ほむら「………」
一体、何が起こったのだろう。
ベッドの上で上半身を起こした姿勢で、わたしは考える。
まどか「ほむらちゃん?」
ベッドの近くに座っていたまどかが、わたしに話しかけてくる。
ほむら「え、えぇ……なにかしら?」
まどか「どうかしたの?なんだか、ボーっとしてるみたいだけど?」
ほむら「いえ、大丈夫よ……」
まどか「そう?ならいいんだけど」
そこまで言葉を交わすと、まどかは自身の手元に視線を戻してリンゴの皮むきを再開した。
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よくある、入院中の風景だった。
患者であるわたしを見舞う、まどか。
傍から見れば、非常に微笑ましい光景であるだろう。
しかし、わたしにはそれがどうしても理解出来なかった。
ほむら(わたしが入院している病院に、何故まどかが……)
まどか「はい、ほむらちゃん。リンゴの皮、剥けたよ」
皮を剥き、綺麗に切り分けられたリンゴのひとかけらをわたしに差し出してくる。
ほむら「あ、ありがとう」
ぎこちない手つきで、差し出されたリンゴを受け取った。
それに口を付ける前に、まどかに話しかける。
ほむら「もう一度、聞いてもいいかしら?」
まどか「ん?なに?」
ほむら「わたし……本当に、あなたと会ったことがあるの?」
まどか「もう、変なほむらちゃん。何回も言ってるじゃない。ほむらちゃんの方から、わたしに会いに来たんだよ?」
ほむら「………」
先程から、もう何度同じ質問をしただろうか。
それに対するまどかの答えも、全て同じだった。
何故だ?今まで、こんなことは一度もなかったのに。
何が起こったのかわからないまま、夕方となってしまった。
まどか「それじゃね、ほむらちゃん!ほむらちゃんが転校してくる日を、楽しみにしてるよ!」
ほむら「………ええ、ありがとうまどか」
まどかは満面の笑顔で、わたしの病室を後にする。
ほむら(これでやっと、落ち着いて思考を巡らせることが出来る……)
まずは、状況を整理しよう。
わたしは、時間遡行の魔法を使ってこの時間軸へとやって来た。
前の時間軸でも……まどかを守ることが出来なかったから。
ほむら(そして、この病室で目を覚ました……)
目を覚ました時は、いつもの病室の風景だった。
何も変わらない、うんざりするほど何度も見た光景。
そんな光景は、目を覚ましてから数分でがらりと変えられた。
まどか『約束通り、来たよほむらちゃん』
病室のドアを開けて、まどかが姿を現したのだ。
『約束通り』。確かに、彼女はそう言った。
ほむら(ダメ、本当に何が何だかわからないわ)
考えすぎて頭が痛くなってきたような気さえしてくる。
思考を中断し、ソウルジェムを手に取ると眼鏡を外した。
そして、魔力でわたしの視力を回復させる。
ほむら(………これは、もういらないわね)
ベッドの側に置いてある引き出しを開ける。
確か、そこに眼鏡のケースがあったはずだ。
ほむら「………?」
眼鏡ケースの下。
そこに、何やら手紙が入っていた。
ほむら(誰からのもの……?こんなもの、わたし、持っていたっけ?)
ケースに眼鏡をしまうと、その手紙を開いた。
ほむら「…………………………………………これ、は………」
その手紙の宛名は、わたしに向けられたものだった。
そして、差出人は……―――。
ここまで
見切り発車で書き始めたものなので、更新速度は遅いかもです
翌日、時間はちょうど放課後。
わたしの病室のドアを、控えめにノックする音が聞こえた。
ほむら「はい、どうぞ」
わたしの返事の後、ドアが開かれる。
まどか「こんにちは、ほむら……ちゃん……?」
ほむら「まどか?」
ドアを開け、わたしの顔を見た瞬間、まどかの動きが停止する。
まどか「え、あれ?病室間違えちゃった?」
部屋の入り口に書いてある名前を確認している。
まどか「ほむらちゃんの病室……だよね?」
そう呟くと、再びわたしの顔を見て来る。
まどか「えっと……ほむらちゃん?」
ほむら「ええ、わたしよ」
まどか「昨日と、なんだか様子が違う、ような……?」
ああ、そう言えば、と思いだす。
昨日は眼鏡を外している暇も、みつあみを解いている暇もなかったからそのままだったんだ。
みつあみにするのは手間がかかる為、眼鏡だけ掛けようと思い引き出しを開ける。
引き出しの中にあるのは、眼鏡のケースと……昨日の手紙だ。
ほむら「………」
手紙を隅の方に寄せ、眼鏡のケースを取り出す。
その中から取り出した眼鏡を掛けて、再度まどかの顔に視線を移した。
ほむら「昨日は眼鏡を掛けていたのに、今日は掛けていなかったから戸惑ったのね。これでわかるでしょう?」
まどか「よかったぁ……病室間違えちゃったかと思ったよ」
眼鏡を掛けたわたしの顔を見て安堵したまどかが、病室へと入ってくる。
まどか「そうそう!今日はね、わたしの友達もこの病院に来てるんだよ!」
ほむら「まどかの友達?」
まどか「うん。美樹さやかって言う子なんだけどね?さやかちゃんの幼馴染の、上条恭介くんもこの病院に入院してるの」
ほむら「上条恭介……」
同じ病院に入院しているということは知っているが、実際に会ったことは数えるほどしかない。
~~~
当然、この時間軸でも会ったことは無い。
さやか「ほほう、キミが噂の転校生かね?」
まどか「あはは、噂にはなってないよ。わたしが知ってるってだけで」
さやか「なにおう!まどかが知ってるってことはそれだけであたしの中では噂になってるのと同義なのだ!」
恭介「暁美さんは、近いうち退院出来る手はずになってるんだよね?」
ほむら「ええ。明後日には退院出来るハズよ」
恭介「いいなぁ。僕も、早く退院したいよ。でも、なんで僕が見滝原中学の生徒だって知ってたの?前に、僕の病室にも来たことあったよね?」
―――会ったことは、無い、はずなのだ。
ほむら「え、えぇ……そうね」
まどか「上条くん。ほむらちゃん、ちょっと記憶が混乱してるみたいなんだよ。前にわたしに会いに来たことも忘れちゃってるみたいだし」
恭介「そうなの?大丈夫、暁美さん?」
ほむら「大丈夫、ホントに少し混乱しているだけだから」
あの手紙に書かれている内容のおかげと言えばいいのか、せいと言えばいいのか。
大体の状況は把握出来たような気はするが、相変わらず謎は多い。
さやか「明後日ってことは、学校に来るのは明々後日になるのかな」
ほむら「そうね、それくらいになると思うわ」
さやか「うんうん、賑やかになりそうで楽しみですなぁ♪」
ほむら「………」
手紙の事は、極力考えないようにしよう。
とにかく、こうしてまどか、さやかと友好的な関係を築けたという事実は大きい。
ほむら(ごめんなさい……あなたの好意に、素直に甘えさせてもらうわ)
引き出しの中の手紙に、そう告げる。
~~~
日が傾き、病室に夕陽が差す。
まどか「そろそろ帰ろうか?」
さやか「そうだね。あんまり長居したらほむらにも迷惑掛かるだろうし」
恭介「僕は、リハビリに行くことにするよ」
さやか「ん。そんじゃ、そこまであたしが連れて行ってあげる」
恭介「ありがとう、さやか」
まどか「あ、じゃあわたし、もう少しだけほむらちゃんとお話してるよ」
さやか「了解。病院の入り口で待ち合わせね。恭介、行こう?」
恭介「ああ」
さやかは、上条くんが座っている車椅子を押して病室から出て行く。
わたしとまどかは、その二人を見送った。
まどか「……上条くんも、早く退院出来ればいいね」
ほむら「そうね……」
如何せん、彼がどういう状況なのかがわかっている為に、そんな曖昧な返事をすることしか出来なかった。
まどか「ほむらちゃん、上条くんとも前に会ったことあるんだ?」
ほむら「実を言うと……覚えていないの。まどかの言うとおり、記憶が混乱しているみたい」
まどか「そう……なんだ」
なんとなく、気まずい雰囲気が流れる。
ほむら「……そうだ、まどか」
まどか「ん、なに、ほむらちゃん?」
今のウチに、忠告だけはしておこう。
ほむら「あなたは、家族や友達が大切だと思う?」
まどか「………」
わたしの問いに、まどかはキョトンとした顔をする。
ほむら「まどか?」
まどか「え、ああ、うん。ほむらちゃん、前にも同じことを言ってたから……」
ほむら「…!」
まどか「『この先何が起ころうとも、自分を変えようなんて思っちゃダメ』……だよね?」
ほむら「………ええ、そうよ」
まどか「ほむらちゃんの忠告、ちゃんと覚えてるよ?」
そう、満面の笑みで言ってくれる。
ほむら「覚えてくれているのなら、よかった。わたしの忠告が、無駄にならないことを祈っているわ」
まどか「……うん」
まどかは、わたしの言葉を噛み締めるかのように真面目な顔をする。
ほむら「そろそろ、行った方がいいんじゃないかしら?さやかが入り口で待っていると思うわよ?」
まどか「あっ、そうだった!そ、それじゃね、ほむらちゃん!」
慌てて立ち上がり、鞄を手に取ると、
まどか「明日も、来るからね、ほむらちゃん!」
最後にそれだけ言い残して病室から出て行く。
ほむら「…………」
掛けていた眼鏡を再び外し、ケースにしまう。
そのケースもしまおうと思い、引き出しを開ける。
………手紙が、視界に入る。
ほむら(………複雑な気分、ね)
~鹿目まどか~
さやか「まどか、おそーい!」
まどか「ごめんさやかちゃん!ちょっと、ほむらちゃんと話しこんじゃって!」
病院の入り口で待っていたさやかちゃんと合流する。
さやか「二人で何の話をしてたのさ?」
まどか「うん……ちょっとね」
なんとなく言い出しにくかった為、そう誤魔化す。
さやか「ずいぶんと気になるような濁し方をするねぇ?」
まどか「な、何でもないよ、うん」
さやか「まぁ、言いたくないってんなら深くは聞かないけどさ……」
そのまま、わたしたちは無言となる。
まどか「……ねぇ、さやかちゃん」
わたしの方から、沈黙を破る。
さやか「ん、なに?」
まどか「………さやかちゃんは、今日初めてほむらちゃんと会ったんだよね?」
さやか「うん、そうだけど?」
まどか「あのね?笑わないで聞いてね?」
そう念押しして、わたしは話す。
まどか「ほむらちゃん、なんだか別人みたいになっちゃったような気がして……」
さやか「へ?どういう意味?」
まどか「なんだろう、初めて会った時と違って、妙に落ち着いた雰囲気になってたような……」
さやか「気のせいじゃない?まさか、一週間やそこらで人が変わるとは思えないんだけど」
まどか「そうなのかな……」
でも、わたしにはそれがどうにも気になった。
何か、よくないことが起こったのかな。
ほむらちゃんの雰囲気が変わっただけで、どうしてこんなに気になるんだろう。
―――――
―――
―
―――ほむらが時間遡行をした時間軸、ワルプルギスの夜襲来当日。
さやか「ついに……来たんだね。ワルプルギスの夜……」
マミ「超弩級の大型魔女……」
杏子「さぁて……あの魔女のグリーフシードがどんなモンなのか、拝ませてもらおうじゃないの」
ほむら「………」
数人の少女が、見滝原大橋に陣取っていた。
その中で、一人、わたしはみんなの後ろに立ちつくしていた。
マミ「大丈夫、美樹さん。わたし達が力を合わせれば、きっとワルプルギスの夜にだって勝てるわ」
さやか「そう、ですよね……」
不安げなさやかに、マミは声を掛ける。
マミ「不安なのはわかるわ、美樹さん。わたしたちだって、みんな少なからず不安だもの」
杏子「ま、そりゃ多少はな。でも、勝てる見込みもねぇ戦いにあたしは挑むつもりもねぇ」
ほむら「そう、ね。絶対に、全員無事で……この夜を、乗り越えましょう」
ほむら「ね……まどか?」
まどか「うん、絶対に……!」
わたしは、魔法少女姿のまどかを一瞥する。
記憶にある姿と、寸分違わない魔法少女まどか。
ほむら(この世界でも……まどかの魔法少女の契約を阻止する事が出来なかった。いくら後悔しても……意味は無いわね)
とにかく、これだけの戦力が揃っていればワルプルギスの夜を倒すことは比較的容易いはず。
奴との戦いが終われば、わたしは時間遡行の魔法を使うだけだ。
ワルプルギスの夜との戦いは、わたしの予想通りそれほど苦戦することも無く終末を迎えた。
奴の攻撃は、時を止められるわたしが全て相殺。
マミ、杏子、さやか、まどかはワルプルギスの夜への攻撃に全力を掛けることが出来た。
それが大きかったのだろう。
マミ「わたしが持ちうる最大火力の攻撃……食らいなさいっ!!ボンバルダメント!!!」
マミが、リボンを束ねて召喚した巨大な大砲を撃ち放つ。
杏子「派手にぶちかましてやるっ!!」
杏子が、手に持った槍を巨大化させて力強く放り投げる。
さやか「見滝原は、絶対に壊させない!!」
さやかが、無数に召喚した剣を一斉に発射する。
まどか「終わりだよ………っ!!」
まどかが、力いっぱいに引き絞った弓を、ワルプルギスの夜に向けて撃ち放つ。
「キャハハハハハハハハ………アハハハハハハハハハ………アーッハッハッハッハッハッハ………―――」
全員の全力の攻撃を受け続けたワルプルギスの夜は、忌々しい笑い声を放ちながらその姿を崩壊させていく。
マミ「………終わった、のね……」
杏子「思ったよりも呆気なかったな……」
さやか「いやいや杏子、それでも十分苦戦したって!」
まどか「つ、疲れたよ……」
四人が、脱力したかのようにその場に座り込む。
わたしは一人、見滝原の街を眺めた。
ワルプルギスの夜の攻撃によっていくつかの建物が倒壊しているが、避難勧告が出ていたおかげで人的被害の方はゼロ。
普通に見れば、それは考えられる限りでの最高の決着だろう。
ほむら(でも、わたしにとっては……)
最低、とまでは言わないが。
この世界を、わたしの終点には出来ない。
マミ「暁美さん、大丈夫?手を貸してあげるわよ?」
マミが、心配そうな顔でわたしに話しかけて来る。
杏子「しっかし、なんでグリーフシードを落とさないかねぇあの大型魔女は。戦った意味がねぇとまでは言わないけどよ、流石に割に合わないな」
杏子が、愚痴をこぼしている。
さやか「あっはは、まぁ確かにグリーフシードを落とさなかったのは予想外だったけどさ。でも、正義の魔法少女としての志、思い出せたんでしょ?なら、文句は言わない!」
さやかが、そんな杏子を励ます。
まどか「ほむらちゃん!わたしたち、見滝原を守れたんだよ!」
まどかが、とても嬉しそうに満面の笑みを浮かべてわたしに話しかけて来る。
ほむら「……ありがとう、マミ。でも、大丈夫よ、一人で立てる」
マミの言葉を遠慮し、わたしは一人で立ち上がる。
まどか「ほむら……ちゃん?」
ほむら「なに、まどか?」
まどか「……なんだか、寂しそうな顔をしてるよ?」
ほむら「………」
それは、そうだ。
かつて、これ程までに理想的な世界があっただろうか。
それだけに……まどかが契約してしまったのだけが、本当に残念だ。
杏子「ンだよ、そんな辛気くせぇ顔しやがって。アンタも、ワルプルギスの夜を倒すのが目的だったんじゃないのか?」
ほむら「……いえ、そうよ。確かに、それがわたしの目的だった」
より正確に言えば、それ『も』わたしの目的だ。
まどかが契約したこの世界に、わたしは居座り続けるつもりなどない。
でも、これ程に理想的な世界を築き上げることが出来たのだ。
それが壊れる様だけは、見たくなかった。
ほむら「みんな」
さやか「ん、なに、ほむら?」
マミ「……?」
杏子「……」
まどか「ほむらちゃん……?」
これが、わたしなりのお別れの挨拶だ。
ほむら「……………元気で、ね」
まどか「えっ……?」
最後にまどかの顔を直視し、わたしは歩き始める。
新しい時間軸へ向けて。
今日はここまでです
~~~
家へと帰ってきたわたしは、一人ソファに座る。
ほむら(………)
未練が、あるのか。
この時間軸に。
ほむら(……………仕方ない、わよね)
今まで、数々の時間軸を旅して来たが。
まどかが生きた状態で、ワルプルギスの夜を無事に越えられた時間軸など一度もなかった。
魔女に殺された時間軸もあった。
とある人物に殺された時間軸もあった。
だが、一番多かったのは……やはり、魔法少女として契約、その後魔女化だ。
ほむら(………わたしを救ってくれたのが契約したまどかなだけに……)
色々と、複雑な心境だ。
さて、と立ち上がり、魔法少女姿に変身する。
そして、盾に手を掛け、
〈おい、ほむら。聞こえるか?〉
それを回そうとしたところで、声を掛けられる。
テレパシー、だ。
ほむら(この声は……杏子?)
杏子〈聞こえてんなら、返事しろ〉
ほむら〈ええ、聞こえているわ〉
カーテンを開け、杏子の姿を確認する。
ガードレールに座り、菓子パンをかじっていた。
杏子〈やっぱり辛気くせぇ顔してんな〉
ほむら〈何の用?わたし、これから行かなくちゃならないところがあるのだけれど〉
杏子〈……どこへ行くのかは知らないけど、少しあんたと話がしたい〉
ほむら〈………少しだけなら、いいわ〉
少しだけ考えた後、家のチェーンを開け杏子を中へ招き入れる。
杏子「部屋、元に戻したんだな?」
ほむら「ええ」
わたしの魔法で広い空間を作っていたのだが、それも既に意味は無い。
後は、新しい時間軸へ旅立つだけなのだから。
ほむら「それで、話ってなにかしら?」
杏子「あんたの魔法の事、あたしなりに考えたんだ」
ほむら「………」
わたしの事は、みんなには何も話していなかった。
まどかが契約した時点で、わたしは時間遡行の魔法を使うことを心に決めていたのだから。
杏子「時間操作の魔法……だろ?」
ほむら「……いつ、わかったのかしら?」
杏子「なんでそんな辛気くせぇ顔してんのか、って考えたらな。それがあんたの魔法だって仮定したら、色々な疑問にも納得出来たんだ」
ほむら「いいわ。………どうせ、もう隠す必要は無いのだし」
意を決し、わたしは杏子に全てを話し始める。
わたしが契約した時の願い。
固有魔法。
魔法少女の真実。
そして……わたしの目的までをも。
杏子「………っ」
ほむら「これが、わたしの知る全てよ」
杏子「………なるほど、な」
動揺を必死に隠そうとしながら、冷静を装ってそれだけ言う。
ほむら「だから、まどかが契約したこの世界に居座り続けるつもりは無いの。全てを知って、その上で契約したならまだしも、ね」
この事実を知った時、きっとまどかは激しく後悔するだろう。
まどかだけじゃない。マミも、さやかも、無論杏子も。
杏子「それがあんたの目的だってんなら……止めても、無駄だわな」
ほむら「理解してくれたようで、なによりよ」
杏子「いいよ、わかった。あたしにあんたを止める権利はないし、そんなつもりもない。あんたはあんたの目的を果たしなよ」
ほむら「ええ、言われなくてもそうするつもり。まどか達のことは少しだけ気にかかるけれど……みんな、いるものね。マミも、さやかも……あなたも」
杏子「ま、そうだな。あんたの目的も聞けてすっきりしたし……あたしも帰るわ。頑張んなよ、ほむら」
ほむら「ありがとう……」
杏子は最後に、わたしに激励の言葉を残してわたしの家を後にする。
ほむら(……杏子と最後に話せてよかった。心残りはあるけれど……安心と言えば、安心ね)
去って行く杏子の後ろ姿を窓から眺めながら。
盾に手を掛け、それをゆっくりと回した。
これで、この時間軸ともお別れだ。
―――――
―――
―
~鹿目まどか~
ワルプルギスの夜との戦いから一夜明けた翌日。
わたしたちは、マミさんのお誘いを受けて、マミさんの家に集まっていた。
マミ「どうしたのかしら……暁美さん。何か、思い詰めたような顔をしていたようだけれど」
ほむらちゃんは、ワルプルギスの夜との戦いを終えるとわたし達が引きとめる間もなく、すぐに帰って行ってしまった。
マミ「電話もしたのだけど、出ないし……」
杏子「………さて、な。アイツは最初会った時から何を考えてんのかわかんねぇ節があったし。ワルプルギスの夜に、なんか思うとこでもあったんじゃねえの?」
さやか「うーん……魔女に思い入れがある魔法少女ってどうなのよ……」
杏子「だからあたしにもわかんねぇっつの」
杏子ちゃんが不満げに文句を言いながら、ケーキを口に放り込む。
マミ「暁美さんの分のケーキも用意しておいたのだけれど……どうしようかしら」
杏子「仕方ねぇ、あたしがほむらの分も食ってやるよ」
さやか「こらこらっ、ダメだって杏子!ほむらの分は残しておいて、また後日お茶会に誘えばいいんじゃないですか?」
マミ「そう、ね……そうしましょうか」
杏子「ちっ、貰い損ねたか……」
マミさんと杏子ちゃん、さやかちゃんはほむらちゃんの事、それほど気にかけてはいないみたいだけど……。
なんでだろう、わたし、すごいほむらちゃんの事が気になるよ。
それに、わたしの思い違いじゃなければ、ほむらちゃんは別れ際にわたしの顔を見ていた。
………すごく、寂しそうな瞳で。
マミ「鹿目さん?」
まどか「! え、あ、はい?なんですか?」
マミ「いえ、なにか考えこんでいるような顔をしていたから……暁美さんのこと、気になる?」
まどか「……はい」
杏子「ほむらの奴、まどかにえらい執心してたからなぁ。まどかが契約したって知った時も、すげぇ動揺してたし」
さやか「そう言えば、まどかが契約した時の祈りってまだ聞いてなかったね。キュゥべえに、なんてお願いしたの?」
まどか「わたしは……みんなを助ける力が欲しい、ってお願いしたの」
ワルプルギスの夜の事を聞いた時。
わたしは、見滝原を絶対に守りたいって思った。
さやかちゃん、杏子ちゃん、マミさん。
それに……ほむらちゃんだって、わたしは助けたかった。
杏子「……また、偉く漠然とした祈りだな」
さやか「まぁ、まどからしいっちゃまどからしいね」
マミ「後悔は……ない?大丈夫なの?」
まどか「はい……後悔は、ありません」
杏子「ま、なっちまったモンは仕方ねーさ。一度そうだって決めたんなら、後は貫くだけだ。そうだろ?」
まどか「杏子ちゃん……うん、そうだよね」
さやか「これからはあたし、杏子、まどか、マミさん、それにほむらの五人でこの見滝原を守って行くことになるんだね」
杏子「おいおい、あたしはこの街に残るつもりはねーよ」
マミ「佐倉さんは、元々隣町が縄張りだものね。やっぱり、そこに帰るつもりなの?」
杏子「ま、そうなるな」
さやか「一人ぼっちは寂しいんじゃないの?」
杏子「うっせー。あたしはいいんだよ、一度マミと別れてからはずっと一人だったんだしな」
まどか「………」
どうしよう。やっぱり、別れ際のほむらちゃんの事が気になるよ。
マミ「……さて、と。そろそろお開きにしましょうか?」
さやか「ん、そうですね」
杏子「あたしはもうしばらくマミの家でだらだらしてるわ」
杏子ちゃんはそう言うと、ソファに横になる。
マミ「もう、佐倉さんったら……それじゃ、気をつけてね、鹿目さん、美樹さん。もうスーパーセル現象は収まっているから、危険は無いと思うけど……」
さやか「はい、マミさん!」
まどか「………」
マミ「鹿目さん。暁美さんの事が気になるのなら、暁美さんの家へ行ってみたらどうかしら?」
まどか「で、でも……」
杏子「でもも何もねぇだろ。まどか、さっきから心ここにあらずって感じだぞ?」
まどか「や、やっぱり……そう、見える?」
さやか「そりゃねぇ。まどかだけ異常に口数少なかったし」
まどか「ほむらちゃんに、迷惑掛からないかな……」
杏子「ンな事気にすんなって。自分がやりたいからやる、それでいいじゃねぇか」
マミ「ええ、そうね。少しくらい、我を通してもいいと思うわ」
さやか「全く、あいつは付き合いが悪いんだから。まどか、ほむらんとこ行ってあたしたちの分も文句言ってきなよ」
まどか「………ありがとう、みんな」
みんなの後押しを受けて、わたし、やっと踏ん切りがついた。
まどか「わたし、ほむらちゃんのところに行ってみる!」
決意の言葉と共に、わたしは駆けだす。
~~~
マミさんの家を後にして、わたしはほむらちゃんの家に向かう。
見滝原の町並みは、倒壊した建物の後始末などで騒がしかった。
学校はまだお休みだけど、いつ始まるのかな。
『暁美ほむら』
そう書かれた表札の前に、わたしは立つ。
まどか「……っ……」
一度、深く深呼吸。
そして、呼び鈴を鳴らす。
「………はい?」
控えめな声と共に、扉が少しだけ開かれた。
ドアにはチェーンロックが掛けられていて、少しだけ開くと鎖の音と共に扉は止まる。
まどか「ほむらちゃん?わたしだよ、鹿目まどか」
ほむら「ま、まどか……?」
まどか「……?」
あれ、なんだろう。
なんだか、ほむらちゃんに違和感が……?
ほむら「な、何の用?」
まどか「え、あの……ほむらちゃん、だよね?」
ほむら「う、うん、わたしは暁美ほむらだけど……」
なんだろう……?
いつもと同じはずのほむらちゃんなのに、妙に余所余所しいような……。
まどか「ほむらちゃん、ワルプルギスの夜を倒した後すぐに帰っちゃったから……何してるのかな、って思って」
ほむら「わ、わたしは、その……」
まどか「どうか、したの?ほむらちゃん。なんだか、おかしいよ?」
ほむら「え、ええっと……」
おどおどしてるような、戸惑ってるかのような反応をする。
ほむら「ごっ、ごめん。今は、一人になりたいから、その……」
まどか「………」
ほむら「い、色々と、考えたいの。だから、その、ごめんなさいっ!!」
気まずい空気に耐えられなくなったのか、ほむらちゃんは勢いよく玄関の扉を閉めてしまった。
まどか「あ、ほむらちゃん!」
引き留める間もなく、扉の向こうからは立ち去る足音が聞こえた。
まどか「え、嘘、あれ?今の……本当に、ほむらちゃん?」
容姿は、間違いなくほむらちゃんだったハズ。
なのに、普段のキリッとした態度は微塵も無く、どこかわたしを避けているかのような空気さえ感じた。
昨日、ワルプルギスの夜と対峙してた時のほむらちゃんとは……別人のようだった。
まどか「……なんで、かな……」
その疑問に答えが出るはずもなく、わたしは扉の前で途方に暮れるしか出来なかった。
結局その後、ほむらちゃんが扉を開けてくれることは無かった。
今日はここまでです
更新遅くてすみません、更新頻度は三日から四日に一度でやって行きたいと思います
~~~
それから数日後、休校が解除された。
なんとなく、朝早くに学校へ行こうって気になったわたしは、いつもより20分も早く家を出た。
さやかちゃん、仁美ちゃんとの待ち合わせ場所に辿りつく。
当然、二人はいない。
そのまま、その場所に一人佇みながら空を見上げる。
まどか「………」
雲の流れが、とてもゆっくりだった。
あの日、ワルプルギスの夜が来た時は、気持ち悪い程に雲の流れが速かったのに。
わたし達が……この街を、守ったんだ。
そう思うと、否応なしに顔が緩む。
まどか(えへへ……こんなわたしでも、何かの役に立つことが出来たんだ)
その事実が、なによりわたしにとっては嬉しかった。
仁美「まどかさん、おはようございます」
まどか「あっ、仁美ちゃんおはよう!」
仁美「今朝は早かったんですのね?」
まどか「えへへ、久しぶりの学校だと思うと、なんだかワクワクしちゃって!」
仁美「確かに、久しぶりの学校ですわね。すーぱーせる、でしたっけ。異常気象に見舞われてから、学校はずっとお休みでしたから」
まどか「そう、だね」
ほむらちゃんが言ってたっけ。
ワルプルギスの夜……魔女の姿は、一般人には見えないって。
だから、あの嵐もただの異常気象としか認識されないって。
さやか「おはよー、まどか、仁美!」
まどか「おはよう、さやかちゃん!」
仁美「おはようございます、さやかさん」
最後に合流したさやかちゃんと三人、学校に向かう。
さやか「まどか、結局ほむらとは休み中会わなかったね?」
まどか「うん……そうだね」
仁美「お休み中に、ですの?確か、学校の決まりではお休み中は外出禁止となっていたはずですけれど……」
さやか「あっはは、あたしらは不真面目組だからねぇ」
仁美「いけませんわ、お二人とも何事もなかったからよかったものの……」
さやか〈って言われてもねぇ、あたしらは魔女退治のパトロールもしなきゃいけなかったんだし〉
まどか〈それは言うわけにはいかないもんね……〉
こんな他愛も無い話も、ずいぶんと久しぶりに感じた。
学校へ到着し、教室に入る。
さやか「おっ、なんだほむら、もう来てたんだ」
仁美「暁美さん、おはようございます」
ほむら「あっ……美樹さん、志筑さん、おはようございます」
さやか「へ?」
仁美「暁美さん?」
ほむら「な、なんですか?」
さやか「え、あ、えと……?」
さやかちゃんと仁美ちゃんに続いて、わたしも教室の中に入る。
ほむらちゃんの席に、座っている人がいた。
まどか「あ、ほむら……ちゃん?」
ほむら「……まどか……」
わたしの名前を呼んで来る。
あれ?ほむらちゃん、だよね?
ほむら「…………えっと、その……わ、わたし、お手洗いに行ってくるね」
居たたまれなくなったのか、ほむらちゃんの席に座ってた子は立ち上がり、駆け足で教室から出て行った。
仁美「い、いまの……暁美さん、ですわよね?」
さやか「いや、まぁ、ほむらの席に座ってたんだし……ほむら、だよ?」
まどか「え?え?」
わたしと仁美ちゃん、さやかちゃんは混乱していた。
何故なら、今教室から出て行ったほむらちゃんの席に座ってた子は、わたし達が知ってるほむらちゃんとはかけ離れていたから。
赤いフレームの眼鏡を掛けていて、髪形はみつあみ。
さやか「ま、まどか!今の、ほむらだよね?ね?」
仁美「まどかさん!どうなんですか?」
まどか「な、なんで二人ともわたしに聞くの!?」
さやか「だって、まどかが一番ほむらと仲よさげだったじゃん!」
仁美「まぁ、そうですの!?なら、まどかさんなら今のお方がほむらさんかどうかわかりますわよね!?」
まどか「その理屈はおかしいよ!?」
話題の当人がいないところで、わたしたちはあーだこーだと話し続ける。
しかし、それに対する答えが出るわけもなかった。
朝のHRが始まる直前に、ほむらちゃん?は教室に戻ってきた。
その為、話しかけるタイミングを逃してしまう。
さやか(ほら、まどか、よく見てみる!)
まどか(何がどうなってるのかわかんないよ……)
HRが終わったのを見計らい、わたしはほむらちゃん?に話しかける。
まどか「えっと、ほむらちゃん?」
ほむら「あ、か……ま、まどか。なに?」
さやか「どうしたの、ほむら?イメチェンでもしたの?」
ほむら「ええと……どう話したらいいのか、わたしもよくわからなくって……」
まどか「ほむらちゃん、だよね?」
ほむら「う、うん、そうだよ」
まどか「お休みの間、会わなかったけど……何かあったの?」
ほむら「学校の決まりで、休みの間は外出禁止だから家にいただけだけど……?」
さやか「いや、なに言ってんのさほむら?あたしたちはホラ、あれなんだしさ?」
教室のど真ん中で魔法少女の事なんて言うわけにもいかないからだろう、さやかちゃんは言葉を濁す。
ほむら「あれって……」
しかしほむらちゃんは、その言葉の意味を理解しかねているようだった。
何の事を言っているのか、よくわからないと言った感じだ。
さやか「ホントにどしたの?らしくないよ、ほむら?」
ほむら「らしくないも何も……わたしは……」
ほむらちゃんの言葉の途中で、一時限目の担当教師が教室へ入ってくる。
さやか「まぁ、また後で話しよっか?」
さやかちゃんは気楽そうに、自身の机へ戻って行く。
わたしもほむらちゃんの事が気になったけど、仕方なく机へと戻った。
その日の放課後。
まどか「ほむらちゃん!一緒に帰ろう?」
ほむら「まどか……ご、ごめん、わたし、用事があるから……」
さやか「うーん……?」
ほむら「さ、先に帰るね!ごめん!」
さやかちゃんの何かを勘繰る目を見て、ほむらちゃんはそそくさと立ちあがる。
まどか「あ、ほむらちゃん!」
わたしが止めるのも聞かず、行ってしまった。
まどか「ど、どうしようさやかちゃん……」
さやか「いやぁ、どうしようって言われても……」
これは、もう確定だよ。
ほむらちゃんが、ほむらちゃんが……。
まどか「ほむらちゃんが別人みたいになっちゃった」
今日はここまでです
~~~
マミ「暁美さんが……?」
魔女退治のパトロールを終えたわたし達は、マミさんの家に集まっていた。
杏子ちゃんは風見野へと帰ってしまった為、わたしと、さやかちゃんと、マミさんの三人だけだ。
……ここにいるべき人物が、一人だけいない。
まどか「はい……なんだろう、うまく言い表せないんですけど」
さやか「妙に腰が低くなったって言うか、らしくないんですよね」
マミ「………ワルプルギスの夜を倒してから向こう、暁美さんは魔女退治に来てはいないのよね」
さやか「それも、なんかおかしいんですよ。あたしの言った言葉の意味を理解出来てないみたいな反応するし」
まどか「わたしが声を掛けても、なんだが避けられてるような気もするし……」
マミ「一度、暁美さんの顔を見る必要があるかもしれないわね」
さやか「ほむら、今は家にいるのかな?」
まどか「電話、してみます」
ポケットの中から携帯電話を取り出し、ほむらちゃんの名前を呼びだす。
まどか「………」
数回のコールの後、
『ただいま、電話に出ることが出来ません。ピーッと言う発信音の後に―――』
留守電に繋がってしまう。
まどか「やっぱり繋がらないです……」
マミ「流石に心配ね……いっそ、直に暁美さんの家に出向いてみましょうか?」
さやか「それがいいかもしれないですね。なんか、放っておけないですし」
まどか「………」
マミ「鹿目さんはどう?」
まどか「はい……わたしも、ほむらちゃんが心配です」
マミ「それじゃ、決まりね」
マミさんの家を出て、わたし達はほむらちゃんの家へ向かう。
ほむらちゃんの家の窓は、カーテンが閉められていた。
マミ〈暁美さん、聞こえる?〉
マミさんが、ほむらちゃんにテレパシーで話しかける。
……………。
ほむらちゃんからの返事は無かった。
マミ〈暁美さん?〉
もう一度。しかし、やはり返事は無かった。
さやか「寝てるんですかね?」
マミ「……かもしれないわね」
まどか「ね、念のため、ブザーを押してみませんか?」
マミ「テレパシーで反応が無い所を見ると、意味はないと思うけれど……」
マミさんの言葉を背に、わたしはブザーを押した。
少しの間を置いて、扉の向こうから向かって来る足音が聞こえて来る。
さやか「あれ、起きてるっぽい?」
マミ「……?」
二人の不思議そうな顔も今は気にとめない。
ガチャリ、と扉が開かれた。
今日はこの前と違い、チェーンロックも掛けられていなかった。
ほむら「はい……?」
まどか「ほむらちゃん!」
さやか「よ、元気?」
ほむら「ま、まどかに、美樹さん、巴さん……」
マミ「鹿目さんと美樹さんから様子がおかしいと聞いて、様子を見に来たのだけれど……」
マミさんはそれだけ言うと、ほむらちゃんの顔をジッと見つめる。
ほむら「え、えと……」
ほむらちゃんはオロオロとし、マミさんから視線を逸らしていた。
マミ「……元気そうで安心したわ」
ふわりと表情を和らげ、優しげな笑みへと変わる。
ほむら「は、はい……」
それっきり、会話が途切れる。
さやか「それよりほむら、なんでテレパシーで話しかけたのに返事しなかったのさ?」
ほむら「てっ、テレパシー?」
マミ「聞こえていなかったわけでもないでしょう?」
ほむら「あ、あの……ごめんなさい、ここで立ち話もなんですから……とりあえず、中へ入ってください」
戸惑いながら、ほむらちゃんはわたし達を家の中へ招き入れてくれる。
さやか「あら、前とはずいぶんと部屋の様子が変わってるね」
ほむら「前とは……」
マミ「前のあの部屋は、魔法を使って広くしていたんでしょう?」
ほむら「え、ええと、いえ、はい、まぁ」
曖昧な返事で、言葉を濁す。
まどか「ねぇほむらちゃん、最近魔女退治に来てないけど……何かあったの?」
さやか「そうそう!今朝、学校でも同じこと聞いたけど、なんかよくわかんない返事で終わったし」
マミ「魔女との戦いを強制するつもりはないけれど……理由も無く、いきなり来なくなったからわたしたちも心配しているのよ?」
ほむら「………」
わたし達の質問に、ほむらちゃんは答えない。
ただ俯き、思考を巡らしているようだった。
QB「それは僕も聞きたいところだね、暁美ほむら」
窓際から、不意に声が聞こえて来る。
マミ「キュゥべえ!もう、いきなり現れるんだから……」
まどか「そう言えば、最近キュゥべえの姿見てなかったけど、何をしてたの、キュゥべえ?」
QB「それが、僕にもよくわからない事象が起こってね。キミなら、わかるだろう?暁美ほむら」
ほむら「………キュゥべえ」
さやか「ど、どうかした?ほむら、なんか怖い顔してるよ」
さやかちゃんの言葉を聞いて、わたしもほむらちゃんの顔を見る。
キュゥべえの事を、睨みつけていた。
ほむら「っ……」
マミ「よくわからない事象って……一体何が?」
QB「うん、それがね………。暁美ほむら」
QB「キミ、ソウルジェムはどこへやったんだい?」
ほむら「………」
まどか「え、え?」
さやか「ソウルジェムをどこへ……って……?」
マミ「魔法少女の魔力の源じゃない!まさか、無くしたの、暁美さん!?」
ほむら「………」
QB「キミは、既に魔法少女ではなくなってしまっているね?」
ほむら「………うん。わたしは、ソウルジェムなんて始めから持ってない」
ほむらちゃんのひと言は。
わたし達の混乱を、更に深めただけだった。
名前欄変わってるけど、>>1です
今日はここまで
QB「でも、こうして僕の姿を見ることが出来ているということは、キミにもしっかりと魔法少女の素質が備わっているみたいだね」
ほむら「………」
さやか「ど、どういうことなの!?始めから持ってないって、そんなわけないでしょ!?」
マミ「そうよ!現に、あなたはわたしたちと一緒にワルプルギスの夜と戦ったじゃないの!」
ほむら「すみません、巴さん。少し、語弊がありました。確かにわたしは、ワルプルギスの夜と戦った記憶はあります」
まどか「………」
それからほむらちゃんは、ポツリポツリと話を始める。
ほむら「……………この一ヶ月の間、わたしは長い夢を見ていたような気がします。
巴さん、美樹さん、佐倉さん、まどかの四人と並んで、魔女と戦っている夢」
まどか「………」
それは、夢じゃないよ、ほむらちゃん。
ほむら「そして……一週間前、ワルプルギスの夜と戦った夢も。
夢の中のわたしは……わたしとは別人みたいに、凛としていて、カッコよかった」
さやか「………」
うん、ほむらちゃんはカッコよかったよ。
ほむら「でも、所詮は夢。わたしの意識じゃないって思ってた。
…………目を覚ましたわたしが最初に目にしたのは、この部屋の天井。
何が何だか分からないまま、携帯で日付を確認しました。
最後のわたしの記憶から、一ヶ月が過ぎていて……混乱しました」
それは、そうだよね。わたしも、いきなり一ヶ月も過ぎてたら混乱するよ。
ほむら「確信が持てたのは、それから一夜明けた日でした。まどかがわたしの家に来て、話を聞いて……。
ああ、あれはやっぱり夢じゃなかったんだ、って」
まどか「………あの時、ほむらちゃんが言ってた考えたいことって、これのことだったんだ」
ほむら「ごめんなさい、まどか。今も、まだ何が起こったのかわからないの」
さやか「……なんか、今のほむらの話だと、その一ヶ月間は別人格がほむらの体を乗っ取ってたって感じだね」
ほむら「はい……」
マミ「………今まで、その話を誰かにしたことはある?」
ほむら「それは……佐倉さんに、話したような……」
さやか「杏子に?なんでまた」
ほむら「多分……もうその時には何らかの決心を固めてた……んじゃないかなって……」
マミ「はっきりしない言い方ね。意識がはっきりしていなかったとはいえ、あなた自身のことでしょう?」
ほむら「………」
まどか「マミさん、ほむらちゃんなんだか困ってるみたいです……」
ほむら「わたしにも、よくわからないんです……どうしてこうなったのか、わたしの意識がはっきりしていなかった時に何を考えていたのかも」
ほむらちゃんは顔を伏せ、本当に困ったかのような顔をしている。
マミ「暁美さんは、今後どうするつもりなの?」
ほむら「どう……って……」
マミ「また魔法少女になるつもりはあるのかどうか、と言うことよ」
ほむら「………」
さやか「無理になるもんじゃない、っていうのはほむらも知ってるよね?」
ほむら「うん……」
まどか「元気出してよ、ほむらちゃん。ほむらちゃんがどうなったって、わたし達は気にしないから!」
俯いているほむらちゃんを元気づける為に、明るい声で言う。
ほむら「あ、ありがとう、まどか」
マミ「さて。暁美さんの現状を知ることも出来たし、帰りましょうか?」
さやか「そですね」
まどか「あ、わたしは……もう少しだけ、ほむらちゃんと一緒にいます」
少しだけ、ほむらちゃんと話がしたかった。
マミ「そう、わかったわ」
さやか「それじゃ、あたしたちは帰りますか、マミさん」
マミさんとさやかちゃんを見送ったわたしは、ほむらちゃんの正面に向き直る。
キュゥべえも、マミさん達と一緒にほむらちゃんの家を出て行った。
ほむら「どうか、したの?まどか」
まどか「うん……ほむらちゃん、キュゥべえのことをにらんでるような気がしたから」
ほむら「………」
さやかちゃんとマミさんはあまり気に留めていなかったみたいだけど。
キュゥべえが現れた時のほむらちゃんの顔は、なんだか険しかった。
まどか「思えば、魔法少女のほむらちゃんもキュゥべえを目の敵にしてたよね。なにか、あったの?」
ほむら「まどかは、わたしが……ううん、魔法少女のわたしが言ってた事、覚えてる?」
まどか「魔法少女のほむらちゃんが?う、うん、覚えてるよ」
確か、この先何が起ころうとも、自分を変えようなんて思っちゃダメ。
そう言っていたハズだ。
ほむら「覚えてるのなら……どうして、魔法少女の契約をしちゃったの?」
まどか「えっ?」
ほむら「『わたし』の忠告……ちゃんと覚えてたんでしょ?」
レンズ越しのほむらちゃんの眼つきが、鋭くなる。
その目は、キュゥべえに向けられていたモノに似ているような気がした。
まどか「だって、見滝原の街が危なかったから……わ、わたし、見滝原を守りたかったから!」
戸惑いながらも、そう言葉を絞り出す。
そうしなければ、何かが壊れてしまうような気がしたから。
ほむら「『わたし』が何を思って、そんな忠告をしたのか。それは、考えてくれなかったの?」
まどか「それは……っ」
わたしを捉えている眼つきが、更に鋭さを増す。
ほむら「…………」
まどか「ほむらちゃん……」
魔法少女だった頃のほむらちゃんも、わたしが契約したと知った時には動揺してたけど……最後には笑って許容してくれていた。
でも、今わたしの目の前にいるほむらちゃんは違う。
本気で、わたしに対して……怒ってる目だ。
ほむら「……………ごめん、鹿目さん。もう、帰って」
まどか「っ……」
わたしの顔から視線を逸らして、そう呟く。
小さなその声には、明らかな拒絶の意思が込められていた。
ほむら「このまま話を続けたら、わたし……鹿目さんの事、嫌いになっちゃいそう」
まどか「ご、ごめんねほむらちゃん?怒らないで?わたしの事、嫌いにならないでよ……」
ほむら「………」
ほむらちゃんは何も言わない。
まるで、話は終わったと言わんばかりだ。
まどか「………わたし、帰るね……」
これ以上一緒にいても、いい方に話は進まない気がした。
だから、それだけ言い残して、わたしもほむらちゃんの家を後にすることにした。
ほむら「さようなら、鹿目さん……また明日」
まどか「うん……また明日、学校で、ね」
玄関先で、それだけ言葉を交わして、わたしは家路についた。
わたしの呼び方が変わってることは……怖くて、聞くことが出来なかった。
投下遅い上に短くてすみません
今日はここまでです
と言うか、また名前欄が変わってる…
一応、今後はわかりやすいように酉をつけておきます
名前欄がまた変わった場合は、この酉をつけて本人証明と言うことにします
―――――
―――
―
その日の夜、ほむらは夢を見た。
一人の少女が、荒野を歩き続ける夢だった。
少女は荒れ果てた土地を、たったひとつの目的を持って歩き続けていた。
自身が腰を落ち着ける事が出来る場所を探す旅。
しかし、そんな場所は少女の視界の範囲内には存在しなかった。
右へ向かえばいいのか、左へ向かえばいいのか、直進すればいいのか、はたまた自身の後ろへ向かえばいいのか。
導など、どこにもありはしなかった。
少女にとって、歩みを止めることは諦めることとと同義だった。
だから、導など無くても歩き続けるしか無い。
途中、腰を落ち着けることが出来そうな場所はいくつか見つけることは出来た。
少女は喜んだ。ここなら、わたしの旅の終点に出来るかも知れないと。
しかし、そんな喜びもつかの間。
腰を落ち着ける為の、『とある条件』が欠損してしまう。
故に、未練を残しながらもそこを離れるしか出来ない。
気持ちが折れそうになったこともあった。
何もかも諦めることが出来れば、それが少女にとって一番の幸せだったのかもしれない。
諦めることが出来ないからこそ、そんな幸せは幸せではないと自分で否定し続ける。
そうすることで、自身の気持ちを奮い立たせた。
そうして、今日も少女は歩き続ける。
終わりが見えない、あるのかもわからないその『場所』を求めて……―――
~~~
ほむらちゃんが魔法少女じゃなくなったことが発覚してからは、わたし達とほむらちゃんの仲は疎遠になり始めた。
さやか「ほむら、帰ろう!」
ほむら「美樹さん……」
まどか「一緒に帰ろう、ほむらちゃん?」
ほむら「………ごめん、わたし、一人で帰りたいから」
こんなやり取りを、あれから何回繰り返しただろう。
わたしとさやかちゃんは、ほむらちゃんと仲良くしたいのに。
ほむらちゃんの方が、わたし達と距離を取っている。
ほむらちゃんの事を、マミさんに相談したこともあった。
マミ「暁美さんのこと?」
まどか「はい、最近距離を置かれてるような気がして……」
マミ「仕方ない、と言えばいいのかしらね。わたし達魔法少女と、普通の人間となった暁美さんが距離を取るのは自然だと思うけれど」
さやか「そりゃ、普通はそうなるのかもしれませんけど……あたしたちは、友達として仲良くしたいんですよ、ほむらと」
まどか「ほむらちゃん、また魔法少女の契約をするつもりはないんですかね……」
マミ「さあ、それは暁美さん自身にしかわからないことね。わたし達が無理強いするようなことでも無いでしょう?」
まどか「………」
マミさんも、心なしかほむらちゃんに対して距離を置くスタンスを取っているような気がした。
長い間魔法少女をやっているからなのか、一般人との関係を持つことを基本的に良しとしてない節があるのかな。
さやか「あっ、もうこんな時間!?ごめんまどか、マミさん!あたし、行かなきゃいけないところがあるんで今日はこれで失礼します!」
マミ「また、例の彼かしら?」
さやか「はい、そうです!」
さやかちゃんは、上条くんの腕を治す祈りで魔法少女の契約をしていた。
上条くんの腕は無事に治って、さやかちゃんはとっても喜んでいた。
その後、さやかちゃんは意を決して告白したらしい。
上条くんはさやかちゃんの想いを受け止めて、今は晴れて恋人同士となっている。
さやか「それじゃ、お邪魔しました!」
わたし達と一緒にこうしてお茶会をする時間もしっかりと取ってるけど、上条くんとの約束も最近は増えている。
その為か、ほむらちゃんの事に気を回す余裕は無いと言った風だった。
誤解の無いよう言っておくけど、さやかちゃんもほむらちゃんの事を心配はしてくれている。
でも、わたし以上にほむらちゃんの事を心配している、と言う程ではないと言う感じだ。
マミ「そんなに暁美さんの事が気になる?」
まどか「それはそうですよ!だって、一緒に見滝原を守った仲間じゃないですか!」
マミ「まぁ、それはそうだけど……本当に暁美さんの事を思うのなら、今は少し距離を置くべきじゃないのかしら?」
まどか「っ……」
わたしだって、それは頭では理解してる。
でも、気になる物は仕方ないよ……。
まどか「ごちそうさまでした……すみませんマミさん、わたしも今日はもう帰ります」
マミ「元気出して、鹿目さん?きっと、暁美さんとだってまた仲良くなることは出来るわよ」
まどか「………はい」
マミさんの励ましも、わたしの心にまでは届かなかった。
~~~
マミさんのマンションからわたしの家までの道のりを、一人寂しく歩く。
まどか「……マミさんも、さやかちゃんも、冷たいよ」
小さな声で、誰に言うでもなく呟く。
わかってる。そんな愚痴は筋違いだって、わたしもわかってる。
でも、そう愚痴をこぼさずにはいられなかった。
まどか「わたし達五人、仲良くしてたのがすごい昔のことみたいな気がしてくるよ……」
さやかちゃんに、マミさんに、ほむらちゃんに、わたしに、杏子ちゃん。
マミさんとさやかちゃんは今でも一緒にいるにはいるけど……。
まどか「………そうだ、杏子ちゃん……」
ふと、前にほむらちゃんが言ってた事を思い出した。
ほむら『それは……佐倉さんに、話したような……』
まどか「そうだよ、杏子ちゃんなら!」
なんでほむらちゃんが魔法少女じゃなくなったのか、理由を知ってるかもしれない!
まどか(杏子ちゃん、今は風見野に帰っちゃってるんだったっけ)
丁度、明日は学校はお休みだ。
明日、杏子ちゃんに会いに行こう。
まどか(どうしてこうなったのかがわかれば、きっとほむらちゃんの気持ちもわかるはずだよ!)
マミさんとさやかちゃんには、黙っていよう。
わたしが、ほむらちゃんを元に戻すんだ!
まどか(えへへ……待っててね、ほむらちゃん!)
希望が見えて来た。
それから家までのわたしの足取りは、とっても軽くなった気がした。
*
翌日。
わたしは杏子ちゃんの姿を求めて、風見野まで足を延ばしていた。
まどか(杏子ちゃん、どこにいるのかな……)
いざここまで来たのはよかったけど、肝心の杏子ちゃんをどう探そうかで困ってしまった。
まどか「………!」
当てもなく風見野の街を歩いていると、魔女の気配がした。
まどか(魔女がいるなら、きっと杏子ちゃんもそこにいるはず!)
気配を追って、わたしは駆け足で風見野の住宅街を抜けて行く。
町外れの雑木林。
そこに、魔女の結界を発見した。
魔女の気配と一緒に、魔力の波動も感じる。
まどか(さすが、マミさんの次にベテランの杏子ちゃん。もう魔女と戦ってるんだ)
わたしも加勢しようと思い、ソウルジェムを掲げて魔法少女姿に変身しようとする。
が、それは無駄に終わってしまった。
杏子「うっし、グリーフシードゲット!」
崩壊して行く魔女結界から、杏子ちゃんが出て来た。
その手にはしっかりとグリーフシードが握られていた。
まどか「杏子ちゃん!」
杏子「あん?って、まどか?」
杏子ちゃんはわたしの姿を確認すると、顔に疑問符を浮かべた。
杏子「なんでまどかが風見野にいるんだ?」
まどか「うん、ちょっと杏子ちゃんに聞きたいことがあって来たの」
杏子「あたしに?…………あー、まぁ、なんだ。立ち話も何だし、とりあえずあたしについてきなよ」
わたしの目的を察してくれたのか、杏子ちゃんはそれ以上は言わず先を歩き始める。
その後ろを、わたしは黙ってついて行く。
~~~
着いた先は、廃教会だった。
杏子ちゃんから聞いたことがある。
ここは、昔は杏子ちゃんの家だったって。
杏子「……んで、聞きたいことがあるっつったか」
まどか「うん」
教卓の上に座る杏子ちゃんを、真っ直ぐに見つめる。
杏子「ま、あんたが何を聞きたいのかはなんとなくわかってるよ。ほむらの事、だろ?」
手に持っていたロッキーを開封し、それを咥えながらそう言ってくる。
こうしてわたしがたずねて来た理由を察してるってことは、やっぱり杏子ちゃんはほむらちゃんから話を聞いてるんだ。
杏子「さて、何から話すべきか……」
まどか「わたしが聞きたいことは、なんでほむらちゃんが魔法少女じゃなくなっちゃったのかってことなの」
まどろっこしい事は無しにして、単刀直入にそう伝える。
それに対して杏子ちゃんは、
杏子「…………は?」
何を言っているのか分からないと言うような顔を、わたしに向けて来るのみだった。
今日はここまでです
まどか「杏子ちゃんは、ほむらちゃんから話を聞いてるんだよね?」
杏子「ちょっ、ちょっと待て!まだほむらは見滝原にいんのか!?」
まどか「え?」
杏子「い、いや、それもそうだけど……魔法少女じゃなくなっただと!?どういうことだよ!?」
まどか「えっと……あれ?」
なんだろう。
杏子ちゃん、すごく驚いてる……?
まどか「杏子ちゃん、ほむらちゃんから話を聞いたんじゃないの?」
杏子「あ、あぁ……悪い、ちょっと待ってくれ。頭ん中で情報を整理するから」
右手の人差指を頭に当て、左手でわたしに制止を促してくる。
杏子「…………」
まどか「………」
しばしの沈黙の後、杏子ちゃんは口を開いた。
杏子「いいか、今の状況を整理するぞ?」
まどか「う、うん」
杏子「なんかおかしい所があったら指摘してくれ」
そう前置いて、杏子ちゃんは話し始める。
杏子「まず、まどかはほむらに関して聞きたいことがあるからあたしの所まで来た。これは間違いないな?」
まどか「うん、間違いないよ」
杏子「そんで、その聞きたいことってのが、ほむらが魔法少女じゃなくなっちまったこと、なんだな?」
まどか「うん」
杏子「悪いが、その理由はあたしにもわかんないよ」
まどか「……え、え?」
杏子ちゃんの答えは、わたしの期待していたモノでは無かった。
杏子「あたしは、てっきりほむらがいなくなっちまった理由を聞きに来たもんだと思ってたんだけど……ほむらは、まだ見滝原にいるって言うしよ」
まどか「どっ、どういうこと?ほむらちゃん、見滝原からいなくなっちゃうの!?」
杏子「いや、落ち着け。んー……どこまで話していいもんかがわかんねぇからな……」
まどか「杏子ちゃんが話をしたのは、魔法少女のほむらちゃん?」
杏子「ん、ああ、そうだよ」
まどか「……なら、杏子ちゃんが聞いたことを、全部教えて欲しい」
杏子「わかった。別に口止めされてるわけでも無し……いいよ、話してやる」
居住まいを正し、手に持っていたロッキーの箱を傍らに置くと、杏子ちゃんは話し始めた。
杏子「ワルプルギスの夜を倒した後、ほむらはひと足先に立ち去っちまっただろ?」
ワルプルギスの夜との戦いが終わった後。
わたしとさやかちゃんは、家族が避難している避難所へ。
マミさんはもう危険が無いとわかっていたから、自宅へ。
杏子「あの後、辛気くせぇほむらの事が気になってな、ほむらの家に行って来たんだよ」
わたしも、ほむらちゃんの事が気になったけど。
パパ、ママも心配してるだろうからって、行けなかったんだよね。
杏子「そこで、ほむらの正体を教えてもらった。なんでも、とある目的の為にこの一ヶ月を繰り返してるんだとよ」
まどか「とある目的?って、何?」
杏子「悪いけど、それは聞いてないんだ」
まどか「……ごめん、話の腰を折っちゃって」
杏子「いや、いいよ。んで、この時間軸ではその目的を果たすことが出来なかったから、時間遡行の魔法を使おうとしてたらしい。ちょうどその時に、あたしが着いたみたいだな」
時間遡行の魔法?ほむらちゃんの固有魔法って、時間操作の魔法だったんだ。
ああ、でもそれなら戦闘中にいきなりほむらちゃんが瞬間移動してるように見えたのも納得出来る、かな。
杏子「あたしは別に止める理由もないし、ほむらの決意は固かったみたいだからな。ほむらの背を押してやったんだよ。あんたの目的を果たす為に、頑張んなよ、ってな」
ほむらちゃんの目的って、一体なんなんだろう……?
杏子「あたしがほむらの家を後にしてから、ほむらは時間遡行の魔法を使ったんだろうけど……そのほむらはまだ見滝原にいるんだよな?」
まどか「ほむらちゃんは確かに見滝原にいるけど……もしかして、時間遡行の魔法って、魔法少女のほむらちゃんの意識だけが過去に行っちゃうのかな?」
杏子「あ、ああ、多分そうなんじゃないのかな」
もしそうだとしたら、色々な事にも納得出来る。
ほむらちゃんが別人みたいになっちゃった理由も。
魔法少女じゃなくなった理由も。
今のほむらちゃんが、夢を見ていたような気がするって言ってたのも。
まどか「……………あれ、でも、もしそうだとしたら……」
杏子「………」
ちょっと、おかしいような……?
意識だけが過去に行っちゃうなら、ソウルジェムが無くなっちゃう理由に説明がつかない。
まどか「まるで、ソウルジェムがほむらちゃんの意識みたいな……?」
杏子「っ……それ以上は、考えるな」
まどか「え?」
杏子「………」
どことなく、杏子ちゃんが焦っているように見えた。
まだ、知ってることがある?
杏子「とっ、とにかく!」
太ももをパン、と叩き、杏子ちゃんは教卓から立ちあがる。
杏子「あたしも、一度その別人みたいになったほむらの様子を見ておきたい。一緒に見滝原、行ってもいいか?」
まどか「うん、いいよ!さやかちゃんもマミさんも、喜ぶよ!」
中途半端なまま話が中断されちゃったような気がするけど……。
杏子ちゃんが来てくれるなら、少しは進展しそう、かな?
~~~
夕陽が辺りの景色を染める頃、わたしと杏子ちゃんは見滝原へと帰ってきた。
杏子「んじゃ、あたしはほむらんとこに行ってくる」
まどか「あ、わたしも一緒に行くよ!」
杏子「いや、あたし一人で行かせてくれ」
まどか「え……?」
杏子「………頼む」
杏子ちゃんが、わたしに頭を下げて来る。
まどか「わたしがいたら……出来ない話、なの?」
杏子「……………」
何も言ってくれない。
無言の肯定……だった。
まどか「………うん、わかった。ほむらちゃんの事、お願い、杏子ちゃん」
杏子「ああ……悪いな、まどか」
まどか「ううん、いいよ。わたし、マミさんの家に行ってるから。杏子ちゃんも、後から来てね?」
杏子「ああ、わかった」
ほむらちゃんの家へ向かう杏子ちゃんの後ろ姿を、ただ見送る。
まどか(やっぱり、杏子ちゃんは他にも知ってることがあるんだ)
そんな確信が、わたしの心の中にあった。
今日はここまでです
~~~
日が落ちる前に、一度家の方に電話を入れておく。
今日は、帰りが遅くなると。
まどか「ふぅ……」
次に、マミさんの携帯に電話を入れる。
今からお邪魔してもいいか、と。
マミさんは、快諾してくれた。
そんなわけで、今わたしはマミさんの家でマミさんと二人、杏子ちゃんが来るのを待っている。
さやかちゃんは、今日も上条くんのところに行ってるらしい。
マミ「でも鹿目さん、風見野へ行くのならわたしや美樹さんにもひと言くれればいいのに……」
まどか「ごめんなさいマミさん。杏子ちゃんに話をしたって言うのを思い出したら、いてもたってもいられなくって……」
意図的にマミさんとさやかちゃんに隠してたのは事実だけど、そっちに関しては伏せることにした。
まどか(だって、マミさんもさやかちゃんも、なんだかほむらちゃんに対して冷たいんだもん)
口には出さず、そう心の中で思う。
それに、これだって嘘ではない。
マミ「……佐倉さん、遅いわね。暁美さんと話しこんでるのかしら?」
まどか「そう、ですね」
あれから、数時間が経っていた。
日はすっかり落ちて、外は夜の闇が広がっていた。
それから更に小一時間後。
ようやく杏子ちゃんがマミさんの家に姿を現した。
マミ「いらっしゃい、待っていたわ佐倉さん」
杏子「……ああ」
そんな杏子ちゃんと一緒に、さやかちゃんもやってきた。
マミ「美樹さんも、いらっしゃい」
さやか「こんばんはです!」
まどか「さやかちゃん?なんで杏子ちゃんと一緒に?」
不機嫌そうな杏子ちゃんと、相対的に機嫌の良さそうなさやかちゃんが座りこむと、わたしはさやかちゃんにそう訪ねた。
さやか「ん?いや、恭介と分かれた後に、杏子とばったり会ってね。話を聞いたらマミさんの所に行くって言うから、ついて来たんだよ」
杏子「はん……都合のいい奴だな」
尚も不機嫌そうに呟くと、ポケットの中に手を入れる。
その中からいくつかのグリーフシードを取り出したかと思うと、それを無造作にテーブルに転がした。
マミ「さっ、佐倉さん?このグリーフシード、どうしたの?」
杏子「むしゃくしゃして、そこらへん適当に回って集めて来た。一人でこんなに持ってても仕方ないから、お前らにやるよ」
どうでもよさげにそう言うと、食べかけのロッキーの箱を取り出してそれを食べ始めた。
杏子「っと……これは、さやかが倒した得物だったな」
テーブルに転がしたいくつかのグリーフシードのウチのひとつをひょいと持ち上げ、わたしの隣に座っているさやかちゃんに向けて放り投げる。
さやか「いや、別にいらないって言うのに……」
そう受け答えしながらも、投げ渡されたそれを受け取った。
杏子「持ってて損するモンでも無いだろ。まどかも、マミも。ソウルジェムは、なるべく穢れを溜めこませない方がいいぞ」
ぶっきらぼうにそう言いながら、テーブルの上に転がしたいくつかのグリーフシードに視線を移す。
マミ「暁美さんと、話をしてきたのよね?どうだったの?」
杏子「ああ。ほむらの奴、もうあたしらと仲良くするつもりはねーってさ」
まどか「………え?」
さやか「杏子、ほむらのとこ行ってたんだ?」
杏子「ん、まあな。まどかからほむらの話を聞いてな、ひと目見て来たんだよ」
まどか「………ほむらちゃんが……」
杏子「まどか、これはあんたが自分で気付くべきことだぞ。あたしからは、言うつもりは無いからな」
マミ「鹿目さん?」
三人の視線が、わたしに向けられる。
まどか「え、ええっと……わ、わたしに原因があるのかな、やっぱり……」
杏子「それも、自分で考えろ」
まどか「………………」
わからない。
わたしとほむらちゃんは、出会って一ヶ月ほどしか経ってない、ただのクラスメイトだったはずなのに。
杏子ちゃんの口ぶりからすると、ほむらちゃんがそういう風になっちゃったのは間違いなくわたしに原因があるんだ。
杏子「マミとさやかは、ほむらの話は知らなかったな。モノのついでだ、話してやる」
わたしが一人思考を巡らしている間、杏子ちゃんは二人にほむらちゃんの事を話し始めた。
……………。
杏子「……ま、そう言うことさ」
マミ「暁美さんの固有魔法が、時間操作、ねぇ……」
さやか「でも、それなら納得出来るよね。ほむらが魔法少女じゃなくなった理由とかも、さ」
杏子「ま、あくまて仮定の域は出ないけどな」
さやか「ふーん……その、とある目的、だっけ?」
杏子「あ、あぁ」
さやか「それってさ」
さやか「もしかして、まどかの契約を阻止する、って事なんじゃないかな?」
まどか「…………え?」
色々と考えてる時に、不意にわたしの名前があげられた。
杏子「っ……やめろ、さやか」
さやか「いや、だってそうじゃん?ほむら、妙にまどかの事を気にかけてたみたいだしさ。そう考えると辻褄合わない?」
まどか「…………………」
さやか「それに、ほむらは一ヶ月を繰り返してるんでしょ?なら、あたしたちとだって面識はあるんだろうし」
さやかちゃんの言葉を、一字一句聞き逃さずに頭の中に染み込ませる。
そして、その言葉を、今までわたしが考えていたほむらちゃんの目的に当てはめて行く。
杏子「おい、やめろさやか!まどか、考えるな!!」
マミ「佐倉さん、どうしたの?そんなに焦って」
さやか「これはあくまであたしの仮定の話だよ?」
杏子「ダメだ、気付くなっ……!!」
まどか「…………わたし、が………」
………あれ、なんだろう。
右手の中指から、なんだか嫌な感触が広がってくるよ。
杏子「おい、おい!!まどか!!」
まどか「わたし………ほむらちゃんに、とんでもない迷惑を掛けちゃったんじゃ………」
右手の嫌な感触が、更にじわりじわりと広がってくる。
少しずつ、少しずつ。
わたしの体を、蝕んでいる……ような………。
――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――
―――
―
―――数時間前、ほむらの家―――
ほむらが一人、家の中で過ごしていると、インターホンが鳴らされた。
ほむら「……はい」
チェーンロックがかけられた玄関のドアを、申し訳程度に開く。
ドアの隙間から、来訪者の姿を確認する。
杏子「よう、ほむら」
ほむら「佐倉……さん?」
そこには、手に持ったどら焼きを食べている杏子の姿があった。
杏子「上がらせてもらってもいいか?」
ほむら「ちょっと待っててください」
一度ドアを閉め、チェーンロックを外す。
そうして、再びドアを開けて杏子を家の中へ招き入れた。
杏子「久しぶり……って言えばいいのか?」
ほむら「はい……久しぶり、です」
杏子「……まどかから話は聞いてるけど、ホントに別人みたいになっちまってるんだな」
ほむらの姿を上から下まで見た杏子は、まどかの言っていたことを理解した。
頭にはヘアバンドに加え、紫のリボンでみつあみにしている。
顔には、以前はかけていなかった赤縁の眼鏡。
それに、体もなんだか華奢になっているように見えた。
ほむら「それで……何の用ですか?」
ソファに杏子が、椅子にほむらが座ると、そう問いただす。
杏子「ああ。……どうやらその様子だと、あの一ヶ月の記憶は、あるみたいだな?」
ほむら「…………」
杏子「どこまで知ってるのかは、聞かないよ。聞いたところで、どうしようもないからな」
あっけらかんと言いながら、食べかけのどら焼きの残りを口に放り込む。
杏子「あたしが聞きたいのは、まどか達のことをどう思ってるかだ」
ほむら「鹿目さん達の事を……?」
杏子「あんた、まどか達と妙に距離を置いてるんだって?」
ほむら「………どう接したらいいのかが、わからなくって」
戸惑いながら、ほむらは答える。
いっそ自分も魔法少女だったなら、そんなことで悩んだりしなかったのでは、とさえ思っていた。
杏子「どうも何も、普通に接してやればいいだろ」
ほむら「………」
杏子「何か、不都合でもあるのか?」
浮かないほむらの顔を見て、杏子は怪訝な顔をする。
ほむら「……正直なところ、『わたし』の気持ちを考えたら、鹿目さんの軽率な行動に苛立っちゃって……」
自身の胸中を、杏子に打ち明け始める。
ほむら「それは、魔法少女になるかどうかは鹿目さんの自由だっていうのは理解しているつもりです。だけど……『わたし』の忠告を、気に留めてくれていなかったと言うのがショックで」
杏子「………」
ほむら「でも、『わたし』は強かった。鹿目さんが契約した時も、気丈に笑って許して……わたしには、とてもじゃないけど真似出来るとは思えません」
杏子「何を言ってるんだよ?あいつだって、本質はお前なんだぞ?」
ほむら「……そうは、思えません」
杏子「はぁ……すっかり自分に自信を無くしちまってるな」
頭を掻きながら、どう言ったモノかと思考を巡らせる。
とどのつまり、ほむらはまどかに対して複雑な感情を持っているのだ。
その所為で、普通に接すると言うことが出来ないでいる。
杏子「あんたは、まどか達とまた仲良くしたいとは思わないのか?」
ほむら「今のわたしは、弱いですから……『わたし』の気持ちを知った後で、鹿目さんと仲良くするような事は、出来そうにありませんし……しようとも思いません」
はっきりと、そう言い切る。
杏子「それが、あんたの本心なんだな?」
ほむら「はい」
真っ直ぐなほむらの視線をしっかりと見据え、
杏子「……はぁ」
杏子は呆れたようにため息を吐いた。
杏子「ま、あんたの気持ちはよくわかったよ」
苛立ちを覚え、杏子は立ちあがる。
ほむら「さ、佐倉さん?」
杏子「それがあんたが決めたことだってんなら、あたしが口を出すのは筋違いだ。なんも言わないよ」
ポケットの中からどら焼きをひとつ取り出し、ほむらに向けて放り投げる。
お手玉のように何度か手の中で躍らせながらも、ほむらはそれを受け取った。
杏子「ただ……あたしは、今のあんたよりも魔法少女のあんたの方が好きだった」
ほむら「……っ」
最後にすっかり変わってしまったほむらを一瞥すると、杏子は家を後にする。
杏子(ちっ……なんだってんだ)
―――――
―――
―
杏子がほむらの家を後にした後、気分がすぐれなかったほむらはベッドに横になり、眠りについた。
深い、深い眠りだった。
その眠りの中、ほむらは夢を見た。
少し前に見た、少女の旅の夢だった。
少女が一時でも滞在したその場所には、例外なく何かが残された。
それは、ある意味で少女にとって無くてはならない物。
長い長い旅路の中、その残された何かは凄惨な末路を辿った。
ある時には強大な力によって消された。
ある時には吸い上げられた。
ある時には全てを無くし、何もかもが置き去られた。
少女はその残された何かの存在に気付くことはなかった。
後ろを振り返ることなどただの一度もありはしなかったし、事実不可能だったから。
ただ前だけを見、そして歩き続けるだけの孤独すぎる旅だ。
救いの手を差し伸べてくれた人も、いないことはなかった。
しかし、新しい旅にその人を連れて行く方法などありはしなかった。
その人がどんな結末を迎えたのか、少女には確かめることは出来なかった。
退路無き、一方通行の旅路故に。
ある時、少女が今まで見て来た中で一番理想に近い場所を見つける事が出来た。
そこに留まると言う選択肢は、少女を非常に悩ませた。
ここでも、いいのかもしれない。
これが、わたしの出来る限界なのかもしれない。
限りなく完成に近いパズルではあったが、一ピースだけが欠損していた。
それは、何よりも大切な一ピース。
守りたかった一ピース。
最も未練を覚えたその場所だったが、やはりその一ピースが無ければ意味は無い。
そう答えを出した少女は、再び旅に出る決意を固めることが出来たのだった。
その未練は、小さな灯りを秘めた何かを残した……―――
今日はここまでです
~~~
杏子「っ…………はぁ、はぁ……!」
まどか「杏子……ちゃん……?」
いつの間にか、わたしの手には複数のグリーフシードが握られていた。
そのいずれもが、穢れを限界まで吸いこんでいる。
杏子「まどか!?聞こえてるなら返事しろ!!」
まどか「っ! う、うん、聞こえてるよ」
杏子ちゃんの必死な顔に気圧されながら、そんな短い返事をする。
その返事を聞いた杏子ちゃんが、へなへなと力無くその場に座り込んだ。
杏子「ふぅ……焦らせやがって……」
さやか「いきなりどうしたのさ、杏子?テーブルに転がしたグリーフシード、全部まどかに……って!」
言いながらわたしの手の中に視線を移したさやかちゃんが、驚いて後ずさりする。
さやか「ちょっ、まどか!手、手の中!」
まどか「え……?あぁ……」
さやかちゃんに指摘され、手の中を改めて確認する。
全部で五つのグリーフシードが、限界近くまで穢れを吸いこんでいた。
マミ「あぁ、じゃないわよ!キュゥべえ!いないの!?」
QB「やれやれ……どうかしたかい?」
マミさんの言葉に答える形で、キュゥべえが姿を現した。
マミ「鹿目さんの手の中のグリーフシード、魔女が孵化する前に処分してちょうだい!」
QB「お安い御用だよ。さあ、まどか」
背中を向けて、わたしにグリーフシードを渡すよう促してくる。
それに答えるように、五つのグリーフシードをキュゥべえに差し出した。
QB「はい、処理完了。これでいいかい?」
杏子「ああ、十分だ。どっか行きな」
マミ「ちょっと佐倉さん、その言い方は無いでしょう?」
QB「いや、僕も行きたい所があるからね。これで失礼するよ」
そう言い残すと、そそくさとキュゥべえは窓際から外へ出て行ってしまった。
マミ「あ、キュゥべえも!……」
そんなマミさんの言葉を最後に、みんな沈黙してしまう。
一体、何が起こったのか?
多分、みんなそんなことを考えてるんじゃないかな。
実際、わたし自身も何が起きたのかわかってないし。
杏子「おい、さやか」
沈黙を破ったのは、杏子ちゃんだった。
さやかちゃんを睨みつけながら、居住まいを正す。
さやか「ん、何?」
杏子「なんでまどかを追い詰めるような事を言ったんだよ?」
さやか「え?何の事?」
杏子「あたしは、まどかに自分で気付いてもらおうとしてたんだよ」
マミ「……と、言うことは、やっぱり暁美さんの目的は?」
まどか「………」
杏子「っ……いいか、今あたしが知ってる事を話してやる。落ち着いて聞け。いいな?」
マミ「暁美さんについて?」
さやか「杏子、ほむらについて知ってる事、他にもあるんだ?」
杏子「もういい。どうせ、当の本人のウチ一人はいねぇんだ。いずれ、まどかだって知らなきゃならない事だしな」
まどか「ほむらちゃんの事……」
杏子「まず、ソウルジェムだ。お前ら、ちゃんと常日頃から持ち歩いてんだろうな?」
マミ「それはそうよ」
さやか「魔法少女のとって、一番大切な物……でしょ?」
マミさんとさやかちゃんが、指輪状にしていたソウルジェムを宝石型に戻し、それを手のひらに乗せる。
杏子「それが濁りきった場合……どうなるか、わかるか?」
神妙な面持ちで、わたし達の顔を眺める。
マミ「さぁ……魔法が使えなくなる、というだけでは無いの?」
杏子「まぁ、それで概ね合ってる。じゃあ、穢れを溜めこむ理由についてはどうだ?」
さやか「そりゃ、魔力を消耗したらじゃないの?」
杏子「お前ら、たった今まどかに起こったことを見て無かったのか?」
まどか「わたしに、起こったこと……」
右手の中指に付けているソウルジェムから、少しずつ嫌な感触が広がってきた。
それと同時、意識も遠のいて行ってたような感覚もした。
杏子「魔法少女は、希望の象徴だってのはマミの言い分だったな?」
マミ「ええ、そうね」
杏子「なら、そんな希望の象徴である魔法少女が絶望を覚えた場合。何が起こると思う?」
さやか「………ソウルジェムに、穢れが溜まる?」
杏子「そう言うこった。これで、さやか。お前がまどかに対してどういうことをしたのか、理解出来ただろ?」
その鋭い視線を、真っ直ぐさやかちゃんへ向ける。
さやか「………あー……」
杏子「お前がまどかに対して言った事は、本来まどかが自分で気付くべき事なんだよ。だから、あたしもそういう風に仕向けてたっつーのに」
さやか「いや、その……ゴメン、まどか」
まどか「う、ううん、大丈夫だよ。今は、杏子ちゃんの話を聞こう?」
杏子「今からあたしが話すのは、あたしがほむらから聞いた話だ。当然あたしはそれが真実かどうかは知らないし、確かめる方法も無い。それを前提にして、聞いてくれ」
前置きもそこそこに、杏子ちゃんは話を始める。
ほむらちゃんの目的。
それは―――『鹿目まどか』との約束を、守る為らしい。
ほむらちゃんが契約した時の祈り。
それは―――『鹿目まどか』に守られる『わたし』じゃなく、『鹿目まどか』を守れる『わたし』になりたいというもの。
『鹿目まどか』を守る為。
それは―――『鹿目まどか』の魔法少女の契約を阻止し、ワルプルギスの夜を倒すというもの。
それらを胸に秘めたほむらちゃんは、幾度も時間を巻き戻し、生きて来たらしい。
その全てで、『鹿目まどか』は凄惨な最期を迎えたらしい。
ワルプルギスの夜を相手に、敗北した時間軸。
とある人物に狙われ、命を落とした時間軸。
その他にも、色々な要因があったと。
ただ、共通している事柄はいずれも『鹿目まどか』の死である、と言うことだった。
杏子「………魔法少女になんて、ならなくて済むのならそれに越したことは無い。それがほむらにとって唯一であり、全てだ、と」
まどか「ほむらちゃん……」
さやか「一途だねぇ……」
マミ「そうか、だから鹿目さんの契約をわたしが勧めた時に、暁美さんはわたしに突っかかって来たのね」
杏子「その辺の話はあたしは聞いてないけど、なんだマミ。まどかに契約を勧めたのかよ?」
マミ「え、えぇ」
杏子「はぁ……いや、いい……」
さやか「でも、それでもなんか腑に落ちないね?」
まどか「え……?」
さやか「だって、少なくともまどかは今は生きてるじゃん。ほむらが時間を巻き戻す理由、無くない?」
杏子「ほむらも、引けない所まで来ちまってるんだろうよ」
マミ「どういうこと?」
杏子「今のあたしの話、聞いてたか?まどかが契約した場合には、例外なくまどかは命を落としてるんだ。
そんな光景を見続けて来た所為で、ほむらも知らないウチに目的がすり変わっちまったんだろうよ」
杏子ちゃんの言い分は、こうだ。
最初は、『鹿目まどか』が生きてさえいればよかった。
でも、ワルプルギスの夜との戦いが大きなポイントとなっていて、そのポイントを『鹿目まどか』が無事な状態で越えられたことは無い。
そんな場面を繰り返し見て来て、ほむらちゃんの中で「魔法少女の契約=鹿目まどかの死」と言う等式が成り立ってしまった、と。
それと、『鹿目まどかの死』を象徴するモノが、ワルプルギスの夜であるとも。
だから、ほむらちゃんの目的はその二つに絞られたのだ、と。
さやか「なるほどねぇ……確かに、それなら納得出来るかも」
マミ「ワルプルギスの夜は、確かに一人では倒せないと思えるくらいには強かったものね。それが鹿目さんの死を象徴するものとして認識してもおかしくはないわね」
杏子「魔法少女の契約も、だ。あたしやマミ、さやかにはそれなりに叶えたかった願いがあった」
さやか「そうだね。あたしは、幼馴染の腕を」
マミ「わたしは、あの交通事故からの生還」
杏子「あたしは、親父の信仰の為だ」
まどか「………無駄な契約だった、のかな」
杏子「そこまで言うつもりはないよ。でも、ほむらにとっては、複雑な心境だってのは間違いないだろうな」
まどか「わたし、ほむらちゃんに謝らなきゃ」
それが、今わたしがやらなきゃいけない事だって気がしてきた。
杏子「ん、そうしな。それが、きっと一番だ」
さやか「これは、まどかとほむらの問題だね」
マミ「そうね。わたし達が気安く首を突っ込んでいい話では無さそうだわ」
まどか「ほむらちゃん、今も家にいるのかな?」
杏子「だと思うぞ」
時計を確認する。
時刻は、午後8時を回った所。
まどか「ほむらちゃんの家に、行ってくる!」
居ても立ってもいられず、わたしはマミさんの家を飛び出した。
~~~
まどか(ほむらちゃん、ゴメン!)
ほむらちゃんの家へ向けて駆けながら、わたしはほむらちゃんに謝る。
この言葉を、伝えたい。
まどか(もう契約しちゃった以上、わたしは謝ることしか出来ない!でも、でも!今わたしは、ほむらちゃんを守る力だって、あるんだ!)
ほむらちゃんにとっては、不本意なことなのかもしれない。
それでも、それでもわたしは!
まどか(わたしは、後悔だけはしてないよ!さやかちゃんも、杏子ちゃんも、マミさんも、もちろんほむらちゃんも!みんなまとめて、わたしが守れるんだもん!)
ほむらちゃんの家の近くまで来ると。
不意に、虚ろな足取りで歩く一人の少女の影がある事に気が付いた。
まどか(あれは……ほむらちゃん!?)
影の主は、ほむらちゃんだった。
ほむらちゃんに近づき、声を掛ける。
まどか「ほむらちゃん!どうしたの、こんな夜に?」
ほむら「………あら、まどか?」
目の焦点がわたしに合うと、ほむらちゃんはわたしの名前を呼んだ。
下の名前、で。
まどか「え、ほむらちゃん?」
ほむら「どうかしたかしら?わたし、行かなきゃならない所があるの」
ほむらちゃんは、ちょっと前の魔法少女のほむらちゃんの姿となっていた。
眼鏡を外し、みつあみも解いた、魔法少女のわたしが一番見慣れたとも言える姿。
まどか「い、行くって、どこへ?」
ほむら「わたしと同じ人が待ってる場所へ。とっても、居心地がいいところなのよ」
まどか「どういうこと?ほむらちゃん?」
ほむら「あら、まどかも一緒に行く?いいわよ、行きましょう。わたしと、一緒に、あの方のところへ……」
腕をガッシリと掴まれ、強い力で引っ張られる。
まどか「痛っ!痛いよ、ほむらちゃんっ!」
ほむら「ごめんなさい、ちょっと興奮していたわ。でも、あなたも悪いのよ?」
まどか「ほ、ほむらちゃん……?」
ほむら「まぁ、今はわたしの事なんてどうでもいいわ。さあ、行きましょう?」
どうにも様子がおかしいと思い、視線をほむらちゃんの首筋へ向けた。
まどか(……っ!)
そこにあったのは。
魔女の口づけ、だった。
まどか(魔女……ほむらちゃんに目を付けたのが、間違いだよ)
右手の中指に付けたソウルジェムに、意識を向ける。
うん、大丈夫。ソウルジェムの穢れは、さっき吸い取ったばっかりだ。
まどか「うん、わかった。一緒に行こう、ほむらちゃん」
ほむら「素直ね、まどか。そんなあなたが大好きよ」
ほむらちゃんと手を繋ぎ、一緒に歩き始める。
ソウルジェムの反応が、少しずつ強くなってくる。
まどか(ほむらちゃんを殺そうとする魔女は、許さない)
着いた先は、見滝原の町外れ。
寂れた、大きな一戸建ての家だ。
ほむら「こっちよ」
その敷地内に、ほむらちゃんは躊躇わずに入って行く。
綺麗な薔薇がたくさん咲いた庭の一角へと進んでいく。
まどか「綺麗だね、ほむらちゃん」
ほむら「ええ、そうね。でも、それも今はどうでもいいの」
テラスが設けられた所。
そこに、魔女の結界の入り口があった。
当然、ほむらちゃんは躊躇わずにそこへ向かう。
わたしも抵抗はせずに、ほむらちゃんと共に魔女結界の中へ侵入した。
広い広い、建物の中のような結界だった。
詳しくはわからないけど、ニュースとかで見る国会議事堂になんとなく雰囲気が似ているような気がした。
壁には、選挙の時に貼られるようなポスターが一面にびっしりと貼られている。
まどか(………)
そんな結界の中を、ほむらちゃんは躊躇うことなく進んでいく。
廊下の端のドアを開けると、開けた場所へと出た。
その中心地。
そこに、魔女がいた。
魔女「――――――」
大きな風船を、いくつも束ねたような姿をしている。
その周囲には、水晶のようなものがフワフワと浮かんでいた。
まどか「魔女……っ!」
ほむら「ふふ……本当にわたしと一緒ね、あの方は」
まどか「え…?」
ほむら「中身が無いのよ。いえ、それはちょっと違うわね。中身が無いのではない。あったはずの中身が、全て零れ落ちてしまった」
正気を無くした眼を魔女へ向けながら、ほむらちゃんは魔女へ近づいて行く。
まどか「ほむらちゃん、危ないよ!」
ほむら「何も危ない事なんて無いわ。同じ存在同士、引き寄せられるのは当然」
まどか「同じ存在なんかじゃ、無い!」
ほむら「!」
ほむらちゃん一瞬の動揺を、わたしは見逃さなかった。
その隙をついて、ほむらちゃんの腕をグイと引っ張る。
反動を利用して、わたしは魔女へ急接近する。
右手を空高く掲げ、魔法少女姿へ変身した。
まどか「ほむらちゃんは、中身が無いなんてことない!」
手に持った弓に、魔力で練り上げた矢を装填する。
それを、魔女向けて撃ち放った。
まどか「わたしは、ほむらちゃんを信じてるもん!」
矢が魔女に命中し、その体のひとつ穴を開ける。
と、その穴から禍々しい気を纏った風が吹きつけて来る。
それと同時、周囲に浮かんでいた水晶もわたしの方へ飛んできた。
まどか「ほむらちゃんは、今も頑張ってるんだ!!」
手の中の弓を、杖の形に変形させる。
飛んできた水晶を、ひとつひとつ叩き落として行く。
吹きつけて来た風は、魔力壁を作ってわたしと一緒に後方にいるほむらちゃんを守る。
まどか「あなたなんかと……一緒にしないで!!
魔力壁を取り払い、杖から再び弓の形状に戻す。
更に魔力を練り上げて、光の矢を複数作り上げた。
それを魔女の頭上目掛け、全て撃ち放つ。
まどか「マジカルスコール!!」
光の矢は雨のように、魔女へと降り注ぐ。
ボロボロになった魔女にトドメを差すように、ひと際強力な一矢を撃ち放つ。
それは、魔女の体の中心に大きな穴を開けた。
魔女が力尽き、結界が崩れて行く。
まどか「……………」
グリーフシードが、コロコロと転がった。
まどか「……ほむらちゃん!」
ほむら「………」
ほむらちゃんは呆然とした表情で、テラスの椅子に座りこんでいた。
まどか「ほむらちゃん、ほむらちゃん!」
ほむら「……!か、鹿目さん……?」
まどか「ほむらちゃん、ゴメンなさい!」
ほむらちゃんに向けて、深々と頭を下げた。
ほむら「!」
まどか「ほむらちゃんに、迷惑を掛けちゃって……気持ちを考えないで……ゴメンなさい!」
ほむら「………」
そう簡単に許してもらえるなんて、思ってない。
でも、謝ることが重要なんだ。
ほむら「………まどか……」
まどか「!」
再び下の名前で呼ばれたわたしは、顔をあげてほむらちゃんの顔を見る。
ほむら「………ありがとう。『わたし』のこの気持ちを、否定してくれて」
まどか「ほむら……ちゃん……」
今まで見たことが無い、穏やかな表情のほむらちゃんだった。
魔法少女だった頃の、ほむらちゃん。
そう、見える。
ほむら「わたしは、多分今も頑張ってる。だから、今のまどかの気持ちを伝えてあげる方法は、『わたし』には無いけど」
まどか「……」
ほむら「まどかと分かり合えたのが、わたしには何より嬉しい」
そう言って、ほむらちゃんはわたしの近くへ歩み寄ってくる。
そして、わたしを優しく抱きしめてくれた。
ほむら「あなたがどんなになっても、わたしはあなたが大切よ、まどか」
まどか「ほ、ほむら、ちゃん……っ」
視界が、滲み始める。
よかった。わたし、ほむらちゃんに許してもらえたんだ。
まどか「ほむらちゃんっ……う、うえぇぇ……っ」
ほむら「あなたに何も言わずに、行ってしまって……ごめんなさい」
まどか「ごめん、ごめんなさい、ほむらちゃんっ……!」
夜の闇の中、街灯によってわずかに照らされた薔薇園の一角で。
わたしとほむらちゃんは、長い間謝りあっていた。
今日はここまでです
*
まどか「ほむらちゃん、帰ろう!」
ほむら「うん、まどか!」
あの日を境にして、ほむらちゃんの様子はすっかり変わった。
姿はまた眼鏡とみつあみの姿に戻っちゃったけど、わたし達と距離を取るようなことは無くなった。
仁美「暁美さん、また様子が変わりましたわね?何か、ありましたの?」
さやか「そ、そう?あたしは別に普通に見えるけどな?」
ほむら「わたし、変わったかな?」
仁美「ええ、それはもう。転校初日とも、数週間前とも、違って見えますわ」
まどか「ほむらちゃんは、何も変わってなんかいないよ!」
ほむら「そうだよね、まどか?」
仁美「うーん……?」
*
町外れの大きな一軒家にいた魔女を倒してから、数週間が経過した。
見滝原の街に、異変が起き始めていた。
商店街の路地裏。
そこで、マミは蛆虫のような姿をした使い魔と対峙していた。
マミ「はっ!」
手の先からリボンを召喚し、それを使って使い魔の動きを封じる。
使い魔「―――っ!―――っ!!」
拘束された使い魔は、ジタバタと暴れようとする。
しかしそのリボンから逃れられる事は無く、少しずつ拘束がきつくなってくる。
マミ「終わりよ!」
自身の背後に二丁のマスケット銃を召喚し、それを同時に撃ち放った。
その魔弾は、使い魔の体に二つの穴を開ける。
使い魔「――――――……」
力尽きた使い魔は、短い悲鳴を上げた後に消滅していく。
マミ「ふぅ……」
不安定な結界が晴れたのを確認したマミは、変身を解くと共に小さく息をついた。
マミ「また、同じ使い魔だったわね……」
ここ数日の間、今と同じような使い魔をどれほど見掛けただろうか。
少なくとも、両の手の指では数え切れないくらいだ。
マミ「何か、よくない事が起こる前触れで無いといいけれど……」
よからぬ不安が、マミの頭をよぎる。
それもそのはずだった。
何しろ、あの使い魔からは敵対意志と言うモノが感じられなかったのだから。
マミが使い魔を見つけた時、その使い魔は真っ先に逃げようとするのだ。
あちらから攻撃を仕掛けて来たことは、今まで一度たりともなかった。
マミ(………)
当然、マミは逃げようとする使い魔を逃がしたことは無い。
今のようにリボンで拘束し、マスケット銃を数発撃てば倒せる程度の個体だ。
故に、それほど脅威には感じていなかった。
マミ「……魔女の事や使い魔の事なんて、考えてもわかるわけは無いわね」
思考を中断し、マミは家路についた。
*
また、ある日。
まどか「マミさん、そっちに二体逃げました!」
マミ「ええ、わかっているわ!」
さやか「逃がさないぞ、使い魔ぁ!」
またも、蛆虫のような姿の使い魔だ。
それも、一体や二体ではない。
数にして、20はくだらないだろうかと言える程。
それだけの数の使い魔が、ひとつの場所に集まっていたのだ。
さやか「てい!」
まどか「えいや!」
マミ「ふっ!!」
蜘蛛の子を散らしたかのように逃げようとする使い魔の群れを、まどか達は撃ち漏らす事なく撃破していた。
使い魔「―――!」
まどか「これで、終わりぃ!」
逃げおおせようとしていた最後の一体に弓の照準を合わせ、それを撃ち放つ。
光の矢は、使い魔の体を的確に射抜いていた。
さやか「はぁ、終わり終わりっと!」
ひと息ついた事を見届けたさやかが、やれやれと言った雰囲気で変身を解く。
まどか「あの使い魔、なんなんですかね、マミさん?」
マミ「さあ……わたしも、よくはわからないのよね」
まどかとマミも、魔法少女の変身を解く。
さやか「最近、同じ使い魔ばっかり姿を現してるよね?」
まどか「そんなに強くはないし、別に苦労はしないんだけど……」
マミ「………」
同じ使い魔が現れると言うのもそうだが、マミにはそれ以上に気になることがあった。
使い魔の動向だ。
マミやさやかには攻撃を仕掛けてこなかったはずの使い魔が、何故かまどかにだけは執拗に攻撃を繰り返そうとしていたように見えた。
マミ(……気のせい、かしら?)
当の本人、まどかはそれに気付いてはいない様子だった。
まどか「まあ、これだけ倒したなら今日はもう大丈夫ですよね?」
マミ「そう、ね。あなた達、グリーフシードのストックはまだあるのかしら?」
さやか「大丈夫ですよ、マミさん」
さやかが、懐からいくつかのグリーフシードを取り出す。
ワルプルギスの夜を越えてからは、それほど強力な魔女が現れることも無く。
それもあって、魔力の消費が少なかったのだ。
その為、ワルプルギスの夜以前に入手していたグリーフシードもいくつかその中に含まれていた。
マミ「鹿目さんは?」
まどか「わたしも、大丈夫です」
まどかも、さやかと同じようにグリーフシードをいくつか取り出した。
その中には、あの日に入手したグリーフシードもあった。
マミ「二人とも、それだけあるなら大丈夫ね。最近は使い魔ばかりだったから、ちょっと心配だったけれど。いざ魔法が使えなくなってしまったら、大変だものね」
三人が話をしているその場所から少し離れた場所。
姿を隠していた使い魔が、二体いた。
二体が二体とも、まどかの事を凝視していた。
使い魔「――――――!!!」
その内の一体が、勢いよくまどか目掛けて飛んでくる。
まどか「っ!!?」
さやか「まどか、危ない!」
咄嗟にソウルジェムを掲げ、その中から剣を一本取り出したさやかが、まどかへ向けて飛びかかってきた使い魔を一刀の元両断する。
使い魔「―――!!」
時間差で、もう一体の使い魔もまどかへ向けて飛びかかる。
マミ「!」
その使い魔は、マミがリボンを使ってその動きを封じた。
地面へと落ちた所で、さやかがその使い魔を切り裂いた。
まどか「まだ、隠れてたんだ……」
さやか「いやぁ、油断してたね」
マミ(……また、鹿目さんを狙っていた)
最早、気のせいでは済まされなかった。
*
蛆虫の使い魔の本体は見つからないまま、それから更に数日が経過した。
見滝原と風見野の境目の橋の上で、杏子もまた蛆虫の使い魔と対峙していた。
杏子「そらっ!」
勢いよく腕を突き出し、槍を引き延ばす。
その先端が、使い魔の体に深く突き刺さった。
使い魔「!!」
それを確認した杏子は、自身の体へ槍を引き寄せる。
引き延ばした槍が元の形状に戻ると同時、地面に突き立てて使い魔の体を貫通した。
力尽きた使い魔の体が、ボロボロと崩れて行く。
杏子「やっぱ、見滝原から流れてきてたのか……」
槍の取っ手で肩をトントンと叩きながら、杏子は呟く。
蛆虫の使い魔は、その行動範囲を風見野にまで広げていた。
杏子「風見野にはあたし一人しか魔法少女はいねぇし、ちっとばかり手が回らないぞ……」
いくらそれほど強くない個体とは言え、物量作戦で来られた場合には一人で倒せる数は限られてくる。
使い魔が現れる場所を地図でマーキングするウチ、その大まかな流れが見滝原の方面からやってきていることに気付いた杏子は、再び見滝原の街へと足を延ばしてきていた。
杏子「こっちにゃマミにさやか、それにまどかもいるだろうから心配はいらないかもしれないけど……」
使い魔を生み出している大元が未だに断たれていない事を考えると、見滝原の街にも多くの使い魔が彷徨っているのかもしれない。
杏子「ま、ここまで来たついでだしな。マミ達の顔でも見て行くか」
そう決め込んだ杏子は、変身を解いて見滝原の街へ足を進めた。
~~~
マミ「やっぱり、風見野にもあの使い魔が出没しているのね」
杏子「ああ。しかし、魔女の気配はしないんだな……」
マミのマンションへ辿りつくまでに、使い魔を三体目撃していた。
その全てを撃破した杏子は、魔女の気配が無いことに疑問を持っていた。
マミ「ええ、そうね。第一、魔女の気配がしたのなら、わたし達が放っておくわけは無いわよ」
杏子「ま、そりゃそうだろうけどさ」
だからこそ、余計に疑問なのだ。
あの使い魔は、間違いなく見滝原を中心に行動範囲を広げている。
マミ「風見野の方はどうなの?あの使い魔以外に、魔女や使い魔は姿を現していないの?」
杏子「そんなことは無いけどよ。前に、マネキンみたいな魔女も仕留めたしな」
マミ「ふぅん……。……いつまでも、放置しておくわけにはいかないわよね……」
紅茶のカップをテーブルに置き、マミは気にかかっていた事を杏子に話し始める。
マミ「実はね、あの使い魔なのだけれど………どうやら、鹿目さんを執拗に狙っているみたいなのよね」
杏子「まどかを?」
マミ「ええ。わたしと美樹さんが対峙した時には全く攻撃意志が感じられなかったのに、鹿目さんに対しては攻撃を繰り出そうとするの」
杏子「………」
マミの話を聞き、杏子は思考を巡らせる。
しかし、その理由については心当たりは無かった。
マミと杏子がマミの家でお茶を飲んでいると。
マミ「……!」
杏子「……魔女の気配、だな」
二人は、同時に立ちあがる。
~~~
杏子「……ど、どういうことだよ、これ………」
魔女の気配を追ってやってきたマミと杏子は、目の前の光景に呆然とした。
マミ「ま、魔女を……使い魔が、食べている……の……?」
広い平原を形作っている結界の中心。
一体の兎のような姿をした魔女に、複数の蛆虫の使い魔が取りついていた。
兎の魔女「……っ……―――」
兎のような姿をした魔女は、泣き声を上げることも無く、静かにその場に倒れ込んだ。
その体に、無数の使い魔は尚も食らいつく。
マミ「っ…佐倉さん!」
杏子「ああ、わかってるよ!」
なんとなく放っておけないと思った二人は、魔女の元へ駆けて行く。
そして魔女に食らいついている無数の使い魔を、蹴散らして行く。
マミ「弱い者イジメは、見過ごせないわね!」
杏子「おら、来いよ!お前らの相手は、あたしたちだ!」
すっかり弱った魔女を庇うようにして、二人は複数の使い魔と対峙した。
その中の、一体。
それが、今正に魔女へと進化しようとしていた。
マミ「っ……魔女の体を食らって、力をつけたって事かしら」
むくむくと体が大きくなり、広い平原の結界を上書きするかのようにして、辺りの光景が変化していく。
殺風景な建物の中のような結界。
遠くにはエレベーターのような扉などもあった。
そして、使い魔から魔女へと進化した存在を見て、杏子は眼を見開く。
杏子「……この魔女、は……!」
マミ「佐倉さん、見覚えがあるの!?」
襲いかかってくる魔女の攻撃を避けながら、マミは杏子に問いかける。
杏子「ちょっと前に、風見野で倒したっつー魔女とおんなじだ!こいつ、あの使い魔が育ったモンだったのか!」
地面に着地し、続く魔女の襲撃に備える。
が、魔女は襲ってこなかった。
マミ「っ……!!」
杏子「あ、あのやろう……っ!!!」
兎の魔女「………――――」
魔女「……イヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」
兎の姿をした魔女をバラバラに引き裂き、それを周囲にいた使い魔に向けて散りばめていた。
マミ「ぉぇ……っ!」
その光景を見たマミが、小さなえずきを漏らす。
それほどまでに、残忍な光景だった。
兎の姿をした魔女は完全に力尽き、その場にはひとつのグリーフシードが残された。
黄色い球状の物が頭についており、本体部分には兎の耳をあしらったかのような模様が入ったモノだった。
杏子「おら、来いよ魔女!!あたしが相手だ!!」
少しばかり戦闘不能に陥ったマミを庇う為、前に歩み出る。
魔女は奇声を上げ、杏子へ向けて複数の黒い矢尻の様な物を飛ばしながら接近してくる。
杏子「はんっ、甘い!!」
矢尻を全て槍で弾き落とし、大きく円を描くように槍を構え直す。
そして、魔女本体が伸ばしてきた鉤爪を鍔迫り合いの姿勢で受け止めた。
杏子「おらぁっ!!」
グン、と力強く踏み込み、魔女の姿勢を大きく崩した。
杏子「食らえ!!」
地に伏した魔女目掛け、力いっぱいに槍を振り下ろした。
ガキン、と大きな音を立てて、魔女の体に一筋のヒビが入る。
そのヒビ目掛け、
杏子「もう一発!!」
再度力強く鉄槌を与えた。
魔女「アヒャ……ヒャハハハハハ………―――」
その攻撃で力尽きたのか、正気の籠らない笑い声を上げながら魔女の体はボロボロと崩れて行く。
その場には、新たに落とされたグリーフシードと、兎の姿をした魔女のグリーフシードが残された。
マミ「はぁ、はぁ……さ、佐倉さん、ごめんなさい……」
ようやく戦闘不能から復帰したマミが、杏子へ向けて謝罪の言葉を向ける。
杏子「いや、いいよ。あんなエグイ光景見たら、誰だってそうなるさ」
さほど気には留めていないと言った様子で、杏子は二つのグリーフシードを拾い上げた。
ひとつは、兎の姿をしていた魔女のグリーフシード。
そしてもう一つは、たった今倒したばかりの魔女のグリーフシードだった。
全く同じ装飾のグリーフシードを、以前にも杏子は入手していた。
杏子「……やっぱ、同じだ」
懐からひとつのグリーフシードを取り出した杏子は、今入手したばかりのグリーフシードと見比べる。
上部にはシルクハットのエンブレムが付いており、本体の丸い部分には六本の鉤爪が三本ずつクロスした模様。
マミ「……風見野へ行った使い魔が、魔女へと進化してグリーフシードを孕んだのね」
杏子「ちっ……気分のいいもんじゃねえな」
いつの間にか、魔女へ成長した使い魔と一緒にいた蛆虫の使い魔は姿を消していた。
恐らく、成長した魔女と杏子の戦いのドサクサに紛れて、逃げ出したのだろう。
マミ「逃げた使い魔……放っておくわけにはいかないわね。美樹さんと鹿目さんにも連絡して、四人で手分けして探すことにしましょうか」
マミは携帯電話を取り出し、二人に連絡を入れる。
内容は、今からマミの家へ集まって欲しいと言うもの。
*
マミさんからの連絡を受けたわたしとさやかちゃんは、マミさんの家にやってきていた。
中では、既にマミさんと杏子ちゃんが待っていた。
マミ「事態は深刻よ!」
さやか「まさか、風見野にまで侵攻してるなんてね……」
杏子「とにかく数が多いんだ。大元を断った方が手っ取り早い」
まどか「ど、どこにいるのかな、その本体って?」
マミ「それはわからないわ。幸い、それほど強力な魔女ではないようだから、手分けして探しましょう!」
さやか「了解!」
杏子「手分けして探せば、見つかるだろ。念のため、見つけたらテレパシーで他の三人を呼びだせ」
まどか「うん、わかった!」
わたしの言葉を最後にして、わたし達は見滝原の街の捜索を開始した。
~~~
マミさんの家を後にしたわたしは、まずはほむらちゃんの家の周辺へ向かっていた。
まどか(ほむらちゃんに危険が無ければいいんだけど……)
道中、既に2体の使い魔を仕留めていた。
ほむらちゃんの家の近くまで来ると。
まどか「……っ!」
ソウルジェムが、僅かに反応した。
まどか(まさか、ほむらちゃんの家の近くに魔女が!?)
道を駆け、突きあたりを曲がる。
その先が、ほむらちゃんの家だったはず。
まどか(……まだ、魔女には成長してない、みたい)
不安定な結界が、ひとつあるだけだった。
――――――――
使い魔「―――……」
使い魔を倒し、ほむらちゃんの家の窓を確認する。
明かりがついていた。
まどか(……よかった。ほむらちゃんは、無事だ)
その光景を見て安堵したわたしは、更に捜索を続けようとした。
と。
ほむら「……まどか?」
まどか「!」
背後から、声を掛けられた。
ほむら「どうしたの?険しい顔、してるけど」
まどか「ほむらちゃん!?ど、どこに行ってたの!?」
ほむら「え、夕飯のお買いものにだけど……?」
まどか「一人で歩くのは危険だよ!」
わたしはほむらちゃんに、最近魔女の使い魔が大量に出没していることを教えてあげる。
ほむら「そ、そんなに危険なの?」
まどか「そうだよ!蛆虫みたいな使い魔で……!」
言葉を途中で遮り、弓を構える。
そして、ほむらちゃんの背後に迫っていた使い魔を葬り去った。
ほむら「っ…!」
まどか「また……」
これで、マミさんの家を出てから四匹目だ。
まどか「とにかく!ほむらちゃんは、家の中に入ってた方がいいよ!」
ほむら「ま、待ってまどか!」
ほむらちゃんに、腕を掴まれた。
ほむら「わ、わたしも一緒に……!」
まどか「でも!」
ほむら「お願い、まどか!」
ギュッと握られ、その手からほむらちゃんの必死な思いが伝わってきたような気がした。
まどか「……。それじゃ、わたしから離れないでね?」
ほむら「! う、うん!」
ほむらちゃんの腕を握り返し、わたしは歩き始める。
まどか「うーん……本体、どこにいるんだろう……」
当ても無く歩き続け、30分が経過しようとしていた。
ほむら「町外れは、探してみたの?」
まどか「………町外れ……」
町外れで思いだすのは、とある一軒家。
風船のような姿をした魔女がいた所だ。
まどか「まだ、そこは探してなかったかな」
ほむら「それじゃあ、行ってみようよ」
少しだけ考えた後、ほむらちゃんの提案を受けてみることにした。
他に、心当たりもないのだから。
目的地に到着する。
ほむら「……どう?まどか」
まどか「………」
手のひらに乗っけたソウルジェムに視線を落とす。
淡い光を、放っていた。
まどか「いる……ここに、魔女が……」
ほむら「っ……」
わたしの手を握るほむらちゃんの力が、少しだけ強くなった気がした。
まどか「大丈夫だよ、ほむらちゃん。わたしが、一緒にいるからね」
ほむら「う、うん」
以前にも立ち入った敷地内へ、再び足を運ぶ。
ソウルジェムの反応が強くなる場所を探して、歩きまわる。
そうして、着いた場所は。
ほむら「こ、ここは……?」
まどか「………」
またも、テラスの設けられた場所だった。
多分、この魔女が本体だ。
まどか〈マミさん、さやかちゃん、杏子ちゃん!聞こえる!?本体、見つけたよ!〉
テレパシーで、三人に声を掛ける。
でも、答えは返ってこなかった。
ほむら「まどか?どうしたの?」
まどか「……距離が開きすぎてるから、かな。テレパシーが、届いてないみたいなの」
ほむら「い、一度、撤退した方がいいんじゃ……?」
まどか「ううん。一般人に危害を加えるかもしれないんだもん、見つけた以上は放っておけないよ」
一人で戦う決心を固めたわたしは、結界の入り口を開く。
ほむら「大丈夫なの、まどか?」
まどか「うん、大丈夫。わたしに任せて、ほむらちゃん!」
不安そうなほむらちゃんを安心させるように、笑顔で答える。
複雑な結界の中を歩き回り、途中現れた使い魔も全て葬り去って。
結界の中枢に、辿りついた。
魔女「キョホホホホホホハハハハハハ……」
魔女は待ちかまえていたと言わんばかりに、中枢に辿りついたばかりのわたしに向けて矢尻のようなモノをたくさん飛ばしてきた。
まどか「えいっ!」
手に持っていた杖を横一線に薙ぎ払って、その矢尻を全て叩き落とす。
まどか「ほむらちゃんは、安全なところに隠れてて!」
ほむら「う、うん!」
物陰に隠れるのを確認したわたしは、改めて魔女へ向き直る。
女性の体を三つ組み合わせたような姿に、頭にはシルクハット。
その周囲には、蛆虫のような使い魔がたくさんいる。
まどか「わたしが相手だよ!」
弓を構えて、魔女と使い魔の襲撃に備える。
使い魔が四方八方から、襲いかかってきた。
まどか(マミさん、戦い方を真似させてもらいます!)
周囲に光の矢を複数精製し、それを地面に突き立てる。
そして左手には弓を握り、右手には少しだけ大きな光の矢を持つ。
襲い来る使い魔を、一体一体迎撃する。
左方から二体―――これを、地に突き立てた矢で応戦。
前方から一体―――これを、右手に握った光の矢で切り裂く。
右方から三体―――これを、右手に握った光の矢を分解し、三本の矢に。それで、それぞれを撃ち抜く。
後方から四体―――これを、左手に握った弓を杖の形状に変化させ、全てを殴り落とす。
魔女本体から、複数の矢尻―――この全てを、地面に突き立てた矢を全て撃ち放つことで、相殺。
まどか「追撃っ!!」
僅かな時間を使い、左手には新たに光の矢が二本。
それを更に撃ち放つ。
魔女「ヒハハハハッ!」
魔女は、その攻撃を避けようとすらしなかった。
わたしが放った矢を受けて、体の一部が砕け散る。
魔女「……―――!!」
その破片を、手の鉤爪を使って打ち放ってきた。
まどか「効かないよ!!」
当然、その攻撃の全てを防ぐ。
その場から跳躍し、空中から魔女を更に矢で貫こうとする。
と。
まどか「……あっ!」
常に持ち歩いていた予備のグリーフシードのひとつが、わたしの懐から零れ落ちる。
さっきの、破片による攻撃で服が裂けたのだろうか。
魔女「………!!!!」
魔女の視線が、わたしから落ちたグリーフシードにくぎ付けとなった。
地面に落ちたグリーフシード目掛け、一直線に進んでいく。
そしてそのグリーフシードを、拾い上げた。
まどか「な、なに……っ?」
突然の出来事に、唖然とする。
魔女は、拾い上げたグリーフシードを眺めつづけていた。
魔女「………オ……オオオオオオオ…………」
そして、小さな悲鳴を上げ始めた。
まどか「…………」
攻撃するのが、躊躇われた。
あの姿は……ちょっと前のわたしと、おんなじだ。
ほむら「ま、まどか……?」
物陰から出て来たほむらちゃんが、わたしに話しかけて来る。
まどか「……攻撃、出来ないよ」
ほむら「………」
何故この魔女が、以前に倒した魔女と同じ場所にいたのか。
なんとなく、わかったような気がした。
あの風船の魔女は、この魔女にとってすごくすごく大切な存在だったんだ。
だから、この場所から離れることをしなかったんだ。
まどか「………」
それでも、姿が見当たらなかったから。
使い魔は、その姿を探し続けてたんだ。
その魔女は、既にいないってことにも気付かずに。
魔女「オオオオオオオオオオ……………………オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…………………………」
魔女の小さな悲鳴が、とても悲しいモノに聞こえて来た。
きっとこの悲鳴は、魔女の慟哭だ。
悲しくて、寂しくて、悲鳴をあげるしか出来ないんだ。
まどか「……ごめんなさい」
ひと言謝って、手に持った弓を引き絞る。
どちらにしろ、魔女は倒さなくっちゃダメなんだ。
ほむら「まどか……」
まどか「………」
意を決し、引き絞った弓を、解き放つ。
矢は、うずくまってグリーフシードを握っていた魔女を、一撃のもと下した。
魔女は……攻撃を、避けようとはしなかった。
魔女が力尽き、使い魔もろとも結界が崩れて行く。
その場に、二つのグリーフシードが残された。
ひとつは、上部から二つのリボンが垂れ下がっていて、本体部分には薔薇の花が二つあしらわれた物。
もうひとつは、上部にはシルクハットのエンブレムが付いていて、本体部分は六本の鉤爪が三本ずつクロスした模様のもの。
二つのグリーフシードは、お互いを支え合うような形で、テラスのテーブルに物哀しげに立てられていた。
まどか「ごめんなさい……」
ほむら「………」
わたしの謝る声だけが、その場に響いた。
ほむら「まどか、元気を出して……」
まどか「っ……ヒック……ほむら、ちゃん……」
何故だか涙が流れて来た。
ほむら「まどかは、何も悪くないよ。守りたい物があったから、その為に戦った。……だよね?」
まどか「……っ……うんっ……」
悲しい気持ちが心の底から溢れて来るかのように、目からはとめどなく涙が溢れて来る。
ほむら「なら、泣かないで。どうあれ、魔女は倒さなくっちゃダメだったんだから。……ね?」
まどか「ほむらちゃぁん……っ!」
わたしを励ましてくれるほむらちゃんに、抱きついた。
ほむらちゃんはわたしの背に手を回し、優しく抱きしめ返してくれる。
ほむら「悲しいよね……守りたい物を守れなかった存在は……」
まどか「う、うえぇぇぇん……あああああああぁぁぁぁ………」
声を押し殺すことも忘れて。
わたしはしばらくの間、ほむらちゃんの胸の中で泣き続けた。
ほむら(…………わたし、も……)
今日はここまでです
次の投下は少し間が空くかもしれません
なるべく早くに投下出来るようにするので、気長にお待ちください
~~~
あの後、使い魔はそのほとんどが消滅したらしい。
多分、本体の魔女を倒したことで自我を持つに至っていなかった個体が消滅したんじゃないかってマミさんは言ってた。
自我を持ち始めた使い魔は魔女へ進化する一歩手前なんだ、とは杏子ちゃんの話。
捕捉出来る限りの使い魔全てを退治したみんなは、マミさんの家に集まった。
本体の魔女を倒したことをわたしが伝えて、マミさん、杏子ちゃん、さやかちゃんとも必要な話をして解散となった。
グリーフシードについては、わたしが二つとも預かる形で落ち着いた。
みんなとの話し合いの間、わたしは終始二つのグリーフシードを大事に握りしめていた。
マミさんの家を出たわたしは、ほむらちゃんの家に行きたいとお願いした。
ほむらちゃんは少しだけ悩んだけど、承諾してくれた。
まどか「………」
ほむら「………」
ほむらちゃんの家の中、お互いに沈黙してどれくらい経っただろうか。
聞きたいことは決まってるのに、いざその話をしようと思うと中々一歩が踏み出せない。
まどか「え、えっとね、ほむらちゃん」
ほむら「……うん。何、まどか?」
明らかに声が震えているわたしに対して、ほむらちゃんの言葉はとても穏やかだった。
多分、ほむらちゃんはわかってるんだと思う。
わたしが聞きたいことも、わたしが考えてることも。
まどか「あの魔女、の事、なんだけど……」
言いながら、テーブルの上に二つのグリーフシードを置く。
風船のような姿の魔女の物に、シルクハットを被った魔女の物。
まどか「何か……知ってる事、あるの……?」
ほむら「………」
わたしの質問を受けて、ほむらちゃんは真剣な目で真っ直ぐにわたしの顔を見据える。
ほむら「………この魔女の事は、わたしは知らない。けど、魔女についてなら、知ってることはある」
まどか「魔女について、知ってる事……」
それが、何を差して言っているのか。
今なら……わかる、と思う。
ほむら「これは……美樹さんや巴さんは、まだ知らない事。佐倉さんは、『わたし』が話したから、知ってるけど」
まどか「………知ってることがあるんなら、教えて欲しい」
真っ直ぐなほむらちゃんの視線に答えるように、わたしも真っ直ぐにほむらちゃんの顔を捉える。
大丈夫。どんな事でも、わたしは受け切って見せるから。
そんな想いを込めて。
ほむら「……『わたし』の目的は、まどかももう知ってるんだよね?」
まどか「……」
こくり、と頷く。
ほむら「それじゃ、魔法少女の真実から……」
それからほむらちゃんは、ゆっくりと話し始める。
ソウルジェムの事や、魔法少女の体の事。
ほむらちゃんの目的や、その為にしている事。
全てを話し終えたほむらちゃんは、静かに、しかし深く、息を吐いた。
ほむら「………まどかもわかってるとは思うけど……巴さんにも、美樹さんにも、この事実は重た過ぎるの。不用意に教えるべきでは、無い。だから、『わたし』は話す事をしなかったの」
まどか「………」
ほむら「ワルプルギスの夜は、『わたし』一人では勝てないと思うから。だからこの事実を隠して、力を貸してもらって……」
まどか「……うん」
ほむら「卑怯だって罵ってくれてもいい。弱虫だって蔑んでくれても構わない。『わたし』には、そうするしか方法は無いから」
まどか「卑怯だなんて……思わないよ。弱虫だとも思わない。もし本当にそうだったなら、孤独に旅を続けることなんて出来ないって思うから」
それに、そんなシステムにわたしを巻き込まないようにって、ほむらちゃんはそれを目的にしてるんだ。
結局、わたしはそれに気付くことなくこうして契約しちゃったけれど。
まどか「話してくれて、ありがとう、ほむらちゃん」
今は、それが一番嬉しい。
ほむら「ううん。いずれは、知らなきゃならないことだから……まどかだけじゃない。美樹さんも、巴さんも」
まどか「そう、だね」
まどか「それじゃ、わたし、帰るね」
ほむら「うん。帰り道、気をつけてね、まどか」
聞きたかったことは、全部聞くことが出来た。
わたしがほむらちゃんにしてあげられることも、決まった。
まどか(わたしは、もうほむらちゃんの邪魔だけは、しない)
そう心に決めた。
ほむらちゃんには、たくさん迷惑を掛けちゃったから。
だから、もうわたしはほむらちゃんの邪魔になることだけは、絶対にしない。
もちろん、それだけじゃない。
まどか(魔法少女は、希望の象徴なんだから!みんなみんな、わたしが守るんだ!)
ほむらちゃんから聞いた真実は、決して軽視出来るモノではなかったけれど。
それでも、わたしの心は軽かった。
わだかまりが無くなったから。多分、それが一番の要因だと思う。
―――――
―――
―
その日の夜、ほむらは夢を見た。
守りたかった物、者、モノの夢。
二人の少女は背中合わせだった。
かたや、一を殺し自を救う事に希望を見出した少女。
かたや、自を殺し一を救う事に希望を見出した少女。
一を殺そうとした少女は、その道程を見失い涙を流した。
道程を見失う事は、希望を見失う事だった。
何を守りたかったのか、何を救おうとしていたのか。
それが少女にとって全てであり、唯一だったから。忘れる事など、ありえなかったのだ。
彼女が最期に漏らしたひと言は誰より弱く、誰より悲しかった。
―――――
―――
―
その日の夜、ほむらは夢を見た。
守りたかった物、者、モノの夢。
二人の少女は背中合わせだった。
かたや、一を殺し自を救う事に希望を見出した少女。
かたや、自を殺し一を救う事に希望を見出した少女。
一を殺そうとした少女は、その道程を見失い涙を流した。
道程を見失う事は、希望を見失う事だった。
何を守りたかったのか、何を救おうとしていたのか。
それが少女にとって全てであり、唯一だったから。忘れる事など、ありえなかったのだ。
少女が最期に漏らしたひと言は誰より弱く、誰より悲しかった。
自を殺そうとした少女は、見覚えがあった。
いつか見た夢に出て来た、旅する少女だ。
少女の旅は、未だ終わってはいなかった。
このまま一人で、どこまで行くのだろうか。
或いは、どこまでも行くのだろうか。
少女が残した何かは、少女の想いに理解を示すことが出来なかった。
何故そこまで強くあれるのか、何故そんな目的の為だけに歩き続けられるのか。
疑問だらけで、答えなんて出るわけないと決めつけていたし、出すつもりも無かった。
その答えは、至極簡単で、当然なものだった。
壊れてしまったパズルの一ピースを拾い上げた何かは、ようやくそれに理解を示すことが出来た……―――
*
ほむら(―――……)
眠りから覚めたわたしは、そのまま起き上がらずに部屋の天井を見上げていた。
ほむら(……………)
『わたし』の守りたかったもの。
『わたし』の想い。
ほむら(うん。全部、わかった)
上半身を起こしあげると、ひと筋の涙が頬をつたった。
知らず、わたしは泣いていたらしい。
ほむら(………っ)
全ての疑問に、答えが出た。
この涙は嬉しさから来るものなのか、悲しさから来るものなのか。
………多分、どっちもなんだろう。
短くてすみません、今日はここまでです
~~~
昼休み、屋上。
わたしはまどかを呼びだした。
ほむら「ごめんね、まどか。わざわざ屋上に呼びだしちゃって」
まどか「ううん、気にしないで。それで話って、なに?」
ほむら「うん……」
自身の決意を、まどかに話し始める。
まどかは、時折いくつか質問を挟みながらも、わたしの話をちゃんと聞いてくれた。
ほむら「………」
まどか「……それで、ほむらちゃんは本当に、いいの?」
話し終えると、まどかは心配そうな顔をわたしに向けてそんな質問をしてくる。
ほむら「うん。もう、決めたことだから」
まどか「そっか。ほむらちゃんがそう決めたんなら、わたしは応援するよ」
ほむら「ありがとう、まどか」
まどか「何かわたしに出来る事があったら、言ってね?わたし、ほむらちゃんの力になるから」
ほむら「ええと、それじゃ早速で悪いんだけど……」
~~~
放課後。
まどか「さやかちゃん、仁美ちゃん!今日は何か用事ある?」
さやか「うん、まどか?いや、今日は特に用事もないけど……」
仁美「わたくしも、今日はお稽古事は何もありませんわ」
まどか「それじゃ、ちょっと付き合って欲しい所があるの」
さやか「まどかが?それは、構わないけど……」
恭介「ああ、僕の事なら気にしないでいいよ。鹿目さん、志筑さんと、行ってきなよ」
さやか「ん、ありがと、恭介」
仁美「………」
美樹さんとまどか、志筑さんは、並んで教室から出て行く。
廊下に出て、曲がる時。
まどかは、わたしに視線を送ってくれた。
ほむら(ありがとう、まどか)
心の中でまどかにお礼を言うと、わたしは上条くんの席へ近づき、話しかける。
ほむら「上条くん」
恭介「ん?ああ、暁美さん。何か用?」
ほむら「ちょっと、話したいことがあるんだけど……時間、いい?」
恭介「僕と話したいこと?」
ほむら「う、うん」
恭介「構わないよ。さやかも、鹿目さん達と行っちゃったし」
鞄を持ち上げ、少しだけ足を庇うような仕草をしながら立ちあがる。
ほむら「それじゃ、屋上に……」
~~~
上条くんと二人、屋上へと出て来る。
恭介「暁美ほむらさん、だったよね」
ほむら「はい、そうです」
恭介「あはは、敬語なんて使わなくってもいいって」
ほむら「ごめんなさい、この喋り方はもう癖みたいなものなので」
上条くんは気さくに笑ってくれる。
この人が……美樹さんが好きになった人。
恭介「それにしても、珍しいね。暁美さんが僕に話がある、だなんて。普段、話をしたこともあまりなかったよね?」
ほむら「……そうですね」
直接言葉を交わしたのは、これが初めてかもしれない。
美樹さんを交えてなら、以前にも何回かあったけど。
恭介「それで、話ってなにかな?」
屋上の手すりによりかかり、上条くんはわたしに話を促してくる。
その上条くんの隣に立ち、手すりに両手を置いてわたしは話を始める。
ほむら「………美樹さんとの事、です」
恭介「さやかとの事?」
ほむら「美樹さんから、あなたの話は聞きました。事故の話も、手の話も、ヴァイオリンの話も……」
恭介「………」
ほむら「先日まで、入院してたって話も聞きました。ちょっと、びっくりしました。わたしとおんなじ病院にいた、って知った時は」
恭介「そうだったんだ?」
ほむら「その後、腕の調子はどうですか?やっぱり、いいですか?」
恭介「うん、すごく調子いい。事故なんて、無かったんじゃないかなって思うくらい」
ほむら「…………………」
ほむら「美樹さんと、付き合ってるんですよね、上条くんは?」
恭介「う、うん。まぁね」
ここからが、本題だ。
わたしはわたしの聞きたいことをひとつずつ、ゆっくりと上条くんへぶつける。
その質問のひとつひとつに、ゆっくりと答えを言ってくれた。
全て聞き終えると、わたしは大きくひと息ついた。
ほむら「ありがとう、上条くん」
恭介「いや、それは別にいいんだけど……はは、なんか恥ずかしいな」
ほむら「それじゃ最後に、わたしからひとつだけ」
そこで一度区切る。
深呼吸を何回か繰り返し、上条くんの方へ向き直り。
ほむら「絶対に、美樹さんを……幸せにしてあげてください。お願いします」
深々と、頭を下げた。
恭介「ちょっ、ちょっと暁美さん!?」
ほむら「美樹さんには……上条くんが必要なんです。どうか、よろしくお願いします」
恭介「………。顔をあげてよ、暁美さん」
ほむら「……」
恭介「なんだかよくわからないけど……暁美さんは、美樹さんの事が心配なんだね?」
ほむら「はい。すごく、すごく心配です。わたしはわたしなりに、美樹さやかと言う子を理解しているので。上条くんなら、美樹さんを幸せに出来るって信じてますので」
恭介「ははは、さやかはいい友達に恵まれたんだなぁ……。うん、わかった。さやかの事、任されたよ」
ほむら「ありがとうございます、上条くん」
恭介「暁美さん、なんだかさやかの保護者みたいだよ」
ほむら「……ふふ、そうなのかもしれませんね」
目的を終えたわたしはその後、上条くんといくつか他愛ない話をした。
これで、美樹さんについては安心出来そうだ。
ほむら(………次は……)
~~~
マミ「暁美さんが一人で来るなんて珍しいわね?」
三人分の紅茶の用意を終えた巴さんが、わたしの正面に座る。
ほむら「まどかと美樹さん、用事があったみたいなので」
マミ「そうなの?暁美さんも一緒に行けばよかったのに」
ほむら「わたしは、やることがあったので断ったんです」
杏子「やる事、ねぇ……」
わたしの心を見透かすかのように目を細めた佐倉さんが、そう呟く。
ほむら「こうして、ここに来たのもやる事があったからなんです」
マミ「わたしの家で、やる事?」
杏子「ま、そりゃマミのケーキはうまいからなぁ」
ほむら「あはは、確かに巴さんのケーキはおいしいですけど。そう言う事じゃないです」
差し出された紅茶をひと口飲んで、居住まいを正した。
ほむら「巴さんと、佐倉さんの……二人のホンネを、聞きたいんです」
マミ「えっ?」
杏子「……」
これは、巴さんと佐倉さん、二人の問題だ。
そこにわたしが土足で立ち居るのは、失礼に当たる。
慎重に言葉を選びながら、わたしは話し続けた。
巴さんと佐倉さんに聞きたい事を全て聞き終え、ふと窓から外を眺めた。
夕陽もほぼ沈んでおり、夜の闇が広がり始めていた。
ほむら「ありがとうございました、巴さん、佐倉さん」
マミ「いえ、気にしなくっていいのよ」
杏子「ああ、そう言う事。あたしもマミも、こうしてまた一緒にいられるようになって少なからずあんたには感謝してんだ」
マミ「あら、今日はいつになく素直ね、佐倉さん?」
杏子「マミだって、それは一緒だろ?」
マミ「………まあ、ね」
二人は二言三言交わすだけで、意志の疎通を終えていた。
二人とも、最初からもっと素直だったなら……別れる事は、なかったんじゃないのかな。
その言葉は、心の中に留めておく。
ほむら「それじゃ、わたしは行きます。他にも、行かなくちゃならない所があるので」
マミ「ええ、わかったわ。気をつけて、暁美さん」
ほむら「はい、ありがとうございます。ケーキ、ごちそうさまでした」
杏子「気にすんな気にすんな、このケーキだってマミの趣味で作ってるみたいなモンだからな」
マミ「佐倉さんが言うことじゃないでしょう、全く……」
ほむら「あはは……巴さんも、佐倉さんも、さようなら」
一礼して、わたしは立ちあがる。
そしてこの場所の事を深く心に刻み込み、巴さんの家を後にした。
ほむら(………次は……)
~~~
町外れの一軒家。
そこまで足を伸ばした頃には、日は完全に落ちていた。
ほむら「………」
門の前に立ち、黙祷。
ほむら(ごめんなさい……守れなくて、ごめんなさい……)
すでに、手遅れだったのは理解していた。
それでも、二人がこうなってしまった責任の一端はわたしにもある。
ほむら「………」
どれくらいの間、そうしていただろうか。
閉じていた目を開き、もう一度一軒家の全貌を視界に納める。
そうして、わたしは家路に着いた。
ほむら(………これで、後は……)
~~~
部屋の明かりを消し、ベッドの上でわたしは一人思考を巡らしていた。
ほむら(……美樹さん、佐倉さん、巴さん……上条くん…………まどか………)
集めるべき情報は、集めた。
QB「キミの今日一日の行動、見守らせてもらったよ」
見覚えのあるシルエットが、窓から差し込む月明かりに照らされて影を作りだした。
インキュベーター。
少女に力を与え、その対価として魂を物質化させる存在。
ほむら「……キュゥべえ」
QB「僕を必要としてるんじゃないかと思ってね」
ほむら「………」
窓際からベッドに降り立ったキュゥべえを、じっと見つめる。
QB「キミとは、あまり話が出来ていなかったね。『暁美ほむら』」
ほむら「……そうだね」
QB「どうだい?キミの中で、決意は固まったと僕は見るけれど?」
ほむら「うん、固まってるよ」
QB「それじゃ、今すぐ僕と契約、するかい?」
ほむら「ふふ、まだダメだよ、キュゥべえ」
QB「そうなのかい?僕としては、いつでもいいんだけどね」
ほむら「……ねえ、キュゥべえ」
QB「なんだい?」
ほむら「あの日……町外れの一軒家に魔女が現れたのは、知ってるよね?」
QB「ああ、知っているよ」
ほむら「あの魔女は……生まれたばかりだったの?」
QB「どうしてそんな事を聞くんだい?」
ほむら「………ただ、気になるから」
あの魔女の口づけを受けたわたしは、あの魔女の記憶を垣間見たような気がする。
一人、テラスに座ったまま、目を閉じて。
次に気が付いた時には、自分に似た存在に目をつけ、それを引き寄せた。
それが、わたし。
QB「そうだね、キミの言うとおりだよ。タイミング的には、マミの家でグリーフシードを処理した直後だったかな」
ほむら「………」
巴さんの家で、グリーフシードを処理した。
それが意味するものは、つまり……。
QB「キミは、ソウルジェムの秘密を知っているんだよね?」
ほむら「うん」
QB「あの魔女は、ソウルジェムがグリーフシードに変わったことで生まれた魔女さ。彼女の目的は、僕には最後までわからなかったけれどね」
彼女の目的。
わたしは、識っている。
ほむら「……そう、ありがとう、キュゥべえ」
QB「聞きたいことは、それだけかい?」
ほむら「うん、それだけ」
こうして、『わたし』もキュゥべえと二人で話をしたことは、あるのかな。
そんな疑問が浮かんでくる。
話すだけ、無駄。そう思ってるかもしれない。
実際、わたしも少しだけそんな気がしてるし。
ほむら「明日、また会おう、キュゥべえ」
QB「明日?明日、何かあるのかい?」
ほむら「うん。明日、みんなと一緒の時に」
QB「わかったよ、暁美ほむら。キミの決意、見させてもらうよ」
その言葉を残して、キュゥべえは窓際から外へ出て行ったようだ。
再び一人となったわたしは、今日一日の自身の行動を思い返していた。
最初は、屋上でまどかにわたしの決意を話した時の事。
ほむら(……『わたし』だったら、羨ましがってたかな)
『わたし』は、本当にまどかの事を思ってるだろうし、多分そうだろうな。
次は、上条くんと話した時の事。
ほむら(わたしは特に気にはしなかったけど、半分くらいは惚気話だったのかな。『わたし』だったら、美樹さんに理不尽な怒りをぶつけてたかも)
美樹さんと『わたし』は、そんな距離感が一番正しいのかもしれない。
次は、巴さんと佐倉さんと話した時の事。
ほむら(『わたし』だったら、まどろっこしいって怒ってたかな)
お互いの気持ちは同じだったのに、お互いに不器用だったから。
もっと素直になれ、ってビシッと言ってそうだな。
次は、町外れの一軒家へ向かった時の事。
ほむら(『わたし』は、きっとその人のことも知ってるよね)
どんな人なのか、わたしはよく知らないけど。
『わたし』は、その人についてどう思うんだろう。
それだけは、見当がつかなかった。
ほむら(……うん、よし)
ひと通り思い出し終え、小さく頷いた。
ほむら(後は、明日)
わたしの決意を、みんなに聞いてもらわないと。
今日はここまでです
次か、その次の投下で最終回になると思います
*
翌日。
残された者の、決意の日。
ほむらは、家の中にみんなを招き入れた。
「久しぶりだね、ほむらの家」
美樹さやかが、明るい口調でそう言いながら腰を下ろす。
「そうね。前に来た時は、暁美さんが魔法少女じゃなくなったって話を聞いた時だったかしら」
巴マミが、座布団の上に座って手に持っていた包みをテーブルの上に置く。
「にしても、ほむらがあたしたちを集めるなんて珍しいな。前は、ワルプルギスの夜戦の作戦会議だったか?」
佐倉杏子が、自前のお菓子を食べながらほむらに問い掛ける。
「………」
鹿目まどかだけは、口を噤んでいた。
ほむらがみんなを集めた理由を、まどかは知っているから。
恐らくは、それが理由。
「うん、そうだったね。今日は、わたしからみんなに、話したいことがあったから」
ほむらは四人に向き直り、決意の眼差しを向けた。
「話したいこと?何?」
「……キュゥべえ、あなたも出てきて」
「呼んだかい?」
ほむらの呼びかけに答え、窓際からキュゥべえも部屋の中に入ってくる。
(うん、これでいい)
ほむらの思い描く舞台が、これで整った。
「それでね、話、なんだけど……わたしね」
「キュゥべえと契約しようと思うの」
「!」
まどかを除く全員が、その言葉を聞き息を飲んだ。
「どうしても、叶えたい願いを見つけたから」
「再度契約、ねぇ……前のほむらは、なんも話してくれなかったけどさ。ほむらは、教えてくれるの?」
「うん。その話をしたくって、みんなを集めたの」
「……いいのか、ほむら?」
多くは言わず、それだけの問いを杏子はほむらにぶつけた。
「いいの。ありがとう。佐倉さんは、優しいね」
優しく微笑み、杏子の眼をまっすぐ見返した。
「………わたしね。最初は、みんなが信じられなかった」
深呼吸し、ほむらは話し始める。
自身の想い、決意を。
「わたしの体を乗っ取ってた『わたし』も、新しく契約したまどかも、幸せの絶頂にいるって感じの美樹さんも、魔法少女として長い間戦い続けて来た巴さんも、『わたし』の話を聞いてくれた佐倉さんも。
だから、距離を置こうと思いました。魔法少女の事とか、魔女の事とか……わたしにはどうする事も出来ないし、信じられなかったから。
それでも、まどかはわたしに優しくしてくれました。何も話さなかった『わたし』を信じてくれて、みんなを信じられなかったわたしを信じてくれて。
空っぽだと思っていたわたしの気持ちを、否定してくれました。………嬉しかった、です」
自身の胸中を語り終えたほむらは、深く息を吐いた。
ほむらの想い、『ほむら』の想い。
それら全てを、みんなに伝えられただろうか。そんな不安がよぎる。
「そう……暁美さんは、鹿目さんに救われたのね」
「うむうむ、まどかはいい子だからねぇ。ほむらが惚れるのもわかるよ、うん」
マミとさやかは、ほむらの想いに理解を示していた。
「ほむらちゃん……わたしは、何にもしてないよ。当然の事をしただけだもん、わたしは」
「……そっか。ほむらは、まどかの気持ちに答えられるんだな?」
「………うん」
まどかと杏子は安堵したかのように、顔を綻ばせた。
魔法少女ではなくなった当初のほむらは危うい感じに見えていたが。
今は、その感じが無くなった。
肩の荷が下りた気分、そう表現するのが一番正しかった。
「わたしは……『わたし』の気持ちを、信じてみよう、って思えるようになりました。『わたし』の戦いは、終わってない。だから、わたしは『わたし』を助けたい。
キュゥべえ……わたしのこの願い、叶えて」
キュゥべえを真っ直ぐに見据えて。
ほむらは、キュゥべえに願いを伝える。
「確かに、聞き届けた。キミの祈りはエントロピーを凌駕したよ」
耳をほむらの胸元へ延ばし、そこを中心に光が収束する。
「……う、うぅっ………!」
光が収まり始め、ほむらの胸元にはひとつの宝石が現れていた。
ソウルジェム。魔法少女の魂。
「さあ、キミの力を解放してごらん」
「………」
キュゥべえに言われるまま、ソウルジェムを掲げる。
再び光が辺りに広がり、ほむらは魔法少女姿となった。
「ほむらちゃん……!」
「へぇ……前のほむらと、全く同じ姿だね。腕の盾まで一緒だなんて」
さやかの言葉を聞き、ほむらは自身の姿を眺めた。
夢の中で見た自身と、瓜二つだった。
腕に装備されている盾までもが一緒。
「………これで、わたしは……」
「行くの、ほむらちゃん?」
「………」
『ほむら』が言っていた事を、ほむらは思い出していた。
姿形が全て同じであるのなら。
「その盾を使っても、ほむらが遡れる時は一ヶ月のみ、だろうね。キミが備えている素質では、それが限界だ。前のほむらの魔法も、恐らくはそれが限度だったんだろうね」
ほむらの心を読むようにして、キュゥべえは話す。
「でも、まどか。キミの固有魔法なら、恐らくは」
「うん……わかってるよ、キュゥべえ」
「まどか……?」
「まどかの願い、ほむらは知らなかったっけ?教えてあげなよ、まどか」
「わたしの願いはね、ほむらちゃん。みんなを助ける力が欲しい、だったんだよ。さやかちゃんも、杏子ちゃんも、マミさんも。もちろん、ほむらちゃんもそう」
まどかは自身が契約した時の事を思い出しながら、ほむらの手を握った。
「それで手に入れたわたしの固有魔法は、『増幅』。みんなの魔法の力を、底上げする魔法だよ」
その手を胸元まで上げると、まどかは魔法少女姿となった。
「ほむらちゃんが時間遡行の魔法を使ったら……多分、ほむらちゃんはいなくなっちゃうんだよね」
「それは、多分そう。『わたし』が来た時には、わたしの魂が押し込められる形になってしまったけれど。今、わたしの魂はここにあるから」
手の甲に視線を落とし、ほむらはそう告げる。
「ちょっと、寂しいけど……ほむらちゃんが、決めたことだもんね。応援してるよ、ほむらちゃん」
「鹿目さんだけじゃないわ。わたしも、応援させてもらうわ」
「行って来いほむら!前のあんたの目的がなんだったのかは、教えてくんなかったけどさ!一緒にワルプルギスの夜を討伐した仲だもんね!助けてあげてよ、ほむら!」
「ったく、結局あんたはいなくなんのか。重荷をあたし一人に押しつけやがってよ」
「ごめんなさい、杏子。わたしがいなくなった後の事、あなたとまどかに任せるわ」
「……!」
眼鏡を外し、みつあみを解いて。
ほむらは、『暁美ほむら』を演じることでみんなとの別れとした。
「マミ。真実は、きっとあなたには重いと思う。でも、あなたは強いから。わたしは、信じているわよ。あなたが、真実を乗り越えてくれるって」
「あ、暁美さん……?」
「さやか。あなたは、人間よ。魂がどう変わろうと、それは信じ続けて。上条くんも、きっとわたしと同じ事を言ってくれると思うから。彼と、いつまでも仲良くしなさい」
「ほむら……?」
「杏子。あなたが、一番信用出来るわ。魔法少女の真実を知っても動揺しないあなたは、本当に頼もしい。みんなのこと、お願いね」
「………」
「まどか。あなたには、どれだけの言葉を言っても言い足りない。だから、これだけ言わせて。後悔するような選択だけは、しない事。わたしは、『わたし』を救うために行くけれど。あなたは、いつまでも明るく、元気に。約束よ、まどか」
「ほむらちゃん……うん、ありがとう」
まどかとほむらの間に差す光が、一層強くなる。
頃合いを見計らって、ほむらは腕の盾を回した。
「それじゃ、今度こそさようならね、みんな。四人仲良く、頑張ってね」
その言葉を最後に。
ほむらは、過去へと旅立った。
その後、その世界がどうなったのか。
それをほむらが知ることは、もう無いのだろう。
―――――
―――
―
時間遡行の光に包まれながら。
ほむらは夢を見た。
『彼女』の夢。
その場に残された『彼女』は、彼女なりに導き出した答えを胸に、行動を起こしていた。
少女を取り巻く、様々なモノの為。
ある時は、不慣れながらも懸命に叫び続けた。
ある時は、憧れた存在、頼れる存在の理解を深めた。
ある時は、自身の背後を省みた。
ある時は、少女の想いの一ピースを、とても、とても暖かい目で眺めつづけた。
そうして『彼女』は、『少女』になる決意を固めた。
少女の助けになる。それが、『彼女』に芽生えたたったひとつの道しるべとなった。
光は強さを増す。
そして、去って行った少女を追う為の力を蓄える。
「待っててね。今、行くから」
今回はここまでです
次の投下が最後になります
―
―――
―――――
―――新しい時間軸、深夜。
ふと、眼が覚めた。
ほむら「……………」
夢を、見ていた気がする。
一人の少女が、荒野を歩き続ける夢。
少女の旅の夢。
残された物、者、モノの夢。
『彼女』の夢。
ほむら(………わたし、は……)
窓からは、ほのかに月明かりが差しこんでいた。
その逆光を浴びて、わたしが被っている布団に影が出来ていた。
QB「やあ」
ほむら「……キュゥべえ……」
わたしの呟く声が、静かな病室に響いた。
キュゥべえが窓際から、ベッドの傍らに置いてある引き出しの上に移動する。
QB「その様子だと、もう『上書き』は完了しているようだね」
ほむら「………」
上書き。
上書き?
何を、言っている?
QB「キミ『達』の想いの強さには、恐れ入ったよ」
ほむら「わたし……『達』……」
何を言っているのか、理解が出来る。
いや、待て、違う。そうじゃない。
そうじゃない?いや、その通りだ。
『理解』は出来ている。ただ、その事実を『受け入れ』てはいない。
QB「混乱しているみたいだね、暁美ほむら」
ほむら「………………っ」
この時間軸では、キュゥべえとは初めて会ったはずだ。
少なくとも、わたしは。
ほむら「わたしは………あなたに会った事が、ある、のね?」
QB「以前のキミの記憶は、受け継いでいないのかい?」
ほむら「以前の、わたしの記憶……」
受け継いでは、いない?
いや。きっと、受け継いでいる。
今見ていた夢が、それなのだろう。
QB「質問に質問で答えるのは失礼だったね。キミの質問に答えるとしよう」
わたしの顔を、相変わらずの無表情で見据えて来る。
QB「確か、今日から四日前だったかな。『キミ』が、いきなり僕にテレパシーを送って来たのさ」
ほむら「…………『わたし』が……」
QB「そう。そして、ぶしつけにいくつか僕に質問をしてきたよ」
ほむら「……質問の内容、は?」
QB「グリーフシードについてとソウルジェムについて、後は魂についてのことだったね」
ほむら「全部、話しなさい」
QB「やれやれ、仕方ないな」
キュゥべえは、流暢に話し始める。
グリーフシードの事。
魔女が落としたグリーフシードは、魔法少女のソウルジェムの穢れを溜めこまなければ、そこから魔女が生まれて来る事はない。
それはつまり、そのまま置いておけばそこらの置物と同じである、ということ。
ソウルジェムの事。
ソウルジェムとは、魔法少女の魂そのものだ。
そして、同じ魂は同じ世界に同じ形で二つと存在する事は出来ないらしい。
それはつまり―――通常ならばありえないが―――、わたしがこの時間軸にやって来る前に既にこの時間軸でわたしが魔法少女となっていた場合、その存在は完全に消え去る、ということ。
わたしの魂、ソウルジェムが、既にこの時間軸に存在している『わたし』の魂、ソウルジェムに『上書き』されるから。
魂の事。
人間の魂と、魔法少女の魂―――ソウルジェム―――は、基本的に別物であるらしい。
そして、魂はより強い魂に押し込められるとのこと。
つまり、今のわたしは、元々この時間軸に存在していた『わたし』の魂を体の奥底に押し込め、その体をソウルジェムを介してわたしが動かしている、ということだ。
ほむら「…………」
QB「理解、出来たかい?」
ほむら「………えぇ」
したくは、なかった。
キュゥべえは時間軸という表現を使っていたが。
わたしも、考えた事はある。
わたしが時間を繰り返した時、前にいた時間軸とは差異が生じていた事が何度かあった。
それはつまり、わたしの時間遡行の魔法は純粋に時を巻き戻しているわけではないということを意味している。
ほむら「………並行、世界……」
気付かないようにしていた。
気付いていないつもりだった。
でも、気付いてしまった。
恐らくは、キュゥべえも気付いているだろう。
QB「まぁ、僕はキミの様子を見に来ただけだ。上書きが完了してどうなっているのか、気になったからね」
ほむら「………………あなたの用は、それだけかしら」
QB「うん、そうだよ」
ほむら「なら、消えなさい」
QB「言われなくても、ね」
引き出しの上から窓際へと飛び乗ると、キュゥべえはその姿を消した。
ほむら(相変わらず、自身に都合の悪い事は言わないのね)
様子を見に来た『だけ』では、ないだろう。
その事実をわたしに突き付け、あわよくばわたしを魔女にしようと画策していたはずだ。
あいつなら、十二分にあり得る。
ほむら(でも、これで全てに納得が行ったわ)
まどかがわたしに会いに来てくれた事も。
上条恭介とわたしが面識があることにも。
既に、わたしがしようとしていた忠告を聞いていた事にも。
ほむら(………)
もしかしたら、その他にもしてくれた事があるかもしれない。
それについては、追々判明していくだろう。
ほむら(でも……あなたは、それでよかったの?)
引き出しの中の手紙に、そう問いかける。
当然、答えが帰ってくるわけはない。
だって、その答えはすでにその手紙に記されているのだから。
ほむら(………)
指輪の形になっているソウルジェムに、視線を落とす。
そこには、少なくとも二人分の想いが込められている。
わたしの想いと、『わたし』の想い。
ほむら(………うん)
これ以上、わたしの奥底にあるこの時間軸……いや、この世界のわたしに、迷惑を掛けるわけにはいかない。
それだけじゃ、ない。
並行世界のわたしに、迷惑を掛けたくない。
だって、世界は違えどそれは間違いなくわたし自身なのだから。
ほむら(大丈夫。わたしは既に、死ぬ覚悟は出来ている)
わたしが……魔法少女のわたしが死ねば……ソウルジェムとなっているわたしの魂が消えれば、人間であるわたしの魂がこの体へ還ってくるはず。
わたしが行くべき場所、逝くべき場所は………。
ほむら(わたしの始点の世界……そこで死んだ、まどかの元へ)
それが、一番正しい形だ。
*
まどか「ほむらちゃん、こんにちは!」
ほむら「いらっしゃい、まどか、さやか」
翌日、約束通りにまどかは再び病院へ来てくれた。
まどかの後ろには、さやかの姿もある。
まどか「片付け、もうほとんど終わっちゃってるんだね」
ほむら「ええ。あとは明日の退院を迎えるだけ」
ひと通りの荷物は鞄にしまい、部屋の隅に置いてある。
出て行こうと思えば今すぐにでも出ていける程だ。
さやか「なーんだ、せっかく手伝ってあげようと思って来たのに」
ほむら「あら、そうだったの。でも、あなたの目的はそれだけではないでしょう?」
さやか「え?いや、えーと……ま、まぁ、うん」
ほむら「ふふ、上条くんのところには行かなくっていいの?」
さやか「なんかさ、恭介、最近すっごい張り切ってるんだよね。邪魔しちゃ悪いかなって思って。今もリハビリの最中だよ」
ほむら「……そう、なの」
それは、多分……。
いや、考えないようにしよう。
まどか「あれ、ほむらちゃん。この引き出しの中、まだ物残ってるよ?」
ほむら「え?あぁ、それは……」
さやか「忘れてたの?なんだかねぇ、第一印象はしっかりしてそうな人だったんだけど」
ほむら「いえ、忘れていたわけではないのよ。眼鏡のケースと、手紙でしょう?」
まどか「うん」
ほむら「その二つは、わたしにとって大切なものだから。いつでも手に取れるようにって置いてあるだけよ」
さやか「大切なもの、ねぇ……?」
わたしの心を見透かすかのようなさやかの視線を、正面から受け止める。
隠し事は、しない方がいい。特に、この子相手には。
さやか「………そっか。まどか、それ、ほむらにとって大切なものみたいだから。そのまま、置いておいたげなよ」
まどか「え?う、うん……」
さやかに諌められるまま、まどかは引き出しを閉めた。
三人で、何気ない話をしながら穏やかに過ごす。
さやか「さて、と。あたし、恭介の様子見に行ってくるわ。棍詰めてリハビリやってたんなら、そろそろ疲れきってる頃だろうし」
ほむら「そう。上条君に、よろしく言っておいて」
壁に掛けられている時計に視線を移す。
まどかとさやかがこの病室に訪れてから、時間にして一時間が経過していた。
さやか「ん、了解。まどかはどうする?」
まどか「わたしはもうちょっとだけほむらちゃんとお話してるよ」
さやか「そかそか。なら、あたしは恭介の様子見て、そのまま帰ってるよ」
ヒラヒラと手を振って、さやかはわたしの病室を後にした。
まどか「さやかちゃん、本当に一途だなぁ」
ほむら「そうね……」
まどか「えっ?」
ほむら「?」
まどかの呟きに、条件反射的に肯定の返事をしてしまったが。
何か、おかしい所があっただろうか?
まどか「ほむらちゃん、さやかちゃんの事知ってるの?」
ほむら「……あぁ。いえ、知っていると言うわけではないけれど。本人の様子を見ていたらわかるわよ」
まどか「そっか……そうだよね」
ほむら「あれで本人は気付かれていないつもりかしら?」
まどか「あはは…どうだろう?」
二人、苦笑いをする。
気付いていないのは、本人と当事者くらいなものだろう。
まどか「………ねぇ、ほむらちゃん?」
ほむら「なに、まどか?」
まどか「ほむらちゃんは……どこにも行かないよね?」
ほむら「……え?」
まどかの問いに、素っ頓狂な返事で返してしまう。
まどか「今日のほむらちゃん、昨日とはまた違った雰囲気だったような気がしたから……」
まどかは俯き、布団をギュッと握っていた。
ほむら「………っ」
どこにも……か。
ほむら「どうして、そう思うの?」
まどか「わたしにも……わかんない。でも、最初にが会いに来た時のほむらちゃんと、昨日のほむらちゃん。
それに今日のほむらちゃん……なんだか、同一人物だとは思えないんだ」
ほむら「……」
まどかの言っている事は、的外れではない。
確かに、わたしは変わってしまった。
この世界で最初にまどかとコンタクトを取ったわたしは、前の世界に元々いたわたしだ。
それに昨日会ったわたしは、中途半端に事情を知っているわたし。
今、ここにいるわたしは……全てを、理解したわたしだ。
どれも、同一人物とは言い難いかもしれない。
ほむら「わたし、変わったように見える?」
まどか「う、うん」
ほむら「………安心して。どこかに行く事は、ないから」
まどか「ほむらちゃん……」
わたしにしか理解出来ない言い回しを使うのは、卑怯かもしれないけど。
ほむら「『わたし』は、いつでもここにいるから。もし、『わたし』に会いたいと思ったなら、いつでも呼んで。
『わたし』は、あなたの呼びかけにいつでも答えるから」
まどか「……それで呼びかけに答えてくれるのは、本当に今ここにいるほむらちゃん?」
ほむら「!」
まどか「そうじゃなきゃ、嫌だよ……?」
まどかは泣きそうな顔で、布団を握る手に更に力が籠るのが見て取れる。
まどか「ほむらちゃん、わたしに言ってくれたよね。『この先何が起ころうとも、自分を変えようなんて思っちゃダメ』って」
ほむら「ええ……そうね」
まどか「そう言ってくれたほむらちゃんが、変わっちゃうのは、寂しいよ……」
ほむら「まどか……」
どうして、あなたはこんなに優しいの?
そう問いかけたいが、喉元で押し留める。
まどか「あ、あれ?わたし、おかしいよね。まだ、会って数日しか経ってないのに。わ、忘れて、ほむらちゃん。わたし、もう、帰るね!」
ほむら「忘れることなんで、出来るわけないわ」
椅子から立ちあがったまどかの腕を掴み、動きを止める。
まどか「ほ、ほむらちゃん……っ」
ほむら「ありがとう。本当に、本当にあなたは優しいわ」
残酷なまでに、と心の中で付け足す。
グイと引っ張り、まどかの体を引き寄せる。
態勢を崩し、ベッドの上に倒れ込んで来るまどかの体を受け止め、そのまま抱きしめた。
まどか「どっ、どうしたの?ほむらちゃんっ?」
ほむら「っ……わかった。まどかの言うとおり、わたしも、自分を変えようと思うのはやめることにする」
それがあなたと、『彼女』の願いなら。
わたしはそれを、受け入れるだけだ。
ほむら「もう一度、約束して、まどか?」
まどか「―――うん。何?」
ほむら「絶対に、変わろうって思っちゃ、ダメだから。わたしも、同じ約束、するから」
抱きしめていたまどかを解放して、右手の小指を差しだす。
まどか「わかった。約束、だね。ほむらちゃん」
まどかも自身の右手の小指を差しだしてくる。
そうしてわたし達は、お互いの小指を絡めて、硬い、硬い約束を交わした。
―――ねぇ、ほむら―――
―――あなたが最後、何を思っていたのかは、わたしに知る術はないけれど―――
―――あなたの想いは、わたしが確かに受け止めたから―――
―――この世界で、わたしの旅は終わりにするから―――
―――光をもたらしてくれて、ありがとう―――
―――絶対に、無駄にはしないからね―――
【いつかの『わたし』へ
直接顔を合わせることは出来ないだろうから、こういう形を取ることにしました。
なぜ、わたしがこうしていられるのかなど、細かいことはあえて記さないでおきます。
全てを知ると、きっと『わたし』は『わたし』を責めると思うから。
なので、極力必要なことだけを記しておきます。
わたしは、『わたし』の役に立つ為にいくつかの行動を起こしました。
きっと、わたしが起こした行動が『わたし』を助けてくれると思います。
『わたし』が何故そんなことをしているのか、わたしなりに答えを見つけました。
とってもいい子でした。『わたし』の気持ち、それを成し遂げてほしい。
頑張ってください。わたしは、わたしだけでも、『わたし』を応援させてもらいます。
わたしの事は気にしないでください。これが、わたしの望んだ事なので。
頑張ってね、『暁美ほむら』。
暁美ほむら】
これで投下終了です。
お気づきの方もいると思いますが、作中に出て来た風船の魔女、マネキンの魔女、兎の魔女はそれぞれ美国織莉子、呉キリカ、千歳ゆまが元となっています。
最後にこの三体の魔女の設定を投下していきます。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
Danne ダンネ
風船の魔女、その性質は空転
中身の存在しない、文字通り空っぽの魔女。
自我と言うモノが無い為、自ら行動を起こすことは無い。
例外があるとするならば、自身と同じ「空っぽ」な存在を引き寄せる程度だろう。
Kristail クリスタル
風船の魔女の手下、その役割はお供
魔女の周囲に浮かぶだけの存在。
魔女本体と同じく、自我は存在しない。
魔女が行動を起こそうとした場合、使い魔は魔女を助ける為に動くだけだろう。
風船の魔女のグリーフシード
上部には二つの白いリボンが垂れ下がっている
本体部分には、薔薇の花が二つとその周囲に花びらがあしらわれた模様
Margot マーゴット
庭師の魔女、その性質は不可避
何かを探し続けている魔女。
自身の結界に何者かが迷い込んだ場合にも、ひとかけらの興味も示さない。
例外があるとするならば、自身を必要としてくれるモノには献身的なまでに尽くしてくれるだろう。
Made メイド
マネキンの魔女の手下、その役割は献身
魔女に全てを尽くす使い魔。
魔女の敵には全力で攻撃を仕掛け、魔女が何かを探している場合には一生懸命に捜索する。
その為ならば、敵前逃走だろうと卑怯な事だろうと躊躇わずにやるだろう。
マネキンの魔女のグリーフシード
上部にはシルクハットのエンブレム
本体部分には六本の鉤爪が三本ずつクロスした模様
Myu ミウ
兎の魔女、その性質は寂寥
広い広い平原のような結界の中心にポツンと存在している魔女。
自身を満たしてくれるモノなど何も無く、泣き声すらもあげずにその場に留まり続けている。
何かを与えようとしてあげれば、この魔女はその瞬間に満足して消滅していくだろう。
兎の魔女のグリーフシード
上部には黄色い球状の物が付いている
本体部分には兎の耳をあしらったような模様
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言うまでもなく、マーゴットの名前以外は>>1のオリジナルです。
ここまで、お付き合いありがとうございました。
それでは
おまけとして、前時間軸でのとある出来事、新しい時間軸でのとある出来事を少しだけ書きましたので投下します。
「…………」
彼女は、今正に絶望していた。
彼女の目指す世界、そこに手が届く事がなくなってしまったから。
「……―――?どうしたんだ、そんなに暗い顔をして」
彼女の指示に従い行動している少女が、彼女の顔色が悪い事を察して心配そうに声を掛ける。
「……―――。いえ、なんでもないの」
そんな少女に極力心配を掛けないよう、彼女は意識して明るい顔を作った。
「そう?それならいいんだけれど」
「………えぇ」
「それで?最近、わたしに指示をくれないけれど。わたしは、何をしたらいいんだい?」
「………………」
少女の問い掛けに、彼女は閉口する。
何をしたらいいのか。
それを見失った彼女は、少女の問い掛けの答えを見出す事が出来なかった。
「そう……ね。それなら、新しい仕事よ、―――」
自分が絶望に飲み込まれる姿を、少女にだけは見せたくなかった。
故に、彼女は少女に対して残酷な優しさを与えることにした。
―――――
―――
―
「………ごめんなさい、―――」
一人となった彼女は、この場にはいない少女に小さい声で謝る。
日は落ち、辺りは夜の闇に包まれていた。
そんな中、彼女は庭に設けられたテラスの椅子に腰かけていた。
「わたしは、もう、限……界……だからっ……」
途切れ途切れの言葉と共に、テーブルにコロンとあるものを転がした。
ソウルジェム。
本来の白さは最早見る影も無い程に、黒く、黒く染まっていた。
「あなただけでも……生きて、―――……わたしがいなくても、あなたなら、大丈、夫……だって、信じて……いるからっ……」
弱々しく独り言を呟きながら、彼女は最期に魔法を行使した。
あわよくばそこに、彼女の求める光景があることを願って。
『あ、ああ、ああぁぁ………アアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!!!!』
「っっ………!!」
その光景が、彼女へのトドメとなった。
視えた光景。
彼女が回避しようとしていた魔女の、出現の瞬間だった。
「わ、わたし、は……何も、成せなくって………」
「嫌、嫌ぁ……助けて、助けてよ―――!!」
「もう、逃げ道なんてどこにもなくって、それでもあなたはわたしの側にいてくれて!!」
「あなたとの世界を、守りたくって……守りたくって!!」
織莉子「……リカ……キリカ……守れなくて………ごめんね……」
ひと筋の涙と共に。
彼女の魂に、ピシリと亀裂が入る。
そうして、彼女の世界は闇に閉ざされた。
*
「やれやれ、ただいま」
彼女から与えられた仕事を終えた少女は、彼女の家へと帰ってきた。
時間にして、一週間弱。
その間彼女と離れ離れだった少女は、彼女の顔を見ることを何より楽しみにしていた。
「―――?あれ、いないの?」
家へ入り、彼女の姿を求めて中をひと通り歩きまわる。
しかし、彼女の姿はどこにもなかった。
「どこかへ行ってるのかな。まぁ、わたしが今日帰ってくるって―――は知らないだろうし、どこかへ行っていても不思議じゃないか」
然したる疑問も持たず、少女は彼女の帰りを待つ事にした。
~~~
少女が帰って来てから、一日が経過した。
彼女は、姿を見せなかった。
~~~
少女が帰って来てから、三日が経過した。
彼女は、帰って来なかった。
~~~
少女が帰って来てから、一週間が経過した。
彼女は、姿を消したままだった。
~~~
「……なんで、帰ってこないの……―――」
長い間、少女は待ち続けていた。
しかし、彼女は帰ってこない。
「………いっそ、わたしの方から探しに……」
いや、でも、と少女は思いとどまる。
もし自分が彼女を探しに家を出ている間に彼女が家に帰ってきたら。
そう思うと、家を留守にするのも気が引けた。
「……そっか、わたし一人だからダメなんだ」
つまり、自分の他にも手があればいい。
「はは、簡単な事じゃないか」
一週間の間、丸々放置していたソウルジェムに視線を落とした。
穢れが溜まって、程良くどす黒くなっていた。
キリカ「待ってて、織莉子。すぐに、見つけ出すから」
少女はその言葉を最期に、安らかな絶望を迎え入れた。
*
ほむら「………うん」
カレンダーの日付を、確認する。
明日。
それが、『わたし』がやってくる日だ。
ほむら「やれるだけの事は、やったよね」
この三日間の自身の行動を、思い返していた。
期間は短かったけど、その間にわたしが思い描いた事は、成し遂げる事が出来たって思う。
ほむら(そう言えば……)
ふと、この世界に来たばかりの事を思い出した。
わたしの手の中に握られていたモノ。
わたし自身のソウルジェムと、二つのグリーフシード。
風船姿の魔女の物と、マネキンみたいな魔女の物の二つ。
ほむら(キュゥべえに確認した限りでは、ソウルジェムの穢れを吸わせなければ魔女が孵化することはないって話だったよね)
だから、町外れの家の前に二つとも置いて来ちゃったけど……今頃、どうなってるだろう。
願わくは、あの魔女たちが求めた人たちの手の中に行っていてくれてるといいな。
ほむら「………」
壁の時計を見やる。
短針が、12の数字をまたぐ瞬間だ。
ほむら「あと、何時間しかないんだ……」
それが、わたしが存在していられる時間。
ほむら「……そうだ」
わたしが確かに存在した証、何も残せていないや。
……どうしよう。
ほむら「……『わたし』、多分戸惑うよね」
ひょっとしたら、イレギュラーな時間軸だって切り捨てるかもしれない。
ほむら「…………手紙、書き残しておこう、かな」
必要なことだけを、書いておけばいいよね。
『わたし』と……一度でいいから、顔、合わせてみたかったかな。
ほむら(………よし、出来た)
確か、わたしは眼鏡は掛けてなかったんだよね。
なら、目覚めた時に眼鏡を外すはず。
そして、外した眼鏡はケースの中にしまうよね。
ほむら(なら、ケースと一緒に置いておけば……見つけてくれるかな)
ベッドの傍らの引き出しを開け、そこに丁寧に折り畳んだ手紙を置く。
これで、本当に終わりだ。
ほむら(上書き……されるんだよね、わたしは)
多分、そうなったらわたしは残らない。
でも、それでいいんだ。
わたしが、決めた事だから。
ほむら(最期の瞬間には……立ち合わない方が、いいかな)
布団に横になり、目を瞑る。
そうして、眠気に身を委ねた。
―――――
―――
―
夢を、見ているみたいだ。
小さなひとつの光に繋がれた、細い、細い光の糸。
それはどこか儚げで、しかし一定以上の存在感を放ちながら、ゆらゆらと闇の先に繋がってるみたい。
夢だっていうのは、わかってる。
でも、その光の糸を手繰り寄せたら、わたしはどうなるんだろう。
そんな好奇心が、沸々と湧いて来る。
小さなひとつの光は、わたし自身か。
なら、それに繋がれた、細い、細い糸の正体は。
………考えたら、すぐにわかる事だった。
夢であっても。
そう理解したら、手繰り寄せずにはいられなかった。
―――ホント、どうしてそんなに優しいのかな、あなたは―――
―――えへへ、ごめんね。ほむらちゃんの覚悟、無駄にしちゃったかな―――
―――そうだね。まどかに、無駄にされちゃった―――
―――あう……酷いよ、ほむらちゃん―――
―――ふふふ、なんてね。冗談だよ、まどか―――
―――どう?『ほむらちゃん』の手助け、ちゃんと出来た?―――
―――どうだろう。わかんない、かな。やれるだけの事は、やったつもりだけれど―――
―――そっか。お疲れ様、ほむらちゃん―――
―――余計なことまで、書いちゃったかもしれないけど。でも、『わたし』は強いから。ほんのちょっとわたしが力になってあげられたなら、『わたし』ならきっと明るい未来を掴めると思うかな―――
―――『ほむらちゃん』にとっての明るい未来と、あなたにとっての明るい未来は、一緒なのかな?―――
―――うーん、ちょっと違うと思う。わたしはあくまで、『わたし』の想いを成し遂げて欲しいって思っただけだから―――
―――うぅ、そう言われるとわたしが落ち込むよ―――
―――大丈夫。わたしも、わたしが元いた世界の事、気にかかってたし。そういう意味では、まどかに感謝、かな?―――
―――わたしがほむらちゃんを迎えに来たのは、わたしのワガママってだけだよ―――
―――それでも、感謝。ありがと、まどか―――
―――どういたしまして―――
―――魔法少女になっちゃった以上、長生きは、出来ないかもしれないけど。それでも、ずっと一緒にいようね、まどか―――
―――うんっ!―――
次に気が付いた時、ほむらは見覚えのある一室に座っていた。
巴マミの自宅、その居間だ。
見渡すと、そこにはほむらにとっても見慣れた少女たちが揃っていた。
杏子「まどかの言ってた通り、帰ってきたな」
さやか「お帰り、ほむら」
マミ「一か月前の行動に、お疲れ様を言わせてもらうわ」
ほむら「みんな……」
ふと、自身の手が握られている事に気が付いた。
まどか「よかった……うまくいって」
ほむら「まどかまで……」
まどか「お帰りなさい、別人みたいなほむらちゃん!」
ほむら「……うん!ただいま!」
終わり
以上にて、本当に投下終了です。
おりキリについてほとんど触れていなかったから、ちょっとだけ思いついて書きました。
終わる終わる詐欺になってしまったような気がしますが、許してください。
それでは、またどこかのSSスレで。
このSSまとめへのコメント
ややこしくなるから難しいテーマではあるが、
遡行後の残された世界(巻き戻しでなく並行世界だとして)がどうなってしまうのか気になっていたので、救いのある形で描いてくれて良かった