シンジ「顔近いんだけど…」
アスカ「!」ビクッ!
シンジ「顔近づけられると邪魔なんだけど…」
アスカ「~~~~!!!!」カアァァァァ
シンジ「ん?どうしたの?顔赤いよ?」
アスカ「こ~~~の~~~」プルプルプル
アスカ「バカシンジィィィィ!!!!」バチーン!
シンジ「べぶぅ!」
まったり書いていきます
初めてSS書くのでお見苦しい点があるかもしれませんがよろしくお願いします
エロ描写はございません
エロ目的でしたら他のSSでどうぞ
シンジ「痛いな!いきなり何すんだよアスカ!」
アスカ「うっさいわね!バカシンジ!」
シンジ「アスカがいきなり殴ったんじゃないか!」ガシッ
アスカ「キャー!キャー!触んないでよ!エッチ!バカ!変態!」
シンジ「なっ…」
アスカ「ふんっ!あたしお風呂入ってくるから」タッ
シンジ「あ」
アスカ「本当アスカは…はぁ…」
ガラッ
アスカ「言っとくけど、覗こうとかしないでね」サッ
シンジ「なんだよ…もう」
カポーン
アスカ「はぁ~お風呂は暖まるわね」ザバァ
アスカ「今日も一日色々な事あったな…」
アスカ「はぁ…それにしてもシンジの寝顔可愛かったな…」ドキドキ
アスカ「もう少しでシンジとキスできたのにな…って何考えてんのよ!」アタフタ
アスカ「なんであたしがバカシンジとキスしなきゃなんないのよ!」
アスカ「何一人で慌ててるんだろ…もう出よ」
prrrrrrrr…
シンジ「はいはい」ガタッ
シンジ「はい、もしもし」ガチャ
ミサト「シーンちゃん?うふふ…あたしぃ~」
シンジ「ミサトさん?」
ミサト「今加持くんと飲んでるの」
…
シンジ「はい」
シンジ「はい分かりました」
シンジ「はい」ガチャ
ガラッ
シンジ「アスカ~ミサトさん今日帰らないかもだってって…」カアァァァァ
アスカ「分かった~って…」フキフキ…
アスカ「!!!!」カアァァァァ
アスカ「何入って来てんのよ!」バキッ
シンジ「ぐはあああぁぁぁぁ」ドサッ…
アスカ「このエッチ!バカ!変態!信じらんない!」
シンジ「…」ピクピク
とりあえず今日はここまでで
おやすみなさい
見てくれた方々ありがとう
また明日続きを書く予定なので、良かったらお付き合いください
ではでは
少し投下します
―――
――
―
シンジ「いや、アスカがもうお風呂出てるとは思わなくて…」
アスカ「脱衣場にいるかもって思わなかったわけ?」
アスカ(シンジに裸見られちゃった…)カアァァァァ
シンジ「うん…ごめん」
アスカ「もういいわよ。その代わり、明日学校の帰りにちょっと付き合ってもらうわよ」
シンジ「うん分かった…」
――
―
シンジ「アスカ何見てるの?」
アスカ「ん~?テレビ」
シンジ「いや…それはそうだけど」
アスカ「面白い番組やってないのよね~」
シンジ「ふ~ん」
アスカ「シ~ンジ?」
シンジ「何?」
アスカ「ジュース」
シンジ「はいはい」
シンジ「はいアスカ」
アスカ「ん」
シンジ「まったく…飲み物くらい自分で…」
アスカ「ありがと!」
シンジ「う…うん」ドキッ
アスカ「あっ!後アイスも!」
シンジ「あのねぇ」
アスカ「~♪」ニコニコ
シンジ「しょうがないなぁ…」
アスカ「シンジ、さっきからケータイで何してるのよ?」
シンジ「うんツイッターをやってるんだよ」
アスカ「ついったー?」
シンジ「えっ?アスカ知らないの?」
アスカ「悪かったわね」
シンジ「ツイッターっていうのは世界中の人たちの140文字以内のつぶやきが見られるサービスだよ。勿論誰でもつぶやけるよ」
アスカ「ふ~ん」
シンジ「色々な人たちのつぶやきが見れて楽しいよ?」
アスカ「あたしもやってみようかしら?」
―――
――
―
シンジ「これでできるよ」
アスカ「ありがと」
シンジ「まさか登録の仕方が分からないとは思わなかったよ」
アスカ「うっさいわね」
アスカ「どれどれ…ここに文字を入力すればいいのね…」
シンジにツイッター登録してもらった♪シンジ優しい
アスカ「シンジ!できたよ!」
シンジ「本当だ!つぶやきできてるって…」
アスカ「あっ…べべ別に優しいってのは変な意味じゃないからね!ありがとうって事で」ゴニョゴニョ
シンジ「分かってるよ?」
シンジ「よし!アスカをフォローした」
アスカ「ん?よく分からないけどありがとう」
アスカ「眠くなってきちゃった…」フワァ…
シンジ「もう11時か」
アスカ「そろそろ寝ようかしら」
シンジ「そうだね。アスカおやすみ~」
アスカ「おやすみ」
アスカの部屋
アスカ「とは言っても、今夜はシンジとふたりきり」ドキドキ
アスカ「なんか緊張する…」
アスカ「なんで緊張しなきゃなんないのよバカシンジなんかに…」
…
…
…
アスカ「寝れない」
アスカ「目がさえちゃった…」
とりあえずここまでです
ストーリーは常に試行錯誤しています
また、世界観をアニメの世界にするか、もしくは最終話「世界の中心でアイを叫んだケモノ」に出てくる学園エヴァにするか決めておりません
どちらにするかは読者様のご意見によって決めさせていただきたいと思います
アスカの部屋
アスカ(シンジ、まだ起きてるかな)
アスカ「…」
アスカ「ね、眠れないものは仕方ないわよね」
アスカ「み、水でも飲みに台所へ行こうっと」
廊下
アスカ(ふう、水飲んだらだいぶ気分も落ち着いたわね)
アスカ(だいたいアイツと二人っきりってだけで、なんで私が動揺しなきゃなんないのよ)
アスカ(こちとらドイツから来た天才美少女パイロットだっつーの!)
アスカ(あんなヘチマみたいな奴のことなんてこれっぽっちも…)
ギィ…
アスカ「!」
アスカ(シンジの部屋の、ドア?)
アスカ(開いてる…)
アスカ「シンジ?」
アスカ「…」
アスカ(寝てる、かな?)
アスカ「あーなによシンジったらドア開けっ放しじゃないっ
はーやだやだ、これだから日本人て危機感足りないっていうのよねえ」ボソボソ
アスカ「…」チラッ
アスカ(シンジの寝顔…もう一度)
ギィ…
バタンッ
シンジの部屋
アスカ(入っちゃった、シンジの部屋)
アスカ「…」
アスカ(す、少しだけ)
アスカ(さっきの続きを…)
ソロソロ
アスカ(シンジ…)
アスカ(ドア、閉めなきゃよかった)
アスカ(暗くてよく見えない)
すぅ…すぅ…
アスカ(シンジの、寝顔)
アスカ「…」ジー
アスカ(やっと目が慣れてきたわね)
アスカ「…」ジー
アスカ(それにしても)
アスカ(整った顔しちゃって)
アスカ(男のクセに)
アスカ「睫、長いわね…」ツンツン
シンジ「ん」ピク
アスカ「耳…」フッ
シンジ「んぅ」ピク
アスカ(…女の子みたいな声出してんじゃないわよ)
アスカ「変態」ボソッ
シンジ「…」
いつからだろう
シンジが
私の心に居座るようになったのは
最初はただの冴えない奴だと思っていたのに…
ううん
冴えない奴って評価は今も変わってない
ただ…
シンジと一緒にいると
それだけで気持ちが安らぐような
そんな気がするだけ
でも…
それがくやしい
シンジ「…」スー
アスカ「…」
アスカ(気持ち良さそうに寝ちゃって)
アスカ「…バカシンジ」
ー
ーー
ーーー
ーーー
ーー
ー
チュンチュン
シンジ「アスカ、アスカ」ユサユサ
アスカ「ん~」
シンジ「ほら、朝だよ、アスカ!」ユサユサ
アスカ「なによ、うるさいわ…」
アスカ「!?」
シンジ「はぁ、やっと起きた」
アスカ「き、きき」
シンジ「き?」
アスカ「きゃああああああああ~~~~~~~~!!」
こんな感じでどうすかね?
ダメですか?
すいません
世界観は学園希望が多かったからそうしようと思ったんだけど
ミサトと暮らしてる時点で原作の世界になっちゃうし
どうしよう
とりあえずお休み
_,..、__
_, -‐ '´ ,--`\
/  ̄ / `ー、
/ / | ヽ シナリオに支障は来さない。
/ / _ \ / | このまま進んでも問題なかろう
_,../ / / i / ‐ \r' ,,ノ ..,, i|
/´ _,,/,ノ / | ∧ (r-、 `- 、_==ii;;;`'ヾ|i、
|/ // ノ ノ ∧{;::( | `-=r;;ッ//ァ
>、/ / // /´ ヘ二, \ `"´/ /i|
/:::::\|_| | ri | / | | r`'´ {
::::::::::::::::::\\lヽ` / | | ,、 r-、 |
:::::::::::::::::::::::::\\ /| \ ` 〉`´ ヽ_|
:::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ ),,、-‐ '' ´\ |
::::::::::::::::::::::::::://´ `ー'
シンジ「びっくりした…」キーン
シンジ「朝っぱらから大きな声だすなよな」
アスカ「な、なんであんたがいるのよ!」
シンジ「アスカ、もしかして寝ぼけてる?」
シンジ「ここは僕の部屋なんだから僕がいるのは当たり前だろ」
アスカ(あ、昨日あのまま寝ちゃったのね…私)
シンジ「それより、早くしないと遅刻しちゃうよ」
アスカ「い、言われなくてもわかってるわよ
バカシンジ!」
シンジ「…」
シンジ「…」
シンジ「あれ?」
アスカ「なによ急に」
シンジ「いや、ここって本当に僕の部屋なのかなって…」
アスカ「ハァ?あんたこそ寝ぼけてんじゃないの?」
アスカ「ここが私やミサトの部屋にでも見えるわけ?」
シンジ「ミサト?いやそんなことはないけど」
アスカ「バカなこと言ってないでさっさと支度しなさいよね」
シンジ「あ、アスカちょっと…」
バタン
アスカの部屋
アスカ「ふぅ、焦った…
私としたことがなんてぇミスを…」
アスカ「まあバカシンジを誤魔化すくらいわけないからいいけど~」
アスカ「…」
アスカ(そういえばアイツ何か変なこと言ってたけどなんだったのかしら…)
アスカ(ま、いっか)
アスカ「よし!着替え完了!っと」
廊下
シンジ「うっうわああああああぁ~~~~~~~!!!!」
げしっ
シンジ「い、痛い」
アスカ「うっさいわよ!バカシンジ!」
シンジ「うう、変だ…絶対変だ…でも痛いから夢じゃないし」
アスカ「なにボソボソ言ってんのよ、気持ち悪い」
シンジ「だって、こんなのおかしいじゃないか!アスカは何も感じないの!?」
アスカ「…」
アスカ「何が変だってーのよ」
シンジ「うちにアスカの部屋があるんだよ!?
おかしいじゃないか!!」
アスカ「…」
アスカ「はぁ?」
アスカ「あんた頭どうにかなっちゃったわけ?それとも何?
遠まわしに喧嘩売ってんの?」
シンジ「僕の部屋も何かこざっぱりしちゃってたし、絶対おかしいよ」ブツブツ
アスカ「って人の話聞きなさいよ!」
シンジ「そうだ!父さんと母さんは!?」ダッ
アスカ「…」
アスカ「…」ピッ
アスカ「もしもし」
アスカ「初号機パイロットの精神に異常が見られるので至急確保してもらえますか?」
アスカ「…はい、お願いします」
アスカ「…」ピ
シンジ「アスカ~~~!!」
アスカ「…なによ」
シンジ「と、父さんと母さんの寝室が!
何か酒瓶だらけになってて!!」
アスカ「…」
アスカ(ミサトの部屋もいい加減に掃除しないとまずいわよね)
アスカ(最近あそこ生ゴミの匂いがするし)
ピンポーン
アスカ「あ、はーい」
ガチャ
ネルフ職員「パイロットの様子がおかしいと連絡を受けたのですが」
アスカ「ずいぶんはやかったわね、こっちこっち」
シンジ「な、なんだよアスカ!誰だよこの人達!」
アスカ「見ての通り、かなり錯乱してるから
さっさと本部に連れてっちゃって」
シンジ「な、なんだよそれ!は、離せ!うわああああ!!」
ネルフ職員「こら、おとなしくしろ!」
シンジ「む、むぐぅ!!」バタバタ
ネルフ職員「それでは失礼します」
シンジ「~~!!」
バタン
パパンやカヲル君の許可がでたので好き勝手やることに決めますた
今年もよろしくお願いします
ネルフ本部
ミサト「え~と…」
ミサト「つまり彼は、記憶喪失になってしまったわけ?」
リツコ「正確には記憶改変ね」
リツコ「シンジ君は今、私達が知る彼のそれとは異なる記憶を持って世界を認識しているわ」
ミサト「異なる記憶?」
リツコ「例えばミサト、あなたはどうやらシンジ君のクラスの担任教師らしいわよ」
ミサト「へ?」
リツコ「使徒は存在せず、故に当然ネルフもない」
リツコ「碇ユイは存命していて、家族仲は良好」
リツコ「今シンジ君の頭の中はだいたいこんな感じよ」
アスカ「…」
ミサト「ん~、それってなんていうかちょっち…」
ミサト「都合良すぎない?」
リツコ「そうね、記憶改変が彼にとってより好ましい方向へ行われたことを否定はしないわ」
リツコ「でも、これが彼の狂言でないことは私が保証する」
ミサト「根拠は?」
リツコ「…あまり技術部を侮らないでほしいわね
パイロットの精神状態の把握なんて基本中の基本よ」
ミサト「あらそう、そいつは悪うござんしたね」
アスカ「それで…」
アスカ「あのバカは今どうしてるワケ?」
リツコ「まだ病室にいるはずよ」
アスカ「あいつは病人なの?」
リツコ「それは現在調査中よ」
リツコ「ただ、記憶改変の原因がまだわからない以上は隔離しておくのがベターなだけ」
アスカ「…」
リツコ「面会したいなら構わないわよ?」
アスカ「べ、別にそういうわけじゃ」
アスカ「誰がバカシンジなんかに…」ボソボソ
ミサト「…」ニヤリ
ミサト「まあまあ、そう言わないで面白そうだし私も行くわ」
リツコ「ミサト!」
ミサト「な、何よ…」
リツコ「いい?彼は今あなたの知る碇シンジとはまるで違う人物になっているわ」
リツコ「でも逆にそれは、シンジ君にとってもあなたがまるで違う人物になっているということよ」
リツコ「例えるなら今の彼は、ある日突然平行世界に飛ばされてしまったようなものなのよ」
ミサト「…まるでSFね」
リツコ「いいえ、まるっきりSFなのよ」
リツコ「彼にしてみればね」
ミサト「…わかったわ、要するに刺激するなってことでしょ」
リツコ「…」
ミサト「そういえば」
ミサト「アスカはどういう役回りになってるわけ?シンジ君の中で」
アスカ「…」ドキドキ
リツコ「…」
リツコ「幼なじみらしいわ」
アスカ「!」
ミサト「…ほぅ、幼なじみ、ねえ」
リツコ「ええ、それも、毎朝部屋まで彼を起こしに来てくれるほど仲のいい、幼なじみだったそうよ」ニヤリ
ミサト「ほほぅ、それはそれは」ニヤニヤ
アスカ「な、何よそれ、何で私が!」
ミサト「もぅ、照れない照れない!アスカったら~」
アスカ「照れてないっ!!」
アスカ(もう、なんなのよ!)
ネルフ本部
病棟個室
ミサト「シンジくん、入るわよ」ピッ
シャッ
ミサト「…」
ミサト「あれ?」
アスカ「…」
ミサト「おっかしいわねぇ、誰もいないじゃない」キョロキョロ
ミサト「ドアのロックはいきてたのに」
アスカ「…」
ミサト「仕方ない、連絡の行き違いだったかもしれないし確認とってくるわ」
アスカ「…私は?」
ミサト「アスカはここで待機」
ミサト「いいわね?」
アスカ「…」
ミサト「じゃ、ちょっち待っててね」ピ
シャッ
アスカ「…」
アスカ「…」
アスカ「まったくミサトの奴、あれで気を使ってるつもりなのかしら」ヤレヤレ
アスカ「…ほら、いるんでしょ?出てきなさいよ」
アスカ「…」シーン
アスカ「3秒後にベッドひっくり返すわ、3・2・1…」
シンジ「わかった!わかったよ!今出るから!」モゾモゾ
アスカ「素直にそうしてりゃいいのよバカシンジ」
シンジ「…」
シンジ「何で、僕が隠れてるって…」
アスカ「あんたバカ?」
アスカ「ドアはロックされてたんだから、鍵を持ってないアンタはまだここから出てないに決まってんでしょ」
アスカ「まあ何人かやり過ごして騒ぎになれば、ここの監視も手薄になって動きやすくはなったでしょうし…」
アスカ「あんたにしちゃ気が利いたやり方だったわね」
シンジ「アスカ…」
アスカ「何よ?」
シンジ「ごめんっ!」
ガバッ!
アスカ「!」
アスカ(両手を掴まれた!)
シンジ「アスカには人質になってもらう」
シンジ「わけもわからず人をこんなとこに閉じ込めて病人扱いなんて!許せないよ!でるとこでてや…」
アスカ「えいっ」ナゲッ
シンジ「うわぁ!!」ドスン
アスカ「誰が誰を人質にするって?」
シンジ「っ痛ぅ…」
シンジ「なんだよ、今の…」
アスカ「エヴァのパイロットたるもの、格闘術の一つや二つ覚えがあるものよ」
シンジ「またエヴァ、か…やんなっちゃうな」
シンジ「いい年した大人達がこんな軍隊ゴッコみたいなことして…」
アスカ「…」
シンジ「勝手にやるのは構わないけど、どうして僕まで巻き込まれなくちゃいけないんだよ!」
アスカ「シンジ、あのねあんたは今…」
シンジ「どうせ僕の頭がどうかしちゃったって言うんだろ!?」
シンジ「残念だったね、その手には乗らないよ」フッ
シンジ「そうやって拉致してきた子供を洗脳するんだろ!僕は騙されないぞ!」
アスカ「…あんたねぇ、変な漫画の読みすぎよ」
シンジ「そ、それはここの連中やアスカの方だろ!?」
シンジ「何が使徒だ!!何が人型決戦兵器だ!!そんなのが本当にあるなら見せて見ろよ!!」
アスカ「…」カチーン
アスカ「オッケー、わかったわ!そこまで言うなら見せてやるわよ!ビックリし過ぎて腰抜かすんじゃないわよ!?」
シンジ「上等だよ、もしもそんなものが本当にあったら何でも言うこと聞いてやるさ」
アスカ「何でも?」ピクッ
シンジ「な、なんだよ…」
アスカ「ふっふっふ…」
シンジ「?」
アスカ「さぁーっ!!行くわよ!愚かで無様なバカシンジ!」ギュ
シンジ「ちょっと、急に引っ張るなよっ」
アスカ「うるさい!今エヴァの格納庫に連れて行ってやるから、覚悟しときなさい!」
アスカ(何でも言うこと♪何でも言うこと♪)
ネルフ本部
廊下
アスカ(…大見得きったはいいけど、格納庫に着くまでにシンジが見つかったら病室に連れ戻されちゃうわよね)
アスカ(それに私のカードじゃセキュリティーレベルの高い部屋には入れないし…)
アスカ(どうしよう…)
シンジ「まだつかないの?アスカ」
アスカ「ちょっと今考えてるんだから黙っててよ!」
シンジ「考えるって…何を?」ジト
アスカ「え?えっと」
シンジ「…もしかして僕をアイツらに引き渡そうとしてるんじゃ」
アスカ「ち、違うわよ!」
シンジ「信用できないね、僕が家からここに連れて来られたのもアスカが連絡したからなんだろ?」ジトー
アスカ「それは、そうだけど…」
シンジ「それともやっぱり兵器なんてないとか?」
アスカ「あー!!しつこいわね!!今見せるっつってんでしょ…ん?」
アスカ(地面に何か落ちて…)
アスカ(これ、カードキーと、手紙?)
『カードキーは自由に使ってね☆みさと』
アスカ「…」
アスカ(やっぱり見てたのねぇ!あの女~!!)
シンジ「…なにそれ」
アスカ「なななんでもないわよ!!いいから来なさい!!」グイ
シンジ「わ!だから引っ張るなって!」
レイ「…」
アスカ「ファ、ファースト!?あんたいつから…」
レイ「碇くん」
レイ「病室にいるんじゃなかったの?」
アスカ「って無視すんじゃないわよ!」ガー
レイ「…」
シンジ「あの、今はちょっと散歩に…」
レイ「そう…体は、いいの?」
シンジ「あ、はいおかげさまで…」
レイ「そう、よかった」
アスカ(シンジの奴)
アスカ(何故敬語?)
シンジ「あ、あはは、はは」アセアセ
レイ「…」
アスカ(これはもしや…)ピーン
アスカ「ファースト」
レイ「何?」
アスカ「あんた、シンジに忘れられてるわよ」フフン
レイ「…?」
レイ「あなたが何を言ってるのか、わからない」
アスカ「だから、シンジはもうあんたのことなんて覚えてないって言ってんの」
シンジ「ちょ、ちょっとアスカ…」アセアセ
レイ「適当なこと、言わないで」ムッ
アスカ「テキトーかどうか試してみようじゃない」ニヤリ
アスカ「シンジ」
シンジ「な、なんだよ」
アスカ「この子の名前言える?」
レイ「碇君…」ジー
シンジ「あ、や、その…」
シンジ「…」
シンジ「ファースト、さん?」
レイ「…」
レイ「…」プルプル
レイ「弐号機パイロット」
アスカ「?」
レイ「あなた、碇君に何をしたの?」
アスカ「はぁ?」
レイ「碇君が、こんなこと言うはずないもの」
アスカ「知らないわよ!なんで私のせいになるわけ!?信じらんない!」
アスカ「朝起きたら、勝手にコイツの頭がポンコツになってただけよ!!」
シンジ「ぽ、ポンコツぅ!?」
アスカ「何よ本当のことじゃない!」
レイ「碇君はポンコツじゃない」ムッ
アスカ「うるさいわよ!忘れられてたクセに!」ガー
シンジ「ポンコツってなんだよ!そっちこそ洗脳されてるくせに!!」
アスカ「あんたまだそんなこと言ってんの!?バカなの!?」
レイ「碇君はバカじゃない」ムッ
アスカ「それはもうわかったわよ!!」
遅筆でごめんよ
書くスピードは上げられないけど
なるべく毎日書くようにはしまッス
だめだ眠いッス
おやすみ
(・ω・)/わかった
ネルフ本部
作戦室
マヤ「弐号機パイロット、なおも挑発を続行」
ミサト「まさに修羅場か…」
ミサト「映像出せる?」
マヤ「主モニターまわします」
ミサト「…」
青葉「おいおい、取っ組み合いが始まったぞ」
日向「止めた方がいいんじゃないですか?」
ミサト「ダメよ、そんなことしたらこっそり監視してたのがバレちゃうじゃない」
リツコ「なにをいまさら…」
ミサト「それに、これはシンジ君が解決しなければいけない問題だわ」
ミサト「2人との関係を曖昧なままにして、はっきりさせなかったツケを払う時が今こそ来たのよ!」
青葉「しかし、彼は今以前の記憶を持ってないんですよね?少し酷じゃないですか?」
ミサト「…大丈夫、シンジ君ならきっと上手くやるわ」
リツコ「結局面白がってるだけじゃないの」
ミサト「まあ、興味本位というのは否定しないわ」
リツコ「シンジ君も可哀想に…」
マヤ「弐号機パイロットの平手打ち!初号機パイロットの顔面に直撃しました!」
青葉「うわっ痛そ~」
日向「綺麗な紅葉の出来上がりっと…」
日向「葛城三佐、流石にこれ以上の傍観は危険では?」
ミサト「そうねぇ、もう少し見ていたかったけどそろそろ…」
ビー!ビー!
ミサト「って何よ!こんなときに…」
マヤ「え、衛星軌道上に未確認飛行物体を確認!」
マヤ「パターン青、使徒です!」
ミサト「はいぃ!?使徒ぉ!?」
日向「げ、現在本部に向けて降下を開始した模様!」
日向「目標到達予想時刻まで、あと20分です!」
ミサト「なんですって!?」
リツコ「…これだけの質量とATフィールド、衝突を許せば、本部が根こそぎ持っていかれるわね」
ミサト「…」
ミサト「速やかにパイロット全員をエヴァに搭乗させて」
青葉「し、しかし初号機パイロットは…」
ミサト「時間がないわ!急いで!」
リツコ「ミサト!」
ミサト「どうせもう避難する時間もないわ!!」
ミサト「司令と副司令は南極視察中の為、指示は私が出します」
ミサト「総員、第一種戦闘配置!」
ネルフ本部
廊下
アスカ「シンジっ!シンジ!起きなさいっよ!!そんなに強く叩いてないでしょうが!?」ユッサユッサ
シンジ「」シーン
レイ「ひとごろし…」
アスカ「死ぬかっ!平手で!!」
ビー!ビー!
アスカ「!」
『緊急警報が発令されました!職員は直ちに指定の…』
アスカ「緊急警報!?まさか…」
シンジ「使徒ってやつのおでましか」
アスカ「やっぱ起きてんじゃないの!!」
シンジ「当たり前だろ、それよりこういう時はどうすればいいの?」
アスカ「え?そうね、とりあえずパイロットは作戦室に集まって指示を待つことになるわね」
シンジ「よし、じゃあ早くその部屋に行こう!」
アスカ「どうしたのよ、急にそんな…」
シンジ「なんていうか、ここまで本格的だと逆にワクワクしてきちゃってさ」
シンジ「ほら、僕昔から特撮とか好きだったろ?」
アスカ「知らないわよそんなの」
シンジ「あ、そっか」ポン
シンジ「アスカはドイツ育ちって設定だったね、オーケーオーケー」
アスカ「設定って何!?そんなんだとあんたホント痛い目見るわよ!」
シンジ「いやぁ、一回こういうのやってみたかったんだよ~」ワクワク
レイ「…」
レイ「碇君がおかしい」
レイ「…」キッ!
アスカ「だからなんで私を睨むのよ!」
ネルフ本部
司令室
ミサト「パイロットは?」
マヤ「全員搭乗完了しました」
ミサト「?いやにスムーズね、シンジ君は?」
マヤ「初号機パイロットは非常に協力的だったとのことです」
ミサト「…音声つないで」
マヤ「はい」
ミサト「あー、みんな、聞こえる?」
レイ『はい』
アスカ『聞こえるわ』
シンジ『この声、ミサト先生までグルだったんですか…まあ今更驚きませんけど』
ミサト「聞こえてるなら結構」
ミサト「では今から第10使徒迎撃作戦について説明するわ」
ミサト「今回の目標は大気圏外から真っ直ぐ本部に突っ込んでくるわ、隕石みたいな奴ね」
ミサト「コイツのATフィールドがまた強力でね、航空爆雷や長距離射撃ではまるで歯が立たないのよ」
ミサト「そこで本部を守る為に、同じATフィールドを持つエヴァ三機で、落下して来る使徒を受け止めてもらうわ」
アスカ『う、受け止める!?ミサト、本気で言ってんの!?』
ミサト「勿論、時間もないしそろそろ発進するわよ」
アスカ『ほ、他に方法ないわけ!?』
ミサト「ないわ」
アスカ『ぐぬぬ…』
シンジ『あの、ちょっといいですか?』
ミサト「何?シンジ君」
シンジ『ATフィールドって何ですか?』ワクワク
アスカ『あんたもう黙ってなさいよぉ!!』ガー
できれば終わるときは言ってくれるとたすかる
乙しやすいし
>>105
了解した
あと今日はまだ
もうちょい進めるぜよ
シンジ『スッゴいなぁ!!ホントにこんな巨大ロボットが存在するなんて』キラキラ
シンジ『もしかしてこの施設がジオフロント内にあるっていうのも本当なんですか!?』キラキラ
レイ『…碇君、嬉しそう』
アスカ『鬱陶しいわねぇ』イライラ
ミサト「ええそうよ、あとATフィールドっていうのは一種のバリヤーみたいな物と思ってくれればいいわ」
シンジ『ば、バリヤーですか?』ゴクリ
シンジ『そ、それは一体どういう原理でその…』ワクワク
アスカ『ミサト!時間ないんでしょ!早くしてよ』
ミサト「そ、そうね、シンジ君その話はまた後でしましょう?」
シンジ『あ、すみません』シュン
ミサト「それじゃ、LCL注水!」
ジョボボボ…
シンジ『?先生、なんか水が下から…』
ミサト「その液体はパイロットとエヴァを繋ぐ役割を果たすものよ」
シンジ『そ、そうなんですガボッ!でもっ!ちょっと入れすぎじゃないですか!?』ジタバタ
ミサト「大丈夫、肺がLCLで満ちれば直接酸素を取り込んでくれるわ」
シンジ『本当ですね!?信じますガボポッ…』
シンジ『…』
ミサト「ね?」
シンジ『ほ、ほんとだ…』ゴポッ
ミサト「じゃ、みんな準備はいい?」
レイ『はい』
アスカ『あったり前でしょ?』
シンジ『大丈夫です、たぶん…』
ミサト「落下予測地点と最短ルートは常に更新されるからこまめにウィンドウをチェックしてね」
ミサト「それではエヴァー全機!」
ミサト「発進!!」
それでは
今日はこのへんで
(・ω・)/
第三新東京市
ネルフ本部直上
ミサト『目標到達まで時間がないわ、零号機と弐号機は予測ポイントに急いで!』
レイ『了解』ダッ
アスカ「わかってるわよ!」ダッダッダッ
シンジ『あの、僕はどうすれば…』
ミサト『シンジ君はとりあえず待機ね』
シンジ『…わかりました』ヨロ
アスカ「…」
アスカ(今のシンジは素人同然、たぶん歩くのもままならないはず)
アスカ(まったく、優等生は頼りにならないし、ミサトは年増だし)
アスカ(…とにかく私が頑張らなきゃ!ファイトよ、アスカ)
ゴゴゴ…
アスカ(おっと、見つけたわ、アイツね…)
アスカ「こちら弐号機、上空に肉眼で使徒を確認!」
ミサト『ナイスよアスカ!弐号機はそのまま目標を受け止めて』
アスカ「了解!」
ミサト『すぐに零号機が追いつくからそれまで耐えて!』
レイ『…』ダッダッダッ
アスカ「ふん、こんなの私1人で十分よ!」
アスカ(さあ、来なさい!!)
ゴゴゴゴ…ゴッ!!
アスカ「え!?」
ミサト『どうしたの!?』
マヤ『目標加速!!同時に落下軌道も変異しました!!』
ミサト『そんな!落下位置の再計算、急いで!!』
マヤ『誤差修正終了、目標の予測落下位置…』
マヤ『初号機の真上です!!』
ミサト『なんですってぇ!?』
シンジ『…?』ヨタヨタ
夕方くらいにまた来まっす
ミサト『シンジ君!よく聞いて!目標の軌道がそれてあなたのところに向かってるわ!』
シンジ『え、ええぇ!?』
ミサト『レイとアスカが来るまでなんとかその場で持ちこたえてほしいの!』
シンジ『そ、そんなこと言ったってどうすればいいんです?僕、操縦の仕方も知らないんですよ!?』
ミサト『大丈夫、自分の体を動かすのと同じように意識するだけでエヴァは操縦できるわ』
ミサト『ほら、試しに両腕を上に持ち上げてみて』
シンジ『持ち上げる…持ち上げる…』ググ
シンジ『あ、ほんとに動いた!』
ミサト『いいわよ!シンジ君!ついでにそのまま上を見てみて』
シンジ『上?』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
シンジ『!?うっうわぁああああ!!なんだコレ!?』
ミサト『それが使徒、人類の敵よ!受け止めて!』
シンジ『む、無理ですよ!!そんなの!!』
ミサト『大丈夫、ATフィールドを全開にすれば単機でも五分は持ちこたえられるわ』
シンジ『そんな…』
ミサト『シンジ君?』
シンジ『…』
ミサト『シンジ君!!』
アスカ「…」
アスカ(…あーもー黙り込んじゃって、バカシンジのやつ)
アスカ(やっぱり、ここは私がガツンと言ってやんなきゃ駄目ね)フフン
アスカ「シン…」
シンジ『わかりました!ここは僕が食い止めます!』
ミサト『よく言ってくれたわ!シンジ君!』
アスカ(あれ?)
マヤ「目標、初号機に接近!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
シンジ「うおおおおおおおお!!」
パキィィィィン!!
ミサト「よし!受け止めた!!」
シンジ『うおおおおおおおおおおおおお!!』ググ
ミサト「堪えてね、シンジ君!すぐにレイとアスカが…」
シンジ『ミ、ミサトさんっ!!』ググ
ミサト「頑張って!シンジ君!」
シンジ『あの!!そうじゃなくて!!なんかっ!!』グイ
ミサト『どうしたの!?』
シンジ『結構、余裕あるんですけど!!どうしたらいいですか!?』グイグイ
ミサト『へ?』
ミサト『よ、余裕?』
シンジ『はい!!頑張って力入れれば!!片手でも支えられそうなくらいには!!』グイッグイッ
ミサト『む、無理しなくてもいいのよ?』
シンジ『いえ、ホントに!結構あれなんで!!結構イケそうなので!!何か武器とかないですか!?』
ミサト『肩に、プログレッシブナイフが』
シンジ『これですか?』シャキン
サクッ
ドオォォォォォォォォォォン!!
マヤ『目標完全に沈黙!!』
ミサト『えええええええええ!?』
ネルフ本部
司令室
ミサト「よくやってくれたわね、シンジ君」
シンジ『あ、はい!頑張りました』
ミサト「レイとアスカも、お疲れ様」
レイ『はい』
アスカ『…』
ミサト「全員、今日はゆっくり休んでね」
マヤ「葛城作戦部長、司令より入電です」
ミサト「つないで」
ゲンドウ『…私だ』
ゲンドウ『ご苦労だったな葛城三佐』
ミサト「いえ、私は何も…」
ゲンドウ『そうか』
ゲンドウ『…活躍を聞いた、初号機のパイロットに回してくれ』
ゲンドウ『使徒を1人で倒したそうだな』
シンジ『う、うん』
シンジ『…父さんまでこんな感じか』ボソボソ
ゲンドウ『何か言ったか?』
シンジ『あ、いや別に』アセアセ
ゲンドウ『…』
ゲンドウ『よくやったな、シンジ』
シンジ『…ん』ポリポリ
シンジ『まあ、それは置いといてさ』
ゲンドウ『あ、ああ…』
シンジ『いろいろ父さんに聞きたいことがあるんだけど』
ゲンドウ『悪いがもう時間がない』
ゲンドウ『またこちらからかけ直す』
シンジ『父さん!』
ゲンドウ『何だ』
シンジ『…母さんは、今どうしてるの?』
ゲンドウ『…』
ゲンドウ『全ては心の中だ』
シンジ『?それって…』
ゲンドウ『では、失礼する』
シンジ『ちょっと!父さん』
マヤ「回線、切れました」
シンジ『…』
じゃ、今日はこんな感じで(・ω・)
ネルフ本部
廊下
シンジ「いやぁ、ほんと凄かったなぁ!さっきは疑って悪かったよ、アスカ」
アスカ「…」
シンジ「あるんだねぇ世の中にはこういうことも」シミジミ
シンジ「でもまさか自分が巨大ロボットのパイロットになる日が来るなんてね」
アスカ「…」
シンジ「それにしても、あの服はコスプレみたいでちょっと恥ずかしかったかな」
アスカ「…」
シンジ「?どうしたの?アスカ」
アスカ「…」ジロ
シンジ「?」
アスカ「…ばーか」スタコラサッサッ
シンジ「な!」
シンジ「…」
シンジ「いっちゃった」
シンジ「なんなんだよ…」
レイ「気にすることはないわ」ヌッ
シンジ「うわ!?」
シンジ「君は、確か…えっと」
レイ「本当に、忘れてしまったのね」
シンジ「…ごめん」
レイ「どうして謝るの?」
シンジ「それは、なんていうか…」
シンジ「君が、悲しそうに見えたから」
レイ「…」
レイ「綾波レイ」
シンジ「え?」
レイ「私の名前」
シンジ「綾波、さん」
レイ「もう、忘れないで」
シンジ「うん、約束するよ」
レイ「…」
シンジ「…」
ミサト「シ~ン~ジ君」ポン
シンジ「うわっ!?」
シンジ「ひ、人を脅かすのが流行ってるんですか!?ここでは!」
ミサト「ん~?脅かすつもりはなかったんだけど…お邪魔だったかしら?」ニヤリ
レイ「…」
シンジ「べ、別にそういうワケじゃないですけど」
ミサト「ま、それはそうと…」
ミサト「今日の勝利を祝して、これから一緒に美味しい物でも食べに行こうかな~と思ったんだけど」
ミサト「どう?」
シンジ「ほ、ほんとですか!?嬉しいです!」キラキラ
ミサト「あら~、そんなに喜んでもらえると、こっちも奢りがいがあるわ~」チラッ
ミサト「レイはどうする?」
レイ「私は…」ジー
シンジ「?」
レイ「…行きます」
ミサト「そうこなくっちゃ」
ミサト「あれ?」
ミサト「そういえばアスカは?」
シンジ「なんかさっき早足でどっか言っちゃいました」
シンジ「よく分からないんですけど、なんか機嫌悪いみたいでしたよ」
ミサト「…」アチャー
ミサト「まあ、不機嫌の理由はだいたい想像つけど」
シンジ「?」
ミサト「よし!今日はシンちゃんに女心ってヤツの基本をしっかり教えてあげるわ!」
シンジ「あ、ありがとうございます」
レイ「…」
ミサト「今夜はパーッといくわよ!パーッと!」
アスカの部屋
アスカ「…」カチカチ
アスカ「…」カチカチ
アスカ「ああ!もうイライラする!バカシンジのヤツ!!」ポイッ
アスカ「…」
アスカ(あいつ、いつまであのままなのかしら)
アスカ(リツコも原因不明とか言ってたし、まさか一生治らないなんてことは…)
アスカ「ふんっ馬鹿馬鹿しい、どうでもいいわっ!」
アスカ「そんなことよりお腹減ったわね」グー
アスカ「何やってんのよバカシンジは…」ブツブツ
アスカ「…」
アスカ(もしかしてあいつ、あの後また病室に入れ直されたとか)
アスカ(ありえる…)
アスカ(今日の使徒戦といい、不自然なことが多すぎるし)
アスカ(今頃、研究員達のいいモルモットにされてるかもしれないわね…)
アスカ「ってまたあいつのこと考えてるし!」
アスカ「なんなのよ!もう!!」ジタバタ
ピンポーン!
アスカ「!」
ピンポピンポピンポーン!
ミサト『あすか~!たっらいま~!お土産かってきらわよ~』
シンジ『ちょ、近所迷惑ですって…』
ミサト『あふか~!』
アスカ「…」ハァ
玄関
バタン!
アスカ「うっさいのよ酔っ払い!ドアホン何度も押さないでよ!みっともない!」
シンジ「まあまあアスカ、そう怒らないで」
ミサト「えへへ~、ごめんなさいね~」
アスカ「…もう、早く入りなさいよ」
ミサト「はいっはい~シンちゃん肩かして~」ヨタヨタ
シンジ「大丈夫ですか?」
ミサト「らいじょ~ぶ~」フラフラ
アスカ「ふらふらじゃない…」
半端だけどここまでで…
お休み~
居間
シンジ「言われた通り、ミサト先生を部屋に運んできたよ」
シンジ「先生、結構酒癖悪いんだね」テレ
アスカ「何鼻の下のばしてんのよ、気持ち悪い」
シンジ「そ、そんな言い方ないだろ!」
アスカ「あ~うるさいうるさい、いいから次はお風呂の準備と夕飯の支度よ」
シンジ「な、なんで僕がそこまでやんなくちゃなんないんだよ!」
アスカ「…あんた、言ったわよね」フッ
アスカ「エヴァが本当にあったら“なんでもする”って」
シンジ「うっ、それは…」タジ
アスカ「てゆーかねぇ!!」
アスカ「そもそも今言ったことは!元々!全部!あんたの役目だっつーの!」
シンジ「えぇ!!そうなの!?」
アスカ「そうよ」
アスカ「掃除、洗濯、料理に買い物、おまけに洗車とミサトの世話まで、全部あんたの仕事だったのよ!!」
シンジ「そんな、う、嘘だろ…!」
アスカ「嘘じゃないわよ!」
シンジ「…」
シンジ「いや、きっとアスカは僕の記憶が変わったからって、自分の都合のいいように家事シフトを変更しようと企んでいるに違いない!」
アスカ「…な、なんか疑り深くなったわね、あんた」
シンジ「今日1日、色々あって成長したからね…」フッ
アスカ「単に擦れただけなんじゃないの?」
アスカ「まあとにかく、うちの家事一切は基本あんたの仕事だから、文句垂れずに働きなさい」
シンジ「そんな、だいたいそれじゃアスカは普段何やってるんだよ!?」
アスカ「私は、まあ別に何も…」
シンジ「なんだよそれ!ズルいじゃないか!」
アスカ「私は美少女だからいいのっ!!いいからお風呂沸かしてきなさい!!」ガー
シンジ「横暴だ、弾圧だ、自分で言うか?…」ブツブツ
シンジ「沸かしてきましたよ」
アスカ「次、夕飯」
シンジ「はいはい」
アスカ「…」
シンジ「え~っと」ゴソゴソ
アスカ「ねえ…」
シンジ「ん?」バタン
アスカ「ミサトと、何食べに行ったの?」
シンジ「ラーメン、屋台の」カチャカチャ
シンジ「ああいうところに行ったのは初めてだったけど、美味しかったよ」カタン
アスカ「ふーん」
シンジ「…ミサト先生から色々話を聞いたよ」ボボ
アスカ「そう」
シンジ「使徒とかネルフとか…」ジュー
アスカ「…」
シンジ「どれも嘘みたいな話だったけど、実際見ちゃったから、信じるしかないし」ジュー
」
アスカ「…」
シンジ「はあー」
シンジ「やっぱり僕がおかしくなっちゃっただけなのかな」カポ
アスカ「…」
シンジ「…」カチャカチャ
シンジ「はい、できたよ」トン
アスカ「…」
アスカ「シンジ」
シンジ「え?」
アスカ「なにこれ」
シンジ「なにって…」
シンジ「目玉焼きだけど」
アスカ「…わ、私にこんなもん出すなんて」ワナワナ
シンジ「あれ、半熟嫌いだっけ?」
アスカ「そういう問題じゃなくて!」
シンジ「ああ、ご飯なら今よそるよ…」
アスカ「カアーーーーー!!!!」
シンジ「!?」ビク
シンジ「な、なに今の声、びっくりした」
アスカ「びっくりしたのはこっちよ!あんた、私にこんな手抜き料理食わせる気!?」
シンジ「そんなこと言ったって、作れるのこれだけだし…」
アスカ「なんですって…?」
アスカ(まずいことになったわね)
アスカ(シンジがコレじゃ、これからの食生活どうなるのよ…)
お休みぃ
シンジ「今まで料理することってあんまりなかったから…」
アスカ「もう、使えないわね」モグモグ
シンジ「しっかり食べてるじゃないか」
アスカ「…」ムッ
アスカ「そりゃ、あんたはミサトと外食だったからいいかもしれないけど、その間ずっと私は待ちぼうけでお腹空いてたのよ」
シンジ「…よくいうよ、勝手に帰っちゃったくせに」ボソッ
アスカ「何か言った?」ギロ
シンジ「別に」
アスカ「…」モグモグ
アスカ「ご馳走さま」
シンジ「お粗末様でした」
アスカ「じゃ、私お風呂入ってくるから洗い物頼んだわよ」
シンジ「え~」
アスカ「文句言わない、それと…」
アスカ「絶対覗くんじゃないわよ」ゴゴゴ
シンジ「今更アスカの裸なんて興味ないよ」ハァー
アスカ「そんなこと言って、昨日も覗いたくせに」ジト
シンジ「?」キョトン
アスカ「もういいわよ、バカシンジ」バタン
カポーン
アスカ「ふう」ザバァ
アスカ「本当に何も覚えてないのね、アイツ…」
アスカ「ファーストのことも、料理の仕方も」
アスカ「一緒に使徒と戦ったことも、きっと忘れちゃってる」ブクブク
アスカ(色々いたわよね)
アスカ(魚みたいなのとか、分裂するヤツとか…)
アスカ(火口にいたのとか…)
アスカ「…あの時のシンジ、悔しいけどちょっとかっこ良かったな」ボソッ
アスカ「」カァァァ
アイツ「」ハッ!
アスカ「って無し無し!!今のなーし!!アイツがカッコイいなんて有り得ないし!!」バシャバシャ
アスカ(そうよ、あのバカ!だいたい今日は私に付き合う約束だったのに、それを忘れてミサトと外食なんて…)ムカムカ
アスカ「…」ブクブク
アスカ「…私が逃げたら、ちゃんと追いかけなさいよね」
アスカ「…バカシンジ」
居間
ペンペン「クェェェェェェ!!」バタバタ
シンジ「ははは、こいつぅ」ムニムニ
アスカ「何戯れてんのよ」
シンジ「あ、アスカ!可愛いねこのペンギン」ムニムニ
アスカ「私はあんまり好きじゃないわ、懐かないし」
シンジ「ここで飼ってるの?」ムギュ
ペンペン「グェェェェェ…」
アスカ「まあね、ミサトのペットで名前はペンペン…まったく、センス疑うわ」
シンジ「へ~、お前ペンペンっていうのか」ナデクリナデクリ
ペンペン「クゥワ!クゥワ!」バタバタ
アスカ「そいつ、湯上がりにビール飲むのよ…信じられる?」
シンジ「ははっ、オジサンみたいだなぁお前」サスサス
ペンペン「クワァ」グッタリ
シンジ「…」
ペンペン「クワァ?」
アスカ「…」
シンジ「あのさ!」
アスカ「…なに?」
シンジ「今日、僕1人で使徒ってヤツを倒せたのはさ…」
シンジ「たまたまっていうか、まぐれみたいなものでさ、その…アスカが気にするようなことじゃ…」
アスカ「ストップ」
シンジ「」ビク
アスカ「…はぁ」
アスカ「何を言い出すかと思えば…」
アスカ「あんた、ミサトになんか吹き込まれたでしょ」ジロリ
シンジ「う…」
アスカ「あんたが1人で使徒を倒したから私の機嫌が悪くなってる、とかそんか感じ?」
シンジ「…うん」
シンジ「…こっちの世界のアスカは、自分がエヴァのパイロットであることにプライドを懸けてるから、それで不機嫌になってるんだろうって」
アスカ「…こっちの世界?」
シンジ「ああ、それはミサトさんがさ、そういう風に考えれば気が楽だろうって」
アスカ「確かに…」
アスカ「ある日突然自分の気が狂ったと思うよりは、ある日突然違う世界に飛ばされたって考える方がマシかもね」
シンジ「も、もうちょっと言い方ってものが…」
アスカ「うっさいわね、話をもどすけど、別に私はそんなこと気にしてないわ」
シンジ「本当に?」
アスカ「ええ」
アスカ「あの程度のことで拗ねるほど子供じゃないわよ」フフン
シンジ「そっか…」
シンジ「でもさ、ならなんであの時1人で帰っちゃったの?」
アスカ「それは…」
シンジ「それは?」
アスカ「…」
アスカ(言えない…)
アスカ(シンジが今日の帰りに付き合ってくれる約束を忘れてたから不機嫌だったなんて…)カァァァ
アスカ(そりゃ覚えてるわけないってわかってたわよ)
アスカ(わかってたけどもしかしたら覚えててくれてるかも?…とか)
アスカ(そんな風に考えてた自分に余計腹が立ったりして…とか)
アスカ(うん、言えるわけ無いわね)
アスカ「…」
シンジ「アスカ?」
アスカ「…」アー
アスカ「まあまあまあ
いいじゃないのよ
バカシンジ」
シンジ「…なんで急に一句読んでみました、みたいな言い方で返事したの?」ジトー
アスカ「と、とにかく私は不機嫌でもなんでもないから、ね?」
シンジ「…」
アスカ「ほら、明日も学校あるし、もうよい子は寝る時間よ!」
シンジ「…まだ9時だよ、それに僕明日は学校行かないつもりだし」
アスカ「へ?」
シンジ「だって僕はこの世界の僕のこと何も知らないし、不安じゃないか」
アスカ「…」
シンジ「今の状態を学校で隠すのは無理だろうし、説明したってちゃんと理解してもらえるとは思えないよ」
アスカ「…」
アスカ「まーそりゃあ気持ちは分からなくもないけど、ただ学校休んでたって何も問題は解決しないでしょうに」
シンジ「そう、それでさ、アスカにお願いがあるんだ」
アスカ「?」
シンジ「これから、この世界の僕について詳しく教えて欲しいんだ」
シンジ「何でもいい、何が好きだったとか、何が嫌いだったとか」
シンジ「…このままじゃ怖いんだ、自分が、空っぽになったみたいで」
シンジ「頼むよ…アスカ」
アスカ「…」
アスカ「3つ、条件」
シンジ「え?」
アスカ「1つ」
アスカ「私にも、あんたの言う、あんたの世界のことを詳しく教えること」
シンジ「う、うん」
アスカ「2つ」
アスカ「あんたは料理を練習すること」
シンジ「が、頑張るよ」
アスカ「3つ」
アスカ「…」
シンジ「?」
アスカ「…あ、明日!私の買い物に付き合うこと!」
アスカ「以上よ!」
シンジ「…」
アスカ「なんか文句ある?」
シンジ「ないよ」
アスカ「じゃ、決まりね!」パァ
シンジ「うん」
シンジ「これからもよろしく、アスカ」ニコ
アスカ「…」カァァ
アスカ「ば、ばっかじゃないの、なにを今更…」
アスカ「…」チラッ
アスカ(…こちらこそよろしくね、シンジ)
おや…すみ…
なんかこう、異世界シンジは幼馴染としてアスカに慣れてるから妙に距離感が近かったり
シンジが照れてできないような言動をサラリとしてそれにアスカがドギマギするみたいな、みたいな・・・
乙
それに綾波がムッとする的な、的な
乙乙
―――
――
―
シンジ「…というわけで今日は学校を休みたいんですけど」
ミサト「そう…」
ミサト「シンジ君が自分で決めたのなら、私が何か口出しするつもりはないわ」
シンジ「ありがとうございます」
ミサト「ただ、学生の本分として、ちゃんと勉強もやらなきゃダメよ?」
シンジ「はい、わかりました」
ミサト「アスカも、日本語の勉強進めなさいよ?」
アスカ「はいはーい」
ミサト「じゃ、行ってくるわね」
ミサト「あ、そうそう、午後からシンクロテストとシンジは検診があるから本部に顔出してね」
シンジ「はい」
アスカ「…」
ミサト「それじゃ、今度こそ行ってきまーす」
バタン
アスカ「ふう」
アスカ「ようやくうるさいのがいなくなったわね…」
かなり短いけど今日はこれで…
あと、ちょっと用事ができちゃったので
二三日書き込めないかもっす
乙
ミサトがシンジを呼び捨てだと・・・
シンジ「そんな言い方って…」
アスカ「はいはい、いいから行くわよ」
シンジ「どこに?」
アスカ「そうね、まずは…」ズンズン
シンジ「あ!ちょっとアスカ…」
シンジの部屋
シンジ「なんで僕の部屋に?」
アスカ「確かこの辺に…」ゴソゴソ
シンジ「何やってんの?」
アスカ「あった…どれどれ、お、結構貯まってるわね」
シンジ「それ、もしかして僕のお金?」
アスカ「違うわ、これはね?この世界のシンジの小遣い」
シンジ「なるほど…」
シンジ「…」
シンジ「ってだからそれ僕のお金ってことじゃないか!!」
アスカ「あのねシンジ、金は天下の回りもの、使わなければ何の意味も持たないモノなのよ」ニコッ
シンジ「…じゃあ僕が使うから返してよ」
アスカ「もう!あんたどうせ何にも使わないんだからいいじゃない」
シンジ「そんなことないよ!使いまくりだよ!」
アスカ「…偽シンジは金づかいが荒いっと」カキカキ
シンジ「変なことメモするのやめて」
アスカ「じゃ、出かけるわよ」スタスタ
シンジ「ああ!!もう!!」
デパート
アスカ「こっちもいいわね、でもこれも中々…」ウーン
シンジ「ねえアスカ」
アスカ「…」ムムム
シンジ「アスカ」
アスカ「…うるさいわよ荷物持ち、私今忙しいんだけど」
シンジ「まだ買うの?」ヤレヤレ
アスカ「なによ、いいでしょ?自分の金で買ってるんだから!」
シンジ「当たり前だろ」
アスカ「ここは自分の世界じゃないとか言ってたくせに、しっかり財産権は主張するんだから…がめついわね」
シンジ「別に無駄遣いするつもりはないよ」
アスカ「私にプレゼントするのは無駄だってーの?」ギロ
シンジ「そういう意味じゃ…」
アスカ「ふんっ」
アスカ「…」
シンジ「…」ハア
アスカ(もう、せっかく一緒に買い物来てるのになんで上手くいかないのよ~~!!)
少ないけどここまでで…
>>174
あ!君つけるの忘れてた
シンジ「…」
アスカ「…」チラ
アスカ(シンジ、つまらなそうね…)
シンジ「…」フアア
アスカ(あ、欠伸してるシンジ可愛い…じゃなくて!)
アスカ「ちょっとあんた!私に付き合うのは、そんなに退屈なわけ?」
シンジ「…」
シンジ「ん、まあ」ポリポリ
アスカ「さらっと肯定してんじゃないわよ!!もういい!!ばか!!」タッタッタ
シンジ「あ…」
ー
ーー
ーーー
アスカ(あのバカ!ちったあ楽しそうにしなさいよ、もう!!)
アスカ「せっかくのデートだっていうのに…」ボソ
アスカ「?」
アスカ(…デート?)
アスカ(ちちち違うわよこここれは別にそういうつもりじゃないんだから!!勘違いしないでよね!!)
アスカ(…って、誰にいいわけしてんのよ、私)
アスカ「…」ハア
アスカ「なんかこっちばっか意識しちゃってばっかみたい、やってらんないわ」
シンジ「アスカ、やっと見つけた」
アスカ「…なによ」ギロ
シンジ「そう怖い顔しないで、ほら」ヒョイ
アスカ「なによこれ」
シンジ「プレゼントだよ、開けてみて」
アスカ「…」ゴソゴソ
アスカ「イヤリング?」
シンジ「うん、アスカに似合うと思って」ニコ
アスカ「な、なによこんな、安っぽい、玩具みたいな、その…」
シンジ「そう言わないでさ、着けてみてよ」
アスカ「こ、こう?」ドキドキ
シンジ「うん、思った通りだ」
アスカ「?」キョトン
シンジ「可愛いよ、アスカ」ニコッ
アスカ「な、あ、あ…」カアア
アスカ(か、可愛いって今…)
シンジ「ほら、まだ買うんだろ?昼はここで済ませたいし、早く見て回ろうよ」ギュ
アスカ「て、てて…」
アスカ(手、握られたぁ!!)プシューー
おやすみー
同日PM
ネルフ本部
シンジ「シンクロテストってどんなことするの?」ワクワク
アスカ「べ、別にただ座ってるだけよ」
シンジ「ほんとに?何か特別なことするんじゃないの?」ズイ
アスカ「ほんとよ、わ、私達はプラグに入ってリラックスしていればあとは機械が全部やってくれるのわ」ドキドキ
アスカ(てゆーかさっきから距離が近い!なんか、いつもよりも!)カアアア
アスカ「…」スーハー
アスカ「…ねえ、そっちの世界の私とあんたって、その、幼馴染だったんでしょ?」
シンジ「うん、そうだよ。五才の頃にアスカの家族がうちの隣に越して来てさ、それからずっと腐れ縁って感じで…」
アスカ「なんか想像つかないわね…」
シンジ「そうかな、物心ついたころには隣にアスカがいたし、僕にとっては当たり前のことなんだけど」
アスカ(…そっか、つまり今のシンジにとって私は兄弟みたいなものなわけね)
アスカ(そりゃ手ぐらい握るし、ご機嫌とるのもお手の物か…)ムムム
シンジ「ねえ、ところでこっちの僕らってどんな関係だったの?」ズズイ
アスカ「え?ええとお!!」ドキーン!
アスカ(だから近い!近すぎるっての!!)カアアア
レイ「ただの同居人よ」
アスカ「…」
アスカ「相変わらず唐突に現れるわね、あんた」
シンジ「あ、もうレイも来てたんだ」
レイ「ええ、今きたの」
アスカ「ちょっと待ちなさい」ガシッ
シンジ「わ、なんだよ」
アスカ「あんたいつからコイツのこと名前で呼ぶようになったワケ?」ジトー
シンジ「え?だって前の僕はそう呼んでたって昨日…」
レイ「…」
アスカ「…」ギロ
アスカ「ファーアースゥートォー!!あんた、シンジに嘘教えたわね!?」ゴゴゴゴ
シンジ「そうなの?」
レイ「…ごめんなさい」シュン
アスカ「まったく」
レイ「本当はいつもレイちゃんって」シレッ
アスカ「嘘つけぇ!!」
アスカ「あんたらこないだまで名字で呼び合ってたでしょうが!名字で!」
レイ「…知らないわ」プイ
アスカ「あんたねえ」
シンジ「まあまあ、いいじゃないか、もう慣れちゃったし、いまさら変えなくても」ポン
アスカ「わ、わかったわよ」ドキッ
アスカ(こんどは肩たたかれちゃった)カアア
レイ「…」ムッ
レイ「テスト、そろそろ始まるわ」スタスタ
シンジ「あ、待ってよ!レイ」
ネルフ本部
オペレータールーム
アスカ『…』
レイ『…』
シンジ『…』
リツコ「一番、深度少し下げてみて」
マヤ「初号機パイロット、汚染域ギリギリです、これ以上は…」
リツコ「そう、わかったわ、今日はここまでにしましょう」
ミサト「みんな、お疲れさま~」
ミサト「シンジくんは初めてだったけど、どうだった?」
シンジ『なんか、変な感じでした』
ミサト「これからは定期的に行うことになるから少しずつ慣れていってね」
シンジ『はい』
ミサト「じゃ、着替えたら検査室の前で待っててね」
シンジ『わかりました』
ミサト「…」
ミサト「それで…」
ミサト「シンジ君の結果はどうだったの?」
リツコ「何も問題ないわ、脳波、シンクロ率共に平常よ」
ミサト「ならこないだの使途戦は何だったのよ」
マヤ「確かに、すごい活躍でしたよね初号機」
リツコ「初号機はこれまでも幾度かスペック以上の能力を発揮することがあったわ」
ミサト「バカ言わないで、それは暴走によるものでしょ?今回のケースとはまるで比較にならないわ」
ミサト「タイミングからみて、シンジ君の記憶改変と初号機の異常な活躍、関係ないとは言わせないわよ?」
リツコ「…一応仮説はあるわ」
ミサト「聞かせて」
リツコ「記憶の変化に伴い、彼の人格にも少なからず影響が出ていることには気づいているわね?」
ミサト「ええ」
リツコ「そうしてシンジ君の性格がポジティブにシフトした結果、初号機の性能がより深く引き出された」
ミサト「…つまり先の戦闘では、戦闘に対して積極的になったシンジ君が初号機のポテンシャルをいかんなく発揮したおかげで、我々人類は救われたというわけ?」
リツコ「あなたの無茶な作戦が成功したのもシンジ君のおかげね」
ミサト「なんか腑に落ちないわね~」
マヤ「でも、シンジ君が頼りになるようになったのはいいことですよ」
リツコ「ええ、次の戦いでもシンジ君の活躍に期待しましょう」
ネルフ本部
検査室前
リツコ「じゃ、シンジ君入って」
シンジ「はい」
シンジ「ちょっと待っててね」
アスカ「いいからさっさと行ってきなさいよ」
シンジ「うん」
プシュ
アスカ「…」
レイ「…」
アスカ「…」
レイ「…」
アスカ「…で、なんであんたはまだここにいるわけ?」
レイ「碇君が待っててって言ったから」
アスカ「…あんたばかぁ?あれは私に言ったのよ」
レイ「自意識過剰…」ボソ
アスカ「なんか言った?」
レイ「別に」
アスカ「…」
レイ「…」
アスカ「…」
レイ「…」
アスカ「忘れられてたくせに」ボソ
レイ「…」ムッ
レイ「美味しかった…」
レイ「ラーメン…」
アスカ「はぁ?」
レイ「昨日、碇君と食べた」
アスカ「あ、あんたも一緒に行ってたの!?」
レイ「瞳が綺麗だって、言ってくれた」カアア
アスカ「な!?そんなの私だって、今日可愛いって言われたし!」
レイ「チャーシュー、食べてくれた」
アスカ「手握られたわ、それも向こうから」
レイ「…」
アスカ「…」
レイ「…」
アスカ「…」
アスカ(ファーストってこんなに喋る子だっけ?)
レイ「セカンド」
アスカ「なによ」
レイ「私は人形じゃない」
アスカ「?」
レイ「なんでもない」クスッ
アスカ「…なによ気持ち悪いわね」
レイ「…」
アスカ「…」
レイ「帰るわ」
アスカ「…あのバカを待ってるんじゃないの?」
レイ「…」ムッ
レイ「碇君はバカじゃない、それと…」
レイ「あなたには渡さない」
アスカ「な…」
レイ「それじゃ」スタスタ
アスカ「…」
アスカ「別にいらないわよ…あんな奴」
プシュ
シンジ「終わったよ」
アスカ「早かったわね」
シンジ「血液検査だけだったから」
シンジ「そういえばレイは?」キョロキョロ
アスカ「帰ったわ」フン
シンジ「そっか…」
アスカ「私達も帰るわよ!!」グイグイ
シンジ「う、うん」
アスカ(残念そうな顔してるんじゃないわよ)
アスカ(バカシンジ)
今日はここまでで
帰宅後
居間
アスカ「じゃ、はじめるわ」
シンジ「えっと、なにを?」
アスカ「決まってんでしょ」キュキュキュ
アスカ「《第一回 シンジ会議》よ」バーン
シンジ「なにその怪しい会議」
アスカ「ふふん、凡人の見本みたいなあんたの為に、このアスカ様が会議の内容について分かりやすく説明してあげるわ、感謝しなさい」
シンジ「はいはい」
アスカ「ハイは一回!」
シンジ「はい…」
アスカ「よろしい、あんた昨日言ったでしょ?この世界の自分についてもっと知りたいって」
シンジ「うん、言ったね」
アスカ「そこで手っ取り早く、かつ正確に現状を把握するために、私とあんたで両者の世界について質問し合うのよ」
アスカ「こうすれば、あんたが自分の感じている記憶の齟齬を浮き彫りにできると同時に、私は今のあんたの置かれている現状を把握することができるわ」
シンジ「…そんな会議とか、形式張らなくてもいいんじゃないかな?」
アスカ「なに悠長なこと言ってんの、こういうのは口頭で思いついたこと言ってたって埒が明かないの」
アスカ「しっかり記録して比較するわよ、わかった?」
シンジ「…わかったよ」
シンジ「それで、何から話そうか?」
短いけどここまで
アスカ「そうね、まずは歴史から攻めていこうかしら」
シンジ「急に歴史って言われても…」
アスカ「まあそうなると思ってこれを用意しておいたわ」パサッ
シンジ「これは、教科書?」
アスカ「とりあえず日本史と世界史に目を通して違和感があったら言ってみて」
シンジ「ホワイトボードといい教科書といい、何か妙な物をいろいろ買ってると思ったら、この為だったのか…」
アスカ「お礼なら後でいいわ、とにかく読んでみなさいよ」
シンジ「どれどれ…人類の進化…四大文明…特に何も…ん?」パラパラ
アスカ「どうしたの?」
シンジ「この、現代の所の、セカンド…インパクトって?」
アスカ「人類人口を半分にまで減らした未曾有の大災害よ、使途もネルフも知らないって聞いてたから予想はできてたけど、やっぱりね」
シンジ「人類が半分に!?…極小の隕石衝突、地軸のずれ、世界紛争…こんなことが…」
アスカ「実際は隕石の衝突ってのは嘘で、南極にいた第一使途への接触が本当の原因って言われてるわ」
シンジ「たくさん、人が死んだんだね」
アスカ「ええ、そして私たちがエヴァに乗って使途と戦うのは、三度目の大災厄、サードインパクトを防ぐためなの」
シンジ「…そうなんだ」
アスカ「そうよ」
シンジ「…」
アスカ「もう!なーに暗い顔してんのよ、十五年も前のことでそんなに落ち込まないでよね!次いくわよ次!」
シンジ「うん」
ー
ーー
ーーー
アスカ「…ま、こんなもんかしら、どう、納得できた?」
シンジ「うーん」
アスカ「なによ、なんか文句あんの?」
シンジ「いや、アスカのおかげで僕の元々いた世界と、この世界の違いはよくわかったんだけどさ」
シンジ「僕が一番知りたかったのは、なんていうかそういうことじゃなくてさ、その…」
アスカ「?」
シンジ「この世界の僕って、彼女はいたのかな?」
アスカ「な!?し、知らないわよ!そんなの!」
シンジ「あ、ごめん今のは例えでさ、つまり僕はこれからここで生きてかなくちゃいけないわけだろ?」
シンジ「だからさ、友達とか知り合いに怪しまれない程度には自分のことを知っておく必要があるなっと思って」
アスカ「…確かにそりゃそうね、世界が云々よりも、まずはあんた個人の話が先だったか」
シンジ「うん、それでさ、僕ってどんなやつだった?」
アスカ「まあ基本的には根暗よね、あと甘ったれなくせに結構頑固なところもあったりして」
シンジ「なんか、あんまりいいイメージじゃないね」ハハハ
アスカ「結論からいうと、性格はだいたい今のあんたと変わらないわ」
シンジ「それって酷くない!?」
アスカ「あとは、料理ができて、チェロが弾けて、割と成績もよかったみたいね」
シンジ「だ、誰だよそいつ」
アスカ「よくよく考えたら、今のあんたよりははるかに役に立つ存在だったわね」
シンジ「うう」グサ
ミサト「あらー、面白そうな話してるじゃない」
アスカ「ミサト」
シンジ「あ、ミサト先生!おかえりなさい」
ミサト「ただ~いま、ねね!私も混ぜてよ」
アスカ「ややこしくなるからミサトは引っこんでなさいよ、もう」
シンジ「いや、いいんじゃないかな、ミサトさんにも僕がどんな風だったか聞いてみたいし」
ミサト「そーねーシンちゃんはねえ!やさしくていい子なんだけどぉ、ちょっち危なっかしいところがあってれー」
アスカ「ちょっとミサト、もしかして酔ってない?」
加持「正解、ここまで運んでくるのは手間だったよ」
アスカ「加持さん!」
シンジ「誰?」
おやすみー
アスカ「あんた加持さんのことまで忘れちゃったの!?」
シンジ「う、うん」
加持「その様子だと噂は本当みたいだな、シンジ君」
シンジ「噂、ですか?」
加持「ああ、初号機パイロットが記憶喪失になったってね」
シンジ「そ、そうなんですか…あの、ところで」
加持「ああ、俺は加持リョウジ、一応ネルフの職員で…」チラッ
加持「葛城の恋人さ」
シンジ・アスカ「ええ!?」
ミサト「…ばーかなこといわないでよーアスカもシンジ君も真に受けちゃらめよー」
加持「ははは、まあそういうことにしとくか、じゃまた」
バタン
シンジ「…なんか、油断ならない人ですね、加持さんって」
ミサト「れしょ?あんまり関わらないほうがいいわよー」
アスカ「わかってないわね、そこがいいのよ、大人の男ぉ!って感じで」
シンジ「…アスカは、ああいう人がタイプなの?」
アスカ「!」
アスカ(この反応は、もしや…)
アスカ「まあねぇ、あんたやクラスのジャガイモ共と比べたら加持さんはるかに魅力的だわ」フフン
シンジ「…」ムッ
シンジ「…あっそう」プイ
アスカ(…嫉妬よね、これ絶対嫉妬してるわよね?)
アスカ「あれ、あれれぇ?どうしたのぉシンジ?」ニヤリ
シンジ「別に」
アスカ「あー、素敵よねーかっこいいわよねー加持さん」チラッ
シンジ「…」ブスッ
アスカ「バカシンジなんかじゃなくて加持さんと一緒に暮らせたらいいのにー」チラッ
アスカ「あれ?」
ミサト「シンジ君ならじぶんのへやに帰ったわよー」
アスカ「…」
アスカ(ちょ、調子に乗りすぎたー!!)
ミサト「アスカ」
アスカ「何よぉ!わかってるわよ!私が悪かったわよ!」
ミサト「そうじゃなくて…」
ミサト「お水、持ってきてくれない」ウプッ
アスカ「…」
アスカ「…」スタスタ
ミサト「あ、ちょっとアスカ、う゛っ…」
アスカ(ちょっとからかっただけなのに、シンジのヤツ)
廊下
トントン
アスカ「シンジ?」
アスカ「…」
ススス…
アスカ「開けるわよー?」
シンジ「開けてから言うなよ」
アスカ「なによ、いるなら返事くらいしなさいよ」
シンジ「うるさいな、何か用?」
アスカ「ま、まだ会議の途中だったでしょ?もっとこの世界のあんたについて…」
シンジ「もういいよ、そんなの」
アスカ「な!?」
シンジ「嫌々付き合ってもらうのも悪いし」
アスカ「嫌々って…」
シンジ「出てってよ」
アスカ「こ、の…バカ!!もう知らない!!」
シンジ「…」
バタン
アスカ「…」トボトボ
居間
アスカ「あのバカ、何様のつもりよ、私がせっかく」ブツブツ
ミサト「…若いっていいわねぇ」
アスカ「うるさいわよ酔っ払い」
ミサト「あら、いいのかしら?人生経験豊富な私から、青い二人に貴重なアドバイスをあげようかと思ったんだけど…」
アスカ「さっきまで苦しんでたクセに…」
ミサト「もう大丈夫よ、トイレでリバースしてきたから」
アスカ「汚っ」
ミサト「そんなことより聞きなさいアスカ」ズイ
アスカ(うっ、酒臭い)
ミサト「今あなたはシンジ君の行動を大げさだと思っているでしょう?」
アスカ「…まあね」
ミサト「見方を変えるのよ、いい?シンジ君とあなたは幼なじみ」
アスカ「…」
ミサト「何をするのも一緒、二人でいるのが当たり前」
ミサト「だったはずなのにいつの間にか見知らぬ男にアスカが好意を寄せていた!」
ミサト「しかも、ただでさえ焦ってるところをとうのアスカが煽る煽る」
ミサト「これじゃシンジ君が頑なになるのも無理ないわ」ヤレヤレ
アスカ「…」
アスカ(悔しいけど、確かにそんな感じだったかも)
アスカ「で、どーしろって言うのよ」
ミサト「告っちゃえば?」
アスカ「な!?私は別にアイツのことなんてなんでもっ!!」
ミサト「冗談よ、冗談、とりあえず言い過ぎたことを謝るしかないと思うわ」
アスカ「謝ろうとしたわよ!けどアイツろくに話も聞かないで出てけって…」
ミサト「ん~、それはアスカの謝り方に誠意が足りなかったんじゃないかしら」
アスカ「誠意って…」
ミサト「とりあえず、コレをつけてみて」スッ
アスカ「…耳付きのヘアバンド?」
ミサト「これをつけて『シンジ君ごめんなさいにゃん』って言えば誠意が伝わると思うわ」
アスカ「ふざけてんの?」
ミサト「…アスカよく聞いて、あのね、日本の男はすべからく猫耳が大好きなのよ」
アスカ「はぁ?」
ミサト「騙されたと思って試してみなさい、コロッと許してくれるから」
アスカ「そ、そんなことあるわけ」
ミサト「まあまあまあまあ、ほら」ギュ
アスカ「いらないわよ、こんな」
ミサト「じゃ、健闘を祈るわ、アスカ」スタスタ
アスカ「あ」
アスカ「…」
今日はここまでで
遅くなってごめんよ
(・ω・)
翌朝
アスカ「…」
ミサト「ちょっとアスカ」グイ
アスカ「なによ」
ミサト「ちゃんと試したの?猫耳」ヒソヒソ
アスカ「で、できるわけないでしょ!あんなの」ヒソヒソ
ミサト「はあ、まあいいけど、明日から搭乗訓練も再開するんだし、仲直りしとくのよ?」ヒソヒソ
シンジ「何話してるんですか?」
ミサト「あ、あはは、なんでもないわよ」アセアセ
ミサト「じゃ、いってきまーす」
シンジ「いってらっしゃい」
バタン
アスカ「…」モジモジ
アスカ「…あの」
シンジ「アスカ」
アスカ「!」ビクッ
シンジ「昨日はその、ゴメン」
アスカ「!」
シンジ「加持さんて人のことアスカが話してるのを聞いてたら、アスカが急に遠くに行っちゃうような気がしてきて…」
アスカ「…シンジ」
シンジ「怒ってる?」
アスカ「お、怒ってないわよ!その、私も少し言いすぎたかもしれないかなーなんてその」ゴニョゴニョ
シンジ「よかった」ニコ
アスカ「~~~!!」キュン
アスカ(もう、その笑顔は反則よ!!)
アスカ「あのね、シンジ」
シンジ「?」
アスカ「加治さんは私にとって憧れだけど、その、恋愛対象とかじゃなくて…」ドキドキ
シンジ「う、うん」
アスカ「だから、私は、あ、あんたが…」ドキドキドキドキ
ピンポーン
アスカ「へ?」
トウジ「よ!せんせ!二日も休んどるから心配しとったんやけど、元気そうやな!」
ケンスケ「だから言ったろ?騒ぐことないって」
シンジ「トウジ!ケンスケ!」パアア
シンジ「…よかった、こっちでも僕たち友達なんだ!」
トウジ「?変なこというやっちゃな、当たり前やろ」
ケンスケ「それより早く支度しないと学校遅れるぜ?今日は行けるんだろ?その様子なら」
シンジ「うん、行くよ!もちろん!」
アスカ「ええ!?ちょっとあんた…」
トウジ「なんや?なんか問題でもあるんか?」
アスカ「も、問題もなにも」
シンジ「じゃ、着替えてくるね」
アスカ「こらーーー!!」
居間
アスカ「ちょっとあんたどういうつもりよ!」
シンジ「なにが?」
アスカ「なにがって、あんた学校行かないって言ってたじゃない!!」
シンジ「うん、そのつもりだったんだけど、トウジとケンスケがいるなら大丈夫かなって思って」
アスカ「信じらんない!!なによその変わり身の早さ!!」
シンジ「知らない人ばっかりだったらどうしようかと思ってたけど、レイも同じクラスらしいし、こりゃ行かなきゃ損かなって」
アスカ「なんでそこでファーストの名前が出てくんのよ!!ばか!!」ダッ
シンジ「あ、アスカ」
バタン
トウジ「おーいせんせ、なんか惣流がえらい勢いで走ってったでー」
ケンスケ「また怒らせたのか」
シンジ「…うん、そうみたい」
トウジ「ま、いつものことやし、気にしとってもしゃーないわな」
ケンスケ「もう行こうぜ、そろそろホントにやばいぞ」
シンジ「…」
シンジ「うん」ニコ
ー
ーー
ーーー
同日
昼休み
キーンコーンカーンコーン
トウジ「さーて飯や飯」
シンジ「いただきます」
ケンスケ「しかし、シンジが購買なんて珍しいよな」
シンジ「そう?」
トウジ「ほんまにな、いつも惣流の分まで律儀に作っとったのに、どうしたんや?」
シンジ「き、今日は時間がなくってさ」
トウジ「まあそんな日もあるわな」
アスカ「…」ジー
ヒカリ「どうしたの?アスカ」
アスカ「え?別に、なんでも?」
ヒカリ「嘘、碇くんが気になるんでしょ」
アスカ「う」
ヒカリ「ねえ、なにかあったの?今日のアスカ何か変よ」
アスカ「き、気にしないで、ホントに何でもないから」キョドキョド
レイ「…碇君、一緒にお昼、食べていい?」
シンジ「うん、いいよ」
アスカ「っておい!!」ガタッ!!
ヒカリ「アスカ!?」
アスカ「ファースト!!あんたおかしいでしょ!あんたそういうキャラじゃないでしょ!!」
レイ「キャラ?わからないわ」
アスカ「こんのお!!」
シンジ「ま、待てよアスカ!何をそんなに怒ってるんだよ」
アスカ「怒ってないわよ!もう!全部あんたがいけないんだから!!」
トウジ「おうおう、今日の夫婦喧嘩はいつになく激しいのう」
ケンスケ「まさかの対抗馬出現か、なぁシンジ、いつの間に綾波を口説いたんだ?」
シンジ「口説いたって、そんな…」
アスカ「うるさいわよ三バカ!!」
レイ「碇君はバカじゃ…」
アスカ「聞き飽きたわそのセリフ!!」
アスカ「オッケーわかった、こないだからあんた私に喧嘩売ってるんでしょ?うけてたつわよ!!」
レイ「喧嘩なんて売ってないわ、私は碇君と仲良くしたいだけ」
ヒューヒュー
シンジ「れ、レイ、それって…」
ケンスケ「よ、呼び捨てだと…?」ゴゴゴ
トウジ「ほんまいつの間にそこまで」
ヒカリ「恋ね!恋なのね!!」
アスカ「ぐぬぬ」
アスカ「シンジ!!」
シンジ「な、なに?」
アスカ「私も一緒に食べるわよ!!いい!?」
シンジ「い、いいけど」
アスカ「ヒカリ、行くわよ!」
ヒカリ「う、うん」
ガタガタ
トウジ「…」
ケンスケ「…」
ヒカリ「…」
アスカ「…」
アスカ(き、気まずい)
レイ「…」
レイ「碇君のそれ、おいしそう」ジー
シンジ「ただの焼きそばパンだけど…食べてみる?」
レイ「いいの?」
シンジ「うん、もう半分もないけど」スッ
ばくっ
アスカ「まあまあね」モグモグ
シンジ「ってなんでアスカが食べちゃうんだよ!!しかも全部」
アスカ「あ~ら目の前に差し出されたからてっきり私にくれたのかと思ったわ~」
ケンスケ「これって」ヒソヒソ
トウジ「間接キッスやな…」ヒソヒソ
ヒカリ「不潔」
レイ「…」
レイ「返して」
アスカ「はあ?」
レイ「碇君の焼きそばパン」
アスカ「返せるわけないでしょ?もう全部私の腹ん中よ!」
トウジ「もし返すんならババになってからやな」
バキっ
トウジ「っつう!なにすんのや委員長」
ヒカリ「食事中に汚いこと言わないでよ」
シンジ「焼きそばパンはもうないけど、こっちのメロンパンなら」
ばくっ
アスカ「これもなかなか」モグモグ
シンジ「って、どうしてアスカが食べちゃうんだよ…」
レイ「…」ムムム
アスカ「…」ツーン
ー
ーー
ーーー
今日はここまででー
ネルフ本部
研究室
リツコ「で、彼とは上手くいってるの?」
ミサト「あー、シンジ君のことね、思ってたより混乱はないみたい」
リツコ「安心するのはまだ早いんじゃないかしら」
ミサト「どういう意味よ」
リツコ「一見問題無いように見えても、シンジ君の精神は深く動揺しているはず
、あなたが支えてあげなさいよ」
ミサト「心配ないわ、昨日だってアスカにやきもちやいたりしてたし、精神の在
り方でいったら前より健全なくらいだわ」
リツコ「あなたねえ」
ミサト「ままま、今のシンちゃんってばなんか年相応っていうか、わかりやすい
から大丈夫、リツコが心配してるようなことにはならないわよ」
リツコ「だといいけど…」
ビー!ビー!
リツコ「!」
ミサト「緊急警報!?」
ネルフ本部
指令室
ミサト「状況は!?」
青葉「直上に突然巨大な物体が現れました」
日向「パターンオレンジ、ATフィールドの反応はありません」
ミサト「どういうこと?」
マヤ「マギは判断を保留しています」
ミサト「パイロットは?」
青葉「非常招集中をかけました、間もなく到着予定です」
ミサト「着いたらすぐに発進させて」
日向「了解」
ミサト「それにしても…」
第三新東京市
ビル街
アスカ「丸いわね」
シンジ『丸いね』
レイ『…』
フンヨフンヨ
シンジ『使途ってこんな変なのばっかりなの?』
アスカ「まあね」
シンジ『ビームとか、撃ってくるのかな…?」ソワソワ
アスカ(相変わらずノリノリね、こいつ)
ミサト『シンジ君、遊びじゃないのよ、気を引き締めて」
シンジ『は、はい、すいません』
ミサト『よろしい、では作戦を説明するわ』
ミサト『まずは目標に慎重に接近、可能であれば市街地の外へ誘導を行う』
ミサト『先行する一機を、残りの機体が援護する形になるわね』
アスカ(一機が先行か、不慣れなシンジには任せられないし、ここは私がやるし
かないわね)
アスカ「私が…」
レイ『私が先行します』
アスカ「!」
ミサト『レイ…?』
アスカ「あんた何言ってんのよ、ここは私が行くわ!でしょ?ミサト!」
レイ『私が一番上手く作戦を遂行できます』
アスカ「なんですってー!?」
ミサト『うーん…』
シンジ『じゃあ間をとって僕が…』
レイ『ダメ!!』
シンジ『うう…』
アスカ(珍しいわね、あの優等生が、あんな大きな声出すなんて…)
レイ『…』
ミサト『…レイには悪いけど、ここはドイツで訓練を積んでるアスカに先行して
もらうわ、いい?』
レイ『…はい』
アスカ「当然」
シンジ『ちぇ…』
ミサト『それでは、作戦開始』
ー
ーー
ーーー
フンヨフンヨ
アスカ(しっかし見れば見るほど変な存在よね使徒って、あれで生き物なのかしら?)
ミサト『アスカ、目標の様子はどう?』
アスカ「ただ浮いてるだけよ、変わりないわ」
ミサト『了解、そのまま監視続けて』
アスカ「はいはい」
アスカ(予定ポイントまであと一キロか…)
ちょんちょん
アスカ「ん、なに?」
シンジ『なんだかアイツ、こないだのと比べると大人しいね』
アスカ「そうね」
アスカ「…」
アスカ「…って!!」クワッ
アスカ「あんたバックアップでしょ!?ぴったり私について来てどうすんのよ!
バカ!!」
シンジ『え、そうなの?』
アスカ「そうよ!!ちゃんと支持通りに…」
ヒゥン…
アスカ「え?」
ミサト『目標が消えた!?』
日向『パターン青!使徒出現!!弐号機の真下です!!」
グニャアアアン
アスカ「影!?」
シンジ『アスカ!!危ない』ドン!!
アスカ「!!」
日向『初号機、飲みこまれていきます!!」
シンジ『な、なんだこれ!!う、うわあああ!!」
レイ『碇君!!』
アスカ「シンジ!!シンジ!!」
ミサト『プラグを強制射出!!』
マヤ『駄目です!!反応ありません!!』
ミサト『シンジ君!!』
トプン…
アスカ「シンジ!!シンジが!!」
ミサト『アスカ、レイ、後退するわ』
アスカ「!?だってまだシンジが!!」
ミサト『命令よアスカ、下がって…」
レイ『…』
ー
ーー
ーーー
ここまででー
暗い、暗い…
ここはどこなんだろう
わからない
なにをしてたんだっけ
わからない
…ンジ
この声は誰…?
僕を呼ぶ、この声は…
「バカシンジ!!」
リュックサック、教科書、ワイシャツ。
手提げかばん、ラジカセ、チェロ。
アスカ「ようやくお目覚めね、バカシンジ」
見なれない部屋の光景に、僕は戸惑った。
シンジ「ええっと…?」
アスカ「何よその態度は!?こうして毎日遅刻しないように起こしにきてやってるってーのに!!」
シンジ「?」
アスカ「それが幼馴染に捧げる感謝の言葉ぁ!?」
シンジ「幼馴染…?」
アスカ「なあに寝ぼけてんの!さっさと起きなさいっよ!!」
言葉と同時にアスカが僕の布団をめくる。
アスカ「~~~~!!」
バシン、とアスカの平手が僕の頬に飛んだ。
その顔は怒りと羞恥で真っ赤に染まっている。
アスカ「えっちばか変態!信じらんない!!」
シンジ「…仕方ないだろ!朝なんだから!」
アスカ「もう!!早く着替えて朝ごはん食べちゃいなさいよ」
シンジ「朝ごはん?アスカが作ってくれたの?」
アスカ「はあ?おばさまが用意してくれたに決まってるでしょ?」
シンジ「お、おばさま?」
アスカ「いいから早くしてよね」
言うだけ言って立ち去るアスカ。
僕は納得がいかなかったが、しぶしぶ制服に着替えることにした。
シンジ(なんか、変だな。部屋も、アスカの様子も)
シンジ(昨日は確か、ミサトさんが帰ってこなくて、それで…)
シンジ(どうしたんだっけ…?)
他人の制服を着ているような違和感を抱えたまま、僕は居間に向かう。
シンジ(いい匂いがする、朝ごはんがあるっていうのはホントみたいだ)
シンジ(でも、おばさまって誰なんだろう…?)
シンジ「!」
ユイ「シンジ、遅刻するわよ!さっさと食べちゃいなさい!」
シンジ「母…さん…?」
僕の目が驚愕に見開く。
ユイ「どうしたの?」
シンジ「あ…ああ」
シンジ(どうして…母さんが…?)
そして僕は泣いた。
母にすがりつき、赤ん坊のようにただ泣いた。
ー
ーー
ーーー
ユイ「大丈夫?」
ゲンドウ「…」
シンジ「うん、もう大丈夫」
ゲンドウ「…辛かったら、休んでもいいんだぞ?」
シンジ「!」
シンジ「ほ、ホントに大丈夫だから」
心配そうな父さんと母さんを制して、僕は玄関に向かった。
アスカ「あ、やっと来たわね、いつまで待たせんのよ!!」
シンジ「ごめんごめん」
アスカ「じゃあおばさま、行ってきます」
シンジ「行ってきます」
アスカ「さ、走るわよ」
宣言するや否やアスカが走りだす。
見なれた風景、よく知る街並みのはずなのに感じる違和感。
シンジ「アスカ」
アスカ「なによ」
シンジ「エヴァ」
ぼそっと呟いてみる僕。
アスカ「はい?」
シンジ「ネルフ、使途」
今度ははっきり、続けざまに。
アスカ「なに訳わかんないこと言ってんのよ、ひょっとしてまだ寝ぼけてんの?」
ほとんど確信していたけど、最後に一つ。
シンジ「もし、僕が巨大ロボットのパイロットだって言ったら、どうする?」
沈黙。
アスカ「その質問、あんたがさっき泣いてたことと何か関係あるの?」
シンジ「…ゴメン、変なこと聞いて、何でもないから、忘れて」
そうだ、そういえば彼女はすごく頭がいいのだった。
シンジ(聞かれてたんだ、さっきの…)
父と母の前で泣いたことを思い出し、僕は恥ずかしさでいっぱいになる。
シンジ(でもこれではっきりした)
シンジ(突然だし、よくわからないけど…)
シンジ「僕はもう、エヴァに乗らなくていいんだ」
アスカ「はあ?」
シンジ「あ、何でもない何でもない!!」
アスカ「変な奴」
アスカ「今日ね」
シンジ「え?」
アスカ「転校生が来るらしいわよ」
シンジ「そうなんだ」
反応を窺うように、アスカが僕の顔を覗き見た。
でも表情から今の僕の内情を察することは誰にもできないだろう。
レイ「遅刻遅刻!!初日から遅刻じゃかなりヤバいってかんじだよね~~!!」
走ってくるレイ。
そして、衝突。
シンジ「うわっ!!」
レイ「きゃっ!!」
レイのくわえていたパンが地面に落ちた。
そこから視線をずらすと、転んだ彼女のスカートから白い布が覗く。
レイ「!!」
僕の視線に気づき、彼女はあわててそれを隠した。
レイ「ごめんね、マジで急いでたんだ」
シンジ「綾…波?」
レイ「!」
レイ「もしかして、どこかで会ったことある?」
レイはまじまじと僕の顔を見つめてくる。
シンジ「あ、いや、た、たまたま知ってたんだ」
レイ「ふーん、まあいいや、じゃーね」
苦し紛れの言い訳を特に気にした様子もなく、レイは走って行く。
僕はいつまでも、その後ろ姿を目で追っていた。
ー
ーー
ーーー
トウジ「なーーにーー!!で!?見たんか?その女のパンツ」
シンジ「み、見てないよ!そんなの!!」
トウジ「ほんまか~?誰にも言わへんから、ほれ、言いてみィ」
シンジ「ホントに見てないってば」
ケンスケ「恥ずかしがることないだろ、今さら俺達の仲で」
トウジ「せやせや、それに幸せの一人占めはよくないでえ?なあ!」
トウジ「な・に・い・ろ・だっ・たん・やっていでででで!!」
ヒカリ「朝っぱらからなに馬鹿なこと言ってんのよ!!」
僕に詰め寄っていたトウジの耳を委員長がつねりあげた。
トウジ「いきなりなにすのや!委員長」
ヒカリ「いいからさっさと花瓶の水換えてきなさい!週番でしょ!?」
トウジ「ほんまうるさいやっちゃなー」
ヒカリ「なんですって!?」
シンジ「…」
シンジ「平和だなぁ…」
そのやり取りが微笑ましくて、自然と口からそんな言葉がこぼれた。
アスカ「やっぱりあんた今日おかしいわよ」
シンジ「そ、そうかな?」
アスカ「絶対変よ、私に隠し事しようったって無駄なんだから」
シンジ「べ、別に隠し事なんか」
アスカ「あのね、私が何年あんたに付き合ってると思ってんのよ、あ!付き合うって変な意味じゃないんだから!勘違いしないでよね!」
僕がアスカにどう言い繕ったものかと考えていたその時、タイヤの擦れる音が教室に響いた。
トウジ「ミサト先生や!!」
それを合図にトウジとケンスケが窓際に集まる。
何事かと僕もそれに続いた。
トウジ「くううう!!やっぱええなあミサト先生は!!」
なんとなく見当はついていたが、そこにはミサト先生がいた。
シンジ(ミサトさんは先生か…なんか新鮮だな)
普段あまり見ない格好が珍しくて、つい見とれてしまう。
アスカ・ヒカリ「なによ、三バカトリオが、ばっかみたい」
アスカ達が何か言っていたが、聞こえないふりをした。
ー
ーー
ーーー
チャイムの音、ホームルームの始まり。
ヒカリ「規律、礼、着席」
ミサト「喜べ男子!今日は噂の転校生を紹介する!!」
レイ「綾波レイです、よろしく」
シンジ(転校生って綾波だったのか)
ぼんやりレイを眺めていると、不意に彼女と目があった。
レイ「あー!!あんた今朝のパンツ覗き魔!!」
シンジ「ええ!?」
シンジ(な、なんか綾波だけ随分雰囲気が違うな)
自分の知る綾波レイと目の前の少女とのギャップにあらためて僕は驚く。
アスカ「ちょっと!言いがかりはやめてよ、あんたがシンジに勝手に見せたんじゃない!!」
レイ「あんたこそ何?すぐにこの子かばっちゃってさ!何?デキてるわけ?二人」
レイの勢いに押され、アスカが言葉に詰まる。
アスカ「た、ただの…」
カヲル「ただの幼馴染に過ぎないさ、その二人は。そうだろ?シンジ君」
シンジ「…う、うん」
シンジ(?誰だろう、この人)
思わず返事をしてしまったが、後ろの席から会話に割り込んできたその少年が誰なのか僕にはわからなかった。
アスカ「もう!なんであんたが否定すんのよ」
カヲル「おや、違うのかい?」
アスカ「ち、違わないわよ!!」
シンジ(あのアスカが手玉に取られてる…)
ヒカリ「ちょっと、授業中よ!!静かにしてください!!」
委員長の一言で場が収まるかと思われたが、何せ担任はミサト先生だ。
ミサト「あらー楽しそうじゃない、私も興味あるわ」
ミサト「続けてちょうだい」
クラスにドッと笑いが起きた。
ヒカリ「そういうわけにはいきません!学際の出し物、まだ内容決まってないの、うちだけなんですよ!?」
シンジ(学際、か…そういえば今年は中止だったっけ)
シンジ(まあどうせ参加はできなかっただろうけど)
ミサト「そうだったわね、じゃとっとと決めちゃいましょうか」
ミサト「あ、とりあえずレイはそこの空いてる席に座って」
レイ「はい」
明るく返事をしたレイはミサト先生が指差す席に向かって歩いていき、僕の席の隣で立ち止まる。
レイ「…」
そのまま僕を一瞥すると、レイは無言でその席に着いた。
シンジ(よりによって、隣の席か…)
レイ「…」
シンジ(沈黙が痛い…)
そのままHRが終わるまで、僕と彼女の間に気まずい時間は続くのだった。
ー
ーー
ーーー
ここまでで
そして結局、その後レイとは一言も喋らないまま放課後になった。
ケンスケ「なんていうか、災難だったな、シンジ」
シンジ「う、うん」
トウジ「ま、無視される代わりにあの転校生のパンツ拝めたんやからしかたないわな」
シンジ「だから見てないって」
トウジ「まだそないなこと言うんかコイツめ」
シンジ「ちょ、痛いイタイ」
ぐいぐいとトウジに頭を絞められる。
ケンスケ「しかし大人気だなあの綾波って子、いままでうちのクラス女子の器量は惣流の一強だったのに」
トウジ「王座陥落、やな」
トウジとケンスケの視線の先では、レイの周りに群がった生徒達が彼女を質問責めにしていた。
カヲル「なに、誰だって転校したては珍しくてチヤホヤされるものさ」
トウジ「そういやおまえも一年の時に転校してきたんやったな、渚」
カヲル「そう、前の学校の友達と別れるのは辛かったよ、でもそのおかげでシンジ君に会えた。出会いって不思議だね、そうは思わないかい?」
シンジ(なんていうか、顔が近いなあ)
シンジ「う、うん、そうだね…渚、くん」
カヲル「カヲルでいいよ、って何度も言ってるのに。いつになったら君は僕を名前で呼んでくれるんだい?」
シンジ「えっと、その…」
シンジ(ていうか、名前知らなかったし)
苦笑いでごまかすしかない僕。
ケンスケ「ははは、モテル男はつらいなあシンジ」
トウジ「でも相手が渚と惣流じゃ、全然羨ましくあらへんな」
ケンスケ「それ、いえてる」
言いたい放題言ってから顔を見合わせ、二人はわははと笑った。
シンジ(それにしてもトウジとケンスケは全然変わってないな)
レイ「あの」
笑い続ける二人を遮るようにレイが話しかけてきた。
いつの間にかクラスメイト達の輪を抜けて、近くまで来ていたらしい。
トウジ「おう、なんやなんや、このむさ苦しい男達の集まりになんの用や?」
むさ苦しいのはあんただけでしょ、と女子達からツッコミが入るが、トウジが気にした様子はない。
レイ「碇君…とちょっと話したいんだけど」
教室がどよめく。
ケンスケ「くっそー!!またシンジかよ!!」
トウジ「ほんま、おいしいとこはみんな持ってってまうんやからなあ」
レイ「あ、ちょっと待ってよ!別にそういうんじゃ」
いまさら何を言っても遅い。
クラスメイト達は勝手に盛り上がってしまっている。
レイ「あーもういいや、行こっ!!」
シンジ「あ、ちょっと…」
レイに手を引かれ教室を出る。
ヒカリ「アスカ、碇君ほっといていいの?」
アスカ「わ、私関係ないもの」
ヒカリ「はあ、素直じゃないんだから」
ー
ーー
ーーー
放課後の校内は寂しい。
教室や体育館の雑踏が遠く感じるような人気の無い渡り廊下では特に。
聞こえるのは吹奏楽部の練習する管楽器の音だけ。
シンジ「えっと、そろそろ手、いいかな?」
ここまで夢中で走ってきたせいか、僕達はまだ手を繋いだままだった。
レイ「あ、ごめん!」
パッと手を離した後、レイは頬を染める。
こんなに表情豊かな彼女を僕は見たことがない。
レイ「えっと」
ここまで勢いで連れて来たものの、どう言葉をかけていいかわからない。彼女はそんな様子だった。
シンジ(こっちから何か言った方がいいかな…?)
シンジ「あのさ…」
レイ「な、何?」
シンジ「今朝はその、ごめん、わざとじゃなかったんだけど」
この際パンツを見たことを認めて許しを請う僕。
レイ「ふうんやっぱり、見たんだ」
シンジ「ちょこっとだけ、ね…」
ジェスチャーを交えてその微小さ具合を伝えてみる。
レイ「なんかあんまり反省してるように見えないかも」
シンジ「ご、ごめん」
ジト目でこちらを見るレイに、思わず謝ってしまう。
レイ「まっ!そんなことはいいよ、減るもんじゃなし。急いで走っててよく前を見てなかった私も悪いしね」
なんというか、思わぬ肩透かし。
レイ「それより聞きたいことがあるんだけど」
ぐいと身を乗り出して来るレイ。
レイ「どうして私の名前、知ってたの?」
シンジ「それは、えっと」
予想外の質問に、とっさに上手い言い訳が思いつかない。
レイ「言えないの?」
シンジ「…」
シンジ(どうしよう、何か言わないと変に思われるかも)
シンジ「…」
シンジ(ど、どどうしよう)
レイ「もう、なんでそこまで頑なに隠そうとするのかな~」
シンジ「そ、それは…」
レイ「私達これから一緒の家で暮らす仲でしょ?シンちゃん」
そうそう、僕らはこれから一緒の家で…。
シンジ「へ!?」
レイ「私がこのまま気づかないと思ってた?」
この子は一体何を言っているのだろう。
レイ「確かに十年ぶりだったから朝は気づかなかったけど、流石に名前を見たらピンとくるって」
シンジ(十年ぶり?)
レイ「もう、まだ惚けるの?もしかしてユイ叔母さんに口止めでもされてる?」
シンジ(ユイ…叔母さん?)
レイ「私達、この世にたった二人の従兄弟でしょ?」
僕にいとこ?
シンジ(な、なな…)
アスカ「何ですってーー!?」
シンジ「アスカ!?」
どうやら僕らのやり取りはアスカにすっかり聞かれていたらしい。
アスカ「シンジにいとこがいるなんて聞いたことないわよ!?」
レイ「あら、あなたもしかして隠れて聞いてたの?」
アスカ「ど、どーでもいいでしょ!それよりシンジ!!今の話本当なの!?」
シンジ「う、うーんと」
僕に聞かれても困る。
レイ「本当よ、私はユイ叔母さんの姪でシンちゃんの従妹」
アスカ「しょ、証拠は?あんたがシンジのいとこだって証拠はどこにあるのよ!?」
あまりの事態に、追いつめられた犯人みたいなことを言い出すアスカ。
レイ「嘘言ってどうするのよ…まあ証明できないこともないけど」
トウジ「ほんまか!?」
ケンスケ「あ、ばか!」
ばたばたと音を立ててつきあたりからトウジ達があらわれる。
レイ「ふーん…」
シンジ(アスカだけじゃなかったか…)
レイ「ほとんどクラス全員いるじゃない」
ヒカリ「わ、私は止めたんだけど」
トウジ「嘘つけ!一番張りきってたやんけ!」
ミサト「私はその、たまたま通りがかって」
シンジ(ミサトさんまでいるし…)
レイ「人の話を盗み聞きするなんて」
ため息をつくレイ。
アスカ「うるさいわね!!だいたい、あんな立ち去り方されたら誰だって気になるわよ!!」
レイ「だからってこそこそ追いかけてきていいわけ?」
アスカ「なによ、あんたこそシンジといとこだなんて嘘ついて!!」
レイ「嘘じゃないもん」
アスカの言葉に反応してレイの雰囲気が不機嫌な色を帯びる。
レイ「…いい加減あったまきた、今から証明してあげるからついてきなさいよ!!」
アスカ「あらあらムキになっちゃって、ますます怪しいわね」
レイ「うう!むかつくぅ!!」
この二人、出会って一日でここまで仲が悪くなれるなんて、ある意味才能といえるんじゃないだろうか。
ケンスケ「なあシンジ」
シンジ「なに?」
トウジ「わしらもついてってええか?」
シンジ「…いいんじゃない?」
面倒になってきた僕は、そう投げやりに答えた。
ー
ーー
ーーー
家に帰ると父さんが待っていた。
ゲンドウ「早かったな、シンジ」
シンジ「う、うん」
ゲンドウ「…朝のことが少し心配だったんだが、平気だったか?」
シンジ「うん、大丈夫だったよ」
父さんの気遣いは嬉しかったけど、今はそれどころじゃない。
シンジ「…ところで、その…」
ゲンドウ「どうした?」
父さんが喋るたびに僕は吹き出しそうになるのをこらえる。
シンジ「…それ、なに?」
意を決して父さんの頭の上にある物体を指差して聞いてみた。
ゲンドウ「ん?これか、心配しなくてもちゃんとお前の分もあるぞ」
ぽん…
シンジ(やめてよ父さん、自然な動作でそのボンボンの着いたトンガリ帽子を僕の頭にかぶせないでよ)
混乱する頭で僕は何とか言葉を絞りだそうと一歩前に踏み出す。
シンジ「…あ、あの…なんで?」
なんで父さんがクラッカーを持ってスタンバってるのか…じゃなくてえーと…?
ゲンドウ「ふ、わかっている。父さん全部わかっているぞ、息子よ」
よかった、僕には理解できなくても父さんには全部わかっているらしい。
ゲンドウ「何故誰かの誕生日でもないのにうちが今日こんなにもパーティースタイルなのか、ということだろう?」
その通りです。
ゲンドウ「きっとお前は驚くと思って黙っていたんだが…」
ユイ「あなた~、ケーキの準備できましたよ…あら、帰ってたのシンジ」
そこで僕は見た、母さんの運んできたケーキのプレートに《れいちゃん いかり家へようこそ》というチョコレートの文字が書きこまれているのを。
ゲンドウ「レイちゃんをしばらく家で預かることになってな、その歓迎パーティーの準備を今していた所だ」
もうどんな顔をしたらいいかわからない、笑えばいいのだろうか?
ユイ「もう、あなた、そんなこといきなり言ったってシンジには何の事だかわかりませんよ」
シンジ(順を追って説明されても理解できないと思うけど)
ユイ「あのね、昔よく遊んだ綾波レイちゃん…覚えてる?」
とりあえずうなずく。
ユイ「で、そのレイちゃんのお父さんが海外に転勤することになってね、ほら長野のおじさん、よくお菓子もらったでしょ?それで…」
シンジ「…もう来てるよ」
思わず僕はそう切り出していた。
ユイ「え?」
身に覚えのない自分の過去の話に、たまらなくなったのかもしれない。
シンジ「綾波なら、もう、外で待ってる。同じクラスになったんだ」
ユイ「あら、どうしようかしら、まだ飾り付けも済んでないのに」
シンジ「今呼んでくるよ」
ユイ「あ、ちょっとシンジ…どうしたのかしら、あの子ったら」
ゲンドウ「ユイ」
ユイ「なんですか?」
ゲンドウ「クラッカーの準備だ、扉の開閉と同時に作戦を開始する」
ユイ「はいはい、わかってますよ」
おやすみでー
ー
ーー
ーーー
アスカ「で、どうだったの?」
扉を開けると腕を組んだアスカが待っていた。
シンジ「えっと、なんていうか…この中に入れば全部わかるんだけど、その、出来れば誰も入れたくないっていうか…」
アスカ「なに煮え切らないこと言ってんの、入るわよ」
シンジ「だ、駄目だよアスカ!」
中の状況を考えると、今アスカを通すのは非常にまずい。
アスカ「邪魔よ、どきなさい!!」
しかし、強行突破を試みるアスカに対して、僕の制止はあまりにむなしかった。
開かれる扉、そして。
ユイ・ゲンドウ「碇家へようこそ!レイちゃん!」
鳴り響く歓迎の破裂音。
ユイ「ってあら?アスカちゃん、いらっしゃい」
アスカ「こ、こんにちわ」
クラッカーの洗礼に目を白黒させるアスカ。
ユイ「あらあら、ごめんなさいねびっくりしたでしょ、おばさんてっきり…」
レイ「ユイ叔母さんっ」
ユイ「…レイちゃん!?」
恥ずかしげにアスカに事情を説明しようとしていた母さんだったが、そこにレイが割り込んだ。
ユイ「大きくなったわねぇ、学校から迷ったりしなかった?」
レイ「はい、シンちゃんに案内してもらいましたから」
そう言ってレイがこちらを見る。
ユイ「あら、うちのシンジもたまには役に立つようで」
たまには、は余計だよ母さん。
ユイ「あ、そうそうアスカちゃんにも紹介するわね、この子が今日から家で預かることになった綾波レイちゃん、仲良くしてあげてね」
アスカは複雑な表情で頷く。
ユイ「せっかくだからアスカちゃんもどう?歓迎パーティー」
アスカ「わ、私は…」
レイ「…」
言い淀むアスカをレイが余裕の顔で見ている。
アスカ「…おばさまのお誘いでしたら、よろこんで」
ユイ「よかった、アスカちゃんならそう言ってくれると思ってたわ、そうそう…」
ユイ「どうです?せっかく来てくれたみなさんもご一緒に」
この一言で、隠れていたクラスメイト達が物影から顔を出した。
ー
ーー
ーーー
ミサト「えー、それでは不肖葛城、乾杯の音頭をとらせていただきます」
ミサト「レイちゃんの碇家入居を祝して…」
ミサト「乾杯!」
全員「乾杯!!」
子供にはジュース、大人にはビールが出され、皆楽しそうに語らい始める。
っていうかまだいたんだ、ミサト先生。
シンジ「…いいの?父さん、こんなにたくさん部屋に入れちゃって」
ゲンドウ「問題無い、今冬月に追加の食材を買いに行かせている」
そういう問題…?
ゲンドウ「歓迎の催しは、人が多いほど良いモノだ」
シンジ(そうなのかな、でもやっぱり、僕はこういうの苦手だな…)
ケンスケ「なに暗い顔してんだよ、シンジ」
シンジ「ケンスケ」
ケンスケ「全く羨ましいよ、これからこんな可愛い子と同居出来るっていうんだからさ」
レイ「もう、相田君ったら」
シンジ(…確かに綾波って、普通にしてれば可愛いよな)
レイ「?なに、シンちゃん、どうかした?」
しまった、無意識にレイを見つめてしまっていたようだ。
シンジ「な、何でもないよ」
ミサト「あやしいわね」
お酒くさいと思ったら、ミサト先生がいつの間にか隣にいた。
ミサト「…いとこってのは聞いたけど、十年ぶりなんでしょぉ?どうなのぉ?シンジ君から見て、今のレイちゃんは~」
そう言うと、ビールしか配られて無いはずなのに日本酒を傾けるミサト先生。
…もしかして、自前?
シンジ「ど、どうって…いわれても、あの」
何だかみんなに注目されているようで顔が熱くなる。
カヲル「ただのいとこさ、そうだろう?シンジ君」
レイ「…ちょっと、なんであなたが答えるのよ」
カヲル「シンジ君のことを一番知ってるのは僕だからね、フフ」
レイ「な、なによそれー!」
トウジ「なはは、相変わらずシンジにべったりやのー渚は」
話題の中心が移るのを感じて、僕は安堵した。
シンジ(よくわからないけど、助かったみたいだ)
レイ「あんたちょっとおかしいんじゃないの!?」
カヲル「おかしい?確かに、そうかもしれない…」
突然立ち上がり、近づいてくる渚君。
カヲル「でも僕の!この湧きたつような想いは!!」
ふらふらとした足取りはなんだか見ていて危なっかしい。
カヲル「押さえが効くようなものでは…」
…そもそもなんで彼は僕に近づいてくるんだろう?
カヲル「ない!!」
叫びながらもたれるようにして渚君が僕に向かって倒れこむ。
シンジ(えええ!?)
ヒカリ「キャーーーー!!不潔よ!それも、男同士で!!」
委員長の悲鳴には、何故か嬉しそうな声色が含まれているように感じた。
シンジ「ちょ、渚君、なんで…ん?」
シンジ(…お酒の匂い?)
ミサト「あれえ?さっき買ってきたチューハイどこいったのかしら?」
シンジ(勘弁してよミサトさん)
レイ「ちょっと、あんたいい加減シンちゃんから離れなさいよ!」
ぐいぐいと引きはがそうとするレイ。
シンジ「あのさ、きっと渚君は今酔っ払ってて」
彼も被害者なのだとレイを諌めようとしたその時、動きを止めていた渚君が再び活動を始めた。
カヲル「ううん、シンジ君…むにゃむにゃ」
レイ「ギャーーーー!!そんなとこに顔をうずめてすりすりするなぁ!!」
どうやら渚君はアルコールが回って眠ってしまったらしい。
シンジ「しょうがない、僕の部屋に寝かせてくるよ」
レイ「ひ、一人で大丈夫?」
シンジ「大丈夫だよ、綾波」
多分。
レイ「…」
急に黙ってしまうレイ。
シンジ「どうしたの?」
レイ「なんでもない」
そういうと自分の席に戻る。
シンジ(僕、なんか変なこと言ったかな?)
ゲンドウ「シンジ」
シンジ「ん?」
父さんがなにやら神妙な顔で話しかけてきた。
ゲンドウ「父さんは、その、そういうのに偏見はないからな?安心していいぞ」
否定するのも面倒で、僕は無言のまま渚君を自室に運んだ。
とりあえずここまででー
ケンスケ「まあそう毛嫌いしてやるなよ、あいつもさ、いろいろあったんだよ」
トウジ「せやせや、いろいろあったんや、いろいろ!」
レイ「…いろいろってなに?」
ケンスケ「それは…」
僕が介抱を終えて居間に戻ると、トウジ達がなにやら意味深な話をしていた。
シンジ「何の話?」
トウジ「おう!シンジ、こりゃちょうどええな」
…ちょうどいい?
ケンスケ「今綾波と渚の話をしてたんだけどさ、どうも渚のこと誤解してるみたいなんだよ」
シンジ「誤解って?」
ケンスケ「渚にあっちの気があるんじゃないかって」
爪の先を顎につけながらケンスケが言った。
シンジ「はぁ」
僕はどう反応していいか困ってしまう。
レイ「誤解も何も、完全にそっち方面な態度だったじゃない」
ケンスケ「だから違うんだって…シンジ、お前ならわかるだろ?綾波に説明してやってくれよ」
シンジ(う、うう…困ったな)
今の僕にそんなことできるわけがない。
シンジ(だいたい僕もちょっと疑ってるぐらいだし)
シンジ「え、えっと」
これは、今度こそ本当に誤魔化せないかもしれない。
トウジ「何を困っとるんや、渚がお前に懐いとるわけを説明するだけやろ?」
トウジの表情が徐々に怪訝なものになる。
シンジ「…」
いっそ本当のことを説明してしまおうか?
シンジ(いや、どうせおかしくなったと思われるだけだ、それに…)
シンジ(この新しい日常を、壊したくない)
…決意はしたものの、この場を切り抜ける妙案は思いつかない。
シンジ「…」
ケンスケ「どうしたんだよ黙り込んじゃって、らしくないぜ?」
シンジ(考えろ考えろ考えろ…)
しかしいくら考えてもどうしようもない。
いっそ向こうで寝ている渚君本人に弁明させようか、とまで検討しだしたその時。
アスカ「クラスに馴染めなかった渚に、コイツがちょっと優しくしてやっただけでしょ?」
シンジ(た…)
助かった。
トウジ「身も蓋もないやっちゃなー、過程を省略し過ぎや、過程を!」
アスカ「うるさいわね、!とにかくアイツは、こっちの学校で初めて出来た友達のシンジに、変な恩みたいなのを感じてるだけで、別にゲイとかじゃないのよ」
アスカ「わかった?」
シンジ(そ、そうだったのか…!)
正直もっと詳しく聞きたかったけど、ぐっと堪えた。
レイ「ふうん、男の友情ってやつ?」
レイがこちらを向いて尋ねる。
シンジ「ま、まあ、そういうことになるかな」
レイもどうやら納得してくれたようだった。
シンジ(アスカに感謝しなきゃ)
そう思って視線をやると、アスカもこちらを見ていたらしく、自然と目が合う。
アスカ「…シンジ、ちょっと来なさい」
シンジ「?」
アスカ「いいから!」
レイ「…どこ行くの?」
アスカ「アンタには関係ないわ」
そう言うと、挑発的にべえと舌を出すアスカ。
レイ「ムカッ!なにそれ!」
アスカ「ほら、行くわよバカシンジ」
シンジ「あ、アスカ!?」
そうして僕はアスカに手を引かれ、ほとんど無理やり家を出た。
ー
ーー
ーーー
KOKOMADEDE
アスカに連れられるまま、気づくと僕は近くの公園にいた。
シンジ「どうしたんだよアスカ、こんなとこまで連れてきて」
ここに来るまでに彼女から説明はなく、僕の頭は疑問でいっぱいだった。
アスカ「…」
しかしそんな僕にはおかまいなしで、アスカは人気のない公園内をキョロキョロと見まわしている。
アスカ「シンジ」
しばらく見まわして納得したのかアスカが口を開く。
シンジ「…何?」
夕日に染まったアスカの表情は真剣で、僕は思わず見とれてしまう。
アスカ「今日一日、あんたを観察して、あんたがいったい何を隠しているのか考えたわ」
シンジ「…」
真っすぐこちらに視線を送るアスカの瞳は、少し潤んでいるように見えた。
アスカ「あんた、記憶の一部が…ううん、かなりの部分が欠落してるんじゃないの?」
鼓動が強く脈打つのを感じる。
アスカ「根拠なんて聞かないでよ、いくらあんたが抜けてるったってそれくらいわかるでしょ」
思い当たる節はいくらでもあった。
出席番号から座席の位置に始まり、友人関係も勉強の範囲も、自分の所属する係も委員会もわからない。
僕はおよそ学校生活に必要なパーソナルデータを何一つ把握できておらず、一日中あたふたしてばかりだったのだから。
アスカ「否定しないのね」
シンジ「…」
全てがオレンジ色になった公園で、僕はただアスカを見ている。
シンジ「きみは…」
アスカ「え?」
シンジ「きみは、だれ?」
アスカの顔が歪む。
その大きな目に涙が溜まっていくのがわかる。
シンジ「朝からずっと不思議だったんだ、最初はただ僕の頭がおかしくなってしまったんだと思ってたんだけど、どうも違う」
アスカの目から涙が落ちる。
シンジ「ずうっと声が聞こえるんだ、今だって頭の中で何か喋ってる」
アスカ「?」
僕は、さっきから何を言っているんだろう。
シンジ「きみは」
潤んだアスカの瞳に映った人物と目が合う。
シンジ「だれ?」
ぼくはだれだ?
シンジ「きみはだれなの?」
ぼくは碇シンジだ。
シンジ「それは僕だ」
でもぼくは、碇シンジだ。
シンジ「きみはどこにいるの?」
ぼく?ぼくは何処に…?
シンジ「わからないのか」
寒い、寒い。
いやだ、ここは嫌だ!
シンジ「ねえ」
血っ、血の匂い!
出して!!ここから出して!!
誰か…
シンジ「きみは、もしかして…」
だれかたすけてよオオオオオオオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
ー
ーー
ーーー
格納庫
エントリープラグ
ユラユラ…
アスカ「…ンジ!!シンジ!!」
アスカ「シンジ!!起きなさいよお!!シンジィ!!」
シンジ「…」パチ
アスカ「!」
アスカ「っ!!う、うううう!!っぐ、ううううう!!」ボロボロ
シンジ「…泣いてるの?」
アスカ「ばかばかばかばかばか!!勝手なことして!!あんたがいなくなっちゃったら!!わたし、わたしはっ!!」ポカポカ
シンジ「…」
アスカ「許さない!許さないんだから!!もう、絶対!!」
シンジ「…」
レイ「碇君、よかった」ジワ
シンジ「…」
ー
ーー
ーーー
ネルフ本部
病室
リツコ「だから、初号機はあの時ATフィールドによってなんらかの影響を虚数回路に及ぼして…」
ミサト「そんなこと聞いてんじゃないわよ!一体エヴァって何なの!?」
リツコ「あなたに渡した資料が全てよ」
ミサト「あんたねえ!」
シンジ「ミサト、先生…」
ミサト「シンジ君!」
リツコ「じゃあ、私は失礼するわ、お大事に」ツカツカ
ミサト「あ、ちょっとリツコ!」
プシュ
シンジ「どうかしたんですか?」
ミサト「んー、ちょっちね、それよりシンジ君、体は大丈夫?」
シンジ「はい、大丈夫みたいです」
ミサト「はーよかった、あなたがディラックの海に飲みこまれた時はもうダメかと思ったわ」
シンジ「ディラックの海?」ムムム
ミサト「ええ、11使徒の内部はそう呼称される虚数空間と繋がっていたのよ」
シンジ「きょ、虚数空間ですか、なるほどなるほどー」ワクテカ
ミサト「あのねえ、あなたはそこに閉じ込められて生きるか死ぬかの瀬戸際だったのよ?」
シンジ「す、すいません」
ミサト「まあいいわ、それよりその様子なら今日のうちに退院できそうね」
シンジ「そうですね」
ミサト「早く帰らないと、今頃アスカがお腹空かせてるわ」
シンジ「そういえば…」
ミサト「なあに?」
シンジ「さっき目を覚ました時に、アスカがいたような気がしたんですけど…」
ミサト「シンちゃん」
シンジ「?」
ミサト「あんまり、女の子を泣かしちゃダメよ?」
シンジ「え?」
ー
ーー
ーーー
葛城家
ミサト・シンジ「ただいまー」
シーン
ミサト「あれ、おかしいわね、アスカ~?」
ギャアギャア
ミサト「ん?」
アスカ「そんなもんガッと入れればいいのよ!!」
レイ「でも、それだと記述された分量より多いわ」
アスカ「ひとさじくらいで大して味なんて変わらないっつーの、いいから貸し…」
シンジ「何やってんの?」
アスカ「あ、あう…」ビクッ
シンジ「?」
レイ「料理。碇君、大変だと思って」
シンジ「作ってくれたんだ」
レイ「…」コク
ミサト「へえ、美味しそうじゃない」
レイ「今、盛りつけるわ」
ミサト「それじゃ、私達は手を洗ってきましょうか」
シンジ「…」ジー
レイ「?何」
シンジ「あ、いや!何でもないよ!!ホント」
アスカ「…」
ー
ーー
ーーー
わ、忘れてたわけじゃないんやで…
ほんまやで?ほなな
食後
シンジ「じゃ、家まで送ってきますね」
レイ「…」
ミサト「いってらっさーい」
バタン
アスカ「…」
ミサト「…」ジー
アスカ「…何よ」
ミサト「シンジ君の前で取り乱したのが恥ずかしいのはわかるけど、あんまり気にしすぎるのもどうかと思うわよ?」
アスカ「…」
ミサト「どうも彼、使徒に取り込まれた前後の記憶は曖昧みたいだし、そこまで…」
アスカ「うるさいわね!!ほっといてよ!!」ダッ
ミサト「…やれやれ」
ー
ーー
ーーー
アスカの部屋
ベッドの上
アスカ「ミサトのやつ言うに事欠いて、アイツは忘れてるだろうから気にするな、ですって?」
アスカ「そんなの、そんなの…」グググ
アスカ(気にするわよおおおおおおおお!!)ジタバタ
アスカ「バカシンジの前であんな、あんな…」ブツブツ
アスカ「…」カアア
アスカ(ああああ!!思い出すだけで恥ずかしい!!)バタバタ
アスカ「わたしは別にあいつのことなんか、あいつのことなんかぁ…」ブツブツ
コンコン
アスカ「その、まあ、ちょっとはあれだけど…」ゴニョゴニョ
シンジ「アスカ~?入るよ」ガチャ
アスカ「ぎゃあああああああああああああ!!」
シンジ「!?び、びっくりした」
アスカ「驚いたのはこっちよ!あ、あんたこんなに早く、ファーストはどうしたの?」アセアセ
シンジ「えっと、レイがもう大丈夫って言うから途中で別れてさ、早めに帰ってきたんだ」
アスカ「そ、そう」
シンジ「…」
アスカ「…」
シンジ「…あの」
アスカ「な、なあに?」
シンジ「なにかあったの?ちょっと変だよ今日のアスカ」
アスカ「べっべべ別にどこもおかしくなんてないわよ?」
シンジ「そうかな~」
アスカ「そうなの!」
シンジ「でも、帰ってからまだ一度も目を合わせてくれないし」ズイ
アスカ「うう」
シンジ「何か会話もしどろもどろだし」ズイ
アスカ(だから、なんでこいつは話しながら近づいてくんのよぉ!!)ドキドキ
シンジ「ひょっとして熱でもあるんじゃ」オデコピト
アスカ「!」カアアア
シンジ「な~んてね…ん?」
アスカ「」シュー
シンジ「アスカ?」
アスカ「」シーン
シンジ「う、うわ!!気絶してる!?み、ミサト先生ーーー!!」
ー
ーー
ーーー
翌朝
ミサト「あはは、それでシンちゃん、救急車を呼ぶんだー!なんて言ってもう大騒ぎよ」
シンジ「笑いごとじゃないですって、ほんと」
レイ「そう」モグモグ
シンジ「アスカ、辛かったら学校休んでちゃんと診てもらったほうがいいよ?」
アスカ「だ、大丈夫よ、それより…」チラ
アスカ「なんでうちの朝食風景に優等生が混じってるわけ?」
レイ「…」モグモグ
シンジ「ああ、レイはね?僕が料理出来ないんじゃ大変だから、しばらく朝食とお弁当を作りに来てくれるって昨日約束してくれたんだ」
ミサト「本当に助かるわ~、ありがとね」
レイ「いえ」
アスカ「…」プルプル
アスカ(くっ、不覚、今日から朝食と弁当は私が作るつもりだったのに…)
レイ「通い妻」ポッ
アスカ「!」
レイ「…」モグモグ
アスカ(こ、この能面女ぁ…)ギロ
ー
ーー
ーーー
同日
放課後
教室
ヒカリ「あのねアスカ、それは…」
ヒカリ「恋よ!」バーン
アスカ「え、ええ!?」
ヒカリ「彼がいなくなるのが泣くほど怖かったんでしょ?」
アスカ「う、うん」
ヒカリ「恥ずかしくてまともに話もできないんでしょ?」
アスカ「…うん」
ヒカリ「気づいたらいつもその人のことを考えてたり、なんとなく授業中にずっと眺めてたり、朝早く登校して黒板に相合傘書いたり…」ゴゴゴゴ
アスカ「す、ストップ、なんか話がおかしな所に向かってるわ」
ヒカリ「何一つおかしな所なんてないわアスカ、あなたは恋をしているだけ!!そう、恋をしているだけなのよ!!」ババーン
アスカ「ひ、人の話聞いてる?」
ヒカリ「自分の気持ちに正直になるのよ!アスカ!今ならまだ間に合うわ!」
アスカ「えっと…」
アスカ(うう、ヒカリがこんなにぐいぐい来る子だったなんて、相談なんてしなきゃよかった…)
アスカ「わたしは別にそんなんじゃ…」
ヒカリ「あまーい!!碇君が最近明るくなったって、急に人気出てきたの知らないの!?」
アスカ「へ?」
kokomadede
ヒカリ「碇君て可愛い顔してるし、エヴァのパイロットだしでもともと隠れた人気があったのよ」
アスカ「へ、へー」
ヒカリ「でもどこか近寄りがたい雰囲気があって、今まで積極的にアタックする子はいなかったの」
アスカ「ふ、ふーん」
アスカ(し、知らなかった)アセアセ
ヒカリ「それがこないだから随分接しやすくなったって評判になってるのよ」
アスカ(そういえば記憶がどうこう言いだした時からアイツ、性格も結構変わったわね)
ヒカリ「今日だって碇君に告白するんだ、って張りきってる子がいたし」
アスカ「!?」
ヒカリ「ほんとに知らなかったの?手紙で呼び出して放課後にするって言ってたから、今頃屋上で告白されてる頃かもよ?」
アスカ「…ちょっと用事を思い出したわ」ガタッ
ヒカリ「アスカ…」
アスカ「話の続きはまた明日しましょ、それじゃっ」ダッシュ
ヒカリ「…」
ヒカリ「ファイトよ!アスカ」グッ
ー
ーー
ーーー
アスカ(冗談じゃないわ、最近明るくなったから告白ぅ?そんなミーハーな連中にシンジを渡すもんですか!!)
アスカ「アイツは、私のものなのよ」ボソッ
タッタッタッタ
アスカ「屋上っていうと、この先ね…ん?」
レイ「…」ジー
アスカ「…」
レイ「…」ジー
アスカ「…あんた、何やってんの?」
レイ「!?」
レイ「バード…ウォッチング」
アスカ「もう少しましな嘘つきなさいよ」
レイ「嘘じゃない」
アスカ「ふーん、ならその小鳥ちゃん達を私にも見せてもらおうかしら」グイ
レイ「あ…」
シンジ「―――」テレテレ
女子生徒「―――」
アスカ「こ、こここのバカシン…」
レイ「騒がないで」ムギュ
アスカ「んん!」
レイ「碇君にみつかる」
アスカ「ぷはっ、なにすんのよ」
レイ「黙って」シッ
アスカ「…」
女子生徒「―――?」
シンジ「―」
女子生徒「―――…」
アスカ「ここからじゃ何言ってるか全然わからないじゃない」ジー
アスカ(結構レベル高い子ね…私ほどじゃないけど)ムムム
レイ「『手紙読んでくれた?』」
アスカ「?」
レイ「『うん』」
アスカ「??」
レイ「『それで、その…』」
アスカ「え?何?もしかしてアンタあのやりとり聞こえてるの?」
レイ「唇を読んでる」
アスカ「どこで身に付けたのよ…そんなスキル」
レイ「今いいところだから、静かに」シー
アスカ「いいところって…」
シンジ「――――――」
女子生徒「―!」
女子生徒「――――!?」
女子生徒「――」
アスカ「なんか騒ぎ始めたわよ?」
レイ「…」ニヨニヨ
アスカ「ちょっと、あんた一人で楽しんでないでちゃんと翻訳しなさいよ」
レイ「…」ムフー
アスカ「な、なにその顔、どういう表情なのよそれ」
シンジ「――」
女子生徒「…」
シンジ「―――」
アスカ「教えなさいよっ、なんて言ってたのよっ」ユサユサ
レイ「…」ムフフ
アスカ「ヒント!せめてヒントだけでも…」
レイ「!」ハッ
アスカ「なに?」
レイ「隠れて」グイグイ
アスカ「や、ちょっと」
レイ「…」
アスカ「…」
女子生徒「…」タッタッタッタ
アスカ「行ったわよ」ヒソヒソ
レイ「まだ、碇君がいる」ヒソヒソ
シンジ「…」スタスタ
アスカ「…」
レイ「…」
アスカ「で、なんて言ってたのよ」
レイ「『好きな人がいる』」
アスカ「!!」
レイ「『だから君とは付き合えない』」
アスカ「ふ、ふふーん、あのバカシンジに好きな人ねぇ…」チラ
レイ「…」ニヨニヨ
アスカ「少なくともあんたじゃないわね」フッ
レイ「!?」
アスカ「ま、私は全然興味ないけど、そっか~シンジがね~、まったくモテる女はつらいわね~」ドヤ
アスカ(アイツが好きな人なんていったらもう…ね?)テレテレ
レイ「…」ムス
レイ「あなたじゃない」
アスカ「はあ?」
レイ「碇君は『昔からずっと好きな人がいる』と言っていた」
アスカ「な!?」
レイ「あなたはぽっと出だから違う」
アスカ「誰がぽっと出よ!!っていうかあんただってシンジと知り合ったのは最近でしょうが!!」
レイ「…私は以前、彼と会ったことがある」ドヤ
アスカ「!?」
レイ「さよなら」スタスタ
アスカ「…な、なによそれえ」プルプル
ー
ーー
ーーー
同日
アスカの部屋
アスカ「…」
アスカ「シンジの好きな人って、誰なのかしら」ポツリ
アスカ「ち、違う違う!恋じゃないわ!これはなんていうかそう、あのトウヘンボクが誰かに好意を持つなんて珍事に対する学術的な興味っていうか…」
アスカ「…」
アスカ(むなしい…)
アスカ(どんなに否定してみても、最近の私はシンジのことが気になって仕方ない)
アスカ「やっぱりヒカリの言う通り…」
アスカ(恋、なのかしら)
――『昔からずっと好きな人がいる』
アスカ「昔から、か」
アスカ「どんな子なんだろう、あいつが好きな女の子って…」ゴロン
ー
ーー
---
ネルフ本部
ミサト「第二支部が消失!?」
青葉「はい、エヴァ4号機並びに関連施設はすべて消失しました」
マヤ「スケジュールから推測して、S2機関搭載中の事故と考えられます」
ミサト「これでせっかく直したS2機関もパーね」
リツコ「そうね」
ミサト「で、残った3号機はどうするわけ?」
リツコ「ここで引き取ることになったわ」
ミサト「それで?3号機の起動実験はどうするのよ、例のダミーとやらを使うのかしら?」
リツコ「それはこれから決めるわ」
ミサト「…」
リツコ「そういえばシンジ君の調子はどう?」
ミサト「相変わらず元気で前向きよ、時々こっちが戸惑うくらい」
リツコ「…そう、変わりないならいいわ」
ー
ーー
ーーー
第三新東京市
共同墓地
シンジ「なんか信じられないな、ここが母さんの墓だなんて」
ゲンドウ「遺体もなく形だけだが、それでいい」
シンジ「…」
ゲンドウ「シンジ」
シンジ「なに?」
ゲンドウ「記憶に混乱が起きているそうだな」
シンジ「僕は普通なつもりだけど、やっぱりそうなるのかな」
ゲンドウ「報告書では要領を得なかった、お前から詳しく話を聞きたい」
シンジ「時間とかはいいの?」
ゲンドウ「問題ない」
シンジ「ほとんどリツコさんに報告したことで全部なんだけど」
ゲンドウ「何度も言わせるな、お前自身から話を聞くことに意味がある」
シンジ「そっか」
シンジ「それじゃ、何から話そうか…」
ー
ーー
ーーー
同日
葛城宅
シンジ「ただいまー」
ミサト「おかえんなさい、どうだった?」
シンジ「久しぶりに父さんと話せて良かったです」
ミサト「へー、例えばどんな話?」
シンジ「母さんのこととか、学校の話とか、いろいろですよ」
ミサト「よかったわ、こっちの世界のシンちゃんはお父さんが苦手だったから心配してたんだけど…」
シンジ「そう言われてみればなんかぎこちなかったかな、今日の父さん」
ミサト「ぎこちない?」
シンジ「ええ、なんかカッコつけてるっていうか、無理してるっていうか」
ミサト「こっちではそれがデフォルトなんだけどね~」
シンジ「ところでアスカは?」
ミサト「さっきまでそこでテレビ見てたんだけど」
シンジ「また自分の部屋ですか」
ミサト「どうもまだシンジ君と話すのが恥ずかしいみたいね」
シンジ「う~ん、僕の前でアスカが取り乱したとか言われても、全然覚えてないんですけど」
ミサト「乙女心は複雑なのよ」
シンジ「…はあ」
ー
ーー
ーーー
ネルフ本部
リツコ「松代での参号機起動実験、パイロットが決まったわよ」
ミサト「…そう、よりによって、この子なの」
リツコ「本人には明日正式に通達されるわ」
ミサト「…」ハア
リツコ「なにを難しい顔してるのよ」
ミサト「シンジ君にどう伝えたらいいかと思って…」
リツコ「そのまま伝えたらいいじゃない、今の彼ならさほど動揺もしないでしょ」
ミサト「だといいけど」
リツコ「最近のシンジ君は扱い易いんじゃなかったの?」
ミサト「そう思ってたんだけど、どうもね」
リツコ「どういうこと?」
ミサト「正直私は彼の変化を、一時的な記憶の齟齬とか、一種の現実逃避のようなものだと考えていたんだけど…」
ミサト「最近どうもシンジ君の言う《別人格との意識の交換》が本当に起きたことなんじゃないかって、思えてきて」
ミサト「そしたら彼が急に見知らぬ他人のように感じられてきて…怖いのよ」
リツコ「あきれた、記憶が混乱しているシンジ君の言うことを真に受けるなんて、何かあったの?」
ミサト「何かってわけじゃないんだけど…演技だとか思い込みであそこまで自然に振る舞えるものなのかしら」
リツコ「ミサト、あなた少し疲れてるのよ、大丈夫、シンジ君はどうあってもシンジ君よ、心配することはないわ」
ミサト「…」
リツコ「なんならシンジ君には私から伝えておきましょうか?」
ミサト「いえ大丈夫よ、そうね、どうかしてたわ」
リツコ「…」
ミサト「シンジ君には参号機パイロットのこと、私からしっかり話すから」
リツコ「…頼んだわよ」
ー
ーー
ーーー
第壱中学
屋上
トウジ「…!」
バキッ
シンジ「っ!」
トウジ「もっぺん言ってみろや!!」グイ
ケンスケ「やめろよトウジ、シンジだって悪気があったわけじゃないさ、だろ?」
シンジ「…っぐ」
トウジ「…」
シンジ「…ったた」
シンジ「いきなり何するんだよ!!」
ドコッ
トウジ「っぐわ!」
ケンスケ「シンジ!!」
トウジ「こんのボケ!!」
シンジ「なんだよ!」
ピー、ガガ…
『あー、鈴原トウジ、鈴原トウジ、至急職員室まで来るように…』ガガ
トウジ「…あ?」
ケンスケ「…なんかしたの?」
トウジ「…」
トウジ「ちっ、知らんわい」スタスタ
バタン!
シンジ「…」
ケンスケ「…」ハア
シンジ「なんなんだよトウジの奴、いきなりあんな…」ブツブツ
ケンスケ「お前本気で言ってんのか?」
シンジ「?」
ケンスケ「冗談でもあんなこと言うなんて、どうかしてるぞ、シンジ」
シンジ「へ?」キョトン
ケンスケ「…もういい」
ケンスケ「お前のこと見損なってたよ、じゃあな」
バタン
シンジ「…なんだよ」
シンジ「僕が、なにしたって言うんだよ…」ポツン
ー
ーー
ーーー
同日
帰り道
シンジ「それでいきなり一方的に殴られてさ」
レイ「そう」
シンジ「まだひりひりする、ほんとワケわかんないよ」
レイ「…なんて言ったの?」
シンジ「え?」
レイ「鈴原君が怒るまえに、あなたはなんて言ったの?」
シンジ「僕はただ…」
シンジ「弁当なら可愛い妹に作ってもらえばいいじゃないか、って…」
レイ「…」
シンジ「トウジが妹のこと大事にしてるのは知ってるけど、まさかあんなに怒るなんて」
レイ「碇君」ジト
シンジ「な、なに?」
レイ「…」
レイ「…あなたは鈴原君に謝らなければいけないわ」
ー
ーー
ーーー
同日
葛城宅
コンコン
ミサト「アスカ、大事な話があるの、出てきてちょうだい」
アスカ「…」ソロー
シンジ「…えっと、なんて言うか久しぶり」
――『あのね、アスカ…それは恋よ!』
アスカ「…」カアアア
アスカ(平常心、平常心!落ち着くのよ、アスカ)
アスカ「…」プイ
シンジ「…」ガーン
アスカ「それで?は、話ってなんなのよミサト」
ミサト「んー、まあとりあえず座って座って」
ガタガタ
ミサト「あのね、アメリカで建造中だったエヴァ参号機が完成して、今度日本で実践配備されることになったのよ」
シンジ「参号機なんてあったんですか」
ミサト「ええそうよ、エヴァを保有しているのは日本だけじゃないの」
アスカ「…」
ミサト「それで明日、松代で起動実験をすることになってね…」
シンジ「明日?じゃあ僕らも準備しないと…」
ミサト「あ!いやいや、明日はただの起動実験だからシンジ君たちの出番は無いわ」
シンジ「そうですか」
アスカ「パイロットは?」
ミサト「…」
アスカ「私達の出番がないってことは、ファーストが乗るの?」
ミサト「…その」チラ
シンジ「?」
ミサト「…パイロットのことなんだけど」
ー
ーー
ーーー
葛城宅
居間
アスカ(…まさか、鈴原のやつがフォースチルドレンに選ばれるなんて)
アスカ「まったく、おかげでこっちはプライドズタズタだわ」
アスカ「それにしても」
アスカ(…またシンジと上手く喋れなかったな)
アスカ「…」ジタバタ
ガチャ
シンジ「お風呂、出たよ」
アスカ「そ、そう」ソワソワ
シンジ「…ミサトさんは?」
アスカ「向こうに宿とったからって、もう出かけたわ」
シンジ「そっか」
アスカ「…」
シンジ「…」
アスカ(ま、間が持たない!!)
シンジ「じゃあ、今夜は二人っきりってわけだね」
アスカ「!!?」
シンジ「どうしたの?」キョトン
アスカ「べ、べつに」
アスカ(こ、こいつほんとは全部知っててからかってんじゃないでしょうね)ジトー
シンジ「?」
アスカ(ま、そんなわけないか)ハアー
アスカ「それにしても…」ジー
シンジ「な、なに?」
アスカ「…見れば見るほど間の抜けた顔してるわよね、アンタって」ハア
シンジ「なんだよそれ!」プンスカ
アスカ「…」
アスカ(まったく、わたしったらこんな奴のどこがいいのかしら…)
アスカ「!」
アスカ「…」カアー
シンジ「アスカ?」
アスカ(そっか私、やっぱり…)
シンジ「ねえ、ちょっと」
アスカ(…好きなんだ、シンジのこと)
アスカ「…」ポー
シンジ「ねえ、アスカったら」ユサユサ
アスカ「…」ハッ
アスカ「う、うっさいわよ!!バカシンジ!!」
シンジ「!」
アスカ「ごちゃごちゃ言ってる暇があったら夕飯の用意でもしたらどうなの!?」
シンジ「う、うん」
アスカ「早くしてよね、なんだか急にお腹空いちゃったから!いい?五分以内よ!い~ち…」
シンジ「そ、そんな無茶な!」
アスカ「…で、またこれなわけ」
シンジ「ヘタに難しいもの作ろうとして失敗するよりは、まだ目玉焼きの方がいいだろ?」
アスカ「毎日毎日こんな簡素な食事で……栄養失調で倒れたらあんたのせいだからね」
シンジ「それだけ憎まれ口叩けるなら当分平気だと思うよ」
アスカ「ふん、口ばっかり達者になっちゃってさ」
シンジ「ふふ」
アスカ「な、なによ気持ち悪いわね、なにが可笑しいのよ?」
シンジ「だって、最近ずっとアスカに避けられてるみたいだったから、嬉しくて」
アスカ「そ、そんなのあんたの思いすごしよ」
シンジ「うん、そうだったみたいだ…よかった」
アスカ「ば、ばーか」
アスカ(…これでいいのよね、いくら自分の気持ちに気付いたって、他に接し方なんて知らないし)
アスカ「我ながら難儀な性格ね…」ハア
シンジ「?なにか言った?」
アスカ「なんでもないわよ」
アスカ「ふう、こんなもんでもとりあえず腹は膨れたわね」ゲフウ
シンジ「酷い言い草だなあ」
アスカ「?そういえばあんた自分の分はどうしたのよ」
シンジ「ああ、夕飯ならさっきレイの家で御馳走になったよ」
アスカ「ラングレーチョップ!!」ズビシ!!
シンジ「い、痛!?」
アスカ「ほんとにもう、油断も隙もないわね、あの女…」
シンジ「な、なんで殴るのさ」
アスカ「なんとなくよ!悪い!?」
シンジ「開き直りもそこまでいくといっそ清々しいや…」
アスカ(しっかし最近の訪問朝食作りといい、ファーストのやつまずは胃袋から掴む作戦なわけか…)
アスカ「…」チラ
シンジ「?」
アスカ(古臭くて単純な方法だけど…なるほどこのバカには効き目ありそうね)ムウ
アスカ「…それで、どうだったのよ、あの子の手料理は」
シンジ「うん、美味しかったよ」
アスカ「そう」
シンジ「…」
アスカ「…」
シンジ「…ねえ、アスカ」
アスカ「なによ」
シンジ「こんなこと突然言ったら変に思われるかもしれないけど…」
アスカ「アンタが変なこと言いだすのはもう慣れたわよ、で?」
シンジ「うん、こないだ僕が使徒に取り込まれた時なんだけど…夢を見たんだ」
アスカ「夢?」
シンジ「そう、すごくリアルな…その、僕が元いた世界の夢だった」
アスカ「…」
シンジ「でもその夢の中では僕に主導権はなくて、代わりに違う僕が、僕の体で生活してた。それで、その僕は多分…」
シンジ「…元々はこっちの世界の僕だったんじゃないかと思うんだ」
アスカ「…」
シンジ「ずっと不思議だったんだ、この世界に今までいた僕はどこに行っちゃったんだろうって。でも、交換で僕の世界にいってたならそれにも説明がつく」
シンジ「きっと入れ替わりにはエヴァが何か関係してると思うんだ、あとは原因が分かればきっと僕も、向こうの僕も元の世界に…」
アスカ「ストップ!ねえ、今のは夢の話なんでしょ?」
シンジ「…そうだけど」
アスカ「あのね、あんたが前と随分変わったのは認めるけど、違う世界だとか人格の交換だとか、そんなふうに考えるのはやっぱり飛躍しすぎってもんよ」
シンジ「…」
アスカ「あんたの言うあんたの世界の過去の記憶は確かによく出来てるけど、やっぱり平行世界の自分と人格だけが入れ替わるなんて…ありえないわ」
シンジ「…たい」ポツリ
アスカ「え?」
シンジ「…帰りたい」
アスカ「…!」
シンジ「…この世界もいいなって最近は少し思い始めてた、巨大ロボットのパイロットになれるなんて滅多にない体験だって」
シンジ「でも、やっぱりここは僕の居場所じゃない、どんなによく似た世界でも、違うところなんだ」
アスカ「シンジ…」
シンジ「僕が言ってることをアスカが信じられないのは無理ないと思う、いや、実際全部僕の妄想に過ぎないのかもしれない、でも…」
シンジ「それでも僕は自分に出来ることは全部やってみたい」
アスカ「…わかったわよ、それで、帰るったってどうするつもりなのよ」
シンジ「それは」
アスカ「それは?」
シンジ「…まだ考えてなかった」
アスカ「ばか」
シンジ「うう」
遅くなってゴメンよ
てへぺろ
今日はここまでで
アスカの部屋
アスカ(全く、あいつったら最近変なことばっかり言って…)
アスカ(人格が入れ替わるなんてこと、あるわけないじゃん)
アスカ「ばかばかしい」ゴロン
アスカ「……」
アスカ(でも、もし本当にあいつが今は、こないだまでと別の人間になってしまっているとしたら)
アスカ「……」
アスカ(わたしは、どっちを……)
翌日
正午
シンジ「ねえアスカ~」
アスカ「なにー?」ゴロゴロ
シンジ「松代で事故だってさ」
アスカ「ふうん」ゴロゴロ
シンジ「アスカ、ねっ転がってお菓子食べるのやめなよ」
アスカ「ふっふぁいふぁね~」モグモグ
シンジ「もう、行儀悪いなあ」
アスカ「ん?」
シンジ「どうかした?」
アスカ「あんた、さっき松代で事故って言った?」
シンジ「うん、マヤさんから電話があってさ」
アスカ「……」
シンジ「緊急招集だって」
アスカ「っそういうことはもっと緊迫した様子で伝えなさいよ!!バカシンジ!!」
ネルフ本部
指令室
ズシン…ズシン…
冬月「やはりこれか」
ゲンドウ「エヴァンゲリオン参号機を現時刻をもって破棄、目標を第12使徒と識別」
青葉「で、ですが…」
ゲンドウ「エヴァ三機を投入、目標を撃破しろ」
同日
野辺山
シンジ『それにしても、僕らどうして呼ばれたんだろうね』ガションガション
アスカ「……」
シンジ『事故って言ってたから、壊れた部品を運んだりとかするのかな…?』
シンジ『それもきっとすごいんだろうな~』ワクテカ
アスカ「あんた、ミサトや鈴原が心配じゃないの?」
シンジ『ん…そんなことはないけど、きっと大丈夫だよあの二人なら』
アスカ「なんでそう言い切れるのよ」
シンジ『だって、あのトウジとミサト先生だよ?理由が他にいる?』
アスカ「…はあ、頭痛くなってきた。私が先行するから指令の命令通り、アンタは指定の位置で待機、いいわね?」
シンジ『いえっさー』ビシ!
アスカ(…ほんと、コイツのどこがいいんだろう私)ハア
レイ『……』ザッザッザ
アスカ「あ!ちょっとファースト!!走りすぎよ!あんたシンジのバックアップのはずでしょ!?」
レイ『だめ、あれと碇君と会わせては、だから…』ブツブツ
アスカ「ちょ、ちょっと!!」
レイ『……』ザッザッザ
アスカ「な、なんだってーのよ」
ネルフ本部
指令室
マヤ「零号機、なおも前進、間もなく目標と接触します!」
冬月「なんだと!?通信回路は!?」
青葉「すべて正常です!」
冬月「どういうことだ、レイが命令を無視するとは」
ゲンドウ「…初号機と弐号機パイロットに、全力で零号機に合流するよう伝えろ」
冬月「碇っ!」
ゲンドウ「零号機にはまだ役目が残っている、ここで失うわけにはいくまい」
冬月「…本当にそれだけか?」
ゲンドウ「…」
野辺山
ズシン…ズシン…
レイ「みつけた」
ズシン…
レイ「あなたはここで…」
ググ…
レイ「私が仕留める」チャキ
バババババッ!!
―
――
―――
シンジ『うわ、ちょっと、そんなに急かさないでよ!』
アスカ「ばか!聞いたでしょ!?この先でファーストが使徒とやりあってんのよ!?」
シンジ『だけどここ足元がぬかるんでて…っうわわ!!』
アスカ「え?きゃあっ!!」
ドシーン!
シンジ『いてて…うう、田んぼに滑って転ぶなんて』
アスカ「っもう、どんくさいわね!転ぶなら一人で転びなさいよ…」ムニッ
アスカ(むにっ?)
シンジ「あ」
アスカ「…ドコ触ってんの!スケベ!!」ボカッ
シンジ『いたたっ!わざとじゃないって、それに触ったって言っても…エヴァじゃないか』
アスカ「やかましい、このケダモノ!」
シンジ『そんな、だいたいアスカが…!』
ドッダアアア―ーン!!!!
アスカ・シンジ「!?」
アスカ「あれは…!」
シンジ『エヴァが、二体?』
グルオオオオオオオ!!
レイ「くっ!」
バババババ!!
マヤ『駄目です!ライフル効きません!』
レイ「…」シャキン
マヤ『プログレッシブナイフ装備!』
冬月『接近戦を挑む気か…』
グウワ!!
青葉『参号機、左腕伸長!!』
レイ「知ってる」ヒョイ
青葉『か、回避しました』
冬月『なんと!?』
レイ「…っはあ!!」ザシュッ
ッオオオオオ!!
マヤ『目標の左腕、切断!』
冬月『これは、いけるぞ!』
ゲンドウ『……』
シンジ『どうして、エヴァ同士が戦ってるんですか?』
日向『参号機は使徒に乗っ取られてしまったんだ』
シンジ『乗っ取られたって、じゃあ松代の事故は…』
日向『ああ、参号機の暴走が原因だ』
シンジ『…じゃあ、パイロットは?』
日向『依然、搭乗中だ…』
アスカ「…おそらく、使途に浸食されてるわ」
シンジ『トウジが…?』
アスカ(結構ショックみたいね、当たり前だけど)チラ
シンジ『……』
アスカ(ファーストが先走ったのは、シンジがこうなることを見越して…とか?)
アスカ「まさかね」ボソッ
シンジ『え?』
アスカ「なんでもない。ほら、行くわよ!シンジ、あんたの友達でしょ?鈴原は」
シンジ『…うん!』グッ
グルルル……
冬月「急に大人しくなったな」
青葉「プログナイフの一撃がよほど堪えたのでしょうか」
レイ『……』
マヤ「さっきから距離をとって零号機の様子を窺っているようですね」
冬月「かまわん、時間がたてば有利になるのはこちらだ」
青葉「初号機と弐号機、間もなく合流します!」
レイ『!』
冬月「よし!囲んで袋叩きだ!」
レイ『っく!!』ダッダッダ
マヤ「ぜ、零号機!目標に接近!」
冬月「な、なぜだ!」
ゲンドウ「…」
レイ「碇君が来る前にっ」
グオオオ!!
マヤ『参号機!右腕、来ます!!』
レイ「…」ヒョイ
青葉『再び回避…いや、これは!?』
ググググ…
レイ「!」
青葉『伸びきった腕が、蛇行しています!!』
ギュルルルッ!!
レイ「っあ!」
マヤ『零号機、目標に捕捉されました!!』
レイ「っ!!」ズズズ
青葉『まずい!接触面から浸食が始まってます!!』
ゲンドウ『……』
―
――
―――
シンジ『アスカ!!レイが…』
アスカ「わかってるわよ!」ジャキン
アスカ「私が先に行くから!ちゃんと援護しなさいよ!?」ダッダッダ
シンジ『了解!!』
ババババババ
日向『初号機と弐号機、合流しました!!』
冬月『いいぞ、これで3対1だ!』
ゲンドウ『……いや』
アスカ「とおおおりゃああ!!」
ガシッ
アスカ「な!?」
レイ『……』
日向『零号機!完全に浸食されました!』
冬月『な、なんだと!』
アスカ「優等生!!乗っ取られたの!?」
シンジ『アスカ!!危ないっ!!』
ギュルルルル
マヤ『っ今度は初号機が捕捉されました!!』
アスカ「ばか!!また勝手なことして!!」
シンジ『く、うう……』ジタバタ
冬月『碇!!このままでは初号機まで失うぞ!!』
ゲンドウ『まだだ』
冬月『なに?』
シンジ『ううおおおお!!』
バチーン
青葉『さ、参号機の腕を…引きちぎった』
アスカ「相変わらずデタラメね……」
シンジ『へへ』
アスカ「ま、いいわファーストは私がなんとかするから、鈴原はあんたに任せたわよ」
シンジ『了解!』
アスカ(とは言ったものの……)ジー
レイ『……』
アスカ(どうしたものか)
どっぷお……
マヤ『うっ、参号機、両腕再生』
シンジ『だったら!!』
ガシッ
シンジ『これで、どうだ!!』
ドスウウン!!
青葉『せ、背負い投げ!?』
グルルル
シンジ『あれもしかして、あんまり効いてない?』
冬月『当たり前だ!碇!お前の息子はふざけているのか!?』
ゲンドウ『…シンジ、そのまま抑えつけてからプラグを引きずり出せ』
シンジ『!』
ゲンドウ『信号が届かなければエヴァは動かん』
シンジ『…わかった、やってみる』
グググ…
冬月『おお…やったか』
ウォォォォ!!
日向『と、止まらない』
マヤ『エントリープラグは抜いたのに!』
シンジ『ぐ、あああ!!』
冬月『今度はどうした!?』
青葉『エントリープラグを握った右手から、初号機が侵食されていきます!!』
日向『は、速い!!さっきまでの比じゃないぞ!?』
ゲンドウ『…おそらくプラグ内にコアがあるのだろう、シンジ』
シンジ『な、に!?』
ゲンドウ『それを握り潰せ』
シンジ『!?』
シンジ『そ、んなことしたら、トウ、ジが』
ゲンドウ『かまわん、どうせここはお前にとっては仮初めの世界だ』
ゲンドウ『お前が今握っているのはお前の友人ではない、よく似た他人だ』
ゲンドウ『誰が死のうが、誰を殺そうが、いずれ立ち去るなら問題あるまい』
シンジ『だけ、ど』
マヤ『初号機!もう限界です!!』
日向『完全に侵食される!!』
ゲンドウ『お前が死ぬぞ』
シンジ『っ…あ』
ドクン
ー
ーー
ーーー
まただ…
僕は知っている
この感覚を
ただただ暗闇を落ちていく
この感覚は、そう…
レイ「し~ん~ちゃんっ!朝だよ!起きて!」
砂袋で思い切り腹を殴られたような衝撃を受けて、僕は目覚めた。
シンジ「うう、綾波…頼むから、もう少し優しく起こしてくれないかな」
レイ「だってしんちゃんって寝起き悪いんだもん、昔っからこの方法が一番なんだよ」
ゆさゆさと僕のお腹の上で揺れるレイ。
シンジ「だからって…こういうのは、その、困るよ」
主に下半身的に。
レイ「ふうん、そっか、そうだよね~」
僕の歯切れの悪さから何かを察したのか、レイの表情が妙にニヤニヤしたものに変わる。
レイ「お互いもう14歳だもんね~、いろいろあるよね~」
そう言うとレイはその細くて白い指で、僕の胸を円を描くようになぞる。
シンジ「う、あ、あ…」
健全な中学生を自負する僕にとって、その仕草はいささか刺激が強すぎる。
思わずしどろもどろになってしまいながらも、抵抗しようと僕が動き出したその時、部屋の襖が勢いよく開かれた。
アスカ「くおらー!!何してんのあんたたち!!」
レイ「ちっ、来たわね、お邪魔虫」
アスカ「だぁれがお邪魔虫よ!」
レイ「はぁ、あんた以外に誰がいるっての」
言うなりさっと僕から降りてアスカに向き直るレイ。
レイ「まったく、頼まれもしないのに毎朝毎朝、私としんちゃんの甘い一時を邪魔しにきてさ」
…あ、甘い一時?
アスカ「バカなこと言ってんじゃないわよ!あんたが来てから毎日遅刻寸前じゃない!迷惑してるのはこっちよ!」
レイ「遅刻が嫌ならさっさと1人で登校すればいいじゃ~ん、しんちゃんのことは私に任せてさ」
アスカ「な、なんですってぇ!」
両手を握りしめてプルプルと震え始めるアスカ。
まずいぞ、そろそろ怒りゲージが振り切れそうだ。
シンジ「と、トイレ言ってくる」
部屋からの脱出を試みる僕。
レイ「あ、じゃ私も一緒に」
アスカ「あんたバカ!?トイレまでついてってどうする気よ!」
レイ「…うるさいなあ、あなたってずっと叫んでないと死んじゃう病気か何かなの?」
アスカ「あんたのせいでしょうが!!」
後ろから聞こえるやかましいことこの上ないやり取りをスルーして僕は部屋を出た。
シンジ「はあ、毎日これだもんな」
幼なじみと従妹が繰り広げる修羅場から逃げだした僕は、洗面所で深いため息をついていた。
シンジ「べ、別に逃げたわけじゃないよ」
訂正、別に逃げたわけではないらしい。
シンジ「…君ってさ、なんでいつも説明口調なの?」
それは、なんでだろう?
シンジ「まあ、とにかくよかった、また話ができて。君には聞きたいことがたくさんあるんだ」
そう言うと僕は僕の目をじっと見つめる。
聞きたいことがあるのは僕も同じなので、その僕の提案は渡りに船だった。
シンジ「とりあえず、君は碇シンジなんだよね?」
そう、僕は碇シンジだ。
シンジ「でもそれはおかしいよ、だって僕も碇シンジなんだから」
鏡の僕が眉をしかめる。
同じ人物が2人いるということに納得がいかないようだ。
シンジ「そりゃそうだよ、僕がもう1人いる、なんて。自分の頭がおかしくなっちゃったって考えた方がよっぽど納得がいくよ」
そうかな、世界が2つあるのなら、僕がもう1人いるのも自然なことだと思うけど。
シンジ「…てことは、やっぱり君は」
予想はしていた、そんな口調で僕は言葉を切る。
その先は僕の方から言うべきだ、とでも言うように。
そう、僕は元々この世界の碇シンジだった碇シンジだ。
もっと分かり易く言い換えるなら、僕は元々エヴァの存在しない世界にいた碇シンジだ。
シンジ「いや言い換えても分かりづらいよ、とりあえず自分のことも僕のこともいっしょくたに僕って呼ぶのはやめてよ」
だって僕は僕じゃないか。
シンジ「でも少なくとも僕は君じゃないし、君は僕じゃないだろ?」
そう言った僕は困ったような顔をしていて、少し可哀相だった。
シンジ「…そう思うならちゃんと区別をつけてよ、例えば自分のことは俺って呼ぶとか」
俺、俺か…なんだかしっくりこないけど、僕が言うとおり俺は素直に提案を受け入れることにした。
シンジ「じゃ、話を進めるけど、君は元々はこの、エヴァの存在しない世界のシンジだったって言ったよね?」
そう、俺は確かにさっきそう言った。
シンジ「その君がエヴァを知っているってことは、君は僕のもといた世界に行ってたって考えていいのかな?」
同意を求めるような僕の言葉だったが俺は即答しかねた。
少し前までは俺も僕と同じように、2つの異なる世界の碇シンジの意識が単純に入れ替わってしまったものと考えていたが、よく考えてみたらそうとばかりも限らない。
シンジ「どうして?」
もしも世界が3つ以上あって、その中によく似た世界がいくつもあったとしたら、俺の経験したエヴァの存在する世界が僕のもといた世界だとは断定できないからだ。
シンジ「そんなこと言ったら今のこの世界が君のもといた世界かどうかもわからないじゃないか」
確かにそうだ、今まで何となくここは俺の世界だと思っていたけれど、その自信が揺らいでいく。
どんなに詳しく調べても、ここが自分のもといた世界に良く似た別の世界かもしれないという可能性は残る。
でも、パラレルワールドってそういうもんだよな。
むしろ今まで気づかなかっただけで、俺は何度も平行世界を行き来してきたのかもしれない。
な、なんてことだ。
俺は無意識に平行世界を旅する力を持っていたというのか。
…能力名とか、決めたほうがいいのかな。
シンジ「あのさ、漫画じゃないんだから」
呆れたような口調で僕がそう言った。
思わずテンションが上がってしまったのがまずかったらしい。
シンジ「自分たちのことなんだから、もっとちゃんと考えようよ」
じ、自分に説教された。
シンジ「はあ、とりあえずもう時間もないから話し合いはここまでにしとこうか」
そういえば朝食もまだだった。
シンジ「そうだよ、お腹空いちゃったな」
なんて言いながらガラガラっと僕が戸を開けると。
ゲンドウ「…」
父さんが立っていた。
ゲンドウ「うっ…うっ」
な、なんで泣いてんの?
ゲンドウ「すまなかったな…シンジ」
シンジ「え?」
ゲンドウ「おまえが、そこまで追い詰められていたとは…父さん思いもよらなかった」
僕はポカンとしているが、俺にはわかる。
この人は結構な頻度で迷惑な勘違いをするのだ。
ゲンドウ「…もう一人の自分を生み出してしまうほどに、お前が孤独だったとは」
シンジ「いや、違…」
ゲンドウ「さあ、父の胸に」
シンジ「え?え?」
そう言うと父さんは両腕を広げた、時折クイクイと動く指先が実に鬱陶しい。
飛び込んで来いとでも言いたいのだろうか。
父さん、俺もう14歳だよ?
シンジ「父さんっ」
ゲンドウ「息子よ!」
って…あ、あれー?
ゲンドウ「よしよし」
シンジ「えへへ」
や、やめろー、思春期の少年を無理に父親に抱きつかせるって、もはや拷問だと思います。
シンジ「む、そんなことないよ」ボソッ
否、断じて否。
ただちにその髭メガネから距離をとることを推奨します。
ゲンドウ「なあシンジ、そんなに辛いなら今日は学校は休んだらどうだ?」
シンジ「ん、ううん大丈夫だよ。上手く言えないけど父さんの心配してるようなことは何もないから」
ゲンドウ「本当か?」
訝しげに聞いてくる様子がむやみに腹立たしい。
シンジ「うん、本当だよ」
ゲンドウ「…ほんとに本当か?」
しつこいよおっさん。
シンジ「そんな言い方はないだろっ!」
な、なんで僕がおこるんだよ。
ゲンドウ「!?ご、ごめんなシンジ、父さんが悪かった!そうだな、仕事仕事でお前になかなか構ってやれない父さんが全ての原因で…」
僕以外からすると意味不明になってしまう言動に父さんが慌てふためく。
シンジ「ちょっと待ってそうじゃなくて…えっと、なんて言ったらいいか」
心底困ったといった様子で言葉を切る僕。
シンジ「…そうだ!劇だよ、劇!」
ゲンドウ「劇?」
劇?
シンジ「今度の学祭で劇をすることになってさ、その練習をしてたんだよ」
ゲンドウ「…ふむ、そうか、劇か」
なるほど上手い言い訳もあったもんだと俺が関心していると、背後で勢いよく扉の開く音がした。
レイ「…シンチャン、イマノコトバ、ホント?」
何故にカタコト?
それになんだか鏡に映る僕の顔からどんどん血の気が引いていってるような?
シンジ「あ、いや今のはその…言葉のあやっていうか」
レイ「アスカーー!!シンちゃんが主役やるってーーー!!」
シンジ「!?いや言ってないよね!?それは!!」
レイが叫ぶや否や、けたたましい足音を響かせながらアスカがやってくる。
アスカ「ホントに!?あんなに嫌がってたのにどうやって押しつけたわけ!?まあなんにせよグッジョブよ!転校生!!」
レイ「ふふん、ちょっとは見直した?」
アスカ「ええ、まあね」
何故かガシッと男らしく腕を組む二人。
…正直嫌な予感しかしない。
シンジ「なんでこんな時だけ仲良いんだよ!?ていうか僕はまだ主役やるなんて…」
ポン、と肩をたたく感覚に僕は振り向いた。
ゲンドウ「素直になれ、シンジ。あんなに熱心に練習してたじゃないか、大丈夫、努力は絶対実を結ぶ」
それはすごくいい笑顔だった。
―――
――
―
竹取物語。
日本最古にして作者不詳の物語。
光る竹から生まれ、竹取の翁の夫婦に育てられた女の子の繰り広げるドタバタラブコメディである。
シンジ「現実逃避してる場合じゃないよ、ここは元々君のいたとこなんだろ?」
黒板に大きく書かれた『かぐや姫:碇シンジ』の文字をにらみながら僕がつぶやく。
…正直、やっぱりここは俺の知ってる世界とは違う気がしてきた。
レイ「もう、またぶつぶつ文句言って、もう決まったことなんだからね。だいたい贅沢だよ?主役なのに」
女の子って、時々心にもないことをさらっと言うよね。
シンジ「だったら綾波が代わってよ、ぴったりじゃないか」
イメージ的に。
レイ「だめだよー、投票で決まったことアルからネー」
な、なんだよ、そのエセ中国人的口調は…
くそ、腹立たしいのに可愛い!
シンジ「だいたいかぐや姫が男っていうのがおかしいよ、聞いたことないよそんなの!」
そうだそうだ、もっと言ってやれ!僕!
レイ「いいじゃんそんなの、私は帝役に立候補するつもりだし」
そのセリフを聞いた瞬間、アスカがピクリと反応したように見えたのは…気のせいかな?
ヒカリ「じゃあ主役のかぐや姫が決まったので、次は竹取の翁とその伴侶を決めたいと思います」
それは誰でも良いよー、クジで決めちゃえばー?と教室中からやる気の無い声が上がる。
シンジ「くっ昨日かぐや姫を決めるときはあんなに必死だったくせにっ…!」
何故か僕はぶるぶると怒りに震えている。
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
ヒカリ「ちょっとみんな!そんないい加減にじゃなくてちゃんと考えて!」
バンバン机を叩く委員長、なんていうか…すごい迫力だ。
ヒカリ「…碇君!さっきからぼーっとしてるけど、ちゃんと考えてる!?」
シンジ「え?えっと…」
何故かその矛先が僕に向いた。
ヒカリ「だいたい配役は昨日のうちに決める予定だったのに!碇君が無駄な抵抗するから今日までかかってるんでしょ!?」
シンジ「う、うう」
…こういうときの委員長ってすごく怖い。
トウジ「委員長、嫌がるシンジに無理やり役やらせといて、そんな言い方はないやろ」
シンジ「トウジ…」
こういうときのトウジってすごくかっこいい。
ヒカリ「…そうね、言い過ぎたわ、ごめんね、碇君」
シンジ「い、いいよ、気にしてないから」
どうやら僕も委員長は苦手なようだ。
ヒカリ「はあ、それじゃあ翁夫婦役はクジで…」
トウジ「ワシがやったるわ」
ヒカリ「え?」
委員長の言葉を遮るようにトウジが言う。
トウジ「誰もやりたがらんようやしな、セリフも少なそうやし、やったるわ」
パチパチと拍手が響く。
ヒカリ「じゃ、じゃあ仕方ないから、誰もやりたくないみたいだし、私がおばあさん役やります!い、委員長として…」
今度は拍手に混じって囃すような口笛や言葉が響く。
委員長の顔は真っ赤で、トウジもなんとなく照れくさそうだった。
ヒカリ「し、静かにしてください!…次は、えっと…帝役を決めます、立候補する人はいますか?」
挙がった手は、三つ。
カヲル「おやおや、いつから帝は女性が演じる役になったんだい?」
ニヒルに笑う渚君。
アスカ「ふん、そんなのかぐや姫が男の時点で何でもありに決まってんでしょ」
両腕を組んでにらみ返すアスカ。
レイ「あーあ、やっぱりこうなったか…」
あからさまにめんどくさそうなレイ。
帝役に立候補した三人に教室がざわめく。
ケンスケ「男装した惣流と綾波か、こいつは買い手がありそうだな…いや待てよ、渚が帝役になっても一部の女子にかなりの需要が…」
今のうちにフィルム買い足しとこ…なんて言ってるコイツとは今後付き合い方を考えた方がよさそうだ。
レイ「ね、シンちゃんだって男や凶暴ゲルマンが相手より、私が帝の方がいいでしょ?」
上目遣いで迫ってくるレイ。
シンジ「あ、いやその」
くっ、可愛い。
アスカ「なんでそう私を罵るボキャブラリーは豊富なのよあんたは!バカシンジも言葉に詰まってんじゃないわよ!」
シンジ「う、うう」
こういう時、僕はただうろたえるしかない。
ヒカリ「ちょっと皆落ち着いて!立候補が複数の場合は多数決で決めます!!今から配る用紙に三人の中から帝役に相応しいと思う人の名前を書いて提出してください!!」
委員長の剣幕に押されて静かになる教室だったがそれも一瞬のこと、生徒達はすぐに元の喧騒を取り戻す。
シンジ「それにしても…」
騒がしい教室の中で、僕の口からポツリと疑問の言葉がもれる。
シンジ「なんでそんなに帝役なんてやりたがるんだろう」
それは俺にもよくわからなかった。
―
――
―――
ミサト「で?」
ジロリ、とミサト先生の視線が生徒達を見回した。
ミサト「どういうふうに話し合えば帝役が三人、なんて結論になるのかしら?」
その質問にはばつが悪そうに委員長が答える。
ヒカリ「た、多数決で三人同票だったので…」
先生の視線が一層鋭さを増す。
ミサト「本当に?」
ヒカリ「はい」
ミサト「…だとしても別の方法で決め直せばいい話でしょう?どうして役の方を増やそうなんて結論になったの?」
ヒカリ「それは」
答えに詰まる委員長。
シンジ「なんか、意外だな。ミサトさんってこういうの好きそうだと思ってたのに」
レイ「そうだね~もっと軽いノリで許してくれるかと思ってた」
一応国語の教科主任だし、古典へのリスペクトとかがあるんだろうか。
アスカ「別にいいんじゃないですか?役が一人二人増えるくらい。古い題材なんだし、多少アレンジしたって…」
ミサト「だ・め・よ!」
アスカの発言は最後まで言いきることなく遮られる。
ミサト「中学生のうちからハーレム展開なんて!あんたたちろくな大人にならないわよ!」
…だめだこの人。
―
――
―――
シンジ「この世界の日本にはさ、四季があるんだろ?」
昼休み。学際の準備から解放された僕は、一人校舎裏にいた。
シンジ「確か、夏が終わると涼しくなって、それから、こう、雪が降るんだってね」
そう言って僕は、舞い落ちる雪をジェスチャ―で表現する。
シンジ「…羨ましいな、この世界に生まれた君が」
ため息をついて遠くを見つめる。
ひょっとして、僕は自分の世界に帰りたくないのだろうか?
ふと、俺の中にそんな疑問がわいてくる。
シンジ「そういうわけじゃないんだ、ただ…」
そこで言葉を切って、購買で買ったあんパンを齧る。
シンジ「…いや、なんでもない」
どうやらパンと一緒に言葉も飲みこんでしまったようだ。
アスカ「あ!見つけた、こんなとこにいたのね!バカシンジ!」
言うなり遠くからずんずんと近寄ってくるアスカ、何だか怒っているように見える。
シンジ「や、やあ」
アスカ「やあ…じゃないでしょうがっ!」
叫ぶと同時に僕の耳をつねりあげる。
シンジ「いてててっ!いきなり何するんだよ!」
アスカ「あいつは何て言ってる!?」
シンジ「へ?」
アスカ「うちのバカシンジよ!今いるんでしょ!?あんたの中に!!」
シンジ「な、なんでそれを…」
アスカ「朝からあんだけ独り言ブツブツ言ってれば、そりゃ気づくわよ」
…なあ僕、もしかして、俺のことアスカに話した?
シンジ「だって、あの状況で隠すなんて無理だよ、君だってこないだ公園に連れてかれたところまでは覚えてるだろ?」
そういえば前回こっちに来たて時、アスカに問い詰められたっけ。
それにしてもよく信じてくれたな、人格が入れ替わったなんて話。
シンジ「うん、それは僕も意外だったよ」
アスカ「あ!またアイツと喋ったわね!?その様子じゃ、私が何も知らないと思ってたんでしょ」
…正解。
シンジ「正解だって」
アスカ「お生憎様!あんたが私に隠し事なんて出来るわけないのよ」
ふっふーんと息を吐きながらあごを上げて、見下しのポーズ。
それは感じ悪いからやめろと十年近く言い続けているが、未だに効果は表れていないようだ。
シンジ「確かに、こっちのアスカもよくやるよ…こんど注意しなきゃ」
アスカ「なんですって?」
シンジ「いや、なんでもない」
そうそう、こっちの話。
アスカ「まあいいわ、それで?なんか新しくわかったことは?」
シンジ「ああ、えっと…やっぱり僕の中のもう一人の人格は、違う世界の『碇シンジ』で間違いなかったよ、ただ…」
アスカ「それが本来この世界にいた『碇シンジ』かどうかはわからない?」
シンジ「うん、そうそう」
考えすぎといえば考えすぎかもしれないけど。
アスカ「なら、確かめてみましょ…」
シンジ「え?」
アスカ「私の好きな色は何?」
唐突にアスカが尋ねる。
シンジ「なんだよいきなり」
アスカ「いいから、答えて」
シンジ「ええっと」
赤。
シンジ「あ、そうそう、赤」
アスカは僕が答えるのを聞くと、よしよしといった様子で頷き、質問を続ける。
アスカ「私が犬を嫌いな理由は?」
シンジ「ええ?そうなの?いやそれは…」
小学生のころ近所の犬に手を噛まれたから。
シンジ「あー、近所の犬に、噛まれたから?」
ふむっと頷くアスカ。
アスカ「…こないだおば様が買ってきてくれたシュークリーム、何味だった?」
シンジ「何味だったの?」
えーっと、確か…抹茶?
シンジ「抹茶だって」
アスカ「やっぱりアンタが食ったのね!!」
シンジ「へぶっ!!」
誘導尋問の末に、見事なボディブローをくらってせき込む僕。
…わかるわかる、あれは痛いっていうか苦しいんだよね
シンジ「た、他人事みたいに、僕は食べてないのに…」
アスカが理不尽なのは今に始まったことじゃないし、俺に言われても困る。
アスカ「安心なさい、こっちの世界のシンジが戻ってきたらもっと凄いのを見舞ってやるわ」
前言撤回、アスカの理不尽さは捨て置けない!一緒に戦おう、僕!
シンジ「ほんと調子いいなあ、君って」
そうかなあ。
アスカ「まあ冗談はさておき、今確認した通り記憶は私の知ってるシンジと符合するし、とりあえず中のやつはうちのシンジってことでいいわね」
な、中のやつって…。
アスカ「それにしても、痛みは共有してないのねあんた達」
シンジ「そうそう、僕も不思議だったんだけどさ、今君ってどういう状態なの?」
僕に聞かれ、あらためて意識してみる。
…あれ?
シンジ「どうしたの?」
ない。
シンジ「何が?」
自分の、体が。
シンジ「実体がない?」
そう、自分の体がここにあるという感じがしない。
まるでブラウン管を通して世界を見ているような、そんな奇妙でうすら寒い感覚が今の俺のすべてだった。
シンジ「つまり、意識だけの存在になってるってことかな」
たぶん。
シンジ「そういえば君、こないだはどうしてあんなに冷静だったの?朝起きたら突然元の世界にもどって来たようなものだったわけでしょ?」
それは…夢だと思ってたくらいだし、よく覚えてないけど。
あの時は、俺と僕との境界が曖昧になっていたような、そんなおかしな状態だったような気がする。
シンジ「?それってどういう…」
僕が言いかけたその時。
レイ「あ、シンちゃんみっけ!」
いつの間にか近くまできていたレイに言葉を遮られた。
レイ「次の授業体育だよ?早く着替えなきゃ」
ほらほらと、レイに後ろから両肩を押される。
アスカ「ちょ、待ちなさいよ!まだ話は終わってないでしょーが!」
疑問を残したまま、話し合いはここで一時中断となった。
―
――
―――
毎日書くとか言ってた頃が懐かしい
ここまでで~
ヒカリ「よーい、スタート!」
委員長の合図と共に第一走者の男女がグラウンドを走りだす。
その手にはバトンが握られている。
アスカ「あたしの出番はまだまだ先ね、まっなんたってアンカーだし、仕方ないか」
才能ある人間はつらいわー、なんて体育座りでのたまうアスカ。
アスカ「だいたい体育祭の練習ったって、リレーに練習も何も無いでしょうに、たぁだ走るだっけじゃないのこんなの」
同感だけど、それを口に出して言っちゃうのはどうかと思う。
シンジ「…何だか面白いね、体育祭と文化祭をいっぺんにやっちゃうなんて」
別に珍しくもないと思うけど…と、声を殺して話しかけてきた僕に答える。
シンジ「そうかなあ」
初日が体育部門、二日目が文化部門、これが我が第壱中学の学園祭スタイルである。
レイ「あ!次走るの私だ」
ぴょん、と跳ねるようにしてレイが立ち上がる。
シンジ「がんばってね」
レイ「うん!まっかせーなさい」
後ろ手に肘を掴んで柔軟するレイの姿は、実に健康的だ。
シンジ「…環境が違うと、人ってこうも変わるんだな」
確かに。
ケンスケ「なんの話?」
シンジ「ん、ううん、なんでもないよ」
薄々わかってたけど、僕って誤魔化すの下手だね。
シンジ「…余計なお世話だよ」
口の中でつぶやく僕。
ケンスケ「まあなんでもいいけどさ、そろそろ出番じゃないのか?シンジ」
シンジ「あ」
あわててスタートラインに向かう。
ちなみに僕の前の走者は…。
シンジ「渚君か」
女子の黄色い歓声が上がっていたのですぐわかった。
レイ「なんだ、シンちゃんも次だったの」
シンジ「うん、うっかりしてた」
そんなことを話してる間にみるみる渚君が近づいてくる。
僕はなんとなくでリードを取りつつ走者交代に備えた。
シンジ「!」
そして渚君から右手でバトンを受け取ると、そのまま全力で走る。
シンジ「はっ…はっ」
僕の走るペースは、なんというか特に速くも遅くもない。
シンジ「?」
違和感に気づいたのはコーナーに差し掛かる辺りだった。
シンジ(なんだろう、後ろから、気配が)
最初は離れた所にあった気配が徐々に近づき、そして…。
レイ「ふっ…ふっ…」
シンジ(綾波!?)
完全に抜かれた、女子とは結構差がついてたはずなのに。
…これは結構悔しい。
シンジ(綾波って、あんなに足速かったんだ)
シンジ「はあっ、はあ…?」
それにしてもおかしい、レイにはもう抜かれたというのに背後からのプレッシャーが消えない。
不審に思い、走りながらちらりと後ろを確認すると。
カヲル「……」
渚君がほほ笑んでいた。
シンジ(って怖いよ!!?なんでまだ並走してんの!?)
シンジ「ぐ…げほっ…げほ!」
驚いた僕は呼吸を乱しながらも、なんとか次の走者へバトンを繋ぐ。
走り終わってもしばらく呼吸は乱れ、荒い息を吐いていた僕の元へ渚君が近づく。
カヲル「すまなかったね、シンジ君、バトンを渡した後で止まるタイミングを見失ってしまって」
渚君は悪びれずにほほ笑んでいる。
シンジ(と、止まるタイミングって、結局最後までぴったりついて来てたじゃないか…)
まあ、よくあることですね。
シンジ「よ、よくあっていいのかなぁ」
そんなふうに嫌そうな顔をしている僕とは対照的に、レイは満面の笑みで級友達に囲まれていた。
輪の中心で、足速いんだね~とか、陸上やってたの?なんてたわいもないことを聞かれている。
なんとなくでそれを見ていると、自然にレイと視線が合った。
するとレイは、はにかむような仕草でこちらに手を振ってから、嬉しそうに近づいて来る。
レイ「どう?シンちゃん!惚れた?惚れた?」
シンジ「あ?いや、はは」
惚れたかどうかはともかく、子犬のように無邪気なレイを見ていると、自然にこちらも嬉しくなってくる。
レイ「もう、また笑ってごまかす~で、私どうだった?惚れた?」
うりうりとわき腹を指で突かれる。
シンジ「ちょ!や、やめてよ、惚れたっていうかその、綾波は足が速くて凄いなって…」
レイ「…それだけ?」
レイは覗きこむようにして半目でこちらを窺う。
…いよいよ追い詰められてるな僕。
シンジ「えっとあとは、その、アスカとどっちが速いかな…とか思ったり」
あ、バカそんなこと言ったら!
ゆらり…。
と、実際にはそんな音はするはずないのだけれど、その時の俺には確かにそう聞こえた。
いや聞こえたのは俺だけではあるまい、なぜならその場にいた全員が次の瞬間、同じ方向を振り向いていたのだから。
アスカ「そうね~、それは私も!ちょ~っと気になるかな~?」
やっぱり、そこにはアスカがいた。
―
――
―――
ケンスケ「で、シンジはどっちに賭けるんだ?」
ルーズリーフをトントンとシャーペンで叩きながら、ケンスケが真顔で聞いてきた。
コイツいつか捕まるぞ、と思いながらも様子が気になり、横目でそれを覗き見ると、クラスの半分がすでに参加しているようだった。
シンジ「…ケンスケは、どっちが勝つと思う?」
ケンスケ「うーん、人気じゃ今んとこ惣流が優勢だけど、実際綾波もたいしたもんだったからね、どっちが勝つかはホントに読めないよ」
そういってケンスケが向けた視線の先では、アスカとレイが入念にこれから始まる勝負の為の準備をしていた。
シンジ「なんでこんなことに…」
ケンスケ「おいおい、お前が言ったんだろ?どっちが速いのかって」
そう、あの不用意な僕の発言を受けて、このアスカ対レイのグラウンド半周一本勝負は実現してしまったのだった。
シンジ「うう、そうだった」
カヲル「気に病むことはないさ、あの場にいた全員が気になっていたんだ、君が言わなくてもいずれこうなっていたさ」
シンジ「そうかな…」
距離はグラウンド半周。走者はアスカとレイ。
勝負に勝った方が、クラス対抗リレー女子の部におけるアンカーとなる。
今日の体育が自習扱いだったことも手伝って、二人の対決のおぜん立ては実にスムーズに整った。
あとは開始の合図を待つばかりである。
シンジ(渚君はああ言ってくれたけど、やっぱり僕のせいだよな)
シンジ「…ちょっと、行ってくる」
ケンスケ「あ!おい、結局どっちに賭けるんだよ!?シンジ!」
ケンスケの声を聞き流して、僕はスタート地点にいる二人のもとへ急いだ。
―
――
―――
僕が着いた時、二人はやる気満々でストレッチなどしていた。
シンジ「あ、あの…」
レイ「ん、どしたの?」
アキレス腱を伸ばしながらレイが顔を上げる。
シンジ「その、やめにしない?勝負なんて、良くないよこんなの」
レイ「ん~?」
レイは少し考える様子を見せたが、すぐに表情を意地の悪いものに変えて答える。
レイ「いいよ、ただし…シンちゃんがキスしてくれたらね」
シンジ「な!?」
な、なにを言い出すんだこの赤目の少女は!?
ざわざわとそれを聞いていた生徒達が色めき立つ。
アスカ「こら!勝手なこと言ってんじゃないわよ!シンジは関係ないでしょうが!」
それまで距離を取り、我関せずといった態度で屈伸をしていたアスカが慌てて口をはさむ。
アスカ「それとシンジ!これはアンカーを決めるためにどっちが速いか確かめるだけなんだから、別に勝負とかってわけじゃないの!」
シンジ「でも…」
そうアスカに言われてしまえば、僕にはもう二人を止めることはできない。
レイ「…ねね、ならさっ!間を取って勝った方がキスするってのはどう?」
おおっ!!という歓声が上がった。
同時に口笛の音と、何故か拍手の音までが聞こえてくる。
シンジ「どう間を取ったらそんなことに!?」
当然これにはアスカも講義の声を…
アスカ「じゃ、じゃあ時間もないしそろそろ始めましょうか、ヒカリお願い」
シンジ「え?」
あれ、そのまま始めちゃうんですか?アスカさん。
ヒカリ「それじゃ、二人とも位置についてー」
レイ「はいは~い」
アスカ「…」
シンジ「ちょ、ちょっと待ってよ!その、何か、大事なことがうやむやになったままだよね!?」
ヒカリ「…よーい」
ダメだ、僕の言葉なんて誰も聞いていない。
ヒカリ「スタート!」
土を蹴る音が同時に二つ。
戦いの火蓋が今、切って落とされた。
―
――
―――
結論から言うと、勝ったのはレイだった。
何故ならば…
ヒカリ「大丈夫!?アスカ!!」
アスカ「っ…どってこと、ないわ」
…途中でアスカが転んだから。
レイ「うわぁ、いたそ」
すりむいたアスカの膝から、レイが目を背ける。
傷口からは、止めどなく赤い液体が流れ続けていた。
こうなれば、勝負もなにもあったものじゃない。
ヒカリ「…い~か~り~く~ん!」
シンジ「な、なに?」
ヒカリ「ぼさっとしてないで!アスカに肩かしてあげて!」
シンジ「へ?」
…あのね、俺、保健委員。
シンジ「ああ、なるほど」
納得した僕はアスカに手を貸す。
シンジ「ほら、立てる?」
アスカ「ん」
痛みのせいか、アスカは言葉少なに立ち上がった。
シンジ「先に傷口を洗ってから、保健室で消毒してもらおっか」
僕らはグラウンドを横切り、校舎近くの水飲み場に向かう。
ほとんど熱狂と言えるほどの盛り上がりをみせていたクラスメイト達も、流石にもう茶化したりはしない。
ほどなくして僕らは、普段運動部の生徒達が利用する水飲み場に到着した。
アスカ「向こう、向いてて」
蛇口をひねって傷を洗おうとしていたアスカが、ぽつりとつぶやく。
それは、注意していなければ聞き逃してしまいそうなほどに微かなものだった。
シンジ「?」
アスカ「洗えないでしょ、バカ」
ジャージの裾をたくし上げるようにしたアスカの仕草をみて、ようやく僕はその意味に気づく。
シンジ「ご、ゴメン」
よくよく見れば膝だけでなく、アスカの身体にはあちこちに擦り傷ができていた。
中には服の下まで及ぶものもあるのだろう。
アスカ「…」
シンジ「…」
僕はアスカに背を向けると、腕を組んで空など見ることに決めたようだ。
ただ、背後から聞こえる水の流れる音を聞いていると、なんだかむずがゆいような、不思議な気持ちが俺の中でこみあげる。
…これはなんなんだろう。
アスカ「なんか…変な感じ」
アスカも同じことを思ったのか、ぶっきらぼうに言葉を紡ぐ。
アスカ「あんた相手に恥ずかしがるなんて、ね?」
シンジ「どういうこと?」
アスカ「…だって、昔は一緒にお風呂だって入ってたのに、今さら…」
そこでアスカは話すのをやめた。
多分、僕が悲しげな顔をしていることに気づいたからだろう。
シンジ「…僕は、この世界の碇シンジじゃないからね」
じゃぶじゃぶという音だけを、僕らはしばらく聞いていた。
慣れというのは恐ろしい。
シンジ「行ってきまーす」
僕と俺との奇妙な共同生活が始まって数日、既に実生活において違和感はほとんど無くなってしまっていた。
レイ「急がないと、遅刻遅刻!」
こうしてレイと通学路を走ることも。
アスカ「誰のせいだと思ってんのよ!ギリギリまで眠り呆けて!」
アスカが毎朝起こしに来ることもだ。
レイ「だって、昨日は激しかったから…ね?」
アスカ「な、なな…!!」
シンジ「いやいやいや、なんにもなかったから」
どこにいたって日常は日常で。
カヲル「おはよう、今日も朝から姦しいね」
緊張感なんて欠片もなくて。
ケンスケ「ニクイね、この色男!」
きっと、きっといつまでもこんな日々が続いていくんだろうな。
そんな風に思えてくる。
シンジ「…僕はもう」
おめでとう。
シンジ「エヴァに、乗らなくていいのかな」
おめでとう。
シンジ「…」
おめでとう。
シンジ「ありが、とう」
トウジ「そんなわけないやろ」
シンジ「!?」
世界が二つに割れた…一瞬、そう思った。
トウジ「なに寝ぼけとんのや、シンジ」
二つから三つ、三つから四つ。
僕の、俺の視界が、クレヨンで塗り潰されるように、黒く染まっていく。
トウジ「お前はわしを」
辺り一面真っ暗でわけのわからないその場所で、僕とトウジだけが浮かんでいた。
トウジ「…殺しにきたんやろ?」
物騒なことを言う奴だな、あまりに異常な出来事に対して、頭をよぎったのはそんな平凡過ぎる考えだった。
シンジ「なにを、なにを言ってるんだよトウジ」
見なれたジャージ姿の級友に浮かぶ不敵な笑み。
理解できない。思考が追いつかない。
唐突すぎる、だってさっきまでみんなで…意味が分からない意味が分からない。
トウジ「おまえにはそうやろなシンジ、だけど残念、わしはお前に聞いとるんやない、なあ…わかるやろ?」
シンジ「え?」
こいつは何を言ってるんだ?
トウジ「どうやった?友達を握りつぶした感触は」
…!?
トウジ「なんや、やっぱ忘れてたんかい、まあせやろな…」
トウジ「そうでなければこんなぬるま湯みたいな世界でいつまでも過ごしたい、なんて都合のいい夢みていられるわけがないやろうし」
シンジ「一体さっきから何の話をしてるんだよ」
シンジ「ねえ、君はなにか知ってるの?」
知らない。
シンジ「…ほんとに?」
知らない、知らない知らないしらないしらない!!俺はしらない!俺はやってない!!
トウジ「じゃかしいわ!!人殺しが!!」
トウジの両腕が、伸びた。
シンジ「!?」
ぎりりと首を絞められる、なんて力だ、苦しい、目玉が飛び出しそうだ、痛い、痛い。
痛い?
トウジ「お前に友達ごっこを楽しむ資格なんか無いんじゃ!ボケ!」
どうして痛い?何故だ?今の俺には感覚がないはずじゃ…いや
シンジ「っおおおおおお!!」
腕をがむしゃらに振り回す。
口からは獣のような、言葉にならない叫びが迸る。
トウジ「ほらな!やっぱりや!自分がかわいいんや!自分がかわいいんや!」
ぱっとトウジが俺から飛び退く。
嘲るように、蔑むように。
シンジ「違う!あれは父さんがそうしろって言うから…」
あれ?何言ってんだ僕、いや違うこれは、俺だ。
トウジ「お前は親父に言われたら!友達をっ!平気で[ピーーー]んか!?」
シンジ「そっちが先に殺そうとしてきたくせに!!」
今喋ってるのは、俺だ。
あれ?じゃあ、僕はどこいったんだ?
トウジ「人殺しぃ!」
シンジ「うるさい!!」
グネグネと伸び縮みするトウジの腕を掴んで、力いっぱい投げ飛ばす。
この場所には壁がないから、トウジはどこまでもどこまでも飛んでいく。
シンジ「そうだ!おまえなんて人間じゃない!トウジじゃない!」
いなくなれ、いなくなれ、いなくなれ、口の中で何度もその言葉を繰り返す。
シンジ「化け物!!」
トウジ「そりゃお前も同じやろ」
後ろ?背中の方から、声がする、なんで?
トウジ「そや、いいこと思いついた」
シンジ「ひっ」
トウジ「この茶番にも、もう少し付き合ったるわ、感謝しいや?」
ぐにゃり、と首筋から寒天を流し込まれるような感覚が広がっていく。
シンジ「っあ…?」
―
――
―――
トウジ「おはようさん」
シンジ「うわあ!!!」
トウジ「?なんや、化けもんでも見たような顔して」
シンジ「え?は?」
気づけば元の通学路、大げさに飛び退き、尻もちをついた僕に周囲からは奇異の視線が送られる。
アスカ「なにやってんの、おいてくわよバカシンジ」
シンジ「だって今、真っ暗になって…トウジが、え?え?」
感覚は…どうやら、僕に戻ってるな。
俺は、身体が動かせない事を確かめる。
シンジ「感覚って、どういうこと?説明してよ!」
…さっき一時的に主導権が俺に移った。
シンジ「主導権が、移った?」
そう、僕は覚えていないかもしれないけど。
トウジ「大丈夫か?シンジ顔色悪いで?」
シンジ「あ、う…」
トウジ「?」
混乱した僕が視線を送っても、トウジはただキョトンとするだけで、表情からは何も読み取れない。。
そう、その様子は、どうみてもいつものトウジにしか見えなかった。
―
――
―――
ミサト「今日はみんなに、新しい転校生を紹介するぅ!」
その日のHR、ざわつく教室。
ミサト「喜べ男子!!」
上がる歓声。
ミサト「さ、自己紹介お願いね」
転校生「ハイ!ウチは鈴原・バルディエル。みんな、よろしゅうな!」
浅黒い肌、端正な顔立ち、肩まで伸びた艶やかな髪。
バルディエル「特に、碇シンジくん」
シンジ「え…は?」
その転校生は僕を見ると、ニヤリと嗤った…
―
――
―――
ネルフ本部
指令室
マヤ「使徒…殲滅、しました」
冬月「…」
日向「殲滅って、あれじゃまるで…」
ゲンドウ「第12使徒を撃破」
日向「!」
ゲンドウ「委員会にはそう伝えておけ」
冬月「碇、まさかお前の息子は…」
ゲンドウ「…」
―
――
―――
野辺山
アスカ「シンジ!シンジ!!」
シンジ『ん、んん…ここは?』
アスカ「あ、やっと繋がった!あんた大丈夫なの!?」
シンジ『うん、俺は平気』
アスカ(俺…?)
シンジ『…そうだ、そんなことよりトウジは!?エントリープラグは!?』
アスカ「落ち着きなさいよ、ほら、あんたちゃんと持ってるじゃない」
シンジ『え?あ、ほん、とだ…』ポロポロ
アスカ「っちょ!何も泣くこと」
シンジ『…っひ、っひぐ…ごめん、ごめんよトウジ』ポロポロ
アスカ「…」
アスカ「あのねぇ、鈴原はあんたが助けたのよ?もっと堂々と…」
シンジ『違う…』
アスカ「え?」
シンジ『俺は、殺そうとした、あの時!自分が助かるために、トウジを…』
アスカ「シンジ…」
シンジ『殺そうとしたんだ』
レイ『…でも、彼は生きているわ』
シンジ『レイ?』
アスカ「優等生!目を覚ましたの!?」
レイ『碇君、彼は…』
レイ『生きているから、だから…』
レイ『大丈夫』
シンジ『うっ…うううっ!』ポロポロ
アスカ「ほんと、ばかなんだから」
…ガシャン!!ギュルル!ビューー!!
『エントリープラグ排水完了』
『ハッチを抉じ開けろ』
ガン!!
シンジ『え?』
アスカ「な、なに?何の音?」
『エヴァンゲリオン初号機パイロット、碇シンジ、お前をこれより拘束する』
シンジ『そんな…』
『来い!命令だ』
アスカ「ちょっと!どういうことよ!」
レイ『碇くん!!』
―
――
―――
輸送車両内
シンジ「…あの、俺なにか悪いことしましたか?」
ネルフ職員「…」
シンジ「もう、うちに帰りたいんですけど」
ネルフ職員「…」
シンジ「お、俺のパパはネルフの総司令官なんだぞ!今すぐここから出してくれないなら、あんたなんてパパに頼んでクビにしてやる!」チラッ
ネルフ職員「…」
シンジ「な、なーんちゃって、はは、ははは」
ネルフ職員「…」
シンジ「…はあ」
ネルフ職員「…」
シンジ「…」
ピピピ!ピピピ!
シンジ「?」
ネルフ職員「出ろ」
シンジ「は、はい」
ネルフ職員「…悪いが、仕事なんでな」チャキ
シンジ「!?」
ドン!
シンジ「ひっ!!」
ネルフ職員「…」
ネルフ職員「ぐふ…」バタ
加持「よう、待たせたな、シンジ君」
シンジ「か、加治さん!?」
加持「君に見せたいものがある、ついて来てくれるか?」
シンジ「え、あ…」アタフタ
シンジ「…」コクコク
あーsagaいれるの忘れてたー
あとほんと更新遅くてごめんなさい
ではでは
ネルフ本部
資料保管室
シンジ「あの、加持さん。見せたいものって一体…」
加持「知りたいかい?」
シンジ「ええ、それは…」
加持「君の、秘密についてさ」
シンジ「?」
加持「これは、指令やりっちゃんが必死になって隠していた事実でもある」
シンジ「…父さんが?」
加持「シンジくん、君がある日を境に人が変わったようになったのは何故だと思う?」
シンジ「…それは、その、わかりません」
加持「いま君には委員会どころか、ゼ―レから直接抹殺の命令が出ている」
加持「どうしてだと思う?」
シンジ「…わかりません」
加持「真実を、知りたくはないか?」
シンジ「…」
加持「答えは、ここにある」バサッ
チャキッ
ミサト「動かないで」
シンジ「ミサト先生!?」
加持「葛城か、怪我はもういいのか?」
ミサト「ええ、おかげさまでね、引き金を引くぐらいのことはできるわ」
加持「そりゃ結構なことで」
ミサト「…」チラ
シンジ「…」
ミサト「シンジ君は危ないから下がって」
シンジ「は、はい」
ミサト「…で?てっきりドグマに向かうものかと思っていたけど、まさか資料室とはね、あやうく見逃すとこよ」
加持「シンジくんに串刺しのリリスなんて見せても仕方ないだろう?俺達は今、もっと大事な話をしていたんだ」
ミサト「そう、よほど重要な内容みたいね、この資料は…」スッ
加持「…」
ミサト「…」ジー
ミサト「って、なによこれ。ただのシンジ君のパイロットデータじゃない」バサバサ
加持「探しだすのには苦労したよ、デジタルデータは即座に抹消される。紙媒体の資料だからこそ廃棄する前に入手することができた」
ミサト「…何ですって?」
加持「よく読め葛城、事実は歪められていたんだ」
ミサト「!?」
ミサト「…まさか、嘘、そんなことって」ブルブル
ミサト「でも、これが事実だとしたら…」
シンジ「どうしたんですか?」
ミサト「ひっ!」チャキ
シンジ「うわ!そんなものこっち向けないでくださいよ!」
ミサト「どういうこと!?どうしてこんな…」アタフタ
加持「形勢逆転、だな」チャキ
ミサト「…っ!」
加持「葛城、持っている資料をシンジ君に渡すんだ」
シンジ「え?」
加持「シンジ君、君は真実を知らなくてはならない」
加持「それが例え、痛みを伴うものであったとしても」
シンジ「…あの、さっきからなんのことなのか、俺にはさっぱり」
加持「すぐにわかる。さあ、葛城」
ミサト「そんなの…」
加持「葛城!」チャキ
ミサト「っ…わかったわよ!ほら」スッ
シンジ「…」ジー
シンジ「えっと、初号機及びそのパイロットの詳細情報?って別に何も変な所は」ペラ
加持「…」
シンジ「ん?」ペラ
シンジ「…初号機パイロットのシンクロ率アベレージ」
シンジ「96%!?」
加持「…そう、それが一つ目の事実。君と初号機の異常な活躍の秘密だ」
シンジ「知らされてた数字は、嘘だったってことですか?」
加持「そういうことだ」
シンジ「…」
加持「さて、次はその事実が何故、これまで徹底的に伏せられていたかだが」
加持「…シンジ君、ページをめくるんだ」
シンジ「はい…」ペラ
シンジ「俺の、脳波パターン?」ジー
シンジ「…なんだよ、これ」
シンジ「なんなんですか?これ、加治さん!!」
加持「…」
シンジ「…パターン青、って」
加持「ただの事実さ」
加持「シンジ君よく聞いてくれ」
加持「君は、使徒だ」
加持「おそらく細菌サイズのやつか、電気信号の集まりのような存在なんだろう」
加持「それが何らかの方法で初号機パイロットである碇シンジに接触、その精神を乗っ取った」
加持「ネルフやゼ―レはそう推測している」
シンジ「俺が…使徒?」
加持「…なあ、もうとぼけるのはやめにして、腹を割って話し合わないか?」
シンジ「?」
加持「ここまでわかってるんだ、いいだろう?教えてくれよ。君達使徒と呼ばれる存在が何を考えているのか、俺は真実を知りたいんだ」
シンジ「そんなこと、言われても」
加持「…依代にシンジ君が選ばれたのは何故だ?やはり地下のリリスと接触するのが目的か?」ギュッ
シンジ「加持さん、痛い…」
加持「さあ、答えるんだ!君には真実を語る義務がある」
シンジ「そんなこと、言われたって」
リツコ「ちょっと、その子をいじめるのはやめてくれないかしら?」
加持「!」
加持「…おっと、本命のお出ましか、呼んだのは葛城…」
ミサト「リツコっ…!?」
加持「じゃないな。なるほど、俺は最初から泳がされていたわけか」
リツコ「そういうこと、貴重なサンプルをゼ―レの間諜から守ってもらったのは感謝するけど、それ以上の真実を貴方が知る必要はないわ」
加持「ひどいな、俺がいなけりゃシンジ君は死んでたんだぞ」
リツコ「…あら、勘違いした男はもてないわよ?」チャキ
シンジ「っひ!」
ドン!ドン!
加持「!」
ミサト「!!」
パキィィィィン!!
リツコ「ほら、ね」ニコ
リツコ「この子を殺すなんて人間には無理よ」
シンジ「…」
シンジ「なんだよ、これ…」フルフル
ミサト「弾が、空中で止まって…」
加持「…なるほど」
シンジ「なんなんだよ、これ…」
リツコ「まだわからないの?」
シンジ「え」
リツコ「あなたはね…」
リツコ「バケモノなの」
シンジ「…」
シンジ「っああああああああああ!!!!」
ブウワアアアア!!!!
ミサト「ッシンジ君!!」
ネルフ職員A「ひい」ドン!ドン!
リツコ「無駄よ、銃は効かないわ!これより目標を第13使徒と識別!!部屋ごと封鎖します!!硬化ベークライト注入!!急いで」
ネルフ職員B「はい!」
ネルフ職員C「注入開始!!」
ビシャアア!!
ミサト「リツコ!!あんたなんてこと!!」
バシ!!
リツコ「…久しぶりね、あなたに叩かれるのは」ジンジン
ミサト「なにを言って!!」
リツコ「都合のいい世界の記憶はシンジ君を精神の奥に囲い込むための罠」
ミサト「!」
リツコ「本物のシンジ君の人格は今、意識の底で眠っているはず」
リツコ「ミサト、そこでベークライトを浴びているのはシンジ君じゃない」
リツコ「十三番目の使途…貴方の仇なのよ」
翌日
早朝
第壱中学
アスカ(シンジが拘束されてからほぼ一日)
アスカ(誰に聞いてもその理由はわからない)
アスカ(ミサトからは留守電が一件あっただけで、うちには帰ってこなかった)
アスカ(加持さんにも連絡はつかない)
アスカ(それで私、結局学校なんて来てるし…)
アスカ「なにやってんだか」ボソ
ヒカリ「え?」
アスカ「あ!ううん、なんでもない」
ヒカリ「…心配?」
アスカ「な、なにが?」
ヒカリ「碇くんのこと」
アスカ「まあね、あんなんでも一緒に暮らしてれば情も湧くわ」
ヒカリ「ほんと、素直じゃないんだから」
アスカ「…」
アスカ(しょうがないじゃない、他にどんな態度でいろっていうのよ)ブスッ
レイ「…」ガラガラ
アスカ「あら、あんたも来たの」
レイ「ええ」スタスタ
アスカ「ちょっと」グイ
レイ「…何?」
アスカ「シンジのこと、碇指令からなんか聞いてない?」
レイ「拘束中」
アスカ「そんなことは知ってるわよ、私が聞いてんのは《なんで?》とか《どこに?》とかそういうことよ」
レイ「知らない」
アスカ「あっそ」
レイ「…」
アスカ「あんた、最近少しは人間らしくなってきてたかと思ってたけど、気のせいだったみたいね」
レイ「…れない」ボソ
アスカ「?」
レイ「これで、よかったのかもしれない」
アスカ「どういうこと?」
レイ「だって、次の相手は…」
アスカ「え?」
ビー!ビー!
『緊急警報!緊急警報!住民の皆さんはただちに…』
アスカ「使徒!?また来るの!?」
レイ「…」
―
――
―――
ネルフ本部
資料保管室
封鎖中
シンジ「暑い」
もう、どれくらいこうしているだろう?
シンジ「…」グウ
周囲を囲む真っ赤な半透明の壁に閉じ込められてから随分と時間が経った。
シンジ「ちゃんと腹は減るんだな、俺は…」
使徒なのに、そう言いかけて口をつぐむ。
その事実がショックでなかったと言えば嘘になる。
自分があの得体のしれない存在と同じだと宣告されたのだ。
怖かった。
足元から地面が崩れて、果てなく落ちていくような感覚がその時の俺を支配した。
恐怖で気が狂ってもおかしくなかったと思う。
シンジ「そこで狂えたらよかったのに」
恐怖の次にやってきたのは、羞恥心。
思い返すと自分はなんて見当違いなことばかり言っていたのだろう。
別の世界なんてありはしなかった。
自分を取り合う可愛い幼馴染も、十年ぶりに再開したいとこも実際には存在しない。
全ては妄想、都合のいい夢。
そう考えると、恥ずかしい、恥ずかしくてたまらなかった。
俺はあの空から落ちてきた一つ目の物体や、影が本体の真っ黒な球体、エヴァを乗っ取った粘菌みたいな奴らと同種の存在だったくせに。
シンジ「ほんと、消えてなくなりたい」
口に出してみても、俺の意識は無くなりはしなかった。
この体は自分の物では無い。
元の所有者に、碇シンジに返さなければならないのに。
俺の人格なんて、碇シンジの妄想から生まれたまがい物なんだ。
偽物の記憶、偽物の心、偽物の…世界。
シンジ「…っ…うっ」
涙がでた。
悲しかった。
いつだって優しかった父さん、母さん。
一緒にバカなことばっかりやっていたトウジ、ケンスケ。
偶然から親しくなって、それ以来妙に近しくなった渚君。
久しぶりの再会で俺は覚えてもいなかったのに、笑顔で接してくれたレイ。
そして。
シンジ「アスカ…」
全部嘘だった。
ないないない。
そんなのない。
設定、設定。
碇シンジを騙すために捻り出された嘘。
そんなのって、ない。
シンジ「ひどいよ」
もういい、どうにでもなれ。
そんな気持ちで俺は膝を抱えてうずくまった。
俺はきっとリツコさんや父さんにとっては珍しいサンプルにしかすぎないのだ。
そのうちに然るべき処置をされるんだろう。
なにせ俺はバケモノなのだ。
開き直りに近い形で思考の渦が停止しかけたその時だった。
サイレンの音と共に、施設内の放送が封鎖されたこの部屋にまで届く。
『緊急警報!緊急警報!職員はただちに…』
それは、聞き覚えのある内容だった。
シンジ「使徒…?」
―
――
―――
ネルフ本部
指令室
青葉「第13使徒!駒ケ岳防衛線を突破!」
ゲンドウ「14だ」
青葉「は?しかし…」
ゲンドウ「地上迎撃は間に合わん、弐号機と初号機をジオフロントに配置」
日向「で、ですが初号機はパイロットが…」
ゲンドウ「ダミーで出撃させろ」
リツコ「…」
ゲンドウ「準備を頼む」
リツコ「はい」
―
――
―――
ジオフロント
迎撃位置
ミサト『アスカ、今回の使途は今までとは比較にならない攻撃力を持っているわ』
アスカ「そりゃ、地上からここまでを一発でぶち抜いたんならそうでしょうよ」
ミサト『ええ、だから出会いがしらに最大火力を打ち込んで』
アスカ「了解、まったく、相変わらず作戦て呼べるもんじゃないわね」
ミサト『…そうね』
アスカ「…」
ミサト『…』
アスカ「終わったら、知ってること全部話してもらうわよ」
ミサト『……わかった』
マヤ『目標接近!』
ヒュオオオ
アスカ「来た!」チャキ
バババババッババババババッバ!!
アスカ「おおおりゃあああ!!」
モクモク…
冬月『どうだ!?』
マヤ『だめです!!ダメージありません!!』
アスカ(一斉射は効果無しか、やっぱ遠距離からじゃだめね)ジャキン
ダッ!!
日向『弐号機、プログナイフを装備!目標に接近!!』
ミサト『アスカ!!危険だわ!!下がりなさい!!』
アスカ「いまっさら!!もう遅いわよ!!」ブン
パキイイイイイイイィン!!
アスカ(ATフィールド!)
アスカ「く!!」
青葉『なんて強力な…』
アスカ(デタラメに固いわね、こんなの、一人じゃ中和もままならないじゃない)
ヒュ…バラバラバラ
アスカ(何?あれ)
マヤ『目標、蛇腹状の腕部を展開』
ギュン!!
アスカ「え?」
シャッ!
ミサト『アスカっ!!』
アスカ「っああああ!!」ボト
ブッッシャーー!!
青葉『弐号機!左腕切断!!
アスカ(ダメだ、なによコイツ)
ミサト『逃げて!!』
アスカ(…殺される)
シャッ!!
ネルフ本部
資料保管室
封鎖中
シンジ「使徒…初号機に…」
乗ってどうするんだ。
シンジ「俺が、本物のシンジだったら」
きっとこんな所にいないで、今頃使徒と戦っていただろうに。
シンジ「…」
申し訳ないという気持ちがこみ上げる。
いたたまれない。
でも、俺は使徒、らしいから。
シンジ「何もできない」
気がつけば身体を丸めてうずくまったまま、言いわけをつぶやいている。
もう、涙もでなかった。
加持「…何もかも諦めるには、まだ早いぞシンジ君」
シンジ「え?」
いつの間にか目の前にいた加持さんが、俺のつぶやきに応える。
加持「さあ、行こう」
差し出されたその手に、俺は…
―
――
―――
ジオフロント
ズドン!!
アスカ「!?」
アスカ(私、助かったの…?)
マヤ『目標転倒!やったのは…』
マヤ『参号機です!!』
トウジ『よう、待たせてすまんかったな、惣流』
アスカ「嘘!!鈴原!?どうして!?」
トウジ『どうしても何も、ワイも参号機もほとんど無傷やったからな』
アスカ「だからって…よく乗る気になったわね、あんなことの後で」
トウジ『あほ、ワイを誰だと思うとるんや、鍛え方が違うわい』
アスカ「あ、あんたバカ!?」
トウジ『…なんてな、ほんまはあんまり覚えてないんや、あの時のことは』
アスカ「鈴原」
トウジ『ただ、一つだけ覚えとるんは…』
アスカ「?」
トウジ『いや、なんでもあらへん、それより今はアイツをなんとかせえへんと』
グググ
アスカ(起きあがった…)
アスカ「あんた、さっきのどうやったの?」
トウジ『?ただドツいたっただけや』
アスカ(何もせずに攻撃が届いたってことは…)
アスカ「おおおりゃああ!!」ブン
ざくっ!!
ブシャーーー!!
青葉『やった!目標、出血!』
アスカ「やっぱり!エヴァ二機分のATフィールドならいけるわ!」
アスカ「ガンガン行くわよ!!」
トウジ「おう!」
―
――
―――
シンジ「行くって、どこにですか?」
差し出された手を無視して、口をついたのはそんな言葉だった。
加持「この状況で初号機の格納庫以外のどこに行くっていうんだ?」
シンジ「意味無いですよそんなの、だって俺…使徒なんでしょ?」
バケモノ、リツコさんに言われたことを思い出し、チクリと胸が痛んだ。
加持「関係ないさ、君は今まで立派に使徒を倒してきた、今回も同じだ」
シンジ「…」
俺が何も言えないでいると加持さんはタバコに火をつけ、視線を落とした。
加持「正直な、俺は君が偽の碇シンジの仮面をかぶって、本来の使徒の人格を隠しているものだと考えていた」
加持「…でも真実を知って苦悩する君を見ていると、それは違うんじゃないか、とそんな風に思えてね」
加持さんはこちらの反応を窺うようにそこで言葉を区切ると、言った。
加持「君は、使途でありながら、ある意味ではもう一人の碇シンジなのかもしれない」
シンジ「どういう、ことですか?」
加持「もう一つの世界、それが本当に存在するとしたら?」
ドクン、と胸が高鳴った。
シンジ「でも、リツコさんが…」
加持「あれはまだ仮説に過ぎない、現状で一番それらしいってだけのな」
加持「なにせ使徒については謎が多すぎる、誰にもほんとのトコなんてわからないさ」
なんだそれ、突然そんなこと言われても。
…俺は何を信じればいい?
シンジ「そんなこと言われたってどっちみち俺は…」
俺はこの世界のシンジじゃない。
そう言いかけて、止める。
それは無責任な、言ってはいけない言葉だと思ったから。
でも、加持さんに意味は通じてしまったようだった。
加持「でも、本当にそれでいいのか?」
加持「君にはこの世界に誰ひとり、守りたい人はいないのか?」
もう一度、鼓動が強く脈打つ。
俺が、守りたい人。
シンジ「…」
加持「覚悟は、決まったかい?」
そう言って差し出された加持さんの手を…俺は、今度こそ握り返した。
―
――
―――
加持「碇シンジの体内に使途が侵入した際、疑似的なサードインパクトが起き、その膨大なエネルギーによってこの世界と異なる、もう一つの宇宙が出来たのではないか?」
加持「そんな仮説があるにはあるんだ」
シンジ「な、なるほど、この体の中に宇宙が…」
前方を行く加持さんのSFチックな説明に、俺はごくりと唾を飲んだ。
加持「あ~、さっきも言ったがどの説もまだ推測の域を出てないんでね、あまり感心されても困る…と、ここか」
封鎖された部屋から出るために侵入した、天井部のダクト内を俺と一緒に這っていた加持さんの動きが止まる。
シンジ「降りられそうですか?」
加持「ああ、ちょっと待っててくれ」
ガン、ガンと何かを打ち付ける音がした後、こじ開けられた出入り口に加持さんの身体が消える。
加持「…ようし、降りてきていいぞ、シンジ君」
2メートル位はあっただろうか。
シンジ「うっ…」
大した高さではなかったが、着地の衝撃で少し足が痺れた。
シンジ「…えっと、格納庫は確か」
足をさすりながら俺は前方を見る。
加持「ああ、この扉の向こうだ、が…」
加持「そこにいるやつ、出てこい」
加持さんはカードキーでドアを開けると、懐から拳銃を取り出した。
そしてそのまま俺を庇うようにして、それを前方に向けて構える。
加持「全く、今は使徒との戦闘中だろうに、もっと他にするべきことがあるんじゃないのか?」
どうやら既に追手が回っていたらしい。
ブリッジの奥に、何者かの姿が見えた。
加持「俺はただパイロットを連れてきただけだ。世界の命運がかかったこの緊急事態に、まさか上司の命令ってだけでヒーローが登場する邪魔をしたりはしないよな?」
影が動き、少しずつこちらに近づいてくる。
近づくにつれ、シルエットからその人物が案外小柄である事に気づく。
薄水色の髪、第壱中の学生服、赤い瞳、その姿はまさしく…
レイ「行かせない」
シンジ「レイ!?」
どういうことだ?なんで、レイが。
加持「…!」
余程意外だったのか、加持さんも呆気にとられ、押し黙ってしまっている。
そして目の前のレイの視線は、真っすぐに俺の視線を捕らえた。
レイ「碇君」
そのままじっとこっちを見つめるレイ。
レイ「…」
シンジ「…」
こう…まじまじと見られると、なんというか…恥ずかしい。
って、何を照れてるんだ、俺は。
加持「…悪いがシンジ君への用なら後にしてくれるかな、こっちは急いでるんでね」
やっとそれだけ絞り出した、といった感じで加持さんが言う。
レイ「…」
レイ「碇君は、勝てない」
加持「何?」
一瞬なんのことを言ってるのか分からないほど唐突に、レイは言った。
直後、何か辛いことを思い出したようにその端正な顔が歪む。
レイ「…あの使徒は、だめ」
よくわからないが、もしかしてレイは俺を心配してくれてるのだろうか?
俺はとりあえずそう推量して話しかけることにした。
シンジ「レイ、確かに俺は負けるかもしれない、それでも…」
レイ「あなたは殺される。…前回は、そうだった」
シンジ「?」
なんと、言いきる前に言葉を遮られた、ショック。
それにしても…前回?
一体レイは何を言いたいのか、まるで話が見えてこない。
何故彼女はそんな風に、俺が敗北すると断言できるのか。
シンジ「前回って、それじゃまるで」
シンジ「前にもこれから俺が戦うのを、見たことがあるみたいじゃないか」
レイは何も言わない、その顔にはどんな表情も浮かんでいなかった。
レイ「私は、二回目だから」
知ってるの、とレイは小さくつぶやく。
シンジ「…二回目って、何?よくわからないけど、レイ…ここで俺が行かないと世界が大変らしいんだ」
世界、なんて都合のいい言葉を引き合いに出し、適当に誤魔化して進もうとする俺だったが。
制服の裾を、レイにギュッと掴まれる。
レイ「必要ない、エヴァシリーズは、もう完成してるもの」
加持「?そんなまさか…」
…またよくわからない言葉がでてきた。
レイは真剣で、加持さんは加持さんで冗談きついぜ、みたいな顔をしているけど、俺は正直話についていけない。
レイ「使徒との戦いなんて、全部、茶番」
レイ「その気になれば、人間の敵じゃない」
レイ「だから、ここで碇君が死ぬ必要なんて、無い」
シンジ「…えっと」
レイ「…」
俺には内容の半分も理解はできなかったけど、レイが嘘や冗談を言ってる訳じゃないことは分かる。
つまり、このままだと俺は本当に使徒に負けて殺されるらしい。
それもレイに言わせれば、別に戦う必要もないのに。
…必要が、無い?いや。
シンジ「必要なら、あるよ」
シンジ「アスカが戦ってる」
そう俺の、一番好きな女の子。
レイ「…っ」
ぴくっと身体を震わせた後、レイは俺の服を掴んでいたその手を離す。
俺はそのまま、振り返らずに歩いていく。
これでいい、一歩、二歩…
レイ「碇君!」
それは、今までに聞いたことのないレイの声。
レイ「あなたが好き」
不意に背中から伝わる、温かな感触。
レイ「だから、行かないで」
―
――
―――
ジオフロント
迎撃地点
ギュン!!
アスカ「くっ!」ザシュ
マヤ『弐号機!右腕損傷!ダメージは軽微です、しかし…』
アスカ(考えが…甘かったわね)
アスカ(攻撃が通るようになったくらいじゃ、どうにもならない)
トウジ『うおおおおおおおお!!』ダッダッダッ
アスカ「あ、ばか!」
ヒュン!
ズパアアア!!
トウジ『あっが!!』
日向『参号機、脚部損傷!!もう立てません』
アスカ「…」チラ
トウジ『っつう!ほんまに痛いのう、これ』
アスカ「ふぅ」ホッ
アスカ「…ちょうどいいわ、あんたさっきからチョロチョロと邪魔だったのよ。そこで大人しくATフィールド中和マシーンになってなさい」
トウジ『な、なんやとー!』
アスカ(さあ、時間がないわよアスカ。鈴原が無事で、フィールドが中和できてる今のうちになんとかしないと…)
アスカ「おおりゃああ!!」
ババババ!!
青葉『パレットライフル斉射!!しかし、狙いが目標を大きく外れて…?』
トウジ『あほ!!天井撃ってどうすんのや!!』
アスカ「っさいわね、すぐにわかるわよ」
ドドドドド…
青葉『!!倒壊したビルの一部が、目標に向かって崩落していきます!!』
トウジ『なんちゅう無茶苦茶な!!』
ビィーーー!!ドガン!!
日向『ダメだ!!ビームで防がれた…いや!!』
アスカ「隙ありい!!」
ドズン!!
日向『コアに膝蹴りが炸裂!!』
シーン…
トウジ『や、やったんか…?』
ザシュ!!
アスカ「あああああああ!!」
マヤ『弐号機、左脚部切断!!ダメージは深刻です!!』
ミサト『直撃だったはずなのに、何故!?』
日向『…おそらくこれです』ピ
ミサト『コアを守る外殻!?なんてインチキ!!アスカ!!逃げて!!』
アスカ「…」
アスカ(脚が片方無いってのに、どうやって逃げんのよ)
アスカ(ミサトのばか)
アスカ(あーあ、今度こそ終わりかな)
アスカ(こんなことならシンジにちゃんと…)
アスカ(なんて、もう遅…)
ヴオオオオオオオオオオオ!!
バキイ!!
アスカ「!?」
アスカ(た、助かった…あれは?)
日向『も、目標を押し倒しました!!初号機、初号機です!!』
アスカ「!」
トウジ『おお!!シンジか!?」
初号機『グルルル』
アスカ「違う!こいつは」
ゲンドウ『…ようやく動いたな』
マヤ『ダミーシステム、起動しました!』
トウジ『ダミー?』
初号機『グルルアアアア!!』
グシャ!!ッグシャ!!
マヤ『も、目標に攻撃を開始…』
アスカ「…っ」
トウジ『な、なんじゃあこいつぅ!!』
―
――
―――
レイ「…」
なんだって?レイは、今なんて言ったんだ?
今日はいろいろなことがあったけど、ほとんどろくなことじゃなかったけど、驚かされてばっかりだったけど…
だ、ダメだ…頭の中でうまく言葉がまとまらない。
こういうときどうすればいいんだ!?誰か教えてよ!!
シンジ「!」
そうだ、ここにいるのは俺一人じゃない!
助けてっ!加持さん!
加持「~♪」
…あ、ダメだそっぽ向いて口笛吹いてる。
あああああ~!!
どうする!?どうしよう!!
シンジ「あの、レイ…今なんて?」
とりあえず聞き返してみるか。
レイ「?」
レイ「…」スリスリ
我ながら情けない俺の言葉に対し。
これが返事だとばかりに、レイは後ろから抱きついたままの体勢で頬を擦りつけて来た。
…可愛い。
レイ「あなたが好き」
ってそうきたか、頬ずりからの告白…2コンボ!
これはまずい、かつてないほどの幸福感が脳神経を駆け巡っていくのがわかる。
シンジ「だ、ダメだよ、そんなの…」
必死で首を横に振る。
レイ「どうして?」
耳に息がかかるほどの距離から聞こえるレイの声。
どくんどくんと心臓の音がうるさい。
シンジ「だって、俺は…」
レイ「?」
俺はレイの知っている碇シンジじゃない。
それどころか使徒だし、もしかしたら碇シンジじゃないのかもしれないし、だから…
シンジ「とにかく違うんだよ、今の俺は、レイに好きだなんて言ってもらう資格ないんだ」
言いながら胸が痛む。
なんて歯がゆいんだろう、自分の気持ちを伝える権利さえ無いなんて。
レイ「そんなの、知らない」
胴に回されたレイの腕に力が入る。
それは俺を離すまいとする彼女の意志。
レイ「行っては、だめ」
以前の俺は、彼女にこんな意志の強さがあることを知っていただろうか。
震える声で懸命にこちらを繋ぎとめようとする彼女に俺は…
ヴオオオオオオオオオオオ!!
シンジ「!」
レイ「!」
まるで恐怖を具現したかのような雄叫び。
思わず耳を塞がずにはいられないその叫びは、ブリッジから響いてきた。
加持「そんな!シンジ君もレイも乗っていないのに、誰が操縦を…」
シンジ「…」
俺達が呆気にとられている間にも、ひとりでに起動した初号機の出撃の準備は着々と整っていく。
シンジ「加持さん!これはどういうことなんですか?」
そうして俺の乗っていない初号機は、見る間に地上へ発進した。
加持「これは、おそらく…」
レイ「ダミープラグ、良かった間にあって」
ぱっとレイは俺から身を離す。
シンジ「なんだよ、それ」
加持「エヴァの自動操縦システムだ、まさかもう実戦に耐えうる所まで…」
そんな、自動操縦って…
レイ「これでもう、あなたは戦わなくていい」
シンジ「…っ」
なんっだよ!それ!!
加持「あ、おいシンジ君!どこへ…」
―
――
―――
気がつけば走っていた。
俺は怒っているのだろうか。
そうだ、なんとなくだけどそう思う。
俺は怒っている、でも…
何に対して?
俺の正体を隠していたリツコさんや父さんが許せないのか。
違う。
それとも、俺に真実を突きつけて、戦うことを迫った加持さんに憤りを感じているのか。
これも違う
じゃあ、覚悟を決めて使徒へ立ち向かおうとした俺を邪魔したレイに対して?
全然違う!
俺が!俺がこんなにも、情けなく感じているのはっ…!
地面を蹴る、蹴る。
いつの間にか信じられないような速度で俺は走っている。
なのに不思議と呼吸は乱れない。
身体が軽い。
結構な距離があったはずなのにすぐに目的の場所に着くことができた。
そう、ネルフ本部指令室に。
シンジ「…状況は、どうなってるんですか」
ミサト「シンジ君!?」
驚くミサト先生は気にせず外の状況が映し出された巨大な画面を見る。
そこには使徒に馬乗りになった初号機の映像が映っていた。
シンジ「初号機が優勢なんですか?」
振り向いて確認を取ろうとした次の瞬間、奔った光にはじかれて初号機が吹き飛ばされる。
使徒の光線をまともに受けたせいで、胸部の装甲板は融解し、右肩から先はちぎれて無くなっていた。
ダミーシステムっていうのがどれほどのものかは知らないけど、既に勝負は着いたように見える。
ゲンドウ「シンジ、何故ここに来た」
父さんの問いに、俺は少し間を開けて答える。
シンジ「…だって、俺がやらなきゃいけないから」
画面上では邪魔者を排除し終わった使途が、顔のような部分をこちらに向けている。
ゲンドウ「見ての通り、初号機は戦闘中だ、お前の出番は無い」
シンジ「…」
使徒の目のような部分の空洞から光がはしった。
視界が揺れるほどの衝撃、どうやら光線は本部に直撃したようだ。
ミサト「まずい!メインシャフトが丸見えだわ!!」
それはつまり、このままだと使途が本部に侵入してくるってことか。
アスカ『行かせるかァ!!』
弐号機がパレットライフルを背後から使徒に放つ。
左側の腕と脚を失ったその痛々しい姿に、俺は思わず目を逸らしそうになった。
ミサト「アスカ無茶しないで!」
攻撃を受け、ゆっくりとした動作で使徒が振り向く。
その先には地面に転がる弐号機。
この瞬間俺の中で、覚悟は決まった。
シンジ「父さん」
ゲンドウ「…」
シンジ「行ってきます」
左足を一歩前へ踏み出す。
深呼吸して右手を軽く引く。
できるはずだ、俺はただ怖がってただけだ。
怯えて目を逸らしていたんだ。
人間を、越えてしまうことを。
―
――
―――
アスカ(行かせない、絶対。本部には、シンジが…!)
バババババババ!!
アスカ「鈴原ァ!!生きてる!?」
トウジ『なんとかな!』
アスカ「じゃ、あんたも援護しなさい!!ここで食い止めんのよ!!」
トウジ『さっきは邪魔だとか言っとったくせにな、ほんま勝手な奴。センセもこの先苦労するやろな』
アスカ「い、今シンジは関係ないでしょうがっ」
トウジ『ははは、どれイッチョやったるかい!!』ジャキ
ひゅん!
トウジ『え?』
アスカ「バカ!!避けてっ」
ドスッ!!
アスカ「え?」
アスカ(使途が、倒れて…?)
アスカ「!」
アスカ(何か、いる…)
アスカ「あれって」ジー
アスカ「シン…ジ?」
―
――
―――
使徒というのは、近づくとほとんど壁にしか見えなかった。
それほど人間とは大きさが違う、本来ならそもそも戦うとか、そういう相手にはなりえない。
そんな存在を今殴り飛ばした俺は…
シンジ「人間じゃないってことかな」
確信は銃弾をATフィールドで受け止めた時には既にあった。
ただそれ以上試す気にはなれなかっただけで。
シンジ「参号機がいるってことはトウジが乗ってるのかな、それともダミー?ま、どっちでもいいか」
倒れこんだ使徒を見る。
大したダメージになってないのは見ればわかるが、まだ起きあがってこない所をみると、こちらの出方を窺っているのかもしれない。
シンジ「それにしても、空とか飛んじゃってるし、リツコさんにバケモノ呼ばわりされるのも当然か…」
空を飛ぶのは息をするのと同じくらい簡単だった。
どうやってるのかと聞かれてもきっと、飛ぶんだよ、としか答えられないだろう。
シンジ「アスカにも、見られちゃってるよな」
急に気持ちが萎んでいくような感覚。
…弱気になっちゃ駄目だ、そうあいつを倒すまでは。
シンジ「…動いた」
倒れ伏していた使徒の身体が重力を無視して起きあがる。
改めて相手のデタラメさを思い知ると共に、自分がそれと同種の存在だという事実に気が滅入る。
そういえば、なにも相手が攻めてくるのを待ってやる義理もない。
シンジ「早く、終わらせよう」
攻撃に備え、身体に力を込める。
すると、強く意識した部分に電子回路の様な模様が浮かび上がる。
おそらくこれが俺の本体、使徒の部分なんだろう。
両腕の模様の輝きが増したことを確認すると、俺は滑空して敵に迫る。
シンジ「!」
途中、敵の腕の様な部分が展開して攻撃して来たが身体を捻ってかわし、そのままその腕の上を走って近づいていく。
相手が伸ばしきった腕を畳むスピードよりも、こちらの移動速度の方が速い。
今の俺から見れば、敵は隙だらけだった。
使徒に接近した俺は相手の顔のように見える部分に、振りかぶった右腕を叩きつけた。
叩きつけた。
叩きつけた。
叩きつけた!叩きつけた!
叩きつけたっ!
こいつが!こいつが!こいつが!
くそ!この!コイツ!
おまえが!おまえがっ!!
固いタイヤを殴っているようだった感触は、いつの間にか腐りかけの果実のそれに変わっていた。
拳を叩きつけると、使徒はまるで活きのいい魚のように跳びはねる。
吹き出す鮮血も、俺の身体を汚すことはない。
俺には何も届かない、何も、何も、何も…!
シンジ「お前のせいだぞ…」
動かなくなった巨躯の上に立ち、空を仰ぎながら言う。
シンジ「俺が、もう人じゃいられなくなるのはっ!」
こんな力を使ってしまったら、もう戻れない。
こみ上げる感情を抑えきれず、使徒を踏みつけた。
衝撃は伝播し、轟音と共に使徒を中心として同心円上に木々がなぎ倒されていく。
捲き上がる土煙りの量は途方もなくて、周囲を砂の雨が襲う。
シンジ「立てよ」
一度使徒の身体から降り、脇の辺りを狙って蹴り上げる。
まるでバレエのダンサーのように回転した使途が、無様に頭から落ちる様子を見ても、後から後から暗い衝動は湧いてきて、枯れることはなかった。
壊したい、何もかも。
否定したい、こいつを、使途を!自分をっ!!
シンジ「立てよオオおお!!!!」
叫びながら使徒に迫る。
このまま突撃して、コアを貫けば終わり。
そんな形で決着が着こうとした瞬間だった。
寝返りを打つようにして、使途が顔の部分をこちらに向けた。
そして何を思ったか見当違いの方向に光線を…いや違う!こっちは!!。
シンジ「アスカァァ!!」
考える暇なんて無かった。
気づけば俺は、使徒と弐号機の射線上に自分の身体を差し出していた。
ATフィールドなんて気休めにもならず、全身が容赦無く焼かれていく。
痛みは感じず、ただ喪失感だけがあった。
身体を覆っていた幾何学的な輝きは色を失い、意識は遠のいていく。
だめだ、高度を保てない。
使徒としての機能をほぼ破壊された俺は、ただ落下していくしかなかった。
俺は未練たらしく弐号機の、アスカのいた方向に目を向ける。
シンジ「…よかった」
被弾を免れた弐号機を見て、思わずそんな言葉が口をついた。
本当は何も良くは無い。
今の一撃を防いだ所で、状況は何も変わっていない。
俺がこのまま墜ちて死んだら、いったい誰がアイツと戦うのか。
誰がアスカを守れるというのか。
せめて墜落の衝撃を抑えようと身体に力を込めるが、まるで効果はない。
墜ちていく、落ちていく、ただおちていく。
なんだか心は妙に落ち着いている。
死を目前にしているというのに、不思議な懐かしささえ感じる。
何だろうこの感覚は。
シンジ「…そうか」
思い出した。
どうして忘れていたんだろう。
できるはずだ。
成功すればこれで三度目。
自分で意識して行くのは初めてだけれど、できなきゃこのまま死ぬだけだ。
シンジ「…」
目を閉じて深呼吸。
きっと考える必要はない。
なぜなら方法は俺自身が知っているはずだから。
自分の奥底に在る扉に手をかけるようなイメージ。
今まで無意識に見ないようにしてきたその扉を、徐々に開いていく。
そして、俺は…
―
――
―――
気がつけば、見なれた校舎の中にいた。
シンジ「…うぅ」
シンジ「…ここは?第壱中学か…ってことは」
俺は狙い通り、僕のいる世界に来れたということだろうか。
シンジ「でも、おかしいな」
自分の中に、僕の気配を感じない。
シンジ「身体も自由に動くし…」
グーパーと両手を握ったりしてみるが違和感はない。
シンジ「なら、考えられるのは…」
そんな風に想定しうる可能性について検討し始めた時、背後から強襲を受けた。
レイ「しんちゃんドーン!」
シンジ「ぐわば!!」
肩甲骨の辺りを両手で押されて思わず奇声を上げる。
レイ「まったく、どうして君はすぐフラフラどっかいっちゃうかな~?」
レイは人差し指をこちらに突きつけ、どころか胸元に押しつけながらこちらを半目でにらんでいる。
レイ「覗きの件はしんちゃんに関係ないんだし、堂々としてればいいじゃん」
シンジ「の、のぞき?」
どうやら俺のいない間にクラスで何かあったようだ。
レイ「ほら、昨日の体育の時間プール近くでうちの男子達が捕まってたでしょ」
…ケンスケ達だな、間違いなく。
レイ「っていうかそれで男女間がギスギスしてるから教室から逃げたんじゃ?」
シンジ「ん、まあね」
頬をかきながらごまかす。
正直かなりどうでもいい。
シンジ「悪いけど今はちょっと気まずいから、少し時間をつぶしてから戻るよ」
ちらりと近くの時計を見ると今は昼休みであることがわかる。
次の授業まではまだ二十分以上時間があった。
シンジ「それじゃ」
そのまま俺はレイを置いて歩きだす。
レイ「だーめ」
が、ぐいと襟首をレイに掴まれ阻まれる。
首が圧迫され、息が詰まってしまう。
向こうのレイより随分と荒っぽい引きとめ方だ。
シンジ「…っぐ、何するんだよ」
少し苛立ちながら振り返ると、人差し指を今度は唇に当てられる。
レイ「こないだの勝負」
シンジ「え?」
レイ「私、勝ったでしょ?」
一瞬考えてから思い出す。
体育部門の練習の時の話か、そういえばそんなこともあったな。
…でも、あれは。
レイ「無効試合なんて無しだよ?勝ちは勝ち、そうでしょ?」
シンジ「へ?いやおかしいって、あれは冗談じゃ…」
レイが近づいてきて、いつの間にかお互いの顔の距離がぐんぐん縮まってくる。
レイ「イヤよイヤよも好きのうちってね」
こ、この!今は世界の危機的状況だというのに、何てハレンチな!!
ああ!!でもレイはそんなこと知らないわけで…
レイ「!」
その時、俺の意思などおかまいなしに契約を遂行しようとしていたレイの動きが急に止まった。
シンジ「?」
レイの視線は訝しむ俺を通り越し、背後の空間に向けられている。
レイ「シンちゃんが…」
その大きな瞳は見開かれ、表情は驚愕に満ちていた。
レイ「二人…?」
シンジ「…」
なんとなく予想はできていた。
俺が今、僕と肉体を共有していないということはつまり、そういうことだと。
シンジ「君は…俺、なの?」
おずおずと尋ねる僕に俺は応える。
シンジ「うん、迎えに来たよ僕」
シンジ「…迎え?」
戸惑う僕に俺は手を差し伸べた。
シンジ「今回も僕の助けがいるんだ」
シンジ「そんな、今回もって、どういうことか説明を…」
レイ「ねえねえ、話においてけぼりで私ちょっと寂しかったり」
くいくいと俺の服の裾を引くレイ。
無視するわけにもいかないし、場所を変えようか逡巡した時だった。
転校生「はいはい、関係者以外は外で待っててな」
その声を合図に周囲の風景が黒く塗り潰されていく。
シンジ「これは、こないだの…」
あっという間に世界は僕と俺、転校生の三人だけになる。
この展開はレイには悪いが好都合だった。
シンジ「この力、やっぱりお前はあの時に参号機を乗っ取った使徒なんだな?」
シンジ「な!この娘が使徒!?」
彼女の正体が、推測から確信へ変わる。
バルディエル「まあね、今さらそれがどうした?っちゅう感じやけど」
悪びれずに頭をかくその仕草や表情は、どこかトウジを思わせた。
シンジ「その姿、トウジの妹か…?」
バルディエル「失礼な!ベースはそうでもあちこちこだわっていじってあるんよ」
バルディエル「なんせ、ウチには他人を丸々コピーしてなりすます趣味はないさかいに」
そういって少女は意地悪く笑う。
シンジ「俺は偽物じゃない!!」
割り切ったはずの心に亀裂が走る。
その言葉はジクジクと俺を苛むようで、思わず怒りが込み上げた。
バルディエル「はいはい、それよりあんた何しに来たんやったっけ?」
シンジ「くそ!」
悔しいがこいつの言う通り、今は言い争っている時間は無い。
シンジ「…う、うん。何?」
シンジ「俺と一緒に来てほしい」
シンジ「アスカを、助けたいんだ」
―
――
―――
この世界に碇シンジが二人、肉体をもって存在していると知った時。
…少し、悩んだ。
今、俺と僕に身体があるという事実は、何を意味するのか。
俺はあの世界から肉体ごと「ここ」に移動してきたと考えるべきか。
それとも、まず精神だけで「ここ」に移動し、活動するための肉体を新しく「ここ」に用意したと考えるべきか。
前者なら加持さんの、後者ならリツコさんの説の信憑性が増す。
すなわち「この世界」は妄想か現実か。
それは俺というちっぽけな存在の全てを左右する問題だった。
でも、それはもういいんだ。
「ここ」がもし碇シンジの頭の中の世界だとしたら、なんだというのか。
俺は「ここ」で生まれ、「ここ」で育った。
父さんがいて、母さんがいて、トウジがいてケンスケがいて、渚君がいて委員長がいて、レイがいる…
「ここ」が俺の世界だ。
幼馴染のアスカがいる、俺の世界だ。
もう、迷わない。
シンジ「…それで、エヴァなしでどうやって使徒と戦うって言うの?」
シンジ「俺に任せてくれればいい、心配はいらない」
シンジ「そうはいっても…」
シンジ「大丈夫、三体一だし。楽勝だよ」
バルディエル「ねえ、ひょっとしてそれウチも勘定に入ってるん?」
シンジ「協力しろよ、お前だって死にたくはないだろ?」
バルディエル「ふーんだ」
シンジ「じゃ、そろそろいくぞ!僕!!」
シンジ「うん、よくわからないけど、頑張ってみるよ」
―
――
―――
ジオフロント
リツコ「どうなったの!?」
マヤ「第三の少年は使徒の攻撃を受け、落下しました」
リツコ「死んだわけじゃないでしょう?」
マヤ「それは、ここからではわかりません」
ミサト「あれだけ派手に本部をぶち抜いといて、負けましたじゃ許さないわよ!!」
ミサト「頑張って!!シンジ君!!」
マヤ「!!落下地点から反応、パターン青…オレンジ?数値が変動しています!!」
ミサト「どういうこと?」
リツコ「もしかしたら、使途がシンジ君との共存を図っているのかも…」
マヤ「!14の使徒に動きがっ」
リツコ「っ追い打ちか」
ミサト「またビーム!?シンジ君避けて!!」
―
――
―――
ネルフ本部
指令室
冬月「直撃だな」
ゲンドウ「ああ、だがもはや勝負にはなるまい」
冬月「《恐怖》の使途とはよく言ったものだ」
ゲンドウ「…」
冬月「まったく、あの熱量を受けて無傷とは恐れ入る」
ゲンドウ「環境に合わせて自身を変えていくのが生物だ」
冬月「ならアレは、差し詰め進化そのものといったところか」
冬月「碇、お前の息子はとんでもない存在になったな」
ゲンドウ「問題無い」
冬月「すべてシナリオ通りか?」
ゲンドウ「…」
冬月「俺にはそうは思えんがな」
―
――
―――
俺が世界を行き来した状況、それは二回とも、使徒との戦いで追いつめられた時だった。
そしてこの世界に戻ってきた時には、両状況ともに既に敵は倒されていた。
このことから俺はある仮説を立てた。
俺は僕に会いに行くために「向こう」へ行っていたのではないか。
つまり僕の力を借りることで、俺は使徒を倒すことができたのではないかという考えだ。
シンジ「あながち間違ってはなかったみたいだな」
今、僕の身体は全身電子回路に似た模様で包まれている。
それは先ほどまでより明らかに力強く、周囲の空間をも巻き込んで展開していた。
シンジ(これが、君の言っていた力?)
シンジ「そう、この模様が俺そのものなんだ…それでさ」
シンジ「実は俺、使徒、らしいんだよね」
シンジ(……)
シンジ「勝手に僕の身体を借りてて、悪いとは思ってる」
シンジ(いいよ、君は悪い奴じゃないって知ってるから)
シンジ(それに、僕も結構楽しかったし)
シンジ「…そう言ってもらえると助かる」
まあ俺だって何も知らなかったし、借りたくて借りてるわけでもないから罪悪感みたいなのは薄いけど。
シンジ(そういえばあの子は?)
シンジ「?」
シンジ(参号機を乗っ取った使徒だっていう)
シンジ「ああ、あいつなら」
初号機『お~い!ウチはとりあえずここで他のエヴァ護っとるからな~!!』
がしょんがしょんと音をたてながら左手を振る初号機。
外部スピーカーから出力している声がとにかくやかましい。
シンジ「前の戦いで侵入した細胞の一部が初号機に残ってたらしいから、弐号機と参号機の防御を頼んだんだ」
シンジ(そうなんだ…ってどの機体もぼろぼろじゃないか!)
シンジ「大丈夫、まだ俺達がいる」
言いながら俺は目の前にそびえ立つ敵を睨んだ。
シンジ(こいつが…)
さてどうするか、と考える暇もなく敵の顔部分から例の光線が飛んでくる。
シンジ「お、懲りずにまた撃ってきたな」
微動だにせず、正面からそれを受ける。
もうダメ―ジは喰らわない。
どうやら俺はこの攻撃に、適応してしまったらしい。
使徒の放つ光の中で、むしろ自分の力が漲っていくのを感じる。
シンジ「さて、こっちの番だ」
地面を蹴り、一足飛びで敵の真上に迫る。
そのまま両手を組むと、頭上から槌のように振り下ろした。
確かな手ごたえ、それと同時に肉の千切れる音が僕の身体に直接響いた。
シンジ(す、すごい)
割れたザクロのようになった使徒の頭部から、噴水のように血が降り注ぎ、一面を染める。
あれだけ憎らしかった敵の姿も、こうなるとなんだか哀れっぽく見えてくるから不思議だ。
…とはいえ、断裂した傷口から漏れ出す光を見て、そんな感傷は吹っ飛んだ。
シンジ「やばいな」
シンジ(え?)
次の瞬間、まるで火山の噴火のように使徒の体内からエネルギーが噴き出す。
シンジ「うおおおおお!!」
おそらくこれは全方位に向けた攻撃、だがそんなものを許すわけにはいかない。
とっさに傷口から体内に侵入し、肉を裂きながら進む。
シンジ「あった」
突き進んだ先で見つけた心臓にも似た赤い球体。
ここまで来た勢いのまま、俺はそれを貫く。
そして十字型の爆発に巻き込まれながら思う。
ああこれで、俺の役目も終わったな…と。
レイ「おはよう、しんちゃん」
シンジ「…」
ここはどこだろう。
あの使途を倒した直後から、「俺」の記憶はぷっつりと途切れ、今に至っている。
レイの様子から「ここ」が「俺」の元いた世界だとは推測できるが、それ以外は何もわからない。
シンジ「おはよう、レイ」
レイ「っつ!?」
なるべく自然に挨拶を返したつもりだったが、レイの様子はどうもおかしい。
レイ「今、名前…?」
ああ、そうか、僕はレイのことを苗字で呼んでいたっけ。
シンジ「ごめん、嫌だった?」
確認すると、レイはブンブンと勢いよく首を横に振る。
レイ「嫌なわけない!嬉しい!昔に戻ったみたい!」
その言葉に反応して、ぼんやりと脳裏に記憶が蘇る。
何をするにもいつも俺の後ろについて来ていた女の子。
声をかけるとぱあっと笑顔になるから、いつもつられて俺も笑顔に…。
レイ「いこっ!学校、遅刻しちゃうよ!」
そんな遠い思い出の残滓は、彼女の声に散っていく。
シンジ「すぐ行くよ、レイ」
レイ「うんっ」
無邪気なレイの笑顔が当時と変わらなく思えて、俺も思わず微笑みを返した。
―
――
―――
それから数日経ち。
1週間を数えても、俺の日常はごく平凡に流れていた。
もう「僕」はどこを探しても見当たらない。
使途の力を使って空を飛んだり、とんでもない身体能力を発揮したりすることも出来ない。
例の転校生に話を聞いても、怪訝な顔をされるだけだった。
アスカだけはしばらくいろいろと聞いてきたけど、それももうめったになくなった。
もはや今の俺の心配事は、2週間後に迫った学園祭の準備に向いている。
こうして俺は、人類の存亡をかけた戦いだの、自分の存在への疑問だの、そんなSFじみた悩みからは解放されて、本来の生活に戻ることができたのだった。
ただ…。
シンジ「全部夢だった、とは思えないんだよな」
全てを無かったことにするには、あまりにも生々しい感触が、今も俺の手の中には残されていた。
じっと手のひらを広げ、ただ見つめる。
この手が、この指が、あの巨大な敵を殺したんだ。
アブラゼミの鳴き声、世界史の教科書を読み上げる教師の声、開きっぱなしの窓、気だるげな午後の、気だるげなクラスメイトたち、隣の席のアスカの、うなじを流れる玉の汗。
あまりにも現実離れした記憶と、今この時とのギャップに、めまいに似た感覚さえ覚える。
アスカ「な、なに見てんのよ」
少し唇を尖らせたアスカの声で我に返る。
シンジ「日常のありがたみを噛みしめてた、のかな?」
何も考えずに言った言葉に、アスカは眉をひそめた。
アスカ「なによそれ」
説明するつもりもないのでそのまま前を向き、授業を聞いているふりをする。
アスカ「まったく、ありがたがるなら普段からお世話してあげてる私にしなさいよね」
器用に鉛筆を回しながら、フフンとあごを少し持ち上げるアスカ。
言われて気づく。
俺の中で、日常とアスカの意味がほとんど同義になっていたことに。
それに気付くと、戻ってきたんだなという実感が今さら湧いてくるのと同時に、少し違う感情が自分の中に混じっていることに気付く。
シンジ(なんだかんだで、楽しかったよな)
巨大なロボットを操縦して、人類を守る。
憧れの綺麗なお姉さんと同居。
シンジ(いいことばっかりだったってわけでもないけど)
非日常への憧れは、胸の奥で微かに、だけどまだ確かにくすぶっていた。
シンジ(もしも機会があるなら、もう一度くらい…)
シンジ『本当!?じゃあ、ちょっと手伝って!!』
シンジ「へ?」
ぼんやりと授業をうけていた俺を、虚空からあらわれたその腕は体ごと引きずりこんだ。
シンジ「ちょ…えええ~~~!?」
―
――
―――
シンジ「ごめんね、急に」
何が起こったのかわからない。
気が付くと俺はビルの群れの中で、目の前には初号機が倒れている。
シンジ「今回の使途は大気圏にいて、手が出せないんだ」
へー。
シンジ「それで、零号機も弐号機も修理中だから、とりあえず僕が初号機でポジトロンライフルを撃ってみたんだけど、効果は無くて」
なるほど、なるほど。
シンジ「その後に返り討ちで精神攻撃みたいなのを受けて、もうだめかと思ったら…」
ふむふむ。
シンジ「君を見つけたんだ」
え、えー?
シンジ「思った通りだね、僕と君とが揃えば、ちゃんと力が使えるんだ」
そ、そうなんですか?
シンジ「だって今エントリープラグから飛び降りて無事だったじゃない」
はー、なるほど。
シンジ「やっぱり、迷惑だった?」
そ、それは、まあ、正直。
シンジ「そうだよね、僕が君の立場だったら、放っておいて欲しいと思うだろうし、でもさ」
シンジ「…ビーム、撃ってみたくない?」ボソ
!?今、なんとおっしゃいました?
シンジ「ビームだよ、ビーム!リツコさんの話だと、撃てるらしいんだ」
ま、マジですか?
シンジ「検査してみたら、あの時くらった14使途の光線エネルギーがかなり僕の体内に貯蔵されてるらしいんだ」
つ、つまり?
シンジ「撃てるよ、ビーム」
OK、協力するよ、僕。
シンジ「ありがとう、それとさ」
?
シンジ「あとで、綾波に会って貰えないかな?」
シンジ「なんか、こないだの返事を聞きたいって」
!?
シンジ「あとアスカも言いたいことがあるって」
!!?
シンジ「さて」
シンジ「それじゃ、行きますか」
体がふわりと浮きあがる。
同時に全身に輝く模様が浮かんだ。
そうか、まだ続くのか。
気分が高揚していくのを感じる。
シンジ「目標は…見えた!あそこだ!」
全身から集めた力が、指先に集まる。
シンジ「発射ーー!!」
迸る光が空に伸び、目標を捉える。
シンジ「えーと、やった、かな?」
視力も強化されているのか、使途が爆散するところまでばっちり見えた。
シンジ「じゃ、帰ろっか?」
その言葉でふと思う。
レイにはなんて答えたものか。
アスカの話って一体…。
いいさ、付き合ってやろう。
乗りかかった船だ。
ある日突然に降ってわいたこの非日常は、俺の意思とは関係なしに、どうやらまだ続いていくようだった。
おわり
すぐ終わらせるつもりが
ダラダラこんなにかかっちゃってすいません
誰か続きとか書きたい人がいたらどうぞ
もともと乗っ取りなので依頼はしないつもりです
それではノシ
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