紅莉栖「岡部が口をきいてくれなくなった」(411)



細かいことは気にしないでもらえるとありがたいです。
誤字脱字あるいは酷い間違いがあったら言ってもらえるとありがたいです。
紅莉栖可愛い。
シュタゲSSがもっと増えますように。

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岡部「はっ! これだから助手は!」

紅莉栖「あんたにだけは言われたくないわねっ! この厨二病患者っ!」

岡部「黙れ@ちゃんねらークリス」

紅莉栖「@ちゃんねらーで何が悪いかつ!」

岡部「ほほぅ。ついに認めたか! 自分が@ちゃんねらーということを!」

紅莉栖「うるさい。自称『鳳凰院凶真』さん?」

岡部「自称ではぬぁぁいっ! 真名だっ! この栗ご飯とカメハメ波(笑)」

紅莉栖「なぁっ!?」

岡部「栗ご飯とカメハメ波(笑)」

紅莉栖「それ以上言ったら、開頭して顆粒細胞を滅茶苦茶にするぞ」

岡部「できるものならしてみろ。この鳳凰院凶真に、お前は指先一つ触れられない」

紅莉栖「ふん。どうせ私の言ってる事なんて全く理解できてないくせに」

岡部「フゥーハハハ! 残念だったな栗ご飯。つまりHippocampusのことだろう?」

紅莉栖「発音わる。それにDentate Gyrusは正確にはHippocampusじゃないですが?」

岡部「ええい! 黙れ!」

ダル「飽きないよなぁ、二人とも」

まゆり「まゆしぃはもう慣れちゃったけどね」

ダル「あ、分かるそれ。毎日毎日飽きずにやってりゃ、こっちも『またお前らか……』的な感覚になるんだお」

岡部「そこっ! 聞こえているぞっ!」

紅莉栖「私だって好きでこいつと口論してるわけじゃないわよっ!」

岡部「ほほう。珍しく意見が一致したな。俺もこんな女と口論したくてしているわけじゃない」

ダル「とか言って毎日やっている件」

岡部「それはこいつがこの俺、鳳凰院凶真を愚弄しているからだ」

岡部「それを見逃せるほど俺は優しくないのでな、ククク……」

ダル「ま、僕は何にも言いませんけどね」

ダル「つーか、何か言った程度で二人が仲良くなってるならさっさとやってる的な」

まゆり「ダルく~ん、ジューシーからあげナンバーワン♪ 食べる?」

ダル「いただくお! ついでにまゆ氏も」

岡部&紅莉栖「「やめんかHENTAI!!」」

ダル「絶対この二人仲がいいと思われ。二人っきりの時は案外イチャイチャしてんじゃねーのかって、」

岡部「誰がっ!」

紅莉栖「こんな奴とっ!」

紅莉栖「ああもうこんな時間じゃない! くぅぅ、岡部と無駄話してたせいだわ。やることあったのに」

岡部「知るか」

まゆり「ほんとだ~。もう夜の十時だね。まゆしぃも、ふぁ……、そろそろ帰るね」

ダル「そだな。僕も今日はちょっとやることあるし、帰ろ」

紅莉栖「それじゃ、私は先には帰るわね」

ダル「おつ」

まゆり「あ、クリスちゃんクリスちゃん。途中まで一緒にいこー?」

紅莉栖「いいわよ」

ダル「な、なら僕もっ! ハアハア!!」

紅莉栖「HENTAIはくんなっ!」

ワイワイ ザワザワ

岡部「………」

シーン

岡部「……ふむ。台風みたいなやつらだ」

岡部「………」

岡部「俺だ。ああ、作戦は順調だ。分かっている。オレペーション・デッドサイレンス、最終フェイズを開始する」

岡部「材料はすべて揃った。……くく、分かっている」

岡部「我がマイフェイバリットライトアームが今回の作戦に加担していない以上、完成まで時間がかかったが、」

岡部「それも、ついに完成するということだ」

岡部「……ふ。分かっている。そちらの方も任せたぞ……、エル、プサイ、コングルゥッ」

岡部「………」シーン

岡部「よし、始めるか」

―――――――
――――
――

~~~2:00

岡部「……ふむ。こんなものか」

岡部「苦戦はしたが、ついに隠された未来ガジェットが完成した……」

岡部「その名も、無音の音声(スゥルドゥス・ロプス)……」

岡部「……だがまあ、失敗作というのは見え見えだが……」

岡部「っと、狂気のマッドサイエンティストであろうものが、ネガティブに考えてどうする」

岡部「配線はほぼ勘だったし、スイッチを押した瞬間爆発とかありえないよな」

岡部「……やはりこんなことならダルに頼っておくべきだったか……」

岡部「だがっ! これが成功すれば、助手のあの忌々しい声も聞こえなくなる」

岡部「あいつがいかにぎゃあぎゃあ叫ぼうが、聞こえないならイラつきもせん。たとえDTと言われてもな! フゥーハハハ!」

岡部「ハハ………」

岡部「機能はノイズキャンセリングを応用したものだが、」

岡部「ある特定の人物の声を消す事は現段階では不可能と言われているらしい」

岡部「だがっ! この俺にかかれば、そんなこと造作もない!」

岡部「まずヘッドホンを被って……」

岡部「助手の声を機械に覚えさせ、特定のピッチ、振動数、声帯の経常、声門閉鎖の強さ、呼気流の圧および速さ、振動様式などの……」
  
…………
………
……

岡部「う、うむ。設定は終わったが、これは本当にスイッチをONにしても平気なのか?」

岡部「助手が来ない以上、成功したか否かは分からんが。仮に成功すれば、遠隔操作で携帯のボタン一つで助手の声を消せるが、」

岡部「……俺がヘッドホンを被っている状態、失敗すれば被害にあうのは俺だ」

岡部「全く、どうしたってこの鳳凰院凶真が自ら実験体にならねばならんのだ」

岡部「……ま、まあ、最悪の場合、ショートする程度ですむだろう」

岡部「か、感電の可能性も、考えられなくないが、」

岡部「ええい! 何を迷っている鳳凰院凶真!」

岡部「……くっ、だが。俺は世界に混沌を齎すまで死ねない身……。これも、運命石の扉の選択なのか……?」

岡部「俺だ。ああ、少しまずいことになった。分かっている。オペレーション・デットサイレンスはもう終わりが見えている」

岡部「だがな、任務を遂行するには俺が自ら実験体にならなくてはならんのだ」

岡部「驚くな。俺が鳳凰院凶真だということを忘れたのか? 世界に混沌を齎すまで、死にたくても死ねない身体なのだよ……」

岡部「分かっている。今更、感慨などない。……ああ、結果はどうであれ終わったらまたかけなおす。エル、プサイ、コングルゥ………」

岡部「……よし」

岡部「すぅ、はー……」

岡部「この俺、鳳凰院凶真は、世界に混沌を齎す第一歩を踏み出すのだ。たとえそれが失敗に終わったとしても、」

岡部「今回の事は、後に役に立つだろう! 世界は、この時を持って変貌するっ!」

岡部「エルプサイ、コングルゥッ!」

ポチ。

ブブブブ……、ボン。

岡部「……な!? ま、まずい! 煙が出ている!」

岡部「く、やはり俺一人で作るには無理があったのか!? や、止むを得ん」

岡部「……け、煙は収まったがいつ爆発するか分からん……」

岡部「むう。だが、主電源を切ったからもう大丈夫だろう。とりあえず、棚の上に隠しておこう」

岡部「……俺だ。任務は失敗に終わった。ああ、嘆きたい気分も分かる。だが、今回の任務が成功すれば、機関も怨嗟の声と共に、俺の
正体を掴もうとしただろう」

岡部「得られるものはあった。そう悔やむな。たとえ機関の連中が動きだしても、俺が屠ってやろう……」

岡部「エル、プサァイ、コングルゥ」

岡部「……」バタン

岡部「グー グー グー」

――――――
――――
――


岡部「……む」

岡部「……今、何時だ?」

岡部「十時か……。てっきり起きるのは正午過ぎだと思っていたんだがな」

岡部「他にラボメンは……、いないか」

岡部「……うーむ。最近疲れが溜まっていたせいか、昨日何をしていたかあんまり覚えてないな……」

岡部「確か……」

携帯「~♪」

岡部「っ! っと、なんだ携帯かおどかすな」

From:閃光の指圧師

Sub:やっほー

Main:おはよー。今起きたんだ?



岡部「ったく指圧師め。いちいちこんなメールを……」

岡部「ん?」

岡部「……あれ、なんでこいつ、俺が今起きた事を知って……?」

岡部「な、なんだ……?」

岡部「……」ゾク

岡部「フ、フゥーハハハハ! 指圧師よ! そこにいるのは分かっているぞ!?」

……シーン

岡部「(け、気配がない。ま、まさか機関の差し金か!?)」

携帯「~♪」

岡部「うわっ! ……ご、ごほん。い、言っておくが、怖い訳じゃないぞ? 携帯の音に驚いただけだ」

……シーン

岡部「ま、まあいい。メールを見よう」


From:閃光の指圧師

Sub:冗談だよ♪

Main:メールの返信がないってことは、寝てるのかな? 
岡部くんはよく徹夜してるから、この時間帯も寝てると思って起こすためにメールしたんだけど。
起きたらメールしてねー(>_<)

岡部「……」ワナワナ

岡部「くっ! な、なんなんだ! なんだというのだっ!」

岡部「……っ!」カタカタカタカタカタ


To:閃光の指圧師

Sub:うるさい!

Main:この鳳凰院凶真を愚弄した罪は重いぞ!
貴様は地獄の業火で焼かれるが良い! 緋色の炎に包まれ、たとえ赦しを懇願しても赦さんからなっ!!
あと、無駄な事でメールをするな! 俺も暇じゃない。

携帯「~♪」


From:閃光の指圧師

Sub:ごめんごめん

Main:起きてるならいいんだ―♪ ちょっと仕事の休憩時間に暇になったから送っちゃった☆
それじゃ、仕事してくるね。ばいばーい

岡部「……ぐぬぬ!」

岡部「『暇になったから送っちゃった☆』とか、指圧師の変貌っぷりもなかなかのものだな……」

岡部「うおっほん! ……ま、予想できた結末だったがな」

岡部「ふ。しかし、悪戯とはいえ、指圧師にはしかるべき処罰を与えねばならんな」

岡部「……ドクペでも飲むか」

ガチャ

岡部「ん?」

紅莉栖「ハロー……、って、なんだ岡部だけか」

岡部「(なんだ助手か……)」

岡部「……?」

岡部「(……まあいいか。助手など気にせずドクペを飲もう)」

紅莉栖「?? ……ま、いいけど」

岡部「んぐ」ゴクゴク

岡部「ふう。やはりドクペは人類の結晶とも言えよう。これを飲むたびに身体中が漲る」

岡部「俺の右腕が、強化されているのが感じ取れる……」

紅莉栖「厨二病乙」

岡部「……ふう」

紅莉栖「……??」

岡部「ダルやまゆりは何をしているんだ。自分がラボメンという自覚はあるのか……」

紅莉栖「ああ、橋田ならさっき秋葉で見たわよ? メイクイーン行ってから、ラボに来るとか言ってたけど」

岡部「……まあ、今に始まった事じゃないがな」

岡部「(ガジェット作成は当分休もう。その間、何かしら本で知識を蓄えておくか)」

紅莉栖「ま、別に私はラボに来たくて来ている訳じゃないから。まゆりに学校で出された課題を教えてほしいって言われたから来ただけなんだからな」

岡部「……うむ。どの本を読もうか」

岡部「(全部読みつくしてしまったからな。今度、古本屋でまとめ買いしてこよう)」

紅莉栖「……おい、岡部?」

岡部「……む。これはこれは。確かまだ読んでなかったような」

紅莉栖「……おーかーべー?」

岡部「……って、なんだこれは!?」

岡部「エロ同人誌ではないかっ! ダルめあいつ……っ! 知識が詰まった本棚に変なものを混ぜやがって……」

紅莉栖「とか言って、実はあんたのだったりして?」

岡部「(ま、捨てるのは可哀想だろう。後でこっぴどく言い聞かせねばならんが)」

紅莉栖「……何? 昨日の事、まだ引きずってんの? あんた」

紅莉栖「女々しいわね。鳳凰院凶真あろう者が、たかだか口喧嘩程度のことで気にしてるのかしら?」

岡部「……」パラパラ

岡部「(可能性の話は面白い)」

岡部「(たとえば『水槽の脳』」

岡部「(俺が見ているこの世界は、実は培養液に浸かった脳が見ているバーチャルリアリティなのではないか)」

岡部「(馬鹿馬鹿しい話だが、否定はできない)」

岡部「(次に俺が見ている赤色と他者が見る赤色は違うのではないか)」

岡部「(目の見えない人に色を説明するのは不可能だ。それと同様に、俺が見ている色と他人が見ている色が同じだと証明できない)」

岡部「(……ふむ。こういうのを――)」

紅莉栖「ちょっと岡部!無視するな!」

岡部「(考えていると、時間がどんどん過ぎ去っていくんだよな。ついつい見てしまって)」

岡部「ふう……」

紅莉栖「岡部っ!」ガシッ

岡部「おぉぅっ!?」

紅莉栖「私、なんかした? 昨日のこと、まだ怒ってるの?」

岡部「……?」

岡部「(……えーと、助手は何をしているんだ)」

紅莉栖「別に口論なんて今に始まった事じゃないでしょ。何をそんなに怒ってるか知らないけど、」

紅莉栖「みっともないわよ」

岡部「……む、む?」

紅莉栖「……鳩が豆鉄砲食らったような顔をして。ほんとにどうしたの?」

岡部「(お前は金魚かっ! と、つっこんだ日には面倒な事になりそうだからやめておこう)」

紅莉栖「おーい。無視するな童貞が」

岡部「……」

紅莉栖「自称鳳凰院凶真さん? バッドサイエンティスト? おーい」

岡部「……ぅぅむ」

岡部「(からかってんのか? こいつは!)」

紅莉栖「岡部? なんか言いなさいよ。文句ならいくらでも聞いてあげるから」

岡部「ええい、放せ! 俺はお前と戯れている暇などない!」バッ!

紅莉栖「……あっ」

岡部「全く何の冗談だ。笑えないぞ。つまらないことをしてくれるな」

紅莉栖「ご、……ごめん」

岡部「………」

紅莉栖「………岡部?」

岡部「………」

紅莉栖「……ねえ、岡部?」

岡部「………」

紅莉栖「……返事、してよ」

岡部「……?」パラ…

岡部「(どああああああああああああああああ!!?!?!?!?)」

岡部「(な、なんだこれは!? 本の間にクリスティーナの写真がっ!?)」

岡部「(ま、待て待て。落ちつこう。いや落ちつけ。まず、俺はクリスティーナの写真など持っていないし、わざわざこんな本に挟むことなどしない)」

岡部「(と、ということはダルか? ダルが撮ったのか? この写真を。わざわざプリントアウトまでして……)」

岡部「……ふむ」

岡部「(……しかし、こう見ると助手も可愛いな)」

岡部「――っ!!?!」

岡部「(な、何を考えていた! 俺は今何を!)」

岡部「(と、というよりこの写真は助手に見られてはまずい! 俺が隠し持ってたと誤解された日には、鉄拳が飛んでくる!)」

岡部「……」スタスタ

紅莉栖「岡部……?」

岡部「(ど、どうしよう。助手が変な目でこちらを見ている)」

岡部「(ま、まさかもう気づかれたのか?)」

岡部「(そ、そんな筈はない。と、とにかくこの写真は隠された未来ガジェットの場所に置いとこう……)」

ガチャ

まゆり「トゥットゥルー♪ まゆしぃです☆」

ダル「ふう。メイクイーン+ニャン2でフェイリス分を補充してきたお!」

岡部「(nice timing!!!!)」

まゆり「あれ~? オカリンどうしたの?」

岡部「む? 別にどうもしとらんぞ。まゆりこそその手に持ったのは何だ?」

紅莉栖「……っ!」

まゆり「えっへへー。実はね、ジューシーからあげナンバーワン♪ なのです」

岡部「なんだ、いつものまゆりか」

ダル「あれ? 牧瀬氏どったん? なんか元気なさそうだけど」

まゆり「?? そうだね~。クリスちゃん? どうしたの?」

紅莉栖「…っ、べ、別になんでもないわよっ! ね、ね? 岡部」

岡部「……」

紅莉栖「……っ」ジワ

ダル「ほ、本気でどうしたん牧瀬氏!? ぼ、僕の胸なら貸してあげるお!」

紅莉栖「い、いるかHENTAI……っ」

まゆり「どうしたの~? クリスちゃん」

岡部「(……ま、まさか。俺がクリスティーナの写真を持っている事がバレ、て……)」

岡部「(い、いやいや早とちりはよそう。そうだと確信するまで弁明はやめておかないと、墓穴を掘る可能性がある)」

岡部「ま、まゆりぃっ!」

まゆり「はーい。どうしたの~? オカリン」

岡部「そ、そのジューシーからあげは食べないのか!? さ、冷めてしまうぞ!」

まゆり「あ、そうだよ! 忘れてた。えへへ、オカリンありがとね」

岡部「ふん。礼には及ばん」

岡部「(よし)」

ダル「ほんとにどったん? 牧瀬氏」

岡部「ダァァルよぉぉっ!!」

ダル「なんぞっ!?」

岡部「きぃさぁまぁ! 先程見かけたが、俺の本棚にこんなものを入れていただろう!」

ダル「うっっひゃああ! それ僕の! 僕の!」

岡部「言われんでもわかっとる!」

ダル「なくしたと思ってたお! オカリンマジ感謝! そしておかえり僕の嫁。prpr」

岡部「(よし)」

岡部「フゥーハハハ! よくぞ集まってくれた我がラボメンよ! 欠席者も多いが…」

岡部「律儀に我がラボに来てくれる事は、賞賛に値するぞ!」

ダル「別に僕はエロゲやりに来てるだけだし」

まゆり「まゆしぃは、特別な理由はないよ」

紅莉栖「………」

ダル「あ、そういえば牧瀬氏は? もしかしてオカリンに会いに来てるとか」ニヤニヤ

紅莉栖「………」

ダル「ま、牧瀬氏?」

紅莉栖「……そうよ」

ダル「な、なんだと!? デレ期ktkr! と叫びたいけど、オカリンリア充になるとかマジ爆発しろ!」

岡部「む? 何を言っているのだ、ダルよ」

ダル「全然動じないオカリン、そこにシビれるあこがれるぅ」

紅莉栖「そ、そうそう。私ちょっと、未来ガジェットについて案があるのよね」

ダル「ん? 牧瀬氏が? 意外」

紅莉栖「一応、私もラボメンなんだから」

ダル「……やっぱ、今日の牧瀬氏なんか様子おかしくね」

岡部「……ほう。友達とはうまくやっているのか」

まゆり「うん♪」

紅莉栖「……そ、それで岡部っ! き、聞きたいでしょ!? ほ、本当にすごい案だけど、どうしてもって言うなら教えてあげなくもないわよ」

岡部「ふむ。ルカ子も頑張っているようだな」

まゆり「……あー、オカリン?」

紅莉栖「………」

ダル「え、いや。オカリン? ツンデレでもそれは流石に酷杉ワロえない」

紅莉栖「いいわよ橋田。どうせ、いつもの厨二病でしょ。それか、昨日の口論で論破されたことに腹が立ってるんじゃない?」

ダル「あー、ありうる。オカリン女々しすぎるお」

岡部「……???」

岡部「なあ、まゆりよ」ゴニョゴニョ

まゆり「ん~?」

岡部「助手の様子が、おかしくないか?」

まゆり「うん。そうだね」

岡部「だ、だよな。金魚のように口をパクパクさせてるから、何に驚いているんだか」

まゆり「???」

岡部「にしてもダルよ。お前は一体何の話をしているんだ?」

ダル「なんのって? 牧瀬氏の話だけど?」

岡部「クリスティーナの? なんで?」

ダル「なんでって、今まさにオカリンが華麗に牧瀬氏を無視したからだお」

岡部「は? 誰が」

ダル「オカリンが」

岡部「いつ?」

ダル「今さっき」

岡部「なんで?」

ダル「僕が知るかお!」

紅莉栖「岡部っ! 無視するのは勝手だけど、まゆりや橋田に迷惑かけるなよな」

岡部「……」

岡部「(なんか、とてつもない違和感を覚えるのだが)」

紅莉栖「……岡部」

岡部「……」

岡部「(うーむ。なんだろう)」

紅莉栖「……岡部っ」

岡部「……」

岡部「(……喉まででかかっているんだが…)」

紅莉栖「……おか、べ…」

岡部「まあいいか」

紅莉栖「―――っ!」

紅莉栖「おい馬鹿岡部っ! 私の何が気にいらないか知らないけど、だんまりじゃ何も分からないじゃない!」

紅莉栖「何か言いたい事があるなら言えっての! 何よ! なんなの!?」

岡部「……」

紅莉栖「この! 馬鹿! 死ね! 氏ねじゃなくて死ね! このDTめ!」

岡部「……あ、そういえば、未来ガジェットについて案があったな」

岡部「ダル、ちょっといいか?」

紅莉栖「っ……」ジワ

ダル「おいオカリン」

岡部「む? って、なんだお前! その人を睨み殺すような目は!」

ダル「オカリン。いくらなんでも冗談にならないお。昨日のことを怒っているなら、オカリンいくらなんでも大人気なさすぎと思われ」

岡部「?」

ダル「だから、牧瀬氏のこと。オカリンが何考えてるか知らないけどさ、これ以上は僕も許せないお」

岡部「なんのことだ?」

ダル「……」

紅莉栖「……ねえ、岡部」

岡部「まいいか。それより、ドクペで喉を潤すか…」

まゆり「オカリン?」

岡部「ん? どうしたまゆりよ」

まゆり「まゆしぃは、今のオカリンは嫌いだよ」

まゆり「まゆしぃの知っているオカリンは、もっとかっこよくて、いつでも優しくて」

岡部「いやいやいや。いきなり何を言いだすお前は?」

まゆり「……オカリンはそんな人じゃないって、まゆしぃは信じてるもん。何か理由があるんだよね」

岡部「り、理由? 理由ってなんだ」

まゆり「クリスちゃんを無視してるでしょ、オカリン」

岡部「は? クリスティーナを無視? そんなことした覚えはないが、」

岡部「ク、まさか。この俺、鳳凰院凶真はクリスティーナによる精神攻撃でストレスを覚え、自ら助手の声を無意識に聞こえないように、」

紅莉栖「……っ! 岡部っ! じょ、冗談でもやっていいことと悪い事があるぞっ!」

紅莉栖「今は、そんな悪ふざけをしている場合じゃないでしょっ!」

紅莉栖「私の、目を見てよ……っ」

岡部「フフフ。フゥーハハハハ! 機関の連中も驚きのあまり――」

ダル「オカリンには失望したお……」

まゆり「……オカリン」

岡部「え? え?? な、なんですかその目は。ちょっと待て」

ダル「オカリンがずっとそれを続けるってなら、僕はもうオカリンと友達でいるつもりはないお」

まゆり「……クリスちゃんと、仲直りしてくれるよね? オカリン」

岡部「はあ? お前ら何言ってんだ。この暑さで頭がやられたか? なんでそこでクリスティーナの名前が出てくるんだ」

ダル「オカリン……っ!」

紅莉栖「やめて、橋田。いいの。いいのよ……」

岡部「え、えーと……」

岡部「(な、なんだ。親の仇のような目で睨まれている気がするんだが)」

岡部「(く、な、なんだ! ラボの創設者だというのに、この居心地の悪さ!)」

岡部「(仕方あるまい。一度メイクイーンにでも行って、この混乱した現状を整理しよう)」

岡部「よし。俺は少しでかけるな。機関の連中が押し寄せてくる恐れも十分に考えられる。留守番は任せたぞ」

まゆり「………」

ダル「………」

紅莉栖「……うん、行ってらっしゃい」

岡部「……全く、揃いも揃って俺を無視する気か」

紅莉栖「……っ」

ダル「……っ! オカリンっ!!!」

紅莉栖「いいの! お願いだから、やめて」

ダル「だけど、牧瀬氏!」

岡部「………」

ガチャ バタン

----



岡部「(……むぅ。なんなんだ? 冗談のような雰囲気ではなかったよな)」

岡部「(俺が何をしたってんだ。ああ、忌々しい! 完全に俺が悪者扱いだったぞ!)」

岡部「(……それにしても、本当に何があったんだろう)」

岡部「(あいつらは、無意味にこんな洒落にもならん冗談をやるような奴らじゃない)」

岡部「(ふむ。それなら……、やはり原因は俺か? 無意識のうちに何かやっただろうか)」

携帯「~♪」

岡部「? 助手からか。そういえばあいつ、今日は全然しゃべらなかったな。珍しい日もあるもんだ」

岡部「ついでにその理由も聞いてみるとしよう」

岡部「もしもし」ピッ

紅莉栖『……あっ、岡部。出てくれたんだ』

岡部「??」

岡部「(無音……)」

紅莉栖『あ、あの、岡部? 私、岡部が気に障るようなこと、しちゃったかな?』

紅莉栖『そ、それならそうだと言って。だったら、私もきちんと謝るから』

紅莉栖『だ、だからね――』

岡部「(ふむ。やはりいたずらなのか? 助手が普段の俺に腹が立って、ラボメンみんなで嫌がらせをしているのか?)」

岡部「(全く……)」

岡部「くだらない事はよせ、助手よ」

紅莉栖『――え…』

岡部「そのようなつまらんことをするとは、落ちたものだな」

紅莉栖『………』

岡部「切るぞ」

紅莉栖『ま、待って岡部っ! せ、せめて、名前で、呼んで……っ!』

岡部「……」ピッ

岡部「ふう。なんだろう。なんだか、嫌な気分だ」

岡部「助手もこんな悪戯をしてくるなら、いつものように正面から挑んでくればいいものの……」

岡部「く…、別に嫌じゃなかったがな。助手と口論するのも」

岡部「さて、メイクイーンで涼んでくるか」


―――メイクイーン+ニャン2

フェイリス「ご注文はニャににニャさいますか?」

岡部「コーヒー。ブラックな」

フェイリス「かしこまりましたニャ」

岡部「ふー」

岡部「まさに天国だな……。クーラーもあるし、安楽の地と言っても過言ではない!」

岡部「フゥーハハハハハ!!」

フェイリス「お待たせしましたニャン♪」

岡部「フハッ!? は、早いな」

フェイリス「ニャハハ。フェイリスを甘く見ちゃダメだニャ。フェイリスは俊足と呼ばれ恐れられる能力を持っているニャ!」

岡部「何ぃっ!? と、ということは貴様っ! ロンスヴァルの戦いにいたものか!?」

フェイリス「そうだニャ。凶真はもう少し早くオートクレールを抜いていたら、皇帝の援軍がくるまでに生き延びていたかもしれなかったのに」

フェイリス「ニャハ、今回はフェイリスの勝ちだニャ」

岡部「くっ。確かに、慢心していたせいもあったな……。だが、現世では俺達は剣を交わす仲ではない」

フェイリス「数奇な運命の果てに、二度も同じ地を踏むとは思わなかったニャ」

岡部「……はあ」

フェイリス「どうしたのかニャ? なんだかいつもより、切れがないニャ」

岡部「いや、別に特別何かあった訳じゃないんだが、」

岡部「先程、助手から電話があってな」

フェイリス「クーニャンから?」

岡部「ああ。だが出てみても無言でな。それがどうも気にかかって」

フェイリス「それはおかしいニャ。クーニャンはそんな悪戯しないと思うニャ」

岡部「ああ、だから気にしているんだ」

フェイリス「ニャムゥゥ……。ところで最近はガジェットの方は増えているのかニャ?」

岡部「どうした唐突に」

フェイリス「ほら、クーニャンもいることだし、未来ガジェットニャンは性能が上がってるのかニャーって」

岡部「大したことない。ここんところ、殆どひとりでガジェットを作っていたがな」

フェイリス「どんなの?」

岡部「無音の音声(スゥルドゥス・ロプス)。特定した人物の声を消し去る事が可能だが、失敗に終わった」

フェイリス「ニャフゥ~。すごいニャー、凶真は」

岡部「対象はクリスティーナに設定しておいたんだがな。結局、あいつはずっとだんまりだったから、本格的に失敗したかどうか分からんが」

フェイリス「……ニャ?」

岡部「ん?」

岡部「……ん?」

フェイリス「ね、ねえ凶真。フェイリス、ちょっとおかしなことに気づいたんだけど」

岡部「き、奇遇だな、フェイリス。俺も今の話で違和感を覚えた」

フェイリス「クーニャンからの電話がずっと無言だったって、そのガジェットは成功している……ニャ?」

岡部「………ま、まさか」ダラダラダラダラ

岡部「と、とすると、今日のラボメンの様子がおかしいというのは、そのせいだったのか!???!」

岡部「クリスティーナがずっと様子がおかしかったのは、実は俺が無視をしていた、とか!」

フェイリス「よ、よく分かんニャいけど、普通気づくニャ……」

岡部「い、いや、助手の事だから、いやがらせでもしてきているのかと」

フェイリス「キョーマは鈍感ニャ」

岡部「……む、うるさい! じゃなくて、とにかくクリスティーナに会ってくる!」

フェイリス「待つんだニャ」

岡部「フェイリスッ!? なぜ止める!」

フェイリス「クーニャンの声が聞こえないなら、行っても無駄ニャ。さっきの説明をしても、信じてくれるかどうか分からニャいし」

フェイリス「事態が余計に悪化したら、それこそ修正不可能になっちゃうかもしれないニャ」

岡部「……で、ではどうしろと」

携帯「~♪」

岡部「くっ、こんな時に誰だ?」ピ


From:閃光の指圧師

Sub:なんか暇になっちゃった

Main:取材も終わっちゃったし暇になった。家に帰っても特にやることないし、
お喋りしない? あ、メールでね。直接会うとか、電話は駄目だぞ☆

フェイリス「こ、これモエニャンかニャ?」

岡部「ああ。信じられないだろうが、これがあいつの……、本性だ」

フェイリス「……ひ、人って見かけによらないニャ。フェイリスの目でも見抜けなかった相手がいただなんて、不覚ニャ……っ!」

岡部「だが、お前も何度か指圧師のメールを見ているだろう?」

フェイリス「でもやっぱり、普段話している時と比べちゃうニャ」

岡部「分からなくもない。俺も寝ぼけてたりすると、メールを見て誰だこいつ? って素で思ったことがあったからな…」

フェイリス「ニャハハ……って! 今はこんなことをしている暇はないのニャ!」

岡部「そ、そうだったな。助手にどうやって言葉を伝えるべきか。――あ、いや。あのガジェットは俺の言葉は聞こえるんだったな」

岡部「助手の声が聞こえるようにするために、やはり一度ラボに戻って、無音の音声(スゥルドゥス・ロプス)を確認せねばならん」

フェイリス「それより優先すべきは、まずクーニャンの誤解を解く事だと思うニャ。さっきあったことを、フェイリスに教えてほしいニャン」

岡部「ああ、それはだな―――」

―――――――
――――
――


岡部「――ということだ」

フェイリス「………」

岡部「どうした? フェイリス。ほほぅ、なるほど。どうやら俺の才能に驚いて声が出ないというわけだな? 結果、あのガジェットは成功していたのだ」

フェイリス「……呆れて声も出ないニャ」

岡部「なに!?」

フェイリス「どうして気付かなかったのかニャ? 普通、気づくニャ……」

岡部「い、いや、てっきり助手が喋らないのは昨日のことを引きずっているのかと思ってだな」

フェイリス「でも、普通は途中でガジェットのせいだと気づくと思うニャ」

岡部「し、しかたないだろう! ラボのみんなが揃いも揃って俺を攻めてくるから、冷静に物事を判断できなかったのだ!」

フェイリス「意外に打たれ弱いニャ、キョーマは」

岡部「なに!? 聞き捨てならんな、その言葉は! 前言撤回してもらおうか」

フェイリス「いーから! キョーマはどうするニャ? クーニャン、絶対誤解してるニャ。キョーマに無視されたって、絶対思ってるニャン」

岡部「ああ、誤解は解きたいが、今ラボに行ったところでどうしようもない。俺が説明したところで信じてもらえるとも思えんし、」

岡部「仮に信じてもらえても、そもそも助手が何を言っているか分からない現状じゃ」

フェイリス「キョーマ。多分、さっきのクーニャンとの電話でダルニャンやマユシィの信頼は失われたと思うニャン」

フェイリス「もしダルニャンたちも聞いてたら、の話ニャけど」

岡部「……確かに、そう考えてもおかしくないぐらいのことを、俺はしてしまったな」

フェイリス「でも、キョーマがまずしなくちゃいけないことは、クーニャンの誤解を解く事ニャ」

フェイリス「それができたら、ダルニャンやマユシィにはフェイリスから言っておくニャ」

岡部「助かる。だが、助手とどうコミュニケーションをとればいい? 無音の音声(スゥルドゥス・ロプス)を確認したいところだが、多分、あいつはぶっ壊れている。主電源から落としたというのに、紅莉栖の声が聞こえないというのは俺の脳に異常が出ているという事だ」

フェイリス「……えーと、クーニャンの声が聞こえるように新たに改良するか、修理するしかないのかニャ?」

岡部「ああ……、それには紅莉栖が必要だ。俺が勘やなんやらで作ってしまった結果がこれだからな。修理もそれでやる訳にはいかん」

岡部「問題は、だ。紅莉栖にそれをどう説明するかだ。フェイリスに翻訳になってもらうのもありだが、それはそれでやりにくいうえに、」

フェイリス「ごめんニャ。夜なら平気かも知れないけど、今からはバイトもあるし無理だニャ」

岡部「って、お前はこんな所で油売ってて平気なのか?」

フェイリス「なんとかなるニャッ!」

携帯「~♪」

岡部「む…、紅莉栖か?」

岡部「って、指圧師か」


From:閃光の指圧師

Sub:どうしたの?

Main:さっきラボに行ったんだけど、みんなの様子がおかしかった。何か心当たりとかある?
特に牧瀬さんの様子がおかしかったけど。岡部くん、時間があったらラボに来てくれないかな。
私はちょっと上に呼ばれて、また仕事に出なきゃいけないけど(笑)

岡部「ほんとにあいつはメールになると饒舌だな。文章でなんでここまで性格が……。……っ!」

フェイリス「ど、どうしたのかニャ!? 凶真!」

岡部「指圧師は、面と向かって話すとここまで明るい奴じゃない。もともとコミュ力のある奴じゃないからな」

フェイリス「それがどうかしたかニャ?」

岡部「……だが、あいつは文字になった途端、性格が百八十度変わる。あれが本当の指圧師の姿なのかもしれない」

フェイリス「結局キョーマは何が言いたいのかよく分からないのニャ」


岡部「メールだ! 紅莉栖と会話をする手段を、指圧師のようにメールや文章を使えばいいのだ!!!」

キリがいいところで、今日は終わりです。
予定としては明日か明後日にはまた再び投下しますので。
ここまで読んでくれた人はありがとうございますっ!

再開します。


…………
……


フェイリス「ニャハハ、単純すぎて思いつかなかったニャン」

岡部「だろう。紅莉栖と会話するにはこれ以上とないくらいの奇策ではないか?」

フェイリス「確かにそれならクーニャンが何を言いたいのかも分かるニャ。それで、どうするニャ?」

岡部「ふん。とりあえず、今すぐ会いたい、と紅莉栖にメールを送る」

フェイリス「なんだか恋人同士みたいニャ。クーニャンがアメリカに帰っちゃったら、キョーマは三日も待てずにクーニャンと会いたくなるに違いないニャ」

岡部「ええい! どうして俺が紅莉栖とそんな関係にならなくてはならんのだ!」

フェイリス「でもでも、いつもは助手! とかザ・ゾンビ! クリスティーナ! って呼んでるけど、今は紅莉栖ってちゃんとした名前で呼んでるニャン」

岡部「っ! こ、これはだな。流石に真面目な話をしている時ぐらいは、と思ってだな」

フェイリス「素直じゃないニャ~♪」

岡部「その目は今すぐやめろ無償に腹が立つ。とにかく、〝助手〝にメールを送る」

フェイリス「ニャフフ」

To:助手

Sub:今どこにいる?

Main:場所を教えてくれ。話したい事がある。


岡部「……ふむ。こんな感じで……」

フェイリス「キョーマ、反省しているのかニャ?」

岡部「なんでだ?」

フェイリス「クーニャンは絶対に傷付いてると思うのニャ。だから、こんな時ぐらいきちんとした文章で送ってあげてもいいと思うのニャッ」

岡部「これがきちんとしていないというのか」

フェイリス「だって、謝る側なのにもっのすごい態度ニャ!」

岡部「……一理はあるな。仕方あるまい」カチカチ


To:助手

Sub:今どこにいる?

Main:先程は悪かった。ところで助手は今どこにいる? 少し話したい事がある。


フェイリス「ニャー!! ぜっんぜん変わってないのニャ!」

岡部「う、うむ?」

岡部「……」カチカチ

To:助手

Sub:今どこにいますか?

Main:先程は申し訳ありません。深く反省しています。ところで今どこにおられますか?
お話ししたい事があるので、お時間があいたら教えてください。


フェイリス「……キョーマ」

岡部「……言われんでも分かってる」

フェイリス「もっと優しく言う事はできないのかニャ?」

岡部「優しく、か。ふむ……」カチカチ


To:助手

Sub:突然メールをしてすまない。

Main:先程はすまなかった。お前を無視するつもりはなかったんだが、傷つけてしまったのなら謝る。
ところで、少し話したい事があるから会えないだろうか? 先程の件も含めて、話したいことがある。
用事があるなら別の日でもいい。


フェイリス「まあ、キョーマの性格を考えるとこんなもんかニャ」

岡部「……くっ! なんたる屈辱! 鳳凰院凶真が、何ゆえ助手の気遣いなど!」

フェイリス「……」ジトー

岡部「じょ、冗談だ」

岡部「とりあえず送信するぞ」ピッ

送信中………、送信しました。

フェイリス「あとはクーニャンからのメールを待つだけだニャン」

フェイリス「フェイリスはちょっと仕事があるから、一旦席を外すニャ。クーニャンからメールがあったら言ってくれれば来るニャ」

岡部「……全く、バイトの分際で二十分近く、しかも店内でサボるとは肝の据わった奴だ」

フェイリス「フェイリスは許されるのニャ!」

岡部「(……ミスターブラウンが口癖のように「最近の若いもんは仕事を舐めてやがる」というのも、同調するな)」

携帯「~♪」

岡部「む? 電話か……。ま、まさか助手からなんてないよな」

岡部「だとしたら、電話にでたところで声が聞こえん」

岡部「……って、なんだダルか」ピッ

岡部「俺だ。何か用か?」

ダル『……』

岡部「おい。電話をかけてきておいて無言とかどういう神経をしているんだお前は」

ダル『……』

岡部「って、まさか……。お、お前の声まで……っ!」

ダル『オカリンさぁ……、どうしてそんなに元気でいられんの?』

岡部「は、はあ? いきなり何を言い出すかと思えば」

ダル『牧瀬氏、本気で落ち込んでたんだぞ。オカリン、まだ無視続けるワケ?』

岡部「……む。その件に関しては安心しろ。俺も助手を無視するなんて外道で卑劣な行為をするつもりは断じてないからな」

岡部「そんなやり方で助手を負かしても、つまらんしな」

ダル『……んー、よくわかんね。結局、オカリンはどうするん?』

岡部「ああ、それなら今さっき助手にメールを送った。先程の件について話をだな」

ダル『何があったか知らないけど、これ以上牧瀬氏を泣かせるような事をしたら、僕も許さないんだぜ』

ダル『無論、まゆ氏もだお』

岡部「分かっている。俺も助手が傷ついている姿など見たくない」

ダル『なんだやっぱりいつものオカリンか。心配して損したお』

岡部「む?」

ダル『オカリンいつも訳分かんねーことばっか言ってるけど、無意味に人を傷つけるような奴じゃないと思ってたからさ』

ダル『ま、そうゆーわけ。オカリンが牧瀬氏に謝るってんなら、僕はこれ以上何も言うつもりはないお』

ダル『んじゃ、ノシ』

岡部「あ、ああ!? ちょっと待てダル!」

プツン ツーツーツー

岡部「あ、あいつ、言いたい事だけ言って逃げやがって……」

フェイリス「キョーマ? クーニャンからメール来たかニャ?」スタスタ

岡部「ん? ああ、そろそろ時間的に考えて返信があってもおかしくないか」

岡部「……ないな。しかし、まだ五分しか経過してないから、クリスティーナが見ていない可能性もあるぞ」

フェイリス「そんなことないニャ。いま一番気にしてる相手からメールがあったら、クーニャンは大慌てでメールを見てると思うのニャン♪」

岡部「どうでもいいが。お前バイト平気なのか?」

フェイリス「フェイリスのことはいいから、今はクーニャンのことを考えるのニャッ!」

携帯「~♪」

岡部「っ! っと……、助手からだ」

From:助手

Sub:なによ?

Main:無視ってなんのこと? 別に私は気にしてませんから、岡部が気にする必要はないけど。
話? あんたから話があるって、妙ね。雪でも降ってきそうだわ。

P.S.
今はラボにいる。早く来ないと帰るからな。
後、まゆりと橋田は用事があって帰った。


岡部「……」ウーン

フェイリス「ニャ?」

岡部「相変わらず可愛くない奴め……」

岡部「俺が無視した程度で、あいつが堪えたとも思えん」

フェイリス「やっぱりキョーマは何にも分かってないのニャ……。とにかく、クーニャンに会いにいくのニャ」

岡部「分かった。さっさと誤解を解いた方が、身のためだしな。あいつのことだから後が恐ろしい」

フェイリス「確かに、ニャ。もしキョーマがクーニャンの声が聞こえるようになったら、クーニャンはきっと……、ニャハ♪」

岡部「ああ、生きて帰って来れる事を祈る。じゃあな」

カランカラン……


岡部「……ふむ。やはり自分の才能が恐ろしいな」

岡部「特定の人物の声を聞こえなくするのは、現段階では難しいと言われている」

岡部「それが、簡単に完成してしまったのだ。ク、ククク……っ!」

―――ラボ。

岡部「戻ったぞ! 待たせたな、助手よっ!」

紅莉栖「……あっ」

岡部「って、なんだお前は。そんな隅っこで膝抱えて何してんだ?」

紅莉栖「べ、別に何もしてないわよ。さっきのことを気にしていたりなんかしてないんだからなっ!」

岡部「……」

岡部「(あ、そうか。助手の声は聞こえないんだったな)」

岡部「お前に話がある」

紅莉栖「は、話って何よ……」

岡部「ま、とりあえずこっちに来い。そんなところで丸まってないで」

紅莉栖「……し、仕方ないわね」スタスタ

岡部「(いやしかし、相手の言っている事が分からないとここまで不安になるものなんだな)」

紅莉栖「そ、それで? 話したい事って何? くだらないことだったらぶっ飛ばすからな」

岡部「………」

岡部「(ここは無音の音声(スゥルドゥス・ロプス)のことをバラしてしまうのが一番いいだろう)」

紅莉栖「岡部?」

岡部「………」

紅莉栖「……っ」

岡部「(隠したってしょうがないしな。事態をこれ以上厄介にするのは、ラボの未来を考えてもあまり賢明ではない)」

紅莉栖「……い、いやっ。ね、ねえっ、岡部っ! 返事してよ……っ」

岡部「よし、クリスティーナよ! お前に重大な発表がある!」

紅莉栖「……あ」

紅莉栖「……な、なによ……」ホッ

岡部「俺はお前らに黙って、秘密のプロジェクトを進めていた」

岡部「その名も、オペレーション・デッドサイレンス。秘密裏に作成していたガジェットを完成させるのが目的だ」

岡部「俺が作っていたものは無音の音声(スゥルドゥス・ロプス)と言うもので、特定の人物の声を消す事が可能になる」

紅莉栖「……?」

岡部「まあ、構図やらを説明するのは後にして、とりあえず実験段階まで進んだのだが、」

岡部「昨夜、スイッチを入れたらショートしてな。実験は失敗したと思い、無音の音声(スゥルドゥス・ロプス)の作成はいったん止めることにしたのだ」

岡部「だが、無音の音声(スゥルドゥス・ロプス)は成功していたのだ! 俺が作り上げたものに、欠点などなかったのだ!」

紅莉栖「あんた、もしかして」

岡部「ククク。勘の良いお前なら分かるだろう! 紅莉栖の声を限定して、聞こえなくなるように設定したのだ! フゥーハハハハ!」

紅莉栖「………」

岡部「今日のお前はずっとだんまりだったから、違和感を覚えていたのだが、まさか無音の音声(スゥルドゥス・ロプス)の効果が出たとは思わんだろう?」

岡部「まあ、要するにあれだ。俺はお前を無視したくて無視したわけではない」

岡部「加えて言い訳するが、結果的に無視してしまったのも全部、無音の音声(スゥルドゥス・ロプス)のせいというわけで、」

岡部「お前を傷つけたくてやったんじゃないんだ。この件に関しては謝罪しよう。すまなかった」

紅莉栖「……えと、それじゃあ――」

岡部「あ、それと待て。……えーと、確か」ガサゴソ

岡部「ほら、ノートとペン。面倒だろうが、やむをえまい。お前の声が聞こえないのだからな」

紅莉栖「あ、……そっか」

紅莉栖「……」カキカキ

紅莉栖『それ、本当?』

岡部「無論だ! 嘘をついてどうする」

紅莉栖「……む」

紅莉栖「……」カキカキ

紅莉栖『じゃあ、別に私を無視してたわけじゃないのね?』

岡部「さっき言っただろう。俺の話を聞いてなかったのか?」

紅莉栖「……な、なんだそっか…。よかった…」ホッ

紅莉栖「って、別にそんなことを思ってるわけじゃ――」

岡部「……?」

紅莉栖「……あ、そうか。声が聞こえないんだっけ?」

紅莉栖「……」カキカキ

紅莉栖『ほんとに、私の声が聞こえないの? だとしたら、あんた、とんでもないものを作ったわね』

岡部「俺の手にかかれば、こんなもんは造作もない」

紅莉栖『とか言っておいて、制御できないんだから、結果的に失敗よ』

岡部「…ぐぬぬっ! ああ言えばこう言うのだな!」

紅莉栖『それに、こんな予算も器材もない場所でどうやって作ったのよ? 普通に考えて無理でしょ』

岡部「フッ――。お前はこんなものよりすごいものが我がラボに眠っている事を忘れたのか?」

紅莉栖「……あっ!」

岡部「(今のは気づいた、という表情だな)」

岡部「その通りだ」

岡部「―――その名も電話レンジ。特定した対象の声を消す事は現段階では難しいと考えられているが、」

岡部「過去へメールを送って現在を変えてしまう方法は、現段階では難しいも何も、不可能だと考えられているだろう?」

岡部「物理学者の多くも、タイムマシンは不可能だと謳ってきた。お前だってその一人の筈だ」

岡部「その不可能と謳われたタイムマシンが、今ここにある。大した器材も予算もないのに、出来あがったのだ」

紅莉栖『じゃあ何? それなら、その特定した声を消すガジェットを作れたことは不思議じゃないってこと?』

岡部「無論だ」

岡部「タイムマシンが作れてしまうぐらいならば、この程度の事、鳳凰院凶真にかかれば簡単に作れてしまうのだ!」

岡部「フゥーハハハハハ!!」

紅莉栖『どうも信じられない。ほんとは聞こえてるんじゃない?』

岡部「ハハ!!? って、どうして信じてくれないのだ」

岡部「第一、俺が無意味に助手を無視したりする訳ないだろう。というより、そんなことしたくてもできん」

岡部「それが、信頼に値する理由でいいか?」

紅莉栖「……ちょ、いきなり何言い出すのよ!」

岡部「?」

紅莉栖「って、声が聞こえないのね。ああもう面倒臭い!!」

岡部「(何を怒っているのだ、こいつは)」

紅莉栖「――って、待て待て……」

紅莉栖「私の声が聞こえないってことは……、」

紅莉栖「ねえ岡部!」

岡部「? だから紙で書いてくれないと分からないと言っているだろう。どうでもいいが、滑稽だぞ。口を開いているのに無音というのはな」

紅莉栖「うっさい! それより、本当に聞こえてないのね?」

岡部「……」

紅莉栖「ああもう、そうだった……っ!」カキカキ

紅莉栖『本当に聞こえてないんだよなっ!』

岡部「何度言わせる気だ……。そんなにも俺が信用ならんか」

紅莉栖「……ドクターペッパーはまずい」

岡部「……」

紅莉栖「自分の事を鳳凰院凶真とか名乗ってるなんて、本当に痛いわよあんた」

岡部「……」

紅莉栖「機関? だっけ。厨二病も大概にしなさいよ。馬鹿みたいだから」

岡部「……」

紅莉栖「ばーかばーか」

岡部「……」

紅莉栖「……ほ、ほんとに聞こえてないみたいね」

岡部「……おい。お前、聞こえないのをいい事に何か言いたい放題言っている訳ではないだろうな?」

紅莉栖「なっ!? まさか、あんた聞こえて!?」

岡部「……」

紅莉栖「い、いや、ドクターペッパーを侮辱されたら、その時点で何か言い返してくるわよね」

紅莉栖「……ほんとに、聞こえてないんだ」

岡部「……あんまりジロジロ見るな。な、なんかソワソワするだろう」

岡部「(と、というより、助手が怪しい目をしているのだが、気のせいだろうか)」

紅莉栖「……お、岡部っ」

紅莉栖「……っ//」

紅莉栖「……」スゥーハー

紅莉栖「……す、好きだぞっ!」

岡部「……?」

紅莉栖「~~~!!!////」ジタバタジタバタ

岡部「(……シュールすぎる。何をしているんだこの助手)」

岡部「(やはり俺が聞こえないのをいいことに言いたい放題言っているのだな。なるほど、仕返しという事か)」

岡部「おい、助手! 何をドタバタしているんだ! お前がメールか紙で言いたい事を書いてくれないと伝わらんだろうが!」

紅莉栖「い、言いたい事って……/// い、今言ったわよ馬鹿岡部っ!」

岡部「だーかーらー! 喋るな! そして言いたい事は紙に書け!」

紅莉栖「し、仕方ないわね……」

紅莉栖「……」カキカキ

紅莉栖「――って、かける訳ないでしょこのHENTAI///」ボキッ!

紅莉栖「~~~!!//」ドタバタ

岡部「………」

岡部「(……駄目だこいつ、早くなんとかしないと)」

岡部「……で、落ち着いたか?」

紅莉栖「……」カキカキ

紅莉栖『初めから冷静でしたが、何か?』

岡部「嘘つけ。ことあるごとにドタバタして、挙句の果てにはクッションに顔をうずめたりして、どこが冷静と言うのだ」

紅莉栖『別にいいでしょ。それより、そのヘンテコなガジェットの説明をして』

岡部「ヘンテコ言うな」

岡部「……」コホン

岡部「要するに、ノイズキャンセリングを応用したものだ」

岡部「ノイズキャンセリングは逆位相の波を発することで、音波同士が打ち消し合って聴こえなくなるという原理なわけだが、お前も知っているだろ」

岡部「まあ、それで色々使って、特定した対象の声を消す事が可能になったわけだ」

紅莉栖「……つまり」カキカキ

紅莉栖『岡部→(∩ ゚д゚)アーアーきこえなーい』

岡部「……何がしたいのだ、お前は」

やべ、軽くミスった。
>>85の初めの部分に

―――――――
――――
――

を入れるつもりだったけど、まあ細かいことは(ry

岡部「標準装備はこれだ。ヘッドホンを被って、脳に直接ショックを与えることで対象の声が聞こえなくなる」

岡部「初めは特殊な音波を発生させ、半径五メートル以内のみ有効だったのだが、改良したのだ」

紅莉栖『ぶっとんだ物を作ったわね』

岡部「もっと褒めるが良い」

紅莉栖『褒めてねーよ』

岡部「特殊な音波を発生させている時のみ、だとまた色々と制限されるだろう? それに五メートル以内に入っている人は無条件で助手の声が
聞こえなくなるしな」

岡部「それなら脳に直接ショックを与えればいいじゃないか」

岡部「という考えにいたった」

紅莉栖『ツッコミどころ満載ね……』

岡部「正直俺も、完成するとは思ってもなかったがな」

紅莉栖『それで? ガジェットは?』

岡部「ガジェットならこっちだ。開発室に来い」

紅莉栖「……」トコトコ

岡部「この棚の上に……、っと。これだ」ヒラッ

紅莉栖「? これ……」

岡部「ん? ―――っ!!」

紅莉栖「……なぁっ! 私の写真!? い、いつの間に撮った!?」

岡部「し、知らん! 俺は知らんぞ!」

紅莉栖「も、もしかして岡部、これを隠し持ってたりして――」

岡部「お前が考えている事は断じてない!! スイーツ(笑)と一緒にするな!」

岡部「今日、本を読んでいたら偶然、挟まっていたのだ。きっとダルかそこらの仕業だろう」

紅莉栖「……橋田め、後で開頭して海馬に電極ぶっ刺してやる」

紅莉栖「……って、あんた、今普通に私と会話してなかった?」

岡部「……?」

紅莉栖「……」カキカキ

紅莉栖『今普通に会話してなかったか、と言ったんだ』

岡部「お前の表情を見れば何言っているか大抵理解できたしな。大方、俺がそれを持っているとでも勘違いしたのだろう」

紅莉栖「そっか……。ああ、違うもうこんなこと話してる場合じゃなくてっ」

岡部「……? ん、ああ、ガジェットはこれな」

紅莉栖「へえ。一応、それなりにしっかりとしているのね」

岡部「昨夜変な音を立ててぶっ壊れてしまったのだが、」

紅莉栖「……」カキカキ

紅莉栖『壊れた? でもあんたは私の声が聞こえないんでしょ? まだ何かしらの機能が働いている可能性がある。それを止める方法を探さないと』

岡部「よし! ではお前に任せるぞ、助手よ!」

紅莉栖「あー、はいはい」

~二十分後~

紅莉栖「……ふーむ」

岡部「何か分かったか?」

紅莉栖「……ふうん。内部は……」

岡部「おーい」

紅莉栖「うるさいわねっ! 今見てるから話しかけんなっ!」

岡部「ん?」

紅莉栖「……っ!」ギリギリ

紅莉栖「……」カキカキ

紅莉栖『調べてるから話しかけるな』

岡部「……は、はい!」

…………
……



紅莉栖「……えーと」

紅莉栖「何これ? 見たことない部品ね…」

岡部「じ、助手よ。まだ分からないのか?」

紅莉栖「……」ウーン

岡部「(……助手の声は初めから聞こえないのだが、あからさまに無視されている)」ジー

岡部「(現にこちらを見てもくれないし、紙に何かを書こうともしていない)」ジー

紅莉栖「……」チラ

岡部「……」ムゥ

紅莉栖「……」

紅莉栖「……」カキカキ

岡部「――っ!」

紅莉栖「……」ハイ

岡部「な、なんだ!? な、何かいいことでもあったか!? げ、原因とか分かったのか!?」

紅莉栖『設計図とかあるでしょ? それ貸してもらえる? 後、気が散るから隣でジーッと見るな』

岡部「……あ、はい。これです」

紅莉栖「(……岡部にじっと見られていると緊張するなんて、口が裂けても言えないわよね……)」

岡部「さ、さて、俺はドクターペッパーでも飲むか。助手もいるか?」

紅莉栖「遠慮しとく」

岡部「……?」

紅莉栖「……あ、そっか」

紅莉栖「……」フルフル

岡部「そ、そうか」

岡部「(……これも、運命石の扉の選択か……っ!)」

岡部「(も、もしかして俺が無視してしまったことに腹が立って仕返しをしているのか?)」

岡部「(助手が俺に冷たく当たってくる……)」

岡部「(……邪魔をしないためにも下手に話しかけない方がいいかもしれん)」

岡部「(……俺に出来る事は、他にないだろうか)」

岡部「……」プシュ

岡部「……」ゴクゴク

岡部「……俺だ」

岡部「ああ、事態は思った以上にまずいことになっている」

岡部「く……っ! 俺はとんでもないものを生み出してしまったのかもしれん……」

岡部「無音の音声(スゥルドゥス・ロプス)……。俺が作りだしたとはいえ、胡乱な物体だ」

岡部「ああ、人類は神の領域に足を踏み入れてしまったのだよ」

岡部「……ふ。世界中に溢れんとばかりある科学こそが、烙印なのかもしれん」

岡部「機関の連中に動きはあったか? ……ふ、だろうな」

岡部「分かっている。時が来ればまた連絡する。エル、プサイ……、コングルゥ」

岡部「……」ハァ


岡部「……助手よ。俺に何かできる事はあるか?」

紅莉栖「? ……あー」

紅莉栖「……」カキカキ

紅莉栖『ごめん。もう少し時間がほしい。しばらくしたら呼ぶから、岡部はゆっくりしていて』

岡部「そ、そうか。じゃ、邪魔したなクリスティーナ!」

紅莉栖「ティーナって言うな」

岡部「……」スタスタ

岡部「カーテン、しめておくぞー……」

シャッ

岡部「……うぅぅむ」

岡部「(俺が発明したものに助手は興味津津のようだが、まさかあいつ、技術を奪って行く気ではないだろうな?)」

岡部「(くっ、しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。俺もあいつの力が必要なのだ)」

岡部「(今だけは我慢しておこう。ソファで少し休むか)」

岡部「……」コクッ…、コクッ……

岡部「……」グー グー

~~~~~
~~~
~~


おかしな夢を見た。

ソファで寝ている俺を、今まで見せた事のない優しい瞳で見据えている紅莉栖の姿。

それを、第三者からの目線で見ているような光景。

紅莉栖は、優しい声で〝そこで寝ている俺〝に何か言っている。

聞きとれない。小さすぎる。

って、あれ? 俺って紅莉栖の声が聞こえないじゃなかったか?

―――なんで、素直になれないんだろ。

???

これは、紅莉栖の声か。

ほんの数十時間程度聞いてなかっただけなのに、随分その声が懐かしく思える。

―――大好き。

……!!

全身に鳥肌が立った。あの紅莉栖が、デレただと。

……お、俺の夢にしては少しスイーツ(笑)すぎやしないだろうか。

って、紅莉栖。何をしている。おいおいおい、それは流石にまずいだろう!

現実ではないとはいえ、いや夢だとしてもそれは駄目だっ!

そんな言葉が当然届くまでもなく―――、

岡部「うわあああっ!?!?!」

紅莉栖「―――っ!」バッ!

紅莉栖「ちょ、いきなり大声出すなっ!」

岡部「駄目だ紅莉栖! それは駄目だ! それだけは絶対に駄目だっ!」

紅莉栖「ちょ、な、なんなの!?」

岡部「そ、そんなことをしたら俺はっ……、って、あれ」キョロキョロ

紅莉栖「……岡部?」

岡部「え? え?? ゆ、夢っ!? い、いや、夢だよな。ああ、当たり前だ。あんなおぞましい夢が現実であってたまるか」

紅莉栖「岡部? あ、そっか。聞こえないんだっけ」

紅莉栖「……」カキカキ

紅莉栖『気持ち良く寝てたところ悪いんだけど、解決法が出て来たわよ』

岡部「?? 何でお前はわざわざ紙に書いて、それを俺に見せつける?」

紅莉栖「はあ?」

紅莉栖「……」カキカキ

紅莉栖『あんたの作ったヘンテコガジェットのせいで私の声が聞こえないんでしょーが!』

岡部「あ、ああ、そうだったな。忘れていた、素で」

紅莉栖「………」

岡部「そんな目で俺を見るな! 最近疲れが溜まっていたのだ!」

紅莉栖「別にいいけどね」フン

岡部「なぜそんなに不機嫌な顔をしているのだ?」

紅莉栖『どうせなら、もう少し寝てれば良かったのに! 馬鹿岡部っ!』

岡部「ん? ……フゥーハハハハ! 文字になると全然迫力がないな!」

紅莉栖「……っ!」バシン!

岡部「痛っ!?」

岡部「おまっ、人を殴るなっ!」

紅莉栖『あんたが悪い』

岡部「なんだとっ!? 俺のどこが悪いと言うのだっ!」

紅莉栖『全て』

岡部「くっ! な、なんだか文字にされると、無性に腹が立つぞ!」

紅莉栖『m9(^Д^)プギャーwwww』

岡部「ぐぬぬ……っ!!」」

紅莉栖「……」

岡部「……」

紅莉栖「……」カキカキ

紅莉栖『なんだか急にむなしくなったんだけど』

岡部「同感だ。どうして俺達はこんな状態に陥ってまで喧嘩しているのだ」

岡部「それもお前はわざわざ律儀に文字を書いてまでな」

岡部「ところで、解決法が出たとかなんたらとか聞いたのだが」

紅莉栖「あ。忘れてた」

岡部「(……今のハッ、とした顔から見るに、どうやら忘れていたようだな)」

紅莉栖「えーと、ね」

紅莉栖「……」カキカキ

紅莉栖『ホワイトボードに書くから見てて』

岡部「分かった」

---

紅莉栖「……とまあ、こんな感じ」

岡部「……ふむ」

岡部「って、これは、俺が悪いってことか?」

紅莉栖「そりゃね」コク

岡部「(……ホワイトボードに書かれている内容は……、)」


『内部の構図が結構滅茶苦茶で、これでよく動いたのか疑問』

『電気量が多すぎる。本来なら実験は失敗に終わるはずだったが、脳に必要以上にショックを与えてしまったせいで脳に異常が出ている』

『ショートしたのもそれが原因。感電しなかったのが奇跡』

『音波を受容する耳自体がおかしくなっている訳ではない』

岡部「……む。ではなんだ。軽率な判断で作ってしまったことがそもそもの原因という事か?」

紅莉栖「イエス」コク

岡部「くっ、だが無音の音声(スゥルドゥス・ロプス)は完成した。現にお前の声が聞こえなくなっている訳だしな」

岡部「滅茶苦茶な構図と言っているが、ある程度考えてある。だからこそ、助手の声が聞こえないのではないか?」

紅莉栖「……だから」カキカキ

紅莉栖『それが一番の原因。中途半端な知識で作っちゃってるから、制御できてない。現に、あんたは私の声が聞こえるように出来る?』

岡部「……で、できないが」

紅莉栖『たとえ、人類を驚愕させるような物を発明しても、制御できなきゃ意味がない』

岡部「(くっ、反論できん……)」

紅莉栖「……」カキカキ

紅莉栖「……」カキカキ

紅莉栖『一般的に人の耳は、外耳道で音を拾い集め、その音によって鼓膜が振動する』

紅莉栖『耳が拾った音を、神経パルスに変換して、蝸牛神経を通し大脳の聴覚中枢へ送る』

紅莉栖『耳自体に問題がないというなら、大脳の聴覚中枢へ送られる途中に何らかのイレギュラーが発生してるワケ』

紅莉栖『それがガジェットによる妨害か何かがあって、あんたの脳は私の声を認識しなくなっている』

紅莉栖『解決法は、ガジェットを修理するか改良するかをして、元に戻すことぐらいしか考えられない』

岡部「……えーと、やはりガジェットは壊れているのか?」

紅莉栖「……」カキカキ

紅莉栖『配線は焼けてるし、ところどころ部品が破損している』

紅莉栖『このガジェットが常に妨害電波のようなものをあんたの脳に送ってるなら話は早いんだけどね(笑)』

岡部「まさか貴様……、壊す、などと言うのではないだろうな?」

紅莉栖『今壊しても何の意味もないし、そんなことしたら一生元に戻らなくなる恐れもあるから、しないわよ』

岡部「ならいいんだが」

岡部「用は直せばいいんだな? それで、助手の声が聞こえなくなっている原因を取り除けばいいと」

紅莉栖『簡単に言ってくれるけど、』カキカキ

紅莉栖『原因を取り除くにはどうすればいいと思う? 原因を作るにはスイッチ一つですんだけれど、それを元通りにするのに、スイッチひとつですむ問題かしら?』

岡部「……む。た、確かにそれもそうだな」

岡部「電源をON、OFFにする問題ではないしな……」

紅莉栖『私から言える事はこれくらい』

岡部「……ふむ。……ああ、ところで助手よ」

紅莉栖「……?」

岡部「その、助手が俺と会話するために使っているノートだが」

紅莉栖「は?」

岡部「後で俺に返してくれ。一応、俺のものだしな」

紅莉栖「……?」

紅莉栖『別にいいけど』カキカキ

岡部「……う、うむ。素直でよろしい」



岡部「……ふむ」レーセー

紅莉栖「って、なんであんたそんなに冷静なの?」

岡部「??」

紅莉栖「……ほんと、面倒ね。もう手が痛いわよ……」カキカキ

紅莉栖『あくまで可能性の話だけど、一生私の声が聞こえなくなる恐れもある。なのにどうして冷静なんだ、あんたは』

岡部「いや、単純な解決法が一つあるんだ」

紅莉栖「??」

岡部「時が解決してくれる、とも言うだろう?」

紅莉栖「……」

岡部「俺達も時間に頼れば、この状態をなかったことにできる」

紅莉栖「ま、まさか電話レンジっ!?」

岡部「過去の俺に『無音の音声は作るな危険だ』とでも送れば、最悪、この状況からは逃れられる」

紅莉栖「……っ」カキカキ

紅莉栖『どうしてそれを早く言わなかった! そんな方法があるなら、さっさとやるべき』

岡部「……いや、だがな」

紅莉栖『どうした!?』

岡部「……ううむ」

紅莉栖「おい、岡部?」

岡部「こんな些細なことで、過去を無暗に変えていいものか……」

紅莉栖「……岡部?」

岡部「いや、確かに今までDメール実験はしてきたが、やはりここで改めて考え直すべきではないか?」

紅莉栖「??」

岡部「仮に、だ。過去を変えられたとすれば、今は起こらなかったことになり世界は再構成される」

岡部「……俺達の勝手な理由で、六十億人以上の人間達まで巻き込んでいいのか……」

紅莉栖「……岡部」

岡部「仮にもだ。バタフライエフェクトやらで、本来ならば幸せに暮らしていたであろうどこかの家族が、不運の事故に巻き込まれてその幸せが崩壊する恐れもある」

岡部「世界が再構成されると言うのはつまりその可能性も十分にあり得るということ」

岡部「過去の改変によって、人一人の存在を消してしまうこともありえるんだ。今まで一生懸命生きてきた人の…、な」

岡部「だから紅莉栖。俺はできれば、Dメールは使いたくない」

岡部「それに、Dメールを送れば今がなかった事になってしまうんだ」

岡部「少なくとも、今日一日紅莉栖と過ごしていた時間をなかったことにするのは、したくないんだ」

紅莉栖「……っ」ドキッ

岡部「それに、自分で撒いた種だ。自分で回収する。そんなチート紛いな不正行為は許されん」

岡部「だから、他に解決法はあるか? 紅莉栖」

紅莉栖「……/// ば、ばか。なんでこういう時にかぎって、ちゃんとした名前で呼ぶのよ……っ」

岡部「おい? 聞いているのか?」

紅莉栖『ずるい』カキカキ

岡部「は?」

紅莉栖『とにかく、私は最後まで協力するからな。一人で何とかしようだなんて思うなよなっ!』

岡部「いやまあ、一人じゃどうしようもないからお前に協力を求めたのだがな……」

岡部「……って、顔が赤いぞ? どうかしたか?」

紅莉栖「あんたのせいよ。……ますます、好きになっちゃったじゃない」

岡部「……?」

紅莉栖「はぁ……。なんか、これはこれで色々と辛いわね……」

紅莉栖「だからと言ってまともに会話できるようになっても、こんなこと口が裂けても言えないんだけど」

紅莉栖「……ま、いいか」

岡部「ところで思ったんだが、俺でもこんな物を作れたんだ。多少欠陥があったとしてもな」

岡部「……うむ。やはりアイツの手を借りるのが無難ではないか?」

紅莉栖「……あいつ? ……あ、もしかして、」

岡部「俺の相棒としてマイフェイバリットライトアーム。機械やPCに関してはお任せのあいつなら、なんとかしてくれるかもしれん」

紅莉栖『だったら、なんで最初からアイツに協力を求めなかった?』カキカキ

岡部「いや、お前が誤解したままだったからな……。それを解くことも含めて、お前と二人で解決できるならそれでいいと思っていたが、」

岡部「どうやら俺達だけでは力不足のようだ」

紅莉栖『そう…、ね』

岡部「ダルに連絡を取るか……」ピッピ プルルル

岡部「……でないな」プルルル

ダル『もしもし?』

岡部「おお、出てくれたか我が右腕」

ダル『何の用? オカリン』

岡部「少しお前に手伝ってほしい事がある。新たに作ったガジェットの事なんだか、ちょっと故障を起こしてしまってな」

岡部「助手と解決策を練ったが、やはり無理だ。お前の助けが必要だ。今から来れるか?」

ダル『うーん。そだなー……。おk。今ラボの近くにいるから、行くお』

岡部「助かったぞ、スーパーハカー。なるべく早く来てくれ」

ダル『せめてスーパーハッカーと呼んでくれと何度……』

プツン

岡部「これで後はダルが来るのを待てばいい」

紅莉栖「……そうね。あいつは見かけによらず、ってのは私も知ってるし」

岡部「とりあえずなんとかなるだろう。なんとかならなかったら、なんとかすればいいだけの話だしな」

紅莉栖『見事に曖昧なことしか言っていないわね』

岡部「うるさいぞ。ああ、それと助手よ。ダルが来たら、無音の音声(スゥルドゥス・ロプス)の構造を説明してくれ」

紅莉栖『りょーかい』

岡部「……よし、後はダルが来るのを待つだけだな―――」

今日はここまでです。
書きためてたものを全部投下してしまったので、次回は少し遅くなるかもしれません。
出来るだけ、早めに投下するつもりです。予定では三日以内……で。
読んでくれている人は毎度ながら、ありがとうございます。

いやあ、毎日暑いですね。自分の部屋はクーラーがないので、まるでラボのような暑さです。
冬が恋しい。
つーわけで、再開します。

――――――
――――
――

ダル「マジで? これをオカリンがひとりで作ったワケ?」

まゆり「へぇーへぇー。これがオカリンが作ったガジェットさんなんだ~」

岡部「ククク……。もっと褒めるが良い」

ダル「それで失敗したと思ったら実は成功していたとか、オカリンマジパネェっす」

岡部「という訳で、別に俺はクリスティーナを無視したくて無視していた訳ではないのだ。その辺り、きちんとしておかないといけないな」

岡部「この俺、鳳凰院凶真はいかなる時も独善的であり、機関の支配構造を破壊するためなら手段は選ばない」

岡部「だがっ! 鳳凰院凶真は、そんな非道な行為をとるつもりは断じてないっ!」

まゆり「えへへー、えっへへ~」ニコニコ

岡部「……む? まゆりよ。なぜそんなに嬉しそうな顔をしているのだ?」

まゆり「だって嬉しいよ。オカリンはまゆしぃが信じていたとおり、やっぱり優しかったんだもん」

岡部「……っ。こ、この鳳凰院凶真が優しいだと!?」

ダル「ツンデレ乙」

紅莉栖「………」

紅莉栖「……」トントン

岡部「……む? ああ、そうか。お前の声は聞こえないんだったな」

ダル「いちいち紙に書くとかマンドクセ。牧瀬氏が僕に言ってくれれば、僕がオカリンに伝えるお。そっちの方が楽だし」

紅莉栖「……それもそうね」

岡部「ふむ。珍しくまともな事を言うな」

紅莉栖「じゃあ橋田。岡部にさっさと話を進めろって言って」

ダル「オーキードーキー」

岡部「クリスティーナはなんと?」

ダル「えーと、「実はあんたのことが好きだったのよ! まゆりとイチャイチャしないでっ!」 だって」

岡部「な、なんだとっ!?」

紅莉栖「こ、このHENTAIがっ! キモイ! 気持ち悪いから今すぐやめろ!」

岡部「……そ、そうだったのか、助手よ」

紅莉栖「か、勘違いするなっ!! って、そうか声聞こえないんだったっ!」

岡部「俺はラボ創立者であり皆のリーダであるが故、一人の人間を特別に想うことなど……」

紅莉栖「あー! あー! 何勝手に勘違いしてんのよっ! これ見ろ! これをっ!」

岡部「なに? ……勘違いするな、さっさと話を進めろ……」

ダル「つまりツンデレですね、分かります」

ダル「牧瀬氏の事だから、オカリンが聞こえないのをいい事に、告白―――」

紅莉栖「ねえ、橋田」ニコニコ

ダル「な、なんか笑顔が怖いお……」

紅莉栖「後で、私の実験に付き合ってもらえるかしら?」

ダル「……遠慮しておきます。なんかすんません」

まゆり「ねーねー、オカリン。ほんとにクリスちゃんの声が聞こえないの?」

岡部「ああ……、その上、どうやって元に戻すかも分からずじまいだ」

ダル「あ、牧瀬氏牧瀬氏」

紅莉栖「何よ?」

ダル「まゆ氏に頼むのもありじゃね? ほら、紙で書くのやっぱ面倒しょ?」

紅莉栖「……」ウーン

岡部「……おいクリスティーナ」

紅莉栖「?」

岡部「お前その表情……。『まゆりは馬鹿だから、私が言う事をきちんと岡部に伝えられるかしら?』とか思ってるんじゃないだろうな」

紅莉栖「なっ! そ、そんなこと思ってるわけ……っ!」

まゆり「……クリスちゃん。まゆしぃのこと、おバカさんだと思ってたの?」

紅莉栖「違う。違うから安心して、まゆり。ね? ね?」

ダル「つーか、話が脱線している件」

岡部&紅莉栖「「おまえのせいだろうが」」

ダル「………」

紅莉栖「な、なによその目」

ダル「いや、別に。なんか悲しくなっただけだお」

岡部「? とにかく、話をいったん戻すぞ」

岡部「ダル。無音の音声(スゥルドゥス・ロプス)の方はどうにかなりそうか?」

ダル「わかんね。とりあえず一通り見てみたけど、なんとも言えないんだよね」

岡部「ん? それはどういうことだ?」

ダル「いやあ、オカリンの才能には今回だけは素直に驚くお」

岡部「ククク……、今さらすぎるぞダルよ」

ダル「牧瀬氏も言った通り、どうしてこれで動いたか疑問だお」

ダル「僕が見るに、これは修理して直しても無駄だと思われ」

岡部「……やはり、改良しなくてはならないのか?」

ダル「まあ、それしか考えられないっしょ。直したところで、牧瀬氏の声が聞こえるようにするにはどうするん?」

岡部「電源をOFFにすれば……」

ダル「このガジェットは、もう電源がOFFになってるも同然だお。主電源から切られているし、問題はそこじゃないと思われ」

ダル「問題は、オカリンの脳に異常が出てる事だお。多分、もう一度オカリンの脳にショックを与えて、原因を取り除けば、」

紅莉栖「私達もそう考えたわよ。でも、それができないから橋田に頼ってるんでしょ?」

ダル「とは言ってもなぁ。どうすればいいか分からないお。直すことなら可能かもしれないけど、牧瀬氏の声が聞こえなくなっている原因がはっきりとしてない以上、どうしようもないお」

紅莉栖「だからそれなら―――」

ダル「でもさ、その方法でオカリンの脳にショックを与えて、失敗したらどうするん?」

紅莉栖「あ……」

ダル「今回のオカリンの無謀な実験も、下手してたら感電してたんでしょ?」

岡部「無謀言うな」

紅莉栖「それも……、そうね」

岡部「……ふむ。つまりなんだ? 結論を言ってくれ」

ダル「普通なら無理って答えるっしょ。ぶっちゃけ、難しいし」

岡部「……なっ」

ダル「……けど、僕の手にかかればこの程度の障害……」フッ

ダル「赤子の腕を捻るくらいに簡単だぜ」キリッ

岡部「……」

紅莉栖「……」

まゆり「ふ~ん♪ ふふ~ん♪」ヌイヌイ

ダル「って、なんでみんな無反応?」

紅莉栖「……」

ダル「フラグが立ったと確信したのにこれってあんまりだお……」

岡部「しかしダルよ。お前の言い文では、なんとかできるかもしれない、という意味で捉えて良いのだな?」

ダル「あんまり期待はしないでほしいけどさ、とりあえずできることだけやってみるお」

紅莉栖「まあ、橋田が口だけじゃないってことは私も知ってるから、頼りにはしてるけど……」

ダル「ま、まさかのデレ期っ!? やっぱりフラグは立ってたんだお!!」

紅莉栖「デレとらんわっ! 勝手に勘違いするなっ!」

ダル「ツンデレ名台詞「勘違いしないでよねっ!」ktkr」

ダル「牧瀬氏√突入してしまったお……」

紅莉栖「そんな訳あるかっ! そんな訳あるかっ! 大事な事なので(ry」

岡部「(……しかしシュールだな)」

岡部「(まあ、クリスティーナが何を言っているかは大方理解はできるが……)」

ワイワイギャーギャー!!

岡部「……ふむ。なんだかんだ言って、お前ら仲良いよな」

紅莉栖「はあ!?」

ダル「あ、やっぱそう見えます?」

紅莉栖「あんたは黙ってろ。いいから黙ってろ。その口を縫って喋れなくするぞ」

ダル「オカリン。僕はついに、リア充になってしまう日が来るんだお……」

岡部「クリスティーナとダルか……、斬新というか、うーむ」

紅莉栖「ありえんわっ! 誰がこんなキモオタなんかとっ!」

ダル「ツンデレですね、分かります」

紅莉栖「一生デレんわっ!」

ダル「ツンドラキター!」

紅莉栖「……もうやだこのHENTAI」

ダル「んじゃ、僕は開発室に籠るお」

岡部「ああ、任せた」

岡部「それでは、作戦名――『創造神の起源(テスカトリポカ)』を開始する」

岡部「我が右腕、ダルよ。貴様の技術には高く買っている。機関の一部の連中が貴様の腕を求めるのも、仕方あるまい」

岡部「他者を巻き込んでしまうのは不本意だが、今だけは俺のために動いてくれ」

紅莉栖「はいはい、厨二病乙」

岡部「……む?」

岡部「テオヤオムクイは黙ってろ」

紅莉栖「誰が、死したる戦士かっ!」

岡部「蘇りし者(ザ・ゾンビ)と呼ばれたくないのならば、アヌビスにでも頼めばいい」

紅莉栖「ゾンビの時点で、もう手遅れだろーが……」

まゆり「あれれ? オカリンとクリスちゃんが普通に話してるけど……」

ダル「ほんとだ違和感なさすぎワロタ」

岡部「どうせイチャモンでもつけてきたのだろう? クリスティーナはワンパターンだからな」

紅莉栖「はあ? それだけはあんたに言われたくないわね」

ダル「二人ともさ、こんな時ぐらい仲良くなれよ」

紅莉栖「そ れ は 無 理」

岡部「ま、元はと言えば助手の声が聞こえなくなる事が目的だったからな。経緯はどうであれ、俺は目的を達したが」

ダル「んじゃなに? 僕は直さんでいいの?」

岡部「……ふむ。だがやはり、直してくれ。これだと不便でしょうがない」

紅莉栖「ほんとよ。何を言っても無反応だと、逆にイラつく」

ダル「……二人とも面倒くさい性格してるよな。分かったお。それじゃ、足りない部品とかは買い出し頼むけどおk?」

岡部「ああ。俺達に出来る事があったらなんでも言ってくれ」

ダル「んじゃ」

シャッ

岡部「ふう…。さて、どうなるか……」

まゆり「ねーねーオカリン」

岡部「なんだ?」

まゆり「新しい電子レンジっていつ買えるのかな?」

岡部「資金が得られたらな」

まゆり「ジューシーからあげナンバーワンが温められないのでまゆしぃは困るのです……」

岡部「分かった分かった。資金に余裕ができたら買ってやる」

岡部「だがあまり期待はするなよ。未来ガジェットが売れるかどうかで、ラボの未来が大きく変わるも同然」

岡部「だから、まゆりも何か案があったら遠慮なく俺に言うが良い」

まゆり「……でも、まゆしぃはおバカさんだから、難しいのはあんまり…」

岡部「馬鹿と言うより、うっかりだと思うが」

まゆり「あーっ! まゆしぃは、そんなうっかりさんじゃないのです。……って、あれれ?」

まゆり「鞄につけてたうーぱがいなくなっちゃった……」

岡部「ああ、あの不気味なマスコットキャラクターか。いなくなった、とは勝手に動きだしたとでも言うのか?」

岡部「中々ファンタジーではないか」

まゆり「うーん…。どこかでおっことしちゃったかなー」

岡部「さっそくうっかり発動とは、さすがまゆりだ」

まゆり「だからまゆしぃはそんなにうっかりさんじゃないのです」

岡部「説得力がないがな」ハハハ

まゆり「うーぱさん~。ででおいでー」パカ

岡部「流石に冷蔵庫にはいないと思うが」

まゆり「……とっておきだったのに」

岡部「……フ」

岡部「なあ、まゆりよ」

まゆり「?」

岡部「これ、なんだと思う?」

まゆり「あーっ! うーぱだ!」

岡部「先程、階段でみかけた」

まゆり「ありがと、オカリン。えへへ……」

岡部「……ク、クククッ! 誰も返すとは言っていないっ!」

まゆり「うーぱ、返してオカリン~」

岡部「なっ! 実力行使と出たかっ! フフッ、無駄な悪あがきを――」

まゆり「あー、うーぱ潰しちゃダメーっ!」ギュウギュウ

岡部「って、お、おま、近づきすぎだっ! 離れろ。おいこらっ!」

紅莉栖「……」

岡部「分かった! 分かったから離れろっ!」

岡部「ほら、くれてやるわっ! こんなもの」ポイ

まゆり「投げちゃダメだよー…、オカリン」

岡部「ったく…。そんな得体の知れない動物のどこが良いのだ……」

まゆり「えー? オカリン、うーぱのこと嫌いなの?」

岡部「別に嫌いではないが。まあ、あの全身の力が抜けたような気色の悪いカエルよりはましだと思うがな」

紅莉栖「仲良いわね、あんたら」

岡部「?」

まゆり「オカリンはね~、とっても優しいのです。クリスちゃんも知ってるよねー?」

紅莉栖「さあね」

まゆり「まゆしぃは優しいオカリンは好きだよ?」

紅莉栖「な……っ」

岡部「……」フム

岡部「(まゆりのことだ。思った事を口にしただけで、深い意味はないだろう)」

岡部「ドクペでも飲むか。助手はいるか?」

紅莉栖「…もらうわ」

岡部「ん? ああ、飲むんだな」

岡部「……ドクペもそろそろ底が尽きてきたな。補充せねば」ガサゴソ

岡部「ほら、助手よ。残り少ないドクペを分けてやろう。ありがたく思え」

紅莉栖「はいはいありがとうございました」

岡部「……」プシュッ ゴクゴク

岡部「はあ…」

岡部「……」ウーン

岡部「やはり、クリスティーナの声が聞こえないのは色々と不便だな」

まゆり「でも、メールとか文字にすれば伝わるんだよね?」

岡部「とは言ってもな。必然的に会話の進行が遅れるし、今後に支障がでそうだ」

岡部「指圧師なら話は別だが」

紅莉栖「私も勘弁してほしいわ。いちいち文字で会話するなんて、面倒」

まゆり「ずっとこのままなのかなー……。まゆしぃ、ちょっと寂しいのです」

岡部「そうならないために、俺達はできる事はやっている」

岡部「……まあ、今はダル任せだがな」

紅莉栖「……」ゴクゴク

紅莉栖「……ふう」

まゆり「……」

岡部「……ま、今俺達に出来る事は、ダルの手助けぐらいだ」

紅莉栖「……そうね」

岡部「(とはいえ、あのダルですら難しいと言っていた)」

岡部「(もしダルが諦めてしまったら、どうすればいいのだろう…・・)」

岡部「(……俺はもしかしたら、とんでもないものを作ってしまったのかもしれん……)」

岡部「(っと…、何を卑屈なことを考えている。鳳凰院凶真あろうものが、この調子だと前途は多難だ)」

岡部「(……全く。紅莉栖に笑われるぞ)」

岡部「フゥーハハ――――」


――――――ズキン


岡部「―――っ!!」

岡部「……あっ」

岡部「(……あれ? 力が、入らない)」

ドン…、ゴロゴロ

まゆり「オカリン?」

紅莉栖「ちょっと岡部。あー、もう。床がドクペまみれじゃない」


――――ズキン


岡部「……な、あれ……?」

岡部「(視界が揺れている……。なんだか、頭が痛い)」

岡部「(足もとが不安定だ。意識が失われていくような錯覚……)」

岡部「……くっ」


紅莉栖「岡部……?」

岡部「………」

岡部「いや、大丈夫だ。ちょっと立ち眩みがした」

まゆり「血が足りないのかなー? 牛さんのレバーを食べるといいと思うなー」

紅莉栖「貧血? 徹夜ばかり続けて、健康に気を使わないからそうなるのよ」

岡部「……いや、悪いが助手よ。お前の声は聞こえないのだ」

紅莉栖「ああ……そっか。でもいちいち紙に書くまでのことじゃないから」

まゆり「オカリンは、もうちょっと健康に気を使った方がいいよ?」

岡部「ク、クク……。何を言っている。狂気のマッドサイエンティストならば、多少は不摂生の方が良いのだ」

紅莉栖「何言ってんだか……」

岡部「健康に気を使っているマッドサイエンティストなど聞いた事がない」

紅莉栖「……心配して損した」

―――――――
――――
――

~22時00分~

岡部「………」

紅莉栖「………」

岡部「………」

紅莉栖「………」

岡部「……どうした? 何か言いたい事でもあるのか?」

紅莉栖「言いたい事なら百はあるけど、それを全部書いたら夜が明けるからやめておく」

岡部「……?」

紅莉栖「………」

岡部「……何を落ち込んでるか知らんが、お前がそれだとこちらの調子も狂うぞ」

紅莉栖「別に落ち込んでなんかないわよ。……ただ」

岡部「……む? 俺が作ったガジェットのことで頭を悩ませているのか?」

紅莉栖「……まあ、そうね」コク

岡部「……そ、そうか」

紅莉栖「はあ……」

紅莉栖「………」

岡部「………」

岡部「と、ところで助手よ―――」

ダル「あああああああああ!!!」ドタバタ

紅莉栖「っ!?」

岡部「何事っ!?」

ダル「――暑い! って、あれまゆ氏は?」キョロキョロ

岡部「もう帰った。それと騒々しいぞ。近所から苦情があったら、ミスターブラウンに何を言われるか分からん」

岡部「家賃+1万されたら、貴様に払わせるからな」

ダル「そりゃないっしょ、オカリン。基本的誰が一番うるさいって言われたら……」

岡部「む? 聞き捨てならんな。俺も流石に夜は自重している。だから貴様も声のボリュームはもう少し下げろ」

ダル「オーキードーキー……じゃなくてオカリン」

岡部「ん? ……ああ。例の件はどうなった?」

ダル「……それがなー。やっぱり僕でも無理かも」

紅莉栖「…え? 冗談抜きで?」

ダル「ある程度は直したんだけど、うんともすんとも言わないお……。どゆこと?」

岡部「……うぅむ。部品か何かが足りないのか?」

ダル「それを考えてるワケ。とりあえずある程度は元通りに直しておいたけどさ、」

ダル「オカリンが元通りになるとは言い切れないお」

岡部「……そ、そうか」

ダル「つーか、僕もう帰っていい? 流石に疲れたお」

岡部「ああ、好きにするといい」

ダル「ま、明日もとりあえず頑張ってみようかと。動かないのは多分、何かが足りないんだと思われ」

ダル「そんじゃ、また明日来るお」

岡部「うむ。手助け感謝する。その調子で明日も頼むぞ」

ダル「偉そうだなー。ま、僕も好きでやってるから良いんだけどね」

ダル「んじゃ」

ガチャ バタン

岡部「……」

紅莉栖「……」

シーン……

岡部「おい、クリスティーナ?」

紅莉栖「…なによ」

岡部「お前は帰らないのか?」

紅莉栖「そうね……。私ももう帰るわ」

岡部「……??」

紅莉栖「……」ジェスチャー

岡部「ああ。夜道は気をつけろよ。お前はしっかりしているように見えて、ドジだからな」

紅莉栖「うるさいわっ」

紅莉栖「それじゃあね」

ガチャ バタン……


岡部「……」

岡部「……はあ」

岡部「……俺だ。ああ、そうだ。俺は取り返しのつかない事をしてしまったのかもしれん」

岡部「分かっている。鳳凰院凶真に不可能な事なんてないってこともな……」

岡部「なに? まさかそこまで気付いているとは、勘の良いやつだな」

岡部「時間が、ないな……」

岡部「……ああ、俺に異常が出ているのは自覚している」

岡部「ク、クク……。まさか貴様が俺の心配をしてくれるとはな。どういう風の吹き回しだ?」

岡部「………」

岡部「……ああ。これも機関による妨害かもしれん。だが手助けはいらん」

岡部「いったん切るぞ」

岡部「エル・プサイ・コングルゥ」

岡部「………」

岡部「………」

岡部「………何が、」

岡部「……機関による妨害だ」



----

カチ、コチ、カチ、コチ

岡部「……」

岡部「……」

ピッ


To:電話レンジ(仮)

Sub:

Main:無音の音声は作るな危険だ。


岡部「……」

岡部「(この時間じゃ、放電現象が起こらないのは知っている)」

岡部「(……だけど、もしかすれば、)」

岡部「……」

岡部「……くっ!」

岡部「何を考えている俺は。過去を無暗に変えてはいけないと、紅莉栖にもそう言っていたじゃないか」

岡部「(……あまりにも愚かだ。なんたる様。どこが、狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真だ)」

岡部「(全然、なりきれてないではないか……)」

岡部「……」

岡部「……電話レンジ(仮)を一瞬でも使おうだなんて思ってしまったとは……、俺も焼きが回ったか」

岡部「だが……」

岡部「(事態は決して楽観出来た状態じゃない)」

岡部「(今日の正午を過ぎた頃……。激しい頭痛と眩暈に襲われた)」

岡部「(……ものの数秒で収まったとはいえ、このタイミングだと不吉だ)」

岡部「(徹夜ばかり続け、カップメンなどの不摂生を繰り返し続けて、身体を壊したのならまだいい)」

岡部「(……大丈夫だよな?)」

岡部「(仮に大丈夫だとしても、きっと紅莉栖の声が聞こえるようになるよな?)」

岡部「………くっ」

岡部「……」ピッピッ…

岡部「……」プルルル


紅莉栖『もしもし? 岡部?』

岡部「……」

紅莉栖『……私の声が聞こえないのに、どうして電話した?』

岡部「……なあ、紅莉栖」

岡部「もしかしたら俺は、取り返しのつかない事をしてしまったのかもしれんな」

紅莉栖『………』

岡部「迂闊だった。 まさか俺も本当に実験が成功するとは思ってもなかった」

岡部「……ふ、初めから失敗すると確信した実験だなんて、」

岡部「……これじゃあ、狂気のマッドサイエンティストなんて名のれないな」

紅莉栖『全然らしくないな。狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真のくせに。……どうした?』

岡部「……」

紅莉栖『……私の声が届かないっていうのも、なんだか寂しいものね』

岡部「もしかしたら、紅莉栖の声が聞こえるのではないか。そんな現実逃避で電話をかけただけだ」

岡部「……失望するならすればいい」

紅莉栖『……岡部。ああもう調子狂うなっ! いいか、一旦電話切るからなっ!』

プツン、

ツー、ツー、ツー……

岡部「切られたのか…」

岡部「………」

岡部「………」

岡部「………」

携帯「~♪」

岡部「……?」

岡部「……」ピッ


From:助手

Sub:何をそんなに落ち込んでいるか知らないけど、

Main:勝手に諦めたりしたら本気で怒るからな。自分一人で解決しようと思うなよ!
それと、いつもの鳳凰院凶真はどうした? あんたがそんな調子だと、こっちも調子が狂う。


岡部「……」カチカチ


To:助手

Sub:別に

Main:落ち込んでなんかない。勝手に勘違いするな。それに自分で解決できるならさっさとやってる。

携帯「~♪」


From:助手

Sub:だから

Main:それがいつもとおかしいって言ってんだろーがっ! あんたから厨二病を抜いたら、何も残らなくなるわよ。
なんとかならなかったら、なんとかするって言ったのは誰だ?


To:助手

Sub:Re:だから

Main:厨二病ではない。俺はいつも真実しか言わない。どうでもいいが、暇なのかお前は。


From:助手

Sub:おい

Main:人が心配してんのに、なんだその言い草は。諦めたら承知しないぞっ!


To:助手

Sub:Re:おい

Main:別に諦めるなんて一言も言ってないが。何を勘違いしているか知らんが、お前に心配されるのは気味が悪いぞ。

岡部「……」

岡部「……フ」

岡部「助手よ。お前に言われんでも分かっている。俺は諦めるなどという愚行はしないぞ」

携帯「~♪」


From:助手

Sub:もういい!

Main:ほんとに素直じゃないな! 氏んじゃえ馬鹿っ!


岡部「……何が氏んじゃえ、だ」

岡部「あいつめ、笑わせてくれる」

岡部「……ふう」

岡部「……さて、寝るか」



――――――
――――
――

岡部「……寝れないな」

岡部「……うーむ」パチ

岡部「身体は疲れ果てているのに、どうも寝つけん」

岡部「不眠症とはこんな感じなのだろうか…」

岡部「(寝たくても寝れない、というのは辛い)」

岡部「……何か気分転換になることでも…」


岡部「………」


岡部「(どうも調子がでない。これではラボメンにいらぬ心配をかけてしまう)」

岡部「(心配される鳳凰院凶真など、想像すらしたくないものだな)」

岡部「(とにかく、一度寝てリセットしよう)」

岡部「(……大丈夫だ。きっとなんとかなる)」

岡部「(俺は、狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真なのだからな)」

岡部「――そうだ…。俺は狂気のメェッドサイエンティスト、鳳凰院凶真っ!」

岡部「俺の最終目的は、世界に混沌を齎すこと。それを邪魔してくる機関を顛覆させることだ……」

岡部「それを、忘れてしまったのか……?」

岡部「……ふっ」

岡部「……なるほど」

岡部「(どうも調子が出ないと思えば、機関による陰謀だったのか!)」

岡部「(正面から挑んでも勝ち目がないと知った機関は、俺を操り自滅させようとしていたのだな)」

岡部「(く……っ、まさか俺が相手の思うままに操られてしまうとは)」

岡部「(……これも、機関の連中を舐めてかかったせいか)」

岡部「クク……」

岡部「機関め。卑劣な手を使ってくれる……っ!」

岡部「だが、所詮はその程度……。この俺に通用はせん」

岡部「世界は間もなく混沌に陥る。この世は、じきに攪拌される」

岡部「……ククク」

岡部「これも運命石の扉の選択だと言うのならば、」

岡部「それすらも凌駕してみせようっ!」

岡部「―――それこそが、狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真の姿であるっ!」

岡部「フゥーハハハハハハハハ!!!」

携帯「~♪」

岡部「ハハっ…!? こ、ここんところ、よく邪魔されている気がするのだが、気のせいだろうか…」

岡部「こんな時間に誰からメールだ? ……ん? 助手から……?」


From:助手

Sub:あんたさ、

Main:近所迷惑だろ。声のボリュームもう少し避けた方が良いんじゃない?


岡部「………」

岡部「え?」

岡部「……?」キョロキョロ

岡部「……」ピタ

紅莉栖「……はろー」

岡部「――っ!?!?!?!」

岡部「なななっ! お、お前いつの間にっ! それに音もなく忍び寄るなっ! 驚くだろ!?」

紅莉栖「……」フン

岡部「……というか、なんでお前がここにいる? 帰ったのではないのか?」

紅莉栖「別に。私の勝手」

岡部「これまでないくらいに不機嫌そうな顔をしているな」

紅莉栖「うっさい」

岡部「……ふむ。少し顔が赤いな」

紅莉栖「……」

岡部「まさかお前、走って来たのか?」

紅莉栖「言ったところで聞こえないでしょ」

岡部「?? それで、何しに来たんだ?」

紅莉栖「……はあ。ソファ、借りるわね」

岡部「……おい。声が聞こえない以上、お前が紙か何かで伝えてくれないと分からないだろうが」

紅莉栖「面倒」

岡部「……なるほど。あくまで書く気はないのだな?」

紅莉栖「……」パラパラ

岡部「……いやいや。急に本を読みだして、お前本当に何しに来たんだ?」

紅莉栖「……」フム…

岡部「……クリスティーナ! このままだと電車がなくなるぞ?」

紅莉栖「……」

岡部「意地でもこの俺を無視するつもりだな?」

岡部「(……仕方あるまい。この手は使いたくなかったんだが、)」

岡部「(お前が無視を続けるつもりならば―――)」

岡部「クリスティーナよ! このまま電車がなくなってしまったら、一晩俺と過ごさなくてはいけない事になるぞっ!」

紅莉栖「……」ピク

岡部「俺と一緒に寝るか?」

紅莉栖「断固拒否させてもらう」

岡部「………」

岡部「……ふっ、だろう? それならば、帰れ。この時間ならまだ電車はあるはずだ」

岡部「駅まで俺もついて行ってやろう。俺がいれば機関に攫われるようなことはまずありえん」

紅莉栖「……」パラパラ

岡部「――って! なんでそこまで聞いておいて、本を読み始めるっ!?」

岡部「明日の事もあるし、流石に徹夜は厳しい」

紅莉栖「……」パタン

岡部「だから、助手よ」

紅莉栖「助手じゃないしティーナでもない。ところでドクペある?」

岡部「ん?」

紅莉栖「ド・ク・ペ・!」

岡部「……ドクペ、か? もうないぞ」

紅莉栖「珍しいわね」

岡部「ん? 俺がドクペを切らすなど珍しい、という顔をしているな」

岡部「実は五日前、1ケース、ネットで購入したのだが、予想以上に届くのが遅くなってしまってな」

岡部「それに無音の音声(スゥルドゥス・ロプス)を作るために、財布が随分と寂しいことになってしまった」

岡部「知的飲料水を切らす訳にもいかない。1ケースドクペを購入したせいで、財布の中身はカラッポだ」

岡部「と言う訳で助手よ。資金を作るために、何かアイデアはないか?」

紅莉栖「は・た・ら・け」

岡部「何ゆえ狂気のマッドサイエンティストがティッシュ配りなどせねばならんのだ」

岡部「―――あっ」

紅莉栖「え? あんたのバイトってティッシュ配りだったの? 意外」

紅莉栖「というか、ティッシュ配りのマッドサイエンティストって」クスッ

岡部「……」

紅莉栖「やっぱりあんた……、らしくないな」ハァ

岡部「(……溜息?)」

岡部「……なぜ溜息をつく?」

紅莉栖「……」

紅莉栖「……」カキカキ

岡部「……む?」

紅莉栖「……ほら」

岡部「……なに? 元気だせ……、だと?」

岡部「別に落ち込んでないと何度言ったら分かるんだお前は」

紅莉栖「……ふぁ」

紅莉栖「……寝よ」ゴロン

岡部「って、お前! ここで寝泊まりする気かっ!? というよりソファを占領するなっ!」

岡部「ラボの創立者である俺を床で寝かすなど、万死に値するぞ」

紅莉栖「……電気、消しなさいよね……、寝む…」

岡部「……っ。お、お前、本気で寝る気か」

紅莉栖「おやすみ」

岡部「……こいつ、本気で寝やがった」

岡部「(目を瞑って寝転がって……、ちょっと無防備すぎやしないか)」

岡部「(仮にも俺は男だというのに、堂々と無防備な姿を晒して寝ている)」

岡部「(……こいつ、自分がそれなりにスタイルがよくて、美人だという事を自覚していないのか)」

岡部「(信用されているのかもしれんが、いくらなんでも……、な)」

岡部「……仕方ない」

岡部「タオルケットを地面にでもひけば、寝れない事もないし」

岡部「……電気、消すぞ」

紅莉栖「……」

岡部「……」ポチッ

岡部「……」ゴロン

岡部「……ふう」

紅莉栖「……」

岡部「(人の気配がする)」

岡部「(そりゃ、すぐ近くに助手が堂々とソファを占領しているからな)」

岡部「(……だが、なんだろう。妙に安心する)」

岡部「(……結局、こいつは何しに来たんだろう)」

岡部「(理由も説明せず、勝手に寝やがって)」

岡部「(まあ、でも。悪い気はしないが……)」

岡部「……ふぁ」

岡部「(……まずい。本格的に眠くなってきた)」

岡部「(ここのところ、疲れが溜まっていたからな……)」

岡部「(……どうやら、この睡魔には勝てそうにない)」

岡部「………」

岡部「………」グー

紅莉栖「………」

紅莉栖「……寝た、のよね?」

紅莉栖「………」

紅莉栖「(……はあ、なんでこんな所にいるんだろ、私)」

紅莉栖「(岡部から電話が来て……、もうその時点で様子がおかしいと思った)」

紅莉栖「(そしたら私とした事が、何も考えずにホテルを出て、メールをしながらもラボへ急いだ)」

紅莉栖「(……馬鹿だな、私)」

紅莉栖「(でも、こいつのことだからきっと、私に迷惑をかけていると思いこんでいるに違いない)」

紅莉栖「(いつもは強がってるけど、こいつの心の奥底はきっと脆くて……、)」

紅莉栖「(今回のガジェットも、岡部が自分の興味本意で作ってしまったから、責任を感じているのかも)」

紅莉栖「……まったく」

紅莉栖「心配させんな、このバカ……っ」

今日はここまでです。
明日は土日なのでその間に書きまくって、三日以内に投下する予定です。
もう少しお付き合い頂けると大変嬉しいです。


再開だー!

――翌日


岡部「……む」

岡部「……朝か」

岡部「……ん?」

??「……かべ、さ…」

岡部「……誰だと思えば、ルカ子ではないか」

ルカ「っ!」

ルカ「す、すす、すみませんすみません!!」

岡部「??」

岡部「何を謝ってるんだ? ……ふぁ」

ルカ「すみません! すみません! 覗くつもりはなかったんです!」

岡部「……いやだから、なんことだか――」グイ

岡部「……あれ?」ドサ

岡部「た、立ち上がれないぞ…。ま、まさかルカ子! 実は貴様も機関の連中だったのか!?」

岡部「なるほど、合点がいったぞ。この俺を裏切ってしまったことを含めて、謝罪しているのだな?」

岡部「しかし、見損なったぞルカ子よ。挑むなら正々堂々と教えた筈だが――」

紅莉栖「……んぅ」グイ

岡部「……は?」

ルカ「牧瀬さんと岡部さんがそういう仲だと知らず、つい――」

岡部「なぁぁぁにぃぃぃぃ!?!?!?」

ルカ「……っ」ビクッ

岡部「どどどど、どういうことだ? なぜ助手が俺の横に……」

岡部「と、というか俺の腕に抱きつくな! 放せクリスティーナ!」

紅莉栖「……やぁ」

岡部「な、何がやぁ……、だっ! おい、ルカ子っ! こいつを放せっ!」

ルカ「え、えええ!?」

岡部「は、早くっ! 助手に目を覚まされたらたまったもんじゃないっ!」

ルカ「え、ええと、あの……」アタフタ

岡部「だから! 別に俺とクリスティーナはそういう関係ではないっ! 確かに昨日はラボで寝たが、お前が考えている展開にはなっていないぞっ!」

ルカ「あ、はい! で、でも、そんなに大きな声を出しちゃうと牧瀬さん……」

紅莉栖「……っるさいわね」

紅莉栖「何事よ……?」

岡部「……あ」

ルカ「……起きちゃいましたね……」

紅莉栖「……ん?」キョロキョロ

紅莉栖「……は?」

紅莉栖「はぁぁあああああああ!??!?!」

紅莉栖「な、なな何よこれっ!? な、なんであんたがここにいんのっ!?」

岡部「し、知らんっ! 俺はずっとここで寝ていたぞっ!」

紅莉栖「し、信じらんないこのHENTAIっ! HENTAIサイエンティストッ!」バシンバシン!!

岡部「痛っ、いたたたた! ひ、人を殴るなっ!」

紅莉栖「何考えてんの!? 馬鹿なの!? 死ぬの!?」

岡部「くっ! 何をどう勘違いしているか知らんが、俺は無実だ!」

紅莉栖「はあ?」

岡部「それを証拠に、床にひいたタオルケットはここにある。そして、ソファで寝た筈の貴様がなぜここにいる?」

紅莉栖「……そ、それはっ」

岡部「……あとその、抱きしめるように絡めた腕を放せ。い、色々と、問題があるだろう」

紅莉栖「……え?」

紅莉栖「………は?」

紅莉栖「~~~っ!!」

岡部「……全く、朝から騒々しい奴だ」

岡部「ところで」ゴホン

岡部「ルカ子は何しに来たんだ?」

ルカ「……いいなぁ」

岡部「……え?」

ルカ「っ! な、なんでもありません! 岡部さんと一緒に寝ている牧瀬さんが羨ましいだなんて、思ってませんよっ!」

岡部「そ、そうか」

岡部「それで何しに来たんだ?」

ルカ「……あ、はい。昨日、まゆりちゃんから岡部さんの様子がおかしいって聞きましたので……、」

岡部「まゆりが?」

ルカ「はい。……え、えと? スルーどうですホース、という名前のガジェット……」

岡部「スゥルドゥス・ロプスだっ!」

ルカ「す、すみません! ス、スールどぅ……、???」

ルカ「……??」

岡部「あ、いや。お前には難しかったな。それでそのガジェットがどうかしたか?」

ルカ「そのガジェットで牧瀬さんの声が聞こえなくなった……、と聞いたんですが」

岡部「ああ、間違っちゃいないぞ」

ルカ「ほ、本当なんですか!?」

岡部「信じられないなら、今そこでソファで死んでいる助手に聞けばいい」

紅莉栖「……」チーン

ルカ「……あ、いえ。岡部さんの言う事を信じてますから……、べ、別に…」

紅莉栖「……私とした事が、私とした事が」ブツブツ

岡部「……た、確かに今の助手に話しかけろ、というのはお前には少し厳しい任務だったな。すまない」

ルカ「い、いえっ!」

岡部「……ところで今何時だ?」

ルカ「十時過ぎです」

岡部「もうすぐ昼か……。ん? まゆり達は?」キョロキョロ

ルカ「えと……、ここにはいないようですけど」

岡部「あいつら何をしているんだ……」

岡部「緊急時は、朝七時には集合するのが暗黙の了解だというのに」

岡部「(とは言ったものの、俺も十時過ぎても寝ていたのは事実なんだが)」

ルカ「あ、あの、岡部さん達は……、その、元通りになりますよね?」

岡部「元通り……? ああ、俺と助手の事か」

岡部「フッ――そんなこと、些末な問題だ」

岡部「案ずるなルカ子よ。明日にはそこの助手も、またいつも通りと騒々しくなるだろう」

岡部「すぐに元通りになる」

ルカ「そ、そうですか。―――よかった」ホッ

岡部「……ん? お前まさか、そのためだけにここに来たのか?」

ルカ「え? あ、はい。そうですけど」

岡部「師を心配するその心意義……、賞賛に値するぞ」

岡部「全く、ラボメンも皆お前のように素直であればなんと楽だった事か」

ルカ「はあ……」

ルカ「それじゃあ、僕はもう帰りますね」

岡部「ああ。……っと、その前に、」

ルカ「?」

岡部「妖刀・五月雨を持っていないようだが……、」

ルカ「す、すみません。邪魔になると思って、置いてきてしまいました」

岡部「……ふむ。そんな心構えだと、今までの鍛錬が台無しになってしまうぞ」

岡部「精神斬魔流の道は険しい。妖刀・五月雨はいかなる時でも保持しておくのだ。分かったな、ルカ子よ」

ルカ「は、はいっ!」

岡部「うむ。忘れぬようにな」

岡部「それと、俺は岡部ではない。鳳凰院凶真だ」

ルカ「わ、分かりましたおか、凶真さんっ!」

岡部「うむ」



―――――――
――――
――


岡部「………」

紅莉栖「………」

岡部「………」ウゥム

紅莉栖「………」

岡部「………」

紅莉栖「………」

岡部「………」

岡部「遅い……。遅すぎるぞ、あいつらっ!!!」

紅莉栖「……」

岡部「もう十一時だぞっ!? あいつら一体何をしているんだ!?」

岡部「用事か何かあれば携帯に連絡を入れておくものだろう!」

岡部「……そして助手よ。お前はいつまでソファで丸まっている気だ」

紅莉栖「………」

岡部「どうせ貴様の事だから寝ぼけてソファから転げ落ちでもしたのだろう?」

岡部「それで、俺の腕を抱きしめるようにしていたのは……、さしあたり……、」ウム

岡部「……っ!」

岡部「……抱き枕が必要ならそう言ってくれれば」

紅莉栖「うるさいっ! 抱き枕なんているかっ!」

岡部「……っ、じょ、冗談だ」

岡部「(そんなに睨まなくてもいいだろう……)」

ガチャ

まゆり「トゥットゥル~♪ オカリン、クリスちゃん。おっまたせ~」

ダル「はぁ……はぁ……はぁ……」

岡部「おおっ、やっと来たか……っ!」

ダル「はぁ……はぁ……はぁ……」

岡部「ん? ダル、その荷物は何だ?」

ダル「はぁ……、これ? これは……、というかコーラプリーズ」

岡部「コーラなどない」

ダル「この際、ドクペでもいいお……」

岡部「悪いが、ドクペは切らしている」

ダル「なんですとっ!? 死ねと!? 僕に死ねと言うんですか!?」

岡部「水道水でも飲んでればいい」

ダル「飲めるかお……。あー駄目だ。いっきにやる気が失せた……」

ダル「俺の右腕、とか言ってるなら、コーラ常備しておくべきでしょ常考」

岡部「知るか。あいにくだが、お前にコーラを買ってやるほど財布は重くないのでな」

まゆり「ねぇねぇ、クリスちゃ~ん?」

紅莉栖「……」ドヨーン

まゆり「?? あれれ? オカリン~、クリスちゃんどうしたの?」

岡部「己の愚かさに気づいて失望しているらしい」

岡部「ま、今さらだと思うが」

まゆり「クリスちゃん?」

紅莉栖「……鬱だ。氏のう」

まゆり「えええ? し、死んじゃ駄目だよ?」

ダル「……おぉっ!?」ガサゴソ

ダル「あったお! あったお!!!」

岡部「ん? どうかしたか?」

ダル「コーラだお! 缶だけど!」

岡部「……ああ、そういえば先日、自販機で買っておいたやつだな」

ダル「もらっていいん?」

岡部「構わないが」

ダル「オカリン……、今、最高に輝いているぜ……」

ダル「……」プシュッ ゴクゴクゴクゴクゴク  プハァー!


岡部「それで? その荷物は何だ?」

ダル「ん? ああ。オカリンが作ったガジェットを改良するときに必要になる部品だお」

ダル「こんなにはいらないと思ってたけど、久しぶりに燃えた訳で」

岡部「ほほう。珍しくやる気があるではないか、我が右腕よっ!」

ダル「これぶっちゃけ、売るところに売れば儲かるんじゃね?」

岡部「……ま、まあ考えなかったわけではないが、」

岡部「そりゃ……、ザックザクだろうな」

ダル「乗るしかない、このビックウェーブに」

岡部「そういう話は、この現状をどうにかできたらな」

岡部「……ふむ。どうにかできたら、ラボメンを集合させて円卓会議を開く必要があるな」

ダル「んじゃ、僕再び籠るお!」

岡部「ああ」

シャッ

岡部「……やはり俺の目に狂いはなかったようだな」

岡部「……」

岡部「俺だ。ああ、俺はとんでもない物を生み出したが、同時にとんでもない奴を味方にしてしまった」

岡部「分かっている。……そうだ。機関も今回は本気だ」

岡部「奴らが本気を出せば、この俺でも手こずる。注意を怠るな」

岡部「エルプサイ……、コングルゥッ!」

まゆり「クリスちゃ~ん?」

岡部「放っておけ。今のそいつはまさしく『返事がない。まるで屍のようだ』の状態だからな」

まゆり「……えー、でも。心配だよ」

紅莉栖「……ああっ! もういい。過ぎた事を悔やんでも仕方ないわ」

紅莉栖「そう、そうよ。あんなの夢、現実に起きた事じゃない」

まゆり「??」

紅莉栖「空間を覆い尽くす空間充填曲線――ドイツの数学者ダフィット・ヒルベルトが考察したように、」

紅莉栖「ハウスドルフ次元は無限大と仮定されるし、ユーグリッド空間はエウクレイデスが研究して、その高次元への一般化だったから」

紅莉栖「うん、問題ない」

まゆり「??」

---カーテン---

ダル「(……何言ってんのかしんねーけど、言ってる事支離滅裂すぎだお)」ガサゴソ

岡部「……」

紅莉栖「ドクペ。ドクペはどこよ……」ガサゴソ

紅莉栖「あれ? ドクペは?」

岡部「助手よ。ドクペなら昨夜、切らしていると言ったはずだが」

紅莉栖「あ、そ、そうだったわね。記憶として残されていなかった」アタフタ

紅莉栖「……ほ、本でも読も」

岡部「……」

まゆり「……」

岡部「なあ、まゆり」

まゆり「なぁに? オカリン」

岡部「助手は頭でも打ったのか?」

まゆり「でも、クリスちゃんの頭にたんこぶはなかったよ?」

まゆり「それにしてもオカリンすごいね~。どうしてクリスちゃんがドクターペッパーさんを探してるって分かったの?」

岡部「さん付けするな。ドクター・ペッパーさんみたいではないか」

岡部「あ、いや。アメリカのバージニア州のペッパー医師が開発したものだから、あながち間違っちゃいないか……」

まゆり「ねぇねぇ、どうしてクリスちゃんがドクターペッパーさんを探してるって分かったの~?」

岡部「いやだから、さん付けはやめろと……、」

岡部「(……いや、無駄か。こいつは妙に頑固だから、一度呼び始めたら未来永劫そう呼び続けるだろう)」

岡部「冷蔵庫には飲料水以外に大したものは入れていない。よってクリスティーナが冷蔵庫を開けるとなると、ドクペを探しているという解を導き出せる」

まゆり「すごいね~、オカリン。えっへへー」

岡部「……う、うむ」



――――正午


まゆり「ふぁ……、おなかいっぱいなのです」

紅莉栖「やっぱいいわよね、カップ麺って」

岡部「(紅莉栖もやっと調子が戻って来たようだ)」

岡部「(……それにしても、不摂生は人の事を言えないのではないだろうかこいつらは)」

岡部「おい貴様ら。インスタント食品で腹を膨らませるのは勝手だが、」

岡部「毎日そのような食生活を続けていると、身体を壊すぞ」

岡部「特にまゆりよ」

岡部「お前は食生活を改めて考え直した方が良い」

まゆり「ええ~?」

紅莉栖「何だって、あんたに食生活について説教されなくちゃいけないのよ」

紅莉栖「……」カキカキ

紅莉栖『お前が言うな』

岡部「……ぐぬぬっ! 人が珍しく心配をしたというのに、その言い草とは……」

まゆり「まゆしぃ、そんなに身体に悪い物食べてません」

岡部「何を言うかっ! おでん缶、からあげバナナ、カップ麺! 全部身体に悪いものではないかっ!」

まゆり「身体に悪いって勝手に決め付けちゃダメだよ? バナナは身体に良いのです」

岡部「あのな。カップ麺もそうだが、冷凍食品も毎日食べるものではない」

岡部「一番良いのは……、手料理だな。きちんとした食材を買い、己で料理することだ」

紅莉栖「……一理あるわね」

まゆり「お料理かー……」

まゆり「あっ! じゃあじゃあ、クリスちゃん! 今度一緒に、まゆしぃとお料理しようよ」

紅莉栖「いいわね、それ」

岡部「なにぃっ!?」

紅莉栖「何よ?」ギロッ

岡部「あ、いや、なんでもありません」

岡部「(ま、まあ俺には関係の無い話だ)」

まゆり「オカリンも手伝ってね~」

岡部「て、手伝う? 悪いが俺は狂気のマッドサイエンティストであって、狂気のマッドコックになるつもりはないぞ」

紅莉栖「誰があんたに料理を手伝えって言った」

まゆり「オカリンにはね~、味見をしてほしいのです」

岡部「なにぃぃぃぃ!?!?!?」

紅莉栖「っさいわねっ! 何がなにぃぃぃ!? よ。私達が作った物を食べれるんだから、ありがたく思いなさい」

まゆり「まゆしぃ達が作った物を食べれるから、ありがたく思えって、クリスちゃんが―――」

岡部「ウェイウェイウェイ。ちょっと落ちつけ、いや落ちついてください」

紅莉栖「……あ、なるほど」

紅莉栖「……」カキカキ

紅莉栖『照れてるのね? 別に照れなくてもいいわよ。第一、あんたのために作ってあげる訳じゃないから。でも、味見してくれる人はあんまりいないから、しょうがなく、しょうがなく! あんたに頼んでるワケ』

岡部「だが断るっ! お前らの作った料理など、命がいくつあっても足りな―――」

紅莉栖「………」

まゆり「………」

岡部「うっ……」

岡部「(だ、だがここで頷く訳にもいかない)」

岡部「(頷いた日には地獄絵図が……、くっ! なんたる仕打ちだ! これも運命石の扉の選択なのか!?)」

紅莉栖「………」

まゆり「オカリーン……?」

岡部「……え、えーと、その!」タジログ

ダル「オカリンオカリンッ! 大発見だおっ!」ドタバタ

岡部「(ナイスタイミングだ、ダルよっ!)」

岡部「ど、どうした!? 何かあったのか!?」


ダル「―――足りない部品がなんなのか、ついに分かったお!」



――開発室


ダル「イギリスだったら僕、ナイトの称号もらえるレベルじゃね?」

岡部「うむ……。となると、お前が言う部品が手に入れば後はどうにかなると?」

ダル「絶対は言いきれないけど、どうにかできる自信があるお」

ダル「えーと、画像は……、コレだお」カチ

岡部「……なんだこれは? 見た事もないし、聞いたこともない名だな」

ダル「そりゃそうでしょ。いくらオカリンと言えど、こんなマニアックな部品は聞いたことないはずだお」

紅莉栖「ふむん」

岡部「ふむ。その部品を手に入れるだけで、無音の音声(スゥルドゥス・ロプス)は改良できるのか?」

ダル「安全性も考えて、この電子部品は必須だお」

ダル「ついでに、オカリンの脳にこれ以上負担をかけない為にも、ある程度は改良しておいたお」

ダル「このガジェットは電力量が多すぎるって話は牧瀬氏から聞いたっしょ?」

岡部「ああ……」

ダル「電力量を小さくしたお。これで多分、オカリンの脳に必要以上のショックを与えずにすむかと思われ」

岡部「危険性はなくなった、と?」

ダル「なくなったけど、同時に失敗の可能性も高くなったお。必要以上の電力量を、必要以下の電力量に下げてしまったし」

ダル「この辺りの調整が難しいだ罠。電力量が多いなら、減らせばいいじゃない、なんて単純に思ってくれるけどさ、」

ダル「内部が滅茶苦茶で、そうもいかないんだお……」

紅莉栖「それで?」

ダル「この部品さえあれば、その辺りの調整もうまくいくんだ罠」

ダル「僕の考えでは、これさえあればなんとかできるお」

岡部「しかしダルよ。スーパーハカーのお前が、"この部品さえあれば"と言っているという事は、レア物なのではないか?」

ダル「あ、バレた?」

岡部「バレた? ではない! それで、その部品とやらはどこで手に入るのだ!?」

ダル「うーん……。秋葉(ここ)ならどこかで売っていると思うんだけど……、」

岡部「ネット購入は?」

ダル「マニアックすぎて誰も取り扱ってない件。海外からの購入なら可能だけど、手数料・配達料高杉て無理だお」

ダル「それに届くのに一ヶ月もかかるとかふざけてるお」

岡部「……なるほど。幻のレトロPC IBN5100すらもあった秋葉原なら……、ということだな?」

ダル「そういうことだお」

岡部「……よし。作戦名、創造者の起源(テスカトリポカ)、第二段階に移行する」

岡部「第二段階の計画――すなわち、ラボメンに下命する」

紅莉栖「下命って……、何様よ」

岡部「創造者の起源(テスカトリポカ)は何があっても遂行させねばならん」

岡部「よって我が右腕―――ダルは無音の音声(スゥルドゥス・ロプス)の改良を引き続き頼む」

岡部「我が助手――クリスティーナは、この部品の探索という命を任せる」

紅莉栖「助手でもティーナでもないといっとろーが」

まゆり「まゆしぃは?」

岡部「この鳳凰院凶真の人質―――まゆりは、ダルの支援を頼む」

まゆり「しえん?」

岡部「このラボはクソ暑い。これではダルのやる気も削がれるであろう」

岡部「お茶……、いやそうだな。キンキンに冷えたコーラでもやれば良い」

まゆり「うん。分かったよ~♪」

岡部「まあ、コーラの調達の方法はまゆりに任す。近くに自販機があるからそこから買ってくるもよし、」

岡部「面倒なら水で済ませても良いだろう」

ダル「ちょ、いい加減……」

紅莉栖「んで? あんたは何するつもり?」

ダル「オカリンはなにするか、だって」

岡部「ん? 俺はラボに待機し、各自からの報告を待つ」

岡部「つまり、俺の役目は司令官だ」

ダル「なんかオカリンが一番楽そうだお……」

紅莉栖「諸悪の根源が、楽してるなんて」

まゆり「オカリン……」

岡部「って、何故さりげなくまゆりまでそんな目で見てくる!? 貴様が受けた命も楽なものであろう!?」

ダル「ぶっちゃけまゆ氏と僕は殆ど無関係な件について。それでもオカリンの手助けをしてるから感謝してもらいたいお」

ダル「そしてラボでのんびりしてるオカリンより、この暑い中わざわざ自販機まで行くのも過酷だお……」

まゆり「そうかなー?」

岡部「……くっ! 分かった、仕方あるまい……」

岡部「とにかく、その部品とやらを入手すれば全て解決する。……そうだな? ダルよ」

ダル「大方」

岡部「それならば、俺はクリスティーナと部品を探しに秋葉へ出向く」

岡部「それなら文句はないだろう?」

ダル「ま、別にいいんじゃね? 牧瀬氏もそれでおkでしょ?」

紅莉栖「とか言っておいて、歩いて十分足らずで息切れしてる岡部が目に浮かぶわね」

ダル「オカリン、インドアだからなぁ。もう少し鍛えればいいかと」

岡部「毎朝早く起きてランニングする狂気のマッドサイエンティストなど聞いた事がない」

ダル「他のラボメンに、協力とか頼まなくてもいいん?」

岡部「……ふむ。ルカ子なら協力してくれそうだが、フェイリスやバイト戦士は仕事があるから無理だ」

岡部「……まあ以前、目を血ばらせてレトロPCを探していた指圧師なら望みはあるかも知れんが」

ダル「部品を探すついでにラボメンにも協力を求めるってこと?」

岡部「極力、無関係者を巻き込むような事態は避けたい」

岡部「これ以上、機関による犠牲者は増やしたくないのだ……」

ダル「んで?」

岡部「協力というより情報収集の方が合っている」

紅莉栖「ただでさえ暑いのに、外に出なくちゃいけないのか……。……鬱だ」

ダル「そういえば、牧瀬氏って@ちゃんねらーだったんだよね」

紅莉栖「なっ!? ……あっ、え? な、なんのことかしら?」

岡部「なんだ? また助手が@ちゃん用語を呟いたのか?」

ダル「そゆこと」

岡部「そういえば以前、自分で@ちゃんねらーだと認めていたな」ニヤニヤ

ダル「思わぬところに同士が」ニヤニヤ

紅莉栖「ニヤニヤすんなっ!」

ダル「フヒヒ、サーセン」

岡部「これも運命石の扉の選択ということだ」

紅莉栖「――などと意味不明な供述をしており、」

ダル「牧瀬氏、魂レベルで@ちゃんねるが染みついてるお……」

紅莉栖「う、うるさいっ!」

ダル「つーか、前々から思ってたんだけど、運命石の扉の選択って何?」

岡部「そ、それはだな」

紅莉栖「それって、それが世界の選択か、に似てるわよね」

ダル「ニュースとかで世界情勢が伝えられる時に言われる感想だっけ?」

岡部「む? なんのことだ?」

ダル「それが、世界の選択か」キリッ

岡部「……っ!?」

まゆり「ふふ~ん♪ ふんふん~♪」ヌイヌイ

岡部「ええい、貴様らっ! こんなところでのんびりとしている暇などないっ!」

岡部「こんな状況を機関の連中に見られたら笑われるぞっ!」

紅莉栖「ま、確かにのんびりしている時間はないわね」

ダル「でもさ、牧瀬氏とオカリンが元通りになったらまた喧嘩するっしょ?」

岡部「クリスティーナが横やりを入れて来なければ、そもそも口論などおきんのだ」

ダル「あれっしょ? 喧嘩するほど仲が良い的な」

岡部&紅莉栖「「それはない」」

まゆり「えっへへぇ~、仲良しさんだねぇ~」

ダル「もうケコーンしろよ」

紅莉栖「ケ、ケコーン!?」

岡部「いやいや、どうしていきなり話が飛躍しているのだ」

ダル「オカリンってさ、牧瀬氏の声が聞こえないんでしょ?」

岡部「ああ。というか、それをどうにかするために俺達は動いているのではないか」

ダル「息合いすぎだお。二人とも」

紅莉栖「だ、だだだ、誰がこんな奴と結婚なんか……っ!!」

ダル「とか言っておきながら、まんざらでもない牧瀬氏」

紅莉栖「開頭して海馬を滅茶苦茶にして、空間認識能力を消し飛ばすぞ」

ダル「うっは……、怖ぇ…」

まゆり「くーかんにんしきのーりょく?」

紅莉栖「物体の位置や方向、大きさ形状……、ようは物体が三次元空間に占めている状態や関係をすばやく認識する能力のことね」

ダル「つーか、海馬滅茶苦茶にされた時点で、空間認識能力が消える以前に死ぬ件について」

紅莉栖「ほんと、減らず口ねっ!」

岡部「ええい! どれだけ話を脱線させれば気がすむのだ貴様らはっ!」

ダル「ほんとだお、牧瀬氏」

岡部「お前が話を脱線させているのだろうっ!?」

ダル「テヘペロ☆」

岡部「とにかくクリスティーナ!」ガシッ

紅莉栖「ひゃあっ!? ちょ、な、何すんのよ!」

岡部「いいからお前は来い。これ以上、ダルと会話していると日が暮れる」

ダル「手を繋ぐとか、オカリン、リア充すぎワロタ……。違和感なさすぎだお…」

紅莉栖「ちょ、おま……っ」

岡部「早く来いっ! あーだこーだ言っているうちにもう一時ではないかっ!」

岡部「それじゃ、ダル、まゆり、後は頼んだぞっ!」

ダル「オーキードーキー!」

まゆり「うん♪」


ガチャ バタン


----


岡部「……はあ。探索できる時間が限られるな。もう一時を過ぎてしまった」

紅莉栖「午後二時頃って一番暑い時間帯よ」

紅莉栖「適度な水分補給は忘れない方がいいわね。熱中症でぶっ倒れる暑さよこれ」

岡部「さて、クリスティーナ。虱潰しに秋葉の電気街を探すのもありだが、」

岡部「まずは情報収集だ。闇雲に探したところで、見つかるとも思えん」

紅莉栖「ああ、ラボメンのみんなに聞くってこと?」

岡部「ラボメンはああ見えて、情報網が凄いからな」

岡部「俺は指圧師とフェイリスの所へ行く。クリスティーナはルカ子と鈴羽の所を頼むぞ」

紅莉栖「ま、いいけど……。どうして私が阿万音さんと漆原さんの所に?」


岡部「……む。その顔は納得のいっていない様子だな」

岡部「お前が指圧師と会っても、うまく情報を引きずりだす事はできないだろう」

岡部「あいつは口ベタな上に、常に携帯をいじっている」

岡部「それにあいつはよく俺のところにメールを送るからな。それでなんとかコミュニケーションをとる」

岡部「そしてフェイリスだが……、助手では対処しきれないだろう」

紅莉栖「?」

岡部「あいつの能力……ダビング10を前にして対処しきれるのは俺ぐらいだ」

紅莉栖「……ま、まあ、そうね」

岡部「バイト戦士とルカ子なら助手でもどうにかできるだろう」

岡部「よし。仮に何も情報を得られなくても、俺の携帯に報告してくれ」

紅莉栖「はいはい。相変わらず偉そうね」

岡部「各自、分散だ」

紅莉栖「……最初はとりあえず阿万音さんのところに行こうかしら」コツコツ

岡部「(……さて、まずは指圧師にメールを入れるとしよう)」コツコツ

岡部「(……内容は)」


To:閃光の指圧師

Sub:緊急事態だ。

Main:暇だったら時間をくれ。話したい事がある。


岡部「……送信、と」

岡部「(とりあえず、その間にフェイリスのところに行くか)」

岡部「(フェイリスは情報網が広いからな)」

岡部「(仮にフェイリスが知らなくても、メイクイーンに来る客が知っている可能性もある)」

岡部「ま、とりあえずメイクイーン+ニャン2に足を運ぶか……)」

携帯「~♪」

岡部「む?」ピッ


From:閃光の指圧師

Sub:

Main:ばあ

岡部「??」

岡部「(あ、暗号か何かか? ばあ? どういう意味だ?)」

岡部「……ま、まさか機関のみ知る暗号!?」

携帯「~♪」

岡部「またメールか」


From:閃光の指圧師

Sub:ねえねえ

Main:驚いた? 驚いた?


岡部「……???」

岡部「ますます意味不明だぞ……」

携帯「~♪」


From:閃光の指圧師

Sub:おーい

Main:聞いてる? 無視するなんて酷いよ~(>_<)


岡部「……?? いや、メールは見ているが」

萌郁「……あの」

岡部「っ!? な、な、貴様は指圧師! いつの間に!?」

萌郁「無視、しないで……」

岡部「は? ま、まさかお前、そういうことだったのか!?」

萌郁「……驚いた?」

岡部「………」

岡部「つかぬことを聞くが……、お前は俺を驚かせようとしたのか?」

萌郁「……」コク

岡部「メールで?」

萌郁「……」コク

岡部「………」

岡部「あのな……、指圧師よ。こんな無機質な文字だけでは驚かないぞ?」

携帯「~♪」


From:閃光の指圧師

Sub:でもでも

Main:驚いたよね? 私が後ろから話しかけたら、跳びあがって驚いてくれたよね?
岡部くんの意外な一面ゲット~♪


岡部「……」

岡部「貴様は気配がしないのだ。背後から幽霊の如く話しかけて来られたら、誰だって驚く」

岡部「それとなんだ、この、ゲット~♪ って!」


岡部「それに最近お前は悪戯が過ぎるぞ」

岡部「事あるごとに何か仕掛けてくるとは……、はっ! やはり貴様、機関のエージェントだったのか……っ!」

岡部「俺とした事が、なんたる不覚っ! こんな近くに機関のエージェントがいるとは……」

携帯「~♪」


From:閃光の指圧師

Sub:それで

Main:話って何かな? もしかして告白とか!? なーんてね、そんな訳ないよねっ!


岡部「……華麗にスルーしたな」

岡部「まあ確かに、こんなところで無駄話をしている暇はない」

岡部「お前を呼びだしたのは他でもない、つまり――っ!」

携帯「~♪」

岡部「っ、……っ! ああもうなんなのだ一体っ!」

岡部「……ん? 助手から?」


From:助手

Sub:とりあえず

Main:橋田からもらった画像を阿万音さんに見せたけど、知らないって。見た事もないだとか。


岡部「ぐぬぬ……っ! こんなどうでもいいメールで、邪魔をするなど……っ!」

To:助手

Sub:黙れ!

Main:そんなどうでもいいメールをよこすな! 馬鹿なのか貴様はっ!!!!!


岡部「よし。これで、助手も黙るだろう」

岡部「俺に畏怖を覚えて!」

萌郁「……」

岡部「――仕切り直しだ」

萌郁「?」

岡部「今まさに、世界は混沌に陥ろうとしている。今は安穏としているが、じき世界は混乱する」

岡部「その第一歩を、俺達ラボラトリーメンバーは、踏み出そうとしているのだっ!」

岡部「そこで、指圧師よ! 貴様に聞きたい事が―――」

携帯「~♪」

岡部「……事が」

岡部「ああもうなんなのだっ!」


From:助手

Sub:あのな

Main:仮に情報を得られなくても、あんたの携帯に報告を入れろって言ったのは誰だ?
どうでもいいメール? せっかく手伝ってるのに何よその態度。気にいらない。


岡部「……ぐぬぬっ!」


To:助手

Sub:分かった

Main:分かったからもうメールするな。俺がメールしたときだけ返信しろ。
さもなくば貴様の首を斬り落として、その血で風呂を溜めて、浸かってやる。


送信中……


岡部「……あ、流石にこれは言いすぎたか……」

……送信しました。

萌郁「……あの、それでなに?」

岡部「ああ。ちょっと聞きたい事があってな」

岡部「えーと……」ピッ、ピッ

岡部「この部品を知らないか? お前は以前、IBN5100などというマニアックレトロPCを探していただろう?」

岡部「もしかすれば、知っているかもしれんと思ったのだが」

萌郁「……知らない」

萌郁「なんて、名前?」

岡部「ああ、それはだな――――」

―――――
―――
――


岡部「何か思いだしたら、俺の携帯にメールをしてくれ」

萌郁「……」コク

岡部「ではな」

岡部「(……萌郁なら知っていると思ったのだが、流石にこの部品の画像を見せられただけで分かる訳ないか)」

岡部「(一応、ダルから聞いたことをそのまま説明したのだが……)」

岡部「(後はフェイリスだな。あいつが知らなくても、メイクイーンに来る客が知っている可能性もあるから、)」

岡部「(……ふむ。よくよく考えれば頼もしい奴だ)」

携帯「~♪」

岡部「む? 助手からか」


From:助手

Sub:何よ

Main:そんな言い方しなくてもいいでしょ……。


岡部「……」



To:助手

Sub:Re:何よ

Main:次はルカ子に聞いてくれ。指圧師に聞いてみたが、あいつは何も知らないようだ。


携帯「~♪」


From:助手

Sub:……

Main:……


岡部「???」


岡部「解せない奴だな……」

岡部「まあいいか」

フェイリス「あれれ? キョーマ!?」

岡部「ん? その声は……、フェイリス? フェイリスではないかっ!」

フェイリス「ニャフフ……、やっぱりキョーマはここにいたのニャッ♪」

岡部「どういう意味だ?」

フェイリス「フェイリスの能力ニャン♪」

岡部「な、なんだと!?」

フェイリス「天空の神(ウラノス)……、キョーマがどこを歩いているのかはフェイリスにはお見通しだニャ」

岡部「……貴様の前世は、巨人族(ティタン)の父だったのか……っ!」

フェイリス「ニャハハっ、キョーマにはお世話になったニャン♪」

岡部「ふ……っ、残念だったな! 俺は前世も来世も鳳凰院凶真っ! その名が揺らぐ事は決してない!」

岡部「俺にかかればヒュドラも屠ってやろうではないか」

フェイリス「ヒュドラは何度首を斬りおとされても、また生えてくるのニャン……」

岡部「っ! ほ、鳳凰院凶真にかかれば! そんなチートは無効化出来るのだ、フゥーハハハハ!!」

フェイリス「チートはキョーマの方だと思うのニャン」

岡部「……じゃなくてだな」

フェイリス「?」

岡部「お前に話があって来た」

フェイリス「ま、まさかキョーマ! もう……、行っちゃうのかニャ?」

フェイリス「死の島(デッドアイランド)とも呼ばれ恐れられる場所へ、キョーマはついに行ってしまうのかニャ!?」

岡部「い、いやそうではなくてだな」

フェイリス「誤魔化さなくていいのニャッ! フェイリスのためを想って、行ってくれるのは嬉しいけど……、」

フェイリス「フェイリスはキョーマを失いたくないニャンッ!」

岡部「……大丈夫だ。俺は必ず帰ってくる。無事に帰って来られたら……、結婚しよう」

フェイリス「キョーマ!」ダキッ

岡部「って、待て待て待て! 今のは死亡フラグが立った! って、つっこむところだろ!?!」

岡部「ええい! 離れろっ! 俺はどこにも行かん!」

フェイリス「そんニャこと言って……、行ってしまうのニャ! キョーマはずっと昔からそうだったのニャン……」

岡部「いや昔ってお前な……。と、とにかく離れろっ!」バッ

フェイリス「ニャハハ♪」

フェイリス「キョーマは初心だニャン」

岡部「……とにかく、お前に話しがあって来たのは事実だ」

フェイリス「や、やっぱりキョーマ! ついに行ってしまうのかニャ!?」

岡部「おい! ループしてるぞっ!」

フェイリス「冗談ニャ。それで、フェイリスに何の用かニャ?」

岡部「以前、対象の声が聞こえなくなるガジェット――無音の音声(スゥルドゥス・ロプス)については説明したな?」

フェイリス「あ、それってどうなったのかニャ?」

岡部「ガジェットが故障してしまって、それを直すためにある部品を探している」

岡部「その部品について、お前に聞きたい事があるのだ」

フェイリス「ニャにニャに?」

岡部「……これだ。ダルからの説明によると―――」

………
……



フェイリス「……うーん。知らないのニャ」

岡部「そうか……」

フェイリス「今度メイクイーン+ニャン2のお客さんに聞いてみるニャンッ♪ こういうのに詳しい人を、フェイリスは知っているのニャ」

岡部「助かる」

フェイリス「それにしてもこの電子部品……、幻の部品と呼ばれているもの……」

フェイリス「手に入れたその者は、一つだけ願いが叶えられるという伝承があるのニャ」

岡部「あーそうかそうか」

フェイリス「キョーマ、いい加減ニャ……」

岡部「とにかく……、何か知り得たら俺の携帯に連絡を入れてくれ」

岡部「その部品さえ手に入れば、助手の声が聞こえるようになるのだ」

フェイリス「キョーマはクーニャンと仲直りしたのかニャ?」

岡部「ああ」

フェイリス「ニャハ……。流石はキョーマニャ!」

岡部「……いや、今の"流石"は意味が分からないが」

岡部「とりあえず今は、助手にメールをしなくてはならん」

フェイリス「ニャンで?」

岡部「ラボメンに聞きまわっているのだ。この部品について知っている者がいないかどうかな」


フェイリス「それならメールですむと思うのニャン」

岡部「一応、相手の時間をもらって頼む側だ。面と向かって話すのが礼儀だろう」

フェイリス「キョーマって、いい加減そうに見えてしっかりしてるニャ」

岡部「いい加減とは失敬な! この鳳凰院凶真……、酷薄な人間だが、そこらのチンピラと一緒にしてもらっては困る」

岡部「分かったな? とにかく俺は助手にメールを送る」カチカチ


To:助手

Sub:一通り聞いてみたが、

Main:フェイリスも知らないようだ。まあ、予想していた結果だったがな。後は電気街を虱潰しに探すしか手はないだろう。
熱中症や脱水症状には気をつけろ。お前に倒れられたら困る。


フェイリス「キョーマって優しいのニャ」

岡部「な、貴様っ! 勝手に覗くなっ!」

携帯「~♪」


From:助手

Sub:そーですか

Main:心配してくれてどうもありがとうございます! 漆原さんも何も知らないって。
後、あんたに心配されると鳥肌たつからやめてもらませんか。


岡部「……こいつ」

フェイリス「きっとツンデレニャ!」

岡部「ああそうかもな。ツンの部分は間違っちゃいない」


To:助手

Sub:Re:そーですか

Main:心配などしていない。何を勘違いしている?
お前に倒れられると厄介なのだ。このスイーツ(笑)め。誰も貴様を心配などしていないぞ。


フェイリス「……ニャハハ」

岡部「だから覗くなと言っているだろう!」


携帯「~♪」


From:助手

Sub:はいはい

Main:厨二病乙。あんたに心配されていないと分かって、安心したわ(笑)


岡部「ああ言えばこう言うやつだな……。これ以上、助手とメールしても時間の無駄だ」

フェイリス「キョーマはこれからどこに行くのかニャン?」

岡部「とりあえず、秋葉の電気街……、ジャンクショップなどを探す」

フェイリス「フェイリスもついていっていいかニャ?」

岡部「バイトは?」

フェイリス「今日はお休みニャン♪」



―――――
―――
――


岡部「中々見つからないものだな……」

フェイリス「ダルニャンですら持っていなかったのニャ……。そう簡単に見つかるとは思えないのニャ」

岡部「いいや。ここ秋葉原ならある可能性は高い。とにかく探すぞ」

フェイリス「ニャン」

…………
………
……

岡部「……ふぅ」

フェイリス「ニャフゥ……。中々見つからないのニャ」

岡部「もう十店舗は越えたな。とりあえずいったん休憩しよう」

フェイリス「これ、見つかるまでやるのかニャ?」

岡部「ああ、無論だ」

岡部「クリスティーナからは……、連絡なしか。あいつ、本当に探しているのか?」

フェイリス「クーニャンは勝手に諦めるような人じゃないのニャ」

岡部「だがこの数時間、秋葉を歩きまわっていたがクリスティーナとは一度も会わなかったぞ」

フェイリス「この人の多さじゃ、中々見つからないと思うニャン」

岡部「……ま、まあな」

岡部「しっかし、オタク共もこのクソ暑い中頑張るな……。炎の中にダイブした気分だ」

フェイリス「それほど、燃えているのニャッ!」

岡部「炎だけにか」

フェイリス「萌えているのニャン♪」

岡部「……はあ」

フェイリス「……ニャフゥ」

岡部「よし。後三店舗くらい調べたら今日は解散し―――」


―――――ズキン


フェイリス「キョーマ?」

岡部「……いや、なんでもない。少し、水分補給をしよう」

岡部「熱中症や脱水症状になったらたまったもんじゃないからな」

フェイリス「分かったニャン♪」

岡部「……この鳳凰院凶真が奢ってやろう。何が飲みたい?」

フェイリス「ニャ~んと……、これニャッ!」

岡部「分かった」

ポチ ゴロン

岡部「ほら」

フェイリス「ありがとニャン」

岡部「(……俺は、何にしようか)」

岡部「(……これでいいか)」

ポチ ゴロン

フェイリス「ニャニャニャッ!?」

岡部「ど、どうした?」

フェイリス「キョーマがドクターペッパーを買わずに、天然水を買うニャンて……っ!」

岡部「いや……、喉が渇いている時に炭酸飲料なんて飲むものじゃないだろう?」

フェイリス「……ニャァ。キョーマらしくないのニャ。キョーマ? 何かあったのかニャ?」ジー

岡部「い、いやっ! なんでもない」

フェイリス「……キョーマ?」

フェイリス「以前のキョーマなら、「ドクターペッパーは喉を潤わせ、身体中を漲らせる! そして、知能指数も上がるのだ!」とか言いそうだニャ」

岡部「いや、それはいくらなんでも欲張り過ぎだろう」

岡部「ま、確かに知的飲料水なのは認めるが」

フェイリス「キョーマ……?」

岡部「ど、どうしたのだフェイリス。お前らしくもない」

フェイリス「キョーマ、何か嘘ついてるニャ。フェイリスは誤魔化されないのニャッ」

岡部「う、嘘だと? この鳳凰院凶真が嘘などつく訳ないだろう!」

フェイリス「ほんとにほんとかニャ?」

岡部「ニュートンに誓って!」

フェイリス「やっぱり、キョーマ何か隠し事してるのニャ……」

岡部「だから別に何も隠し事なんて―――」


―――――ズキン


岡部「……っ!!」クラッ

フェイリス「キョーマ!?」

岡部「だ、大丈夫だフェイリス。お、俺の右腕が疼くだけで……」

フェイリス「冗談を言ってる場合じゃないのニャッ!」

岡部「心配するな。心配をされる狂気のマッドサイエンティストなんて、格好悪いではないか」

フェイリス「……」

岡部「フェイリス?」

岡部「らしくないな。お前の能力、ダビング10が発動しないとは」

岡部「……っ」


―――――ズキン


岡部「(な、なんだ? 頭が割れそうだ。無数の針が刺さっているような錯覚……)」

岡部「(並行感覚が狂ったような気分だ……。うまく立てない)」

岡部「(おいおい冗談だろ……)」



―――――ズキン


岡部「……ぐっ!」

岡部「(駄目だ。立っていられない……)」

フェイリス「キョーマ? ねえ、キョーマ!? どうしたの? 大丈夫?」

岡部「……フェ、イリス。だ、大丈夫、だから、心配いらな……」

岡部「……」フラ

フェイリス「キョーマ!」ガシッ

フェイリス「ねえ、キョーマ!? しっかりして! い、嫌……。ねえ、目を開けてよ……っ!」

岡部「………」

フェイリス「……お、岡部さんっ! ねえ、岡部さん……っ」

岡部「(……冷たい。……涙? フェイリス……? 泣いているのか?)」

岡部「……ぅ」

フェイリス「っ! お、岡部さんっ!」

岡部「(……頭がクラクラする。瞼が重くて開かない)」

岡部「(眠い。尋常じゃないくらいに眠い……)」

岡部「(……もう、駄目だ。意識を繋ぎ合わせることもできそうにない)」

フェイリス「―――っ!」

岡部「……」

フェイリス「っ! ……っ! っ!」

岡部「(フェイリスの声も聞こえなくなって……、)」


岡部「………」

今日はここまでです。投下するだけでも結構疲れますね。
あと、もう少し続きそうです。
毎度ながら、呼んでくれている人には感謝っ! です。次も同様、三日以内には投下する予定です。
ちょっと色々用事があるので、もしかしたら三日以内に投下できないかも……。
基本的に夜の八時~十時に投下します。

いちおつ
トリップ一緒だし
岡部「……俺が、ラウンダーじゃない?」
の人?
カイト「アウラ…?」まどか「え?」
こっちもトリップ一緒だけど違う人かな、トリップ被りかな?

>>267
岡部「……俺が、ラウンダーじゃない?」 の人です。トリップ被ってましたか。
次回からSSを投下するときは、変えときます。

>>268
やっぱりか、あのSS面白かったし今回も期待してる。
随分いろいろなスピンオフ読んでないとあれ書けないよねー。

SSじゃなりすましとか無いと思うけど今日中にトリップ変えたので一言言っておくとトラブルにならないかもしれない。

>>269
トリップ変えたほうがいいということですか?

>>270
今日だとIDが一緒だから、今日変えたトリップで1個書き込んでおけば、ID一緒だから作者がトリップ変えたんだなって分かるからって意味で上のように書きました。
まぁ無用な心配かもしれませんが。

>>271
了解しました。指摘してくれてありがとうございます。 あ、ちなみに 1です。

再開です。

とても静かだった。

聞こえるのは風の音と、蝉の鳴き声。

日中。俺はラボにいるはずだというのに、人の声は聞こえない。

半年ほど前だろうか。未来ガジェット研究部は、今のように賑やかではなかった。

あの頃はまゆりもダルも……、もちろん紅莉栖もいなかった。

とても静かで、聞こえるのは車のエンジン音などの騒音のみ。

今の状況は、その頃と酷く似ていた。

目に映る光景が歪んで見える。

リーディング・シュタイナーが発動した時のような眩暈に頭痛。

上下感覚が失われたような錯覚。

世界が、俺というイレギュラーを拒絶するように。

ラボの中は灼熱地獄のように暑い。

クーラーすら設置されていない我がラボでは当然の事だ。

人の声が聞こえない。だからてっきり俺は、一人きりだと思い込んでいた。

それは単なる思い込み。

紅莉栖たちが、いつものように騒いでいる。

ダルが変な事言い、頬を赤めながら紅莉栖が怒る。

まゆりは、不思議そうに首を傾げている。

違和感に気づいた。

紅莉栖たちの声が、聞こえない。

……いや、そうか。紅莉栖の声が聞こえないのは、あのガジェットの所為であっておかしなことはない。

それならばなぜ、まゆりやダルの声までも聞こえないんだ?

風の音や蝉の鳴き声は聞こえるのに、まゆりたちの声はいくら耳を澄ませても聞こえない。

何かが、おかしい。


途端、途轍もない不安に襲われた。

だから叫んだ。俺はここにいる、と。

狂気のマッドサイエンティストあるまじき行為。

鳳凰院凶真がたかだかこの程度の事で不安になるなんて、紅莉栖に笑われるだろう。

叫んだ声は、ラボに響き渡る。誰ひとりとして反応はしない。

無視されているような……、まるで俺の存在に気づいていないような。

誰も、俺に気づいてくれない。

誰も、俺がいない事に違和感を抱かない。

どういう事だ? 冷静になれ。どうして紅莉栖たちが俺に気づかない?

俺はここにいる。間違いなくここにいるというのに、誰ひとりとして俺の存在に気付かない。

分からない。訳が分からない。あのガジェットのせいなのか? そんな馬鹿な。

もしかしたら、俺は取り返しのつかない事をしてしまったのかもしれない。

待て、そんなのはいくらなんでも―――


――――――
――――
――


岡部「―――っ!?」バッ!

岡部「……っ、く……っ」

岡部「な、なんだ、今の……」

岡部「……夢? 夢なのか……?」

岡部「(汗で服が濡れている……)」

岡部「ここは、どこだ……?」

岡部「……っ」ズキッ

岡部「頭がクラクラするな……」

岡部「………」キョロキョロ

岡部「(見た事のない部屋だ。結構、豪華なベッドで寝かされていたようだが……、)」

岡部「(……誘拐、されたというのは考えにくいか)」

岡部「(こんな豪華な部屋と豪華なベッドを用意してくれる誘拐犯など聞いた事がない)」

岡部「(というか、俺のような男を誘拐するぐらいなら、小学生を狙った方がまだマシだ)」

岡部「(……誘拐?)」

岡部「……なるほど。記憶に混乱が見られるのは、やはり機関の仕業か……」

岡部「俺の力を恐れた機関は、その力が解放される前に攻撃を仕掛けてきたのか……っ!」

岡部「機関も、この右腕に秘められた力に惹かれたのだろう……」

岡部「ククク……、ならばここは日本ではないだろうな」

岡部「アメリカのロンサンゼルス……、その辺りが妥当か…」

岡部「機関め……、アメリカをも手中に落とそうとしているのか」

岡部「しかし、この優遇……」

岡部「……」フム

岡部「(冗談抜きで、ここはどこだ?)」

フェイリス「……あ、岡部、さん?」

岡部「む? ………貴様、誰だ?」

フェイリス「目が、覚めたんだね……っ、よかった……っ」

岡部「……え? いや待て待て。その顔どこかで見た事が……」

フェイリス「よかった……」

岡部「……お前、まさかフェイリスッ!? フェイリスなのかっ!?」

フェイリス「ちょっと、違うかな……」

岡部「なに? ま、まさか貴様クローンなのか!? それともなんだ、未来からタイムトラベルしてきただなんて言わないだろうな?」

フェイリス「そ、そうじゃなくて」

岡部「……お前本当にフェイリスか? フェイリス・ニャンニャンの能力、ダビング10が発動しないとは……」

フェイリス「あはは……」

岡部「というかネコ耳どうした? さっきから疑問だらけで頭がパンクしそうなのだが」

フェイリス「それより、大丈夫? まだどこか痛むところある?」

岡部「痛むところ? 別に怪我なんてしていないが」

フェイリス「覚えて、ないの?」

岡部「覚えてない? ん? なんのことだ?」

フェイリス「今日のこと」

岡部「……くっ。これも運命石の扉の選択かっ。機関による精神攻撃で、記憶の一部分の喪失を確認した」

フェイリス「ほ、本当っ?」

岡部「ああ、本当だ。くそ……っ! 機関め、つくづく思うが、卑劣な手をつかってくれる!」

岡部「俺だ。……なに? 待て待て。任務を遂行させただって?」

岡部「俺はそんな命令を出した覚えはないぞ。計画はどこまで進んでいる?」

岡部「……なるほどな。ああ、そうだ。機関による攻撃を受けて、記憶喪失に陥ってしまっ―――」

フェイリス「ねえ、本当に何も覚えてないの?」

岡部「え? あ、いやその……」

岡部「(まさか本気にされるとは思ってもいなかった)」

岡部「(フェイリスの事だから、俺がこう言っていればダビング10が発動すると思ったのだが)」

岡部「今日のこと……? ガジェットの足りない部品を探すために秋葉に出向いたんだったか……」

岡部「うーむ。それで、お前と出会って……確か……、」

岡部「……激しい、頭痛に……」

岡部「―――っ! そ、そうだ。俺はその後気を失ったんだ」

フェイリス「岡部さん……」

岡部「………」

岡部「(あの頭痛……、確か前にも経験した。まゆりたちと何気ない会話をしていた時、頭が割れそうな激しい頭痛に襲われた)」

岡部「(不摂生の繰り返しで、身体を壊したのかと思ったのだが……、)」

岡部「すまないな。迷惑をかけた」

フェイリス「大丈夫。最初はどうしようか困ってたけど、私の知り合いが丁度近くにいて、」

フェイリス「車に乗せてここまで連れて来ただけだから」

岡部「ああ……、ありがとな」

フェイリス「れ、礼なんていらないよ」

岡部「……それにしても、とんだ災難だ。夏の暑さでぶっ倒れるとはな」

フェイリス「………」

フェイリス「一応お医者さんに診てもらったんだけど、特に異常は見当たらないって」

岡部「い、医者!? そこまで大ごとにしたのか!?」

フェイリス「ち、違うの。岡部さん、何度声をかけても起きなくて、心配になって私が勝手に呼んだだけ……」

岡部「あ、いや。別にお前が悪いとは言っていない」

岡部「と、というかお前どうしたんだ? キャラが崩壊しているぞ。いつものニャンニャン語はどこへ消えた」

フェイリス「今日は……、ネコ耳着けてないから」

岡部「……なるほど。いや、全く分からないのだが」

フェイリス「今の私はフェイリスじゃないの。フェイリスじゃない私は……、はじめまして、かな」

岡部「んん? フェイリスだがフェイリスじゃない?」

岡部「いや待てよ……」

岡部「(フェイリスにだって、本名があるはずだ。今までずっとフェイリスと呼び続けてきたせいか、違和感がしなかった)」

フェイリス「私は……」

岡部「む?」

フェイリス「私の本名……、聞きたい?」

岡部「無理強いする気はないが、聞きたいというのが本心だな」

フェイリス「ふぅん……、そっか」

フェイリス「私の本名聞いて、後悔しちゃうかも」

岡部「フッ―――、後悔などこの鳳凰院凶真がするはずない」

岡部「俺はいつも最善を尽くしている。得られた結果に後悔などしない。一度たりとも過去へ振り返った事などない!」

岡部「……とは言い切れないが」ボソッ

フェイリス「あははっ、どうしようかな」

岡部「お前の好きにするがいいさ」

フェイリス「そうだね……。じゃあ、内緒にしておく」

岡部「な、なんだこのモヤモヤ感は」

岡部「まあ、フェイリスがそう言うなら無理に聞こうとはしないが」

岡部「ところで、今何時だ?」

フェイリス「……えと、待ってて」トタタタ

岡部「……ん?」

フェイリス「今は……、夜中の一時ニャ♪」

岡部「夜中の一時か……。ってお前、なんだかんだ言ってネコ耳はするんだな」

フェイリス「ニャハハ。さっきのは特別なんだニャ。きっと一生に一度あるかないかの出来事ニャン」

岡部「……一期一会の出会い、か。ククク……。まあ、お前はフェイリス・ニャンニャンでいてくれたほうがこちらもやりやすい」

フェイリス「ニャハハ……」

岡部「質問ばかりで悪いんだが、ここはどこだ? ラボとは比べモノにならないこの豪華な部屋は」

フェイリス「ここは、秋葉原タイムズタワーの最上階ニャ」

岡部「ほほう。窓からの景色が絶景だな。高層マンションか」


岡部「………」

岡部「え? 今なんと言った?」

フェイリス「だから、秋葉原タイムズタワーニャ」

岡部「それは……、何かの冗談か?」

フェイリス「冗談でもなんでもないのニャ」

フェイリス「ここだけどの話ニャけど、フェイリスは秋葉原一帯の地主の娘なんだニャ」

フェイリス「都市開発に関わる会合にもよく出席してるのニャ」

岡部「……セ、セレセブもビックリだな」

フェイリス「セレセブ?」

岡部「クリスティィーナのことだ」

フェイリス「クーニャン……。あ、そういえば……」

岡部「なんだ?」

フェイリス「キョーマはクーニャンと一緒に秋葉で探し物を探していたのニャ」

岡部「それがどうした」

フェイリス「……キョーマ、いきなり倒れちゃうから、クーニャンに連絡入れるの忘れてたのニャ」

岡部「……それは、まずいな」

岡部「携帯に連絡が入ってるかもしれん。少し見てみる」

フェイリス「ニャッ」

岡部「……」ピッピッ

不在着信8件

1 8/17  23:58
助手
2 8/17 23:40
  助手
3 8/17 20:20
  助手
4 8/17 19:20
  まゆり
5 8/17 19:09
  ダル
6 8/17 19:05
  まゆり
7 8/17 19:00
助手
8 8/17 18:13
  助手




新着メッセージ 6件

1 0:20 
  助手
2 8/17

助手
3 8/17
助手
4 8/17
助手
5 8/17
助手
6 8/17
  助手
7 8/17
ルカ子

7 From:ルカ子
  Main:夏休みの課題に一生懸命で、今日は素振りが五回しかできませんでした。
6 From:助手
  Main:もう夕方。今日は解散にしない? パーツショップからジャンクショップ、色々と寄ってみたけど駄目だった。
5 From;助手
  Main:聞いてる? 早くラボに来なさいよ。どこほっつき歩いてるか知らないけど、連絡ぐらい入れろ。
4 From:助手
  Main:……おい。メールの中でまで無視する気か? 探索終わったら、一度ラボに集まるんじゃなかったの?
3 From:助手
  Main:電話くらい出て。まゆりや橋田も心配してる。私は心配なんかしてないが。
2 From:助手
  Main:本当にどうした? 携帯を落としたなら連絡ないのは分かるけど、どうしてラボに来ない?
1 From:助手
  Main:大丈夫? 私じゃなくてもいいから、誰かに連絡入れて。私が無視されているなら……、じゃなくて。あんた自身に何かあったら……、その。お願いだから、返信して。



岡部「……」ピッ

岡部「……なあ、フェイリス」

フェイリス「ニャに?」

岡部「これは、ヤンデレ、ではないよな」

フェイリス「キョーマ、照れてるのかニャ? いつもあんなにツンツンしているクーニャンが、実はキョーマの事をすっごく心配していたって分かって、」

岡部「なっ! そ、そんな訳あるかっ! 誰があんな乳臭い小娘なんか相手に、照れなくてはならんのだ!」

フェイリス「素直じゃないのニャ~……、ふぁ」

岡部「ん? 眠いのか? フェイリス」

フェイリス「ずっと、つきっきりだったからニャ……」

岡部「む……。すまなかった。いらぬ心配をかけたな」

フェイリス「いいのニャ。あと、キョーマ。約束して欲しいことがあるのニャ」

岡部「なんだ?」

フェイリス「フェイリスがここに暮らしていること、地主の娘ということ、みんなには内緒にしてほしいのニャ」

岡部「……ああ、約束しよう」

フェイリス「それとっ、ニャ」ジーッ

岡部「な、なんだ」

フェイリス「キョーマ、無理、してるのニャ」

岡部「……別に、無理などしていない」

フェイリス「嘘ニャ。フェイリスの特殊能力、チェシャ猫の微笑(チェシャー・ブレイク)を前にしたら誤魔化せないのニャ」

岡部「……、確かにお前に嘘はつきずらいな」

岡部「……ただ俺は、自分の蒔いた種は自分で刈り取るまでだ」

フェイリス「キョーマ……。今日倒れたのって、」

岡部「……貧血や熱中症ではないだろうな。医者を呼んでいるなら分かるだろう」

岡部「俺の身体に異常はない。そう診断が出たのだろう?」

フェイリス「キョーマ……」

岡部「心配などしなくていい、フェイリス。全ては、あのガジェットさえ直れば解決する」

フェイリス「その自信は、どこから来てるのニャ……?」

岡部「クク……、自分で作ったものだからだ。これこそが、自信になるのではないか?」

フェイリス「でも……」

岡部「それじゃあ、俺は帰るな。邪魔をして済まなかった」

フェイリス「待つニャっ!」

岡部「ん?」


フェイリス「もう夜も遅いし、泊まって行くんだニャン」

岡部「い、いやいや、流石にそれはまずいだろう?」

フェイリス「でも、フェイリスはキョーマが心配ニャ。せめて、今日はここで泊まっていってもいいのニャ」

フェイリス「キョーマが寝る場所は、きちんとあるニャ」

岡部「だ、だが」

フェイリス「ニャーッ! もうウダウダしないのニャッ! はい、もう帰さないっ!」ガシッ

岡部「ご、強引だぞ!? 貴様っ!」

岡部「その強引さ、機関の連中とやり方が似ている……っ!」

フェイリス「ニャフフ……、これが機関の常套手段なのニャッ!」

岡部「……仕方ない。確かに、こんな夜遅くに出ても電車はもうないだろうし、必然的にラボに泊まる事になる」

岡部「ここの涼しさは惜しいしな」

フェイリス「今日だけは、特別だニャンッ♪」

岡部「お前の特別とやらは、一体いくつあるんだ……」




――翌日 ラボ


岡部「……ふむ。流石にまだラボメンは来ていないか」

岡部「(途中、自販機で買ったドクペでも飲むとしよう)」

岡部「……」プシュ ゴクゴク

岡部「ふう……。生きかえる」

岡部「………」

シーン……

岡部「(静か、だな)」

岡部「(いや、ラボには俺しかいないから当たり前なのだが)」

岡部「(……この静けさは、否応なしに昨夜の夢を思い出させる)」

岡部「(なんだって、あんな夢を見てしまったのだろう)」

岡部「(本当にリアルな夢だったな……)」

岡部「………」

携帯「~♪」

岡部「ん? 最近、携帯に着信が入る事が多くなってきたな……」


From:助手

Sub:……ねえ

Main:本当にどうしたの? 一晩明けたら、メールが返ってくると思ってたんだけど。


岡部「……そういえば返してなかったな」

岡部「(フェイリスが茶化してきたせいで、結局メールを返せないままだった)」

岡部「だがまあ……、どうせ俺はラボにいるし、返せなくてもいいか」

岡部「(基本的にメールはあまり好まない。何が楽しくて、こんなものに時間を費やさねばならんのだ)」

岡部「(それならば、人類の未来のために研究に勤しむ方がよっぽどためになる)」

携帯「~♪」

岡部「あー……」ピッ

岡部「(携帯など、機関の情報をやり取りするために買っただけであって、他愛のないメールをするために買った訳ではないのだが)」


From:バイト戦士

Sub:昨日の事だけど

Main:今日さ、店長遅れてくるみたいなんだ。だからブラウン管工房で暇つぶしになる物ないかって、探索してたんだけど。
あー、ちなみにこのこと店長には内緒だよ。店長、激怒すると怖いしさ。
それで本題に入るけど。なんか、段ボール箱の中にたっくさん、見たことのない部品が入ってるのがあってさ。
多分、店長の趣味だと思うけど。それで、もしかしたら君たちが探索しているものがあるかもしれないと思って、メールしたわけ。
興味があるなら、大檜山ビル一階のブラウン管工房まで。

岡部「なに……?」

岡部「(……行ってみる価値はありそうだ)」

岡部「(にしてもバイト戦士よ。最後の一行のせいで、迷惑メールか勧誘みたいだぞ)」

--外--

岡部「おい、バイト戦士っ!」

鈴羽「あ、岡部倫太郎。おっはー」

岡部「………」

鈴羽「何その顔?」

岡部「いや、なんでもない。ところでメールを見て、来たのだが」

鈴羽「あっ、うん。じゃ、来て来て」

岡部「あ、おい。引っ張るな」

―――ブラウン管工房


鈴羽「っと、待てって」ヨイショ

岡部「おい、大丈夫か?」

鈴羽「んー、平気平気」

岡部「……棚の一番上に置いてある段ボール箱を、わざわざ下ろすほど暇だったのか」

鈴羽「だってさー、お客さん全然来ないし」

岡部「とんだバイトがいたもんだ。やはり、俺の命名に狂いはなかったということだな、バイト戦士よ!」

鈴羽「前々から思ってたけど、バイト戦士って呼び方やめてくんない?」

岡部「なぜだ?」

鈴羽「あたしには、阿万音鈴羽っていうきちんとした名前があるんだから」

岡部「ほう、なるほど。お前は、本名で呼ばれたいということだな?」

鈴羽「あったりまえじゃん」

岡部「ならば必然的に、俺の気持ちも分かってくれるな? バイト戦士」

鈴羽「え? あたしはちゃんと、岡部倫太郎って本名で呼んでるよ? あ、なになに? 倫太郎とか……、えーと、りんりん、とかで呼んでほしいわけ?」

岡部「どこのバカップルだっ」

岡部「そうではない! 俺は岡部倫太郎ではなく、ほーぅ! おぉーぅ! いぃーん! きょぉー! まぁぁぁー!! だ!」

鈴羽「えー? でも岡部倫太郎は岡部倫太郎だし」

岡部「俺の真名だ」

鈴羽「ほーおーいん、きょーま?」

岡部「やればできるではないか」

鈴羽「面倒くさいや」

岡部「なにぃっ!?」

鈴羽「はいコレ。段ボール」ズシン

岡部「……これはまた、随分とあるな」

鈴羽「うん。明らかに切断されてるケーブルとか、これは……、コンデンサ?」

岡部「統一性がないところから、要らぬものを片っ端から段ボールに詰めたようだな」

岡部「しかしミスターブラウンのことだ。俺達が探し求める部品があるかもしれん……」

鈴羽「あー、岡部倫太郎」

岡部「なんだ?」

鈴羽「その部品の写真をあたしに譲渡してくれない?」

岡部「何に使う気だ?」

鈴羽「……えーと」

岡部「なっ、まさか貴様機関のエージェントっ」

岡部「なるほど。俺達がこの部品を探し求めていると知った以上、それを俺の手に渡さないために妨害する気か」

鈴羽「そんなことしないよっ! どーせあたしも暇だから、手伝ってあげようと思ったんだけどなぁ……。そんなこと言っちゃうんだ」

岡部「別に貴様の手助けなんかいらん」

鈴羽「いいの? そんなこと言っちゃって」

岡部「何を企んでいる?」

鈴羽「もうすぐさ、てんちょー来ると思うんだよね」

岡部「……なん、だと?」

鈴羽「店長がさ、この光景見たら絶対激怒すると思うんだよ」

岡部「そりゃ、そうだろうな……。自分の店を荒らされれば誰だって怒る」

鈴羽「だから、あたしが店長に言って、岡部倫太郎たちが探索している部品がないかどうか聞いてあげようと思ったんだけど、」

鈴羽「あたしの手助けはいらないんだよね」

岡部「……貴様。俺を愚弄するか」

鈴羽「もうすぐ店長来ちゃうよ」

岡部「……ぐぬぬ」

岡部「仕方あるまい。現状はお前の手を借りることにしよう」

岡部「だが、決して屈したわけではない。近い未来、世界に混沌が陥ったとき、貴様は後悔するだろう……ククク」

鈴羽「じゃー、交換条件」

岡部「ほう。いいだろう、言ってみろ」

岡部「何が欲しい? 世界か? 金か? ……それともやはり、例のブツか」

鈴羽「あたしのこと、バイト戦士じゃなくてきちんと鈴羽って呼んで」

岡部「ん? そんなことでいいのか?」

鈴羽「んっ」コクッ

岡部「ま、別にかまわないが」

岡部「それでは鈴羽っ! 後はよろしく頼んだぞっ!」

鈴羽「オーキードーキー♪」

岡部「あとっ! 俺の事は鳳凰院凶……っ」

鈴羽「んじゃねー」

岡部「……ったく」

―――ラボ


岡部「む?」

まゆり「あーっ! オカリンだ~♪ トゥットゥル~☆」

ダル「あ、オカリンじゃん。昨日なにしてたん?」

紅莉栖「岡部……っ!」

岡部「ん? 昨日は、な。まあ色々とあって」

紅莉栖「連絡ぐらい入れなさいよ……。心配したじゃない」

ダル「なんで僕らの着信を無視ったのか説明求む」

まゆり「そーだよ。クリスちゃんなんて、と~~っても、心配してたんだよ?」

紅莉栖「ちょ、ば……っ! 誰がこのHENTAIのことを心配しなくちゃいけないのよっ!」

ダル「前言撤回した件」

岡部「いやまあ……、返す暇がなかったというか、そもそも気付かなかったというか」

紅莉栖「あんたさ……、せっかく私達が協力してんのに勝手に帰るとか何様よ」

ダル「勝手に帰った理由を説明してだってお」

岡部「ラボに来れなかったのは謝る」

まゆり「ねーねー、オカリン。それじゃあ、昨日はどこにいたの?」

ダル「牧瀬氏、夜の十一時までラボにいたけどオカリンこなかったんしょ? なら後は、自宅しかありえない希ガス」

まゆり「え? オカリンのお父さんから、あいつはどこほっつき歩いてるんだー、って電話があったよ?」

紅莉栖「……え?」

ダル「……オカリン?」

岡部「……くっ。ち、違うんだ! ヤツが、ヤツがついに呪縛から解かれ……っ!」

ダル「厨二設定禁止」

岡部「真実だ!」

紅莉栖「で? どこほっつき歩いてたの?」

ダル「ま、確かに納得いく理由が必要だ罠。協力してる相手に、連絡もなしで勝手にどっか行くとか」

岡部「(……下手に嘘をつくと、余計墓穴を掘る結果になるな)」

岡部「……フェイリスの家にいた」

ダル「な、なんだってー!?」

ダル「オカリン……、僕は久しぶりにキレちまったぜ」

ダル「屋上」

紅莉栖「女か。最低だな」

紅莉栖「ほんと最低よ。こっちは暑い中、秋葉を歩いて探していたのに、あんたはフェイリスさんの家で寛いでいたわけ?」

ダル「……」

まゆり「……オカリン」

岡部「ダ、ダルよ。クリスティーナの殺気が尋常じゃない。なんて言っているのだ?」

ダル「オカリン……、ちょっと面貸せや」

岡部「ま、待て待て! 何を誤解しているか知らんが、お前らが考えている展開にはなっとらん!」

ダル「んじゃ、僕らが納得する理由があるん?」

岡部「(……ま、まさか倒れてしまったとは言えまい)」

ダル「オカリンがフェイリスたんとそういう仲じゃないとしても、牧瀬氏に探索を協力させたのに自分だけ楽してるのはどう考えても、」

岡部「騙されたのだっ! フェイリスに」

紅莉栖「人の所為にするとか、ますます最低だな。死ね。氏ねじゃなくて死ね」

紅莉栖「Go to hell」

岡部「ク、クリスティーナよ。その殺気を抑えてくれ。話しづらいではないか」

紅莉栖「無理」

岡部「と、とにかく、フェイリスが例の部品のことを知っていると言ったから、ついて行ったのだ」

岡部「そこでダビング10の能力が発動してな……。つまり、翻弄されてしまったのだ」

まゆり「えー? フェリスちゃんのお家にいったの? オカリン」

ダル「オカリン……、嘘つくの下手すぎだお」

岡部「ど、どういう意味だ?」

ダル「フェイリスたんと仲の良いまゆ氏だって、フェイリスたんの家に行った事ないんだお」

ダル「ぶっちゃけ、フェイリスたんがどこで暮らしてるか分からんし」

ダル「いつもの冗談で、フェイリスたんがオカリンを自宅に招くとは思えないお」

ダル「つーかそれが事実なら、オカリン、フェイリスたんに好かれてるってことでおk?」

紅莉栖「……あ、あんたねぇ」ギロッ

岡部「あ、いや、その、えーと」

岡部「(しまった……! 秋葉原タイムズタワーでフェイリスは暮らしているのだ)」

岡部「(それをフェイリスは内緒にしてくれと言っていた。つまり、それは誰にも知られたくないから)」

岡部「(……た、確かにフェイリスが俺を自宅に招いたというのはおかしい)」

ダル「というわけでオカリン。遺言はそれでいいのか?」

岡部「おいダルよ。いつものネラー語はどこへ消えた」

ダル「僕は久しぶりにキレてるんだお」

まゆり「……オカリン。まゆしぃは、悲しいのです」

紅莉栖「……」

岡部「ちょ、ちょっと待て。これには海より深い事情があるのだ!」

ダル「まゆ氏。結局、オカリンって自分の家に戻ったん?」

まゆり「ううん。今日の朝、心配になってオカリンの家に電話してみたけど、昨日は結局帰って来なかったって」

紅莉栖「ということは、岡部はフェイリスさんの家に泊まったという解を導き出せるわね」

ダル「判決、死刑」

岡部「ま、ままま待ていっ!」

岡部「お、俺は無実だっ!」

ダル「互いに合意の上だった、とか言ったら殺すお」

紅莉栖「……ご、合意って、あんた……っ!」

岡部「ち、違う! だから貴様らが考えている展開にはなってない! このスイーツ(笑)め!」

岡部「くっ、こんなことで時間を潰している暇はないというのにっ!」


鈴羽「おーい! 岡部倫太郎~! 店長が呼んでるぞー!」

岡部「す、鈴羽かっ! わ、分かった! 今行くぞっ!」ダッシュ

紅莉栖「あ、コラっ! 逃げんなっ!」

ダル「こりゃ後で屋上決定だお」

まゆり「でも~……、オカリンはそんなことしないと思うなー」

ダル「まね。オカリン、チキンだし。ちょっとからかっただけだお」

紅莉栖「……だけど、フェイリスさんの家で泊まったのもまた事実よ」

ダル「……やっぱ、フェイリスたんに電話かけんのが一番よくね?」

紅莉栖「そうね……」

携帯「~♪」

まゆり「……? あ、フェリスちゃんからだ~♪」



―――外


天王寺「おい、岡部」

岡部「な、何か用ですか? はあ……、はぁ……」

天王寺「ん? どうしたんだ息切らして」

岡部「いえ、なんでもないですよ。まさかラボメンが機関の一味だったとは知らなかったんですよ」ハハハ

岡部「まさに四面楚歌という現状……。だが、この鳳凰院凶真にかかればこの程度造作もない」

天王寺「どうでもいいが、お前にちょっと話がある。面貸せや」

岡部「今の言葉は聞き捨てなりませんな、ミスターブラウン!」

天王寺「俺がどうでもいいって言ったら、どうでもいいんだよ。いいから来い」

岡部「はい。分かりました」

天王寺「そこのバイトから話は聞かせてもらった」

鈴羽「えへへ」

岡部「ん?」

天王寺「お前ら揃って、俺の大事な店を荒らしてくれたそうだな」

岡部「なっ! 何故それを!?」

天王寺「だから言っただろ。そこのバイトが洗いざらい吐いてくれたからな」

岡部「な、鈴羽っ!? 貴様、裏切ったのか!」

鈴羽「裏切ったって心外だなー。ちゃんと協力したんだよ?」

岡部「協力してないではないかっ」

天王寺「お前らが探してる部品ってのは、もしかしたら俺の家にあるかもしれねえってことを言いてぇんだ」

岡部「む? 今なんと?」

天王寺「だから、お前らが探している部品を、俺が持っているかもしれねえってことだ」

岡部「……そ、それは本当か!? ミスターブラウン!」

天王寺「だが期待はすんなよ。絶対にあると決まった訳じゃねえしな」

岡部「それでも構わない! 丁度、行き詰っていたところだったところでしたので」

岡部「(紅莉栖たちが誤解したままだと、協力してくれないだろう)」

天王寺「ま、暇になったら探してやる」

岡部「いや、待ってもらいたいミスターブラウン。今すぐにでも探してもらえないだろうか?」

天王寺「ああん? ふざけんな。こっちだって暇じゃねえんだよ」

岡部「……それを承知で頼みます」

天王寺「……ん? 岡部、お前……」

天王寺「………」

岡部「時間がないんだ。とにかく俺はその部品を手に入れなくてはならない」

天王寺「しゃあねえな。分かった。この借りは後で払ってもらうぞ」

岡部「ミスターブラウン! 協力、感謝します!!」

岡部「借りはきちんと返しますが、金以外で」

天王寺「誰もテメェのような貧乏学生から金を奪おうなんて思わねえよ」

岡部「(なら家賃を上げないでもらいたいのだが)」

岡部「それと鈴羽。よく任務を遂行させてくれたなっ! 流石、俺が認めたラボメンだ!」

鈴羽「へへ、もっと褒めて」

岡部「調子に乗るな、アホ」

鈴羽「んと、ありがとね」

岡部「?」

鈴羽「いーや、岡部倫太郎のことだからどうせすぐに『バイト戦士』に戻るんだろうなーって思ってたら、」

鈴羽「ちゃんとあたしの名前呼んでくれてるからさっ」ニシシ

岡部「お、俺は、約束を守る男だ! それこそが、鳳凰院凶真なのだっ!」

天王寺「そんじゃ、俺はちょっくら家に戻るぞ。おいバイト、店番頼んだ」

鈴羽「あー、ちょっと待って! あたしも着いてく~」

天王寺「ああん? なんでだ」

鈴羽「二人で探した方が効率いいでしょ?」

天王寺「ま、別にいいが。確かに押し入れの中を探すのは、骨が折れる」

鈴羽「んじゃ、シャッター下ろすね」

岡部「ミスターブラウン。まことに申し訳ないが、頼みます」

天王寺「おう」


―――ラボ


岡部「(正直戻りたくなかったのだが、そういう訳にもいかん)」

岡部「(誤解されたままだと、悪循環で余計面倒なことになりかねない)」

岡部「(仕方ない……。俺の右腕の封印を解いてでも、奴らの誤解を解かねば)」

岡部「も、戻ったぞ!」

紅莉栖「あ、お帰り」

まゆり「オカリン、オカエリン~」

ダル「うひょっ、フラグ立った!」カチカチ

岡部「……ん? え?」

紅莉栖「どうしたのよ、んなとこでつっ立ってて。邪魔」シッシッ

岡部「あ……、すまん」

まゆり「ねーねー、クリスちゃん。ここ教えてー」

紅莉栖「ん? えーと、これはね……」

岡部「……な、なんだ? 世界線が変わりでもしたのか?」

ダル「何言っとるん、オカリン。どーでもいいけど、早く部品の探索よろ」

岡部「む?」

ダル「僕はある程度、ガジェットは改良しといたから部品待ち」

岡部「……う、うむ」

紅莉栖「あー……、またこの暑い中歩くのかー……。鬱だ」

ダル「ネラー語入りましたー」

紅莉栖「はっ!? ち、違うのよっ! い、今のはっ」

ダル「ぬるぽ」

紅莉栖「……くっ。い、言わないぞ。絶対にだ!」

ダル「ネラー語入りましたー」

紅莉栖「駄目だこいつ……、早くなんとかしないと」

ダル「まさか牧瀬氏、ワザと?」

紅莉栖「そんな訳あるかっ! そんな訳あるかっ! 大事な事なので――、はっ!?」

ダル「駄目だこいつ……、早く何とかしないと」

紅莉栖「うっさいわっ!」

岡部「ええい! 貴様ら、のんびりしている時間はないぞっ!」

紅莉栖「あー……、それもそうね」

ダル「おk。んじゃ、僕はガジェットの様子みるわ」

まゆり「ダルく~ん。何か欲しいものあったら言ってね」

ダル「まゆ氏が欲しいですっ!」

紅莉栖「やめろHENTAI」

紅莉栖「で? 岡部。あんたアテでもあんの?」

岡部「……む。素直だな、貴様ら」

岡部「と、とにかくクリスティーナよ。再び秋葉に出向くとしよう」

岡部「一応、ミスターブラウンの協力も得られた」

ダル「ブラウン氏の?」

岡部「ああ。もしかしたらその部品があるかもしれないと言っていたからな。期待してもいいだろう」

岡部「だが、もしもの事も考えて、我々は部品の探索を引き続き続ける」

紅莉栖「はいはい厨二病乙」

岡部「では、助手よ。また別れて――」

紅莉栖「だが断る」

岡部「探索を続けようか」

まゆり「クリスちゃん、断るってー」

岡部「なにぃっ!?」

ダル「ま、昨日の件もあるし、牧瀬氏と一緒に探索した方がいいかもしんね」

ダル「第一、二人で分散して、片方が調べた店をもう片方がまた調べるとかいう可能性もあるし」

岡部「それならば、調べる場所を事前に決めておけばいいのだ」

ダル「んでも、やっぱ昨日の件もあるし牧瀬氏と一緒に探索よろ」

岡部「……くっ。身の潔白を証明したいが、今は頷いておく事にしよう」

紅莉栖「偉そうね」

岡部「では助手よ。最前線に出向くぞ」

ダル「ま、秋葉はいつも戦争状態だしね」

まゆり「せんそーといえば、コミマもすごいよー」

ダル「禿同」

岡部「では、秋葉に行くぞ助手」

紅莉栖「助手じゃないし」

まゆり「いってらっしゃーい、オカリン」

ダル「次、フェイリスたんのお家に泊まったら屋上」

岡部「だからそれは―――」

紅莉栖「ほら、早く来なさいよ。時間ないんでしょ?」グイ

岡部「む。ひ、引っ張るな、助手よ!」

ダル「うっは、リア充爆発しろ」

まゆり「なっかよしさんだね~♪」



―――外


岡部「さて、どこから調べていくか……」

紅莉栖「……」カチカチ

携帯「~♪」

岡部「む?」


From:助手

Sub:とりあえず、

Main:私達どちらもまだ行っていない店を探すべき。怪しい場所は徹底的に調べた方がいいと思うわ


岡部「……面と向かって携帯で会話とは、指圧師を前にしている気分だな」

紅莉栖「仕方ないだろ、バカ」



――――――
――――
――


岡部「な、中々見つからないものだな……」

紅莉栖「そうね……」

岡部「(IBN5100は簡単に見つかったからもしかすれば、と思ったがやはり楽観だったか)」

岡部「……く」ズキ

岡部「(頭が痛むな……。また倒れるわけにもいかん……)」

紅莉栖「………」

岡部「まだ八店舗しか調べていない。他に可能性がある所は――」

紅莉栖「……」カキカキ

紅莉栖『ちょっと休憩しよ? ほら、私が奢ってやるから何か飲みたいもの言え』

岡部「……む。お前、メモ帳なんか持ってきていたのか。……しかし時間が、」

紅莉栖『焦っても仕方ないでしょ。ほら、飲みたいもの言えって』

岡部「無論、ドクターペッパーだ!」

紅莉栖「はいはい、どうせそうだろうと思った」

紅莉栖「私もドクペでいいか……」ポチ ゴロン

紅莉栖「はい」

岡部「うむ。大義であった」

紅莉栖「何さまよ……」ポチ ゴロン

岡部「…んぐ」ゴクゴク

岡部「ふーっ! やはり、ドクペは神だな。人類の英知とも言えよう」

紅莉栖「大袈裟ね」

岡部「いやしかし、こんなところに同士がいるとはな」

紅莉栖「ん?」

岡部「お前の事だ、助手よ。良い飲み仲間ができて、俺は嬉しい」

紅莉栖「……そ」

岡部「いや、初めの頃はただの性格が悪い論破厨と思っていたが、俺の思い違いだったようだな」

岡部「冷たく見えて仲間想い……、そして何よりドクペを好んで飲める」

岡部「そういうところが好きだぞ、助手よ」

紅莉栖「はいはいそうで――、……え?」

紅莉栖「は? 今、あんたなんて?」

岡部「……にしても、随分長いこと助手の声を聞いていない気がするな」

岡部「まだ一週間も経っていないのだが」

紅莉栖「……そうね。私がつっかかってきても、あんたが反応なしだとこっちも調子が狂う」

岡部「やはり、早々になんとかしなくてはな」

岡部「お前の声を、俺は早く聞きたい」

紅莉栖「……え、え?」

岡部「(俺に声が届かないのを言い事に言いたい放題言ってくれたようだしな!)」

岡部「(雪辱の恨みを晴らすためにも! まずはクリスティーナの声が聞こえるようにしなくてはならん!)」

紅莉栖「な、何よ……、急に」

岡部「クリスティーナ……」ジー

岡部「(フゥーハハハ! 首を洗って待っているがいい!)」

紅莉栖「ちょ、お、岡部……。顔、近い……」

岡部「(ククク……、安穏としていられるのは今だけだぞっ!)」

紅莉栖「ま、待って、岡部……っ」

紅莉栖「こ、ここ人多いし……」

岡部「(……何を焦っているんだ? 助手は)」

紅莉栖「あ、あんたの気持ちは嬉しいけど……さ」

岡部「(……なぜ、顔を赤らめている)」

紅莉栖「私の声が聞こえるようになったら……って、何言わせてんのよっ!」

紅莉栖「……あんたには聞こえないからいいけど」

岡部「では、部品を探すとしようかっ!」

岡部「作戦名――創造者の起源(テスカトリポカ)、最終段階に移行する」

紅莉栖「最終段階って、昨日とやってること変わらないんですけど」

岡部「よし、とりあえずまだ探していないパーツショップ、ジャンクショップを探すぞ」

紅莉栖「はいはい……」




岡部「……」スタスタ

紅莉栖「……」スタスタ

紅莉栖「(……ま、分かってるけどね)」

紅莉栖「(どうせあいつの事だから、いつもの厨二病が発症しただけ)」

紅莉栖「(私の考えているような事にはなってないと思うし)」

紅莉栖「(……それでもいいけど)」

紅莉栖「(いや、よくないが)」

岡部「うむ……。こうやって歩いてみると、秋葉は店ばっかだな」

岡部「しかも殆ど、あっち系の店ばかりだ……」

岡部「(萌え系ショップに挟まれて電気屋がある。大通りより、マニアしか知らない店に行くとしよう)」

岡部「クリスティーナ。こっちだ」

紅莉栖「ん」

岡部「……」スタスタ

紅莉栖「ん……? こんなところあったんだ。初めて来たかも」ピタ

岡部「ふむ……。もう少し奥まで行くとするか……」スタスタ

紅莉栖「あの店怪しいわね……。って、岡部っ! ちょっと待ちなさいってば!」

岡部「……」スタスタ

紅莉栖「(あ、声が聞こえないんだったか……っ!)」

紅莉栖「ああもう……っ!」ダッ

ドンッ!

紅莉栖「きゃ――っ」

4℃「ああ? 痛ってえな」

紅莉栖「ごめんなさい。少し急いでいて――」

チンピラ「おい。そんな謝り方で許されると思ってんのか?」

チンピラ2「4℃さんにぶつかっておきながら、ただ謝罪の言葉並べればいいってもんじゃねえんだよ」

紅莉栖「(……これは、面倒なのに絡まれたわね)」

紅莉栖「……」

4℃「なんだ、その反抗的な目は? この俺様が誰だか知っていることを承知でやってるのか?」

紅莉栖「は? 何よ。何か凄い事でもしてテレビにでも出た?」

4℃「いいか、一度しか言わねえ。数字の4に温度の℃で4℃だ。秋葉に降臨した黒の貴公子」

紅莉栖「あんたも厨二病か」

4℃「ああ? 俺が誰だと分かっていて口を開くか」

4℃「世界はやがて、俺にひれ伏す。この黒い衝動で凍った手が、それを予言する」

4℃「ガイアが俺に囁くぜ……」

紅莉栖「さ、触らないでっ!」パシンッ

4℃「……てめぇ。俺に触れたな? 俺に触れていいのは、俺が認めた者のみだ」

4℃「それは決しててめぇのようなメスブタじゃねえ」

4℃「俺に触れると、火傷するぞ。知ってるか? ドライアイスに触れると、火傷するんだぜ」

紅莉栖「それは凍傷よ」

チンピラ「んだこいつ……」

チンピラ2「舐められてんのかね? んじゃ、ちょっと痛い目みてもらわねーとな」

チンピラ3「てか、この女、よく見たら美人じゃね?」

チンピラ2「うっは! 確かに。こりゃ食えるぞ」

4℃「黒い衝動が騒ぐ。……おい、女。この4℃様に、地面に額を擦りつけて謝るか、少し痛い目を見るかお前に選択肢をやろう」

紅莉栖「人が謝ってるのに、何よその態度っ! 土下座しろですって?」

紅莉栖「確かに前を見ていなかった私も悪かったけど、その程度の事で土下座しろだなんて、」

紅莉栖「器の小さい男ね」

4℃「ああ? そうか。それを選択したか」

4℃「てめぇが選択したんだから、文句はねえよな」

チンピラ2「はっ、犯っちまっていいってことっすか?」

4℃「構わねえ」

紅莉栖「え? ちょ……、待っ」

チンピラ3「最近、溜まってたんだよな。いや、こんな上物に出会えるとは俺もついてるな」ヒッヒッヒ

チンピラ2「待てよ。先に貫くのは俺だぞ」

チンピラ「ああん? 何ほざいてんだよ。4℃さんの許可を得てからだろ」

紅莉栖「……っ」

紅莉栖「(……ヤバイ、かも)」

紅莉栖「(通行人は、みんな見て見ぬふりだし……、岡部は…)」

紅莉栖「(私に気づかずどこか行っちゃった……、か。絶望的だな)」

紅莉栖「(………ど、どうしよう)」

チンピラ「んじゃまず、こいつを連れて行きますかっ」

チンピラ2「オーケー。抵抗するなよ? 出来るだけ怪我はさせたくねえ」

4℃「いいか? この俺、4℃には触れるなよ。火傷するぜ。俺に触れていいのは、俺が認めた者だけだ」

4℃「だが、俺から触れるのは例外だ」

4℃「言葉の意味、理解したか?」

紅莉栖「っ…」

4℃「おい。さっさとこっちに――」

紅莉栖「(―――岡部っ)」ギュッ

4℃「……っ」ガシ

4℃「……ああん?」

紅莉栖「……岡部っ!」

岡部「……おいお前、4度(よんど)と言ったか」

4℃「4度じゃねえっ! 4℃だ!」

岡部「お前は、俺に触れていいのは俺が認めた者のみと言ったな?」

4℃「ああ? てめぇ、何者だ?」

チンピラ「こいつも締めちまいましょうよ」

岡部「いいか。この鳳凰院凶真が、下賤な貴様らに教えてやる」

4℃「てめぇ、今何て言った?」

岡部「そこの紅莉栖は、お前らのような塵が触れていいわけがない」

岡部「この鳳凰院凶真。いかなる時も独善的であり、目的のためなら手段を選ばぬ男っ!」

岡部「だが、決して仲間は見捨てない」

紅莉栖「……岡部」

4℃「……囁くぜ、ガイアが」

4℃「この男は、生かしちゃおけねえ」

4℃「興醒めだ」

チンピラ「責任を取ってもらうってことで」

チンピラ2「ちょっとどころか、かなり痛い目見てもらわねえとな」

岡部「……ん?」

岡部「……ククク、フゥーハハハハ!!」

4℃「なんだっ!?」

岡部「お前ら、愚かすぎるぞ! この鳳凰院凶真に挑むというのか!?」

岡部「もう一度、問おう。ヒュドラすら屠ってしまうこの鳳凰院凶真に、挑むというのか?」

チンピラ「4℃さんっ、こいつ厨二病だ」

4℃「ん?」

チンピラ2「頭がイカれてるってことっすよ」

岡部「貴様らが言うなっ」

岡部「とにかく、この身の封印が解かれる前に、逃げた方が良い」

チンピラ「はっ、逃げた方が良いのはてめーなんじゃねえのか?」

岡部「……挑むのか。哀れな」

岡部「止むを得ん。封印を解き、魔界から現れし魔王よ、ここに降臨するが良い……」

チンピラ2「なんにも起こってねえじゃねえか」

チンピラ「締めるぞ、こいつを。二度と口がきけねえようになっ!」ブンッ

ガシッ!

チンピラ「な、なに……っ!?」

岡部「ふ。む、無駄だと言ったはずだ」

チンピラ2「ひ、ひぃっ!?」

チンピラ「な、なに怯んでやがるっ!」

天王寺「おう。岡部。おめぇ、厄介なのに巻き込まれたな」

岡部「言っただろう、下賤な民ども! 魔界から現れし魔王が、今まさにここにいるのだからな! フゥーハハハ!」

チンピラ3「うぉらっ!」ボンッ!

天王寺「……ったく、最近の若いもんはなっちゃいねえな。そんな拳、痛くもかゆくもねえ」

天王寺「まだ蚊の方が厄介だな」

4℃「おいお前ら、怯むんじゃねえ。相手は一人だ」

チンピラ3「そうっすよね。いくら筋肉があるからって、武器を前じゃどうしようもねえはずだ」シャッ

岡部「な、貴様正気か!? 刃物を出すなど……っ!」

チンピラ3「死ねっ!」

ガシッ


鈴羽「おっはー、岡部倫太郎。助けにきたよ」

チンピラ3「あ、痛、あああっ! や、やめ、な、なんだこいつっ!」

ギシシシシ

チンピラ3「ぐぅぅぅあああ!!」

岡部「お、おい鈴羽。さ、流石にその程度にした方が……」

4℃「く……っ!」

チンピラ2「このクソ野郎がっ!」ブンッ

岡部「……ぐっ!?」ガンッ!

紅莉栖「岡部っ!?」

岡部「痛……、だ、大丈夫だ」

紅莉栖「で、でも血が……っ!」

岡部「案ずるな紅莉栖。脳科学専門なら分かるだろう。頭の怪我は派手に見える」

紅莉栖「そ、そうだけど……っ!」

岡部「おいお前らっ!」

4℃「ああ?」

岡部「こんなことをして、ただですむと思ってるのか?」

チンピラ「んだよ?」

岡部「このようにムキムキで、日本人には見えない顔立ち」

岡部「そうだな……、たとえば、この男がどこかの組織の連中だったらどうする気だ?」

岡部「たとえば、マフィアとかな」

チンピラ「なっ、お、脅しだろっ!?」

天王寺「ところがそうでもねえんだな。あるどでかい組織の、下っ端の方だが、」

天王寺「その小さな組織の指揮官を任されている」

天王寺「そこの小僧が言っている事は、間違っちゃいねえ」

天王寺「……ま、俺が所属している組織は、基本は尻拭いのようなものばかりだが」

天王寺「ようは、どんな汚い仕事でもやるってことだ」

チンピラ「……ひっ」

4℃「お、おいてめぇら……っ!?」

天王寺「次にこいつらに手を出してみろ。世界のどこへ逃げても、逃がさねえ」ギロ

チンピラ3「ひぃっ!」タッタッタ

チンピラ2「ま、待てよっ!」

チンピラ「くっそっ!」

4℃「おい! お前らっ! 逃げんじゃねえ!」

岡部「お前の仲間は薄情な奴ばかりだな」

4℃「……く、くそっ! いいか、覚えていろよっ! いつか、必ず後悔させてやる!」タッタッタ

岡部「まるで三流の悪者が吐く捨て台詞だな」

天王寺「……最近の若い者の中には、こんな腐った連中がいんのか。世も末だな」

鈴羽「いやー、あたし大活躍だねっ!」

岡部「……ま、まあ助かった。にしても、ミスターブラウン。あなたの演技は途轍もなかった」

岡部「その迫力に、こちらも少し驚きましたよ」

天王寺「いや、まあな」

紅莉栖「……岡部ぇ」ジワッ

岡部「な、紅莉栖っ!? 何故泣いているのだ!?」

紅莉栖「よ、よかった……。助けに、来てくれて、ありがとう……」

鈴羽「助けたのはあたしとてんちょ――」ムグッ!?

天王寺「黙っとけ、バイト」

紅莉栖「ほんとに、よかった……。こ、怖かったんだから……」

岡部「む……、この事に関しては俺の不注意のせいでもあった」

岡部「悪いな。怖い思いをさせて」

紅莉栖「……ほんと、よっ。何度呼んでも、返事してくれないし」

鈴羽「いやー、アツアツだね」

天王寺「俺も後、10若けりゃな」

紅莉栖「……なっ! べ、別にそういう関係じゃないからっ!」

鈴羽「別にそういう関係なんて言ってないけど」

岡部「おい、茶化すな鈴羽」

鈴羽「へっへー、めんごめんご」

岡部「ったく……」


―――ズキン


岡部「……と、ところ、でミスターブラウン」

岡部「あなたは、なぜここに?」

天王寺「ああ? 家で探してたら、案外ひょんなところから出てきてな」

天王寺「これであっているか、どうか分からねえんだが……、おい、岡部?」

岡部「……」クラッ

紅莉栖「岡部っ!?」

鈴羽「ちょ、岡部倫太郎!? どうしたの? ま、まさかさっきの怪我で!?」

紅莉栖「ち、違う……。店長さんっ! その部品、確かに私達が探しているものなんですかっ!?」

天王寺「……絶対とは言い切れないが」

天王寺「おい、岡部っ! 冗談やってる場合じゃないぞ」

鈴羽「岡部倫太郎? どうしたのさっ!?」

紅莉栖「……岡部っ!?」

岡部「………」

岡部「(……なんだろう。前に倒れた時とは確実に何か違う)」

岡部「(まるで深海に引きずり込まれるような。前のように苦痛はない)」

岡部「(むしろ、快感。このまま呑み込まれていくのも、悪くないと思える)」

岡部「(……やっぱり、あのガジェットのせいだったのか?)」

岡部「(……出来る事なら、)」


岡部「(……紅莉栖の前で、倒れたくなかったんだがな……)」



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岡部「……ん」

岡部「(……あれ? ここは……、ラボ?)」

岡部「……痛、つつ」

岡部「(頭が痛いな……。眩暈もする)」

岡部「(徹夜を連続した時のような、吐き気)」

岡部「……う」

岡部「(どうして俺はラボにいるんだ?)」

岡部「……確か、俺は倒れた筈じゃ……」


紅莉栖「やっと目を覚ましたな、このバカ」

岡部「紅莉栖……?」

岡部「え……?」

紅莉栖「………」

岡部「………」

岡部「目を覚ましたら、病院のベッドの上かと思っていたんだが」

紅莉栖「ふん。私も事情を知らないで、あんたが倒れたら救急車呼んでたわよ」

岡部「ん? というと?」

紅莉栖「あんたが店長さんに呼ばれている間、フェイリスさんから電話があったの」

岡部「なるほどな。フェイリスめっ、喋ってしまったのか」

紅莉栖「ほんとにあんたってバカよね」

岡部「そうバカバカ言うな。狂気のマッドサイエンティストの俺は、たとえ失敗と確信していても実験はするのだ」

岡部「まあ? 実験には多少のリスクも必要とされるが」

紅莉栖「口だけは達者ね」

岡部「それで? 原因はなんだったんだ?」

紅莉栖「あのガジェットのせい」

岡部「だろうな」

紅莉栖「特定した対象の声を、脳が認識させないようにする」

紅莉栖「もう前提からしておかしいことに気づかない?」

紅莉栖「脳にダメージを与えて、私の声が聞こえなくなるようにするのよ?」

紅莉栖「本当に、障害とか残らなくて奇跡」

岡部「言いたい放題だな」

紅莉栖「あんたの脳には負担がかかり過ぎていた。だからあんたは倒れた。分かった?」

岡部「説明は大変大雑把だが、理解できた」

岡部「しかしダルの腕も凄いな。まさか完璧に改良してしまうとは」

紅莉栖「店長さんにもお礼を言っておかないとね? あの人、きちんと部品を探し出してくれたんだから」

岡部「そうだな……」

岡部「………」

紅莉栖「………」

岡部「………」

紅莉栖「………」

岡部「ド、ドクペでも飲むか! 紅莉栖も飲むか?」

紅莉栖「………」

岡部「……紅莉栖?」

紅莉栖「……バカっ」

岡部「……え?」

紅莉栖「……本当に、あんたバカよ」

岡部「し、仕方ないだろう。お前を見返してやろうと、俺も必死だったのだ」

紅莉栖「岡部が一生私の声が聞こえなくなっちゃうのかと思うと、」

紅莉栖「胸が締め付けられるように、痛かったのよ……」

紅莉栖「……それに、自分の身体に異常が出ているのにそれを私達に黙って……」

岡部「む、無用な心配はさせたくなかったのだ」

紅莉栖「それが馬鹿って言ってるの!」ジワッ

岡部「な、何故泣くのだ!」

紅莉栖「……ほんとに、怖かったんだから」

紅莉栖「初めはあんたに無視されて、嫌われちゃったのかと思ってた」

紅莉栖「私、頑固だし論破厨だし、全然素直じゃなくて可愛くないし」

紅莉栖「だから、嫌われちゃったと思ってたのよ……」

紅莉栖「本当に、怖かったんだから。あんたに無視されいないって分かって嬉しかったけど、」

紅莉栖「それと同時に、私の声があんたに届かなくなったって聞いて、怖かった」

岡部「……紅莉栖」

岡部「すまなかったな」

岡部「………俺は、」

岡部「お前に、散々辛い思いをさせてしまった」

紅莉栖「……いいわよ。もう」

岡部「……だ、だが」

紅莉栖「そ、それよりっ」

紅莉栖「私は……、私はねっ、岡部」

岡部「む?」

紅莉栖「………」

岡部「……どうした? 紅莉栖」

紅莉栖「………」



紅莉栖「……好きなの」

岡部「え?」

紅莉栖「あんたが、どうしようもないってくらいに好きなの」

岡部「……え?」

紅莉栖「最近は、あんたの事しか考えられなくなちゃった」

紅莉栖「……責任、とりなさいよ」

紅莉栖「そ、その、け、研究とかが捗らなくなっちゃうだろっ」

岡部「……く、紅莉栖? 今、なんと言った……?」

紅莉栖「だから、あんたが好き。大好き。二度も言わせんなっ」

岡部「あ、え? ……っ」

紅莉栖「厨二病に逃げるのはダメ」パシ

岡部「あ、おい! 携帯を返せっ!」

紅莉栖「私の目、見て」

岡部「……あ」

紅莉栖「ねえ、岡部。岡部は―――」

紅莉栖「私のこと、どう想ってるの?」

岡部「………」

岡部「……言わないと、駄目か」

紅莉栖「ダメ」

岡部「……そうか」

岡部「俺はな、紅莉栖」

紅莉栖「うん…」

岡部「未来ガジェット研究部の創立者であり、皆のリーダーだ」

岡部「だから、誰かを特別に想ったりはできないと決めつけていた」

岡部「そういう関係になってしまえば、今の環境が壊れてしまうのではないかと不安に思っていた」

岡部「……正直に言うと、今のラボでの生活が好きなんだ」

岡部「ダルがHENTAI発言して、俺たちがそれを止めて、まゆりが不思議そうに首を傾げて、」

岡部「時にはラボのみんなで集まって、ワイワイ楽しくやって、」

岡部「そんな日常が、好きだったんだ」

岡部「そんな日常を、壊したくなかった」

紅莉栖「……バカ。壊れないわよ、その程度じゃ」

岡部「そうかもな。俺は少し、過剰になっていたのかもしれない」

紅莉栖「鳳凰院凶真であろうものが、そんなに心配するなんて」クス

岡部「馬鹿はお前だ。今の俺は、鳳凰院凶真ではない」

岡部「岡部、倫太郎だ」

紅莉栖「……岡部」

岡部「……紅莉栖」

岡部「俺はお前が好きだ」

岡部「お前と同じように、どうしようもなく」

岡部「俺は紅莉栖が好きだ」

紅莉栖「……岡部っ」

岡部「こ、これでいいだろう!? さあ携帯を早く返せ」

岡部「俺の本性をさらけ出させるなど、お前は本当にやるな」

岡部「だがしかしっ! そんなのは一時の間だけ―――」

紅莉栖「証明!」

岡部「え?」

紅莉栖「本当にあんたが私の事を好きかどうか、証明して」

岡部「……と、言いますと」

紅莉栖「……ね、早く」ンー

岡部「………」

岡部「……い、いいのか?」

紅莉栖「……早く」

岡部「……く、紅莉栖」

紅莉栖「……」

岡部「……」

チュ

紅莉栖「……ん」

岡部「……くっ、こ、これでいいだろう!?」

紅莉栖「……驚いた。あんたって、チキンじゃないんだ」

岡部「こ、こんな状況で、人をチキン呼ばわりするとはな……」

紅莉栖「……でも」

岡部「ん?」

紅莉栖「……嬉しい」

紅莉栖「岡部……、好き」

岡部「……っ!」ドキッ

紅莉栖「……岡部?」

岡部「……っ」ギュッ

紅莉栖「ちょ、ちょっと、どうしたの……?」

岡部「(た、耐えきれず抱きしめてしまった)」

岡部「す、すまない紅莉栖。が、我慢しきれずに抱きしめてしまった」

紅莉栖「……そっか」

紅莉栖「……え?」

紅莉栖「………」

紅莉栖「――待った! 待った待った!」

岡部「え?」

紅莉栖「……っ!」バッ

紅莉栖「駄目! 駄目よ岡部っ!」

岡部「……?」

紅莉栖「が、我慢できなくなったって……! ま、まだ日が上ってるし、ここはラボだし、」

紅莉栖「いくらあんたが、その、私に………、その……」ゴニョゴニョ

紅莉栖「……ても、駄目なんだからなっ! キス、だけだぞ!?」

岡部「お前、何言って……」ハッ!

岡部「待て、スイーツ(笑)! 誰もそんなことをするとは言っていない!」

岡部「本当にお前の頭はお花畑だな! スイーツ(笑)」

紅莉栖「な……っ! でも我慢できずに抱きしめちゃったのは事実だろーが!」

岡部「そ、それは仕方ないだろう! お前が可愛すぎるのがいけないのだ!」

紅莉栖「な、なななによっ! そんなこと言っても、騙されないんだからなっ!」


ガチャ


ダル「うっはー、もう喧嘩しとる」

まゆり「えっへへー、懐かしいね~」

岡部「な、まゆり!? そしてダル!?」

ダル「おー、オカリン。戻ったん?」

岡部「あ、ああ、おかげさまでな」

紅莉栖「ほんと。迷惑かけすぎ」

岡部「なに? スイーツ(笑)に言われたくないな! 変な妄想をするヤツには!」

紅莉栖「な、何よっ! でもあんたが我慢できなくなったって言ったんでしょーが!」

岡部「知らん! それは単に抱きしめただけだろっ!? ここは神聖なラボッ! そんな不埒な行為はせんっ!」

紅莉栖「そ、それじゃあ何よ!? ここがラボじゃなかったら、その、えっと……っ!」

岡部「顔を赤らめるなスイーツ(笑)! お前の頭は本当にとろけそうなほどスイーツなのだな!」

紅莉栖「うっさい! スイーツスイーツ言うな!」

紅莉栖「我慢できずに抱きしめたってことは、私に興味があるってことだろ!」

岡部「当たり前だろう。今までずっと隠してきたが、お前の事は心の底から好きなのだからなっ!」

紅莉栖「な、何よっ! そんなこと言われても騙されないからなっ!」

岡部「ふっ。俺の事が大好き、とか言っていたくせに!」

紅莉栖「なにおう!?」

岡部「なんだと!?」

ダル「うっは。今まで溜まってきた分を全部吐き出したって感じだよな」ドン ドン!

ダル「これから毎日口論が始まりそーなヨカーン」ドン ドン!

まゆり「はぅぅぅぅ~」

ダル「どったん? まゆ氏」ドン!!

まゆり「だって、だって……、オカリンとクリスちゃんが」

ダル「ん? 何が?」ドン ドン!

まゆり「あー、ダルくん! 壁に穴があいちゃうよ~?」

ダル「え? なんのことだお?」ドン!!

紅莉栖「そういえば、あんた! 前の写真の件!」

岡部「ああ、だからアレは俺ではないと言っただろう!」

紅莉栖「……そ、そういえばそうね」

紅莉栖「……ってことはやっぱり」ギロ

ダル「ん?」

紅莉栖「ねえ、橋田? この写真、見覚えあるかしら?」

ダル「ないお。つーか、色っぽいなこの牧瀬氏。風呂上がりじゃん。誰得? 俺得。フヒヒ、サーセン」

ダル「こんなの見せてくるとか、どったん牧瀬氏。もしかして誘ってんの? フヒヒ、僕でよければ―――」

紅莉栖「お前かぁぁぁぁぁぁ!!!」バチバチ

ダル「おっ!? あ、危ねっ! って、スタンガン!? 洒落にならないお!」

ダル「つーかどっから出したん!?」

紅莉栖「開頭して、海馬に直接電流を流してやるっ!」

ダル「ま、待つんだお! 僕は知らないおっ! そんなの撮ってない罠っ!」ドタバタ

紅莉栖「ま、待てっ! 逃げるな! 私は脳科学の天才っ! だから、痛くしないわよっ!」ドタバタ

ダル「そ、そういう問題じゃないと思われ……っ!」


まゆり「あれ~?」

岡部「ん? どうした? まゆりよ」

まゆり「これ、まゆしぃが撮ったやつだよ?」

岡部「なんだと?」

ダル「は、早まるなっ!」

紅莉栖「映画みたいな台詞かまして、格好つけてんじゃないわよっ!」バチバチ

ダル「ひぃっ! ほ、本気!? 本気なの!?」

紅莉栖「本気だ! 私は本気だ!」

ダル「ま、まままま待つお! この歳で死にたくないお!」

紅莉栖「大丈夫。脳みそ取り出して、培養液に浸して、あんたの好きな二次元の世界に連れてってあげるから」

ダル「お。それ名案かも」

紅莉栖「でしょ? だから実験体になりなさい」

ダル「だが断る!」

紅莉栖「待てっ!」ドタバタドタバタ!!

まゆり「えっとね。今度のコミマのためにクリスちゃんのコスプレ作ってあげようと思って」

まゆり「それでそれで、一応クリスちゃんの写真ほしいなーって、えへへー」

岡部「……そ、そういうオチか」

まゆり「あ、クリスちゃん! ダルくーん! ラボが壊れちゃうよ~っ!」

岡部「好きにさせとけ。ダルには良い薬だろう。これに懲りてHENTAI発言が減ればいいのだがな」

まゆり「そうだねー、えへへー」

岡部「む? やけに素直だな」

まゆり「だって、オカリン達がもとに戻ったから、まゆしぃは嬉しいのです」

まゆり「よかったね、オカリン」

岡部「……そうだな」


岡部「ああ、本当によかった」


END

終わりです! ここまで付き合ってくれた人はありがとうございました。
これを書こうと思ったキッカケは、比翼恋理のだーりんで、もう少し紅莉栖デレてもいいんじゃね? と思って書きました。
紅莉栖ENDです。
結構長くなりましたが、これにて終わりです。最後まで呼んでくれた人はどうもです。
一応、次の作品も思案中なので、もしスレが立ったらその時もお付き合い頂けると嬉しい限りです。
それでは。

400まで届かなかった……。

おつん
次の書くとしたら何になる?

>>396
今回はほのぼの系を書いたので、たぶん次はシリアスなのを書こうかと思ってます。
次もまたシュタインズゲートSSです。

感想、どうもありがとうございますっ

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