タイトル通りPSYREN×fateのssです。
聖杯戦争のアーチャークラスで召喚された夜科アゲハという形で進めていきたいと思っています。
なのでベースはfate
feteを知っていれば話についてこれると思いますが、アゲハの願いや能力について分かりにくいところがあるかもしれないです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1337913796(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
――遠坂邸
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ。
降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
「告げる――」
「――告げる。汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ――」
「――誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者――」
「――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――」
凛「よしっ! 完璧に引き当てた。最強のサーヴァントを……って、あれ?」
凛(おかしいわね。確かに手ごたえはあったのにドコにもいないなんて)
召喚には成功したはずが部屋にサーヴァントの姿はない。
霊体化している様子もないしと凛が思案していると、下の階から大きな音が鳴り響き、振動が屋敷全体を揺らす。
――ガチャリ。
階段を駆け下り、急ぎ音のしたと思われる部屋のドアに手をかける。
するとそこには、15、16といったところだろう少年が頭をさすっていた。
?「痛ててて、なんだいきなり?」
凛(何? もしかしてコイツが私のサーヴァントなの? どうみても只の高校生にしか見えない……でも一般人が侵入出来る訳ないし)
?「なあ、ちょっといいか?」
凛「なに!?」
?「いや、とりあえず今は西暦何年だ?」
凛「西暦? サーヴァントのあんたが何でそんなもん気にすんのよ。それに、そういう根本的な知識は聖杯から付与されてるんじゃなかったかしら?」
?「さーばんと? よく分からないけど、俺にとって大事なことなんだ。教えてくれ」
凛(こいつ私をからかってるのかしら?)「……2002年2月よ」
?(2002年……俺がいた時代より7年も前だ。どういうことだ? テレホンカードの力は使い切ったはず、それに過去にとばされるなんて……07号に何らかの思惑があったのか……それとも)
凛「満足したかしら。じゃあ次はこっちから質問良い?」
?「あ、ああ」
凛「まず、あんたは私のサーヴァントであってるのよね? パスは繋がってるし、令呪だってあるんだから」
?「??」
凛「……さっきから私のこと馬鹿にしてる? あんたは何のサーヴァントかって聞いてんのだけど? 見たところセイバーではなそうね、も、ももしかしてキャスターやアサシンじゃないわよね?」
?「あああああ! だからさっきからサーバントだの聖杯戦争だの何の話してんだよ! こっちだっていきなりこんな所に連れてこられて状況がわかんねぇつーの!」
凛「はぁぁぁ!? あんたサーヴァントでしょ? いい加減ふざけるのやめなさいよ! そりゃ、ちょっと召喚に失敗しちゃったのは謝るけど、そこまで陰湿なの!? やだやだ、英霊ってのは偉そうなだけじゃなくて、ここまで姑息なんて考えもしなかったわ」
?「だ・か・ら・最初からいってんだろ! サーバントなんて――」
話はいつまでたっても平行線のままで先程から全く進まない。
マスターにとってこんな序盤から令呪を使ってしまうことはなんとしても避けるべきなのだが、沸騰した脳では冷静な判断をできるわけもなく、半ばヤケクソ気味に令呪をもって命ずる。
凛「―-令呪によって命ずる、あんたは私の言うことに絶対服従!」
?「なっ?」
凛「まったく、こんな下らないことに令呪を使わなきゃいけないなんてね……まぁ、良いわ。これで少しは話も通じるだろうし」
凛「さて、私にあなたが何のクラスか教えてもらおうかしら?」
?「だから、そのクラスとか何とか知らねーんだって。何回も言ってるだろう?」
凛「え?」
凛(おかしいわ。令呪を使ったんだから命令には従うはず……だけどクラス名も言わない……も、もしかして!)
1 パスの繋がりは感じる。間違いなくこの男は凛のサーヴァントである。
2 令呪は機能している。したがって基本的に逆らうことは出来ない。
3 つまり、この男の話してる内容は真実であり、クラスすら分からないサーヴァントである。
4 以上より遠坂凛の引いたサーヴァントは開始早々問題を持っていることになる。
凛(な、なんてこと……まさか私がこんなハズレ物を引くなんて、ううん。諦めちゃ駄目よ遠坂凛。存在が分からなくても強いかも……)
?「どうしたんだよ? 急に黙り込んで、オレも聞きたいことがあるんだが良いか?」
凛「はぁ~良いわよ。あんたがイレギュラーな存在ってのは身に染みて分かったから何でも聞きなさい」
男の質問に凛が答える。その内容は一般人のそれと変わらない程で呆れてしまうようなものだった。
しかし、この男の真剣な態度に嘘をいっている様子はない。
馬鹿馬鹿しいと思いながらも凛は、魔術のこと、聖杯戦争、サーヴァント、その他もろもろものことをかいつまんで説明する。
一通り話終えると、次は凛のターンである。
この謎のサーヴァントの素性を少しでも知りたく、質問するのだが聞けば聞くほど不思議なサーヴァントであった。
凛「なるほどね。つまりあんたは、もともと2009年にいたと。そして最後は死んだか死んでないかわからないけど、死んでもおかしくない状態だった。そして英霊と呼ばれる覚えも無くはないわけね」
?「ああ、そうだ。英霊なんて呼ばれる身分じゃねーと思うが、確かに世界を救ったって言えば救ったと言えるかもな」
凛「……まだ、完璧に納得したわけはないけど、とりあえず良しとしましょう、えーっと……」
?「そういえば、まだ自己紹介してなかったな。俺の名前は――アゲハ。夜科アゲハだ」
アゲハ「これから、よろしくな遠坂」
マスター 遠坂 凛
真名 夜科 アゲハ
クラス アーチャー
性質 混沌・中庸
筋力D 敏捷C 耐久D 魔翌力A 幸運C 宝具?
クラス別スキル
対魔翌力D 単独行動B
保有スキル
ライズ B 魔翌力により脳の付加を外し身体能力をあげる。それほどの魔翌力消費もなく燃費は良い。実質ライズ使用状態のステータスが通常のステータスと考えて構わない。
暴王の月 A+ 特殊な才能の持ち主のみ可能なスキル。魔翌力を感知して破壊する基本プログラムに様々な改造をほどこすことで活用する。
その柔軟性、応用性は抜群であるが、使用者のセンスや技量に大きく左右される。
制御が難しい能力だがA+なら完全に制御し、真の力を発揮することも可能である。
星空の瞬き B 絶望的な状況、困難な状況に陥れば陥るほど潜在的な能力を
開花させる。反面、普通の状況下では能力を発揮しにくい。
以上となります。
まだしっかりと話を考えてる訳でもないので見切り発車ですがスタートします。
今回はこれにて。
期待
アゲハがバーサーカーの妄想ならしたことあるな
PSYREN好きだけどFate見たことないんだが
これは両方知ってないと読めない感じですか?
アゲハ「うっし、掃除完了」
アゲハ(自分の召喚の不手際のクセに掃除をやらせるなんて、姉貴に似てんな遠坂は)
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凛『じゃあ、アーチャーはここの掃除お願いね』
アゲハ『え? なんでオレ? 遠坂、自分の責任何だから自分で掃除すれば良いだろ』
凛『あら、私の言うことに逆らって大丈夫? マスターの言うことには従っていた方が良いと思うけどな~』
アゲハ『だから、オレはやらねぇって――!?』
明らかなマスターへの反発。
その意思を示そうとした途端にアゲハは自分の体が重くなるのを感じる。
手足が鉛の様に……という程ではないが、水の中で動いている様な何とも言えない感覚が体中を支配する。
凛『どう? まだ反抗する気は残ってるかしら』
アゲハ『……遠坂。お前、オレになにしやがった?』
凛『だから令呪だってば。さっき説明してあげたでしょ? マスターはサーヴァントに対して絶対服従の3回の命令権を持ってるの。抽象的な命令だったけど、どうやら多少の制約はあるみたいね』
じゃあ、お掃除よろしくねアーチャー。
そう言い残して、凛は部屋から去って行った。
アゲハ『おーけぇー、地獄に落ちろ遠坂』
凛「感心、感心。綺麗なったじゃないアーチャー」
アゲハ「まあな。掃除や洗濯は姉貴に嫌ってほどやらされてるから、大したことねぇよ」
凛「……あんたにお姉さんね、見るからにわんぱく小僧で1人っ子って感じだけど」
アゲハ「別に間違いじゃないさ、実際は1人っ子みたいなもんだ。ありゃ実の弟にやる事じゃねぇ、母親みたいに口煩さいし」
凛「ふーん、仲良さそうね……」
アゲハ「は!? 話聞いてたのか遠坂。姉貴はな、ちょっと門限遅れただけなのにロープとかロープとか長い棒とか……」
思い出したくないトラウマでも思いだしたのか、アゲハはブツブツと何かを呟きながら部屋の隅の方でいじけてしまっている。
凛(さて、綺礼によるとサーヴァントはまだ全部揃っていないみたいだし、戦闘もまだ起らないでしょう。それに戦争が始まってすぐ学校休むなんて、自分がマスターですって言ってるようなもんだもんね)
凛「じゃ、アーチャー。学校に行くから付いてきなさい」
アゲハ「学校? 戦争中なんだろ? 良いのかよ学校なんか行って」
凛「あのね。戦争が始まった途端、学校に来なくなった奴がいたらあなたはどう思うの?」
アゲハ「風邪でもひいた?」
凛「馬鹿。フツー真っ先にマスターだって疑われるでしょ!? ただでさえ遠坂の人間なんだから誰よりも注意を向けられるつーの」
アゲハ「ふ~ん、そんなもんか。で、オレはどうすんだ? 流石に学校の人間じゃない奴がいたら一発でバレるだろ?」
凛「誰がそのまま付いて来いなんて言ってんのよ。霊体化すれば良いじゃない」
アゲハ「レイタイカ? どうやってやんだソレ?」
凛「霊体化なんて魔力供給カットすれば出来るじゃない。イレギュラーなサーヴァントでも霊体化は大丈夫よね?」
アゲハ「……出来ん、全く出来ねー」
凛「は!? ちょ、ちょっと待ってよ。霊体化なんて何でもないことなのよ? 何で出来ないのよ!?」
アゲハ「分からん。遠坂は召喚乱暴だったしからソレじゃないのか?」
凛(な、な、な、何ですってええええええーーーー!!!!)
まさか、私のせいなの? 凛は自分のうっかりスキルもここまでくると本当に呪いだなと悲しくなる。
しかし、出来ないものは出来ないでしょうがない。
遠坂凛は出来ないものに、いつまでも固執してしまう程愚かな人間ではない。
ならば別の策を考えれば良い。ただそれだけのことだ。
凛(いっそのこと待機してもらう? 駄目ね。襲われたら大変だし、既に一画令呪を失ってるんだから呼び出すことなんかに使いたくないわ)
ならば、やはり学校にまで付いて来てもらうしかないだろう。
凛(あたかも生徒の様にふるまってもらう? 幸いアーチャーはどっからどうみても頭の悪い高校生にしか見えないし……でも、それは他のマスターに自分の存在をバラすことになる。セイバーやランサーならまだしまアーチャーじゃ正面勝負は分が悪いわ)
そうなると、残された手段は1つしかなくなる。
凛「アーチャー」
凛「あんた、こっそり私について来て学校の屋上に待機してなさい」
アゲハ「えーつまんねえええー!!! 屋上で待機とか死んでもやりたくねえって。別に見たって誰も気にしないだろオレのことなんて」
凛「あんたの頭は飾りなの? サーヴァント同士は互いに気配で分かるから注意しろって言わなかったかしら? 言ったわよねえ!?」
アゲハ「あー……言ってたなそんなこと、忘れてたわ」
ブチ。何かが切れる音がして、凛は笑顔のままアゲハに指を突きつける。
アゲハ「どうした遠坂? 性格はともかく良いとこのお嬢様が人に指差しちゃいけないだろ? そんなことも教えてもらってないのか?」
凛「ガンド」
放たれる漆黒の魔力弾をかろうじでかわす。
――おい遠坂! アゲハは声をかけようとするも、凛のガンド打ちの前に阻まれる。
勢いを増し降り注ぐ弾の前にはなすすべもなく、アゲハはひたすら避け続けることしかできない。
いや、本当はアゲハの能力の前ではこの程度の攻撃なぞ意味をなさないのだが、彼の力は少々危険過ぎる。
そんなものをマスターに使う訳にもいかない。
凛「はぁはぁ、なんで避けんのよ! 当たんないじゃない!」
アゲハ「ちょ、お前。そりゃいくらなんでも理不尽すぎんだろ! 誰だって身の危険を感じたら避けるよな? フツー」
凛「ちっ。頭の方は動物並みでも本能だけは働くようね。とにかく姿がばれるようなことは厳禁! 分かったの?」
アゲハ「へい、へーい。ったく分かった。大人しく待機してりゃ良いんだろ」
凛「よろしい、じゃあ掃除よろしくね。私が帰ってくるまでに綺麗にしておくのよ」
凛は左手に右ひじを乗せ、天に向けて指を指す。
このポーズは比較的機嫌が良いとき、または今回の様に思い通りことが進んだときい凛が行うものだ。
出会ったばかりのアゲハも、たびたび目撃しておりもう覚えてしまった。
アゲハ(人に掃除押し付けて上機嫌なんて悪魔みたいな奴だ)
悪態をつきながらも、もはや慣れた様子で掃除を始める。
令呪には逆らえないのもあるが、無かったっとしてもアゲハは凛の言葉に従うだろう。
それが長年の生活で染みついてしまった夜科アゲハの悲しい性なのである。
今夜は以上!
序盤は展開も簡単で投下スピードも速いよ思うけど、だんだん遅くなってくるかも……。
>>23
個人的にアゲハは、アーチャー、キャスター、バーサカーの適正があるかなーなんて考えたり。
>>24
分からなくても大丈夫かな?
そこまで詳しく掘り下げるつもりもないし聖杯戦争がなんなのか分かっていてくれていればOKです。
思ったよりもPSYREN好きな人がいてくれて良かった。
そこで質問というか提案なんだけど、良く投下あとの作者コメントをキャラにやらせるのあるじゃん?
あれって嫌いな人多いかな?
大丈夫そうならやってみよう……とか考えてるんだな。
別に好きにしろよ!って感じかもしれないが、 一応あまりに嫌いな人多くて空気悪くなるのもいやだからさ。
アゲハ「遠坂には悪いが、オレもやらなきゃいけないことがあるからな」
過去何度も時空を飛び越えたが、過去に戻ることなど初めての経験。
しかも、魔術や聖杯戦争などと聞きなれぬ言葉を耳にしてアゲハはこの世界がはたして、本当に同一世界なのか疑問に思う。
答えを探すため、アゲハは自宅待機の命を破り、近くの図書館に訪れていた。
アゲハ「えーっと、誰が良いんだ? 朧もまだ有名人じゃないだろうし、やっぱバァさんかな」
もし、同じ世界なら同一人物が確実に存在するはずだろうとアゲハは考える。
そこで、世界的に影響力のある大富豪。天樹院エルモアなら多くの情報が得られると思い、わざわざ図書館にまでPCを使用しにきた。
アゲハ「ったく、遠坂もあれだけの豪邸に住んでるならパソコン位買えってんだ……っと、これか」
エルモアの名前を見つけ、アゲハはそこをクリックする。
天樹院エルモア
占い師
夫の天樹院古比流と共に世界各地で占いを行っている。
その占いは100%当たり、あらゆる者に進むべき正しい道を授ける。
その力から占いではなく予知とも呼ばれる、本物の霊能力者であるとされる。
現在は占いはしておらず、ひっそりと世界各地の恵まれぬ子供たちを引き取り育てている。
アゲハ「そーくるか」
アゲハ(この文章からだと、カイルやシャオ達も存在している可能性が高い。完璧とは言えなーが、この世界は7年前の世界だろーな)
アゲハ「うーむ。これからどうすっか……」
一応の収穫はあった。
この世界は多分、同一の世界である。
しかし、だからといってこの世界でやらねばいけないこともない。
ここではサイレンの噂も、テレホンカードも当分先のことだろうから。
それよりも、重要視しなくてはいけないことがある。
アゲハ「願いねぇ……」
アゲハ(遠坂はどんな願いでも叶えることが出来ると言ってたけど、本当なのか? そんなな都合の良いものが……)
――ただ、もしも。
もしも、本当に聖杯なんてものがあるのだとたら。
夜科アゲハには叶えなくてはならない望みがある。
何とかして、救いたかった。
自分の全てをなげうってでも、世界を変えたかった。
でも、それは叶わぬ願いとなる。
アゲハにはアイツらがどうなったのかさえわからない。
これが夜科アゲハの戦う理由、聖杯を求める理由。
だから、聖杯が存在したその時は――
アゲハ「負けらんねぇ、相手が誰だろうが。必ず聖杯を手に入れてやる」
夜科アゲハが聖杯戦争に参加の意を固めたのは、いまこの時からであった。
今日はすごく短いのですが、これで終了です。
アゲハがどうして聖杯戦争に参加するのか、あまりにもpsyren世界の内容しか書いてないのでこれだけ独立させました。
続きはすぐに投下予定ですので、しばしお待ちを。
作者コメントの件は少し温めてみよとおもいます。
やはり、スレの空気に合わないと寒くなるだけですので……
ただ次回作の構想は遊坂葵が主役となるものを作ろうと思っているので、口調の練習の意味で使うかもしれません。
では、また。
俺もPSYRENのIFかクロスでss書いてみたいな
本編で描かれなかった億号・大河のその後や朧の一人旅とか補完でもいい
凛「ただいま~。アーチャーいる?」
アゲハ「なんだ、遠坂」
凛「あ、良かったいたんだ。アーチャーのことだからブラブラしてるのかと思ったわ」
アゲハ「遠坂が待機してろと言ったんだぜ。サーヴァントとして従うのは当たり前だろ?」
凛「うっ……そりゃそうだけど、あんたが素直だと逆に不気味だわ、なにか心境に変化でも?」
アゲハ「別に変化って程じゃねーよ。ただオレにも聖杯戦争に参加するだけの理由ができただけかな」
凛「ふ~ん。ま、やる気になってくれたならソレに越したことはないわね」
アゲハ「ところで、遠坂。今日学校はどうだったんだ?」
話を終えて席から立ち上がろうと、テーブルに手をかける凛に問う。
凛からのアプローチがないのだから、別段問題は起こってないはず。
そう思って、単なる世間話にとでも思ったのだが――
凛「うん。それについてはちょっと困ったことになってるのよ。簡単に話せることじゃないから後で良い? それまでに私もやらなきゃいけないことがあるから」
アゲハ「何か起きたのか。分かった、オレに何かやることあるか?」
凛「そうねえ、あっ! そうだ、アーチャーは料理出来る」
アゲハ「料理? 出来なくはないと思うけど、期待されるほどのものじゃない」
凛「うん。じゃ、お願いね。準備が出来たら呼びに来て、そんときにでも話すから」
カチャ、カチャ食器同士がふれて音がなる。
早くから母を亡くし、姉に育ててもらったアゲハは必然的に自分で食事を用意していた。
といっても、そんな凝った料理をするわけでもないし、そもそも出来合いの物で済ませることも多かったため、誇れる腕ではない。
しかし、凛の顔を見る限りどうやら及第点には至ったようである。
アゲハ「――結界?」
凛「そう。結界。どこの誰かは知らないけど、やってくれたわね。この私がいる所にあれだけの結界を準備して隠す気もないんだから」
凛はあからさまに不機嫌そうである。
管理者として、自分が毎日通っている学校に結界を準備されるなんて、相手は相当の馬鹿かそれとも私に喧嘩をうっているのかどちらかだろう。
アゲハ「そうか。で、その結界はどんなものなんだよ? 結界って言っても色々あるだろ?」
凛「……想像する限り最低最悪の結界よあれは――」
凛「――あれは一たび発動したら、その範囲内の抵抗力のない人間を文字通り融解させるものよ」
アゲハ(は? ……融解? 溶かしちまうってことか? 人間を?)
アゲハ「……なんでンなもんが。 聖杯戦争ってのは魔術師達だけで秘密裏に行われてるものじゃなかったのかよ!?」
凛「基本的には。でもね、アーチャー。こんな狭い町で7人の魔術師と7人のサーヴァントが戦うのよ? 犠牲は必ず存在するわ。まあ、それにしても今回はシャレになんないレベルだけど」
淡々とした抑揚のない凛の喋り方に、アゲハは引っかかるものを感じる。
こんな馬鹿みたいな結界が用意されて冷静でいられるものなのか、それが魔術師ってものなのだろうか。
凛の胸中を計りかねて、ついアゲハの口から嫌味を込めたセリフが零れる。
アゲハ「随分、冷静なんだな。遠坂。それも魔術師的思考って奴か?」
凛「そうね。ギャーギャー騒いだからって結界は解除される? いま、大事なのは冷静に問題を見据えて、一刻も早くこの問題を解決する。そうでしょ?」
アゲハ「……そうだな。悪かった遠坂、変な事言っちまって」
凛「別に謝る必要なんかないわ。それで、アーチャー早速だけど明日から学校まで護衛お願いね。授業中はあまり身動きとれないだろうから、アーチャーには周囲に気を張ってもらって、放課後から捜査開始するわよ」
アゲハ「ああ、良いぜ。誰だか知らねーが、関係の無い人間を巻き込むなんてタダじゃおかねー。必ず見つけ出してぶっ潰す」
――PM 6:00 学校の屋上――
アゲハ「どうだ、遠坂」
凛「……参ったわ。これじゃあ私に出来ることなんてないじゃない」
昨日の話通り、凛とアゲハは学校の結界について調べていた。
放課後になり生徒は部活動を行っていた僅かな生徒を残して、帰宅している。
校舎内に残っている人間はおらず、アゲハが生徒と遭遇する確率も低いと見てうごきだしたのだが。
アゲハ「まさか、もう手遅れとか言うんじゃないだろうな?」
凛「そんなに切羽詰まってる訳じゃないわ、まだ結界の発動には猶予があるし。でも折角こうして結界の拠点を見つけた所で私には手の出しようがないのよ」
アゲハ「遠坂が手を出せないってことは、それだけ優秀なマスター……違う。サーヴァントか」
凛「あら、珍しい。私も同じこと思ってたのよ。参考までにそう考えた経緯を聞かせて欲しいわね」
アゲハ「だって、一応遠坂は優秀な魔術師なんだろ? それを上回る魔術師の存在は中々いないだろ。いや、いるかもしんねーが確率は低い。さらにそれだけ優秀な魔術師だったらわざわざ遠坂のいる学校に設置なんかしない。それより適当なビルとか公園とかいくらでも適してる所はある。だったら話は簡単だ」
――サーヴァントの仕業だとするのが確率が高い。
凛は驚く。まさかここまでロジカルな思考をするなんて。
普段の態度からぶっきらぼうで只の馬鹿な高校生にしか見えなかったはずなのに。
凛(こいつ、やっぱり英霊になるだけのことはあるのね)
アゲハ「それよりどーすんだ、遠坂。施しようがないなら黒幕を潰す以外道はないよな」
凛「うん。だけどその前に――」
凛はその場にしゃがみ込み右手をかざして何かを唱える。
アゲハ「遠坂、いまのは?」
凛「破ることは出来なくても、邪魔ならで出来る。焼け石に水かもしれないけど、これで発動までの時間は稼げたわ」
アゲハ「すげーじゃねーか、遠坂! やっぱお前は優秀な魔術師だったんだな。いやー見直したぜ!」
凛「ふ、ふん。そんなことは良いから、さっさと行くわよアーチャー。今日中に出来るだけ邪魔しときたいんだから」
アゲハ「へいへい、分かったよマスター。マスターにばっか良いとこ見せられて、オレも黙ってる訳にはいかないからな」
凛(アーチャー……私のことマスターって)
凛「……期待してるわよ、アーチャー」
今夜は以上となります。
やっと話も動き出してきたかなという所で区切りました。
次回はとうとう戦闘に入れるかな? そうすると相手は……
>>53
psyrenのssが増えてくれれば自分も嬉しいです。
本編の強引の回収のせいで、多くのキャラが掘り下げられずに終わってしまったのは悲しいです。
億号や大河も打ち切りになりさえしなければ出番があったんだろうな、なんて思います。
では、今回はこれにて。
――21;00 再び屋上――
凛「終わったわね」
アゲハ「おつかれさん、遠坂」
太陽はとうに沈み辺りは暗闇に包まれている
生徒はおろか職員でさえ学校には残っていない。
結界の刻印はいたる所に存在しており、校庭、体育館、教室、壁、果てにはトイレになかにもあったため、全てを処理するのにかなりの時間がかかっていました。
アゲハ「これで、どのくらいもちそうだ?」
凛「2週……いや、10日ぐらいかしらね。つまり、それまでに犯人を見つけ出せなければ私たちの負け。この学校の人間は根こそぎ養分にされるってわけ」
アゲハ「そんなことはさせねぇ。必ず見つけ出してやる」
凛「その通りよ。こんなふざけた人間は捕まえてボコボコにしてやんなきゃ気がすまないんだから」
アゲハ「なあ、一つ聞いても良いか?」
凛「なに? 答えられる範囲でなら」
アゲハ「遠坂は聖杯にかける願いがあるのか?」
凛「……どうしたの急に? まあ、でも願いか……特にないわね」
アゲハ「ない? ないのに、こんな危険な戦争に首突っ込んでんのか?」
凛「だからこそよ。冬木のセカンドオーナーとして黙って見過ごせるハズないじゃない。私の管理している土地を使って、勝手に戦争を始めるなんて許す訳ないでしょ」
アゲハ「ふ~ん。やっぱ遠坂って――!?」
?「おっと、悪いな。せっかくの良い空気邪魔しちまったか?」
暗闇から聞こえてくる第三者の声。
一般人のはずがない。
このタイミングでこんな夜に屋上で話しかけてくるなんて、サーヴァントか。
会話に夢中なってたからか、ここまでの接近を許すなんてと、凛は心の中で舌打ちをする。
アゲハ「誰だ、お前」
?「名乗る必要はねぇ。お前らはここで死ぬんだからな」
全身に青い服を着た男が右手に持っていた獲物を凛に向かって突き出す。
暗闇のなかで長く赤い物体が浮かび上がる。
凛は初撃をギリギリの所で躱す。
槍の切っ先が制服を掠め少しだけ破かれるが、凛は構うことなく屋上のフェンスにまで駆け出す。
地面まで10数m・常人ならば落ちて助かる高さではない。
しかし、凛はそれを軽々と飛び越えて、臆することなく地面に向かって跳んだ。
凛「アーチャー!着地頼んだ!」
?「――良い脚をしてる。殺すのがおしくなっちまうぜ」
地面に着地して凛は校門まで走る。
凛(とりあえず距離を空けるしかない。ランサー相手に接近戦は分が悪すぎる)
魔力で底上げされている凛の脚力は100m走7秒程で走りきるスピード。
しかし、サーヴァントの前でその程度のスピードなんて意味はなく、すぐに追いつかれる。
ランサー「おいおい、まだ始まったばかじゃねぇか。楽しもうぜもっとよ」
凛「ちっ、流石に撒くことはできないわね」
アゲハ「遠坂、ここからはオレの出番だ。遠坂は下がっててくれ」
凛「それしかないわね。でも正気? ランサー相手に接近戦なんて」
アゲハ「大丈夫だ。が、その前にあいつには聞きたいことがある」
アゲハ「――この学校の結界はお前の仕業か?」
空気が凍る。
アゲハは怒気の篭った声と共に、殺意を込めた瞳でランサーを睨む。
これが、サーヴァントの殺気。
凛はこの時、本当の意味で夜科アゲハがサーヴァントだということを知る。
人間如きでは、全く相手にならない。
その純粋なプレッシャーに気圧されていた。
?「そんなことか。くっくっく、さあ、どうだろうな。知りたきゃ力――!」
瞬間。黒い閃光が2人の間にはしる。
ランサーが話し終わるのも待たずにアゲハは流星を放つ。
手から離れた流星は真っ直ぐにランサーに向かって飛んでいくが、ランサー相手に飛び道具なぞ効果はなく、苦も無く弾かれる。
ランサー「危ねえ、危ねえ。まだ話終わってないだろ――お前まともじゃねえな」
言い終わるや否や、今度はランサーから放たれる高速の突き。
只の人間、いや魔術師の身体能力をもってしてもよけきることなど到底不可能。
しかし、アゲハは動じることなく、その矛先を冷静に見極めて、対処する。
ランサー「どうした、どうしたぁ! こんなもんじゃないだろお前の力はよぉ!」
体を捻り、上半身のバネを使って十分に勢いを付けられた、槍の速さはさっきまでの比ではない。
逃げる暇など与えない。これで、終わりだと思わせる槍、だが突如現れた黒いディスクのようなものに弾かれ目標を外す。
凛「なによ、それ……」
アゲハ「そういえば遠坂に見せるのは初めてだったな。これがオレの能力、暴王の月」
――メルゼズ・ドア
そう、アゲハに呼ばれた能力は何とも奇妙な形をしていた。
アゲハの右手につかず離れずの位置で浮遊しており、形状は黒い円盤の様に見える。
あれは魔術なのだろうか、それとも全く違う別の何かなのか?
マスターであり優れた魔術師である凛が必至で頭の中を漁るも、分からない。
凛(どっかで見たことあるような……)
アゲハ「遠坂、悪りぃがオレの能力は結構危険なんだ。戦闘中は絶対半径5m以内に近づかないでくれよ」
凛「――わかったわ。存分にやりなさい」
待たせたな、ランサーとアゲハはランサーに向き直る。
ランサー「さっきの飛び道具と言い、今の円盤と言い、てめえ本当になんなんだ? 味見だけの予定だったが変更だ。捻りつぶす!」
ランサーとアーチャーの戦い。
しかし学校のグラウンドで繰り広げられる戦いはとてもじゃないが、そうは凛の目に映らない。
何故ならアーチャーがランサーの互角の接近戦を行っているからだ。
凛「ほんと、デタラメな奴ね」
戦いを開始してから10分程度だろうか。
その中でランサーは数え切れぬ程の槍を繰り出し、振るってきた。
アゲハはその全てを右手のディスクで打ち払い、ランサーの追撃を許しはしない。
ランサー「テメエ本当にアーチャーか? 弓兵にしておくには惜しい腕だ……だが遊びはここまでだ!」
ランサーが更にスピードを上げる。
あれだけ間合いが広い武器。
その分、確実に戻りは遅くなり小回りのきくアゲハがつけいる隙はそこのはずなのだが……普通ならば。
アゲハ(速い……)
それだけの長槍でありながらアゲハのスピードに引けを取らない。
いや、むしろ僅かにだが上回り始めてきた。
最速の英霊の名に値する動き。
単なるスピードだけの話ではない、動体視力、反応速度、身のこなし、その全てが数いる英霊達の中でもトップクラスだ。
凛(このままじゃ、いずれ……)
その戦いを間近で見ていた凛内心焦り始めている。
アーチャーがランサーの動きについていけるのは十分に賞賛に値するのだが、このままではジリ貧だ。
いつか捕まる。
かといってランサー相手に凛を抱えて逃げ切れるハズもない。
凛(何か手を打たないと)
そう思って、打開策を考えていると見事に不安が的中する。
今まで、ランサーの攻撃はアゲハ自身を狙うことに固執し、アゲハが向かってくる槍を打ち払ってきた。
だから、スピードで劣るアゲハでも対応出来ていたのだが――
一直線にアゲハの体を狙った槍は軌道を変えて横に薙がれる。
アゲハ「くっ!」
右手のディスクは弾かれ、アゲハはバンザイした様な姿になる。
完璧に無防備な状態。
この隙をランサーが見逃すはずもなく、すぐさま槍を持ちかえてからの一突き。
ランサー「これで、幕引きとしようぜ!! アーチャー!」
ガキィィ!!
しかし、それはアゲハの誘い。
アゲハとて、ランサーとのスピードの差に気づかないわけがない。
いつか捕まることは分かっていた。
だからこそ、この千載一遇のこのチャンスを見逃さずに、左手の新たにディスクでランサーの長槍を払いのける。
――ライズ全開
平均速度で劣るなら、最高速で勝ればいい。
瞬間的な肉体の解放。
その速度にはあのランサーでさえも反応できない。
一瞬でランサーの背後に周り込むと、アゲハは右手のディスクをランサーの首目掛けて振りぬく。
ランサー「――やるな、アーチャー」
アゲハ「ちっ!」
完全に仕留めたと思われたディスクをランサーは最少最速の動きで身を屈め躱す。
そこから背後への後ろ蹴りが、アゲハのみぞおちを捉える。
凛「アーチャー!」
アゲハ「くっ!……大丈夫だ遠坂」
ランサー「その能力、身のこなし、スピード。どれをとっても弓兵としては出来過ぎだが、問題はそこじゃなねえ」
ランサーの雰囲気が変わる。
今までの構えとまるで違う。
いや、そもそもあのような構えから一体どんな攻撃が可能なのか。
ランサー「この技を使うからにもう逃げられねえ、覚悟しな」
アゲハ「……」
駄目だ。あの攻撃を受けては。
ランサーの言っていることは決して嘘ではない。
発動させてしまったら間違いなくアーチャーは負ける。
何とかしないと、凛は直観的にあの槍の込められた魔力から良くないものを感じる。
凛(――令呪)
そう考えた。
令呪を使わない限りでもアーチャーの死は避けられない。
それこそ初めから死の運命が決まっているかのように。
凛(でも、令呪はあと2回しか)
まだサーヴァントが全機揃ってないうちから令呪を使い切るなど問題外だ。
でも、このままだとアーチャーが……
凛(仕方ないわね)
凛「令呪をもって命じる。アーチャー。全力で――」
令呪を使おうとした、まさにその瞬間にグランドの端の方から物音がした。
ランサー「誰だ!?」
その声と同時に影から人が飛び出して駆けている。
どこにいくつもりだろうか、その人間は逃げようとしているのだろうが、焦っているためあろうことか校舎の方に走っていく。
ランサー「アーチャー、ここは預けるぜ。目撃者は消す、それがルールだからな」
ランサーは構えを解き校舎に向かって走り出す。
関係者以外に聖杯戦争を見られた何とかして隠すしかない。
ランサーは最も簡単な方法でそれを実行しようとしている。
アゲハ「遠坂!どうする!? ランサーを追いかけるか?」
凛「……今の姿は、もしかして……いや、そんはハズ……」
アゲハ「遠坂!」
凛「ああああ! もう分かってるわよ! アーチャー、絶対に今の人間を殺させるんじゃないわよ! ランサーを追いかけて仕留めなさい!」
今夜は以上です。
ようやく戦闘に入り、少しだけアゲハの本性が出てきたかなと思います。
少しでも原作のアゲハのヤバさを描けるようになりたいですね。
ちなみに、このアゲハはミスラを倒して意識を失っている状態で、呼ばれているのでノヴァは使えます。
士郎(なんなんだよ、なんなんだよいまのは)
不幸にも衛宮士郎はこの日、遅くまで学校に残っていた。
一成に修理を依頼され、慎二に部室の雑用を頼まれて、折角だからと隅々まで掃除していたら、こんな時間なってしまった。
同居人はお腹をすかし待っているかもしれないと、急いで帰ろうとしていたらグランドが何やら騒がしいじゃないか。
そこで、少し覗いてしまったのが運の尽き。
こうして、追い掛け回される羽目になってしまったのである。
士郎「はぁ、はぁ。ここまでくればもう」
ランサー「大丈夫だと思ったか?」
人間が英霊から逃げ切る。
そんなことは最初からあり得ることはない。
ランサーは士郎に追いつくと、その勢いのまま士郎の背中に回し蹴り。
走り続けて、疲労困憊の士郎は踏ん張ることもできずに蹴飛ばされて、廊下の柱に勢いよく頭を打ち付けてしまう。
ランサー「ったく。オレだって好きでこんなことやってる訳じゃねえぜ? でもよお、見られたからには生かす訳にいかねえな、恨むんなら自分の不運を恨みな」
ランサーは槍を構える。
出来るだけ苦痛を与えないよう、一撃で仕留める。
それが、せめてもの情けだ。
アゲハ「そこまでだ、ランサー!」
まさに刺し殺そうとしたそのとき、ランサーのはるか後方、廊下の端から夜科アゲハが叫ぶ。
士郎を殺そうとした手を一端止めて、ランサーは声のする方向を振り向く。
目に映るのは先程の謎の黒い物体。
叫ぶのとほぼ同時に撃たれたアゲハの流星はランサーの眼前にまで迫る。
普通の人間なら、反応すら出来ないタイミング。
しかし、最速の英霊ランサーはそんなものも苦もなく右手に握る長槍で叩き伏せる。
ランサー「わざわざ、叫んで注意をそらしたかったのか? なら残念ながらそれは失敗だな。背後から不意打ちすればなんとかなったかもしれないものの。このオレに飛び道具など――ぐつ!」
突如、右腕に走る鋭い痛み。
何か打ち抜かられた様な痛みにランサーも思わず呻く。
弾いたと思った流星は向きを変えランサーの手首を射抜いていた。
ランサー「くっ! やっぱりテメエからか!」
サーヴァントを倒さずして他の目標を狩れることはなかった。
確実に士郎を殺すためには、目の前のサーヴァントから始末するしかない。
アゲハ「――ホーミングは2回」
標的をアゲハに変え、廊下を疾走する。
しかし、それでも遅すぎた。
最初のホーミング開始点を支点として、ランサーの腕を貫いた流星は再び稼働する。
それは、さながらギロチン台の様。
漆黒の軌跡はグルリと一回転してランサーの肘から先を綺麗に切り落とす。
いかに英霊と言えど切断されれば血も出るし、瞬時に生えてくることもない。
右肘からはボタボタと血が流れ、廊下には真っ赤な血だまりが出来上がる。
ランサー「!? 流石にこりゃ……」
アゲハ「もう、やめとけ。ランサー」
構えを解かずにアゲハが言う。
不審な動きを見せたら、容赦せずに撃つ。
そんな意思表示だ。
アゲハ「片手じゃオレには勝てねえ。終わりだランサー。それより結界の止め方を教えろ」
ランサー「……テメエは勘違いしてるようだから、言っておく。この結界はオレが敷いたモンじゃねえ」
アゲハ「あ? ふざけてんのか、お前?」
ランサー「そういきり立つなアーチャー。オレは嘘はつかねえ、今日ここに来たのも、結界に引き寄せられたサーヴァントを叩きにきただけだ。大体結界用意する奴が正面から戦うわけねえよ」
それもそうだなと、アゲハはランサーの言葉に納得する。
何より戦いの中で感じたランサーという人物はこんな卑怯な真似をするようには見えなかった。
ランサー「ま、せいぜい犯人捜し頑張ってくれや。それと今夜は中々楽しかったぜ」
気づくとランサーは切り落とされた自分の腕も掴み、窓のヘリに足をかけている。
アゲハ「まて!! ランサー!」
ランサー「じゃあな」
そう言い残すとランサーは窓から飛び降りて姿を消す。
こうなるとアゲハのスピードをもってしても追うことは不可能だろう。
アゲハ「ちっ、油断したか」
追いついていたのだが、邪魔にしかならないと柱の陰に隠れていた凛が顔を出す。
遠坂「アーチャー、大丈夫?」
アゲハ「遠坂。わりい、逃げられた。深手は負わせたからしばらく、攻めてくることはないと思うけど」
遠坂「そう、じゃあ問題は1つは解決ね。で、もう1つは……」
凛は見たくないもの見るかのように、恐る恐る横目で廊下の奥を確認する。
凛(やっぱり……よりによって、なんであいつが)
そこに転がっているのは凛の同級生、衛宮士郎の姿。
意識は失っているようで先程からピクリとも動かない、まあ凛にとってはそのほうが有難いのだが。
凛(ま、幸い意識は失っているようだし、このまま今夜の記憶を消す)
士郎を横に寝かして、その額に左手をかざす。
ぶつぶつと何か呟いているが、アゲハにその言葉は聞き取れない。
アゲハ(英語じゃないよな?)
僅か数秒。
詠唱を終えた凛は、ほっと一息ついて立ち上がる。
アゲハ「なんだ今のは?」
凛「今夜の記憶を消したの。いつから見られてたか、なんて分からないから適当にもってたけど大丈夫でしょ。それよりアーチャー。早く家に帰るわよ。あなたには聞かなきゃいけないことがたくさんあるんだから」
アゲハ「記憶ね……。分かった、遠坂。オレからも説明しなきゃならねえことがある。聖杯戦争を勝ち抜くためにも」
今夜、凛は初めてアゲハの戦闘を見た。
それは、とても弓使いと呼ばれる者の戦いではない。
それどころか、どのクラスに該当するのか疑ってしまう程謎に包まれた能力。
キャスターと呼ばれても不思議ではない、その力。
――暴王の月。
その危険性も応用性も説明する必要があり、2人は眠る士郎を置いていき、一度家に帰ることにした。
今夜も短いですが以上となります。
士郎の扱いは迷いましたが、エミヤも召喚されていないので殺さずにいこうかと思いました。
突発的に始めたため展開に悩み筆遅くなるかもしれないです……
でも、出来ればアゲハは全鯖と戦わせたいですね。オルタvsノヴァアゲハとか。
さて、色々アゲハの能力について書かれていますが、自分も原作を読みなおしたたりすると、弾いたり物体的性質を持っている描写が多々見られました。
ですのでこんな感じでいこうかと。
結局どちらのpsi密度が上かで優劣が決まる感じだとおもうので、このssでもあまり深く考えず「宝具なら弾くだろうな~」くらいにしか考えていません。
基本この手のクロスオーバーはベースとなる作品以外のキャラが無双することが多いですが、それではつまらないので出来るだけ制約つけてやっていきたいですね。
では、今夜はこれにて。
凛「――PSI?」
アゲハ「そう。オレの力は多分根本が魔術とは違う。PSIと呼ばれる力なんだ」
アゲハが話始めた内容は何とも信じがたいものだった。
アゲハの世界に魔術というものは存在しないらしいが、異能力者は存在するらしい。
それはサイキッカーと呼ばれる存在でPSIと呼ばれる能力を使うらしい。
凛「なるほど、でもあなたが使っているのは間違いなく魔術よ? 確かに能力は見たこともないものだけれど、決してPSIと呼ばれるものではないわ」
アゲハ「確かにそうなんだよ。オレの暴王の月はPSIを自動感知して、そのエネルギーを食い尽くすものだ。それ以外のものは、一方的に消滅させる。だけど、今日戦ったランサーって奴にもオレの暴王の月は反応したし、あいつの槍だって破壊することが出来なかった」
ディスクの攻撃を弾いた槍。
あれがただの槍であったなら、一刀の元に切断されるはずだ。
ただ現実にはアゲハの攻撃を何度も防いだ。
ならばあの槍は、その存在そのものがバースト波動を固めたものであるか、或いは普通の槍をバースト波動で包む必要がある。
しかし、魔術師である凛がアゲハの攻撃からは魔術を感知したという。
――つまり、それは。
凛「じゃあ、アーチャーの使う力がそのPSIってやつから魔術に書き換えられたのよ」
それしかない。
暴王の月がこの世界にきたことでPSIから魔術に変わったのならば、ランサーを追尾したことも魔力の塊である宝具に弾かれたことも説明がつく。
アゲハ「……でもオレの中では何も変わってないぞ? 今まで通りPSIを使っただけだ。魔術を使用した感覚なんてなかった」
凛「それを可能にするのが聖杯の力ってところかしら。他の呼び出された英霊だって生前魔術を使えたか、なんて怪しいもんよ。呼び出された結果サーヴァントは魔力を帯びた。ならアーチャーも魔術を使えるようになった。そう考えるのが妥当ね」
凛(ま、どちらにしろ関係ないけどね)
凛「それより、アーチャーの能力について教えなさいよ。暴王の月って言ったかしら?」
アゲハ「ああ。さっきも言ったようにオレの能力はPSI……じゃなかった、魔力を自動感知して破壊するプログラムだ。触れたものも全てを消滅させる」
凛「うん。それで?」
アゲハ「だけど、その分扱うのも難しい。だからオレはそこに新たにプログラムを組んで、使いやすいようにカスタマイズしてる」
流星、ディスク、ボルテクス、スプラッシュ。
アゲハの口から聞かされる能力の数々。
これだけのことを可能とする多様性と応用性に凛は舌を巻く。
凛(なんつーデタラメな能力)
そもそも魔力を自動感知して襲う魔術なんてきいたことない。
もちろん元が魔術ではなくPSIなのだからあるはずないのだが……
凛(カスタマイズを続ければ無策の相手には無敵に近いじゃない。魔術だったら確実封印指定ものだわ)
凛(でも、それだけじゃない。本当にすごいのは――)
これだけの能力を活用できるアーチャー自身の発想力。
遠距離狙撃、近接戦闘&防御、遠近両用の防御に無差別攻撃、そのどれも遊びではなく実践レベルまで昇華されている。
多分、必要を迫られれば更に多くの姿を見せることになるのだろう。
それだけの能力なのだ、この暴王の月というものは。
凛「アーチャーさ……」
アゲハ「どうした?」
凛「……こ、紅茶でも飲む? 私のどかわいちゃってさ」
急いでそれだけ絞り出すと、キッチンまで歩いて行き慣れた手つきで、戸棚からティーセットを2つ取り出し、紅茶の準備を始める。
凛(危ない、危ない。サーヴァントの過去なんて聞いたってデメリットしかないんだから)
つい、アーチャーの過去が気になってしまった。
魔術もない一部の人間が力を持つ世界で彼はどう生きたのだろうか。
見た目は凛とそう変わらない。
その年で一体いくつの死線を潜り抜けてきたのだろう。
あの能力は全て生き残るために必要だったのだろうか。
しかし、それは無駄な事。
余計なことを聞いて情が湧いてしまったら、それこそ悪い事しか起きない。
アゲハ「珍しいな、自分から淹れようとするなんて。じゃあわりぃが頼む」
凛は丁寧に紅茶を淹れるとカップを2つ持ち、再びアゲハの方に戻ってくる。
2人ともミルクも砂糖もなし。
カップには真っ赤な液体が満たされている。
なんとなく、遠坂の色だなとアゲハは思う。
アゲハ「ところで、こっちからも質問なんだが……ランサーは何がしたかったんだ?」
凛「は? サーヴァントを見つけたら倒すに決まってんじゃない」
アゲハ「いや、オレじゃない。あの学生を執拗に狙ってただろ、ありゃ何でだ?」
その時、凛はまだアーチャーに魔術師のあり方を教えてなかったことを思い出した。
良い機会だし、ここでレクチャーしとくのも悪くないと考え一から説明することにした。
魔術を追い求める意義や魔術の秘匿について。
凛の説明は論理的で分かりやすいが、それに反比例してアゲハの顔色はだんだん悪くなっていく。
凛「――というわけ。なにアーチャー? 少し難しかった?」
アゲハ「……そうじゃない。なあ遠坂の話からすると、つまりランサーは口封じを行おうとしたってことだよな?」
凛「何を、今更……」
だんだんと凛の顔も青ざめていくのがわかる。
アゲハ「オレ、最初ランサーは戦いの邪魔だから一般人を殺そうとしたのかと思ったんだ。でも、口封じが目的なら――」
凛「説明しなくても分かってる!」
本当に私って人間は……と落ち込む凛。
あのランサーが獲物を逃したまま、おめおめと帰る理由などなかった。
そう、ランサーは確実にもう一度衛宮士郎を襲う。
当たり前のことだ。
そんなことも分からなかったのだ。
不甲斐ない自分への自責や、肝心なとこでやらかす自分に対する失望。
でも今は、後悔する時間はない。
凛「あああああ!!!! もう! さっさと衛宮くんの家まで行くわよ。もたもたしてんじゃないわと、アーチャー!」
アゲハ「おい、いくらなんでも理不尽だろ! オレが言わなきゃ今頃……」
凛「はいはい。私が悪かったから、とっとと行く!」
支度もそこそこに急ぎ玄関から飛び出す。
あれから、ゆうに2時間は経っている。
遅ければ間に合わない。
凛とアゲハの2人は夜の街に消えて行った、衛宮士郎を救うために。
とても短く切り良く今日はここまで。
どうも上手く書けなかったのですが、次に早く書きたいイベントがあるため構わず投下しました。
思ったよりも対ランサー戦の感想が良かったので嬉しいです。
FateにしろPSYRENにしろ一番の見せ場は戦闘シーンだと思うので、原作のドキドキ感が出せるように頑張っていきたいです。
それでは、また。
遅くなりました、いまから始めます。
――衛宮邸前――
凛「アーチャー、なかの様子は?」
アゲハ「……気配が1つ。サーヴァントのものだ」
凛「ランサーかしら?」
それは、分からねえとアゲハが答える。
しかし、その可能性は低いだろう。
もしランサーが襲ってきているとしたら、静かすぎる。
アゲハ(それに、殺気や戦闘の気配も感じない。それとも終わったのか?)
中の様子が分からない以上不用意に近づくわけにはいかない。
衛宮士郎の様態も気にかかるが、ここは慎重に行かなければ罠の可能性もある。
向こうもこちらの気配には気づいているのだから。
アゲハ「!? 下がれ、遠坂!」
ゆっくりと衛宮邸の塀を歩いている、まさにその時。
塀を乗り越えてアゲハに襲い掛かる影がひとつ。
突然の奇襲にもアゲハは焦ることなく、右手に展開したディスクで襲撃者の一撃を防ぐ。
「!?」
押し切れるとでも思っていたのか、襲撃者は自分の一振りを止められたことに驚いたように目を丸くすると、空中で塀の壁を蹴りつけてアゲハと距離を取る。
「私の一撃を防ぐとは……中々やりますね。それにとても奇妙な術を使う」
突如現れたその人物は、特に悪びれる様子もなくアゲハの力に関心している。
青と銀色の鎧を纏ったその人物は刀身のない柄だけを持っている。
凛「――セイバークラスのサーヴァント?」
アゲハ「不可視の剣か……」
セイバー「さあ、どうかな? 戦斧かも知れぬし、槍剣かも知れぬ。いや、もしや弓ということもあるかも知れんぞ」
アゲハ「ランサーに既に会った。斧の使い方でもない。そして――アーチャーはオレだ」
セイバー「なるほど。その術と身なりから魔術師かと思ったのだが、弓兵だったか」
アゲハ「話は終わりだ、剣使い」
アゲハは両手にディスクを展開してセイバーに向かい固い地面を蹴る。
狙うは首。
瞬く間にお互いの間合いに入ると、右手のディスクをセイバーの首目掛けて左下方から振りきる。
吸い込まれるようにしてアゲハの攻撃は首に向かう。
しかし、そのような正面攻撃が効く相手ではない。
セイバーはその自慢の愛刀を上段から振りおろす。
アゲハ「くっ!」
セイバーの剣を受けて、その重さに少しだけ呻く。
上から体重をかけているからだけではない、セイバー自身の筋力がアゲハの筋力を上回っていた。
この小さな体躯のどこから、これほどの力が一体どこから湧くのか。
セイバーの攻撃は重く、いつまでもこの体勢でいる訳にはいかない。
アゲハ(重めえ……けど……)
両手で剣を握っているセイバーと違いアゲハには自由になっている左手がある。
残された左手のディスクで今度は、がら空きとなったセイバーの脇腹を狙い、ディスクを振るう。
一閃。
しかし、その攻撃は空しく中を舞う。
セイバーは身を屈めることでアゲハの攻撃を躱して、そのまま足払いの要領で剣を振るう。
アゲハ(まずっ!)
狙われた両足。
今のスピードならアゲハがよけきることは到底不可能だが。
アゲハ(――ライズ全開)
一時的に筋力を向上させてのバク宙。
セイバーの目に映っていた足は唐突に消えて、空振りとなる。
セイバー「魔力による身体機能の向上か……面白い」
両足が地面について一瞬だけアゲハの体の動きが止まる。
そこに間髪入れず切り込むセイバー。
アゲハも素早く体制を立て直してガードする。
セイバーの嵐のような猛攻と、それに対峙するアゲハ。
周囲は何人も近づくことなど出来ずに、道路や壁のコンクリートは徐々に削り取られていく。
2人のいる中心だけが台風の目のように穏やかに見えるほど、辺りの状況はみるも無残な姿に成り果てる。
標識は折れ、衛宮邸の壁には深い切り跡が残る。
アゲハ(見えない剣ってのは、随分やり辛いな)
元々の技量に差がある上に、セイバーの剣は風王結界によって不可視の剣となっている。
間合いもわかり辛く、常に頭の中でセイバーの剣の長さを補完して戦い続けることは精神的にも体力的もアゲハを追い詰めていく。
セイバー「この剣が随分と苦手の様だな。アーチャーよ」
アゲハ「戦闘中におしゃべりして大丈夫か? そんな油断してると!」
ここにきてアゲハは半歩だけ身を引きセイバーの斬撃をかわす。
受け止められると思っていたのかセイバーは支えを失いバランスを崩す。
アゲハ(確かにやり辛いがアイツ程のスピードも殺気も感じねぇ)
アゲハ「いい加減お前の剣にも慣れた。これで終わりだ!」
しかし、その隙はセイバーのフェイク。
直接剣を交わせて戦う剣士にとって、最も怖いのは攻撃を防がれることではない。
躱されてこちらが体制を崩すこと。
故に例え渾身の力を込め打ち合っていたとしても重心は自分が支配しているもの。
歴戦の剣士であるセイバーがそのような初歩的な間違いを犯すことなどない。
崩したかに見えた体制から見事にアゲハの攻撃を受け止める。
セイバー「――油断? これは余裕というものです」
わざわざフェイクを入れてまでアゲハに渾身の一撃を奮わせる。。
今度は逆にセイバーが、その剣を握る両手から少しだけ力を抜く。
いままで支えられていたディスクは力の行き場を失くして、不可視の剣の上を滑る。
――受け流し。
ここまで魔力の限り押せ押せの剛の剣だったセイバーの剣筋は、巧みな体重移動と熟練された技から成る柔の剣によってアゲハの攻撃を華麗に受け流す。
好機と見たアゲハはその全体重を持って、セイバーに突っ込んでおり支えを失った体は前方に流れる。
アゲハ「しまっーー!!」
その勢いを殺さずにセイバーは左足を軸にしてコマのようにその場で半回転する。
セイバーの目に見えるのはアゲハの無防備な背中。
十分に勢いをつけた遠心力を剣に乗せて、カウンター気味で必殺の太刀を放つ。
ギィンと鈍い音。
セイバー「なっ!?」
背中から真っ二つにして、手に残るのは肉の感触、そして香る血液の匂い。
そのはずだった。
しかし
――まるで左腕だけが意思を持っているかのように動いた。
見えない背中への攻撃を、しかも流れた体で、なのにまるで左腕だけ意志を持っているかのように動いてセイバーの攻撃を弾いた。
セイバー「なるほど。あなたに感じていた違和感の正体はこれか」
アゲハ「そうか、で?」
初見でありながら何度もアゲハとぶつかり合いセイバーはずっと違和感を感じていた。
アゲハの近接戦闘のスキルは英霊としてそれ程高いものではない。
特に最優のサーヴァント、セイバーを相手取ってここまでの戦えることが驚きだ。
それを可能にしているのがアゲハの能力。暴王の月である。
ディスク状に展開した暴王の月に今回アゲハが組んだプログラムは3つ。
その場で止まることと、半径2m内の魔力感知。
このプログラムが半自動的にセイバーの魔力に反応していた。
しかし、セイバーが確実に相手の隙を狙った攻撃も、アゲハでは反応しきれないはずの攻撃も何度も打ち込みその全てが防がれている。
そして今回の真後ろからの斬撃も、前方に流れていた上半身に反するように左腕だけが反応し、振り返ることもなくセイバーの剣を弾いた。
セイバー(あの円盤状の物体は私の魔力に反応している……)
セイバー「いえ、ただの戯言です」
両手で剣を握り直し、今まで以上の力を込めるセイバー。
アゲハも頭の上で手をクロスにするように構え、2枚の刃でセイバーの太刀を受け止める。
アゲハの防御能力の高さを考えて手数では勝負が付かないと考えたセイバーは一層魔力を込めた一撃だ。
セイバー(手数では決着がつかない、なら力です!)
それでも破れぬアゲハのディスク。
しかしセイバーの5度目の攻撃を受けきったとき、突然右手のディスクが崩れた。
ランサーとは比べ物にならない魔力。
セイバーの剣の魔力量がディスクの許容量をこえて自壊していく。
その機を逃すことなくセイバーがアゲハの左肩から袈裟がりに切り付けるも、すんでのところでアゲハは後ろに一歩下がり直撃を避ける。
躱し切ることは出来ずにアゲハの肩から腰にかけて赤い血が滲む。
アゲハ(ここで退いたらマズイ!)
傷は幸い浅く、体に支障はない。
1歩大きく後ろに飛び退き、残った右手のディスクをセイバーに向けて大きく振るう。
アゲハ(――プログラム解除)
事前に組まれた第3のプログラム。
それはアゲハの意思によってディスクの修正を解除出来るものだ。
円盤はアゲハの手から離れ、止まる修正を失い本来の形を取り戻した漆黒の流星がセイバー目掛けて走る。
セイバー「っく!」
追い打ちかけようと接近していたセイバー。
アゲハとの距離はあと一足で届きそうな程近い。
さすがに、これほどの至近距離でこの流星を躱すのはセイバーの敏捷さを持っても難しいかもしれない。
正に起死回生の一撃。
セイバーは魔力を感知するという暴王の月の基本性能は理解しても、その真の能力は知らない。
想像力だけで円盤にも流星にも盾にもなる、その能力の神髄は初見殺し。
対策をたてていなければ全貌を掴むことなく破れるだろう。
アゲハ「!?」
しかし、セイバーは最小限の動きでなんとか躱す。
頬に掠り、鮮血が滲むも完璧に見切っていた。
恐らくセイバー以外のサーヴァントだったら勝敗は決していただろう。
セイバーの、もはや未来予知とも呼べる直感さえなければ、流星はその胸を貫いていた。
勝ちを確信したのかセイバーは叫び、最後の一太刀を浴びせようとする。
凛「アーチャー!!」
形勢は逆転し追いつめられるアゲハ。
今からではディスクを展開するのも、ライズで躱すことも出来ない。
死刑宣告の様に見える不可視の剣がゆっくりとアゲハの胸に向かって突き――
?「止めるんだ! セイバー」
――刺されなかった。
見えない強制力によってセイバーの体は引き戻される。
セイバー「何故止めたので――!? 貴方、上です!!」
士郎「え?」
令呪によって行動をキャンセルされたことを咎めようと振り返れば、目に映るのは流星。
真っ暗な空に溶け込む黒い色をした流星が佇み、そして――
セイバー「っく、間に合え!」
勢いよくセイバーが走り出す。
しかし、それも間に合わない。
ホーミング能力を有した流星は士郎の握る木刀目掛けて流れる。
士郎には何が起きたのかも分からない。
上を見上げたら黒い棒状のものがあって、ソレは自分目掛けて振ってくる。
反射的に強化していた木刀を胸の前で身構える。
セイバーの剣ならまだしも、平均以下の魔術師の強化なんて暴王の月の前には只の棒と変わらない。
抵抗することも許されず、木刀は無残にも流星によって破壊される。
そのまま、術者である士郎の魔力を貪ろうと流星は士郎の体に進む。
セイバー「マスタあああああーーーーー!!!!」
誰もが駄目だと思った。
セイバーすら間に合わず、士郎にも何もできない。
自分の救った相手を自らのサーヴァントによって殺されるなんて、なんと不運なんだろう。
アゲハの手を離れた流星には令呪も利かないだろうと凛ですらも諦めかけた。
けれど、流星は士郎に届くことなく消滅する。
凛「え?」
士郎「あれ? き、消えた?」
セイバー「大丈夫ですか、マスター! 体にケガなど……」
士郎「お、落ち着いてくれセイバー。お前も見てたろ。目の前で消えたんだ。体は何ともない」
一体誰が。
3人は原因であるアゲハの方に視線を向ける。
アゲハ「――ったく。強制終了すると頭割れそうになんだぞ? コレ」
そこには少しだけ苦しげに頭を抱える夜科アゲハの姿があった。
はい、今夜は終了です。
色々忙しかったのもありますが、セイバーとの対決ということで大変時間がかかりました。
やはり自分もzeroセイバーとSNのセイバーどちらで描写していこうかと悩む。
最近zeroを見ているせいか、ついzeroセイバー風味が漂い、しまいには5次ライダーと見分けがつかなくなる始末。
ホントSNセイバーは勝つために手段を択ばない切嗣に近い感じがします。これも一種の成長か?
アゲハの言うアイツって誰のことでしょね……なんて、ことを言い残して終了します。
土日は来れないので投下始めます。
まあ、来る大物への幕真ですね。
凛「――そんなことだろうと思ったわ。つまり衛宮くんはへっぽこってことじゃない」
士郎「うぐっ。確かにその通りなんだが、こうして面と向かって言われると……へこむ」
お互いがお互いへの攻撃を止めてしまい戦い所ではなくなった。
元々戦う意思は持っていなかったのだから当たり前の言えば当たり前なのだが。
だから、せっかくだし情報の共有でもしようと凛は士郎に提案する。、
突然の出来事に要領を得ず、中々うんと言わない士郎に痺れを切らして凛は――
凛『バカね。ちゃんと考えてるわよ。衛宮くん。慎重なのは良いかもしれないけど、急な出来事にも対応できないと、死ぬわよ』
などと物騒なことを言い放った。
その結果、凛とアゲハは衛宮家に上がりこみお茶までだしてもらい、何もわからぬ士郎に聖杯戦争に教えてあげていたのだ。。
遠坂凛、衛宮士郎。2人とも意味は違えど学校随一の有名人同士。
一方は成績優秀、品行方正、才色兼備の学園のアイドル
方や「穂群原のブラウニー」「偽用務員」「ばかスパナ」と褒めてるのか貶しているのかよく分からない二つ名を持つ学園の便利屋。
お互いがお互いを全く知らないわけでもなく、すんなりと話は進んでいく。
しかし聞けば聞くほど士郎の魔術師としてのへっぽこさに頭が痛くなってきた凛。
凛「……なんで、こんなやつがセイバーを……」
余程セイバーが羨ましいのかぶつぶつと1人落ち込んでしまっている。
アゲハ「じゃあ、士郎は聖杯戦争のこと何も知らずに参加しちまったのか?」
士郎「ああ。そうなんだ。ランサーにいきなり襲われて土蔵に逃げ込んだら、セイバーが召喚されたみたいでさ」
アゲハ「おーオレと一緒だ! オレも聖杯戦争のこと全く知らずに召喚されちまって。しかもソファーの上に叩き落されるし」
凛「アーチャー! 何自分から知識がないことばらしてんのよ!」
アーチャー「こんなこと知られても何も変わんねえって。安心しろよ遠坂」
セイバー「知識がない? それは少し不思議ですね……」
セイバーが不思議がるのも無理はない。
サーヴァントは現世に現れるとき聖杯から必要な知識を与えられる。
聖杯に関してもだが、日常生活でトラブルを起こさないための最低限の現代の知識が与えられる。
セイバー「――それらが無い。しかしその割にアーチャーは現世に馴染んでいますね。見たところシロウと年齢や恰好も、それほど違うようには見えない」
アゲハ「だって16歳の高校生だしな」
一度ならず二度までも、我慢の限界を超えた凛がアゲハの襟元をひっぱってこちらに体をよさせる。
士郎たちに話が聞かれないように、2人に背を向けてからアゲハに囁き始めた。
凛(あんた馬鹿じゃない! なんでそうペラペラ自分の情報しゃべってんのよ)
アゲハ(だから、オレは未来から来てるからこの時代でバレても大丈夫だって)
凛(そうかもしれないけど、バレて良い事なんて一つもないじゃない)
アゲハ(少しは余裕持て遠坂。どんな時でも優雅たれ――だろ?)
凛(たっく……分かったわよ。)
プチ会議はつつがなく終了してセイバーと士郎の方に姿勢を正す。
お互いにやれやれといった顔をして振り返ったため、セイバーたちには果たしてどんな会話が繰り広げられたのか全く分からない。
謎の沈黙が居間を支配する。
とうとう堪えきれなくなり、士郎がさっきから気になっていた質問を口をした。
士郎「でもホントに高校生くらいにしかみえないよな。それなのにそんなにスゴイ英雄だったなんて凄いじゃないか」
単なる世間話そのつもりだったのだが――
アゲハ「――英雄かなんかじゃない。オレには何も出来なかった……そう呼ばれる価値も資格も存在しねえよ」
アゲハには地雷だった。
一番に救いたかった者さえ救えなかった。
そのために全てを犠牲にしてでも良いと思ったのに、それでも届かなかった。
ゆえに、アゲハに英雄かという質問は無意味。
何も出来なかった男が英雄と呼ばれるハズなどないのだから。
凛「はいはい。アーチャーの話はそこまでよ。それより衛宮くん。あなたに聖杯戦争に参加するなら行かなきゃいけない所があるの。今から出発するから支度しなさい」
機転を利かせて話題を変える、というよりも端からこれが目的だ。
聖杯戦争に降りるつもりがないのなら、マスターとして届けを出さなくてはいけない。
それに聖杯戦争のしっかりとした説明もあいつに聞いた方が分かりやすいだろう。
士郎「い、今から行くのか? もう夜中だぞ?」
凛「大丈夫、大丈夫。明日は学校お休みでしょ。それに多分あなたも知ってるはずの所よ」
支度をして外に出る。
いくら冬木が比較的暖かい気候と言ってもこの季節の深夜は寒い。
吐く息は白く曇る。
なぜ白くなるのかは知らない。
けれど寒いと吐く息は白い。
そんなこと近所の子供でも分かっていることだ。
ここから教会までは少し距離がある。
しかしこの時間ではバスもタクシーもないし、お金ももったいない。
歩いて行けない距離ではないのだから歩いて行こうといったのは凛の言い分。
凛と士郎は先頭を歩き、いまだこの戦争のことについて話している。
遅れて歩くのはアゲハと派手な黄色いレインコートを頭から被っている。
アゲハ「セイバーも霊体化出来ないんだよな」
セイバー「はい。も、ということはアーチャー。あなたも霊体化出来ないのか?」
こくりとアゲハは縦にうなずく。
2体のサーヴァントが共に霊体化が出来ない。
偶然にしては出来過ぎな気もする。
何か理由があるなら知っておきたいとアゲハは考える。
もしかしたら自分がここに召喚された方法に原因があるのかもしれない。
アゲハ「セイバー。2体のサーヴァントが同時に不具合生じるってすごくないか。そりゃその可能性もあるだろうが、そう高くないだろう?」
セイバー「……何が言いたい、アーチャー」
アゲハ「セイバー、霊体化出来ない理由に心当たりあるんじゃないか?」
心当たりがあるのか、普段から鋭いセイバーの目つきは一層鋭くなる。
険しい顔をしたまま地面を見つめる顔は、ただバレことを悔いものではない。
言われたくなかったことを言われてしまった、そんな感じだった。
アゲハ「――別に嫌なら話す必要はない。こっちもそんなに気にしてた訳じゃねえし」
セイバー「え?」
アゲハ「普通サーヴァントは自分の正体を隠すもんだ。オレには分からないけど、この話題はあんたの正体に関わることなんだろ? じゃあ話す必要はない。余計な事をいって悪かった」
セイバー「い、いえ。そんな謝らないでください。それに直接真名に関係してくる問題ではないですし……そうですね。話さなくて良いのなら私の方も助かる。アーチャーやはり貴方は変わっている」
アゲハ「まあな。自分の異常性は自分が一番理解してるさ」
セイバー「ふふ。そういう意味ではありません。褒めているのですから」
面と向かってそんなことを言われアゲハは少し困っていまい頭をかく。
あの突然切りかかってきた騎士と目の前の少女では印象が違い過ぎる。
あれだけギラギラしていた人物はどこにいってしまったのか。
まあ、蓋を開ければ英霊なんて存在もそんなものかもしれない。
会話も都合よくキリがついた所でようやく目的の場所に辿り着いた。
――言峰教会
普段はただの教会として、一時的な孤児院として機能しているが聖杯戦争の期間中は裏の顔を覗かせている。
この戦争の監督役である、言峰綺礼が詰めており聖杯戦争全般を運営している本部のようなものだ。
マスターの保護なんかもここではおこなわれている。
士郎と凛は当初の目的通り教会に入っていくようで、セイバーは外で待機しているらしい。
凛にあなたはどうするの? と聞かれてアゲハは答える。
アゲハ「オレもここで待機してるよ。何というか、あそこにはあまり近づきたくない」
凛「そう。じゃあ静かに待ってなさいよ。場合によっては時間がかかるかもしれないから」
凛は士郎を連れて教会の扉をたたく。
中には見たくもない顔が待っているのだろうけど、いずれは行かなければならなかったのだ。
だったら良い機会だったのだろう。
無理やり自分を納得させて、凛は薄暗い教会の中に入っていった。
なんか自分でも何が書きたかったのか分からなくりましたけど、ひとまず終了です。
本編ではこの凛と家で話してから綺礼と話すまでは士郎にとって、とても重要なシーンですが描写が面倒なので全部カットしました。
けれど裏ではあのようなことが行われているので、決して士郎が何にも悩んでいないわけじゃありません。
ところでアイツのスピード~云々の話ですが、あれはジュナスのことを指しています。
以下構想の中でのワンシーン。
セイバー「既にこの剣の長さを見切り対応しているのか。やるなアーチャー」
アゲハ「昔、自在に伸びる剣を持ってた奴にボロボロにされたからよ。そいつに比べれば、あんたのスピードも切れ味もまだまだ」
セイバー「私の攻撃を防いでいるだけの身で良く言った。なら本気でいくぞ! アーチャー!」
……なんてやりとりを考えていたのですが、忘れていたのと戦闘中に会話が多くなると微妙なのでやめました。
それではおやすみなさい。
●相手の嘘を見抜く知力と勘の鋭さ
●幻視以外ではまず感知不可能な広範囲爆撃
●初見で流星一段階目を回避できる&アゲハをいたぶれるライズ
●浮遊し攻防一体の攻撃要塞となる星船形態
●しかも星船形態は全方位自動で敵を補足し攻撃する死角のなさ
●雨宮さんをして「格が違う」と唸らせた風格
●肩口から腕を失い、腹を裂かれても気絶すらしない精神力
●宿敵を倒すためならば寿命を残り一年にすることも厭わぬ根性
●仲間に対し「ありがとよ」と言葉に出して感謝できる素直さ
●流星を真正面から相殺、消滅させられるほどの力を持つ超圧縮型爆塵者
●以降はデコイで流星を完全に無力化するという優れた戦術眼
●敵の中で唯一アゲハの四肢を欠損させた実績
ドルキさんの美点はこんなにあるんだぞ!
ギル以上に問題を抱えるあの性格が全部を台無しにしてるんだけど!
投下開始します。
文字数は今までで最多となりました。
30分くらい経ったころ、重そうな教会の扉が開き2人が揃って出てきた。
中でどのような会話が成されたのかは分からないし、知ろうともアゲハは思わない。
けれど衛宮士郎の顔つきは先程までとは、がらりと変わっている気がした。
どうやら聖杯戦争に参加する意思も目的も見つけて戻ってきたようである。
帰り道。
今後のことについてアゲハは考える。
勿論セイバーと士郎についてだ。
戦うなら仲間は多い方が良い。強力なら尚のこと欲しい。
敵としての脅威が味方としての心強さに変わる。これ以上のことはない。
アゲハ(遠坂は嫌がりそうだな……)
魔術師として実力も思考も誇りも持っている凛にすれば同盟なんて滅多なことがなければ考えることはないだろう。
しかも相手が半人前の魔術師とあっては遠坂のプライドに傷がつくだろう。
アゲハ(しかし……まあ)
遠坂凛となら。
この2人でなら大丈夫だろう。
何となくアゲハはそんなことを感じていた。
もう少しだけ歩いたら、士郎とは別れようと凛は決めていた。
あまりに物を知らないマスターに少しだけ協力してあげたのもここまで。
聖杯戦争に参加すると決めたからには、これから両者とも敵同士。
いつまでも馴れ合う訳にもいかないし、一緒にいすぎると戦い辛くなってしまう。
そんな自分の性格を遠坂凛はよく理解していた。
じゃあね。そう言って別れようと思ったとき唐突にソレは現れた。
「――こんばんは。お兄ちゃん。こうして会うのは2度目だね」
暗闇のなか道端の電灯にさらされてその2人は立っていた。
片方は2mは裕に越すであろう巨躯を持ち、筋骨隆々の男。
片一方は雪を連想するような美しい髪を持つ少女、しかしその赤い瞳からは獲物を見つけた狩人の様なするどさを感じる。
セイバー「知り合いですか、シロウ」
士郎「いや、一度すれ違っただけの子だ、それがどうして……」
凛「どうしてって見りゃ分かるでしょ! サーヴァントとそのマスターに決まってるじゃない」
夜道で待ち伏せなんて聖杯戦争参加者に違いない。
そして、2人から放たれるプレッシャーと魔力はこれまで出会ってきた英霊達とは比べ物にならない程強く大きい。
相手の強さを肌で感じて凛は一歩後退する、
凛「こいつら……やばい」
「初めましてリン。私の名前はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンって言えば分かるでしょ」
その名前を聞いて凛はハッとする。
何かに気付いた様子の凛に向かってアゲハは尋ねた。
アゲハ「遠坂、何か知ってるのか?」
凛「……アインツベルンってのは遠坂と同じ始まりの御三家のことよ。ちっ、やっぱり参加してたか」
マキリ、遠坂、アインツベルン。
それぞれが得意分野を持ちここ冬木で聖杯戦争を始めたのは200年前。
凛も参加してくるだろうとは考えていたが、実際に目にすると非常に厄介な相手が出てきたものだと頭を抱えたくなる。
そんな凛の悩みなど意にも介さず、ぞの巨体で激しい地響きを鳴らしながらも、そぐわぬ速さでこちらに向かってくる。
こっちは4人が固まったままで、このままだと士郎や凛も巻き添えを喰らってしまう。
セイバー「来ます!! マスター下がってください」
イリヤ「やっちゃえ、バーサーカー」
敵サーヴァントが飛び込んでくるのセイバーは士郎を下がらせてから打って出る。
加速を加えての強烈な一撃。
身長差もあり体重も乗せられたバーサーカーの一振りを、全身全霊をかけたセイバーの刃で受ける。
刃と刃が、腹を抉るような轟音を響かせて一点で交わる。
相手の武器は斧だろうか。
岩か何かをそのまま削り出したような無骨なデザインの斧は重量感がある。
あの剛腕でそれだけの重量を秘めた斧の初撃を150cm程度の少女が受け止めたのだ。
凛「アーチャー、セイバーの援護を!」
アゲハ「言われなくても!」
安全なところまで凛と士郎を抱えていくと、凛の指示より早くアゲハは飛び出す。
アゲハ(流星は使えねえ、接近戦で左から崩す!)
セイバーが全力を持って受け止めた攻撃を、軽く斧を振っているだけに見えるバーサーカーが何度も続ける。
居間は防いでいるがそれも時間の問題、ディスクを右手に展開し武器の持っていない左側から崩そうと切りかかる。
――しかし。
アゲハ「ぐっ」
バーサーカーがただ横に振っただけの攻撃。
技も技術もなく、筋力にあかせただけの一撃。
それだけなのにバーサーカー程の英霊が行えば必殺の剣となる。
ディスクで守ろうとしたアゲハの努力をあざ笑うかのようなその一撃は、少し触れただけで根源的の力の差をアゲハの体に刻み込む。
アゲハ程度の守りなど何の意味も持たず、軽々しく吹き飛ばされる。
そのまま空いている左手でアゲハのボディ目掛けて裏拳が入る。
踏ん張る事すらできない程、一瞬の出来事。
アゲハは勢いよく飛ばされ頭からコンクリートブロックに突っ込む。
その衝撃に壁は文字通りコナゴナに砕けて白い煙を上げ、その様子からもどれ程の威力で叩きつけられたかは容易に想像できる。
普通の人間なら即死、サーヴァントと言えどかなりのダメージ受けることになるだろう。
セイバー「アーチャー!」
一瞬だけアーチャーの身を按じたセイバーもバーサーカーの猛攻の前にすぐさま意識を引き戻される。
バーサーカーの攻撃を受けるたびに、地面は深くめり込みセイバーの全身の筋肉は悲鳴をあげている。
今度集中を切ったらセイバーでも瞬殺される、バーサーカーはそれ程のサーヴァントだった。
イリヤ「あはははは、リンのサーヴァントよっわーい。でも私のバーサーカーは最強だからしょうがないよわね。バーサーカー! はやくセイバーもやっちゃいなさい!」
バーサーカーの一振一振りがどんどん激しさを増す。
スピードもパワーも最強のサーヴァントに相応しい。。
むしろ、ここまでかろうじにでも拮抗できているセイバーが凄い。
そう思ってしまうほどバーサーカーの能力はケタが違っていた。
そんな嵐の遥か後方、戦闘真っ只中に向かおうとする少年を凛は必死で止めていた。
凛「ちょ、ちょっと待ちなさいよ衛宮くん。あなたが行ってもどうにもならないでしょ!」
士郎「話してくれ遠坂。セイバーが戦ってるんだ! だったらマスターの俺も戦わなきゃ駄目じゃないか!」
凛「あなた、いまアーチャーがやられたの見てなかったの!? 英霊でさえ倒すような相手に只の魔術師……ううん。半人前の魔術師が対抗できるとでも思ってるわけ?」
士郎「そんなのやってみきゃ分からないだろ!? それにこのままだとセイバーが危ないんだ。目の前で死にかけてる女の子を見過ごすことなんて出来ない!」
凛(なんて頑固なのよコイツ!)
今まで名前だけは知っていたけれど士郎がこんなに頑固だとは思っていなかった凛。
普段の何でも屋的な士郎なら話せば分かるかと思えば、てんで分からず屋だった。
放っておけば士郎はバーサーカーに向かってしまい殺さてしまうだろう。
かといって念入りに策を練る時間もない。
ちらりとセイバーの方を見ると、まだ粘れそうだが捕まるのも時間の問題に見える。
凛(衛宮くんが半人前なのを除いても、あのバーサーカーの強さはどうなってんのよ!)
凛「と、とにかく。私とアーチャーで何とかするから衛宮くんはここで見ていなさい!」
士郎「だから、それじゃあ遠坂だって戦うことになるんだろ?」
凛「ああああ!! もう! わたしと衛宮くんじゃあま魔術師としての――ってえ?」
騒がしくしていた凛がいきなり静かになって何かに集中している。
士郎もそんな凛の様子に不安になって声をかける。
士郎「おい、遠坂。どうしたんだよ――」
凛「士郎! 今すぐセイバーをバーサーカーから離れさせなさい! 巻き添えくらっても知らないわよ!」
アゲハ『くっそ……』
頭強く打ち朦朧とする意識の中でアゲハは自分の不甲斐なさに怒りがこみ上げる。
視線の先ではセイバーが必死に交戦している。
150cm程度しかなさそうな体で、自分より1mは高いだろう相手に果敢に剣を振るっている。
バーサーカーの一撃に歯を食いしばって堪え、その体に傷一つ与えられないのに攻めることをやめない。
――オレは
オレはもう2度と大切なものを失わないと、守り通すと決めた。
なのに。
なんだこの様は。
なんだこの状況は。
まるで相手になっていない。
ランサーと戦いセイバーと戦い英霊と言っても、何とかなると思っていた。
でも最強のサーヴァントの前にオレはなす術もなく倒されている。
右腕は衝撃で折れているかもしれない。
バーサーカーの拳を喰らい内臓までダメージが及んだのか血がこみ上げてくる。
頭はぼんやりとして上手く働いていないのが分かる。
ぐふっとその場にどす黒い何かを吐き出す。
――ああ、これはオレの血か。
確か前にもこんなことがあった気がする。
ビデオの前で、ただ殺されるだけの子供たちを眺めてた。
何もない荒野で抵抗することも出来ずに、目の前で何人もの仲間を失った。
救えると思った人たちを最後の最後で手放してしまった。
だから、そうだ。オレはもう失わないと決めたんだ。
あの時の失敗もその後の失敗も、全部全部オレの力がなかったからだ。
今は違う。今なら失わないで済む。今なら全てを救える。
――思い出せ。オレが何を望んでこの世界に来たのか。
何を求めているのかを。
限界なんて超える為にあるんだ。
――お前もそうだろ…?
ああ、そうだ。
限界なんて超える為にある。
いま敵わないのなら、その壁を乗り越えろ。
敵を打倒するために発想飛躍させ、イメージしろ。
ここで負けたらオレやセイバーだけじゃない。
遠坂も士郎も死ぬんだ。
そんなことはオレがさせやしねぇ。
いまだボロボロな体を引きずってアゲハは動き出す。
バーサーカーとの距離は目測100m。
ちょうどいい距離だ。
左手を前に掲げ右手を引いた姿は弓を射る弓兵。
見えない弦を引き絞って一筋の流星を放った。
士郎「――セイバー! 今すぐそこから離れろ!」
マスターからの突然の命令にバーサーカーとの間合い一端はずして剣を下げる。
セイバー「何故ですかマスター!?」
士郎「いいから早く。説明は後だ!」
そのマスターの本気の様子に素直に20m程後退するセイバー。
考えも無しに逃げろと言うはずはない、なにか策でもあるのだろうと考えている矢先のこと、
見覚えのある漆黒の流星がバーサーカーを貫いた。
『プロクラム1.前方100m高速射出』
バーサーカー「■■■■■―――!!
無敵な巨人が呻き声をあげている。
その声は聞くものを不安にさせるような言葉にならない、低い地の底から絞り出たような声。
イリヤ「アーチャー? いつのまに」
良く分からない黒いものがバーサーカーを貫いたことで、すぐにアーチャーの存在を確かめる。
しかし、さっきまでそこで倒れていたアーチャーはそこにはいなく、黒い直線を目で追うと数10m先から伸びているように見えた。
イリヤ「一応アーチャーってだけのことはあるみたいね。でもそんな細い攻撃じゃあ私のバーサーカーに傷を負わせることはできないわよ!」
イリヤの言う通り、痛覚はあるのか痛みを感じているはいる様子はするものの動じずに、流星が飛来してきた方向に歩みを進めようとする。
『プログラム2。魔力感知は5m』
イリヤの言葉通り、あの程度の細っこい攻撃ではバーサーカーを止めることなんて出来ない。
セイバーや凛の目にもやはり駄目だったかと落胆の色が隠せない中。
『プラグラム3。ホーミングは無制限』
流星は再び動き出した。
貫いた所から足に向かって下方に伸びる。
そのままスライドして足を切断すると右腕に向かって突き刺さる。
胸、腰、肩、腹、肘、膝、頭。
バーサーカーを中心に半径5mの円の中を縦横無尽に流星は駆け巡る。
あらゆる関節、あらゆる肉体の全て喰らいつくしバーサーカーを肉塊に変えていく
バーサーカー「■■■■――――■■■■■■■■――!!!!!」
もはや叫び声なのかうめき声なのか、なんのか分からないバーサーカーの声が辺りに響き渡る
それでも流星は動くことを止めない。
外からの視認が出来なくなるほど、球体のなかを暴れまわり真っ黒に染めつくす。
そこにあるのはは漆黒の球体のみ。
イリヤ「な、なに? なんなのこの攻撃は!?」
セイバー「これがアーチャーの真の力……」
自分が動くことに魔力を使う。
バーサーカーを喰らうことでそも魔力を得る。
アゲハのプログラム通り、敵が消滅するまで流星は止まることを知らない。
既にバーサーカーの声は止まっていたがその球体は依然として、中を見通せない黒いままである。
アゲハ「どうやら、上手くいったみたいだな」
凛「色々とやってくれたわね」
いつの間にかこっちにきていたアゲハが呑気に自分の成果を見ているのに、凛は声を上げた。
アゲハ「よお、遠坂。元気にしてたか?」
凛「馬鹿。一発でKOされちゃったサーヴァントを持って嘆いていたところよ」
アゲハ「いやあ、確かにあれはオレのミスだスマン」
凛「別に気にしてないけど……それよりなんなのよこれ」
この不思議な能力のことは全員が疑問に思っていた。
突然飛来してきた黒い物体がバーサーカーを突き破り、そのまま漆黒の球体を形成したなんて意味が全く分からない。
アゲハ「説明はしても良いけど、後だ」
アゲハが指で指した方向に目を向けると暴王の月が活動限界を迎えた、漆黒の球体が解けて中が露わになる。
士郎「……」
そこには数分前までバーサーカーであった物が山積みにされている。
体のあらゆるパーツがバラバラにされている。
形状からかろうじで頭や腕の一部だったことが推測できるくらいだ。
イリヤ「ふ~ん。思ったよりもやるじゃない。リンのアーチャー」
自らのサーヴァントがやられたにもかかわらず、その声からは焦りも喪失感も感じられない。
凛「あら、負け惜しみ? あなたサーヴァントがやられた割に随分余裕そうね」
イリヤ「やられた? どうして? まだ私のバーサーカーは負けてないよ?」
唇に人差し指を当てて、心底不思議そうにイリヤが言う。
誰もが強がりだと思っていたしハッタリだろうと思いたかった。
けれど、そのイリヤの様子は嘘をついている様にも見えず嫌な予感が皆の脳裏をよぎる
その予感は的中することになる。
――バーサーカーは復活し始めた。
初めに足から、そして徐々に体腕頭と上に登っていき輪郭が出来上がる。
そこから傷の修復。
流れていた血は止まり傷は塞がる、ものの数分もしないうちにバーサーカーは完全の姿となって凛達の前に立ち塞がった。
士郎「ウソだろ? なんで?」
セイバー「おそらく蘇生魔術がかけられていたのですマスター」
イリヤ「セイバーあったり~! 生前12の試練を乗り切ったバーサーカーは1回殺されたくらいじゃ死なないんだから」
皆の驚いた姿に満足したのかイリヤは元気に飛び回っている。
凛「12の試練って……とんでもない奴を呼び出したわね」
12の試練。そこから分かるバーサーカーの正体は英雄ヘラクレス。
普通バーサーカーとは霊格の低い弱い英霊を狂化して使役するものだが、ヘラクレスはそもそもの霊格が段違いだ。
その半身は神であり日本においてもその知名度はとても高い。
アーチャーの新プログラムもバーサーカーを殺し切るには至らず状況は最悪と言える。
凛(もう一回、アーチャーに……駄目ね。もうバーサーカーに油断はないわ)
それに頼みのセイバーが疲弊しきっている。
あのバーサーカーの猛攻にここまで耐えたのはすごいが、もう限界だ。
肩で息をして、さんざん攻撃を受け止めた両手からが握力も失われ剣を握ることもできないだろう。
セイバー「……マスター。もしバーサーカーが向かってきたら逃げてください。私が時間を稼ぎますからそのうちに」
士郎「馬鹿! そんなことできるわけないだろ!? セイバーが戦うなら俺だってたたかってやる」
士郎とセイバーはこんな時にも関わらず言い争っている。
冷静に事を収め様とセイバーはするが、身振り手振り激しく士郎はそれに対立する。
同じように凛がアゲハに耳打ちをする、イリヤに聞かれないように極限まで音量を落として。
凛(アーチャー、もしもの時は……)
アゲハ(分かってる。今度はオレの本気で潰す。そん時は危険だからセイバーと士郎をつれて逃げてくれ)
イリヤ「お取込み中のところ悪いけど、十分楽しんだから私は帰るね。リンのアーチャーも中々面白そうだし満足したわ」
凛「え?」
じゃあねお兄ちゃん。と言い残してイリヤはバーサーカーの肩に乗っかり去って行った。
途端に拍子抜けしてしまって全身の力が抜けるのを凛は感じる。
そのまま道にペタンと座り込んでしまい、大きく深呼吸をしている。
アゲハ「なんだったんだあいつら……」
セイバー「ともかく危機は去りました。士郎ここに留まるのはまずい。騒ぎを聞きつけて他のサーヴァントが近づいてくるかもしれない」
士郎「わ、わかった。遠坂も立てるか?」
気遣ってしゃがんでいる凛に手を差し伸べる士郎。
その手が握られることはないのだが。
凛「お気遣いありがとう、衛宮くん。でもわたしなら大丈夫よ――それより」
アゲハ「ん? どうした遠坂?」
思わず凛はアゲハの方に目を向ける。
素手でも、あのバーサーカーの攻撃が直撃したのだ、サーヴァントと言えど無事なハズはない。
凛「なによ、あんた元気そうね」
アゲハ「そうでもねえよ。頭はくらくらするし、体中は悲鳴をあげている。早く横になって休みたいもんだ」
士郎「そうだぞ遠坂。アーチャーもこう言ってるし、今夜は休もう」
まあ、それもそうね。
なにか腑に落ちない顔をしたまま、しぶしぶと凛は士郎の提案に承諾する。
セイバーもアーチャーも消耗しているいま、襲撃されたらシャレにならない。
こうして、誰も知ることのない真夜中の決闘は、戦いの痕跡だけをその場に残し幕を閉じた。
今夜は終了です。
新プログラムが分かりづらいと思うので少し補足を。
流星はいつも通り直進しバーサーカーに刺さり、そこでプロクラム2が始動します。
つまり魔力感知はバーサーカーの周囲5mとなるわけです。
そこから無限のホーミングをするわけですがwikiの考察を参考にすると、暴王の月は自らが動くことでエネルギーを消耗してpsiを吸収する。
自壊の条件は動き続けエネルギーがなくなるか、収まりきらないpsiを喰らったかのどちらかとなる。
ならばホーミングを無限にして食らい続ければ半永久的に動けるのかなと思い、考えました。
乱戦においても長距離狙撃を利用できるように改良された流星です。
こんな感じで終わりとさせていただきます。
短いですが開始します
――夢を見た。
広がるのは朽ち果てた荒野。
数100m先まで見通せそうな景色。
崩壊したビルや建物が並び、異形の者たちが徘徊する世界。
そんなところにも、数十人の人々が身を寄せ合いひっそりと暮らしていた。
希望の見えない、絶望を具現化したような世界で彼らは生きていた。
生きることを諦める者、新天地に希望を持ち旅にでる者、ここで生きることを決める者。
皆、自分自身の選択をする。
空は重く厚い雲が広がり、太陽の光が差し込むことはない。
そこに一際元気な青年たちの姿。
彼らの顔に見覚えはない。
年は皆10代後半くらいだろうか、凛よりは少し年上に見える。
彼らは戦うことを選択した。
夢と希望だけを糧に生きる。
どれだけの時間がかかろうとも世界を取り戻す。
それがどれだけ困難な道であっても。
凛「ぅ……ん」
本日は日曜日。
先日の疲れもあり凛はいつもより遅い起床をする。
布団の温もりと外気の寒さのギャップが心地よい。
折角の休日だし、もう少しこのままでもいいだろう。
それだけ冬のベットといものは捨てがたい。
凛「……これこそ魔法ね」
なんて冗談を呟く。
凛「やっぱり、アーチャーの記憶……」
サーヴァントとそのマスターはパスを繋いでいるため、お互いの記憶が交錯して夢にみることがある。
だから凛が知らないのなら、それはアゲハの記憶。
見たくないものを見てしまった。
サーヴァントの記憶など余計な情報だ。
でも、見てしまったからにはどうしても考えてしまう。
凛「あれはどこかなのかしら」
荒れ果てた大地、瓦礫の山。
いまの光景はどこなのだろうか。
アゲハは自分は日本人で2009年の世界にいたと言っていた。
でもあの光景が日本だとは到底思えない。
凛(何かしらの天災? 地震とか隕石とか)
それしか考えられない。
でも、どれだとあの異形の生物たちの説明がつかない。
人型のもいれば、虫のようなもの、形容しがたい化け物までいた。
凛(ま、バーサーカーに比べれば紙みたいなものだけど)
どちらにしろ深く考えたところで仕様がない問題だ。
アゲハは日本と言っていたが、この世界と同じ世界とは限らない。
パラレルワールドの日本から聖杯が無理やりアゲハの魂を引っ張ってきただけの可能性も高い。
1つだけ気になる点があるとすれば
凛(……夢にアーチャーは出てこなかったのよね)
アーチャーの夢ならその光景もアーチャーの記憶のハズである。
しかし、いまの夢はアーチャーの記憶という感じではなかった。
それよりもあの5人の子供たちの記憶という感じだった。
夢の中に現れた5人の子供たち。
あの希望の閉ざされた世界の中、必死で毎日を生きていた。
彼らがアーチャーとどんな関係なのか、いまの凛に分かる術はない。
凛(じゃあ忘れましょう。やることはたくさんある。くだらないことに時間を使う暇はないのよ遠坂凛)
時間の経過と共に全身に血液が回り始め、回転の鈍かった頭も十分な酸素を供給して冴えてくる。
凛は自らの思考を打ち切りベットから飛び起きる。
昨日のバーサーカーのこと、学校の結界、謎の昏睡事件。
冬木の管理者として解決しなければならないことは山の様にあるのだ。
――夢を見た。
暗く、つらい、遠い昔の夢。
現実に打ちのめされ、無力さに泣いた。
それは、とても懐かしく、永久に戻ることのない、日々の記憶。
夜科アゲハは朝早く目を覚ます。
昨夜の死闘からまだそれほど時間はたっていない。
体は本調子だと言えないが、それでものんびり寝ていられほど穏やかな心中ではなかった。
圧倒的な敗北。
セイバーのおかげで一矢報いたが、一対一なら文字通り瞬殺されていた。
――貴様の力は狙撃にしか使えない。
いつか言われた言葉を思い返す。
不意打ち、奇策、能力の特異性。
自身の発想と応用力、柔軟性。
持てるすべての力を駆使し、格上との戦いも勝利を収めてきた。
ここでの戦いも、ここじゃない別のところでの戦いも。
ランサー、セイバーおよそ白兵戦に関してはサーヴァントの中でもトップクラスの相手。
痛み分けで終わったが、あのまま続けていればどちらが勝ったかなど明白。
バーサーカーにいたっては抵抗することさえ出来なかった。
背中のソファーの感触は気持ちよい。
柔らかく、それでいて芯の通った暖かさに安心感を覚える。
指の隙間から漏れる明かりはアゲハの顔を明るく照らしている。
このままじゃ聖杯戦争を勝ち残ることなんて出来ない
狙撃だけじゃ駄目だ。
近中距離で戦える力を身につけないと。
付け焼刃じゃない、根本的な新しいプログラムを考えなければならない。
甘かった。
聖杯戦争を甘く見ていた。
でも、そのおかげで大事な事を思い出せた。
どんなことになっても、もう二度と大事な人は失わせない。
そのためにオレはここにいるのだから。
終了です。
一端2人の気持ちを整理したかったのですが、結構難しくて要領をえてないのかも……
では、今夜はこれにて。
なんか言葉が変だった。
要領をえる→的を射る
でお願いします
早いですが始めたいと思います
居間に電話の呼び出し音がけたたましく鳴り響く
セイバー「シロウ、電話がなっています」
士郎「悪いセイバー。手が離せないから代わりにでてくれないか」
激闘から一夜。
多少の疲れはあったものの幸い大きな怪我もなく帰ってきてからすぐに床に就いた
それでもいつもより朝起きたのが遅くなってしまい時刻は12時を回っている。
とりあえず食事にしなければ始まらないと、昼食の準備始めていたため士郎は手がいっぱいの様子だ
セイバー「はい、衛宮です」
凛『あ、セイバー? 衛宮くんに代わってもらえる?』
セイバー「シロウですか? 申し訳ありませんが少し手が離せない様なので、伝えることがあるのならば私が聞いておきます」
凛『そう? じゃあ、いまから行くから2人分のお昼用意して待ってるように伝えてくれる?』
セイバー「こちらに来られるのですね。分かりました」
凛『30分くらいで着くと思うからよろしく~』
それだけ言って凛は一方的に電話を切る。
セイバー(昨日の今日ですぐに再会とは……)
凛が意味もなく遊びに来るような人物でないことはセイバーもとっくに分かっている。
ならば要件は1つしか思いつかない。
セイバー(バーサーカー対策と聖杯戦争についてですね)
セイバー「シロウ、凛がこちらに来るそうです」
士郎「え!? 遠坂が? どうして?」
セイバー「推測ですが昨日のバーサーカーの件ではないかと思われます」
士郎「……どういうことだ?」
セイバー「バーサーカーは協力なサーヴァントでした。そもそもの英霊がヘラクレスであるのに加えて狂化されている。万全な状態ではないと言え私たちだけで倒すことは難しい」
士郎「一緒に戦おうぜ、ってことか」
セイバー「あくまで推測です。魔術師がそう簡単に同盟を組むとは考えにくいですが、凛は下手なプライドや意地に囚われるな人間には見えませんでした」
それはつまりアーチャーだけではバーサーカーに勝てないと言っていることになる。
だから凛は力を求めて同盟を提案してくるだろうと、セイバーはそう言っている。
しかしそれはセイバーも同じこと。
今の段階では、たとえセイバーの宝具を持ってしても倒すことができるか難しい。
士郎は蛇口をひねり出しっぱなしにしていた水を止めて、濡れた手をかけてあるタオルで綺麗にふき取る。
昼食の準備を一時中断して士郎は食卓の前に腰を下ろした。
士郎「セイバーはどう思うんだ?」
セイバー「私は凛と組むことに賛成です。戦力的には勿論ですが、何より魔術師としての凛の頭脳は必ず重宝します。シロウの魔術の勉強にもなるかもしれない」
士郎「そうだよな。俺も遠坂が仲間になってくれるなら心強い」
じゃあ遠坂が来る前にご飯にしようと士郎は立ち上がる。
今日は疲れていたこともあって、メニューは簡単なサラダと鶏肉の照り焼き。
後は鶏肉を焼いて御飯をよそえば準備は完了のはずなのだが……
セイバー「シロウ。大事な事を言い忘れていました」
士郎「なんだ?」
セイバー「――凛が昼食を用意しておいて欲しいと」
凛「ごちそう様。衛宮くん料理上手ね、美味しかったわ」
士郎「そりゃどうも。こっちもわざわざ一品増やした甲斐があったってもんだ」
あれから程なくして凛が衛宮邸を訪れた。
御飯は大目に炊いていたものの肝心のおかずは少々心もとない。
折角凛がウチに来るというのだから少しばかり気合いを入れて作ろうと手早く主菜を一品追加したのだ。
士郎「それで? 食事するためだけにウチに来たわけじゃないだろ遠坂」
凛「もちろんよ。じゃあ本題に入るけど――」
凛「衛宮くん。私たち手を組まない?」
士郎たちの予想通り凛は同盟を提案してきた。
昨日のバーサーカーと戦ってみて凛にも、今回の聖杯戦争の勝ち残ることの困難さが分かっていた。
それでも当初は凛も渋っていた。
凛『――同盟なんてもってのほかよ!』
アゲハ『そう意地になるな遠坂。お前もバーサーカーの強さは見てただろ』
これからの方針を立てようと起き上がってきた凛とアゲハは食事そっちのけで作戦会議をしていた。
その中でアゲハがセイバーたちと手を組めばいいのでは? と提案したのだが凛は何やら不満がある様子。
凛『だからって衛宮くんの手を借りろっていうの? アーチャー、あんたいつからそんなに弱気になったのよ』
アゲハ『そうじゃねえ。オレに自信があるかないかは問題じゃない。手を組んだ方が有利戦争を進められる。そんなこと明白誰にでも分かる!』
凛『あんたは戦争に勝てば良いだけかもしれないけど、わたしはそれだけじゃない。魔術師遠坂の名前に懸けてこの戦争に参加してんのよ!』
それもある。
凛はアゲハと違い願いがあって戦争に参加したのではない。
生前の父の教え。
そして冬木を管理する者として自分の敷地内の戦争を見逃すことなんて出来ないのだ。
アゲハ『なあ遠坂。遠坂ほどの人間がこの状況が分からない訳ないだろ? それに理由はそれだけじゃないだろ?』
凛『なによ、他にどんな理由があるって言うの?』
アゲハ『同盟を組んだら後々戦いにくくなるってかんがえてるだろ』
凛『……っつ』
アゲハ『遠坂は口では冷徹に振る舞ってるけど心の中はそんな冷たいやつじゃない。仲よくすれば情が移って戦いにくくなるんだろ? じゃなきゃ同盟なんて適当な口約束程度の戦略的駒として考えてれば良いんだ』
アゲハの発した言葉は核心をついていた。
同盟なんて利用だけ利用して最後は裏切れば良い。
むしろ魔術師なら誇りもあるが、自分が勝つためにはそれ位平気でやってのけるものだ。
しかしこの少女は口で言う程、徹しきれてないし非情な人間でもない。
数日しか一緒にいないがアゲハにはそのことが良く分かっていた。
凛『はあ……分かったわよ。そこまで言われちゃ、どうしようもないじゃない』
士郎「……むしろこっちからお願いしたい位だ遠坂。よろしく頼む」
凛「あれ? わたしの予想ではもっと大きなリアクションをとってくれると思ってたんだけど、意外と冷静なのね衛宮くん」
士郎「いや、本当のこと言うと同盟の話って分かってた。今更ただの馴れ合いを遠坂が好まないのは知ってたし、このタイミングならバーサーカーの件だって思うだろ。ま、それでもこんなにストレートにお願いされるとは思ってもみなかったけど」
凛「形振り構う程余裕ある状況じゃないのよ残念ながら」
セイバー「凛。それ程までに言うということはバーサーカー以外にも何か問題が?」
凛の奥歯にもののはさまった様な言い方にセイバーが不審に思う。
なにか他にも問題ごとあるような言い方に聞こえたのだ。
凛「ええその通りよ。衛宮くん。最近学校で変な気配とか感じたことはない?」
士郎「そうだな……気配とはちょっと違うかもしれないんだが、昨日学校の校門を潜ったら甘ったるい鼻を突くような感覚を覚えたな」
凛「ふ~ん、衛宮くんはそういう風に感じるんだ」
セイバー「凛。それが一体なんだというのですか」
凛はそこで一度アゲハにしたのと同じ説明をする。
あの違和感の正体は結界。
それもとても大きく一度発動したら学校の敷地内にいる人間が全て溶解してしまうほどである。
説明を聞くに連れて士郎の顔は驚きを隠せなく目を見開いているが、次第にそれは怒りへと変わっていく。
士郎「なんだよ、それ……」
凛「現状最優先するべき課題はバーサーカーよりもこっちの方よ。残された時間も長くはないわ」
セイバー「どのくらいの猶予があるのですか?」
凛「今日を含めて残り9日ってとこね。だから私たちは優先してこの結界をなんとかする。その後対バーサーカーに向けて対策を練らなければならないの」
まだ太陽の位置は高く、行動を起こすには十分な時間が残されている。
まさか自分の学校がそんな危険にさらされていたと聞いて士郎はいても立ってもいられない。
それに引き替え凛は焦っている様子など微塵も見せずに、ゆっくりとお茶を飲みほしてから立ち上がり、大きなキャリーケースに手をかける。
士郎「……遠坂、その大きな荷物はどうするつもりだ?」
凛「何って、これからここに泊まるんだから色々必要なものがあるのは当たり前じゃない。それよりわたしはどこの部屋を使えば良い? 士郎」
士郎「それなら奥に行って別棟の……って泊まる誰が!?」
凛「誰ってわたしとアーチャー以外に誰がいるのよ」
士郎「いや、そんなに急に言われても……その……」
凛「はぁ。衛宮くん同盟組んでるんだから一緒にいた方が安全じゃない。ここまで来たんだからいつまでもぐちぐち言ってたら駄目よ」
そうして、まだ納得できない士郎をおいて凛は我が物顔で衛宮家を奥に進んでいく。
ただでさえセイバーと一緒で緊張するってのに凛まで、我が家に泊まるなんて言い出し士郎の胸中は穏やかでない。
セイバー「シロウどうしたですか? 凛が一緒に住めば大変心強いと思うのですが何か問題でも?」
士郎「いや大丈夫だ。遠坂がああいう奴だってことは分かってたから。動揺するだけ無駄なんだ」
セイバー「?」
そう言えばアーチャーはどこに行ったのだろうと気になる。
凛と一緒に来たのだが、そのまま食事もとらずにどこかに消えてしまった。
庭にもいないしあの話し合いにも一度も顔を出していない。
さすがに士郎も気になりはじめ家の中を探し始める。
部屋はいくつもあり面積自体も広く初めての人間だと迷いがちだが、慣れると簡単に一周できるようになる。
土蔵を覗き大きな部屋を探していくも姿はなく、最後に一つだけ場所が残った。
士郎「やっぱりここだったか」
さっきまでの喧騒が嘘のように、その空間は静寂に支配されている。
まるで時間が凍りついてしまっているような印象を受ける、その部屋の中心にアゲハはいた。
士郎「……アーチャー」
呼びかけても返事はない。
こちらの声などまるで聞こえていないようだ。
しばらく待っていても変わり映えはなく、アゲハは身動ぎもせずに集中している。
士郎(邪魔しちゃ悪いな)
士郎は何もせずにアゲハの姿をそのまま眺める。
別に面白いものがあるわけでもなく居間に戻ってのも良かったのだが、なんとなく動くにはならなかった。
凄く長い時間のように感じられたが実際には数分たったころ。
アゲハが士郎の気配に気づいいた。
アゲハ「お、士郎か。なにしてんだ?」
士郎「いや、別になにもしてなかったよ。それより邪魔しちゃったか?」
アゲハ「いや、いま気づいた。それに別にそんな大切なことしてたわけじゃねえし」
そうか、と士郎は頷く。
セイバーも言っていたが本当に不思議なサーヴァントだと思う。
ランサー、セイバー、バーサーカーと何人かの英霊を既に見てきたが、そのどれもに貫録というかオーラのようなものを感じていた。
そもそも恰好からして現代風のものじゃない。
鎧を着て武器を振り回す人間なんて現代の日本でおいそれとみられるものじゃない。
ただしこのアーチャーにはそれがない。
そしてクラスメイトと話してるだけのうような気軽さをこの英霊からは感じる。
士郎「なんか全然英雄っぽくないよなアーチャーって」
アゲハ「中身はどこにでもいる16のガキだから。あ! てか勝手に入っててワリィ! 良い所見つけたからつい長居しちまった」
士郎「良いよそんなこと、気にするな。それよりアーチャーはこんな所が気に入ったのか?
」
アゲハ「なんつーか、ここは静かで心が落ち着くし集中できる。遠坂の所は全体的に洋風で豪華だから、いまいち集中できねえし」
士郎「へーサーヴァントになっても心は日本人ってことなのな。それでアーチャーはここで何してたんだ? 凄く集中してた様に見えたけど」
アゲハ「新しい技の開発をちょっとな」
士郎「技って……あの黒い奴のことか?」
アゲハ「ああ。詳しくしゃべると遠坂が怒るから言わないが、オレの能力は自由自在にカスタマイズできる。その新しい案を考えてたんだ」
自由自在にカスタマイズ。
それだけ聞いて士郎は素直にスゴイと驚いてしまう。
バーサーカー戦の最後のアーチャーの一撃。
あれには目を疑った。
突然黒い塊が飛来してきたと思うと、一瞬でバーサーカーがバラバラにしてしまうのだから。
魔術師として半人前の士郎でもあれがどれだけ異質のものか肌で感じた。
アゲハ「今回はセイバーがバーサーカーを抑えてくれていたおかげで一撃かますことが出来たけど、それじゃあ駄目だ。一対一でも戦える位ならないと聖杯戦争を勝ち抜くことなんてできない」
士郎「やっぱりアーチャーも聖杯戦争に勝ち残りたいのか?」
アゲハ「当たり前だろ? それに遠坂が召喚したサーヴァントがオレなんだ。1人でも勝てるくらいじゃないと遠坂凛に失礼だ。オレはあいつを勝たしてやりたいしオレも勝たなければならない理由がある。だからこんな弱いオレのままだとダメなんだ」
士郎(まだ強くなるつもりなのか……)
サーヴァントとして召喚され、すでに完成されている強さを持っていると思ってたけどまだ力を求めるアーチャーの姿勢。
でもそういうものなかもしれないと士郎は納得する。
自分も魔術の鍛錬、肉体の鍛錬を続けてきたけどそれは身近な人を守れる強さが欲しいからだ。
別に何でも救えるような過度な強さを求めるわけではない。
あくまで災害時などに役に立つようなレベルだ。
士郎(英霊ともなれば、必要な力も望み俺とはボーダーが違うってことか)
セイバー「シロウ。ここにいましたか。アーチャーも」
士郎「どうしたセイバー」
セイバー「凛が2人のことを探していました。今は庭にいると思うので早めに行ってあげてください」
アゲハ「やれやれ、なんか悪い予感しかしないな」
士郎「奇遇だなアーチャー。俺もそんな気しかしない」
しかし待たせると待たせたで、また跡が恐ろしい。
へそを曲げられる前に行ってしまおうと2人は道場を後にする。
物語もゆっくりと動き始めたのかなと思います。
今夜はこれまでです。
>>385
サンクス!
つまりアゲハが目覚めてないだけでサイレンの話は終わってるのか
>>1のオリジナルプログラムの暴王も見てみたいけど、シンプルイズベストな原型暴王も使ってほしいな
あれが一応なんの制限もかけてないから、ノヴァ状態の次に性能自体は高いわけだし
原型暴王はマジで制御が効かないからなあ…ほんとにヤバいってときのノヴァと同じく切り札扱いが妥当だろうな
なまじ規模がでかい分、強制終了かけようとすると頭カチ割れそうになっちゃうし
新プログラムの募集とかしたりするかな?(チラッチラッ
今読み返してみると風王結界って喰えんじゃね?
ゲイ・ジャルグのように
通された部屋はえらく殺風景なものだった。
片隅に小さな机が配置されているほか家具らしい家具は見当たらない。
しかし見える所に埃やチリはなく、家主である衛宮士郎の性格が窺い知れる。
士郎「何もないところだけど、まあ好きに使ってくれて良いから」
アゲハ「悪いな。急に押しかけておいて部屋まで用意してもらって」
士郎「気にすんな。部屋ならいくらでもあるし、あー……俺としてもこの部屋割りに出来たのは正直助かった」
その部屋割りというのはセイバーがどうしても士郎と同じ部屋、あるいは隣でないと納得できないというものだった。
敵サーヴァントに襲われたらどうするのです、サーヴァントとして私には士郎を守る義務が存在するというのがセイバーの言い分。
対して士郎の言い分としては結界も張っているし、そこまでしなくても大丈夫との事。
たしかに本音でもあるが士郎の心を少しばかり解説すると、こんな可愛い女の子と一緒の部屋になんかで寝られるかという意味を含んでいる。
しかしながら、セイバー決して首を縦に振ろうとはしない。
話はいつまでたっても平行線のまま終わりが見えなかったのだが、そんな時に凛が言った『じゃあアーチャーを隣にすれば良いじゃない』の一言で片が付いた。
それなら護衛も出来るし安心だということで渋々ながらセイバーを納得させたのだ。
アゲハ「セイバーは不服そうだったけどな」
士郎「セイバーは心配しすぎなんだよ。俺だって自分の身くらいは自分で守れるんだ」
そして結局アゲハが士郎の隣の部屋、セイバーが凛の隣ということで落ち着いた。
アゲハ「そういや士郎、遠坂に呼ばれてなかったか?」
士郎「ああ、何でも同盟の間は少しでも戦力になってもらいたいから魔術を教えてくれるらしい」
アゲハ「そいつはご苦労なことだ」
じゃあ行ってくる。
そう言って士郎はアゲハを部屋に残して凛の占拠している部屋に向かう。
ちなみに余談ではあるが、凛の選択した部屋はこの家で一番良い部屋で中も畳ではなく別途にカーペットの洋風な作りになっている。
いわく、魔術師として場所に拘るのは当然とのことらしい。
士郎が去り話し相手もいなくなり、急に暇になってしまった。
あいにく凛と違い荷物も持っていないため荷ほどきの必要もない。
時刻はまだ午後4時ごろ。
いまの状況では外に散歩しに行くことも出来ないため本格的にやることがなくなってしまった。
アゲハ「ま、じゃああそこに行くか」
そうして選んだ先は昼間の道場。
なんとなく落ち着くし考え事をするにはぴったりだと思ったからだ。
頭の中にあるのはいつも、この戦争のこと。
アゲハ(ノヴァを使えばバーサーカーにも勝てるかもしれない……でもそれじゃあ……)
ノヴァを使えば聖杯戦争を制することができるだろうとは、前々から思ってはいた。
しかしあれは諸刃の剣。
発動すれば自分はどうなるか分からない。
それに今は凛から魔力を供給されている身である。
下手にノヴァを使えば凛の魔力を根こそぎ奪い尽くし、命を脅かすかもしれない。
何よりも自分はこんなところで倒れてはいけない。
一度駄目だと思って、諦め掛けた願望にもしかしたら聖杯の力で叶えられるかもしれない。
だから夜科アゲハは絶対に聖杯を手に入れなくてはならない。
未来に置き去りにしてきてしまった彼らのためにも。
アゲハ(誰かいるのか?)
そうこう考えてるうちに目的の道場までたどり着いた。
扉は少しで開いており、中からは人の気配が感じられる。
いまこの家にいる人物からすると、誰がいるかは明白でアゲハは躊躇せず中に踏み込んだ。
アゲハ「よっ、セイバー」
セイバー「足音がすると思ったらあなたでしたか、アーチャー」
アゲハ「残念ながら士郎ならいま遠坂のところでお勉強中だ」
セイバー「確かに、そんなことも言っていましたね。ところでアーチャーはここに何か用ですか?」
アゲハ「サーヴァントってのも暇なもんだな。やることなくてつい来ちまった」
セイバー「結構なことではないですか。我々が大変な状況にあることは主の危険にもつながる。疲弊しているいま、これくらいがちょうど良い」
アゲハ「つっても迂闊に出歩くこともできないのは、性に合わねえ」
アゲハはついこの間まで、普通の高校生として生活していた。
いきなり外出は駄目、有事の際以外は従いなさいと言われても暇を持て余してしまう。
対照的にセイバーはこの静かな一時を楽しんでいる節がある。
アゲハが入ってきても綺麗な正座の姿勢は崩すことなく落ち着き払っている。
アゲハ「セイバーも歴史上の英雄なんだよな?」
セイバー「はい。英雄なのかは自分の口から判断出来ませんが、この身はとうの昔に朽ちたものです」
アゲハ「それって地味にすごくね? 要は織田信長と話してるようなモンだろ?」
セイバー「まあ、そういことになりますが……あなたもこうして召喚された身。同じような存在ではないですか」
アゲハ「だから前にも言ったけど、オレはただの高校生で英雄なんかじゃないっての」
セイバー「しかし、聖杯戦争に呼び出されたからには何かしらの功績を立てたのでしょう。その能力も一介の高校生のものとは思えない」
アゲハ「……」
アゲハは黙る。
なんとなくセイバー相手には言い返す気も起きなくなるのは何故だろうか。
話を聞く態度、姿勢、そしてしっかりとした回答に見た目では分からぬ、時と共に築きあげてきたもの差を感じてしまう。
アゲハ(意外と良く知っている人物なのかな、どっかの王女様とか)
アゲハの妄想は半分正解で半分不正解。
しかし、それでも一区切りついたのかアゲハはうんうんと一人で納得したようにしきりにうなずいている。
セイバーとしては同じ英霊同士なのにも関わらず、ここまで関心を寄せるアゲハの態度が可笑しくて思わず笑みがこぼれる。
そのまま動きもせず突っ立ていたアゲハが、何を思い立ったのかが急に立ち上がり、キョロキョロと辺りを見回し始める。
お目当てのものはすぐに見つかり、アゲハ道場に隅まで歩いていき、そこにかけてあった竹刀を一本手に取る。
アゲハ「セイバーもいま暇だろ? よかったら付き合ってくれないか?」
そうして手に持っていた竹刀を一本セイバーの方へと放り投げる。
竹刀は緩やかな放物線を描き正座しているセイバーの膝元に届く。
いきなりの展開に戸惑いつつも、つい飛んできた竹刀を受け止めてしまうセイバー。
セイバー「アーチャー、これはどういう意味ですか?
アゲハ「意味って、そのまんまの意味しかないだろ。暇してるのも勿体ないし、折角だから体動かそうぜ」
アゲハの言いたいことは、暇だから試合しようぜ、である。
あまりに予想外の展開に一瞬セイバーの思考が停止する。
英霊同士で殺し合いじゃない、真剣勝負など過去に前例があったのだろうか。
しかし、それもつかの間。
気づくとセイバー自身も、立ち上がりアゲハを目の前から見据えていた。
セイバー「――面白そうですね。その勝負受けて立ちます」
短いですが終了です。
このまま続けると長くなりそうなので一端切りました。
成長に関しては、あくまでも能力の使い方なので英霊だとかは関係ないと思いました。
ノヴァに関しては前々から書こう書こうと思っていたのですが、書きそびれてしまい今回急いでの追加です。
いまのアゲハは痛み分けで死ぬわけにもいかず、凛にも負担をかけるかもしれない&凛を勝たしてあげたい気持ちが強いため使用を抑えています。
>>387
確かに読み返すとプラグラム無し暴王を使っているような描写がありますね。
完璧に見逃してた。
どうやってノヴァなしで全力出させようか考えていたので感謝です。
>>389
いやーそれ考えたんですよね。
最初の一撃防いだら風王結界が破壊されて、露わにされる聖剣。
でもめんどくさくて書かなかったです。
でも私的にもそうなるような気がします。
>>388
どうしましょうかね。
自分は構わないですし面白いと思います。
正直いう程新プログラム考えていないですし、使わない気がしているので自由にやってくれても私は良いですよ。
私は被ったとしても気になりませんよ。
さて、少々面白い展開に自分でも書くのをわくわくしています。
それでは、また。
今日夜いきます。
2度目の対セイバー戦はひとまず決着です。
あとレスの中に後々使おうと思っていた新案がでていました。
どのように魅せられるか楽しみにしています。
開始します。
セイバー「アーチャー、あなたはそのままでいいのですか?」
セイバーと正対するアーチャーの手は空。
それなのにセイバーの右手には竹刀が握られている。
素手と剣。
戦争の最中での得物の違いならば別段驚くことでもないのだが、道場で試合となればその異様さが分かる。
して、思わずセイバーも声をかけざるを得なかった。
アゲハ「良い。そもそも剣なんてつかったことないし、オレにはこっちのがしっくりくる」
胸の前で両の拳を突き合わせ、そう語るアゲハ。
その目は真剣で気迫に満ち溢れている。
セイバー「分かりました。竹刀とは言え、痛いでは済まされませんよ」
アゲハ「そっちこそ打撃の辛さは斬撃とは違うぜ、鎧は付けなくても良いのかよ」
セイバー「それこそ愚問だ。この両手で握るは真剣にあらず。防具だけは身に着けるなど私の騎士道に反する」
セイバーは竹刀を正眼に構える。
両者の間に語るべき言葉は尽きた。
後はただ純粋に交わるのみ。
凛「――あら思ったよりも元気そうね。素質あるじゃない」
最初凛に宝石の様なものを飲まされた時は、体が沸騰したのかと思う程熱くなり意識は朦朧としたが、しばらくしたら体に馴染んでくるのを士郎は感じていた。
凛「さっきも言ったけど、強制的に衛宮くんの魔術回路を開くために荒っぽいことしたから今日一日はゆっくり休みなさい。間違っても魔術を行使しようなんて思わないこと」
士郎「ああ、ありがとな。遠坂。協力関係とは言えここまでしてくれて助かった」
凛「あら、これだけの間違いでしょ?」
これだけ? なにがこれだけなのだろうと士郎は凛に聞き返す。
ここまでやっていてくれて、既にこれだけのことではないと士郎は思っていた。
凛「だって、これから数日で少しでも戦力になってもらおうって言ってるのよ。普通に鍛錬してたら間に合う訳ないじゃない」
士郎(つまり、荒っぽいのはまだまだ続くわよ、てことか)
士郎「望むところだ。元々俺がやってた鍛錬も相当危険なものなんだろ? だったら何も変わらないさ」
凛「……流石に毎回魔術回路を一から生成するなんて自殺行為はしないわよ。でも、そうね。衛宮くんにはこれくらいがちょうど良いのかもね」
あの遠坂をも自殺行為と言わせる行為を休みもせず、5年間も続けてきたことに今更ながらゾッとする。
死にかけた事は1度や2度ではなかった。
それも今夜で終わりと思うと名残惜しい気がしないでもない。
凛「今日は鍛錬も出来ないし、折角だから衛宮くんの工房……って持ってるはずないか。うーん、いつも鍛錬している所に連れて行ってくれない? 今後の教育方針に役立つと思うから」
士郎「分かった。言っとくけど遠坂が持ってるような部屋と一緒にするなよ? ガラクタしかないし単にそこが落ち着くだけで、別に何かがある訳じゃないぞ」
凛「言われなくても半人前以下の衛宮くんが立派な工房持ってることなんて期待してないわ。少しでもあなたの魔術の雰囲気が掴めれば良いだけ」
何かすごく酷い事を言われている気がするけれど、本当のことだけに何も言い返すことが出来ない士郎。
ともあれ凛を土蔵まで連れて行くことになったので、いつまでもここにいてもしょうがない。
まだ本調子でない体を支えて、土蔵に向かうことにした。
打ち合いを初めて既に一時間。
アゲハの体は限界まで身体能力を上げて、反応速度も研ぎ澄まされる。
二人の間で繰り広げられるせめぎ合い。
拳を足を一体どれだけ繰り出したのかなんてアゲハは覚えていない。
それでもセイバーに自身の攻撃が一度として通っていなかった。
アゲハ「っく!」
バランスを崩れたところに容赦ないセイバーの剣が奔る。
仕方なしにアゲハは右手の甲で斬撃を受け止める。
竹刀とは思えぬ重さに腕がじんわりと痺れる。
ライズで強化されている肉体の上からでも、その太刀筋の鋭さが分かる。
折角近づけたのだ。
この機を逃すことなく間合いを詰めての殴打も、僅かに首を傾けることで躱される。
ここまで戦ってきてアゲハには一つ分かったことがある。
どうやらセイバーには天賦の才能なのか百戦錬磨の称号なのかは分からないが、ずば抜けた勝負カンを持っている。
どう動けば躱せるのか、どこに打ち込めば相手に当たるのか。
長年培ってきた技術に加え類まれなるカンによって、一瞬の間に判断して実行している。
正面からの攻撃なんて、いかにスピードがあろうと捉えることは難しい。
それこそバーサーカー程の膂力があれば話は別なのだが。
アゲハ(となると素手じゃキツイ相手だ……オレはいつまでもセイバーの攻撃を避けてはいられない)
セイバーと距離空けて思案する。
状況は極めて悪い。
なにしろ有効な攻撃手段がいまのところゼロに等しい。
まあ何かの武術を学んだのでもなく単に喧嘩慣れしているだけの少年なのだから、当然と言えば当然なのだが。
この距離ならセイバーの踏込みに対応できると思ったのだが、それが間違いだった。
セイバーはアゲハのその油断を逃さずに腰を落として力の限り床を蹴った。
音も立てず、一瞬の間にセイバーはアゲハに接近する。
セイバー「油断と言うものは、このような状況を指すのですよアーチャー」
最速の突き。
踏み込むのと同時に放たれた突きのスピードはいままでの比じゃない。
躱すことは不可能。
アゲハ(どうする!?)
咄嗟に拳が出る。
避けられないのなら、せめて一撃だけでも。
考えたのでもなく放たれたその攻撃は、突っ込んできたセイバーにカウンターの要領でその顔面を狙う。
それも空しく散る。
なんてことはない。
そんな軌道の読みやすい攻撃をセイバーが受けるハズもなく、アゲハの拳は紙一重の差で空を切る。
掠ったことで頬がきれたのだろうか。
セイバーは頬に血を滲ませながらも、完璧に躱してその剣をアゲハに向けて突きたてる。
――ドクン
(心臓が痛い)
――ドクン、ドクン、ドクン
(うるさい、何の音だ?)
聴覚を刺激するのは自身の心音。
視覚からは剣もセイバーも消え失せる。
(血、紅い血。どこかで……)
ただ目に映るのは紅い紅い血。
戦いの最中だというのに、眼前にもセイバーの切っ先が迫っていたのに、どれも分からなくなって、脳に焼きつくのは一筋の紅い血。
(――オレは今なにをして……)
意識はより心の深層に到着する。
思い出すのはセイバーとの出会い。
(あの時も、追いつめられて、攻撃して、そして……)
――鮮血
(そうだ、あの時も)
あの時も同じだった。
不可視の剣。
砕けるディスク。
痛む胸。
黒い流星。
一筋の鮮血。
ホーミング――
追いつめられた体の中で何かが噛み合う。
あのプラグラム解除も必要なことだった。
無ければ今頃セイバーに真っ二つにされていたに違いない。
ランサーとの戦いでサーヴァントの強さは知っていた。
接近戦で戦う危うさも感じていた。
だから必要だった。
追いつめられ、それでも相手に報いるために、あのプログラムは無くてはならなかった。
なになら出来るとか、これなら制御できるとか、あのプラグラムなら勝てるとか。
そうじゃない。
必要だった。
負けないため、死なないため、守るため、救うため、なければいけなかった。
あの世界の中を生き抜くため考えた末、自然とたどり着いたのだ。
難しく考えることはない、生きる為に何をすれば良いのか。
それはオレが一番わかってる。
それだけで今日までオレは――
急激に体の熱が下がっていくのを感じる。
考えた訳じゃない、知っていたのでもない。
この場を切り抜けるため、肉体が勝手に動いた。
――夜科アゲハの細胞が瞬間的に反応した。
肘を支点にそこから先を振り回す。
どこかの暗殺者が生涯を懸け得た技を。
アゲハは振るう。
勝つために。
それが必然なのだ。
死角からの予想外の攻撃をモロに受けるセイバー。
同時にセイバーの突きもアゲハの喉を打ち抜く。
アゲハは背後に、セイバーは真横に吹き飛ばされる。
貫かれた喉はじくじくと痛み、受け身も取れず打ち付けた背中にも鈍痛が走る。
だが相手も同じだ。
こめかみに入った一撃に顔を歪ませて膝をついている。
セイバー「ああ、完璧に避けたと思ったのでしたが……」
――相討ちですね。
セイバー「ふむ。極限状態に追い込まれた体が反射的に生き残る道を選びとった。アーチャーは生前からそのような生死を懸けた戦いを行ってきたのはないですか?」
アゲハ「……思い返せばそうかもな」
楽な戦いなんてほとんど無かった。
いっつも命がけで戦い、綱渡りのような危ういバランスの中で勝利を掴み取ってきたのだ。
竹刀とはいえセイバーの剣を目の前にして余裕なんてあるわけがなかった。
だからこそ相討ちにまで持ち込めたともいえるのだが。
そこで話はお終い。
あとはゆっくりと夕食の時間を待つのみ。
それだけのはずが、思いがけないセイバーの言葉にアゲハは更に大きな壁と対面することになった。
セイバー「手を合わせて思ったのですがアーチャー。あなたは前回も今回も戦い方が変わりませんね」
アゲハ「どういう意味だ?」
セイバー「素手か……あの円盤を持っているかの違いはありますが、あなたの戦いのパターンは何も変わっていない。いや、むしろ円盤を持った時の方が退化している」
セイバーの意図は何も掴めない。
何を伝えたいのか、何のためにこんな話をしているのか。
分からないから余計な口を挟まず聞き役に徹することにした。
セイバー「柔術、剣術、槍術、杖術。武器は違えば戦い方も変わる。しかし、あなたは変わらずに円盤を振り回すだけだ。動きにくさも相まって振るう以外の選択肢もなくなり、素手のときよりも更にワンパターンな戦い方になる」
アゲハ「……他にもある。セイバーに放った流星もバーサーカーを打倒するのに使えただろ?」
溜まらずに反論するアゲハ。
そこにあるのは怒りではなく、純粋な疑問。
少なくとも自分の能力が他人より、応用性に富んでいると思っていたことから湧く質問だった。
セイバー「ですから、それも単一的なものです。アーチャー、あなたの能力は強力だ。単純な能力の性能だけで判断すれば、あなたの能力程戦いに関して優れているものもそうはないでしょう」
セイバー「しかし実際に戦闘において優位に立てるかと言えば違う。あなたは自分の能力が強力さ故に自己が縛られてしまっている」
アゲハ「……」
セイバー「その力を中心に戦うのは当然のことです。しかし、それが全てではありません。私も宝具に頼ってるだけではないのです。敵との戦闘において、特殊能力や技に頼ることは選択肢の一つに過ぎない」
――あなたは、その才能を生かし切れていません。
ズシリと言葉がアゲハの体に染み込む。
言われたとおりだった。
いかに新しいプログラムを組むのか、それしか考えていなかった自分に嫌気がさす。
大事なのはどう能力を使うのではく、どう戦うのか。
それすら暴王の月を得てからの僅かな時間で忘れてしまったというのか。
強く奥歯を噛みしめる。
アゲハ「――サンキュー、セイバー。いろいろ気づかされた」
セイバー「いえ、私は感じたことを口にしただけです。あとはアーチャーがどう受け止めるかです」
アゲハ「ふっ……そりゃそうだ」
何が可笑しかったのかアゲハは吹き出す。
アゲハ(全く死んだこの身で学ばされるなんて)
士郎『セイバー、アーチャー。何処にいるんだ? もう夕食にしようー』
セイバー「もう、そんな時間ですか。アーチャー。シロウが呼んでいるので私は先に行きます」
アゲハ「オレもすぐに向かう、士郎と遠坂にもそう伝えてくれ」
終わりです。
ただの模擬戦にしては盛り上げすぎ感も否めませんが、思いついてしまったものは書かずにいられませんでした。
それとお気づきだと思いますが、こういうパロネタってどうなんでしょうか?
自分は結構使っていきたい思いがあります。
ただ読む側からすると冷めてしまうこともあるのでしょうか?
とりあえず今夜は終了です。
また。
遅くなりました。
今日中に投下します。
凛「それで、今後の方針なんだけど」
アゲハ「当面は学校の異常を何とかするしかないな」
セイバー「そうですね。凛の言う通りの結界なら早急に手を打つ必要がある」
士郎「具体的にはどうするんだ? 遠坂でも解呪出来ない代物なんだっけ?」
凛「問題はそこなのよね、わたしに出来ることなんて時間稼ぎだけだし」
アゲハ「だったらそのサーヴァントかマスターを潰せば良いだけだろ」
セイバー「その通りですが、その敵が見つからないから困っているのでは?」
士郎「俺はともかくとして、遠坂なら学校で怪しい奴とか見つけられるんじゃないのか?」
凛「そいつの残していった残滓みたいのものは感じるけれど、特定できる程じゃないわね」
アゲハ「それに相手は大したマスターじゃない。士郎が魔術師だってばれなかったように遠坂が魔術的アプローチで見つけるのは難しい」
セイバー「大したマスターでない? アーチャーそれはどういう意味ですか?」
夕飯は昼のお礼を兼ねて凛が調理した。
衛宮家では中華料理つくるものがいないと分かると、凛は冷蔵庫の中身を手早く確認してから見事な中華の腕前を披露した。
その味はすばらしく、わずかに残っていた士郎のプライドを砕くには十分な出来栄えであった。
魔術で負け、成績で負け、しかし料理ならと淡い期待を抱いていた士郎は、皿に盛られた麻婆豆腐を一口食べてその期待が期待に過ぎなかったことを知ったのである。
魔術師2人にサーヴァント2体。
いつまでも、美味しい美味しい言ってるばかりであるはずもなく話題は自然と聖杯戦争のことになった。
食事が進み凛が今後の方針を口にし始めたからでもあった。
四人もいると実に賑やかなもので、会話のキャッチボールはもはやドッジボールのように乱れ飛んでいる。
セイバー「なるほど。確かに一流の魔術師はそんなことしませんね」
以前アゲハが屋上でした推測をもう一度2人に説明する。
結界を張ったマスターは素人であるだろうこと。
その説明を聞いてセイバーは納得したように頷いている。
士郎「でも結局犯人がどんな奴か分からいよな。まさか一人一人に聞いて歩くことも出来ないし……」
凛「それなら大丈夫。わたしに策があるわ。恐らく数日中には必ずアクションを起こしてくるはずよ」
凛には一応の打開策があるらしく、その点は凛に任せることで満場一意し、凛と士郎は放課後誰もいなくなったら屋上に集合して学校を捜索することにした。
今は全部活停止中。
誰にも見られることなく学校の中を隈なく捜索できる。
そのまま作戦会議はお開きとなった。
皆が明日に備え早めに就寝する中動く人間の姿が1つ。
今は深夜2時。
辺りは真っ暗で足の踏み場さえも怪しい。
暗い廊下を歩き目的の部屋の前で立ち止まる。
部屋の主は寝ているかもしれない。
起こさないように、かつ起きていれば気づくよう細心の注意を払いノックする
「はい」
中から声がする。
促されるようにドアノブに手をかけて扉を開いた。
その騒動は学校に行こうと玄関に向かったときに起った。
士郎はいつもの様に、早起きをして朝食を作る。
凛の言っていた通り一晩休息を取ると、体の怠さも綺麗さっぱりと消えていた。
どこにも違和感はない。これなら魔術の鍛錬も問題ないと思われた。
それでも違うのは朝の光景。
いつもならここには、朝から猛烈なテンションで辺りを引っ掻き回す冬木の虎とわざわざ朝食を作りに来てくれる1つ下の後輩の姿があった。
でも、今はいない。
2人はしばらくここに来ない様に言ってあった。
とうとう7人のマスターとサーヴァントが揃い、聖杯戦争はひっそりと幕を開いた。
ランサーみたいに、またどこかのサーヴァントが襲撃してきたとしたら2人にまで危険が及ぶ。
だからこその判断であった。
代わりにいるのは――
「シロウ。今日の朝食はなんでしょう」
ご存じ腹ペコ王と
「うぅ……牛乳……牛乳……」
とても人様には見せられない姿となってしまった元優等生と
「よっ、士郎! 昨日はよく眠れたか?」
只の高校生にしか見えないサーヴァントの3人だけである。
しかし、今起きている問題とはそのことではない。
セイバー「何故ですかシロウ! なぜ私だけが付いて行ってはならないのですか!」
士郎「私だけって、アーチャーが学校に行って良いのは遠坂の判断だろ。別にセイバー1人だけを外した訳じゃない」
セイバー「そういうことを言っているのではないのです! 聖杯戦争においてマスターがサーヴァントも無しで歩き回るなど不用心すぎます。そもそも学校に行くことにも私は反対だというのに……」
士郎「その話はもう終わっただろ!? 聖杯戦争でも普段の生活リズムは変えない。学校に他マスターがいると分かった以上なおさら休めないじゃないか」
セイバー「ええ、ですからその件は良いのです。ですがそれも自らの身を守る手段があってのもの。敵がいると分かった所に、みすみすマスターを向かわせるサーヴァントがどこにいますか」
士郎「でもセイバーがいなきゃ誰も俺のことをマスターなんて思わないだろ? 俺と遠坂じゃ状況が違うんだ。それにアーチャーもいる」
セイバー「寝床と言い護衛と言いシロウは全てアーチャーに任せるつもりなのですか!? あなたのアーチャーは凛のサーヴァントなのですよ」
士郎「それくらい分かってる。でも今は同盟中なんだし……」
セイバー「はー……そうやってシロウは甘いのです。凛。凛からもシロウに言ってやって下さい。サーヴァントも付けずに出歩くマスターなんてありえないと」
いい加減話も長くなってきて、そろそろ学校に行きたいなーだとか結界はどうしましょうだとか、全く違うことを考えていたにもかかわらず凛は突然のフリにも動じることはない。
凛「アーチャーもいるし安全性は大丈夫でしょ。それにセイバーの容姿は日本じゃ目立ちすぎるわ。わたしみたいに魔術師ならともかく、衛宮くんは半人前なんだし普通にしてればまず魔術師であることはバレないわ。そこにセイバーが護衛するってことは本末転倒なのよね」
セイバー「……し、しかし。イリヤスフィールの様な者もいますし……」
凛「あの娘だって所構わず襲ってくる馬鹿じゃないわよ。昼間の戦闘は禁止。少なくとも日中襲われる心配はないはずよ」
セイバー「う、うぅ……し、しかしですね……サーヴァントとして」
凛「霊体化できない貴方が衛宮くんに付いて歩くことは、言うなればただのまき餌よ?」
セイバー「……」
士郎(あかいあくま……)
凛「じゃあ衛宮くん学校に行きましょうか! セイバーもしっかりと家の警備をしてくれるみたいだし、アーチャーも学校で待ちくたびれちゃってかもしれないから」
心の中でスマンとセイバーに謝る士郎。
今日くらいはすこしぐらい豪華な夕食にでもしようかと考えながら、いまだ放心状態のセイバーを1人残し学校へと向かう。
――1日目 放課後 屋上――
凛「とりあえずやることは前と一緒。拠点を探して封じ込める」
士郎「それが遠坂の言う策なのか?」
凛「ええ。これをくりかえせば犯人は尻尾をだすわ必ず」
アゲハ「じゃあ、早く始めよう。オレは待機してれば良いんだよな」
凛「そうね、付いてくる必要もないし。学校内の異変ならすぐに駆けつけられるでしょう」
凛「――それと。アレ忘れないようにね」
アゲハ「わーってるよ。今日も朝からそれしかやってないって」
士郎「?」
凛「じゃ、行きましょうか」
――2日目 夕方 屋上――
凛「それで? なんで士郎は2日目にして屋上にこなくなったのよ」
アゲハ「いやオレに言われても……」
授業が終わり凛はすぐに屋上まで来た。
昨日のうちに半数以上の起点を潰すことに成功したが、まだまだ数は残っている。
犯人を炙り出すためにも徹底的にやらなければならないのだが、要である士郎の姿がここにはない。
凛「もう30分よ30分! 2月の寒空の下に女の子を待たせるなんて少し認識をあたらめさせる必要がありそうね」
アゲハ「まあ、程ほどにしようぜ」
凛「そんな酷いことするわけないじゃない、少し鍛錬を厳しくするだけよ」
アゲハ「まあ……それぐらいなら?」
凛「さてと、じゃあ今日も始めますか」
士郎がいないと効率は悪くなってしまうがそれもしょうがない。
少しでも動いた方が後々役に立つ。
そう思って1人学校の探索を始める凛であった。
久々なので少し雑な気がします。
とりあえずこんやはここまでです。
すみません。
少し時間がかかるかもしれません。
――interlude――
セイバー「遅いです!! シロウ!」
あれだけ約束をしたにもかかわらず、凛と一緒に行動せず挙句帰ってきたのが19時過ぎ。
士郎を待っていたのは優しい「お帰りなさい」の一言でなく恐ろしい暴君の雷であった。
士郎「ごめん! セイバーどうしても外せない約束があって」
セイバー「私はシロウとの約束を守り家で待機していたというのに……」
今回の約束は半ば強引にこちらの意見を認めてもらったものである。
セイバーとしては最大限の譲歩をしこの条件なら文句はないと言ってもらったのに、僅か2日で破るとは何と言うザマだろうか。
セイバー「たった2日……たった2日で約束を破るとは、もう断じて許すことは出来ません!」
セイバーの怒りは静まる気配を見せない。
こうなればいよいよ帰りに仕入れたアレで機嫌をとるしかないだろう思い、口に出そうとしたとき。
士郎「セイバー今日の夕食なんだが――」
セイバー「そんなものはあとです! 今度という今度は徹底的にそのなまった心を叩き直してあげます! さあ、今すぐに道場に行きましょう!」
士郎「え!? だって遠坂やアーチャーだっているんだぞ? まずは食事をしないと」
セイバー「2人は帰ってきてからずっと部屋に閉じこもっていますから問題ありません。さあ。シロウ!」
自分より10cm以上も背の低い少女に引きずられることがあるとは思わなかった。
しかし、現実として衛宮士郎の体が首根っこを持って引きずられている。
今日は夕食を食べる元気があるのだろうか。
引きずられながら、この後に待つ拷問のような特訓を想像し体が重くなる士郎であった。
――interlude out――
凛「アーチャーはそのまま待機していて」
アゲハ「ああ、気をつけろよ? 相手は何をしてくるか分かったもんじゃない」
凛「大丈夫よ。あいつもそこまで馬鹿じゃないから、バカだけどね」
今日も同じように凛は屋上で人を待つ。
ただし相手は士郎ではない。
士郎なら今頃道場でセイバーにしごかれている頃だろうかと、凛は今日の士郎の顔を思い出して考えている。
――4時間前――
凛『ぷぷ、っくっくっくあはははははは!!! なに? それで士郎ったらそんな顔にされたの?』
士郎「そうだよ。約束破った代わりにセイバーにボコボコにされたらこのザマだよ」
凛『ぷっ、っくっくっく。ダメわたし死んじゃう、アーチャー聞いた? コイツ自分のサーヴァントにこんな顔にされたのよ! こんな面白い話他にないわよ』
アゲハ(姉貴がフラッシュバックして笑うに笑えん……)
昼休み、昨日のことを尋ねるために凛は士郎を屋上に呼び出した。
ちなみに丁度一成と共に生徒会室で昼食をとろうとしていたらしく、凛のことを仇の如く睨み付ける一成から士郎を奪ってきたことを一応記載しておく。
教室では優等生遠坂凛の顔もあったため笑うに笑えなかったが、2人きりになると突然指を指して笑い出した。
士郎の顔は凛が笑う程ひどく変形していたのではないが、所々腫れており喧嘩でもしたのかと妙な疑惑を持たれてしまう程度の印象は周りに与えていた。
士郎『笑い事じゃないんだよ。友達からは喧嘩でもしたのだ、また人助けしていただの言われて……一成に至っては「遠坂にやられたのか!」なんて言う始末だぞ?』
凛『うんうん、ごめんごめん。いくらなんでもちょっと面白すぎて我慢出来なかったわよ』
士郎『それで? わざわざ笑うために呼び出したんじゃないだろ?』
いつまでたっても話が進まないと思い自ら話を振る士郎。
その言葉にようやく笑うのをやめて、凛はこちらに向き直した。
凛『そうね。ま、単刀直入に言うと今日から学校の見回りは無しにしましょう』
士郎『……もういいのか?』
凛『ええ。起点はほぼ全て潰し終えたわ』
アゲハ『これみよがしに結界をはる奴だ。今の状況にはハラワタが煮えくり返ってるだろうぜ』
士郎『なるほど』
凛『それに今日は先約がいるの。だから士郎は早く帰って少しでも多くぶっ叩かれてなさい』
と言う訳でココに来る人間は士郎ではない。
では凛を呼び出すような人間は他にいるだろうか?
恐らくこの学校には3人程しかいないだろう。
ただの告白であるならば、この2年間で星の数程多くの人間に呼び出されたのだが。
聖杯戦争の最中、玉砕確定の夢見る少年の相手と会う程凛とて暇ではない。
1.衛宮の敵討ちに来た柳洞一成
2.大穴まさかの間桐桜
3.――
「やあ、遠坂。僕と会うのが待ちきれなくて早くにきてしまったのかな?」
凛「相変わらずの様ね慎二。悪いけどつまらない冗談に付き合ってる時間はないのよ」
3.間桐慎二。
表向きはこの学校において遠坂凛に勝るとも劣らない評価を得る。
眉目秀麗で成績もトップクラス。
運動能力も高く、弓道部では副部長を務める。
おまけに良家の生まれでもあり金回りが良く、彼の周りにはいつも学校の女子の姿が絶えない。
にもかかわらず努力嫌いで、この多くを持って生まれた才能のみで成し遂げる。
所謂、天才と呼ばれる人種である。
慎二「――間桐と遠坂。200年間共に根源を目指した仲じゃないか。少しくらい待ちわびても良いんじゃないかな?」
凛「200年前は、でしょ? 今や間桐の血は途絶えたわ。枯れた一族の貴方たちに今更何が出来るの?」
表向きには有名人・
しかし、その裏の顔は遠坂と並ぶ魔術師の大家。
かつて200年も前に魔術の根源を目指したマキリ、遠坂、アインツベルン。
その始まりの御三家の一角。
そこの正当な子孫こそが間桐慎二である。
慎二「言ってくれるなあ遠坂。でもその認識は改めて貰わないと
凛「なに? 魔術を諦めて一般の家庭に戻るっていうの? ならわたしも賛成よ。そんな下らない相談のために呼び出したの慎二」
慎二「はー……まだ分からないのかよ遠坂。これは僕の買い被りだったのかな?」
凛の返答に大げさに失望した――ような芝居がかった演技をする慎二。
この人間はいつもこうなのだから、別段凛がイラつくこともない。
だけど、これだけ言われて怒り出さない慎二の様子に嫌な予感がする。
凛「……」
慎二「だんまりか、まあ良いさ。いいか? 良く聞け、僕も今回の聖杯戦争に参加したんだよ!」
凛「ちっ! 今更何が望みだっていうの?
想像通りの結果に舌打ちをする凛。
マキリ。転じて間桐家は日本に来て以来その力を急速に失っていった。
土地が合わなかったらしく力を失っていき、先代ではもう微々たる魔術回路しか残っていなかった。
そうして目の前の慎二には至っては完全に魔術回路を失っていた。
つまり、そこらの一般人と何も変わらない。
慎二「望みって……魔術師なら聖杯戦争に参加するのは当たり前だろう?」
凛「そういうことじゃないって……まあ良いわ。考えれば魔術回路が無くても聖杯戦争に参加するくらいのことは出来るものね。それで、わざわざ宣戦布告しにきてくれたわけ?」
慎二「まさか。話ってのは簡単さ遠坂。僕達一緒に戦わないか?」
凛「は?」
慎二「なに、悪い話じゃないだろ? 敵は多いんだ。協力出来るものが協力した方が良いに決まってる。それに遠坂も気づいているだろ? この学校の結界にさ。実は僕には心当たりがあるんだ、こんな結界を張った犯人にさ」
凛「へーそれは少し気なるわね。わたしももう1人魔術師がいるところまでは分かったんだけど、かなり出来る奴なのか中々尻尾を出さないのよ」
慎二「やっぱりな、遠坂なら分かると思ってたんだ。それでさ犯人は……衛宮士郎に違いない」
凛「衛宮って……あの衛宮くん?」
慎二「そうさ、あの超が付くほどバカでお人よしの衛宮だよ。あいつ自分が魔術師であること隠して生活してたんだぜ。それで聖杯欲しさに学校の人間を犠牲にしようとしてるんだ。全く許せない奴だよ」
凛からは何も聞いていないのにペラペラと良く口が回る人間だ。
味方に引き込みたい慎二の気持ちは分からなくもないが、それにしたって上手い方法はいくらでもある。
にもかかわらず、この間桐慎二は第三のマスターの存在と結界の犯人を何の駆け引きにも使用せず自ら暴露した。
元から同盟を組む気など凛にはなかったが、より一層その気持ちがこの数分の会話で強くなっていく。
凛「慎二。悪いけど組むことは出来ないわ。他を当たって頂戴」
慎二「は? なんで? どうしてそういう流れになるんだよ! おかしいじゃないか!」
凛「何もおかしくないわ。だってパートナーなら既にいるもの、衛宮くんが」
慎二「衛宮!? 衛宮とだって! 衛宮とお前が……」
凛「そ。あなたみたいな中途半端なマスターと違って信頼できるのよ? じゃ、もう帰っても良い?」
士郎の名前を聞いた途端に慎二の様子は一変する。
口の中で「衛宮の方が……」なんてブツブツ呟きだし先程の余裕な顔はどこにもない。
こうなるだろうことを予測していたのだが、どうやら効き目が強すぎたらしい。
ともあれ、こうなってしまったらすべきことはないと凛は思い、屋上から立ち去ろうとする。
しかしその瞬間後ろから激高した慎二が掴みかかる。
慎二「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなよおおお!!? どうして衛宮なんだ!! アイツよりも僕の方が劣っているとでも言うつもりか! そんなことある訳がないだろう!」
凛(ったく、面倒なやつ)
心の中でどうしようもない級友に悪態をつく。
調子に乗っていたかと思えば急に逆ギレする。
まるでガキと変わらない。
そのまま慎二に掴まれるのもい嫌なので、凛は振り返りざまに慎二の顔面に鉄拳を放り込む。
慎二「あぐっ!」
手には柔らかい軟骨の感触。
慎二は痛そうに鼻を押さえ、視線だけは凛から外そうとしない。
凛「良い機会だから言っておくわ。確かに貴方にしろ衛宮くんにしろ魔術師の才能なんてものとは無縁だわ」
凛は一端区切息をつく。
次に話すことはとても大事なこと。
だからしっかりと理解してもらわなければいけない。
だから大人が子供を諭すように、ゆっくりと優しく話しだす。
願わくば魔術なんてものを忘れて生きていけるようにと。
凛「でもね。衛宮くんには魔術師としての素質があるわ。それは、単なる才能なんかよりずっと大事なものなの。衛宮くんと貴方が違うのはそこよ?」
じゃあ、今度こそサヨウナラ。
そう言い残して凛は校舎に戻る階段へと消えて行く、後ろ姿は完璧な拒絶を示していた。
同盟の拒絶。
価値観の拒絶。
なにより魔術師としての拒絶。
遠坂け6代目当主が間桐の正当な子孫を拒絶したのだ。
残された人間は間桐慎二1人。
慎二(僕が衛宮に劣る?)
聞きなれない外国語のように慎二にはこの言葉が理解できない。
凛が何を言っていたのかがまるで理解できない。
慎二(そんなことあるものか。見てろよ遠坂、お前のせいだからな。僕だってこんな手は使いたくなかったんだぞ)
慎二「ライダー」
誰もいないハズの屋上。
慎二は人の姿のない後方にいる誰かに向けて声をかける。
ライダー「はい。なんでしょうシンジ」
慎二「――鮮血神殿を発動する」
慎二「もう全員、この学校から生きては帰さない」
あの後すぐに士郎の家に帰宅した2人は、夕食までの時間を今日の復習をすることにした。
凛「アーチャー。敵サーヴァントの存在は?」
アゲハ「一体いたな。あいつの後ろから離れなかったぜ
凛「そう、丸腰で来るほどは馬鹿じゃなかったみたいね」
アゲハ「セイバー、アーチャー、ランサー、バーサーカー。残るはキャスター、アサシン、ライダー……無難にキャスターのサーヴァントか?」
凛「うん、あれだけの結界ならキャスターが妥当。だけど少し気なることがあるのよ」
凛は辺りをキョロキョロと見渡すとお目当ての物を見つけて手を伸ばす。
そこにはテレビのリモコン。
リモコンからテレビのスイッチをオンにすると、夕方のニュース番組が映し出された。
『昨夜も新都のビルで謎の集団昏睡事件が起こりました。2月に入ってからの被害は十数件にも及び被害者の数は100人を超えました。専門家の意見ではなんらからのガスが発生しているのではないかとの見方が強く――』
アゲハ「これがサーヴァントの仕業ってか?」
凛「十中八九そうでしょうね。事件そのものの不可解さ、そして柳洞寺の方に嫌な流れを感じるのよ」
柳洞寺とは、ここ冬木市が誇る最大の霊脈――魔力が最も集まりやすい土地であり過去の聖杯戦争においても聖杯の降霊場所として利用されたこともある、位の高さは折り紙つきである。
凛「戦争が始まってから魔力が柳洞寺に流れている気がするのよ」
士郎「でも、そんなの当たり前じゃないのか?」
夕食の準備をしていた士郎が台所からこっちを覗いている。
まだ何かを火にかけているようだが、もうすることもないのだろう。
話もしっかり聞いており疑問を口にした。
凛「量が異常なのよ。明らかに人為的な力が働いていないと、ああは一か所に魔力が流れたりしないものよ」
士郎「つまり……」
セイバー「――つまり、あの寺を拠点に町の人間から力を奪っているサーヴァントがいる。そしてそれはキャスターでいる可能性が高い
凛「あら、セイバー? いつからそこにいたの?」
セイバー「ついさっきからです。シロウ今日も良いお湯加減でした」
人が多いため入れるときに入っておけよと士郎は食事前に入浴を進められていた、セイバーがいつの間にか居間の入り口に立っていた。
髪も洗っただろうに自慢のアホ毛は健在であり、むしろ一層そびえたっているようにも見える
凛「うん。わたしもセイバーと同じ意見。多分柳洞寺にはキャスターがいるに違いないわ……士郎、なに難しい顔してるの?」
士郎「いや正直話して良いものかと悩んでたんだけど、この際だから話す。慎二のサーヴァントはライダーだ」
凛「は?」
セイバー「え?」
士郎「実はこの間の帰りが遅くなった理由は慎二の家に行っていたからなんだ。そこにはライダーも一緒にいた。そして一成の話だと最近柳洞寺に女の人が居候してるらしいんだ。
衝撃の新事実に言葉を失う2人。
まさか丸腰で敵地に乗り込む馬鹿がいたとは夢に思っていなかった。
さらに話題の柳洞寺の情報でさえ忘れているのだから、もう救いようがない。
怒りを通り越し呆れてさえいる凛は一先ず士郎への警告は後にして話を進めることにした。
凛「この感情を抑えるのは難しいけど一端説教は後にするわ。セイバーも良い?」
セイバー「はい。このマスターに言わなくてはならないことは多々ありますが、あとにしましょう」
アゲハ「てーことは……慎二はライダー。そして柳洞寺にはキャスターがいて町中から力を吸い取ってるってことか。遠坂、どうする? ライダーはともかくキャスターは時間が経つにつれて被害が大きくなる。今夜にでも偵察にいくべきじゃないか?」
凛「……うん。そうね」
学校の結界は完成するまで10日はかかるし、それよりあのマスターのことだから何かしらのアクションは起こしてくる
そう考えると、人的被害の大きいキャスター対策は今日からでもすべきとアゲハは言う。
セイバー「しかし、あの寺院にも結界が張られています。人間には影響がなくともサーヴァントにとっては鬼門です」
凛「え? 初耳なんですけど……アーチャー知ってた?」
アゲハ「さあ?」
セイバー「柳洞寺の周囲に張られた結界は侵入者を拒むものではありませんが、サーヴァントの能力を大きく低下させる。唯一の抜け道は正面の石段を突破するしかありません」
そこには結界が張っていませんからと、付け足してセイバーは口を閉じる。
膨大な魔力を蓄えているキャスターの拠点に情報もなしに飛び込むなど言語道断である。
相手は魔術師のクラス。
セイバーを始めランサーやアーチャーは耐魔力のスキルを持ち合わしているため、キャスターは全サーヴァント中最弱と言われている。
そのためキャスターは勝つために様々な策略を巡らす。
魔術師と言えど英霊の身ともなれば、その術は魔法に近いものも存在するかもしれない。
よってキャスターの拠点に無策と突撃するなど、あのバーサーカーに勝負を挑むことと同じくらい無謀であると言える。
凛「厄介なことになってきたわね……でも、ま学校の方は必ず近日中に決着がつくわ。だから士郎もセイバーも自分達だけで柳洞寺に近づこうとは思わないこと良い?」
2人に柳洞寺の危険さは伝わったらしい。
駄々をこねるかと思われたセイバーも凛の意見に不満の色を見せずに頷いている。
ともあれ、ようやく話が具体性を帯び、存在の確認がとれないサーヴァントはアサシンのみとなった。
まずは目の前のライダーを撃破する。
次にキャスター。
他にも考えなくてはならないことはあるが、当面はこの方針で決定した。
冬でも比較的温暖を言われる冬木市でも、寒いものは寒い。
しかしどういう訳か、衛宮邸の庭に面している縁側。
ここだけは薄着でも全然平気である。
明日についてあれこれ考え火照ったアゲハの頭を2月の風が優しく撫でる。
凛「本当にこの家の魔術は怒りを覚えるほど徹底的よね」
アゲハの隣に凛が腰かける。
思えば、士郎と同盟を組んでからこういうのも久しぶりな気がする。
アゲハ「……」
凛「普通の魔術師だったら家にかける魔術なんて結界やトラップの類のもの。外敵を寄せ付けず内に篭って真理を探究する……でもこの家は違うわ。あるのは警報装置位、むしろつい自然と覗き込んで一休みしてしまいたくなる暖かさがある。衛宮くんのお父さんがどんな魔術師かは知らないけど、衛宮くん以上に変わった人のようね」
アゲハ「……羨ましいのか?」
凛の口ぶりから、少し憧れの気持ちが混じっているようにアゲハには聞こえた。
同じ魔術師でも要塞の様な家と居心地が良く温かみのある家。
凛は一体どっちが良かったのだろうか。
凛「まさか。こんな家、不用心すぎて夜も眠れないっての」
アゲハ「そうだな……オレも遠坂の家の方が落ち着く」
魔術師として適切な教育を受けてきた凛。
荒廃した未来を歩き絶望的状況を切り抜けてきたアゲハ。
どちらも、安穏とした暮らしは合わないようだ。
凛「前から聞きたかったんだけど、アーチャーのドックダグって大事なものだったりする?」
アゲハ「――コレか? うーんわかんねえな。貰ったもんだし」
凛「貰い物? いまどきドックタグなんてプレゼントする奴どんな奴よ」
心底あり得ないわとあきれ返る凛。
ほんの少し茶化したつもりなのだが、対するアゲハの顔はいたって真面目。
動揺するそぶりも見せない。
アゲハ「オレもさ小さいころに母親が死んでるんだ」
プレゼントの話から何故母親の話が始まったのだろうと疑問に思うも、空気を読んでここは口を閉ざしておく凛。
ちなみに、も、というのは凛も幼少期に両親を亡くしているからだ。
10年前に行われた第4次聖杯戦争。
そこで凛の父親――遠坂時臣は戦いに敗れ死んでいる。
その死のショックからか母である遠坂葵も程なくし夫の後を追う形となった。
アゲハ「そのときのオレは……何もしないで人生に嫌気がさしてた。母さんのいない世界になんの意味も持てなくなってたから。そんときその人に貰った」
凛「その人って?」
アゲハ「知らね。結局一度しか会えなかったし、遠坂に言われるまで思い出したこともなかったよ」
凛「ふ~ん」
アゲハ「なんだよ嫌な笑いこっちに向けやがって。それよりどうしてコレが気になったんだ?」
凛「いやさ、これからライダーにキャスターでしょ? もしかしたらアーチャーが肌身離さず持ってるそのタグが宝具じゃないかな~なんてね」
アゲハ「そんな大層なシロモンじゃねーよ」
凛「宝具ってのはね別に宝物である必要はないの。その英雄と密接な関係にある武具が宝具にまで昇華されるだけなのよ」
宝具があるとしたらテレホンカードだったりするのかなどとアゲハは想像した。
もともと超能力の塊みたいなものだから宝具になったとしたら、どれ程の力を発揮するのだろうか。
凛「さて、いよいよ本格的な戦いが始まるわよ」
アゲハ「そうだな」
凛「ここからは、こんな平穏も懐かしくなる」
アゲハ「安心しろよ。なんたって遠坂凛が呼んだサーヴァントなんだ」
――最強のサーヴァントでないはずがない。
だから絶対勝ち残る。
凛「――それもそうよね」
幸か不幸か少女は魔術の才に溢れていた。
だから父は少女に期待した。
所詮、凡人の域を出ない自分とは違う少女の才能に輝く未来を夢見た。
その父も戦いに敗れ命を落とすことになった。
同時に母も亡くなり、広い屋敷には少女一人。
それでも彼女の日々は特に変わらなかった。
少しでも魔術師の悲願に近づくために。
自分が到達することが出来なくても、我が子、孫、子孫、のために毎日毎日鍛錬を続ける。
そんな彼女が聖杯戦争に参加することも当然の流れであった。
この土地の管理者としても、父の最後の言葉に殉じる意味でも、遠坂凛は第五次聖杯戦争で勝ち残ることが当り前。
遠坂の人間なのだから、聖杯を手に入れることは決定事項なのだ。
凛(う~ん、どこにやったかな)
その日、凛は学校に行かずに自宅まで戻ってきていた。
凛(確かこの辺りに……)
遠坂の家の地下にある書庫。
部屋はそれなり面積があり大量の本が所せましと置かれている。
本棚に収まっているのもあれば、置き場に困り床に積み上げられているものもある。
凛(というか、いい加減ここも整理しなくちゃまずいわよね)
凛は近くにあった一冊を取り上げて中身を確認する。
風化一歩手前と言ったところだろうか。
読めなくはないものの文字が消えかかっている箇所が見受けられ、長い年月を感じさせる。
その一冊一冊は全て魔術に関わる本であり、遠坂の積み上げてきた魔術の成果であったり、一般的な魔術師の教科書の様なものに至るまで価値、年代、著者がほとんどバラバラに放置されている。
凛(あった)
自分の幼き記憶を探り、やっとの思いで探していた本を見つけ出す。
凛が手にした本のタイトルには投影魔術、強化魔術に関する本であるような文字がスペイン語で書かれている。
凛「まっさか士郎の先生役を引き受けたは良いけど、ここまで手間を取らせてくれるなんてね」
これも心の贅肉ね、と意味の分からないことを呟き中身を確認していく。
数度に渡る魔術訓練によってだんだんと衛宮士郎の魔術が見えてきた凛。
結果だけを先にあげるならば魔術の才能はほぼ0。
残された僅かな才能は強化魔術と燃費の悪い投影魔術だけであった。
≪強化≫
『魔術としては初歩の分類とされるが、ゆえに極めることは至難の業。
物体に魔力を遠し強化するだけだが、そう用途は多岐に渡り単純な硬度強化から、刃物ならば切れ味の強化、食物ならば栄養度を高めることも可能
物体に魔力を通すことは異物――毒を混ぜることに等しく、対象物の構造への高い理解が必要とされる。
そのような点から“他者への強化”は最高難度とされる』
凛(今更確認することでもないわね。簡単だけど難しい。そりゃメインに据える魔術師がすくないのも当然だわ)
分かりきったことを確認して少々落ち込んでしまう凛。
出来ることなら強化の方だけがよかった。
師としては投影を進めるよりも強化の方を訓練させようとするだろう。
恐らく、彼の父もこのことが分かっていて彼に強化の魔術を教えたハズ。
でも同時にあれだけの異才を放っておくことの危うさも同時に理解していた。
≪投影≫
『術者の創造理念が真作を再現する魔術。
強化・変化の上位魔術とされこのタイプでは最高難度を誇る。
しかし強化や変化と違いオリジナルを1から10まで自身の魔力で作るために難易度と比べ実用性は低い。
何故ならば、オリジナルに似た物をあらかじめ用意し、そこに強化なり変化の魔術を用いた方が燃費が良い。
そもそも術者のイメージに完成度が左右されるため到底完璧なものは作れず質の面でも強化・変化の魔術でつくりあげたもの劣るからである。
そして投影魔術で作り出したものは数分程度で消えてなくなってしまう。
よって、儀式などで必要な代用品を一時的に作り出す程度使用用途はしぼられる』
凛(やっぱり載ってないわよね、この場に残り続ける投影魔術なんて)
凛が士郎の土蔵に一度行ったときに、不思議なものを目撃していた。
それは投影魔術で作り上げたはずのもの。
でもそれはあり得ない。
投影とは無から有を作り出す魔術ではない、そんなことができたら魔法の領域だ。
それなのに士郎の家には普通にガラクタと変わらずに放置されている。
凛(バレたら良くて研究のために監禁、悪くてホルマリン漬けってとこね)
そんな聞いたこと間もない投影魔術なんて良い実験材料にされてしまう。
だから悩む。
出る芽もないだろう強化を訓練するのか、パンドラの箱の様な投影を学ばせるのか。
凛「ま、いま悩んでもしょうがないわね」
士郎の魔術はずっと未来の話だ。
聖杯戦争が終わって落ち着いたら、本格的に叩き込むつもりでいる。
だから今はこの戦争を勝ち残るか。
それを考えなければいけない。
壁にかかっている時計を確認すると午前11時半を示していた。
当り前のことだが学校は休んだ。
優等生だって風邪くらいはひいてしまうことだってある。
と建前の元ここに調べものをする時間が欲しくずる休みしたに過ぎない。
案の定9時から本を漁り整理し読んでいたら2時間以上も経ってしまっていた。
時間を確認した途端に凛は空腹感を覚え、お腹を擦ってみる。
学校に行っていればもうじき昼休みになり昼食をとる時間帯である。
当初の目的は成果と言う意味では果たされなかったが、行うべきことは一通りすんだ。
衛宮邸に戻るのも良いし、久しぶりにここで食事をとるのも良いかもしれない。
しかし数日放置していたため食材は残して行かなかったため、食事をとるには買い物に出かけなくてはならない。
すると、やっぱり士郎の家に戻るのが楽だと結論づけて部屋から出ようと一歩踏み出したときに、ある物が凛の視線を奪う。
凛(これは?)
視線の先には見覚えのある本たちに埋もれる中見慣れない一冊の本。
いや正確に記すならば、それは幾多もの羊皮紙を閉じ込んだだけの簡素な作りで、とても本とは呼べない代物。
なにかしらの研究レポートと言った方が正確であるかもしれない。
凛(こんなもの家にあったかしら?)
幼い頃よりここの本を読み育った凛は大抵の物は読んでいるし、でなくても表紙位は目にとめている。
ただコレには凛にも見覚えがない。
整理していたら奥に眠っていたのが掘り起こされたのか。
踏みとどまった足をそのレポートのある棚に方向転換させて、本が崩れぬようにゆっくりと手を伸ばす。
凛(……M…E? タイトルは絶望的ね)
凛「……んと、その下にはE? いやBね。それで……ry………t…h……e」
凛「Brythe――ブライス……人の名前?」
タイトルは擦り切れて読めないものの表紙の下部に書いてあった文字を、どうにかこうにか読むとブライスと人の名前の様に思えた。
心当たりはない。
なによりブライスだけでは名前か姓かも判断できず、特定の誰を指すのかなど分かりっこない。
特に凛には怪しい気配は感じていないが曰くつきの品の可能性もある。
恐る恐るページをめくるとそこには細かい字で、このレポートの目的についてびっしりと書かれていた。
『この文を読んでいる人間はどのような人間であるのか。
私と同じよう“メルゼー”に苦しむ人間であることを切に願う。
しかし世の中そう上手くはいかないだろう。
この文章が紐解かれるのは数年後なのか十数年後なのか、はたまた数世紀後なのかもしれない。
そして永遠と日の目を見ることはない、どこかで著しく損傷を受けている可能性もある。
英国でなく、海を越えた遥か遠くの島国であるかもしれないし私には到底想像もつかない新大陸かもしれない。
それでも私はここに記す。
私と同じように“メルゼー”に苦しむ人間のためにも。
そして友との約束を果たすためにも私は、私の知り得る限り全ての情報をここに残そう。
そしてここまでの意味が分からず、すこしでも良識ある人間ならばこの文書は手放すことをお勧めする。
そうしてどこかで本当に必要とする人間に渡ることもあるだろう。
10th August,1797 Brythe』
凛(どうやらメルゼーってことについて書かれてるようね)
前書きを読み終えてみるとメルゼーについて記す文書であることは想像できる。
しかしそのメルゼーがなんなのか分からない。
凛(病気やウィルス的なものかしら?)
1ページめくり次を読む。
更に1ページ、続けて1ページ。
どんどんページをめくるスピードは速くなり読む方もかなりのスピードで紙に書かれている文字を読み込んでいく。
『――ライズ、バースト、トランスからなる3つの力を――』
『自分を中心に力の輪を描き外に力を逃がすことで安定を――』
『自らPSIを感知して追跡する――』
『――まさに自動破壊プログラムと呼べるだろう』
『とどまることで円盤状に姿を変えて――』
凛(……なに? なんなのこれは?)
意味不明。
最初は無術について書かれていたのかと思ったが違う。
全く違う技術体系。
凛(センス? ストレングス?)
聞いたこともない言葉。
知りもしない情報。
これは魔術の本なんかではない。
凛(……PSI)
聞き覚えのないPSIと呼ばれる力。
その基本的な情報が書かれている研究書だ。
いや、正確には一度聞いたことが凛にはある。
アーチャーの行使する力がそれだといっていたが、あれは違う世界の話だと思っていた。
聖杯の力により呼ばれたアーチャーはPSIを魔術として使用することができる。
そう思っていたのだが、この文章によるとPSIは実在する。
それも魔術とは全く異なる形で。
凛(デタラメ? ううん。それにしてはアーチャーの話と似すぎている。何よりこのメルゼーって能力。アーチャーの魔術と同じものじゃない!)
書いてあったのはPSIだけではなくアーチャーがメルゼズ・ドアと呼んでいた能力と酷似したメルゼーと呼ばれる力。
偶然のはずはない。間違いなく同一のものだと凛は直感する。
凛「メルゼーとメルゼズ。響きも似ているし……だったらこれは――」
リリリリリリイィィン!!!
部屋に電話の音が鳴り響く。
凛「ったく誰よ!いま良い所だってのに!」
電話なんか割く時間はない。
コレを読み込まなくてはならない。
そうすればアーチャーの力も知ることになる。
だから居留守を使おうと思ったのだが電話は一向に鳴り止まない。
余程しつこいセールスだろうか。
凛「ったく、でりゃ良いんでしょ! でれば!」
しぶしぶその研究所を元に戻すと、せっかくの時間を邪魔されてイライラしながら受話器を持ち上げた。
凛「はい!遠坂ですが!」
『なんだよ、家にいるんじゃないか』
凛「……その声は慎二ね
電話の相手はついこの間殴った男間桐慎二だった。
凛「いまあんたの相手してる暇はないの、イタズラだったら殺すわよ」
慎二『おー怖い怖い。じゃあ殺されないように要件だけ伝えるけど、早く学校に来いよ面白いものがみられるぜ』
凛「は? なに言って――」
ブツリ。
一方的に電話が切られる。
電話を取る前よりも更にイライラしながら冷静に慎二の言葉を思い返す。
凛(学校に来い、か。なんか嫌な予感がするわ)
昨日の今日で学校に来いと命令口調。
あの慎二が上から目線なのはいつものことだが、あれだけ強い物言いは中々しない。
するとすれば何か切り札があるとき。
凛(まさか……でも慎二に限って……)
不安はどんどん広がりたちまち凛の心を覆う。
もしかしたら最悪の結果が待ち受けているかもしれない。
それも動かないわけにはいかない。
自分の想像をふり払い凛は学校に向かうことにした。
久しぶりです。
とりあえず修正部分の投下を。
>>616
タイトルは擦り切れて読めないものの表紙の下部に書いてあった文字を、どうにかこうにか読むとブライスと人の名前の様に思えた。
心当たりはない。
なによりブライスだけでは名前か姓かも判断できず、特定の誰を指すのかなど分かりっこない。
特に凛には怪しい気配は感じていないが曰くつきの品の可能性もある。
恐る恐るページをめくるとそこには細かい字で、このレポートの目的についてびっしりと書かれていた。
『数年前私は奇妙な能力を持つ人間と出会った。
彼の能力は感情の爆発によって漆黒の球体を生み出し辺りを破壊しつくすというもの。
結局彼は私の研究も空しく能力を抑えることが出来ずに急死してしまった。
その後研究を続けていき少しだけ分かってきたことがある。
もし、遠い未来で彼と同じ様に“メルゼー”に苦しむ人間が現れたときのために、ここにその全てを記そうと思う。
10th August,1757 Brythe』
凛(どうやらメルゼーってことについて書かれてるようね)
前書きを読み終えてみるとメルゼーについて記す文書であることは想像できる。
しかしそのメルゼーがなんなのか分からない。
凛(病気やウィルス的なものかしら?)
1ページめくり次を読む。
更に1ページ、続けて1ページ。
どんどんページをめくるスピードは速くなり読む方もかなりのスピードで紙に書かれている文字を読み込んでいく。
『――ライズ、バースト、トランスからなる3つの力を――』
『PSIの自動感知が行われているのではないだろうか?――』
『――まさに自動破壊プログラムと呼べるだろう』
凛(……なに? なんなのこれは?)
意味不明。
最初は無術について書かれていたのかと思ったが違う。
全く違う技術体系。
凛(センス? ストレングス?)
聞いたこともない言葉。
知りもしない情報。
これは魔術の本なんかではない。
凛(……PSI)
聞き覚えのないPSIと呼ばれる力。
その基本的な情報が書かれている研究書だ。
いや、正確には一度聞いたことが凛にはある。
アーチャーの行使する力がそれだといっていたが、あれは違う世界の話だと思っていた。
聖杯の力により呼ばれたアーチャーはPSIを魔術として使用することができる。
そう思っていたのだが、この文章によるとPSIは実在する。
それも魔術とは全く異なる形で。
凛(デタラメ? ううん。それにしてはアーチャーの話と似すぎている。何よりこのメルゼーって能力。アーチャーの魔術と同じものじゃない!)
書いてあったのはPSIだけではなくアーチャーがメルゼズ・ドアと呼んでいた能力と酷似したメルゼーと呼ばれる力。
偶然のはずはない。間違いなく同一のものだと凛は直感する。
『私の頭の奥に潜む“メルゼー”という悪魔が私を破壊と狂気に駆り立てるのだ』
凛「それに、この最後に残した言葉……これって一体?」
分かりにくいですが修正は以上です。
言いたいことは、ブライスとメルゼーは同一人物ではないこと。
メルゼーは原作通り解明できずに死んでいること。
つまり何も原作と変わっていません。
では続きを投下します。
凛「着いたわね」
アゲハ「ああ」
電話から程なくして赤い魔術師とそのサーヴァントは校門の前まで辿り着いていた。
校舎は特になんの変哲もなくいつものままのように見受けられる。
かといって慎二のハッタリの可能性も少ないだろう。
凛「分かっていると思うけど、一歩足を踏み入れたら何が起こっても不思議じゃないわ。もう、ここはアイツのテリトリーなのよ」
アゲハ「言われなくても、遠坂こそ何が起きても取り乱したりするなよ」
そうして二人は意を決して敷地内に一歩踏み出す。
――ドクン
足を踏み入れた瞬間、学校の敷地に侵入した途端体の内側から熱が吹き出す。
冷たく。
重く。
暗い。
気持ち悪さも感じる。
凛は既に学校で結界が発動されているのを感じ取る。
無論アゲハも同様に。
凛「想像以上にやばそうね」
凛の魔術師としての経験が告げる。
やはりこの結界は一介の魔術師風情のものではない。
威力も効果も比べるまでもない。
だからこそ凛は焦る。
中の生徒は、先生たちは果たして無事なのだろうか?
凛(落ち着け、私)
焦る気持ちを押さえつけて何とか冷静になろうと努める。
脳内では一瞬最悪の結末を考えてしまったもの、それも力づくで無視する。
意味のない推測は捨てて脳をクールダウンさせる。
そして大きく深呼吸するとアゲハと共に全力で校舎に向かって駆け出した。
凛「アーチャー! 一番異変が濃いのはどこ!?」
アゲハ「二階だ! 多分そこになにかがあるに違いねえ」
探知が苦手なアゲハでも、この嫌な感じの出所はすぐにわかった。
学校に入ってから濃厚な負のオーラが感じ取れていたが、二階のそれはそれこそ段違いに濃い。
凛はチラリと上を見上げると二階の校舎で窓が空いている所を捜し、幸いすぐにその場所は見つけることが出来、凛は目をつぶり呟きだした。
凛「Es its gros……vex Got As Atlas――」
軽量化と重力制御の呪文。
体重はより軽く、掛かる重力はより弱く。
世の理を破り、凛を地上に縛り付けるものは微弱。
――跳べ。
目標を確認し強化された脚力で地面を強く蹴りつける。
凛は高く高く跳びあがる。
ゆうに5、6mの高さにまで凛の体は地球の重力に逆らってふわりと浮いた。
凛「Es ist klein――」
目標を見定めて逆に今度は加重する。
毎秒9.8mの重力が凛の体に再び働きだし上昇力は失われゆっくりと下降し始める。
ガツッーー凛が二階の窓に足をかけて、コンクリートととの衝突音が鈍く響く。
今の凛にはたいした衝撃でもない。
そのまま体中に滑り込ませる様にして一目散に凛は二階の校舎へと入るのと同時にアゲハも二階まで跳ぶ。
凛「大丈夫……大丈夫……」
大丈夫。
まだ時間もあまり経っていない。だから皆無事のハズ。
もう一度心を落ち着かせて大丈夫と自分に言い聞かせる。
扉にかけた右手に力を込めて勢い良く扉をあけ放った。
凛「……こ、これって……」
飛び込んできた映像は凛の安易な想像をあざけ笑うものだった。
倒れてる人、人、人、人、人の山。
生気を失くして白くなっている生徒達と先生がそこには倒れ伏せている。
凛が必死に押しとどめた予感は覆ることなく、現実の残酷さをに浴びせかける。
凛(嘘よ、うそだわ……だって)
昨日まで何ともなかった。
昨日まで平和な学校だった。
なのに、なんで、なんで皆倒れているのだろう?
凛には理解できない。
いや理解はしていたが認められない。
だって皆が倒れている理由なんか一つしかないのだから。
凛(わ、わ……わたしが結界を発動させてしまったから?)
そう。
ライダーの結界を発動してしまったから。
そして、それは遠坂の人間として遠坂凛が防ぐことができなかったからに他ならない。
問題なく上手くやれる予定だった。
起点を潰され力を失った結界のために犯人は動き出す。
そこを捕える。
最初からその方法しかなく、そのために今日まで動いてきたというのに。
まさかたったの一日で結界を再び発動させるなんて思ってもみなかった。
凛は見誤ったのだ。
間桐慎二の執念を。
彼の根底に眠る憎悪の塊を。
――遠坂。
凛(わたしがもっと……)
――遠坂。
凛(もっと……)
――とおさか?
凛(もっと用心していれば――)
「と・お・さ・か!!!」
凛「わっ!」
気が付くと目の前には怪訝そうに凛を覗きこむアゲハの顔。
アゲハ「しっかりしろよ! この人達を助けるには結界の術者を倒さなきゃならねえんだ、こんなとこで呆けてる時間はないだろ?」
凛「……え? 助けるって」
アゲハに言われ慌てて近くの生徒の手首を取ると、弱弱しいが確かに一定のリズムで脈打つことが感じ取れる。
その拍動が少しだけ凛のことを安心させた。
アゲハ「なんだ? 死んだと思ってたのか?」
凛「っく! そうよあんたと違って死体なんて見慣れてないんだから間違えてもしょうがないじゃない!」
アゲハ「っくくっく……さっきまで塩らしくしてると思ってたら、急にいつもの遠坂に戻ったな」
その言葉でサーヴァントにいらぬ心配をかけさせていたことを理解し、あまつさえ笑われてしまうようでは自分もまだまだだな凛は反省する。
しかし時間に猶予がないことは変わらない。
生徒達を助けるためには、とっとと慎二をとめなくてはいけない。
凛「むっ……笑ってる暇あったら屋上にいそぐわよアーチャー」
アゲハ「オーケー マスター」
凛「慎二!」
屋上に着くとそこにはこの件の首謀者である男子高校生の姿があった。
全校生徒犠牲にしてまで、こんな馬鹿げたことを企むふざけた人間に凛はこれ以上なく腹の底から出した大きな声で名を呼ぶ。
対照的に慎二は笑っている。
焦る凛、苛立つ凛を見てこれ以上なく慎二は笑っている。
全てが計画通りに進み、慎二にとってこれほど愉快なことは生涯でも初めてかもしれない。
慎二「遠坂。僕の趣向は楽しんでもらえたかな?」
憎ったらしいにやけ面のまま慎二は問う。
生徒を教員を全てを意識不明に陥れたこの状況を楽しんでいるか、と。
凛「結界を止めなさい。慎二」
慎二の言葉に付き合う時間はない。
こいつの戯言の相手していたら時間なんてあってないようなものだ。
凛は慎二の問いには答えない。
今にも殴り倒してやりたい衝動を抑え冷たく一方的に命令する。
慎二「聞いているのは僕だ。君じゃない」
凛「結界を止めなさい」
慎二「うるさいんだよ! この状況が分かってないのか!! 質問してるのは僕だ!」
凛「結界を止めろって言ってんのよ! 慎二!」
慎二の言葉はもう凛にはとどいていなかった。
ただ結界を止めろ、凛の慎二への要求はそれだけだ。
再三の忠告にも凛のまるで怯まない姿は慎二にとって面白くない。
プライドの高い遠坂凛を学校の結界を材料に屈服させることが慎二にとって最高の結果なのだから、いまの状況は非常に面白くない。
慎二(泣いて謝ったら許してやることも考えてやるってのに!)
もちろんそんなことはない。
当初の目的と変わり凛に復讐するためだけに学校を結界に取り込むような人間。
調子にのらしたら、どんなことまでしてくるかわかったもんじゃない。
慎二「もういい!! ライダー!」
その呼び声とともに慎二の後ろの空間にサーヴァントが現れる。
現れたのは長身長髪の女性。
身長はアゲハよりも高く女性にしては大柄といえる170cmはありそうで、鮮やかな紫色の美しい髪は地面に届きそうな程長い。
全身はボディコンの様なぴったりした黒が基調となっている服装である。
その恰好に容姿と重ねて嫌でも人目を引く恰好をしているが、なにより注目してしまうのは目。
両目は奇妙なアイマスクのようなものに覆われて両目とも隠れている。
ライダー「では、マスター場所を移動します」
そう呟くとライダーと呼ばれたそのサーヴァントは現れるや否や慎二を抱えて屋上から飛び降りた。
凛「は? ここまで来て逃げる気!?」
アゲハ「ふざけやがって! 追うぞ遠坂」
逃がしてなるものかと急いで凛とアゲハも続いて校舎から飛び降りる。
追う側と追われる側の違いがあるものの、この構図は対ランサー戦を彷彿とさせる。
遥か下方にはライダーの姿。
アゲハ「逃げ切れると思ってんのか?」
スピードには自信があるのだろうか。
大きなアドバンテージもなくアゲハが逃げ切ることが出来るのならば、それはランサークラスのスピードがないと難しい。
だからこそ先の戦いでは追いつかれてしまったのだが。
しかし、逃げるために地面に着地すると思っていた二人の想像に反して、ライダーは唐突にその動きを変える。
そのまま地面に着地するのではなく、まるで蜘蛛の様に両手両足で校舎の壁沿いに張り付く。
アゲハ「嘘だろ? どういう体してんだよ!?」
凛「……アーチャー、あんたもアレやりなさい」
アゲハ「ムリいうな!」
アゲハの驚きも無理はない。
出っ張りに手をかけてスピードを殺したならまだしも、落下中に平な壁に張り付くなど身体能力どうこうの問題ではない。
張り付いたライダーは器用に壁伝いに横に跳んでいく。
凛「誘いかしら?」
逃げるだけの行動とは思えず、凛にはライダーの誘いの様に感じられた。
その疑いを証明するかのようにライダーは移動していき、最終的には校舎の隣に茂る巨大な雑木林中に姿を消した。
少々ネット環境のない所にいたため2週間書き込めなかったです。
待っててくれた方は本当にありがとうございます。
また10日から2週間ほど出かけるので投下できないと思いますがよろしくお願いします。
今回は凛の詠唱を利用してみました。
自分にはスペイン語? は分からないのであってるか分かりませんが、原作で利用されているものを切って貼っただけです。
ようやく対ライダー戦です。
近いうちにまた来ます。
アゲハ「鬼ごっこはもう終わりで良いのか?」
ライダー「ええ。元より逃げる気もありませんでしたが」
凛達の通う高校には裏に大きな雑木林がある。
その大きさは、これほど広い土地を有効利用しなくても良いのか悩む程広い。
木々が生い茂り、太陽からの光はかなり遮断されてしまうため、昼間だというのに辺りは薄暗い。
慎二「遠坂、謝るのなら許してやっても良いんだぞ?」
凛「ちょっと何言ってるのか分からないわね」
まだそんなことを言っているのかと凛は慎二の態度に呆れてしまう。
逆に慎二は、ああ、そうかよとは悪態をついている。
慎二にとっては一応最終警告のつもりの物も受け入れられなかった。
慎二は言葉は発さずに一度だけライダーに目を向ける。
それが合図。
ライダーは一度身を屈めて四つん這いになったかと思うと、大きく跳ね上がり反動を利用して高く高く跳躍した。
一瞬の間に、鬱蒼と生い茂る木々のなかに紛れ込むと動きにくい足元や障害物など意にも介さずに、動き回り姿をくらます。
凛「さっきの壁渡りと言い随分身軽な奴みたいね」
アゲハ「だからこそココを選んだんだろ。アイツが自分の力を発揮できる場所をな」
凛「アーチャーどこに敵がいるか分かる?」
アゲハ「うっすらと……って感じだな。直接マスターを殺りにくる可能性もあるから気をつけろよ」
凛「あら? 主を殺させないように頑張るのがサーヴァントの役目でしょ?」
アゲハ「ふ……簡単に言ってくれるぜ」
あくまで冗談めいてアゲハは、外国人がやれやれとでも言うかのように両手の平を上に向けて肩をすくめる。
最初はこの様な物言いにも戸惑ったものの今やアゲハも慣れたものだ。
凛もそんなアゲハのことを面白そうに眺めるも、ここから先は冗談では済まされないと険しい顔つきに戻り口を開く。
凛「隙あれば、私が慎二を倒す。アーチャーは何としてもライダーを止めなさい」
アゲハ「分かってるよマスター」
アゲハは向き直り周囲に神経を集中する。
ライダーは相当この手の場での戦いが得意らしいことは、さっきの校舎での動きで予想はつく。
素早く動くライダーの気配の正確な位置を掴むことはアゲハにとっては難しい。
アゲハ(恐らく相手の戦法はヒットアンドウェイ。結界もあるこっちにゃチンタラしてる時間もないしな……さて、どうするか)
結界の時間制限もある上に相手のホームグランドの様な所での戦闘。
条件は悪いが絶望には程遠い。
アゲハが未来世界で経験した絶望はこんなものではない。
開幕は唐突。
相手の姿が見えずに、一歩も動けないアゲハに突如飛来物が襲い掛かることで戦いの火ぶたが切って落とされた。
方向は真横から。
不意を突いたとは言えその程度の攻撃が決定的な要因になることはなく、物体が風を切る音、殺気、あと特徴的な金属同士の擦れ合う音の様なものを感じ取ってアゲハは回避行動に入る。
アゲハ(釘? 鎖つきの釘か?)
悠々と躱したアゲハの目の前には、自分が数秒前まで立っていた所に寸分狂わぬ精密さで飛んできた大きな釘が地面に突き刺さる。
ライダーの武器であるこの鎖の先には当然本人に繋がっているであろう。
だから、アゲハは地面に深く突き刺さっている釘に手をかけようとすると地面に浮かび上がる大きな影に気が付いた。
アゲハ(まずい!!)
手をかけようと前かがみになっていた体を強引に引き戻す。
咄嗟のことに体が付いて行かず倒れそうになるものの右手を地面について体を支えて、そのまま後ろに不格好なバク転をする。
コンマ以下数秒の差でライダーは一方の釘を振りかざし空から降ってきた。
間一髪の所でアゲハに躱されるも、投擲した釘を地面から引き抜くと流れるような動きでアゲハに追い打ちをかける。
視界が一回転する。
三半規管で液体が流動して、平行感覚が薄くなる。
前方に顔を向けると、そこにはライダー。
アゲハ脳が認識するよりも早くライダーはもう一方の釘を投擲する。
アゲハ(影虎さんなら受け止めるかもしんねえけど)
アゲハには飛来する刃物を額で受けることなぞ出来る訳もなく、ギリギリの所で体を捻り躱す。
しかし、すぐさま投擲と同時に突っ込んできたライダーが眼前に迫る。
今の今まで流動的で変則的に動いていたライダーがココで初めて見せた線の動きは、ランサー程ではないにしろかなり速い様に感じ取れた。
手には何も持っていない。
アゲハ(チャンス到来!)
迎え撃つようにアゲハが右手の拳を振りぬくとライダーが視界から消えた。
アゲハ(あら?)
姿勢は低くく。
地面と平行になるほど低くしなやかに体は沈みこむ。
地を這い回る蛇の様に。
ゆらゆらゆらゆら右に左に上に下。
まさに縦横無尽を絵に描いたように身を屈めるライダーは、ほふく前進かの如く体勢になっているにも関わらずスピードは落ちない。
地上の平面の戦いですらライダーの前では空中戦とは変わらぬ立体感。
それを可能とする天性とも言える柔軟性。
ケンカ慣れし未来世界で様々な戦いを行ってきたアゲハにも、こんな動きをする相手とは初めてである。
一定の形は無く、思うがままに自由に展開されるライダーの身のこなしに楽々とアゲハは懐に入り込まれる。
ライダーは間合いにアゲハ捉える。
その柔らかな肢体を十分に活用された蹴り。
長く伸びる足を、体をムチのようにしならせて力任せでない遠心力を利用したミドルキックがアゲハの脇腹を捕える。
ズシリと重い衝撃。
大きいといっても所詮女性にとってのこと。
それなのにライダーの放たれた蹴りからはバーサーカーに叩かれたような重さを感じ、アゲハは10m近く吹っ飛ばされる。
その衝撃は全身に突きぬけ受け身もままならずアゲハを地面に叩きつけた。
ライダーは攻撃の手を緩めない。
あれだけの蹴りを放っても、それほど力を込めたようには思えない。
なぜならすぐに次の行動に移れているのだから。
投げた釘も鎖を引っ張り素早く回収すると、アゲハに跳びかかりいまだ身体機能が戻らないアゲハの胸その鋭利な武器を突きたてた。
アゲハ「あっぶね……」
アゲハの両手に挟まれて釘はそれ以上の進行を阻まれていた。
体は動かなくても腕くらいならば動く。
アゲハ「真剣白刃取り……一度やってみたかったんだよな」
目は隠れているもののライダーの顔に驚きの様なものが映ったのを見逃さずに、アゲハは仰向けの体勢から両足でライダーを強く蹴り上げる。
ライダー「!?」
仰向けの状態から地面を背にしての蹴りには十分な力があり、ライダーは高く蹴り飛ばされる。
空中で体勢を立て直すと、獣の如く4つ足で音もなく地面に着地する。
アゲハ「身軽な……」
ライダー「あなたもちょこまかと鬱陶しいですね。逃げ足だけは褒めてあげます」
逃げ足だけ、まあ今のアゲハならそう思われても仕方ない。
まだ彼は自分の能力は全く見せずに、素手で戦ってきているのだから。
それでもライダーのその言葉に少しだけ楽しくなってきたアゲハは笑いながら一言だけ返す。
アゲハ「さあて、本当にそれだけか?」
――凛side――
凛からすれば全く何を企んでいるのだろうかと言いたくなる。
先程から暴王は使用せずに馬鹿正直な素手の接近戦。
あげく相手の得意とする空中戦を頭上で繰り広げられると気になってしょうがない。
凛(瞬発力なんかだったらランサーやアーチャーの方が上かしら。ただアジリティがとんでもないわね)
ライダーの素早い動きを見て凛はそう評価する。
木々を障害物などないかのように動き回り、一挙手一投足の身のこなしは洗練されていて無駄がない。
だからこそこんな雑木林を選んだのだろうけれど。
戦いは5:5いや6:4でライダーに分がある。
アゲハも頑張ってはいるけれど慣れない足場のなかライダーに決定的な攻撃は与えられずにいる。
ただしライダーも動きは速いのだかイマイチ火力不足感が否めずに致命傷となる傷は負わせることができていない。
次に凛が注目したのはマスターである慎二。
自分のサーヴァントが押していることに気分が良さそうにライダーに向け何かをしきりに叫んでいる。凛のことなんてまるで警戒せずに。
凛(良くあんなのがマスターになったわね)
自分が狙われていることに気づきもしないのだろうか。
聖杯戦争で戦うのはサーヴァントだけではない。
マスター同士も戦うことになる。
むしろ強力な存在であるサーヴァントよりは、いかにしてヒトであるマスターを無力化するかの方が大事な要素となってくる。
力がないだけではなく、まともな状況判断も出来ない。
仮に士郎ならこの状況でも自分に出来ることを探して動くのだろうが、慎二はライダーに賞賛をアーチャーに罵声を浴びせるだけで凛には目もくれずにいる。
凛(先に慎二を倒した方が良い? でもライダーが見逃すはずもない……)
ここで慎二を倒すことは容易い。
慎二を脅して結界を解かせる。
シンプルかつ最速の解決法であるだろうがライダーがだまっているとも思えない。
余計な手出しはアーチャーの邪魔になる可能性もある。
アーチャーもバカなとことはあるけれど、無駄なことはしない。
この戦法にも何か意味があってしているに違いない。
さて、どうしようか――
>>675
1. このまま様子見。アーチャーに任せる。
2. 先手必勝。自ら打って出て慎二を倒す。
2
続きは今書いています。
正直いうと、ここまで安価嫌いな人がいるとは思いませんでした。
自分としては今回の安価は特に意味はなく、本編のような鬼畜badend直行なんてことも考えていませんでした。
展開に悩んだのでもなく、全ての話は出来ているけれど少しだけ過程が異なるくらいに考えていました。
もう片方のルートが気になることは分かります。
中途半端に安価を使いbadend突入することでリズムが崩れることは分かります。
ただ少しだけfateっぽくなるかなーぐらいに考えてやりました。
ま、自分としても安価にこだわりがあるのではなく、自分は少し安価入っているのが読むときに好きなだけです。
ですのでこの後の空気にもよりますが、安価は今後使わないと思います。
その方が空気が良くなりそうなので。
投下は明後日くらいになると思います。
それでは。
それでは開始します
――先手必勝。
それしかない。
凛は右手を慎二に向ける。
それは凛の得意とするガンド打ちと呼ばれる物。
指差しの呪いであり向けられたものは風邪などの症状を引きおこす簡単の呪いであるのだが、凛クラスになるとそこには物理的要素も加わってくる。
凛「殺しはしないけど骨の一本や二本はご愛嬌ってね!」
一発二発三発の黒弾が凛の指から放たれ三つとも狙いは慎二へと向かう。
当たれば意識はとぶだろう。そうしたら人質にしてライダーに結界を解かせれば良い。
実に簡単なこと、けれども上空に意識を向けていた慎二は自分に迫るものを察知して凛の放ったガンドを頭を抱えるようにしてしゃがみ込むことで躱した。
凛「外した!?」
不意打ちを受けた慎二は面白くなさそうに立ち上がると何かを言い始めた。
慎二「ちっ! 遠坂お前がその気なら僕だってやる気になるんだぜ? 命だけは助けてやろうと思ったのによ!」
攻撃が向けられたことに激怒した慎二はいつになく強気で声を荒げる。
凛「は? 魔術も使えないアンタが何言ってんの? おとなしくやられなさい慎二」
慎二「魔術が使えないだって? ……甘いんだよ遠坂、僕にだって魔術位つかえるんだからなあ!」
そう叫ぶと今度は慎二の影が徐々に姿を変えて奇怪にな動きをしだす。
影はそうして三つの刃となると地面を走りだして一直線に凛の元へと駆ける。
凛「!?」
突然の攻撃に慌てて一瞬の反応の遅れの後、凛は横に飛び退いて影の攻撃を躱す。
影はそのまま直進し凛の後方にあった木を綺麗に切断して突き進んでいるのが視界に入り、正面から喰らえば人間の体なんて三枚に下ろされかねないな、なんて凛は想像する。
凛(危ない危ない。完璧に油断してたわ慎二が魔術を使うなんて)
慎二は笑っている。
自分の攻撃凛が逃げたことに気でも良くしているのだろう。
痛手を与えたのでもないのに。
全く。
凛「だから素質ないって言ってんのよ、あんたは」
影がもう一度伸びる。
今度は逃がさないように三方向に分かれ凛の逃げ場が無いように襲ってくる。
さっきよりは頭を使っている。
それが慎二が意図しているのか単に影が得物を捕える習性なのかは分からないけれど。
だけどそんなものに意味なんてない。
ゆっくりとした手つきで凛は右手を持ち上げると影に向かい照準を合わせ、人差し指に魔力を込めて三方向にガンドを発射する。
慎二「え?」
慎二の影なんて紙切れのよう。
微塵の抵抗も許されず、少しでも勢いを止めることすら敵わない。
凛のガンドは何事もなかったかのように影を飛散させると慎二に迫って腕にヒットする。
慎二「がっ!」
骨くらいは折れたかもしれない。
慎二の魔術と凛の魔術では込められた魔力、密度が違う。
慎二如きがいくら頑張ったところで最初から凛の攻撃を止められることなどあり得なかった。
勢いで木に叩きつけられた慎二は一度だけ凛を睨み付けるも、凛の顔をみて自分の危険を感じ取り痛む右腕を抱えて森の中に駆けていく。
凛「逃がすはずないでしょうが!」
追いかけるように凛もまた森の中に走っていき、すぐに姿がみえなくなった。
ライダー「何を企んでいるのですか?」
アゲハ「何がだ?」
真っ直ぐに刺してきたライダーの攻撃を刃のついてない釘の側面を弾くことで防ぐ。
と同時に右足でのローキックも狙うアゲハだが、360度木々に囲まれているこの場では地上での何倍もライダーの動きは冴えを見せて、難なく上方へと飛び移る事ど躱されてしまう、
ライダー「貴方はアーチャー。それなのにさっきから接近戦しか行っていない。しかも私の得意な空中戦ばかり」
アゲハ「生憎こっちにも都合ってのがあるんだよ! 別に手加減してるんじゃねえからな」
幾度となく拳を交え戦っていても両者に決定的な差は全く生まれない。
お互いが奥の手を隠している嘘の応酬。
ライダー(なぜ? 私の宝具、は抵抗力のない学校の人間なんてすぐに溶解させてしまう。だから短期決戦で決めてくると思っていましたが)
だからライダーは当初、アーチャーはすぐに宝具を発動して時間をかけない戦い方をしてくると思っていた。
そうしなければライダーの宝具の犠牲に生徒がなってしまう。
――他者封印・鮮血神殿≪ブラッドフォート・アンドロメダ≫
凛の指摘通り範囲内の人間を溶解させて吸収するもの。
それなのに蓋を開けてみれば、チマチマとした体力の削り合い。
このままでは確実に持久戦にもつれ込んでしまう。
それはアーチャーや凛にとって避けなければならない事態ではないのか。
ライダー(なぜ?)
答えの出ない問題は結局どれ程考えてもスタート地点に戻ってくる。
その間にも生徒達は弱り、不利なアーチャーは傷を負うというのに。
その答えは思いがけないところから降ってくることとなる。
四人以外には動物は存在しないこの林は今も森閑としている。
その空間に響き渡る怒鳴り声。
この状況に答えを与えると同時に拮抗していた状況に変化をもたらす。
「ライダァァーーー、どこにいるんだ!! お前のマスターがピンチなんだぞ!!!」
ライダー「……」
林に木霊する慎二の声。
凛と慎二では力に差がありすぎる。
そんなこと分かっていたのに、すっかりと忘れていた。
そう、あまりにもライダーにとって有利すぎる展開。
そのことがライダーにとって一番の弱点となるマスターの存在を忘れさせていた。
すぐに向かわないと慎二なんて凛の手に掛かればひとたまりもない。
しかし、ここでアゲハがみすみす逃すハズもない。
アゲハ「今更気づいた所で遅いっての。ま、それでも行かせる気はさらさらないけどな」
ライダーの行く手を阻むため進行方向に現れるアゲハ。
このための位置取りもしっかりと考えていたのだろうか。
ライダー「初めからコレを狙っていたのですか」
アゲハ「さあて、なんのことかな?」
この展開でアゲハは絶好のチャンスを手に入れたも当然である。
事前に聞かされた話によるとライダーのクラスは優秀な宝具を持ち、しかも複数個所持している場合もある宝具が強力なタイプのサーヴァントが多いらしい。
ぞんな相手にアゲハのとっておきは相性が悪い、最悪自滅の可能性もあるのだから。
しかし凛vs慎二なら天地がひっくり返ろうと凛が勝つ。
そうしたらライダーは現界できなくなる。
まさに最も簡単な戦略。
逆にライダーにはここでアゲハとじゃれ合う時間はない。
時間に余裕ある者が一転して追われる者に、言葉以上にメンタルへのダメージが大きい。
ライダー(時間はありません。小細工は無用)
ごちゃごちゃと作戦を考える時間はない。
隙間を縫うように駆け抜け慎二のいる方向を遮っているアゲハに突進していく。
あと一本、あと一歩この木の先にアゲハがいる。
そこでライダーは両足への力を一時的に本来の数倍まで高めると、太い大木がそのライダーの脚力に押されてみしみしと音をたてて削れ抉れる。
そして限界まで込めた力を持ってして大木を蹴りぬいた。
アゲハ「は!?」
今までの様に優雅な動きで接近してくると思っていたアゲハにとってはまるで逆の映像。
筋力にあかした強引な加速で瞬きほどの間にライダーに接近を許してしまう。
――怪力。
それがライダーの固有スキル。
一時的筋力のランクを上げることが出来る、そのスキルを持って自身の持つ理から以上の加速を実現させたライダーはその勢いを殺さずに右腕大きく振りかぶり、そしてアゲハにむけて振り下ろす。
アゲハもとっさに腕をクロスさせてガードする。
それでも力の差は絶大。
分かりやすくステータスで表すならアゲハの筋力はDかよくてC程度。
対するライダーの筋力はBは確実にある。
データは裏切らずにアゲハはライダーの攻撃は受け止めきれない。
腕を強く固くして、負けにない様に両足で全身を支える。
ここでアゲハにとって誤算だったのは足場の悪さ。
何とかアゲハが耐えても下の木がそれだけの圧力に耐えることは出来ない。
結果足場の木もろとも粉砕されてアゲハの身は落下してくことになる。
はぁはぁはぁ。
息も絶え絶えに慎二は森の中を走る。
後ろからは凛の怒号と共に、時折ガンドが飛んでくるので後ろにも注意を向けないといずに、思うように逃げられないでいた。
凛に喰らった右腕はズキンズキンと痛みを休みなく慎二の脳へと発し、そのことが余計に慎二の怒りを駆り立てるのであった。
慎二「何だよアイツ。マスターのことほったらかしで一番大事なときに使えないなんて、くそっ!」
この悪条件を生み出したのは自分のせいにも関わらずいまだに、サーヴァントにあたり続ける慎二。
慎二「そもそも不公平だ。最初から強いサーヴァントをもらえば勝てるにきまってるじゃないか。そうだ。これは僕の実力じゃない――がっ!」
呟きながら逃げていた慎二は注意力は散漫になっていた。
後方から飛んできたガンドが慎二の右足にヒットする。
大振りのハンマーで叩かれるのに等しい衝撃が慎二を襲い、体は脳の命令を無視して倒れ込んでしまう。
前につんのめりながら転がり大木に強く背中を打ち付ける。
そんな慎二に凛は一歩づつ詰め寄る、どうせ逃げることなんて出来やしない。
凛「終わりよ慎二。ライダーに結界を解くように命じなさい。そうすれば命だけは助けてあげるわ」
慎二「ふ、ふざけるなよ……だれがお前の言葉なんかに……」
凛「そ。じゃあ死になさい。桜にはわたしから上手く言っておくわ。勇敢な貴女の兄は誇りある戦いの末敗れましたってね」
今度は今までの魔力よりも大きい魔力を右手に込める。
口ではああ言っていたものの命をとるまではしないが、意識を刈り取るのに十分な威力を秘めている。
人差し指の先には木の幹を背にしてこっちを睨んでいる慎二は悔しそうだ。
結界まで張ってようやく凛のことを出し抜いたと思ったのに結局はこの有様では無理もないと思うけれど。
後は凛の気持ち一つで発射される。
意識失くしたら聖杯戦争に関する記憶を消してしまおうと考える。
多分慎二にとてもそれが良いのではないだろうか。
心の中で引き金に指をかけると躊躇うことなくを引いた。
ライダー「危ないところでしたね、シンジ」
けれども凛の予想とは違う光景が繰り広げられる。
慎二の意識を吹き飛ばすと思われたガンドはどこからともなく現れた黒い影に阻まれてしまい、勿論その影の正体はライダーである。
凛「……思ったよりずっと早いわね。私のアーチャーはどうしているのかしら?」
ライダー「さあ? 今頃木の根元お昼寝中かもしれませんよ?」
慎二「っくっくっくっくあーっははははははは!!! なんだ! やっぱり遠坂のサーヴァントなんてただの雑魚じゃん! そもそも見た目からしてみすぼらしいし、貧乏な遠坂にはお似合いってワケか! なあライダーもそう思うだろ? あんな雑魚サーヴァントと戦った思えが一番わかってるだろ? っくっくっくっく」
森の中に一人慎二の馬鹿みたい笑い声だけが響く。
慎二「じゃライダー。殺さない程度に痛みつけてよ。コイツには返さないといけない借りがたくさんあるからさあ!」
慎二の指示を受けてライダーが構える。
逃げられないようにまず足を潰す。
次には腕を。
そうして鎖で縛りあげてしまおう。
それでも凛は少しも怯んだ様子を見せない。
ライダー「勇敢ですね。令呪を使わないのですか?」
凛「……生憎1つ消費しちゃってるのよね。だからアンタたち如きに使えないし、そもそも使う必要もないわ」
ライダー「そうですか」
ライダーとしては別にかまうことではない。
ただマスターはサーヴァントを道具の様に扱う、無論慎二もそうである。
自分のピンチには必ず令呪でサーヴァントを呼び寄せると思っていたが凛はそうしないという態度に少しだけ遊び心が出る。
ライダー(使わせてみせますか)
だからライダーは1つ自分にルールを課した。
この少女に令呪を使わせる。
特に意味はない、遊びの様なものだ。
ライダーがこんなことを考えていると今度は凛がゆっくりと右手を持ち上げる。指の形は人差し指を真っ直ぐとライダーに向け伸ばし親指は天に向く。
ガンド。
その魔術の構えをライダーに向け、不敵にほほ笑んだ。
ライダー「なんのつもりですか?」
凛「貴女は絶対にわたしの攻撃から身を守ることは出来ない。避けることも出来ない」
ライダー「さっきあなたのガンドを打ち消したのお忘れですか? あなた程度の魔力では私の対魔力を打ち破ることは出来ません」
凛「ええ、そうね。でもね、この攻撃の前にはあらゆるものが意味を成さないの。全てを喰らい飲み込む最悪の魔術。貴女は見たことある?」
追いつめられているこの状況下で凛は挑発するかのように問う。
その姿は堂々とし臆してなど微塵もない。
だからこそライダーの心も固まる。
一切の油断や慢心を捨て目の前の少女に挑むと。
それだけの迫力にいまの遠坂凛は満ちていた。
身を低くし体勢の準備に入るところまでは凛の目にも追えた。
次に瞬間には目の前からライダーの姿は消え失せる。
考える時間も動く時間もない。
目から入力された情報が脳に届き指示を待つ頃には凛はこの世にいない。
だから熱いものに触れたら手を引っ込めるのと同じ。
反射的に原始的的に思考を介さずに脊髄で凛は引き金を引く。
凛「――BAN」
一言つぶやく。
次の瞬間には飛来する漆黒の球体。
ライダーの死角。
遥か上空から。
目には黒い流れ星にも見えたかもしれないそれは、今まさに凛に襲い掛かろうとしていたライダーの太ももを貫いた。
ライダー「かはっ!?」
踏み込む足を貫通され、後一歩の痛みに怯みライダーは後退する。
すぐに傷口を抑えるも血は止まらない。
こうしてライダーは今日2度目の失念をしていた自分を忌々しく思うのである。
凛「……遅い」
アゲハ「ワリィ、ワリィ。でも――ヒーローってのは遅れやってくるもんだろ?」
終わりです。
既に言ったように明日から2週間は更新出来なくなるのでご了承ください。
まだまだライダー戦は続きます。
ただでさえ遅いのにどんどん話は伸び、気づいた時にはライダーにかなりの時間がとられている気が……
そして700レスを超えるのに脱落者0と何ともfateらしい展開に。
そして当初はアゲハ主人公のつもりでしたが、どうも最近凛が主人公の話になってきました。
サーヴァントはやはり従うものなのでメインには据えづらく感じますね。
それでは、更新は3週間後くらいになると思いますが気長にお待ちください。
埋れー(/^_^)/*:.。. .。.:*。
もー1回☆彡
埋れー(/^_^)/*:.。. .。.:*。
まだまだ行くよ~♪
埋れー(/^_^)/*:.。. .。.:*。
ドンドン行くよ~♪
埋れー(/^_^)/*:.。. .。.:*。
ID真っ赤になるまで続け~♪
埋れー(/^_^)/*:.。. .。.:*。
あと4回ぐらいかなー?
埋れー(/^_^)/*:.。. .。.:*。
そろそろ面倒臭くなってきた~♪
埋れー(/^_^)/*:.。. .。.:*。
雨宮ちゃんの経血おぱんちゅペロペロしたいぉ!!
埋れー(/^_^)/*:.。. .。.:*。
任務完了(ドドドドドヤァ
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