P「風俗嬢に恋をした……」(434)
アイドルのみんなの人気に火がつき、765プロの経営は大幅に改善した。
プロデューサーである俺は、相変わらず忙しい日々を送っているがもらえる給料は、以前からは考えられないほどあがった。
だが実際にはその給料を使うような暇が、俺にはない。
支払いや引き落としは全て口座からされるようにして、俺は通帳を見る事もしなくなった。
そこにある数字が、かえって自分を空虚にしていくようで空しくなったからだ。
今は仕事で忙しくしている間が、いや間だけが自分が生きているという実感がある。
アイドル達の為に、身を削っていると彼女たちとの関わりを感じられる。
広い世界の中で、自分だけが取り残されたような気持ちを味あわなくて済む。
いつしか俺は、定時退社やオフの日を忌避するようになっていた。
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伊織「アンタ、いったいいつ休んでいるのよ」
P「な、なんだ急に?」
伊織「先週はずっと仕事に来てたじゃない」
P「ライブが近かったからな」
伊織「昨日はそのライブが終わったから、全員オフのはずでしょ。アンタ休んだの?」
P「いや、後処理があったからな」
伊織「それで今はなにをしてるのよ」
P「営業、打ち合わせ、事務処理とかかな」
伊織「アンタいったいいつ休むのよ!」
伊織の言いたい事はわかる。
顔は怒っているが、その瞳は俺を心配している。
そう、わかっちゃいるんだ。
伊織「先週だけじゃない。先々週も! その前も!! そのまた前も!!!」
わかっちゃいるが、ほっといて欲しい。
オフなんて……嫌いだ。
ほら、他の娘も集まってきたじゃないか。
雪歩「ど、どうしたんですか……」
P「なんでもない。伊織が俺の事を心配して……」
伊織「アンタなんかの心配なんかしてないわよ! た、ただほら、ウチの事務所が監査とかそういうのにひっかからないか心配してるだけよ」
美希「でこちゃんのツンデレなの。でも、ハニーの心配はミキの仕事なの」
伊織「でこちゃんゆーな! それにそう言うなら、ちゃんと美希の仕事しなさいよ!」
美希「ミキの仕事?」
伊織「プロデューサーの心配をしなさいよ。そいつ、全然休まないじゃない! 毎日毎日遅くまで……いつか身体が壊れちゃうわよ!!」
真「確かにプロデューサー、ハードワークですよね。それにしても伊織、やっぱり心配してるんじゃないか」
伊織「ち、違うわよ! と、とにかくアンタは少し休みなさい!! いいわね!!!」
律子「そうね。本当の事を言うと、私も気になってたのよね。プロデューサー、今日はもうあがったらどうです?」
P「おいおい、そんなことできるわけないだろ。この後、ラジオだぞ」
美希「ミキと一緒に行くんだよね、ハニー」
律子「私が行きますよ。今日はもうそれだけがプロデューサーの仕事でしょ? いつも助けてもらってる分、こういう時は代わりますよ」
美希「いやなの! ミキはハニーと行きたいの」
伊織「さっき言ったでしょ、プロデューサーの心配をするっていうなら身体の心配もしたあげなさいよ!」
美希「……わかったの」
いや伊織、律子、正直ありがた迷惑なんだが……
もうこれ、今日は俺は帰る流れになってるじゃないか。あの殺風景で空しい部屋に……
春香「はいはいプロデューサーさん。今日はもうお仕事終わりですよ。良かったですね」
春香……そうか、春香も気がついてたんだな。俺が休んでいないことに。
P「わかった。みんなありがとうな、今日は帰るよ」
伊織と春香の緊張が、みるみるほぐれる空気を感じた。
本気で俺の心配をしてくれている。それはわかる。
けれど……俺は……
明るいうちから街を歩く俺。
家へなんか戻る気分じゃなかった。
けれど別に行くところも、行きたいところも無かった。
男「どーぞ」
手に押しつけられたチラシは、風俗店のそれだった。
P「風俗、か」
急に興味をそそられた。
俺だって男だからな。
金ならあるし、たまにはそういう遊びもいいだろう。
俺は風俗外へと足を向けた。
P「仕事を早引けして、風俗か。俺も言い身分だな」
自嘲気味に店を物色する。
そして俺はその店を見つけた。
P「なになに『ナイトハウス765』……?」
名前にまずびっくりしたが、派手な立て看板を見て納得した。
ここはどの娘もウチのアイドル模しているらしい。
まあよくある話だ。
P「どれどれ、どんなものか見てみようじゃないか」
興味本位から俺は、店に入った。
店員「いらっしゃいませ。当店は初めてでいらっしゃいますか?」
P「ああ。おすすめはどの娘?」
店員「どの子も粒ぞろいですが、一番人気はハルカちゃんですね」
P「というと、天海春香みたいな?」
店員「はい。ハルカちゃん、あのアイドルの天海春香のそっくりさんなんですよ。にひひ」
店員のお薦めのそっくりさんか。
俺は笑いが抑えられなかった。
どれほど似ているかはわからないが、俺は毎日のように本物に接している。
その俺からすれば、噴飯もののそっくりさんに違いない。
実際にそういう類の素人出演者が、たまにバラエティにも出る。
ま、いい。
どうせ暇つぶしの余興だ。
風俗のそっくりさんと、本物の比較も一興だろう。
P「じゃあそのハルカちゃんで」
店員「かしこまりました」
俺は案内された部屋へ入った。
そこには既に女性が待っていた。
その顔を見て、俺は我を忘れた。
そこには、春香がいた……
レスたくさんいただけてびっくりしています。書き手です。
少しずつでも更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。
SS速報では初めて書きますので、色々と不慣れな点があると思いますが、なにとぞご容赦を。
読み返すと、誤字があって恥ずかしいです。
後々訂正をさせていただきたいと思います。
どうやら俺は呆然としていたらしい。
心配そうに春香が、俺に声をかけている。
?「……ですか? どうしたんですか?」
P「春香!? お、お前なにをやってるんだ!? こんなとこでなにしてる!!」
?「え? え?」
P「帰るぞ、春香!」
?「あの……お客様?」
ようやく俺は、ハッとした。
そうだ、この娘は春香じゃない。
P「あ、ごめ、すみません!」
?「いえ、こちらこそ」
P「あなたが、あまりにも春香に似ていたから……あの……」
?「はい?」
P「あなた、春香じゃ……ないんですよね?」
?「ふふふっ。似てますか? いやーなんか嬉しいなあ。私、ハルカです」
P「そう、ですよね。あの……」
ハルカ「はい?」
P「あなたは、春香のお姉さんとかそういう事は……」
ハルカ「ない、と思いますよ。たぶん」
似ている……似すぎだ。
毎日のように顔を会わせる俺ですら、本人としか思えない。
顔はもちろん、背格好や体つき、仕草も似ている。
しげしげと見つめる俺に、春香……いや、ハルカは可笑しそうにしている。
ハルカ「似てるでしょう? 去年ぐらいかなあ、言われるようになって。指名が増えて、それで私ももっと似せようって、がんばっちゃったんですよね」
P「似てるなんてもんじゃない。よく知ってる俺でも、間違えるよ」
ハルカ「よく知ってる?」
P「あ! あー、その。俺は実は765プロの社員なんだ」
ハルカ「そうなんですか! すごいすごい! えへへ、関係者さんのお墨付きですね」
ハルカは無邪気に笑う。その表情や話しぶりすらも、春香としか思えない。
ハルカ「あ、いけない。お客さん、こんなお話は退屈ですよね。さ、どうぞ」
ハルカに誘われ、俺は中に入った。
ベッドと浴室、広くはないがほどほどに快適な室内でハルカはローブを脱いだ。
下は、アイドルっぽい衣装だった。いつも春香が着ている衣装に比べると、かなりチープだが。
ハルカ「ご指名ありがとうございます。ハルカです。お客さんは、好みのプレイとかありますか?」
P「プレイ?」
ハルカ「世間から隠れて、アイドルと実は付き合っているという設定とか」
恋人がアイドルか、普遍的でウケるかもな。
P「他には?」
ハルカ「お金や権力で、有名アイドルを無理矢理……とか」
P「……ひどいな」
ハルカ「でもそういうの、男の人はちょっとしてみたいんじゃないですか」
P「俺は嫌だね」
実際、金はかなり持っている。
765プロのアイドルを12人もプロデュースしている事もあり(竜宮小町としての活動は、律子の担当だが)、枕営業をかけられた事もある。無論、断ったが。
ハルカ「じゃあ恋人がいいですね」
P「ちょっとした要望なら、応えてくれる?」
ハルカ「そういう設定、っていうなら大丈夫ですよ」
P「じゃあ俺は、今から担当アイドルである春香に告白する。恋人になるところから始めたい」
ハルカ「いいですよ」
屈託無く笑うハルカは、本当に春香そのものだった。
そうだ、目の前にいるのは春香だ。
春香なんだ……
P「春香、俺は前からお前が好きだった」
その一言に、俺はびっくりした。
言葉の内容に、じゃない。
言った瞬間、なぜか俺は気が楽になった。
いや、胸のつかえや重みが取れたようだった。
そうだ。俺は、この言葉を言いたかったんだ。
きっと、ずっと。
ハルカ「嬉しいです。えっと……」
P「プロデューサーさん、って呼んでくれる?」
ハルカ「はい。プロデューサーさん。私も、ずっと大好きでした」
P「……」
不覚にも泣きそうになった。
いやいや、浸るな俺。ここは風俗店、この娘は風俗嬢。
憂さ晴らしもいいけれど、節度を忘れるな俺。
ハルカ「プロデューサーさん。私を……もらってください」
ハルカは俺の胸にそっと身体を預けてきた。
俺は彼女を抱きしめた。
節度なんかくそくらえだ。
彼女の身体の暖かさ、柔らかさが伝わってくる。
髪の香りが、漂う。
ハルカの顔を、改めて見る。
抑えられなかった。
ハルカ「! お、おきゃ……プロデューサーさん。もう! 唇はダメですよ。追加料金もらっちゃいますよ」
P「あ! ご、ごめ……」
ハルカ「えへへ、冗談。いいですよ、別に。プロデューサーさん、いい人そうだから許してあげちゃいます」
それから俺たちは、二人で風呂に入った。
衣装を脱いだ春香、いやハルカは俺も初めて見る。
それは、想像以上に綺麗だった。
思ったよりもセクシーだった。というとアレだが、正直俺は春香を過小評価していた。
イヤ、これは春香じゃなくてハルカだったか。
途中から俺は、よくわからなくなっていた。
そして俺は、ハルカを抱いた。
ハルカ「またいらしてくださいね」
P「ああ、今日はありがとう」
ハルカ「ふふ、そんなこと言うお客さんは珍しいですね。あ、お客さんじゃなかった。プロデューサーさんっ! じゃあ待ってますからね」
満ち足りた気持ちで、俺は帰途についた。
気がつけば、俺は笑っていた。
ニヤニヤしながら道を歩く俺は、端から見ればさぞや気持ち悪かっただろう。
だがその日の俺は、上機嫌だった。
なぜか笑みが抑えられなかった。
幸せだったんだ。
伊織「いい休養ができたみたいね」
翌日仕事をしていると、伊織が言った。
P「そう見えるか?」
伊織「ええ。アンタやっぱり疲れてたのよ。今はいい表情してるわ」
確かに今日の俺は、上機嫌だ。
締まらない顔をしているという自覚もある。
真美のイタズラにも、雪歩の失敗にも、あずささんの迷子という事態に遭っても笑っている。
伊織「安心したわ。たった半日休んだだけでもそれだけ元気になるなら、まだまだ働けるわよね」
P「ああ。だから安心しろ。安心して、こき使え」
伊織「……そうね。でも、たまには休むのよ」
だからそんな心配そうな目で俺を見るなよ、伊織。
P「気をつける。その証拠に……」
伊織「な、なによ」
P「今日は定時で退勤するつもりだ」
伊織「へえ……って、ちょっと! 今夜は収録があるじゃないの!」
P「さっきは休めって言っただろ!?」
伊織「アンタこそ、安心してこき使えって言ったじゃない!!」
やれやれ、ようやく伊織も普段の調子を取り戻したか。
それにしても、今日はハルカの所へは行けないか。
春香「おはようございまーす! あ、プロデューサーさん。昨日はどうでした? 休めましたか?」
P「お、おう春香。おはよう!」
春香の顔を見て、俺は妙に緊張してしまう。
いやいや、昨日のアレは春香じゃない。
ちゃんと公私の区別はつけような、俺。
千早「? なにかあったんですか、プロデューサー」
P「え、ええ? なにか、って何が?」
千早「いつもと様子が違うと思うんですけど、春香と何かあったんですか?」
千早、鋭いな。
とは言っても、別に春香と俺は何かあったわけじゃない。
そう、春香とは何も無かった。
春香とはな。
P「別に何もないぞ。なあ、春香」
春香「うん、そうだよ千早ちゃん。昨日はね、プロデューサーさん早引けしたからどうだったかなーって思って」
千早「早引け? まさか体の調子でも?」
P「いやいや、お前は働き過ぎだから少し休めってな。伊織や春香が」
千早「……良かった」
ああ、千早も心配してくれてたんだな。
ていうか、俺は自分がやりたいから仕事していたけど、それでみんなに心配かけてたんだな。
反省。
P「これからはさ、俺も少し休むようにするよ」
千早「はい。私たちも、今はもう大丈夫ですから」
P「ああ、俺は少し過保護だったかもな。でも、いつでも頼ってくれていいんだからな。それは忘れるな」
千早「はい」
春香「プロデューサーさん、元気になったみたいですね!」
P「なんだ? 俺、そんな元気無かったか?」
春香「今だから言いますけど、昨日とかはひどかったですよ。私、心配で……」
P「春香……」
言いながら俺は、春香を抱きしめようとしていた。
いかんいかん!
昨日の体験が、頭の中でフラッシュバックする。
あれは春香じゃない。
昨日抱きしめたのは、春香じゃないんだ。
俺たちは恋人じゃない。
アイドルと、プロデューサーだ
まだだったかすまん
P「ありがとうな。自分の事って、なかなか自分ではわからないもんだよな」
春香「それは……うん、そうですよね」
P「これからは気をつける」
春香「えへへ。安心しました、プロデューサーさん」
P「それから……」
春香「はい?」
P「昨日は……昨日のことだけど」
春香「はい」
P「嬉しかった。ありがとう」
春香には、俺の言っている意味は伝わらない。
でもそれでいい。
春香「私こそ、いつもありがとうございます」
春香の笑顔。
そうだ、俺はこの笑顔が好きだったんだ。
この笑顔をまた、自分のものにしたい。
自分だけのこの笑顔に会いたい。
P「ハルカに……会いたいな」
俺は小さく呟いた。
千早「……」
>>32
とんでもないです。
自分も色々と不規則なので、不定期に書いていくと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。
いったんここで、止まります。
呼んだりレス下さる方、本当にありがとうございます。
SS速報は初めてなんですが、なんか嬉しいです。
その後も俺は仕事が忙しく、ハルカの店に行けたのは一週間も経ってからだった。
ハルカ「もう来てくれないんじゃないか、って思ってました」
P「とんでもない。毎日でも来たかったよ」
ハルカ「忙しいんですか? プロデューサーの仕事って」
P「まあ楽じゃあないよな。ていのいい何でも屋、雑用係だし」
ハルカ「うそ」
P「嘘じゃないさ。知らない人は、楽な仕事って思うのかな」
ハルカ「私、プロデューサーってふんぞり返ってるのかと思ってました」
俺は笑った。
ハルカ「あ、こんな話なんかしてて、ごめんなさい。時間、もったいないですよね」
P「え? ああ、いいんだ。こうしてるのが楽しい」
ハルカ「おきゃ……プロデューサーさんって、本当に変わってますよね」
P「そうか?」
ハルカ「普通はみんな、時間がもったいないって言ってすぐに……ええと、わかりますよね」
P「それももちろんするけど、こうしてハルカと一緒にいるのが楽しい」
ハルカは俺の顔を、まじまじと見た。
ハルカ「ちょっと手伝ってもらえます?」
P「うん?」
俺が手を貸すと、ハルカはベットの位置を少し動かした。
手を貸すと言っても、ロックを外せば車輪がついており、ベットは簡単に動いた。
ハルカ「ここで……抱いてください」
P「そりゃいいが、何か意味があるのかい?」
俺はベットで待っているハルカを抱きしめた。
ハルカも俺を抱きしめながら、耳元で囁いてくる。
ハルカ「ここだと、カメラに映りませんから」
P「カメラ!?」
ハルカ「中にはアブナイお客さんもいますからね。自衛の為に仕方ないんですよ。変な事してきたら、怖いお兄さんが来てくれます」
P「そういう目にあったこと、あるの?」
ハルカ「明らかに異常な人は、もう受付で止められちゃいますけど中にはね」
P「許せないな」
ハルカ「そういうこと言うのも、プロデューサーさんを珍しいって言う理由ですよ」
P「え? なんで」
ハルカ「だいたいのお客さんはそういうの聞くと、根掘り葉掘り聞きたがるんですよ。どうだった、とか。感じたか、とか」
P「胸くそ悪い」
俺がそう言うと、ハルカは俺に抱きついてきた。
ハルカ「今日も私を、プロデューサーさんの彼女にしてください」
P「ハルカ……」
俺達は、本当の恋人のようなキスをした。
P「今日は追加料金は?」
ハルカ「え? もう! せっかくの気分が、台無し!!」
ふたたび俺達は、唇を合わせた。
そして愛し合った後も、俺達はずっと抱き合ったままでいた。
P「ハルカ以外のここの娘って、どんな娘?」
ハルカ「うーん。別に友達っていうわけじゃないし、かといって仲が悪いわけじゃないし……」
P「みんなハルカみたいに、アイドルに似てるのかい?」
ハルカ「あはは。まあ、タカネさんとかは似てますよ」
P「へえ、銀髪なのか?」
ハルカ「本人は、白髪が増えて最近は困るって言ってますけど」
P「なんだそりゃ? 銀髪じやなくて白髪なのか!?」
ハルカ「まだ40代だって、本人は言ってますよ。それに顔もわりと似てますし」
P「わりと、ね」
ハルカ「口調をマネるのが大変だって、言ってましたね」
P「他には?」
ハルカ「アズサさんは、胸のサイズが本物とまったく一緒です」
P「91か!? そりゃすごい」
ハルカ「似てるの、そこだけなんですけどね」
P「おいおい」
ハルカ「チハヤちゃんも、胸のサイズが本物と同じです」
P「似てるの、そこだけなんだろ?」
ハルカ「あたり」
俺は声をあげて笑った。
まったく、こんなに心底笑ったのはいつ以来だろう。
ハルカ「後は声がそっくりなイオリちゃんとか……他の娘の所へも今度、行ってみます?」
P「え? いや、俺はハルカがいい」
ハルカ「……あの、天海春香にそっくりですもんね」
P「……いや、そんな理由じゃない」
ハルカ「え……?」
P「本音を言うと、俺はハルカとこうしていると本物の春香と一緒にいるよりくつろいでいる」
ハルカ「それは、身体を許した関係だから。それだけですよ」
P「ハルカといると楽しい」
ハルカ「きっと、気を遣わなくていいからですよ」
P「どうだろうな……」
本物の春香……というのも変だが、春香といて緊張する事なんて無い。
むしろ楽しい。
しかしハルカといる時に感じる安らぎは、春香のそれとは全然違う。
P「ハルカに、惚れたかな……?」
ハルカ「商売の女に、そういうこと言っちゃだめです」
P「いや、本音だけど」
ハルカ「お互いに辛い思いするだけです。だから、言わないでください」
P「……わかった」
この商売、この世界にはそこなりのルールがあるのだろう。
俺は、そう納得した。
P「でも、また来るのはいいよな?」
ハルカ「待ってます。プロデューサーさんのこと、まってますね」
律子「どうかしたんですか? プロデューサー」
P「ん? どうかしたか?」
律子「手、止まってますよ」
P「あ、ああ、ごめん」
律子「最近なにか、考え事してるみたいですけど悩み事ですか?」
P「いや、そういうわけじゃ」
風俗に行きたくて、と言ったら律子はどんな顔をするだろうか?
そう言えばあの店にもリツコという娘がいるらしい。
アイドルの頃の律子を模しているのかと思ったら、スーツ姿でSでもMでもしてくれるらしい。
律子が自分のファンをマニアックと分析していた意味が、ようやくわかった気がした。
律子「そうですか? それじゃあ私の相談、聞いて欲しいんですけど」
P「なんだ? 恋愛相談とかは専門外だぞ」
律子「鈍感なプロデューサー殿に、そんなの期待していません」
P「え?」
律子「と、とにかく! 最近、千早の様子が少しおかしい気がして」
P「そうか?」
3日前にCDの収録をしたが、別段おかしな所もなかった。
声の調子も良く、楽曲の良さと相まって俺はヒットを確信していたが。
律子「なんて言うか、仕事はいいんですよ。もともと生真面目なタイプだし。ただなにか思い詰めてる気がして」
P「律子がそう感じるなら、俺も注意してみる。杞憂ですめば、それにこした事はない」
律子「ええ、お願いしますね」
俺は千早に声をかけてみた。
P「千早、おはよう」
千早「あ、おはようございますプロデューサー」
笑顔で挨拶をする千早。
その表情で、俺は事態の深刻さを悟った。
そもそも千早は、そんなに笑うタイプではない。
陰気とか暗いとか、そういう事ではない。
もともとは朗らかで、あかるい娘だ。
だが、克服はしたものの辛い過去と、持ち前の理知的な頭脳が彼女の笑いを制御している。
しかし千早はそれでいい、とも俺は思っている。
古い中国の言葉に『美人の条件は笑わない事』というのがある。
アイドルのプロデュースなどという仕事をしている俺からすると、やや疑問に思っていた言葉だが、千早と出会って俺も納得した。
滅多に笑わないこの少女が、笑った時はなんともいえない気持ちになれる。
この娘を笑顔にしてやりたい、そう思う。
だからこそ、俺は千早の為に必死でプロデュースしてきた。
その千早が今、俺の目の前で笑っている。
しかしそれは、俺の大好きな笑顔じゃなかった。
ぎこちない、不自然な笑顔だった。
P「……ちょっといいか? 話したい事がある」
千早「はい。私も、プロデューサーと話がしたかったので」
俺達は、事務所を出た。
近場だと他の娘と出会す恐れがあったので、車を出した。
入ったのは、顔見知りのカフェ。開店前だが、無理を言って入れてもらった。
P「この間のレコ、良かったぞ」
千早「はい。気持ちがのっていて、いいレコーディングができました」
P「その割には、うかない顔だな」
千早「……そうでしょうか」
P「千早、俺に遠慮はするな。前にも言ったが、俺はお前達の為ならなんでもする」
千早「じゃあ私と結婚してくださいって言ったら、してくれますか?」
俺は面食らった。
予想外の質問だ。
しかし慌てる必要はない。
千早がこういう風に話す時は、たいてい本心ではない。
P「俺なんかとしても、つまらんぞ」
千早「……それを言ったら、私も自信がありません。私と結婚する相手は、きっと惨めな思いをいるんじゃないかと思ってます」
重症だな。
俺は、ここしばらくの自分を悔いた。
なんでこんなになるまで、俺は気がつかなかったんだ。
ハルカの事で、浮かれすぎていたんだ……
P「自分を卑下するな。千早は魅力的だ」
千早「……すか」
P「え?」
千早「ハルカって誰なんですか?」
心臓を掴まれた思いがした。
千早はジッとこちらを見ている。本気の目だ。
千早「春香の事だ、とかいうごまかしは止めて下さい」
まったく千早は頭がいい。
惨めな思いをするかはわからないが、千早と結婚する相手は相当苦労するだろう。
P「……千早だから正直に話す。ハルカっていうのは、俺の行きつけの風俗営業の娘だ」
千早「風俗、ですか……」
さすがにショックを受けたらしい。
しかしこの鋭い千早に、嘘や誤魔化しは通用しないし、そうするべきでもない。
千早「そういう店に、行くんですね」
P「ああ」
千早「幻滅しました」
P「……すまない」
千早「でも……」
P「ん?」
千早「ちょっとホッとしました」
笑顔、とまではいかないが、千早は口の端を上げて言った。
千早「プロデューサーは、私に嘘はつかない。やっぱり信用できます」
P「そ、そうか? 年頃の女の子に、ぶっちゃけ過ぎたかとも思ったんだが」
千早「だから幻滅はしています」
P「あ、そう」
ようやく千早は笑った。
良かった。ちゃんと千早の笑顔だ。
千早「やっぱり男の人って、そういうものなんですね。友達が言ってた通りです」
P「……心身共に健全、ととってもらえると助かるが」
千早「そういう開き直りも、やっぱりするんですね。不潔です」
P「面目ない」
千早「だからさっき言った言葉は、取り消します」
P「さっきの言葉?」
千早「結婚して欲しい、って言ったことです。あれ、取り消します」
P「ああ、あれか。仕方ないよな、風俗に行くような男は嫌だよな」
千早「いい気はしません。でも、取り消すだけです。今後はどうするか、私にもまだわかりませんから」
これが千早なりの、精一杯の譲歩なのだろう。
いや、俺を許してくれたということか。
千早「私はてっきり、プロデューに恋人でもできたのかと……それで」
P「つまり、それで悶々としてくれたわけか。いや、悪かった」
千早「それにプロデューサーは、最終的には春香を選ぶと思っていたので」
再三の事だが、千早は頭が良いし鋭い。
なんとなく、俺の気持ちに気が付いていたんだな。
おそらく俺以上に。
P「今はそんなこと考えていない」
千早「そうですか」
ニコニコする千早を見て、俺は少し心が痛んだ。
恋人気分で会いに行っている、風俗の娘が春香にそっくりだと知ったら、千早はどう思うだろう?
少なくとも、もう目の前のようには笑ってはくれないだろう。
事務所に戻ると、律子がやって来た。
律子「どうでした?」
P「解決した。詳しくは、また後で」
律子は頷くと、仕事に戻った。
律子は律子で聡明だ。
千早「それじゃあ私は、レッスンに行ってきます」
雪歩「あ、私も一緒にいいですか?」
千早「ええ」
千早が出ていくと、ドッと疲労感が襲ってきた。
嘘だけは、つかずに済んだ事が救いだ。
ああ、ハルカに会いたいなあ……
春香「おはようございまーす! あれ? プロデューサーさん、千早ちゃんを知りませんか?」
P「千早ならレッスンに行ったぞ。雪歩と」
春香「ええー。私と行くって言ってたのに」
千早も、ちょっとホッとしたんだろうな。
そう思い、俺は春香に話しかけた。
P「じゃあかわりに春香、俺と少し話をいいかな?」
春香「え? ええっ? プロデューサーさんが、私とお話ですか?」
P「なんだ? 話ぐらい、いつもしてるだろ」
春香「プロデューサーさんから、そんな改めてなんて……もしかしてなにかお説教ですか?」
P「違う違う。ん? なにか怒られる事でもしたのか?」
春香「ち、ちちち、違いますよ! でも、今まで色々とお話とかしたくても、なかなかできなかったから……」
そうだったか?
でもそう言えば最近、2人だけで雑談なんてしたこと無かったかも……?
P「春香はひとりっ子なんだよな?」
春香「はい。家族はお父さんとお母さんと、お婆ちゃんがいます」
P「変な事聞くけど、お父さんかお母さんは再婚、って事はないよな?」
春香「? なんですか? それ」
P「い、いや、その、そういう設定のドラマの話があってだな、ちょ、ちょっと聞いてみた……だけだ」
春香「ああ、そうなんですか」
春香は屈託がない。
俺のでまかせに、納得してくれる。
春香「私の両親は2人とも再婚じゃないですよ。今でも仲がいいですし、私も将来結婚したらあんなふうになりたいなあ、と思ってます」
P「そうか」
やはりハルカは、春香とは全然血縁はないのだろう。
他人の空似。
それにしてもよく似ている。
P「春香はさ、恋したことあるか?」
春香「え? ええっ? あの、それもドラマと関係あるんですか……?」
P「あ、ああ。まあ、そうだな」
春香「……あります」
P「そ、そうか」
沈黙。
春香が、珍しく俯いている。
春香「……は」
P「ん? なんだ?」
春香「プロデューサーさんは、あるんですか? 恋……」
P「恋、か。そうだな……」
俺は今、お前にそっくりの風俗の女の子にぞっこんだ!
そう言ったら、春香はなんて言うだろう?
P「最近は、してないな」
春香「……そうなんですか」
P「忙しいからな」
春香「忙しいと、恋はできませんか?」
P「え?」
春香「今、恋をしている私も……けっこう忙しいと思うんですけど」
P「え? い、今か?」
春香「わた、私は……」
やよい「うっうー! かえりましたー」
伊織「戻ったわよ。あれ? ふたりだけ?」
P「ああ、みんな出てる。律子もさっき出かけたみたいだ」
やよい「あれー? 春香さん、熱でもあるんですか?」
伊織「ほんと、顔が真っ赤よ」
春香「え? い、いやーきょ、今日、ちょっと暑くない?」
やよい「そうですかー?寒くはないですけど」
伊織「プロデューサー、あんたまさか春香に変な事してないわよね!? 誰もいないのをいいことに!!」
P「勘弁してくれ。担当アイドルに手を出すようじゃ、プロデューサー失格だ。な、春香」
春香「……」
P「春香?」
春香「すみません。私、千早ちゃんとレッスンするんでした。失礼します」
バタバタと春香は出ていったかと思うと、事務所のドアの外で盛大に転ぶ音が響いた。
P「大丈夫かな?」
伊織「大丈夫でしょ。転んでも大怪我だけはしないのが、春香だもの。それより……」
伊織は挑むように、俺に目を向けた。
伊織「本当はなんの話だったの?」
P「……中学生にはまだ早い」
伊織「! この伊織ちゃんをなめないでよね! そこらの中学生と一緒にしてもらったら困るわ」
P「恋愛相談だ」
伊織「!」
伊織が少しだけたじろぐ。
なんだかんだ言っても、やはり中学生だ。
伊織「誰の、よ」
P「個人情報だ。伊織もやよいも、年頃になって必要があったら相談にのる。もしくはのってもらう。その時は、相談の内容は誰にも話さない。絶対に守る。だから、今日の話も誰にも話せない」
伊織「なによ。子供扱い……しないでよ」
やよい「伊織ちゃん、伊織ちゃん。あっち行ってさっきのつづきをお話しようよ。ねー」
やよいが伊織に、引き際を作ってくれる。
この2人、伊織がやよいを引っ張っているように見えるが、話はそう単純ではない。
本当にいいコンビなのだ。
P「春香が今、恋だって? 相手は誰だ?」
俺は3日ぶりにハルカの店を訪れた。
前回よりも間隔が短いはずなのに、俺はむしろ長く感じていた。
つまりそれだけ、ハルカに会いたい気持ちが強くなっているんだろう。
ハルカ「ああ、良かった。本当にプロデューサーさん、来てくれたんだ」
P「来るよ。約束しただろう?」
ハルカ「……約束しても、来ない人って多いですから……そういうの私、信じないようにしてるんです」
P「売れっ子で、忙しいんだと思ってたけど」
ハルカ「……私、指名は多いけど長続きしないんです」
P「そうなのか?」
ハルカ「天海春香のそっくりさん、トップアイドルとHできるって指名は来るけど……何回か、ううん一回でもHしたらもういいかって」
風俗嬢には風俗嬢の悩みがある。
春香が芸能活動で色々と悩むように、ハルカだって色々と大変なのだ。
俺はハルカを抱きしめた。
ハルカ「そういう意味では、ユキホちゃんとかの方が人気ですよ。いったん気に入られたら、ずっと指名が入るんだもの」
P「雪歩のそっくりさんか?」
ハルカ「ええ。かなり似てますよ。ただ、ユキホちゃんはドSで、ドMのお客さんしかとらないんですけど」
ドSの雪歩……?
P「ちょっと見てみたいな」
ハルカ「プロデューサーさん、ドMですか?」
P「いや。単なる興味本位で」
ハルカ「じゃあやめた方がいいですよ。ユキホちゃんの攻めは、その筋でも『並じゃない』って評判らしいですから」
風俗の業界も大変だ。
P「そういや、ハルカって本名はなんて言うんだ?」
ハルカ「もう。そういうの聞くの、ルール違反ですよ。ここでは私はハルカ、いいですか?」
P「いや、喋ると春香と区別が付かなくて。本名じゃなくても、2人の間では違う呼び名ってできないか? 設定でいいから」
春香はなぜか逡巡していた。
ハルカ「あの、私の名前……聞いても笑いませんか?」
P「? 人の名前で笑ったりしないよ」
ハルカ「絶対、絶対ですよ」
P「? ああ、わかった」
それでもしばらく逡巡した後、ようやくハルカは言った。
ハルカ「私、本名は冬香っていうんです」
結果から言おう。
俺は、彼女との約束を破ってしまった。
笑い転げる俺を、ハルカはポカポカと殴ってきた。
ハルカ「うそつき! うそつき!!」
P「だって、だってそりゃ反則だろ! 春香のそっくりさんの名前が冬香だなんて、どんな笑い話だよ!!」
ハルカ「ううう……だから言いたくなかったのに。もう、本名で呼ぶのはなしです。これからもハルカって呼んでくださいね」
P「ははははははは。は、わ、わかった、そうする。いやそうさせてくれ、呼ぶ度に思い出して、笑ってしま……あはははははは」
結局この日、俺はハルカを抱かなかった。
抱く必要も無かった。
俺は彼女に会えて満足したし、心楽しい時を過ごせた。
それからも俺は、間隔があいても一週間。短い時は3日ごとにハルカの店に通った。
俺には風俗で、女性を買いに行っているという感覚は無かった。
愛しい彼女に会いに通う。そんな気持ちしか持っていなかった。
けれどそれは俺の尺度だ。
世間は必ずしもそうは見ない。
それを思い知らせれる事が起こったのは、店に通い出して二ヶ月が過ぎた頃だった。
どうも、書き手です。
本日も読んでいただいたり、レスありがとうございました。
いったんここで、止まります。
また明日も、よろしくお願いいたします。
テストです。
ご要望がありましたので、コテとトリをつけてみました。
VIPではコテは忌避されがちだったので、両方とも今まではあちらでSSを投下する時もつけていなかったので、初めてやってみましたがいかがでしょうか? 間違っていたり、変じゃないですか?
起きたら、コメントたくさんいただけていて嬉しい限りです。
ありがとうございます。
その日も俺は、ハルカの所へ行き。店から出ようとしたところで、声をかけられた。
相手は見るからに屈強な、スキンヘッドの大男。
以前ハルカが言っていた、怖いお兄さんというのはコイツの事だろう。
スキンヘッド「話がある。ついてこい」
有無を言わせぬ口調に、俺はカチンときた。
P「断る。別にもめ事をおこしたわけでも、支払いを渋ったわけじゃないぞ」
屈強なスキンヘッドは肩をすくめた。
すると、それが合図だったかのように同じような男が更に2人現れた。
俺はなすすべなく3人に捕まえられると、そのまま奥の事務所に連れて行かれた。
事務所の中には、デスクに座る男とその側で立ってニコニコとしている男、2人の男が待っていた。
いずれもカタギの男ではない雰囲気がぷんぷんしている。
?「丁重にご案内しろ、そう言ったはずだが?」
デスクの男がそう言うと、ニコニコ男はニコニコとした表情のまま3人の男たちにケリを入れた。
3人は3人とも、腹を押さえて崩れた。
?「申し訳ありませんねえ、ウチの若いのが失礼を働いたようで。この通り、落とし前はつけさせていただきますんで!」
ニコニコ男は、崩れる3人にさらに追い打ちをかけて足蹴にしている。
3人は、怯えたように許しを懇願する。
俺「やめろ! 別に俺は暴力を受けたわけじゃない!」
?「ワシの命令にそむけば、報いを受けてもらう。これはワシらの社会の掟だ。そこを疎かにしては、この社会はなりたたん」
デスクの男は、慇懃に言った。
しかし意図は見え透いている。
これは3人に対する制裁ではない。俺に対する恫喝なのだ。
こいつらは、俺に直接暴力などふるわない。
馬鹿丁寧に対応しながら、目の前で暴力を見せつける。
これが奴らの手だ。
?「申し送れたな。一応ワシも、こういうものをもっておる」
デスクの男は、俺に名刺を渡す。
しぶしぶ受け取り目をやった俺は、そこに書かれた名前に心底驚いた。
俺「有限会社 萩原組代表取締役社長 萩原……あなたはまさか!?」
組長「娘がいつもお世話になっておるようだな」
うわ! 大変な間違いを。
ちょっと今日は、間違いや誤字が多すぎですね。
反省とチェックして、また後で出直します。
ご指摘、感謝です。
ごめんなさい。
VIPでは、アイドル達が架空の番組で裁判をするSSを何回か投下しました。
興味がおありでしたら『春香 冤罪』、『雪歩 冤罪』、『真 冤罪』、『響 冤罪』で検索していただくと、どこかのまとめサイトがヒットすると思います。
よろしければ、読んでやってください。
色々とありがとうございます。
いや自分でも今日は多いなあ、とは読み返して思ったので。
またちょっとずつ続けます。
ありがとうございます。
雪歩の実家の家業については、俺もなんとなくはわかっていた。
だが、雪歩は雪歩だ。
そのことで彼女を、色眼鏡で見るような真似はするつもりも無かった。
だからこそ俺は今まで、そのことを深く認識していなかった。
組長「この辺はウチのシマでな。ま、庭みたいなもんだ」
風俗店には、たいていバックにヤクザや暴力団がいる。
トラブルに対しての防衛策だ。
しかしまさかここで、雪歩の父親が関係してくるとは俺も夢にも思っていなかった。
P「それで、俺になにか?」
雪歩父「単刀直入に言おう。もうこの見せには、来ないでいただきたい」
P「理由は?」
雪歩の父親は、俺をジロリと一瞥した。
「娘は、あんたに惚れとるからだ」
一瞬、意味がわからなかった。
惚れてる?
誰が?
誰に?
雪歩が?
俺に?
雪歩父「あんたは本来、優良顧客だ。金払いのいい、常連。それに、いざとなればあんたからは金が引っ張れる」
P「俺を脅すつもりですか?」
?「おいおい兄さん、その言い方は無いぜ。今までオヤジがアンタの為にどれだけ……」
ニコニコ顔の男がそう言いかけると、雪歩の父親は手でそれを制した。
雪歩父「余計な事は言わんでいい。ワシが言いたいのは、ワシはあんたが女を買っただとか、そういう事を問題にしているわけではない」
P「じゃあなにが問題ですか?」
雪歩父「その買った女が、娘の友人に酷似している。それが問題だ」
P「なにを……」
言いかけて俺も押し黙る。
本当に雪歩が俺に好意を抱いているなら、俺が春香そっくりな、しかし春香ではない女性を、まして風俗の女性を好きだと知ったらどう思うだろう。
俺は、千早と以前話した時の事を思い出した。
あの時も、俺は同じ事を思ったんだった。
雪歩父「もうわかるだろうが、あんたにはころ以上ここに来て欲しくない。雪歩の為に、だ」
P「……納得、いきません」
これまでだって、何も問題は無かった。
俺は、公私の区別はきちんと分けてきたつもりだ。
雪歩父「納得してもらおう、などと思ってはおらん。あんたをこの店から出入り禁止にする」
P「そんな一方的な!」
雪歩父「次から、あんたがここに来れば、こいつがあんたを叩き出す」
雪歩の父親は、ニコニコ顔の男を指差した。
雪歩父「遊びたいなら、他所の店へ行くがいい」
俺は必死に食い下がろうとしたが、ニコニコ顔の男に追い出された。
その夜、俺は眠れない一夜を過ごした。
そして、朝。
俺は、765プロの事務所に電話をした。
P「すみません。小鳥さん、今日は体調が悪くて……ええ、はい。すみませんが、休ませてもらいます。律子と社長に、よろしく伝えてくれますか。はい、はい。ええ、お願いします」
電話を終え、俺はあの店……
ハルカのいる店へと向かった。
俺の顔を見て、あの巨漢がまず驚いた。
掴みかかろうとする巨漢を、俺は制して俺は言った。
P「ハルカに会いに来たんじゃない。昨日のアイツに会いたい」
巨漢は面食らったようだが、しばらくすれと昨日のニコニコ顔の男が現れた。
ニコ「昨日、オヤジが言った事がわからなかったみたいだな」
P「いや、今日はあんたに用がある。昨日、雪歩の父親が止めたあの話。あんたは何が言いたかったんだ!?」
ニコ「……ま、いいか。入りな」
ニコニコ顔の男は、俺を昨日の事務所へと招き入れた。
ニコ「飲むかい?」
P「いや、いい」
ニコニコ顔の男が差し出したクラスを、俺は突き返した。
ニコ「兄さんは知らないみたいだが、うちのオヤジはあんたを何度も助けてる」
P「? なんの話だ?」
ニコ「765プロのあの敏腕プロデューサーが、担当アイドルとH! ……っていう記事を取材の段階で潰した」
P「え……」
ニコ「あんたが最初に来た時のビデオ、流出してんだよ」
俺は、顔から血の気が引くのを感じていた。
ニコ「オヤジは取材に来た記者を、病院送りにした。それから手を回してビデオも回収した」
P「……そんな」
ニコ「その後も、何人も記者やらジャーナリストが来たぜ。有名プロデューサーが、アイドルのソックリさんで風俗遊び……その取材にな」
愕然とした。
自分なんか、アイドルに比べれば一般人に毛の生えたような存在。
そう思っていただけに、ショックは大きい。
もし本当に記事になっていたら、俺はともかく事務所のみんなは大きなイメージダウンとなっていただろう。
ニコ「全員、俺がシメたよ。何件かは傷害で訴えられてる」
P「知らなかった……いえ、知りませんでした」
ニコ「別に気にしなくていい。この店のもめ事は、俺の仕事だ。それに……兄さんには恩がある」
P「俺に……?」
ニコ「お嬢さんの事だ。俺らみたいな荒っぽいのが、1日中出入りしてるんだ。男が怖くなっても、不思議はないだろうよ」
なるほど。雪歩の男性恐怖症は、案外それも要因かも知れない。
ニコ「あのまま、男を怖がってたらどうなるか……ずいぶんと心配したもんだぜ。結婚も、出来ないんじゃないかってな」
ニコニコ顔の男は、グラスをあおった。
ニコ「それが今じゃあ、男の前で歌ったり、踊ったり……最初に見た時はたまげたぜ」
P「全部、雪歩が自分でがんばった結果です」
ニコ「いや。兄さんの存在が大きい。小さい頃からお嬢さんを見てきた俺には、わかる……」
ニコ「ま、なんにせよだ。兄さん、これ以上ハルカにいれあげても、誰も幸せになれないぜ。当然、兄さんも」
P「……」
ニコ「誰も幸せになれないのに、ムキになる意味なんてねえだろ。兄さんは夢を買ったんだよ、ここはもともとそういう所だ」
P「ハルカとの思い出を……夢にしろ、と」
ニコ「ここの女達は、身体を売ってんじゃねえ、夢を売ってる。たとえ買った側が勘違いしててもな。それが店側の真実、ってやつさ」
P「……勝手な理屈だ」
ニコ「そう思わねえと、救われねえだろ。ともかく、もうく
んな。あんたの為にも、そしてハルカの為にも」
俺は店を出た。
自分の見通しの甘さ、認識の足らなさに、はらわたが煮えくり返りそうだった。
誰も傷つけていないはずだった、誰にも迷惑をかけていないつもりだった。
誰も裏切っていないつもりだった。
それらが全部全部、自分の欺瞞でしかなかったことに、そしてそれに気がつかなかった事に、俺は怒りを覚えた。
P「ハルカにも迷惑、かけてたのかな……」
暗然として、俺は街をさまよった。
あの後、どこをどう歩いたやら全く覚えていない。
ただ気がついたら、辺りはすっかり暗くなり、俺は家の前へとたどり着いていた。
?「プロデューサーさん?」
薄暗い家の前、誰かが俺を呼んだ。
?「プロデューサーさん! プロデューサーさん!!」
春香だった。
メガネと帽子で素性を隠しているが、紛れもなく春香だった。
春香「どこ行ってたんですか……ううっ。し、心配しましたよぉ……」
俺の前で、春香はボロボロと泣き始める。
P「ちょ、ちょっと待て春香。なんでここにいる?」
頭の中でスケジュール帳をそらんじる。
今日は春香は、ラジオ出演のはずだ。
春香「あ、ちょっとまっててくださいね」
春香はどこかへケータイをかけ始める。
ものの5分で、次々と事務所のアイドルがやって来た。
雪歩「ううぅ。ぷ、プロデューサー、心配しました……」
貴音「貴方様、よくぞご無事で……」
真美「兄ちゃ→ん!」
亜美「生きてたんだね→!」
やよい「プロデューサー、心配しましたー!」
あずさ「よかったわ~!」
真「心配したんですよ!」
響「うー! 犬美と一緒にあちこち探したんだからなー!」
千早「……安心しました」
美希「ハニー!!!」
そして最後に、伊織がやって来た。
リムジンで。
伊織「な、ななな、なによ、なによ! ピンピンしてるじゃない。このバカ!!!」
P「痛てて! おい、蹴るな伊織」
伊織「バカ! バカ!! バカ!!!」
見事な三段蹴りだった。
伊織の癇癪が落ち着くと、ようやく春香が事情を説明してくれた。
それによると、今朝俺が小鳥さんにした電話の後、事務所はパニックになったらしい。
伊織「あの熱があっても、決して仕事を休まないプロデューサーが休むと自分から言うなんて、そうとう具合が悪いに違いないわ!」
やよい「そーいえば病気で休むなんて、プロデューサー初めてですー」
真「体力は無いけど、丈夫なのがプロデューサーなのに」
真美「でもでも→普段、丈夫そうに見える人ほど一旦病気になると大変だ、ってパパが……」
亜美「あ→言ってたね→! え→じゃあ兄ちゃん、大変な病気なの→?」
雪歩「ぷ、プロデューサーに何かあったら、私、私……」
美希「ハニーにはミキがついてるの! つきっきりで看病をするの!」
千早「待って! まずは確認をしないと」
あずさ「そうよね。確か、プロデューサーの家はこっちよ~」
貴音「三浦あずさ! そちらは違います!」
……というような状態だったらしい。
千早「でも、プロデューサーの家には誰もいないし、それでみんないよいよ心配になって……」
真美「真美と亜美が、パパに頼んで知り合いのお医者さんに、兄ちゃんのこと聞いて回ってたんだYO!」
やよい「うっうー! 伊織ちゃんは車であちこちの病院を探し回ってくれましたー」
雪歩「他のみんなも、あちこち探して……」
P「みんな……すまない」
俺なんかの為に、みんなで協力して探し回ってくれたんだ。
俺は胸が熱くなった。
気を抜くと、涙が出そうだ。
が、しかし、だ。
それはそれとして、俺はみんなに言いたいことがある。
いや、言わなきゃならないことだ。
P「みんな、仕事は……?」
春香「あ、あははー」
P「春香、ラジオは? 響はゲストだよな?」
春香「え、と……なんて言いますか……」
P「竜宮小町は、リハの予定だろ」
あずさ「えっと~」
P「千早、新曲のプロモはどうした?」
千早「……」
P「真美、美希、やよい! スーパー中学生の収録は今日だろ?」
やよい「ぅっぅー……」
P「雪歩と真は、歌番組の収録……」
真「そ、それが……」
貴音「まあまあ貴方様、ここはこのわたくしに免じて」
P「貴音はその司会だろ! どうしたんだよ? どうなってるんだよ? みんな仕事は!?」
春香「プロデューサーさん……」
P「え?」
春香「ドタキャンですよ! ドタキャン!!」
P「ぎゃおおおぉぉぉんんん!!!」
その後の事は、思い出したくもない。
事務所に駆け込むと、てんてこ舞いで対応にあたる小鳥さん、律子、社長に謝った。
そしてすぐさま、俺も対応に加わる。
先ずは遅刻ということにして、全員を現場に出す。
そして俺は、とにもかくにも頭を下げまくった。
もとはと言えば、俺が原因だ。
みんなを責める気にはならない。
そして社長も、律子も、小鳥さんも、最後まで俺を責めなかった。
まあ、みんなは律子から小言を頂戴していたが……
ともあれ、765プロの所属アイドルの普段の行いが幸いし、それほどの大事にはならなかった。
俺は、久々の徹夜にフラフラだった。
まったく、落ち込んでいる暇もない。
P「そうか、もうハルカに……会えないんだな」
その事に漸く気づき、俺はため息をつく。
しかし、もう迷いは無かった。
俺の為に、アイドル全員があれだけ俺を心配してくれたんだ。
彼女達を裏切れない。迷惑はかけられない、これ以上は。
P「さようなら、ハルカ……」
呟いた俺の目から、涙が落ちた。
次の日の午後、俺は春香を行きつけのカフェに誘った。
突然の事に春香はびっくりしていたが、先日のドタキャンの事を怒られると思ったのか、珍しく暗い表情だ。
例によって開店前に押し入ったカフェで、春香は言った。
春香「……すみませんでした」
P「……いいさ。俺も悪かった。でも、二度とするなよ」
春香「はい」
そして沈黙。
耐えかねて、俺は口を開いた。
P「この前の、さ……」
春香「は、はひっ!?」
P「この前のあの話、あれは嘘だ」
春香「な、なんでしたっけ?」
P「忙しくて、恋をしてないって言った、あれだ……」
春香「ああ……って! ええっ!?」
P「俺には好きな人が……いた」
春香「そ、そうなんですか……え? いた?」
P「失恋した」
春香は一瞬、ビクッと身体を震わせた。
春香「……もしかしてプロデューサーさん、この間休んだのは、本当はそれで……?」
P「みんなには内緒な。あれだけ心配かけてそんな理由じゃあ、伊織に蹴り殺される」
冗談めいて言ったつもりだったが、春香は顔を伏せたままだった。
春香「相手の人って……」
P「ん?」
春香「わ、私の知ってる人ですか?」
P「いや、春香は会った事もない人だ」
春香「そうなんですか……」
P「もう、会う事もない」
春香「辛かったですよね。私たち、いつもプロデューサーさんにはげましてもらったりしてるのに、そんな時なあんな騒ぎを……」
P「逆だよ」
春香「え?」
P「あれで、救われた。落ち込む必要も無くなったよ」
春香「ほんとですか?」
P「ああ。けど、繰り返すが二度とするなよ」
春香「はい!」
千早「春香と、何かあったんですか?」
数日後、俺は千早に聞かれた。
P「? どうかしたのか?」
千早「春香が最近、上機嫌で……それで」
P「見当もつかないな」
千早「そうですか……嘘、ついてないですよね?」
P「前もそうだったろ。軽蔑されそうな事でも、嘘だけはつかない」
千早「はい」
千早は安心したように、俺から離れた。
雪歩「プロデューサー」
今度は雪歩か。
雪歩「あの、私もプロデューサーとカフェに行ってみたいですぅ」
……春香だな。喋ったな。
P「正直、雪歩の煎れるお茶の方が美味いが、行きたいなら連れていくぞ。ただし!」
雪歩「な、なんですか?」
P「俺の愚痴を聞いてもらうからな」
雪歩「は、はいですぅ」
俺の恋は、終わった。
心残りも正直、ある。
なにしろ別れの言葉さえ、ハルカには言ってないのだ。
しかしこれでいいと、俺は無理矢理に思い込む事にした。
忙しい毎日は、俺に失恋の傷心を感じる暇さえ奪う。
それが逆に、ありがたい。
麻痺した心は、暫く恋なんて欲しがらないだろう。
その時俺は、そう思っていた。
もう会わないと、決めたはずのハルカ。
彼女との再会は、意外な形ですぐにやってきた……
本日もありがとうございました。
やーSS書くのは、楽しい楽しい。
読んでいただいたりレスを本当にありがとうございました。
一旦、ここで止まります。
ではまた。
亜美「……ゲンガーだよ!」
伊織「ポケモン?」
亜美「ちが→う! そうじゃなくて!!」
あずさ「あらあら~」
事務所はあいかわらず賑やかだ。
今日は、竜宮小町のテレビ出演。律子はバタバタと、忙しそうだ。
律子「じゃあプロデューサー、申し訳ありませんが例の件! よろしくお願いしますね」
P「ああ。律子もがんばれな」
律子「さあ! あんたたち、行くわよ」
亜美「は→い! 前にいおりんが話してたジャ→ン♪」
伊織「そうだっけ? あ、じゃあプロデューサー、行ってくるわね」
あずさ「いってきま~す」
P「しっかりな!」
竜宮小町一行が出て行くと、ようやくにして事務所は静かになる。
美希「ハニー!」
……前言撤回。次から次へと、俺の勤労を阻む者が現れる。
どんな難易度だ、このゲーム。
美希「ミキも、ハニーとカフェに行きたいのー!」
P「……誰から聞いた?」
美希「雪歩なの。ハニーは、特別なコだけ連れてってくれるらしいの。ミキもハニーの特別になりたいのー!」
P「あそこへはそんな基準で、誰かを連れて行ったりしない。それに俺は、これから行く所がある」
美希「じゃあそこへ、ミキもついて行くのー!! ハニーと行くのー!!!」
これ、明らかに無理ゲーだろ……
P「別に面白い所じゃないぞ……」
やたらとまとわりつく美希を車に乗せると、俺は目的地へと向かった。
春香「おはようございまーす! あれ、小鳥さんだけですか?」
小鳥「あら、春香ちゃん。おはよう。さっきまでみんないたんだけど、竜宮小町は収録に。プロデューサーさんは、美希ちゃんと病院に」
春香「ええっ! 病院? ま、まさかプロデューサーさん、どこか悪いんですか!?」
小鳥「こら! 春香ちゃん、またすぐそういう心配をして……この間の事、反省したんじゃなかったの?」
春香「あ……その……ごめんなさい……」
小鳥「……ふふっ。もう、冗談よ春香ちゃん。プロデューサーさんはね、今度のみんなの定期検診の手続きに行ったのよ」
春香「あ、そっか。もうそんな時期なんですね」
小鳥「アイドルは身体と健康が資本ですからね、しっかりやらないと」
真美「おはよ→……」
小鳥「あら、真美ちゃんおはよう」
春香「おはよう、真美! って、どうしたの? 元気ないじゃない」
真美「ん→そんなことないよ。真美は元気だYO→!」
春香「……真美? いつもと違うのが、丸わかりだよ?」
真美「そ→なの……?」
春香「ここはこの春香お姉さんに、バーンと相談してごらんよ。こう見えても実は私、頼れるんだから」
春香(プロデューサーさんだって、色々と大変なんだもん。仕事以外の、年少者のサポートとか、私もやらないと)
真美「うん→……あのね、昨日なんだけどガッコ→で、亜美が……」
春香「亜美が?」
真美「隣のクラスの男の子に、コクられた……」
春香「へ? へええ……」
真美「そりゃ→さ→! 真美も亜美も、げ→の→人だからさ→、ガッコでも人気者だYO→。ラブレタ→とかも、もらいまくりだし……」
春香「うん」
真美「でもさ→ああやって、しょ→めんきって? 直にちゃんと好きだとか言われるの……」
春香「うらやましかった?」
真美「ちがうよ→! そうじゃちがくて……」
春香「うん」
真美「真美もだYO、すぐ隣にいるのに……亜美が好きだ、って……」
春香「そうなんだ」
真美「真美より好きだってさ→……」
春香「あー……」
真美「最近は、真美も竜宮小町の亜美に人気でも追いついたかな→とか思ってたのに→!」
春香「それは本当だよ。応援や声援、真美も凄いもん」
真美「ガッコだからさ→2人おんなしコ→デだったし、昨日は髪型も一緒だったのに→」
春香「うん」
真美「見た目同じなんだよ! そりゃ→真美と亜美、完全に同じじゃないYO! でも見た目同じなのに真美より亜美って!!! ……言われちゃったんだY O……それって、真美より亜美の方が、中身がいいってことか……な……」
春香「でもね真美」
真美「なに? はるるん」
春香「亜美はそれで、なんて返事したの?」
亜美「や→だよ→って言ってた」
春香「機嫌、悪かったでしょ?」
真美「え→? うん……」
春香「もし、さ。逆に真美が、隣に亜美がいるのに『亜美より真美が好き』って言われたら、どう思う?」
真美「……う→ん。亜美が、今の真美みたいな気持ちになるんだったら、イヤだな→」
春香「亜美もおんなじだよ、だから機嫌悪かったの」
真美「そ→かな→……」
春香「その子には悪いけど、その子は真美と亜美のことわかってない。だって、亜美が嫌な気持ちになる事を平気でできるわけないんだもん」
真美「……」
春香「そんな事もわからないんだもん、その子はきっと真美と亜美の違いもわからないと思うよ。外見も、中身も」
真美「そっか」
春香「だから気にしない。ね!」
真美「そだね。うん! ありがと、はるるん!」
小鳥「はいはい真美ちゃん。そろそろレッスンの時間よ」
真美「よ→し! 今日はいっちょ、真美様のス→パ→ぱぅあをおみまいしますかNE!」
小鳥「あらあら。ふふ、真美ちゃんすっかり元気になったわね」
春香「き、緊張しました……人の悩みを聞くって、疲れますね」
小鳥「そのわりには、ちゃんと聞いてあげてられてたわよ」
春香「はは……プロデューサーさんがいつもしてくれるみたいに、とにかく話をきいてあげようと思ってたら、自然に」
小鳥「それは最強のお手本よね。ね、私も相談にのってもらっていい? お悩み解決・春香お姉さんに」
春香「え? は、ははは、はいっ! どんな悩みもドンとこいですよ?」
小鳥「私、2×歳なんだけど、結婚はおろか恋人もいないんだけど……」
春香(うわ! マジ悩み。おもたいなー……)
P「無理矢理ついてきて、さんざ手続きの邪魔をして、あげくには花を摘みに行くから待っていろだと……」
俺は病院の一角で、深くため息をつく。
P「しかも待っていろ、と言われたこの場所……婦人科の前じゃないか!」
受付の看護師が、俺をジロリと見る。
なかなかの殺気だ。この看護師、デキる。
俺は慌てて頭を下げる。
美希の行動に振り回されるのはいつものことだが、慣れることはない。
本来ならさっさと手続きを終わらせ、真美のレッスンに付き合うつもりだったが、この調子では無理だろう。
俺はこの日何度目かのため息をつくと、見るとも無しに人の流れに目をやっていた。
P「………………!」
診察室の前に座る女性。
その姿を見た瞬間、俺は心臓が止まる思いをした。
ハルカだ。
無意識に、駆け寄ろうとした自分に気づき、俺は慌てて自分を制止する。
誓ったのは、ほんの数日前だぞ。ハルカにはもう会わないと。
あの恋は終わった。いや、夢だった。
そう思ったはず。言い聞かせたはずだ。
頭からの命令に、足は従った。
しかし俺の目は、ハルカから離れない。
P「ハルカ……」
声に出した俺は、再び件の看護師と目が合う。
看護師?
そうか、ここは病院だから看護師がいるんだ。
病院?
ここは病院?
なぜだ?
なぜハルカが病院にいる?
ハルカが病院……?
P「ハルカっ!!!」
俺の足は、もう頭からの命令を完全に無視していた。
気がつけば、俺はハルカの肩を掴んでいた。
ハルカ「え? あれ? プロデューサーさん?」
P「どうした! どうしてここにいる!」
ハルカ「え?」
P「どこか悪いのか? 病気なのか?」
ハルカ「え、あの……」
P「まさか……どっかのドラマみたいに、難しい病気とかなのか!?」
ハルカ「ええと、その……あの……」
P「ハルカ!! 本当の事を言ってくれ!!!」
ハルカ「ちょ、ちょっとプロデューサーさん、声がおおき……」
P「ハルカーーー!!! 死なないで……死なないでくれーーー!!!」
俺の絶叫は、院内全体に広がったんじゃないだろうか。
少なくとも俺たちの周囲では、時間が静止したかのような静寂が巻き起こり、視線は俺たちに集中した。
その中心でハルカは、真っ赤になりながら小さく呟くように、俺に言った。
ハルカ「その……今日は……性病の……定期検査検診に……」
961プロ社長室
黒井「……これかね?」
記者「はい。いかがですか?」
黒井「あの高木の犬めに似ている……と言えば似ている。こっちの小娘も、天海春香に似ている……気はする。それにしてもこの画質、もう少しどうにかならないものかね?」
記者「申し訳ありません。なにしろ、ダビングのダビングの……ダビングでして、補正してもそれが精一杯でした」
黒井「フン、まあいい。なかなか面白いものである事は、認めよう」
記者「恐れ入ります」
黒井「担当プロデューサーと、アイドルの流失ビデオか。この件、もう少し探ってみてくれたまえ。なに、金に糸目はつけないよ」
記者「お任せを……私も、入院生活なんぞをさせられた、個人的な恨みもありますから」
なんか本日は中途半端ですが、ここで一旦止まります。
読んで下さる方、レスを下さる方、いつもありがとうございます。
それではまた、明日。
P「すみません。すみません。すみません」
院内で騒いでしまった事で、俺は看護師に平謝りした。
頭に血が上ったとはいえ、軽率な行動だった。
が、この間アイドルのみんなが大騒ぎした理由が、遅ればせながら俺にも実感できた。
好きな相手が、病気かも知れない。
そう思うと、いてもたってもいられない気持ちになる。
一度そんな気持ちになると、悪い事悪い方へとばかり思考が向かう。
つい先日に別れを決めたはずのハルカに、恥も外聞もなく走り寄った俺も人の事は言えない。
P「ハルカもすまん。なんか動転して」
ハルカ「……いえ、別に。私の事、心配してくれたんですよね?」
相変わらず真っ赤な顔のまま、ハルカは言った。
P「あ、ああ。そ、そうだハルカ、あのな……」
美希「ハニー?」
ああ、ややこしいのが帰ってきた。
美希「なにしてるの? あれ? 春香……?」
俺はギクリとした。
婦人科の前、俺、そして春香そっくりのハルカ……
美希が誤解する要素が、そろっている。
俺には美希の次の行動が、容易に想像できた。
絶叫の第二幕だ。
慌てて美希の口を、塞ごうとする俺。
が、意外にも美希は言った。
美希「……じゃないの。ハ……プロデューサー、その女の人誰なの?」
P「! み、美希、彼女が春香じゃないってわかるのか?」
美希「うーん、確かに似てるの。でもミキ、春香じゃないってわかるな」
春香「うわあ、本物の星井美希ちゃんだ……」
P「あ、あー彼女はだな……」
ハルカ「あ、この人が私の事を天海春香ちゃんと間違えたみたいで」
美希「そうなの?」
P「あ、ああ」
ハルカ「なんか急に、『春香!? お、お前なにをやってるんだ!? こんなとこでなにしてる!! 帰るぞ、春香!』って騒ぎ出して」
ギクリ、と俺はした。
今ハルカが言ったのは、初めて俺がハルカを見た時に言った言葉だ。
あの時の事、ハルカは覚えてる。
覚えてくれている……
ハルカ「私、困っていたんです」
美希「そうなの。へえ……ふうん、なの」
なぜか美希はニコニコし始める。
なぜかは、よくわからないが。
美希「それはそれは、ウチのプロデューサーがご迷惑をおかけしましたの。よーく言ってきかせるから、ミキに免じて許してあげて欲しいな」
ハルカ「別にいいですよ。765プロのプロデューサーだって言ってたの、星井美希ちゃんもいるって事は本当みたいだし」
美希「あはっ」
ハルカ「変な人じゃない、ってのわかりました。じゃ、これで私は失礼します」
そう言うとハルカは、俺に目もくれずもといた場所に腰掛けた。
冷たい態度にもみえるが、きっとハルカは俺に気を遣ってくれたんだろう。
美希「さ、帰るの」
グイグイと美希は俺を引っ張る。
俺はといえば、未練たらしくハルカを見ていた。
だがハルカは、ついに二度と俺の方を見る事は無かった。
美希「夜の駐車場で~♪」
帰りの車中でも、美希は上機嫌だった。
機嫌が悪いよりはいいが、何か妙な気持ちだ。
P「随分とご機嫌だな」
美希「そうなの。ミキ、今ならどんどんお仕事でもレッスンでもがんばれそうなの」
もともと天才肌だけあって、気分とやる気にムラのある美希だが、ここまで自分で言うのは珍しい。
それが、かえって俺を不安にする。
P「偉いぞ。ご褒美に、行きたいと言っていた所に連れて行ってやる」
美希「え? なの」
P「カフェ、行きたいんだろ?」
美希「やったーなの。ハニー大好きなの!」
P「ちょ、こら! 運転中に抱きつくな!! あぶ、危ないだろ」
カフェは空いており、俺はほっとする。
美希も芸能人らしく変装はしているが、美希の場合変装もファッションの一部みたいになってしまい、なぜかよくバレる。
美希自身は『ミキの芸能人オーラは隠しきれないの』と言っているが、それもあながち大げさではないのだろう。
美希「ここがハニーのお気に入りの場所なんだね……へえ……」
P「立地が便利で、静かっていうだけだぞ」
美希「ううん。けっこうセンスいいとミキ、思うな」
この時点で、ミキのご機嫌は最高潮に達していた。
なにが要因だ?
P「なにかいい事でもあったのか、美希?」
美希「あはっ☆ ハニーは、さっきの女の人を春香って思っちゃってたの」
P「? それがどうかしたのか?」
美希「ミキね、ハニーはミキより春香ばっかり気にしてると思ってたの」
意外な言葉だった。
美希「でもミキが思っているより、全然ハニーは春香のことわかってなかったの」
実際には、俺にも春香とハルカの区別は容易につく。
そっくりな2人だが、両者と密接に付き合うとやはり違いがわかってくる。
そう、俺は最初こそ春香の代わりをハルカに求めていたような所があるが、今はハルカという個人に恋心を抱いている。
それでもやはり、時々は春香とハルカが頭の中で重なるような所があることは、否定しきれないが……
美希「ミキ、ほっとしたの……」
P「美希、さっきの人を春香と間違えたのは確かに失態だった。けどな、俺は事務所のみんなを全員気にしているぞ」
美希「わかってるの。でもミキはその中で、一番になりたいの。特に春香には負けたくないの」
どうやら意外にも美希は、春香に対してかなり意識しているようだった。
俺は、美希は伊織をライバルだと思っていると考えていた。
また、春香よりは千早を意識しているんじゃないかと考えていた。
しかし美希は、春香に対抗心を燃やしている。
なにが美希をそこまで燃え上がらせているのか? その時、俺にはわからなかった。
事務所に戻ると、なぜか春香がぐったりとしていた。
P「どうした? 春香」
春香「いえ、軽い相談事かと思っていたのに、かなりヘビーな相談だったもので……」
P「?」
そうこうしていると、竜宮小町一行が帰ってきた。
伊織「ああ! 亜美が言ったの、ようやくわかったわ。あ、ただいまー」
亜美「も→いおりんが言ってたんだYO。もどったよー」
美希「おかえりなの。でこちゃん、なんの話なの?」
伊織「もー! でこちゃんゆーな!」
亜美「あのねあのね、も→すぐはるるん死んじゃうかも知れないんだYO!」
春香「ぶうっ!」
春香が雪歩の煎れてくれたお茶を、盛大に吹き出した。
アイドルにあるまじき行為だが、気持ちはわかる。
P「なんだなんだ? なんの話だ?」
伊織「ちょっと亜美! だから違うって」
亜美「だって見たんだよ、亜美! ゲンガーを!!」
春香「げほっ、ごほっ。な、なに? ゲンガー?」
伊織「ゲンガーじゃないわよ。ドッペルゲンガー」
亜美「あ→! それそれ」
ドッペルゲンガーとは、もともとはドイツ語で『分身』といったような意味だ。
そこから派生し、今では『自分が見るもう1人の自分』といったような現象を指すようになっている。
亜美「見たんだYO! 亜美ははるるんじゃない、はるるんを」
美希「んー? それって……」
亜美「そのドッペルゲンガーを見ると、その人は死んじゃうんだよ! いおりんが言ってたもん」
伊織「だから違うって、ドッペルゲンガーっていうのはその人が見るもう1人の自分。亜美が言うのは、ただの春香に似た人でしょ?」
亜美「……えっと?」
伊織「春香がもう1人の春香を見たなら、ドッペルゲンガーよ。でも亜美が見たんなら、亜美じゃない亜美を見なきゃドッペルゲンガーにならないのよ」
亜美「あ、そっか→」
律子「ま、要するに亜美は、春香じゃない春香によく似た人を見たわけね」
亜美「そ→そ→。お父さんの勤める病院に、寄ったらそこで見たんだYO」
美希「ミキも見たの。お話もしたの。ね、ハニー?」
P「あ、ああ」
亜美が見かけたというのは、まず間違いなくハルカだろう。
雪歩の父親が現れた時にも思ったが、世間は意外に狭い。
美希「ハニーったら、その人に……」
P「美希」
美希は俺を見た。
そして少し肩を落とした。
美希「……なんでもないの」
春香は美希をじっと見ていたが、何も言わなかった。
亜美「ねえねえ! そのはるるんのそっくりさん、765プロにスカウトしようYO!」
P「ぶうっ!」
今度は俺が、お茶を吹き出す番だった。
亜美「それでさ→亜美と真美、それからはるるん2人でユニット組むんだ。『ダブル・ツインズ』とかど→かな→?」
悪くない。不覚にもそう思った俺は、ブンブンと頭を振ってその考えを追いやった。
律子「ちょっと! 竜宮小町はどうすんのよ!?」
P「そ、そうだぞ」
律子「まずはちゃんと、目の前の仕事に全力で取り組まないと」
P「そうだそうだ」
律子「でも、スカウトか。いいアイディアかも知れないわね……」
P「いいぞ、律子ー……え?」
雪歩「早くしないともしかしたら、他の事務所に取られちゃうかもですぅ」
P「そ、そんなことはないんじゃないか? うん」
春香「私のそっくりさんですかー。亜美や美希が見ても似てるなんて、ちょっと会ってみたいです」
P「……」
ハルカをスカウト?
765プロに入れる?
冗談じゃない。そもそもハルカの素性が知れたら、大変な騒ぎになる。
ここはなんとしても、この流れを阻止ししないと!
小鳥「そういえばこういう企画が、テレビ局からきてるんですよ」
とてつもなく嫌な予感を感じつつ、俺は小鳥さんの手にしたFAXを見た。
そこにはこう書かれていた。
春香「アイドルそっくりさん大集合……あのアイドルとテレビで共演。優勝者には、賞金と共にタレント事務所からのスカウトも? だって!」
伊織「ナイスタイミングじゃない。これは、のらない手はないわよ」
亜美「他のプロダクションに遅れちゃダメだYO!!! 亜美、さっそくパパに頼んでその人の事調べてもらうよ」
P「だ、ダメだ!」
亜美「え→なんで?」
P「こ、個人情報だからな。そういうの部外者に漏らすと、亜美のパパが罪に問われてしまうぞ。うん」
亜美「そっか→」
美希「じゃあみんなで交代で、病院で見張るの」
P「いや、みんな仕事あるだろ。それにアイドルがそんな目立つ行動しちゃダメだろ」
亜美「え→。じゃあ、ど→すんのさ→!」
P「どうもしない。この話は、ここまで」
伊織「なによ? アンタらしくないじゃない」
P「え?」
春香「そうですよ。いつもは当たりそうな企画には敏感なのに」
P「いや、現実的にその女の人に会うのは難しいし、それに話した感じあの女の人は芸能活動とか興味ないらしかったぞ」
律子「そうなんですか?」
P「あ、ああ。な? 美希」
美希「……そうだったかも知れないの」
その場の空気が、落胆に傾く。
亜美「そ→か→。残念」
春香「私も会ってみたかったなー」
伊織「まあ本人にその気がないんじゃね。長続きもしないでしょうし」
律子「そうね。やる気は肝心よね」
ハルカの話題は、そこで立ち消えになった。
俺はホッとすると同時に、胸の奥に小さな痛に気付いていた。
美希に嘘をつかせてしまった。
俺に対する美希の純粋な好意を、俺は利用してしまったのだ。
因果応報、とはよく言ったもので、その報いはすぐにやってきた。
それから3日後、ラジオの収録の為に俺は美希を車に乗せ、移動していた。
美希「あのねハニー」
美希にしては、歯切れの悪い口調。
その一言で、俺は美希に何かあった事を悟った。
P「どうした? なにがあった?」
美希「春香がね、この間ミキが言いかけたのはなんだったのか、って聞いてきたの」
P「この間……」
ハルカの事が、事務所で話題になった時の事か。
そして美希がいいかけたのは、俺がハルカを春香と間違えた件だ。
美希「ミキね。ミキ……春香の事、好きなんだ」
P「そうなのか? そんなに仲が良いって印象はないが……」
美希「春香ってすごいの」
少しだけ嬉しそうにそう言うと、美希は押し黙った。
先日に続き、これは驚きだった。
P「悪い事したな。この間、俺が美希が言いかけた言葉を止めたからだな」
美希「……ミキ、春香に『忘れちゃったの』って言っちゃったの……」
P「……そうか」
美希「ハニー。ミキ、これで良かったの? ミキ、ハニーに誉めてもらえるの?」
俺は車を止めた。
駐車禁止区域だったが、構わない。
美希の方に向き直ると、俺は彼女に頭を下げた。
P「ごめん! 美希」
美希「ハニー?」
P「美希が竜宮小町に入りたがっていた時の事、覚えているだろ?」
美希は、コクンと頷いた。
がんばれば、美希は竜宮小町に入れてもらえると思っていた。
誤解もあったが、あの時に俺は彼女に誓った。
P「俺は美希に、もう絶対に嘘はつかない……そう言った。なのに俺は、美希に嘘をつかせてしまった」
美希「ミキ、嘘は嫌いなの。嘘をつかれると、とーっても辛いの」
P「その嫌いな嘘を、つかせてしまった。ごめん、美希。本当にごめん」
下げている俺の頭、正確には後頭部に何か柔らかいものが触れた。
美希だった。
美希が、俺の頭を抱きしめていた。
美希「いいの、ハニー。もういいの」
P「ちょ、美希?」
美希「やっぱりハニーはミキの特別なの。ミキの今の辛さ、ちゃんとわかってくれたの」
P「それでも俺が、美希に嫌な思いをさせた事に違いはない」
美希「ハニーがミキのこと、わかってくれたの。ハニーはプロデューサーなのに、ミキに頭をさげてくれたの」
P「当たり前だ。悪いのは、俺なんだから」
美希「それだけでミキ……幸せなの……」
美希は穏やかにそう言ってくれる。
しかしそれではダメだ。
それだけでは、ダメなんだ。
ハルカのもとに通っている時、俺は知らない間に多数の人に迷惑をかけていた。
雪歩の父親、その弟子、そして彼らに病院送りにされたという記者達も、被害者だ。
その内容はともかく、彼らも彼らなりの仕事をしただけなのだ。
その報いが、俺自身に返ったきた時、俺は愚かにも直情的に行動してしまった。
それは更に、事態を悪化させた。
俺を心配したアイドル達が、俺の為に仕事までなげうつという暴挙に出たのだ。
誉められたことではないが、同じ経験をした今なら俺にもわかる。
彼女達は、俺を心配して心配して、そして行動に出た。
それだけ、俺を思ってくれているのだ。
もうあんな事をさせてはいけない。
いや、あんな思いをさせてはいけないのだ。
そう思ったからこそ、俺はハルカと決別する事にした。
しかしその決別をした後も、なぜかハルカとの縁は完全には切れなかった。
どころか、少しずつ暗い影を落とし始めている。
今回も、あの美希を苦しませた。
俺は、どうしたらいいのだろうか?
伊織「アンタ、また休んでいないでしょう!」
久々に伊織に蹴られた。
が、その蹴りは力がない。いや、手加減をしてくれているのだ。
伊織「ひどい顔してるわよ。そんなんじゃ、外回りは無理よ」
悶々とした悩みから、すっかり俺は睡眠不足になっていた。
P「大丈夫。ほら、行くぞ」
伊織「嫌よ。そんな顔した人と行ったら、この伊織ちゃんの沽券にかかわるわ。嫌ってら嫌よ。ぜーったい嫌」
春香「プロデューサーさん、今日はもうお仕事止めたら……」
いつかのように、みんなが集まってくる。
ああ、駄目だ。またみんなに心配をかけている。
小鳥「あの、プロデューサーさん」
伊織「小鳥からも言ってやってよ! コイツ今に、過労で……」
小鳥「社長がお呼びです。急いで来てくれ、と」
P「社長が?」
普段社長はあちこちを飛び回っており、あまり俺達に直接の指示をだしたりする事はない。
無論、業務報告は怠らないが、基本的に765プロでは各人の裁量での活動が許されている。
なので、社長が直々に、しかも呼び出されての会談は稀有ともいえる事柄だった。
伊織「いい機会よ、私からも社長に言ってやるわ。しばらくコイツを……」
小鳥「プロデューサーさんだけ、急いで来るようにと言われています」
小鳥さんの真剣な表情に、伊織も言葉を止めた。
間違いなく、なにかがおこっているのだ。
俺は社長室へと急いだ。
そしてそこで、俺は……
ついに報いを受けることになる。
P「失礼します」
社長「ああ……かけたまえ」
いつもと違う社長の口調は、事態の深刻さを物語るのに十分だった。
社長「来週発売の週間誌のゲラだ、読んでみてくれたまえ」
P「……拝見します」
『765プロ躍進の原動力 天才プロデューサーのアブない性癖』
ゲスながら、なかなかいいセンスのタイトルだ。
きっと売り上げは伸びるだろう。
『P氏は、担当アイドルに似た娘を見つけては、スカウト名目でアイドルと同じ格好をさせその身体を弄び、挙げ句には風俗に売り飛ばし……』
『食い物にされた娘は、両手で足りず……』
『最近では、担当アイドル本人にもその毒牙を……』
思わず吐き気を催した。
ここにはなにひとつ、真実は書かれていない。
嘘と虚構を悪意で塗り固めた、恥ずべき文字の羅列だ。
社長「どうかね?」
P「酷いですね。これを書いた人間は、天才でしょう。同時に最低の人間だとも思いますが」
社長「内容に、多少なりとも心当たりは?」
P「それは……こんなふうに書かれる経緯としてなら、多少はあります」
社長「だろうねえ」
P「どういう事ですか?」
社長「この業界、火のない所に煙はたたない。この記事が99%の嘘で作られていたとしても、真実も1%は含まれているはずだ」
P「ですが社長!」
社長「まあ待ちたまえ。目下の問題は、もうこの記事が世に出てしまうという事だ。君のイメージダウンは免れない。いや、状況如何では君は、業界から抹殺されてしまう恐れすらある」
ついにこういう時がきた。
きてしまった。
明確にこうなる事を予測していたわけではないが、這い寄るように徐々に迫っていた暗い影がついに目の前に現れた、そう俺は感じた。
自分がしでかした事への報いを受ける時が、ついにきたのだ。
P「俺のイメージダウンや抹殺なんて、プロダクションにとっては大した問題では……」
社長は、大きく息を吐いた。
社長「君ほどの男が、やはり自分の事はわかっていないようだね」
それは以前に俺が、春香に言った事でもある。
『自分の事って、なかなか自分ではわからないもんだよな』
またか?
またしても俺は、大事な何かを見逃していたのか?
気づかずにいたのか?
社長「君は今や、業界では知らぬ者なき有名人だ。どこの局でも君は、VIP扱いされている」
P「? そんな特別待遇、受けた覚えがないんですが……」
社長「君がそう要望したからね。いつだか言ったんじゃないのかね? 特別な事は何もしなくていいですから、と」
P「それは……はい」
社長「逆にもし君が局側に何か特別な要望を出してごらん、すぐに用意されるはずだ」
P「まさか……」
社長「765プロも、前とは違う。今はテレビをつければ、ウチの誰かが必ずどこかで出ている。歌声も、街に溢れている」
それは確かに本当の事だ。765プロの勢いは、まさに破竹の勢いと言える。
社長「そのほとんどの仕事を、君が取り仕切っている。局側も君への対応には細心の注意を払っている。担当者をおいている局だってある」
驚くと、開いた口がふさがらなくなる……それは本当だ。
俺は今日、それを初めて知った。
俺の周囲の世界は、いつの間にそんなに変わってしまったんだ?
ほんの少し前……そう、何ヶ月か前だ。
一年にも満たない前、俺は必死にテレビ局に営業をかけていた。
頭を下げ、頼み込み、それでも門前払いすらくらった事もある。
あれはなんだったんだ?
夢か幻だったとでもいうのか?
社長「話を戻そう。その君のイメージダウンや抹殺は、由々しき問題だ。アイドル達の今後の仕事に影響は免れないだろう。たとえ記事の内容が真実でなくても」
P「そんな……」
社長「アイドルのみんなが、色眼鏡でみられる事になるんだよ」
確かに俺は、自分の事がわかっていなかった。
P「謹慎を……必要なら辞表を出します」
社長「私は君を失いたくない。君は、私の信条である『絆』の体現者であると、信じているからね」
P「でも、それでは!」
社長「懸案事項はもうひとつある。それは961プロだ」
961プロ? 961プロがこの件にどう関係あるんだ?
社長「そもそもこのゲラ、どうやって入手したと思う?」
P「社長のコネクションですか?」
社長「そう。そしてそのコネによると、この記事の出所をたぐると961プロに行き着くらしい」
社長「今のウチなら、出版社や報道陣に圧力をかける事はできる。しかしそれは、得策ではないと私は考えた」
P「同感です。あの黒井社長が背後にいるなら、この記事は先の一手に過ぎないでしょうから」
社長「さすがに聡いな。そう、黒井は所属タレントを駒と呼ぶだけあって、チェスが得意だ」
P「こちらの出方は総て予想して、更に立場が悪くなるように仕掛けているはずですね」
社長「くやしいがその通りだ。今現在、我々がおかれている立場は最悪とまでは言えないが、それに近い」
つまり765プロとしては、打つ手も無くやられるのを待つだけなのか……
俺自身はともかく、765プロに危機が迫っている。
それも全部、他ならぬ自分のせいで。
P「社長、やはり俺を……」
社長「君がいなくなったら、あの娘たちはどうなる?」
P「!」
社長「今度は、この間のような生易しい事態では済まない。そうは思わないかね?」
ああ!
ああ……
みんなの顔が、1人1人浮かんでくる。
全員がすばらしい魅力を持ったアイドルだ。
誰ひとり、仕事を疎かにしたり、投げ出したりする娘じゃない。
そのみんなが、仕事を投げ出して俺を心配して探してくれた。
俺がいなくなったら?
みんなは、アイドルをも投げ出す。
予感以上の、確信が俺にはあった。
なんてことだ!
なんてことだ……
社長「わかったようだね」
P「……はい」
社長「ではこれより、現状を打破する作戦会議を始めよう」
P「……は?」
いやいやいや。
社長。
社長?
P「現状は最悪、打つ手は無い、それが分析の結果じゃなかったんですか?」
社長「私は『最悪だ』などとは言ってはいないよ。『最悪とまでは言えないが、それに近い』と言ったんだ」
P「じゃあ打つ手もあるんですか?」
社長「確かに黒井は、チェスの名手だ。だが、この私にも特技がある」
P「それってまさか……」
それからの作戦会議は、数時間に及んだ。
勝算があるとまでは言えないが、一筋の光明が俺達には見えた。
最後に社長は言った。
社長「後は、君個人の問題の解決だが……」
P「……それはもう決めてあります」
そう、これから俺は決着をつける。
俺の抱えるふたつの問題に。
なんてこったい(ヨシャパテ)!
今日は、社長とのやり取りで終わってしまいました……
一旦ここで、止まります。
いつも読んで下さったり、レスをいただけて嬉しいです。
内容については、あまりレスできないので、なんか反応薄い書き手みたいで申し訳ないのですが、いつもレスに大変感激しております。
感謝です。
さて、内容意外の所でレス返しを。
冤罪のSSも読んでいただいた方がおいでのようで、嬉しいです。
でもやはり、冤罪の人って呼ばれてる……ハハハ。
しかし、このSSだと『風俗の人』とか呼ばれたり……ハハハ……ハハ……
社長室から戻ると、驚いた事に全員が待っていた。
アイドルはもちろん、律子や小鳥さんもだ。
P「どうした? みんなで」
律子「なんだったんですかプロデューサー。社長の話は」
P「ああ、それが……」
千早「深刻な顔をして出て行ってから、一日中……」
そう、気が付けばそれだけの時間が過ぎていた。
そうか、みんな心配で待っていたんだな。
P「961プロが、また仕掛けてきた」
一同の緊張が、少しだけ緩む。
不倶戴天の間柄とはいえ、いつもの事という気風も確かにある。
そして俺達は961プロの妨害を、その都度跳ね返してきていた。
真「なーんだ。またいつもの嫌がらせですか」
亜美「正直、もっと大問題かとおもったよ→」
真美「そ→そ→。961プロなんか、も→まんた→い!」
いや、今回は今までの仕掛けとは違う。
その言葉が喉まで出るが、俺は無用の心配をみんなにかけたくはなかった。
P「だけど油断するな。今回はちょっと今までとは違う」
あずさ「どう違うんですか?」
P「攻撃の対象は、俺です」
伊織「アンタを? ふうん、961プロも考えたわね」
P「俺としては、俺なんてどうなってもいいが……」
美希「ハニーにもしものことがあったら、ミキ耐えられないのー!!!」
P「……というような者もいるから、俺も自衛する」
実際は、事態はもっと深刻だ。
しかし彼女たちにはこの程度の説明の方がいい。
そう、ひとりを除いて。
P「そういうわけで、しばらくの間は俺は今まで通りには仕事ができない事もある。その事はみんなわかっておいてくれ」
雪歩「じゃあお仕事は……?」
P「律子と社長が代行する場合もある」
俺はその後、細かい指示を各自に与えてその夜は解散とした。
P「春香、遅くなったな。電車に間に合うか?」
春香「うーん。正直、ギリギリですね」
P「駅まで送ろう」
春香「いいんですか? ありがとうございます」
美希がぶうぶうと文句を言ってきたが、俺は春香を乗せて車を走らせた。
車中で、春香は話しかけてきた。
春香「961プロ、今度はどんな事をしてきたんですか?」
P「……知りたいか?」
春香「私達、今まではプロデューサーさんに961プロから守ってもらって……だから私、プロデューサーさんが961プロから何かされてるなら、今回は逆に守ってあげられないか、って思って」
P「……春香」
春香「はい? なんですか?」
P「春香に大事な話がある」
春香「それは961プロと関係があることなんですか?」
P「……明日」
春香「え?」
P「今日はもう遅い。この間のカフェの場所、覚えているか?」
春香「はい。大丈夫ですけど」
P「10時に来てくれないか?」
春香はなぜか、すぐに返事をしなかった。
しばらく黙っていた後、ようやく口を開いた。
春香「……プロデューサーさん?」
P「なんだ?」
春香「961プロのこと……もしかしてかなり深刻なことなんですか?」
P「……それも明日、話す」
春香「私だけ送るって言い出したのは、私が関係しているからですか?」
P「それは……」
返答しにくい質問だ。
今回の一件に、春香という存在は関与しているが、直接春香が関係しているかと言われると微妙だ。
P「それも、明日」
春香「嫌です」
珍しい春香の拒否の言葉。
俺は、少なからず驚いた。
横目で見ると、春香は一直線に俺を見つめていた。
春香「今、話してください」
P「今日はもう遅いから……」
春香「収録で、もっと遅くなることもあります」
P「ご両親が心配を……」
春香「大丈夫です」
こうなった春香は、絶対に自分を曲げない。
しまった……話の持って行き方を間違えたかな?
春香「だいいち、ここで帰っても気になって眠れませんよ」
P「……仕方ない」
俺達は、事務所に戻った。
既に誰もいない。
灯りを付けた事務所は、昼間とは別の場所のように静まりかえっていた。
とりあえずソファーにかけると、春香がお茶をいれてくれた。
春香「雪歩みたいに、美味しくはいれられないんですけど」
P「ありがとう」
沈黙。
話があると言っておきながら、俺はなんと切り出したものか考えあぐんでいた。
そもそも、もう少し雰囲気というか、ムードのある所で話したかった。
全て後の祭りだが。
春香「お話……」
P「え、ああっ!?」
春香「私に言いにくいこと、なんですか……?」
P「い、いや、あの、な。その……」
そう、ここまできて今更どうする。
春香には話す。
いや、話さなくてはならない。
そう決めたじゃないか。
そうだろ、俺。
俺は意を決して、春香に言った。
P「実はな、春香。俺は……俺は、風俗営業の店に通っている!」
俺の言葉を聞いた春香の表情を上手く表現する術を、俺は持っていない。
よって端的な単語で、表現しておきたい。
キーワードは3つ
『カチーン』
『ヒクヒク』
『タラー』
P「いや、正確には通っていた、なんだけど……春香?」
春香「 」
P「春香? なにか喋っているのか? まったく言葉になっていないが……」
春香「ふ」
P「ふ?」
春香「ふ、ふっふっふっ、ふー、ふー」
P「どうした春香? なんか掛かりの悪いバイクみたいになってるぞ」
春香「ふー、ふーぞく? ふーぞくって!? ふ、風俗……です……か?」
P「あ、ああ。その、風俗だ」
今回も単語で説明してもいいだろうか?
キーワードはやはり3つ
『ガックリ』
『ハアー』
『ジロ』
P「し、思春期の女の子にこんな話をした事は、謝る」
春香「もう! 本当ですよプロデューサーさん。そんなにデリカシーが無いとは思いませんでした!」
P「ご、ごめん」
春香「あれ? でも、それって……」
P「ああ、そうだ春香。961プロが仕掛けてきた事の内容は、それに関係がある」
P「その風俗の店に行ったのは、偶然なんだ。そもそもそういう店に行った事は、それまであんまり無かったし」
春香「でも初めてじゃ、ないんですね?」
P「ま、まあ」
痛い所を突かれた。
そりゃあまあ、そうだが。
ああ、また春香がため息ついている。
おお、春香の目が冷たい。
P「そ、その店はアイドルのそっくりさんがいる店で、その、俺は春香のそっくりさんを……」
春香「ええっ!!」
P「指名して……」
春香「信じられません! ひどいですプロデューサーさん!! あんまりです!!!」
P「ま、まてまてまて! 興味もあったし、なによりその時は春香みたいな娘が、そんなに世間にいるわけないって思ったから」
春香「……え」
P「どんな人かみてやろう、そう思ってだな」
春香「そ、そうなんですか……」
どうやら春香も、少し落ち着いてくれたらしい。
その頃合いを見計らい、俺は続けた。
P「なにより俺は! その、春香が好きだったから……」
春香「え?」
P「す、好きだったんだよ。春香の事が! だから余計に、そのなんていうか興味が……あれ?」
思えば春香とも、長いつきあいになる。
ランクFからずっと一緒にやってきたのだ。
それこそ辛い時も苦しい時も、共に乗り越えてきた。
色んな春香の表情も見てきた。
しかし今、目の前にいる春香の表情は、そんな俺でも初めて見るものだ。
俺だって、そういう言葉があるのは知っていた。
だが、この目で間近に見るのは初めてだ。
これが『憤怒』という表情……まさか春香でそれを見る事になろうとは……
春香「プロデューサーさんのばかばかばか!!! ひどいひどいひどい!!! ううう……」
一言だけ怒鳴ると、春香は泣きだした。
色々な意味で覚悟はしていたが、この春香の反応は予想外だった。
春香「ううう……ううううう……」
P「ご、ごめん、春香。その、風俗なんて行って……」
春香「ぞんなごとはいいんでず!」
P「え、ええっ!?」
春香「わ、私だって……私だって年頃の女の子なのに……」
P「そ、それはわかってるが」
春香「じゃあなんでそんな告白のしかた、するんですか!! 好きな人から告白される……女の子の一生の夢ですよ!!! それを、ムードもなんにもない場所で、ふ、風俗の話の流れでなんて、あんまりです!!!!!!」
俺は絶句した。
いや、俺だってムードは、もう少しなんとかしたかった。
カフェにだって誘ったじゃないか。
P「……ごめん」
春香「もう……いいです」
春香は、ハンカチで涙を拭き始めた。
春香「なんかそんな気もしてましたし。プロデューサーさんにそういう期待をしたのが、間違いでした」
言葉は少しきついが、ようやく春香は笑う。
春香「でも、好き、か……えへへ、プロデューサーさんに好きって言われちゃった……」
一度笑い始めると、今度は春香はニコニコとし始める。
女の子とは、こういうものなんだろうか。
P「そ、それでだな、話を続けてもいいか?」
春香「デリカシー」
P「え?」
春香「もう少し待って下さい。今、私は幸福の余韻に浸っているんです」
P「……申し訳ないが、手短に頼む」
春香「はーい」
それから5分ほど、春香はニコニコしながらソファでゴロゴロと転がっていた。
春香「プロデューサーさん!」
P「もういいか?」
春香「千早ちゃんにだけ、報告のケータイしていいですか!?」
P「いや本当に申し訳ないが、それはナシの方向で」
なんだこのテンション?
さっきまで春香、怒って、泣いてたじゃないか。
正直、今のテンションはランクAになった時より上だ。
なあ、春香。それってアイドルとしてどうなの?
それに俺、春香が好きだったからとは言ったけど、今は正直春香とハルカどっちも好きなんだけど……
春香「あ! 私、大事な事を忘れていました」
P「え? なんだ?」
春香「私、プロデューサーさんにお返事していませんでした。ごめんなさい」
P「いや、もうなんとなく察したからいいよ」
春香「良くないですよ!」
……なんかもう、今日の春香にはついていけない……
俺の好きな娘って、こんな娘だっけ?
春香「リテイクでいきましょう! はい、プロデューサーさんどうぞ」
P「え?」
春香「もう一回、最初からどうぞプロデューサーさん」
これ……やらないと春香、怒るんだろうな……
春香に告白……ハルカの時を合わせるとこれで3回目か?
いやハルカの時のはノーカンか? あの時は気が楽だったし。
でもあれも……ああ! もうなんだかわからん!? 言えばいいんだろう!!
P「春香、俺は前からお前が好きだった」
ハルカに言った時と同じ、またしても俺はびっくりした。
ハルカに同じ事を言った時は、気が楽になった。
だが今は、なぜだろう胸がいっぱいだ。
なぜだ?
自分でもわからない。
なぜだ?
春香「やっと……言ってくれたんですね」
そうだ、やっと言えた。
ああ、そうか。だから俺は胸がいっぱいになったんだ。
当たり前だが春香は、ハルカじゃない。
俺は言った。言えた……
春香に自分の気持ちを。
春香「プロデューサーさん。私も、ずっと大好きでした」
自然に俺たちは抱き合っていた。
俺の好きな娘って、こんな娘だっけ?
そう、これが俺の好きな天海春香だ。
うわ、墓穴掘った!
ども、風俗の人こと書き手です。
本日も、読んでいただいたりレスを本当にありがとうございました。
すごい嬉しいし、励みになります。原動力です。
本日は、ここで一旦止まります。
また是非是非、読んでやってください。
よろしくお願いいたします。
長い時間が過ぎたような気がする。
俺と春香は、抱き合ったままだった。
どのくらい経ったろうか。俺はそっと、春香から離れた。
春香「プロデューサーさん?」
P「遅くなったな。今日はもう、ホテルを用意するからご両親に連絡を」
春香「! プロデューサーさん、それって……」
P「ん? あ、いや、違う違う。そういう事じゃない!」
春香「そ、そうですよ……ね。はい、わかりました」
なんとなく気まずいものを感じながら、俺はホテルに電話をかける。
春香に電話も代わってもらい、ご両親に説明をした。
そして、春香をホテルへと送り届けたる車中、これまでの経緯を春香に話した。
春香は静かに聞いていてくれた。
怒ったりはしなかったが、時折ギュッと手を握る。
その仕草が、俺の胸をえぐった。
怒ってくれた方が、どれだけ気が楽か。
車をホテルの駐車場に止め、俺は春香をフロントに連れて行く。
P「じゃあ春香、明日は自分で来られるな?」
春香「あ、はい……」
P「また明日な」
春香「はい……明日」
別れ際、春香を抱きしめたい衝動にかられたが、さすがに自重した。
千早「おはようございます」
P「おはよう、千早……って、どうした!? その目」
千早「寝不足です」
千早の目の下には、隈ができている。
P「だめじゃないか。歌中心の活動とは言っても、千早もアイドルなんだからな」
ジロリ。千早は俺を軽く睨む。
P「な、なんだ?」
千早「言うのが遅れましたが、よかったですね」
P「え?」
千早「春香から聞きました。いえ、聞かされました」
P「ええっ!?」
千早「3時過ぎまで、たっぷりと」
P「春香……」
長電話は春香の特技でもある。しかしあの後、そんな時刻まで千早と話していたとは。
いや、相手は千早だ。
おそらく春香は、一方的に話していたに違いない。
千早「プロデューサー」
P「な、なんだ?」
千早「嘘、つきましたね。私に」
P「ええっ!?」
千早「前に私が、プロデューサーは最終的には春香を選ぶと思っていたと言ったら、プロデューサーは『今はそんなこと考えていない』と言ってました」
P「た、確かにそうだけど」
千早「プロデューサーは、嘘つきです」
P「あの時と事情が変わったというか、これには訳が……」
千早「聞きたくありません」
P「あう」
千早「と言いたい所ですが、それはよほどの事情なんですね?」
P「そ、そうだ」
千早「……わかりました。それに、親友があれだけ喜んでいるんです。私も祝福します」
P「祝福って……別に結婚するわけじゃないぞ。それに、まだあんまり喋らないでくれ」
千早「結婚はしないんですよね? じゃあ、私にもまだ可能性はあるわけです」
P「え?」
千早「親友から恋人を取ったりはしません。でも、要らないと言われたら喜んでもらうかも知れません」
P「千早、それは……」
千早「ふふ。冗談ですよ。嘘をつかれたお返しです」
本当だろうか?
どうも最近の千早は、よくわからない。
そうこうしているうちに、問題の人物がやって来た。
春香「おはようございまーす!」
やって来た春香は、まさに上機嫌。平素から明るく笑顔だが、今日はそれと比べてもレベルが違う感じだ。
小鳥「あら春香ちゃん、なにかいいことでもあったの?」
春香「いやーそれがですね」
プロデューサー「春香っ!!!」
俺は風よりも早く、春香の肩を掴んだ。
春香「私、プロ……」
P「大事な打ち合わせがある。行くぞっ!」
春香「え? あ、プロデューサーさん!?」
俺は春香を連れ去ると、車に放り込んだ。
春香「ちょ、プロデューサーさん。乱暴ですよ。未来の妻に対して、なんという仕打ち!」
P「春香! 961プロとの一件が片付くまでは、まだ二人の事はあんまりみんなに話さないでくれ」
春香「えー」
P「いつまでも、じゃない。決戦は明後日の日曜だから」
春香「社長とプロデューサーさんの計画、ですね?」
P「ああ、これから説明する」
移動の車中、俺は春香に計画の説明をする。
春香「これは私の役割が重要ですね!」
P「できるか?」
春香「プロデューサーさん? できるか、っていうのは人を疑う言葉ですよ。この春香さんに任せて下さい!!」
……そこはかない不安がよぎる。
春香の仕事を終え、事務所に戻ると雪歩が近づいてきた。
雪歩「あの、プロデューサー。ちょっと……いいですか?」
P「ん? なんだ?」
雪歩「それが、私のお母さんがプロデューサーにいつもお世話になっているから、一言お礼が言いたいって言ってるんですぅ」
P「え? 雪歩のお母さんが?」
とっさに思い浮かんだのは、いつぞや会った雪歩の父親だ。
あのお父さんの、奥さんか……
雪歩はたぶん、母親似なんだろう。
そういえば知らなかったとはいえ、随分と迷惑をかけていたんだった。
P「待ってくれ。確か今週の予定は……」
雪歩「あ、あの、プロデューサー」
P「え?」
雪歩「お母さんは、プロデューサーさんもお忙しいでしょうから電話でかまわないって言ってました」
P「そんなことでいいのか? 折角ならちゃんと会って……俺だってお礼が言いたいし」
雪歩「い、いえ! 電話で十分ですぅ」
そういえば雪歩はまだ、俺が父親ともう面識がある事を知らないんだった。
きっと、実家に俺が来ると驚くと思っているんだろうな。
P「でも電話でいいなら、事務所なり俺のケータイなりにかけてくれればいいんだぞ。番号だって知ってるだろ」
雪歩「お母さんが、事務所は仕事の場所だから仕事以外の電話は余程の事がないとしない、って」
P「へえ。なかなか堅いんだな」
雪歩「お母さんは、そういうところ厳しいんですぅ。それでケータイも相手の『いい』って許しを得ないのに、勝手に番号とか教えたりしちゃいけません、って」
P「ああそうか。それで、俺に教えてもいいかって聞きにきたわけだな?」
雪歩「そうなんですぅ。プロデューサーの番号を、お母さんに教えてもいいですか?」
P「ああ。むしろこちらから、お電話しないといけないかもな。最近はお父さんも、芸能活動を止めろとは言わないんだろ?」
雪歩「はい。でも応援もしてくれないんですけど……」
そんなことはないぞ、雪歩。
雪歩が変わったことで、あのお弟子さんも喜んでいた。
お父さんも、内緒で俺を助けてくれていた。
それもこれもみんな、雪歩を応援しているからだ。
P「雪歩」
雪歩「は、はい?」
P「お父さんに、俺がお礼を言っていたと伝えてくれないか? お母さんへは、電話がかかってきたら言うから」
雪歩「お父さんに、ですか……」
少し戸惑う雪歩。
P「頼むよ。こうして雪歩のプロデュースができるのも、お父さんのおかげなんだから」
雪歩「え?」
P「お父さんが、芸能活動を許してくれているから、な」
雪歩は頷いて、ニッコリ笑った。
彼女の笑顔は、見る人を優しくホッとさせる。
雪歩「わかりました」
そしてその日の夜、自宅に戻った頃に俺のケータイが鳴った。
発信先は、見知らぬ番号。
P「雪歩のお母さんか」
俺はケータイに出た。
しかし相手は雪歩の母親では無かった。
本日は、一旦ここで止まります。
いつも読んで下さる方には、感謝。
レスに感激です。
本当にありがとうございます。
気がつけば、1週間も続いており、自分でもびっくりです。
?「あの、もしもし?」
P「はい。失礼ですが、雪歩の……ん?」
?「あの、私……」
P「……ハルカ? ハルカか!?」
?「はい……そうです」
電話の相手はハルカだった。
なんで? いや、それにどうして俺の番号を知っているんだ?
ハルカ「どうしてもお話がしたくて……でも最近、プロデューサーさんお店に来てくれないから、私どうしようかと思って」
俺はティンときた。あの店のニコニコ顔の男、彼に相談したんだろう。
そして彼は、雪歩の父親に話を持って行った。おそらくそんな所だろう。
P「なんとなくわかった。それと……店に行かなくなった事は、悪いと思っている」
ハルカ「……それはいいです」
ちっとも『いい』とは思っていない、そんな口調でハルカは言った。
ハルカ「私は商売女ですから」
P「そんな言い方、しないでくれ。少なくとも俺は……」
ハルカ「ごめんなさい。こんな話をするために、電話をしたんじゃないです。ここ数日、変なお客さんが何回か来て……」
P「変な客?」
ハルカ「どうやらプロデューサーさんが、私の所に来たのかを探っているみたいなんです。ごまかしておきましたけど」
一瞬俺は、戦慄した。
社長の計画は、まだ961プロ側がハルカの存在を特定できていない事を前提にしている。
例のゲラには、画像が掲載されていなかった事から、俺達は961プロ側は流失した映像そのものは入手していないか、していても掲載できる画質のものでは無かったと推測している。
もしもここで、961プロ側がハルカを見つけたのなら、今回の計画は瓦解する。
ハルカ「それで良かった、んですよね?」
P「あ、ああ。ありがとう」
ハルカ「……もう」
P「え?」
ハルカ「もう、ウチの店には……来て、くれない……んですか?」
P「……ハルカ」
ハルカ「はい?」
P「言うなって言われたけど、俺はハルカに惚れていた。
ハルカ「……」
P「最初は春香に似ているから、その代わりみたいに思っていたけど、やっぱりハルカは春香じゃない」
ハルカ「……そうですね」
P「ハルカといると、楽しかった」
ハルカ「……はい」
P「でももう、会えない」
ハルカ「……」
P「俺は知らない間に、色んな人に迷惑や心配をかけていた。ハルカと会う事で、だ」
ハルカ「……」
P「許してくれ。俺はハルカと、その人達を天秤にかけた。そしてその人達を選んだんだ」
ハルカ「……そう、なんですか」
P「嫌いになったわけじゃない。だけど、俺はハルカを選べない」
しばらくハルカは黙っていた。
ハルカ「……さっき、私に惚れていた、って言いましたね」
P「……ああ」
ハルカ「……嬉しかったです」
P「……すまない」
ハルカ「謝らないでください。その言葉、忘れません」
P「……そうか」
ハルカ「色々と決心もつきました」
P「決心?」
ハルカ「まず借金を返し終わったら、お店を辞めようと思って」
P「借金?」
ハルカ「あれ? 好きで私がああいうお仕事、してると思ってました?」
P「いや、そうだよな」
ハルカ「返せるメド、つきそうなんです」
P「そうか。良かったな」
ハルカ「プロデューサーさんがもう来ないなら、あの店にいてもしかたないし」
P「……すまない」
ハルカ「もう、冗談ですよ。私なんかに惚れたりしたらダメです。私は夢を売りました。いい夢でしたか?」
P「ああ、最高だった」
ハルカ「よかった」
ケータイの向こうから聞こえるハルカの声は、涙声だった。
ハルカ「それじゃあプロデューサーさん、また……」
P「ああ」
なんとなく奇妙な感覚にとらわれながら、俺はケータイをしまい。またすぐに取り出す。
P「……春香か? いや、もう家に着いたかと思ってな。ああ、うん……」
つくづく俺は軽率だ。
ちょっと声が聞きたかっただけだが、結局その日俺は春香の長電話に2時間つきあわされた……
計画の前日。ここで765プロは、もちうる力を結集した。
コネクション力をフルに活用し、ブーブーエスTVのセットを丸々と貸し切り、立ち入り禁止とした。
名目は、新企画のロケテス。極秘プロジェクトとのふれ込みだ。
ここで春香に、翌日放送の『生っすか!?サンデー』の出演部分を先撮りする。
そしてその生放送時、俺達は会見をひらく。
週刊誌発売より先に、その釈明。いや、961プロを告発するのだ。
春香が、そっくりさんとして例の記事がデタラメである、と。
本物の春香は、生っすかに出ている。その思いこみから、会見に出ている春香を本物とは誰も思わないだろう。それが狙いだ。
正直、手品とも呼べない単純な手で、賭けの要素も大きい。
春香「どうですか? プロデューサーさん」
演技力では春香は、かなりのものだ。
貴音、雪歩、と次いで伊織と並ぶ765プロの演技派だ。
P「ああ、ライブ感がよく出ている。さすがだ」
春香「いやー」
P「あのアドリブで転んだ所も、春香らしさが出ていた」
春香「あ、あれ、ほんとに転んじゃったんですけど……」
P「……まあいい。これで後は、明日に備えるだけだ」
春香「あはは。はい、明日は今日以上の演技をみせますよ」
P「千早と美希には、明日春香の不在とそれでもいるように振舞って欲しいと伝える」
春香「うまく……いきますよね」
不安は大きい。それでもやるしかないんだ。
P「うまくいくさ……」
計画決行の朝が来た。
俺は報道各社にFaxを流した。
当社の担当プロデューサーが、緊急の記者会見を開く、と。
例の記事は、既に本刷りに回っており、耳ざとい記者はその内容を把握している。
それ故に記者会見についての問い合わせが、ひっきりなしにかかってくる。
P「会見内容は、会見場で。ええ、それまではノーコメントです」
俺は問い合わせの電話に、同じ言葉を繰り返した。
千早「春香が出ない?」
P「そうだ。今日は2人でやってくれ。ただし、いかにも春香がいるようにな」
千早「……わかりました」
事務所の様子から、普段とは違う雰囲気を察した千早は、頷く。
美希「これって961プロとの対決に必要なことなの?」
P「そうだ。だから、頼むな」
美希「わかったの。ミキ、今日は一生懸命やるの!」
なんだか普段はあまり一生懸命ではないみたいだが、この際だ。不問に付す。
2人をブーブーエスに送り届けると、俺は会見場に移動した。
会見場はホテルで、春香は極秘に先入りしているはずだったが、なぜか姿が見えない。
P「……妙だな」
嫌な予感がする。
賭けの要素の多いこの会見で、もしも春香が間に合わなかったら……
想像するのも恐ろしい。
そして会見の時間が、迫ってきた。
俺は慌てて春香にケータイをかける。
春香「もしもし? プロデューサーさん?」
P「春香か? 今、どこにいる?」
春香「すみません、社長が廻してくれた車がちょっと遅れて……でももうすぐ着きます。そうですよね? 運転手さん。ええ、大丈夫だそうです」
P「そうか。着いたら報道陣に気付かれないよう、気をつけろ」
春香「はい」
少しだけホッとした俺は、会見の準備を続ける。
そこへ社長がやってきた。
社長「私も同席するよ。黒井がなにかしてきたら、私が相手になる」
P「お願いします。あ、社長が用意してくださった車ですが、少し遅れているようです」
社長「? なんのことだね?」
P「えっ?」
社長「私は車など、用意してはいないが?」
P「ええっ!? ま、まさか……」
しまった!
961プロ。いや、黒井社長だ。
俺の周囲は、絶望で真っ暗になった。
俺達の計画は、おそらく彼の予想の範囲だったのだろう。
春香はおそらく、ここには来ない。
そう手を廻されているのだ。
そして俺には、もう時間も無い……
まさに絶望だった。
その時、会見場が急にザワザワとし始めた。
記者A「おい、あれ!」
記者B「天海春香じゃないか!? もうずく生っすかだろ? なんでここに?」
ハッとして俺は、会見場の迫を見た。
記者達の注目するその場所を、見た。
驚いた。
そこには、居るはずの無い人物が立っていたのだ。
P「どうして……ここに?」
その人物は、薄く笑った。
ハルカ「プロデューサーさん……」
そこにいたのは春香ではなく、ハルカだった……
俺は、先日ハルカと電話をし終えた時の奇妙な感覚を思い出した。
そうだ。
あの時最後に、ハルカは『また……』と言ったんだ。
また……
あれは、別れの言葉じゃなかった。
また会う、そういう意味だったんだ。
そして現実に、ハルカは目の前に立っている。
薄く笑いながら、俺を見ている。
報道陣は、眩しいほどのフラッシュを焚いていた。
ハルカ「961プロの黒井社長が、この場で765プロのプロデューサーさんのした事を話したらお金をくれるそうです」
先ほど俺に呼びかけてきた時と同様、ハルカは俺に小声で告げた。
そして次の瞬間、マイクが俺達の前に突き出された。
ハルカは黙る。その表情は、また薄い笑いを浮かべている。
同時に俺は、思い出した。
この間の電話で、ハルカの言っていた事を。
……ハルカ「色々と決心もつきました」……
……ハルカ「まず借金を返し終わったら、お店を辞めようと思って」……「返せるメド、つきそうなんです」……
とうに黒井社長は、ハルカを見つけ出していたんだ。
そして俺が会見なり、釈明をした所でハルカというカードをきるつもりでいた。
俺達は、まんまと罠にはまったわけだ。
それも、これだけの報道陣をも自ら呼び寄せて……
いつもありがとうございます。書き手でございます。
本日はここで一旦、止まります。
いつもキリのいい所で終わらせようとすると、どうもそれがキリが良すぎるようで、皆様から苦悶のお言葉をいただいております。
ちょっと申し訳ないと、思っています。
ゴメンナサイ。
ではまた、明日……
黒井「紳士淑女諸君、今日はようこそ。7652プロ破滅の会見に」
P「黒井社長……」
高木「黒井、お前……」
黒井「ふふん、手品ごときでこの私の裏をかこうとしたのだろうが、貴様の手などとうにお見通しだよ」
自信満々の黒井社長。
無理もない、全ては黒井社長の思惑通りとなったのだ。
これから黒井社長は、記事にあった内容で俺を誹謗するだろう。
黒井社長に抱き込まれたハルカは、その誹謗を唯々承々と認めるだろう。
終わった……
破滅だ。
765プロの会見であるにも関わらず、黒井社長は壇上で記者に話しかける。
黒井「ここに来ていただいたのは、通称『ハルカ』ちゃん。無論、本名ではなく通り名だがね」
ハルカ「ハルカです。天海春香のソックリさんとして、風俗店で働いています」
報道陣がざわめく。
記者C「あの、あなたは本当にソックリさんなんですか? 我々には本物の天海春香ちゃんにしか見えないんですけど」
ハルカ「ごらんください」
ハルカは上着を脱ぐと、シャツの第一ボタンを外した。
そしてそのシャツから、肩口を露出する。
報道陣からは「おー」という歓声とも、ため息ともつかない声が聞こえた。
黒井「ハルカちゃんの右肩には、ご覧の通りホクロがある。だがしかし、天海春香にはそんなものは存在しない!」
ご丁寧にも、黒井社長は春香のグラビア写真を持参してきていた。
記者D「風俗店、と先程おっしゃいましたが、今回あなたはどのような……」
黒井「おおっと、君ィ。女性に対してはもう少しエレガントに接するものだよ」
P「ぬけぬけと……」
黒井「ふふん、いいだろう。ここはハルカちゃんに代わってこの私が、事の顛末をお話しよう。か弱い女性が話すには、酷な内容だからね」
ハルカ「はい。お願いします、黒井社長さん」
黒井「ウィ、マドモァゼル。この765プロの恥ずべき男は、担当アイドルに似た娘を見つけては、スカウト名目で身体を弄び、風俗に売り飛ばしていたのだ」
P「でたらめだ!」
黒井「このハルカちゃんは、その犠牲者。売り飛ばされた風俗で泣き寝入りの日々を過ごしていた所を、私が助けた。とこういう訳だ」
ハルカ「ありがとうございます。黒井社長さん」
フラッシュが一層強くなる。
ハルカ「765プロのプロデューサーを名乗る人は、私を騙して体を奪い。それから……」
嗚咽と共に、ハルカは泣き崩れる。
黒井社長は少し顔をしかめると、再び話し出した。
黒井「この可愛そうなマドモァーゼルは、それこそ筆舌に尽くしがたい仕打ちを受けた。その上、借金を負わせられて風俗で働かされている!」
ハルカは頷いた。
黒井「それもこれも、あの男!! 765プロのプロデューサーのせい。そうだね?」
黒井社長の指先が、俺に向けられる。
フラッシュは絶え間なく、焚かれ続ける。
まるで光の中にいるようだ。
これが俺の終わりか。
光の中の一瞬の刹那、俺は思った。
芸能界に関わってきた、プロデューサーとしての俺の終わり。
ついに俺は、961プロに負けたんだ。
みんな……みんなはこれから……どうなるんだ。
どうなってしまうんだ?
ごめん、みんな……
しかし眩しさに目がくらんでいるその間、やってきたのは不思議な静寂だった。
P「?」
目が慣れたその時、ようやく見えたのはハルカの顔。
小首を傾げた、その表情だった。
ハルカ「えっ?」
黒井「はっ?」
再び静寂と沈黙。
黒井「えっ? じゃないよ、ハルカちゃーん。君を風俗という地獄に突き落としたのは、ここにいるこの男なんだろう!?」
ハルカ「……えっ?」
黒井「だから、えっ? ではない!! この男だ、この男が君を!!!」
ハルカ「違いますよ」
黒井「な、なにっ!?」
ハルカ「誰ですか? この人?」
黒井「な、ななななな……」
ハルカ「関係者の方かと思って最初に挨拶をしましたけど、私のまったく知らない人です」
P「……ハルカ……」
ハルカ「私の知っている、765プロのプロデューサーと名乗っていた人は、赤ら顔でもっと身体の大きな人でしたよ?」
黒井「な、なにを、なにをなにをなにを! ふ、ふざけるのも大概にしたまえよ!! そんな馬鹿なことがあるものか!!!」
ハルカ……
これか?
これがハルカの目的か?
俺の危機を救う為、あえて黒井社長の甘言にのって……
黒井社長に丸め込まれたふりをして、俺を……
俺を助けてくれたのか?
高木「ふざけるのはお前だ、黒井。こちらの会見に乗り込んできて、訳の分からんことを喚くとは言語道断だ」
黒井「ぐぬぬぬぬ……ふ、ふん! いい気になるなよ、高木。まだまだこちらには奥の手がある」
つくづく黒井社長という人物は、用意周到な男だ。まだ仕掛けを用意しているのか。
黒井「記者諸君! 惑わされてはいけないよ!! この卑劣な男はハルカちゃんをどうやら丸め込んだらしい」
P「ふざけるな! いけしゃあしゃあとよくも」
黒井「だが諸君、ここにこのようなビィデェオがある。この唾棄すべき男がハルカちゃんに何をしたかを収めた、決定的なビデオが!」
P「!」
流失したビデオは、雪歩の父親が回収したはずだ。
しかし回収されたオリジナルのダビング版となると、もしかしたら……
視聴に耐える映像は、黒井社長は手に入れていない。
その読みもまた、俺は違えたのか?
会場に大型ディスプレイが運び込まれる。
黒井「では諸君にご覧いただこう! この鬼畜の所業を天下に知らしめようじゃないか!!」
ディスプレイが映像を流し始める。
最初に映ったのは、見覚えのある部屋。
ハルカがいた、あの店の部屋だ。
?「ぎゃあああぁぁぁ!!!」
スピーカーから、絶叫が聞こえる。
?「ほらほら! こうして欲しいんだろぉ!! これが目当てなんだろう!!!」
誰かの怒声が今度は響く。
P「なんだ? この映像」
少なくとも、俺とハルカの映像ではない。
?「ち、ちがう! わ、私は間違えてこの部屋に……ひいっ!! や、やめてくれえ!!!」
ビシッ★ バシッ★ パシーン★
まるでムチでも打っているかのような、乾いた音が大音量で響く。
P「これは……なんの映像だ?」
?「ほらほらほーら!!! オマエみたいな醜い下僕にはもったいないけど、今日は特別にこのユキホ様からの直々の御褒美をたまわれるわよ!!!」
バッシーン★★★
?「ギャーッッッ!!! た、タマが割れるうーーーっっっ!!!」
次の瞬間、映像はハッキリと映った。
さっき俺は、ムチでも打っているかのような音と言ったが訂正する。
本当にムチを打っている音だった。
ユキホ「ほーらほらほらほら! 今度はこうして縛って、木馬に乗せてあげようねえ……どうだい! 気持ちイイんだろ!!!」
黒井「や、やめてくれえ! ぬ、脱がすな!! 縛るな!! ぎゃああ! の、乗せるな……のせないでくれえええぇぇぇ」
思い出した。これはあの店のそっくりさんの1人。
雪歩のそっくりさんという、ユキホに違いない。
髪型、白い肌、全体的な顔の造詣はまあ確かに雪歩に似てなくも無い。
しかしその形相たるや、本物とは正反対。
正に鬼。鬼の責め苦だった。
黒井「だ、だから私は、ハルカという女に会いに……い、痛い! 痛いン!! ああんっ!!!」
ユキホ「どうだい? だんだん良くなってきたんだろう? さあ、今日は徹底的にいくから、覚悟おし!!! なんだいこの貧相なモノは? なんかの芽かなんかかい、こりゃあ!?」
気が付けば、黒井社長が巨大ディスプレイに張り付いていた。
黒井「み、見るな! 見てはいかん!! と、撮るな!! 撮るなあああぁぁぁーーーっっっ!!!」
記者D「黒井社長! これは自らの嗜好の発表ですか?」
記者E「あの961プロの黒井社長の隠された性癖! これは記事になる!!」
記者F「黒井社長はいつからこのようなアブない遊びを?」
ハルカ「黒井社長さんは、もうウチの店の常連です」
記者団「「おおーーーっっっ!!!!!!」」
黒井「止めろ!!! 見るな!!! 撮るな!!! き、記事にするなーーーっっっ!!!」
その後は、961プロのスタッフが乗り込み、会場は大混乱となった。
当初の会見内容など、もはやどうでも良くなっていた。
961プロは総力を挙げて、記事化や放送化を阻止し、今回の会見そのものが『無かったこと』となった。
当然、件の俺の記事も、週刊誌からは寸前で削除され、日の目を見ることは無かった。
幻となった記者会見の終了後、俺はハルカのもとに駆け寄った。
今回の功労者。いや、プロデューサーとしての、俺の命の恩人だ。
P「ハルカ!」
俺の呼びかけに、ハルカは振り向いた。
が、ハルカは俺の顔を無感情に一瞥すると、無言で俺の横を歩き去った。
P「え?」
振り返った俺は、ハルカがつかつかと高木社長に歩み寄るのを目にした。
ハルカ「お金」
P「えっ!?」
ハルカ「約束だったわよね。言う通りにしたら、黒井社長よりもたくさんくれる、って」
高木「無論、約束は守ろう」
高木社長は懐から小切手を取り出し、ハルカに渡した。
ハルカ「それじゃ」
P「ハルカ!」
俺の呼びかけに、ハルカはため息をつきながら振り返った。
ハルカ「なに?」
P「……その……あ、た、助けてくれてありがとう」
ハルカ「……勘違いしないで」
P「え?」
ハルカ「別にあんたなんか助けるつもりはなかったわ。ただそこの社長さんが、黒井よりもお金を出すって言った。それだけ」
P「それでも……」
ハルカ「あーウザっ!」
P「ハルカ?」
ハルカ「あんたなに? バカなの? 底抜けのお人好し?」
P「なにを……」
ハルカ「そもそも私は、あんたが有名人だからお金をひっぱってやろうと考えていただけ。そしたらあんた、来なくなるし……」
P「……」
ハルカ「逃がして損した、と思っていたら今回のこの儲け話よ。おかげさまで、借金どころか貯金ができたわ」
P「うそ、だろ?」
ハルカ「あーキモ! キモキモっ!! こっちはね、商売なの! いちいちこっちの言うこと間に受けてんじゃないわよ!!」
P「ハルカ……」
ハルカ「あんたなんかね、別に好きでもなんでもありませんでした! いーえ、むしろ苦手、嫌いなタイプよ!!!」
P「…………」
ハルカ「これで嫌いなあんたとも、もうお別れ。お店も辞めたし、せいせいしたわ」
P「………………」
ハルカ「じゃあね! 金づるのプロデューサーさん」
それだけ言うと、ハルカは立ち去った。
二度と俺の方を振り返りもせずに。
ああ、ハルカ……
俺は……
俺はな、ハルカ……
高木「どうだったかね? 私の仕掛けは」
P「社長……なんで最初に言っておいてくれなかったんですか……」
高木「敵を欺くにはまず味方から、兵法の初歩じゃないかね」
P「春香にの車を準備したのは、やっぱり社長だったんですね?」
高木「私の極秘プランの準備が整った場合、天海君がこの場に居ると逆に不味いからね」
俺はため息をついた。
以上で本日、というか日付の上ではもう3日ですが、はここで一旦止まります。
今日ぐらいの所での一旦停止ならいかがでしょうか? 今日は生殺しや寸止めとは呼ばれないかなー?
しかしそういったレスも、本当にありがたくいつも拝見しています。
読んで下さる方、レスを下さる方、本当にありがとうございます。
私は幸せ者です。
それではまた、明日か明後日に……
P「ハルカにも、会っていたんですね?」
高木「うむ、例のコネでね」
まったく社長のコネクションは、恐ろしい。
敏腕とか言われていても、これだけは真似できない。
……いや、これからもこの業界でやっていくなら、見習っていかないとな。
P「それでいくら渡したんですか? ハルカに」
高木「んん? いやあ……ま、次回の君のボーナスは無しだな」
P「マジですか……」
元々、別に金に執着はないが、プロダクションにかなりの損害を与えてしまった。
P「その分は、働いて穴埋めをします……」
高木「良い心がけだ。安心したよ」
P「安心?」
高木「辞める、とか言い出したらどうしようかと思っていたからね」
P「……辞めませんよ」
高木「……君も気がついているんだろう? それでも、なんだね?」
社長の、詰問するような口調。
ああ、気がついていますよ。社長。
P「辞めません。プロデューサーを、続けます」
P「ところであのビデオは?」
高木「ハルカ君に会いにいった時、765プロの社長だと名乗ったら、店側がプレゼントしてくれたよ」
P「後は、お得意の手品……ですか」
高木「そう、あちらのビデオとすり替えた。お陰で例のビデオも、ほらここに」
社長はテープを、俺に渡した。
これは後で、念入りに処分しよう。
高木「さ、帰ろう。みんな心配しているだろう」
P「そうですね」
ブーブーエスでみんなと合流すると、予想通りみんな心配していた。
特に春香は、俺と社長がVサインをすると、泣きながら抱きついてきた。
ああ、みんな見てるぞ春香……
案の定、美希が騒ぎだし、千早がそれをなだめてくれた。
意外にも真美と亜美は、硬直したように動かなくなり、珍しく伊織が取り乱していた。
伊織「な、なっなな、なによ! どういう事よ!?」
やよい「わぁー。春香さんとプロデューサー、なかよしさんなんですねー」
中学生組では、やよいだけがいつもと変わらない調子だ。
あずささんと貴音の年長組は、さすがに余裕なのか俺達を指さして何かを話している。
その一方で、雪歩が泣きじゃくり、真がなにやら慰めながら俺をジトーっと見ている。
すまん、真。
響はなにやら神妙な顔をしていたが、貴音とあずささんの話の輪に加わっていった。
ともあれ、俺達は961プロの責めを凌ぎきった。
しかしこれで全部、終わったわけではない。
俺にはまだ、やる事が残っているのだ。
怒涛の記者会見から1週間後。
ハルカ「ふう、よいしょっと」
大きめのトランクを抱えて、道を歩くハルカ。
その横に、黒塗りのベンツが止まる。
ニコ「よう」
ハルカ「……なんですか? 借金は全部返したはずですよ」
ニコ「あー。わかってる、わかってる。故郷に帰るんだろ? 退職金と餞別代わりに空港まで送ってやるよ」
ハルカ「え? いいんですか!?」
ニコ「あぁ。トランク貸せよ」
ハルカ「嬉しいなあ、ベンツなんて乗るの初め……て」
P「やあ」
後部座席に乗ってきたハルカに、俺は挨拶をする。
ハルカ「……おります。おろして!」
P「ウチの高木社長が言ってたんだけどさ、この俺は業界では有名な敏腕プロデューサーなんだと」
ハルカ「……それが?」
P「最近はアイドルでも、歌とダンスだけじゃなくて、演技力も必要なんだ。だからよくレッスンするし、現場でも本物を見てきている」
ハルカ「……そう」
P「その、業界でも有名な敏腕プロデューサーからしてみると、この間のハルカの演技はノーグッドというしかない。あの黒井社長も顔をしかめてたからな」
ハルカ「……」
P「俺は……俺はな、ハルカ……ハルカの嘘が全部わかったんだよ。記者会見の後、俺に言った事も全部嘘だって」
ハルカ「……ちがう」
P「俺の事、嫌いだったって言ったろ? 金づるだと思った、とも。あれも全部嘘だ」
ハルカ「ちがうちがう」
P「じゃあなんでハルカは、そんな嘘をついたのか?」
ハルカ「ちがうちがうちがう! 黙って、お願い!」
P「それはきっと俺に、ハルカに未練が残らないように。すっぱりと、俺がハルカと別れられるように……そうだろ?」
ハルカ「………………ちがう」
下を向いたハルカの目から、光ものがポトリと落ちた。
P「俺は、最低の男だ……」
ハルカは濡れた瞳で、俺を見つめた。
P「ハルカと、プロデューサーとして自分を天秤にかけて、躊躇無くハルカを捨てた」
ハルカ「自分じゃなくて、私と自分の周りの人を天秤にかけた、って」
P「同じ事だ」
俺は自分の両手を見つめた。
P「あの時、ハルカの嘘に気がついて俺は泣きたくなったよ……恥ずかしさでな」
ハルカ「そんな……」
P「ハルカは俺のために、自分が悪者になっても構わないって思ってくれた。その為に嘘をついてくれた。それなのに俺はどうだ!?」
ハルカ「そんな……大層なものじゃないわ。ただ、私みたいな商売女がつきまとったら、あなたが……あなたの為にならないから」
P「俺は俺のために、ハルカを捨てた。なのにハルカは、それを知ってて俺を助けてくれた。俺のために嘘をついて悪者になってくれた」
ハルカ「だって……」
少しだけ戸惑い、ようやくハルカは言った。
ハルカ「あなたを……好きだから……
ハルカ「あなたと会えて、嬉しかった。楽しかった。あなたが来てくれるのが待ち遠しかった」
少しだけ、ハルカは笑った。
ハルカ「でも、私なんかがあなたと結ばれちゃいけない。それに私は、あの娘の代理……ううん、身代わり」
P「春香、か」
ハルカ「最初に、あなたが来た時からわかっていた。この人が好きなのは天海春香、私は……ニセモノ」
P「でも!」
ハルカ「私の本名、覚えてる?」
P「……冬香、だろ?」
ハルカ「本物の春が来れば、冬は消える。私、なんとなくあなたがいつか自分の所へはこなくなり、本物の春を手に入れるって思ってた。わかってた」
P「そんなのは、ただの偶然だ」
ハルカ「ああもう、なんて言えばあなたにわかってもらえるの!? あなたはそういう人だから……こうなりそうだから、ヘタな嘘までついたのに!」
P「俺が言いたいのはな、ハルカ」
ハルカ「……なに?」
P「俺は765プロを、プロデューサーを辞めない」
ハルカ「! 良かった」
P「でもハルカをこのまま行かせたくはなかった。ちゃんとお詫びがしたかった」
ハルカ「……うん」
P「俺はハルカとはもう会わない。でもそれは、ハルカが風俗嬢だとかそういうことじゃない」
ハルカ「元、風俗嬢ね」
またハルカが笑った。
P「嫌いになったわけでもない」
ハルカ「うん」
P「俺は今まで周りが見えていなかった。だから色んな人に迷惑をかけた。それに一人前のプロデューサー気取りをしていたが、それもまだまだだった」
ハルカ「それで?」
P「当面は仕事に打ち込むよ。春香には悪いが、少なくとも事務所のみんなを全員Sランクにするぐらいまではな」
ハルカ「……そんなのできるの? それにいつまでかかるか」
P「そのぐらいがやりがいがある」
ハルカ「天海春香ちゃん、納得して待ってくれるの?」
P「まあ、どうかはわからないが、今は仕事優先にするとは伝えた」
ハルカ「……ちょっとかわいそうね。春香ちゃんも、あなたも」
P「だからそれで、ハルカに対する罪滅ぼしとしてくれ」
ハルカ「なんだか私のせいみたいになっちゃってるけど、私の事は気にしないでね。故郷に帰って真面目に暮らすわ」
いつもありがとうございます。書き手です。
本日は、一旦ここで止まります。
今日も読んでいただいたり、レスをいただき、感謝感激です。
ではまた、明日。
P「故郷でみててくれ、765プロの活躍を」
ハルカ「わかった。あなたが元気でいるしるしだと思うことにするわ」
俺たちは、少しだけためらったが抱き合った。
おそらくハルカと会う事はもうない。
俺はハルカを見習おう。
事務所のみんなの為に、自分自身をもなげうつあの姿勢を。心の強さを。
だからしばらく恋はしない。
春香には確かに悪いと思うけれど、春香にだってトップアイドルという夢がある。
その夢を叶えるまでは、我慢してもらおう。
ニコ「これで万事終わりか」
P「ああ。悪かったな、協力してもらって」
空港でハルカを下ろすと、俺とあのニコニコ顔の男は缶コーヒーで祝杯をあげた。
ハルカの未来が輝かしいものでありますように、と。
ニコ「また店に来た時は、ブッたまげたがな。それに今回の一件、高くつくぜ」
P「? いくらだ?」
ニコ「金じゃねえ。じき、わかる……」
P「?」
美希「やっぱり春香はすごいの! えらいの!」
貴音「まこと、度量が広いのです」
春香「え? いや、ははは。そうかなー」
伊織「なに照れてんのよ。私には信じられないわ! 両思いになった相手から、好きだった相手にお別れを言いに行っていいかって聞かれて、OK出すなんて」
春香「プロデューサーさん、お別れも言えずに会わないって前に決めて、それが辛かったみたいだから……」
あずさ「まあ~春香ちゃんは優しいわね~」
千早「そうでしょうか?」
真美「おお→! 千早お姉ちゃんは、異議ありですかな!?」
千早「私だったら、前に好きだった女性に会いに行かせたりはしないわね」
春香「ううー……やっぱ私、はやまったかなー……」
小鳥「それをわざわざ春香ちゃんに許可を取るのが、プロデューサーさんの無神経な所よね」
あずさ「男なら、黙って行くのも優しさよね~」
春香「まあデリカシーが無いのは、もう全然わかってたんですけど……」
亜美「それって『やけぼっくい』? に火がつくフラグだよね→」
春香「うう……」
律子「ちょっと亜美! そんな言葉どこで覚えたのよ!!」
小鳥「ピヨちゃんだYO」
律子「小鳥さん!!」
小鳥「こ、恋の手ほどきだピヨ」
律子「自分の相手を見つけてからにしてください!」
小鳥「ピヨョォ……」
春香「な、なんか不安になってたきた……」
真「ま、まあまあ、大丈夫だよ春香。プロデューサー、今回の事でその人にお世話になったみたいだから。きっとそれだけだよ。ね、雪歩?」
雪歩「~♪ え? 真ちゃん、なにか言った?」
響「雪歩、今朝からちょっと変だぞ。なんか機嫌がいいのにどこか上の空で」
雪歩「そんなことないよ。いつも通りですぅ♪」
響「ちょっと、真!」
真「うん……絶対、なんかあったね。あれは」
美希「あはっ☆ 今日の事もえらいけど、春香は全員がSランクになるまでハニーは付き合わないって申し合わせも、オッケーしてるの」
伊織「え?」
雪歩「だからね、まだまだ私たちにもチャンスがあるんだよ?」
春香「え?」
千早「そうね。全員がランクSになるまでに、私もプロデューサーに自分をアピールしていくわ」
春香「いやいやいや。ちょ、ちょっと待って! 待ってみんな」
美希「ミキも、これからどんどん体当たりでアピールしていくのー!」
春香「あくまで待つのは私で、プロデューサーさんは、私の事が好きなんだよ!?」
伊織「まあ、今はそうかもね」
春香「伊織まで!?」
伊織「けど、これからこの伊織ちゃんが更なる成長を遂げちゃったりしたら、春香には悪いけど……」
春香「えー!? み、みんな本気なの!?」
真「なんか燃えるね、そういうの! よーし、ボクも乙女パワーでがんばるぞ!」
真美「今はさ→はるるんにアドバンテージがあるけどさ→」
亜美「亜美達、将来性は期待できるしね→」
響「自分、完璧だしな!」
あずさ「あきらめないわよ~」
貴音「わたくしもです」
春香「そ、そんなあ……ゆ、雪歩……は?」
雪歩「昨日、お父さんとお母さんがあの男は見所がある。家族ぐるみでのおつきあいをしたい、雪歩もがんばれって」
春香「! お、親公認!? ていうか、雪歩のご両親、いつプロデューサーさんに会ったの?」
雪歩「私もそれは不思議なんだけど、でも会う機会があったってお父さんが……今度、家にご招待しなさいとも言われて」
春香「じ、自宅でご両親と会うの!?」
雪歩「うん。よくわかんないけど、なんかお父さん、固めの準備もしてるって……」
春香「えええええええ!?」
真美「おやおや→? これは、はるるんのアドバンテージもあやしくなってきましたぞ→」
小鳥「律子さん、律子さん。この際私たちもどうです?」
律子「いいですね! この流れに、のっちゃいましょうか!」
春香「律子さんに小鳥さんまでー……もう、わかりました! いいです!! 私はプロデューサーさんを信じます!!! 絶対に一番好きなのはわたしなんだから。みんながランクSになっても、選ばれるのは私!」
亜美「おおっ! はるるん、言い切った!!」
春香「……と、思う」
真美「ありゃりゃ」
千早「ふふ、その意気よ。春香。じゃあアレいきましょうか」
春香「あれ……って、あれ?」
美希「ほらほらみんな円陣組むの」
あずさ「あらあら~」
律子「はい、じゃあ春香」
春香「ううう……なんか複雑だけど……765プロー!!! ファイト」
全員「「おーーーーーー!!!!!!」」
修羅の場、と書いて修羅場。
事務所に戻ると、なぜか全員が俺に修羅のような猛アプローチをしかけてきた。
なんだこれ?
どうなってんだ春香。
ていうか、なんでむくれてんだ春香?
ちゃんとハルカに別れを告げに行くことは、許可とったよな?
事務所の全員がランクSになるまで、恋人にはならない事も。
俺、なにか間違ったか?
ん? なんだ、雪歩。
今度、雪歩の家に? ご両親が来いと言ってる? ははあ、あいつが言っていたのはこれか。わかった、次のオフにでも……
へ? みんなの実家へも?
いいけどさ……
それよりみんな、仕事は?
レッスンは?
ああ、今日も忙しくなりそうだ……
恋なんてする暇もない。
でも
でも以前とは違う。
ハルカに会う前とは違う。
俺は空虚じゃなくなった。
俺の胸の中の足りない所、それをハルカが埋めてくれた。
結べなかった俺たちの恋の欠片は、今も俺のここ、胸の中に詰まっている。
今はただ、ハルカもそうである事を願おう。
借金を返し、自由になったハルカ
どうか幸せに
幸せに、俺の恋した女性……
終わり
ありがとうございました。書き手です。
2週間近く続けてきましたこのSSですが、読んでくださったり、また感想や叱咤激励のレスをくださる皆様のおかげで終わりまで書く事ができました。楽しかったです。
本当にありがとうございます。
これから読み返し、誤字や間違った書き方をしている部分の訂正をしていこうと思っています。それが終わったらHtml化の申請をしようと思うのですが……それでいいんですよね? すみません、速報は初めてで。
ともあれ、このスレはもう少しこのまま行きます。書いている最中ではなかなかレスできませんでしたが、もしご意見やご感想をいただければこれ以上の幸せはありませんです。
次もまた、速報でSSをやろうと思っています。
とりあえず書きたいものはたくさんあって、冤罪もまだやりたいし、今回みたいな路線、また全然違う路線、能力バトル、クロスとか色々と考えているのですが、なににしよう……
なににせよこのスレ以外で、また見かけることがありましたら、その時もまた是非よろしくおねがいいたします。
訂正です。
>>4 ×伊織「さっき言ったでしょ、プロデューサーの心配をするっていうなら身体の心配もしたあげなさいよ!」
○伊織「さっき言ったでしょ、プロデューサーの心配をするっていうなら身体の心配もしてあげなさいよ!」
>>6 ×俺は風俗外へと足を向けた。
○俺は風俗街へと足を向けた。
×P「仕事を早引けして、風俗か。俺も言い身分だな」
○P「仕事を早引けして、風俗か。俺もいい身分だな」
×ここはどの娘もウチのアイドル模しているらしい。
○ここはどの娘もウチのアイドルを模しているらしい。
>>26 ×イヤ、これは春香じゃなくてハルカだったか。
○いや、これは春香じゃなくてハルカだったか。
>>42 ×俺がそう言うと、ハルカは俺に抱きついてきた。
○俺がそう言うと、ハルカはまた俺に抱きついてきた。
>>52 ×千早「……それを言ったら、私も自信がありません。私と結婚する相手は、きっと惨めな思いをいるんじゃないかと思ってます」
○千早「……それを言ったら、私も自信がありません。私と結婚する相手は、きっと惨めな思いをするんじゃないかと思ってます」
>>53 ×千早「私はてっきり、プロデューに恋人でもできたのかと……それで」
○千早「私はてっきり、プロデューサーに恋人でもできたのかと……それで」
>>65 ×ハルカ「じゃあやめた方がいいですよ。ユキホちゃんの攻めは、その筋でも『並じゃない』って評判らしいですから」
○ハルカ「じゃあやめた方がいいですよ。ユキホちゃんの責めは、その筋でも『並じゃない』って評判らしいですから」
>>67 ×春香はなぜか逡巡していた。
○ハルカはなぜか逡巡していた。
>>69 ×それを思い知らせれる事が起こったのは、店に通い出して二ヶ月が過ぎた頃だった。
○それを思い知らされる事が起こったのは、店に通い出して二ヶ月が過ぎた頃だった。
>>65は実は合ってたんじゃなかろうか()
訂正です。
>>77 ×P「断る。別にもめ事をおこしたわけでも、支払いを渋ったわけじゃないぞ」
○P「断る。別にもめ事をおこしたわけでも、支払いを渋ったわけでもないぞ」
>>81 ×俺「やめろ! 別に俺は暴力を受けたわけじゃない!」
○P「やめろ! 別に俺は暴力を受けたわけじゃない!」
×俺「有限会社 萩原組代表取締役社長 萩原……あなたはまさか!?」
○P「有限会社 萩原組代表取締役社長 萩原……あなたはまさか!?」
>>95 ×雪歩父「単刀直入に言おう。もうこの見せには、来ないでいただきたい」
○雪歩父「単刀直入に言おう。もうこの店には、来ないでいただきたい」
>>97 ×雪歩父「もうわかるだろうが、あんたにはころ以上ここに来て欲しくない。雪歩の為に、だ」
○雪歩父「もうわかるだろうが、あんたにはこれ以上ここに来て欲しくない。雪歩の為に、だ」
>>100 ×掴みかかろうとする巨漢を、俺は制して俺は言った。
○掴みかかろうとする巨漢を、俺は制して言った。
×巨漢は面食らったようだが、しばらくすれと昨日のニコニコ顔の男が現れた。
○巨漢は面食らったようだが、しばらくすると昨日のニコニコ顔の男が現れた。
×ニコニコ顔の男が差し出したクラスを、俺は突き返した。
○ニコニコ顔の男が差し出したグラスを、俺は突き返した。
>>172 ×春香「うわあ、本物の星井美希ちゃんだ……」
○ハルカ「うわあ、本物の星井美希ちゃんだ……」
>>188 ×俺はホッとすると同時に、胸の奥に小さな痛に気付いていた。
○俺はホッとすると同時に、胸の奥に小さな痛みに気付いていた。
>>192 ×その報いが、俺自身に返ったきた時、俺は愚かにも直情的に行動してしまった。
○その報いが、俺自身に返ってきた時、俺は愚かにも直情的に行動してしまった。
>>193 ×伊織「嫌よ。そんな顔した人と行ったら、この伊織ちゃんの沽券にかかわるわ。嫌ってら嫌よ。ぜーったい嫌」
○伊織「嫌よ。そんな顔した人と行ったら、この伊織ちゃんの沽券にかかわるわ。嫌ったら嫌よ。ぜーったい嫌」
再訂正です。
>>65 ×ハルカ「じゃあやめた方がいいですよ。ユキホちゃんの責めは、その筋でも『並じゃない』って評判らしいですから」
○ハルカ「じゃあやめた方がいいですよ。ユキホちゃんの攻めは、その筋でも『並じゃない』って評判らしいですから」
>>419 さん >>422 さん ありがとうございます。
訂正です。
>>277 ×……そこはかない不安がよぎる。
○……そこはかとない不安がよぎる。
>>292 ×P「言うなって言われたけど、俺はハルカに惚れていた。
○P「言うなって言われたけど、俺はハルカに惚れていた」
>>303 ×記者B「天海春香じゃないか!? もうずく生っすかだろ? なんでここに?」
○ 記者B「天海春香じゃないか!? もうすぐ生っすかだろ? なんでここに?」
>>338 ×P「春香にの車を準備したのは、やっぱり社長だったんですね?」
○P「春香の車を準備したのは、やっぱり社長だったんですね?」
>>352 ×ともあれ、俺達は961プロの責めを凌ぎきった。
○ともあれ、俺達は961プロの攻めを凌ぎきった。
>>353 ×ニコ「あー。わかってる、わかってる。故郷に帰るんだろ? 退職金と餞別代わりに空港まで送ってやるよ」
○ニコ「あー。わかってる、わかってる。クニに帰るんだろ? 退職金と餞別代わりに空港まで送ってやるよ」
>>355 ×下を向いたハルカの目から、光ものがポトリと落ちた。
○下を向いたハルカの目から、光るものがポトリと落ちた。
>>358 ×ハルカ「あなたを……好きだから……
○ハルカ「あなたを……好きだから……」
とりあえず以上でいちお、訂正は終わりです。
明日ぐらいに、html化の申請をしたいと思います。
皆さん、本当にありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません