧勝だったぞ」


真美
「ジュピターのお陰じゃないよね?」



「違う。お前が実力で勝ち取ったんだ」


真美
「夢じゃないよね……? 白ちゃん、ちょっと抓って」



「ほれ」ギュウッ


真美
「いふぁい」



「ほれほれ」


真美
「いふぁい! いふぁいってほぁ!」



「ん~? なに言ってるか分からないな」


真美
「あわ~~ッ! シホひゃんのドえひゅ~~ッ!」



「はははっ」


――



――ワィワイ、ガャガヤ


律子
「ほら、行くわよ」


伊織
「……」


――コンコン。



「どうぞ」



律子
「……失礼します」


伊織
「おジャマするわ」


あずさ
「失礼します~」


真美
「あ、みんなおつかれ~。どうしたの?」


律子
「謝りに来たのよ。……その……、あの時は可哀想なんて言ってごめんなさい」


真美
「もう気にしてないって」


律子
「でも、真美を傷つけちゃったのは事実だから」


真美
「確かにあの時はグサッときたけど、そんなの今日のライブで忘れちゃったよ! だから律っちゃんも気にしないで」


律子
「……ありがとね、真美」


伊織
「私もキツイこと言って、わ、悪かったわ」


真美
「もう、いおりんも気にしなくて良いってば→」


伊織
「そう言ってくれると助かるわ。まぁ……、アンタも頑張ってたみたいね」


真美
「んっふっふ~。そうでしょ。そうでしょ」


伊織
「それよりもタップダンスなんていつの間に練習してたのよ」


真美
「ん~、ダンレボやってたらできた」


伊織
「はぁ~~ッ!?」


真美
「なんかさ→、スピードが速すぎてもう軽く踏むだけで良いやって考えたら、あんな感じになったんだよね→」


伊織
「じゃ、じゃあ、あの変則的な動きはなんなのよ!」


真美
「変則的? ……あぁ、スケートのこと?」


伊織
「スケート?」


真美
「うん。白ちゃんが言うには、あくまでイメージを掴むためにやってたんだけど……。なんかできた」


伊織
「ハァアア!? ってことはホントに高が遊びであの動きを身に着けたっていうの!?」


真美
「アレってそんな凄いことなの?」


伊織
「当たり前じゃない! やろうとしてできるものじゃないのよ!?」


真美
「ほほぅ。つまり知らない間にレベルアップしてたみたいですな→」


伊織
「はぁ。にわかに信じられないわね……」


真美
「ねぇ、白ちゃん! 真美、いつの間にかレベルアップしてたみたいだよ→!」



「そうなのか?」


真美
「んっふっふ~。真美のレベルはどれくらいだと思う→?」



「ん~、そうだな……。レッドのピカチュウくらいか?」


真美
「分かり辛いよ!」


――

ここまでにします。
来週の土曜日は来れなくなりました。ごめんなさい。



真美
「おはよ→!」



「おはよう。身体の疲れは取れたのか?」


真美
「モチ! もう完全復活って感じだよ!」



「そっか、なら良かった。それよりも真美……」


真美
「うん? なになに?」



「お前、髪留めのゴム付け忘れてるぞ?」


真美
「やはりそこに気づくとは天才か……」



「アホなこと言ってないでさっさと付けてこい」


真美
「え~、せっかく頑張ってイメチェンしたのに→」



「イメチェンだったのか?」


真美
「んっふっふ~。どう? ちょっと大人っぽいっしょ?」



「そうだなー」


真美
「うゎ、テキトー……。そういうの地味に傷つくんですけど」



「いや、似合ってるよ?」


真美
「えっ?」



「さっき声かけられた時なんか見違えるくらいに雰囲気が変わって驚いたぞ。前の髪型も子供らしくて良かったけど、こういうアダルトな魅力を出す真美も良いな」


真美
「ホ、ホントに? ウソじゃないよね?」



「こんなことでウソついてどうするんだよ」


真美
「……ウソじゃないんだ。……んっふっふ~♪」



「なんか嬉しそうだな」


真美
「まぁね♪」



「ふーん。ところで今後もその髪型にするのか?」


真美
「うん! 良いでしょ?」



「別に良いけど、次から声をかけてくれよ」


真美
「は→い♪」


――




「それじゃ、今日のスケジュールを確認するぞ。と言っても手帳に書いてある通りだからわざわざ言わなくていいか」


真美
「そうだね! だから早く行こうよ!」



「テンション高いな。そんなにこの歌番組に出たかったのか? それともPV撮影の方か?」


真美
「違うよ! 真美が楽しみなのはその後!」



「その後って……ティスニーランドでのリポートのことか?」


真美
「当ったり前じゃん! それ以外になにがあるっていうのさ!」



「楽しみにしてるのは良いけど、仕事だからな? 遊びに行くんじゃないからな?」


真美
「分かってるって! でも終わったら遊んでも良いんでしょ!?」



「まぁ、明日に響かないくらいなら構わないけど……」


真美
「やっほー! 今日はパレード見るまで帰らないZE!」



「おいおい、明日も早くから仕事があるんだぞ? パレードなんて見たら帰れないだろ?」


真美
「日付が変わる前に帰れば大丈夫だよ」ビシッ



「いや、でもなぁ……。そんな遅くに帰って来たらお前の親は怒るんじゃないか?」


真美
「んっふっふ~。まだまだ甘いね→。真美がなんで“お休みが欲しい”って言ったのか分かってないでしょ?」



「……まさか」


真美
「その通り! 昨日はずっと説得してました→! だからもう許可は取ってあるんだよ白ちゃん!」



「……コイツ、渡したスケジュール帳を有効活用してやがる」


真美
「というワケで帰りはよろしく!」


――



律子
「……」

――……つこ!


律子
「……」


――……りっ……ちゃ……!


律子
「……」


――……りつ……さん!


律子
「……」


伊織
「律子!」


律子
「――え?」


伊織
「ちょっと律子? どうしちゃったのよ?」


律子
「あ、みんな……」


亜美
「ねぇ、律っちゃん。ホントに大丈夫?」


あずさ
「疲れてるなら休まれた方が……」


律子
「心配かけてごめんなさい。ちょっとボーっとしてたわ」


伊織
「なら良いけど……」


律子
「えっと……」


伊織
「今日のスケジュールを確認するところよ。アンタ本当に大丈夫なの?」


律子
「あ、そうだったわね。ついうっかりしてたわ」ペラッ


律子
(……。やっぱり、見間違いじゃなかったのね……)


亜美
「今日は歌番組の収録が入ってるんだよね→」


あずさ
「あらあら、亜美ちゃんは私たちのスケジュールを覚えてるなんて偉いわね」


亜美
「んっふっふ~。やればできる子ですから」


伊織
「それって大抵はできないヤツの言葉よね」


律子
「それなんだけど……」


亜美・あずさ
『?』


律子
「……私たち、降番になったわ」


伊織
「――は?」


あずさ
「あらあら~。……えっ?」


亜美
「こうばん? 律っちゃん、それってな→に?」


律子
「……番組を降ろされることよ」


亜美
「へー、そうなんだ。……はい?」


律子
「私たちの代わりは真美が出ることになってるから……」


伊織
「ちょっと! どういうことなの律子! なんで私たちが降板で真美が変わりに出ることになってるのよ!」


律子
「……それから、……私は一ヶ月くらい竜宮小町から離れることになるわ。後のことはプロデューサー殿が引き受けるそうだから、ちゃんと言うこと聞くのよ?」


伊織
「ッ!?」


あずさ
「!?」


亜美
「えっ? えっ? ど、どういうことなの?」


――



赤羽根
「なぁ律子。さっきの話、ホントなのか?」


律子
「え? あぁ、スケジュール確認の時の……」


赤羽根
「なぁ、なにがあったんだ? 律子が竜宮小町から離れるなんてどう考えても変じゃないか」


律子
「赤羽根殿には関係ないです。これは私の問題ですから」


赤羽根
「そうやって溜め込むのは律子の悪いクセだ。俺たちは仲間じゃなかったのか?」


律子
「赤羽根殿……」



「話してくれよ。もしかしたら力になれるかもしれないだろ?」


律子
「……実は――」


――



赤羽根
「社長、律子を竜宮小町から外すなんてどういうつもりですか?」


高木
「それは……、律子君に反省させる意味も込めて……」


赤羽根
「それにしたってやり過ぎです! 今すぐ律子を竜宮小町のプロデューサーに戻してください!」


高木
「……悪いができない。竜宮小町は既にP君が担当している」


赤羽根
「そんなの社長が命令すれば済むことじゃないですか!」


高木
「……」


赤羽根
「社長、なにかあったんですか? あんなに良くしてくれた社長が律子に対してこんな仕打ちをするなんて俺には考えられません」


高木
「仕事に戻ってくれ。君には関係のない話だ」


赤羽根
「いいえ。社長から真相を聞くまではテコでも動きません!」


高木
「赤羽根君……。あまり私を困らせないでくれ」


赤羽根
「なら話して下さい! でないと俺はずっとココにいますからね!」


高木
「はぁ……。君は意外と頑固だったんだな」


赤羽根
「社長、お聞かせ願えますか?」


高木
「まぁ、良いだろう。つまらない意地を張ったところで過ちは消えないのだから」


――



~♪♬♫~



「はい。Pです」



――『あ、あの、プロデューサーさん! すぐに事務所に戻ってきてください!』



「小鳥さん? どうかしたんですか?」



――『赤羽根さんがすごく怒ってるんですよ。プロデューサーさん、なにかしたんですか!?』



「先輩と関わるようなことは基本的になかったはずですが……」



――『私だって分かりませんよ! とにかく早く帰ってきてください!』



「まだ収録の途中なので今はムリです。午後には戻りますよ」



――『それじゃ遅――もういいです小鳥さん。……おいP」




「先輩? どうしてまだ事務所に? 今日は千早の付き添いじゃなかったんですか?」



――『俺のことはどうでもいい。早く戻ってこい』




「先ほども言いましたがムリです。仕事を放り出してまで事務所に帰る意味が分かりません」



――『いいから戻ってこいッ!!』



「……はぁ。わかりました。少し時間がかかりますけど良いですか?」



――『あぁ……、そのくらいは我慢するよ』



「それはどうも」


――



赤羽根
「お前はなにを考えてるんだ!」



「いきなりなんですか?」


赤羽根
「律子の件だ! ライブでジュピターを使うのはまだ良い! だがなんで同じ事務所の竜宮小町まで利用するんだ!」



「それを決めたのは俺じゃなくて高木社長ですよ? 怒る相手が違います」


赤羽根
「あぁ。だから社長にも話を聞かせてもらった。律子たちと真美を天秤に掛けて選択を迫ったらしいじゃないか」



「……」


赤羽根
「なんで仲間を売るようなマネをしたんだ! 律子たちが迷惑してることが分からないのか!?」



「先にケンカを売ってきたのは律子たちですが?」


赤羽根
「それにしたって限度があるだろ! 律子は自分が担当してたユニットから外されたんだぞ!?」



「まぁ、今では俺が担当してますからね」


赤羽根
「茶化すな! 今回の件は律子の失言だろ? それなのになんでこんな重い責任の取らせ方をさせたんだ!」



「先輩。お言葉ですが、これのどこが重いんですか?」


赤羽根
「!?」



「律子と伊織。……真美を傷つけた責任としては妥当だと思いますが?」


赤羽根
「……確かに同じプロデューサーとしてアイドルを傷つけたことは許されることじゃない。でも、だからといって今まで担当していたヤツを急に外すことはなかったろ!」



「負けた人間がなにかを失うのは当然のことです。先輩もそれは分かってるでしょう?」


赤羽根
「まさか……、本気でそう思ってるのか?」



「えぇ。それがこの世界のルールですから」


赤羽根
「違うッ! それじゃ961プロと同じ考えじゃないか!」



「確かに似ていますね。まぁ、俺はアイドルに自分の思想を押し付けるようなマネはしませんけど」


赤羽根
「そんな話をしてるんじゃない! とにかく竜宮小町を律子に返すんだ!」



「お断りします。あのユニットにはまだ利用価値がある。それが無くなるまで返すつもりはありません」


赤羽根
「いい加減にしろッ!! 仲間を利用してまで伸し上がる意味があるのか!?」



「ありますよ。あるからこうして利用してるんじゃないですか」


赤羽根
「――ッ!」



「というか先輩たちが甘いんですよ。座れるイスが限られているんだから奪い合いになるのは当然。なのに、仲間だなんだ言って譲り合う意味が分からない」


赤羽根
「……」ギュゥッ



「そんな幼稚な姿勢だから真美のランクも低いままだったんですよ」


赤羽根
「……ッ。確かにそれは俺の所為だ。だけどな、勝つことが全てじゃないだろ! 仲間を信頼して一緒に戦うことだって大事なことだ!」



「そんなくだらないことを教えたいのなら教師にでもなればどうですか?」


赤羽根
「くだらない、……だと?」



「えぇ、実にくだらないです。俺たちの仕事はアイドルと仲良くなることではなく、担当しているアイドルのランクを上げることですよ?」



「先輩だって売り込みやオーディションで他のアイドルを蹴落としてきたんじゃないんですか?」


赤羽根
「それとこれじゃ話が別だ!」



「どこが違うんです? じゃあ先輩は、IAみたいな大会でも対戦相手が同じ事務所のアイドルだったら勝ちを譲るんですか?」


赤羽根
「ぐっ……」



「先輩も律子も危機感がないから油断するんですよ。そんなに仲良しごっこがしたいのなら、甘ちゃん同士、傷でも舐め合っててください」


赤羽根
「――ッ!」



「俺は自分の担当をトップアイドルをする為ならどんな手も使いますよ。それが俺のやり方ですからね」


赤羽根
「ふざけるな! そんなやり方で信頼が築ける訳がないだろ!」



「そんなものは必要ありません。あるのは利害関係だけ。それで十分です」


赤羽根
「お前は間違っている! そんなのはプロデューサーじゃない!」



「どうとでも言ってくれて構いません。……でも先輩、これだけは覚えておいてください」






「“俺のジャマをするなら潰しますよ?”」





――



赤羽根
「……」


高木
「やはり君でもダメだったか……」


赤羽根
「社長……」


高木
「まぁ、そう気を落とさないでくれ。いつかは彼だって分かってくれる」


赤羽根
「……本当にそう思いますか?」


高木
「……」


赤羽根
「黙らないで下さいよ。社長が信用して雇った人間じゃないんですか?」


高木
「私が、……というより、“石川が信用している”と言った方が正しいか」


赤羽根
「どういうことですか?」


高木
「彼は元々……、876プロの人間だ」


赤羽根
「えぇ。それは真美たちの会話で聞いたことがあります」


高木
「そうか。その彼なんだが……、どうやら事務所では居場所がなかったらしい」


赤羽根
「まぁ、あの考え方ですからね。受け入れてもらえないのもムリはないと思います」


高木
「いや、当初はそれほど悪い雰囲気ではなかったようだ。それに石川も新人ながら活躍する彼のことを気に入っていた」


赤羽根
「そうなんですか? それならなんで……」


高木
「詳しいことは分からない。しかし石川が紹介するくらいだ。彼も悪い人間ではないのだろう」


赤羽根
「そうですか。でも社長。それじゃあ石川社長が信用してるからPを雇ったってことですよね?」


高木
「そうなってしまうな。……少し違うとすれば、私にも彼を雇う目的があったことだろう」


赤羽根
「目的?」


高木
「うむ。君とアイドルたちのことだ」


赤羽根
「どういうことですか?」


高木
「以前にも言ったことだが、我が765プロは弱小ながら君たちの活躍もあってここまで大きくすることができた」


赤羽根
「……」


高木
「だがその反面、アイドル諸君が君に懐きすぎだと思ってね。……依存。……といっても良いだろう」


赤羽根
「確かにそう、かもしれません。……特に美希は……」


高木
「私も君と同じことを危惧していたのだよ。だから彼を雇った。他のプロデューサーと触れ合うことでアイドルとプロデューサーの関係を自覚してもらう為にね」


赤羽根
「なるほど。そういう意図があったんですね」


高木
「あぁ。だが予想外だったよ。多少強引な手を使うことは知っていたが、まさかここまでとは……」


赤羽根
「自分の担当をトップアイドルにするためには手段を選らばない。……それがPのやり方だそうです」


高木
「やはり……。彼もまた黒井と同じ。いや、それ以上に危険かもしれない」


赤羽根
「……俺はPを止められる自身がありません。邪魔をすれば、アイツは本当に俺たちを潰しにくる。そう感じました」


高木
「残念なことだが、彼は私たちを仲間だと認めていないということだろう……」


赤羽根
「力になれなくてすいません」


高木
「謝ることじゃない。彼を雇ったのは私の責任だ。この件については私がなんとかしよう」


赤羽根
「……どうするつもりですか?」


高木
「彼には既に厳重な注意をしてある。それでも彼が考え方を変えないのなら、……この事務所から去ってもらうしかない」


赤羽根
「クビ……ということですか……」


高木
「石川には申し訳ないが、そうするしかないだろう」


――

ご飯食べたらまた少し書きます。




「悪い。ちょっと遅れた」


伊織
「ふん。私たちを呼び出した張本人が遅刻なんてホントにどういうつもりかしら?」



「コッチだって好きで遅れたわけじゃない。どっかのお喋りのお陰で余計な時間をくったんだ」


律子
「……」



「律子も悪いな。いきなり竜宮小町の“送迎”なんて頼んで」


律子
「……いえ」



「そっか。この後のことはさっき言った通りだから」


律子
「……分かりました」


――



伊織
「……」



「軽蔑したか?」


伊織
「えぇ。最低の外道ね」



「それはどうも。だけど負けた分はキッチリ働いてもらうからな」


伊織
「私たちがアンタの言うことなんて聞くと思ってるの?」



「やりたくないなら止めはしない。その代わり困るのはお前らだ」


伊織
「……」



「信用を失くしたアイドルがどうなるか、お前らも分かるだろ?」


伊織
「……さっきの言葉、少し訂正するわ。……アンタは最低のクズよ。それもどうしようもないくらい性根の腐ったクズだわ」



「悪いが負け犬の遠吠えにしか聞こえないな。俺が嫌いなのは構わないが仕事だけは真面目にやれよ?」


伊織
「ふん。そんなの分かってるわよ。たかが一ヶ月じゃない」



「ははっ。さすが伊織、頼りになるな」


伊織
「気安く名前で呼ばないでくれる? 虫唾が走るわ」



「はいはい」


――



真美
「ん~~!」ポキポキ



「お疲れ。丁度良いタイミングだったな」


真美
「あ、白ちゃん! ……と竜宮小町?」


あずさ
「……」


亜美
「……」



「サプライズゲストだ。この後のPV撮影に竜宮小町も参加することになったから」


真美
「えっ、そうなの!?」


伊織
「そんなに驚くことじゃないでしょ? もしかしてアンタなんにも聞いてないの?」


真美
「?」


伊織
「……まぁ良いわ。気にしないで」



「それじゃ全員集まったことだし、撮影に向かうか」


伊織
「行くなら早くしなさいよ。このノロマ」



「とりあえず伊織は後部座席だな。助手席に乗せたら対向車の人が眩しそうだし」


伊織
「この白髪……。本当にムカつくわね」


――



ディレクター
「それじゃ先にイメージビデオから撮っちゃうんで、真美さんと竜宮小町のみなさんはスタンバイお願いします」


真美
「はーい」


伊織
「えぇ。分かりましたわ」


――「カメラ1、カメラ2、カメラ3、オールOKでーす!」


真美
「そんじゃ行ってくるね→」



「頑張ってこい」


伊織
「……」



「どうした?」


伊織
「別に。アンタみたいなクズに真美がなんで懐いてるのか不思議に思っただけよ」



「同感だな。でも今はそんなこと考える時じゃないだろ?」


伊織
「それもそうね。気は乗らないけど行ってくるわ」



「伊織」


伊織
「気安く呼ばないでって言わなかった?」



「めんどくさいなぁ……。伊織さん」


伊織
「なにかしら?」



「真美をよろしく頼みます」


伊織
「あら? アンタのことだから“真美のジャマをするなよ”なんて言うかと思ったけど意外だわ」



「いくら嫌われててもお前たちは俺の担当だ。そんなヒイキをするつもりはない」


伊織
「口だけは達者ね」



「……まぁ良いや。真美はこういうメインの仕事は慣れてないから危ないと思ったらフォローしてくれ」


伊織
「ふん。言われなくても分かってるわよ」



「そっか。なら良いんだ」


伊織
「話はそれだけかしら?」



「あぁ。引き止めて悪かったな」


――



――チェック終わりましたー。お疲れ様です。



『おつかれさまでしたー!』




「みんなお疲れさま」


真美
「やっと終わった→!」



「大げさなヤツだな。少しくらい長引いただけだろ?」


真美
「それでも長く感じたんだよー!」



「あっそ。……次の現場だけど、竜宮小町は律子と一緒にバラエティの収録。真美はお楽しみのティスニーランドだ」


真美
「白ちゃん~。早く行こうよ→」グイグイ



「分かった! 分かったからスーツを引っ張るな!」


――

今日はここまでにします。続きはまた明日



~♬♪♫


真美
「イェーイ! 来たぜ夢の国!」



「……」キョロキョロ


真美
「どうしたの白ちゃん?」



「いや、ティスニーランドなんて初めて来たけど、見た感じ凝ったアトラクションがたくさんあるなーって」


真美
「えっ!? 白ちゃんティスニーランド初めて!?」



「そんな驚くようなことか?」


真美
「だって→。今時だれでも来たことあるんだよ。ちょっと信じられないんだけど」



「へー。やっぱりココってそんなに人気なんだな」


真美
「ねぇ白ちゃん。ホントに来たことないの?」



「あぁ。だから今日は真美に色々と案内してもらおうかな」


真美
「えッ? 真美が?」



「ダメか?」


真美
「……んっふっふ~♪ ちかたないな→」



「なんか嬉しそうだな」


真美
「まぁね。それよりも覚悟しておいてよ白ちゃん。今日はとことん付き合ってもらうんだから!」



「お手柔らかに頼むよ」


真美
「ムリ♪」



「割とマジなお願いだったんだが……」


真美
「んっふっふ~♪ んっふっふ~♪」



「気分良く歌ってるところ悪いけど時間だ。そろそろ行くぞ?」


真美
「は→い!」


――



――「それでは真美さん、スタンバイしてください」


真美
「早く終わんないかな→」



「お前なぁ……」


――本番入りまーす。3・2……。


真美
「さぁ始まりました新コーナー! その名も“真美の好きにしやがれ”!!」


真美
「第一回ということでティスニーランドに来てま→す! なんでティスニーランドなんだ? なんて質問はナシだよ→?」


真美
「だってこのコーナーは真美が好き勝手にやっちゃう番組なんだもん! だから、もし飽きたらチャンネル変えちゃっても良いからね♪」


――ハハハハハハ


真美
「それじゃ、まずは絶叫系からだ→! レッツ・ゴー!」


――



――がゃがゃ。――ざわざゎ。


真美
「ん~~ッ! 人が多すぎて見れないよ~~ッ!!」



「こればっかりは仕方が無いだろ」


真美
「せっかく頑張ってお仕事してきたのに、コレじゃあんまりだ→!!」



「そんなこと言ってもなぁ……あ、始まった」



――バンッ! バンッ! バーンッ!


~♪~♫♬


ワヮァアアアアアアア!!!



真美
「白ちゃん! 背中貸して!」



「は? 背中?」


真美
「かたぐるま!」



「あぁ。そういうことね」


真美
「はやく~~ッ!」



「はいはい」スッ


真美
「んっしょ。……まだ動かないでよ!」



「もういいか?」


真美
「……うん! OK!」



「よっと」


真美
「ぉおっ!?」



「どうだ? 見えるか?」


真美
「んっふっふ~♪」



「見えてるっぽいな」


――「お兄ちゃん……?」



「なぁ、真美。喉が渇いたからジュース買いに行って良いか?」


真美
「ん~? ダメ→」


――「お兄ちゃん!」



「マジかよ……」


真美
「あと一時間くらいだから我慢してね」



「はぁ。そんなに長いなら先に買いに行けば良かった……」


――「むぅ……。プロデューサーさん!」



「ん?」クルッ



「あっ! やっぱりお兄ちゃんだ!」



「……愛か。久しぶり」



「うん! こんなところで会うなんて思わなかったよ!」


真美
「ちょっと白ちゃん! 急に動いたら危ないじゃん!」



「あ、悪い」


真美
「次から気を付けてよね→。……おっ! 愛ぴょんだ! 久しぶり→」



「……?」


真美
「あれ?」



「えっと……」


真美
「もしかして分からない?」



「ごめんなさい。どこかでお会いしたことあり……ますよね。だって久しぶりって言ってたし……」


真美
「えっ!? えっ!? 愛ぴょんホントに分かんないの!?」



「うぅ……。ごめんなさい……」


真美
「うわぁ……。忘れられるって結構ショックだよ……」



「忘れてるというよりも、髪型が違うから気づいてないだけなんじゃないか?」


真美
「え? あっ、そっか!」



「?」


――キュッ。


真美
「愛ぴょん。これならどう?」



「真美ちゃん!!?」


真美
「正解ッ! いや~、ホントに忘れられてると思ったから焦ったよ→」



「あたしも驚いちゃいましたよ! 髪型が変わると別人みたいですね」


真美
「そんなに違うかな→?」



「はい! なんだか大人っぽく見えましたよ!」


――「ぁぃーーー? ぁいーーーー?」



「誰かお前のこと呼んでないか?」



「あ、たぶんママだ」



「うぇ。ババアまでいるのかよ」ボソッ



「ママーー!! こっちだよーー!!」



「声だけ聞こえても分からないんじゃないか?」



「あ、そっか。……どうしよう……」



「はぁ。仕方がないな……。真美、ちょっと降りろ」


真美
「え~~」



「また乗せてやるから」


真美
「ちぇ→。せっかく良い感じだったのに→」スタッ



「ほら。乗れよ」



「え!? あたしが!?」



「そっちの方が分かりやすいだろ?」



「それは……、分かってるんだけど……」



「なに迷ってるんだよ。乗るのか? 乗らないのか?」



「あぅ……」



「めんどくさいなぁ……。愛、ちょっと後ろ向け」



「?」



「いいから言われた通りにしろ」



「こう?」クルッ



「OK。……よいしょっ」



「ひゃあッ!?」フワッ



「あんまり暴れると危ないぞー」



「な、な、なにしてるの!?」



「めんどくさいから直接セッティングする」



「だからっていきなりすぎるよーー!!」



「知るか」


真美
「むぅ」



「よっと。セット完了」



「あぅ……。恥ずかしいよぉ……」



「危ないから暴れるなよ?」


真美
「愛ぴょん! パレード見たいから早くしてね!」



「あーーーもうッ! 恥ずかしがってるあたしがバカみたい!」



「元々バカだろ」



「――ッ」スゥウッ







「ママーーーーーーーー!!!!!!!!!」ブンブン






真美
「――!!?」グァングァン



「――ッ。み、耳元で騒ぐな! というか暴れるな!」ビリビリ


――




「あ、いたいた! ……うゎ。アンタもいたの?」



「俺がいたら悪いかよ」



「別に。でもアンタがここにいるなんて意外ね。……デート?」



「アホか。仕事が終わったから遊んでるだけだ」



「そうなの? てっきりロリコン癖があるのかと思ったわ」



「ぶっ飛ばすぞババア」



「あ゛? 今なんて言った?」



「ババア」



「よく聞こえなかったわね~。お・ね・い・さ・ん! でしょ?」ギュウッ



「ふぁ゛ふぁ゛あ」



「あのね……。言っておくけどアンタと7・8歳しか違わないのよ?」



「30過ぎたらババアだろ」



「私はまだ20代よ!!」


――



真美
「愛ぴょん。お母さん来たんだから早く降りてよ→」



「あ、ごめんなさい! すぐに退きます!」



「おい、バカ! 危ないから暴れるな!」



「そんなこと言われても……」



「俺がゆっくり降ろすから少し大人しくしてくれ。良いな?」



「はーい」



「よっと」



「ぁ……」フワッ


真美
「白ちゃん! 次は真美の番!」



「はいはい」


真美
「んっふっふ~♪ やっぱり真美の定位置はココですな→」



「いいなー……」



「あら? じゃあ愛も肩車する?」



「えー。ママに乗っても見えないよー!」



「そこはアレよ。コイツが私を乗せて、愛が真美ちゃん? を乗せれば問題ないわ」



「トーテムポールか! というかできる訳ないだろ!」



「アンタ男でしょ! それくらい我慢しなさいよ!」



「ムチャ振りにも程があるぞ!?」



「二人ともあたしがママで我慢するから仲良くしてよーー!!」



「私で妥協!?」


――



真美
「白ちゃんってホントに愛ぴょんと仲が良いんだね→」



「そうですか?」


真美
「だってそうっしょ。愛ぴょんも白ちゃんと親しげじゃん」



「うーん。まぁ兄妹ですしね!」


真美
「えッ!? そうなの!?」



「はい! あたしも最近知ったんですよ?」


真美
「似てね→。……あれ? でも白ちゃんって確か22歳だよね? 愛ぴょんのお母さんが30歳くらいだから……。兄妹にしても年が合わなくね?」



「ぁぅ……。それは……」



「なぁ、真美。そろそろパレード終わるぞ?」


真美
「えっ? ……ぁあああああ!! みんなもうあんな遠くまで行ってるじゃん! なんでもっと早く教えてくれなかったの!?」



「いや、興味なくなったのかなって」


真美
「そんな訳ないじゃん!! 真美がどれだけ楽しみにしてたか知ってるでしょ!」



「なら、お喋りなんてしないで見てれば良かっただろ?」


真美
「気になったんだから仕方ないじゃん! というか白ちゃん! 早く追いかけてよーー!!」



「ムリ言うなよ。人ごみも多くなってきたし、どれだけ離れてると思ってんだ」


真美
「そんな~~~ッ!」



「諦めてくれ。もう間に合わない」


真美
「あぁ……。さよならミキー、ドナルドゥ、グーフィル……」


真美
「あぁ……。さよならミキー、ドナルドゥ、グーフィル……」



「そう落ち込むなよ。また来れば良いだろ?」


真美
「……白ちゃんは知らないと思うけど、パレードの内容って月ごとに違うんだよ?」



「そうなのか?」


真美
「うん。だから今日のパレードは帰ってこないんだ……」



「お、おう。……なんか悪かったな」


真美
「白ちゃんは悪くないよ……。悪いのは真美なんだからさ……」



「真美ちゃん……」

ドラッグする位置をミスしました。お見苦しいですが、もう一度投下します。



「そう落ち込むなよ。また来れば良いだろ?」


真美
「……白ちゃんは知らないと思うけど、パレードの内容って月ごとに違うんだよ?」



「そうなのか?」


真美
「うん。だから今日のパレードは帰ってこないんだ……」



「お、おう。……なんか悪かったな」


真美
「白ちゃんは悪くないよ……。悪いのは真美なんだからさ……」



「真美ちゃん……」



「……」


真美
「はぁ……」



「……なぁ真美。パレードって確かもう一回あるんだろ?」


真美
「そうだけど……、もう真美たち帰る時間だよ?」



「予定変更だ。今日は泊まる」



「!!?」


真美
「えッ!? ……でも明日のお仕事に間に合わないんじゃないの?」



「そんなものキャンセルだ」


真美
「ドタキャン!? だ、大丈夫なの!?」



「体調不良とかそんな理由なら大丈夫だろ」


真美
「テキトーじゃん! あ、だけど白ちゃんのことだからなんとかするんだろうな→」



「でも実際にサボることになったら明日は一日中オフになるぞ?」


真美
「ホントに!!?」



「……なんで嬉しそうなんだよ」


真美
「だって→、ミキーにまた会えるし、パレードも見れるし、それにティスニーホテルに泊まれるし、明日も遊べるんでしょ? テンション上がらない訳ないじゃん!」



「待て。なんか今さらっとホテルの場所まで指定してなかったか?」


真美
「え? そうかな→?」



「とぼけやがって。……まぁ、ヘタに外で騒がれるよりはマシか」


真美
「お? ということは?」



「俺の負けだ。そのティスニーホテルで良いんだな?」


真美
「さっすが白ちゃん! 話が分かるぅッ!」



「その代わり帰ったら家で大人しくしてろよ?」


真美
「んっふっふ~♪ 了解であります!」ビシッ



「ティスニーホテルって当日で予約できるのかなぁ……。ちょっと聞いて――」



「お兄ちゃん。……真美ちゃんとの話は終わった?」



「え? あぁ。終わったけど、……どうした?」



「……ホテル、泊まるの?」



「まぁ俺としては適当にカプセルホテルとかで良いと思ってたんだけどなぁ……」



「ふーん。……でもお兄ちゃん。アイドルとプロデューサーが一緒に泊まるなんてダメだよね?」



「は? 俺は――」



「 “ダ メ だ よ ね ?” 」



「――ッ!?」ゾクッ



「それに真美ちゃんは中学生だよ? 変なウワサができたらどうするの?」



「な、なぁ、なにか勘違いしてないか? 俺は――」



「 “うるさい” 」



「……」



「はぁ……。やっぱりちゃんと監視しないとダメかなぁ……」ボソッ



「なんか今すごい不穏な言葉が聞こえたんだけど気のせいだよな?」



「ん? あたし喋って良いなんて言った?」



「……」



「まぁ良いや。……ところでお兄ちゃん。今日お兄ちゃん達が泊まるホテルだけど、あたし達も泊まるね?」



「は? いや、ちょっと待て。お前は仕事があるだろ?」



「大丈夫だよ。どこかの誰かさんのお陰でしばらくお仕事がないんだから」



「ぐっ……。まさかお前の口から皮肉が聞けるなんて思わなかったぞ」



「ふふっ♪ 決まりだね」



「もう勝手にしてくれ……」



「ねぇ、お兄ちゃん」



「今度はなんだよ?」



「また、前みたいに……」





        「――勝手にいなくなったらダメだよ?」





――

ここまでにします。すみませんでしたm(_ _;)m




――カチャッ。




「……ただいま」



「おかえりなさい」



「……」



「なんかあんまり嬉しくないみたいね。こんな美人に出迎えられてなにが不満なわけ?」



「……愛は?」



「876プロのアイドルたちとお泊り会だって。断りきれなかったみたいだわ」



「あっそ」



「ずいぶん素っ気無いわね。今度はどんなお悩みを抱えてるのかしら?」



「……今日のご飯なに?」



「ロールキャベツとポトフ。作りかけだから少し待ってて」



「……手伝う」



「ふふっ。ありがと」


――




「ご馳走様でした」



「はい、お粗末さま。……食器は私が洗うからアンタゆっくりしてなさい」



「それくらい自分でやるよ」



「ダメ。こういうのは主婦の仕事って相場が決まってるの」



「……」



――ジャァー。カチャヵチャ。




「それで、今度はどんなお悩みを抱えてるのかしら?」



「……」



「さっきは逸らかされたけど、今度はちゃんと聞かせてもらうわよ?」



「……あっそ」



「つれないわね。……まぁ、良いわ。早く話しなさい」



「……事務所、クビになった」



「そう」



「……」





「でも、悩みはそれじゃないんでしょう?」



「なんでそう思うんだ?」



「簡単よ。アンタがクビになったくらいで落ち込むような人間に見えないもの」



「……」



「言葉にしなきゃ伝わらないわよ?」



「……そうだな」



「……」



「……」



「……」



「……“真美を泣かせた”」



「そう……」



「……やっぱり俺は、みんなの言った通り“最低のクズ”なのかな?」



「……そうね。……例えどんな理由があったとしても、“女を泣かせたヤツ”は最低のクズに違いないわ」



「……」



「まぁ……、私が言えた義理じゃないけどね……」



「……。“クズ”、か……」





「……」



「……なぁ、舞さん」



「なに?」



「……正直、俺がこんなことを頼むのはお門違いかもしれない。バカにしても良い。軽蔑してくれても構わない」



「……」



「それでも、……俺の話を聞いてくれないか?」



「……どんな頼み事なの?」



「……」



「……」



「……もう一度だけ――」



「……」



「――“アイドルになってくれないか?”」



「え?」


――




「――。考えておいてくれ」



「ムリよ……」



「……それは、……“母親”としての答えか?」



「当たり前じゃない。私には愛がいるもの」



「……俺は、……“日高舞”に聞いてるんだ」



「……。なんで今更……」



「……理由は色々ある」



「……」



「でも、一番の理由は……。舞さんが親父の宝だからだ」



「私が……、プロデューサーの、……宝……?」



「あぁ。自分の担当した中で最高のアイドル。……それが舞さんだった」



「……」





「だけど、俺は……、舞さんも親父も嫌いだったから壊した。舞さんが大切にしてきた宝も、親父の宝も、全部な」



「……」



「……こんなことで許されるとは思ってない。……それでも俺は、……償いたいんだ」



「そんなの、……アンタの勝手じゃない」



「分かってるよ……。だけど頼む。俺にやり直すチャンスをくれないか?」



「……」



「……」



「……愛は、……どうするの?」



「……俺から話す」



「そう……」





「……」



「……少しだけ、……時間をちょうだい」



「……分かった。……答えが決まったら教えてくれ」



「……」



「……それじゃあ、お休み。舞さん」



「えぇ。おやすみなさい」



――カチャンッ。




「……ホント、……最低なプロデューサーね……」



――

少ないですが、残りは8時頃にします




――「それでは登場して頂きましょう! 魅惑の女装アイドル、秋月涼くんです!」




「……」



――ピッ。




「はぁ……。暇だな」



~♬~♫♪~♬。




「はい」



――「……テレビをつけろ」




「え? あぁ、分かりました」



――ピッ。



「……音楽企業、――の代表取締役、――が今朝、逮捕されました」




「……へぇ」



「なお、被害にあった女性は裁判の構えを示しており、検事側が提示する証拠の他、匿名の記者からの情報もあって実刑は免れないとの見方が強まっています」






――「……これで満足か?」




「えぇ。すみませんね、無茶なことを頼んで」



――「……お前の言った通り、俺は全ての情報を売った。……例の件、……忘れてないよな?」




「分かってますよ。……“報酬はキチンとお返します”」



――「そうか。それを聞いて安心した」




「……それでは失礼しますね」












「――悪徳さん」












――



真美
「おっはよ→!」


赤羽根
「真美!」


真美
「ん→? どったの兄ちゃん?」


赤羽根
「あ、いや、その……、大丈夫なのか?」


真美
「なにが?」


赤羽根
「なにがって……。昨日あんなことがあっただろ? 落ち込んでたんじゃなかって心配してたんだよ」


真美
「あー、大丈夫だよ」


赤羽根
「……ホントに大丈夫なのか?」


真美
「も→まんたい。兄ちゃんは心配性だな→」


赤羽根
「……」


真美
「それじゃ、お仕事に行ってくるね」


赤羽根
「……現場まで送るよ」


真美
「ありがと。でも、兄ちゃんも皆のお仕事を取ってくるのに忙しいでしょ?」


赤羽根
「俺のことは気にしなくて良い。それに、真美になにかあるよりマシだ」


真美
「……そうだね。じゃあ、送ってもらおうかな?」


赤羽根
「あぁ、すぐに車取ってくるよ」


――



真美
「おはよ→ございます!」



――「おはよう。……あれ? 真美ちゃん、今日はPさんと一緒じゃないの?」



真美
「白ちゃんなら辞めたよ」



――「え?」



真美
「クビだって」



――「そ、そうだったのか。辛いこと聞いちゃったな」



真美
「ううん。気にしなくて良いよ。……今日から兄ちゃんと一緒にお仕事することになったから、次からよろしくね?」


赤羽根
「……」


真美
「ほら、兄ちゃんも!」


赤羽根
「あ、あぁ……。今日はよろしくお願いします」



――「コッチの方こそよろしく」



真美
「それじゃ、お仕事始めよっか!」



――「……そうだね。真美ちゃん、今日はよろしく」



真美
「うん!」


――




――カメラ確認OK。お疲れ様でしたー。



真美
「お疲れ様でした→!」


赤羽根
「お疲れさま」


真美
「あれ? 兄ちゃん、みんなの所に行かなかったの?」


赤羽根
「まだ時間に余裕があるから次の現場に送ってから向かうよ」


真美
「ふーん」


赤羽根
「それで、次の現場ってどこなんだ?」


真美
「えっと、次のお仕事は……」ペラッ


赤羽根
「……」


真美
「……」


赤羽根
「……」ジー


真美
「はぁ……。兄ちゃん」


赤羽根
「え?」


真美
「そんなに見られるとやり難いんだけど」


赤羽根
「あ、悪い……」


真美
「んっふっふ→。もしかしてセクシーな真美にメロメロって感じ?」




赤羽根
「……それ、Pから貰った手帳なんだよな?」


真美
「え? あぁ、コレね。……それがどうかしたの?」


赤羽根
「いや、大切にしてるんだなって」


真美
「……まぁね」


赤羽根
「なぁ、真美。……俺には、どうしてもお前がムリをしてるように見えるんだ」


真美
「なんでそう思うの?」


赤羽根
「勘、……かな? Pと変わるまではずっと見てきたから、なんとなく普段の真美と違うような気がするんだ」


真美
「……嘘ばっか」


赤羽根
「嘘なんかじゃない。それに、俺が嘘をついてないのは真美だって分かってるだろ?」


真美
「そうだね。……でも、兄ちゃんが見ていたのは真美じゃなくて、“みんな”でしょ?」


赤羽根
「真美?」


真美
「……少し、イジワルだったね」




赤羽根
「……アイツに、何をされたんだ?」


真美
「……」


赤羽根
「もし俺に言えないことなら小鳥さんや律子でも良い。それでもダメなら――」


真美
「……白ちゃんは何もしてないよ」


赤羽根
「――え?」


真美
「ねぇ、兄ちゃん。あの時、不思議に思ってたよね。初めて会った白ちゃんに真美がついて行ったこと……」


赤羽根
「あ、あぁ……。でも、俺が聞きたいのは……」


真美
「前までさ、真美も分からなかったんだ。兄ちゃんじゃなくて、白ちゃんを選んだ自分が……」


赤羽根
「……」


真美
「今になってようやく分かったよ」


赤羽根
「……」


真美
「……きっと、……“恋”、だったんだね」


赤羽根
「……は?」


真美
「最初は、あの白い髪が気になってたのに、いつの間にか“白ちゃん”が気になってたんだもん」


赤羽根
「ま、み……?」


真美
「でも、気づくのが遅すぎたみたい。……白ちゃんを引き止めることも、自分の気持ちを伝えることもできなかったんだから……」


赤羽根
「……」


真美
「兄ちゃん。……真美、……フラれちゃったよ」


――

明日また更新します




「ただいまーー!!」



――ガチャンッ!




「おかえり」



「あれ? お兄ちゃんだけ?」



「不満か?」



「そんなことないけど、……ママは?」



「買い物に行ってる。夕飯までには帰るらしい」



「そうなんだ」



「ところでお前、もうご飯は済んだのか?」



「まだ食べてないよ?」



「ふーん。なら丁度良いや」



「あっ! もしかしてお兄ちゃんが作ってくれるの?」



「作って欲しいのか?」



「うん! ……ダメ?」



「別に良いけど、お前も手伝ってくれよ」



「はーい♪」


――




「なにが食べたいんだ?」



「うーん……。お兄ちゃんってなにが作れるの?」



「基本的なのなら何でも作れるぞ」



「へー、意外。男の人って料理が苦手なイメージだったけど」



「まぁ、一人暮らしが長かったからな。それで、リクエストは決まったのか?」



「うーん。……パスタ?」



「パスタかぁ……。いろいろ種類が多くて悩むな」



「あたしカルボナーラが良い!」



「はいはい。なら、俺はキノコでも使って和風パスタにするか」



「え? なにそれ美味しそう! あたしも食べたい!」



「お前、そんなに食べられるのか?」



「無理だよ! だから半分っこ♪」


――



P・愛
『いただきまーす』



「熱いから気をつけろよ?」



「うん!」



「……」モグモグ



「美味しいー♪」



「大袈裟なヤツだな。市販品とあんまり変わらないだろ」



「そんなことないよ! すっごく美味しいもん!」



「そう言ってもらえるのは嬉しいが……」スッ



「ぁ……」



「口元には気をつけような?」





「あ……。ごめんなさい……」



「反省したなら良いよ。……ほら」クルクル。スッ



「? ……あっ!」



「コッチのも食べたかったんだろ?」



「で、でも! これって!」



「いらないのか?」



「あ、え、その、えっと……。いる!」



「悩んだ割には素直だな。……はい」



「あ、あーん……」



――パクッ




「美味いか?」



「う、うん」


――




「ご馳走様でした」



「ご、ごちそうさまでした!」



「なんかお前、顔が紅くなってないか?」



「そ、それは……」



「それは?」



(いきなりだったから驚いたけど、やっぱり嬉しいけど……。ぁあ、もうッ!)



「?」



「と、とにかくお兄ちゃんがいけないの!」



「俺?」



「そうだよ!」


――




「さて、腹も膨らんだし、出かけるか」



「どこ行くの?」



「散歩」



「……あたしも行って良い?」



「当たり前だろ? 元々そのつもりだ」



「やった!」



「あ、でもプライベートだからって変装するの忘れるなよ?」



「うん!」



「どこ行こうかな~。そうえば、あそこの通りにアクセサリーショップが出来てたな……。帰りに寄ってみるか」



「ふふっ♪」





「どうした?」



「なんかコレって、デートみたいだなーって!」



「そうなのか?」



「そうなのか、って……。お兄ちゃんは違うの?」



「いや、兄妹でデートは変だろ」



「えー! 仲の良い兄妹なら普通だよ!」



「へー」



「あっ! ちょっと待ってて! 着替えてくる!」



「転ぶなよー?」



「分かってるよー!」


――タッ、タッ、タッ



「……」


――




「~♪」



「さて、家を出たばっかりだけど……、行きたい場所とかあるか?」



「ないよ! だから、お兄ちゃんがエスコートしてね!」ニコッ



「そんなこと言われてもなぁ……」



「お兄ちゃんが選んだ所なら、あたし何でも良いよ?」



「なんでも良いが一番難しいんだけど……。あっ、カラオケなんてどうだ?」



「カラオケ?」



「あぁ。久しぶりにお前の歌声が聞きたくなったってのもあるけど……、これなら二人っきりだろ?」



「え!?」



「冗談だ」



「もー! からかわないでよ!」



「悪かったよ。でも、お前の歌声が聞きたいってのはホントだから」



「ホントにー?」ジトー



「本当だ。ついでに鈍ってないかチェックしてやる」



「えー。それじゃあプライベートなのにレッスンみたいでヤダ!」



「ふふっ、お前がなにを歌うのか楽しみだ」



「むー! お兄ちゃんのイジワルー!」


――




♫~♪♬




「愛し合うー、ふたーり、しーあわせの空。隣どおし、あなたと、あたしさくらんぼー♪」



――もういっかい!




「笑顔咲クー、君ーと、抱ーき合ってたい」



~♬♫~♪




「愛し合うー、ふたーり、いーつの時ーも!」



―― Uh Yeah Uh! Uh Yeah Uh!




「愛し合うー、ふたーり、いーつの時ーも! 隣どおし、あなたと、あたしさくらんぼー♪」



~♬♪~♫~♬♫~♪~♪






「ふぅ……。ねぇ、お兄ちゃん! あたしの歌、どうだった?」



「そうだな……。愛らしくて良かったぞ」



「ホントに!? やったー!」



「ふふっ」ナデナデ



「ぁ……」



「どうした?」



「ううん。なんでもない」



「変なヤツ」



「ふふっ。なんだか懐かしいかも」



「……? なにが?」



「こうやって撫でてくれることだよ」



「……」



「お兄ちゃんの手、やっぱり暖かいね」



~♬~~♪~♫~♪




「あっ! コレ、お兄ちゃんの曲じゃない?」



「みたいだな」



「そういえば、お兄ちゃんが歌うところなんて初めてかも。どんな歌かな~?」


――




~♬~~♪~♪~♫




「美しい人生よ。 かぎりない喜びよ。 この胸のときめきを、あなたに」



「……」



「二人に死がおとずれて、星になる日が来ても、あなたと離れはしない」



~♪~♫~~♬~♫♪




「え、えっと……」



「意外か?」



「う、うん。……なんで松崎しげる?」



「大人だからな」



(どうしよう……。お兄ちゃんが大人に対して変な偏見を持ってる……)


――




「いや~、なかなか楽しめたな」



「そ、そうだね」



「なんでそんな微妙な顔してるんだ?」



「してないよ! それよりも、お兄ちゃん! 次はどこに行くの?」



「ん~。さっきは俺が選んだから次はお前が選んでくれ」



「えー! あたしが!?」



「俺はもうお手上げだ」



「むぅ。せっかくお兄ちゃんがエスコートしてくれたと思ったのに……」



「まぁ、こういうのもデートっぽいだろ?」



「……そうだね!」



「という訳でよろしく」



「うん! って言っても、あたしもノープランなんだよね」



「それなりにバリエーションがあって、色々と遊べるところなら別にどこでも良いぞ?」



「リクエストが多すぎるよ!」


――




――ワイワィ。――ざわざゎ。




「……なんでゲーセン?」



「だってこれくらいしか思いつかなかったんだもん! 仕方が無いよ!」



「まぁ、良いけど」



「あっ! コレ新しいの出てたんだ! 久々にやってみようかなー?」



「なんか手馴れてるな。もしかして、こういう所によく来るのか?」



「うん! 絵理さんがこういうゲームに詳しくて、すっかりハマっちゃった!」



「へー」



「お兄ちゃんもやってみる?」



「手加減してくれるならやってみようかな」



「あはは♪ あたしがそんな器用なことができると思う?」



「……思わない」


――




「……」クッ、クッ、ヵチャ、タッ、タンッ



――誰も傷つけたくないのッ! ――グォッ!? グォッ!? ガァッ!




(あと……、少し……ッ!)



――調子に乗りやがってッ! ゥオオオオオオッ! ドラゴンインストールッ!!




「――ッ!? た、耐えて……」



――ッチ。――ネクロ! ――グォッ!? グォオ!? ――SLASH!! ――You Win.




「あ、危なかった……」


――




「ちぇー、良いとこまでいったのに」



「ちょ、ちょっと! こんなに強いなんて聞いてないよ!」



「そうか? たいして強くないだろ」



「えー! 強いよ! というか、お兄ちゃんもこのゲームやってたの?」



「少しだけな」



「へー。でも意外かも!」



「?」



「お兄ちゃんがゲームセンターに来てたことだよ! そんなイメージぜんぜんなかったもん!」



「まぁ、真美のお陰かな」



「どういうこと?」



「最初は真美のトレーニングが目的だったんだけど、気分転換の意味も込めてよく付き合わされてたんだ」



「……ふーん」





「なにふてくされてるんだよ。もしかして俺が真美の話をしたからムッとしてるのか?」



「別にー。お兄ちゃんが誰と遊んでも、あたしには関係ないもん」



「分かりやすい嫉妬だな。はいはい。悪かった、悪かった」



「し、嫉妬じゃないもん! というか謝る気ないでしょ!」



「おー、よく分かったじゃないか」



「むぅ!」



「ははっ、完全にご立腹みたいだ」



「お兄ちゃんなんて知らない!」



「悪かったって。なんでもするから許してくれ」



「……ホントに?」



「本当だ。それで、どうしたら許してくれるんだ?」



「……あれ」



「?」



「あれで許してあげる!」


――




――背景を選んでね!




「えーと……。これと、これと、後これかな♪」ピッ、ピッ、ピッ



「なぁ、愛。ホントにこんなので良かったのか?」



「うん! というか……」



「?」



「最初っからコレが目当てだったりして。……えへへ」



「はぁ。……小悪魔め」



「ごめんね?」



「気にするな。お前が楽しんでるならそれで良い」



「うん。ありがと♪」


――




――ラクガキ・タイム!




「~♪」



「まだかー?」



「もうちょっと待ってー!」








「うん! これで良しっと!」




――バサッ。




「お待たせ!」





「別に待ってないけど……、お前、写真はどうしたんだ?」



「写真じゃなくてプリクラだよ!」



「なにが違うのか分からん」



「シールにできるのがプリクラ!」



「ふーん。それで、そのプリクラは?」



「ん~、もうすぐだと思うけど……」



――ビィー。




「あっ! できたみたい!」



「へー、どれどれ……」



「お兄ちゃんは見ちゃダメ!」





「なんでだよ。別に減るもんじゃないだろ?」



「ダメなものはダメなの!」



「ふーん……」ジーッ



「ぁぅ……」



「はぁ、……分かったよ」



「え?」



「なに書いたか知らないけど、そこまで嫌なら見ない」



「あ、うん」



「その代わり、ちゃんと自分で管理しろよ?」



「うん!」


――




「さて、次は俺の番だな」



「どこに行くの?」



「今朝も言ったと思うけど、新しくできたアクセサリーショップにでも寄ってみようと思う」



「そんなところあったかな~?」



「まぁ、あんまり人目に入らないようなところだから、知らなくても無理ないと思うぞ」



「へー」



「見た感じ色々と揃ってたから、気に入ったのがあったら買ってやるよ」



「ホントに!?」



「あぁ。でも、ピアスとかはダメだからな」



「分かってるよー♪」


――




~♬~♪♫♬~♬♪♫



――「いらっしゃいませー」




「あっ、この時計、ウサギの形してる! カワイイなー」



「なぁ、愛。こんなのどうだ?」



「ライオン!? あたし、そんなの使いたくないよ!」



「ちぇ、格好良いのに……」



「もう! 変なところで子供っぽいんだから!」



「はぁ? 俺のどこが子供だよ」



「そんなの選んでる時点で子供です!」



「むっ。じゃあ、お前の言う大人っぽいのってなんだよ」



「え? んーと……、こういうシックな時計とか……、飾り気のないタイピンとか……、そんな感じ?」



「……」ヵチャ、ヵチャ



「なにやってるの?」



「どうだ? 大人っぽいか?」



「うーん。どう見ても背伸びしてる高校生にしか見えないよ」



「……」ギュウゥ



「ぁぅ~~~ッ! ごへんなひゃい~~!」


――




「さて、戯れはここまでにして……。買いたいの決まったか?」



「うん! あたし、コレにする!」



「ペンダント?」



「やっぱりハートが可愛いなーって」



「ふーん」



「しかもコレ……、ほら!」



「?」



「少し小さいけど、写真が入れられるんだよ!」



「いや、そんな大きさの写真なんて――。 あ……」



「気付いた?」



「お前……、まさか……」



「うん! さっき撮ったプリクラ、入れるつもり!」



「ふざけんな。そんな恥ずかしいの買えるわけないだろ」



「む! お兄ちゃん、さっき好きなの買ってくれるって言ったよ?」



「ぅぐ……」



「ふふっ。決まりだね!」



「ちくしょー。どんな罰ゲームだよコレ……」



「お守りにしよーっと♪」


――

8時頃にまた来ます




♪♫~♬♬~




「5時か。……けっこう遊んだな」



「もう帰る時間なんだ。……時間が過ぎるのって、あっという間だね」



「なに感傷に浸ってるんだよ。もしかして帰りたくないのか?」



「……かもね」



「え?」



「嘘だよ。……でも、少し名残惜しいのはホントかな」



「……」



「ねぇ、お兄ちゃん」



「ん?」



「……今度は、……“どこに行っちゃうの?”」



「なんのことだ?」



「隠してもダメだよ。……もう、……分かってるから」





「……知ってたのか?」



「なんとなくだけどね」



「……ホントは俺から伝えようと思ったんだけどな。……なんで分かったんだ?」



「だって今日のお兄ちゃん、なんだか優しいんだもん」



「……」



「あはは。そんな顔しないでよー!」



「……今まで厳しい兄貴で悪かったな」



「ふふっ。……でも、ホントに楽しかったな~」



「……」



「一緒に食事したり、ゲームしたり、プレゼントを貰ったり……。いつも素っ気ないお兄ちゃんが、今日だけは別人みたいだったもん」



「……」



「まるで……、あたしに“何かを償っている”みたいに……」



「――ッ」



「……やっぱり、……そうだったんだね」





「なんで……、そこまで分かってて……、最後まで付き合ってくれたんだ……?」



「“最後”だからだよ」



「……?」



「あたし、気づいちゃったんだよね。……もしかしたら、また……“長いお別れ”になるのかもって」



「……」



「だから、今日の……ううん、今までの想い出を大切にしようって思ったの」



「……」



「ねぇ、お兄ちゃん。……また、帰ってきてくれる?」



「あ、……あぁ」



「そっか。……じゃあ、待ってる」



「え……?」



「だって、また帰ってきてくれるんでしょ? なら、“みんな”が帰ってきてくれるまで、あたし待ってるよ」



「……」



「やっぱり寂しいけどね。……えへへ」





「……。なんで――」



「?」



「なんで……、そんなに純粋でいられるんだ……?」



「……」



「勝手にいなくなって、全部メチャクチャにして、……また、お前を“独り”にしようとしてるのに……。なんで、そんなに純粋でいられるんだよ……ッ!」



「お兄ちゃん……」



「許さなくて良い。恨んでくれて良い。……お前には、……その権利があるのに。……なんで……なんで……」



「そんなこと、できないよ。……あたしの気持ち、……お兄ちゃんも知ってるでしょ?」



「……ッ」





「それに、あたしは独りぼっちなんかじゃない」



「え?」



「絵理さん、涼さん、……玲子さんに、石川社長、……春香さんや、真美ちゃん、……ママ、それにお兄ちゃんも……。みんな、あたしの味方だもん」



「……」



「あの時、お兄ちゃんが教えてくれたことだよ?」



「……」



「だから、大丈夫。……どんなに寂しくても、どんなに泣きそうになっても、……みんな、あたしと繋がってる。だから、あたしは一人じゃないもん」



「でも、俺は――」



「ねぇ、お兄ちゃん。約束して」



「……」



「遠くに行っても、離れていても、いつかは帰って来る。そう約束して」



「……」



「それが、あたしへの償い。……ほかに、……あたしは何もいらないもん」





「……あぁ。約束するよ」



「うん! じゃあ、お兄ちゃん。約束の証拠!」スッ



「……懐かしいな」スッ



――キュッ




「指きりげんまん」



「嘘ついたら針千本のーます!」



――『指切った!』













「約束だよ?」












――




――ガチャッ。




「ただいまーー!」



「ただいまー」



「あら、二人ともお帰りなさい。どこに行ってたの?」



「んー、カラオケとか、お買い物とか、色々かな?」



「あら、それってデートじゃない」



「うん! すっごく楽しかった!」



「ふーん……」ジッ



「なんだよ」





「別に。……それよりも、アンタたちってもう食べてきたの?」



「ううん! まだ!」



「そう。じゃあ今からパパッと作っちゃうわ」



「あたしも手伝う!」



「愛は疲れてるでしょ? 少し休んでなさい」



「えー! 疲れてないよー!」



「良いから休んでなさい。P、悪いけど手伝ってくれない?」



「……分かった」


――



――サクッ、サクッ。



「ねぇ、P。……アンタ、愛にあのこと伝えたの?」



「……まだ、舞さんのことについては伝えてない」



「ちょっと、話が違うじゃない」



「悪かったよ。でもまぁ、……最初っから気づいてたみたいだけどな」



「え?」



「さっき、愛に言われたんだ。“今度はどこに行っちゃうの?”って」



「……」





「もう、アイツは全て分かってる。俺たちがいなくなることも……」



「そう……」



「……あいつは、……強い女の子だよ」



「……」



「これから先、辛い思いをするのも、寂しい思いをするのも分かってるのに、それを許してくれた」



「……」



「みんなが帰ってくるまで待ってる。なんて言葉、俺なら絶対に言えないな……」



「そうね。……たぶん、私も言えないわ」



「……」



「……ねぇ、P」



「なんだ?」



「さっきの話だけど、……やっぱり自分で伝えるわ」



「……そっか」


――




――『ごちそうさまでした!』




「美味しかったー!」



「片付けは俺がやるよ」



「あっ! じゃあ、あたしも――」



「ねぇ、愛。……この後、……ちょっと良い?」



「?」



「話したいことがあるのよ」



「あ、うん……」



――ジャー。ヵチャ、ヵチャ。




「……」


――




「それで、あたしに話ってなに?」



「……」



「ママ?」



「ねぇ、愛。これから話すことはとっても重要なことだから、よく聞いて」



「うん」



「……。私、……もう一度アイドルになろうと思うの」



「……うん」



「でも、あの事件をキッカケに引退した私に、復帰するチャンスなんてない」



「……」



「だから――」



「……」









「――Pと一緒にアメリカへ渡ることにしたわ」










「……そっか」



「……驚かないのね」



「いなくなるのは、……分かってたから」



「そう……」



「……」



「……でもね、もし愛が“行かないで”って言うなら、私はこの話を断ろうと思うわ」



「え?」



「正直……、迷ってるのよ。あなたに寂しい思いをさせてまで世界に行く意味なんてないと思うから」



「……ママは、……どうしたいの?」



「私は……、愛さえいれば良いわ」



「違うよ」



「?」



「あたしが聞いてるのは、“アイドルとしてのママ”だよ。それに、母親としての気持ちは、ずっと前から知ってるもん」





「……」



「……行ってみたいんだよね?」



「……えぇ」



「そっか……」



「……」



「……」



「……」



「……ママ」



「なに?」



「行ってきなよ。……アメリカ」



「え?」



「だってママ、もう一度アイドルになりたいんでしょ? なら、あたしのことは気にしなくて良いから行ってきなよ」



「で、でも……」



「それに、あたしの知ってるママはこんな弱気になったりしない。思いつきで行動して、いつもあたしを振り回すけど、自分の気持ちに正直な人だったよ?」



「……これでも親バカなのよ」



「ふふっ。それは意外だったかも」





「ねぇ、愛。……本当に、……行っても良いの?」



「……あたしは、ママのしたいことを止めるつもりはないよ。……ううん。しちゃいけないの」



「……」



「でも、それでもあたしのことを気にしてるなら、ママの為に魔法をかけてあげる」



「魔法?」



「うん! とっておきだよ!」



「?」



「――“ママに勝ったアイドルはだ~れだ?”」



「……なるほど。そうだったわね」



「どう? この魔法、すごく効いたでしょう?」



「えぇ。確かにすごい魔法だったわ」



「えへへ。向こうのお土産、楽しみにしてるね!」



「きっと愛が驚くようなもの買ってくるわ。でも、その前にリターンマッチが先ね。……逃げないでよ?」



「心配しなくても大丈夫! チャンピオンはいつでもチャレンジャーの挑戦を受けるよ!」



「……ふふっ。言うようになったわね」


――

今日はここまで。明日投下して、また不定期にしたいとおもいます。




――コンコン。



黒井
「入れ」



「失礼します」


黒井
「……貴様か」



「お久しぶりですね。黒井社長」


黒井
「フン。なにが久しぶりだ」



「あ、やっぱり怒ってます?」


黒井
「自分の胸に聞け。少なくとも、私は怒ってなどいない」



「ははっ。既にお見通しという訳ですか」


黒井
「……私の事務所に所属したにも関わらず、独断で海外進出。……これは、どういうつもりだ?」



「ささやかな嫌がらせです。……俺は、自分を嵌めた人間にノコノコついて行くような負け犬じゃありませんからね」


黒井
「なんのことだか分からないな」



「隠さなくても良いですよ。“優しい記者”が全て教えてくれました」


黒井
「……ッチ。金を積んでやったというのに使えんヤツだ」





「ずいぶん強かじゃないですか。まさか、あなたが黒幕だったとは思いませんでしたからね」


黒井
「……」



「……でも、一つ腑に落ちないことがあるんですよ」


黒井
「なんだ?」



「わざわざ悪徳記者を雇い、その写真をあのサルに渡し、俺がここに来ざる負えない状況まで追い込んだ」


黒井
「……」



「そこまでして俺を引き入れたかったんですか? それとも、……なにか俺に恨みでもあるんですか?」


黒井
「フン。私の誘いを断る貴様が悪い」



「……そうですか。……でも、黒井社長。これだけは覚えておいて下さい」


黒井
「……」



「――俺に“首輪”を付けたこと、後悔させてあげますよ。……必ずね」




黒井
「吠えるなら鎖を引きちぎった後にしろ。今の貴様では、見苦しく虚勢を張る負け犬にしか見えないな」



「……失礼します」


黒井
「――小僧」



「なんですか? もう俺は、あなたと交わす言葉はないはずですけど?」


黒井
「確か、……貴様の出発は来月の中旬だったな?」



「……えぇ」


黒井
「そうか……。なら――」



「……」


黒井
「“ジュピターも連れて行け”」





「……は?」


黒井
「なにを呆けている。私はジュピターも連れて行けと言ったんだ」



「意味が分からないです。そもそも黒井社長は、あの看板アイドルたちを貸すつもりはなかったのでは?」


黒井
「気が変わった。貴様がホンモノかどうか見定めてやろう」



「……品定め、という訳ですか」


黒井
「ヤツ等のパスポートは用意してある。……私が合流するまで、貴様は好きに暴れてろ」



「黒井社長の意図は分かりませんが……、分かりました」


黒井
「フン」



「それでは失礼します」


――




「終わった?」



「終わったよ。そっちも挨拶は済ませた?」



「そんなのとっくに終わってるわ。むしろ生意気なアホ毛がいたから教育してあげたけどね」



「そっか」



「さて、これからどうしよっかな~。帰ってもやることがないのよね。バッセンでも行こうかしら?」



「……」



「ねぇ、アンタもバッセンに行く?」



「……いや、俺は少し寄りたい所があるから遠慮するよ」



「ふーん。まだ夕飯まで時間があるから良いけど、……どこに行く気?」



「……フラワーショップ」





「フラワーショップ? もしかして好きな子にでも会いに行くの?」



「……よく分かったな」



「へー、アンタに恋愛感情があったなんて意外ね」



「そんなじゃない。……大切な人に花束を贈る。それだけだ」



「それを恋愛っていうのよ。それで、お相手はダレなの?」



「……」



「教えなさいよ~」



「……。“舞さんに関わりのある人”、……かもな」



「私に? 誰なのかしら……?」



「悩んでるところ悪いけど、用事が終わるまでどこかで時間を潰してくれないか? 後で向かえに行くからさ」



「え? 嫌よ。アンタの相手がどんな子なのか、この目で確かめてやるわ」



「ついて来る気なのか?」



「えぇ、当たり前じゃない」



「……」



「ほらほら、行くんでしょ? さっさと案内しなさいよ」



「……まぁ、……良い機会かもな」



「?」



「気にしないでくれ。こっちの話だ」


――




「へー、なかなか良い店じゃない」



「すいませーん!」



――「あれ、Pさん? 久しぶりだね」




「久しぶり。今日は店番か?」



――「うん。練習ないからお母さんのお手伝い」




「そっか」



――「ところで……、お隣の方はPさんの彼女?」




「冗談でも止めてくれ」



「ちょっと、そういう言い方ってないんじゃない?」



――「仲が良いんだね」




「そう見えるなら良い眼科を紹介するよ」



――「ふふっ。お花はどうする?」




「いつもの頼む」



――「分かった。少し待ってて」




「あぁ、悪いな。凛」


――




「~♪」



「……」



「ねぇ、P」



「どうした?」



「アンタの好きな相手って、もしかしてあの子?」



「違う」



「そうなの? その割には、ずいぶん親しげじゃない」



「……欲しい花がここしか置いてなくてな。それで何年も前から来てるうちに、いつの間にかこんな感じになってたんだよ」



「つまり、何年も前からあの子を手篭めようとしてたのね」



「俺の話を聞いてた?」





「はいはい。痴話ケンカはそこまで。Pさん、お花できたよ?」



「あ、ごめん。いくらだ?」



「1万2千円だね」



「はいよ」



「2万円お預かりします。……お釣りはどうする?」



「いらない。自分の懐にでも入れてくれ」



「ふふっ。いつも悪いね」



「偶にしか来ないだろ」



「細かいこと。……はい、Pさんのお花」



「ありがと」



「へー、キレイな花じゃない。……水仙、だったかしら?」



「知ってるのか?」



「バカにしないで。それくらい誰だって分かるわよ」



「へー。舞さんのことだから、花なんて雑草と同じにしてると思ったけど……、意外だな」



「アンタ、私をなんだと思ってるのよ」



「ごめん」





「それにしても、“水仙”ねぇ……。ちょっと趣味が悪いんじゃない?」



「……どういう意味だ?」



「だって、水仙の花言葉って自惚れとか自己愛でしょ? そんなの渡したら“俺はナルシストだ”って言ってるようなものよ」



「……」



「なんだったら、私がもっとセンスの良い花を選んであげようか?」



「……いらない」



「なに意地になってるのよ。どうせ告白するんだから、少しは縁を担がなきゃダメでしょ?」



「告白……?」



「なぁ、舞さん。せっかくのアドバイスだけど……、俺はこの花を渡したいんだ」



「アンタも頑固ねぇ。なんでそんなにその花を渡したいのよ」



「……その人の“好きな花”、……だからかな?」



「その人の? ……はぁ。……なるほど」



「なんだよ」



「悪いことは言わないから、渡すのは止めときなさい」



「……なんで?」



「こんな花が好きなんて、どうせ碌な女じゃないわ」



「――ッ」





「……お姉さん。……なにも知らないのに適当なこと言わない方が良いよ?」



「え?」



「それに、さっきの花言葉……、間違ってる。お姉さんが言ってるのは、白い水仙。……黄色い水仙の花言葉は――」



「凛。やめろ」



「でも……」



「でもじゃない。お前の仕事は、お客を不快にさせることなのか?」



「……。分かったよ」



「ごめんな、舞さん。悪気はないんだ。許してやってくれ」



「え、えぇ……」



「凛。そろそろ俺たち行くから。……迷惑かけたな」



「ううん。……また来てね」


――




「ねぇ、P」



「なに?」



「アンタ……、ホントに好きな人に会いに行くの?」



「……」



「もしかして……、私は、なにか勘違いしてるんじゃない?」



「……間違ってないよ」



「ホントに?」



「あぁ。……でも、告白はしないけどな」



「……」


――

8時頃にまた来ます




「――着いたよ」



「でも、ここって……」



「うん。……母さんと、……親父のお墓」



「……。そう……」



「……」



「アンタが渡したい相手って、お母さんのことだったのね……」



「うん……」



「……ごめんなさい。……知らなかったとはいえ、あんなこと言って……」



「別に良いよ。気にしてないから」



「……ごめんなさい」



「……」



「……」



「舞さん」



「……なに?」



「掃除、……一人じゃ大変だから手伝ってくれない?」



「……えぇ。分かったわ」


――




「……」



「……」



「……」



「ねぇ。……その線香、一つ貰って良い?」



「……ン」スッ



「ありがと」



――カチッ。……フッ。




「……」



「……」



――スッ。






「……そこに挿すな」



「え?」



「ごめん。……だけど、……ここは“母さんの墓”なんだ。……親父のは、そっち」



「ぁ……」



「悪いな」



「……気にしないで。……少し、無神経だったわ」



「……」


――




(ここが……、あの人のお墓……。実感はないけど……、やっぱり死んじゃったんだ……)



「……」



(この香炉、ほとんど使われてないわね……)



――ッス。




「……」



「……」



「……ねぇ」



「なに?」



「……お父さんのこと、……どう思ってるの?」



「……」





「聞いても、良い……?」



「……どうして、そんなこと聞くんだ?」



「……この香炉、ほとんど使われてないのよ。……もしかして、お父さんに手を合わせたことがないのかなって」



「……」



「まぁ、言いたくないなら深くは聞かないけどね」



「……」



「……」



「……嫌いなんだ。……“その人”」



「え?」



「あんまり記憶はないけど、いつも母さんを泣かせてた。……だから、嫌いなんだ」



「そう……」



「……」





「でも、……お父さんのこと、そんな風に言うのは良くないわ」



「父親なんかじゃない」



「……」



「……確かに血は繋がってるけど、それだけだ。……俺は、……こんな人間が父親なんて認めない」



「P ……」



「それに、この人は……、母さんも、俺も、捨てようとしてた」



「……」



「……殺されて当然だよ。……こんなクズ」



「ぇ……?」



「……」



「……プロ、……あなたのお父さん、……自殺じゃ……なかったの?」



「……言っただろ。……“寄り添うように眠ってた”って」



「そう……、だったのね……」


――




「……」



「……」



「……なんで、……だろうな」



「……なにが?」



「……ここに来たことだよ」



「どういうこと……?」



「舞さんは知らないと思うけど、……俺、……もうここには来ないって決めてたんだ」



「……」



「でも、なんでかな」



「……」



「今日で終わりにしよう。……もう来ない。……これで最後だから。……そうやって言い聞かせてるのに、……また、俺はこうして花を添えに来ている」



「……」



「こんな花、“渡しても意味なんてない”のにな……」


――




「……ねぇ、もう一つだけ聞いて良い?」



「……」



「……その花、……どういう意味なの?」



「……聞いてどうするんだ?」



「……少し、……知りたくなったのよ。……“この人”も、……“アンタ”のこともね」



「……」



「……教えてくれない?」



「……」



「……」



「……」



「……」



「……白い水仙の花言葉は、……自惚れ」



「……うん」



「……黄色い水仙の花言葉は――」










       ――私のもとへ帰ってきて……。










――




「……」



「……」



「……悲しい、……花言葉ね」



「……」



「ごめんなさい」



「……どうして謝るんだ?」



「だって、……知らなかったとはいえ、アンタを傷つけたのは確かだから。……それに、アンタのお母さんまで……」



「……気にしなくて良いよ」



「だけど……」





「……なぁ、舞さん。……あの時、……なんであんたこと言ったんだ?」



「あの時……?」



「……こんな花が好きなんて、どうせ碌な女じゃない。……そう言ってたろ?」



「ぁ……」



「もしかして、この花……、嫌いなの?」



「……違うわ」



「じゃあ、なんであんなこと言ったんだ?」



「……これでも“親バカ”なのよ」



「そう」



「ごめんなさい……」



「別に良いよ」



「……」



「……花に“願い”を込める人もいれば、……“想い”を伝える為に花を贈る人もいる」



「……」



「それを覚えていてくれるなら、……それで良いよ」



「……えぇ。……分かったわ」


――




「……」



「……」



「……そろそろ行こうか」



「……」



「舞さん?」



「……ごめん。先に行っててくれない?」



「え?」



「そんなに時間はかからないわ。……少しだけ、一人にしてほしいの」



「……分かった。車の中で待ってるよ」



「……ありがと」


――




「……」



――ノ墓。




(この人が……、Pのお母さん……)



(あのPが慕うくらいだもの、きっと優しくて綺麗な方なんだろうな……)



(でも、私はあなたのことを好きになれそうにないわ)



(たった一人の子供を残して夫の下へ逝くなんて、同じ母親として許せないもの)



(……まぁ、……アイドルよりも女を取った人間が言えることじゃないけどね……)




――『 三流アイドルが笑わせんな 』





(……確かにアイツの言う通り、私は三流だわ)



(ううん。三流なんて優しいものじゃない。ただの……クズ)



(人の旦那を奪って、あなたや、アイツの人生まで壊して、責任も取らず逃げた)



(こんな最低の人間なんて、“クズ”がお似合いだと思う)





――ノ墓。




(……ごめんなさい。……あなたの大切な人を奪って)



(もう返すことはできないけど、それでも償わせて下さい)



(……これから先、どんな罰も受け入れます。……私が差し出せるものなら、なんでも差し出します)



(愛の為にも死ぬことはできないけど、あなたが許してくれるまで、罪を償い続けます)



(だから……)







「これからもPを――」










            ――見守っていて下さい。









――




「お待たせ」



「もう良いのか?」



「えぇ。少し感傷的になってただけよ」



「……」



――パン! ――プゥーッ!




「~~ッ!?」



「なに辛気臭い顔してんのよ」



「だからって、いきなり叩くなよ! ハンドルに頭ぶつけただろ!」



「あははは!」



「このババア……」





「ふふっ。それよ、それ」



「は?」



「私たちの関係はそんなんじゃないでしょ? 同情なんて気持ち悪いから止めなさい」



「……誰がするか」



「ふふっ」



「なんだよ」



「別にー♪」



「……フン」





「あ、それはそうと……」



「?」



「アンタの好物ってなに?」



「いきなりなんだ?」



「ただの気まぐれよ。たまにはアンタの好きなのでもつくってみようかなーって」



「……」



「それで、アンタってなにが好きなの?」



「……オムレツ」



「へー、ずいぶんシンプルなのが好みなのね。他には?」



「ハンバーグと、……カレー?」



「ふふっ、なにそれ。まるで子供じゃない」



「……悪いかよ」


――




「たっだいまー!」



「ただいま」



「二人とも遅いよ! どこに行ってたの?」



「んー、デート?」



「えッ!?」



「誤解されるような言い方するなよ。961プロダクションに挨拶しに行ってただけだ」



「あ、そうだったの? 良かった……」



「でも彼女に間違えられたことはあったわよね?」



「いや、あれはリップサービスだろ」



「むぅ。ホントに挨拶しに行っただけなの?」



「ふふっ。心配しなくてもちゃんと行ったわよ。まぁ、帰りに少しだけ寄り道しちゃったどね」



「ふーん」



「さてと、……そろそろご飯にしましょうか」



「手伝うよ」



「ありがと。だけど、アンタが手伝ったら意味ないでしょ?」



「そうなのか?」



「そうよ。だから愛、ちょっと手伝ってくれない?」



「はーい!」


――




「なんだか珍しいね」



「なにが?」



「ママがハンバーグつくってることだよ。いつも凝った料理しかつくらないのに、どうしたの?」



「アイツのリクエストよ。こういうのが好きなんだって」



「へー、そうだったんだ」



「子ども扱いされると嫌がるくせに、こういうのが好きなんて、やっぱり子供よね」



「ふふっ、そうかもね。……でも、それだけじゃないかもよ?」



「え?」





「だって、カレーもハンバーグも、みんな“家庭料理”を代表する食べ物でしょ?」



「……」



「一人暮らしが長かったって言ってたし、もしかしたら寂しかったんじゃないかな」



「寂しい? アイツが?」



「うん。……たぶん、お兄ちゃんは一人で食べるご飯の味を誰よりも知ってるはずだもん」



「……」



「だから、……少しだけ甘えてるのかもね」



「……」




――……誰かと一緒になってご飯を食べるのも、悪くない。





「ぁ……」



「どうしたの?」



「ううん。なんでもない」



「?」



「……ふふっ。ホントに分かり辛いヤツ」


――




――『ごちそうさまでした!』




「ごちそうさまでした」



「おいしかった?」



「あぁ。相変わらず料理上手だな」



「そっか。……ふふっ」



「?」



「……ふふっ」



「なんだよ」



「別にー♪」





「ママー、お風呂ってもう沸いたかな?」



「んー、たぶん大丈夫だと思うわ」



「そうなの? じゃぁ、入っちゃおーっと!」



「ねぇ、愛」



「?」



「今日は一緒に入らない?」



「え?」



「ほら、私たちってもうすぐ行っちゃうでしょ? だから、少しでも一緒にいようかなって」



「……」



「ダメ?」



「……うん! 分かった! 今日はずっとママと一緒にいるよ!」



「ふふっ、ありがと」



「ママとお風呂かぁ……。なんだか久しぶりかも」



「それじゃ、楽しみにしてるところ悪いけど、お風呂を見てくれる?」



「はーい♪」



――タッタッタッ。




「アンタも一緒に入る?」



「入るわけないだろ」


――




「ふぅ。……気持ち良かったわ」



「ずいぶん長風呂だったな」



「これくらい普通よ」



「ふーん。……ほらよ」



「お、気が利くわね。サンキュー」



「愛も同じので良いか?」



「うん! ありがと!」



「ふふっ。愛、飲みながらで良いからこっちにいらっしゃい。乾かしてあげるわ」



「はーい」



――ヴォーー。






「……」



「どうしたの?」



「いや、なんか微笑ましいなって」



「あはは。まさかアンタからそんな言葉が聞けるなんて思わなかったわ」



「……俺もそう思う」



「ふふっ。ねぇ、P」



「なんだ?」



「アンタ、やることないでしょ?」



「……」



「私の髪、ちょっと拭いてくれない?」



「雑巾で良いか?」



「アンタに任せるわ」



「……はぁ。……わかったよ」


――




「……」



――ヮシヮシ。




「んー、誰かに拭いてもらうのってやっぱり気持ち良いわね」



「ママー、もう少し下の方もやってー!」



「はいはい」



――ヴォーー。




「……ここら辺?」



「んー。もうちょっと左?」



――ヮシヮシ。




「……なんか、サルの毛づくろいみたいだな」



「その例え、他になんかなかったの? もうサルは懲りごりだわ」



「?」



「こっちの話よ」


――




「ふぁ……」



「眠いの?」



「うん。ホントはもうちょっと起きてたかったんだけど……」



「ムリしないで休みなさい。夜更かしはお肌の大敵よ?」



「……」



「どうしたの?」



「ねぇ、ママ。……今日、一緒に寝ても良い?」



「え?」



「……なんていうか、……今日は一人で寝たくないなって」



「……」



「やっぱりダメだよね。変なこと聞いてごめんね、ママ」



「……」



「それじゃ、おやすみなさい」



――ガチャッ。






「待ちなさい」



「ぇ?」



「なに勝手に行こうとしてるのよ。一緒に寝るんでしょ?」



「え? でも……」



「愛のワガママを断るはずないでしょう? 変な気を使ってるんじゃないわよ」



「……良いの?」



「えぇ、もちろん」



「ありがとう。……ママ」



「ふふっ。それじゃ――」



――ギュッ。




「今日は“三人”で寝ましょうか!」



「……は?」



「え?」





「なによ、その反応。もしかしてイヤなの?」



「当たり前だ! 意味が分からないだろ!」



「寝るのに一々理由なんて必要ないと思うけど?」



「ヘリクツを……ッ」



「むしろ正論でしょ」



「愛だってイヤだよな!? 俺が一緒の寝室にいるなんてイヤだよな!?」



「あたしは別にイヤって訳じゃ……」ゴニョニョ



「この子も満更でもないみたいだけど?」ニヤッ



「ぐっ……」



「諦めなさい。ここじゃ私がルールよ」


――




「……」



「ぁっぃ……」



「すぅ……すぅ……」



(なんだよ川の字って。これじゃ身動きもできないだろ)



「すぅ……すぅ……」



(はぁ……。お前はよくそんな無防備に寝られるな)



――ナデナデ。




「ン……」



(俺も寝よ……)





――「ねぇ、……まだ起きてる?」




「舞さん? ……寝てたんじゃなかったのか?」



「少し、……眠れないくてね」



「まぁ、色々あったからな」



「……」



「……」



「……あの後、あなたのお母さんに手を合わせたわ」



「……そう」



「手を合わせて、誓った。私が逃げた罪を、これから償うって……」



「……」



「ごめんなさい。……あなたの“幸せ”を奪って……」





「……舞さんは、責任を取った。俺はもう、それで十分だ」



「ホントにそう思ってるの?」



「……」



「無理、しなくても良いのよ?」



「……なら、“母さんを返せ”って言ったら、返してくれるのか?」



「それは……」



「……吐き出したところで“過去は変えられない”」



「……」



「自分の罪は、……自分で償うしかないんだ」



「そう、ね……」





「……」



「……」



「俺、もう寝るよ」



「……自分の部屋、……戻らないの?」



「今日は、……いいかな」



「そう……」



「それに、……ここが一番“暖かい”んだ」



「……」



「それじゃ、……おやすみ」



「えぇ。……おやすみなさい」


――

ここまでにします。




――コンコン。




「Who's up?」
(だれ?)



――「I'm receptionist. It is time for check-out, but what would you do?」
   (受付係の者です。 退室の時間ですが、どうされますか?)




「OK. I'm coming. Thank you for teaching it」
(すぐ行くよ。教えてくれて、ありがとう)




「……なんだって?」



「チェックアウトの時間だとさ」



「え、もう? まだシャワーも浴びてないわよ」



「一時間前にコールしてもらうように頼んだから、まだ時間はあるぞ」



「あら、そうなの?」



「俺はあいつ等の部屋に行くけど、舞さんは?」



「んー、時間があったら顔くらい出すわ」


――




――コンコン。



北斗
「誰ですか?」



――「俺だ。入っても良いか?」



北斗
「あ、はい。今開けます」



――ガチャッ。



北斗
「おはようございます。どうかしました?」



「いや、大した用事じゃない。もう少し経ったら退室するから、それを知らせに来ただけ」


北斗
「もうそんな時間なんですか。それじゃ、急いで支度しないと」



「まだ時間があるから、ゆっくりで良いよ。……そういえば、あいつ等は?」


北斗
「翔太はとっくに起きてテレビ見てます。冬馬だけがシーツに包まったままですね」



「はぁ……。北斗、悪いけど起こしてくれないか?」


北斗
「えぇ、分かりました」





「チェックアウトは8時だから、それまでにフロアに集合してくれ」


北斗
「8時? それだと一時間くらい余裕がありますよ?」



「早めに行動して損はないだろ?」


北斗
「なるほど。確かにそうですね」



「そろそろ俺は戻るけど、シャワー浴びるなら今のうちだぞ?」


北斗
「ははっ。それなら起きてすぐに済ませましたよ」



「そっか。余計なお世話だったみたいだな」


北斗
「お気遣いありがとうございます」



「こっちこそ邪魔して悪かった。それじゃ、冬馬たちのこと頼むよ」


北斗
「えぇ。任せてください」


――



冬馬
「ふぁ~あ。……おはよ」



「おはよう。よく眠れたか?」


冬馬
「おかげ様で良く眠れたよ。北斗も悪いな」


北斗
「そう思うなら頭の寝癖、なんとかしてこい。見っともないぞ?」


冬馬
「あ、ほんとだ……。プロデューサー、少し時間もらっても良いか?」



「トイレの場所、分かるのか?」


冬馬
「それくらい分かる。……たぶん」



「そこの青いパネルにMENって書いてある所がトイレだ。間違えるなよ?」


冬馬
「ン」



「目的地まで時間が掛かるから、他にも行きたいヤツがいるなら今のうちに行っとけ。後でトイレに行きたいって言っても知らないからな」


翔太
「けっこう時間が掛かるんだ。……僕も行ってこようかな?」


北斗
「そういえば冬馬のヤツ、毛櫛とか忘れたって言ってたな。……俺のを貸してやるか」



――ゾロゾロ。






「なんか修学旅行みたいね」



「なら、後で自由行動の時間でも設けてやろうか?」



「あら、良いの?」



「まぁ、誰かを付き添いにさせるってのが条件だけどな」



「それならアンタしかいないわね。荷物持ち、よろしく」



「俺は冬馬と食べに行く約束があるからムリだ。他のヤツに頼め」



「知り合って間もないのにそんな頼みごとできる訳ないでしょ」



「え?」



「なによ、その驚いた顔は」



「いや、まさか舞さんにそんな一般常識があるなんて……」



「ちょっとそれどういう意味よ!」


――




――ヴォルルル。



翔太
「ねぇ、プロデューサーさん」



「なんだ?」


翔太
「僕たち、どこに向かってるの?」



「んー。これから住む俺たちの家、……だな」


翔太
「家?」



「さすがに毎日ホテルを転々としながら生活するなんて金のムダだろ? だから、活動が本格化するまでは、全員一緒に過ごした方が良いって考えたんだ」



「ねぇ、P」



「なんだ?」



「もしかして、……私も一緒に住むの?」



「当たり前だろ。なんで舞さんだけ特別扱いしなくちゃならないんだ」



「いや、そうなんだけど……。私、女なのよ?」



「だから?」



「……襲われたらどうするのよ」





「安心しろ。そんな猛者は一人もいないから」



「はぁ!? どういう意味よ、それ!」



「誰だって相手くらいは選ぶってことだろ」



「なッ!? こんなイカ臭い野郎の集団に私みたいな美女を放り込んだら襲われるに決まってるでしょ! そんなことも分からないの!?」



「えーと。どこまで話したっけな?」


翔太
「僕たちが一緒に住むってところだよ」



「あぁ、そうだった。みんなで住むって言っても、やっぱりプライベートは必要だろうから各自の個部屋は用意してある。着いたら部屋決めしておいてくれ」


翔太
「はーい」



「話を聞けー!」



「それから、お前たちに重要な伝達事項があるぞ」


冬馬・北斗・翔太
『?』



「各自、貞操は自分で守れ」


冬馬・北斗・翔太
『はい!』



「……納得いかねー」


――

ご飯食べてきます




「着いたな」


北斗
「へー、ここが……」



「あぁ、今日から住む俺たちの家だ」


北斗・翔太・冬馬・舞
『……』



「なんかテンション低いなぁ。どうしたんだ?」


翔太
「いや……」


冬馬
「だってな……」



「?」



「どうみても普通の家じゃない。ホントにここが私たちのホームなわけ?」



「なにか不満なのか?」



「別にないけど……」


北斗
「俺はてっきりマンションでも借りてるかと思いましたよ」



「黒井社長に予算を制限されてるんだから仕方が無いだろ」


舞・北斗
『……』


冬馬
「なぁ、翔太。アメリカってさ」


翔太
「うん。プール付きの大豪邸とか……」


冬馬
「夜景の見える高層マンションだよな」


翔太・冬馬
『……はぁ』



「文句があるなら自分で探せ」


――




――ヵチャッ。




「へー。中は案外広いのね」



「だろ? 探すのに苦労したんだぞ」



「はいはい。ご苦労様」


冬馬
「プロデューサー。俺、この部屋にしても良いか?」


翔太
「あ! ズルイよ冬馬くん! その部屋は僕も狙ってたんだよ!」


冬馬
「は? お前そっちの部屋にする。みたいなこと言ってたじゃねぇか」


翔太
「やっぱり日当たりは重要だからね。だから冬馬くん。その部屋、僕に譲って」


冬馬
「ヤダ」




翔太
「そっか。どうしても争うしかないんだね……」


冬馬
「なんだよ、やんのか?」


翔太
「うん。例え冬馬くんを傷つけることになっても、僕はその部屋が良いんだ!」


冬馬
「へっ、良い度胸じゃねぇか。受けてやるよ」


翔太
「いくよ?」


冬馬
「おう」



――最初はグー! ジャンケン、ぽい! あいこでしょッ!




「……あいつ等、さっきまで不満気だったよな?」



「実は楽しみにしてたんじゃない? 知らないけど」



――あいこでしょッ!



冬馬
「ぅわぁああああ!!?」


翔太
「へへーん。頂き!」


――




「全員、部屋決めは終わったか?」


北斗
「プロデューサーさん」



「どうした?」


北斗
「一つだけ余った部屋があるんですけど?」



「あぁ、それは黒井社長の部屋にするから、気にしないでくれ」


冬馬
「げっ、おっさんも一緒に住むのかよ」



「他になにか聞きたいヤツはいるか?」



――シーン。






「無いなら話を進めるぞ。まずは今後の食事についてだ」



「食事?」



「さっきも言ったけど、黒井社長からは予算を制限されてる。それも、お前らのレッスンと生活費でほとんど無くなるくらい小額だ」


北斗
「……」



「だから、少しでも使える金額を増やすために、食事は基本的に当番制にして、自炊にしようと思う」


冬馬
「めんどくせぇ……」


翔太
「プロデューサーさん、それって今日から?」



「今日は色々とやることがあるから、明日からだな」


翔太
「ふーん」



「それで、話って終わりなの?」



「いや、まだある。今後、お前らが活動することになる事務所についてだ」




冬馬
「?」



「とりあえず……、まずはこの書類にサインしてくれ」


冬馬
「なんだこれ?」



「お前らの移籍書」


冬馬
「は?」


翔太
「どういう意味?」



「簡単に言うと、この書類は961プロダクションの海外支店へ移籍する証明書なんだ」


翔太
「うん」



「まぁ、アメリカで活動することになって、日本の事務所に所属したままだと経理なんかで色々と不都合なことが多いから、コッチのほうに移籍してもらうことになったって思ってくれ」


翔太
「へー」



「ところで、この事務所名なんて読むの?」



「“The Sting Production(スティング・プロダクション)”だな」



「へー。どういう意味?」



「……さぁ?」


――

ここまでにします



神父
「 So that everyone can enjoy this night, I pray to God.…… Amen 」
(皆様が今日この夜を楽しめるよう、我が主に祈ります。……アーメン)



『 Amen 』



神父
「 Thank you for your attention. So,will hold a halloween party than this 」
(ご清聴ありがとうございました。……それでは、これよりハロウィンパーティを開催いたします)



――パチパチパチ。



神父
「 Before that, I’ll introduce your guests from the small island nation 」
(その前に、小さな島国よりアメリカへ渡られた客人をご紹介いたしましょう)



「……」


神父
「 Ms,Hidaka.Previous please 」
(日高。……前へ)



「 Thank you 」





……。




「 Everyone nice to meet you. My name is Mai Hidaka 」
(みなさん始めまして。私は日高舞といいます)


神父
「……」



「 I will sing this song today to be a good day 」
(今日が良い日になるよう、この曲を歌います)



……。




「 Please listen 」
(……聞いて下さい)








「―― ALIVE 」








――




「 There is no standard on this earth, but there is a wonderful world 」
(この地球に標はないけど、素晴らしい世界がある)



♫♪♬♬ ……。




「ふぅ」



……パチパチ。……パチ。




「な、なんで……?」



――ポンッ。




「?」



「 Thanks, it's going to be a good stage 」
(おつかれさま。お陰で良いステージになりそうね)




「え、えっと……」



「 That's right. Do not come back soon? I will not be out 」
(早く戻ってくれない? 私が出られないんだけど)




「ぇ?」



「 Huh.The exit is there. Will you understand like it ? 」
(ハァ。出口はあっち。それくらい分かるでしょう?)



「あ、あぁ……。戻れってことね」


――




――『 Hey! Hey! You! You!』



『 I don’t like your girlfriend! 』




「へー。流石メジャーアイドルだ。あの空気を一瞬で変えるとは」



――『 No way! No way! 』



『 I think you need a new one 』




「……ただいま」



「お帰り。どうだった?」



「惨敗よ。……祝福はしてくれなかったみたい」



「そうみたいだな」



「あー! むかつく! 歌もダンスも完璧だったのに! 日本人だからって見下してんじゃないわよ!」



「荒れてるな」



「当たり前じゃない! こんな屈辱、生まれて初めてよ!」



「……まぁ、グチは車の中でも聞くよ。とりあえず、今は帰るのが先だ」



「私がそれまで我慢できると思う?」



「負けたステージに未練がましく残ってる方が惨めだと思うけど?」



「……ッチ」


――



翔太
「おかえりー」



「ただいま」


翔太
「ねぇ。お姉さんどうしたの? 帰ってきたと思ったらすぐ部屋に行っちゃったけど」



「仕事先で上手くできなかったから荒れてるんだよ」


翔太
「へー。お姉さんでも失敗とかするんだ」



「舞さんも人間だってことだな」


翔太
「あははっ。なにそれ」



「でも、いつまでも引きずってるような人間じゃないと立ち直ると思うぞ」


翔太
「ふーん。僕としては今日の当番やってくれるなら何でも良いけどね」



「まぁ、そこの頃には立ち直ってるよ」


――




『 ご馳走様でした! 』




「後で洗うから食器は水に浸けておいて」


翔太
「はーい」



「アホ毛。私はもう寝るから後よろしく」


冬馬
「なんでだよ! 当番は姉御だろ!?」



「……」スクッ


北斗
「お出かけですか?」



「ちょっと黒井社長に向かえを頼まれてな」


北斗
「もう来るんですか? まだ部屋の片付けも終わってないのに」



「あいつ等……」


北斗
「こんな物置に人が住めるか! なんて怒るのが目に見えますよ」



「はぁ。とりあえず今日は北斗と一緒に過ごしてもらうか」


北斗
「冗談ですよね?」



「……」


北斗
「冗談ですよね!?」





「冗談だよ。黒井社長には申し訳ないけど、俺と同室になってもらう」


北斗
「良かった……」



「あ、そうだ。お前等のスケジュールだけど明日はオフにしておいたから」


冬馬
「は? なんでだよ」



「どうも黒井社長に行きたい場所があるみたいでな。奢りみたいだから少しだけ付き合ってくれないか?」


冬馬
「まぁ、特に用事がある訳でもねぇから良いけどよ」


翔太
「奢りだって。お姉さんなに買ってもらう?」



「そうね……。服もバッグも買っちゃったし……。翔太くんは?」


翔太
「僕は自分用の冷蔵庫かな。今の冷蔵庫だと使えるスペースないから」



「奢りだって言っただろ。貢がせてどうするんだよ」


――



黒井
「私は……、私は辿り着いたのだな。この異国の地へ」



ざゎ。ざわ。



黒井
「フ、フフ……。フハッハハハ! アメリカ! 本物のアメリカだ!」



ざわ。ざゎ。



黒井
「……」スゥ



ざわ。ざわ。



黒井
「アメリカで名を上げるのは、この黒井だーー!!」





――フハハハハハハ!! アメリカ最高ォオオオ!! アーッハッハッハ!!








「……」



「……」


冬馬
「……」


翔太
「……」


北斗
「……」



「なぁ……」


北斗
「……なんですか?」



「俺は……、アレに声をかけるのか?」


北斗
「……お気持ち察します」


翔太
「なんか初めてココに来た時の冬馬くんみたいだよね」



「ペットは飼い主に似るって言うからねぇ……」


冬馬
「俺、あんな恥ずかしいヤツじゃないだろ!?」


――

ここまでにします。それと……。


愛ちゃん! 誕生日SS書けなくてごめんなさい!!!




「あー、黒井社長?」


黒井
「おっ、小僧か! 出迎えご苦労だな!」



「えぇ。まぁ……」


黒井
「むっ。それよりもジュピターたちはどうした。私は全員で来るように指示したはずだが?」



「……あそこにいますよ」


黒井
「ん? なんであんな離れた所にいるのだ?」



「……」


黒井
「まぁ良い。――おーい!」



――やべっ! 見つかった! ――ぼ、僕はバレてないよね!? ――ここまで、……かしら。



黒井
「フハハッ。私に会えなかったとはいえ、そんなに恥ずかしがるな。さっさと来い」




冬馬
「ちくしょう……」


翔太
「こんな恥ずかしい思いをするくらいなら来なければ良かったよ……」


北斗
「いつもならナンパを口実に逃げられたのに……」



「帰って良い?」



「お前らなぁ……」


黒井
「小僧、行くぞ!」



「え、えぇ……。少し待って下さい。車を取ってきます」


黒井
「3分間待ってやる! お前らは40秒で支度をしろ!」



「……」



「帰って良い?」



「考えさせてくれ」


――




「……」


黒井
「♪」


翔太
「僕、あんな恥ずかしい思いをしたの初めてだよ……」


北斗
「俺も」


冬馬
「違う。絶対に違う。俺はあんな恥ずかしいヤツじゃない」ブツブツ



「認めなさい。アンタも初めてココに来た時はあんな感じだったわよ」



「それで、黒井社長はどこに行きたいんですか?」


黒井
「そんなことも分からないとは……。ハァ。嘆かわしい」



「……」イラッ




黒井
「ここはどこだ?」



「どこって……。アメリカですよ」


黒井
「そうだ! アメリカだ!」



「……」


黒井
「アメリカといったらなんだ? カジノだろう!!」



「えぇ。まぁ……」


黒井
「なら、カジノの本場といったらどこだ?」ニヤッ



「……まさか」


黒井
「そのまさかだ。私の行き先など、ラスベガス以外にありえん!」



「無茶言わないで下さい! ここから一週間は掛かりますよ!?」


黒井
「フン。セレブな私がこんな車で長旅なんぞすると思うのか?」



「?」


黒井
「既にジェット機をチャーターしてある。まぁ、向こうの都合でワシントンまで行くことになってしまったがな」



「――は?」


黒井
「という訳で、最初の目的地はワシントンだ。…… アンダースタァン?」



「……」


黒井
「分かったなら早く車を出せ!」







「これからラスベガスに行くみたいだよ!」


「マジで!?」


「黒井社長もずいぶん太っ腹だなー」


「なぁ! ラスベガスに行く前にダウンタウンに寄ってくれよ!」


「好きにしろ。ただし、すぐに戻ってくるんだぞ?」


「流石おっさんだぜ! ……あ、そうだ。誰かタキシード貸してくれ!」


「そんなのある訳ないだろ。というか、何に使うんだ?」


「ホロに会いに行くんだよ!!!」






「ハァ」



「アンタも大変ね」



「……同情するなら変わってくれ」



「え? 嫌よ」



「ですよねー」


――



北斗
「……凄いな」


機長
「 It waited. Welcome Mr. Kuroi 」
(お待ちしていました。ようこそ黒井様)


黒井
「 Likewise, I am sorry that I keep you waiting. Today thanking you in advance 」
(こちらこそ待たして申し訳ない。今日はよろしく頼む)


機長
「 Yes. Was the destination Las Vegas? Please enjoy comfortable air travel 」
(はい。目的地はラスベガスでしたね? 快適な空の旅をお楽しみ下さい)


黒井
「 Thank you 」


北斗
「……黒井社長も英語できるんですね」


黒井
「セレブとして当然の嗜みだ」




冬馬
「すげーーー!!」



「これよ、これ! これぞまさにアメリカって感じよね!」


冬馬
「だよな!」


翔太
「僕、今日ほど黒ちゃんに付いて行って良かったと思った日はないよ!」


黒井
「そうだろう! そうだろう!」


冬馬
「961プロ最高!」


翔太
「黒ちゃん最高!」


黒井
「フハハハハ!! 貴様ら! 今日は私の驕りだ! 思いっきり騒ぎ倒してやれ!」


冬馬
「ッシャァ! 一発ぶち当ててやるぜ! っと、その前に……。機長さーん! カジノに行く前にアニメショップ寄ってくれ!」



「荒稼ぎしてやるわ」


北斗
「楽しみだね」


翔太
「うん!」


――




――ダウンタウン。



冬馬
「くぅう~~! 待ち侘びたぜ!」


黒井
「早く行ってこい」


冬馬
「あぁ! 帰ったら祝福してくれ!」


翔太
「うん。いつもに増して気持ち悪い」


冬馬
「行ってきまーす!!」



――Hello. Can I help you? 嫁をくれ!!! What!?



翔太
「行っちゃったね。……冬馬くんが帰って来るまでどうする?」


北斗
「ただ待ってるだけって退屈だよな」




黒井
「……お前ら、少し付き合え」


翔太
「え? 黒ちゃん、どこか行くの?」


黒井
「せっかく豪遊するというのに、その服装はなんだ? 見繕ってやるからついて来い」


翔太
「えー。僕、あんまり堅苦しいのは苦手なんだけどな……」


黒井
「フン。嫌なら来なくて良い」



「ねぇ。それって私も含まれてる?」


黒井
「当たり前だ。なんでも好きなものを買え」



「じゃあ、お言葉に甘えようかしら」



「冬馬の分はどうするんですか?」


黒井
「アイツはタキシードだ。自分で言っていただろう? サイズは……、少し大きめにすれば良いか」


――



翔太
「ぉお! 見て! 街がすごいキレイ!」



「ホントね。これが百万ドルの夜景ってやつ?」



「それ香港だから」



「そうなの?」


北斗
「フッ……クック。と、冬馬。なかなか似合ってるじゃないか」


冬馬
「確かにカッコいいけどさ……。せめて普通のネクタイにしろよ」


黒井
「そろそろ到着するぞ。準備は良いか?」


冬馬
「プロデューサー。ネクタイ交換しようぜ」



「嫌だ。というか、そんなにイヤなら外せば良いだろ」


冬馬
「あ、そっか」


――



黒井
「ほれ」


冬馬
「え!? マジで!?」


翔太
「こんなにくれるの!?」



「ワォ。太っ腹じゃない黒ちゃん」


黒井
「フフン。私はセレブだからな」


北斗
「一万ドル(約100万円)って……。大丈夫なんですか?」


黒井
「心配しなくともポケットマネーだ。お前らは好きに使うと良い」


北斗
「まぁ、そういうことなら……。ありがたく使わせて頂きます」


黒井
「うむ」



「……」


黒井
「ほれ。貴様の分だ。せっかくここまできたのだ。貴様も参加するのだろう?」



「……遠慮しておきます」


黒井
「なに?」



「すみませんが、他人の金でギャンブルをする気はないので」


黒井
「私からの施しは受けないということか?」



「そういう意味じゃありませんよ」


黒井
「フン。なら貴様には一銭もやらん。後で貸してくれと泣きついても聞かないからな!」



「えぇ。分かってます」


黒井
「勝手にしろ」


――



冬馬
「お、おぉ……!」



―― Next up is No. 21! ―― BINGO! ―― Fuck! There is no more money!



北斗
「すごい活気だ」


冬馬
「見ろよ北斗! アイツまた当てたぞ!」


北斗
「おぉ! アレっていくらになるんだろ?」


冬馬
「どうでも良いんだよ! それより俺たちもあのくらいメダルを積み上げようぜ!」


北斗
「そんな上手くいくかな?」


冬馬
「弱気になってたら運まで持っていかれるぞ? 勝負だ! 勝負!」


北斗
「はいはい。冬馬は相変わらずだな」


翔太
「お姉さんはなにやるの?」



「カジノと言ったらルーレットよ。そっちは?」


翔太
「んー。どれも知らない賭けだからな~。まず最初は黒ちゃんと同じのにするよ」



「それが賢明かもしれないわね」


――



ディーラー
「……」


黒井
「フォーカードだ」


ディーラー
「 Congratulations. It is the victory of the player 」
(おめでとうございます。プレイヤーの勝利です)


翔太
「ねー黒ちゃん。コレって黒ちゃんの勝ちなの?」


黒井
「フフン。私の圧勝だ」


翔太
「ぉお! なんか一杯メダルがきた!」


黒井
「フハハハハ!! 私にかかれば十万ドル(約1000万円)など容易い――」



―― Flooooooooo!! Woooooooo!!



黒井
「……なんの騒ぎだ?」


翔太
「なんだろうね。あっちに凄い人が集まってるよ」


黒井
「フン。人がせっかく勝利の余韻に浸っているというのに」


翔太
「まあまあ。でも、あれだけ集まってるってことは凄く勝ってるってことだよね」


黒井
「む。私だって凄く勝ってるぞ」


翔太
「知ってるよ。でもさ、野次馬って人の性じゃない?」


黒井
「ツキのある者をジロジロ見るのは俗物がやることだ。止めておけ」


翔太
「行ってきまーす!」


黒井
「あ、コラ! ……私も行く!」


――



翔太
「んー! 人が多過ぎて見えないよ!」ピョンピョン


黒井
「ック。俗物め。ジャマで見えないではないか!」


翔太
「今の黒ちゃんも立派な俗物だよ。というか、なんでいるの?」


黒井
「野次馬は人の性だからだ!」


翔太
「それ、さっき僕が言ったセリフだよね?」



ザヮ……。ザワ……。



――「 Split 」



ディーラー
「……ッ」



ォオオオオオオオオ!!





黒井
「なんだ!?」


翔太
「黒ちゃん! 僕が上で実況するから肩車して!」


黒井
「なるほど! 良いアイディアだ!」


翔太
「よっと」グッ。


黒井
「見えるか? どうなってる?」


翔太
「……ブラックジャックかな?」


黒井
「そんなことは分かってる! この俗物共を寄せ集めている首謀者はどんなヤツだ?」


翔太
「あ、あはは。それなんだけど……」


黒井
「どうした?」


翔太
「……その首謀者、プロデューサーさんみたい」


黒井
「なに?」


――




「……」


ディーラー
「……ッ」



「 What's happening? The handing me the card early audience because waiting 」
(どうした? 観客が待っているから早くカードを配ってくれよ)


ディーラー
「ク……ッ」





――シュッ。





『 A 』  『 A 』  『 A 』  『 A 』





――Oh Crazy. ――Four pieces of A!? ――What's going on!?
(……イカレてる。 場にエースが4枚!?  おいおい。どうなってるんだ!?)









「 First piece first 」
(まず、一枚目)


ディーラー
「……」





『 K 』 『 A 』





―― Black Jack! ―― The following cards!?
(ブラックジャックだ! つ、次のカードはッ!?)








「 The second 」
(二枚目)


ディーラー
「……ッ」





『 10 』 『 A 』





―― Black Jack! ――Next!? ――You are disturbed! Show me to me!
(ブッ、ブラックジャック! 次は!? お前ジャマなんだよ! 俺にも見せろ!)








「 The third 」
(三枚目)


ディーラー
「 Why ――」
(なんで……)





『 Q 』 『 A 』





――Moreover, twenty-one!? ―― Do you pull it surely!?
(またブラックジャック!?  まさかッ!? 引いてくるのか!?)








「 The fourth 」
(四枚目)


ディーラー
「 Why will only the court card be pulled!? 」
(なんでこんなに絵札ばかり引いてくるんだ!?)





『 J 』 『 A 』





―― It succeeded! ―― Do we see the dream?
(や、やりやがった! お、俺たちは夢でも見てるのか?)






「……」





―― How much is it this!?
(おい! これいくらにるんだ!?)








……ン。……トン。





ディーラー
「What will sound?」
(……なんの音だ?)





――トントン。





ディーラー
「 Surely 」
(……まさか)



「……」トントン


ディーラー
「 Please say that it will be a joke 」
(冗談だろ……)



「 Do not make it to ending without permission. It is a double down 」トントン
(勝手に終わりにするな。ダブルダウンだ)








―― What!? Why does twenty-one pull the card in addition though it has been approved!?
(ハァ!? さらにヒット!? もうブラックジャックは成立してるんだぞ!?)






「 The certainty and the ace did because it was counted as one. All in Bet 」
(確か、エースは“一”とも数えられるんだったよな。オール・イン・ベット)





――「 Crazy 」
(狂ってる……)






「Among three, one piece is a queen of the heart. One piece is eight of the spades. 」
(三枚の内、一枚はハートのクイーン。一枚はスペードの八)


ディーラー
「……Card Counting? 」
(カードカウンティングだと?)



「 And, another piece 」
(そして、もう一枚は……)





――This card
(こ、このカードって……)





ディーラー
「Are you a satan or something!?」ゾクッ
(お前は、悪魔か何かなのかッ!?)








「……どうやら俺に微笑んだのは女神じゃなくて――」




















「――“道化師”だったみたいだな」




















――

ここまでにします。




「それで? 他になにか無かったですか? 例えば手紙が届いてたとか」


黒井
「……目敏いな」



「まぁ、梱包もしてないのに俺宛だと分かるくらいですからね」


黒井
「貴様の言う通り、手紙が届いていた。中身は見てないから安心しろ」スッ



「どうも」


黒井
「なんと書いてあるのだ?」



「……少し出かけます」


黒井
「は? お、おい! どこへ行くというんだ?」



「――ナンパですよ」


――




【 とあるBAR 】



カラァーン。



マスター
「いらっしゃい。ママのお使いかい、坊や?」



「ちゃんと成人してるよ。……ほら」スッ


マスター
「これは驚いたね。てっきり小学生かと思ったよ」



「……お邪魔しても?」


マスター
「ごめんね。今日は貸し切りなんだ。また日を改めて来てちょうだい」



「……ふーん」



――スタスタ。



マスター
「あ、ちょっと!」





――ドサッ。




「隣、良いかい?」



「……そういうのって、座る前に聞くんじゃない?」




「どうでも良いだろ。それとも、強引な男は嫌いか?」



「さぁね。でも、強引なだけじゃ女の子は惹かれないわ。それに――」



――ジャヵッ。



「私には怖ーいボディガードがいるから」



――



黒服の男
「良い子はもう寝る時間だ。クソガキ」



「……」



「これで分かったでしょう? 悪いことは言わないから大人しく帰った方が身のためよ?」




「……なぁ。この国では人の頭に銃を突きつけるのが流行ってるのか?」



「驚いた。眉一つ動かさないのね」




「まぁ、慣れてるからな」



「へぇ。とってもユニークよ、あなた」




「お気に召して頂いてなによりだ。……ついでに俺と“友達”になってくれると光栄なんだが」



「もちろん。……と言いたいけど、私と友達になるにはまだ足りないわ」






「どういう意味だ?」



「私、強い人にしか興味がないの」




「……」



「だから、あなたがそれを証明できるなら私の友達になるのを許可してあげるわ」




「できなかったら?」



「怖ーいボディガードが店の外まで送ってくれるでしょうね」




「へぇ。なら、簡単だ」



「あら、もしかして証明できるの?」




「あぁ。俺は“弱いヤツにしか興味がない”からな。アンタの隣にいる時点で証明されてる」



「……どうやらジョークで言ってる訳じゃないみたいね」





「さて、今度はアンタが証明する番だな。どうやって俺の強さを証明するんだ?」



「……あなた、手持ちは?」




「サイフの中身が寂しくてね。100万しかない」



「へぇ。奇遇じゃない。私も同じよ」




「……競技は?」



「ポーカー」




「乗った」



「そうこないと。マスター、ちょっとトランプ持ってきてくれない?」



――




――シャッ。シャッ。シャッ。




「ずいぶん手馴れてるな。このゲーム、よくやるのか?」



「ポーカー意外でもトランプを使ったものなら、なんでもできるわよ?」




「なるほど。手強い相手になりそうだ」



「さて、ゲームを始める前にルール説明でも始めようかしら」




「……」



「このゲームに引き分けは無いわ。同じ役でも数字が高い方が勝ち。マークはスペード・ダイヤ・ハート・クラブの順で勝敗を決めるわ」



「……」



「チェンジは二回までの一発勝負。ベットするのはチェンジが終了した後にするわ。なにか質問ある?」




「上限は?」



「ノーリミット。いきなりオール・イン・ベットなんてやり方もアリだから安心して」




「分かった」



「他に聞きたいことは?」




「いや、ない」



「そう。それじゃ――」




「あぁ、始めようか。……Ms. Lady Gaga」



――



Lady
「最初の親は私が貰うわ」



「どうぞ」



――スチャッ。



Lady
「2枚チェンジ」



「 A 」 「 K 」




「……3枚チェンジだ」



「 J 」 「 7 」 「 2 」



Lady
「1枚チェンジ」



「 10 」





Lady
「こんなものかしらね。……ベット。50」



「……」


Lady
「どう? この勝負、受ける気はある?」



「……コール」


Lady
「ありがと。でもレイズよ。さらに50」



「……それがアンタのやり方なのか?」


Lady
「なんのことかしら?」



「あんまり人をバカにするなよ。レイズだ」


Lady
「レイズ? あなた、100万しかないんじゃなかったの?」



「確かに100万だけだ。でも、……“俺の在り金が100万とは言ってないだろ?”」





――ドサッ。ドサッ。ドサッ。



Lady
「え?」



「100万ずつ束ねないと入りきらないからな。やっとトランクが軽くなったよ」


Lady
「呆れた。あなた、とんだ嘘つきね」



「嘘つきはどっちだ。わざわざ手を崩しやがって」


Lady
「あら、なんのこと?」



「まだ白を切るつもりか。なら、手札を見せてみろ。それで証明してやる」


Lady
「……」



「どうやら見せられないようだな」


Lady
「……なんで分かったの?」



「手の内を晒す勝負師がいると思うか?」


Lady
「そう。とても残念だわ。私たち友達じゃなかったのね」



「……アンタ、なかなか口が上手いな」


――



Lady
「それで、なんで分かったの?」



「……視線だよ」


Lady
「視線?」



「あぁ。アンタの視線は手札を左から一回ずつ移してた。つまり最低でもツーペア以上の役があったはずだ」


Lady
「……」



「捨て札を見ても、アンタの手はブタ。もしくは出来てワンペアだと容易に推測できる。だからムカついたんだよ」


Lady
「なるほど。ポーカーを選んだ時点で私の負けだったのね」



「違うな。俺と勝負した時点でアンタの負けだ」


Lady
「フフッ。そういう強気な言葉キライじゃないわ。でも、次は私が勝つ」



「その時は同じ言葉をアンタに言い渡してやるよ」


Lady
「えぇ。楽しみにしてるわ。……あなた、名前は?」



「……悪いけど教えられない」


Lady
「あら、どうして?」



「どうも日本人はシャイでね。俺に会いたいならココに電話してくれ」


Lady
「――961プロダクション?」



「呼んでくれたら、いつでも駆けつけるぜ?」


Lady
「ふーん」



「それじゃ、アンタからのラブコール楽しみにしてるよ」


――



Lady
「……ねぇ」


黒服
「はっ!」


Lady
「この事務所、あなた知ってる?」


黒服
「961プロダクション……。確か、破竹の勢いで名を上げている事務所だったと思います」


Lady
「そう」


黒服
「なにか気になることでも?」


Lady
「まぁね」


黒服
「……」


Lady
(日本で成功したからといって、この国で通用するほどココは甘くない。ということは、……あの坊や、とんでもないペテン師かもしれないわね)


黒服
「Lady?」


Lady
「フフッ。お望み通り、ラブコールをかけてあげるわ」


黒服
「……興味のある人物にちょっかいを出すのはあなたの悪いクセだ」


Lady
「悪い? でも、それが私よ」


黒服
「ハァ」


Lady
「さて、今度はどう楽しませてくれるのかしら?」


――

ここまでにします。




【 フロリダ州・マイアミ (楽屋) 】



――コンコン。



黒井
「入れ」



――ガチャッ。




「失礼します」



「ごめん、ちょっと遅れちゃった」


黒井
「遅い。まったく、こんな大舞台に緊張感のないヤツらだ」



「あははっ。どうも疲れが取れなくて」


黒井
「言い訳など見苦しいぞ。……それよりも小僧、準備は良いのか?」



「えぇ。既に終わらせてきました。そちらも終わってるみたいですね」


黒井
「貴様のようにバタバタとするのは性に合わないからな。事前に済ませてある」



「あはは。痛いところを突かないで下さいよ」


黒井
「フン。そろそろ前座共の消化試合が終わる。我々も出るとしよう」



「満足な見送りもできず、すみません」


黒井
「気にするな。……だが、我々が帰ってくるまでには臨戦態勢を整えておけ。良いな?」



「分かってます」



黒井
「冬馬、行くぞ」


冬馬
「おうッ!」



「アホ毛。私のステージ、ちゃんと暖めておくのよ?」


冬馬
「むしろ俺の後に冷ますなよ?」



「言ってくれるじゃない。でも、それだけ言えるなら大丈夫そうね」


冬馬
「姉御はそこでどっかりと座ってな。すぐにバトンタッチしてやるからよ」



「楽しみにしてるわ」


冬馬
「……それからプロデューサー」



「あぁ。ぶっ潰してこい。お前ならできるだろ?」


冬馬
「当たり前だ! ド肝を抜かしてやるぜ!!」


――




 パチパチパチパチ!!



Avril
『みんな久しぶりー。元気にしてた?』



 WHOOPEEEEEEEEEEE!!




Avril
『うんうん。元気そうでなによりだわ。今夜はカーニバルよ。歌って騒いで心ゆくまで楽しんじゃってね!』



 WOOOOOOOOOOOO!!



Avril
『それじゃいくわよ! 最初は私のデビュー曲――っと、そうだった。曲をかける前に紹介しなきゃいけない子がいたわね』



 ?



Avril
『私の対戦相手よ。すっかり忘れてたわ。……小さな島国からのチャレンジャー! えっと、……トゥーマ? タゥマ? アマガセよ!』



 パチパチパチ。



冬馬
『間違いだらけの紹介ありがと。それと、俺の名前はトゥーマでもタゥマじゃねぇ! トウマだ!』


Avril
『そうなの? 日本語って難しいわね』


冬馬
『……まぁ、良い。せっかく紹介されたんだ。少し時間を貰うぜ?』


Avril
『えぇ。でも、手短にね』





 ……。



冬馬
『紹介に預かった天ヶ瀬冬馬だ。たぶん、ほとんどここにいるヤツらは始めましてだと思う』



 ……。



冬馬
『俺は持てる力を出し切ってこのライブに挑むつもりだ。もし気に入ってくれたら応援してくれ』



パチパチパチ。



Avril
「あら、もう終わり?」


冬馬
「あぁ、終わりだ。……先行はどっちにする?」


Avril
「もちろん私よ。なんでも一番じゃなきゃ気に入らないの」


冬馬
「気が合うな。でも、今は譲ってやるよ」


――




 HEY! HEY! YOU! YOU!



『 I know that you like me! 』



 NO WAY! NO WAY!



『 you know it's not a secret! 』



 HEY! HEY! YOU! YOU!



『 I want to be your girlfriend! 』






冬馬
「へぇ。これがAランクの実力か」


黒井
「不安か?」


冬馬
「いや、むしろ安心したよ。これくらいやってくれないと張り合いがないからな」


黒井
「ほぅ。良いコンディションだ」


冬馬
「……オッサン、勝ってくるよ」


黒井
「お前は我が961プロが誇る最強のアイドルだ。胸を張って戻ってこい」


――



Avril
『 NO WAY! NO WAY! HEY! HEY! 』



 HOOOOOOOOOO!! WOOOOOOOOOO!!



Avril
「まぁまぁね。……次はあなたの番よ?」


冬馬
「ご苦労さん。俺が完勝するところ、そこで指を咥えて見てな」


Avril
「あはは。お手並み拝見とさせてもらうわ」



パチパチパチパチ。



冬馬
『……』



 ♪♬~♫♭♬~♪~♬



ダンッ! ダ! ダッ! ダンッ!   



Avril
(へぇ、足でリズムを刻むなんて珍しいわね。それも、こっちまで振動が伝わるくらいに激しく……)



ダンッ! ダ! ダンッ! ダンッ! ダンッ!



Avril
(日本人だからって舐めてたけど、このスタイル。……まるでロックスターね)



ダンッ! ダッ! ダンッ! ダンッ!  ダンッ! ダッ! ダァアン!!



Avril
(クスッ。おもしろい。どこまで戦えるのか見させてもらおうじゃない)



――




『 声の、届かない迷路を越えて。手を伸ばせたら 』


『 罪と、罰を全て受け入れて 』


『 今、君に裁かれようッ! 』





♬♪♬♫~♭♬♪






冬馬
(――ッ。さすがにロックアレンジとなるとキツイか。……だけどな!)




――タンッ!




Avril
「ワォ! バック・ハンド・スプリングから次のダンスに繋げた!?」





冬馬
「これが、……俺の力だッ!!」





 WOOOOOOOO!!! IT'S COOL!!





――



冬馬
『 今、君の。……裁き、で! 』





 YEEEEEEAAAAAAHHHHHH!!!!





冬馬
「……ッ」ハァ。ハァ



パチパチパチパチ。



Avril
「素晴らしいステージだったわ」


冬馬
「……俺の、勝、ちだ」ハァ。ハァ


Avril
「確かに私の負けよ。……グルーヴィーだったわ、あなた」


冬馬
「言、っただろ。俺が、……勝つ、って」ッハァ


Avril
「……大丈夫なの?」


冬馬
「少し、疲れ、た、だけだ。す、ぐに治る」


Avril
「そう」


冬馬
「……」フゥ




Avril
「ミスター・アマガセ」


冬馬
「?」


Avril
「次も、私と戦ってくれる?」


冬馬
「あぁ、いつでも来い。でも、次はちゃんと名前を覚えてくれよ?」


Avril
「えぇ。約束するわ」


冬馬
「ありがと。……俺はもう行くぜ。真打ちが控えてるんでな」


Avril
「おつかれ様。次に戦える日を楽しみにしてるわ。……Mr.冬馬」


――



冬馬
「……」


黒井
「ご苦労だったな」


冬馬
「……約束通り、勝ってきたぜ」


黒井
「当然の結果だ。自惚れるな」


冬馬
「そうかよ」


黒井
「……まぁ、それでも良くやったと言っておこう」


冬馬
「どういう風の吹き回しだ? オッサンらしくねぇぞ」


黒井
「ただの感想だ。聞き流せ」


冬馬
「あっそ。でも、どうせならコッチの方が嬉しいね」スッ


黒井
「フン、良いだろう。こんな青臭いこと私には似合わないが、……特別だ」スッ



――パァン。



黒井
「最高のステージだったぞ」


冬馬
「ヘヘッ。当然だろ?」





 ――ッ。ヵッ。



冬馬
「ぁ……」


黒井
「どうした?」


冬馬
「いや、もう一人伝えなきゃならねぇヤツがいるの忘れてたよ」


黒井
「?」



 ヵッン。カッン。



冬馬
「……」



 カッン。カッン。カッン。



冬馬
「……ちゃんと暖めておいたぜ、――姉御」



 カッン。カッ。ヵッ……。






「……焚き付けられたわ、アンタのステージ」


冬馬
「次は、そっちの番だな」



「ふふっ。アンタがここまで暴れてくれたんだもの。私も負けてられないわね」


冬馬
「まったく、……頼りになる大将だよ、アンタ」




 カツン。カッン。ヵッン……。





「――“冬馬”」


冬馬
「?」



「あなた、とっても格好良かったわよ」


冬馬
「……あ、……あははっ。まさか姉御に褒められるなんて思わなかったぜ」



「誰かを褒めるなんて無いんだから、素直に受け取っておきなさい」


冬馬
「あぁ、受け取ってやるよ。その代わり――」



「えぇ。勝ってくるわ」


冬馬
「期待して待ってる」


――



司会者
『こんな結果を誰が予想した!? あのAvrilを制し、まさかの番狂わせを起こしたのは、……トウマ・アマガセだァ!』



 Hoooooooooo!!!



司会者
『恐るべしジャパニーズ・アイドル! このまま二度も奇跡は起きてしまうのか!?』



 NO WAY!!



司会者
『ハッハー! 確かにありえない。奇跡は一度っきりだから奇跡だ! それを我らのエース様が証明させてくれるぜッ!』



 WoooooW!!



司会者
『さぁ、フィナーレの時間だ! 満を持して登場してもらおう! 遅れてきた英雄! レディ・ガガァーーーーーッ!!!!!!』



Lady
『 ヤー! みんなお待たせ! 』



 FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!



――




 GAGA!! GAGA!! GAGA!! GAGA!! GAGA!!




「……さすがSランクアイドル。登場だけでこの歓声か」


黒井
「完全にアウェーだな」



「そうですね。……でも、これこそ俺が求めていたものです」


黒井
「?」



「逆境を楽しんでこそ一流。……でしょう?」


黒井
「フン。利いた風な口をきくじゃないか」



「ははっ。ですが、このアウェーを歓声にひっくり返したら面白いと思いませんか?」


黒井
「確かに面白いだろうな。だが、相手は伝説とまでに謳われた英雄だぞ?」



「なに言ってるんですか。伝説なんて所詮、“死んでから付けられる称号”ですよ? 俺たちの相手はゾンビじゃありません」


黒井
「……」



「それに、俺がどうやって自分のアイドルを伸し上がらせてきたか、黒井社長なら知っているでしょう?」


黒井
「クックック。そうだったな。……小僧、お手並み拝見させてもらうぞ」



「えぇ。とびっきりのジャイアント・キリング、見せてあげますよ」


――




 GAGA!! GAGA!! GAGA!! GAGA!! GAGA!!



Lady
『はいはい。そこまでにしておきなさい。この後も一緒に歌うのに、声が枯れても知らないわよ?』



 GAGA!! GAGA! GAGA GA ……。



Lady
『良い子ね。それじゃ、さっそくだけど私の相手を紹介しようかしら」



 ……。



Lady
『日本からのチャレンジャー。マイ・ヒダカよ!』

 


 パチパチパチパチパチ!








『紹介してくれてありがとう、Ms.Lady。もう少しでアナタのマイクを奪うところだったわ』


Lady
『おー怖い。さすがあの坊やが担当するだけあるわ』



 ……?


Lady
『あぁ、そういえばみんなは知らなかったわね。実は彼女、私の友達が担当してるアイドルなの』



 Hu-m。



Lady
『きっと強いわよ。なにせ私が勝てなかった相手のアイドルだもの。もしかしたら彼女にも負けちゃうかも』



 HAHAHAHAHAHA!!




『……』



Lady
『さて、ちょっとお喋りが長かったわね。そろそろライブを再開させるわ』



 ――!!



Lady
『最初からフルスロットルよ! 全員、私についてきなさい!!』




        OH YEAH!! 

 GAGA!! GAGA!! GAGA!! GAGA!!




――




Lady
『 I was born this way hey! 』


 BORN THIS WAY HEY!


Lady
『 Hey! I was born this way hey! 』



 I’M ON THE RIGHT TRACK BABY



Lady
『 ―― Right track baby 』



 BORN THIS WAY HEY!



Lady
『 I was born this way hey! 』






  YEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA


 ―― WOOOOOOOO!!! ―― HOOOOOOOOO!!! ―― FOOOOOOOOO!!!

      
 AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!!






――




    YEEEEEEEEEEEEAAAAAAAAAAAAHHHHHHHH!!!!!




「……まるで地響きね」ビリビリ


Lady
「どう? これが私の力よ」



「えぇ。見させてもらったわ」


Lady
「次はあなたの番よ。この歓声をひっくり返せるかしら?」



「さぁ、どうかしら」


Lady
「あら、意外に弱気なのね」



「アウェーには慣れてないのよ。それに、この空気をひっくり返すのは私じゃないわ」


Lady
「まさか、あの坊やが参加するって言うの?」



「半分正解。気に入らないけど、今日の主役はアイツよ」


Lady
「へぇ、それは楽しみね」



「まぁ、そこで見てなさい。……みんなまとめて魔法をかけてあげるわ」


――




 パチパチパチパチ。



―― ♫♭♬~♪♬





『 ひとつの命が生まれてくる 』


『 二人は両手を握りしめて喜びあって幸せかみしめ 』


『 母なる大地に感謝をする 』





Lady
「……」





『 やがて育まれて命は 』


『 ゆっくり一人で立ち上がって歩き始める 』


『 両手を広げて まだ見ぬ煌き探す 』





Lady
「……魔法をかける。なんて仰々しいこと言ってた割りに、この程度なのね」


黒服
「まるでビデオか何かでも見てるようだ。覇気もなにも感じられない」


Lady
「えぇ。正直、期待してただけに残念だわ」


――




(ふふっ。やっぱり幻滅してるわね)




『 しかし闇は待ち受けていた 』





(でも、手の内を隠すのはここまで)




『 幸せ全てのみこまれ 』





(さぁ、始めましょうか。私たちの世界へ……)




『 希望失って悲しみにくれるなか 』





「 IT'S ――」




『 空から注ぐ光 暖かく差しのべる 』







―― SHOWTIME!!







――





『 Trust yourself どんな時も命あることを忘れないで 』




黒服
「なッ!?」


Lady
「あ、……あはははっ!!」





『 Find your way 自分の進む道は必ずどこかにあるの 』





Lady
「……やってくれたわね、あの坊や」


黒服
「なんだこれは!? ダンスも! ヴォーカルも! まるで別人だッ!! こ、これじゃ、まるで――」


Lady
「えぇ、確かに魔法ね。まさか“現実を捻じ曲げる”なんて思ってもみなかったわ」





『 未来の可能性を信じて諦めないで 』





Lady
「王座交代、ね」


黒服
「ですがLady」


Lady
「私の負けよ。それは変わらないわ」





『 あなたはこの地球(ほし)が選んだ 大切な子供だから……。 』





 ―― Beautiful. ――まるで、泡沫の夢でも見てるようだ……。 




Lady
「……そう。……魅せられた時点で私の負けなのよ」



――




『 Hope your brightness 大丈夫 全ては光へ続いている 』



『 Keep your dreams どんな想いも信じていれば いつかは届く 』



『 見守っててね 素敵な私が飛び立つまで 』





――っ。…っぐす。 ――ぇぐッ。 ――ひっぐ。





『 この地球に標はないけど 素晴らしい世界がある……。 』





           ……パチ。……パチ。

  パチパチパチパチパチ!!    パチパチパチパチパチ!!
         
       パチパチパチ!! パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!

  パチパチパチパチパチパチ!!! パチパチパチ!!!

      パチパチパチパチパチパチ!! パチパチパチチパチパチ!!

             パチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!!







黒服
「スタンディング・オベーション……」


Lady
「……」パチパチパチ


黒服
「Lady、あなたまで」


Lady
「彼女のパフォーマンスはココにいるみんなが認めているわ。なら、私もそれに従うまでよ」


黒服
「……」


Lady
「素直に歓迎したら? あなたも魅せられたんじゃないの?」


黒服
「まったく……。あなたには敵いませんね」



――パチパチパチパチパチ!!






Lady
「さぁ、新しいチャンピオンの誕生よ!」






――





              ……パチ。……パチ。





「――ふふっ」






  パチパチパチパチパチ!!    パチパチパチパチパチ!!
         
        パチパチパチ!! パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!

  パチパチパチパチパチパチ!!! パチパチパチ!!!

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!

      パチパチパチパチパチパチ!! パチパチパチチパチパチ!!

             パチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!







「これだからアイドルって止められないのよね」






――「……おめでとう。良いステージだったよ」




「あら、アンタからそんな感想が聞けるとは思わなかったわ。どういう心境の変化?」



「別に。ただの気まぐれだよ」



「ふーん。まぁ、良いけど。……あっ、アンタあの約束、忘れてないでしょうね?」



「約束?」



「勝ったら私が最強だって認めることよ」



「あー。そういえば、そんなことも言ったな」



「それで? どうなのよ」



「……良いよ。認めてやる。日高舞こそ最強のアイドルだ」



「なんか含みのある言い方ね」



「まぁ、ギリギリの及第点だからな」



「ちぇ。いつか必ず認めさせてやる」



「はいはい。……そろそろ帰るか」



「そうね。アンコールに答えられないのは残念だけど、コッチも限界だもの」


――

夕方頃にまた来ます




 コンコン。



黒井
「入れ」



 ガチャッ。




「失礼します」



「ただいまー」


黒井
「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」



「お待たせしてすみません。アンコールを断るのに時間が掛かってしまいました」


黒井
「どうせ勝利の余韻にでも浸っていたのだろう」



「まぁね♪」


黒井
「フン。さっさと帰るぞ」



「えぇ。少し待っていて下さい。車を取ってきます」


黒井
「いや、帰りは私が運転しよう」



「あら、黒ちゃんが運転してくれるなんて珍しいわね」


黒井
「ただの気まぐれだ。ついでに貴様らの荷物も運んでおいてやろう」



「おっ、気が利くじゃない。ホントにどうしちゃったの?」


黒井
「そういう日もある。……小僧、お前は私が車を取ってくるまでに冬馬を担いでこい」



「えぇ。わかりました」


――



冬馬
「すぅ……」



「……クゥ。……クゥ」


黒井
「フン。こちらの気も知らず、のん気に寝てるな」



「まぁ、あれだけのパフォーマンスを披露したんです。疲れがピークにきてるんでしょう」


黒井
「……貴様は寝ないのか?」



「コイツらを運び終えた後に、たっぷり寝かせてもらいます」


黒井
「そうか」



「……」




黒井
「――小僧」



「なんですか?」


黒井
「貴様は……、この先が見えているのか?」



「?」


黒井
「貴様は、日高舞をアイドルに戻す手段としてこの地を選んだ。……なら、その目的が達成された今、貴様にはこの先が見えているのか?」



「さぁ、どうでしょうね」


黒井
「……このままアメリカで暮らしていくなどと言わないだろうな」



「まさか。あくまで日本で活動させるのが目的ですよ? 心配しなくてもちゃんと帰ります」


黒井
「……」



「それに、あなたへのお礼もまだしてませんからね」


黒井
「フン。小物め、まだ根に持っていたのか」



「やられたら、やり返す。それが俺の流儀ですよ」


黒井
「ほう。私にどんな喜劇を届けてくれるというのだ?」



「今それを言ったら面白みが無くなるじゃないですか。せっかくのサプライズなんだから、大人しく待っていて下さい」


黒井
「クックック。確かにな。それでは貴様の言う通り、その時まで待つとするか。……貴様も私に掴まれるようなマネはするなよ?」



「善処しましょう」


黒井
「そうか。なら、期待するとしよう」



「ふふっ。きっと気に入りますよ」


――



冬馬
「ふぁ~ぁ。おはよう」


黒井
「フン。相変わらず目覚めが悪いな。顔を洗ったら、さっさと支度をしろ」


冬馬
「ん? どっか出かけるのか?」


黒井
「日本へ帰る」


冬馬
「はぁ!? もう!?」


黒井
「既にこの地に用はない。少し長めの旅行だったが、そろそろ帰国するべきだろう」


冬馬
「マジかよ。せっかくトップアイドルの仲間入りしたのに……」


黒井
「心残りがあるのなら、お前だけ残るか?」


冬馬
「そういう訳じゃねぇけど……」


黒井
「なら、早くしろ。全員、お前待ちだ」


冬馬
「俺待ち? 他のヤツらはもう終わってるのか!?」


翔太
「うん。冬馬くんが寝てる間にね」


冬馬
「なんで起こしてくれないんだよ!」


黒井
「定時になっても起きないお前が悪い」



「早くしてよ。飛行機の時間に間に合わなかったらアンタの所為だからね」


冬馬
「ぐぅっ! ちょ、ちょっと待っててくれ! すぐに支度するから!」ダッ


北斗
「一人じゃ大変だろ? 俺も手伝ってあげるよ」



「ハァ……。俺も手伝ってやるか」


――




――日本行きをご利用のお客様は169便までお急ぎください。




「遅いな……」



「私たちのすぐ後ろだったのに、なんでこんなに遅いのかしら?」



「なんかデジャヴがしてきた……」



――やばい。時間ギリギリだよ! 急げバカ者! 急いでるっての! 




「やっと来たか」





翔太
「ご、ごめんなさい!」


冬馬
「……」


北斗
「お待たせしました!」



「また時間ギリギリじゃない。今度はどうしたの?」


北斗
「やっぱり冬馬だけ荷物検査に引っかかりまして……」



「ハァ……」


冬馬
「アイツらは何も分かってない」


翔太
「なんで引っかかるのが分かってるのに持ってくるんだよ! このバカ!」


北斗
「というか、俺たちが手伝ってたのにどうやって持ってきたんだ?」


冬馬
「俺はとんでもないものを盗んでいきました。……自分の嫁です」


黒井
「やかましいわ!」


――




――ドサッ。




「ふぅ。ギリギリセーフ」


翔太
「疲れたー」


冬馬
「おっ。ここのテレビ、アニメも見れるのか」


北斗
「ちゃんと反省しろよ冬馬。……あっ、お姉さん。グレープジュースとあなたのアドレス一つ」


黒井
「お前もナンパなんかしてないで大人しくしていろ。後で持たないぞ」


翔太
「そうなの、プロデューサーさん?」ヒョコッ



「まぁ、日本まで13時間もあるからな」


翔太
「へぇ。ってことは、向こうに着く頃には夜なんだ」



「時差ボケ対策にちゃんと寝ておけよ?」


翔太
「んー。上手く寝られるかなぁ……」



「じゃあ、その時は子守唄でも歌ってあげようか?」


翔太
「良いの?」



「えぇ。もちろん」


――




「Trust yourself どんな時も――」


翔太
「クゥ……。ゥ……」



「あらあら」



――スゥ……。スゥ……。




「周りもみんな寝ちゃってるわね」


翔太
「クゥ……。クゥ……」



「ふふっ」ナデナデ


翔太
「ン……」



「そういえば愛が小さかった頃、こうやって寝かせてたっけ」



……。




「――愛、今なにしてるのかしら」



……。




「早く会いたいなぁ……」


――




――ぃ……さん。……きろ。




「ン……」



――おき……。もう……だ。




「うるさいわねぇ……。なによ……」



『 起きろ! もう日本だぞ! 』




「――え?」



「ハァ。やっと起きたか」



「あれ、私……。あぁ、そっか。いつの間にか寝ちゃったのね」



「時間ギリギリだったから起こさせてもらったけど、ちょっと乱暴だったかもな。ごめん」



「え? あー、うん。気にしなくて良いわ」



「そっか。……いきなりで悪いけど、目が覚めたなら早く降りてくれないか? さっきも言った通り、時間ギリギリなんだ」



「そうなんだ。えーと、私の荷物は……」



「俺が持っていくよ」



「そう。……ありがと」


――



北斗
「あっ、やっと来た。遅いですよ!」



「ごめんごめん。ちょっと寝ぼけてたわ。アンタもありがとね。荷物、預かるわ」



「ふー。危うく肩が外れるかと思ったよ」



「大げさね。そんな重くないでしょ」


北斗
「……何はともあれ」


黒井
「これで全員集合だな」


翔太
「あ、もう日本……?」


冬馬
「なぁ……。早く帰ろうぜ?」




黒井
「お前ら、こういう時くらいシャキっとできないのか?」


翔太
「そんなこと言われても……」


北斗
「俺たち、いつもこんな感じですよ?」


黒井
「まぁ良い。既に迎えの車を用意してある。すぐに移動するぞ」


冬馬
「くゎ~ぁ。……眠ぃ」


黒井
「ハァ。時差ボケで遅刻されても困るから明日はオフにしておこう。ありがたく思え」


北斗
「着いて早々すみません黒井社長」


黒井
「フン。私からは以上だ。……それでは行くか」



「えぇ。私たちの帰る場所へ」


北斗
「それと……」



「俺たちが歩む」












『――次のステージへ』












――

これにて真美「新しく来た兄ちゃんが961んだけど」を終了されて頂きます。


次スレは、愛『あなたへのプレゼント』真美 というようなタイトルにするつもりですが、それは書き溜めができた頃に立てたいと思います。

はい。次で完結にするつもりです

誘導もして貰えるのかな?

>>847さん。誘導ってどうやるんですか?

なるほど。でも、書き溜めがないので立てられないです……

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom