あずさ「ええねん?」 (31)
真「はい、ではそう言うことで」
雪歩「プロデューサーたっての願いなので、練習してきましたぁ」
春香「ウルフルズで『ええねん』です、聴いてください」
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春香「ええねん♪」
真「何も言わんでも ええねん♪」
雪歩「ええねん♪」
真「何もせんでも ええねん♪」
………………………
P「……この度、あなたの担当プロデューサーになりました。よろしくお願いします」
あずさ「あ、あらあら……そうでしたか。こちらこそ、よろしくお願い致します~」
P(きれいな人だな……アイドル候補生って言うんだから、そりゃそうなんだろうけど)
P(彼女の人生を左右する大きな仕事だ、がんばらないと)
あずさ(……ちょっと頼りなさそうだけど、でもすごく優しい目をしているわね)
あずさ(この人となら、私もアイドルとして成功できるかしら……がんばらなくちゃ)
P「……え、えーっと……じゃあ、三浦さん。軽くミーティングしましょう」
あずさ「そんな、三浦さんだなんて堅苦しいのは、やめてください」
P「いや、でも……いきなり下の名前でお呼びするのも……」
あずさ「これから私たち二人三脚なんですよね? なら、もっと近しく呼んでください」
P「あー、うん……そうですね……じゃあ、あずささん?」
あずさ「はい、なんでしょうか? プロデューサーさん」
春香「ええねん♪」
真「笑いとばせば ええねん♪」
雪歩「ええねん♪」
真「好きにするのが ええねん♪」
………………………
あずさ「……きゃっ!」
P「あずささん! 大丈夫ですか!?」
あずさ「す、すみません……私、ダンスは苦手なものですから」
P「そうじゃなくて、足首捻ってませんでした? 捻挫、してませんか?」
あずさ「そ、それは大丈夫ですけど……ごめんなさい、せっかくのレッスンの時間を」
P「よかった。俺はまた、あなたに怪我でもさせたかと思って、ヒヤヒヤしましたよ」
あずさ「えっ……プロデューサーさん?」
P「苦手なんて、誰にでも有るんです。時間を掛けて、少しずつ変えていけば、それでいい」
あずさ「でも……」
P「失敗するたびにしょげていたら、前を向けなくなってしまいますよ。さぁ、もう一度」
あずさ「……はいっ!」
春香「ええねん♪」
真「感じるだけで ええねん♪」
雪歩「ええねん♪」
真「気持ちよければ ええねん♪」
………………………
P「そう、そう! 良くなって来ましたよ、あずささん!」
あずさ「ホントですか、プロデューサーさん?」
P「そうですそうです、まずは曲の雰囲気を感じ取ること、気持ちを乗せることです」
あずさ「まだぜんぜん、リズムにも振り付けにも合っていないんですけど……」
P「ははっ、そんなことはどうでも良いんです。思うがままに踊るのは、気持ち良かったでしょう」
あずさ「……確かにそうですね。こうしなきゃいけない、と思っていると窮屈で」
P「ダンスは確かに大切な要素ですが、ダンスに囚われちゃダメです。自由に音楽を感じればいい」
あずさ「音楽を……感じる?」
P「そうです。音を楽しむと書いて、音楽なんですから。楽しみましょう、体全体で!」
あずさ「……はい!」
………………………
真「それでええねん それで~~~~♪」
春香・雪歩「えーーえーーえーーーー♪」
真「ええねん♪」
春香「ええねん♪」
真「後悔しても ええねん♪」
雪歩「ええねん♪」
真「また始めたら ええねん♪」
………………………
あずさ「オーディションって、こんな雰囲気なんですね……」
P「ええ。生存競争の第一歩は、みんなここからスタートしていくんです。号砲は鳴ってしまった」
あずさ「レッスンで学んだこと、少しも出せなくて……緊張感に飲まれてしまって」
P「結果は出ていませんよ。それに焦れば焦るほど、緊張感は蟻地獄みたいにあなたを引き込む」
あずさ「…………」
P「オーディションですから、他の出場者に『勝つ』ことが目標です。でも、それだけじゃない」
あずさ「それは……どう言うことでしょう?」
P「負けることの悔しさも、ここで学ぶんです」
あずさ「……っ!」
P「ここで敗れても、それがすべての終わりではない。もう一度、俺達は立ち上がれるんです」
あずさ「プロデューサーさん……」
P「負けて悔しいのは、あずささん。あなただけじゃない。俺の力も、まだ足りないんです」
あずさ「そんなことは……」
P「俺に対する試練でもあるんです。悔しいと思わなくなったら、ゲームセットですから」
あずさ「…………」
春香「ええねん♪」
真「失敗しても ええねん♪」
雪歩「ええねん♪」
真「もう一回やったら ええねん♪」
………………………
『今回のオーディション合格者は、4番の方! おめでとうございます!』
あずさ「……やはり、ダメでしたね」
P「ええ。結果は結果として、厳粛に受け止めましょう」
あずさ「そうですね、次はがんばれば、良いんですから」
P「……がんばるのは、あなただけじゃない。俺もがんばりますよ」
あずさ「はい、プロデューサーさん」
P「なにせ俺らは、二人三脚なんですから。そうですよね、あずささん?」
あずさ「……はい!」
春香「ええねん♪」
真「前を向いたら ええねん♪」
雪歩「ええねん♪」
真「胸をはったら ええねん」
………………………
『かんぱーい!』
P「んぐっ、んぐっ……っぷはぁ~、仕事の後の一杯は染みますね~!」
あずさ「ふふっ、プロデューサーさんったら」
P「あずささん、次は祝杯にしましょう! 俺達の力で! ねっ!」
あずさ「もちろんです。今度は、美味しいお酒が飲めるようにしましょうね」
P「んぐっ、んぐっ……っかあああ、すぁーっすぇーん! 生おかーりー!!」
あずさ(……プロデューサーさん、本当は悔しくて仕方ないのね……それを隠して、こうして)
あずさ(この人といると、落ち込んでるヒマなんてないわね。ありがとうございます)
………………………
真「それでええねん それで~~~~♪」
春香・雪歩「えーーえーーえーーーー♪」
真「ええねん♪」
春香「ええねん♪」
真「僕はお前が ええねん♪」
雪歩「ええねん♪」
真「好きでいれたら ええねん♪」
………………………
あずさ「おはようございます、プロデューサーさん」
P「おはようございます、あずささん。今日も忙しいですが、よろしくお願いしますね」
あずさ「はい。今日も一日、よろしくお願い致します~」
P(あずささん、最近はずっと忙しくなってきたのに、すごく輝いて見える。疲れてるだろうに)
P(……なんだろうね。俺はあずささんに、無理ばかりさせているんじゃないだろうか)
あずさ「あの……プロデューサーさん?」
P「あ!? は、はい! なんですかあずささん!?」
あずさ「……ふふっ。大丈夫ですよ、私、いまとっても楽しいんです。充実しているんです」
P「あずささん……」
あずさ「疲れたなんて、一息つくヒマができてからで、良いじゃありませんか。ね?」
P「……そうですね。じゃ、行きますよ!」
春香「ええねん♪」
真「同じ夢を見れたら ええねん♪」
雪歩「ええねん♪」
真「そんなステキなふたりが ええねん♪」
………………………
P「……全国ネットの番組のオーディションが、決まりました」
あずさ「そうですか……大きな番組に出られるかも知れないんですね」
P「出られる『かも』、じゃなくて、出ます。絶対に」
あずさ「……そうですね。弱気になったら、いけませんよね」
P「それに、全国ネットとなれば、もしかしたらあずささんの『運命の人』も見ているかも?」
あずさ「!? ……もう、覚えていたんですか? そんなこと」
P「ははっ。良いなぁ、あずささんの『運命の人』。あずささんといつまでも一緒にいられたら……」
あずさ「……いられたら?」
P「俺ぁ、その『運命の人』とやらの横っ面を、張り倒してやりたいですよ。うらやましい」
あずさ「まぁ、プロデューサーさんったら」
P「でもね、いまこうして、二人三脚でやって来てるだけで、俺ぁ充分幸せですけどね」
あずさ「…………」
春香「ええねん♪」
真「心配せんで ええねん♪」
雪歩「ええねん♪」
真「僕を見てれば ええねん♪」
………………………
あずさ「…………っ」
P「どうしました? あずささん」
あずさ「あの……これから私、全国放送の番組で歌うんですよね?」
P「緊張するな、なんて言えません。これからお茶の間の視線は、あなたに釘付けになる」
あずさ「私……できるかしら」
P「不安になっても、心配になっても、大丈夫です。俺はずっと、あなたのことを見ていますよ」
あずさ「プロデューサーさん……?」
P「だから、怖くなったら、俺のことを見ていてください。俺のために歌うんだと思ってください」
あずさ「でも……」
P「今日は、それでも良いです。昔を思い出して、気持ち良く歌うことだけを、考えてください」
あずさ「……はい、プロデューサーさん」
『三浦さん、スタンバイお願いしまーす!』
あずさ「……じゃあ、行ってきますね」
P「ええ。今夜もまた、美味しいお酒を飲みましょう」
あずさ「はい!」
………………………
真「それでええねん それで~~~~♪」
春香・雪歩「えーーえーーえーーーー♪」
真「ええねん♪」
春香「ええねん♪」
真「アイディアなんか ええねん♪」
雪歩「ええねん♪」
真「別になくても ええねん♪」
………………………
あずさ「映画、ですか?」
P「ええ。先方が、どうしてもあずささんでお願いしたい、と言う話しでして」
あずさ「そうですか……でも、私、お芝居の経験なんてないですし……」
P「うーん、そんなに気負わなくても大丈夫なんかじゃないかな、と思いますよ」
あずさ「そんなこと言われても……」
P「あずささんはデビュー前、何千人ものお客さんの前で、歌ったことはなかったでしょう?」
あずさ「そ、それはそうですけど」
P「誰だって『初めて』はあるんです。小手先の技術より、気持ちでぶつかって行けばいい」
あずさ「そんなことで……大丈夫なんですか?」
P「大丈夫ですよ。何とかなるもんです、意外とね」
P(……ごめんなさい、あずささん。俺はあなたにいま、ウソをついています)
P(でもそれもこれも、みんなあずささんと一緒にトップに登りたい、ただ、それだけなんです)
春香「ええねん♪」
真「ハッタリだけで ええねん♪」
雪歩「ええねん♪」
真「背伸びしたって ええねん♪」
………………………
『……ふーん、三浦あずささん、ね』
あずさ「はい、どうぞよろしくお願い致します、監督さん」
『キミ、ちょっと良いかい?』
P「あ、俺ですか?」
『大丈夫なのかい、この子。時代劇の経験なんて、ないじゃないか』
P「大丈夫です。うちの三浦には、天性のカンがありますから」
『ホントかい? キミみたいなひよっ子に、そんなことわかるってぇのかい?』
P「……他の人のことはわかりません。でも、あずささんにはそれが有るんです。絶対に」
『ほぉ……ずいぶんカマすじゃねぇか。使えなかったその場で突っ返すぞ。それでも良いのか?』
P「もちろんです。俺の首を賭けても、構いません!」
春香「ええねん♪」
真「カッときたって ええねん♪」
雪歩「ええねん♪」
真「終わりよければ ええねん♪」
………………………
あずさ「……ウソ?」
P「ごめんなさいっ! 先方がどうしても、と言うのは俺の作り話で、俺が捩じ込んだんです!」
あずさ「そんな……もし私が失敗したら、どうなっていたと思ってるんですか!?」
P「確かにそのリスクは有りました。でも、もし俺が捩じ込んだと言ってたら?」
あずさ「…………」
P「監督も最初は渋ってましたよ。でも、クランクアップのあとで、こう言われたんです」
――――『あの子は確かに、お前さんが言う通り、天性のカンが有る。良い子だ』
あずさ「そうだったんですか……私、現場ではいつか怒られるんじゃないかって……不安で」
P「これからはお芝居の仕事も増えますよ。歌に芝居にビジュアルに。終わりよければすべてよしですよ」
あずさ「もう……でも、もうそんなウソをつくのは、やめてくださいね?」
P「……はい。今回は、本当にごめんなさい」
………………………
真「それでええねん それだけで~~~~♪」
春香・雪歩「えーーえーーえーーーー♪」
まこはるゆき「ええねん!♪」
真「つっぱってー! 突っぱしるぅー!♪」
春香「転んでー! 転げまわるぅー!♪」
雪歩「時々ぃー! ドキドキするぅー!♪」
まこはるゆき「そんな自分が好きなら ええねん♪」
まこはるゆき「そんな日々が好きなら ええねん♪」
真「情けなくても ええねん♪」
真「叫んでみれば ええねん♪」
………………………
あずさ「…………活動……終了?」
P「……はい。社長の方針で、俺があずささんの担当でいられるのは、一年までと」
あずさ「そんな……」
P「あずささん。あなたはもう、トップアイドルと言っても過言ではない」
あずさ「でも……」
P「俺の仕事は、アイドルを育てること。あなたの仕事は、日本中に夢を与えることです」
あずさ「でも……私たちは二人で、同じ夢を見てきたじゃありませんか……」
P「…………」
あずさ「確かにプロデューサーとアイドルは、立場も違います。でも、それでも……」
P「…………俺だって……俺だってこれで終わりなんて、イヤなんですよっ!!」
あずさ「……っ!?」
真「にがい涙も ええねん♪」
真「ポロリこぼれて ええねん♪」
………………………
P「俺だってもっと、あなたと一緒に夢を見たかった。二人三脚で駆けて行きたかった!」
あずさ「プロデューサーさん……」
P「会社の方針なんて知ったこっちゃねぇ、って言いたいんです! でも、それじゃダメなんだ!」
あずさ「…………」
P「俺たちがお互い、アイドルとして、プロデューサーとして、もっと高みに登るためには」
あずさ「……そこまでして、登らなきゃいけないんでしょうか?」
P「現状維持を是認するようなあずささんは、俺の知ってる、俺の育てたあずささんじゃない」
あずさ「…………(ぐすっ)」
P「その先の選択はあなたに委ねます。続けるのもマイクを置くのも。あなたの意思で決めて良い」
あずさ「……プロデューサーさん」
P「なんですか?」
あずさ「『運命の人』の話しの、続きなんですけれど」
真「ちょっと休めば ええねん♪」
真「フッと笑えば ええねん♪」
………………………
あずさ「私、『運命の人』が私を見付けてくれると思って、アイドルになろうと思ったんです」
P「それは……はい、俺も知ってます」
あずさ「その宛のない人探しのために、迷子になりそうな私をいつも引っ張ってくれた人」
P「…………」
あずさ「アイドルとして、ここまで手を引いてくれたプロデューサーさんに、お願いがあります」
P「……なんでしょうか?」
あずさ「私ね、見付けちゃったんです。『運命の人』」
P「えええっ!? マジですか! どこの誰なんですかそいつは!!」
あずさ「はい」
P「……鏡?」
あずさ「その中に映っている人が、私の『運命の人』だったんですよ?」
P「あずささん……」
あずさ「私、ここまで走ってこれたから、『運命の人』も見付かったんだと思ってます。だから」
P「だから?」
あずさ「……これからは、私の人生のプロデュース。お願いできませんか?」
P「……ふふっ。ふははっ、あはははははっ!!」
あずさ「プロデューサーさん……?」
………………………
真「それでええねん それで~~~~♪」
春香・雪歩「えーーえーーえーーーー♪」
真「ええねん♪」
春香「ええねん♪」
真「何もなくても ええねん♪」
雪歩「ええねん♪」
真「信じていれば ええねん♪」
………………………
あずさ「……本当に、良かったんですか?」
P「ははっ、何を言ってるんですか。俺は自分を信じて、あなたを信じているだけですよ」
あずさ「ふふっ……他には何もなくなっちゃいましたものね」
P「かまやしませんよ。俺はアイドルプロデューサーとして、また誰かをトップにする」
あずさ「私のときと同じように、転んで泥だらけになっても、あなたはアイドルを信じるんですね」
P「まぁ、風当たりは強いでしょうけどね。なにせ担当してたアイドルと結婚するってんだから」
あずさ「だから、本当に良かったんですか?」
P「良いんです。俺があなたを信じているように、あなたも俺を信じてください」
春香「ええねん♪」
真「意味がなくても ええねん♪」
雪歩「ええねん♪」
真「何かを感じていれば ええねん♪」
………………………
あずさ「ふふっ……そんな簡単なことで、良いんですか?」
P「そうですよ。俺たちはそんな、シンプルな間柄で良いと思うんです」
あずさ「なら、信じます。あなたのこと」
P「…………ありがとう、『あずさ』」
………………………
真「他に何もいらんねん♪」
真「他に何もいらんねん♪」
真「それでええねん それだけでぇ~~~~♪」
春香・雪歩「えーーえーーえーーーーー♪」
まこはるゆき「ええねん!♪」
真「……はい、と言うことで、プロデューサー、あずささん、おめでとうございます!」
雪歩「なんかプロデューサーさん、感極まって泣いちゃってますねぇ」
春香「あの、言っておきますけど、今回のコレ、ギャラきっちりいただきますからね?」
おしまい
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