・魔王勇者系SSです
・遅筆のため不定期投下となります
・一般的な魔王勇者系SSと同じような程度で、グロ描写が多かれ少なかれ戦闘等の内に含まれます
・地の文はありません
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1339322091(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
側近「困るなぁ……人間なんて捧げられても。どうしますか、魔王様」
魔王「どうしますかって訊かれても」
側近「私たちが人間を食べるとでも思ったのでしょうか」
魔王「人間を食べるのはせいぜい動物に近い魔物くらいだな」
側近「どうせなら食べ物がよかったですよね」
魔王「こらこら、この子に失礼だろう」
側近「まさか取って食うわけにもいきませんし」
魔王「なぜそこまで食べることに執着するのだ」
側近「それはそうとして。この子、どうしましょうか?」
魔王「うむ、どうしたものか」
――
――――
魔王『ふう、魔王城転送完了、と』
側近『人間兵たちはさぞ戸惑っている事でしょうね』
魔王『うむ。目の前からさっぱり魔王城が消え去ってしまったのだからな。はっは』
側近『それで、これからどうしましょう?』
魔王『既にこの一帯の調査は軽く済ませておる。この晩からすぐに近隣の人間たちとの友好を図り、最終的には村々をわが版図に加える予定だ』
側近『承知いたしました。下々に伝えておきます』
魔王『あ、今日はご苦労だったって付け加えといてね』
側近『は』
魔王『お前は明日に備えて今日は充分に休息を取れ。以上だ。おやすみ』
側近『お休みなさいませ。では、失礼いたします』
(翌朝)
側近『失礼いたします。魔王様、少々、悪い出来事が起こりました』
魔王『どうした。饅頭でものどにつかえさせたのか』
側近『この近辺の村々が結託して、』
魔王『襲ってきたのか』
側近『生贄の少女を捧げてきたようです』
魔王『……えー?』ガクッ
側近『村人はすっかり怯えきっているようすで、命だけはぁぁ、とか、どうかお助けくださいぃ、とかいったような言葉を叫ぶばかりで』
魔王『いやいやいや』
側近『コミュニケーションの取れる状態ではないと』
魔王『待て待て待て。昨夜は人間と友好を図りやすそうな者を派遣したはずだろう』
側近『魔王様、失礼ですが、それがいちばんの原因かと』
魔王『なぜだ』
側近『普通の人間なら、彼女たち……デュラハンを見た時点で、よほど度胸のある者でないと平常心を保っていられないようですから』
魔王『……えー。嘘だー、あんなに可愛いのに』
側近『人間たちの間では死を運ぶ妖精として有名なようですから、仕方のないことかと』
魔王『困ったな。フム……ならば誰を派遣すればよいのか……ブツブツ』
側近『それから生贄の少女ですが、まもなくこちらへ運ばれて来ます』
魔王『いったい誰なら友好を図れるというのだ……ハルピュイアか……それともセイレーンか……』ブツブツ
側近(……生贄を決めるのが早すぎるような。普通、この手の事態の解決法はさんざんコミュニティ内で揉めてからが一般的……。
生贄となればなおさら、あらかじめ生贄が決められていたか、もしくはいわくつきの人間としか思えません。いちおう警戒しておきましょう)
――――
――
生贄に差し出された少女「……。」
魔王「……仕方あるまい、一時的に保護するしかないだろう。ほとぼりが冷めたころに、こっそり帰してくればよい」
側近「面倒を見るのは、誰にいたしましょう?」
魔王「ふむ。無駄に怯えられて扱いにくくする必要はない。ここは人間型の者でかつ家庭的な者を命ずるのがよいな。つまり」
側近「つまり?」
魔王「候補としては、んー……お前か、白魔術士だな」
側近「……家庭的に見えますか?」
魔王「まあ、わりと」
側近(えー)
魔王「あ、でも、白魔のほうが家庭的だろうから、彼女のほうに任せるつもりではあるかな」
側近(ホッ)
魔王「それから、殺しちゃダメだぞ。友好を図ろうというのにそれじゃあ仕方ない」
側近「はい。部下たちにはよく伝えておきます」
コンコン
??「失礼します」
魔王「どうぞー」
ガチャッ バタン
??「ただいまー。はいこれ魔王様用のまんじゅう。……あれっ、側近、その子なあに?」
白魔術士「生贄っ?」タタタッ ピトッ
少女「! (ほっぺた……)」ビクッ
白魔「こんなに小さい子が」
魔王「幼いからだろう。生贄は一般的に、若ければ若い方がいいと思われているようだからな」
側近「そうでもしなければ、私たちが暴虐の限りを尽くすとでも思ったのでしょうね。そんなつもりは毛頭ないのに」ハァー
白魔「生贄にされちゃったのか。そっかそっか……つらいね……」ギュ ナデナデ
少女「……」
白魔「私が面倒見てあげたいけど……でも……」
魔王「ゴホン、あー、白魔よ」
白魔「はい、魔王様?」
魔王「饅頭ありがとうな。それから……しばらく、その子供の面倒を見てやれ」
少女「!」
白魔「はい、喜んでっ」パァァァ
魔王「今しがた側近とそう話していてな。困った事があったら遠慮なく申せよー」
白魔「はーい」
少女「……」
白魔「これからよろしくね! ……えーっと、」
少女「……ぁ、」
白魔「?」ニッコリ
少女「……少女」
白魔「少女。少女ちゃんね? わかった。ここじゃあなんだし、とりあえず私の部屋に行こっ、ね?」
少女「」…コク
白魔「それじゃ、魔王様、これで失礼しますっ」ギュ タタタッ
魔王「ん。ご苦労ー」
白魔「いえいえー」ヒュッ
側近「あ、窓から飛んでった」
魔王「飛んだな」
側近「抱きかかえていましたが、少女は平気なんでしょうか」
魔王「今頃顔面蒼白だろうな。普通の人間だし」
側近「顔面蒼白でしょうね。高速でいきなり空中に舞ったら」
魔王「心配だな」
側近「心配ですね」
魔王「だが、(飛んでいったことは抜きにして)これで少女の件は安心だろう。それよりも、側近よ」
側近「はい。やはり魔王様もお気づきですね」
魔王「新勇者の誕生……」
側近「……」
魔王「……嫌な予感がする。影を呼べ。先に手を打たなければな」
側近「承知いたしました」
(そのころ)
少女「……」ガクガク
白魔「あわわ……顔が真っ青だ……どうしよ」アタフタ
白魔「私、なにか怖がらせるようなことしたかな……」
白魔「……え? 空を飛んだのが怖かったの?」
白魔「あーそっか……ふつーの人間だもんね、ごめん」
白魔「……今度からテレポートを使うしかないかな? 階段は長いんだよなー」
白魔「え? 今のでいい? ちょっと楽しかったって?」
白魔「私はいいけど、……本当に大丈夫なのかな。ま、いっか」
――とある村・夜
村長「では! 新勇者様誕生を祝して! 乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
ザワザワ シンユウシャサマバンザーイ
勇者「ははは……みんなありがとう」
ガヤガヤガヤガヤ ユウシャサマーコッチムイテー
勇者「あんまり目立つのは好きじゃないんだけど、困ったな」
村長「まあ、たまにはいいじゃないですか」
勇者「あ、村長さん」ペコリ
村長「いやあ、この辺境の小さな村から勇者が誕生しようとは」
勇者「ありがとうございます、村長さん」
村長「こちらこそ、光栄ですよ、はっはっはっは」
勇者「いえいえ」
村長「ところで、勇者様。この祝宴の後はどうなさるつもりですかな?」
勇者「そうですね……まずは王都に向かいます」
勇者「王に勇者となったことを報告した後、付近の魔王の手下を潰していくつもりですよ」
村長「おお……それはそれは。気のきいたことが言えなくて申し訳ないけれども、頑張ってください」
勇者「ありがとうございます、はは」
村長「ところで御仲間はどうされる御つもりですか? やはり僧侶さんを?」
勇者「もちろん、幼なじみですし、連れて行きますよ。残りは王都滞在中に見つけようと思います。あれほどの街ならば、きっと手練の者が集まっているはずですから」
村長「なるほど。……勇者様たちの旅に祝福があらんことを」
勇者「村長も、お体にお気をつけて」
村長「そうだ、餞別といってはなんですが。おーい、村人A!」
村人A「ハーイ! これですね?」ヨイショッ ガチャン!
村長「ありがとう、もういいぞ、村人A。……勇者様、これを」
勇者は鋼のつるぎを手に入れた。
勇者は鋼のメイスを手に入れた。
勇者は鋼のプレートメイルを手に入れた。
勇者は魔法のローブを手に入れた。
勇者は回復薬x5を手に入れた。
勇者「! 村長さん、これは……」
村長「丁度よく旅の商人が通りがかって。二人分の装備を見繕ってもらいましたよ」
勇者「……ありがとう!」
村長「いやいや、これくらいのことはさせて頂かないと、村長の面目丸つぶれですからな。はっはっはっは!」
勇者「いえ、村長さんはもう充分立派ですよ」
村長「そんなことはありませんよ、はっは。……おや、噂をすればなんとやら。向こうから駆けてくるのは僧侶さんですかな?」
僧侶「勇者~っ、はやくこっちにおいでよ~」
勇者「もう、僧侶は。……村長さん、アイテム、本当にありがとうございました。ちょっと今日は、これで失礼します」
村長「うむ、可愛い娘を待たせちゃあいかんからな、はっはっは。では勇者様、また明日……」
勇者「ええ、また明日」
今日はここまでです。
追記:
地の文はないと注意書きをしましたが、アナウンス等はあります。
説明不足で申し訳ありません。
――魔王城・玉座
村長「――翌朝早く、勇者らは出発し、その回答通り王都へ向かいました。報告は以上です」
魔王「うむ、ご苦労。約束どおりちょっとボーナスをあげよう」
村長「やった」ガッツポーズ
魔王「ほれ、漆黒まんじゅうと冷凍高級暗黒毛魔牛まるごと一頭だ」
村長「ありがとうございます、魔王様」ペコリ
魔王「こらこら、ハゲが反射して眩しいだろう。いいかげん変装を解いたらどうだ」
村長「あっ、すみません。……よっ……こら、しょっと」ヌギヌギ
村長だったもの「ほいさ、……えいっ」シュルルルル…ポン!
魔王「……いつ見ても素晴らしい技術だ」
村長あらため影「もったいないお言葉です」
魔王「本心だよ本心。ところで、勇者の能力だが」
影「ええ。彼の友人に化けて一度手合わせをしましたが、おそらく剣術だけでも魔王様の見立て通り歴代最強でしょう」
側近「魔王様。やはり」
魔王「うむ。今度ばかりは気が抜けないということだ」
影「すでに凡庸な冒険者程度ならば軽くいなすほどの実力はあるようです」
魔王「そうか、ありがとう。今日は帰っていいぞ、ゆっくり休め」
影「では。失礼いたします」シュッ
魔王「おーい、ボーナスを……ってあれ? ちゃんと持ち帰ってたか。手の早い奴だ」
側近「歴代最強、ですか」ハァ
魔王「側近。早速だけど、軽く小手調べに幹部クラスの魔物を王都付近の洞窟に派遣しろ」
側近「承知いたしました。どれほど送りましょうか?」
魔王「適当に十人くらいでいいかな。これで倒されたら、今度の勇者は間違いなく本物だ」
側近「ええ――ひとつ対応を間違えれば、何十年ぶりかに大戦になりそうです」
*注釈:幹部の魔物は雑魚をまとめる隊長クラスの魔物を(手下の雑魚含め)総括しています
魔王「勇者という人種はなにがなんでも魔王を倒そうとするものだからな……こちらの意図を上手く伝えられればいいのだが」
側近「過去に、暴走した勇者が魔王城付近一帯を焦土にしたこともありましたしね」
魔王「それを魔王がやったみたいに言われるから友好が上手くいかないんだよなあ。あんなことしでかしといてなにを今更、ってさ」
側近「まったくですよ。今度の勇者は頭がやわらかいといいんですが」ハァ
魔王「そうだな。ところで、例の少女の様子はどうだ?」
側近「それが……」
魔王「――帰りたくないだって?」
白魔「はい。昨日のことなんですが……」
少女『……あのね』
白魔『なになに? ばけものっていわれて、いろんな村の人にずっといじめられてた? 可哀相に……こんな年端もいかない子を』ギュッ
少女『……』
白魔『でも……どうして?』
少女『……わたし、角がはえてるの。この、むすんだところのなかにかくしてるけど』
白魔『角……』
少女『鬼の子供だっていわれて、石とかなげられた。村のどこにいっても、だれもちかよってこないし』
白魔『角があるだけで……?』
少女『寝るところの穴も、何回も燃やされたし』
白魔『ちょっと、角見せて』
少女『……いいよ』クイッ ファサァ
白魔(これは、鬼の角……。だけど、魔力は感じない)
少女(あ、お胸があたる……)ポスッ
白魔(たぶん、この子の先祖にオーガかなにかがいたんだ)
白魔(それはきっと、人間と魔物の区分がなかった時代)
白魔(長い年月に魔物の魔力が淘汰されて、角自体は無害なものになってるけど)
白魔(今の人間は……おそらく、そんなことは……気にしない……)
白魔(……この子、言っている以上に、ひどい扱いを受けてきたんじゃないかな)
白魔(だとしたら……)
少女『』ムグー
白魔(胸がざわめい……あっ」
少女『』プハァ
白魔『ご、ごめんねっ、大丈夫っ?』
白魔「というようなことがありまして……」
側近(……ああ!! うらやましい! 私も白魔の胸にうずまりたい!!)
魔王「打ち解けるのが早いな。さすが白魔」
白魔「え、えへへ、それほどでも」
側近(白魔の巨乳! 白魔の巨乳! ああああ)
魔王「鬼の子孫か……城内の魔物で種族が鬼の者はいたっけな。側近」
側近(ううう! 白魔の胸をふにふにしたい!!)
魔王「……側近?」
側近「はい、なんでしょうか」
魔王「今トリップしてたよね? 絶対そうでしょ? 顔赤いし涎でてるもんな……。まあいいや、城内に鬼の種族はいたっけ?」
側近「いえ、確かいないかと」
魔王「そうか。おれば参考に話を聞けたのだがな。残念だ」
白魔(あの子、帰りたくない、って言ってるけど……どうすればいいんだろう)
側近(生贄に差し出されたのは迫害を受けていたからだったんですね。危険もないとわかったことですし……あの子にはちょっと悪いですけど、この機会を利用して白魔と……むふー)ダラー
魔王「側近、よだれよだれ」
今日はここまでです。
――魔王城・白魔の部屋
少女「」モグモグ
白魔「ご飯は口にあう?」
少女「」コクリ
白魔「よかった」
少女「……」モグモグ
少女「」ゴチソウサマデシタ
白魔「おいしかった?」
少女「……うん」
白魔「そう、よかった。久しぶりに人のご飯作ったから、上手く出来てるかちょっと心配だったんだ」
少女「白魔さん」
白魔「なあに?」
少女「少女のこと、人間なのに殺さないのはどうしてなの」
白魔「どういうこと?」
少女「だって魔物は、人間を襲って食べちゃうんでしょ。村のひとたちがわたしにそういってたもん。人食い鬼、って」
白魔「そっか……。……私たちがね、少女ちゃんを殺さないのは、無闇に命を奪いたいわけじゃないから、かな」
少女「?」
白魔「私たちは、自分達の土地を広げることだけが目的だから。人間を殺したくて襲っているわけじゃないし、そもそも私たちから襲うなんてことはめったにないもの」
白魔「仲良くしようとしても、見た目が怖かったりして怯えられちゃうし」
白魔「抵抗されたら、戦うけど。そもそも抵抗されないわけないしね……あはは」
少女「なんで住むところが欲しいの?」
白魔「簡単に言ったら、もう住めるところがないから、かな」
少女「……どうして?」
白魔「魔界は小さいから、住んでいる森が枯れてしまったり、湖が干上がってしまったりっていうふうに、それだけで住む場所がなくなっちゃうの。それに、ゆっくりだけど人数も増えてる」
少女「……そうなんだ」
白魔「人間には悪いけれど、やっぱりみんな、自分のことが可愛いのね」
白魔「もちろん、戦いたいだけの魔族だっている。でも今、人間に姿を見せてるほとんどの魔物は、住むところを無くして仕方なく住むところを探してる人たちよ」
少女「ふうん……」
白魔「だから覚えておいて。ほとんどの魔物は自分から人間を殺しに行くようなことはしないわ」
少女「もし、人間がなにもしてない魔物にいやがることをしたらどうなるの」
白魔「……」
少女「?」
白魔「……あ、ご、ごめんね。ええっと、多分、人それぞれだと思うよ」
少女「怒って仕返ししたりするの?」
白魔「うん。するかも」
少女「――わたしも仕返ししたほうがよかった?」
白魔「ダメっ!!」ガタガタン!
少女「」ビクッ
白魔「あっ、ご、ごめんっ。びっくりさせちゃったね」ストッ
少女「……ごめんなさい」
白魔「い、いいのいいの。気にしないで。ねっ」アセアセ
白魔(少女ちゃん、口数がすごく多くなって、打ち解けてきてくれてたみたいなのに。悪いことしちゃったな……)
コンコン
白魔「は、はーい」
ガチャ
側近「しろまーっ」
白魔「あれ、側近。どしたの」
側近「一緒にご飯を食べませんか? 作りすぎまして」
白魔「ゴメン側近。今しがた済ませちゃった」
側近「そうですか」シュン
白魔「また今度、ね?」
側近「ええ、しょうがないですからね。きっとですよ!」
少女「白魔さん、側近さん、なかいいの?」
側近「それはもちろん! 私たちはラブラブの――」
黒魔「聞き捨てならねぇなぁ、おい」
白魔「あ。黒魔くん」
側近「――貴様、どこから湧いた」
黒魔「テメェが白魔の部屋に向かって気持ち悪い顔しながらダッシュしてんのが見えたんだよ」
白魔「少女ちゃん、紹介するね。この人は黒魔くん。見た目とかはアレだけどいい人だよ」
少女(他のところは普通なのに、顔だけ真っ黒な覆面でぜんぜん見えない。黒いのっぺらぼうみたい)
側近「気持ち悪い顔か」ハァ
黒魔「それはもう最高にな」
側近「貴様にはかなわんよ。私と白魔の貴重な時間を邪魔するんじゃない」
少女「強そうな人だね」
黒魔「はっ、覆面で顔わかんねえクセによく言うわ」
側近「もういいかげんうるさい。引っ込め」
黒魔「引っ込むのはテメェだろが、俺の白魔にちょっかい出しやがって」
白魔「うん。攻撃にかけては多分、魔王様の次くらいに強いんじゃないかな」
側近「いつ白魔がお前のものになった? それからな、引き下がるべきなのは貴様だ。分かったらさっさと失せろ単細胞が」シッシッ
少女「それってどのくらい?」
黒魔「誰が単細胞だってぇ~? 調子に乗んな。なんなら、今決着をつけてもいいんだぜ」
白魔「このままここで説明しても多分聞こえづらいから、静かなところに行こうか。図書館がいいかな」
側近「望むところだ。ま、貴様など相手にもならぬだろうからな。余裕だ余裕」
少女「……」コクリ
黒魔「ほぉーう。よほど死にた……っておい!」
白魔「少女ちゃん、手離さないでね」ヒュオッ
側近「……あーあ、貴様のせいで白魔がテレポートしただろうが。白魔とのラブラブタイムを無駄にしてくれて、どう落とし前つけてくれるんだ? え?」
黒魔「っテメェ……! 上等だよ!」ボウッ
――魔王城・図書館
ガシャァァァァァン!! ドゴッ! ブアアァァァァァッ!!
少女「音が」
白魔「気にしなくていいよ。いつもこうだもん」
白魔「修理するのは私なのに」ハァ
少女「……(気のどく)」
白魔「黒魔はね、うーん、そうだなー、どうやって説明すればいいんだろ」
白魔「そうだ!」ピコーン
白魔「ちょっと私の指先見ててねー? むむむ……」
少女「?」
白魔「えいっ」ボウッ
少女「うわぁっ。キラキラして、すごく綺麗な火」
白魔「私のはぜんぜん大したことないけど、黒魔は頑張ればこれと同じくらいの火で」
白魔「うーん、このお城くらいならまるまる、どかーん! ってできるんだよ」
少女「このお城を?」
白魔「うん、すごいよね」フッ
少女「あっ……」
白魔「え? あっ、消さないほうがよかった?」
少女「……」コクリ
白魔「ごめん、私はこういうの苦手だから、しばらくは出せないなあ。……そうだ!」
少女「?」キョトン
白魔「少女ちゃんがやってみるっていうのは、どうかな?」ビシィッ
一週間後――王都・酒場
勇者「ここが王都でいちばん大きい酒屋だな」
僧侶「もしここにも強い人がいなかったら、さっきの剣士とか、魔法使いだね」
勇者「うん。うまい具合にいい人が見つかるといいんだけどな」ギィ…
僧侶「そうだねー」テコテコ
マスター「おう、いらっしゃい」フキフキ
勇者「薬酒を。あ、この娘は温めたミルクで」
マスター「はいよ」コトッ
僧侶「いい人いるかなー」キョロキョロ
マスター「おう、嬢ちゃんらは冒険者を探してんのかい」
僧侶「うん、でもいい人がなかなかいなくて」
勇者「腕が立ちそうな奴はいたんだけど、高額で」ハハ…
マスター「そうかい、まあうちの酒場は広いからいくらでも探していくといい」
勇者「なんだマスター、オススメ人材とかはいないの?」
マスター「そんなモンは自分で決めるんだよ。こんなでかい酒場で紹介なんぞ……クレームに対処しきれないだろうが」
勇者「自分の目を信じろっていうことね」
マスター「そうそう、そういうコトがいいたかったんだよ、俺は」
僧侶「あはは……」
勇者「しょうがないな。じゃ、手分けして探そう」
僧侶「そうだね。三十分後に、ここにもどってくるの。どう?」
勇者「オーケー」
(三十分後)
僧侶「勇者ーっ」トテトテトテッ
勇者「僧侶。成果はあった?」
僧侶「強そうで、契約金不要の人がいた!」
勇者「おおっ! ……それで、どこに?」
僧侶「あそこ!」
勇者「ソロでビールジョッキを大量に空けてる大男か?」
僧侶「違う違う、もっと左!」
勇者「金髪ロールで寂しそうに座ってるぽっちゃりした銃士の女の子か?」
僧侶「行き過ぎ。もっと右」
勇者「頭を抱えてうずくまっているツンツン頭の黒髪の少年か?」
僧侶「そのいっこ奥!」
勇者「え、誰もいな……いた。あれか? 短髪を後ろで結んでる黒と緑の女の子?」
僧侶「そうだけど、男の人だよ」
勇者「えっ」
僧侶「とりあえず、行ってみよ?」
勇者「うっ、うん。(ええー、あれで男? 華奢だなあ)」
??「あ、さっきの女の子。ふーん、その人が新しい勇者だって?」
僧侶「はい、こう見えてもそうなんです!」
勇者「こう見えてもはよけいだよ……オレの名前は勇者だ、よろしく頼むよ」
??「俺は盗賊だ。それで、なんだ? 俺とパーティを組んでくれるって?」
勇者「あーうん、それを決めるのは話を聞いてからにするよ」
僧侶「勇者くん、そんなこと言ってぇ! この人凄いんだから!」
盗賊「それほどでもないと思うけどな。まあ何だ、話を聞いてからだって? とりあえず今までの経験でも話せばいいんだろ」
勇者「話が早くて助かるよ」
勇者「――ふーん。随分強いんだ」
盗賊「そう言われるとなんだかくすぐったいな。よしてくれよ」
勇者「いや、でも本当だよ。な、僧侶」
僧侶「」コクコク
盗賊「やめてくれってば。……ところで、パーティに入れてくれるかどうかって話だけどさ」
勇者「ああ。大歓迎だよ、ぜひ頼みたいな」
盗賊「本当か!!」
勇者「おいおい、なにをそんなに驚いてるんだ?」
盗賊「いや、俺ってこんなナリだからさ。ひ弱だと思われて今まで誰にも相手にされなかったんだよね、武勇伝とか話したって誰も信じちゃくれないしさ」
勇者「……(頷ける話だ)」
盗賊「なんにしてもありがたい話だ。まさか勇者なんてものに目をかけてもらえるとは思ってなかったからさ、本当に」
勇者「おう。これからよろしくな、盗賊!」
盗賊「ああ、こちらこそ」
僧侶「よろしくねー、盗賊さん!」
盗賊がなかまにくわわった!
今日はここまでです。
――魔王城・会議室
魔王「うーむ」
側近「うーん」
魔王「いったいどうしたら、こちらが友好的であると分かってもらえるのだろうか」
側近「どうしたらいいのでしょうね」
魔王「うーむ」
側近「うーん」
魔王「贈り物をするというのは」
側近「デュラハンたちに任せたらダメだったじゃないですか」
魔王「贈り物っぽい籠持ってるのにな」
側近「中身、首ですってば」
魔王「では人魚族を」
側近「食べられちゃいます」
魔王「それならメデューサで」
側近「石にしてどうするんですか」
魔王「うーむ」
側近「うーん」
魔王「早くしないと、このままでは第二の生贄が城に来てしまうぞ」
側近「それは困りますね」
魔王「うーむ」
側近「うーん」
白魔「あれ、側近に魔王様。どうしたの? 二人してこんなとこで」モグモグ
魔王「付近の人間と友好を図る方法について唸っていたのだ」
側近「白魔は何をしていたんですか?」
白魔「ちょっとすぐそこの村まで買い物にいってきたの。可愛い娘さんだねってオマケしてもらっちゃった。魔王様も肉まん食べる?」モグモグ
魔王「そうか。あとで頂こう。それより白魔よ、手が空いているなら、一緒に策を考え………………」
側近「…………。あれ?」
魔王「……。側近」
側近「はい。魔王様」
魔王「いちばん近い村って、生贄を差し出してきたところじゃなかったか」
白魔「たしかにそうだけど、それがどうかしたの?」
魔王「うむ。どうかしたのだ」
側近「どうかしたんです」
魔王「友好の鍵が見つかったような気がしてきたぞ、側近」ボソボソ
側近「奇遇ですね。私もです」ボソッ
白魔「???」
――魔王城・中庭
少女「む、むむむ……はぁっ!」
ポフッ
少女「あ、またしっぱいだ……」
黒魔「焦んな焦んな。いくらハナクソみてーに簡単な魔法だって、最初は難しいもんだ」
少女「(はなくそ……。)黒魔兄ちゃんもさいしょは難しかったの?」
黒魔「んー、まあそうだな。出来ないのが悔しくて初めは怒鳴り散らしてた」
少女「いつできるようになったの?」
黒魔「そうだな。確か、諦めかけて『いつになっても火ィ出てこねーじゃねーか!! このウンコが!』って叫んだときに出来た」
少女(ええーっ)
黒魔「まーでもそっからは楽勝だったな。見る魔法聞く魔法片っ端から使えて、しばらく有頂天になってた」
少女「すごいさいのう」
黒魔「まーな。……ほら、俺のことはいいからもう一回やってみろ」
少女「」コクッ
白魔「おおー、やってるやってるー」
黒魔「おぅあ、白魔じゃねえか!」タタタ…ダキッ
白魔「えっ。うわあ」アタフタ
パリパリパリ…バヂィッッ!!
黒魔「いてっ、なんだこりゃ」
白魔「びっくりした~。いきなり抱きつかないでって言ってるのにー」
黒魔「それよか、なんだこの……結界? は。今のけっこう痛かったぞ」
白魔「側近がさっき私に向かってなにか呟いてたから、それかも?」
黒魔「まーちーがいなくそれだ。遅れて発動する結界なんていかにもあのヤローの考えそうなこった」
少女(いきなり抱きつく黒魔兄ちゃんもどうかとおもうけど)
黒魔「まったく、結界魔法なんて余計なコトしやがって。ぶっちめてやる」ヒュオッ
少女「あ、飛んでった……」
白魔「いつもこうなの。仲良くすればいいのにね」ハァー
少女(それは無理なきがするなぁ)
白魔「そうだ。少女ちゃん、魔法の方はどう? 出来るようになった?」
少女「」フルフル
白魔「そっか。……あっ、肉まん買って来たんだけど、食べる? 黒魔にもあげるつもりだったんだけど、飛んでっちゃったね。あはは」ハイドウゾ
少女「」コクッ
白魔「それにしても、魔王様と側近も大変だなぁ。
さっきはよっぽど忙しいのか、話し掛けても答えてくれなくなっちゃったし、手伝えることはないみた――」 !
ズズゥゥン!! ド…ン!!
少女「!?」ビクゥッ
ゴゴゴゴゴゴゴ…
少女「なっ、なに!?」
白魔(黒魔と側近かな……や、違うっ! 歪な魔力を感じる……まさか――王国軍!?」
少女「し、白魔お姉ちゃん、これ……」
ドドド…ン!
白魔「こっち来てっっ」
少女「う、うん」
白魔「えいやぁぁっ」キィィ…ンンン
シュゥゥゥゥ…フォオオオン
少女(なんか、見えないかべにたくさん囲まれたようなかんじがする)
白魔「いちばん強い防禦魔法かけたから、とりあえずは大丈夫だけど……でも、危ないから私の側を離れないでね」
白魔(早すぎる……前の戦いから一週間程度、こんなにすぐ戦力を補充できるわけがない)
白魔(しかも、城はだいぶ遠いところに転移してるのに。いったいどこから……?)
白魔「ずっとくっついてて、少女ちゃん」
少女「」コクコク
白魔(戦況がわからないと。でも迂闊に動いたら、少女ちゃんが危ないかもしれない)
ズズズズズズ…ドォォン
白魔(もし王国軍だったら、少女ちゃん――人間が、"人質"になってるってことにされるの、それだけはまずい)
ガラッ、ガラガラガラガラッ
少女「あ、」
白魔(そうなったら王国は――っ!? あぶないっっ」
少女(がれきが、)
白魔「っ」ガシッ、ギュッ…ヒュオッ
…ドドドドガガガガ!!
少女「…………、っはぁっ」ヘナヘナ
白魔「き、危機一髪、テレポートできてよかった」
少女「し、白魔お姉ちゃん、ありがとう」
白魔「瓦礫っ、でっかい瓦礫が地面に突き刺さってる。あんなの当たってたら」ゾワァァ
少女「あたら、なくて、よかったぁ」
白魔「少女ちゃん。だいじょうぶ? 立てる?」
少女「」コクリ
白魔(相手は遠隔攻撃まで用意してる、どこかに移動しないとっ)
伝令「失礼します! 白魔さま、報告です!」
白魔「っ。戦況はっ?」
伝令「敵戦力は正面からおよそ一万、そのほとんどが土の魔道人形です!
こちらは自律ゴーレム百数十体により、順調に敵戦力を殲滅しております!」
白魔(魔道人形か。手っ取り早く戦力を補強するのにはちょうどいい手段かな)
白魔「魔王様、それに側近と黒魔はっ?」
伝令「陛下は玉座にて指揮監督をなさっており、側近様と黒魔様は陛下のご支援をしております!」
白魔「わかった、すぐ行くっ。任務を続行して!」
伝令「はっ」
白魔「少女ちゃん、テレポートするよ。おいでっ」ダキッ
少女「うわっ」
白魔「ええいっっ」ヒュオッ
いきなりな展開ですが今日はここまでです。
――魔王城・玉座
黒魔「十五隊は正門左の援護へ回れ、鳥人班も援護射撃しろ。精霊班正門まで撤退!」
側近「オーク班の重傷者十三名以外は地階控室で救護!」
伝令A『側近様、ゴーレムがすでに二十体ほど破壊されました! ご命令を!』
側近「魔道人形はどれくらい減らしたっ?」
伝令A『約三分の一ほどです!』
側近「ゴーレムが百体を切るまではそのまま交戦!」
伝令A『了解!』
伝令B『正門前右手奥、九隊このままだと持ちません! 敵戦力が一時的に攻撃対象をこちらへ切り替えた模様!』
黒魔「魔人班は九隊の援護へ転移準備。正門前の隊は代わりに精霊班を戻すまで持ちこたえろ! 九隊は全員とも防禦魔法張って凌げ、俺も援護に回る!」
白魔「魔王さまっ」
魔王「白魔か! すぐ救護室へ向かうのがいい、人手が足りんようだ!」
白魔「少女はっ?」
側近「地下の休憩室へ! 隠蔽魔法張ってある!」
白魔「了解っ、じゃ行くよ? つかまって」ヒュオッ
――魔王城・物見やぐら
黒魔「下は無事か!」
兵士「はい、なんとか持ちこたえています!」
黒魔「とりあえず奥の土くれを燃やすか、入り乱れてるこの状況じゃ味方の判別がしにくいからな」ブゥゥゥン…
兵士「伝令します!」
兵士『城門前の兵士に告ぐ、城門正面の前方で離れて戦っている者は、黒魔様の火炎に注意されたし! 味方の判別はあるが漏れた者は当たるぞ!』
黒魔「んー、まあ間違って燃やすのは相当確率低いから大丈夫だろ。……そらっ!」ポウッ
ヒュ…ン …グオオオオオオオッ!
土人形「……」チリチリ
黒魔「こんなもんか?」
兵士「いえ、ダメです! こたえていません!」
黒魔「オイオイ。どうなってやがる、土人形は炭化させりゃいいと思ってたが」
兵士「おそらくなんらかの防護が働いているものかと」
黒魔「それでもよ、そこいらの高僧が掛けたモンくらいなら破れるようにディスペル編みこんでるんだぜ? おかしいと思わねえか」
兵士「そういわれると、確かに……」
兵士「しかもこれだけ潰しているというのに、減り方が遅くなってきています」
兵士「炎の魔法が効かないというのは痛いな」
黒魔「見たとこ、損傷のないパーツが寄り集まって再機能してる。で、燃やせるのは魔力で構成されてる関節部のみときた」
兵士「火はともかく、水とか氷も効きませんし、いっそトリモチで」
黒魔「おー、それ名案。誰か使える奴はいるか?」
兵士「はい、私が使えます!」
黒魔「トリモチの発現方式は?」
兵士「魔力を込めるタイプの魔法陣で、魔法陣からの射出です」
黒魔「都合がいい。通信するから、その間に準備しておけ」
兵士「了解!」
黒魔『解析班、土人形の性質は分かったか』
解析班員『不明な点が多いですが、魔法攻撃に対する耐性はめっぽう高いです! 物理的に破壊するのが最適かと! 身体能力は平均値です!』
黒魔『粘着性には耐性あるか?』
解析『掌や足裏などの一部の表面はホールドのために滑りにくい性質のようです! 他はなんらかのコーティングが施されています!』
黒魔『手のひらに足の裏か、くっ付けるには充分だ。引き続き頼む』
解析『了解!』
黒魔「おい、さっきの奴いるか。自軍に当たらないように細かく分配して粘着魔法の魔法陣、大量に作れ。少しぐらいのミスは構わない。微調整する」
兵士「はっ!」
黒魔『側近、これから五分後に土人形にトリモチを射出する。城外の部隊に少し影響が出るかもしれんから、サポート頼む』
側近『了解』
――魔王城・玉座
側近「魔王様、五分ののちに黒魔が人形に粘着魔法を掛けるようです! 城外部隊へ命令を!」
魔王「任せろ。お前は各事故に備えて準備! 代理は影に任せる!」
側近「了解!」
魔王『――第三、四、五、七、八、九、十隊及び魔人、鳥人、オーク、精霊、ドワーフ、アンデッド班へ告ぐ!
城の上部からトリモチが放たれる、巻き込まれないように注意しろ!
一旦下がっても構わん! 射出完了後は人形のパーツを武器で丁寧に壊していけ! 以上!』
伝令C『三から五隊、精霊班、了解』
伝令D『アンデェッド班りょうかぁい』
伝令E『ななはち隊了解ッ』
伝令B『九隊及び魔人班了意!』
伝令G『ドワーフ、オーク班問題なし』
伝令H『十隊は周りを囲まれました! 全体的に防護張るので構わず射出を! 取りこぼしはすぐ潰します!』
伝令A『鳥人班、問題なし!』
魔王『鳥人班は完了後に十隊の援護へ回れ! 動けなくなった人形が使う飛び道具に気をつけろ!』
影「側近代理到着いたしました」
魔王「戻るまで、城内の指示を頼む」
影「了解いたしました」
今日はここまでです。
生きていますので更新はします
――魔王城・物見やぐら
黒魔「準備はいいか」
兵士「はい。できるだけのことはしました」
黒魔「じゃ、やるか」ブゥゥゥン…
兵士「……」ゴクリ
黒魔「魔力装填準備――、――……三、……二、……一、ッ!!」ブワァァァッ
ガガガガガッ!! ドドドドドド…
兵士「おおっ……」
兵士「全身から光が迸ってるっ」
兵士「これが黒魔さんの力かぁ……初めて見た……」
兵士「トリモチが寸分の狂いもなく敵陣営に落ちていきますね……」
兵士「さすが黒魔さんです」
ドドドドドドド…
兵士「それにしても、いったい幾つ用意したんだ?」
兵士「軽く三百個は越えてますよね。いくら魔法陣の維持が簡単だって言っても、込める魔力は相当じゃないですか?」
兵士「そういえば、設置した奴が見えないが」
兵士「設置だけで疲労困憊して倒れちゃって、今さっき運ばれていきました」
兵士「仕方あるまいよ、これだけ作ったら倒れもするだろう」
ドドドドドドド…ッ
黒魔「これで……最後!」ガッ
ドシュウッ!
黒魔「……ふぅっ」シュゥゥゥ…
兵士「お疲れ様です!」「お疲れ様です!」「休まれますか」「黒魔さんすごいっス!」「惚れたわー」
黒魔「これぐらい屁でもねえよ、それより戦況はどうだ」
兵士「はい、トリモチのおかげで順調に敵戦力を減らしつつあります。このままならば勝利は時間の問題です」
黒魔「土くれに指令を出していた生身の奴らは撤退したか?」
兵士「少しずつではありますが、数は減ってきているようです」
黒魔「そんなもんだろうな。少し休憩するから、戦況が変わったら教えてくれ。じゃ、休憩室に戻――」ゾワッ
兵士「了解しまし……、どうなされましたか?」
黒魔(……!)バッ、ツカツカ ガシッ
兵士「黒魔様、いったいなん」「見ろ!」
兵士「? ……なっ! ゴーレムがどんどん潰されているっ!?」
黒魔「冗談じゃねえぞ。あんなモンまで用意してたなんてよ!」
――魔王城・玉座
魔王「強化魔導人形だとッ」
影「おそらく」
魔王「奴らはどっから掘り出してきたんだ、そんな物騒なもの!」
影「不明です。人形自体はポピュラーな型のようですが」
魔王「まともに戦えそうな奴は何人いるんだ」
影「魔王様含め、多少よく見積もっても十人いるかいないか……」
伝令『お話中失礼します、緊急の用です! 強化魔導人形が現れました! ゴーレムはほぼ潰されましたっ! 現在黒魔班が正門前方にて交戦中です! 増援を! 増援をっ!!』
魔王『力の差はどれほどだっ!』
伝令『奴は黒魔様の圧縮された魔法で表面に多少の損傷が出る硬さです! 厚いバリアにエネルギーをまわされた攻撃力の控えめな造りのようですっ!』
魔王『解析を頼む! 白魔と側近は直ちに対処、私もすぐ行く!』
白・側『了解!』
魔王「お前は使えそうな人員を集めてこい!」ヒュオッ
影「承知いたしました!」シュッ
――魔王城・城門前荒野
黒魔「ぐっ……」ズザァッ
強化魔導人形「」ヒュッ
黒魔「!」バッ
人形「」ドズッ
黒魔(危ねっ……)
人形「」ギギギギ
黒魔「ッラァ!」ドゴッ
人形「」ミシミシ
人形「」…ザッ
黒魔「かてえ」
人形「」ブン!
黒魔「おっと」サッ
人形「」ヨロッ…ジャリッ
黒魔(チャンス)「――、氷結しろ!」ブゥン…パキパキパキパキッ
人形「」ガガギギ…バキィィィン
黒魔(氷割るの早すぎだろ!)「――、――! 老化来れ!」シュルルルル…オオオオオン!
人形「!」ビキビキビキビキッ
黒魔(もう一発!)ブンッ
人形「」パシッ
黒魔「! 受けとめ……)
人形「」ドゴォォッ
黒魔「ォおアあっ」ギシギシギシッ
黒魔(ヤバ、)ダンッ、ヒュオッ
人形「」…ガギッ? キョロキョロ
黒魔「ふー……」タッ
黒魔(畜生、やっぱ強え。援軍はまだか? ……おっ)
白魔「黒魔、だいじょうぶ? 回復するよっ」ヒュン
黒魔「おおぅ、ありがとな白魔」ポワァァァ
白魔「後は私たちに任せてっ」
更新が滞ってごめんなさい。
ある程度書き溜めはしてありますから、校閲が済みしだい投下します。
今日はここまでです。
生存報告
黒魔(白魔に側近、それに、魔王様まで)
魔王「平気か! お前はもう下がった方がいい!」
黒魔「了解」
黒魔(うちの班は……全員寝てやがる、回収しねえと)ヒュオッ
魔王「さってと、さっさとこの物騒なおもちゃをぶち壊してしまわないとな」
側近「お手伝いいたします」
人形「」ギギガガガ…ヒュッ
魔王「うおわ」バシィッ
人形「」ザッ ブンッブンッ
魔王「意外と速いな」ヒョイヒョイ
人形「」ギリギリ…キッ バッ
側近(こっちに来た。私のほうが片付けやすいとでも踏んだんだろうが、)
人形「」ビュッブンッ
側近「どちらでも変わらないというのに……」パシッバシッ
人形「!!」…グッグッ
側近「……どうせ壊されるのだから!」ヒュッ ドゴォォッ!
人形「」ヨロッ
魔王(側近の蹴りで体制を崩した。後ろにまわって……回し蹴り!)ガキィッ
人形「」グラァ
側近(ここは頭をかかと落としで……っ)ドガァァ!
人形「……!」ジタバタ
魔王「側近、顔が埋まっているうちに!」
側近「分かっています、」
側近(――――、極小の千本針よ、我が敵を貫け、)ジャララララララ
側近「ニードルガン!」ボボボボボボボボッ
魔王(さすがにでかい穴ぼこを空けるのは無理か、半分以上は弾かれた。やはり打撃しかあるまい)「――発勁ッ」ダンッ…ドォォン
人形「」ビキビキビキッ
側近「効いていますっ、これなら……」
人形「」ズボッ バッ、タッ
魔王「さすがに連発はさせてくれんか」
側近「そのようですね」
人形「」キィィィン…ボウッ
側近「熱っ」メラメラ
魔王(魔法も使えたのか)
側近「鎮火鎮火」バッバッ
魔王(とはいっても、大した威力はなさそうだ。――あれ、奴はどこ行っ」ドグァァ
白魔「魔王様っ!」
魔王「……がはっ」ミシミシ
魔王(魔法は気を逸らすためのフェイクかっ)
人形「」バシッ ドカッ
魔王「ぐうっ」ズザザザ
側近「魔王様を……このっ」ヒュ…
人形「」サッ
側近「っ」ドゴッ!
人形「」ギギガガ
側近「くそっ」ズボッ
魔王「落ち着け、側近。そこまでダメージは受けちゃいない」パッパッ
人形「……」ギシッ
側近「……不本意ですが人形のほうもそのようです。どうしますか」
魔王「うーん。そうだな、あれやってみるか。この前開発したフォーメーション」
側近「その手がありましたか」
人形「」ジリジリ…
白魔「フォーメーション?」
魔王「うむ、協力必殺技と言ってもいい。その名も、」
側近「〈リンチ〉です」
白魔「……(そのままじゃないのそれ)」
――魔王城・城門前右手
魔人班班長「城内へ退けー! このままだと魔王様の戦闘に巻き込まれるぞ! 退けえー!!」
第九部隊隊長「退却ー、退却ーっ!」
タタタタ…
魔人班兵士「は、班長っ」ハァハァ
班長「どうした」
兵士「敵の遺留品と思われるものを拾いました、お願いします」
班長「応、どこで拾った?」
兵士「着弾したモチの中に脱ぎ捨てたらしき鎧があって、その空洞に光って見えたので」
班長「よくやった、後で提出しておこう。お前ももう退け。やられた部下のための褒美を俺が貰ってもしょうがないからな」
兵士「はい、班長もご無事で」タタタタタッ…
班長「……城内へ退けー! 動けない者はいるかー!」
班長(…………このアクセサリ、脈打っているような)
――魔王城・城門前荒野
人形「」ッ……ガシャアッ
魔王「」フゥ
側近「」ハァ、ハァ
白魔「起きあがってこないね」
魔王「これぐらいで壊れるわけがない。様子見だろう……、もういっぺん、だ!」ドカァッッ
人形「」ガ「」ギ、ガ「……」ガリガリガリガリ
魔王「ん? なんだこの音は――」
側近「――魔王様! 下がってくださ」
ッ、ピカッ
魔王「な、」
人形「」…グワッ!
ドグォォォォォォォォオオオッ…
白魔「……あ……」
白魔「ま、まっ、魔王様っ! 側近っ!!」アワアワ
ヒュオオオオオオォォォ…
白魔「へ、返事を、 返事をしてくださいっ、ふたりともっっ」
側近「…………しろ、ま」ドクドク
白魔「側近っ」タタタッ
側近「まおうさまの、きゅうご、を」ユビサシ
白魔「む、向こうにいるの? ――うわあっ、魔王様がっ!」
魔王「」…ハァ、…ハァ
白魔「ふ、ふたりとも止血しなきゃっ……え、えとっ、
――――、――、――――、各々の血よ、路を逸れず廻れっ」パァァァァッ
白魔(これで少しは保つはず……)
白魔(あっ、――側近の腕がないっ! ど、どこっ」
白魔「血が身体から離れて巡ってるとこにあるはず……、あったっっ」
白魔(魔王様はどこも損失してない、先に側近の腕をっ)パシッ
白魔「まだ大丈夫、お願い繋がってぇ! ――――――――、接着ヒーリングっ」キィィン
シュウウウウ…
白魔「……よかった、繋がった」ホゥ
白魔(後は二人の細かい傷を癒せばもう平気、)
白魔「――――――、――、――、光の清流よ、この者どもの傷を浄化せよっ」ホワアアアアン
白魔「――――――――、癒しの御光よ、この者どもの傷を塞げっ」シュウウウウウ…
側近「……、」ホウッ
魔王「……っ」ハァァー
白魔「よっ、よかったぁ」ペタリ
翌日――魔王城・救護室
チチチ チュンチュン…
側近「……」パチッ
白魔「そ、そっきん!」ダキッ
側近「白魔」ムクリ
白魔「めがさめてよかったぁ~」グスグス
側近「大丈夫。……こんなに綺麗に治してくれたんですから、そう簡単に死にませんよ」クスッ
白魔「うん……」グスッ
側近「それより、魔王様は」
白魔「それが、」
側近「それが?」
白魔「ここに運ばれてすぐに目を覚まして、私と側近に話し掛けてくれたんだけど、伝令の兵士が来て、それで、なにかに追われるみたいに出てっちゃったの」
今日はここまでです。
今後、更新はリアルが忙しいため少し遅くなると思われます。
――王城・謁見の間
王様「楽にしてよい」
勇者一行「はい」
王様「して、そなたが新しき勇者か。改めて見るとなかなか精悍な顔つきをしておる、期待できそうだな」
勇者「ありがたいお言葉でございます」
王様「連れの者どもは、見たところ僧侶、盗賊、の二人であるか? 通例、勇者パーティは四人で組むのだと聞いたことがあるからして、意外だな」
勇者「その通りでございます。いずれは信用に足る人間を見つけ、仲間となってもらう予定です」
王様「ちとおせっかいかも知れんが、城の戦力から貸すこともできるぞ。優秀で信用できる人間も揃っておる。どうかな?」
勇者「ありがとうございます。しかし、王の戦力を削ることなど出来ません。それに、冒険者と呼ばれる者たちの中にも、一人で旅をするような手練はきっといるはずです」
王様「なるほど。確かに少数であればそのような者の方がよいであろうな。失礼した」
勇者「いえ、こちらこそせっかくの申し出を」
王様「よい。ところで、今日はどのような用件で参ったのだ?」
勇者「都のそばに魔物が新しく巣を作ったとか」
王様「うむ。掃討しようにもなかなか数が多くてな、ここ数日は毎日兵士たちを向かわせている状況である。聞きたいのはその件についてか?」
勇者「敵戦力について知る限りのことを教えていただければと」
王様「……魔物はここから二、三里ほどの岩穴に巣を作った。以前から住み着いていたという可能性もあるが、十日前ほどにいきなり数が増えたのでな。
初めの頃に最深部まで降りて魔物を見てきた者の報告によると、
上半身は人間の女性で着物はなく、下半身は蛇であり、両手に大型のサーベルを持ち、たまたま居合わせた別の冒険者たちを薙ぎ倒していたそうだ」
盗賊「ラミア、ですか」
王様「そう考えて間違いはない。現に、討伐に行った国の兵士たちにも何人か、落ちた蛇の鱗を見たものがおった」
勇者「兵士たちはどれほどの損害を受けましたか?」
王様「数名の若い兵士が一瞬の隙を衝かれて連れ去られた。城の学者の話によれば、若い男の生き血を啜って精力を蓄えているのだろう、ということだ。
この中で男性は勇者殿だけであるから、さして心配はないだろうが……討伐に行くなら気をつけて欲しい」
盗賊(……はぁぁ。やっぱカウントには入ってないのか)
勇者「はい。今日は貴重なお話をありがとうございました。非常に役立ちます」
王様「そう言ってもらえると、こちらも話したかいがあるというものだ。では、またなにか困ったことがあったら参るがいい。下がってよいぞ」
一行「失礼いたします」
――王都・街の隅の酒場
僧侶「王様、ご立派な方でしたね~」
盗賊「遠くの国じゃ暴政敷いてるとこも多いって話だしな。俺たちは恵まれてるよ」
勇者「そうだね。あんなに頼りになる人はそうはいないだろう」
盗賊「それで、魔物の話だが」
勇者「ああ。王国が十日間軍を派遣してもまだ討伐できていない、しかもあの口ぶりじゃあ巣の場所すら未特定、ってことは」
盗賊「あのしっかりしてる王の軍でもなんだ、おそらくラミアは相当狡猾だろうさ」
僧侶「でも、どうしてそんな頭のいい魔物が王都のすぐそばまで来たんでしょう。二、三里の近さじゃ、安心して眠れないんじゃないかと思いますけど」
勇者「オレは魔王の手下じゃないかと思ってる」
盗賊「どうしてさ?」
勇者「人間と同程度の知能を持ってる普通の魔物が、こんなところに巣を作るなんておかしい。
すぐ討伐指令が出るのはすぐに分かるはずだからね、魔王の指令でもなきゃ来ないだろうな」
盗賊「まあな」
勇者「それに、そのまま信じるつもりはないけど、迷宮の最深部まで潜るような冒険者をあっさり切って捨てるんだ、相当強いんじゃないかな」
僧侶「ふむふむ」
勇者「王都の陥落を狙うために、まずは小手先調べ……そんな気がするんだ」
盗賊「早めに潰しておいて損はないってことさな」
勇者「うん、それもなるだけコテンパンにのしたほうがいい」
僧侶「どうして?」
勇者「こっちが強ければ力をつけてから来ようとするだろうからだよ。時間稼ぎになるんだ。楽に倒せるならその隙を衝いて他の魔王の軍勢も倒していけばいい」
盗賊「もしこっち側の辛勝だったらどうするのさ? そうなったらすぐ規模のある集団で攻めて来るかもしれないだろ」
勇者「魔王軍だってそこまでは短絡的じゃないんじゃないか? 来たとしてもオレたちがどうにかするだけだよ」
僧侶「も、もし殺されちゃったら!?」
勇者「はは、そうならないように頑張らないとね」
盗賊「――いつ討伐に行く?」
僧侶「えっと、」グーッ キュルルルルル
勇者「……そうだね、まずはご飯食べよう。マスター、なにかオススメの食べ物出して」
僧侶「うぅっ……//////」
盗賊「あ、俺、イカのから揚げね」
――魔王城・白魔の部屋
少女「むぅ」キュイイイン
少女「このまま、このまま」ソーッ
ピタリ
少女「やったっ」
バサッ
少女「あ」
少女「落っこっちゃった。やっぱり物をうかばせておくのはまだはやいかな」
少女「それともこの本がおもいだけ?」
少女「? ……あれ、このページの」
少女「これ、魔王さんがさっき持ってたのと同じものにみえるけど」
少女(どうしよう。ききに行こうかな。でも魔王さん、ちょっとこわいからなあ)
少女「……お姉ちゃんにきいてみよう」
――魔王城・司令室
魔王「うーむ」
解析班長「――というわけで、いまだこの装飾品? の構造は不明です。もしかしたら城の蔵書に記述があるかもしれませんが、探すのには時間が掛かるでしょう」
魔王「せっかく落としていった魔道人形どもの操作装置だ、弱点が判ればと思ったのだがな」
班長「まあ、落としていった以上は大した価値が無いと考えてもいいかもしれませんね」
魔王「そうだな。それで、強化魔導人形のほうは」
班長「はい、その件なんですが。……ふつう、魔導人形は力、スピード、硬さ、魔力などの能力を一定以上持っているとされています」
魔王「うむ」
班長「しかし側近様の話によれば、『魔法は使ったがとるにたりないものだった』」
魔王「確かに、たいした魔法は使わなかった。それはつまり、」
班長「別の部分に魔力を注ぎ込んでいたから、と思われますね」
魔王「……なんだろうな」
班長「最後はそっちを諦めて自爆に全て使ったという感じでしょうか」
魔王「だがまあ、なにかの補助的なものだと考えるのが妥当だろう。トレースとかアナライズとかの類かもしれない」
班長「そうでしょうか。私はもっと別なものだと考えますが」
魔王「たとえば?」
班長「……どこかへの魔力の供給、のような」
コンコン ガチャ
白魔「失礼しまーす。あ、魔王様みっけ」
魔王「どうしたのだ」
白魔「少女ちゃんが魔王様にちょっと用あるみたいなの」
少女「あの、こんにちは」オズオズ
魔王「こんにちは」
少女「えっと、その、この本、みてほしいんです」
魔王「!」
少女「あの、さっき魔王さんをみかけたときに、これとおんなじもの持ってたなあって」
班長「これは……」
少女「わかんないことばが一杯あるから、ききたいなっておもったんです」
魔王「――でかした」ポン
少女「え?」
魔王「ちょっとこの本借りるけど、いい? 説明は後でするから」
少女「あ、えと、だいじょうぶです……」
魔王「ありがとう。白魔、今日はご馳走を用意してあげて」
白魔「りょうかーい♪」
少女(ごちそうするほどなの!?)
白魔「少女ちゃん、おいでー」
少女(そんなに大事なものだったのかな、あれ? すっごく気になる……)
――
魔王「行ったか」
班長「魔王様。先の件ですが、私は人形が魔力を供給していた先を、この地面の下だと推測しております」
魔王「兵器や古代施設の類か」
班長「はい。恐らくはどちらもこの土地の地下に存在しています」
魔王「この360度を見渡せる荒野で不意打ちされるとしたら、地下か空から来る以外にはできっこないものな。で、あんだけの兵力を用意していたってことはだ」
班長「一万の数を収容できる空間と、それに匹敵する力を持つものが埋まっているということですね」
魔王「そうだ。なんだか知らないが、どうせ危険なものだろう。さっさと封印しておくに越したことはない」
班長「ええ。それから、強化魔導人形の行動パターンについてですが」
魔王「戦った感じでは……アレは、おそらく十何代か前の勇者だな。そうだろう?」
班長「魔王様には敵いませんね」ハァ
魔王「小細工を施したり、不利だとわかったら躊躇せず自爆したり。そこがポイントかな。細かいところまで見ずともわかるわ」
班長「……問題はどうやって何百年も前の勇者の行動パターンをインプットしたのか、ですね」
魔王「興味深いな」
側近「興味深いですね」
魔王「側近。もう出歩いてもいいのか?」
側近「バッチリ完治です。リハビリ程度には動かないと」
魔王「さすがに白魔法のマスタークラスか。勲章を用意しておかないとな」
側近「幾つあっても足りませんね」
魔王「はっは。今日は戦勝パーティもかねて授賞式だな」
側近「それは楽しみです」
魔王「用意は頼んだよ」
側近「お任せください、魔王様」
今日はここまでです。たまたま投下できました。
生存報告
――王都・ホテルのロビー
僧侶「ふあぁ……勇者くんおはよー」
勇者「おはよう、よく眠れた?」
僧侶「ふかふかのふわふわで気持ちよかった」
勇者「そりゃあよかった」
盗賊「なんだ二人とも、起きるのが早いな。まだ暗いのにさ」
僧侶「おはよー」
勇者「おはよう盗賊。そう言いつつも自分だって早いじゃないか」
盗賊「盗人がいつまでもグースカ寝てたら、寝首かかれちまうよ」
勇者「ごもっともだ」
僧侶「ねぇ勇者くん、さっきからおいしそうな匂いがしてきてるんだけど、えっと」
勇者「……ご飯食べようか」
僧侶「やったー」
盗賊「から揚げあるかなあ」
勇者「朝からビールでも飲むつもりですか、盗賊さん?」
盗賊「ふー」
僧侶「お腹いっぱい」
勇者「お前ら……これから討伐に行くっていうのに、そんなに食ってどうすんの」
僧侶「はらがへってはいくさができぬ」
勇者「限度があるでしょ」
盗賊「俺は別にお腹一杯じゃないさ」
勇者「あのから揚げの山はどこに行ったのかぜひ教えて欲しいな」
盗賊「――それはともかく。討伐の準備はできているのか? 昨日は任せておけと言ってたけどさ」
僧侶(あ、ごまかした)
勇者「ああ、もちろん。とりあえずオレの部屋に来てくれないか」
盗賊「……」ゴクリ
僧侶「……すごい」
勇者「一応、二人でも使えそうな装備を見繕ってきたから、気に入ったの何本か選んで?」
盗賊「ダガー、メイス、チェインメイル、ファルシオン、レザーシールド、カトラス、モーニングスター、チンクエディアまで……。どうしたんだ、この量は」
勇者「街の武器屋に、『魔王を倒す勇者のパーティが使う武器をくれ』って言ったら、いろいろ見せてくれたんだよ」
盗賊「へえ……」
僧侶はメイスをそうびした!
僧侶はレザーシールドをそうびした!
僧侶「これで少しはかっこよくなったかも?」
勇者「似合ってる似合ってる」
僧侶「あはは、それほどでも~」
勇者「盗賊はいいのか?」
盗賊「……ああ、ありがとう。でも俺はやっぱり使い慣れた装備のほうがいいからさ」
勇者「そっか。じゃあ残ったのは売ってくるよ」
盗賊「いいのか」
勇者「全部持っていっても重いし、スペアがあれば充分だからね」
盗賊(……)
僧侶はひかりのほんを装備した!
僧侶「あ、まちがえた」
――王都・ホテル入口
僧侶「盗賊さん」
盗賊「ん」
「」カツカツ
僧侶「次の人が勇者くんかどうか賭けよ?」
盗賊「……勇者に100」
僧侶「じゃあわたしは、勇者くんじゃないほうにワインのお菓子を」
「」ギィィ
盗賊「」ピクッ
僧侶「やった、わたしの勝ち!」
盗賊「ははは……」
「」カツカツ
盗賊(あいつ、ただ者じゃないな。背中の獲物は……刀剣類か?)
僧侶「盗賊さん、ワインゼリーおごってくださいね!」
盗賊「うーん。僧侶、それ、神に仕える者が賭けだの酒だの、いいのか」
僧侶「うっ」
盗賊「やっぱりな」
「」カツカツ
僧侶「あ、こ、今度こそ勇者くんかな」
盗賊(逃げたな)
勇者「や、お待たせ」
僧侶「勇者くん遅いー」
盗賊「まったく。チェックアウトくらいで」
勇者「ごめん。あとでなにか奢るから許して?」
僧侶「……甘いお菓子がいいなー」
盗賊「露店で美味そうなのがあったら、それで手を打とう」
勇者「オーケー」
盗賊「取引成立」
僧侶「うん。それじゃあ、気を取り直して」
勇者「討伐だ!」
――道中
僧侶「ふぅーっ。もうちょっとですね」
勇者「疲れるのはまだ早いよ……」
僧侶「休憩きゅうけい」ポスッ
勇者「しょうがないな」ドサッ
盗賊「……二人とも前を見てくれ」
僧侶「?」
盗賊「め、の、まえが! 入口だって!」
勇者「いいじゃない」
盗賊「よくない。さっきまでのやる気はどうしたのさ」
僧侶「まかろんもたべたし。満腹だし。眠くなってきた……」
盗賊「寝るな! 襲われる!」
勇者「下ネタだ」
盗賊「違う!」
僧侶「すぴ~……」
盗賊「もう寝てるしさ! どうするんだこの先……心配だよもう……」
勇者「お、回復の泉発見」
盗賊「取ってつけたように!」
勇者「いいじゃない、休憩したって。減るもんじゃなし」
盗賊「……」ハァ
――ラミアの洞窟・最深部
ラミアA(判りづらいため仮にアンジーとします、以下同様)「この気配……勇者!」
B:ベラ「お前は探偵か」
C:キャサリン「下らないコト言ってないでよ」
D:ダイアナ「もうあそこまで来てるっていうのに」
E:エクレア「あそこ……//////」ダバー
F:ファニー「おい、またうぶなムスメが鼻血出したぞ」
E:エクレア「ムスメ……//////」ダバダバ
G:ガートルード「あーあー」
H:ヘルメス「ホントめんどくさいなあもうっ」
A:アンジー「これは……鼻血!」ペロッ
B:ベラ「見りゃわかるっつーの」
H:ヘルメス「ちり紙ちり紙っ」
I:イングリド「お前らウルセーぞ」
ラミアの首領「 しばらくうごかないと思う」
C:キャサリン「なぜですかしら、首領様?」
首領「 三人とも寝てる」
E:エクレア「三人で寝てる……//////」ドバドバ
G:ガートルード「あーあーあーあー」
F:ファニー「おい、そろそろ死ぬんじゃないか、コイツ」
A:アンジー「これは……鼻血!」ペロッ
B:ベラ「それはもういい」
H:ヘルメス「ちり紙どこだーっ」
首領「 ここ」
H:ヘルメス「ありがとうございますっ」
C:キャサリン「下品ねえ」
D:ダイアナ「どうせ妄想に終わるっていうのに」
H:ヘルメス「ちり紙たりなーいっ」バタバタ
F:ファニー「おい、そっち壁」
H:ヘルメス「ぎゃーっ」ムギュッ
I:イングリド「お前らウルセーぞ!」
首領「 まったくだよ」
I:イングリド「あ、すいません……」
A:アンジー「首領は……クーデレ!」
B:ベラ「どう見ても違うだろーが」
E:エクレア「勇者とお付のふたり……奴隷かな……//////」ダバダバ
――ラミアの洞窟・入口
勇者「」ゾクッ ガバッ
盗賊「おっ、お目覚めか。……顔色が真っ青だぞ、大丈夫か」
勇者「あ、ああ」
勇者(なんか、全身を舐め回されてるような気味の悪い感覚がした)
僧侶「勇者くんも目が覚めたことだし、討伐です!」
盗賊「おう!」
勇者「…………オレ、しんがりでもいいかな」
盗賊「いいけどさ、本当に大丈夫か? もうちょっと休んでからでもいいぞ」
勇者「いや、大丈夫だ、問題ない」
勇者(寝てるともっと気色悪くなりそうだし)
――ラミアの洞窟・入口付近
勇者「思ったより明るいな」
盗賊「そこかしこに松明が灯してあるのは、さすがラミアってとこか」
僧侶「頭いいんですねー」
勇者「まあ、上半分は人間と同じだからね」
盗賊「蛇部分との上下が逆だったらぞっとするだろうな」
僧侶「……想像しちゃった」
勇者「やめてくれ」
盗賊「すまん」
勇者「それにしても、ずいぶんと設備の整った洞窟だな。地面も極端な出っ張りは削られているみたいだし」
盗賊「たしかに不自然だな」
僧侶「トラップとかは仕掛けられてないの?」
盗賊「ないみたいだが、ところどころ水気があって滑りやすくなってるからさ、気をつけてくれよ」
僧侶「はーい」
勇者「自然を利用した罠ってところか」
盗賊「たぶん、そんなところだろう」
――ラミアの洞窟・中央部
勇者「……ふー。結構歩いたね」
僧侶「そろそろ無気味になってきたねー」
盗賊「めぼしいお宝もなかったし……代わりに魔物はいっぱい出てきたけどさ」
勇者「しっ」
僧侶「?」
勇者「なにかいる」
「」ユラリ
ビュァァッ!
盗賊「うぉあっ」ガキィン
僧侶「大丈夫!?」
盗賊「ああ、ナイフで防いだ」ヒュヒュッ
「」ユラリ
勇者「……そこかっ!」ザシュッ
「ァァァアアアアア""ッ!!」ドサッ
勇者「ふう」
盗賊「ナイスヒット」
勇者「ありがとう」
僧侶「蛇……使い魔かな?」
盗賊「不気味な断末魔だ……」
勇者「巣が近くなってきたってことか」
盗賊「気をつけていかないとな」
勇者「ああ、不意打ちでもされたらたまらん」
盗賊「 モンスターが襲い掛かってきた! マンドラゴラは断末魔の叫びを使った! 」
勇者「やめろ!」
――ラミアの洞窟・最深部
C:キャサリン「……やられましたわ」
首領「 勇者は てこずったか」
C:キャサリン「いえ、一撃でしたわ」
F:ファニー「おい、マズいんじゃないか、それは」
E:エクレア「一発でヤラれちゃった……//////」クネクネ
A:アンジー「これは……ピンチの予感!」
B:ベラ「軽く言ってんじゃねー」
I:イングリド「首領、どうしましょうか?」
首領「 捕らえに いく」
E:エクレア「とうとうイクんですね……//////」カァァァ
D:ダイアナ「そっちじゃないっていうのに」
C:キャサリン「捕らえてどうするのですか?」
首領「 魔王さまに差し出して ほうびをいただく」ダラー
G:ガートルード「あーあー、よだれが」
I:イングリド「まさか、特別な働きをした者だけが頂けるという、あの超高級黒魔牛を!?」
首領「 あたり」
F:ファニー「おい、がぜんやる気が出てきたぞ、私は」
E:エクレア「ヤる気……//////」
H:ヘルメス「私も黒魔牛たべたいですっ」
首領「 もし勇者を捕まえられたら、その子にみそをあげる のこりは山分け」
全員「おお~っ!!」
ザワザワ「腿がいいなっ、私」「あー、霜降ってればどこでも」「おい、少しは分けろよ」ザワザワ「うしさんの珍味……//////」「あなたどうかしてるわ」ザワザワ「脳みそは頂いた、うっしっし」「つまんねーよ」「全く、まだ戦ってもいないっていうのに」ザワザワ「お前らうるせーぞ!」
首領「 ……来た。いざ、出陣」
今日の更新はここまでです
ずいぶん間隔をあけてしまってすみません
追記:登場人物や設定に質問がありましたら、できる範囲でじゃんじゃんお答えします
ラミアタソ達の画像はよ!
特にエクレア!
>>173
雑ですみませんが、イメージの手助けにでもどうぞです
ttp://www.uproda.net/down/uproda513613.jpg
――ラミアの巣
勇者「」…カッ
僧侶「とうとうここまで来たね」
盗賊「ひ、ふ、み、よ、全部で十匹か」
勇者「こいつらを倒して王都の平和を守る!」
僧侶「うん!」
盗賊「腕がなるってもんさ」
「おい、舐められたモンだな」
「まったくですわ」
「こっちは十人もいるっていうのに」
「やってやるんだからっ」
「……//////」
「これは……勇者!!」
「見りゃわかるだろっての」
「あー、今日はご馳走だな」ジュルリ
「おい後半、真面目にやれ!」
首領リリス「 ゆくぞ」
勇者「はああぁっ!」ブンッ
首領「 ふん」サッ
勇者「おりゃあっ」ヒュ
首領「 浅いな」サッ
勇者「ふっ!」グワァ
首領「 はっ」ブォン!
勇者「!」ガキィン
首領「 吹っ飛べ」ドゴォッ
勇者「――」
ガガガガッ!
勇者「ぐっ……」
「周りには目がいってないのかしら?」
勇者「!」
僧侶「あぶない!」バッ
ガキィィン!
勇者「ありがとう」
僧侶「あたりまえですよ、これくらい」
「後衛職に守られる勇者……くすくす」
「やめてやれよ」
勇者「」イラッ
「あーあー、勇者青筋立ててるぞ」
勇者「……。ふっ、はっ、おらぁ!」ザシュッドスッザンッ
ビシャシャシャシャッ
「うぐっぁ」
「きゃあああああああ」
「うわああっ」
勇者「……そっちはどうだ!」
盗賊「大丈夫だ!」
首領「 私も大丈夫だ」
盗賊「おい」
首領「 なに?」
盗賊「今のはお前が答えるところじゃないだろ」ハァ
首領「 まだまだ余裕だから」
盗賊「そうかよ、なるほどな!」ヒュ
首領「 !」
ザッシュ!
首領「 ……」ポタポタ
盗賊「これでも余裕はあるのか?」
首領「 人間ひとり、わけない」
盗賊「……言ってくれるじゃんかよ!」タタッ!
首領「 来い」
――――
僧侶「っはあっ、はあっ」
「えっちい吐息……//////」
「いいかげんウルセーぞ」
僧侶「――、ヒーリング!」シュワアア
「無駄話なんかしている暇がおありでして?」
「ウルセーな、分かってるよ」ズザザザ!
僧侶「!」
バキッ!
僧侶「がはっ」
「おらっ」グルグル…ミシミシミシ!
僧侶「ぅぐっ」
「これでも降参しない? いちおう付け加えておくけど、正当防衛だからね」
「ちょっとツライかもしれませんが、わたくし達も痛いのは嫌ですから。ごめんなさい」
僧侶(……話? 罠?)
「ねぇ……お話、しようよ……//////」
僧侶「誰が……そんな手にっ!」
「うわっと」
「まさか、抜け出すなんてそんなこと」
僧侶「覚悟してください!」
「うわ、ちょっ待」
僧侶「――――――――! 降り注げ浄化の光!」キィィン
ドオォォン!
「うああああ!」
「あああああああっ」
「ぁぁあんっ//////」
ドサドサッ
僧侶「…………勇者っ!」ハアハア
――――
勇者「ふんっ」ザシュ
「うあっ」バタッ
勇者「雑魚はあと一匹……」ジロリ
「ひ、ひっ」
勇者「……おい。」
「はは、はいっ!?」
勇者「お前、金目のもの持ってるか?」
「い、いえ、あの、その」
勇者「じゃあいいよ」ザン
「ぇ……」バタリ
勇者「……盗賊! 今加勢する!」
――――
盗賊「タフじゃねえか、お前」
首領「 ふん」
勇者「なんだ、まだ終わってなかったのか」
盗賊「お前が早すぎるんだよ」チャキッ
盗賊「……はあぁっ!」フヒュッ
首領「 甘い」サッ
勇者「おらあっ」ブン!
首領「 」サッ
僧侶「加勢します! ――――――、」キイイン
首領「 むんっ」バキィ
僧侶「つ、杖がっ」
首領「 ふっ」
盗賊「っぐっ」ズザザ
勇者「……ふあっ!」ドシュ!
首領「 !!」
ビチャチャチャチャ!!
勇者「尻尾刈り取ったり」
首領「 ……」ポタポタ
勇者「チャンスだ! 殺せ!」
ダダダッ
首領「 !」
盗賊「おらあっ」
僧侶「せいっ」
首領「 ……。ちっ」ヒュオッ
ガツン
僧侶「いたっ!? ……あ、あれ?」
盗賊「っつ。ごめん、僧侶。消えた?」
勇者「……テレポートだ」
僧侶「テレポート?」
勇者「瞬間転移魔法だよ。くそっ、これじゃしばらくは姿を現さないだろうな」
盗賊「あれだけ痛めつければそうだろうさ」
勇者「いや、違うんだ。並の人間が使ったら丸一日動けなくなるくらい消耗するんだよ、あの魔法は」
僧侶「……、じゃあ、見つければ止めをさせますね?」
盗賊「そこまでする必要はないだろ、勇者のほうが強いって分かってると思うし、もう出てこないだろうさ」
勇者「そうだな」
盗賊「いくら魔物だっていっても、さすがに可哀相だもんな」
勇者「僧侶の言う通りだ」
盗賊(えっ?)
勇者「盗賊の考えには反するようで悪いが、オレたちの仕事は『討伐』だ。王様にとってみたら、国を襲っていた魔物が一時退却したくらいじゃあ、解決とは言えないからね」
盗賊「あ、ああ、そうだな」
勇者「よし。そうと決まればさっそく探しに行こうか。僧侶、魔力の残り滓から追える?」
僧侶「まかせて!」
盗賊(……)
今日はここまでです。
区切りのいいトコまでと投下したら書き溜めがほとんどなくなったっ
――王国領内・山脈の小さいほら穴
首領「 」
勇者「こときれてるな」
僧侶「どうする? そのまま持っていくわけにはいかないし」
勇者「斬り落として、首から上だけ持っていけばいい。戦功を立てる常套手段だよ」
僧侶「そっか、なるほどー」
盗賊「……」
勇者「盗賊、手伝ってくれ」
盗賊「あ、ああ」
勇者「――よいしょっと」ゴキッ
僧侶「うまく外れましたね」
勇者「ああ。日が暮れる前に王様に報告しに行かなきゃな」
盗賊「……」
勇者「どうしたんだ、盗賊? 体調でも悪くなったのか」
盗賊「ああ、いや、平気さ。これくらい」
勇者「今日は帰ったら、報奨金でお前の好きなから揚げいっぱい食べられるよ。美味いもの食えば治るさ」
盗賊「ありがとう、勇者」
――魔王城・玉座
首領「 報告は 以上です」
魔王「ご苦労さま。ほら、報酬の超・高級黒魔牛11頭だ」
ラミア一同「やったぁ~!!」
首領「 まさか全員に下さるとは」
魔王「もちのろんよ」
側近「それにしても、歴代最強と目される勇者の目を欺くとは素晴らしい手腕ですね。まさか死体のフェイクを作ってやり過ごすとは」
C:キャサリン「いえ、側近様。あれは違いますわ」
側近「……?」
C:キャサリン「あの死体はフェイクじゃなくて、本物の首領の身体なのです」
側近「へ?」
C:キャサリン「つまり、ここにいる首領は、平たく言えばお化けなんですの」
H:ヘルメス「わ、わたしたちはテレポートが使えませんから、白魔さまを呼べず……なんとか精神だけでもと」
首領「 はい、そうなんです、お化けなんです」
魔王「……ええーっ」
白魔「ほんとだ、よく見たら透けてる……かも……」
首領「 オプションで、飛べるようになりました」
側近「……どうするんですか、それ」
首領「 これからは、ゴーストリリスとして生きていきます」
B:ベラ「首領、もう死んでます」
首領「 そうだった。てへぺろ」
魔王(てへぺろって)
側近(似合いませんね)
白魔「うーん……見た感じ、これじゃもう蘇生も効かないから、せめて対対霊攻撃のおまじない、あとでかけてあげるよ」
首領「 ありがとうございます」
魔王「さて、リリスよ。ゴーストリリスにレベルアップ(?)したわけだから、今日はお祝いパーティを開こうじゃないか」
白魔「魔王様、お葬式の間違いでは」
魔王「本人がまだ存在しているのに葬式も気まずいだろう。新手のコントかと思われるのではないか?」
首領「 私は魔王様のお気持ちだけで充分です」
魔王「しかしだ、生還祝い……葬式? にしてもなにもしないというのはなぁ」
側近「それならば、もう一頭魔牛を褒賞に追加するのはどうでしょうか」
魔王「ふむ、リリスはそれでよいか?」
首領「 不満などございません」
魔王「では一頭追加しよう、あとで届けさせる」
首領「 ありがたきしあわせにございます」
<「キャー」「さすが魔王様」「太っ腹ー」「あ! ちょっとその牛、私の!」「別に交換したって」「おいウルセーぞ!」ドタバタワーワー
魔王「……ところで、彼女たちはどうにかならないの?」
首領「 ……あとで シメておきます」
夕方――王城・謁見の間
勇者「――以上が、今回の件の顛末です」
王様「よくぞやってくれた。これで魔王もわが国に暫くは手を出せないであろう」
勇者「仰るとおりかと」
王様「して、この城に来たのはその報告のためだけではないだろう?」
勇者「は……」
王様「心配するな。国難というのは少し大げさかも知れんが、そうはいっても国の危機を遠ざけたのだ。きちんと褒美を与えよう」
勇者「ありがとうございます」
王様「よい。盗賊は来ていないようだが、彼女にも後で褒美を取らせる。その件を伝えておいてくれ。それで、そなたたちの望みは何だ?」
僧侶「そうですね……わたしは何かおいしいものがあれば、いただきたいのですが」
王様「それだけでいいのか、僧侶?」
僧侶「はい。わたしは神に仕える身ゆえ、金銭や権力などを求める欲望は持ち合わせておりませんから」
王様「ふむ……そうか。口に合うかどうかは分からんが、シェフに食事を作らせよう。それまでは城内で待っていてもらえるか」
僧侶「ありがとうございます」
王様「勇者はどのような褒美が望みだ」
勇者「大変恐縮ではありますが――」
夜――王都・街の隅の酒場
盗賊「ふぃ~……」コトッ
マスター「おかわりは?」
盗賊「もう一杯」
マスター「はいよ」
盗賊「……はぁ」
マスター「盗賊さん、元気ないね」コトッ
盗賊「元気も何もないってもんさ。あんなもん見ちゃあね」
マスター「ラミアの首領のことかい? 見たよ、広場で晒し首にされてたね。確かに気持ち悪くなるかもしれないが、盗賊さんたちの立派な手柄じゃないか」
盗賊「そうじゃないんだよ……」
マスター「?」
盗賊「なんでもない。あ、おつまみにから揚げ追加してくれ」
マスター「はいよ」
盗賊(俺だって昔は同じことをしていたんだ……勇者へどうこう言う資格はない)
勇者「こんにちわー。お、やっぱりここにいたか」カランカラン
僧侶「こんにちは!」
マスター「いらっしゃい。はい、盗賊さん」コトッ
盗賊「ありがとう」
勇者「オレも軽いのを一杯頼むよ」
僧侶「わたしはいいですー」ゲフッ
勇者「いくら褒美を下さったからって、食べすぎだよ……」
盗賊「僧侶はずいぶんたらふく食ったみたいだな」
僧侶「あはは」
勇者「城の人たちも目を丸くしてたよ」
盗賊「勇者はなにを褒美に?」
勇者「ああ、ちょっと図書館の禁書棚を調べさせてもらった」
僧侶「勇者くん、ぜんっぜんわたしのほうには来なかったけど、なに調べてたの?」
勇者「んー……特にこれといったものがあったわけじゃないけど、魔物の情報とか、伝説とか。冒険で役立ちそうなのをメインにね」
盗賊「魔王に関する記述とかか」
勇者「そうそう。だけどそういう本でも、あまり魔王自身についての記録はなかったな。取り巻きはけっこう詳しく記されてたんだけど」
僧侶「たとえば?」
勇者「『一瞬で一万人の首を切り落とす女魔剣士』とか『首が九つある漆黒の狂竜』とか、
『大地を業火で焼き尽くす大悪魔導師』とか……ほとんど誇張なんだろうけど、そんな感じのが」
盗賊「使う魔法とか、弱点とかも記されてるのか?」
勇者「弱点はあまりなかったけど、見た目とか技とか、対策方法は結構書いてあったね」
僧侶「へえーっ。いったい誰が書いたんだろう」
盗賊「当時の勇者の仲間とか、それを伝え聞いた学者とかじゃないかな。なんにせよ貴重な資料さ」
勇者「正確かどうかはわからないけど、使う呪文もそのまま書いてあったりするのがあったから禁書棚に移されたんだろうな。すごい本のオンパレードだったよ」
僧侶「すごいねー」
盗賊(魔王の情報がない、か。それは、過去の勇者たちが魔王のところまでたどり着けなかったということだろうか……それとも)
今日はここまでです。
今後再度更新が滞る可能性があります。申し訳ありません。
――王城
王様「勇者たちの働きのおかげで、魔王どもの戦力もいくらか明らかになったな。大臣」
大臣「連れ去られていた兵士たちも戻ってきましたしな」
王様「うむ。その者どもはラミアについてなんと言っていた?」
大臣「それが、幻惑か何かの魔法を掛けられていた様で、わけの分からないことを言っておりまして。おおむね要約すれば、ラミアどもを敵ではない存在だとか何とか」
王様「そうか……治療は済んだのか?」
大臣「はい、今ではしっかり敵味方を区別できるようになっています」
王様「なら良いのだ。彼らには充分な休暇を取らせてやれ」
大臣「仰せのままに」
王様「それから魔界へ派遣した兵士たちの件だがな、あのようなやせ細った魔の大地には既に用はない」
大臣「と、言いますと?」
王様「魔王の根城が丸ごとテレポートした以上、早急に転移先を知る必要がある。そちらへ人員をまわせ」
大臣「はい、陛下。……恐れながら申し上げますが、勇者たちにもその探索を任せてみてはどうでしょうか」
王様「無論そのつもりだ。まず手始めに移動の要となる港町へ向かわせ、その後は彼らに判断を任ずればよい」
大臣「陛下のご判断としては、この大陸内にはやはり転移していないのですかな」
王様「魔界の奥地に転移した可能性はある。だが」
大臣「ですが?」
王様「たとえそうだとしても、あれ以上の瘴気のなかに足を踏み入れればどうなるか分からないのだ。魔界との境界付近に充分な監視を設置しておくことが最善の策だろう。それ以外の未探索地は兵士に捜索させろ」
大臣「勇者以外にも他大陸へ送りますかな?」
王様「うむ、そちらは他大陸専属の格部隊から少人数で出しておけ」
大臣「仰せのままに、陛下」
王様「下がってよいぞ」
王様(……魔王への対策を一層講ずる必要が出てきたな)
――魔王城・玄関ホール
白魔「じゃあ、行ってくるね」
少女「……」バイバイ
側近「本当に二人だけで大丈夫ですか? やはり止めておいたほうがいいのでは」
白魔「大丈夫だってば。それに、側近もいくら人型だっていっても、『それ』はどうしても隠せないんだからムリだよ」
側近「幻術である程度は『これ』もなんとかはできますから、私も同行を」
白魔「もしそっちのレベルの高い術士がいたらどうするのっ。すぐ見破られて町が大騒ぎになっちゃうよ」
側近「ですが……」
白魔「いざとなったらテレポートとか、アンチマジックシールだってあるんだから」
側近「そこまで言うのなら……。でも白魔、油断はしないで。もといた町でないとはいえ、少女ちゃんの顔が知られている可能性は十分にあります」
白魔「うん。フードも被ってもらうし、黒魔道士・素顔隠蔽用の簡易幻術マスクもちゃんとあるよ」ピラピラ
側近「……黒魔のですか?」
白魔「? そうだよ」
側近(いまいち信用できませんが、まあいいでしょう。あの糞野郎もこういうみみっちい技術だけは一流ですしね)
側近「本当に、気をつけてくださいね」
白魔「ん。夜までには帰ってくるよ」
少女「くるよ」バイバイ
側近「わかりました。行ってらっしゃい」
白魔「いってきまーす」バイバイ
魔王「……行った?」
側近「魔王様。もう準備はお済みになったのですか?」
魔王「うむ。――それでは、例の施設の探索を始めようか」
側近「はい」
※アンチマジックシール……魔法を封印する術に対して抵抗する能力を持つ物、人、などの総称。
――町・大通り
黒い覆面を被った少女「……」ビクビク
白いローブの魔道士「黒魔ちゃん」
少女「……」キョロキョロ
白魔「黒魔ちゃん?」トントン
少女「!!」ビクゥッ
白魔(怖がらないで、おちついて。今のあなたは『少女』じゃなくて、『黒魔』なんだから、大丈夫だよ)
少女「……うん」
白魔「私はどんな時でも味方だから、安心して。手、繋ご」
少女「……」コクリ
白魔「うん。――それでね、今日行くところなんだけどね。『魔道具』ってなんだかわかる?」
少女「」フルフル
白魔「分かりやすいところで言えば、あなたがこのあいだ魔王さまに渡した道具ね」
少女「あれが?」
白魔「うん。使うと魔法が現出するもの、魔法を封印するもの、とかの魔法を使役するための道具をまとめて魔道具って言うの」
少女「きょうはそれを買いにきたの?」
白魔「少女ちゃんの修行用にね。今日買うのは、魔法を扱いやすくするための道具だよ。魔道士はよく杖、箒とか指輪を持ってるイメージがあるでしょ?」
少女「そういえば」
白魔「使い慣れた道具があればどんなときでも安定して魔法が使えるから、その練習でもあるの」
少女「白魔お姉ちゃんはどんなの?」
白魔「私? 私はね、なんとっ! このローブです♪」
少女「えぇっ、それもまどうぐだったの」
白魔「びっくりした? ……別に魔道具がなくても魔法は安定して使えるんだけど、なかったらないで落ち着かないのね」
少女「自分でつくったの?」
白魔「ちょっと難しかったけど、作り慣れればこれくらいはすぐできるようになるよ。自分に合ってると既製品よりも使いやすいから、店で買うのをやめちゃう人も多いみたい」
少女「すごい。わたしもできるかな」
白魔「どうかなー。たぶん、今は修行がたりませんっ」
少女(やっぱりかぁ)
白魔「あなたのはどんなのがいいかなー。よくある形のでもいいけど、オーダーメイドなら自分専用の魔道具も作ってもらえるんだよ」
少女「せっかくつくって貰えるなら、なくさないものがいいなぁ」
白魔「心配なら、無くしてもなんとかなる既製品でも、もちろんおーけーっ」
少女(それはだめなきがする)
白魔「あっ、そうだ。今向かってるお店は、看板にたがねを持ったコンドルがでっかく描かれてるから、覚えておくといいかも」
少女「……これのこと?」
白魔「あっ、とと。通り過ぎちゃうところだった、えへへ……そう、ここがそのお店ですっ」
少女(なかが暗くてみえない。ひかりがはいってこないのかな)
白魔「――お邪魔しまーす」カランカラン
濁声の禿頭男「いらっしゃい。白魔ちゃんか」ジロリ
少女「!」ササッ
白魔「ありゃりゃ。怖がってる」
禿頭「なんだ、気の小せえ子供だな」
白魔(さっき話してる間は大丈夫だったみたいだけど、これでもよくなってきてるのかな?)
少女「……」ギュゥ
禿頭「その子が、以前言っていた子供か?」
白魔「うん。黒魔ちゃん、このおじさんは大丈夫。優しい人だよ」
少女「ほんと?」
禿頭「いいや?」
少女(ええーっ)
白魔「おじさん、あいかわらずー」
少女「……おじさんが、わたしの『まどうぐ』を作ってくれるんですか?」
禿頭「場合による」
少女(ええーっ)
禿頭「なに驚いてる、特殊な魔力の持ち主でもなきゃわざわざ作成したりしねえよ。その辺の魔道士なんぞぁ既製品で充分だ」
白魔「うーん、この子はもしかしたら特殊かも」
禿頭「わかってらぁ。じゃなきゃわざわざ引き連れてこねぇだろが」
白魔「さすがおじさん、お見通し」
禿頭「ほらそこの、まぁ座れ。ホレ、椅子だ。どっしり構えてろ。すぐ終わっから」
少女「え、えっと、おねがいします」
禿頭「とりあえずそれ、そのマスク脱げ。そんな幻惑魔法だのなんだのがめっちゃくちゃに織られてるモン付けてちゃ、モトの魔力がなんだか分かんねぇよ」
少女「はっ、はい」スルッ
禿頭「……ふむ。一応聞くが、その角、アクセサリか?」
少女「……」フルフル
禿頭「それなら、お嬢ちゃんは鬼人族とか魔族とかか?」
少女「ごめんなさい、わからないです」
禿頭「そうかい。お嬢ちゃん、今から言うとおりにしてくれ。まず、そこのそれを……」
白魔「~~♪ あ、この箱かわいいー」
今日はここまでです。
もうそろそろ更新しないとですね
書き溜めは沢山あるから半分くらい投下するよ
――
禿頭「――ふーん。なるほどねぇ」
少女「……?」
白魔「あ、終わった? 少女ちゃんどんなタイプだったのか気になるなー」
禿頭「どうってこたぁねぇ。素晴ぁらしいことに、平々凡々の平凡ど真ん中だよ。この子ぁ」
少女(それ、いいことなのかなぁ)
白魔「ふんふん、それで?」
禿頭「あんまりに偏ってる属性も特になし、得意な魔法体系もこれといってねぇな。精々ちょびっと無とか暗黒属性寄りなくれぇだろ」
白魔「うんうん。続きは」
禿頭「……もう無ぇよ」
白魔「えー」
禿頭「えーじゃねぇ、そういうモンだよ。変にクセがあるよか全然良いだろが。魔力の流れ方だって普通の人間と変わんねぇ
し」
白魔「……それじゃ」
禿頭「ん?」
白魔(それじゃ、やっぱり角はまるっきり飾り物なの?)ボソボソ
禿頭(ああ、細工でもしなきゃまんま普通の人間だよ。俺も話し聞いた時はちょいと期待と好奇心があったもんだけどよ)ボ
ソボソ
少女「?」
白魔(『細工』、っていうのは、角に魔力が流れるようにするってこと?)
禿頭(そうそう。そういう事だよ)
白魔(もし細工したらどうなるの)
禿頭(まぁ、精々鬼の種族が使えた古代魔法が使えるようになるくれぇだ。いきなり強くなるだの化けるだのってお決まり
のパターンぁねぇな)
少女(あ、この指輪きれいだな)
白魔(鬼の古代魔法? ムダな棍棒をムダに無限に掌から作り出すアレとか?)
禿頭(あぁ、そういう奴だ。みんな役に立たねぇの。しかもそっちにばっか魔力が行って、人間の魔法が使えなくなる可能性
すらあらぁな)
白魔(一応古代魔法系の文書は古ーいのもうちにはあるけど……鬼の魔法は最上級クラスで人間の中下級のそれと変わらない
からなぁ……)
禿頭(基本的に肉体派の魔物っつーことだしなぁ。わざわざ下手なことしないほうがいいんじゃねぇのか)
少女「♪」
白魔「でも、それはあの子が決めることだよ」
禿頭「まぁな。……おいお嬢ちゃん、ちょっと来てくれ!」
少女「っ、は、はい」ビク
禿頭「今から魔導具をお前さんに合わせるための大事な質問をするから、よく聞け。――その角、お前はどう思っている?」
少女「! ……」
少女(……このつの、は)
――
――――
**『おい、また《角持ち》が来たぜ』
**『おにおんな! どっかいけ!』
**『気持ち悪いんだよ、あんたは』
**『また来てるよ、よくあんな残飯なんか食えたもんだね』
**『こいつ殴って遊ぼうぜ』『いいね』『すぐ気絶すんなよ? つまんねーからな! ギャハハハ!』
**『寄ってくるんじゃねえ、ゴミが!』バシッ
――――
――
少女「……」ギュッ
――
――――
**『はぁぁー。なんど言ったら分かるわけ? お前、臭いんだよ。近寄んな』
**『早くこの村から出て行け』
**『さっさとくたばれよ。オレを誰だと思ってんだ? ああ? オレの剣をこんなにしてくれてよ!』バキッ! ドゴッ!
**『ガキでも穴はあんだよな。やっちまうか?』グイッ『おいおい、冗談だろ? こんな小汚いゴミだぜ?』『もっといい女なんてそこら中にいるだろが! ブハハハハハ!』
**『いなくなってくれないかねえ……ああ毎日うろつかれるとちょっとねえ』『子供たちの教育にもよくないですものね』『全くねえ』
**『おめえ、ちょおどいいところにきたな。こっちこい、おれのつるぎの試し切りさせろよ、ぐへへ』
――――
――
少女「…………」ギリギリ
――
――――
**『あいつのつのに当てたら10てんな!』ビュッ!『あ! おしいなあ』『つぎおれだかんな!』『おれにもなげさせろよ!』
**『魔物め。はようこの村から出てゆけ。ここは貴様がいていい場所ではない』
**『気持ち悪い角だぜ。どうせ魔物なんだ、チンタラしてないで早く殺しゃあいいのによ』『誰が片付けるんだよ、死んだらクセエだろ』『生きてたってくせえよ! ギャハハハハ!』
**『てめえのその角、へし折ってやるよ! ありがてえだろ!』ガンッガンッ
**『気持ちわるー。また血だらけになってるよー』『いいじゃん、放っとこうよ』『あんなのに関わってたら時間の無駄だもんねー』
**『生きてる価値ねえんだよ』
**『死ね。』
――――
――
少女「っっ!」ポロポロ
白魔「え、しょうじょ、ちゃん?」
少女「っぅ、っく」
白魔(つらいこと、思い出しちゃったのかな)
白魔「泣かないで、だいじょうぶ、だいじょうぶだよ、私がついてるから」ギュウッ
少女「ぁ、」
――――私は、どんな時でも味方だから、安心して。
白魔「だいじょうぶ……、大丈夫だから……」
少女(そう、だ、白魔お姉ちゃんは……、魔王城のひとたちは、きっと違う)
少女(みんなみんな、わたしをくるしめてきた。ずっと、わたしの居場所なんて、だれも用意してくれなかった)
少女(でも、魔王城なら、魔王城ならわたしの居場所があるんだ)
少女(この角だってあんなに嫌われてたのに、魔王城のひとはみんな、綺麗だって、かわいいって、ほめてくれた)
少女(あんなにきらいで、なくなっちゃえっておもってたのに……だんだん、そうじゃなくなってきた)
少女(だから、この角でなにかができるなら、)
少女「……………………わたし」
白魔「どうした、の? 嫌なこと、思い出しちゃった?」
少女「……だいじょうぶ」ゴシゴシ
禿頭「で、どうなんだ」
少女「好きじゃないです。つらいことがたくさんあったから。でも」
禿頭「ふむ?」ギロリ
少女「この角をばかにしたひとたちを、
角があるだけでわたしをゴミみたいに思ってたひとたちを、
それだけでわたしなんか死ねっていったひとたちを、いつか
――みかえしてやりたい」
禿頭「…………」
白魔「……少女、ちゃん」
禿頭「分かった」フゥー
白魔「!」
少女「わたしは、どうすればいいですか?」
禿頭「いくつか選べる。一つ目、わざわざ魔道具に頼らねぇ。二つ目、普通に魔道具で能力を高める訓練をする。三つ目、――お嬢ちゃんのその角に細工を施して、魔道具にする。お嬢ちゃんは、」
少女「はい。みっつめでおねがいします」
禿頭「ああ、奥に空きベッドがあるから来い。白魔ちゃんはどうする? ここにいるか?」
白魔「ううん。……少女ちゃんと一緒にいる」
禿頭「それがいい。ついて来な」
――地下施設・制御室
魔王「なるほど」
側近「なるほど」
ゴウンゴウンゴウン…
魔王「この装置が大元か」
側近「でしょうね。あの魔導人形の魔力はおおかたが例の装飾品を通してこちらにまわされていたのでしょう」
魔王「膨大な魔力を作り出しつづける人形の役割にはぴったりだな」
側近「ええ」
魔王「……歴代勇者と魔王のデータ」
側近「いったい誰がこんな趣味の悪いものを考えたのでしょうね。勇者のクローンを作って生に近い情報を保存しておこうなんて」
魔王「普通の頭を持っていたら、こんな物に熱意を注ごうとはしないだろうな」
側近「あ、魔王様。みてください、わざわざ戦闘シミュレーション装置まで据え付けてありますよ」
魔王「やってみたい」
側近「恐らく、歴代の魔王様との戦闘をシミュレーションできると思われますが」
魔王「やっぱりやめておこう。武闘派の魔王なんかに当たったら一瞬で負けそうだ」
側近「ご冗談を」
魔王「ほんとだって」
側近「それよりも。この施設、どうしましょう」
魔王「うーむ。失われた技をさらに失くすのはもったいないとは思うが、悪用されたらたまらん。埋め立てて封印するか」
側近「分かりました。それでは、装置の主核を破壊します」
魔王「任せた。とりあえずいちばん底の階から泥で埋めてくから、上手く壊し終わったら呼んでね」
側近「はい、魔王様」
魔王「――これでよし。後は制御室だけか」
側近「魔王様、バックアップのミラーに至るまで全ての破壊を済ませました」
魔王「ちょうどよかった。いま埋めに行こうと思っていたところだ」
側近「勇者のクローンはどうしますか?」
魔王「可哀相だが、災いの芽は摘み取っておくべきだろう。彼らもこんな形で生を受けるのは不本意なのではないか」
側近「……そうですね」
魔王「成仏してくれよ。――――――、――、息絶えろ」
ゴボッ…
側近「安らかに眠ってくださいね」
魔王(このアクセサリも、一緒に封印せねばならんか)コトリ
――魔王城・玉座
魔王「あ"ー、気疲れした」
白魔「あ、魔王様おかえり」
少女「おかえりなさい」
魔王「ただいま。――ん?」
側近「どうされました?」
魔王「少女、その角」
少女「はい。『まどうぐ』にしてもらったんです」
魔王「細やかで綺麗な細工と刺青ではないか。見栄えがするな」
少女「……//////」
魔王「しかし、なるほど。魔道具か。面白い着想だな」
側近「確かにとても美しいですね。少女ちゃん、……角は隠さないことにしたのですか?」
少女「はい。ここにいるかぎり、きっとだれにもひどいこと、されないから」
側近「もちろんですよ」
側近(こういうところでプラスの発言をして好感度を稼いでおけば……この子を通して白魔といっそう濃密な関係に……ふふ)ダラー
黒魔「まぁーたヨダレ垂らしてやがる。相も変わらず汚ねぇ野郎だ」
側近「き、貴様、いつからそこに」キッ
黒魔「それにしても、腕のいい魔道具屋もいるもんだ。お前の魔力にピッタリ合わせて造形してあるっぽいし」ツンツン
少女「そ、そうなんですか?」
側近「おい、無視するなゴミ虫」
黒魔「こんだけいいモン持ってりゃ、魔法の上達も早くなるんじゃねえか。良かったな」
少女「ほんとうに!?」パァァ
側近「おい」
黒魔「ちょびっとかもしれないけどな」
少女(ええー)
白魔「あのね、店のおじさんいわく、『今までに最高の出来かもしれん』だってっ。それでね、人間の魔法に加えて鬼の古代魔法も使えるようになったみたいなの」
黒魔「鬼の古代魔法。あのほとんどが役に立たねえ謎の魔法体系か」
白魔「黒魔くんならまともなのも知ってると思って」
黒魔「もちろんだ。……まともでかつ有名なところでいえば、身体強化、衝撃波、武器練成ってところか? どれもレベルが高ければ使いやすい魔法だが、高位になるほど習得速度がネックになるな」
少女「どれくらい?」
黒魔「超がつくほど頭のいいオーガで五から十年くらいじゃないのか」
少女(そんなに!?)
黒魔「純粋なオーガほど脳みそ筋肉くんだからな。魔法として文書に残されてんのが奇跡なくらいだ」
白魔「じゃあ、少女ちゃんなら」
黒魔「そこまでの時間はかからないだろ。飲み込みが早けりゃ使うぐらいはすぐだ」
少女「よかったぁ」
黒魔「これがまた制御って話になってくると別だぜ。その角も相当にいい魔道具になってるけどよ、自在に魔法を扱えるかどーかなんてのは魔道士しだいだからな?」
少女「は、はい」
黒魔「まあ、地道にやるしかねえよ」
白魔「……そういえば、側近どこいったんだろ?」
魔王「なんかブツブツいいながら、さっき飛んでった」
――半月後
――港町・宿屋
勇者「ふぅっ」ゴトリ
僧侶「あ、勇者くんみてみて! 窓から海が見えるよ」
勇者「本当だ。いい眺めの部屋じゃないか」
僧侶「こんな安くていい宿屋さん探してくるなんて、さすが勇者くんだね」
盗賊「……」
勇者「さて、これからの予定だけど、この町からは海を渡る船がいくつか出てる。快く乗せてくれる人たちが見つかるまで滞在しよう」
僧侶「おおー」
勇者「それまでは各自休養。ここに来るまで結構モンスターも多かったし、ひとつ巣も潰してきたしね。疲れてるって感じなくても、きっちり休んだほうがいいよ」
僧侶「前のまちからけっこうあったもんねー」
盗賊「……」
勇者「盗賊? どうしたんだ、ボーっとして」
盗賊「ん? あ、ああ。休養な。俺は物見遊山にでも行ってくるからさ。ついでに途中で見つけたもろもろも売ってくるよ」
勇者「ああ。オレは武具の手入れしてるから、まだしばらくはここにいるよ。良かったら盗賊のもやっておこうか」
盗賊「大丈夫さ、毎日やってるから」
勇者「そうなのか。気付かなかったな」
僧侶「わたしは勇者くんといっしょにいますー。いってらっしゃい、盗賊さん!」
盗賊「ん」ヒラヒラ
――港町・大通り
ザワザワ ラッシャイラッシャーイ
盗賊(……ふー)
盗賊(坂の下に海が見える。このあたりの水はずいぶん綺麗だな)
盗賊(あらためて見ると、なかなか活気のある町だ)
オニイサン、スケイルメイルカワネーカ?
イヤ、イイヨ
盗賊(ここは多分、いちばん大きい通りだな。そこかしこに旅人や観光客向けの店が並んでる)
盗賊(……裏通りはどうだろう)
「お、見かけない可愛い子が居るね」
「お嬢ちゃん、一人?」
「見たところ旅人さんみたいだし、俺らに旅の話聞かせてくれないかい?」
「悪いことしようってわけじゃないから、ちょっと相手してもらいたいな」
盗賊(ちょうどいい。この兄ちゃんたちにいろいろ聞いてみるか)
盗賊「私ですか?」キャルン
「うんうん、よかったらこの町も案内するよ」
「いい魚料理を出す店があるんだ。もちろん御代はこっちが持つからさ」
盗賊「ありがとう! よろしくお願いしますね」ニコッ
「……(可愛い)」
「……(可愛いな)」
「まあ、そう来なくっちゃな!」
「お前それ、下心まるだしだぞ。ハハハハ」
「う、うるせーっ」
盗賊(賑やかな奴らだ)
――港町・料亭
(以下、男A)「へえーっ、見かけによらず強いんだな」
盗賊「よく言われます」
(以下、男B)「それでこの怪しい男の話にも乗ってきたわけね」
男A「誰が怪しい男だ!」
男B「誰がどう見ても怪しいだろ」
盗賊「くすっ。お二人とも、面白い方ですね」
男A「そ、そうか? ははは」
盗賊「ところで、お二人はこの辺りにお詳しいのですか? よかったら、おすすめのお店とか、どこが危ないところだとか、どんな人に気をつけろとか、いろいろ教えていただきたいのですけれど」
男B「危ない奴っつったらまず筆頭候補はコイツだな」
男A「うるせー! ……まあ、そうだな。おすすめの店は後で一緒に見て回ろうか」
盗賊「いいんですか?」
男B「頼めば何か買ってくれるかも知れないな」
男A「……。それから、危ない所はいくつかあるが、まず小さいほうの岬。
大小二つあるんだが、小さいほうは柵やなんかも無くて、けっこう危険だ」
男B「ま、結構遠いし目ぼしいものもないから行くこともないだろうな」
盗賊「他にはありますか?」
男A「治安、って意味でならこの町はほとんどどこもいいけど、たまに悪いところもある。
たとえばこの大通りを西に進むと、建物が密集してる日の当たらない網目状の路地があって、そこがスラム街になってるな」
男B「あとは、町の北の端のほうは近づかないほうがいい。ギャングや海賊の住処だのがいくつかあるからな。
近づいて行方不明になる人間も多くはないが、いる」
盗賊「分かりました。ありがとうございます」
男B「まあ、君くらい腕が立つなら死にはしないんじゃないか」
男A「確かにそうかもしれないけど……。お嬢ちゃんは絶対、近づいちゃダメだよ!」
盗賊「お優しいんですね」ニコッ
男A「! ま、まあな!」ドキドキ
男B(……カンペキ惚れちゃってんな、こいつ)ハァ
盗賊(ギャングの住処、か)
男A「それで、そのギャングが又な――」
――港町・宿屋
盗賊(結局暗くなっちまったか)
盗賊(あの二人、結構いい奴らだったな。晩飯までおごって貰ったしさ。美味い魚のから揚げだった)ゲプッ
盗賊(でもやっぱり女声はきついな。もう今日は声が出ないか?)
盗賊(ノックして開けてもらうか。確か一番はじのこの部屋が僧侶で、隣が勇者と俺……)
「――、――――――!」
「――――。――」
盗賊(……ん?)ピタッ
「っはっ、――よ、――ん、っ、――えって――よ! あぅ――」
「――――って。――」
盗賊(……おいおい)
「――――!」
「――!」
盗賊(…………もしかしたら二人ともいるかもしれないし、あの兄ちゃんたちの薦めてくれた酒場、行くか。)
今日はここまでです。ずいぶんと間を空けてすみません。
だんだんと投下ペースを戻していきたいです。
――港町・議場内ホール
勇者「では、そのギャングを討伐すればよろしいのですね」
議員「はい。先ほどものべたように、我々としてもほとほと困っておりまして」
議員「ここ最近はとくにその非道が目立つんだ」
議員「私達からの援助は何か必要か? 討伐人員のほうはきついが、物資であれば補給できる量は少なくはない」
勇者「ではお言葉に甘えて、いくつか保存食や飲み水等をいただけますか」
議員「うむ。質のいいものを探しておこう」
勇者「ありがとうございます。提示された条件を含め、ご依頼を受けさせていただきます」
議員「ありがとうございます、勇者さん」
勇者「いえいえ。魔王討伐に限らず、困っている方がいらっしゃったら助けるのが私たちの仕事ですから。では、失礼いたします」
バタン
議員「ふむ。なかなかよさそうな青年ではないか」
議員「そうかい?」
議員「なにせほぼ無報酬でギャング討伐を請け負ってくれるくらいだ、おそらくそうとうに腕もたつうえ、懐の大きい方だな」
議員「ええ、まったくです」
――港町・宿屋
イッテラッシャイマセー
僧侶「いいんですか、その依頼を受けて」
勇者「どうして?」
僧侶「だって勇者くん、お金になりそうじゃなかったら討伐依頼なんて受けないと思ってたのに」
勇者「はは、僧侶はなにを言ってるんだよ。上手くいけばここの議会が信用してくれるようになるし、食料を貰う約束もとりつけてきたのに」
僧侶「あっ、そっか」
勇者「……真面目にうけとらないでよ」
僧侶「だって、冗談に聞こえなかったもん」
勇者「えー」
盗賊「もちろん、ギャングの財宝もこっそり持っていくつもりなんだろ?」
勇者「盗賊まで……。まあ、たしかにちょっとは貰っていくけど」
僧侶「勇者くん、せこーい」
勇者「もう勘弁してよ、僧侶ー。どんどんオレの勇者的イメージが」
僧侶「そんなのずいぶん前からなくしてるのに?」
勇者「」ズーン
――港町北
勇者「だんだんさびれてきたな」
僧侶「道も舗装されてませんし、建物もぼろぼろですね」
盗賊「人の気配もあまりしない。ちょうどこの辺りが境界線か」
勇者「――じゃ、進みながら作戦会議と行こうか」
僧侶「さんせー!」
勇者「まず、ここのお偉いさん方から聞いた話によると、ギャングの勢力は大きく分けて三つ。そのうちの一つは控えめな規模だ」
僧侶「ふむふむ」
勇者「だけど、他の二つと比べて全く劣るわけでもない。場合によってはその二つにも勝てるだろうね」
僧侶「どんな場合ですか?」
盗賊「大きいギャングどうしが争っているとき、だな」
勇者「うん。だからギャングたちは今、拮抗状態になっているはずだよ」
盗賊「先に手を出せば自然と守りは薄くなるからさ、残ったギャングはそこを狙ってくるわけだ」
僧侶「なるほどー」
勇者「ここでポイントになるのは、三つ目のギャングが他と比べて小規模だってこと」
僧侶「どうしてですか」
勇者「正確にどれくらいかは実際に見に行くけど、」
僧侶「み、見に行くの?」
勇者「こっそりね。……見に行って、そこですぐに潰すかどうかを考えるんだ」
盗賊「他のギャングが攻め込んでこないうちに、ってことか」
勇者「実際、もし小規模でも大きいほうとやりあえるのなら、錬度はけっこう高い可能性がある。初めの一手がいちばんの正念場になるだろうね」
僧侶「じゃ、じゃあ、勇者くん。もたもたしてて他のところが来ちゃったらどうするの?」
勇者「混乱に乗じて両方の戦力を削るよ。どうせ、残りの二つも後から潰すわけだしね」
盗賊「勝算はあるのか?」
勇者「もちろん。……ほら、これ」
僧侶「小瓶に回復薬がはいってるだけにしかみえないけど、勇者くん、それなに?」
盗賊「お、おい、そんなもんをこの狭いボロボロの市街地で使ったら、」
勇者「さすが盗賊、見ただけでわかるのか」
僧侶「??」
盗賊「……仕事やってたころ、嫌ってほど見てるからさ」
勇者「そうか。ま、それはさておき。そろそろ……ほら、ギャングの本拠地第一号が見えてきたよ」
――魔王城・兵隊舎広間
少女「――えっ、そうなんですか。すごいです!」
「そうそう、それでさー。もう――が――で大変でねー」
少女「ぷっ、くくくっ」
「――なんて、――だってさ!」
少女「きゃはははは! んっ、うふふっ、あはははは!」
「ハハハハハハ!」
「マジかよー!」
「それなんだけどさー、私、こんな話知ってるよー。あのねぇ――」
白魔「おーい、少女ちゃーん」
「あ、白魔さまこんばんはー」
「わー、白魔さまだー」
「白魔ちゃんいつ見てもかわいいなぁ」
「お前なにぬかしてんだよ、ハハハ!」
少女「白魔お姉ちゃん、こんばんは!」
白魔「……お姉ちゃん、ともだちのいっぱいできた少女ちゃんがねたましいぞぉーっ」
「何言ってるんスか、ここにいっぱい居るじゃないですか!」
「あんたは無理があるでしょ」
「ハハハハハ! まったくだ!」
「お前らひでーよ……けど俺はへこたれねーぞ」
少女「そ、そんなことないよ! (見たまま、白魔お姉ちゃんの人気はわたしとくらべものにならないのになあ)」
白魔「あ、そうそう。少女ちゃんちょっときてくれる?」
少女「えっ。もしかして」
白魔「そうなのです、ついに出来ました!」
――魔王城・白魔の部屋
少女「うわぁーっ……」
白魔「着ごこちはどう? そのケープ、ちょっと大きかったかな」
少女「ううん、そんなことないよ。白魔お姉ちゃん、ありがとう!」パァァ
白魔「どういたしまして。……えっと、そのケープにはね、『状態異常無効』『魔力自然回復』『防御力上昇』の魔法が織り込んであるから、ちょっとくらいの戦いならなんでもなくなるの。でも、危ないことはあんまりしないでね」
少女「すごい」
白魔「あとはなんだったかなー。『汚れ反射』とか『紫外線ひかえめ』とか、『気温調節機能』とか……」
少女(むだにこうきのうなオプションが)
白魔「あと『念話機能』とか。――あ、そうだ。いちばん大事なのがあった」
少女「?」
白魔「『フードの中を隠す幻術』」
少女「! それって、」
白魔「うん。人間の町へ行くときのために。黒魔くんのマスク、けっこう息苦しかったでしょ」
少女「……ありがとう。」
白魔「それじゃあ、今日の魔法の練習もかねて、さっそく使い心地を試してみる?」
少女(いまから!?)
――魔王城・中庭
少女(いつ来ても、そらが綺麗だな)
側近「準備はいいですか? 状態異常魔法をいくつか撃ってみますが、もし状態異常になってしまっても恨まないで下さいね。では行きます」
少女「はい」
側近「――――! 毒せ!」
側近「――――! 眠れ!」
側近「――――! その手足を縛れ!」
側近「――――――! 口結び!」
側近「――――――! 鈍化!」
側近「――――――! めしいろ!」
側近「――、――! 老化来れ!」
側近「――――、――! 不浄の光!」
側近「……どうですか? なにか身体に変化はありますか?」
少女「ううん、なんともないです」
側近「さすが我が愛しの白魔ですね。こんなにも耐性のある防具を作り出せるのはやはり我が愛しの白魔だけです。
なんど見てもすばらしい出来のものを、まるで普通の服を作るみたいに……さすが我が愛しの白魔ですね。」
少女(三回もいった!)
白魔「うん、ちゃんと織り込んだ魔法も働いてるみたいね」
少女「これからは、魔法をつかうときはつけてたほうがいいのかな」
側近「いえ、難しいところですね」
少女「どうしてですか?」
側近「初めからそのケープに慣れていたら、『実戦でケープが破壊された時』、あなたは慣れない状態のなかで戦うことになります」
少女「……あ」
側近「気付きましたか? ケープに頼ることに慣れきっていたら、状態異常魔法を撃たれたとき、魔力が枯渇してしまったとき、物理攻撃をされたとき。こういった状況に対応できなくなってしまいます」
白魔「私たちも出来るだけ気をつけるけど、少女ちゃんが単独行動になるってこともあるかもしれないからね」
魔王「魔法を極め、見返してやりたい奴らがいるのだろう?」
少女「あっ、魔王さま。こんばんは」
魔王「非戦闘分野で名を残すのもいいが、伝説に名を残すような魔術士はほとんどが文武両道だからな。戦う、ということは魔法の上達を早めてくれる。ちゃんと実証されているんだ」
側近「本物の戦闘は、自分の命がかかっていますからね」
少女(そっか、そういわれてみれば)
魔王「それにせっかく魔法が使えるのだ。自分の身を自分で守れるようになっても、なにも損はないだろう?」
白魔「私は、危ないことはあまりして欲しくないけど……でも、少女ちゃんが戦えるようになりたいなら、どんな手伝いでもするからねっ」
側近「とはいえ、焦って決めることはありませんよ。いろいろやってみて、それからどうするかを決めるのも立派な方針です」
少女「はい。わたし……どうしたいのか、よくかんがえてみます」
魔王「うむ、精進しろ」
白魔(少女ちゃんもすっかり馴染んで、前よりもすごく喋るようになったなぁ)
白魔(城のみんなとも仲良くなったし)
白魔(生贄……。最初はどうなるかと思ったけど、本当に良かった)
側近「ところで白魔」
白魔「なに?」
側近「私の分のローブは用意していないのでしょうか」
白魔「あれ? 前に何着か作った気がするんだけど、まさか全部ダメになったってことは」
側近「とんでもない! 着るのがもったいなくて。もらったのはいろいろ用途別にしてあるのですが、たとえば観賞用、保存用、白魔ぐるみ用、保存用の保存用、それから……」
白魔「……」ハァ
少女(側近さん……。)
魔王「だめだこりゃ」
今日はここまでです。
現在携帯から書き込んでいます。
PCはネットが切断されていて、プロバイダへの連絡等問題解決に時間がかかる状態です。
そのため一度携帯へテキストをコピーしてからの書き込みとなりますので、
不慣れなところがありますがご了承ください。
――港町・ギャング(小)アジト
「がはっ」
勇者「それで? どこにたんまり溜め込んだ宝を仕舞ってあるのかな?」
「し、知らねえ……」
勇者「じゃいいや」ブンッ
ドサッ!
「うぐっ」
勇者「お前は? 知ってるか?」
「……し、知って、る……」
勇者「どこなのか案内してくれない? ああ、その足じゃ歩けないか。連れてくから、ほら」ガシッ ズルズル
「い、っかい地下に、下りて……げほっ」
勇者「地下への階段は?」
「そこ、をみ、右にいって、まっすぐ……」
勇者「なるほど、こっちに曲がって、そのまま進む、と。で?」
「その、ロ、ッカーの……下に、ある」
勇者「これか。よいせっと」
ゴガァァン!!
「……、(大人の男が四人がかりでも動かせないものを、片手で……)」
勇者「この蓋を取ればいいんだな。よっと」
「そ、れには、げほっ、鍵が、ひつ……」
バキィッ!
勇者「ん、どうした? 道が思い出せなくなったのか?」ポイッ ガランガラァン…
「……い、いや、大丈夫、だ……(……化け物め…………)」
勇者「そうか。……うーん、ずいぶん狭いな。これじゃ連れて行けなさそうだから、先に道順を教えてくれ。これも善良な市民のためなんだよ」
「分、かった、……」
勇者「うん、物分かりのいい人は好きだ。ただ、もし出任せだったら……後が怖いよ? できるだけ正確にね」
「……ああ……」
勇者(さて、そろそろ僧侶たちのほうもいい頃合かな)
――港町・ボロボロの小道
僧侶「盗賊さん、勇者くんに言われたとおりに仕掛けおわりましたよー」
盗賊「あ、ああ。それじゃ急いでこっちに来てくれ」
僧侶「この、触媒? はどうすればいいんですか?」
盗賊「えっと、そうだな、落としたら危ないからさ、気をつけて持ってて」
僧侶「はい。……あの、盗賊さん。勇者くんも盗賊さんも分かってるみたいですけど、これ、なんですか?」
盗賊「爆薬だよ」
僧侶「ばくやく?」
盗賊「僧侶も、高位の魔術士や魔物が使う爆発魔法は知ってるよね。爆薬はそれを誰にでも使えるようにした道具さ」
僧侶「えええっ!? あ、あの恐ろしい魔法をですか」
――港町・ボロボロの小道
僧侶「盗賊さん、勇者くんに言われたとおりに仕掛けおわりましたよー」
盗賊「あ、ああ。それじゃ急いでこっちに来てくれ」
僧侶「この、触媒? はどうすればいいんですか?」
盗賊「えっと、そうだな、落としたら危ないからさ、気をつけて持ってて」
僧侶「はい。……あの、盗賊さん。勇者くんも盗賊さんも分かってるみたいですけど、これ、なんですか?」
盗賊「爆薬だよ」
僧侶「ばくやく?」
盗賊「僧侶も、高位の魔術士や魔物が使う爆発魔法は知ってるよね。爆薬はそれを誰にでも使えるようにした道具さ」
僧侶「えええっ!? あ、あの恐ろしい魔法をですか」
盗賊「だから、こういう石で出来た建物とかに使うと、周りに破片が飛び散って危ないわけさ。その触媒を壊したら爆発するようになってるらしいから、落とすなよ」
僧侶「そんなのを用意してるなんて、勇者くんはやっぱりすごいなー」
盗賊「はは、そうだな。……とりあえず、勇者の指示があるまで待とうか」
僧侶「そうですね!」
盗賊(勇者、お前はいったい何を考えているんだ……下手をすると関係ない人たちまで破片や爆風で傷つけるかもしれないのに)
僧侶「……!? 盗賊さん、触媒が光ったり消えたりしてますよ!」
盗賊「あ、ああ、多分勇者からの合図だ……」
僧侶「じゃあ、壊せばいいんですね。せーのっ、」
盗賊「あ、待」
僧侶「えいっっ!」
ガシャン!
僧侶「……なにもおきませんね」
盗賊「偽物だった、ってことは、まあ、ないか」
僧侶「もー勇者くん、ニセモノつかまされ――」
ドゴォォグワァァア! ズズズズゴゴゴゴ…
僧侶「……た、わけじゃないみたい」
ウワーキャーニゲローッ ナニガオキテルンダ! コッチヘニゲロー
僧侶「ギャングの皆さんみたいですね」
盗賊(それだけじゃない。どう見ても一般人が混ざっている)
勇者「僧侶ー、盗賊ー。おつかれー、ベストタイミングだったよ」
僧侶「勇者くん! おかえりなさい」
勇者「とりあえず、デカいのはムリだったけど、盗品っぽいものはだいたい確保してきたから。どうしようか、これ」
盗賊「俺が町のほうへ運んでくる」
勇者「お、サンキュ盗賊」
盗賊「議会の男たちに渡してくればいいよな?」
勇者「ああ。頼んだよ」
勇者「ちょっぴりくらいならくすねてもいいぞ」ボソッ
盗賊「いや、きちんと届けてくるさ。後は頼む」タタタッ
勇者「――さて、オレたちは」チラッ
オリャー マタトナイチャンスダゼ! セメローッ
勇者「新しく湧いてきたギャングの征伐だ」ニコッ
僧侶「はい!」
――
盗賊「やりやがった……」ボソッ
盗賊「もっと別の方法でギャングたちをおびき出せなかったのか? 勇者……」タタタタ
盗賊(関係のない人間を巻き込むなんて。くそっ)ギリリ
「た、たすけて」
盗賊(? 今なにか、聞こえたような)ザザッ
「……いたいよ……」
盗賊(こっちだ)
「うぅ」
盗賊「! お、おい、大丈夫かっ?」タタッ
「あ、たまが」
盗賊「ちょっとゴメンな、見させてくれ」スッ
盗賊(この子、額と脚に石の破片が当たったのか。とりあえず消毒して……)
「あぅっ」
盗賊「染みるか? 少し我慢してろ」
「はぃ……っ」
盗賊「薬塗るぞ。……ん、これでよし」
「あ、ありが、」
盗賊「どういたしまして。それじゃ」タタタッ
「っあ、ぉ姉、さん、待っ……」
盗賊(結構戻って来たはずなんだけど、こんなところまで被害が)
盗賊(港のほうは騒ぎになってるかもしれないな)
――魔王城・玉座
魔王「何っ、港町のギャング集団が勇者に襲撃されただと」
影 「はい。港町の議会に派遣した者からの報告です。同じくギャングの方へ潜り込ませていた者とは現在連絡が取れていませんから、確実かと」
魔王「ふむ。偶然かもしれないとはいえ、嫌なところを落とされたものだ」
側近「あの港町が移動をするのにいちばん都合のいい場所ですから、仕方ないといえば仕方ないでしょう」
魔王「いずれは彼らも含めて港町全体を味方に付けようと考えていたのだがな。中央の役人はともかく、なんとか荒くれ共だけでも送ってこれないか?」
影 「報告によりますと、幹部クラスは壊滅、下っ端もほぼ勢力は残っていないそうです。具体的には、ほとんどが戦闘不可能な身体にされたと」
魔王「……そうか、残念だ」
側近「勇者パーティは、私たちがこちらの大陸に移っているという情報を掴んでいるのですか?」
影 「いえ、不明です。ただ確かなのは、詳しい部分はわかりませんが、勇者たちが船で違う陸地へ移ろうとしていることだけです」
側近「うーん。前線で戦っていた伝令によって王国にも魔王城転移の情報が伝わり、王国から勇者へも伝えられた、というのを想定していましたが」
影 「伝わっていたとしても、勇者パーティを迂回させ、強くするために、あえて情報を与えなかったという可能性もあります」
側近「実力の付いていないうちにこちらに接触してきてくれれば、この後の展開もいくらか楽なのですが……
こちらから接触するという手段はとりたくありませんし」
魔王「いずれにしても、防衛を強化するくらいしか手立てがないな。溜まっている仕事を優先しよう。下がってよいぞ」
影 「失礼します」ペコリ
側近「よろしいのですか?」
魔王「しょうがないじゃん、勇者が航海してる途中に平和の使者でも送ってみる?」
側近「いえ。まず、こちらの使者の話を聞いた先例はありませんね」
魔王「な。"勇者"とは、そういうものなのだ。自己中心的な人間である傾向が強いからな」
魔王「"魔王"に関連してる物や人だと判明すれば、ただでさえまわりを顧みない性質が余計に強化される。お話なんぞできたものか」
魔王「その上取り巻きの人間も、たいていは勇者に毒されているのだ。よしんばそちらを懐柔できたとしても、勇者にしてみたら裏切り者は切り捨て即決」
側近「それにひとたび戦闘になれば、その性質ゆえに、辺り一帯の壊滅は当たり前だと分かりきっていますからね」
魔王「つまり"勇者"の前に魔王の勢力が姿を現せるのは、"勇者"の力を鑑みれば、国丸ごとくらいは消滅させても平気な場所だけということになる」
側近「加えて、今回の勇者は歴代最強、でしたっけ」
魔王「この城も、前線基地としての性格を持っている以上は強力な結界を張っているが……今度ばかりはどうなるか分からん」
側近「勇者がこちらに攻め込んできたときはどうなさるおつもりですか? 魔王城跡より以降の魔界は強力な結界で守られている以上、見つかることはないでしょうが……魔界ではない土地に転移した手前、この城はそうもいきませんし」
魔王「外で戦闘してもいいが、周辺の村落を巻き込むことを考慮すれば、やはり城内での闘いになるだろう」
側近「やはり、ですか」
魔王「うむ。お前や白魔のような大魔導師クラスの者に結界を維持し続けてもらわねばならぬ」
側近「私がその役目を受け持つことになりそうですね。白魔は負傷者の治療の方へ行くでしょうし」
魔王「結界を受け持つのは側近でない方が都合がいいのだがな。ほら、たとえばアンデッドのあんこちゃんとか結界使えそうじゃない?」
側近「……そもそも、アンデッドは結界に触ったら消滅してしまいますが」
魔王「じゃあ、スケルトンの骨川さんは」
側近「消滅します」
魔王「残留思念のヴィンスさんは」
側近「消滅するでしょうね」
魔王「ボーンスライムくんは」
側近「近づいた時点で消滅しますね」
魔王「……ゴーストリリスは?」
側近「…………。た、確か白魔のおまじないがあります。大丈夫です」
魔王「…………。あの後おまじないしたのかどうか、聞いておかないとな」
側近「…………今度は存在ごと消えかねませんからね」
魔王「…………うむ、まあ、それはそれとしてだ。魔人班や精霊班のリーダー格では結界を張るに足る力を持ってはいないのか?」
側近「魔人長は結界の強度では私に勝りますが、範囲が狭いですね。精霊の長はその逆です」
魔王「ふむ。その二人に共同で結界を発動させて、側近と変わらない強度・範囲を維持させられないか」
側近「……なるほど、できるかもしれません。検討しておきます」
魔王「戦闘になれば、黒魔と魔王の二人だけです、では不安が残るからな。側近が加われば勇者との戦いもある程度安定するだろう。そうすれば消耗したところに和平交渉を持ちかけられる」
側近「しかし、最悪のケースを想定すれば、勇者が魔導人形クラスを遥かに越える力を隠し持っていることもありえますが」
魔王「そうなったらジ・エンド、現魔王の時代は終わるだけ。あとは勝手に魔王争奪戦が始まり、晴れて次代の魔王が誕生するさ」
側近「縁起でもありませんね」
魔王「そう顔をしかめるな。次代は少女が継ぐ、なんてことになったりするのではないか? はっは」
側近「少女ちゃんは人間です。魔王として長く君臨するには寿命も……、足りない、でしょうね」
魔王「まあな。残念だが、しかたのないことだ。それに他に幾らでも力のある者はいるのだしな」チラッ
側近「魔王様。私は魔王になる気、ありませんよ」
魔王「だろうな」
側近「それよりも魔王様、人間との和平についてですが?」
魔王「その件だがな、やはり白魔を公使、のようなものにしようと考えている」
側近「具体的にはどうなさるおつもりで?」
魔王「白魔とそのほか数名に公式な文書を持たせ、幾つかの町や村を回らせるのだ」
側近「それぞれの地域の支配者との友好を結ぼうというわけですね」
魔王「そうだ。この大陸にはいくつかの町村がある。影の報告によれば、我々に対して特別に敵対感情を持っているものは多くても四、五」
側近「『生贄』を差し出してきた村も含まれますね」
魔王「それ以外にも良識ある町、犯罪者の巣窟、といろいろあるが、友好する目標としては王国から独立している自治体が望ましい」
側近「なるほど。支配下であった場合、おそらくは上位の組織に判断を仰ぐだろうこと、が厄介だということですか」
魔王「結果として、こちらを敵対視している王国側は拒否する、というか、和平交渉などしてみろ。我々にナメられているとさえ考えて余計に事態を悪化させかねん」
側近「しかし、支配下以外の自治体などの指導者層も、そう易々と友好を受け入れるでしょうか? 『王国は気に入らない、かといって魔王側につけば王国を敵にまわす、それならばこのまま自治をしていたほうがいい』と考えるのが普通だと想定できますが」
魔王「側近。『王国は魔王を倒すために勇者を派遣している』のだぞ?」
側近「……?」
魔王「それはとりもなおさず、『勇者のように特別な力を持っていないと、ただの人間では歯が立たない』と思っているからだ」
側近「! そうか、なるほど……」
魔王「魔王の勢力を味方に付ければ王国の軍隊に攻められても簡単には陥落しない、それなら……というわけだ」
側近「確かに。言われてみれば、上手くいくかもしれないという気がしてきました」
魔王「いいや、その一般常識にはネックもある」
側近「ネックですか?」
魔王「うむ。彼らとしても当然、魔王が怖いわけだ。友好を結んでも腹の底では自分たちの町を滅ぼそうと企んでいるのではないかとな。そして当然、」
側近「仰りたいことが分かりました。もし魔王が裏切ったら、対抗するだけの力は、ない……」
魔王「正解だ」
側近「では、魔王様はこの問題点をどうなさるおつもりなのですか?」
魔王「白魔は人間との友好に欠かせない鍵だ、と以前話をしただろう」
側近「はい。人間とほとんど変わらない姿かたちの者は、白魔や影を含めてもほんの僅かしかいません。魔人も姿は似ていますが、人間には存在しない皮膚の色の者がほとんどで、威圧感を与えてしまう。また、特使は遣わせた先で侵略者、魔物とみなされ襲われる可能性を考慮すれば、結局は白魔や影と一人か二人しか公使の任務をまっとうできない、ということでしたね」
魔王「うむ。そしてもう一つの鍵は、少女なのだ」
側近「……少女ちゃんを人間と我々の繋ぎ目としようというわけですか? それは魔王様、あまりにも早計ではありませんか。そのような手段をとれば、少女ちゃんの身に危険が及ぶかもしれないんですよ」
魔王「違う。少女をむざむざ危険な目に遭わせる必要はない」
側近「……それでは、いったい?」
今回はここまでです。
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